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リョナな長文リレー小説 第2話-2

1名無しさん:2018/05/11(金) 03:08:10 ID:???
前スレ:リョナな長文リレー小説 第2話
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/read.cgi/game/37271/1483192943/l30

前々スレ:リョナな一行リレー小説 第二話
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/read.cgi/game/37271/1406302492/l30

感想・要望スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/read.cgi/game/37271/1517672698/l30

まとめWiki
ttp://ryonarelayss.wiki.fc2.com/

ルール
・ここは前スレの続きから始まるリレー小説スレです。
・文字数制限なしで物語を進める。
・キャラはオリジナル限定。
・書き手をキャラとして登場させない。
 例:>>2はおもむろに立ち上がり…
・コメントがあればメ欄で。
・物語でないことを本文に書かない。
・連投可。でも間隔は開けないように。
・投稿しようとして書いたものの投稿されてしまっていた…という場合もその旨を書いて投稿可。次を描く人はどちらかを選んで繋げる。
・ルールを守っているレスは無視せず必ず繋げる。
 守っていないレスは無視。

では前スレの最後の続きを>>2からスタート。

390>>381から:2019/01/05(土) 16:09:56 ID:???
「うぇええ……何これ。白くてべとべとだよぉ……!」
「ま、まずいですわっ……狂戦士化したエミリアちゃんが、まるで通用しないなんて……!」
「え?狂戦士って……私に何したのアイナちゃん!?」

カルピス味ねるねるねるねをぶっかけられ、思わず正気に戻ったエミリア。

「爆炎のスカーレット。それに、なんか見覚えがあるピンク色。
お前ら、トーメントの刺客だな……さっきの変な穴もお前らの仕業か?」
「んげっ!?なぜアイナ達の正体を!?」
名うての傭兵でもあったエミリアの出自、そして現在の状況から逆算して、アイナ達の正体を言い当てるダン。
歴戦の戦士としての洞察力の賜物である。
だがこの妙に緊張感のない『ピンク色』が、トーメント最強「王下十輝星」の一角だとは流石に気付かなかった。

「だとしたら、容赦はしねえ……(と言いたい所だが……ここで下手に暴れると、洞窟丸ごと崩れかねんな)」
分断された唯達の様子も気がかりだ。さっさと二人を大人しくさせ、助けに行きたい所だが……

「ぐぬぬ……勝負はこれからですわ!さあエミリアちゃん!
この何の害もなくて持続時間や高価が更にパワーアップした
『スーパーバーサーカーキャラメルXX(激辛カレー味)』をお食べなさい!」
「やだよ!こんな事、もうやめようよ!」
再びやべーのを食べさせようとするアイナ。もちろん抵抗するエミリア。
両者はやがて揉み合いになり、その拍子にキャラメルは放り投げられ……

(ひゅっ………)
「おいお前ら。何揉めてるんだ。いい加減に……(ぱく ごくん)」
「あっ……(察し」
「アイナちゃん、これ……まずいんじゃ」
「いや……味は美味しいらしいですわよ?ちょっと辛いけど」

「GRRRRRR...」

「「っぎゃああああああああ!!」」

『竜殺し』の真の力が今、解放されようとしていた。

391>>376から:2019/01/05(土) 17:12:40 ID:???
「おや?そんなに力入れて蹴ったつもりないんだけど、だいぶ効いてるようだな!さすが俺様のキック力だぜ!」
「んうっ……くっ……女の子のこんな所蹴っといて、よくもそんな事……頭イかれてんじゃないの……!」
股間を蹴り上げられて悶絶し、立ち上がれない瑠奈。
しかしアイベルトは童貞(しかもアホ)であるがゆえに、自分が蹴った箇所の危険さをわかっていなかった。

「ま、ここまでの戦いでも、実力差は歴然って所だな……
じゃあお年玉代わりに、ルナティックちゃんにハンデをくれてやるよ。
どんな武器も魔法も超一流な俺様だが、ここから先は素手……それも拳だけで戦ってやる」

「何よそれ。バカにして……!……後悔させてあげるわ!!」
だが、相手はサラをギリギリまで追い詰めたほどの難敵。
今みたいに魔法や武器まで使って来られたら、確かに苦戦は免れないだろう。
相手が慢心しているなら願ってもない、その油断を突こう…と頭を切り替え、瑠奈は再びアイベルトに立ち向かう。

「ふ……武器や魔法が制限されようと関係ねえ!ウェ○ー対○心みたいにしてやるぜ!
……おや?」
迎え撃とうとしたアイベルトは、ポケットの中に何かが入ってるのを見つけた。
ちなみにこの例えだと、色々制限されてたのは負けた天○側なのだが、そんな事を気にするアイベルトではない。

「手紙か……なになに。」
『いとしのアイベルト様へ♥♥

アイナですわー!!
じつはアイナ、ずっと前からアイベルト様の事……
きゃっ♥♥ これ以上はいえないー♥♥
この続きは、任務♥が終わってから♥♥♥

そうそう、今回の任務は五人の戦士のSATSUGAIが目的だってこと、忘れちゃだめですわよ?
アイベルト様はとーーっても強いけど、ちょっちお優しすぎるから、アイナ心配…♥♥
これを食べて頑張ってくださいですわ♥♥

あなたのアイナより、愛を込めて♥♥♥』

「そうか……まさかリザやサキやロゼッタやエミリアちゃんや(中略)だけでなく、
アイナも俺にぞっこんだったなんてな!
この『クレイジーサディスティックキャンディ(天丼風)』は
ありがたく頂くとするぜ!!」

ちなみにこの手紙を書いたのはシアナであるが、そんな事に気付くアイベルトではない。

「何をごちゃごちゃやってんのよ……喰らいなさいっ!バーニング瑠奈ちゃんキィィーック!!」
(……ゴォオオッ!!)
なんやかんやで蹴りにも属性が付与できるようになった瑠奈が、必殺の飛び蹴りをアイベルトに繰り出す!
だがその時……

「……俺を恐れろ、俺に恐怖しろ……!」
「えっ……」
(ドゴッ!!)
アイベルトは紙一重で蹴りをかわし、カウンターの一撃を繰り出す。

(…どぷっ……)
打ち下ろし気味の一撃は、高速で飛来した瑠奈の下腹を、狙い過たず撃ち抜いている。
しかも、その拳には………金属製のスパイクナックル。

(……ドガッ!!)
「んっ……あ……っ……く、は……!!」
地面に叩きつけられた瑠奈は、さっきとは比べ物にならない急所への苦痛にのたうち回る。

「クックック……今の見たか?見たよなぁ?
高速で飛び蹴りかましてきたルナティックの股間、一撃目とおんなじ場所にブチ当ててやった……
俺様の超一流の神テクニックをよぉ……!」

そう。先ほどアイベルトが1ミリも疑わずに食べた、長ったらしいお菓子は、
多少調子に乗りやすい雰囲気もあるが、確実に敵を追い詰めるような残虐性を持ち合わせた性格に……
いわば初登場時(回想)のような、今とはほとんど別人格に変えてしまう効果を持つのだ!
つまりアイナがエミリアにやろうとしていた作戦と丸かぶりである。故に天丼。
「さぁーて。パンチと言えば、やっぱり腹かみぞおちか。股間をこのまま集中攻撃か。
マウント取ってボコボコってのもアリだなぁ……俺様の華麗な拳で、死ぬまで踊ってもらうぜぇ……!」

「瑠奈ぁーっ!大丈夫か!今、アシストウェポンを送るぞー!」
「う、ぐっ……あいつがアホそうだからって……油断してたのは、こっちの方だったってわけね……!」

392>>386から:2019/01/05(土) 19:56:58 ID:byp1Fv5s
「それに……トーメントに、協力すれば……!いつか、いつか王様の復活の術で……家族と、また会えるかもって……!」

「リザ……そんなことは夢物語よ。有り得ないわ……」

「だからって!!家族をみんな殺されて!!一族のみんなも殺され続けて!何かに……『可能性』にすがらないと、私は……!生きていけなかった!!」

生きてさえいれば、無限にある可能性……かつて命を絶とうとしたリザに、ドロシーが放った言葉。
だがそれはミストには、ただ痛々しいだけに見えた。

「リザ……アンタは辛い現実を受け入れられずに、駄々を捏ねてるだけよ……アウィナイトの保護だって、あの王がずっとするわけないじゃない」

「そんなことない!ようは私が負けなければ、ずっと……!」

「今の状況で、よくそんなことが言えるわね」

自分が負けない限りアウィナイトは保護される……正に今、ミストに敗北して地に這いつくばっているリザが言っても説得力はない。

「リザ……せめて安らかに眠らせてあげる」

血を大量に失いながらも必死に意識を保っているリザ。見ていられなくなったミストは、ゆっくりとリザに歩み寄る。

「お姉ちゃん……私たちはもっと、ワガママに生きていいんだよ……ううん、ワガママじゃないと、こんな世界で生きていけない……駄々を捏ねてるのは私かもしれないけど……現実が見えてないのはお姉ちゃんだよ……!」

「……運命って、皮肉ね」

同じ親から産まれ、同じように育ち……同じように家族を失った姉妹。なのに2人の道は、致命的なまでに別たれてしまった。

ミストの刀が煌めき、リザの首目掛けて振り下ろされた。

「ぐっ!!お、ねぇ……ちゃん……せめて、お母さん……だけ、でも……!」

最後に母の事を言い残した後……ドサリと地面に倒れるリザ。その胸は小さくだが、確かに上下している。峰打ちだ。

「……私も甘いわね、戦って殺す覚悟はあっても……無力になったあの娘を一方的に殺す覚悟がなかった」

チン、と刀を鞘に収めたミスト。そのまま、意識を失ってもなおナイフを握りしめているリザの手を優しく包み込んだ。

「私はこれからトーメント王を殺す……その後はリザ、穏やかに……」

「え、あのトーメント王を!?止めとけ止めとけ、あいつは滅茶苦茶強いんだ」

「っ!!」

バッ、と振り返り、すぐさま刀を構え直すミスト。そう、結界が崩壊した以上……近くに王が潜んでいる可能性は、幾らでもあった。

「キキキ!あの変チクリンな仮面の下がこんなリョナりがいのある美少女だったとは……流石の俺様も予想外だったぜ」

「トーメント王……!」

「で、どうするんだ?ソイツと戦って疲れてんだろ?そんなザマで俺を殺せるとでも?」

「黙れ……!リザを、あんな殺人鬼に仕立て上げて……!私の家族も奪って……!貴様だけは絶対に許さない!」

「リザは自分から志願してきたんだし、十輝星になる前から大なり小なり殺してたと思うぞ?
里の襲撃も俺は金の工面をしただけで、ほとんど盗賊と目付きの悪い男の仕業だし……」

「だとしても!貴様は邪悪の化身だ!生かしてはおけない!!」

妹との激しい戦いで疲弊しながらも、殺意に満ちた瞳で王を見据えるミスト。




「ひ、久しぶりに『こうなる』とやっぱり辛いな……って、あれは王様に……リ、リザちゃんが2人!?ひょっとしてお姉さん!?」

そこから幾らか離れた所では、敢えていち早くアトラとシアナに『殺された』唯が復活していた。

幸い、王にもミストにも気づかれていないようだ。

(ど、どうしよう……リザちゃんは血だらけで倒れてるし、瑠奈たちはいないし、王様はリザちゃんに似た人と戦ってるし……!)

王を止める為にデスルーラ的なあれで現れたはいいものの、状況は混沌としていた。

果たして、これから我らが主人公、篠原唯が取る行動とは……!

393名無しさん:2019/01/08(火) 01:41:31 ID:W0o7PAvI
「まったく人の話を聞かない奴だなぁ。リザも頑固なところがあったが、お姉ちゃんはもっと頭が固いようだ」

「……貴様は……!貴様だけは、絶対に許さないっ!!!」

手にした長刀を強く握りしめ、ミストはシフトを使い王の元に一瞬で移動する!

「滅殺斬魔!」

長刀に闇のオーラを纏わせ、獲物を魔力と剣で両断する技。
剣の火力に魔力が上乗せされ、一瞬にして強力な一撃を放つことができる。
シフトの力と合わせれば、瞬間的に最大火力で攻撃ができる、まさに鬼に金棒の技だが……

「……なにっ!?」

王の元にワープしたミストだったが、その場に王はいない。
素早く辺りを見回すと、倒れたリザの元に立っている王がいた。

(そんな……いつのまに移動したの?まさか、奴も瞬間移動の能力を……?)



「ぐ……王……様……!」
「リザ、大好きなお姉ちゃんにこんな目にあわされて辛かったろ?俺様が今治してやるからな……」

王がそう言うと、回復の術式が血まみれのリザを中心に展開される。
すぐに癒しの魔法が展開され、清らかな魔力がリザの体を包み込んだ。

「……ふぁっ……」

「さあリザ。俺様の癒しの魔法でゆっくり休むといい……っていうのは嘘だけどな?」

「……え?」

王はそう言うと、展開していた癒しの魔法をすぐに中断し、自分の足を振り上げて……

「あ、やっ……!あ゛ぐううぅぅっ!!!」

自分の体重を全て乗せて、右足でリザの体を踏みつけた。



「ったく、姉妹ゲンカくらい自分でなんとかしろよ……俺様にこんなめんどくさいやつの処理を擦りつけたうえに、自分は1人で王子様を待つおねんねプリンセスってか……?あぁ!?おらっ!オラァ!!」

「んぐっ!!ぐああうぅっ!!」

「貴様あぁッ!汚い足でリザに触るなぁっ!!」

瀕死のリザの体に踏みつけで追い打ちをかける王。
彼が十輝星を蘇生させることはない。十輝星とはそもそも敵に負けた時点で十輝星失格となってしまうのだ。

「おっと、俺はリザにきつめのオイタをしている最中だ。お姉ちゃんはこいつらと遊んでな!」

王がマントを翻すと、ゴブリンやオークら人型の魔物たちが異空間から現れ、ミストの前に立ちふさがる。

「「「げっげっげっげっ……!」」」

(くっ……なんて数!でも……あいつにリザをこれ以上弄ばせるわけにはいかない!)

恐ろしい数の魔物の群れに、臆することなく立ち向かうミスト。
妹のために必死で戦う姉の姿を、王は妹を踏みつけながらニヤニヤと見ていた。



「くっくっく……それにしてもいい格好になったもんだなぁリザ……お前、もう死ぬよ?」

「はぁ、はぁっ……」

「お前が死んだらどうしよっかなー?お前が必死こいて守ってたアウィナイトたちなんて守る価値なくなるし、保護区にいるやつら全員殺しちゃおっかなー?」

「……ぐぅ……それだけ、は……!」

「お前だってわかってたんだろ?自分が死んだらそうなるってことをさ。……なぁリザ、お前は細い綱を踏み外したんだよ。もう諦めろ。」

王の言葉を聞いたリザの目が暗い青に変わる。それはアウィナイトをリョナる者にとって1番見たい、絶望の目。
通常時の明るく清らかな青とは対比をなす、暗く悲しげな青に染まる。
この目を抉って作られる魔石こそ、ノワールが魔法少女たちを操ったダークアウィナイトである。

「ククク……いい顔だ、リザ。そんな顔されたら流石の俺様も、心が揺らいでしまうな……」

「……王……様……!」

「仕方ないなぁ。どうしても助かりたいなら……その可愛い声で俺様に命乞いでもしてみな?」

「……うぅ……!」

王は踏みつけるのをやめ、座り込んでリザの顔を見た。
美少女の悲しみに潤んだ目と恐怖に震える唇は、王にとって大好物の光景だ。
後は必死に命乞いをする姿があれば完璧だったが……

「ほら、言ってみろ。お願いします殺さないでください、なんでもしますからっ……てな!ケケケ!」

394名無しさん:2019/01/08(火) 01:44:06 ID:???
「……お願い、します……!お姉ちゃんは……殺さない……で……っ」

「……おいリザ。俺様は命乞いをしろと言ったんだぞ。保護区にいる奴らを助けたいだろ?お前が今までやってきたことを無駄にしないためにも、……ほら、ポーカーフェイスを捨てて馬鹿なガキみたいに必死に泣き喚いて命乞いしてみやがれ!!!」

「……………………」

王の言葉が聞こえていないのか、リザが目を閉じた瞬間首の力が抜けた。

(……チッ!気を失いやがった。まったくもって面白くないやつだ……!)

王としては最後にリザが命乞いをする姿を存分に楽しんでから、お得意の触手で締め殺して絶望させたかったのだが、それは叶わなかった。
興を削がれた王は、茂みの中へとリザの体を蹴り飛ばす。

(何を言うかと思えば……自分をボロ雑巾にしたこいつを殺すなだと?何を考えてやがる……ま、あいつの人殺しのくせにお人好しなとこも好きなんだがな。ケケケ……おっと!)

王が心の中で笑っていると、オークの首が目の前に飛んできた。

「はぁ、はぁっ……!トーメント王!貴様はここで殺す!」

「なんだ、もう片付け終わったのか。ならご褒美に、俺様が直々にリョナってやんよ!」


★★★★★★★★★★★★★★★


「……んっ……ぅ……」

「動かないで!今癒しの術を……!」

「……篠原……唯……?」

リザが目を覚ますと、両手で癒しの術を自分にかけている唯がいた。

「私の癒しの術じゃ、治療に時間がかかっちゃうけど……!」

「……だ、め……!お姉ちゃんを、助けなきゃ……ぐぅっ!!」

「動いちゃだめだよっ!リザちゃん、すっごい怪我してるんだから……!絶対安静だよ!」

鏡花がいればもう少しまともな治療ができるのだが、唯1人ではせいぜい止血するくらいが精一杯だ。
動いた途端に押し寄せた身体中の痛みと、気を抜くとすぐに失神してしまいそうな目眩がリザを倒れさせた。



王を追ってデスルーラで飛んできたという唯に話を聞くと、自分のところに偶然飛んできたリザを唯がキャッチして、王に見つかってはならないと50メートルほど離れたここまで運んできたらしい。

「……リザちゃん……さっき王様が言ってたこと、聞こえちゃったんだ。前にも聞いたけど、本当にリザちゃんはアウィナイトの人たちを守ってるんだね。」

「……だから何?同情なんか……つっ……!いらないっ……!」

「……リザちゃん……私ね、正直に言うと……やっぱりリザちゃんのやってることは、間違いだと思う……お姉さんが正しいと思う。」

「……誰もあなたにそんなこと、聞いてない……気安く口を挟まないで。」

「……ごめん。私なんかが関わっていいことじゃなかったね。でも私……やっぱりリザちゃんにはあの王様と一緒にいてほしくないよ……」

王都脱出の際や、カイコガに襲われた時に感じたリザの優しさで、唯は十輝星のリザを敵とは思えないでいた。
連絡先は交換したが、挨拶をしても世間話をしてもリザから返事が返ってきたことはない。
ルミナスでの友達……ヒカリの足を切り落としたのもスピカのリザだと鏡花は言っていた。

だがそれでも唯は、リザをこのまま放置することなどできなかった。」

395名無しさん:2019/01/11(金) 22:41:56 ID:???
(……ザシュッ!!)
「くっ……!!」
洞窟中に張り巡らされた不可視の糸に、少しずつ斬り刻まれていくアリサ。
薄暗く、遮蔽物が多く、糸を張る場所にも事欠かない洞窟内は、『糸』を使うロゼッタにとって圧倒的有利なフィールドだった。

「貴女には……緩慢な死を与えてあげる。手足を一本ずつ、斬り落として……仲間を一人ずつ、八つ裂きにして……
私の気が済むまで嬲りつくすまで……殺してあげない」
ロゼッタの冷たい声が洞窟内に反響する。どこか物陰に潜んでいるのか、アリサからはロゼッタの姿は視認できない。

「随分と嫌われたものですわね。ですが……」
(ガキン!!……ズバッ!!……)
「!!……う、ぐ……わたくしはまだ、倒されるわけには行きませんわ……!」
(……宣言通り、手足を斬り落としに来ていますわね。ですが……来るとわかっていれば、何とか対応できる)
見えない敵の見えない攻撃に、一方的に斬り刻まれる。
しかしアリサは、風を切る音や風圧、そして身を刺すような殺気を感じ取り、致命的な一撃だけは辛うじてかわし続ける。

「…………無駄な足掻きを。ならば、これで……」
「それに……たとえ貴女がわたくし達を殺しても、どうせ何度でも『生き返る』。
……どう転んでも、貴女の気が収まるとは思えませんわ。
本当にわたくしを殺したいなら……まず『あの男』を倒して、能力を封じる必要があるのではなくて?」
「……!!」
(ブオンッ!!………ザシュッ!!)
「……う、ぐっ!!」
足元からの一撃で、左太ももを裂かれる。白いドレスが血に染まり、アリサの身体が少しふらつく。

「黙りなさい。……殺しても生き返るならば、貴女達が絶望するまで、何度でも殺し続けるまで!」
「……いいえ。例え何度殺されようと……それ以上のひどい目に遭わされようと、わたくし達はもう諦めない。
貴女達を……いいえ。あの男……トーメント王を、必ず止めて見せる!」
(ビュッッ!!………スパッ!)
前方から飛来する糸を斬り払い、攻撃を防ぐ。
仲間との出会い、そしてこれまでの戦いの旅は、アリサの心に確かな信念を植え付けていた。

そして、力のみを信奉していたミツルギの皇帝、テンジョウの心の変化を見て……確信を得た。
この世界の人々は、ただ殺し合うだけの鬼畜リョナラーなどではない。
少しずつの歩みでも、諦めずに歩み続ければこの世界を変えていく事ができるはずだと。

「黙れぇえええッッッ!!」
(ビュオオオッ!!………!!)
「殺気が……丸見えですわ!リヒトクーゲル!!」
「なっ……ん、あぅぅっ!?」
飛んで来る糸を斬り裂きながら、アリサが放った光弾は、身を隠していたロゼッタの姿を、確実に捉えていた。

396名無しさん:2019/01/12(土) 00:00:07 ID:X.ALiKRc
「……はぁっ……はぁっ……ここに、いましたのね……」
全身傷だらけになりながらも、ついにロゼッタの居場所を探し当てたアリサ。
彩芽や瑠奈たちといた場所からは、かなり遠くまで移動していた。

「……王を止める事など……出来るはずがない。お前は……あの人の真の恐ろしさを、まだ知らない」
一方のロゼッタは、光弾を受けて大きく破れたドレスの胸元を、片手で押さえている。
アリサに比べれば遥かに軽傷ではあるが、流石にこの距離での接近戦では分が悪い。

「……貴女は、それを知っているかのような口ぶりですわね。
私達や、アルフレッドや……それに他の国の人達が手を組んだとしても……それすら凌駕する力を、あの男は持っていると?」
「……………。」

「……例えそうだとしても、わたくし達の考えは変わりませんわ。貴女だって、わかっているでしょう。
そもそも、貴女のお姉さまを殺した実行犯である、母様……ソフィア・アングレームも、トーメント王の配下だった。
彼こそが元凶、と言って良い。復讐を肯定するわけではありませんが……貴女は、戦う相手を間違えているのではなくて?」
「黙れっ………黙れ黙れ黙れ!!」
(スパッ!!……ザンッ!!)
「無駄ですっ……貴女の糸は、既に見切りましたわ」
力任せに無数の糸を繰り出すロゼッタ。その斬撃を最小限の動きでかわし、糸を斬り落とすアリサ。

「……関係、ない……私の世界は、姉様だけだった……だから、姉様を殺したソフィア・アングレームを……
奴を横取りした、アルフレッドを……アングレーム家の人間すべてを……!!」
(確実に急所を狙う、精密な攻撃。強力で、純粋な力。でもその本性は……まるで、子供のように純真。
……まるで、最近会った誰かさんのようですわね)
何度も攻撃を受けている内に、アリサはロゼッタの攻め手を把握しつつあった。

「……わたくしを恨んで気が済むのなら、いくらでもそうするといい。
でも……心に迷いを抱いている貴女に、わたくしを斬る事など……!!」

アリサの感覚は研ぎ澄まされ、ロゼッタの指の動き、糸の動き、息遣いまでもが手に取るように分かった。
だが、そのせいで………

(ギュルルルルッ……!!)
「えっ……!?」
死角から飛んできた『糸』に、アリサは気付く事が出来なかった。
それは剣を持つ右腕に巻き付き、アリサの動きを封じ………

(……ザシュッ!!)
「う、ぐああああああぁっ!!」
無防備になった所へ、ロゼッタの糸の斬撃が直撃する。
鮮血を噴き上げながら、アリサの右腕は斬り落とされ……

(!?……今のは……私の、『運命の糸』じゃ、ない。一体……)
攻撃が命中したにもかかわらず、ロゼッタは呆然とした。
……想定外の、第三者の介入。だが、一体誰が……?

「ふふふふ……あたしってば、ツイてるわぁ。おいしそうなかわいい餌が2人も、仲良くケンカしてるなんて……」

【ブラッディ・ウィドー】
戦闘力:雄:C〜B、雌:A
ミツルギ原産の蜘蛛の魔物。
雄は2mほどの巨大な蜘蛛。雌は蜘蛛の下半身と人間の女性のような上半身を持つ。
洞窟などに棲み、強靭な意図で獲物を捕らえる。
獲物を生きたまま捕らえて体液を啜るため、殺さずに動きを止める強力な麻痺毒を持っており、
その毒は暗殺者などに好んで利用されている。
なお、繁殖期には、雌が人間の胎内に産卵管を挿入して大量の卵を産んだ後、雄が集団でその卵に精子を放出するという。


「あれは……魔物………?」
誰であれ、横やりを入れられた事は許せない。新たな敵に、糸を繰り出そうとしたロゼッタだが……

(どくん………!)
「………薬切れ……」
はるか昔、魔物によって調教された身体が疼き出し始めた。その症状を抑える薬も、手元には無い。

(からだ……あつい………まも、の……っ……今は……考えるなっ……!)
ロゼッタの脳裏を、過去の記憶がよぎった。
姉ヴィオラを殺された後、糸の力を手に入れる前。
リョナ対象として王に蘇生され、地下闘技場で魔物達と戦わされた日々の記憶が……

397名無しさん:2019/01/12(土) 20:57:29 ID:???
「新年の挨拶を兼ねた集会……?デジタル化が進んで年賀状すらない、このナルビア王国で?そもそも時期がずれてないですか?」

「そう……なーんか匂うよな……つーかリンネ、お前大丈夫か?なまじ元の顔が良いだけに、やつれると余計に怖いぞ」

「ふん……せめて服くらいちゃんとしろ。ボクチンの見立てでは、今回の集会はヒルダの『完成』についてと見るね」

シックス・デイの男3人は、リンネの部屋で集まって話し込んでいた。議題はもちろん、突然のシックス・デイ召集についてである。

女性陣はここの所彼女らだけで集まって何やら話し込んでいるので、ダイとマーティンが引きこもっているリンネを集会に呼びに来たのである。

「り、リンネの服ってこの黒色のドレスだよな……最近男の娘というよりは女の子と見紛う美少年って感じのキャラになってたけど、こう見るとガチで女子部屋にしか見えないな……」

「マーティン……『完成』なんて、ヒルダを物みたいに言うな」

「チッ……途中から引きこもって、薬物投与すらサボってたリンネ君は、流石に言うことが違うな」

「リンネ、着替えさせるぞ?ビジュアル的に犯罪にしか見えないけど、男同士だから問題ないよな?な?」

「……ボクがいない間、ヒルダをどうした?」

「さぁ、フェーズ3以降の1000号強化計画は総帥とその補佐官が自らやってるからな……情報漏洩を恐れたんだろうさ、どこにこないだのリゲルみたいなスパイが潜んでるか分かりやしない」

「……どちらにせよボクは、ヒルダの近くにはいてやれなかったってことか」

「ほらリンネ、腕上げろ……あれ、ドレスってどうやって着せればいいんだ?童貞を殺す服(服の構造が分からなくて恥をかく方の意味)状態なんだけど」

「「ちょっと黙っててくれないかなぁ!?」」

せっかくシリアスな雰囲気を醸し出しても、水バカ日誌ことダイがアホなこと言ってるせいでイマイチ締まらない。険悪な空気になりきれなかったマーティンとダイは、ため息をついて矛を納める。どちらにせよ、今は喧嘩してもしょうがないのだ。

リンネを着替えさせることを諦めたダイはドレスをその辺に放ると、急に真面目くさった顔をしてリンネに話しかけてきた。

「それはそうとリンネ、お前最近アリスとエリスに会ったか?何か変わったこととかあったか?」

「……?どうでもいいでしょう、そんなこと……」

「……まぁ今一番様子がおかしいのはリンネだし、多分大丈夫か……総帥も考えがあるみたいだし」

ブツブツと何かを呟いた後、ダイは一転してあっけらかんとした態度でリンネの肩を叩く。

「とにかくリンネ、流石に招集には応じろ。思う所があるのは分かるが……」

「ふん、その情けない姿をレイナに見られて幻滅されればいいさ」

「……そうだね……本当にヒルダのことに関する召集だとしたら、出席してヒルダに愛想を尽かされるのがボクにはお似合いだね」

「あちゃー、こりゃ重症だな……とにかく、ちゃんと来いよ!」

バタバタと慌ただしく去っていくダイとマーティン。それを見届けたリンネは、モゾモゾと着替え始める。

(こんな姿……サキさんに見られたら、相当酷いこと言われそうだな……)

398名無しさん:2019/01/12(土) 20:59:02 ID:???
「……揃ったようだな、シックス・デイの諸君よ……少々遅れたが、新年の挨拶を兼ねた会議を開こうと思う」

オメガ・ネットの会議室では、シックス・デイの6人と総帥レオナルドが勢揃いしていた。

リンネは一応服を着替えて見た目は多少マシになったが、それでも憔悴しきった様子を隠し切れていない。彼はあんなことがあったにもかかわらず、あまり気にした様子を見せていないアリスに多少の違和感を覚えたが……自棄になっていることもあり、深く考えずに席についている。

またダイは会議室に入ってきたレイナの方をずっとガン見しており、マーティンが「まさかDもレイナを狙ってるんじゃ……」と爪を噛むという、中々混沌とした様相ではあった。

だがそれを気にかけた様子もない総帥は、粛々と会議を進める。

「どこにスパイが潜んでいるか分からぬ故伏せていたが……1000号、ヒルダの調整が完了した」

その言葉を聞いてリンネがピクンと反応したが、それ以外の面々は予め予想していたこともあり、大きな反応を見せていない。

「思ってたより早かったな……ボクチンが主導してたのはフェーズ3までだけど、もう少しかかると思ってたよ」

「なに、創意工夫を凝らしたまでのことだ……我らがナルビアが世界の覇権を握る為に、多少の犠牲はやむを得ない」

「……多少の犠牲……?」

ヒルダを『犠牲』呼ばわりされたと感じたリンネは唇を強く噛む。だが、この時総帥の言った『犠牲』とは……ヒルダのことではなかった。

「フフフ……我らがナルビア?」
「ちょーウケるね!今からナルビアは、あの方のものになるのに!」
「……アリス!レイナ!行くぞ!!狙うはレオナルドの首級のみ!!」


今正に会議が始まろうとした瞬間……レイナ、エリス、アリスの3人が突然各々の武器を取り出し、総帥へ向けて駆け出した!

「ひ、ひぃいいい!?ちょ、お前ら正気か!?どうしたんだよぉ!!」

「レイナさん、エリス……それに、アリス……」

マーティンは完全に腰を抜かして怯えており、リンネは事態を飲み込んだが、どうすることもできずにいた。

「おいおい……3人ともかよ?思ってたよりマズイぜ」

ある程度は事態を想定していたダイも、流石にこれには驚く。マーティンとリンネは戦闘向きではない為、この状況でまともに戦えるのはダイだけだ。

周囲に魔法で水を展開し、一応ながら総帥を守ろうとするダイ。しかし……


「ダイ、下がれ……『実戦テスト』の邪魔だ」


総帥がパチンと指を鳴らした瞬間……会議室の扉が勢いよく開き、白い影が飛び込んできた。

399名無しさん:2019/01/13(日) 02:14:30 ID:jNdl4yvg
「岩砕鉄断波アアアァ!!!」

「「キャーーーーーーーーー!!!」

洞窟内に響き渡る地割れでも起きたかのような凄まじい轟音と、2人の少女の高い悲鳴。
アイナとエミリアは自分たちが覚醒させてしまった竜殺しから、息を切らして逃げ回っていた。

「やばいですわやばいですわやばいねすわーっ!アレの持続時間は約10分!その間はなんとしても逃げ続けないと……!」

「ふぅっ、はぁっ、はぁっ……あ、あんなのを私に食べさせようとするなんて、酷いよアイナちゃん……!」

「あ!ていうかこんな馬鹿正直に頑張って逃げなくてもいいんですわ!アイナは消えればいいのですからぁ〜。それっ!」

「えーっ!?1人だけずるいよアイナちゃああん!!!」

強化ステルスを起動させ、ダンの記憶からも消えるアイナ。エミリアは例の装置でアイナを忘れることはないが、1人でこの状況をなんとかできる妙案があるわけでもない。

「安心してほしいですわエミリアちゃん!少しあいつの気を引いてくだされば、今度こそカルピス味のねるねるねるねをドンの奴にぶちまけてやりますわ!」

「えぇ……!もう、頼んだよ!なんとか魔法で引きつけてみる!」



竜殺し相手に1人で相対するのはもちろん怖いが、アイナのためにやむなく陽動を引き受けるエミリア。
すぐ後ろの轟音に振り返ると、どこから調達したのか、片手に岩の塊を棒状にした武器を持つダンが立っていた。

(も、もう正面には逃げ場がない……!やるしかない!)

「バーンストライク!!!」

とっさに中級魔法を発動させるエミリア。ダンの元に燃え盛る高熱の炎が雨となって降り注ぐ。

「……ヴ、ガア゛っ!」

「え!?打ち返し、て……?きゃああああああああ!!!」

自身にに放たれた炎弾を、バッターのごとく魔力を帯びた岩の棒でかっとばすダン。
辛くもエミリアは走って回避するが、そんな彼女に息もつかせず二度、三度目が襲いかかる!

ドカン!ドカン!ドカーン!
「うわわわわわ!待って待っていやぁっ!う、ウォーターシールドッ!!」

バシュン!ブクブクブクブク……

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

なんとか水の壁で最後の炎を防ぐことができたエミリア。だが彼女に休む間は与えられない。

「ガアアアアアァ!!!天地破壊拳ンンンン!!!」

「うわあああああぁっ!!!ぷぷ、プロテクトシールドオオオオォっ!!!」

つい相手の勢いに任せて自分も語気が強くなってしまうエミリア。
とはいえ防御魔法は発動し、嵐をも防ぐ魔力の壁が岩をも砕く右ストレートを受け止める。

(つ、強い……!でも、これくらいならなんとか耐えられるっ……!)

「グ、グ……ヴオオオオ!!!」

そう彼女が思ったのもつかの間、ダンがより一層勢いをつけると、拳に宿る魔力が巨大な猛獣になっていく!

(う、嘘……!今でさえかなりキツイのに、こんなの打ち込まれたら……!



「グ……ガアアアアアアアアアアアアアアアっ!!!」

ピシィ!パリパリパリパリ……!
ダンのフルパワーパンチにエミリアのバリアが嫌な音を立て始める。

「うぐっ……!あ、アイナちゃん……早くぅ……!」

「ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

狂戦士となってしまった以上、ダンに手加減という理性的なことはできない。
魔力の壁を突破できないのなら、自分の体を省みず出力を上げて砕くのみ。
たとえその中にいるのが、16歳の美少女であったとしても。

バキッ!バキバキッ!!ピキピキイィ!!!

「あ、だ……だめっ……!も、もうだめぇーーーーーッ!!!アイナちゃん!!わたしもう限界いぃ!!!早く助けてえええええええーーー!!!」

あと数秒で砕け散る魔法壁の中で、涙声で助けを乞うエミリア。
ダンの動きを止めるのなら、こちらに集中している今しかない。このタイミングであの白いネバネバで拘束してくれればと、エミリアは思っていたが……



「うぅん……洞窟が崩れて進めなくなってしまいましたわ。エミリアちゃん、無事だといいのだけれど……」



いつのまにか状況は、勝手に絶望的になっていた。

400名無しさん:2019/01/13(日) 03:45:37 ID:???
「きゃっ!?」
「あぐっ!」
「ぐあっ!」

レオナルドに襲いかかった3人は、突如凄まじいスピードで現れた白い影に吹き飛ばされた。

「こ、今度はなんだぁ!?」

慌ててダイの水魔法の中に入ってはいるが、事態をさっぱり飲み込めないマーティンの声が上ずっている。
そんな中、リンネは自席で立ち上がったまま動けずにいた。

「ヒルダ……?ヒルダなのか……?」

「…………………………」

現れた少女に問いかけるリンネ。だが明らかにヒルダとは身長が違っている。
リンネと同じくらいの身長で、白髪に白を基調とした軍服の小女は、レオナルドを守るように立っていた。

「もうその名で呼ぶのも終わりだ、リンネ。これは私たちが作り上げた最高傑作の化学兵器と、ナルビアの英雄たちの細胞を組み合わせて作り出されたクローン兵士……その真の名前は、メサイア。」

「……メサイア……?」

「ふん、救世主ってか……そんなら、うちのかわい娘ちゃんたちも助けてやれんのかな?」

「それをこれからテストするのだ。メサイア、3人を無力化しろ。」

「……了解。敵対反応を無力化します。」



ヒルダだった少女……メサイアがそう言いスッと手を伸ばすと、指先から魔力が放たれる。
目にも留まらぬスピードで放たれたその魔力の光線は、3人を捉えると瞬時に体を覆いつくした。

「な、なんだ、これはっ!?ぐ、……ぁ……!」

「エ、エリス!?う、ぐぁ……!?」

「え?ふ、2人とも固まって……!あ……ぐ……!」

意識はあるが全く動けないという未知の感覚で拘束され、3人は苦悶の表情を浮かべたまま固まった。

「ククク……拘束した対象の電気信号を麻痺させるゼロエネルギー。この力で拘束された者は体を動かすことはおろか、声を発することもできん。いかなる強者もこれの前では無力……」

「ば、馬鹿な……!構想はあっても机上の空論だとされた戦闘用技術が、じ、実装されたっていうのか……!」

信じられないといった様子でマーティンが呟いた。シリアスっぽくしゃべってはいるが、目線はエロい顔のまま拘束されて動けないレイナに釘付けである。

「ひゅー……美少女3人がぎゅっと目を瞑って拘束されてるのを、こうしてじっくりと眺めてられるのは最高だねえ。」

「驚くのはまだ早いぞ。この状態で拘束したまま、対象を自由自在に動かすこともできる。……メサイア、叩きつけろ。」

「了解。」

メサイアは3人を拘束したまま宙に浮かせた後、指をぐっと左に動かしてみせる。
すると、拘束された3人も左に勢いよく動かされ……

ブチン!
「ぐあっ!!!」
「ぎうっ!?」
「あぐっ!?いっ……たぁ……!」

壁に叩きつけられる寸前で拘束を切られ、悲鳴を上げた。

ビシュン!!!
「ぐうっ!?またっ……!」
「あっ……いやっ……!」
「ちょ、これ……!むり……」

間髪入れず、メサイアはビームを照射し再度3人を拘束する。

「痛覚も遮断されるので、攻撃が当たる直前に切れば痛みを与えることができる。その後、こうしてすぐ繋ぎ直せばいいだけだ。」

「おお……じゃあス◯ブラのポーズ機能のごとく、壁に叩きつけられた瞬間で繋げば、そのままのポーズで堪能できるってわけか……」

感嘆した様子のダイ。だが何を堪能するのかは、誰も聞かなかった。

「ククク……これがナルビアの科学が生み出した、最高傑作の化学兵器。ではこれから、シックスデイの英雄を相手にメサイアの純粋な力をご覧に入れよう……!」

401名無しさん:2019/01/13(日) 13:29:06 ID:???
「メサイア、ゼロエネルギーのテストは終わりだ。この部屋は今、ナルビア中央高官のお歴々もモニターしている。さぁ……お前の力を見せてやれ。」

「……了解。ゼロエネルギー解除。ブラストブレードを使用します。」

バチッ、バチバチッ……!

「これは……雷……?」

メサイアが手をかざすと、激しい雷の魔力が周囲に溢れ出す。
その稲妻が収束するメサイアの手元には、巨大な大剣が握られていた。

「おお!ヒルダは大剣使いなのか!」

「雷魔剣ブラストブレード……メサイアの魔力が作り出した、この世に2つとない魔大剣だ。」

華奢な少女には似つかわしくない巨大な大剣を、メサイアは流麗な動作で構える。
ゼロエネルギーを解除されたことにより、動けずにいたエリス、アリス、レイナの3人は立ち上がることができた。



「くそっ……負けるわけにはいかない!来い!テンペストカルネージ!」

エリスが暴風を呼ぶ槍を召喚した瞬間、メサイアは雷を纏いながら目にも留まらぬスピードで走り出す。
会議室はいつのまにか、嵐と雷が吹き荒れる地獄のような光景と化した。

「ぐっ!」

稲光の如く神速で距離を詰めたメサイアの一閃を、辛くも槍でガードするエリス。

「なんてスピードっ……!蒼式・奪歌氷殺!!」

「エリスちゃん、すぐ助けるよ!ブーメランイーグルー!」

ガードしているため動けないエリスに代わり、反撃を試みるアリスとレイナ。
2人が放った攻撃は確実にメサイアへと向けられていたが──

ゴロゴロ……ピシャン!!!

「な……!?」

「嘘でしょっ……!雷で、無効化された……?」

「ククク……メサイアの雷は自由自在。予備動作なくどこへでも瞬時に落とすことができる。攻撃も防御も自由自在だ。」

「ぐ……ぐあああああああああっ!!!」

レオナルドが解説を終える頃には、エリスのガードは崩されていた。
魔大剣の圧倒的な一撃と追撃の雷でエリスは吹き飛ばされ、壁に激突し……そのまま動かなくなった。

「……うそ……エリスちゃんが、こんな簡単に……」

「エリス!?エリスッ!!……いや……そんな……」

この3人の中では恐らく1番の実力者であり、ナルビアの神風と謳われたエリスがいとも容易くやられてしまった。
倒れたエリスの体から流れる血だまりを見たアリスは膝をつき、レイナは呆然と立ち尽くしている。
その2人の様子を見て、レオナルドは不敵な笑みを浮かべた。



「メサイア、残りはアレで片付けろ。」

「……了解。魔導出力を50パーセントに上昇。ミュートロギアヴォルト、レディ。」

メサイアが眉ひとつ動かさずに両腕を前に掲げると、それまでとは違う黒い稲妻が収束を始めてゆく。

「……あ……ぁ……」

「あ、アリスちゃん……いつもみたいに、的確な指示出してよ……やばいって、これ……」

その圧倒的な魔力の前に、アリスもレイナも反撃を試みる気力が起こらなかった。

「ゼロエネルギーはメサイアの圧倒的な力を補佐する役割に過ぎない。雷魔剣ブラストブレードと全てを制する圧倒的な神の雷……これこそがメサイアの真の力だ。」

「……発射。」

バチバチバチバチバチバチバチバチバチッ!!!

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁっ!!!」
「やあああああああああああああん!!!」


メサイアの言葉とともに黒い稲妻が少女たちの体を容赦なく貫き、アリスとレイナの絶叫が会議室に響き渡った。

402名無しさん:2019/01/14(月) 02:06:14 ID:???
「う、ぐっ……!!」

司教アイリスは突然走った痛みに、胸を抑えて呻いた。一瞬で奴隷たちがやられたことにより、術者にもダメージが行ったのである。

「……まさか、ヒルダちょんがあんなに強いなんて……誤算だったわぁ……!」

シックス・デイのアリス、エリス、レイナを洗脳してレズ奴隷にし、総帥を暗殺して自分がナルビアのトップに成り代わろうとしていたアイリス。だが、部外者故にナルビアの最終兵器であるヒルダのことは詳しく知らなかった。

いや、話自体は洗脳していた者たちから聞いていたのだが、シーヴァリアでのヒルダを知っているアイリスは、あの臆病なヒルダがまさかそこまで強くはならないだろう……という油断をしてしまったのだ。

「……ここに機械兵が押し寄せてくるのも時間の問題かしら?」

アイリスの術を解析し、ヒルダの投薬に自分の癒しの術を合わせて急ピッチで仕上げるという狙い……アイリスはそれ自体は知らないが、何らかの意図で自分が泳がされていたということは流石に勘付いている。


「おらぁアイリス・リコルティア!!」
「私たち、地獄の絶壁Zが貴女を!」
「……捕縛する」


丁度その時、アイリスの軟禁されていた家に、地獄の絶壁Zが踏み込んできた。


「あら、可愛いお人形さんたち……残念だけど、今は貴女たちの相手をしている暇はないのよね」

「何ふざけたこと言ってやがる!」
「いくよ、みんな!私たちの必殺コンビネーション!」
「……滅殺!」

(無印時代にワルトゥに呆気なく敗れた)コンビネーション技をアイリスに放つ地獄の絶壁Z。
それを見たアイリスは、武器もないというのに不敵に笑った。

「もしもの時の為に、保険をかけておいて良かったわ……スレーブトラベル!」

突然、アイリスの体を眩い光が包んだと思えば……彼女は跡形もなく消え去っていた。

「き、消えた……!?エミルさんに連絡を!」

★ ★ ★


「ふぅ……ありがとう舞ちゃん、助かったわ」

「……う……ぁ……」

アイリスの使ったスレーブトラベル……それは自らの奴隷に仕込んだ刻印を指標に、長距離テレポートを行う、莫大な魔力を必要とする邪術である。

しかもテレポート先の奴隷が、自らの血で魔方陣を描かなければ術は発動しない。はっきり言って燃費の悪すぎる術だ。

舞はナイフで自らの腕から大量の血を流して作った魔方陣の上で、ぐったりと倒れていた。貧血のせいか、その顔色は蒼白だ。

「うーん、中々上手くいかないわねぇ……またしばらくは潜伏生活かしら。それともこのまま舞ちゃんを邪術師ちゃんの所に送ってトーメントで一旗上げるか……悩み所ねぇ」

「……サ……キ……さ……ま……」

「んふふ♥️とりあえずは、貴女を治してあげるわね、舞ちゃん♥️」



★ ★ ★

「なるほど、そんなことが……」

『そろそろナルビアにいた異世界人のフリするのもムリポなんで、一旦帰っていい?つーかここしばらく真面目に働き過ぎてワークショップだわ』

「……ひょっとして、ワーカホリックですか?」


今までちょくちょく示唆されてた、ナルビアに潜伏しているリリスの部下……それは実は異世界人、名栗間 胡桃であることで有名な、ぐーたら三姉妹のノーチェ・カスターニャであった。

『なんかダルいことになりそうな予感だな』

「……戦争は近いです。ノーチェさんもシーヴァリアに帰還してください」

『りょ』

ノーチェとの通話を切ったリリスは、わいわいとスマブラで遊ぶ面々(リリス自身は最初に残機がなくなった)を見ながら、両親の仇のことを思い出す。

「……近いうちに、貴女とは改めて決着をつけることになりそうですね……司教アイリス」

403名無しさん:2019/01/14(月) 02:19:54 ID:???
「素晴らしい!これが覚醒したメサイアの真の力か!」
「いやぁ見させてもらったよ!あのシックスデイをこうも圧倒とは……!」
「これだけの力があれば、トーメントやその他の国を圧倒できるな……!早速量産体制に取り掛かろう。」

風と雷が止んだ会議室に、身なりのいい男たちがずかすかと入ってきた。
彼らは先程レオナルドが言っていた、ナルビア中央高官のお歴々の面々である。

「正直、拍子抜けでしたがね。今のシックスデイが弛んでいるのか、メサイアが圧倒的すぎたのか……後者であってほしいものです。ゼロエネルギーについては現時点では量産は難しいのですが、ゆくゆくは……」

倒したシックスデイを尻目に集まった男たちにレオナルドが説明を始める。
誰も彼女たちの安否を気遣うものはなく、皆レオナルドの話に目を輝かせていた。



「……れ、レイナっ……!」

思い出したかのようにマーティンがレイナに走り寄り、脈を確かめる。

「……まだ、生きてる……!ダイ、リンネ、手を貸してくれ。裏切り者であろうと……死なせたくはない。」

「あいあい。悪いことした子達にはお仕置きが必要とはいえ、ちょっとこれはやりすぎだよなァ……」

(それに、操られてる状態だとコンビネーションもなにもなかったしな。でも、今のこいつらからは嫌な気配を感じない。……あの雷で正気に戻ってくれてればいいんだが……)

本来ならばこの3人のチームワークでもう少し善戦できたのであろうが、正気でない状態では難しいのだろう。
双子2人をダイが持ち、レイナをマーティンが背に抱えた。

「……あり……がと……マーティン、くん……」
「……ふ、ふん。暴れるなよ……!それと、後でちゃんと話聞かせろよっ……」

耳元で囁かれて本当は心臓が破裂しそうだったが、マーティンは自分の脛をつねって正気を取り戻した。



「……ヒルダ……僕だよ。わかるかな?」

本当ならダイは双子のどちらかをリンネに持って欲しかったのだが、なんとなく雰囲気を察して2人担いでそのまま部屋を出ていった。

「……なんか、ちょっと見ない間にすごく大きくなったね……僕と同じくらいみたいだ。」

「……ヒルダ……それは前の人格のことですか?今の私はメサイア。軍事のために作られたクローンです。」

「……メサイア……か……」

無機質なトーンで語るメサイア。
その声もその顔もヒルダが成長したかのような姿で、リンネは少し胸が苦しくなった。

(……そうだよな……覚えてないよな……君に薬を打ち込むのが嫌になって、引きこもってた最悪の男のことなんか……)

404名無しさん:2019/01/14(月) 02:21:43 ID:???
「どうだリンネ。お前が育てたクローン1000号の力は。」

「……総帥……」

いつのまにか高官たちとの話を終えたレオナルドが、リンネに声をかけた。

「お前に任せて正解だった。ヒルダの人格は実に扱いやすかったぞ。薬物投与に耐える精神を育み、ここまで育てあげたのは間違いなく、お前の力だ。」

「……お褒めに預かり、光栄です……」

口ではそう言うが、全く嬉しいことなど1つもない。
この結果が変えられない運命だと知りつつも、リンネはヒルダを失ったという事実に打ちのめされていた。

「実験中、ヒルダにはいつも研究員から言って聞かせたんだ……この実験が終われば、元気になった体でリンネに会える、とな。」

「…………え?」

「リヴァイタライズの副作用は生半可なものではない。本人の体とは別にメンタルケアも必要なのだが……お前のおかげで全く苦労しなかった。」

「…………それっ……て……」

「お前に会いたいと暴れるヒルダにこう言ったんだよ……リンネが会いに来ないのは、あえてお前を突き放しているんだとな……実験が終わるまで甘えることができないように、ヒルダが痛みに負けず、自分の意思で体を治してもらうために来ないのだと。……会いたければこの実験が終わるまで耐えろとな。」

ガバッ!!!

気がつくと、リンネはレオナルドの胸ぐらを掴んでいた。

「フフ……どうした?言いたいことがあるなら言ってみろ。」

「……じゃあ、ヒルダは……!僕に会いたい一心で薬物投与を1人で受け続けて……あんな身を削るような痛みに毎日毎日耐えていたっていうのか……?」

「リンネ……私に当たるのはお門違いだ。お前がヒルダに会いに来なかったのは事実だろう?……まあ、そのおかげでヒルダも前向きになっていた。……早く実験を終わらせて、リンネと月花庭園に行きたいとな。」

「……ッ!!!」

月花庭園の名を聞いた途端、リンネの頭にヒルダの姿が浮かんだ。



「……うん。わたし、がまんする。いっぱいいたいのいやだけど……びょうきがなおるなら、もっといっぱいいっぱいがんばるっ!」

「トーメントにある、げっかていえん!おはながいっぱいで、よるになるとすっごくきれいなばしょなの。」

「……だからね、わたしのびょうきがなおったら……リンネ、つれていってくれる?」



「……ぅああぁッ!!!」

フラッシュバックと同時に、リンネは思わず振りかぶった拳を……

「……く……そ……がぁ……!」

辛うじて残った理性で、ゆっくりと引っ込めた。



「……フン。お前の功績は認めている……だが今の反応を見る限り、やはり精神的には未熟のようだ。」

軍服を整えながら、レオナルドは何事もなかったかのように吐き捨てた。

「…………僕のメンタルを試したというのなら……今のは全て嘘なのですか。」

「いいや。全て事実だ。気になるなら研究室に映像があるから見るといい……心が壊れないなら、な。」

「…………………………」

「……いいか、第零師団師団長リンネ。お前はナルビアの軍人となるために生まれてきたクローンだ。クローンがクローンに特別な情を抱くな。……それがお前とヒルダのためでもあるのだ。……今回のことは不問とする。私たちに作られた頭で良く考えろ。」

「…………ぐすっ……うぅっ……」

部屋を出て行くレオナルド。この会議室にはリンネとメサイアの2人だけとなった。



「……うぅ……ああぁ゛っ……!ごめん……!ごめんよ、ヒルダ……!……僕が君の側に……僕が君の側にいてやらなきゃ……ダメだったのに……!」

「…………………………」

少女のような顔立ちに合わない男泣きをするリンネを、メサイアは無機質な目で見つめていた。

405>>391から:2019/01/14(月) 14:39:30 ID:???
「行け!アヤメカNo.32!回復ミツバチ!」

体力が回復しそうな緑色の蜜を溜め込んだ虫型ロボット……モン○ンワールドに出てきた回復ミツムシのパクリが瑠奈の元へ飛んでいく。

「ちょっ!?なんでよりによって虫型なのよ!?」
「久しぶりにモンハン起動したらつい……大丈夫だ、そいつはあくまでも虫っぽいだけのロボットだ!」
「ああもう……!回復効果はガチだから文句言いにくいわね!」

瑠奈の元へ到着した回復ミツバチが緑色の蜜を破裂させると、瑠奈の体力は一気に回復した。これで再びアイベルトと戦える。

「さらにNo.36!わらわらソルジャーズ!」

自動で敵と戦ってくれる玩具の兵隊を送り出す彩芽。

「ちっ、あいつのメカには前に一度痛い目に遭わされたからな……っと!」
「ちょ、その体勢から避けれるの!?」

スパイクナックルの代わりに取り出した剣の腹の部分で兵隊を凪ぎ払うアイベルト。瑠奈はアイベルトが剣を振り切った一瞬の隙を突いて素早い拳を打ち込むが、紙一重で回避される。
渾身の一撃を回避された瑠奈は無理してやりあわずにバックステップで距離を取り、再びアイベルトが玩具の兵隊との戦いで隙を晒すのを待つ。

「ふん!まともにやりあうのも馬鹿らしいし、こうやってじわじわと追い詰めてやるわ!」
「いやだから台詞が悪役っぽい……いや、でもあいつクソ強いし、チクチク戦法が正解か……」

アヤメカによる回復と戦闘補助を受けた瑠奈の長期戦の構え。それに対しアイベルトは……



「俺様ほどの男になると……先に狙うべき相手が自然と分かるんだよな!シャドウサーヴァント!!」


玩具の兵隊を薙ぎ払いながら、隠れて思念詠唱をしていたアイベルト。数には数と言わんばかりに、分身を生み出す魔法を使う。

「くっ!?しま……!彩芽、逃げて!」
「無駄だっつーの!泣き喚いて俺様の姿をその目に刻め!そして未来永劫、俺様の勇名を語り継げぇえ!!」

瑠奈と玩具の兵隊の相手を分身に任せ、一気に彩芽の元へ向かうアイベルト。
瑠奈も追おうとするが、分身2体に阻まれて救援に行けない。

「ちょ、マジでか!?こんな時は、アヤメカNo.64!たるたるジェットパックで逃げる!ウホホーウ!」

「逃がすかぁ!ダークストレージ・オープン!」

空を飛んで逃げようとする彩芽に対し、アイベルトがダークストレージから取り出したのは……巨大な手斧であった。

「くたばれぇえ!!」

「うおわぁ!?」

必死に身を捩って手斧の投擲を避ける彩芽だが、ジェットパックに斧が当たって故障してしまう。

「し、しまっ……うわあああぁあああ!?あぐぅう!!」

故障して暴走したジェットパックが、彩芽の体を岩壁に強かに打ち付ける。その後、重力に従って落下してくる彩芽の体をキャッチしたアイベルト。
アイベルトはそのまま……彩芽の顔面を思いっきり岩壁に叩きつけた!!

「は、俺様ほどの男になると、自然すら武器にできるんだよ!オラオラオラァ!!」
「ぐぅうう゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛!!ぶ、ぎ……!ご、ぉお……!」

眼鏡をかけている相手……いや、それ以前に女の子の顔を傷つけるような行為を平然と行うアイベルト。恐るべし『クレイジーサディスティックキャンディ(天丼風)』!

406名無しさん:2019/01/15(火) 02:16:22 ID:???
「滅殺斬魔!」

「当たらねえよっと!」

瞬時にトーメント王の元へシフトして大技を繰り出すミスト。
だが王はバトルスーツに備わっていふ職種で、見事に剣を掴んだ。

「く、くそっ……うあっ!?」

「ほほーん、DよりのCってとこか……なかなかいいおっぱいしてるじゃないか。でもたまに男の顔とか男の声になるのはマジでキモいなぁ。」

「やめろっ!離せっ……くっ!」

戦闘で鎧が壊された胸部を鷲掴みにされ、ミストはすかさずシフトで後退した。

「なんだよなんだよ、もう少し触らせてくれてもいいじゃんか。リザなんか触るとすぐはたいてくるし……姉妹揃ってケチだなぁ。」

「貴様……!」

「いやいや、そんな強がってるけどさぁミストちゃん……俺様の触手でもう鎧がいい感じにボッロボロだよ?鏡で見てごらん?俺様の鎧破壊アートに酔いな……」

「……ふざけるなっ!お前は……!お前だけは、たとえ刺し違えてでも絶対に殺す!!!」

トーメントが雇った盗賊たちに家族を奪われ、妹を間接的に暗殺者へと変えた目の前の男を、許すわけにはいかない。
体の中のレオが、ボロボロになっても立ち上がる力をくれている気がした。

「はぁーあ。まったく逆恨みもいいところだ。別に俺様が直接なんかしたってわけじゃないのに。アウィナイトなんて虐げられてナンボのもんだし、リザはああ見えて人殺しになるサイコパス要素があったってことだろ?……もっと現実を見ろよ。駄々っ子ミストちゃん?」

「ぐ……!お前はああああああぁっ!」

シュン!シュン!シュン!
シフトを連続発動させ、予測のつかない動きで王への攻撃を仕掛けるミスト。

(怒りに身を任せての猪突猛進では負ける……!このまま私のペースにして、斬る!)



「だからさ……無駄なんだよ。」

ガシッ!
「あぅぅ!?」

出現場所を分散させていたにもかかわらず、現れる場所がわかっていたかのように王の触手の一本がミストを捉えた。

「そら、地面に激しくキスさせてやる!」

「ぶッ!!!ごっふぁぁッッ!!!」

シフトも間に合わない勢いで触手に投げられ、ミストは顔から地面に激突した。

「ケケケケ……おら、土でも食って頭を冷やせ。俺様が踏んでやるからよ……」

グリグリグリ……ガッ!

「ぁんぐぅッ……!げぼっ!?」

頭を打った衝撃でふらついているミストに、容赦なく踏みつけで制裁を加えるトーメント王。
痛みに耐える少女の悲鳴に、王の下半身が熱くなってきていた。



「なぁ……リザはお前と違って利口だぜ?トーメントの十輝星として仕事をする見返りに、アウィナイトをちゃーんと守ってる。お前はあいつを止めようとしているが……保護地区にいるやつらはどう思うだろうな?」

「……か、関係……ない……!ぐっ……罪もない人を殺し続けるなら……私がリザを殺さないと……!」

「そんならあいつを殺してどうなる?アウィナイト人間牧場計画なんて出てる時勢だ。お前らみたいな美少女は孫の代……いや、ひ孫、玄孫、来孫、昆孫……未来永劫、男の性欲を満たすための肉便器一族だ。それでもいいのか?」



「……お前を……お前を殺せば……この世界は、すべて変わるっ……!」



取り戻した意識で、ミストはシフトを発動させ距離を取る。
顔を上げ敵を見据えると、トーメント王は今まで見た表情の中でも一番恐ろしい笑みを浮かべていた。

「俺様を殺す……?ぷっははははははハァ!運命の戦士でもないくせになにいってんだか!妹の爪の垢でも煎じて飲んどけ!この死に損ないが!」

ミストの目の前に、視界を埋め尽くすほどの触手が現れた。

407名無しさん:2019/01/17(木) 01:01:27 ID:???
じゅぶぶぶっ!!ずばっ!びちっ!!ばちゅん!!ぐちゅっ!!
「んぐっ!!……くっ……うぐ、あああああっ!!」

……触手。触手。触手。斬っても斬っても触手。逃げても逃げても逃げた先にまた触手。
無数の触手が、一斉にミストに群がった。

じゅぶぶぶっ!!ずばっ!びちっ!!ばちゅん!!ぐちゅっ!!
「んぐっ!!……くっ……うぐあっ!!」

斬って斬って斬り捨てて。それでも足りず、振り払って蹴り飛ばして千切り捨て、それでも足りず。

ベキ!ドス!!ズバッ!!ミチミチミチ……ぎりりりり!!
「あぐっ!!……んぅっ!………うっ………っが、ああああぁぁ!!」
叩きつけられる。鞭打たれる。絡みつかれ、捕らわれ、散々に嬲られ……
それでもなお飽き足りないのか、触手は濁流のごとく押し寄せる。

十や二十なら、斬り落とす事も出来たろう。
百や二百なら、なんとか躱せたかも知れない。

だが、その万を超える触手の海に、前後左右頭上足元と、全方位から呑み込まれては……
さしもの討魔忍五人衆最強の剣士「残影のシン」と言えど、長くはもたなかった。

ぬるっ………じゅぶぶぶぶぶぶぶ!!
「んっ……う、ぁ……おまえ、を……ころっ……ひぅっ……!!」
ミストの鎧の背面の亀裂から、ブラシ状の触手がぬるり入り込む。
首筋、背中、股下を潜り抜け、股間をブラッシングしながら、お臍と胸の谷間をこすり上げていく。

ぶぢゅるるるるるるるるるるっ!!
「……ひゃふ、ああああぁああああああぁぁぁんっ!!」
喉元まで達すると触手が一気に引き抜かれ、全身の敏感な箇所を一度に擦り嬲られる。
引き抜いては押し上げ、擦り抜いて、舐り上げる。何度も何度も……

「ケッケッケ……俺様を殺す?バ〜〜〜カ。お前みたいな美少女が、触手に勝てるわけねーだろ。
にしても、アウィナイト離れしたその力といい、時々混ざる男声と言い……どこのどいつだ?そんな悪趣味な改造したのは」
「はぁっ……はぁっ……ふざ、けるなぁっ……わたしと……レオの、からだ……めちゃくちゃにした、あの女科学者も……
トーメントの……てさき……おまえの、仲間……ひふっ!?きゃうううぅぅうぅうぅんっ!!」
「はぁ?女科学者?俺様の仲間…………あー、はいはい!アイツかぁ!なるほどねー!!」
ブラシ触手の全身責めに、ミストの言葉は遮られたが……トーメント王は、質問の答えに見当がついたようだ。

「……たく、困るんだよなー。アウィナイトってのは、未来永劫よわっちくて嬲られるだけの存在でなきゃいけないってのに。
ミシェルのやつ……調子に乗りすぎだ。お仕置きが必要だな………ヒッヒッヒ」
「?………どういう、意味だ……」
小声でつぶやくトーメント王。その声のトーンは、何故かいつになくガチだった。

「お前のような脇役には関係ない話だ……さて、そろそろ止めと行こうじゃないか……」
ぐちゅっ……どちゃ!
「ん、ぐっ……!」
地面に投げ出されたミストに、先端が槍のように鋭い触手が伸びた。
だがミストには既に、剣で応戦したりテレポートで逃げる余力は残っていない……
(やられる……!!)
正に絶体絶命、万事休す。無念さに歯噛みしながら目を閉じようとしたミストの視界を……

「はあああっ!!」
……何者かの影が遮った。
見ると、自分より少し年下、リザと同年代位の一人の少女が、槍触手を素手で受け止めている。

「逃げてくださいっ!リザちゃんと一緒に……早くっ!!」
栗色の髪、ブラウスにスカートと、とても戦士とは思えない普通の少女。
だが、その鬼気迫る声に弾かれるように、ミストは立ち上がり……言われるがまま、気が付いたら逃げていた。

「お姉ちゃん!?……待って……無茶よ、篠原唯っ……!」
言われるがまま……倒れたままのリザの身体を抱き上げ、無我夢中で走った。

408名無しさん:2019/01/17(木) 02:32:57 ID:???
「……おやぁ?誰かと思ったら、篠原唯ちゃんじゃァないか……クックック。ちょっと登場が早いんじゃないか?」
「いつ登場しようが、私の勝手だよ!これ以上、リザちゃんに……ううん。誰にも、ひどい事させない!」
ミスト達が逃げ去るのを横目で見送りつつ、唯は槍状の触手を押し返そうとする。

「ちっ。君ら『運命の戦士』は、『セーブ・ザ・クイーン』がある場所に着いてから『呼ぶ』つもりだったのに……全く困ったもんだ」

ぐちゅっ……ぬちゅっ……ずぶり!
「うっ………きゃっ……っぐ、あっ!!………」
だが。触手は唯の抵抗を意にも介さず、そのまま唯の胸に突き刺さる!

ぐちっ……ぶちぶちぶち……ぶしゅっ!!
「ひ、あ……ごぼっ……げぶ……お、っご……!!」
「ヒッヒッヒ……俺様は今、忙しいんだ。さっさとリザ達を追いかけて、始末しないとな」
魔法少女はスライムに弱く、女騎士はオークに犯され、変身ヒロインはサキュバスに負ける。そして美少女は、触手に勝てない。
そんな世界の法則を体現するかのように、唯は触手にあっさりと身体を貫かれ、息絶えた。

「ケッ!…アウィナイトの強化改造だと?……そんな事、やってもらっちゃ困るんだよ。
150年前の『俺様』に盾突いた『勇者の一族』なんざ、未来永劫、最弱最底辺でいるべきなんだ……」


……だが。

「はぁっ……はぁっ……行かせ、ないっ……!」
唯の死体が光と共に消え……トーメント王のすぐ目の前に、生き返った唯が再び現れる。

「はー!?……ったく。しつこいな、唯ちゃんは……」
王は全身の筋肉をパンプアップさせ、突進する唯を迎え撃つ。

「まぁ美少女にしつこく迫られるってのも、悪い気はしないが、な!!」
(……ドガアァッ!!)
「ぐっ……うあああああっ!!」
大地をも割り砕く拳が、唯の身体を豪快に押しつぶした。
まるでハエ叩きで潰された蝿のごとく、無様に地面に這いつくばる唯。
しかし、それでも……

「リザちゃん達は……いいえ。他の誰も……殺させ、ない……っぐ、……げぼっ……私が……止めてみせる……!」
背骨を砕き折られ、内臓をすり潰され……それでも唯は、トーメント王の脚に縋りついた。

「……ったく。今回の『運命の戦士』は、戦闘力こそ並だが本当に面倒くさいな……だが」
(ぎゅるるるるるる!!)
「……きゃっ………!?」
……殺しても殺しても立ち塞がる唯。その手足に、触手が十重二十重と巻き付いていく。

「ふん……何度殺されようと、身体を張って俺様を止めようってわけか。だが、殺される覚悟はできていても……」

ぎちっ……ぎゅるるる………ぎちぃぃぃっ!!
「きゃぅ………!?」
「……犯される覚悟はどうだ?……乳首も下着も全部を晒して、ネットで生中継されて……
どこまで耐えられるかなぁ?けっけっけ!!」

409名無しさん:2019/01/17(木) 18:54:25 ID:???
拘束されて身動きの取れない唯に、テカテカと妖しげに光る触手が迫る。

「ひっ……!?い、やぁ……!」

「ケケケ!すっかり責められ慣れした唯ちゃんも、こっち方面はまだまだ弱いねぇ!さぁさぁ、また生配信して、現実世界でもその様子を投稿してあげるよ!お母さんやお父さんに、犯されてる姿を見てもらおうねーー!!」

王は捕まえた現実世界の美少女がリョナられる映像を、現実世界のネットに流している。そして、ひょんなことからその動画を見てしまった美少女をまた攫ってリョナる……というサイクルを組んでいた。ちなみに教授に捕まった場合は、やたらとエロ推しの映像になる。

そんなこんなでしばらくリョナれていなかった唯の心を徹底的に折る為に、王の触手がエリョナをしようと唯の胸と股間に伸びていく……!


「ブリザードグラウス!」

その寸前、突如飛来した氷属性の上級魔法によって、唯の周囲の触手は一斉に凍りつく。

「ひゃ……!?」


触手の拘束を逃れた唯が、そのまま地面に倒れ伏しそうになった瞬間……唯の身体は、一人の女性によって支えられた。

「……大丈夫か?今癒しの秘孔を突いてやろう」

「あ、あなたは確か……お医者さんの……!」

「コトネ様の命令でスパイを追っていたら、大本の王に行き着くとはな……半妖!触手は私の技と相性が悪い!癪だが頼りにさせてもらうぞ!」

「頼りにするなら、その呼び方は止めてください!私は……氷刃のササメです!」

ピンチの唯を救った2人の討魔忍……それは、穿孔のアゲハ、そして氷刃のササメであった。
>>283>>289で意味深に消えたササメとアゲハは、コトネの命令でトーメントのスパイであるリザを追っていたのだ。
雪人とのハーフであるササメと、暗部故にグレーゾーンの任務に慣れているアゲハ。本来は魔族か皇帝一族以外入れない魔の山まで入る可能性のある任務なので、コトネはこの2人を追撃に寄越したのである。

「え、と……どうして、私のことを……?」

一応リザのお見舞いに行った時に顔は合わせていたが、ほとんど面識のないアゲハ。ササメに至っては完全な初対面だ。そんな2人が、何故自分を助けたのか分からなかった唯は、思わず疑問を口に出す。

「圧倒的な力量差のある王を相手に立ち向かうその姿に、感銘を受けました!見捨てるわけにはいかn」

「気にするな、任務のついでだ」

やや興奮した様子で語るササメとは対照的に、アゲハはクールな調子を崩さない。

「とは言え君が目の前でピンチになっていなければ、我々2人がまともに連携を取れたかは怪しかったがな」

しかしながら、アゲハも唯が必死に王を止める様子に心打たれたのは事実なようだ。

「唯ちゃん、君は本当に厄介だ……そうやってろくに接点のない人間すら味方に引き入れてしまう」

王はその光景を見て、唯に対する警戒をより一層強固にした。
唯は単純な戦闘能力で言えば、五人の戦士の中ではアリサや鏡花に劣るし、逆境に於ける根性も瑠奈の方がある。たまにチートめいた発明をする彩芽と違い、いざという時の爆発力も小さい。

だというのに、多くの人間が唯の味方をする……王がこの世界を創ってから見てきた強さとは全く別種の『力』。

「女の子が増えたのは嬉しいけど、遊びは終わりだ……久しぶりにガチで行くぞ!!パンプキンビースト・スクウォッシュ!!」

王は叫びながら両腕を大きく広げる。また触手が来るのかと身構える3人。しかし……襲いかかってきたのは、全く別のものだった。

「い、いやぁああああ!!!姉様!!族長!!みんなぁああぁああ!!!いやぁああああ!!!」

絶望の叫びをあげながら現れたのは、ヴィラの一族の戦士、ミゼル。
いや、これをミゼルと呼んでいいのだろうか……彼女の体はパンプキンビーストに寄生されており、人間としての意識を保っているだけで、体には一切の自由が残されていない。

そして、寄生されたミゼルから伸びた植物の蔦は、姉ゼリカの生やした巨木や周囲の森林を呑み込んでおり……最早、ミゼル自身が森となっているに等しい有様だった。

「ケケケケ!リザがケンカしてる間に、俺様は特等席で見せて貰ったぜぇ……!妹ちゃんが完全に体を乗っ取られて、その手で姉を殺す瞬間をなぁ!あの時の絶望に満ちた姉妹の顔……!最高だったぜ!!」

ミゼルを乗っ取ったパンプキンビーストは、妹に手を出せなかったゼリカを一方的に殺害した後、ヴィラの一族の里へ向かい、一族の者をその自在に伸びる蔦や幹で串刺しにしていった。

自分の体から伸びる枝が仲間を刺し殺す度に、絶望の悲鳴をあげるミゼル。
このまま一族を皆殺しにして、ヴィラの一族が信仰して止まない魔の山の魔族すら殺害し、神器へのルートを完全に開こうというタイミングで……王によって唯たちの前に呼ばれたのである。

「ケケケ!さぁ、相手をしてやれ!パンプキンビースト・スクウォッシュ!!」

410名無しさん:2019/01/19(土) 15:16:42 ID:kRuxVl.M
「きゃああああああああっ!!」

ダンの拳に耐えきれなかった魔法障壁が粉々に破壊され、エミリアは魔力の余波で後方に勢いよく吹き飛んだ。

「あうんっ!」

決して安全とは言えない洞窟の岩肌に頭と背中を強打し、エミリアの意識が一瞬だけぐらりと大きく揺れる。
その視界の中に収めていたはずの敵の姿は、エミリアが瞬きをした瞬間、信じられないスピードで彼女の目の前に移動していた。

「あ、ぁ……!いやっ!アイナちゃん、もうたすけてっ……!」

「フー……フー……!」

知的生命体としての理性のかけらも感じられない大男の息遣いに、エミリアの恐怖は最高潮に達していた。

無理もないことである。
ダンはクマと見まごうほどの、人間とは思えない巨体なのだ。
人語を話せば人だとわかるが、今のように獣のような息遣いと言語レベルでは、最早それは獣である。

無駄とはわかっていながら自らの体を手で覆い、目を伏せ、せめてもの抵抗と命欲しさに降伏の意思を見せるエミリア。
そんな悲痛な姿の儚い少女を見た目の前の狂戦士は……



「ンガアアアアアアアッ!!!」

「きゃあああぁっ!!」

狂戦士はエミリアの手を片手で乱暴に払いのけると、彼女のコートの胸元を勢いよく掴み、凄まじい力で手前に引っ張り洋服を引き剥がした!

「グフー……グフー……!」

コートと共にお気に入りのインナーも容赦なく剥かれてしまい、エミリアのぷるんとした部分の柔肌が予定外の外気に晒される。
実は隠れ巨乳であるエミリアの女性らしい部分を見た狂戦士は、俄かに目の色を変えた。

「い、ゃっ……ッ!アイナちゃんどこぉッ!?アイナちゃんどこにいるのぉっ!?」

理性をなくした男の凶行と、これから始まる展開にとてつもない恐怖を感じ出すエミリア。
だがそんな中でもレジスタンスとしてやリザの相方として活躍していた経験を活かし、冷静に仲間のアイナの名前を呼ぶ。

……だが、命としても女としても絶体絶命だというのに、アイナが現れることはなかった。



「……やだ……アイナちゃんどこにいったの……?こわいよ……!だれか、たすけてっ……!」

「クンクン!グルルルル……!」

狂戦士は引き剥がしたコートの匂いを嗅ぎ漁っている。その行動はさながら犬のようであり、目の前の存在の異様さをエミリアが思い知るには十分だった。
10秒ほど経つともう匂いを覚えたのか、狂戦士は乱暴にエミリアの服を投げ捨てた。

「……グルルルル、ガアァ!」

「きゃっ!いやあああぁーっ!!」

コートを捨てた瞬間、狂戦士はまるで野犬のごとく異様なスピードでエミリアの体にずしりとのしかかった。

「ぐ……あぁ……っ!」

そのまま体重をかけられているだけでも、そこまで筋肉のない魔法使いの少女の体には充分なダメージだ。
それを理解しているのかしていないのかは不明だが、狂戦士はエミリアに遠慮なく腰を落とし、全体重でエミリアの体に負荷をかけていく。

「ぐぁ……!お゛、も゛ぃ゛……!や゛め゛……ぇ゛……!」

「グルルルルルルルル……!ジュルッ!ジュルッ!」

先程服を引き剥がされて露出したエミリアの胸元を、狂戦士は音を立てながら舐め上げる。
それは雄と雌の交わりとしての種としての本能なのだろうか。
それともこれから食らう餌の味見をしているのだろうか。


答えは、誰にもわからない。

411名無しさん:2019/01/20(日) 19:42:42 ID:???
「ぐぁふッ!ぎッ!ぶぐうッ!」

「オラオラオラ!登場初期の頃はこれくらいのリョナは平気でやってた様を恐れろ!俺に恐怖しろ!」

彩芽の髪をむんずと鷲掴みにし、硬い岩肌にこれでもかと彩芽の顔を叩きつけるアイベルト。
ソフトリョナ好きだったはずの彼だが、今となっては初登場時の恐ろしい性格を見事に取り戻していた。

「彩芽えぇーッ!!……くッ!あいつ、あんな性格だったっけ……?もっとバカでアホでスケベで隙だらけだったはずなのに……!」

「フン……今の俺様は無慈悲な破壊者!相手が男だろうが女だろうが、立ち塞がるものはすべて破壊するだけだ!お前も覚悟しろルナティック!」

メガネが割れ、抵抗の見込みもなくなったボロボロの彩芽を瑠奈の元に投げるアイベルト。
勢いよく飛んできた彩芽の軽い体を、瑠奈は抱え込むように抱きしめた。

「あ゛うぅ……瑠奈、ごめん……しくっちゃったよ……」

「彩芽……私に任せて。あんたは私が死んでも守るわ。」

「……へっ……足震えてるくせに、ボロボロのボクのためにそんなこと言ってくれる瑠奈のそういうとこ……嫌いじゃないよ。」

「彩芽……もう、そんなこと言ってる余裕があるなら、早く回復して援護しなさい!……私が1人で倒しちゃう前に、ね!」

精一杯強がってから、瑠奈は彩芽を自分の後ろに横たえる。
相手は強大な武器と魔力の使い手……自分一人でかなう敵ではないことはわかっているが、引き下がるわけにはいかない。

(アリサは1人であの女を止めてくれてる……鏡花も、唯も、きっとどこかで必死に戦ってる。どんなに相手が強くたって……引き下がってやるもんか!)

幼い頃に唯にもらった勇気が、瑠奈の原動力になっている。
頭脳明晰、スポーツ万能少女が自分の才能に溺れることなく強い精神を育むことができたのは、唯という親友がいたからだ。

「1人で俺様を倒すだと……生意気胸でか小娘だと思っていたが、とんだビッグマウスでもあるようだな!」

「ふん!あたしを洗脳してお兄ちゃん呼びさせて、ずーーーっとヘラヘラしてたドスケベ男のくせに!一体どっちがビッグマウスなのか、しっかり思い知らせてやるわ!」

412名無しさん:2019/01/23(水) 01:09:32 ID:???
シュルルル!!シュバババ!!

ロゼッタの『運命の糸』とブラッディ・ウィドーの蜘蛛の糸が、音を立ててぶつかりあう。

「どうしたのぉ?なんだかさっきまでよりも精彩に欠けるんじゃない?」

「…………ちぃ……!」

本来、ロゼッタは薬の切れた状態でもある程度の戦闘はこなせるが……相手が魔物でトラウマを刺激されているのもあり、ブラッディ・ウィドーの言うように精彩を欠いていた。


「そっちの金髪ちゃんは腕が切れちゃっててもう問題外だしぃ……紫ちゃんを徹底的に狙ってあげる!」

「ぐ、つぅ……!」

切り落とされた腕を押さえながら呻くアリサ。悔しいが、この有様では自分は戦力にはなりそうにない。

「はぁ……!はぁ……!これでは、どうしようもない……何とか隙を見つけて……自分で処理するしか、ないか……!」

いつものポエムを言う余裕もないロゼッタ。

「処理……何だかデジャヴを感じる展開ですわね……」

「……?あぁ、あの時……お前の仲間を屈服させようとした時の……」

「いえ、それよりも前に同じようなことが……」

「ふふふ!仲良くお喋りしている暇があるのかしらぁ!?」

ブラッディ・ウィドーは糸を吐きながらその8本の足をカサカサと動かして岩壁を登り、立体的な軌道でロゼッタに迫る。

「く……!」

咄嗟に糸を振るって迎撃するが、互いの糸同士が絡まってしまって上手く動かない。

「隙ありよぉ!!」
「しまっ……!ぐっ!?」

ロゼッタが晒してしまった決定的な隙を逃さず、岩壁から一気に跳躍して来るブラッディ・ウィドー。淫熱に侵された体では避けることができず、ロゼッタは八本の足でしっかりと拘束されてしまった。



「く、このままでは……!私もあの方も、共倒れになってしまいますわ……!」

切り落とされた腕を押さえながら何とか立ち上がり、先ほど片腕と共に落としたリコルヌの方へフラフラと近づいていくアリサ。

(……先ほどの一瞬……魔物を前にした時の彼女とは、比較的話が通じた……つまり共通の敵がいれば、和解の切っ掛けに成りえるということ……やはり、共に王と戦うように説得するのは、決して不可能ではないはず……その為にも今は……!)

アリサは残る左腕でリコルヌを拾い、逆手に持って構える。

「はぁ……!はぁ……!加勢しますわ……!ロゼッタさん……!」

413名無しさん:2019/01/24(木) 02:19:29 ID:q5/GYrbY
「あぁ唯ちゃん唯ちゃん唯ちゃん……恐怖に怯える表情も、羞恥に染まるその頬も、地獄の炎に突き落とされたような断末魔も……あぁ、全てが究極の甘美だよ……」

「げ、シアナが壊れてやがる……」

王のもとへ転生させるために唯を溶かし尽くしたアトラとシアナ。
久しぶりに唯へのリョナ欲を満たしたシアナは、これ以上ないほどの恍惚の表情を浮かべていた。

(唯ちゃん……この2人に殺されるのは怖いけど……わたしもすぐに追いかけなきゃ……!)

王を止めるため、命まで差し出し痛みに耐えた唯の覚悟を見て、鏡花も後に続くことを決める。

「あれ、王様からラインだ……げ、おいシアナ、唯ちゃん殺すのちょっと早かったってよ。」

「はぁ、はぁ……唯ちゃん……!君の姿はこの最新式録画カメラでばっちり隠し撮りさせてもらったよ……!帰ってからのホームシアター鑑賞が楽しみだ……!」

「……おい!シアナ!正気に戻れ!一緒にいるのも嫌になるくらいめっちゃキモいぞ!」

アトラが手をかざすと、シアナの頭上にビー◯た◯しの持っていそうなピコピコハンマーが現れ、そのまま頭を直撃した。

「いて!…………そんなこと言われても、特に時間指定はされてなかったからな。別に僕らの落ち度ではないだろ。……ま、鏡花ちゃんは合図を待ってから殺すとするか。」

「うわ!いきなり元に戻った……てかキモい間もちゃんと俺の話聞いてんじゃんかよ!」



「……アトラくん、シアナくん。私ほことも殺して。唯ちゃんを一人にさせるわけにはいかないの!」

合図を待ってから殺すとシアナは言ったが、鏡花はすぐに唯を追いたい身。
この2人と話している余裕はない。

「えー!そんな焦ってもいいことないぜ?俺らともうすぐ発売のキン◯ーについてでも語ろうや!」

「……アトラくん、シアナくん。ここで私を殺してくれないなら……暴れちゃうよ。」

「ふん。お前1人暴れたところで僕らは怖くな……」

「……?どうしたシアナ?」

言いかけて、シアナは止まった。
この状況、洞窟の中では鏡花の強力な魔法1つで倒壊の危険性がある。
もちろん、シアナの穴に緊急避難という手もあるが、そうすれば逃がしてしまう恐れもあるし、何度も逃げられるとは限らない。

極め付けに、自分たちは死んだら蘇らないが、鏡花は王のもとで蘇る。
こちらが殺そうと洞窟の倒壊で死のうと、とりあえず死ねればいい今の鏡花にとってはメリットでしかないのだ。



(……どうする?王様の合図なしに今死なれても困る。かといってほっとくと逃げられるか僕たちの身が危ない……)

「……マジックケージ、来いや!」

「え、なにっ……?きゃああああああっ!」

アトラが突然鏡花の頭上に召喚したのは、魔力を遮断する特殊な檻。
かわいい魔法少女を拘束して好きなだけエッチなことをしたいと思ったアトラが、同じ志を持つ教授協力監修のもと、性欲と根性で作り出した素敵なトラップである。

「うっ……!これ、魔法が使えない……!」

「……アトラ、僕の考えてることがわかったのか?」

「さぁ?俺は鏡花ちゃんを閉じこめておっぱいでも鑑賞したいなーって思っただけだぜ!シアナがなに考えてるかなんてしらねーよー。」

「……まあ、流石僕の相棒だと言っておくよ。」

414名無しさん:2019/01/24(木) 02:20:32 ID:???
「そうだ鏡花ちゃん、チョコ食う?王様の合図まで時間あるんだし、俺らとまったりティータイムしようぜ!」

「……い、いらないよ……!」

呑気な口調でお菓子を食べているアトラにうんざりする鏡花。
とはいえ、魔法少女は魔法が使えなければただの少女である。
脱出しようと何回か魔力を練り上げてみた鏡花だが、並みの魔力では突破できそうになかった。

「鏡花ちゃんさー……俺がまたリザに鞍替えしたから怒ってんのかな?そうだとしたらほんとに申し訳ねえわ……」

「……なんだ、結局お前は鏡花ちゃんからリザ推しに戻ってたのか。」

「レズ疑惑はデマだったからな!許される恋とわかりゃあ俺はずっとリザ推しよ。あのクールでプリティーな顔を初めて見たときの衝撃が忘れられねえ……!」

アトラはおもむろに隠し撮りしたリザの写真を取り出すと、写真の中のリザにフレンチキスをした。

「……闘技場でもクールな眼差しキュートなフェイスとかキャッチコピーつけられてたしな。イマイチなに考えてるかよくわかんないやつだが……まあ確かに顔はいいよな。」

「顔は、ってなんだよ!リザは声も可愛いし近づくとめっちゃいい匂いするし、あの金髪はサラッサラだし、タンスの中の下着もめっちゃ整理されててすげえ几帳面だぞ!」

「……最後のやつでお前がなにをしたのかわかった。」

ベラベラとコイバナを始めた少年2人。完全に気が抜けたような会話であり、鏡花のことなど忘れているかのようである。

(……くっ……!もっと、もっと魔力を上げてなんとかこの牢屋を壊さないと……!)

415名無しさん:2019/01/27(日) 19:16:28 ID:???
「うう……どうしても魔法が使えない……変身も出来ないなんて……!」
「へっへっへー。無駄無駄!この牢は魔法少女を生かさず殺さず閉じ込めるための罠だからな!」
「……ま、王様の合図が来るまで、大人しくしてる事だね」
「イヤよ!私はどうしても、唯ちゃんを助けに行かないといけないの!」
「ひひひ……どうしても大人しくしてられないのなら……」

マジックケージに囚われ、脱出できない鏡花。
そこへ、アトラが更なる追い打ちを仕掛けようと取り出した物は……

「じゃーーん!超強力水鉄砲だ!」
水鉄砲。
それも、15m超の飛距離を持つ強力加圧式ポンプにバックパック式大容量タンク等を備えた最新機種であった。

(ジュバッ!!)
「きゃああっ!?」
……その水圧は強烈で、当たるとかなり痛い。

「こ……今度は、何のつもりなの……?」
「アトラの事だから、また都合よく服だけ溶かす水かと思ったら……ただの水だな」
「そう……ただの水だ。でも、よく見てみろよシアナ……」

鏡花の着ていたブラウスがぐしょぐしょに濡れ、下に着けていたブラジャーが透けていた。

「きゃっ!?や、やだっ……!」
「うーん……やっぱ鏡花ちゃんも捨てがたいなー!このおっぱいには、流石のリザも敵わないぜ!」
慌てて胸を隠す鏡花。だがその豊満な乳房は、両腕をフルに使ったところで隠しきれるものではない。

「ほらほら!シアナの分の水鉄砲もあるから、二人であそぼーぜ!」
「うーーん。こういうエロ寄りな事して、アイナが知ったらなんて言うか。
でもこの位ならギリギリセーフか?……いや、やっぱアウトかな……」
「つーかさっきの状態の方がよっぽどキモかっただろ……
わかった。アイナには言わないでおくから、イロイロ手伝ってくれよ!例えば、ごにょごにょ……な!」
「……しょうがないな。お前がそこまで言うなら!今回だけ!特別だぞ!」
アトラに促され、強力水鉄砲を受け取るシアナ。
口ではアイナの事を気にしてはいたが……わりとまんざらでもなさそうであった。

「ていっ!」
「それそれっ!!」
(ビシュッ! ズバババッ!!)
「くっ!……あんっ……!!」
二方向から責め立てるシアナとアトラ。胸と顔を防御する鏡花。
水鉄砲とはいえその水圧はかなり強く、両足を踏ん張ってないと倒されてしまいそうな程だった。

「へっへっへ……今だシアナ!必殺、バーチカルショット!」
「OK!……くらえっ!!」
(ブゥゥゥン……ズムッ!!)
アトラたちには、鏡花の防御を崩す秘策があった。
シアナが空間に穴をあけ、そこへアトラが水鉄砲を打ち込む。空間の出口は、鏡花の……

(シュバババババ!!)
「……ひゃひいいいぃぃっ!?」

「おー、いいリアクション」
「いやー、アイベルトじゃないけど、こういうライトなのもたまには悪くないな!」

……スカートの内側。それも完全に無防備だった秘所とお尻へのダイレクトアタック。
上半身に意識を集中していた鏡花は、たまらず甲高い悲鳴を上げさせられてしまった。

416名無しさん:2019/01/27(日) 20:16:47 ID:???
(ズバババッ!!)
「きゃっ………!」
(ビシュシュシュシュッ!!)
「……ひあっ!!」

「へっへっへ……ほらほら、今度はおっぱいががら空きだぜ!」
「ま、腕2本じゃどう頑張っても防ぎきれないからね……ほら、今度は背中だ」
「と見せかけてパンツ!」
(ジュバババッ!!……ジュブッ!)
「あぐっ……ひううんっ!?」

シアナの能力で空間に穴をあけながら、四方八方上下から予測のつかない水攻撃を繰り出す二人。
鏡花は逃げ場のない魔法封じの檻の中でひたすらに弄ばれ、
胸も背中も、顔も髪も、パンツの中までずぶ濡れにされてしまった。

「はぁっ……はぁっ………ど、どういう神経してるのよあなた達…!
友達とか好きな女の子の話は、普通にするくせに……女の子を捕まえて酷い事するのは、何とも思わないの!?」

単なる水鉄砲とはいえ、強烈な水圧を何度も叩きつけられて、かなり疲労も蓄積している。
しかも下からも攻撃が来るため、座って休む事すら出来ない。
そんな鏡花の必死の抗議に、二人は……

「……まあね。アトラやアイナや王下十輝星のみんなは友達だし、何より死んだら終わりだし、大切だけど……」
「唯ちゃんや鏡花ちゃんに対しては、な〜んかそういう感情は沸かないんだよな。
もちろんリョナったりエロい事するのは楽しいけど!」
……ただ、冷めた反応を返すだけだった。

「まあ言ってみれば、俺らはSSレアな『特殊能力』を持った『廃課金プレーヤー』。
鏡花ちゃん達は、無課金……いや。異世界人だから……NPCかな?」
「ああ。その例えは割と近いかもな。何せ、鏡花ちゃん達は……」
「な、何よそれっ……!…住む世界が違ってたって、私達だって人間なんだよ!?そんなの酷すぎるっ……!」
……そんな二人の態度に、鏡花も我慢の限界が近付いていた。

王の配下である少年達は、もちろん敵ではあるのだが……
友情や恋愛感情など、人としての感情を持っているなら、話し合って分かり合えるかもしれない。
そう思って、執拗なおっぱい責めや多少のセクハラも、ある程度は大目に見ていた?というのに……!

「大目に見てたっけ?」
「まあ確かに土下座したらおっぱいぐらい揉ませてくれそうな雰囲気あるけど」
「ない!から!そんな雰囲気!とにかく私……もう怒ったんだからねっ!」
鏡花は濡れた胸やパンツから手を離すと、全身の魔力を高め始める。
大気の振動と共にマジックケージがギシギシと音を立て、鏡花の身体からは魔力のオーラが少しずつあふれ始めた。

「あ、これ……」「……ヤバくない?」

417名無しさん:2019/01/28(月) 19:22:30 ID:???
(こんなところでこの子達にエッチなことされてる場合じゃない……!唯ちゃん、瑠奈ちゃん、アリサちゃん、彩芽ちゃん……そして、水鳥のためにも!)

「うおっ、鏡花ちゃんの周りのマナが……!」

「凝縮していく……?」

その時、不思議なことが起こった!
とでもナレーションを挟みたくなるような量の魔力が、鏡花の体に集まっていく。
突然のマナ量に耐えられなくなったのか、アトラのマジックケージはガタガタ、ギシギシと不穏な音を立てながら軋み始めた。

「チッ……運命の戦士、やっぱり侮れないな!立てアトラ!多分壊れるぞ!」

「まじかよ!これから服溶かす水で特盛デカ乳お楽しみタイムといきたかったのに!」

「はあああああぁっ!!!」

シアナの宣言通り、マジックケージは鏡花の魔力に耐えられず、バリーン!と大きな音を響かせて崩壊した。

(みんなのためにも……もう負けない!)



「変身!!!」

少女らしい高らかな声でそう叫ぶと、鏡花は光に包まれ……
爪先から頭の上まで可愛らしい装飾に包まれた、金色の盾を持つ魔法少女、リフレクトブルームへと変身した。

「おおー!やっぱいいねー魔法少女の変身って!光に包まれて大事なところを隠しながら、可愛いコスプレ姿に変身とかさぁ……もう私をリョナってくれと言わんばかりだよな!」

「アトラくん……私をあの時と同じただのか弱い女の子だと思ってるなら、後悔するよ!」

「お、結構言うじゃねえの……!どうせならそういう風に反抗的じゃないと面白くねーからな!やる気マックスになってきたぜ!」

「アトラ、油断するな……おっぱいばっか見てると、この前の唯ちゃんたちにやられかけた時みたいに、足元を掬われるぞ!」

「へっ!鏡花ちゃんは土下座すればなんでもしてくれそうな優しい女の子なんだ!俺たちになんて勝てるわけ……」

「シャイニングバースト!」

「え?……うわああああああ!!!」

なんだかんだいってる間に詠唱を終えた鏡花の上級光魔法が、アトラを吹き飛ばしていた。



「私は土下座されてもなんにもさせないし、その前に……ルミナスの戦隊長なんだってこと、忘れないでよね!」

418名無しさん:2019/01/28(月) 19:54:02 ID:???
「はぁっ、はぁっ……!」

リザを抱えて走るミスト。突如現れた栗色の髪の少女に言われるがまま、リザを抱えてその場を離れていた。

「……お姉ちゃん、降ろして。私は戻って王様を助けないと。」

「なっ……!?アンタ、まだそんなこと言って……!助けてくれたあの子のことはよくわからないけど……まさか、あの子も手にかけるっていうの!?」

「……あれは運命の戦士……一時的に手を組むこともあったけど、結局は私たちの敵。王様に近づけるわけにはいかない。」

そう言うと、リザはシフトでミストの腕の中から脱出した。



「………それにわかったでしょ、お姉ちゃん。王様には勝てないって……私たちが生き残るためには、あの人を敵に回しちゃ駄目なんだよ。」

「リザ。その考えでいくなら……ぐっ……!あの凶悪な男を殺してしまえば、他の道もあるってことじゃない。……どうして私たちの家族を奪ったあの男に尻尾を振るのよ!!!」

「……だから、王様を殺すなんてそんなのは無理なんだよ。あの人はこの世界の神みたいなもの。……私はそれを知っている。」

「はぁ、はぁっ……リザ、一体何を言って……?」

何か含んだようなリザの言い方に、ミストは困惑する。
だがリザはその問いには答えず、そのまま背を向けた。

「お姉ちゃん……もうすぐ4カ国を巻き込んだ大きな戦争が始まる。王様や私のことを止めたいなら、その戦争で私たちを殺しにくればいいよ。……お姉ちゃんに何を言われても私は、十輝星をやめるつもりはないから。」

「リザ、待って!私の知らないことがあるなら教えて!1人で抱え込まないで!」

「……もう、話すことはない。」



ミストの必死な声に振り向くこともなく、リザはシフトで消えてしまった。

「く……追わ……ないとっ……!」

そう言っては見たものの、いつのまにか体が癒えていたリザとは違い、自分の体はボロボロだ。
無我夢中で走ったことで体力も使い果たしたミストは、その場で力なく倒れた。

(……リザが抱えている闇……もしそれがあの王の存在だとするなら……私は……!)

419名無しさん:2019/01/29(火) 00:29:50 ID:???
「フリジットレイン!」

「ククク、無駄無駄ぁ!そんなチャチな氷魔法じゃ、このデカブツは止められないぞぉ!ケッケッケ!」

「誰か……誰でもいいっ!私を止めてええええええぇ!!」

ミゼルやヴィラの一族を取り込んだパンピキンビースト・スクウォッシュ。その巨体ゆえ、攻撃魔法が使えない唯やアゲハではどうしようもない相手である。
なんとか止めようとササメが氷魔法を連発するが、足を凍らせてもすぐに触手が打ち砕いてしまう。

「チッ……!なんて醜悪な。こんな怪物、一体どうすれば……」

「氷魔法も効きません!こ、このままじゃ……!」

「……!ササメさん!足元を狙ってください!転ばせれば動きを止められるかも!」

「わ、わかりました!」

唯の提案に従い、足元へ氷を放出するササメ。すると……

「グオオオオ……!」

その巨体ゆえ、足元のバランスを少しでも崩されると立て直しは難しい。
唯の思惑通り、パンプキンビーストは地鳴りのよつな声を上げながら横に倒れた。



「やったぁー!ササメさんすごい!」

「ありゃりゃ!?でかくなりすぎたか……?おーいミゼルちゃん、なんとかして立て!あいつらをぶっ殺せ!」

「だ、誰があなたの言うことなど……!わ、私の理性でこいつの動きを抑えますっ!今のうちに……こんな姿の私に構わず、逃げて……ください……っっ!」

「……すまない、ヴィラの戦士!半妖!一度撤退するぞ!」

「わかりました!唯さん、こちらへ!私の氷を使って高速離脱します!」

「……いいえ、私は逃げません!」

「「えっ!?」」

王を倒し、元の世界に戻るという神器の存在を確かめるのが唯の目的である。
そして、鏡花や他の運命の戦士はまだ来ていない。王が自分を生かしておくのなら、ここで他のみんなを待つのが最善と考えた。

「馬鹿を言うな!なんのために助けたと思っている!」

「ここに1人で残るのは危険です!早く逃げましょう!」

「アゲハさん、ササメさん……私には、異世界人の運命の戦士として、やらなければならないことがあります!それに、私の友達もみんなここに向かってる。……私だけ1人で逃げるわけにはいきません!」

「ククク……さすがリョナられ慣れてる唯ちゃんだ。その度胸だけは認めてやるよ……!」

「くっ……ならば撤退は撤回だ!半妖!私たちも戦うぞ!」

「ええっ!?」

「唯さんが残るなら、私たちも戦います!怖いけど……!討魔忍として、トーメント王の暴虐を許すわけにもいきません!」

「アゲハさん、ササメさん……!ありがとうございますっ!」

思いがけず味方を得た唯。正直1人ではまた触手責めになるところだったので、2人の存在が唯にはとても頼もしかった。



「ケケケケ!なんか感動の共闘シーンで俺様に勝てる雰囲気を必死に醸し出しているようだが、唯ちゃん以外の奴らなんて……この俺様が手を下すまでもないね。」

「……え?」

「……ククク、戻ってくるのが遅いぞ。リザ。」

意味深な王のセリフに戸惑う唯。その後、すぐに視界の端に金髪の少女が現れ……!

ヒュンッ、ザシュシュ!!
「うああああぁっ!!」
「ぐはあぁっ!!!」

すぐに2つの悲鳴が上がり、ササメとアゲハの倒れる音がした。

420名無しさん:2019/01/29(火) 01:39:39 ID:???
「え……?」

一瞬すぎて、理解が遅れてしまう。ササメもアゲハも蹲って唸っているが、その理由に気づいたのは……

「……血……っ!ササメさん!アゲハさんっ!」

2人の下に広がる、血だまりを見てからだった。

「リザ、お前は本当に利口なやつだ。あのままお姉ちゃんとどっかに行ってしまうのかとも考えたが……こうしていつもちゃーんと俺様のところに戻ってきてくれるんだからな。」

「……私はトーメントの王下十輝星、スピカです。職務を放り出して逃げることなどしません。」

「ククク……そうだよなァそうだよなァ。偉いぞリザ。今日はお前の好きなものをたらふく食わせてやる……!ケケケ!」

「…………………………」

さらりと言い放つリザの後ろ姿を見て、王はニヤリと笑う。
リザの言葉が心からの発言ではないことは、王もわかっている。

それがわかった上で、必死に気持ちを押し殺して自分に仕える少女の健気さに、王は嗜虐心をくすぐられるのだ。



「リザちゃん、酷いよ……!どうしてこんなことをするのっ!!」

「……勝手に私に何を期待してるの?私は王下十輝星……あなたたちの敵。それはずっと変わらない。」

「でも……!あの地下の電車のときは、リザちゃんが私とヤヨイちゃんを助けてくれた!だから今度は私がリザちゃんを……助けたくて……!」

「……あの時私は非番だったし、ただの気まぐれで助けただけ。……見返りなんて求めていない……」

「うぅ……あ!」

連絡先なども交換して、仲良くなったと思っていたのは自分だけだったのか。
他の十輝星とは違い、リザの中には優しさを感じたのは気のせいだったのか。
そんな思いが唯の胸に去来したが、すぐに別の疑問が浮かんだ。

「お姉さんは……?リザちゃん!さっきリザちゃんを抱えていったお姉さんは!?」

「……さあ?」

「……!」

その一言で、唯の目が変わった。



「お姉さんと何があったかはわからないけど……リザちゃんが家族を大切にしていないなら、それは良くないことだよ。」

「……っ!」

リザの顔が一瞬、驚愕の顔に変わる。だがその後、すぐに不快感を露わにし、両手をプルプルと震えさせた。

「……うるさいっ……!気安く口を挟まないでって言ったでしょ……!そうやって人の心に気安く踏み込むことこそ、良くないことなんじゃないの……!」

「……リザちゃん……」

明らかに今のリザは、前に唯が会ったリザとは違っていた。
何かに裏切られて深い悲しみを背負っているかのような、リザの目の暗い青。
その目の色だけで、心を乱されている状態なのが唯にはわかる。

「おーいリザ!俺様はミゼルちゃんを連れて山に行く!合図を出したら唯ちゃんを殺してくれ!」

「……了解。」

両手に2つのナイフを構えるリザ。その動きには迷いはなかった。



「リザちゃん……!私の治療術じゃ完全には治せていないの!そんな状態で戦ったら、また傷口が開いちゃう……!」

「……それがどうしたの?私はいくら傷口が開こうと……合図があれば貴方を殺す。それを邪魔するこの2人は……今ここで殺す。」

「……!そんなこと、絶対にさせないっ!」


唯自身は殺されてもいいが、この2人を殺すというリザは止めなくてはならない。
すぐさまリザに接近し、掌底を打ち込む唯。

パシッ!
「……遅い。」
「そんなっ……!」

だがその拳は、瞬間移動を駆使する暗殺者にしてみれば遅すぎた。

「くっ……!ぐうううっ……!」

「……ねぇ、王様に勝とうなんて……本気で思ってるの?」

「思ってるよ……!私たちはあの人を倒して、元の世界に帰らないといけないんだから!」

「……………………」

真っ直ぐ唯の目を見るリザ。
その目はどこか、先ほどの自分を止めようとしていた姉と似ている気がした。

421名無しさん:2019/02/02(土) 16:09:34 ID:???
「……そんな目で、私を見ないで……!私は……!間違ってない……!この世界で、王様に逆らうなんて……馬鹿げてる!」

「あぅ!?」

リザは唯の腕を後ろ手に回して捻り上げ、拘束と同時に目を合わさないようにした。

「合図が来たら……後ろからナイフで殺す。あとは魔の山の遺産を手に入れて……戦争で、勝つ」

「そんな……!」

「……ルミナスもシーヴァリアも、このミツルギも……あとナルビアもか……とにかく、世界の全てを、王様が手中に収める日も遠くない」


どこか自分に言い聞かせるような口調で淡々と語るリザ。リザの脳裏には、かつて成り行きで共闘した水鳥や友人であるミライ、予選で知り合ったヤヨイたちの顔が浮かんでいたが……リザは、考えないようにした。


「そんなこと……させない!たぁあぁああ!!」

「無駄……っ!」

体のバネを利用して捻り上げから逃れようとする唯。リザは当然防ごうとするが、体に力を入れた瞬間に癒えきってない傷が痛み、唯を逃がしてしまう。


「はぁ、はぁ……!リザちゃん、やっぱり、怪我が……!」

「……関係ないって……言ってるでしょ!」

リザは体の痛みを無理矢理無視して唯に再び接近する。

「リザちゃん……!うぅ!?」

唯は迎撃に拳を振るうが、リザの素早い動きを捉えることができず、後ろに回り込まれてしまう。

「これで……!」

「う、ぅぐっ!?が、はぁ……!」


唯の後ろに回り込んだリザは、唯の首に右腕を回し、左腕でしっかりと右腕と首をホールドする……所謂チョークスリーパーの体勢に入る。


「篠原唯、しばらく眠っていて貰うわ……!」

422名無しさん:2019/02/03(日) 03:17:08 ID:ldWLvWTc
「あぐうぅ……!い゛ぎぃっ……!」

「……わかったでしょ……中途半端な情けは自分の身を滅ぼすの……!」

「が……!あ゛ぉ゛っ……!」

耳元で囁くリザの声がだんだん遠くなっていく。暗殺者の完璧な絞め技によって、唯の目からゆっくりと生気が抜けていき……

「う゛う゛ぅ゛っ……ぁ゛……っ」

最後に小さく呻きながら、唯はリザの腕の中で完璧に落ちてしまった。

「ぐ……くそっ!やはり貴様……トーメントのスパイだったか!」

「くぅっ……!よくも、唯さんを……!」

突如現れた闘技場優勝者の少女の姿に、アゲハもササメも激しく動揺する。
自分たちが倒せなかったカゲロウやトウロウを倒したアウィナイトの少女。
その類稀な能力と戦略で見事優勝を果たした少女が、敵だという事実に。

唯を落としたリザはゆっくりと腕を外し、落ち着いた動きで唯を横たえた。

「そこの2人……私は今すごく機嫌が悪いけど……邪魔をしないなら見逃してあげる。私の気が変わらないうちに、早くこの森から離れなさい。」

「こんな……なにも、できないなんて……」

「ぐ……くそっ……!」

リザは2人に背を向け、抑揚のない声で忠告する。
少女らしい声ではあるが、下手に挑発や抵抗でもしようものなら、一瞬で殺されてしまつような威圧感のある声だった。

「……半妖、撤退するぞ。こいつは私たちが敵う相手ではない。それはお前もよくわかっているだろう……?」

「うぅっ……!でも……!」

「悔しいが、ここでの私たちの出番は終わりだ……あとはコトネ様たちに任せよう。」

「……わかり……ました……っ!」

よろよろと立ち上がった2人は、苦渋の思いで離脱を決意し、その場を離れた。



「……あぁああもうっ!はぁっ……!はぁっ……!」

気絶した唯の前で、1人になったリザは苛立ちを露わにし地面を強く蹴った。
その理由は、再開できた姉に対する怒りでもあり、自分を利用する王への怒りでもあり、自分を治療してくれた唯に危害を加えてしまった罪悪感でもある。

(……でも……これでいいんだ。これがアウィナイトのみんなを守るための最善の手段。篠原唯やミライたちや……たとえお姉ちゃんとお兄ちゃんを敵に回したとしても……!今の私が守るべきものはもう決まっている……!)

そう頭ではわかっているのに、リザはミストに致命傷を与える攻撃ができなかった。
自分を生かしてくれた負い目もあるが、戦いとは無縁の生活をしていた頃の家族との記憶が、どうしても攻撃の手を阻んでしまう。
心を殺して暗殺を繰り返してきたが、それでも、どうしても……
家族を切ることだけはできない。

それになにより、王に家族を蘇生してもらい、また平和な日々を送ることを夢見ていた少女にとって……
それだけはどうしてもできないことだった。

(もう無理にトーメントに居なくても……人を、殺さなくていいんだよ。)

(なぁリザ……この世界は俺様が作ったって言ったら……信じるか?キヒヒヒヒ!)

「うぅっ……私は……私は……!」

平和を求めるがために暗殺者(スピカ)となった自分の自我に生じた矛盾。
その相反する葛藤を制御するには、15歳の少女の心は幼すぎたのであった。

423名無しさん:2019/02/04(月) 00:25:34 ID:???
「ルルカリリカルラルラリララ〜♪嫌いにな〜らないで〜♪」

自分に似ている容姿のキャラが一枚絵になっているノリのいいボ◯ロ曲を口ずさみながら、アイナは洞窟の中を進んでいた。
洞窟の中は自分の声が響くため、エコーがかかって気持ちがいいのである。

「うーん今日の喉の調子はサイコーですわね!色々片付いたらみんなでカラオケでもいきたいですわ!……早くこんな辛気臭い場所から出たいですわね……アイナにはこんな場所似合いませんわー!エミリアちゃーん!どこですのー!?」

相手がいなくても1人で喋っていられるアイナは、自分で自分を励ましながらエミリアを探す。
もう逸れて30分も経っているので、流石に心配になってくる。

(あの竜殺しに万が一エミリアちゃんが捕まったらやばいですわ……おっさんがアレを食べると性欲という本能も爆発してしまいますから、エミリアちゃんみたいな清楚系の女の子は格好の穴ですから……)

友達の女の子を穴呼ばわりしながらも、こう見えてアイナは結構本気で心配しているのである。
早く発見してあげないと、エミリアはリョナゲーにありがちな犯されループから抜け出させてもらえないだろう。



「や……!……ぁ……ぁん!」

「ん?……この声は……エミリアちゃん!嫌な予感しかしませんわー!」

想像していた通りのR18な雰囲気を感じ取りつつも、アイナは声の響いた方へと走った。
しばらく進むと吹き抜けに出て、天井と階下に空間が広がっている場所に出た。

ぶちゅっ!ぐちゅっ!べちゅうっ!んばちゅ!
「だめっ……!や、そんなとこぉ……ああぁーっ……!」

エミリアの声は下から響いている。すぐにアイナが下を見下ろすと、吹き抜けの真ん中で大男に舌で犯されているエミリアの姿があった。

ぢゅんっ!ばちゅ!べちゅちゅちゅ……!ぶちゅ!
「ひゃはあぁっ!やああん!だめだめだめだめ……っ!あああっ!」

(ひゃー!エミリアちゃん……可愛い顔してなんてセクシーな……!是非とも勉強させてもらいたいけれど、すぐに助けてあげますわー!)



「キャンディガン!スナイパーモード!」

アイナが何処からともなく取り出したピンク色のステッキが、ポヨン!ポヨヨン!と可愛らしい音を出しながら、先端にリボンの付いた狙撃銃になった。

「ぁ……アイナちゃん……?」

「乙女の純情を踏みにじる悪漢は、月に変わってお仕置きですわー!マーブルショット!」

ズドン!
「ガヴ!?」

吹き抜けへ跳躍したアイナはキャンディガンから某お菓子のような弾を発射。そして見事狂戦士の頭を直撃!
真下に撃った反動で、アイナは上に吹っ飛んだ。

「来ませ!まんじゅうクッション!」

自分の直下に饅頭を投げ、魔力で巨大化させてクッションを召喚する。
見るものを楽しませるようなお菓子魔法の連続で、アイナは攻撃と移動を見事にこなしてみせた。



「アイナちゃん……もう、遅いよぉ……!」

「待たせたな!ですわ!主人公は遅れて登場するのが常ですからね!」

見た目に反して威力抜群のマーブルショットを喰らい、気絶したダンをアイナは強引に引っ張った。

「うんしょ!うんしょ!……エミリアちゃん、服は無事ですの?」

「ううん……お洋服、破かれちゃった。アイナちゃん、魔法で出せる?」

「うーん、アイナも洋服を作る魔法は覚えてませんわ……アトラやアイベルトに見つかる前に出た方が良さそうですわね。」

「この人、ここに置いていってもいいのかな……?」

「異世界人に味方する強キャラのおっさんなんていらないですわ!この洞窟で彷徨う亡霊と化すがいいですわ!エミリアちゃん、行きますわよ!」

完全に伸びているダンを放置して、アイナとエミリアは出口を求めて歩き出した。

424名無しさん:2019/02/04(月) 02:05:25 ID:???
「あらあら、片腕無くした金髪ちゃん……そんな状態でこの私に勝てると思っているのかしら?」

「……片腕でも……!剣を振ることができれば上出来ですわっ!リヒトクーゲル!」

左手で振るったリコルヌから光弾を飛ばし、ブラッディ・ウィドーへの攻撃をしかけるアリサ。

「そんなのろい攻撃、無駄よ!シャアアアアアア!」

バシュゥン!
蜘蛛魔物は糸の網を放ち、自らの盾にして光弾を防いでしまった。



「くっ……やはりこんなものでは全然ダメですわね……」

「……アリサ・アングレーム……今……私に加勢すると言ったの……?」

「えぇ、言いましたわよ……こんなところで貴女と2人、一緒に蜘蛛に食べられるなんてまっぴら御免ですわ!」

「…………………………」

左腕で剣を握り直し、蜘蛛が放った糸を斬りつつ躱すアリサ。
その目からは、まだ闘志の炎が消えていなかった。

「ウフフ……紫ちゃんはもう私の糸でギチギチになってて動けないのよ?いつまでそうして躱し続けられるのかしら?フフフフ……」

(……このままでは防戦一方ですわ。なんとかしてあの蜘蛛の巣に近づいて、本体を叩かないと……!)



「はぁっ、はぁっ……!やああぁっ!」

「な……なんですって!?」

攻撃に転じる暇などないと思われたアリサが、一瞬の隙をついて高く跳躍した。
狙うはもちろん、高所にいる魔物の頭。リコルヌの切れ味を信じて、左手でしっかりと握りしめたまま……

「レーヴェシュヴェルトォッ!」

獅子のように豪快に、蜘蛛女の頭へと振り下ろす!

「きゃあああああっ!……なんてね!」

「なっ……!?」

「えっ!?」

狡猾な魔物がアリサの目の前に盾として出したのは、縛られているロゼッタだった。



「だめ……!止めるしか……!」

「まったくあんたも甘いわねえええぇ!!!そらそらソォラァ!」

「くっ……!ああぁっ!」

件の一振りを中断したアリサに、蜘蛛の糸がここぞとばかりに巻きついた。

「ウフフ♪さっきまで喧嘩してたくせに、日和ってやめちゃうなんてねぇ〜。紫の子ごと私の頭を切っちゃえば勝ってたのに。フフ……これだから人間って愚かだわぁ〜!」

(アリサ・アングレームが私を……庇った……?)

目の前で自分と同じ蜘蛛の糸の塊になり、地面に落ちたアリサ。
状況は絶望的ながらも、ロゼッタはアリサの行動が理解できなかった。

425名無しさん:2019/02/04(月) 02:10:05 ID:???
「フフフフ……金髪と紫髪美少女2人の白糸ぐるぐる巻き完成よぉ♪さあて……どうやって遊ぼうかしら♡」

「うぅぅ……!」

片腕からの出血で、アリサはもう意識を失いつつあった。
だが、死ねば王の元で蘇る。
ここで殺されても生き返るのならば、アリサにとっては問題ない。


「まずは金髪ちゃん……怪我を治してあげましょうか。私の糸でしっかり腕をくっつけてあげるわ♪」

「な、なんですって……!んうぅ!」

片腕を巻いた腕がシュルシュルと自分の右腕にあてがわれ、ブラッディウィドーの魔法糸によってアリサの腕が復活した。

「ほら、これで元どおり!あとは……」
「ふあああああああんっ!!!」

突然、艶かしい喘ぎ声が洞窟内に響き渡る。
アリサと魔物蜘蛛が声のした方を見ると、そこには……



「はぁっ、はぁっ……はあぁぅ……!うぁ……っ!」

「あら、紫の子……私の糸に染み込ませてある麻痺毒で勝手に気持ちよくなっちゃったみたいねぇ。とっっても感じやすい身体なのね♪」

(ロ、ロゼッタさん……後遺症が……!)

ロゼッタを包む糸がビクンビクンと揺れていること、真っ赤に火照った小さな顔、なんともいえないトロンとした目を見て……アリサは察した。

「んっ……!!」

それと同時に、自分を拘束している糸にも麻痺毒が塗られていることに気付く。
それをむやみに動かそうとすると……

ビクビクッ!
「ああんっ!」

「ウフフ……その麻痺の状態で体を無理に動かそうとしても、体全体に気持ちいい振動が走るだけ。女の子の場合、それがすっごく気持ちよくなっちゃうのよね……あなたもクセになっちゃダメよ♪今の声とってもヤバイけど♪」

「んぐっ……!ひゃひいぃっ!」

アリサが強引に体を動かすと、まるで自分の全ての性感帯をベロリといやらしく舐められた様な感触が体を襲う。
ロゼッタのような体質では、一度でも抵抗しただけでイキ地獄になってしまうような状態だった。

「はぁ、はぁ、はああぁっ……!」

「ロ、ロゼッタさん……!気をしっかり……!」

「だ、黙れ……!お前に心配なんてされたくない……!んやっ!ふぁひいぃんッ!」

「ウフフ、変な声!感じすぎて滑舌も頭も回らなくなってきたようね。……ちょっと面白いから、紫ちゃん。あなたの体、開発してみようかしら♪」

「や、やめろっ……!こ、これ以上……!これ以上はぁっ……!」

「イっちゃう?トんじゃう?喘ぎ疲れて声枯れちゃう?気持ちよすぎて腰抜けちゃう?……なんでもいいわよ。あなたたちは最後には……私の卵入れになってもらうんだからぁ♡」

不自然に言葉を切ると、蜘蛛魔物はよだれを垂らしながら目を光らせてニヤリと笑った。

426名無しさん:2019/02/05(火) 02:33:48 ID:???
(地力で負けてる以上、長期戦は不利ね……!あいつがこっちをナメてる間に、速攻で叩き潰す!)

「行くわよ!火蜥蜴爪(サラマンダー・クロウ)!!」

大胆にして合理的な思考の元、瑠奈は自らの放てる最大の技を選択する。その威力は上級魔剣にも匹敵する、炎を纏った斬撃性の拳でアイベルトに迫る瑠奈。

「へ……そっちの土俵に立ってやるぜ!サンダーレイヴ!」

それに対しアイベルトは雷魔法を右腕に纏わせ、瑠奈の心を折る為に敢えて彼女の得意分野の拳で真っ向から迎え撃つ。

「「はぁあああああああああ!!!」」

炎の爪と雷の腕がぶつかり合い、激しい火花を散らす。
だが、拮抗は長くは続かなかった。徐々に徐々に、瑠奈の拳はアイベルトの拳に押し込まれていく。

「ガキが!この俺様に力比べたぁ、随分バカな真似をしたな!体格の違いが分かんねぇかチビ!」

「ぐっ……きゃあああああぁああああ!!?」

拳が押し込まれるにつれ、アイベルトの雷が瑠奈の炎を突き抜けて、瑠奈の体に襲い掛かる。
思わず甲高い悲鳴をあげてしまう瑠奈。それに伴い、右腕の火蜥蜴爪(サラマンダー・クロウ)に込めていた力が抜けていく。

だがそれでも、瑠奈の瞳は死んでいない。

「チビで悪かったわね……!けど、体格の違いが分かってないのは……アンタの方よ!」


次の瞬間、瑠奈は大地を足で蹴った。そしてアイベルトの右腕に両腕をかけて、そこを起点にクルリと回転して腕の上に乗ると、彼の腕を踏み台にして強烈な飛び膝蹴りをアイベルトの顔面にお見舞いする!

そう、これは瑠奈が自分の小柄な体型を最大限活かす為に産み出した、曲芸めいた動きである。

ただ飛び膝蹴りを打つだけでは迎撃されて終わりであるが、一度相手の利き腕に乗ってから放てば、そう簡単には防げないという瑠奈の読みは、見事に的中したのである。

「ぐぁばっ!!」

グラリ、とアイベルトの体が僅かに揺れる。流石の彼も、顔面に膝蹴りがクリーンヒットしては無傷とはいかない。

「ぐ、うう……!!まだまだぁ!!これ、で……!決めるわ!!」

先ほどの一連の動きの結果、アイベルトの腕に纏われていた雷がモロにその身に流れてきた瑠奈。だが歯を喰いしばってそれを耐え、アイベルトに一撃を喰らわせたのだ。
ここで決めなければ、もう敗北は逃れられないだろう。

「魔拳…………『亀甲羅割り』!!」

427名無しさん:2019/02/08(金) 00:28:00 ID:izxTOTkc
「ぐわぁあぁあぁあ!!」

亀甲羅割りを食らったアイベルトは吹き飛び、先ほど散々彩芽の顔面を叩き付けていた岩壁に、今度は自分が叩きつけられることになった。

「はぁ……!はぁ……!どうよ!これがライカさん直伝の極光体術よ!!」

かなりの手応えを感じた瑠奈はグッと腕を捲り上げてから、ビッ!とアイベルトの方に拳を突き出す。

しかし……

「クククク……ハーッハハハハ!!」

なんとアイベルトは、叩きつけられた衝撃で体にかかった岩の欠片を払いながら立ち上がった。

「ルナティック……やっぱりまだケツの青いガキだな、ここ一番で打つのが亀甲羅割りなんて初歩技とは……逆に驚いたぜ」

決してダメージを受けていないわけではない。だが、倒れたわけでもない。亀甲羅割りが完全に入ったにしては、あまりにも薄いダメージだった。

「な……!?く、それなら……!倒れるまで打ち込んでやるわよ!」

「無駄だ。あー、これ一度言ってみたかったんだよな……お前はもう、死んでいる」

再びファイティングポーズを取り、アイベルトに向かう瑠奈。そしてアイベルトが、漫画の影響で一度言ってみたかった言葉を放った直後……

「っ………う……!ああああああぁぁぁっ!!!」

瑠奈の右手から、激しい血飛沫が飛び散った。

「全ての武器と魔法を駆使する俺様は、当然体術も完璧……そして俺様の覚えた体術は、精神柔拳法……極光体術と対をなす、カウンターの流派だ」

アイベルトが使った精神柔拳法……これは長文リレー小説になった直後、 前スレ>>36で名前だけ出ていた謎の流派である。


ガン攻めの極光と対をなす、ガン待ちの柔拳。アイベルトは先ほどの瑠奈の亀甲羅割りに対し、精神柔拳法……『犬も歩けば棒に当たる』でカウンターを放っていたのである。


「流石に竜殺しだったらカウンターを合わせるのも楽じゃなかったろうが……お前が打ったのが初歩技で助かったぜ、ルナティックちゃんよぉ」

「ぐ、くぅうう……!」

利き腕を封じられ、瑠奈はガックリと地に膝をつく。完敗だ。ここぞという時で必殺のフィニッシュブロー竜殺しが打てなかったのは、ひとえに自らの未熟のせい。

(これじゃ、同じだ……!あの時と……!)

瑠奈の脳裏に過るのは、かつて運命の戦士5人が、抵抗らしい抵抗もできずに王とその配下にいたぶられた時の記憶。

あの時も瑠奈は、ヨハンに渾身の亀甲羅割りを放ち……そしてその威力を逆に利用されて敗北した。

(ダメだ……!唯も鏡花もアリサも頑張ってるのに……!彩芽を守らなきゃいけないのに……!こんな所でブルブル震えてるわけにはいかない!)

例え利き腕が使えなくとも、戦うことができなくなったわけではない。左手だろうと足だろうと、最悪歯でだって戦ってみせる。
そのような強い意志の籠った瞳で顔を上げる瑠奈。

だが、瑠奈が一瞬かつての惨敗の記憶を思い出している僅かな間に、慢心を捨てたアイベルトは瑠奈に接近しており……

「さて、思っていたより手間取ったが……合図が来るまで遊ばせてもらう、ぜ!!」

「んぶぅおぉあぁあっ!?」

渾身の膝蹴りを、瑠奈の腹部に放った。瑠奈は思わず、お腹を抑えて蹲ってしまう。

428名無しさん:2019/02/08(金) 00:29:34 ID:izxTOTkc
「ルナティックも大概だが、そっちのメガネのせいで女刑事に煮え湯を飲まされたからなぁ……ククク、いいこと思い付いた……ぜ!!オラオラァ!」

「あぐぅあぁっ!!ごふっ!!ぎ、がはぁあっ!!」

蹲っている瑠奈の腹部を、爪先で執拗に蹴り上げるアイベルト。しばらく蹴り続けていたアイベルトだが、おおもむろに瑠奈の短髪を乱暴に掴むと、近くで倒れている彩芽の方へと引きずっていき、瑠奈を彩芽の上に思いっきり放った。

「瑠奈!大丈夫か!?く、体が、動かな……!あぐ!」

「げほっ!げほっ!あ、彩芽……おごぉぉおぉっ!?」

ダメージ過多で動けずに、覆い被さる体勢になっている彩芽と瑠奈。何とか瑠奈が彩芽の上からどこうとした瞬間……またも腹部に激しい衝撃がきた。

「ククク……ダークゲートっていうんだぜ、これ……俺様の剛腕をどこにでも届けられる、悪くない魔法だぜ!」


ローレンハインがアリサに使用したのと同じ、空間系の闇魔法を発動したアイベルトが、やや離れた位置から瑠奈に腹パンしたのである。

なぜアイベルトがここまで執拗に瑠奈に腹パンするのか……瑠奈は自らの体の奥からこみ上げてくるものを感じ取った瞬間、アイベルトの狙いが分かってしまった。

「ぅ、げ、えぇえええ……!」

「クハハハハ!!おいおいマジかよこいつ!自分のダチに向かってきったねぇゲロ吐いてやがるぜ!」

そう、アイベルトの狙いは、瑠奈に腹パンして吐瀉をさせて、その吐瀉物を彩芽の体にかけさせることだったのである。
途中まで必死に耐えていた瑠奈だが、絶え間なく続く腹部への衝撃に、とうとう堪えきれなくなってしまった瑠奈ビチャビチャと音を立てながら、瑠奈は彩芽の体に吐瀉物を撒き散らした。

429名無しさん:2019/02/10(日) 00:00:29 ID:???
「魔の山の頂上に通じる扉、ガーディアンゲート……ケケケ、ようやく着いたぜ。」

「あ……う、ぁ……」

険しい山道を登り終え、トーメント王はついに神器「セーブ・ザ・クイーン」へと通じるガーディアンゲートの前へとたどり着いた。
横にいるのは、たくさんの同胞や雪人を虐殺した怪物……目の前で繰り広げられたあまりの惨劇に自我を失いかけている、ヴィラの一族のミゼルである。

「いやーミゼルちゃんを宿主にしてよかったよ!こんなに全部片付けてくれるなんて思わなんだ!ミゼルちゃん様様だ!」

「う……ぅ……もう……ころして……!ころして……ぇ……!」

「ああん?なーに楽になろうとしてんだ?ヴィラの一族は天然ケモミミ娘だぞ?俺様がそんな希少ジャンルの美少女をあっさりと殺すとでも?」

王は懐からヒューマンボールを出し、ミゼルへとそれを放り投げる。

「お前はあとで俺様の肉便器にしてやる……ありがたく思えよ?ケケケケ!」

「ぅ……あああぁ……!」

枯れた声で涙まじりの嗚咽を漏らしながら、ミゼルはヒューマンボールへと封印された。



「さぁて、十輝星のグループに連絡するか……準備オッケーだから、サクッと殺してくれやっ……と!」

ラインのグループラインにチャットを送り、その場に座りこむ王。
頂上付近は吹雪になっているため鞄から防寒具を取り出し羽織った。

「さて、あいつらはちゃんと役に立つのかねぇ……」



★★★★★★★★★★★★★★★★



「……来た。」

真新しいリザのスマホに映し出されたのは、王の送ったグループチャット。
自分の顔をアイコンにしている王から送られてきたのは、唯を殺せという命令だった。

(……やらないと。)

ナイフを取り出し、気絶させた唯の心臓に刃先を向ける。
微かに漏れる吐息と、静かに上下している胸に、リザは違和感を感じた。

「篠原唯……起きてるの?」

「……………………っ」

「……やっぱり。」

返事はないが、微かに顔色が変わった。
起きないのは、自分に殺されてもいいということなのだろう。王の元へいけるのならばと、恐怖を押し殺している、というところか。
それならば好都合と、リザはナイフを振り上げた。

そう、好都合と思ったはずなのだが……



「……くっ……」

自分がこのまま殺してしまえば、目の前の心優しい少女はそのまま王の元へ送られる。
そこで待っているのは、王による暴虐。
想像を絶するような暴力と、この世界への絶望を植えつけられるだろう。
自分の目を覆いたくなるようなことも……

そうなったとき、今も自分を気遣い気絶しているフリをしている目の前の優しい少女は、どうなってしまうのだろうか。
家族を殺された日の自分のように、全てに絶望してしまうのではないか……

「……くぅっ……!」

ナイフを持っている右手の震えを、左手で抑える。
そう、やるしかない。
やるしかないのだ。
大切だったはずの家族に背を向け、アウィナイトを守る道を選んだ自分に、王への反逆の道はありえない。

少女の青い目に宿る光が、自身の心を表すかのようにゆらゆらと揺れる。
その迷いを断ち切るかのように……

「……うあああああああああああああああああああああああああ!!!」

リザは、吶喊の声をあげた。

430名無しさん:2019/02/11(月) 01:14:44 ID:B7zYbEME

「くひぁああぁっ♥!!や、だっ♥!!また、あの時、みたい、にっ♥ん、や、あぁぁっっ♥!!」

「こんなに開発しがいのある娘初めてだわ……!ここまでお膳立てしておいて、放っておいてくれた調教師には感謝しないと」

ロゼッタの体を包む糸をほんの少しだけ開いたブラッディ・ウィドーは、その八本の足をカサカサと器用に動かして、開いた場所からロゼッタの体に直接毒を流し込んでいく。

当然ロゼッタは抵抗するのだが、もがけばもがくほど体に毒が回り、余計に淫熱に狂わされていく。すると……

「あハ……アハははハハはハハハ!!!クフふふ♪あーッはぁ♪」


突然狂ったように笑い出すロゼッタ。彼女はトロンとした瞳のまま、感情の籠らない声でブツブツと喋り出した。

「あの時もこうだった……私は捕まって、何もできずに姉さまの足を引っ張り……その後闘技場で魔物共に……アは♪ああでも姉さま、ロゼは強くなりました……だからもう心配することはないんですよ……もしものことがあったとしても……私たちはずっと一緒ですよ、姉さまぁ……冥府の扉の先で、また姉さまと……フフ、うフフフうふ……」

12年前の時点でほとんど壊れていたロゼッタの心。不思議ちゃんめいた言動で、現実を見ないようにして抑えてはいたが……トラウマを刺激されたことで、彼女の心には再びヒビが入った。

「ナニよ急に……気味悪いこと言って私を萎えさせて助かろうって算段かしら?まったくもう……萎えちゃったから、さっさと卵入れにしてあげるわ」

ゴソゴソと体を動かして、いよいよロゼッタに産卵をしようとするブラッディ・ウィドー。

その時……!


「トラークヴァイテ・ギガンティッシュ・シュトラール!!」


アリサの糸を突き破って……否、『アリサの体を突き破って』現れた光の大剣が、ブラッディ・ウィドーを貫いた。


「うぎゃああぁあ!?な、なぜ……!」
「が、は……!」

ブラッディ・ウィドーのミス……それはアリサをリコルヌごと拘束したことだ。
とはいえ拘束で腕を動かせなかった関係上、アリサが剣を伸ばして攻撃するなら、自分の体も貫くことは避けられなかったので、それを警戒しろというのも酷な話しだろう。

アリサを包む糸による物理的な死角と、まさか自分ごと敵を攻撃はしないだろうという精神的な死角。

それらを突くためにアリサは、ずっと機を伺っていたのである。

「アリサ……アン、グレーム……?」

「ロゼッタさん……しばしお別れですわ……けどいつか……貴女の、心を……」

ブラッディ・ウィドーを撃破するのと引き換えに致命傷を負ったアリサの意識は、ゆっくりと落ちていった……。


★ ★ ★ ★ ★


「う、ぅぅう……!ごめん、ごめん彩芽ぇ……!」

「き、気にするな瑠奈!ボクを守ろうとしてくれた結果だろ!ボクは気にしてない!」

「ハハハハハ!ゲロで結ばれた友情ってか!笑えるぜ……ん?」

瑠奈を執拗に腹パンすることでゲロを吐かせ、そのゲロを無理矢理彩芽にかけさせたアイベルトはゲラゲラと笑っていたが、王からラインが来たことに気付く。


「あー、もう時間か……そんじゃあそろそろ……2人仲良く死ね!!」


アイベルトはダークストレージから双剣を取り出すと……彩芽と瑠奈に一本ずつ突き刺した。


★ ★ ★

「ルミナスの戦隊長、ね……なら当然、仲間は大切だろう?」

「……?なにを……」

「クク、鈍いな……いいか市松鏡花、これ以上抵抗するなら、この間僕らの仲間が捕まえたルミナスの子たちの安全は保証できないぞ」

「っ!?くっ……!そんなの、卑怯よ……!」

変身して一転攻勢に出た鏡花だが、追い詰めたはずのシアナの一言に動けなくなってしまう。

(おいシアナ、それって……)
(ハッタリだ、今ここであの連中をどうこうはできないし、どうせノワールやフースーヤが滅茶苦茶リョナってるだろうから安全の保証なんて最初からない)
(でも鏡花ちゃんには効果テキメンの脅しだな……さっすが俺の相棒、機転が効くぜ!さっき王様からライン来たし、サクっと殺しちゃおうぜ!)

「……なら、抵抗しないから早く私を殺して。王が何を企んでいるか知らないけど……唯ちゃんを助けに行かないと」

「もちろん、そのつもりさ……て言うか最初から下手にイタズラしないでこうしてればよかったな」

「まぁまぁ、水鉄砲でイジメられてる鏡花ちゃんエロかったしいいじゃん……っと!」

「っ……!」

こうして、男キャラが追い詰められるあんまり需要のないシーンはカットされ……アトラの様々なトラップが、鏡花に牙を剥いた。

431名無しさん:2019/02/11(月) 22:23:36 ID:???
(ドゴッ!!ザシュッ!!)
「きゃあああああっ!!」
棘付きの巨大ハンマーが、棒立ちになった鏡花の身体を吹き飛ばす。

(バシュン!!バシュン!!バシュン!!)
「ぎゃうっ!!あぐっ………うああっ!!」
続いて、金属製のネットが鏡花の身体を空中で捕まえ、激しい電流で鏡花の全身を焼き焦がした。

(ブオンッ!!………ドカッ!!)
「…あぐっ………!!」
電流を放ち終えると、ネットはぐるぐると鏡花の身体を振り回した後、地面に叩きつける。

「はぁっ……はぁっ………唯ちゃん、待ってて………
今、そっちに………っっぁあああああっ!!」
(…………ガシャン!…ガシャン!…ガシャン!…ガシャン!)
ネットから抜け出した鏡花を襲ったのは、小型だが、殺傷力の低さを数で補うタイプの連続ベアトラップ。
いずれも獲物を捕らえるためのものであって、すぐに止めを刺す類の罠ではない。

「おいおい、だめじゃないかアトラ……王様から合図があったんだから、早く止めを刺さないと」
「いやー。そうしたいのは山々だけど、罠パワーが残り少なくて、殺傷力のある罠が使えなくてさー」
「そうか……僕も穴フォースがあまり残ってないからなぁ。今開けられる穴だと……」

(パン!………パン!!パン!!)
「っぐあ!!……あぎ!……ぐうぅっ……!!」
「……この小型拳銃の弾が、ギリギリ通るくらいかなぁ……くっくっく」
シアナとアトラは、苦悶する鏡花の姿をニヤニヤと笑いながら見下ろしていた。
二人が特殊能力用の魔力的なやつを消耗しているのは嘘ではなかったが、
自分達を追い詰めた鏡花に少々意趣返しをしたい、というのが主のようだ。

「にしても鏡花ちゃんもひでーよな。
洞窟の中だってのに、派手に攻撃魔法ぶちかましちゃって……洞窟が崩れたらどうするんd」
(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………)
「なっ!?………やばい、本当に崩れるぞっ!!」

だが、その時。
先程の鏡花の攻撃魔法の影響かは不明だが、
洞窟全体が大きく振動し、シアナとアトラの頭上から大きな岩が崩れ落ちてきた!

「「うわあああああああっ!!」」
「っぐ……あぶ、ないっ………!!」

力を失った二人の少年に、為す術はない。だが、二人が固い大岩に圧し潰されることは無かった。
何故なら………

「きょ……鏡花……ちゃん……」
「なんで……なんで僕達を助けたんだ……!?」
「ふ、ふふ……だって……私、魔法少女、だから………」
………傷だらけの鏡花が、二人の頭上に魔法のシールドを展開していたからだ。

「バカげてる……そんな事をしたって、僕らは改心なんてしない。絶対に……!」
「そうだそうだ!俺らを生かしたりなんかしら、またどっかで別の女の子を捕まえてリョナってやるんだからな!」

「バカ……そうかもしれないけど、でも……やっぱり、放っておけない……
それより、長くはもたない……早く、逃げ……て……」
ビシッ………ベキッ!ドゴッ!!

「鏡花ちゃんっ……俺……」
「………アトラ、来いっ!!」
鏡花のシールドに亀裂が走ったのを見たシアナは、アトラの手を引いて無我夢中で駆け出した。

432名無しさん:2019/02/11(月) 22:46:13 ID:???
(バキバキバキ!!ドガ!!………グシャッ!!)
「っぐ、……うあああああああっ……あが!!」
鏡花の断末魔が背後でこだまする。

後ろにいるアトラは、そして自分は、今どんな表情をしているのだろう。
そんな事を考えながら、シアナは闇の中を走り抜けていき……
……やがて二人は、洞窟の奥の広い空洞に出た。

「はぁっ………はぁっ………無事か、アトラ………」
「なんとか………ていうか、ここどこだ?地上がどっちだか、もうわかんねーな……」
「しばらくすれば、僕の空間に穴を空ける力も戻るはずだ……少し休もう」
「はぁ。……とにかくあれで、任務完了だよな……早くこんな洞窟オサラバしたいぜ」
岩に潰され力尽きた鏡花は、王の元に送られたはずだ。
神器を手に入れて用済みになった五人の戦士は、そのまま王に嬲られ続ける事になるだろう。
今度こそ、心が跡形もなくへし折れるまで……

最期の瞬間、二人を助けた鏡花の心境を知る機会は、きっともう巡って来ることは無い。
(なんでだろう………なぜだか今、無性に……アイナに会いたい……アイナの声が聞きたい)
シアナは、願った。今までで、一番強く。
だが、その願いは………

「おい、シアナ。静かに……何か、聞こえないか……?」
「いやあああっ!!アイナちゃん!!お願い、目を開けてぇっ!」
「あれは………エミリアの声?」
「……………アイナは…?」

……届く事は、二度となかった。

どこからか落ちてきたと思われる、大きな岩。
その下に見える、人の手のようなもの。
それに向かって、半狂乱になって叫んでいるエミリアの姿。

「こんなの、嫌だよ……返事してよ、アイナちゃん……」
「………………いや。え?………嘘、だよな……?」
「シアナ。落ち着け……俺がちょっと様子見てくるから……お前はここで待ってろ」

アトラに言われるまでもなく、シアナは、動かない……
目の前で何が起こっているのか、受け止める事を頭が拒絶し、身体が動かせなかった。

433名無しさん:2019/02/13(水) 02:35:41 ID:???
時は少し遡る。
ダンを退けたアイナとエミリアは、他の十輝星との合流を目指していた。

「はあ〜……全然道がわかりませんわ。たぶんこれは〜……あの肉ダルマが暴れまわったせいですわね。もうかなり地形が変わってしまっているような……」

「……ねえ、アイナちゃん。」

「うーん……来た道もさっぱりわかりませんし……これはもうダメかもわからんね、というやつかもしれないですわ!」

「……アイナちゃん!!!」

背後で響くエミリアの声に、アイナはツインテールをはためかせて振り向いた。

「なななな一体なんですの!そんなにおっきな声出して!もうエミリアちゃんのエッチすぎる抜きどころは終わったのですから、静かにしてて欲しいですわ!」

「……ごめん、でもみんながいない間に、アイナちゃんに話したいことがあって。」

「………?」

エミリアは破れた服を抑えながら、神妙な面持ちでいる。
彼女の表情がなんとなく放っておけないように感じて、アイナは足を止めた。

「……はぁ、まあウロウロ歩き回って疲れてしまいましたし、ちょっと話すくらいならいいですわよ?」

「ありがとう……じゃあ、そこに座ろう?」



少し大きな岩にアイナは浅く、エミリアは深く座って背を伸ばした。

「それで、なんですの?いくら可愛いエミリアちゃんでも、この状況で今日の天気の話とかしたらマスタードを眼球に塗りつけてやりますわ!」

「そ、そんな話じゃないよ……あのね、アイナちゃん。さっきは助けてくれてありがとう。正直、あの時はもう色々とダメだぁ〜って思ったから……」

「ん〜?そんなことですの?……エミリアちゃんを探して助けるのは当たり前ですわ。エミリアちゃんは十輝星ではないけれど、リザちゃんの友達!ということはそれはもちろん!アイナの友達ということになるのですから!キャハ☆」

薄暗い洞窟がぱあっと明るくなるような声で喋りながら、アイナはキラッ☆とウインクをしてみせた。

「ふふ……アイナちゃん可愛いなぁ。……私ね、こんな薄暗い危険な洞窟でアイナちゃんか私をずっと探しててくれたことが、すごく嬉しいの。」

「……まさかエミリアちゃん、あの状況でアイナが1人で逃げるような薄情者だと思ったんですの!?アイナが現在進行形で襲われているエミリアちゃんを無視して、1人でお菓子をむしゃむしゃ食べるような最低女だと思ってたんですの!?」

「お、思ってないよ思ってない!助けに来てくれるって信じてた……だからこそ、言いたいことがあるの。」

エミリアの口調がいつもよりはっきりとしたものに変わる。
なんとなく雰囲気が変わったことを察して、アイナもふぅ、と息をついた。

「なんでもどんとこいですわ。エミリアちゃんはアイナのお菓子友達なのですから、ね。」

アイナの声は、先ほどまで早口でまくしたてていた勢いが嘘のような、穏やかで優しい口調だった。

434名無しさん:2019/02/13(水) 02:37:21 ID:???
「アイナちゃん。その……私とリザちゃんと一緒に、どこか平和な場所でのんびり仲良く暮らすのとか……どうかな?」

「……え?」

「アトラくんやシアナくんたちと別れることになるけど、……やっぱりアイナちゃんとリザちゃんには十輝星でいてほしくない。私……2人のこと、本当に友達として大切なの!」

「……………………」

「人を殺したり、魔物に襲われて酷い目にあったり……それこそさっきの私みたいな目にあってほしくない。……いつもニコニコ笑顔で可愛くて、見てるとこっちも元気になっちゃうアイナちゃんに、怖い目にあってほしくないの!……だから……!」

「エ、エミリアちゃん……」

エミリアは冗談ではなく、本気で自分たちのことを変えようとしている。
暗殺や魔物退治など危険な任務の多い十輝星をやめて、3人で平和に暮らす……

そんな未来を思い浮かべたアイナの答えは、即決だった。



「……申し訳ないけれど、却下ですわ!!!」

「……うううぅぅ。そんなぁ!なんでよ!」

「だって、当たり前ですわ!十輝星はブラックカードが持てるほど金が稼げるんですもの!高級お菓子や高級ブランド!優雅なランチに豪華なディナー!欲しいものはなんでも手に入るまさに覇者のような生活ですからね!コンビニまで歩いて30分かかるような古代都市での生活なんて、このアイナには似合いませんわ!」

「……ううぅ。」

アイナは自分の趣味に際限なく金をつぎ込むタイプである。
十輝星になる前にスラム暮らしで苦労していたアイナにとって、今のセレブ生活を手放せるわけがなかった。

「もう調味料で味をごまかす必要もない、素晴らしい生活ですもの!ボロ布を纏って隙間風を浴びることもないですわ!それに、十輝星の生活はいい意味でも悪い意味でも毎日が超刺激的!ゴキブリよりも退屈が嫌いなアイナにとって、この仕事は天職なのですわー!」

「……ううぅ……でも……でも……!」

もうこの話はおわり、とばかりにアイナはぴょこんと岩から降りた。
ここで下がってはいけないと、エミリアはなんとか説得材料を探す。

「……まあそんなわけで、この話は終わり……と言いたいですけれど、エミリアちゃんの誘いに乗る方法が1つだけありますわね!」

「え!?なになに!?」

思いがけず示された可能性に、エミリアはぐっと身を乗り出す。
興味津々なエミリアに、アイナは一枚の写真を見せた。



「あれ?これ……リザちゃん?」

「そうですわ。高級なお菓子よりも、オシャレなブランドよりも、美味しい料理よりも、何よりも大切なものがアイナにはありますわ。」

「……そっか!リザちゃんが来てくれるって言ってくれたらってことだね!」

「……ま、リザちゃんにはとても立派な志がありますし、無理だとは思いますけれど……もしエミリアちゃんがリザちゃんを説得できたのなら、アイナはついていきますわよ。……リザちゃんのいない生活なんて、大根のないおでんのようなものですからね!」

「アイナちゃん……!ありがとう!私、リザちゃんのことも頑張って説得してみる!」

3人での平和な暮らしに光明が見えたことが嬉しくて、エミリアはすでに3人で暮らすことが決まったかのように喜んだ。



「……でもリザちゃんの説得は、カニを喋りながら食べるよりも難しいですわよ?……知っているでしょう?リザちゃんが十輝星を続ける理由……」

「うん……でも、リザちゃんは真面目すぎて、1人で背負いすぎているんだと思う。……リザちゃんだけに、アウィナイトのみんなの命を背負わせたくないの。」

「なるほど、十輝星としてではなく別のアプローチを探すということですわね。立場が変わってもアウィナイトを守り続けられるというエビデンス……うーむ……」

(……アイナちゃん、なんか妙な横文字まで使って真剣に考えてくれてる……!やっぱりアイナちゃんも、大好きなリザちゃんには危険な目にあってほしくないのかな……)



「……ま!なんにせよここを出なければ何も始まりませんわ!アイナとリザちゃんとエミリアちゃんの未来は、こんな辛気臭い場所では語れませんわ!場所を変えるなら、煌びやかな夜景の見えるオシャレなホテルがいいですわね!」

「あはは!そうだね!こんなところ早く出て、リザちゃんを誘って遊びに行こう!」

まだなにも決まったわけではないにしても、友情が深まったことを感じた2人は出口を探そうと立ち上がる。

そして──死は突然訪れた。



……ピシィ!

「……んん?」

「え?アイナちゃんどうしたの?」



……ピシピシピシピシビシイイイイィッ!!!



2人の天井の大きな岩に突然、大きな亀裂が走った。

435名無しさん:2019/02/16(土) 21:07:14 ID:6sJYUNRE
「……っ!!エミリアちゃん!!危ないですわ!!」

「え!?アイナちゃん!?」

ほんの一瞬、エミリアが呆然としている間に、全ては決していた。
ドン!という音と衝撃と共に、エミリアの体は突き飛ばされ、次の瞬間……

ガラガラガラガラガラガラァ!!


「アイナちゃん!?アイナちゃぁああああああああん!!」


★ ★ ★

「あ、あ、アトラくん……アイナちゃんが……アイナちゃんが……!」

必死にアイナに呼びかけ、回復魔法をかけ続けているエミリア。だが、岩の下敷きになったアイナは、ピクリとも動かない。

いつの間にか近づいてきていたアトラに、エミリアはすがるようにか細い声をかける。

「……馬鹿が……リザにもシアナにも、何て言えばいいんだよ……」

「アトラくん……!な、治るよね!?王様の力で、きっと、治るよね!?」

「……王様は、十輝星を生き返らせることはない……ドロシーの時も、そうだった……」

「そんな……!う、嘘だよね、アイナちゃん……!い、今岩の下から出してあげるね!グレーターストレングス!」

魔法で自らの身体能力を上げたエミリアは、慎重に慎重を重ねて岩を退かす。だが、血塗れの全身と押し潰された背中が露になったことで、余計にアイナの『死』を強く感じさせた。

「……ねぇ、起きてよ……!嫌だよ、こんなの……!ヒール!キュアライト!!」

「……シアナに伝えてくる……エミリアちゃんは、アイナのそばにいてやってくれ」

必死に回復魔法をかけ続けるエミリアを横目に、アトラはシアナの元へ戻る。

「シアナ……えっと……落ち着いて聞いてくれ、アイナは……えっと……」

「……アイナは……殺しても死なないような奴だと思ってた。いつもヘラヘラしてて……だけど、その笑顔が可愛くて……僕はさ、ああいう滅茶苦茶な奴と一緒にいるのが……好き、だったんだ」

「シアナ……おい、大丈夫かよ」

言葉を探すアトラを遮って、シアナはボソッと呟く。そのまま
フラフラとアイナの元へ近づいていくシアナを、アトラは慌てて追いかける。

「……市松鏡花の、言う通り……僕、バカみたいだよな……女の子が酷い目に遇うのは好きなのに……アイナが、死ぬと……こんなに、悲しいなんて……ドロシーの時だって、こんな気持ちにはならなかったのに……」

「ぅ、ぐ、ひぐ……!ごめん、シアナくん……アイナちゃんは……岩から、私を、庇って……!」

エミリアがアイナを抱きしめながら泣いている。シアナはエミリアに言葉を返さずに、ゆっくり、アイナの顔を覗きこんだ。
エミリアの回復魔法により外傷はほとんど治ってきている。まるで今にも『テレレレーン!!ドッキリ大成功〜〜!!ですわ!』とでも言ってきそうだ。

「……僕ら……このままで、いいのかな……女の子をリョナって、彼女らの言葉に気づかないフリをして……こんな風に、友達を亡くしながら……王様の下で……」

「おい、気をしっかり持てよ……そりゃ鏡花ちゃんの事もあったし、気持ちは分かるけど……」

「……まぁ、どうでもいいか……アイナは……もう、いないんだから……」

少し前にエミリアが聞いたら大喜びしそうな、シアナの僅かな心変わり。だが、シアナの心は、もう大きく変わることはない。

彼の純粋な心を大きく占めていた、天真爛漫な少女の笑顔は……もう二度と、見れないのだから。

いつの間にか頬に流れていた涙を、洞窟内だと言うのに突然吹いたそよ風が払い……




『……1つだけ、方法があるわ……今王が狙ってる、神器セーブ・ザ・クイーンなら……』


懐かしい声を、風が運んできた。

436名無しさん:2019/02/20(水) 02:16:25 ID:Kl2l.GyE
「え、この声って、ライラの時の……!?」

「まさか、ドロシー……なのか!?」

「おいおい、マジかよ……」

『久しぶりね、アトラにシアナ……あと、エミリア……だったかしら?』

突然三人の周囲に響いた、懐かしい声。だが声は聞こえるのに、姿は見えない。


『いつの間にアイナとシアナが良いカンジになってたのとか、色々話したいことはあるけど……今、王の暴虐によって、魔の山の神聖なマナがどんどん穢されているわ……私の声もいつまで届くか分からないから、要件定義だけ話すわね』

「そうだ、王様が狙ってる神器を使えば……王様に頼らなくても、アイナが生き返るのか!?」


アイナの死と、突然のドロシーとの再会に混乱していたシアナだが、正気に帰った彼はすぐに質問をした。

『正確には、死んだのを無かったことにする、かしらね……セーブ・ザ・クイーンは世界に起きた事象を書き換える力を持っている……』

「すげぇ!まるでシュタゲみたいだ!」

希望が見えたことで緊張感を無くしたアトラは、元来の性格通り楽観的なことを言い出す。それを窘めるように、ドロシーは重い口調で懸念を口にする。

『……だけど……神器がどうなるかは、今の段階では分からないわ……』



★ ★ ★


「……うあああああああああああああああああああああああああ!!!」

リザちゃんの苦しそうで、悲しそうな叫びの後……私の胸に、鋭い痛みと熱が走った。

「っ……!」


ここで私が苦しんだら、リザちゃんを苦しめてしまう……だから私は、痛いのを我慢して、黙って死のうとした。


「私は……間違ってない……だって……だって……!こうしなきゃ、みんなが……!」

とても辛そうなリザちゃんの呟き。思わず声をかけてあげたくなったけど、そうしたら気絶したフリがバレちゃう。
ううん、鋭いリザちゃんのことだから、ホントもう寝たフリにも気づいたかも……それならいっそ……


「リザちゃん……決めたよ……私は、元の世界には、逃げない……その前に、王様と戦って、この世界を……」


だけど、最後まで言い切る前に……私の視界は闇に落ちた。そして……



「……クヒヒヒヒ!ようやく揃ったなぁ……運命の戦士たち!」


次に目が覚めた時には、すぐ近くに王様がいた。

437名無しさん:2019/02/22(金) 02:07:49 ID:???
「はぁ………はぁ………」

(最後の技は、アングレーム流剣術の奥義……それを、左腕一本で放つなんて。
もし彼女が、二刀を……ラウリート流双剣術を扱ったら、きっと姉さまのような……)

ブラッディウィドーの糸から抜け出したロゼッタは、疼く身体を引きずりアリサの死体に近付く。
アリサの左手には、アングレーム家に伝わる宝剣が握られていた。
姉ヴィオラの命を奪った刃。いつかこの手で叩き壊してやろう、とさえ思っていたが……
今は不思議とそんな気持ちにはなれず、死体と共に王の元に送られていくのを黙って見送る。

(カサカサカサ……ぎちぎちぎちぎち)
「………!?………」
アリサの死体が光に包まれ、音もなく消え去った、その直後。
周囲に無数の異音と、新たな魔物の気配が沸き出した。
闇の奥で赤い目が無数に輝き、ギチギチと牙を噛み合わせる音がさざ波のように押し寄せる。

「……こい、つら……『ブラッディ・ウィドー』の、雄……!」
繁殖期のブラッディ・ウィドーは、雌が人間の胎内に産卵管を挿入して大量の卵を産んだ後、雄が集団でその卵に精子を放出するという。

「ギチギチチギ………!!」「「ギチギチギチッッ!!」」
「っぐ……まだ、身体がっ………う、あああぁぁぁぁああっ!!」
ロゼッタの身体には、麻痺毒と共に雌のフェロモンが大量に刷り込まれている。
実際に体内に卵を産みつけられていようがいまいが、関係ない。

無数の雄蜘蛛達が一斉にロゼッタに襲い掛かり、麻痺毒に侵食されたその肢体を洞窟の奥へと引きずり込んだ。

………………
(ズルズルズルッ……ガリガリガリガリ!!)
「ひっぎ!!……あぐっ!……ふ、ぁあああぁっ!!」
手足を糸で絡め取られ、固くごつごつした岩肌を引きずられる。
着ていたドレスはあっという間にボロボロにされ、固く鋭く尖った岩で柔肌を直接斬り刻まれる。

(ゴス!!……ドガッ!!ザクッ!!……ずぶっ……)
「んっ……!!……ぐ、うっ………は、んっ………ううぅ………!!……」
過去の凌辱によって全身が異常なまでに鋭敏になったロゼッタにとって、その苦痛、そして……否応なく叩き込まれる快楽は、想像を絶する拷問であった。
岩に叩きつけられ、地面を引きずられ、ロゼッタの全身が傷ついていくにつれ、
苦痛に満ちた鋭い悲鳴は、だんだんと、小さく、甘く、快楽の色が混じり始めていく。

「シャアァァァァァッッ………」「ギチギチギチギチギチ!!」
「や………やだっ………まもの………こない、で………嫌あぁあああああ!!」

気付けばロゼッタは、無数の毒牙とかぎ爪、そして欲望と悪意にぎらつく赤い瞳の群れの真っ只中に居た。
恐怖に駆られながら、襲い掛かる蜘蛛の一匹に手をかざすロゼッタ。
いつもの悠然とした雰囲気や、不思議ちゃん系無敵強キャラオーラなどは、もはや微塵も残っていなかった。

(ザシュ!ぶしゅっ!!…ザクザクザクッ!!………じゅわぁっ!!)
「う、ぐっ!!……い、や…………た…たすけて、姉……さ、ま……!」

不可視の糸が、蜘蛛達を斬り刻んでいく。
だが一匹を斬る度に、毒液で糸の切れ味は急速に鈍っていく。
飛び散った猛毒の体液は、ロゼッタの身体に降り注いで傷口を焼く。
ロゼッタは指一本さえ動けば、糸を自由に操れる……だが、その指一本さえ動かせなくなるまでに、そう長い時間はかからなかった。
(ズブッ!!ドスッ!!ザクザクッ!!)
「ん、あぐっ!!……う、っぐ、あぁああああああ!!」
雄蜘蛛の生殖器は固く長く、簡単に抜けないよう鋭い棘がびっしりと生えている。
獲物を深く傷つけ、奥の奥まで突き刺すための刃には、その進化の過程において、一切の容赦や配慮は存在しない。
……突き刺す相手は、同族の雌ではないからだ。

「あ、っぎ……ん、いやああああああ!!」
蜘蛛の卵の苗床は、子蜘蛛の「生餌」にされる……卵が孵化するまでは、殺されることは無い。

「あ……は………ふ、ひはははは………ねえ、さま……ロゼは、もうすぐ……そちらに、参ります……もう、すぐ……」
それまでは、死なない。どんなに願っても、死ぬ事が出来ない。

…………………

そして、数時間後。

「はぁっ……はぁっ……申し訳、ありません……ロゼッタお嬢様……」
「……………姉さま…………ロゼ…は……もう、すぐ……」
「……お嬢様………………」

アルフレッドがロゼッタの元にようやく駆け付け、蜘蛛達を一匹残らず斬り伏せた時には……
……ロゼッタの心と体は、見るも無残な程にボロボロにされていた。

438名無しさん:2019/02/24(日) 02:36:33 ID:96y.5dKk
「げほ、げほっ……!う、ぐぅ……!」

「っ、はぁ……!みんな……!?」

「おいおい……最悪のパターンじゃないか、これ……!」

運命の戦士全員が、王の、そして魔の山の頂上に通じる扉、ガーディアンゲートのすぐ近くにデスルーラで飛ばされてしまった。

「いやぁ、全員揃って予定通りとは、アイツらも中々やるな……特にロゼッタはアルフレッドの奴を誘導する為に、上手いこと魔物をけしかけたり、都合よく薬切れするように調整したりしちゃったから不安だったが……」

「……!トーメント王……貴方は、どこまで……!」

突然現れたブラッディ・ウィドーやロゼッタの薬切れは、王の差し金であった。部下を平気で死地に追いやるような振る舞いをする王に、アリサは復活した直後から怒りを燃やす。

「まずい……!みんな、動いて!私たちが揃ってしまったら、封印が……!」

「もう遅いんだよなぁ!ケケケ!」

王がいつの間にか取り出していた紫色のペンダントが輝いた。

「あれは、アルフレッドが持っていたのと同じ……!?」

色は違うが、王が取り出したペンダントは、魔法少女の軍勢がトーメントに攻め込んだ時、地下で唯たちと出会ったアルフレッドが使っていたものと瓜二つであった。見た目だけでなく、ペンダントから光が放たれ、運命の戦士に向かっていく様子まで同じである。

「元々アングレームとラウリートは蜜月の関係にあった……一族秘伝の神器に繋がるペンダントを二つに分け与えるほどのな。まぁ後から不安になって『回収』に動いたが……な」

「っ!つまりそれは本来、ロゼッタさんの……ラウリート家の家宝だったということですの!?」

「流石に察しが良いな、アリサちゃん……ロゼッタの奴が復讐にしか興味がなくて助かったぜ、押収された家宝の事すら聞いてこなかったからな」

「どこまで……どこまで彼女を愚弄すれば気が済むんですの、貴方は!!」

「ケケ、怒った顔もそそるな……思い出すなぁ、家族を皆殺しにされたアリサちゃんを牢獄に閉じ込めてリョナりまくった事を」

王の言葉に、アリサの体が反射的に震える。唯と瑠奈に助け出されるまでに受けた、ナメクジ責めを始めとする数々のリョナが、アリサの脳裏をよぎる。

「アリサちゃんだけじゃない……瑠奈ちゃんは虫責めで心を壊したし、鏡花ちゃんはマジックアームでぐちゃぐちゃにしたし、彩芽ちゃんはカウボーイごっこで壁に叩きつけた……そして、特に唯ちゃん……君は特にたくさんリョナってきた気がするよ」

まるで美しい思い出でも語るかのような口調で、これまでの行いを振り返る王。

「『今回』のゲームもそろそろ大詰めとなると寂しいが……また別の女の子を浚ってやり直せばいい……何度でもなぁ!」

そう王が叫んだ瞬間……運命の戦士たちに伸びた紫の光が、一際大きく輝き出した。

439名無しさん:2019/02/24(日) 03:28:03 ID:???
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!

運命の戦士たちとラウリートのペンダントによって、ガーディアンゲートが開かれてゆく。
その先にあるのは、魔の山の頂上へ続く一本道のみであった。

「ククククククク……!この先に眠る神器を手に入れれば、もう俺様の敵はいなあぁい!今回のゲームも、俺様の完全なる圧倒的勝利だァ!」

勝ち誇ったように両手を広げ、王はくるりと唯たちの方を向いた。



「さてさて……俺様がこのタイミングでわざわざここに来た理由を教えてやろう。」

「……私たちを、完膚なきまでに叩きのめすためなんでしょ……!」

苦虫を噛み潰したような声で瑠奈が口を開く。
自分たちをわざわざここに呼び、封印を解けば……
自分たちが用済みなのはわかっていた。

「全然違うなぁ……俺様はみんなのこと大好きだよ?ただね……もう見飽きたんだよね、君たちのことは。」

「あ……飽きただって……?自分で勝手に僕たちを攫っておいて……!ふざけたこと言うな!」

「……そうやって飽きたら、次の運命の戦士になる女の子を攫って、また痛めつけるんですわね……!なんて外道……!」

「トーメント王……!あなたはルミナスの敵どころか、この世界と私たちの世界の敵!絶対に許さないっ!」

最大の敵を前に、素早く武器を構える3人。
それを見た瑠奈もすぐに体制を整え、いつでも動ける状態を取った。



「ククク……唯ちゃん以外は戦闘体制かぁ。俺様に何回もやられてるくせに、懲りない奴らだ……どうせお前らも今までの奴らのように、神器を取ってこの世界から出ようとしてるんだろう?そうはさせないぞ……」

「……いいえ、違います。」

「やっぱりな!みんな考えることは同じ……アヒョ?……違うゥ!?」



唯一、戦闘の構えを取っていない唯は、王の元へと歩き出した。

「え?唯、何言って……こんな酷い世界に居続ける意味なんてないでしょ!?」

「……だめだよ、瑠奈。この世界にはこの王様のせいで苦しんでる人たちがたくさんいる……それを変えられるのが私たちだけなら、何もしないで元の世界になんか……帰れない。」

唯の脳裏に、意識を失う寸前の光景が浮かぶ。
ここに来るときに見た、金髪の少女の怯えきった青い目。
あの金髪の少女は、とても優しい心を持った人間だ。

そんな純粋な人間の心を利用し、自分の駒にして飼い殺そうとするトーメント王を、唯は許せなかった。



「みんなは記憶を失って元の世界に戻りたいかもしれないけど……私はリザちゃんやこの世界の人たちを見捨てたくない。……この人を止められるのが私たち運命の戦士だけなら……神器を使って、この世界を救いたいっ!」

「……唯……!」

「……そうですわね。私もこの世界では酷い目にあってばかりだったけれど……あなたたちに出会えたことは、忘れたくないですわ。」

「……そう、だよね……!ルミナスを守るために、トーメント王は絶対に倒さないと!死んでいったみんなのためにも……妹の水鳥だって、それを望むはず!」

「……そっか……やっと自分のやるべきことが見つかったって感じだよ。こいつは……サラさんや桜子さんや、スバル……みんなの仇だもんね!」

瑠奈以外の少女たちも、決意を固めて王を見据える。
迷いのない少女たちの目に見つめられ、王はふん、と鼻を鳴らした。

440名無しさん:2019/02/25(月) 03:09:27 ID:???
「はぁ……はぁ……!」

振り下ろした腕も、勝手に漏れる自分の吐息も、すべてが熱い。
命を奪う感触にも慣れたと思っていたリザだったが、今回はそうもいかなかった。

「……私は間違ってない……間違ってない間違ってない間違ってない間違ってない間違ってないっ……わたし……は
っ……」

この短期間に色々なことがありすぎた。
母を助けるために熾烈極まる闘技大会で優勝したこと。
好意を抱いていたヤコという青年に、裏切られてしまったこと。
死んだと思っていた大好きな姉に、殺意を向けられたこと。
心優しい少女……篠原唯を、ついに殺めてしまったこと。

自分が大きな矛盾を抱えていることをまざまざと認識させられる事件が続き、リザの心は自己肯定と自己否定のせめぎ合いが激しくなっていた。

「……!」

スマホの通知音で我に帰り、グループチャットを確認する。
そこには王からのチャットで、十輝星は全員トーメント城へ戻れと書いてあった。
運命の戦士たちは、自分1人ですべて処理するということなのだろう。



(……今……お母さんに会いに行く気分にもなれない……)

リザの手には、コトネから受け取った奴隷手形が握られている。
母が生きているかもこの手形が有効かどうかも不明だが、コトネの話によれば、これで奴隷1人を解放できるらしい。



だが……
姉のミストの一件で、リザは母に会うことが怖くなってしまっていた。

(……お母さんも、お姉ちゃんのように私を責めたてて……殺人鬼のあなたなんか娘じゃないなんて……そんなこと言われたら……私……わたし……っ!)

心のどこかではわかっていた。
よしんば家族が生き返ったとして、昔とは違う自分が家族に受け入れられるかの是非など、どちらに転ぶかは……なんとなく察しがついていた。

でもそれでも……トーメント王が持つ他に類を見ない蘇生の力に縋りついて、自分の家族を取り戻したかった。
理不尽に奪われた家族を取り戻すためならば、理不尽な殺しも厭わない覚悟で戦ってきた。
その反動が、姉が自分へ向ける殺意だとするなら……自分は今まで何をやってきたのだろう。



(……もうだめだ……頭が、おもい……からだも……だるぃ……)

疲労とストレスによって、リザの小さな体は小さくない悲鳴をあげていた。
篠原唯を殺し、ひと段落ついた今、自分の体の限界をようやく自覚したリザは、鉛のようにのしかかる倦怠感を払いのけるように立ちあがる。
二本の足でしっかりと大地を踏みしめたというのに、まったく平衡感覚に自信がなかった。

(あぁ……これ、ひどいな……はやく、やすまないと……たおれる……)

ムラサメの方角へ、フラフラとした足取りで歩き出すリザ。
そんな状態で歩いているのでは、その背後に潜む気配に気付くことができるはずもなかった。

441名無しさん:2019/02/26(火) 02:01:46 ID:???
「リザ!!!」

「……あ。」

背後から響いた声に振り向くと、そこには喧嘩別れしたはずのヤコがいた。
闘技大会が終わった後、リザはあえて冷たい言葉を浴びせてヤコを遠ざけた。
それなのに、彼がなぜこんなところにいるのか……その答えはすぐにわかった。

「……欲しいのは……これでしょう?」

奴隷手形とは別に、コトネからもらった金色のキャッシュカードを懐から取り出すリザ。
ヤコがこんなところまで自分を追いかけに来る理由なんて、これしかないと分かっている。
わかっているはずなのに、リザの心はまた傷ついた。

「色々あって手に入らないと思ったけど、すんなりもらえたから……お金が欲しいならあげるよ。」

「……お前……大怪我してるのか?腹に血が……!」

「……それ、あなたに関係あるの……?ほら、これをあげるから……早く、わたしの前から……消えてよっ……」

ふらつきながらリザはキャッシュカードをヤコの元に投げたが、目眩のせいでカードを明後日の方向へと投げてしまった。

「……勘違いされるような嘘をついたのは俺のせいだ。ごめん、リザ……でも俺は、今でもお前を助けたい気持ちは変わってない。」

「……え……?」

真っ直ぐな目をしたヤコが、ゆっくりと自分に近付いてくる。
今までの経験上、このように男にいきなり詰められた時は逃げるべきだと認識してはいるのだが……
目眩と頭痛で思うように体を動かすことができない。
このままでは捕まってしまう──と思った時には、リザはヤコの腕に支えられていた。



「あっ……!いやぁっ、離してっ……!」

「か、勘違いしないでくれリザ……!俺はそんな金なんていらない。トーメントの奴らに捕まりそうになったけど、どうしてもお前に謝りたくて逃げてきた。」

「……え……?」

「何があったかは知らないけど……お前は絶対死なせない。俺がお前を安全なところに連れていってやるから……安心してくれ。」

「…………………………」

ヤコの口から思ってもいないセリフが出てきたことに、リザは目を丸くする。

「な、何びっくりした顔してんだよ……お前はやっぱり多少疑り深い性格なのかもしれないけど、もう少し人を信じた方がいいぞ!……って、俺が言えたセリフじゃないか……」

自分を優しく包む手と、ヤコの優しい笑顔に混乱するうちに……
リザの意識は、闇に落ちた。




◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎



「……ん……」

「よっ、お目覚めかよお姫様。」

真っ白い光に当てられて目を覚ます。自分の下には暖かいベッドがあり、横にはヤコが座っている。

「ムラサメ近くの教会だ。さすがに市内はお前を探し回ってるからな……教会のヒーラーさんのおかげで、傷も治してもらったぜ。」

「……じゃあヤコが……ここまで私を……?私に近づいたのはお金目当てじゃなかったの……?」

「だ、だからちげーって……!」

ミツルギに追われている自分をこんなところまで追いかけてきてまで探し、ここまで運んで来たというのだ。
それが嘘だというのは本当なのだろうが……リザはやはり理解できなかった。

「……じゃあ、どうして嘘をついたの?正直……お金目当てだったなら嘘をついていたのもわかる。でもそうでもないのに、どうして……」

「……リザ、お前って結構察しが悪いのな……」

「……なんで私がわからないのが悪いみたいな感じにするの。」

「いや、わかったわかった。悪かった……言うよ。もう隠すつもりもないしな……」

ここまで来たら、言うしかない。
ヤコは思い切って、リザの前で深呼吸をした。



「リザ……俺は……お前のことが……!」

442名無しさん:2019/02/27(水) 02:13:02 ID:YnmvdFws
「ククク……君たちは俺様が作ったこの世界をそんなに気に入ってくれたのかぁ。いやぁクリエイターとしては冥利につきるねぇ。」

「この世界を……作った……?」

ここは王が作ったゲーム世界……
それを知っているのはこの中では唯だけなので、他の4人は事態が飲み込めない。

「この先にある神器……それはこのゲーム世界の核となるアイテム。正攻法のプレイでは到底入手し得ない、バグアイテムのようなものなのさ。この世界の奴らには事象の書き換えができるとかなんとか言われているがな。」

「じ、じゃあ、ウェイゲートは!?今は閉じられているけど、ヒカリが私たちの世界に来るために使っていたあのゲートは……?」

「ククククク……あれはそのまま、別の世界に繋がるゲートさ。現実世界の電子機器にオンラインで繋がることができれば、出入りは自由。俺様もそうして君たちをこの世界に引きずり込んだんだからな……」

「じゃあ今は閉じられているのは……私たちを逃さないためってことね。」

「ま、待って……じゃあこのゲームのプレイヤーは……トーメント王自身っていうことなの……?」

ゲーム脳の彩芽が思いついた疑問を口にする。それを聞いた王は、その通り!と言わんばかりに手を打った。

「まあこんな話はどうでもいい。そんなことより……俺様はもっと君たちを試してみたくなったぞ。この世界に抗う不可抗力……異世界人の可能性ってやつをな。」

何度潰しても潰しても、立ち上がって自分へと向かってくる様……
さながらそれは、RPGの主人公のようなものだ。
魔王が何度倒しても、勇者は何度でも蘇る。レベルを上げて、弱点を補って、新しい技を覚えて……諦めることなく、何度でも立ち上がる。
勇者はそんな純粋で強い存在だからこそ、かの竜王は世界の半分を勇者に渡そうとしたのかもしれないと、王は思った。
まあ、あれは罠であるが。



「異世界人の諸君!この世界を救って元の世界に帰りたければ、我が王下十輝星を全員倒して俺様の首を取ってみろ!タイムリミットはこれから起こる五ヶ国戦争の終わりまでだ!それまでにこの俺様を倒せなければ……その時点で君たちをリョナり尽くして、今度こそ廃人にしてやろう……!」

「……な、なんですって……!か、勝手にそんなこと決めてんじゃないわよ!このサイコパス男が!」

「ククク……今俺様に向かってくる勇気もないくせに、口だけは達者だねえルナちゃん?……他の子達はさっき唯ちゃんに同調したけど、君だけは納得いってないのかなー?」

「えっ……?そ、それ……は……!」

「……………………」

答えに詰まった瑠奈の視線を背後に感じても、唯は振り返らない。

(今、瑠奈の中に迷いがあるなら……ここで王様と戦っても、私たちは負けちゃう。……それなら……)

唯はスッと顔を上げると、トーメント王の目をまっすぐに見据えた。



「王様……その提案に乗ります。これから起こる戦争で、私たちが王様を倒します……必ず倒します。」

王を倒すことと、元の世界に帰ることの両方が叶うのならば、自分たちに取ってこれ以上の選択肢はない。
唯はそう判断した。

「ほぉ……君たちみたいなちょっと格闘やら魔法やら機械やらが使えるだけの女の子が、テレポートする暗殺者や攻撃を無効化する魔法使いに勝てるっていうんだな?」

「……たとえ勝てなくても、諦めたくない。何度でも、何度だって……!たとえ戦争に勝てずに廃人にされたって、私たちは絶対に諦めません!」

「クククククククク!!!いい!いいねぇ唯ちゃん!今までぽけーっとしてたのが嘘みたいに凛とした表情だ……!今すぐボコボコにして泣かせてあげたいくらいだよ……!」

「………………………………」





この場での決着を諦め、王の提案に乗った唯。
恐らく、次の戦争で起こる王との戦いが、最後の決戦になる。

この戦いで負ければ、またあの時のように、5人全員が嬲られ、犯され、壊され、殺され、……反撃の心を失い、今度こそ絶望してしまうだろう。

(絶対に負けない……!私たち5人の力じゃ駄目なら、みんなの力を借りて……この世界を救ってみせる!!!)

唯がそう決意した直後、5人の視界は光に包まれた。

443名無しさん:2019/02/28(木) 02:16:03 ID:???
「な、なに……!?」
「光が、広がっていく……!?」

「これも『セーブ・ザ・クイーン』の力だ。色々準備とかあるし、俺様はさっさと退散させて貰うとするよ」

いつの間にか王の周囲には、靄のようなものが広がっていた。

「それが、セーブ・ザ・クイーン……!?」

「そ。大層なもんに聞こえるけど、実際はただのデータの集まりだから、見た目は地味だろ?でも効果は絶大だ。とりあえず戦争の準備の為に、俺様は十輝星たちとトーメントに帰るとするよ。次に会うときを楽しみにしてるよ、運命の戦士たち」

周囲に広がる光がより一層強く輝き、唯たちは思わず目を逸らしてしまう。唯たちが視線を戻した先には……既に、王の姿はなかった。


★ ★ ★


「きっと、王様はそう簡単に神器を使わせてはくれない……でも、アイナを……このまま諦めるなんてできない」

「そうだよ!それにドロシーさんのことだって、生き返らせれるかもしれないし!」

『……とっくの昔に死んだ私が生き返ったら、それだけ世界に大きな影響を与えてしまうわ……今の生活も気に入ってるし、私はこのままでいいわよ』

シアナたちが今後について話していた時……彼らの体が光り輝いた。

「わわ!?な、なになに!?」

『……王が、神器を手に入れたみたいね……みんな、トーメントに帰ったらリザに伝えてくれる?どんなことがあっても……たとえ死に別れたって、私たち3人はずっと……親友だって』

「……ああ、任せろ。リザも辛いだろうけど……まぁなんとか俺が誤魔化しておくから、さ」

★ ★ ★


「俺は……俺は……!お前のことが、好きなんだよ!リザ!!」

「え……え、と……」

ヤコの一世一代の告白を受けて、思わず目をパチクリさせるリザ。ヤコはヤコで言い切った後に猛烈に恥ずかしくなったようで、落ち着きがない。だがそれでも、彼は言葉を続ける。

「ウソついてまで無理について行ったのも……好き、だったからだ……金なんて、どうでもいい……!」

「……ヤコ……でも、私……私は……気づいてるかもしれないけど、私もウソをついてた。普通の旅人なんかじゃ……ない」

「……王下十輝星、っていうのは……本当なのか、リザ」


ひょんなことから知ってしまった事実だが、改めて本人の口から語られると、否が応でもそれが真実なのだと認識させられる。


「……知ってたんだ……なら、十輝星の悪名も知ってるでしょ?ヤコ……ヤコには私みたいな殺人鬼じゃなくて、もっといい人が見つかるだろうから……」

「でもリザ……!十輝星の要望で作られたっていう俺たちの保護区は、リザが作ったんだろ!?俺たちの為に、すげぇ頑張ってくれたお前を……!殺人鬼なんて、言わないでくれ……」

「……ヤコは優しいね。私のやってることを優しいだなんて言われたの、いつぶりかな」

「……リザ……」

「……私は、もう……戦いの中でしか生きられない。私のことは、忘れた方がいい」

「リザ!」

自らの業を姉に叩き付けられたリザは、ヤコやアイナ、エミリアとどこか静かな所で暮らすという、以前一度は夢見た幻想を捨て去っていた。

そして次の瞬間、リザの体が光り輝く。

「り、リザ!?」

「……王様が神器を手に入れたみたい。ヤコ、虫のいい話だけど……最後に一つだけお願い」

そう言ってリザが取り出したのは、奴隷手形。

「これで、私のお母さんを……ステラ母さんを、奴隷施設から助けてあげて」

「リザ……俺は……俺は……!忘れるなんて、できない……!」

ヤコの絞り出すような声に、胸が締め付けられる感情を覚えながらも、リザはキャッシュカードと奴隷手形を無理矢理ヤコの手に握らせる。

「……さよなら」

リザが美しい金髪を翻して振り返った瞬間……彼女の姿は、掻き消えていた。

444名無しさん:2019/02/28(木) 02:24:01 ID:???
「お前の事が好きだったんだ……保護区で初めて会ったあの日から、ずっと……!」
「え……そ、それって……」

ヤコはただ真っすぐに、自分の想いをリザに伝えた。

海を見つめていた時の寂しそうな瞳や、儚げで危うい雰囲気が気になり、放っておけなかった事。
初めて会った時は生意気な態度を取られて苛ついたりもしたが、
時折見せるいたずらっぽい瞳や眩しい笑顔に、気付けばどうしようもなく惹かれていた事……

「……………。」

……リザは、どう答えていいかわからなかった。

誤解は解けたし、ヤコの気持ちは単純にうれしくもある。
だが、自分はヤコの事をどう思っているのか、すぐには整理がつかなかった。

ただ、一つだけ言えるのは………

「ヤコ……これ以上、私に、関わっちゃいけない」

「そんなっ………リザ…!」
「もう薄々わかっているでしょう?私が、何者なのか……
……貴方はこのまま、保護区へ帰るべきよ」

ヤコは何も言えなかった。
トーメント王に仕え、ヤコ達が住む保護区域を作ったアウィナイトの噂は知っていた。
それがきっとリザの事だろうという事も、薄々気づいていた。
彼女がその小さな背に負った、あまりにも過酷な運命は……自分には到底手に負えないだろう事も……
旅を続けている間、何度も何度も思い知らされた。

そして……

「オラオラ見つけたぜ!脱走アウィナイトが!」
「ったく、トーメントに帰還できるってのに、余計な仕事増やしてんじゃねーよクソガキ!」

「げっ!!……お、お前らはトーメント兵!!」
「………あれ?リザ様じゃないですか……なんでここに」
「貴方たちこそ……一体何の騒ぎ?」
「かくかくしかじか」

立ち尽くす二人の前に現れたのは、投げやりなシアナの命令で、ヤコをトーメント王国に連れ帰ろうとしていたトーメント兵達であった。

「何を勘違いしたのか知らないけど……彼は捕虜じゃないわ。シアナには私から言っておくから、ここで解放してあげて」
「はっ!了解であります」
「かしこまりー」

「まっ……待てよ、リザ!お前……」
「………ここでお別れね。………さよなら」

リザは、ヤコに背を向け歩き出した。
海の底のような、深い深い青……悲しみの色を、瞳に浮かべながら。

445名無しさん:2019/02/28(木) 23:14:16 ID:L7UY9tk2
時間は少々巻き戻り、サキが母と共にナルビアを脱出し、ミツルギではまだトーナメントが行われていた頃。

トーメント王国では、魔力供給が断たれて身動きの取れなくなったユキが、スネグアに車椅子に乗せられ、彼女の邸宅の地下に連れて来られていた。
そこには怪しげな拷問器具や檻、はたまた女児用の可愛らしいワンピース等がところ狭しと並べられ、正にスネグアの趣味を体現したかのような空間だった。親友であるスバルもおらず、ユキは必死に不安と恐怖を押し殺している。

「ご、ご主人様……ク、クスリを……気持ちよくなるお薬をください!あれがないと、頭が痛くて……!」
「ひっ!?」

そこに突然、瞳孔が開いていて明らかに正気ではない様子の少女が、ズイズイとスネグアに近寄ってきた。少女は黒髪をボブカットにしていて、年齢はユキより1つか2つ年下に見えるほどだが……その狂気に気圧されたユキは、思わず引き攣った声をあげる。

「メルちゃん、ダメじゃないか、勝手に抜け出してきては……以前のように、勝手にお姉さんに会いに行こうとしてるのかと勘違いされてしまうよ」

「お姉さん……?あれ、私の、おねぇ、ちゃ……あ、が……!頭、痛いぃ……!」

少女……ルミナス侵攻の際トーメントの捕虜にされたメル・ステリーアは、頭を抑えて蹲ると、痛みに呻いてしまう。

「お、お願い、します……!お薬を……オクスリ、くださいぃ……!頭が、痛いんです……!オクスリがないと、頭が……!ご主人様ぁ……!」

這いつくばったままスネグアに近づいたメルは、スネグアの靴を舐めて懇願しだした。

「やれやれ、従順なのはいいが、少しやり過ぎたかな……次は気をつけなくては」

そう言いながらスネグアは、懐から葉巻を取り出してメルに渡した。

「ひ、ひひ、オクスリ……オクスリオクスリィ!!」

ミシェルによって心を壊されたメルは、スネグアが気付け薬代わりに吸わせたやべー麻薬によって、今やすっかり依存性に成り果てていた。

メルは下級の魔法で葉巻に火を灯すと、恍惚とした表情で煙を吸っている。今やルミナスや姉のことすら、記憶には残っていない。

「こ、こんな……酷い……!私やスバルちゃんも、こんな風に、するつもりですか……!」

恐怖に染まりながらも、必死に気丈に振る舞うユキ。それを見たスネグアは微笑みを浮かべながら、ユキの頬に手を這わせる。

「ククク……リゲル殿の妹である君に、そんなことはしない……むしろ私は、君の体を治そうとしているのだよ」

「えっ?」

「こんな高度な魔道義肢を魔力だけで運用するなど、最初から無茶な話だったのさ……さぁ、着いたよ」

そう言ってスネグアが入っていった部屋では、科学者ミシェルが、冷蔵庫ほどの大きさの妙な機械をセッティングしていた。

「こっちは準備万端よ。早く始めましょう」

「おや?今日はジェシカはいないのかい?珍しいね」

「なんか『教授の作った格ゲーが神ゲーらしいから遊んでくるっす!』とか言ってたわよ」

「そうか、まぁ今回はその機械さえあれば事足りるからね……そう、『超高性能全自動くすぐり機』さえあればね」

ミシェルのセッティングしていた機械はその名の通り、機械の中に入れた相手を延々と自動でくすぐり続ける恐ろしい機械であった。

「魔道義肢と君の体の神経を繋げた上で、この機械で強い刺激を与え続ければ……やがて義肢と君の体はほぼ一体化し、魔力なしでも動けるだろう」

「そ、そんなことが……?」

「ふん、この私をそこらのヤブ医者と一緒にしないでよね。最先端中の最先端を行く私の科学力は、人体改造……じゃなかった、医療技術で言えば教授以上よ」

「……まぁミシェルを見て進んで彼女の実験台になりたいと思うほど君は命知らずではないだろうが……」

スネグアはユキの耳元に口を寄せて囁く。

「君がミシェルの治療を受ければ、君のお姉さんが苦しい任務を続けなくていいんだよ?」

「っ……!」

自分がサキの負担になり続けていることは、ユキも重々承知していた。だからこそ、スネグアの言葉を受けてユキの瞳が揺らぐ。

「重用していた部下がナルビアに捕らえられて、彼女は大変だろうね……そんな状態でセイクリッド・ダークネスの為に、王様から無茶な任務を押し付けられ続けたら……いくらリゲル殿とは言え、命がいくらあっても足りない」

「……私が、治れば……姉さんは……無茶をしないで、すむ……」

「ククク、そうだとも。鞭打ちではなく擽りなのも、私なりの気遣いなのだよ?大丈夫、痛くはない……痛くは、ね……クク」

「分かり、ました……ミシェルさんの、治療を……受けます……」

「いい子だ……まぁどちらにせよ、この状況で君に拒否権はなかったがね」

こうしてユキは、スネグア主導・ミシェル作成のくすぐり機械による拷問を受けることになった。

446名無しさん:2019/03/02(土) 19:50:02 ID:???
「うげー……頭がガンガンする……出口はどっちだよ…」
アイベルトは一人、洞窟の中を彷徨っていた。
瑠奈たちと戦い始めたあたりから、記憶が全くない。

「『拳だけで戦ってやるぜー』って言った所までは覚えてるんだが、いつの間にか二刀流になってるし。
ルナティックちゃん達もロゼッタもいねえし……」

記憶を失っている間に何が起こったのか、まるでわからなかった。
手にした双剣は、血に塗れていた。
トーメント王から届いたメッセージを読むと、どうやら任務は無事果たせたらしいのだが……

「ああーーー!!!ていうか、ルナティックちゃん達をリョナった記憶が全然ねえ!どういうことだよクソっ!!」
怒るポイントがズレているが、とにかくそんな感じで彷徨っていた。
すると………

「お嬢様……私が安全な所までお連れします……貴女はもう、戦わなくていい。私がずっと、お守りします」
「……姉さま………ふ、ひひひひひ………」

そこにいたのは……傷だらけで、放心状態のロゼッタ。
そして彼女を抱きかかえた、一人の男。
………見覚えのある顔だった。

「お前は…………アルフレッドか…!?」
「…………。」
12年前、アイベルトが任務で潜入したラウリート家……ロゼッタの生家で、使用人をしていた男だ。
ロゼッタと浅からぬ因縁を持っているこの男の目的もまた、「神器」に違いないだろう。

「何があったかわからんが……そいつを放してもらおうかイケメン君。
超絶不思議インドア派ボディの極上おっぱいを二つともお持ち帰りとか、このアイベルト様が絶対に許さねえ!」
(昔はどうあれ、今のそいつは俺達の仲間だ……てめえに好き勝手はさせねえ!)
アホゆえに、本音と建前が逆になっていた。

「王下十輝星……『ベテルギウス』のアイベルト。
お嬢様がこんな姿になってもまだ、戦いを続けさせるつもりか……今日こそ、お嬢様を解放してもらうっ!!」
(ガキィィィン!!)
二刀を構え、アルフレッドはアイベルトに斬りかかる。
対するアイベルトの得物も、同じく二刀。

「「うぉぉぉおおおおお!!」」

(ガキン!ジャキッ!!キン!!キン!!ザシュッ!!)
無数の剣戟が暗闇の中を飛び交う。
途中の攻防は諸事情によりバッサリとカットするが、両者の技量は全くの互角……否。

「ハッハッハー!!どうしたどうしたイケメン君!ずいぶんと御疲れみたいじゃねーか!」
「くっ……負けるわけにはっ……!」
さっきまで蜘蛛の魔物の大群を相手にしていたアルフレッドは、体力を消耗して動きが鈍って来ていた。
一方、アイベルトは………

「よっしゃ、そろそろ止めだぜ!『ファイナル・アイベルト・ツインスラーッシュ』!!……っぐ!?」
アルフレッドに限界が近付いて来たのを見て取り、オリジナル必殺技を繰り出そうとする。
だが、その時………

(なんだ……左肩が……いつの、間に……!?)
突然、左肩に激痛。アイベルトは覚えていなかったが……そこは瑠奈の『亀甲羅割り』を受けた個所だった。
元々のダメージはそう大きくなかったが、アルフレッドとの戦いで双剣を全力で振るって戦ったため、その負荷に耐えられなくなったのだ。

「勝機っ!………『グランドゥレ・タルパトゥーラ』!!」
「し、まっ………!!……っぐああああああぁぁっ!!」
そうと知っていれば、片手剣や魔法など、左肩に負担がかからない戦術も取れただろう。
だが気付くのがあまりにも遅すぎた。
一瞬の隙を突き、アルフレッドが繰り出した技は……ラウリート流双剣術の奥義。
相手の脇を駆け抜けながら両腕、両脚、頸動脈を一瞬にして断ち切る大技をまともに受け、
アイベルトは派手に血しぶきを噴き上げながら倒れた。

447名無しさん:2019/03/04(月) 01:41:18 ID:???
「はぁ、はぁ……!消耗していたのは、私だけではないようですね……!」

「ご、ふ……!まさか、この俺様が、逆リョナされよう、とは……!」

アルフレッドの技を受けて、地面に倒れ伏すアイベルト。将来の強敵を減らす為に、トドメを刺そうとするアルフレッドだが……


「……アル?アイベルトとけんかでもしたの?あんまりいじめちゃ、ダメだよ」

倒れたアイベルトに剣を振りかぶった瞬間、フラフラと歩いてきたロゼッタが、両者の間に立った。今の彼女の精神は、全てが壊れたあの日より前にまで退化していた。状況を正しく認識できておらず、アルフレッドもアイベルトも、自分の家の使用人だと思っている。

「……っ!お嬢様……お労しい……」

その余りに痛々しい姿に、アルフレッドは思わず、言われた通りに剣を止めてしまう。そして、その一瞬の間に……アイベルトとロゼッタの体が、光り出した。


「っ!?これは、まさか……!王が『セーブ・ザ・クイーン』を……!?」

「わぁ……!キレイ……!」

「お嬢様!いけません!早くこちらへ!その光に呑まれては……!」

咄嗟に手を伸ばすアルフレッドだが、自らを包む光に夢中になっているロゼッタは、クルクルと回りながら笑ってアルフレッドから逃げる。

「うふふふふ……!あはははは!光、キレイ……!」

やがて、ロゼッタとアイベルトは、光の中に消えていった。

「くっ……!私は、何をしているんだ……!お嬢様も救えず……!王も止められず……!」

色々と動き回っていたアルフレッドだが、結果は最悪としか言いようがない。

「……二兎を追う者は一兎をも得ず……いくら魔剣使いアルフレッドといえど、一人で全てのことをこなせるわけではありません」

「っ!何奴!」

「ご安心ください、私はローレンハイン……山の麓までアリサ様方をお送りした者です」

無力感に打ちひしがれていたアルフレッドに声をかけたのは、先刻唯たちと別れたはずのローレンハイン。

「本来ならば私の任務は送迎のみでしたが、魔の山の様子が尋常ではなかったので、様子を見に来た次第でございます」

「……知っていますよ、ローレンハイン殿……あのシュナイダーとは、共に剣を学んだ身であるとか……友の仇である私に、どのようなご用件で?」

「そう警戒しなくてもよろしい。私は貴方をスカウトしに来たのです、魔剣使いアルフレッド」

「……なにを仰っているので?」

予想だにしなかった言葉に、訝しげに眉をひそめるアルフレッド。

「神器をトーメント王に盗まれたのは一大事ですが、これはこの国を変える良いきっかけです……実力主義はそのままに、行き過ぎた個人主義を改善するには、我々は痛い目に遭わなければならなかった。
実際に、今回の我々の不手際は行きすぎた個人主義による、意識の統一化の稚拙さが原因としては大きい」

「……そう上手くいくでしょうか?皇帝殿はどんな考えなのです?」

「テンジョウ様自身、誰かとの絆の力を、アリサ嬢との触れあいにて身をもって知りました。今度ミツルギという国は変わっていくでしょう」

「……そう、ですか……アリサお嬢様が」

「単独では流石に限界が見えて来ているはずです。この際私もシュナイダー殿の事は水に流しましょう。共にトーメントに立ち向かう為、手を組みませんか?」

単独での暗躍に限界があるのも事実。そして、セーブをザ・クイーンを王が手に入れた以上、なりふり構ってはいられない。

アルフレッドは顎に手を添えてしばらく考えると、ゆっくりと口を開いた……

448名無しさん:2019/03/07(木) 00:50:40 ID:DpGRIy9I
「……うぅん……あれ?ここどこだ……?確か俺は……リザと熱い夜を過ごして、それから……」

「うぅ……おいアトラ、ごく自然に記憶を改竄するな……僕たちは戻ってきたみたいだぞ……」

朦朧とする意識の中でも突っ込みを忘れないシアナに感心しつつアトラが起き上がると、そこはトーメント城のエントランスだった。
入り口入ってすぐ正面にある、トーメント王の巨大金ピカ像が目に眩しい。
その下に倒れている金髪の少女の体がゆっくりと動いた。

「……ん、ぅ……」

「チッ、リザが起きちまった……せっかく寝てる間に人工呼吸してやろうと思ったのに……」

「馬鹿、そんなことしたらすぐにアイナのやつが……」

つい口から出した名前に言葉を切るシアナ。
アイナの死をリザには、どう伝えるべきなのか……
それを考えて頭がずしりと重くなったのと同時に、まだ彼女の死を受け入れられていない自分に戸惑う。

「……あれ……アトラ、シアナ……ここは、トーメント城……?」

「……ああ。お前も色々大変だったろ。ここに戻されたってことは、うまくいったみたいだ。」

「…………………………」

「……?アトラ……どうしたの?」

「え……ぉ、あ、ええエミリアちゃんどこかなぁ……お、お、俺らと一緒にいいいいたんだけどぉおぉ……」

「……エミリア……じゃあ、私みたいに倒れてるかもしれないから、探そうか……」

「お、おう……!」

(……こいつ、本当にリザのことが好きなんだな……)

アトラの緊張感がビリビリと分かりやすく強烈に伝わってくる。
好きな女の子がもうすぐ絶望に打ちひしがれてしまうかもしれない……
そう思うと気が気でないのであろう。
そんなアトラの様子を気の毒に感じたと同時に、少しだけ恨めしいと感じた。



「あ、エミリア……起きて。」

「うぉ!?アイベルト!?なんか血まみれだぞ!!!メディーック!!!衛生兵ーーー!!!」

「おいロゼッタ、起きろ……うわ!?な、なんだよ!なんで抱きついて……ちょ、やめ……!」

ムニャムニャと起き出してから元気がないエミリア、なぜか血まみれのアイベルト、いきなり「シアナ〜!」とロリボイスで抱きついてくるロゼッタ。
とりあえずアイベルトは衛生兵に押し付けたところで、奥の扉が開かれた。



「やぁみんな、ミツルギまで遠征お疲れ様……色々と大変だったみたいだね。」

「みなさん、お疲れ様でした!あ、すぐお茶でも用意しますね……」

「ふん……見たくない顔もいるけどね……」

現れたのはヨハン、フースーヤ、サキ。
これでアイナとスネグアを除くメンバーが揃ったことになる。
フースーヤが飲み物を持ってきて全員が人心地ついたタイミングを計ったかのように、扉の奥から声が響いた。



「やぁやぁ十輝星諸君!実によくやった!なりゆきで行った旅先で君たちが運命の戦士たちを集めてくれたおかげで、ついに神器も手に入った!これがあれば……全てを掌握することも夢ではなぁい!」

「おお、なんか王様テンション高いな……」

「クックック……当たり前だろう?神器は全てを掌握する力。正しい使い方がわかるのは俺様だけ……強力すぎるが故に今まで興味がなかったが、普通に遊ぶのも飽きたからな。」

「……遊ぶ……?」

「俺様にとって全ては遊びだ……だがちまちま侵略していくチャチな遊びは終わりだ。神器を使ってすべての国を侵略し尽くし、トーメント王国を最強国家にしてやる……それでこの世界は終わりだ……ククククククク!!!」

何か含んだような言い方で戦争の始まりを告げるトーメント王。
その様子を見た王下十輝星たちは、様々な感情を抱いていた……

449名無しさん:2019/03/07(木) 00:54:00 ID:???
「止められ、なかったのか……」

「……唯、ごめん……私……私は……」

「瑠奈……ううん、今は何も言わないで……とりあえず、テンジョウさんたちに報告しに行こう?」

王を止めることができず、決戦は戦争編まで持ち越しとなった唯たち。
王が去り際に放った言葉……瑠奈だけは、自分たちが帰ることよりも王を倒すことを優先するのに納得がいっていない、ということ。
そのことについて話し合いたい気持ちはあるが、何はともあれ報告を急ごうとする唯たち。そこに……

「おっと、その必要はないで。一足も二足も遅くなって堪忍な、運命の戦士たち」

「え、あれ?大会取り仕切ってた人?」

「あー、言っとらんかった?実はウチな、討魔忍五人衆やねん」

「えーー!そうなんですか!?」

「先ほどは力になれず、すまなかったな篠原唯」

「……この、惨状を……トーメント王が……母様……!」

突撃現れたのは金尽のコトネ。その後ろには沈痛な面持ちのササメと、無表情のアゲハがいた。リザに殺されかけた2人がコトネに状況を報告した所、彼女は自ら魔の山に登ることを選択したのである。

「本来魔の山は皇帝以外立ち入り禁止……ハーフのササメや暗部のアゲハを送るのも限りなくグレーに近い黒やったが……こうなってまうと、もう関係あらへんからな」

コトネが周囲を見回す。王に暴虐非道によって、ヴィラの戦士ミゼルが体を魔物に乗っ取られ、他の一族や雪人を虐殺して回った惨状の跡は、あちこちに残っていた。

「コトネ様、我々は生存者を探して参ります」
「ひょっとしたら、母様もどこかに……!」

「おう、行ってきてええで。ウチは5人と話があるさかい」

あくまでも任務然とするアゲハと、母のことを心配しているのを隠しきれないアゲハが、周囲に散っていった。

「これを見るに……セーブ・ザ・クイーンは持ち逃げされてもうたみたいやな!かー、金も払わずにパクるとは許せへんな!」

「えっと、ごめんなさい……私たち、トーメント王を止められなくて……」

「ゆうて神器なんてテンちゃん以外は御伽噺の中でしか知らんから構へん……とまでは言えんけどな、テンちゃんは体制を変える良い機会と思ってるみたいやで」

「テンジョウが?」

「まぁウチらも今まで、各々で好き勝手し過ぎやったからな……テンちゃんの下で組織を一本化する、って話や」

神器を王に奪われたのは大きな痛手だが、ミツルギはこれを機に大きな変換点を迎えようとしていた。或いは負った痛手以上の物を手に入れたのかもしれない……


「ちゅーわけで、運命の戦士の5人には、ちょっくらテンちゃんやヒカリ王女、リリス女王の所まで来て貰って、今後の話をしてもらいたい……っと失礼」

話しの途中で着信があったようで、懐からスマホを取り出してポチポチと操作するコトネ。


「特にメイドちゃん……いや、アリサ嬢ちゃん。アンタにとっては、ちっと重要なお話になるかもしれへんで」

450名無しさん:2019/03/08(金) 01:28:12 ID:???
ユキはミシェルに魔導義肢をカチャカチャと弄られた後、スネグアに目隠しをされた上で薄手のノースリーブワンピースを着せられて、ベッドに大の字に拘束されていた。そしてそのベッドに、ミシェルのくすぐり拷問機械がセッティングされる。

(だ、大丈夫……ただの、治療、なんだから……)

くすぐり拷問機械……と言えど、ブラシやら羽やらのくすぐったそうなものと、いくつかのロボットアームが付いているだけの、雑然とした機械だ。それはユキも目隠しされる前に見ていた。
恐怖心はあるが、ユキは心のどこかで『くすぐり』という行為を甘く見ていた。甘く、見てしまっていた。

「くすぐりというのは馬鹿にならない。古代には足の裏をくすぐる拷問があったくらいだからね」

ユキの内心を見透かしたようにそう言いながら、スネグアが手元のスイッチで機械を作動させる。次の瞬間、ロボットアームが羽ペンを持って、ユキの脇のくぼみをツゥーと撫ぜる。


「ひゃっ!?」

ビクッ!と体を震わせるユキだが、拘束のせいで逃げることは叶わない。いくつかのロボットアームが、ユキの脇から脇腹に這うように手を動かし、何度も何度も、無機質に、ユキの脇腹をくすぐる。

「くふっ!あははは!ひっははは!!」

徐々に激しくなってくるくすぐりだが、まだ余裕がある。この程度なら、母や姉と戯れにやりあったことものある。そう思っていたユキだが、くすぐりが長くなるに連れて、その苦しみは増していく。


「なん、で、慣れ、ない、のぉ……!あ、ははははははっは!!!や゛め、!!! やめ゛、で、あははっははははっははっははは!!!!」

体を反らして浮かび上がるあばら骨をアームにツーとなぞられ、コリコリとくすぐられる。

「普通はくすぐりというのは、刺激に慣れてしまうが……その辺りはミシェルのお手柄だね」

「上手いこと魔導義肢を調整したからね。まぁ魔導義肢込みでの人体改造なんて、私にかかれば楽勝よ」

魔導義肢が刺激を何倍にも増幅して、ユキの神経にダイレクトにくすぐったさを伝える。これを長時間繰り返すことで、徐々に神経が魔導義肢に繋がり……膨大な魔力に頼らなくても、魔導義肢を動かせるようになるのだ。あくまでも医療行為だと言うスネグアの言葉に、嘘はない。

ユキもそれを分かった上で受け入れたが……想像以上の苦痛に、思わず許しを乞ってしまう。勿論、スネグアがそれを聞いてくすぐり拷問機械を止めることはない。
そして遂に、一番くすぐりに弱いとされる、足裏に対し……大量の木製の棒が、迫っていく。


カリッ……カリッ……カリカリカリカリカリカリカリカリ――――――――ッ!

「ひひゃははははははははははは!!!ッはははは!!!げほっ?!ごふッ……ひゅっ……あはははははははッ!?!」

足裏の窪みを棒でカリカリとくすぐられた瞬間、ユキは今までで一番の擽感に襲われる。

笑いすぎて心拍数はドンドン上がり、心臓がバクバクと痛い。面白くて笑っているなら自分で加減もできるだろうが、くすぐられて無理矢理笑わせられているユキに、そんな加減などできようはずもない。


くすぐられていることで体が勝手にビクビクと震える。両足が攣って、腹筋が痙攣し、肩も外れそうだ。それでもなお、無理矢理笑わせられる。長年の病院生活で肺の機能も弱まっていたのもあり、呼吸困難に陥る。

「か、ひゅ……!んひゅぅうう゛!あはははははははっはははっはははははははははははははっ゛!!! 」

「たまには趣向を変えるのも良いものだな……ではミシェル、後は頼んだよ。私は王様たちに挨拶をしてくる。ついでに、リゲル殿も呼ぶとしよう」

451名無しさん:2019/03/10(日) 01:11:15 ID:???
「ひゃひひひひひひひひひひひひひひ゛!!! ひぃい゛ッ!! ひぃいいいいいいいい゛!!!!あ゛ははははははははははははははは!!!!」

スネグアが部屋を出ていった後も絶えまなく続く機械による強制くすぐりに、絶叫をあげるユキ。だが、こうやって無理矢理にでも治療されなければ、自分はずっと姉のお荷物になってしまう……その想いによって、何とかユキは耐えていた。

だが、それを見たミシェルは、更なる追い打ちをかける。

「ふふふ……今はスネグアも見てないし……絶好のチャンスね」

ミシェルはヘッドマウントディスプレイ……かつてユキが教授に洗脳された時に付けていたのと似た種類のものを取り出した。

「不死の研究に於いて、脳の劣化をいかに抑えるかは超重要……アルタイルの奴が記憶を弄ってあるアンタの脳みそは、貴重なサンプルなのよね」

そう言いながら、ヘッドマウントディスプレイを強引にユキに装着する。

「ひゃああはははははははははははははは!!!! っっひぃ!!! ッっひぃいィいい゛!!!なに、これ、ぇええ……!?」

「ふんふん。脳波の流れに微妙な異常があるわね。じゃあこれをこーして、あれをあーすれば……はい、ポチっとな」

ユキの質問には答えずに、手元のコンソールを操作してヘッドマウントディスプレイを作動させるミシェル。


その直後……ユキの頭の中に、凄まじい爆音が響く。

「っつうううう゛!!?? ひぅっ!!? ……っ……ッっ!!!」

明らかにくすぐったさとは別の要因で体を跳ねさせるユキ。ヘッドマウントディスプレイから流れる電波が、無理矢理彼女の頭の中を掻き回しているのだ。

「というわけで、色々電波を流したりするわね。リレーの都合上説明しとくけど、ひょっとしたら消されたはずの記憶が蘇る……かもね。ふふふ……」

452>>449から:2019/03/10(日) 17:25:41 ID:???
「下忍から報告があった。『竜殺しのダン』殿の生存が確認されたそうだ。少々負傷したが、命に別状はないらしい」
「そうなんだ!よかったー……あとでお見舞いに行かなきゃ!」

テンジョウ、リリス、ヒカリの待つミツルギ上に戻って来た唯達。
デスルーラやら何やらではぐれてしまっていた仲間の無事を知らされ、5人はひとまず安堵する。

「んで、本題に入るが……今回の事件で、やはりトーメントの奴らは危険だとハッキリと分かった。
ミツルギの諜報力、ルミナスの魔法力、シーヴァリアの剣術、そして……ナルビアの科学技術。
全てを合わせて、対抗しなけりゃならん」
「……トーメントが『セーブ・ザ・クイーン』の力を手にした今、一刻の猶予もありません。
私達は急ぎナルビア王国に赴き、会談を行う予定です」

テンジョウ、そしてリリスの口から、今後の展開が語られる。
……世界の命運をかけた戦いに向け、各国が動き出そうとしていた。

「まあ、偉い人同士の話し合いはこっちでなんとか進めるとして……
いざトーメントとの決戦となったら、やはり運命の戦士である君たちがカギになるのは間違いない。
それに向けて、君たちの実力を更に磨くには……まあぶっちゃけ特訓回をやっとくべきだ」

「その事なんだけど……ヒカリ。私、一度ルミナスに戻ろうと思うの。
魔法の修行には、その方が都合がいいし……水鳥も、心配してるだろうから」

あまりにもぶっちゃけたヒカリの提案に対し、最初に口を開いたのは鏡花だった。

「あの……リリスさん。ボクもナルビアに着いて行っても良いかな。
この間アルガスに行ったときはひどい目に遭ったけど、もしナルビアの技術をアヤメカに取り入れる事が出来たら………」

続いて彩芽が、珍しく能動的に言葉を発した。
これまでの戦いで常に誰かに守られっぱなしだった自分の現状を、少なからず気にしての事かも知れない。

「私も……もっと強くならないと……」
十輝星上位の実力者であるヨハン、そしてアイベルトにも、一対一で全く歯が立たなかった。
その事実が、瑠奈の心に深い影を落としている。
言葉とは裏腹に、瑠奈の心は闘志の火が消え、今にも重圧に圧し潰されそうだった。

「ところで……テンジョウ。コトネさんから窺ったのですが、何か『重要なお話』があるんですって……?」

453名無しさん:2019/03/10(日) 23:42:42 ID:2V.rVDc.
トーメント王は戦争の準備を皆に告げ、自室へと帰っていった。
残された王下十輝星たちは、来たる世界征服の戦いに想いを馳せ心を躍らせる──
わけもなく、沈黙していた。

「……あれ?皆さん、どうして元気がないんですか?王様がすごい力を手に入れて、世界征服にも手が届くっていうのに……」

「え、あ、あぁ……そうだな。諸外国全員が攻めてくるんだ。これからは特に忙しくなる。……全員の力をあわせて、やっていかないと……」

疑問に思ったフースーヤが声をかけるが、答えたシアナの歯切れは悪い。
いつも的確な指示出しで信頼を集めている彼の様子に、フースーヤは首を傾げた。

「まあまあフースーヤ。いきなり諸外国のすべてと戦争なんてスケールの大きい話、王様以外はびっくりして当然だよ。僕たちもさっき聞かされたときは、呆気にとられてしまったじゃないか。」

「え、そうですか?ヨハン様はいつも通り、落ち着いていたように見えてましたけどぉ……?」

「あはは……いきなり全面戦争なんて聞かされたんだ。あれでもかなり驚いてたよ、サキ。」

「そ、そうですか……?まぁ、ヨハン様はいつも冷静沈着ですもんね!」

ヨハンLOVEのサキがいつもより1オクターブ高い声で媚びた。
その様子を無視して辺りを見回していたリザが口を開く。



「ねぇ……アイナはどこ?ここにはいないみたいだけど……」

「……あれ?そういえばアンタのうるさい相方がいないわね。アホベルトはさっき医務室に行ったけど……」

「ほんとだー!アイナちゃんがいないよー?……ねぇ、どこにいったのシアナー?」

「あ、あれ?ロゼッタさんってそんなキャラでしたっけ……?」

「彼女の心はいつも不安定だ。ミツルギでなにかあったのかもしれないね……」

ロゼッタの様子がおかしくなったのを知っているのは、この場にいない。
アイベルトも気絶していた以上、仕方のないことではある。

「………えっと、リザ。アイナは……」

「………リザちゃんっ……アイナちゃんは……アイナちゃんはぁっ……!」

「……え、なに……?アイナがどうしたの?2人とも……おかしいよ……?」

苦虫を噛み潰したような顔のアトラと、すでに涙声のエミリアの様子に……リザの瞳がゆらゆらと揺れた。
心が落ち着かない様子が、彼女の目にはっきりと現れている。

2人からは言い出せないだろう。
だからシアナは、息を吸い込んだ。



「……アイナは死んだ。任務中の不慮の事故による殉職だ。……僕の立てた作戦ミスだ。すまない。」

感情を含まない機械的な声で、シアナが言葉を放った。
さすがにリザの方を見て言えなかったが、その必要もないだろう。
自分の言葉を聞いたリザの顔も、見たくない。
見れるはずもなかった。



「……アイナが……アイナが……」

消え入るような切ない声で、リザがそう言った。
エミリアはすでに泣き出していて、アトラは顔を伏せたまま。
フースーヤも神妙な顔で俯いている。

「アイナちゃん、死んじゃったの……?ねぇシアナ、どうしてアイナちゃんは死んじゃったの?ねぇねぇー?なんでぇ?」

「……ロゼッタ、ちょっとこっちに来ようか。僕が説明してあげるよ。」

事態を飲み込めない様子のロゼッタを、ヨハンが別室に連れて行った。

454名無しさん:2019/03/11(月) 01:10:52 ID:???
(……クソリザのやつ……全然取り乱さないのね。ウルウル涙目になってるだけ……さすがにちょっと拍子抜けだわ。)

皆が沈黙する中、遠巻きに様子を見ていたサキは唯一顔を上げて様子を見ていた。
他人の感情の観察は、諜報員である彼女にとって興味深いものである。
自分に関係ない他人の不幸ならば、それを観察するいい機会だ。

「……シアナ……私に言い辛かったこと、ちゃんと言ってくれてありがとう。……わたし、部屋に戻るね……」

そう言って踵を返したリザ。
皆がその小さな背中を見たが、誰も、なにも言えなかった。



「……そうなんですか……アイナさんは、エミリアさんを庇って……」

「う、うぅう……私が……私がぼんやりしてたせいだよぉ……!リザちゃん、すごく辛いはずなのに、あんなに冷静で……うぅ……」

「……アイナが死んだのは誰のせいでもない。アイナが自分で選んだ結果だ。……エミリアは自分を責めないでくれ。アイツもそんなこと望んでない。」

「うぅ……シアナくんっ……」

エミリアはあの時、アトラやシアナたちと離れて暮らそうとアイナに言った。
それは十輝星というポジションからアイナとリザを遠ざけるつもりだったが、やはり彼らもアイナにとって、かけがえのない存在だったのだろう。

そんな存在を置いていくような提案をした自分を、エミリアは後悔した。
断れても、当然の提案だった。

「……リザのやつ……かなり無理してたっぽいけど……だ、大丈夫だよな?ドロシーの時もすげえ思いつめてたし……親友2人を失くして、早まるとかないよな……?」

「お前、縁起でもないことを……そんなことアイナが望むわけないのは、あいつが一番よくわかってるだろ。今は……1人にしてやったほうがいい。」

ドロシーが死んだ時は、リザは一週間も部屋から出てこなかった。
その間はアイナがご飯を持って行って会話をしたが、それでも部屋から出て完全に立ち直ったのは、かなり最近のように思える。

(……リザは最近ようやく感情を表に出すようになったのに……また能面みたいな風になるのは勘弁だな。これから大きな戦争になるんだし……)

そこまで考えて、シアナは違和感に気付いた。

(……おかしいな。なんで僕がこんなに他人に気を使う必要があるんだ。ドロシーが死んだ時だって、無鉄砲が祟ったんだとそんなに気にもしなかったのに……なんでこんなに今、いろんなことを考えて……)

今の自分は、アトラやエミリアに冷静さを説き、リザの心を案じている。
自分は彼らの親でもないのに、なぜか他人の心配ばかりしてしまう理由は、すぐに見つかった。



(そっか……今本当に考えなきゃいかないことは、大好きな女の子が死んだこと。……でもそんな悲しいこと考えたくないから、他のことに気移りしてるだけ……だな……)

ドロシーの話によれば、神器を使えば死者を蘇らせることもできるという。
だがそれは、十輝星を蘇生しないという王の意向に背く行為。
勝手に神器の力をそのようなことに使うことも、王は許さないだろう。

(僕……いや、僕たちも、闘いとは別のことを、色々と考えるべきなのかもしれないな……)

エミリアを守るために命を落としたアイナと、自分たちを守るために魔法を展開した鏡花が重なる。
起こった事実たちが自分をどう動かそうとしているのか……
シアナは、ゆっくりと考えることにした。

455>>452から:2019/03/12(火) 22:46:54 ID:???
「その辺は、本人に話して貰った方が早いな……おい、出てきていいぞ」

アリサの質問に対してテンジョウは、部屋の奥の襖に声をかけることで答えた。ゆっくりと開いた襖から出てきたのは……


「……お久しぶりですね、アリサお嬢様」

「あ、あなたは……アルフレッド!?」

「アルフレッドさんも無事だったんですね!良かったです!」

突然現れた因縁の相手に、驚きを隠せないアリサ。その横で唯は平常運転だった。


「驚いたか?実はな、こいつをスカウトすることにしたんだ。当然、公の立場には置けないがな」

「……今まで、一人でコソコソ動いてたあんたが……どういうつもりよ?」

瑠奈は自分たちをミツルギに連れてきた元凶に思うところがあり、トゲのある口調で問い詰める。

「単独での活動に限界を感じた……といったところですかね」

「なんか今度は方向性の違いを感じた……とかで離脱しそうな言い方だな」

「彩芽ちゃん、ちょっと黙ってて」

シリアスな空気になるとついふざけたくなる彩芽だが、鏡花にバッサリと斬り捨てられてしまう。

「でもまぁ、今は仮採用って感じだな。こいつをどうするかは……アリサ姉ちゃん次第だ」

「私、次第?」

「ソフィア・アングレームとその一味は、私にとっては怨敵でしたが、貴女にとっては良き母であり、良き師匠であったことでしょう……ここで積年の恨みを果たすというなら、それもいいでしょう」

やや投げやりにも感じられるアルフレッドの言葉。彼は以前から影のある男だったが、今は以前にも増して憂いを帯びている様子だ。


「最早私では、ロゼッタお嬢様を救うことはできませんから……」

「……どういうことですの?まさか、彼女に何か!?」

アリサは、嫌な予感がした。ブラッディ・ウィドーは自分が相討ちで仕留めたが、発作が起きた状態であんな洞窟に放置されていては、何かが起こってもおかしくはない。

「……貴女が王の元で生き返った後……ロゼッタお嬢様は、ブラッディ・ウィドーの雄の大群に襲われ……心が……」

「そ、そんな……!」

自分が王と対峙している間に起きた悲劇に、悲痛な声を出すアリサ。

「……お優しいのですね、アリサお嬢様……ロゼッタお嬢様とは、敵同士でしょうに」

「敵同士など……関係ありませんわ。私は……彼女の、子供のように純真な心を、救いたかった……私も以前、同じように、復讐に囚われていたからこそ……」

そう言った後、アリサは自らの胸に手を置くと、決意を込めた目でアルフレッドを見つめる。

「アルフレッド、私は……私は、貴方を許すことはできませんわ。けれど……もう、憎むこともしません」

「許さないけれど、憎まない……ですか」

「人の心というのは、複雑なもの……ロゼッタさんを見て、そして改めて貴方と会って……ようやく分かりましたの。この、愛憎入り乱れたグチャグチャな心は……グチャグチャなままが一番綺麗な形なんですわ」

「おお……今日の亜理沙は、なんかいいこと言ってるっぽいけど冷静に考えたら矛盾してる言い回しを多用するなぁ……」

「ちょっと彩芽、空気読みなさいよ」

「だって亜理沙ばっかりイケメンとか権力者ショタと絡んでてズルいじゃん」

「まぁそれは確かに……」

「私は!!」

余計な事を言っている彩芽と瑠奈を黙らせるため……ではなく決意表明として、アリサは声をあげる。

「私の考えは変わりませんわ……!ロゼッタさんの心を救います!どれだけ壊れているように見えても……心の光は、決して消え去ることはないのだから!」

「……ならばアリサお嬢様には、私の元でラウリート流の剣術を学んで頂きたい。ロゼッタお嬢様の正気を取り戻すには……貴女の輝きと、ヴィオラ様の剣術が必要不可欠です」

「……望むところですわ!」

456>>451あたりから:2019/03/16(土) 13:34:02 ID:???
トーメント王が王都に帰還する、少し前の事。
闘技場にて、試合開始を間近に控えた一人の少女闘士が身支度を整えていた。

「……何よ、この剣。ロクに手入れされてないじゃない……大丈夫かしら」

年の頃は17歳くらいか。髪は茶髪で、側頭部をリボンで結んだ女の子らしいサイドテール。
幼い容姿と少し舌ったらずな声も相まって、まさに美少女然とした印象を与える。

彼女の名はイヴ・ステリーア………元はルミナスの魔法少女学校に通っていた見習い魔法少女だったが、妹のメルともどもトーメント王国に囚われてしまっていた。

「でも、やるしかない……絶対に勝って、メルを助け出さなきゃ」

そう……イヴがこの闘技場で戦う事になったのは、妹のメルを解放するため。
その交換条件として提示されたのは、
トーメント王国の技術者が開発したという、ある「装備品」の実践テストに協力する事だった。

だが、その「装備品」がどういう物なのかは、聞かされていない。
武器として持たされた剣は、手入れこそ杜撰だがいたって普通の品のようだ。
となると、怪しいのは……

「……試合ではこれを着ろ、って言われたけど……この服に何か仕掛けがあるのかしら」

全身を覆うインナースーツにスパッツ、薄紅色と白のジャケットに、無駄にヒラヒラなフリルのついたスカート。
露出度は控えめだが、どことなく変身した魔法少女を思わせる(フェチい)コスチュームである。

「考えてても仕方ない……とにかく今は、やるしかないんだ……!」
心の奥から止めどなくあふれ出す恐怖と不安を押し殺して、イヴは闘技場へと向かう。
その先に待つ運命は、果たして………

…………………

同じ頃。

「んで、教授〜。噂の『神ゲー』って、コレ?」
「クックック…その通り。今後間違いなく一大ムーブメントを巻き起こすだろう、VR格闘シミュレータ。
操作デバイスは段ボール製だ!」

トーメント城の研究室にて、ジェシカは教授から何やら怪しげなマシン(段ボール製)を手渡されていた。

「いや、ねーだろ……まあとりあえずやってみるけどさ………おおっ!?これは!?」
半信半疑ながらVRゴーグル(段ボール製)を被り、グローブ型の操作デバイス(段ボール製)を身に着けるジェシカ。
彼女の目に飛び込んできた物は……

…………………

「「「ワアアアアアアア!!」」」

(どっかで見た事あると思ったら、ウチの闘技場じゃん。CG……じゃなくてリアルタイム映像?)
(その通り。プレイヤーは個性豊かな闘士たちを操り、闘技場の覇者を目指して戦う的なやつだ!)

「さあ久々にトーメント闘技場での試合開催であります!
時系列的には今まさにミツルギのトーナメントも行われている頃ですが、気にせず行きましょうカイセツさん!」

「よろしくお願いします!さて、本日の闘士は魔法少女見習いのイヴ・ステーリア選手。
捕まっている妹を助けるために闘技場に参加したという、グッとくるエピソードの持ち主です。」
「チョイ役にも関わらずなにげに登場時から美少女扱いされてますね。
どんなリョナられっぷりを見せてくれるのか、非常に楽しみです」

「ウォォォ--!!いいぞー!ブッ殺せーー!」
「イヴちゃん俺だー!!結婚してくれーー!!」
「スパッツ!スパッツ!」
「コスが割とかわいい系だな…俺はもっと露出度高い方がいいぜ!!」
「いやいや!ああいう子には、清純な雰囲気の方が似合うんだって」
「まあどうせ全身ひん剥かれるんだけどな……デュフフフフフ」

「うう……何なのよ、あの解説は……会場の雰囲気も何か怪しいし」

早くも会場の雰囲気にのまれ始めたイヴ。対戦相手の詳細は聞かされていない。
どんな相手なのか、自分の実力でどこまで立ち向かえるのか……不安を掻き立てられつつも剣を構えた、その時。

(ぞわり………)
「ひんっ!?……な、何今の。誰かに……いや、何かに、触られたような………!?」
お尻を誰かに撫でられた。いや、粘着質な舌のようなものが、お尻の辺りを這い回るような感触を、イヴは覚えた。

(おおー。本物そっくりの手触りっすね!段ボールのはずなのに)
(そうだろうそうだろう!……君は闘士の着ている特殊スーツと一体化して、
彼女を手取り足取り腰取り操作し、勝利を目指すのだ!)
(うわ!回りくどっ!めんどくせー!……でも面白そうっすねぇ……ヒッヒッヒ)

457名無しさん:2019/03/16(土) 19:22:24 ID:???
「対するはぁああ!!多分もう誰も覚えてなかった『敗北雌犬(マケイヌ)』の異名を見事に返上中!現在6連勝中のぉおお!!は〜〜る〜〜か〜〜わ〜〜!!さぁくぅらぁこぉおおお!!」

反対側のコーナーから現れたのは、艶やかな黒髪を頭の後ろでひとつに纏めている女性……春川桜子であった。

彼女の鎧は露出も少なく、決して性を強調するわけではなくしかしそれでいて所々体のラインをなぞっており、女性らしいシルエットを描き出している。
そして右手には質素だが確かな威力を誇るであろう剣……ようするに初登場まんまの出で立ちである。

「くっ、今度は魔物ではなく、女の子だと……!?君!悪いことは言わない!棄権するんだ!今の私では君を傷つけてしまう!」

「なっ……!馬鹿にしないでください!その心遣いは嬉しいですけど……!私だって、譲れないものの為にここに立っているんです!」

イヴとて、てっきりもっと凶悪な魔物と戦わされると思っていたら、優しげな女性が相手だったことに驚いている。
だが、だからといってメルを諦めることなどできるはずもない。相手の女性も訳ありなのだろう。それ以上は何も言わず、既定の立ち位置まで歩んできた。

「おーーーっと!両者いきなりのバチバチモードだぁあああ!!」
「厳密にはバチバチとはちょっと違う気もしますが、細かいことはいいでしょう!さて実況サン!ゴングをお願いします!」
「では久々にあのゴングを行きますよー!第一試合、イヴ・ステリーアバーサス春川桜子!LETSROCK!!!」」


「とにかく、まずは魔法で……きゃっ!?」

ゴングの直後。戦い慣れていないイヴは、とりあえず距離を取りつつ牽制しようとしたのだが……先ほどと同じく、何かに勝手に触られたかのような感触の後に、その体は勝手に桜子の元へ向かっていく。


(うぉおおおおお!!先手必勝!突撃あるのみっすーー!!)


「く、やはりダメか……!すまない!」

桜子は唇を噛みしめてそう言った後……スマ〇ラのFE勢がよくやるカウンターのポーズを取る。そして、イヴの余りに弱々しいパンチに合わせ……

「瞬覇一閃!」

「え……きゃあああああぁあ!!?」

一気にイヴの懐に踏み込み、剣を振りぬいた。勝手に動いた体が咄嗟に身を翻したが、横腹の辺りをバッサリと斬り割かれた。

(ちょ、あぶな!?)
(キャラの性能を考えて動け!あっちのプレイヤーは、ランカーだぞ!)
(ランカー!?マジっすか!?)
(ネット友達の✞甲賀✞にもニン〇ンドーラボを装って送ったら、即ランカー入りしてな……)
(こっちは初心者っすよ!?マッチングのバランスが崩壊してるっすー!)

「くっ、すまない……!だが、体が、勝手に……!」

「が、ふ……!い、やぁああぁ!」

熟練ゲーマーらしい、大技ではなく細かいコンボでダメージを稼ぐ戦法。避けようとするイヴの動きを的確に先読みし、桜子の剣は少しずつだが着実に、イヴの柔肌を切り裂いていく。

(ククク……小技の連続でもうフラフラだね……ここらで大技を行くよ!)

「っ……!君!私の右腕に注意してくれ!」

「はぁ、はぁ……右、腕……?」

「ダメだ、止められない……!GUGAAAAAA!!」

突如、獣染みた叫び声をあげる桜子。その直後、彼女の右腕が突然大きく膨張し……

「え……おっごおおおおおぉおお!!?」

魔物の力を解放した桜子の右腕が、イヴの腹部を深々と抉った。

458名無しさん:2019/03/20(水) 00:32:15 ID:???
「はぁ……めんどくさいわね……」

艶やかな黒髪を揺らしながらトーメント城の廊下を歩く少女。
その端正な顔にははっきりと不快感が現れていた。

(周辺諸国全てを敵に回して戦争するから、情報収集、諜報活動、軍備の制限……その他諸々全部私やヨハン様に全部押し付けるなんてっ!あのクソ露出狂……!)

戦闘向きではないサキは、その諜報能力を活かして情報を集める任務が多い。与えられた任務は適切と言える。
だが、それにしても話が急すぎるし、個人に与えられる仕事量ではなかった。

(……とはいえ、諜報活動が片付いた後はヨハン様と2人っきりになれる時間が多くなるのはいいわね……朝から晩までずーっと私と一緒にいてくれれば、ほんのちょっとでも女として見てくれるかもしれないし……ふ、フフ……!)

サキの顔に小悪魔のような笑顔が浮かぶ。性格は曲がっていても、恋愛への興味は年相応にあるサキであった。



(さて……まず、舞のことは助けてあげないといけないわ。任務と偽ってでもナルビアへの潜入を優先させて、あの子を連れ戻さないと……)

ヨハンとの恋愛のためか、舞のためなのか、その両方か──サキは早速自分のこれからの行動を決めようとしている。
そんな彼女の前に、ふらりと現れたのは……


「……あ……サキ……」

「……げ、クソリザ……!」

昨晩、親友の死を告げられ、目の下を真っ赤にしているリザだった。



「…………………………」

「……な、何よ気持ち悪いわね……アンタと話すことなんかなにもないわ。空腹なら食堂でも行ってなんか適当に食べれば?……それじゃ。」

なにか言いたそうなリザを言葉で突っぱねると、サキはすぐにその場を後にしようとする。

「……サキ……待って……」

か細い声が聞こえたかと思うと、サキの左腕に小さな手が添えられた。

「な、ななっ!何気安く触ってんのよっ!あたしはアンタの友達じゃないんだから、許可なく触ってん、じゃ……!」

いつものように悪態をつきながら、リザの顔を見たサキは言葉を失った。
彼女の双眸に宿る儚いような光を、なぜか──美しいと錯覚してしまったから。



「……サキ。私……サキと少し話したいことがあるの……私の部屋に来てくれる……?」

「……はぁ、全くなんなのよ……!本当に少しだけなんだからねっ!」

お前は一昔前のツンデレか!と脳内で自分にツッコミを入れつつ、サキはリザの部屋へと案内された。

459名無しさん:2019/03/20(水) 00:40:56 ID:3P90T4YE
「……ごめんね。急に……」

「全くよ。ていうかアンタの部屋、なんていうか、生活感なさすぎ……」

リザの部屋には、机とベッドと本棚と収納のための箪笥やクローゼットがあるのみ。
机の上には仕事の資料が並び、本棚には娯楽本はなく、暗殺術や各国に纏わる資料ばかり。
趣味や遊びなどの人間としての余裕ご全く感じられない、無機質で無個性な印象を与える部屋である。

(つくづく面白みのない奴だと思ってたけど、まさかここまだったとはね……趣味っていうものは全くないのかしら)

「……あ、椅子に座っていいよ。わたしはベッドに座るから……」

リザに勧められる前に、サキは椅子を引いて腰を下ろした。

「で?なによ。さっさと終わらせたいから手短にね。アンタの部屋なんて居心地悪いわ。」

「……うん。話したいことだけ……本当に話したいことだけ話すね……」

顔を伏せたままのリザが、落ち着いた声を出す。
その声になぜか只ならぬ気配を感じ、サキは歪顔した。

「……本当に話したいこと……?」

「……ミツルギでいろいろなことが起きて……今のわたし、落ち着いてるように見えるかもしれないけど、結構不安定で……昨日の夜も、ずっと泣いてて……何度も叫んで……何度も吐いてて……」

本人の言う通り、落ち着いているような声だが、脆さを隠しきれていない、抑制しきれていない感情があるのは、サキの耳にはわかる。
感情の機微に敏感なサキには、リザのできるだけ隠そうとしている感情が透けていた。

「……自分のこんな弱くて脆くて情けない姿、誰にも見せたくない……1人になりたい……だけどっ……1人でいると私、自分が何をするかわからなくて……怖くてっ……!」

(……こいつに何があったか知らないけど、自己否定が強くなってるみたいね。もともとそういう性格なのが、何かをきっかけにさらに強くなっている……自己憐憫するタイプじゃないし、ちょっと危険な状態かしら……)

自己否定をするタイプの人間は、他者から褒められることが苦手で、ちょっとした贅沢でも自分には不相応と思いこむ。
悪い方へ悪い方へと思い込みが過ぎると、自己を破滅させる行動に出ることも珍しくない。

(ま、エミリアとか自分の友達にこんな姿見せるよりは、自分に対して何の感情もない私の方がいいって魂胆か……こいつも結構図太いとこあるわね。)

「だ、だからぁっ……!誰でもいいから……私のことが嫌いなサキでもいいから、全部聞いてほしっ……くてぇっ……!」

リザの声が涙声になる。どうやらまだ泣き足りないらしい。
無慈悲な暗殺者となっても、まだ泣くような感情が残っているものなのか……とサキは思ってしまった。

「ホントに弱いのねぇ……はいはい。聞いてあげるから話しなさい。あんたが今思ってること、全部よ。」

「……っううぅ……!ひっぐ……!サキいぃ……!」

顔を上げたリザの目から、大粒の涙が溢れ出した。

460名無しさん:2019/03/20(水) 02:21:01 ID:???
「……つまり、死んだと思ってた姉と再会したと思ったら、トーメント王国で活動してるのを滅茶苦茶にディスられて、いい感じになった男にも自分の十輝星ってバレて別れた……と」

「ひぐ、ぐすっ……うん……」

リザが涙ながらに語った、ミツルギでの出来事……それを聞いて、流石のサキも少々同情した。

「お姉ちゃんは……お姉ちゃんだけは……私のことを、分かってくれると思ってた……!ひぐっ……!私だってぇ……!好きで、こんなこと……してるわけじゃ、ないのに……!」


「あっそう……まぁ私は家族とは良い関係を築けてるから興味ないけど、ちょっとは同情してあげるわ」


ナルビアの諜報員に襲われたことで、なし崩し的に出所した母と……スネグアの元で『治療』を受けているユキのことを思い出し、サキの顔が曇る。

(あの変態男装女は信用できないけど……ユキが、決めたことだからね……)

ナルビアから帰還してすぐ、サキはユキを助けにスネグアの元に行った。けれど、スネグアはただユキをナルビアから保護しただけだと嘯き……あまつさえ、ユキの体を魔導義肢の無しでも動けるように治療するなどと宣った。

当然サキは抗議したが、車椅子に乗って現れたユキが、涙ながらに自分自身が治療を望んでいること、これ以上サキの負担になりたくないことを語った結果、サキの方が折れた。


「……サキ?どうしたの?」

「なんでもないわ。それで?結局アンタはどうしたいの?私だったら同じ種族ってだけのその他大勢より、身内を選ぶけど、ね……」

一瞬物思いに耽っていたのを目敏く感じ取ったリザが質問するが、リザ相手に身の上話をする気はないサキは軽く流した。

「そんなの……分かんないよ……!お姉ちゃんが言ってることも分かるよ……!でも、私は……私はぁ……!」

再び感極まったリザが涙を流すのを、サキは不思議な気持ちで眺める。グチグチと悩む姿にイラつくと同時に……どこかその姿を儚いと思う。

「……どっちかしか手に入らない、なんて……想像力が足りないわよ」

「え……?」

どこぞのポケ○ンのリメイク版の新キャラみたいなことを言い出したサキに、リザは不思議そうに涙が輝く瞳を瞬かせる。

「アンタが十輝星になったのはなんで?」

「それは……アウィナイトのみんなを、守る為に……」

「違うでしょ。いい子ぶってんじゃないわよ。アンタが十輝星になったのは、トーメント王国の権力で好き勝手する為でしょ」

「サキ……それじゃ、手段と目的が、逆だよ……」

「あーもう一々口答えしてウザイわね!アンタがしたいことがたくさんあるなら、全部手に入れてみせなさいよ!どっちかしか選べないなんて、硬派気取ってるノベルゲームじゃあるまいし!」

次第に口調に熱が入り、声が大きくなっていくサキ。

「無理だよ……お姉ちゃんは……この国で、酷いことをたくさんして来た私を、恨んでる……!またお姉ちゃんと仲良くなんて……私がトーメントを裏切りでもしない限り……!」

「今さらいい子ぶるのは無しよ。姉を無理矢理、力尽くで納得させて屈服させるくらいの気概でいきなさいよ!」

リザが戦いでボコボコにされてたらむしろ笑うサキだが……なぜだか、彼女が力なく泣いているのが、許せなかった。

「欲しいものは、力尽くで手に入れる……!それが私たちのやり方でしょうが!!そうやって、どうしようもないって泣いて悩むのは、奪われる側の弱者よ!でもアンタは……悔しいけど、ライライを倒すくらい強いんでしょ!!」

「サキ……」

「私はアンタなんて大っ嫌いよ。だからこそ、アンタがそうやってウジウジして、まともぶってるのが許せない。力尽くで納得させてみなさいよ、姉を……露出狂が前言撤回するくらい働いて、アイナを生き返らせてみなさいよ!男なんて、そいつが好きなら囲い込みなさいよ!」

サキは椅子から立ち上がってリザの胸ぐらを掴むと、その青色の瞳をまっすぐに見据える。

「悪党なら悪党らしく、全部自分に都合よく生きなさい!被害者ぶって、悲劇のヒロイン気取って泣いてんじゃないわよ!!」

言いたいことを言い切ったサキはリザの胸ぐらを離すと、踵を返す。


「……お生憎。本当に私がアンタの話なんて黙って聞いてあげると思った?アンタにボロクソ言ってスッキリしたから、私は帰るわね」

そう言って部屋を出ていこうとするサキ。リザは、青い瞳をキョトンとさせたあと後……

「サキ……ありがとう……励ましてくれて……」

「……ふん」

リザの礼を背中に受けながら……サキは、部屋を出ていった。

461>>457から:2019/03/21(木) 18:54:27 ID:???
「クソ……!こんな……!」

「お、ご……!ぐ、がぁぁあ……!」


桜子に力の限り腹部を殴打され、のたうち回って苦しむイヴ。それを見て顔を歪ませる桜子だが、今はこの体はプレイヤーによって操られている。目の前の少女への攻撃を止めることは叶わない……かと思われたが。


(やっぱり必殺技は爽快だね……さて、次は……)

(カイ殿!何遊んでるでござるか!今闘技大会は大盛り上がりですぞ!早くしないとスライムに憑依してアイセ選手のエロエロボディを堪能できなくなるでござる!)

(おわ!?おいモブ下忍!それはものすごくそそられるけど、今忙しいんだ!デバイスを取り上げるな!)

リアルの方で✞甲賀✞……カイ=コガにアクシデントが発生し、桜子の動きが不自然に止まる。


(勝機!魔法を喰らうっすーー!)

「ぐ、ごほっ!が……!エレキ……スパーク……!」

これまで学校の模擬戦以外でまともな戦いなどしてこなかったイヴは、本当ならばもっとお腹を押さえてうずくまっていたかった。

けれど、メルを助けなければならないという決意……そしてそれ以上に、体を操作されていることで、体は勝手に起き上がり苦痛に顔を歪めながらも、雷属性の攻撃魔法を放つ。


「くっ……ぐぁあああああああ!!!」

いくら初級魔法とは言え、直撃すればそれなり以上のダメージになる。ましてや金属製の鎧は雷に弱い。
体をピンと伸ばした状態で苦悶の声をあげる桜子。

「ごめん、なさい……!でも、私は……!メルを、助けないと、いけないの……!」

「ぐ、は……!それは、お互い様、さ……私にも……勝たなければならない、理由がある……!」

雷魔法を喰らって、がくりと片膝をつく桜子だが、その闘志は消えていない。彼女とて、いくら相手が美少女とはいえ、わざと負けるわけにはいかないのだ。


(まったく、あのアホ下忍が……無駄なダメージを食らってしまったじゃないか。さっさと片付けて、試合を見に行くとしよう!)

(ふっふっふ……このままジャイアンツキリングをかましてやるっすよ!)


奇しくも、プレイヤーと闘士の思惑が一致したところで……



「「はあぁあっぁああああああ!!!」」




互いにろくに手入れされていない剣で、切りかかりあう桜子とイヴ。その結果……


―――カラン


「あ……」


激しい剣戟で、イヴの剣が彼女の手からすっぽ抜けて、地面に転がる。


「ぃ、やぁ……!」

武器を失った途端、それまでイヴを支えていた闘志が、空気の抜けた風船のように萎んでいく。
無理もない。元々平和に暮らしていたところを、悪逆非道なトーメント軍に連れ去られ、妹とも離れ離れになり、スネグアの鞭で何日も調教され、戯れに闘技場に連れてこられ……武器を持つことで無理矢理アドレナリンを活性化させて戦っていたにすぎないのだ。

「やめ、てぇ……!いやあぁああああああ!!!」

「……すまない……!」

ただのか弱い少女へと戻り、命乞いをするイヴ。そんな儚い存在に対しても、桜子の体は勝手に動き……イヴの左胸から右脇腹にかけてを、バッサリと切り裂いた。

「……ぁ……」

イヴは斬られたことが信じられないかのように、呆けた表情をした後……


「メ、ル……ごめん、ね……」

ドシャリと、その場にうつ伏せに倒れた。

「試合終了ーーー!勝者は、桜子選手だぁああああ!!」
「イヴちゃーーん!最後の弱々表情よかったぞーー!」
「あーくそ桜子がまた勝ちやがった!さっさと殺戮妖精辺りにでもやられちまえー!」
「やっぱ女同士だと剝いたりしないから物足りないな」
「まぁまぁ、そういうのはまた今度にしようぜ。初戦で負けたってことは、あの子……借金持ちの闘奴確定だろ?ぐふふ……」


(あーーくそ!負けたっすー!)
(まぁ初心者ならこんなもんだろう。しかし、マッチングのバランスは確かにおかしかった……スネグアは何を考えてるんだ?)


「ククク……無垢な少女を手にかけた桜子は、最早以前のような戦意を保てないだろうな……そして、イヴちゃんの蘇生費用は私持ちになることで、好きな相手と闘わせられる……そう、例えば君とか……ね、メルちゃん」

「ご主人様ぁ……!あんな女どうでもいいから、お薬、いっぱい、くださぁい……!」

……こうして、悪の王国に囚われた者たちの受難は続く……

462名無しさん:2019/03/21(木) 20:53:19 ID:???
「……あぁああ!もう!なんで私が、クソリザのことなんかでこんなにモヤモヤしなきゃなんないのよ!」

リザの部屋を出ていったサキは、なぜ自分があんな風に、リザを焚き付けるかのような事を言ったのかが分からず、モヤモヤしながら歩いていた。と、そこに……

「おや、サキ……奇遇ですね」

「あ……よ、ヨハン様……」

ヨハンと偶然出会った瞬間、髪の毛をクルクルと弄って乙女モード全開になるサキ。

「サキ、ちょうどよかった。君は確かナルビアへの諜報を希望していましたね?ならば、これを差し上げます」

「……これは?」

ヨハンがサキに手渡したのは、ある観光地へのチケットだった。

「ナルビアに行きがてら、ご家族と観光地にでも行ってきてはどうです?ここのところ働き詰めですから、僕からの気持ちですよ」

「え、でも……妹は今、治療を……」

「先ほどスネグアの元へ行く用事がありましてね。妹さんの治療は一区切りついたとのことです。車椅子でなら、外出も可能とのことですよ」

「本当ですか!?良かった……!」

ヨハンから嬉しい報告を聞き、笑顔になるサキ。それを見てヨハンは言葉を続ける。


「これから休む暇もなくなるでしょうからね。仕事に行きがてら、というのは申し訳ないですが、少しでも羽を伸ばして来てください」

「え、そんな……本当にいいんですか?」

「もちろん。ただその分働いてもらいますから、そこまで感謝して貰わなくても結構ですよ」

「ヨハン様……ありがとうございます!」
(やっぱり包容力のある年上で大人のイケメンが一番よね!ほんっとカッコイイわ……ヨハン様……)

滅茶苦茶キュンキュンしながら笑顔で礼を言うサキ。彼女の貰ったチケットに書いてある、観光地の名前は……月花庭園。
トーメント国とナルビアの国境近くにある、月明かりに照らされるたくさんの花が観光地になっている隠れスポットである。

463名無しさん:2019/03/21(木) 22:04:35 ID:???
そんなこんなでミツルギの闘技大会が終了し、魔の山でなんやかんやあり、王と配下の十輝星が帰還してしばらく経ち、
イヴパートとミツルギ編の時系列がいい感じに統合された頃。

「例のVR装置(段ボール製)の開発は順調なようですね……教授」
「これはヨハン殿……ええ。テストプレイヤーも文句言いつつ頑張ってくれてますし、最終調整ももうすぐ完了ですよ」

◆◆◆◆◆

「うふふふ………みえる、みえるわ。あなたのうんめい……」
「ひっ!!あぐっ!!……こ、攻撃が見えないっ……近づけないっ……!!」

「ああーっと!『敗北の魔法少女』イヴ、仮面の糸使い『マスク・ド・デスティニー』の前に手も足も出ない!
為す術もなく斬り刻まれております!今日も連敗記録を伸ばしてしまうのかー!?」

(うりゃうりゃうりゃっ!! まーったく、初心者向けキャラいるんなら最初から言ってほしかったっす!これで連戦連勝っすよー!!)
「……ここでおしまい、いきどまり。ずっとぐるぐる、まわってる」

(あははははー……なにコレぇ?だんぼーるで、このお姉ちゃんいじくれるのぉ?面白ぉい……ふふふ、ふひ……)
「メルの為にも、これ以上負けられないのに……あうっ……ま、また誰か、私の身体を触ってっ……ひぃんっ!!」

地下闘技場で、来る日も来る日も魔物、あるいは圧倒的格上の敵に弄ばれるイヴ。
そのイヴを実験台に、ジェシカはあれこれとキャラを使いながら日に日に操作を習得していった。

◆◆◆◆◆

「……それは何より。王もたいそうお喜びでしたよ」
「ふ……天才に不可能はない、という事です」

そう。このVR装置は王の依頼によって作られた物だった。
『主要キャラ一通り洗脳しちゃったし、なんかこー、捕虜の子達の新しい遊び方考えてよ!
本人の意志を保ったままで、体が勝手にー!みたいな感じで頼むは!』
……と言う無茶振りを、

『あ、それいいっすね!さっそくやってみますわー。素材は段ボールでいいっすか?』
……とばかりに実現させてしまった、正に狂気のシステムである。


「本日伺ったのは、他でもない……いよいよそのシステムを『実戦投入』したいと思いまして」
「ほう……捕虜の少女たちを『戦力』とするわけですか。しかし、戦う相手は……?」

「王都に潜伏している、他国からのスパイ達……かねてから問題視されていましたが、来たる大戦を前に、彼らを一掃する必要がある」
「なるほど。スパイの中には、高い戦闘力を持つ者も多い。しかも、リョナラーな男キャラもいるので魔物兵では対処しきれない、と……」

「かと言って、十輝星のメンバーも多忙でして。その点、いくらでも『補充』が効く彼女たちは、この仕事に打ってつけというわけです」
「了解しました。さっそく闘技場の奴隷闘士どもから、選りすぐりのメンバーを集めるとしましょう。クックック……!」

464名無しさん:2019/03/24(日) 13:14:05 ID:???
テンジョウたちとの話を終えた唯たちは、これからの身の振り方を考えていた。

「とりあえず、鏡花ちゃんはルミナスに戻るんだよね?」

「うん。水鳥にも会いたいし、特訓っていうならルミナスの魔法練習場でみっちりやりたいからね。」

「お?それってもしかして精◯と◯の部屋みたいに、1日特訓すれば1年特訓したみたいになるやつ?」

「え!?そんな素晴らしい部屋があるんですの!?」

「彩芽、冗談通じないお嬢様が本気にしてるわよ……」

魔法少女として戦ってきた市松鏡花。この5人の中では優しいお姉さん的ポジションであり、頼り甲斐のある存在だった。

「しばらくみんなに会えなくなるのは寂しいけど……次に会うときにはもっともっとすごい魔法を覚えてることを約束するね。」

「うわぁ〜!鏡花ちゃんがもっとすごい魔法を覚えてくれたら、すっごく心強いね!」

「まあ、亜理紗も少しは使えてるけど、この5人で純粋な魔法タイプって鏡花だけだもんね。優秀なDPSとして期待大だよ。」

「うーん……鏡花ちゃんの言ってることはやっぱりよくわからないな……」



「それで、彩芽ちゃんはナルビアに行くんだったよね?」

「あーうん。この世界の機械とか役立つ道具とか、あらかた調べたつもりだったけど……最先端のナルビアなら、もっと知識が得られそうなんだよね。」

「彩芽はずっと、珍妙なものを作るのが趣味なんですわ。この世界に来てからもそれは全く変わっていませんわね。」

「珍妙っていうなよ!せめて独創的とかにしてくれよ!」

類稀なる頭脳による天才的な発明で、皆を助けてきた古垣彩芽。
彼女はムードメーカー的な存在であり、逆境にあっても冗談を飛ばすような明るさは、いつも皆を支えてきた。

「それにしても……彩芽ちゃんのひみつ道具にはたくさん助けられてきたなぁ。」

「何気に私たちの中でもかなり戦える方だと思ってるのは、私だけかしら。」

「いやいや、瑠奈みたいな猪突猛……勇敢に前で戦ってくれる味方があってのボクだからね。ボク1人じゃ何にもできないよ。」

「んん……?嬉しいこと言ってくれたような気がしたけど、なんか一瞬バカにされたような!」

「あはは!……まあ頑張るから期待して待っててよ。ボクも唯と同じで、なんだかんだでこの世界好きだし……あの王の好き勝手にはさせたくないからさ。」

「彩芽ちゃん……!ありがとう!」

「………………………………」

彩芽の言葉に、瑠奈の表情が重くなった。

465名無しさん:2019/03/24(日) 13:21:28 ID:l0dK4TNo
「で、アリサちゃんはアルフレッドさんに修行をつけてもらうんだよね?」

「ええ……またそんな日が来るとは思わなかったけれど、今なら受け入れることができますわ。」

「はー、亜理紗はイケメンと2人っきりでみっちりなんの修行をするんだ?手取り足取り腰取り、何を教えてもらうつもりなんだよー?」

「そうですわね……わたくしの動きはまだ粗がありますから、剣の振り方や敵との間合い、カウンターを狙う際の見切り……そのあたりですわね。わたくしは一発逆転の技よりも、基礎を固めるつもりでいますの。」

「はいでたマジレスぅ!亜理紗にも少しはそういう冗談が通じるようになってほちいよ……」

「???」

踊るような剣技と光属性の魔法で戦ってきた、山形亜理紗……またの名をアリサ・アングレーム。
この世界に来たときからずっと剣の修行をしていたこともあり、その実力は5人の中でもおそらく1番上であろう。
だがそれに慢心することなく、日々修行を積む彼女の実直さは誰もが認めるところである。

「唯、瑠奈……2人に迷惑をかけたこともあったけれど、わたくしはもう迷いません。復讐に取り憑かれることもなくなった今のわたくしならば、さらに強くなれる気がしていますの。」

「アリサ、まだそのこと気にしてたの?あの時はあたしも結構暴れたし、お互い様ってことで、気にしなくていいのに。」

「アリサちゃん、無理はしちゃだめだよ。アリサちゃんは真面目すぎて周りが見えなくなる時があるから、気をつけてね。」

「……鏡花のいう通りですわね。肝に命じておきます。……みんなが成長した姿も、今から楽しみですわ。」

「亜理紗は別の意味でも成長しそうだよね……男女2人、密室、8時間。何も起きないはずがなく……」

「彩芽。少し黙ろうか。」

466名無しさん:2019/03/24(日) 13:23:27 ID:l0dK4TNo
こうして、鏡花はルミナス、彩芽はナルビア、アリサはミツルギでの修行がが決まったのだった。
残るは、唯と瑠奈である。

「私たちは、どうしようね?瑠奈。やっぱりダンさんが戻ってくるのを待とうかなぁ……それか、またライカさんの修行かなぁ……怖いけど……」

「……そのことなんだけど……私、その前にみんなに話しておかないといけないことがあるの。多分、みんなの中でも今のあたしって、ちょっとひっかかってるところあるだろうし。」

「……瑠奈。」

瑠奈の言葉に、唯たちの表情が少し強張る。
魔の山の頂上で唯が王への意思表示をした時……1人だけ迷っていた瑠奈。
それはこの世界を助けるよりも、記憶を失ってでも元の世界に帰ることを考えたということである。

もちろん、それを責めることはここにいる誰にもできない。
行方不明になっている自分の帰りを待つ家族がいる……
その事実だけで、元の世界に帰りたいのは当然だろう。
だが当の瑠奈はここで、皆の意識を合わせないと気が済まなかった。
せっかくそれぞれが一緒の目的に向かって戦おうとしている中、自分の存在をノイズにしたくないからだ。



「……私ね。もちろんみんなのことも大好きだけど……お母さんとお父さんのことも大好きなの。……ついでに兄貴のことも。」

兄をついで扱いしてはいるが、母や父と同じくらい瑠奈は兄のことが好きなことを、唯は知っていた。

「みんなの中には、あんまり家族にいい思い出がない人がいるのは知ってる。でも私はそれとは真逆でさ。優しく育ててもらったお礼に、もっともっと恩返ししないと、私の気が済まないって思ってて……ま、まぁ私のわがままなんだけど……」

「……瑠奈、それは我儘なんかではありません。両親へ恩返ししたいという瑠奈の気持ちは、優しさ以外の何者でもありませんわ。」

「そっか、ありがとアリサ……」

瑠奈の言葉を聞いて、それぞれが家族の顔を思い出す。
瑠奈と同様、たくさんの思い出がある唯や鏡花。
喧嘩した思い出ばかりの彩芽。
追い詰められた記憶の強い亜理紗。
大小あれど、家族への感情はなにかしらあるものだ。

「……正直言うと、今も迷ってるんだ。……ほんとなんで悩むんだろ……みんながこの世界を救おうって頑張ろうとしてるのに、私だけ何もせず帰ることを考えてるなんてね……これって、最低だよね……わがままだよね。」

「瑠奈……そんなことないよ……私だって突然あんなこと言って、みんなを巻き込んじゃってる。本当にわがままなのは、私の方だよ……」

「ううん。唯は正しいよ。あの王をなんとかできるのは私たちだけなんだし、たくさんの命を救うために戦うのは正しい。……唯は間違ってない。」

はっきりと言い切る瑠奈に、唯は言葉を詰まらせる。
少しの沈黙が流れた後、口を開いたのは鏡花だった。



「……ねぇ、瑠奈。正しいか正しくないかだけじゃ、瑠奈がどうしたいかは決められないと思うよ。」

「……え?」

「正しいことか正しくないことかは、常識が決めること。でもその常識だって、結局は誰かが決めたこと。……そこに瑠奈の意思はないよね?」

「……わたしの……意思……」

「瑠奈が帰りたいって言うのを、私たちは責めたり咎めたりしない。この世界を救いたいけど、瑠奈がそう思うのなら、ちゃんと元の世界に返してあげたい。……選択肢を1つにすることないよ。」

「……つまり、わたくしたちはあの王も倒すし、瑠奈を元の世界に帰す方法も探す……二つに一つではなく、二兎追い上等ということですわね。」

「そういうことかぁ……それなら、瑠奈はちゃんとはっきり言えばいいんじゃない?自分の意思をさ。」

「……みんなぁ……ぐすっ……!」

自分勝手だと責められることも覚悟していた瑠奈だったが……
ここまで旅を共にしてきた仲間たちは、想像以上に強かだった。

「瑠奈、言って。瑠奈が言ってくれれば私たち、頑張って方法を探すよ。……きっと大丈夫。だって私たち、運命を変える戦士なんだもん!」

「うん……もちろんあのバカ王はみんなと一緒に倒すっ!……それとわたしは、自分の家に帰ってお父さんとお母さんと、お兄ちゃんを安心させたいっ……!だからみんな……力を貸してっ!」

少し涙声の瑠奈のお願いに、唯たちは笑顔で頷いた。

467名無しさん:2019/03/24(日) 17:52:36 ID:???
「くさそう」
(くそっ、数が多すぎる!捕虜を戦闘員にするのは、我らがナルビアの専売特許ではなかった、ということか……!)

「くさそう」
(以前の作戦で派手に動いたのが、ここに来て響くとはな……な)

「くさそう」
(一人でもいい!国境付近に待機している仲間の元まで辿り着き、敵新兵器の情報を提供するのだ!)

「くさそう」
(ナルビアのために!散!)

ナルビアのスパイであるくさそうの人こと諜報員931号……そしていつの間にか増えていた別の諜報員たち。彼らはトーメント王国のスパイ断滅作戦により、苦戦を強いられていた。

妨害電波によって本国に連絡もできない彼らは、四方に散開して一人でも国境までたどり着く仲間が増える確率を増やす。

「はぁ、はぁ……!しぇり……!私、もう、限界……!」

「めでゅ、私も……!でも、体が、勝手に……!動いてぇ……!」

散開して単独で撤退途中のくさそうの人の前に現れたのは、2人組の女騎士。通常時ならば、蒸れた鎧の中のくさそうな匂いを想像して楽しむところだが、今はそのような余裕はない。

既に相当数の戦闘をこなしているのであろう、返り血に塗れた鎧の2人。だが、VR装置は休息なしでも全力で戦闘を続けることができる。
……もちろん、装者の疲労は度外視されるが。


「くさそう」
(ちぃ、新手か……!)


くさそうの人は素早くレーザー銃を取り出すと、鎧に包まれていない足を狙って撃った。


「ぐうあああ!!」
「ああぁあああ!!」

2人は足の腱を撃ち抜かれたことで膝をつく……寸前、VR装置により体が勝手に動き、本来ならば動かない足を使ってくさそうの人に肉薄する。

「いっ、ああぁああ!!!」
「ぐっ、ぎぃいいい!!!」

足を無理矢理動かされる痛みに喘ぎながら、メデューサの蛇剣ウロボロス、そしてシェリーの曲刀がくさそうの人に迫る。

「くさそう」
(おのれ、せめてDがいれば……!ナルビア王国に栄光あれええええええええ!!!)

468名無しさん:2019/03/24(日) 20:30:24 ID:???
「あーあ!なんか色々悩んでたのがバカみたい!どっちにしろ、あのクソ王は一発でも百発でもぶちのめさないと私の気がすまないんだし、迷うことなんかなかったわ!」

吹っ切れた様子で語る瑠奈。調子を取り戻した親友に、唯は安堵する。

「決めたわ!私はライカさんの所でみっちり修行をつけてもらう!今度こそ、あいつらに負けないために……!」

「うん!私もちょっと怖いけど、瑠奈と一緒に……」

「いいえ、篠原唯!それは止めておいた方がいいわ!」

その時、突然運命の戦士5人以外の声がする。突然乱入してきた声の正体は……

「あ、あなたは!……えーっと、だいぶ前に、どこかで会ったような……」

「……え、誰?私は全然覚えがないんだけど……」

「貴女は確か、ルミナスのスパイとしてトーメント王国に潜入していた!無事だったんですのね!名前は存じ上げませんが……」

上から唯、瑠奈、アリサの台詞である。鏡花たちがトーメント王国に攻め込んだ時にスパイとして公開処刑にされたのを見た……のだが、瑠奈はその時気を失っていて、唯もその前後が色々濃すぎてよく覚えておらず、アリサは辛うじて覚えていた。


「ちょっと!最近はスズ・ユウヒに押され気味とはいえ、このスーパーアイドル有坂真凛を知らないとはどういうことよ!」

「有坂真凛?ああー!ネット配信でエロエロな触手プレイしてるのを見たことあ……へぶゅ!?」

「あ・た・し・は・清・楚!」

余計なことを言い出した彩芽をスーパーアイドル的清楚ボディブローで黙らせる真凛。

「真凛!無事でよかった、本当に……!あの時、貴女を助けられなくて、ずっと心配してたの……!」

「へいへいへい、久しぶりね鏡花!でもなんか急にシリアスに接しられるとそれはそれでこそばゆいわね」

「えーと、それで、私がライカさんのところで修行しない方がいいって、どういうこと?」


これではいつまでも話が進まないと思った唯が、強引に話を進める。

「それh」

「それは、お前さんが既に独自の戦い方を成立させているからだ」

「ダンさん!」

真凛の台詞を遮って現れたのは、頭に包帯を巻いた竜殺しのダン。

「多少の我流はあれど極光体術を中心に習った月瀬の嬢ちゃんとは違い、お前さんはほとんど我流だ。そういうタイプは下手に誰かに師事するより、実戦を積んだ方がいい」

「えーと、ということは……」

「とは言え、修行が無駄ってわけでもねぇ。お前さんの強みはその人柄……それは戦いにおいても変わらねぇ。誰とでも合わせられるお前は、シーヴァリアで模擬戦をして経験を積みながら、連携を学べ」

仲の良い3人組などに於ける連携はどこの国も甲乙付けがたいが、即席チームでも連携を重視するのは、聖騎士の国であるシーヴァリアだ。

「シーヴァリア……ミライちゃんとは友達だけど、よく知らないなぁ」

「不安か?」

「いいえ!新しい友達ができたらいいな、って、ワクワクします!」

「そいつぁ結構だ。お前にだけ一人旅させるわけにもいかねぇし、女王サマは忙しそうだから、俺がシーヴァリアまでは護衛してやるよ」

笑顔で答える唯。それを見て、ダンは満足げに頷く。


「それじゃあ決まりね!私と鏡花はルミナスに」

「ボクはリリスさんたちの会談について行ってナルビアに」

「私はアルフレッドと共に、このミツルギで」

「私はダンさんとシーヴァリアに!」

「みんなでそれぞれの修行をして……そして、トーメント王を打倒しましょう!」

「「「「「おおーーーー!!!!」」」」」

469名無しさん:2019/03/29(金) 15:39:45 ID:V7Zm38WA
「なにぃ?ナルビアに行くサキのサポートがしたいぃ?」

「……はい」

トーメント王国の謁見室では、椅子に踏ん反り返った王が、膝を立てて座るリザを見下ろしていた。

サキに焚き付けられたリザだが、完全に迷いが消えたわけではない。サキのように、自分の本当に大切なもの以外を全て割り切るには……リザの心は、優しすぎたのである。

今も、最後まで自分を気遣ってくれた篠原唯を再び殺し、今度こそ王の手で暴虐の限りを尽くされることになると思うと、リザの胸に暗雲が立ち込める。

それに、これから戦うことになる4つの国の中には、リザにとって無視しがたい存在が多すぎる。ルミナスには十輝星として共に過ごしたエスカことヒカリや、ライラの時に共闘した市松水鳥がいる。シーヴァリアには何度も治療して貰っている友人のミライ。ミツルギには闘技大会の予選で知り合ったヤヨイ……そして、道の分かたれた最愛の姉、ミストがいる。


その点で言えば、ナルビアには利害の一致で共闘……というより一方的に利用されたリンネくらいしか知り合いがいないので、比較的気楽に戦えそうとリザは考えたのだ。

それに、アイナが死んだ今、リザはもうこれ以上仲間を失いたくない。

「ふーむ、なるほどなるほど……そうか、分かった!お前はサキのサポートな!」

一瞬考えた後、やけに爽やかな口調で了承する王。リザは経験則として、王が何か企んでいるのではないかと疑ったが……追求してもどうしようもないことも分かっていたので黙っておいた。

「でもな、サキは国境くらいまでは家族と旅行がてら行くみたいだから、合流は途中からな!」

「……はい、了解しました」

ニヤニヤと笑いながら命令してくる王を訝しみながらも、リザは了承した。家族の時間は邪魔せずに、サキがナルビアに入ってから合流すればいい、というのはもっともに思えたのである。

……王の企み……そして、最近教授ガチャで大当たりを引いた、『ある男』……それらに気づかないまま、リザはナルビアの国境付近に向かっているサキを追いかけた。

470名無しさん:2019/03/29(金) 15:42:12 ID:???
「くさそう」

「……その報告、確かに聞き届けました。お疲れでしょうから、貴方は本国でゆっくりお休みください」

トーメントとナルビアの国境付近。そこには、息も絶え絶えで何とかトーメント王国から脱出し、かの国の新兵器の情報を待機していた仲間に伝えるくさそうの人がいた。

くさそうの人は、何とか自分が任務を果たせたことに安堵すると、長年の潜伏の疲れを癒すために、ナルビアへと帰還していった。

「……僕は、こんなところで、何をしてるんだろうな……」

待機していた、くさそうの人の仲間……リンネは、国境付近……月下庭園の花を見渡しながら、物憂げに呟く。

……あの後、メサイアとなったヒルダは、泣き崩れるリンネに事務的な挨拶だけをして去っていった。その後リンネは休暇を取って何もせずに過ごしていたが……トーメントに潜伏している仲間とのパイプ役としての、国境付近での待機任務……ヒルダが行きたがっていた月下庭園へも行ける任務の話を聞き、それに志願したのだ。

「僕一人でここに来たって……ヒルダがいなきゃ、意味がないのにな……」


どれだけ美しい花々を見ても、リンネの心を埋める虚無感はなくならない。むしろ見れば見るほど、ここに来たがっていたヒルダのことを思い出して、やりきれなくなる。

ぼんやりと庭園を眺めていたリンネは……向かい側から、家族連れが歩いてくるのに気づいた。

「……あれは……?」

471名無しさん:2019/03/31(日) 16:28:05 ID:Q.LPVL5M
「姉さん、ごめんね。ずっと車椅子押してもらっちゃって……いつも任務で疲れてるのはお姉ちゃんなのに。」

「もう、そんなの気にしないの。こうして家族で旅行に来てるんだから、もっと明るい話をしないと。……お母さんも、ずっとそんな暗い顔しないで。」

「……そうよね。久しぶりの家族旅行だもの。みんなで楽しまないとね。」

ヨハンにもらったチケットで、妹と母を連れ月花庭園へやってきたサキ。
観光を楽しんだ後はナルビアで舞を助けなければならないが、久しぶりの家族旅行に彼女の心も弾んでいた。

もっとも、サキ以外の2人は心から楽しむほどの心の余裕はないが、それはサキもわかっている。
明るい言葉をかけたり、話題を作ったり……サキは自分が潤滑油となって家族の溝を埋めようとしていた。

「実はね、私……月花庭園には2人を産む前に来たことがあるの。お父さんと一緒にね。」

「え、すごい……!ねぇお母さん、それってデートで来たの?」

「ふふ……デートも何も、プロポーズされたのよ。月明かりに照らされているたくさんの綺麗な花を見ながら、ロマンチックにね。」

「ふわぁ……!すごいロマンチック!いいなぁ……」

サユミの夫……ルキはユキが産まれてすぐ、病死してしまった。
そのため、サキもユキもルキの顔は全く覚えていない。
サユミの話によれば、サキのように真面目だがユキのように天然なところもあり、その性格は2人の遺伝子にしっかり受け継がれているらしい。

「ねぇねぇお姉ちゃん!月花庭園でプロポーズなんて、ロマンチックだよね!もしそんな風に告白されたら……私、どんな人でもオッケーしちゃいそうだなぁ。」

「ううぅーん……私はロマンチックなのには興味ないかな。なんか断りづらいし。……自分が好きな人にそうされるんなら、全然いいけど。」

「あ!じゃああのヨハンさんっていう人に告白されたら、すぐオッケーってことだね!」

「うぇ!?な、なんでユキがそのことを知って……!」

「……あ。」

ミシェルの実験によってある程度記憶を取り戻したユキは、ヨハンの前でデレデレしていたサキを思い出していたので、ついつい口が滑ってしまった。

「あら……サキ。好きな人がいるの?どんな人?多分年上の人じゃない?」

「……あ!さすがお母さん!お姉ちゃんが年上の人が好きなの、わかってるんだね!」

「あぁ、もうお母さんまでっ……!なんで私のコイバナになった途端2人とも元気になるのよー!」

家族の恋愛話に、それまでなんとなくギクシャクしていた会話がまとまり始める。
ユキはいつのまにかサキのことを昔のようにお姉ちゃんと呼び、サユミも娘たちの前で何年かぶりに笑顔を見せた。



(……あのアホリザも、家族とこんな風に話せる日を望んでいたのかしらね。)



妹と母に弄られながら、サキはそんなことを思った時……視界の端に、少女のような少年を見つけた。

「ねぇねぇお姉ちゃん、ヨハンさんのどこが好きなのー?優しいところ?かっこいいところ?ミステリアスなところ?」

「ふふ……サキは優しくて影があって容姿端麗な人が好きなのね。」

「ちょ、2人とももうやめてよぉっ……!あ、私ちょっとお手洗い行ってくるから、2人は先に受付行ってて!」

サキはそう言い残すと、先ほど視界に入った少年の元へと走っていった。



「あらあら……調子に乗っていたずらしすぎちゃったかしら。」

「お姉ちゃん、顔真っ赤になってたねー。私もヨハンさんはかっこいいと思ってたけど……ゔ!?」

それまで普通に喋っていたユキが、突然頭を抑えた。

「……ん?ユキ、どうしたの!?どこか痛む!?」

「ん……い、いや。大丈夫だよ。ちょっと頭が……痛くなっただけ。」

過剰に心配するサユミをなんとか落ち着かせたが、ユキにも頭痛の原因はわからなかった。

(……なんだろう。今ヨハンさんのことを深く考えた瞬間……急に頭痛が……!)

472名無しさん:2019/03/31(日) 18:52:49 ID:???
「ちょっと!オカマ!」

「……サキさんですか……つくづく縁がありますね」

サキは月下庭園で見かけたリンネに追いついた。だが、彼を見たサキは僅かに眉をひそめる。リンネは元々影のある男だったが、久しぶりに会った彼は以前に増して雰囲気が暗い。

「久しぶりね……えっと、なんていうか、オメガ・ネットでは助かったわ。あの時はすぐ逃げちゃったけど、一応お礼くらいは言っとこうかな、って」

「……そうですか、珍しく殊勝ですね……ナルビアの足を引っ張れたなら、僕にとっても幸いですよ」

「……ねぇ、あんたどうしたの?なんか陰キャっぷりに磨きがかかってるじゃない。それに、真っ白幼女もいないし」

一応お礼言っとく、と言った直後に相変わらずの毒舌を吐くサキ。相変わらずのサキを気にした様子もなく、リンネはサキに近づいていく。

「……サキさん、僕は……利用されるだけの人生で……その中で見つけた守りたいものも守れませんでした」


「は?何言ってんの?って、ちょ、リンネ!?」

「……やっと名前で呼んでくれましたね」

要領を得ないことを喋りながら近づいたリンネは、すっとサキに顔を近づけ、耳元で囁く。シックス・デイの女性陣を無自覚に虜にする繊細な顔立ち、そしてリンネの顔立ちの中でも唯一男性的な瞳に至近距離で見つめられ、さすがのサキも少々焦る。


「サキさん、僕は……ホントはもう、ナルビアのことなんてどうでもいいんです。けど、ナルビアの薬がないと、僕らは……だからサキさん、もしよかったら……げぼぁ!?」

「キモイっつーの!耳元で意味わかんないこと喋んないでよ!このエロオカマ!」

滅茶苦茶シリアスな空気を醸し出していたリンネだが、めんどくさくなったサキのビンタを思いっきり食らって強引に止めた。

「ちょ、違いますよ!?最近アリスが僕をコソコソと付けてるから、念の為小声で話そうと……!」

「何を話そうとしてるかしらないけど、さっきから説明もなしに色々言われたって知らないっつーの!新入社員じゃあるまいし、結論ファーストで話しなさいよ!」

傷心の美少年に対してあまりな対応のサキ。だが、ヒルダに起きたことを知らないサキに何も説明せずに色々言っても何も分からないのは、言われてみれば当たり前のことだ。

「はぁ、分かりました。じゃあ結論から言いますね」

結論……リンネの言いたいことは単純だ。もはやナルビアに利用されるだけの人生はごめんのリンネは、サキと手を組もうと考えたのだ。

931号の報告により、サキがヨハンに利用されていることは知っている。そのことを指摘してサキにトーメントを見限らせ、互いに所属国の情報をリークし合い、サキは家族と共に平和に暮らせるように、リンネはヒルダを元に戻す方法を見つける為に、情報を共有する。

互いに諜報員という立場を活かし、互いを利用し合う関係になろうというのだ。それを一口で説明するために、リンネは口を開き……




「……サキさん、好きです」

473名無しさん:2019/03/31(日) 18:55:00 ID:???
そして、リザとリンネからある程度離れたところでは……


「あれは、リンネ……!?まずい!」

サキが家族で過ごしているのを邪魔するのも悪いと思い、別れてから合流しようと彼女たちを遠くで見ていたリザ。だが、リンネが近くにいて、サキが彼の方に行ったのを見て焦る。リザは2人がそう悪くない関係を築いていることを知らないのだ。

そして……


「あれは、リゲル……!?拙いです、また家族を人質にとらなければ……ってあれ?」


そのすぐ近くで、同じように遠くからリンネの様子を伺っていた少女……アリス・オルコットとリザの目があった。

……アイリスの術から解放された後、アリスは総帥からの命令で、ヒルダの件で憔悴しているリンネが、何か妙な気を起こさないように彼を監視……というより見守っていたのだ。


そんなこんなで結構無理のある強引な展開により、サキとリンネからは上手いこと気づかれないくらいの位置で、リザとアリスは鉢合わせした。

「お前は……!?」

「アウィナイト……まさか931号さんの報告にあった、スピカ……!?」

金髪青目から、一瞬同じアウィナイトかと思ったリザだが、サキからの報告でシックス・デイのメンバーのことは聞いていたこと……そして、以前暗殺したナルビアの政務官と顔立ちが似ていたことから、瞬時にアリスがナルビアの人間であると判断する。

そしてアリスもくさそうの人から聞いていた情報により、目の前のアウィナイトがトーメント王下十輝星の暗殺担当……つまりは母の仇であることを理解した。


「あまりに予想外な遭遇戦ですが……リンネさんを守るため、そして母の仇を討つため!覚悟してください!」

「……一瞬で終わらせ……!?」

針を取り出したアリスに対し、リザもナイフを取り出すのだが……その瞬間、全身に凄まじい激痛が走る。


「ぐっっうう!?一体、なにが……!?」



(見える、見えるぜ……目はガチャの代償に失っちまったが、ミツルギで買った人形を触媒に黒魔術をかけたら、あのクソ女の苦しみ姿が見える……!)


前述の目つきの悪いアウィナイトは、リザへの復讐を志して、目と引き換えに教授ガチャを引いた。その結果彼は、触媒によって対象にダメージを与える能力……言ってしまえばフィギュアを弄って相手に悪夢を見せるクロカタの上位互換の能力に目覚めたのである。
普通に戦っては勝てないと踏んだ彼は、こうして安全なところからチクチクと嫌がらせを続ける、陰湿な手段を取ったのだ。


「隙ありぃ!」

「しまっ……ああぁああああああ!!!」

474名無しさん:2019/03/31(日) 23:25:27 ID:???
目つきの悪い男の呪いによって体を動かせないリザの胸に刺さったのは、アリスの魔法針。
属性魔法を流し込むことで、刺さった相手の体をバッドステータスにかける技である。

(どうして、体が動かなかったの……?ぐぅ!……こ、これっ……!)

胸に刺さった針から魔力が流し込まれ、体に違和感を感じるリザ。
ただでさえ体が動かせないのに、リザの体には雷の術式が流し込まれていた。

「随分とトロいんですね……わたしの攻撃には気づいていたのに、反応できなかったんですか?」

「ぐ、ぅ……!ああぁんっ!!」

なんとか体を動かそうとしたリザだが、その途端、傷口から強い電流が走り悲鳴を上げてしまう。

「貴女はお母様の仇。絶対に容赦しません……!」

「ッ!?」

体が痺れているリザに急接近するアリス。おそらく今が好機と見て、一気に畳み掛けるつもりだろう。

(……くそっ……体はうまく動かないけど、なんとか捌ききるしか……!)



「はっ!せいっ!……やああぁっ!」

「くっ……!はっ!たああぁっ!」

アリスの掴み技と針での攻撃を、なんとか素手でいなすリザ。
通常時ならば捌くだけでなくカウンターも狙いたいが、体が痺れている今はそれも辛い。
金髪碧眼の2人の少女の攻防は、しばらく続いた。

「ぐっ……!い゛ぎっ!げふぁっ!あぐぅっ!」

単純な身体能力なら、リザの方が上。
だが、呪いと魔法で動きを制限されているこの状況では、さすがにアリスの攻撃を全て捌くことは叶わない。
何回か捌き漏れたアリスの攻撃を食らうたび、リザは苦悶の声をあげた。

「さて、いつまで捌ききれますか……ねっ!」

「く……あぁんっ!しまっ……げぼぉっ!!!」

今まで手で攻撃していたアリスの、不意打ちの足での攻撃。
リザの目はそれを見切ってシフト移動しようとしたのだが、その瞬間を狙ったかのように体がビクン!と痺れてしまい、リザはまたも手痛い攻撃をもらってしまった。



「あ゛っ!ぐぁふうぅっ!」

蹴りの衝撃で吹っ飛ばされ、地面に2度叩き上げられる。
アリスの打撃打撃には魔力が上乗せされているようで、とても細足から繰り出された威力ではなかった。

「これは好都合……!どうやら本調子ではないようですね。なんのリスクもなく貴方を拘束できそうですっ!」

「ぐ、うぅ……!ひあ゛ああぁっ!」

うつ伏せでダウンしていたリザの背中に、追い討ちの魔法針が2本突き刺さる。
そこから流れ出た魔力は、普通の魔力ではない。

「黒式・断罪……母の仇である貴女を仕留めるために作った、とっておきです。」

「ぅ……なに、こ、れぇっ……!んっ、ああああああああぁぁっ……!」

リザの口から、喘ぎ声とも悶え声とも取れるだらしない声が漏れた。
アリスの放った黒い針は、様々な魔法が込められている特殊針である。

「貴女の体に流れる魔力……その全てを吸い上げて体の動きを封じる針です。これでお得意の瞬間移動はできませんよ。」

「……く……くそっ……」

ストーカーに狙われるタイミングと、敵に襲われるタイミングが見事に重なり、早速窮地に陥ってしまったリザ。
この不運な状況を乗り切ることはできるのか──

475名無しさん:2019/04/03(水) 01:28:48 ID:???
「あの王下十輝星のスピカが、まさかこの程とは……はっきり言って拍子抜けです。」

「うぅ……わ、わたしは……まだッ……!く……ぁぅっ……」

リザの体は三重苦だった。
呪い、痺れ、魔力吸収の副作用による身体中を襲う倦怠感。
とても立ち上がれるような状態ではない。
こういう状況になったときのためのシフトの力も、魔力がなければ無意味。
「15歳の少女が動けなくなっている」
今のリザの状況は、この一言で説明できてしまうといっても過言ではないのだ。

「……ふんっ!」

「きゃあああぁぁッ!!」

身体を小刻みに震わせながらなんとか立ち上がろうとするリザの腹を、アリスは軍靴で思い切り蹴り上げた。
リザは甲高い悲鳴を出しながら宙を舞い……目を開けるとそこには地面。

「……なんですかその情けない声は。とても暗殺者とは思えませんね。」

「あああんッ!ぐぅっ……いっ……たあぁいっ……!」

受け身も取れずに叩きつけられたリザは、アリスから五メートルほど離れた場所で痛みに身悶えた。



「あなたは私のお母様を殺した……できればエリスと一緒に仇を討ちたかったですが、この前のリゲルのように逃げられるわけにはいきません……あなただけには、絶対に。」

再びリザの前に立ったアリスが懐から出したのは、ナルビア軍の将校に支給される大口径拳銃。
反動も強いが、その分威力も抜群。動けない相手の命を手早く確実に奪うには、申し分ない武器だ。

カチャ、チャッ!
弾込めを確認したアリスは、ためらうことなくリザの脳天に銃を向けた。

「……命乞いでもしてみたらどうですか?こんなところで若い命を散らしたくはないでしょう。……私も鬼ではありません。あなたが必死に嘆願するのならば、考え直すかもしれませんよ。」

「ぐっ……!殺すなら……殺せっ……!」

「精一杯の虚勢ですか……まぁ、命乞いをするようには見えませんしね。あなたにはできる限り絶望してから死んでほしかったのですがっ……!」

バキュゥンッ!!!
瞳孔を開いたアリスは、迷うことなく撃鉄を起こし、引き金を引いた。



「…ぐうぅあああああああぁぁっ!!」」

突然足に強烈な痛みを感じ、リザは動かなかったはずの体を身じろぎして足を抱えた。

「フフフ……私たちの母を殺し、結果的にたくさんのナルビアの同士を殺したあなたを、あっさり殺すと思いましたか?」

「は、はっ、はぁっ……!うぐうぅぅっ……!」

「命乞いもしないなら……この鉛玉と私の針で、今生最大の痛みを与えてやりましょう。あなたはこの後……満身創痍の状態で地獄に行くことになるんですよ。」

「……ぐっ……!は、早く……殺……してぇっ……!」

「おや……もう死に場所をここと決めたのですか?なんだかそう言われてしまうと……もっと苦しめてやりたくなりますねッ!」

「ふぐぅっ!?いやああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」

銃弾を食らった箇所に追い打ちのアリスの蹴りが炸裂し、リザはけたたましい悲鳴を上げた。



「た、大変……このままじゃ、リザさんがっ……!」

悲鳴を聞いてやってきたユキとサユミは、庭園の裏で行われている惨劇を見てしまった。

「サキに伝えてあげましょう、ユキ!このままじゃ、あの子が危ないわ……!」

476名無しさん:2019/04/04(木) 22:22:18 ID:???
「…………は、はぁあああ!?ちょ、い、いきなりわけわかんないこと言ってんじゃないわよ!」

「……貴女みたいに、強かに生きていけたら、って……シーヴァリアの時から、ずっと思ってました」

自分で結論から話せと言ったサキだが、突然の告白に明らかに狼狽した様子になる。それに対し開き直ったリンネは、そのまま言葉を続ける。

「な、ななな……!?い、言っとくけど!あの時針で私のこと滅茶苦茶にしたのはまだ忘れてないから!」

「……悪ぶっていて、実際結構悪い人なのに、一度認めてしまった相手はどうしても捨てることができない……家族のことも、親友のことも、慕ってくれる部下のことも……それでもなお強く生きようとする、貴女の姿が……なぜだかとても眩しかった」

顔を赤くしながら以前のことを持ち出すサキ。リンネはその話を無視し、サキに近寄って彼女の顎に手を添える。

「僕にはそれができなかった……ヒルダのことを、諦めてしまった。だから余計に、貴女のことが……」

「り、リンネ……言っとくけど、私の好みはこう、イケメンで優しくて影があって、あとできれば年上の……あれ?」

年下なのを除けば、割とリンネが当てはまることに気づくサキ。だがぶんぶんと首を振ってその考えとリンネの手を振り払うと、一歩後ずさる。

「とにかく!私はヨハン様みたいなのが好みなの!前に私の心覗いたあんたなら知ってるでしょ!?」

「ヨハン、ですか……サキさん、僕のように利用されるだけの人生が嫌なら……彼には気をつけた方がいい」

「はぁ?なに、あんた私のことが好きだからって、ヨハン様に嫉妬してるわけぇ?男の嫉妬は見苦しいわよ」
(危ない危ない、こいつは甘言で私を取り込もうとしてるだけ……騙されないんだから)

やや調子を取り戻したサキが、煽るような口調で言う。

「アルタイルのヨハン……その強大な能力もさることながら、影で暗躍する諜報力もかなりのもの……貴女の妹が大怪我をした理由……彼が手を引いていたと知っていましたか?」

「はぁ?あれはキモオタのクソ教授が……」

「……本当に知らないのか、或いは気づかないフリをしているのか……柳原舞の時もそうでしたが、貴女は一度心を許した相手を疑うのがよほど苦手なようだ」


本来なら洗脳されていることも考慮しなければならなかったのに、あの時そのことを全く考えなかったのは……ただ、彼女が自分と敵対する姿を、考えたくなかっただけだったのだ。


と、その時……

「お姉ちゃん!大変!リザさんが金髪の人に……っ!?」

「こっちにもナルビアの兵士が……!?」

リザの危機を伝えに、ユキとサユミが現れた。

「母さん!ユキ!えっと、まぁこいつはそんなに悪い奴じゃないってゆーか……それよりもクソリザのやつがまたなんかピンチになってんの!?」

「……アリスか……どうせ僕が裏切らないか監視してるんだろう。サキさん、僕はしばらく国境待機の任務でこの辺りにいます。僕は貴女と情報をリークし合いたいと思っているので、良かったらリザを助けた後にでも顔を見せて下さい」

「はぁ!?なんで私があいつを助ける前提なのよ!それに私はアンタと組むつもりなんて……」

「……僕と組んでもらえれば、柳原舞のことも教えますよ。あと……」

そう言って、リンネはサキの耳元に口を寄せる。


「一応、告白の返事も期待してますね」

477名無しさん:2019/04/06(土) 14:09:52 ID:snZh6zbg
ガッ!ドゴッ!バキッ!

「んんぅっ!ぐぁっ!あぐっ……!」

「アウィナイトの分際で……!よくも……!よくもお母様をっ……!」

無抵抗のリザに対し、一切の容赦もなく軍靴で蹴りを入れるアリス。
親の仇と思えば、目の前にいるのが自分と同年代の少女であっても慈悲の心はなかった。

「ぐ……がはっ!ひぐう゛ッ!」

「どうせその容姿を使って今の立場になっただけなのでしょう……でもなければ、ここまで弱いわけがありません。……汚らわしいっ!」

頭に血が上ったアリスは、丸まっているリザの腹に足をねじ込み……

「立場を弁えなさい……弱小民族がっ!」

「ぃやっ……!あああああああああああっ!!!」」

中の臓物を叩き壊す勢いで、またもリザの腹を思い切り蹴りあげた!



「お゛ぐぇっ……げぼっ!」

リザの口から血が吐き出される。
魔力を乗せたアリスの蹴りで、リザの体の内部ももうボロボロだ。
おそらく、骨も何本か折れている。

「ぐうううぅぅ……!い゛たいっ……痛いいぃっ……!」

「心の声が出ていますよ。暗殺者のくせに……情けないですね。」

筆舌に尽くしがたい痛みに、リザの口から感情と嗚咽が漏れる。
あまりの苦痛に、流したくもない涙まで出てきていた。


「ひぐっ……ぐ……うぅっ……」

(……もうだめ、か……でもわたしには……ふさわしい……末路なのかな……)

いろいろ追い詰められているし、もうここで死んでもいい。
そんなことを思ってしまうほど、リザの意識、そして生存欲すらもなくなり始めていた。

「さめざめと泣いても許しません。スピカ……あなたのことは死ぬまで嬲ってあげますよ。簡単に壊れないよう、せいぜい頑張ることです。」

「はぁ……はぁっ……ぅぁ……」

(……アイナ……)

死を悟ったリザの頭に浮かんだのは、死んでしまった親友の顔だった。
他の誰でもない、自分のためだけに生きるというスタンスだったアイナが、最期は他人を守って死んだ。

それは多分、あのアイナも誰かのために生きたかった証拠なのだろう。



「もう意識もなくなりそうですね……こんなに弱いなら、やはり本国に持ち帰って拷問漬けにするのもいいかもしれませんね。」

(……やっぱりだめ……諦めちゃだめ……アイナが今の私を見たら……絶対にそう言うはず……!)

アイナのことを思った瞬間、リザの意識が覚醒し始める。
自分としては、もうここで死んでもいいと思っているのだが……
心の中で生き続けている親友が、まだその時ではないと言っている気がした。

(……ナイフはまだ……手の中にある……)

478名無しさん:2019/04/06(土) 14:21:01 ID:???
「……まだ抵抗するつもりですか」
(ドスッ!!)
「ひっ、ぎあぁぁああああっ!!」
ナイフを持つリザの手の甲に、アリスの魔法針が深々と突き刺さった。
更にブーツでぐりぐりと踏みにじられ、リザはあまりの苦痛に悶絶してしまう。
アリスはその悲痛な絶叫にも眉一つ動かさず、あくまで淡々と獲物を追い詰めていく。

(……バチバチバチッ!!)
「…あっ、ぐうっ……!!」
「針を抜こうとしても無駄です……下手に触れ、更に深く突き刺さって苦痛が増すのみ」
なおもリザは諦めず、残る左手で突き刺さった雷魔法の針を抜こうとする。
だが……アリスの言葉通り、更に威力を増した電撃がリザの全身を貫いた。

「ケッケッケ……しかしこのフィギュア、細かい所まで作り込んでやがるなぁ。パンツまで着脱可能とは恐れ入ったぜ」
(じゅるり………)
「ひっ…!?…こ、今度は何……!?」
更に、影から様子を伺っていたアウィナイトの男が、呪術の触媒であるリザのフィギュアを好き勝手に弄り回す。
魔物化した男の指や舌の感触がリザ本人にも伝わり、魔法針や銃弾とは別種の不快感でリザを苦しめる。

「いっ……や、あぁっ……!!……な、中に……入ってっ……!!」

(やはり……スピカの様子はどこかおかしい)
「……ここでは人目に付いてしまいます。本国に連れ帰ってから、じっくりと尋問してあげましょう」
リザの異変に気付いたアリスは、余計な邪魔が入る前にこの場を離れようとする。
だが、その時……

「ヒヒヒヒッ……逃がさねえぜ……『殺影結界』発動!!」
「くっ……!?」
(ゴゴゴゴゴゴゴ………!!)

アリスとリザの周囲の地面に、巨大な魔法陣が現れた。
そこからどす黒い魔力があふれ出し、周囲の空間を闇の色に染め上げていく。

「これは、一体……!?」
「はぁっ……はぁっ……邪術の結界……一体、誰が……」

美しかった花園は、暗闇の荒野へと瞬く間に変わっていく。
結界に取り込まれた経験がないアリスは、事態をすぐには把握できなかった。
(スピカが何かを仕掛けた……のではなさそうですね。だとしたら……)

「……貴方の仕業ですね。一体どういうつもりですか」
「ケケケ……そっちのアウィナイトにはちぃとばかし恨みがあってな」
……アリスに促され、男が姿を現した。
……顔や全身に包帯を巻いた異形の姿。大きく裂けた口からは鋭い牙が生え、長い舌が伸びている。
男は、いわゆる『マミー』……呪術を得意とする、ミイラ男型の魔物兵であった。

「どうした?……そのクソ女を片付けるのを手伝ってやったんじゃねえか。そうカリカリすんなよお嬢ちゃん。」
手に持っているスピカそっくりの人形は、裸に剥かれていて全身が唾液に塗れている。
……あの人形を使って、スピカに何らかの遠隔攻撃を仕掛けていたらしい。
そうと理解したアリスは、敵とはいえ同性に対するあまりに下衆な遣り口に、思わず眉を顰めた。

「……貴方のような人に助太刀を頼んだ覚えはありません。
それに……さっきから影でコソコソ見ていた貴方が、今更になって姿を現した理由は何です?」
「………そりゃぁもちろん。
お嬢ちゃん一人だったら、楽勝で始末できると思ったからさ……ヒッヒッヒ!」
「薄汚い魔物ごときが、誇り高きナルビアの軍人である、この私を……?」

両者の間に、殺気が飛び交う。
嫌悪感と敵愾心を露わにするアリスに対し、光を失ったはずの男の眼が、包帯の奥から欲望にギラついた邪悪な視線を放つ。
ミイラ男の態度と発言に激昂したアリスは、目の前の不快な存在を早々に葬るべく、初手から最大火力の魔法針を繰り出した。

「その軽口、地獄で後悔なさいっ!!……『朱式 煌爆塵火葬』!!」

爆炎の魔力が込められた針が、ミイラ男の肩口に突き刺さる。
勝利を確信したアリスが、指を鳴らして魔法を発動すると……

「ヒッヒッヒ……この程度の挑発に乗るなんざ、まだまだ甘ちゃんだぜ、お嬢ちゃんよぉ……『呪詛返し』!!」
(ズドォオオンッ!!)
……針が激しい爆発を起こした。だが、直撃を喰らったミイラ男は平然としている。
その代わり……

(………ズバシュッ!!)
「……っきゃあああああっ!?」
針を投げたアリス自身の右肩から激痛が走り、夥しい量の血が噴き出した。

479名無しさん:2019/04/06(土) 15:55:55 ID:???
「ぐ、ぅ…!!…針の魔力を、跳ね返したというのですか……!」
「ヒッヒッヒ……御名答。
俺様の『呪詛返し』は、魔法や呪術のダメージを、術者にそのまま跳ね返す……
つまり、お前の針は俺様には通用しねえってこった」
腕が吹き飛ぶグロ展開は免れたものの、アリスの右腕からは激しく血が噴き出し、激痛が走る……しばらくはまともに動かせそうにない。

「舐めないで下さい……針が使えなくても、貴方のような下衆な魔物に、後れを取ったりなど……!」
それでも、アリスは軍人……それもナルビア最強と言われる「シックスデイ」の一角。
本来この程度の魔物なら、素手で十分に制圧できるだけの戦闘力を有している。

「おっと。そうはいかねえ……『殺影結界』の真の恐ろしさはこれからだ!」
「きゃっ!?………こ、これは……!!」
だが、アリスが接近戦を仕掛ける前に、ミイラ男は更なる呪術を発動した。
アリスの身体が眩いばかりの光に包まれ、気が付くと……

「な、何ですか。この格好は……!」
アリスが着ていたはずの軍服は跡形もなく消え失せていた。
代りに、ミニスカートに薄手のキャミソールと、露出度高めの衣装へと変わっている。

「クックック……この『殺影結界』は、捕らえた相手の衣装を自由自在に変更できる。
そして結界内のあらゆる事象は、あらゆる角度と方向から好きなだけ映像や写真に残せる……エロい写真や映像も、撮り放題ってわけだ」
「なっ……なんて、破廉恥な……!」

キャミソールの肩ひもはやや緩く、さほど豊かでない胸の頂上が見え隠れしてしまう。
ふわふわとした短いスカートはいかにも頼りなく、そよ風一つで乙女の大切な薄衣を容易く曝け出してしまうだろう。

「こ、これしきの事で、ナルビア軍人はうろたえません……すぐに片を付けてあげます!!」
普段キッチリとした軍服に身を包んでいるアリスからすれば、今の格好は下着姿も同然。
どこもかしこも隠してしまいたいが、左腕一本しか使えない現状ではそれすらもままならない。
これ以上の辱めを受ける前に決着を付けようと、アリスは積極果敢に接近戦を仕掛けるが……

「たっ!やっ!!……はぁぁぁっ!!」
裂帛の気合と共に繰り出される連続攻撃は、先ほどまでより明らかに精彩を欠いていた。
利き腕が使えない影響もあるが、露出度の高すぎる服を着せられているせいで、
いかに平静を装っても『見られたくない』という心理が働いてしまうのだ。

「クックック……つくづく甘ぇなぁ。テメェはもう、俺様の術中に嵌ってるんだよ。
撮影した写真や映像から、既にお前の3Dモデルデータは作成済みだ」

対するミイラ男は防御と回避に徹し、冷静にアリスの攻撃を捌く。
そして、結界の魔力によって作り出された、アリスの精巧なフィギュアを手にすると……

(べろりっ………ぞわわわわわ!!)
「ひんっ……!?」
人形の股間、臍、そしてなだらかな胸までを、唾液塗れの長い舌で一気に舐め上げた!

480名無しさん:2019/04/07(日) 05:24:41 ID:???
「ヒヒヒィ!エロい声出しやがって……なら、これはどうだぁ!」
ミイラ男はアリス人形の太腿に長い舌を這わせつつ、短いスカートの中にするすると滑り込ませた。

(じゅるじゅるれろれろり……!)
「あっ……!くうぅ!い、一体なんなのですか、この感覚はっ……!」

太腿にざらついた感触とぬめりを感じたアリス。そのなんとも形容しがたい不快感に、全身の鳥肌が立ち上がってしまう。

「そんなに知りたいなら教えてやる……こういうことだよッ!」

ミイラ男はもう待ちきれないと言わんばかりに、自分の舌をアリスの最深部へと押し付けた!

(ちゅっ……!んぶちゅっ!べろり!ビチャチャ!)
「んっ……?んやぁっ!?ひゃっ、きゃうぅんっ!!」
(んーん、処女だなこれは……ぶっちゅ!べろべろべろ……!)
「や、やめなさぃ……!ひゃっあっ!ひ、あ、あぁっ……」

突然の下半身を舐められているかのよつな感触に、アリスは股を押さえて座り込んでしまう。

(ぶちゅ!ぢゅんっ!じゅるじゅるじゅるじゅる……!ぽん!)
「あっはぁっ!だっ、やめぇっ……!ひゃああああああっ!……あんっ!」

股を押さえた状態のまま、アリスは天を仰いで絶叫した。
まだ誰にも触ることを許したことがない自分の秘所を無遠慮に舐めまわされている恐ろしい感覚に、アリスは混乱する。

「俺様の舌技は絶技といってもいい技よ……淫魔のサキュバス共相手にこの舌技だけで金を取っていたレベルだからなぁ!ガキが耐えられるわけがねえ!ヒヒヒヒヒヒ!」

(くっ……スピカは、この妙な感覚のせいで体が動かせなかったということですかっ……!)

敵ながら同情してしまうくらいに、ミイラ男の遠隔攻撃は激しいものであった。
痛みではないが、下着の上から襲いかかる不快感は無視できるレベルではない。

(それでも……こんな男に負けるわけにはいきません……!我慢、しないと……)

顔を真っ赤にさせながらも、よろよろと立ち上がるアリス。
そんな彼女の羞恥に染まった顔を見て、ミイラ男はニタリと笑った。

「ヒッヒヒ……!まだ耐えられるとでも思ってんのか?こっからもっと気持ちよくなるってのによ……」
「は……?い、一体何を言って……」
「ヒヒヒヒヒヒ!真面目系軍人美少女アリスちゃんの水色ショーツ、このままひん剥いてダイレクトアタックしてやるぜ!」

(じゅるじゅるじゅる……べろぉんっ!)
「んううううぅっ……!ふぁっ!?」
ミイラ男はアリス人形のスカートの1番奥にあるショーツに舌を貼り付け、そのまま思い切り引き剥がした。
実際には脱がされていないが、下着を剥がされたような感覚を感じたアリスは、スカートの中に手を入れて下着の有無を確認する。

(だ……大丈夫……なら、今のは……)

「ヒヒヒヒヒ……条件は整った。これからアリスちゃんの連続絶頂が始まるぜぇ。喘ぎ声の準備はいいかぁ!?」
「な……何を馬鹿なっ、ひゃあぁんっ!?」

先ほどまでとは一線を画す強烈な感覚に、アリスはまたも強く股を押さえてしまう。
顔をミイラ男の方に向けると、やはりというべきか……
人形の自分の股が、男の舌でベロベロと舐められていた。
「このぉっ……変態が……!」

(ぞわぞわっ……!ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ!べろりっ!)
「あっくぅっ……!そ、そんなっ……な、中に……!?んっ!ああああっ!!」

先ほどまでと感覚が違う理由に気づいた瞬間、アリスは耳まで赤くなってしまう。
下着は着用しているのにもかかわらず直接的な秘所への感覚は、流石のアリスも全身の身の毛がよだつ思いに駆られた。

(うぅっ……こんなふざけたことで……変態男の好きなようにされるわけにはいきませんっ……!)
だがそれでも、軍人であるアリスにとって、戦い以外の敗北はこれ以上ない屈辱である。
ましてや、性的な口淫のみで屈するなど許されない。
他人が許しても、アリス自信がそれを許すわけにはいかないのであった。

「これしきの、ことでっ………わたしは……!」
「おーおーその顔……撮影させてもらったぜぇ?抵抗できるもんならしてみやがれ……じゅるっじゅるっ!」
「ぅぐ……くうぅ……!」

481名無しさん:2019/04/07(日) 20:34:14 ID:???
「っ、ああぁっ……♥ はあっ……はあぁっ……!!」
(うう、最近こんなことばかりな気がします……!ですが、なんとか、反撃しないと……!)

「くくく、頑張るねぇ……だが、その態度がいつまで持つかねぇ?」

性的なことに全く慣れていないアリスは、自らの体を走る快楽に必死に耐えていた。ミイラ男は包帯だらけの顔で唯一露出している口元で舌なめずりをすると、さらに責めを激しくする。

「こ、の────っっっっ♥♥!? なっ!?な、な、あひあぁぁっっ♥!!」

快楽を前に、アリスは耐えるだけで精一杯。思考を反撃に割こうとするだけで、あられもない嬌声をあげてしまう。

「クケケケケ!反撃する気力はあるが、体がついていかない……そろそろいい塩梅だなぁ」


そう言ってアリスに近寄ったミイラ男は、自らの包帯をゆっくりと解いていく。

「な、にを……ひっ!?」

「……いい男が台無しだろ?あの小娘に復讐するためにこうなっちまったが……これはこれでやりたい放題できて楽しいぜ?力ずくで女を喰えるからなぁ」


包帯の下から現れた顔は、まるでゾンビのように腐れ果てていた。目の部分は空洞になっており、髪は辛うじて金髪だと分かるが、ほとんど抜け落ちている。

「なんてったって金で女を食いまくってたら、金がいくらあっても足りねぇからな。ちょっと隠れ里の情報を売っちまったが、それも気づいたらなくなってたし、な……キヒヒ!」

「はぁ、はぁ、ん……!げ、下衆が……!」

アリスの罵倒を意にも介さず、ミイラ男は解いた包帯を地面に落とす。すると、包帯はひとりでに動き……アリスににじり寄って来た!


「な、にを……!?ぁああああああん!!」

身の危険を感じたアリスは逃げようとするが、その瞬間に人形を舐められて脱力してしまう。そして、その隙に包帯はアリスの体に絡みつくと、アリスの体はどんどん包帯で包まれていく。

「こ、れは……!?」

「ケッケッケ……これでお前も、もうすぐ俺たちの仲間入りだ……それに全身が覆われた時、お前は裸に包帯を巻いただけのミイラ女になる!ケケ!そうなったらお前は俺様の性奴隷だぁ!女がミイラになった時は都合よくグロくなんねぇからなぁ!」

「なっ……!?この、ひきゅぁぁああぁぁっ!?」

ミイラ男の説明を聞いて血の気が引いたアリスは必死に抵抗するが、人形を舐められるだけで虚しくも力が入らなくなる。

「ああ、いやぁ……!」

そうしているうちに、シュルシュルと包帯に巻かれていき、もはや顔以外は全身包帯に巻かれてしまった。
そして、最後に残った端正な顔にも、包帯は巻かれていき……





「いやぁあああああああああああああ!!!!」

482名無しさん:2019/04/09(火) 22:24:08 ID:???
「ちょ、ちょっとリンネ!」

サキの呼びかけにも応じず……リンネは人生そのものに投げやりになっているかのような、暗く儚い表情のまま、背を向けて庭園の奥へ歩いていった。

「あーもう何なのよリンネの奴!初めて会った時はクソみたいなオカマだったくせに、ナルビアで助けたり急に好きとか言ってきたり!」

「え、お姉ちゃんそれって色々どういうこと!?あの人男の人だったの!?それにお姉ちゃんが好きって!?気になる気になる!」

「ユキ、私もそれは気になるけど、今はそれどころかじゃないわ!」

「……それに、ヨハン様が操られてたユキを傷つけたなんて……そんなわけないじゃない!ねぇユキ?」


色々信じられないことを聞いたサキは、一端リザのことを脇に置いた。そして気持ちの整理をつけるために、ユキにあの日……大怪我を負った日のことを訪ねる。

だが、その結果は……


「え……ヨハンさんが、私を……?う、ぐ、うぁ……!?」

「ゆ、ユキ!?どうしたの!?大丈夫!?」

「あ、頭、割れちゃ……!あ、あああぁああぁあああ!!」


★ ★ ★

「フハハハハハ!邪術師でもない限り、この結界には入れない!助けなんて来ねぇのさ!ゲハハハハ!!」

「はいはい、フラグ立てご苦労様……シャドウボルト!」

「なに……?ぐわぁあぁああ!!!」

突然、結界内の空間が歪み……ミイラ男の後ろから、黒髪の少女……サキが現れる。
完全に不意討ちで現れた少女にミイラ男が対応できていないうちに、サキは攻撃魔法でミイラ男を攻撃した。

「げ、げはっ……!バカな、なぜこんなところに、邪術師が……!?あのクソ王、話が違うじゃ……ない……か……」

サキの攻撃を受けたミイラ男は倒れ……周囲に展開していた結界が崩壊し、元の美しい庭園が辺りに広がった。

「……やっぱり露出狂が噛んでんのね。ほんと、あの変態の下で働くのが嫌になるわ」

「はぁ、は、ぁ……!リゲ、ル……!?」

ミイラ男の攻撃から解放されたアリスは地面に倒れ、息も絶え絶えにかつて取り逃がした相手を見上げる。

「なぜ、私を助けたのです……?この私が、恩に着るとでも、思い……ぅぐっ!!」

地面にうつ伏せに倒れながら気丈に振る舞うアリスの背中を、サキは踏みつけて黙らせた。

「別に、ああいう手合いはそのうちこっちにまで手を伸ばしそうだったから倒しただけよ。それに、あんたには聞かなきゃなんないことがあるからね。本当はクソリザがやられてるうちに、あんたを後ろから襲うつもりだったけど……まぁ結果オーライだわ」

そう言ってサキはアリスの背中を踏む力を強くしながら、詰問する。

「……舞は無事なんでしょうね」

「ぐ、ぅ……教えて、さしあげると……お思いですか?」

「あっそう、まぁぶっちゃけ正直に答えるとは最初から思ってないし。口車に乗ったみたいで癪だけど、リンネの奴にでも聞くとするわ」

「っ!リンネさんには手を出させまん!今度こそ私が……!ぐぅあぁあ!!」

歯を食いしばって立ち上がろうとしたアリスだが、サキに腹部を蹴り上げられて、今度は仰向けを転がってしまう。

「ったく……大人しく寝てなさい!」

「ごぶっ!」

仰向けに転がったアリスの腹部を思いっきり踏みしめるサキ。ミイラ男との戦いで消耗していたのもあり……アリスは気を失った。

「サキ……ありがとう、助かったよ」

ミイラ男のセクハラ攻撃で倒れていたリザも何とか立ち上がり、サキに歩み寄る。

「クソリザ、あんたはほんとピー◯姫かってくらい毎度毎度やられて……あんたは私の小間使いくらいがちょうどいいわ。母さんとユキをトーメントまで送ってってちょうだい」

「でも、私はサキがナルビアで危ない目にあわないように、護衛を……」

「そのザマでよく護衛とか言えるわね。別にわざわざナルビアまで行かなくても、リンネの奴と話をする算段はついてるわ」

それを聞いて得心したような表情をするリザ。アリスを人質にでもとって情報を脅し取るつもりとリザは判断したのだ。

「……私は庭園の奥でリンネと話をして来る。母さんとユキは向こうにいるから、ちゃんと送りなさいよ」

483名無しさん:2019/04/13(土) 13:55:24 ID:V11pQM7U
「……また会いましたね、サキさん」

「……一応、こいつは殺してないわ。あんたの仲間でしょ?」

美しい花々が並ぶ、月下庭園の奥。家族のことをリザに任せたサキは、リンネと再び邂逅していた。
気絶しているアリスを除けば、今度は2人きりだ。

「仲間、ですか……ただ同じ国に属しているだけですよ」

サキが適当にその辺りにアリスを放り捨てても、リンネは特に気にした様子はない。

「……そうね。同じ国にいるからって、仲間とは限らない……あんたの言ってることは本当だったわ。ヨハン様が、ユキをあんな、自分じゃ立てないような体にした……」

サキがヨハンのことを言った瞬間、突然頭を押さえて苦しみ出したユキは、あの日のことを思い出していた。
そして、涙ながらに、彼が自分を徹底的に痛めつけることで、サキがトーメントから抜け出せなくなるように楔を打ったことを伝えたのだ。ユキは、もうサキに危険な任務を続けて欲しくないと頼んだが……

「……もう、ムカつく連中ばっかのあの国で働く義理はない……けど、ユキや母さん……それに、舞を守るには……トーメントの、力がいるの」

「……僕も同じですよ。僕が生きていくには、ナルビアにいるしかない……けれどもう、あんな連中のために働くのは御免です」


そう言ってリンネは、自分のことを語った。
自分が過去の英雄の細胞から作られたクローン人間であること、ナルビアの薬がないと生きていけないこと、戦闘兵器として生まれてきたヒルダを本当の妹のように思い、守りたかったこと。
……けれど守りきれず、ヒルダはもうメサイアという殺戮兵器になってしまったこと。

「僕たちは協力し合えると思います。互いに情報をリークしあい、貴女は家族と、僕はヒルダと……穏やかに暮らす方法を探すために、情報を共有しましょう。そうすれば、わざわざ命を賭して敵国へ潜入することもない」

「……利用し合う、共犯者ってわけね……悪くない話だけど、その前に舞を返してもらうのが先よ」

「彼女はもうナルビアにはいません。協力者として招かれていた司教アイリスに操られ……今はアイリスも彼女も、居場所すら掴めていません」

「っ……!あのオバサン……!」

それを聞いて、サキは唇を噛む。以前のサキであればリンネの言ったことを信じなかっただろうが……何故か今は、彼が嘘をついていないと思えた。

「その辺りも情報を掴み次第、お伝えしますよ。まずはナルビアの主な主力兵器やシックス・デイたちのことをお教えします……サキさんはトーメントの新兵器や十輝星について教えてください」

「そうね……そうやって楽に仕事しながら、真っ白幼女を元に戻したり、ユキの治療をしたり、舞を探したりする方法を探すってのは、悪くないわ。じゃあ早速、ナルビアのことを聞かせてもらおうかしら」

「そうですね……けれど、その前に一つだけ……」


そう言ってサキに近づくリンネ。

「何の用……ん、む……!?」


リンネは突然サキの顎を掴むと、顎クイしながら……その唇に、キスをした。振り払おうと思えば、簡単に振り払えそうな、唇を触れ合わせるだけのフレンチキス。

だが、サキは……振り払わなかった。

484名無しさん:2019/04/13(土) 13:57:06 ID:V11pQM7U
「……いつも、やられっぱなしでは……悔しいですからね」

「り、リンネ……言っとくけど、ヨハン様に失恋して傷心してるから許したとかじゃないわよ。あんた女っぽいけど顔立ちはいいから5年後くらいまで考えたら有望だし、それに、ナルビアで助けてもらってからは結構嫌いじゃなかったっていうか……」

あわあわとしながら、言い訳のようなことを早口で言うサキ。リンネは、サキの底意地悪く強かに生きる姿に、自分と似た境遇なのに、自分にはないものを見出して惹かれたが……いざ可愛らしい反応をされると、ギャップにクラクラした。


「……もう一回……もうちょっと激しく、キスしても……いいですか」


「……好きにしなさい。初心なあんたと違って、私はキスくらいなんでもないんだから」

大きな力に利用されるだけの人生など御免な二人。家族を大切にしている二人。出会った当初は険悪であったが、いつの間にか認めあい……惹かれあっていた二人。

(ああ、そういえば……)

サキはふと思う。邪術師として生きていると、必然的に誰かにキスをして魔力や体力を吸うことが多くなる。
けれど世界の意思とでも言うべきか、相手は基本的に全て美女美少女だった。

(……同性ノーカンにしたら、私の初めてのキスも、リンネってことになるわね……)

そんなことを考えながら……サキは目を閉じて、リンネを受け入れた。






(う、そ…………リン、ネ……さん?)

辛うじて意識を取り戻したアリスは、目の前の光景を愕然と見ていた。

度重なるダメージで頭は靄がかかったようになっているし、意識はあっても体が動かない。

そんな、ただ意識があるだけの状態で、意中の相手が怨敵と熱い口付けを交わしている姿は……俄には信じられなかった。


(邪術師は、口付けで相手の体力を吸収すると聞きます。操られたエリスやレイナさんもそうでした。きっとリンネさんだって、無理矢理キスされてるだけ……)

頭では目の前の現実を否定しようとするも、リンネの方からキスしたという事実。そして何より、相手のことを本当に思いやっている、あの優しい仕草。

以前強姦未遂されかけた時の自分に対する乱暴な行動とは、あまりにも違う行為。

恋する乙女の本能とでも言うべきか……二人が想い合うようになっているのを、アリスは理屈ではなく心で理解してしまった。


(な、ぜ……なぜなんですか、リンネさん……!なぜよりによって、そんな、女…………に……)

元々負っていたダメージと、今受けた精神的ショックにより……アリスは再び、気を失った。

485名無しさん:2019/04/13(土) 23:13:22 ID:???
「んっ……!ん、んんうっ……」

「ふっ……!……ん、はっ……!」

優しく啄ばむようなキスをした後、宣言通り、唇を吸い上げ口内をかき回すような激しいキスをするリンネ。
慣れていないながらも異性であることを強く感じるような激しいキスに、サキも追いつけるよう必死にテンポを合わせる。

(い……意外と積極的っていうか……!は、激しっ……!キスだけでテンション上がりすぎなんじゃないのっ……!)

強気に受け入れてはみたが、思った以上に強引なリンネのリードについていくのがやっとだった。

「はぁっ、はぁっ……サキさん……!」

「んんぅっ……っ……!あんっ!」

リンネはサキの腰に手を回し、体を密着させるように無言で促す。
一瞬それに身を任せて体を寄せたサキだが、ふっと我に帰りリンネの顔を手で制した。



「ちょ……ま、待って……!」

「……あ、すみません……」

サキが手を出した瞬間、すぐに体を離し身を引くリンネ。
口元に着いたどちらのものかもわからない唾液をハンカチで拭き取りながら、サキは軽く息をついた。

「もう……激しすぎっ!初心のくせにあんまりがっつくんじゃないわよっ……」

「そ、そうですよね……つい調子に乗っちゃって……すみません。」

「……ほんと、やけに素直ね。やっぱりあの真っ白がいなくなって傷心気味なんじゃないの?」

「……それはさすがに否定できません。ヒルダは僕の全てでしたから。」

先ほどまでの激しい動きが嘘のように憂いを帯びた目で遠い目をするリンネは、サキの目から見ても少し異常だった。

(やたらとキスを求めてきたのは、恐らく自制心が効いてない証拠。……精神的に追い詰められていることは間違いなさそうね。)



「……ま、まぁ……わたしも向こうに母さんと妹がいるし、とりあえず連絡先でも交換しましょ。何か掴んだらすぐに伝えるわ。」

「そうですね……アリスは僕が適当に処理します。今のを見られていたらまずいかもしれませんが……ファントムレイピアがあれば記憶を壊すことも不可能ではありません。」

「あんたのそれ、ほんと酷い武器ね……もう2度と食らうのはごめんだわ。」

「サキさんにはもうやりませんよ……では、また連絡します。」

リンネは気絶したアリスを抱えた後、ぎこちないながらもサキに笑みを返す。
その笑顔を見たサキもまた、慣れてない笑顔を作った。

486名無しさん:2019/04/17(水) 01:23:54 ID:???
「………あ、れ………ここは、どこ………?」
見知らぬ部屋のベッドの上で、私は目覚めた。
………頭が、割れるように痛い。確かあの時私は、敵にやられて……その後どうなったのか、記憶がはっきりしない。

「うふふふふ……おはよ。……やぁっと目が覚めたのねぇ〜。ずいぶん長い間眠ってたのよ、あなた……」

見知らぬ部屋の中には窓一つなく、古びたテーブルの上の燭台が唯一の照明。
その横の椅子に、怪しい雰囲気の女性が腰かけていた。
自身の枝毛やネイルの艶などをぼんやりと気に掛けながら、気だるそうに脚を組んでいる。
ピンク色のふわふわした巻き毛、黒地に紫や赤の奇怪な装飾が施されたレザードレス。特に目を引くのは……

「貴女………誰?」
「あたし〜?あたしは、あなたのぉ〜。
祖母の〜、友達の〜、妹の〜、婚約者の〜、兄の〜、行きつけの店の〜、常連客の〜……天使でぇーす!」
「………絶対嘘だわ」
……背中から生えている、コウモリ羽。ついでにお尻からは尻尾が生えていて、その先端は矢じり型。
人間でないのは間違いない。どう見ても悪魔系である。

「うふふふ……まだ記憶がはっきりしない感じかしら?大丈夫?自分のお名前、ちゃんと言える?」
「……サラ・クルーエル・アモット」

「職業は?」
「国際警察庁の、時空犯罪対策室に所属……通称『時空刑事』……の、見習い」

「見習い、ね………年齢は?3サイズは?彼氏いる?ていうか処女?」
「……いい加減にして。何なのよ、さっきから」

「これは大事な話よ。貴方の記憶が、どこまではっきりしているか、確かめる必要があるの。
ここに来る前、何をしてたか……覚えてる限りの事、話してもらえる?」

「………わかったわよ。……あの時、私は………」

──────

……時空犯罪組織のアジトの情報を掴んだ私は……先輩の応援を待たず、単独で踏み込んだ。

だけど……それは、敵の罠だった。

待ち伏せされ捕らえられた私は、仲間の居場所を聞き出すため、激しい拷問を受けた……

(バリバリバリ………ズドドドドッ!!)
「っ………っぐああああああああぁぁぁあぁっ……!!」

「ヒッヒッヒッヒィ………どうじゃね、お嬢ちゃん。お友達のこと、話してくれる気になったかねェ?」
「はぁっ………はぁっ………はぁっ………だ、れがっ……言う、もんですか……っく、ぅあああああああんっ!!」

下着姿で電気椅子に拘束され、全身至る所に……胸や股間にまで電極を取り付けられた。
何時間も何日も、眠る事さえ許されず、苛烈極まる電流責めが続く。

「うふふふふ……だめだめー?もーちょい緩めてあげなきゃ……オタノシミの前に、壊れちゃうじゃなぁい?」
「ケケケ!そりゃぁもったいねえなぁ……あと4〜5年もすりゃ、超絶最高な極上ボディに育つだろうによぉ!」
「わかっとるわかっとる……こいつはほんのお遊びじゃ。
お嬢ちゃんは『本命』を呼び寄せるための、大事な『エサ』じゃからなぁ……ヒッヒッヒッヒィ………!!」

時空に名だたる凶悪犯罪者達が一堂に会し、鎖に繋がれた私をとり囲んで嘲笑う。
……私は、無力だった。
両親を犯罪者に殺され、悪を滅するため時空刑事を志し、これまで死に物狂いで鍛錬を続けてきたというのに……

「クスクスクス……次はあちしのばーん。イき狂っちゃう前に、早く来るといいねぇ。『白銀の騎士』様が……」
「ケケッ!…なぁにが『時空刑事』だ。俺様が5秒でスクラップにしてやるよ……ヒャーーッヒャッヒャッヒャ!!」

「はぁっ……はぁっ……………さん……来ちゃ、だめです……これは、罠……っぎひああああぁぁあああああああ!!」

──────

「私は……どのくらい眠っていたの……あれから、何日くらい経った……?」
……頭がふらふらして、全身が気だるかった。

「……だいぶ記憶が飛んでるみたいね。ま、そのうち元に戻ると思うけど………ふふふふ」
ピンク色の巻き毛の女が、意味ありげな笑みを浮かべる。

……ゆらゆらと揺らめく蝋燭の光に照らされながら、私は少しずつ、記憶の糸を手繰っていく……

487名無しさん:2019/04/18(木) 23:51:45 ID:q2ji6Urg
「あ、お姉ちゃん!」

ナルビアの人間と話をしてくると行って庭園の奥に行ったサキを待っていたユキとサユミ。ユキはサキが戻って来たのを見て、明るい声をあげる。

「2人とも、ただいま……リザの奴は?」

「……魔物化した男性に、トドメを刺してくる、と言っていたわ」

「そう……まぁあいつのことなんてどうでもいいんだけ」

相変わらずリザに対しては素っ気ないサキ。だが、サユミは母の勘とでも言うべきか……娘の様子がおかしいことに気づいた。

「あら、サキ、何か顔が赤いようだけど、大丈夫?何かあった?」

「うぇっ!?」

意中の人とまではいかずとも、そこそこ気になってた相手と結果的に結ばれたサキ。図星を突かれたサキは明らかに狼狽する。

それを見て、ユキはピンと来たようだ。

「分かった!さっきの男の人と何かあったんだ!だってあの人、お姉ちゃんのことが好きなんでしょ?」

「ええ!?サキ、それは本当!?ヨハンさんのことはもういいの?」

「えっと、なんていうか、ヨハン様がユキに酷いことしてショックだったっていうか、でも危ない雰囲気はそれはそれでアリっつーか、そもそもトーメント人の時点で多少の外道さは織り込み済っつーか、そもそも脈なしっぽかったっつーか……
まぁその辺諸々考えると、危なっかしくて放っておけない年下も悪くないっていうか……」

ヒルダを失ったリンネは、かなり危うい雰囲気を身に纏っていた。
放っておけないというか、そのうち世を儚んで自殺でもしそうな、自分がそばにいてあげなくちゃいけないとつい思ってしまいそうな……

そういった想いを要領を得ないながらも語る娘を見て、サユミは穏やかな表情を浮かべる。

「あら、そうなの?サキはしっかり者だから、そういう子が好きなのも不可思議じゃないわね」

「ナルビアの人みたいだけど、それでも恋人なんて素敵!ロミオとジュリエットみたい!
それにこんなに綺麗な花畑の中で告白されるなんて、やっぱりお姉ちゃんもロマンチックなの好きなんだ!」

興奮した様子で早口で語るユキ。少し前までヨハンに受けた暴虐を思い出して震えていたとは思えないが、それだけ姉の恋路が気になるのだ。

「いやまぁ、クソ生意気なオカマが滅茶苦茶落ち込んでて、つい……っていうか、私もヨハン様のことでショックだったっていうか、雰囲気に流されたっていうか……」

髪の毛をクルクル弄りながら、照れくさそうに、罰が悪そうに言い訳めいたことを言うサキ。
だが、ふと真剣な表情に戻る。

「……ねぇ、大事な話があるの」

真剣な口調になったサキに、2人も恋バナモードから表情を引き締める。

「私は、こんな国に尽くす義理はないと思ってる。でも、この世界で生きていくには、長いものに巻かれるのも必要よ。
だから私は、リンネと協力して情報を共有しあって、上手く生きていこうと思うの。
ただ国に利用されるだけじゃない、私たちも国を利用してやるの」

大いなる力に翻弄されながら生きてきた家族にとって、サキの言葉は重いものだった。


「サキ……どこか、静かな所に逃げるわけにはいかないの?」

「ここから逃げても、どこかで違う誰かに虐げられるだけ……それならいっそ、トーメントで好き勝手に生きる……私の目的は、変わらないわ」

思わず逃げ腰なことを言ってしまうサユミ。サキはそんな母に対し、諭すように語る。それを聞いて、今まで自分たちがサキの負担になり続けていることに暗い顔をするサユミとユキ。

「ほら、とりあえずはナルビアに潜入しなくても情報は手に入ったんだから!そんなに暗い顔しないで!こうやって賢く生きれば、今までよりも危険な目にも合わないわ!」

そんな2人を元気付けようと、努めて明るく振る舞うサキ。それを見て、ユキは益々得も言われぬ不安を覚えてしまう。何か、姉がとても危険な道に進もうとしている気がして……

「お姉ちゃん……これから、どうするの?」


そんな妹の質問に、サキは庭園の向こう……ナルビアの方を向く。

「そうね、まずは……女の子の強化状態を解除する方法でも探すとするわ」

488>>486から:2019/04/20(土) 12:49:49 ID:???
(ぐちゅっ………ずぶっ……!!)
「んっ……っぅああああああぁぁっ!!……っぎあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」
「クスクスクス……女の子に犯されるのは初めて?
あちしの最凶最悪トゲトゲ猛毒イモムシちんぽ、すっごいでしょ。
身体の中、ぜ〜んぶ溶かされちゃうみたいで……ひひひ」

………あの時私を捕らえた悪党達は、どいつもこいつも最低の下衆ばかりだったけど……この女は、特にタチが悪かった。
裏の通り名は「蟲使い」。名前は、何て言ったか……

「でも、大丈夫……もうちょいして全身に毒が回ったら、痛いのがぜ〜んぶ気持ちよくなるから……んっ……ちゅっ」
「はぁっ………はぁっ………こ、の……クソおんっ………あ、っぐ、んむっ………!……」

(……がりっ!!)
「んぎゃっ!!………こ、いつっ……あっしの舌、噛みやがっへ……!!」
「ぺっ……ぜぇっ……はぁっ………いい加減離れろっての……虫臭い」

(じゅぷっ!!……ぐちゅっ………どぷっ)
股間に突き立てられた女の毒虫ペニスが、勢いよく引き抜かれる。
「それ」はどうやら女とは別個の意志を持つらしく、毒々しい紫、黄緑、黒、白、そして赤……様々な色の液体を垂れ流しながら、不気味に蠢いていた。

「キキィッ……!」
甲高い金切り声と粘着質な音が、耳の奥にまでへばりついて来る。
異界の技術で、こういったおぞましい生体改造を施す輩は何人かいたが……ここまで醜悪なセンスの持ち主は初めてだ。

「てんめぇ……まだ自分の立場がわかってねーなぁ?」
表情に怒りをにじませながら、女が再び近付いて来る。
右手の爪には、様々な種類の蟲から調合されたという猛毒が仕込まれているという。
左腕は、生体改造によって甲虫のような異形の装甲を纏った剛腕へと変わる。
軽く一薙ぎするだけで、後方のコンクリート壁に巨大な傷痕が刻まれた……

「………!……」
「なに?今更ビビってんの?……ダッサ」
(……ずぶっ!!)
「ぎゃっ!!……っう……!!」

私は改めて思い知らされる。
どんなに鍛えても、普通の人間の力では奴らには敵わない。奴らに立ち向かうには……

「人質なんてめんどくせーのはやめだ……この場でブッ殺してやr」
「来たぞーー!!奴だ!!『時空刑事』だ!!」

……力が、必要だ。圧倒的で、絶対的な……正義の……

「うちの期待の新人を、随分可愛がってくれたそうじゃない……この借り、百万倍にして返してやんよっ!!」

「ちっ!!生体改造兵どもを、あっという間に伸しちまうとはな……」
「黒髪ショートに丸メガネの日系女、パーカーの上に白衣、男みてえに平べったい胸……
間違いねえ。奴が『マリア・マーシレス・オールドフェンス』……又の名を」

「最後のは余計だボケーーっ!!」
「「「グワーーーッ!!」」」

「…マリア先輩……!」
「ふん……思ったより早かったねぇ。
んじゃ、まずはあの先輩ちゃんからブチ殺してやるよ。アンタの目の前でねぇ……ヒヒヒッ」

489名無しさん:2019/04/21(日) 12:00:13 ID:???
「マリア先輩!来ちゃダメです!逃げてください!これは、罠で……んむぐううぅうぅぅッ!?」

「はーい、いい子だからちょーーっと黙ってようねー」

必死に何かを伝えようとしたサラの口を、蟲女の毒虫ペニスが塞ぐ。
サラは先ほどと同じように必死に噛んで抵抗するが、毒虫ペニスは舌よりもかなり頑強なようで、まるで動じていない。
むしろ、必死の抵抗をちょっと激しいフェラくらいにしか感じなかった毒虫ペニスは、一気にサラの口の中に精を吐き出す。


どびゅるッ!! びゅるびゅるぼびゅびびゅ!! ビュルルルッ!!

「んぐむうぅうぅぅぅッ!? んぐおぉ、おぐぅぅ!!」

毒虫ペニスから出てきた精液は、異様に粘ついていて……それが口中に広がることで、毒虫ペニスが引き抜かれた後も、サラの口を塞ぐ猿ぐつわの役割を果たしていた。

「サラ!!!てめぇ、この私を目の前にしても新人イビリを続けるたぁ……いい度胸じゃない!」

「おっと、テメェの相手は俺たちだー!」
「相手は女一人だー!やっちまえーー!」
「変身する隙を与えるなー!」


「ふん、隙を与えるな、ね……甘いっつーの!」


「「「またしてもグワーーーッ!!」」」

怒りのままに蟲女へと向かうマリアに立ち塞がる凶悪犯たち。だがマリアは生身のまま、拳と蹴りで彼らをあっさりと一蹴した。
大立ち回りを演じたというのに、その息は全く乱れていない。


「あー気持ち良かった……って、もう男衆倒したの?せっかちさんだなー」

「タイム・イズ・マネー……日本の諺よ。アンタら如きに時間かけてらんないの。早く新人を医務室に連れてかなきゃならないからね」

「キシシ……言っとくけど、あちしをその辺に転がってるのと一緒と思わない方がいいよー?」

「……その悪趣味な姿……確かに雑魚じゃなさそうね……それじゃあ、本気でいくわよ……『閃甲』!!」

マリアがブレスレットを握りしめて、変身ワードを叫ぶと、彼女の体が光に包まれる。そして……


「白銀の騎士、クレラッパー……見!参!」

パーカーと白衣のさらに上に、銀のプロテクター。そして、バイザー型のヘルメットを装着した……白銀の騎士が現れた。

女時空刑事マリア・マーシレス・オールドフェンスが<閃甲>に要する時間はわずか1ミリ秒に過ぎない。
ではその原理を説明しよう!時空間に存在する未知の物質シャイニング・シルバー・エネルギーが超時空バイク「アージェント・グランス」によって増幅され、コンバットアーマーへ変換。
わずか1ミリ秒で<閃甲>を完了するのだ!


「白銀の騎士……キシシシ!!『ここで』変身しちゃったねーー!これでやっと、シャイニング・シルバー・エネルギーの源への道が……」

「何を企んでるか知らないけど……くだらない罠ごと、ぶっ飛ばしてやんよ!」


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