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ドラゴンクエスト・バトルロワイアルⅢ Lv6

86ただ一匹の名無しだ:2016/09/02(金) 23:23:34 ID:utIDd3AE0
投下乙です
デュランと僧侶スクルドの同盟、これは期待!
できる限り万全の敵と戦いたいというのもデュランらしい理由ですね

87 ◆OmtW54r7Tc:2016/09/02(金) 23:33:30 ID:1kcz4zfU0
あ、スクルドのMP微消費が抜けてました
wiki収録の時に書き足しときます

88ただ一匹の名無しだ:2016/09/03(土) 20:17:13 ID:JgH1Q.HE0
投下乙
ハーゴンは死んじゃったけど、リーザスにはまだデュラン好みの強者が何人もいるのでバトルがまたありそう

ていうかwikiの現在位置CGI見たら、リーザス村周辺にマーダーと危険人物集まり過ぎぃ!
西半分はヘルバトラーとバルザックと竜王くらいしか積極的に殺しに回るのいない気がするぞ
これはちょっとマーダー散らせないとやばいっすね……

89ただ一匹の名無しだ:2016/09/04(日) 07:19:42 ID:GRy0XXfI0
支給品一覧と本編を照らし合わせてて思ったんだけど、ヘルバトラーの支給品ってスレイプニール以外に世界樹の雫もあるはずなのでは

90ただ一匹の名無しだ:2016/09/04(日) 17:14:22 ID:HtyKROwA0
確かに世界樹の雫も使ってるね
でもそれだと不明支給品の残り0〜2ってのが合わなくなる
ジョーカーとしての優遇で一個多い可能性がありますとかそんな感じで補完しとけばいいかな

91ただ一匹の名無しだ:2016/09/04(日) 21:37:13 ID:GRy0XXfI0
それは普通に0〜1に修正すればいいんじゃないかね
単に世界樹の雫の存在忘却で0〜2になってただけだろうし

92ただ一匹の名無しだ:2016/09/07(水) 19:37:51 ID:dnuoDAl60
ハーゴンは死んじゃったけどキラーマジンガがいるんだよな、
デュランはどういう反応をするだろう?
そしてサフィールピンチじゃない?

93ただ一匹の名無しだ:2016/09/07(水) 19:40:40 ID:dnuoDAl60
あっサフィールは北に向かってるのか、間違えた

94ただ一匹の名無しだ:2016/09/07(水) 23:57:39 ID:DSKFApCI0
ジンガーが俺の中の萌えキャラになってきてる件
アレフにキルスコア稼がせるためにわざわざハーゴンのトドメを譲るとか可愛い

95ただ一匹の名無しだ:2016/09/08(木) 10:17:10 ID:LQgqyhmU0
ジンガー「あっちに一人足止めしておきましたで」
アレフ「よっしゃ殺しにいくわ」

96ただ一匹の名無しだ:2016/09/08(木) 16:44:09 ID:h5DrRuaw0
リオウとの初対面時の会話もフランクな感じで可愛いよね

97 ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:19:48 ID:K5hqCuOE0
投下します

98 ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:25:16 ID:K5hqCuOE0


「ヒーロー……ヒーロー!!」


熱い叫びが平原に響く。
たなびくマフラー、それは吹きすさぶ風を全身に受けていることがはっきりと解る。
燃える魂を象徴するかのように流れる汗を、ぐいと拭いながら彼は叫んだ。
草むらを駆け巡りながら、必死に探し求めているのだ。
この地で出会った初めての同志である友の声を。


「どこへ行ってしまったんだ、ヒーロー!」

「おい、叫ぶなよ!!俺の声がかき消される!こっちだって!」

「ムッ、こっちか!?ワシの声が聞こえるか、ヒーロー!!」

「下!こっちだ……下だ!おい!待てモリー!踏みつぶされる!!」




◆ ◆ ◆ ◆ ◆



母なる大地を、自分の両足でしっかりと踏みしめて歩くのが性に合う。
そう主張したのはザンクローネだ。
しかし、悲しいかな長駆のモリーとは決定的な差が生じていた。
歩幅だ。


「ヒーロー!一旦停止だ!君は無敵だが、体力は無尽蔵ではない!」

「ふぅ……おいおい、見くびるなよ?まだ俺は走れるさ」


仲間たちの危機を案じ、モリーは北のトロデーンへ向けて一刻も早く向かいたかった。
しかし、常に自分の後ろを疾走する形となるザンクローネをちらと見て、踵を返して立ち止まる。
彼に深くは尋ねなかったものの、モリーは感じていた。
この小さな身体は『呪い』の類によるものではないかと。


「いや。思い出したのだ、ムッシュやプリンセスが、身体を魔物や動物へと変化させられていた事について」

「そいつらは、お仲間かい?」

「ああ、そうとも。呪いによる不自由を強いられていた。解呪の後に聞いた話では、その間の力はかなり削がれていたらしい」


ザンクローネも彼の言いたいことを確かに理解した。
モリーは彼を、呪いのような外法によりこんな身体に"させられた"と考えているのだ、と。
そして彼の身体は大変弱っているのではないか、とも。
ロクな身の上語りもしないうちから、その苦労を案じられていたことにザンクローネは苦笑しつつ頭を掻いた。


「ヒーローよ……ワシは君に無理をさせていたかもしれん」

99小さいからだに大きな望 2/5  ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:26:38 ID:K5hqCuOE0


「まあ、このナリは呪いのようなモンてのは合ってるぜ。だが無理や負担は感じちゃいねえ」


謝ることはない、と胸をドンと一つ叩いたザンクローネは快活に笑う。
それだけを見れば、彼が少女の抱える人形のように小さな身体になっていることなど微塵も感じられない。
精霊としての身体は失われ、消失したザンクローネの体。
いまここに再び取り戻された肉体が、魔女に引き裂かれたときのものになっている理由は未だ不明だ。
それによって明らかに移動に時間を食われるというのは、確かに理不尽な仕打ちと言えるだろう。
だがこの心根だけは、邪悪な存在にも捻じ曲げることは不可能であった。


「こんな状況だ、甘えてる場合じゃない。足を引っ張るのはゴメンだしな」

「しかしだ、ヒーロー」

「どうした?」


ずい、と進み出て腕を組み、勢い良くしゃがみ込んで彼を覗き込む。
そしてその姿勢のままモリーは人差し指を垂直に立てた。
こういうオーバーアクションな所には驚かされるのか、思わず村の英雄は一歩後に退く。


「今後に備え体力は温存するべきであるともワシは思うのだ。心苦しいが、今後戦いが起こることは避けられんはず」

「ん……まあ、そりゃそうか」


そう言いつつ出会ったときのように肩に乗っての移動を提案するモリー。
急ぐ理由があるということは承知していたザンクローネも、この提案に同意した。


「すまねえなモリー、情けない身体なばっかりに」

「謝罪は不要だヒーロー。この行為は、さっき言っていた足を引っ張るということでは決して無い」


謝ることはない、とキラリと光るような笑みとともに親指をサムズアップ。
モリーを包む風が、強まったように感じられた。
周囲と比べ、ここだけ熱い。
そんな錯覚すら抱くほどに、彼は雰囲気を変えてしまう男であった。


「ワシはヒーローのような熱い魂を持つ人間の為とともに歩み、手を取り合う……それが自分の使命だと確信しているのだ」

「へへ……なら、ここで頭を下げたり、恩に着るのは逆に野暮ってもんか」

「そうだとも、共に邪悪を討つのみだ!では行くぞ、ヒーロー!」

「ああ、行こ─」


その発言を最後にザンクローネの声はモリーに届かなくなった。
加速に着いていけずに吹き飛ばされた彼は、後にこう語った。
すごい風とすごい爆炎を、熱く物語りつつ遠ざかっていく背に見た、と。

100小さいからだに大きな望 3/5  ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:28:52 ID:K5hqCuOE0

─そうして、叫び、慌て、草根をかき分ける男と、懸命に声を挙げる小さな英雄。
両者の時は少しばかし捜索に費やされてしまい、結果として周囲の探索に移れずにいたというわけだ。
なんとも馬鹿馬鹿しいかと思う者も居るかもしれないが、生憎当人らは大真面目である。


「おお、ここに居たかヒーロー!まったく背の高い草だ、君のビッグな背中を覆い隠してしまうとは!」

「2、3度潰されるのを覚悟したぜ」


ややあって、ザンクローネを発見したモリーはようやく安堵の息を漏らす。
決して悪い男ではないが、過ぎた熱血漢であるなと今更ながら再認される形となった。


「俺の声が先に枯れちまうかと思ったぜ……」

「すまない!今後は黙々と君を探すと約束しよう!」

「いやもう探される立場は勘弁してくれ……しっかり捕まるか。おし、改めて」


改めてモリーの声のでかさとテンションに驚きを感じつつも、再びモリーの手を借り肩に乗る。
傍らの靡くスカーフを、決して離すまいと気をつけて。


「出発だ!」

「うむ!」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「トンネル内で鉢合わせることを警戒していたが……」

「待ち伏せの存在は無かったな。取り越し苦労で済んで幸いだ」


警戒の様子を見せつつ姿を表したのは壮年の男性と、坊主頭の青年。
パパス、そしてイザヤール。
彼らは正義の志を抱えて邪悪な存在を追い求め、南へ向かっていた。
聞けば、サヴィオの遭遇したと言うバルザックは、執念深く彼の持つカマエルを付け狙っていたと言うではないか。
ならば彼らを追い、すぐ側まで迫っている可能性すらあった。
暗闇での遭遇を考えた二人は、警戒を絶やすことなく真っ直ぐ南へ向かう。
そして、山岳地帯を越えるトンネルをまさにくぐり抜けようというところであった。


「……気がついたか、あの声に」

「ああ。かすかだが猛々しき叫び声のような物が微かにトンネル内にまで届いた」


その正体は、バルザックなのだろうか。
もしそうであれば、戦いは避けられないだろう。
パパスは背中から鋼鉄の剣を抜き、警戒を強める。
イザヤールも太刀をいつでも構えられる体勢を取り、外の様子を伺った。

101小さいからだに大きな望 4/6  ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:35:15 ID:K5hqCuOE0

「……ぉぉぉぉぉぉぉおおおお!」

(間違いなくこちらに来る)

「…だ!…の気配がした……ヒーローよ!」

(会話をしているようだ。複数か?)

(いや、影は一つしか見えん)


内容は多くは聞き取れないが、どうもこちらの存在には感づいていることが伺える。
ということは、多少なりとも腕の立つ人物なのは間違いない。
現状重要なのはただ一つ。
敵か味方か。
二人の間に緊張が走った。

(……どうやら人間なのは間違いないな)

(あの出で立ち……芸人か……?)

「確かに気配がこちらから!ミスターか!?ナイスガーイ!?」

「おい、トンネルの方から誰か出てきたぜ!」


剣を握る手はそのままに、姿を見せた。
あちらは武器を構えることは無い。
目についたのは、肩に乗る小さな人間のようなもの。


「あれは妖精か……?」

「妖精……息子に読み聞かせた話で見たことしか無いが」


どうやら話し声がした理由はこれらしい。
一人に見えたが二人連れ、という訳だ。


「俺はそんな可愛らしいモンじゃねえさ」

「どうやらヒーローの知る人物でもなさそうだな……」


ひとまず互いに敵意を持たないことはすぐに納得できた。
奇妙な二人連れ同士、向かう先の無い刃は下ろされる。


「私はパパスと言う者だ」

「我が名はイザヤール。名簿にあった以上ご存知かもしれぬが名乗らせてもらった」

「うむ、わしはモリー。……むっ、そういえば……」


荷物から名簿を取り出したモリーはパラパラと頁を確認する。
ザンクローネも覗きこむ形で目を動かした。

102小さいからだに大きな望 5/6  ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:41:24 ID:K5hqCuOE0


「すまん。すべてを確認した訳ではない……これより読むので少し時間をくれんか」

「あー、俺もだ。お二人さんよ、急ぐなら別に放ってくれていいぜ?……そうそう、俺はザンクローネだ」


告げられた名は確かに彼らの調べたものと一致している。
肩の上に乗る小さな参加者に驚きつつも、二人は了承した。


「いや、我らとしても情報は欲しい。まずは君たちと話がしたい」

「探している魔物や人物が、君らの知る者かもしれんからな」


名簿を急ぎ読み返す二人を待つ間、一行はトンネルの出口に腰を下ろした。
互いの素性、知り得る情報を時間が許す限り公開し合う。
モリー達はどうやらここでパパス達と接触するまで、誰一人として見かけることもなかったとのことだ。


「たまたま西の岬にモリーが居たからよかったものの、俺一人だったらここまで日が暮れてたかもな」

「うむ……それは不幸中の幸いと言えるだろう」

「君は本当に妖精では無いのか?」

「まあ話すと長くなるが、今の俺は単なる小人みてえなモンだと思ってくれ」

「うむ、確認を終えたぞ!……すまない、ムッシュ・パパスにマスター・イザヤール」


ザンクローネと共に名簿の大方の概要を読みなおしたモリーは、頭を下げた。
唐突な謝罪を受け、二人は顔を見合わせる。


「どうしたのだ?」

「先に告げたように、わしらが会ったのは君たち二人が初めてだ、お役に立てそうもない」

「あんたらが言ってた、追いかけてるバケモンに関しても見知った間柄じゃねえ。時間を取らせて悪かったな」


呆れ返るほどの真摯な謝罪。
その態度は信頼に足る物と判断され、二人は顔を僅かに綻ばせた。


「なに、謝罪されるようなことではない」

「君たちは自分の知り合いを探すことが第一で構わない。我々は先を急がねば」

「どこへだ?」

剣を背負い直し、出立のため装備を整える二人の背にザンクローネが問う。
そこに存在する意志は堅い、なぜなら彼らはどちらも一度は死んだ身。
今を生きる者達の為、少しでも動くという心で満ちている。

103小さいからだに大きな望 5/6  ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:44:05 ID:K5hqCuOE0

「既にあのエビルプリーストの手の者が各地で暗躍をしている……」

「我らが向かい、倒さねばなるまい」

「おいおい、それなら話しが早えよ」


ザンクローネは軽々とモリーの肩の上から飛び跳ね、パパスたちの目線にも近い岩肌に着地した。
体格の差を物ともせず、その膂力は本物に違いなかった。


「俺も付き合うぜ。こういうことには首を突っ込まずにゃいられねえのさ」

「わしも同行しよう!モンスターが相手となればきっと役に立てる」

「しかし……良いのか?」


彼らにも探すべき人物が居るはず、と言いかけたがその言葉は途中で制された。
それは彼らの笑顔が、有無を言わせぬ力強いものだったからに他ならない。


「義を見てせざるは勇無きなり!ってやつさ」

「その魔物とは、いずれ必ずぶつかる。それが早いか遅いかに過ぎん」

「お二方の助太刀、誠に感謝する」


今度は、パパスとイザヤールが頭を下げる手番となった。
ザンクローネは、モリーに何事かを頼みふくろを探る。
身の丈よりも大きな盾がそこから取り出され、代わりに受け取ったモリーがその手に掲げた。

104小さいからだに大きな望 7/8  ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:45:36 ID:K5hqCuOE0


「こいつは共闘の証みてえなもんだ、受け取ってくれよ」

「これはありがたい。かなり有用な装備と見受けられるが……」


両手剣を持つイザヤールはパパスにその盾を譲る。
お役に立てたら何よりさ、とザンクローネは豪快に笑った。


「気にすんな。モリーが装備できねえし、俺も言わずもがなで持て余してるだけでよ」

「ヒーローに合う装備を用意しないとは、主催者側も不親切なものだ」


こんな状況を招いて親切も何もないだろうが、ともかく不満気なモリーをザンクローネはなだめる。
するとイザヤールが気づいた様子で、懐から何かを取り出す。


「いただくばかりでは申し訳がない、が……あまりに吊り合わんかもしれん」

「なんだいそいつは?」


取り出されたのは、白金の輝き。
まるで油を塗ったばかりのような光沢を放つそれは、値打ちのある金属に違いなかった。
もっともその長さは小さく、短い。
所謂、針仕事に用いる『縫い針』であった。


「……身を守る役くらいには立つかもしれん、受け取ってくれ」

「針を剣の代用に……これもまた、息子に読む絵物語にあったような」

「はは、絵物語か。奇妙な縁だなそいつは」


得意げに掲げたザンクローネは、歩みを同じくするためモリーの肩に着地した。
人影は3人、されど勇ある心は4つ。
荒野に足を進め、邪悪な魔物の影をひたすら追い続けるのであった。

105小さいからだに大きな望 8/8  ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:47:01 ID:K5hqCuOE0


【C-6/トンネル出口/昼】
【モリー@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:蒼炎のツメ@DQ10
[道具]:支給品一式、不明支給品(1〜3)
[思考]:ザンクローネと共にこの殺し合いを止める

【ザンクローネ(小)@DQ10】
[状態]:健康
[装備]:プラチナさいほう針@DQ10
[道具]:支給品一式、不明支給品(0〜2) 
[思考]:ふてぶてしく全てを救う



【パパス@DQ5】
[状態]健康
[装備]はがねの剣@DQ6 力の盾@DQ8
[道具] 支給品一式、支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]生死に執着はないが、思い残しはしたくない。
   イザヤールと共にバルザックを追う

【イザヤール@DQ9】
 [状態]:健康
 [装備]:斬夜の太刀@DQ10
 [道具]:支給品一式 不明支給品(0〜1) 
 [思考]:アーク(DQ9主人公)と再会し、謝罪したい。パパスと共にバルザックを追う
 [備考]:死亡後、人間状態での参戦です。
     (「星のまたたき」イベントで運命が変わって生き返り、アークと再会する前です)

106 ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:47:26 ID:K5hqCuOE0
投下終了です 投下数ブレてすいません。

107ただ一匹の名無しだ:2016/09/11(日) 11:21:52 ID:iLFQscUQ0
投下乙です

積みフラグが積み重なっていくなか、いまだに気絶中のバルザック君の明日はどっちだ!

108 ◆jHfQAXTcSo:2016/09/13(火) 20:00:43 ID:mUlq0LLo0
皆様、投下乙です!

>なんとレックたちの体力が全快した!!
引っ掻き回してくれそうなマーダー同盟に期待大です。
リーザスにいるアレフたちとどうなることか。

>小さいからだに大きな望
下手したら戦闘よりも移動の方が命取りになりそうなザンクローネさん、頑張れ。
なんとも渋くて頼りになりそうな人が集結しましたね。

では、私も投下します。

109ラブ・ソングも探せない ◆jHfQAXTcSo:2016/09/13(火) 20:01:37 ID:mUlq0LLo0
透き通るような青空の下、ルーナは歩みを進めていた。
その脳裏にちらつくのは、最期までバカでお人好しだった、彼の笑顔。
似ていると思った。境遇がどこまでも似ていた。
ただそれだけの理由で命を捨てようとする自分を庇い、笑顔を求めて、笑顔で逝って。
あんなに鬱陶しくてたまらなかったのに、ルーナに何かを訴えかけるようにその存在は消えようとしない。

勇者の血筋というだけで故郷を失い。
大切な人も自分を庇って命を奪われ。
世界に平和を齎しても、その手には何も残らず。

一瞬見せた、眉ひとつ動かない彼の表情は、確かに自分と同じだったのに。
何故彼は、笑えたのだろう。
何故彼は、笑顔を作れるようになったのだろう。
ルーナにはそれが分からない。
類似と同一が違うように、歩んできた旅路に、ルーナにはなかった希望を見出だせるようなものでもあったのだろうか。
それとも彼の仲間が彼に笑顔を取り戻させたのだろうか。

――仲間?
――ああ、そういうことかもしれない。

共に旅をした王子達を思い浮かべ、ルーナはひとり頷いた。

武術において右に出るものはいないといわれた王子、ローレル。
魔法において右に出るものはいないといわれた王女、ルーナ。
剣を振るうことも、呪文を唱えることも許された王子、トンヌラ。
自分達は三人で互いをカバーしながら旅をしていた。

ローレルは武芸が、ルーナは魔法の才が、どちらも扱えるトンヌラは場を見極める判断力が、それぞれ優れている。
ローレルが負傷すれば、トンヌラが前線に出て、その隙にルーナがローレルを癒す。
ルーナが上級魔法を詠唱すれば、トンヌラの補助を受けながらローレルがルーナを庇う。

三人揃ってこそ最大以上の力を出せる。
三人揃ってこそ真の勇者。
それがルーナ達だ。

110ラブ・ソングも探せない ◆jHfQAXTcSo:2016/09/13(火) 20:02:36 ID:mUlq0LLo0
つまり裏を返せば、一人では無力、という程ではないにしても、長所を活かすことは難しいということに他ならない。
自分達は、ロトの血筋とはいえ、3つに分かたれたそれを受け継いでいるのだから。

今自分は一人でいる。
一人では勇者と言えない存在なのだ。

犬の姿にされ、なんとか生きようと一人でもがいた日々を思い出す。
自分はとても弱かった。野良犬に追い回されて怪我を負ったこともあれば、犬を嫌う人間に箒で叩かれたこともあった。
自分はとても弱かった。地面に溜まった水を啜る度に水よりも酷く濁っていく自分の目を見て、このままどうしようもなく死んでしまうのかと怯え、心に少しずつ皹が入っていくのを感じていた。

ローレルとトンヌラによって元の姿には戻れたものの、あまりに一人の時は長すぎて。
心はとても弱っていた。
建物も、人々も、希望さえも打ち砕かれた故郷を見て強くあることなど、できるはずがなかった。

今のこの場でも。
自分はとても弱いではないか。
自殺することもできず、殺してもらうこともできず。
お人好しのバカに庇われて。



――きっと、あいつは一人でも強かったから。だから、笑えるようになったのだろう。

そう、ルーナは結論付けた。



だからといって、ローレルとトンヌラを探そうとは、あまり思わない。
特にローレルと出会えば、死ぬことを止められる可能性が高い。
彼らと合流する必要はないだろう。
安否が全く気にならないわけではないが、実直なローレルや気配りのできるトンヌラなら、仲間を見つけて信頼を得ることもできるはずだ。
それぞれ魔物を愛でる趣味や、時折心から笑ってないのだろうなと思う笑顔を見せることもあるが、それは理由が分からない部分だ、自分が気にすることでもないだろう。





――そういえば。
いつだったか、表情を失った自分を元気付けようとローレルが言っていたことがあった。
彼曰く、この世界には愛が溢れているらしい。

111ラブ・ソングも探せない ◆jHfQAXTcSo:2016/09/13(火) 20:03:21 ID:mUlq0LLo0
 


(世界中に溢れ返ってるなら、愛なんて安っぽくなるんじゃないの?)
(安っぽくて何が悪いのだ。手を出せないほど高級でないといけないものでもないではないか。愛は探そうと思えば、いくらでも探せる。
 それがしは、ルーナに少しでも多くの愛を、暖かさを見つけて、元気になってほしいのだ)
(無理よ、そんなの。言うは易く行うは難いって言うでしょう)
(いいや、簡単だ。今それがしがルーナと話しているのだって、仲間を想う、友愛というひとつの愛だ。ほら、早速見つかったではないか)
(…………。
 貴方もムーンブルクの惨状を見たでしょう? あそこにも、愛が溢れてるだなんて言うの?)
(娘への愛で溢れたルーナのお父上がいたではないか)
(どんなに話しかけても、私達に気付かなかったじゃない)
(そうなってしまうまで魂が削れても、娘への愛は消えていないということだろう?)
(…………)
(暖かさに触れて元気になれば、前を向いて希望を探すことも、きっとできる!)



ああ言えばこう言ってくるローレルの言葉が、ルーナには理解できなかった。
その会話の直後に、襲ってきた魔物とコミュニケーションを取ろうとして手痛い一撃を貰ったローレルを、笑顔を引き攣らせたトンヌラと共に救助したことも拍車をかけている。
結局思い至った答えは、魔物にまで範囲が及ぶ(寧ろ魔物相手の時の方が強く表れる)ほど彼は愛情が深い人だからそんなことを言えるのだろう、というものだった。





(それがしは、信じているぞ。ルーナにもいつか、愛の歌が聞こえると)
(愛の歌? 何よ、それ……)
(暖かい愛は、きっと心地好い歌のように胸を震わせる。
 魔物達の鳴き声だって、よく聞いていれば歌のように美しいと……)
(……私、貴方のそういうところも理解できないわ)





歩きながら、耳をすませてみる。
聞こえてくるのは、冷たい風の音くらいのものだ。
やはり暖かいものなど、運ばれてこない。
そこにあるのは、ただ自分の青息吐息。

112ラブ・ソングも探せない ◆jHfQAXTcSo:2016/09/13(火) 20:03:48 ID:mUlq0LLo0
――ローレル、やっぱり無理よ。
――こんなに弱い私には、愛なんて見えない、聞こえない。希望だって見つけられない。

小さく首を振って、そんなことを思う。
弱い自分には、あいつのように常にへらへらと笑うことはできないだろうけれど。
先の魔族が言っていたように、自分が成したいように進んでいけば。
ただの一度笑うくらいの強さは、得られるかもしれない。
勇者の血筋にあるまじき考えかもしれないけれど、自分は一人では勇者といえない存在なのだ、構いはしないだろう。

一度でいい、笑って、そして死ぬ。
お人好しには、どうかしてると言われるかもしれない。
それでも、構わない。







彼もまた、勇者としての自分を捨てて笑顔を張り付けていたことを、ルーナは知らない。
ロトの勇者の子孫は、どこまでも天空の勇者の子孫と似た道を進んでいた。

彼から、魔族から、目を逸らすように、逃げるように。
真っ直ぐ西へと歩んでいく。

113ラブ・ソングも探せない ◆jHfQAXTcSo:2016/09/13(火) 20:05:14 ID:mUlq0LLo0
 


【G-7/草原/一日目 昼】

【ルーナ(ムーンブルク王女)@DQ2】
[状態]:健康、表情遺失、MP消費(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、あぶないみずぎ、レースのビスチェ、あぶないビスチェ、不明支給品(1〜2)
[思考]:死にたい。だから誰かと戦う。お人よしは殺す。
[備考]:喜怒哀楽を表情で表せません。

114ラブ・ソングも探せない ◆jHfQAXTcSo:2016/09/13(火) 20:06:01 ID:mUlq0LLo0
以上で投下終了です。
指摘や誤字などありましたらよろしくお願いします。

115ただ一匹の名無しだ:2016/09/13(火) 20:17:28 ID:oOeBjX..0
投下乙です!
趣味が特殊でもなんだかんだいい人だったんだなあ、ローレル
ルーナは果たして笑うことができるのか…

116ただ一匹の名無しだ:2016/09/13(火) 20:34:55 ID:r9Vvoh5I0
前話見る限り、ルーナはこのまま死んじゃうんじゃないかと思ったが多少は持ち直したようでよかった
イロモノ系かと思ってたローレルも割とまともなとこがあるんだね

117 ◆jHfQAXTcSo:2016/09/16(金) 12:13:46 ID:njnSklVg0
すみません、先日投下したラブ・ソングも探せないのルーナの現在位置ですが、表記を間違えてしまっていたので、まとめwikiにて訂正しておきました
正しくはG-7ではなくH-8になります

118 ◆OmtW54r7Tc:2016/10/09(日) 05:38:56 ID:WBmjIT5E0
投下します

119NEVER LOSE ◆OmtW54r7Tc:2016/10/09(日) 05:41:09 ID:WBmjIT5E0
―バルザックがやられたそうだ


うるさい


―それも人間の女二人にやられたそうだ
―魔族の恥め、所詮は元人間という事か


うるさいうるさい


―それに比べて、さすがはキングレオ様
―同じ元人間だというのに、どこで差がついたのか


うるさいうるさいうるさい


―聞いたか?バルザックの奴、サントハイムの城に左遷になったそうだ
―誰もいない廃墟の城の王様か、負け犬にはお似合いだな
―はははははははははははは!


黙れええええええええええええええええええええええええええええええええ!

120NEVER LOSE ◆OmtW54r7Tc:2016/10/09(日) 05:41:38 ID:WBmjIT5E0
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「はっ!?」

サヴィオの攻撃を受け気絶したバルザック。
長い眠りについて…いや、実際は5時間程度だが、それでもこの殺し合いの舞台においては長い眠りに違いなかった。

「なんということだ…もう放送が近いではないか」

屈辱に顔を歪ませる。
サントハイムで勇者一行に倒されたあの頃より、今は更に力がみなぎっている。
にもかかわらず、あんな餓鬼一人に不覚を取ってしまった。
その事実に、先ほど夢にも見た魔族たちの嘲りを思い出してしまう、


―魔族の恥め、所詮は元人間という事か


「私は…魔族の恥でもなければ、人間などでもない!」

錬金術の師、エドガンを殺し人間の姿を捨てた彼は、キングレオ城を乗っ取り、その功績を聞きつけたピサロによって彼の軍の幹部にまで成り上がった。
しかし、元人間ということもあってか、他の魔族たちは彼の幹部入りを快く思わなかった。
それ故に、エドガンの娘と弟子に倒された後、バルザックは激しく嘲笑されることとなる。
なによりも耐え難かったのは、実験体として利用したキングレオの王子が、自分以上の力を引き出し、声望を高めることとなったことだった。
元々は自分と同じ元人間であるゆえに白眼視されていたというのに…!

「私は…負けない!この殺し合いにおいて、頂点に立つのだ!」

あの後、異動となったサントハイム城にてさらに秘宝の研究を続けた。
デスピサロすら超えた…というのはさすがに話を盛りすぎだったかもしれないが、少なくともキングレオは超えただろうという自負があった。
キングレオ城にて彼が倒されたという報を聞いた時は、ざまあみろと思ったものだ。
実験体の癖に分不相応な力を手に入れるからそうなるのだと。
しかしやがて、自分自身もまた、倒されてしまった。
勇者と、さらに力をつけたエドガンの娘によって。

121NEVER LOSE ◆OmtW54r7Tc:2016/10/09(日) 05:42:39 ID:WBmjIT5E0
エドガンの娘、勇者一行、そして一人の糞餓鬼。
なるほど確かに今のままでは負け犬だ。
ああ、あの忌まわしい魔族共の言葉を認めてやろうではないか。
だが、このまま負け犬で終わるつもりなどない。
私は錬金術師、バルザック。
錬金術の力にて、誰にも負けない、馬鹿にされない、絶対的な力を手に入れてやる。

「その為にも、あの錬金釜を手に入れる必要があったのだが…」

しかし、あれからかなりの時間が経ってしまった。
サヴィオとカマエルがどこにいったのか分からない。

「ひとまず、城を目指すか」

キングレオ城、サントハイム城。
思えば彼のホームグラウンドは、いつでも城であった。
それゆえか、彼の足は自然とはるか北にあるトロデーン城へと向かっていた。

「誰が相手だろうと、敵が何人いようが関係ない。全て、叩き潰す」

過去の惨めさを、悔しさを力に変えて。
もうこれ以上誰にも負けないという決意を胸に。
成り上がりの負け犬は、殺戮の舞台に再び戻る。


【C-7/山岳地帯/昼】

【バルザック@JOKER】
 [状態]:HP7/8、火傷と打撲
 [装備]:大魔神の斧@DQMジョーカー
 [道具]:支給品一式、道具0〜2個
 [思考]:錬金釜を手に入れて新たなる進化の秘法を考え出し、エビルプリーストをも超越したい。
 [備考]:
※主催からアイテムに優遇措置を受けている可能性があります。
※エビルプリーストによってヘルバトラーやギガデーモンに近い位階にまでパワーアップしています。
※バルザックの姿はバルザックビースト形態(第一形態)です。

122 ◆OmtW54r7Tc:2016/10/09(日) 05:43:13 ID:WBmjIT5E0
投下終了です

123ただ一匹の名無しだ:2016/10/09(日) 23:31:54 ID:2Ok8iQgk0
投下乙です。
ハングリーな精神面を見せてジョーカーのプライドを見せつけることができるのか、
がんばれバルザック。

124 ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:08:04 ID:gTFS1IKc0
投下します

125想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:09:02 ID:gTFS1IKc0
「チャモロさん、あそこに誰かいます」

アベルを撒くため、そしてアレフと合流するために東へ歩を進めているチャモロとローラ。
そんな二人の歩く先に、一つの人影が見えた。

「遠くてはっきりとは分かりませんが、足を引きずっているように見えますね。怪我をしているのかもしれません。こちらから接触しましょう」

そういってチャモロは走り出し、それに追従する形でローラも走っていった。
やがて人影の姿がはっきり見えてきた。
どうやらかなりの重傷を負っているようだ。
腹部や顔に傷があり、左腕が消失している。
足を引きずっているところを見ると、おそらく足にも怪我を負っているのだろう。
人影の方もこちらに気づいたらしく、足を引きずりながらもこちらに近づくと、言った。

「私を助けて!あの男を倒して!」

126想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:09:56 ID:gTFS1IKc0
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

人影の女性―パトラは、チャモロの治療を受けながらことのあらましを語った。
まともな服がなく困っていたところ、一人の男が服を授けてくれた。
しかし、礼を言おうと近づくと、その男は突然剣を突きつけ、襲ってきたのだという。
パトラは手持ちの武器で応戦してどうにか敵をひるませ、その場から逃げて今に至るのだという。

「私を、これだけ傷だらけにしてくれたあの男…許せません」
「その気持ち、分かります」

憤りを見せるパトラに、ローラも同調する。
ローラも数時間前、とある男に自身の尊厳を踏みにじられるような行為をされた。
あのターバンの男―アベルのことを、許すことなどとてもできないだろう。

「なんじゃ、お主は」
「あ、私はロー…」
「お主と話す気はない!近寄るな!」
「は、はあ…」

パトラに怒られ、やむなくローラは距離を取る。
そういえば先ほどから、チャモロに向けて話してばかりで、こちらには目さえ合わせようとしていない気がする。

(特に不興を買うようなことをした覚えはないけれど…)



(忌々しい、気に入らない、妬ましい…)

パトラは苛立っていた。
先ほどまでは、自分をこんな目に遭わせた男に対して怒っていたが…今、その矛先は別の方を向いていた。

127想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:10:46 ID:gTFS1IKc0
(ローラ…あの女が、妬ましい)

その矛先の方向は、今そばにいるローラだった。
彼女は、美しかった。(自分には劣るが)
そして、彼女は自分が失いつつある瑞々しい若さを持っている。
そして、自分がこんなにも無惨な姿にされているというのに、彼女は未だ五対満足で美しさを保っているのだ。
もしも自分が今こんな惨めな姿でなければ、彼女のその美しさを認めつつも、自分の方が優位だと優越感に浸ることができただろう。
しかし現実はそんな都合よくできておらず、パトラにとって今のローラの姿は羨望・嫉妬といった醜い感情しか生み出すことはなかった。

ああ、あのきれいな肌を痛めつけてやりたい。
あの華奢で綺麗な腕を、もぎ取ってやりたい。
あのドレスを、グチャグチャに引き裂いてやりたい。

(…落ち着け、激情に身を任せてはならぬ)

今感情に任せてここでそんなことをしても、あのチャモロという男に取り押さえられ、最悪殺されてしまうのがオチだ。
今は、暴漢に襲われた哀れな犠牲者を演じなければ。

(だが、チャンスがあれば…この手で)



「それでパトラさん、その男はどんな奴ですか?この名簿の中にいますか?」

チャモロから受け取った名簿を、パトラは1ページずつ順に見ていく。
やがてレック、ハッサン、チャモロ、バーバラと名前が続いていく。

128想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:11:33 ID:gTFS1IKc0
(よくみるとこの名簿、知り合いで固められてるんですね)

名簿を見ながらそんなことを考えるチャモロだったが、

「あった!この男が私を!」
「え!?」

なんと、パトラがページを止めたのは、バーバラの次のページだった。
まさか、自分の知り合いなのか?
嫌な予感を感じつつ名簿の写真を見ると…

「アモス、さん…?」

そこに写っていたのは、とある村で出会った男の姿であった。

「あの人が…そんな、まさか」

驚愕で固まるチャモロ。
そんな彼を訝しげに見つめるローラとパトラ。
そしてそんな彼、彼女たちの前に…

「ト、トンヌラさん!誰かいます」
「!あの女性は…」

この場に更なる混沌をもたらす、二人の男が現れるのだった。

129想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:12:20 ID:gTFS1IKc0
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「なるほど…つまり、そちらのパトラさんがアモスという男に襲われ、アモスはチャモロくんの知人であると」

チャモロとパトラから話を聞いたトンヌラは、二人の話の要点をまとめた。

「チャモロくん、君から見てアモスという人は、この殺し合いに乗るような人なのですか?」
「…少なくとも僕の知るアモスさんは、まず間違いなく乗るような人ではないです。ただ…乗った理由については、なんとなく推察できます」

トンヌラの問いに対するチャモロの返答は、あいまいなものだった。
間違いなく乗らない人間なのに乗った理由は分かるとは、これいかに。

「まあいいでしょう。ともかく、パトラさんが襲われたというのは間違いのない事実ですし、警戒するにこしたことはないでしょうね」

トンヌラの言葉に、チャモロ以外は頷いた。
チャモロはといえば、うつむいてなにか考え込んでいた。

(アモスさん…あなたは)

チャモロの知るアモスは、とても明るい男だった。
戦士らしい屈強なその身体といい、どことなくハッサンと似ていたかもしれない。
いつでも笑顔が絶えない人で、魔物化の真実を話してしまった時だって、笑っていた。
そんな彼だったからこそ、チャモロは思ってしまった。
あの人なら、例え村を離れたってきっと元気にやっているだろうと。
そう思ってしまった。
いや、思いたかったのかもしれない。

(そんなわけ、ないのに!)

夜になると理性を失い凶暴な魔物になる。
そんな呪いをかけられて、まともに人としての生活を送れるはずがない。
恩義があるからと黙殺していたモンストルが特別なだけで、きっとアモスはどこへいっても追い回されてきただろう。
そんな生活をして、明るく元気に笑って過ごせるとしたら、相当にタフな精神の持ち主か、狂人だ。

(ごめんなさい、アモスさん)

もしも今も、凶行を重ねているのなら。
苦しんでいるのなら。

(僕があなたを救います…今度こそ!)

チャモロが一つの決意を固めたその時、

「嘘だ!」

突然の叫び声。
驚いて顔を上げたチャモロの目に映ったのは、怒りの形相でローラを睨むリュビの姿だった。

130想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:13:38 ID:gTFS1IKc0
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「お父さんがそんなことするわけ…」
「事実ですわ。あなたの父親、アベルはこの殺し合いに乗っている」

チャモロが一人で黙考していた頃、他の面々は情報交換をしていた。
そしてそこで…火種が爆発してしまったのだ。
『アベルがローラを襲った』という事実によって。

「あなたの父親は、2体の魔物をアレフ様に差し向けました」

「違う…」

「そしてアレフ様が魔物と戦っている隙をついて、私を人質に取りました」

「嘘だ…」

「何もできずに一方的にやられるアレフ様の姿を見るあなたの父親は、まさに邪悪そのものでしたわ」

「やめて…やめてよ」

次第にリュビの否定の言葉は弱弱しくなり、ついに涙を流して話を止めるよう懇願してきた。

「ローラさん!それ以上は…」

見かねたチャモロがローラにやめるよう呼びかけるが、彼女の言葉は止まらない。
彼女はアベルに対して憎しみともいっていい怒りを抱いていた。
そして今、目の前には彼の息子がいるという。
怒りのはけ口にせずには、いられなかった。

「そしてあなたの父親は、アレフ様の目の前で私の唇を…!」

「嘘だ嘘だ嘘だ!」

一度は意気消沈していたリュビが、キスの話を聞いた瞬間再び否定を口にした。

「お、お父さんはお母さんと愛し合ってるんです!そんなの嘘だ!」

「…奥方がいてあんなことをしたというんですの?最低ですわ」

「お父さんは、さ、最低なんかじゃない!強くて、優しくて…ぼくは、お父さんみたいな、立派な王様に、なるんです」

それは、気弱なリュビにとっての精一杯の勇気であり、父への愛だった。
父を尊敬し、愛すればこそ絞り出すことができた、勇気の言葉だった。

「王様、ですって?」

だが…彼の言葉は、ローラの怒りに更なる火をつける結果となってしまった。

「ふざけないで!あの人が王様ですって…そんなの、絶対に認めませんわ!」

彼女、ローラ姫もまた王族であり、王である父を誇りに思っている。
故に、今のリュビの言葉はローラにとって、憎むべきアベルと自分の父を同類扱いされたも同然だったのだ。

131想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:14:25 ID:gTFS1IKc0
「もしもあの男が王だというのなら、それはきっと…」

そしてローラは放つ。
とどめの『口撃』を。


「『魔王』、ですわ」



「ま…お……う…」

ローラの言葉に、リュビの中の何かが切れた。
何度も「まおう」「まおう」とぼそぼそと呟き、そして…



「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」



脱兎のごとく、逃げ出した。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「ローラさん!どうしてあんなことを!」
「……………」
「あなたの怒りはもっともです!だけど…あの子は関係ないじゃないですか!」
「……………」

チャモロの言葉に対しローラは、先ほどまでの勢いが嘘のように無言を貫いていた。
顔を伏せ、何も答えない。

「チャモロくん、とりあえず今はリュビくんを追わないと」
「…そうですね」
「僕はここでローラさんとパトラさんと共に残ります。リュビくんのことをお願いします」
「…分かりました」

トンヌラの意図を察したチャモロは、彼の言葉に了承した。
足を怪我しているパトラと、どう考えても今リュビと会わせるべきでないローラを連れていくことはできない。
そして非戦闘員である彼女たちに自衛などできない。
故に、トンヌラが共にこの場に残るのが得策ということだろう。

「二人の事、よろしくお願いします。リュビくんを連れ戻したら、すぐ戻りますので」

そういって、チャモロはリュビを追って走り出した。

132想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:15:12 ID:gTFS1IKc0
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「さて…ローラ姫。あなたには聞きたいことがあります」
「……………」
「そう警戒しないでください。僕は別にリュビくんへの糾弾について責める気はありませんから」
「…いったい、なんですの?」

まだ少し警戒しつつも、用件を尋ねるローラ。

「まず、あなたは竜王を倒した勇者アレフ―その伴侶である、ラダトーム王女、ローラ姫で間違いありませんね?」
「え、ええ。アレフ様とはその…まだ正式に籍があるわけではないですが」
「…まだ籍を置いていない、ですか」

少し顔を赤らめながら答えるローラ姫に対し、トンヌラの表情は少し険しくなった。

「ではもう一つ聞きます。あなたと勇者アレフの間に、子供はいますか?」

トンヌラの問いに、ローラは驚きで目を見開く。
アベルに自身の妊娠を悟られた時のトラウマもあって、なんとなく答えづらい質問だった。

「大事なことなんです。どうか答えてください」
「子供は…いますわ。私の…お腹の中に」
「お腹の…!?」

さすがに予想外の返答だったのか、トンヌラの表情には少し驚きが見えた。
心なしか、少し動揺しているようにも見えた。

「…では、お腹の子の為にも、生きて帰らないといけませんね」
「当然ですわ。この子を守るためなら…私はなんだって……!」

そこまで言ったところで、ローラは言葉を止めた。
下手にしゃべって、殺し合いに乗っていることを悟られるのはまずいと感じたからだ。

133想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:16:01 ID:gTFS1IKc0
「し、質問は以上ですか?」
「ええ、ありがとうございました」



(…これはちょっと困ったことになったかもしれないですね)

ローラとの会話を終えたトンヌラは、内心焦っていた。
彼女はおそらく、ほぼ間違いなく100年前の自身の先祖にあたるローラ姫その人だろう。
そして、彼女のお腹には子供がいる。
もしも彼女がこの場で死んでしまったら、どうなる?
当然、ロトの血は絶え、次代にその爪痕が残ることはなくなる。
そうなると、自分達は…

(消えるかもしれない…!)

トンヌラは別にタイムパラドクスについて確かな知識などない。
しかし、昔読んだ小説の中には、過去に干渉することで未来が変わる話もあった。
もしも同じことが現実でも起こるとすれば、トンヌラ達次代のロト一族が消滅したっておかしくはない。
そしてそれを防ぐためには…ローラ姫をなんとしても守らなければならない。

(そうなると、あの女-パトラは邪魔ですね)

トンヌラは気づいていた。
彼女の敵意に。
しかも、理由は分からないが、どうにもその敵意はローラに向いているようなのだ。
先ほどローラと話していた時も、パトラがローラのことを敵意ある眼差しで睨んでいるのをトンヌラは見逃していなかった。
その上彼女はただでさえ非戦闘員でしかも怪我を負っているのだ。
足手まといであり、生かしておく理由などない。

(とはいえ、今殺せば姫やチャモロくん、リュビくんと余計な不和を生むことになる。とりあえず様子見に徹しましょうか)

リュビといえば、彼はローラへの反感を持って逃げ出した。
場合によっては彼も切り捨てる必要があるかもしれない。

(一気に考えなければならない事案が増えましたね…やれやれ)

134想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:17:14 ID:gTFS1IKc0
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

リュビは走っていた。
一心不乱に走っていた。
先ほど聞かされたショッキングな話から、逃げるように。

嘘だと思いたかった。
何かの間違いだと思いたかった。
しかし、ローラのあの語り口は、とても嘘や冗談だとは思えなくて。
それでもやっぱり受け入れられなくて。
彼女の言葉が、浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返していた。

そうして走り続けて。
逃げ続けて。
その先に待っていたのは。

「がはっ!?」

胸に深々と刺さる、剣だった。

「悪く思うなよ、小僧」

(お…とう…さ……)

ぐちゃぐちゃの心の中で最期にリュビの脳裏に浮かんだのは。
優しく、愛すべき父の姿だった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「リュビくん!」

チャモロが駈けつけた時には、すでに手遅れだった。
リュビの身体は、胸部を中心に真っ赤に染まっていた。
そして、そんなリュビの遺体のすぐそばに立っていたのは…


「次から次へと…アプローチなら女のほうが嬉しいんだがな」

「アモス、さん…!」

放送数分前。
二人の男が、モンストル以来の再会を果たした。


【リュビ@DQ5 死亡】

135想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:17:45 ID:gTFS1IKc0
【Hー4/平原/1日目 昼】

【アモス@DQ6】
[状態]:HP3/5 目の付近、腕に銃創
[装備]:バスタードソード
[道具]:支給品一式(水-1) 道具0〜4個(盗賊の分も合算、本人確認済)
[思考]:自分を見るものを全て殺す
    目の前の男(チャモロ)を殺す
[備考]:夜ごとに理性のない魔物へと変化する可能性があります

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP8/10 MP9/10 ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)
[装備]:ドラゴンの杖@DQ5
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める
   アモスを救う
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。


【G-4/平原/昼】

【ローラ姫@DQ1】
[状態]:健康
[装備]:毒針
[道具]:支給品一式、銀のティーセット 草・粉セット
    ハッサンの支給品(飛びつきの杖 引き寄せの杖 場所替えの杖)
[思考]:愛する我が子の為、アレフとの愛を貫く為にに戦う
   アレフに会いたい

【パトラ@DQ3イシス女王】
[状態]HP7/10 左腕切断 頬、腹部、足に裂傷(治療により軽減)
[装備]エッチな下着@DQ5 ガーターベルト@DQ3 あみタイツ@DQ8 まじょの服@DQ9
[道具]支給品一式 ベレッタM92@現実(残弾5) 幻魔のカード@DQ7
[思考]永遠の美しさを手に入れる
   1:男たちを篭絡し、反主催勢力を築く
   2:殺人者を一掃した後は自分を信用する者たちの隙をついて皆殺し
   3:ローラをめちゃくちゃに傷つけてやりたい

【トンヌラ@DQ2】
[状態]:健康 MP微消費
[装備]:SIG SG550 Sniper(アサルトライフル、残り弾10)
[道具]:支給品一式 支給品0〜1(本人確認済み)
[思考]:様子を見つつ、生き延びる。ローレルとルーナに殺し合いの中で死んでもらう為、危険人物として吹聴する。
    ローラを守る。その為にパトラは隙を見て排除したい

※トンヌラはローラの死による自分達の消滅を危惧していますが、その可能性はまずありません(メタ的に…というのもあるが、ユーリルが死んでもリュビ達が存在しているため)
※リュビの荷物『支給品一式、支給品(0〜1)、ソードブレイカー@DQ9、皮の盾@DQ2』は、リュビの遺体のそばに放置されています。

136 ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:18:35 ID:gTFS1IKc0
投下終了です

137ただ一匹の名無しだ:2016/11/07(月) 01:18:04 ID:aTepHbZ60
投下乙です
この辺りの人間を上手く因縁やフラグを絡めて纏めてくれた感じでGJ
放送後は血を見ることになりそう

意外なことにリュビ君が5勢初死者?
今回の5勢は2ndよりもボロボロなせいでそんな気がしないがw

138 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:03:20 ID:oO0J/cWw0
時間ギリギリですが投下します

139負けられない理由 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:07:58 ID:oO0J/cWw0
ああ、分かっているさ。
ここにいるターニアは、夢の世界のターニアなんかじゃないってことくらい。

ただそれでも、希望くらいは持ってもいいじゃないか。 レックはそう思っている。
実体を見つけられなかったが故に、レックの目の前で消失したバーバラだってこの世界にはいるのだ。
名簿で見ただけでは、このターニアはどちらの方なのか区別がつかない。
だから、もしかしてバーバラのように消えてしまった方の、より長い時間を共有してきたターニアかもしれないと期待するのも無理もない。

(――もう会えないかと思ってたから嬉しい反面……助けてやらなくちゃ、って)

妹がいるのかと聞かれた時、咄嗟にそう答えてしまった。
ここにいるのは現実世界の方の、順当に考えれば確率の高い方のターニアではなく、確率の低い夢の世界のターニアであると、決めつけた発言をした。
決めつけた、という言い方は語弊があるかもしれない。
悪意などもちろん一片たりとも込められてはいない。
ただ、レックの口からするりと無意識に出たのはその言葉だった。
夢の世界と現実の世界、デスタムーアを倒すための長い冒険の日々。
そういったレックの身の上を語る時、長々と語ってる暇はなかったという事情もあった。

ターニアと同じ声、同じ顔でお兄ちゃんと呼ばれると、レックは胸が痛くなる。
現実の世界にいたターニアが悪い訳ではない。
ただ、どうやっても目の前の人物が、同じだが厳密には同じ人物ではないと、割り切れることはなかった。
夢の世界で本物の兄妹だったレックとターニアは十数年もの日々を過ごしてきた。
レック自身が幼少の頃にライフコッドで過ごした記憶もある。
ターニアの世話をし、いつしか世話を焼かれる側になっていった記憶もある。

夢の世界から抜け出してきたレック。
現実世界のライフコッドで穏やかに過ごしていたレック。

実体を取り戻し、融合を果たしたレックの中をどちらがより多くの比重を占めるかと言えば、それは前者の方だ。
過ごした時間も、現実での時間と比べて負けていない。
偽りとは言え、生まれてから今までの記憶がすべてある。

この世界に秘められた謎を解き明かすため、外の世界へと飛び出し苦難の日々を乗り越えたレック。
刻みつけられた敗北の記憶に怯え、ライフコッドという狭い世界の中で生きることを選んだレック。
混ざり合った二つの魂の中で主と従、正と副があるのだとしたら、夢の世界のレックが主導権を握るのが当然だった。
本当の自分を取り戻した後も、レックはレイドックでの日々は断片的にしか思い出せなかった。
何より、血の繋がった本当の妹バネッサがどうやって死んだかも、未だにハッキリと思い出せない。
夢の世界で暮らしてきた年月が長過ぎるからだ。
父であることが判明したレイドック王にも、母のはずであるシェーラにも未だにぎこちなく接することしかできない。

融合を果たしたレックはレイドックの王子でありながら、旅立つ前とは文字通り別人になっていた。
貴方の故郷はどこですかと聞かれたら、レックは対外的にはレイドックと言うだろう。
しかし、本音を言えば、レックの生まれ育った故郷とは夢の世界にあったライフコッドなのだ。

ああ、分かっているとも。
今はそれどころではないことくらい。
そんなくだらない感傷に囚われている暇はないということも。
これから竜王と呼ばれる人物に戦いを挑むのだ。
余計な考えは捨てねばならない。

140負けられない理由 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:10:49 ID:oO0J/cWw0
ティアとフォズについては心配はしていない。
6人を二つに分割する際、女子チームのお守り役に任命されたアンルシアの実力を目の当たりにしたからだ。
とつげき丸とかいうふざけた名前の武器を振るって、岩石を砕いたシーンは今でもレックの脳裏に鮮明に焼き付いている。
ハッサンだって岩を砕くくらい朝飯前だ。
レックもテリーもハッサンほど見事にとはいかないだろうが、それくらいはやってのける。
しかし、女性の身でそれをやってのける人物はレック一行にもいなかった。
女性として規格外すぎるその腕力を見たレックの感想はこうだった。

ゴリラかよ……と。

たぶん、隣にいたキーファもそれに近い感想を抱いてただろうとレックは思った。
顔が驚愕に歪んでいたのはその証拠だろう。
華奢な体に秘められた圧倒的なパワーに、レックはそれ以外の比喩表現を思いつかない。
さすがに口にはしなかったが、あやうく口元まで出かかっていた。
しかしそれを見て、オルテガもキーファも保護者役として太鼓判を押したのだ。

色々考えた末にレックが思うのはただ一つ。
自分ははまだまだ死ぬ訳にはいかないということだ。
ま、ティアのお兄ちゃん役も買ってでたことだしな。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ああ、分かっていたとも。
ここに娘がいるかもしれないということに。

厳しい旅の最中に記憶を失ったオルテガは、それでも平和を取り戻さんと大魔王ゾーマの居城へとたどり着き、そこであの邪竜と出会った。
五つの首を持つ多頭竜、キングヒドラ。
大魔王ゾーマの居城だけあって、中にいた魔物は例外なく強敵だったが、この竜はその精鋭モンスターですら比べ物にならないほどの力を有していた。
おそらく、魔王軍の中でもトップクラスの実力の持ち主だと、すぐに予測も付いた。
心してかからねばならない。
ゾーマの待つ玉座の間へと続く道はここしかないのだ。 倒すしかない。
愛用していた斧を取り出し、オルテガは己を鼓舞した。
もう少し。 もう少しでゾーマの下へたどり着けるはずだと。
オルテガの存在に気付いたキングヒドラが十の瞳をすべてこちらへと向けた。
オルテガを敵と認めたキングヒドラは、地面を揺らしながら向かってくる。

戦いが始まった。
人間一人であの五つの首すべてを相手取るのは無謀過ぎた。
その首一つ一つが別個の意思を持っているがごとく、オルテガに襲い掛かる。
接近戦は危険すぎたため、呪文による攻撃が主体になってしまう。
バギクロスの竜巻もライデインの雷も決定打にはならない。
来たるゾーマとの決戦のために、温存しなければならない魔法力を使わされている。
キングヒドラの攻撃は熾烈を極めた。
城内の損壊など気にしないかの如く、大理石の床や壁、柱までもが破壊されていく。
そしてこれだけの騒音だ。
異変を察知した魔物たちが、次々とここに駆けつけてきた。
しかし、駆けつけた魔物たちがオルテガに襲い掛かることはなく、遠巻きに様子を伺うだけだ。
下手に加勢しようものなら、キングヒドラの攻撃の巻き添えを食うからだろう。
それ自体は僥倖だったが、オルテガの窮地は変わらない。

いよいよ万事休すということか。
仮にキングヒドラを打ち取ったとしても、背後に控える精鋭モンスターが襲い掛かってくる。
オルテガは残り少ない魔力をベホマに費やし、眼前に聳え立つ邪竜を睨みつける。
ならばせめて、この竜だけでもと相討ち覚悟で挑んだ。
何の為かも忘れ、ただ漠然とした使命感だけを胸に秘め、そしてオルテガはキングヒドラに負けた。
いよいよ視力すらも失われる。

141負けられない理由 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:13:01 ID:oO0J/cWw0
今思えば、それは当然の結果だったのだろう。
自身を構成する大切な要素が抜け落ちたまま戦っても、振るう剣に魂が篭められることはない。
全力のつもりで戦っていたはずだが、後から振り返るとまだまだ力を振り絞る余地は残されていたように感じる。
連続で浴びせられる火炎のブレスに身を焦がされながら、オルテガは気づく。

背後に控えていたはずのモンスターが、その気配の数を減らしている。
勝負ありと考え、それぞれの持ち場へと戻っていったのか。
つまりそれほどまでに、傍から見たオルテガという人間の命は風前の灯火ということなのか。
いや、違う。

減っているのは間違いない。
しかし、それは倒されているからだ。
大魔王直属の精強なモンスターが、ばったばったとなぎ倒されている音が聞こえる。
剣戟の音、呪文の爆音、援軍を求めるモンスターの悲鳴。
そして何者かの声が聞こえる。

(人間!? こんなところに!?)

オルテガが薄れかけていた意識を繋ぎ止める。
空耳ではない。
信じられないことに、人間の集団がこの大魔王の居城に乗り込んできてるのだ。
いったい何者なのか、少女の声がその答えをくれる。

「お父さんッ!!!!」

勇者オルテガはその記憶を取り戻した。
記憶を取り戻したオルテガは、同時に自身の旅立ちのルーツを思い出した。
アリアハンでの旅立ち、見送る妻と交わした約束、幼い我が子の寝顔に誓った決意。
それらはすべて大切なものであり、失くしてはならないものなのだ。
記憶を取り戻すことで、オルテガは自身の心の中にあった空洞を埋められたのだ。

オルテガの下へたどり着かせまいと、再び集まりだした魔物が幾重にも立ち塞がり壁を作る。
オルテガを父と呼んだ少女は魔物の軍団を切り裂いて先頭を走る。
勢いは止まることはなく、予言者の起こす海割りのようでもあった。
その姿はまさに、勇者と呼ぶにふさわしい。

ああそうだ。
この声を守りたいと思った。
この子の未来を作ると、心に決めた。
今、オルテガは自身の旅立ちの切っ掛けを思い出す。
自分一人の戦いなら、ここで負けるのも諦めがつくだろう。
だが、しかし。
全てを思い出した今なら、限界を超えた力を、限界の少し先にある力を捻りだせる。

腕よ動け、あと一振りするだけの力を私に。
足よ動け、ここが踏ん張りどころだ。
燃えよ魂、最後の輝きを見せる時だ
さあどこを見ているキングヒドラ。
私はまだ生きているぞ!

もはやオルテガのことなど路傍の石のように無視していたキングヒドラに、渾身の一撃をお見舞いする。
自身の最後の力を振り絞った斧が、キングヒドラの腹部に深く食い込むのを、オルテガは残った聴覚と触覚で感じ取る。
奇声を発しながら、キングヒドラが退散していくのがオルテガにも分かった。

勝つには勝ったが、どうやら最後の力を使い果たしたらしい。

直後、オルテガはその耳も機能を失い、倒れた。
残った触覚だけが、駆けつけてくれた人間の腕の中にいることを教えてくれた。
最後にオルテガは遺言を託す。
託された人間が了承したかも確認が取れないまま、オルテガは息を引き取った……はずだ。

142負けられない理由 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:15:08 ID:oO0J/cWw0
アスナ。
愛しき娘につけた名前と同じ少女が、名簿には掲載されていた。
最後に娘の顔を見たのは何年前だろうか、自分が旅立ってから何年経っただろうか。
アスナの名の横にあった顔写真は、遠い記憶の片隅に存在する幼い娘が成長した姿。
そう推測するのに十分なほど顔立ちが似ていた。
優しさと勇ましさを内包したその顔は、最愛の妻の面影もあった。
きっと娘は周囲の期待に応えるように、すくすくと育っていったのだろう。
一度でも家に戻れば、決心が鈍る。 そう思い、オルテガはついに一度も故郷へ帰ることはなかったのだ。
バラモスなどは地上侵略の為の尖兵に過ぎず、その奥に控える巨悪の存在を知った時の絶望感たるや想像を絶するものがあった。
それでも、オルテガは往かねばならなかった。
そして、それは今でも変わらない。

なあ、アスナよ。
あの時、駆けつけてくれたのはお前なのか。
お父さんと呼んでくれたあの声は、本当に我が子のものなのか。
それを確かめたい気持ちはもちろんある。

許せ娘よ、父はこんな生き方しかできない。
例え名簿に載ってる人物が本当に私の娘だとしても、竜王を野放しになどできんのだ。
ここで竜王を諦め、お前の捜索に回るのはたやすい。
だが、竜王がその牙を向ける相手がお前になる可能性もある以上、竜王を回避するという選択肢はあり得ないのだ。
お前が静かに眠れるその時まで、私は全てを賭けて戦う。 あの時そう誓ったのだから。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ああ、分かっていたとも。
ここにアルス達がいることくらい。

愛する人がいるってのはいいことだ。 キーファはライラの顔を見る度にそう思う。
昨夜、どんなに遅くまで起きていたとしても、その声を聴くだけでぱっちりと目が覚める。
何時間見張りのために立っていようと、お疲れさまの一言で疲労が吹き飛ぶ。
どんなに強い魔物と戦っても、自分の後ろにいる人のことを思うと立ち上がる気力が湧いてくる。

アルス達と別れて数年、身も心もユバールの一族のものとなったキーファの人生はまさに順風満帆だった。
守り手として流浪を続けるユバールの民を守護する毎日。
任された仕事の内容は同胞を命がけで守ること。
その役目の負う責任はとてつもなく大きかった。
定住をせずに放浪を続けるユバールの民を守るのは容易ではない。
昨日は谷底の川の近くで、今日は山の頂上で、明日は見渡す限りの大平原で一夜を過ごす。
城の守りと違って、地の利というものが一切ないのだ。
土地勘が通じないため、守り手は常に敵の侵入経路や密集したテントのどこが守備が薄いか、それを見極めなければならない。
全てを完璧にこなせた訳ではない。
もう少しで死人が出る事態にまで発展したこともある。
それでも身を粉にして働き続けるキーファの姿を見て、もはや余所者などと言う者は一人もいなかった。

143負けられない理由 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:18:07 ID:oO0J/cWw0
無精髭は伸びたままだし、貴重な水を無駄遣いもできないので服の洗濯も数日から数週間に一度程度。
腹いっぱい食べられた日もあれば、保存食だけを口にする日が数日続くこともあったりと収穫は安定しない。
ここは不測の事態、予定外の事態のオンパレードだ。
何事もなく一日が過ぎていくことの方が遥かに少ない。
それでも全てが光り輝いていた。
安定はしてるがグランエスタードでの退屈な日々を捨てて、愛する人を守りながらその日の出来事に一喜一憂する生活を選んだことに後悔はない。
ようやく自分の意思で自分の人生を決めたのだと、今でもキーファは迷いなく言い切れる。

ついには族長にライラとの結婚も認めてもらい、正式に夫婦となることもできた。
やがて、そう時間がかかることもなく、ライラはお腹に子を宿した。
キーファの人生はまさに絶頂期と言っても過言ではない。
生まれてくる子は男の子なのか女の子なのか、名前はどうするか。
にやけた顔でキーファは我が子について想いを馳せる。
自分もついに父親になるのだ。
そう考えた時、キーファは父のことを思い出した。
ユバール族として生きていくことを決めた当初の日々こそ、毎日のようにアルス達や父バーンズ、妹リーサのことを思い出し、時には涙した。
しかし、駆け足で過ぎ行く日々の中で、キーファは過去を振り返る回数も自然と減っていった。
今では月に一度思い出す程度だ。

父はどんな思いでキーファのことを見守っていたのだろうか。
若かりし頃のキーファは、自身の冒険に理解を示してくれない父のことを疎んじていた。
王子という器に無理やり押し込めようとして、自分を支配しようとする悪人のように感じていた時期さえあった。
本当にそうだったのか?
親父は俺のことを嫌っていたのだろうか?
俺は、親父の息子として恥ずかしくない日々を送れていただろうか?

自分が父になる時に、キーファはようやく父の気持ちを知ることができた。
父は心の底からキーファの身を案じていたのだ。
誰が我が子を命の保証もない、未開の地へ送りたがろうか。
衣食住に困ることのない王子の立場を捨てて、明日をも知れない場所で生きていくことを許せるだろうか。
なのに、自分のしてきたことは何だ?
父の言うことには頑として耳を貸さず、融通の利かない頑固者扱いして。
挙句の果てに聞いたこともない地方の、聞いたこともない少数民族の一員になると言うのだ。
けれど、それがキーファの選んだ道だ。
何度言われようと、誰に言われようとも、キーファは愛する人のために、お城での日々を捨てて自分の足で歩く運命を選んだだろう。
そこはもう曲げられない。
しかし、思う。
もう少し父の気持ちに寄り添えなかったのかと。

ユバール族の守り手として生きていくことを決めた日。
アルス達と最後の別れをするとき、俺にはやるべきことがあったんじゃないか、キーファはそう思う。
要するに、一人の男として筋を通すべきだったのではないか、ということだ。
時間をかけていたら放浪を続けるユバール族はどこかへと行ってしまう。
そう考えたが故に、キーファはユバールの民との合流を優先し、旅の扉の前でアルス達と別れた。
だがしかし、それは都合のいい言い訳にしかすぎなかった。

(――泣いてる妹を放ったらかして何やってんだかまったく)

我ながら笑ってしまう。
それはまさに自分のことではないか、と。
父も妹も放り出して、もう二度と戻ることのできない世界へと飛び出したのは誰であろう、自分のこと。

144負けられない理由 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:21:58 ID:oO0J/cWw0
俺は自分の足でグランエスタード城に赴き、アルス達の言葉からではなく自分の言葉で、父と妹に別れの言葉を告げるべきだったのではないか?
それが今まで何不自由なく育ててくれた父への恩義と、慕ってくれた妹に対するケジメではないか?
バーンズ・グランの庇護を受ける息子ではなく、一人の男として生きていくことを選んだキーファ・グランの果たすべき責任ではないのか?

話し合えばきっと分かってくれるなどと、そんな甘い考えは持っていない。
父も妹もきっと分かってくれない。 それが当然の反応だ。 それでもやらねばならない。
きっと自分はライラという女性とユバールの民の生き方の素晴らしさを説き、全てを擲ってでも守りたい存在だと伝えるべきだった。
その時、父と殴り合う事態に発展しても、妹にすがりついて泣かれようと自分の本音をぶつけないといけなかった。

けれど現実の自分は泣く父とリーサの顔を見たくなかった。
自分の生き方を認めてもらえないことが怖かった。
だから逃げた。 アルス達に伝言を頼んで、これで良かったんだと自分に言い聞かせて。
父バーンズと妹リーサは何の非もないのに、一方的に絶縁状を叩きつけられたようなものだ。
その時の父の心境を、父親になる日が近づいたキーファはようやく汲み取ることができたのだ。

キーファだって、生まれてくる我が子が成長した時、ユバールを抜け出したいと言われたら理由の一つも聞きたくなる。
しょうもない理由だったら否定するし、ちゃんとした考えがあっての理由なら、できる限り認めてやりたい。
しかし、もしも理由も言うことなく黙って出ていかれたらどんな気持ちになるだろうか。
すべては仮定の上での話だ。
実際にどうなるかは、そういった事態に直面しない限りなんとも言えない。
認めるかどうかは分からないが、理由くらいは本人の口から聞きたいと思うのが親心ではないだろうか。
我が子にとって自分とは、そんなにも頼りない、または頼りたくない人物に見えていたのか。
そう憤りたくもなる。

結局、冒険の日々に憧れ胸を躍らせていた日々の自分は一人前の男でも何でもなく、甘ちゃんの鼻ったれ小僧だった、ということだ。
そのことにようやく気付き、同時にキーファは泣いた。
あまりにも親不孝だった自分の情けなさに、別れの時間すら作ることもしなかった不義理さに。

もう一度言おう。
キーファはユバールの民になったことに後悔はない。
しかし、そこに至るまでの過程があまりにも幼稚で、自分勝手で、自分でさえ怒りを覚えるレベルだった。
父親になるほんの少し前、ようやくキーファは己を見つめる機会ができたのだった。

ああ、知っているとも。
ここにアルス達がいることも。
自分と違って、その顔が月日の経過をまったく感じさせないことも。
遺跡で違う世界を巡る冒険は、グランエスタードとはまったく異なる時間の流れだった。
きっと自分もそういった事情で、自分だけが年を取り、アルスもマリベルもガボも思い出の中と変わらない顔立ちなのだろう。
いや、それならむしろ好都合だった。
別れてそれほど時間の経ってないアルス説が正しければ、今度こそキーファはアルスや父に言葉を伝えられる。
自分の都合だけを押し付けた無責任な絶縁状などではない。
親不孝をしてしまったことの謝罪、ようやく気付けた父の愛情、妹への感謝とこれからの幸せを願う言葉。
今の自分が伝えられる全てを、もう一度伝えるのだ。
そして必ず帰ってみせる。 愛する妻の下へ。 生まれてくる我が子のためにも。 

ま、ティアもいるしな。
天真爛漫な少女の笑顔を思い出しながら、キーファは少しだけ頬が緩んだ。

145負けられない理由 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:24:39 ID:oO0J/cWw0



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




三名それぞれ負けられない理由を胸に秘め、竜王の追跡は行われた。
荒涼たる大地に風が吹きすさぶ。
かつては深い海の底にあったとされるこの地帯も、今となっては遠い昔の話。
乾燥した砂地にその面影は残されていない。
竜王討伐を目指す勇者オルテガはレックとキーファを先導する形で前を歩く。
協力者を得られたとはいえ、これで勝てるなどと驕る気持ちはオルテガにはない。
竜王の強さをオルテガは自身の身を以て体験した。
人型のままでも負けたのに、竜王にはさらに真の姿を発揮した状態も残されているという。
二人の若者の助力を得られたとはいえ、無理はさせられない。
もしもの場合、作戦は捕らわれの姫の救出までに留めるのだ。

物陰に隠れつつ、オルテガは相手を覗き見る。
なんとか見つけ出した竜王は、ミーティア姫を連れて荒野を歩いていた。

「あれが竜王だ」
「へぇー、意外と普通の見た目じゃん。四つん這いで歩くとか、もっと竜とか爬虫類っぽいの想像してた」
「人型だからまだそういうのはないんじゃないか?
 ターニアとティアへの土産話になるといいよなあ。 お兄ちゃんこんなに大きな竜を倒したんだよってね」

軽口を叩くものの、遠目に見ても竜王の実力の高さは伝わってきた。
人数を揃えたからと言って、容易に勝てる相手ではなさそうだ。
今はまだ人間程度のサイズだが、その中にとてつもないほどの力が凝縮されてるのが分かる。
歩いていた竜王が、突如としてその足を止めた。
くんくんと匂いを嗅ぐ仕草を見せる竜王に対し、立ち止まってミーティアが尋ねる。

「匂うの……」
「? 何がでしょう?」
「なに、負け犬の匂いがするということよ」
「……?」

そんな匂いは存在しない。
厳密に言えば、知った気配を感じとったということだ。
物陰からこちらを窺う存在に、竜王はすでに気付いていた。

(気配は1……2……3……。 なるほど人数を集めれば勝てると思いあがったか)

その中にロトの剣を装備できるアレフがいるのなら言うことはない。
さあ、早朝のような醜態は晒してくれるな。
全身全霊をかけてこの王の首を取りに来い。
半端な覚悟で向かってきた無礼者には死を与えてくれる。

やがて、どこからともなく声が聞こえてくる。
時計の秒針が真上を示した時と合わせて、寸分も狂いなく。
これから始まるのは開始6時間の内に死んだ者の発表をする定時放送。
それが戦闘開始のゴングとなるか、水を差す要因となるか。
明かされるのはもう少し先のことである。

146負けられない理由 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:24:59 ID:oO0J/cWw0
【D-7/山地/昼】

【竜王@DQ1】
[状態]:健康
[装備]:ガナンの王笏
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1個
[思考]:悪を演じ、人々を結集させ、誇り高き竜として討たれる。
    まずは各地で暴れる、殺人も已む無し
    ※オルテガ達の存在に気付いています。

【ミーティア@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個
[思考]:自分なりの誇りを見つける
    竜王が人を殺すのは、できるなら止めたい



【オルテガ@DQ3】
[状態]:HP3/5 MP消費 打撲痕
[装備]:鋼の剣
[道具]:支給品一式  不明支給品0〜2個
[思考]:竜王退治もしくはミーティアの奪還
※ティアから竜王の真の姿のことを聞いてます。

【キーファ@DQ7】
 [状態]:健康
 [装備]:はやぶさの剣・改@DQ8
 [道具]:支給品一式 道具1〜2個
 [思考]:仲間たちと再会したい。ティアの仲間たちも探してやる。

【レック@DQ6(主人公)】
 [状態]:健康
 [装備]:
 [道具]:支給品一式 道具1〜3個
 [思考]:仲間たちとターニアを探すため、荒野を脱出する。

147 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:25:15 ID:oO0J/cWw0
投下終了しました

148ただ一匹の名無しだ:2016/12/10(土) 05:04:35 ID:2QKom1Cw0
投下乙です
それぞれの想い…
特に父親になってようやく父親のことを理解したキーファが印象深い
てかこのキーファ、そういう歳なんだ…

149ただ一匹の名無しだ:2016/12/10(土) 06:39:27 ID:DbgMRe9Q0
投下乙
なるほど、三人とももう会えないはずの相手がこの場に呼ばれてるって共通点があったんだな
そこに注目してそれぞれの心情を描ききったのは見事

150ただ一匹の名無しだ:2016/12/11(日) 13:48:54 ID:.38FgOQw0
おお、気付けば新作投下されてた。乙です。
キーファってそんな年行ってる様な描写あったっけ?と思って登場回見直してきたが、
確かにアルス達と別れてから結構経ってると言う描写だった。少なくとも公式絵の赤い服は着とらんなw
とにかくレックがハッサン、キーファがマリベルが死んだことを放送で気付いた時はどうなることか
しかし、ここでもゴリラ姫扱いされるのかアンルシアはw

151ただ一匹の名無しだ:2016/12/11(日) 23:48:09 ID:GoplEZnU0
ところでそろそろ放送を考える時期だと思うんだけど、その前にここは動かしときたいってとこある?

152 ◆CASELIATiA:2016/12/20(火) 01:39:07 ID:hB.H5X8Q0
ちょっと時間オーバーしましたが投下します

153ありがとうを言いたくて ◆CASELIATiA:2016/12/20(火) 01:43:01 ID:hB.H5X8Q0
規則的に光点が明滅を繰り返す。
元々、ヒストリカは暇ができたらワラタロー改に飛行機能を追加しようとしていたくらいには工学的な知識も揃えている。
専門職ではないが、人並みに毛が生えたくらいの知識はあるのだ。
このレーダーの持つ機能を理解した瞬間、ヒストリカは自身の生存の目が出てきたことを確信した。
ドルボードの機動力とレーダーの探知能力を駆使すれば、危険は簡単に回避できる。
唯一の難点は、探知しているのは生命反応ではなく、首輪であることだけだ。
レーダーに反応されている人物がどのような人物か、生きてるか死んでるかも分からない。
仮に光点が動いてなくても、死亡したのではなく寝ているだけという可能性もあるのだ。
必然、目視できる距離まで近づく必要はある。
それでも、そのデメリットを補って余りあるほどのメリットが得られるだろう。
ここに表示されている点が四つ、つまり今しがた埋葬したトロデ王の首輪も表示されている。
以上の点から、探知しているのは首輪説は極めて有力な仮説と言えよう。
しかし、問題なのはこれはヒストリカのアイテムではなく、セラフィの支給品だということ。

「おっと、ソーリー。 あまりにもエクセレントな機械だったからつい興奮してしまったよ」
「ふーん……すごく便利な道具なんだね」
「ピッキピキー」(セラフィちゃんの知り合いにも会えるよ!)

機械やカラクリに造詣が深い訳でもないセラフィとスライムは、ヒストリカの興奮具合でようやくこのアイテムの重要性を理解する。
興奮から落ち着いたヒストリカはレーダーをセラフィへと手渡した。

「セラフィ、これは大事に使うといい。 きっと生き抜く上で重要な役割を果たしてくれるよ」
「……ううん、それはヒストリカさんが使って」
「……はい?」
「私、そういうの詳しくないから壊してしまいそうだし、ヒストリカさんもこれが必要だよね?」
「いいやダメだセラフィ。 いいかい? これはとても重要なアイテムだ。
 それをみすみす……ああいや、私だってこれが欲しくない訳じゃないさ。むしろベリーベリー欲しい。
 しかしだな――」
「いいの。 使いこなせる人が持つのが一番だよ」
「ピィ……」(もったいないけどセラフィちゃんがそう言うなら……)
「そういう訳にも……」
「じゃあヒストリカさんの道具を何か一つ頂戴」
「ホワイ!? 何故そういう話になるというんだ」
「貰うだけだと申し訳ないんだよね。なら交換しよ? 私はヒストリカさんにこれを上げて、ヒストリカさんは私に何か上げる。 ほら、これで平等」
「私のアイテムにこれに吊り合う価値のあるアイテムなんて……ハッ、いや、待った。 ジャスタモーメンっ!!
 つまり、私とプレゼントの交換をすると……?」
「え? うんと……そうなるのかな?」

何でそう興奮しているのか分からないセラフィは首を傾げた。
ヒストリカの脳裏に浮かぶのは灰色の学園生活。
周りの同級生がキャッキャウフフと青春を送っていく中で、ヒストリカは来る日も来る日も一人で過ごしていた。
色気づいた異性がイチャイチャしたり、仲の良い級友が下校を一緒にしたり、共に昼食を食べたり部活動に励んだり。
長期休暇の際には友人同士で集まって、学園外でも遊ぶこともあった。
しかしヒストリカにはそんな思い出が全くないのだ。
少ないのではなくゼロなのだ。

154ありがとうを言いたくて ◆CASELIATiA:2016/12/20(火) 01:45:20 ID:hB.H5X8Q0
灰色の青春生活を送るヒストリカは、バラ色の青春時代を送る同級生がそれはもう羨ましくて仕方なかった。

端的に言うならヒストリカ・イズ・ジェラシックパニックである。

イベントの前には誰か誘ってくれないかな〜(チラチラ)と他人の顔色を窺ったりもしたが、ヒストリカに声がかかることはなかった。
その度に嫉妬心からワラ人形で気軽に他人を呪ったり、友達ができるおまじないを試す。
いっそのこと生きてる人間じゃなくてもいいから友達ができないかと、交霊術の本を読み漁る。
と、その度に奇行に走り家族には呆れられたものだ。
もちろんそんなもので成果が上がることはなく、この年まで友人のいないという人生を送ってきた。
しかし、セラフィの言うプレゼントの交換とはまさに学生時代、ヒストリカが求めてやまなかったものではないか。
例えばバレンタインには異性に本命チョコを渡したり、同性の友達には友チョコを渡したり。
例えばクリスマスの日にはお互いにプレゼントを交換したり。
プレゼントとは金銭や価値の問題などではない。
必ずしも等価である必要もない。
相手を思う気持ちこそが大事なのだ。
そう、これはヒストリカの憧れていた青春の日々の再現。
そこにヒストリカが食いつかない訳がない。

「な、なら私からは……これだ! きっとキミにも似合う!」

いそいそと道具袋からヒストリカが取り出したのは祈りの指輪だ。
ドルボード、ドルセリンはセットで使わないことには意味がない。
どちらか片方だけをもらっても何の役にも立たないのだ。
必然と残ったこの指輪に決まるし、回復呪文を扱うというセラフィにもピッタリだ。

「ありがとう。 じゃあヒストリカさんにはこれね」

セラフィから差し出されたレーダーをひったくる様に受け取り、ヒストリカは大事に腕の中にしまい込む。
鼻息を荒くして、取り出した筆記用具でレーダーに文字を書き込んだ。

「も、もらったからな……もうダメだからなっ! 返さないからなっ! 『ヒストリカの』って名前も書いたからなっ!」
「うん、それはもうヒストリカさんのものね」

こうして、期せずしてヒストリカはレーダーを獲得したのである。
しかし、今のヒストリカは獲物を奪われてなるものかと威嚇する、猛獣のような目つきをしていた。
それに気づかないセラフィはいつものように笑う。

「ピッキ、ピキ。ピキー!」(セラフィちゃんから道具を交換してもらえるなんて羨ましい……。でもセラフィちゃんと一番仲が良いのはぼくだもんね!)

そしてスライムは、そんなヒストリカに対して可愛らしい対抗心を抱くのであった。
涙を乗り越えて、二人と一匹の心は少しだけ近づく。

「はて……? この新たな光は何者? ストレンジャー?」

そして、新たな来訪者もこのポルトリンクに近づいていた。

155ありがとうを言いたくて ◆CASELIATiA:2016/12/20(火) 01:47:05 ID:hB.H5X8Q0



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




海を見たいと、生前に彼女はそう言った。
誰に命じられた訳でもなく、自分の意思で見渡すばかりの大海原を見たいと。
本来ならその場での土葬が一般的なのだろうが、アークは彼女をそんな暗くて狭い場所に閉じ込めたくはなかった。
約束をしたのだ。 彼女は海を見たいと言い、彼はエスコートを仰せつかった。
だから連れていく。 それだけのこと。
流れ出す血はアークの手を汚す。 
アークは構わずに、遺体を両手で抱えて歩く。
自らの意思で未来へ歩いていくと、与えられた使命を享受するのではなく自分で勝ち取ることを望んだ彼女は最期、救われていたのだろうか。
きっと救われていたと、そう思いたい。

ポルトリンクに足を踏み入れたアークをまず最初に出迎えたの焼け落ちた民家。
次に、まだ火が燻ってる木片から立ち込める煙。
静寂を取り戻したこの場の戦いはもう終わったのだろうが、それでも警戒するに越したことはない。
にも関わらず、臆することなく前進を続けるアーク。
倒壊した家屋の壁の破片や焦げたタル、争いの跡の証明である血痕を横目にただ真っすぐと。
もう少しで目的地へと到達するのだ。
腕に抱いてる女性を待たせたくはなかった。

波止場まで着いたところで、ようやく彼女の遺体をアークは横たえた。
名前からして如何にも港町だろうと予測をつけ、事実その推測は正解だったアークだが、一つだけ予想外のことがあった。
船舶が一隻もないのだ。
壊れたり燃やされた形跡、船舶の残骸というものは一切存在しない。
おそらく海上に逃れ、殺し合いを回避しようとする輩を想定したエビルプリーストの仕業なのだろう。
葬儀の方法には文化や地方によって様々な形態が存在するが、その中の一つに遺体を舟に乗せて川や海に流す、といった手法が存在する。
一種の水葬だ。 

何者にも縛られることなく、この大海原で抱かれて自然に還る。
海を見たいと言って死んでいった彼女には、きっとそれがふさわしいと思った。
しかし、それはもう叶わない。
ならばせめて、少しでも海に近い場所へ。
波止場の一番奥へと連れて行こう。

「回復呪文は結構ですよ」

その前に、背後にいる二人と一匹の方へ声をかける。

「もう亡くなってますから」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



二人分の光点が近づいている。
さすがに無警戒で接触を図る訳には行かない。
セラフィたちはヒストリカの提案で、まずは様子見に徹したのである。
しかし、その心配は杞憂だった。
動かない女性を運ぶ男性には、女性に対するいたわりが感じられた。
殺してしまった存在なら遺体は乱雑に扱うだろう。

156ありがとうを言いたくて ◆CASELIATiA:2016/12/20(火) 01:50:08 ID:hB.H5X8Q0

「それにアークさん。 泣いているように見えたから……」
「はは、そう見えてしまいましたか。 涙など、もうとっくに枯れ果てたと思っているのですがねえ」
「うわぁああああああ! ヒ、ヒストリカ信じないぞ! 勇者姫アンルシアが死んだなんて。 勇者姫アンルシアがっ! 
 ううっ、もう終わりだぁ……世界は滅びるしかないんだぁ……!」

アークとセラフィのやり取りを尻目に、ヒストリカは絶叫する。
グランゼドーラ王国の勇者姫アンルシアが息を引き取っているのだ。
大魔王マデサゴーラを打ち取り、世界に平和をもたらした勇者が開始数時間で死んだ。
勇者アンルシアを知る者で、それを聞いて絶望しない者はいないだろう。

「いいえ、違います」
「は、はへ……?」

アークが強く否定する。
彼女は勇者姫アンルシアの紛い物ではなく、軛から解き放たれたこの世界で反抗の意志を固めた、一人の人間だった。
一人の人間として、その生命を燃やし尽くしたのだ。 そこに本物も偽物もなかった。

「彼女は、アンルシアです」

そしてアークの口からこれまでの経緯が語られる。
利用され捨てられ、絶望の淵に立っていた二人が戦いの意志を確認し合った出会いを。
出会った一人と戦い、相討ちの形で決着がついたことを。
約束を果たすために、ここまで遺体を運んできたことを。
彼女は、運命に翻弄されながらも精いっぱい抗ったことを。

「とまあ、そういった訳でここに来ました」

波止場の一番奥、海へと近い方へアンルシアの遺体を運んだアーク。
遺体の両手を胸の前で重ね、顔についた血を拭き取る。
何もしないよりはマシと言った程度だ。
それでも、元々アンルシア本人の顔立ちが整っていたので、その顔は安らかに眠っているようにも見える。

「遅くなって申し訳ありません」

アンルシアの遺体に祈りを捧げるアーク。
ヒストリカも、複雑な胸中で黙祷していた。
勇者姫アンルシアではなく、大魔王によって創り出された偽りの存在、魔勇者。
死んだのはそちらの方なのだと聞かされたとき、ヒストリカは喜べばいいのか悲しめばいいのか分からなかった。
滅んだのは邪悪な方。 だけどそれを喜ぶのはアークに失礼な気がして。
悲しむのもまた違う気がした。 それでも生前の悪行が消えた訳ではないのだから。
レンダーシアに住んでいたヒストリカにとっては、レンダーシアが滅びるかどうかは自身の生死にも直結してる訳だから。

(魔の存在だったのに友人ができたのが羨ましいから、とかそんなことないからな! と、友達とか興味ないし!)

結局、強がりを言うことで心を落ち着かせるヒストリカであった。
スライムはというと、魔勇者という肩書に興味を覚えていた。
勇者といえばスライムの世界ではアレフが有名だったが、他にも勇者がいるとは知らなかった。
しかも『魔』だ。
外見は人間と変わらないが、その中身は全く異質なものであろうか。
腕を組んで死者の冥福を祈るセラフィの道具袋からラーの鏡を取り出そうとする。
ラーの鏡を咥えると、いつの間にかセラフィがスライムの軟体に手を置いていた。
それはダメだと、セラフィは無言を首を振る。
死者の真の姿を暴いたところで、それは冒涜にしかならない。
とてもいけないことをしてしまったとスライムは悟った。

「プルプル」(ごめんセラフィちゃん……)
「いいよ、それよりも……何か光が」

157ありがとうを言いたくて ◆CASELIATiA:2016/12/20(火) 01:52:21 ID:hB.H5X8Q0
アンルシアの遺体が発光している。
それどころか、彼女の体から気体のようなものが漏れ始めている。

「!?」

アークにははっきりと分かる。
これは彼女の体を構成していた魂のようなものだと。
濃紺の気体はついには魔勇者アンルシアの周囲を渦巻くほどの勢いを発した。
いつの間にかアンルシアの遺体さえも宙に浮かんでいる。
吹き出た気体は空へと昇って行き、アンルシアの体から出た分だけ、アンルシアの体も消えていく。
アンルシアの体が空中に溶けてなくなった瞬間、アークたちは空の彼方に魔勇者アンルシアの姿を幻視した。
魔勇者アンルシアは笑っているように見えた。

(感謝するよアーク)

最期に、そんな言葉が聞こえてきたような気がした。
それにアークは無言で頷く。
言葉はいらなかった。
彼女の願いを叶えてあげられた。 
それだけでアーク本人も少しだけ救われた。

「ぐすっ……良かったね魔ンちゃん……最期にアークみたいな人に出会えてよかったね……うっ、うえぇええええええええん!!!」

涙腺が決壊したヒストリカの嗚咽だけが、今ここに響いていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ピッキー……」(ところでどうしてあんなことが起こったんだろうね)
「ああ、えーと……彼女は創られた存在だからじゃないかな。
 そういえば、創世の渦から創世の魔力で作られた存在だとかジャンボが言ってたような……」
「え、ヒストリカさんジャンボさんと知り合いなの?」

スライムの通訳をしていたセラフィがジャンボの名前に反応を示す。
ちなみに、ここでようやく二人は共通の知り合いとしてジャンボがいることを知った。

「その血肉はすべて創世の魔力で創られていた訳だから、死んだらその肉体を構成していた魔力も消えるんだと思う。
 つまり今のように遺体が残ることもなく消滅していく訳だ」
「プルプル」(なら死んだ直後にそうなるんじゃないの?)
「それはきっと……」

ヒストリカは考古学者だ。
失われた歴史を明らかにしていく真実の探求者だ。
いい加減なことを言うべきではないし、推論だけで論文を書こうものなら学会で失笑を買うだけだ。
だけど、そうだとしてもだ。 
今、この時だけはこう言いたいと思う。

「奇跡が起こったんだよ」

ここで魔法や医学の第一人者を呼び寄せて、今の現象を解明する。
それはとても無粋なことくらい、ヒストリカは弁えている。
魔勇者アンルシアの海を見たいという想いが失われていく創世の魔力を繋ぎ止め、ここまで保った。
願いを叶えてくれたアークに対して、最期に魔勇者アンルシアは感謝の言葉を述べた。
そんなロマンチックな解釈があってもいいじゃないか。
新進気鋭の考古学者ヒストリカはそれ以上の詮索はしたりしない。
彼女の生き様は決して褒められるようなものではなかったが、人々の記憶には強く残った。
来世というものがあるのなら、そこでの幸せを願わずにはいられない人物だった。

158ありがとうを言いたくて ◆CASELIATiA:2016/12/20(火) 01:55:35 ID:hB.H5X8Q0
「そう、だね……!」
「ピキ!」(だね!)

セラフィとスライムも力強く頷く。
人の意志というものは物理法則やこの世の理を凌駕することがある。
精神が体という枠を飛び越えて、奇跡を起こすことがある。
人の意志、それには無限の可能性があるのだ。
今はそれを信じて生きていたい。

図らずも、西から来た人と東から来た人がこうしてポルトリンクという港町に集うこととなった。
次に向かう場所を決めたいところだが、まずはもう少しでされるという定時放送。
それを聞いてから三人と一匹は今後の方針を決めることとなった。

「無駄にはしませんよ。 貴女の死は」

空へと還っていった彼女に別れの言葉を告げて、足元に転がった金属の輪を拾う。
魔勇者アンルシア本人の肉体でも衣服でもないため、肉体の消滅後も残った物体。
今となっては彼女が存在した唯一の証。
全参加者に嵌められ、そしてエビルプリーストの気分次第でいつでも起爆させられる恐怖の象徴。
アークは魔勇者アンルシアの首輪を手に入れた。
エビルプリースト打倒の前にクリアしておく条件、首輪の解除をする際にこの遺品は確実に役立つ。
アークは代わりの墓標として疾風のレイピアを地面に突き刺すと、セラフィたちのいる方向へと歩いていく。

短い間だったが、彼女とは驚くほど気が合った。
きっと、これほどまでに自分という存在を理解してくれた人はそうそういなかっただろう。
ポーラやスクルドとは違う対等の存在でいてくれたのが大きい。
彼女らはアークのことを半ば神格化してる。
確かにアークは天使であったから、神格化というのは実は正しい行為なのかもしれないが、それは対等の関係ではない。
憧れや畏敬の念が先にある以上、アークのすることは全部肯定してくれるし協力も惜しまない。
それは気持ちいいし、事実としてアークはポーラもスクルドのことも好きだ。
だが、それがアークという人格をすべて理解してくれているかと言うと別の問題だ。
時にキツい言葉を投げかけてくる、そう、例えばコニファーのように対等に接してくれる人もまたアークには大事な存在だったのだ。
自身の絶望と苦悩を知り、共に戦おうと誓ったアンルシアはすでに死んだ。
反抗すると決めた以上、他人やエビルプリーストとの戦いは避けられない。
いずれ自分もアンルシアと同じ場所へ逝くかもしれない。
それでも、今だけは。

「私は、もう少しだけあの人たちと生きてみることにします」

159ありがとうを言いたくて ◆CASELIATiA:2016/12/20(火) 01:56:03 ID:hB.H5X8Q0
【F-9/ポルトリンク/昼】

 【スライム@DQ1】
 [状態]:健康 戦闘時HP回復(装備効果)
 [装備]:毒針@DQ4 スライムメット@DQ6 オラクルやののれん@DQ5
 [道具]:支給品一式
 [思考]:セラフィと一緒がいい。竜王さまお許しください。

 【セラフィ@DQ10】
 [状態]:健康 歩くとHP回復(装備効果)
 [装備]:ホイミンのTシャツ@DQ8 祈りの指輪
 [道具]:支給品一式 ラーの鏡  ぎんがのつるぎ@DQ9 星降る腕輪@DQ3
 [思考]:主人公@DQXを探す。主人公@DQ6にはデュランのことを伝えてあげよう。
     トロデ@DQ8の知り合いにも会いたい。

 【ヒストリカ@DQ10】
 [状態]:健康
 [装備]:
 [道具]:支給品一式 ドルボード@ドルバイクプリズム ドルセリン×8 レーダー探知機 
 [思考]:ジャンボに会いたい。仲間と友人を作りたい。デュランと友達になるためジャンボを紹介する。
 ※レーダー探知機で参加者の居場所を把握することができます。参加者の生死は判別できません。探知できる範囲は1エリアほどです。


【アーク(DQ9主人公)@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:吹雪の剣@DQ5
[道具]:支給品一式×3、道具0〜2、魔勇者アンルシアの不明支給品(0〜2)アリーナの不明支給品(0〜1)
     太陽の扇@DQ6、フラワーパラソル@DQ5、炎竜の守り@DQ8 魔勇者アンルシアの首輪
[思考]:エビルプリーストが自分を呼んだ理由を知った上でそれを打ち砕く。その為に、まずは彼が仕組んだこの殺し合いを壊す。
    放送を聞いたら今後の方針を決める。
[備考]:職業は魔法戦士です。

※疾風のレイピア@DQ8 がポルトリンクの波止場付近の地面に突き刺さってます

160 ◆CASELIATiA:2016/12/20(火) 01:56:34 ID:hB.H5X8Q0
投下終了です
遅くなって申し訳ありませんでした

161:2016/12/20(火) 15:48:11 ID:ggP7V.IQ0
投下乙です
ヒストリカ可愛いぞ 憧れのプレゼント交換良かったね!
アークと闇ルシアコンビすごく好き……
すごく美しい展開で、カラクリに詳しいヒストリカが首輪を手に入れました

162 ◆OmtW54r7Tc:2016/12/20(火) 19:15:45 ID:S4wcbTVY0
投下乙です

戦力的に心もとなかったチームにやっと強いメンバーが加わって、どうなるか…
今回の話でアークの仲間への印象もだいぶ分かってきたけど、ポーラちゃん、サンディどころかコニファーにすら遅れとってる感w

これで昼到達してないのは勇者姫組だけで、ここは書かなくてもなんとかなりそうなパートだから放送そろそろいけそうだと思うけど、他の書き手さんはどうでしょうか
後、放送案考えてる人いますでしょうか?自分はいまんとこ特にないです

163ただ一匹の名無しだ:2016/12/20(火) 23:55:23 ID:hB.H5X8Q0
自分は特に書く予定はないので、書ける人がいたらお願いしたいです

164 ◆CASELIATiA:2016/12/25(日) 22:57:39 ID:YlEgbTo.0
誰も書かないようですので自分が書いた者を投下します

165第一回放送 ◆CASELIATiA:2016/12/25(日) 22:59:45 ID:YlEgbTo.0
その時間、誰もが空を見上げていた。
暗闇を凝縮させたような雲が集まり始めたかと思うと、それはうねうねと形を変えて何かを形成する。
目、耳、口、鼻……その全てが完成された時、そこには超魔力によって空中に大きく描き出された、憎きエビルプリーストの顔が出来上がっていた。

「諸君、ご機嫌は如何かな?
ルールブックに記されているとおり、この放送は今後も6時間ごとに必ず行われる。
知らなかった、聞いてなかった、では済まされないのでこの時間帯の戦闘行為は慎んでおくのが賢明だ。
おっと、世界を救ったこともある君らには余計なお世話だったかな?

まずは禁止エリアを伝えるとしよう。

二時間後に【G-4】
四時間後に【E-5】
そして六時間後に【E-8】だ。

指定の時間後に禁止エリアに侵入した者は例外なく首輪を爆破されると心得てもらいたい。
つまらない死に方はしてもらいたくないが、人数が減って誰にも会えなくなる状況は私としても望むところではない。
状況によっては追加する禁止エリアの数は増えることもあると注意しておく。

次はこの六時間で死んだ者の名前だ。

ホープ
ハッサン
竜王のひ孫
マルチェロ
トルネコ
アイラ
トロデ
アリーナ
魔勇者アンルシア
ユーリル
ネプリム
レミール
ドラゴン
エルギオス
ギガデーモン
ズーボー
クリフト
メルビン
ククール
マリベル
ハーゴン
リュビ

166第一回放送 ◆CASELIATiA:2016/12/25(日) 23:00:57 ID:YlEgbTo.0
以上、22名だ。
予想を遥かに上回るペースで私も感心している。
太陽も昇り、一日目はこれからが本番だ。
各人の一層の奮起を期待するとしよう。
最後の一人になるまで、あと何日かかるかな? いや、あるいは今日明日にでも終わってしまうか……。
諸君らの大好きな、正義や愛のためといった言葉で自己弁護に勤しみ、殺人を肯定してしまうといい。
勝者には金も地位も名誉も、例え死した人間の蘇生でもだ……何でも叶えてやろう。
我が元の辿り着いた者への惜しみない称賛を私は約束しようではないか。ではさらばだ」

エビルプリーストは嗤う。
こんなにも早くユーリル達が脱落したことに愉悦を抑えきれない。
何が勇者だ。何が導かれし者たちだ。
若い者はすでに息絶え、残りは耄碌した爺のみ。
自らが手を下すまでもなく全滅は目前だ。
かつてはあれだけの権勢とカリスマを誇ったピサロでさえ、今はあの有様だ。

しかし、懸念すべきは自らが手先として放った五体の魔物たち。
戦果はあまり芳しいとは言えず、反抗的だったアンドレアルに関しては代わりの魔物を使うことすらした。
やはり女と出会って腑抜けになったピサロの配下など、所詮この程度の働きしかできないということか。
放送を担当させるはずだっただいまどうも忠誠を拒み、気分を害したエビルプリーストによって消滅させられた。
この先、死者の出るペースがあまりにも遅くなるようだと、別の手も考えるとしよう。
そう考えエビルプリーストは目を閉じ、自らの完全復活の時を今か今かと待ち焦がれるのであった。

残り、60人――。

167 ◆CASELIATiA:2016/12/25(日) 23:06:49 ID:YlEgbTo.0
投下終了しました

予約の解禁は26日0:00でしょうか?
個人的には仕事納めも近いので29日0:00もアリだと思ってますが

168ただ一匹の名無しだ:2016/12/25(日) 23:19:01 ID:zzbcs3vU0
投下乙
相変わらずエピプリ人望無くて笑える

予約解禁は26日だと急だし、29日でいいかと

169ただ一匹の名無しだ:2016/12/25(日) 23:21:16 ID:kciavzaE0
放送投下乙です! だいまどうに合掌
解禁日ですが、投下にすぐ気付けない人もいるでしょうし、個人的には間を空けてからの方がいいのではないかなと思います

170ただ一匹の名無しだ:2016/12/28(水) 19:19:00 ID:79DbNZs60
今夜0時から放送後の予約が解禁か
オラワクワクしてきたぞ!

171 ◆jHfQAXTcSo:2017/01/01(日) 19:41:11 ID:w1i/t2ZA0
投下します

172届かない、少女の声 ◆jHfQAXTcSo:2017/01/01(日) 19:42:49 ID:w1i/t2ZA0
耳鳴りがする。
ドォォォー……ン、ドォォォー……ンと音がする。
その度に、体が震える。
音と同時に熱気を孕んだ風が頬を打つ。
熱風と、止めどなく溢れる涙で顔が熱い。
耳をふさいでも音がする。何発も、何発も。
やめてと心が叫んでも、爆音は容赦なくバーバラを追い詰める。
やがてヘルバトラーがその場を去っても、バーバラの耳には死を運ぶあの音が残り続けた。



ドォォォー……ン
(やめて)

ドォォォー……ン
(やめて……!)

ドォォォー……ン
(ズーボーが死んじゃう……!)

ドォォォー……ン
(死んじゃう……? ううん、違う……)

ドォォォー……ン
(私が、私も、マダンテを……撃てていたら……)

ドォォォー……ン
(私の、せいで……)

――諸君、ご機嫌は如何かな?
(わたしが、ころした……?)

――まずは禁止エリアを伝えるとしよう。
(なかまを……ころした……?)

――次はこの六時間で死んだ者の名前だ。
(死んだ者の……っ、放送!? もう始まってたの!?)

――ハッサン
(……え?)

鳴り止まない爆音の合間に漸く届いた声にバーバラははっと顔を上げ、読み上げられた名前にその目を瞠った。
情に厚く、快活な仲間の名前。
また会えると思っていたのに。また会いたかったのに。
ハッサンはもう死んだのだと、おぞましい声が告げる。

(ハッサンが、死んだ……? 私が、馬鹿みたいに震えてる間に?)

173届かない、少女の声 ◆jHfQAXTcSo:2017/01/01(日) 19:43:47 ID:w1i/t2ZA0
――ズーボー

(…………ッ)

何の感傷もない羅列が続き、ズーボーの名前も挙げられた。
こんなにも近くにいながら、この場を切り抜けられたかもしれない力を持っていながら、彼を見殺しにしてしまったという罪悪感が大きくなる 。
いやというほどに実感してしまう。

(仲間に会いたいなんて言いながら……仲間を殺しちゃうなんて……)

ズーボーとは出会ってそれほど経っていない。
それでも、誰かを守る為に……出会って間もないバーバラたちの為に自身の全てを盾とする、誇り高いパラディンであり――信頼における仲間だった。
パラディンだということを聞き、ハッサンやチャモロに会わせてみたいな、などとこっそり考えてたりもしていた。
特に体格や性格に近しいものがあるハッサンとは、仲良くなりそうだと思っていた。
だが、もう叶わない。
ハッサンは自分の知らないどこかで死んでしまった。
ズーボーは、自分のせいで死んでしまった。
そう、自分のせいで……。



バーバラを襲う自責の念は、もうひとつあった。

――優秀な私がいます。ズーボーさんの命はきっと、きっと─助けますから。
――信じて、やってやりましょう。

フアナの言葉が甦る。
励まそうとかけてくれた言葉が、今はバーバラを傷付ける。

(あたし……信じきれなかったんだ……。
 仲間を、信じきれてなかったんだ……最低だ……!)

ズーボーが耐えきってみせると、フアナがズーボーの命を救ってみせると。
信じていたなら撃てたはずだ。
それなのに、ズーボーを巻き込むことを恐れて、最悪な結果を招いてしまった。
ズーボーは、ゼシカは、フアナは、バーバラを信じて全力を尽くしたというのに。

ゼシカたちは慰めてくれるかもしれない。
もしかしたらその逆に、何故マダンテを撃たなかったのだと責めるかもしれない。
だが、優しくされたら余計に自分を責めてしまいそうで。
かといって責められたら、立ち上がれないくらいくじけてしまいそうで。
どちらも恐ろしく感じてしまって。

気が付いた時には、バーバラは仲間たちから逃げるように走り出していた。

174届かない、少女の声 ◆jHfQAXTcSo:2017/01/01(日) 19:46:09 ID:w1i/t2ZA0
 






誰かの泣き声が聞こえる。
誰だろう。泣き虫のマルクだろうか。だが、マルクほど幼い声ではない。
先程まで聞いていた声。
それほど大きくはないけれど、耳の奥まで届いてくる。
いや、違う。耳には何の音も入ってきていない。
けれど、確かに誰かの泣き声が聞こえる気がする。
誰が泣いてるの?
どうして泣いてるの?
答える声はない。泣き声だけがそこにある。

ぽたり。

温かいものが頬に触れた。
小さな刺激は、沈んでいたゼシカの意識をゆっくりと呼び戻した。



「う、ん……私……気を失ってたの?
 ここは……そうだ、あの魔物は……ズーボーは……!?」

体を起こして2、3度頭を振って戦いの最中にあったことを思い出し、ゼシカは慌てて辺りを見回した。
地面が激しく隆起している荒れに荒れた景色とは裏腹に静寂に包まれていて、無音は戦闘が終わったことを告げていた。

「あいつは、いなくなってる……どうなったの? 上手くいった……の……?」

そう信じたいものの、心のどこかでそうではない、と訴えかける自分がいる。
姿が見えないのはヘルバトラーだけではなく、共に戦っていたはずの仲間たちも同様だったからだ。
ヘルバトラーを無事打ち倒したなら、ゼシカ一人をおいて出発してしまうことはないはずだ。
少なくとも、魔物を倒して大団円、というわけにはいかなかったのだろう。

早く状況を把握しなければと立ち上がり、そこで漸く視界の端に人影を捉えた。
ゼシカとよく似た赤毛を揺らし、だんだんと遠ざかっていく――

「バーバラ!」

その声に驚いたのだろう、一瞬びくりと立ち止まり、しかし振り返ることなくバーバラは走り去っていく。

「バーバラ……? 待って、バーバラ! どうしたの!?
 フアナ、ズーボー、バーバラが……え!?」

どんなに叫んでもバーバラの足は止まらない。
気を失っていた間に何があったか分からないゼシカは、後から合流した二人をあてに振り返り――岩壁に隠されていた光景に息を呑んだ。
僅かに体を起こしただけでは見えなかった激しい戦いの傷痕。
そこには誰もいなかった。
そこにいた……そこにあったのは、ズーボーの亡骸ただひとつ。
そのただひとつが示すのは、ヘルバトラーを倒し損ねた、ということだった。

175届かない、少女の声 ◆jHfQAXTcSo:2017/01/01(日) 19:47:12 ID:w1i/t2ZA0
(ごめんね、ズーボー……失敗、しちゃったんだ……)

全身が焼け爛れた亡骸に、目を閉じて追悼を送る。
持てる魔力の全てを注ぎ込んだ魔法を以てしてもヘルバトラーを倒せなかった。
それまでにも魔力を消費していたとはいえ、耐えられたのは自分の至らなさもあったからだろうか。
そう思うと、やりきれない。
ごめんね、ごめんねと何度も繰り返し、ズーボーの冥福を祈った。
 


追悼を終えると、ゼシカはフアナに宛てた書き置き(急いでいるため走り書きになってしまったが)をその場に残して、すぐさまバーバラを追って走り始めた。
胸の内までは分からないが、バーバラの行動にズーボーの死が関わっているのは間違いないだろう。
殺し合いに巻き込まれて、その上恐らく間近で仲間の死を感じ取って。
それで尚も強くいるのは難しいはずだ。
放送を聞けなかったため姿が見えないフアナの安否については分からないが、無事を信じて、また書き置きに気付いてくれると信じて、ひたすら足を動かす。

(私がついていてあげないと……バーバラが怯えてるなら、手を差し伸べないと。
 サーベルト兄さんは、私が辛い時、泣きたい時、いつでも手を差し伸べてくれた。
 その心強さを知ってる私が、バーバラを連れ戻さないと)

思い出すのは、優しくて大好きだった、兄の記憶。
喧嘩をしても、ゼシカが泣いてしまうとすぐに謝って、頭を撫でてくれた。
死別した後も、ゼシカに想いを伝える為、リーザス像の塔で待っていてくれた。
もう兄に会えないということを強く実感して、涙を一生分流したのではというほどに泣き続けたあの時も、ゼシカの背を押してくれたのは兄の残した言葉だった。

姉妹のように打ち解けたバーバラを放っておくことなど、ゼシカにはできない。
況してやこの殺し合いの場で、怯えた背中を見てしまったのだ。
兄のようにはいかないかもしれないけれど、兄が自分にそうしてくれたように。
傷付いているのであろうバーバラの心に、温もりを届けたいと。
その一心で、走り続ける。







ゼシカの声が聞こえて、自分で自分に驚くほどに、怯えてしまった。
仲間なのに。あれだけ打ち解けて、安心感を抱いていたはずなのに。
自分はどこまで、仲間を信じられないのだろう。
もう会えないはずだった仲間たちにも。
このゲームに巻き込まれてから出会った仲間たちにも。
会うのが、怖い。

176届かない、少女の声 ◆jHfQAXTcSo:2017/01/01(日) 19:48:13 ID:w1i/t2ZA0
ハッサンとズーボー。この六時間で殺されてしまった仲間たち。
パラディンとして、仲間を守ろうとあり続けた二人。
仲間を見殺しにした自分とは、あまりにも違いすぎる。
彼らに向ける顔など、ありはしないだろう。まだ生きている仲間にも、会うことなど許されないのではないか。
そんな考えばかりが浮かんでしまう。

優しくされることも、責められることも。
そして、また仲間を見殺しにしてしまうかもしれないことも。
全てが怖い。
怖い。

仲間が怖い。

(仲間といることが、こわい……)

涙を拭いすらせずに走るその姿は、大魔女などではなく、ただの小さな少女のものでしかなかった。



【D-4/平原/1日目 真昼】

【バーバラ@DQ6】
[状態]:HP4/5 MP2/5
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品(0〜2)
[思考]:自分の心の弱さに絶望
   仲間に会うのが怖い
[備考]:バーバラは少なくとも、僧侶、魔法使い、賢者はマスターしています。マダンテも習得済みです。
   途中で放送に気付いたため、禁止エリアについては把握していません。


【C-4/平原/1日目 真昼】

【ゼシカ@DQ8】
[状態]:HP3/5 右肩に傷(治療済み) MP1/10(気絶中に僅かに回復)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品(0〜2)
[思考]:バーバラを追いかける
   フアナも心配
[備考]:第一放送を聞いていません。

※ゼシカとバーバラがいた場所に、瓦礫で重石をしたゼシカのメモが置かれています

177 ◆jHfQAXTcSo:2017/01/01(日) 19:49:52 ID:w1i/t2ZA0
以上で投下終了です。
誤字脱字や指摘などあればよろしくお願いします。

そして遅くなりましたが、皆様明けましておめでとうございます。
今年もドラクエロワが盛り上がりますように!

178ただ一匹の名無しだ:2017/01/02(月) 08:13:55 ID:Q00xMLsQ0
投下乙…と言いたい所ですが、少し気になる点が
ゼシカがズーボーの遺体を見つけていますが、遺体のそばにいたフアナ達はどこにいったのでしょう
確かフアナが目を覚ました後埋葬しようとしていたと思うのですが
そしてそれ以前に、戦闘現場からバーバラによって移動させられたゼシカが遺体のそばにいるのはおかしいのではないでしょうか

179ただ一匹の名無しだ:2017/01/02(月) 08:22:42 ID:Q00xMLsQ0
読み返してみたら、バーバラは戦闘現場から移動したのではなく近くの岩壁に身を隠しただけだったんですね、自分の勘違いでした
ですがどちらにしてもフアナチームに関する言及はないと不自然だと思います

180 ◆jHfQAXTcSo:2017/01/02(月) 09:58:35 ID:9cSFybGU0
>>179
指摘ありがとうございます
フアナたちに関しては、前回の話でフアナを休ませる為に少し移動した描写を入れたので、ゼシカがいた場所から見えないかなと思い今回の運びになりました
フアナたちを見つけていた方が自然なようでしたら、修正してから投下し直そうと思います

181179:2017/01/02(月) 15:18:14 ID:F20AJU8Y0
>>180
なるほど、そういうことですか
それなら問題ないと思います

てなわけで改めて投下乙!
逃げたバーバラはどうなるのか…
近くにジャンボがいるってのも、ズーボーのこともあって色々不穏だ

182 ◆CASELIATiA:2017/01/02(月) 23:47:27 ID:Zmsw4x7s0
それではギリギリですが投下します

183シン・バラモスゾンビ ◆CASELIATiA:2017/01/02(月) 23:49:25 ID:Zmsw4x7s0
辺り一帯に重苦しい雰囲気が立ち込め、誰もが言葉を失った。
沈黙のしばらく後に、今度は嘆きの叫びが木霊し、悲しみが周りの者にも伝播する。
悲しみの度合いは人それぞれだった。
主だった知人が全て無事だったナブレットは泣いている人を慰めた。
事前にエルギオスの死を知っていたサンディはまだ傷が浅い方だった。
しかし、残りの人間は例外なく世界が崩壊したに等しい衝撃を受けていた。

勇者ユーリル、アリーナ、クリフト、トルネコ、導かれし者の内半分をたった6時間で失ったライアン。
アイラ、マリベル、メルビンといった最後まで冒険を共にした4人の内3人までもが、すでに死んでいたガボ。
それに加えてガボは、みんな友達大作戦を提案してくれた竜王のひ孫まで失っている。
この二人の憔悴の度合いが尋常ではなかった。

体に力が入らない。 息ができない。 現実味が湧かない。
つい昨日まで誰も失うことなく、前人未到の偉業を達成した猛者たちがこうもあっさり死んだ。
明日、天変地異で世界が崩壊する確率の方がまだ高いんじゃないのか、そんな気さえしてくる。
襲い掛かってくるのは凶悪なモンスターだけではない。
守るべき人間でさえ、悪意をむき出しにして襲ってくることがある。
ここにあるのは善と悪という単純な図式に収まらない、醜悪な儀式。
そして高みの見物をする主催者、エビルプリースト。

「信じない……オイラ信じないぞ……みんなが死んだなんて、そんなの信じないからな……!」

涙で顔をくしゃくしゃに歪めるガボ。
湧き起こるのは身を焦がすような怒りではなく、反発心。
きっとマリベルたちは死んでいるのではなく、どこかに捕らわれているか重傷で動けなくなってるだけだ。
ガボは知っているのだ。 
マリベルの内に秘められた優しさを。 
アイラの踊りの美しさを。 
メルビンが本気を出した時の圧倒的な強さを。
記憶を振り返れば振り返るほど、彼らが死ぬ要素など見つからない。
だって、彼らはいつも正しくて、こんな自分にも優しくしてくれて、どんな悪にも屈することのない鋼の精神を宿していたのだから。

でも、一方でガボは知っている。
善意を踏みにじる輩がいることを。
長い旅の最中でも、人としての道理にそぐわない行為をする者が山ほどいた。
人間というのは集団で行動しながらも決して一枚岩ではないということを、人間としての経験が浅いガボも知っている。
故に、有り得る。
マリベルたちが死ぬということはあり得るのだ。
泣いているということは、ガボはある程度その事実を認めているようなもの。
100%の生存を信じきれない自分がどこかにいる。
その点もガボは自覚を持っていた。

昔の習性が残っているガボが遠吠えを上げる。
オオカミでなくとも、悲しんでいることが伝わる。
身を切り裂かれるような悲鳴だった。
そこにいる誰もが、ガボの心の痛みが直に伝わる。
涙が収まりかけていたライアンなどは、新たな涙を流すほどであった。

(これはやべえぞ。 あまりにも早過ぎる)

184シン・バラモスゾンビ ◆CASELIATiA:2017/01/02(月) 23:51:17 ID:Zmsw4x7s0
知っている人間の中で死んだのは魔勇者アンルシアのみ。
その魔勇者も、危険人物として認識しているナブレットはおそらく、この中で最も冷静に物事を判断できる存在だった。
サンディとギガデーモンの口ぶりからしても、殺し合いを円滑に進めるために配置されたモンスターは確実にいる。
しかし、その可能性を加味したとしても死人の数があまりにも多過ぎた。

22人。
たった6時間でこの数だ。
一日が経過する頃にはどれくらいの死人が出るのか想像もしたくない。

それに人を集めるにしたって、ここは拠点としてはもはや不向きになってしまった。
ギガデーモンのおかげで半壊した街に、我らが寄る辺としての機能は望めそうもない。
そして超巨体のギガデーモンの死骸が今も残されているのだ。
解体、焼却するにしても圧倒的な労力が必要とされるし、そんな暇があったら誰かを捜索した方が良い。
しかし、放置すれば肉はいずれ腐り果て、街中に腐臭と病原菌をまき散らす温床となる。
街の半分近くを埋め尽くす死骸と共に過ごす、というのは心理的な嫌悪感も大きい。
死別したエルギオスとゴドラにしたって、エルギオスはまだ墓を作ることはできたが、ゴドラもドラゴンとしてはかなりの巨体だ。
瓦礫の下敷きになったのを救出して、新たに墓を作りなおすことを考えると手間がかかりすぎる。
考えれば考えるほど、トラペッタの街を放棄するしか選択肢がない。

拠り所というものは極めて大事な要素だ。
ナブナブ大サーカス団長にして、オルフェアの町の町長を兼任するナブレットは統治者や一国の王と同じくらいそれを重視する。
故郷に帰れば家族と、変わらない町の味が楽しめる。
旅先で得られなかったものが、地元にも必ずある。
ここに住んでてよかったと思える日が誰にでもきっとある。
生きていれば、の話ではあるが。

「……誰かこっち来てないかい?」

気配を察したゲルダが声を上げた。
ゲルダもトロデ王やククールを失ったが、元々が盗賊と言う稼業だったためか、人の死に関しては達観してる部分がある。
パルミドの町では、一人の生死に拘ってたらとてもじゃないが生きていけないのだ。
悲しいという気持ちはあるが、若い面々に比べたら感情を抑える手段には長けている。
よって、その気配に気づいたのもゲルダのみ。

(何だい……このどす黒い気配……?)

気配を隠そうともしないし、確実にこちらへ近づいてくる。
殺気でさえもダダ漏れだ。
ここまでに純粋な殺意を感じるのは、あの暗黒神ラプソーンと対峙した時以来ではないか。
全身が総毛立つのをゲルダは感じた。
毛穴の全てから汗がでるような感覚すら覚える。
姿を拝んでもないのにこれだ。
相当に強力な敵なのは間違いなかった。

こちらの戦力を考慮すると、まともに戦えるのはおそらくナブレットのみ。
自分はギガデーモン戦での怪我が癒えてない。
ナブレットにしたって、現役でバリバリ戦っている訳ではない。
ライアンは仲間を失った喪失感で、十全に戦えるか怪しい。
また、初期のゴドラとの出会いの怪我も完治してない。

185シン・バラモスゾンビ ◆CASELIATiA:2017/01/02(月) 23:53:11 ID:Zmsw4x7s0
ガボもライアンと同様の心神喪失、おまけにすばしっこさを身上とした戦いを得意とするのに、両足を骨折中。
ホイミンとサンディはやる気は評価できるが、単体としての戦力は期待できそうもない。
かつて、エイトを中心とした6名のパーティーでラプソーンを討伐した時に比べると、かなり心細い布陣。
それでも、負けるつもりはない。
襲ってきたからといって、正々堂々と勝負してやる理由もないのだ。
逃げるが勝ちという言葉もある。

「どこからでもかかってきな!」

見えざる敵に啖呵を切る。
その言葉に呼応するように、何者かは現れた。

「なっ……!?」

現れた敵の姿に、ゲルダをはじめとした誰もが驚愕せずにはいられない。
ホネだけで構成された大型のモンスター。
白骨ではなく、その骨は紫色をしている。
闇の力で動かされている証拠に、眼窩には暗闇の光が灯っている。
そして、極めつけは誰もその姿に見覚えが無いということ。
顔写真付きの名簿にすらだ。

変身機能を有するモンスターが極一部には存在する。
理由はカモフラージュだったり省エネの為だったりするが、最も危険なのは以下の点だ。
変身すれば、そのモンスターは例外なく変身前より強力になっている。

「ありゃバラモスゾンビじゃねえか! なんでこんなところにいやがる!」

ナブレットが叫ぶ。
伝説の三悪魔の一角、それが何故ここにいるのか考える暇はない。
バラモスゾンビを迎撃しようとする者、怯え立ちすくむ者、リアクションは様々だった。

「ガボを背負うんだ! ゲルダ、頼んだ!」
「待てよおっちゃん! オイラは……オイラは……!」
「アタシも行く!」

両足を動かせないガボがこの場に居ても、バラモスゾンビの餌食になるだけだ。
ガボは不満だろうが、それを尊重してる暇はない。

「あいよ、頼んだよナブレット! 首尾よくやりな!」

ガボを背負える人間はライアンかゲルダのみ。
体格の問題でそれ以外の人選は有り得なかった。
嫌がるガボを無理やり抱えて、南門へと走る。
それについていくサンディ。
ガボを安全圏まで送り届けたら必ず加勢に来るから、それまで耐えておいてくれ。ゲルダはそう願う。
ゲルダの言う首尾よく、というのは逃げ出すことも含んでの言い方だ。
ナブレットだって腕力自慢の猛者ではないから、それくらいは分かってくれるはず。

「くそう……くそう……オイラだって……オイラだって……」
「男がいつまでもメソメソ泣くんじゃないよ!! 今は耐える時なのさ!」

足手まといの自分の不甲斐なさを嘆いているのだろう。
自慢の健脚が完全に封じられている今、ガボの胸中は察するに余りある。
仇を討つどころか、満足に戦える機会すら奪われている。

しかし生きていれば、必ず反撃する機会はある。
人は死なない限り、逆転のチャンスはいくらでも残されている。
そうだ、ガボは逃げるのではない。
何時の日か勝つために、今は撤退をしているだけなのだ。

186シン・バラモスゾンビ ◆CASELIATiA:2017/01/02(月) 23:54:57 ID:Zmsw4x7s0
「よし、見えた。 サンディ、この子の面倒を見てやんな」
「ガボはアタシに任せて。 ゲルダはダンチョーさんのことよろしく!」

南門へとガボを背負ったゲルダが到達する。
閉ざされた南門が開いてるのは、きっとバラモスゾンビが開けたためだろう。
とりあえず街の外さえ脱出すれば、きっとガボを安全な場所へ置いて行ける。
それができたら、ゲルダはナブレットらライアンの加勢へ向かうつもりだった。
もしも敵がバラモスゾンビ一匹でなければ、それで万事上手く行ったかもしれない。
門を潜り抜けてトラペッタの街の外へ出たゲルダを迎え入れたのは、自身の体を包み込むほどの、特大の火球だった。

(あ……)

メラゾーマの火球。
これはマズイ。
ゲルダは完全に他の敵の存在を失念していた。
しかもあまりにもタイミングが出来すぎている。
ゲルダの視界にメラゾーマの火球が入った時にはすでに、メラゾーマは標的へと向かっている。
標的とは言うまでもない、ゲルダのこと。

(やっちまった……)

完全に安心したところが一番の狙い目だと、盗賊のゲルダは熟知していたはずなのにだ。
回避が今からでは間に合わない。
もう自分は死ぬんだ。
そう思った時、ゲルダの背中に強い衝撃が加わった。
ガボが押してくれたのだ。
ゲルダが振り返った時には、もうガボは天まで立ち昇ろうとする火柱のなかに飲み込まれていた。

「――」
「ちょ、ガボ!」

ガボの口が動くのがサンディにも分かった。
しかし、その口からどんな言葉が紡ぎだされたかは分からない。
最期の言葉は苦痛に呻く叫びだったのか、ゲルダを守れたことに対する安堵なのか、メラゾーマを放った者への怒りなのか。
それはもう誰にも分からない。

「ほーほっほっほっほ! やはり! 火はいつ見ても気持ちが良いわねェ!」
「デボラ様デボラ様、素が出てますよ」
「いいじゃない。 たまには息抜きも必要よ」
「はあ……そんなもんすか」

ゲルダとサンディの前に二人組が姿を現した。
派手な衣装に身を包んだ黒髪の女性、デボラ。
そして逞しい筋肉をおしゃれなスーツで飾り立てた男、カンダタ。
下僕と女王様といった関係だろうか、二人の間には明確な上下関係があることを匂わせる。

「なんなんだい、アンタら!」

怒髪天を突くといった形相でゲルダは睨む。
今にも斬りかかりたい衝動をなんとか抑え込んだ。

187シン・バラモスゾンビ ◆CASELIATiA:2017/01/02(月) 23:56:53 ID:Zmsw4x7s0
「今、あの街の中にとんでもない魔物がいるんだ! こんなことやってる場合じゃ――」
「知ってるわよ」
「何だって……?」
「ちょっと、それってどういうコト!?」

タイミングがあまりにも良すぎた。
ゲルダが門を抜けると同時にメラゾーマが飛んできたこと。
如何にも知能が低そうなバラモスゾンビが、閉められていた南門を開けてトラペッタ内に侵入できたこと。
その疑問をすべて解決する存在が、ゲルダとサンディの目の前にいる二人組だった。

「あんなのマトモに相手する方がバカでしょ? だったら閉じ込めたらいいじゃない。
 中に小魚が何匹いようと知ったこっちゃないわ。
 そうね……仮にあれを倒すことができたんなら、仲間にしてあげてもいいわ。 カンダタ!」
「おうさ!」

カンダタとしても、あんな化け物と戦うのは真っ平だ。
今回ばかりは中身はゲマ、外見はデボラの言うことに従う。
同時に、門が閉まったのを確認したゲマは、今度はメラゾ―マを南門へぶつける。
燃える門の完成だ。
北西門はすでに倒壊してることは判明している。
これでバラモスゾンビはトラペッタからの脱出は不可能だ。

「さあ、何もかも燃やしてしまいましょう。 火は全ての罪を清めてくれるわ。
 生き残った者にのみ、私の下僕となる資格が与えられるわ!
 再び光の教団を組織して、生きとし生けるものすべてにミルドラース様の御威光を示すのよ!!」

何なんだこの女は。
盗賊のゲルダが言うのもなんだが、これほどまでに人を人を思わない人間は見たことが無い。
その中身にはまったく別の生き物の臓腑が詰まっていたと言われても不思議ではないほどだ。
ゲルダはかつてないほどの怒りを見せ、まどろみの剣を構える。

「ざけんじゃないよ! アンタなんかに……アンタらなんかに構ってる暇なんてこれっぽっちもないってのにさ!!」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



南門の方から火の手が上がっている。
そのことに気付いたナブレットが足を止めた。
何故あっちが燃えている?
ゲルダが裏切って、南門へ火を着けた?
いや、そんなはずはない。
だとしたら、可能性はもう一つしかない。
バラモスゾンビ以外にも敵がいるのだ。

「ギィッ!!」
(やべっ……!)

気を取られたナブレットはバラモスゾンビの存在を意識から外してしまった。
客観的に見て、バラモスゾンビにそんな判断力が残されているとは到底思えない。
しかし、バラモスゾンビは的確にナブレットに生じた隙をついていた。
バラモスゾンビの大振りの一撃がナブレットにクリーンヒットする。
ボロ雑巾のように吹き飛ばされたナブレットは壁に激突して動かなくなる。

188シン・バラモスゾンビ ◆CASELIATiA:2017/01/02(月) 23:59:32 ID:Zmsw4x7s0

「ナブレットさーん!」

ホイミンが近寄ってホイミをかけようとするが、バラモスゾンビが立ちはだかる。
今度はホイミンに狙いを定めたバラモスゾンビが腕を伸ばす。

「危ない、ホイミン!」

破邪の剣を横から叩きつけることによって、バラモスゾンビの腕は軌道を変更させられた。
バラモスゾンビの腕がぶつかった石畳は粉みじんに粉砕され、大きなクレーターを穿つ。
ホイミンによる支援もあるが、ライアンたちは確実に押されていた。
ギガデーモンと同等、あるいはギガデーモンにはあった慢心がない分、それ以上の脅威かもしれない。
言葉さえ失ったその声帯からは、本能のままに上げる叫び声しか聞こえてこない。
ライアンは意を決し、ホイミンに声をかける。

「ホイミン、あれをやるぞ」
「あれって……もしかして」

初めてホイミンとライアンが出会ったとき、二人で協力して攻撃ができないかと思案していた時期があった。
結局、その技は完成することなく、ライアンは誘拐事件を解決に導き旅に出たのだ。
このまま有効な手を打つこともできず負けるより、分の悪い賭けに出た方がまだ希望が持てるのかもしれない。
ライアンが横っ飛びで蹴りをバラモスゾンビに入れると、バラモスゾンビは転倒する。
転倒はする……が、ダメージを与えたという実感はまるでない。

「やるよライアンさん!」
「おう!」

勝負はバラモスゾンビが起き上がってこちらに来るまで。
気合の入った掛け声を上げて、二人が息を合わせる。
シュッシュッシュ、とホイミンが触手をつかってジャブを繰り返した。
ライアンがホイミンの頭部を片手で掴むと、上空に向かって放り投げる。
舞い上がったホイミンはしかし慌てることなく、その触手に力を込める。
細い触手の腕がいくつかが、まるで力こぶのように太く盛り上がった。
ホイミンの顔も、ライアンの行動は想定通りであるとして、顔面に気合を入れる。
やがて、宙に放り投げられたホイミンが地面に到達するその直前。
腰の高さまで落ちてきたところを、ライアンは見逃さない。 むしろこの高さを待っていた。

「むおおおおおりゃあああああああ!!!」

破邪の剣の腹の部分を使い、野球のフルスイングのモーションでホイミンの後頭部を殴り飛ばす。
軟体であるホイミン相手だからこそやれる芸当だ。
人間が相手では死んでしまう。
ライアンは一切の手加減をしていない。
撃ちだされたホイミンの速度はすさまじく、ついには音速の壁を突破する。
砲弾のように打ち出されたホイミンは、今がその時だと言わんばかりに風圧に負けず、9つの触手すべてを動かす。
人間の腕は2本。 しかしホイミスライムの触手は合計九つ。 人間の4.5倍。
そのすべての触手を使って、相手に突撃しながら殴りつける。
シュッシュッ。
シュッシュッシュッ。
シュッシュッシュッシュッ!

「これが、ボクの! ボクたちの!」

究極爆裂剣である!

あの時実現しなかったコンビネーションを、土壇場で成功させたのだ。
ライアンとホイミンだから、二人に間に確かな信頼関係があるからこそできた芸当。
この二人でなければ再現は不可能な技だ。
例えバラモスゾンビが相手だろうと、燃える正義の心が繰り出すマシンガンパンチには必ずダメージは入る。
この拳の弾幕に貫けぬものはない。

189シン・バラモスゾンビ ◆CASELIATiA:2017/01/03(火) 00:02:24 ID:SqThN0Bo0
……マトモに当たったらの話ではあるが。

「え」

ホイミンはあっという間に高度を上げて、トラペッタの外壁すら飛び越える。
そして、ライアンから見たホイミンは文字通り星になって、彼方へと飛んで行ったのだ。

(お前は生きろ)

そんな風に、ライアンの口が動くのをホイミンは見た。

「どうしてえええええええええええええええ!!!」

きっとみんなで力を合わせれば、アイツだって倒せるのに。
また置いてけぼりなんて、そんなの絶対嫌だったのに。
ホイミンの胸に灯った勇気は吹き飛び、代わりに悲しみの心が埋め尽くす。
しかし、もうホイミンにはどうしようもないのだ。
このまま勢いが殺されるまで、ホイミンは空を飛び続けるしかない。

「済まぬな……」

南門に異常が発生したことはライアンも感知していた。
その上で判断する。
きっとゲルダの援軍は来ない。
来ないというより、アテにしてはいけないだろう。
ナブレットの生死も不明だが、ホイミンのホイミでどうにかなる怪我とは思えない。
ホイミンは『ずっと友達大作戦』という壮大な目標があるのだ。
こんな死地に付き合わせる必要はない。

「ガアアアアアアアアアア!」

ライアンは並の剣士ではない。
たった一人でバドランドの誘拐事件を解決に導き、その後勇者探しを王に命じられるほどの英雄だ。
腕前に関してケチをつけられる人物など、いたとしても世界に数人だ。

「ギイイイイイイイイイイイイイ!!」

勇者ユーリルに出会うまでに要した時間は数年間。 様々な地方を巡りようやく出会えたのだ。
王の命とはいえ、並の精神力でこなせる任務ではない。
潜った修羅場の数もかなりのものだ。

「勇者殿……」

その世界でも有数の剣技を持つ、導かれし者ライアンは今バラモスゾンビと一人で対峙させられている。
門から放たれた火は、脱出が容易ではないことを教えてくれる。
加勢も期待できそうにない。
ナブレットも生きてるか分からないが、生きてたとしても重傷だろう。

「ブライ殿……」

彼の持っている剣は破邪の剣。
邪なる者を打ち払う、聖なる剣だ。
バラモスゾンビのようなゾンビ系統の敵にこそ効果を発揮する武器だ。
その剣の加護を以てしても、バラモスゾンビに通用するかは定かではない。

190シン・バラモスゾンビ ◆CASELIATiA:2017/01/03(火) 00:03:38 ID:SqThN0Bo0
「許せホイミン……」
「クワアアアアアアアアアアアアアア!!」

そんなライアンは現状を分析しただ一言、こう呟いたという。

「私は――たぶんここで死ぬ」


【ガボ@DQ7 死亡】
【残り59人】

【G-2/トラペッタ内部/真昼】
【ライアン@DQ4】
[状態]:全身の打ち身
[装備]:破邪の剣@DQ4
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1) 不明支給品0〜2個
[思考]:ユーリルたちを探す
    ホイミンたちを守る

【ナブレット@DQ10】
[状態]:不明(気絶or死亡)
[装備]:こおりのやいば、シルクハット
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ジャンボを探す
    みんな友達大作戦を手伝ってやる

※生死不明の状態です。どのような状態かは次の書き手さんに任せます。
※プラチナソードはギガデーモンに刺さったままです。
※ドラゴンとエルギオスのふくろは、それぞれ本人の遺体に残っています

【バラモスゾンビ@DQ3】
 [状態]:HP7/10 MP2/3
 [装備]:なし
 [道具]:なし
 [思考]:殺戮と破壊

※付近に支給品一式や超万能ぐすり×9が落ちてます

191シン・バラモスゾンビ ◆CASELIATiA:2017/01/03(火) 00:04:56 ID:SqThN0Bo0
【G-3/トラペッタ南部/真昼】
【ゲマ@DQ5】
 [状態]:HP9/10 MP4/5 デボラの姿
 [装備]:てっかめん  グレイトアックス@ダイの大冒険
 [道具]:支給品一式 変化の杖  デボラの石像
 [思考]:この殺し合いをぶち壊す。バラモスゾンビを倒した人は仲間にしてあげてもいい

【カンダタ@DQ3】
 [状態]:HP1/2 素顔
 [装備]:おしゃれなスーツ、パパスのつるぎ 
 [道具]:支給品一式 こんぼう
 [思考]:ゲマに従いエビルプリーストを打倒する。あとデボラさまって呼ぶ。

【デボラ@DQ5】
 [状態]:石化(装備ごと石化しています)
 [装備]:奇跡の剣、ダイヤモンドネイル、水の羽衣 光竜の守り@DQ8
 [道具]:支給品一式
 [思考]:自分を貫き、エビルプリーストに反逆する

※石化の術はDQ5本編よりも弱体化しています。
 呪いの解呪方法や上位の状態異常解除方法ならば石化を解ける可能性があります。
 (シャナク、万能薬、月のめぐみ等)


【ゲルダ@DQ8】
[状態]:HP2/5 MP3/5, 全身に裂傷
[装備]:まどろみの剣
[道具]:支給品一式 道具0〜1個
[思考]:仲間(エイト他PTメンバー)を探す 
    ナブレットたちの応援に向かいたい。
    そのためにデボラ(ゲマ)たちをどうにかする。
[備考]:長剣装備可(短剣スキル59以上)
   アウトロースキル39以上

【サンディ@DQ9】
[状態]:健康 ラッキーガール
[装備]:きんのくちばし@DQ3 知識の帽子@DQ7
[道具]:支給品一式 オチェアーノの剣 白き導き手@DQ10 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜2)
[思考]:第一方針 アークを探す
[備考]: ※知識の帽子の効果で賢くなっています。
    ※きんのくちばしの効果でラッキーガール状態になっています。
    ※ギガデーモンの支給品は主催者から優遇措置を受けている可能性があります。




※トラペッタ南門は閉め切った状態で炎上中です。



【不明/トラペッタ周辺/真昼】
【ホイミン@DQ4】
[状態]:MP1/8 健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個
[思考]:ガボと共に『みんな友達大作戦』を成功させる

※どちらの方向へ飛んだかは次の書き手さんに任せます。
※飛んで行ったとしてもトラペッタ周辺までです。
※ガボの所持品、支給品一式×2 道具1〜5個 カメラ@DQ8はメラゾーマの炎で焼失しました。

192 ◆CASELIATiA:2017/01/03(火) 00:05:17 ID:SqThN0Bo0
投下終了しました

193ただ一匹の名無しだ:2017/01/03(火) 04:21:35 ID:TAt8KEd60
投下乙です!
トラペッタ大戦再び…
この街まるで休む暇ねえ
ゲマの奴てめえ…余計なことしやがって
ガボに合掌
彼の分まで、ホイミン頑張れ

194 ◆OmtW54r7Tc:2017/01/09(月) 18:26:55 ID:.bLJuTO20
投下します

195考える者、立ち上がる者、折れる者 ◆OmtW54r7Tc:2017/01/09(月) 18:28:18 ID:.bLJuTO20
図書室にて本を漁っていたピサロとヤンガス。
放送の時間もあとわずかというなか、ピサロはヤンガスにある質問をした。

「ヤンガス、一つ聞きたいことがある」
「ん〜?なんでがすかピサロの旦那」
「お前は…この殺し合いが開かれる以前にエビルプリーストに会ったことがあるか?」
「あの野郎に?…いや、会ったことねえでがすよ」

ヤンガスの答えに、ピサロは腕を組んでなにかを考え込むような表情を見せる。
なにか、引っかかることがあるのだろうか。
やがて、ピサロが口を開いた。

「私とエビルプリーストの関係は説明したな?」
「ああ、確か元部下だとかなんとか…」

情報交換にて、ピサロが魔族の王でエビルプリーストが裏切り者の元部下であるという話は聞いている。
最初にその話を聞いた時は驚いたし警戒もしたが、こちらに敵意はなく話してみるとそんなに悪い奴だという印象もなかったので、今はもうあまり気にしてない。

「そうだ、そして私やエビルプリーストが住む世界は、お前の住んでいた世界とは別だろう」
「それがどうしたでやんすか?」
「…何故、エビルプリーストはお前達の世界の大陸の一部を、殺し合いの舞台に選んだ?殺し合いの会場にするのならば、見知った土地の方がなにかと管理しやすいはずだ」
「…作りやすかったからとかじゃねえでがすか?」
「疑問はまだある。奴はかつて、私と勇者達一行に倒された。当然、こちらへの恨みは強いはずだ。それなのに、全員をこの場に連れてきていない」

かつて、エビルプリーストはピサロと導かれし者達によって倒された。
その恨みを晴らす為、自分やユーリル達はこの殺し合いの舞台に呼ばれたのだとピサロは考えていた。
しかし、ふと考えてみるとこの考えには一つの疑問が残る。
この場には、モンバーバラの姉妹であるマーニャとミネアが呼ばれていないのだ。
恨みを晴らすにしては、不徹底すぎる。

「ちなみにヤンガス、お前の旅の仲間にはこの場での欠員はいるか?」
「い、いや…兄貴にゼシカ、ククールにモリーの旦那、ゲルダ…姫さまとトロデのおっさん、それにトーポも…全員そろってるでがすよ」
「そうか」
「…旦那、何を考えてる?もしかして…」
「ああ、この殺し合いの黒幕はエビルプリーストなどではなく別の誰か…それも、お前とお前の仲間達と因縁のある奴らではないかと疑っている。そのような存在に、なにか心当たりはあるか?」
「…ないこともないでげすよ」

ピサロの話を聞いて、ヤンガスの脳裏には一つの影が浮かび上がる。
あいつが生きているなど、考えたくないが…

『諸君、ご機嫌は如何かな?』

放送が始まり、浮かぶエビルプリーストの顔。
その顔にあの忌まわしき邪神の顔を幻視したヤンガスは、うすら寒さを感じながら放送に耳を傾けた。

196考える者、立ち上がる者、折れる者 ◆OmtW54r7Tc:2017/01/09(月) 18:28:54 ID:.bLJuTO20
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

『ホープ』

「え……」

真っ先に呼ばれたその名前に、アスナの目の前は真っ暗になった。
ホープ。
共に旅をしてきた、盗賊の少年。
パーティの最年少で、素直でかわいくて、弟みたいな存在だった。
こんな自分の為に、替え玉として何度も勇者のふりをしてくれた。

『勇者様!』

変わらない、自分に向けられる眩しい笑顔。
その表情が『かわいい』から『かっこいい』に変わったのはいつからであっただろう。
旅の中で年月が経ち、心身ともに成長していく彼の姿に、いつしかアスナは惹かれていた。

「いや…いやあ……!」

だけど、ホープはもういない。
あの眩しい笑顔が自分に向けられることはない。
勇者の代わりとして前に立ってくれた、頼もしい背中を見ることは叶わない。


「いやあああああああああ!」



「な…なんだあ!?」

放送直後、突如聞こえてきた悲鳴にヤンガスはあたりを見まわした。
そして、声がした方へ向かって駆け寄る。
そこには、倒れている女の子の姿があった。

「ホープ…くん」

その言葉を最後に、女の子―アスナは気を失った。

197考える者、立ち上がる者、折れる者 ◆OmtW54r7Tc:2017/01/09(月) 18:31:01 ID:.bLJuTO20
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

「とりあえずここに寝かせとくでげす」

気絶した少女を背負ったヤンガスは、近くの壁に横たわらせた。
いったいこの少女は、いつからこの城にいたのだろう。
ずっと前からいたのなら自分達に気づいて接触してくるだろうし、着いたばかりだったのだろうか。

「ヤンガス、先ほどのお前達と因縁のある相手について教えろ」

そんなことを考えていると、ピサロが先ほどの話の続きを切り出してきた。
そういえば、放送で話が中断中であった。

「ああ、そいつはラプソーンっていうんだが…」

ヤンガスは説明する。
ドルマゲスの襲撃によるトロデやミーティアの呪いから始まった一連の事件。
その元凶…暗黒神ラプソーンについて。

「杖の所持者に絶大な魔力を与え、洗脳する、か…そいつが背後にいるとすれば、あの強力な力も一応説明はつくか……」

以前からピサロたちが研究してきた進化の秘宝。
今のエビルプリーストは、あの時以上の力を秘めているように見える。
進化の秘宝に、ラプソーンの魔力が加わったとすれば、あれだけの力を手にしてもおかしくはないかもしれない。

(…問題は首輪だけではすまないかもしれないな)

現在ピサロはこの図書館で首輪の解除の方法を探っている。
しかし、それに加えてもう一つの問題についても手を打つ必要がある。

(この催しの黒幕が本当にエビルプリーストなのか…奴の力の源の正体がなんなのか。それを探る必要があるな)

ピサロが一人考察を進める中、ヤンガスが口を開く。

「でもよお旦那、ラプソーンの奴は確かにあっしたちが倒したはずでげす」
「…それがどうした。それを言うなら、エビルプリーストなどは二度も倒されているぞ?」
「うう…そうなんでがすか」

あっさり反論に切り返されたヤンガスは、納得がいっていない様子で唸る。
理屈として復活の可能性はあると分かっていても、苦労を無に帰されたようで感情として信じたくなかった。
とはいえ、このトロデーン城が再び呪われているということは、やはりラプソーンは復活したのだろうか。
名簿のトロデやミーティアは、普通の人間姿だったが…

(…トロデのおっさん、早すぎるでがすよ)

放送で呼ばれた名前に、ヤンガスの心は暗くなる。
ククール、トロデ、マルチェロ。
それに数時間前まで一緒にいたメルビン。
みんな死んでしまった。
その間、自分は何をしていた?
もしかしたら、自分が動いていたら、メルビン達についていっていれば、なにかが変わったのではないか?
根拠のないifの話だと分かっていても、そういう考えが頭をよぎってしまう。

「ピサロの旦那、あっしは…城を出るでがすよ」
「仲間を探しに行くのか?」
「ああ、ククールも、トロデのおっさんも、マルチェロの野郎も、メルビンのじいさんも、みんな死んじまった!きっとこれからも死ぬ奴が増えてく!それなのに…じっとなんかしてられねえ!」

198考える者、立ち上がる者、折れる者 ◆OmtW54r7Tc:2017/01/09(月) 18:31:47 ID:.bLJuTO20
いくら悔やんだところで、過去は変えられない。
ククール達が死んだ事実は変えられない。
だけど、未来を変えることはできる。
自分の行動で、エイトやゼシカ達、メルビンが死んでどうなってるか分からないヒューザ。
彼らを救えるかもしれないのだ。

「待ってても来ねえならこっちから迎えにいってやる!兄貴も、ゼシカも、モリーの旦那も、ゲルダも、姫さまだって…もうこれ以上仲間をみすみす死なせはしねえ!」
「…分かった。好きにしろ」
「恩に着るでがすよ旦那!」

ピサロの了承を受けたヤンガスは、早速荷造りを始める。
ピサロが持っていたチーズも、ピサロが一人で持っていてもしょうがないのでヤンガスに渡された。
そして、手早く準備を整えると、城を出て出発…

「待て、ヤンガス」

…しようとしたところを、ピサロに呼び止められた。

「いくつか頼みたいことがある」
「頼みたいこと?はあ…あっしに出来ることなら引き受けやすが…」
「なに、そう難しいことではない。これから出会う奴らから、情報を引き出してほしいだけだ。この殺し合いを裏で操っているかもしれない黒幕…その心当たりがないかということをな」

先ほどピサロは、ラプソーンがエビルプリーストを操る黒幕ではないかという推測を立てた。
しかし、これはあくまで推測に過ぎない。
本当にエビルプリーストだけで主導しているのかもしれないし、全く別の存在が黒幕かもしれない。
黒幕が何者なのか…これはある意味首輪の解除以上に重要なことだとピサロは考えていた。
首輪を外せたとして、敵の正体が不明瞭なままで戦って勝つのは難しい。
それに、敵の正体を知ることが、そのまま首輪を外すヒントになる可能性もある。

「それともう一つ。ヘルバトラー、キングレオ、バルザック。こいつらに遭遇することがあればこう伝えろ。『お前達の主がトロデーン城で待っている。我に協力せよ』とな」
「そいつらは確か…」
「ああ、おそらく今はエビルプリーストの部下として殺し合いを進めている。だが、元々は私の部下だ。味方についてくれるやもしれん」
「…もし従わなかったらどうするでがす?」
「その時は仕方がない。お前が襲われるだけだ」
「なあっ!そんな殺生な!冗談きついでがすよ!」

正直、ピサロもこちらはあまり期待していなかった。
アンドレアルがいればほぼ間違いなくこちらに協力してくれただろうが、放送で呼ばれてしまった。
ヘルバトラー、キングレオ、バルザック。
いずれも主への忠誠よりも個人の我の方が強い奴らばかりで望み薄だ。

「まあ、とりあえず、あっしはこれから仲間を探しにいくでがすが、一応へちま売りが現れるだろう頃…第三回放送の頃にはできるだけ戻るつもりだ」
「ああ、分かった」
「じゃあ、旦那!どうかお達者で!」

ヤンガスはピサロに手を振ると、荷物を持って旅立っていった。

「行ったか…さて、こちらはそろそろ狸を起こすとするか」

199考える者、立ち上がる者、折れる者 ◆OmtW54r7Tc:2017/01/09(月) 18:33:08 ID:.bLJuTO20
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

『ククールも、トロデのおっさんも、マルチェロの野郎も、メルビンのじいさんも、みんな死んじまった!きっとこれからも死ぬ奴が増えてく!それなのに…じっとなんかしてられねえ!』

(なんで…?)

アスナは、少し前から目を覚ましていた。
そして、ピサロとヤンガスの話を聞いていた。

『待ってても来ねえならこっちから迎えにいってやる!兄貴も、ゼシカも、モリーの旦那も、ゲルダも、姫さまだって…もうこれ以上仲間をみすみす死なせはしねえ!』

(なんで、そんな強くなれるの?なんで、立ち上がれるの?)

彼女にとって、仲間の喪失はあまりにショックが大きくて。
ヤンガスの言う言葉が正しくて、自分もそうするべきだって頭の中で分かっていても。

(私には、無理だよ…!)

身体が、動いてくれなかった。
腕を動かそうとすれば、ホープの死という事実がのしかかってきて。
足を動かそうとすれば、フアナやサヴィオ、オルテガも死んでしまうかもしれないという恐怖が足をすくませ。
今、アスナの心は完全に折れていた
全身が金縛りにあったように、身体が動いてくれなかった。

「いつまで狸寝入りを決め込むつもりだ?」
(!?)
「そんなところにいつまでも倒れられては邪魔だ。起きろ」

バトルロワイアル開始から6時間弱。
勇者アスナの他者との対話は、今ようやく実現されようとしていた。
対話の相手は、魔王ピサロ。
お互いにとって天敵ともいえる勇者と魔王の対話は、いったい何をもたらすのか…

200考える者、立ち上がる者、折れる者 ◆OmtW54r7Tc:2017/01/09(月) 18:33:38 ID:.bLJuTO20
【D-3/トロデーン城図書室/真昼】
【アスナ(女勇者)@DQ3】
[状態]:健康 性格「ひっこみじあん」 ショックにより身体が動かない
[装備]:ゴディアスの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:エビルプリーストを倒す。そのために仲間(知り合い最優先)を探す。
    ひっこみじあんを克服したい。
身体が動かないよ…
[備考]:不明支給品の中に性格を変える効果を持った本や装飾品は入ってません。
    トロデーン城の地理を把握しました。

【ピサロ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]:図書室で首輪を外す方法を探す エビルプリーストをこの手で葬り去る
※ジバ系呪文の知識を得ました
※エビルプリーストの背後に黒幕がいるのではと疑っています
現状ではラプソーンが怪しいと考えています

【D-3/トロデーン城付近/真昼】
【ヤンガス@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:スライムの冠(DQ8) ふつうのチーズ(DQ8) 激辛チーズ(DQ8)
[道具]:支給品一式 トーポ(DQ8)
[思考]:仲間たち(特にエイト)との合流を図る。
黒幕の情報を集める ジョーカーへピサロの伝言を伝える
第三回放送の頃に可能であればトロデーン城に戻る
※トーポは元の姿には戻れなくされています

201 ◆OmtW54r7Tc:2017/01/09(月) 18:34:10 ID:.bLJuTO20
投下終了です

202 ◆CASELIATiA:2017/01/09(月) 23:31:31 ID:6q/PMx.E0
すいません予約期限過ぎていたのを投下します
が、その前に一つ。

自作の>>190において
>※付近に支給品一式や超万能ぐすり×9が落ちてます

とありますが、これはトラペッタ周辺に落ちているのではなく、前話のI-2付近ですね
wikiに収録された際に修正しておきます

203 ◆CASELIATiA:2017/01/09(月) 23:34:15 ID:6q/PMx.E0
遥か上空に映し出されていたエビルプリーストの顔が消えた。
放送が終わったことを悟った一同は、見上げていた視線を地面に下ろす。
ドワーフのジャンボは再び故人となったズーボーへと思いを馳せる。

(チッ、あのバカ野郎が……どうせまた無茶しやがったんだろ)

鋼のような肉体とは裏腹に、海よりも深い優しさを持っていた男だった。
その性質上、こんな最悪の催しにも反抗する意志を固めていたこと違いない。
故に、早期の脱落となってしまったのだ。
ズーボーは真にパラディンと呼ぶに相応しき男ではあるが、欠点も存在する。

素直過ぎるが故に、他人の悪意に鈍感なこと。
そして自分の生命に無頓着すぎること。
この二つだ。

ジェニャがどういう存在なのか、ズーボーと共に護衛の任務をこなしていったジャンボはなんとなく予想もついていた。
けど任務だから仕方ない、そう割り切っていた。
怒りはもちろんあるが、雇われパラディン風情が口を挟める問題でもないのだ。

生贄に捧げるとズーボーが知った時は完全に激怒していた。
誇り高き騎士の集まりであると信じていた、ガートラント王国聖騎士団の実態に嘆いた。
『守る』というパラディンの主義思想と真っ向から反する任務に、おかしいと疑問を投げかけた。
あの温厚で、間の抜けたとも形容されるような男が、誰も見たことないような激しい怒りを見せていた。
そのあまりの勢いに、同席していたジャンボはおろかストロング団長でさえもたじろいだほどだ。
優しい……が、それに故に脇が甘い。
不意打ちや虚言に極端に弱い。

また、パラディンとしての意識が強すぎて、他人を気遣うあまり自分のことを気遣うことを忘れがちだ。
ジャンボは思う。 他人を守るということは立派な行為だ。
だが、他人を守る前に、まずは自分のことを守るべきではないのか?と。
それは決して自分勝手な理屈ではないし、他人を軽んじている訳でもない。
家族を想う気持ちも、友人を想う気持ちもジャンボは兼ね備えている。
しかし、まずは生きてこそだ。
誰かと喧嘩するのも仲直りするのも、まずは生きていないことには始まらない。
当然、誰かを守ることも、自分が生きていなければできない行為なのだ。
自分の世界、という中で自分という存在は何よりも大きい。
自分一人守れない者に、誰かを守ることなどできないのだ。
目先の人間を一人二人救えることはあるだろう。
だが、できたとしてもそれが精いっぱいだ。
まして、自分の命を引き換えに他人を救うなど、そんなことはあってはいけない。
日常の中でなら問題なく過ごせていただろうが、殺し合いの中においては致命的な弱点へとなってしまう。

他人を庇って死んだか。
騙されて死んだか。
ズーボーについてはそれくらいしか死因が考えられない。
第一、真正面から戦って、パラディンの堅い壁を突き崩せる存在などそうそういない。
時の王者となり災厄の王と戦った時だって、ズーボーがいればともっと楽に勝てただろう。
立派な男だ。 ジャンボはそういう類の人種には絶対になれない。

「ターニア、大丈夫か?」
「うん……私は大丈夫。 お兄ちゃんが心配だけど」

204まだ何も終わってない ◆CASELIATiA:2017/01/09(月) 23:37:17 ID:6q/PMx.E0
外の世界からやってきた兄が一緒に旅していた男、ハッサン。
兄と一番付き合いの長い男で、兄が思い出話をする時、いつもハッサンの名前が出てきた。
豪快な笑い声でみんなを明るい雰囲気にさせていた。
言葉よりも体でコミュニケーションを取ろうとする癖もあったが、皆も笑って受け入れていた。

「本当に死んだんだね……」
「だろうな……」

ハッサン。
エビルプリーストの発した、たった四文字。
ハッサンという男の人生はその程度に集約させられた。
あまりにも簡潔に、無機質に、事務的に、感情も込められることなくハッサンの死は告げられた。

「何ていうか、死因とか聞きたい訳じゃないけど……もう少し何か言ってくれてもいいのにね」
「ああ……」

世界には理不尽が満ちている。
例えば貧困だったり飢餓だったり戦争だったり天災だったり。
村娘のターニアはそれに翻弄されるしかない。
世界を変える力なんて持っていないし、そんな大望を抱いたこともない。
今夜の料理は美味しくできたとか、目の前にある小さな幸せで理不尽を忘れることによって、なんとか生きている。

「おいたわしや、リュビ様……!」
「ガルル……」

ロッキールが嘆く。 ゲレゲレも悲しみを隠せない。
人は簡単に死ぬ。
天空の勇者だろうと、堅固なパラディンだろうと、屈強な武闘家志望の大工だろうと。
ある意味で、これ以上ないほど平等にだ。

「なんでみんな、仲良くできないのかな……」

ヘルバトラーのような存在が他にもいるのだろう。
それでも、人間同士の殺し合いもきっといくつかあったんだろう。
ジャンボがそれに応じる形で口を開いた。

「全員、自分が正しいと思ってるからだよ」
「……そうなのかな?」
「俺はな、色んな土地を回るんだがよ、やっぱ生まれ育った風土や文化によって常識も大きく変わるんだ。
 子供しかいない町なんてのもあったが、たまに首を傾げたくなるようなローカルルールもあった。
 ま、だいたいの価値観は普通の町と一緒なんだがよ。
 閉鎖環境ってのは恐ろしいぜ? 
 普通に考えたら明らかにおかしいってルールが平然とまかり通りやがる」
「子供だけの町って……大人はどうしたの?」
「まあ聞け。 話の本質はそこじゃねえ。
 逆に子供が一人しかいない町では胡散臭い宗教に町全体がハマって、ただ一人マトモな子供だけが異端扱いされた。
 世界は常に正しさだけで回ってるとは限らねえし、長く生きてりゃ物事の本質が見えるとも限らねえ」

例えば重婚(一夫多妻制)や敵討ちの是非を問う議論が分かりやすい。
これは大いに認めるという考えも、絶対にするべきではないという考えも等しく存在する。
復讐は新たな復讐を呼ぶだけで、終わりなき憎しみを生み出すだけだと禁じている国がある。
逆に、故人の無念を晴らす大義に基づく行為であると、美徳的行為だと見なす向きも存在する。
ではどちらが正しいのだろうか。 
正解はどちらとも言えなく、帰属してる集団や国家の法によって決められてるだけだ。
答えは個人の頭の中にしか存在しない。
白黒つけようとしても、水掛け論や最後には個人への誹謗中傷で終わるのが関の山だ。

205まだ何も終わってない ◆CASELIATiA:2017/01/09(月) 23:39:12 ID:6q/PMx.E0
「みーんな『俺の方が正しい』と思ってるのさ。 
 相手は自分と全く同じ常識、同じ価値観、同じ倫理観を持ってるはずに違いない。 そういう思い込みをしていやがる。
 他者とは、基本的に思い通りにならない存在。 それが大前提なんだよ。
 それを認めた上で、相手と自分の価値観の違いを擦り合わせていくしかねえ。 仲良くするってのはそういうことだ。
 だが、ここだとそれができない。 不用意に他人と接するのはリスクがデケエからだ」
「……悲しいね」
「ああ、悲しいな……お前ら!」

手を叩いて、ロッキールとゲレゲレにも注意を促す。
悲しいことに、生きてる者はいつまでも悲しみに浸ってる余裕はない。
悔しさや怒りを力に変えて、なんとか生き残るしかないのだ。

「メシにすんぞ」

腹が減っては戦はできぬ。
食べ物でも摂取すれば、少しは気分転換になるかもしれない。
目指してる城での食事は危険だという、ジャンボの判断だった。
開始から6時間が経過してる以上、あの城にはすでに先客がいると考えた方が良い。
各々が支給品から簡素なペットボトルと、何も乗せられていないパンを取り出す。

ボソボソとした食感を水で流し込む。
マーガリンの一つもないのだ。
最低限の栄養補給のためだけに渡された食料、という感じだった。
携帯食にそこまでの期待をする方が無茶な要求かもしれない。
特に肉食であるゲレゲレの不満はすさまじい。
こんな粗末な食事で数日間生き残らねばならないことに、一同はげんなりする。
必然と、気分も盛り上がらない。

ここで立ち上がったのがターニア。
もしも戦闘になったら、役に立てないことが決まっているのだ。
ここでみんなの役に立てずにいつ貢献するのだ。 そう思い自身を奮い立たせた。
三人は足手まといだからといって、見捨てるような存在ではないことはもう分かっている。
が、それはそれとして、ターニアもみんなのために役に立ちたいのだ。

「それじゃあ、みんなにこのデザートを配るね」

みんなに手渡されたのは、ターニアの支給品のピンク色のお菓子。
ハートの形をした、鶏の卵ほどの手ごろな大きさだ。
甘い匂いが鼻腔をくすぐり、唾液が分泌される。
卵白とグラニュー糖を使って焼き上げらた生地はふんわりとした肌触り。

「へえ、マカロンじゃねえか。 デビルブリーフも顔に似合わないもん支給するんだな」
「そう、マカロンって言うらしいの。 ちっちゃくて可愛いでしょ?」
「た、ターニア殿……それがし、もう我慢できそうもない。 いただきます!」

我慢できず、一口ですべてを頬張ったロッキール。
その瞬間、口の中に圧倒的な多幸感が訪れる。
サクッとした食感、咀嚼をすれば感じられるアーモンドのみずみずしい香り。
中にはふんわりとした苺のクリームが入っている。
外はサクッと、中はふんわり。
苺のクリームは脳髄までとろけそうな丸い甘みを演出し、ロッキールの顔面はかつてないほどの笑顔になった。
質素なパンとは味が雲泥の差だ。

206まだ何も終わってない ◆CASELIATiA:2017/01/09(月) 23:41:44 ID:6q/PMx.E0
マカロンというと簡単な焼き菓子のイメージがあるかもしれないが、実は想像以上に奥の深い菓子なのだ。
色も味もその種類は千差万別。
カラフルな見た目と、女性でも手軽に食べられる大きさ。
極めようと思うと、豊富な素材の中から最適の組み合わせを探さないといけない。
油断するとサクッとした生地はすぐにその食感をカリッ、に変えてしまう。
無闇に砂糖を入れ過ぎると、ただ甘いだけの失敗品に成り下がる。

「うおおおおおおおおおお!!! ンンンンまああああああああああああいいいいいいィィィィィィィ!!!」

立ち上がり、握り拳を掲げるロッキール。
高揚感が胸中を満たす。
陰鬱とした気持ちが吹き飛んでいく。
春の雪解けをを感じさせるような、心地よい風が吹く。
高鳴る胸の鼓動が血潮を熱くする。
そう、これはテンションの上昇。

ロッキールのテンションが上がった!!

「あ、やっぱこれ愛のマカロンだわ」

テンション上昇の唯一の経験者、ジャンボが答えを示す。
食べるだけで、誰でもテンションが上昇させられるこの菓子はかなりの希少品だ。

「テンション? 何これ……何だか落ち着かないよ」
「あ〜、何だ……テンション上がるの初めてか? テンション上がると闘争心とかが刺激されるらしいぜ」

その他にも、色々な変化が体内ではあるようだ。
テンションを極限まで高めると、髪が逆立ったり目が据わったり、身体的な変化が訪れるケースもある。

「スーパーハイテンションになって威力のある特技使うと気持ちいいぜ。 ありゃクセになる」
「そういうのいいんだけど、これどうにかならないの?」
「テンション消したいなら簡単だよ、ほれ」

そういって、ジャンボは掌をターニアに向けた。

「ひとつ、気合の入ったの頼むぜ」
「うーん……」

ターニアも半信半疑だが、不思議と嫌な気分にはならない。
これもテンション上昇効果によって、闘争本能が呼び起こされているからだろうか。

「えいっ!」

慣れないグーパンチをジャンボに向かって放つ。
ぽすっ、と実にかわいらしい音を立てて、ターニアの右手はジャンボの手のひらに吸い込まれた。
ジャンボが快活な笑顔を返す。

「いいパンチだ。 エビパンツも一発も倒せるぜ」
「そんな名前だっけ? エビルパンストじゃなかった?」
「いや、もう正直覚えてねえ。 名前が長すぎるから仕方ねえな」
「そうだね、ふふっ」
「ジャーンーボーどーのーっ!!」
「あぁ? ってオイィッ!?」

今度はテンションの上がったロッキールが満面の笑みで、ジャンボから離れている。
何の為だろうか、そう考えるまでもなくロッキールが全力でダッシュを始める。

207まだ何も終わってない ◆CASELIATiA:2017/01/09(月) 23:43:43 ID:6q/PMx.E0
「それがしも行きますぞー!」

ロッキールは助走をつけていたのだ。
そしてその先にいるのはもちろん声をかけられたジャンボ。
まさかテンションを解消するために、ロッキールもまたジャンボに攻撃しようというのか。
ターニアとは何もかもが桁違いな存在が、ジャンボに猛スピードで向かってくる。

「おいやめろ。 ドワーフをオチに使うのはやめろ繰り返すドワーフをオチに使うのはやめろ繰り返すドワーフをオチに使うのはやめろ!!」
「ガウ」
「ジャンボさんものすごい早口」

結局、直前にブレーキをかけてもらい、ロッキールとゲレゲレには何とかそこら辺の木に攻撃してもらうことで落ち着いた。

「ゲレゲレも、いざとなったらこのマカロン食うんだぞ?」
「ガウ」
「嫌われたもんだなあオイ」
「うふふ、私があげるからね、ゲレゲレ」
「ガウ!」

この時、このマカロンを作ったのは誰なのだろうか。
ひょっとしてエビルプリーストお手製なのだろうか、と様々な推測が生まれたが、それはまた別のお話。
ターニアのファインプレイで、放送後の淀んだ空気を吹き飛ばすことはできた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



時間は経過し、ジャンボはターニアから離れたところで用を足していた。
これもまた、城での戦闘を想定した場合の準備だ。
ターニアを守るためにできる限り近くでしよう、という彼なりの優しさは悲しいかな、ターニアには色々とありがた迷惑だったようだ。主に音的な意味で。
いざという時はゲレゲレに乗って逃げればいいだけ、という主張をターニアは展開して、もっと遠くですることになってしまった。
顔を真っ赤にしたターニアから逃げるように離れていたジャンボは、一仕事を終えた顔つきで後ろを振り返る。

「おっ、お前も来たのかよ」

ロッキールもまたジャンボ同様、用を足しに来たのだろうか。
体のところどころに鉱物が混じってるこの岩石人間がどうやって用を足すのかは甚だ疑問だが、そこは触れないでおくのが優しさか。

「それがしはゲレゲレ先輩を心から信じておる」
「ふーん、それで?」
「皆目見当もつかぬが、どうもゲレゲレ先輩はジャンボ殿を疑っておる様子。 心当たりはあるか?」

ロッキールは先ほどの和やかな談笑から打って変わって、真剣な顔つきだった。
下手な誤魔化しは却って悪印象だろう。
戦いにでもなったら、ジャンボはこのロッキールには勝てない。
神の金属オリハルコン。
しなやかにして強靭、聖なるオーラを纏いしこの金属を体表に露出させている、この合成人間の防御力はパラディンをも軽く凌駕するだろう。
弓や素手で戦うなど、愚策もいいところだ。
呪文はあまり得意ではないし、そもそも通用するかも怪しい。
そう、ジャンボではロッキールには勝てない。

「あると言えばある……な」
「ではそれがしがお主を――」
「まあ待て、待てよ。 早合点すんじゃねえ。 お前が来る少し前の時間のことだよ」

そう言って、ジャンボはゲレゲレとのいざこざの経緯を正確に話す。

208まだ何も終わってない ◆CASELIATiA:2017/01/09(月) 23:45:29 ID:6q/PMx.E0
「とまあこういう訳だ。 信じてもらえたか?」
「ふーむ、そういう事情があったとは」
「てかお前、ゲレゲレと話してんじゃないのか?」
「聞いておらぬ。 これはそれがしの独断だ」
「偉そうに言うな! じゃあ俺が嘘ついてるかどうか分かんねえじゃねえか!」
「おお、そういえば!」

はあ、とため息をついてジャンボは肩から力を抜く。
直情径行というか何というか、このロッキールはあまり深く考えるということはしないタイプのようだ。
ならば、ジャンボもロッキールと敵対する必要はない。
ハッサンも死んで、残りの懸念はあとレック、チャモロ、バーバラのみ。
その三人さえ隠密裏に消せればいいだけだ。
もちろん全員がこの殺し合いのどこかで勝手に命を落としてくれるようなら、ジャンボは完全に潔白のまま。
疑われたままの状態は気持ちよくないが、向こうにも襲い掛かる大義名分は絶対に発生しない。

「そうだな、疑われるような行為をした俺にそもそもの責任があるな。
 まあ俺のこれからを存分に見てくれや。 しっかり働いてみせるからよ」
「ふむむ、今回はそれで良しとしよう。 しかし覚えておくことだジャンボ殿、もしものことがあればそれがしが斬る!」
「ああ、それで構わねえ。 ただしターニアは巻き込むんじゃねえぞ?」
「もちろんだとも!」
「あ、いや待て」

そう言って、ジャンボは眼光鋭く闖入者を睨みつける。

「気が変ったわ」

その視線の先、赤毛の少女が現れたのだ。
名は確か、そう――

「バーバラだろ?」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「えっ!? うん……そうだけど」

当て所なく彷徨うバーバラの目の前に、二人の人間が姿を現した。
もっとも、二人は厳密には人間ではないし、現れたというよりバーバラの方から近づいてしまっただけなので、色々と語弊があるが。
しかも名前を知られている。
顔写真付きの名簿の存在があるとはいえ、バーバラはわずかに緊張せざるを得ない。

「ターニアがこっちにいる。 おめえのことも探してたんだよ」
「えっ!?」

普段なら喜んでいただろう報せは、今のバーバラにとって吉報とはなり得ない。
自らの不甲斐なさに嘆き、仲間といる資格などないと思ってしまった少女。
やるべき決断を下せず、結果として逃げ出した今の自分が、どんな顔をしてターニアに会えばというのか。

209まだ何も終わってない ◆CASELIATiA:2017/01/09(月) 23:47:21 ID:6q/PMx.E0
「ケガしてんじゃねえか。 こっちで治してやるからこいよ」
「あ……」

バーバラが後ろずさる。
今はただ他人が怖かった。
相手が善人だろうと悪人だろうと関係ない。
萎んでしまった気持ちは、バーバラから考える気力を奪い去ってしまった。

「へえ……」

そんな事情を知らないジャンボからすれば、バーバラの態度は自分の考えを見破られたとも取れる。
今ここで逃げられたら、困るのジャンボだ。

「殺気は隠してたつもりなんだがよ。 意外に鋭いもんだな」
「答えよジャンボ殿、気が変わったとはどういうことだ!!」

(なに、この人たち……)

会話をしている二人が敵対してるのか仲間同士なのかはっきりしない。
おまけに、目の前の緑色のカビ団子のような男の発した殺気は何なのか。
今のバーバラの脳では、それらを処理しきれなかった。
結果として正解の形とはなるが、バーバラは踵を返して逃げ出す。

「あ、待って! それがしは味方で――」
「ところでさ――」

そしてジャンボはまるでバーバラに興味などなかったかのように、バーバラを追いかけることもせず、ロッキールの肩に手を置く。
そして、唐突な質問をロッキールに投げかけた。

「レンジャーって何する職だと思う?」
「知らぬ! 今はそれどころではない!!」

肩の手を振りほどき、ロッキールは走り出そうとする。
しかし、ロッキールの耳に手拍子が鳴り響く。
音量自体は大したことないのに、鼓膜を通過するどころか脳の奥にまで到達する。
気がつけば、ロッキールは歩みを止めていた。
そして、ジャンボの言葉だけに耳を傾けている。
すでにロッキールの頭の中からは、数秒前まで気にかけていたバーバラも、仲間や主人の存在も頭から消え失せていた。

「当たりだよ。 俺も何すりゃいいか分かんねえ」

概して、アタッカーでもヒーラーでもない中衛職とはそういうものだ。
攻撃役はとりあえず攻撃してればいい。
回復役はとりあえず回復してればいい。
それで仕事の半分はこなせる。
しかし、攻撃も回復もこなせる中間の職はそうもいかない。
攻撃だけし続けても劣化戦士や劣化バトルマスターにしかならないし、回復だけを続けても同じことが言える。
今、この戦場に攻撃と回復をどれくらいの比率で行えばいいのか、千変万化の立ち回りが要求される。
決まり切った動きなどなく、相手によってどう動けばいいか考え続けねばならない。
簡単なようだが、これが難しい。

「今はそうでもないけどよ、昔はかなり局地戦向きだったよな。 旅芸人ほどの汎用性はねえ」

210まだ何も終わってない ◆CASELIATiA:2017/01/09(月) 23:50:01 ID:6q/PMx.E0
そう、例えばドラゴンのように危険なブレスを吐く敵専用のような、『対ブレス攻撃のスペシャリスト』といて扱われたこともあった。
昔ほどではないが、レンジャーは相手との相性の良し悪しがハッキリ別れる職業である。

例えて言うのなら、中衛職とは前衛と後衛の緩衝材のようなものだ。
摩擦が起こりがちな両者の間に立ち、両者を上手く連携させる。
リアルタイムに変化する戦場の中で、常に最適解を探し続けることを要求されるのだ。
縁の下の力持ち的存在、それがレンジャーや旅芸人のような中衛職。
特にレンジャーは旅芸人と違って、離れても置きジバルンバや弓で戦える分、遠距離戦に関しての適正は万能職の旅芸人より高い。

「話は変わるけどよ、俺にはお前は倒せねえ。 けどお前を倒せる奴が一人だけいる」

もう一度言おう。 ジャンボにロッキールは倒せない。
ジャンボが自身の愛用のオノを持ってこようと、このオリハルコンとドラゴンローブで固められたロッキールに傷一つつけられないだろう。
どれだけ条件が整っていようと、力押しでジャンボにロッキールは倒せない。
さて、そんなレンジャーと爆弾岩人の相性は良いのか悪いのか。

最高である。
ロッキールを倒せるのはロッキール自身なのだから。

(ガルゴルとかイーター狩り以来か? 『てなづけ』使うなんてよぉ)

ジャンボの職業はレンジャー。
大自然に生き、魔物とさえ心を交わす野性の戦士。
ある意味で、まものつかいに近しい存在と言えよう。
それ故にこのような、一時的にまものを飼い慣らすことも可能なのだ。
思いもよらぬ特技が思わぬところで、効果を発揮する。
ジャンボはロッキールを最硬にして最強の爆弾に変えてしまう。

「ばくだんいわ混ざっちまったのはぁ、失敗だったな」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



走る。 かつてないほどに走る。
息も切れて、心臓も破裂しそうなほどに。
けれど、足を止めたら間違いなく自分は死ぬ。
バーバラは背後に迫る死神の気配が徐々に近くなるのを感じていた。

「はっはっは! はっはっは! はっはっはっはっは!」

死神は笑っているのだ。
口許から涎をたらしながら、酩酊状態の荒くれ男のように。
あるいはメダパニをかけられたかのように。
その目の焦点は定まっておらず常に泳いでいる。
どう考えても正気ではない。
あの緑色の体色をした男が何かしたのかと思うが、今更向こうへと引き返せない。

「怖くないよ! ミンナトモダチ! 人もモンスターもドワーフも仲良くしよ! ホラ!」
「うっ……いやぁ……!」

涙が溢れる。
これが罪なのだろうか。
ズーボーの遺志を貫くことができなかった罪。
ゼシカをも置いて行ってしまった罰。
これが報いだとしても、あまりにも酷いではないか。

「助けて! 助けてよレック!」

211まだ何も終わってない ◆CASELIATiA:2017/01/09(月) 23:52:23 ID:6q/PMx.E0
恐怖で心が押し潰される。
消えてしまったと思った体が復活して、こんなところで殺し合いをさせられて。
仲間も失った末にこんな異形の変質者に追いかけられて。
大魔女としての誇りも勇気も、とうに消し飛んでしまって。
残されたものは恐怖と絶望で。
ついにバーバラは死神の両腕に捉えられてしまう。

「捕まえた!」
「――――ッ!!」

少女の腕力では剛力無双の爆弾岩人の腕は解けない。
いくらもがいても、オリハルコン混じりの腕はバーバラの体を締め付ける。
ロッキールが、いやロッキールの中にあるロッキーが唱えたのは、自己犠牲呪文。
その周囲にあるすべてを砕け散らせる。

「――――――!!」

叫ぶ。
叫ぶ。
叫ぶ。
悲鳴は届かない。
誰にも聞こえない。
救いの手を差し伸べる者はいない。
残酷な世界に、少女の叫びは誰にも届かない。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「おい、やべえぞ敵襲だ!」

ターニアとゲレゲレの下へ、ジャンボが舞い戻る。

「どうしたの!?」
「また敵が来やがって、ロッキールが……」

最後に、わざとらしく視線を落とし、無念を装って言う。

「メガンテを使いやがった……」

ターニアとゲレゲレから顔色が失われる。
爆弾岩ロッキールは軽々しくメガンテを使う人間などではない。
そんなことを言えるのはローレルの世界にも、ロッキーの世界にもいない。
合成の壺によって、まったく新しい人格が形成されても不思議ではない、と主張すれば誰にも否定できない。

敵がどんな存在なのかは簡単にでっち上げればいい。 
メガンテの爆心地に死体があろうとなかろうと、メガンテが効かない敵もいくつか存在する。
この近くにいて、次の放送での生死がどちらでも濡れ衣を着せられる存在ならヘルバトラーあたりか。
出会った時から敵対してるが故に、ジャンボから率先して聞かない限り、ヘルバトラーも自身が濡れ衣を着せられるとは思いもしない。
加えてジャンボは自分がロッキールの近くにいたのに、メガンテの巻き添えは被ってない。
つまり、ロッキールは死ぬ直前までジャンボを信頼していた、という証拠にもなってゲレゲレの嫌疑も晴れる。
ロッキールが独断で動いてくれて本当に良かったと思う。
『てなづけ』という特技はゲレゲレの疑惑を回避し、自身のターゲットも屠れる一石二鳥の手だった。

(俺が勇者の盟友とか、ンな訳ねえよなあ)

賢者ルシェンダにそう告げられた時から今に至るまで、ジャンボは自身のことを勇者の盟友なんだと思ったことは一度もない。
色々な状況証拠があるらしいが、ジャンボはそんな立派な人物ではないと思ってる。

212まだ何も終わってない ◆CASELIATiA:2017/01/09(月) 23:54:06 ID:6q/PMx.E0
(こんなカビ団子が盟友とか、冗談にしても笑えねえってんだ)

例えばズーボーのような、我が身を顧みず他人を救える者こそが勇者の盟友になれる器なのだと、ジャンボはそう思っている。
こんなところで現実に屈し、他人を蹴落とすことを考えるような男が正義の存在であるものか。
アンルシアはジャンボのことを相当買ってくれているようだが、それは勘違いに過ぎない。
だって、ジャンボという元人間、現ドワーフの男はこんなにも卑劣な存在なのだから。
アンルシアはいつかジャンボから自立しないといけないのだ。
本当の勇者の盟友に出会うまでに。

(俺の世界はな、まだ何も終わってないんだよ)

ロッキールの世界を羨ましく思う。
彼らの世界は平和が訪れているのだから。
だが、アストルティアはそうではない。
終わったと思った大魔王との決戦は、新たな戦いへの幕開けに過ぎなかったのだ。
ジャンボはもう、クロウズのことをクロウズとは呼ばない。
自らの正体を明かすこともなく、したり顔ですべてを見透かしているかのように振る舞い、親友である自分を置いていった奴にはまずは全力でブン殴らなければ気が済まない。
シンイは何も語ることなく一人で勝手に門の向こうへ行き、何かしらをしようとしている。

(……って、そりゃ俺もそうなんだよな。 へっ、やっぱり似たもの同士ってことじゃねえか)

まだ倒すべき敵がいるから。
故郷が滅ぼされたら困る理由があるから。
そんな身勝手な理屈で誰にも語ることなく他人を蹴落とすため、当初考えた4人以外の人物へ口封じを行ってしまった自分が偉そうに言えることではない。
もう心身ともに、勇者の盟友の肩書を名乗れるような立派な人物ではなくなってしまった。

それでも、ジャンボは自分の守りたいものは全力で守る。
無理やりに、腕ずくでもだ。
ターニアの知人を殺害しながらターニアを守る。
その欺瞞に気付かないふりをして、彼は茨の道を進む。

【バーバラ@DQ6 死亡】
【ローレル@DQ2 死亡】
【ロッキー@DQ5 死亡】
【残り56人】

213まだ何も終わってない ◆CASELIATiA:2017/01/09(月) 23:54:38 ID:6q/PMx.E0
【D-4/平原/1日目 真昼】

【ゲレゲレ(キラーパンサー)@DQ5】
[状態]:HP2/3、胴体にダメージ(中)、身体側面に切り傷
[装備]:悪魔のツメ@DQ5
[道具]:支給品一式、四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1
[思考]:
基本方針:主催を倒して脱出する。
1:ジャンボに不信感。

【ターニア@DQ6】
[状態]:体の一部に擦り傷あり
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、愛のマカロン×6 道具0〜2
[思考]:
基本方針:お兄ちゃんと合流したい。
1:ジャンボについていく。

【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:健康
[装備]:ナイトスナイパー@DQ8
[道具]:支給品一式、道具0〜2
[思考]:
基本方針:エビルプリーストに借りを返す。6世界の人物を……?(非力な人物は除外)
1:トロデーン城へ。
[備考]:
※職業はレンジャーです。少なくともサバイバルスキルが140以上、弓スキルが130以上です。



※バーバラの支給品一式、不明支給品(0〜2)はメガンテで消滅しました。
※ロッキールの天空の剣、支給品一式 罠抜けの指輪 罠の巻物×3はD-4に落ちてます。
 ドラゴンローブが消滅せずに残ってるかは任せます。

214まだ何も終わってない ◆CASELIATiA:2017/01/09(月) 23:55:04 ID:6q/PMx.E0
投下終了しました
誤字とかありましたら教えて下さい

215 ◆CASELIATiA:2017/01/09(月) 23:57:09 ID:6q/PMx.E0
続いて◆OmtW54r7Tc氏の作品の感想を

ヤンガスの性格からして、じっとしている訳にはいかないですよね。
アスナはようやく他人と会話できるのか!?
でも最初の相手がピサロなのはハードル高いですねw

216ただ一匹の名無しだ:2017/01/10(火) 05:50:42 ID:cWONUAY60
投下乙です。とりあえずジャンボ容赦無ぇな。完全にてなづけの存在を忘れてたよw
レンジャーと言う職に関しては、レボルスライサーとケルベロスロンドである程度方向性は固まってきた気はするが、時期的にジャンボは多分覚えてないだろうなぁw
何にせよバーバラ南無。逃げる方向が悪かった。ある意味ではジャンボはズーボーの仇を取ったとも言えるけどね

217ただ一匹の名無しだ:2017/01/10(火) 15:09:32 ID:fHHnUpQw0
投下乙
ジャンボ外道すぎてもう……w
今のレンジャーはレボルとケルベロスを基点に立ち回ればいいから動かしやすくはなったよね
最近のレンジャーは当たり特技ばかりもらえて羨ましいわ
ロストスナイプでさえジュノーガで使えるしなぁ

218ただ一匹の名無しだ:2017/01/17(火) 08:15:21 ID:3bzcN3QM0
投下乙でした

ジャンボの強みは他のキャラにない主義とその為の手段・・・合掌

トラペッタ組は苦労の連続でもう逃げてくれていいよ!と言いたい
それを許されないんだろうけど・・・

219 ◆jHfQAXTcSo:2017/01/19(木) 19:23:39 ID:KkU79YTA0
投下します

220叫べ、己の価値を ◆jHfQAXTcSo:2017/01/19(木) 19:25:12 ID:KkU79YTA0
「まったく、何を熱くなってるのかしらねェ」

睨み付けてくるゲルダにふんと鼻を鳴らし、デボラの姿を借りたゲマは嘲るように口を開く。

「私はね、ミルドラース様の為にもあの小物を打ち倒さなければならないのよ。
 それなのにあんなヤツを相手に力を浪費するのも馬鹿馬鹿しいわ、下手したら怪我だって負ってしまうしね。
 来るべき時に備えて力を温存する、実に合理的な判断でしょ?」

ふと視線を南門に移す。
勢いよく燃え盛る炎は、扉の向こうに残された少年の亡骸をも呑み込んでいるのだろう。
そう思うと、ゲマの気分はますます高揚する。

「それにね、アンタは背負ってたあのみずぼらしい少年を助けようとしていたのかもしれないけど。
 そんなのは、ハッキリ言って無駄でしかないわ。
 足手まといにしかならない存在なら、いっそ今楽にしてあげた方がいいってモノよ」

まあその点はカンダタも微妙だけどね、とぼそりと呟く。
一般人に比べればなるほど、戦いの心得はそれなりにある。が、ここに喚ばれた者達には流石に及ばないだろう。
デボラにも圧倒されていたし、アベルや彼に付き従う魔物たちにも勝てるか怪しい。
呟きが聞こえたらしいカンダタの「キツいですよデボラさまぁ……」という情けない声を無視して、軽く身をよじる。
それでギリギリ勘づいたらしいカンダタも飛ばされた斬撃――アサシンアタックを慌てて躱し、ゲルダの表情が先程よりも険しくなっていることに気付いた。

「な、何すんだい!」
「それはこっちの台詞だよ」

ゲルダが再びまどろみの剣を構えると、カンダタは目に見えて体を震わせ、一歩後ずさる。
その姿に舌を打ちながらも、ゲルダは動じないゲマに視線を向ける。

「あんな見るからにヤバそうなのは閉じ込めちまえばいい、それは分かるさ。だが! ナブレットたちを巻き込む必要はあったのかい!?
 なんでアンタなんかの為にガボが死ななければならないんだい!?」
「巻き込む必要はあるわ、中にもまだ足手まといがいるなら、早めに死んでもらわないと。
 あれを倒せるだけの腕があるなら私の下僕になる資格はあるわ。でも、使えない下僕はいらないのよ」

再び放たれたアサシンアタックを躱し、両手を広げ、ゲマは続ける。

「力のない者はね、いつも正義感なんかが強い誰かに守られてしまうものなのよ。弱ければ弱いほど、お人好しは放っておかないわ。
 世ではそれが美徳なんでしょうけど、分かってる? ここは殺し合いゲームの箱庭なのよ。弱い誰かのせいであの主催気取りの小者に対抗できる者が減ってしまうなんて、許されないのよ!」

221叫べ、己の価値を ◆jHfQAXTcSo:2017/01/19(木) 19:26:39 ID:KkU79YTA0
脳裏に思い起こされるのは、一人の男の姿。
自らの部下たちを圧倒できるだけの強さを持っていたにも関わらず、力のない息子を人質に取るだけで、為す術もなく死んでいった、親子愛が美しい愚か者。
馬鹿なものだと、ゲマは思う。
情など捨てれば、生きることができたのに。愛など捨てれば、自らの道は拓けたかもしれないのに。
その愚かさ自体は、ゲマもそれほど嫌いではない。この上なく愉快になれる“笑い話”だ。
だが、今回ばかりはそれを笑って促すわけにはいかないのだ。
力ある者は確保して、来る戦いに備えなければならない。
共に戦う仲間としてではなく、自分が最後まで生き延びる確率を上げる為の捨て駒として、ではあるが。

「この世界は、強い者が生き残るべきなのよ。生きたいなら、その行動で示せばいいのよ、強さを! 叫べばいいのよ、己の価値を!」
「下吐が出るね、全く……!」

しかしゲルダは納得しない。
その苛立ちは収まらない。

「悪いけど、アンタの価値観はアタシには合わないね。強さが価値だって言うのは別に構わないさ。
 だがね、アタシは知ってるんだよ。強さ以外にも大事なものはあるって。アンタの馬鹿げた価値観の為に、アタシらを巻き込むんじゃないよ!」

このトラペッタには、様々な種族の者たちが集まった。そして皆が、温かい心を持っていた。
察しがよく、必要以上の言葉はいらないナブレットと共に行動するのも。
みんな友達大作戦を成功させようと意気込むガボやホイミンを見守るのも。
力を合わせてライアンを救助したことも。
泣きじゃくるサンディと共に、集まった者たちを守って逝ったエルギオスやゴドラを追悼したことも。
ゲルダにとっては、意味のあることだ。

ガボとホイミンは、竜王のひ孫が提案した“みんな友達大作戦”を引き継ぎ、殺人者に負けないと立ち上がった。
そんな彼らの直向きな姿を見て、ナブレットは協力を決意した。
ライアンを助け出す為、全員が力を合わせた。
以前よりも巨大になっていたらしいギガデーモンという存在に比べたら、個々の力はちっぽけだった。
それでも紡がれた想いはその強大な力の塊を退けた。
エルギオスとゴドラという大きな犠牲を払ってしまったが、彼らの想いは集まった全員が確かに聞き届けた。

ゲルダは盗賊稼業をしているが、本当に価値のあるものは手元に置いておく主義だ。
それは物品だけではない。人間関係のような目に見えないものも、ゲルダは手元に残すのだ。

222叫べ、己の価値を ◆jHfQAXTcSo:2017/01/19(木) 19:28:11 ID:KkU79YTA0
「ガボだって、中にいる連中だって! アタシにとってはアンタなんかよりも価値があるんだよ!」
「ふぅん、生意気言うわね。どうせ中で決着が付くまで時間はかかるんだし、いいわ、下僕にするには生意気すぎるし、お仕置きしなきゃね」
「生憎だね、アタシはアンタなんかにいいように使われる気は毛頭ないんだよ!」

分かり合うことのない両者はそれぞれ武器を構える。
一拍子遅れてカンダタも剣を握る。

「サンディ」

視線はゲマに合わせたまま、ゲルダはサンディに小声で呼び掛ける。

「アンタは、ここを離れるんだ」
「え!? でも、ゲルダは……!」
「今アンタがいたところで、何もできはしないだろう?」
「……っ!」

悲痛な表情を浮かべるサンディにちくりと胸が痛むが、それを押し止めて言葉を続ける。

「何もアンタが足手まといだって言いたいんじゃないさ。だが、何か機転を利かせるにしたって、一度はあいつらの気を逸らさなきゃ危ない」
「あ……そう、よネ……」
「一度離れた後は、助けを探すも不意を突くも任せるよ。分かったかい?」
「うん、バッチリ。……死なないでね、ゲルダ」
「ああ」

頷いてサンディが飛び去るのと、カンダタの剣が降り下ろされたのはほぼ同時だった。
サンディが丘の向こうに飛んでいくのを確認すると、斬り上げられた剣を受け流しカンダタの腹に蹴りを入れ、飛んできたメラミを躱す。
咳き込みながら振り回されるパパスの剣をまどろみの剣で受け止めるも、火球の気配に気付いたゲルダは剣を捌くのを中断し、バックステップで軌道から逃れる。
競り合っていた力を急に失いカンダタは前のめりに転びかけ、その頭上をゲマの放ったメラミが通りすぎる。

(どうなってんだい……中級の魔法にしたって、二発目までの間隔が短すぎる)

魔法を放つには、魔力を練り上げ、詠唱を行うという過程が必要になるはず。
上級魔法のメラゾーマに比べれば、メラミの方が必要となる魔力も少なく、より短い時間で撃てる。そこまでは分かる。
だが、今ゲマが放ったメラミは発動が早すぎるのだ。
余程集中力があり素早く魔力を練り上げたにしたって、仲間の中でも随一の魔法の才を誇るゼシカすら上回る。

223叫べ、己の価値を ◆jHfQAXTcSo:2017/01/19(木) 19:29:53 ID:KkU79YTA0
(熟練の魔法使いだって、あの速度での詠唱は難しいはず……怪しいのは、あのでかい斧か)

グレイトアックスについて、ゲルダは見識がない。
だが、盗賊としての勘が告げる。あの斧はただの斧ではないと。
目利きだって、ゲルダが自慢できるもののひとつだ。

(そもそも、あんな馬鹿でかい斧を、なんであんな軽々扱えるんだい。どこまでも人間らしくない女だね……!)

グレイトアックスに視線を遣りながら、襲いかかってきたカンダタの剣をいなす。
カンダタの技量は大したことないとはいえ、これはこれで厄介だ。
カンダタもゲマも、互いの動きをまるで気にせず、ゲルダに攻撃することだけを考えている。
連携を取ろうと言葉や視線を交わすといった行動が一切ないのだ。

二対一の戦いは不利なものだ。だが、二人で連携を取って戦う場合、タイミングを合わせる為、何かしらの合図があることも多い。
それを読み取れれば、不利をひっくり返すことも可能となる。
しかしゲマとカンダタは、そもそも連携を取ろうとすらしていない。
二発目のメラミがカンダタの頭上を通りすぎたことからも、それは明白だ。

(成程ね……そこまで強くないコイツだからこそってことか)

ゲマは言った。主催者に対抗すると。その為に、強い者が生き残るべきだと。足手まといはいらないと。
なら、カンダタは。弱くもないが強くもないこの男を、ゲマはどう見ているのか。

――恐らく、どうでもいいと。生きようが死のうがどうでもいいと。そう思われているのだろう。

主催者と戦いにおいて、必須と思われるほどの戦力にはならない。
しかし、いたならいたで利用はできる、といったところか。
メラミに巻き込まれてここで死ぬのも構わない。だが、生きているなら自由に戦わせることで、己の行動が悟られにくくなり、自身も楽に戦える。
それが、今のゲマのやり方なのだ。

「っとに、気に入らないね……!」

誰にともなく吐き捨て、ゲルダも大きく攻勢に出る。
派手に振りかぶり、受け止めようとカンダタが剣を構えたところで咄嗟に腰を落とし足を斬り付ける。
痛みと予期しなかった位置への攻撃に怯んだカンダタを蹴り倒し、そのまま腹を踏みつけ、勢いよく飛び出す。
真後ろを通りすぎたメラミは気にも留めず、真っ直ぐゲマに向けてまどろみの剣を突き出す。

「小細工なしの真剣勝負といこうじゃないか。まさか受けられないなんて“小物”みたいなことは言わないだろ?」
「ふん、いいわ。私を倒せるものなら倒してみなさい!」

224叫べ、己の価値を ◆jHfQAXTcSo:2017/01/19(木) 19:31:18 ID:KkU79YTA0
一撃目はグレイトアックスで弾かれる。
その勢いを殺さず剣に乗せて斬り上げると、叩き落とすように斧を降り下ろされる。
剣が地面に到達する直前に手首を捻って無理矢理斧の軌道から逃し、斧を握るその手を狙う 。
しかしその攻撃は読まれていたのだろう、笑みを浮かべて軽く腰を落とす簡単な動作で避けられた。

グレイトアックスに比べれば、まどろみの剣の方が小回りが効く。
治りきっていない怪我で万全でないとはいえ、身軽なゲルダとの相性は中々だ。
しかし隙を与えるとまた魔法が飛んでくる可能性が高い。迂闊にアサシンアタックなどの技に頼ろうとするのは危険だろう。

決め手に欠ける。不利な点はそこだ。

お仕置き、とは言っていたが、どうあってもゲマに従う気のないゲルダを殺さない理由もないだろう。
長引けば長引くほど、ゲルダが不利になっていくのは明白だ。

(少しでもいい、なんとか手傷を負わせて隙を作らないと……!?)

まどろみの剣を握り締め、もう一度斬りかかろうとしたゲルダは、しかし左肩に衝撃を感じた。
そして、その衝撃は直ぐ様鋭い痛みに変わり、思わず剣から手を離して左肩を抑えてしまう。
痛みと共に感じたのは、凄まじい熱さだった。

「なんだってんだ……!?」
「遅いわよ、カンダタ!」
「そうは言われてもデボラさま、俺の髭まで燃えそうだったんですよ!」

思わず振り返ると、少し離れた位置に落ちた火の点いたこんぼうと、それを拾いにいくカンダタの姿が目に入った。
そこで気付く。三発目のメラミが、カンダタを踏み台にして飛び出した自身の“真後ろ”を通った理由に。
カンダタごとゲルダを焼こうとしていたのなら、軌道はもう少しゲルダから離れていたはずだ。
つまり、メラミはゲルダやカンダタを狙ったものではなかったということ。
ならば何を狙ったのか?
言うまでもない、今この場で燃えているものはひとつだ。
メラミはゲルダではなく、蹴り倒された拍子にカンダタのふくろから転がり落ちたこんぼうを狙ったものだったのだ。

「カンダタ、まだ火を消したらダメよ」
「と言いますと?」
「それが命中した辺りに押し付けてやりなさい」
「え、そこまで……」
「 押 し 付 け て や り な さ い 」
「は、ハイ!」

びくりと跳ね上がり、カンダタはゲルダの左肩に、弱まることなく燃え続けるこんぼうを押し付ける。
ゲルダがどんなに悲鳴を上げても、ゲマが合図を出すまでこんぼうが離されることはなかった。

225叫べ、己の価値を ◆jHfQAXTcSo:2017/01/19(木) 19:33:06 ID:KkU79YTA0
 


カンダタがこんぼうにせっせと土をかけて火を消そうとするのを尻目に 、ゲマはゲルダの左肩を鷲掴む。
その痛みに苦悶の声を上げるゲルダに機嫌を良くし、その腹に蹴りを入れた。

「ぐぅぅ、かは……っ!」
「私の下僕にアンタがしてくれたことよ。あんなでも私のモノなの、礼はしっかりしてもらうわよ」
「ぃあ……ああぁぁぁぁああああ!!」

火傷の酷い左肩の、中でも最も肌が爛れた部分を狙って蹴り倒し、無防備な腹を踏みつける。
先程のゲルダのようにすぐに飛び出すのではなく、何度も、何度も。同じ部分を踏みつける。

「うぐぁ……あああっ!!」
「さあ、反省はしたかしら? アンタは中々腕が立つみたいだし、私の下僕になるなら許してあげてもいいわよ?」
「誰、が……アンタなんか、に……!」
「……まだお仕置きが足りないようね」
「が……ぁぁぁぁぁ……っ!!」

一際強く腹を踏みつけると、また左肩に足を乗せる。ヒールを使ってぐりぐりと肌を抉る。

「ほら、一言“ゴメンナサイ”って言うだけよ? アンタも苦しいのは嫌でしょ?」
「ふ、ざけんじゃ……ない、よ……!」
「まだそんな口利くのね。腕の一本くらいは……仕方ないかしら」

なんでもないことのように呟き、ゲマはグレイトアックスを振り上げる。
足は依然肩に乗せられたままだ。逃げられないと悟り、ゲルダはぎゅっと目を瞑る。
その瞬間。

「ゲルダ!!」

言い表せない痛みと共に、名前を呼ぶ声が聞こえた。
はっと目を開けると、ゲマの後頭部に体当たりしてすぐに離れ、放られていたまどろみの剣をふくろに入れるサンディが見える。
ゲルダが声をかけるよりも先に動いたサンディは、再びゲマの後頭部にぶつかり、ふくろの中からまどろみの剣を引っ張り出した。
普通に振るうほどの威力は出ないものの、重力に従った剣は確かにゲマの背に傷を付ける。
脳の揺れと背の痛みからゲマが立ち直る前に、サンディはゲルダの元に飛んできた。

「ごめんゲルダ、ごめん……! アタシが、もっと速く戻ってこられれば……!」
「サンディ……なんでアンタ……!」
「なんで戻ってきた、なんて言わせないわヨ! 助けを探すも不意を突くも任せるって言ったのはゲルダなんだから」
「そうじゃなくて……!」

ちらりと横目で左腕を見る。
肘の辺りにグレイトアックスが降り下ろされていて、そこより先は最早自分のものではないと激痛が訴えている。

226叫べ、己の価値を ◆jHfQAXTcSo:2017/01/19(木) 19:34:52 ID:KkU79YTA0
「アタシがこうして倒された時点で、アンタはもう戻ってくる必要はなかったんだよ! 二人まとめて死ぬことはないんだ、あんただけでも逃げてれば……!」
「イヤよそんなの!!」

ぶんぶんと頭を振り、サンディは大声でそれを突っぱねる。

「見捨てるなんてイヤよ! そんなコトしたって、アークは笑わないもの……エルギオスにだって、顔向けできないもの!」
「エルギオスが守ってくれた命を投げ捨てることなんてないだろ! そのアークって奴だって、生きてなきゃ会えないってのに!」
「そうですよ、みすみす死にに来るのは、愚かとしか言い様がありませんとも」

先程までの高圧的な――デボラの口調ではなくなったゲマが、サンディの首根っこを掴み、ゲルダから引き剥がす。
そのまま指を首にも回して目の前に持ち上げるとサンディはじたばたもがくが、ゲマは気にも留めない。

「気に入りませんねぇ、本当に……生意気な女も、小うるさいこの妖精も。
 ですが、このまま殺すにはまだ惜しい、ここは私が寛大になってあげましょう」

背面に攻撃を受けたことが余程気に入らなかったのだろう、デボラの口調を真似ることすらせず、二人に言葉を投げ付ける。

「これが最後です。私の下僕になるのなら、どちらも許してあげますよ。それも特別に、デボラさまごめんなさいの一言だけでいいでしょう。
 さあ、今なら間に合います。賢い選択をすることですね」

僅かな静寂が訪れる。
火を消し終えたカンダタがゲマに駆け寄る足音だけが、その空気を震わせた。

「なんで謝らないといけないの! 余計な手出しをしてきたのはそっちデショ!?
 気に入らないっていうなら、アタシは殺して構わないわ、だからゲルダは……!」
「ダメだ、サンディ! 分かるだろ、アタシのこの腕じゃ……生きるべきなのはアンタだよ!」

長いような短いような時間を打ち破ったのは、サンディの声だった。
ゲルダはそれを即座に否定する。
片腕を切断され、応急処置すらできず、血は止めどなく流れていっている。
おまけに肩は火傷が酷いこともあり、切断された部分を治療したところで、再び動かすことはできないだろう。
今解放されてナブレットたちの援護に駆けつけたところで、戦力にはならない。

「でも、そんなこと言ったって……!」
「何か、勘違いしていませんか」

不機嫌を滲ませた声で、ゲマが割って入る。

「どちらかが死ねば片方を許すなど、私は言っていませんよ。
 賢い選択をして共に許されるか、愚かな選択をして共にここで果てるか。あなた方の未来はそのどちらかのみです」

自分が与えた二択以外、ゲマは認めない。
従うか、従わないか、それだけだ。
そしてこれは、与えた最後のチャンスだった。

227叫べ、己の価値を ◆jHfQAXTcSo:2017/01/19(木) 19:36:32 ID:KkU79YTA0
「そしてあなた方の言葉は、私の慈悲を請うものではありませんでした。まったく、愚かな者たちですね……カンダタ!」
「は、はい!」
「あなたにはそちらの女を任せます」
「え? はい……? え?」
「聞こえませんでしたか? あなたはそちらの女を殺しなさい」

殺せと命じられた女――ゲルダの方を、カンダタは見遣る。
激痛に負けず、その目はカンダタを睨み付けていた。
ひぃっと情けない声を上げて目を逸らすもののゲマもカンダタを真っ直ぐに見ていて、決意を固めるしかないと悟り、手を震わせながら剣を握り締める。

「……気になってたんだけどさ」

一歩近付いてくる程に震えが強くなっていくカンダタに、ゲルダはひとつの問いを投げ掛けた。

「アンタ、なんでそんなヤツに付き従ってんだい」

先程の戦い方を見るだけでも、ゲマがカンダタを特別視しているわけでないのは明白だ。
その関係は第一印象そのままの、女王様と下僕のそれでしかない。

――こいつにプライドはないのか。

自らがプライドの高い性格をしていることもあり、カンダタがゲマに付き従っていることが、ゲルダにはどうしても不可解なのだ。
予期していなかったのだろう、ひとつ瞬きをして、カンダタは腕と同じく震えながら口を開いた。

「し、死にたくないんだ、当然だろ! この方は俺みてぇなこそ泥に敵うような相手じゃねぇんだ、なんで歯向かわなきゃなんねぇんだよ!」

それは精一杯の叫び。
ただ生きたい、それだけ望む男の虚勢。
震えを止めようと、ゲルダの目に負けまいと、必要以上の大きな声で答える。

「謝ったって許してくれねぇ、それが肌で分かったんだ! お、お前の方こそ、あれだけ大サービスしてもらってたのに、なんであんな馬鹿なこと……」
「へぇ、アンタも同業者なのかい」
「そうだよ、許してくれるって言ってたのに……は?」

ゲルダに答えたカンダタがぶつけた問いは、明後日の方向を向いたゲルダの言葉に流された。
カンダタのすっとんきょうな声を無視して、ゲルダの口は緩い弧を描く。

「アタシもひとり知ってるよ。盗賊なんてやってたくせに、人にくっついて生きる道を選んだ男をね」

幼なじみで腐れ縁の、ひとりの男を思い出す。
悪い奴ではないが、その悪人面が恐れられ、山賊としてでないと生きられなかった男。
この世界にも連れて来られていて、放送を聞く限りはまだ生きているらしい。
トロデーン大陸に渡ったと噂で聞いてからどれ程経ってからだっただろうか、線の細い青年をアニキと呼ぶ彼がゲルダの前に現れたのは。

228叫べ、己の価値を ◆jHfQAXTcSo:2017/01/19(木) 19:38:00 ID:KkU79YTA0
「最初はびっくりしたよ、一回りは離れてそうな年下の男についていってたなんて。
 でもね……付き従うっていっても、あいつは楽しそうだった。そいつの力になるのが嬉しそうだった。アタシみたいに、ぶるぶる震えたりなんてしてなかったよ」
「な、何が……言いたいんだよ!」

突然わけの分からない話を聞かされ、苛立ちながらカンダタが叫ぶ。
対するゲルダは、静かに呟いた。

「見てくれはイノブタマンだし、頭だって良くないヤツだったよ。でもね――小洒落た服を着て“賢い”選択をしたアタシよりも……あいつの方がカッコよかったね」
「う……うるさい! うるさいうるさいうるさい!!」

今まで押し止めていたものが一気に溢れだしたかのように激昂し、カンダタはゲルダに馬乗りして、震える手で剣を突き刺していく。
震えているからか何かを恐れているからか、その剣は心臓には刺さらず、肩や二の腕ばかりを傷付けていく。

「……はっ、やっぱり」
「黙れ」
「馬鹿みたいに……喚いてさ」
「黙れ……!」
「アンタが、自分の生き方に……納得してんなら……」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れッ!!」



「なんで、アンタ……自分に胸を張らないのさ……!」



生きる為に殺す。それ自体はゲルダは否定する気がない。
現にこの場だって、ゲルダは最悪二人を殺してでもナブレットたちの救援に向かいたいと思っていた。
パルミドでも、そうしなければ生きられない人間を何人も見てきた。
人と魔物の関係だってそうだ。三角谷のような例外もあるが、ほとんどの場合、どちらかが生きる為にどちらかが狩られる。

だが、ゲマの価値観を押し付けられて仲間を殺されるのも、自分に胸を張れないカンダタに殺されるのも、ゲルダは納得できない。
ゲルダは本来、自由に生きてきた人間だ。
自由にお宝を探し、自由にエイトたちに同行することを選んだ。
ナブレットとはウマが合い対立することはなかったが、意見が割れれば納得するまで折れはしなかっただろう。
そんなゲルダは、気に入らなかった。最初から自由を捨て、下僕の立場を当たり前のように受け入れる、カンダタという男が。

229叫べ、己の価値を ◆jHfQAXTcSo:2017/01/19(木) 19:41:54 ID:KkU79YTA0
 


「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!
 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ……うるさいんだよォ!!」

図星なのか、まるで自覚していなかったからなのか。
いつの間にかパパスの剣はその手から離れ、カンダタはひたすらゲルダを殴り付けていた。
口か開かれる前に顔を殴る。唇から息が漏れたのを見て、また喋り出す前にもう一度殴る。殴る。殴る。殴る。自分すら見失って殴り続ける。

「じゃあ、どうしろってんだよ! 死ねとでも言うのかよ!
 納得できなくたって!! 死にたくないんだよ!! 俺は……ッ、生きたいんだよ!!! それの何が悪いんだよッ!!!」

拳が痛い。纏わりつく血が自分のものなのかゲルダのものなのか、それすら分からない。
ただ、手を止めたら、また苛立つことを言われそうな気がして、殴り続けることしかできない。
喚きながら、激昂しながら、ただただ殴る。

「……め、て」
「黙れ!」
「やめ……て」
「うるさい!!」
「や、めて……ヨ!!」

ふと掠れた声が耳に入り、カンダタはぴたりと手を止めた。
恐る恐る振り返ると、ゲマに首を絞められながらも、涙を溢して必死に声を出すサンディと目が合った。

「なん、で……なんで、そこ、まで……するの!? 生きたい、だけ、なら……なんで、ゲルダを、そこまで……痛め付け、るの……!」
「なんでって、こいつが余計なことを言うから……!!」
「ゲルダの、息が止まって……アンタ、何発……殴ったと、思ってる、のヨ!?」

その言葉にはっとして、再びゲルダの方に顔を向ける。
鼻は潰れているし、顎の骨は砕けて本来出っ張っている部分は主張を怠っている。
瞼や唇も切れている箇所だらけだ。
そして、全体的に真っ赤だった。まるで絵の具をぶちまけたかのように。

今までだって、殺る時は殺ってきた。血だって何度も見てきた。
なのに何故だか、震えが止まらない。先程よりも大きくガタガタと、腕は震え続けている。

230叫べ、己の価値を ◆jHfQAXTcSo:2017/01/19(木) 19:44:35 ID:KkU79YTA0
「ち、違う……お、俺……俺は……!」
「な、んで……なんで、アンタ……なんかに……!」

――アンタなんかにゲルダが殺されなきゃいけないのヨ!

その言葉を聞いた途端、カンダタはゲマの手からサンディをひったくり、自分の手で締め上げていた。
どいつもこいつも自分を馬鹿にした言い方をするのが、とてつもなく腹立たしい。
震えは止まらないが、とにかく腹立たしい。

「なんでお前も……お前もそんなことを言うんだよ!?
 生きたいことの何が悪い!? 死んだらおしまいだろ!? 誰だって同じだ、なんでお前らは俺ばっか悪く言うんだ!!?」
「アタシだって、同じよ! 生きたいに……決まってる、じゃナイ! それを、邪魔してる、のは……アンタたちなのよ!
 アイツが、余計なことするから……アンタが、それに従って、余計、なこと……するから!」
「……ッ!」

僅かに弛んだ手からなんとか脱出しようとサンディはもがく。
しかしごつごつとした手は、力が弛んだとはいえサンディが振りほどくには大きかった。

「こ、の……離しなさいよ!」
「俺は……」
「え?」
「俺は俺は俺は俺は俺は俺は……!」
「わっ!?」

カンダタは頭を抱えてへたりこみ、突如放り出されたサンディは呆気に取られる。

「俺が生きるのを邪魔したんじゃねえよ……馬鹿な選択するのが悪いんだろ……俺じゃねえ、俺のせいじゃねえ、俺は……!」
「アイツ、まだそんなコト……!」
「いえいえ、カンダタの言う通りですよ」

その声にしまったと振り返ったサンディの目に入ったのは、まどろみの剣を拾い上げたゲマ姿だった。
ゲマが剣を振りかざした瞬間、瞼が重くなっていくのをサンディは感じた。

(まずい……! ダメ……眠っちゃったら殺される……!)
「死んでしまえばそれまでなのですよ? 私の下僕になっていれば、あなた方はまだ生きられたというのに」
(アタシは、アークを探さなきゃ……アークには、アタシがついて……いな、きゃ……なのに……)
「馬鹿な選択したのは自分たちでしょう。私の下僕に八つ当たりしないでもらいたいものですね」
(ダメ……眠い…………ダメ、なのに……)
「寝言は寝て言え、と言いますし。まだ気に入らないことがあるのなら、どうぞ夢の中でゆっくり連ねてなさいな」
(ごめ…………ア……ーく……)



「おやすみなさい」



サンディが完全に瞼を閉じたのを確認すると、ゲマは真っ直ぐ、まどろみの剣をその胸に突き刺した。



【ゲルダ@DQ8 死亡】
【サンディ@DQ9 死亡】
【残り54人】

231叫べ、己の価値を ◆jHfQAXTcSo:2017/01/19(木) 19:45:48 ID:KkU79YTA0
【G-3/トラペッタ南部/午後】

【ゲマ@DQ5】
 [状態]:HP8/10 MP4/5 デボラの姿 背中に傷
 [装備]:てっかめん  グレイトアックス@ダイの大冒険
 [道具]:支給品一式×3 変化の杖  デボラの石像 まどろみの剣 オチェアーノの剣 白き導き手@DQ10 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜2) ゲルダの不明支給品0〜1個
 [思考]:この殺し合いをぶち壊す。バラモスゾンビを倒した人は仲間にしてあげてもいい。

【カンダタ@DQ3】
 [状態]:HP1/3 素顔 足に切り傷
 [装備]:おしゃれなスーツ、パパスのつるぎ 
 [道具]:支給品一式 こんぼう
 [思考]:ゲマに従いエビルプリーストを打倒する。あとデボラさまって呼ぶ。生きたい。

【デボラ@DQ5】
 [状態]:石化(装備ごと石化しています)
 [装備]:奇跡の剣、ダイヤモンドネイル、水の羽衣 光竜の守り@DQ8
 [道具]:支給品一式
 [思考]:自分を貫き、エビルプリーストに反逆する

※石化の術はDQ5本編よりも弱体化しています。
 呪いの解呪方法や上位の状態異常解除方法ならば石化を解ける可能性があります。
 (シャナク、万能薬、月のめぐみ等)











ガッ――――ボチャン
ガッ、ガッ――――ボチャン

もう動かないゲルダとサンディを、ゲマはつまらなそうに蹴り飛ばし、トラペッタを囲う堀に落としていった。
まるでその死体に価値などないとでも言うように。
無造作に蹴り落とした。

その音を聞きながら、カンダタはただ震え続けていた。
何故震えているのか、自分でも分からないくらい。
強くも弱くもない男は、馬鹿みたいに震え続けていた。



※きんのくちばしと知識の帽子はサンディの遺体と共に堀に沈みました

232 ◆jHfQAXTcSo:2017/01/19(木) 19:46:48 ID:KkU79YTA0
以上で投下終了です
誤字脱字などありましたら、指摘お願いします

233ただ一匹の名無しだ:2017/01/19(木) 22:23:12 ID:BeR2G1ZA0
予約の面子を見た段階では、まあゲルダかサンディどっちか死ぬんだろうなーと思ってたらまさかの両方死亡だとぅ……
ライアンも特大の死亡フラグ立てちゃってるし、トラペッタ組は全滅展開すらあり得るぞ
カンダタもゲマの腰巾着ポジションから抜け出すことはできるのか気になる
何にせよ投下乙でした

234ただ一匹の名無しだ:2017/01/20(金) 19:25:16 ID:5AD1bgx20
投下乙
ライアンナブレットは生き残ったとしても、ゲマの面接(意味深)が待ってるのな……

235 ◆AcogK8sWio:2017/02/21(火) 22:27:22 ID:Lu1zFcJE0
投下します

236『みんな友達大作戦』 ◆AcogK8sWio:2017/02/21(火) 22:30:49 ID:Lu1zFcJE0
「なんで、なんでライアンさん!!」

何故自分と共に戦ってくれなかったのか。何故あの技でバラモスゾンビに挑んでくれなかったのか。そんな悲しみの思いが、空に舞うホイミンの頭の中で渦巻く。

「ライアンさん!ねえ、嫌だよ!!ライアンさん!!」

しかしその思いは、また別の悲しみへと変わっていく。
何故自分を逃がしたのか。それを考えれば、嫌でもその答えにたどり着く。
―もしかしたら彼は、死ぬつもりなのではないか、と。

「ライアンさん、ライアンさん!!」

彼の名前を呼んだところで、彼の元へ戻れる訳でもない。戻ったところで、もしかしたら足手まといかもしれない。そう、何が出来る訳でもないのだ。けれど、それでもホイミンは尊敬する戦士の名を、大切な友人の名前を叫ばずにはいられなかった。





「…うーん、ここは……」

ホイミンはそのぱっちりとした目を開け、辺りを見渡す。どうやら先程ライアンに逃がされたショックと着地の衝撃で気絶していた様だ。幸い日は全くといって良いほど傾いておらず、意識の無かった時間は長くて十分程度だろう。

「そっか…ぼく、戻ってきちゃったんだね」

ホイミンは、この場所に見覚えがあった。竜王の曾孫とガボに出会った場所。3人で『みんな友達大作戦』を開始した場所。青い服の襲撃者に襲われた場所。竜王の曾孫が死んだ場所。

そして今、竜王の曾孫がいる場所。

「さっきぶり、りゅうちゃん」

不恰好に盛り上がった土に向かって、ホイミンは一人語りかける。

「ねぇ聞いてよりゅうちゃん。ぼくとガボ、あれから友達いっぱい出来たんだよ」

ゲルダ。ナブレット。サンディ。短い時間ではあったが、エルギオスとゴドラもきっと友達であった筈だ。ライアンとも再会し、『みんな友達大作戦』はかなり順調だった筈だ。

「…今は、みんな置いてきちゃったけど」

まだ彼らはあの戦いの最中にいるのだろう。ゲルダやガボは逃げ切れただろうか。ナブレットやサンディは、ライアンは無事だろうか。彼らの安否も分からず、こうしてただ一人無事でいることが、悔しいし、情けないし、悲しい。

237『みんな友達大作戦』 ◆AcogK8sWio:2017/02/21(火) 22:32:29 ID:Lu1zFcJE0
「でも、りゅうちゃん」

けれど、ホイミンは信じる事にした。ライアンはとても強い。きっと自分が一緒では全力を出して戦えなかっただけなのだと。バラモスゾンビなど、かすり傷一つ負わずに倒せるのだと。

「次来る時は、参加者全員を友達にして、みーんな連れてここに来るからね!!」

今までに出会った人にちょっと怖い人が多かっただけで、後はきっとみんないい人なのだと。だから、参加者全員と友達になる事は、絶対にやり遂げられる事なのだと。
全員揃って、ナブレットのサーカスを見に行く。そんな未来は実現するのだと。
そう自分に、信じ込ませる事にした。

「だからもうちょっと待っててねりゅうちゃん。また会いに来るからね!」

信じる事で、友に背を向けた。私は大丈夫だから、お前は自分のやるべき事をやれ。きっとライアンはそう言いたかったのだ。だからホイミンはトラペッタには戻らない。きっとまたすぐに会えるのだから。

「お城かぁ…バトランドみたいに大きくて格好いいのかなぁ」

ゲルダ達の会話では、トロデーンという城に人が集まりそうだと言っていた。まずはそこを目指せば友達が見つかるかもしれない。

―もしかしたら、りゅうちゃんのひいおじいちゃんがいるかも知れない。
―もしかしたら、りゅうちゃんの友達の王子様達がいるかもしれない。
―もしかしたら、ライアンさんの仲間のおじいさんがいるかもしれない。
―もしかしたら、ガボ達の友達がいるかもしれない。

希望だけを胸に抱き、ホイミンはトロデーンを目指す。ガボがもういない事を、ホイミンは知らない。『みんな友達大作戦』、その開始メンバーは既に一人。しかしまだ、作戦は終わりを告げてはいなかった。

【F-3/草原/午後】
【ホイミン@DQ4】
[状態]:MP1/8 健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個
[思考]:ガボと共に『みんな友達大作戦』を成功させる

238 ◆AcogK8sWio:2017/02/21(火) 22:36:22 ID:Lu1zFcJE0
投下完了です。
誤字などありましたらご指摘よろしくお願いします。

また、ホイミンの落下地点はトラペッタ周辺との事でしたが、F‐3辺りならトラペッタ周辺であると解釈させて頂きました。
こちらも問題がありましたらご指摘よろしくお願いします。

239 ◆AcogK8sWio:2017/02/21(火) 22:45:59 ID:Lu1zFcJE0
【F-3/草原/午後】
【ホイミン@DQ4】
[状態]:MP1/8 健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個
[思考]:ガボと共に『みんな友達大作戦』を成功させる トロデーン城に向かう

既に訂正箇所を見つけたので直しておきます

240ただ一匹の名無しだ:2017/02/22(水) 00:12:47 ID:fgjQC7pU0
きた!
新規書き手さん来てくれた!

投下乙です
正直トラペッタに戻ったら死ぬ未来しか見えないので、ライアンのことを信じてポジティブに解釈するホイミン素敵

241 ◆CASELIATiA:2017/02/27(月) 02:40:39 ID:HyX.tDeE0
お待たせしました
投下します

242Last regrets ◆CASELIATiA:2017/02/27(月) 02:47:11 ID:HyX.tDeE0
虚空から木霊する邪悪なる声が、ようやくの思いで止まった。
それが知っている名であろうとなかろうと、新たな名前が宣告される度に、もうこれで終わってくれと願わずにはいられない。
そうしたコニファーやサヴィオの期待、いや願望と言ってもいいものが叶うまで、結局20人ほどの名前が呼ばれた。
この六時間の死亡者は22名。
終わった後に、二人は互いに顔を見合わせ、それぞれに違う反応を見せる。

「俺んとこは別に……」
「そうかい。 僕のことは一人……」

コニファーも安堵の表情という訳にはいかない。
全参加者の内、1/4がはやくも脱落したことになる。
この22名の中に自分や、共に冒険をした仲間の命が含まれている可能性は十二分にあった。
今回は運が良かっただけに過ぎないのだ。
明日は我が身。 死神は思いもよらない場所から命を狙い、鎌を振るってくる。

誰より若くエネルギーに満ち溢れた、文字通り希望のような少年の命が失われた。
サヴィオは普段のノリも忘れ、少年の死に思いを馳せる。
年若い少年の淡い恋心を面白がり、時にはからかい、時には発破をかけ、時には真面目にアドバイスをした。

(まあ僕、彼女いない歴=年齢なんだけどね……)

それでも、自分の人生経験を踏まえた上で最大限の応援もした。
それが身を結んでる様子はなかったが、微笑ましい気持ちだったのは本当だ。

「後はパパスの旦那の孫、と……ちっ、若い奴ばっかじゃねえか」

苦虫を噛み潰したような表情でコニファーが愚痴を零す。
理屈から言うと、子供や若い者から死んでいくのはごく普通のことだ。
人間は成人までに10数年の月日を要する。
大人の庇護を得られなかった子供が真っ先に餌食になるのは、弱肉強食の世界でもよく見られる光景だ。
しかし、こんなところで殺されて満足する生き物などいるだろうか。
こんなことをする必要はあったのか。
こんなところで死なないといけない理由があったのか。
世界はどうして、こうも残酷なのだろうか。
真面目な奴ほど生きにくい世界など、コニファーはもう見たくない。
かつてアークがそうであったように。
敬虔な信者だったスクルドが、その信仰の対象を奪われた時のように。
全てを失ったアークに寄り添えるのは自分だけだと、そう言っていたポーラ本人が今にも壊れそうだったあの時のように。
もうこんな思いは二度としたくない。

子供は未来へと託す財産だ。
親から子へ、子から孫へと、かつてパパスたちは三世代かけて悲願を成し遂げた。
一個人ではどうにもならないことも、遺志を受け継いでくれた子孫が達成させることもある。
子がダメでも孫なら、孫でもダメなら曾孫へと。
より良い世界へ、より平和な未来へ、より豊かな国へと。
それこそが人間の本質。
コミュニケーション能力が高く、また文化や記憶の保存や引き継ぎが容易な人間だからこそ、次世代へと明確に願いを託すことができる。
誕生から滅亡までの、長い時間をかけてバトンを受け渡していく、途方もない長距離走なのだ。
その子供が死んで、自分らの様な半端に年を食った人間が生き残っても仕方ない。
破滅願望がある訳ではないが、死ぬのなら若い衆ではなく自分たちのような人間なのではないか。
コニファーはそう思わずにはいられない。

243Last regrets ◆CASELIATiA:2017/02/27(月) 02:50:40 ID:HyX.tDeE0
子供には無限の可能性がある。
生まれや環境に多少の差異はあるだろうが、その者が望む限りはどんな未来にでも舵を切ることができる。
親の稼業を継ぐ、未知の世界へと飛び出す。
その合間には初恋や出会いと別れ……様々な人との一期一会。
どんなことだってできる。 何者にだってなれる。
もちろん、未来の選択の自由という点ではコニファーにもある。
しかし、リュビやホープに比べると選択肢はかなり狭まる。
そんなことないと言う人はいるかもしれないが、これは事実なのだ。
コニファーの年齢でできることには、もう限りがある。
自分で切り捨てた可能性もあれば、知らぬ内に選択肢を潰していたこともある。
今の人生にところどころ不満はあるが、概ね満足している。
面白半分でアークについていったことも後悔してないし、レンジャーになったことも不満は無い。
不満があるとすれば、女神セレシアの下した決定の内容だけだ。

自分の人生を悲観したい訳ではない。
今しがた死んでいった子供には、未来の選択の自由さえ与えられなかったということに、憤りを感じずにはいられないのだ。
酒の味も知らず、酔うことの楽しさも知らずに死んだ。
仕留めたての獣の肉を焼き、香草を添えただけの簡素だが新鮮な料理に豪快にかぶりつくことの楽しさを知らずに、生涯を終えたのかもしれない。
コニファーがレンジャーとして森の中で生きる狩猟と採集の日々。
自給自足の生活を続ける中で、獣を仕留めるために気配を隠し、森と一体化する。
サバイバルスキルを極めたレンジャーは、大自然の息吹を克明に感じ取ることが出来るのだ。
それはギャンブルや酒では味わうことのできない、まったく別種の快感。
大いなる自然の流れに身を任せ、木漏れ日に今日という一日の平穏を感謝する。
殺した獣には最大限の敬意を以て食らう。

思う。 こんな生き方があってもいいと。
大自然との対話を行い、自らの生を実感する。
あの頃の、アークとの出会いは無駄だったのか、あの戦いは意味のない行為だったのか。
雑音を消した生活の中で、少しずつあの時の疑問へと向き合う時間も増えた。
国や街がどんどんその版図を広げて巨大化していく。
森林は切り開かれ、どんどん開拓される。
そんな中、コニファーの生き方は時代の流れに逆行するものだった。
世捨て人と言ってもいい生活に、煌びやかな生活を送る人たちは嘲笑を浴びせるかもしれない。
しかし、これでいいのだ。
深い森の中には、そんな雑多な声が聞こえてくることは無い。
自分の人生に関わりのない人間が何を言っても関係ない。
大事なことは、自分の人生に満足しているか否かなのだから。

「あ、フアナ。 おはよう」
「……おはようございます」
「大丈夫かい? ちゃんと眠る前のこと覚えてる?」

目覚めたフアナに対して、サヴィオが声をかける。
明瞭としない様子のフアナに対して、まずサヴィオは確認の意味も兼ねて質問をした。
体を起こしたフアナの顔は困惑から安堵、そして悲しみへと目まぐるしく表情を変えた。
夢ではないこと思い出したフアナは、沈痛な面持ちでサヴィオの問いに対して頷く。
とりあえずはズーボーの死は受け入れてるようだが、もう一つ悲しいお知らせがある。
内容的には、むしろこちらの方が本命とも言える。

244Last regrets ◆CASELIATiA:2017/02/27(月) 02:52:03 ID:HyX.tDeE0
できる限りフアナを傷つけないように、フアナの目の前にサヴィオはしゃがみ込む。
そして小さな子供に語り掛けるように、努めて冷静に、ゆっくりと話を始めた。

「いいかいフアナ。 よく聞くんだ。 僕らの仲間だったホープが死んだ……嘘じゃない」

フアナの瞳が大きく見開かれる。
これはサヴィオにとっても危険な賭けであった。
ただでさえズーボーの死に涙していたフアナのことだ。
その死だって、乗り越えた訳ではない。
そこに、もっと長い付き合いのホープの死を告げたら、最悪の場合心が壊れてしまうことすらある。
だが、嘘をついて先延ばしにしたところでどうなる。
もしもホープの死体に遭遇してしまったら?
もしも誰かと出会った時に、ふとした会話の弾みでホープの死を知ってしまったら?
生きているという有りもしない希望を抱かせたとこで、いつかは真実を知る時が来る。
真実を知ってしまったら、溜めこまれた希望に比例するように、絶望は何倍にもなって襲い掛かる。
サヴィオは賢者ではあるが、人の心を完全に御せるなどと考えたことは一度だってない。
だったら、サヴィオに残された判断要素とは何か。

「悲しいけど、僕たちは前に進まなきゃいけないんだ。 アスナだって、今もどこかで怯えてるかもしれない」

それは、信頼。
サヴィオの知る僧侶フアナは、きっとこんなことで折れやしない。
長い間冒険をしてサヴィオなりに把握したフアナの性格なら、きっと乗り越えてくれる。
どうやっても勝てそうにない状況だって、勇者アスナ一行はいつも打開してきたのだ。
どんな時にもフアナは挫けることなく、よく分からない大会か何かで得たよく分からない栄冠で、自信を漲らせていたのだ。

(こんな悲しみに君は負けたりしない。 そうだろう、フアナ?)

瞳に力を込め、フアナの再起を願う。
泣きたいなら泣けばいい。 憤っているのなら怒ればいい。
そうして、思う存分感情を爆発させた後に、再び立ち上がればいい。
乗り越える壁が大きければ大きいほど、人はより成長できる。
怒りも悲しみも涙も、すべて明日への糧としてしまえばいい。

「……」

フアナは反応を見せない。
聞いてはいるのだろう。 最初に目を見開いたことからそれは間違いない。
しかし、そこから一切の反応を示してないのだ。

「フアナ……?」

不安になる。
もしや、サヴィオの選択は大いなる誤りだったのか。
彼女はズーボーに続くホープの死に耐えられず、心を閉ざしてしまったのか。
そんな、まさか、という想いがサヴィオを駆け巡る。

「あの……?」
「うん」

たった一言。
ただそれだけだが、フアナが反応を示してくれた。
それでも、サヴィオからすればようやく見せてくれた反応だ。
その次に来る言葉に備えて、サヴィオは身を固くする。
拒絶か首肯か、どっちか。

「ここはどこですか?」
「へっ?」
「お城、近い……」
「ああうん。 君が気絶したとこからちょこっとだけ移動させてもらったよ。 危ないからね」

245Last regrets ◆CASELIATiA:2017/02/27(月) 02:53:44 ID:HyX.tDeE0
今度はサヴィオが困惑する番だった。
気絶する前とは場所が違うというフアナの疑問は尤もだ。
だがそれはホープが死んだ、というサヴィオの言葉に対してのリアクションとして適切なものとは思えない。
まさか、最悪の事態へと転がっているのか。
そういう不安と疑念がサヴィオに渦巻く。

「ゼシカさんとバーバラさんは……?」
「んんん?」

誰それ? と言いたげな顔をするサヴィオ。
言葉は出なくても、フアナはサヴィオの表情から事態を把握して立ち上がる。

「あの場にいたんですよ! ゼシカさんとバーバラさん! 死んでないんですか!?」
「うぇっ、ちょ待って、えーと確か……うん死んでないよ死んでない」

焦ってサヴィオが名簿を取り出す。
エビルプリーストの声を聞いて、死んだとされる人名に引いた棒線。
その棒線はゼシカ、バーバラの両名には刻まれていない。

「信じられない! 傷ついた女性がいるっていうのに無視して置いて行くなんて!!
 そんなだからサヴィオは女の子にモテないんですよ!」
「いやごめん、無視してた訳じゃないんだ。 でも女の子にモテないのは関係ないからね!?」
「こうしていられません!」

フアナが立ち上がる。
方角ならおおよその検討はついている。
あれだけの大規模呪文が連続して行使された場所だ。
爆心地とも言えるほどに地形を凹ませた場所。
フアナは法衣についた土埃を叩き落とすと、全力で走り出す。

「フアナ! まだ走ったらダメだってば!」
「大丈夫です! 言うのが半年くらい遅れた気がしますけど!
 私、四年に一度のスポーツの祭典『アリンピック』で十種競技の金メダルを取ってるんですよ!!
 言うのが半年くらい遅れた気がしますけど!!」

そうして、フアナは見事なストライドで走り去っていく。
陸上選手を思わせるほどの見事な走法だ。
サヴィオも追いかけるが、元がインドア派だったためかフアナに離されていく。

「アレ、本当に僧侶なのか?」
「僕も時々疑問に思う時があるけど……あれがフアナなんだよね」

コニファーの疑問も当然だろう。
なにせ、フアナという人物は僧侶という職業から想像できる人物像とはかけ離れた性格だ。
スクルドの方がまだ、清く正しい僧侶をしている。

「まあ、元々ズーボーさん?の埋葬はするつもりだったし、新しく二人仲間になってくれるなら心強いし丁度いいかな」
「それじゃあ俺は、お先に城に行かせてもらおうかな」
「あーうん、どうぞ」
「切った張ったは得意じゃないんだがよぉ、まあ斥候くらいならこなしておくさ」

そう言って、徐々にコニファーはスピードを落とし、サヴィオに背中を向ける。
レンジャーにはステルスの特技もある。
身を隠して潜入するのにうってつけの職業なのは間違いない。

246Last regrets ◆CASELIATiA:2017/02/27(月) 02:55:55 ID:HyX.tDeE0
「生きてたらまた会おうぜ。 死ぬなよ?」
「大げさなだなあ。 すぐに会えるよきっと」

そう言って、コニファーとサヴィオは再会を約束して別れる。
依然としてサヴィオとフアナとの距離は離れていくが、肉眼で捉えることはまだ可能な範囲だ。

「へーっくしょんっ!! 今誰かがワタクシの噂をしましたよ!」
「あ、カマエルいたんだっけ」
「いたんだとはあんまりな言い草ではないですかご主人様!」 
「っていうかさ、釜なのにくしゃみするんだ? 面白すぎじゃない?」
「釜だってくしゃみの一つだってしますよ!」
「いや、しないから。 普通の釜は喋らないしくしゃみもしないからね」
「釜差別はお止めください!」
「今、僕は釜差別とかいう斬新な単語を聞いた気がする……」

そこに待ち受けているものを知ることなく、サヴィオは走り続ける。

(ごめんね。 ごめんねホープ)

走りながらフアナは謝罪を述べる。
乗り越えてなんかいない。 悲しくないはずがない。
ズーボーの死と同様、ホープの死はフアナに天地を揺るがすほどの衝撃を与えた。
パーティーの中で最年少。 アスナの替え玉として、勇者として振る舞う日々。
誰よりも一生懸命だった少年の死が、どうってことないはずがない。
だけど、もう一生分泣いたから。
ズーボーの時、涙も声も枯れ果てんばかりにフアナは泣いたのだから。

もう涙を流すのは止めよう。
涙を止めるなんて、フアナの輝かしい経歴の数々を思い出せば簡単な事だ。
フアナは生きている者として、生きている者しかできない務めを果たす。
そして、全てが終わったその時こそ、我慢は終わりだ。
熱い涙を拭うことなく、感情の赴くままに流し続けよう。
だから、いつか、きっと、その時まではまだ。
全てを終わらせるその時まで、フアナは心の中でのみ、悲しみの涙を流す。

【C-4/平原/1日目 午後】

【コニファー(男レンジャー)@DQ9】
[状態]健康
[装備]かりうどの弓@DQ9、毒矢×30本
[道具]支給品一式 カマエル@DQ9 支給品0〜1(本人確認済み)
[思考]自分が生きているという感覚を保つため、とにかく生き抜く。
   仲間を探す。 トロデーン城へ行く。

【サヴィオ(賢者)@DQ3】
[状態]:MP微消費
[装備]:ろうがぼう@DQ9
[道具]:支給品一式 道具0〜1個
[思考]:仲間たちと合流、バラモス@DQ3や危険な存在とはまともに戦わず脱出したい。仲間を探す。
   ズーボーを埋葬する。
[備考]:元遊び人です。

【フアナ(僧侶♀)@DQ3】
[状態]:3/5 MP1/10
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜3(本人確認済み)
[思考]:バーバラとゼシカのいた場所へ戻る

※バレットハンマー@DQ10 オーガシールド@DQ5 がズーボーの亡骸の周囲に落ちています
※ウェディングドレス@DQ9 アルゴンリング@DQ8 の入ったふくろがズーボーの亡骸の周囲に落ちています

247 ◆CASELIATiA:2017/02/27(月) 02:57:22 ID:HyX.tDeE0
投下終了しました。
誤字等あれば指摘願います

248 ◆CASELIATiA:2017/03/01(水) 00:16:20 ID:KIb16YPI0
あ、wiki収録中に気付きましたので修正を
状態表でフアナサヴィオコニファーの時間帯が「午後」になってますが「真昼」に訂正します

249ただ一匹の名無しだ:2017/03/05(日) 20:56:52 ID:z9/eTWhs0
遅れましたが投下乙です
悲しみを乗り越えて、フアナ頑張れ
別れたコニファーとサヴィオたちはそれぞれどういう出会いが待ってるのやら…
この辺人多いからなあ

あと、一つ気になったんですが、状態表ではカマエルの所持者コニファーになってますけど、本編描写からするとコニファーからサヴィオに返されたということでいいのでしょうか?

250 ◆CASELIATiA:2017/03/06(月) 02:13:01 ID:zFz/77o20
あーすいません、お返事遅れました
そうですね、サヴィオに戻されました。状態表の方を修正しておきますね

前話で確かにコニファーの手に渡ってますが、あれはサヴィオがフアナの相手をするために一時的に手にしただけと解釈しました
フアナの慰めも終わったので、本来の持ち主であるサヴィオの手に戻すのが自然だと考えています

251 ◆jHfQAXTcSo:2017/03/15(水) 10:50:18 ID:6rfo8cn20
投下します

252いつかの時の子守唄 ◆jHfQAXTcSo:2017/03/15(水) 10:51:28 ID:6rfo8cn20
張りつめていた空気を更なる緊張感で覆っていた放送が終わった。
ハッサンの名が呼ばれ、もう彼に会えないと再確認したことや。
リュビの名が呼ばれ、間に合わなかったのだと、目の前の遺体と共に叩きつけられたことや。
既に彼らを含め22人も犠牲になっていること、禁止エリアがローラたちに直撃していること、考えなければならないことは山ほどある。
だが、まずは彼と向き合わなければならない。

禁止エリアが設けられる以上放送を聞き逃すわけにもいかず、双方とも目は逸らさず耳を傾けていた。
その放送が終わった。ともすれば戦いの合図たりえるが、チャモロに名前を呼ばれたことが気にかかり、アモスは即座に剣を向けることはしなかった。

「まさか、俺を知る奴も喚ばれていたとはな」
「お久しぶり……ですね。長く話したわけでもないので覚えてないかもしれませんが……モンストルで会った一行の一人、チャモロです」
「ああ……顔までは覚えてないが、そうか、あの時の。不思議な巡り合わせなものだ」

赤く染まったリュビが間に倒れていなければ、久々の再会に挨拶を述べる旅人同士のような会話。
だが、チャモロは変わり果てたアモスの様子に冷や汗を流し、アモスもまたいつかのような笑顔は浮かべてはいない。
もうあの時とは何もかもが違うのだと、両者ともが実感するのみだった。

一度会話が途切れる。
そこに悪意はなかったとはいえ、自分たちの行動が原因で町を出ていかせてしまった後ろめたさが、チャモロの口を重くしていた。
アモスの表情が読めないことも合わせて、会話の取っ掛かりを見つけられない。

「……直接言うことはできなかったが、お前たちには感謝してるさ」
「え?」

やがてアモスが切り出したその言葉に、チャモロは目を見開く。

「お前たちが真実を教えてくれたから、俺は恩のある町や人を傷付けずに済んだんだ。俺はそれに、何よりも安堵した」
「ですが、それと引き換えに貴方は……」
「ああ。モンストルを出て、放浪の旅を始めた。でもな、それは俺自身が決めたことだ。後悔もしてなければ、お前たちを恨んでもいない」

恨んでいない。
その言葉に、チャモロは安心したような、心苦しいような、複雑な心境を覚える。
魔物化のことを伝えた時も、町を出ていってしまっても彼なら大丈夫だろうと思ってしまった時も。
彼の辛さを考えられなかったのだ。
申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

253いつかの時の子守唄 ◆jHfQAXTcSo:2017/03/15(水) 10:52:30 ID:6rfo8cn20
「……アモスさん。ここに駆け付ける前に、パトラさんという、貴方に襲われたと言う女性に会いました。リュビくんがこうして殺されているし、嘘ではないのでしょう」
「ああ。確かに、一人逃がした。仕留め損ないさえしなければ苦しみも少なかったろうに、悪いことをしたな」

傷付けたことではなく、楽に死なせてやれなかったことへの罪悪感。
モンストルで話した時には、こんな言葉を聞くことになるなど思いもしなかった。

「貴方が人を襲うのは、魔物化してしまうことが原因、なんですよね」
「端的に言えば、な」
「ならばアモスさん、今からでも遅くありません。理性の……」
「……さっきも言ったが、お前たちには感謝している。が、それとこれとは別だ」
「!? アモスさん、待……っ」

言い終わる前に剣が過り、一歩引いてなんとか躱す。

「悪いが、姿を見られたからには――お前にも死んでもらおう。懐かしい過去に、いつまでも浸っているわけにもいかない。せめて、楽に終わらせてやるさ」
「勝手に終わらせないで下さい! 貴方の魔物化を、制御できるかもしれないんです! 僕は貴方と戦いたくは……!」
「…………」

ぴくりと肩が震え、アモスは興味を示した。
しかし剣は変わらずチャモロを襲い、避けきれなかった腕に傷を付ける。

「どうして剣を収めてくれないんですか!? 理性の種があれば、貴方をその呪いから救うこともできるのに……!」
「必要ない」
「え?」

予想外の言葉に怯んだチャモロの顔面に切っ先が迫る。
反応が遅れた彼の頬に、鋭い赤い線が伸びた。

「理性の種、ね。それがあれば夜になる度に魔物にならずに済むのか」
「ええ。もしかしたら誰かに支給されているかもしれない。支給されていなくても、このゲームを止めて元の世界に戻ることができれば確実に……」
「確実だろうとなんだろうと必要ない。魔物化を解決することができたとして……それだけで終わるわけがないだろう」

振り下ろされた剣を躱してアモスの背後に回り込む。
同時にアモスも振り返り、二人の位置が入れ替わるだけに留まった。

「このゲームだって、何日続くか分からない。おまけにこれだけの人数だ、俺を受け入れない者も間違いなくいる。既に二人殺しているから、尚更な。
 そもそも口振りからするに、仮に支給されているとしても、お前はその理性の種を持っていないんだろう」
「……っ」
「まあ、今ここにあったとしても答えは変わらんがな」
「どうして……」

戦いたくないと訴えるチャモロの目に、アモスも自身のそれを合わせる。
なんでもないことのように、軽い口調で、それに答えた。

「お前がモンストルで出会ったアモスという男は、魔物に怯える追手や名も知らぬ少年を殺した自分を許せるような男だったか?」

254いつかの時の子守唄 ◆jHfQAXTcSo:2017/03/15(水) 10:53:40 ID:6rfo8cn20
町を守る為に魔物と戦い、英雄と呼ばれ。
町人たちを傷付けないよう、町を出ていった。
そこには常に、人を想う優しさがあった。
人を殺す躊躇すら消えた今、当時の男が帰ってくるのか。
チャモロはどんな言葉も返すことができなかった。

「俺には、もうこの生き方しか残ってないんだ。俺を見た者は全て消して、戦いになれば自分の強さを確かめる。人の道には戻れない」

自分を魔物だと追い回す者を、一人残らず返り討ちにして、この世界でも変わらず生きて。
しかしパトラを取り逃がした時、甘いモノは切り捨てると決めた。
自分の人間らしさがパトラを今も苦しめる結果になった。
人間らしさが自分も他人も苦しめるのなら、人の道を捨てるのみだ。

「俺を呪いから救うことができると言ったな。だが、種ひとつではそんなことできない。お前が本当に俺を救いたいなら、お前が取るべき行動はふたつにひとつ。
 お前が俺に殺されるか、お前が俺を殺すか。それだけだ」
「アモスさん……」
「構えろ、チャモロ。戦わないと言うのなら、俺が殺すだけだ」
「…………」

たたかうしか、ない?
そうすることでしか、救えない……?

震える手で、ドラゴンの杖を握りしめる。
きっと、そんなことはないはずだ。
アモスが積み重ねてきたことは、チャモロたちにも原因がある。
ならば彼がひとりで押し潰されないよう、自分たちも、彼が奪ってきた命を背負えばいい。
戦いに応えなければアモスは納得しないだろう、チャモロも戦闘体制を取る。
言葉と戦いで、説得しなければ。
自分に何度も言い聞かせ、向かってくるアモスを見据えた。

先程よりも鋭い剣筋が襲いかかり、チャモロはドラゴンの杖で軌道を逸らす。
剣を持つのとは反対の手がその勢いに乗ってまっすぐチャモロを狙ってきて、慌ててしゃがみこんでそれを躱す。
すぐに立ち上がらずにあしばらいを仕掛けるが、一歩下がるだけの軽い動作で避けられ、その一歩をバネに一気に距離を縮められた。
凪ぎ払われた剣をなんとか杖で受け止めるも、そのまま吹き飛ばされてしまう。
受身を取って構え直すと、もう目の前にはアモスが迫っていて。
反撃すらする間もなく剣はチャモロに斬りかかっては離れ、離れたと思ったらもう次の一撃が入ろうとしている。
防御するのに精一杯で、語りかけることすらできない。

(速い……これじゃ、説得どころじゃ……!)

冷静に剣を振るうアモスとは逆に、チャモロは焦りが強くなっていく。
殺すわけにはいかない。けれど、説得もできない。
板挟みのような状況に、思考が追い付かなくなっていく。

255いつかの時の子守唄 ◆jHfQAXTcSo:2017/03/15(水) 10:55:33 ID:6rfo8cn20
段々とマヒしていく頭で、アモスの猛攻に耐えられるわけもなく、やがて剣を捌くのに失敗し、中央は避けられたものの腹を突かれ、チャモロは尻餅をつき、杖もその手から離れてしまった。
この上ない隙を曝したはず。
だが、アモスは攻撃の手を止め、ため息を吐いた。

「……つまらん」
「え……?」
「どうあっても俺を殺したくないんだろう、その迷いが戦いに水を挿す。相手の命から逃げる者と戦うのが、こんなに興醒めするものだったとはな」
「……!」

――貴女はその身に抱えた命すら背負えていない。言い訳にしているに過ぎない。
――言い訳して、人の命を奪うことの重さから逃げている!

数時間前に、ローラにぶつけた自分の言葉が蘇る。
ハッサンの命から、自分が奪った命から逃げるなと、彼を失った怒りも込めて叩きつけた言葉だ。
その自分が、命から、アモスから、逃げている――?
だめだ。
彼女にああ言った以上、逃げるわけにはいかない。
逃げない。逃げない。逃げない。
命から、逃げない――



アモスの言葉にショックを受けたからか、それからの数瞬、何を考えていたか思い出せない。
ただ、いつの間にかチャモロは立ち上がっていて。
僅かに見開かれたアモスの目と目が合って。
迫ってきた剣を躱して、捨て身でアモスにぶつかって。
倒れ込んだ彼が起き上がるまで猶予はなく、呪文は使えないから。
選んだのはかまいたち。あまり時間のかからない技だ。
それでも立ち上がりながら突き出されたアモスの剣はチャモロに届いた。
剣は確かにチャモロの肩を傷付け、その衝撃でバランスを崩したチャモロは、狙いを定めてかまいたちを放つことができなかった。

意思のないそれは真っ直ぐ飛び――アモスの首筋に真っ赤な花を咲かせた。

痛みからか、アモスの手から剣が離れ、からんと小さく音をたてた。
その音に漸く頭が覚醒し、チャモロは青ざめながらアモスに駆け寄って。
しかし、アモスの拳が勢いよく振るわれ、顔面に叩き込まれ。
攻撃に備えていなかったチャモロはダメージをモロに受け、意識を失った。

256いつかの時の子守唄 ◆jHfQAXTcSo:2017/03/15(水) 10:56:58 ID:6rfo8cn20
 




やがて気が付いた時には、もうアモスは動かなくなっていた。
頭がぼんやりして、どこか夢心地だ。
だが、アモスの首筋に深く刻まれた傷が、夢ではなく現実なのだと冷たく語っている。
少しずつ醒めていく頭で、傷を癒しながら、チャモロは気を失う直前のことを振り返っていく。
命から逃げていると言われたことがショックで。
命から逃げては駄目だと、逃げないと、その想いが頭を埋め尽くして。
その為には、殺すにしろ殺さないにしろ、全力でアモスと戦わなければと感じて。
そして――

そうか。僕が。アモスさんを。
殺してしまったんだ。

攻撃を受けてバランスを崩さなければ、かまいたちはどこを狙っていたか、それは分からない。
けれど、どんな経緯であれ、自分がアモスを殺してしまったのだという事実は変わらない。

自分を救いたいなら殺すか殺されるかの二択だと、アモス自身が言っていた。
心の奥では抵抗し、殺したくはないと叫んでいた。自分の手で殺してしまったことに、罪悪感が湧く。後悔が降り注ぐ。
そして……アモスがもう人の道に戻れないと言っていた理由も、痛いほどに分かってしまった。

一人殺したチャモロでも、殺した側のはずなのに、こんなにも痛みと戦っている。苦しい思いをしている。
アモスも初めて人を殺した時、こんな想いだっただろうか。痛かったのだろうか。苦しかったのだろうか。



――お前がモンストルで出会ったアモスという男は、魔物に怯える追手や名も知らぬ少年を殺した自分を許せるような男だったか?



他ならない彼がそう言った。
耐えられるわけがなかったのだ。
あの人の善い男が、いつまでもそんなことを繰り返せるわけがないのだ。
人を傷付けないよう放浪し、それでも追い回されながら自分を見た者を殺し、人らしさを失くしていくことでしか生きられず。
今更人の中に紛れることができたところで、積み重ねてきた事実から逃れることはできなかっただろう。
誰が寄り添おうと、共に背負おうと。
アモス本人が自分を許せなかったら、結局それまでなのだ。

257いつかの時の子守唄 ◆jHfQAXTcSo:2017/03/15(水) 10:58:35 ID:6rfo8cn20
殺したくなかった。殺さなくても済む方法があったのではないか。そう叫ぶ自分はまだいるけれど。
それでも、こうするしかなかったのだと、理解してしまった。
アモスがどれだけ辛い生き方をしてきたか、全てとはいかないけれど、理解してしまった。



ふと、ローラ姫の顔が浮かんだ。
彼女とアレフがハッサンを殺した時も、こんな気持ちだったのだろうか。
そこまで長く行動を共にしていたわけではないが、自身の行動が非道だと理解した上で、我が子の為に殺しに乗ることを決意した彼女。
元々は人を殺すようなことを善しとしない人物であろう彼女も、罪悪感と戦ったりしたのだろうか。
ハッサンの命から逃げるなと。我が子の命も背負えていないと、チャモロは糾弾した。
でもそれは、自分が手を汚していないから、大切な人を奪われた側だったから言えたことなのではないだろうか。

ハッサンのことは、許すわけにはいかないけれど。
根っからの悪人というわけではない彼女に命を背負わせるのではなく、共にハッサンを知る者として、向き合っていくべきなのかもしれない。
道が残されていなかったアモスと違って、彼女にはまだ希望があるはずだから。
優勝以外にも彼女の子を生かす道は、まだ探せるはずだから。
その道さえあれば、彼女たちは人を殺す必要がなくなるから。
命を背負うだけでは、その重さに潰されてしまうから。
潰れないよう、共に向き合っていこうと。そう思った。



やがてその場にぺたりと座り込み、チャモロは俯いた。
理由はどうあれ、自分はアモスを殺した。
彼自身が救いたいなら戦うしかないと言っていたし、その言葉の意味は痛いほど理解した。
それでも思うのだ。
人の善い、朗らかな男だったのに。
こんな結末以外の道も、あったはずなのに、と。

今にして思えば、チャモロたちとアモスの関係は、何もかもタイミングが合わなかったような気がする。
理性の種を探しに行く前に真実を話していなければ。
アモスが町を出ていってしまう前に理性の種を届けられていれば。
アモスが誰かを殺めてしまう前に再会できていれば。
彼は生きられたのだろうか。

形が合わない歯車をいくつも並べて動かせば、やがて音を立てて壊れてしまう。
ひとつひとつは綺麗に作られた歯車でも、他の歯車と合わなければ無意味なのだ。

命と向き合うこと。
自分が理解できていなかったこと。
アモスとの再会は大切なことを教えてくれた。
こうしてぶつかったことも、きっと無意味ではないはずだ。
でも。
だけど。



――やっぱり、あの明るくて人の善い、英雄と呼ばれた貴方に、会いたかった。
――やっぱり、できることなら、殺したくなかった。



リュビやアモスのことを伝えに、トンヌラたちの元に戻らなければならない。
けれど、もう少し立ち直るまで。
ここでこうして俯いて。
アモスとの別れを惜しませてほしい。

258いつかの時の子守唄 ◆jHfQAXTcSo:2017/03/15(水) 11:00:12 ID:6rfo8cn20
 









◇◆◇◆◇

夢を見た。
遠い遠い、いつかの夢。

夜になると自身が魔物になってしまうことを教えてくれた旅人たちがいた。
話を聞いたその瞬間に、モンストルを出ていかなければと思った。
善意で話してくれた彼らに心配をかけないよう、快活に笑い飛ばして。
その日のうちに町を後にした。
人々に見つからないよう、ひっそりと抜け出して、町の外で一度だけ振り返って、一言だけ。
声に出したら誰に気付かれるか分からないから、心の中でありがとうと呟いた。
真実を教えてくれて。魔物と化してしまう自分を庇ってくれて。ありがとう。

走馬灯、というのだろうか。
眩しくて、あたたかい夢。



たまに思うことがあった。
いっそ抵抗せず殺されれば、安寧に辿り着けるのではないかと。
そうすればもう人を襲う自分に怯えることもなくなる。
人々が夜に魔物と化してしまう自分に怯えることもなくなる。
なのに、何故自分は追手を殺めてまで生きようとしていたのか。
人間らしさを捨てても、あたたかい記憶を捨てられなかったのか。

死に際になって漸くその答えが分かった、ような気がする。
昼の間ですら魔物のような気分になっても尚、自分は人でありたかったのではないか。
自分の強さを確かめてみたいという気持ちも本物だった。
強い戦士と戦い、それが真剣勝負なら勝っても敗けても構わない。そこで命を落としたとしても、だ。
生きる為に食うか食われるかというものではなく、相手に敬意を払って互いに納得のいく勝負をする。
なんとも人間らしいではないか。
魔物だと追われ、追手を殺め、人らしさ、自分らしさが失われるほど、無意識に人間らしさに恋い焦がれていた。
人間として死ぬ為に、魔物として殺されない為に、きっと今まで生きていた。

259いつかの時の子守唄 ◆jHfQAXTcSo:2017/03/15(水) 11:01:21 ID:6rfo8cn20
長く自分でも気付かなかったその想いに、今漸く終止符を打てる。
目の前の少年は、最後の瞬間まで、自分を人として見てくれていた。
安住の地には辿り着けなかったけれど、安寧は確かに見つけられた。
永い眠りに就くその瞬間、アモスは確かに安堵する自分を感じていた。



「―――――」



最期に口に出てきた言葉は、いつかと同じく、音になることはなかった。
いつかと同じく、それを聞いた者はいなかった。





【アモス@DQ6 死亡】
【残り53人】


【Hー4/平原/1日目 真昼】

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP6/10 MP3/5 腕、肩、脇腹に切り傷(応急処置済) ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)
[装備]:ドラゴンの杖@DQ5
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める
   トンヌラたちと合流する、ローラとも向き合いたい
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。

260 ◆jHfQAXTcSo:2017/03/15(水) 11:02:18 ID:6rfo8cn20
以上で投下終了です。
誤字脱字や気になる点などありましたら、指摘よろしくお願いします。

261ただ一匹の名無しだ:2017/03/16(木) 06:39:11 ID:i2gyJDuQ0
投下乙です
同作対決はチャモロに軍配が上がったか
そうだよな、もう戻れないよなあ今更
アモスさん乙でした

264 ◆OmtW54r7Tc:2017/04/08(土) 18:43:53 ID:8mKrsAmA0
投下します

265港町、後にして ◆OmtW54r7Tc:2017/04/08(土) 18:44:38 ID:8mKrsAmA0
「裏世界…そんなものが……?」

ふとしたきっかけでお互いに共通の知り合いがいることを知ったヒストリカとセラフィ。
彼女たちはお互いの持つ情報を共有し、その結果ヒストリカは驚きの事実を知ることとなった。
自分達の住むアストルティアの中心に位置する大陸レンダーシア。
それが、もう一つ存在しているというのだ。

「うん、そして私はそこのアラハギーロの出身で…本当の姿はホイミスライムなの」

セラフィはラーの鏡を取り出し、そこに映った姿を見せる。
ヒストリカ、アーク、スライムは鏡を覗き込んだ。

「おお、なかなか愛嬌があって、ベリーキュートじゃないか」
「ピキピキ!ピキピキ!(そうでしょ!かわいいでしょ!)」
「えへへ、なんだか照れるな」

ヒストリカとスライムに褒められ、えへへと笑いながら照れるセラフィ。
一方でアークは、不思議そうな顔をしていた。

「…すみません。この鏡は…?」
「ああ、この鏡はラーの鏡。映ったものの真の姿を暴く力を持つというウルトラスーパー級の伝説の鏡だ」
「…ラーの鏡。これが…」

アークは思い出す。
数時間前に会った少女の言葉を。


―ラーの鏡でもあれば、一体どんなバケモノの姿をあらわすんでしょうね?


(あの言葉はそういう意味だったのですね…そして、この話が本当ならば私は…)


「あ、あれ?アークさんの姿…」

セラフィが目をごしごしとこすって、驚いたように目を見開く。
ヒストリカとスライムもまた、彼女の言葉で気づいて鏡に映ったアークの姿をまじまじと見る。

「え、エンジェル…?」

ヒストリカのその言葉の直後、放送が始まった。

266港町、後にして ◆OmtW54r7Tc:2017/04/08(土) 18:45:15 ID:8mKrsAmA0
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「エルギオス…」

放送で呼ばれた、4分の1以上の名前。
その中には、アークのよく知る名前もあった。

(私は…なんのために)

彼の心に浮かぶのは、悲しみよりも失望だった。
堕ちた天使、エルギオス。
彼と戦うため、救うためにアークが払った代償は大きかった。
天使の身体を捨て、人間となって。
その結果、同胞たちからは置いていかれ。
そこまでして取り戻した彼は、あっさりと逝ってしまった。

「アークさん、大丈夫?」

セラフィが、心配そうにアークの顔を覗き込んだ。
ハッとして顔を上げると、アークは薄く笑みを返した。

「私なら大丈夫ですよ」
「本当に?」
「ええ…悲しいというのとは、少し違いますから」

我ながら冷たいな、と思う。
同胞の死という事実に対し、自分でも驚くほど冷静に受け止められている。

(師匠が死んだ時は、もっと悲しかった覚えがあるのですが…薄情なものですね、私は)

ともかく、切り替えよう。
今考えるべきは死者のことではなく、これからのことだ。
とりあえずまずは、先ほどの一件についてカタをつけるとしよう。

「ヒストリカさん、セラフィさん、スライムさん…先ほどラーの鏡に映った私の姿…天使について、皆さんにお話ししておきます」

267港町、後にして ◆OmtW54r7Tc:2017/04/08(土) 18:45:43 ID:8mKrsAmA0
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「ふむ…つまり、人々を護る為に天使界から遣わされた守護天使…それがユーの正体だというのかい?」
「正確にはだった…ですがね」

ヒストリカの要約を、アークは細かな訂正を交えて肯定する。
彼が天使だったのは、あくまで過去の話。
今のアークは…ただの人間だ。

「今の話だと、仲間の天使さんとはもう…」
「ええ…何故か生きてこの場にいる師匠を除けば、もう会うことはないでしょう」
「そう、なんだ…」

セラフィは、カレヴァンのことを思い出す。
かつての主であり、偽のレンダーシアにおいてキラーパンサーの姿になった彼は、大切な相棒だった。
そんな彼は、真のレンダーシアに帰っていった。
恐らく、もう二度と会うことはないだろうと思う。
しかしセラフィは、その事に後悔はない。
自分には自分の、カレヴァンにはカレヴァンのやるべきことがそれぞれの世界であるのだ。
だから自分は、彼に心配をかけないよう、あの世界のアラハギーロでやるべきことをやるだけだ。

「後悔、してるの?」

アークの表情を窺いながら、尋ねる。
もう会えないと語った彼の表情は、寂しさに満ちていた。
だから、思わずそう聞いていた。

「…………………………」

「…そっか」

アークは何も言わなかった。
それでもその沈黙は、悲しげな微笑は、雄弁に彼の心情を物語っていた。

268港町、後にして ◆OmtW54r7Tc:2017/04/08(土) 18:47:03 ID:8mKrsAmA0
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その後、彼らはこれからのことについて話し合った。
わずか6時間の間に、死者は22人におよび全体の4分の1以上。
予想以上のペースであった。
放送前にはしばらくこのポルトリンクを拠点とすることも選択肢にあった。
しかし、この死者の多さは、それどころではないと彼らに危機感を募らせるには充分だった。
一刻も早く、知り合いや志を同じくする者との合流が必要であると、彼ら全員が思っていた。

「東に行きましょう」

それが、アークの提案だった。
西はこれといった目立った施設などがない広い荒野が続いており、あまり人探しに適しているとはいえない。
セラフィやヒストリカなどの戦う力を持たない女性を率いての荒野越えというのも厳しいものがある。
故に、ある程度道が舗装されており、近くに塔や村がある東へと行くべきだと考えた。

「私はそれでいいよ」
「ピッキー!(OK!)」
「構わないが…」

セラフィとスライムが了承する中、ヒストリカは一つの懸念があった。
このポルトリンクへは東から来たが、その道中で出会ったデュランのことが気がかりだった。
彼とはとある約束をしている。

「あ、そういえば東にある塔のことなんだけど、そこにはデュランさんって人がいるはずだよ」
「なに!?セラフィ、君もデュランと会ってたのかい!?」
「ヒストリカさんも?」
「ああ、彼にジャンボを紹介するよう頼まれた」
「私はレックって人を連れてくるよう頼まれたよ」

ここでセラフィとヒストリカは、お互いに同じ参加者と出会っていたことを知った。
そしてデュランは、それぞれに頼み事をされていた。

「そのデュランという方は、どういう方なんですか?」

唯一この場でデュランに会っていないアークは、その人となりを尋ねた。
その質問に、ヒストリカは答える。
デュランとは、四諸侯と呼ばれる魔王の名らしい。
その魔王の中でも一番強く、デンジャラスだという噂であったが話してみれば案外話の分かる相手だという。

269港町、後にして ◆OmtW54r7Tc:2017/04/08(土) 18:47:46 ID:8mKrsAmA0
「あ、でも、今は会わない方がいいよ。セラフィも私も約束を果たしてないし」

いくら友達になれたとはいえ、約束を果たさずに会いに行ったら失望されるかもしれない。
友情を汚されたと怒って去っていってしまうかも…


―ミスヒストリカ、ジャンボを連れてくるという約束、ウソだったんだな

―ち、違うんだデュラン!これにはビッグなワケが…

―友達だと思っていたのに!所詮人間などウソつきの信用ならん存在という事か

―話を聞いてくれ!デュラン!

―さようなら、もう二度と会うことはないだろう

―デュラアアアアアン!


「ヒストリカさん、大丈夫?顔真っ青だよ」
「へ!?ああうん大丈夫!なにも問題なんてナッシングだ」

セラフィに声をかけられ、ヒストリカは妄想の世界から現実に戻ってくる。

「と、とりあえず、東の塔には今は立ち寄らない方がいいと、思う」

ヒストリカは知っている。
友情とは、友達とは、ただ作ればそれで終わりではないという事を。
どれだけ長く友情を育んでも、ちょっとしたすれ違いであっけなく壊れてしまうものだという事を。
自分が調査・研究を進めてきたリンジャーラとファラスのように。
だから、デュランとの約束もちゃんと守りたい。
せっかく友達になってくれた彼を裏切るようなことはしたくなかった。

「…分かりました。塔には寄らず、リーザス村を目指しましょうか」

正直、アークはデュランについてあまり良い印象を抱けなかった。
セラフィやヒストリカにレックやジャンボという者達を連れてくるよう頼んだ目的を、それとなく察してしまったからだ。
恐らく、自分が彼に会った場合、彼女達のように穏便にいかないような気がする。

(四諸侯、魔王デュラン…注意が必要そうですね)

270港町、後にして ◆OmtW54r7Tc:2017/04/08(土) 18:48:13 ID:8mKrsAmA0
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そうして彼らは、ポルトリンクを後にして、出発した。
予定では東へ行くはずであったが…

「すみません、少し寄り道させてください」

というアークの言葉により、北へ進んでいた。
アンルシアが死んだ後、アークは彼女と、彼女を殺したアリーナの荷物を回収した。
しかし、回収していないものがあったのだ。
アリーナの、首輪だ。
あの時はそこまで頭が回らずそのままにしていたが、ヒストリカ曰く、サンプルとなる首輪は多い方がいいのだという。
そこで、多少道がそれるものの近くにある首輪を回収するべきだと考えたのだ。
幸いといっては語弊があるが、彼女は首を刎ねられており、回収はアンルシア同様難しくない。
ちなみに、近くの首輪というとトロデのものもあったのだが、これについては回収は断念した。
首を刎ねられたアリーナと違って、死体とはいえ首を切断しなければならないし、そもそもそれ以前にせっかく作った墓を掘り起こすことになる。
セラフィやスライム、ヒストリカが了承するはずがなかったし、アークにしてもそこまで非情にはなれなかった。
死人にも尊厳があり、その魂は生きている。
天使として死者と話すことができたアークは、その辺りの事は身に染みているので、徒にその尊厳や魂を汚すべきではないという持論があった。

「首輪と言えば…そういえばユーの首輪はどこにあるんだ?」

道中、ヒストリカは一つの疑問をぶつけた。
それは、スライムの首輪がどこにあるのかということだ。
いくら首輪をするのが難しい形状の生き物とはいえ、仕込まれていないとは考えづらい。

「ピキピキ!(ここだよ!)」

スライムは身体をうねうねさせながら、自分の首輪が身体の中にあることを説明した。
身体をうねうねさせているだけなのでセラフィの通訳込みでもなかなか伝わりづらかったが。

「ふうむ…身体の中か」
「ヒストリカさん、どうしたの?」
「いや、身体の外側に首輪がないとなると、スライムくんの首輪解除はハードモードになりそうだな、と…」
「ピキー!?(そんなあ!?)」

ショックを受けるスライムを眺めつつ、ヒストリカは考える。
そう、スライムの首輪解除はハードモードだ。
何しろ自分達と違って首輪がむき出し状態ではないのだ。
しかしそうなると、一つの疑問が浮かんでくる。

(何故、私達も同じようにしなかったんだ?その方が、手を出されにくいだろうに)

恐らくスライムの首輪は彼の身体的特徴故の特別措置なのだろう。
しかし、同じことを他の参加者にやるのは、別に不可能ではないはずだ。
スライムの身体は人間よりも小さいのだから、自分達の体内に仕込むことだってできたはずだ。
なにも、首に巻くという、外部からなんらかの対処をされる可能性が高い方法を選ぶ必要などないはずだ。

「そろそろ着きます。みなさんはここで待っていてください。すぐに戻りますので」

そうこうしている内に、目的の場所が近づいてきたらしい。
アークが、他の者をその場に残して先へと進んでいった。

271港町、後にして ◆OmtW54r7Tc:2017/04/08(土) 18:49:04 ID:8mKrsAmA0
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彼の目の前には今、一つの死体がある。
首と胴とが分かれてしまった、死体が。

「………………………………………」

彼女のことは、きっと許すことなどできない。
大事な友人を、目の前で殺されたのだから。
しかし…


――そうやって……知った風な顔で上から押さえつけて……!! もう――うんざりなのよ!!!!


彼女のあの言葉が、少しだけ気になっていた。
もしかしたら、彼女も自分と同じだったのかもしれない。
誰かの思惑の為に動かされ、疲れ果てて。
そんな現実に抗おうとしていたのかもしれない。
しかし、今となっては彼女の事情など分かりっこない。
天使だったころの自分ならともかく、ただの人間である今の自分には彼女の魂など見えはしない。

「これは…もらっていきますね」

それだけ言うと、アークはアリーナの首に巻きついた首輪をスッと抜き取り、自分の荷物の中にしまった。
そうして死体から背を向けると、セラフィ達のもとへと戻っていった。

「おまたせしました、それじゃあ行きましょうか。この理不尽な生き方を強いる世界を、壊す為に」

272港町、後にして ◆OmtW54r7Tc:2017/04/08(土) 18:49:32 ID:8mKrsAmA0
【F-8/草原/真昼】

【スライム@DQ1】
[状態]:健康 戦闘時HP回復(装備効果)
[装備]:毒針@DQ4 スライムメット@DQ6 オラクルやののれん@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:セラフィと一緒がいい。竜王さまお許しください。

【セラフィ@DQ10】
[状態]:健康 歩くとHP回復(装備効果)
[装備]:ホイミンのTシャツ@DQ8 祈りの指輪
[道具]:支給品一式 ラーの鏡  ぎんがのつるぎ@DQ9 星降る腕輪@DQ3
[思考]:主人公@DQXを探す。主人公@DQ6にはデュランのことを伝えてあげよう。
    トロデ@DQ8の知り合いにも会いたい。

【ヒストリカ@DQ10】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式 ドルボード@ドルバイクプリズム ドルセリン×8 レーダー探知機 
[思考]:ジャンボに会いたい。仲間と友人を作りたい。デュランと友達になるためジャンボを紹介する。
※レーダー探知機で参加者の居場所を把握することができます。参加者の生死は判別できません。探知できる範囲は1エリアほどです。

【アーク(DQ9主人公)@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:吹雪の剣@DQ5
[道具]:支給品一式×3、道具0〜2、魔勇者アンルシアの不明支給品(0〜2)アリーナの不明支給品(0〜1)
     太陽の扇@DQ6、フラワーパラソル@DQ5、炎竜の守り@DQ8 魔勇者アンルシアの首輪 アリーナの首輪
[思考]:エビルプリーストが自分を呼んだ理由を知った上でそれを打ち砕く。その為に、まずは彼が仕組んだこの殺し合いを壊す。
    リーザス村を目指す
[備考]:職業は魔法戦士です。

273 ◆OmtW54r7Tc:2017/04/08(土) 18:50:04 ID:8mKrsAmA0
投下終了です

274ただ一匹の名無しだ:2017/04/09(日) 22:07:56 ID:ow2vENZw0
投下乙です
アーク達が首輪解除担当になりそうな流れ
しかし、よく考えたらスライムって完全に詰んでるんじゃ……こいつだけ首輪解除の難易度が別次元だぞ

275ただ一匹の名無しだ:2017/04/10(月) 00:03:29 ID:SoTraXnQ0
投下乙です
コメディリリーフかとおもいきや魔物と人間との橋渡し役2人に学者、
聖人君子の主人公(天使)とかなり期待できる御一行なんだな

276ただ一匹の名無しだ:2017/05/14(日) 21:31:35 ID:7KixcyiI0
これは新人書き手登場か……期待したい

277 ◆znvIEk8MsQ:2017/05/15(月) 23:50:24 ID:Kd65PIKE0
投下します

278 ◆znvIEk8MsQ:2017/05/15(月) 23:52:39 ID:Kd65PIKE0
ハーゴンを葬ったアレフは一つ呟いた。

「あと、一人…………」

自分がこんなことをする原因になったあの忌々しい、アベルの娘だけは見逃してしまったが、二人は仕留めた。最後の一人さえ殺すことができれば、アベルからローラを解放してもらえるだろう。少なくとも、そうだと信じたい。


そこで、放送が鳴り響いた。この戦いの舞台にローラとともに呼び寄せられた時に聞いた、あの男の声だ。


よかった。ローラは死んでいない。あの、竜王、ともすると竜王よりも深い闇を抱えているアベルの下にいるのだ。たとえ言いなりになって三人参加者を殺してきても、戻ったときに真顔でローラの死体を見せつけられても不思議ではない。その点だけでもアレフは安堵した。


ハッサン
マリベル
ハーゴン


しかし、同時に自分が葬った者の名前を改めて認識させられることで、心がずしん、と重くなった。

自分は本当に正しいことをしているのか。ただ、アベルに騙されて、殺人者の汚名を着せられて、ローラとわが子を救うどころか、何もできないままむざむざと殺されてしまうのではないか。



これはまだ、アレフが竜王を倒す前の話だが、こんなことがあった。
確か、リムルダールでの出来事。ある戦士のような姿の男が、大事そうに自分の着けている指輪を見せつけ、「指輪は戦士のたしなみだ」と言ってきた。後日、アレフが岩山の洞窟で戦士の指輪を手に入れてからリムルダールへと戻ると、その戦士は指輪をつけておらず、あろうことか「指輪などして、おまえは恥ずかしいやつだなあ」とけなしてきたのだ。


人は、平然と嘘をつく。その嘘が原因で、他人がどうなろうと知ったこっちゃないとばかりに。あの時こそ、ただ自分がちょっとした怒りを覚えたくらいだが、今回は全く違う。自分が騙されているか否かで、二人、ともすれば自分を含めて三人の命の有無が決まるのだ。

しかし、考えても結局どうどうめぐりになるばかりでどうにもならない。それに、不審な動きを見せればすぐ隣にいる機械兵、ジンガーがすぐさま斬りかかってくるだろう。ジンガーの動きの強さと素早さ、そして正確さは十分すぎるぐらい知っている。
加えて、自分は先ほどマリベルからかまいたちを受けて、足に傷を負っている。ジンガーを倒すことや振り切ることは極めて難しい。

結局、ローラを解放してもらえる一縷の望みを期待して、参加者を殺すしかないのだ。そして、仮にローラが解放された後でも、ローラを守るために、参加者を殺すしかないのだろう。


「………………!!」

アレフは、剣をかまえる。新たな敵の気配を感じる。

「………!!!!!!!」

それは、アレフが予想していたよりも、斜め上を行く強大な相手だった。燃え滾る炎のような赤い体色、常にエネルギーをまき散らしている肉体、着ているものはおおよそ最低限だが、分厚い筋肉の鎧は、下手な屑鉄以上の防御力を発揮しそうだ。

279 ◆znvIEk8MsQ:2017/05/15(月) 23:53:15 ID:Kd65PIKE0
続き投下します

280 ◆znvIEk8MsQ:2017/05/15(月) 23:55:02 ID:Kd65PIKE0
「我が名はデュラン。一つ、問おう。」

赤い魔人、デュランは二人に尋ねた。

「お前たち、この村にいるという、仮面の男を知らないか?」
「仮面の男?」

アレフがハーゴンに出会ったときは、すでに仮面を外されていたため、アレフには何のことか知らなかった。

そこで、その後ろにいた、僧侶のような姿をした女性が現れる。女性はアレフたちの後ろにいるすでに肉塊と化したハーゴンの死体を指差した。

「この男です!!仮面こそつけていませんが、着ているものが同じです!!」

スクルドの話から、ハーゴンは察したようだ。

「成程な。お前たちが仮面の男を殺したということは、腕に自信がありそうだ。覚悟はいいな!?」


デュランは大鉈を構え、臨戦態勢に入る。

「と、その前にだ、スクルド、やることはわかっているな?」
「は、はい」

デュランはスクルドに指示をだし、アレフとジンガーにベホイムをかけ始めた。デュランの時と同じように、傷の治りようは遅いが、何度もかけることでアレフが普通に戦えるほどに傷がいえていく。

「!?」

敵に塩を送る、ということをされ、アレフは一瞬戸惑うが、それ以上に戸惑ったのが、相手の強大さだ。ローラのために、あと一人殺せばいい。逆に言うと、この戦いが服を着て歩いているようなデュランを殺さなければいけない。

こいつには勝てる可能性は薄い。

たとえジンガーと協力したとしても。万全の状態で挑んだとしても。しかし、ローラのために、まだ見ぬわが子のために、戦わなければいけない。ここで。ハッサンの首を落とした時から、そうなることは決まっていた。


「待てよ!?」

アレフはふと気が付いた。あの後ろにいる僧侶の女、明らかに戦闘には向いてない………現に赤い魔人の部下か、助手として使われているくらいだ。最初にアレフが存在に気づかなかったのも、デュランの獰猛な気に霞んでしまったからだ。デュランを殺さなくても………

「何を立ちぼうけている!!傷は癒えたはずだ!!来ないのなら、こちらから行くぞ!!」

しびれをきらしたデュランが、大鉈を振り下ろし、襲い掛かってくる。アレフは間一髪かわし、剣を向ける。

「ジンガー、行くぞ」
「イエス、アレフ」

同様にジンガーも、兵装を解き、戦闘態勢に入る。

アレフが狙っているのは、デュランか、それとも…………


もう、後には引けないのだ。

281 ◆znvIEk8MsQ:2017/05/15(月) 23:55:34 ID:Kd65PIKE0
【I-5/リーザス村/1日目・昼】

【アレフ@DQ1勇者】
[状態]:HP2/3、MP4/5、ショック
[装備]:光の剣
[道具]:支給品一式、不明支給品(0〜2)
[思考]:ローラを取り戻す為参加者をあと一人殺す。デュランか、それとも……

【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:オールグリーン
[装備]:灼熱剣エンマ@DQS メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:アベルの命によりアレフと共闘および監視

【デュラン@DQ6】
[状態]:HP4/5
[装備]:粉砕の大鉈@DQ8
[道具]:支給品一式 道具0〜1個
[思考]:強き者を探す。主人公@DQ6とその仲間とは決着を付けたい。
    リーザス村でアレフ、ジンガーを倒す

【スクルド(僧侶♀)@DQ9】
[状態]:健康、MP微消費
[装備]:ホーリーランス、不思議なボレロ@DQ3
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:アークを優勝させる
    強敵をデュランに倒してもらう 最終的にはDQ9主人公を優勝させる

282 ◆znvIEk8MsQ:2017/05/15(月) 23:57:17 ID:Kd65PIKE0
最後は状態票と位置情報です。初めてなので誤字脱字、および矛盾点あれば、指摘お願いします。可能な限り修正します。

283 ◆znvIEk8MsQ:2017/05/15(月) 23:59:10 ID:Kd65PIKE0
あ、タイトル忘れてました。タイトルは「殺人者としての覚悟」です。

284ただ一匹の名無しだ:2017/05/16(火) 01:47:10 ID:mvIJCo5Q0
初投下乙です
そこまで注意深く読んでないですが「どうどうめぐり」はちゃんと漢字(堂々巡り)にした方がいいかなぁというくらいかな

アレフは弱そうな奴から殺そうと、徐々に殺人のハードルが下がってる感じ
そこまでさせた当のリュカはというと、人質のはずのローラもアッサリと手放すしアレフが報われねぇ……

285ただ一匹の名無しだ:2017/05/16(火) 12:25:22 ID:2SmiV46E0
投下乙ですが、一つ気になることが
デュランがジンガーになんの反応もないのが不自然な気がします

286ただ一匹の名無しだ:2017/05/16(火) 12:28:59 ID:2SmiV46E0
ああでも、別個体と認識したとしたらスルーしともおかしくはないか
やっぱりなんでもないです

287ただ一匹の名無しだ:2017/05/16(火) 12:35:23 ID:2SmiV46E0
よく考えたらこのキラーマジンガがデュランの前座で出てきた奴とは限らなかった
うん、色々早とちりしてました、すいません

288 ◆znvIEk8MsQ:2017/05/16(火) 18:25:57 ID:r8gvDITI0
指摘ありがとうございます。
漢字に関しては気を付けます。
今回参加しているキラーマジンガは海底宝物庫にいた者で、デュランの配下の者ではないと解釈して書きました。

289ただ一匹の名無しだ:2017/05/17(水) 00:06:46 ID:ZyJCcQbQ0
キラーマジンガってデュランの前座よりは海底の宝物のイメージが強いからね
そうでなくても隠しダンジョンで普通に雑魚敵として出てきたはずだし、それなりの数が存在してるはず

290ただ一匹の名無しだ:2017/05/17(水) 23:09:57 ID:akFH8j.20
wikiに今回の「殺人者としての覚悟」を収録してるんですけど
とりあえず気になったことがあるので指摘を

状態表で時間の表記が 昼 になってますが、昼は放送前の時間になっちゃうので
時間帯の指定をするのを忘れてると思います

真昼(12〜14時)
午後(14〜16時)
夕方(16〜18時)

のどれかを選んでください。
とりあえずwikiのメニューには真昼で収録しておきます

あとは「どうどうめぐり」を漢字にした方がいいという指摘について
これはこっちで漢字に修正しておいていいでしょうか?

とりあえず修正はせずに収録しておきますが、
wiki編集のやり方が分からないようでしたらこちらで修正しておきます

291ただ一匹の名無しだ:2017/05/17(水) 23:39:35 ID:akFH8j.20
とりあえずこっちでできる分のwiki収録は終了

収録してて気が付いたんだけど、今回のは第99話
あと1話で100話到達だ
スローペースだけどこれからも頑張ろう

292ただ一匹の名無しだ:2017/05/18(木) 00:00:56 ID:5R3YEIZc0
ところがどっこい
OPが000話扱いだからそれも入れたら今回のが100話になるんだな
どっちにしろおめでとうだがw

293 ◆znvIEk8MsQ:2017/05/18(木) 09:53:05 ID:rvY3WW.A0
Wiki編集のやり方が分からないのでありがとうございました。
時間帯のことはがっつり忘れてました。すいません。
漢字の修正もお願いします。
とりあえず自分が書いたのでいうのもなんですが100話おめでとうございます。

294 ◆znvIEk8MsQ:2017/05/18(木) 09:54:01 ID:rvY3WW.A0
時間帯は真昼(12〜14時)のままでいいです。

295ただ一匹の名無しだ:2017/05/25(木) 00:37:57 ID:FZtED55M0
ちょいと話題提供のためにも真の黒幕は誰か予想してみる
エビが小物だとか前座だというのは参加者にも言われてるけど実際ラスボスになり得るのは誰だろうか

竜王×:参加者なので有り得ないだろう

シドー△:1stでラスボスだったのとハーゴン等まで参加させられてることを考えると微妙なライン

ゾーマ×:見せしめで死んでる。 あれはニセモノだと言い張ることも可能ではあるが、ニセモノをわざわざ見せしめで殺す理由が思いつかない。

ミルドラース○:伏線らしきものはないが、2ndまで出番がなかったことを考えるとそろそろお鉢が回ってきてもおかしくない?

デスタムーア△:2ndで(一応)ラスボスだった。 しかしさすがに二回連続出演は無い?死んだゾーマよりは可能性高いか

オルゴ・デミーラ○:影で暗躍するのが似合ってるし可能性は十分にある

ラプソーン◎:ヤンガスとピサロの会話で可能性が示唆されてることを考えると、現状では一番可能性が高いか

エルギオス×:参加者な上で死んでる。 影武者とか使うような性格でもないし、原作内で改心してる

マデサゴーラ○:性格的にこういう催しを一番楽しんでそう。惜しむらくは知名度の低さ

296 ◆AcogK8sWio:2017/06/02(金) 22:38:36 ID:hiiC/Y1s0
投下します。

297少女達の苦悩:2017/06/02(金) 22:39:41 ID:hiiC/Y1s0
レックとキーファ、そしてオルテガと別れてから幾ばくか時間が経ち、太陽も真上から地面を照らしている。人が集まるなら城だろうと言う事と人を集めたいフォズの意向もあり、3人の少女はトロデーン方向に向かっていた。成長過程のフォズとティアがバテてしまわないように急ぎつつも余裕を持って歩き、その時間を時間を他愛も無い会話をして過ごした。趣味、特技、そして自分を取り囲む人々の話。好きな紅茶の味の話をしたり、服装を褒め合ったりもした。竜王の元へと向かった3人の心配をしつつも、少女達の歩みはあまりにも平和そのもので、ティアやフォズ、そしてアンルシアでさえもほんの一瞬だけ思った。
「殺し合いなんて、本当は嘘だったのではないか」と。

しかしその一瞬の幻想は、禍々しい声によって掻き消される。


「諸君、ご機嫌は如何かな?」








「…我が元の辿り着いた者への惜しみない称賛を私は約束しようではないか。ではさらばだ」

放送が終わり、暫くの間沈黙が流れる。空気は重く、もう誰も甘い幻想を抱いてはいなかった。


「マリベルさん」

最初に沈黙を破ったのは、破ったと言い切るにはあまりにも小さなフォズの声。彼女が放送で呼ばれたという事実が何を指すのかを、聡明な神官として知られるフォズが理解できない筈がない。けれど、自信に溢れていて、それでいて優しい彼女と「死」という概念を結び付ける事が、理解できることが辛かった。

298少女達の苦悩:2017/06/02(金) 22:41:04 ID:hiiC/Y1s0


(ハーゴン…お兄ちゃんがやっつけた怖い奴だ…)

嘗てティアの世界を恐怖に陥れたハーゴン。彼が倒れたという事はこの場に於ける脅威が確実に一つ減ったという事なのだろう。呼ばれた中に直接の知り合いもいない。しかしそれを喜ぶには、22人という数はあまりにも多かった。

(それに『竜王の曾孫』…ローレルさんの言ってた仲良しの魔物…)

ティアは竜王の曾孫の事は知らないが、人間に対して友好的で優しい魔物だと聞いている。そんな彼も命を落とした。きっと他にも自分の知らない優しい誰かが何人も殺されたのだ。キーファやレックといった自分の知ってる優しい人も、今危険な場所に赴いている。そう考えると、途端に心細く思えた。



アンルシアが知る中で放送で呼ばれたのは同じ名を持つ魔勇者ただ1人。メルサンディ村の英雄の名も、盟友の名も聞かされてはいない。ならば、ここで立ち止まってなどいられない。2人を守りたい、2人の勇者でいたい。

「あなた達は、私が守るわ」

ティアとフォズの近くに屈み、力強く抱き締める。服が自分の物ではない涙で濡れる。強力な力を持っている訳ではない彼女達の感じている恐怖は自分の比では無いのだろう。キーファとレックと別れた今、彼女達を守れるのは自分だけなのだ。

(私が、2人の力にならなきゃ)

しかしその力強い決心とは裏腹に、彼女の胸の内は不安が大半を占めていた。彼女が勇者として戦っていた時間の大半は、盟友であるジャンボが共にいた。言い換えれば、ジャンボが共にいる限り、アンルシアは勇者でいられるのだ。

(けれど、彼と出会う前にこのゲームに乗った人間に出会ってしまったら?送り込まれたジョーカーに出会ってしまったら?)

―私は彼無しでも、彼女達を守る勇者でいられるだろうか。

299少女達の苦悩:2017/06/02(金) 22:44:53 ID:hiiC/Y1s0
泣き止んだ2人をアンルシアが落ち着けると、再びトロデーンへの道を歩みつつ先程のように取り留めの無い話を始めた。「現状が嘘なのではないか」と思わせるようなある種の魔力はもう失われていたが、それでも再び雑談を始めたのは、悲しみと不安、漠然とした恐怖に呑まれない為であった。

「そういえば、フォズちゃんのいるダーマ神殿ってどんな所なの?お姉ちゃんの所にもあるんだよね」
「ティアさんの世界には無いのでしたよね。ダーマ神殿は人間の生き方…簡単に言うと、職業を司る神殿です。生き方を変えたい人に新たな道を指し示すのがダーマ神官、つまり私の主な使命です」
「職業かぁ…。どんな職業があるの?」

未知なる世界にグイグイと興味を示すティアに思わずフォズとアンルシアは笑みを溢す。

「私の世界では僧侶とかバトルマスターとか…かしら。盟友のジャンボはレンジャーをやってるわ」
「レンジャーですか…私の世界ではその様な職業は聞きませんでした。やはり世界によって違うのでしょうか」
「へえぇ、凄い!…そうだ、勇者ってなれるかな?それか魔法戦士!」
「と、突然どうかしたんですか?それに急に飛び上がったら足が…」

急に勢い良くジャンプしたティアを見てフォズは目を丸くするが、それを気にしないかの様にティアはフォズに話しかける。

「私のお兄ちゃんは勇者だから、私もお兄ちゃんみたいになりたいなって思ってたの。それかお兄ちゃんは魔法も剣も両方上手だから魔法戦士!」

氷柱の杖を剣に見立てて振り回すその姿に、アンルシアは過去の自分を見た。兄の背中を追いかけ勇者である兄を守る、それが彼女の以前の夢だった。

「私の世界の勇者はダーマ神殿で就ける職業じゃないけれど…、あなたの世界ではどうなのかしら」
「ティアさんがなりたい様な勇者かは分かりませんが、全ての職業の中でも最高ランクの職をダーマでは勇者と呼んでいます」

けれど…と、少し困ったような顔をしてフォズは続ける。

「勇者になるには他に幾つかの職業を経験してもらわないといけないのです。魔法戦士も同様で、魔法使いと戦士の両方をマスターしなければ魔法戦士になることは出来ません」
「そっか…残念だな」

ティアはガッカリしたように肩を落とす。その様子にフォズはしかし、と慌てて付け足した。

「魔法使いや戦士、それに僧侶や吟遊詩人等の下級職と呼ばれるものは誰にでも道を開くことの出来る職業です。もしそれらの中でしたら、私もお力添えする事ができます」
「…下級職」

300少女達の苦悩:2017/06/02(金) 22:46:12 ID:hiiC/Y1s0
ティアの頭には勇者か魔法戦士かの選択肢しか無かったようで、フォズの提案を最初はポカンとした顔で彼女を見つめ返していたが、次第に何処か納得した顔で言葉を反芻した。

「私、下級職のどれかやってみたい。職業って呪文とか特技とか使えるようになるんだよね。何か職業に就いてた方が…いざという時に困らないかも知れないし」

杖をしっかりと握り締め、フォズの方を真っ直ぐ見据え、真面目な面持ちで言葉を告げた。

「…でも、何が一番良いんだろう」
「一緒に考えましょう、協力するわ」
「ティアさんに向いている職業がある筈です」

「いざという時」、その言葉が震えていたのをフォズもアンルシアも聞き逃さなかった。きっとそんな時が来る事を考えるのが怖かったのだろう。けれど、彼女は決意した。ならば決意は決意で返すべきたと、2人はティアの意志に協力する事にしたのだ。

「…えへへ、ありがとう。どんなのにしようかなぁ。…それにしてもお兄ちゃんやっぱり凄いなぁ」

きっと兄であるトンヌラは「いざという時」なんて何度も経験しているのだろう。それにフォズの世界と自分の世界では定義が違うかもしれないとは言え、彼は就くのがとても難しい勇者であり魔法戦士である。ティアはそんな兄に改めて誇らしさを感じ、また彼に会えない事に寂しさを覚えた。

「魔法戦士になるコツとかあったのかなぁ…これで、お兄ちゃんの所へ!…って行けたら聞けるんだけどなぁ。キメラの翼の行き先って人じゃなくて場所だよね…。トロデーンこれで行けたりしないかな」

袋から最後の支給品を取り出し、その寂しさを紛らわせる様に叫ぶ。勿論手の中の翼はティアの身体を運ぶ事をしない。

「…ねえ」

その様子を悲しげに見つめていたアンルシアが、突如として表情を変え不思議そうな表情で声をかけた。

「それって本当にキメラの翼なのかしら」
「…え?」
「キメラの翼という道具は知らないけれど、その道具はキメラの羽根には見えないわ」

聞かれて始めて、手に持った翼をまじまじと見つめる。しかし、問いに答えようにも―

「実は、キメラの翼を近くで見た事無いの…羽根の形をした道具だからキメラの翼だ、って思って」
「袋に説明書の様な物はありませんでしたか?」
「ちょ…ちょっと見てみる!」

フォズに言われるがままに再度袋に手を伸ばすと、小さな紙切れが一枚入っていた。きっとこれで間違いは無いだろうと、ティアは二人と一緒に説明書を読み始めた。

「えーっと『おわかれのつばさ、別の世界から自分の世界へ帰るための道を開く』…これって…!」


ティアは驚きのあまり言葉を失い、同じく読んでいた2人も目を見張る。

天使の羽根の様な形のその翼は、青い光を放っている風にも見える。自らの使い手が現れるのを待つかの様に、静かに佇んでいた。

301少女達の苦悩:2017/06/02(金) 22:47:33 ID:hiiC/Y1s0
【C-7/高野/1日目 真昼】
【ティア@DQ2(サマルトリアの王女)】
 [状態]:健康 挫いた足(治療済)
 [装備]:氷柱の杖(残5)@トルネコ3 ようせいのくつ@DQ9
  [道具]:支給品一式 脱いだ靴 ロトの剣 おわかれのつばさ@DQ9
 [思考]:兄とその仲間たちを探すため、トロデーンに向かう。兄にロトの剣を渡す 職業に就いてみたい

【勇者姫アンルシア@DQ10】
[状態]:健康
[装備]:とつげき丸@DQ10
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:トロデーンに向かう
フォズとティアを守る
    彼に会いたい
    彼を守りたい
    彼の隣に居たい

【フォズ@DQ7】
[状態]:健康
[装備]:ルーンスタッフ@DQ8 ようせいのうでわ@DQ9
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1(本人確認済み)
[思考]:仲間を集める。
    そのためにトロデーン城へ向かう


※おわかれのつばさで脱出が可能かどうかは以降の書き手にお任せします。
※バルザックは、少なくともティア一向からは視認出来ない場所にいます。

302 ◆AcogK8sWio:2017/06/02(金) 22:49:26 ID:hiiC/Y1s0
投下終了です。
誤字脱字、また問題点などありましたらご指摘お願いします。

303ただ一匹の名無しだ:2017/06/02(金) 23:56:08 ID:LKVgjq.Y0
おわかれのつばさ……これをどう扱うかが書き手の腕の見せ所

304 ◆AcogK8sWio:2017/06/03(土) 07:15:27 ID:58zFZgiI0
訂正を見つけたので
○時間を
×時間を時間を

305 ◆AcogK8sWio:2017/06/03(土) 07:43:38 ID:58zFZgiI0
度々申し訳ありません
○返すべきだと
×返すべきたと

306 ◆znvIEk8MsQ:2017/06/07(水) 22:23:27 ID:yYs3CYVE0
100話目達成、おめでとうございます。それでは、私も投下します。

307抗え、最後まで ◆znvIEk8MsQ:2017/06/07(水) 22:26:11 ID:yYs3CYVE0
ゲルダとサンディの命が絶たれた頃、同じ街での違う場所で、ライアンの猛反撃が始まっていた。


「グアアアアアアアアアアアアア!!」
「ふんっ!!!!!」

バラモズゾンビが腕を振るう。
直撃すれば、鎧ごと粉々になるほどの一撃を破邪の剣で弾き、攻撃の軌道を変えさせる。そのまま腕は石畳にぶつかる。
もう何度繰り返したことだろう。よく見れば、辺りの石畳は穴だらけになっている。


聖火よ、異形の魔物を浄化せよ!!

剣から炎が飛び、バラモスゾンビを焼こうとする。幸いなことに、持っている武器が勇者に会う前から愛用していた物であり、その使い道は熟知している。
しかし、ダメージを受ける様子は全くない。なにしろ、体に火が付いたまま襲ってくるのだから。

「グアアアア!!」

今度は噛み付き攻撃がライアンを襲う。だが、これも済んでの所でかわす。

「面妖な………」

導かれし者達の中でも、魔法のことには疎いライアンであったが、使い慣れた破邪の剣の炎の効力は知っていた。
威力こそはマーニャやユーリル、ピサロの放つ炎の魔法に及ばないが、ライアンにとっては貴重な魔法攻撃の手段であったから。
だからこそ、炎を食らった魔物達の反応は知っている。
炎が効いたら効いた。効かなければ効かない。
それぞれの手ごたえを知っていた。
しかし、今回の敵はおかしい。炎が力を発揮しているにも関わらずバラモスゾンビには全く聞いた様子がない。
炎に頼らず、直接剣で攻撃しても同じことだ。多少吹っ飛ばせることができるが、ダメージを受けている様子が全く見られない。

「斬撃の痛みも、炎の熱さも、全く感じていないというのか?」

先程のレミールの時と同じ、戦いは完全にライアンが不利だった。

一瞬の疑問がライアンの頭をかすめたところ、バラモスゾンビの爪がライアンの顔に襲い掛かる。

「危ない!!」

バラモスゾンビの動きは決して早くないことが幸いし、それもギリギリでかわす。
だが、ライアンの兜はそれだけで半壊し、顔にも深くないとは言え、傷がついた。

308抗え、最後まで ◆znvIEk8MsQ:2017/06/07(水) 22:27:02 ID:yYs3CYVE0
私は、ここで死ぬ。だが、簡単に死ぬわけにはいかない。

ユーリル、アリーナ、クリフト、トルネコ
彼らがどのように死んだのかライアンは知らない。
ただ知っていることはその間自分はドラゴンに襲われて、気絶していただけ、ということだ。
彼らは、必死で戦った末に死んでしまったのだろう。自分は、まだ何もしていない。
死は覚悟していたが、まだ死ぬわけにはいかない。
命に代えてもこの強大な化け物を倒し、ゲルダやサンディ、ナブレットを助けなければ。

兎に角、接近戦は不利だ。力押しでは間違いなく勝てない。
自分も前で戦う回数の方が圧倒的に多かったが、少なくとも攻撃をかわせる距離にいなければならない。


ライアンは武器を力強く振り回し、バラモスゾンビの脚を斬りつける。
バラモスゾンビは転倒する、が、不安定な体勢のまま今度こそライアンを握りつぶさんと腕を振りかざす。

まずい、と思い、破邪の剣で体を守ろうとする。
しかし、あろうことか敵の両手は、がっちりと剣の刃先を握ってしまった。

「!!!」

剣の刃先を握る相手など、ライアンでさえも見たことがなかった。
普通は、その刃を回避するか得物で受け止めるかだろう。
痛みを感じず、凄まじい力を持ったバラモスゾンビにだけ成せる業だ。


破邪の剣はボキリと音を立てて折れた。

「そん………な……」

最期の力か、剣が破邪の光を出し、バラモスゾンビの腕を焼く。
しかしタイミングの悪いことに、ここへ来て最初にドラゴンに襲われたときの傷が痛み始めた。
人間を問わず多くの生き物が痛みに対して何かしらの反応をする。
だが、残念ながら相手はそうではない。
バラモスゾンビは立ち上がり、スキが出来たライアンの胴体にバラモスゾンビの尻尾がヒットする。

ゴシャ!!

大きな音を立てて、ナブレットと同じように壁に叩きつけられた。
幸いなことに意識はまだあるが。剣を折られ、鎧や兜も半壊。手の施しようもない。
吹っ飛んだ拍子に、ザックからライアンがまだ使っていない道具が落ちたが、それは見たことのない巻物が一つ。
ライアンが使ったことがない道具の上に、使えたところであの魔物を倒すことは到底不可能だろう。


バラモスゾンビの手が焼け焦げ、手というより腕に何かが付いているような有様になっているが、そんなことは気にせずライアンに突進してくる。

「ここまでか………勇者殿……みんな………すまない……」

309抗え、最後まで ◆znvIEk8MsQ:2017/06/07(水) 22:28:26 ID:yYs3CYVE0
端から見てどう考えても終わりであった。
しかし、どこからともなく現れた多数の氷のカケラがライアンを救う。


よく見ると後ろにナブレットが立っていた。
彼の振りかざした氷の刃の力である。
止めを刺すところをヒャダルコの力に邪魔されたバラモスゾンビは、今度は破壊の対象をナブレットに変える。

バラモスゾンビがナブレットめがけて攻撃を振るう。
だが、その攻撃は空を切る。

「おっと、そんなんじゃ、本気になったオルフェアの町長にして、ナブナブ大サーカス団長の、ナブレット様には届かないぜ!!」

さっきまで気絶していたとはとても思えないような身のこなしで、バラモスゾンビの攻撃を難なくかわす。
彼は、単純に1対1で戦うことは苦手だが、サーカスの経験を活かして、敵の攻撃を避けること、敵を決まった位置に誘導することは得意分野だった。


この戦いに巻き込まれる以前のことだ。
オルフェアの町を襲った敵であり、自分一人では倒せないはずだった悪魔ザイガス。
彼を邪悪な力が抑えられるミュルエルの森のフォスティル広場まで追い込み、ジャンボと協力して叩き伏せたこともある。


「おらおら、そんな動きじゃ、スライムつむりも捕まえられねえぜ!!」

今度は無理矢理押しつぶそうと、体当たりが来る。
その時と同じように、攻撃を素早くかわし、屋根の上に跳ぶ。
バラモスゾンビの体当たりは外れ、トラペッタの塀に大きな穴をあけた。


「こいつを食らいな。」

ナブレットがザックからボール状の何かを2、3個取り出す。
そして、慣れた手つきで、ジャグリングを始めた。
ボール状のそれは、しばらくはナブレットの周りをグルグル回っていたが、一気にバラモスゾンビの下へ落ちた。

よく見るとそれはただのボールではない。
イオラに匹敵する力を発揮する、ばくだんいしだ。

何発分かの爆発がバラモスゾンビの前で起こる。
それだけで倒すことは到底できないが、爆風と煙は目くらましの役割を十分果たした。
周りの見えないバラモスゾンビは腕と尻尾を振り回す。
しかし、当然のことながら目的の相手を仕留めることはできない。
被害を被るのは辺りの家や店だけである。
その間に素早くナブレットはライアンの所に駆け寄る。

「無事だったか……」
「ライアンもな。」

一瞬だけ、互いの無事を喜ぶ。

「どれくらい経った?」
「分からん。」
「ゲルダ達は?」
「……戻って来てない。南門に行ったがそこに火が放たれたし、無事かどうかも不明だ。」

310抗え、最後まで ◆znvIEk8MsQ:2017/06/07(水) 22:29:19 ID:yYs3CYVE0
一方でバラモスゾンビは、どういう訳か二人を探していた。
煙は既に晴れて、二人を見つけることは何の苦労もいらないはずだ。
それなのに、二人の周りをうろうろしているだけで、攻撃してこない。
その種は、ライアンたちの足元にあった。


いつまで経っても襲って来ないバラモスゾンビに対して、二人も不審に思う。
ナブレットが足元に広がっている巻物を目にする。


「なるほどな。」

聖域の巻物
地面に置いた状態で上に乗ると邪の者の攻撃を受けることも邪の者に姿を見られることもなくなる。

この部分「だけ」見ると、いかなる状況も打破できそうな万能の道具と言える。
しかし、世の中そううまい話ばかりではない。
一見万能に見える聖域の巻物だが、巻物に同封されていた説明書を紐解いてみると、問題もある。


一つ目は、炎や弓矢、魔法攻撃などの遠くからの攻撃は普通に当たるということ。
幸いなことにバラモスゾンビはそれらの攻撃が出来そうではないので、この問題は余り気にする必要はなさそうだ。
二つ目は、一度広げてしまうと再度持ち運ぶことはできないこと。

従って、当初の目的であったゲルダ達を助けに「行く」ことに関して、これが役に立たないのである。

ならばここに隠れながら、チマチマ氷の刃やばくだんいしで攻撃し続けて、敵が倒れたところで助けに行けばいいのかというと、そうでもない。


「おい、ライアン、見ろよ、アレ……」
安全地帯で多少安心した二人は、バラモスゾンビの体の焦げ目が癒えていることに気づいた。

「ダメージを感じないだけではなく、治癒能力まで備えているのか?」

バラモスゾンビは魔法を放つ力を一切失った代わりに、自動的に回復する力を身に付けられていた。
最もそれはバラモスにとっては、より苦しみが長く続く「呪い」でしかないのだが。
これでは、チマチマ攻めていても、全く埒が開かない。

311抗え、最後まで ◆znvIEk8MsQ:2017/06/07(水) 22:30:12 ID:yYs3CYVE0
「どうすればよいのだ………」
「よく聞け、ライアン。あの塀の穴、見えるだろ?そこから、逃げるぞ。」
「そんな……ゲルダ達を、見捨てろと?あの魔物から、逃げろと?」

当然のことながら、ナブレットを咎めるライアンを、冷静にいなす。

「考えろ。俺たち二人ではアイツを倒せないし、ゲルダ達は戻ってくるどころか声すら聞こえないというと、死んだと考えるべきだ。」
「そんな………」

多くのプクリポ達を楽しませるナブナブ大サーカス団の団長、ナブレット。
しかしエンターテイナーは、時にして、観客からは分からないほど冷酷である。
ナブレットとて、例外ではない。
悪魔ザイガスが襲ってくるのを見越して、狙われるはずの子供達を銀の丘に閉じこめたこともあった。
子供達は皆家に帰りたがって、銀の丘の扉の中で泣いていたのにも関わらず。
また、彼のサーカス団に入りたがって、遥々プクレットの村からやって来たプクリポを、曲芸に向いていないということで追い返したこともあった。


「それとライアン、ここを出たら、コイツを探しに行くぞ。」
ナブレットは名簿をめくり、ジャンボを指差す。
「このカビ団子みたいな奴?」
「確かに見た目はそうだが、コイツは前にオレの町を悪魔から守った。聞けば他の町でも活躍をしてるらしい。多分こいつなら、この戦いもどうにかしてくれる。仲間を集めるのだって得意だから、ホイミンの「みんな友達大作戦」だって手伝ってくれるはずだ。」
「最後にもう一つだけ。これ、持っておけよ。オレにはサーカスで培った技術があるけど、戦士が剣を持たなくてどうするんだ。」
「有難い………。」

ライアンは折れた破邪の剣に代わって、氷の刃を握りしめる。

よく周りを見ると、ギガデーモンとバラモスゾンビとの戦いで、あちこちが壊れ始めている。
このままここにいても、遠からず瓦礫の下敷きになるか、建物の火が燃え移って焼け死ぬかのどちらかだ。

312抗え、最後まで ◆znvIEk8MsQ:2017/06/07(水) 22:31:03 ID:yYs3CYVE0
「さて、いつまでもここにいられねえな。行くぜ!!」
「うむ!!」

獲物を見つけたバラモスゾンビは、早速襲い掛かる。
しかし、ばくだんいしと氷の刃の魔法に阻まれ、攻撃は悉く当たらない。

行ける。二人は確信した。
バラモスゾンビは二人より体が大きいが、動きはライアンよりも鈍いため、単純な追いかけっこなら負けはしない。

塀の穴の所に来た、その時だった。
まだ、距離は離している。攻撃が当たる範囲ではない。
そう思ったのが、運の尽きだった。


「グオオオオオオオオオオ!!」

バラモスゾンビが声を上げたと思うと、まさか自分の頭を手に取って、こちらへ投げてきた。
剛速球。ナブレットもライアンも、それには反応できなかった。

油断した。
がいこつけんしや、死霊の騎士などの敵は、頭をぶつけて攻撃してくることがある。
骨となったバラモスゾンビもその例外ではない。
聖域の巻物の上にいた時は、単に邪の力を寄せ付けなかったからその攻撃を行わなかっただけ。
誰が奴は全く遠距離攻撃をしてこないと言ったのだ。

ヒットしたのはナブレット。
だが彼は直撃して、動けなくなっても、ライアンは塀の外へ飛び出て、走った。
ナブレットはどこまでも冷静に戦った。
だから自分もナブレットと共に戦った戦士として、冷静に勤めを全うせねば。
「勇者殿、皆、少しだけ、待っててくれ………。」


【G-2/トラペッタ外部/午後】

【ライアン@DQ4】
[状態]:HP1/10 全身の打ち身、顔に傷、兜半壊、腹部に打撲、鎧半壊
[装備]:こおりのやいば
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1)
[思考]:ジャンボを探す。ホイミンのみんな友達大作戦も手伝う。

【G-2/トラペッタ内部/午後】
【バラモスゾンビ@DQ3】
[状態]:HP3/10 MP2/3
 [装備]:なし
 [道具]:なし
 [思考]:殺戮と破壊
 [備考]:一定時間ごとに、ダメージが少しずつ回復します。
回復量や壊れた手が再生するかは、次の書き手さんにおまかせします。

313抗え、最後まで ◆znvIEk8MsQ:2017/06/07(水) 22:32:17 ID:yYs3CYVE0
トラペッタの外堀は、水ではなく、血で染まっていた。


「ゲルダ………サンディ………」
もう物言わぬ姿になって浮かんでいるそれを見たライアンには、悲しいとかそういう感情はなかった。
ただ、彼女らやナブレット。
そして、死んでいった導かれし者たち。
そして、どこかで生きているはずのホイミン。

どれだけ苦しくても、彼らの望みを叶えるという決意だけしか、彼の心には残っていなかった。


「……まだ、生きてやがんのか……」
「頑張れよ、ライアン。」

バラモスゾンビの顔を目の前にして、ナブレットはこう呟く。
バラモスゾンビが口を開けた所で、意識が闇に飲まれていった。


【ナブレット@DQ10 死亡】
【残り52人】

※バラモスゾンビの周辺に、折れた破邪の剣と、聖域の巻物が落ちています。

314抗え、最後まで ◆znvIEk8MsQ:2017/06/07(水) 22:34:37 ID:yYs3CYVE0
以上で投下終了です。かなり長い文章になってしまったので、どこか失敗している可能性も高いです。
個人的に気になる点は
・バラモスゾンビの自動回復能力(DQ3でもDQ10でも持っていた)
・聖域の巻物の効力です。

おかしいところありましたら、指摘お願いします。

315ただ一匹の名無しだ:2017/06/07(水) 22:54:00 ID:VprpCRd60
素早い投下乙です!
冷静なナブレット団長、それを受けて前に進むライアン、強大な力の塊のバラモスゾンビ、どの描写も引き込まれました

ただ、ライアンはレミールとは接触していないはずなので、“先程のレミールと同じ”というのはギガデーモン辺りと混同してしまったのでしょうか?
個人的にはそこだけ気になりました、改めてもう一度、投下乙です!

316 ◆znvIEk8MsQ:2017/06/08(木) 13:29:22 ID:AgGfB3IU0
あああああミスしてました!!ギガデーモンです。

317ただ一匹の名無しだ:2017/06/08(木) 16:53:59 ID:GAF8qmtQ0
投下乙です。
結局、トラペッタを脱出できたのがライアン(とホイミン)だけというのが皮肉だな…。仲間の全滅の上に生き残る、これぞバトルロワイアルってかんじで、好きです。

318ただ一匹の名無しだ:2017/06/08(木) 21:42:55 ID:7kQ7BrT60
投下乙です
自動回復とか聖域の巻物については気にならないので問題ないと思います

破邪の剣を素手で掴んで折るとことか、いかにも痛覚のない化け物っぽい感じで実に実に良い
ライアンは見事バラモスゾンビから逃げ出せるか!?
しかし最大の懸念はゲマカンダタコンビがどこか近くにいそうだということか……?
何にせよ面白かったです

319 ◆2zEnKfaCDc:2017/07/10(月) 16:54:44 ID:DxVHWx5U0
多くの呪文が飛び交い、一面が荒野と化した草原で、エイトは静かに目を覚ました。
アルスが無表情のまま腕を組んでおり、その背後ではブライがクリフトの死体にすがり付いて涙を流している。

不覚にも自分は戦いの中で気絶してしまっていたらしい。
目立った傷もなく、気絶だけで済んでいることからククールも自分同様、まだ非情になりきれていないのかもしれない。
そんなことを考えているとアルスがこちらを見てしゃがみ込む。

「おはよう。」

表も裏も感じないトーンでアルスはエイトに話しかける。
出会った時から感じていたが、このアルスという少年はいまいち何を考えているのか分からない。
殺し合いの舞台に突然巻き込まれており、いつ誰が襲ってくるのかも分からないような状況、それも透明になれるような敵と一戦交えた後だというのに、あまりにも落ち着きすぎている。
凶暴な魔物のいない風鳴りの山の山道を散歩しているかのように、実に晴れやかな様子でこの地に立っている。
気絶した自分と、泣き崩れ戦意の欠片も見られないブライに何も危害がないところを見るに殺し合いに乗っているわけではないことは分かるが、それだけで心を許せるというわけでもない。

では殺すか?
いや、まだそれだけの覚悟が自分にあるわけでもない。
結局確信も持てない疑惑に従って行動するようなことはしなかった。
せめて警戒だけはしておこうと、実質の無罪判決を下して立ち上がる。

320 ◆2zEnKfaCDc:2017/07/10(月) 17:01:20 ID:DxVHWx5U0
「向こうで誰かが戦っているみたい。」

突然、アルスが東を指差して呟く。
耳を傾けてみると、確かに大きな衝撃音のようなものが立て続けに聞こえている。

「トラペッタの方角ですね。一応、アルスさんと……クリフトさんはあの街に向かう予定だったようですが。」

第一優先で殺しておきたいククールはどちらに行ったのかもわからない上に、透明化する手段も持っている。
追いつくのは現実的ではないだろう。

しかも目に見える範囲に戦場がある。
戦場があるということはそこに少なくとも1人のマーダーの立場の者がいるということ。

また、トロデ王やミーティアが戦いに巻き込まれている可能性も充分にある。
目的を考えるなら、やはりトラペッタに向かうべきではないだろうか。

「私はトラペッタに向かおうと思います。戦いが行われているのなら放ってはおけません。」
そう言い残してエイトは走り始めた。

トロデ王やミーティアがいるのであれば一刻も早く駆けつけたい。
アルスはともかく、年老いたブライのペースに合わせている余裕はなかった。

「今度こそは…必ず守ります…!」

エイトは小さく呟いた。

321 ◆2zEnKfaCDc:2017/07/10(月) 17:09:40 ID:DxVHWx5U0
呪いをかけられたトロデ王が魔物と間違えられ、過去にトラペッタの町人に迫害され、町を出ることとなった時のことを思い出していた。

魔物の姿と化したトロデ王が町の人にどう映るのか、想像出来ない自分ではなかったはずだ。
人々の迫害がピークに達するまで駆け付けることが出来ず、冷たい視線の中、町を出ていくことしか出来なかった。

それ以来、トロデ王とミーティアは町の中に入ることを受け入れられなくなった。
ようやく見つけた二人を受け入れてくれそうな町も治安が悪く、そのトラウマを悪化させる出来事と遭遇することになった。

もしもあの時トロデ王と一緒に行動して誤解を与えない努力をしていれば、トロデ王たちに魔物の蔓延るフィールドで野宿することを押し付けなくてもよかったのではないだろうか。

それから先、何人もの賢者の末裔たちの危機にも間に合わず、数多くの死に直面することとなった。
時には、事なきを得たものの暗黒神に操られた仲間を殺す覚悟をしたことだってある。

それでも、あの悲しみに勝るものはなかった。
それほどまでにエイトの忠誠心は狂っている。

322 ◆2zEnKfaCDc:2017/07/10(月) 17:21:28 ID:DxVHWx5U0
「諸君、ご機嫌は如何かな?」

そんな彼の決意を撃ち砕く放送が始まる。

そんな事を知る由もないエイトは、走る足は止めずに耳を傾けた。

禁止エリアを話半分に聞いて大まかに頭に詰め込むと、死亡者の名前が読み上げられ始めた。
最初に聞こえた知る者の名前はマルチェロ。

ククールのあの変貌はやはり兄に関わるところがあったのだろうか。

そして、遂に訪れる残酷な真実。


「トロデ。」


時が止まる。
嘘だ。そんなはずはない。
主君の死を告げるにはあまりにも短すぎる一言は、心の準備を与える暇も心の整理をする時間も与えなかった。

槍を握るたびに震えていた手を握りしめ、敵を真っ直ぐ見据えられなかった目から迷いが消える。

狂気にも似た忠誠心は、本物の狂気に変わった。

「トロデ王が死ぬなどあってはならない…私のいないところで…ミーティア…次こそ守らないと…殺さないと…」

絶対にミーティアだけは守る。
心を保つだけの意志を胸に。

ミーティアに害を為す可能性のある者は殺す。
身を焦がすほどの狂気を胸に。

エイトは草原を斜めに駆け抜けトラペッタへと向かう。
そこは空と海と大地を越える旅の全ての始まり。
しかしこの戦いの場においては、最も多くの死者の眠る全ての終わり。

槍はエイトの心を映し出すかのように、真っ黒な雷を帯びる。
この雷はいくつの物語を終わらせるのだろうか。

323 ◆2zEnKfaCDc:2017/07/10(月) 17:46:54 ID:DxVHWx5U0
「アリーナ。」

放送は、もう一つの悲劇を生み出していた。

ブライは放送でクリフトの名前が呼ばれることは覚悟していた。
しかしクリフトを失った悲しみは、姫もまた死んでいるということを考えの外に追いやっていた。

「アルス殿…どうやら私は何もかも失ってしまったようじゃ…」

サントハイムから全ての人が消えたような時にも彼が前を向くことが出来たのは、隣に二人がいたからだ。
今度は、その二人を同時に失ってしまった。
形容し難い喪失感に溺れるブライに対して、

「どうして?」

とアルスの無気力な声が返ってくる。
今の放送ではアルスの知り合いの名前も流れていた。
この悲しみは自分だけが背負っている悲しみではないのであろう。
しかし、だからといって割り切れるものでもない。

「僕の仲間も死んじゃった。いつも明るくパーティーを盛り上げてくれていた人も、かつて英雄と呼ばれた人も死んじゃったんだよ。あと、…幼なじみの女の子も、ね。」

アルスは淡々と語る。

「アルス殿…」

そんなアルスから次に聞こえてきた言葉は、悲しみとか、怒りとか、そんな感情とは遠くかけ離れたものだった。

「でも、たったそれだけじゃないか。」

ブライには何を言っているのか理解出来なかった。

「な、何を仰るか!不謹慎にもほどがありますぞ!」

「どうしてそんなに悲しんでいるの?死んだ人に想いを馳せても何も変わらない、無駄なことじゃないか。」

「そ、そんなことは――」

「いや、分かってるんだよ。おかしいのが僕だってことくらい。」

アルスは動じずに続ける。

「でも僕には分からないんだ。悲しいって感情も、嬉しいって感情も。」

大切なものを失って''悲しんで"いる人にあんな言葉を投げかければ、"怒る"ことさえも分からないアルスではない。
それらがどのようなものかは大雑把にしか分からないアルスだが、その程度の常識は持ち合わせていた。

それでもアルスは聞かずにはいられなかった。

分からなかった。

「どうでもいいこと」を言い並べるだけの放送の中で生まれたこの気持ちを何と呼べばいいのか。

「…記憶に残ったって死んでしまっちゃおしまいじゃないか。」

324 ◆2zEnKfaCDc:2017/07/10(月) 17:47:19 ID:DxVHWx5U0

――あたしが死んだら、アルスはあたしのことずっとおぼえててくれる?


いつか誰かから投げかけられた言葉。
僕は何と答えたっけか。

「…なんか、僕らしくないよね。」

過去を思い出しても何も実らない。
そんなもの、ずっと前から分かっていたことではなかったか。

「ごめん。君の想いを否定するつもりはないんだ。ただ、僕もそんな想いを抱けたら、どこかが違う結末を迎えられていたかもしれない。そう思って、聞いてみたかったんだ。」

頭の中に生まれた影を振り払うように、半分嘘をついた。
誰かから貰った答えなんかでは変われないことなんてとっくに分かっていた。

ブライは黙り込んだ。
かけるべき言葉も見つからない。
このアルス相手に倫理的な話をしたとして、届くとも思えなかった。

「さて、と。」

何事もなかったかのようにアルスは話を切り替える。

「これからどうするつもり?」
結果的には、ブライの悲しみに火種を注ぎ込んだことでブライも少し冷静になったと言えなくもない。
先のことなど全く考えていなかったブライだったが、状況を頭の中で整理することで思い出したのだ。

大切な人を失ったのは自分だけではないことを。

そして彼は大切な人の死に対しては恐ろしいほど敏感だったことを。
もしも先程の彼の態度が自分の勘違いでなかったのだとしたら、主を失った彼が次も殺しを躊躇するという保証はない。
だとしても、彼を止められるのは同じように大切な人を失った自分だけだと言い聞かせて答える。

「放送でエイト殿の探し人の名が呼ばれたことが気がかりじゃ。エイト殿を追いますぞ。」

「ん、りょーかい。」

アルスもトラペッタに向けて足を向ける。
元からそうするつもりだったのかそれともブライに合わせたのかは分からない。

いつも通り軽いはずだったアルスの足取りが、心なしか重くなっているように思えた。

325 ◆2zEnKfaCDc:2017/07/10(月) 17:49:39 ID:DxVHWx5U0
「ほら、行きますよ。カンダタさん。」

いつまでも震えて動けないカンダタに苛立ちを覚え始めたゲマがカンダタの腕を引っ張り上げ引きずりながらトラペッタを離れて行く。

――なんで、アンタ……自分に胸を張らないのさ……!

ゲルダの言葉が頭の中をループする。

胸を張れる選択って何なんだよ。
その選択に俺の命はついてくるのかよ。

「あんな女一人に唆されるとはまったく面倒な駒ですねぇ…」

ゲマはため息と共にカンダタにお仕置きと言わんばかりに蹴りを入れる。


そんな二人の元に近づく影がひとつ。
影の持つ槍は地獄の雷を纏い、今にも二人を殺そうと迫り来る。

(これは手札の切り時ですかねぇ?)

その影の目的を一瞬で見据えたゲマは残忍な笑みを浮かべる。

その影-エイトは目の前の二人を標的と定め、蓄積しておいたジゴスパークを躊躇いもなく撃ち出す。

326 ◆2zEnKfaCDc:2017/07/10(月) 17:55:26 ID:DxVHWx5U0
右手にはグレイトアックス、左手にはカンダタの脚を握っていながら回避することは不可能。
それならば、取るべき行動はひとつ。

「え、ちょっと、デボラ…さん?」

雷に向かってカンダタをぶん投げた。
雷はゲマの腕を離れたカンダタを着弾点として爆発する。

ゲルダの言葉を聞いてからずっと迷っていたカンダタは地獄の雷の中で悟った。
(強い奴にひれ伏して…良いように使われ死んで…こりゃあ確かに、胸なんて張れねぇや。)

盗みを働きながらやりたいようにやっていた頃は、褒められた生き方ではなくとも楽しかった。
時には盗んだ金で覆面を交換しては子分たちに悪趣味となじられ、時には捕まっては土下座して――
そして、何より叶えたい夢を持っていた。

(死ぬ前に…月に行ってみたかったなぁ…。)

もう一度あの頃に戻りたい。
強い後悔と共に、ただ生き延びたかっただけの盗賊の命は燃え尽きた。

327 ◆2zEnKfaCDc:2017/07/10(月) 18:00:29 ID:DxVHWx5U0
さて、ゲマは無傷で大技をやり過ごし、エイトには大技を撃ち出した後の硬直が訪れる。
その隙を逃すゲマではない。

素早い動きの邪魔となる斧を捨て、槍を構え直す前のエイトの眼前まで踊り出て、両の掌をエイトの胸の前に押し当てる。

そしてゲマは詠唱を始めた。

過去に一人の少年を殺さなかったため、自分もミルドラース様も滅びることとなった。
アベルを石化させた時も、愉悦のために殺さずにいたため、生還されて牙を向かれた。
次こそはkのような失敗は出来ない。
ゲマは冷静な判断で確実にエイトを殺す手段を考えた。

それ故にこの戦いは一瞬で決着を迎えた。

エイトの身体にゲマの渾身の一撃が直撃した。

328 ◆2zEnKfaCDc:2017/07/10(月) 18:06:37 ID:DxVHWx5U0
ゲマには敵を葬る有力な手段が二つあった。

ひとつ目-かつて一人の戦士を葬り去った呪文、メラゾーマ。

ふたつ目-目の前の相手を石に変える強力な呪術。

目の前の相手は相当な力の持ち主であることはジゴスパークの威力を見れば明らかであった。
だからこそ、炎耐性やらマホカンタの呪文やらの要素のせいで通用するかどうか分からないメラゾーマよりも、確実に砕いて殺すことが出来る石化の呪術を放ったのだ。

その敵がエイトだったことはゲマの不運だと言えよう。

そう、エイトには呪いが効かない。

いや、エイトは始めから呪われていると言う方が正しいか。
彼の身体には竜神族によって記憶を消去する呪いがかけられており、他の呪いを寄せ付けないのだ。

他の人間であれば即死だったであろうゲマの呪術を竜神の封印がかき消した。

「そ、そんな…バカな…!」

形勢は完全に逆転した。

敵の大技を無力化したエイトと、大技の硬直で自由の効かないゲマ。
そして、ゲマは既に射程内にむざむざ飛び込んできている。
ここからエイトが負ける要素は何もなかった。

雷光を纏った砂塵の槍がゲマを一直線に貫く。
肉を貫く嫌な感触。
ラプソーンを倒してからは二度と味わうことのないものだとエイトは思っていた。

「ぐぉ…ぁ…ミルドラース様…万…歳…」
最期の時も忠誠心を忘れない。
私も、主君の名を呼びながら死ぬのだろうか。

「さようなら…」

その志に敬意を払いながら、ブライに向けた時よりも冷たい声でエイトは呟く。

近衛兵はもう戻れない。
いくつもの死を乗り越えて来た中で、乗り越えられない死と直面してしまったから。
そして最後の大切な人を守ると決めたから。

329ただ一匹の名無しだ:2017/07/10(月) 19:12:16 ID:fTNU8R720
えーと、これは投下が終わったということでいいのかな?

終わったのなら状態表の貼り付けと、投下が終了したことを、
何らかのトラブルで投下がまだ終わってないなら今どういう状況なのかを書いてほしいかな

330 ◆2zEnKfaCDc:2017/07/10(月) 22:34:44 ID:DxVHWx5U0
【カンダタ@DQ3 死亡】
【ゲマ@DQ5 死亡】
【残り50人】

【G-3/トラペッタ外部/午後】

【エイト@DQ8】
[状態]:HP9/10
[装備]:砂塵の槍
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ミーティアを守る 危険分子は迷わず殺す

【E-3/平原/午後】
【アルス@DQ7】
[状態]:HP9/10
[装備]:ドラゴンキラー(DQ3)
[道具]:支給品一式 道具0〜2個(本人確認済み)
[思考]:本気になれるものを探す。
:フォズにはまだ会いたくない。
[備考]:第1回放送の後、説明のつかない気持ちを抱いています。

【ブライ@DQ4】
[状態]:健康 MP5/10
[装備]:魔封じの杖
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:エイトを追う。場合によっては止める。

331 ◆2zEnKfaCDc:2017/07/10(月) 22:44:20 ID:DxVHWx5U0
投下終了しました。

以前アルゴンリングについての描写があったことと、ゼシカのエピソードでエイトに長い間会っていないとの話があったので、結婚ENDの時期と判断しエイトがミーティアを呼ぶ時の名称は「ミーティア」としています。これからの話に不都合があれば、wiki転載の際に変更していただければ幸いです。

332ただ一匹の名無しだ:2017/07/11(火) 00:33:39 ID:7G0oiaFg0
投下乙です
エイト容赦ない…ゲマカンダタコンビがまとめて倒されちゃったか
ゲマは相手が悪かったな

後これは指摘ですが、予約含めて本物のデボラが消えてます
死んだ二人の支給品の状況も追記したほうがいいのではと思います

333ただ一匹の名無しだ:2017/07/11(火) 00:35:39 ID:7G0oiaFg0
あ、それともう一つ、タイトルも教えていただけたらと思います

334ただの一匹の名無しだ:2017/07/11(火) 00:43:30 ID:.ZbsXVXg0
投下乙です。
ゲマは1stであっさりドロップアウトしたから今回色々やらかすと思ったら、
修羅と化したエイト先輩のかませになってしまったな。
とりあえず加速感があって面白かったです。

335 ◆2zEnKfaCDc:2017/07/11(火) 02:17:08 ID:lGxlfIxo0
デボラの記述忘れていました…!
ご指摘ありがとうございます…!


※ゲマの支給品とデボラの石像はグレイトアックスと共に放置されています。
カンダタの装備品及び支給品は燃え尽きました。

【デボラ@DQ5】
 [状態]:石化(装備ごと石化しています)
 [装備]:奇跡の剣、ダイヤモンドネイル、水の羽衣 光竜の守り@DQ8
 [道具]:支給品一式
 [思考]:自分を貫き、エビルプリーストに反逆する

336 ◆2zEnKfaCDc:2017/07/11(火) 06:58:03 ID:lGxlfIxo0
タイトルは「終わりの始まり」でお願いします。

337ただ一匹の名無しだ:2017/07/11(火) 08:13:35 ID:WaThv4tw0
投下乙ですー!
ついにエイトが一線を越えてしまった……ブライはエイトを止められるのか
ゲマも相手が悪かったとしか言いようがないけど、カンダタも最初に会った相手がゲマじゃなかったら、胸を張って生きる道もあったのかな……相手が悪かった二人に合掌

338ただ一匹の名無しだ:2017/07/11(火) 20:56:41 ID:tpi254Ps0
投下乙です
皮肉だよなあ
ククールの誘いを断ったエイトが、まさか数時間後にはククールと同じ道を歩むとは

339 ◆znvIEk8MsQ:2017/07/13(木) 18:06:56 ID:tY5QLEHY0
投下します。

340更に交錯し、ぶつかる想い ◆znvIEk8MsQ:2017/07/13(木) 18:07:43 ID:tY5QLEHY0
「諸君、ご機嫌は如何かな?」

戦いの舞台となる大陸全土に響き渡る放送。

22名もの死者の名を告げられた中、この場所にいる3人は比較的冷静だった。

ローラとパトラの知り合いは一人として死んでおらず、トンヌラにとっても、死ぬことが損得につながる人はいなかったからだ。

ハーゴン、悪魔神官。

あの二名は、どの道一度倒した相手だから問題ありませんね。そもそも自分一人で戦うつもりもないし。

竜王の曾孫。

いい気味ですよ。勝手に友達扱いしてヘンなあだ名つけやがって。結局はハーゴン討伐を押し付けた他の人間と同じで何も出来ないエセ竜め。



何が、「トンちゃん」だ。


むしろ彼にとっては、一番死んでほしいローレルとルーナの名が載せられていないことが不愉快なぐらいだった。


とりあえず、目下の問題として、リュビが死んだということも、考えようにはアドバンテージですね。
自分が守るべき、ローラと敵対しうる可能性もありましたから。


だが、新たな問題も生まれた。


2時間後、自分たちのいる場所が禁止エリアとなってしまうことだ。


とにかく別の場所に行かなくてはならない。
三人まとめてドカンなんてシャレにならない。


更に新しい問題も生まれた。

自分達がいる場所からは、東西南北と行ける場所がある。
北のトラペッタからは煙が上がっていたのが見えたため。
東はパトラを傷つけた危険な男がいるため、満場一致で危険だと判断したのだが、問題はこの後。

ローラとパトラが、西と南のどちらへ行くかで、言い争いを始めたのだ。

「だから………さっきから何度も言っているじゃないですか、私たちが来た道にはアベルという危険な男がいるのです!!」
「だから何だと言うんじゃ!!お主が勝手に命令するな!!」

二人は先導を握っていたチャモロがいなくなったことをいいことに、露骨な主導権争いをしていた。

341更に交錯し、ぶつかる想い ◆znvIEk8MsQ:2017/07/13(木) 18:08:08 ID:tY5QLEHY0
なんで王族の女というのは、どいつもこいつも扱いずらい奴ばかりなんだ……
そのやり取りを見ていたトンヌラは、ルーナのことを思い出し、顔をしかめる。


そして三人の中でも、最も大局観に優れるトンヌラは、一度提案を出した。

「落ち着いてください!!この辺りがすぐに禁止エリアになるわけではないです!!一度チャモロさんが戻るまで待ちましょう!!」
「二人共気持ちはわかりますが、こういう時に危険なのは感情的になることです。一度落ち着きましょう。」

さりげなくトンヌラは右手に持っている銃をちらつかせ、強引に二人を抑える。

こういう状況が不安定な時は、多少無理にでも会話の主導権を握るのが勝ち。
そして、話の聞き手にある程度精神的余裕を持たせる。
下手にこれを行っても反抗される可能性が高いが、ローラもパトラも、下手に動きすぎて敵を作るのを恐れている。


戦いにおいて、武力に特化した人間なら、敵をただ殴ればいい。魔法に特化した人間なら、魔法をただ唱えればいい。

だが、トンヌラは両方を使うことができたため、「自分は次に何をするべきか」、「敵味方がどう動くか」という、分析力や洞察力に長けていた。

オークのような物理攻撃中心の相手なら、マヌーサ。
仲間が傷つけば、ベホイミ。
こちらに余裕があれば、ローレルと共に攻める。
魔術師のような魔法攻撃中心の相手には、マホトーン。


僕は戦い、そして、指導者において必要で、ローレルもルーナも持ってないものを持っている。
一番のロトに近い人物、そして、ロトの世界を握る人物は、僕なんだよ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

だが、待てど暮らせどチャモロは戻って来ない。


大変なことに、なりましたわ………。

迂闊に前へ進むわけにもいかない。
戻れば、「魔王」の手の内に戻される。
かといって、このままここにいたら間違いなく死ぬ……。

342更に交錯し、ぶつかる想い ◆znvIEk8MsQ:2017/07/13(木) 18:08:32 ID:tY5QLEHY0
(これでは、八方塞がりですわ………そしてこうしている間にもアレフ様は……………。)

ローラの理想は、とにかく早く南へ向かい、アレフに追いつくことだった。
だが、既に自分が人を殺したことを知られている分、下手に動くと怪しまれる可能性がある。

せめてトンヌラさんかパトラさんを殺すスキがあれば………。
いや、そうすれば残った一人に取り押さえられ、最悪殺されてしまう。





いい加減にしろ。

なぜ皆私の言うことが聞けないのだ。
イシスにいた時はこんなことはなかった。
兵士も大臣も国民も、全て私の思うようになったのに。


あの緑の服の青年も、ローラも王族だというが、だからなんだというのだ。
おまえ達ごときが命令するな。
チャモロという眼鏡の男が戻って来ないのは、リュビと同じで死んでしまったからに違いない。
そんなに動きたくないなら、私だけ好きな所へ行かせろ。残った者だけで、勝手に死ね。

パトラの理想は、トンヌラを上手く騙してローラを嬲り殺しにすることだったが、両者に警戒されている以上は出来そうになかった。

しかも、どちらも武器を持っている様子。特に青年の方は戦い慣れているようだ。
迂闊に動いても、殺されてしまうだけだ。




マズイですね…………

先程はどうにか二人をなだめましたが、それも時間の問題。
ローラもパトラも、使い慣れていないとはいえ、武器を持っている。
どちらかが勝手に動けば、自分がケガをする可能性が高いし、最悪ローラが殺されることで自分も消えるかもしれません………。


トンヌラの理想は、パトラを持っている銃で殺害し、ローラとともにこのエリアを脱出することだが、下手に動くとパトラを勝手に殺した罪を咎められてしまう。

どうにかして、パトラを危険人物だとローラ、そして戻ってくるかわからないがチャモロに断定させなければ。

343更に交錯し、ぶつかる想い ◆znvIEk8MsQ:2017/07/13(木) 18:08:54 ID:tY5QLEHY0
三者三様に思いを馳せる中、沈黙の中に一つの悲鳴が木魂した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



アモスとの戦いの後、チャモロは沈黙の中で彼の死体と向き合っていた。
自分にはやらなければならないことが山ほどある。
三人を禁止エリアから脱出させ、ローラをアレフと合流させ、ハッサンの無念を晴らし、この戦いを止める。
でも、こんなにも身体が重いのは、なぜだろう。
その瞬間、一つの、悲鳴が聞こえた。そして、すぐに銃声と悲鳴がもう一つ。



チャモロが戻ると、そこにはトンヌラしかいなかった。
トンヌラによると、チャモロが居ない間にこんなことがあったという。


突然パトラが、斬られた傷が痛みだしたと大声を上げ始めたこと。
それを心配したローラが近づくと、急に銃を構え、ローラに向かって発砲した。
パトラはトンヌラにも銃を構えたが、トンヌラは自分の持っている銃で首尾よくそれを撃ち落とした。
しかし、パトラはどこかへ逃げてしまった。
同時に、ローラも逃げてしまった。


身重の状態で若い二人から逃げることは出来ないはずだが、
ローラは最初にハッサンから奪った最初にハッサンから奪ったとびつきの杖で、二人の追いつけないくらい距離を離した。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「アレフ様………今、行きます!!」

身体が痛む。
ローラが経験したことのない、痛み。
心の痛みではなく、かつて竜王に捕らわれたときには、感じなかった身体の痛み。
ろくに止血もせず、動いたため顔と肩から血が流れる。
だが、構っていられない。


道の先にあるアレフのものらしき足跡を発見した。
一縷の望みをかけて、とびつきの杖を再び振る。振る。振る。振り続ける。


遠くに、村が見えてきた。
しかも、煙が上がっている。
アレフ様は、あの場所で戦っているのだろう。


魔力を使い果たしたとびつきの杖は捨て、顔と肩から血を流しながら村へ向かう。

その先で彼女を待つのは、希望か、絶望か。

344更に交錯し、ぶつかる想い ◆znvIEk8MsQ:2017/07/13(木) 18:09:19 ID:tY5QLEHY0
トンヌラは同じくチャモロと、ローラを追い始める。
チャモロは、ハッサンにその罪を償わせるため。
トンヌラは、自分の保身のため。

だが、その先で、一人の少女が倒れていた。

神に仕える者として、誰一人見捨てるわけにはいかないチャモロは、ローラを追いかけることをトンヌラに任せ、彼女の手当を試みる。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「お兄さん……………だったのですか?」
「はい、リュビ君は、私のおにいちゃんで、そして、勇者でした。」


サフィールが倒れたのは外傷ではなく、先ほどの放送で兄を失ったことを知ったショックによる精神的な疲れによるものだったようだ。


「私は、チャモロといいます。つい先ほどまで、君のお兄さんといた者ですが………すいません。彼を守れませんでした。」

彼女は泣いてはいなかった。
兄の死を悲しんでいない、というよりも今、泣いてはいけない。ただぐっとこらえているような顔だった。

「いいのです。それよりも、一つだけ、聞いていいですか?」
「僕の答えられることなら。」
「私の、おとうさんが、この世界で、何をしているのか、知ってますか?」


チャモロはどう答えようか悩んだ。
彼女は、兄の死を目の当たりにし、母親は行方不明。
それでいて気疲れしているのだから。
さらに父親がこの戦いに乗っていることまで教えて、心が耐えられなくなるのではないか、不安だったから。
実際に、リュビが死んだのも、考えようには父親の事実を知ったことが原因である。

だが、やはり真実を伝えなければならなかった。
そうしなければ、自分もローラと同じでこの世界から顔を背けていることになるから。


チャモロは見たことをすべて話した。




意外なほど、サフィールは事実を受け入れた。
既にアレフから話を聞いているからかもしれないが。
そして、兄とは異なり、現実から逃避しようともしなかった。

代わりに、サフィールはチャモロにあることを教えた。

アベルの父親と母親は目の前で魔族に殺されたこと。
自分たちが生まれた時アベルの母親が魔族に捕まり、そのあとを追ったアベルも石化され、8年かけて自分達で助けたこと。
そして魔族を倒し、故郷に帰った後から、苦しんでいたような表情を時々見せていたこと。

345更に交錯し、ぶつかる想い ◆znvIEk8MsQ:2017/07/13(木) 18:10:25 ID:tY5QLEHY0
世界が救われたのに、自分は救われなかった。




チャモロはアベルに似た過去を持つ人物を知っている。

自分と共に世界を救ったが、同時に何よりも好きだった村や妹と永遠に会えなくなったレック。

彼もまた、デスタムーアを倒した後から、苦しんでいるのだろうか。

レックなら絶対に主催に刃を向けるだろうと思っていたが、彼もまた、この戦いに乗っているのだろうか。




チャモロは、アベルもローラやアレフと同様、完全な悪ではないことを理解した。
だが、「完全な悪」でないからこそ、止めなければならない。
自分が誰かを殺したという事実を、受け入れなければならない。
アモスを殺したからこそ、その重さが分かる。
人は、自分の犯した罪に、向き合わなければならない。


「私は約束したんです。その鎧の男に殺されたマリベルさんと。おとうさんを止めることを。」


サフィールの友達がアレフによって殺されたのなら、やはりそれを止めるためにも、ローラを助け、アレフと合流させねばならないだろう。
サフィールと共に元凶であるアベルをすぐにでも止めたいが、トンヌラ一人に今の仕事を押しつけるわけにもいかない。
だが、その代わりにチャモロはある道具を渡した。


自分もその効力を知っている、かつてアベルが持っていたドラゴンの杖。
かつてアベルがそれを使って子を守り、妻を助けたのなら。
再びアベルとサフィールを救ってくれるかもしれないという、サフィールの望みに応えて。


「??」
「どうしましたか?」
「いえ、ありがとうございます。必ず、おとうさんを止めます。」
「力になれなくて、すいません。私もやらなければならないことがあるので!!」

マリベルと、兄のためにも、サフィールは走る。

父を止める。
初めて目の前に現れた、「自分にしかできないこと」を完遂するために。

そして、新たに自分を使い手と認めてくれた杖のためにも。

346更に交錯し、ぶつかる想い ◆znvIEk8MsQ:2017/07/13(木) 18:10:51 ID:tY5QLEHY0
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ローラとトンヌラを騙してまんまと逃げおおせたパトラは、してやったりという気持ちで一杯だった。


ついに目的を果たした。
あのトンヌラという男から、武器は奪われてしまったがまた調達すればいい。
それよりもローラという娘。美しさはそれなりだがあんな簡単に騙されるなんて、頭の出来は良くないようですね。


あえて急所は外しておきました。
顔が崩れた所をじっくりと見られないのが残念ですが、まあいいでしょう。
美しい顔もグチャグチャになっているはずだし、華奢な腕もじきに動かなくなり、切り落とすしかなくなるはずです。




美しい顔を歪ませる笑みを浮かべながら走っていたところに、紫のターバンの男と、見たことのない獅子の魔物に出会った。


パトラはローラからアベルのことを聞いていたが、優越感に浸っているパトラは、そんなことを思い出さなかった。


「助けて下さい!!」
先程と同様、パトラはアベルに自分が襲われたことをアピールする。
「そうですか、それは大変ですね。」
アベルはにっこりと微笑みながら、剣を抜き、パトラのもう片方の腕を切り落とした。

「大変というのは、これからのことですが。」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
パトラはローラの話を思い出したが、既に遅かった。
逃げようとするが、両手を失った身体では、ろくに走ることも出来ず、転ぶ。




彼女は、国民から、兵士から、他国の者から美しいと絶賛されていた。
本人もそれを信じてやまなかった。
それほど美しい彼女の最期の姿は、切り刻まれ、醜く、無惨なものだった。


初めてアベルがパトラを見たとき、似たような風貌からデルパトールのアイシス女王を思い出させた。
だが、その気持ちは、懐かしいとか、親近感があるとか、そんな簡単なものではない。
むしろ自分を勇者にすることのなかった女に対しての怒りを、ひたすらパトラにぶつけたのであった。


「何もかも、壊してあげますよ。私の過去も、勇者も、愛も…………。」
それを見ていた獅子の王は、背筋に自分の吐く息より冷たいものを感じた。




少し遅れて、新しい人物がアベルの下を訪れる。

「おとう………さん……………。」

そこにいたのは自分の娘。
だが、アベルは二年以上その顔を見続けてきたはずなのに、今、全く知らない人を見るかのような目で、彼女を見つめていた。

347更に交錯し、ぶつかる想い ◆znvIEk8MsQ:2017/07/13(木) 18:12:23 ID:tY5QLEHY0
【パトラ@DQ3 死亡】
【残り49人】

【F-5/平原 午後】

【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP4/5 MP3/5
[装備]:破壊の剣
[道具]:支給品一式 ふきとばしの杖(4) 道具0〜1個(本人確認済)
[思考]: 目の前の娘を………。

【リオウ@DQ4キングレオ】
[状態]:HP7/10 MP4/5 魔物形態 
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個(ジョーカー特権でアイテムに優遇措置を受けている可能性があります)
[思考]:アベルに従う
※エビルプリーストによってヘルバトラーやギガデーモンに近い位階にまでパワーアップしています


【サフィール@DQ5娘】
 [状態]:MP微消費、リュビを失ったことによる精神的消耗。
 [装備]:ドラゴンの杖
 [道具]:支給品一式支給品一式×3、確認済み道具(1)、ショットガン、999999ゴールド
 [思考]:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
     おとうさんを止める


【Hー4/平原/1日目 真昼】
【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP6/10 MP3/5 腕、肩、脇腹に切り傷(応急処置済) ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める
    ローラを追いかける
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。

【トンヌラ@DQ2】
[状態]:健康 MP微消費
[装備]:SIG SG550 Sniper(アサルトライフル、残り弾10)
[道具]:支給品一式 支給品0〜1(本人確認済み)、ベレッタM92@現実(残弾5)(パトラから奪った物)
[思考]:様子を見つつ、生き延びる。ローレルとルーナに殺し合いの中で死んでもらう為、危険人物として吹聴する。
    ローラを追いかける。

※トンヌラはローラの死による自分達の消滅を危惧していますが、その可能性はまずありません

【I-6/平原/1日目・真昼】
【ローラ姫@DQ1】
[状態]: 顔、右肩に銃創
[装備]:毒針
[道具]:支給品一式、銀のティーセット 草・粉セット
    ハッサンの支給品(引き寄せの杖 場所替えの杖)
[思考]:アレフに追いつく。愛する我が子の為に戦う

348更に交錯し、ぶつかる想い ◆znvIEk8MsQ:2017/07/13(木) 18:12:49 ID:tY5QLEHY0
グチャグチャの血と肉の塊となったパトラの近くで、何かがきらめいていた。
きらきら きらきら。
周りのものがすべて血と脂で汚れている中、それは何を示すのだろう。
幻魔を呼び出すカード。
それがもたらすのは、救いか災いか。
きらきら きらきら。きらきら きらきら。

349更に交錯し、ぶつかる想い ◆znvIEk8MsQ:2017/07/13(木) 18:14:48 ID:tY5QLEHY0
以上で投下終了です。今回予想以上に長くなったことに加えて、登場人物がアベルとリオウ除いて皆長距離移動しているので、
進行方向などで矛盾があれば指摘お願いします。

350ただ一匹の名無しだ:2017/07/15(土) 06:18:31 ID:mwXj2blI0
投下乙です
前回はリュビが死んでチャモロとアモスが出会ったが、今回はパトラが死んでアベルとサフィールが出会ったか
ローラは喧嘩した相手を孤立させて死に追いやる能力でも持ってんのw
とんだ疫病神だ

351更に交錯し、ぶつかる想い ◆znvIEk8MsQ:2017/07/15(土) 16:48:43 ID:ciPyrFRY0
訂正お願いします。
トンヌラの所持品のアサルトライフルの残弾数、10→9(パトラの銃を撃ち落としたため)
ベレッタM92の残弾数5→3(ローラに二発発砲したため)

352ただ一匹の名無しだ:2017/07/15(土) 17:32:31 ID:miGET1VM0
>>351
対応しました

353更に交錯し、ぶつかる想い ◆znvIEk8MsQ:2017/07/15(土) 19:07:01 ID:ciPyrFRY0
ありがとうございます。

354 ◆CASELIATiA:2017/07/18(火) 23:49:43 ID:2hG7QAJ.0
ゲリラ投下しますね

355真実は絶望と共に在る ◆CASELIATiA:2017/07/18(火) 23:53:25 ID:2hG7QAJ.0
全身が鉛のように重たかった。
満足に動かせないほど重い体は、まるで泥の海で溺れているかのようだった。
全身から流れ出る血は体温を奪い尽くす。
眉一つ動かすのも億劫な中、ヒューザは思考の海を漂う。

――まあ……こんなもんだよな。
――自分としては良くやった方だろ。

積極的に人間を殺して回る悪いヤツとの勝負にも勝てた。
メルビンの遺志を継いで、仇を取ることもできた。
きっと自分はすごく恵まれた環境だったのだろう。
何も成すことができず、力尽きていった正義の味方もたくさんいただろう。
怯え惑い、泣き叫びながら死んでいった一般の村人もたくさんいただろう。
そういった人たちの無念を思えば、自分はかなりマシな部類の死に方のはず。
死にたくなどは無いが、ヒューザは己の分を弁えていた。

レーンの村を出て冒険者として生きていくとき、覚悟を済ませていた。
今から自分は一人で生きていくと。
それに対して考えを改めるよう、忠告してきた人は何人もいた。
アーシクだってルベカだって言ってきた。
村長や、町の酒場で出会った同業の冒険者だって言ってきた。
悪いこと言わないから他人と組め、でないと死ぬと。
細部は異なるが、皆口を揃えてこういう趣旨の言葉を投げかけてきた。
それら全ての言葉を、ヒューザは突っぱねてきた。

相棒は背中に背負ったこの剣だけで十分だった。
一人でダメそうな時は現地で仲間を集める。
そして、目的を終えたら即席のパーティーは解散して、また一人に戻る。
それの何がいけないのか。
一人で生きていくことの難しさ、厳しさは想像以上だった。
魔物だけでなく、自然でさえ時としてヒューザに牙を向ける。
だが、ヒューザの当初掲げた決意を捻じ曲げるほどの脅威でもなかった。

一人で戦って死ぬ。 大いに結構だ。
他の仲間がいれば助かった状況だったかもしれない。 それがどうしたというのだ。
俺の命は俺だけのものだ。
他の誰かのために生きるつもりはないし、他の誰かのために死んでやる義理もない。
その自分が言っている。 すべて納得した上で今の生き方を選んでいると。 
冒険者として生き、冒険者として死ねるのならどんな末路だろうと構わない。
野垂れ死にだと笑うのなら、俺が屍になってからいくらでも笑ってくれと思う。
自分の屍が野晒しにされる覚悟なんてのは、とっくの昔に背負ったからだ。

356真実は絶望と共に在る ◆CASELIATiA:2017/07/18(火) 23:55:58 ID:2hG7QAJ.0
冒険の生活に憧れているのか。
勇者のように、この世界で勇名を馳せてみたいのか。
きっと、自分はそのどちらでもない。
もっとシンプルでありふれた理由でしかない
ヒューザは剣を振り、剣で魔物を斬り、剣に生き、剣に死す。
そんな生き方しかできないだけだ。
時に誰かの依頼を受けて、魔物退治に出向いたりもする。
しかし、それは平和のためだとかそんな大層な理由の為ではない。
報酬を提示され、ヒューザはその条件で依頼を受けた。
そこにはきちんとした契約があるからやったに過ぎない。
必要以上に感謝され、勇者や英雄のように高潔な人物だと持て囃される謂れもない。

そのヒューザが思う。
上出来だろと。
こっちは勇者なんていうご立派な人種でもない、どこにでもいる一般の冒険者に過ぎないのだ。
退場のステージとしては悪くない。

死にたくはないが、限界ってものがある。
零れ落ちていく生命力を繋ぐ止める手段がヒューザには無い。
今だって生きてるのが不思議なくらいの状態なのだ。
だったらもう、無理に足掻こうとせずに大人しくこの体から命の火が消えていくのを待っているだけでいい。
指一本だって動かすと激痛が走る。
血の匂いが不快だった。
風の音は苦痛を和らげてくれやしない。
真昼のはずなのに、太陽の光を感じ取れない。
もうすぐ自分は死ぬんだろう。
そんなことをぼんやりと予感していた。

――なあ、仇、取ったぜ……。
――俺……もう死んでいいよな……。

天国とか地獄とか、死んだ生物が集う世界があるのなら、そこでメルビンに会えるだろうか。
会えたらメルビンは自分を褒めてくれるのだろうか、それとも叱るのだろうか。
意識が途切れ途切れになってきた中、そう思う。
段々と意識を保つのが難しくなっていく。

――……な!
――……死ぬな!

わずかに残された聴覚が、声を拾った。
同時に、消えかけていた意識が薄明りのように灯る。

――うるせえ。
――それができてりゃ苦労しねえんだよ。

頭の中で、声の主に対して反論する。
何故他人に頼まれて生きないといけないのだ。
精いっぱい戦って、精いっぱい生きる努力して、その果ての結果がこれなのだ。
死ぬことを受け入れた直後に、なんでこんなことを他人に言われないといけないのか。
俺の命は俺のものだ。
自分のために生きて、自分のために死ぬ。
何故そこに他人の指図が入る余地があると思うのか。

――生きろ!
――生きるでがす!

だみ声が頭に響く。
微睡んでいた意識を揺さぶる。
声は断続的に続いており、このままゆっくり寝かせてくれそうにない。

357真実は絶望と共に在る ◆CASELIATiA:2017/07/18(火) 23:57:49 ID:2hG7QAJ.0
――頼む。生きててくれ!

体が揺さぶられている。
死にかけの体にこの震動は堪える。
死への諦観が、徐々にイライラへと変わっていくのが分かった。

――何なんだよ、さっきから。
――誰なんだよ、お前は!

重い瞼を開けて、無粋な輩の存在を確認する。
そこにいたのは――

「死ぬなでがすよ!」
「お前かよ……」

数時間前に別れたはずの、キングスライムもどきの中年のおっさんがそこにいた。
むさくるしいその顔は、瀕死からの目覚めとして良い気付けになりそうだ。
ヒューザは皮肉交じりにそう思った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



血の海に伏していたヒューザだけが、一命を取り留めている。
見つけた戦闘の跡と血痕を追跡したヤンガスが目にしたのは、想像をはるかに超える惨状だった。
抉れた大地、大量の血痕、脱ぎ捨てられた血だらけのぬいぐるみ。
さきほどまで元気な姿を見せていた老体と仲間であったククールの死体。
放送で呼ばれたククール、メルビンの二人を死亡を確かに確認したヤンガス。
だが、あの放送からさらにヒューザも死んだと勘違いをするほどに、ヒューザはボロボロの状態だった。
必死の思いでホイミを連発するが、雀の涙ほどの体力を回復させる程度しか効き目はない。
ただ、もうこれ以上の死者は出したくない。
ヤンガスは回復呪文の習得をエイトやククールに任せ、疎かにしていたことを後悔していた。
役割分担と言えば聞こえはいいが、いざ一人になれば、ヤンガスは目の前で重傷になった人に満足な治療も施せないのだ。
申し訳程度のホイミでは焼け石に水でしかない。

「ああ、クソッ一体何が……。
 なあ魚のニーサン、一体何があったでがすよ!」

それでもなんとか意識を取り戻したヒューザに対して、ヤンガスが選んだのは状況の説明を要求することだった。
本来なら安否を確認できたことを祝うべきなのだが、今のヤンガスにその余裕は無い。

メルビンが死んだ。
ククールが死んだ。
悲しいことだけど、それは受け入れたつもりだった。
だが、まさかその二つが繋がっているとは、同じ時、同じ場所で起きた出来事だったとは誰が想像できようか。

ククールもメルビンも、ヤンガスにとっては大事な仲間なのだ。
信頼できる仲間がどうして二人同時に死んでるのか、ヤンガスは唯一の生存者であるヒューザにまずは聞かずにいられなかった。
混乱するヤンガスの頭脳は、とにかくこの場がこうなるに至った経緯を求めていた。
納得のできる説明などもらえないということを、どこか頭の隅で意識しながらも。

358真実は絶望と共に在る ◆CASELIATiA:2017/07/18(火) 23:59:54 ID:2hG7QAJ.0
「決まってんだろ……そこのククールにじーさんが殺された。
 俺も殺されそうになったから殺した。 それだけだ」
「でっ……」

可能性としてはそれは十分に有り得る。
ヒューザを起こしてる間も、ヤンガスはその可能性は考えていた。
状況からして、ヒューザ・メルビン側が襲った、もしくはククール側が襲った。
その二つの可能性が最も高いのだ。
分かっているのだが、ヤンガスはその言葉を素直に受け入れることはできなかった。
顔を真っ赤にし、怒りで体を震わせ、ヒューザに対して殺意すら抱く。

「デタラメを言うんじゃねーぞクソガキが!!」

ヒューザの胸倉を掴んだヤンガスが至近距離から睨みを利かせる。
ククールが襲ったということは、ククールはこの殺し合いのゲームに乗った、という事実に相違ない。
長い付き合いであるククールがそんなことをするとは到底思えなかった。
故人を貶めるようなヒューザの言葉を、ヤンガスは許すことができない。
その言葉の訂正を強制するかのように、ガンを飛ばす。
ヒューザの服の襟が千切れてしまいかねないほどに力を込める。

「デタラメじゃねえよ! 見りゃ分かんだろ!
 こっちだってあやうく殺されるとこだったんだぞ!?」

ヒューザが心外だと言わんばかりに反論する。
ヤンガスの腕を振りほどこうと、ヒューザが腕に力を籠める。
しかし、その力はあまりにも弱々しかった。
自身の体力の衰えに舌打ちして、ヒューザは言葉を続ける。

「じゃあお前は俺がククールとじーさんを襲ったって言うのかよ!?」
「うっ、それは……」

ヒューザの言葉を否定するなら、残った可能性はそれしかない。
だが、ヤンガスもククールの凶行は否定したいが、生き残ったヒューザを犯人と決めつけたい訳でもないのだ。
もう一つ、この場を説明できる可能性があるとするならば、それはこの場にいない第四の人物が犯人だという可能性。
しかし、その可能性はヒューザが否定してるに等しい。
この場にいない架空の人物にすべての罪を負わせれば、ヤンガスの仲間のククールの名誉も傷つかないし、ヒューザも疑われることは無い。
にも関わらず、ヒューザはハッキリとククールが襲ってきたと明言してるのだ。
ヤンガスが求めている、誰も傷つくことない魔法の言葉など、どこにも存在しない。

だけど、やっぱりその言葉を聞いてもなお、ククールが襲ったという言葉は信じがたい。
胸倉を掴むこと自体は止めたが、それでもヤンガスはヒューザの言葉を信じたくはなかった。
行き場のない感情をどう処理するか考えあぐねているヤンガスに対し、ヒューザは立ち上がり武器を取る。
片手剣とハンマーを同時に装備した二刀流。
しかし、ヤンガスの胸中はそんな珍しい構えに関心を奪われる余裕もなかった。

「いいぜ。 お前が納得できないんなら、これでケリをつけようじゃねえか」
「な、何を言ってるでがすか」
「ダイス、コイントス、ガチの真剣勝負……冒険者同士が僻地で揉めた時にはそうやって白黒つけるしかないだろうが」

深い洞窟の奥には役人も治安維持の組織もない。
そこで人間同士のいざこざが起きた時は、現地の人間同士で解決するしかないのだ。
当事者同士が合意したのなら、どんな馬鹿げた勝負だろうと成り立ってしまう。

ククールが他人を積極的に殺していたなんて信じられない。
いいや、ククールは間違いなく人殺しだ。

359真実は絶望と共に在る ◆CASELIATiA:2017/07/19(水) 00:03:20 ID:s9su26g.0
この二つの主張が真っ向から対立する以上、あとはぶつけ合うしかない。
正しい方が勝つのではない。 勝った方が正しくなる、が正解だ。
勝った方がシロだと言えば、真実はどうであろうとそれはシロとなるのだ。

「来いよ。 俺は簡単に負けるつもりはないぜ」
「うう……」

たじろいでいるのは重傷のヒューザではなく、五体満足なヤンガスの方だった。
守りたいのはククールの名誉。
なのに、真実はどこまでも非情で無情であった。
ククールのことをよく知りもしない癖に、殺人鬼の一言で切って捨てられることが我慢ならなかった。
そんなことはないはずだと、声を大にして言いたかった。
しかし、自分の言葉はどうやってもヒューザに届かない。
それどころか、ただ一人生き残ったヒューザとも戦わないといけない事態に発展してしまってる。
違う。
ヤンガスはヒューザが殺したのだと言いたいのではない。
ただ、ククールはヒューザの思ってるような人間ではないと、そう言いたいだけだ。
それなのに、ヒューザは真っ向からその言葉を否定する。
ただ、その言葉を押し通そうとするのなら、もうヒューザとの戦いは避けられない。
こんな水掛け論で殺し合いを演じてしまっていいのか。
迷うヤンガスの瞳に、震えるヒューザの姿が映る。

(手が……震えてるでがす)

武器を持ったヒューザの両手は、そのどちらもが震えていた。
それだけでない。
顔だって、隠しきれない疲労と苦痛が見え隠れしている。
口許からは荒々しく呼気が吐き出されている。
満身創痍とはこういう状態のことを言うのだろう。
今のヤンガスなら、労せずして勝てるだろう。
走ってきたとはいえ、瀕死の人間に後れを取ることなど有り得ない。

「ううっ……」

きっとヒューザは生きるために戦っているのだ。
ククールと死闘を演じ、そして今また相容れぬ敵となりかけているヤンガスとも戦わんとしているのだ。
すべては生きるために。
命の炎が燃えつきるまで、最後まで足掻くために。
現状の実力差が読み取れないヒューザではあるまい。
なのに、ヒューザは最後まで諦めていない。
この命を踏み潰してしまっていいのか。
自分が納得するためだけに、この生の輝きを消していいのか。
生きようとする意志、そこに真も偽もないではないか。
生きてる限り生き続ける。 それは誰にも否定できない普遍的な価値のはず。

言ってしまえば、ヤンガスの匙加減一つでヒューザの生死などどうにでもなるのだ。
なのに、このヒューザは屈することもなく、媚びることもなく、ただ己を貫いている。
誰にも染まらぬ孤高であり、高潔な魂がそこにあった。
ヤンガスはこの男を、殺したくはない。
いや、死なせたくないと思ってしまった。
それがククールの罪を認めることになってしまってもだ。
これ以上、出さなくてもいい死人が出るのは御免だった。

「……っクソオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

振り上げた拳を地面に打ち付けて、ヤンガスはヒューザに背を向けた。
もう頭の中がぐちゃぐちゃだった。
今は、何も考えたくはなかった。
毒気を抜かれたヒューザが言葉を投げかける。

360真実は絶望と共に在る ◆CASELIATiA:2017/07/19(水) 00:05:29 ID:s9su26g.0
「で、どうするんだよ?」
「……墓、作るでがす」

その言葉を聞いてヒューザは武器を手放し、腰を下ろした。
大きく安堵の息をついて。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



せっせと土を掘り、二人分の墓を作るヤンガス。
メルビンの墓を作る時、ヒューザは手伝いを申し出たが、それはヤンガスが断った。
それよりも体力の回復を優先しろと言った。
半死人にムチを打つほど、ヤンガスは冷酷な性格ではない。
何より、本当にククールがメルビンを殺してしまったのなら、それは仲間である自分が罪滅ぼしをすべきだと思ったからだ。

「なあ」

「何でがす」

「お前の仲間な、強かったよ」

「そうでがすか……」

「たぶん、俺一人じゃ勝てなかった……」

それはヒューザなりの慰めのつもりだったのだろうか。
ヤンガスの心が少しだけ救われた気がした。

「さてと……」

二人分の墓を作り終えたのを確認したヒューザが腰を上げた。
その墓が隣り合って作られていることには、文句は言わないでおくことにした。

黙祷しながらヒューザは思う。
きっと、ヤンガスの言うこともヒューザの見た事実も、どっちも真実なのだ。
ククールは女癖が悪いが、いざという時は頼りになる奴。
けれど、この世界で何らかの外的要因が加わって、メルビンやヒューザを殺さないといけなくなった。
この二つの間に、何かがあったのだ。。
神ならぬヤンガスとヒューザに、その未知なる過程を解き明かすことはできない。
自身の命を何度も救ってくれた古の英雄に感謝の祈りを捧げ、ヒューザは当初の目的通り、東への歩みを再開する。

「ヤンガス。 俺は間違ったことをしたとは思っちゃいないぜ。
 殺されそうになったから殺した。 そこにそれ以上の理由づけなんて必要ねえ」

戦いが佳境に入ったあの時、ククールは苦しそうな表情を見せた。
今の状態が本意ではないことを匂わせるような、辛い顔をしていた。
しかし、ククールに何らかの事情があったとして、ヒューザがそれを慮ってやる義務などない。
あれだけ実力が伯仲していた相手だ。
変な詮索をしようと気を抜いた次の瞬間には、ヒューザはレイピアでハチの巣にされてもおかしくは無かった。
そしてそれ自体、ヒューザの勝手な推測に過ぎないし、何よりもメルビンとヒューザは最初に友好的な態度を示している。
あの状態から攻撃され、メルビンがシャイニングボウで貫かれてしまったあの時に、ククールとヒューザにはもう平和的解決など見込めなかったのだ。 

「言ったよな? みんなでなかよしこよし手を繋いでって訳には……行かないんだろうってな」

ククールへの恨みつらみなら、まだ言いたいことは山ほどある。
しかし、ヤンガスの大事な仲間でもあるのなら、これ以上は死者の尊厳を辱めるようなことはするまい。

361真実は絶望と共に在る ◆CASELIATiA:2017/07/19(水) 00:08:36 ID:s9su26g.0
「じゃあな――」

もう、ヤンガスとの仲間とは協力できないかもな。
そんなことを考えながら、ヒューザはヤンガスの下から去った。

「なあ、何でこんな馬鹿なことしたんでがすかククール……」

何故こうなってしまったのだろう。
どうしてこうなってしまったのだろう。
エイトやゼシカと憎まれ口を叩きながらも仲の良かった、あの聖堂騎士はもういない。
土の中で永遠の眠りについてしまった。
トーポが悲しそうに鳴き声を上げている。

「こんな……馬鹿なことをよぉ……」

そう、『馬鹿なこと』なのだ。
ククールがこんな凶行に及んでなければ、今頃メルビンもククールも死なず、対エビルプリーストの心強い仲間がさらに一人増えていたはずなのだ。
死者はもう何も語らない。
何故こうなったのか、それをすべて説明できるものはどこにもいない。
やり場のない怒りを胸に秘めて、ヤンガスは悄然としていた。


【E-4南/森林/1日目 午後】

【ヒューザ@DQ10】
[状態]:HP2/10 MP0
[装備]:名刀・斬鉄丸@DQ10 天使の鉄槌@DQ10
[道具]:支給品一式 支給品0〜1
[思考]:仲間(特にジャンボ)を探す
:東へ向かう

※E-4街道付近に血まみれのぬいぐるみ(DQ3)が落ちてあります。
※ククールの遺体付近に 堕天使のレイピア オーディーンボウ@DQ10 矢×9 支給品一式×2 不明支給品0〜2が落ちてます


【ヤンガス@DQ8】
[状態]:健康 MP7/10
[装備]:スライムの冠(DQ8) ふつうのチーズ(DQ8) 激辛チーズ(DQ8)
[道具]:支給品一式 トーポ(DQ8) バニースーツ(DQ10) 堕天使のレイピア オーディーンボウ@DQ10 矢×9 不明支給品0〜2
[思考]:仲間たち(特にエイト)との合流を図る。
黒幕の情報を集める ジョーカーへピサロの伝言を伝える
第三回放送の頃に可能であればトロデーン城に戻る
※トーポは元の姿には戻れなくされています

362 ◆CASELIATiA:2017/07/19(水) 00:09:33 ID:s9su26g.0
投下終了しました

363ただの一匹の名無しだ:2017/07/19(水) 18:49:12 ID:HN8mpaDs0
投下乙です。ククールの死を乗り越えて、ヤンガス頑張れ。
そういやヤンガスってホイミベホイミ使えたな。
確かあと一発殴ればいいところでちょっとHPの減ったエイトにベホイミしてた思い出が

364箱のカギは何処へ ◆znvIEk8MsQ:2017/07/28(金) 23:27:46 ID:jgrfUtdI0
投下します

365箱のカギは何処へ ◆znvIEk8MsQ:2017/07/28(金) 23:28:48 ID:jgrfUtdI0
勇者アスナの目の前に映っていたのは、人ならざる者。
体形こそは人間となんら変わりないが、青白い肌や尖った耳は間違いなく人の物ではなかった。

でも、話しかけなければ。
ここには、会話の手伝いをしてくれたホープも、サヴィオも、ファナもいない。
自分一人で、なんとかしないと。

「あ、あああああなたは、だ、だdddだrrrれなのですkkか?」
アスナはしどろもどろになりながら目の前の魔族に話しかける。

「貴様こそ、なぜ寝たふりしていた?」
「!!」

バレてた。バレてたバレてたバレてたバレてた。
どうしよう、考えがまとまらない。
何もしていないのに動悸が高まっていく。
誰か、助けて。

「聞こえなかったのか?貴様はなぜ、寝たふりしていたと聞いているのだ!!」
「わ、わたしは、ひ、ひとが、にがてで、でも、どうにか、しないと、い、いけないです。kkkここれでも勇者ですから。」

ピサロはアスナが何を言っているのか全く分からなかったが、彼女が勇者であることだけは分かった。
自分の世界の勇者、ユーリルは放送で呼ばれたというのに、今度は別世界の勇者とは。


どうやら、私はつくづく勇者と縁があるようだな…………。


だが、私のイメージしていた勇者とは、全く違うようだ。
そういえば、先ほど読んだ本に、こう書いてあったな、


「魔王を倒したから勇者なのではない。
勇者だから魔王を倒すのだ。
つまり後天的な要素ではなく、先天的な由来によってあらかじめ決まっているのだ。」

その説を利用すると、人間性、もしくは能力が勇者向きでなくても、勇者になれる、あるいは、なってしまう者も現れるのでは?


そこで、私は一つ試してみることにした。
本当に彼女が勇者に向いていない勇者なのか。


「最初の質問に答えてなかったな、私はピサロ、魔族の王だ。
 さあ勇者よ、貴様はどうする?」


「だ、だれであろうと、魔族なら許せません!!」

アスナは剣を抜き、ピサロに向けた。
成程。やはりそう来るか。
相手は本気で私のことを敵と思っている。
加えて相手の実力、持っている武器共に未知の物である以上は、油断していられない。
最も、私も魔族の王「だった」者。
丸腰とはいえ、簡単にやられるわけにはいかないが。

366箱のカギは何処へ ◆znvIEk8MsQ:2017/07/28(金) 23:29:25 ID:jgrfUtdI0
アスナの太刀筋を一つ一つ読み、回避していく。
必死で振るおうとするも、紙一重でかわす。

「どうした?そんな太刀筋では、私は倒せんぞ?」

確かにその辺りの戦士や魔物に比べたら速く、鋭い。
だが勇者として、ユーリルと比較してみると、お世辞にも合格点とは言えない。
これでは進化の秘宝を使った私や、エビルプリーストを倒すことなど、到底不可能だろう。



(この男、強い……もしかすると、バラモス以上!?)

「その程度で勇者だと?笑わせるな。」
「くそぉ!!」
アスナはフルパワーで剣を振り下ろす。
だが、その隙を突かれ、逆に拳を腹に入れられ、窓から外の遠くに吹き飛ばされる。

「きゃ!!」
「この程度とは、期待外れもいいところだな。
貴様はここから逃げても、どの道別の参加者に殺されるだろう。
今、引導を渡してくれる!!」


「出でよ!!地獄の雷!!ジゴスパーク!!」
碌に呼吸も整っていないアスナの前に、紫色の雷が現れる。
当たれば、バラモスのメラゾーマ以上のダメージを受けそうだ。
逃げようにも、この状況では避けられない。
どうする。どうすればいい。
アスナの目の前が真っ白になった。

「きゃああああああああああ!!!」

悲鳴と共に、アスナの下から魔法が放たれる。
勇者のシンボルである、デインの魔法。
問題は、その魔力が桁違いだということだ。


魔法弾は、雷をまき散らしながら、ゆっくりと進む。

彼女から放たれた雷球は、ジゴスパークの雷をたった一撃で消した。
雷球は止まらない。
直撃すれば、自分も、背後の図書館もタダでは済まない。
ピサロは咄嗟にイオナズンを放ち、魔法を上に弾き飛ばそうとする。
多少はダメージを受けながらも思惑は成功し、直撃を避けることができる。
だが、止まらない。
今度は雷球は上の方に進む。
トロデーン城の屋根にぶつかり、その部分が消し飛ぶ。
それでも、止まらない。
天空まで飛んだ所で、衝撃と共に雷球は爆散した。

367箱のカギは何処へ ◆znvIEk8MsQ:2017/07/28(金) 23:29:51 ID:jgrfUtdI0
一方で予想の斜め上を行く魔法を放った彼女はというと、放心状態だった。
「あ、あ、あ………」
多少のダメージを受けていたとはいえ、相手が無事だったことを気づいて、震える足で逃げようとする。
「ベホマ」
「あ、あれ?」
「どうした。」
「私を、助けて、くれたの、ですか?」
「貴様の好きなように考えろ。」

ピサロはそのまま踵を返し、図書館に戻る。
よく見ると、城の図書館の屋根が、半分消し飛んでいる。
最初にピサロがアスナを外に吹き飛ばしたのは、戦いが原因でゲーム攻略のカギになる図書館への被害を気にしてのことだが、かすめただけでこの有様とは。自分の判断が正しかったと実感する。


だが、それ以上に目を引くことが、図書館の屋根のさらに上にあった。



空はなんの変哲もなく青いはずだが、アスナの魔法が爆散した辺りの所に、大きくはないが、ここから十分視認できるほどの黒い穴が空いていた。


「あ、あれは、なんでしょうか。」
「分からん。」

やはりここは、エビルプリースト、あるいはその後ろにいる者によって作られた世界なのだろう。

一瞬だが、ピサロは自分の首輪を気にする。
わずかとはいえ、この世界のからくりが見破られたからには殺されることを危惧したが、首輪は何の反応もない
まあ、考えればこの世界が実在するトロデーン大陸でないことは、すでにヤンガスを始め何人かが認識している可能性が高いし、それを知っているだけでどうにか出来るものではないが。
現にあの黒い穴だって、本当は何なのか全く分からない。
近くへ行って調べようにも、空を飛べる道具もなく、翼を持つ者もいない。


二人が何も出来ずに地上から見ている間に、天空の穴は閉じてしまった。


結局はエビルプリーストの作った巨大な箱の中にいることは、全く変わらないのだ。
やはり目下の課題としての、首輪の解除と箱のカギを探すことに専念すべきだろう。
二人は図書館に戻る。
「アスナ」
「はい?」
「貴様、ここにある本からこのゲームのカギになりそうな情報を引き出せるか?」
「は、はい。私、読書は、得意だったので。一人で、出来るから………。」
「この辺りの本棚は、私がまだ読んでないものだ。そこから、有益な情報を探せ。」
「……………。」

368箱のカギは何処へ ◆znvIEk8MsQ:2017/07/28(金) 23:30:09 ID:jgrfUtdI0
アスナにとって、ピサロは全く見たことのない相手だった。
この戦いの参加者の中には、ライアンとホイミンのように、魔物と協力する人間もいたが、彼女はそうではなかったので尚更である。

自分のことを魔族と言っていたが、これまでアスナが見た魔族、バラモスやゾーマなどとは違うようだ。
突然自分を襲ったと思ったら、回復してくれて、今度は仕事を手伝え、と。
何が何だか分からない。
いつの間にかピサロと話ができるようになったが、やっぱり彼女はいつもの知り合いが欲しかった。
いっそ、カンダタでもよかった。


「やはり、勇者の素質を持っているのだな………。」

ピサロは、今は勇者を殺そうというつもりは全くなかった。むしろ、何かの形で協力することを望んでいた。
エビルプリーストを倒して、しばらく経ったあの日から。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「いよお!!ピーちゃんひっさしぶり!!どーぉ?最近チョーシは?ロザリィちゃんと、うまくやってるう?」
「…………どうしたのだその貴様?」
「ハア!?声が聞こえなかったんでスケドオ!!ワン・モア・セイ・プリィィィズ!!」
「貴様は、何故、そんな態度でいるのだ!?英雄としての自覚はないのか!?」
「もー!!折角平和になったんだ。勇者なんてどーでもよし!!
俺はこのままやりたいように生きるの!!ピーちゃんも、そんな暗い顔しちゃ、ダ・メ・ダ・ゾ☆」
「ユーリルちゃん、あそぼー!!」
「エイミちゅわあああああん!!今いくよおおおおおおお!!」
そのままユーリルは、バニーガールの方へ消えていった。


その時、ピサロは喪失感と、同時に激しい怒りを感じた。
ただユーリルが勇者として「造られた」存在であったという事実だけではない。
自分が人間共に、ユーリルが勇者になるためのトリガーとして利用されたこと。
その事実を魔族の王としてのプライドが許さなかった。
一度は再び進化の秘宝に手を出し、人間を今度こそ根絶やしにしようとも考えたが、それでは同じ失敗を二度繰り返すだけになる。

369箱のカギは何処へ ◆znvIEk8MsQ:2017/07/28(金) 23:32:06 ID:jgrfUtdI0
その時、ピサロは喪失感と、同時に激しい怒りを感じた。
ただユーリルが勇者として「造られた」存在であったという事実だけではない。
自分が人間共に、ユーリルが勇者になるためのトリガーとして利用されたこと。
その事実を魔族の王としてのプライドが許さなかった。
一度は再び進化の秘宝に手を出し、人間を今度こそ根絶やしにしようとも考えたが、それでは同じ失敗を二度繰り返すだけになる。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「まさか、あれが最後の別れになるとは………。」
とはいえ、今やるべきことは別のことだ。
ここから出ないとできないことについては、ここから出て考えればいい。
一方でアスナは、順調に本を読み進めている。
丁度1冊調べ終えたところのようだ。
少なくとも、ヤンガスよりかは捗るだろう。

手元にあった「勇者死すべし」の続きを読み始める。
本当は脱出の手掛かりがこの本に書かれている可能性はどちらかというと薄い。
だがアスナというユーリルとは全く異なるタイプの勇者に出会い、もっと勇者のことについて知りたくなったからだ。


〜勇者死すべし 第一章 勇者という名の生贄〜
『そもそも勇者というのは、本当に幸せなのだろうか。
 端で見れば賞賛と期待を一身に受け、魔法も剣術も使いこなし、羨ましがる人も少なくないだろう。
 だが、光があれば、影もある。
 賞賛と期待を受けている人物は、必ずしも幸せではないのだ。
 最初に説明した通り、勇者は産まれた時から勇者であるため、多くの人間が彼ら、又は彼女らが幼き頃から惜しみない投資をするだろう。
 最も、はした金と粗品しか渡されなかった勇者もいるそうだが、物品はまた別の話。
 ある者は、魔法を教え、ある者は剣術を教え、またある者は道具の使い方を教え。
 そして、ある者は魔王というのがいかに邪悪で、死すべき者か吹聴する。
 だが、勇者は本当にそれを望んで受け取っているのだろうか。
 答えは、ノーである。
 自分の故郷や家族を滅ぼされた者ならともかく、まだ幼い勇者が、魔王が恐ろしい存在かどうか、そしてそれを倒すための方法など、知る気もないだろう。
 せいぜい幼い勇者が知りたいのは、どうして空が青いのかなどの、身近な出来事だ。
 中には勇者として、見知らぬ間物や人と関わることなどまっぴらごめんという者もいるはずだ。

370箱のカギは何処へ ◆znvIEk8MsQ:2017/07/28(金) 23:32:50 ID:jgrfUtdI0
これは、アスナのことか?
ピサロはさらに読み進める。


 それなのに何故、知りたくないことを否応なく叩き込もうとするのだ。
 何故なら、勇者は、人間ではない。
人間の「道具」だからだ。
 勇者は普通の人間達と違う者、はっきり言えば、使い捨ての対魔王用生物兵器だからだ。
 たとえ刺し違えても魔王を倒せ、何故ならおまえは勇者だから。
 勇者と共に旅に出たごくわずかな人間は別として、多くの人間は勇者をそのような目で見ている。
 そして命がけで魔王を討伐した後は、一時的には賞賛を受けるが、平和になった世界で、強すぎる者として、やがて煙たがられる。


 話を少し変えるが、そもそも勇者という、魔王を破壊するほど強すぎる存在は、人間向けではない。
 人間の魔族を含めた他の生物と違う点。
 それは、力を軽んじている点である。
 人間は自分達が力によって脅かされている時こそ力ある味方を求めるが、そうでない時は力ある者を妬み、恐れ、敬遠する。


 「力ほど純粋で美しい法律はない。」

 これはとある世界の魔王が言った台詞らしいが、魔族のみならず大半の生物当てはまる命題だ。
 力がある者が生き残り、そうでないものは喰われる。
 だが、人間はそうではない。
 人間は何かにつけてその事実から目を背けようとする。
 そして「出る杭を打つ」という姿勢で、自分達より抜きんでた者を追い払おうとする。
 常に力のある者が上に出る魔族と、人間が相容れないのもこれが原因だ。



 魔王を倒すほどの力を身に付け、故郷に凱旋した勇者の末路は、大抵碌なものでない。

 とある者は破壊神を破壊するほど危険な男とみなされ、国から追い出された。

 またある者は魔王討伐と引き換えに最も好きな世界と、そこにいた人々を捨てることになった。

 またある者は魔王を倒したが、魔王に囚われた大切な人を救えず絶望した。

 またある者は自分が勇者として、魔族に敵意を抱くように仕向けられた者だということが分かり、英雄としての自覚を捨て、生きることにした。

 またある者は………』

371箱のカギは何処へ ◆znvIEk8MsQ:2017/07/28(金) 23:33:08 ID:jgrfUtdI0
まただ。
さっき自分のことが書かれていると思ったら、今度はユーリルらしき人が書かれている。
しかもアスナらしき人物も書かれているではないか。
最初のことは偶然だと断定しても、こう立て続けに偶然が重なれば、奇妙に思えてくる。

「おい、アスナ」
「は、はい、なんでしょう。」
「貴様のその剣、この戦いの前に見たことがあるか?」
「いえ、み、見たことがありませんが………。」

さらに一つ考えると、アスナが持っていた剣は、ピサロの世界にない物だった。単に知らなかった、という可能性は低い。
ピサロが人間界侵略の際、敵の武器を幅広く研究し、ユーリル達との旅でも天空の剣、魔界の剣をはじめとする多くの武器を知ったからだ。


一つは、アスナが持っている別世界の剣。
もう一つ、自分を含めた多重の世界のことを書いてある本。
そして、自分達の世界にはいない人物を集めたこの戦い。


あくまで推測の域でしかないのだが、少なくともこの戦いに関わる誰かが、自分以外の世界のことを詳しく知っている。
エビルプリーストに力を与えた人物もそいつの可能性がある。
ヤンガスに聞いたところ、ラプソーンは闇の世界とヤンガス達の世界を繋げようとしたらしいが、それも何か関係があるかもしれない。

そうすると、この図書館にある不自然な揃い方をしている本にも、納得がいく。
この世界を作ったエビルプリーストか誰かが、あらゆる世界からあらゆる本を集めて、この場所に適当に揃えたのだ。
あらゆる世界からあらゆる道具を集めて、参加者に適当に配ったように。
ここにある本は、実際のトロデーン城にあるものではない。

そういえば、本というと大半の物に執筆者の名前が書いてあるはずだ。
執筆者イコール関係者というには、論理を飛躍させすぎているが。何かの手掛かりの可能性はある。
しかし、背表紙を見てみても、タイトルは書いてあるが、その名前は書いてない。
最後のページに、筆者の名前が書いてあるかもしれないので、先にそれを見てみる。
案の定、そこはただの白紙であり、そこにも何もない。

372箱のカギは何処へ ◆znvIEk8MsQ:2017/07/28(金) 23:34:25 ID:jgrfUtdI0
だが、そこに挟まっていたのは、一枚の紙
そして、ピサロが知っていた者の字。




かつて部下として、書記をやらせていた、大魔道の字だ。
奴も、エビルプリーストとともに生き返ったのだろうか。

『この手紙を、エビルプリーストに牙を剥くものが読むことを祈る……』

エビルプリーストに反逆していたのか。
奴は、何故この本に、わざわざ手紙を入れたのだろうか…………。
奴は、何を伝えたくて、こんな回りくどいことをしたのだろうか………。
「勇者死すべし」の本は、ピサロの手の汗で湿っていた。



【D-3/トロデーン城図書室/午後】
【アスナ(女勇者)@DQ3】
[状態]:ほぼ健康 性格「ひっこみじあん」
[装備]:ゴディアスの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:エビルプリーストを倒す。そのために仲間(知り合い最優先)を探す。
ピサロとともに、このゲームから脱出する手掛かりを本から探す。
    ひっこみじあんを克服したい。でも知り合いも来てほしい。
[備考]:不明支給品の中に性格を変える効果を持った本や装飾品は入ってません。
    トロデーン城の地理を把握しています。

【ピサロ@DQ4】
[状態]:9/10
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]:アスナと協力して図書室で首輪を外す方法を探す 大魔道からの手紙を読む。 エビルプリーストをこの手で葬り去る
※ジバ系呪文の知識を得ました
※エビルプリーストの背後に黒幕がいるのではと疑っています
現状ではラプソーンが怪しいと考えています

373箱のカギは何処へ ◆znvIEk8MsQ:2017/07/28(金) 23:34:54 ID:jgrfUtdI0
投下終了です。誤字脱字あれば、指摘お願いします。

374ただ一匹の名無しだ:2017/07/29(土) 01:29:50 ID:/iNkLUKk0
投下乙です
11の発売日にすごいのがきたもんだ
本がどうやってリレーされていくのか楽しみてならない
しかしピサロが聞いたユーリルの最期の台詞があんなんだとは……お前それで良かったのかよユーリルw

375ただの一匹の名無しだ:2017/07/29(土) 22:22:52 ID:O2nZyr8.0
DQ11発売おめでとう。もし4thやるとしたら11と10の3,0からスタート組が入るかな?
とりあえず頑張って3rd終わらせよう。

376決意も誇りも無力だから:2017/08/07(月) 00:48:50 ID:sLP.5hUs0
定時放送が死者の名を告げていく。

知っている名前が聞こえても、悲しみに暮れる暇などないことはそこにいる全ての者が分かっていた。



「いつまで隠れておる、そこの者どもよ。ワシを殺しに来たのであろう?ならば始めようではないか。殺し合いを―――」

放送が終わり訪れた暫しの静寂をかき消すように、竜王が低い声で告げる。


「気づかれてんじゃねーか!」

「ちょ、タンマタンマ」

「来ますぞ!」


「ベギラマ!」

閃光がキーファ、レック、オルテガの隠れていた岩を包み込む。

3人は飛び退いてそれを避け、戦いの姿勢へと移る。


キーファは遠隔攻撃の手段を持ち合わせていない。相手が呪文を使うと分かった以上、一方的に相手の攻撃を受ける位置に身を置くのは得策ではない。
素早い動きで竜王の前に躍り出る。


「くっくっく、格好の的だぞ。メラゾーマ!」

真っ直ぐ突っ込んでくるキーファに向け、巨大な火球が放たれる。

「オルテガさん!頼んだぜ!」

「承知した!」

それを前にしても、キーファは歩みを止めない。


「バギクロス!」

キーファの背後に続くオルテガが呪文で応戦する。

竜王との魔力の差は大きく、オルテガの呪文など容易く掻き消されてしまったものの、その呪文は確かに火球の勢いを弱め、微かな活路を開く。

377決意も誇りも無力だから:2017/08/07(月) 00:51:59 ID:sLP.5hUs0


「くらいやがれ!真空斬りッ!」

「ふんっ!」

キーファの振るう剣は二度の太刀風を巻き起こすが、竜王は微かに身を捩らせて躱す。


「なかなかの太刀筋じゃ。じゃが――――――」

渾身の一撃が空に舞ったキーファがもう1度構え直す前に、竜王は杖を逆さに構えて真っ直ぐ突き刺した。

槍とは違い殺傷力には欠けるものの、腹部に走る痛みはキーファの意識を一瞬飛ばすには充分であった。


そしてキーファが壁となり充分に剣を振るえないオルテガに杖を構え直して殴りかかる。

「いつぞやの勇者ほどでもないのう…?」


オルテガは咄嗟に左腕を前に突き出して杖の打撃から身を守る。

左腕の痛みを堪え鋼の剣で斬り掛かる。
また、キーファも竜王を据え直す。


それに対し、竜王の杖の先からいくつもの小さな閃光が放たれた。


距離を置くために呪文のラクを最低クラスのギラにまで落とし、更に詠唱を破棄して連発することに特化した呪文の波。

到底致命傷にはなり得ないものの、前衛2人の動きの大部分を封じた。


そして2人を近づけないまま、竜王は極大呪文の詠唱を終えた。


「焼き尽くせ、ベギラゴ――――」



――――アストロン。


遮るようにレックが唱える。
運の悪いことに、レックには武器と呼べるものが一切支給されていなかったため、この戦いにおける後衛を任せられることとなった。


そんなレックの的確な介入により、キーファとオルテガは竜王の攻撃を無傷で凌ぎきる。


「俺もいるってこと、忘れてもらっちゃ困るんだよね。」

378決意も誇りも無力だから:2017/08/07(月) 00:58:41 ID:sLP.5hUs0


「ほう…ただの虫けらどもというわけでもなさそうじゃな。ならば―――」

両腕をいっぱいに広げたまま、竜王の身体が浮き上がる。

呪文の詠唱の余地を与えぬよう、キーファとオルテガが各々の業物を構えて斬り掛かる。
その切っ先が竜王の胸を捉える寸前だった。


竜王の首飾りから黒いオーラが流れ出る。
そのオーラの渦に巻き込まれ吹き飛ばされた2人をよそ目に竜王はレックを見据え、飛びかかる。


「まずはうぬから葬ってやろうぞ!」

武器の無いレックに対して真っ直ぐに振り下ろされる杖。


それを見据えたレックは絶妙なタイミングで真下へ受け流した。

体制が崩れ、地面へと叩きつけられた杖と共に跳ね返され無防備となった竜王を、レックはそのまま腰を落とし力を込めて殴りつける。


「ぐふっ…!」

深々と突き刺さる拳。
離れる暇も与えず、武闘家の経験で培った格闘術が竜王の体力を削ぎ落としていく。


「生憎、武器がなくたって戦えるもので。」

「なるほど、お主だけは侮れぬわ…!」


杖に込めた魔力を放出し、レックとの距離を何とか引き離しす。

そして戻ってくるキーファとオルテガ。

レックとの戦闘のみに集中していたのでは、いつ飛びかかって来られるかも分からない。



「やはりこの姿のままでは劣勢かのう…?」

竜王は観念したかのように目を閉じ、杖を捨てる。


「うぬらの実力はよく分かった。ワシの想像を遥かに超えておったわ。」

空気が震え、竜王の姿が次第に薄れてゆく。


「地獄で誇るが良い…。此の姿に至るまでワシを追い詰めたことを…!」


声にいっそうの重みが乗り、次第にその影がはっきりと現れる。


真の姿の巨竜――――――竜王は猛々しく咆哮を上げた。

379決意も誇りも無力だから:2017/08/07(月) 01:00:32 ID:sLP.5hUs0


「ようやくお披露目ってわけかよ…。」

「強い…あのキングヒドラよりも明らかに…!」

ひと目で感じ取れる圧倒的な力。

近づくだけでバラバラになりそうなほどの重圧を前に、キーファとオルテガは剣を構える。
レックは黙って竜王を睨みつけていた。


「手加減など出来んのでな。死んでも恨むなよ。」

竜王が大きく息を吸い込んだ、その時――――――



「もうやめてください!」

ミーティアが叫び、3人の前に立ちふさがった。


竜王は灼熱の吐息を飲み込み問いかける。


「一体何の真似じゃ、姫よ。誇り高き戦いに水を差すようなら、お主とて容赦はせぬぞ。」

「これが――――――ミーティアの答えです。あなたに誰も殺させません。私の誇りにかけて!」

真っ直ぐな目で竜王と対峙するミーティア。
彼女を見下ろしながら竜王は告げる。



「受け入れろ。」

身の毛もよだつほど冷たい声で竜王は続ける。

「ここは殺し合いの場。すでに22人もの弱者は死んでおるのじゃ。お主の『誰も死んで欲しくない』などという腑抜けた理想など通るはずもない。ましてやワシは闇の覇者と呼ばれた魔物の王じゃ。お主の命が続いておるのもワシの気まぐれに過ぎん。」


「でも…こんなの間違ってます!」


「正義も悪もここにはない。ものを言うのは力だけじゃ。さあ、分かったらさっさと退け。」


「退きません!」


一歩も引かないミーティア。
竜王の目から光が消える。

380決意も誇りも無力だから:2017/08/07(月) 01:02:05 ID:sLP.5hUs0


「まったく、残念じゃ。お主は殺したくはなかったのじゃがな…!」


竜王の口から灼熱の火球がミーティアに向けて一直線に飛び出す。



――――――怖くなんてない。
私は初めて、私としての誇りを貫いたのだ。
煉獄に続くような炎を前に、彼女はただ前だけを向いていた。



「もう、いいんだよ。」

その時、どこからか声が聞こえた。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

――――――お父さんッ!!!


この世界に来る前の私が、最後に聞いた声。


親らしいことは何もしてやれず、その上勇者としての使命まで全て押し付けてしまった私をアスナは父と呼んでくれたのだろうか。

それとも、別の誰かの声をアスナの声と勘違いしてしまったのだろうか。


いや、あれは「アスナ」の声だったのだ。あの叫びが記憶を失っていた私を、アスナの父「オルテガ」として死なせてくれたのだ。


そして今――――――
目の前で散ろうとしている少女がいた。

彼女の叫び声が、最後に聞いた娘の声と重ねて聞こえたのか、それともオルテガの勇者としての本能がそうさせたのかは分からない。



――――――救いたい。


ただその一心だった。

近づいてくる「死」を気高く待つ彼女を押しのけ、優しく告げる。
私が単身で魔王を倒せたなら、勇者としての使命に駆られ続けたであろう娘に言いたかった一言を。

381決意も誇りも無力だから:2017/08/07(月) 01:02:59 ID:sLP.5hUs0


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

煉獄の火炎がオルテガの体を――――――そしてミーティアの決意をも焼き尽くす。



「これが現実よ。」

もう何も語らないオルテガを踏み散らし、膝から崩れ落ちたミーティアを見下ろす。

虚ろな目の焦点は合っておらず、腕も足も不規則に震えている。


「悲しみのあまり気絶しおったか。その方が苦しまぬじゃろう。」

ミーティアに向けて両腕を振り上げる竜王。

次の瞬間、レックとキーファが弾かれたように飛び出した。


「キーファ!彼女を頼む!」

「おう!」

オルテガの持っていた剣を手にして竜王に斬り掛かるレック。
竜王の爪を弾き、腹に切り傷をつける。


キーファは気絶したミーティアを両腕で抱え、竜王と距離を置く。
彼女を岩陰に下ろそうとした時、レックがキーファに言い放つ。

382決意も誇りも無力だから:2017/08/07(月) 01:04:44 ID:sLP.5hUs0


「そのまま逃げてくれ。」

「はぁ!?そんなこと出来るかよ!」


「まだ分からないかな。君はもはや足手まといなんだよ。」


「…!」

キーファも分かっていた。
自分の力は竜王には遥か及ばないことを。


「俺たちの目的はミーティア姫の奪還だ。今は絶好のチャンスで、それを果たせるのは君だけなんだ。」


「ぐっ…!」

キーファは間違いなく相当な腕前の剣士だ。だけど、勇者だとか、闇の覇者だとかの戦いについていくには無力だった。

果てしない無力感。
何も出来ないのだ。
例え目の前の勇者が――――――命を賭した戦いに挑もうとしていても。

「くそがッ!」

ミーティアを抱え、走り出す。
どの方角に行くか考える暇すら彼にはなかった。


「逃がすと思うか…?」

竜王が再び大きく息を吸い込み、キーファの背中に向けて灼熱の火球を吐き出す――――――



――――――ジゴスパーク。

その火球はキーファに届くことなく散り果てた。


「どこを見ている…?殺し合おうじゃないか、竜王。俺も誰かを巻き添えにする心配なんかせず存分に戦える。」

鋼の剣を突きつけ、ニッコリと笑うレック。

「くっくっくっ…!良かろう!お主を我が好敵手とみなそうぞ!」

囚われの姫を救出し、闇の覇者に勇者はたった1人で挑む。
いつかの戦いをなぞるように。

383決意も誇りも無力だから:2017/08/07(月) 01:05:51 ID:sLP.5hUs0


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

「ちくしょう…ちくしょう…!」

ミーティアを抱え荒野を駆けるキーファ。
ただならぬその様子を遠くから見て取れたポーラは色々と推察を巡らせていた。


「何あれ…シスコンと別れたと思ったら…今度は愛の逃避行カップルかぁ?んー、でも女の子の方は気絶してるっぽいね――――――ハッ!女の子が襲われてるガチのヤバいパターン!?」

そう思い立ったが先か、キーファに向かって飛び込む。


「てあああ!女の敵っ!」

「どわあっ!」

キーファは間一髪で飛び退き、闘魂の篭った拳を回避する。

「な、なんだ…殺る気か…!?」

「犯る気なのはお前だろう!この変態っ!」

「へ?」

「絶対に許さないからな!私、今まじテンションブースト!」

「待て待て、お前は何を――――――」

「とうこん討ちぃー!!」

「へぶぅっ!」


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


結局、ミーティアが目を覚まして粗方の事情を説明するまで誤解は解かれることはなかった。


「なるほど、竜王ねぇ。だからそんなに傷だらけなわけだ。」


「半分はお前の仕業だけどな…!」

キーファは頬を膨らませる。

384決意も誇りも無力だから:2017/08/07(月) 01:07:32 ID:sLP.5hUs0


「いやぁ悪い悪い。だって君どう見ても金髪不良なんだもん。」


「何だよそれ…」


「あ、あの…この方もキーファさんみたいに私を助けてくださろうとしたわけですし…」


「うむむ…」


「ほらーとってもいい子じゃん!襲っちゃ駄目だよ君。」


「誰が!」


そんなやり取りを交わしながら3人は各々の持つ情報を交換していく。


「ふーん。君たちはそれぞれ探してる人がいる、と。」


「ああ。アルスとガボ…あとは放送で名前が呼ばれていたマリベルって奴らなんだけど…」


「私はエイトに会いたいです。」


「残念だけど私はどれも見てないよ。そっちはアークって人――――――うん、アークって人を見なかった?」

2人とも首を横に振る。

「そっか…。私はさ、これからこの先にある港町に行こうと思うんだ。誰かの探し人もいるかもしれないし…よかったら――――――い、い…」


「一緒にいかない??」


本当は、独りで行こうと思っていた。
でも、会わせてあげたい。
エイトって人に会いたいと言ったミーティアの目が、アークを見る私と同じ目をしていたように感じたから。


そして私も――――――アークに会いたい。


そう、これは仲間とか友達とかそんなんじゃなくてただのクエストなんだ。


「ああ、行こうぜ!」

「是非ご一緒しましょう!」


信頼はしないけど――――――協力くらいならしてもいいかもしれない。
彼女は自分にそう言い聞かせて微笑んだ。

385 ◆2zEnKfaCDc:2017/08/07(月) 01:28:05 ID:sLP.5hUs0
【オルテガ@DQ3 死亡】
【残り48人】

【D-7南/荒野/1日目 午後】

【レック@DQ6】
[状態]:HP9/10
[装備]:鋼の剣
[道具]:支給品一式 支給品1〜2個
[思考]:竜王を倒す。ターニアを探す。

【竜王@DQ1】
[状態]:HP9/10
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1個 ガナンのおうしゃく
[思考]:悪を演じ、誇り高き竜として討たれる。


【E-7/平原/1日目 午後】

【キーファ@DQ10】
[状態]:HP1/2
[装備]:はやぶさの剣・改@DQ8
[道具]:支給品一式 支給品1〜2個
[思考]:仲間たちと再開したい。自分の無力さが恨めしい。

【ミーティア@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個
[思考]:エイトと再開したい。

【ポーラ@DQ9】
[状態]:HP5/6 足にダメージ(中)
[装備]:炎の剣@DQ6
[道具]:支給品一式 支給品0〜2個
[思考]:アークを探す。少しだけ他人を信じてみる。

※オルテガの支給品はD-7に放置されています。

386 ◆2zEnKfaCDc:2017/08/07(月) 01:31:36 ID:sLP.5hUs0
投下終了です。

387ただの一匹の名無しだ:2017/08/09(水) 14:42:35 ID:sF/UIHbM0
投下乙です。
最初に犠牲になったのはこの人か……。
残った二人の結末が気になる!!

388罠とワナとわなと ◆znvIEk8MsQ:2017/08/10(木) 17:26:32 ID:2mmcBf4Q0
投下します。

389罠とワナとわなと ◆znvIEk8MsQ:2017/08/10(木) 17:26:42 ID:2mmcBf4Q0
大爆発が起こった。
どこで、何が爆発したのかは知らないが、これは事実だ。
思えば、さっきからずっと爆発が起こり続けているため、爆発に耳が慣れてしまったのかもしれない。
でも、あれはヘルバトラーの放ったイオナズンではない。
音が違った。
同じ爆発なのに、どう違うのかというと、説明しづらいが、確かに違った。


あの方向には、バーバラがいる。
とてもじゃないが戦えるような状態ではなかったし、彼女に何かよからぬことが起こったと考えるのが妥当だ。
ゼシカは、走った。
自分も魔力をほとんど消費しているし、万全の状態には程遠い。
でもズーボーは死に、フアナも行方不明な以上、彼女の安否を確かめるには、自分しかいない。


走る、爆心地の近くまで来たところで、ゼシカの予想外なことが起こった。
突如現れたのは、キラーパンサー。
この魔物が、さっきの爆発と何か関係があるのだろうか。
モリーの主宰するバトルロードで戦いに参加した個体もいるし、また背に乗ることで旅を快適にしてくれた個体もいる。
だが、敵として襲ってきた個体もいた。
果たして、敵か味方か。


「ガウウウウウウウウウウ!!!」
突然吠えられた。やはり、敵なのだろうか。

そこで、現れたのはもう一人。蒼い髪の少女、ターニア。
「ダメよ!!ゲレゲレ!!知らない人に吠えちゃ!!」


ゲレゲレ?
あのキラーパンサーの、名前だろうか。
バトルロードで使っていた個体の名前も、同じだった。

「ガウッ!!」
「…やばっ!!」

ゲレゲレが飛び掛かってくる。慌ててゼシカは避ける。
「ダメ!!ゲレゲレ!!」
さっきの少女、ターニアが止める。
ゲレゲレはなおも身構える。ゼシカもメラミの詠唱準備に移る。
再び攻撃が来るかと思いきや、ゲレゲレは少女を背中に乗せ、脱兎のごとく逃げ出してしまった。
「ちょっと、ゲレゲレ!!」
少女は、明らかに戸惑っている。

390罠とワナとわなと ◆znvIEk8MsQ:2017/08/10(木) 17:27:14 ID:2mmcBf4Q0
目の前で何が起こっているか全くわからなかったが、一応、ゲレゲレはゼシカを狙っている訳ではないようだ。
思えば、あの状態からキラーパンサーが本気で襲い掛かってきたら、普通にダメージを受けていた可能性が高い。
まるで、ゼシカを爆発した場所が危険だから近づけさせないようにするかのような…………。


「ゼシカさん!!」
「きゃ!!」
目の前に会ったことについて考えを巡らせていたところで、後ろから急に肩を叩かれ、驚く。
「ようやく、追いつきましたよ!!」
「フアナ!!」
ヘルバトラーとの戦いの後、別れてしまった戦友との再会を喜ぶ。
「どこへ行ってしまったのかと、思いましたよ!!」
「ゴメンね。でも、この先にバーバラが逃げちゃったの。」
「バーバラさんが!?でも、安心して下さい!!『第二回アリアハン人探し競争』1位の私がいれば、ちゃちゃっと見つけられます!!」
「あ………そんな大会、あったんだ。」
「それと、さっきの戦いで魔力を失ったでしょう、これ、どうぞ!!」
「あ、ありがと。」
フアナはザックから賢者の聖水を出し、ゼシカに飲ませる。
それだけではゼシカの莫大な魔力を賄えないが、最低限戦えるほどの魔力は戻ってきた。
「お代わりあるので、欲しかったら言ってください!!」

「おーい!!」
今度は、別の声が聞こえる。狩人のような風貌の男だ。
どうやらフアナを追いかけて来たらしく、息が上がっている。

「コニファーさん!!遅いですよ!!」
「フアナが………早すぎるんだ…………。」
「サヴィオはどうしました?」
「ズーボーの墓を作るってよ。とりあえず俺たちだけでトロデーン城へ向かって、そこで合流するつもりだ。」
「フアナ、そちらの方は?」
「あ、この人、コニファーさんって言って、ついさっき会いました!!」
「そうなの?私はゼシカ。ゼシカ・アルバートよ。よろしく。」
「ああ、レンジャーのコニファーだ。よろしく。」



トロデーン城………。
確かに、この場からなら、そこへ向かうのがベターだろう。ゼシカの仲間にとってもなじみ深い場所だから、誰かがいるかもしれない。
だが、バーバラの安否も気になる。
ゼシカは、さっき起こった不可解な出来事を説明した。

391罠とワナとわなと ◆znvIEk8MsQ:2017/08/10(木) 17:27:36 ID:2mmcBf4Q0
「ふーん、爆発…………。魔物と、少女ねえ………。」
「それなら、私にお任せを!!私、こう見えても、動物カウンセリングの資格を持ってるのです!!魔物とだって、コミュニケーションとれるはずですよ!!」
「……………………。」

魔物や亜人と彼女が付き合うことが出来るのだろうか。
彼女は、最初にズーボーを見た時、変質者呼ばわりして、コミュニケーションを絶っていたはずなのだが。
どちらかというと、コニファーの方が魔物と触れ合うことが出来そうだ。





そのやり取りを、遠くから見つめていた者がいた。
「マズイことになったな…………。」
迂闊だった。
あのオーガ女並みに胸のデカい女が、こっちを怪しんだ理由は、一目瞭然だ。
俺がロッキールを爆発「させた」ことじゃねえ。
爆発が「起こった」ことだ。

ジャンボのミスは三つ。

一つめは爆発音の大きさを考慮していなかったこと。
二つめは、バーバラに知り合いがいるか考えてなかったこと。
最後に、ロッキールを利用してバーバラを殺害することの効率「だけ」考えていたこと。

ジャンボが「てなずけ」を使って、ロッキールを爆発させ、バーバラもろとも葬ったという過程は、同じレンジャーでもない限り、解明するのは難しい。
現に近くにいたゲレゲレとターニアでも見破れなかったくらいだ。
ましてや事の終わった後にノコノコやってきた闖入者に分かるはずもない。
せいぜい爆発に、自分が関わっていることが分かれば上出来なくらいだ。


しかし、どこで何が起こるか分からないこの戦いの最中に大爆発が起これば、爆発の原因が分からなくても、その場所を怪しむ。
そして、爆心地付近に自分がいることがバレたら最後、ほぼ確実に爆発の関係者とされる。
仮に爆発の原因を他人に擦り付けても、相手が知らない人、しかもこんな身なりである以上、なるほどそうですかと素直に信じてくれる可能性は低い。


アストルティアならまだいいが、ここは殺し合いの舞台。
「疑わしきは罰する」というスタイルを通さねば、騙され殺される。

392罠とワナとわなと ◆znvIEk8MsQ:2017/08/10(木) 17:27:55 ID:2mmcBf4Q0
とりあえず、ここにいては面倒なことになるのは火を見るよりも明らかだ。
早いとこ最初の目的であった、トロデーン城へ…………いやダメだ。
恐らくゲレゲレとターニアが向かった先は、トロデーン城。
あいつら、特にゲレゲレの方は明らかに感づいている。
下手に向かうと、前と後ろから挟み撃ちを食らう可能性もある。
もしくは、先回りして、トロデーン城にいる者に自分のことを危険人物として吹聴しているかもしれない。

幸いなことにここから先に、トラペッタという町への道もあるため、そちらへ向かおう。
再度ゼシカが来た方を見る。
ジャンボは盗賊、レンジャーと、視力が重要になる職業に就いてきたため、50m先のウルベア金貨が表か裏か分かるほど目が良かった。


やべえな………。
オッパイの女以外に、もう二人………。ゾロゾロ来やがる。
しかもそのうち一人は、レンジャーのような格好だ。
下手をすると、自分と同じで、魔物を操る方法を知っているかもしれない。
そういや、この辺りはトロデーン城へ通じる道。
自分以外の誰かが通っても、全くおかしくない。


一刻も早くここから離れなければ、取り返しがつかなくなりそうだ。
「おっと。」
少し離れたところに、ロッキールのザックが転がっている。
例の爆発で、着けていたものと共にあそこまで飛ばされたようだ。

「そういえば、あいつのザック、何があるのか知らなかったな………」
早くしないといけないが、いざという時に備えて、もらえる物はもらっておくか。


まず、ロッキールが付けていたドラゴンローブはサイズが大きすぎる。
続いて、ロッキールが持っていた剣は、明らかに使えないものだった。
そもそも自身は剣を使うのは苦手だし、重すぎて持ち上げることすら出来ない。
こんな重いだけの剣など、たとえヒューザがいてもただのガラクタではないか。
ダストンの土産にでもしてしまえ。
続いてザックを開ける。中身は、巻物が三つと、指輪。
その取扱説明書を読む否や、ジャンボの顔から焦りが消え、笑みが浮かんだ。



一切のワナが装備者に発動しなくなる罠抜けの指輪に、辺りにワナを作るワナの巻物。
これによって出来るワナが、どのようなものかは分からないが、少なくとも足止めにはなるだろう。
ワナが極端に強力なもので、踏んだ奴らが死んでしまったら、それはそれでいい。
なぜなら、自分が殺したわけではないからだ。
そこに誰が仕掛けたか分からないワナがあるからだ。
これこそロッキールではなく、まさに自分が持つべき道具ではないか。

393罠とワナとわなと ◆znvIEk8MsQ:2017/08/10(木) 17:28:25 ID:2mmcBf4Q0






「バーバラさん!!どこにいるんですか!!バーバラさーん!!」
「待て。」
先頭で盛んに叫んでいるフアナを、突然コニファーが遮る。
「この先、何かイヤなものを感じる。」
「え?」

突然コニファーが、弓を引き絞る。
しかし、その矢の向かう先は、何もない地面。
一体、何をしているのだ。


その時、カチッと何か音がしたと思いきや、こぶし大の岩がどこからともなく落ちてきた。


「な、なによ、今の!!」
ゼシカは慌てるが、コニファーは地面に矢をもう一本。
今度は、変な色のガスが出た。

「この辺り一帯、ワナが仕掛けられているようだ。」
「そんな……誰が一体………」
「誰が仕掛けたか分からんが、二人共迂闊に動くな。
オレなら見えない物でも、ある程度気配で察することが出来る。」


実をいうとこの時点でコニファーは、あることを知っていた。
つい先程、岩陰に何者か分からない黄緑色の亜人がこちらの様子を伺っていたこと。
小柄だという理由と、だいぶ距離が離れていることから、他の二人には目視できないだろう。
コニファーだけがレンジャーという職業上、物陰に隠れている魔物や、見えない落とし穴など、メンバーの誰よりも怪しい存在に敏感になってしまう。


だが、あえてコニファーは黙っていた。
フアナは僧侶らしからぬ猪突猛進な性格なようで、目標を見つけたらわき目もふらず走っていく可能性が高いからだ。
それを決して糾弾したいわけではないが、相手の素性が何も分からない以上、あまり他人には動いて欲しくない。
この辺りにワナを仕掛けたり、爆発を起こしたりしたのがあの亜人かどうかも分からない。
一人が勝手に動けば、万全ではないらしいゼシカも、自分も動かなければならないからだ。
自分は回復呪文から攻撃まで一通り備えているが、少なくともアークかポーラ、もしくはスクルドに会うまでは万全の状態でいたいと思っていた。

「あーあ。私、こういうコマゴマしているの苦手なのよね。
この場所は私、前に通ったことがあるけど、その時はこんなワナなんてなかったわ。」
「ひょっとしたら、このゲームを主催した、アイツじゃないんですか?」
「だとしたら、アイツ、えーと、エビ……テンプラとは、絶対気が合わない!!」
「え!!エビテンプラって、ジパングって街で食べたおいしい料理ですよ!!」
「後ろ、静かにしろ、気が散る」
「………ごめんなさい。」

394罠とワナとわなと ◆znvIEk8MsQ:2017/08/10(木) 17:28:44 ID:2mmcBf4Q0
コニファーは弓矢を打ちながら、ワナを確認していく。
どうやら仕掛けられたワナの数は予想以上に多い。
全部見つけようとしたら、先に矢が尽きてしまうだろう。
だが、もともと爆心地からそれほど遠くなかったため、なんとかたどり着く。


「ここで、間違いないな?」
コニファーは小さなクレーターとなってる場所を指す。
近くに、何枚か布切れが落ちている。
まだ完全に決まっている訳ではないが、服の色が同じなことから、爆発で砕け散ったバーバラのものだと考えざるを得ない。
「そんなぁ。バーバラさん………ウソでしょ…………。」
フアナは悲しみを露わにする。ゼシカも、同様であった。


しかし、ここでコニファーは、別のものを感じ取った。
「この匂い、爆弾岩が爆発したときのものだな………。」
では、バーバラは逃げたところを、爆弾岩に襲われて、死んでしまったのだろうか。
いや、違う。
あまり冒険者以外には知られていないが、爆弾岩は、身の危険を感じた時にのみ、爆発をする。
出会い頭に突然爆発したりすることはあり得ない。
逆にバーバラが爆弾岩に攻撃を仕掛けた可能性もあるにはあるが。

加えて、「なぜ、バーバラがここにいるか。」も疑問だった。
ゼシカ達と別れてから、ワナを調べずに無傷でここへ来るなど、まず不可能だろう。
いくら動揺していても、途中でこの辺りが危険地帯だと理解し、途中で引き返すはずだ。
コニファーが調べたワナの中には、移動を阻害するらしきものもあったため、この辺りではまともに移動することさえ出来ないだろう。
コニファーの推理をまとめると、何者かがバーバラを爆弾岩を使って殺し、その現場に他人を近づけさせないようにするためにワナを敷いた、という可能性が最も高い。
とりあえずワナを仕掛けたのは、主催のエビテンドン?の可能性は低い。
一番犯人の可能性が高いのは、さっき見えたあの亜人だ。
とりあえずあいつを捕まえて、根掘り葉掘り聞かないといけないだろう。

395罠とワナとわなと ◆znvIEk8MsQ:2017/08/10(木) 17:29:06 ID:2mmcBf4Q0
よし、上手く行った。
ワナ抜けの指輪で、ワナをものともせずにジャンボは進む。
ドワーフの低い背丈や粘土色の体を逆に利用して、岩陰や茂みに身を隠しつつ。
このままこの場からオサラバして、トラペッタ方面へ、行こうとしたとき。
突然、炎の息が、ジャンボを襲った。
「テ、テメエは!!」
間一髪、それをかわす。
「久しぶりだな………」
厄介なことに、近くにいた相手は、ジャンボがバーバラ爆発事件の犯人に仕立て上げようとしていた、ヘルバトラーだった。
「一度戦いで負った傷が癒えるのを、隠れて待っていたのだ………。会ってはならぬ者に会ってしまった己の不幸を呪うがいい!!」
「へっ。誰がオメーの獲物なんかになるかよ!!」
ジャンボは脱兎のごとく逃げ出す。


ヘルバトラーの強さは、ジャンボもよく知っていた。
イオグランデに、大地の鼓動。
そして、災厄の王以来、見るとは思ってなかった魔触。
強力な技ばかりだった。
加えて、魔物である以上、自分が仕掛けておいたワナにもかからないらしい。
厄介な敵だ。

まともに「戦う」のだったら。

そう、先程挙げた攻撃は、全て自分の周りの相手にのみ当たる攻撃。
近づいて戦うならいざ知らず、逃げる最中なら、怖くもなんともないのだ。
強いて怖いのは炎の息くらいだが。それも………。


「キサマ、逃げるつもりか!!簡単にできると思うな!!」
予想通り、炎を吐いてくる。
「そんなモンでやられるかよ!!守りの霧!!」

ジャンボの目の前に霧が現れる。炎はジャンボの身を焦がすことなく、文字通り霧散する。
「うぬぬぅ!!」

加えて、ヤツは傷は癒えたと言っていたが、隻腕隻角だ。物理攻撃をかわすこともそこまで難しくない。
結論を言うと、コイツに殺される可能性はない。
この戦いに乗じて逃げてしまえば、後は野となれ山となれ。


「逃がさんぞキサマぁ!!メラゾーマ!!」
「何!?」

残念ながら、ここにいるヘルバトラーが覚えているのは、ジャンボと戦った時の技だけではない。
かつて、彼がとある国王にして魔物使いの人間と共に戦った時に覚えた技として、メラゾーマを覚えていた。
最も、今の彼の記憶の大半は、誰に仕えたのでもなく、地獄の闘士の名のごとく、勇者と戦い続けたことだけが占められているのだが。
「うわあああ!!」
かわそうとはしたが、相手めがけて飛んでくるメラゾーマは避けられない。
「く、くそ!!ベホイム!!」
あわてて回復呪文をかけるも、あまり効果がない。
「どうした!?逃げる気も失せたか?」
「まだだ、俺はまだ、やんなきゃなんねえことがあるんだ!!五月雨打ち!!」

396罠とワナとわなと ◆znvIEk8MsQ:2017/08/10(木) 17:29:47 ID:2mmcBf4Q0
「猪口才な!!」
ジャンボから放たれた4本の矢を炎と片腕で撃ち落としていく。
その戦いの音は、離れたゼシカ達にも聞こえていた。



「あれ?向こうで誰か、戦っているみたい。」
「そのようだね。」
「助けに行きましょう!!」
「忘れたのか?この辺りに恐らくまだ沢山のワナがある!!迂闊に動くな!!」
ゼシカとフアナは勇んで戦いに行こうとするが、コニファーがワナのことで止める。
恐らく、戦っている一人は、例の亜人だろう。
「一つ一つ確認していては、遅れてしまいます!!『アリアハン障害物競走』1位のフアナの名にかけて………」


フアナが駆け出す。



カチリ。




案の定、ワナが作動した。
「きゃーーーーーーーーっ!!!!!」




フアナが踏んだのは、コニファーとしては一番踏んでほしくなかったワナ。


そう、踏んだ者を会場のどこか別の場所へ飛ばす、ワープのワナだ。


「……………ウソでしょ。」

こうなってしまったからには、彼女を探さねばならなかったが、今は目先のことに取り掛からねば。
向こうで戦っている敵が爆発と関係していようとなかろうと、どちらかがやられてしまえば詮索が難しくなる。


「あっ!!あいつは!!メラミ!!」
丁度ヘルバトラーが高く飛び上がる所をゼシカが見て、呪文を唱える。
だが、距離がありすぎて、魔法は届く前に消えてしまう。
しかし、その魔法は、予想していない良い結果を生んだ。

「ゼシカ、見ろ!!ワナが見えている!!」
どうやらワナは、物理的な衝撃ののみならず、魔法を受けても姿を現すようだ。
しかもメラ系のように、直線で飛ぶ魔法なら、ヘルバトラー達の所まで、どこにワナがあるかほんの数発で分かる。
「行くわよ!!コニファー!!ズーボーの仇!!」

397罠とワナとわなと ◆znvIEk8MsQ:2017/08/10(木) 17:30:22 ID:2mmcBf4Q0
ここで、コニファーは決めかねていた。
ヘルバトラーは、紛れもない敵であるが、あの亜人が、味方であるという保証もない。
下手に助けに行けば、ヘルバトラーの囮にされたり、最悪の場合はだまし討ちに会う可能性もある。
これ自体が亜人の仕込んだワナなのかもしれない。
欲を言うと、万全ではないゼシカと、自分だけで強敵とは戦いたくない。
幸いなことに、ヘルバトラーは亜人にばかり標的を絞っているようで、こちらに気づいていないようだ。
今、ゼシカを呼び止めて、再度様子を見るか、
それとも戦いに行くか…………。


レンジャーというのは、どこの世界でも、大変なものだ。

【D-4/平原/1日目 午後】

【コニファー(男レンジャー)@DQ9】
[状態]健康
[装備]かりうどの弓@DQ9、毒矢×15本
[道具]支給品一式 カマエル@DQ9 支給品0〜1(本人確認済み)
[思考]自分が生きているという感覚を保つため、とにかく生き抜く。
   仲間を探す。 トロデーン城へ行く。
ジャンボを助けるか、様子を見るか?
[備考]:バーバラの死の原因はジャンボだと思ってます。

【ゼシカ@DQ8】
[状態]:HP3/5 右肩に傷(治療済み) MP3/10(賢者の聖水で回復)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品(0〜2)
[思考]:バーバラを殺した者を探す。ズーボーの仇を討つ
[備考]:第一放送を聞いていません。


【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:HP1/2 背中に火傷
[装備]:ナイトスナイパー@DQ8 ワナ抜けの指輪
[道具]:支給品一式、道具0〜2 天空の剣、ワナの巻物×2、ドラゴンローブ
[思考]:
基本方針:エビルプリーストに借りを返す。6世界の人物を……?(非力な人物は除外)
1:ヘルバトラーやゼシカ達から逃げ、トラペッタ方面へ。
[備考]:※職業はレンジャーです。少なくともサバイバルスキルが140以上、弓スキルが130以上です。

398罠とワナとわなと ◆znvIEk8MsQ:2017/08/10(木) 17:30:57 ID:2mmcBf4Q0
【ヘルバトラー@JOKER】
 [状態]:HP19/20、左腕に僅かな矢傷 右腕消失 翼消失 右角消失
 [装備]:なし
 [道具]:支給品一式、道具0〜2個(世界樹の雫は使い切りました。)
 [思考]:心のままに闘う。
 [備考]※主催からアイテムに優遇措置を受けている可能性があります。
※歴代のヘルバトラーに使える呪文・特技が使用出来るようになっています(DQ5での仲間になった時の特技、DQ10での特技など)。

【D-3/平原/1日目 午後】

【ゲレゲレ(キラーパンサー)@DQ5】
[状態]:HP2/3、胴体にダメージ(中)、身体側面に切り傷
[装備]:悪魔のツメ@DQ5
[道具]:支給品一式、四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1
[思考]:
基本方針:主催を倒して脱出する。
1:ジャンボに不信感、バーバラに何をしたか感づいている。
2:ターニアを守る

【ターニア@DQ6】
[状態]:体の一部に擦り傷あり
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、愛のマカロン×6 道具0〜2
[思考]:困惑
基本方針:お兄ちゃんと合流したい。


【????/1日目 午後】
【フアナ(僧侶♀)@DQ3】
[状態]:3/5 MP2/5 (賢者の聖水で回復)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 賢者の聖水×3@DQ9 支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:ゼシカ達のいた場所へ戻る。ズーボーとバーバラの仇を討つ
※どこに飛んでいったかは、次の書き手にお任せします。

※D-4西〜中央部分にかけて、ワナが設置されました。
現在の所、分かっている点は以下の通りです。
・普段は見えないが、一度作動するか、魔法弾を受けると姿を現す。
・踏んだり、弓矢などが当たったりして、衝撃を受けると作動する。
・対応するアイテムを付けているか、魔物だったら作動しない。
・石が落ちてくるもの、ガスが出るもの、どこかに飛ばされるものが確認されている。

時間経過で消えるか消えないか、破壊可能か否か、他にどんなものがあるかなどは、他の書き手さんにお任せします。

399罠とワナとわなと ◆znvIEk8MsQ:2017/08/10(木) 17:32:36 ID:2mmcBf4Q0
投下終了しました。個人的に今回多少ワナの巻物の件を中心に無理なことを書いてしまった可能性があるので、
矛盾点およびいつも通り誤字脱字あれば指摘お願いします。

400ただ一匹の名無しだ:2017/08/10(木) 23:34:22 ID:WBjLiSrc0
ワナの巻物については若干違和感あるかなあという程度なんだけどそっちよりもヘルバトラーが何故東に動いたかの方が謎なのでは?
元々西の洞窟に行くはずだったけどズーボー戦で怪我したからとりあえず回復という考えだったはず

401ただ一匹の名無しだ:2017/08/10(木) 23:41:41 ID:WBjLiSrc0
あ、あとトロデVSバラモスでバラモスが斬り落とされた片手を超ばんのうぐすりで再生させてるのに
それよりも効果がすごそうなせかいじゅのしずくでは再生できないのはおかしい気がします

他にも
>そして、災厄の王以来、見るとは思ってなかった魔触。
ヘルバトラーがジャンボと戦った時に魔触を使った記述はないような……

402罠とワナとわなと ◆znvIEk8MsQ:2017/08/10(木) 23:50:31 ID:2mmcBf4Q0
すいません。最初の所にそれを裏付ける文章を写し忘れてました。


傷だらけの地獄の闘士の心の中で、戦いへの執着心が渦巻いていた。
マダンテで受けた傷は、想像以上のもので、持っている世界樹の雫を一滴残らず飲み干さねばいけなかった。
傷が回復しても、失った腕と角は治らなかった。
だが、腐っても様々な世界で死闘を繰り広げてきた戦士。
意地でも、戦い抜かねば。


隠れていた岩陰から出て、遠くであったが見えたのは最初に出会ったドワーフ。
当初の予定通り、西の洞窟へ向かおうと思ったが、ヤツとも因縁がある。
ヤツを殺してからでも遅くないだろう。

403罠とワナとわなと ◆znvIEk8MsQ:2017/08/10(木) 23:53:28 ID:2mmcBf4Q0
それと、ジャンボは本編のドラクエ10の、バージョン2本編でヘルバトラーと戦い、魔蝕を見た可能性があります。
世界樹の雫に関しては、傷は治っても失った部分は治らないという、勝手な解釈です。

404ただ一匹の名無しだ:2017/08/11(金) 00:01:45 ID:K1zMs2TE0
>>402
いやそれも待って。
1エリア跨いでいた人が見えるってちょっとご都合主義では?
氏の作品内で50m先のウルベア金貨の裏表が見えることはものすごく視力がいい、という描写がされてるのに
ヘルバトラーは1エリア先の人が見える、ってのはちょっとなあ……

>>403
そういえば本編内で魔蝕を見た可能性があった
こっちに関しては完全にこちらの確認不足でした。申し訳ない

405罠とワナとわなと ◆znvIEk8MsQ:2017/08/11(金) 09:04:38 ID:Yw6kSWoE0
そういえばそうですね。
色々すませんが、402の下から3行目(「隠れていた岩陰から〜」の文章)から訂正します。


当初の予定通り、西の洞窟へ向かおうと思ったが、
まずはこの辺りにいる奴らを皆殺しにするか。
オレを傷つけた奴らも、まだそこまで遠くへ行ってはないだろう。

地獄の闘士の進撃が、再び始まった。

これでよいでしょうか?
最初にジャンボを見つけたのはたまたまということで。

406ただ一匹の名無しだ:2017/08/11(金) 12:01:05 ID:RWFOVkVw0
それ完全なリレー無視だよ
フアナとコニファーがいきなり一緒にいるのも含めて印象が悪すぎる
そもそもフアナとサヴィオがズーボーのところへ、コニファーは一人でトロデーン城へ行くはずだったの
この時点でリレーの結果として

・ゼシカとバーバラがいないことに困惑する
・ゼシカの置手紙を見る
・改めてズーボーの死体と向き合う
・ズーボーの墓を作る

これくらいは予想できたのに全部すっ飛ばして1行でフアナとコニファーが移動してたのもリレーとしてお粗末だよ
今回の話を認めると氏が途中でパスした作品も1行で済ませられてしまう恐れがあるけどそれでもいいの?
書きたい話があるのは理解できるけど、それを優先するあまり他を雑に扱うのは良くないよ

407 ◆znvIEk8MsQ:2017/08/11(金) 13:41:05 ID:Yw6kSWoE0
そうですよね。今回は少し挑戦的なことをしようと思いましたが、
前後関係がガバガバだったし、他人のことを考えてなかったです。
投下取り消しさせていただきます。
お騒がせしてすいませんでした。

408ただ一匹の名無しだ:2017/08/11(金) 17:11:55 ID:oSZrRsPA0
俺は面白いと思ったよ
また頑張って

409ただ一匹の名無しだ:2017/08/12(土) 04:20:30 ID:.nHpiz3U0
今回は残念だったけど落ち込まないでね

ついでに11発売以来ほったらかしにしてたwiki編集完了の報告
本当にやってよかったと思えるゲームだったよ
ドラクエ好きな方は是非ともプレイして欲しい

410 ◆CASELIATiA:2017/08/15(火) 18:15:07 ID:vApc2Mvs0
投下しまーす

411希望の光、舞い上がる時 ◆CASELIATiA:2017/08/15(火) 18:19:27 ID:vApc2Mvs0
「ねえっ! これがあれば帰れるんでしょ!?」
「文面からするとそうでしょう。 しかしこれは……」
「そうよね。 情報を鵜呑みにするのは危険よ。 少し考えましょう」

キメラの翼に似ていて、それでいて質感も肌触りも違う。
もしもその効果が本物であるのなら、今すぐにでも殺し合いを止めることさえ可能な奇跡のアイテム。
それを前にして、三人は喜色満面の笑みを浮かべた。
しかし、すぐに楽観視を止めたのがフォズとアンルシアの二人。

「そもそも殺し合いをさせるのが目的のエビプリンが、そのような道具を支給するのでしょうか?」
「私も疑問だわ。 まんまとここから脱出するのを、あのエビペンネグラタンがただ見ているとは思えない……」
「ええっ、そうなの?」

美味しい話にはカラクリがある。
信じる者は足元を掬われ衰退に転じるは、世の習いだ。

「ちぇーっ、つまんないの」

不貞腐れるようにおわかれのつばさから目を離し、明後日の方向を見るティア。
対して、フォズとアンルシアはもう一度説明文に目を通した。
何か重大な情報を取り零してないか、何か裏がないか。
ワナなら使用しなければいい。 
しかし、リスクなしでこの効果を発揮するのであるならば、これ以上に強力なアイテムはない。
短い文章の中から必死に情報を読み取ろうとする。

『別の世界から自分の世界へ帰るための道を開く』

「別の世界……それはこの世界のことでしょう。 自分の世界とは、間違いなく私たちの世界」
「待って。 『自分の世界』の『自分』とは誰を指すのかしら? これを読んでる私たち? それともこれを書いたエビペンネグラタンのこと?」
「なるほど……自分たちの世界に戻れると思って使用したら、エビプリンのいる場所へ送られる。 そういう解釈も可能ですね」
「かなり穿った見方ではあるけど、可能性はあると思うわ」
「ではこういうのはどうでしょう。 『自分の世界へ帰るための道を開く』……開くだけで安全に帰れると保証されてない……?」
「ああ、それも有り得るわね……」

額に浮かんだ汗を拭い、アンルシアはもう一度文面に目を通す。
分からないで済ませて良い問題ではない。
知恵を振り絞り、この道具の有用性を検証しなければならない。
今度はアンルシアが口火を切る。

「じゃあ、私たちの思い描いてる通りの効果を発揮したと仮定しましょう。 するとどうなるかしら」
「私たちは元の世界に戻れます」

気が付くと、先ほどまでアンルシアたちを襲っていた不安や悲しみはどこかへと吹き飛んでいた。
この状況を打開する光明が見えないまま、ただいたずらに時間が過ぎ去るだけだった時とは状況が違う。
ようやく縋りつけた一筋の光。 それを見失う訳にはいかない。

「じゃあこの首輪は?」
「あっ……」
「え、どうなっちゃうの?」

答えは分からない。
ルールブックによると、この首輪は無理に外そうとしたり禁止エリアに侵入すると、問答無用で爆破されるとのことだ。
仮に元の世界に戻れたとして、首輪をつけたまま一生を終えることはしたくない。
どんなアクシデントで首輪が作動するか分からないからだ。

「私たちの世界も禁止エリアに指定されてるとしたら?」
「元の世界に戻れたと喜んだ瞬間爆発する……ということですね」
「うわー、やらしー……」

412希望の光、舞い上がる時 ◆CASELIATiA:2017/08/15(火) 18:23:01 ID:vApc2Mvs0
元の世界すべてが禁止エリアに指定されている。
いささか論理の飛躍があることは間違いない。
しかし、それはエビルプリーストの思い描いてる構図に合致する気がする。
束の間の喜びを得た脱出者を、次の瞬間に絶望のどん底に突き落とす。
なんとも趣味の悪い余興ではないか。
そして、それを見て醜悪な笑みを浮かべるエビルプリースト。
いかにも有りそうだ。

ここまでの想像はすべて悪い方向に転がしたものだ。
しかし、殺し合いを開催したエビルプリーストによる無償の善意、などというのはとても信じれるものではない。
必然と、悪意を前提として考察を組み立てていく必要がある。

「何にせよ、私たちはまず『これ』をどうにかしないといけないのよ」

アンルシアが自身の首輪を指さす。
首輪の作動を恐れたためか、触れることすらできない。

この首輪、個人の首の大きさまで考慮されて作られたせいか、首にピタリと嵌まっているのだ。
走ったりして首輪が上下に動く心配はないが、喉に伝わる圧迫感と不快感は消せるものではない。
また、ある程度成長が落ち着いたアンルシアはともかく、フォズとティアはまだまだ成長過程の女の子なのだ。
成長期を迎えて、その首輪を圧迫してしまえばどうなるか、考えたくもない。
元の世界に戻れた瞬間爆発する説が間違いだとしても、この首輪を放置したまま元の生活に戻ることは有り得ないのだ。

「まずはそれが第一条件ですね……」
「うん」

フォズとティアが大きく頷く。

「でも、もしも外せたらね、そしたらね、みーんなサマルトリアに来るといいよ!
 お父様もお兄ちゃんも歓迎してくれるよ!」

身体全体で喜びを表現するティアに対して、アンルシアとフォズは首を傾げた。
そして、はたと気付く。
自分たちはこのおわかれのつばさの使用した後の結果だけに囚われていたのだと。
その効果範囲は? 使い切りの消費アイテムなのか? まだまだ考えることはたくさんある。
ここにいる人間たちは複数の世界から集められている、というのがレックたちとも話した共通見解だ。
このおわかれのつばさが都合よく、それぞれの世界に戻してくれる保証はない。
キメラのつばさだって複数の行き先を決めることはできない。
目的地を決めてしまうと、あとは全員同じところへ行くのだ。

「キメラのつばさに似ていますから、同じような効果だとは思います」
「私はキメラのつばさについて知らないわ。 詳しく教えてくれない?」
「そうですね、アンルシア様の言うルーラストーンとは似て非なるものです。
 使用者の行った町や城ならどこへでも行けます。 安価ではありますが、一度限りの使い捨てです」
「すごい……」

アンルシアの知るルーラストーンは何度でも使えるが、あらかじめ登録しておいた場所にしか移動はできない。
おまけに、そのルーラストーン自体が非常に希少かつ高価なものなのだ。
大多数の人々はルーラストーンを一つも持ってない。
一部の人々しか持てないような高級品より、使い捨てでもいいから誰もが恩恵に預かれるならそちらの方がいい。
そういった意味でも、アンルシアは純粋にキメラのつばさを羨ましいと思った。

413希望の光、舞い上がる時 ◆CASELIATiA:2017/08/15(火) 18:25:09 ID:vApc2Mvs0
もっとも、そのおかげでキメラは乱獲され絶滅の危機に瀕した過去があること。
アンルシアの世界も、代わりの交通手段として大地の箱舟があるのだが、それはまた別の話。
大事なのは、このおわかれのつばさがキメラのつばさと同じようなアイテムか、ということだ。

「ねっ、ねっ、サマルトリアに行こうよ!!」
「ティ、ティアさん落ち着いて」
「試してみる訳にもいかないのが難点よね……」

使用は一度限りの片道切符。
三人のどの世界にも、これと同じ道具はおそらく存在しない。
一度サマルトリアに退避してから、それぞれの世界に戻る方法を模索するという方法も取りにくい。
取れないことは無いが、それはあくまで最終手段。
ただの村人ならともかく、フォズもアンルシアも重大な使命を帯びた人間なのだ。
それぞれに、何としてでも元の世界に帰りたい理由がある。

「残り60人。 その中に、この道具を知ってる人がいればいいのですけど……」
「そうね。 商人なら知ってるかも」

世界を股に駆ける商人なら、幅広い知識でこの道具のことも知っていたかもしれない。
あるいは未だ出会ってない世界の人たちにとっては、この道具はごくありふれた日用品なのかもしれない。

(ジャンボ……彼ならこういう時、どうするかしら)

この殺し合いを覆す切り札になるかもしれない可能性の塊を目にしても、何一つ自体は進展しない。
勇者とは、なんて無力な存在なのだろうか。
自分はこの世界に来てまだ、勇者らしきことは何一つできていない。
フォズとティアを、この小さき命を守ることもまた重大な使命だと、分かってはいるのだ。
しかし、次々と増える死者に焦燥感を抑えることができないのも事実。
胸に去来するのは、やはり盟友の姿。
彼なら、いつだって正しく自分を導いてくれた。
その知恵で、その強さで。
レンジャー以外にも様々な転職し、自分をサポートしてくれた。
そう、例えば――

「っ! そうよ、ジャンボよ!」

興奮して天を仰ぎ、叫ぶアンルシア。
強く握られた拳には、ついに核心をつかんだという自信が籠められる。
その興奮を持続したまま、アンルシアは隣にいるフォズに視線をやる。

「フォズ、あなたはダーマの大神官!」
「は、はい。 私はダーマの神官ですね」
「どうしたの? アンルシアお姉ちゃん?」
「そしてジャンボはどうぐ使いもできるわ!」
「ど、どうぐつかいですか……? 聞いたことが無い職業です」

『どうぐ使いとは 斬新 かつ創造的であり
 これからの世界を リードしていく
 もっとも尊ばれるべき職業である』 
 
そう言ったのはどうぐ使いと呼ばれる職業の創始者、デルクロア。
何を隠そう、人間ではなく魔界から移住してきたあくま神官である
ダーマの神は魔物が生み出した職業であろうと、それが人の新たな可能性を開拓できるのなら新職業として認める。
つい最近認められたこの職業は、そういった経緯もあって職人口が極めて少ないという特徴があった。
しかし、勇者の盟友ジャンボはこの職をマスターしているのだ。

414希望の光、舞い上がる時 ◆CASELIATiA:2017/08/15(火) 18:26:43 ID:vApc2Mvs0
「魔物が作りだした職業……心さえあれば、魔物そのものにすらなれるのがダーマ神殿です。 
 アンルシア様の仰ることに嘘はないと思います。 
「へぇ〜、すごいんだね」
「ダーマの神はまことに懐の深い御方であらせられます。 これもまた人間の持つ可能性の一つなのでしょう」
「どうぐ使いには使用するどうぐの効果や範囲を増強、拡大する特技があるわ。
 もしもおわかれのつばさの範囲を拡大できるのなら、みんなそれぞれが元の世界に戻れるかも!」

それが事実である保証はない。
どうぐ使いそのものがまだ十分に研究、検証がされてない職業なのだ。
分かっていることより、分からないことの方がまだたくさんある。
しかし、試してみる価値はある。
そしてジャンボは手先の器用なドワーフ。
首輪の解除にも必要な人員だ。

(やっぱり、私にはジャンボが必要なんだわ)

ますます盟友への信頼を深めるアンルシア。
はやく会いたい。
どこにいるの。
再会への思いはますます募る。
フォズもティアも、微かに見えた希望に心痛が和らぐ。
今すぐにとはいかなくとも、未来への扉は決して閉ざされてなどいないのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「なんと……いたいけな少女たちの集団とは」
「こりゃまためんこい嬢ちゃんたちの集まりだな」
「だが、幸いなことにまだ荒事には巻き込まれて無さそうだ」
「そこのガールズー!」

モリーが手を上げて大きく振り回す。
三人組を発見したモリーたちは何よりまず保護を考えた。
女性三人組と男性四人組、その平均年齢には大きな差がある。
どちらがどちらを守るかは明白。
人数の多さもあって、それぞれ特に疑いもなく自己紹介を始まる。

「パパスだ。 息子や孫もこの地にはいる。 君たちの中で誰かに会ったりはしてないだろか?」
「イザヤール。 今は別の目的を優先してはいるが、弟子のアークを探している」
「私の名はモリー。 この地に居座る邪悪を討つため、ここにいる」
「俺の名はザンク――」
「きゃーっ! 可愛いお人形さん!!」
「おっと!」

モリーの頭部に仁王立ちするザンクローネを見た瞬間、ティアが奇声を発して飛びついた。
しかし、ザンクローネは焦らず騒がない。
余裕の表情でモリーの頭頂部から跳躍すると、今度はティアのウェーブのかかった金髪へと飛び乗る。

「おあいにくさま、俺はお人形さんなんて可愛いモンじゃねえぜおチビちゃん。 話は最後まで聞きな」

着地の際も、その体幹はまったくぶれてない。
身長はどうみても手乗りサイズなのだが、並の人間をはるかに凌駕する強さを持つことが伺える。
メルサンディ村の英雄ザンクローネは言う。
男の器は身の丈で決まるのではない。 
背負った希望のデカさで決まるのだと。
その基準で測るのなら、確かのこの男はこの七人の中でも随一の器のデカさを誇るだろう。

415希望の光、舞い上がる時 ◆CASELIATiA:2017/08/15(火) 18:30:08 ID:vApc2Mvs0
「えっ、あっ!」

頭部に両手を伸ばしたティア。
しかしまたもザンクローネはティアの手から逃れ、モリーの頭部へと戻った。
ティアの手は頭上で大きな手拍子を一回鳴らすに留まる。

「せっかちは嫌われるぜ。 俺はザンクローネ! 今は……そうだな、ただのザンクローネでいい」

胸を叩き、自身の存在と名を力強くアピールする。
歯切れの悪い終わり方ではあったが、それでもザンクローネという男がどんな人間かを伝えるには十分だ。

「まあ、ザンクローネ様!」

反応したのはティアではなく、勇者姫アンルシアだった。
モリーの頭頂部を見るために視線を上にあげ、アンルシアはザンクローネを正面から覗き込んだ。

「私です、ミシュアです! あの時はお礼に言えずにごめんなさい。 私もラスカも助かりました」
「ミシュアぁ?」

ザンクローネがミシュアと名乗る女性を前に眉を顰める。
助けた人間は数知れず。
しかし、活動範囲はメルサンディ村とせいぜいその周辺。
メルサンディ村自体、そこまで人口の多い村でもない。
メルサンディ村の住人、かつ自身が助けた人間ともなれば、このザンクローネが覚えてないはずなのだが。
ラスカには確かにミシュアという名の姉がいる。
しかし、目の前でミシュアと名乗る少女とは似ても似つかない。

「バカ言ってんじゃねえよ。 
 ラスカの姉のミシュアって言ったら、お前みたいなべっぴんじゃなくてもっとこう、イモい感じの……」

パン作りもしたことなさそうな、このお上品なお姫様と見間違えるなんてことは絶対にない。
女は化粧をすれば変わるとは言われてるが、それを考えたとしても同一人物とは思えない。

「ッ――!?」

ザンクローネの頭に微かに疼痛が走る。
ザンクローネの記憶の中にあるミシュアの像がブレた。
田舎に住む地味な村娘から、鮮やかな金髪に蝶を模した髪飾り、透き通った蒼の眼、
特徴的な口元のホクロ、緋色の服に巻かれた白いエプロンと、それを纏った絶世の美少女へ。
服装こそ今と違うが、その顔立ちは確かに目の前にいる存在と同じ。

「そうだ、俺は確かにお前と会ったことがある……」

記憶の混濁に戸惑うザンクローネ。
そしてそれを見守る残りの人たち。

「アンルシアお姉ちゃんはアンルシアお姉ちゃんじゃないの?」
「偽名、ということでしょうか……?」
「ええ、そんなものよ」

その辺りの事情を話せば長くなる。
アンルシアは胸の前で腕を組み、あの懐かしき日々に思いを馳せる。

「ねえザンクローネ様、ラスカは元気かしら?」
「おう、あいつには色々託してあるから心配すんな!」

アンルシアの瞳を受けとめ、ザンクローネも真っすぐに視線を返す。
勇者と英雄、その間に嘘偽りなど介在する余地はない。

416希望の光、舞い上がる時 ◆CASELIATiA:2017/08/15(火) 18:32:36 ID:vApc2Mvs0
「しかし、こいつは一体どういうことなんだ?」
「今の私はミシュアではなくアンルシアと呼んでください」

アンルシアも全ての事情を知っている訳ではないが、それでも話せることはすべて話した。
一時的にミシュアの肉体を借りていたのだと。

「なるほどな 俺の見た別のメルサンディ村の世界の住人みたいなモンか」
「ヒーローよ、積もる話もあるだろうがそこまでにしよう」

脱線しがちだった話をモリーが戻す。
再び自己紹介の流れとなる。
一つ咳ばらいをしてから、アンルシアが名乗る。

「私の名前はアンルシア。 グランゼドーラの勇者アンルシアです」

おお……と、どよめきの声が男性四人から漏れた。
自らの名が少しでも皆の希望になればと、そう願い勇者と口にしたアンルシアだが、効果は大きかったようだ。

「貴女が……」

天空の武器防具と勇者を探すことに人生を費やしたパパスの驚きが特に大きい。
その総身を余すところなく注視する。
嘘をついてるとは到底思えない。
彼女は勇者としての自分に、強い誇りと自負を持っている。
リュビとはまた別種の勇者であると、自然と納得させられる。

「私はフォズと申します。 ダーマにて大神官の位を戴いております」
「ティアです! お兄ちゃんもどこかにいるよ!」

自己紹介を終わらせた後、まずは互いの状況を話し合う。

「ということで、我々はバルザックなる悪しき魔物を追っている――」

「実はこの前にも男の方々と一緒だったのですが、竜王を止めるために別れて――」

「途中でコニファーとサヴィオという男と別れた。 彼らは今トロデーン城へ向かっている――」

「誰かトンヌラという人と会っていませんか――」

ここまでに得た情報、経験した出来事がそれぞれの口から矢継ぎ早に繰り出される。
その多くは成果の得られぬまま空振りだったが、収穫もあった。

「おわかれのつばさ?」
「知っているんですか?」

禿頭の戦士、イザヤールが反応を示した。
生え際の残ったモリーと違って、この男は自分の意思で剃っているのだろうか完全なつるっぱげだ。
太陽を反射した彼の頭は、後光が差しているかのように誰よりも輝いていた。
当のイザヤールというと、反応は示したものの煮え切らない態度だ。

「いや……すまない。 どこかで見た気がする程度だ」
「では、イザヤールさんの知り合いでこれを知っている方は?」
「すまないが、そういう話は聞いたことはない」

カマエルなら錬金の材料として知っていてもおかしくない。
何せ喋る錬金釜だ。
長い時を生きてるようだし、俗世のアイテムにも詳しいかもしれないのだ。

「カマエルならあるいは……という程度だ。 ちょうどカマエルを持った男が、君たちと同じようにトロデーン城を目指している」

417希望の光、舞い上がる時 ◆CASELIATiA:2017/08/15(火) 18:37:46 ID:vApc2Mvs0
握りしめたおわかれのつばさをティアに返し、イザヤールはそう締める。
気がつけば、ここまでにかなりの時が経っていたようだ。

「では我々は引き続きバルザック捜索を続ける傍ら、レックボーイたちの加勢に向かうとしよう。
 ヒロイン、ガール、リトルプリンセスはトロデーン城へ行って我らの仲間と合流して欲しい」

無理はしないように言っているが、オルテガたちが無事である保証はない。
バルザックが今もこの近くにいるという確たる証拠もない。
ならば、バルザック捜索と戦闘してる場所がある程度推測できる、竜王退治チームへの加勢は並行して行える。
アンルシア組とモリー組、互いの意見の折衷案が出された形になる。

「嬢ちゃんたちの護衛も兼ねて一人付けるか。 誰が行く?」

ザンクローネの言葉に、モリーたち男組が同意の首肯をする。
あどけない少女の三人組とは危険極まりない。
しかし、護衛を出すことには賛成するものの、自分が行くことには反対なのか、名乗り出る者はいない。
悪を討つという目的のために行動していたのを、ここで引き返すのは水を差された気分になるからだ。
四人とも、盾となって守るよりも、剣となりて悪を切り裂く方が得意な領分である。
膠着状態を打破するために、仕方なくモリーが切り出した。

「私とヒーローではコニファーとサヴィオとの面識が無い。 ムッシュ・パパスかマスター・イザヤールの方が適任と思うがどうだろう」
「うむ、確かに。 ではイザヤール殿ならコニファー殿とカマエルとも知己だ」
「待ってくれ。 確かにそれなりに知り合いではあるが、初対面に等しい。 パパスこそ、会いたい家族がいるのだろう?」
「家族を出すのは卑怯だイザヤール殿。 このパパス、確かに会いたい人こそいるがそれを口実に戦いから遠ざけられるのは不本意だ」

二人の言い合いが始まった。
両者ともに一歩も譲らない。
二人ともにこうと決めたらテコでも動かない存在だ。
イザヤールがパパスの家族を持ちだせば、パパスはアークのことを持ち出す。
パパスが自分がいかに戦いにおいて役に立つかをアピールすれば、イザヤールも負けじと自己アピールをする。
大人なので声を荒げることこそないが、結論はいつまで経っても出ない。

「もー! 二人ともいい加減にする!」

見かねたティアが間に割って入った。

「私が決めます! はい!!」

ティアの手に握られたのはパパスの腕だった。
醜態を演じてしまったこと、子供に言われては仕方ないとパパスも観念する。

「では、私が行こう。 アンルシア姫よ、いいかな?」
「あ、あの……わざわざそこまでしていただかなくても。 私、勇者ですし」

それを聞いたモリーたちは一瞬、こらえる表情こそ見せたが、全員が呵々大笑する。
草原に木霊する男たちの笑い声。
アンルシアは一瞬、馬鹿にされたのかと激昂しかけたが、次の瞬間大人たちの笑いが止まった。
笑いの止まった大人の四人は、柔らかな瞳をしている。
その中で、パパスがアンルシアに歩み寄り、その両肩を優しく掴んだ。

「すまない、不安にさせたようだなアンルシア姫よ。 決して君らの護衛が不満ではないのだ」
「でも、私の力ならフォズとティアちゃんの二人くらいは――」

418希望の光、舞い上がる時 ◆CASELIATiA:2017/08/15(火) 18:39:36 ID:vApc2Mvs0
「勇者だということを疑ってはいない。 その身に宿る大いなる力、私も含めて皆感じ取れている。 紛れもなく、君は勇者なのであろう。
 だが、勇者だとしても君はまだ若いのだろう? 年はいくつかな?」
「今年で16です」
「ふはは、まだまだ子供さ。 私の倅よりも年下だ。 なあ、アンルシア姫よ――」

野性味溢れる容姿と裏腹に、なんて優しい瞳をしているのだろう。
吸い込まれそうな黒の瞳を、アンルシアは正面から覗き込む。
パパスが一呼吸置いて、次の言葉を紡いだ。

「君が勇者だろうと何だろうと、子供を守るのは大人の義務なのだ。 我々にも少しは格好を付けさせてくれないか?
 なあにこのパパス、その辺の魔物に後れをとるような柔な鍛え方はしてないさ」

大魔王マデサゴーラを倒せるのほどの力を持っている。
聖なる雷、ギガデインを扱える。
世界中の人々の期待を一身に背負う存在である。
それが何だというのだろうか。
勇者という冠を取っ払ってしまえば、彼女はまだ16歳の少女なのだ。
まだまだ未成熟な部分はたくさんある。
それを守りたいと思うのは、大人として当然のこと。
勇者の称号に委縮したり恐縮したりする人間など、この場にいない。

「もっと大人に頼ってくれていいのだ、アンルシア姫よ」
「大人の好意は素直に受け取っておくモンだぜ、アンルシア!」
「ヒロインよ、我らは約束しよう。 必ず勝利の報告をユーに届けることを」

力強く頷くイザヤール。
親指を立てるザンクローネ。
勝利の決めポーズをするモリー。

「は、い……」

初めてのことにアンルシアは戸惑う。
勇者として期待を受け、それに応え続ける日々。
隣で戦ってくれたのは、盟友のジャンボだけだった。
グランゼドーラ王国お抱えの賢者ルシェンダでさえ、自分のサポート役に徹するだけ。
ずっと、自分は誰かを守り続ける人生だと思っていた。
けれど、いいのだろうか。
私はもっと、他人に頼っていいのだろうか。

「行きましょう、アンルシア様!」
「行こう、お姉ちゃん!」

二人に手を惹かれる形で、アンルシアはトロデーン城への道を歩む。
せめて彼らの無事だけは祈る。
どうか彼らに、グランゼニス神の加護があるようにと。

「どうかご無事で! 決して危ないことはしないで!」
「おう、お前らもどんな時も希望は捨てんな! メルサンディ村は俺とともにある!」

その横では、パパスとイザヤールの会話が繰り広げられる。

「結局、往復するだけの道になってしまったようですまないな」
「これも仕方あるまい。 彼女らを守るのも大事な役目だ。 私は遠いトロデーンの地から、貴君らの武運長久を祈るとしよう」
「ずいぶんと芝居がかった言い方をするものだな」
「これでも一国の王だったのでな」
「ほう? その話、すべてが終わったら聞かせてもらおうか」
「ああ、いいとも。 酒でも飲みながらな話すとしよう」

そして彼らはまた別の道を歩み始めた。
いつか必ず再開することを誓い合って。

419希望の光、舞い上がる時 ◆CASELIATiA:2017/08/15(火) 18:41:27 ID:vApc2Mvs0
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「行ったな」
「ああ」
「いい子たちだ」

いつ不安に押し潰されてもおかしくない状況。
そんな中、かすかに見えた希望をともし火として、胸に抱く少女たち。
奪われてなるものか。 消させてなるものか。
そのために彼らはここにいる。

「出て来いバルザックよ!」
「な、なにぃ!?」
「先ほどから貴様の気配は感じていた」

イザヤールが茂みへと視線を移すと、そこにはモリーたちの様子を窺うバルザックの姿があった。
アンルシアたちの同行をモリーたちが許さなかったのも、偏にこのため。

「たかが二人ごときで私を止められるとは、思い上がりも甚だしい!」
「二人?」

隠れることをやめて飛び出したバルザックが、変なカラーリングの服の男の頭上に佇む、一人の小人の存在を視認する。
あれはなんだ?
妖精の類か何かか?
困惑するバルザックに対し、小人はその手に持ったさいほう針で八相の構えを取る。
瞬間、すさまじいまでの熱気が吹き荒れた。
熱気の発生の中心部は小人。
溢れる闘志と正義の怒りが熱風となりて、小人の心情を代弁しているのだ。

「ヒーローのことを数に入れないとは、たかが知れる」

至近距離で熱気を受けているはずの中年のオヤジは熱がるどころか、自身も同質の熱気を放った。
腰を落とし、両手に蒼き炎を連想させるツメを装着し、ぐっと構える。
そう、この男にとっては待ちに待った瞬間。

「しょせん他人など、永遠に他人。 そう言う輩がいる。 
 他人だから傷つこうが死のうが構わないとな、そういう人がいる。
 だがな、私はその他人と……分かり合いたいのだ。
 何が好きで、何が嫌いなのか。
 何に対して笑い、何に対して怒るのか、私は知りたい。
 私はまだ、何も知らない。 ナイスガイのことも、ムッシュのことも。
 それを知る機会は永遠に失われた。
 これほどまでに悲しいことがあるだろうか?」

他人と触れ合うことは、人生において何よりも重要なことだ。 モリーはそう考える。
他者と触れ合うことによって摩擦が起きることもある。
しかし、それ以上に新たな発見もある。
所詮人間一人で知れること、できることには限りがあるのだ。
他者と競い、時に協力し、時に妬み、嫉妬し、反発し。
それを乗り越えた時こそ、人は大きく成長する。
そして、バトルロードでチャンピオンとなったエイトは自分を破ってくれた。
たった一人で手にする、孤独な栄冠などに意味はないのだ。
記録は破られるために存在する。

420希望の光、舞い上がる時 ◆CASELIATiA:2017/08/15(火) 18:42:48 ID:vApc2Mvs0
今度はモリーがエイトに挑む番だった。
モンスターの構成も戦略も1から練り直さないといけない。
最高にして最強だと思っていた布陣は、若き力の前に敗れ去ったのだ。
モリーはこの年にして再び挑戦者となれた、これほど嬉しいことは他にない。
そう、他人と触れ合うからこそ、進歩は生まれる。
それを無慈悲に奪う権利など、例え神にだって存在はしない。

「ナイスガイとムッシュの無念、晴らさせてもらおうか」

総身が熱く燃え滾る。
充溢した気、溢れんばかりの闘志、胸を掻き毟りたくなるほどの嘆きと怒り。
その全てが今、眼前の敵へとぶつけられる。

「会いたかったぞバルザックよ。 我々から22名もの尊い命を奪った代償、その命で償ってもらおうか!」

鞘から闇夜を切り裂く漆黒の太刀が現れる。
ゲーム開始より数時間、争いに関われることもなく、放送でのみ惨劇の経過を知らされるだけだった三人。
それぞれの胸に積もりに積もった想いを今こそぶつける時。
メルサンディ村の英雄、ザンクローネ。
バトルロードのオーナー、モリー。
人間となった元上級天使、イザヤール。
ついに始まったかれらの緒戦はやはり熱く激しく、そして激しい怒りの下に始まった。







【C-6/荒野/1日目 午後】


【パパス@DQ5】
[状態]健康
[装備]はがねの剣@DQ6 力の盾@DQ8
[道具] 支給品一式、支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]生死に執着はないが、思い残しはしたくない。
   アンルシアたちの護衛をする



【ティア@DQ2(サマルトリアの王女)】
 [状態]:健康 挫いた足(治療済)
 [装備]:氷柱の杖(残5)@トルネコ3 ようせいのくつ@DQ9
  [道具]:支給品一式 脱いだ靴 ロトの剣 おわかれのつばさ@DQ9
 [思考]:兄とその仲間たちを探すため、トロデーンに向かう。兄にロトの剣を渡す 職業に就いてみたい

【勇者姫アンルシア@DQ10】
[状態]:健康
[装備]:とつげき丸@DQ10
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:トロデーンに向かう
フォズとティアを守る
    彼に会いたい
    彼を守りたい
    彼の隣に居たい
    彼に道具使いになってもらう

421希望の光、舞い上がる時 ◆CASELIATiA:2017/08/15(火) 18:43:13 ID:vApc2Mvs0
【フォズ@DQ7】
[状態]:健康
[装備]:ルーンスタッフ@DQ8 ようせいのうでわ@DQ9
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1(本人確認済み)
[思考]:仲間を集める。
    そのためにトロデーン城へ向かう


※おわかれのつばさは今すぐは使えないという結論に達しました。
※バルザックたちは視認できないほど離れました。




【C-7/荒野/1日目 午後】

【モリー@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:蒼炎のツメ@DQ10
[道具]:支給品一式、不明支給品(1〜3)
[思考]:ザンクローネと共にこの殺し合いを止める
    レックたちへの加勢
【ザンクローネ(小)@DQ10】
[状態]:健康
[装備]:プラチナさいほう針@DQ10
[道具]:支給品一式、不明支給品(0〜2) 
[思考]:ふてぶてしく全てを救う


【イザヤール@DQ9】
 [状態]:健康
 [装備]:斬夜の太刀@DQ10
 [道具]:支給品一式 不明支給品(0〜1) 
 [思考]:アーク(DQ9主人公)と再会し、謝罪したい。
 [備考]:死亡後、人間状態での参戦です。
     (「星のまたたき」イベントで運命が変わって生き返り、アークと再会する前です)

【バルザック@JOKER】
 [状態]:HP7/8、火傷と打撲
 [装備]:大魔神の斧@DQMジョーカー
 [道具]:支給品一式、道具0〜2個
 [思考]:錬金釜を手に入れて新たなる進化の秘法を考え出し、エビルプリーストをも超越したい。
 [備考]:
※主催からアイテムに優遇措置を受けている可能性があります。
※エビルプリーストによってヘルバトラーやギガデーモンに近い位階にまでパワーアップしています。
※バルザックの姿はバルザックビースト形態(第一形態)です。

422 ◆CASELIATiA:2017/08/15(火) 18:44:00 ID:vApc2Mvs0
投下終了しました

423ただ一匹の名無しだ:2017/08/20(日) 19:57:32 ID:Uy4b/XqI0
遅れましたが投下乙です

おわかれのつばさ…9パーティ勢から何かいい答えはもらえるのだろうか
一応本来の用途は知ってるし何らかのヒントがもらえるといいな

そして1対3のバルザックは今度こそ本領発揮できるのか…

424ただの一匹の名無しだ:2017/08/20(日) 23:16:09 ID:AqJrJ.ms0
投下乙です。
ティア組に新しい強い味方が!!
でもアンルシアはジャンボが何したか知ったらどうするんだろ。

そしてバルザック頑張れ。モリーも頑張れ。

425 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 00:56:29 ID:/n5HYbQo0
時間ギリギリですが投下したいと思います
が、ちょっと危険なネタですので一時投下スレに落として皆さんの判断を仰ぎたいと思います

426 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 01:14:20 ID:/n5HYbQo0
投下してきました
内容等は一時投下スレの方で確認をお願いします

427 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 22:43:34 ID:o9oC4cIo0
では特に問題もないようなのでこちらに投下します

42810の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 22:44:13 ID:o9oC4cIo0
青い空、白い雲、照りつける太陽。
本日は絶好の晴天なり。
そして同時に、絶好の殺し合い日和。

「いません!」
「うーん……」
「はてさて……」

フアナとサヴィオ、そしてカマエルは再びあの地へと戻ってきた。
フアナがズーボーを失い、気絶した場所。
地形を変化させるほどの大規模呪文が何度も爆発した激戦の地。

「僕もコニファーもいたけど、見落としはなかったと思うよ?」
「でも、死んでないんですよね?」
「それは僕も保証するけどさ」
「ワタクシも聞き間違いはないと思いました」
「けど、って何ですか?」
「いや、あの放送が真実とは限らない線もあって……ってそんなこと言いだした日にはキリが無いけど」

となると、バーバラとゼシカはサヴィオとコニファーが来る前にどこかへ移動した。
理由はすでにフアナとズーボーは死んだと勘違いしたため。
あるいは、生存が判明してるヘルバトラーか悪意を持った人間が二人を拉致した。
考えられるのはこのあたりか。

サヴィオが辺りをもう一度見回す。
魔の瘴気は緑豊かだったはずの場所を死の大地に変えていた。
急速に枯れた植物、紫に変色した土、あっという間に風化した岩石。
大自然の植物で満たされていた大地の中に円形に広がる、茶色の大地。
明らかに自然にできたものではない。
フアナが見た、ヘルバトラーの攻撃によるものだと推察される。
どれほど強大な敵と戦ったのかも自ずと知れる。

「そういえば……思い出してきました!」

円周率は軽く10万桁まで覚えてるほど記憶力の良いのがフアナという僧侶。
教会の教典の暗誦は4歳の頃にはすでにできていた。
あの時何が起こったのかを正確に思い出していく。
あの時、ゼシカとバーバラはとっておきの呪文を放とうとし、フアナはズーボーを死なせまいと前に出た。
そして、ヘルバトラーの魔の瘴気と二人の最強の呪文が激突し、フアナはズーボーに守られたのだ。
ゼシカ、バーバラとズーボー、フアナは離れた場所にいた。
そのことをフアナは思い出す。

「こっちです!」

フアナが記憶にある場所へと走り出す。
そこにはゼシカとバーバラこそいないものの、紙があった。
本来ならフアナの傍に置かれていたこの書置きが風で吹き飛ばされた結果、この場所に飛ばされたのは偶然なのか必然なのか。
ゼシカとバーバラの生存はこの時保証された。
同時に、ヘルバトラーや悪人に拉致されたという最悪の可能性も消えた。
しかしこんなものを残してフアナを置いて行く理由とはいったい何なのか。
期待と不安混じりに、フアナはその紙を手に取る。

42910の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 22:45:23 ID:o9oC4cIo0
『ごめん
 バーバラがどこか行った
 追いかける』

「これは……シンプルな文面からも、急いでることが滲み出てますねえ」

カマエルの言葉に二人も同意する。
文字はいかにも走り書きといった感じで雑で、大きさも統一が取れてない。
最低限の情報だけ書かれたメモは逆に不安を煽ることとなる。
どこかへ行ったとはどういうことなのか。

「目的地も告げず、ゼシカの同行も許さずに一人でってことみたいだね」
「はい。 けれどどうして……」
「ねえフアナ、バーバラって子は誰にも相談せずに突っ走るような性格だった?」
「いいえ。 私の目には元気な女の子という風にしか見えませんでした」

フアナの言を信じるなら、少なくとも正常な状態で下された判断ではないということか。
だとしたらそれは内的な要因なのか、外的な要因なのか。
例えば仲間の死で自暴自棄になったのか、それとも誰かにおびき寄せられたのか。
どちらにせよ、危険な状態にあることは確かだ。

「とりあえず探しに行こうか」
「はい、任せて下さい。 探偵事務所でアルバイトしてたこともありますから、人を探すのは得意です」
「あ、そう。 じゃあお任せするよ」
「タンテイ……とは何でしょうかご主人様」
「しっ、フアナの邪魔はしないで」

フアナがまず最初にしたことは自生している木に近寄ることだった。
その木を隅々と見渡す。
注目してるのは枝。 葉っぱではなく枝だ。
丁度良い枝を見つけると、フアナはバギでその枝を斬り落とす。
斬ったのは最も高い部分に近い細めの枝。
それを二つほど用意する。

「ダウジングマスターの称号を持ってますからね。 探し人から埋設された水道管まで、何でも見つけてみせます」

L字に近い枝を両の手に一本ずつ軽く握る。
あとはこの簡易L字ロッドが反応する方へ行けばいいだけだ。
これはフアナが土木工事に携わる際に習得した技術だ。

「スイドウカン、とは一体何なのですか?」
「聞かない方がいいと思う。 僕はもう突っ込むのは止めた」

アスナ一行はフアナに対して、事の真相を確かめないのが暗黙の了解になっている。

43010の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 22:46:03 ID:o9oC4cIo0
クイッ

「ふむ」

クイックイッ

「こっちです」

クイックイックイッ

「むむむ、近いですよ」

クイックイックイックイッ

「ズバリ、この近くです!」

グイーン

「見つけました! サヴィオ、ここを掘ってください」
「ええ? だってここは……」
「いいですから、早く!」
「はぁ……僕、肉体労働得意じゃないのに」

フアナの指示した場所を掘り返すサヴィオ。
スコップもないので時間がかかりそうだ。
毒々しい色をした大地を素手で触りたくはない。
途中からそう考えたサヴィオは手に持ってるろうがぼうで掘る。

(これ、地表の柔らかい部分はまだしも、固い土に当たったらどうしよう。
 ていうかそもそもゼシカとバーバラを探してるのに、何で土を掘ってるんだろう)

そんなことを考えていたら、固い感触にぶつかった。
石か何かと勘違いしそうになるが違う。
これはまさかゼシカとバーバラの装飾品か。
まさかこんなところにいたとは。
ろうがぼうの使用を止め、サヴィオは再び手での作業に戻す。
地中に埋まってた何かが出土された瞬間、地面が光る。

「こ、これはっ!」
「まさか!
「徳川家の埋蔵金!?」

テテレテテレテー テテテテー♪

なんと! サヴィオは バレットハンマーを みつけた!
なんと! サヴィオは オーガシールドを みつけた!
なんと! サヴィオは ウェディングドレスを みつけた!
なんと! サヴィオは アルゴンリングを みつけた!

「って、ちが〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜う!!

フアナはダウジングロッドを地面に叩きつけた。

43110の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 22:46:39 ID:o9oC4cIo0
「こ、こんなはずじゃあ……!」
「いや〜、おかしいと思ったんだよね。 場所が場所だし」

サヴィオがチラリとある方向を見る。
そこには痛めつけられたズーボーの遺体があった。
そんなところに埋まってるはずがないだろう、常識的に考えて。

「き、きっと感度が高すぎたんです! 今度はちゃんと対象を生物に絞りますから!!」
「いや、久しぶりにポンコツな部分を見れて安心したけどね僕は」
「優秀な私がこんな屈辱……」

苦笑交じりにサヴィオはフアナの背中を見守る。
たぶんフアナは余計な技能や資格を取得せずに、僧侶一本だけに専念したら歴史に名を残すレベルの偉人になったんだろう。
それくらい優秀なのがフアナという人間だが、サヴィオはあえて口にしない。
フアナは今のままの方がきっと生き生きとしてて、サヴィオも見てて楽しい。
それ以上にフアナ本人が性格的に、僧侶というたった一つの道に縛られることを由とはしないだろう。
そこがまたフアナという人間の魅力だ。
完璧な人間よりは、完璧でない人間の方が見てて楽しい。
冗談、戯言、酔狂、与太、大いに結構だ。

「ねえフアナ。 どうしようか」
「何をですか……? あっ」

ズーボーの遺体の埋葬。
それは当初の二人の目的になってた。
しかし、状況は変わった、
ゼシカとバーバラが行方不明で、ゼシカの方はフアナ宛てに書置きを残す余裕がある。
一方、バーバラの方は良くない精神状態にあると推察される。
ゼシカ一人でバーバラを捕捉し、ここに連れて帰ることはできるのか。
ここでズーボーの埋葬を行い、二人を追いかけるのは後回しにするか。
ゼシカとバーバラの捜索を優先し、ズーボーの遺体は野晒しにしたままか。
きっと、それはどちらも正しいし、正しくもないのだ。
あちらを立てればこちらが立たず。
二兎を追う者は一兎も得ず。

「サヴィオ、お願い」

フアナの意図を察したサヴィオが地面に爆裂呪文を打ち込む。
空いた穴に二人がかりでズーボーを運び、今度は腐敗を遅らせるためにズーボーの遺体の周囲をヒャダルコで包み込む。
最後に土をかけるのだけは手作業だ。
棺桶も作る余裕がない今、これが二人にできる精いっぱいの葬儀だ。

「この気候だと痛みも早いだろうし、気休め程度だけどね」
「いいんです。 きっとズーボーさんも分かってくれる」
「キンキンに冷やしておいたからね。 天国で火傷が癒えてくれるといいね」
「うん……」

簡易的な埋葬を行い、全力でゼシカ、バーバラの捜索に当たる。
それがフアナの下した決断だった。

(ありがとう、ズーボーさん)

今は前だけを歩いて行こう。
そう決めたフアナは祈りを終わらせると、再び木の枝を握りしめた。
大きなオーガの、優しいパラディン。
フアナはズーボーの存在をいつまでも忘れない。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

43210の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 22:47:09 ID:o9oC4cIo0
「ところでフアナ、もしかしてあれはゼシカかバーバラが肉体改造に成功した姿なのかい?」
「何を言ってるんですかサヴィオ」
「な、なんとも凶悪そうなモンスターですね……」

フアナとサヴィオが新たに発見したのは、よりにもよってヘルバトラーだった。
といっても、未だ気付かれてはいない。
かの魔物は巨木に背中を預け、休憩中のようである。
よく見れば体中が血まみれ、体の部位はところどころ欠損しており、生きてる方が不思議な状態だ。
さすがにあの超破壊呪文を受けて五体無事とはいかなかったようだ。

「これはチャンスです」
「かも」

長い期間を共に過ごしてきた二人。
そこには熟年の夫婦にも似た、阿吽の呼吸が生まれていた。
先手必勝、先んずれば人を制す。
あの魔物が完全回復すれば、また誰かが死ぬような死闘が発生するは必至。
亡きズーボーの仇を討つため、この殺し合いを終息させるため、今度はこちらが仕掛ける番だ。

「行くよフアナ。 魔法力は?」
「はい、なんとか。 呪文はもちろん」
「ああ、あれで行く」
「カマエルはお二人の成功を祈っております!」

紡がれる詠唱。
高まる魔力。
これまでの思い。
その全てをこの一撃に託す。

「「荒ぶる聖風」」

そう、二人で同じ呪文を唱えれば。
相乗効果でその威力は何倍にも増す。

「「神に捧ぐ十字をここに刻め!」」

ダブルバギクロス。
その威力はバギムーチョにも勝るとも劣らぬ。
荒ぶる竜巻は狙いをヘルバトラーに定め、進路上のものすべてを切り刻む。

「ッ! 何だと!?」

ようやくヘルバトラーが気付くが、遅い。
この怪我では思うように体が動かない。

「これで幕です。 ヘルバトラー!」

フアナが吠える。
ズーボーと、散っていった者たちの魂が安らぐことを祈って。

「貴様は!」

呪文を放った相手を確認するのと、バギクロスで全身を切り刻まれる。
ヘルバトラーはその二つを同時に味わった。
地面に伏したヘルバトラーの顔が屈辱で歪む。

「糞、くっそおおおおおおおおおおおお!!
 俺様が、この俺様がああああああああああ!」

43310の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 22:47:32 ID:o9oC4cIo0
まだ足りない。
人を殺し足りない。
恐怖の表情を見れてない。
戦闘の喜びを噛みしめ切れてない。
この力でもっともっと楽しみたいというのに、人間風情が何故邪魔をする。
ああ、ダメだ。
命が消えていく。
もっと血を、臓物を、悲鳴を寄越せ。
まだ死にたくない。

死 に た く な い!





                        何をしている





ヘルバトラーの命がまさに風前の灯火となった瞬間、神の名を僭称する悪逆の神官が囁いた。
エビルプリーストだ。
ヘルバトラーは藁にもすがる思いでその声に全力で耳を傾ける。





                  何のために貴様に10の世界すべての可能性を与えたと思っている
                  いや、つい最近新たな可能性が加わったのだが、まあいい





失望の声だけを浴びせに来るような男ではない。
この男がこうやって声をかけているということは、何らかの救済が見込めるはず。
それを期待するヘルバトラー。
せかいじゅのしずくや扱いやすい大剣を渡したりと、ジョーカーの中でも相性の良い道具を優遇されていた。
それは偏に、ヘルバトラーこそが最も戦果を期待できる存在だったからだ。

裏切りの恐れのあるアンドレアル。
知能が残念なギガデーモン。
所詮は元人間のバルザック。
弱肉強食の掟に忠実過ぎて、参加者の僕になってしまったキングレオ。

43410の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 22:48:01 ID:o9oC4cIo0
予見していたことだが、ヘルバトラーのみがエビルプリーストの任務に忠実なのだ。
ギガデーモンは支給していたインテリハットさえ装備すればもっと死人が出ただろうが、結果は街一つを滅ぼした程度。
純粋な魔物で知能も戦闘能力も高い、ピサロへの忠誠も薄く、己が欲求さえ満たせればそれで良い。
ヘルバトラー以上にジョーカーとしての適任はいない。





                  思い出すがいい
                  貴様の本当の力を
                  その魔瘴は何のためにあるのかをな
                  




魔瘴。
それはズーボーたちと戦った時に使用したような、単なる飛び道具ではない。
これは人を死に至らしめ、魔物の力を増幅させる気体。
そして10の世界すべての力を得たヘルバトラーが、こんなところで這いつくばっていていいはずがない。

(なるほど、そういうことか……)

潮の香りのする洞穴で、ドワーフの男と戦った記憶を思い出す。
あの時の自分も、こうして敗北してしまった。
だが、それで終わりはしなかった。
今までの自分の馬鹿さ加減に嗤ってしまう。
自分はこんなにも力の使い方を間違えていたのだ。

(感謝するぞ、エビルプリーストよ)

死んだかどうか確認するために近寄るフアナとサヴィオ。
ヘルバトラーにとってもはや二人は死を告げる死神ではなく、これから狩る絶好の獲物。

「っ! まだ生きて!」

立ち上がるヘルバトラーを見て、しかしサヴィオは動じない。
どう見ても死にかけ。
ここからの逆転の目など有り得ない。
そうだ、ついさっきまではそうだった。

「ククク、貴様らに見せてやろう」

魔瘴をその腕に集めるヘルバトラー。
いつの間にか、周囲には魔の霧が立ち込めていた。

「サヴィオ、あれを吸ったらダメ!」

フアナとサヴィオは後退を始めた、
わざわざ接近しなくても呪文がある。
それでなくても肉弾戦は得意ではない。

「魔瘴の、本当の使い方をなぁ!」

その魔瘴を、自分の体へと向けて開放する。
魔の霧がヘルバトラーを包む。

43510の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 22:48:18 ID:o9oC4cIo0
魔瘴とは非常に不安定で不定形であり、その形は千差万別だ。
多くの場合は無差別に死をまき散らすだけの毒でしかない。
だが、特に濃度の高い魔瘴は意思のようなものを持つことが観測されている。
例えば、邪悪なる存在が退治され、残った無念が残留思念となって魔瘴と混じり合う。
混ざった魔瘴は退治された魔物とまったく同じ形を取り、しかもさらに凶悪になって甦ることもある。
また、一つの大陸を外界から隔絶することもできたりと、人間にとっては危険極まりない代物だ。
だが、魔物にとってはあまりにも使い勝手の良い気体。

魔瘴と融合したヘルバトラーの傷が癒えていく。
ポーラにつけられた十字の傷が。
マダンテの力で消し飛ばされた腕と翼と角が。
バギクロスでついたいくつもの傷が。
その全てに魔瘴が入り込み、ヘルバトラーの新鮮な血肉となる。

「フアナ、これヤバいよ! 逃げた方がいい!」
「そんな……こんなのって……!」

魔瘴が晴れていく。
中心にいたはずのヘルバトラーが、その姿を現す。
その姿はフアナにとっては悪夢にも等しい。
みんなで頑張ってつけた傷が、余すところなく復元されている。
ヘルバトラーは例の不気味な笑みを浮かべ、こちらを見ている。

「では試しに」

指をクンッと上にあげる。
それだけで地面が割れ、激しく隆起する。
これはもはや地殻変動や局地的な地震にも等しい揺れだ。
大地の鳴動が魔瘴によって強化され、ここまでの威力になっているのだ。

「第二ラウンド開始といこうか。 今度こそあの……まあいい、忘れた。
 何とかという聖騎士と同じ目に合わせてやろう」

その魔物はもはやヘルバトラーであってヘルバトラーに非ず。
魔瘴によって大幅に力を増幅されたこの魔物はこう呼ばれるべき存在だった。

即ち、ヘルバトラー強。

43610の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 22:48:40 ID:o9oC4cIo0
【C-4/平原/1日目 午後】
 【ヘルバトラー強@JOKER】
 [状態]:HP全快
 [装備]:
 [道具]:支給品一式、道具0〜2個
 [思考]:
基本方針:心のままに闘う。

 [備考]:
※主催からアイテムに優遇措置を受けている可能性があります。
※歴代のヘルバトラーに使える呪文・特技が使用出来るようになっています(DQ5での仲間になった時の特技、DQ10での特技など)。
※さらに強力な特技、呪文が使えるようになりました(イオグランデなど)

【サヴィオ(賢者)@DQ3】
[状態]:MP微消費
[装備]:ろうがぼう@DQ9
[道具]:支給品一式 道具0〜1個 カマエル@DQ9 バレットハンマー@DQ10 オーガシールド@DQ5 
     ウェディングドレス@DQ9 アルゴンリング@DQ8
[思考]:仲間たちと合流、バラモス@DQ3や危険な存在とはまともに戦わず脱出したい。仲間を探す。
   
[備考]:元遊び人です。

【フアナ(僧侶♀)@DQ3】
[状態]:HP3/5 MP1/20
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜3(本人確認済み)
[思考]:バーバラとゼシカと合流する

437 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 22:48:57 ID:o9oC4cIo0
投下終了しました

438 ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:19:23 ID:jV4HiEsM0
投下したいと思います、
だが、前回の反省と、今回も挑戦的なことをやってしまったので、私も一時投下スレを使おうと思います。
(実は前回までその使い方を知りませんでした)

439 ◆znvIEk8MsQ:2017/08/24(木) 22:01:21 ID:MmV4HxRk0
問題ないようなので、予告してた通りそろそろ投下します。

440前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/24(木) 22:02:44 ID:MmV4HxRk0
「サフィール。何してるんですか、こんな所で。」

それは、何気ない父親の声。
たまたま予想してもいないところで、見つけた娘に対して、投げかけた言葉だ。
だが、視線が、違った。
父親は、娘を、愛する存在を見る目で、見てなかった。
それに合わせて、周りの空気も、親子同士の会話とは思えないほど、殺伐としている。
たとえ親が子を叱っている時でさえ、こんなことはならないだろう。


「………やめてください。」
サフィールはアベルを諭そうとする。

「やめてください?何を、止めるというんですか?」
「この世界で人を傷つけて、殺すことです。」
「そうか、君は、知ってしまったんですね。」

アベルは、自分の行いを知られたからといって、特に悪びれる様子もなかった。
表情一つ、変えない。
だが、それが逆に、おぞましいものを潜ませていた。

「私は、知ってました。おとうさんが苦しんでいたことを。でも、自分がされたことを、この世界の人達にするのは間違ってます。」
「何を間違っているというんですか?私は愛を求めたから、幸せになれなかった。
だから、愛を壊すんですよ。そして、愛という物がどれほど価値のないものか、分からない奴らに、真実を教える。」
「そんなことをしても、誰も喜びません!!」
「あのローラとかいう女といい、おまえといい、本当に嫌な目をする。」

アベルの両目と、持っていた剣に一層邪悪な光が帯び、同時に剣をもってない方の手には、緑の光を帯び始めた。
「消えろ。」

アベルは自分の娘を、まるで邪魔な魔物を追い払うかのような目で、バギクロスを唱える。
「誰が喜ぼうと悲しもうと、私の知ったことではありませんね。」
十字の竜巻が、サフィールに襲い掛かる。
まともに受ければ、パトラの二の舞になっていただろう。


「爆ぜろ大気よ、イオナズン!!」
しかし、サフィールの放った大爆発は、その竜巻を吹き飛ばした。

「一皮、剥けましたね。この世界で、新しい友達でも出来たのですか?」
サフィールは、ただ一つ頷く。

サフィールにとって、友達、特に人間の友達は、あまり多くなかった。
オジロン前王の娘ドリスや、ラインハットのコリンズ王子など、いないわけではない。
だが、旅を続けるという以上、友達として交流する時間はほとんど用意されてなかった。


その点で、マリベルという人物はほんの僅かだけでも共に冒険をした友達だった。
彼女はサフィールにとってかけがえのない存在になった。
だからこそ、約束を守る。
マリベルという命が、消えてなくなってもその決意は変わらなかった。

441前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/24(木) 22:03:06 ID:MmV4HxRk0
「アンタ、あたしに、流されてみる……って、言ったでしょ!」


マリベルに流されて、父親を止める。
彼女が殺された原因も、父親にあるのだから。

「だが、友情も、愛と同じで儚く崩れるだけですよ。」
アベルはサフィールの喉元めがけて、剣を振った。

だが、それは予想外の力によって止められる。
10歳の少女の力ではない。
アベル本人が使っていた、ドラゴンの杖の力だ。
ボブルの塔で見つけた時は、アベルしか受け付けなかったはずだが、どうしたことか。

「崩れる物ではありません!どんな時でも誰かの心の中に残っています!!」

そうですか、その杖まで、私を否定するのですね。
アベルの憎しみと破壊の剣の力は比例する。
拮抗していたドラゴンの杖ごと、サフィールを弾き飛ばす。

「きゃあ!!」
アベルの心の中の憎しみや怒りを吸い、ネプリムやパトラの命を吸い、地獄の悪魔が人間への憎しみを糧に作った剣は、更なる力を増す。

「主殿!!」
後ろにいたリオウが、アベルに声をかける。
「リオウ!手を出すな!!これは、私だけの問題だ!!」

そうだ、これは、私だけの問題だ。
家族でさえも殺すことで、私は愛を求めていた過去と決別できる。
私の幸せは、その先にある。
新しい何かを得るためには、古い何かを犠牲にしないといけない。


父親は、最早自分を寝食を共にした娘と見ていない。
何を言っても、止めることが出来ない。
ならば、覚悟はしていたが、こうして止めるしかない。

「凍てつけ!!マヒャド!!」
いくつもの白銀の刃が、アベルに襲い掛かる。これで凍り付かせて、動きを封じることが出来れば。


「無駄ですよ」
アベルは剣を振るい、大きい氷を次々に砕いていく。
直に当たっただけではなく、剣を振った時に起こる風圧に当たるだけでも砕けることが、どれほどの威力の斬撃か分かるだろう。

急激な温度低下は、アベルの肌に多少のダメージを与えることは出来たが、これでは全く進展がない。
マヒャドを連発していても、いずれ魔力が切れ、殺される。
イオナズンを使ったら、バギクロスで相殺されてしまう。


サフィールの魔力を最大限まで活用した攻撃呪文は、二つとも決定打にならなかった。
だが、まだ一つだけ試してないことがある。

442前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/24(木) 22:03:37 ID:MmV4HxRk0
「あくまで、私を否定するのですね。私がどんな思いをしてきたか知っていて。」
再び、斬撃が来る。

「マヌーサ!!」
「なっ………」
だが、その斬撃に切り裂かれたのは、サフィールの幻影であった。


これで一瞬時間を稼ぎ、そのスキにドラゴンの杖の力を使って、竜に変身すれば………。



始めてドラゴンの杖の真の力が分かった時、それはサフィールの母親が囚われた大神殿での出来事。
四方八方から襲い来る手ごわい敵に、複雑に入り組んだ神殿。
戦いは、熾烈を極めた。
これまでの魔物の本拠地では、新たに仲間になってくれる者もいたが、この場にはそういった魔物さえいない。
魔物に囲まれ、万事休すと思われた際、アベルが持っていたドラゴンの杖の宝珠が光り、アベルを強大な力を持った竜に変身させ、危機から逃れたのだ。
あの時のように、ドラゴンの杖なら自分と父親を救ってくれるはずだ。



「竜の力よ、私を救いたまえ………」

「そうはさせません!!」
だが、幻影の中で、的確に狙いを定め、剣を振り下ろす。
幻影の中でも、宝珠の光が仇となり、サフィールの位置が分かってしまったのだ。
祈りをささげるのを破棄し、あわてて斬撃を止めるが、先ほどのように吹き飛ばされる。

やはりドラゴンの杖に関して、自分以上に知っている人物が敵である以上、頼りすぎるのは危険だ。
彼女にとって、ドラゴラムという、もう一つ竜に変身する方法があるが、これはイオナズンやマヒャドに比べても詠唱時間と使用魔力が多すぎるため、味方がいない時に使うのはリスクが高すぎる。

「否定しても構いません。ただ、私が破壊するだけですよ。」
「魔王」と化した父親は止まらない。これでサフィールにとって状況はますます絶望的になってしまった。


だが、運は彼女を見放していなかった。

443前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/24(木) 22:04:09 ID:MmV4HxRk0
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

時は少し遡り、場所は滝の洞窟前。
“彼”はなおも佇んでいた。
死者の名が告げられ、彼女の死が改めて確認された後も。

だが、その硬直は、突然解かれることになる。
遠く風に乗ってかすかに聞こえた、イオナズンの爆音とサフィールの悲鳴に。

(爆音!?)
(彼女が、唱えた、魔法だ。)
(悲鳴!?)
(彼女に、似た、声だ。)

ゴーレムといえども、死の概念は分かっていた。
“彼”は街の守護者として、いくつもの魔物や人の死を見てきたから。

彼女は、死んだ。
自分の目の前で。
その死骸はここにある。
あのわけの分からない神官の男からも、名が告げられたではないか。

そこで、“彼”に一つ、疑問が生まれた。

だが、何らかの形で、彼女は生き返ったのかもしれない。
とある記憶の世界の、創造の力を持った若者のように。
そして、再び自分を必要としているのかもしれない。
それならば、今度こそ彼女を守らねば。

ただ、守るために戦うことしかなかったゴーレムに、疑問が生まれること自体おかしいことだ。
だが、“彼”は自分を守護者以上の存在として見てくれたネプリムに出会い、何かが変わっていた。
自分で作った墓を後にし、ダイナミックに歩き出す。


止まっていた守護者の時間が、再び動き出した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「………………どうすればいいんだ。」
父と娘の戦いを、遠くから見ている者がいた。
獅子の王、キングレオ。
いや、今はリオウという名前だが。


何かやらなければならないはずなのに、何もするなと命令されるのは、窮屈だ。
目の前に現れたガキ。
あいつは、我が主の娘らしいな。
家族同士の戦いを見ると、我も父親を生贄にし、キングレオ城の王位と、デスピサロ様の幹部としての地位を手に入れたことを思い出す。

成り上がるためには、家族さえも犠牲にしなければならない。
当然の話だ。
愛だの恋だの、そんなものは魔族の世界に必要ない。
だから我は、エルフの娘との恋に現を抜かすピサロ様には完全に従えなかった。
最も、我の上司にして、同じようにそれを反対していたエビは、やることなすこと小物過ぎて今も昔も好かないが。
やはり、目的も方針も一致しているという点で、アベルは実力面でもカリスマ面でも本当の主なのだ。


弱肉強食、強い者に従って生きるキングレオにとって、弱肉強食の世界を肯定するアベルは理想の上司だったのだ。

444前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/24(木) 22:04:34 ID:MmV4HxRk0
やはり本当の主のためにも、最低限出来ることはしておこう。
改めてアベルを主として認めたリオウは、ザックを開ける。
エビからの支給品というのがなんとも気に食わないが、アベル様のために使うのなら仕方ない。
入っていたのは、ツメと草。

ツメはオリハルコン製の物で、これは確かに武器として申し分なく強い。
しかし、問題はあとの一つ。
草はルーラ草という、その名の通り飲むかつぶして振りかければどこかへ飛べるというものらしい。
我の力が足りないというのか。
危なくなったら飲んで逃げろとでもいうのか。
そもそもアベル様のために使いたい道具なのに、自分が使ってもアベル様に使っても、離れ離れになってしまいこれ以上手伝うことが出来なくなるではないか。
エビが自分の力を甘く見ている、はたまた他人に付くことを恐れていると考えると、落胆してしまう。


だが、ゴーレムやジンガー、小僧の変身した竜など、自分と同じか、それ以上に力の強い者がこの世界にいるというのも事実。

草は使う気はないが、いざという時のために、ツメを付けておこう。
最も我が主が、あの小娘に負けるとは思わないが、契約には忠実に。




呪文と斬撃で、容赦なく殺そうとするアベル。
それに対し、マヌーサや爆発魔法、氷魔法などの絡め手や、ドラゴンの杖で攻撃から身を守るサフィール。
防戦一方になっている以上、アベルを止めるどころか、殺されないようにするだけで精いっぱいだった。

そもそも、父親と娘ということを除いても、コンディションの差が圧倒的だった。
アベルはサフィールを殺すつもりでいるが、サフィールは「止める」つもりでいる。
加えて、この世界でアベルは何の喪失感もなく、反面サフィールは兄と、友を失ったことで、精神的にも疲れている。

「私はね、幸せが欲しいんですよ。誰がどうなってもいい。
そのために、邪魔なものは全て破壊する。
サフィール、君もそろそろ、過去と決別すべきです。私を殺すか、殺されるか、選びなさい。」

斬撃が、来る。ドラゴンの杖で、守る。
破壊の剣の衝撃は、攻守ともに優れた杖を介してでも強力で、そろそろ手の
感覚がなくなってきた。
相手にかけたマヌーサも効果が切れる時間だ。
魔力もそろそろ限界を迎えるだろう。

「そんなの、おにいちゃんやおかあさんが喜ぶはずがありません!!」
だが、彼女はあきらめない。

(黙れ………いつまで家族のことなどを、気にかけている………!!)
(そもそも、おまえの兄が勇者として生まれなければ私は………!!)

アベルには分かっていた。
サフィールも、かつての自分と同じで、愛を求めているのだ。
ならば、かつての自分と同じ気持ちを味わせてやろう。
更に憎しみを帯びた剣が、振るわれる。
「きゃ!!」
だが、それは幸か不幸か、当たらなかった。

445前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/24(木) 22:05:05 ID:MmV4HxRk0
サフィールが、何かに滑って転んだため。
だが、その拍子に、ドラゴンの杖も、落としてしまった。
足元を見ると、それはすでに醜悪な肉塊と化したパトラだった。
サフィールでも、アベルにより犠牲になった人だということが分かる。

彼女にとって、それは気持ち悪いというよりも、父親に対する恐怖の方が強く感じた。
かつての父親は、魔物と対峙した時でさえ、ここまで徹底的な攻撃をしなかった。
父親の苦しみと、幸せへの執着は、それほどまでなのか。
そして、自分は父親によって、同じような姿になるのか。


振り下ろされるはずだった剣を止め、アベルはこう問う。
「一つだけ聞きますよ。私と一緒に、参加者を殺し続けませんか?過去と決別し、全てを破壊すればもう死んだリュビや、友達のことを考える必要もなくなりますよ。」
「イヤです!!」
だが、それでもサフィールは頑なに拒否する
どうしてここまで自分の意思を貫けるのだろう。
だが、意志の強さのみでは、どうにもならないこともある。


ならば、と父親は怒りに任せてサフィールを殺そうとしたところ。


ズシン

ズシン ズシン
ズシン ズシン ズシン

地鳴り?
いや、これは………
アベルが後ろを振り向くと、一度戦ったゴーレムが走ってきていた。
既に、ゴーレムの長く太い腕が、伸ばせば当たるという距離だ。

まずい…………!!


「ぬおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
しかし、この場にいたもう一人の人物、リオウが4本の腕で、ゴーレムの攻撃を止める。
主殿の娘には手を出すなと言われていたが、因縁の相手の一人だし、こいつなら戦ってもいいだろう。
「主殿!!」
「リオウ、でかした。」


「もう、油断はせんぞ。」
力はゴーレムとリオウは同じか、ゴーレムの方がわずかに勝っているくらいだったが、今回は違う。
ゴーレムは、組み合ってすぐに、拳の先にツメが刺さっていることに気づいた。
しかもオリハルコンのツメはゴーレム以上に固く、かぎ状になっていて抜けない。
腕を振って抜こうとするも、リオウは残りの腕でがっちりと押さえる。

446前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/24(木) 22:06:11 ID:MmV4HxRk0
「フフ、もう動けはせんぞ。」
続いて、リオウはゴーレムに向けて、高熱のガスを吐く。
長年守護者を続けていたゴーレムは、そんなものでは倒れない。
「ならば、これでどうだ。」
更に、凍える吹雪を吐く。
「主殿!!」
長年守護者を続けていたゴーレムは、そんなものでは倒れない、が、低温と高温の差は、ゴーレムの頑強な体を脆くしていった。

「よし、あとは私が倒す。」
サフィールの魔力はもう切れかけている上に、杖も落とした。
ゴーレムを先に殺しても、問題はないだろう。

アベルは踵を返し、ゴーレムに突進する。

「爆ぜろ………イオラ!!」
「ぐっ!」
アベルの背中に、爆発が起こる。
「もう……これ以上、誰かを傷つけるのは…………。」
パトラの血を浴びて全身が血と泥で汚れ、息も絶え絶えになりながらも、抵抗を続ける。
アベルには、どうしてサフィールが自分を否定し続けようとするのか、分からなかった。

「うるさい!!」
怒りのままバギマを唱える。
あとで殺せばいいし、今は詠唱時間の短いバギマで十分だ。
竜巻は大きくはないが少女を吹き飛ばすほどの力はあり、ゴーレムの近くに飛ばされた。
まさか、ここまで抵抗してくるとは。
まあ、どのみち敵として、家族もゲレゲレもロッキーも、私の願いのために殺すつもりだったから私に従ってもあまり変わらないが。
仮に先ほど、サフィールが父親に従おうとしても、やがて殺すつもりだった。
リオウやジンガーだって、犠牲にする必要があるなら、いつかは殺さなければならない。
死ねば、全て無くなる。愛も、友情も、過去も、未来も。



そうだ。この戦いが終われば、王として思い切ってグランバニアの政治の形態を変え、世界中に戦争を仕掛けよう。
従う者は奴隷か兵士に、逆らう者は家族や友達ごと拷問するか皆殺しだ。
サンチョやピピン、中には他の住民やモンスターも止めるかもしれないが、その時はまた殺すだけだ。
そして、愛に執着する者たちに、それがどれほど脆いものなのか思い知らせよう。
力を持つ者だけが、幸せになれる。それを教えて、何が悪い。
少なくとも伝承にある、愛した者に裏切られ、英雄の自覚を捨てて凡庸な人間として生きた勇者ユーリルよりかは良い生き方のはずだ。


「死ね。」
無慈悲にも、アベルは横に闇を纏った剣を一閃。
少女の体は二つに切り裂かれ、守護者の体は砕かれた―――――――――――


【サフィール @DQ5 死亡】
【ゴーレム@DQ1 死亡】

【残り46人】

447前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/24(木) 22:08:05 ID:MmV4HxRk0












―――――――――――はずだった。


「!!」
「!!!」
「!!!!」
「!!!!!」
敵味方問わず驚く。
何しろ、赤い肌をした巨大な神官が、突然斬撃を長い4本腕で受け止めたからだ。

(……………!!)
(助けて、くれたのですか?)
(な、なんだ、こいつは!!)
(サフィールが呼び出したというのか?いや、我々の世界にいる者ではない………しかも、ライオウやバトラー以上の魔力を感じる……………。)


彼の名は、幻魔ドメディ。
パトラが持っていた幻魔のカードによって呼び出された者だ。
世界でも召喚者がわずかしかいない幻魔中でも、味方への攻撃を難なく仁王立ちで受け止める、最強レベルの幻魔だ。



「オオオオオオオオオ!!!!」
ドメディは、雄たけびを上げ、4本のうちの上の2本の腕で、十字を描く。


彼がなぜこのタイミングで呼び出されたのか、サフィール達を守ったのかは、誰にもわからない。
死ぬ直前のパトラがカードに祈りをかけたことによるものなのか、
父親を止めたいという想いを抱いたサフィールが、一度パトラの死体に触れた際、無意識にカードに触れたことによるものなのか。
一つ言えるのは、決して諦めなかったサフィールの気持ちが、二人を救ったのだ。

「うわあああああああ!!!!!!」
「ぬぐおおおおおおおおお!!!!!!!」
光の十字が、二人を襲い、吹き飛ばした。


「おのれええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「待て、リオウ、迂闊に………」

アベルの指示も聞かず、目の前の敵に向かって突進する。
予想外の攻撃、しかも予想外の攻撃はアベルとジンガー、竜化したチャモロ、ドメディと三度目。
もはや我慢の限界だった。

448前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/24(木) 22:11:30 ID:MmV4HxRk0
「がっ!!」
しかし、突進した刹那、リオウの上から、ゴーレムの拳ほどの岩石がいくつも落ちてきた。
グランドクロスを放った後、既に4本の腕で岩石を掘り出し、待ち構えていたのだ。


「リオウ!!」
アベルもドメディに向かっていこうとするが、今度はリオウから解放され、自由になったゴーレムの殴打がアベルを襲った。


「ぐはっ!」

破壊の剣で受けたことで、ダメージはある程度抑えるが、それでも威力はかなりのものだった。

やはり、こいつは接近戦では勝てない。
アベルはサブウェポンである吹き飛ばしの杖を振り、ゴーレムと距離を取ろうとする。
だが、地面にどっしりと踏ん張ったゴーレムは、魔法弾程度で吹き飛ばない。




おかしい。何故だ。何故なのだ。
我は復活し、勇者たちにやられたときより、強くなったはずだ。
そして、アベル様という、理想の主を手に入れた。
今度こそ、我の未来は約束されたはずなのに。
アベル様に付き従ったことは、正しくなかったのか。
大人しくエビに従っておけばよかったのか。
それとも誰にも従わずに生きればよかったのか。


「くっそおおおおおおおおおおお!!!!」
だが、グランドクロスと岩石落としを受けても、まだ戦えることが、ジョーカーの力だろうか。それとも獅子の王としてのプライドだろうか。
再び立ち上がり、ドメディに飛び掛かる。
今度は、あの十字の構えはとってない。オリハルコンのツメで一撃でも当てれば………。


だが、今度は下側の腕の手刀により、オリハルコンのツメをはめた腕は切り落とされてしまった。
ドメディは腕力さえも他の幻魔や精霊とは一線を画していた。
「ぎゃおおおーっ!!」
痛みに、腕を抑える。
だが、それ以上に厄介なことがあった。


「「しまった!!!」」
二人がドメディに苦戦しているスキに、サフィールはドラゴンの杖を手に取り、竜に変身したのだ。

449前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/24(木) 22:11:59 ID:MmV4HxRk0
(誰だかわかりませんが、ありがとうございます!!)
すでにリオウの方は手負いの状態だ。
竜は、そのままアベルの方に向かっていく。

おとうさんに分かってもらうには、これしかない!!
僅かだけ残っている体力を、全て竜の力に変え、突撃する。


既に死に体のリオウはアベルの方を見やる。
主でさえも、ゴーレムと竜に襲われ、危ない状態だ。
だが自分は腕の一本を武器ごと奪われ、反撃しようにも奴を倒せそうな技はない。残された道具もルーラ草のみ。
「エビめ、どうせ無様に這いつくばった我が姿を見て、せせら笑っているのだろう。」
リオウは、弱肉強食を貫く者は、いつかは喰われることを知っていた。
だが、何も出来ずにエビごときの作った世界で死にたくない。


ドメディからは新たな魔力を感じる。トドメを刺す気だろう。
だが、残った三本の腕でザックからルーラ草を取り出す。
どうせこれを飲んで逃げても、すでに負傷し、ベホマも効果が少ない状況では、一時しのぎにしかならない。
何より、「契約には忠実に」のモットーはどうなる。
獅子の王として、プライドを捨ててまで生きるつもりはない。

「タダでは、死なぬ………」

ボロボロの体に鞭打って、草を、主の下に投げる。


「全員、殺してやる………。」
吹き飛ばしの杖は通じず、ゴーレムの攻撃をまともに受け、頭から血を流し、アベルは怒りに燃えていた。
ゴーレムの攻撃を今度はかわし、竜の炎はバギクロスで弾く。
だが、状況は明らかに悪くなっていく。
このまま、アベルは負けてしまうだろう。


だが、リオウの方から飛んできた物。
そんなものに気づいてはいなかったが、突然体が浮かび上がる
「うわあああああああ!!!」
そのまま、どこかへ飛んで行ってしまった。

それを見届けたリオウは、ドメディの放った火柱に焼かれながら満足する。
「ざまあみろ、エビめ。」
「アベル様は、この場にいる奴らも、お前もきっと破壊するぞ………。」

450前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/24(木) 22:12:36 ID:MmV4HxRk0
「消えてしまった………。」
竜の姿から戻り、体力を使い果たしたサフィールは、そのまま倒れる。
知らない世界に飛ばされ、殺し合いを命じられ、初めて一緒に冒険する友と出会い、友が自分をかばって殺され、父が持っていた杖を受け取り、父を止めようとする。
考えてみれば、10歳の少女には過酷すぎる半日だ。





「……………。」
近くで、その目を見ると、分かる。
彼女は、ネプリムではなかった。
ネプリムは、死んだままだ。
人間は、やはり子供さえ殺そうとする醜い生き物だった。
自分の闇の記憶の断片では、食料を無くした人間は、子供食べることさえあった。

この少女も、遠からず死ぬ。
やはり、闇の記憶の断片に従って、醜く争う人々を滅ぼしてしまおう。
だが、出来ない。


「!?」
暖かな光が二人を包み込む。
ボロボロになっていた二人の傷が癒えていく。
まだそこにいた幻魔が唱えたベホマズンだ。
それだけ唱えると、媒体となったカードごと消えてしまった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


夢とも現とも分からない、ぼんやりとした空間だ。
ここはどこだろう。
「サフィール!!」
殺されたはずの友の、赤毛の頭巾の少女が呼びかける。

「マリベル………さん?」
「お疲れ様、とでも言うと思ってるの?あたしが殺される原因を作ったあんたのお父さんを逃がしてさ、よくのうのうと会いに来れるわね!!」
「……………言われなくたって、やることは最後までやります。ただ、少しだけ…………。」
「まあ、がんばりなさい。」
さっきよりずっと小さい声で呟く。

「サ、サフィール!!」
今度は、自分の兄である、黒髪の勇者が涙目で少女を呼ぶ。
「ご、ごめんなさい。ぼく、何も出来ず、おとうさんが、あんなことを思っていたなんて………」
「何言っているんですか。私も知らなかったです。おかあさんも、気づかなかったと思います。」
「こ、こんど、は、サフィールみたいに、勇敢に………。」
「ありがとう。」

自分は、必要とされていないと思っていた。だが、必要とされていると思っていた兄に勇敢だと言われたのは嬉しかった。その兄は本物なのかどうかは分からないが。

「リュビ、終わったら、またいつか、一緒にハイキングへ行きましょう。」
「え?」
その「いつか」はいつになるのだろうか。

451前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/24(木) 22:12:54 ID:MmV4HxRk0
「マリベルさん、友達になってくれて、ありがとうございました。」
「え?まあ、いいのよ。このあたしの、友達であることを、誇りに思いなさい。」


やはりこの世界でも、マリベルは高飛車で多弁のようだ。
「では、そろそろ行きます。」
「や〜ね。最後の別れみたいな顔しないで。」

「………あと、ありがとう。」
自分をかけがえのない存在として見てくれたことを感謝しているのは、実はマリベルの方だったが、それはまた別の話。
マリベルが消え、リュビが消える。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


目が覚めると、夕焼けがまぶしかった。
どうやら、時間はある程度経っていたらしい。
自分は、花と草でできたベッドに、寝かされていた。
辺りを見回すと、さっきのゴーレムが旗の横で佇んでいる。
どうやらここまで運んで、このベッドもゴーレムが作ったようだ。

傷は、ドメディのベホマズンであらかた癒えていた。
どうやら、ゴーレムは誰を守っているようだ。


ゴーレムは、静かに佇んでいる。


「誰か、そこにいるのですか?」
ゴーレムは静かに佇んでいる
かつて父が仲間にしたゴレムスは、言葉は通じたが、このゴーレムに言葉が通じるかはわからなかった。
そこにいるのは、もう物言わぬ神官だった少女。
ゴーレムがおとうさんに襲い掛かったことは、この人もおとうさんに殺された者だろうか。
サフィールは物言わぬ前に座り、祈りをささげる。
「必ず、おとうさんを止めます。だから、安心して、天国へ行ってください。」
何か備える物はないかと、ザックを探る。

それは、木の人形。
とある世界で、英雄が妹にあげた人形。
その妹は兄を見殺しされた憎しみのあまり、魔物となったが、わずかな人間らしさを繋ぎとめていた人形。
最も、そんなことを少女が知るはずもない。
昔は人形遊びが好きだった彼女だ。
新しい友達にと、石壁の中に置く。




再び、少女は歩き出す。まだ、自分のやることは、終わっていない。
歩き出して、すぐのことだった。
ゴーレムが、後ろからついてきた。
「一緒に、行ってくれるのですか?」
そのようだ。

452前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/24(木) 22:13:16 ID:MmV4HxRk0
「あの、名前、なんていうのですか?」



(わたしのなまえをあげるわ)
(ずっと、いっしょね)


「……………………。」
こうやって、字を書くこと、出来ますか?
サフィールが支給品の紙とペンで、手本を見せた。

やはり、出来ないようだ。別のことを言おう。


「言い忘れていました。助けてくれて、ありがとうございます。」
少女は、小さい手を出す。


これは、なんなのだろうか。
守護者の巨大な手で、それに触れる。


巨人と、少女は共に歩き出す。それが、初めて心が通じた時だった。
そして、ゴーレムに温かいなにかが入ったような気がした。
そういえば、ネプリムから名前をもらった時も、こんな感覚だった。


それがアベルやネプリムの求めていた、「幸福」であることを、彼は気づくのだろうか。


“彼”は、守護者だ。
ネプリムを守らなければならない。
だが、一人であるサフィールも、守りたかった。
二人同時には守れない。
片方を、見捨てないといけない。
前へ進むためには、犠牲も必要だ。


だが、本当に見捨てられたわけではない。
二人の、心の中に残っている。
ネプリムは、しばらくはあの小さな守護者が守ってくれるはずだ。
そしてすべてが終われば、また戻ろう。

【リオウ @JOKER 死亡】
【残り47名】

【F-5/平原 /夕方】
【サフィール@DQ5娘】
 [状態]:HP: ほぼ全快MP 3/5(気絶中に回復)
 [装備]:ドラゴンの杖
 [道具]:支給品一式支給品一式×3、ショットガン、999999ゴールド
 [思考]:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
     おとうさんを見つけて止める

453前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/24(木) 22:13:33 ID:MmV4HxRk0
【ネプリム(ゴーレム)@DQ1】
[状態]:HPほぼ全快
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ネプリムとサフィール、そして彼女らがくれたものを守る


【????/夕方】
【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/10 MP1/5
[装備]:破壊の剣
[道具]:支給品一式 ふきとばしの杖(3) 道具0〜1個(本人確認済)
[思考]:過去と決別するために戦う

※アベルがどこへ行ったかは、次の書き手さんにお任せします。
※【F-5/滝の洞窟手前】に、木の人形@DQ7 が置かれました。
※【F-5/平原】に、オリハルコンのツメ@DQ9が落ちてまいす。
※それ以外のリオウの一般支給品は全て燃え尽きました。

454前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/24(木) 22:13:53 ID:MmV4HxRk0
投下終了です。

455ただ一匹の名無しだ:2017/08/28(月) 01:46:21 ID:oQpm62TE0
投下乙です

>10の世界の可能性
これでこの地域のマーダー不足も少しは解決するかな

>前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから
親娘対決は次回に持ち越しかー
アベルはどこに送られるかが重要だろうね

456ただ一匹の名無しだ:2017/08/28(月) 01:51:10 ID:oQpm62TE0
それと◆2zEnKfaCDc氏の予約が延長も過ぎてるけど今どういう状況なのかな?
できれば間に合わなかった等の報告が欲しいです

457 ◆2zEnKfaCDc:2017/08/28(月) 23:45:19 ID:DYrVqeK60
申し訳ございません。
予約の期日を1日勘違いしていました。

投下します。

458 ◆2zEnKfaCDc:2017/08/28(月) 23:46:10 ID:DYrVqeK60
平野にぽつんと取り残されたザックの中、デボラは石化の呪縛から解き放たれた。
この世界に満ちる不思議な力によってゲマの呪いが元々弱まっていたのに加え、その術者自身の死亡時――――――いや、正確にはエイトの竜神の封印によって呪いの術式が破壊された時、デボラにかけられた呪いも効力を失ったのだった。

石化した状態でも彼女の意識は静止していなかったが、視覚も聴覚もろくに働かなかった。
頭の中に直接響いてきた定時放送以外の情報は全く入ってきていない彼女は目の前の危機に気付かずに対峙することとなる。
たった今「彼女」を殺した青年と。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

459誰も死なない物語:2017/08/28(月) 23:47:36 ID:DYrVqeK60

エイトは胸に穴の空いた死体を見下ろしていた。
先程の黒髪の女の姿ではなく、異形の姿がそこにはあった。

「魔物が化けていたのか…」

人の姿をして信用を買おうとする魔物など、もしも逃がしいてミーティアと出会っていたら――――――

そこまで考えたところでエイトは首を横に振って前を向く。

「ミーティア!」

エイトは叫ぶ。辺りを見回しながら、何度も何度も叫ぶ。
そして視界の端に違和感。
ザックの中に何かがいる。

「ミーティア!?」

「――――――誰がミーティアよ!アタシの名前はデボラ様よ!」

エイトはザックに向かって駆け寄る。しかし期待も虚しく、その中から出てきたのはミーティアではなく、先ほど死闘を繰り広げた魔物が化けていた女。

一方デボラはエイトの向こうのゲマの死体を見て、自分が元に戻った理由を察した。

「どうやら貴方に助けられたみたいね。とりあえずお礼を言っておくわ。」

そう言いながらデボラはエイトに近づく。
エイトの返事は――――――



――――――ベギラゴン。


エイトの両腕から放たれた灼熱の閃光がデボラを覆い尽くす。それはまるで竜が人を呑み込むように、彼女を包み込んだ。

460誰も死なない物語:2017/08/28(月) 23:48:53 ID:DYrVqeK60



「…何よいきなり。そんな小魚みたいな顔してるくせに殺し合いに乗ってるってわけ?」

焦げ跡の中から傷一つない身体で出てきたデボラ。
生前のレミールから貰った光竜のまもりを首から下げていたため、エイトのベギラゴンを完全に無力化することが出来たのだ。

魔法が通じないと分かったエイトは、槍を構えて突き出す。

華麗なバックステップで回避するデボラ。

その腕には奇跡の剣が握られている。エイトの持つ砂塵の槍を遥かに超える業物ではあるものの、剣で槍の刺突を防ぐのは至難の業だ。また、武器の長さの問題もある。中途半端な距離では不利な立ち回りを強いられるし、かといって剣のリーチ上まで近づかせてくれるような相手でもなさそうだ。相手が実力者であることは先刻の呪文の破壊力が物語っている。ならば、戦い方は自ずと決まってくる。

「マヌーサ!」

「…!」

振るわれた槍は空を切る。
エイトの視界を奪い、一気に剣の射程距離まで詰め寄ることを狙いにかかる。
しかし、デボラが地面を蹴った瞬間――――――

461誰も死なない物語:2017/08/28(月) 23:49:38 ID:DYrVqeK60
「そこか!」

足音に反応したエイトが音の方向に向かってさみだれづきを繰り出す。
敵の正確な位置が見えないのなら数を撃てばいい。
虚を突いたエイトの閃撃は微かにデボラの横腹を掠めた。

傷は浅く致命傷にはなり得ない。しかし横腹を突いた際の槍の軌道の逸れ方によってエイトはデボラのシルエットを把握することが出来た。

デボラの方向に向かい、槍を大きく薙ぎ払う。

横腹を再び打たれ吹っ飛ばされるデボラ。
痛みで動けない彼女に、視界を取り戻したエイトはゆっくりと歩いてくる。

(この呪文だけは使いたくなかったんだけどね…)

デボラは殺し合いに乗る気などさらさらない。
たった今こうして命のやりとりをしているエイトも、出来ることなら殺すことなく無力化して止めたい。
しかし、もうそんなことを言っている段階ではない。
即死呪文――――――振るう剣よりも明確な殺意の現れ。
詠唱を終え、自分を見下ろすエイトに向けて唱える。


「――――――マホトーン。」

しかしその呪文は放たれる前に不発に終わった。
魔法も使えず身動きも満足に取れない。
デボラの命は完全にエイトによって掌握された。
デボラに出来るのはエイトを睨みつけることのみ。
そんなデボラは気づく。

462誰も死なない物語:2017/08/28(月) 23:51:00 ID:DYrVqeK60
「アンタ…泣いてんの…?」

エイトの目からは涙が零れ落ちていた。

幼い頃から真面目で、忠誠心が強くて、そして。 
心優しい、穏やかな青年。 

そんなエイトの評判は何も間違ってなどいない。
彼を殺しに駆り立てたのは全てこの殺し合いという舞台なのだ。
心の底の優しさや穏やかさなど簡単に抑え込めるものではない。


(ああ、そっか。逃げるのが正解だったわけね。)

最初のベギラゴン。エイトはデボラが首から下げた光竜のまもりに気づいてから撃ったのかもしれない。
自分の殺意だけを相手に伝え、
向かってくるようでなければ殺さなくてもいい。意識してか無意識の内か、エイトは殺しという手段から逃げたがっていたのだろうか。
真実は分からないが、デボラはそう信じることにした。
エイトの雰囲気が、あの頃のアベルにそっくりだったから――――――


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

463誰も死なない物語:2017/08/28(月) 23:58:25 ID:DYrVqeK60

「アンタ、どうしてアタシを選んだわけ?」

アベルの故郷グランバニアに続く山道の途中、ふと尋ねてみた。

「そうですね…。こんなことを言うのも失礼かもしれませんが、私は叱って欲しかったのかもしれません。」

「へえ、詳しく聞こうかしら?」

「私の過去については話しましたよね。」

「ええ。10年もの奴隷生活のことも、目の前で殺されたお父さんのこともね。」

「ずっと後悔しているんですよ。私の力が足りなかったせいで、父は私を庇って抵抗すらせずに殺されてしまった。その時の悔しさがあったから奴隷生活に抵抗し続けていたのは間違いありません。そして今の私に誰かから優しさをかけてもらえる資格なんてない、そう思ってあなたを選んだのかもしれませんね。」

「なるほど、アタシの性格が1番キツそうだったから選んだって解釈でいいのかしら?いい度胸じゃないの?」
デボラがパキパキと腕を鳴らす。

「すみません、幻滅してしまいましたか?」

張り手のような勢いで振るわれた手はピタリと止まり、アベルの頬に触れるだけに留まる。

「ま、許してあげるわ。」

アタシだってただの雰囲気で一目惚れしたわけだし――――――
言葉は発せられることなく飲み込まれた。

「ありがとうございます。」

そう言ってアベルは笑った。

彼にとってはようやく掴んだ笑顔なのだろう。
その一端を担えることを誇りに思い、絶やさないようにしたい。
それがデボラの願いだった。



そしてグランバニアの襲撃事件、デモンズタワーの戦いを経て2人は石となり、10年の時が経過する。
デボラは永き石化から解放され、アベルと、そして子供たちと、ついに宿敵のゲマを倒した。

しかし、その時、アベルは母親を目の前で失ってしまったのだ。

「ねえ、アベル――――――」

「――――――さて、行きましょうか。ミルドラースを――――――私の人生の全てを、滅ぼしに。」

アベルからかつての笑顔は消えていた。
憎しみに満ちた目。
彼女の不器用な愛は届くことがなく――――――

デボラはアベルを止めることが出来なかった。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

464誰も死なない物語:2017/08/28(月) 23:59:31 ID:DYrVqeK60

(駄目ね…こんなんじゃ。リュビにも顔向け出来やしない。)

また、止められなかった。
心の底にあった優しさ、穏やかさを完全に殺しきったら、そこには憎しみしか残らない。
ただただ世界の不条理を嘆き、破壊欲求に支配されたアベル。
同じ道を辿ろうとしているかもしれない男に、このまま何も出来ずに殺される。

「さようなら…」

涙を拭い去り、エイトは砂塵の槍を振り下ろす。


――――――ギィン!


次に聞こえてきたのは肉を割く音ではなく金属音。
エイトを追いかけてきたアルスが疾風の如く2人の間に割り込み、エイトの槍を受け止めていた。

465誰も死なない物語:2017/08/29(火) 00:00:03 ID:zyzB.6KQ0

「もうやめようよ。」

「アルスさん…邪魔をするのなら、容赦はしません…!」

「そっか。じゃあ、相手になるよ。」

槍の振るいにくい距離を確保しているアルスは、そのままエイトに体当たりをかましてデボラとの距離を離す。

エイトはすかさず後ろに飛び退くものの、アルスもそれに合わせて近づき、槍のリーチ上に捉えさせない。

エイトとアルスには戦い方に大きな違いがある。
その違いを生んでいるのは、アルスが所謂上級職に就いたことがないということ。
つまりアルスは"大技"を使えないのだ。
勇者の雷も、荒れ狂う大竜巻も、究極の剣技も撃てない。
単純な力と力のぶつかり合いであればエイトの方に歩があるのは必然だった。
その代わり、"小技"に至っては大技の鍛錬に費やすべき時間を全て小技を磨くために費やしたアルスの右に出る者はいない。

466誰も死なない物語:2017/08/29(火) 00:01:18 ID:zyzB.6KQ0

エイトに大技の詠唱をさせる暇も与えずアルスの体技がエイトを圧倒する。

エイトを"止めたい"アルスとアルスを"殺したい"エイト。
それぞれの目的も、それぞれの戦闘スタイルに最も叶ったものだ。
殺そうとすれば決定打に欠けるアルスも、普段の戦闘スタイルを維持しつつ戦える。

微かに振ることが出来る槍も全てみかわしきゃくで躱し、せいけんづきをエイトに叩き込む。

「ぐっ…」

「頭を冷やしなよ。我武者羅に暴れたところでトロデって人が帰ってくるわけじゃない。ミーティアって人も探したいなら手伝うからさ。」

「私は…」

「ほら、ちょっと叱られてきなよ。」

467誰も死なない物語:2017/08/29(火) 00:02:10 ID:zyzB.6KQ0

「アルス殿!エイト殿!無事でしょうか!」

アルスの足の速さについていけず出遅れたブライが到着する。

「うん。エイトが戦っていた人も怪我はしてるけど生きてるよ。」

「エイト殿。大切な人を想って気持ちが高ぶるのは仕方の無いことですじゃ。事実私も…目の前で殺されてしまったクリフトのことを…そして目も届かぬ場所で死んでしまった姫様のことを思うと色々と考えてしまいます。あの時、ああしてたら――――――と。」

「そう…私はそんな後悔をしたくないから――――――」

「私もエイト殿にこのような思いはしてほしくありませんぞ。でも――――――探し人と再会できた時、エイト殿は血にまみれた手を差し伸べられますかな?」

「…!」

何も言い返せない。
ブライは既に大切な人を2人も失っているからこそ、その言葉は余計にエイトの心に刺さった。

「でも、私はもう2人も殺してしまった…。もう戻れるはずが…」

「うっさいわね。アイツらはアタシのいた世界で悪事を働いてた奴らなの!アンタが殺さなくてもアタシが殺してたわ。それでも気になるって言うのならそんな血塗れの槍捨てちゃいなさい。」

デボラがゆっくりと起き上がり、相変わらずの辛口で槍を奪い取る。
名簿で確認したカンダタという名前はグランバニアで指名手配されていた者とは別人かもしれないが、そもそもエイトをなだめるのに完全な真実を語るどうかなど大きな問題ではない。

468誰も死なない物語:2017/08/29(火) 00:03:53 ID:zyzB.6KQ0


「命令よ、その代わりにこれを使いなさい。――――――アタシにはもう一つ武器があるから、心配は無用よ。」

そう言って差し出したのは彼女の持っていた奇跡の剣。ダイヤモンドネイルを身につけながらエイトに手渡す。

「ありがとう…ございます…本当にごめんなさい…!」

「ま、誰も死ななかったんだしめでたいことじゃん。」

アルスは言った。
そう、誰も死ななかったのだ。
邪悪な魔物とその手先を除けば、犠牲者も出すことなくエイトの凶行は幕を閉じた。

誰も死なない平和な物語は、今から作っていけばいい。
でも――――――





――――――そんな物語は許されない。




崩壊した門の瓦礫の山を崩し、中から1匹の魔物が顔を出した。肉が徐々に剥がれ落ち、半分ほど骨が見えている。

もしかしたらトロデ王はこの魔物に殺されたのかもしれない。
あるいは今も、トラペッタの崩壊にミーティアが巻き込まれているいるかもしれない。
そう思ったエイトは、戦うことを決めた。

「私は戦います。無事でいられる保証はありません。逃げられる人は逃げてください。」

「嫌ですじゃ。もう私には死を悲しんでくれる大切な人はいません。このブライ、地獄の果てまでついて行きますぞ。」

「簡単に倒れてくれるような相手でもなさそうだし、アタシも付き合うわ。感謝しなさい。」

「そういうことらしいから、僕もよろしく。」

バラモスゾンビは口からも両腕からも血を垂らしながら1歩ずつ歩み寄ってくる。
既に命を貫いた腕、命を喰らった口。
始まるのは――――――血塗られた物語。

469誰も死なない物語:2017/08/29(火) 00:04:42 ID:zyzB.6KQ0



【G-3/トラペッタ外部/午後】

【エイト@DQ8】
[状態]:HP2/3
[装備]:奇跡の剣
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ミーティアを守る
:バラモスゾンビ@DQ3を倒す

【アルス@DQ7】
[状態]:HP4/5
[装備]:ドラゴンキラー(DQ3)
[道具]:支給品一式 道具0〜2個(本人確認済み)
[思考]:本気になれるものを探す。
:フォズにはまだ会いたくない。
[備考]:第1回放送の後、説明のつかない気持ちを抱いています。

【ブライ@DQ4】
[状態]:健康 MP5/10
[装備]:魔封じの杖
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:バラモスゾンビ@DQ3を倒す

【デボラ@DQ5】
 [状態]:HP1/3
 [装備]:ダイヤモンドネイル、水の羽衣 光竜の守り@DQ8
 [道具]:支給品一式
 [思考]:自分を貫き、エビルプリーストに反逆する
:バラモスゾンビ@DQ3を倒す

【バラモスゾンビ@DQ3】
[状態]:HP3/4 MP2/3
 [装備]:なし
 [道具]:なし
 [思考]:殺戮と破壊
 [備考]:一定時間ごとに、ダメージが少しずつ回復します。

470 ◆2zEnKfaCDc:2017/08/29(火) 00:05:26 ID:zyzB.6KQ0
投下終了しました。

471ただ一匹の名無しだ:2017/08/30(水) 00:41:34 ID:y5J1LKaU0
投下乙です
やべえよやべえよ……エイトが立ち直っちゃったぞ……
トラペッタでの死人はもう十分だと思う一方で、バラモスゾンビだけでこの強者グループに勝てるかどうか心配でならない

472ただの一匹の名無しだ:2017/08/31(木) 21:10:59 ID:s3uXhL820
投下乙です。アベルがなぜデボラを選んだかの理由が分かって良かった。


余談だけど今のところ行われてる戦いは

アルス&エイト&デボラ&ブライVSバラモスゾンビ
フアナ&サヴィオVSヘルバトラー強
モリー&ザンクローネ&イザヤールVSバルザック
レックVS竜王

ってところかな?
ファイ!!

473 ◆2zEnKfaCDc:2017/08/31(木) 21:30:47 ID:YacxnJrw0
後の展開と噛み合わない点があるので訂正します

>>460
訂正前
魔法が通じないと分かったエイトは、槍を構えて突き出す。

訂正後
魔法が通じないと分かったからか、エイトは背に提げた槍を手に取って突き出す。

474ただ一匹の名無しだ:2017/08/31(木) 23:30:32 ID:VSRdesjk0
>>472
あとはアレフ、ジンガー組VSデュラン、スクルド組とかあるかな

>>473
wikiにて対応しました

475 ◆znvIEk8MsQ:2017/09/05(火) 22:39:55 ID:mPbYfflE0
投下します。

476人と竜と ◆znvIEk8MsQ:2017/09/05(火) 22:40:44 ID:mPbYfflE0
聞こえる。


様々な音が。



剣とツメのぶつかり合う音
岩が砕ける音
炎が燃える音
木霊する魔法
竜の雄たけび
人の叫び声
地鳴り
足音



荒野にあまりにも多くの種類の音が奏でられ、端で聞いていても飽きない。
最も、それはコンサートではなく戦いで、演奏者は多人数ではなく、一人と一匹なのだが。


「燃え尽きよ!!」
「マヒャド斬りぃ!!」

まともに当たればオルテガのように黒焦げになる炎は、レックの氷を纏った斬撃によって霧散する。

「小癪な!!」
今度は竜王が両手、10本のツメがレックを串刺しにしようとする。
だが勢いよく地面を蹴って跳び最初の5本をかわし、次の5本にはメラミを打つ。

炎に強い耐性を持っていた竜王には殆ど通用しないが、反動でかわすことは十分だった。
更にレックは空中で新たに呪文の詠唱を始め、着地と共に放つ。

「荒れ狂え、竜巻。バギクロス!!」
「効かぬわ!!」

オルテガが放った時メラゾーマで消された竜巻は、今度は巨大な火球で消されてしまう。


しかし、相手が効かないと分かっているからこそ、フェイントになる。


「流石に、正面からは勝てないね……」
巨大な竜巻と、それによって上がる砂煙を目隠しにして、後ろ側に回りこんだ。

「甘い!!」

だが、竜王は尻尾を回して薙ぎ払う。
レックは姿勢を低くして一度目の尻尾を避け、そのまま地面を殴りつける。
地割れは竜王の巨体を飲み込むことこそ出来ないが、地面の揺れは竜王のバランスを崩す。
狙いが不安定になり、二度目は悪戯に地面に穴を開けるに終わった。


隙が出来たと見るや否や、その尻尾を踏み台にし、高く飛び上がり斬りかかる。

「ドラゴン、斬りぃ!!」
「グッ!!」

背中に竜の形の傷を入れられ、さしもの竜王も呻く。

477人と竜と ◆znvIEk8MsQ:2017/09/05(火) 22:41:09 ID:mPbYfflE0
最も、レックが持っていた剣が店でも買えるほどの質で、なおかつ相手が竜王だったからこそ、この程度で済んだのだが。
もしもそれがかつて竜王を討ったロトの剣か、レックが持っていたラミアスの剣なら、間違いなく決定打になった。


「ふむ…………体術に長けたと思いきや、魔法にも長け、魔法に長けたと思いきや、剣術にも長ける。お主こそ、この地で最強の戦士かもな……」
「お褒めに預かり、恐縮で。」



デスタムーアを倒した勇者にして、次期レイドック王候補、レック。
彼は世界を救った後でも、王になるための勉強をそっちのけて修行を積んでいた。
特に熱心に勤めていたのは、魔法分野。
より強い敵が国に攻めてきた時のため。
それ以上に、失った魔法使いのタマゴに、再び近づけるようになるため。
彼女が持っていた魔法を使えるようになれば、手掛かりの一つぐらいは得られるのではないかと。
彼女に近づければ、ターニアのいる失った世界にも近づけるのではないかと。
最も彼の世界のダーマ神殿はすでに夢として消えてしまったため、独学だが。


彼は、かつて魔王を倒した時より、力をつけていた。


再度互いに正面で向き合う。
まずは、竜王の火球。
それをレックは上手くかわして、同時にスカラで守りを固める。

「また、搦め手か………」
次に自分が攻撃した矢先に、懐に潜りこむか、背後に回り込むかのどちらかだろう。
さて、どこから攻めてくるやら……

「抗え、雷!!ライデイン!!」
「何ィ!?」

死角に入り込んで攻撃を仕掛けると思いきや、いきなり勇者の雷を打ち込んでくるとは。
しかも耐性のある炎や爆発、撃ち落とせる氷や竜巻の魔法と異なり、凌ぐ手段が少ない。

「ならば!!」
「うわっ!!」

雷を気にせず、握り拳を振り回す。
レックもそれは予想外だったようで、慌てて受け流すも、手痛い直撃を受ける。
相手がこの状況から受け流せるレックでなく、なおかつ防御魔法がかかっていなければ、一撃必殺となっていたのだが。

478人と竜と ◆znvIEk8MsQ:2017/09/05(火) 22:41:35 ID:mPbYfflE0
かつてアレフガルドの支配を試み、人々を恐怖に陥れた竜王。
彼は家族の記憶はなく、物心付いた時から魔物達の上に立つ王で、自分より強い者はいなかった。
そして、配下から常に王として、崇められてきた。
竜王を先導してくれる者はいなかったが、崇めてきた者と共に、何をすればいいのかは薄っすらとだが分かっていた。
最初にドムドーラを滅ぼした時、人間など自分の足元にも及ばないと確信した。
人の命、光の玉、ローラ姫。
その後も自分の計画に至って、望む物は全て手に入った。

それ故、彼は愚かだった。
いかに勇者と言えど、人間なら誘いに乗せれば、簡単に騙せると。
たとえそれを断っても、人間ごときに負けるはずがないという慢心があった。

かつては竜の王としての、誇りが足りなかった。
今の彼には、そういった驕りの感情がない。
たとえ人間への踏み台の役に出るとしても、決して手を抜くつもりはなかった。

彼は、かつて勇者に敗れた時より、強い心を身に付けていた。



レックが吹き飛ばされて、二人の距離が広がる。
距離が広がったということは、次は遠距離攻撃か。


「疾風突き!!」
手にした剣と共に一閃。だが、距離が遠いため、当たるのには聊か時間がかかる。
「馬鹿め!!判断を誤ったな!!」
この距離からなら、当たる前に炎を吐けばよい。

「!?」
竜王が息を吸おうとしたところ、その顎に勢いのついた何かが当たった。
レックが剣を投げたのか?
「良い物が、足元に転がっていたんでね!!」

それは剣ではなかった。
先程竜王が変身する前に捨てたガナンのおうしゃくを、レックが竜王の顔にめがけて蹴とばしたのだ。
続いてレックは竜王の脚に追加攻撃。
だが、スピードに特化した攻撃は、力が足りず、竜王の脚の鱗を薄く剝ぐに終わる。
だが、それだけで終わらない。
斬撃の勢いをつけて後ろに回り込む。
尻尾の攻撃も、助走をつけたジャンプで飛び越える。


また背面からの攻撃かと思いきや、レックはそのまま竜王を通り過ぎる。
「どうした?ここで怖気づいたのか?」
竜王の炎をかわし、ひときわ大きい岩山を駆け上る。


「この場所ならどうだ?いくつか、聞きたいことがあるんだ。」
「!?」

479人と竜と ◆znvIEk8MsQ:2017/09/05(火) 22:41:58 ID:mPbYfflE0
確かに、互いの顔の高さが近い方が話はしやすい。
だが、肝心なのはそんなことではない。



「どういうつもりだ。まさかここで急に話し合いで解決しようなどと思ったか!?」
「別にそういうつもりじゃないんだ。ただ、ここへ来るまでにある人から、頼まれてね。
クロウズ、もしくはシンイという竜の人間を、知らないかって聞いてくれって。」
「知らぬな。」
竜王はすぐに答える。

「竜といえばあらゆる世界に数多く存在する。いくらワシが竜の王といえど、知らない竜もいる。」
「そうか、分かった。」
これはアンルシアにとっては悪いが、レックにとっては本当はどうでもよいことだった。
「お主は、先ほど「いくつか」聞きたいことがあると言ったな。まだあるのか?」


人間の話に乗ってやること自体、ワシにはあまりないことだ。
だがこのレックという男、何かの話をネタにワシを陥れようというつもりはないはずだ。
あるのなら戦いが始まる前に話を持ち掛けようとするし、そんなことをしなくてもこの男は強い。
話の一つくらいは、聞いてやっても悪くはない。



「お前は、何故戦っているんだ?」

意外な質問に、さしもの竜王も驚く。
「そんなことが気になるのか?
簡単なことだ。ワシは竜の王だからな。あんな小物に命令されるのは癪だが、人間などに協力しようなどとは、王としての誇りが許さん。」

「じゃあ、お前は僕と同類だな。」
「何だと?」

意外な言葉に、竜王も驚く。
「僕は昔、勇者としての義務で大事な人を犠牲にして、魔王を倒した。
 僕もお前も、並外れた力を持っていた。そしてその力と、義務にがんじがらめにされているんだ。」
「だまれぇ!!誇りを持たぬ者は、何一つ手に入れることが出来ぬのだ!!」
激昂する竜王が、灼熱の炎を吐く。
だが、レックのフバーハによって遮られる。

レックは続ける。
「誇りでもなんでも、一つの物に固執していては、出来ないことも、手に入れられない物もあるよ。
 一度でも、考え直すことはなかったのかい。」

480人と竜と ◆znvIEk8MsQ:2017/09/05(火) 22:42:18 ID:mPbYfflE0
始めてオルテガから竜王の話を聞いた時は、奇妙だと思っていた。
最初にオルテガを殺さず逃がし、伝説のロトの剣を渡すことや、ミーティアを人質に取ったのにその人質を戦いに使わないこと。
そして目の当たりにした時、その感じが確信へと変わった。

魔力が異なる。

発するエネルギーこそ凄まじいが、彼からはデスタムーアやエビルプリーストに見られた、邪悪な魔族特有の絡み付くような妖気がなかった。

だからレックは興味を持っていた。

「構わん。誇りのために何かを犠牲にするその覚悟はできている。
 キサマも、それだけ喋ればさぞかし口が疲れただろう。すぐに楽にしてくれる!!」


「キサマの搦め手にも飽きたわ。波動よ、全てを無に帰せ!!」
竜王の両手から、凍てつく波動が流れる。
ダメージこそはないが、レックにかかっているスカラとフバーハを打ち消した。


「やるしかないのか………」
再び戦いが始まる。
一度止まった人と竜の協奏曲は、フィナーレに向けてさらに勢いを増す。
先に演奏を止めるのは、どちらだろうか。



【D-7南/荒野/1日目 午後】

【レック@DQ6】
[状態]:HP1/2 MP5/8
[装備]:鋼の剣
[道具]:支給品一式、確認済み支給品1~2個
[思考]:竜王を倒す。ターニアを探す。
[備考]:竜王に好奇心を抱いています。

【竜王@DQ1】
[状態]:HP3/5 背中に傷
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1個
[思考]:悪を演じ、誇り高き竜として討たれる。



※二人の付近にガナンのおうしゃく@DQ9が落ちています。

481人と竜と ◆znvIEk8MsQ:2017/09/05(火) 22:46:37 ID:mPbYfflE0
投下終了です。
余談ですが、前回の「決意も誇りも無力だから」では、ガナンのおうしゃくは竜王の持ち物リストに入っていましたが、
「竜王は観念したかのように目を閉じ、杖を捨てる。」
という文章があったため、地面に転がっているものだと解釈しました。
それと書いた直後に気づいたことですが、レックの一人称が「俺」なのに、
今回は「僕」になっていたので、訂正お願いします。

482ただ一匹の名無しだ:2017/09/06(水) 01:33:06 ID:/.4YgpZc0
投下乙です
ここで一旦切っちゃうか
レックは一人で勝てるかな……

483 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/06(水) 21:27:36 ID:ABAqX04s0
投下します。

484Only lonely boy:2017/09/06(水) 21:28:14 ID:ABAqX04s0
「むっ、誰かいるようだぞ?」

港町を出て歩くこと数刻、ヒストリカの持つレーダー探知機が反応を示した。

「でも、どんな人なのか分からないよね…?」

「そうですね…。皆さんは隠れていてください。まずは私が接触してみます。」

そう言い出したのはもちろんアークである。
こちらは3人と1匹なのに対し相手はたった1人である。しかし、戦うとなればまともに戦えるのはアークだけだろう。
仮に敵の実力が完全にアークと均衡するとしても、他の全員を護りながら戦うのであれば人数差も覆して不利であるとさえ言える。

「き、気をつけてね…?」

「ピキピキ!」(あの岩山に隠れてるね!)

そう言うと2人と1匹は隠れ、アークはこちらに近づく何者かを道の真ん中で待つ。

ようやく見えた人影は武器を持っている様子も見えない少女。
凍りつくほど無表情な顔でゆっくりと歩いてくる。

「こんばんは。私はアークと申します。何かお困りでしょうか?」

とりあえず話をする暇もなく出会い頭に一刀両断――――――といった相手ではなさそうだ。

「そうね――――――」

その少女――――――ルーナは眉一つ動かさずに呟く。

「――――――貴方は私を笑わせてくれるかしら?」

「……これは予想外の返答ですね。旅芸人を嗜んでいた経験ならありますが、幾分私自身が絶望に囚われた身。」

心から笑う方法などこちらが聞きたいものだ、とアークは思う。

「そう、残念だわ。私、ここのところずっと笑ってないの。」

「なるほど…。よかったらご一緒しませんか?この殺し合いの舞台を破壊する――――――私も私なりの目的を持ってこの場に臨んでいます。貴女が笑顔を取り戻したいと言うのなら、喜んでご同行しますよ。」

アークは手を伸ばす。
しかしルーナがその手を取ることはなかった。

485Only lonely boy:2017/09/06(水) 21:29:16 ID:ABAqX04s0
「結構よ。一番の目的は他にあるから。」

「ほう、お聞きしても?」

「――――――死にたいの。」

ジリジリとアークに歩み寄るルーナ。その目を一時も離すことなく、アークの目の前まで歩を進めた。
そのまま目を閉じ、両腕を広げる。

「私を殺して。」

「お断りします。死は…悲しみしか生みませんよ。」

アークは即答する。
天使であるアークは死者と生者の両方の立場を、そして想いを知っている。
そのどちらにも、喜びの入る余地などありはしない。


「そう…貴方、お人好しなのね。じゃあ――――――」

ルーナはまだ歩みを止めない。
そのままアークの目の前に立ち塞がる。

「――――――死んで。」

次の瞬間、アークを中心とした大爆発が巻き起こった。
悟られぬように溜めた魔力を一気に解放してのイオナズン。
アークのいた空間は爆風と砂埃で何も見えなくなる。そして――――――

「アークさん!」

「ア、アークぅぅぅ!!」

「ピキー!」

突然の爆発に驚いた「お人好し」たちが走ってくる。

「なっ…!駄目です皆さん!来てはいけない!」

爆風の中からほとんど無傷で現れたアーク。
予測の範囲内であった奇襲に対してはストームフォースを自らにかけることで事なきを得られた。
しかし他の皆が心配してやって来ることは予測の外。

「こんなにいっぱい助けにやって来るなんて。貴方たちも…みーんなお人好しなのね。ああ、虫唾が走るわ。」

イオナズンが通用しないと分かったルーナはアークの足元にバギを放つ。
衝撃でアークの身体は宙へと舞い上がり、その隙にルーナはアークの隣を走り抜ける。

アークが着地した時、既にルーナはその場にいる全員の中心へと躍り出ていた。

「さよなら。お人好しさん達。」


そのまま、自らを中心として、2度目のイオナズンの詠唱を始める。

486Only lonely boy:2017/09/06(水) 21:30:48 ID:ABAqX04s0
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「あっ…!」

セラフィは気づく。
先ほどの爆発を起こした相手の矛先が、自分たちにも向いているということに。

しかし以前にジャンボ達の戦いを見たことのあるセラフィは知っている。
この呪文は、唱え始めてすぐに一目散に走って逃げたら避けられるということを。
特にドルボードに乗っているヒストリカは安全に逃げられるだろう。

でも――――――

(スライムさんの足では、きっと間に合わないよね…)

そしてセラフィは決意する。
ザックを放り捨て、震えて動かないスライムの方へ走って――――――腕の中に包み込んだ。

身体の小さなスライムは簡単にセラフィの腕の中に収まった。

「ピキー!」(ダメだよセラフィちゃん…!逃げて…!)

スライムが訴えかけてくる。
しかし、もう遅い。


「イオナズン!」

ルーナは魔力を解き放った。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

爆発が終わる。

「ど、どうして…!」

そんな中、セラフィは立ち上がる。
爆風と砂埃で服が汚れ、火傷跡も見られるものの、何とか立ち上がれる様はイオナズンをまともに受けた後のようには見えない。

「ふっ…ふっふっふ…ざまぁみろ…」

ヒストリカが血塗れの身体を何とか動かして笑っている。
セラフィはヒストリカに向かって駆けつける。

487Only lonely boy:2017/09/06(水) 21:31:38 ID:ABAqX04s0
「ヒストリカさん!どうして…どうして私なんかを助けたんですか…!」

呪文が炸裂する寸前、ヒストリカはドルボードの機動力を駆使して、セラフィの前に立ちはだかった。
セラフィはヒストリカに庇われたことで、無傷とはいかなかったものの致命傷を避けることが出来たのだ。

「簡単なことさセラフィ…」

苦しそうな顔で無理やり微笑むヒストリカ。

「我々はと…友達…いや…、そう…ズッ友なのだからなっ…!」

「あっ…」

そしてそのまま――――――

「ヒストリカさぁぁぁぁん!!」

――――――ヒストリカは動かなくなった。

「ピキー…」(そんな…)

「さて、1人死んじゃったわね。」

人を殺した後もなお顔色を変えることなく、ルーナは再びアークの元に歩いてくる。

「早く私を殺さないとあの子もあのスライムも死ぬことになるわよ。」

いつでも殺してくれと言わんばかりに両腕を広げるルーナ。

「許しませんよ。」

今までで最も深みのある声色でアークは言った。

「死んで解放されようなんて私が許しません。貴女には醜く生きて生きて生き延びて、奪った命の重さを背負ってもらいます。」

命の重さ。
その価値観において人も天使も違いはない。
病魔と戦った人間の女性であっても、恩のある天使の師であっても、死は平等に訪れるのだ。

「後悔しても知らないわよ…。」

488Only lonely boy:2017/09/06(水) 21:33:05 ID:ABAqX04s0
ルーナの手に魔力が灯る。

「セラフィさん、その子を連れて逃げてください。後で必ず迎えに行きますから!」

「は、はい!必ず…来てくださいね…!」

ポルトリンク方面に逃げ出すセラフィたち。
彼女らに向かってルーナは再び呪文の詠唱を始める。

「逃がさない。」
「させません。」

アークは走り出し、体当たりを放つ。
ルーナはひらりと身をかわすが、セラフィとの直線上に割り込んで来たアークによって呪文は不発に終わる。

「もう死なせません。彼女たちも…貴女も。」

アークは剣を腰に差し、ザックから太陽の扇を取り出した。殺さずに相手を無力化させるのであれば剣よりも扇の方が優れているとの判断だ。

「死にたい…死ねない…」

ルーナが腕を振りあげると共にアークの居た場所が破裂する。
飛び退いて空中に逃れたアークをルーナの指先から放たれたいくつもの呪文が追撃する。

ひとつずつ扇で作り出した波状の斬撃で弾き消していくアーク。

ルーナはその隙を付いて地面に向かってイオナズンを撃つ。
その爆風で勢いをつけてアークに向かって真っ直ぐに飛んでくるルーナ。
繰り出すのは――――――腕から指先にかけて魔力を込めた"突き"。
ルーナは戦闘スタイルを遠隔攻撃から近接攻撃へと変えることでアークの虚を突くことを狙った。
その腕は一直線にアークの胸を貫く。

489Only lonely boy:2017/09/06(水) 21:34:26 ID:ABAqX04s0
しかし次の瞬間、貫かれたアークの姿が霞んで消えた。

「幻…?」

「正解です。」

風姿花伝の特技で後ろを取ったアークは、そのまま上から薙ぎ払う。

「くっ…!」

空中から叩き落とされたルーナ。
死ぬには程遠いのに全身を駆け巡る痛みに苛立ちを覚えていく。

アークはルーナを見下ろしながら、扇で自らを扇いでいる。

力の差を見せつけ、抵抗を諦めさせること。
殺さずに勝つためのアークの狙いはそれだった。

しかし、ルーナに諦めるという選択肢はない。
無力感など何度も覚えながら戦ってきた。
それからの解放は彼女の死ぬ時以外になかった。

「はぁ!」

再び魔力を腕に込めて殴り込むルーナ。
飛びかかって来るなら同じだけ退き、殴っても同じ力で逸らしていく。

「爆ぜろ――――――」

魔法を唱えるのなら――――――

「イオナズン!」
「無駄です。」

全てフォースで吸収していく。

殴り合いも魔法の撃ち合いも、全てにおいてアークは戦いを制していた。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

(疲れた…)

敵を殺せない。
かといって殺されることもない、生殺しのような戦い。
このまま体力が完全に尽きるまで戦い続けるのだろうか。

(どうして…こんなに苦しまなくちゃいけないの…?あの時…犬の姿のまま…朽ち果てていればよかったのに…。)

勇者の子孫だとか、ムーンブルクの王女だとか、そんな肩書きなど全て捨て去ったまま、犬として生きていけたのなら、どれほど楽だっただろうか。

そんなことを思いながら、ルーナは足元の何かを蹴飛ばした。
それはセラフィの持っていたザック。

足蹴にした勢いで開いたザックの中に入っていたのは透き通るような輝きを放つ剣と、それに劣らず光り輝く腕輪と――――――ラーの鏡。
映るのは、何の偽りもない自分。
虚ろな目に、緩まない口元。

490Only lonely boy:2017/09/06(水) 21:39:59 ID:ABAqX04s0
(そう。こんな世界でもこの鏡は私の真実を映すのね。)

「もう、うんざり…。」

悲しみ、怒り、絶望。
様々な感情が溢れ出して――――――

――――――そして感情の高まりを表すかのように、魔力が溢れてくる。

「なに…これ…。」

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

(これは…魔力覚醒…!?)

魔力覚醒はアークの世界では正式な特技として確立しているものの、無意識に発動させたルーナは制御の仕方を知らない。
溢れ出した魔力は留まることなく激しく波打ち、ルーナの周りに充満する。

「私は――――――独りなの。」

「……。」

「独りだから、何も出来ない。死ぬことさえも叶わない。」

言葉がルーナの口から次々と零れていく。
そして一言毎に、魔力の波は激しさを増していく。

「誰か……教えてよ……!世界には愛が溢れてるんでしょ……?でも無理…世界はこんな私を愛さない…!でも私を殺してもくれない…!」

魔力の波がどす黒く染まっていく。

「だから――――――殺すの…。私を殺してくれるまで――――――私は殺す…。」

そして、ルーナは魔力が暴走するままに唱える。

「――――――イオナズン。」

イオグランデ級の爆発が、フォースを突きぬけてアークを襲う。

「かはっ…!」

「貴方を…殺すわ…。」

491Only lonely boy:2017/09/06(水) 21:41:32 ID:ABAqX04s0
ルーナが再び呪文の詠唱を始めたのを見て、アークは傷ついた身体を何とか動かして爆発圏内から逃れた。

「イオナズン!」

それを見てからでも、呪文を中断しないルーナ。
いや、中断出来ないのだ。

「殺す…、殺す…!」

(これを相手にするのは危険ですね…。いつまでもこのチカラを維持できることもないでしょう。一旦引くことにしますか。)

逃げることを選ぶアーク。
しかし次の瞬間――――――



「苦しい――――――助けて…。」



確かにそう言ったのを聞いた。


フォースを貫通するほどの威力の呪文。
そしてそれだけの魔力を制御も出来ず放出し続けているルーナ。
彼女の肉体・精神への負担も相当なものなのだろう。



(…どうやら私は、まだ守護天使で在りたいようですね。)

守護天使として、人々を助け続けてきた。
守護天使として、困った者に進んで手を差し伸べた。
しかし彼は人間となった今も、助けを求める少女の前に立ちはだかる。

「貴方、どうして…。」

「困っている女性を放っておくことなんて出来ませんよ。」

アークは大地を蹴って走り始める。
ルーナが再び呪文の詠唱を始めても止まることなく、無心で魔力の波の中に飛び込んでいく。

波はアークへとまとわりつく。

そのまま続ける、縦から、横から、そして斜めから撃つ扇の舞。
ルーナを蝕む魔力の波をかき消していく。

「――――――イオナズン!」

ルーナの意思を無視し、魔力の暴走するままに呪文が放たれる。
閃光がアークを覆い尽くす。
身体の至るところが焼け焦げていき、呼吸ももうままならない。
それでも倒れるわけにはいかない。
まだ何も終わっていないのだから。
際限のない魔力覚醒の力が続いている限り、ルーナは苦しみから逃れられない。

でも――――――アークの意識は闇の中へ消えていく。

492Only lonely boy:2017/09/06(水) 21:47:24 ID:ABAqX04s0


世界を救う旅の果てに、私は孤独を強いられた。
そう思っていた。
でも、声が聞こえる。


――――――いつまでもウダウダしてんじゃねえ。俺たちがついてんじゃねえか。

(コニファー…)


――――――貴方はもう、天使様ではなくなりました。それでも、私たちの仲間なのは変わりませんよ。

(スクルド…)


――――――あたし、アークのこと信じてるよ。だから、そんな顔…しないで?

(ポーラ…)


(どうやら私は気づくのが遅かったみたいですね…。)

そう、私は――――――独りじゃい。


アークは立ち上がる。
まだ彼女は苦しんでいる。
ここで倒れるわけにはいかないのだ。

彼女は言った。世界には愛が溢れている、と。
その通りだ。私にはそれが形となって目に見えていたではないか。世界には確かに愛――――――星のオーラが溢れていた。ただ、人間になった私は世界に溢れる"愛"が見えなくなってしまっただけなのだ。

「これは…私の罪…。最後まで貴方達の想いに気づけなかった私の罪。だけど今だけは――――――今だけは彼女を守れるチカラを貸してくれませんか。」

影を落としたような目に輝きが宿る。
そのまま全身にチカラを込めて――――――


全身からいてつくはどうを放つ。
青く透き通ったチカラがルーナの魔力を抑え込んでいく。




――――――アーク!


最後の声。
別れた後も、ずっと忘れられなかった声。

(サンディ…!)

彼女が"こちら側"に居ることに悲しみを隠せない。
それでも、アークは心から言う。

「ずっと、会いたかった…!」

493Only lonely boy:2017/09/06(水) 21:48:10 ID:ABAqX04s0

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「アーク…さん?」

「ピキ?」(どうしたの?セラフィちゃん。)

「…ううん。何でもない。アークさん、早く来てくれるといいね。」

セラフィたちは再びポルトリンクに到着していた。
待ち人は、もう来ないことなど知らずに。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「安らかな顔…」

アークを見下ろしながらルーナは呟く。

「分からない…どうして貴方まで私のために…。」

ルーナは落ちているぎんがのつるぎを拾い上げる。

「これを突き刺せば…死ねる…。でも――――――」

その剣がルーナを貫くことはなかった。

「まだ私は世界に溢れる愛を感じられない…笑顔も忘れたまま…」


仲間を――――――そして私を助けて死んでいった2人のお人好し。
彼らの目には溢れる愛が見えていたのか、彼らの耳には愛の歌が聞こえていたのか。
仲間のスライムを庇って死のうとしていた少女。答えは、彼女が握っているような気がした。

「この剣の煌めき…最後に見た貴方の瞳のよう…。」

ルーナはぎんがのつるぎをアークの胸に添える。

「そんな気がしたの。」

アークの元に添えられた剣はより一層輝いたように見えた。

――――――さようなら、私の天使様。

小さく呟き、ルーナは歩き始める。

494Only lonely boy:2017/09/06(水) 21:54:38 ID:ABAqX04s0

【ヒストリカ@DQ10 死亡】
【アーク@DQ9 死亡】
【残り45名】

【F-9/ポルトリンク/二日目 夕方】
【スライム@DQ1】
[状態]:健康 戦闘時HP回復(装備効果)
[装備]:毒針@DQ4 スライムメット@DQ6 オラクルやののれん@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:セラフィと一緒がいい。竜王さまお許しください。

【セラフィ@DQ10】
[状態]:健康 歩くとHP回復(装備効果)
[装備]:ホイミンのTシャツ@DQ8 祈りの指輪
[道具]:
[思考]:ポルトリンクでアークを待つ。
主人公@DQXを探す。主人公@DQ6にはデュランのことを伝えてあげよう。



【G-8/草原/二日目 夕方】

【ルーナ(ムーンブルク王女)@DQ2】
[状態]:HP1/10、表情遺失、MP1/10
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、あぶないみずぎ、レースのビスチェ、あぶないビスチェ、不明支給品(1〜2)
[思考]:1度、笑ってから死にたい。お人よしは殺す。
[備考]:喜怒哀楽を表情で表せません。

アークの死体の上にぎんがのつるぎ@DQ9が添えられています。
また、G-8にドルボード@ドルバイクプリズム、ドルセリン×8、レーダー探知機、フラワーパラソル@DQ5、炎竜の守り@DQ8、魔勇者アンルシア・アリーナの首輪、星降る腕輪が放置されています。

495Only lonely boy:2017/09/06(水) 22:02:24 ID:ABAqX04s0
投下終了しました。

認知度低そうなので補足しておくと、DQMBVの追加コンテンツにムーンブルクの王女の「魔力かくせい」のスペシャルカードが存在し、「1ターンの間呪文の威力上昇+属性耐性無視」の効果を得られます。

496ただ一匹の名無しだ:2017/09/06(水) 22:44:17 ID:xMp3rUuk0
乙です!!
勇者様に天使様と、ルーナは出会う人には恵まれてる様な気がする。本人にとっては恵まれてるのかどうかは分からないけど。

野暮かなと思ったけど、
「私は――――――独りじゃい。」
ここは誤字かな?と思ったので指摘させてもらいます。

497 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/06(水) 22:55:44 ID:ABAqX04s0
>>497
シュールすぎる誤字ごめんなさい…!!

「独りじゃない」です…()

498ただの一匹の名無しだ:2017/09/07(木) 10:49:40 ID:Vt6aRQhU0
投下乙です!!
アークとルーナ、互いに虚無と共に生きていた二人の感情、ヒストリカの最期の決意、イオナズンとフォースのぶつかり合い、
どれも印象に残りました!!

しかし9のパーティーメンバー最初の脱落者がアークとは…………
2ndの3のパーティーメンバーも主人公が最初の脱落者だったけど、これもこれで他のメンバーに影響及ぼしそうだな…………。

499 ◆CASELIATiA:2017/09/10(日) 01:21:08 ID:G4uvYYmc0
すいません遅れました
ピサロ、アスナ、コニファー、ジャンボ、ゲレゲレ、ターニアの話を投下します

500風雲急を告げる ◆CASELIATiA:2017/09/10(日) 01:23:13 ID:G4uvYYmc0
『この手紙を、エビルプリーストに牙を剥くものが読むことを祈る……。
 まず、私はエビルプリーストの配下だが、心の底から忠誠を誓っている訳ではない。
 私の主は後にも先にもデスピサロ様ただ一人。
 おそらくは君たちの中に参加させられているだろうその人だ。
 エビルプリーストは我が主ピサロ様から王の座を奪い取り、頂点に君臨した。
 だが、奴の本性は傲岸不遜そのものであり、王の器ではない。
 実力があるから従っているだけで、あのサル山の大将に心酔してるものなど、一匹たりともいないだろう。 
 その点を踏まえて読んでもらいたい。

 私はエビルプリーストに命じられ、殺し合いの段取りや下準備をさせられた。
 舞台の用意や参加者の選定など、大掛かりな魔力が必要なことはエビルプリースト本人が、
 支給する品物やルールブックの作成など、細々とした部分は我らが担当した。
 前置きしたが、私はエビルプリーストのことは嫌っている。
 奴の顔を見るだけでその日の気分が悪くなる。
 奴と同じ空間の空気は極力吸いたくないほどだ。
 そして、私が主と仰ぐデスピサロ様はこの殺し合いの参加者にさせられた。
 
 私はピサロ様を助けるため、エビルプリーストの計画を邪魔するため、密かに抵抗を試みた。
 支給品がそうだ。
 直接の反抗も視野には入れていたが、私が反エビルプリースト派の魔物を率いて全軍で挑んだとしても、まず勝てないだろう。
 日和見の者共を味方につける材料はなく、従わせるカリスマも私には備わっていない。
 それ故に、無駄に命を散らせるよりは面従腹背でと考え、このような行動に及んだ。
 私は人を殺すにはあまりにも強力すぎる武器や道具を数多く用意した。
 その方が戦闘は派手に盛り上がる、と方便を用いエビ――ええい……長いので以降はエビと略する。あの者などエビで十分だ――を丸め込んだ。
 強力すぎる武器とは言うまでもない。
 魔王や邪神すらも葬り去ることが可能な伝説の武具だ。
 逸話、実績ともに申し分のない武器を多くの世界からかき集め、いくつか支給品に紛れ込ませた。
 それを利用して、エビを倒す切り札となってくれることを願う。
 
 次に、首輪のことだ。
 参加者につけられたその首輪は爆発の起爆装置であると同時に、参加者を監視する道具にもなっている。
 聴覚で得られる情報を、その首輪は随時エビに流していると思われる。
 首輪は無理やり外そうとすると、躊躇なく爆破させられるはずだ。
 外す手段は存在するのか、エビが爆破するラインはどこまでがグレーでどこまでがブラックかも私には分からない。
 しかし、これを外さないことにはこれを読んでる者たちも抵抗すらできないだろう。
 私から言えることはその首輪はそこまで複雑な構造ではないだろう、ということだ。
 何故そんなことを言えるのかはこれから書き記す。

 そしてここからが本当に大事なことだ。
 おそらく、エビは黒幕ではない。
 というより、黒幕だと思い込んでるだけで、真の黒幕が――』

501風雲急を告げる ◆CASELIATiA:2017/09/10(日) 01:25:36 ID:G4uvYYmc0
ここまで一気に読み進めたところで、ピサロは現実に引き戻された。
少し前までピサロの手伝いをしていたアスナなどは、いちはやく姿を消していた。
何という気配察知能力だと、ピサロは呆れながらも嘆息する。
神経をとがらせ、すぐにでも動ける用意をする。
何者かの気配を察知したのだ。
さて、ヤンガスが戻ってきたのか、それとも新たな人間、もしくは魔物か。
だが、誰が相手だろうとピサロの辞書に敗北の二文字は存在しない。
果たして、現れたのは――

「カビ団子が動くとは、なかなかに面白い光景だ」
「まーたカビ団子呼ばわりかよ……。 ったくよぉ、どいつもこいつも初対面の相手に失礼と思わねーのかよ……」

ドワーフのジャンボだった。
どちらも即座に襲い掛かることはなく、ある程度の距離を保つ。

「ガウ」
「人が……え、人? ジャンボさん、あの人って人間なのかな?」
「おお、そういや……エルフっぽいな」

鮮やかな銀髪、人間よりも若干薄い肌の色素、極めつけは長い耳。
ジャンボがそう思うのも無理はない。
しかし、ピサロにとってのエルフと、ジャンボにとってのエルフは若干定義がずれている。
ピサロの考えるエルフとは愛するロザリーであり、自分とは似ても似つかない種族。

「エルフではない。 魔族だ」
「へー、魔族か」
「私を恐れないのか?」
「魔族と人間が世界の覇権を巡って正面から敵対してるなんてのは大昔の話だろ?
 今は魔族にも過激派とか穏健派があるって後輩が言ってたしな。
 んで、お前はすぐには襲い掛かってくる様子はない。 なら、そういうことだろ?」
「後輩?」
「ああ、いちおう学生もやってんだよ俺」
「ジャンボさんが? うそ〜」
「ガウウウウ……」
「何だよオイ、気持ち悪そうな顔すんなって」
「だってそういう顔してないから……」
「どうでもいいことを話すな。
 では、私がお前を油断させて殺そうとしているとは考えないのか?」
「そんなタマじゃねーだろ、お前さんは? 返り討ちにしてやるから、どこからでもかかってこいってツラしてるぜ?
 自分の実力に自信があるから、そんな狡い真似をする必要は無いって考えるタイプだ。
 騙し討ちを考えている奴なら、まずは相手の警戒心を解こうとするはずさ」
「フン」

ジャンボの言っていることは概ね当たりだ。
もっとも、ピサロがかつて過激派の筆頭であったことも事実なのだが。

「中に入れ」

ピサロがそう促す。
多少は知恵の働く輩のようだと判断して、客人として招き入れることにしたのだ。
ゲレゲレから下りたターニアも恐る恐るついていく。

「うわっ」

図書室の天井に開けられた大穴に気付いたターニアが声を出す。
埃っぽい匂いに、ゲレゲレが不満そうに鼻を鳴らす。
ピサロはそれを気にすることなく改めてジャンボたちに向き直り、話を始める。

502風雲急を告げる ◆CASELIATiA:2017/09/10(日) 01:27:03 ID:G4uvYYmc0
「で、お前たちがここに来たのは何の用だ?」
「そりゃ、人を集めようとしたら町か城だろ?」
「愚問だったな。 では仲間を集めて何をする?」
「それも愚問とは思わねーのか?」
「思わぬな。 『エビルプリーストを倒す』これを成し遂げるためにはクリアすべき条件が山ほどある。
 今お前たちはどの程度まで足がかりを得ていて、今現在、どの段階にいるのかを聞く必要がある。 具体的なプランを語れ」
「なるほど、そこまで分かってるなら話は早え」

二人はともにエビルプリーストを倒す、という漠然とした目的ではなく、そのためにどうするかという次の段階を考えている。
ピサロとジャンボの会話は続けられた。
一方、ここで手持ち無沙汰になるのがターニアだ。
二人の会話をちゃんと聞いてはいるのだが、さりとて口を挟める雰囲気でもない。
こういう時、特別なスキルや知識も持たないただの村娘は、貝のように口を閉ざすことしかできない。
城の中の探検でもしようかと考えていると、目の前に突然椅子が出てきた。

「?」
「ワウ?」

ターニアもゲレゲレも首を傾げる。
突然椅子が出現した、そうとしか言いようがないのだ。
木製の腰掛付きの椅子。
不思議には思ったものの、ターニアは座ってみる。
椅子は僅かに軋む音を立てたが、それ自体は別におかしいことではない。
座り心地はよく、ここまで疲労が癒される。
それ以外に不審な点はない。
次に、そよ風が吹いたかと思うと、目の前にガラス製のコップがあった。
コップを手に取ると、またもそよ風を感じる。
中には透明の液体、おそらく水が入っている。
ガラス製のコップは高級品だ。 
こんなものがあるということは、これはお城の備品なのか。

「あの……これって?」

飲んでもいいが、これは何なのか知らないことには飲むことは躊躇われる。

「どうせあいつだろう」

視線を察したピサロが首を傾けてある方向を指し示す。
すると、そこには誰かがいた。

「誰だあれ?」
「アスナだ。 勇者らしい」
「勇者ぁ?」

本棚の影から顔を半分だけ見せる女性。
それを勇者だとはどうしても思えない。

「これはあなたが……?」

コップと椅子を指さして聞くターニア。
一瞬感じたそよ風は、もしやこの女性が超スピードで通り過ぎた影響なのだろうか。
アスナと紹介を受けた女性は首を二回縦に振った。

503風雲急を告げる ◆CASELIATiA:2017/09/10(日) 01:29:08 ID:G4uvYYmc0
「ありがとう」

頭を下げてお礼を言うと、アスナはまた隠れる。
親切心には感謝したいが、これが勇者のやることかと言われると違う気がした。

「私、ターニアよ。 この子はゲレゲレ。 あっちはジャンボさん」
「……」
「えと、怖がらせるようなこと、したかな?」
「他人が苦手らしい」

自分との初対面もそうだった、とピサロが続ける。
椅子や飲料水を提供してくれるあたり、アスナがこちらを嫌ってる訳ではなさそうなのは分かる。
たぶん、今の距離がアスナが逃げ出さずに、かつコミュニケーションを取れるギリギリのラインなのだろう。

「私のこと、嫌い?」

フルフル

「アスナさんもここから抜け出したいと思ってるんだよね?」

コクコク

「お友達、なれないかな?」

……

「だめ?」

フルフル

「うーん……」

イヤではないが、人見知りが障害となっている、というところか。
無理に近づいて強引にコミュニケーションを図ると、却ってダメなパターンだろう。
今はこれが最善の距離で、ここから少しずつ距離を詰めていくしかない。

「お前の召使いじゃなくてか?」
「召使いがあんなことできるか」

ピサロが天井を示すと、そこには空が広がっていた。
図書室を直射日光に晒すはずがない。
つまり、この部屋の天井はアスナによって壊されたのだ。

「マジかよ……おーいアスナ、俺にも椅子くれや」

ジャンボがそう言って瞬きした次の瞬間には、ジャンボの目の前にターニアに用意されたのと同じ椅子が用意されていた。
ジャンボでさえも反応できぬ速度。
すごいと言えばすごい。しかし――

「……やっぱ召使いだろ?」
「私に聞くな」

勇者ならもっとその力は別の方向へ役立てるべきではないか。
ジャンボはそんな気がしてならない。
勇者姫アンルシアと比べてしまうと、アスナはどうにも頼りないと思うのも無理はない。
唯一無二たる勇者が二人いることにも驚きを隠せないが、そこは触れないでおく。
勇者が二人いたとしても困る要素は皆無だし、真偽を確かめている暇はない。

504風雲急を告げる ◆CASELIATiA:2017/09/10(日) 01:31:14 ID:G4uvYYmc0
「それよりも話の続きだ」
「おう。 んで、ヘルバトラーはお前の言うことを素直に聞くような奴なのか?」
「微妙なところだな。 実力の高さであの地位を勝ち取った奴だ。 私に心から忠誠を誓っている訳ではない。
 現状はエビルプリースト側についた方がマシだと考えているやもしれん」
「オーケー。 んじゃあ次に会った時にいちおう声はかけるが、ダメだったらこっちの判断に任せてもらうぜ」
「構わん」
「ポーラちゃん、今頃どうしてるかな……」

ヘルバトラーの話題が出た時、ターニアはポーラのことを思い出した。
放送では彼女の仲間は誰一人呼ばれてなかったが、今でも単独行動を続けているのだろうか。
彼女自身の性格故なのか、それとも何かしらの強固な目的があって一人でいることを選んだのか、今となってはもう分からない。
しかし、今の自分が生きてられるのはジャンボやゲレゲレももちろんだが、ポーラが加勢してくれたおかげでもある。
彼女の無事を願わずにはいられない。

「ポーラだって?」
「「「「「!?」」」」」

虚空から突如聞き覚えのない声が響いてきた。
アスナを含めた全員が声の聞こえてきた空間に注目すると、いつの間にか毛皮を纏った男性がいた。
少年期は越えたがおじさんと呼ぶには憚られるような、青年期後半の貫禄。
ピサロやジャンボが警戒を露わにする前に、男は両手を上げて何も持ってないことをアピールする。

「待てよ、やり合う気はねえ。 この通り何も持ってない」
「フン……」

ピサロが鼻をならす。
確かにやり合う気ならとっくに仕掛けてるだろうし、ターニアあたりを人質にとってもおかしくない。
ただ、この男の気配を感じとれなかったことについては脅威でもある。
そこがピサロにとっては面白くないようだ。

「ところで俺の耳が正常ならポーラって名前が聞こえたんだが、知ってんのかい?」
「うん。 えっと、ポーラちゃんは始まってすぐの時間に助けてくれたんだけど、どこかへ行っちゃった」
「何でだ?」
「それが……言いたくないって」

気まずそうにターニアが言う。
何か自分の対応が悪かったのかもしれない。
ポーラはそれが気に入らなくて一人でどこかへ行ったのか。
今になってそれが気になり始める。
しかし、この男は思い当たる節があったのか頭をポリポリと掻いて、逆に申し訳なさそうに言う。

「あー……気にすんな、アイツはそういうヤツだ」

男は思案する。
今から追って追跡ができるかどうかは怪しい。
それを考えて、ポーラの追跡は断念した。
ここまで誰にも気づかずにこの男が接近できたのはレンジャーの固有技、ステルスのおかげだ。
男はコニファーと名乗り、ポーラの知り合いであることも明かす。

「話の腰を折ってすまねえが、何の話をしてたんだ?
 何しろここに来た瞬間、ポーラの名前を聞いちまったもんでよぉ、つい」
「それはね――」

ターニアが語り手となり、ピサロとジャンボの会話のやり取りを要点だけ摘んで伝える。

「あ、パパスさんってゲレゲレの?」
「知ってんのか?」
「ガウ」
「あー、でも旦那も南の方に行っちまったしなあ。 たぶん今から追いかけて会うのは難しいぜ」

505風雲急を告げる ◆CASELIATiA:2017/09/10(日) 01:33:36 ID:G4uvYYmc0
ゲレゲレは顔を下げて意気消沈する。
ポーラといいパパスといい、どうにもすれ違いが続く。
今は無事を願うことしかできない。
さらに話は続けられ、それぞれの行動方針も固まり始める。

「ふ、フアナとサヴィオがいるんれすかかkaか!」
「どわっ!?」

今度はコニファーがアスナの存在に驚く。
振り返れば、遠く離れた本棚の影からコニファーの顔を窺う少女が一人。
そのツンツンした髪型はサヴィオの言ってた特徴とも一致する、
あれがひっこみじあんなアリアハンの勇者アスナなのだろう。

「もう一人ステルス持ちのレンジャーがいるのかと思っただろうがっ……!」
「き、き、きいてくだ! さい! フア、ナとサヴィオがいいいいいるんですか!?」

顔を真っ赤にさせてどもりながら言う姿は実に心許ない。
あらかじめサヴィオから聞いてなければ、コニファーもとてもじゃないが勇者だと信じることはできなかっただろう。

「ああ、近くまで来ているはずだ。 心配しなくてももうすぐ会えんだろ」
「案内してください!」
「いや、だから……」
「おおおおおお願いしまてゅ……します!」

噛みながらも深々と頭を下げるアスナ。
コニファーも肩を竦めてどうしたものかと思うが、ふと気づく。
自身は仲間と言えるかどうかも微妙なエルギオスが死んだだけなのに対し、アスナ一行はホープという少年を失ったばかりなのだ。
残されたアスナが居場所の判明したフアナとサヴィオに一秒でも早く会いたいと思うのは、無理もないのではないだろうか。
悲しみを共有したり、不安を解消させるために生き残った仲間に会うのはごく当然の考えのはずだ。
極度の人見知りの彼女も、サヴィオたちとだけは普通に会話もできていたという。
自身も当面の目標だったトロデーン城の到達も達成したし、ここにはすでに交流も終えた仲間もいる。
ならば、それくらいなら吝かではないと引き受けることにする。

「ようし、じゃあ付いて来いよ」
「はい!」

そしてまずはコニファーが、その後方からアスナがトロデーン城から出立する。
今向かっている先にいるサヴィオとフアナが、かつてないほどの脅威に晒されていることも知らずに。

「とりあえず俺は人手を掻き集める。 何をするにしても数を揃えないと話にならねえ」
「好きにしろ、私はここでまだまだ調べ物をする」

ピサロがヒューザと出会ったことを知ったジャンボは軽く屈伸をしながら、追いかけることを決める。
聞けば、出発したのは第一回放送前、しかも放送の時点で同行者が一人死亡という事態だ。
何らかのトラブルに巻き込まれたのは間違いない。
ヤンガスという人間の男が数時間前に救助に向かったらしいが、それで生存が保証された訳ではない。
あのウェディの力は必ずや大きな戦力となってくれる。
エビルプリーストとの決戦も視野に入れているジャンボにとって、無視する理由は無い。
ヒューザは少なくとも一度は戦闘をしていること、トラペッタの街では仲間を集うために何時間かは逗留するだろうこと。
以上から、ヒューザに追いつくことは不可能ではないと判断した。

506風雲急を告げる ◆CASELIATiA:2017/09/10(日) 01:36:34 ID:G4uvYYmc0
「ターニアはどうする? 付いてくるか?」
「私? どうしようかな」
「ここならベッドも台所もあるから野宿の心配もないぜ? あとトイレもな」
「もうっ!」
「言っておくが私に期待はするな。 自分の身は自分で守ることだな」
「ということらしいが、こっちもヒューザが危ない状況にあるみたいだし、戦いは避けられないかもな」
「うーん、じゃあ――」
「んじゃあ、行ってくるぜピサロさんよ。 人を集めたらまたここに戻るからよ」
「好きにしろ」

古書に包まれた図書室はまたしても静寂で満たされることになる。

「少しペースを上げるか。 ヒューザの野郎が死んだら元も子もねえ」

城の外に出て、歩く速度を上げながら、ジャンボは思う。
話してる情報もあれば、話してない情報もある。
それがピサロに対して抱いたジャンボの感想である。
それは完全にこちらを信用してない証でもあり、頭の回転の良さの表れでもある。
最初から手札を全部見せるのは下策だ。
この世界において、技術や情報は何よりも価値を持つお宝なのだ。
例えば、首輪を安全に外す技術や情報があり、しかもそれを独占していれば悪人との交渉の材料にもなり得る。
ピサロの用心深さは、ジャンボにとって大きな評価ポイントである。
ジバ系呪文に着目して、爆破への応用にされているのではないかという考察も納得できるものだった。

それに加えて、ヤンガスの言っていたというある推察は値千金の情報だ。
ここは精巧に作られたニセモノの世界。
再び茨に覆われたこのトロデーン城が答えをくれた。
自分が壊したはずの橋が修復されていることも、ヤンガスの疑惑を深めたらしい。
トロデーン大陸に居を構えていたヤンガスだからこそできる考察だ。
同じように見えて、細部に違いがある世界。
どこかでよく見かけたような気がする。

「さしずめここは、『偽りのトロデーン大陸』って訳だ」

倒すべき敵、それは本当にあのエビルプリーストなのか。
その奥に控えし真の黒幕に思いを馳せながら、ジャンボは笑みを深める。
借りは必ず万倍にして返すという、ジャンボなりの決意の証だ。
未だその奥底に隠された真意を悟られぬまま、ジャンボたち一行は足早にトロデーン城をあとにした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



一方、未だにトロデーン城から一歩も動く気配のないピサロ。
自らが動かずとも、この城には目的を同じ者たちが次々に集っている。
そして自ら進んで、人を集めるために動いてくれる。
やはりこのトロデーン城こそが、この世界の最大の拠点になり、反抗の狼煙を上げるのにうってつけの場所なのだ。
時が熟すまで、ピサロはここで調べ物をしているだけでいい。
ピサロには特別助けたいと思い存在はいない。
ユーリルたちも一時的な共闘こそしたものの、命を懸けてまで救いたいと思える存在ではない。
デスピサロが命を懸けるに値する存在は、過去にも未来にもロザリーただ一人。それがピサロの強みだった。
エビルプリーストも馬鹿な男だと思う。
人間と手を組んでまで自らを滅ぼしに来たデスピサロなど、最も憎い存在のはず。
そのピサロの急所となる人物を殺し合いに放り込まず、首輪をつけただけで御せるようになると思っていたとは。

507風雲急を告げる ◆CASELIATiA:2017/09/10(日) 01:39:39 ID:G4uvYYmc0
(残念だったなエビルプリースト。 私は誰が死のうと揺るがないし、例えお前が慈悲を乞うたとしても許す気はないぞ)

二度も自分に牙を剥いた存在を許すほど、ピサロは慈悲深い存在ではない。
必ずやエビルプリーストの下へたどり着き、裏切り者に相応しい最期をくれてやる。
そう思い、ジャンボには見せることのなかっただいまどうの手紙の続きを読む。

『――というより、黒幕だと思い込んでるだけで、真の黒幕がいるのではないかと思う時がある。
 経緯はこうだ。
 元々エビは首輪の機能をより複雑にするはずだった。
 首輪から聴覚だけでなく視覚的な情報や各種生命反応、首輪に触れたもの思考を読み取り、少しでも外そうという意思があれば即爆破するなど、徹底ぶりは大したものだった。
 事実、魔王軍の技術を結集すれば、あのコンパクトな首輪にもそれだけの機能すべてを詰め込むのは可能だったろう。
 ヒステリックに喚き散らすエビに恐怖しながら、我々は絶対に反抗不可能な首輪を作成していた。
 しかし、ある時おかしなことになった。
 あれほどうるさく完成を急かしていた首輪を、急遽大半の機能を取り除いた簡易的なものへと変えたのだ。
 首輪に組み込まれたのは音を拾ってエビに伝える機能と、エビの魔力を受信して爆破する機能、
 禁止エリアに入った際に警告し、退避しなかった場合、一定時間後に爆破する機能のみだ。
 それだけなら今すぐにでも人数分用意できるし、エビの悪趣味に付き合わされるのもうんざりだった。
 エビの怒声や理不尽に消されることも無くなった我々は当然ながら喜んだ。
 しかし、同時に疑問も発生する。
 どうして、そんなことになったのかと。
 エビは我々の想像もつかない反応を見せた。

 何故だと? ……いや待て何故だ? こんなことを……これでは簡単に外せてしまうではないか。うっ!!?
 
 そう言った自分こそが一番驚いているような反応を見せたのだ。
 しかもそこからエビは呻くと、虚空を見つめたまま棒立ちで動かなくなった。
 表情はおろか眼球さえも微動だにしないまま、エビはうなされる様に呟く。

 面白い。 そうだ、その方が面白いではないか……面白いからだ。 フフフ……面白い、面白い、面白い。

 能面のような表情のまま、ただ面白いと繰り返す。
 その時のエビは理性を保っていたとは到底思えなかった。
 自分の意思で思考し、自分の理性で判断を下してるようには見えない。
 もっと言うなら、誰か他人の言葉をエビの口から言わされている、そんな雰囲気だった。
 再び目に光が宿ったエビは、その時のことを覚えてはいなかった。 
 首輪は最低限の機能を有したものを採用する。 いつの間にかそれがエビの中で真実になっていた。 
 当初はもっと複雑な構造にするはずだったという構想すら忘れていた。
 しかし、そのことを問いただすものは一人もいなかった。
 自尊心の強いあのエビに、もしかしてあなたは誰かに操られてませんか、と聞こうものなら、それが真実であろうとなかろうと殺されるだろう。
 禁止エリアに関しても、本来ならもっと多くのエリアが一度に禁止されていたはずだ。

508風雲急を告げる ◆CASELIATiA:2017/09/10(日) 01:41:18 ID:G4uvYYmc0
 また、即座に脱出可能なアイテムも出したりと、エビはガチガチに縛ったルールでいこうとしてたのに、尽くルールを緩和している。
 その度にエビは自身の発言に戸惑い、そして胡乱な瞳で面白いと繰り返し、当初の自分の言動すら忘れることを繰り返した。
 しかも、首輪を解除した者たちの反抗を待ち望んでいるかのようにだ。
 正直、私が強力な武器を捻じ込むことができたのも、エビのこの変節に依るところが大きいと思われる。
 心して欲しい。
 エビは我々の予想もつかない何かに操られているかもしれない。

 私の命も残りわずかだろう。
 エビは私に放送や参加者への伝令役、つまり司会進行を命じた。
 無論、そんな命令を聞いてやる理由などない。
 ここまで忠実に従ってきたが、ロザリーヒルで平和に暮らすピサロ様まで参加者にしたことは堪忍袋の緒が切れた。
 私はせめてもの抵抗として、ありったけの罵詈雑言をぶつけてから死ぬことにしよう。
 願わくば、あのエビルプリーストを倒して私の魂を慰めて欲しい。 

 最後に、我が主ピサロ様へ伝えて欲しい。
 危険です。 奴は再びロザリー様を捕らえ、何かをしようとしている、と。
 もう私の配下を差し向けても間に合わない』

「なっ……!」

髪がざわつくのを感じた。
手紙を握りしめる手が震える。
心臓が早鐘を打つ。
脈拍の回数が増す。
愛するエルフ、ロザリーが助けを求めている姿を幻視する。
誰が死んでもピサロ本人さえ生きていれば問題ないという楽観論。
それが今、音を立てて崩れていった。










【D-3/トロデーン城付近/夕方】
【アスナ(女勇者)@DQ3】
[状態]:ほぼ健康 性格「ひっこみじあん」
[装備]:ゴディアスの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:エビルプリーストを倒す。そのために仲間(知り合い最優先)を探す。
ピサロとともに、このゲームから脱出する手掛かりを本から探す。
    ひっこみじあんを克服したい。でも知り合いも来てほしい。
   :サヴィオとフアナに会いに行く。
[備考]:不明支給品の中に性格を変える効果を持った本や装飾品は入ってません。
    トロデーン城の地理を把握しています。

【コニファー(男レンジャー)@DQ9】
[状態]健康
[装備]かりうどの弓@DQ9、毒矢×30本
[道具]支給品一式 支給品0〜1(本人確認済み)
[思考]自分が生きているという感覚を保つため、とにかく生き抜く。
   仲間を探す。 アスナに道案内をする。

509風雲急を告げる ◆CASELIATiA:2017/09/10(日) 01:41:42 ID:G4uvYYmc0
【D-3/トロデーン城付近/夕方】
【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:健康
[装備]:ナイトスナイパー@DQ8
[道具]:支給品一式、道具0〜2 天空の剣、罠抜けの指輪 罠の巻物×3 ドラゴンローブ
[思考]:
基本方針:エビルプリーストに借りを返す。6世界の人物を……?(非力な人物は除外)
1:ヒューザ捜索。今はとにかく仲間を集める。
[備考]:
※職業はレンジャーです。少なくともサバイバルスキルが140以上、弓スキルが130以上です。
※エビルプリーストの背後に黒幕がいるのではと疑っています(だいまどうの手紙は見てないです)





【D-3/トロデーン城図書室/夕方】
【ピサロ@DQ4】
[状態]:9/10
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]:図書室で首輪を外す方法を探す  エビルプリーストをこの手で葬り去る
1:ロザリーはどうなった……?
※ジバ系呪文を実際に見せてもらいました。
※エビルプリーストの背後に黒幕がいることを、手紙によってほぼ確信しました。
現状ではラプソーンが怪しいと考えています
※首輪の仕組み、機能を知りました




【ゲレゲレ(キラーパンサー)@DQ5】
[状態]:HP2/3、胴体にダメージ(中)、身体側面に切り傷
[装備]:悪魔のツメ@DQ5
[道具]:支給品一式、四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1
[思考]:
基本方針:主催を倒して脱出する。
1:ジャンボに不信感。
※ジャンボに付いていくかは次の書き手さんに任せます

【ターニア@DQ6】
[状態]:体の一部に擦り傷あり
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、愛のマカロン×6 道具0〜2
[思考]:
基本方針:お兄ちゃんと合流したい。
1:ジャンボについていく? ここで待つ?

510 ◆CASELIATiA:2017/09/10(日) 01:45:36 ID:G4uvYYmc0
投下終了しました。誤字などあれば指摘をお願いします。
あと感想をば

>Only lonely boy
うわああああああああああああああアークがああああああああああ!
生き延びるだろうと思ってたのにこれは予想外過ぎた
ヒストリカも炎の友情ダンス踊らせたりワラタロー改を支給して思う存分暴れさせたりデュランと友情タッグを組むのを妄想してたのにいいいいいいいいいいいい
ルーナはこれで少しはいい方向に変わってくれたらいいんだが……投下乙でした

511 ◆jHfQAXTcSo:2017/09/10(日) 08:08:41 ID:a8ysRPD.0
投下します

512For restart ◆jHfQAXTcSo:2017/09/10(日) 08:09:55 ID:a8ysRPD.0
ローラ姫を助けたければ南で三人殺せというアベルの提案を呑んだアレフと、共に行動し監視の任務を負うジンガー。
天使信仰を取り戻す為アークを優勝させたいスクルドと、最大限の戦いができるよう彼女との共闘を受け入れたデュラン。
目的が全く異なる四人の、二つの同盟がぶつかり合う。
鋏の音が絶えた今も、剣戟の響きがリーザス村に静寂を与えない。

一撃目を躱したアレフは、再び向かってきた鉈を受け止める。
すぐさま次の一撃を繰り出そうとするデュランだったが、ジンガーが振り下ろすメガトンハンマーに気付き、一旦距離を空ける。
その隙に、アレフはちらりとスクルドの方に目を向けた。
槍を構えてはいるものの、こちらに近寄ろうとはしない。
ならば、ジンガーの矢で彼女の足を狙ってもらうか、デュランに集中して大きな傷を負わせ、回復しに近寄ってくるよう仕向けるか――

「余所見とは随分余裕ではないか!」

そこまで考えたところで、鋭く振り抜かれる鉈と、間に割り込み剣でそれを受け止めるジンガーが眼前に現れる。
挑発を無視してジンガーが抑えている隙に脇腹を斬りつけつつ背後に通り抜けようと試みるが、アレフの狙いに勘づいたのか、スクルドはデュランを挟んだ向かい側に移動していた。
思わず舌を鳴らしかけたが、デュランが鉈を構え直す一瞬をついて、今度はジンガーがスクルドへ向かっていく。
ならばとベギラマの詠唱を始めるが、スクルドはすんでのところでジンガーの剣を躱し、その隙間にデュランが割って入った。
そのまま視線を投げ掛けてきたため慌てて詠唱を中断して走り出しつつ剣を構えると、立っていた空間をかまいたちが切り裂いていた。
アレフが近付くよりも先にデュランは跳び上がり、再びスクルドを狙っていたジンガーへと突きを繰り出す。
灼熱剣エンマでその軌道は逸らされたが、その間にスクルドはジンガーの攻撃範囲から逃れていた。

「面妖な。何故真っ向からぶつからず、手出しをしない女ばかりを狙う?」

攻撃の手は緩めずに、デュランは口を開く。
何かを守る為に戦うという経験はないからか、それはそれで楽しんでいるらしく、その言葉に刺々しさはない。
純粋に疑問に思った、といった様子だ。

513For restart ◆jHfQAXTcSo:2017/09/10(日) 08:11:01 ID:a8ysRPD.0
「誰が手を出してくるか、そんなことはどうでもいい。俺には俺の目標点があるんだ」

デュランの目的は強者との戦い。
だがアレフの目的は強者弱者関係なしに、あと一人の殺害。
目標点が違うそれらは方向が違うため、正面からぶつかるわけがなかった。

「何か訳有りといったところか」

スクルドとは反対方向にアレフを押しやり、再び跳び上がって鉈を突き出す。
息を吐く間もなく放たれた攻撃をギリギリで回避するものの、アレフはバランスを崩した。

「そして、どうでもいい、か。成程、それもそうだ。お前にどのような事情があろうと、私も私の望む戦いを求めるだけだ」

アレフが体制を立て直すよりも早く鉈を振り下ろすが、ジンガーが割り込んで受け止め、その間に剣を構え直す。
デュランは自分との戦いに集中するしかないよう仕向ける為か、スクルドからアレフたちを引き離すことを優先し始めた。
アレフとジンガー、どちらかだけでも抜こうとするものの、守り重視の少ない手数で戦うデュランの隙をつくことができない。
加えて、デュランはキラーマジンガのことは知っている。
同一個体かまでは分からないが、かつてレックたちと戦った時、ランドアーマーと共に前座を務めたのがキラーマジンガだ。
そのため、ある程度の攻撃手段などは把握している。
的確な判断をその都度下せるジンガーといえども、手の内が分かっている、それも戦いに生きるデュラン相手だと相性は良くなかった。

(あと一人……! あと一人だというのに……!)

槍の構えやアレフたちを避ける位置取りを見るに、スクルドにも戦いの心得はあることが分かる。
それでも、デュランに比べれば脅威と言えるほどではなく、僧侶という後衛向きの職。
確実に殺せるのは、間違いなく彼女だ。
しかし、その肝心のスクルドに近寄れず、詠唱の隙も与えられない。
焦りと苛立ちが、アレフの内に溜まっていく。

514For restart ◆jHfQAXTcSo:2017/09/10(日) 08:13:42 ID:a8ysRPD.0
(ローラの為に……!)

渾身の力を込めた一撃は、しかし軌道を逸らされデュランに傷を付けることはなかった。
それどころか重心がかかりすぎて剣に体を引っ張られ、懐への接近を許してしまう。
辛うじて襲いかかる鉈を受け止めた。
が、目にも留まらぬ速さで二発目が繰り出される。
反応しきれず、左肩に一撃を受けてしまう。

「ぐ……っ!?」
「まだ終わらん!」

更に三発目。
完全に体が追い付かず、鳩尾に重い一撃を入れられ、体制も整っていなかったアレフは吹き飛ばされた。
一瞬意識を飛ばした間に、ジンガーがアレフに近寄りつつ、デュランに牽制の矢を飛ばしていた。

確実に入れられるタイミングを見計らっていたのだろう、デュランの早業の重さに、また飛ばすことこそしないものの意識がぐらつく。
それでも剣を構え、アレフは次の攻撃に備える。

(まだだ、負けるわけには、死ぬわけにはいかない……!)

ローラを取り戻す為に。
二人の世界を取り戻す為に。





「勇者だから何かをなすのではなく、何かをなしたから勇者なのだと」

とあるひとつの選択肢の果て、そう言った女性がいた。
彼女は自分のその言葉を、月並みだと評した。
そう、月並みなのだ。
何も特別なことではない。誰にだって言えること。

幼い少年のちょっとしたおつかいも、夢見る少女には冒険譚になりうる。
犬も食わない夫婦喧嘩も、かかあ天下の旦那たちには勇気ある戦いに映る。
勇気をもって何かを為すというのは、その結果が大なり小なり、誰にだってできることだ。

しかしアレフに向けられる目は、言葉は、そんな月並みなど目に入らない、特別なものばかりだった。
“勇者ロトの子孫”
“ロトの血を引く者”
アレフの名の前には、大抵そのような冠辞が付いて回った。
目の前の自分という存在ではなく、その背後の遠い先祖ばかりを見られているような気がして、アレフは名前を呼ばれる度になんとも居心地の悪さを感じていた。
先祖ではなく誰かに自分を見てほしくて、アレフは剣の腕を磨いた。
魔法だって覚えて、鍛練を欠かさなかった。
困っている人々の手助けもしていった。
しかし、どんなに努力を重ねても、人々は言うのだ。

――流石、勇者ロトの血を引くだけある。
――勇者ロトもきっと、このように鍛練を重ねていたのだろう。
――ありがとうございます! ロト様もきっと、お優しい子孫を誇らしく思っているのではないでしょうか。

自分という存在に対して、あまりに大きな先祖の名。
いつしかアレフは自分を見てもらうことを諦め、一人であてのない旅を始めた。
人の存在を掻き消してしまう肩書きなど、自分と共にひっそりと消えてしまってもいいかと、そう思うこともあった。

それでも、まだどこかで、自分を見てほしいという想いは残っていたのだろうか、“ロトの血を引く勇者”として竜王の討伐を任せられたアレフは、それを引き受けた。
先祖の名が霞むほどの偉業を為せたなら、そこに漸く自分の居場所を見つけられる気がして。

515For restart ◆jHfQAXTcSo:2017/09/10(日) 08:14:45 ID:a8ysRPD.0
そんなアレフが、竜王を倒すよりも先に辿り着いた場所。
ドラゴンを倒し、ローラ姫を救い出した時、アレフの世界に変化が訪れた。



「かつて世界を救ったのは、確かにロトの勇者様です。ですが、今こうして私を救ってくれたのは、間違いなく貴方様ですわ。
 どうか、お聞かせ下さい。私の勇者様のお名前を」



先祖がロトの勇者だっただけと言うアレフに、ローラ姫はそう微笑んだ。
先祖の影を探すことなく、真っ直ぐ自分を見つめられたのは初めてだった。
アレフという一人の男の人生は、その時漸く始まった。
希望の旗が立てられたかのように、アレフの世界に光が満ちていった。





(ローラ、君が側にいないからかな……世界が暗い。暗い赤ばかりが目立つよ)

殺し合いという悪趣味なゲームの世界だ。太陽が照らしているからといって、あまり明るく感じることはできない。
その暗い世界で見てきた赤。
男から首が落ちた時の赤。
少女の体が一閃された時の赤。
神官に剣が突き刺さった時の赤。
そして、立ち塞がる魔人の赤。

(せめて、君の声だけでも聞けたら。名前を呼んでもらえたら)
(また、目に映る世界は明るくなるだろうか)
(君を取り戻す程の力が、また湧き出すだろうか)

「アレフ様!」
「!?」

聞こえてきたそれに、思わず振り返る。
デュランやスクルドも驚いたのか、リーザス村にいた全員の時が止まった。
呆然としつつも、アレフは彼女に駆け寄っていく。

「ローラ!? どうしてここに君が……」
「アレフ様に会いたい、その一心で」
「そんなに怪我だらけになって……!」
「アレフ様こそ……私が捕らえられてしまったばっかりに、多くのお怪我を……」
「いいんだ、ローラ、君さえ生きてくれるなら」

熾烈な戦いの場に現れた愛しい彼女。
過去に負ったことのないだろう、ひどい怪我をしてまで自分の下まで駆けつけてくれた彼女。
誰かに助けてもらったのか、アベルはどうなったのか、聞きたいことは山程ある。

だが、それよりも先にーー1日も離れていないけれど久しく感じる再会に、愛しい人を抱き締めたいと、距離を縮めていく。

516For restart ◆jHfQAXTcSo:2017/09/10(日) 08:16:12 ID:a8ysRPD.0
 


「良いのですか? 今なら二人まとめて殺すこともできそうですが……」
「私の目的はただの殺戮ではなく、血の踊るような戦いだ。構いはせん」

突如現れた女性と、今しがた戦っていたアレフを横目に、スクルドはデュランに声をかけた。
スクルドの目的はアークの優勝。それには、彼以外に死んでもらう必要がある。
アレフ、ジンガーを相手にここまで戦い、それを楽しんだのだ。満足して二人をまとめて倒してはくれないかと思ったが、どうやらデュランはまだ戦いを求めているらしい。
戦いに手を出さないと契約している以上何も言えず、不満げながらもスクルドは引き下がる。

「なに、そんなつまらなそうな顔をするな」

そんなスクルドを揶揄し、デュランは楽しげな声を出す。

「まだまだ楽しめそうではないか。お前にとっても、都合が良くなるのではないか?」
「はい? 何を言って……」

疑問符を浮かべながらデュランの視線を追ってみる。
その先にあったのは、再会した恋人たちではなくーー





「アレフ様、私も……私も共に…………っ!?」
「ローラ!!!!」

ーー戦います。
ローラはそう言おうと口を開くが、そこから溢れるのは声色ではなく真っ赤なもの。
伝えたいのに、彼と共に戦わなくてはならないのに。
そう強く思い口を動かす度に、嘲笑うように液体が溢れる音だけが響き渡る。
そんな彼女に癒しの光を当て、優しく抱き留めながら、アレフは鋭く叫んだ。

「無理して喋るなローラ、生きてくれ……!
 どういうつもりだ――ジンガー!!」

聞き覚えのあるその名前に、視線だけを動かして、ローラは漸く何が起こったかを悟った。
二人からいくらか離れたところに、今朝方アベルと共にいた機械兵士が佇んでいる。
ローラは何もできずに見ていることしかできなかった。アレフが自分の為にただやられるのを。
脳裏に焼き付いて離れない記憶に、ジンガーが矢を引き絞っていた場面もしっかりと残っている。

矢を放たれたのだ。
そう気付いた途端に、腹部に熱と痛みが拡がっていく。

「明快デス。我々ノ契約ノ終ワリガ訪レタ。ソレダケノ話デス」

再び放たれた矢を、アレフが剣で叩き落とす。
しかしその僅かな間に、ジンガーは彼らから更に距離を空けていた。

517For restart ◆jHfQAXTcSo:2017/09/10(日) 08:17:26 ID:a8ysRPD.0
「彼女ガマスターあべるノ元ニ居ルカラコソ、貴方ハ殺戮ヲ引キ受ケタ。ソシテ、ソノ見張リト命令遂行ノ補助ガ私ノ役割。
 シカシ彼女ハ逃ゲ出シ、貴方モマダ殺シタ人数ガ三人ニ届イテイナイ。契約ハ反故ニナッタト判断シマシタ」

もう一発。
構えていた剣の角度では打ち落としづらい位置に放たれた矢を避ける。

「デキレバコノママ二人共ヲ殺シテオキタイ所デスガ、ソノ猶予ハナイヨウデス。
 マスターあべるノ命令ニ区切リガツイタナラ、マタ新タナ命令ヲ授カラネバナリマセン」

まだ戦える戦士を殺されたくないのだろう、デュランは既に鉈を構えて地面を蹴っていた。
アレフとローラを殺めてからでは、回避は間に合わない。
ジンガーにとって何よりも大切なのは、殺害ではなく命令の遂行だ。
アベルは殺戮を望んでいる。だが、二人の命を道連れに自らもその活動を終えることよりも、再びアベルの命令を請けて付き従い、更なる数の屍を積むことを選んだ。
デュランの鉈は対象のいなくなった地面を抉るだけとなり、ジンガーは振り返ることなくリーザス村を後にした。



「ベホイム!」

ローラを抱えたままジンガーまで距離を詰めることは叶わず、しかし矢の警戒も解けずにいたアレフは、突然間近で聞こえた声に跳ね上がりそうになった。
いつの間にか近付いていたスクルドは、ベホイムをローラにかけていたようだ。

「なんのつもり……」
「急所は外れてるので、恐らく大丈夫かと。矢を抜いて止血するので離れて下さい」
「は……」
「彼女の命を繋ぎ止めると言ってるんです。私は僧侶、回復魔法ならあなたよりも手練れのはず。私がやるのが確実です」

そういうことじゃない、と怒鳴ろうとしたところで、近付く覇気に気付いて剣を構えた。
だが防御が間に合わず、ローラとスクルドの元から吹き飛ばされてしまう。

「キラーマジンガとの共闘を相手にできないのは口惜しいが、やはりまだ楽しめそうではないか」

防ぎきれなかったものの、しっかりと着地して向き直り敵意を向けるアレフの様子に、デュランはくつくつと笑った。

「執拗にスクルドばかりを狙っていたようだが、一対一ならそうもいくまい。さあ、今度こそ全力を以て、私と戦おうではないか!」

言ってみれば人質を取っているような状況だ。
デュランは知っている。大切な者を想う人間が、どれほど強くなれるかを。
かつて一人の男がいた。彼は姉を守ることができなかった己の弱さを悔い、ひたすらに力を求めた。
そして魔に引き寄せられ、デュランも認めるほどの実力を手にしたのだ。
ただ一人を、姉を想う意志の強さが、それを為した。

518For restart ◆jHfQAXTcSo:2017/09/10(日) 08:19:58 ID:a8ysRPD.0
人質を取るというのは姑息な手段と言える。あまり好みのやり方ではないが、今はその先に何より望むものがあった。
アレフが全力を出すことができ、それを己のみに向けさせる。
デュランにとって最高の戦いの舞台だ。

「決着がつくまで決して殺すなと言い含めてある。集中して力の全てを見せるがいい」
「彼女がそれに従わなかったらどうする」
「その時は私が斬るのみ。だが目的がある以上、下手を打つことはないはずだ」

視線を向ければ、スクルドの肩が少し強張っていた。
彼女としても、アレフだけでなくデュランも敵に回すことはしたくないのだろう。
渋々ながらも光の剣を構え直す。

(すまないローラ、またしても……目の前にいながら、何もしてやれないなんて……)

アベルの提示通り三人殺すことばかり考えてスクルドを狙い続けたことが悔やまれる。
彼との取引を知らない二人は、またアレフがデュランを狙わずスクルドに向かっていくことを警戒している。
これでは、隙をついてローラを助けることも難しいだろう。

(だが、必ず君を取り返す。もう少しだけ待っていてくれ、ローラ)

ジンガーがいない状況で、デュランとの一騎打ち。
確実に状況は悪くなっているが、だからどうした。
一人で戦うのなど、初めてではない。
アレフの世界が始まったあの時のように、ローラを救い出してみせる。

アベルの見えない魔の手がなりを潜めたこと。
生殺与奪は握られたままとはいえ、目の届く範囲にローラがいること。
そしてかつての旅のように一人で戦わねばならないことが、アレフに落ち着きを与えつつあった。
監視であると分かっていたはずなのに、どこかジンガーに縋っている部分があったのかもしれない。

どう転んでも、もう誰の所為にもできない。全て自分にのし掛かってくる。
取り乱しては駄目だ。

深呼吸する暇もなく、デュランの鉈が襲いかかってきた。
焦りも憤りもなく、アレフはそれを受け流す。
アレフの眼差しを見て、デュランは笑みをひとつ溢した。

519For restart ◆jHfQAXTcSo:2017/09/10(日) 08:20:47 ID:a8ysRPD.0
 


「頼みましたよ……」

再び始まった戦闘を見ながら、スクルドはぽつりと呟いた。
デュランは強者と戦えればそれでいいようだが、スクルドとしては、やはりアレフを確実に殺してほしいところだ。
そうなれば、後はスクルドがローラをホーリーランスで刺し殺せばいい。これが理想の結末。
だが、万が一デュランが敗れた場合。
消耗して隙を狙えるならいいが、アレフに余力が残っていたら一転してスクルドの危機だ。
すぐにでもローラを殺して逃げる、最低限の治療に留めてるためローラの復調までの短い同盟を持ち掛ける、様々なパターンを今のうちにシミュレートしておく。

ふとローラの顔に視線を落とすと、唇を噛んで冷や汗を流しつつも、真っ直ぐにアレフを見つめていた。
服装から察せられる身分からしてこんな怪我を負うようなことなどほぼ経験がないだろうに、痛みに声を漏らさず、その分だけ強い瞳で。

(貴女も、戦っているのですね)

声を出してしまったら、アレフの気がローラに向いてしまうかもしれないから。
戦いの邪魔をしてしまうかもしれないから。
痛みに震え、不安に押し潰されそうになりながらも、アレフの勝利を祈っている。
祈りが届く相手がいて羨ましいと、スクルドは微かに思った。

520For restart ◆jHfQAXTcSo:2017/09/10(日) 08:22:25 ID:a8ysRPD.0
 




トラペッタとリーザスを繋ぐ橋を渡った辺りで、近付いてくる存在に気付き、トンヌラは咄嗟に身構えた。
こんなゲームの舞台に立たされているのだ、見知らぬ相手と出会して警戒するのは当然のこと。
だが、トンヌラのそれは警戒を越えて、臨戦態勢と呼んでも差し支えないだろう。
それもそのはず、現れた存在は遭遇こそ初めてであるものの、チャモロに聞いたキラーマジンガという魔物――ジンガーだったのだから。

(ツイてないにも程がありますね……!)

出会ってすぐにリュビたちの間でいざこざが起こってしまったため、キラーマジンガについては、ローラ姫を追いながらチャモロからざっくりとした説明を受けただけだ。
だが、それだけでも厄介な相手だと分かっている。
思考が乱れることのない機械であること。
接近戦では様々な斬りを、遠距離戦では矢による攻撃を行えること。
魔法を弾く性質を備えていること。
トンヌラは歯を軋ませずにはいられなかった。

(こんな時に、ローレル向きの相手と一対一でご対面とは……)

聞いた時から思ってはいたのだ。
だが、チャモロもまだ追い付いてきていないこの状況、やはり憎々しさは沸き立ってくる。
魔法が通らないのであれば、武術に特化したローレルのような者が頼りになるだろう。
何よりローレルは、考えるよりも先に体が動くタイプの人間だ。
回復さえ怠らなければ、キラーマジンガの思考の時間を大幅に減らし、その天性の武で押し込むことも可能かもしれない。
冷静さを欠かない代わりに、何事にも思考回路という手順がある機械相手には、うってつけだ。

521For restart ◆jHfQAXTcSo:2017/09/10(日) 08:23:28 ID:a8ysRPD.0
武術も魔術もローレル、ルーナには敵わないトンヌラが、それでもコンプレックスに潰されずに済んでいた、多才性、判断力が、今ばかりは恨めしい。
せめてチャモロが追い付いていたなら、まだ抑えられたかもしれない劣等感。
落ち着けと囁く声と、憎らしいと叫ぶ声が、トンヌラの中で鬩ぎ合う。

(アレフガルドをまとめて立つのは、僕だ。ローレルは相応しくない)
(僕は、剣だって、魔法だって扱える。視野だって三人の中で一番広い)
(僕こそが、最後に立っているべきだ。その為にも……)

その為にも、生き延びて、元の世界に帰らなければならない。
支給された武器が剣ではなくて良かったかもしれないと、トンヌラは思う。
剣を手にしていたら、ローレルに劣るわけにはいかないと、頭に血を上らせて躍り出た可能性も否定できない。
悔しい想いはある。まだ心はざわつくままだ。
それでもトンヌラはそれらを噛み殺し、チャモロが合流するまでは無茶をせず、生存することが最優先事項と定めた。

道を開けろということか、矢が飛んでくる。
最小限の動きで躱して、トンヌラはアサルトライフルの引き金に指をかけるが、慣れない武器ということもあって、狙いを定めてる内に距離を詰められてしまった。
引き金から指を離し、ライフルを射撃ではなく防御に使用する。
剣では受け流されると判断したジンガーは、メガトンハンマーを振り下ろした。
流石にライフルで受けるのは不安が残るため、後退って回避する。
剣より効果的と認識したのか、ジンガーはメガトンハンマーを中心としてトンヌラを攻撃し始めた。

(まずいですね……僕が持っている武器は使い慣れてない上に、距離を空けてから使うものだ)

それを知ってか知らずか、接近戦で畳み掛けられ、トンヌラに冷や汗が流れる。
無理に攻勢に転じず防御、回避に専念するのが精一杯。
パトラから奪ったベレッタM92ならばアサルトライフルよりは素早く狙えるだろうが、ふくろを開けて取り出す余裕もない。
どうすればいい、どうすれば――!

522For restart ◆jHfQAXTcSo:2017/09/10(日) 08:24:26 ID:a8ysRPD.0
「……っ、しまった!」

現状を打開しようと考えを巡らせてる内に、メガトンハンマーがアサルトライフルの端に命中してしまい、トンヌラの手から地面へと投げ出されてしまう。
拾いに行こうとするも目の前を灼熱剣エンマが遮り、簡単には許してくれないかと歯噛みする。
状況は悪くなる一方。
止まる気配のない攻撃を避け続け、次の攻撃に備えていると、不意に猛攻が止んだ。
それとほぼ同時に通り過ぎる真空の刃。

「トンヌラさん、先行させてしまいすみません! 無事で良かった……」
「ええ、本当に……ありがとう、助かりました」

サフィールと別れたチャモロが、トンヌラに追い付いた。
なるべく短く言葉を交わした二人は、どちらともなくジンガーに目を向ける。
チャモロが合流したことにより、ジンガーも警戒しているらしく、即座に攻勢に出る様子はない。

「困ったことに、武器をひとつ落としてしまいました」
「僕の方も、杖をあの子に渡してきてしまいました」
「お互い戦力ダウンしてしまった、ということですね」

今の内にと、トンヌラはパトラから奪ったベレッタM92をふくろから取り出す。
アサルトライフルほどの威力は期待できないが、ないよりはマシだろう。

「でも……逃げるわけにはいきません」
「……そうですね」

トンヌラは己の存在が懸かっているため。
チャモロは改めてローラたちと向き合うため。
理由は同じではないけれど、同じ人に追い付く為に。
二人は再び動き出した機械兵士と対峙する。

523For restart ◆jHfQAXTcSo:2017/09/10(日) 08:27:18 ID:a8ysRPD.0
【I-5/リーザス村/1日目・夕方】

【アレフ@DQ1勇者】
[状態]:HP1/2、MP3/5、肩と鳩尾に打撲
[装備]:光の剣
[道具]:支給品一式、不明支給品(0〜2)
[思考]:ローラを取り戻す為デュランを倒す

【ローラ姫@DQ1】
[状態]:HP1/10、 顔、右肩に銃創、腹部に刺創(止血済)
[装備]:毒針
[道具]:支給品一式、銀のティーセット 草・粉セット
    ハッサンの支給品(引き寄せの杖 場所替えの杖)
[思考]:愛する我が子の為に戦う。アレフの邪魔をしない
[備考]:最低限の治療しか施されていません

【デュラン@DQ6】
[状態]:HP3/5、脇腹に裂傷
[装備]:粉砕の大鉈@DQ8
[道具]:支給品一式 道具0〜1個
[思考]:強き者を探す。主人公@DQ6とその仲間とは決着を付けたい。
    リーザス村でアレフを倒す

【スクルド(僧侶♀)@DQ9】
[状態]:健康、MP2/3
[装備]:ホーリーランス、不思議なボレロ@DQ3
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:アークを優勝させる
    強敵をデュランに倒してもらう 最終的にはDQ9主人公を優勝させる


【G-6/平原/1日目・夕方】

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP6/10 MP3/5 腕、肩、脇腹に切り傷(応急処置済) ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める
    ローラを追いかける為、ジンガーと戦う
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。

【トンヌラ@DQ2】
[状態]:健康 MP微消費
[装備]:ベレッタM92@現実(残弾3)(パトラから奪った物)
[道具]:支給品一式 支給品0〜1(本人確認済み)
[思考]:様子を見つつ、生き延びる。ローレルとルーナに殺し合いの中で死んでもらう為、危険人物として吹聴する
    ローラを追いかける為、ジンガーと戦う

※トンヌラはローラの死による自分達の消滅を危惧していますが、その可能性はまずありません
※SIG SG550 Sniper(アサルトライフル、残り弾9)はジンガーの付近に落ちています

【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:オールグリーン
[装備]:灼熱剣エンマ@DQS メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:立ち塞がるチャモロ、トンヌラを殺し、アベルの元に戻る

524 ◆jHfQAXTcSo:2017/09/10(日) 08:28:19 ID:a8ysRPD.0
以上で投下終了です。
誤字脱字、指摘などあればよろしくお願いします。

525 ◆znvIEk8MsQ:2017/09/17(日) 23:04:52 ID:FUOxQj8g0
投下します

526新たな出会い ◆znvIEk8MsQ:2017/09/17(日) 23:05:31 ID:FUOxQj8g0
トロデーン城に向かう途中のホイミンが出会ったのは、魚人の戦士。
その姿を見て、ホイミンはぎょっとした。
何しろ、強そうな武器を二つも持っている上に、全身がボロボロなのだから。
でも、動じてはならない。
ライアンさんだって、悪い魔物と戦って傷だらけになったことがあったし、大きな武器を常に持っていた。
今まで出会った人にちょっと怖い人が多かっただけで、後はきっとみんないい人だ。


「ホイミ!」
とりあえず、あいさつ代わりにホイミをかける。





トラペッタへ向かう途中のヒューザが見たのは、ホイミスライム。
別にその姿を見てもヒューザはどうとも感じなかった。
既に参加者の名簿で、このアストルティアにもいる魔物が参加していたことは知っていた。
アストルティア出身だろうが、別世界出身だろうが別に良い。
そのアストルティアには、ホイミスライムを連れている冒険者も何人かいたため人間の味方かもしれないが、それもどうでもいい。
人間の味方なら害を加えてくることはない(自分を魔物として襲ってくるかもしれないが)。
人間の敵だとしても、手負いの身とはいえホイミスライムに後れを取ることはない。
ところが、その魔物は自分にホイミをかけてきた。


「なんだそりゃ、『辻ホイミ』か?」
「ぼくと友達になってよ!!」


ヒューザはこの魔物のことがよく分からなかった。
アストルティアにいた時も、すれ違いざまにホイミをかけてくれたり、戦っているところを応援してくれた冒険者もいた。
しかし魔物がかけてくれるというケースは、稀であった。
せいぜい自分の剣術に魅了された魔物が、自分に回復魔法をかけてきたくらいだ。
しかも、「友達になってくれ」だと?

アストルティアを冒険していた時も強さを見込まれて、同族から、オーガやエルフなどの他種族から同行を持ち掛けられたことはあった。
だが、魔物から同行を頼まれたことはない。

527新たな出会い ◆znvIEk8MsQ:2017/09/17(日) 23:05:58 ID:FUOxQj8g0
いや、待てよ?
これはいわゆる、「クエスト」か?
それなら魔物からの依頼もあるらしい。
なんでも港町レンドアには、冒険者に頼みごとがある魔物が異世界からよく来るとか。
ジャンボは割と進んで人の頼みを聞いていたから、そのことについて知っているのだろう。
でもクエストなら、達成した後に報酬が来るはずだ。
先にホイミをかけてくるのはおかしい。

それとも、損得や依頼なしで本気で「仲間になってほしい」のか?

猫のメルビンのじいさんといい、キングスライムもどきのヤンガスのおっさんといい、この世界にはヘンなやつしか呼ばれてないのか?




ホイミンはこの魚人のことが分からなかった。
とりあえず、いきなり襲い掛かってくることはないみたいだけど……
なんだろう、「ツジホイミ」って。
話しかけてから、全く答えてこないけど、友達になってくれるかなあ。
同じ剣士っぽいし、こういう時ライアンさんがいたら、上手くいきそうだけど。

いや、待って?
突然襲い掛かってきたりしないよね?
思えばライアンさん以外の人間は、ぼくと出会っても仲間になるどころか、逃げることがあった。
もしくは悪い魔物と勘違いし、襲ってくることもあった。
仕方がない。
これを言っても信じてもらえるのかどうかは分からないが、良いスライム族に伝わる、一つのフレーズを使ってみよう。
かつての旅の途中、コーミズという村の家の地下にいたスライムに教えてもらったものだ。
「ぼくは悪いホイミスライムじゃないよ!!」



「…………はあ?」
思わず、声が出てしまった。

残念ながら、ヒューザには目の前のホイミスライムが良い者か悪い者か、そんなことには興味がなかった。
興味があったのは、なぜ「友達になろう」と見ず知らずの自分に持ち掛けてきたのか。
ついでに、ジャンボを知っているかそうでないかぐらいだ。
メルビンのじいさんなら、コイツ相手でもネコの格好をして上手くコミュニケーションを取れるのだと思うが、自分はどうしてもできない。
せめてヤンガスならもう少し上手くいったかもしれないが、ククールやメルビンが死んだ場所に置いてきてしまったし、再び協力する気もない。
とりあえず、害はなさそうだし、何を言っているのか分からない以上、先に知りたいことを聞くことにした。

「わりいけどさ、この、ジャンボってヤツを知らないか?」
「ごめん。知らない。(良かった、会話することは出来るんだ)」
 ぼくが知っているのは、このピンクの鎧の人と………。」

ホイミンが紹介した中で、ヒューザが知っていたのはナブレットだけ。
しかも、プクランド大陸を旅している途中にそのプクリポのサーカス団について、小耳にはさんだくらいだ。

いや、待て。
メルビンのじいさんと、ヤンガスのおっさんから聞いた名前があったような気がする。

「このナブレットってやつと、ゲルダってやつと、ガボってやつを聞いたぐらいだな。」
さて、次はオレの番だな。オレが知ってるのは………。」

一応、礼代わりに自分の知っている人のことを教える。
アストルティアの一人旅でも、見知らぬ人からの情報は重要だ。
グレンなど大きな町にはたまに武器を新品のものにするだけであまりそこで他人とは交流しなかった。
だが獅子門、ピィピの宿、山間の関所などのキャンプ地でなら、何度か情報交換を行ったことがある。

528新たな出会い ◆znvIEk8MsQ:2017/09/17(日) 23:07:21 ID:FUOxQj8g0





人と付き合うことが苦手そうな魚人に意外なくらい人間の知り合いがいることにホイミンは少し驚いた。
その中に既に死んだのだがガボの友達までいたとは。
でも残念ながら、生きている中でホイミンの知っている人はいなかった。
「ピサロ」という名前が、どこか聞き覚えがあったが、ヒューザの話によると悪い人ではないらしい。
なんでもトロデーンから来たみたいだけど、りゅうちゃんやガボやライアンさんの友達はどこにいるのだろうか。

「さて、話は済んだし行くぜ。じゃあな。」




ジャンボがいるとしたら、トロデーン城か、この先のトラペッタという街だとばかり思っていた。
今更言うまでもないが、ジャンボは人を集めるのが上手い。
そして、人を集めやすい場所を見つけるのも上手い。
トロデーンにも、トラペッタにもいないとしたら…………

「待ってよ!!」
ヒューザがそこまで考えたところで、ホイミンが叫ぶ。
「友達になってくれない?」

ああ、そういえば、最初にそう言ってたな。
分かった。
これはいわゆる、「フレンド申請」ってやつだ。
時々ヒューザの強さを見て、同行後も連絡を取れる仲間になることを頼まれた。
当然、ヒューザは断ってきたが。

「悪いな。オレは仲間内でのじゃれ合いとか、興味ねえんだ。」
メルビンのじいさんの時のように目的地が一緒ならついてきても構わねえが、向かってる方角が逆じゃねえか。」

ククールとの戦いで自分の力は明らかに足りないということ、そして自分は家族を求めていたことを分からされた。
だからと言って、すぐに自分のスタンスを変えるつもりはない。
もし変えるなら、ヤンガスと一緒にギクシャクしながらも同行していた。
一人で出来なくても、十人なら必ず出来るということはない。
多人数だからこそ出来ないこと、難しくなることもある。




ぼくは、りゅうちゃんと、約束したんだ。残った人たちは全員、友達にするって。
今までは話の通じなかった人さえいた。でも話が通じるから、大丈夫だ。
「お願い!!ぼくと友達になって!!」
そうだ。『みんな友達大作戦』をりゅうちゃんと、生きているのか分からないガボのためにも、成功させないといけない。





「どうしてオマエはそんなに、友達にこだわるんだ。」
「死んだ友達と約束したんだ。皆と友達になって、戦いを終わらせる『みんな友達大作戦』を成功させるって。」

なるほど。きちんとした理由はあるのか。ただのかまってちゃんって訳でもないんだな。
だが………
「残念だけどよ、それは出来ないぜ。」

529新たな出会い ◆znvIEk8MsQ:2017/09/17(日) 23:08:09 ID:FUOxQj8g0
ヒューザは経験していた。
友好的な態度を示しても、ククールのように本気で殺しにかかる者がこの世界にいることを。
ヒューザは進んで人に嫌味を言う気質はないが、流石にこのセリフを言いたい衝動に駆られてしまった。
「オマエ、それでよくこの世界で今まで、生きてこれたな。」
「…………。」




そうだった。
ぼくは最初に青い服の人に襲われて、りゅうちゃんが犠牲になって助けてくれた。
ギガデーモンとの戦いで無事だったのも、エルギオスとゴドラが犠牲になったからだ。
バラモスゾンビに襲われたときも、ライアンさんがぼくを逃がしてくれた。
どうやら、この魚人も誰かに襲われたことがあるらしい。
ここは、戦いの世界。
参加者みんなと友達になることで、殺し合いを成立させなくするなんて、無理かもしれない。

でも。


「それでもやらなきゃいけないんだ!!今頃ライアンさんも、ガボも、必死で戦ってる!!
 ぼくだけ諦めるわけにはいかないんだ!お願い!!友達になってよ!!」

でも絶対にあきらめない。
ここで諦めたら、りゅうちゃんやガボ、ライアンさんもがっかりするだろう。
自分が人間になる可能性だってなくなるかもしれない。
色んな人が託してきた目的を、簡単に捨てるわけにはいかない。





「!!」

ヒューザは思い出した。
ジュレットの町の出来事。ジャンボと初めて会った時。
そして、ソーミャに初めて会ったあの時のことだ。

(ダメ!!その子は私が育てるの!)

ソーミャと、同じだ。
彼女は、周りの大人たちが巨猫族のジュニアを捨てろと言っても、彼女は頑なに断って捨てようとしなかった。
助けてくれる人が一人もいないのに。
目の前にいるコイツも、たった一人で自分の気持ちを頑なに通そうとしている。
周りで自分より強い者が反対していても。

530新たな出会い ◆znvIEk8MsQ:2017/09/17(日) 23:09:27 ID:FUOxQj8g0
それを思うと、急に放っておけなくなった。



「仕方がねえ。少しだけ手伝ってやるよ。オマエの、なんとか作戦ってヤツを。」
「本当!?ありがとう!!ぼく、ホイミン!!」
「そうだ、名前言っとくの忘れたな。レーン村のヒューザだ。」

こういう時って、短い縁だとしても、名乗っておくんだよな。




「とりあえず、状況いったん確認しようぜ。
トロデーンにもトラペッタにもオレたちの目的の人がいないみたいだが、どうする?」
「えーと、まずは地図を見ない?」
「確か、今いるのがここだから………。」

実を言うとヒューザもどこへ行くべきか分からなかった。
この辺りでジャンボが人を集めるために使う場所が、トロデーンでもトラペッタでもないとすると……この南の方のポルトリンクって所か?
いや、あれから大分時間も経った。
トロデーンへ続く道も、トラペッタへ続く道もそれぞれが通ってきた道一つではないし、入れ違いになった可能性も低くはない。
どこへ向かうとするか。


【E-3/草原/午後】
【ホイミン@DQ4】
[状態]:MP1/8 健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個
[思考]:ガボと共に『みんな友達大作戦』を成功させる ヒューザに付いていく。

【ヒューザ@DQ10】
[状態]:HP3/20 MP0
[装備]:名刀・斬鉄丸@DQ10 天使の鉄槌@DQ10
[道具]:支給品一式 支給品0〜1
[思考]:仲間(特にジャンボ)を探す ホイミンの「みんな友達大作戦」を手伝う。


※この後二人がどこへ向かうかは次の書き手さんにお任せします。

531新たな出会い ◆znvIEk8MsQ:2017/09/17(日) 23:10:09 ID:FUOxQj8g0
投下終了です。
誤字脱字、矛盾点ありましたら指摘お願いします。

532ただ一匹の名無しだ:2017/09/17(日) 23:35:55 ID:G6s6Fvqs0
  .ト│|、                                |
. {、l 、ト! \            /     ,ヘ                 |
  i. ゙、 iヽ          /  /  / ヽ            │
.  lヽミ ゝ`‐、_   __,. ‐´  /  ,.イ   \ ヽ            |
  `‐、ヽ.ゝ、_    _,,.. ‐'´  //l , ‐'´, ‐'`‐、\        |    俺たちはとんでもない考え違いをしていたようだ
  ヽ、.三 ミニ、_ ___ _,. ‐'´//-─=====-、ヾ       /ヽ   『辻ホイミ』とはアストルティア特有の文化だ
        ,.‐'´ `''‐- 、._ヽ   /.i ∠,. -─;==:- 、ゝ‐;----// ヾ.、  しかし俺たちは辻ホイミや辻バシルーラが好きなグッドなおねーさんのことを知っている
       [ |、!  /' ̄r'bゝ}二. {`´ '´__ (_Y_),. |.r-'‐┬‐l l⌒ | }  これが示すのはただ一つ
        ゙l |`} ..:ヽ--゙‐´リ ̄ヽd、 ''''   ̄ ̄  |l   !ニ! !⌒ //
.         i.! l .:::::     ソ;;:..  ヽ、._     _,ノ'     ゞ)ノ./
         ` ー==--‐'´(__,.   ..、  ̄ ̄ ̄      i/‐'/
          i       .:::ト、  ̄ ´            l、_/::|
          !                           |:    |
             ヽ     ー‐==:ニニニ⊃          !::   ト、
            ヽ     、__,,..             /:;;:   .!; \
             ヽ      :::::::::::           /:::;;::  /

533ただ一匹の名無しだ:2017/09/17(日) 23:38:22 ID:G6s6Fvqs0

      ,.ィ , - 、._     、
.      ,イ/ l/       ̄ ̄`ヽ!__
     ト/ |' {              `ヽ.            ,ヘ
    N│ ヽ. `                 ヽ         /ヽ /  ∨
   N.ヽ.ヽ、            ,        }    l\/  `′
.  ヽヽ.\         ,.ィイハ       |   _|
   ヾニー __ _ -=_彡ソノ u_\ヽ、   |  \   つ ま り フ ィ オ は ア ス ト ル テ ィ ア か ら
.      ゙̄r=<‐モミ、ニr;==ェ;ュ<_ゞ-=7´ヽ   >   3 の ア リ ア ハ  ン へ と 移 住 し て き た
.       l    ̄リーh ` ー‐‐' l‐''´冫)'./ ∠__  異 世 界 転  生 系 僧 侶 
       ゙iー- イ'__ ヽ、..___ノ   トr‐'    /  だ っ た ん だ よ !  
       l   `___,.、     u ./│    /_ 
.        ヽ.  }z‐r--|     /  ト,        |  ,、
           >、`ー-- '  ./  / |ヽ     l/ ヽ   ,ヘ
      _,./| ヽ`ー--‐ _´.. ‐''´   ./  \、       \/ ヽ/
-‐ '''"  ̄ /  :|   ,ゝ=<      /    | `'''‐- 、.._
     /   !./l;';';';';';';\    ./    │   _
      _,> '´|l. ミ:ゝ、;';';_/,´\  ./|._ , --、 | i´!⌒!l  r:,=i   
.     |     |:.l. /';';';';';|=  ヽ/:.| .|l⌒l lニ._ | ゙ー=':| |. L._」 ))
      l.    |:.:.l./';';';';';';'!    /:.:.| i´|.ー‐' | / |    |. !   l
.     l.   |:.:.:.!';';';';';';';'|  /:.:.:.:!.|"'|.   l'  │-==:|. ! ==l   ,. -‐;
     l   |:.:.:.:l;';';';';';';';| /:.:.:.:.:| i=!ー=;: l   |    l. |   | /   //
       l  |:.:.:.:.:l;';';';';';';'|/:.:.:.:.:.:.!│ l    l、 :|    | } _|,.{::  7 ))
        l  |:.:.:.:.:.:l;';';';';'/:.:.:.:.:.:.:.:| |__,.ヽ、__,. ヽ._」 ー=:::レ'  ::::::|;   7
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534 ◆znvIEk8MsQ:2017/09/18(月) 00:00:33 ID:NVB1s8ag0
言われてみればフィオさんリンリンと交流もあったみたいだし、有力説!!!!!!!

535 ◆CASELIATiA:2017/09/19(火) 23:52:31 ID:4uKnZ5Hw0
時間ギリギリですが投下できそうです。
現在状態表を整理してますのでお待ちを

536 ◆CASELIATiA:2017/09/20(水) 00:01:52 ID:y5QHSXIk0
では投下します

537真っ赤な誓い ◆CASELIATiA:2017/09/20(水) 00:03:37 ID:y5QHSXIk0
おっきな魔族の人が言った台詞が忘れられない。
デュランさん、だったかな。

『では、どこへなりとも行くがいい。私は強いものにしか興味が無い』

あの時の言葉を思いだす。
そうだね、私は強くなんかないよ。
おかげで私は助かったんだろう。
でもね、弱い私にだって、譲れないものくらいあるんだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



茜色に染まる空が一日の終わりを告げていた。
雲は駆け足で流れ、風は大地を撫でる。
傾いた太陽は長い影を作りだす。
これより人の時間は終わり、魔物が跋扈する逢魔が時。
港町ポルトリンクの入り口にあるアーチの前で、セラフィは待っていた。

「大丈夫。 大丈夫だから……」

胸にスライムを抱いたセラフィが繰り返す。
それはスライムというより、自分に言い聞かせるような言い方だった。
アークは嘘をつくような人ではない。
きっとあの女の人を助けてくれるはず。

「ピィ〜〜〜〜……(遅いね〜)」

死にたいとは何だろうか。
セラフィの頭に浮かんだのは疑問だった。
自殺願望とはセラフィが未だに経験したことのない感情だ。
辛いことや苦しいこと、ままならない現実に歯痒い思いをしたことはある。
だが、それが限界に達したことは無い。
生物はすべからく生きるために生きており、そこに疑問が生ずることは無い。
後付けの理由として、子孫繁栄だったり今の生活が幸せだからというのはある。
が、何のために生きるかを常に意識している生物など、いったいどれだけいるのだろうか。
生きるということは呼吸することであり、食物を摂取することであり、前に向かって歩くことだ。
その一挙動に疑問を感じる生物などいない。
なのに、自らの死を願うとはどういうことなのだろうか。
現実問題として、死のうとすれば様々な苦しみを覚悟せねばならない。
傷つけられたら痛いし、餓死しようとすれば絶え間なく襲う飢餓に抗わねばならない。
それらのリスクを考慮してもなお、死にたいと思っているのは何故なのか。 何がそうさせるのか。

538真っ赤な誓い ◆CASELIATiA:2017/09/20(水) 00:04:48 ID:y5QHSXIk0
(分からない……カレヴァンさんはこんなこと教えてくれなかったよ……)

きっと今からアークがあの女の人を連れてきてくれて、心の傷を癒さなければならない。
自分にできるのだろうか。
あの人の心の闇に触れ。振り払ってあげることが出来るだろうか。
私はあの人を助けることが出来るだろうか。
あの人の苦しみを少しでも理解できるだろうか。

殺し合いなんてすぐに終わると、セラフィはそう思っていた。
みんなで殺し合うなんて野蛮な行為、少し考えればおかしいことだって気づくはず。
でも、セラフィの思い描いた理想とは裏腹に、襲い掛かる現実は尽くセラフィの希望的観測を下回る。
そして、今も。

「そんな……」

はりさけそうな胸の奥で、鼓動だけが確かに聞こえてくる。
遠目に映るセラフィの視界には、あの女の人の姿があった。
そして、その周りには誰もいない。
それを視認した時、セラフィの頬には一筋の涙が零れ落ちていた。
つまり、アークは――。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



白いローブに頭巾を被った少女はルーナという名前らしい。

「ねえ! アークさんは!?」
「……死んだわ」

セラフィが息を呑んだ。
分かっていたこととは言え、受け止めるには余りにも辛い事実だった。
ルーナの表情は相変わらず、絶望を張り付けたかのよう。
顔色を変えることなく、虚ろな瞳でルーナは続ける。

「アナタは私を……殺してくれる?」
「そんなのダメだよ……死ぬなんて言っちゃダメだから!」
「ピッキー!(そうだよ! 死ぬなんてやめようよ!)」
「そうよね……」

これが当たり前の反応なのだ。
ルーナも特に期待してなどいない。
死にたいから殺してくれと言われて、躊躇なく殺してくれる人間なんていやしない。
だから特に落胆することなく、ルーナはセラフィを素通りしてポルトリンク内部に足を踏み入れる。

539真っ赤な誓い ◆CASELIATiA:2017/09/20(水) 00:07:05 ID:y5QHSXIk0
「どうして私の前にはこんな人しか現れないのかしら」

20人以上がすでに死んでいるはず。
ということは、決して少なくない人数が殺しに乗っているということでもある。
なのに、自分の前に現れる人間は尽く綺麗事を振りかざす人間か、デュランのような目的のためには手段を選ばない存在。
安らかに殺してくれる人はどこかにいないものだろうか。
覚束ない足で、ルーナは自分を殺してくれる人間を探し求める。

「待って!」
「何?」

振り返るまでもなく、先ほど言葉を交わしたセラフィが追いかけてきたのだと分かる。

「あなたは何をそんなに悲しんでいるの? どうして死のうだなんて言えるの?」
「アナタには関係ないでしょ」
「関係あるよ! 関係ないなんて言わないで!」
「どんな関係があるのよ」

鬱陶しい。
ルーナが死ぬことで、セラフィにどんな損害が出るというのだろうか。
目障りだというならこちらから何処へなりとでも行くのに、セラフィはこうして追いかけてまで理由を聞く。
積極的に殺す気なんてない。
きっと彼女は正義とか愛だとかいう金看板を持ち出して、悪意もなく私を『救ってやろう』と思ってるのだ。
それもルーナには分からないでもない。
セラフィはきっとアークやヒストリカと一緒に、エビドリアとか言うふざけた名前の敵を倒そうとしてたのだろう。
仲間は多ければ多いほど頼もしいとかいう理由をつけてだ。
ああそうですか、勝手にやっててくださいとルーナは思う。
それは正義なのだろう。 それは正しい行いなのだろう。
自分は異常で、向こうの方こそ正常。
だが、その意思がないものを勝手に巻き込まないでほしい。
ルーナとしてはこの戦いがハッピーエンドだろうとバッドエンドだろうともう関係が無いのだ。
すべてはルーナの埒外で起こる未来の出来事なのだから。
死人は関わりようがない。

世の中にはもっと不幸な人がたくさんいると、この子は言うのかもしれない。
だが、それが何だというのだろう。
自らの境遇を嘆いていいのは、世界で一番不幸な人間だけと思ってるのだろうか。
ルーナは不幸自慢をしたい訳ではない。 死にたいから死のうとしてるだけだ。

「ヒストリカさんもアークさんも死んだのに、関係ないなんて言わないで!」
「そう……それはごめんなさい」

そういえばそうだったと、上辺だけの謝罪を口にする。
今更ながらその事実を確認する。
ああ、だからこの人はこんなにも自分に構ってくるのだ。
セラフィは怒りに任せて自分を殺してくれるだろうか。
いや、無理だろう。 そういう発想が思い浮かぶ人間ならとっくに殺してくれてるはず。

「でもね、もう私もどうすればいいのか分からないのよ」

自分は彼女の大切な人を殺したのだろう。
それくらいはルーナにも分かる。
だからこそ、ルーナはセラフィに正面から向き合い、瞳をのぞき込む。

「ねえ、生きるってどうすればいいの?
 ねえ、歩くってどうすればいいんだったかしら?
 ねえ、どうすれば息ってできるの?
 ねえ、笑うのってどうやればできるの?
 ねえ、愛って何なの? 
 ねえ、それを知れば私は死にたいと思わなくなるの?」

540真っ赤な誓い ◆CASELIATiA:2017/09/20(水) 00:09:14 ID:y5QHSXIk0
茫洋とした瞳に映るのは漂白された世界。
色を失った世界に、ルーナは何の興味も抱けない。
自身が授かった使命とやらを果たしたところで、何も変わりはしなかった。
邪教が奉ずる神を討伐したところで、世界はその勢力図を塗り替えただけ。
両親は生き返ることもなく、国土は荒れ果てたまま、あの懐かしき日々が帰ってくるはずもない。
ムーンブルクの城が焼け落ちたあの時に、ルーナという人間も死んだのだ。
犬にされていた時期に受けた屈辱は、ルーナという人間の尊厳を徹底的に壊した。
町人に箒ではたかれ、他の犬との縄張り争いに負けて暗くてジメジメした場所で毎日を過ごす。
腐りかけた肉と泥水をすすることで、かろうじて生きながらえるだけの日々。
人間に戻された頃のルーナにはもう、人間らしい感情という感情は浮かび上がらなくなった。
以降の彼女は幻影であり、ロトの血族という呪いを帯びた亡霊も同然だ。
ロトの子孫だからローレルたちに付いて行き、ロトの子孫だからシドーを打ち取った。
そこにルーナの意思が介在する余地などない。

(やっぱり……この人!)

セラフィはこの時確信を得た。
この人は死にたいなんて思ってない。
生き方が分からなくて彷徨ってるだけなのだ。
そして、死に方も分からないから他人に殺してもらおうと思ってるのだ。
その本心に気付いてない。
アークもそれに気付いたが故に、何としてもルーナを救おうと試みたのだろう。
依然、彼女の悲しみの元凶は何なのか分からない。
それでも、セラフィはルーナに声をかける。
この悲しみの連鎖を断つために。

「分からない……分からないけど、今は生きていようよ。
 今は死にたくても、時間が解決することだってあるよ!」
「時が解決する? 時間が人を殺すことだってあるのよ?」
「だとしても……こんなの悲しすぎるよ!」
「ああそう……アナタもそうなのね」

ルーナの中で、セラフィに対する認識がハッキリと移り変わった。
彼女もまた、アークやユーリルと同じお人よしなのだ。
だったら、これ以上煩わしい思いをしなくて済むよう、ロトの力で排除するしかない。
どうして伝わらないのだろう。
ジャマさえしなければ、セラフィも死なず自分も死ねるという、相互に損のない展開になるのに。

「私のジャマをするなら――」

広げた掌に極大の魔力を集める。

「――死んで」

あの時と同じ光景が繰り返されようとしていた。

(どうして!? どうしてなの!)

この世界は悲しいことばかりだ。
何でこんなにも分かり合えないんだろう。
悲しみと憎しみが背中合わせの世界では、弱い人間は死ぬしかないということなのか。
傷つくだけの生き方なんて寂しすぎるではないか。
人は言葉を重ねれば、きっと分かり合えると思ってた。
なのに、現実は残酷だ。
いくらルーナに死なないでと願っても、彼女の芯に届くことは無かった。
こんな一方通行のまま終わるだなんて、悲しすぎるではないか。
決定的なまでの断絶を感じて、セラフィは打ちひしがれる。

541真っ赤な誓い ◆CASELIATiA:2017/09/20(水) 00:11:27 ID:y5QHSXIk0
「やめて……こんなことをしてもあなたの心は……」
「救われないわ。 ただ、雑音に悩まされることはなくなるわ」
「プルプル!(セラフィちゃん危ない!)」
「ありがとう。 アナタも良い人だったわね」

最期にその言葉を投げかけて、ルーナもセラフィに対する興味を打ち切った。
高められた魔力が、イオナズンを紡ぎ出す。
ルーナの手から離れたイオナズンはセラフィの元へ向かい爆発を始める。
セラフィの視界が真っ赤に染まった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「か……は……」
「?」

セラフィの視界がクリアになっていく。
そこは死後の世界などではなかった。
真っ赤に染まったセラフィの視界に映るのは、胸から剣を生やして呻くルーナの姿。
そしてその後ろから彼女に体を密着させる、紫色のターバンを着用した男。

「愛なんて知っても、こうなるだけですよ」

男はルーナの体に突き刺した禍々しい剣を上下に揺さぶり、ルーナの体に入った切り込みが縦に広がる。
しばらくした後、男は剣を引き抜くと、信じられないほどの血が地面に流れ落ちる。
ビチャビチャと、臓物を地面に叩き付けたような音が響く。
咽返るような臭いでセラフィは口元を抑える。

「うっ……」
「ピ、ピィ〜〜〜〜〜……」

スライムなどはその男を見た瞬間、経験したことのない恐怖に包まれる。
瞳を潤ませて、ゼリーのような体が不安定に揺れる。
隣にセラフィがいなければ、今頃脱兎の勢いで逃げ出していたことだろう。

「ほら、死にたかったんですよね? お礼を言ったらどうです?」
「う゛お゛ぇ゛っ!!」

倒れ込んだルーナを足蹴にする男に、慈悲と言う言葉は無縁の存在だった。
赤黒い血の塊を吐き出すルーナを見ても、男は冷たい笑みを浮かばているだけ。
違う、この男はルーナを救う気なんてまるでない。
ただ、自分の欲求を満たすためだけにルーナを殺めようとしている。

「やめて! 何のためにこんなことを!」

駆け寄るセラフィを前に、男は更なる衝撃的な言葉を繰り出す。

「あなたも、命の恩人にお礼くらい言ったらどうなんですか? まあ、たかがホイミスライムに感謝という概念があるかは微妙ですが」
(!? この人っ!!)

一目見た時から、セラフィはその可能性を疑っていた。
だって男が纏うその雰囲気は、かつて仕えていたカレヴァンやベルムドにそっくりなのだから。
この男は間違いなく、アラハギーロを聖地とする職業の人間だ。

542真っ赤な誓い ◆CASELIATiA:2017/09/20(水) 00:13:05 ID:y5QHSXIk0
「あなたっ! やっぱりまもの使いね!!」

ラーの鏡がなくとも、自身の正体を見破れる存在なんてまもの使いしか有り得ない。
しかし、この男の持つ空気ときたらどうだ。
ベルムドやカレヴァン、セラフィの知るまもの使いは、誰もがまもの使いとしての素質に恵まれた優秀な男たちだった。
だが、そのベルムドやカレヴァンを天秤に据えてもなお足りぬほどの天稟を、男からは感じる。
ベルムドやカレヴァンがアラハギーロの歴史に名を刻むまもの使いだとすると、男は遠い未来にまで名を刻むことを約束された伝説の存在だ。

(痛い……痛い!)

ルーナは焼けるような痛みに悶え苦しむ。
こんな死に方は望んでいない。
これならデュランと対峙した時と変わらないような結末だ。
それでも、血と一緒にルーナの大切なものが外に流れだしていく。
命も思い出も、何もかも。
感情も何もかも失ったモノクロの世界で、痛覚だけはハッキリと伝わってくる。

『使命や義務など下らないものではなく、自分自身が成したいと思うがままに戦えば、自ずとたどり着けるであろう』

分からない。
ロトの使命から解放されて、自分が望んだのは平凡な人生でもムーンブルクの復興でもなく『死』だった。
私は自分自身の成したいと思ってたことを成せたのだろうか。
成せた上で辿り着いたのがこの答えなのだろうか。
分からない。

『なあ、お願いだ』
『笑ってくれるか』

分からない。
自分と似ていると言っていたユーリル。
彼が笑顔を取り戻したのは、開き直りにも近い感情だった。
今でも彼の心情を理解することなどできない。
笑ってみたい。
感情を顔に出すことを忘れていた自分に、そう思わせてくれた人間。
表情筋など、もう年単位で動かしてない気さえする。
笑うのってどうやるんだろうか。
最後に笑ったのって何時だろうか。
ローレルはよくモンスターとじゃれ合っては笑っていた。
トンヌラも作りものめいていたけど、よく笑っていた。
自分は作りものの笑顔さえ浮かべることが出来ない。
分からない。
分からない。
死は自分が望んでいたものなのに、ちっとも満たされた気分になれない。
空っぽの心に、さらに大きな穴ができたかのようだ。

(そっか……)

その時、ルーナは気づく。
死は、救いなどではないのだと。
死は、単なる終わりであり、それ以上でもそれ以下でもないことに。
救われないまま死んでも、救われなかったという想いを抱えて逝くだけ。

「っ! やめてーーー!」
(こんな簡単な事にも気付かないなんて……)

賢いと思っていた自分は、実はユーリル以上のおバカさんだったのだ。

543真っ赤な誓い ◆CASELIATiA:2017/09/20(水) 00:15:51 ID:y5QHSXIk0
「ふふっ……」

そして彼女は、あの日から失われた笑顔をようやく取り戻した。
こんな当たり前のことにも気付かなかったという自虐的な笑み。
背中にもう一度異物が挿入される感触を経て、ルーナの意識は途切れた。

ただ生きることが幸せでないと、死の間際に悟った少女がいた。
死は何ももたらさないと、別の悟りを得た瀕死の少女がいた。
果たして両者の違いは何であったか、それは誰にも分からない。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「何故悲しむんです? 彼女は死のうとしていたのに」
「違う。 この人は生きたがっていたよ。 それに気づいてなかっただけ!」

返り血など意に介さず話し続けるアベル。
怯えるスライムを抱きかかえ、セラフィは頭を振る。
ルーナは声ならぬ声で助けを求めていた。 それだけは確かなことだ。
セラフィは明確な意思でアベルの言葉を否定する。

「命の恩人に対して何て言い草です?」
「違う。 あなたは私を助けようとして助けたんじゃない。 殺したかったから殺しただけでしょ!?」

ニヤリと、アベルの口元が笑った。
大量の血を浴びたアベルは人外の存在に思えてならない。
どれだけの地獄を味わえば、こんな凄惨な目ができるのだろうか。
セラフィはおぞましさすら感じて後ずさる。

「自らの人生を切り開けないのなら死ぬしかない。 これが私の悟った真実です」

言われるままに敷かれていた人生のレールを走らされ、アベルの辿り着いた先がこれだ。
自分の人生は何もかもが間違いだったと、アベルは激しく後悔している。
もっと自由気ままに振る舞うことができれば、もっと我がままに生きていれば、もっと幸せになれたはずなのに、と。
他者に自分の命の生殺与奪を委ねた時点で、ルーナは歩く死人に成り果てただけだ。
虫唾が走る思いがして、アベルはルーナを殺すことに躊躇いはなかった。

「もうやめて。 あなたはヒョッヒョマンみたいな悪人じゃないわ。
 あなたが傷ついたからって、周りの人間まで傷つけて良い理由なんかないはずだよ」
「馴れ馴れしいですよ。 あなたが私の何を知っていると言うんです?」」
「分かるよ! あなたはベルムドさんと同じ! 憎しみに身を任せてるだけよ!」

かつて誰よりも優しく優秀なまもの使いであったベルムドを変えたのは、その身に余るほどの憎しみだった。
今、セラフィの目の前にいるアベルもまたまもの使いであり、憎しみで自分を見失った哀れな存在。
かつての繰り返しを見るようで、セラフィは居たたまれない気持ちになる。
きっと、まもの使いは誰よりも優しい存在だから、それが裏切られた時の憎しみも比例して大きくなるのだ。
いつの間にか、セラフィの中にあったアベルへの恐怖は薄れていた。

「ねえ、あなたのお名前は? 私が話を聞くよ。 
 言いたいことを全部吐き出してしまえば、そんなイライラ忘れられると思うから」
「名前なんて、名簿でも見ればいいでしょう」
「私はあなたの口から聞きたいの」

人と人とのコミュニケーションはそんな事務的なものであってはならないはずだ。
目の前に本人がいるのなら、その口から聞くのが当然のことだ。
他者との繋がりはまずそこから始まるはずだ。

544真っ赤な誓い ◆CASELIATiA:2017/09/20(水) 00:18:06 ID:y5QHSXIk0
「あなたに何が起こったかなんて分からない。けど、自分自身を責めるのはもうやめて!」
「もういいです。 これ以上戯言を聞いていると耳が腐りそうだ」

柄にもなく長く会話していたアベルがいよいよ動く。
ベルムド、という人名にもさほど興味は動かない。
セラフィの口ぶりからして、自分と同じように力ですべてを得ようとして失敗しただけの男に過ぎない。
つまりミルドラースと同じだ。
力が足りなくて失敗しただけの、ただの小物。 そう断ずる。
赤く染まったはかいのつるぎが夕日を浴びて、さらに朱く染まる。

(また同じ……。 
 どうして……どうしてそんなに、自分を捨てることが出来るの!?)

ルーナに続いて、アベルさえもセラフィの言葉に耳を貸さない。
自分はそんなにおかしなことを言ってるのだろうかと、セラフィは自身の判断能力さえ疑いかける。
ベルムドと同じ道を歩もうとするアベル。
人生に絶望して、自らの死を願ったルーナ。
二人が救われる未来は無かったのだろうか。
二人とも、完全な悪ではなく、元は善側の人間だったはずだ、
彼ら二人も、ある意味この殺し合いの被害者なのだ。

(私、何にもできないんだ……)

けれど、そんな人に自分ができることはもう何もない。
それを悟ったセラフィがへたり込む。
アベルはいよいよセラフィの前に立ち、はかいのつるぎを握る手に力を込める。

(ごめん、アークさん、ヒストリカさん、ジャンボさん……そして)

腕の中にいるスライムに視線を落とした。

(私が死んだらこの子も……)

違う!
それに気が付いた。
この小さな命を守らねば。
セラフィが死ぬのはセラフィの勝手だ。
だがこの、気がつけばいつもそばにいてくれたスライムを巻き込むわけにはいかない。

(ありがとう。 あなたがいるおかげで私、ずっと温かい気持ちでいられているよ。
 だから、今日も生きて、明日も生きてそしてずーっと一緒にいようね)

今は分からなくてもいい。
目の前の問題を片づける方法なんて思い浮かばない。
でも、悩んでる暇なんてなかった。
震えてもいいから、ぐっと前を見てやらねばならない。
気がつけば目前にいたアベルの手が動く前に、セラフィの体は自然と動いていた。
今セラフィの心は、なすべきことをはっきりと捉え、そのための行動を開始する。

(ッ!? この女!!)

後はこのはかいのつるぎで串刺しにするだけで終わるはずだった女。
それが今、この女には強い意思の光が宿っている。
そう思い、セラフィが何かをする前にはかいのつるぎで殺す。

545真っ赤な誓い ◆CASELIATiA:2017/09/20(水) 00:21:05 ID:y5QHSXIk0
「やぁ!」

だが、それよりも早くセラフィが腰を落とし、握りこまれた拳を高速で繰り出す。
それを繰り出す一連の動作に淀みはない。
へっぴり腰で打つ平手打ちではなく、一撃一撃にしっかりと体重が乗った立派な拳打。
これは修練と訓練の果てに得られた紛れもない特技。ばくれつけんだ。

「小癪な……」

所詮は女の、しかも元ホイミスライムの細腕だ。
アベルに与えたダメージとて微々たるものだった。
だが、アベルは醜悪なまでに顔を歪めて、無礼を働いたホイミスライムを睨む。
魔物がまもの使いに歯向かうとはどういうことかと。

『では、どこへなりとも行くがいい。私は強いものにしか興味が無い』

セラフィはあの時の言葉を思いだす。
そうだね、私は強くなんかないよ。
おかげで私は助かったんだろう。
でもね、弱い私にだって、譲れないものくらいあるんだ。
こんなちっぽけな命にだって、守りたいものくらいあるのだ。

「私はあなたの行く道の先に何があるのか知っている。
 私はあなたと同じ道を歩いた人の末路を知っている」

セラフィは戦いが好きではない。
主のカレヴァンのことは好きだが、戦いそのものは好きではなかった。
それは元が癒しの呪文の使い手だったということにも起因するだろう。
しかし、それ以上にセラフィの性格によるものが大きかった。

「だから、止めるよ」

アラハギーロに起こった悲劇は誰が悪かったのだろうか。
格闘場のモンスターを従軍させ、最前線に配置し使い捨ての駒にしたゴリウス兵士長なのか。
しかし、それはアラハギーロという国を思っての行為だったのだ。
後の世、人々から誹りを受けようと国を守るための苦肉の策。
綺麗事で国の生死を左右してはならないと、非情の決意で下された決断だったのだろう。
もちろん、それは人間側の都合のいい言い分でしかない。
人間と魔物は対等だというまもの使いの聖地アラハギーロ王国。
その王国にあって、彼の魔物を見下した作戦は決して許してはいけないものだ。
アラハギーロにどんな危機が迫っていようと、使い捨て見捨てられた魔物たちの恨みは消えるものではない。

では、魔王軍の取引に応じたベルムドはどうなのだろうか。
魔物側からすると、彼はある意味英雄だろう。
しかし、ベルムドは憎しみの感情が強すぎて、復讐の対象を関係ない人にまで広げ過ぎた。
ゴリウス兵士長を殺すのはまだ納得できるとしても、一般の兵士まで虐殺していたのだ。
そしてベルムドの最大の罪は、同じまもの使いであるカレヴァンですら殺そうとしたこと。
キラーパンサーとなったカレヴァンが格闘場から逃げ出さなければ、ベルムドはカレヴァンまで殺していたのだろう。
同じまもの使いに師事し、兄弟弟子のような間柄になってたカレヴァンでさえもだ。

どちらも同情できる点と許せない点がある。
世界は白と黒の二色だけでは区切れないほど複雑なのだ。
ルーナは悪だったのか、セラフィの目の前にいるアベルは完全な悪なのか。
この世界にはあまりにも分からないことが多過ぎる。
良くも悪くも、世界とはハッキリとしない灰色なのだ。
戦わないと守れないものだってあるのだと、今までの経験が教えてくれた。

546真っ赤な誓い ◆CASELIATiA:2017/09/20(水) 00:23:09 ID:y5QHSXIk0
(ありがとうカレヴァンさん。 私に戦う力を教えてくれて)

この力は相手を倒し、勝ち誇るためのものではない。
この力は誰かを守り、未来へとたどり着くためのもの。
魔王になろうとする一方で、どこか人間を捨てきれないアベルの正気を取り戻すため。

「行くよ?」
「ピキ?(セラフィちゃん、やるんだね?)」

セラフィは逃げられない。
未来という名の果実が木から落ちてくるのを、口を開けて待っていることはできない。
セラフィは未来を享受するだけの立場から、未来を掴み取り与える立場になったのだから。
第二第三のベルムドやゴリウス兵士長を生み出さないため。
第二第三のルーナやアベルを生み出さないため。
長きアラハギーロの夜は終り、今こそ日が昇る時。
アラハギーロの夜明けをこの目で見るために。
アラハギーロに起きた事件の真実を知る人間として、セラフィはまだ死ぬ訳にはいかないのだ。

(だって、私はアラハギーロのリーダーなんだから!!)

王様ではない。
あくまでもリーダーだ。
それでも、記憶を無くしたアラハギーロの民を導き、癒したいという気持ちに偽りはない。
どんな想いも感情も正も負も、生も死も受け止めて、それでも立ち向かってみせる。
そう、彼女は新生アラハギーロ王国のリーダー、セラフィ。

「やるよ『ピたろう』! 私たちの『でびゅー戦』! 
「ピッキピキー!!(任せてセラフィちゃん!)」

夕日を背に受けて――

「ピー!(セラフィちゃん、作戦は!?)」

セラフィは始める――

「もちろん、『いのちだいじに』!」

今、ここから――

「すぐに終わらせてやりますよ。 愛も夢も希望も、全て壊してしまえばいい!」

すべてを。


【ルーナ@DQ2 死亡】
【残り44人】

547真っ赤な誓い ◆CASELIATiA:2017/09/20(水) 00:24:34 ID:y5QHSXIk0
【F-9/ポルトリンク/二日目 夕方 放送直前】
【スライム@DQ1】
[状態]:健康 戦闘時HP回復(装備効果)
[装備]:毒針@DQ4 スライムメット@DQ6 オラクルやののれん@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:セラフィと一緒がいい。セラフィと戦う。竜王さまお許しください。

【セラフィ@DQ10】
[状態]:健康 歩くとHP回復(装備効果)
[装備]:ホイミンのTシャツ@DQ8 祈りの指輪
[道具]:
[思考]:アベルと戦う(殺す気はありません)
ジャンボを探す。レックにはデュランのことを伝えてあげよう。

※仲間モンスターのホイミスライムと同じ呪文、特技が使えます

【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/10 MP1/5
[装備]:破壊の剣
[道具]:支給品一式 ふきとばしの杖(3) 道具0〜1個(本人確認済)
[思考]:過去と決別するために戦う



基本支給品一式、あぶないみずぎ、レースのビスチェ、あぶないビスチェ、不明支給品(1〜2)がポルトリンク内、ルーナの死体横にあります

アークの死体の上にぎんがのつるぎ@DQ9が添えられています。
また、G-8にドルボード@ドルバイクプリズム、ドルセリン×8、レーダー探知機、フラワーパラソル@DQ5、炎竜の守り@DQ8、魔勇者アンルシア・アリーナの首輪、星降る腕輪が放置されています。

548 ◆CASELIATiA:2017/09/20(水) 00:25:10 ID:y5QHSXIk0
投下終了しました
誤字とか脱字あったら教えて下さい

549 ◆CASELIATiA:2017/09/20(水) 00:38:11 ID:xEygwlJQ0
あ、すいませんスライムの状態表を

【F-9/ポルトリンク/二日目 夕方 放送直前】
【スライム@DQ1】
[状態]:健康 戦闘時HP回復(装備効果)
[装備]:毒針@DQ4 スライムメット@DQ6 オラクルやののれん@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:セラフィと一緒がいい。セラフィと戦う。竜王さまお許しください。

※ピたろうと名づけられました

に変更します

550ただ一匹の名無しだ:2017/09/20(水) 00:53:05 ID:s0EKDMGo0
投下お疲れ様です。
リアルタイムで見ていました。

二つほど矛盾らしき点が。
一つ目は「only lonely boy」 でセラフィがルーナから逃げた地点でのアークとのやり取りでは、「ルーナを助ける」という方針の発言は見られませんでしたが、この話の中でセラフィが「アークはルーナを助けるために戦った」というのを前提に考察を始めている点。
もう一つは同じく「only lonely boy」で、ルーナが銀河の剣で自殺するという選択肢を取れる状態にありつつもそれをしなかったのは、死ぬ前に「愛を知る、1度笑う」という目的を果たすためだったはずです。特にセラフィを追って来たのは、それらの答えを知るためだという表現が見て取れます。そんな中、愛云々の言及無しにセラフィに殺してほしいと頼み、それが叶わないと知るやいなや殺しにかかる点。

この"愛"にまつわるルーナのエピソード、魔物使い達との関わりの深いセラフィのエピソードにアベルを混ぜるという発想は予想外でしたが、これらの点が気になりました。

551 ◆CASELIATiA:2017/09/20(水) 02:18:56 ID:si9nUNVk0
はい、回答します
①アークとのやり取りでは、「ルーナを助ける」という方針の発言は見られません

「only lonely boy」において
「死んで解放されようなんて私が許しません。貴女には醜く生きて生きて生き延びて、奪った命の重さを背負ってもらいます。」

セラフィはアークとルーナの下から避難する、という流れ。


この発言がそれに該当すると考えました。
この発言からルーナが自殺願望を抱えていること、それをアークが阻止しよう(=助ける)としていることは読み取れるかと思います
最初にセラフィとヒストリカは隠れていましたが、その距離はどの程度かは言及されてません。
事前にセラフィがルーナの死にたいという発言を知ることも可能だったと思います。

②ルーナが銀河の剣で自殺するという選択肢を取れる状態にありつつもそれをしなかったのは、

そもそもルーナは舌を噛むなり自身にイオナズンでもすればいつでも死ねるのに、それをしてません。
つまり自分で死ぬという考えはなく、他人に殺してもらうことが望みだと思います。

愛を知り、一度笑ってからぎんがのつるぎで死ぬのであれば、ぎんがのつるぎをアークの元に置いて行く理由がありません。
この描写からも、本質的にルーナは自分の手で死ぬことはできないのだと思います。

③死ぬ前に「愛を知る、1度笑う」という目的を果たすためだったはずです
④特にセラフィを追って来たのは、それらの答えを知るためだという表現が見て取れます
⑤そんな中、愛云々の言及無しにセラフィに殺してほしいと頼み、それが叶わないと知るやいなや殺しにかかる点。

一度笑って死にたい、というのはルーナの望みではありますが、笑う方法を毎回誰かに聞くことまでは考えてないと思います
聞くも聞かないもその時の状況とか気分次第かなと。
会う人会う人すべてに笑える方法を聞こう、とは考えてないと思います。

>仲間を――――――そして私を助けて死んでいった2人のお人好し。
>彼らの目には溢れる愛が見えていたのか、彼らの耳には愛の歌が聞こえていたのか。
>仲間のスライムを庇って死のうとしていた少女。答えは、彼女が握っているような気がした。

セラフィが答えを知っているのかも、というのも愛についてだけなので、笑う方法を必ず聞く必要はないと思います

また、愛についても
>>539において
ねえ、愛って何なの? 
 ねえ、それを知れば私は死にたいと思わなくなるの?」

という会話文を入れています
愛の言及に関しては必ずしも冒頭の会話で入れる必要はないと思います。
それでも必要であれば、冒頭に入れるように修正しますのでもう一度回答をお願いします。

すいません長くなってきたので今夜はこの辺で
おかしいとこありましたら指摘お願いします。

552ただ一匹の名無しだ:2017/09/20(水) 18:10:58 ID:KcUk30pY0
①セラフィの「助ける」に関する記述について
魔力覚醒したルーナに対する「助ける」と混同していたこちらの早とちりでした。申し訳ありません。

②ルーナは本質的に自分で死ねない〜
ルーナの目的はただ死ぬということではなく、苦しまずに死ぬことです。
自分の知識に間違いがなければ、舌を噛むという自殺方法での死因は窒息、ルーナの望む死に方とはかけ離れているのでそれをしない理由としては充分です。
イオナズンについてはそもそも自分に撃てる魔法なのかどうか疑問なのでなんとも言えません。
銀河の剣を置いていく理由としては、メタな話をすればDQ9の主人公に最強武器を添えて弔うという演出なのでしょうが、それをルーナ自身の手で行うのは自殺を本質的に出来ないことを悟っての行動というよりは、命を落としてまで自分を助けたアークに対する「敬意」の表れ、さし至ってはそんなアークの姿を見たことによる死ぬことばかりを第一に考えてきたルーナの心の「変化」の表れだと解釈する方が自然かと思います。「置いていく理由がない」とは思いません。

③愛についての言及を冒頭に〜
②でも述べたように、アークとの戦いを通じてルーナの心に変化は起こっています。
目的だった「楽な死に方」を放棄したことからセラフィへの接触の目的はアークとの接触の時のような「殺してほしい」ではないのは明らかです。
愛についての記述が冒頭だろうが途中だろうが、アークと同じように「殺してくれ」と迫っている地点で前回の話と合致してないと思えます。

本質的に死ねないなどの考察には共感できる部分が全くないなどと言うつもりはありません。が、さすがに発想が飛躍しすぎていて読者はついていけません。
このやり取りであなたの考察が追加情報として補完されるこの掲示板内では行動の意味が理解出来たとしても、wikiで読む人なんかに映るのは前回までの行動や思想と合致していない「リレー無視」です。
あなたの文章力については尊敬すらしています。
しかしSS初心者でも参加可能であるこの企画においては文章力よりも矛盾を失くすこと(矛盾を感じさせないように作品内で完結させること)の方が求められていることだと、心苦しいながらも思っています。

553ただ一匹の名無しだ:2017/09/20(水) 21:42:08 ID:KQhj62hk0
横槍ですが失礼。
552さんほどしっかり読めている自信は無いのでなんとも言えないのですが、一個人としてはそこまで矛盾という程のものはないかな、と思いました。
②の銀河の剣については確かに552さんの解釈も納得が行くもので、もしかしたら今回投下された話より自然な解釈かもしれませんが、リレーが続いた以上その書き手の解釈が適用されるべきだと思います。
そしてその「本質的に死ねない」という解釈ですが、自分にはこれがリレー無視と言えるほど飛躍してる様には思えません。ここは感じ方の問題かな、とも思いました。

これからどうなるにせよ、書き手さん乙でした。


あと野暮な上に細かいのですが

あの人の心の闇に触れ。振り払ってあげることが出来るだろうか。

この部分の一つ目の「。」は「、」ではないかな、と思います。念のため。

554ただ一匹の名無しだ:2017/09/20(水) 21:50:31 ID:KQhj62hk0
○「本質的に自分の手で死ねない」
×「本質的に死ねない」

555ただ一匹の名無しだ:2017/09/20(水) 23:49:56 ID:KcUk30pY0
>>553
「リレー無視」というのは解釈が飛躍的で不自然だから、ではなく前回の話で示された行動理念に則していないからです。

大まかに纏めると、

前回の話ではルーナは「今なら楽に自殺出来るけど死ぬ前に愛を知るためセラフィに会いに行こう」みたいな記述があります。
それが今回の話でのルーナの行動は、「自分を殺してくれる誰かを探して殺してもらう、セラフィが殺してくれないからセラフィに用はない。むしろセラフィ鬱陶しい。」というもので、前回の話の記述と合致していません。自分の指摘の大部分はそこです。

それに対する書き手さんの反論は、「ルーナは自殺をしなかったのではなく出来なかった、だからセラフィを追ってきたのも実は殺してもらうためで、愛を知る云々は二の次である」という主張。

私としてはこの部分を「リレー無視」であると言いたいわけです。
特にwikiで閲覧する読者には私とのやり取りで示した根拠さえ伝わりません。

556 ◆CASELIATiA:2017/09/21(木) 00:11:46 ID:g7D4JVRg0
すいませんお返事遅れました

>イオナズンについてはそもそも自分に撃てる魔法なのかどうか疑問なのでなんとも言えません。
では自分に向かって撃てばいつでも死ねるという設定にして、
なのにそれをしてないのは云々、という一文を追加すればこの問題は解決しますが、それでよろしいでしょうか?


はいかいいえ、どちらかの返事をお願いします。




いちおうもう少し突っ込んだ話をしますが
>メタな話をすればDQ9の主人公に最強武器を添えて弔うという演出なのでしょうが
全面的に同意します

>それをルーナ自身の手で行うのは自殺を本質的に出来ないことを悟っての行動というよりは
ルーナ本人はそれを自覚していないだけで、やはり自殺できないのだと思いますよ

『ラブ・ソングも探せない』より
>自分はとても弱いではないか。
>自殺することもできず、殺してもらうこともできず。

という文章が見受けられます。
自殺する手段が無いから自殺できない、というより(肉体的は無しでしょう)精神的に弱くて(怖くて)自殺できない、だと思います。 直前の『とても弱いのではないか』
つまりイオナズンで死ぬこともできない、ぎんがのつるぎが手元にあればいよいよ自分の手で自殺せざるを得ない、なので置いてきたと。そう思います。


もう一度聞きます。
そういう解釈の文章を追加するだけでこの問題は解決しますがそれでよろしいでしょうか?


>命を落としてまで自分を助けたアークに対する「敬意」の表れ
それもあると思います。

>さし至ってはそんなアークの姿を見たことによる死ぬことばかりを第一に考えてきたルーナの心の「変化」の表れだと解釈する方が自然かと思います。
それと自分の手で死ぬことはできない、は相反する要素ではありません。




後半に続きます
文章まとめるために少し時間空くかもしれません。

557 ◆CASELIATiA:2017/09/21(木) 00:13:01 ID:g7D4JVRg0
うわ、リロード忘れ……
>>555も読みますのでさらに時間かかります

558 ◆CASELIATiA:2017/09/21(木) 00:56:36 ID:g7D4JVRg0
>目的だった「楽な死に方」を放棄したことからセラフィへの接触の目的はアークとの接触の時のような「殺してほしい」ではないのは明らかです。
すいません『Only lonely boy』に楽な死に方を放棄したという描写ってありますか……?
よければ教えて欲しいのですが……

>愛についての記述が冒頭だろうが途中だろうが、アークと同じように「殺してくれ」と迫っている地点で前回の話と合致してないと思えます。
冒頭で愛について聞いて、期待した答えでなければ殺す方向に動くのはおかしくないと思います。
>>551でも言ってますが、この辺は修正要望を頂ければ修正致します。

>本質的に死ねないなどの考察には共感できる部分が全くないなどと言うつもりはありません。が発想の飛躍が
>>556に根拠を再度示しました。

>今なら楽に自殺出来るけど死ぬ前に愛を知るためセラフィに会いに行こう」みたいな記述があります。

自分は自殺できないから(無意識に)愛について問うためというもっともらしい理由をつけて、ぎんがのつるぎは置いてきたのだと思ってます。
自分はルーナが自分で自分を殺すことはできないという主張は翻すことはありません。
ですから、修正する際もその主張に沿っての修正になるかと思います。

それが今回の話でのルーナの行動は
>自分を殺してくれる誰かを探して殺してもらう←おかしい
すいません上でも答えてますが自殺願望を完全に捨てたという描写もないので、殺してもらうという思考は前回から継続されていると思います……本当にどこにその記述があるかよければ教えて下さい。

>セラフィが殺してくれないからセラフィに用はない←おかしい
自分の期待してた答えを返してくれず、死ぬのを止める人間はヒストリカやアークと同じように殺すはずです。

559 ◆CASELIATiA:2017/09/21(木) 00:58:05 ID:g7D4JVRg0
長々と語りましたが、
ID:KcUk30pY0 氏の要望をお伝えください。

私は着地点や妥協点を模索したくて話し合いしております。

しかしID:KcUk30pY0 氏はここをこうすればよいのだろうかという妥協点の提案とか、破棄要求もないのでどうにも困っております。
リレー無視と思われるなら正式に破棄要求してください

私も破棄要求が出されたのならば、修正点やの妥協点の提案といった細かいやり取りは省いた対応をしたいと思っています

560 ◆CASELIATiA:2017/09/21(木) 00:58:39 ID:g7D4JVRg0
すいません今夜はここまでにします

561ただ一匹の名無しだ:2017/09/21(木) 01:23:22 ID:EpfnSElY0
>>556の解釈について追加すれば良いのか
はいかいいえかで答えるのなら「はい」です。

それと私の発言の「銀河の剣の演出の意味」については、>>551の「」

562ただ一匹の名無しだ:2017/09/21(木) 02:22:43 ID:WJIBjwtQ0
途中送信失礼しました。
私の発言の「銀河の剣の演出の意味」は>>551の「愛を知り、一度笑ってからぎんがのつるぎで死ぬのであれば、ぎんがのつるぎをアークの元に置いて行く理由がありません。」に対する、「愛を知った後で死ぬとしても銀河の剣を持っていかない理由はある」という返信であり、その解釈に変えろという主張ではないです。自分の手で死ぬことが出来ないことと相反していなかろうが関係ありません。

楽な自殺方法を破棄したというのは銀河の剣で自殺しなかったことです。
仮にあなたの解釈についての解説が追加されても、「only lonely boy」でルーナはセラフィのことを「仲間のスライムを庇って死のうとした少女」と形容しているため、間違いなくマーダーのスタンスでなく「お人好しサイド」であることを認識したその上で会う価値を見出しています。
誰かに殺してほしいという思想が継続していても、ポルトリンクに行ってセラフィに会うことの第一目的が「殺してもらうこと」なのは、ルーナが自殺出来る出来ないに関わらず矛盾であり、そこに解釈の相違の余地はありません。

>>自分は自殺できないから(無意識に)愛について問うためというもっともらしい理由をつけて、ぎんがのつるぎは置いてきた
自分が最も「リレー無視」だと感じた部分がこれです。ルーナが思想の異常な特例キャラだということを考慮しても、前回の話で示された行動理念を「実は無意識に言ったでたらめだった」で片付けてしまうとどうしても前の作品を蔑ろにしているように見えてなりません。

563ただ一匹の名無しだ:2017/09/21(木) 02:34:34 ID:WJIBjwtQ0
場所を移動しながらだったのでID:KcUk30pY0で統一されてはいませんが、私の要望について。
元々は些細な違和感の指摘のつもりだったので具体的な改善案などを出そうとしていたわけではないです。
しかし、>>558の通りに「自分で自殺できないから前回の話ではただもっともらしい理由を無意識につけただけで、本当の行動理念は別にある」という展開を翻すことがないのであればリレー無視と判断し、破棄要求とします。

564ただ一匹の名無しだ:2017/09/21(木) 06:48:33 ID:amIroub60
こちらも横から失礼します。
確かに前回の話の最後で、彼らには愛が見えていたのか、セラフィが鍵を握ってる気がした、という描写があります。
ですがあくまでルーナの最終目的は最初から一貫して「死にたい」というもので、愛について知りたいという想いがそれを上回ったかどうかまでは決定付けられていないように感じます。
お人好しは殺すという思考も消えてはいないので、ルーナを説得しようとするセラフィを鬱陶しく思うのも、不自然でないのではないでしょうか。
人それぞれ解釈に差異が出てくるのは何にでもあることですが、リレー無視の矛盾とまで言い切るものではないと思います。

また、気になったのですが、元々改善案はなかったけど指摘しましたというのはどうなのかと思います。
最初から自分なりに線引きがあっての指摘なら分かりますが、要約すると改善案はないけど自分は納得できないから指摘して、修正と破棄のどちらがいいから尋ねられたから「なら破棄して下さい」という流れは流石にどうかと思います。
書き手さんが質問に具体的に答えても「それは違う自分の解釈はこう」とそればかり繰り返して破棄要求では、決着はつかないのではないでしょうか。

565 ◆CASELIATiA:2017/09/21(木) 07:09:54 ID:A.ATHUmA0
ありがとうございます

では正式な破棄要求が出されたので私も真っ向から反論します。
私はこれは言われるほどリレー無視であると思いませんので破棄要求は拒否します。

しかしl、互いの主張を通し続けるだけでスレを消費するのは建設的ではありません

ということで、日時を決めて投票スレかどこかで他の方の意見を伺おうと思いますがよろしいでしょうか?
そこで決められた結果に従うという形で行きたいと思います
何かもっと良い案がありましたら、他の方も提案をお願いします。

566 ◆CASELIATiA:2017/09/21(木) 07:13:32 ID:A.ATHUmA0
あ、投票で決める際などの細かいルール(トリ出し必須かどうか等)はこれから仕事なので、帰ってから決めたいと思ってます
もちろん自分が帰宅するまでにもっと良い決定方法があるならそちらにお任せします

567ただ一匹の名無しだ:2017/09/21(木) 12:50:56 ID:OyG0rcxc0
投票スレに投票のルールなどを簡易的なものを書き込んできました
以後、この問題は投票スレにてお願いします
投票とは別の提案がある場合も、投票スレにて書き込みをお願いします


長期に渡るスレ汚し失礼します
決着がつくまでもう少しお待ちください

568 ◆CASELIATiA:2017/09/22(金) 23:17:15 ID:YD6AqSe60
報告します。

>>537-547の「真っ赤な誓い」は修正無し、破棄無しでの採用となりました。
長い時間かけてしまい、本当に申し訳ありませんでした。
今後このようなことが起こらないように努力したいと思います。

569ただ一匹の名無しだ:2017/09/22(金) 23:35:12 ID:YD6AqSe60
乙でした
提案なんですが、もう異議を申し立てることができるのは投下経験のある書き手に限ってはどうでしょうか?
正直、今回の件を思うとトリ無しの名無しとトリ必須の書き手さんが対等な立場で話し合うのは色々問題があった気がします。

570 ◆CASELIATiA:2017/09/22(金) 23:45:01 ID:YD6AqSe60
……すいませんさすがに上の発言は撤回します
申し訳ありませんでした

571ただ一匹の名無しだ:2017/09/22(金) 23:49:03 ID:Rw4D4ecE0
ええ…これはさすがにちょっと話変わってくるでしょ…
今までの反対者一人に対して賛成者複数ってかたちの議論が全部覆される可能性すら出てきたってことですよ

572ただ一匹の名無しだ:2017/09/22(金) 23:49:19 ID:9Q0ASX3A0
自演しなきゃまだマシだったのに……このタイミングで株下げてどうすんだよ?

573ただ一匹の名無しだ:2017/09/22(金) 23:54:25 ID:9Q0ASX3A0
それと他人に少しでも妥協できない奴はリレー小説に向いてないから書くのも読むのもやめたら?

574ただ一匹の名無しだ:2017/09/23(土) 00:18:19 ID:UyzI3trQ0
作品投下、そして議論乙でした。
提案については個人的には賛成で、やっぱり話を進めていくのが書き手である以上は書き手の意見がある程度優遇されてもいい様に思います。

あと>>568>>569は同じ方ですよね?(違ったら申し訳ありません。)
今回の件でお疲れだったのでしょうが、別人を装ったかの様にも見える今回の書き込み方は少し引っ掛かりました。
扱いが難しい部分に踏み込んだ提案だとは思いますが別段おかしな提案ではないと思ったので、今回の様な書き込み方をする必要は無かったように思います。

575ただ一匹の名無しだ:2017/09/23(土) 00:19:52 ID:UyzI3trQ0
あ、読み込んで無かったです。
なんにせよ乙でした。

576ただ一匹の名無しだ:2017/09/23(土) 00:22:54 ID:o1ANKVzo0
自分の意見は多数派だって見せる姑息なやり方でしょ?言ってることは正しいかもしれないけど、そんな自演する書き手は論外かな……

577ただ一匹の名無しだ:2017/09/23(土) 00:36:00 ID:438h6O6g0
色々あるかもしれませんがパロロワ企画ってのは趣味、娯楽の範疇なので、
それでストレスを溜めるようになっているのなら一旦離れるのも悪くないかもしれません。

578ただ一匹の名無しだ:2017/09/23(土) 01:10:55 ID:6Ab0ImIk0
やっと収束しかけたところにこの事態でピリピリするのは仕方ないと思いますが、攻撃的すぎるレスはちょっと引っ掛かるものがあります……
自演と思われる書き方に不満を覚えるのは分かりますが、それを超えた罵倒をするのは空気が悪くなるだけだと思います
妥協できないなら書くなといったものなど、今書く必要があることでしょうか? 名無しが言うことでしょうか?
今回の書き手さんの行動は確かに誉められるものではないですが、だからと言ってどんな言葉をぶつけても良いというものではないと思います……

579 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/23(土) 01:36:40 ID:RVQRQixU0
今回の騒動の原因である>>550、並びに「only lonely boy」の書き手です。
投票スレで「謝罪に見えない」との意見が出たので他の方々に対する自分なりの誠意として、そして>>569を見て思うところがあった者として、今後このサイトでの立場が悪くなることは承知の上でトリを出して発言します。

「セラフィに恋をしているスライム、ポルトリンクに到着予定のアークを愛するポーラとトロデの死と直面するミーティア、等の伏線を考えるとルーナはポルトリンクでセラフィに愛について問い詰めるのが良いだろう」と自分なりに考えた伏線・行動理念が(アベルの介入という想定外を踏まえても)無視されていると感じ、冷静さを欠いた発言を繰り返し、話し合いという段階をすっ飛ばした理不尽な破棄要求をしてしまいました。
自分の発言で不快な思いをした方々には、本当に申し訳なく思っています。



今回あれだけ対立した自分が言っても説得力はないかもしれませんが、これだけは言いたいので言っておきます。
◆CASELIATiAさんにもう書くなとの意見が出ていますが、自分としてはそうしてほしくありません。
投下作品数で見てもその文章力で見ても、この企画への貢献度は自分とは比べものにならないもので、この企画を支えている1人と言っても過言ではありません。
今回の話単体では、私にとっては上記の理由から納得のいくものではありませんでしたが、これからも投下するのであれば是非読みたいと思っています。

私もこれからも暇があれば作品を投下しようと考えています。
そして◆CASELIATiAさんがこれからも投下するのであれば、今回叩いている立場にいた方々も今回の騒動を引っ張らずに作品のみを見ていただきたいです。

580 ◆CASELIATiA:2017/09/23(土) 02:42:42 ID:oJ9FeG8w0
すいません意見が出揃うまで書き込みは控えるつもりでしたが、書き手さん本人が来たようなので書かせていただきます。
かばう発言をしてくれた方は本当にありがとうございます。
しかし、許されない行為をしたこと、結果として落ち着きかけていたスレ内の空気をまたしても悪くしてしまったのは自分自身です。

今回の行為に及んだ理由は上で書いた通りです。 
もちろんそれは言い訳に過ぎなく、怒ってる方々の意見も正論で返す言葉もありません。

今回の件で話しあった氏本人まで出てきてくださり、しかも庇ってくれるとは思ってもいませんでした。
しかしこのまま処分無しは示しがつきません。
実績さえあれば何をやってもいいのか?という声も多数上がるでしょう。

そこでまず、直前に投下された「真っ赤な誓い」の処遇を再び採用されるかの判断をお願いします。。
その際は私が関わることが出来ないよう、私のIP(スマホPC双方)をアクセス禁止の処置にするor書き手諸氏によるトリップ出しの話し合いにするなどの対応をお願いします。
再びスレが荒れるのは承知ですが、この問題は避けて通れないと思っています。

そして自分の処分に関してもいかなる形であろうと受け入れます。
その結果が完全なるアクセス禁止だろうと不服はありません。
文句を言える立場ではないです。

>>579◆2zEnKfaCDc氏へ
手ひどい言葉を投げかけた自分を庇ってくれるとは本当に思ってもいませんでした。
氏の立場が悪くなることも考慮して、それでも書き込んでくれたことに感謝します。
しかし、自分の処分は他の方にお任せしたいと思います。

スレ内の住民の皆さま、重ね重ね申し訳ありませんでした。
アクセス禁止の処置になった場合の為にスマホで書き込むのを最後に、この問題に決着がつくまで書き込みはしません。

581ただ一匹の名無しだ:2017/09/23(土) 02:45:10 ID:cQJEJsSY0
こちらがスマホになります
では改めて申し訳ありませんでした
スレ住民の方にはご迷惑をおかけします

582ただ一匹の名無しだ:2017/09/23(土) 06:14:21 ID:xfxqWCCM0
読み手ですが意見を書かせていただきます。

今回の件、発端は◆2zEnKfaCDc氏が自作からのリレーとして◆CASELIATiA氏が執筆された作品に納得がいかず、疑問点の提示+破棄要求を出されました。
そして住民による意見の出し合いでは◆CASELIATiA氏に賛同する意見が圧倒的多数で投票をせずともほぼ決着……というところでしたが、◆CASELIATiA氏が名無しを装って発言していたことが発覚。
つまり◆CASELIATiA氏が議論の流れを意図的に操作していたのではないか、という疑惑が生まれたわけですね。

◆CASELIATiA氏の行動は非常に問題のあることだと思います。
が、トリップを付けず読み手を装ったまま破棄要求をした◆2zEnKfaCDc氏、ひいては責任を負わず発言する我々読み手にも同じことが言えると思います。
スレの流れを見るだけでも、冷静さを欠いた読み手の発言がなく書き手だけの議論であれば、ここまで殺伐とした空気になることもなかったでしょう(読み手の発言が◆CASELIATiA氏だけではないことは明白です。恥ずかしながら私もその一人ですので……)。

企画運営にあたり最悪の結末とはつまり、彼ら二人の書き手がこれを罪とし自ら断筆することです。これは何のプラスも生み出しません。
傲慢な物言いかもしれませんが、書き続けることで信頼を回復していただきたいのです。彼ら二人共に。
ロワ企画が界隈全体的に下火となっている現在、二人もの書き手の損失はとても悲しく、ダメージの大きいものですから。

また、◆CASELIATiA氏の行為の是非はともかく、>>569での発言自体には賛成です。
読み手が疑問点を提示することならばともかく、修正・破棄要求まで行えるとささいな問題が一気に広がってしまうリスクもあります。
他の書き手が「いや、これなら自分はリレーできる」と判断するならば、それは書き手の裁量に委ねるべきだと思います。

この件の決着について、読み手がどうこうと言えるものではないでしょう。
当事者である二人の書き手、また、彼らとリレーし企画を作ってきた他の書き手の方々に判断していただければそれが一番ではないでしょうか(長くなってすみません)

583ただ一匹の名無しだ:2017/09/23(土) 10:46:29 ID:7wcGO7OE0
宗教かよ

584 ◆HOdC4dGYwU:2017/09/23(土) 21:05:10 ID:fLqDyGqw0
皆様お疲れ様です。
一年以上書いてない者で恐縮ですが、
挙がっている議題について意見を書こうと思います。


・最新投下作「真っ赤な誓い」の採用について
『通し』でいいと思います。


・◆CASELIATiAさんの自演行為とその内容について
既に存分に反省してらっしゃると思いますが、スレ住民を大きく落胆させたことは忘れないでください…。

ですが、今回の◆2zEnKfaCDcさんからの指摘が、キャラの心情というある意味非常に繊細で細かな点を、
捉えようによっては攻撃的な言葉で『立場のわからない名無しからの指摘』という状態で続けられたこと、
これが◆CASELIATiAさんにとって大きなストレスになっていたのでは?と感じました。
たらればを言っても今更仕方ないですが、始めからトリップ付きでの指摘であったなら、
経過は大きく違っていたように思います。

その上での◆CASELIATiAさんの「異議申し立ては書き手に限ることとしてはどうか」という提案ですが、
私としては『やや反対』です。
理由は>>1にある「参加資格は全員にあり、初心者でもOK。矛盾がない限りは原則受け入れられる」という、
ドラクエロワ初代からの伝統があるからです。
耳触りがいいだけの戯言にきこえるかもしれませんが、気軽に『昨日の読み手が今日は書き手になれる』この伝統が、
実績のあるなしで線引きをすることによって意識的に崩れてしまうのが嫌だからです。
現に今、一年以上書いてない私が書き手面をして意見していることがすごく恐れ多いです…。
もちろん、今回のように指摘された方やスレ住民に大きなストレスとなるような異議申し立てである場合、
トリ出しが求められる展開もあるでしょう。その場合はそうあるべきですが、ケースバイケースとし、
明確にルール化してほしくはないという意味で、『やや反対』とさせてください。

・◆CASELIATiAさんの処分(?)について
これについてはご自身で決めてくださいとしか言えません。
この一件でストレスを抱えているのなら少し離れるもよしです。贖罪のために書くっていうのはなんか違うと思います。
書き手を続けたいというのであれば、私個人は、上記のとおり>>1の「参加資格は全員にあり」の文言に則って、受け入れたいと思います。


まどろっこしい文章ですみません。長くなりましたが以上です。

585 ◆OmtW54r7Tc:2017/09/24(日) 22:55:42 ID:4xIldvv.0
しばらく書けてなくて申し訳ないですが、自分も意見を

>>569については、自分は反対ですかね
書き手であれ読み手であれ意見は色々出てほしいですし、あまり門戸を狭めたくないかなってのが自分の考えです
◆HOdC4dGYwU氏の言うようなケースバイケースは認められてもいいとは思いますが


そして◆CASELIATiAさんの処分については◆2zEnKfaCDcさんと折り合いをつけて双方納得のいく結論を出すのが一番だとは思います
しかしあえて個人の意見を言えば、今回の投下の不採用および他書き手が書くまで当該パートの投下を禁止、ですかね
投下のペースが(最近はともかく)それほど早いとは言えないなかで、一時投下禁止がどれほどの意味を持つか微妙ですし、かといって完全禁止は打撃がでかすぎるしそこまで重い罰を化す必要があるのかも疑問です
ですから、今回書かれたセラフィ、スライム、アーク、ルーナの投下を一時凍結することでその代わりとしてはどうかってのが自分の意見です
まあ、書き手とはいえ部外者みたいなものですし、上にも書いたように当事者で話をまとめるのが一番ではあると思いますが

以上です

586ただ一匹の名無しだ:2017/09/24(日) 23:09:42 ID:IXKp8Prk0
これまでどおりでいいんじゃない?こんな早期で読み手を遮断するなら俺ロワでやった方がいいと思う

>>585
部外者みたいなものですがの一文は必要か?どうして逃げの姿勢を見せるの?
部外者なら最初から書き込まないで。トリを出すなら自分の発言にちゃんと責任持てよ

587 ◆jHfQAXTcSo:2017/09/25(月) 17:16:21 ID:pYeYnOYE0
大分遅いタイミングになりましたが、失礼します。

「真っ赤な誓い」については、ここまで事が大きくなってしまった以上、他の方が書くにしてもハードルがかなり高くなるでしょうし、通しでもいいのではないかなと思います。

提案や書き手さんの今後については、どうするのが最善なのか判断しかねる……というのが正直なところです。
今回みたいに話し合いが長くなってしまう場合などはトリ出しがあった方が良いのかな、と思いますが(全然口出しなどしてなかったのに言えたことでもないかもしれませんが……)
誤字脱字、場所や時間の表記ミスといった些細なものなら読み手さんからの指摘でも問題ないと思うので。

処遇については、自演行為が良いものだとは思いませんが、議論が長引いた経緯などもあって、アクセス禁止といった厳しいものまでは迫りたいとは思いません。
ただ、罪悪感から書いた作品よりも、心から書きたいと思って書いた作品の方が響くものが生まれると思います。
なので、これからも書いて信頼を回復するという選択肢に関しては◆CASELIATiA氏の向き合い方次第なのではないかなと思います。


はっきりと「こうした方がいいのでは」と言えなくて申し訳ないですが、以上が私の意見です。

588 ◆znvIEk8MsQ:2017/09/25(月) 21:41:34 ID:QHiNOQy.0
私も遅れて失礼します。

「真っ赤な近い」の採用か否か→同じく、ハードルが上がってしまったこと、私が飛ばしたアベルを回収してくれたことから、採用がいいと思います。

casさん、および2zEさんの処遇→正直、どちらでもいいと思います。
ただし、2人とも作品は面白いし、個人的には積極的に書いてくれている2人がいなくなるとこの先キツくなるから書き続けてほしいと思います。

トリ出しの意見→これもこのままでいいかなと。強いて言うなら「名前を挙げて意見を出した方が説得力が増す」程度で構わないのではないかと。

かなり曖昧な意見ですが、私が一番お二方にやってほしいのは、「1秒でも早くこの状況から脱して、この先を書き続けること」です。
第二放送も間近になって、一番まずいのはこのまま停滞してしまうことだと思います。
熱心に書いている以上、匿名でやっている以上及び食い違いや不都合の一つや二つはあると思います。
実際に2zEさんの「Only lonely boy」からは読んでて筆者としての熱意が特に伝わってきました。
(他の作品から熱意が伝わってこないとは言ってません)
だが、その点を踏まえた上でどんどん続きを書いて欲しいです。
これは明らかに自分の我儘を書いた文章でしかないのですが、以上です。

589 ◆CASELIATiA:2017/09/26(火) 01:09:05 ID:a17wA/Xo0
皆さまありがとうございます
一つ一つの意見を真摯に受け止めたいと思います。

自作については、採用の方向で纏まりそうなのでありがとうございます。
ただ、もう一度◆2z氏と話し合ってはどうかという意見もあるので、氏の要望があるようでしたら対応したいと思います。

今の自分の心境としては、しばらく書くことは止めておこうかなと思います。
書き続けて信頼の回復に努めるという方法もありますが、正直な気持ちとして今は創作意欲とか今後の展望が何も思い浮かばないです。

しばらくは読み手として過ごして、wikiの編集とかを行うことで支援して行きたいと思います。
一年後とか半年後か、ひょっとしたら一か月もしない内に懲りずに予約でもしてるかもしれません。
すいませんものすごい曖昧な言い方になってますが、どうなるかは自分でも本当によく分からないです。
ただ、どちらにせよこのトリップはもう使うことは無いかなと(◆2z氏の要望がある場合は例外として)。
書き手として再開する際は1から初めて行きたいと思います。



最後に、改めて申し訳ありませんでした。
今後はもうこのようなことがないよう自制すると共に、皆さまの恩情で私は生かされていると、肝に命じておきたいと思います。
失礼しました。

590 ◆znvIEk8MsQ:2017/10/06(金) 23:43:09 ID:rEvWGi5s0
投下します

591Hellbattler in black ◆znvIEk8MsQ:2017/10/06(金) 23:44:56 ID:rEvWGi5s0
「私達は、このトンネルを抜けてきたのだ。」
「地図から見ると、ここを抜けてもまだ距離はありそうね。」
「お城へ続くトンネルって、おにいちゃんが教えてくれた、「ローラの門」って所みたいね!」
「その場所の話、教えてくれませんか?私はダーマの大陸しか知らないので……」


トロデーン城へ続くトンネルの中では、これまでと変わらず平和な会話が続く。
最初はそのローラの門で、ティアの兄の仲間が蛇の魔物と仲間になろうとして噛まれたこと。
アンルシアの世界では仲間にできる魔物がいたというが、ティアやフォズの世界では出来ないこと。
代わりにフォズの世界では、魔物の気持ちさえ分かれば魔物に転職することが可能になること。
アンルシアの世界では、魔物が創始した職業があるということ。


ティアは転職で何かになろうとしていたが、まだ決めかねていた。
彼女の兄曰く、武術にばかり特化していても、魔法にばかり特化していてもいけないらしい。
そうすれば仲間を助けられるどころか、足手まといになってしまうとか。
それは何とも勝手な言い方ですねとフォズは思ったが、彼女は兄を尊敬しているのであまり貶めるようなことは言いたくなかった。


死者の放送を聞いた後は気持ちが暗くなっていた三人だが、面白くて頼りになる大人4人に出会い、その気持ちも幾分か収まった。
ティアの方は、パパスの支給品であったが着れないからという理由で貰った綺麗なドレスを見て、いっそう上機嫌になっている。
それぞれの異なる世界の話で盛り上がり、その声がトンネルに響く。
3人の中でアンルシアだけはそんな大きな声で騒ぐと、この先にいるかもしれない敵に感づかれる可能性も危惧したが、邪悪な気配はない。




だが、その会話を見ていたパパスだけが不安な思いをしていた。

ティアが度々家族の話をしていることがあってか、息子、アベルのことがこれまで以上に気になり始めた。
実際に、自分の孫にしてアベルの息子である、リュビが死んでいる。
それに向こうの世界からアベルのことは見ていたが、自分の死後もアベルに降りかかった災難が、徐々に心を蝕んでいたことは顔を見て分かった。
この邪悪な戦いの舞台に巻き込まれたこと、そして息子が死んだことで、心が闇に飲まれていないのか。
彼なら間違いなく自分と同じでエビルプリーストに立ち向かうと思っていたが、そうではないかもしれない。

やはり、アベルに会いたい。
そして未来の勇者のためとはいえ、自分の息子に過酷な冒険をさせてしまったことを謝りたい。
この先にアベルがいる。そう信じたかった。

もう少しでトンネルを抜ける。
幸いなことに自分は誰かと戦おうとする者にも、最初の魔物を除けば死者にも会っていない。
だが、これが嵐の前の静けさに思えるのは、自分だけなのだろうか。

592Hellbattler in black ◆znvIEk8MsQ:2017/10/06(金) 23:46:49 ID:rEvWGi5s0
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


時は少し進み、場所は洞窟から離れた場所。

「どうした?さっきの勢いも失せたか?」
パパスの予想は、ここにあったのかもしれない。
魔瘴の力で蘇ったヘルバトラー強。
その力は、フアナやサヴィオの世界を恐怖に叩き落したバラモスを遥かに超えていた。


「いえ、まだです!!」
これほど凄まじい敵を目の当たりにしても、フアナは戦おうとする。
「サヴィオ!!」
「わ、わかったよ。」

「やってみるがよい。」

本当は逃げるが勝ちだとサヴィオは思うが、逃げても死ぬ可能性が高い。
だとすれば、今のところの一番強い技を食らわせ、その隙を突くしかない。
再び魔法の詠唱に入る。

「「荒ぶる聖風」」
「「神に捧ぐ十字をここに刻め!」」

一度はヘルバトラーを倒した二重のバギクロス。
再び、凄まじい竜巻がヘルバトラー強に襲い掛かる。
だが―――――――――――――――





「はあああああぁぁぁぁ!!」
ヘルバトラー強は大声を上げ、両腕を一振りするや否や、その竜巻はかき消されてしまった。




「ウソ………………でしょ?」
「時間稼ぎにもならないのか?」


どちらかというと楽天的な二人もこれには青くならざるを得なくなる。
「少し期待しすぎてしまったようだな。最も、ヤツが我を強くしすぎてしまったとも言えるが………。」


「フアナ、どうしよう…………。」
「カマエルは逃げた方が良いと思います。」
まずいのはこれだけではない。
一度目のヘルバトラー戦の連続ベホマから、立て続けに魔法を使い続けていたため、フアナの魔力が切れてしまった。
少なくともバギクロスはもう打てない。
だが、サヴィオの方は既に戦意喪失してしまっているが、フアナはまだ諦めていない。
「まだです!!」

「魔法が効かなくても、『アリアハン女子プロレス大会オールストレート勝ち』の私の力で!!」
フアナは力を失っているサヴィオの手から、ろうがぼうを引ったくり、ヘルバトラー強に飛び掛かる。
威力が高いのは僧侶である職業上、打撃よりも風魔術なのだが、魔法が使えないならば仕方あるまい。
「やめろ!!あいつは…………」

593Hellbattler in black ◆znvIEk8MsQ:2017/10/06(金) 23:47:47 ID:rEvWGi5s0
「やああああ!!」
「ほう………中々の速さだ……………だが………」

ヘルバトラー強は、そのろうがぼうをいとも簡単に受け止めてしまった。
ろうがぼうはその先に触れただけで傷がつくような棘がついている。
だが、ヘルバトラー強の手にはそのダメージを受けた様子さえない。
むしろ、ろうがぼうの方が傷ついてヒビが入っている。

「俺様には、全く通用しないな。」
そして受け止めていない方の拳で、一撃。
「きゃあああああああ!!」


「フアナーーーーーーーーッ!!!!」
彼女はサヴィオの頭を越えて吹っ飛んでいった。
急いで彼女の方に走っていく。

「おっと、逃がしはせん。」
ヘルバトラー強は、先ほどのように指を振り上げる

サヴィオが走っていたその方向に、ボコリと岩が出る。
これでサヴィオは、彼女を助けに行くことも逃げることもできなくなってしまった。

「そんな……………」
「ご主人様ぁぁ!助けてくださいまし!」

「案ずるな。キサマもすぐにあの世に送ってやろう。」
ヘルバトラー強はフアナから奪ったろうがぼうを、何の面白みもないかのように投げ捨て、迫ってくる。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「う!!」
トンネルを抜けてさらに歩くと、突然、邪悪な気配が感じられた。
凄まじい邪悪な気配が元々あるのではない。
急に高まっていっているのだ。
「これは?」
先頭を歩いていたパパスが立ち止まる。
邪悪な気配の源とは、まだある程度離れている。
逆に言うと、離れていても感じるくらい凄まじいものなのだ。


「間違いない!!これは、魔瘴よ!!」
メンバーの中でも、魔瘴のことについてある程度知っているアンルシアが答える。

「マショウ!?なにそれ!!」
「説明するのは難しいけど、ティアちゃんが近づいたら絶対にダメなもの!!」

ここでアンルシアが悩んだことは、ティアとフォズの扱いだった。
これほど強力な邪気を感じることは、凄まじい力を持った魔物がいることだろう。
ひょっとすれば、エビルプリーストの配下の魔物かもしれない。
勇者として、そこに向かうのは当然だが、二人をパパスだけに任せるのも気が引ける。

594Hellbattler in black ◆znvIEk8MsQ:2017/10/06(金) 23:48:16 ID:rEvWGi5s0



一方で、パパスも似たような考えだった。
あの方向にいるのはもしかしたら、サヴィオ達か?
そうすれば、助けてやらない訳にはいかない。
だが、折角イザヤールに少女達の護衛の役目を渡されたのに、三人を置いて行くのは気が引ける。
だが、彼らを見捨てるわけにもいかない。

二人は、邪悪な気の元に向かって走る。

「おじさま!!」
「アンルシア!!」

「二人を連れて逃げて!!」
「二人を連れて逃げろ!!」


まさか、二人共似たようなことを考えていたとは。

「ちょっと!!なにあれ!!」
ふと空を見ると、誰かが飛んでくるのが見える。
パパスがものすごいスピードで走り、なんとかその人物を受け止める。


「助かりました!!あなたは?」
「私はパパスという者だ。向こうにいるのは誰だ?」
「向こうにいるのは、恐ろしい魔物なんです!!もう一人、サヴィオという人が向こうにいます!!」


既にアンルシアは邪悪な気配の方向に向かって走っている。パパスも同様だ。
残念ながらどちらが二人を連れて逃げるか決める時間はなさそうだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「炎の精霊!!僕をどうにか助けて!!ベギラゴン!!」
「かあっ!!」
「うわあ!!」
バルザックを気絶させた魔法も、ヘルバトラー強の氷のブレス一つで霧散される。
吐く息は冷たさだけではなく、風圧も恐ろしく強く、それだけで岩壁に吹っ飛ぶ。

「いつぞやの姉妹の魔法ほどでもないな。まあ、今の我は誰が来ても負けるわけはないが。」

自分の嫌な予感が当たっていたと確信する。
「うわああああああ!!来るな!!来るなぁ!!」
「賢者さま!!ワタシを盾にしないでくださあい!!」

サヴィオはカマエルを左手に構え、右手では木の棒を犬でも追い払うかのように振る。

その姿は、蛇ににらまれたカエル、いや、ドラゴンににらまれたカエルといったところだ。
遊び人上がりとはいえ、賢き者、と言われているはずの賢者としての見る影もない。

「ムダなあがきをするな!!」
「あーーーーーーーーーーーっ!!ご主人様―――――――――――っ!!」
ヘルバトラー強の腕の一振りで棒と釜の両方が吹っ飛ぶ。

595Hellbattler in black ◆znvIEk8MsQ:2017/10/06(金) 23:49:14 ID:rEvWGi5s0
「トドメだ!!イオグラ……………」
「いやだあああああああ!!」

ああ、とうとうラッキーマンだったボクの運も潰えたな、とサヴィオは覚悟した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ズドオオオオオオン!!
大きな音がして、ヘルバトラーが作った岩壁が壊れる。
「何!?」
「あ、あなたは?」


アンルシアが、岩壁をとつげき丸で打ち壊したのだ。

「やはり、サヴィオ殿か!!」
「パパスさん!!」

間一髪で無事だったことを喜ぶ。

「僧侶の方も無事ですよ!!」
「ありがとう。キミたちは?」
「話は後です。」

「ほう、新手か…………」
だが、相手の方は余裕綽々という様子だった。
まるで、新たに獲物が現れたことを喜んでいるかのような。


「サヴィオ殿は、向こうにいるフアナと、他の者達を連れて逃げてくれ!!」
パパスは実感した。
目の前の敵はすさまじく強い。
かつて自分を葬ったゲマよりも。
近くによると、それがより一層分かる。
もし離れているティア達を人質に取られたら、間違いなく負けるだろう。


「サヴィオ!!無事だったのですね!!」
「フアナ!!」
フアナはどうやらあの後パパス達の後を追いかけてきたようだ。
しかもまずいことに、ティアとフォズを連れて。


「この魔物は、以前ジャンボが言ってた………でも、これほど強い魔物だったの?」


アンルシアにも実感した。
目の前の敵は恐ろしい力を持っている。
大魔王マデサゴーラ、ほどでないにしても、魔元帥ゼルドラドよりかは確実に上の力だ。
しかもマデサゴーラを倒した時は、ジャンボ以外にも3人強い冒険者がいたが、今回はパパスを除いて頼れる人もいない。
むしろ、自分が守らなければならない人ばかりだ。
フォズは短い間であるが戦ったことがあるそうだが、ティアは一度も戦ったことがない。

596Hellbattler in black ◆znvIEk8MsQ:2017/10/06(金) 23:49:33 ID:rEvWGi5s0
でも、全員で来てしまったからには後悔もしていられない。



「再会の喜びは済んだか?一つ言っておくが、俺は人質を取るような姑息なマネはせん。後ろのヤツらは気にせず掛かってくるがよい!!」


ヘルバトラー強は、高く飛び跳ねる。
そのまま、こちらに飛び掛かってくるのかと思いきや、地面を飛んだ後両手で思いっきり殴りつける。




「!!」

地震攻撃か?と思うが、その程度のちゃちなものではない。
なにしろ、周りを見れば先程アンルシアが壊したものと、同じ岩壁が全員を囲むようにせり出してきたからだ。
死闘のためのフィールドの完成だ。

「だが、キサマらの逃げぬようにしておかねばな。」

「地面を殴りつけただけで、岩を隆起させただと?」
さしものパパスも驚く。


「怖いよ…………」
後を見ると、少女二人は怯え切っている。
彼女らを守るために戦わねばならない。

「いい!?私とおじさま以外は、皆下がってて!!」
アンルシアが指示を出す。
彼女は攻めにも守りにも長けていたため、どちらでも戦える。
どうにか、後ろに被害を及ばさずに戦えるか。

「行くぞ!!」

「はあっ!!」
アンルシアの斬撃がヘルバトラー強に襲い掛かる。
彼女の闘志の力で、常人が一度攻撃できる間に、二度攻撃ができるほどの速さだ。
最初は兄のトーマがそれを覚え、アンルシアも王家の迷宮での修行で編み出した。

「ふんっ!!」
パパスも同時に斬りかかる。
彼も同様に、常人が一度攻撃できる間に、二度斬りつけることが出来るほどのスピードを持っている。
元々王族であったが、旅の間はその素性を隠そうと思い、格好はシンプルなものにし、剣術も城で習ったものではなく自己流の技に変えた。
彼が考えたのは、防具を極力軽いものにし、その反面剣のスピードを上げようとするものであった。

「凄い!!」
「どう見ても、4人で戦っているかのようです!!」

後ろにいるフアナとサヴィオは感心する。

二人の剣の舞が、ヘルバトラー強に絡み付く。
それは踊りのように美しいものだが、並の魔物ならその美しさを感じることなく刺身のようにされているだろう。


並の魔物、なら。

597Hellbattler in black ◆znvIEk8MsQ:2017/10/06(金) 23:49:57 ID:rEvWGi5s0
「そんな………攻撃が、当たらない!!」
ヘルバトラー強は、巨体に似合わぬ俊敏さで動き回る。
何発かは当たっているが、ダメージを与えた感触が殆どない。

「流石、1つの世界の勇者、と言った所か。そんな玩具のような剣で、よくやりおる。」
「!!」

ヘルバトラー強の裏拳が炸裂。
アンルシアが吹っ飛ばされる。


「いくらそんなもので攻撃しても、ムダだ。せめて武器が違えば、戦いも変わるかもしれないがな。」

「ぬおおおおお!!!!」
パパスが高く飛び上がり、ヘルバトラー強の頭を真っ二つにしようとする。
だが、片手で難なく止められてしまう。
その斬撃は、ヘルバトラー強の腕の皮膚を薄く傷つけただけだった。
(………どういうことだ!!)

「キサマもその女も、人間としては素晴らしい才能と力を持っているだろう………だが。」

もう一方の手による正拳が一閃。
「ぐはっ!!」
力の盾でガードしたにも関わらず、パパスも吹っ飛ばされる。


「この俺には足元にも及ばぬようだな。」

「大丈夫ですか!!」
どうにかしてサヴィオが受け止める。
よく見ると、アンルシアもフアナに受け止められ、岩壁に激突するのを防げたようだ。


「まさか、ここまで力の差があるとは………」
後ろにいた者達だけではなく、二人も恐ろしさを感じてしまう。

だが、その中でアンルシアだけは希望を見出していた。
「聞いて!!まだ、方法はある。」

明らかに万策尽きたように見えるが、アンルシアにはまだ逆転の秘訣が残されていた。

598Hellbattler in black ◆znvIEk8MsQ:2017/10/06(金) 23:50:18 ID:rEvWGi5s0




(創生の魔力より生み出せし、この闇のころもをまとった今、お前たちの攻撃など通事はせぬ!!)
(私の勇者のチカラで、あの闇のころもをなんとかしてみせるわ。ジャンボはそれまで耐えて!!)



勇者の光。

魔王の闇の力で守られた者を討ち滅ぼす唯一といってもいいほどの技だ。
このヘルバトラー強も、闇の衣に包まれた魔勇者や獣魔将ガルレイなどの邪悪な気配が酷似している。
攻撃を当ててもダメージを与えた手ごたえがないことといい、闇の衣とは違うものかもしれないが、やってみる価値はある。


だが、一つだけ問題がある。
この技は発動までの時間がかかるということだ。
かつてアンルシアが勇者の光を使った時、周りにはジャンボを含めて4人も手練れの冒険者がいた。
だが、それに比べると今回は成功するには幾分か心細い布陣。
それでも、やって見せる。
下らない躊躇をしていると守るべき者と共に、兄のトーマのもとへ行くことになるからだ。


(なあ、アンルシアよお、)
(どうしたの?ジャンボ。)
(おまえさ、さっきの戦いでどうしてあんなムチャをしたんだ?)
(やっぱり私には………勇者として守らなきゃいけない人がいるから…………)
(オレにもいたぜ、そういった考えを持っている、パラディンの知り合い。でもな、そいつはもう、誰も守れねえ。)
(なぜ?)
(死んだんだよ。オーガの少女を。竜からかばってな。)
(…………………。)
(死んだら、そうやって誰かを守ることも出来なくなるんだ。だからオレは、誰かを守らなければなんねえヤツこそ、一番自分を守らなきゃいけねえと思う。)
(…………勇者でも、何かを犠牲にしなきゃいけないの………………。)
(何かを犠牲にするのを恐れて、自分一人守れねえ奴は、誰も守れねえよ。)
(そうよね…………勇者でも、じゃなくて勇者だからこそそういった決断をしなきゃならないのよね………)
(あ、すまねえな。別にアンルシアに、誰かを見捨てろって言ってんじゃねえんだ。)



「おじさま、悪いけど、少しだけ時間を稼いで!!」
「やってみよう。」
「私達も行きますよ!!」
「え!!じゃあ、僕も………」

パパス、フアナ、サヴィオの3人が前に出る。
何とか、勇者の光まで時間を稼いでくれたらいいのだが。


「私も、怖がってばかりではいけません………」
流石にフォズは前に出られないが、持っているルーンスタッフで仲間達の守りの力を強化する

アンルシアの両手に神々しい光が宿り始める。

599Hellbattler in black ◆znvIEk8MsQ:2017/10/06(金) 23:51:25 ID:rEvWGi5s0
「ほう、これだけ力の差を見せつけられておきながら、まだ抵抗しようとするとは………」
ヘルバトラー強はニヤリと笑い、大きく息を吸い込む。

「負けるわけにはいけません!!サヴィオ!!頼みます!!」
「氷の妖精たちよ、力の限り暴れまわれ!!マヒャド!!」

「負けるわけにはいけません!!ヒャダルコ!!」
フォズが後方から氷魔法の援護をする。



「6人まとめて、灰になれ!!」
ヘルバトラー強は口から灼熱の炎を吐きだす。

先程と同じで、ヘルバトラー強にダメージを与えることこそは叶わなかったが、炎を弱める成功した。
逆に言うと、マヒャドとヒャダルコの相乗魔法でやっと弱められるほど、凄まじい威力の炎を吐くということだが。

「助かる!!」
開けた道を通り、再びヘルバトラー強に斬りかかる。
「ムダだと言ったはずだ!!」
ヘルバトラー強は不気味な笑いを浮かべて飛び掛かる。

「同じ手を二度使う気はない!!」
パパスは姿勢を低くして飛び掛かったことで空いた足元を潜り、後ろから斬りつける。
「おのれ!!」
決定打にはとてもならないが、気を引くことには成功する。

「メラミ!!」
今度はサヴィオの呪文が顔に炸裂。

「武器がなくなったって、これくらい!!フアナ必殺、ダイナマイトミサイルキック!!」
まさかの、フアナの蹴りがヘルバトラー強のボディーにめり込む。
僧侶というのは概して肉弾戦は苦手なはず。
だが、彼女のいざという時の技?がアスナ達をごくまれに救ったのも事実である。

だが、それはヘルバトラー強を苛立たせただけだった。


「雑魚どもが、調子に乗るなあ!!」
ヘルバトラー強は両腕を開き、魔瘴をまき散らす。それは前方の3人を吹き飛ばすとともに、魔瘴の害をも与えた。
強化の影響か、魔蝕を出す速さも上がっていた。

「ゲホッ!!」
「大丈夫ですか?今、回復を………。」
「うう、体が動かない…………。」

600Hellbattler in black ◆znvIEk8MsQ:2017/10/06(金) 23:51:47 ID:rEvWGi5s0
「アンルシアさん!!技の時間は…………」
「ごめん!!まだかかる!!」

やはり、作戦は間違っていたのか。
この技が原因で、仲間を助けに行くことさえ出来ない。
続いて、後方に迫りくる。
「負けるわけにはいきません!!ヒャダルコ!!」
フォズは怯まずヒャダルコを使い続けるが、そんなものはそよ風程のものでしかない。



「どうやら奥の手で起死回生を図ろうとしていたようだな。だが、どんな技でも発動しなければ意味がない。」

前方の三人を先に殺さず、後ろで力を貯めているアンルシアを優先して狙ってきているようだ。
どんなに圧倒的な力を見せようと、慢心することがないという、精神面でも隙のない敵だ。

だが、そんなヘルバトラー強でも、予測できないことが起こる。


「ぐう!?」
ドスリ、とヘルバトラー強の背中にろうがぼうが命中する。
フアナとサヴィオからいち早く最低限の治療を受けたパパスが、地面に転がっていたものを投げたのだ。
鋼の剣やとつげき丸よりかは強い武器だが、背中をわずかに傷つけることしかできないようだ。
「死にぞこないの分際で!!」
ヘルバトラー強はそれを引き抜き、地面に叩きつけてへし折る。

しかし、その反応は、アンルシアへの時間稼ぎになったようだ。




「ヘルバトラー!!」
「!!」
「これで、終わりよ!!」

だが、四人が体を張って稼いだ時間は、勇者の光の力をためるには十分だった。





「勇者の、光――――――――――――――っ!!!!!!」
「ぐぬおおおおおおおおおお!!!!!!」

それは、未来を拓く光。

601Hellbattler in black ◆znvIEk8MsQ:2017/10/06(金) 23:52:07 ID:rEvWGi5s0





「俺様が、こんな、ものでえええええエエえええ!!!!!!!!!!」
「!?」
「負けるかあああああアアアアアアアあああああ!!!!!!!」

未来を拓く光が、闇に飲み込まれる。
ヘルバトラー強は、さっきよりかは弱っているにしても、無力化には程遠い。


アンルシアの計算が外れた原因は二つ。
一つは、ヘルバトラー強を覆っているものの違い。
かつてアンルシアが破った闇の衣は、体に纏わりつくものだった。
しかし、今度の魔瘴は、失った腕を形成したのみならず、傷跡から体の奥底にまで入り込んでいた。
もう一つは、ヘルバトラー強は更なる力を持った者の後押しを受けていたこと。

「驚かせおって。だが、これで終わりだ!!」
ヘルバトラー強は、魔瘴の籠った爪で、技を放って硬直状態になったアンルシアを引き裂こうとする。
しかし、まだ予想してないことがあった。

それはアンルシアのさらに後ろから起こる。
「お、お、おねえちゃんを、いじめるなーーーーーっ!!!」

ティアがヘルバトラー強にロトの剣を持って、斬りかかる。
「下らん!!」
ヘルバトラー強は埃でも払うかのように腕を振った。


ジュッ!!




「ぐおおおおおお!!!」
ヘルバトラー強の腕が、焼けるように痛む。
なんとそれは、ヘルバトラー強の魔瘴で作られた腕に大きな傷を入れた。
そこから血のように魔瘴が噴き出す。
フアナやサヴィオはおろか、パパスやアンルシアでさえもそこまで大きな傷を入れることは出来なかったのに、どういうことか。



〇〇〇〇〇

これは戦いの少し前の出来事。
フォズはティアに一つ忠告をしていた。
「いいですか、ティアさん。危なくなったら、その剣を使うのです。」
「この杖じゃなくて?でも、これはお兄ちゃんの剣だよ。」
「その杖は誰でも使えるようですが、剣はティアさんにしか使えなかった。お兄さんにとってもそうなのかもしれませんが、絶対にティアさんにとって、大切なものです。」

〇○○○○

602Hellbattler in black ◆znvIEk8MsQ:2017/10/06(金) 23:54:42 ID:rEvWGi5s0





代償でその剣の使い手も気絶する。
敵への恐怖か、腕を振った時の風圧か、噴き出した魔瘴によるものか。
「は、は、ははは。気絶しおった。どうやら、使い手は普通の人間の子供のようだな。だが…………。」

ヘルバトラー強の手に、巨大な火の玉が浮かぶ。
「この場で唯一我に致命傷を負わせることの出来る相手と分かった以上、生かしておくことは出来ん!!」
「ティアさん!!」
「邪魔だ!!」


フォズが向かっていくも、ハエでも払うかのように後ろ蹴りで倒される。
フアナとサヴィオは、治療しようとしていたが呪いにより体が上手く動かず、難儀していた。
「何も………出来ないなんて………。」
「やっぱり私は、ジャンボがいないと………………。」






「!!」
ヘルバトラー強の後ろで蹲っていた、パパスの目に、あの日の光景が浮かぶ。
自分が、ゲマの炎に焼き殺された時。


負傷したとは思えないほどのスピードで、ティアの近くに走る。


「骨も残らず焼き尽くせ!!メラガイアー!!」
ヘルバトラー強が火の玉をティアに落とすその直前に、パパスがそれを全身に受けた。
「ぬわーーーーーっ!!」
あの時と同じように、誰もが驚くほどの叫び声を上げる。




こうなることに悔いはない。
やはり、自分は未来の可能性のために、犠牲になる運命なのだろう。
ただ、思い残すことは一つ。
自分のただ一人の息子、アベル。
彼を過酷な冒険に付き合わせたまま、それで出来た傷をいやすことが出来なかったのが、何より辛い。

603Hellbattler in black ◆znvIEk8MsQ:2017/10/06(金) 23:55:10 ID:rEvWGi5s0
(アベル………すまない………。)

彼は一度ならず二度までも、新しい可能性のために命を落とした。


「「「「パパスさん!!」」」」



「クックック………貴様たちの奮闘は、素晴らしいものだったぞ。以前の俺様なら、死んでいたはずだ…………。」

「まだ………まだ戦う………。」
「ほう………切り札も無くして、まだ戦うつもりか………逃げようとは考えないのか?」

確かに、自分だけはヘルバトラー強の作った壁を破れる。
他の4人全員を犠牲にすれば、かろうじて逃げられるかもしれない。
自分に何かを棄てることを勧めたジャンボなら、それを提案するだろう。


だけど。


やはり自分は勇者の誇りを通して生きて、戦って、死にたい。
いくらジャンボが私にとって大切な盟友でも、これだけは譲れない。
再びアンルシアはとつげき丸を振りかざし、戦いを挑む。




彼女は遠からずしてこの強大な敵に倒されてしまうだろう。
しかし、勇者の光が払われた中でも、まだ一つ光を放っているものがあった。
それは、気を失った少女の手の内にある剣。


そしてもう一つ、その最初の使い手が、剣の下へ向かっている。
岩壁の外ではカマエルが蓋を動かして、その助けを待っている。

終わりかと思われた戦いは、実は、始まりになってさえいないのかもしれない。


【C-4/平原/1日目 夕方】

【ヘルバトラー強@JOKER】
 [状態]:HP 7/8 片腕損傷 背中に刺し傷
 [装備]:なし
 [道具]:支給品一式、道具0〜2個
 [思考]:目の前の5人を殺す、ティアは優先して殺す。
基本方針:心のままに闘う。

[備考]:
※主催からアイテムに優遇措置を受けている可能性があります。
※歴代のヘルバトラーに使える呪文・特技が使用出来るようになっています(DQ5での仲間になった時の特技、DQ10での特技など)。
※さらに強力な特技、呪文が使えるようになりました(イオグランデなど)

604Hellbattler in black ◆znvIEk8MsQ:2017/10/06(金) 23:55:27 ID:rEvWGi5s0
サヴィオ(賢者)@DQ3】
[状態]:HP1/3MP消費大 呪い
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具0〜1個バレットハンマー@DQ10 オーガシールド@DQ5 
     ウェディングドレス@DQ9 アルゴンリング@DQ8
[思考]:仲間たちと合流、バラモス@DQ3や危険な存在とはまともに戦わず脱出したい。仲間を探す。
[備考]:元遊び人です。魔蝕の呪いで体が思うように動けません

【フアナ(僧侶♀)@DQ3】
[状態]:HP1/5 MPほぼ0 呪い
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜3(本人確認済み)
[思考]:バーバラとゼシカと合流する
[備考] :魔蝕の呪いで体が思うように動けません


【ティア@DQ2(サマルトリアの王女)】
 [状態]:気絶 挫いた足(治療済) 打撲
 [装備]:ロトの剣 氷柱の杖(残5)@トルネコ3 ようせいのくつ@DQ9 
  [道具]:支給品一式 脱いだ靴 おわかれのつばさ@DQ9 パーティードレス@DQ7
 [思考]:兄とその仲間たちを探すため、トロデーンに向かう。兄にロトの剣を渡す 職業に就いてみたい

【勇者姫アンルシア@DQ10】
[状態]:HP2/3
[装備]:とつげき丸@DQ10
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:トロデーンに向かう
フォズとティアを守る
最後まで戦う
    彼に会いたい
    彼を守りたい
    彼の隣に居たい
    彼に道具使いになってもらう

【フォズ@DQ7】
[状態]:HP1/2  MP3/4
[装備]:ルーンスタッフ@DQ8 ようせいのうでわ@DQ9
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1(本人確認済み)
[思考]:仲間を集める。
    そのためにトロデーン城へ向かう

※C-4(平原)で、一部を囲むように岩がせり出しています。
※カマエル@DQ9はその外側(トロデーン寄り)に転がっています。
※ろうがぼう@DQ9は砕けました。
※パパスの支給品は全て燃え尽きました。

【パパス@DQ5 死亡】
【残り43人】

605Hellbattler in black ◆znvIEk8MsQ:2017/10/06(金) 23:57:05 ID:rEvWGi5s0
投下終了です。長文になってしまったこと、一度大きく書き直したこと、一度この辺りのパートを書いて失敗したことなどで、失敗している箇所があるかもしれません。
誤字脱字、矛盾点あれば指摘お願いします。

606ただ一匹の名無しだ:2017/10/07(土) 23:49:54 ID:npXAFpZ60
投下乙です
ヘルバトラー強めっちゃ強いな
アスナとコニファーが駆けつければまだ戦況は好転しそうだがどうかな
ゼシカも周囲が動いてるから一人取り残されてるし、いっそのこと合流させちゃえば希望はまだまだ残ってるが、たぶん死人も比例して増えそう

607 ◆2zEnKfaCDc:2017/10/09(月) 13:12:03 ID:QskP821Y0
ゲリラ投下します。

608許されない恋:2017/10/09(月) 13:16:10 ID:QskP821Y0
いつの時代も、恋路には障害がつきまとう。
そして"許されない恋"は度々悲劇を生み落としてきた。
身分の違い、思想の違い、立場の違い――――――様々な障害を時には乗り越え、時には諦めて。

これは、許されない恋に立ち向かった3人の少年少女の物語。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

少年は、許されない恋と直面した。
それは、"時代"の違う恋。



「なぁ、アルス、マリベル。この旅ってさ――――――続けてもいいもんなのかな。」

現代のエンゴウの町を復活させ、自分たちの旅が世界に及ぼす影響に気づき始めた頃、キーファは2人に胸中を語った。

「珍しいわね。アンタが弱音を吐くなんて。」

「考えてもみろよ。俺たちのやってることって歴史を塗り替えてるってことなんだぜ。もしかしたら俺たちもエスタード島もなかったことになってしまうかもしれない。そんなこと、許されるもんなのかなって思っちまうんだ。」

時間は不可逆的なものだからこそ、人は今を精一杯生きる。
セーブもロードも存在しないこの世界で過去を無かったこに出来ること、それは人の身に許されていいことなのか。
この問題には、陽気なマリベルも少し難しい顔をしていた。

609許されない恋:2017/10/09(月) 13:17:58 ID:QskP821Y0

「いいんじゃないの?」

そんな疑問に対してアルスはあっけからんと返す。

「最初からなかったことになるんならさ、後悔する僕らはそこにはいないけど――――――もし何もせずに何かを失ってしまったら後悔するかもしれないじゃん。」

「…そっか、そうだよな。うん、後悔したくはねえよな。」

キーファは何も言えなかった。
アルスの言う事が的を得ていたこともあったが、何よりもキーファには分かっていたからだ。
アルスは何かを失っても後悔などせずに平然と受け入れる、そんな人物だと。

アルスが何に対しても無頓着な人間だと知っていたからこそ、危険な探検にも誘うことが出来たし、そういった冒険の積み重ねによって何かアルスが興味を持つものがあるかもしれないとも思っていた。

だからだろうか。
キーファはアルスの前からいなくなることに対してはあまり躊躇がなかった。
事情説明をアルスに放棄したのも、何でも受け入れるアルスに甘えていたところがあったのかもしれない。

610許されない恋:2017/10/09(月) 13:22:01 ID:QskP821Y0
キーファはアルスの言ったように、"後悔"しない選択をした。
そこには反省すべき点は多くあったが、キーファは後悔していない。

過去の改変は許されないこと。
生きる時代の違う人への恋も許されないもの。

それでも、後悔したくなかったから――――――



少年は逃げた。



王子としての使命から。
使命を放棄するのに筋を通すことから。
仲間たちの非難から。
全てから逃げ出して"許されない恋"に抗った。


時間はやはり不可逆なものなのか。
逃げ出したものにはもう立ち向かえない。
しかしこの殺し合いの場で、彼はかつて逃げ出したものに立ち向かう機会を手に入れた。

答えから逃げたくない。
自らの選択が未来――――――いや、現代にどのような影響を与えたのかを。
殺し合いの世界に招かれたかつての仲間たちが、過去を改変した自分の知る仲間たちなのかどうかを。

そんな想いを胸に、少年は前へ進む。

611ただ一匹の名無しだ:2017/10/09(月) 13:23:24 ID:QskP821Y0

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

少女は、許されない恋と直面した。
それは、"呪い"が許さない恋。



トロデーン王国の王女ミーティアは恋に落ちた。
いつも自分のために一生懸命な青年に。
どこまでも真っ直ぐな目をした青年に。

しかし彼女は、"呪い"に蝕まれていた。

それは、身体が馬になる呪い――――――などではない。


それは、恋を許されない呪い。
彼女は生まれつき、結婚相手が定められていたのだ。

そして馬となっての旅の途中、その相手チャゴスの心の醜さを知った。

反して、エイトが自分のために奮闘している姿を近くから見守り続けたことで恋心は増していった。

恋をしてはいけない、そう思えば思うほど呪いは彼女の心を蝕む。
暗黒神を倒して馬の姿になる呪いは解けたが、人間の姿へと戻ることによってもう一つの呪いは本格的に頭角を表した。
チャゴスとの結婚式の日が迫っていたのだ。

612許されない恋:2017/10/09(月) 13:24:32 ID:QskP821Y0

しかしエイトは呪いを打ち破る力を持っている。
定められた運命を、より大きな運命の因果でひっくり返すことが出来る。
彼の持つ指輪――――――アルゴンリングによって。

一国の王女であるミーティアは軽率な行動に出ることは出来ない。
婚約に抗うということはサザンビークとの関係を再び壊すことに繋がるかもしれないし、場合によってはエイトにも迷惑がかかる可能性もある。
だから彼女は、それは自らの誇りだと言い聞かせながら王女としての立場を取るしかなかった。
それはこの呪いが呪い足り得る本質でもあった。

そしてエイトもまた迷っていた。
アルゴンリングを提示すれば、"近衛兵と姫君"という今までの関係は変わってしまう。
それはエイトの忠誠心が許さなかった。
また、ミーティアの真の婚約者が自分であるということを主張するということは、婚約相手こそ違えどミーティアに同じ呪いを新たに課すということである。



少女は委ねた。



過去の約束がかけた呪いを。
自らの恋心の行方を。
全てを彼に委ねて"許されない恋"に抗った。

613許されない恋:2017/10/09(月) 13:28:09 ID:QskP821Y0


そして結婚式当日。
チャゴスの父、クラビウス王はこっそりとミーティアに告げた。
昨日の夜、エイトが王の元を訪れた、と。
王はそれ以上語らなかった。

彼の選択がどんなものであれ私は受け入れる。
ミーティアはそう決めていた。

そして答え合わせの時はやってきた。
式が淀みなく進む最中、突如として開かれた扉。
その扉の先の光景を目にする、その直前――――――

彼女は殺し合いの世界へと誘われた。


答えを知りたい。
サザンビークに嫁ぐことは本当に私の誇りだったのか、それともそんなものは姫君を蝕む呪いに過ぎず、私の恋を貫くことが真に私の誇りなのか。

答えを委ねた彼に会って、あの前夜の――――――私の誇りの真実を知りたい。

そんな想いを胸に、少女は前へ進む。

614許されない恋:2017/10/09(月) 13:29:02 ID:QskP821Y0

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

3人は荒野の山小屋にたどり着いていた。

歴戦の強者であるポーラはまだしも、ミーティアのか細い足で越えるには険しすぎる荒野だ。
キーファがミーティアに一旦小屋の中で休むことを提案し、早くアークを探しに行きたいと思っていたポーラもしぶしぶそれを受け入れた。

ミーティアは小屋へと入って行き、外にはキーファとポーラの2人が残されていた。

「キーファは入らないの?」

「ああ、これくらいの山道なら生前何度も超えてきたからな。それよりお前は大丈夫なのか?」

「…うん。足の痛みも引いてきたし。」

小屋に入ってしまうと仮にアークが通りかかっても見逃してしまう可能性が高い。

「…もうそろそろ六時間、か。」

「そうだね…。」

定時放送のことを考えると気が重くなる。
それぞれに探し人がいる中、その人の死という現実を突きつけられてしまうかもしれない。

(アルスはマリベルとガボの死をどう受け止めたんだろうな…)

かつての、何に対しても無頓着だった友のことを思い返してみる。
仮に自分が死んで放送で名を呼ばれることになれば、アルスは悲しんでくれるのだろうか。
そんなことを考えていると、不意にポーラが立ち上がり、歩き始めた。

「私、先に行くね。」

「え、おい待てよ!」

キーファも立ち上がりポーラを追う。

「放送は一人で聞きたいの。」

次の言葉でキーファの足は止まることとなった。

「もしもの時にも、あなた達は殺したくないから。」

そのままポーラは一人、港町へと向かって行った。

615許されない恋:2017/10/09(月) 13:30:58 ID:QskP821Y0

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

少女は、許されない恋と直面した。
それは、"世界"が違う恋。



人間界と天使界と死後の世界、ポーラとアークの間には住む世界という区切りがあった。

人間は別の世界に生きる者に干渉してはいけない。
そんなルールは存在しないが、死後の世界に干渉出来たことで人々から異端として扱われたポーラにはそれが"罪"であるとの意識があった。

また、エルギオスの悲劇という前例も罪の意識を高めるには充分だった。
恋に落ちた人間と天使は引き離され、天使は堕天使へと成り下がった。
そんな悲劇に立ち向かう勇気もポーラにはなかったため、ポーラは天使であるアークへの恋を心の底に抑え込んでいた。

アークとは友達でいい。
今のままでもお互いがお互いを信頼出来ているから。
人間界と死後の世界の狭間を生きているような私は、その存在自体が罪なのだから。
そう言い聞かせながら、ポーラは戦い続けた。


でも、それに耐えられなくなったから――――――



少女は願った。



彼と同じ世界に生きたい。
彼と同じ世界に生きる妖精が妬ましい。
全ての願いを込めて"許されない恋"に抗った。

616許されない恋:2017/10/09(月) 13:31:55 ID:QskP821Y0



――――――アークが人間になればいいのに。



そしてアークは本当に人間になってしまった。
その原因を追求するならば、上位の天使には逆らえないという「天使の掟」だろう。

でもポーラは知っている。
願いには大きな力が宿っているということを。
女神の果実を巡る旅で、生きる者の、時には死者の願いでさえ願いの域を超えて世界を変え得るのだと。
だからアークを人間にしたのも自分であるように思えてしまう。

そして人間となったアークに待っていたのは絶望だった。
自分の生きる世界から切り離され、人間より遥かに永かったであろう生き方全てへの干渉が出来なくなった彼を見たポーラは、やはり罪の意識から逃れることが出来なかった。


招かれた殺し合いの場。
再び、アークの住む世界が私と区切られてしまったなら――――――アークが死後の世界に行ってしまったのであれば、私はどうするのか。

私も自ら死後の世界に旅立つのだろうか、それとも――――――



――――――再び"願い"の力で、アークをこちらの世界に引きずり込むのだろうか。


(生き残った一人にはわたしの名にかけて望みを叶えてやろう。)

主催の言葉が頭の中をよぎる。


答えは知りたくない。
そんな選択を強いられることなく、アークには生きていてほしいから。

そんな想いを胸に、少女は前へ進む。

そしてその想いは、間もなく打ち砕かれることとなる。

617許されない恋:2017/10/09(月) 13:32:27 ID:QskP821Y0





【E-7/荒野の山小屋/二日目 夕方 放送直前】


【キーファ@DQ7】
[状態]:HP2/3
[装備]:はやぶさの剣・改@DQ8
[道具]:支給品一式 支給品1〜2個
[思考]:仲間たちと再開したい。自分の無力さが恨めしい。

【ミーティア@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個
[思考]:エイトと再開し、結婚式前夜の話を聞きたい。

【F-7/二日目 夕方 放送直前】

【ポーラ@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:炎の剣@DQ6
[道具]:支給品一式 支給品0〜2個
[思考]:アークを探す。もしもアークが死んでいるのなら……?

618許されない恋:2017/10/09(月) 13:33:05 ID:QskP821Y0
投下終了しました。

619ただ一匹の名無しだ:2017/10/09(月) 14:21:25 ID:w/NvtZvI0
投下乙です
やっぱりこうなったか!という感じ
アークはぐう聖だから9キャラに与える影響がものすごくでかいもんな
安全圏かと思われたポルトリンク周辺も次々と火種が投下されてきた

620ただの一匹の名無しだ:2017/10/09(月) 15:30:20 ID:jjjpiAl60
投下乙です!!ポーラ、先のことを考えると悲しすぎる。
もうすぐ第二放送だし、この先どうなるかな。色々気になる。

余談ですが、キーファが「アルスはマリベルとガボの死を〜」と言っていますが、キーファはガボの死を知っていないはずです。
(ガボは第一放送直後に死んだ)
だから「アルスはマリベルの死を〜」でいいのではないかと思います。

621 ◆2zEnKfaCDc:2017/10/09(月) 16:45:37 ID:QskP821Y0
>>620
ご指摘ありがとうございます。
指摘箇所訂正します。

622ただ一匹の名無しだ:2017/10/09(月) 19:04:35 ID:HKacN3u60
投下乙です
ドラクエじゃ歴史改変って割と味方サイドでも躊躇なくやるから(最新作の11でも主人公と会えなくなる葛藤はあっても歴史改変の是非については触れずむしろ積極的だった)、キーファの懸念はなかなか新鮮だ

キーファはともかく、ミーティアとポーラの恋心は長い間抑圧しつつも醸成してきた感じなのが、いじらしくもあり同時に怖くもある

623 ◆2zEnKfaCDc:2017/10/10(火) 01:16:27 ID:zDaBeejc0
誤植見つけたので訂正します。
>>614

「これくらいの山道なら生前何度も〜」


「これくらいの山道なら過去に何度も〜」


パパス辺りと混同してました…!

624ただ一匹の名無しだ:2017/10/10(火) 10:15:27 ID:FOrhNbNY0
ポーラもそうだがアーク落ちによる影響が最も大きいのはスクルドだろうなあ
一度ショックで寝込んだこともあるし次はどうなるやら

625ただ一匹の名無しだ:2017/10/17(火) 16:39:23 ID:/WoPyEek0
なんか前回の1st、2ndと比べていろいろと違って面白いね
1st、2ndアレフ→対主催  3rdアレフ→奉仕マーダー
1st、2nd5主人公→対主催  3rd5主人公→マーダー
1stゲマ→マーダー  3rdゲマ→一応対主催
2nd6主人公→ラスボス 3rd6主人公→主人公の中で一番まともなキャラ
後、今回のロワのテーマは何なのか凄く気になりますねぇ!

626 ◆znvIEk8MsQ:2017/10/18(水) 18:38:22 ID:XcixhsCw0
投下します

627夢のようで、夢じゃない何か ◆znvIEk8MsQ:2017/10/18(水) 18:39:13 ID:XcixhsCw0
ゼシカは、十数分ほどバーバラを追いかけていた。
でも、バーバラの足の速さは異常なほどだった。
まるで彼女を、ヘルバトラーや他の恐ろしい何かと勘違いしたかのように。
加えて、ゼシカは究極魔法を打ってから間もなく、体力も万全ではない。
赤毛の少女同士の距離は、どんどん離れていった。



彼女のトレードマークでもある赤毛でさえ見えなくなる。
その間に、声をかけたが反応はなく、むしろ自分の体力をすり減らすだけだった。


しかし、その姿が見えなくなってからしばらくした所で、大きな声が聞こえてくる。
「助けて!!助けてよレック!!」


「!!」
バーバラの、悲鳴だ。
何かあった、と考えるのが妥当だろう。
今の自分は完全な状態と程遠いが、だからといって助けに行かないわけにはいかない。

「捕まえた!」
「――――ッ!!」
悲鳴が聞こえる。
一度は落ちた走るペースを上げる。
バーバラがふたたび見えてきた。
だが、バーバラ以外のよく分からない声も聞こえる
遠めでよく分からないが、青い何かがバーバラを拘束しているではないか。

「――――――!!」
(待ってて!!バーバラ、今、助け…!?)
自分の状態も顧みずバーバラの下へさらに走っていく。




バーバラは、砕け散った。
その青い何かと共に。



「………ウソでしょ!?」

ズーボーに続いて、バーバラまで。
暫くは、ゼシカも目の前の出来事に呆然としていた。
人間、誰しも人が死ぬところを見ると、そうなるものだ。
以前にオディロ院長やメディ、チェルス、そしてついさっき死んだズーボーなど、これまで何度もその瞬間を目の当たりにしてきたゼシカでも例外ではない。



しかも、今度の場合はあまりにも状況が分からなさ過ぎた。
これまでは、誰がその人を殺したか分かっていた。
しかし、今度は誰がバーバラを殺したのか全く分からない。
まだ会ったことさえない人間に出合い頭にメガンテを仕掛けるなど、正気の沙汰とは思えない。
この世界に呼び出されたことで自棄になり、誰でもいいから心中したかった?

628夢のようで、夢じゃない何か ◆znvIEk8MsQ:2017/10/18(水) 18:39:45 ID:XcixhsCw0


頭が回らない。
究極魔法を打った影響か、はたまた目の前で不可解な出来事を見せつけられたことが原因か、頭がぐらぐらしてきた。
とりあえずザックを開き、頭を冷やそうと思い水を一気に飲んだ。
アモールの水などと違い、これといった効果はないが少し気分が落ち着き、平衡感覚も少しだが戻ってきた。
ザックを開いたついで代わりに、一度バーバラと見た名簿を見る。
やはり、バーバラにメガンテを放ったということはバーバラの知り合いだろうか。

とりあえず、パラパラとめくり、青色の格好をした者を探してみる。
スライム……は流石にあり得ないか。
このローレルという男の人
フアナと、彼女が言っていたサヴィオ。
アリーナ、トルネコ………



だめだ。
まだページの半分もめくっていないのに似たような色を身に纏った人が多すぎる。
そもそも支給品でインテリハットや水の羽衣のような青いものを渡されていた人なら、どうするのだ。
一瞬だけ見えた青い何かを名簿をめくって探すのはあきらめる。

(兄さんが殺された時といい、どうして私は何も出来ないのよ………!!)
短い間だったが、バーバラのことは妹のように思っていて、バーバラも彼女のことを姉のように思っていた。
バーバラに何かあったら、守ってあげたい。
傷ついた彼女の心をいやすことは、永遠にできなくなってしまった。

しかも今度は仇を取ろうにも、その仇は砕け散ってしまった。
しかも全く訳の分からない形で。
だからといって、これでは全く納得がいかない。
せめて、なんで青い何かがバーバラと心中したか、理由が知りたい。
ひょっとしたら、誰かにそそのかされたとか…………


夢遊病者のように、辺りを無気力にあてもなくふらふらと歩きまわる。
兄と別れ、今度は妹のような人を見つけたと思ったら、またしても目の前からいなくなってしまった。
しかも今度は自分の目の前で。少し伸ばせば手の届くところで。
何がどうなったか考えなければいけないのに、考えたくない。
考えたくないのに、否応なく気になってしまう。
まるで、バーバラと心中した誰か以外に、何者かが関わっているかのように。





それから大分歩いたと思っていたら、同じところをぐるぐる回っていただけだった。

629夢のようで、夢じゃない何か ◆znvIEk8MsQ:2017/10/18(水) 18:40:29 ID:XcixhsCw0


「え!?」
突然、来た道の方に凄まじく邪悪な気配を感じる。
「まさか、あの方向にいるのはフアナ……………?」

姿が見えないのに、邪悪な気配だけは全身に感じる。
この感じは、覚えている。
マイエラ修道院で、ドルマゲスが入ったオディロ院長の部屋から漂うまがまがしい気配だ。
いや、威圧感だけならそれ以上かもしれない。

あの方角へ行かなければいけない。
もう、誰も死なせたくない。
今自分がどこにいるのか分からないが、邪悪な気配がする方向へ行くしかない。
自分は究極魔法を打って、万全な状態とは程遠いが、それが行かない理由にはならない。




その方向に走っていくと、さらに、地震。
まさか、辺り一帯の地震を起こすほどの、魔物なのか。
あの辺りからの邪悪な気配、というとやはりヘルバトラーなのだろうか。


ゼシカが驚いたのはこれだけではない。
その地震の後、ゼシカが向かう方向に背の高い岩が突き出てきた。





あの方向にいるのはヘルバトラーかと思ったが、違うかもしれない。
一度戦ったヘルバトラーは、確かに手ごわい相手だったが、そこまで広範囲の地殻を動かす力を持ってはいなかったはずだ。
それ以前に、仕留めきれなかったとはいえ、マダンテを食らったら、暫くはまともに動けなくなるはずだ。
あれから時間は経ったとはいえ、突発的に邪悪な気配を発することが出来るはずがない。
かつてラプソーンや竜神王と戦ったことがあるゼシカでさえ、そんな相手を殆ど見たことがなかった。
あるとしたら、あれは……………




いや、あれは、夢の出来事だとしか思えない。
竜神王の更なる試練として、亡きメディばあさんの家の裏に出来た追憶の回廊。
あれは、本当に夢だとしか思えない。
風景も夢のような判然としないものだったし、そこに現れる敵も現実離れした強さだった。
それらの大半が、かつて戦った敵の姿をしている点も特に、夢にありがちなものではないのか。

630夢のようで、夢じゃない何か ◆znvIEk8MsQ:2017/10/18(水) 18:41:33 ID:XcixhsCw0


「だ、誰か、誰かーーーーーーっ!!」
岩壁のすぐ近くまで来ると、釜?のようなものが、蓋をパカパカさせていた。
「ア、アナタは、賢者サマの、お友達の方ですか?」
「多分違うけど、あそこへ向かおうとしているの。アナタは何者?」
「ワタシは錬金釜のカマエルといいます。向こうの方に、賢者サマとそのお友達が危ないのです!!」


一瞬、「??」となった。
錬金釜、なら知っているが、喋る機能なんて持ってなかった。
竜神王の加護を借りた特別な錬金釜でさえも。


突然バーバラもろとも砕け散ったあの青い何者か
フアナから聞いたアリアハンという街の謎の大会
突然立ち込める邪悪な気配
喋る錬金釜


この世界は自分の予想をはるかに超える何かが多すぎる。
この世界も、追憶の回廊と同じで、夢なのではないか。

「早く!!早くいってくださーーい!!」
錬金釜に急かされるなど、あっていいものなのか。

だが、今目の前の問題は、現実のものだ。
この世界で起こったことは、何もかもが現実で受け入れがたいことだが。
目の前の壁。
これを破るのも登るのも、今の自分には至難の業だ。
壊すために、迂闊に乏しい魔力を消費したくない。
彼女はしばらくどうしようか決めあぐねていた。
岩壁越しからも伝わる悲鳴や衝撃を聞くと、焦る。
その中で、フアナの声も混ざっているような気がするから、猶更だ。
でも、どうにもうまくいかない。
回り込もうにも、岩壁は人を出すことも入れることも許さずに囲いを作っていた。
カマエルの方は、錬金できるような道具がない限り役に立ちそうにない。
支給品を使おうにも、錬金している時間がない。


「おーーーーーーーーーい!!」
後から、声が聞こえた。
見ると、狩人のような風貌の男。
どこか、俗世離れしたような印象だ。

「コニファー様!!どうか、助けてください!!」
「その錬金釜………あんたも、フアナとサヴィオを探しているのか?」
「誰だか知らないけど、そうよ。でも、この岩壁が邪魔で……どうにか方法はない?」

サヴィオ、という人物は会ったことないが、フアナから聞いたことはある。

「俺ならこの壁を上ることは出来るが、連れて行けるかは難しいな………」

631夢のようで、夢じゃない何か ◆znvIEk8MsQ:2017/10/18(水) 18:42:23 ID:XcixhsCw0

「……………ナ………」
狩人の男の後ろで、何かが聞こえた。
「え!?何か言った?」
「俺じゃないぞ。」

「…………ヴィオ…………」
「………フアナ…………サヴィオ………」
また聞こえる。よく見ると、コニファー、と呼ばれた狩人の男の後ろに、縮こまっている少女がいた。

「させません!!!!!!!もうこれ以上仲間を死なすわけにはいけません!!!!!!!」

弾丸のごとく飛び出した少女は、岩壁を蹴り砕いた。
まるでとある国の、城壁を蹴り砕く姫のように。


「すごい…………」
「あいつは、アスナっていう、ある世界の勇者らしいんだ。でも、他人と話すのが苦手らしい。」
どうやら、コニファーの後ろに隠れていたのは、単に性格が原因だったかららしい。
「本当に、勇者なの?」
「俺も、そう思う。ポテンシャルは凄いけどな。」

連想の対象が悪いが、自分を目の前にした時のコニファーの後ろに隠れるその姿勢は、まるでトカゲを目の前にして自分達の後ろに隠れるチャゴスを連想させた。
連想の対象を知ったら、自分も先ほどの岩壁のようにされるかもしれないが。

でも、あのスピードと攻撃力は、自分の仲間以上のものかもしれない。
それに、勇者、という称号。
彼女は勇者とは、物語の世界だけだと思っていた。
自分達は勇者ではないし、その前に世界を恐怖に陥れた存在を封印したのは、勇者ではなく、七賢者だったから。

やはり、この世界そのものが自分の夢なのかもしれない。
追憶の回廊より、少し出来はリアルだが。


3人は、敵の下へ行く。沈みゆく太陽が暗示するのは、自分達か、それとも敵の方か。

632夢のようで、夢じゃない何か ◆znvIEk8MsQ:2017/10/18(水) 18:42:45 ID:XcixhsCw0

【アスナ(女勇者)@DQ3】
[状態]:ほぼ健康 性格「ひっこみじあん」
[装備]:ゴディアスの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:エビルプリーストを倒す。そのために仲間(知り合い最優先)を探す。
ひっこみじあんを克服したい。でも知り合いも来てほしい。
   :サヴィオとフアナに会いに行く。
[備考]:不明支給品の中に性格を変える効果を持った本や装飾品は入ってません。
    トロデーン城の地理を把握しています。

【コニファー(男レンジャー)@DQ9】
[状態]健康
[装備]かりうどの弓@DQ9、毒矢×30本
[道具]支給品一式 支給品0〜1(本人確認済み)
[思考]自分が生きているという感覚を保つため、とにかく生き抜く。
   仲間を探す。 アスナに道案内をする。

【ゼシカ@DQ8】
[状態]:HP3/5 右肩に傷(治療済み)、これまでの出来事に対して軽く混乱 MP1/10
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(水一つ消費)、不明支給品0~2、カマエル
[思考]:バーバラと共に自爆した何かのことについて知りたい。
   離れてしまったフアナも心配、まずは彼女らの所へ行く
[備考]:第一放送を聞いていません。

633夢のようで、夢じゃない何か ◆znvIEk8MsQ:2017/10/18(水) 18:44:20 ID:XcixhsCw0
投下終了です。ゼシカだけ他の人物に比べて物語の進展に遅れていたので、それが原因で何かズレているかもしれません。
誤字脱字、矛盾点あれば、指摘お願いします。

634夢のようで、夢じゃない何か ◆znvIEk8MsQ:2017/10/18(水) 19:17:57 ID:XcixhsCw0
すいません居場所書いてなかったです。【C-4/平原/1日目 夕方】です。

635ただ一匹の名無しだ:2017/10/18(水) 23:34:04 ID:truEvd1o0
>>627の描写について
チェルスは死の瞬間に直面したというより、厳密には死んだ後に駆けつけたと言う方が正しいので含めない方が良いと思います。
チェルスの死には少なからずゼシカにも責任があるので自分を第三者ポジションに置くのもなんだかなぁってのもありますが。

物語としての矛盾は自分には特に見当たりませんでした。
ヘルバトラー強の元に一同が集結していくのが、敵の強大さも含め10のパーティー同盟を彷彿とさせるのでワクワクしています。

636ただ一匹の名無しだ:2017/10/19(木) 01:19:53 ID:27y8dIAA0
投下乙です
取り残されてたゼシカもようやく動いた
ここまで人が集まるとさすがにヘルバトラー強といえど死ぬか?
しかし確実に道連れの死人は出るだろうなぁ
色々フラグも積み重なってきたしフラグ的にも大爆発しそうな予感だ

637夢のようで、夢じゃない何か ◆znvIEk8MsQ:2017/10/19(木) 01:20:18 ID:O71IOzDQ0
指摘ありがとうございます。確かにチェルスの死に関してはゼシカが間接的に関わっているような所ありますね。
どなたか編集の際には「オディロ院長やメディ、そしてついさっき死んだズーボー〜」に訂正してくださると幸いです。
気づかなかったけど、ドロップアウトしたパパスを除けば、これで丁度8人だ………!!

638ただ一匹の名無しだ:2017/10/22(日) 19:05:06 ID:2b/KkVTY0
そういえば前回一気に5人死んだ時間帯は第二放送間近だったな
今も第二放送間近だしヘルバトラー強との戦いで4人ぐらい犠牲になりそうな予感

639 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/02(木) 21:17:24 ID:rAMbjtuw0
投下したいと思います。ですが、個人的にギリギリのネタなので、一時投下スレを使わせていただきます。

640 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/04(土) 22:44:52 ID:uVLSJnE60
二日経ちましたが破棄申請はなかったため、本投下します。

641 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/04(土) 22:45:32 ID:uVLSJnE60
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
バルザックは雄たけびを上げ、三人に突進してくる。

「来るぞ!!」

イザヤールの警告と共に、それぞれ異なる方向に大斧を避ける。
外れた大魔神の斧は、地面に大きな穴を開けた。

「避けたか。だが、次こそ真っ二つにしてくれる!!」
バルザックは目標をイザヤールに定め、大斧を振り下ろす。

「ふんっ!!」
だが、それはイザヤールの大剣で受け止められる。

斧と剣がぶつかり合い、がちんと高い音が鳴った。
「やるな、だが、チャンスだ。モリー、ザンクローネ!!」

「うむ!!」
「おうよ!!」

イザヤールの声を受けて、蒼炎のツメとプラチナさいほう針がバルザックの背中に襲い掛かる。

「ぐうっ!!」
背中に幾筋の傷を入れられ、バルザックは呻く。

「ならば、まずは貴様達からだ!!」

禿げ頭の男に斧を受け止め、その間に奇抜な格好の男と小人が攻撃してくるようだ。
ならば、先に攻撃してくる方を仕留める。

「大した奴じゃねえな。」
モリーの頭から攻撃を仕掛け、今度は肩の上に乗ったザンクローネが笑う。


今度は同じように斧をモリー達の方に振り回す。
「その程度で、わしらを倒せるとでも思ったか!!」
ラプソーンを倒したメンバーの中でもかなりのスピードを持っていたモリーは、バルザックの攻撃を難なくかわす。

642誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/04(土) 22:46:05 ID:uVLSJnE60
「ならば、これでどうだ!!」
バルザックは大きく息を吸い込み、炎を吐きだす。
「斧が当たらないなら、丸焼きにしてくれるわ!!」

だが、モリーはそれを避けようとせず、何かのポーズをとる。
「なんだ!?その、馬鹿にしたようなポーズは!!」

「モリィィィィ!!!!バァァニングゥゥゥゥゥゥ!!」
「馬鹿な!!ぐあああ!!」
彼の熱血スキルの力で灼熱の炎を出す。
その熱さと勢いは、バルザックの吐いたものを優に上回っていた



「くそぉぉぉ!!ならば、これでどうだ!!」
体を焼かれ、三人から離れたバルザックは、魔法の詠唱に移る。

復活と共に、新たに身に付けた呪文を唱えようとする。
当たれば、三人ともそれなりなダメージを受けるだろう。
「焼き尽くせ!!ベギラゴ………ぐぅ!?」



だが、余程の達人でない限り、詠唱時間が長いのが欠点だ。

頭に、ゴツリと鈍い衝撃が走る。
「遅い」
素早く後ろに回り込んだイザヤールが斬夜の太刀で峰うちをしたのだ。



侮っていた奴らに情け容赦なく圧倒される。
これはキングレオ城とサントハイム城で以前2回も経験している。
しかもその度に上司から、部下から馬鹿にされてきた。



「なめやがってえええぇぇぇ!!」
怒りに任せて、大魔神の斧を振りかざす。
勿論、そんなザマでは三人を倒すことが出来ない。
地面がいたずらに耕されるのみである。

三人は斧の攻撃の間を縫って、攻撃を仕掛けていく。


(明らかに、武器に体が付いて行っていない…………)
イザヤールは、攻撃をしながらそう思い始めた。
これでは、武器を振り回すのではなく、武器に振り回されているようなものだ。

戦いは、武器の強さや個人のスキル以上に、武器とその使い手のシンクロ具合に左右されることを示す悪い例のようなものだ。

643誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/04(土) 22:46:25 ID:uVLSJnE60
ハア………ハア………クソォ!!」
次第に、バルザックが息切れしてきた。

「マスター、ヒーロー、畳みかけるぞ!!」
「了解だ。」
「任せな!!」


「タイガークロー!!」
「ミラクルソード!!」
「超隼斬り!!」

「ぐあああああああああ!!!」

強力な技を3つ全身に受け、バルザックの体は地に伏す。
「こんな………はずでは…………。」




「バルザック………だったな。もうやめろ。」
「何だと?」

ここまで徹底的に攻撃して、何が言いたいのだ。

「貴様は、人間だろう?」
「黙れ!!」
「近づいてみて、分かった。姿こそ人間とかけ離れているが、何かの力を使って魔物になった人間だろう?」

かつてガナン帝国兵のような魔物になった人間によく近づいていたイザヤールだからこそわかることだ。




だが、その言葉は、バルザックの神経を逆なでするだけだった。
「黙れと言ってるだろ!!」


―魔族の恥め、所詮は元人間という事か
―人間のくせに威張り散らしやがって
―さすがはキングレオ様。同じ元人間だというのに、どこで差がついたのか


バルザックは何かをするたびに部下から、上司から、同僚から人間であったことをネタに蔑まれてきた。
とうとう怒りも限界に達したバルザックは、イザヤールを頭から真っ二つにしようと再び斧を振るう。
だが、これまで何度もやって悉く失敗に終わったやり方が、上手くいくはずがない。

イザヤールは紙一重で斬撃をかわし、後頭部に蹴りを入れる。
バルザックは前のめりに倒れた。

644誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/04(土) 22:46:42 ID:uVLSJnE60
「貴様を倒す必要はない。もう、止めにしないか?二人は、どう思う?」
「オレは別にいいけどよ、アンタはそれでいいのか?」
「人間を守り、正しい方向に導くのが、守護天使の役目だ。」
「うむ。ワシも鬼ではない。最初は許すつもりはなかったが、哀れなヤングにトドメを刺すようなことはせん。」



端から見て、降伏か死しかバルザックには残されていないようだった。

(こうなれば………どうなるか分からないが「アレ」を使うしかあるまい……!!)

「貴様等、それで、勝ったつもりか?」
「まだやるというのか?やめておけ。」

「私には、とっておきの奥の手があるのだよ!!」
バルザックはザックを開ける。




そこから出てきたのは、光る石。
なんの変哲もない鳥の卵のような形の石、のはずだった。


三人の顔色が突然変わる。
「やめろ!!」
イザヤールが怒鳴る。
本人以外の誰もが驚くほどの大声で。
「こいつが、そんなに怖いか?」
バルザックは得意げにそれを見せびらかす。

「違う!!それは、ヤングのような人間が使っていい物ではない!!」
モリーも、この感じは覚えている。
法王の館で戦った、杖の邪悪な力の操り人形にされている黒犬。
石から醸し出される気配は、邪悪さこそ感じないもののその杖から発せられる魔力に酷似していた。


「知っているのか?コイツは、進化の秘石。これで私は、誰よりも強い力を持つことが出来るのだ!!
 貴様等、私を侮ったこと、後悔するがよい!!」

バルザックはそれをそのまま飲み込む。

645誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/04(土) 22:46:59 ID:uVLSJnE60

「危ない!!止めるぞ!!」
イザヤールが、モリーが、ザンクローネが、バルザック目掛けて攻撃を仕掛ける。











◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




気が付くと、先ほど攻撃を仕掛けた3人が倒れていた。
「どうだ。これが進化の秘宝を使った、私だ!!」
声を上げたのは、バルザック。
それは獣人の姿ではなく、青い巨鬼の姿だった。

「凄いぞ!!かつて進化の秘宝を使った時より、力を感じる!!
感謝するぞ!!エビルプリースト!!」

尻尾一振りで3人をなぎ倒したバルザックは空に向けて、勝利の咆哮を上げる。
やはり、私を案じて、武器以外にとっておきの進化の媒体である、これを私に支給したのだろう。
だが、それでエビルプリーストよりも強くなってしまったのは、皮肉な話だが。






「私は、むて…………き………だ…………わ………………た……………し…………………」

(何だ?これは?)
突然、胸の中が焼けるように熱くなる。
「ぐあああああああああああ!!!!!」
痛みにこらえきれず、地面を爪で掻き毟る。

「な…………に………を、し……………た………き……さま…ら………」
消えていく。
記憶も、劣等感も、妬みも、憎しみも。
かつて私が進化の秘宝を使い、魔物になった時は、意識だけは保っていたはずだ。

(私は人間を棄て、力のある魔族になりたかった。
だが、望んでいたのはこんなものではない。こんなものでなかったはずだ。)

646誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/04(土) 22:47:22 ID:uVLSJnE60
そうだ、私が、本当に望んでいたのは……………)
最後に、エドガンに師事していた時から抱いていた錬金に対する想いも消えた。

「思い出せぬ………何も………。」

だが、破壊の意志だけは残っていた。
そして、より多く敵を破壊するための知恵と、より強い敵でも破壊できる力。
「滅びよ………すべての生きる者共よ………」


過去をすべて失ったバルザックは、今度は次第に巨大化していく。
トラペッタを襲ったギガデーモン、程大きくはないが、かつてのバルザックを優に3倍は凌ぐ大きさだ。


エビルプリーストが渡したのは、かつて自分が変身するために使っていた道具とは似て非なる物。
そして、エビルプリースト本人が更に研究を重ねて、使った物とも異なる物。





それは、強い武器や防具を錬金を通して更に強くさせる石だ。
ある星屑の力を持つ剣を、銀河の力を秘めた剣にさせ、
ある輪廻の蛇の力を持つ盾を、ウロボロスの力を持つ盾に進化させ、
またある鬼神の力を持つ槍に、地獄の力を与えた。


だが、それらの武具に進化の秘石を通して凄まじい力が備わった理由は、あまり知られていない。
答えは極めてシンプルである。
元々の武具が、かなりの力を持っているからだ。
力のない者は、力を手にした時、それを持て余し、自らの崩壊を招く。
それは、武器にも言えること。


ただの凡庸な武具に、進化の秘石を使っても、強くなることはない。
元々強力な武具に、それのみならず魔力を秘めたオーブや、太陽の石、氷の結晶などの中和剤を使って、その武器は進化するのである。

そんな道具を、錬金釜も、その力を中和するアイテムもなしに力のないものが使ったらどうなるか、火を見るより明らかである。



そして、許容しきれない力はとめどもない怒りに共鳴して、持ち手に理性の崩壊をもたらす。

647誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/04(土) 22:47:40 ID:uVLSJnE60

かつてのバルザックの上司であったピサロが、愛した者を殺された怒りによって、理性を失ったように。

バルザックの蔑まれ嬲られることで溜まり切った怒りと、強すぎる外部からの力は完全なる自我の崩壊をもたらした。


エビルプリーストは、これを予想し、バルザックに進化の秘石を渡したのだ。
元人間であることをコンプレックスにしているバルザックのことだ。
人間らしい感情に振り回され、碌なことにならないのではないかと。

最も、エビルプリーストはこの道具を知らなかったはず。
本当に渡したのは、誰だろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


場所はバルザック達がいる場所から少し東。
ここでも、人と竜の激しい戦いが繰り広げられていた。


「フ、いくら力を身に付けたと言っても、人の身では体力の限界があるぞ」
「はは、そっちこそ、魔族だからと言って、そんな大きな竜に長い間変身できないんじゃないか?」


どちらが言うことも当たっていた。
いくら強い力や技、魔法を身に付けていようとそれを使うための体力には限界がある。
また、竜王の方もこれほど長い時間変身していたことは、かつてアレフと戦った時でさえなかった。
だからと言って、迂闊に攻めの一手に出ると、その隙を突かれる可能性が高い。


一度目の放送が始まってから、4時間以上。
既に互いに消耗しながらも、先の全く見えない戦いであった。



だが、その戦いは急遽水を差される。



「な、なんだよ!?アレ!!」
いち早くレックが、それに気づく。
「なんじゃ!?」
「竜王、見ろよ…………」


遠くの方に、青い、巨大な、竜王よりも巨大な何かが暴れていた。
まだ距離はレック達とはかなり離れている。
逆に言うと、そこからでも見えるほどのメガサイズだということだ。


「気にすることはない。キサマはワシとの戦いにのみ集中すればよいのだ。」
竜王が爪を振るう。

648誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/04(土) 22:48:00 ID:uVLSJnE60
「そんなこと、言ってる場合か!!向こうで、誰かが襲われているかもしれないんだぞ!!」
レックは鋼の剣でそれを打ち払い、向こうへ行こうとする。
ひょっとしたら向こうに、ターニアや他の仲間、ティア達がいるかもしれない。

「ワシのことは恐れないのか?」
「あんたのことは知っているけど、向こうにいる奴は何なのか分からないんだ!!」
「小僧が、ワシをどこまでも愚弄しおって。これで片づけてくれるわ!!」
「竜王の口に闇の力が集まり、炎にして吐き出す。」


それが黒く輝く闇の炎となって、レックに襲い掛かる。
「マズいな………ならば……」
闇の力は、勇者の雷の力と同様、軽減させる方法が少ない。

「打ち返せえええ!!勇者の雷よ!!ギガディィィンン!!」


とっておきの魔法を打ち、闇の炎を弾き飛ばす。
やはり、闇の力に対応するのは、勇者の雷だ。


「まさか、闇の力を秘めた炎でも倒せぬとはな。」
「誰かを助けに行くところを邪魔するなんて、王の誇りとしてどうなの?」
「貴様………………。」

「それじゃあ、俺は向こうにいる人達を助けに行くよ。」
「待て!!」
「まだ何かあるの?」


「人間の脚ではあの魔獣がいる向こうに行くまで時間がかかるだろう。乗るがよい。」
「それは助かるけど、いいのか?」
「構わん。それともう一つ、そこの岩の上に、ワシのザックが掛かっている。中に回復の薬があるはずだ。ヤツを倒した後、それを使え。」
「どういう風の吹き回しだ?」

レックは流石に驚きながらも、そのザックを取る。中には言われた通り、クスリが入っていた。

竜王は背中を丸め、背に乗れというポーズをとっている。
どうやらレックを騙すつもりでもなさそうだ。


「人間に協力するなどと馬鹿げたことはできぬが、傷つき弱った敵を殺すことも、王の誇りに反するからな。」
「また、「誇り」ってやつか。アンタはなぜ、そこまで誇りにこだわるんだ?」
「黙れ。人間にそこまで話す必要などない。ヤツが倒れれば、すぐさま助けた者共々殺してくれるわ。」
「おおこわ。」


竜王は翼を広げ、夕日をバックにレックを乗せて飛んでいく。
「竜に乗るなんて、久しぶりだね……」
ムドーの城へ乗り込むときのことを思い出す。
最も、前は黄金竜で、今回は紫竜であるが。

649誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/04(土) 22:48:25 ID:uVLSJnE60


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「…………う………無事か?」
イザヤールが起き上がる。
「ああ、なんとかな。」
「マスターの悪い予想が、当たってしまったか。」


「まだ………生き残っているな………虫けらのように潰してくれるわ!!」


凄まじい力を得たバルザックは、虫でも潰すかのように平手で3人を潰そうとする。

「まだだ!!!」
しかし、イザヤールが斬夜の太刀でそれを受け止める。
「イザヤール!!」
「マスター!!それでは!!」


「人を守る。それが守護天使としての役目だ!!」
力ではかなわない、はずなのにそれでも必死でバルザックの手を受け止める。


「モリィィィィ!!バーニイイイング!!」
モリーもあきらめず抵抗を続ける。


「温い。」
だが、その炎は氷の息によって打ち消される。

「くそったれ!!」
ザンクローネが飛び出し、バルザックを斬りつける。
だが、巨大化したということはそれを守る脂肪の鎧も厚くなったということ。
その斬撃はバルザックの皮膚を薄く傷つけるだけだった。

「貴様等を破壊してくれる!!」
バルザックはぶおんと押さえられていない方の手を振るう。
なんとかザンクローネに当たらずに済んだが、次もかわせるという保証はない。
巨大になったということは、それ相応に攻撃範囲も広がっているからだ。そして………。

「ぐはっ!!」
ザンクローネに当たらないと思っていたその手は、イザヤールに当たった。
急に別の方向からの追撃に耐えられず、岩壁に叩きつけられる。

「イザヤール!!」
「マスター!!」

650誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/04(土) 22:48:44 ID:uVLSJnE60

「これで、貴様たちを守る者さえ、いなくなったな。」

(まずいぞ、ヒーローを狙うと見せかけて、守りの要であるマスターを攻撃するとは、戦略の質まで上がっている!!)


守りの要を失ってしまったことの危険さは、モリーが分かっていた。
かつてバトルロードでエイトのチームと戦っていた時と同じだ。
自分のチームのはぐれメタルが倒されてしまってから、戦況が極めて悪くなったからだ。

たとえ今の攻撃で死んでいなくても、これまで通り守りの要を勤めることは出来ないだろう。

先程までとは打って変わって、3人が圧倒的に不利だった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「この辺りで良いか?」
「ああ、ありがとう。下ろしてくれ。」
レックはバルザックから少し離れたところで降りる。


幸いなことに、まだあの青いバケモノには気づかれていないはずだ。
だがこれは逆に言うと、誰かが奴に襲われている可能性が高い。


そこにいる人達を案じ、レックは走り出す。



レックの背中が遠くなると、竜王も変身を解き、元の姿に戻る。
そして、こう呟いた。
「必ず、戻って来い」


(ヤツめ、ここまで近づいても気づいてないとは、それほどでもない。
おそらく、エビなんとやらと同じ、力を何かの形で手にした力無き者だろうな。
だが、そういった者だからこそ、何をするか分からん。)


竜王が気になったことはもう二つ。
人間に協力するなど、馬鹿げたことは王の誇りが許さない。
だが、一度戦った相手が自分との戦いで消耗していたため、別の者に倒されるのはどうだろうか。


最後の一つは、レックが言ったこと。
(誇りでもなんでも、一つの物に固執していては、出来ないことも、手に入れられない物もあるよ。一度でも、考え直すことはなかったのかい。)

自分が誇りを貫くことで、誰かの誇りを壊してしまうことは、正しいことなのか。


自分が、何をしたいのかは分かっていた。
だが、それを、誇りが許さなかった

651誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/04(土) 22:49:06 ID:uVLSJnE60

【C-7/荒野/1日目 夕方】

【モリー@DQ8】
[状態]:HP1/3,MP微小費
[装備]:蒼炎のツメ@DQ10
[道具]:支給品一式、不明支給品(1〜3)
[思考]:ザンクローネと共にこの殺し合いを止める
    レックたちへの加勢
【ザンクローネ(小)@DQ10】
[状態]:HP1/3
[装備]:プラチナさいほう針@DQ10
[道具]:支給品一式、不明支給品(0〜2) 
[思考]:ふてぶてしく全てを救う


【イザヤール@DQ9】
 [状態]:気絶
 [装備]:斬夜の太刀@DQ10
 [道具]:支給品一式 不明支給品(0〜1) 
 [思考]:アーク(DQ9主人公)と再会し、謝罪したい。
 [備考]:死亡後、人間状態での参戦です。
     (「星のまたたき」イベントで運命が変わって生き返り、アークと再会する前です)

【バルザック@JOKER】
 [状態]:HP全快、メガボディ化
 [装備]: なし
 [道具]:支給品一式、道具0〜1個
 [思考]:全てを破壊する
 [備考]:
※主催からアイテムに優遇措置を受けている可能性があります。
※エビルプリーストによってヘルバトラーやギガデーモンに近い位階にまでパワーアップしています。
※過去の記憶を失い、ただ戦うための戦略と誰かを殺すことしか覚えていません(進化の秘宝を使ったデスピサロのように)
※バルザックの姿はバルザック+(第二形態)です。


【レック@DQ6】
[状態]:HP1/3 MP3/8
[装備]:鋼の剣
[道具]:支給品一式、エルフの飲み薬@DQ5確認済み支給品1~2個
[思考]:バルザックを倒す。ターニアを探す。
[備考]:竜王に好奇心を抱いています。

【竜王@DQ1】
[状態]:HP2/5 背中に傷
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1個
[思考]:悪を演じ、誇り高き竜として討たれる。
[備考]:レックを助けるか、自分の誇りを貫くか悩んでいます。


※D-7南/荒野にガナンのおうしゃく@DQ9が落ちています。
※バルザックの近くに、大魔神の斧@DQJが落ちています。
※バルザックの飲み込んだ進化の秘石@DQ9は溶けたか残っているかは、次の書き手にお任せします。

652ただ一匹の名無しだ:2017/11/08(水) 23:17:06 ID:zho7k7jE0
今思ったけど本当にルーナ殺したかったから殺したのはアベルではなく真っ赤な誓いの書き手自身だったという皮肉

653ただ一匹の名無しだ:2017/11/09(木) 12:43:06 ID:y94PKCCo0
投下乙です
正直バルザックはもう虫けらのように死ぬイメージしかなかったけど意外と頑張っておられるな
放送も目前まで来てるんだろうけど大人数の難所が多そうだから時間はまだかかりそう

654ただ一匹の名無しだ:2017/11/09(木) 19:37:21 ID:eGA8mvH60
???「読み手をたぶらかし、スレを乱した自演書き手め。死をもって償うがよい」

655ただ一匹の名無しだ:2017/11/11(土) 11:18:34 ID:tLwX2EIA0
投下乙です。
竜王がこれからどう動いていくか…
レックがほんとまともな主人公で安心する

ルーナの件はもういいよ。死んだのが嫌なら1st読むといいぞ

656ただ一匹の名無しだ:2017/11/11(土) 12:11:57 ID:lyBUIwUM0
しかしこれだけあちこちでバトル起きてるとなると第二放送始まる頃には残り人数半分は軽く切りそうだな

657ただ一匹の名無しだ:2017/11/11(土) 12:30:11 ID:vAy5KMWM0
ねーよ

658ただ一匹の名無しだ:2017/11/11(土) 13:32:55 ID:lyBUIwUM0
>>657
消えろぶっとばされんうちにな

659ただ一匹の名無しだ:2017/11/11(土) 13:52:35 ID:RFWVXTDY0
>>658
イキリオタクかよ…w

660ただ一匹の名無しだ:2017/11/11(土) 19:10:33 ID:lyBUIwUM0
>>659
消えろぶっとばされんうちにな♪

661ただ一匹の名無しだ:2017/11/11(土) 20:47:02 ID:DQ9N.fFU0
>>660
ダサいからやめな

662ただ一匹の名無しだ:2017/11/13(月) 19:03:13 ID:ee46RK/k0
>>657 >>659   >>661
今までの非礼を詫びるすまなかった。

663ただ一匹の名無しだ:2017/11/26(日) 10:50:44 ID:ZjGNfAlg0
予約来た!
これで勝つる!

664ただ一匹の名無しだ:2017/11/26(日) 10:56:33 ID:Ju27JOOA0
驚くぐらい反応はやいなお前

665 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/26(日) 21:50:03 ID:RkIRCQzk0
投下します

666Lucky Dice ◆znvIEk8MsQ:2017/11/26(日) 21:50:48 ID:RkIRCQzk0
運命とは、双六盤のようなものである。
沢山のマス目に、様々なことが書かれている。
それが止まった者にとって幸せな結果をもたらしたり、不幸せな結果をもたらしたり。
中には、マス目一つで、人生が180度変わってしまうこともある。


とりあえず、この二人がいま止まっているマスは、間違いなく悪いマスだろう。

なにしろ、剣が槌、もしくは矢が絶え間なく降り注ぐのだから。
「くそっ!!」
間一髪のところで剣を躱したトンヌラが、舌打ちをする。
剣の次は矢で攻撃。これはチャモロのかまいたちが撃ち落とした。


普通なら攻撃を避けた後は、こちらから攻撃に転じればいい。
だが、この強力な機械兵、キラーマジンガにはそれが通じないのだ。
攻撃を避けた先に、さらに追加で攻撃が来るのだ。
剣、弓、槌の3つを使った多段攻撃。
しかもそれぞれが中距離、遠距離、近距離攻撃の役割を担っているのだから、安全地帯が全くない。
それらの武器の威力も、スクルトをかけておいたとはいえ、まともに当たれば致命傷は免れないものだろう。

「まずいですね……以前戦ったキラーマシンに似ていますが、強さは段違いです。
それにケガしているはずのローラを早く助けに行かないと………」

後ろに下がり、ベレッタM92をキラーマジンガに向けて発砲する。
トンヌラ達を察知しているらしき目のような部分を狙って打ったが、やはり使い慣れていない武器なので、狙いは逸れてしまった。
銃弾はキラーマジンガの肩に命中したが、その部分のフレームを薄く傷つけただけだった。
「折角の武器も、この程度とは………」

やはりアサルトライフルを使うべきだったのだろうか。
いや、無いものねだりをしていても意味がない。

今度はお返しにとばかり、矢を連射しながらキラーマジンガが迫ってきた。
しかもそれはトンヌラを集中して狙っている。

667Lucky Dice ◆znvIEk8MsQ:2017/11/26(日) 21:51:25 ID:RkIRCQzk0

「しまった!!」
「なんのこれしき!!」

しかし、チャモロが多数の真空の刃を飛ばす。
さっき使っていたかまいたちの応用編であるしんくうはだ。
トンヌラを狙っていた矢は、一本残らず撃ち落とされた。

「凄いじゃないですか!!」
トンヌラも褒めざるを得なくなる。
「でも、これではあの魔物は倒せません。」

キラーマジンガのボディには、魔法を跳ね返す力がある。
それのみならず、固いボディは真空の刃を通さないのだ。


だが、これまで遠距離から技を使っていたチャモロが一転して敵に突っ込む。
キラーマジンガはチャモロに向けて斬撃を放つが、フェイントをかけて躱し、続いて襲い来るメガトンハンマーも紙一重で避ける。

チャモロが武闘家の修行で培ったフットワークだ

(ハッサンさん!!力を貸してください!!)
キラーマジンガに向けて真っ直ぐに拳を突き刺す。
彼の亡き友が得意としていた、正拳突きだ。
それだけでは倒せないが、地に足を付けていないキラーマジンガは大きく吹き飛ばされた。

「今です、トンヌラさん!!」
チャモロの合図で、離れてしまったアサルトライフルを拾いに行く。


「チャモロさん、魔法だけじゃなく、体術も使えたのですね。」
「ええ。僕の仲間のおかげです。」
トンヌラは武器を取り戻し、少し落ち着きを取り戻す。
チャモロに、前衛も後衛も務められることに親近感を感じ、同時に仲間のおかげで強くなれたと言っているチャモロに少し妬みを感じた。
だが、今はそんなことを感じている場合ではない。
距離を大きく離されたキラーマジンガが、再び迫ってくる。

668Lucky Dice ◆znvIEk8MsQ:2017/11/26(日) 21:51:48 ID:RkIRCQzk0



以前キラーマジンガと戦った時、チャモロは一つ見抜いていた。
3つの武器を持ち、魔法も跳ね返される。
一見隙のないように見える相手だが、そうでもない。

一つは、チャモロが自分で示したように、急に攻撃のパターンを変えると、対応するためのテンポが悪くなること。
もう一つは剣、矢、槌のうち2つを使ったら、次の攻撃まで一瞬のタイムラグがあること。


トンヌラにも勝るとも劣らない観察力や分析力、判断力から導き出した答えだ。
しかし、これで楽勝かと言われれば大違い。
敵のことを知っているだけで勝てるのなら苦労はいらない。
相変わらず自分達の攻撃手段は限られているし、敵の攻撃が強力なのは変わらない。
さっきのようにチャモロの正拳突きを食らってくれるという保証もないだろう。


チャモロはしんくうはで矢を撃ち落とし、トンヌラは取り戻したアサルトライフルをキラーマジンガに向けて発砲する。
しかし、思い通りにいかない。
戦いに関してはめっきり素人だったパトラの、銃を撃ち落とした時とは訳が違う。
このままでは距離を詰められてさっきの状態に戻されてしまう。
今持っている武器については、実は良く分からない。
この使い方でキラーマジンガを倒すのは難しいが、何か他の使い方があるのだろうか。


隣にいたチャモロが、あるものに気付く。
(トンヌラさんが使っている武器は、何でしょうか?)
(引き金を引くことで金属の欠片を飛ばしていることから、ビッグボウガンに似ている物だと思いますが………)

更にトンヌラが撃つ。だが、やはり大きな効果は見られない。
同様にしてトンヌラも、自分の武器に疑問を持っていた。
(そういえば破裂音、煙の臭い………もしや?)

さっきからトンヌラが不自然に思っていたのは、誰も火の呪文を使っていないのに、煙の臭いがすることだ。
キラーマジンガが持っている剣は、炎の力を纏っているが、それではないようだ。

669Lucky Dice ◆znvIEk8MsQ:2017/11/26(日) 21:52:16 ID:RkIRCQzk0


「チャモロさんは、火の呪文が使えますか?」
「僕は風の魔法しか使えないです。」
「そうですか……なら、これを持っておいてください。」
「いいですが、どういうことですか?」

トンヌラはチャモロにアサルトライフルを渡す。
一応自分にはもう一つ武器があるし、ここで裏切られる危険性もほぼない以上は、渡しても構わないだろう。

キラーマジンガが迫ってくる。
あと数秒で剣先が届きそうだし、迷っている暇はない。

「「剣に向かって、投げてください!!」
トンヌラがチャモロにアサルトライフルを渡すや否や、指示を出す。

(!?)
撃っても余り効かないからといって、武器ごとぶつけても変わらないと思うが、なりふり構わず投げる。

言われた通りに、銃を剣に向かって投げつける。
「炎の力よ、集まれ、ベギラマ!!」
「トンヌラさん、それじゃ……」

トンヌラが放ったベギラマは、キラーマジンガに当たって跳ね返されるかと思いきや、チャモロが投げた銃に命中する。


同時にキラーマジンガは、投擲物に対応して、灼熱剣エンマで薙ぎ払う。







(!?)

派手な爆音と共に、アサルトライフルが暴発を起こした。


「読み通りです!!行きますよ、チャモロさん!!」
そのまま二人はキラーマジンガを無視して、橋を通り過ぎる。
追撃の攻撃は来ない。
暴発によって壊されたか否かは不明だが、先へ進む。

最初は逃げるつもりはなかったが、このやり方で倒せないなら二人で完全に打ち倒すのはほぼ不可能だ。
それに、これ以上時間をかけすぎるとローラの身が危ない。


どうにかして二人は危険なマスから抜け出す。

670Lucky Dice ◆znvIEk8MsQ:2017/11/26(日) 21:53:05 ID:RkIRCQzk0
「トンヌラさん、今、何をしたのですか?」
橋からある程度離れた後、何が起こったか分からないチャモロが尋ねる。
「あの武器から煙の臭いがしたので、何か爆発か炎をトリガーにしているのだと気づきました。
ならば炎の魔法と、キラーマジンガの炎の力を持った剣を使えば、武器の暴発と、それによるダメージも狙えるのではないかと思ったのです」
「なるほど。初めての武器なのに、素晴らしい洞察力ですね。恐れ入りました。」
「いえ。さっきチャモロさんが敵の攻撃のテンポを見せてくれたからです。それよりもローラさんが心配です。急ぎましょう。」



チャモロも自分と同様に、観察力に長けているようだ。
二人で強敵であるキラーマジンガを倒せたのも、頭脳によるものだ。



「トンヌラさん、これは……」
「確かローラさんが、使っていたものです。移動を助けるものらしいですね。」

暫く進んだ後、平原に落ちている杖を見つける。光が消えていることから、使えなくなって捨てたのだろう。

「恐らく、ローラさんはあの村に向かったのでしょう。」
足跡からそう考えるのが妥当だ。
多少足止めを食わされたとしても、ケガをしていることに加えて身重であるローラに追いつくのは、そう遠くないことだろう。



トンヌラの口元に、笑みがこぼれる。
理由の一つは自分の観察力で、自分より強い敵を出し抜いた、すなわち、忌まわしい二人では出来ない方法で成功したという優越感。
もう一つはチャモロという役に立つ人間が自分を信頼しているということ。


(おっといけませんね。慢心すると、足をすくわれます)

トンヌラは唇を引き締める。
まだローラの安否は確認しておらず、機械兵の脅威から逃れたとはいえ、一つ武器を犠牲にしてしまった。
次に現れる敵も、さっきと同じように都合よく勝てることもないだろう。
それに肝心の、ローレルとルーナがどうなっているかも分からない。
既に死んでくれていれば万々歳だが、万が一出くわしてしまえば、面倒なことになるだろう。

671Lucky Dice ◆znvIEk8MsQ:2017/11/26(日) 21:53:28 ID:RkIRCQzk0




トンヌラが知る由もないことだが、二人は既に死んでいる。
一人は騙され、一人は死ぬことを求めすぎて死んだ。
彼は近々、それを知ることになる。
キラーマジンガとの戦いを運よく切り抜けたことといい、彼の双六は良いマスが多いのだろう。


だが、もうじき知ることになる。
彼の双六は、決して良いマスばかりではないということを。


○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○



時は少し遡る。
(………だめーじ、50ぱーせんと。移動問題ナシ)
残念ながら、ジンガーは壊れてはいなかった。
(進行方向ト戦闘力ヲケイサンシテ、ヤツラガあべるサマニキガイヲ加エル可能性、20パーセント。)
(あべるサマノモトニ戻ルコトヲ優先シマス。)


ジンガーはトンヌラ達とは逆の方向に進む。
その方向にアベルはいないのだが、破壊兵は新たに何を始めるのだろうか。



【I-5/平原/1日目・夕方(放送直前)】

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP5/10 MP3/5 腕、肩、脇腹に切り傷(応急処置済) ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める
    ローラを追いかける
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。

【トンヌラ@DQ2】
[状態]:健康 MP微消費
[装備]:ベレッタM92@現実(残弾2)
[道具]:支給品一式 支給品0〜1(本人確認済み)
[思考]:様子を見つつ、生き延びる。ローレルとルーナに殺し合いの中で死んでもらう為、危険人物として吹聴する
    ローラを追いかける

※トンヌラはローラの死による自分達の消滅を危惧していますが、その可能性はまずありません

【G-6/平原/1日目・夕方(放送直前)】
【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:HP1/2 
[装備]:灼熱剣エンマ(ヒビ)@DQS メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:アベルの元に戻る


※SIG SG550 Sniper(アサルトライフル、残り弾9)は暴発しました。

672Lucky Dice ◆znvIEk8MsQ:2017/11/26(日) 21:57:58 ID:RkIRCQzk0
投下終了です。
作中にトンヌラがアサルトライフルをベギラマで暴発させる描写がありますが、実は銃の仕様上おかしくなっているかもしれません。
一応、アサルトライフルとベレッタについては調べましたが、私はガンオタクではないので銃に詳しい方がいらっしゃれば指摘お願いします。
その他矛盾点などがあればよろしくお願いします。

673ただ一匹の名無しだ:2017/11/27(月) 23:39:15 ID:PIWubQGs0
投下乙
何だこのチャモロかっけえ
これは間違いなくパーティのリーダーの器
アサルトライフルが爆発するかどうかは知らないけどまあその辺は適当でいいのでは

674 ◆2zEnKfaCDc:2017/12/06(水) 01:11:43 ID:i6behV3I0
投下します。

675Usual:2017/12/06(水) 01:13:11 ID:i6behV3I0
トラペッタ、リブルアーチ、ポルトリンク、トロデーン城。
この殺し合いの舞台には4つの拠点と言えるべき土地が用意されている。
その中でもトラペッタは外壁に囲まれた構造からトロデーン城に次いで潜伏や籠城に適した拠点であった。
しかし、その外壁は皮肉にもことごとく正義の使徒へと牙を剥く結果となってしまうこととなった。
ギガデーモンの襲撃時にはその外壁は内部の者たちの脱出を阻む障害物となった。
外部の視界を遮断していたその壁はゲマの奇襲を成功に導いた。

そして、今やその外壁によって隔離していたはずのバラモスゾンビは封鎖された扉を打ち壊し、再び殺し合いの場に解き放たれた。

バラモスゾンビは崩れ去る瓦礫の中からゆっくりと顔を出すと、目の前に"獲物"がうようよと居ることに気づく。
突然の襲撃に虚をつかれた皆が武器を構えるより先に、口から吐き出した酸のブレスで辺り一面を濃霧に変え、戦いの場を整える。
かつて魔王だった者の目には命などもはや喰らうものにしか映らないのだった。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

676Usual:2017/12/06(水) 01:13:59 ID:i6behV3I0

エイトは真っ先にバラモスゾンビに向かって走り始めた。

見るからに危険だと分かる明確な敵。
放置すると誰に危害が及ぶか…
その先を考えるや否やエイトは飛び出していた。

バラモスゾンビはエイトの剣を腕で受け止める。
これが痛覚を持つ生物でさえあれば、腕は裂けもう動かすこともままならないだろう。
しかしバラモスゾンビは気にも留めずにその剣を振り払いそのままエイトへと振り下ろす。

エイトはすかさず横へ飛び退き回避する。
空を切った腕は大地を隆起させ、その場の全員にその破壊力を思い知らせた。

「動きはそんなに速くないから、気をつけて戦えば大丈夫だよ。」

アルスがぼそりと呟いた。
どれだけ破壊力のある一撃も当たらなければ意味は無い。
そんな戦いの常識とさえ言えるようなことも感覚から抜け落ちていたことにエイトは気づく。

見たところ敵の攻撃の威力はいつか戦った巨竜の力を解放した竜神王に及ぶかどうかといったところ。
しかし回復効果が制限されている状況下では今までのように回復呪文で敵の攻撃を受けつつ相殺するというわけにはいかない。
今までの戦いとは違うのだとエイトはつくづく思い知らされる。

677Usual:2017/12/06(水) 01:15:12 ID:i6behV3I0
「ブライさん、お願い。」

その一言を残しアルスがバラモスゾンビに向けて走り込むと、バラモスゾンビはアルスを前に片腕を振り下ろした。
その腕がアルスへと届く寸前――――――

「ピオリム!」

ブライの補助を受けてアルスは加速する。
叩きつけられる腕の着弾点をするりと抜け、バラモスゾンビの胴体を思い切り蹴りつけた。
バラモスゾンビはその威力に一歩引き下がりはするものの当然致命打にはなり得ず、懐に潜り込んだままのアルスへと爪を突き出す。
身体を捻ってそれを躱したアルスはそのままドラゴンキラーを突き刺す。

「っ!」

アルスはその時、自分の不運に気づいた。
バラモスゾンビはアルスにとっては天敵と言えるほど相性の悪い相手だった。
上級職に就けなかったアルスはマスターも出来ない下級職で身につけられる小技のみで戦える戦闘スタイルを身につけた。
しかしどれだけ洗練しても小技は小技の域を出ることはない。
バラモスゾンビのように小技を真っ向から跳ね返せるだけの守備力を持った敵を崩す手段をアルスは持たないのだ。
剣は胴体に突き刺さらずに弾かれる。
想像以上の硬さに空中に放り出されたアルスへとバラモスゾンビの腕が振り下ろされんとしていた。

――――――ギィン!

バラモスゾンビの爪と割って入ったエイトの奇跡の剣が鈍い音を奏でる。
地に落ちたアルスが受け身をとって立ち上がると同時にエイトはバラモスゾンビの腕を弾き返す。

678Usual:2017/12/06(水) 01:17:08 ID:i6behV3I0
殺意の対象をエイトへと変えたバラモスゾンビはエイトを踏みつけるため右足を上げる。

「大防御!」

全体重を載せた一撃は受け止められないと判断し、ダメージを最小限に抑えるために奇跡の剣を投げ捨てての完全防御の構え。
バラモスゾンビの攻撃を受け止めたエイトは投げ捨てた剣を拾い上げ、受けたダメージを相殺するかのように斬り付ける。
奇跡の剣で放つミラクルソードであっても効果がほとんど感じられない。



「まずいわね…」

ふとデボラが呟くのをアルスは聞いた。

「どうしたの?」

「アイツ、傷がだんだん治ってるじゃないの。」

アルスやエイトがつけた傷がじわじわと治っていっているのだ。
考えてみると、ひとつの街を崩壊させるほどの戦闘を終えているにも関わらず身体に傷らしい傷も見受けられなかった。

実際のところは街の大部分を崩壊させたのはバラモスゾンビではないのだがそのことをアルスが知る由はない。

「つまり、ちまちま攻撃しても勝てないということですかな。」

「…僕には出来ないよ。あいつを一気に倒すことなんて。」

自分が無力だということは実感出来ても、悔しいだとかそんな感情はなかった。
こんな敵と出会ってしまったのも天命なのだろう。
ここで殺されるとしても構わない。サイコロの目が悪い方向に傾いた。ただそれだけのことなのだ。
仮にその不運の贄が自分の命だとしても。

679Usual:2017/12/06(水) 01:18:38 ID:i6behV3I0

「私なら撃てます。」

しかし、バラモスゾンビの攻撃を何とかいなしながらエイトが名乗り出る。

「しかしそれには時間が必要です。アルスさん、デボラさん、ブライさん、お任せしてもよろしいですか。」

「…わかった、任せて。」

そうだった。
未知数なのは敵の力だけではない。
隣にいるのはいつもの味方ではない。
ガボでもメルビンでもアイラでも、マリベルでもないのだ。

既に死んでいる人もいれば、どこにいるのかも分からない人もいる。
もしかしたらもうみんな死んでいるのかもしれない。



エイトはアルスとデボラの後ろへと下がる。
ブライより後ろに下がることは出来なかった。
ブライがトロデ王の面影を残しているからなのか、いつもの戦いで後列を担うことになっても魔法使いのゼシカより後ろには下がらなかったからなのかは分からない。
それでもバラモスゾンビの射程外に居ることを確認し、全身に力を溜め始める。
アルスとデボラは前線に出て戦い始めた。
二人とも身軽なもので、一撃一撃が重いバラモスゾンビの攻撃を的確に躱していく。
ブライはその二人を持ち前の呪文で補助している。
そんな中、自分が一撃必殺のために力を溜める。
一見バラモスゾンビに対して完璧な布陣のように思える。
しかしこの布陣に引っかかる点があるのも確かだ。

いつもの戦いではこういった相手に真っ先に飛び込んでいくのはヤンガスだった。
それをゼシカやククールが呪文や道具で補助して、ゲルダとモリーは多彩な手数で相手を撹乱していた。
それだけで勝てる相手であれば自分はそれらの補完をして、ジャハガロスやラプソーンなどの強敵が相手であれば必殺の一撃を叩き込むために力を溜める。
その戦い方はおそらく正しかったのだろう。

そこまで考えたところでエイトは現状に足りない部分に気づいてしまった。
この布陣がひとつの失敗で崩壊し得るとても脆いものであるということに。

アルスとデボラは確かに無傷のまま敵の攻撃を捌き続けている。
でも、ここにはヤンガスのように敵の攻撃を受け止められる者がいないのだ。
攻撃を受け止めること。
それが成立するのためには言うまでもなく敵の攻撃と同じだけの回復が不可欠である。
回復の制限されたこの世界では危険な行動であるのは間違いない。
しかし真っ向から攻撃を受け止められるということは多少の想定外の出来事にも対応出来るということ。
一度回避に失敗するだけで突破されてしまう今の布陣にエイトは不安を感じ始める。
しかし、だからといって何が出来るというのだろうか。
自分に出来ることは力を溜め続けることだけ。

誰か前線で戦ってくれる人が居てくれれば――――――

エイトにはそう願うことしか出来なかった。

680Usual:2017/12/06(水) 01:20:02 ID:i6behV3I0
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

トラペッタを脱出したライアンは気がつくと深い深い暗闇の中にいた。これが生と死の狭間というものだろうか。

私はここで死ぬ。

先ほど呟いた一言を思い出す。
それでも私はギリギリのところで生き延びている。
私だけが生き延びて、他の皆は死んでしまった。

そもそも、死とは何なのだろうか。

かつての戦いの中でもライアンは幾度となく死を経験してきた。
人間と魔物の戦いは空論上、魔物の方が有利だ。身体のポテンシャルが根本から異なるのだから、人間はそれぞれの適正に合わせ個別の"役割"を持った行動を心がけることで戦いの中のポテンシャルの差を埋めていく。

そしてライアンの役割は明文化されていたわけではないが、暗黙の了解として"敵の攻撃を受け止めること"だと決まっていた。ユーリルやクリフトなど、パーティーが崩壊しないためには死んではならぬ者がいる。
だから頑丈な鎧に包まれたライアンが最前線に立って壁となる。
当然、強力な敵を前にしては仲間を守って死ぬこともしばしばだった。
それでも自分にとっての次の瞬間には仲間や教会の神父が生き返らせてくれている。

681Usual:2017/12/06(水) 01:20:48 ID:i6behV3I0

おそらく、この世界での死ではその"次"がないのだろう。

ユーリルは故郷を、そして恋人を失ったことで勇者として覚醒した。理不尽に叩きつけられた"死"への怒りが彼を物語の主人公へと変えたのだろう。
物語の終末を彩るはずだったピサロもまた、理不尽な"死"への怒りを胸に異形の姿へと化した。
彼らにとっての"死"は私の思い描くそれとは大きく異なるものなのだろう。

では、私はどうなのだ。
命に対してどれほど真剣に向き合っていられたのだろうか。
聖なる存在の加護のおかげで失おうとも再び与えられる命を繰り返し、私は"死"を恐れなくなった。
その加護を失い、亡くした命が戻ることのないこの世界でも心の底に根強く残るその感覚は私の中に在るのだ。

私はここで死ぬ。
いつものように死に、いつもとは違って2度と目覚めない。

「それでいいのよ。」

いつか聞いた声。
暗闇の中にかつての仲間、アリーナ姫が立っていた。

682Usual:2017/12/06(水) 01:25:26 ID:i6behV3I0
「悪は何度だって蘇る。仮に今回倒せたとしても世界が平和になることはないの。もう希望なんてないんだわ。」

武道に対して天賦の才を持っていたとはいえ、彼女はまだ子供だった。だからこそ、現実を知った反動も大きかったのかもしれない。

「妻も子供もいないあなたに守らなくてはならないものなんてないでしょう。もう楽になって良いのですぞ。」

新たな影が浮かび上がる。
武器屋トルネコ。
この世界に呼ばれたことで妻と一人息子を置いて死ぬこととなってしまった男である。

「守りたかったものを守れずに失った時、人は死ぬのです。命の炎は消えずとも、既にあなたは死んでいるのではないですか?」

サントハイム城の神官クリフト。彼は誰よりもアリーナ姫のことを気にかけていた。おそらくこの殺し合いでも、アリーナ姫を探し回っていたのだろう。

「なあ――――――使命のことなんか忘れちまえよ。俺みたいにさ。」

やはり、というべきだろうか。最後の人物が浮かび上がる。
私が10年以上かけて探し出した勇者ユーリルがそこにいた。

「"勇者を探す"というアンタの使命の果てに待ってたのは何だ?そう、残ったのは俺たちが不要になった世界だけだ。俺は勇者として使命を果たしたんじゃない。自分で自分の居場所を失くしただけなんだよ。」

自分がずっと探し続けた勇者がとても勇者とは思えないような言葉を吐き続ける。
彼はもう、勇者ではないのだ。

「「「「さあ――――――」」」」

4人の声が重なる。
このまま眠るように死ぬのが私にとって最良の選択なのだろうか。

「「「「――――――こっちへおいでよ…。」」」」

違う。
私はまだ死ぬわけにはいかない。
殺された皆の無念を背負っている私は最後まで戦い抜かなければならないのだ。

「ぬおおおおおお!!」

暗闇を晴らし、ライアンは立ち上がる。
悪魔の囁きを頭から捨て、ナブレットから貰った剣を握りしめる。

「ジャンボ、という者を探すのでござったな…。」

自分を信頼してくれたナブレット。彼から受け継いだ使命をまずは果たそう。
ライアンは走り出した。
彼の胸に宿る命はもはやひとつではない。
トラペッタで散っていった多くの者の命を宿し、悲劇の元凶エビルプリーストを討つことを心に決めた。
勇者を探す旅ではなく、悪の根源を断つ勇者へと変わる旅が幕を開けた。

683Usual:2017/12/06(水) 01:26:00 ID:i6behV3I0





「ライアン殿、行ってしまいましたな。」

「ま、エビルプリーストに勝てるなんて思わないけどね。」

「あぁもぉー素直じゃねーなぁア・リ・ィ・ナ・ちゅゎん!ほら、スマイルスマイル!きゃわいいお顔が台無しだぜ?」

「ユ、ユーリル殿いいいい一体何を!?ザザザ、ザラキ!」

深き闇の底、ライアンを見送る影が4つ。
彼の胸に宿る想いはトラペッタで散った想いだけではない。

「――――――ま、こっちの方がライアンらしいよな。」

そして幻影は闇の彼方へと沈んでいく。
ライアンが最後に見た勇者であることをやめた者の眼は、確かに勇者の眼をしていたという。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

684Usual:2017/12/06(水) 01:26:35 ID:i6behV3I0

「グアアアアアアァ!」

敵が咆哮を上げながら迫り来る。

「ヒャダイン!」

後方からの氷塊呪文で敵の脚を突き刺して脚が一瞬止まる。
その隙に敵の攻撃の着弾点を予測して余裕を持って離れる。

仲間の顔ぶれこそ違えど感覚はいつもの戦いと同じだった。
僕は勝利を確信していた。

敵の両腕が大地を殴りつける。
僕がいない大地に穴が空き、エイトから注意を逸らすために敵の脚を斬り付けて離れる。
相変わらず深い傷を付けるには至らない。
ふと見たところ、エイトは何かの準備をしているようだ。
離れていても身体が痺れるようなオーラを感じる。

デボラさんも問題なく敵の攻撃を避け続けている。
このままエイトの準備が整うのを待てば、この戦いが終わるのも遠くはない。

一体どうして、僕なんかが生き残っちゃうんだろうとつくづく思う。
口は悪いけどとにかく芯の強いマリベル。
一族の使命に駆られ続けたアイラ。
古来よりずっと天魔王と戦い続けたメルビン。
僕なんかよりずっと生きる価値を見出していたはずの人たちが死んで、それの出来ない僕が生き残っている。
放送で名前を呼ばれた他の19人も、あの放送から今に至るまでに死んだ人たちも、きっと僕よりずっと生に執着していたはずだ。

685Usual:2017/12/06(水) 01:27:19 ID:i6behV3I0
敵が再び近づいてくる。
振り下ろされる両腕を避けて頭の前へと飛び上がる。

隣にいたデボラさんは一歩下がり、次の攻撃に備えている。
一方僕は思い切り敵の頭を蹴りつけた。
敵は首を大きく仰け反らせる。
僕はそのまま着地をして、敵の手でも足でも避けられる体制を整える。

しかし、誰が言っていたのだろうか。
敵の攻撃が手足だけだなんて。
いや、勝手に僕が思い込んでいただけだ。
その力の強さから搦め手を使う敵ではないと、いつもの戦いの記憶からそう思い込んでいた。
別に頭突きやら噛みつきやらを思考の外へ投げ出していたわけではない。
むしろ敵の歯が誰かの血で赤く染まっていたことから頭も敵の武器になることくらいは分かっていた。
仮に段々と哀れな姿になっていったオルゴデミーラみたいに身体の一部を飛ばして攻撃してきたとしても避けられるという自身はあった。
しかし敵の攻撃はそんな想定の範囲を大きく外れていたのだ。

敵は仰け反らせた頭を戻しながら、着地する僕と後ろにいるデボラさんの足元に向けて、"かがやくいき"を放った。

比喩ではなく、そのままの意味で足が凍り付いた。
僕とデボラさんの動きはまんまと封じられたわけだ。

686Usual:2017/12/06(水) 01:27:57 ID:i6behV3I0
このブレスは何度か受けたことがあるが、これほどの威力はなかったはず。
おそらく、最初に敵が吐き出した酸のブレスがかがやくいきの威力を高めているのだろう。
敵は最初から搦め手に回っていたのに気づけなかったということだ。

悔しくはない。
ただ、意思のない傀儡人形のように見えて行動ひとつひとつが意味を成していたというその事実を僕は賞賛するだけ。

悔しくはない。
ただ、"意思のない傀儡人形"というのは他でもない僕のことじゃないかと、僕は自嘲するだけ。


さて、どうやらこんな僕もここで終わりを迎えてしまうようだ。
エイトは目を丸くしている。
まあ、助けなんて期待するだけ無駄だろう。
この距離では間に合うはずもないし、何かしようとして今までの準備を不意にするようでは僕らがここで死ぬ事が無駄になる。

ゆっくりと、敵が近づいてくる。

「ハッ!こんなものでアタシたちを封じた気になるたぁ笑わせるねぇ。」

こんな状況下でもデボラさんは笑い出し――――――

「ベギラゴン!」

――――――灼熱の閃光で僕の足を縛り付ける氷を溶かし始めた。

「ガアアアアアアァァ!!」

属性の効果を高める酸の嵐が仇となったのか、火力により氷から解放された僕は敵の攻撃を避ける。
しかし、デボラさんの足を縛る氷の膜は未だ溶けていない。
あろうことか僕の呪縛を解くのを優先して、自分の危機に間に合わなかったらしい。

そのまま敵の爪は一直線に、デボラさんの胴を引き裂いた。

687Usual:2017/12/06(水) 01:31:21 ID:i6behV3I0
「が…ふっ…!」

目の前が血の紅に染まっていく。
僕は聞かずにはいられなかった。

「どうして…?」

助ける道理なんてないはずだ。
僕と彼女は出会ったばかりの他人。
自分の命を投げ出す価値など見出せるはずもないのに。

「さぁ…ね…。」

全身から血を失いながらも、臓器を垂らしながらも何とか言葉を発する。

「アンタの…その純粋な眼…リュビのこと…思い出しちゃったの…」

そしてぷつりと糸が切れたかのように、デボラさんは事切れた。
僕よりも生きることに意味のある人だった。
そして、女性でありながらも気丈に振る舞うその姿が誰かと重なった気がした。
きっと、"彼女"もこうして強く気高いまま死んでいったのだろう。




(――――――あたしが死んだらアルスはあたしのこと、ずっと覚えててくれる?)

(――――――ううん、きっとすぐ忘れちゃうよ。ほら、僕こんなだから。)

(――――――ふん!じゃああんたが死んだら、あんたの思い出なんか――――――)

(――――――だから、死なないでね。そばにいる人のことは絶対、忘れないから。)



いつかの記憶が頭の中を蠢く。

もう一度、"敵"を真っ直ぐに見据えてみる。
既に息絶えたデボラさんを投げ捨てて一歩ずつ、僕の方へとそれは近づく。
鈍い光沢を放つ全身は死を象徴しているかのようだった。



ねぇ、マリベル。
このいつもと違う気持ち、何なのかやっと分かったよ。

――――――デボラを貫いた腕が"死"を纏ってアルスに向かって伸びる。

僕は嘘をついた。
死んでしまった君のこと、僕はずっと覚えてると思う。

――――――空を切ったその腕を魔人の如く斬りつけた。心の乗ったその一撃が外れるはずもなく、デボラの血で染まった腕は粉々に砕け散る。


君を失って僕は――――――悲しかったんだ。



アルスの眼からは、ぽつり、ぽつりと涙が零れ落ちていた。

688Usual:2017/12/06(水) 01:32:36 ID:i6behV3I0
【G-3/トラペッタ外部/午後】

【エイト@DQ8】
[状態]:HP2/3
[装備]:奇跡の剣
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ミーティアを守る
:バラモスゾンビ@DQ3を倒す

【アルス@DQ7】
[状態]:HP2/5
[装備]:ドラゴンキラー(DQ3)
[道具]:支給品一式 道具0〜2個(本人確認済み)
[思考]:バラモスゾンビ@DQ3を倒す
:夢中になれるものを探す
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターし、「魔人斬り」、「かまいたち」、「ヒャダルコ」、「ザオラル」、「死のおどり」、「ぬすっとぎり」、「つなみ」、「天使のうたごえ」、「どとうのひつじ」、「へんてこ斬り」を習得しました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。

【ブライ@DQ4】
[状態]:健康 MP2/5
[装備]:魔封じの杖
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:バラモスゾンビ@DQ3を倒す


【バラモスゾンビ@DQ3】
[状態]:HP7/10 MP2/3 右腕壊滅
 [装備]:なし
 [道具]:なし
 [思考]:殺戮と破壊
 [備考]:一定時間ごとに、ダメージが少しずつ回復します。


【ライアン@DQ4】
[状態]:HP1/2 全身の打ち身、顔に傷、兜半壊、腹部に打撲、鎧半壊
[装備]:こおりのやいば
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1)
[思考]:ジャンボを探す。ホイミンのみんな友達大作戦も手伝う。


【デボラ@DQ5 死亡】
【残り42人】

689 ◆2zEnKfaCDc:2017/12/06(水) 01:35:46 ID:i6behV3I0
投下完了しました。

690ただ一匹の名無しだ:2017/12/06(水) 08:43:18 ID:Y5Oa9W0I0
投下乙です

デボラの死が、アルスの心を動かしたか
戦いの心を得たアルスのこれからに期待!

691ただの一匹の名無しだ:2017/12/06(水) 22:22:01 ID:lwnVLcTE0
投下乙です!!
ついにアルスの覚醒キターーーーーー!!
これでバラ骨(これの元ネタ知ってる人いる?)くんも死亡待ったなしか?
デボラさん、あんたよくやったよ。
ライアンも死ぬ気で頑張れ。

めっちゃどうでもいい話だけど、最初の段落にある施設って、リブルアーチじゃなくてリーザスじゃないですか?
改めて、投下乙です!!

692 ◆2zEnKfaCDc:2017/12/06(水) 22:57:04 ID:i6behV3I0
>>691
ご感想、御指摘ありがとうございます。
大陸飛び越えてましたね…

リブルアーチ→リーザス村
変更お願いします。

693 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/19(火) 20:44:27 ID:IFpTpiCI0
投下します。

694 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/19(火) 20:45:05 ID:IFpTpiCI0
こんにちは。
え?オイラが誰だって?
今、カビ団子のお兄さんのお尻の下にいるよ。
そう、ゲレゲレ。
アベル様の仲間で、ロッキーの先輩のゲレゲレ。


ジャンボがトロデーン城から出ていった後、オイラもどうするか悩んだ結果、ジャンボについていくことにした。
ターニアまで巻き込むのはイヤだけど、彼女も兄を探したいらしい。
それにあのピサロって魔族も、あんまり信用できないし。
やはりオイラはジャンボのことが気になる。


(おい、やべえぞ敵襲だ!)
(また敵が来やがって、ロッキールが……)
(メガンテを使いやがった………)

オイラは納得がいかない。
ロッキーは爆弾岩の中でも大人しい性格で、余程のことがない限りメガンテを使うヤツじゃない。
最も他の魔物達はそんなこともつゆ知らず、爆弾岩だという理由で恐れて近寄らなかった。だからアベル様が手を差し伸べるまでは仲間がいなかったけど。
ロッキーがメガンテを使わざるを得なくなるほど手ごわいヤツが現れたら、オイラが気配を察知するはずだ。
カビ団子が知るはずもないが、オイラがアベル様と再会してからすぐにロッキーも仲間になったから、オイラはアイツのことをよく知っている。

(それがしでございますよ、ゲレゲレ先輩ィィィ!)

とはいえ、オイラがこの世界で会ったロッキーは、オイラの知ってるロッキーではなかった。
自分のことをロッキールと名乗ったアイツは、バカみたいに明るい性格になっていた。
だから突発的にメガンテを唱えるような猪突猛進な性格になったのだという解釈もあるが。


まだ気になる点はある。
「グランマーズ」って誰だ?
あれはよく覚えている。
ターニアがグランマーズって人のことを話した時だ。
彼女の世界の人間らしいが、どういう訳かジャンボのヤツも知っているらしい。
ジャンボの奴、ヤケに熱心にソイツの話を聞いていた。
まるで他人ごとでないかのように。
その表情からは、オイラが威嚇せざるを得ないほど、おぞましいものを感じた。
ターニアは恐ろしいことを話してはいなかったし、これはどういうことだ?


兎に角、ロッキーを死なせたのは、オイラの責任だ。
仮にロッキーが自分の意志でメガンテを使ったのだとしても、オイラが近くにいればそれを制止できたかも知れない。
ターニアを守ればいいと思っていたが、同時にジャンボの見張りをしなければいけなかった。
ジャンボを警戒しながら、ゲマをはじめとするどこにいるか分からない敵が現れることを警戒し、それでいてターニアを守るのは難しい。
とりあえず背中に乗せておけばそう簡単に後ろ暗いことが出来ないだろう。

695 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/19(火) 20:45:41 ID:IFpTpiCI0

そんなわけで、今はジャンボとターニアを乗せて、トラペッタへ向かっている。
ジャンボの地図でみたけど、ここから先は平原や荒野が多かった大陸の西側と違って、森や茂みが多い。
日も沈んできたし、これまで以上に警戒する必要がありそうだ。
ジャンボにも、誰とも分からない襲撃者にも。

「わあっ、はやーい!!」
「ありがとよ。これでヒューザにも追いつけるぜ!!」
上にいる二人が感謝を告げる。
トロデーン城でピサロやコニファーと話していた時は、計算高いが特に危険な面はないドワーフの青年、という印象だった。
誰かに危害を加えようとするのがウソのように。
本当にロッキーを自爆させたのがジャンボなら、城にいた誰かもだまし討ちにかけようとしたんじゃないか?


そして、ジャンボ以上に気がかりな人物がいる。
アベル様。
ミルドラースとの戦いはオイラも覚えている。
名前は会うまでに何度も聞いていたが、いざその姿を見た時、オイラも恐ろしかった。
仲間のほとんどは威圧感に押されていたし、リュビ様なぞ家族がいなければすぐに逃げ出してしまいそうだった。

だが、最も怯えていたのは、アベル様が指示する凄まじい攻撃を受けていた、ミルドラース本人だった。
オイラを始め多くの魔物を従えたアベル様は、絶え間なく仲間に攻撃の指示を出して、仲間が死にそうになると回復させてまた容赦なく攻撃していた。
それは、どちらが魔王なのか分からなくなったくらい。


アベル様が今この世界で何をしているのか知りたい。
誰かを手にかけたりしていなければいいのだが。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ククールとメルビンの墓を作り終え、ヒューザの姿が見えなくなってしばらくした後、ヤンガスは再び歩き出そうとした。
「よしっ!!」
顔を自分の両手でパンと叩き、自分を鼓舞する。

やはり自分は考えるのに向いていない。
自分は体を動かす方が性に合っている。
自分は仲間を探さなければいけない。
先程、この世界では自分の想像を超えることが起こると実感した。


エイトが、ゼシカが、モリーが、ゲルダが、そしてミーティアがククールのように死なないために。

696 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/19(火) 20:46:11 ID:IFpTpiCI0
彼ら、彼女らがククールのような『馬鹿なこと』をしでかさないように。
ヒューザと同じ方向に行くのは癪だが、エイト達がいるのだとすればトラペッタの可能性が高い。
ひょっとすれば、ゼシカの故郷であるリーザスの可能性もある。
どちらにせよ、目ぼしい施設が教会一軒ぐらいしかない西側にいる可能性よりかは高い。


かつて自分が壊したはずの橋を渡り、街道を進む。
暫く街道を歩いてから、ヒューザに後ろを歩いていることを気づかれないように、街道から少し離れた平原を進んでいた。

(こ………これは…………)
自分がよく知っている者を見つける。
聖堂騎士団の団長、だった男の死骸。
彼によって、2度も牢獄に入れられた苦い思い出がある。
ラプソーンが復活したのも、考えようには彼の仕業だ。
だが、ヤンガスはそれを赦そうとしていた。

窮地に陥ったジャハガロス戦で駆け付けたマルチェロ。
それだけで赦したつもりはなかったが、仲間のククールの顔を見て気が変わった。
露骨に声に出して喜んでいたわけではないが、彼が途方もなく喜んでいたことは顔に書いてあった。
元々ポーカーフェイスの彼が、表情を変えるとすればオディロ院長か、はたまた義兄によるものだったからだ。

彼がすでに死んでいることは、放送で聞いたことだった。
だが、驚いたことはそれではない。
マルチェロの死の原因となったらしき胸の傷。
多少の火傷もあるが、それではないだろう。

(これは………間違いねえ。レイピアで刺された痕でがす。)

レイピア、というと真っ先に思い浮かぶ。
自分の仲間であったククールの得意としていた武器だ。
この世界でもククールは死んだとき、血に染まったレイピアを手にしていた。
レイピアの使い手が他にもいる、その血はヒューザやメルビンなどの解釈の余地がある。
だがククールが死んでいたあの場所からして、距離的に彼が殺した可能性は十分にある。


(何が……どうなってんでげしょう…………)
ククールがヒューザ達を襲ったのも、マルチェロを殺したことが原因だったかもしれない。
自分が知っているククールとマルチェロならば、殺し合う可能性は低い。
ジャハガロスの時のように、再び協力もできることさえ期待していた。
ヤンガスが知る由もないが、ククール本人もそう思っていた。


しかし、自分のない頭であれこれ考えても仕方がない。
自分が出来ることと言えば、やはりこれだ。

穴を掘り、死体を埋葬する。

少し前、ククールとメルビンをそうしたように。

(今度こそ、天国で仲良くするでげすよ)

再び街道に戻る。
長身のマルチェロを埋葬するのは苦労したため、流石にUターンでもしてこない限り、ヒューザとの距離は離れたはずだ。
ところが、後ろを振り向くと、キラーパンサーが走ってきていた。

697 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/19(火) 20:46:37 ID:IFpTpiCI0

「おーーーーーい!!」
「!?」

よく見ると、キラーパンサーの上に緑色の亜人のようなものと、青い髪の少女がいる。
「ヤンガスだろ?」
「カビ団子のクセに、なぜアッシのことを知ってるでげす?」
「またカビ団子かよ……ドワーフと似たような体形しやがって………」
「なにぃ!?アッシのどこがドワーフに似ているでがす!!」
「ちょっと!!いきなりケンカはやめてよ!」


事実、球に近い体形、小柄、鋭い目つき、色黒の肌と、似ている点は多くあるのだが。
実際に、ヤンガスの背を少し低くし、肌に緑がかかればジャンボと区別するのは極めて難しくなるはずだが、そこは話さないでおく。

「オレ達はトロデーンにいたピサロから、オマエのことを聞いたんだ。」
「ピサロの旦那を、知っているんでげすか?」
「ああ、ついさっき城へ来た時、話をしたんだ。」

そこへゲレゲレが喉を鳴らし、ヤンガスになつく。
「こらこら。どうしたでげすか?」
「へえ、アンタ、魔物に好かれるタチか?」
「アッシは子供の頃、「アニマルヤンちゃん」と呼ばれて、動物に好かれていたんでげすよ。」
「へえ……魔物使いでもないのにねえ……」
「魔物使い?魔物マスターならお兄ちゃんたちから聞いたことあるけど……」


ジャンボだけでなく、ターニアも疑り深そうな目で見ていた
しかし事実として、ヤンガスは魔物や動物と触れ合う機会は多かった。
少年時代ポッタルランドという世界で、モリーの壺という道具を使いながらも、魔物を仲間にして冒険していた。
つい最近でも、そのモリーが経営するバトルロードや、ラパンハウスで魔物と多くかかわった。


「あと、ヒューザのヤツを知っているんだろ?オレはアイツを追って、城から来たんだ。」
「あ、アンタがヒューザの言っていたドワーフでげすか!!」
戦いに参加しているドワーフは一人しかいないだろというツッコミを入れたかったが、黙っておいた。

「で、ヒューザのヤツはどこにいるんだ?」
「それが……アッシが怪我の治療をした後、すぐに東へ行ってしまったでげす!!」
「なんでだよ。」
「まあ、アッシやヒューザにも色々あったんでげす!!それから、ヒューザもアンタを頼りにしているようでげす!!」
「言ってる意味が分かんねえよ!!とにかく、アンタとはぐれたんだろ?」

698 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/19(火) 20:48:10 ID:IFpTpiCI0
ジャンボは再びゲレゲレを走らせる。
ヒューザの目撃者がいたということは、彼に会えるのもそう遠いことではないだろう。
「あ!!少し待ってくれ!!」
「まだあんのかよ!」
ヤンガスは名簿で、エイト達のページを見せる。

「この人達はアッシの知っている人でげす。もしヒューザに会う途中、この人たちにも会ったらこう伝えるでげす。
ヤンガスが仲間を探しているからトロデーンで合流しやしょうって。」

「OK。でも、もし上手くいかなくても、気にすんなよ。それとアンタはどうするんだ?」
「アッシは別の場所を探るでげす。この大陸には、知り合いの故郷の村もあるんで。手分けして探しやしょう。」
「それじゃあ、ある程度やること終えたら、トロデーンで落ち合おうぜ」


ヤンガスは再び出会った人物と別れる。
ジャンボ達は当初の予定通り東へ。ヤンガスはリーザス村を目指して南西へ行くことにした。




(まあ、たしかに手分けした方が仲間を探すのは簡単だがな)

「ジャンボさん、さっきのヤンガスって人と、一緒に行かなくていいの?」
「本人も別に行くところがあるらしいし、無理に付き添わなくてもいいだろ?」

実を言うと、ヤンガスが付いてこなくて、安心しているのはジャンボの方だった。
仲間を集めるのは良いとして、あまり仲間が多すぎるのも困りものだった。


ジャンボは他の参加者とは異なり、やるべきことがこの戦いを終わらせる以外にある。
自分の世界を滅ぼす遠い要因になる人物を消すこと。
大魔王を倒したということから、かなりの実力が伺えるし、バーバラの時のように都合よく殺せることもないだろう。
ネルゲルやマデサゴーラ、ダークドレアムのようなただの強敵なら仲間と協力できる。
奴らは満場一致で敵だと判断できるからこそ、仲間も集まった。
だが、事情を知らない人物にこの二人を敵だと信じさせるのは難しい。
そして彼らを殺すところを誰かに見られれば最後、事情はどうであれ危険人物のレッテルを貼られる。
従って、敵にも味方にも知られずに殺す必要があるのだ。


従って、同行者は極力少ない方がいい。
本当のことを言うと、ターニアもゲレゲレも城にいて欲しかった。
ゲレゲレの場合は、人とのコミュニケーションが難しいこと、乗っていれば早いこともあるから文句は言えないが

699 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/19(火) 20:48:37 ID:IFpTpiCI0


だが、もうじき会う予定のヒューザや、他の自分のことを知ってる仲間達。
自分のことを信頼している人物なら別。
彼らは、自分が極めて頼れる人物だと思っている。
自分の世界が滅ぼされることは、彼らの世界が滅ぼされることでもあるため、他人事にもならない
だからレックとチャモロを殺すことにも、口車に乗せれば手伝わせることもできるかもしれない。
ウソをついてもある程度なら信じてくれるだろう。
ジャンボが第一優先で知り合いを集めたいのは、そういうこともある。


そもそも、「自分達の世界がこの戦いのとある参加者が原因で滅ぼされること」はウソではない。
誰もが信じ難いだけの真実だ。
ズーボーだけは馬鹿正直すぎるため、世界滅亡を防ぐために誰かを殺すなんて言ったら、「オイラは納得できないのだ!!」とか言って言うことを聞きそうにないが、どの道アイツは死んでしまった。
もちろん、一番重要な目的でもあるエビルプリースト戦にも役に立つ。(ヒューザとアンルシア以外は微妙だが)




自分を信用してくれる人物を集め、そうでない人物と距離を置く。
その点、オレのことを疑っているらしき尻の下にいるゲレゲレと、後ろに座っているターニアも、どうするか悩むところだ。
オレがレックとチャモロを殺す話を、仲間に持ち掛けたら最後、二人を敵に回してしまうことは避けては通れないだろう。
特にレックを兄に持つターニアからは決定的に糾弾されるはずだ。
いっそのこと三人だけになった時点で不意を突いて殺してしまうことも考えたが、素振り一つ見せただけでゲレゲレが襲い掛かってくるに違いない。
そもそも殺人は自分の最終手段であり、だれかれ構わず殺したいわけではない。
それ以前に自分から進んで殺しに行かなくても、勝手に殺される可能性だってある。


そこまで考えると、急にため息が出た。
距離感がどうとか、いつからオレはこんなみみっちい奴になっちまったんだと。
自分を信じてくれる仲間に対して殺人を正当化し、ましてや手伝わせようとするなど、間違ってもやってはいけないことだ。
(まあ、仕方ねえよな。世界を守って、シンイの所へ行くまで、オレはどんな汚れ仕事でもやってやるさ)

700 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/19(火) 20:49:30 ID:IFpTpiCI0


そうこうしているうちに、人影が見える。
丁度ヒューザが、ホイミンを連れてトロデーンへ戻ろうとしていたのだ。
二人で話し合った結果、トラペッタには巨大な魔獣の死体があり、人を集めるのには向かないということと、ポルトリンクは二人で行くには不安なほど距離があるため。

とりあえず仲間を一人見つけたことで、ジャンボも喜ぶ。
やはりゲレゲレのスピードは伊達ではなかった。
自分の世界ではキラーパンサーのデザインのドルボードしかなかったが、ゲレゲレのスピードはそれに勝るとも劣らない。

「おーい!!ヒューザ!!」


「オマエは……ジャンボ!!」

ひとまず、目的の人物には一人は出会えた。
だが、オレの仕事はここから。
さて、目の前にいる二人は、何を言えばオレの思い通りに動いてくれるか。
それと、周りにいる二人のことも、算段に入れておかねえとな。


非常にどうでもいい話だが、今から6時間ほど前、この場所でとある若者二人が、参加者を殺すか否かの話し合いをしていた。
次の話し合いは、どうなるのか。


【E-3/草原/夕方】

【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:健康
[装備]:ナイトスナイパー@DQ8
[道具]:支給品一式、道具0〜2 天空の剣、罠抜けの指輪 罠の巻物×3 ドラゴンローブ
[思考]:
基本方針:エビルプリーストに借りを返す。6世界の人物を……?(非力な人物は除外)
1:ヒューザ捜索。今はとにかく仲間を集める。
自分を信じてくれる人物は自分のやることを手伝わせ、そうでない人物とは一定の距離を置く。
2:自分のことを疑っているゲレゲレもどうするか考える。
[備考]:
※職業はレンジャーです。少なくともサバイバルスキルが140以上、弓スキルが130以上です。
※エビルプリーストの背後に黒幕がいるのではと疑っています

【ゲレゲレ(キラーパンサー)@DQ5】
[状態]:HP2/3、胴体にダメージ(中)、身体側面に切り傷
[装備]:悪魔のツメ@DQ5
[道具]:支給品一式、四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1
[思考]:
基本方針:主催を倒して脱出する。
1:ジャンボに不信感。

701 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/19(火) 20:50:16 ID:IFpTpiCI0

【ターニア@DQ6】
[状態]:体の一部に擦り傷あり
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、愛のマカロン×6 道具0〜2
[思考]:基本方針:お兄ちゃんと合流したい。

【ヤンガス@DQ8】
[状態]:健康 MP7/10
[装備]:スライムの冠(DQ8) ふつうのチーズ(DQ8) 激辛チーズ(DQ8)
[道具]:支給品一式 トーポ(DQ8) バニースーツ(DQ10) 堕天使のレイピア オーディーンボウ@DQ10 矢×9 不明支給品0〜2
[思考]:リーザスに向かい、仲間たち(特にエイト)との合流を図る。
黒幕の情報を集める ジョーカーへピサロの伝言を伝える
第三回放送の頃に可能であればトロデーン城に戻る
※トーポは元の姿には戻れなくされています



【ヒューザ@DQ10】
[状態]:HP3/10 MP0
[装備]:名刀・斬鉄丸@DQ10 天使の鉄槌@DQ10
[道具]:支給品一式 支給品0〜1
[思考]:仲間(特にジャンボ)を探す

【ホイミン@DQ4】
[状態]:MP1/8 健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個
[思考]:ガボと共に『みんな友達大作戦』を成功させる ヒューザに付いていく。

702 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/19(火) 20:57:04 ID:IFpTpiCI0
投下終了です。
投下中に脱字を気づいたので訂正を。
699の「自分を信用してくれる人物を集め、そうでない人物と距離を置く。」
を「自分を信用してくれる人物を集めるが、そうでない人物、あるいは自分が良く分からない人物とは一定の距離を置く」
にしておいてください。

今回の話では、ゲレゲレの考えやジャンボの考えを多く書いたため、これまでの所から見て矛盾してる可能性もあります。
一度大きく書き直した所もあるので、意見お願いします。
それと予約欄にターニア書き忘れてました。すいません。

703 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/19(火) 21:00:41 ID:IFpTpiCI0
それとタイトルが抜けてました。「再会」です。

704ただ一匹の名無しだ:2017/12/19(火) 23:53:41 ID:6B/cMWqA0
投下お疲れ様です。

ところで3DS版のドラクエ8で検証してみたのですが、E-3からリーザス村に向かおうとすると、なるべく近道を通って何かとのエンカウント無しに進んでもリーザス村の辺りで大体6時間が経過するので第三回放送までにトロデーンに戻るのはまず不可能です。
ある程度の速度調整はSSなので効かせてもいいとは思いますが、第三回放送までの6時間少しでリーザスを経由してトロデーンに戻るのは他のキャラの進み具合を見てもある程度の域を出ているように思えます。

実際にその距離を走ったことのあるヤンガスが間に合わないことに気づかないのも不自然なので、リーザス村に向かうのであればトロデーンに向かうことを諦める考察を加えた方がいいと思います。

ちなみにこれは代案ですが、ヤンガスがリーザスに向かいつつ第三回放送までにトロデーンにイシュマウリについてよく知る人物を送り込みたいのなら、ヤンガスを一旦トラペッタに行かせてエイトがトロデーン、ヤンガスがリーザスに分割するという手もあるので御一考頂ければと思います。

705 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/20(水) 00:43:50 ID:zJgW50H.0
ご指摘ありがとうございます。すいません。時間関係のことを完全に忘れていました。

ではこの話を終える間際に、この文章を。
それとヤンガス一人場所が違うため、現在地をヤンガスだけE-3 森に変更します。


(しまったてげす……)
ジャンボ達と別れてしばらく進んでいたヤンガスは、重要なことに気付いた。
(リーザスに向かうってジャンボに見栄を切ったでげすが、恐らくリーザスに向かえば……)

ヤンガスはうっかりしていた。
もう日は沈もうとしているのに、遥々リーザスに向かえば、イシュマウリが出るかもしれない第三放送までに間に合わない。
ルーラも制限されている上に、キメラの翼を持っている人に会える可能性も低い。

不幸中の幸いというべきか、まだあまり道を逸れてはいない。
今からでも一人でトラペッタへ向かうべきか、エイト達に会える可能性は幾分か低いが、滝の洞窟近くを探すべきか。

(やっぱり、急に予定は変更するべきでないでげす………)

【E-3/森/1日目 夕方】

【ヤンガス@DQ8】
[状態]:健康 MP7/10
[装備]:スライムの冠(DQ8) ふつうのチーズ(DQ8) 激辛チーズ(DQ8)
[道具]:支給品一式 トーポ(DQ8) バニースーツ(DQ10) 堕天使のレイピア オーディーンボウ@DQ10 矢×9 不明支給品0〜2
[思考]:仲間たち(特にエイト)との合流を図る。
黒幕の情報を集める ジョーカーへピサロの伝言を伝える
第三回放送の頃に可能であればトロデーン城に戻る
※トーポは元の姿には戻れなくされています

※一人でトラペッタへ向かうか、それ以外の近場を探るかは次の書き手にお任せします。

706 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/24(日) 00:52:18 ID:GvRx5MIg0
投下します。

707決意 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/24(日) 00:53:02 ID:GvRx5MIg0

ねぇ、マリベル。
このいつもと違う気持ち、何なのかやっと分かったよ。

僕は嘘をついた。
死んでしまった君のこと、僕はずっと覚えてると思う。

君を失って僕は――――――悲しかったんだ。

あの時それが分かっていたら――――――なんて言えていたのかな。


(雰囲気が………変わった?)
(これは………)

アルスから漂っている、ふわふわした空気が突然燃え盛る炎のようなものに変わっていったことは、ブライにもエイトにも分かった。


「ガアアアアアアアアアアアアア!!」
腕を壊されたバラモスゾンビがアルスに突進してくる。
彼は死ぬまで戦い続ける呪いを受けている。
腕一本ぐらい失ったくらいで戦いを終える筋合いはない。


(デボラさんの………仇だ………)
涙に濡れた目で、強大な怪物を睨みつける。
バラモスゾンビは残った腕でアルスを握りつぶそうとする。

「危ない!!」
ブライは思わず声を上げる。

しかし、アルスは無言で腕を振った。
アルスが起こしたかまいたちが、バラモスゾンビの凶悪な腕を弾く。
間髪入れずにアルスは跳び上がり、ドラゴンキラーを振りかざし次の攻撃の準備をする。
バラモスゾンビも大きく口を開く。
さっきアルス達を襲った、かがやくいきを吐くつもりだ。
だが、彼の攻めはそんなものでは止まらない。

「へんてこ斬り!!」
文字通り軌道のつかめない斬撃はバラモスゾンビの頭の向きを明後日の方向に変えた。
当然かがやくいきも見当違いの方向に当たる。


「ヒャダルコ!!」
追加で尻尾の攻撃が来るが、それも無数の氷の刃に阻まれ、アルスには当たらない。

(すごい……)
それを端で見ていたブライも感心する。
動きの目まぐるしさはさっきまでとあまり変わらない。
しかし、これまではその目まぐるしさが原因で攻撃の破壊力が欠けていた印象だった。
一方で今のアルスにはそれがある。

708決意 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/24(日) 00:53:26 ID:GvRx5MIg0

「アルス殿!!バイキルト!!」
ブライも賭けようとした。
アリーナやクリフトではない若者の新たな可能性に。
これまでのようにピオリムではなく、新たに目覚めた力を完全に活かすための呪文をアルスにかける。

アルスは地面に着地して、正拳突きをバラモスゾンビに放つ。
これは以前のアルスでも使えた技だが、ブライのバイキルトも相まって、威力は桁違いだった。
バラモスゾンビは吹っ飛び、瓦礫の山の下敷きになる。

「やったか?」
「ダメだよ。あの程度で倒せるようなら、もっと早く倒れている。」
「もう少し待っててください。私の力を最大まで高めれば……」



言った通り、瓦礫の山からバラモスゾンビが這い出てきた。
アルスはこの見境なく破壊を続ける魔物に見覚えがある。


(ど…どうしたことだ……。何も見えん………。暗や……みが……おそい……かかってくる……)

力を求めすぎるあまりに究極魔法、マナスティスによって破壊神と化したゼッペル王。
バラモスゾンビからも、何かこの魔物が放っている物とは別の邪悪な力を感じる。

(今なら、あの呪文を使うことができる……。)
そのマナスティスを打ち破る唯一の呪文、マジャスティス。
しかし、アルスはこの呪文を何故か使う気がなかった。



(ねえ、あの敵はスクルトで守りを固めてくるから、大神官のあの魔法で解除すればよかったのに、なんであの呪文を使わないの?)
(アルス、なんで使わないんだ?)
(何か使いたくない理由でもあるのでござるか?)



誰が何と言おうと使う気はなかった。
あれは、大神官が大事なゼッペル王を失いたくないという決意をもって、苦労しながら研究の果てに編み出した特別な呪文だ。
決して、メラやギラのような誰にでも覚えられるものではない。
誰かを守りたい、失いたくない。
そんな気持ちを持っていないアルスが、マジャスティスを使う資格は全くないと感じた。


(ねえ、僕よりも、他の誰かの方が、使う資格あるんじゃないの?)


しかし、他の誰も使うことは出来なかった。
残ったのは、いまいち判然としない気持ちだけだった。
その魔法を使わなくても困ることはなかったため、話題にも挙げられなくなった。

709決意 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/24(日) 00:54:06 ID:GvRx5MIg0
「グオオオオオオオ!!!」



バラモスゾンビは両手を失ってなおも迫ってくる。以前のギクシャクしていた動きよりもスピードが上がっていた。
ゾーマがバラモスに掛けた呪いと、エビルプリーストが掛けた魔法が、バラモスゾンビの体とシンクロしてきたのである。
最初のレミールとの戦いは殴る蹴るの物理攻撃ばかりだったのに対し、ライアンとナブレットとの戦いで頭を投げる攻撃を行い、そして酸や氷の息を吐き始めるようになったのもそれが原因だ。
それに合わせて、自動回復の速度も上がっている。
アルスの魔人斬りによって粉砕された腕は、既に修復が始まっていた。
ここで食い止めなければ、倒すのは難しいだろう。



アルスは呪文の詠唱を始める。
(な、なんじゃ?あれは………)
(知らない魔法だ……)


今の自分には分かった。
自分と同じで、大切な人を失ってしまったゼッペル王の気持ちが。
自分と同じで、大切な人を失いたくないと思う大神官の気持ちが。

アルスにとって、デボラが自分と重ねたリュビ、という人物が誰なのかは分からない。
でも、彼女にとっても大事な人がいたはずだ。

今、僕は誰かを守りたい。
これ以上誰かを失いたくない。
だって、大事な人を失うことは、悲しいことだから。

「悪しき魔力よ、すべて消えたまえ………有は無に、一つは零に………
マジャスティス!!!!!!!!!!」
アルスの手から、青、黄、赤、橙、水色、金、銀、様々な色の光が出る。
彩り鮮やかな光がバラモスゾンビを照らす。


この魔物も、この世界で自らを犠牲にしてでも新たな力を求めたのだろうか。
それとも、ルーシアを目の前で失ったゼッペル王のように、誰かを守りたかったのだろうか。


(ガ…アアアアアア!!!!!!)
既に元々の生命はレミールによって死ぬ直前まで追い込まれていたため、バラモスの動力源はエビルプリーストとゾーマの魔法だけだった。
今まで斬っても突いてもダメージを受けた様子のなかったバラモスゾンビが苦しみ始める。


「アルスさん、ブライさん、ありがとうございます!!」
既にテンションが最大まで上がったエイトが、光を纏った奇跡の剣でバラモスゾンビに斬りかかる。
ミイラ男や、腐った死体、シャドーなどの命のないまま魔力や怨念によってうごめき続ける魔物には、テンションの籠った一撃が効果的だ。
バラモスゾンビは死なばもろともと、残った力を使ってかがやくいきをエイトに浴びせる。
だが、既に魔力を失いかけているバラモスゾンビのブレスごときで、エイトを止められる訳がない。
彼もまた、ミーティアを守るという決意があるのだ。
それにブレイクブレスの効果は、スーパーハイテンションの時に消えていた。

710決意 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/24(日) 00:55:02 ID:GvRx5MIg0





「消えろ、邪悪な魔物よ……ギガ・ブレイク!!」
凄まじい光の刃が、バラモスゾンビを飲み込む。
「ギャアアアアアアアアアアア!!)
巨大な悲鳴と共に、消えていく。
その悲鳴も、どんどん小さくなる。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



(終わった………)
(なんとかなったようじゃな。)


バラモスゾンビを倒して、安堵している二人をよそに、エイトはトラペッタの町に入る。
既に入り口の瓦礫は、ギガブレイクの余波で吹き飛ばされていた。



中に外観以上に悲惨なことになっていた。
町の多くを占拠している巨大な魔獣の死体。その近くには、魔獣ほどではないが大きな竜の死体もあった。
まともな形を保っている建物は一つもない。
だが、まだここでミーティアが隠れているかもしれない。
死体だとしてもトロデ王とだって、会いたい。

「ミーティア!!いたら返事してくれ!!」
エイトは大声を上げ続け、彼女を探し続ける。



一方でアルスとブライは、デボラの遺体を埋葬していた。
エイトは自分達を置いて行って中に入ったが、彼に関しては仕方がない。
アルスの心が熱を手に入れた代償は、間違っても小さいと言える物ではない。
(なんで……私より若い者が……次々と…)
(デボラさん。ありがとうございました。本当に……)
二人共涙を流す。
でも、泣いてばかりいる訳にはいかない。

「この男の子だったようです。デボラ殿がさっき言ったリュビというのは。」
ブライが名簿を開き、アルスに見せる。
「……子供だったのかもしれないよ。デボラさんの。」
アルスと余り年は変わらない子供だ。
髪の色が同じで、くせっ毛なところから、家族なのかもしれない。
アルスも、やがてボルカノとマーレ、そしてシャークアイとアニエスのように誰かと結婚して、子供を作るだろう。
その時、自分は父親として、子供に自分の生き方を見せることが出来るだろうか。
そして想像したくないが、自分が何もできないままその子供が死んだ時、自分はどう感じるのだろう。

711決意 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/24(日) 00:55:30 ID:GvRx5MIg0


彼女の墓を作り、武器に使っていたダイヤモンドネイルを置く。
「この戦いを終わらせよう。僕はやっと分かったんだ。誰かが死ぬことの悲しさを。」
死んだら、それで終わりではなかった。
死んでも、その人が生きたことは誰かの心の中に残る。
デボラさんが、マリベルが身を挺してそれを教えてくれた。



(アリーナ様……クリフト殿………)
自分の託した未来を担ってくれるはずの二人を失ったブライには、もう何も残っていないはずだった。
しかし、アルスの心の変わりようを見て、新たな決意を固めた。
生きよう。
そしてこの戦いが終われば、自分の命を全て語り手として費やそう。
一人でも多くの人々に覚えておいてもらうのだ。
最後まで運命に抗い続けた姫の話を。
最後まで大切な人のことを想い続けた神官の話を。


陳腐なフレーズだが、人は忘れられた時本当に死ぬという。
二人が本当に死なないためにも。自分にはやることがある。



「ところで、ブライさん。」
「どうしたのですか?」
「向こうに、何か引っかかってますよ。」


近くの木の上にあったものは、死んだゲマが持っていたザックだった。
バラモスゾンビとの戦いで、吹き飛ばされていたのだろう。そういえばデボラさんが出てきたのも、このザックからだ。
一応、何があるか分からないが開けてみる。
杖に地図、剣からよく分からないものまで、予想外なほど多くの道具が出てくる。
この魔物はエイトに殺されるまで多くの人を襲っていたのだろう。


(これは、王家の墓の宝……確かにこの戦いでは危険な道具になりそうじゃ…)
「ブライさん、知っている道具がありました?」
「はい。これは依然我々が使っていた、変身が出来る杖なのです。」
「へえ……。あ、これは………!!」
「アルス殿も、何か見つけましたか?」

それは、海の力を借りた剣。
アルスはかつてこれでオルゴ・デミーラを打ち破った。ダークパレスの滝の裏側で見つかったものが、こんな所にあるとは。
(また、力を貸してもらうよ)
アルスには、今度はこの剣を完全に使いこなすことも、戦いを終わらせる自身もあった。

712決意 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/24(日) 00:56:30 ID:GvRx5MIg0


「ああ、これは……」
アルスが剣の説明をする。

それ以外にも、武器や防具、その他の道具など、いずれも戦いに使えそうなものばかりがある。
しかし、一つだけ例外があった。
「何ですかな、この……人形は?」
人形、というと昔ブライがアリーナにプレゼントして、3日後格闘術の練習台にしたアリーナによってボロボロになって帰ってきた苦い思い出があった。
この戦いの舞台にあることから、ただの人形でないと考えるのが妥当だ。

「ちょっと待ってください。説明書も、付いてますよ。」
「え〜と、『メッセージ吹き込んだ後、別の相手が手にはめれば、相手に自分のメッセージが伝わる?』」
「テレパシーのようなもの?」
「でも、これは我々の世界の技術でも、魔法の道具でもない。エビルプリーストのヤツ、こんなものまでどこから手に入れた?」

アルスが持っていた最強の剣に、何なのか全く分からないぬいぐるみ。自分の国の秘宝であった杖。
ブライはエビルプリーストの背後にいる、巨大な何かの存在を無意識に感じ取った。


【バラモス@DQ3 死亡】
【残り41人】

【G-3/トラペッタ内部/夕方】

【エイト@DQ8】
[状態]:HP2/3 MP微消費
[装備]:奇跡の剣
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ミーティアを守る

【G-3/トラペッタ外部/夕方】

【アルス@DQ7】
[状態]:HP2/5 MP微消費
[装備]:オチェアーノの剣 (DQ7)
[道具]:支給品一式 ドラゴンキラー(DQ3)まどろみの剣 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜2) ゲルダの不明支給品0〜1個
道具0〜2個(本人確認済み)
[思考]:この戦いを終わらせる。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。

【ブライ@DQ4】
[状態]:健康 MP3/10
[装備]:魔封じの杖
[道具]:支給品一式 へんげの杖 白き導き手@DQ10  道具0〜2個
[思考]:生きる。生きてアリーナとクリフトのことを知ってもらう。

※このあと白き導き手@DQ10を二人がどのように使うかは次の書き手さんにお任せします。
※【G-3/トラペッタ外部】にダイヤモンドネイル@DQ5が置かれました。

713決意 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/24(日) 00:58:04 ID:GvRx5MIg0
投下終了です。
物語の後半に白き導き手が出ましたが、シオンからのメッセージが来るかどうかは分かりません。
その他、矛盾点がありましたら、指摘お願いします。

714ただ一匹の名無しだ:2017/12/24(日) 02:44:36 ID:gb5ZTVjQ0
投下乙です
バラモスゾンビが倒されて、新たな決意を胸に抱いたアルスとブライのこれからが楽しみ
エイトはミーティア次第でまだ怖いが…その同行者がキーファなのは不思議な巡りあわせだよなあ

715 ◆2zEnKfaCDc:2017/12/24(日) 20:38:22 ID:OYriccYY0
投下します。

716血の色は違えども:2017/12/24(日) 20:39:16 ID:OYriccYY0
人間と魔物の間には壁がある。
古来より魔物は人間を襲い、多くの死者を出していた。
そして人間は魔物を恐怖し、魔物を討伐することに軍事力を注いでいった。
そこにあるのは加害者と被害者の関係だと信じて疑わなかった。
しかし、魔物もまた襲い来る人間に恐怖しているのだということを誰が想像しただろうか。
互いに血を伴うこの対立の根源が人間側による攻撃にあるのかもしれないということを、いったい誰が想像しただろうか。



ナブレットから聞いた「ジャンボ」という男を筆頭にバラモスゾンビに対抗する戦力を探すため、ライアンは草原を走っていた。

目的地は滝の洞窟。
強い者は平原よりも洞窟の方にいるのが世の常でござる!…と、武人に相応しくないRPG地味た発想によるものだった。
『街の外に出て歩き続けるとやがて夜になりましょう。』などという当たり前のことを忠告してくる同僚もいる辺り、バトランドの教えはどこかおかしいようだ。

バラモスゾンビとの遭遇の危険性を危惧してトラペッタから離れて草原を南下していたため、トラペッタに既にバラモスゾンビと戦うパーティーが出来上がっていることなどライアンには知る由もなかった。
それが幸であったのか不幸であったのか、それは誰にも計り知れない。

717血の色は違えども:2017/12/24(日) 20:41:06 ID:OYriccYY0
「ムッ…誰かいるでござるな…」

道の先に大きな影が見える。
その巨体から見るに人間ではなく、呪術で動くミステリードールの類の魔物のようだ。
交戦の合図か、両腕と両足を開きライアンの前に立ち塞がる。

この類の魔物は意思を持たず、術者の命令にただ従うのみ。
ましてやこんな殺し合いの世界に呼ばれるくらいだ。
皆殺しの命令がインプットされていてもおかしくない。

「みんな友達大作戦」を成し遂げるために出来ればほかの参加者と戦いたくはないのだが、バラモスゾンビのようにどうしても話の通じない相手は少なからず存在する。

悲しいことだが、「みんな友達大作戦」はそういった存在を排除した後にしか成立し得ないのだろう。
全身に痛みが走る中でこのような巨体を相手では分が悪いとはいえ、戦うしかないのかもしれない。
腰の剣に手を当てた直後であった。

「待ってください!私たちは戦う気はありません!」

声が響き渡った。
巨体に隠れて見えなかった黒髪の女の子がこちらへ向かって走って来る。

「あの…!この子はいい子なんです!だから…だから…戦わないでください!」

("いい子"でござるか…)

その言葉に思う節があるライアンは尋ねる。

「怖くはないのでござるか?」

「はい。こんなに優しい子を怖がる理由なんて、ありませんから。」

718血の色は違えども:2017/12/24(日) 20:42:41 ID:OYriccYY0
『 ホイミンは"いい魔物"だから仲良くしてほしいでござる。』

ホイミンを怖がる街人にはいつもこう言っていたが、この少女の言葉との差異をを考えてみると分かる。
自分の言葉の暗に意味していたところは『人間にとって都合の悪い存在ではない』なのだ。
基本的に人間は人間を利害のみで判断したりはしない。
ホイミンを魔物として線引きしてほしくないと思っていたが、人間の都合の観点ばかりから魔物の善悪を定めようとすることは、まさに人間と魔物の線引きと呼ぶに差し支えないのではないか。
しかし、この少女からはそんな線引きが一切感じられなかったのだ。
子供ながらの無邪気さというのもあるのだろうが、人間と魔物の間にある差異を全く感じさせない。もしかしたら、小さい頃から魔物と共存する環境で育ったのかもしれない。

「かたじけない、変なことを聞いたでござるな。忘れてくだされ。」

「いいえ、私もこの子も気にしてませんよ。」

少女の言葉に対応するかのごとく、ふと魔物がこちらへ近付いて握手を求めてきた。
握りしめたその手は冷たくてごつごつとして人間味など到底感じられるものではなかったが、心の底は温まっていくような気がした。

719血の色は違えども:2017/12/24(日) 20:44:37 ID:OYriccYY0
おそらく、自分を見つけたこの魔物がとった構えはこの少女を危険から離すための仁王立ちの姿勢だったのだろう。
自分もユーリルやクリフトを死なせないために同じような姿勢で戦いに挑んだことはあるが、それは二人が死ぬと戦線に多大な影響が及ぶからだ。

命を打算的にしか見ていない者と、打算抜きにか弱い命を守ろうとする者。
いったいどちらが人間でどちらが魔物だというのか。

実際、人間と魔物の差などそんなものなのかもしれない。
魔物の志にまで踏み込むと、そこには人間と違わぬ想いがあるのではないだろうか。

「拙者はバトランドの戦士、ライアンと申す。北の地で暴れているバラモスゾンビという魔物を――――――止めてやりたいのでござるよ。」

"倒したい"とは言わなかった。
もうバラモスゾンビと和解することは不可能だと分かっていながらも、もう線引きをしたくないという意思の表れでもあった。

「私はサフィールです。こちらの子はゴーレムという魔物です。――――――お父さんを止めたいと思っています。」

「お父さんを…?」

「はい。この殺し合いに積極的になっているお父さんを…」

「ふむ…よりによって父親が殺しに積極的とは…辛いものでござるなぁ…。」

「いいえ、本当に辛いのはきっとお父さんなんです。お父さん、聞いた話ではとても不幸な人生を歩んできて――――――」

720血の色は違えども:2017/12/24(日) 20:46:33 ID:OYriccYY0
それからサフィールが簡潔に語ったサフィールの父親アベルの人生は、魔物に負けた自分の人生だった。
アベルは勇者を探し周る中で実力が付く前に強い魔物に目をつけられたのが不幸の始まりだという。
仮にあの塔にいたのがピサロの手先と大目玉ではなく、例えばヘルバトラーやアンドレアルなどのもっと強い魔物だったとしたら、自分もアベルのように奴隷として過ごしたり、あるいはその場で死んでいてもおかしくなかった。

だからといって同情するばかりというわけでもない。
何しろ既に人を殺しているようだ。
サフィールの話からは父親の様子に殺すことへの強い執着も感じられ、これも既に和解には遠いのだろうとさえ思う。
みんな友達大作戦の一番の弊害は邪悪な心を持つ魔物だと思っていたが、本当に恐ろしいのは強い意志に囚われた人間なのではないだろうか。

「拙者も協力させてはもらえないでござるか?」

アベルのことを自分が迎えていたかもしれない未来だと考えるとどうしても他人事だとは思えなかった。

「え、いいんですか?でも…ライアンさんにも目的があるはずでは…」

「うむ。でもバラモスゾンビと戦うにはまだ戦力が足りないのでござるよ。誰の仕業かは分からぬが、奴は北の街に閉じ込められているから人が集まるまでは放置しておいても問題はなかろう。他の仲間を集めてサフィールの父も止めて、みんな友達になってから戦ってもいいのでござる。」

721血の色は違えども:2017/12/24(日) 20:48:19 ID:OYriccYY0
その際、みんな友達大作戦についてサフィールに話すことにした。

「みんな友達大作戦…?」

「そう、人間も魔物も平等に生きてここから脱出するための作戦。父上を止めることにもきっと繋がりましょう。是非、御尽力いただけないでござろうか。」

平等であること。
それは当たり前のもののようであるが実現するのはとても難しいものだった。
ほとんどの者は心の底で魔物を恐れ、無意識に遠ざけている。

「分かりました、協力します!」

「かたじけない。恩に着るでござるよ!」

それでもライアンは知った。
例え言葉が通じずとも、例え相手がゴーレムであっても、心では通じ合えるということを。
人間も魔物も同じように守りたいものがあり、同じように苦しんでいることを。

そしてそれこそがみんな友達大作戦の本質だった。
提唱者である竜王の曾孫には、かつて3人の友達がいた。

ローレシアの王子ローレル。
魔物を含めた世界に向けた彼の愛に打算など存在しなかった。
ただ人間と魔物の両者に等しき愛を注いだのである。

サマルトリアの王子トンヌラ。
彼は竜王の子孫であったことで人々から迫害を受けた曾孫に最も同情的だった。
人間も魔物も関係なく、血筋によって自分の姿を先祖の姿の奥に見られることの苦しさを彼は誰よりも知っていた。

ムーンブルクの王女ルーナ。
彼女は世界に無関心だった。
人間も魔物も同様に自分を苦しめる存在と見なし、逆に両者を分け隔てなく受け入れた。

種族の壁を経てもなお平等な相手。
それが竜王の曾孫が求めた"友達"の関係だったのだ。


「ライアンさん、ゴーレムさん、みんなで友達になって、そして生きて帰りましょう!」

サフィールの足取りは出会って間もない頃よりは少し軽くなっていた。
物理的な距離も心の距離も遠く離れてしまった父親に対して何をすべきか具体的には分からなかったところに新たな目標を与えられたのだ。

また、ライアンにもひとつ目標が与えられた。
このゴーレムと同じように、この少女の笑顔を「守りたい」と思ったのだ。



さて、こうしてみんな友達大作戦の名のもとに人間と魔物の壁を失くすひとつのキッカケになり得る同盟がここに成立した。

しかし今、アベルが残した機械兵がその同盟へと向かっている。
アベルの支配によって破壊の化身と化した機械兵に「友達」という概念はあるのだろうか。
そしてその両者の衝突は、果たして何を生むのだろうか。

722血の色は違えども:2017/12/24(日) 20:51:08 ID:OYriccYY0
【F-5/平原 /夕方】
【ライアン@DQ4】
[状態]:HP1/2 全身の打ち身、顔に傷、兜半壊、腹部に打撲、鎧半壊
[装備]:こおりのやいば
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1)
[思考]:ジャンボを探す。ホイミンのみんな友達大作戦も手伝う。

【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP:ほぼ全快 MP 3/5
[装備]:ドラゴンの杖
[道具]:支給品一式×3、ショットガン、999999ゴールド
[思考]:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
おとうさんを見つけて止める
みんな友達大作戦を手伝う

【ネプリム(ゴーレム@DQ1】
[状態]:HPほぼ全快
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ネプリムとサフィール、そして彼女らがくれたものを守る
サフィールと仲良しなライアンを信頼

723 ◆2zEnKfaCDc:2017/12/24(日) 20:52:07 ID:OYriccYY0
投下終了しました。

724ただ一匹の名無しだ:2017/12/24(日) 21:21:09 ID:gb5ZTVjQ0
投下乙です
バドランドの教えw
確かにわざわざ言う事じゃないけどw

後これは指摘ですが、ひ孫に対するトンヌラの認識
49話を見る限り、トンヌラはひ孫についていい感情を抱いてる様子は全くなさそうです

725 ◆2zEnKfaCDc:2017/12/24(日) 21:40:20 ID:OYriccYY0
>>724
ご指摘ありがとうございます。
結構重大な心理描写見逃してましたね…

トンヌラのくだりのところを以下の文に訂正します。

サマルトリアの王子トンヌラ。
彼もまた自分の姿を他の誰かの姿の奥に見られることに苦しんでいた。
人間も魔物も関係なく、同じ苦しみを抱くことを竜王の曾孫は知った。

726 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/27(水) 01:05:26 ID:MOQ6JMJI0
これで生存キャラ全員が、夕方まで到着しました。そろそろ第二放送に移ってもいいと思いますが、どなたかまだ書きたい方いませんか?
その他に自分が放送書きたいって方はいらっしゃいませんか?なければ自分が予約して書こうと思います。

727 ◆2zEnKfaCDc:2017/12/27(水) 07:10:44 ID:JYK.vEy.0
このまま放送移行で異論ありません。
放送で扱うネタも温めていないので書いていただけるのであれば是非お願いしたいです。

728 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/28(木) 08:51:21 ID:IUhZfz7A0
第二回放送投下しますね

729第二回放送 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/28(木) 08:52:18 ID:IUhZfz7A0
再び、天空に6時間ほど前と同じ現象が起こった。
はるか上空に雲が集まり、エビルプリーストの顔が作られた。

「諸君、ご機嫌如何かな?
中には戦っている者もいて、お取込み中の所すまないが、新たな放送の時間になったのでな。
ルール通り、放送させてもらうぞ。

まずは禁止エリアの追加からだ。今回は一つ増えて4つだぞ。
2時間後に【E-2】.
4時間後に【H―5】
6時間後に【D-5】、そして【B-―6】だ。


これで禁止エリアは7つになる。くれぐれも注意して移動をするように


次はこの6時間で死んだ者の名前だ。心して聞くがよい。

ガボ
ロッキー
ローレル
バーバラ
ゲルダ
サンディ
アモス
ナブレット
カンダタ
ゲマ
パトラ
オルテガ
リオウ
ヒストリカ
アーク
ルーナ
パパス
デボラ
バラモス

以上、19名だ。
素晴らしい。これでとうとう半分になったではないか。
そして大事な者を失ったことで、復讐や破壊に走る者もいるだろう。
好きなようにするがよい。
我は種族や身分の貴賤は問わぬ。
優勝者には誰でも好きなだけ欲しい物、失ったものをくれてやろう。
残された者共の奮起を期待する。
己の願望や欲望の赴くがままに殺戮を続けるがよい。ではさらばだ!!」

730第二回放送 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/28(木) 08:52:44 ID:IUhZfz7A0


「全く、愚かな者共よ」
エビルプリーストは放送を終えた後、殺風景な部屋にいる大量の魔物の死骸を見つめていた。
大魔道が殺されてから、第二放送に到着する少し前、ピサロ側の魔物達が一斉に反乱を起こし、中にはそれに便乗する中立派だった魔物もいた。
しかし、究極の力を手に入れたエビルプリーストの敵ではなかった。
彼らは、エビルプリーストに襲い掛かってから1分足らずで物言わぬ血と肉の塊と化した。
「何のための生き返った命だと思っているのだ。」

ジョーカーも5のうち3減って、残りは2匹。
こちらで生き残っている者は、最初から自分に従っていた魔物と、ただただ反乱も服従もせずに怯えている者だけ。
生き返った魔族も、残り僅かになった。





突然、どこかで感じたような頭痛が走る。

(ピサロがおるではないか。)
そうだ、裏切り者で、なおかつ生き返ったわけではないが、この世界にはピサロという忌々しい魔族の野良犬もいた。
「何?ピサロ?」
エビルプリーストは独り言のようにつぶやく。


問題はこれからだ。
順調に人数は減っているが、いかんせんゲームに乗る者、殺人を犯す者が減りつつある。
折角復活させたバラモスも、もう少し働いてくれると思ったが、殺した人数は3人どまりだった。
残った二匹のジョーカーも、何人か犠牲を出すとは思うが、それもまた遠からず滅びるだろう。

(ロザリーを攫ってきたはずだ)
「む?ロザリー?そんなことをした覚えは………」

(あの男を唆せ。今ヤツは一人いるはずだ。一人だと、人間も魔族もありもしない考えを抱くようになる。)




「だまれ!!何だ貴様は!!」
エビルプリーストは「それ」に対して抵抗を続ける。
表情は狂ったようにぐるぐると変わっている。目の焦点は合わない。
(折角蘇らせたのに、貴様呼ばわりとは、無礼な奴だがまあいい。)


それは、まるで道化の一人芝居のようだったが、誰も止める者はいなかった。


残り、41人


※エビルプリーストがピサロに介入するかどうかは、次の書き手にお任せします。

731第二回放送 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/28(木) 08:53:18 ID:IUhZfz7A0
投下終了です。
初めて放送を書いたので、何かルールに違反していれば指摘お願いします。

732ただ一匹の名無しだ:2017/12/28(木) 22:38:54 ID:rR9u0EKA0
投下乙です
内容に特に問題はないかと

733 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/28(木) 22:56:12 ID:IUhZfz7A0
連絡し忘れていました。既に予約を始めてる方もいるため予約は自由ですが、
何かの理由があってこのssを破棄することになれば取り消すことになります。
また、投下解禁は12月30日0:00から始めようと思います。

734 ◆2zEnKfaCDc:2017/12/30(土) 00:22:57 ID:po/9pLpk0
投下します。

735The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:24:32 ID:po/9pLpk0
「…ま、しょーがないか。」

口から零れたのはそんな一言だった。

放送から聞こえてきた最愛の人の名前。
ポーラはそれをまるで分かっていたと言うかのごとく平然と受け入れた。

アークは自分と同じく剣を扱っていたが、バトルマスターになってからひたすら剣の腕ばかりを磨き続けた自分とは違い斧からブーメランに至るまで様々な武器の心得を取得していた。
支給品の武具がどんなものであれ対応は出来ただろうし、そもそも武具の力抜きにもアークは強かった。
それでもアークが不死身ではないなんてことくらい分かっていた。
何せ、彼だって人間なのだから。
そしてそうあることを願ったのは他でもない、自分だった。

喪失感に打ち負けて狂ってでもいれば、もっと楽だったのかもしれない。
現実から逃げ出すくらいに心が弱かったらこんな想いに駆られることも無かっただろう。
しかし生憎と頭は冴え渡り、次に取る行動は様々に形を変えて頭を過ぎり続ける。

ポーラは死後の世界の存在を知っている。
仮にこの場で剣を自分の喉にでも突き立てようものならばすぐにでも向こうの世界でアークと出会えるのだろう。

しかし、放送の中でポーラの心を揺さぶった名前はひとつではなかった。
サンディ。
あの妖精も向こう側にいる。
向こうでアークに出会えるとしても、彼が受け入れてくれる保証なんて、どこにもない。

剣の柄を強く握り込む。
独りで生き残らなければならないことなど戸惑うことでも何でもない。
アークと出会う前のように、誰も信じなければいいのだから。

キーファとミーティアは出会って数時間もしない内に別れることとなったが、良い人だった。
でも、彼らには自分が【見える人】であることを話していない。
そのことを知ればあの二人だってどう態度を翻すかなどわかったものでは無い。
人は保身のためならば他人を平気で傷つける。
ましてやこのような殺し合いの舞台なのだ。
他人を信じた結果裏切られて死んだ人だって何人いるかわかったものではない。

「待っててね、アーク。絶対にあなたを取り戻すから。」

剣を抜き、ここにはいないアークに向かって呟いた。

736The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:25:20 ID:po/9pLpk0

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


時は少し遡る。



「あなたは…どうして人を殺すの?」

破壊の剣の射程外から、セラフィはアベルに問いかけた。

「おかしな質問ですね。そもそもここはそういう場のはずですよ。」

こうは返すものの、アベルはセラフィの言うことの表面上の正しさは理解している。
殺し合いを強制されたからといって実際に他人を殺して回る必要などない。事実彼は、20年間も奴隷としての生活に反抗してきた。
アベルは殺し合いの場の中で生き残るために戦うのではなく、心の赴くまま破壊するために戦っているだけなのだ。

「そんなことない! アークさんもヒストリカさんもほかの人を犠牲にして生き残ろうなんて考える人じゃなかった!」

「では、その人たちは何故ここに居ないのです?」

「…。」

「おそらく、殺されたんですよね?」

「…違う。そんな簡単に言わないで!」

"殺された"。
結果だけ見るとそうなのだろう。
死ぬ必要のなかったアークさんやヒストリカさんが死んだ。
それは紛れもなく"殺された"と表現するに相応しく、二人を殺したルーナさんのことは許してはいけないのだけど、それでも彼女の心の弱さに漬け込み凶行に駆り立てたのはこの世界なのだ。それなのにルーナさんの悪意だけを抽出して結果を語る目の前の男が許せなかった。
強い意志を持ちながらも意味もなく命を奪っていくあなたとは違うんだって言ってやりたかった。

「仲間だの協力だの、所詮は力無き者の戯れ言です。より大きな力の前では簡単に破壊されてしまう。」

でも、男が語る結果論もまたひとつの事実だった。
だけどそれを認めたくないと心が抗っている。

「そんなの、間違ってる!」

それでも根拠の無い否定など届くはずはなかった。

「だったら正しさを証明してみればいいでしょう。どんな理想論を語ろうと、実現出来ぬまま死んでは戯れ言でしかないのですから。」

アベルは腰を低く落とし、剣を構える。
セラフィとピたろうも来る攻撃に備え、アベルの動きを注視し始めた、その時だった。

737The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:26:41 ID:po/9pLpk0
「諸君、ご機嫌如何かな?」


第二回放送の始まり。
そしてそれを待っていたと言わんばかりのタイミングで、アベルがセラフィに斬りかかった。

「うわっ!」

咄嗟に飛び退いて回避するセラフィ。

「ちょっと!放送が始まったんだよ!」

「ええ。あなたの気も紛れて、絶好の殺し時だと思いましたが、何か?」

アベルは更に前に出て斬りかからんと迫る。
両者の実力差は明確だった。
魔物の中でも最弱種といわれるスライム系が"魔王"を止めようと奮闘しているのだ。

その中でも彼女らの幸運は、アベルが直前の戦闘でかなり疲弊していることだった。
幻魔ドメディのグランドクロスをまともに受け、大地を踏みしめるたびに崩れ落ちそうになるほどの負傷を既にアベルは負っている。
失い続ける生命力を自分にベホマを掛け続けることによって補ってはいるが、回復魔法の制限下では魔力の消耗ばかりが激しく、詠唱のためどうしても動きは鈍くなる。

そのためアベルの前に出る速度と、セラフィが後ろに下がる速度は大体釣り合っており、急激に距離を詰められることも逆に安全地帯まで下がることもない。

しかし、互いに現状の戦局を維持し続けるとなれば斬ることのみに徹する側と避けることのみに徹する側、肉体的にも精神的にも疲弊の度合いは全く違う。体力か精神力か、どちらが尽きてもセラフィに待つのは死。そしてその極限までの緊張感を張り詰め続けるのにもいずれは限界が来る。

そもそも、アベルには互いの戦局を維持する道理がない。
アベルは術式を組み、詠唱を始める。

「バギクロス!」

そして巨大な竜巻がセラフィを襲う。
呪文自体は即死させるほどの威力ではないが、受ければ足にも支障が出るのは必須。アベルの狙いは攻撃の数を増やすことで本命である破壊の剣による一撃を避けにくくすることだった。

738The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:27:45 ID:po/9pLpk0
しかしその詠唱を見逃さなかったセラフィはその間、目を閉じて空へと祈っていた。
回復魔力を高める"聖なる祈り"。
その極意が秘められたバッジにはセラフィの顔が載っているという。

竜巻がセラフィを襲う。
巻き込まぬようピたろうから離れてそれを受けつつ――――――

「ベホイム!」

"祈りベホイム"による一瞬の回復で相殺する。
単体への回復力と詠唱速度に優れているベホイムはわずかな時間の隙が生死を分ける戦いでは時にベホマラーよりも重宝される。
本来なら牽制程度に放たれるバギクロスなど、聖なる祈りを使えばホイミでも相殺出来るのだが、回復呪文が制限を受けているこの世界ではそうはいかなかった。

バギクロスの回復呪文による相殺は予想外だったが、アベルの次の行動は変わらない。
剣を振りかぶりセラフィに迫る。

『いいか、セラフィ。回復役は意地でも死んじゃならねえ。来る攻撃の軌道をしっかり読んで、離れたり横に逸れたり後ろに回ったり、時にはジャンプしたりもして避けられる攻撃はしっかり避けるんだ。』

いつかジャンボが言っていたことを思い出す。
アラハギーロのリーダーとして歩むことを決めた私に護身術として教えてもらった戦い方。まさか実践する時がくるとは夢にも思っていなかった。

真っ直ぐ振り下ろされる直線上の斬撃。
攻撃の軌道を読み切ったセラフィは歩む道を直角に曲げて回避する。

「あなたが殺すのをやめるまで、いつまでも耐えてみせるから!」

「良いでしょう。ではすぐにでも終わらせてあげますよ。」

乗る必要もない安い挑発。
しかし呪いに心を蝕まれているアベルはそれを聞き流す余裕を無くしていた。

739The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:28:48 ID:po/9pLpk0
「ピキッ!(セラフィちゃんをいじめるな!)」

ピたろうが毒針をくわえてアベルに飛びかかる。
その業物の危険に気づいたアベルはピたろうとの射程の差を活かし大振りで応戦する。

「危ないっ!」

アベルの視線がピたろうに移ったことに気づいたセラフィは自分を見ていないアベルに回転しつつ体当たりをぶつける。
アベルはホイミスライムによるものだとは思えないほどの衝撃に半ばよろめく。
よろよろと姿勢を戻したアベルの目にはいっそう殺意が篭っていた。

アベルは剣を構え、セラフィへと振るう。
左右に躱せない横薙ぎの斬撃をセラフィは一歩下がって避ける。足元にいたピたろうがアベルの足に毒針を突き刺そうとするが、アベルは足で毒針の付け根を上から踏みつけ、毒針を落としたピたろうを蹴飛ばす。

「ピュギッ!?(いてっ!)」

飛んでいくピたろうを外目にアベルは毒針を拾い上げる。
そしてそのままその毒針をピたろうに向けて投げつけた。

「ピィ!(わ!)」

ピたろうは咄嗟に跳んで躱す。
しかし、空中にいるピたろうに逃げ場はない。

「まずは…一匹!」

アベルは走り込み、ピたろうに向かって剣を持ち上げた。
しかし、ピたろうにそれが振り下ろされることはなかった。


「ヒストリカ。」


「アーク。」


定時放送から聞こえてきた名前。
セラフィはあらかじめ二人の死を知らしめられていたからこそ放送で呼ばれる名前に心を乱されることはなかったし、幸運なことに元の世界のセラフィの知り合いがその放送で呼ばれることはなかった。

しかし、セラフィがこの世界で共に行動していた者の名前を耳に入れたアベルは思いつく。彼はこれから愛しい者が殺されようとしている時、セラフィのような――――――父のような人間が、黙って見ていられないことを知っていた。

「待っ――――――」

セラフィは迂闊にもピたろうの近くへと駆け寄る。
ピたろうに刃を振り上げたアベルが横目でセラフィを見据えていることに気付いた時にはもう止まることは出来ないくらい勢いがついていた。
前にもこうやってアークのところへ駆け寄って殺されかけた。
それでも、セラフィには見捨てるという選択肢を取ることは出来なかった。たとえその向かう先に全滅が待っているとしても。
アベルはニヤリと笑い、剣の切っ先をピたろうからセラフィに向け直す。

「ほらね。くだらない感情のせいでこうしてあなたは殺される。」

そこにいたのはただただ残酷に命を弄ぶ"魔王"だった。
斬撃がセラフィの喉を切り裂き、次の瞬間にはそのままピたろうも一突きで肉塊へと変える。

740The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:29:44 ID:po/9pLpk0
そんな未来がセラフィの脳裏を掠めた瞬間――――――アベルが勝ちを確信した瞬間を狙ったかのように、この世界に居る者全てに声が響き渡った。



「パパス。――――――デボラ。」



放送から聞こえるそれらの名前が耳を掠めた次の瞬間にはアベルの動きは硬直していた。

かつて無償の愛を注いでくれた父親、かつて愛し愛された相手。その者たちの死を連続して知らしめられたことは、アベルの心の奥底に眠っていた僅かな良心を引き出した。

たった一瞬の迷いだった。
普通であれば眼前の光景が理性を殺し、振るう剣の太刀筋も大きく逸れることなどないだろう。
しかしアベルは破壊の剣の呪いを利用しているに過ぎないのであり、呪いに蝕まれてはいるのだ。
一瞬であれど剣から湧き出る破壊衝動に抗うことは、剣の呪いを引き起こすことに繋がった。

時間にして、たったの数秒間の呪いによる硬直。
アベルの剣が、そしてアベル自身が呪われているということを本人も最も自覚することとなった数秒間。
それは駆け寄ってきたセラフィがピたろうを連れて離れるのには充分な時間だった。
そしてそれは――――――



「たあああぁぁ!」



――――――乱入者が割って入るには充分な時間だった。

「なっ!」


――――――ギィン!


硬直が解けたアベルは乱入者ポーラの剣を破壊の剣でギリギリのところで受け止める。

ポーラは鍔迫り合ったアベルの剣を力で強引に振り払った。
吹き飛ばされたアベルが尻をつき、ここぞとばかりに斬りかかる。

「ぐっ…バギクロス!」

倒れた姿勢から大地に向けて炸裂させた真空呪文。
ポーラの進路を妨げ、放った勢いでアベルは後方へと退く。

バギクロスを強引に斬撃で振り払うポーラを狙ってアベルは剣で受け止めにくい刺突を繰り出す。バギクロスの対処で体制が整わないポーラの心臓を正確に狙う一撃だった。

身体を捻り、急所への直撃を何とか裂けたものの、ポーラの脇腹に赤い筋を残す。
回避に精一杯のポーラには反撃の隙も与えられず、アベルの第二擊が来る前に一歩引き下がる。

741The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:30:53 ID:po/9pLpk0
奇襲が上手くいかなかったポーラは戦術を組み直す。
目の前の男は他の参加者との戦闘を繰り広げた後なのか、すでに満身創痍。
攻める側であれば守りを崩すのは難しくないだろう。

しかし、互いのコンディションで一概に勝敗を見定められないのが人間の脆さである。
コンディションがほとんど万全のポーラも破壊の剣ほどの業物で急所を叩き斬られれば死は免れない。

ならば体力差を活かし、攻める隙を与えない。
攻撃は最大の防御というが、"すてみ"の覚悟で相手の行動猶予を最低限に留めたまま倒すというバトルマスターのバトルスタイルに最も沿った言葉だとポーラは常々思う。

突撃し、剣の射程に入ると同時にアベルを斬りつける。
ポーラより速く攻撃するだけの体力のないアベルはその地点で防御を半ば強いられる。
そしてアベルの反撃が来るより先に射程外へと離れる。
アベルの斬撃は空を斬ることしか出来ず、先に攻め手に回るポーラにはどうしても届かない。
理想的な戦術の押し付けをポーラは狙っていた。

この応酬を幾度か繰り返していると、不意にアベルはポーラに問いかけた。

「よろしければあなたの戦う理由、聞かせていただけませんか?」

仮に目的が一致するのであれば戦わずともリオウやジンガーのように味方に引き込めばいいとアベルは考えていた。
しかしポーラはその意図を察する。

「お断り。あなたの目的とは相容れないから安心して逝きなさい。」

「そうですか、それは残念。」

目的は個人的なものであるとの意味を含ませた返答。
ポーラの目的はアークを生き返らせることだけではない。
アークを生き返らせた上で自分も生き残ることが必須なのだ。
自分は死んでもいいからアークだけは生き返らせたい――――――そんな目的の人以外と目的が合うことはないし、目的が背反する者と協力体制を組んだところでいずれ裏切られる。
そんな突拍子もない願いを持つ人など探すまでもなくいないと断じたポーラの頭の中からは誰かと協力するという発想は抜け落ちていた。

愛を貫いて戦う者と愛を否定し破壊する者。
過去の人となってしまった想い人を取り戻すために戦う者と過去を払拭し消しさらんとする者。その二人が相容れる要素など微塵も存在しない。
交わすのは剣のみで充分だと両者に知らしめるかのように二人の剣が耳をつんざく金属音を鳴らし、再び戦いが始まった。

742The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:31:46 ID:po/9pLpk0
ポーラの戦術を理解したアベルは先ずはその嵌めからの脱出にかかる。

「バギ!」

ポーラが前に出るのに合わせてアベルは絡め手を放つ。
魔力も底が見え始めているのか、あるいは詠唱時間の短縮なのか、先ほど放ったバギクロスではなく微小な攻撃呪文での撹乱。

大方小さな竜巻に隠れて死へと誘う斬撃を混ぜこもうとしているのだろう。
そう判断したポーラはその竜巻を無視してアベルの斬撃に対してカウンターを仕掛けるべく備える。
しかしアベルがバギで隠したかったのは斬撃ではなく、背中に持つ杖であった。

左手で肩の杖をくるりと回しながら掴み込み、吹き飛ばしの杖をポーラへと振るう。
ポーラは突然の魔法弾により後方に積まれていた積荷の中へと飛ばされ、背を打って膝を付く。

そして死へと直結する斬撃が今度こそポーラへと迫る。アベルは破壊の剣を両腕で握り込み、下段から両手剣のように斬り上げた。

ポーラは舞い上がる埃の中、後方の木の壁を蹴って横薙ぎに剣を振るう。

交差する縦と横の斬撃。
交錯する人と人。
そして、1本の刃が宙に舞った。
ポーラの持つ炎の剣が互いの業物の破壊力の差に耐えきれずポッキリと音を立てて折れたのだった。

「っ…!」

折れたとは言えど刀身の半分程度は残っており、剣の殺傷力自体は健在である。

しかしリーチはどうしても不利を取るため、先程のような射程に任せた戦術を取ることは出来ない。このまま敵へと斬り込む場合、少なからず命を落とすリスクを負うこととなる。

ポーラは小さく舌打ちをしつつ折れた剣の柄に魔力を込める。

剣を極めた者の極意であるギガスラッシュの応用。
失われた刃を補うかのように剣は雷光を帯びた。
剣が元々纏っていた炎と交わって黄金色に輝き始めた。
そのままもう一度アベルに向かって走り込む。

「――――――認めない。」

アベルは呟く。
ギガスラッシュの雷の煌めきに、アベルはただ目を奪われていた。

「――――――勇者の雷など認めない!」

アベルは再び吹き飛ばしの杖をポーラに向けて振るった。
杖の魔力に抗うことは出来ず再び後方へと吹き飛ばされが、先ほどの不意打ちとは違いタネは分かっていたため体制を崩すこともなく着地する。それは撃ち合いを先延ばしにするだけのただの時間稼ぎにしかならなかった。

743The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:33:55 ID:po/9pLpk0

アベルはポーラの持つ雷の力を半ば無意識に恐れていた。
アベルの中で雷は勇者にのみ操ることを許されたものだったからだ。

アベルの人生は勇者に壊されたといっても過言ではない。
父の勇者を探す旅に同行し、10年の奴隷生活を強いられることとなった。
その後も勇者を探す旅は続いたが、真実は残酷なものだった。

父が生涯をかけて探し求めていた勇者はまだこの世に存在していなかったのだ。
そしてアベルが石と化している間にその勇者も勝手に育っていった。

アベルは自分の人生に"勇者の父親"として勇者を作り出したことしか意義を見出せなかった。
奴隷として生きた10年間も、石像として生きた8年間も、父と共に、あるいは父の後を継いで勇者を探したからこそ過ごすこととなった時間だ。
当時は存在していなかった勇者を、あるいは既に見つかっているはずの勇者を探してアベルは意義のない多大な時間を失った。

そして息子のリュビは紛れもない勇者だった。
その証としてリュビは雷を操ることが出来た。
自分が勇者でさえあればとアベルは何度も思ったが、リュビの操る雷は自分が勇者の器ではないということを幾度となく思い知らせた。

だからこそ、アベルは他の勇者の存在を、雷を操る者の存在を受け入れられなかった。
ポーラの操る雷は"勇者の父親"というアベルの唯一の存在意義さえ否定するものだったのだ。

だからアベルは吹き飛ばしの杖で否定する。
目の前で繰り広げられる勇者の力の存在を。

そしてアベルは否定する。
"皆を守る"勇者を。
アベルはポーラが吹き飛ばされている間に破壊の対象を変えた。
ポーラではなく、眼前で繰り広げられる戦いをただ眺めていたセラフィの方へと向き直り斬り掛かる。

「見ろ、お前は誰も守れない!」
「そんなの、どーでもいーの。あたしが守りたいのは――――――」

彼の笑顔だけだから。その一言を飲み込んで、ポーラもまたアベルに向かって走り出した。
ポーラは皆を守る勇者などではなく、そこの少女が斬り殺されようがポーラには何も関係がない。既に殺し合いに身を投じる覚悟は決まっている。遅かれ早かれそこの少女にも死んでもらうのだから。

しかし他の誰かを斬る間は隙が生まれるかもしれない。
その隙を突くべくポーラは雷光を纏った剣を握りしめた。

744The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:36:39 ID:po/9pLpk0
「ピー!」(セラフィちゃん危ない!)

そんな中、セラフィの背中から"勇者"が飛び出しセラフィの前に躍り出る。

「ピたろう、逃げてえええぇ!!!」

セラフィは叫ぶ。
しかしピたろうの耳には届かない。
ピたろうの身体は後方にいるセラフィにも、そして前方から迫って来るアベルにさえ伝わるほど凄まじい熱気を放っていた。

(この熱気は…!)

いつだったか。自分たちが追い詰めたミルドラースも同じような熱気を放ち、その熱源を直接吐き出した。
その時の戦いを思い返してみても、リュビのフバーハが無ければどのような結末を迎えていたのか想像出来る。

そんなピたろうのただならぬ様子に気づいたアベルは咄嗟に吹き飛ばしの杖をピたろうに振りかざす。
背後にいたセラフィを巻き込んでピたろうは後方へと飛ばされていく。

そして魔力弾に吹き飛ばされる中、ピたろうがアベルに向けて灼熱の炎を吐き出した。

「バギクロス!」

距離を離してもなおアベルに襲い来る業火へ向けて放つ。
魔王の呪文とスライムの吐息がぶつかり拮抗する。そして両者はそのまま消滅した。
セラフィにはそれを呆然と眺めていることしか出来なかった。

そしてアベルは撤退を余儀なくされていた。
灼熱の炎を吐くスライムに勇者の力を使う乱入者の両方を相手にするには体力も魔力も足りない。

しかし安易な撤退は死に直結する。
ポーラが既に自らに向けて走り出しており、ならばと吹き飛ばしの杖をかざしても魔力弾は飛ばない。すでに杖は魔力を使い果たしていた。
ポーラの攻撃は実体を持たない魔力の刃であるため剣で受けることさえも出来ない。
アベルは近付いてくるポーラにバギの連射で応戦する。

真空波にも似た高速の刃がポーラの肌に切り傷をつけるものの、ポーラは止まらない。

呪文も使えない。剣も届かない。
しかし最後に少しでも足止めになればと投げた吹き飛ばしの杖は、思わずして最後の効力を発揮した。

745The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:39:09 ID:po/9pLpk0
「えっ…?」

ポーラは再び吹き飛んでいく。
ポーラを一時的に遠ざけたアベルはピたろうの追撃を注視するが、アベルの危惧は杞憂となる。
ピたろうは再びアベルに灼熱の炎を吐くことはなかった。
口からなお立ち込める煙を見て、アベルはピたろうを注意対象から外す。
ポーラとピたろう、両方の危険分子を遠ざけたアベルはそのまま撤退を成功させた。

「ま、好都合か。」

剣に纏わせた雷光を消しながらポーラは呟く。
敵がマーダーのスタンスを保つのなら撤退して他の参加者を殺して回ってくれた方が都合が良い。ゲームに乗っている参加者を排除しようとする正義の味方とでも相打ちになってくれれば理想的だ。
それに正直なところ、あのまま戦っていたら危なかったかもしれない。
本来魔法を一切使わないバトルマスターの職に就いているポーラの魔力の量は少なく、ギガスラッシュを纏わせた剣を維持し続けることは出来なかった。
こんな荒業は本来、剣も魔法も洗練しているアークのような者が行うべきなのだ。

そんなことを考えているポーラにセラフィは駆け寄る。

「あの…!ありがとうございます!ピたろうも、守ってくれてありがとっ!」

これは愛の力が成した奇跡なのだろうか。
本来相応の習熟無しにはスライムが扱うことの出来ない灼熱の炎を戦いの経験など全くない1匹のスライムが放ち、少女の命を救った。

「あれ…ピたろう…?どうしたの…?」

これは愛の力が課した代償なのだろうか。
戦闘によって成熟していくはずの器官が成熟しないまま灼熱の炎を扱ったピたろうの体内は自らの炎によって焼き尽くされていた。

「ねえ!返事してよ!ピたろうってば…!」


セラフィは何度も名前を呼びながらホイミを唱え続ける。
傍から見る分にはピたろうに外傷はなく、すやすやと眠っているかのようにすら見える。

「無駄よ。…もう、死んでるから。」

その光景を見ていられなくなったポーラは冷徹な声で告げた。

「どうしてそんなことが――――――」

それに続く彼女の言葉は、ポーラも全く予想していないものだった。

「――――――そっか。"見える"んだ。」

「え?」

746The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:41:45 ID:po/9pLpk0

ポーラにはスライムの"霊"が見えていた。
空っぽになった肉体と動き回る霊体の両方が目に見えている状態。
旅の途中にも何度か見たことのある光景だが、幽霊が見えるポーラやアークには肉体の持ち主がひと目で死んでいると分かってしまうのだった。
この世界で死者と対面することになるのは初めてだった。
これだけ人が殺されている殺し合いの世界の中で死と無縁でいられたこと自体は比較的幸運な部類に入るのだろうが、アークを失ったポーラにその幸せを噛みしめることは出来なかった。

ところで何故この少女は何故そのことを知っているのか。
コニファーやスクルドやサンディから聞いたという可能性もあったが、何故か彼らではないと確信を持っていた。

「アークに…会ったのね?」

「うん…。ポーラさん、ピたろうは…向こうでどうしてるの?」

「ここにいる。きっとあなたを最後まで守り通せなかったことが未練となって魂が成仏出来なかったのね。」

「そっか…。ピたろう、そこにいるんだね。守ってくれてありがとう。そしてごめんね、あなたを守ってあげられなくて…。」

あたしは、泣きじゃくる彼女を黙って見ていることしか出来なかった。
このゲームに乗っているあたしには、ここで折れた剣を突き刺して殺すという選択肢もあったのだろうけど、どうしても出来なかった。
彼女がこの世界のアークのことを知る最後の1人かもしれないという思いがあたしの心の片隅に引っかかっていた。
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存在意義を否定された"魔王"は怒りに震えていた。
破壊衝動に一瞬でも抗ってしまったことへの不覚、突然の乱入者の存在、そしてその乱入者を出し抜いたのにスライムごときに邪魔をされてホイミスライムの少女を殺せないどころか貴重な魔力や吹き飛ばしの杖まで使わされ、誰も自分の手で殺せないまま惨めに逃げ帰る始末。
苛立ちを感じるのも致し方ないと言えよう。

だからこそ、アベルは支給品として配られたものの内のひとつが気に入らなかった。

『剣の秘伝書』という書物。
これを持つ者は勇者の雷を剣に纏わせ敵を断ずる伝説の剣技が使えるそうだ。

ふざけるな。
こんな書物ひとつで誰でも勇者の力を扱えるだと?
人生全てを否定する書物の存在を認めたくなかった。

それでも先ほどの戦いの乱入者が剣に纏わせた雷光は勇者の力が唯一無二のものではないことを私に知らしめ、しかも危うく命を落とすところだった。
信念やら意地やらで持つ力を行使せずに敗北しては元も子もない。
むしろそれこそ"余計な感情"に他ならない。

ならば、捨てよう。
自分の存在意義など、自分の歩んできた過去の産物だ。
過去を払拭すると決めた今、そんなものに拘っていたことがそもそも間違いだったのだ。
そして新たな歴史を刻もう。
この書物に記された''勇者の雷"を、いずれ"魔王の雷"と呼ばせてみせようではないか。

魔王はまたひとつ、過去をぬぐい去る。
彼が最も捨てたかったのは過去の他人との関係ではなく、敗北を続けた自分だったのかもしれない。



ところで、このような話をご存知だろうか。
勇者の雷を剣へと纏わせ敵を斬りつける剣の奥義は様々な世界に存在する。
しかし破壊の剣に勇者の雷を纏わせる時のみ、その雷は禍々しく漆黒に染まり、真に"はかいのいちげき"と化す。
そしてその剣技はとある世界ではこう呼ばれているという。
暗黒剣究極奥義――――――"ジゴスラッシュ"と。

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747The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:42:48 ID:po/9pLpk0

少しして、彼女はスライムの墓を作り終えた。
遺体を土に埋め、埋めてある場所の土に毒針を立てているだけの簡潔な墓だった。
後で掘り起こす人でもいたら、目立った外傷も見受けられないのに死んでいるスライムを見つけて立てられていた毒針が凶器だと誤解するかもしれない。

必死に墓を作っている最中に何もすることがなかったあたしは既に名簿で名前は確認していたけど、セラフィはまだ名乗っていなかったことに気づいたらしく慌てて自己紹介を始めた。

正体はホイミスライムだと聞いた時はさすがに驚いたけど、呪術師シャルマナという前例を知っていたあたしは割とすぐに受け入れることが出来た。
むしろ自分の能力を受け入れてくれるという点では人間よりも接しやすい相手だとさえ思える。

「ポーラさん、今はピたろうはどこにいるの?」

そう言われて辺りを見回してみると、いつの間にかスライムの霊はいなくなっていた。
彼女の想いに触れて満足し成仏したのだろう、と特に不思議には思わなかった。

「もういないわ。きっと、星になったの。」

大人が子供に諭す迷信とは違った意味合いでそう言った。
もちろん、あたしがその言葉の裏に星へと変わっていった天使達の存在を見ていることなんかセラフィには伝わっていない。

「星に、かぁ。…そういえば、もう夜だね。この世界に見える星も私たちの居た世界と同じ星なのかな?」

「ううん、そんなわけない。」

星へと変わっていった天使たちはいつだってアークを守ってくれているはずだった。いや、守ってくれていないと割に合わないという逆説でもあった。
アークが人間へと身を落としてまで守った星空の下でアークが死ぬなんて救われない、だからこの星空はあの星空じゃない。
都合の良い理屈だとは思うけど、そうでも思わないとアークとの旅が全て否定されてしまうかのように思えてならなかった。

748The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:43:33 ID:po/9pLpk0
「星空はね、成仏していった命の輝きなの。…こんな誰も浮かばれない世界の空じゃいけないでしょ。」

「そう、だよね…。この星空も偽りなんだよね…。」

"も"という一文字が気になったが深くは追究しなかった。
あたしが星空の先に見ているものがセラフィに伝わらないように、セラフィの見ている星空の先にあるものもあたしには伝わらないのだろう。
相手の全てを理解しようとしない、そのくらいの関係があたしには丁度いい。
表面だけの人間関係、上っ面だけの信頼、そんなものはあたしが"見えている"世界を共有した途端にことごとく剥がれ落ちていった。

その後、セラフィといわゆる情報交換というものを行ったが、アークが死んだ場所に居合わせなかったセラフィには死因すら分からないとのことだった。

アークを殺した人は既に死んでいるという事実もあたしを苛立たせた。
背後にはそいつの死体が転がっていたけど霊は見えない。
たぶん、彼女なりに何かしら自己完結しながら死んでいったのだろう。
アークの命を奪っておきながら成仏出来ているというのもあたしの気持ちを最もぶつけるべき対象と出会えないのも気に入らないし、何よりもアークは彼女を守ろうとして死んだのかもしれないというセラフィの推測が気に入らなかった。
アークが命を賭して守ったかもしれない命はあんなにも凄惨な最期を迎えているとすると、アークの死はどこまでも報われないではないか。

そしてセラフィについて分かったことといえば、彼女がこの世界で知り合った仲間が既に皆死んでいるということ。
あたしはあたしの全てだったアークを失ったことでとっくに何かが壊れてるんだろうけど、セラフィもセラフィで彼女の人格を形成している何かが壊れているのかもしれない。
事実、性格は明るそうに見えるセラフィはあたしと出会ってから一度も笑っていない。
あたしがゲーム開始後間もなく出会った仏頂面の男はセラフィの元の世界の知り合いだったらしいのだが、その大体の居場所が分かっても大した反応も示さなかった。

749The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:44:29 ID:po/9pLpk0
そんな風に何かへの執着が一切見えなかったからだろうか。
この一言を言うにも大して躊躇はしなかった。

「あたし、このゲームに乗ろうと思ってるの。」

隠しておくことも出来た。
でも少なからず親しくなってしまったセラフィには言っておかなければいけない気がした。
死者が見えてしまうからこそ、あたしは殺した相手と今一度向き合わなくちゃいけない。
仮に彼女を不意打ちで殺したとしても、霊となった彼女と再び向き合える自信がなかった。
あたしのこの力はこんなところでもあたしを縛り付けるものらしい。

「そう…。それは…アークさんを生き返らせるためなの?」

返ってきたのは質問。
あたしは黙って首を縦に振った。

「そっかぁ。愛してるんだね。アークさんのこと。」

自分の恋の成就のためにゲームに乗るという身勝手を認めたくなくて肯定はできなかった。
アークを生き返らせることを善行であるかのように自分の中で完結させたかったのだろうか。

「んと…止めないの?」

止めてほしいというわけではないが、アークのことから話題を逸らしたくてそう聞いてみた。

「…そう言われると辛いなぁ。ここに来たばかりの私だったら、絶対に止めてたもん。」

「一応、あなたにも手を下すという意味で言ったのだけれど。」

そのことも理解していたらしく、セラフィは頷いていた。

「私ね、たくさんの人の死を見ちゃった。死にそうなのに仲間のことを気にかけているような優しい人もいたし、ピたろうやヒストリカさんは私を庇って死んで、アークさんも、アークさんを殺した人も…。」

セラフィは泣くこともなく、ただただ無表情のままに話し続ける。

「逆に人を殺す人もいっぱい見てきたの。さっきの人は誰かを愛する心まで全部壊そうとしてた。アークさんを殺した人はたぶん、生き方を見失ってたんだと思う。」

アークは見ず知らずの人のお願いも聞いてあげるくらい優しかったから、こんな殺し合いの世界で自分を見失っている人を助けようとしたのも理解出来る。
それでも納得の出来ないあたしがいるんだけども。

「他にもね、復讐のために魔物になってしまった人間同士を戦わせて殺し続けたベルムドさんって人もいたの。復讐なんかしても失った命が戻ってくるわけがないのに…。」

セラフィは背を向けて俯いていた。

「でもね。」

突然、くるりと振り返る。

750The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:49:20 ID:po/9pLpk0
「だからこそ、失ったものを取り戻すために、そして愛する人のために戦うポーラさんのこと、悪い人だって言えないの。」

たぶん、セラフィは悔しいのだろう。
仲間になった人たちが自分の隣から次々に零れ落ちていったことが。抗いたいのに抗う力がなくて、取り戻したいのに失ったものは戻らない。
そういう無力感とか、自分だけが残ってしまうことへの罪悪感とか――――――
そこまで考えて、目の前にいるセラフィがたった1人で人間の世界に取り残されたかつてのアークと重なることに気づいた。
あたしは本当にセラフィを殺せるのだろうか。

「でも、その前に。ねぇ、アークさんのところにいこうよ。」
「え…?」

突然の提案にあたしは驚いた。
殺し合いに乗ろうとしているあたしはアークに合わせる顔がないというのに。
それは慣用句なんかじゃなくて、あたしは本当にアークの幽霊と出会うかもしれないんだ。でも――――――
「分かった。…連れてって。」
――――――あたしは逃げない。
例えあなたに責められようとも最後まで戦い抜く。
だってあたしは――――――あなたを愛しているから。

【F-9/ポルトリンク/二日目 夜】

【ポーラ@DQ9】
[状態]:HP3/5 MP1/5
[装備]:折れた炎の剣@DQ6
[道具]:支給品一式 支給品0〜2個
[思考]:ゲームで優勝し、アークを生き返らせる。アークの死んだ場所へ行き、その後セラフィを殺す。

※未練を残す死者の幽霊が見えます。会話の可否等、ここまでで触れていないポーラの能力の詳細は以降の書き手さんにお任せします。

【セラフィ@DQ10】
[状態]:HP5/6 歩くとHP回復(装備効果)
[装備]:ホイミンのTシャツ@DQ8 祈りの指輪
[道具]:
[思考]:アークの死んだ場所へ行く。ポーラの行いは否定しない。ジャンボを探す。レックにはデュランのことを伝えてあげよう。

※仲間モンスターのホイミスライムと同じ呪文、特技が使えます。

【F-8/二日目 夜】

【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/5 MP1/20
[装備]:破壊の剣
[道具]:支給品一式 剣の秘伝書
[思考]:過去と決別するために戦う

※ポルトリンクのスライムの遺体が埋められている場所に毒針と不要なスライムの支給品全てが、町の中には吹き飛ばしの杖(0)が放置されています。

【スライム@DQ1 死亡】
【残り40人】


かつて、世界を大洪水が襲った。神に選ばれた少年ノアがお告げに従い方舟を創ったことで、人間は絶滅を逃れた。

しかし、この世界の方舟の定員はたったのひとり。乗れなかった者には等しく死が訪れる。
そして方舟に乗れるのは神に選ばれた正しき者であるとは限らない。 方舟の先に待つのが希望であるのかどうかもまだ分からない。
救いの手すら崩れ落ちそうな、そんな絶望の中に彼女たちは迷い込んでいる。

それでも、"愛"は彼女に希望を残す。
その"愛"は"北極星"のように、彼女の進む道――――――方舟を追い求める道を、移ろうことなく示し続けるのだった。

751 ◆2zEnKfaCDc:2017/12/30(土) 00:59:03 ID:po/9pLpk0
投下終了しました。

もしも◆CASELIATiAさんがご覧になっているのであれば、是非またSSを投下してほしいと思い、自分を発端とした問題が起こった作品に一種の邂逅の意を込めてリレーさせていただきました。

752 ◆2zEnKfaCDc:2017/12/30(土) 09:54:00 ID:po/9pLpk0
早速ですが誤植修正を。

>>746
だからこそ、アベルは支給品として配られたものの内のひとつが気に入らなかった。

が文脈に合ってなかったので

また、アベルは支給品として配られたものの内のひとつが気に入らなかった。

に訂正します。

753ただの一匹の名無しだ:2017/12/31(日) 01:04:27 ID:cMTWbC320
いきなりの大作の投下、乙です!!
そしてピたろうも、乙です!!
アベル、セラフィ、ポーラ、そしてピたろうの決意が良く浮き彫りになっていました!!
やっぱりスライムの最後(色んな意味で)は灼熱の炎ですね。
Casさんがどう思っているのか分かりませんが正直もうあの件は気にせず書き続けるといいと思いますよ。

754ただ一匹の名無しだ:2017/12/31(日) 16:40:54 ID:ybLQI4Hk0
投下乙です

ピたろう…ムチャしやがって
ただのスライムが炎吐くって、愛の力ってすごい…
ボロボロのアベルも、まだまだ予断を許さない状況のポーラとセラフィも、どうなることやら…

755 ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:34:53 ID:3uAnN46U0
投下します。

756闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:37:35 ID:3uAnN46U0


「ジャンボ。無事でよかったぜ。なによりだ。」
「ヒューザこそボロボロじゃねえか。」


とりあえず、二人は再会を喜ぶ。
長らく会わなかった親友同士の再会のように
最もそれほど共闘する回数は多かったわけではないが。


「この人?たち、ジャンボさんの知り合い?」
「ああ、昔何度か一緒に冒険した仲間でな。ホイミスライムの方は知らないが、大方同行者だろ。」

ターニアは不思議そうに二人を見る(最もヒューザとホイミンを「二人」と数えるかは難しいが)


「このアブラ粘土みたいな人がヒューザの言っていたジャンボって人?」
「見た目はそうだけど、この戦いで大いに活躍してくれるはずだ。オマエのなんとか作戦も手伝ってくれるはずだぜ。」

一方でホイミンもジャンボの姿を怪しみヒューザに尋ねる。
最も、仲間を集めるのが得意なのは、魔物と少女が同行しているから、本当のようだ。


「まあ、5人もそろって立ち話ってのもナンだ。向こうの方に広場みたいな所があるし、そこで座ろうぜ。」

ジャンボの言われたまま他の4人も従って森の中に入る。
このメンバーは誰一人知らないことだが、かつてとある国の王と姫とその従者、そして山賊も休憩に使った場所である。
ジャンボはヒューザにベホイムをかけ始めた。回復量ホイミンやヤンガスのホイミとは全然違う。

「初めまして、ライフコッドのターニアです。お兄ちゃんを探しています。」
「ぼくホイミン。この戦いの参加者全員と友達になるんだ。友達になってくれる?」
「レーン村のヒューザだ。ジャンボとは、まあ、知り合いみたいなところだ。」
「あ、一応、自己紹介しておくぜ。アグラニ町出身の、ジャンボだ。一応、首輪解除の手掛かりを探している。」
「ガウ、ガウ。」
「こいつはゲレゲレ。アベルってご主人様を探してるらしいぜ。」

互いの自己紹介から始まり、持っているパンと水で食事を摂る。

757闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:38:13 ID:3uAnN46U0




「なあ、ジャンボ」
「分かってるぜ。首輪と、仲間集め、だろ。」
「なら話が早え。早速、手にした情報を教えてくれ。」
「まあ、そう焦るなよ。オレも実はピサロってヤツから…………」


(諸君、ご機嫌如何かな?)

「「「「「!?」」」」」

その場にいた5人が突然始まった放送に一斉に驚く。


だが、放送を聞いた後は、それどころではなくなった。

ガボ
ゲルダ
サンディ
ナブレット

「うわああああああああああああ!!!」
一番最初に悲鳴を上げたのはホイミン。

「どうした!?」
一番最初にヒューザが声をかける。


「みんなが………、みんなが…………!!」

トラペッタで新しく知り合ったメンバーは全滅だ。
りゅうちゃんに続いてガボまで死んだことが分かり、『みんな友達大作戦』の初期メンバーはとうとう一人になってしまった。

「しっかりしろ!!オマエが言ってたライアンって戦士は呼ばれてねえだろ!!」
最初の放送の直後に自分を襲ったバラモスが呼ばれたことと、ライアンが呼ばれてないことから、バラモスはライアンが倒したのだろう。
だが、まだ会えないのは同じだし、そんなことは慰めにならない。
ここの人達と新たに友達になったところで、また死んでしまうのではないか。


動揺したのはホイミンとヒューザだけではない。

758闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:38:51 ID:3uAnN46U0

パパス
デボラ

「ガウウウウウウウ!!!」
ご主人さまの大切な人と、そしてご主人様と同じくらい自分を大切にしてくれた人
大事な二人を失ったことと、自分の無力さを雄たけびにして表現する。


「バーバラさん………」
ホイミンとゲレゲレほどではないが、ターニアも悲しむ。
レックの仲間達の中でももう二度と会えないはずの人だった。
だからこそこの世界で会うことを楽しみにしていたのに。
きっと、お兄ちゃんはもっと悲しいだろう。



仲間を失った者、仲間を失った仲間を見ている者。全員多かれ少なかれの悲しみを抱いた。




一人のドワーフの男を除いて。




(やっぱり、この世界で「いいヤツ」ってのは生き残れねえんだな)

「いいヤツ」というのは「都合のいいヤツ」ではない。
ナブレットにヒストリカ。前の放送で聞いたズーボーも当てはまる。

生真面目で誰よりも弱い者を守る意思の固いパラディンのズーボー
観客の子供達のことをずっと考えているナブレット
コミュニケーション能力に若干の問題があるが、情熱的で友情に憧れているヒストリカ博士

彼らは融通の利かない所もあった。
だが、人が傷つくくらいなら自分が傷つくことを選ぶほど、優しい「いいヤツ」ばかりだった。
自分はどうしてもそういう人になれない。
あれこれクエストなども承諾していたが、それは旅人としての名声値やお礼の品、もしくはわが身を守るためのためであった。
間違っても人から感謝されることが目的ではない。


(さてと、あんまり気は進まねえが、やるしかねえんだな。)
ジャンボは悲しみを抱かず、冷静に場の状況を考える。
放送でレックとチャモロが呼ばれていないことから、決意を固める

759闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:39:22 ID:3uAnN46U0




ターニア曰く二人共かなりの実力派で、人間性にも問題ないらしいので、対主催の陣営に入っている可能性が極めて高い。
そしてその陣営は、時間が過ぎれば過ぎるほど大きくなっていくだろう。
そうなるとその輪の中にいる二人だけを狙って殺害するのはどんどん難しくなる。


やるなら、この時点から算段を打っておく必要がある。


(あ、まだ大事なことがあったな。)
もう一つ悪いことがある。
ついさっき入った森の広場が、ギリギリ2時間後の禁止エリア、【E―2】に該当していた。
少し戻ればエリアから脱出できるので、普通に考えればこれが原因で死ぬ危険性はまずないが、全員が動揺している中ではどうなるか分からない。


「オイ!!みんな落ち着け!!」
ジャンボはパンパンと手を叩き、全員の注目を集める。
「ここが禁止エリアになるみたいだ!!出ろ!!」
特にホイミンは気が進まない様子だったが、ヒューザとゲレゲレがそれぞれを運ぶ。

「忘れ物とかないよな?ここでの忘れ物はシャレになんねえぞ!!」




どうにか広場の外へ出る。まだ他の者たちの落ち着きは戻っていないようだ。
こんな所でこんなことを聞かされれば、落ち着いている方がおかしいのだが。

「ターニア、ゲレゲレ、そしてそこのホイミスライム。オマエらに一つ言っておきたい。」
「どうした、ジャンボ」
ヒューザがジャンボに声をかける。

「仲間探しはオレとヒューザだけで行く。後のヤツは城に帰れ。」
「「「「!?」」」」

「どうしてそんなこと言いだすのよ?まだお兄ちゃんを見つけてないのに!!」

760闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:39:51 ID:3uAnN46U0
「ガウ!!ガウ!!」
「確かに城へ行くのは目的だったけど……。」
「オイ、いきなり帰れはねえだろ?」


ターニアとゲレゲレは当然ながら反対する。ホイミスライムもあまり乗り気はしないようだ

「これからは暗くなるし、前にも増して危険になる。それにな、良い子はおねんねの時間だぜ。
城なら寝所もあるし、安全って訳でもないが、ここよりかはマシだろ。」


ジャンボがこういった理由は、言うまでもなく彼らのためではない。
これからのヒューザとの話を聞かれたくないからだ。

結局3人の態度に負け、自分はこれからヒューザとの話があるから少し離れてくれ、ゲレゲレは二人を守れとの話で終わらせた。


「別にアイツらを向こうに追いやらなくてもいいんじゃないのか?まあいいけどよ。」
「じゃあ、まずは首輪のことだけどな、ジバ系の呪文ってあるだろ?あれを応用して使われているんじゃないかって、ピサロから聞いたんだ。」
「オマエもピサロを知っているのか?」
「ああ、ヒューザが城を出てからオレがピサロに会って、そっからヒューザのことを聞いたんだ。」
「入れ違いになってたみてえだな。」

「話を戻すぜ。トラップジャマーって技を知ってるか?」
「なんだそりゃ?」


どんな世界でも、日々新しい技術が発明される。アストルティアも例外ではない。
ヒューザも一人で旅を続けているうちに新しい技を身に付けたが、戦士やバトルマスターに関わること以外は余り分からない。

「地面に設置されている魔法陣や爆弾みたいなワナを無力化して、そのままそっくり自分のモノにしてしまうって技さ。勿論ジバ系の魔法も例外じゃねえ。」
「すげえじゃねえか!!早速やってみろよ。」

ようやく、光明が見えてくる。流石ジャンボ、期待通りのドワーフだ。

「今はダメだ。それはどうぐ使いって職業になってねえと、使えねえんだよ。」
「なんだよそれ。」
「だから、どうにかしてオレが転職できる方法を見つけなきゃダメなんだ。」
「ダメじゃねえか!ここにはダーマ神殿出張所はねえんだぞ!」
「落ち着け、声がでけえよ。」

世の中そんなに甘くない、というヤツか。

「他には、首輪にかかっている魔法を解除するって方法も考えられるな。」
「零の洗礼、みたいなヤツか?」

そういえばククールとの戦いで、メルビンのじいさんが凍てつく波動で透明状態を解除していた。首輪の反応は変わってなかったが。

761闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:40:16 ID:3uAnN46U0

「でも、そいつじゃ多分ダメだ。はどうガードって聞いたことあるか?
オレは知り合いの冒険者から聞きかじったくらいで、その力を持った敵と戦ったことはねえんだけどよ。零の洗礼なんかを無効化するらしいんだ。」

確かに、こんな首輪を作る技術があるならランプ錬金のように首輪に何かしらの耐性を付けることも不可能ではないはずだ。

「それもダメなのか。」
「まあ、気を落とすな。零の洗礼以外の魔力解除の技を使えばどうにかなるかもしれねえ。
それからシャナクって古の呪文を使って首輪に掛けられた魔法を解く、
魔瘴石を太陽石に変換する要領で別の無害な魔法の道具に変えてしまう。
首輪に魔法が掛けられていることを仮定すると、思い当たるフシはこのあたりかな。」



ジャンボが言っているのは、あくまで仮説でしかない。
だが、仮説とはいえここまで多くのアイデアを出すとは。

ヒューザはいざという時のためにジャンボの案を箇条書きしている。


「さてと、今のところ首輪の話は終わりだ、今度は戦力として力を貸してもらうぜ。」
「任せな。」

今度ばかりはソロを突き通すという訳にもいかないだろう。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

一方でターニア、ゲレゲレ、ホイミンの三人はジャンボ達とは距離を離れて、二人の会話が終わるのを待っていた。
遠くに居ろ、と言われたので、居場所は暗いながらも分かるが、何をしているのか分からない。
「ホイミンさん?だったね。大丈夫?」
「うん……………でも、ぼくが友達を作る前に、みんな死んじゃうんじゃないかな。」
「そんなことないよ!!きっとまだまだ新しい友達が出来るって!!」
「ガウウウ………」

一方でこの二人はまだ意気消沈だった。
ジャンボの言う通り、城へ戻ったほうが良かったかもしれない。

「ジャンボさん、半魚人の人と何話してるのかな。あれ?ゲレゲレ、どうしたの?」

ゲレゲレはこの状況にとある既視感を感じた。
確かロッキーは、ジャンボとマンツーマンでいた時に自爆したのだ。
ひょっとしたらあの魚人も危ないかもしれない。

「ちょっとあの二人に明かりを持っていくよ。暗くなってきたし。」
ターニアが支給品のランタンを持って、そのゲレゲレよりも先にヒューザ達の方へ行く。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

762闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:40:42 ID:3uAnN46U0

「それと、もう一つ大事な話がある。」
「まだ何かあんのか?」

ジャンボも、流石にこれを言うのははばかられる。
先に首輪の話を持ち掛けたのも、これが理由だ。

だが、仕方がない。
レックかチャモロ、あるいはその両方が仲間を増やしてしまえば、対処は難しくなる。


タイムリミットがある仕事は、少しでも早く行った方がいい。
旅人バザーだって、目を付けていた商品をタッチの差で別の人に買われてしまったことだって何度もあった。
カルデア洞窟のフレイム、ザクバン丘陵のメガザルロック。他の冒険者に狩られる前に狩るべき魔物もいた。
アストルティアの世界はスピード勝負。
この世界も同じだ。
いかに犠牲者が出ないうちに仲間と情報を集め、他に必要なことを行うかが勝負だ。
ゲレゲレとターニア、そしてあのホイミスライムに聞かれる可能性もあるし、ヒューザに話を持ちかけたあとどう扱うかも悩むが、今やっておくべきだ。



本当ならば理由があるとはいえ、これから仲間に対して行うのは間違ってもやってはいけないことだ。
ジャンボは小さい、しかしヒューザの耳によく入る言い方で語る。









「オレたちの世界は、近いうちに滅びる」







「!?」

ヒューザも顔色が変わる。
「世界が滅びる」というのは幾年にも渡ってデマとして使い古されたネタだ。
だが、この緊迫した状況でデマとして使うには非常識すぎるし、信頼している仲間が言うのなら、信じてしまう。
それにジャンボの態度は、どう見てもウソをついているようには思えない。

「どういうことだよ、それ?あのエビルプリッツと関係があるのか!?」
ヒューザとしてはたとえこの世界で自分が死んでも、アストルティアには直接の被害はないとばかり思っていた。
最も、黒幕を絶たねばアストルティアからもまた新しい強者が集められ、戦いが開かれるかもしれないが。

763闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:41:03 ID:3uAnN46U0





「それが違うんだよ。原因は、この二人にいる。」

ジャンボが名簿を開き、写真を見せる。
一人は青髪の男。いかにも好青年、という印象だ。
もう一人は眼鏡の男。年は自分達や青髪の青年にも似ている。敬虔な聖職者、という印象だ。
どちらも世界を滅ぼす要因になる、という印象ではない。



「どういうことだよ?オマエ、何を知っているんだ?」

実の所、ヒューザはジャンボと久しく会ってなかった。
レンダーシアに向かってそこでも大活躍を遂げたという話は聞いたが、だからといって自分も赴こうとは思わなかった。
ジャンボがレンダーシアへ行っている間、もしくはこの世界で会っていない間に、何か自分の全く知らない情報を仕入れていてもおかしくない。

「とにかく理由が複雑すぎて説明できねえ。ヒューザはオレに付いてきてくれ。」
「ちょっと待てよ!!オレ達は、そのレック………てヤツと、チャモロってヤツを殺すのか?」

ヒューザの言うことは我儘でも融通の利かなさでもなく、至極まっとうな意見だ。
知り合いとはいえ、今やっていることを手放して馬の骨とも分からないヤツの殺しを手伝え、と言われたら流石に戸惑う。
ジャンボの方も次に出したらいい言葉が分からない。ほんの数秒、しかし数時間にも感じるほどの沈黙が訪れる。


「え!?今、なんて!?」

その沈黙を破ったのは、ヒューザでもジャンボでもなく、メモをとっているヒューザに明かりを渡そうと近づいてきたターニアだった。

「なんでもねえよ!!向こうでゲレゲレ達と待ってろ!!」
ジャンボも焦ってごまかそうとする。
やはり一刻も早く行動に移すことを考えるあまり、余計な第三者を視界内に置いたまま話すのはマズかったようだ。

「違うでしょ……今、レック兄ちゃんを殺すってそっちの人が言ってたでしょ!?どういうこと?」

それを怪しんだホイミンとゲレゲレもやってくる。

(やっぱり、考えが杜撰過ぎたぜ。)

764闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:41:36 ID:3uAnN46U0

こういうシンプルな質問こそ、誤魔化すのが困難だ。
ターニアはゲレゲレと違い、言葉が話せる。
加えてゲレゲレに吠えられた時はあくまで「考え」の段階だった。
バーバラとロッキーを殺してさえいない。
だが今は事情が違う。ヒューザにはっきりと殺害計画を持ち掛けている。


「何?オマエ、このレックってヤツの妹なのか?」
「そうだよ。本当は違うけど、でも私にとってのたった一人の家族で、お兄ちゃんなの。」


自分の状況がどんどんまずいことになっているのは、ジャンボ本人が分かった。
前から知っていることだが、ヒューザはソーミャやジュニアのような自分より弱い者の肩を持つ傾向がある。
このままいくと、孤立するのは目に見えている。

今ならまだ行動には移っていない。
ロッキールを自爆させてバーバラもろとも殺害したことは知られていない。
首輪の情報をある程度持っているし、全部冗談だと言えば、大顰蹙を買うが孤立まではしないかもしれない。
だが、二人を殺害するのは一層難しくなるし、よしんばエビルプリーストを倒しても、帰る世界がなくなる可能性だってある。


「ガウッ!!」
「うわあ!!」
どうするべきか考えていたところ、ゲレゲレが飛び掛かってきた。間一髪で躱す。
既にゲレゲレはジャンボを危険人物だと断定していた。

「ジャンボさん……やっぱり……!!」


もう完全に分かってしまったようだ。
これ以上は弁解の余地はないだろう。

「ああ、そうだよ。ターニア。オマエの兄貴とその仲間を殺さねえと、オレの世界がなくなっちまうんだ。」

(!?)
ガチャリとランタンが落ちる音が木霊する。
ターニアは混乱状態だった。
なんでジャンボが兄を殺さないといけないんだ。
ジャンボや兄ほどの力があれば、その世界を滅ぼす原因を倒せるのではないか。

「なあ、ヒューザもだよ。もう時間は残ってねえんだ。ここで事を成さねえとオマエの村の連中も、そしてソーミャも危ねえんだぞ。」

ソーミャの名を出して、ヒューザに揺さぶりをかける。
だが、それもヒューザに効かなかった。

「ジャンボさ、オマエ、スジが通ってねえよ。
自分のエゴのためにコイツらみてえな弱い奴らを犠牲にするって、それじゃ昔のブタネコと同じだろ?」
「ちげえよ!!」
「どこが違う?コイツの兄貴を殺すことは、コイツを殺すことでもあるだろ?」

765闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:42:21 ID:3uAnN46U0


ヒューザは知っている。ソーミャとジュニアの関係を。
血は繋がっていなくても、いや、繋がっていないからこそ本当の親子のような親密な関係だった。
本当はソーミャの方が子供として大切に育てられなければいけないのに。

ターニア、というこの少女と、レックの詳しい関係は分からない。でも先程の切羽詰まった様子から、大事な存在なんだろう。
きっと、自分の命と大差ないくらい大事な存在に違いない。
レックの命を奪うことは、恐らくこの少女から命に似た大事なものを奪うことになるだろう。

他人だから、自分の未来のためだからと言って、先へ進むために弱い者を犠牲にしてどうなるのだ。
その先に待っているのは、自分が犠牲になる運命だけだ。
この世界で戦ったククールが、かつての反乱を企てていたキャット・リベリオがそれを証明した。




(バカかよ、こいつ……自分の世界が滅ぶって言ってるだろ…)

ギリ、と歯軋りする。そこへゲレゲレが飛び掛かってくる。ターニアとホイミンは様子を伺っているだけだが、到底味方に引き込めそうにない。


もはやコイツらも敵として見なした方がよさそうだ。
協力はアンルシアなりザンクローネなりに求めた方がいい。
使えないものは早々に見切りをつける。
味方にできない旅の同行者でも。
ギルドで作った星一つか無しの製品でも。
トンブレロやピンクモーモンのように突然経験値が減った魔物の狩場も
それはアストルティアを生きる上での必要事項だ。


「あわてんな。ゲレゲレ。こんなときどうするべきか分かるだろ。」
攻撃を再びかわしたジャンボは、懐に飛び込んで、突然後頭部を撫で始めた。

4対1。
傍から見れば不利に見えるが、そうでもない。


ターニアは戦力外。
ホイミンはよく分からないが、ホイミスライム程度に引けを取る可能性は低い。

ヒューザのことはある程度分かっている。

そして以前ロッキールに使った「これ」をゲレゲレに使えば……

766闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:43:34 ID:3uAnN46U0






「ガルルルルルルル!!」
突然、ゲレゲレの目が光を失い、涎を垂らしながら唸り声を上げ始める。
まるで狂犬病になった犬のようだ。

(さあ、好き放題暴れな。終わったら、向こうの禁止エリアにでも行っちまえ)

ロッキールの時と同じように「てなずけ」を使う。
エモノ呼びが流行って使われなくなった技が、ここでこんなにも猛威を振るうとは。


「どうしたの?ゲレゲレ?」
ターニアは驚く暇もなく、ゲレゲレが自分とホイミンの方に襲ってきた。

「きゃっ!!」
食われる、と思った瞬間。

「おらあ!!」
ヒューザはゲレゲレにとうこん打ちを入れ、注意をそらす。

「これ、持っていけ!!逃げろ!!」
ヒューザは急いで先程のメモをホイミンに渡す。
「でも、ぼく……」

「行けよ!!『みんな友達大作戦』を成功させるんだろ?」

ホイミンとターニアは逃げる。
どちらの方向かもわからず。
ヒューザが渡したメモを持って。


「オマエ、本当にバカだぜ。バカヤロウだよ。」
実はジャンボ本人も、ヒューザがあのホイミスライムに対して協力的とは思ってなかった。

「バカはどっちだ!!」
ヒューザは昔の知り合いに啖呵を切る。
気が付くとジャンボは闇の中に消えている。近くにいるのはジャンボの傀儡と化したゲレゲレだ。
ターニアが先ほど落としたランタンによって自分の姿だけが丸見えになる。

一番頼りになると思っていた者が、敵と化してしまった。

だが、これで良かったのかもしれない。
自分はソロでの戦いが得意だ。
1対2とはいえ、負ける気はしない。
ケガの方もある程度治ってきた。
魔力も弱い特技を数回使えるほどだは回復している。
その要因は何の皮肉かジャンボのベホイムにあるのだが。


彼は水の民ウェディ。
愛する者を守る時にこそ全力を発揮する種族。

767闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:44:43 ID:3uAnN46U0


負けるわけにはいかない。
唯一の家族を探す少女のためにも。
託された『みんな友達大作戦』を実行しようとする魔物のためにも。

【E-3/草原/夜】

【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:健康 MP微消費
[装備]:ナイトスナイパー@DQ8
[道具]:支給品一式、道具0〜2 天空の剣、罠抜けの指輪 罠の巻物×3 ドラゴンローブ
[思考]:
基本方針:エビルプリーストに借りを返す。6世界の人物を……?(非力な人物は除外)
1:自分の行いを知っている者達の口封じを行う。
2:自分の知り合いを探す
3:どうにかしてどうぐ使いに転職し、首輪解除を試みる
[備考]:
※職業はレンジャーです。少なくともサバイバルスキルが140以上、弓スキルが130以上です。
※エビルプリーストの背後に黒幕がいるのではと疑っています

【ゲレゲレ(キラーパンサー)@DQ5】
[状態]:HP1/2、胴体にダメージ(中)、身体側面に切り傷 魅了
[装備]:悪魔のツメ@DQ5
[道具]:支給品一式、四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1
[思考]:
基本方針:主催を倒して脱出する。
1:ジャンボに不信感。
※ジャンボに「てなずけ」で操られています。
解除されなければヒューザを倒した後、禁止エリアへ行くことになります。

【ヒューザ@DQ10】
[状態]:HP2/3 MP1/10
[装備]:名刀・斬鉄丸@DQ10 天使の鉄槌@DQ10
[道具]:支給品一式 支給品0〜1
[思考]:仲間を探す 、ホイミン、ターニアを守る
ジャンボ、ゲレゲレを止める

※近くにターニアの支給品のランタンが落ちています。

【E-3/街道/夜】


【ターニア@DQ6】
[状態]:体の一部に擦り傷あり 恐怖
[装備]:無し
[道具]:支給品一式(ランタン無し)、愛のマカロン×6 道具0〜2
[思考]:基本方針:お兄ちゃんと合流したい。
首輪を解除してくれる者を探す ジャンボとゲレゲレから逃げる



【ホイミン@DQ4】
[状態]:MP1/8 仲間死亡によるショック
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個 ヒューザのメモ(首輪解除の手掛かりが書いています)
[思考]:『みんな友達大作戦』を成功させる ヒューザがくれた手掛かりを守る。

※二人がどちら側に逃げたかは次の書き手さんにお任せします。

768闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:47:52 ID:3uAnN46U0
投下終了です。
この物語のジャンボはver2,4終了時点で、はどうガードはこの時期の敵になかったような気がしたので、
「聞きかじった」ということにしておきました。
これが納得いかない、という方がいらっしゃれば破棄も考えるし、他に矛盾点がありましたらよろしくお願いします。

とりあえずあけましておめでとうございます。今年も投下していくつもりなのでよろしくお願いします。

769ただ一匹の名無しだ:2018/01/08(月) 14:40:05 ID:COkun/1c0
投下乙です
ジャンボェ…今回で人間関係が致命的に崩壊してしまったなあ
なんかもうまともに対主催やる余裕なさそうだが、ファイト

770ただ一匹の名無しだ:2018/01/10(水) 01:58:28 ID:t2va89kg0
投下乙です
ジャンボだせぇな、完全に小悪党になっちまった
しかしそれはそれとしてヒューザも死にかけに近い状態だがどうなるか

771 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:35:03 ID:NaJAhaNQ0
投下します。

772 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:35:40 ID:NaJAhaNQ0
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
アレフは光の剣を構え、デュランに斬りかかる。
「がああああああああああああああああああああああああ!!!」
デュランも粉砕の大鉈を振るい、それを迎え撃つ。


武器と武器のぶつかり合い。それを制したのは………


「がっ!?」

ダメージを受けた時の声、それを発したのはデュランの方だった。
アレフが剣を横に振り、それをデュランが撃ち返そうとするや否や、アレフはそれをバネ仕掛けの人形のように飛び越える。
そのままデュランの顔を拳で打ち抜いたのだ。


デュランは武器を持っていない方の手でアレフをはたき落とそうとする。
だが、そのままアレフはデュランの胸に蹴りを入れ、その反動で後方に下がる。

「フ、フフフ。武器で襲ってくると見せかけて、体一つで攻撃してくるとは、やるではないか。」

デュランは理解していた。手数は少なくなったが、機械兵と共闘していた時以上にアレフを仕留めるのは難しいことを。


彼の得意な戦い方は、1対1のぶつかり合い。
多対多のチームプレイ、もしくは1対多の戦いは若干苦手な反面、敵が一人なら竜王さえも打ち破るほど。
そして目の前に、愛する女性がいる。
もうアベルの傀儡として動かされることもない、彼女の安否を気遣う必要もない。
アレフのコンディションは最高であった。


(私はアレフ様の無事を祈っています。)
その遠くで戦いを見守っているローラは、以前と同じものを感じた。
自分を助けるために、強大なドラゴンに立ち向かっていたアレフ。
今も彼は強大な魔人と戦っている。自分を助けるために。


(貴女はその身に抱えた命すら背負えていない。言い訳にしているに過ぎない。
 言い訳して、人の命を奪うことの重さから逃げている!)

チャモロという僧侶に言われた言葉。

あの時は確かに覚悟が足りなかった。
機械兵の矢を体に受けて、一度子供と共に死に瀕したため、それがよく分かる。
自分の体は万全と言うのは難しいが、僧侶の女性の回復呪文によって、出血も止まっている。

以前聞いた話だが、勇者とはただ勇気があるだけではなく、周りの者さえも勇気づける存在であること。

今度は自分も勇者を愛する人として、勇者に勇気づけられた者として戦い抜くのだ。

773 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:36:29 ID:NaJAhaNQ0



一方でそのローラに回復呪文をかけたスクルドも、別のことを考えていた。
(これは、万が一のことも考えておかねばなりませんね………。あのアレフという青年の力、予想以上です。)
デュランが殺された後、どうにかして場を脱出することを考えねば。
「動かないでください。肩に刃の欠片が入っているようなので、それを出します。」
「うっ!!」
パトラが放った銃弾を抜き、そこに回復呪文をかける。


どういう武器で襲われたのかは知らないが、ローラの肩に鉛の欠片が入っていた。
顔の方は入っていなかったが、同じ武器で狙われたようである。
いざというときはこれを見せつけて恩を売るべきか、
いや、シンプルに人質のままにして逃げおおせるか、


自分はこんなところで死ぬわけにはいかない。
目の前の敵がどれほど恐ろしくても、やらなければならないことがある。
アークが、自分の大切な人が、希望を取り戻すため。
これは傍から見れば愚かな狂信者の末路かもしれない。
それでも、構わない。



ポーラがバトルマスターになり、コニファーがレンジャーになっても、自分だけ僧侶のままでいたのは、昔から抱いていた信仰心を忘れたくなかったからだ。
他の仲間たちはパラディンや賢者になってもいいのではないかと聞いた。
でも、やはり自分は僧侶としての気持ちを抱いたまま、アークを癒したかった。
今でもそれは変わらない。アークの心に空いてしまった大きな穴を埋めるのだ。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

(だ、大丈夫ですか?)
あれはナザム村で受けた、自分が僧侶の力を更に向上させるための試練。
瀕死の仲間を20回ベホイムで癒すことが課された。
だがそれには誰かが傷つかねばならない。
癒すために傷つくとは、なんという理不尽な試練だと憤ったが、力を上げるためなら仕方がない。

(全然構いませんよ。さあ、早く回復呪文を。)
そして傷つく役として、一早くアークがその役目を受けたのだ。
元々僧侶という職業上、アークや他の仲間が傷ついているのを見ることは慣れていた。
しかしその試練は違った。
アークは、自分のためだけに自分から敵の攻撃を受けているのだ。
それを何度も繰り返す

自分のためだけに傷ついたアークを見て、その傷を癒すたびにいたたまれない気分になった。

774 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:36:53 ID:NaJAhaNQ0


そしてその試練で自分の心を苛んだのはそれだけではない。
試練を課したその老人は、「仲間」を癒せと言った。
私にとって、アークは仲間と認められるのだろうか。
仲間という平等な関係ではなく、崇拝する側とされる側という関係ではないのか。
試練が終わりに近づけば近づくほどその不安が心をよぎり、それで押しつぶされそうになった。


だが、それは杞憂に終わった。
僧侶としての道をひとつ極めただけではなく、ずっと崇拝していた存在に自分を仲間として認められたのだ。
嬉しかった。ただの身勝手かもしれないが、とてつもなく嬉しかった。


あの時のことがあったからこそ、アークが人間になってもこう言えたのだ。



(貴方はもう、天使様ではなくなりました。それでも、「私」たちの仲間なのは変わりませんよ。)



自分がそれを言っても、アークの瞳に光は戻らなかった。
あの言葉は、アークに届いていたのだろうか。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

(!!)

昔の思い出にふけっていたが、突然アレフとデュランの剣がぶつかった轟音で、我に返る。
いけない。そんなものを思い返している暇などないはずだ。
もしあの男がデュランを倒せば、自分も殺しに来るだろう。
そして今捕らえているローラ姫も、武器を隠しているかもしれない。


彼女はまだ知らない。
丁度その時、最愛の人が守護天使としての最期の役目を全うしたことを。

775 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:38:54 ID:NaJAhaNQ0





「猛火よ、わが手に宿れ、ベギラマ!!」
「甘いわ!!マホターン!!」

デュランは光の壁を張り、炎の矢を跳ね返そうとする。
だが、アレフの呪文は、直接デュランを狙ったわけではなかった。
地面に打った反動で、高く跳ね上がる。
そのまま上空から、デュランの胸に向けて剣を突き刺そうとする。

「流石だ、だが……」
デュランは笑みを消すことなく、その軌道を読み、大鉈で攻撃を弾き落とす。


(なに?)
それは剣ではなく、アレフが咄嗟に掴んで投げた地面に転がっている石。

「そいつはオモテだ!!」
裏をかいたアレフは、デュランの額を切り裂こうとする。
しかし、巨体に似合わぬ瞬発力で躱されてしまった。
それは額の皮膚を数ミリ傷つけただけに終わる。

これ以上深追いするとカウンターが来ると予想したアレフは、やむを得ず追加の攻撃を諦める。


「今度はこちらから行くぞ!!」
飛び退いて距離を離したデュランは、アレフが地面に着地するとすぐに鎌鼬の構えに出た。

「甘いのはそっちもだ!!」
アレフは地面を蹴り上げ、砂煙を巻き起こす、
それが鎌鼬の軌道を可視化させることで、回避を容易にさせた。
砂塵に移るそれを躱しながら突進する。

そしてデュランの脚に剣を入れる。
せめて素早さをどうにかできれば。

だがアレフの望みは叶わず、またも良い所で躱される。

しかし、戦いは一転してアレフが押し始めていた。
自分の戦いは仲間の支援を受けたことはほとんどない。
それならば、地形を上手く味方に付ければよいのではないか。
敵の能力や地形を上手く読み取り、それを自分が有利なように仕向けるのは、1対1の戦いにおいて重要なことだ。

776 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:39:15 ID:NaJAhaNQ0

そして彼に知る由もないが、それは子孫のトンヌラに受け継がれている。

「ならば、これはどうかな?」
(来る!!)

一度自分が手痛いダメージを受けたあの目にもとまらぬ連撃が来る。
だが、その時に比べると覚悟も集中力も全く違っていた。

当たれば兜から股まで真っ二つにされるであろう上段からの唐竹割りを剣で打ち返す。
続いて、肩へ向けて横薙ぎ。これは姿勢を低くして避ける。
三発目。脇腹に向けての蹴り。
しかし、姿勢を低くした状態から懐に転がり込み、ほぼ密着状態のまま斬撃を軸足の腿に入れる。

「ぬぐぅ!?」
デュランが崩れ落ちた。

(やった!!)
今までで一番大きな手ごたえだった。
反撃で裏拳が来るが、躱してそのまま後ろに下がる。


「まさか今の攻撃までも読み切るとはな。」
だが、デュランはその程度の傷で倒れるほどヤワな魔人ではない。
脚から血を流し、多少片足摺りになりながらも、戦いには全く困らないという様子だ。


デュランの目には、このアレフという人間の瞳を、見たことがあった。


(デュラン、お前を許さない!!人の心をもてあそぶお前を、許すものか!!)
かつて敵の強さを図るためにレック達とテリーを戦わせる余興を行ってみたが、それが原因でレックの怒りを買い、殺されてしまった。


今のアレフも、かつてのレックと同じ瞳をしている。
炎のように熱く、氷のように冷静で、ダイヤモンドのように揺るぎがない。
人間の心は、侮れるものではない。時にその人間の数十倍の力を出すことだって可能になる。

同じ失敗で二度も倒されるわけにはいかない。




「我も、新たなやり方が必要だな。自分の武器があればよいのだが、仕方あるまい。」



(!?)
突然自分の大鉈を二つに折った。
武器を捨てて、徒手空拳で来るつもりか?

777 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:39:37 ID:NaJAhaNQ0


アレフの予想は、それとは大きく違った。
右手に大鉈の刃、左手にその持ち手を握る。
そのまま片足が怪我したとは思えないほど高く飛び、折った武器二つで十字を形作る。

(なんだ?あの構えは!?)
それは危険な技だと、アレフの第六感が告げた。
デュランが作った十字が、光を帯びる。

これまでの技と違って逃げるのも難しそうだし、見たことのない技だからカウンターに持ち込むのも不可能に近い。



(これだ!!)
一か八かと、たまたま近くに転がっていた「あるもの」を掴む。

「何をしようと無駄だ!!食らえい!!グランドクロス!!」

光りの十字がアレフを襲う。

「アレフさまーーーーーーーーっ!!」
その凄まじい光と音から、ローラも悲鳴をあげる。


手ごたえはあった。光の十字に刻まれる人影が見えたことでデュランは笑う。


「でりゃああああああ!!!」
突然後ろからアレフが背中を斬りつけた。
「ぐうううう!!貴様、何故?」


「流石に、危なかったぜ。」
咄嗟に自分が殺したマリベルの死体を十字に向けて投げたのだ。
死後、時間が経っていたため体は重くなっていたはずだが、それは火事場の馬鹿力というもの。
それでもある程度は食らってしまったが、致命傷には程遠い。
そして大技の後には、大体スキが出来る。
そこを狙って背面へ回り込み、斬りつけたのだ。


「いいぞ!!もっと来い!!」
こちらが攻めれば攻めるほど、相手も活きの良さを感じ、高笑いを始める。
だが、デュランも息切れし始めてきた。
このままいけば勝利も考えられるだろう。

778 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:40:02 ID:NaJAhaNQ0


「諸君、ご機嫌如何かな?」

そこへ、突然エビルプリーストの声が村にも響き渡る。


アレフにとってもローラにとっても、それはどうでもいい話だった。
お互い唯一にして一番大事な人の生存は知っているから。
デュランにとっても、それはほとんど気にすることのない情報だった。
彼に興味があるのは生きている強者だけで、死者には関心がなかった。
強いて挙げるとするなら、以前笑い方を自分に聞いてきた少女が死んだことぐらいだが、戦いに差し支えるほど気にとめては居なかった。



(アーク)

しかし、残りの一人、スクルドにとってはそういう訳にはいかなかった。
「そんな……アークが…………」
彼女はこの瞬間だけはショックが大きかった。
だが、彼女は肉体、精神と共に修行を積んだ身。

この殺し合いにアークが死んだ場合も算段に入れていたし、ショックを受けてもすぐに次に行う最適な行動を考え始めただろう。


もし、放送を聞いた後、彼女の身に何も起こらなければ。


ほんの数秒だけだった。
放送でアークの名が呼ばれ、スクルドは頭が真っ白になり、捕らえていたローラを手放し、夢遊病者のようにふらりと歩き出した。


「は!?」
すぐに我に返る。

(アークが死んだ、死んだのなら……)

しかし運の悪いことに、丁度そこは、アレフとデュランの戦っている場所の近くだった。
アレフは勢いがついて剣を振り回し、デュランは持ち前のパワーとスピードで、再度グランドクロスに入るスキを作ろうとする

もし、無意識に歩いた先に、戦闘狂二人が戦っていなければ。



ざくり。


無抵抗な状態の腹に剣が入る。
「誰が死んだのか知らないが、そんなヤツのことでジャマをするな!!」

それは、ローラを取り戻す戦いをジャマされた怒りに身を任せたアレフのものだった。

「がはっ!!」
腹から、口から鮮血があふれ出す。
さらに別の方向から腕を捕まれる。
「戦闘中に勝手に入るなと言っただろう!!死んだ弱者を気に掛けて来るな!!」

779 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:40:21 ID:NaJAhaNQ0


戦いが最高潮に達したところに横槍を入れられたデュランは機嫌を損ね、そのままスクルドを村の外まで力いっぱい投げ飛ばした。


邪魔者を吹き飛ばしたデュランは、ローラに戦いが終わるまで逃げるなと一睨みした後、再び戦いが始まる。
デュランとアレフ、戦いを目的とする者と手段とする者。


勝利の女神は、どちらに微笑むのか。


【I-5/リーザス村/1日目・夜】

【アレフ@DQ1勇者】
[状態]:HP1/3、MP1/2、肩と鳩尾に打撲
[装備]:光の剣
[道具]:支給品一式、不明支給品(0〜2)
[思考]:ローラを取り戻す為デュランを倒す

【ローラ姫@DQ1】
[状態]:HP1/8、 顔、右肩に銃創(治療済)、腹部に刺創(止血済)
[装備]:毒針
[道具]:支給品一式、銀のティーセット 草・粉セット
    ハッサンの支給品(引き寄せの杖 場所替えの杖)
[思考]:愛する我が子の為に戦う。アレフの邪魔をしない
[備考]:最低限の治療しか施されていません

【デュラン@DQ6】
[状態]:HP1/4、下腹部、脇腹、背中に裂傷、右腿に刺し傷、
[装備]:折れた粉砕の大鉈@DQ8
[道具]:支給品一式 道具0〜1個
[思考]:強き者を探す。主人公@DQ6とその仲間とは決着を付けたい。
    リーザス村でアレフを倒す


【スクルド(僧侶♀)@DQ9】
[状態]:??????? MP1/3
[装備]:ホーリーランス、不思議なボレロ@DQ3
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:???????

780 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:40:41 ID:NaJAhaNQ0











ところが、どういう運命の悪戯かは分からないが、この戦いはそんなシンプルな形で終ることを許さなかった。



戦いは、新たにリーザス村の前に現れた人物によって静かに、しかし確実に狂い始める。


(キツイですね、この戦い)
チャモロはハッサンに続いて、また新たな仲間が死んでしまったことで苦しんでいた。

自分の知らない場所で知らない形で仲間が一人ずついなくなっていく。次は自分か、それともレックか。

「チャモロさん。今の放送に、仲間が呼ばれたのですか?」
(やったぞ、やった。ざまあみろ。あははははははははは!!)
一方でトンヌラは、心の底からわき上がるような思いだった。
あれほど鬱陶しかった二人が、纏めて死んだのだ。
これで目的はローラと共に生還するだけだ。

ロトの世界を自分が手にするまで、もうほとんど障害は残っていないだろう。

「僕も仲間を二人失いました。チャモロさん。その人達の分まで、絶対に生き残りましょう。」
明らかに口数が多くなっていたが、トンヌラは上機嫌になっていたということをチャモロは気付く余裕はなかった。


村の入り口にさしかかったとき、知らない女性が飛んできた。

「どうしましたか!?」
チャモロ慌ててそれを受け止め、訪ねる。
よく見ると腹を切られて、血がどくどくと流れて、すでに顔色は半分死人のようになっている。
状況を聞くどころではない。

「べ……ほ……ま……。」
どうやら回復呪文は使えるようだが、効果が薄いこの世界ではどこまで頼りになるか分からない。
傷口は深く、自分も回復呪文をかけないと回復する前に失血死してしまうだろう。


「トンヌラさん!!またしてもすいませんが、ローラさんを確かめに行ってください!!」
「分かりました!!」

お人好しな人間は大変だなと思いながらも、村に入る。ローラが死ぬことで危機が及ぶのは、自分であってチャモロは関係ない。

781 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:41:02 ID:NaJAhaNQ0



「大丈夫ですか?今僕がベホマをかけるので、それまで生きててください!!」
「お……わ………れ………な……」
終われない、と言いたいのか。彼女も大切な人を失ったのか。
チャモロは連続してベホマをかけ続ける。
その甲斐あってか、流れる血が少なくなってきた。




「…………。」
彼女自身もベホマを使い始める。MP効率がどうのと言ってられない。
回復呪文が抑えられていても、世界でもトップレベルの僧侶二人によって、一命はどうにか取り留める。


「もう大丈夫ですよ。血は止まりました。」
「ありがとうございました。」

スクルドは身体をよろけさせながらも立ち上がり、リーザス村へ行こうとする。
「無茶です!!怪我は治りましたが、まだ万全ではありません!!」
どうにか応急処置は出来たが、過度な運動によって再び傷口が開くかもしれない。
それに、失った血の量は決して少なくないはずだ。


「私は、大切な人を失いました。そして、私を傷つけた人たちは、その人を弱者と嘲りました。その人達を私は許しません。」
青い顔で、淡々とした口調で話す。
それは、下手に熱意をこもったしゃべり方より恐ろしさがあった。
チャモロも思わず後ずさってしまう。

「そして、彼を取り戻すために、私は戦います。」

「このゲームに乗ることが、大切な人を救うことなのですか!!大切なのは、あなたが生きていることじゃないんですか!!」

それでもチャモロは説得を試みる。
でもどこかチャモロには諦めの気持ちがあった。
今目の前にいる女性を説得して、止めることは自分には不可能だろうと。
ハッサンの命、バーバラの命、アモスの命。
自分はどうにも出来なかった。
パラディンになったのに。大魔王だって倒したのに。


「あなたは、大切な人の誇りが踏みにじられて、生きることが出来ますか?
その人は私が幼いころからずっと心の支えだったんです。
たとえ命があっても、死んでいるようなものです。」
「すいません。言い方が軽率過ぎました。でも、それはただの自暴自棄ではないのですか?」
「かもしれません。でも、私は昔から誰かに縋ることしかできない弱い人です。自分で未来を創る力なんてありません。」

自分も仲間を二人失っている。それを簡単に忘れることなんてできない。
彼は感づいていた。
このまま彼女を放っておけば、誰かが犠牲になる。
だが、返す言葉が見つからない。自分はなんて無力なのだ。

782 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:41:22 ID:NaJAhaNQ0

(ずるいですよ……そんな言い方………)

「でもあなたはどこか私の大切な人に似ています。
少ししか会っていませんが、分かりますよ。
自分の役目を全うしようとして、上手くいかなくて、自分が一番傷ついてしまう所が。
だから………。」


スクルドはザックを開けて、何かを取り出す。
それは、チャモロも冒険の途中に何度も見たもの。

「あなただけは、巻き込みたくない。」
「止めてください!!」

スクルドはチャモロに無理矢理押し付けるようにキメラの翼を渡す。
彼女の想いに呼応するかのように、それは否応なくチャモロを地面から離した。


「さようなら」


その一言を告げた後、ホーリーランスを構え、村に戻る。
アレフとデュランの攻撃を受けて分かった。
この世界では、もはや誰もアークを崇拝してくれないのだと。
アークがいない世界では、自分は生きる価値のない存在なのだと。
元の世界に戻っても、それは同じことだろう。


なぜチャモロを逃がしたのか彼女自身にも分からない。
いくら自分を助けてくれたからといって、どの道アークが生き返るために、全員殺さなければならないのに。


今こそ、あの技の出番だ。
私の中にある怒りと悲しみ、そして憎しみによって秘伝書の力を使わずともあの技を使うことが出来るはずだ。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


(予想通りです。あそこにローラさんがいますね。)
トンヌラは蛇のようにリーザス村に潜入した。



しかし、少し離れた場所で戦っている戦士(恐らくアレフ)と赤い魔人がいるため、迂闊に刺激させるわけにはいかない。
ローラに関しても悲鳴をあげられれば何かと面倒なため、同じことが言える。
一度遠くから戦いを見る。

一度民家の裏に隠れる。
そこに何かが隠れていたような気がして一瞬驚く。
それは自分達のかつての敵、ハーゴンだった。
(死骸の分際で、驚かせるな。あいつらと同じ場所にでも行ってろ)
トンヌラは首と片手が取られ、片足が潰されている仇敵を気にせず、そこから村の状況を見る。

783 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:41:44 ID:NaJAhaNQ0


アレフの方が押しているように見えるが、魔人の方も負けてはいない。どちらかが倒されるのを待つのは、時間がかかりそうだ。
一早くアレフに加勢しようとも考えたが、正直なところ自分にとって必要な人物は子供を身籠ったローラであり、アレフは必要ない。
それに、下手に加勢したことが原因で、死んでしまっては話にならない。


だが、今ローラが身籠っているのは長子で、自分の祖父、もしくは祖母に当たるのは第二子、第三子かもしれないから、そういう訳にもいかない。
銃を使って狙い撃ちをするにはまだ難しい。
手元が狂ってデュランを狙うつもりが、アレフに当たりかねないし、通用するかも怪しい所だ。

気を逸らそうと二発銃を撃ってみたが、反応はない。
どうやら距離が遠いのと戦いに夢中になりすぎて、気付いていないようだ。

一度チャモロの所に戻り、協力を頼むべきか?


どうするか物陰で悩んでいた彼は、デュランとアレフ、そしてローラのことばかり考えて、スクルドが戻ってきていることに気付かなかった。

もし、アレフが切り裂いたのが彼女の腹ではなく胸ならば、
もし、デュランが彼女を投げ飛ばすようなことをせず、その場で殺していれば
もし、チャモロが彼女の傷を癒していなければ、
もし、トンヌラが慢心によって僅かに観察力を欠いていなければ。
もし、アレフとデュランが互いの戦いに集中しすぎて、周りが見えなくなっていなければ、
もし、ローラがアレフの行く末ばかり見ていて、後ろにもう少し早く気付けば。

戦いの歯車は、狂わなかっただろう。


スクルドは、槍を構えて戦いの場に近づく。
聖なる槍と呼ばれたそれの先端は、どす黒い雷が溜まっていた。
(!!)
その魔力に気付いたローラは、手を震わせながらも毒針を構えてスクルドに向かっていく。

ローラの反応に気付いたアレフも、同じようにデュランとの斬り合いを中断し、スクルドに向かっていく。

アレフの反応に気付いたデュランも、二度も戦いを邪魔されてたまるかとスクルドに向かっていく。

そして三人の反応に気付いたトンヌラも、その原因に気付き、銃を向ける。
しかし、反応はない。銃弾はさっきの牽制ですべて失われていたのだ。

784 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:42:03 ID:NaJAhaNQ0










「黒の雷よ、全てを飲み込め。」

そのすべてが、手遅れだった。


何もかもが飲み込まれていく。
真っ黒に。




「きゃああああああああ!!!!!」
「ローラああああああああああああ!!!!!」
「おのれえええええええ!!!貴様あああああああ!!」
「なん……で……?嫌だ………しにたく………ない…………」

4人はそれぞれ声を上げるも、あえなく轟音にかき消される。


「スクルドさん!!トンヌラさん!!ローラさん!!!」

地上から既に遠く離れていたチャモロも、轟音と光で只事じゃないことは分かった。
分かっているが、自分は何もできない。

「あああああああああ!!」
無力さを慟哭にして吐き出すだけだった。








轟音が鳴り響き、そこから悲鳴が。崩れ落ちる人、魔物、建物、畑。
そして、静寂。


ゴーーーーーーーーーーン


その静寂を破ったのは、地面に落ちたリーザス村の教会の鐘だった。

聖職者たる者が教会を破壊するなど、あってはならない行為だろう。
だが、そんなことは関係ない。
彼女にとって崇拝する存在は、アーク一人なのだから。
アークを崇めない教会などに、どうなろうと興味はないのだ。

785 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:42:28 ID:NaJAhaNQ0

その教会以外にも、周りの民家、畑、店などは崩壊しきっている。
ただ爆心地から距離が離れ、頑丈な作りになっているアルバート家だけが残っていた。
元々この地は、アルバート家だけしかなかったらしいので、原点回帰、というものなのかもしれない。


彼女は秘伝書なしのジゴスパークを使うことができず、その秘伝書も支給品になかったはずだ。
それなのに地獄からの雷を使うことが出来たのはなぜか。


元々彼女の世界の、槍を媒体にして使うジゴスパークは、エルシオン卿の怒りから発生したものだと言われている。
彼女も、敵への怒りを溜めて、全てをエネルギーに変えて解き放ったのだ。
その威力は凄まじく、秘伝書を元に使う技以上の威力を秘めていた。
彼女の世界に対する憤りは、それほどのものだったのだろう。


周りを見ると、4人が物言わずに転がっている。
その元凶になった彼女は、他人事のように冷たく呟いた。
「終わり……ましたね。」


でも、これで終わりではない。
最後の一人になるまで、戦い続けるのだ。
これからどうしようか。
あの力は、何度も出せるものではないし、たとえ使っても倒せない者がいるかもしれない。
また同盟を組もうか、既に半分になったため、チームはある程度作られてしまう。
どんなことをしてでも、最後まで生き残るのだ。

彼女は歩き出す。
愛する人を失い、絶望と夜の闇に飲まれた彼女はどこへ行くのか。
(天使様……どうか最後まで私を、見守っていてください。必ず居場所は作ります。)


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

スクルドが村を出て行って暫く経ったあと。


(アレフ様……)
空が暗い。ここは、地獄だろうか。
「え!?」
ローラは生きていた。

「よ……か……った……」
アレフはスクルドに向かっていくかと思ったが、実は咄嗟にローラに被さり、その身を挺して彼女を守ったのだ。
ただそれだけではない。
ローラの支給品の草・粉セットに、世界樹の葉が紛れており、その力が彼女とその子供を、冥土から戻したのだ。

「アレフ様?」
ザックを開き、道具を取り出す。
しかし、回復できる物は入っていない。
「いいんだ………守って………くれ……俺達の……未来を…。」

そのまま彼女の大事な人は事切れる。
凄まじい雷を一身に受けたのだ。普通は生きていられるはずがない。
アレフはローラに最後の一言を伝える決意で生きていたのだ。

786 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:42:52 ID:NaJAhaNQ0


「ありがとうございます。ローラは戦って、生きます。」
何があっても守らなければならない。
死を二度も目の当たりにして、怖くて怖くてたまらない。でも。
アレフとの可能性は、自分の腹の中にあるから。

デュランとトンヌラは、そのまま黒焦げになって、何も言わず息絶えていた。
アレフは死ぬ前に何かを伝えることができ、この二人はそれが出来なかった。
それは信じる人がいたか、いなかったか。
そういうごく小さな違いだけなのかもしれない。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇



一方でチャモロは、一つの小屋に降り立っていた。
「ハッサンさん……」
そこに以前見た、友の死体が転がっていることから、知っている場所だと分かる。
それは、何も変わっていない。
そして、チャモロは何も変えることが出来なかった。



自分は、パラディン失格だ。
ハッサンも、バーバラも、トンヌラも死なせてしまった。
アモスは救えなかった。
ローラはアベルの手から取り戻すも、結局死んでしまった。
スクルドは止められなかった。



泣きたかった。
動かなくなった友の目の前で、何もせず自分の無力さを嘆き続けられたら、どんなにいいかと思った。
でも、行かなければならない。
時間は経ったが、以前すぐ近くにアベルがいたため、サフィールとも合流できるかも知れない。

787 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:43:18 ID:NaJAhaNQ0
行こう。
これまでのように、無駄に終わるのかもしれないけど。

(最後まで戦います。だから……)

最後まで、見守っていてください。



【デュラン@DQ6 死亡】
【トンヌラ@DQ2 死亡】
【アレフ@DQ1 死亡】
【残り37人】

【I-5/リーザス村/夜】

【ローラ姫@DQ1】
[状態]:健康
[装備]:毒針
[道具]:支給品一式、銀のティーセット 草・粉セット(世界樹の葉が使われました)
    ハッサンの支給品(引き寄せの杖 場所替えの杖)
[思考]:愛する我が子の為に戦う。
[備考]:最低限の治療しか施されていません

【I-5/街道/夜】

【スクルド(僧侶♀)@DQ9】
[状態]:HP2/3、腹部裂傷(応急処置済み)喪失感 情緒不安定MP1/2
[装備]:ホーリーランス、不思議なボレロ@DQ3
[道具]:支給品一式 キメラの翼×2 支給品0〜1(本人確認済み)
[思考]:アーク(DQ9主人公)を蘇らせる。そのために最後まで戦う。その後自殺する

【F-6/滝の上の一軒家前/夜】

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP6/10 MP3/5 腕、肩、脇腹に切り傷(応急処置済) ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)喪失感
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める 近くにいる可能性のあるサフィールと合流する
    ※チャモロはローラが死んだと思っています。
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。

※I-5/リーザス村で、アルバート家を除いて全ての家屋が崩壊しました。
※アレフ、デュラン、トンヌラの支給品、装備品は全て燃え尽きました。

788 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:46:18 ID:NaJAhaNQ0
投下終了です。かなり進めてしまったため、何かマズい点があるかもしれません。
(ジゴスパークのくだりとか特に)
普通はワープしたら着地場所を次の書き手の方に任せるはずなのに、
チャモロの場所を滝ノ上の一軒家にしたのは、
前のアベルのようなことにさせたくなかったからです。

789 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:55:52 ID:NaJAhaNQ0
タイトル忘れてました。
「愚か者達の輪舞」です。

790ただ一匹の名無しだ:2018/02/09(金) 21:14:16 ID:QWGS5mF20
投下乙です。
リーザスの戦いを制するのがスクルドとは…
意外な展開ながらも鬼気迫る様子が伝わってきて鳥肌が立ちっぱなしでした。

ワンターンスリーキルゥ…

791ただ一匹の名無しだ:2018/02/10(土) 07:56:02 ID:xLl6XzNw0
投下乙です
スクルドちゃんの怒りの鉄槌、おっかねえ…

※I-5/リーザス村で、アルバート家を除いて全ての家屋が崩壊しました。

アルバート家の耐久力おっかねえ…

792ただ一匹の名無しだ:2018/02/10(土) 11:48:18 ID:EwKPX95w0
投下乙です
大事な人の為に戦ってたアレフが大事な人を蔑ろにされたスクルドに殺されるとは、皮肉なものだ……トンヌラはご愁傷さますぎる
チャモロもローラも頑張れ……

793 ◆OmtW54r7Tc:2018/02/10(土) 15:20:41 ID:xLl6XzNw0
投下します

794郷愁 ◆OmtW54r7Tc:2018/02/10(土) 15:21:45 ID:xLl6XzNw0
「ガボ…」

放送が終わり、キーファはかつての仲間の名を呟いた。
ガボ。
かつての旅で行動を共にした仲間の一人。
人間の身体に精神が憑依したという変わった生い立ちの少年だ。

「……?」

キーファは違和感を感じる。
前回の放送でマリベルの名前が呼ばれた時は、胸を締め付けられるような苦しさがあった。
しかし今の自分は、悲しみこそあれど、あの時のような苦しさを感じない。
仲間の名前を呼ばれるのが2度目で慣れてしまったのか?
いや、確かにそれもあるかもしれないが、それだけじゃない。
俺は――

「…薄情、ですわね」

突然の言葉に、キーファはギクリとしながら顔をあげる。
そこにいたのは、顔を俯かせているミーティアだった。

「な、なんのことだ?」
「…わたし、自分の薄情さを嫌悪してしまいますわ」
「へ?」

てっきり自分への言葉だと思っていたキーファは、呆気にとられた表情となる。
そんなキーファを尻目に、ミーティアは言葉を続ける。

「今回の放送で、かつて旅をした仲間がまた一人、呼ばれましたわ」
「そ、そうか。それは、その…」
「…でも、前回の放送でお父様やククールさんが呼ばれた時よりも、ショックが少ない気がするんです」

ミーティアの言葉に、キーファは再びギクリとした。
彼女は、自分と同じことを考えていたのだ。

「2回目の放送で耐性ができただけじゃないか?呼ばれたのも前回より少ないみたいだし」
「…確かにそうかもしれません。でも、それだけじゃないと思うんです。ゲルダさんは…一緒に旅をした期間が短かった。それでお父様やククールさんほど情が湧かないのではないかって…そう、感じるんです」

そう言って、再び顔を俯かせるミーティア。
ミーティアという少女は、旅の間ほとんど馬の姿であった。
トロデのように言葉を発することができない彼女は、言葉によるコミュニケーションによって絆を深めるという行為ができなかった。
故に、エイトやトロデ以外の仲間に対しては、どうしても付き合いの長さがそのまま情の深さに直結してしまうところがあるのだ。

795郷愁 ◆OmtW54r7Tc:2018/02/10(土) 15:22:29 ID:xLl6XzNw0
そんな彼女を、複雑そうな表情で見つめるキーファ。
普通なら、「そんなことない」とでも言って、彼女を励ますところだろう。
しかし、

(…そこまで同じかよ、くそ)

キーファに、そのような言葉をかけることなどできなかった。
なぜなら、全く同じことをガボに対して考えてしまったから。
ガボと一緒にいたのは、仲間になった後、2〜3つの町を解放した程度の期間でしかない。
そこから更に何年もの年月が経過してしまった。
幼馴染として過ごしたアルスやマリベルほど、情が湧かないのだ。

「…気にするなよ」
「でも…」
「ここは殺し合いの場だ。仲間の死に割り切りができるなら、それに越したことはない」
「そんな…!」

キーファの冷たい物言いに、思わず顔を上げて抗議の声を上げるミーティア。
が、その先の言葉は続かなかった。
薄情な自分に、ゲルダの為に怒る資格などあるのか…
そんな考えが、頭をよぎってしまったのだ。

「……………」
「……………」

そうして二人は沈黙したまま、しばし見つめ合っていたが…

「…この話は終わりにしよう、行こうぜ」
「…ええ、そうですわね」

付き合いの長さや関係性によって情の優劣に差が出るのは、誰しも当然のことだった。
しかし、キーファもミーティアも、それを割り切るにはまだまだ若かったのだ。
お互い気まずさを残しつつも、支度を整えると先へと進んだ。

796郷愁 ◆OmtW54r7Tc:2018/02/10(土) 15:23:40 ID:xLl6XzNw0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

そうして、しばらく進むと、町が見えてきた。
なお、町から逃れた魔王と少し前にニアミスしているのだが、両者ともに気づかないまますれ違っていた。
さらに言えば元ホイミスライムの少女と放送前まで一緒にいた少女も町を出た後であり、やはり出会うことはなかった。

「あれがポルトリンク、港町ですわ」
「港町か…」

キーファは思い出す。
漁村と港町という違いはあれど、同じ海と船に関係した場所であるフィッシュベルを。
かつて、友と過ごした懐かしき村を。

(アルス…)

アルス。
元からの知り合いで現在唯一生き残った少年。
キーファにとってアルスは親友だ。
それはたとえ、どれだけ離れようとも、時間が経過しようとも色あせることはない、かけがえのないものだ。
少なくとも自分はそう信じている。
だが…アルスはどうなのだろうか?

(あいつは俺のこと、どう思ってたんだろうな…)

ユバールのキャンプ地にて仲間達と別れる時。
あいつは何も言わず、いつもと変わらない様子で、頷くだけだった。
あの時のあのなんでもないような表情が、今でも脳裏に焼き付いて離れない。

(あいつにとって、俺はどうでもいい存在だったんじゃないだろうか)

胸の内に渦を巻くそんな疑念と共に、離れてくれない。
先ほどガボに対して感じた感情と同じような淡白な感情しか、アルスは自分に対して感じていないのではないかと。
少し前に、石版に手紙を記して放流したことがあった。
そのあて先は、マリベルでもなければ、父や妹ですらなく、アルスへのもの。


―どんなに はなれていても
―オレたちは 友だちだよな!


最後のこの一文は、半分本音で、半分アルスに対する確認だった。
無理だと分かっていても、アルスからの肯定の言葉を、返事が聞きたかった。

(なあアルス…どんなに離れていても、オレたちは友達…だよな?そう信じて、いいんだよな?)

797郷愁 ◆OmtW54r7Tc:2018/02/10(土) 15:24:15 ID:xLl6XzNw0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

「こいつは…」

ポルトリンクに入ったキーファとミーティアは、しばらく歩いた先にて一つの死体を見つけた。
胸に穴を空けたその少女の死体に、キーファはミーティアに「見るな」と声をかけて視界から遠ざけさせ、死体を検分する。

「こいつはティアが言ってた…ルーナって奴か」
「知っている方なのですか?」
「いや、知り合いってわけじゃない。ここで出会った女の子から話を聞いただけだ」

ティアの明るい笑顔を思い出す。
それほど交流があったわけではないそうだが、女の子同士友達になりたいと話していた。
聞けばこのルーナという少女は、故郷を滅ぼされて笑えなくなったということだったが…

「…笑ってる」

少女の死体は、笑みを浮かべていた。
苦しかっただろうに、どうしてこんな表情で死んでいるのだろうか。

「まあ、ティアの友達をこんなところに野ざらしにはできねえな」

キーファはルーナを弔うことにした。
遺体を持ち上げると、教会へ連れていき棺の中に安置した。
そして、棺を閉じると、ついてきたミーティアと共に黙祷を捧げる。

「…彼女が持ってたこっちの荷物は、君が預かってくれないか」

黙祷を捧げた後、キーファはバツが悪そうに目をそらしながらルーナのそばに落ちていた二つの荷物の内の一つをミーティアに渡した。
キーファの様子を不思議に思いつつも、中身を確かめたミーティアは…

「こ、これは…」

中身を見て、赤面した。
そして、赤面しながらキーファを睨みつけた。

「…ミーティアに、これを着て欲しいんですか?」
「い、いや、一応女性用だし、俺が持ってるのも、な…?」
「着ませんからね!」
「着て欲しいなんて言ってないだろ!」

798郷愁 ◆OmtW54r7Tc:2018/02/10(土) 15:25:27 ID:xLl6XzNw0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

その後、結局ルーナの荷物はミーティアが受け取ることとなり、二人は町の探索を始めた。
幸いにもミーティアが知っている場所なので、彼女の案内のもと、探索を行う。

「それにしても、港町なのに船が一隻もないなんてな」
「そうですね…私の知っているポルトリンクは、船が何隻もあって、活気にあふれた場所でしたが…」
「…なあミーティア、一つ聞いていいか?」
「?…なんでしょう?」
「ここってあんた達の世界の大陸なんだよな?この海の向こうに、他の大陸はあるのか?」
「ええ、この大陸以外にも、他にいくつも大陸がありますわ」
「…この世界の海の向こうは、どうなってるんだろうな?」
「この世界の…さあ、分かりませんね」

海の向こうには、ここからでは何も見えない。
いったい、どうなっているのだろう。
元の世界のように、他の大陸があるのか、それとも海しかないのか。
あるいは、もっと別のなにかがあるのか。

「…俺たちの世界ってさ、昔は一つの大陸しかなかったんだよ」
「そうなのですか?」
「ああ、他には海しかなくてさ…」
「…その話、詳しく聞かせてもらえませんか?」
「ん?まあ、いいぜ」

それからキーファは、自分達の世界のことを話した。
遺跡と石版
そこから始まった過去の世界への旅。
そして現れた大陸の事を。

「まあそういうことだからさ…この世界の海の向こうになにがあるか、無性に気になるんだよな」
「不思議な話ですね…」
「そうだろ?港に船があれば、確かめてみたいんだけどな」

それは、単に好奇心だけというわけではない。
地図には、この大陸と周りを囲う海しか描かれていない。
地図の外側の詳細が不明なのだ。
もしかすれば、この地図の外側…海の向こう側にこそ、エビルプリーストの根城があるのではないか。
安直かもしれないが、そんな考えもあって、なんとか海を渡ってみたかった。

799郷愁 ◆OmtW54r7Tc:2018/02/10(土) 15:26:13 ID:xLl6XzNw0
「船なら…心当たりがありますわ」

キーファの言葉に、ミーティアは言った。
船の、心当たりがあると。

「もしかしたらここに…船があるかもしれません」

ミーティアが差したのは、ここから西の方向。
自分達が当初いた場所から近く、今までの道を引き返すことになる方角だ。

「こんな荒野の真ん中に船が?」
「ええ…今度はミーティアが、お話しする番ですね」

そしてミーティアは語った。
かつて見つけた古代船。
ハープと歌の力で蘇った魔法の船の事を。

「…そりゃまた、不思議な話だな」
「この世界が私達の世界を模したものなら、あの船ももしかしたらあるかもしれません…」

勿論、エビルプリーストがそんな都合の良いものを用意しているとは思えない。
ポルトリンクの船のように消されているかもしれないし、そもそも元の世界では起動させて今はもうあの場所にはないのだ。
同じ場所に船が戻ってきているなど、希望的観測に過ぎなかった。

「そのハープってさ、もしかしてこれか?」

そういって、キーファは先ほどのルーナの荷物の内の一つ…元々はユーリルが持っていた荷物の一つを取り出した。

「それは…間違いありません!月影のハープです!」
「ビンゴかよ…うーん」

キーファは考え込む様子を見せる。
そうしてしばらくすると、顔を上げて言った。

「…案内してくれないか、その場所に」
「え、でも…」
「確かに確証はないかもしれない。だけどどの道てがかりなんてないんだ。可能性があるなら、それに賭けてみるのもありだと思うぜ」
「引き返すことになりますが、よろしいんですの?せっかくレックさんという方が逃がしてくれたのに…」
「どっちに進んだって、危険はつきものだ。どっちも危ないなら、俺は希望のある道に進みたい」

―もしもの時にも、あなた達は殺したくないから。

思い出すのは、ポーラの別れ際の言葉。
先にポルトリンクへと向かった彼女がいないということは、おそらく更に東へ進んだのだろう。
不吉なその言葉と放送で呼ばれた彼女の仲間のアークの名前に、キーファは不吉なものを感じていた。
だからなんとなく、このまま東に進んでいても、危険からは逃れられない気がするのだ。
それに、西にはレックがいる。
放送で呼ばれなかったことを考えると竜王との戦いをやり過ごし、こちらに向かってきているかのしれず、合流できるかもしれない。

「分かりましたわ」

キーファの説得に、ミーティアも折れた。
彼女としても、西の竜王に対して心残りがあった。
自分のせいでオルテガが死んでしまったことに対して、罪悪感はあるが…それでも、彼女の誇りはまだ死んでいない。
諦めたくはなかった。
それに、もしも船があるなら…イシュマウリがいないので上手くいかないかもしれないが、自分の歌が役に立つかもしれない。

「行きましょう。…希望への道を、探しに!」

800郷愁 ◆OmtW54r7Tc:2018/02/10(土) 15:26:46 ID:xLl6XzNw0
【F-9/ポルトリンク/二日目 夜中】

【キーファ@DQ7】
[状態]:HP2/3
[装備]:はやぶさの剣・改@DQ8
[道具]:支給品一式、月影のハープ@DQ8、支給品1〜2個、ユーリルの不明支給品0~1個
[思考]:古代船のもとへ向かう

【ミーティア@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、あぶないみずぎ、レースのビスチェ、あぶないビスチェ、道具1〜3個
[思考]:古代船のもとへ向かう

801 ◆OmtW54r7Tc:2018/02/10(土) 15:27:32 ID:xLl6XzNw0
投下終了です

802ただ一匹の名無しだ:2018/02/10(土) 19:20:38 ID:ymdT/78s0
投下乙です
>愚か者達の輪舞
勝者はまさかのスクルド。これは意外過ぎた
マリベルの死体を盾に使ったり勇者の行いとはどんどん遠ざかっていったアレフだが、ローラを想う気持ちだけはブレなかった

>郷愁
付き合った時間で情に差が出るのは仕方ない。そのことに傷つくのも仕方ない。
そしてなんか本当にイシュマウリが出てきそうな雰囲気になってきたがはてさて……
しかしミーティアは今回もエロ装備を持たされたが、何が何でも一度はエロ装備を着せてやるという決意の現れなのかw?

803高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:27:04 ID:aK.LGmEs0
人は、生きているうちに必ず大きな壁に当たる。
それを、打ち破るか、飛び越えるか、はたまた諦めて何もしないか。
その行動によって、人は決まっていく。

勇者の力を手に入れた魔物を倒し、兄を倒し、マデサゴーラを倒した彼女は、一番高く厚い壁に直面していた。
仲間はほとんど壊滅状態、武器は玩具のようなもの1つしかない。逃げようにも後にも壁。

「さあ、どうする?武器もないし、頼れる仲間もいない。」
高く厚い壁、ヘルバトラー強は笑った。
(だからといって………)
「逃げられるかッ!!」
アンルシアは地面を思いっきり蹴り、向かっていく。
「むおっ!?」
剣として使っても傷つけることないとつげき丸を顔に投げつけ、視界を奪う。

(まだ、ひとつ試してないことがある!!)

そのまま高く飛び上がり、呪文の詠唱に入る。

「天なる雷よ、悪を討て!!ギガデイン!!」
数百の光の矢がヘルバトラ―強に襲い掛かる。
しかし、ヘルバトラー強はそんなものをものともせずに跳び上がる。

「が………」
そのまま殴打でアンルシアを撃ち落とし、地面に叩きつける。
ヘルバトラー強もある程度雷を受けた火傷があるが、致命傷には程遠い。


彼女、彼らにはもはや全滅しか無いようだった。
今度はロトの剣の持ち主は気絶している。

「これでトドメだ!!」
ヘルバトラー強はイオグランデの詠唱に移る。
その瞬間だった。
岩壁が壊される。それはまだよい。
アンルシアだって壊すことが出来たし、他にもある程度の力や技術を備えた者なら出来ることだ。
予想外なことは、岩壁が壊される音と共に、ものすごい勢いで何かが飛んできたことだ。
それは、魔瘴で強化された魔物でさえも反応できないほどの威力とスピード。
アンルシアにトドメを刺そうとしたヘルバトラー強の背中に凄まじい衝撃が入り、転がっていく。
そのまま最初に背を預けていた大木に激突した。


フアナとサヴィオは、最初何なのか全く分からなかったが、それが知っている人だと気づく。
「みん……な……。」
「アスナ!!それに、コニファーさん!!」
「ゼシカさんまで!!でも『アリアハン検定1級』の私は来てくれると信じていましたよ!!」

「これは……」
遅れて入ってきたゼシカとコニファーは、戦場の酷い有様を見渡す。
草木は何の影響か枯れ果て、大地はクレーターのようにボコボコとした穴が空いている。
それはかつてゼシカが見た場所とはとても思えない有様だった。
気絶している少女と、それを守るかのように覆いかぶさり、黒焦げになっている戦士
その近くには、怯えている神官らしい風貌の少女と、彼女より年上だが傷を負った少女もいる。
フアナとの再会は果たしたが、それまでの犠牲は大きかった。

804高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:27:36 ID:aK.LGmEs0
すいません投下宣言忘れてました

805高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:27:57 ID:aK.LGmEs0

「皆ひどいケガだな。」
「僕はまだ大丈夫です。それよりも他の人を!!」
サヴィオは魔触を受けて思うように動かない体に鞭打って、仲間を回復しようとする。
「回復呪文はそこまで出来るワケじゃねえけど……ところで誰と戦ってたんだ?」
コニファーは傷ついている人に片端からベホイムをかけていく。
サヴィオとフォズ、それにアスナもそれを手伝う。

「ヘルバトラーって怪物だよ。フアナと協力して倒したはずなのに、復活したと思ったら急に強くなったんだ。」
(ヘルバトラー……か)
トロデーン城で、ピサロから聞いた名だ。
絶望と憎悪の魔宮にもいた魔物だが、明らかに違う者だろう。
試してみる価値はある。

やはり、というかヘルバトラー強は生きていた。
体に傷を負ったが、その程度で倒れるような敵ではない。
ズシン、ズシンと地獄の鬼の太鼓のような足音を立ててやってくる。

(コニファー様?)
(危ないですよ!!)


再び近づいてくるが、そこでカマエルとサヴィオの反対を押し切って前へ出たコニファーが一声を上げた。


「オマエは、ピサロの元部下だな。」
「何!?」
向かってくるかと思いきや見知らぬ人間が話をしてくるとは。
「ピサロがオマエを待っている。オレがアイツの場所まで案内しよう」

コニファーは理解していた。
この魔物は、とてつもない戦闘能力を持っている。
戦いになれば仮に勝てたとしても、犠牲者は少なくないだろう。
だが、元とは言え上司の名をちらつかせれば、一時しのぎくらいにはなるかもしれない。

「一応聞こう。ピサロは今何をしている?」
「そこまでは話せないな。だが、ピサロがオマエを必要としているのは事実だ。」

(やはりコイツはピサロへの忠誠心はないな……)
ヘルバトラーが「ピサロ」と様付けせずに読んだ時点でコニファーも予想はついていた。
ピサロ本人もあまり期待はしていなかったようだが

(この男、食えない奴だ……)
下手に殺すとピサロの居場所も目的も知らなくなる。だが。
「ならば力づくで聞きだすまでよ!!」
爪の攻撃がコニファーに襲い掛かる。

806高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:28:29 ID:aK.LGmEs0

当たればパパスやアンルシアといった歴戦の勇士でさえもタダでは済まない。
当たればの話だが。

「ぬ!?」
確かに攻撃は当たった。だが、手ごたえは全くない。
今度は炎の息を吐く。だがそれは後ろに回り込んだため、地面を焦がすだけに終わった。

コニファーは一手目に守りの霧を張り、攻撃をしのいだのだ。
次は物理攻撃以外の技が来ると予想し、敵の背後へ回り込んだ。

(何……?あの動き……)
攻撃を柔軟に凌ぐ、コニファーの独特の戦い方にアンルシアは驚く。
自分もスピードには自信はあったがあんな動き方はしなかった。

「ジャン……ボ………」
未だこの世界で会うことのない盟友の名前を呟く。
それもそのはず。コニファーとジャンボは同じレンジャーだからだ。
更に、彼はレンジャーになる前は、盗賊だった。
敵の攻撃を柔軟にかわし、先の先を読んで動く。
敵の持ち物を奪う盗賊も、大自然を味方につけ、時に敵として対峙するレンジャーにも必須のスキルだ。


アンルシアのスピードが、敵を砕くためにある「剛の速さ」なら、いわば彼は「柔の速さ」。

「さあ、次は、どうする?」
「…………。」

意外と厄介な敵だ。
ヘルバトラー強はそれを実感し始めた。
しかも後ろの小娘が杖でスクルトの呪文を、一度戦ったことのある赤毛の女がマジックバリアをかけている。
交渉に入っている途中は攻撃はしないが、決裂した時のために守りは固めておこうというヤツか。

しかし、このタイミングでアクシデントが起こる。
ヘルバトラー強にとってラッキーな。

(諸君、ご機嫌如何かな?)


(ガボ)
初めにフォズの仲間が呼ばれる

(バーバラ)
フアナとゼシカの戦友が呼ばれる

(ローレル)
ティアの兄の仲間が呼ばれる

(ゲルダ)
次にゼシカの仲間が呼ばれる

(オルテガ)
次にアスナの父が

(アーク)
コニファーの心配していた仲間が

(ルーナ)
ティアの兄の二人目の仲間が

807高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:28:47 ID:aK.LGmEs0



一番放心状態になった時間が長かったのは、コニファーだった。
(ウソ………だろ?)
ホープ、リュビ、そしてアーク。
なんで自分より若いヤツから死ぬんだ。
あいつらは、これからいくらでも楽しいことがあったはずなのに。

これはチャンスだ。
ピサロの場所など、今いる敵を倒してからゆっくり聞き出すなり自分で探すなりすればよい。
ピサロが何を考えているのか分からないが、どのみち今の自分に恐れるものなどない。

その隙を逃さず、鋭い爪がコニファーを襲う。
(しまった!!)



アンルシアが地を蹴飛ばし走っていく。既に拾っていたとつげき丸を一閃。
ゲルダの死のショックをはねのけて、ゼシカがその手にメラミを放つ。
そしてフォズが使っていた。ルーンスタッフの守りの力。


ざくり。

「ぐあああああ!!」

その三条件が重なり、凶悪な爪はコニファーの命そのものを抉ることはできなかった。
しかし、顔の左上からは鮮血が飛び散る。

「あああああああああああああ!!!!!!」
それを見たアスナは、ヘルバトラーに向けて弾丸のように走り出した。
既に彼女は、父を失ったことを知らされていっそう情緒不安定になっている。
自分をフアナとサヴィオの所に導いてくれたコニファーの喪失を恐怖し、襲い掛かる。


「バイキルト!!」
ゼシカはアスナに補助呪文をかける。
今がどういう状況なのか今一つ掴めないが、感覚のみで最善と判断する行動をとる。
自分の魔力はほとんどないが、だからといって1つも使わないわけにはいかない。
補助呪文なら攻撃呪文に比べて使わなければならない回数は少ない。
ゼシカはヤンガスやモリーに比べれば思考から行動に移すケースの方が多かったが、この戦いはそういう訳にもいかない。

「来い!!」
ヘルバトラー強はアンルシアの攻撃も避けなければならない。
一度後ろに大きく飛び退く。

「うあああああああああああ!!!」
それを追ってきたアスナは手にしたゴディアスの剣を振り回す。
ヘルバトラー強は一撃目をかわす。
反撃に移ろうとする、が、あまりのスピードにカウンターを放つことも避けることも出来ない。
追加でやってくる二撃目に脇腹を鋭く切られる。

「ぐうう!?」
魔瘴の混ざったどろどろした濃いムラサキの血が流れる。
続いて三撃目。
これでヘルバトラー強の胸を切り裂くーーーことは出来なかった。
ティアのロトの剣で斬られてない方の腕に力を集めて致命傷だけを防ぎ、筋肉と魔瘴の圧力でゴディアスの剣を弾き飛ばす。

808高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:29:03 ID:aK.LGmEs0


「大丈夫ですか?」
アンルシアがベホイミでコニファーの傷口に回復呪文をかける。
「ああ、大丈夫だ。」
しかし、もう片目は機能しないだろう。
弓矢の使い手としても、隻眼ならば苦労が多いはずだ。
それ以前に、アークを失ったことによる自分の心の乱れのために、交渉のチャンスを無駄にしてしまったことが悔しい。

自分は感情的ではないと思っていたのに、このザマだ。


一方でアスナとヘルバトラー強の戦いを見ていたアンルシアは、憂えていた。

今、目の前にいる二人が、自分より高い次元で戦っている。
勝てなかった。
ヘルバトラー強というとてつもない敵に。
力が足りないだけではない。
それが及ばなくても、レンジャーの男がやったように戦略で相手を翻弄させることも出来るはずだ。


自分にはフォズや新しく参戦した赤毛の女性のように、サポートに徹することさえ出来ない。
二人ともスピードも凄まじく、特にアスナは周りが見えなくなっている分今攻撃を仕掛ければ、逆に足を引っ張る可能性がある。


仲間を守れず、パパスさんまで失ってしまった。
やはり自分は、ジャンボがいないと何もできないのだろうか。
それても、賢者との修行のように、何かを行えば新しい勇者の力を出せるのだろうか。


「ああああああああああああああああ!!!!!」
アスナは武器を失ってもヘルバトラー強に蹴りを入れる。
弾丸のようなそれは、ヘルバトラー強の腹にめり込む。

「ぬぐうううう!!」
だが、アスナの攻撃に慣れてきたのだろうか。
ヘルバトラー強は地面にどっしりと足を突き立て、多少動かされながらも踏みとどまる。

(コイツは、今我を失って暴走している。)
どんなに早く、重い攻撃でも、動きが分かれば対処は難しくない。

「がああああああああああああああああ!!」
今度はダッシュしながらの右ストレート。

「ふんぬっ!!」
「がはっ!!」

カウンターの正拳突きが入った。
いくら潜在能力があっても、人間は人間。肉体の頑丈さには限りがある。

809高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:30:18 ID:aK.LGmEs0
ぐじゃりと骨がひしゃげる気持ち悪い感覚が走る。内臓もタダでは済まなかったようだ。

「まだまだぁ!!」

口から血を零しながらも、高く飛び上がる。

「天の神々!!空の女神!!」
「地上の空気よ!!闇の魔の力よ!!全て俺の手に集え!!」

「来たれ!!我が雷!!」
「吹き飛ばせ!!大爆発よ!!」



「ギ  ガ  デ  イ  ン!!!」
「イ  オ  グ  ラ  ン  デ!!」

雷の呪文と、爆発の呪文がぶつかり合い、空気を、大地を、空を、岩を、全てを揺らす。
その衝撃に合わせて出る光も、見るだけで目を焼いてしまうほどのものだった。

「なんだよ!!これ!!」
「立っているだけで、やっとだわ!!」
「ああ!!蓋がとれそうです!!」

ゼシカとコニファーとカマエルは、その凄まじい衝撃に耐えることしか考えられなかった。

しかし、アンルシアはいち早く爆心地に向かっていく。
「ちょ……何してるのよ!!」



「ヤバイな………こりゃ。」
「助けに行かなきゃ!!第2回アリアハン………きゃ!!」
「フアナさん………大丈夫ですか?」

フアナとサヴィオは知っていた。
アスナは何か恐ろしいことがあると、筋力や魔力のボルテージが恐ろしいほど上昇することを。
それは火事場の馬鹿力という次元ではない。
だが、知っているからと言って、助けに行くことは出来なかった。
魔法がぶつかり合っている方に行っても、衝撃の余波で弾き飛ばされてしまうのがオチだ。
特にフアナは魔力がほとんど残っていないし、呪いも切れていない。

フォズはサヴィオの足にしがみついている。
しかし体力的に消耗しており、ガボを失ったことで精神的にも不安定なフォズは、手を離してしまう。

しかし、その手はフアナががっちりと掴む。
「絶対!!離しません!!アリアハン腕相撲大会優勝の私にかけて!!」

810高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:30:55 ID:aK.LGmEs0


しかし、この戦禍の中で行方が分からなくなった者がいた。

「ティアはどこだ!?」
自分とそのすぐ近くにばかり気が向きすぎて、ティアのことを忘れていた。
自分達でさえも立つのがやっとの程の衝撃だ。
ティアなら誰かが守っていない限り、飛んで行ってしまうに違いない。

「大丈夫だよ!!フアナ!!何故かは知らないけど、飛ばされていない!!」

サヴィオが見渡すと、少し離れた場所でそのまま倒れていた。
ロトの剣が嵐のような状況の中でも光っているのが見える。
剣の力が、持ち主を守っているのだ。


極大魔法同士のぶつかり合いは、互角といったところ。
だがアスナの方に、後援が入る。

(少しでも、力になれば……)
この状況なら、さっきよりも簡単に支援に入れる。
「天なる雷よ、悪を討て!!ギガデイン!!」

(しまった!!)
アスナのものより劣るとはいえ、もう一人雷の呪文の使い手がいたことを忘れていた。
普通は転職でもしない限り、勇者が一つの世界の一つの時代に何人も現れることなどありえないが、この世界は別。

「ぬぐおおおおおおおおお!!!!!」
二つのギガデイン。そしてイオグランデの衝撃までまとめてヘルバトラー強に襲い掛かった。
最大級の爆発と衝撃が来る。
周囲にいた6人、気絶している人も入れて7人は、目も開けられないほどだった。




それからどれくらい経ったのだろうか。
いや、単純な時間にしてはほんの10数秒くらいだが、戦いの舞台にいる者達には永遠のように感じた。
ヘルバトラー強が一度背中を預けていた大木は、切り株だけ残して無残な姿になっている。
爆心地はクレーターのようになり、
その中心に黒焦げになったヘルバトラー強が横たわっている。


「アスナ!!」
一早くフアナが彼女の下に走り出す。
「フアナ………」
「バカ……今までどれだけ心配かけたと思っているんですか!!」
「ごめんなさい!!でも、生きていて良かったです!!」

二人は涙しながら抱き合う。




「コニファー様、お怪我はありませんか?」
「感動の再会ってワケか。」
その二人を離れた場所から見たコニファーとカマエルも少し安堵する。

811高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:31:26 ID:aK.LGmEs0
「しかし……ご主人様は……」
ゼシカからコニファーに渡されたカマエルは、アークを失ったことで落ち込んでいるようだ。
釜からの表情を読み取るのは難しいが。
「ああ。」
それに対して、ごく短文で答える。どう答えればいいのか分からない。
兎に角、今はこれ以上知っている人間の犠牲を払わなくて済んだ。
自分の片目ぐらいならどうということはない。

ただ、いまだに気になるのは他の二人の仲間。
アークを失ったことで、暴走していなければいいのだが。
若いということは、感情が豊かということ。
それは、良いことにも悪いことにもつながる。


「勇者って……何なのかしら。」
アンルシアはアスナの戦いを見て、呟く。
自分は盟友の力を借りながらも、魔王を倒すために生まれた唯一無二の勇者だと思っていた。
しかし、アスナという存在。
勝てなかったヘルバトラーさえ打ち倒す、自分より強い勇者。
自分の存在価値は何なのだろう。

「ジャンボ………」
再び盟友の名を呟く。

「なあ。アンタさ、さっき「ジャンボ」って言わなかったか?」
「え?その人は……ドワーフの………。」
「そいつだな。俺はコニファーってヤツだけど、さっき向こうのトロデーン城で会ったんだよ。」
「え?今はどこにいるのですか?」

ようやくつかめた盟友の手掛かりに、目を輝かせる。
「東の町の方に向かうらしいが、仲間を集めているらしいし、今から向かえば会えるんじゃねえのか?」
逢える。ジャンボに。
彼なら、今自分の心に纏わりつくもやもやした物を、払ってくれる。
闇に中から、一縷の光が現れたような気がした。

「分かったわ。ありがとう!!」

812高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:31:44 ID:aK.LGmEs0







「大丈夫ですか?」
フォズがようやくティアの下に駆け寄る。
ティアはなおも気絶したままだ。
敵は倒したが、彼女が目を覚ますのを待った方がいいだろう。
放送のことは伝えないほうがいいかもしれない。
フォズはすでにティアから聞いた二人が命を落としたことを知っている、

「キミもケガしてるじゃないか。僕はまだ大丈夫だから。」
そこへ時間経過で呪いが解けたサヴィオがやってくる。ティアとフォズに回復呪文をかけながら、ティアを背負おうとする。
フアナの方もそろそろ魔触の呪いは切れたはずだが、魔力の方はほとんど残っていないだろう。
せめてこういう時ぐらい自分の行動を成さなきゃ。
「でも、ここじゃ出来ることは限られている。向こうのお城へ行けば、休憩ぐらいはできるだろう。」
「はい。」

「この剣は?」
「アンルシアさんも、他の人達も抜けなかったんですが、何故かティアさんにだけ抜けたのです。」
サヴィオはティアが持っていたロトの剣に気が付いた。
そういえば、ヘルバトラーを斬りつけることができたのも、これだ。
そしてティアをイオグランデとギガデインの反動から守っていたのも、これだった。
何か特別な力があるのかもしれない。
自分には装備できないようだが、それに何かを感じた。
(アスナなら、装備できるのかな?)



「ゼシカさん、無事で何よりです!!ズーボーさんも、バーバラさんも、いなくなってしまったから………」
「フアナも無事でよかったわ。でもね、聞いて。バーバラは、知らない人のメガンテで……」




ぴかり

突然ゼシカの背後で、何かが光った。
それに驚いて、彼女は後ろを向く。
メラガイアーの炎が背後に迫ってきていた。

「危ない!!」
その場にいたアスナ、フアナ、ゼシカの三人は慌てて逃げようとするも、既に遅かった。


「あああああああ!!」
ヒットしたのはゼシカ。
辛うじて直撃こそせず、マジックバリアの加護もあったが、それでも重度の火傷を負う。



「ちっ。本命ははずしたか。」
そこにいたのは、死んだはずのヘルバトラー強。
体中を真っ黒に焦がし、両角と翼は再び失ったがまだ生きていた。
彼が最後に使おうと思っていた、とっておきの世界樹の雫は、二つのギガデインとイオグランデの二重攻撃でザックごと炭化していた。
黒い体から魔瘴の混じった血が滴り、その中でも殺意と闘志に燃えた瞳がギラギラと輝く。
そのおぞましさは、魔瘴の力で復活した時よりも上だった。

813高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:32:07 ID:aK.LGmEs0

(思ったより傷が深いな……)
再び魔瘴と体を融合させて傷の回復を図るも、思ったほど回復が出来ない。
2度目はそれほど効果を成さないのだろう。

「よくもゼシカさんを!!」
アスナは再びギガデインの詠唱に入ろうとする。

「その呪文は使わせん!!」
ヘルバトラー強が飛び掛かり、アスナは大きく跳ね飛ばされる。
最早彼に余裕はなかった。ただ、死なずに敵を全滅させればよい。その意思だけだった。

「させません!!」
「邪魔だ!!」
フアナが立ちふさがるも、腕の一振りで吹き飛ばされる。

「今だ!!」

アスナとフアナ、ヘルバトラー強の距離が離れたのを機に他の仲間も攻撃する。
サヴィオがメラミを、コニファーが五月雨打ちを、フォズがヒャダルコを、アンルシアがギガデインを放つ。

だが、それらは全部片腕で受け止める。
ボロボロの状態で無茶な防御をしたため、そのまま片腕がぼとりと落ちる。
しかし、倒すことはできそうにない。


再び地面に寝転がっていたアスナが地面を蹴飛ばし、ヘルバトラー強に迫る。
しかし、その速さはこれまで程ではない。
長時間全力全開フルパワーフルスイングで戦っていたため、体力が消耗してきたのだ。
いくら勇者でも潜在能力が化け物じみていても、体力が無尽蔵にあるわけではない。


ヘルバトラー強はその攻撃を読み切り、カウンターの一撃を放つ。
「ぎゃっ!!」。
それによって跳ね飛ばされた。

「コイツさえ倒せば、雑魚ばかりなのは変わりないようだな!!」
ヘルバトラー強は吠える。
こんなに敵はボロボロで無残な状態なのに、倒せない。倒せそうもない。
ある程度時間を稼いで、アスナにギガデインを再び打たせれば勝てるはず。
しかし、その時間稼ぎすら出来そうにない。
殺される。この場から逃げ出すことさえ出来そうにない。


「そうかしら?」
そこで立ち上がり啖呵を切ったのはゼシカだった。
そのゼシカも、服や肌、髪の毛があちこち焼け焦げ、立っているのもやっとの状態だった。
街を歩けば男なら誰もが振り返るその姿は、見る影もない。

魔力も消耗しており、使う魔法は攻撃呪文も仲間を補助する呪文さえできないはずだ。

「これを受けたのを忘れたの?」
ゼシカの魔力が高まっていく。
(!!)

一度目に食らった究極魔法を思い出す。
それだけで死ぬとは思わないが、この状態で食らえば致命的なのは間違いない。
しかし、この女も人間である以上は、体力に限りがあるはず。
なぜ2度もマダンテなどができるのだ。

814高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:32:51 ID:aK.LGmEs0

ゼシカの心配をする。
「心配しないで。それより危ないから、下がってて!!」
ゼシカの言われた通り、後ろに下がる。
魔力も切れているし、この状態では自分は足手まといにしかならない。
自分は『アリアハンスライムカーリング大会』でチームを優勝まで導いたのに、なんというザマだ。

光が溢れる。
再びゼシカの魔力が大きな球体となって顕在化する。
魔力が弾けて渦巻く音、聞き覚えがあった。


「まさか?」


『全ての力を、ここに!!マダンテーっ!!』
「させるかああああ!!」

魔力の光が、ヘルバトラー強の視界をくらませる。
それに対してヘルバトラー強も一度目の時と同様に、魔蝕で跳ね返そうとする。
視界を眩ませただけだった。

全ての魔力を使う呪文、マダンテ。
実は使い方さえ知れば、魔力はあれば、いつでも同じエフェクトのものが使えるのだ。
それは魔力が最高の状態でも、メラを使えるかどうかといった状態でも使うことは可能だ。
単に威力が違うだけである。


「この子、ティアちゃんって子なんですけど、今は守っててください!!」
だが、マダンテの轟音と光の中でも、サヴィオとアンルシアは走り出した。
「おい!!何やってんだ!!やめろ!!くそっ!!」
「二人共、無茶です!!」
光で前が見えなくなっているコニファーが、悪態をつく。
吹き飛ばされそうになるフォズが止めようとする。
サヴィオからいまだに気絶しているティアを自分に頼んで、どうするつもりだ。

答えは簡単だ。
前者は前線で戦い続ける友のため。
後者はたとえ倒せなくても、最後まで悪と近くで戦い続けるため。


ゼシカはこれでヘルバトラー強を倒すのではなく、時間稼ぎに打ったのだ。

しかし、ゼシカのマダンテは見せかけだけの存在なのに対して、それに対する魔蝕は本物の威力を持っていた。

815高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:33:42 ID:aK.LGmEs0

でも、これでいい。
ズーボーも死に、バーバラも死んだ。
ここでフアナやその仲間まで死ぬのは、もっと嫌だ。


ただ、心残りがあるのは、エイトのこと。
彼は、自分が知らぬ間に恋心を抱いていたのは知っていたのだろうか。
竜神王の里でアルゴンリングを手に入れた時から、彼の結婚相手は決まっていたけれど。
それでも、気持ちを突然変えてくれたらいいかなって。


(みんな………ごめんね。)

「貴様!!これが最初から目的か!!」


「これで終わりです!!ギガデイン!!」
「負けるかあああアアアあああ!!イオナズン!!
俺様はあらゆる時代で戦っていたのだ!!勇者と言えど負けるわけにはいかん!!」


ある時は、ピサロの部下として戦い、
ある時は、後に魔王となる魔物使いの下で戦い、
ある時は、平和な世界で復活した魔王の城の兵士として戦い、
ある時は、絶望と憎悪の中に生まれた魔宮で戦い、
ある時は、芸術的な魔王が大事にしていた部下の付き人として戦った。

彼の歴史は長かったが、それは総じて戦いの歴史。
そして彼の使う技は、周囲の環境に応じて変わっていったが、その中でも常にイオナズンはありつづけた。

戦いの中で自分の一つとして在り続けたその呪文は、魔瘴の力とその決意も相まってイオグランデと同じか、はたまたそれ以上。


「お願い!!彼女を助けて!!ギガデイン!!」
もう少しの辛抱だ。もう少しでジャンボに会える。それまで、負けるものか。


完全には相殺できなかったが、決意と共に放った最強のイオナズンは、二つのギガデインを吹き飛ばした。


「勝った!!勝ったぞ!!これでトドメだ!!」
直撃ではないとはいえ何度もギガデインを受け、もはや見る影もない姿になりながらも、ヘルバトラー強は、自信に満ちてアスナに爪を入れようとする。
「アスナーーーーーーーーーーッ!!」
「サヴィオ!?」

816高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:34:10 ID:aK.LGmEs0


彼はズーボーが持っていたオーガシールドを両手で構えて、ゆっくりと強力な呪文の衝撃波を凌ぎながらやってきたのだ。
普段の彼なら、例え戦い中でも無茶なマネはしなかった。
それでも、フアナとアスナが近くで強大な敵と戦っているのに、後ろにいるわけにはいかないと。
勇者とは、ただ勇気があるだけではなくて周りにいる者も勇気づける者。
なげきの巨像との試練で、アンルシアが知ったことだ。



「これを使……?ぶべ!!」
ギリギリまで近づいたサヴィオは、オーガシールドを手放し、ザックからロトの剣を渡そうとする。
しかし、地面が穴だらけになっていたことに気付かず、つまずいて転ぶ。
遊び人時代、よくやらかしていたことだ。
しかし、そのはずみで飛んでいった剣はアスナの所へ渡る。
剣がアスナに装備できる物か、剣が全然違う方向に飛んでいかないのか。
そんなことは心配ない。
何故なら彼は、運の良さ255、生粋のラッキーマンだからだ。

ゴディアスの剣を弾き飛ばされてからずっと徒手空拳だったアスナに、武器が渡る。
文字通り目と鼻の先までヘルバトラー強の片腕が迫ってきている。

「ひゃ!!」
そのままアスナは慌ててその剣を振る。

「ぐぬお!?」
ヘルバトラー強のもう片方の腕も切り落とされる。
「そ、その剣は!!」
そうだ。あの何の戦闘力もなさそうな小娘が持っていた剣だ。


「これで終わりです!!」
アスナはロトの剣を構え高く飛び上がる。
掛け声とともにロトの剣を構える姿に、ヘルバトラー強にある姿がフラッシュバックする。
天空の剣を構える、勇者ユーリル。
「貴様、まさか!!」


(何も出来ぬよりかは良い!!)
まだ両手以外は死んでいない。たとえ死んでも、勇者の仲間ぐらいは道連れだ!!
その刃が体に入る前に足で地面を踏み鳴らす。
魔瘴の影響でひび割れ、固くなった土地が、地面の槍となって襲い掛かる。
アンルシアは既にフィールドへの攻撃の避け方はジバルンバなどから学んでいた。
ジャンプして、地面に模様に少しでも違和感がある場所から避ける。
しかし、フアナとサヴィオは知らなかった。


何なのか分からないそれが、フアナに襲い掛かる。
前後上左右の攻撃ならともかく、地面からの攻撃はフアナの世界ではなかった。
「危ない!!」
「え!?」

サヴィオは自分の身を顧みず、フアナを突き飛ばし、隆起する地面の犠牲になる。
地表の槍が、サヴィオの首に、胸に、腹に刺さる。
どうして彼はそんな行動に出たのだろう。
ラッキーマンの彼なら、それに突き刺されずに済んだはず。

817高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:34:32 ID:aK.LGmEs0
少なくとも、致命傷を負うことはなかったのだが。

「でえやあああああああああああああ!!」
「ぐおおおおおおおおおお!!」
ロトの剣の斬撃を受けて、頭から両断される。


そこから凄まじい量の魔瘴が出る。
後ろにいる3人はともかく、他の人は危ない。

「私が守る!!あなたも、私の近くに!!」
「え!?」
「早く!!」

動けないサヴィオの近くから、フアナとアスナを呼び寄せる。
近くに寄せたアンルシアが、勇者の盾で三人を守る。

「やりましたよ……フアナ……サヴィオ………ホープ君………」
魔力も体力も使い果たした彼女は、その場で糸が切れたように倒れる。


「おい!!大丈夫か!?」
魔力の衝撃や魔瘴など、近づけなくなる原因がなくなり、コニファーとフォズもティアを近づく。

「やっ……たね………。」
「サヴィオ!!大丈夫ですか!!」
「やったよ……僕はね………初めてマジになれた………好きな人と……勇者を、助けたんだ………。」

魔瘴を浴び、地面に串刺しにされて、呼吸と血を漏らしながら最期の言葉を放つ。
もう回復呪文でもどうにもならない。

「まだ死なせません!!」
介護職の経験もあるフアナは、魔力が尽きてもサヴィオの心臓を必死でマッサージしようとする。
だが、心臓は動かない。
アンルシアも残った魔力でベホイミをかけ続ける。
もう手遅れだった。

「畜生!!俺が出来るのは、こんなことだけかよ!!」
コニファーは自棄になったかのように周りにベホイムをかけ続ける。
もう動かないサヴィオとゼシカ以外にも、放っておけば死んでしまいそうな怪我人ばかりだ。
アークのみならず、この戦いで若い命が二人分も亡くなった。

818高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:35:05 ID:aK.LGmEs0


フォズは嬉しそうに話しかける。

「あの、怖い奴は?」
「大丈夫ですよ。」
フォズが笑顔で微笑む。
それが倒されたのだとティアも気づく。
「おねえちゃんがやっつけたんだね!!すごいよ!!おねえちゃん!!」
ヘルバトラーを倒したのは彼女ではないのだが、それはもうどうでもいい。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

残った6人は、パパスとゼシカとサヴィオの埋葬を済ませた。
既に天空では星空が輝いている。

「あ、アスナ、目が覚めましたか!!良かったです!!」
「フアナ?」
そこでフアナは堰を切ったように涙を流し続ける。
「私、いろんな人に大切なことを伝えられなかったんです。アスナまで死んだらどうしようかって……」
「泣かないでください。泣いたら、私まで、悲しくなるじゃないですか。」

いくら強い力を持っているからと言っても、心はまだ若い娘二人のままだった。

「いい所で悪いけどよ、ここじゃ危ないし、一度城の方に戻った方がいいんじゃないか?多少ボロくなってるけど、休むところもあるぞ。」

ここで別の誰かが襲ってきたら最悪だ。
コニファーの判断は悪いことじゃないだろう。


「おねえちゃん!!ティアを守ってくれて、ありがとう!!」
ティアが、満面の笑みでアンルシアに感謝する。
「いいのよ。」
ティアの感謝の言葉。それがアンルシアのひび割れた心に染み渡る。
どんなに過酷な戦いでも、グランゼドーラ王国に戻り、勇者として感謝されると、疲れは吹き飛んでしまう。
だが、今は完全には治らなかった。

「あれ?その剣、ティアのお兄ちゃんの剣だよ。なんで持てるの?」
ティアと目があった瞬間、思い出したかのようにアスナはロトの剣を置き、フアナの後ろに隠れる。
「ねえ?どうしたの?」
「知らない人が苦手なんじゃないですか?そっとしておきましょう。」
それを見ていたフォズがティアを止める。
「ちゃっ、つまんない。でもこれはお兄ちゃんの剣だからね!!」
そこへアスナはフアナに耳打ちした。

「それでもかまわない、って言ってるそうですよ。」

ティアが再び腰に差したロトの剣。
竜王が探し求めていた人間、というのはアスナのことかもしれないが、今はそれどころではない。
今のアスナなら休憩を取らないと竜王には勝てないだろう。
アスナとティアに装備出来て、自分にはできなかった武器。
しかもティア曰く、彼女の兄もまた勇者で、剣を装備できるという。
自分には何が足りないのか。
自分が強ければ、パパスを守れたんじゃないのか。

819高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:35:34 ID:aK.LGmEs0
自分が強ければ、ゼシカを守れたんじゃないか。
自分が強ければ、サヴィオを守れたんじゃないのか。
自分よりアスナの方が勇者じゃないのか。
もっと強い敵がいれば、もっと多くの守るべき人が死ぬんじゃないのか。

レックやフォズの世界では、勇者は誰にでもなれるらしい。
だからこの世界でも、勇者という肩書だけでは何の役にも立たない。


私は、かつて戦った魔勇者を、自分の偽物だと言った。
しかし、自分も勇者の偽物ではないのか。

自分は、何?
その気持ちはアンルシアの心の中では、極めて小さいが、どうにも消えないものだった。

「私は、城には行かないわ。」
「え!?」
「ジャンボは、東の町の方にいるんでしょ?私は一人でそっちへ行かせて。一刻も早く、彼に逢いたいの。」
アンルシアはとつげき丸を拾い上げ、行こうとする。
ティア、とフォズにも探し人はいるが、コニファーの話によるとトロデーン城には全員いないようだ。


「俺は止めないけど、危なくなったら逃げろよ。もう若いヤツが死ぬのはゴメンだ。
それともう一つ、これを持っていけ。」
コニファーはザックから一つ剣を取り出した。
「それは……!!」
ジャンボと共に戦った際に使ったレイピア。懐かしい。この剣を買ってきてくれたジャンボにも会いたい。
「俺は弓の方が得意だからな。少なくともそんなオモチャみたいな武器よりかはマシだろ。」
「ありがとう。何もお礼できないけれど……」
「私も行きます!!ジャンボさんを転職させるために。アルスさんに会うために。」
「じゃあ私も!!」
フォズとティアもついていく。



コニファーも城へ行くことにする。
怪我人二人だけで城に向かわせるのは危険だ。
行方不明のスクルドとポーラも心配だが。


アスナとフアナ、コニファーはトロデーンへ戻ろうとする。
敵は倒した。
犠牲になった人もいたが、それ以上に全員に何かわだかまりの残る戦いだった。
ある者は自分の弱さに、
またある者は仲間を失った喪失感に
またある者は自分の存在価値に。

820高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:39:35 ID:aK.LGmEs0



【ゼシカ@DQ8 死亡】
【サヴィオ@DQ3 死亡】
【ヘルバトラー強@JOKER 死亡】
【残り34人】

【C-4/平原/1日目夜】


【アスナ(女勇者)@DQ3】
[状態]:HP1/10  MPほぼ0性格「ひっこみじあん」 肋骨骨折、内臓一部損傷
オルテガ、サヴィオ死亡による情緒不安定
[装備]:ゴディアスの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)  サヴィオの支給品一式 道具0〜1個バレットハンマー@DQ10 オーガシールド@DQ5 
     ウェディングドレス@DQ9 アルゴンリング@DQ8
[思考]:エビルプリーストを倒す。
ひっこみじあんを克服したい。
   :トロデーン城で休息をとる
[備考]:不明支給品の中に性格を変える効果を持った本や装飾品は入ってません。
    トロデーン城の地理を把握しています。

【コニファー(男レンジャー)@DQ9】
[状態]HP2/5 MP1/5片目喪失  アーク死亡による喪失感
[装備]かりうどの弓@DQ9、毒矢25本 
[道具]支給品一式 ) カマエル
[思考]自分が生きているという感覚を保つため、とにかく生き抜く。
   仲間を探す。 アスナとフアナを先導する。

【フアナ(僧侶♀)@DQ3】
[状態]:HP1/8 MP0  ゼシカ、サヴィオ死亡による喪失感
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜3(本人確認済み)ゼシカの不明支給品(0〜2)
[思考]:トロデーンへ行き、休憩する 。
※バーバラの死因を怪しく思っています。



【ティア@DQ2(サマルトリアの王女)】
 [状態]:HPほぼ全快 挫いた足(治療済) 打撲
 [装備]:ロトの剣 氷柱の杖(残5)@トルネコ3 ようせいのくつ@DQ9 
  [道具]:支給品一式 脱いだ靴 おわかれのつばさ@DQ9 パーティードレス@DQ7
 [思考]:兄とその仲間たちを探すため、トラペッタへ向かう。兄にロトの剣を渡す 職業に就いてみたい
※第二放送の内容を聞いてません。

【勇者姫アンルシア@DQ10】
[状態]:HP1/4 MP1/4 情緒不安定 自信喪失
[装備]:戦姫のレイピア@DQ10
[道具]:支給品一式 とつげき丸@DQ10 不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:ジャンボに会いに、トラペッタへ向かう。
フォズとティアを守る
最後まで戦う
    彼に会いたい
    彼を守りたい
    彼の隣に居たい
    彼に道具使いになってもらう

821高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:39:59 ID:aK.LGmEs0
【フォズ@DQ7】
[状態]:HP1/2  MP1/2
[装備]:ルーンスタッフ@DQ8 ようせいのうでわ@DQ9
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1(本人確認済み)
[思考]:仲間を集める。
    ジャンボをどうぐ使いに転職させる。
アンルシアについていく




「まだだ………終わって、たまるか。」








たとえ肉体が滅びようと、彼の破壊の欲求は途絶えることはなかった。
誰よりも何よりも戦い、破壊、そして殺害を求め続けた。
ヘルバトラー強は、たとえ肉体は滅んでも、魂まで失わなかった。
そしてその意思は残った濃厚な魔瘴、ヘルバトラー強の死んだ細胞と融合する。
それはとあるドルワームの王国を襲った天魔の魂が魔瘴石になったようなもの。
小さい、が、言い表しようもないほど邪悪なオーラを秘めた石がそこに転がっていた。
彼と戦った者は既にその場を去り、満月のみがそれを照らしていた。


【ヘルバトラー?@JOKER】
 [状態]: ??????????
 [装備]:なし
 [道具]:なし
 [思考]:破壊
※死骸と闘志、それに魔瘴が合わさり、魔瘴石のような形になっています。

822高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:41:14 ID:aK.LGmEs0
投下終了しました。長文になってしまったのでどこか矛盾点あれば指摘お願いします。
それと最後の展開(ヘルバトラーが魔瘴石になったやつ)はありですか?

823ただ一匹の名無しだ:2018/03/05(月) 19:34:15 ID:drpvso0Q0
投下乙です

まさに死闘…大技が何度にも渡って飛び交う大迫力のバトルだった
アンルシアはようやくジャンボの居所を掴んだが、今の彼に会ってしまったらどうなってしまうのだろうか

魔しょう石についてはよく分からないので他の方の意見に任せます

824ただ一匹の名無しだ:2018/03/05(月) 19:39:09 ID:okWdfz4E0
なしだと思うなら最初から書くなよ

825高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 19:50:13 ID:aK.LGmEs0
誤字発見しましたので訂正を。
>>818
誤ー「ちゃっ、つまんない。でもこれはお兄ちゃんの剣だからね!!」
正ー「ちぇっ、つまんない。でもこれはお兄ちゃんの剣だからね!!」

それとヘルバトラー?のステータスに関して、明らかに道具と装備の欄は書かなくてもよかったですね。

826ただ一匹の名無しだ:2018/03/06(火) 21:06:12 ID:tlbNUcaI0
よく状況がわからないけどとりあえずヘルバトラー強は死亡したという見方であってるかな?

827 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/06(火) 21:11:02 ID:S3IRlncI0
>>826 肉体は死亡した、けれど思念だけは残っている、みたいな状況です。

828ただ一匹の名無しだ:2018/03/06(火) 21:29:12 ID:tlbNUcaI0
>>827
つまり死者スレにヘルバトラーを出してもいいと言うことですか?

829ただ一匹の名無しだ:2018/03/06(火) 21:37:15 ID:YqFpOReo0
支給品化した、くらいの認識でいいのでは?

830 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/06(火) 22:06:41 ID:S3IRlncI0
>>828 >>829 そんな感じです。なのでまだ死者スレには出さないでください。

831 ◆2zEnKfaCDc:2018/03/08(木) 01:00:25 ID:5iXOj5OQ0
投下します。

832白馬に遺す言葉:2018/03/08(木) 01:02:31 ID:5iXOj5OQ0
トラペッタは繰り返された闘いを忘れるかのごとく静まり返っていた。
死骸は数多くあれど何も語らない。
僅かに残る生者も放送を前にそれぞれの想いを胸に抱えている。

「ここにはいない…か…。」

トラペッタの中にミーティアの姿がなかったことへの安堵と、無事を確認出来なかったことへの不安を込めてエイトが呟いた。
エイトはアルスとブライのいる場所に戻り、2人が手に入れた支給品を確認する。

「おや、これは…?」

エイトが最初に興味を持ったのはブライの持つ白き導き手だった。
白馬を模した人形に、呪われていた時のミーティアの姿を重ねたのかもしれない。
支給品の説明書を受け取り、大まかに確認する。

「なるほど、メッセージを残せる道具というわけですね。」

確かに便利な道具ではあるものの、殺し合いの場において有効活用する方法は思いつかなかった。特定の相手にメッセージを送ることが出来ない以上、下手にミーティアへの伝言でも残せば悪意ある人物に拾われた場合にどう利用されるか分かったものではない。
しかしエイトには、殺し合いには役に立たない用途がひとつ思い浮かんでいた。

833白馬に遺す言葉:2018/03/08(木) 01:03:47 ID:5iXOj5OQ0
「これ、私が使ってもよろしいですか?」

「うむ、構いませぬぞ。この土地にも詳しいエイト殿が使うのが最善じゃろう。」

「ありがとうございます。少し、待っていてください。」

そう言うとエイトは白き導き手を手に持って再びトラペッタの中へと消えていった。

「さて、支給品の確認も一通り終えましたな。あとは放送を――――――」

「まあ、そう上手くはいかないよね。」

ブライの言葉を遮るようにアルスが口を開く。その視線の先にはひとつの遺体が焼け焦げていた。

「そっか、君も死んじゃったんだ――――――ガボ。」

どうやらメラ系の呪文で殺されたようだ。おそらくはエイトの殺した2人の内の1人だろう。

ブライは何と声をかけて良いのか分からなかった。
というのも、先程までのアルスとは全く違った表情を浮かべていたからだ。
無念を噛み殺しているような、苦々しい顔をアルスはしていた。

「僕はちょっと、遅すぎたみたいだ。来るのも――――――気付くのも。」

そう言ってアルスは物言わぬガボの死体をそっと抱きかかえる。
ガボの死。それはアルスにとって、現代を生きる者との最後の繋がりが絶たれたということに他ならない。
このままエビルプリーストを倒して元の世界に帰ったとしても、そこに仲間たちは誰もいないことが既に確定してしまっているのだ。

834白馬に遺す言葉:2018/03/08(木) 01:04:46 ID:5iXOj5OQ0


――――――諸君、ご機嫌如何かな?


そんな悲しみに水を差すように第二放送が始まる。
読み上げられる死者の中でも一番初めに呼ばれるガボの名。
もしガボの死体に気付くのがもう少し遅れていれば放送で知らしめられることとなっていただろう。
ガボの死を知るという結果は変わらずとも、放送のたった2文字だけで死を伝えられるのに比べると、死体を先に見つけたことは幸いだったのかもしれない。


結果として、それからの死者の読み上げは特に何事も無く終わった。
ミーティアの名も、過去の世界のアルスの知り合いの名も、導かれし者たちの名も呼ばれていない。
それぞれが安堵し、落ち着いた気分で放送を聴き終えることとなった。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「――――――――――――。」

放送でミーティアの生存を確認したエイトは白き導き手にミーティアへのメッセージを残し始める。
それは殺し合いで生き残るためのメッセージではない。

この世界にはまだ積極的に殺しに回っている者がいる。知略に長け、実力も伴っているゲルダでさえ死んでしまったのだ。
自分だっていつ死んでしまうのか分かったものではない。

ミーティアだって――――――

そこまで考えてエイトはぶんぶんと首を振った。白き導き手に多少のノイズが録音される。

それは仮に自分が死んだ時のミーティアへのメッセージ。
エイトの頭の中には声も聞けないまま今生の別れとなったトロデ王のことがずっと残っている。
ミーティアを守るためならば自分の命など惜しくもないが、そうなればきっと彼女は悲しむのだろう。
今のうちに遺しておけるものがあれば、それだけでもミーティアのためになるのではないだろうかと考えて遺言を吹き込んでおくことに決めたのだった。

835白馬に遺す言葉:2018/03/08(木) 01:05:30 ID:5iXOj5OQ0


「終わりました。お待たせしてすみません。」

そのままエイトは戻ってきた。

「アルスさん。これ、預かっていてもらえませんか。」

そう言って白き導き手をアルスに渡す。そのいたたまれない表情からアルスはエイトの意図を察した。

「使わない方が望ましい、ってことかな。分かった、もしもの時はミーティア姫に渡しておくよ。」

「話が早くて助かります。」

遺言を伝えるということは相手の悲しみに嫌でも触れてしまうことになる。
キーファがもう戻ってこないことをバーンズ王やリーサ姫に伝える時も、無気力だったアルスでさえ気が進まなかった。

でもアルスはエイトを責める気にはなれなかった。
今から言おうとしていることは、場合によってはもっと大きな禍根を残すことになるだろうから。

「さてエイト、こんな時なんだけど、ひとつハッキリさせておこうか。」

心中の読めないあの無表情でアルスは問いかける。このメンバーの中でアルスが主体となって主張するのは初めてのことだった。

「エイトは一度、ブライさんを殺そうとした。…間違いない?」

エイトとブライの顔色がそれぞれ変わる。

「アルス殿!仮にそうでも、エイト殿は思いとどまったのじゃ。私もそれを責めるつもりなどありませぬぞ!」

そんなブライの声をアルスは左手で制止する。

「…答えて。」

836白馬に遺す言葉:2018/03/08(木) 01:06:44 ID:5iXOj5OQ0
その眼は真剣そのものだった。
圧力に負けてか、多少の時間が流れた後にエイトは口を開いた。

「…はい。私はブライさんを殺そうとしました。ミーティアやトロデ王への危害となる可能性を考え、排除しようと考えての行動です。」

「…っ!」

首筋に突きつけられた槍の冷たさをブライは再び思い出す。
もしあの時、自分が少しでも抵抗の意思を見せていたら、足元の死体のようになっていたのは自分だったのかもしれないと嫌でも思い知らされたのだ。

「エイト、今はどうあれ君は激情に任せて他人を殺すという道を選んだ。そして一度外れたトリガーはそう簡単に戻らないんだ。」

マナスティスを開発したゼッペルもその一例である。彼は目的だったラグラーズへの復讐を果たした後も力に溺れ、魔物へと化した。

「もしもミーティアって人が死んだ時、君は――――――」

その言葉を口にした途端、エイトの目が殺気を帯びる。
エイトが背中の剣に手が伸びかけたのをアルスもブライも見逃さなかった。

「――――――そういうことだよ。そして君は強い。あとは、わかるよね。」

「つまり…私は2人に着いていくべきではないということでしょうか。」

「アルス殿!それはあんまりですじゃ!」

「酷なことを言っているのは分かってるよ。でも、これはブライさんの安全にも関わってくることなんだ。」

それを持ち出されてはブライの反論も弱くなる。
実際、エイトが危険人物であるとの認識はブライにも残っているのだ。

「…分かりました。どの道、私はトロデーンへ向かいます。」

「じゃあ、僕たちはひとまず南の洞窟に向かうよ。ミーティア姫と出会ったら必ず守ってトロデーンに連れていくから、そこは安心して。」

「し、しかし…」

「分かりました。ブライさん、あなたの命を狙ったこと、本当に申し訳ございませんでした。」

こうして、ブライにとってはどことなくやりきれない気分のまま、エイトのみがひとり別れることとなった。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

837白馬に遺す言葉:2018/03/08(木) 01:07:43 ID:5iXOj5OQ0

「アルス殿…本当によかったのですかな?」

エイトと別れた後、草原を歩きながらブライはアルスに尋ねる。

「まあ、次の放送でエイトが呼ばれたりしたら…なんて思うところはあるよね。」

これが最悪のパターンだろう。
エイトから受け取った白き導き手はやはり使う時が来ない方が望ましいのだから。

「でも、これでいいんだよ。もしエイトがミーティア姫と合流すれば、エイトは必ず1人でも彼女を守るはずだ。もちろん、僕たちが見つけても彼女は誰にも殺させない。だったら最初から別れて探す方が合理的なはずだよ。」

「ふ、ふむ…しかし…」

「それにエイトは大丈夫。あれだけ強いんだから。僕たちはミーティア姫を見つけることを考えればいい。もし彼女に何かあって、またエイトと闘うことにはなりたくないからね。」

ミーティア姫が死のうものなら、今度こそエイトはどうなってしまうか分からない。ならばエイトを1人にして身の危険のリスクを増やしてでも、彼女の散策を優先すべきだということだ。

「ふむ…?しかしそれだとあのような突き放し方をする必要はなかったのではありませぬか…?」

アルスは困ったように頭を掻く。
ガボの亡骸を抱きかかえた時、アルスは殺し合いを止めるとさらに強く決意した。
でも、決意とは裏腹に覚えてしまった感情もあったのだ。

838白馬に遺す言葉:2018/03/08(木) 01:08:53 ID:5iXOj5OQ0
「エイトのしたことは許しちゃいけないことなんだ。感情に任せて魔物だけでなくひとりの人間も殺していた。それなのに――――――僕はきっと、ガボの仇を討ってくれたエイトに対して感謝してるんだ。殺し合いを止めると決めたのにエイトの殺しを肯定したい僕もいるんだ。だからエイトに有無を言えない状況を作ってその僕を突き放した――――――ただそれだけのことだよ。」

「なるほど…しかしアルス殿。そのような想いを抱くことは決して、恥じるようなものではありませんぞ。」

アルスに欠けていた心はバラモスゾンビとの戦いを通して補われたのだろう。しかし、まだ自分の感情への対処には慣れていないようだ。
自分の立場と対立する想いに割り切るということをアルスはまだ知らない。
それならば、それを教えるのは大人の役目だ。

(私にも、次なる可能性の芽を育てられるのなら――――――)

ブライもまた、大切な人たちを亡くしたことで失いかけていた自分の生きる意味をバラモスゾンビとの戦いで見出したのだ。

「私もふとエイト殿に対して思いました。本当に守りたいと思える者が生きていることが妬ましい、と。そういった自分の弱さと向き合うことも、きっと心の成長に繋がりましょう。」

「"心"…か…。」

昔のアルスには足りなかったもの。今からは手に入れるのではなく、育てるために時間をかけていく。

839白馬に遺す言葉:2018/03/08(木) 01:13:16 ID:5iXOj5OQ0

"心"を身につけたら会いに行くと約束したフォズ。"心"を持って向き合わないまま別れることとなったキーファ。
彼らは未熟な過去の自分でもあった。
自分の弱さとも、今なら向き合おうと思える。

「フォズには謝らないとな、こんなに遅くなっちゃったわけだし。そしてキーファは泣かせたマリベルやリーサの分までぶん殴って――――――なんだ、やりたいことなんて溢れているじゃないか。」

前を向いたアルスを横目にブライは微かに笑みを零すのだった。

【F-3/トラペッタ地方/夜】

【エイト@DQ8】
[状態]:HP3/4 MP微消費
[装備]:奇跡の剣
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ミーティアを守る。トロデーンへ向かう。

【F-4/トラペッタ地方/夜】

【アルス@DQ7】
[状態]:HP3/5 MP微消費
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 まどろみの剣 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜2) ゲルダの不明支給品0〜1個 道具0〜2個(本人確認済み)
[思考]:この戦いを終わらせる。ミーティア、キーファ、フォズを探す。滝の洞窟へ向かう。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。

【ブライ@DQ4】
[状態]:健康 MP2/5
[装備]:魔封じの杖
[道具]:支給品一式 へんげの杖  道具0〜2個
[思考]:生きる。生きてアリーナとクリフトのことを知ってもらう。滝の洞窟へ向かう。

840 ◆2zEnKfaCDc:2018/03/08(木) 01:14:46 ID:5iXOj5OQ0
投下終了しました。

841ただ一匹の名無しだ:2018/03/09(金) 03:30:17 ID:b74d6vWo0
投下乙です
やっぱエイトは一応は矛をおさめたとはいえまだグレーだよな
変わりゆくアルスとそれを見守るブライはいいコンビになりそうな予感

それと一つ疑問があるのですが、アルスはどこでエイトのブライへの殺害未遂を知ったのでしょうか
最初の場面にアルスはいあわせなかったですし

842 ◆2zEnKfaCDc:2018/03/09(金) 14:25:23 ID:CrGBdkuI0
>>841
ご指摘ありがとうございます。情報交換をしているからこの世界に来てからのある程度の状況も共有している、というつもりではいましたがその辺りの説明を飛躍していると感じたので「このメンバーの中でアルスが主体となって主張するのは初めてのことだった。」以下を次の文に訂正します。

「エイトは最初から、僕たちを殺そうとしていた…間違いない?」

当初から、エイトが自分たちに抱いている警戒心が警戒の域を超えているような感覚に違和感はあったが、確信は持てなかった。
しかし、ククールとの戦いの中、ククールと隠れて話しながら悩むような素振りを見せていたこと、こうして実際に衝動的な殺害に走ったことなどから、疑惑は確信に変わっていた。

「アルス殿!仮にそうでも、エイト殿は思いとどまったのじゃ。私もそれを責めるつもりなどありませぬぞ!」

そんなブライの声をアルスは左手で制止する。

「…答えて。」

その眼は真剣そのものだった。
圧力に負けてか、多少の時間が流れた後にエイトは口を開いた。

「…はい。私は皆さんを殺そうとしていました。ミーティアやトロデ王への危害となる可能性を考え、排除しようと考えての行動です。」

「…っ!」

首筋に突きつけられた槍の冷たさをブライは再び思い出す。
もしあの時、自分が少しでも抵抗の意思を見せていたら、足元の死体のようになっていたのは自分だったのかもしれないと嫌でも思い知らされたのだ。

「もう殺すつもりはありません。今までのやりとりで信頼したつもりではいます。でも――――――」

「そう。今はどうあれ君は激情に任せて他人を殺すという道を選んだ。そして一度外れたトリガーはそう簡単に戻らないんだ。」

マナスティスを開発したゼッペルもその一例である。彼は目的だったラグラーズへの復讐を果たした後も力に溺れ、魔物へと化した。

「もしもミーティアって人が死んだ時、君は――――――」

その言葉を口にした途端、エイトの目が殺気を帯びる。
エイトが背中の剣に手が伸びかけたのをアルスもブライも見逃さなかった。

「――――――そういうことだよ。そして君は強い。あとは、わかるよね。」

「はい。私はここからは別行動することにします。」

「アルス殿!しかしそれはあまりにも――――――」

「酷なことを言っているのは分かってるよ。でも、これはブライさんの安全にも関わってくることなんだ。」

それを持ち出されてはブライの反論も弱くなる。
実際、エイトが危険人物であるとの認識はブライにも残っているのだ。

「…分かりました。どの道、私はトロデーンへ向かいます。」

「じゃあ、僕たちはひとまず南の洞窟に向かうよ。ミーティア姫と出会ったら必ず守ってトロデーンに連れていくから、そこは安心して。」

「し、しかし…」

「分かりました。これまでの御無礼、本当に申し訳ありませんでした。」

こうして、ブライにとってはどことなくやりきれない気分のまま、エイトのみがひとり別れることとなった。

843 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/25(日) 00:04:39 ID:.kj0PRTw0
投下します。

844集え、者たち ◆znvIEk8MsQ:2018/03/25(日) 00:05:19 ID:.kj0PRTw0
「デボラ」
たった一言、氷のように冷たく告げられた言葉。
ライアンはサフィールの顔色の変化を見逃さなかった。

幸いなことに残り少ない導かれし者たちがこれ以上減ることはなかった。
自分が半ば無理矢理逃がしたホイミンも、どこかで生きている。
バラモスゾンビも誰かの手により倒された。
だからといって喜ぶ気には全くなれなかった。


「サフィールどの………」
「大丈夫です。それより、その魔物を止められなかったのが残念です。」
ライアンが大丈夫か、と聞く前に、サフィールはあっさりと答えた。
それでライアンが安心したかというと、そうでもない。

こうして子供と行動を共にするのは、誘拐事件の帰り以来だ。
彼らは魔物に捕らえられている間も、一緒に帰っている間も帰りたい、おなかがすいたと感情を露わにしていた。
サフィールという少女は、彼らと似た年齢にも関わらず、感情を抑えすぎている。

(一番苦しい人は、『苦しい』って言えない人なのでござるな………。)

そして、苦しいとか悲しいとか、逆にうれしいとかの感情を出せなかった人が、どうなるか知っている。

「彼」は、エビルプリーストを倒すまではいかなる感情も表に出さなかった。
確かに旅は楽か辛いか聞かれれば、間違いなく後者の方である。
だが、自分を含めそれぞれに楽しいこともあった。


未知なる強敵と出会い生き生きとして拳を振るっていたアリーナ。
そのアリーナを回復したり、街で綺麗なドレスを買ってあげたクリフト。
その二人のやり取りを見て、やれやれと言いながらも微笑んでいたブライ。
天空の剣やはぐれメタルの剣を見て、興奮していたトルネコ。
たまに出向いたカジノで777を当てたマーニャ。
あまり知られていないが、綺麗な星などの美しい風景を見たミネア。
そして、子供達の笑顔を受け取っていた自分。


一人を除いて、楽しい時は心から笑っていた。
だが、勇者ユーリルは違っていた。
悲しい時も表情を変えることはなかったし、仲間と共に笑うような場面でも常に一目でわかる作り笑いだった。
その先がどうだったかはもう説明するまでもない。
喜怒哀楽どれでも、感情は抑えすぎると爆発し、止めどもないことになってしまうのだ。
はたまた死んだように生きることになったり、異常な方向に曲がってしまうかもしれない。

845集え、者たち ◆znvIEk8MsQ:2018/03/25(日) 00:06:01 ID:.kj0PRTw0

この少女を心から泣けるようにし、それを越えて笑えるようにするためにも、『みんな友達大作戦』を成功させねばならない。


しかし、他人の心配をしているどころではない。
三人の下に、強力な魔物が迫っていた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


時は少し遡る。
「りおう。ドウシタノダ?」
トンヌラやチャモロとの戦いを経て暫く進んだところで、ジンガーが発見したのはリオウの死体だった。
身体は黒焦げ、4本あった腕は1本が切り落とされオリハルコンの爪と共に平原に転がっている、

そこへ放送が流れる。
(反応ノ無イコト、放送内容カラシテ、生存シテイル可能性、0ぱーせんと)

問題はそれだけではない。
(あべる様ニ危機ガ及ンデイル可能性、80ぱーせんと。)
同行していたリオウが殺された、ということはアベルにも危機が迫っている可能性が高い。


向こうに人影がある。
奴らが、リオウとアベルについて知っているかもしれない。

一人は、見たことのある人間。
確か、リーザス村で見たアベル様の娘だ。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「「「!!」」」
三人は敵の存在に気付く。
放たれた二本の矢は、一本はライアンの振るった氷の刃に、もう一本はゴーレムの殴打で弾かれた。

「気を付けてください!!おとうさんが従えた機械の魔物です!!」
「なんと!!」
剣で矢を受けてみて分かったが、手の痺れからして、相当手ごわい魔物だ。
自分はまだ戦いの傷が癒えていない以上は、戦っても勝てる可能性は低い。
だが、自分はホイミンから教えてもらった。
自分のこの世界でやれることは、戦うこと以外にもある。

「あべる様ハ、ドコダ。」

「おとうさんは、私も知りません!!」
「危ない!!」

846集え、者たち ◆znvIEk8MsQ:2018/03/25(日) 00:06:21 ID:.kj0PRTw0
一早くサフィールが前に出る。
「ですから、私も一緒に探し………」
「知ラナイナラ、問題ナイ。見ツカルマデあべるサマノ敵ヲ、破壊スルノミ。」

サフィールが全部を言い終わる前に、剣と槌が襲い掛かる。
直撃すれば、少女の体は瞬く間に肉塊になる、が。


「ゴーレム!?」
その寸前にゴーレムの放ったパンチが、少女と武器の間の境界になった。
「くっ!!」
ライアンは悔しかった。
今の攻撃、ゴーレムが抵抗しなければサフィールは確実に死んでいた。
やはりホイミンの努力も空しく、半数が死んだこの世界で、参加者全員と友達になるのは無理なのか。


いや、違う。
ゴーレムの打撃は、サフィールを守るために放たれたのであり、キラーマジンガを攻撃するために放たれたのではない。
ゴーレムも、『みんな友達大作戦』に協力してくれているのだ。
勿論キラーマジンガの攻撃はゴーレムの腕に当たる。
腕からはレンガがボロボロ崩れ落ちるが、ゴーレムは反撃の意思を示さない。
その隙を突いてキラーマジンガは攻撃しようとするが、今度は氷の刃から飛ぶ氷塊が、それを遮る。

キラーマジンガはお返しにと矢をライアンに向けて撃つが、サフィールのヒャダルコに撃ち落とされる。
今度はサフィールに迫るも、ゴーレムがキラーマジンガを抱えて投げ飛ばし、サフィールと距離を離す。

誰かが攻撃されれば、誰かが守る。
サフィール達は攻撃する気はないが、キラーマジンガの方も決定打が与えられない。
戦いは完全な膠着状態になっていた。


どういうことだ。
奴らは抵抗を見せるが、攻撃を全くしてこない。
だからといって逃げるわけでもないし、逃げる気が失せたようにも思えない。
キラーマジンガにとって、過去の戦いにおいて全く経験したことのない戦いだった。
しかも自分が攻撃の姿勢を見せているのにも関わらず、協力を持ち掛けている。
どう戦えばよいのか。
自分のデータには、マスター別とは別の人物の言いなりになることなど、インプットされてなかった。

キラーマジンガの思考には機械ゆえの性格さと合理性は富んでいたが、柔軟性や未知の経験への対処には乏しかった。


しかし、戦いは膠着状態に見せかけて、実の所はキラーマジンガの方が優勢だった。
答えは単純明快。
キラーマジンガは機械の体を持つため、壊れるまで首尾一貫して同じペースで戦い続けられる。
反面ゴーレムはともかく、人間二人はそういう訳にはいかない。


「くそっ!!体が言うことを聞かん!!」
敵の攻撃を思うように弾けず、ダメージは増えていく。
「大丈夫ですか?ライアンさん!!」

847集え、者たち ◆znvIEk8MsQ:2018/03/25(日) 00:06:40 ID:.kj0PRTw0


サフィールはドメディのベホマズンと一時的な休息によってダメージは回復していたが体力が乏しく、
逆にライアンの方は体力こそ自信があったが、これまでの戦いで傷を負っていたため、万全ではなかった。


「ならば……マヌーサ!!」
サフィールはあえて攻撃呪文を使わず、敵の攻撃を少しでも無効化できればと呪文を使う。

「!?」
それが、不運であった。
いや、迂闊にイオナズンなど使っていれば大惨事になること間違いなしだったから、幸運というべきか。

すぐに敵にマホカンタがかかっていたことに気付く。

「しまった!!」
「サフィール殿!?ぐう!!」

異常に気付いたキラーマジンガがサフィールに向かってくる。
ライアンが行く手をふさごうとするが、斬撃に邪魔される。
ゴーレムも拳を伸ばして止めようとするが、キラーマジンガの打撃で砕かれてしまう。

「ライアンさん!!ゴーレムさん………!!」
サフィールは二人の心配をしようとするが、すぐにそれどころではないことに気付く。
ドラゴンの杖で剣を受け止める。
しかし、もう片方の槌はどうにもならない。



そのまま少女の体は、メガトンハンマーの餌食になろうとした、その時。

「うおおおおおおおおおあああああああ!!」
後から突然大きな声が聞こえたとともに、巨大な岩がキラーマジンガを下敷きにした。

「アッシは!!絶対!!誰も!!殺させねえでがす!!」
後ろを向くと、トゲ付きの帽子をかぶった人相の悪い男が立っていた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

848集え、者たち ◆znvIEk8MsQ:2018/03/25(日) 00:07:33 ID:.kj0PRTw0
これは放送が終わった直後のこと。
新しい知り合いを探して滝の洞窟へ向かっていたヤンガスは、憤っていた。そして悔しかった。


幼馴染のゲルダ。
かつてヤンガスは少年期にゲルダと共にポッタルランドを冒険したことがある。
彼女は単純な腕力こそ自分より低かったが、逃げ足だけは自分より遥かに優れていた。
だからたとえトロデやククールが死んだとしても、アイツだけはなんだかんだ生き延びると確信していた。
それが、こんなにあっさりと放送で呼ばれてしまうとは。


ヤンガスは自分も死ぬのではないかという恐怖よりも、怒りや悔しさの方が勝っていた。
その怒りを晴らすかのように、走った。
その姿はヤンガスの体型も相まって、まるで坂を転がる岩のような勢いだった。
その先に見えたのは魔物に襲われている戦士と、少女と、何故かゴーレム。
機械の魔物はキラーマシンに似ている魔物だが、違う種族らしい。

だが、そんなことはどうでもよかった。


(ドルマゲスの野郎にも逃げられたことだし、ここはいっちょ憂さ晴らしに魔物でも退治しに行きますか!!)


彼にとって魔物退治というのはストレス発散の一環であったからだ。

そして、武器を持っていない彼が今使うと言えば、スーパー・グランド・マスターの称号を持つ彼が使うあの技。
「うおおおおおおおおおあああああああ!!」
太い腕で巨大な岩を掘り出す。
そのまま、機械の魔物に向けて投げた。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「サフィール殿!!大丈夫か!?」
「はい……私は……。おじさん。ありがとうございます!!」
「間に合ってよかったでがす。」

今までのヤンガスの行動は、遅れてばかりだった。
そのせいでククールが、トロデが、ゲルダが命を失った。
助けた人たちが自分の知らない人でも、関係ない。

「サフィール殿、ここは一度逃げるべきでござるよ。」
「え?でも……。」
「一度体勢を整えるべき。あの魔物と戦うのも、説得するのも3人では難しいでござる。」


以前の自分なら、体力を気にせず倒れるまで突っ込んでいた。
しかし今の自分は、そういう訳にはいかないことを承知していた。
トラペッタで多くの犠牲が払われた中生きていたからこそ、命を大事にせねば。

バラモスゾンビとの戦いで、ライアンは命を繋げるためには逃げる選択肢も必要だと知った。

849集え、者たち ◆znvIEk8MsQ:2018/03/25(日) 00:08:03 ID:.kj0PRTw0


「それなら、アッシに任せるでげす。この辺りでアッシは以前山賊をやっていて……」

ヤンガスはトラペッタへ案内する。
もう一度岩石落としを食らわせようと思ったが、やり直しがきかないこの世界で深追いは禁物だ。
彼は元々滝の洞窟へ向かおうとしていたが、トラペッタへ再度方向を変える。

「よし!!ならばそこへ向かおう!!」
「山賊をやっていた」という言葉が妙に引っかかるが、悪い人ではないような気がする。
ライアン、サフィール両方が無言で理解していた。

「うむ。助かるでござる!!」
ライアンの場合は往復するだけの道になってしまうが、上手くいけばバラモスゾンビを倒したパーティーに会えるかもしれない。


サフィールはキラーマジンガと友達になれなかったことで不服そうだった。
そこをゴーレムが残った片腕でサフィールを抱え、肩に乗せる。
確かに、ヤンガスが出てこなければキラーマジンガを仲間にするどころか、逃げることも倒すことも不可能だったはずだ。
逃げることは正解だろう。

「大丈夫ですか?」
サフィールがゴーレムの心配をする。
もう片方の腕が、キラーマジンガの殴打で砕かれていた。
自分は回復呪文はできないし、薬草やホイミで回復することもできるかわからない。


ゴーレムの右腕に光が集まったと思いきや、瞬く間に失われたそれが元通りに戻った。
それは、とある世界では「メルキドの秘宝」と呼ばれた奥義。
ネプリムを、サフィールを、そしてライアンを守りながら戦う内に、「まもるチカラ」が培われていた。


(アリガトウ)
「!?」

サフィールには、そう聞こえたような気がした。
他の二人には聞こえなかったようだが。


「ありがとうございます。私はサフィールといって、仲間を集めて、この戦いを止めようとしています。」
「アッシはヤンガスといって、エイトって人を探しているんでげす!!」
「かたじけない。拙者はライアンという者。今は失った仲間に代わって、ジャンボという者を探して……」
「えっ!!ジャンボを探してるでげすか?」
ヤンガスは突然、『おっさん!!いつの間に!!」のポーズをとる。


「アッシ……ついさっきジャンボってカビ団子のおっさんと、ターニアって女の子と、キラーパンサーと……」
「え?それって、『ゲレゲレ』って名前じゃないですか?」
「ええ?それもお嬢ちゃんの知り合いでげすかぁ?」
ヤンガスは再び『おっさん!!いつの間に!!』のポーズをとる。

850集え、者たち ◆znvIEk8MsQ:2018/03/25(日) 00:08:28 ID:.kj0PRTw0


まさか、入れ違いが生じているとは。
「まあ、あの二人もトラペッタに行くつもりらしいし、街できっと会えるでげすよ。」
「そうなのだといいでござるが……。」
ヤンガスとしては、ヒューザと合流して気まずい思いをするかもしれないが、仕方のないことだ。

一方でサフィールは期待に胸を膨らませていた。
キラーマジンガを説得できなかったのは残念だが、ライアンに続いてヤンガスまで仲間になった。
しかもこれから、ジャンボという『みんな友達大作戦』の成功に大きく貢献しそうな仲間に会える可能性が高いのだ。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



彼女の不運は二つ。
一つ目は、その人物はトラペッタに着いていないこと。
二つ目は、その人物は彼女の思っているような人物ではないこと。



(オノレ。ヤツラメ。)
キラーマジンガは生き埋めになっていた所からようやく抜け出した。
すでに銃の暴発やゴーレムの殴打や氷の刃を立て続けに受けていた灼熱剣は折れてしまった。

それより気になるのは、奴らの戦い方。
戦略も初めて見たものだったし、そこから編み出される目的も分からない。
自分の主はアベルのみ。アベルがいないというなら、見つかるまで破壊を続けるのみだ。
機械兵は、再び動き始める。
主人を探し、その力になるため。


【F-4/平原 /夜】
【ライアン@DQ4】
[状態]:HP1/4全身の打ち身、顔に傷、兜半壊、腹部に打撲、鎧半壊
[装備]:こおりのやいば
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1)
[思考]:ジャンボを探す。ホイミンのみんな友達大作戦も手伝う。

【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP:5/6 MP 2/5
[装備]:ドラゴンの杖
[道具]:支給品一式×3、ショットガン、999999ゴールド
[思考]:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
おとうさんを見つけて止める
みんな友達大作戦を手伝う

851集え、者たち ◆znvIEk8MsQ:2018/03/25(日) 00:08:45 ID:.kj0PRTw0
【ネプリム(ゴーレム@DQ1】
[状態]:HP2/3
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ネプリムとサフィール、そして彼女らがくれたものを守る
サフィールと仲良しなライアンを信頼
[備考]サフィールやネプリムとの戦いによって、「まもりのチカラ」のスキルが上がりました。
以降も他のスキルが上がるかもしれません。

【ヤンガス@DQ8】
[状態]:健康 MP6/10
[装備]:スライムの冠(DQ8) ふつうのチーズ(DQ8) 激辛チーズ(DQ8)
[道具]:支給品一式 トーポ(DQ8) バニースーツ(DQ10) 堕天使のレイピア オーディーンボウ@DQ10 矢×9 不明支給品0〜2
[備考]格闘スキル100
[思考]:トラペッタに向かい、仲間たち(特にエイト)との合流を図る。
黒幕の情報を集める ジョーカーへピサロの伝言を伝える
第三回放送の頃に可能であればトロデーン城に戻る
※トーポは元の姿には戻れなくされています

【F-5/平原 /夜】
【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:HP1/3 
[装備]:折れた灼熱剣エンマ@DQS メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:アベルを探す、邪魔する者は破壊する
[備考]:サフィール達に疑問を抱いています。

852集え、者たち ◆znvIEk8MsQ:2018/03/25(日) 00:09:00 ID:.kj0PRTw0
投下終了です。

853ただ一匹の名無しだ:2018/03/26(月) 20:35:44 ID:b9YOhxEg0
投下乙です
ジンガーはなかなかキルスコア上げられんなあ(ハーゴンは実質彼の手柄とはいえ)
アベルも遠く行っちゃったしドンマイ

854 ◆OmtW54r7Tc:2018/04/08(日) 06:21:55 ID:K1djLQPE0
投下します

855繋がる情報 ◆OmtW54r7Tc:2018/04/08(日) 06:22:45 ID:K1djLQPE0
「へえ、おっさん、あのピサロの旦那の仲間だったでやんすか!?」
「仲間というかなんというか…まあ、エビルプリーストを倒すため、共闘したのは確かでござるよ」

ライアン、サフィール、ヤンガス、ゴーレムは、道すがら情報交換をすることにした。
そしてそこで、ヤンガスはライアンという戦士がピサロの知り合いであることを知る。

「ピサロ殿からは拙者のことは聞いてなかったでござるか?」
「はあ、それがあの人、自分のことはあんま話してくれなかったでやんすよ。勇者一行がどうたらって話はしてやしたが」
「そうでござるか…、まあ、あ奴らしいではござるな」

ヤンガスの話を聞いて、ライアンは苦笑した。
ピサロは一応ともに旅をした仲ではあるが、あくまでエビルプリーストを倒すために共闘をしたに過ぎない。
旅を通じてそれなりに歩み寄れたようには思うが…それでも元々の関係もあり、完全に心を許せる相手ではない。
とはいえ、この場のピサロはヤンガスの話を聞く限り今回も協力しあうことができそうで、その点については安堵した。

「みなさん、前から誰か来ます」

そうしてしばらく歩いていると、サフィールが前方から誰かやってくるのに気が付いた。
一同は警戒しつつ前方に注意を向けるが…

「…む、あれは」

しかしすぐさま、その緊張は解けることとなった。
近づいてくる人物は…よく知る者であったから。

「無事で何よりでござるよ、ブライ殿」
「こちらこそなによりじゃ、ライアン殿」

ブライとライアン。
導かれしものの二人は、再会した。

856繋がる情報 ◆OmtW54r7Tc:2018/04/08(日) 06:23:41 ID:K1djLQPE0
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

「そっちの人は…ヤンガスだね。エイトの仲間の」
「あんた…メルビンの旦那から聞いてるでやんすよ。アルス…だったか」

アルスとヤンガスは、お互いのことを知っていた。
アルスはエイトから、ヤンガスはメルビンから聞いていたのだ。

「私もアルスさんのことは聞いています。その…マリベルさんから」
「!…そっちはマリベルと会ったんだ」
「アルス殿。ここはお互いの情報を詳しく整理した方がよさそうじゃぞ」

ブライの言葉に、アルスは頷いた。
今話を聞いただけでも、メルビンやマリベルの名前が出てきた。
そして自分たちもまた、ヤンガスの仲間であるエイトの情報を持っている。
他にもつつけばかなりいろいろと情報が出てきそうだ。

「うーん、それじゃあ、まずは自己紹介して…それから、紙に『元からの知り合い』と『この場で出会った人』をまとめようか」

アルスの言葉に従い、一同はまずお互いの名前を名乗り(ゴーレムはサフィールが紹介した)、それからゴーレム以外は紙を取り出し情報を書き連ねた。
そして、書き終えると見せ合う。

「!デボラ…お母さんに会ったんですか」
「ブライ殿は、クリフト殿とも再会していたでござるか」
「ああ、わしの目の前で死んでしまった…ほう、ピサロ殿と出会ったものもいるのか」
「あっしでやんす…そっちは兄貴だけじゃなくククールとも出会ってたでやんすか…」
「ライアンさん…ガボと出会ってたんだ」

結果、お互いに思った以上に知り合いの情報について知ることとなった。
これらの情報をさらに詳しく共有するべく、続けて今度は一人ずつ説明をすることとなった。

857繋がる情報 ◆OmtW54r7Tc:2018/04/08(日) 06:24:23 ID:K1djLQPE0
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

「じゃあまずは僕とブライさんから」
「わしらはほとんど一緒におったから、別々に説明する必要はないじゃろうからの」

二人は説明した。
お互いにクリフトとエイトと出会い、4人で合流したこと。
続けて合流したククールとの闘い。
放送直前に一人移動したエイトを追いかけてデボラと出会い、彼女を殺そうとしていたエイトを説得したこと。
直後のバラモスゾンビとの戦闘。
デボラの死と、エイトとの別れ。

「まあ、こんなところかな」
「お母さん…」
「ごめんね、君のお母さん…デボラさんが死んだのは、僕のせいだ」
「…いえ、そんなことは」
「あの人は、最後まで強い人だったよ」
「ええ…私の自慢の、お母さんですから」

そういうサフィールの表情は、泣きそうな顔をしながらも笑っていた。
母の死は悲しかったが、それでも、あの人は父とは違い変わってしまうことなく最後まで自分を貫いたのだ。
そのことが、とても嬉しかった。

「ククールだけじゃなく、兄貴まで…くそっ!」
「一応今は思いとどまってくれておるが、それでも不安はある。お主には、すぐにでも合流してほしいところじゃ」
「ああ…そうでげすな」

ブライの言葉に、ヤンガスは同意する。
とはいえ、出発するのはこの情報交換が終わってからだ。
アルスにはメルビンのことを伝えないといけないし、ライアンからはゲルダのことも聞きたい。



「次はあっしが説明するでやんす」

858繋がる情報 ◆OmtW54r7Tc:2018/04/08(日) 06:25:33 ID:K1djLQPE0
ヤンガスは説明する。
城で、メルビンとピサロ、そしてしばらくしてヒューザとも出会ったこと。
メルビンとヒューザとは別れ、城の図書館で調べ物をしていたこと。
放送後、気絶少女との出会いがありつつも仲間探しに一人で出かけ、死んだククールとメルビン、瀕死のヒューザを発見し、ヒューザからことの顛末を聞かされたこと。
ヒューザと別れた後遺体を埋葬し、それからジャンボ、ターニア、ゲレゲレと出会ったこと。
放送後、ジンガーと戦うライアンたちの助太刀に入り、彼らと行動を共にして今に至ること。

「以上でやんす…アルス、うちの仲間がすまねえことをしたでやんす」
「…多分、その戦いがあったのは僕たちの戦闘からすぐ後だったんだろうね」

話を聞いたアルスの表情は、暗い。
あの時ククールを取り逃していなければ、メルビンは死ぬことはなかったのだ。
勿論あの時は逃走するククールを追いかける余裕などなかったわけだし、今更たらればの話をしても仕方ないとはいえ、それでも考えてしまう。



「次は私が話します」

859繋がる情報 ◆OmtW54r7Tc:2018/04/08(日) 06:26:11 ID:K1djLQPE0
続いて説明をするのはサフィールの番だ。
殺し合いが始まってすぐにマリベルと出会い、彼女に流されることにしたこと。
スクルドとの出会い。
アイラの遺体の発見と、呪いの仮面に操られたハーゴンとの闘い。
ハーゴンの呪いは解けたが、結局戦闘になってしまったこと。
途中で奇襲してきたアルフとジンガー。
自分を逃がしてくれたマリベル。
チャモロとの出会い。
父と父の連れた魔物、リオウとの闘い。
ゴーレムとの出会いと共闘。
ライアンとの出会いとジンガーとの戦闘。

「…そして、その戦闘中にヤンガスさんが現れてその場を逃走し、今に至ります」
「アイラ…マリベル」

アルスは、仲間の名前をつぶやいた。
出会った時には死んでいたから、先ほどの紙にはアイラのことは書かなかったらしい。
彼女とマリベルは…共にリーザス村で眠っている。

「アルス殿…」
「…ブライさん、この情報交換が終わったら、予定を変えてリーザス村の方に行くよ。彼女たちを…弔いたい」
「そうじゃな、それがいいじゃろうて」
「まさか、死んだ仲間の情報が一気に出そろうなんてな…」

アルスは複雑そうにつぶやく。
こうして仲間の情報は偶然にも一気に入ってきたが…全員死んでいる。
その一方で生きているキーファやフォズに関する情報がないのがもどかしかった。

「一つ気になることがあるのだが」

そんな中、ライアンがサフィールに質問をした。

「話の最初の方に出てきたスクルドという女性…彼女はもしや」
「はい、おそらくあの人は殺し合いに乗っている……そうでなくとも、油断のできない相手だと思います」

彼女は、嘘をついていた。
リーザス村には特に誰もいなかった、と言っていたにも関わらず、実際にはアイラの遺体と操られたハーゴンがいた。
まあ、軽く探したと言っていたから、本当に気づかなかったか、あるいは彼女が街を探索していた時には本当に誰もいなかった、という線もなくはないが…
マリベルも怪しんでいたように、嘘をついていた、と考えた方がいいだろう。



「最後は拙者でござるな」

860繋がる情報 ◆OmtW54r7Tc:2018/04/08(日) 06:27:37 ID:K1djLQPE0
最後に、ライアンが説明をする。
殺し合いが始まってすぐのドラゴンと天使と出会い、その後しばらく気絶したこと。
目を覚ました時、巨大なギガデーモンとの闘いが勃発しており、前述のドラゴンや天使、それとホイミン、ガボ、サンディ、ゲルダ、ナブレットを合わせた総勢8人で力を合わせて戦ったこと。
放送後、バラモスゾンビの襲撃にあい分断され、ナブレットの犠牲で辛くも街を脱出したこと。

「その後、サフィール殿とこちらのゴーレムと出会い…そこからは他の者たちの話通りでござる」
「てえことは、おっさんはゲルダがどうやって死んだのかは知らねえってことか?」
「うむ、かたじけない…彼女は分断されてガボ殿やサンディ殿と一緒にいたようなのだが…全滅してしまったようでござる」
「もう一人の敵については、心当たりがある」

ライアンの話に、アルスが割り込んできた。

「僕たちが来た時にはもう終わってたから、詳しく話さなかったんだけど…エイトから聞かされた話があるんだよ」

エイトは、アルスたちが追いつく前、とある二人組と戦い、殺したのだという。
おそらく、バラモスゾンビ以外のもう一つの襲撃者は、そいつらだ。

「デボラ殿の話によれば、その二人はカンダタという男と、ゲマという魔族で…ゲマという者は、デボラ殿の姿に化けておったらしい」
「ゲマ…!」

話を聞いて、珍しくサフィールが怒りの表情を見せていた。
ゲマ。
自分たち家族にとって…特に父にとっては、因縁の相手。
父が狂気に堕ちた原因のほとんどは、このゲマの仕業といっていい。
そんな彼は、ここで母の姿を騙っていたのだという。
悪い意味で…母と同様彼も変わっていなかった。



「ああ、そういえばサフィールの嬢ちゃんとアルス、あんたらに聞いときたいんだが」

一通りの情報交換を終えた後、話を切り出したのはヤンガスだった。

861繋がる情報 ◆OmtW54r7Tc:2018/04/08(日) 06:28:55 ID:K1djLQPE0
「これは城を出る前にピサロの旦那から頼まれたことなんだが…」

ヤンガスは、ピサロの考察について一同に説明した。
この殺し合いにエビルプリースト以外の黒幕がいるかもしれないということについて。

「ふむ、そう言われてみればマーニャ殿とミネア殿がいないのは確かに妙でござるな」
「そういうわけでよ、ピサロの旦那の知り合いの旦那とじいさんはともかく、二人にはそういう奴に心当たりがいないか確認しときたいでやんすよ」
「心当たりは…あります」
「僕もある…かな」

二人は一同にそれぞれの心当たりを簡単に説明した。
サフィールはミルドラースを、アルスはオルゴ・デミーラについて。

「ミルドラースにオルゴ・デミーラ…また大仰な名前でやんすな」
「ミルドラースについては、ゲマが参加させられていますし、可能性は低いんじゃないかと思います」
「いや、そうとは限らんでござる。ピサロ配下の幹部の魔物達…彼らがおそらくエビルプリーストの手先として殺し合いにいる以上、ゲマという魔族もその一味ではないと言い切れないでござるよ」
「オルゴ・デミーラは…結構可能性は高いかも。あいつやあいつの仲間、結構悪趣味なことしてきたし、それにあいつ、一回倒したと思ったら生きてたし」

ともかく、情報は手に入った。
ミルドラースにオルゴ・デミーラ…これらの情報の検討については、ピサロに任せようということで、話は打ち切りとなった。

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

「それじゃあ、あっしは城に向かうでやんすよ」

話を終えると、ヤンガスは城へ行くと言う。
一刻も早くエイトと合流したいし、ピサロとの約束もある。

「ピサロといえば…エイト、ピサロの話を聞いたとき少し怖い顔してた気がする。なおさら急いだ方がいいかも」
「分かったでやんす!それじゃあこれで失礼するでやんす!」

アルスの話を聞くと、ヤンガスは城に向けてダッシュしていった。

「ブライ殿、そなたはサフィール殿とゴーレムと共にトラペッタへ向かって欲しいのでござる」
「はて?…わしはアルス殿とリーザス村を目指す気でいたんじゃが」
「そちらには拙者がいくでござるよ」
「どういうこと、ライアンさん?」

ライアンの提案にブライもアルスも疑問符を浮かべる。
そんな二人に対し、サフィールはライアンの意図に気づいたらしく、説明に加わる。

「さっき話したお父さんが引き連れてた機械の魔物…あの魔物は、マホカンタを使ってくるみたいなんです」
「サフィール殿やブライ殿にとっては天敵の魔物…そいつがまだ南に潜伏している可能性があるのでござるよ」
「むう、そういうことなら仕方がないの」

二人の説明に、ブライは納得するしかなかった。
自身も使えるマホカンタの脅威については、よく知っている。

「名残惜しいが…アルス殿、しばらくお別れじゃの」
「お世話になったよ、ブライさん。僕…頑張るから」

こうして、ブライ、サフィール、ゴーレムはトラペッタへ。
アルスとライアンはリーザス村を目指してそれぞれ歩き出した。
いつかまた、再会できると信じて。

862繋がる情報 ◆OmtW54r7Tc:2018/04/08(日) 06:29:37 ID:K1djLQPE0
【F-4/平原/夜】

【ヤンガス@DQ8】
[状態]:健康 MP6/10
[装備]:スライムの冠(DQ8) ふつうのチーズ(DQ8) 激辛チーズ(DQ8)
[道具]:支給品一式 トーポ(DQ8) バニースーツ(DQ10) 堕天使のレイピア オーディーンボウ@DQ10 矢×9 不明支給品0〜2
[備考]格闘スキル100
[思考]:城へ戻り、エイトと合流する
黒幕の情報を集める ジョーカーへピサロの伝言を伝える
※トーポは元の姿には戻れなくされています

【アルス@DQ7】
[状態]:HP3/5 MP微消費
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 まどろみの剣 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜2) ゲルダの不明支給品0〜1個 道具0〜2個(本人確認済み)
[思考]:この戦いを終わらせる。ミーティア、キーファ、フォズを探す。リーザス村でアイラとマリベルを弔う
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。

【ライアン@DQ4】
[状態]:HP1/4全身の打ち身、顔に傷、兜半壊、腹部に打撲、鎧半壊
[装備]:こおりのやいば
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1)
[思考]:ジャンボを探す。ホイミンのみんな友達大作戦も手伝う。

【ブライ@DQ4】
[状態]:健康 MP2/5
[装備]:魔封じの杖
[道具]:支給品一式 へんげの杖  道具0〜2個
[思考]:生きる。生きてアリーナとクリフトのことを知ってもらう。

【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP:5/6 MP 2/5
[装備]:ドラゴンの杖
[道具]:支給品一式×3、ショットガン、999999ゴールド
[思考]:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
おとうさんを見つけて止める
みんな友達大作戦を手伝う

【ネプリム(ゴーレム)@DQ1】
[状態]:HP2/3
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ネプリムとサフィール、そして彼女らがくれたものを守る
[備考]サフィールやネプリムとの戦いによって、「まもりのチカラ」のスキルが上がりました。
以降も他のスキルが上がるかもしれません。

863 ◆OmtW54r7Tc:2018/04/08(日) 06:30:12 ID:K1djLQPE0
投下終了です

864 ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:03:59 ID:iWDSU1Ps0
投下します。

865Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:05:08 ID:iWDSU1Ps0
夢を見た。

一つ目は、自分の弟子と初めて協力して、人間を守った時の夢。
その時の弟子の満ち足りた顔。
二つ目は、ガナン帝国に近づくために、弟子を裏切った振りをした時の夢。
その時の弟子の絶望した顔
三つ目は、自分がガナサダイの攻撃をその身に受け、死した時の夢。
その時の弟子の、その時以上に絶望した顔


ああ、そうだ。
自分は弟子に絶望しか与えなかったのだ。
ガナン帝国に囚われた師、エルギオスを救うことを優先した結果が、これだ。


だからこそ、自分はあの時願をかけた。
「これ以上大切な人を悲しませたくない」と。
そんなことを願うのは人間だけ。
天使は任務を遂行するのみ。
アークに会う前の自分なら、そう思っていた。


「マスター!!」
声が聞こえる。
自分の大切な人が自分を呼ぶ呼び方ではない。
以前に自分をそういう呼び方をする者はいなかったはずだ。

「マスター!!」

そうだ。私はあの人間だった魔物と戦って、そして攻撃を受けて……。


「気が付いたか?」
深紅の鎧を付けた小人が、顔を覗き込む。
「マスター!!無事で何よりだ!!」
「ううっ!!」

意識とともに、痛みも戻ってくる。

「すまないな。手当はまだ済んでおらん。」
モリーがそう言いながらベホイミをかけ続けるが、あまり効果がないようだ。
「構わん。ところで、ここはどこだ?」

イザヤールは辺りを見回した。
それは狭いが大人二人プラスαなら入れるくらいの穴だった。
こんなものは以前あったか。


そこへ、ズシンという足音と、岩が崩れる音。
穴の外から聞こえてくる。
先程進化の秘石を使ったバルザック、と考えるのが妥当だろう。

866Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:05:32 ID:iWDSU1Ps0


「危ねえところだったぜ。
あのバケモンが拳で地面に開けた大穴に入るっていう、モリーの起点がなけりゃ、お陀仏だったはずだ。」
「すまなかった。」
ザンクローネの発言に、イザヤールは感謝と謝罪を告げる。
「わしは構わん。だが、この後どうする?」

戦略に長けているモリーだからこそ、あの状況を打破できるとっさの判断ができたのだろう。
しかし、この先にどうすればいいのかモリーも分からないようだ。


上ではなおもバルザックが我々を探して暴れている。
戦力差はなおも明らか。
逃げるのも難しいし、そんなのは守護天使の意思に反している。
だからといって、ここにいつまでもいても崩落か襲撃で命を落とすのは明白だ。

『諸君、ご機嫌如何かな?』
そこへエビルプリーストの放送が入る。

(くそっ!!マドモアゼルまでもが……。)
(パパス!?何があったんだ!?くそったれ……。)


モリーとザンクローネの二人が動揺している中、イザヤールは静かだった。
そして、いきなり穴の中から飛び出す。


「こんなところにいたのか。」
バルザックは獲物を見失って暴れていたが、標的を見つけるとすぐに腕を振りかざし、イザヤールを握り潰そうとする。

「させるか!!」
「何!?」
バルザックの掌がイザヤールを握り潰す直前、イザヤールは剣を縦に回転させ、魔物の指を斬りおとした。

「ぐああ!!」

窮鼠猫を噛む。
それを体現したかのような思わぬ反撃に、バルザックは雄たけびを上げる。

「キサマアアアアアア!!」
死にぞこないの予想外の攻撃に、バルザックは吠え、大きく息を吸い込む。
そして、絶対零度の吹雪を浴びせた。

「効かん!!」
しかしイザヤールはそれを突っ切り、バルザックの腹を殴り飛ばす。
「ぐはっ!!」
その殴打は極めて強いもので、バルザックの巨体を動かした。
反動で拳と腕からは出血しているが、そんなものに構ってはいられない。

867Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:05:51 ID:iWDSU1Ps0

「マスター!?」
「イザヤール!!」


彼の変貌ぶりに、驚いた二人も穴から出てくる。


彼は、決意を固めた。
愛弟子の死を告げられた時から。
戦う。
そして、勝つ。
勝って、パパスの近くにいるはずのアンルシア達を助けに行く。

師、エルギオスは一度目の放送で命を失い、そして愛弟子も同じ道をたどった。
他の者は役目を終え、天に還って行った。
これで自分達の世界にいた守護天使だった者は、自分一人になってしまった。
いくら元の世界の人々が守護天使の存在を忘れてしまったからと言って、それでいいのか。

否。良いはずがない。
それで、アークが喜ぶはずがない。
翼と頭上の輪は失っても、記憶は心に根強く留まっている。
守護天使としての記憶。エルギオスの弟子として人々を救った記憶。アークの師として人々を救った記憶。

自分は最後の守護天使として、人々を守り続け、生き続けるだけだ。


(ん!?)
突然イザヤールは自身の異変を感じた。
まるで天使の羽を取り戻したかのように軽くなる体。
斬夜の太刀がまるで棒切れでも持っているかのように軽くなる感触。
そして止め処もなく湧き上がる力。

これは、まさか。

それは必殺技、と呼ばれているもの
守護天使の時には出来なかったが、人間になった自分の新たな可能性だ。

(ありがたい!!使わせてもらうぞ!!人間のチカラを!!)

呼吸を整え、力と血液の全てを右腕と、その先にある大剣に注ぐ。

「会     心    必     中     ‼」


「ぐぬああああああああああああ!!!」
持ちうるすべての力がバルザックの腹に突き刺さり、青紫色の血が噴水のように出る。
しかし、それを受けてもまだ生きているのは、進化の秘宝の賜物か。

「行くぞ!!ヒーロー!!マスターに後れを取るな!!」
モリーとザンクローネも攻撃に加わる。

「すまん!!頭を借りるぞ!!」
「何!?」

モリーが走りこんできたところ、イザヤールがその頭を踏み台にジャンプする。
そして、まだ壊れていなく、高さがある岩に飛び移る。

バルザックはそれに気づき、モリーとザンクローネを無視して、イザヤールが乗った岩ごと叩き潰そうとする。

868Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:06:10 ID:iWDSU1Ps0

それをチャンスに、イザヤールは剣を上に向け、大きくジャンプした。
狙いは、勿論バルザックの心臓。

いくら進化しようと、心臓を貫かれて生きているはずがない。
バルザックの殴打を躱し、攻撃に移ったイザヤールは、勝利を確信した。
氷のブレスはこの状態からでは突っ切ることができる。
バルザックは足が短いため、蹴られて撃ち落されることもない。
呪文は詠唱が間に合わない。
イザヤールの決意とともに放った一撃。
それは、イザヤールの予想通り、決定打につながった。




「イザヤールへの」決定打、だが。

(バカめが。)

「跳んだ!?」
この展開は、イザヤールも予想できなかった。
信じられない。
このタイミングで、あの巨体で、あれだけ高く跳ぶなど。
キングスライムのように、巨体ながらも飛び掛かりを武器にする魔物はいるが、それらも助走や踏ん張りを使わないと出来ない。
余程被害妄想の強い人間ならいざ知らず、常にリアリストを貫いてきたイザヤールには予想できなかった。


そのまま、イザヤールはその巨体に踏みつぶされる。
聞こえたのは、自分の肉がひしゃげ、骨が砕け、内臓が潰れる音だった。
(無念……。)
イザヤールが声を出すことができたら、こう言っていたであろう。

「そんな!?」
「マスター!?マスター!!」

しかし、二人はすぐにイザヤールの心配をするどころではないことを気づかされた。


あれほどの巨体が跳び上がれば、当然地面に反応が来る。
「モリー!!気をつけろ!!とんでもねえ地響きが来るぞ!!」


ザンクローネの言った通り、凄まじい衝撃波が迫ってくる。

869Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:06:44 ID:iWDSU1Ps0
「ぬおおおおおおおおお!!!」
モリーは物凄いダッシュでそれから逃げる。
ザンクローネは離すものかと必死にそのマフラーにしがみつく。


しかし、砂煙や礫岩などによって可視化されて迫りくる衝撃波には、いくらモリーといえども逃げ切れるはずはない。

「アストロン!!」
向こうに青い髪の青年が見えたな、と思った瞬間、その男が知らない呪文を唱えた。
その魔法について疑問を残す暇は、二人にはなかった。
なぜなら、すぐに青年もろとも鉄の塊になったから。


「ぷはっ!!間に合ってよかった。」
鉄化状態から解放され、体にこびりついた岩の欠片や埃を振るう。

「キミがレックボーイか。危ないところをありがとう。」
「俺のこと、知っているんですか?」
「ああ。アンルシアからキミのことは聞いていてな。」
「色々聞きてえことと言いてえこと、沢山あるが今はそれどころじゃねえぞ。」


モリーのマフラーにしがみ付いている小人(?)の言う通り、バルザックが迫ってきていた。


「バギクロス!!」
レックがすぐさま竜巻の呪文を唱える。

それじゃ倒すのは難しいぞ、と二人は思うが、レックの目的は直接攻撃することではなかった。
「ぬう!?」

竜巻によって巻き上げられた小石や岩の欠片、砂ぼこりがバルザックの視界を奪う。

両目を抑えながらも、バルザックは突進してきた。
「危なっ!!なんだよアイツ!!」

攻撃のベクトルは極めて単純だったため、3人はどうにか躱す。
そのまま大きな岩にぶつかることはなく、それも砕いてしまった。

レックが予想していた通りだったが、戦うことしか頭にないようだ。
少なくとも竜王のように話を聞くスキルは持っていないだろう。


「恐らくエビ……エビ……ヤツが遣わした魔物だ。」
「ヘンな石を食ったと思ったら、突然強くなっちまったんだよ。」

870Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:07:00 ID:iWDSU1Ps0

「急激に変貌したタイプの魔物か……」
しかもムドーやジャミラスのような黒幕側近の魔物なら、止めることは不可能だろう。
じゃあ逃げるか?
ダメだ。放っておけば魔物がキーファ達や、ともすればターニアに危機を及ぼしかねない。

今度は方向を切り替え、氷の呪文を唱え始める。
「今度は何だ?」
レックは前もって、マジックバリアで対処しようとする。
その魔力の高まりから、ただの呪文ではないことがわかる。
「ヤバい、マヒャド以上だよこれ!!何かで迎撃しないと!!」


「氷河の牢獄よ、奴等を凍結地獄へ繋げ。マヒャデドス!!」
それは、バルザックの世界にはなかったはずの呪文。
これが使えるようになったのも、進化の秘石の影響か。
一つ一つがその辺りの岩くらいの大きさの氷塊が、矢継ぎ早に三人に襲い掛かる。

「ベギラゴン!!」
「モリーバーニング!!」
「ビッグバン!!」

マジックバリアに頼り過ぎるわけにもいかず、それぞれの炎属性の技で対抗する。

多くの氷の中で、三人に当たりそうなものだけ融解していく。
完全に無効化までとはいかなかったが、残った分はマジックバリアでさらに弱められた。

「うむ。わしらでもどうにか通用するぞ!!」
「三人がかりでやっとだけどな。」
「確かに。このままじゃ魔力が持たないよ。」


辛くもマヒャデドスをしのいだ三人は、バルザックの別の異変に気付く。

「あいつ……なんで指が戻ってやがる?」

バルザックが呪文の詠唱の際に片手を大きく前に出した。
それはイザヤールの斬撃で斬り落とされたはずなのに、何事もなかったかのようになっている。

「それだけでないぞ。腹の傷を見ろ。もう血が止まっている。」
イザヤールの攻撃を食らったのはついさっきのはずなのに、明らかに止血のスピードが速い。

「自動回復持ちか。太鼓腹とか垂らしている舌とか、トロルボンバーに似てるけどそこまで似なくてもいいのに。」


「あれでリホイミ状態かよ。さすがの俺でも気が滅入るぜ。」
「自動回復とは……わしが仲間にしたベホマスライムより厄介ということか!!」

871Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:07:26 ID:iWDSU1Ps0

「じゃあ、一撃で倒す必要があるな。俺がそれを引き受ける。二人とも時間稼ぎを頼む。」
「おい!!」
「ヒーローよ。焦る気持ちはわかるが、ここはレックボーイの考えに乗ってやろうではないか。」


ザンクローネは英雄はオレだぞと不服そうな顔をしつつも、モリーの言う通りにする。

あのタイミングでとっさにやり過ごすための魔法を唱える判断力。
地面がえぐれているのを見計らって、竜巻の魔法を使って目隠しの材料にするという発想力。
そして、最高レベルの魔法を簡単に操れるほどの戦闘経験。


悔しい話だが、自分よりもレックの方が強い勇者である。


ならば、全力でレックのサポートをする。
オマエが勇者なら、オレは違った方向の勇者として。


「行くぜ!!後れを取るな!!」
「ヒーロー!!深追いしすぎるなよ!!」

二人はバルザックに向かっていくかと思いきや、直前で二手に分かれ、バルザックの周りを走り回る。
一方でレックはバルザックとは逆方向に走っていく。


そこへバルザックが蜘蛛の子を散らすように片手を払う。
最初に狙われたのはモリーだった。
しかし、素早い身のこなしでそれを確実によけていく。


ターゲットを思うように狙えないためバルザックは、今度は狙いをザンクローネに定める。

「へっ。デカいくせに、やってることは小せえ魔物だな。」
ザンクローネは戦いの影響で荒野にできた出っ張りや穴ぼこをフルに活用し、それを凌いでいく。

片方はスピードに優れ、片方は攻撃を当てるのが難しいサイズである。
しかも今度は二人は敵の攻撃をかわすことに力の全てを使っているので、一層難しい。

872Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:08:29 ID:iWDSU1Ps0

一方でレックは、バルザックからの集中を逸らすために、ある程度距離を離した。
そこに、血だまりの中でぼろきれのようになっている男がいたのを見つけた。

(ア、アーク?これは……まぼろしなのか?)
体が動かないだけではなく、出血量が多すぎて視界すらまともに開けない。
両足は折れ、下敷きになることを唯一避けた片手だけがまともな状態だ。
生きているのがむしろ不思議なくらいだし、いつ死んでもおかしくないだろう。
言葉を話そうとすると、口から文字とともに血が吐かれる。折れた肋骨の一部が、肺に刺さっているのだろう。
イザヤールは、誰かの気配がする方向を見る。
かつて自分はガナサダイの攻撃で負傷した際、駆け付けたアークを幻だと思った。
あの時のアークは本物だったが、今度の状況では、間違いなく幻だろう。


「大丈夫ですか!?」
レックは人間とすら思えない有様になっているそれに、回復呪文をかけていく。
モリーとザンクローネが時間を稼いでいるので、こんなことに時間をかけるわけにはいかない。
それに、もうこの男は回復呪文が制限されたベホマ程度で、助からないだろう。


そんなことはわかっている。
自分は、「勇者だから」「これから敵を倒さなきゃいけないから」という理由で、誰かを犠牲にしたくない。
それが自分の義妹でも、最愛の人でも、知らない男でも同じことだ。
すでに半分の命が息絶え、中には好きだった人も、頼れる友もその中に入ってしまった状況では猶更だ。


自分の手から出る光が弱まっていたのを気づく。
竜王から貰った回復薬を3分の1ほど飲む。
再びイザヤールに呪文をかけ続ける。

(笑っちゃうよ。こんなの。)
レックは自嘲の笑みを浮かべる。
これはバルザックを倒した後、竜王と再び戦う際に渡されたモノなのに。
そもそも襲われているのが見ず知らずの三人だと分かった以上、見捨ててターニアを探せばいいのに。
誰もこんなところで使うことを望んでいないだろう。



何度目かベホマを唱えようとしたところ、イザヤールがぱん、と自分の手を叩いた。

「そのチカラは……君の大切な……人を助けるのにとっておけ………。」
レックの魔法も空しく、イザヤールは呼吸も血の気も、眼の光も弱まっていく。
「そんなのお断りだ!!俺は呪文を使いたいときに使う!!」
誰かを犠牲にして勝つのは、デスタムーアとの戦いで十分だ。

最早ベホマなどではどうにもならない。
意地で人を治せるなら、神父も世界樹の葉は不要だ。

「私は……もう助からない。あの二人を……助けに行け。」
「……だめだ!!そんなに死にそうなのに、見捨てられないよ!!」
「ならば、名を覚えていてくれないか……天使……イザヤール……と、我が弟子…アーク…のこと……。」
「分かった。」
「感謝……する……。」

873Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:08:51 ID:iWDSU1Ps0
「……。」

それっきり、イザヤールは動かなくなった。
バルザックに気付かれるか否かの距離まで行き、一番背の高い岩の上に飛ぶ。
自分が頼んだ通りのことを二人はやっているようだ。




「くそっ!!イザヤールも、レックもいないんじゃ、オレ達の負担がデケエぞ!!」
「レックボーイ!!早く頼む!!」

二人はなおもバルザックの攻撃をかわし続けている。
だが、それは時間に限りがあった。
攻める側は好きなペースで攻めればいいが、守る側は体力が切れればそれで終わりだ。
そして、進化の秘宝の力を得た怪物と体力比べをしていたら、いずれ限界は見える。

何度目か躱した末に、バルザックの殴打がモリーのすぐ横を捉えた。
激しい運動によって体は火照っているはずなのに、体が急に冷えた。

「トドメだ。」
バルザックが再びマヒャデドスの詠唱に入る。
「何!?」
背中に何かの感触を感じる。
レックが一直線に鋼の剣を、バルザックの背骨に当たる部分に投げつけたのだ。

「天の雷よ、我に力を、ギガデイン!!」
雷の呪文は、鋼の剣を避雷針にし、バルザックの体に流れ込む。
「グギャアアアアアアア!!!」
遠くにいても耳をつんざくほどの雄たけびが聞こえる。


「よし!!いいぞ!!効いている!!」
苦しみ始めたバルザックを見てモリーは歓喜する。


(効いている!?まずいな、そりゃ。)
逆の方向にいたザンクローネの表情は暗かった。
(アイツ、あれで「トドメを刺す」つもりだったんじゃねえのか?)



ザンクローネの予想は当たっていた。
脊髄に剣を刺されて、そこから勇者の雷を全身に流されて戦えるなど、余程のバケモノじゃない限りあり得ない。

(流石に信じられないよ。)
しかもバルザックは体のあちこちから煙を出し、悶絶しながらレックに向かって迫ってきた。
「まずい!!」
もう一度ギガデインを……と思ったが、その時間は与えてくれなさそうだ。

レックは岩の上から飛び降りる。
すんでのところでバルザックの殴打がその足場を崩壊させた。
敵はレックを狙ってきている。
今度はギガデインを打てそうにない。
剣もバルザックの背中に突き刺さったまま。

874Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:09:07 ID:iWDSU1Ps0


状況はレックが思った以上に悪いことになっている。
一度目の攻撃は足場を犠牲にすることで避けられた。
しかし、2打目のテールスイングは直撃を食らってしまった。

2,3度バウンドして、岩に叩きつけられる……ところをイザヤールの死体がクッションになり助かる。

(助けようとした人を助けられなくて、逆にその人に助けられるとはね。)

レックはイザヤールから斬夜の太刀をもらい受け、疾風の速さで戦線に復帰する。

当然のことながらバルザックが片手でレックを叩き潰そうとする。
しかし、それを大剣で受け流す。
残夜の太刀は、鋼の剣に比べて重い反面、幅広の剣であるため、防御にも役に立った。
しかし、この間にバルザックのダメージはどんどん回復していく。
再びギガデインを当てないといけないのに、チャンスはなおも見つからないままだ。


「タイガークロー!!」
「天下無双!!」
後ろからモリー達が横やりを入れるが、そんなものを気にせず攻撃を行い続ける。


「おいみんな!!オレに考えがある!!」
モリーのマフラーと敵の腹の上への移動を繰り返し続けるザンクローネが、大声を上げた。

「何?」
レックはバルザックの攻撃を躱し、そして弾きつつ、二人のもとに近づく。

「どうにかして、オレをヤツの口まで運べ!!」
「どうするつもりだ?」
「ヤツの力の源は、ヤツの腹の中にある!!あとはわかるな?」
「心中するつもりか?ダメだ!?」

レックが、敵の攻撃を剣で受け止めながら反対する。

「死ぬことはねえよ。ただ、オレが腹の中に入ったら、思いっきり『勝ってくれ』って念じろ。」

状況にしてはあまりに突拍子もない言い方に、レックもモリーもハトが豆鉄砲食らったような顔になる。

875Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:09:25 ID:iWDSU1Ps0

「時間はあまり残ってねえぞ!!早くしろ!!」
「うむ!!わかった!!行くぞ!!」

モリーが地面を蹴って高く跳び上がる。
バルザックはなおもレックに掛かりきりで、その二人の攻撃について対処していない。
これはチャンス、と三人共確信していた。


レックに構えば、ザンクローネからの攻撃に対処できず、
逆にモリー達に構えば、レックからギガデインを受ける。
呪文で纏めて倒すにも、詠唱時間がかかる。
ブレスで対抗しようにも、二方向からでは全員に当てるのが難しい。

「今だ!!」
モリーの合図で、ザンクローネがさらに高く跳び上がる。
その瞬間だった。
突然バルザックの腕がモリー達を狙い始めた。

「何!?ぐはあっ!!」
「うわああ!!」

それだけではない。
バルザックはレックを狙って、モリーを叩き落としたのだ。

地面で激しいクラッシュが起こる。
モリーの方は最早重傷、レックも、ただでは済まなかった。

モリーという頼れる仲間が、最悪の投擲道具になってしまった。
それでもザンクローネはバルザックの口の中に侵入しようとする。
ここで英雄の役目を全うせずに、いつするのだ。


傲慢な英雄ならば、そうするかもしれない。


「どちくしょおおおおおおお!!」
ザンクローネはバルザックの顎を蹴り、方向を変える。
地面にいる二人を叩き潰そうとするバルザックの太い腕の付け根に、思いっきり針を突き刺した。

針で斬られてもダメージを受けなかったバルザックも、腕の付け根に針を思いっきり刺されれば苦しむ。

「ガアアア!!」
腕を思いっきり振り回すも、ザンクローネは必死でしがみ付き、離れようとしない。

「みんな!!逃げろ!!」
その間に下にいる二人に声をかける。

レックはどうにか立ち上がるが、モリーの方はダメージが大きいからか立ち上がれない。
それをレックがどうにか担ぐ。

バルザックは尻尾を振り回して二人を倒そうとするが、間一髪で躱されてしまう。

腕を振り回しても離れないザンクローネにもしびれを切らしたバルザックは、腕ごと食いちぎろうとする。
しかし、それこそザンクローネの狙いだった

「予想通りだぜ!!」
すかさずザンクローネが口の中に飛び込む。

876Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:09:56 ID:iWDSU1Ps0


残された2人は、その行く末を見守った。

「ム!?」
体内に異変を感じたバルザックは、手を口の中に突っ込んで吐き出そうとする。

だが、ザンクローネも負けじと体内の、進化の秘石がある所まで潜りこむ。

「俺たちは諦めないぜ!!行けえええええ!!」
「わしらは無事だ!!だから!!勝つのだあああああああ!!」


レックもモリーも、ザンクローネに言われた通り勝利の念を送る。



そこで二人は、バルザックの体内から違う強い力を感じた。

「グギャアアアアアアア!!」
同時にバルザックは何かに苦しみ始めた。

何かが、腹を破って出ようとしているのだ。
バルザックの抵抗もむなしく、腹が破れ、そこから血が滝のように溢れる。

「おらああああっ!!」
そこから出たのは予想通り、ザンクローネだった。
片手には、例の秘石。
予想とは異なる点が、ザンクローネの大きさだ。
どういうわけか、レック達と同じ大きさになっていた。

「そん……な………くっ………ぐふっ……」
力の源を失い、腹も破られたバルザックは、死ぬのも時間の問題だ。
力なく地面に崩れ落ちる。

しかし、レックはバルザックから、力の減少以外のあるものを感じていた。

(コイツは……もしや……)
さっきまでの破壊しか考えていないような目とは違い、敵意の中にどこか恐怖や怯えを感じさせられた。
それは、バルザックが人間だった時の感情である。
進化の秘石が無くなったため、僅かでも自我が戻ったのか。

877Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:10:15 ID:iWDSU1Ps0

コイツはまだ生きている。まだ刺さっている鋼の剣に、ギガデインを打ち込めばすぐにトドメを刺せるだろう。


「……。」
自分はもう誰も犠牲にしたくなかった。
エビルプリーストのようなどうしようもないヤツなら仕方がないけど。
何故かバルザックが自分達と同じ、選択の自由なく戦いに巻き込まれた被害者に見えたから。
モリー達から、この魔物は凄い力を持つ道具を呑み込んだことで、暴走したことを聞いたから猶更だ。
もしもコイツに、大切な人や者があったら、どうするんだ?
失うのは、夢の世界とそこに住む大切な人たちだけでもう沢山だ。

(バーバラ……こんな時、キミなら何て言うんだ?
『バカ』って罵るのか?
『優しいね』って褒めてくれるのか?)

自分がいた世界で失い、そしてこの世界でも会えることなく失われた少女のことを思う。
何故かターニアではなく、バーバラのことばかり思った。

すぐにその葛藤が、間違いだったことに気付く。




掠れたような声が聞こえた。
マヒャデドスを紡ぐ呪文の詠唱が。

(!!!)
遅かった。
最初にかけたマジックバリアはもう切れている。
マホカンタも、間に合わない。


バルザックは逆転を狙って、3人纏めて最強の呪文で殺そうとした。
その魔法を使うための秘石はもうないはずなのに。
最後の命を代償に魔法を使ったのだ。


キラキラと光るクリスタルのような氷が現れる。
竜王に対して、大見得きって躍り出た戦いなのに、不思議と、レックに悔しさはなかった。
敵味方共に、全てを犠牲にして戦い続けた。
それなのに自分だけは「誰かを犠牲にして勝ちたくない」と贅沢を言い続けた。
負けるのも当然の話だ。

悪いのは、全て自分の甘さだ。

878Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:10:37 ID:iWDSU1Ps0

(!?)
頭上のまぶしい光に、目がくらむ。
既に太陽は沈み、辺りは暗いはずなのに。


よく見ると、それはモリーだった。
なぜ。自分よりボロボロのはずなのに。
蒼炎の爪の先に、小型の太陽のようなエネルギーが集まっている。
「ゴォッッッドォォォォ!!!スマァァァァッシュ!!!!!!!」

そのままモリーは急降下し、自分たちを殺すはずだった氷ごとバルザックの頭を砕く。


こんな勇者がいただろうか?自分はどれほど無力なのか?
モリーのゴッドスマッシュとバルザックのマヒャデドスがぶつかり合った時、自分はただ立ち尽くしていた。
何か出来たはずなのに。その何かが思いつかない。


「私は……まだ………終わらない………。」
そう言って、バルザックは二度と動かなくなった。
腹を破られ、頭を切り裂かれ、力の源も奪われても戦い続けた。
敵ながら、道具の力を借りながらも、凄いヤツだった。
少なくとも自分よりかは。


そして、頭上から勝った男が、力を失ってそのまま落ちてくる。
レックとザンクローネは、それを受け止めた。
受け止めたときの感触で、あちこちの骨が折れていることが分かった。
モリーは自分のケガも気にせず、若者の行く末を案じる年長者のような目で優しく二人を見つめる。


「わっはっはっは。わしも、歳だな。」
「大丈夫かよ!!笑っている場合じゃねえだろ?」
「ごめんなさい!!さっき俺が……油断しなかったら……ごめんなさい!!」

もう助からない、のはわかっていたが、ベホマを唱え続けた。
自分を誰かを犠牲にしなければ何もできない弱い人間だと認めたくなかったから。

「ヒーロー……レックボーイ……そんな悲しい顔をするな。
君達は………勇者としての……使命を全うしただけだ。
わしやマスターが、死んだのは……ただ、弱かった……から……。」


「だから……わしらのことは……気にするな。」
それから、全てが風の中に消えていった。



「なあ。」
「どうした?」
レックはもう一人、ヒーロー、と呼ばれていた男に声をかけた。

「キミは、どうして大きくなったんだ?」
「オレの力の源だった心臓は、アイリって少女を救う時に失ったんだ。
でもな、応援の力があれば、いつでも戻れるんだよ……ちっ。」

突然ザンクローネが崩れ落ちた。

879Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:11:13 ID:iWDSU1Ps0
「大丈夫か?」
「やっぱり……心臓がないと、キツイな。いつまで持つか……分かんねえ。
ベーコンエビパンを倒す時まで取っておこうと思ったけど……これじゃあな。」


レックは羨ましかった。
大切な少女を守る。それは以前レックが出来なかったことだから。


だが、まだ二人にはやることが残されている。
辺りに散らばっていた支給品を回収した後、レックの持っていた回復薬を共有し、体力を回復させる。

「このままイザヤールとモリーを弔ってやりてえが、そうもいかねえ。
さっきオレ達と別れたパパスってやつが放送で呼ばれた。しかもアンルシア達も同行しているんだ。」

「俺も……行きたいところだが、すまない。竜王ってやつと決着をつけてないんだ。」

「じゃあ全て終わったら、ここで落ち合おうぜ。」
「ああ。その時こそ、この二人も弔おう。」

ザンクローネはレックの持っていたイザヤールの剣を借りて行く。
彼としては、大剣が振り回すのが性に合う。
レックはバルザックに刺さっていた鋼の剣と、最初にバルザックが持っていた大魔神の斧を手に取る。


「ご武運を」
「そっちこそ、しくじるなよ。」

二人は別の方向へ向かう。
生きる者がいなくなったそこには、夜風の音だけが響いた。

【イザヤール @DQ9 死亡】
【バルザック @JOKER 死亡】
【モリー @DQ8 死亡】
【残り32名】

【ザンクローネ(小)@DQ10】
[状態]:HP1/3 MPほぼ全快 
[装備]:斬夜の太刀 @dq10
[道具]:プラチナさいほう針@DQ10支給品一式、不明支給品(0〜2) イザヤールの支給品(0~1)
[思考]:ふてぶてしく全てを救う アンルシア達を助けに行く
[備考]:元の体(本来のサイズ)に戻りました。半面疲労状態になります。
【レック@DQ6】
[状態]:HP1/8 MP6/7
[装備]:鋼の剣
[道具]:支給品一式、大魔神の斧@DQJ 蒼炎のツメ@DQ10モリーの支給品1~3個 確認済み支給品1~2個
[思考]:竜王の下に戻る。ターニアを探す。
[備考]:竜王に好奇心を抱いています。

880Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:11:32 ID:iWDSU1Ps0
投下終了しました。

881Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:26:17 ID:iWDSU1Ps0
早速訂正を。
>>878のザンクローネのセリフ「でもな、応援の力があれば〜」
を「でもな、希望の応援の力があれば〜」でお願いします。

882ただ一匹の名無しだ:2018/04/15(日) 06:45:44 ID:xiiGslL20
投下乙です
まさかバルザックの体内に入って力の源を取り出すとは…
小さくなったことがこんなところで功を奏するとはなあ

竜王との決着をつけにいったレックと、元のサイズに戻ったザンクローネは、それぞれどうなるやら

883ただ一匹の名無しだ:2018/04/15(日) 14:32:46 ID:VWcf2dws0
投下乙です

一つ質問があります
時間と現在地が書かれていませんが演出ですか?

884Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/15(日) 15:27:55 ID:9LooztOg0
>>883
申し訳ありません。忘れてました。
二人共
【C-7/荒野/1日目 夜】です。wiki編集の際には追加しておきます。

885 ◆OmtW54r7Tc:2018/05/03(木) 05:16:34 ID:QTXXukpM0
投下します

886魔女+魔物+進化 ◆OmtW54r7Tc:2018/05/03(木) 05:18:01 ID:QTXXukpM0
「はあ…はあ……」

小人状態から脱した英雄、ザンクローネは北へと向かっていた。
しかし、身体は元に戻ったものの、心臓を失ってしまっているからか、疲労が激しかった。

(いや…本当にそれだけが理由か?)

辺りの景色は夜となり暗くなっていっている。
それに比例するように、彼の身体の疲労も上がっていた。
身体が、どんどん重くなっていくのを感じる。

(しっかりしろよ、俺の身体…こんなところで、止まってる場合じゃないんだからな)

そして、トンネルを抜けて北の大陸に降り立ち、そこからさらに北へと進んだザンクローネは…その場所に到達した。

「これは…」

辺りには誰もいない。
しかし他とは明らかに違う地面の焦げ跡やら荒れようで、そこで激しい戦いがあったことは間違いなかった。
ザンクローネは、暗い中周囲の様子を調べ、そして…

「…ちくしょう!」

見つけたのは、3つの不自然に盛り上がった地面。
そこになにがあるかは、掘り起こさなくとも明らかだ。
うち一つは先ほど放送で呼ばれたパパスのもので、それ以外にもさらに死亡したものが二人いるということだろう。

「また、守れなかったのか、俺は!」

その場に膝をつき、地面を拳で殴りつける。
何が英雄だ。
何がヒーローだ。
何がすべてを救うだ。
何も…救えていないじゃないか。
すぐそばにいたイザヤールやモリーでさえも。

身体が、さらに重くなるのを感じる。
それでも、ザンクローネは立ち上がる。
まだだ、まだ殺し合いは終わっちゃいない。
足を止めている場合ではない。
すべてを救うために…たとえ何度苦境に立たされようとも、歩き続ける。
俺は英雄…ザンクローネなのだから。

887魔女+魔物+進化 ◆OmtW54r7Tc:2018/05/03(木) 05:19:07 ID:QTXXukpM0
「ん?」

決意を固めたザンクローネは、ふと気配を感じ振り向く。
そこには誰もいない。
あるのは、奇妙な石だけだ。

「あの石…なんだ?」

奇妙な石は、なにか禍々しい存在感を放っていた。
明らかに、関わるべきではないものだ。
しかし…


サワレ サワレ


頭の中に、不思議な声が響いてくる。
そして、ザンクローネの身体はその声に従うかのように石の方へと近づいていた。
石との距離が縮まり、手を伸ばせば触れることができるほどのところで、一瞬ザンクローネの動きは止まる。
しかし…


フレロ フレロ フレロ!


声はより一層激しくなり…ザンクローネはついに、目の前の奇妙な石に触れてしまう。

―待っていたぞ

「!…石から声が!?」

―ほう、貴様、内に闇を飼っているな。これは都合がいい

「おい、何言って…」

―貴様の身体、貰い受けるぞ!

「!?うあああああああああああ!」

そうして…ザンクローネの意識はそこで途切れた。

888魔女+魔物+進化 ◆OmtW54r7Tc:2018/05/03(木) 05:20:44 ID:QTXXukpM0
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

「…んあ?」

ザンクローネが目を覚ました時、そこは真っ暗闇の何もない空間だった。
夜になって辺りが暗くなったというわけではない。
目を凝らしてみても、正真正銘なにもない、ただ闇だけが辺りを包み込んでいた。

「これは…なんだ?ここはどこだ?」
「久しぶりだね、ザンクローネ」

聞こえてきた声に、ザンクローネは声の方向へと振り向く。
聞き覚えのある女の声。
忘れるはずがない…こいつは!

「グレイツェル!…いや、クレル…なのか?」

赤いとんがり帽子に黒いかざりを装飾し。
やはり赤い、セクシーな衣装に身を包んだ魔女。
かつて戦い、そして人間クレルに戻したはずの魔女が、目の前にいた。
グレイツェルは、不敵な笑みを浮かべると口を開いた。

「私はクレルじゃないわ。魔女グレイツェルよ」
「クレルじゃあ…ないのか?」
「…ねえザンクローネ、あなたが元の世界で消えた理由、覚えてる?」

ザンクローネの質問に答えず、逆にこちらに問うてくるグレイツェル。
質問の意図が分からず怪訝な表情を浮かべつつも、ザンクローネは答えた。

「人間クレルを魔女グレイツェルに変貌させた恨みの念を、自分の身体に取り込んだからだ」
「そう、そしてそれと共にあなたは消えた…だけど今、再びこうして復活してる」
「それがどうした」
「ふふ…分からないかしら?恨みの思念と共にあなたが消えて…そのあなたが蘇ったなら、じゃああなたが体内に受け止めた恨みは、どこへ行ったのかしら?」

グレイツェルの言葉に、ザンクローネは数秒考えを巡らせ…そして、ギョッとした。

「まさか…今も俺の身体の中に!」
「ふふ、大正解♪まあ、今はもう一人いるんだけどね」
「なんだと?」

動揺を見せるザンクローネの目の前に、グレイツェルとは違うもう一つの人影が現れた。
いや、その姿は人ではない。
魔物だ。

「なんだ、てめえは?」
「俺はヘルバトラー。この魔女同様、今は貴様の中に潜りこませてもらっている」
「その声…さっきの石か?」
「ああ、そして今は貴様の身体の中だ」

889魔女+魔物+進化 ◆OmtW54r7Tc:2018/05/03(木) 05:22:53 ID:QTXXukpM0
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

何が起こってるのか、一から説明しよう。
まず、ザンクローネの復活と共に、彼が生前自身の身体に受け止めた魔女グレイツェルの力も彼の体内にて蘇った。
グレイツェルの恨みを体内に宿していても消えないのは、精霊の加護の力が弱められ、人間に近い身体にされたためだ。
復活したグレイツェルは、ザンクローネの心を乗っ取ろうと画策していた。
しかし彼の強い精神はそれを許さず、かつてのように力を奪うのが精いっぱいだった。(アイリの願いにより戻ったはずの身体が再び小さくなっていたのはこの為である)

しかし、チャンスは訪れた。
夜が近づきグレイツェルの魔女の力が強くなったのに加え、モリー達の死やヘルバトラーの戦い跡地での墓の発見、これらがわずかとはいえザンクローネの精神に隙を作った。
その上、付近にはヘルバトラーが模した魔瘴石があった。
グレイツェルはザンクローネがその石に触れるよう誘導した。
精神を摩耗させていた彼はその声にあらがうことができず、石に触れて。
そしてその瞬間、ヘルバトラーは彼の体内…空っぽになっていた心臓部分へと入り込み、そこでグレイツェルの力と融合したのだ。

890魔女+魔物+進化 ◆OmtW54r7Tc:2018/05/03(木) 05:23:38 ID:QTXXukpM0
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

「…とまあ、こういうわけよ。分かったかしら?」
「…ああ、よ〜く分かったよ」

話を聞き終えたザンクローネは…にやりと笑みを浮かべていた。
いつものような、ふてぶてしい笑みを。

「お前らを、今ここで浄化してやりゃあいいってことをよ!」

両手を突き出し、光を放つ。
しかし…

「力が…弱い!?」
「いったはずだよ、ザンクローネ。精霊の力は弱められているって」
「今の貴様に…俺達を止める力などない!」

グレイツェルとヘルバトラー、二人分の闇がザンクローネを襲う!
ザンクローネもか細い精霊の力でふんばるが、どんどん押し込まれていく。

「次に目を覚ました時、あなたは私たちにその精神を乗っ取られてるでしょう」
「なにか言い残すことはあるか?」

グレイツェルとヘルバトラーのあざける言葉に、ザンクローネは…

「へっ」

ふてぶてしいまでの態度で笑っていた。
そして…自分の胸をその拳で貫いた。

「「なっ!?」」
「言ったよな…あんた、俺の心臓があった場所に潜り込んだって。そしてグレイツェル、お前の力と結びついたって」
「ザンクローネ…あんたまさか、体内の魔瘴石を破壊する気かい!?」
「ああ、そのまさかだよ」
「やめろ!今の俺は、貴様と一心同体!俺を壊せば、貴様も死ぬぞ!」
「だろうな…だが、あんたとグレイツェルもそれで終わりだ!」

ザンクローネが、体内の魔瘴石を握りしめる。
それと共に、グレイツェルとヘルバトラーは苦しみだす。
このまま握りつぶせば、彼らは消えることだろう。
ザンクローネの命と共に。

891魔女+魔物+進化 ◆OmtW54r7Tc:2018/05/03(木) 05:24:43 ID:QTXXukpM0










「認めん…認めんぞ……」

ザンクローネに一つ誤算があったとすれば、それは。

「俺は…こんなところでやられてたまるかああああああああ!」

ヘルバトラーの執念が、彼の想定を大きく上回っていたことだ。

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

「ぐ!?なんだ、身体に何かが…」

ザンクローネは、身体に異物が入り込むのを感じた。
なにか、強い力が入り込むのを感じる。
そしてザンクローネがそう感じた通り、闇の世界に新たなる住人が現れた。
その住人は、もはや生物ですらない。
その名は…「進化の秘石」。
進化の秘石は、ふらふらと空中を漂ったかと思うと、ヘルバトラーの手元にすぽんと収まった。
彼の執念は、無機物であるはずの秘石をも、引き寄せたのだ。

「なるほど、俺に力を貸してくれるというのか」

ヘルバトラーは、一目でその石の用途を理解すると、自らの身体に…正確に言えば自身の模した魔瘴石と合体した。

「ぐあっ!?」

その瞬間、胸に突っ込まれていたザンクローネの手は、弾かれるように胸から引っこ抜かれて。

「終わりだああああ!ザンクローネェェェ!」

ヘルバトラーの闇が、今度こそザンクローネの身体を飲み込み、彼の意識は、そこで再び闇に閉ざされた。

892魔女+魔物+進化 ◆OmtW54r7Tc:2018/05/03(木) 05:25:43 ID:QTXXukpM0
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

三度、目を覚ますザンクローネ。
だが、その様子は以前の彼とは異なっていた。
姿こそ以前と同じであるが、髪も身体も服も、黒く染まっている。
そして、ふてぶてしさとはほど遠い、醜悪な笑みを浮かべていた。

「俺の名は、魔英雄ザンクローネ」

魔女と魔物に心を蹂躙された彼に、もはやかつての面影はない。

「全てを壊し…全てを救う」

大きく歪んだ、願いだけを残して。


【C-4/平原/1日目夜中】

【魔英雄ザンクローネ@DQ10】
[状態]:HP3/10 MPほぼ全快 胸に出血 闇化
[装備]:斬夜の太刀 @dq10 ヘルバトラーの魔瘴石with進化の秘石(体内)
[道具]:プラチナさいほう針@DQ10支給品一式 不明支給品(0〜2) イザヤールの支給品(0~1)
[思考]:全てを壊し全てを救う
[備考]:グレイツェルの呪いとヘルバトラーの魔瘴により性格が反転し、破壊こそが救いだと考えています。
魔瘴石がザンクローネの心臓代わりを果たしたことや闇を拒むのをやめたことで、疲労状態はなくなりました。

【ヘルバトラー強@JOKER】
 [状態]: 魔瘴石化 ザンクローネの体内に侵入 グレイツェル及び進化の秘石と融合
 [思考]:ザンクローネの身体を使い破壊の限りをつくす
※死骸と闘志、それに魔瘴が合わさり、魔瘴石のような形になっています。
※ザンクローネが死ぬと彼も死にます。

893 ◆OmtW54r7Tc:2018/05/03(木) 05:26:46 ID:QTXXukpM0
投下終了です

894 ◆znvIEk8MsQ:2018/05/23(水) 23:45:44 ID:RvKF9gRM0
投下します。

895ロザリーのために ◆znvIEk8MsQ:2018/05/23(水) 23:47:06 ID:RvKF9gRM0

「ロザリー………」
一人だけしかいない図書室で、譫言のようにつぶやく

今、彼女はどこでどうしている?
そういえば、ここへ連れてこられてから、彼女がどうなったか分からない。
しかし、まだ半日過ぎていない。
ロザリーヒルの住民達に、自分が留守中の間は護衛を頼んだはずだ。
それだけでなく、ロザリーヒルの塔も改築を行い、新しい隠れ場所を作った。
知っているのは自分とロザリーだけのはず。

たとえエビルプリーストが自分を凌駕するほどの力を入手しても、半日足らずでロザリーを攫うことなんて不可能のはずだ。


そう思うなら、信じなければいい。
あくまで証拠は一つもないのだ。
だが、それは信頼できる部下が命を懸けて送ってきた情報なのだ。
しかも戦いの舞台の片隅に置いてある本に手紙を挟むという、極めて不安定な手段で。
自分が見つけたからよかったものの、他人ならば有効に活用できない。
いや、逆に情報源として弱みを握られる可能性だってある。
既にこの場所では、情報というのは板金の価値があるというのは分かっていることだ。


しかし、どうすればよいか。
本当ならすぐにでもロザリーヒルに戻り、彼女の安否を確かめに行きたい。
だが、ここはまだ鍵の分からない箱の中。
ロザリーヒルへ行くどころか、抜け出すことさえ出来ない。
先程のドワーフの男曰く、ヘルバトラーと少し離れた所で出会ったそうだ。
しかし、そのヘルバトラーも詳しいことを知らされていないのかもしれない。
ひょっとしたら大分離れた場所に移動しているから会えないかもしれない。


流石にエビルプリーストもロザリーを捕らえても、すぐには殺さないだろう。
仮に自分が奴ならば、人質としていざという時の道具として利用する。
だからすぐにその対処に移さなくてもよい。



ロザリーを捕らえたのが奴ならば。



自分はこの戦いの主催者は別の存在だと疑っている。
そして大魔道の手紙で、予想はほぼ真実になった。
もし彼女を捕らえた存在が、自分の全く知らない存在ならば。
彼女は対自分への人質ではなく、自分が予想すらしないような何かに使われる可能性だってある。
兎に角、時間は経てば経つほど彼女の身に危険なことが起こる可能性がある。

896ロザリーのために ◆znvIEk8MsQ:2018/05/23(水) 23:48:32 ID:RvKF9gRM0
首輪のことも、気を配らねばならない。

大魔道の手紙によると、首輪の特徴はこうだ。

・録音機能
・エビルプリーストの魔力に反応して爆発する機能
・禁止エリアに反応する機能


そこでどさっと下から音がして、驚く。
それは自分が先ほどまでに持っていた「勇者死すべし」の本だった。
手紙に夢中になりすぎて、それを挟んでいた本のことは忘れていたようだ。

今は本に集中している場合ではない。
大魔道がこの本に手紙を挟んだことも相まってまだ気になるが、それどころではない。

考えろ。
幸いなことにこちらの行動は何もかもが筒抜けという訳ではないらしい。
少なくともこうやって考えている中身までは分からないだろう。
もし戦いが始まってしまえば、考えをまとめるのが難しくなる。
今のうちに情報を整理しておこう。
積極的に動くにしろ、そうでないにしろそれぞれの危険が伴う。

突然、部屋が暗くなる。丁度夕日が沈んだ。
これから、闇の時がやってくる。
闇に乗じて、この城に襲ってくる者も現れるかもしれない。

(諸君、ご機嫌如何かな?)
エビルプリーストの放送だ。
どうやら私のかつての部下の一人、キングレオが死んだそうだが今はどうでもよい。
ここから出て行った者達も今のところは無事なようだ。
今は脱出道具を探さねば。

(まてよ……?)

首輪の機能は分かった。
だが、あの3つだけでどうやって死者が分かるのだ?
既に手紙では生命反応や視覚機能は付けられていないということは確定している。

戦いの音や悲鳴?
いや、それだけでは不完全だろう。
影のように忍び寄る存在に、ひっそりと悲鳴を上げる間もなく殺されることだってあるはずだ。
首輪の監視以外に何者かが定期的に監視を行っている?


そういえば、大魔道が蘇ったというなら、エビルプリーストやアンドレアル達以外にも生きかえった者がいるかもしれない。

だが、生き物は目に見えなくても、誰かに見つめられていると自然と違和感を覚えるものだ。
この戦いが始まってからは、そのような感覚に覚えはない。
そもそも見知らぬ世界という以上、怪しいものに目を付けろと言われれば、森羅万象を疑わねばならない。
自分ほどの手練れをもってしても、気配が察知できないような存在は、エビルプリーストや自分の部下にいたことはない。

897ロザリーのために ◆znvIEk8MsQ:2018/05/23(水) 23:48:58 ID:RvKF9gRM0


先走るあまり考えがおろそかになるのは愚の骨頂だが、逆もまた然り。



そしてもう一つ気になる点は大魔道の手紙にあった、
「支給された即座に脱出可能なアイテム」だ。

これの正体が気になる。
もし誰かの支給品に紛れ込んでいるなら、是が非でも使いたいところだ。
命が惜しいわけではないが。ただ、ロザリーの安否を確かめるためにも使いたい。


しかし、その問題が2つある。
1つ目は、その道具が全く分からないこと。
どんな大きさか、どんな見た目か、何より誰が持っているかも分からない。
最悪の場合は、戦渦に巻き込まれて消失してしまったり、知らず知らずのうちに海にでも投げ捨てられてしまったかもしれない。

2つ目は、持ち主に道具をもらえるか。
仮に道具を持っている者を見つけたとしても、それを譲ってくれる可能性は低い。
強奪すれば即座に危険人物として扱わる。
かといって、「大事な人が気がかりだから元の世界に戻るためにそれをください」と頼んでも、譲ってくれる可能性は低い。
それ以前に過度に交渉すれば、自分がロザリーのことが気がかりであることがエビルプリーストに伝わりかねない。

結論を言うと、この状況で正体の分からないアイテムを探すのは極めてリスキーだ。

もう何時間か待てば、ヤンガスや例のドワーフの男が仲間を集めてきて戻ってくる。
上手くいけばその中に脱出道具の持ち主もいるかもしれない。
だが、期待しすぎるのも危険だ。

(ん?)
突然何かを蹴飛ばしたような気がした。
『世界道具百科辞典』

その本には書いてあった。
既に6時間以上この場で作業を続け、アスナやヤンガスも手伝ってくれたため、大分めぼしい資料が集まった。

しかし、これほどの優れた資料を見落としているとは思わなかった。

(これで脱出道具について、目処がたてられるか?)

ただし、いい加減なことが書かれているかもしれない。
まずは最初に自分が支給されていた道具について見てみる。

898ロザリーのために ◆znvIEk8MsQ:2018/05/23(水) 23:49:23 ID:RvKF9gRM0

目次を開く。

あった。
ふつうのチーズ、激辛チーズ。

 『ふつうのチーズ』
 どこの家庭にもある、食料としてのありふれた味のチーズ
 そのまま食べることもできるが、竜神族が食すことで、修行を積んでいない者でも簡単に火の息が吐ける
 使用対象者 敵全員
 錬金作成方法 おいしいミルク+レンネットの粉 もしくは超辛チーズ+輝くチーズ

 『激辛チーズ』
 神鳥守りし世界で生産されるチーズ
 人間がそのまま食べるのは難しいが、竜神族が食すことで、修行を積んでいなくても激しい炎を吐くことが出来る
 使用対象者 敵全員
 錬金作成方法 辛口チーズ+赤いカビ×2

なるほど。ヤンガスの言っていることと間違いないようだし、この本を信用してもよいだろう。

早速、どのような脱出道具があるか確認しておこう。

目次を開き、「移動道具」の項目をめくる。

 『移動道具』
 キメラの翼:   P9
 おもいでのすず  P65
 空飛ぶ靴:    P101
 魔法のじゅうたん P112
 おわかれのつばさ P238
 ドルボード    P303
 ブレイブストーン P355

(こんなにもあるのか……?)
この項目の中で知っていた道具は、キメラの翼と空飛ぶ靴の二つだけ。
全てがこの戦いで支給されているとは誰も言っていないし、この本にも載っていない道具が支給品に交じっているかもしれない。
それでも、参考にする価値はあるだろう。


その中で脱出のカギになれそうなものは二つ。

 『おわかれのつばさ』
 グランゼニスの創成せし世界固有の移動道具
 天使の中でも、特別な力を持った存在のみが作成可能
 別の世界から自分の世界へ帰るための道を開く
 使用対象者 一人 
 錬金作成方法 なし

見た目はキメラの翼と何ら変わらない。
何のことだかさっぱりな記述もあるが、元の世界に帰ることは出来そうだ。
出来てくれないとこちらが困る。
しかし、対象は一人ということから、事が知れば血を見るような奪い合いになるかもしれない。

899ロザリーのために ◆znvIEk8MsQ:2018/05/23(水) 23:50:51 ID:RvKF9gRM0
『ブレイブストーン』
 アストルティア固有の移動アイテム
 その出所は、竜族の世界とも、どこか別の世界だともいわれている。
 勇者が使うと、次元を超えて移動することが出来る。
 使用対象者 勇者と、その付近にいる者全員
 錬金作成方法 なし


とりあえず、めぼしい物としてはこの二つだ。
幸いなことに、この本には道具の絵も描いてある。
錬金で作れないのは残念だが、自分にはその技術は持ち合わせておらず、そのための環境も整っていない以上は、考えるだけ無駄だ。

とにかく、この本のおかげで、何を探せばいいのかは見当がついた。
まだ分からないことは多いが、これをチャンスに行動するべきだろう。

念のために、書置きは残しておく。
本当は後に戻ってくるはずのアスナやジャンボのためのものだが、まだ見ぬ敵が来ることも存在して、内容は最低限にした。
手っ取り早く人に見せるために、『おわかれのつばさ』と『ブレイブストーン』のページを抜き取っておく。
『世界道具百科辞典』と『勇者死すべし』は回収してザックに入れる。




図書館を後にするのは気が引ける。
知識は、傍から見れば狂っているとしか思えない考えを止めるための道具になってくれる。
ここは、その知識を享受する場所だからだ。

だが、このような状況なら仕方がない。



図書館を出てすぐに、頭上を見上げた。
そこにあるのは、闇夜に浮かぶ満月。
しかし、それにしては妙に大きく、強い光を放っている。

夜になっても明かりなしで本を読むことが出来たのは、月光のおかげだった。

まあ、創られた世界の月に関して、意見をどうこうと述べるのもバカげた話だ。
つくり物の月とロザリー、どちらに構うべきかというと、だれがどう考えても後者だ。

だが、何故かアレに気を取られてしまう

(月………)
月というと、自分の世界でも様々な噂はあった。
魔力の濃度は月光の量によって変わるとか、月には別の世界が広がっているとか。
自分の世界では、既に空を飛べる技術は備わっていたが、そこまで高くへ行くことはできなかった
ヤンガス達は以前、月世界の住人というのに会ったらしい。

(まさか……な。)
その話を照らし合わせると、何か思いつきそうな気がしたが、それは突拍子もない答えになりそうだからやめた。

ふと耳をすますと、かすかだが爆発音のようなものが定期的に聞こえてくる
あの場所で戦いがあるのだろうか。

900ロザリーのために ◆znvIEk8MsQ:2018/05/23(水) 23:51:13 ID:RvKF9gRM0
これからどこへ向かうか。
地図を見てみると、東と南へ向かう道があるようだ。
東へ向かえば町がある一方で、南には寂れた教会と荒野しかない。
ここは東へ向かう方が、多くの人に会えるだろう。
しかし、少なくとも何人かは東側へいる人はジャンボやヤンガスが連れてくるはずだ。
頼りすぎるのは危険だが、東にいる人物はトロデーンで合流できることを願って、ここは南側へ向かってみよう。
以前話した、アスナの仲間とやらにも会えるかもしれない。

脱出用の道具をどうしても見つけねばならない。

(すぐに戻る。それまで無事でいてくれ!!ロザリー!!)


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


(!!)
城を出てからしばらくして出会ったのはアスナとコニファー、そして見たことのない僧侶の女。

「ピサロの旦那……か」
「ヘルバトラーはどうなった?」
「どうにか倒したんだが……な……。」
最初に声をかけたコニファーは、片目が無くなっている。
しかし、あとの二人は体の欠損こそないが、コニファー以上にボロボロだ。

「これを知らないか?」


明らかに焦燥しているのは3人にも伝わった。
既にピサロに出会っているアスナとコニファーは、ピサロが冷静な人物だという認識があったので猶更である。

「どうしました?アリアハン『アイテム鑑定団』出場経験のフアナ……」
「前置きはいい。この二つを知っているか?」

アスナとフアナはピサロが見せたページを目を凝らして眺めている。
残念ながら見たことも持っていることもないものらしい。

「これは……どういうことだ?」
しかし、コニファーが呟いた。
「貴様!!知っているのか?」
ピサロが掴みかかりそうな勢いで尋ねる。


そこへピサロが紙切れを取り出した。
そこにはこう書いてある。

901ロザリーのために ◆znvIEk8MsQ:2018/05/23(水) 23:52:25 ID:RvKF9gRM0
『誰にも盗み聞きされたくない。ここに書いてくれ。』

何のことやらさっぱりだが、コニファーはそれに応じる。
『石の方はさっぱりだ。でも翼の方は、オレ達の世界のものだ。』

創造神グランゼニスの創りし世界、とはコニファー達の世界なのだろう。
『だとすれば、手掛かりはあるか?』
『ない。そもそもオレは見たことがない。ましてやこの世界で

「おい!!」
まだ書き終わってすらいないのに走り出してしまったピサロをコニファーは呼ぶが、反応はなかった。

「何なんですかあの男は!!イケメンなのを鼻にかけて冷たい態度を取っていますが、絶対女の子にモテませんよ!!」
「「……そういう問題じゃない………。」」


走っていくピサロを見送ったコニファーは、何か嫌な予感がした。
あの挙動不審さ
あの二つの道具の絵が描いた紙は、一体何なのか。

「おい、もう少しで城だ。大丈夫か?」
しかし、肝心なのはヘルバトラーとの戦いで傷を負った二人。
ピサロが走ってきた時は、襲撃を受けたことも危惧したが、争った跡は見られなかったので、その考えはすぐに検討した。


(無事でいろ!!ロザリー!!)
コニファーと別れて、すぐに走り出す。
彼の不運は3つ。

コニファーの話を最後まで聞いていなかったため、おわかれのつばさの持ち主の居場所を聞きそびれてしまったこと。
もう一つは、焦るあまり、その人物とニアミスしてしまったこと。

最後の一つは、ピサロが急に見つけたその本は、実は最初は図書館にはなかった。

誰が、どういった目的で、その本を置いたのかは分からないが、それは真実だ。



焦りは不運を呼び、不運はさらなる焦りを生む。

902ロザリーのために ◆znvIEk8MsQ:2018/05/23(水) 23:53:11 ID:RvKF9gRM0
【D-3/トロデーン城付近/夜】
【ピサロ@DQ4】
[状態]:HP:9/10 焦り
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 『世界道具百科辞典』 『勇者死すべし』 大魔道の手紙
[思考]:図書室で首輪を外す方法を探す  エビルプリーストをこの手で葬り去る 南へ向かう脱出用道具を見つけ、ロザリーの安否を確認する。
余裕があれば第三放送頃に戻る。
1:ロザリーはどうなった……?
※ジバ系呪文を実際に見せてもらいました。
※エビルプリーストの背後に黒幕がいることを、手紙によってほぼ確信しました。
現状ではラプソーンが怪しいと考えています
※首輪の仕組み、機能を知りました


【アスナ(女勇者)@DQ3】
[状態]:HP1/10  MPほぼ0性格「ひっこみじあん」 肋骨骨折、内臓一部損傷
オルテガ、サヴィオ死亡による情緒不安定
[装備]:ゴディアスの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)  サヴィオの支給品一式 道具0〜1個バレットハンマー@DQ10 オーガシールド@DQ5 
     ウェディングドレス@DQ9 アルゴンリング@DQ8
[思考]:エビルプリーストを倒す。
ひっこみじあんを克服したい。
   :トロデーン城で休息をとる
[備考]:不明支給品の中に性格を変える効果を持った本や装飾品は入ってません。
    トロデーン城の地理を把握しています。

【コニファー(男レンジャー)@DQ9】
[状態]HP2/5 MP1/5片目喪失  アーク死亡による喪失感 ピサロへの不信感
[装備]かりうどの弓@DQ9、毒矢25本 
[道具]支給品一式 ) カマエル
[思考]自分が生きているという感覚を保つため、とにかく生き抜く。
   仲間を探す。 アスナとフアナを先導する。

【フアナ(僧侶♀)@DQ3】
[状態]:HP1/8 MP0  ゼシカ、サヴィオ死亡による喪失感
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜3(本人確認済み)
[思考]:トロデーンへ行き、休憩する。
※バーバラの死因を怪しく思っています。

903ロザリーのために ◆znvIEk8MsQ:2018/05/23(水) 23:53:32 ID:RvKF9gRM0
投下終了です。

904ただ一匹の名無しだ:2018/05/24(木) 20:00:08 ID:hXW0/L5Y0
投下乙です
ピサロ、現状手掛かり一番多く持ってるし、なんとか頑張ってほしいが…どうなるかな
第二回放送見る限りロザリー誘拐はエビルプリーストの意思じゃなく黒幕の仕業っぽいが、単にピサロを動揺させるためなのか、それとも別の狙いがあるのか…

905誇り高き竜の夢 ◆2zEnKfaCDc:2018/05/27(日) 21:49:16 ID:WJR0iMFY0
投下します。

906誇り高き竜の夢 ◆2zEnKfaCDc:2018/05/27(日) 21:50:42 ID:WJR0iMFY0
「終わったのか。」

「ああ。」

人と竜とは再び顔を合わせる。
ただ、レックは先の戦いでの疲弊が落ちきっていないのを竜王は見て取れた。

「…言わずとも分かる。良い結果には終わらなかったのじゃろう?」

「そうだな。戦いには勝ったけど…犠牲もあった。」

渡した薬をレックは自分自身には使わなかったのだろうと竜王は推察する。
尤もあまり不服ではなかった。
レックはそういう男だと竜王には分かっている。

「しばらく休むがよい。そんなボロボロな貴様を倒したところで、ワシの名に傷がつくのみよ。」

「悪いな。俺も少し、休みたかったところなんだ。」

休んでいる間に殺されるようなこともないだろう。
竜王はそういう男だとレックには分かっている。

戦いを重ね、誰かの死を噛み締め、仲間や妹の死を恐れ――――――
早い話が、肉体的にも精神的にも限界だった。

907誇り高き竜の夢 ◆2zEnKfaCDc:2018/05/27(日) 21:52:25 ID:WJR0iMFY0
そうしてしばらく瞑想にふけっていると、不意に竜王がレックに話しかけた。

「ときにレックよ。貴様にとっての戦いとは何じゃ。」

レックは自分を殺そうとして戦っていたわけではなかった。むしら、レックは自分を懐柔するために戦っているような印象を覚えた。
戦いに勝つために勇者アレフを懐柔しようとしていた、かつての自分との違いを見出したかったのだ。

「ただの手段さ。失いたくない大切なものがある。それを失わないために戦うんだ。だからお前とも戦わなくて済むのならそれが一番だと思ってる。」

レックは一度、戦いから逃げた男だ。
戦うのが怖くて、夢の世界のレックを創り出した。
現実の自分と合体した今も、戦わなくて済む道があるのならば迷わずそれを選んでいるだろう。

「貴様らしい答えよ。じゃが、ワシは認めぬ。自分の領域を侵されぬためにしか戦えぬのならそれは獣にすら劣るではないか。」

「何が言いたいんだ?」

「悪を前にして躊躇をするなと言うておる。この世界に蔓延る悪は受け身の姿勢のみで打ち破れるようなものではない。現実を見よ。」

人間たちの力が集まれば、強大な悪も必ず打ち破れる。
だからこそ、何をすべきか分かっていない者には現実を見せなくてはならない。
誰かが守ることを想定してミーティア姫を攻撃したのも、彼女にまだ本当の悪というものが見えていなかったからだ。

908誇り高き竜の夢 ◆2zEnKfaCDc:2018/05/27(日) 21:54:31 ID:WJR0iMFY0
「現実、ねぇ…。なんというかさ、お前は本当に悪なのか?こういう会話とか見ててもさぁ、やっぱり純粋な悪、というようには見えないんだよね。」

「そうじゃな、お前の思う悪とは異なるやもしれぬ。ただワシは人と協力する気がないだけじゃ。かといってあの魔族に従って殺し合いに身を投じる気も毛頭ない。ワシは誇り高き竜として――――――戦い抜くのみよ。」

「それだよ、その"誇り"ってやつ。そんなもんに振り回されて色んなもんを見失ってるんじゃないの?」

「貴様…我が誇りを愚弄する気か?」

竜王はレックを鋭く睨みつける。
おーこわ、と首をすくめながらレックは話し続ける。

「お前の言う誇りってのはお前の思い描く理想像だ。誰に強制されたわけでもなく、自分がどうありたいかを語っている。」

「それの何が悪い。理想なくして野望は叶わぬ。」

「悪いとは言わない。でも人はそれを"夢"と呼ぶんだ。そんなものに執着して現実の自分から逃げたところで何も守ることなんて出来ない。お前は俺に現実を見ろと言ったけどさ――――――」

一度夢へと逃げたレックだからこそ、そして多くの"夢"と向かい合ってきたレックだからこそ、伝わることがある。

909誇り高き竜の夢 ◆2zEnKfaCDc:2018/05/27(日) 21:55:27 ID:WJR0iMFY0

「――――――俺は誰よりも現実を目の当たりにしてるんだ。だって俺は、世界に広がる"夢"を終わらせたんだから。」

竜の王としての誇りの否定。
竜王の糧となってきた戦う意味を引き剥がしていく。
これ以上誰かを失うのは嫌だ。
竜王が真の悪でないのならば、きっと届くはずだと信じて。

「じゃが、ワシはこの生き方以外の生き方を知らぬ。産まれてから一度も、誰もワシの隣には立っておらんかった。」

竜王もレックが闇雲な言葉を投げかけているのでないと知っている。
竜としての誇りを否定する言葉の裏には、紛れもなくそれを語るだけの実力がある。それを語るだけの過去もある。

「だったら俺が教えてやる。俺の――――――いや、人の仲間になれ、竜王。お前とならきっと皆を守れる。もう誰も犠牲になんてさせない。」

「ククク…ワシが仲間、か。そんなことを言った者は貴様が初めてよ。じゃが献上品は――――――世界の半分じゃあ足らんぞ?」

「悪いけど、俺の世界はもう半分無くなってるんでね――――――」

一瞬だった。
レックは鋼の剣を竜王の喉元に突きつけた。

「――――――だからこそ、もう誰も犠牲なんて作らない。お前が俺の前に立ち塞がると言うのなら、悪として誰かを殺すと言うのなら、俺はお前を斬るだけだ。これは勧誘じゃなく、警告なんだよ。」

先程の戦いでは、トドメを刺す寸前に情けをかけようとしてバルザックの最後の攻撃を許してしまい、また仲間を死なせてしまった。
もしも竜王が敵ならばもう迷わない。例え本意ではなくとも、皆を守るためならばこの手で竜王を斬ることも覚悟している。

「なるほど、一皮剥けたようじゃな。ならばワシも――――――本気で応えねばなるまい。」

誇りに従い竜としての道を貫くのか、自分の心に従い人へと歩み寄るのか。
最後の選択の時がついに訪れたのだ。

910誇り高き竜の夢 ◆2zEnKfaCDc:2018/05/27(日) 21:56:22 ID:WJR0iMFY0
【C-7/荒野/1日目 夜】

【レック@DQ6】
[状態]:HP1/5 MP6/7
[装備]:鋼の剣
[道具]:支給品一式、大魔神の斧@DQJ 蒼炎のツメ@DQ10モリーの支給品1~3個 確認済み支給品1~2個
[思考]:竜王を仲間にする。叶わないのなら殺す。ターニアを探す。

【竜王@DQ1】
[状態]:HP3/5 背中に傷
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1個
[思考]:悪を演じ、誇り高き竜として討たれる。
[備考]:レックの仲間になるか、自分の誇りを貫くか悩んでいます。

911誇り高き竜の夢 ◆2zEnKfaCDc:2018/05/27(日) 21:57:26 ID:WJR0iMFY0
投下終了です。

912ただ一匹の名無しだ:2018/05/27(日) 22:18:34 ID:l1ijTFBg0
投下乙
二人の台詞回しがかっこいい…
竜王の世界の半分発言に対する言葉、レックならではで上手いなって思った

913想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:01:56 ID:7rxWTKjA0
まだwikiの方が深夜到達していませんが、投下から採用までの一定時間は満たしていると判断しゲリラ投下します。
仮に「ロザリーのために」「誇り高き竜の夢」のどちらかが没となれば一旦この話も没にしてください。

914想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:02:39 ID:7rxWTKjA0
(――――――一緒に戦ってくれって言ってんだよ。後れを取んじゃねえぞ!)

(――――――はっ、こっちの台詞よ!)

この催しが無ければ、いつか訪れるはずだった未来。
いつか背を預け合うはずだった二人は向かい合い、闇の中へと消えていく。
かつての信頼関係にはかつてない亀裂が入ってしまった。

時にはコロシアムでの立ち回りへの不満、時にはコインの持ち寄り詐欺。
信頼関係の崩壊などアストルティアでは日常茶飯事であった。

(そう、よくあることじゃねえか。今更何を迷ってやがるってんだ。)

ヒューザはもちろん、冷酷であるはずのジャンボでさえも冷や汗をかいている。
未来は無から生まれるわけではない。
いずれ結ばれるはずだった信頼関係も、それに至るまでの"過去"は間違いなく存在していたのだ。
ジャンボもヒューザも少なからず迷っている。

そんな中、戦いの口火を切ったのはジャンボだった。
迷いを振り切るかのように弓を引き、その手を離した瞬間に風切り音と共に"殺し合い"は始まってしまった。
放たれた矢に合わせて魅了されたゲレゲレがヒューザに飛びかかる。

915想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:03:21 ID:7rxWTKjA0

この暗闇の中、矢の軌道を読んで弾くというだけでも至難の業なのに、目の前のゲレゲレに意識を集中しておかなければ喉笛を即座に掻っ切られかねない。
ゲレゲレの隙をついて狙撃手のジャンボを無力化させようにもそもそもジャンボの姿は暗闇の奥。また、鼻のきくゲレゲレも 相手にしているのでは逆に暗闇を利用することも不可能である。
さらに、傷らしい傷を負っていないジャンボとさっきまで死にかけていたヒューザではコンディション差も著しい。
戦局は明らかにジャンボに傾いているかのように思える。

「でもよ――――――」

連射された矢をサイドステップで躱しながらヒューザは笑う。

「――――――とち狂ったダチの目を覚まさせないまま死ぬわけにはいかねえさ。」

「馬鹿が、とち狂ってんのはどっちだっつーんだ。いい加減現実を見やがれ。」

それぞれがそれぞれの想いを押し付け合う。ただそれだけのことなのにふたりは殺し合う。それは両者が男であるからに他ならない。
話し合って折衷案を探す、互いに干渉せずそれぞれの道を歩む、そういった妥協案はふたりの中に存在しない。
ふたりとも相容れない友を自分の道へと引きずり込むために戦っている。

「ヒューザ、俺たちの世界が滅びるんだぞ!てめえはそれを指くわえて見てるってのか?」

言葉と共にさみだれうちを撃つ。
ヒューザにとってはククールとの戦いでも見た技だ。軌道を見切り、間一髪で身を躱す。

「だからって他の誰かを犠牲にしていいって道理にはならねえだろうが!そうしなくていい道を探すことは出来ねえのかよ!」

「詭弁だな――――――」

「ガウッ!」

ヒューザの躱した先にゲレゲレが走り、悪魔のツメを振るう。
ツメでの戦闘において最も理想的なのはゼロ距離に近い近接戦。
ゼロ距離の相手では剣もハンマーも振るいにくくヒューザの攻撃は通らない。
大筋は剣とハンマーで防ぐものの、一部は防げずにヒューザの体に着実に傷をつけていく。

916想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:04:03 ID:7rxWTKjA0
さらに剣とハンマーの射程圏外にいるジャンボが追撃のサンダーボルトを放つ。

苦手とする2種類の射程からの同時攻撃にヒューザは対応出来ない。

「ぐあっ…!」

「――――――手段を選んでたら掴めないものだってあるんだぜ。」

「くそっ…俺の相手は…てめぇじゃねえ…うらぁ!」

そんな中でゲレゲレを何とか振り払い、少ない魔力を振り絞りランドインパクトを放つ。
地表を隆起させ、ゲレゲレの接近を妨害した上で微かに見えるジャンボの姿を追う。
当然、それを許すジャンボではない。剣の届く距離まで近づかれれば弓の出来ることなど限られている。
近付くのを拒むように、再びさみだれうちがヒューザを襲う。
ヒューザから距離をとったジャンボは再び暗闇に紛れて見えなくなった。
剣も想いも、ジャンボには届かない。

「くっ…どこだ…?」

背後からはゲレゲレが迫ってくる。
振り下ろされた爪を躱し、そのまま蹴りを入れる。
ジャンボに操られているだけのゲレゲレを殺すのはヒューザとしても忍びないため、チャンスではあったが斬撃を入れることはしなかった。

(集中しろ…見えねえ敵ならさっき攻略したばかりじゃねえか…!)

目を閉じ、全神経を研ぎ澄ます。
ヒューザの落ち着きぶりに困惑したか、背後から足音が漏れ、更に矢を放つ音が聞こえた。
咄嗟にヒューザは横に逸れて矢を躱す。

(コイツ…見えてやがんのか!?)

矢の方向から位置は掴んだ。今度こそジャンボへと近づいていく。暗闇の中のジャンボの輪郭がハッキリと見え始める。

「うおおおおお!!」

雄叫びを上げ、矢を放ち続けるジャンボに突撃する。防ぎきれなかった矢がところどころ腰に刺さっていくが問題無い。剣はジャンボを捉えている。

917想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:05:00 ID:7rxWTKjA0
「うらぁ!」

勢いのままに斬りつける。
素早さに任せた戦闘スタイルのジャンボ相手にはまず一撃、機動力を落とせるだけの攻撃をぶつけたいところだ。しかし――――――

「嘘…だろ…」

ジャンボに剣は届かなかった。
バトルマスターの一撃を、弓装備のレンジャーの腕力と装備で受けきれるはずがない。
だが目の前では現実に、ヒューザの剣をジャンボが弓で受け止めている。

「馬鹿正直に突っ込んでくるからだ。簡単にお前の射程内で戦わせてやると思ってたら大怪我するぜ。」

ヒューザの剣技の威力が鈍ったのはジャンボの放った暗黒の霧。
元々辺りが真っ暗なため、ジャンボにとって有利なフィールドが作り上げられていることにヒューザは気づけなかったのだ。
それでも幻惑状態に陥ることがなかったのはククールとの戦いで受けたマヌーサにより、微かに耐性が出来ていたからか。

攻撃力が下がっていようとも、剣VS弓の鍔迫り合いという有利な状況に加え、左手にはハンマーも持っている。
このまま続ければジャンボの守りを崩せるのも遠くないだろう。
ただし、ゲレゲレという存在がそれを許さない。
襲いかかる爪撃をハンマーでいなすが、その隙にジャンボに1歩下がることを許してしまう。

(駄目だ…ここでジャンボを逃がしちまったら…もう届かねえ…!)

魔力に余裕のないヒューザのジャンボへの攻撃手段は限られている。
そしてその限られた攻撃を絡め手で充分捌けるだけの技術をジャンボは持っている。

だが、幸いなことにジャンボはヒューザと直接手合わせしたことがなかった。
ジャンボから模擬戦を申し込んだことはあったが、過去に修行中の事故で偶然にも"ジャンボ"という名の友を殺めてしまったことのあるヒューザはどうしてもそのことを思い出し、それを断り続けてきたのだ。

だからこそ、ジャンボはコロシアムで他のバトルマスターとは何度も戦ったことがあるからとヒューザの立ち回りをその範疇でしか考えられていない。
ジャンボはヒューザの軒並み外れた戦闘センスと彼の闘魂を測り損ねていたのだ。

「逃がさねえ!」

ヒューザはゲレゲレの攻撃を最小限の動きで潜り抜け、気合いだけでジャンボに突撃していく。

「なっ――――――」

そして一閃。
霧の力で弱体化した剣をジャンボは弓で防ぐ。
だが、まだ終わらない。
ここでジャンボを逃がしてしまっては、何のために近接戦闘での技捌きに優れた片手剣を使っているというのか。

「超――――――隼斬り!」

「ぐあ!」

受けられた一撃では飽き足らず、隼斬りさえも超える神速の3連撃を加えていく。
だが、それでもまだ終わらない。
二刀流の内、まだ右手の片手剣しか使っていない。
左手のハンマーを振りかぶる。

918想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:05:52 ID:7rxWTKjA0
「いい加減、目を覚ましやがれえぇぇ!!」

連続攻撃の内のたった一撃。
それも利き手ではない左手での一撃。到底死ぬような威力の攻撃ではない。

だが、友の目を覚まさせるには充分だ。



――――――届いていれば、の話だが。

ヒューザは突然、左足に強烈な痛みを感じた。

「間に…あったか…!」

「なにっ…!」

ヒューザがゲレゲレを振り払うのにもう少しかかると踏んでいたジャンボはとあるワナを用意していた。

それはロッキールの支給品だった「ワナの巻物」と「ワナ抜けの指輪」による一方的なワナの結界。

ヒューザの予想外の攻撃でダメージを受けてしまったが、最終的にはジャンボの思惑通りワナに嵌めることに成功した。

しかも、ヒューザが踏んでしまったワナは運悪くトラバサミだった。薄黒い刃がヒューザの足をガッチリと掴み移動を封じる。

そして、背後からはゲレゲレが迫る。
ヒューザに飛びかからんとするその瞬間――――――



「――――――ゲレゲレ、待て。」

ジャンボがゲレゲレを制止し、武器の届かない位置からの対話にかかる。

「さて、これで戦いは俺の勝ちだ。俺はいつでもお前を殺せるんだぜ。」

「それがどうしたよ、恩でも売って協力させようってか?」

「ああそうさ。何もしなかったらアストルティアは滅びる。だがよ、今なら防ぐことが出来るんだ。」

一度、目を閉じる。
確かにジャンボの言うことは筋は通っている。
アストルティアが滅びる。
今居る場所がアストルティアではないからその重みを正確に測りきれていないのかもしれない。
アストルティアの滅亡を防ぐために他の世界を滅ぼすことになったとしても、こればかりは正当防衛ではないか。自分の世界とどこかの誰かの世界を天秤にかけた時にどちらに傾くのか、ただそれだけの話ではないのか。

919想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:06:48 ID:7rxWTKjA0


「――――――はっ馬鹿馬鹿しい。」

ヒューザは嘲笑と共に顔を上げる。
後は任せた――――――最期の時にメルビンはそう言った。命を投げ出してまで自分の可能性を信じてくれたメルビンの想いも自分の中には宿っているのだ。
ここで命惜しさに誰かの大切なものを奪う側に回るのがメルビンの意志なのか、そんなこと、言うまでもなくNoである。

また、ヒューザはククールを殺したのだ。
それが間違っていたとは思わない。誰かが止めなければククールはまた誰かを殺していたのだから。
しかし、ククールを悪として断じたヒューザはククールと同じ奪う側に回るわけにはいけない。それが奪った命に対して筋を通すということなのだ。

「お断りだ。そんな生き延び方した俺じゃあ、家族が出来た時に胸張れねえだろうが。」

そう言い張れたヒューザに、後悔は無かった。

「まあお前らしいと言えばお前らしい死に方だよな、ヒューザ。その強情とも言えるほど真っ直ぐなとこ、嫌いじゃなかったぜ。」

暗闇の中、ヒューザは微かにジャンボの顔を垣間見た。
自分たちの世界を何としても守り通そうとしているジャンボ。しかし、その目の先にはヒューザのことも――――――そしてジャンボ自身のことも映っていないように思えた。

「ジャンボ、お前は――――――誰のために戦ってる?」

「……そんなモン、俺のために決まってんだろうが。」

「違う、てめーは冷酷だが理不尽じゃねえ。」

ヒューザの言葉がジャンボに突き刺さる。
他人のために戦うような"いい奴"はこの世界では生き残れない。それはジャンボが何度も実感してきたことだ。

「チッ…やっぱお前は鋭いな、ヒューザ。だがな、間違ってるぜ。誰かのためじゃねえ、俺が戦ってんのはあくまでも、俺の――――――"ジャンボ"のためさ。」

ヒューザに背負うものがあるように、ジャンボにもまた背負うものがある。ジャンボの本質は悪ではないのだ。

「この世はな、弱い奴が犠牲になることで成り立ってんだ。そして――――――」

おそらく、これは相手がかねての友であるヒューザであったからだろう。

「――――――そんなクソッタレな世界の中でも、何としても守りてえモンもあるんだよ。」

相手がヒューザであったから、ジャンボは心の内に仕舞い続けてき本音を零してしまったのかもしれない。

920想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:07:37 ID:7rxWTKjA0
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

多種族が混在するアストルティアには、種族差に関する問題が少なからず存在した。
ジュレットの町での猫族とウェディの関係もその一例といえる。誰も虐げられることのない世界、それは多くの人が掲げる理想像だろう。

しかし、それはなくなることがないとジャンボは悟ってしまった。
弱き者を犠牲にしているのは人でも魔物でもない、この世界なのだから。

そのことに気づいたのは、破邪船の技術を復活させるために過去の世界に旅立つ際に、人間の姿のままふとアグラニの町へと立ち寄った時だった。
ジャンボが人間の姿へと変わった時、アグラニの町のジャンボは何かしらの大いなる力で最初から人間だったことになっていたのだ。

最初は随分と優遇されているものだ、程度にしか思っていなかった。自分のために世界中の者たちの記憶を書き換えてくれるとは、何と畏れ多いことだろうか、と。

しかし、ジャンボは最初からおかしかったことに気づいてしまった。
ご丁寧にオーガ、ウェディ、プクリポ、エルフ、そしてドワーフのどれに転生するかどうかを選ばせておいて、ドワーフを選んだら「偶然にも同姓同名の、偶然にもドワーフの男が、偶然にもたった今死んだ」と何者かは言った。

そんなわざとらしい偶然も、この世界が人の過去を平気で捻じ曲げるように作られているのだとすると説明がつく。

次にジャンボが考えたのは、一体何が偶然ではなかったのかということ。

仮説がひとつ。
もしかしたら、"ジャンボ"の名前はジャンボではなかったのかもしれない。
本当に偶然死んだだけのドワーフの男が、ジャンボという名前だったことにされているだけなのだろうか。
それならばまだ罪悪感は薄い。

しかし想像はそこで終わることは無かった。
この時ばかりは、ジャンボは自分の頭の小賢しさを疎ましく思うこととなる。

921想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:08:55 ID:7rxWTKjA0
――――――そう、もしかしたら"ジャンボ"は世界を救うこととなる自分の受け皿となるためにこの世界から殺されたのかもしれないのだ。

ジャンボは世界を旅する中で様々な称号を授かるだけの功績を残してきた。
しかしその下には、弱き者の犠牲がある。世界から見放された者たちがいる。
その理不尽にも、そしてその理不尽の上に胡座をかいて座っている自分自身にも嫌気がさす。

しかし弱き者はその理不尽を受け入れるしかなく、そんな世界の仕組みを変えるだけの力が自分にあるわけでもない。

「だったら――――――せめてお前の居場所くらいは守り抜いてやるさ、"ジャンボ"。」

自分がこの世界における弱き者ではないことは分かっていた。
むしろ、自分を中心に世界が回っているかのような感覚さえ覚えるくらいにアストルティアの旅は上手く進んでいった。

でも、このアストルティアは本来は自分の世界ではない。
自分は冥王ネルゲルに殺され、自分の居場所は既に失っていたはずなのだ。今ここにいられるのは"ジャンボ"の居場所を奪っているだけに過ぎない。

居場所を失うのは自分だけでいい。
住んでいた家も、親しい友人も、大切な兄弟も、全て炎の中に飲み込まれていくあの光景を、あの想いを、"ジャンボ"には味合わせたくなかった。

自分が奪った居場所をいつか返せる時が来るのなら――――――いや、仮に返せなくとも自分を通じて"ジャンボ"が居るべき場所に居られるのなら――――――



――――――こんな理不尽なアストルティアでも、襲いかかる脅威から守っていこうと誓った。

それがジャンボにとって、奪った命に筋を通すということなのだ。

そう、ジャンボは借りはきっちり返すタチであった。
金も、怒りも――――――そして、自らの罪も。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

922想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:10:26 ID:7rxWTKjA0

(どうした…?なぜ撃ってこねえ?)

ヒューザとジャンボは未だに硬直していた。

トラバサミによる拘束も時間制限はある。
交渉に応じないヒューザを殺すには絶好のチャンスだというのに、ジャンボはヒューザを殺さずにいた。

いや、殺せずにいたのだ。

それも当然だった。
見ず知らずのククールでさえ、ヒューザを殺すことに迷いながら剣を振るっていたのだ。
2年以上の付き合いであるジャンボが迷わない道理はない。

アストルティアを、"ジャンボ"の居場所を守るために戦ってきたはずだった。
それなのに何故、アストルティアを守る側の存在であるはずのヒューザと戦っているのだろう。
感情がぐるぐる渦巻いて止まらない。
もはやジャンボはヒューザを殺すことを心の底で拒んでいることを認めざるを得ない。
そしてそのことに気づいた今、自らとどめを刺すことも躊躇われた。

「ゲレゲレ、コイツを殺せ!」

行き場を失くした力を腹に込めて叫ぶ。
そして操られた執行者は当然、躊躇うこともなくヒューザを見据え飛びかかる。
ジャンボから待てをくらっていた間、ずっと力を溜めていたのだ。
今までのどの攻撃よりも強力な一撃がヒューザに向かって放たれんとしていた。

「悪いな、ゲレゲレ。男と男の戦いに第三者はいらねえんだ。」

かといってヒューザも負けるわけにはいかない。
ジャンボの繰り出したのは逃げの一手だ。
決まっていない覚悟をゲレゲレに託して逃げているだけ。
そんなものに負けるヒューザではなかった。

「スタン――――――」

ヒューザはハンマーを右手に握る。
片手剣や両手剣に比べた場合、ハンマーの役割は敵を殺すことではない。キャンセルショット然りMPブレイク然り、敵の戦力を排除すること。
そしてゲレゲレに向けて放つのは、その真髄とも言えるハンマーの大技。

「――――――ショット!」

脳天にハンマーの衝撃が響き渡り、ゲレゲレの爪はヒューザに届くことなく地に伏すこととなった。
そして、これは魅了された仲間に対する対処法としても有効な一手でもある。
ツッコミを入れる、タライを落とす、そのような対状態異常専門の特技を覚えていなくとも魅了状態は解除出来るのだ。
そしてその方法は至ってシンプルで、殺さない程度に殴れば時々治る。

923想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:11:36 ID:7rxWTKjA0

「逃げは許さねぇぜジャンボ、てめぇがかかってきな!」

拘束していたトラバサミも消え、再びジャンボに向き直る。

「仕方ねえな…お望み通り、この俺が引導を渡してやらあ!」

ゲレゲレが気絶し、本当に覚悟を決めざるを得ないことを認識したジャンボが弓矢を引く。
その矢は暗闇の中でもなお禍々しく映るほど濃い闇に染まっていた。

(ククール。お前のことを許すことは出来ねえけどよ、お前がただ邪悪なだけの奴じゃねえことは知ってる。だからよ、お前みたいに道を踏み外した奴の目を覚ますため、少し力を貸してくれ。)

ヒューザの持つハンマーに一筋の光が灯される。

(メルビンのじーさん。あんたの信じてくれた可能性ってもんに掛けてみるさ。あんたに顔向け出来ないような真似だけは、したくねえからな。)

ヒューザの持つ剣に一筋の光が灯される。

「――――――ダークネスショット!」

向かい合うジャンボの弓から大技が放たれる。
まるで死を象徴しているかのように真っ黒な一撃。
ヒューザの残り少ない魔力で迎撃出来るような生半可な威力ではないだろう。

しかし、今やジャンボは完全に独りだ。
それに対しヒューザは独りではない。
殺し合いの世界であっても触れてきた人々の想いがあった。
ジャンボがどれだけ強い想いを抱えていても、精神的に孤立している限りそこに「チャンス」は生まれる。

「――――――グランドクロス!」

放ったのはククールが撃ってきた特技。メルビンが命を張って撃ち返した特技。
ふたりの想いを背負い、見よう見まねで撃ち出す。

「ぐっ…てめぇ…どこにこんな魔力を残してやがったんだ!」

「てめーには分からねえさ。誰かの想いを踏みにじる奴にはよ!」

光と闇、対となるふたつの力がぶつかり合い、完全に拮抗する。
ふたりの立場は正義と悪に分断出来るものではない。背負うものが本質的に違うだけなのだ。
だからこそ、正義は勝つという正統論では決着がつかない。

勝敗を決めたのは背負った想いの数だった。
ヒューザのグランドクロスが更なる力を発揮する。
メルビンの想い、ククールの想い、それぞれを乗せて作られた光の十字架。そしてそれを正面から貫く三本目の光――――――ヒューザの想いまでもを乗せた三連撃がジャンボの操る闇の力を消し去った。

「うがあああああ!!」

グランドクロスの余波を受けたジャンボは咄嗟に防御の姿勢を取り、ダメージを軽減する。
しかしそれは同時に大きな隙となる。
ヒューザは一気にジャンボとの距離を詰め、ジャンボの手に収まっていたナイトスナイパーをハンマーで叩き落とす。

「俺たちの戦いに、武器なんざいらねえ!」

そして、ヒューザ自身もまた剣とハンマーを投げ捨てる。
武器が拳ひとつとなったヒューザは思い切りジャンボを殴りつけた。

924想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:12:28 ID:7rxWTKjA0
「ぐっ…てめえ…!」

「さあ、始めようぜ、ジャンボ。俺たちの第2ラウンドを。」

ヒューザはジャンボを殺す気など毛頭ない。
友人同士として腹を割って話すのに凶器など不要だ。
そしてこの瞬間、二人の"殺し合い"は幕を閉じた。
始まるのは、拳と拳の、想いと想いの、ぶつけ合い。

【E-3/草原/真夜中】

【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:1/4 MP4/5
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、道具0〜2 天空の剣、罠抜けの指輪 罠の巻物×2 ドラゴンローブ
[思考]:
基本方針:エビルプリーストに借りを返す。レックとチャモロを殺す。
1:自分の行いを知っている者達の口封じを行う。
2:自分の知り合いを探す
3:どうにかしてどうぐ使いに転職し、首輪解除を試みる

[備考]:※職業はレンジャーです。少なくともサバイバルスキルが140以上、弓スキルは150です。
※エビルプリーストの背後に黒幕がいるのではと疑っています

【ゲレゲレ(キラーパンサー)@DQ5】
[状態]:HP1/4、胴体にダメージ(中)、身体側面に切り傷 魅了?(※) 気絶
[装備]:悪魔のツメ@DQ5
[道具]:支給品一式、四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1
[思考]:
基本方針:主催を倒して脱出する。

※気絶から立ち直った後、ジャンボの「てなづけ」による魅了が解除されているかどうかは次の書き手さんにお任せします。解除されていなければヒューザを倒した後、禁止エリアへ行くことになります。

【ヒューザ@DQ10】
[状態]:HP1/5 MP0
[装備]:無し
[道具]:支給品一式 支給品0〜1
[思考]:仲間を探す 、ホイミン、ターニアを守る
ジャンボ、ゲレゲレを止める

※近くにターニアの支給品のランタン、ナイトスナイパー@DQ8、名刀・斬鉄丸@DQ10、天使の鉄槌@DQ10が落ちています。
ワナの巻物によるワナはトラバサミと共に時間経過で消えました。

925想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:13:45 ID:7rxWTKjA0
投下終了しました。

926ただ一匹の名無しだ:2018/06/01(金) 20:18:13 ID:ckohvGxo0
投下乙です
ここで止まるかー!
近くにアンルシアとかエイトとかいる中、どういう決着が着くだろうか
ヒューザはもとより、ジャンボも自分の主張を曲げる気はなさそうだしなあ
ネルゲルとの決戦時の約束とかもあって、10主にとって身体の元主の存在は重いからなあ

927 ◆znvIEk8MsQ:2018/06/10(日) 14:09:44 ID:zEIRyHuU0
まだ一時投下の方の採用が決まっていませんが投下しますね。

928孤独な王 ◆znvIEk8MsQ:2018/06/10(日) 14:10:49 ID:zEIRyHuU0
ポーラの追撃を振り切ったアベルは、北へ向かっていた。

時刻は既に夜7時を過ぎている。
太陽の加護を受ける時間は、既に終わった。
あるのは、闇。

月や星の光こそあるが、そのような弱い光ではこの男を照らすことは出来ない。
闇を呑み込み、闇に染まった剣を持ち、闇を撒き散らしながら男は進む。
向かうあてもなく。


闇は、様々な幻を見せる。


一人目に現れたのは、悪魔神官の少女
仮面に塞がれて顔全ては見えないが、笑っているのが分かる。

「あなたはまだ、幸せを見つけていないのね?」
「黙れ。」

邪悪な瞳で睨みつけ、剣を一振り。
消える。

それもそのはず。彼女は自分が殺したから。


次に現れたのは、高貴な身なりの女性
顔も体も覆っている部分が少ないため、一層笑っているのが分かる。

「心は私よりも醜くなったようですね。」

突然、自分が切り刻んだ時の姿に変わる。
それでも冷たく笑っている。

次に現れたのは、リオウ。
やはりというか、笑っている。
「主殿、まだまだ足りぬぞ。もっと破壊しようではないか。」

予想通り、というわけか。
今度現れたのは、港町で刺し殺した少女。
彼女もまた、笑っている。


笑っている。
この世界で関わって、死人となった者が、皆笑っている。

何がしたい。
自分の生きざまを、笑いに来たのか?
自分の負けてばかりだった人生が、そんなに見ていて面白いか?

929孤独な王 ◆znvIEk8MsQ:2018/06/10(日) 14:11:19 ID:zEIRyHuU0

「消えろ!!」

剣をまた一振り。
それらは、どこかへ消える。


今度現れたのは、自分の息子
リュビは、笑っているのではなく、泣いていた。

「おとうさん!!お願い!!やめて!!」

そして、生涯共に生きる相手として誓った存在が、現れる。
彼女は、笑っても、泣いてもおらず、怒っていた。
「それがアンタの答え?だとしたら見損なったわ!!」


最後に、20年以上顔を合わせていない父親が現れる。
父親は、笑っても、泣いても、そして怒ってもいない。
ただ、じっと自分を見つめている。

幻のはずなのに。その瞳は本物のように強い。

「消えろ!!」
剣を一振り。
それで、幻は消える。

幻が消えたとともに、アベルは崩れ落ちた。

(?)

その理由は簡単だ。
体力の消耗。

どれほど戦慣れした者でも、朝から夜まで戦いを続けていればいずれ体力が底を尽きる。
怒りや憎しみを戦いの原動力に変換するような戦い方は、それをぶつける相手がいなくなった瞬間に疲れがどっと出てくる。

ダメージを受けた分は、ベホマで回復し続けていたが、そのベホマも限界をもうじき使えなくなるだろう。
これでは、この剣の秘伝書で必殺の一撃を放つどころではない。

しかも自分のことばかり集中しすぎて、周りを見ていなかった。
実はつい先ほど、目を凝らせば見えるほどの近くを男女が通って行ったのを気づかなかったのは、このためである。
最も、彼らも急いでいたということもあるのだが、

(こんなところで、死んでたまるか……)
再度立ち上がる。
しかしそのエネルギーも、闇の力が元だ。

(あれは……)
遠くに見えるのは、山小屋だ。
是非とも、休憩を取りたいところだった。
破壊の剣を杖代わりにし、ゆっくりとそこへ近づく。

930孤独な王 ◆znvIEk8MsQ:2018/06/10(日) 14:11:49 ID:zEIRyHuU0
人がいるのを警戒したが、その心配はないようだ。
明かりを付け、中を見渡す。


中は小さいが、ここの持ち主は宿屋を営んでいたらしく、寝床がある。

どさり、とベッドに倒れこんだ。
「………。」
その目は、どこを見ているのか分からない。
ただ、何かに対して言いようもない憎しみを抱いていた。

この場で眠りに落ちたいところだが、それどころではない。
寝た所を、誰かに襲われる可能性だってあるからだ。

その代わりといってはなんだが、シーツを拝借する。
剣の刃先で器用に破き、支給品の水に浸して傷口に巻き付ける。
奴隷時代も、旅人だった時も、物資は常に不足気味だったので、こういうことはよくやっていた。

続いてタンスを開き、何かないか調べる。
宿屋を営んでいた場所だけあって、粗末ではあるが保存食がある。
干し肉や野菜、チーズなどが置いてあった。

この場で火をおこすなどもっての外だが、そのまま食べられる物も多い。
不思議なほど食欲は出ないが、文句を言うどころではない。

無理矢理胃袋に押し込む形で、栄養を摂る。
最初は受けたダメージも相まって胃袋が受け入れず、吐き気も催したが、それごと呑み込むにつれて食欲も戻ってきた。


あれは一体何だったのか。
この世界が見せる幻か。
それとも、自分の心が蝕まれた結果だろうか。

(!?)
闇に浮かぶ影。
また幻か、と思う。

目を凝らしてみると、それは幻ではなく、実体だった。
ただし、それは生物ではない。
天使を模した石像だった。


それは、穏やかな笑みを浮かべている。
このような戦いの世界の中でも変わらずに。


飾り気はないが、丁寧な作りだった。
旅をするにつれて多くの石像や他の芸術作品を多く見てきたアベルがそう思うほど。

931孤独な王 ◆znvIEk8MsQ:2018/06/10(日) 14:13:31 ID:zEIRyHuU0

ここは旅人の宿屋としての施設だったのだとばかり思っていた。
だが、教会としても兼用されていたのかもしれない。
ここを訪れた者が、自分の旅の無事を祈っていたのだろうか。


そういえば、自分の父も旅に出る前は祈りをささげていた。
あの忌まわしいラインハットへの遠征の前も。

10年後、かつて父が祈りを捧げていた教会へ行った時、シスターが自分の境遇を憐れんだ。
そして、母が見つかるようにと、そのシスターと共に祈りを捧げた。


ふざけるな。


私は神など信じない。
神がいるというのなら、なぜ信仰していた私達親子をこのような境遇に陥れるのだ。

ミルドラースは「神を超えた」とほざいていたが、あんなものを見ているからあのザマだったのではないか?

自分達の世界を統治していたマスタードラゴンも同じような存在だ。
奴が何をしてくれた?
私は奴隷として苦しめられている間、石像として苦しんでいる間。
奴は薄暗い洞窟でトロッコを乗り回していただけだ。

神も天使もマスタードラゴンも信じるだけムダだ。
この世はやはり力が全てなのだ。
それ以外を信じる者も、信じている存在も、全て打ち砕いてやろう。

憎しみを込めて、一刀の下に天使像を叩き壊す。
折角幾分か回復した体力を無駄遣いするのは勿体無いが、笑みを浮かべた天使像の存在が憎くてならなかった。

私は神など信じない。
既に放送で、半分が息絶えたと知った。
その中に私の父や妻、息子、ついでに忌まわしい仇敵も含まれていた。

しかし、私は傷を負いながらも生きている。
この世界で神への信仰に背いた行為をあれほど行ってもだ。


ゲマはともかくとして、父や妻や息子は悪と闘っただろう。
娘がそうしたように。
だが結局死んでしまった。
先程の闘いも、父や妻の死に一瞬でも動揺したのが敗因に繋がった。
やはり、この世界は力が全てなのだ。

自分の世界は、既に壊れ始めている。
否、壊したのは自分だ。
だからぼろきれのような世界に代わる、新しい世界を自分で作ろう。
家族や恋人、神に頼らず、自分で幸せをつかみ取る世界を。
それが自分以外のすべての人間を不幸にすることなら、全ての人間を不幸にしよう。


もう少し休憩したいところだが、そのために行かなければならない。

932孤独な王 ◆znvIEk8MsQ:2018/06/10(日) 14:14:45 ID:zEIRyHuU0
最後に、まだ開けていなかったタンスを開けてみる。
布の服でも、包帯替わりにはなるだろう。


そこには求めていたものはなかった。
代わりにあったのは小さなメダル。
この世界でも光を放っていた。
だが、この世界で役に立つ物ではないだろう。
この戦いが始まった直後なら、裏表の結果に沿って行動できるくらいはしたかもしれないが。

しかし、その面を見ていると思い出す。

メダルを見つけてはしゃいでいるリュビを。
それを見て笑っているサフィールを。
これでいい品が貰えるなら、おとうさまに頼んで作ってもらおうかしらと冗談を言うデボラを。

消えない。
三人の笑顔が、脳内から消えない。
あの時、自分はどんな顔をしていたのだろう。

やめろ。
私が作る世界に、そんなものはいらない。
私の作る世界に、すぐに壊れてしまう幸せなんていらない。

それは決意したはずなのに。
自分の足枷にしかならないと実感したばかりのはずなのに。

「消えろ!!」
不愉快なものを投げ捨てる。



孤独な王は再び歩き始める。
一歩、また一歩と、暗黒の道を歩く。
もう、幻は見えなかった。
彼が決意を固めたからか、体力が回復したからか、はたまた幻にさえ見放されたか。
その答えは、闇だけが知っている。


【E-7/一日目 夜中】

【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/3 MP1/4
[装備]:破壊の剣
[道具]:支給品一式 剣の秘伝書
[思考]:過去と決別するために戦う

933孤独な王 ◆znvIEk8MsQ:2018/06/10(日) 14:14:59 ID:zEIRyHuU0
投下終了です

934ただ一匹の名無しだ:2018/06/10(日) 16:25:59 ID:tk09QvhQ0
投下乙
闇を深めつつも、人間としての情はなかなか捨てきれないもんだな

935ただ一匹の名無しだ:2018/06/10(日) 19:58:19 ID:ebMNEvmA0
投下乙です

936踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:42:45 ID:LjyLYJEw0
一時投下スレの分、投下します。

937踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:43:09 ID:LjyLYJEw0
また、守れなかった。
ひとり、ひとりと、隣からいなくなっていく。

微かに見えた黒い雷は、おそらくジゴスパークだろう。
レックやテリーが使っていたのを何度も見たことがあるし、はぐれメタルの職を経験している自分も使える技だ。

それでも、彼女の使う地獄の雷は自分のそれの比ではなかった。
そうさせたのは、彼女の実力か、それともそれほど強い想いなのか。
どちらにせよ、あの威力では先に行っていたローラとアレフはもちろん、後からついて行ったトンヌラもただでは済んでいないだろう。

ハッサンを殺した2人が死んで、ざまあみろと思う気持ちが心の片隅を支配して、聖職者でありながらそんな邪な気持ちを抱く自分にも嫌気が差して、スクルドを止められなかったことも自分を責める材料になって――――――

なぜ、こんなことになったのか。自分の中から原因を見出すのは簡単すぎるからこそ、他人の中から原因を見出したくもなる。

そしてその対象はキラーマジンガ。
あの機械兵が間違いなく原因のひとつだ。
あの時、橋の上で妨害を受けなければもっと早くリーザス村に到着して、また違う結末を迎えていただろう。

たらればの話をしても仕方がないなんて分かっている。
もはや八つ当たりにも近いことだと分かっている。

海底宝物庫で、デュランとの戦いの中で、これまで幾度となく自分たちを苦しめてきたあの機械兵。こんな場所でも立ち塞がるのか、そう思えてさらに苛立ちを感じた。

「生命反応ヲ確認。」

機械兵と相対する。
橋の上で戦った時には折れていなかった剣が折れているのに気づく。あの後にまた誰かと戦ったのだろう。
じゃあ、それは誰と?

答えはすぐに思い浮かんだ。

おそらく、この辺りにいたはずのサフィールだろう。

そして機械兵がここにいるということは――――――

938踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:43:53 ID:LjyLYJEw0



――――――ああ、また守れなかったのか。

サフィールが逃げ延びたのだとか、戦ったのは別の人物だったのだとか、そんな可能性はあったのかもしれないがそんなことを考慮する余裕はなかった。

憎い。
絶望が、憎悪が、溢れ出して止まらない。



あの機械兵が――――――憎い。



「敵ト、認識。」

そうだ。
奴にとって僕が敵であるように、僕にとっても奴は敵なのだ。

人の心を弄ぶあの魔王の如き男の手先。
多くの命を奪っていった敵――――――

いや、本当の意味で皆の敵なのは僕なのかもしれない。
ハッサンも、もう少し早く動いていれば死なずに済んだのだろうか。
アモスとも最後の瞬間はきっと分かり合えていた。殺さなくても、何かしらの手段はあったはずだ。

トンヌラも、アレフも、ローラも、リュビも、サフィールも――――――


一旦、考えるのをやめた。


せめて、今はこれ以上誰も失うことのないように。

「キラーマジンガ。貴方は、僕が倒す。」

「戦闘開始。あべる様ノタメニ、破壊ヲ。」

言うが早いか、ジンガーより早くチャモロは動く。
ドラゴンの杖をサフィールに渡したチャモロは今は何も武器を持っていない。
元より格闘技を特別好むチャモロではないが、キラーマジンガには呪文が通用しない。
また、威力の高い特技は発動までの隙が大きい。遠距離戦では弓矢を駆使して戦うキラーマジンガ相手に使う余地があるとは思えない。

ちまちまとした攻撃では鋼鉄の装甲を貫けるはずもなく、勝機があるとすれば接近戦での高威力の格闘技が最も有効だろうとチャモロは判断した。

939踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:44:33 ID:LjyLYJEw0
チャモロが近づくと予定調和とでも言うが如く振り下ろされる槌。キラーマジンガにとっては牽制程度の攻撃なのだろう。
だがそんな簡単な攻撃でさえ軽装備の人間相手には一撃必殺となり得る。
仮に死なずとも、これをまともに受けてはその後の剣による追撃を避けられない。

それでも、不思議と怖くはなかった。
何度も戦ったことのある相手だからだろうか、それとも多くの死を間近で経験し過ぎたからだろうか。槌による牽制を難なく躱す。

ただ、躱したからといって油断など出来ない。
槌により叩きつけられた地面から砂埃が巻き起こり、微かにチャモロの足を取る。
大局的に見るとただの砂埃でもコンマ1秒の動きの乱れが生死を分ける戦いの中では立派な障害物になりうるのだ。

だが、チャモロは次の一手を回避に回すために動いていなかった。
キラーマジンガの攻撃を2度受けきると隙が出来ると分析したが、相手の行動にパターンがあるとはいえ自分の行動までもをパターン化するのは危ないかもしれないからだ。

初撃を回避してすぐに動く。
砂埃で足が取られないよう、回避と同時に大地を踏みしめていた。そして敵が剣を振り下ろす直前、地面をバネに飛び上がり膝蹴りを入れる。

ガシャリと鋼の音が鳴り響き、ジンガーは後退する。
折れた剣での第二撃はチャモロには届かない。



「ヤハリ、ソウカ。」

ジンガーは呟いた。
先程の戦いは殺し合いではなかった。だが、今は紛れもない、殺し合いをしている。
破壊し、破壊される――――――このために、自分は動いているのだ。



中距離まで離れたジンガーはビッグボウガンを引く。
それに気づいたチャモロは1歩引き下がる。
矢を放たれて1番厄介なのは遠距離ではなく中距離である。
目視で回避出来るだけの距離があればこちらからの攻撃手段はなくともリスクを負うこともないのだ。

放たれたジンガーの矢を逸れて躱したチャモロは再び距離を詰めにかかる。槌にも剣にも対抗出来るよう両方に注意を払っていた。

来たのは横薙ぎの斬撃。
斬撃の軌道に合わせて身体を逸らして躱し、そのまま爆裂拳を叩き込む。
高速打から逃れるようにジンガーは引き下がった。

940踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:45:49 ID:LjyLYJEw0
チャモロは攻撃を防いでいるのではなく捌いている。
あくまで、相手の攻撃に対応する目的は自分の攻撃を一方的に通すことにあるのだ。

それでも、割に合わないとでも言うべきか。
1回相手を怯ませるのに2回の命の危険を潜らなくてはならない。どれだけ追い詰めても一瞬で形勢は逆転しうるのだ。
負けるビジョンはいくらでも見えるというのに、勝機は見えない。

でも、引くわけにはいかない。
ここで倒さなくては、直接的であれ間接的であれ、また誰かが犠牲になるかもしれない。

初撃。
ジンガーはチャモロに対し矢を連射する。
これまで回避を主とした戦術を取っていたためか、線状ではなく扇状の攻撃。

「はっ!」

真空刃でその全てを弾き飛ばして道を作り、前進する。

次は、打撃か斬撃か。
どちらが来ても反応出来るよう、ジンガーの両腕へと意識を集中する。

(!?)

しかし、ジンガーの取った行動はどちらでもなかったのだ。
第二撃は単純な体当たりだった。
衝撃がチャモロの身体を弾き飛ばし、草原の上に転がす。

もしも初撃にこれを受けていればそのまま追撃の矢を心臓に受け、無事では済まなかっただろう。
だが、キラーマジンガは2回の攻撃行動の後は次の攻撃行動までにしばしのインターバルを必要とする。
よって攻撃行動の出来ないジンガーがとった行動は接近。
チャモロが立ち上がる瞬間を狙い、次の攻撃行動として槌を振り下ろす。

避けられない。
槌の一撃がチャモロに命中し、骨にヒビが入る音が響く。
だが、命までを奪うことは出来ない。

「大防御…!!」

チャモロは左腕で一撃を何とか受け止めていた。
体つきは華奢なチャモロだが、それでもパラディンの職を極めているのだ。並の戦士を優に凌駕する防御力を持っている。

だが、勝てるわけではない。
左腕をやられ、武闘を駆使しての戦いも半ば封じられてしまった。
何度も倒してきた相手だと言うのに、隣に誰もいない、ただそれだけのことで人はこんなにも弱くなってしまうのだろうか。

でも、諦めるわけにはいかない。

「僕は――――――最後まで戦う…!」

誓いを言葉にして吐き出す。
根性論で乗り切れる戦いではないと分かっていても、叫ばずにはいられなかった。

941踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:46:39 ID:LjyLYJEw0



「―――そう、諦めちゃだめだ。」

「―――助太刀するでござる。」

その時、剣を振りかざすジンガーと素手で対抗せんとするチャモロの間に割って入る二人がいた。

その者の内の1人は炎を纏う赤剣と対をなすかのように青く美しい剣を構え、機械兵の斬撃を受け止める。
もう1人はその状態のキラーマジンガに体当たりをして怯ませる。

「間に合ってよかったでござる、チャモロ殿。お主のことはサフィール殿から聞いております。」

その者は図らずもサフィールが生きていることを伝えてくれた。

「…と、名乗るのが遅れたね。僕はアルスで、こっちはライアンさん。この殺し合いを終わらせるために仲間を集めてるんだ。」

そして孤立し弱っていたチャモロに、仲間がいることの安心感を思い出させてくれたのだった。

「アルス殿、一旦離れましょう。作戦についてチャモロ殿に。」

「分かった。」

アルスとライアンは予め何かしらの考えがあって挑んでいるらしい。
最低限の会話で行動方針を決めていく。

「魔神――斬り!」

アルスは攻撃の後の僅かなインターバルの時間を利用して渾身の一撃を叩き込み、ジンガーは数メートル吹き飛んでいく。

再び戦闘へと戻ろうとするも、既にアルスたちは逃走を成功させていた。

942踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:47:25 ID:LjyLYJEw0

「みんな友達大作戦…?」

ハッサンやアモスを想起させるような屈強な男の口から飛び出たのは、何とも可愛らしい作戦名だった。
人も魔物も、全員仲間にして主催を倒す。
確かに理想的ではあるだろうが、現実的に可能なのだろうか。

「しかし、相手はあのキラーマジンガです。仲間にすることは出来るのでしょうか?それに、この世界でも奴は破壊の限りを尽くしてきたはずです。やはり納得しない人だっているかもしれません。」

「そう…思うよ。」

サフィールの話では、マリベルの死には少なからずキラーマジンガが関わっていたそうだ。もちろん、憎いという心が全く無いといえば嘘になる。

「でも、それは機械兵が悪いんじゃない。裏にはいつも人間や魔物の悪意があるんだ。」

(――――――ぼくとしては戦いしか知らぬからくり兵に同情しているくらいだ。真に悪といえる存在がかれらではないということが人間たちにはわからんのさ。)

いつかゼボットが言っていた言葉。彼もかつてのアルスと同じように、自分の、そして他人の命に対して無頓着だった。
ただし彼は彼のやりたいことを見つけていた。だからこそエリーを作り上げられたのだろう。

それでも機械兵を憎まずにいられない人がいることも理解出来るが、アルスの意見がどうしてもゼボット側に傾くのは、長く命への関心を持っていなかったからかもしれない。

「…分かりました。ただ、どうやってあれを仲間にするのですか?」

「それには、考えがあるのでござる。」

「うん。サフィールによると、キラーマジンガは人間に従っているそうなんだ。」

「それは私も知っています。あのアベルという男の意思に従って破壊を繰り返しているそうです。」

「そう、奴はただ無差別に人を襲っているのではなく人の命令に従っているのでござる。ならば、何かしらの方法でこちらから命令することも可能なのではなかろうか。」

「なるほど、命令を上書きするわけですね。」

「ふたつ、可能性がある。まず1つ目。過去に機械の兵団と戦った時に、エラーを引き起こす音波を発する装置を使ったことがあるんだ。さすがに同じものは支給されてないだろうけど、何かしらの音波を発するものがあれば回路を狂わせることが出来るかもしれない。」

ただ、残念なことに音に関する道具は誰も持っていなかった。
そもそも橋の上で銃を暴発させた時キラーマジンガの近くでかなり大きな爆音が響いたはずだが、それで何のエラーも起こっていないことを見るに音によるエラーは現実的ではないのかもしれない。

「そして2つ目。これは…成功するかどうかは実は僕次第だ。"魔物ならし"という技があってね。魔物を手懐ける特技なんだけど、それが機械相手にも通用することがあるんだ。それを使えば、破壊の命令を解除することも出来るかもしれない。」

「そんな技が…!アルスさんは使えるんですか?」

「それが、僕は使えないんだ。でも他に方法がないのなら試してみるよ。仲間が使っているのを見たことだけならあるからね。」

ガボはモンスターマスターを極めていた。
生きていれば、きっとみんな友達大作戦の立役者となってくれていたのだろうが、感慨にふけっている暇はない。

こちらを発見した機械兵が迫ってきているのだから。

「敵ヲ、確認。破壊シマス。」

「違うさ、僕らは敵なんかじゃない。」

作戦開始。
そして殺し合いとは呼べない何かが、始まる。

943踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:48:11 ID:LjyLYJEw0
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

ジンガーがアルスを槌で殴り掛かる。
ライアンが割って入り受け止めるが、想像以上の重圧に氷の刃を弾かれる。

炎剣による第2撃を後続のアルスが弾き、ライアンは事なきを得た。

「助かったでござる…!そして気をつけてくだされ!心無しか斬撃の精度が上がっているでござるよ!」

ジンガーは戦った相手の行動パターンを分析している。
よって防御の手薄になりがちな部分を持ち前の正確さで確実に突くことが出来るのだ。

「ならば…真空刃!」

攻撃の軌道をずらすべく風の刃を放つ。
ジンガーの振るった剣は空を斬るに留まる。

正直に言うのなら、チャモロはキラーマジンガを仲間にするのにあまり乗り気ではない。
ただしそれは個人の感情によるものが大きい。
海底宝物庫での戦いはチャモロだけでなく、パーティー全員に大きなトラウマを与えた。
デュランとの戦いの前座として召喚されたキラーマジンガもレックのラミアスの剣を持ってしても苦戦を強いられた。
チャモロにはこれを仲間にするのは信じられないとさえ思える。

だが、仮に成功すればかなりの戦力となるのは間違いない。
ここで自分の感情を押し通して、そのせいで守れない命があればきっとまた後悔することになる。

だから出来る限りのことをしようと決めた。
元の世界に帰りたい、きっとその想い自体は誰もが同じはずだ。

チャモロの攻撃によって怯んだジンガーは後退しながら矢を連続で放つ。
接近攻撃を主とする3人を相手にするジンガーにとっては適度に距離を置く方が有利なのだ。

だが、ジンガーはアルスの素早さを見誤っていた。
疾風突きの勢いに乗せてアルスは接近する。
灼熱剣エンマによる斬撃が放たれるも、アルスはオチェアーノの剣で押し返す。
ジンガーはまだアルスと戦ったことがなく、動きのパターンがインプット出来ていないのだ。

そしてアルスはジンガーの下へと辿り着く。
武器を納め、鋼鉄の身体に触れる。

「もう破壊をやめるんだ、キラーマジンガ。エビルプリーストを倒すため、君の力を貸してほしい。」

言葉を紡ぎ語りかける。
機械相手に、周りから見たら滑稽だと笑われるかもしれない。
でも、人間の愛に触れて育てば機械兵にも"心"が芽生えるのだとアルスは知っている。
現代のフォロッド城のエリーを巡る騒動。アルスが自分の心の問題について考え始めたのもこの出来事があってのことだった。

944踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:50:20 ID:LjyLYJEw0

「誰も死ぬことがあってはいけないんだ。君も、君のマスターも、みんなでこの閉ざされた世界から脱出しよう。」

「ますたー…あべる様…?」

アルスの言葉にジンガーが反応を示す。
それは有効だったのか、それとも悪手だったのか。

「ソウ、あべる様ハイナクナッタ。あべる様ノ指示ガ必要ナノダ。」

「だったら僕たちも探すのに協力する。今は敵対しているかもしれないけれど、君のマスターも仲間にしてみせる。」

「ソウカ、分カッタ。」

言葉が届いた。
アベルと出会った時にどうなるかは分からないが一時的とはいえ成功したのだろうか。



「――――――オマエタチハ、今ハあべる様ノ敵ナノダナ。」

(…!)

一瞬抱いたそんな幻想は、すぐに打ち砕かれた。
ジンガーはメガトンハンマーで地面を思い切り叩きつけ、辺り一面を衝撃波で吹き飛ばす。

「ぐっ…!」

「駄目で…ござるか…!」

「やっぱり、アイツは…!」


言葉は届いた。
だが、ジンガーのアベルへの忠誠を読み違えていたらしい。

もっと早くに心を取り戻し、魔物マスターに転職出来ていたら。
もっと早くにトラペッタに辿り着き、ガボを守れていたら。
心を取り戻したアルスに待っていたのは後悔の連続だった。

もう、後悔はしたくない。
だが実力が足りない。

衝撃波によりアルスは空へと放り出される。
最も近くで衝撃波を受けた分、他の2人よりも大きなダメージを負ってしまったのだ。

そして、ジンガーの追撃がアルスに迫る。

「アルス殿!ぬおおおお!!」

ライアンがアルスの前に立ち塞がり、ジンガーの斬撃を氷の刃で受け止める。

想像以上の重圧に押し返されそうになる。
さらにその時、ジンガーの持つ灼熱剣エンマが更なる熱を放つ。

945踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:51:12 ID:LjyLYJEw0

アルスを狙ったのは隙が出来たからでも近くにいたからでもない。
アベルと敵対しているとの言葉を吐いたアルスにジンガーは怒っていた。
それは天使の守る世界の人々やアストルティアに生きる人々には"怒り"と呼ばれている現象。

だが、この場の全員が知らない。知る由もない。
この状態の者の放つ一撃は、平常時よりも遥かに強力であるということを。

「ぐっ…ぬおおお…!」

灼熱剣の熱で氷の刃が溶け始める。
だが、即座に完全に溶けるには至らない。それは氷の刃が強力な武器であったからなのか、それとも剣の元々の持ち主である今は亡きナブレットの執念なのか。

どちらにせよ、ライアンの守りが崩れるのは遠くはない。
アルスはすぐに戦闘復帰するにはダメージが大きいだろう。
動けるのは自分だけだ。そして、動くとするならば今しかない。

「黒き雷よ――――――」

ごめんなさい。
心の中で呟いた。

魔物も機械も、全員が協力して戦えるのならそれは本当に夢のような話だと思える。

だけど、そんな夢に執着して目の前で消えるかもしれない命を見捨てることは出来なかった。

「我が敵を―――飲み込め。」

あの時のスクルドもきっと、守りたい何かがあったのだろう。
それは命かもしれないし、想いかもしれないし――――――何にせよ、許してはいけないのに許さなくてはならない気がした。

彼女も、方向性は違うのかもしれないけれど、今の僕のように苦しんでいたのだ。

「ジゴスパーク――――――」

地獄の雷を呼び出す。だが打ち出すことはしない。
このまま放とうものならライアンもアルスも巻き添えにしてしまう。
チャモロは荒れ狂う力を右腕に込める。

(ハッサンさん…見守っていてくれていますか?今の僕はあなたに胸を張ることは出来ないけれど――――――)

ジンガーに近づくにつれて灼熱剣の熱気が伝わってくる。
裸出した顔を、腕を焦がすその熱がやけに冷たく感じられた。

(せめて、今はこの技で――――――)



「正拳――突き!!」

946踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:52:12 ID:LjyLYJEw0



地獄の雷を纏った拳が、ジンガーの装甲を真っ直ぐに貫いた。
悲鳴をあげることもなく、機械兵はただただ砕けていく。
機械が誤作動を起こした時の不快な音が鳴り響き、それも徐々に止まっていく。

「あべる…様…オ役二立テズ…申シ訳アリマセン…。」

そんな中でただひとつ、機械兵が最期に発した言葉は、機械兵のものとはとても思えないくらいに、人間味に溢れていて――――――

この機械兵も苦しんでいたのか?
そんな疑問が、そんな迷いが頭の中を掠めた時には、既に全てが終わった後だった。

作戦は失敗した。
キラーマジンガを殺したこと自体は間違っていなかったはずだ。
ライアンとアルスの命を守れたことを誇りに思うべきなのに。

でもキラーマジンガをこの手で殺したことを、この作戦の失敗を、どこかで喜んでいる自分がいたのも確かだった。



その後は、どことなくいたたまれない空気が辺りを支配していた。

「僕たちはリーザス村へと向かう。チャモロ、君も仲間になって欲しいんだ。」

「…ごめんなさい。僕はトラペッタ方面に向かいます。」

サフィールが向かったらしい場所。
たった今、感情の枠にヒビが入って感情が零れ出して、そのままにキラーマジンガを殺した。
今リーザスに向かって、もしもハッサンの仇の2人が生きていたら、スクルドと再び出会ったら、その時自分がどうするのか、それを考えるのが怖かったのだ。

「サフィールさんは僕が守ります。彼女と共に仲間も集めます。だから、もう一度会えたらその時は――――――また僕を仲間と呼んでほしい。」

「そっか。分かったよ。さて、行こうか、ライアンさん。」

「うむ…」

ナブレットの形見だった氷の刃は完全に溶けてなくなっていた。
形見の武器自体にそれほどの執着があるわけではなかった。大切なのは、あの時にナブレットが剣を渡してくれたから自分は今こうして生きているということ。

「ナブレット殿…ありがとうでござる。」

小さく呟いて、アルスの渡してくれた新たな剣を装備する。
まどろみの剣。ラリホーの効力のあるこの剣はきっとみんな友達大作戦に貢献してくれるだろう。
散っていった命に報いるため、せめて前を向いて、戦おう。

ある者は無力感を噛み締め、ある者は使命に燃えて、ある者は罪悪感に苛まれ――――――それぞれがそれぞれに思うところのあるこの戦い。
ただし、戦いはまだ終わっていない。
この戦いは始まりにしか過ぎないことを、この時はまだ誰も知らなかった。

947踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:53:26 ID:LjyLYJEw0


【G-5/平原/真夜中】

【アルス@DQ7】
[状態]:HP1/5 MP微消費
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜2) ゲルダの不明支給品0〜1個 道具0〜2個(本人確認済み)
[思考]:この戦いを終わらせる。ミーティア、キーファ、フォズを探す。リーザス村でアイラとマリベルを弔う。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。

【ライアン@DQ4】
[状態]:HP1/4 全身の打ち身、顔に傷、兜半壊、腹部に打撲、鎧半壊
[装備]:まどろみの剣
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1)
[思考]:ホイミンのみんな友達大作戦も手伝う。

【F-4/平原 /真夜中】

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP3/10 MP1/5 左腕骨折 ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)喪失感
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める 近くにいる可能性のあるサフィールと合流する
※チャモロはローラが死んだと思っています。
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。また、はぐれメタルの職業を少なくともLv7まで経験しています。魔法使い、魔法戦士、賢者、勇者は経験していません。

948踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:59:29 ID:LjyLYJEw0


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「くくく…キラーマジンガ――――――いや、ジンガーと言うのだったな。本当に恐ろしい機械兵よ。主への忠誠心から、自ら別の世界の可能性を掴み取るとは…!」

主催者エビルプリーストは笑っていた。
ジンガーの放ったグランドインパクトも怒りによる能力上昇も、彼のいた世界のキラーマジンガが使いこなせるものではない。

「バラモスが死んで退屈しておったでな――――――救ってやろうとも考えていたが、どうやらその必要もないようだ。」

奴が他の世界の可能性を掴み取ったのなら、必ずや起こる現象があるはずだ。
そしてそれは何を生み出すのか、予測もつかない。

「何とも面白い…面白いではないか…くはははははははははは!!!」

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

(あべる…様…オ役二立テズ…申シ訳アリマセン…。)

機械の域を超えたその忠誠心は、もはや心と呼ぶに相応しいものであった。
そしてジンガー自身がそれを認めた瞬間、"怒り"なる感情が芽生え、気付けばそれまでインプットすらされていなかった攻撃を放っていた。

だが、異なる世界の可能性はそれだけには留まらない。
アルス、ライアン、チャモロの3人がジンガーの居た場所を離れてしばらくした後、1体の機械兵が天より舞い降りた。

その機械兵はキラーマジンガであり、ジンガーではない。彼は地に伏し動かなくなったジンガーを見下ろしている。

「Code 87:Remote Repair 開始。」

そしてあらかじめインプットされていたデータの通りに、ジンガーに腕を宛てて壊れた部品を組み直していく。地獄の雷によって破壊された装甲が、アクセルが、修復されていった。

(あべ…る…様…)

あの方の下に戻りたい。
あの方の力になりたい。
あの方の腕として、破壊の限りを尽くしたい。
盲信とも言えるだけの心を心臓部に宿して、ジンガーは地の底より舞い戻った。

「助カッタ。宜シク頼厶、個体Bヨ。」

「…。」

心の宿った機械兵と、心無き機械兵。
2体はそれ以上言葉を交わすこともなく、アクセルを踏み込んだ。

949踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:59:48 ID:LjyLYJEw0
【F-5/平原 /真夜中】

【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:HP1/4 
[装備]:折れた灼熱剣エンマ@DQS メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:アベルを探す、邪魔する者は破壊する。
[備考]:サフィール達に疑問を抱いています。
アルス達の向かった先を知りません。

【キラーマジンガB@DQ10】
[状態]:健康
[装備]:聖王のつるぎ@DQ10 聖王のハンマー@DQ10 聖王の弓@DQ10 アクセルギア@DQ10
[道具]:支給品一式
[思考]:無し
[備考]:DQ10のキラーマジンガの特技を使いこなします。
アベルと出会う前のジンガーのように、命令がインプットされていない状態です。

【残り33名】

950 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 23:03:41 ID:LjyLYJEw0
投下終了しました。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

続いて、投下します。

951星空、遥か遠く ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 23:06:04 ID:LjyLYJEw0
コニファー、フアナ、アスナの3人はトロデーン城に辿り着いた。

恐らくトロデーン城内は今、この世界で最も安全な場所のはずだとコニファーは推察する。

ヘルバトラーとの戦い中に辺りに敵が潜んでいたとは思えない。仮に居たとすれば全員が傷だらけになっている絶好の狩り時を逃すはずがない。また、東から敵が襲ってくるには先に行ったジャンボ一行やそこに居るというジャンボの仲間、更にはジャンボを追いかけるアンルシア達やその後を続くピサロまでを突破する必要がある。
これ以上心強い防衛ラインはそうそうないだろう。
心配があるとすれば南に居るというバルザックだが、自分が出会ったイザヤールに加えて2人の助っ人が戦ってくれているらしい。
サヴィオ1人で翻弄出来るくらいの魔物相手に3人がかりで戦っていて、その3人が放送当時は誰も死んでいなかったとなると、おそらくはそれほど大きな脅威でもないだろう。

かといって心が休まることはない。皆が皆、失いたくない人を失ってしまった。
一時的に安全を確保したことにより、当たり前のように隣にいたかつての仲間がもういないということをどうしても実感してしまう。

喪失感はフアナが最も大きいように見える。
何せかつての仲間が自分を庇って死んだのだ。それも、とても告白とは言えない、不完全な告白を残して。
あの時ああしていれば――――――そんな後悔が渦巻いているのだろう。
その後悔は必要なものだ。
むしろ何とも思われていないのならサヴィオが報われない。
必要なのはその死から目を逸らさず、受け止めた上で前を向くことだ。

「なあ、お前ら。」

コニファーは2人に話しかける。

「ハ、ハイ!」

「ふ、ふふふふふぁい!!」

片目の潰れた自分の風貌もあってかフアナの返事はどことなくぎこちない。分かってはいたがアスナの返事はどこまでもぎこちない。

旅を始めたばかりのスクルドとポーラもこのくらいの距離感だったなと2人に妙な親近感を覚えると共に、そこに居ないアークの枠は二度と埋まることはないのだと思うとどうにもやりきれなくなってくる。

952星空、遥か遠く ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 23:07:16 ID:LjyLYJEw0
(アーク…優しかったお前のことだ…きっと誰かを守って死んだんだろ?)

新しい町に行っては人々の頼み事を片っ端から聞いて回るようなお人好しだったアークが殺す側に回っていたとは到底思えない。そしてアークに真っ向から勝負を挑んで勝てるような奴がまだこの世界にいるなんて考えたくもないというのも半分あった。

「ええと…コニファーさん?」

フアナの声でふと現実に立ち返る。
そういえばこいつらに話しかけたんだっけか、とコニファーは頭を掻いた。

「お前らは早いとこ休みたいところかもしれねーが、大事なことだ。ちとテラスに来な。」

行き場のない2人の想いをこのままにしておいてはいけない。
今は何ともなくても溜まりに溜まった想いはいずれ絶望に変わる。アークというその実例をコニファーは知っていた。

言うが早いか、ずんずんと城の中を突き進みテラスへの扉を開く。

例え作り物の世界だとしても、立ち込める茨が風物詩だとさえ思えるくらいには綺麗な景色だと思えた。上方には、数えきれないほどの星空が広がっていたのだ。

子供の頃、星空とはコニファーをどこまでも惹きつけるものだった。
無限に広がるように思えるその果てを想像して、彼はその中に自分の儚さを見た。果てしない世界の中で無限なる何かに包まれ、次第にそれに吸い込まれていくような感覚を覚える。星の光を見ているのか空の暗黒を見ているのか、それすらも分からなくなっていって――――――



でもコニファーはそんな感覚をもう忘れてしまった。
子供だとか大人だとか、そのような問題ではない。
あの星空の向こうにある神々も天使たちも、手に届く存在だったのだと知ってしまったから。
そして小さいのは自分ではなく世界の方なのだと見えてしまったから。

世界の小ささに、儚さに、そこに居る自分というものまでもを見失ってしまう。生きているという実感さえも忘れてしまう。
それがコニファーにとっての星空だった。

「ほら、星が綺麗だぜ。」

それでも星空は綺麗だ。天使だとか神々だとかの実態を知る前であれば、もっと清廉な気持ちでこの空を見上げることが出来たのだろうか。何にせよ、星空は何の知識もないまま見るのが一番だ。

953星空、遥か遠く ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 23:08:10 ID:LjyLYJEw0


「みんな――――――みんな、私を置いていきました。」

そして、しばらく黙りこくっていたフアナがようやく口を開いた。
幻想的なものを前にすると、人は少し素直になるのだ。

「ズーボーさんも、ゼシカさんも、サヴィオさんも、みんな、私を守るために…私の目の前で…」

ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
偽りの月明かりが、全てが終わるまで流すまいと決めたはずの涙を照らし出した。

「私は僧侶なのに…!傷付いた仲間を助けるのが私の役目なのに…何も…出来なくて…!!」

(ああ、そういえば確かに、不公平な世界だよなァ。)

そう、この世界は不公平だ。
この世界で誰かを傷つけるとなると元の世界と何も変わらない。元の世界でも戦いに生きてきた者であれば、こんな場所でもいつも通り過ごしていくのだろう。

だが誰かを癒すとなると話は違う。
ホイミなんて雀の涙ほどの回復量でしかなく、魔力を振り絞って唱えたベホイムでさえほとんど回復しない。ザオラルザオリクに至っては発動すらしない。
コニファーとて戦闘が終わって全員に回復呪文をかけている時は少なからず無力感に苛まれたものだ。
だが攻撃も回復も両方こなせるコニファーとは違い、フアナは何か自分の仕事をこなそうとする度にあんな無力感が付きまとうのだ。

「だから、あの時私じゃなくてサヴィオが生き残ったらよかったのにって――――――」

「違う!」

フアナの言葉を遮ったアスナの今までにない大声にコニファーもフアナも驚いた。
もしかしたらアスナ自身が最も驚いていたのかもしれない。

「そんなこと…ない…。」

「アスナ…。」

自分の言葉の意味するところの残酷さに気付いたフアナも、その気持ちに不器用ながら寄り添うアスナも、とても見ていられない。

一度零れた感情が止まる所を知らず溢れ出して、考えること全てが悪循環していって――――――
支えを失った人間は脆いものだ。
アークがああなってからはポーラもスクルドも打ちのめされていって、結局自分は3人の支えにはなれなかった。

きっとこれは自分なりの罪滅ぼしなのだろう。

954星空、遥か遠く ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 23:09:47 ID:LjyLYJEw0

「フアナ、お前はさ、好きだったのか?サヴィオのこと。」

「えっ…!なな、何を急に――――――」

「アイツに何か伝えたいことがあるなら、ハッキリ言ってやりな。アイツは、そこにいるから。」

星空を指さしてそう言った。
フアナにとってもサヴィオの想いに何も答えられないままなのは重荷となるだろう。

「星は消えた命の向かう先なんだ。今もずっと、死んだ奴らが見守ってくれてるんだぜ?」

「え、ええと…」

何も間違ったことを言っているわけではないのだが、子供扱いされているようにでも思っているのだろうか。
とはいえ自分も、天使だとか女神だとか、そういったものの存在をなかなか受け入れるのには時間がかかった。
そういった存在と隣り合わせに生きてきたポーラや天使への信仰心の塊のようなスクルドとはまた違った受け止め方があった。

「少し、ひとりにしてやろうぜ、アスナ。俺達がいると、言いにくいこともあるだろうさ。」

そう言ってアスナの肩を叩きかけたコニファーの手を、アスナはそっと戻した。

「ねえ…ホープ…くん。」

突然、アスナが星空へ向かって呟いた。彼女の溜まっていた想いを吐き出すかのように。

「わたし……あなたのことすきだった…!いつもこわがって…にげてばかり…そんなわたしにくれた手のあたたかさ…これからもずっと、忘れないから――――――」

コニファーもフアナも、目を見開いて聞き入っていた。
その視線にアスナが気付くや否や脱兎のごとく逃げ出そうとする――――――しかし、逃げ出さない。
これはアスナの決意であり、フアナへの優しさでもあった。

「つぎ…フアナのばん…。」

「そんなの、ズルいですよ…。」

アスナは身を張ってフアナの逃げ道を無くした。
彼女にとってそれがどれだけ勇気の必要なものだったのか、フアナには痛いほど伝わってくる。

気持ちに整理がついたのか、服の端をつまんでフアナは一歩踏み出した。

955星空、遥か遠く ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 23:10:40 ID:LjyLYJEw0
「えっと…サヴィオ、本当にそこにいるんですか…?そして、ごめんなさい…私は…貴方と冒険する日々がだんだん当たり前のようになっていて、好きだとかの前に、大切な仲間だって方が強くって――――――」

フアナは少し俯いた。
2度3度、唾を飲み込んで再び空を見上げる。

「――――――でも、私の中で貴方はずっと変わることの無い特別な人…。サヴィオ、最後まで見守っていてください。もう誰かに守られるだけの私じゃない。変わった私を、貴方に見せたいから。」

その言葉に呼応するかのように、星が瞬いたような気がした。
きっとフアナの言葉はサヴィオに届いたのだろう。

ふぅ、と大きな溜め息がフアナの口から漏れる。

「何でしょうね、思ってること吐き出しちゃったら、少し楽になりましたよ。」

「そいつは何よりだな。」

これでいい。
僧侶らしさの欠片も持たずサヴィオをそっちのけで走り回っていたように、フアナは元気が有り余っているくらいが丁度いい。
周りの大人を翻弄するくらいの活発さが子供の取り柄なのだ。

「コニファーさん。私、今度は――――――今度こそはきっと守ります。貴方のことも、アスナのことも…」

「ああ、頼んだぜ。」

アスナもフアナもまだまだ若いが、失ったものを何とか受け止めて前を向いていける、そんな強さを持っている。

(そうだよな…ポーラ…スクルド…お前らもきっと…。)

流れ星のように儚い期待を胸に抱いて、コニファーもまた前を向く。

956星空、遥か遠く ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 23:13:47 ID:LjyLYJEw0
「あ、あの……。ええと…わたしも、フアナと…コニファーさん…まもるから…。」

アスナもたどたどしい言葉を紡いで意志を示す。
さすがに少女2人にここまで言わせては男としてのプライドが廃るというものだ。

「ったく…怪我人ばっかでしゃばりやがって…餓鬼は大人を頼ってりゃいいんだよ。いいか、お前らは俺が死なせねえ。」

「だったら、私たちは無敵ですよ!みんながみんな2人から守られてるんですから!それに私、実はガードマンの資格も持ってるんですよ!」

フアナは笑った。
アスナも、そしてコニファーも笑っていた。
こんな絶望に満ちた世界なのに、こうしているとつい笑顔が零れてしまう。
そういえば笑顔は零れるものだったのだと実感せずにはいられない。世界で初めて笑顔を零れると表現したどこかのロマンチストにふと敬意を覚えた。
とにかくそれくらい、目の前の2人の笑顔は眩しく見えたのだ。

ああ、そうだ。
アークが絶望に囚われてパーティーが崩壊して、それからの長い間ずっと忘れていた感覚。
意志を同じくする奴らが集まって、皆で誓いを交わして、誰かが馬鹿なこと言っては皆が笑顔になって――――――そして俺はこう実感するんだ。

俺はこいつらと共に、確かに生きているんだ、と。

もう一度見上げた星空は、相変わらず綺麗なままで――――――そして、今までよりも遥かに遠く感じられた。


【D-3/トロデーン城テラス/真夜中】

【アスナ(女勇者)@DQ3】
[状態]:HP1/10 MPほぼ0
性格「ひっこみじあん」
助骨骨折、内臓一部損傷
[装備]:ゴディアスの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)  サヴィオの支給品一式 道具0〜1個バレットハンマー@DQ10 オーガシールド@DQ5 ウェディングドレス@DQ9 アルゴンリング@DQ8
[思考]:エビルプリーストを倒す。
:ひっこみじあんを克服したい。
:休息をとる
[備考]:不明支給品の中に性格を変える効果を持った本や装飾品は入ってません。 
トロデーン城の地理を把握しています。

【フアナ(女僧侶)@DQ3】
[状態]:HP1/8 MP0
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜3(本人確認済み)
[思考]:休憩する。
※バーバラの死因を怪しく思っています。

【コニファー(男レンジャー)@DQ9】
[状態]HP2/5 MP1/5片目喪失  ピサロへの疑惑
[装備]かりうどの弓@DQ9、毒矢25本 
[道具]支給品一式 カマエル
[思考]自分が生きているという感覚を保つため、とにかく生き抜く。仲間を探す。

957星空、遥か遠く ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 23:14:59 ID:LjyLYJEw0
投下終了しました。

958ただ一匹の名無しだ:2018/06/11(月) 23:26:05 ID:tCZPjqec0
2作投下乙です

>踏み込んで、天と地まで
調べてみたら、10のキラーマジンガは時間経過で2体目が出現して、相方が倒れてると蘇生させてくるのか…
なかなか厄介なパワーアップを遂げたジンガーともう1体のキラーマジンガ、今度こそキルスコア奪えるのか否か…

>星空、遥か遠く
死んだ仲間へ想いを伝える女の子2人がかわいい&切ない
そしてポーラとスクルドの現状を思うと、二人の無事を祈るコニファーが不憫でならない
二人ともアークのことばっかだしなあ…位置が離れてるのは幸か不幸か…

959ただの一匹の名無しだ:2018/06/11(月) 23:39:04 ID:6bsvhHCI0
投下乙です。
魔英雄化したザンクローネに続いて新たなキラーマジンガとこれまた厄介な敵が登場。
トロデーンは今のところ殺し合いらしい殺し合いは行われてないし、今だけでもこの3人は平和に過ごして欲しい。

960彼女なりのシリアス回 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/13(水) 01:22:13 ID:ELMKKjOg0
ゲリラ投下します。

961彼女なりのシリアス回 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/13(水) 01:23:17 ID:ELMKKjOg0
「サヴィオが913匹…サヴィオが914匹…」

テラスでの一件の後の話。
フアナもアスナも茨の侵食の度合いの小さい適当な部屋を見繕って休むこととなった。

「サヴィオが965匹…サヴィオが966匹…。」

大きな怪我、溜まった疲労。
身体はこれ以上なく睡眠を欲している。
だがこの世界で眠るということは無抵抗で殺される危険性が少なからずあるわけで、精神は睡眠を拒んでいる。

「サヴィオが999匹…サヴィオが1000匹………。うーん……ヒツジ、ウサギ、サル、クマ、サヴィオ…色々数えてみましたが全然眠れません。これだからサヴィオは女の子にモテないんですよ。」

1000匹のサヴィオが蠢くサヴィオランドを閉幕させ、フアナは眠りにつくことを諦めた。

暇つぶしになりそうなものを探そうとするが、探し回るまでもなく部屋の中には大きなグランドピアノがあった。きっと育ちの良い人の部屋なのだろう。
ここが城であることを考えると、王族の部屋を模して作られたところなのかもしれない。

他にやることもないのでフアナはピアノを弾き始める。ちなみに選曲は"おおぞらをとぶ"。
音を外すことなく奏でていく。
綺麗な演奏―――おそらく、誰に聞かせてもそう思わせるくらいの腕前。
過去にピアノなら数ヶ月くらい練習したことがある。
覚えの良さに先生には褒められていたし自分自身も結構な実感は湧いていたけれど、第18回アリアハンピアノコンクールで予選落ちしてからはめっきり弾かなくなっていた。

962彼女なりのシリアス回 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/13(水) 01:23:59 ID:ELMKKjOg0
さすがのフアナもそればかりを貫いて生きてきた人間にはどうしても勝てない。
フアナの得てきた成果の数々が謎の分野に偏っている理由はそこにあった。


(別に、完璧超人を目指してたわけじゃないんですけどねえ。)


例えばホープはフアナよりずっと鋭い観察眼を持っていた。戦闘以外でも悪人の嘘をずばりと見抜いたり、戦闘においても自慢の観察眼を駆使して誰も気づかなかった敵に真っ先に気付いたりもしていた。

本人から聞いた話によると、ホープは貧民街で産まれたらしい。
盗まなければ盗まれる。
騙さなければ騙される。
常に周りに気を配っていなければ金品はおろか命さえすぐに危険に晒される、そんな世界で生きてきた生粋の盗賊少年。あの童顔の仮面の下にはそんな過去があった。


アスナに至っては言うまでもなく、あのずば抜けた戦闘センス。
特に危機に陥るなどして感情が大きく揺さぶられた時、自分の何倍も素早く動き回るアスナを何度か見たことがある。

最初は所詮勇者の血筋のなせる技だと思っていた。
だけど彼女と一緒に冒険するようになって、その実力を裏付けるものが勇者の血筋だけではなく、血のにじむほどの努力であることを知った。
自分の才能がかなり恵まれている部類に入ることは分かっていても、彼女のようにはなれない。アスナほど純粋に誰かを助けたくて戦っている勇者を、フアナは知らない。


サヴィオは………うん、何故かとても運がいい。
理屈は分からない。その幸運の裏で不幸を被るのがいつもホープなのも理屈が分からない。
でも、自分の小手先の技術よりずっと有効に働くことだってしばしばあった。

まあ、こればかりは納得いってませんけども私。

963彼女なりのシリアス回 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/13(水) 01:24:44 ID:ELMKKjOg0


そう、何にせよ皆何かしら突出したものを持っていた。
それに比べ、自分は何か特別なものがあるだろうか。
何にでも興味が湧いては手を出して、そしてすぐに飽きて、それを繰り返している内に出来ることだけは多様にはなったけれど。


(こんなモン、いざって時に役に立たないんですよねえ。)


なりふり構わず何もかもをやりたかったわけではない。
ただやりたいことだけは、何でも出来るようになりたくて、次第にその範囲のものしか目指さなくなって―――求められるもののハードルが少し上がった瞬間、自分は何も出来なくなった。

多彩なものを持つ自分のことだ。小手先の細かい技術で何かしらに貢献することは出来るかもしれない。

でも、2回に渡るヘルバトラーとの戦いで小手先だけのそれは通用しなかった。
自分がここに生きているのはこんな自分を守ってくれた人たちの犠牲があったからに過ぎないのだ。
これから激化していく戦いの中で自分は何が出来るのか、何をすべきなのか。

(ほんと、私だから出来ることって、何なんでしょうかねえ。)

アスナのような戦闘センスがあれば倒すべき敵を倒せる。

ホープのような観察眼があれば戦場でも適格に動くことが出来る。

サヴィオのような得体の知れない力を持っていれば守りたい人を守れる。

でも自分には何も無い。
何もかもが出来ながら、何も出来ない。
皆を守ると誓ったけれど、具体的に何が出来るのかを見つけられないのなら、それはただの口先だけの虚勢でしかなくって――――――

964彼女なりのシリアス回 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/13(水) 01:27:15 ID:ELMKKjOg0


(まったく、こんなの私のキャラじゃないですってば。)


どうしたんでしょうかね、と呟きながら目の前の物体を支えに立ち上がる。
ピアノであることを忘れられていたそれに体重が加わり、突然鳴り響いた不協和音にフアナは驚いた。


こんな経験をしたことはないだろうか。
簡素な風景の薄暗い部屋。
独りぼっちの自分。
そんな自分の心に疑問形で問いかけてくる自分。
自分とは何か?
それはまずそんな問いに始まり。
何のために生きているのか?
こうして根源的な問いへと変化していって。


(ああ、たぶん人恋しいんでしょうね私。)


誰かが側にいるならば、無理にでもきっといつものように明るく振る舞える気がした。
皆を引っ張っていくそんな存在でありたいと常々思っていたのも、みんなから離れたくないという潜在的意識によるものだったのかもしれない。


もうアスナのところに行こうか―――ふとそう思ったが自分よりも酷い怪我をしているアスナの部屋に飛び込んでいくつもりはない。


じゃあコニファーさんのところに―――いやいやこんな真夜中に殿方のところになんて行きませんってば!

965彼女なりのシリアス回 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/13(水) 01:27:51 ID:ELMKKjOg0


(あっ…。アスナといえば…元の世界では性格を変える本を探してましたね。)

ふと、自分の支給品の中に本の類のものが入っていたのを思い出した。

(別にわたしゃアスナは今のままでもいいと思うんですけどねえ。)

ひっこみじあんなところを含めて彼女の魅力なのだとフアナは思う。既に打ち解けて一緒に冒険しているフアナから見たら、初めの一歩さえ踏み出すことが出来たなら彼女はとてもいい子だ。
きっとサヴィオもそう思っていたし、アスナに恋するホープなんて間違いなくそう思っていた。
だからこそ、本なんかで作り上げた人格ではなく、彼女自身の努力で踏み出していけるようになってほしいものだ。

(娘の自立を待つお母さんってこんな気分なんでしょうかねえ。)

などと考えながらその本を取り出す。
支給品を大まかに確認くらいはしていたものの、じっくりと確認するに至る前にズーボーと出会い、それから心休まる時が全くなかったために支給品の詳細把握は遅れていた。

966彼女なりのシリアス回 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/13(水) 01:28:26 ID:ELMKKjOg0

絵本やら雑誌やら、そういったものとは違う書物とでも言うべき重々しさのあるそれは、わざわざ支給されていることから考えてもただの書物ではないのだろう。
うん、まさかただの絵本が支給品だなんてあるはずがない。

悟りの書でないことは見て分かったので、彼女の世界の道具のバリエーションを考えて消去法的に性格を変える類の書物だろうと結論づけた。

「とはいえ、読んで確かめるわけにはいきませんよね。本は何故か消費アイテムなわけですし。ほんと不思議ですよねえ。」

ちなみに、彼女はアイテム鑑定士の資格を持っているだけあり大体の道具についての知識はあるのだが、実際にその中身を知っている訳では無い。

「それにですね、も、もしもこれが"せくしぃぎゃる"になる本だったりしたら…これは…これはたいへんな事件ですよ!」

そう言いながら本をバッグに強引にしまい込む。
曲がりなりにも聖職者である自分が、このような俗物的かもしれない本に手を出すわけにはいかない。

967彼女なりのシリアス回 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/13(水) 01:29:36 ID:ELMKKjOg0




「うーん………。」




「何も無いわけですし……やっぱどうしても、退屈ですよねえ。」




「…ほら、私、『THE・ガマン大会8668』で優勝するくらいのメンタルはあるので?性格を変える本ごときに負ける気はしないんですよ。ちょっと挑戦してみようかなあ。」




「うーむ……せくしぃぎゃる。……あ、べつに興味があるわけじゃあないんですけどね?」




「うう…そりゃ私も女性なわけですし?グッドなおねーさんへの憧れが多少はあったりもしますよ?多少、ですけど。」




「うん………ちょっとだけ……そう、ちょっとだけですから!」




誰に対しての言葉か分からない茶番を終え、支給品袋から素早く本を引き抜いてペラペラと捲り始める。

968彼女なりのシリアス回 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/13(水) 01:31:51 ID:ELMKKjOg0
「ごくり…ど、どれどれ…『汝、この書を以て敵を見据え唱えよ』んーと?ぐらんど…ねびゅら?こ、これはまさか――――――」







「――――――せくしぃぎゃるの本じゃないんでしょうかね?」


【D-3/トロデーン城ミーティアの部屋/真夜中】

【フアナ(女僧侶)@DQ3】
[状態]:HP1/6 MP1/8
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 パラディンの秘伝書 不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:自分だけが出来ることを探す。
:休憩する。
※バーバラの死因を怪しく思っています。

969彼女なりのシリアス回 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/13(水) 01:34:37 ID:ELMKKjOg0
投下終了しました。

秘伝書のくだりを「星空、遥か遠く」に収めようとしてましたが蛇足と感じたので独立した1話として書いてみました。

970彼女なりのシリアス回 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/13(水) 01:43:53 ID:ELMKKjOg0
すみません、早速ですが訂正です。

>>962
サヴィオは………うん、何故かとても運がいい。
理屈は分からない。その幸運の裏で不幸を被るのがいつもホープなのも理屈が分からない。
でも、自分の小手先の技術よりずっと有効に働くことだってしばしばあった。

の部分が死者スレ内のネタを引っ張っていたので

サヴィオは………うん、何故かとても運がいい。
理屈は分からない。
サヴィオが転んで偶然躱せたボストロールの痛恨の一撃が何故かホープの方に飛んでいったりと、その幸運の裏でいつもホープが不幸な目にあっているのも分からない。
でも、自分の小手先の技術よりずっと有効に働くことだってしばしばあった。

に訂正します。

971 ◆qpOCzvb0ck:2018/06/24(日) 23:21:32 ID:R8NGe3IY0
投下します。

972 ◆qpOCzvb0ck:2018/06/24(日) 23:22:03 ID:R8NGe3IY0
走る。
街へ向かって、ただ走り続ける。
怪我をした左手が痛む。
それでもなお、走り続ける。

向かっているのは、トラペッタ。
ただ、生きている仲間が欲しかった。
トンヌラ、ローラ、アモス、パトラ、リュビ。そしてキラーマジンガ。
この世界で会った者は、仲間と呼べる者、そうでない者問わず、次々と死んでしまった。


キラーマジンガとの戦いで加勢してくれた二人、アルスとライアンは、自分のことを仲間として受け入れてくれた。
でも、彼らと行く道には、自分が見たくないものがある。
それに自分は怖かった。


あの二人も、自分が何もできない形で死んでしまうのが。
先程の戦いも、誰かが犠牲になってもおかしくない激戦だった。


あの時、レックだったらどうしたのだろうか。
いや、やめておこう。
その時いない人物のことについて考えるのはただただ無駄な話だ。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


あれは牢獄の街に囚われた人々を開放し、その人たちと共に宴を楽しんでいた時。
「ハッハッハ!!チャモロも一杯いくか?」
「いや、僕は………」
「あーそうだったな!!チャモロはまだ酒飲んじゃいけねえガキだったか!!ハッハッハ!!」

聖職者だから……と言いたかったが、酔っ払っているハッサンは一人で話し続けた。

「ところで、ハッサンさん。」
「なんだあ〜!?」
「その……酔っ払ってるって……どういう感覚ですか?」
「あ〜。なんだ。ゼニスの城へ行く時に光に乗るだろ?あれがずっと続く感覚だぁ〜。」
「……分かるようで、わかりません。」
「そこにコップが2つあるだろ?3つに見えたら、酔っ払ってるってことだ。」
「何言ってるんですか?コップは1つしかないですよ。」
「なぬぅ〜?」

973 ◆qpOCzvb0ck:2018/06/24(日) 23:22:21 ID:R8NGe3IY0

あの時ほどひどくないにしろ、ハッサンは酒に酔うと、誰彼構わず絡んでいた。
遊び人をやっていた時は、酒を飲んで敵に炎を吐いたり、戦闘中に爆睡したりしていた。
自分はあの時、それを頼れる仲間の数少ない欠点だと思っていた。
だが、今の自分は、それを求めている。
自分に絡んでくれる人が欲しかった。
自分を頼ってくれる人が欲しかった。
自分と笑ってくれる人が欲しかった。
自分と生きてくれる人が欲しかった。

誰かに、自分の存在を証明して欲しかった。

(僕って、こんなに弱かったんでしょうか………。)

一人で考えているうちに、トラペッタにたどり着いた。


(!?)
巨大な土人形が動いていた。
よく見れば、穴を掘っている。

一瞬身構えたが、敵意はないらしい。
土人形は、街の中に入った。
チャモロも、その後を追う。

土人形は、大きなドラゴンの死体を抱えていた。
そのまま、先程の穴に入れる。
どうやら、死体を埋葬しているらしい。

チャモロも、長く魔物を見ていたが、埋葬という文化は人間にしかないのだと思っていた。
その珍しさに魅入られていると、別の方向から声が聞こえた。

「チャモロさん!!」
「サフィールさん!!無事で………よかった………。」

突然、涙が溢れ出す。
傍から見れば、大人になっていない、だがずっと年上の少年が、少女の前で泣いている、情けない光景に見える。
自分でもそう思ったが、どうでもよくなった。

会えた。
自分を知っている人に、会えた。
なんてことないのに、嬉しくてたまらない。

「どうしたのですか?」
「………。」

「わたしも、おとうさんを止められませんでした。あと少しのところで……。」
「サフィール殿!!どうかしたのですか?」

遠くから、老人の声が聞こえた。

見れば、ゲントの長老を思い出す風貌をしている。

974蘇る幸せ、そして恐怖 ◆qpOCzvb0ck:2018/06/24(日) 23:23:51 ID:R8NGe3IY0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


サフィールとブライ、それにゴーレムはアルス達と別れトラペッタへ行った。
ジャンボやゲレゲレはまだ来ていないらしいので、待つことにした。
だが、戦渦に晒された場所で何もしないのも落ち着かない話だ。
そこでサフィールの提案で、街の中での死骸、がれきに埋もれたドラゴンと頭のかみ砕かれた獣人の墓を作っていた。
ゴーレムが10人分は働いてくれたので、時間はそこまでかからなかった。
街を大きく占めていたギガデーモンの死体こそ、大きすぎて手に負えなかったが。


それが済むと、比較的壊れていない宿屋を使って、休息をとっていた。
中のセッティングはブライとサフィールが行った。

「チャモロ殿。これで一先ず安心ですぞ。」
チャモロはブライに折れた左腕の添え木をしてもらっていた。
「ありがとうございます。」
「これくらいのこと、昔からやってましたからな。」

ブライは回復呪文こそ使えないが、小さな怪我を治療する知識は、王宮の教育係として備えていた。
たとえ薬草などがなくても、周りにあった布や棒きれなどで容易に出来る。

「誰かの……お世話係なのですか?」
チャモロはその慣れた手つきを見て、伺う。
「そうじゃ。お世話係……だったのです。」
そこから先は聞く必要はなかった。
なぜ、この老人が「だった」と言ったのかは想像が容易につくからだ。


「チャモロさん。杖を貸してくれて、ありがとうございました。」
サフィールは、チャモロに向かってほほ笑み、ドラゴンの杖を返そうとする。
「いいえ。それは、サフィールさんにとって必要な物です。」
チャモロも、それに応えてほほ笑む。

事態は、まったく好転していない。
だが、チャモロにはこの世界で経験したことのなかった、安らぎがどこかにあった。
自分がさっきまで求めていたのは、これだったのかもしれない。




(なんででしょうか……)
サフィールもまた、チャモロと似たようなものを感じていた。
チャモロといると、今まで全く感じたことないが、どこか心地よい気分になる。
グランバニアの人々も、旅先で会った人々も、自分より勇者であった兄を見ていた。
自分はこれまで必要な人間と思っていなかった、だが、チャモロは自分を必要としてくれている。
だが、それだけでないような気がする。
(本当に……何故でしょう)


「申し遅れました。私は、サントハイムの宮廷魔術師、ブライと申します。」
「ゲントの村の神官、チャモロといいます。サフィールさんとは昼間知り合いました。」

チャモロと握手を交わした時、ブライはあることに気付いた。
アリーナと同じ、格闘の修業を積んだ者の手だと。
また、クリフトと同じ、回復の魔法を使える者だと。

975蘇る幸せ、そして恐怖 ◆qpOCzvb0ck:2018/06/24(日) 23:24:35 ID:R8NGe3IY0


「ひとり」だった者、「ひとり」になってしまった者。
大切な者を失ってしまった苦しみや悲しさ。
同じ世界の、異なる時代の三人が気持ちを分かち合えるのは、当然のことだった。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆

一方で、そこから離れた平原。

「個体Bヨ。ワタシハあべる様ヲサガサナケレバナラナイ。協力ヲタノム。」
「ワタシハこまんどガ無イ。個体Aヨ。新タナ命令ガ降リルマデ、行動ヲとれーすサセテモラウ。」
「個体Aデハナイ。ジンガー。ソレガワタシノ名前。ますたー、あべるガ付ケテクレタ名前ダ。」
「ナラバジンガー。行ク場所ヘ向カッテクレ。」

二体は、トラペッタまで動き始めた。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


三人は宿屋の中で腰を下ろし、自分達のことや故郷、昔話に花を咲かせている。
その姿はまるで兄妹とそれを愛でる祖父のようだった。
この戦いが始まってから感じたことのなかった気持ち。
彼らにとって、紛れもなく幸せな時間だった。

出来ることならずっと、「このまま」が続いてほしい。

彼らの心を覆っていた靄は、消え去った、とまでにはいかないにしろ、大きく晴れていた。

「ところでチャモロ殿。」
「どうしました?」
「私達は、もうじきここへ来るという、「ジャンボ」というドワーフの男を待っているのですが……。」
「もう来ているかもしれません。ちょっと僕が周りを見てきます。」
「チャモロさんは怪我が……私が行きます!」
その役目をサフィールが出る。
「いいえ。怪我の方はもうあらかた治りましたので。」
ブライの応急手当と、自分の回復呪文で、ケガした左腕もある程度は治っていた。
後は自然治癒に、回復呪文を後押しすれば治るだろう。

時間を見ると、三度目の放送までそう遠くはない。
ジャンボが来るにしろ来ないにしろ、今後の行動方針を練る必要があるだろう。

宿を出ると、そこに土人形(サフィール曰くゴーレムという名前なんだとか)がいた。

「ゴーレムさんも、サフィールを守ってくれて、ありがとうございました。」
お礼を一つ告げ、広場へ向かう。
チャモロは気分が良かった。
自分をまだ大切にしてくれる人、頼ってくれる人がいる。

(死んでしまった人の分まで、私は守り続けます。
サフィールさんもブライさんもゴーレムさんも。
勿論、会えたらターニアさんも。)

そうだ、ジャンボさん達が来たら、今度こそスクルドさんに会いに行こう。
救えなかった人のことで悩むのは、救える人を救った後でいい。

そのまま広場へ行く。

976蘇る幸せ、そして恐怖 ◆qpOCzvb0ck:2018/06/24(日) 23:26:32 ID:R8NGe3IY0



(!!!!!!)



そこへいたのは、自分が砕いたはずのキラーマジンガ。
構えているのは、折れた紅蓮の剣と、黄土色の槌。
間違いなく、さっき戦った個体だ。
だが、自分には決意がある。
今度こそ、仲間にしてみせよう。


その決意は、瞬く間に消え去った。

(なぜ…………?)


幸せな時間が、終わりを告げた。


(二体いる……?)

二体目は、今まで一度も見たことのないキズ一つない白く輝く剣と、槌を構えていた。


自分の高揚していた気持ちが、一瞬にして消え失せる。
それに代わって頭に入ってきたのは、ハッサンが昔酒に酔っていた時のジョーク。
(自分は、どうしてしまったのでしょう……)



予想を遥かに超えた状況に硬直状態になっていたところを、一体目のキラーマジンガから、無機質な声が聞こえた。

「テキ。ハッケン。攻撃、カイシ。」
数十本の矢が襲い掛かる。
(しまった……!!)
真空刃を出すには、もう遅い。

ギィン!!

しかし、それを遮る太い腕があった。
「ゴーレムさん!!」

しかし、今度はゴーレムの横から、二体目のキラーマジンガが襲い掛かる。
(!!)

それをゴーレムがもう片方の腕によるパンチで、殴り飛ばす。

どうにか助かった。
しかし、チャモロの脳裏には、それによる安堵よりも、機械兵二体の統制の取れた攻撃への恐怖が強かった。

(もしこの宝が欲しければ、私を倒していくがよい。)

海底宝物庫で味わった2体のキラーマジンガの恐怖。
あの時よりかは強くなっているが、今度は二人。しかも守らなければならない人もいる。

977蘇る幸せ、そして恐怖 ◆qpOCzvb0ck:2018/06/24(日) 23:27:07 ID:R8NGe3IY0

「ゴーレムさん!!あの二人を助けに行きます!!それから逃げますよ!!」

今度こそ、キラーマジンガを仲間にしよう、などの考えはすぐに消え去った。
このメンバーでキラーマジンガ二体相手など、仲間にする以前の問題だ。
仮に倒そうにも、どういうからくりか分からないが復活する可能性がある。

「逃ガスナ。追ウゾ。」
二体のキラーマジンガも二人を追いかける。


三度目のトラペッタへの襲撃者の登場。

出来ることならずっと、「このまま」が続いてほしい。
その望みは、思ったより早く砕かれるかもしれない。


【G-2/トラペッタ内部 広場 /真夜中】

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP7/10 MP1/5 左腕骨折(応急処置済み) ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)軽くパニック状態
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める ブライ、サフィール、ゴーレムと共にキラーマジンガから逃げる
※チャモロはローラが死んだと思っています。
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。また、はぐれメタルの職業を少なくともLv7まで経験しています。魔法使い、魔法戦士、賢者、勇者は経験していません。


【ネプリム(ゴーレム)@DQ1】
[状態]:HP1/2
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ネプリムとサフィール、そして彼女らがくれたものを守る
[備考]サフィールやネプリムとの戦いによって、「まもりのチカラ」のスキルが上がりました。
以降も他のスキルが上がるかもしれません。

978蘇る幸せ、そして恐怖 ◆qpOCzvb0ck:2018/06/24(日) 23:27:27 ID:R8NGe3IY0
【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:HP1/4 
[装備]:折れた灼熱剣エンマ@DQS メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:アベルを探す、邪魔する者は破壊する。
[備考]:サフィール達に疑問を抱いています。

【キラーマジンガB@DQ10】
[状態]:HP7/8
[装備]:聖王のつるぎ@DQ10 聖王のハンマー@DQ10 聖王の弓@DQ10 アクセルギア@DQ10
[道具]:支給品一式
[思考]:ジンガーと同じことをする。
[備考]:DQ10のキラーマジンガの特技を使いこなします。
アベルと出会う前のジンガーのように、命令がインプットされていない状態です。
命令する者が現れるまでは、ジンガーの行動をトレースします。

【G-2/トラペッタ内部 宿屋/真夜中】

【ブライ@DQ4】
[状態]:健康 MP2/5
[装備]:魔封じの杖
[道具]:支給品一式 へんげの杖  道具0〜2個
[思考]:生きる。生きてアリーナとクリフトのことを知ってもらう。

【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP:ほぼ全快 MP 2/5
[装備]:ドラゴンの杖
[道具]:支給品一式×3、ショットガン、999999ゴールド
[思考]:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
おとうさんを見つけて止める
みんな友達大作戦を手伝う


※トラペッタ外部に、ゴドラ@DQ1、ナブレット@DQ10の墓が出来ました。

979蘇る幸せ、そして恐怖 ◆qpOCzvb0ck:2018/06/24(日) 23:28:03 ID:R8NGe3IY0
投下終了しました。

980ただ一匹の名無しだ:2018/06/25(月) 21:39:08 ID:oWaTzoIg0
投下乙です
チャモロの格闘とゴーレムの肉弾戦でダブルマジンガをどこまで抑えられるのか
キルスコア逃し続けたジンガーだけど、今回ばかりはまじでやばいかもしれんな

981 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:01:21 ID:VCc.tgBI0
投下します。

982天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:03:29 ID:VCc.tgBI0
「誰か…誰か…」

ターニアとホイミンは走っていた。

分からない。
何故、ジャンボさんはお兄ちゃんを殺そうとしているのか。

「誰か――――――助けてください!」

声を張り上げて叫ぶ。
仮に悪意を持った誰かに聞かれていようものならすぐさま駆けつけられて殺されるだろう。
しかしそんなことを気にしている余裕はなかった。

「どうしましたか?」

幸いか不幸か、声をかけたのは赤いバンダナを被った青年。

もしもこの時トロデーン側に逃げていたのなら、また違う結末が待っていたのかもしれない。
結論から言えば、この出会いは悲劇の始まりだった。


「なるほど。仲間だと思っていた人たちが貴方の兄を殺す算段を立てているところを聞いてしまった、と。」

「はい…。」

エイトはジャンボ達の下に向かいながら大まかな話をターニアとホイミンから聞く。
その上で、気になる点がいくつかあった。

まずひとつめ。
何故殺す対象がジャンボと面識のないはずのレックやその仲間に限られているのか。生き残りたい者が皆殺しを計画するのなら分かる。だがジャンボは脱出の計画を立てている中心人物であり、基本的に仲間を集めて回っていたという。ターニアとジャンボは別の世界から来ているらしく、ここに来る前の個人的な動機とも思えない。

次にふたつめ。
何故ジャンボはヒューザに殺しの話を持ちかけたのかということ。
結局話し合いは破綻し、ヒューザの正義感によりジャンボとヒューザは敵対することとなったようだが、2人が元の世界からの知り合いであれば相手の性格はある程度分かっているはずだ。
この世界で殺しに誘うというのは断られた時に大きなリスクを負うことになる。

結果だけを見ればククールの皆殺しの誘いを自分は断ったが、ククールだって闇雲に誘っていたわけではあるまい。自分の中には乗るという選択肢も少なからずあったし、ククールもそうであることを見越した上で誘っていた。
ククールとの交渉の破綻の原因は互いのスタンスの違いにあった。その2人で考えると、特定の相手を殺そうとするジャンボのスタンスと対立しているヒューザのスタンスはおそらく対主催。

そう、考えを突き詰めていくとここで分からなくなる。
対主催の立場を取る相手を、特定の人物の殺害に加担させることを図るに足るだけの交渉材料とは何なのか。

これらのふたつの疑問に答えを出せる結論として考えられるのは、レック達について。
もしかすると、ジャンボはレックとその仲間が主催者と対立するにあたって邪魔な存在――――例えば無差別マーダーであるというような、妹であるターニアさえ持っていない情報を持っているのかもしれない。
つまり、ジャンボが本当に危険人物なのかどうかはまだ分からないということだ。

「天の雷よ、我が剣に宿れ――――――」

少し誤った推測を胸に、エイトは剣に雷光を纏わせた。

983天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:05:26 ID:VCc.tgBI0
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

場所はジャンボとヒューザの戦地。
ヒューザに武器は叩き落とされ、ゲレゲレは気絶している。
圧倒的にヒューザが不利だった戦いは今やジャンボの方が追い詰められていたはずだった。

だが、武器のないジャンボに対してヒューザも自ら武器を捨てた。
それの意味するところは不殺生。ジャンボを殺すつもりはないと宣言したようなものだ。

(まあお前ならそうするだろうよ、ヒューザ。本当に甘い奴だ。)

「うおおおお!!」

ヒューザが拳ひとつでジャンボに殴り掛かる。
単純な攻撃―――故に真っ向から勝負するとなると最も厄介な攻撃。

(さて、殴り合いになりゃ勝てねえなこりゃ。)

頭脳で処理できることならどんな相手でも打ち負かせる自信はある。だが、今やヒューザの武器は胸の中の闘魂ただひとつ。

ではこのままヒューザと同じ土俵で戦うか?
否、ここでの立ち回りの最適解は搦め手。ヒューザの闘魂に対抗出来るジャンボの武器はその小賢しい頭しかないのだ。

「連続―――ジバリア!」

ヒューザの動く先々に魔法陣の罠を張り巡らす。
時間差の爆発がヒューザを襲い続ける中での殴り合いであれば単純な殴り合いでもジャンボに分がある。

「俺は負けるわけにはいかねえんだ。手段なんざ選んでいられねえ。」

「ちっ…!」

アストルティアを守る。自分をドワーフに転生させるための受け皿として殺された"ジャンボ"の居場所を守るために。
胸に抱くは、たったひとつの信念。

「そうやって誰かを蹴落として掴んだ未来で――――――てめえの守りたい奴は笑ってんのかよ!」

ソーミャに本当の強さというものを証明する。そのためにも自分のために死んだ、そして自分が殺したメルビンとククールに顔向け出来る生き方を通す。
胸に抱くは、たったひとつの信念。

「うおおおお!!」

「おらあああ!!」

二人とも命を奪うことの重みは理解している。
そして二人とも、その重みから目を逸らすことなく立ち向かっている。

覚悟に優劣があるわけではない。
想いに優劣があるわけでもない。
ただそれらのベクトルの向きが違うだけ。

大地が断続的に爆発する中、2人の拳が衝突する。

(まさか武器無しで戦うはめになるたあな。格闘振っといて良かったぜ。)

単純な攻撃で立ち向かうヒューザに対し、ジャンボは格闘の特技ばくれつけんを中心に立ち回る。
格闘スキルは実戦向きの特技は少ないが、ばくれつけん辺りまで取っておくと色々と便利なのである。

正面から正攻法で戦うヒューザと搦め手や技術を駆使して戦うジャンボ。
性格というものは戦闘スタイルに少なからず反映される。

984天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:08:43 ID:VCc.tgBI0

(俺は―――何をやってんだ。)

ジャンボの頭の中にふと疑問が浮かんだ。

守るために戦ってきたはずだった。そのためならどんな犠牲も厭わないと割り切っていたはずだった。
それなのに、そうしたくないと叫んでいる自分がいる。

(――――俺にもまだ、人間の良心が残っているとでも言うのか?)

違う。
俺はあの時からずっとドワーフのジャンボだ。
今更人間ぶるんじゃない。

しかしヒューザは全く折れる気配がない。
素手と素手との戦いでも、自分にはジバルンバというヒューザを殺す手段があるというのに、撃つことは出来ない。

殺せば戦いは終わる。
そうなれば後戻りは出来ない。
ヒューザを早く片付けて自分の本性を知ってしまったターニア達を殺しに行かなくてはならないというのに、このままずっと殴り合っていたいようなそんな錯覚すら覚える。

(しっかりしろ…俺はこんな腰抜けじゃあなかっただろうが…!)

乱れる想いに呼応するように乱れる拳。
その一瞬の隙を、ヒューザは見逃さない。

「うおらぁ!」

「ぐあっ…!」

ヒューザの拳がジャンボの胴体に命中する。
突き刺さるような痛みが胴にも口の中にも広がっていく。
その時、ジャンボは感じたひとつの想いに気付いた。

「くっ…はは…ははははは!!」

「何がおかしいんだよ。気でも狂ったか?」

「…悪くねぇ。そう思ってな。」

気など狂っていない。
むしろいつもの感覚が戻ってきているかのような気分だ。

この戦いを純粋に楽しんでいる自分がいたのだ。

思えばこの世界に来てからというもの、ずっと気を張ってばかりだった。

脱出の手段は?
黒幕の正体は?
生き残る方法は?
アストルティアへの危機は?

そんな溜まりに溜まった疑問を、この戦いの間だけは忘れさせてくれる。

そう、戦いは本来娯楽であるべきなのだ。
ピラミッドの新たな階層が発見された時。強戦士の書の新たなページが開かれた時。新たな世界への冒険へと向かう時。
その先のまだ見ぬ強敵との戦いにジャンボはいつも胸を踊らせていた。

それを楽しいと思えなくなった冒険者はもはや冒険者ではない。
何となくフレンドとの繋がりだけは維持しておきたくて―――あるいは今まで続けてきた冒険をやめるのが何となく勿体なくて―――そんな惰性に満ちた冒険を冒険だと思えなくなって消えていった冒険者など山ほどいる。

985天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:09:29 ID:VCc.tgBI0

そんな中でもジャンボが冒険者たる所以は戦いを楽しんでいるから。
勇者の盟友だとか何処ぞの救世主だとか、そんな大層な称号の持ち主である前にジャンボは1人の冒険者なのだ。

「ああ、そうだな。悪くねぇ。本当にそう思うぜ。」

そしてヒューザもまたアストルティアの冒険者である。
ピラミッドの地下に前代未聞の強敵が現れたとの情報あらばハイエナの如く群がり、半日とせずに討伐を成し遂げる、そんな戦闘狂たちの一人。

そしてそんな狂った冒険者の中でもトップクラスの実力を持った2人が、お互いの全てを賭けてぶつかり合っているのだ。
これを楽しまぬ道理など彼らにはなかった。

「さあ、とっとと続けようぜヒューザァ!」

「はっ、次で終わらせてやんよ!」

互いに拳を構え殴り掛かる。
ふたりの目にはそれぞれ相手しか映っていない。
ここが殺し合いの世界だということなど忘れ、これ以上なく今を楽しむのみ。

だだ、忘れるなかれ。
ここはコロシアムでも決闘場でもなく、殺し合いの戦場なのだ。
目の前の相手しか見ていない2人に、更なる相手が介入してこない保証などどこにもない。



「――――――そのまま動かないでください。逆らうのなら命はありません。」


「なっ…!」

「ぐっ…!」

気が付くと突然の乱入者、エイトが剣にギガスラッシュを纏って2人に突き付けていた。
男と男の決闘は決着のつく前に終わることとなる。



さて、現状エイトは殺し合っていた2人の命を完全に掌握している状態である。
武器を捨てさせるまでもなく2人は武器を持っておらず、このままギガスラッシュを放つだけで屍がふたつ出来上がる。

ジャンボはレックという参加者の一味を殺そうと画策している。その理由によっては矛先がミーティアに向かないという保証はない。
また、スタンスが対立していれば元の世界の仲間でも切り捨てられるヒューザも安全と断定するには早い。互いを切り捨てようとしていた自分とククールは周りから見ればどちらも危険な存在であったのがその例だ。

このまま殺すべき―――本能がそう訴える。

986天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:10:22 ID:VCc.tgBI0

しかしエイトは迷っていた。
アルスやブライはこんな自分を信頼してくれた。
目の前の人物が完全にゲームに乗っているとの確証が得られるまでは殺したくはなかった。

「経緯を話してください。答えによっては命は奪いません。ターニアさんとホイミンさんから大まかですが事情は聞いていますので、嘘で乗り切れるとは思わぬように。」

エイトの答えは保留。

2人の命をいつでも奪える状態に持ち込みながら、レックを殺す動機を聞き出すというもの。
判決を下すのはその後でも遅くはないだろう。心の迷いは悟られぬよう冷酷さを演じて。


(ちっ…ターニアたちを逃がしたのは失敗だったか…?)

ジャンボは目の前の男の顔を知っている。ヤンガスが最も信頼を置いていた男。
この小柄な体つきに秘めているのはヤンガスをして兄貴と呼ばせる実力。しかもヤンガスの知り合いであるということはこの世界で地理的な利もあるということだ。

そしてエイトを敵に回すということはヤンガスまでもを敵に回すと言っても過言ではない。
仮に上手く立ち回って自分だけがこの場で生き残ったとしてもヤンガスと再会すれば必ず事情を聞かれる。ヤンガスと既に出会っているヒューザに罪を擦り付けるのも難しいだろう。

そもそも、生殺与奪の権利を握られているこの状況を脱する好機すら見つからない。
策を弄しても何も思い浮かぶことはなく、ジャンボは拳を握り締めた。


(コイツ…エイトだっけか…?面倒なことになっちまったぜ…。)

ヒューザもまたヤンガス経由でエイトの顔を知っている。
ただし、ヤンガスはククールの人格を見誤っていた。ヤンガスはエイトのことを高く評価していたが、それもどこまで信用に足るか分かったものではない。

ジャンボの行いを咎める立場であるのなら敵対することはないのだろうが、エイトと協力することも面白くない。
ここでエイトと手を組んではヤンガスの同行を断ったことに対して、そして何よりコイツの仲間のせいで死んだメルビンに対して筋が通らない。

987天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:11:00 ID:VCc.tgBI0

さて、それぞれの想いが交錯するこの構図。ここで今の構図を第三者視点で眺めてみることにしよう。
エイトが今は2人を殺す気がないとか、そもそもの原因はジャンボたちにあるだとか、そんなものは目には見えない。
目に見える情報は、傷だらけのジャンボとヒューザ。そしてその2人へ剣を向けるエイトのみ。
そう、まさにエイトが2人を殺さんとしている構図である。



「――――――っ…!!ジャンボ!!!」



また、その第三者はそもそも先入観を持っていた。
ジャンボは純粋にこのゲームに反抗しているのだと、そしてヒューザはジャンボの心強い味方だとも思っている彼女――――――勇者姫アンルシアはこの状況に冷静さを保てるはずもなく、閃光の如くエイトの元へとレイピアを構えて駆け出していく。

「なっ…!」

ジャンボたちを殺すべきか殺さぬべきか考え込んでいたエイトは暗闇の中から現れたアンルシアの姿を捉えるのに一瞬遅れる。
オーバーステップで下がりアンルシアの一閃を何とか回避するが、ジャンボたちからはどうしても注意を外すこととなった。

「誰だか分かりませんが…向かってくるのなら容赦はしません。」

溜めていたギガスラッシュをアンルシアに向けて放つ。
エイトの最強の技というわけでもないが、それでも勇者の雷を纏った大技がアンルシアへと迫る。

「誰なのかは知らないけど…あの人の敵なら許しはしない。」

一方アンルシアは剣圧だけでそれを消し飛ばす。
ジャンボの危険という状況下により持ち前の怪力がいつもにも増して発揮されている。

988天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:11:54 ID:VCc.tgBI0
刹那、アンルシアはエイトとの距離を詰めてレイピアを突き刺す。
エイトは咄嗟に剣で振り払うがアンルシアが腕を引いた次の瞬間には再び閃撃がエイトを襲っていた。
アンルシアの腕のバネが可能にする神速の2回攻撃。近距離戦での速度と瞬間火力に優れるレイピアという武器はアンルシアの戦闘スタイルとこれ以上なくマッチしているのだ。

2度目を完全に捌ききることは出来ず、心臓からは逸らしたもののエイトの脇腹をしっかりと抉る。

傷の痛みに悶えながらエイトは後退する。
こんな威力の攻撃を心臓に受けようものなら即死である。
こちらの業物、奇跡の剣の回復効果など雀の涙にも役に立つまい。
敵の動きを削ぐのが先決――――――エイトはそう判断した。

アンルシアは焦っていた。
あの2度の閃撃で仕留められないことからも目の前の相手がかなりの実力者なのは分かる。ただ、この相手1人にジャンボとヒューザがあそこまで追い詰められていたとは思えない。
まだジャンボへの危険が去っていないのなら、この相手にあまり時間を割くわけにはいかない。しかし相手は自分の得意な近距離戦を拒んでいるようだ。
敵の動きを削ぐのが先決――――――アンルシアはそう判断した。

皮肉にも、その手段として選ばれたのは同じ呪文。


「「天なる雷よ、悪を討て――――――」」


「姫さん、待て!ソイツは多分敵じゃねえ!」

アンルシアの誤解に気付いたヒューザが叫ぶが、詠唱に合わせて鳴り始めた雷鳴に遮られてアンルシアには届かない。


「「ギガデイン!!」」


呪われし勇者と眠れる勇者。
2つの世界の勇者の操る雷がぶつかり合う。
弾け飛んで辺りに降り注いだ雷がヒューザの目の前に落ち、ヒューザは拳を握り締め立ちすくむことしか出来なかった。

989天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:12:39 ID:VCc.tgBI0

(最高のタイミングだぜ、アンルシア。)

エイトの注意はアンルシアに逸れ、ヒューザはその戦場に向かっている。
ここが好機と、ジャンボは落とされたナイトスナイパーを回収しに向かう。
そして、その姿を遠目で見ていた者がいた。


「ティアさん!ここは危ないです!下がっててください!」

「で、でも…アンルシアお姉ちゃんが…」

「私たちがあの中に飛び込んだらアンルシアさんが気になって戦えません。どうか今は堪えて。」

「…うん。分かった…。」

アンルシアに同行していたフォズはティアを戦場から引き離す。
アンルシアの叫んだ言葉から向こうにジャンボがいることは分かった。

そして人影がひとつ走り去って行ったのも何とか見て取れた。おそらくあれがジャンボだろう。

ならばフォズのすべきことはひとつ。
本来神官として人の命に優劣をつけるわけにはいかないのだが、ジャンボは首輪の解除の鍵となる存在。言い換えるのならジャンボの命はこの世界全員の命だ。アンルシアが敵と戦ってくれている今、この危険だらけの場所でジャンボの傍に居られるのは自分しかいない。

(ごめんなさい、アンルシアさん…あなたの加勢には行けません…!)

アンルシアに心の中で謝りながら、フォズはジャンボの元へ向かう。



「駄目だよ…戦わないで…!!」

エイトとアンルシアの戦いに混じることなど到底出来ず、ホイミンはただただ叫ぶばかりだった。
しかし、その声は当然のように届かない。
隣のターニアは依然として俯いたままだ。
自分が声を掛けたことでエイトがこんな危険に巻き込まれたことに少なからず責任を感じているのだろう。


それぞれがそれぞれ想いを抱える戦場。だが、決して交わることはなく、どこまでもすれ違い続ける。
互いに互いをゲームに乗っていると勘違いする二人を中心に巻き起こる戦いの嵐。
そしてそれとは別に、もう一つ、戦いが勃発しようとしていた。

990天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:13:25 ID:VCc.tgBI0

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

ここは…どこだ?
記憶がハッキリしない。
だがやるべき事は分かっている。倒すべき敵はハッキリしている。

頭の中に残る最後の記憶――――ニヤリと笑う邪悪な顔に、耳の中に反響し続ける手を叩く音。
どうやら奴は魔物の心を掌握する能力でも持っていたようだ。

これでもうひとつの疑問も解けた。大切な後輩は奴の能力によってメガンテを唱えさせられたのだ。
許せない。いくつもの命を奪っておいてのうのうと仲間面をして潜んでいたなんて。奴の目的こそ分からないけれど、このままだと皆が危ないことは何となく分かった。

幸か不幸か、これまで出会ってきた人たちは皆いい人だ。奴を殺すことだって躊躇するに決まってる。

とはいえ自分では奴に勝てない。このまま立ち向かったところでまた手駒にされることだろう。

いや、方法はある。
奴の能力を封じればよいのだ。
心を掌握されるあの景色を見なくて済むように、そしてあの音を聞かなくて済むようにすれば――――――
思いつくが早いか、悪魔の爪で自らの両の眼を、そして両の耳を、順に潰していく。嗅覚は奴を捉えられるから問題は無い。
しかし顔面を深く抉った4つもの傷跡には悪魔の爪による致死量の猛毒が流れ込む。

だがこれでいい。
こんな腐った世界なのに馬鹿みたいにいい人たちの代わりに、自分が汚れ役を引き受けてやるのだ。
オイラの分も奴の分も、皆のところに血の汚れなんて一滴も残すものか。


さあジャンボ、道連れにしてやる。ロッキーとはまた違うけれど、これがオイラのメガンテだ。
オイラと共に、地獄に落ちろ。

地獄の殺し屋ゲレゲレは静かに立ち上がった。
あと僅かで燃え尽きるはずの命を復讐心で燃え上がらせて。

991天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:17:02 ID:VCc.tgBI0
ジバリアを仕掛けた位置を悟られにくくするため、ヒューザと格闘戦を繰り広げている内にジャンボとヒューザの位置は当初の場所から大きく動いていた。
そのため、落とされた武器はすぐには見つからない。
こんな時、地理を把握している世界の奴らは有利だよなとジャンボは不平をこぼす。

「確か、この辺に――――――あった!」

ジャンボは落としたナイトスナイパーを拾い上げた。
名前の通り弓は闇に紛れ込んでおり、よく目を凝らしてようやく見ることが出来た。
それに神経を注いでいるジャンボは背後から迫る危険に気付かない。



「――――グオォォ!!」



「っ!しまっ――――――」



ギリギリで背後から飛びかかってくるゲレゲレに気付く。
ジャンボは紙一重でゲレゲレの攻撃を躱す。
危ないところだったが、初撃を躱せたのでもう何も問題は無い。
次の攻撃が飛んでくる前に、再び手懐けて手駒へとしてしまえばいいのだから。

「―――ちっ…!飼い猫に手を噛まれるたあ失敗したぜ。だが、ここまでだ。お前のすべきことはこんなことじゃあねえだろ?」

ゲレゲレに向けて手を叩く。
ジャンボは知らない。
ゲレゲレが目も耳も使えない状態であるということを。

(さあて、これで武器にゃあ困らねえ。こっからどうすっかね。)

ゲレゲレを放して1歩下がる。
アンルシアの方を向き直し、どれから対処しようかと策を巡らせる。ゲレゲレが魅了されていないことになど、一切気付いていなかった。

ゲレゲレは力を溜めていた。
次は当たる。もうジャンボの気はゲレゲレの方へ向いていない。
これが自分の最期の一撃になるとゲレゲレは確信していた。

「よし、ゲレゲレ。まずはあのエイトって奴を――――――」

「グル……グルォォアアアアア!!」

命を吐き出し尽くすかのように雄叫びを上げて、全てを込めた一撃が放たれた。



――――――グシャ。



命を抉る、そんな音が聴こえた。
ゲレゲレの全てを込めた一撃は、見事に胴体を貫いた。

992天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:17:53 ID:VCc.tgBI0


「かはっ…」



目の前の景色ががセピア色に染まっていくような、そんな錯覚を覚えた。
もう助からない、傷口をよく見るまでもなく本能が理解する。

「どう…して――――――」

ジャンボは失いかけた声を絞り出す。
何が起こったのか理解するには脳が追いつかなくて、目を擦ってみれば、手のひらを満たすおびただしい量の血に気付いた。

「どうして――――」

分からない。
何故、こんなことになっているのか。

「―――どうして!俺を助けた!!」

そう、ジャンボは出会ったこともない少女に庇われていた。

自業自得の死を迎えるはずだったその寸前に、意味もわからぬ生を与えられて。
ジャンボに出来るのは、ただ疑問を口から吐き出すことだけだった。

「貴方は…わたしたちの希望…。」

フォズが口を開く。
ジャンボの命が失われてしまえばもうこの世界の脱出は不可能になる。
だから飛びかかろうとするゲレゲレを見た途端、咄嗟にジャンボの前に立ち塞がったのだ。

「ぐ…もう、時間が――。ジャンボさん…手を、出して…。」

臓器もほとんど駄目になって、呼吸すらまともに出来ないはず。
即死してもおかしくないほどの傷なのに、どうやって出しているのかも分からない声を捻り出してジャンボに語りかける。
もはや何が起こっているのかも未だ分からないまま、言われた通りにジャンボは手を伸ばした。
フォズは震える手を伸ばしてジャンボの手を取る。

「これで……いいのか?」

フォズは頷く代わりににこりと笑った。

「おお、この世の全ての命を司る神よ…!ジャンボに新たな人生を歩ませたまえ――――――」

そのまま、ジャンボを魔法陣が包み込む。
ジャンボにとっては冒険の中で何度も見たことのある光。
しかし何度も見たその光景に、血塗れの少女など1度たりとて含まれていなかった。

「これは……転職!?オイ、お前…これは一体!」

993天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:18:36 ID:VCc.tgBI0

ジャンボは首輪解除の手段として首輪にどうぐ使いのトラップジャマーを使うことを見出していた。
また、フォズ達は脱出の手段としておわかれのつばさにどうぐ使いの道具広域化を使うことを見出していた。

このふたつの手段に必要な「ジャンボのどうぐ使いへの転職」という奇妙な一致は、はたまた偶然か必然か。
何にせよ、フォズは命を賭してこの世界の僅かな希望を残したのだ。

「繋ぐことが出来て……良かった――――――どうか、私たちの希望……を………。」

「おい…待て……死ぬんじゃねえ……!」

ジャンボの叫びも虚しく、その一言を最後にフォズは息絶えた。

眠っているだけなのではないかと思うくらいには安らかな顔をしていた。

おそらく、この世界で転職の力なんてものは相当珍しいものだったのだろう。
自分の転職がこの世界の僅かな希望だと言うのなら、それまでの彼女の生存も紛うことなく希望の一端を担うものだった。

フォズはこれまでこの世界の全員の命をこの小さな背に背負っていたのだ。
何としても生きなくてはならない、その難しさは放送で呼ばれた人数が物語っている。
他の参加者よりも身の安全には気を配っていただろう。気の休まる時なんてあったはずもない。そんな重圧をようやく下ろすことが出来た。


そしてその隣で、ゲレゲレもまた身体に回った毒と多大な出血で息絶えていた。
ここでようやくジャンボはゲレゲレが自分の目と耳を悪魔の爪で抉りとっていたことに気づく。

ゲレゲレは自分の命を犠牲にしてまでジャンボという危険分子を排除しにかかったのだ。
殺したのがジャンボではなく無関係の少女だったことを命が尽きる寸前に悔やんだのだろうか。それともそれに気づく前に絶命したのだろうか。
故人の想いなんて今やどうでもいいのだが、何となく後者であって欲しいとジャンボは思った。

(ほんっと、自分の命より皆のことを考える「いい奴」ばっかなんだよ。)

ジャンボは素直に感心していた。
こんな世界くらい自分勝手に振舞っていい。というより自己防衛のためならそう振る舞うべきではないのか。
それでも、自分はそんないい奴に助けられた。

(貴方は…わたしたちの希望…。)

フォズの言葉を思い出して溜め息を漏らす。

希望―――自分はそんな大層な呼ばれ方をされるような行いなんてこの世界では全くしていない。
むしろ5つもの命を奪ってきたのだ。良い奴ばかりが犠牲になって、こんな悪党がのうのうと生き延びて、あろうことか皆の希望扱いされて。まったくたまったもんじゃない。

だが、命を捨ててまで僅かな希望を繋いでくれたフォズの想いを無下にすることも出来そうになかった。
何度も言うようだが、ジャンボは借りは必ず返すタチである。

「ちっ……ったく……わーったよ!俺が希望だってんなら、全部救ってやろうじゃねえか!」

決意と職業を新たにして目の前の事態に向き合う。
まずは付近に落ちている全ての武器とフォズとゲレゲレの支給品の確認。
今のジャンボはどうぐ使い。
その名の通り、アイテムがあるのならとことん駆使して戦うのみ。

「ああ、救ってやらあ。この世界も、アストルティアも、ターニアの世界も、全部な……。」

彼が思い出したのは、特別言うまでもない、当たり前のこと。
ガートラントの優しい聖騎士にしても、国想いなメギストリスの王にしてもそう。誰かの犠牲の上に何かを守っても、ただ虚しいだけだ、と。

994天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:19:43 ID:VCc.tgBI0
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

(呪文同士のぶつかり合いは互角――――――だったら剣技で圧倒する!)

ギガデインを相殺され、アンルシアは再び接近戦を図る。
そこからとめどなく放たれるアンルシアの攻撃を前に、エイトは捌くのに精一杯で全く踏み込めずにいた。
エイトとアンルシアとでは攻撃に踏み込む際のリスクが大きく違う。
まず攻撃の速度、これこそ重量の小さいレイピアに分がある。
心臓を正確に狙う技術があるのなら、そして使い手に初速から肉を断ち切るほどの力があるのなら、レイピアは高速で一撃必殺を連打出来る武器である。

反面、レイピアと比べた剣の利点はその重量を活かした防御力。
特にエイトの持つ奇跡の剣は攻撃と防御を両立し得る業物である。
ただし、アンルシアの攻撃の速度と威力、さらにガードのしにくい点状攻撃のせいで剣の利点は全く活かせていない。

仮にエイトがアンルシアに致命傷を与えることが出来ても、踏み込んでおいて即死させることが出来なければ彼女の持つレイピアは即座にエイトを殺す。ちょうど彼女の名を騙った魔勇者がとある姫君を道連れに殺したように。

(私はまだ死ぬわけにはいかない…。ミーティアがどこかで戦っている、その限り…。)

目を見開く。
そう、閃撃の嵐のせいで飛び込めないというのであれば話は早い。

「――――――」

エイトが何かを詠唱して始めたのはアンルシアにも見て取れた。
ギガデインか、それとももっと他の攻撃呪文か…。
いや、それが攻撃呪文であれば問題無い。
正面から呪文による攻撃をするのであれば、ある程度の距離を置いていることは必須。

攻撃呪文を放つその瞬間はどうしても守りが手薄になる。
攻撃呪文に即死させるほどの破壊力はなくてもレイピアを心臓につき刺せば死ぬ。距離さえ詰めていれば並大抵の呪文には対応出来る自信がアンルシアにはあった。

接近するアンルシア。
放たれる閃撃。
しかし、対するエイトが放ったのは呪文ではなかった。

「はやぶさ斬り!」

「やあっ!」

エイトの剣技をアンルシアは力技で粉砕する。
攻撃呪文でないのならそれこそ何も問題ない。
また先と同じ応酬に移るだけ、アンルシアはそう判断した。

しかし、アンルシアに比べたエイトの強みは持ち前の特技の豊富さ。接近戦以外では行動に余裕があるのなら、エイトはミドルレンジの内に弾数を温存して接近戦での瞬間火力に備えればよいのだ。そして既に、呪文は詠唱済み。

「―――さらに!ベギラゴン!」

「なっ…あああああ!!」

剣の動きばかりを注視していたアンルシアに閃光が襲いかかる。勇者姫とて、ベギラゴンクラスの呪文をまともに全身に受けてはただでは済まない。

(畳み掛けるなら、今!)

追撃のため剣を構えて飛び込む。ただしその追撃を許すアンルシアではない。
身を焦がす灼熱の中、痛みを感じぬばりの鋭い勘で剣筋を見切り弾き返す。

押し返されたエイトは舌打ちをしながら着地する。
再び、剣と剣の応酬が始まった。

995天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:21:08 ID:VCc.tgBI0
遠く離れたミーティアのことばかりを気にかけているエイトと、すぐ近くにいるジャンボを守るために戦うアンルシアとでは戦いへの覚悟の度合いが全く違う。
この戦いで命を失ったとしてもジャンボを守れるのならアンルシアとしては本望なのだ。


ヒューザはそこへ駆けつけることが出来ずにいた。
アンルシアを説得に向かえば間違いなく命が危険に晒される。
エイトは勿論、アンルシアのためにでも自らの命を投げ打つ義理などない。ヒューザに言わせれば、仮にこの2人が死のうとも勝手に早とちりをした2人の自業自得なのだ。
ただしもちろん思うところはある。
自分が犠牲になることなど真っ平御免だが、何も犠牲にすることなく救えるかもしれない命を見捨てるのとはまた話が違う。

「何か奴らを止める方法があれば――――――そんな顔してんな、ヒューザ。」

背後から現れたジャンボがヒューザの武器、名刀・斬鉄丸と天使の鉄槌をぶっきらぼうに投げ渡す。

「ジャンボ!お前今までこれを――――――ってどうした!血塗れじゃねえかお前!!」

「後で話すさ。ところでさ、どうぐ使いって何する職だと思う?」

「知るか!今はそれどころじゃねえだろ!」

「―――当たりだよ。戦場に独り立たされたどうぐ使いなんざ、俺も何をすりゃいいか分かんねえ。」

弓、ハンマーなどの便利な武器はあるものの、パーティーの攻撃の要となるほどのものではない。
回復は基本道具頼りで、レンジャーなどと比べ、どうぐ使いは単体で完結しているとはとても言い難い。

どうぐ使いが最も輝ける分野、それは仲間を補助する特技や呪文の豊富さ。
また、防御の補助を特に得意とすることから守りが薄くなりがちなバトルマスターとどうぐ使いの相性はとても良いのだ。

「俺は1人じゃ何も出来ねえ。だがよ、信頼出来る仲間がひとりでもいればソイツの背中を誰よりも受け持ってやれる。」

ジャンボはヒューザを仲間に招待している。
何年も同じ世界で戦いに身を投じていた2人、そしてついさっきまで殺し合っていた2人。だからこそ、互いの実力は誰よりも分かっている。

「……分かった。何か策があるんだろ?で、どうすりゃいいんだ?」

「突っ込んで奴らを止めてくれ。足りない分は俺が補う。」

「ああ、任せとけ。後れを取んじゃねえぞ!」

「はっ、こっちの台詞よ!」

戦友は互いに背を預け合う。
その場所は奈落の門の先ではなかったのだが、そんなことで彼等の信頼は変わることはなかった。

996天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:22:20 ID:VCc.tgBI0

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

幾度となく続く剣と剣の応酬。
その度にチラつく死の影。
肉体的にも精神的にも2人の勇者に疲れが見え始める頃合であった。

戦わなくて済むのならそうしたい。誰も殺さなくて済むのならそうしたい。
互いにそう思っていることに彼らは気づけない。

「守らなくてはならない人がいる……こんなところで、貴方に負けるわけにはいかないんだ!!」

だからこそ自分に言い聞かせる。自分の戦う意味を忘れないために、そして自分の行いを正当化するために。

「ええ、それは私も同じ。あの人は優しい人だから襲い来る危険にも自分を貫くはず。だから勇者である私が代わりに貴方を倒すの。」

アンルシアもまた自分に言い聞かせる。軽くて、そしてその軽さ故に感じる剣の重みに押し潰されないように。

「うおおおおおお!!」
「うらあああああ!!」

さらに、危険から遠ざけたはずの2人は再び危険の中に飛び込もうとしていた。

「なっ……駄目、ジャンボ!!こっちに来ちゃ――――――」

アンルシアの忠告も虚しく2人は戦場の中心地に飛び込む。
今更中断することも出来ず、エイトとアンルシアの剣が2人を襲う。
そしてそれらを両手にそれぞれ武器を持ったヒューザが受け止める。
ヒューザ1人で勇者2人分の攻撃を受け止められる、そのタネはどうぐ使いとなったジャンボの掛けた補助呪文である。
バイキルトとスクルト、ヒューザの押す力も耐える力も格段に上がっている。

「磁界シールド!」

その防御壁をジャンボがさらに強固にする。
乗った者へのダメージを減らす魔法陣。どうぐ使いは呪文以外でも守りを補助することが出来るのだ。
そしてそのまま、ヒューザはエイトを制圧した。

997天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:23:04 ID:VCc.tgBI0

「ジャンボ……一体どうして…?」

「勘違いなんだよ、アンルシア。コイツはゲームには乗っちゃいねえ。」

「えっ……?」

一瞬、理解が追いつかなかった。
ようやく言葉を交わせた盟友の口から出た一言は、今までの自分の行いを完全に否定するものだった。

感謝が欲しかった訳では無い。
褒めて欲しかったわけでも無い。
だけど、否定の言葉なんて聞きたくもなかった。
聞かされるなんて思ってもいなかった。

「え……?あ……嫌…嘘…そんな……。」

分かっている。
彼はそんな嘘は言わない。
周りが何も信じられない、こんな世界の中でも唯一信じることが出来た彼の言うこと。アンルシアの中ではそれは無条件に真実となるものであった。

ジャンボを見つけた喜びとジャンボを失うんじゃないかという恐れが冷静なアンルシアを心の中から追い出して、殺し合いの中に放り込んだ。

勇者だとか姫だとかの前に、人間として踏み越えてはいけないラインを、危うく踏み越えるところだったのだ。
自分の愚かさに気付く。

「……アンタには迷惑かけたな、エイト。」

「…。」

エイトにもある程度の状況は伝わったようで、まだ息は荒らげながらも戦闘の意思は落ち着いたようだ。

エイトもアンルシアも、更にはジャンボも自分も傷だらけで、まったくとんだ勘違いに巻き込まれちまったもんだとヒューザはため息をつく。
とはいえ、死人が誰も出なかったのは幸いなことだ。
フォズとゲレゲレの死を知らないヒューザはまた安堵する。

エイトもまた、安堵していた。
過程はどうあれ、誰も殺さずに済んだということ。敵に回すと強敵だったが、味方となればミーティアを守るのにも心強いであろう存在が目の前に3人も現れたこと。
戦いの疲れを吐き出すかのように、深くため息をついた、その時。



――――――ザクッ



「えっ…?」


エイトは背後から剣で刺されていた。
何が起こったのか分からない。
だけど、これが何かのトリガーになってしまったことだけは確かなのだ。

そして、再び悲劇は始まる。
だがその前に、過去に戻り、戦いの外の視点からここまでの経緯を紐解くことにしよう。

998天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:23:59 ID:VCc.tgBI0

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

アンルシアとエイトの戦いに巻き込まれないよう、フォズにはその場で待っているように言われた。
たしかにあの戦禍に巻き込まれては何も出来ずに死ぬだろう。
それは年端もいかない少女を震え上がらせるには充分な要因だった。

でも、何も出来ないのは嫌だ。
だから彼女は、出来ることを探そうとフォズの後について行ったのだった。

「――――――っ!!!」

その先は、語るまでもない。
彼女の目の前で突きつけられる死。
仲良くなった友達の死を目の当たりにして、今にももう1人、お姉ちゃんのような友達が死ぬかもしれない事態に直面していて、それなのに自分は何も出来ないでいて。
そんなの、嫌だ。
自暴自棄になったかのように、ティアはロトの剣を鞘から取り出す。

「アンルシアお姉ちゃんが危ない…私も戦わなくちゃ…!」

するりと抜けた剣は、ティアが勇者の血を引いていることを何よりも証明してくれていて、それがいっそう自信を煮えたぎらせてくれた。

フォズに続いてアンルシアまでもを失いたくはない。
優しいお姉ちゃんがあんなにも一生懸命戦っている敵なのだから、きっと悪い奴に決まっている。

無謀にもアンルシアの元へ向かおうとしたその時、ティアは背後から腕を掴まれていた。

「ティアちゃんでしょ…?どこに行く気なの?」

掴んでいたのはターニア。
ロッキールに聞かされていてティアのことは知っていたのだ。

「離して!私だって戦える!」

「駄目だよ!こんな戦い、止めなくちゃ!」

ホイミンも一緒に説得にかかる。だが、そんなもので止まれるほどティアの動揺は軽くはなかった。

「私だって、お兄ちゃんみたいに勇者の血を引いてるの!キーファお兄ちゃんも、レックお兄ちゃんも戦っているのに、私だけ逃げてるわけにはいかないんだから!!」

「レック……お兄ちゃん?」

ティアの思いがけない言葉にターニアの時間が一瞬凍り付いた。
自分はレックの本当の妹ではない。それでも、兄として一緒に居た時間はとても充実していて、その絆はそこらの本当の兄弟姉妹にも負けていないと胸を張って言える。
だけど、レックお兄ちゃんには魔物に殺されたらしい本当の妹が居るという話は知っていて、そして目の前の女の子がレックお兄ちゃんのことを兄と呼んで、一瞬、ティアをレックの本物の妹だったかのように勘違いしてしまって――――――

999天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:24:57 ID:VCc.tgBI0

気がつくと、力の抜けた手をティアはするりと抜けていた。

「あっ……待って!」

ティアは戦場へ向かって駆け出した。
目をやると、ジャンボとヒューザまでもが戦いに混ざっていた。

分からない。
どんどん激化していく戦いをどうすれば止められるのか。
何の力もない少女がこんな世界に巻き込まれて、何をすれば正解なのだろうか。
ティアちゃんみたいに自分の信じることを正義として突き進むのが正解なのか。それとも、誰かを傷付けるかもしれない道を進むのを恐れて、何も出来ずにいるままなのが正解なのか。

この世界に来てからというもの、ジャンボに流されるままに動き続けた。そして流される波を間違えていたことに気付いた。その波から外れようと、エイトという新しい波を見つけてみたら、今度は流される方向を最初から間違っていたことに気付いた。

何が出来ていたのだろう。
何をすべきだったのだろう。
彼女を止められていたら何かが変わっていたのだろうか。それとも何かを変えていれば彼女を止められていたのだろうか。

このままティアを追いかけないことも出来た。
これで彼女が命を失ったとしても、きっと誰も責めないはずだ。
それでも、ホイミンは迷うことなく駆け出した。その行動力がちょっと羨ましく思えて。
そしてターニアはまた、ホイミンに流されるようにティアを追いかけ始めた。
戦場に辿り着くまでの、たった10秒ちょっとの時間が、ターニアには何よりも長く感じられた。

1000天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:26:29 ID:VCc.tgBI0

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

そしてもうひとつ、この戦いに混ざる者がいた。

「何が…起こっているというのだ…!」

分からない。
何故ヤンガスの世界の勇者と、ジャンボやヒューザの世界の勇者が戦っているのか。
脱出手段を探して焦っていたピサロに与えられた光景は、彼の予想を遥かに超えるものだった。
何が起こっているのか全く理解が追いつかない中で、唯一明らかなのは、この後に及んでの強者の死は脱出を目論むピサロ達にとって都合が悪いということ。

どちらが仕掛けた戦いか、誰を攻撃していいのかも分からない。だが、この距離では分かった時にも何も出来ない。

この戦いの音を奏でる最後の人物が戦場へ向かう。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

(アンルシアお姉ちゃんを――――――守らなくちゃ!)

「駄目!待って!」

ターニアとホイミンを振り切って使命感に燃えた少女が、エイトへと迫る。
既に戦いは終わっていたのに、ティアはそれに気付かない。気付くはずもない。ティアは戦場になんて1度も立ったことのない少女。何を以て戦いは終わるのか、そんな判断基準は彼女の中に用意されていない。
彼女の中で、立場の分断というのは正義と悪以外になかった。
ハーゴンという明確な悪、3人の勇者という明確な正義、対立構造の中心に立場が明確なそれを見て育った彼女。
正義と正義のぶつかり合いなど考えたこともなかった。



――――――ザクッ



必然、その時は訪れる。
エイトの背に突き刺さったロトの剣。
少女の細腕による攻撃であっても、仮にも伝説の武器。エイトに致命傷を与えるには充分であった。

1001天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:27:02 ID:VCc.tgBI0

「い…いやああああああぁ!!」

ターニアが悲鳴をあげて、ホイミンが狂ったようにホイミを重ねがけする。

反射的に振り返ったエイトの目には、ティアの姿は見えない。彼女はショックで気絶してしまい、一時的にエイトの霞む視界の外へと消えていた。
その代わりに微かに見えたのは、ブライから聞いていた者の姿。
かつて人間を滅ぼそうと企んだ魔族の王、名前はピサロといったか。真っ先に頭に浮かんだ言葉は、ミーティアへ危害を加える可能性の高い、明らかな敵。

刺したのは奴なのか?
そんな疑問はもはや湧いてこない。
今さらそんなものは何でも良かったし誰でも良かった。
重要なのはまだ戦いは終わっていなかったという事実。

分からない。
誰が味方で、誰が敵なのか。
誰彼構わず殺すのを辞めた途端、敵か味方かの判別が格別難しい相手と連続して出会ってしまったのがエイトの不運だった。

自分も含め、8人の人物がそこに居た。
その中で信じられるのは自分だけという状況。更には血を失うことで同様に失われていく判断力。
エイトの中で、何かが壊れる音がした。
もはや、7体の敵に囲まれているかのような、そんな錯覚。

「解き放て、眠れる竜の魂を――――――」

消してしまいたかった。
自分を惑わす者たちを。
空も海も大地も、何もかもが偽りに満ちたこの世界。
誰かの命ももはや、自分を縛る呪いのように見えて仕方なかった。

自分が何を始めるのかもハッキリ理解していないまま、エイトの姿は変貌していく。

「「「――――――!!」」」

悲鳴や感嘆が入り交じった声が聞こえた気がした。
だが本当に叫びたいのはエイト本人だった。

虚無が、広がっていく。それは痛みで失われていく視界だったのかもしれないし、自分の心の内側の深淵を覗き込んでいたのかもしれない。


ドラゴンソウル。
竜の力を解放する、竜神族の奥義。
破壊を象徴したような圧倒的な力の前に天は荒れ、地は砕けていく。

1002天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:27:45 ID:VCc.tgBI0

(これが……勇者の力だと言うのか…?禍々しい…これではまるで……!)

かの魔王ピサロさえもその力の前に圧倒されていた。
何が起こったのかはまだ分からないが、ユーリルの壊れた感情が形となって顕現したのを目の当たりにしたかのような、そんな感覚を覚えた。

「ピサロ!ボサっとしてんじゃねえ!止めるぞ!」

ジャンボの声。
目を奪われていたピサロを不意に現実に引き戻す。

「貫け、シャイニングボウ!」

「飲み込め、ジゴスパーク!」

ジャンボとピサロが全身全霊を持って光の竜を止めようと試みる。だが、いずれもエイトを止めるには至らない。
止まらない、呪われし光の竜。

号哭にも似た咆哮を上げ、その場にいる全員を光の中へと巻き込んでいく。

宵闇の中、ひとつの場所で光が途絶えた。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

何が起こった?
辺りは闇に閉ざされていた。
エイトが竜へと姿を変えて、光の中に皆が消えていった。
しかし起き上がろうとして全身に感じた痛みは、まだ自分が、ジャンボが、生きているのだということを実感させてくれた。

何とか立ち上がると、ようやく視界がクリアになっていく。
同じように何とか立ち上がってのけるアンルシアとピサロ、重症ではありながらも何とか生きているターニアとティアとホイミン。
生きているのか死んでいるのか、一目では判別できないエイト。

あの威力の無差別破壊を受けておいてこの程度…いや、充分大事ではあるのだが、それでもこの程度で済んでいるのが不思議だった。

「まだ……生き…てん…な、ジャン…ボ…。」

不意に、まだ姿を認めていない友の声が聞こえた。
声のする方を向く。

1003天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:28:14 ID:VCc.tgBI0

その時目に入ってきた景色を敢えて言い表すのであれば、戦友が終わっていた。

身体は左半身がほとんど潰れて無くなっていて、未だ焦点の定まらない眼は、光を吸い込みすぎてもう何も映さなくなった。
明らかに他の全員とは傷の度合いが違う理由は、ジャンボにはすぐに分かった。

「ヒューザ…お前…!俺たち全員を庇って…!!」

言葉を返す代わりに、ヒューザはニヤリと笑った。
本望だ、とでも言うように。

「馬鹿野郎が!どうして皆そうなんだよ!!自分の命なんざ顧みねえ、そんな馬鹿ばかり!お前は…お前らは……本当にそれで良かったってのかよ!!」

ヒューザを詰っていたはずの言葉は、いつの間にかこの世界で死んだ色んな奴に向けられていた。

「いいんだよ………。」

もはや数秒の命。
その中でただ、ヒューザは思う。
これは全て自業自得なのだと。
一人で生きていくことを曲げて、仲間を庇うことを選んだからこそのこの結果。

弱い奴ながらも絶望に囚われることなく前だけを向けるホイミン。
ソーミャをどこか思い起こさせる、そんな優しさを備えたターニア。
不器用ながらも盟友のために戦うアンルシア。
そして何より、何年も腐れ縁を続けてきた戦友のジャンボ。

こんな馬鹿どもを庇って逝けるのなら、きっとメルビンのじーさんも認めてくれる。

「こいつらの為なら……構わねぇよ。」

もう顔も見えない戦友の言葉に、ヒューザは心からそう答えた。

1004天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:28:47 ID:VCc.tgBI0

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

深い深い、闇の中。
前も後ろも、自分の居場所も見えない。
ただ分かるのは、もう自分は助からないだろうということ。

ロトの剣の一撃、シャイニングボウとジゴスパークの直撃、全身全霊のドラゴンソウルによる疲労など、命が終わりへと向かっていくのがエイト自身にも痛いほど分かった。

ミーティアを守らなくては。

もはや本能的にそう思い、自分にベホマをかけ続ける。
「延命治療」の4文字が頭を掠めた。制限下のただの回復呪文に、身体の底まで浸透した傷を癒すことは出来ない。

(ミー…ティア…。私は…貴方を……。)

振り絞って出そうとした声は音に変わることはなかった。


(兄貴………!兄貴………!)


代わりに、懐かしい声が聞こえたような気がした。



「畜生、兄貴……!!」

また、間に合わなかった。
戦いの音を聞き取り、急いで駆け付けたヤンガス。
しかし到着した時には、全てが終わっていた。

「何が……起こったって言うんでげすか!」

この悲劇の役者になれなかったヤンガスは、その惨状を前にただ嘆いた。
この感覚は何度経験しても慣れない。慣れたくもない。
修道院でも、石工の町でも、雪国でも、目の前で死んでいく人を今まで何度も見殺しにしてきた。

「答えろよ!何でヒューザが死んでる!何で兄貴も、アンタらも、皆死にそうなんだってんだ!!」

そう言うものの、ヤンガスは何となく悟っていた。あの優しかった兄貴でさえこの世界では殺しに走っていたということをアルス達から聞いていた。

「頼む…答えてくれ…!!兄貴が……アンタらを襲ったんでがすか…?」

だとしたらククールの死と同じ、エイトの自業自得。
認めたくはなかったが、これほどの惨状を引き起こせる人物などヤンガスは1人しか知らない。

「いいや、違うさ。俺が戦いを起こしたんだ。」

正直に、ジャンボは答える。
まともに動けるのが事情を詳しく知らないアンルシアとピサロだけである以上、誤魔化すという選択肢もジャンボには存在した。
でも、出来なかった。
ここで覚悟を決められずして、ヒューザの死を悼む権利など無い。

1005天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:29:48 ID:VCc.tgBI0
「ああ……。分かった。」

「怒らねえのか?いくらでも殴られる覚悟なら出来てるんだぜ。……まだ、殺されてやるわけにはいかねえんだけどよ。」

「もう、誰かを恨むのはやめたでがす。」

みんな友達大作戦。
ライアンからその詳細を聞いた時、ヤンガスは協力したいと思った。
1日もの間、多くの死者を出し続けながら人間関係が交差し続けたのだ。自分とヒューザがそうだったように、元の世界の仲間絡みのしがらみもこの世界には多くあるだろう。
でも、誰かがそれに囚われていては作戦は成り立たない。

もしもそんなしがらみが生まれる前にこの作戦が進んでいたのなら、兄貴もククールもきっと、馬鹿なことなど始めなかったはずだ。

「ありがとうでがす。最後に兄貴のこと、信じさせてくれて。」

ジャンボは何も言えなかった。
感謝されるようなことはひとつもしていない。
むしろ、殴られた方が楽だったかもしれない。
ただ、この時はまだヤンガスの言葉の意味を理解していなかったのは確かだった。

ヤンガスは笑って、そして、何か言葉を紡いだ。
そのまま、糸が切れたかのように死んでいった。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

エイトの瞳に、光が再び宿る。
回復呪文では助からない、そう思っていた傷は完全に塞がっていた。

そして起き上がった時、すぐ側で倒れているヤンガスを見た時、ようやく全てを理解した。

自己犠牲呪文、メガザル。

ヤンガスは、自分の命を助けるために自ら命を捨てたのだ。
見渡せば、メガザルの対象は自分だけではなかったらしく、生きていた者たちが身体を起こし始めている。

メガザルは自分の命と引き換えに、「仲間」全員を回復する呪文。
ここにいる全員は敵ではない。皮肉にもかつての、本当の意味で仲間だった者の死によって実感させられた。

「気がついたか、エイト。悪いが、時間がないので簡潔に言わせてもらう、力を貸せ。ヤンガスが死んだ今、へちま売りとやらを知るのはお前しかいない。」

仲間らしき者の誰かが何かを言っていた。
だけど、そんなことはどうでもよかった。

「トロデーン城に、ミーティアという名の黒髪の女性は居ますか?」

「…いや、少なくとも私の知る限りでは居ない。」

「そうですか、ありがとうございます。」

ならばトロデーン城に用は無い。
ミーティアを、探さなければ。

「おい!どこへ行く!」

有象無象の者たちを殺す時間とて惜しい。
誰かの叫びを無視して飛び出した。

1006天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:30:28 ID:VCc.tgBI0
仲間などいらない。
敵もいらない。
根本的に目的が違うのだ。
ゲームが始まった瞬間から全ての者との同行を拒み、全ての者との戦いとて拒んでいれば、今頃はこの世界を1周してミーティアを探し出すことが出来ていただろう。どこで死んだのか分からないトロデ王だって、あるいは助けられていたかもしれない。

(お前のことは、本当の息子のように思っとるよ。)

忠義を誓った者たちに、いつかかけてもらった言葉が。

(どうか、私のことは姫様などではなく"ミーティア"とお呼びくださいませ。)

深い深い、虚無の中に溶けていく。

何も守れなかった自分の最果てを、虚無の中に見てしまった。

その時、自分の中に何か残るだろうか。
煩わしいものだけを消し去りたいと感じた時、自分が人ではなくなっていくような感覚を覚えた。

いや、元々自分は人ではなかった。
いつの間にかポケットの中にあったそれを認めた時、自分が生まれつきかけられていた呪いを思い出した。

「……あなたも、巻き込まれていたのですね。」

挨拶の代わりに、久しぶりに再会した祖父にチーズをひとつ、いつものように食べさせた。
そしていつものように吐かれた小さな炎が、深い闇の中に一筋の光を灯した。

この光の向かう先は正しい道なのか。
本来は真偽のないはずの命題を自らに問いかけるも、答えはまだ分からない。
ミーティアを守れるかどうか。
彼にとっての行動の真偽はそれだけだった。

1007天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:31:08 ID:VCc.tgBI0
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「仕方ない…へちま売りとやらは私たちで探すしかないようだな。さて、次はお前だ、ジャンボ。何があったのか聞かせてもらおうか。」

「ああ…。全部、話すさ。俺が企んでたことも、俺がやったことも。」

今更隠すつもりなどない。
どれだけ失望されようとも、信頼を失おうとも、自分が脱出の鍵を握る限りピサロに殺されることは無いのだから。
とはいえ、誰かとの人間関係すらもこんな打算に満ち溢れている自分の小賢しい頭が少し疎ましく思えた。

戦いの原因を作った悪党は俺だってのに、その犠牲になった奴らは皆いい奴だった。
その中にかねての友も混ざっているのだからその感覚がよりリアルに伝わってくる。

罪滅ぼしだとかそんな陳腐な動機で戦うつもりはない。
だけど託された物くらいは大事にしたいと思う。

やりたいこと、やるべきこと、まだハッキリとは分からない。
まだ何も終わっていないのは変わらない。

アストルティアだけでなくターニアの世界までを守る、その手段を探さなくてはならないのだから、今までよりもハードルは上がったはずだ。

それでも何か、肩の荷が降りたかのような、そんな感覚を覚えていた。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

ヒューザが死んだ。
いつの間にかフォズが死んでいた。
さらに、2つの命が犠牲になった。

私のせいだ。
ジャンボを見つけた喜びで周りが何も見えなくなっていた。
後悔したとしても命は戻ってこない。魔王に利用された兄のように再び会えることもない。

人々は私を勇者姫と呼ぶ。
だが、独りよがりな正義を貫いて、それを誰が勇者だと言うのだろうか。
勇者の雷、それは勇者である私の武器。
真理を見失った私に、それを扱う資格などあるのだろうか。

勇気が、闘志が、そして忍耐が、勇者としての自分を構成する色々なものが、剥がれ落ちていくような感覚を覚えた。


―――私は もう戦えない……。

絶望に堕ちた勇者姫のふと洩らした弱音を聞く者は誰もいなかった。

1008天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:34:20 ID:VCc.tgBI0

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

(お兄ちゃん…どこにいるの…?)

兄を殺す計画を立てていたジャンボに立ち向かってくれたヒューザもゲレゲレも、死んでしまった。
同じく立ち向かってくれたエイトはどこかへと走り去って行った。

ターニアは怖かった。
このままジャンボのいる場に居続けることが。

自分で何かを成すほどの力はなくて、だから強い人について行く道を選んだ。
お兄ちゃんと出会うには、それが1番の近道だと本能的に思ったのだ。
事実、ジャンボがいなければ自分は最初のヘルバトラーに殺されていただろう。

でも、流されているだけでは駄目だと思った。
流されて、都合のいいように使われるだけの生き方に恐怖を感じた。

このままジャンボたちについて行く気にはなれなくて、ターニアはその場から逃げ出した。

最初から何かが間違っていたと言うのなら、既に辿り着いた場所は間違った場所なのかもしれない。
それでも、自分で選んだ道ならきっと後悔しないでいられると感じた。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「待って!ターニア!」

逃げ出したターニアを追いかけようとするホイミンの腕をピサロは掴む。

「放っておけ、時間が無い。」

既に月が登り始めてきている。
月の世界への扉を開くのならば、すぐに城に戻らなければ間に合わないだろう。

それに、ターニアを追いかけるのに適切な実力者が居ない。
自分が行くつもりはないし、今回の件の発端らしいジャンボが行くのは逆効果だろう。
アンルシアも、1人で誰かを追えるような精神状態ではないし、ホイミンが行ったところで敵に襲われたら一網打尽にされるだけだ。

「たぶん大丈夫だろう。あっちにゃヤンガスが向かってたはずなんだがアイツは引き返してきてた。エイトがこっちに向かってるって情報でも与えた奴らでもいるはずさ。」

「違うよ、理屈じゃないんだ。」

ジャンボの言葉をホイミンは遮る。

「皆でこの世界を脱出するのに、誰かを置いていってちゃいけないんだ。だって僕たちはみんな友達なんだから!」

その言葉の裏にあるのは、バラモスゾンビとの戦いで自分だけ逃がされて多くの人が死んでいく中何も出来なかったことへの後悔。
放送であの時感じた絶望感をもう一度味わいたくはなかった。

1009天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:35:32 ID:VCc.tgBI0
「……ピサロ。アンルシアとこのティアって子、頼めるか。」

「お前は冷静な奴だと思っていたのだがな。情でも湧いたか?」

「簡単なことよ。俺のせいでああなったんだ。俺がちゃんと、ケジメつけなきゃなんねえだろ。」

それに、ヒューザならきっと追いかける。ジャンボはそう思った。

「アンルシア。すまなかったな。俺は胸を張れる盟友じゃねえんだ。」

「ジャンボ……また、離れて行っちゃうの?」

「必ず、ターニアとホイミンを連れて戻るさ。」

「まあいいだろう。どうやら私も、目的は果たしたらしいからな。」

ピサロの視線は、気絶したティアのザックからはみ出した、翼を模した道具に注がれていた。

【E-4/トロデーン地方 草原/真夜中】

【エイト@DQ8】
[状態]:健康 MP1/4
[装備]:奇跡の剣
[道具]:支給品一式 道具0〜2個 トーポ(DQ8)、激辛チーズ(DQ8)
[思考]:ミーティアを守る。それまで誰とも協力せず、誰とも戦わない。

※レックとチャモロを危険人物ではないかと疑っています。
※トーポは元の姿には戻れなくされています。

1010天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:43:33 ID:VCc.tgBI0
【E-3/草原/真夜中】

【ピサロ@DQ4】
[状態]:健康 焦り
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 『世界道具百科辞典』 『勇者死すべし』 大魔道の手紙
[思考]:トロデーン城に戻り、イシュマウリ(名前はへちま売りと勘違い)と会えるか試す
エビルプリーストをこの手で葬り去る
ロザリーの安否を確認する。
1:ロザリーはどうなった……?
※ジバ系呪文を実際に見せてもらいました。
※エビルプリーストの背後に黒幕がいることを、手紙によってほぼ確信しました。
現状ではラプソーンが怪しいと考えています
※首輪の仕組み、機能を知りました


【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:健康 MP3/5
[装備]:ナイトスナイパー@DQ8
[道具]:支給品一式、道具0〜4 天空の剣、罠抜けの指輪 罠の巻物×2 ドラゴンローブ
[思考]:
基本方針:エビルプリーストに借りを返す。
1:ターニアを追う
2:自分の知り合いを探す
3:首輪解除を試みる

[備考]:※職業はどうぐ使いです。弓スキルは150です。
※エビルプリーストの背後に黒幕がいるのではと疑っています


【勇者姫アンルシア@DQ10】
[状態]:健康 MP1/8 情緒不安定 自信喪失
[装備]:戦姫のレイピア@DQ10
[道具]:支給品一式 とつげき丸@DQ10 不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:ピサロについていく
ティアを守る
最後まで戦う
彼に会いたい
彼を守りたい
彼の隣に居たい

[備考]:全てのスキルポイントが一時的に0になっています。それに伴い、戦闘力の低下とギガデイン・ベホマラー等の呪文が使えなくなっています。

【ティア@DQ2(サマルトリアの王女)】
[状態]:健康 気絶
[装備]:ロトの剣 氷柱の杖(残5)@トルネコ3 ようせいのくつ@DQ9 
[道具]:支給品一式 脱いだ靴 おわかれのつばさ@DQ9 パーティードレス@DQ7
[思考]:兄とその仲間たちを探すため、トラペッタへ向かう。兄にロトの剣を渡す 職業に就いてみたい
※第二放送の内容を聞いてません。
※気絶直前のことを覚えているかどうかは次の書き手にお任せします。

【ホイミン@DQ4】
[状態]:健康 MP1/8 仲間死亡によるショック
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個 ヒューザのメモ(首輪解除の手掛かりが書いています)
[思考]:トラペッタ方面に向かい、ターニアを追う
『みんな友達大作戦』を成功させる ヒューザがくれた手掛かりを守る。

1011天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:43:47 ID:VCc.tgBI0

【F-3/街道/真夜中】

【ターニア@DQ6】
[状態]:健康 恐怖
[装備]:無し
[道具]:支給品一式(ランタン無し)、愛のマカロン×6 道具0〜2
[思考]:基本方針:お兄ちゃんと合流したい。
首輪を解除してくれる者を探す 
周りに流されず、自分で行動する

【ゲレゲレ@DQ5 死亡】
【フォズ@DQ7 死亡】
【ヒューザ@DQ10 死亡】
【ヤンガス@DQ8 死亡】
【残り29人】

1012天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:44:07 ID:VCc.tgBI0
投下完了しました

1013ただ一匹の名無しだ:2018/06/30(土) 10:08:24 ID:waw/XKX.0
投下乙です
11人の参加者…不穏な奴はいれど殺し合いに乗ってる奴は一人もいないはずだったのにこんなことになるとは…
死者多数で生きてる奴も心身ともにボロボロ…
ジャンボの転職&改心で希望が繋がったのが不幸中の幸いってとこか

1014 ◆jHfQAXTcSo:2018/06/30(土) 19:21:33 ID:e5wpmUQY0
投下乙です
悪意のない戦いが悲惨な結末に……
精神的にガタガタだけど、希望も多いチームだけに今後が心配

では私も投下します

1015お姫様じゃいられない ◆jHfQAXTcSo:2018/06/30(土) 19:23:25 ID:e5wpmUQY0
小さくてのどかな村だった。
奥にはアルバート家の屋敷が建っていて、そこを中心として築かれていった村だった。
畑を耕す者、こじんまりとした教会で祈りを捧げる者、村を守る為に日々駆け回る少年たち。
小さいながらも輝く命が溢れた村だった。
リーザス村がそんな場所だったと思う者は、今はもういないだろう。
崩れ落ちた建物たち、大きく抉れた地面、散らばる血と、真っ黒になって動かないモノ。
今はただ、そこかしこに死があるのみだ。

最愛の人の手を組ませ、ローラは祈りを捧げていた。
守ってくれた感謝を告げるように、別れ惜しむように。
地獄の雷を受けて長く経ってないその手に触れた時、腹を貫かれた時を越える凄まじい熱がローラを襲った。
思わず一度その手を離してしまったが、歯を食いしばり、ドレスの裾を緩和材代わりにして、その手を組ませる為に再び触れた。
それでも熱く、痛みすら伴う。
けれど、それは命ある証だと言い聞かせ、なんとかアレフの手を組ませることに成功したのだ。

祈りに組んだ手を解き、ローラはその掌を見つめた。
熱と痛みに震える、とても小さい、弱い手だ。
アレフはその手に光の剣を持ち、ハッサンの首を落とし、アベルたちと対峙し、デュランとの一騎打ちに臨んだ。
自分の命と、ローラの命、我が子の命をその手に乗せて、最期までローラたちの為に戦い抜いた。

「やはり、アレフ様はお強いです。貴方が共にいてくれるだけで、とても心強かったですわ」

もう聞いてくれる者はいない中、ローラはぽつりと溢した。

「でも……もう、一人で戦うしかありません。もっと、強くならないといけません。
 アレフ様。どうか、見守っていて下さい。貴方を傍に感じられるだけで、ローラは強くなれるのです」

少しだけ、ですけれど。
一際小さな声で呟くと、支給品の水を取り出して、せめてここだけでもとアレフの顔を清める。
そこに絶望は映っておらず、ローラへ希望を繋ぐ決意と、言葉を伝えられた安堵の色が見てとれた。
アレフの強さに敬意を込めて、ローラはもう一度祈りを捧げた。

1016お姫様じゃいられない ◆jHfQAXTcSo:2018/06/30(土) 19:24:38 ID:e5wpmUQY0
次にローラが目を遣ったのは、残りの焦死体たち。
つい先刻までアレフと戦っていたデュランと、もう一人はいつの間に追い付いたのか、よく見ると北で出会ったトンヌラだということが分かった。
暫く彼らを見つめて、決意したようにローラは二人に近付いた。
アレフと同じ要領で手を組ませ、顔を水で洗い流す。
怒りに満ちた顔と、絶望に染まった顔が現れた。
デュランには決して良い感情を持っていないし、パトラのことを考えると助けられた面があるとはいえ、身籠っていることを言い当てたトンヌラにも警戒心はあった。
だが、二人とも少なからずローラが関わり合った命だ。
これから生きていく為に、それまでの道のりを忘れない為に。
ハッサンの時のようにアレフにすがるのではなく、自分でしっかりと向き合った。
言葉は発することなく、ローラはただ静かに、二人に祈りを捧げた。



(真っ暗ですわ……)

弔いを終え、気付けばとうに日が暮れていた。
先刻まで剣から生まれる火花やベギラマなどの魔法、最後にはジゴスパークまで放たれていて眩しく、辺りが暗くなっていることに気付かなかった。
夜風を感じ、ぶるりと震える。
水で清めたにも関わらずまだ手はじんじんと熱を持っているのに、意識した途端身体が冷えてきた。
同時に、急激に足から力が抜ける。
体の内の我が子と共に殺し合いに巻き込まれて約半日、肉体的にも精神的にも安らげる時はほぼなかった。
傷こそ世界樹の葉によって完治したものの、心までは癒せない。
静寂に緊張の糸が切れ、か弱い王女の体は今になって内側から悲鳴を上げたのだった。

1017お姫様じゃいられない ◆jHfQAXTcSo:2018/06/30(土) 19:26:00 ID:e5wpmUQY0
力を振り絞って屋敷に向かい、中に足を踏み入れる。
屋敷内の照明も機能しておらず、支給されていたランタンで足元を照らす。
外も中も、全てが暗い。
こんなに世界が暗いと思ったのは久しぶりだ。

(アレフ様がもういないからでしょうか、こんなに暗いのは)

竜王に捕らえられた時も、ローラは暗闇の中で震えていた。
もう一生このままなのか、もう太陽を見ることもできないのかと恐怖に支配された日々だった。
そんな彼女の元にアレフが現れ、ドラゴンを打ち倒して、ローラを抱きかかえて外の世界へと連れ出してくれた。
太陽の光と、何よりもアレフが、ローラの目には輝いて見えた。
ローラの世界は再び光を取り戻し、鮮やかに色付いたのだ。
ふとアレフの方を見ると、助けに現れた時よりも力強さを感じる眼差しと目が合った。
そこに言葉こそなかったが、互いに互いの世界を色付けた二人は確かに惹かれ合っていた。





1階ではあまり安心できず、ローラは2階へと歩みを進めた。
登ってすぐの位置にテーブルと椅子を見つけ、雪崩れるように腰を下ろす。
疲労を癒すにはベッドを使うのが1番だろうが、目の前で繰り広げられた激闘がまだ鮮明に脳裏に焼き付いていて、妙に目は冴えている。
加えていつ誰が訪れるかも分からない不安もあって、眠らずにこのまま回復を待つことにした。

(それに、まだこれからのことも考えなければなりませんもの)

命を懸けて守ってくれたアレフの為にも、生き延びなければならない。
それには後手に回ってしまわないように、しっかりとした意志を持って行動する必要がある。
これまではアレフと共に行動し、アベルから逃れて以降はアレフと共に戦う為に動いてきた。
そのアレフはもういない。ローラのバトルロワイヤルは、新たな始まりを迎えなければならない。

1018お姫様じゃいられない ◆jHfQAXTcSo:2018/06/30(土) 19:29:10 ID:e5wpmUQY0
ランタンを置いて地図や支給品を並べる。
まずは禁止エリアを書き込んでいる地図を手に取った。
今いるリーザス村には、もうローラ以外に生きた者がいない。
ならば人がいそうな場所を目指すべきだろう。
トロデーン城は遠すぎるため除外するとして、行き先の候補は北のトラペッタと南西のポルトリンク。

(スクルドと呼ばれていましたか、あの人はもう村にはいませんでした。どちらに向かったのでしょうか……)

乗り物やキメラの翼のような道具を持っていない限り、最も近くにいるのは間違いなく彼女だろう。
デュランと行動を共にしていたことを考えると、ゲームに乗っていることはほぼ確実だと思われる。
回復魔法を操る上に、槍も使いこなす彼女と一人で再会するのは危険すぎる。

(もうここを発っているようですし、私がこうして生き延びていることには恐らく気付いていないはず。放送が来る前に彼女と距離を取って誰か他の参加者と合流できればいいのですけれど……)

武器にできるものが毒針と、ハッサンに使ったような毒性の粉くらいしかない以上、集団に紛れ込む以外の生き延びる道は少ないだろう。
思いつつも、難しいことだと首を振る。
飛びつきの杖がもう手元にないのが悔やまれる。
リーザス村を訪れた時と同様に使えば、スクルドの脅威は薄れていたはずだ。
放送で生存が明らかになってもこちらに戻ってくるとは限らないが、やはり不安要素は少なくしておきたい。

(私にも、戦う力があれば良かったのに)

スクルドを回避できたとしても、もし次に会う人物がゲームに乗った者だったら。
毒針はリーチが短く、毒を盛るのも現実的ではない。
毒針を構えて引き寄せの杖を使うことも考えたが、相手の体格によっては攻撃するどころかローラ自身が吹き飛ばされる可能性もある。
迎え撃つことは厳しいだろう。

力のない“お姫様”であることが悔しい。
考えても考えても懸念の方が増えていってしまう。
次の放送までにここを出発すること、一人でスクルドに鉢合わせないようにすること。
はっきりと決められたのは、結局それくらいだった。

1019お姫様じゃいられない ◆jHfQAXTcSo:2018/06/30(土) 19:31:56 ID:e5wpmUQY0
歯噛みしながらふと顔を上げると、本棚が目に入った。
何か助けになるようなものはないかと藁にすがる思いで手を伸ばす。
取り出した本をぱらぱらと捲ると、この屋敷の一族の由来が書かれていた。

“アルバート家の血筋を遡れば魔法剣士にして天才彫刻家シャマル・クランバートルにつながる”

「魔法剣士……」

“シャマルは賢者と呼ばれ数々の歴史にのこる業績をなしとげた偉大なる人物である”

(ここは賢者と呼ばれるほどの方の子孫のお屋敷だったのですね)

本を閉じて、 他の本たちに視線を移す。
ここが賢者と呼ばれた魔法剣士の子孫の屋敷ならば、魔法に関する本もあるかもしれない。
そう思い至り、何冊かを引っ張り出し、テーブルへと持っていく。
全て読んでいたら次の放送には間に合わないが、ある程度疲労が回復するまでの時間くらいは宛てられる。
読みきれなかった分は持ち出してしまえば、また読む機会も訪れるかもしれない。

ホイミやギラといった下級魔法でも構わない、少しでもできることを増やしたかった。
自分に魔法の才があるかは分からないけれど、可能性が1と0では全然違う。
アレフの為、我が子の為、生き延びる為なら、1パーセントの可能性にだって賭けられる。
もう、か弱いままのお姫様ではいられないのだ。
支給されている時計をこまめに確認しながら、手にした本と向き合う。
99パーセントにだって打ち勝ってみせる、それだけの決意を秘めて。



【I-5/リーザス村アルバート家/1日目 夜中】

【ローラ姫@DQ1】
[状態]:健康
[装備]:毒針
[道具]:支給品一式、銀のティーセット 草・粉セット(世界樹の葉が使われました)
    ハッサンの支給品(引き寄せの杖 場所替えの杖)
    アルバート家の書物
[思考]:愛する我が子の為に戦う。
※アルバート家の書物の具体的な数や内容は次の書き手さんにお任せします

1020 ◆jHfQAXTcSo:2018/06/30(土) 19:32:50 ID:e5wpmUQY0
以上で投下終了です
誤字脱字、指摘などあればお願いします

1021明日への架け橋 ◆2zEnKfaCDc:2018/07/08(日) 11:34:45 ID:zaceXZrc0
投下します

1022明日への架け橋 ◆2zEnKfaCDc:2018/07/08(日) 11:35:42 ID:zaceXZrc0
トラペッタとリーザス村は、関所の役割を持っていた橋で繋がれている。
ただし、関所として旅人の行く手を遮っていたのは過去の話。
今や関所だったものは完膚無きまでに破壊されている。
いや、この世界では破壊されたものをモチーフにして創られているといった方が正しいのかもしれない。
何にせよ、今やその関所は関所ではなく万人を通すただの橋である。

橋の上にはおびただしい数の矢が落ちており、更には火薬の匂いも蔓延していた。
このような痕跡はここで殺し合いが行われたことをこれ以上なく物語っている。人間が撃ち続けるには厳しい矢の数や機械片が落ちていることから考えて戦闘者の片方はキラーマジンガだろうとアルスは推測する。

そしておそらくリーザス村に辿り着いてもマリベルやアイラを殺した何らかの痕跡が、更には死体が、自分たちを待っているのだろう。

向き合うのが怖くないはずがない。自分の過去の無力さを噛み締めずにいられるはずもない。
どうしてもアルスの両腕に力がこもり、それを見越してか、ライアンはアルスに声をかけた。

「ここで休憩するでござる。アルス殿もキラーマジンガ戦の疲れが出ている頃でござろう。」

アルスはその言葉に甘えることにした。こんな細かい言動の隅々に仲間への気遣いが見て取れるライアンの背中に、そして何よりも彼のござる口調に、メルビンの面影を感じずには居られなかった。

ちなみにライアンもまた、アルスにユーリルの面影を感じていた。
選ばれし者としての素質――――――などではなく全身に纏った緑色に対して。

1023明日への架け橋 ◆2zEnKfaCDc:2018/07/08(日) 11:36:59 ID:zaceXZrc0


さて、整備された橋の中央でアルスとライアンは座り込む。
四方八方のどこから敵が現れるか分からない草原に比べて、前後のみに意識を向けていればよい橋の上は休憩にはちょうど良い場所だった。

橋を見て真っ先に思い出すのは、夜のグランエスタード城。夜にキーファのところに向かおうにも架け橋が上げられて城に入ることは出来なかったため、夜中に抜け出す時はいつもキーファの方から自分の下を訪れていた。

今だからこそ思う。
キーファと友達で居たのはあの橋のように一方通行の関係でしかなかったのだと。

こうして心というものを自分の中に認めて以来、振り返る過去に残るのは後悔ばかりだ。
もしもキーファとの関係に橋を架けられていたのなら、キーファがみんなの下を去ることもなかったのではないだろうか。

(どんなに離れていても友達…。僕にはそんな言葉を受け取る資格なんてあったのかな…。)

「ええと…アルス殿?」

「おっと、ごめん。どうしたの?」

気が付くと、ライアンが2度3度自分の名前を呼んでいた。
下手に考え事にのめり込むと敵襲にも気付かないことになりそうだなと、冗談にならない想像を拭い去って頭を掻いた。

「別に用があるというわけではないのだが…本当に、色々なことが起こった1日でござったなあと思いましてな。」

「……ああ、そっか。もう今日は終わるんだっけ。そして今日が終わったら、明日が来る…と。」

一瞬、ライアンが何を言っているのかが分からなかった。
時間が経つこと、そんな当たり前のことにさえアルスの関心は向かってこなかったのだ。
今日の出来事を振り返ること、そんな経験とて初めてだった。

1024明日への架け橋 ◆2zEnKfaCDc:2018/07/08(日) 11:38:16 ID:zaceXZrc0
アルスは知る。
今日の後悔に苛まれる夜がこんなにも辛いものだったのだということを。来たる明日に一種の恐怖すら覚える、そんな今日を生きるということを。

そう、周りに関心を回してみればそこに広がっていたのは今までとは違う新しい世界だった。
空白の中を生きてきた今日までとは違い、自らの心の中に生きる明日がある。
アルスにとっては、言うならば「初めての明日」が訪れるのだ。

「…まあ、橋も繋がってることだし。」

アルスの頭の中にあったのは、かつての冒険の中の不思議な出来事。ただ、アルスが何を言っているのか分かっていないライアンは首を傾げていた。

「もし、色々なものを失った今日をやり直せたなら――――――この橋を見てたらつい、そんな期待を抱いちゃって。」

繰り返される同じ1日。
いつになっても完成しない橋。
リートルードの町で体験したタイムマスターを巡る出来事を、アルスはライアンに掻い摘んで話した。

「なるほど、時の砂でござるか。それにしても同じ日を何度も繰り返すとは何ともまあ、不思議な体験をなさったものでござるなあ。」

この世界にやり直しはないということくらい、幾度となく過去をやり直してきたアルスにも分かっている。
だからこそ、なおさら過去の世界で体験した不思議な出来事に縋りたくもなる。

アルスは今まで後味の悪い仕事は率先して引き受けてきた。
他の誰もが躊躇っている中、マチルダを斬ったのもチビィを斬ったのもアルスだった。

これが元凶なら仕方ないじゃないか――――――当たり前のようにそう言った時のマリベルの何とも言えない表情を、アルスはもう忘れてしまった。

1025明日への架け橋 ◆2zEnKfaCDc:2018/07/08(日) 11:39:20 ID:zaceXZrc0

心を得るのが遅れた分、長きに渡る日々の中で徐々に受けるはずだった心の痛みをアルスはこんな絶望まみれの世界で一気に受けることとなったのだ。

そして夜の暗闇は、その絶望を相乗的に強めるには充分なものだった。

「僕って、こんなに弱かったのか。」

ぽつりと漏れたその弱音が声となっていたことすらもアルスは気付けなかった。


(何かを守りたい者には、心など無い方が良いのかもしれませんな…。)

ライアンが思い出すのは当然、勇者ユーリルであった。
心は必要なものだ。
だけれども時にそれは自らを殺す刃にもなりうる。
何年もの間剣を振るってきたライアンでさえも、心以上に鋭く残酷な刃を知らない。

「アルス殿は、今日の戦いの中で心を知ったとのことでしたな。」

ライアンの唐突な言葉に対してアルスはきょとんとした表情のまま頷いた。

「心は知らないなら知らないままの方が、こんな場所では安全かもしれませぬな。時にアルス殿は、心を得たことに後悔しているでござるか?」

「ううん。」

アルスは即答する。

「確かに心を持ったことで失ったことに気付いたものはたくさんあったよ。でも、それ以上の何かを手に入れた、そんな気はするんだ。」

アルスはそれでも前を向いていた。根幹にある芯の強さは、心の有無に関わらず何も変わっていない。

まだこの世界には、心を持って会いにいくと約束した人がいる。あんな自分のことも親友だと言ってくれた人もいる。
それだけで、アルスは立ち上がれる気がした。

1026明日への架け橋 ◆2zEnKfaCDc:2018/07/08(日) 11:41:30 ID:zaceXZrc0

「『橋の先は新たな世界。レベルを上げるまで決して渡るなかれ。』…拙者の祖国、バトランドの教えでござる。大丈夫、この橋を超える明日のアルス殿はきっと、今日の経験を通じてレベルアップしているでござるよ。」

「ありがとう。……この先に何が待っていたとしても僕は負けない。この先には僕の守れなかった仲間が、僕の弱かった過去が、待っているんだ。」

どれだけ後悔しようとも、今日はもう巡ってくることはない。
だけど、仲間を守れなかった過去はアルスの前に立ち塞がる。

今までの冒険も過去に向かうものばかりだった。
だけど、リーザス村で大切なものを守れなかった自分と向き合えば、きっとそれからは未来へ向かっていくことが出来ると思うから。

欠けた台座に心という石版を嵌め込んで、過去を巡る最後の旅が始まる。
常に死と隣合わせの今日を生き抜いた2人は、明日へと一歩を踏み出した。

【G-6/関所/真夜中】

【アルス@DQ7】
[状態]:HP1/4 MP微消費
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜2) ゲルダの不明支給品0〜1個 道具0〜2個(本人確認済み)
[思考]:この戦いを終わらせる。ミーティア、キーファ、フォズを探す。リーザス村でアイラとマリベルを弔う。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。

【ライアン@DQ4】
[状態]:HP1/3 全身の打ち身、顔に傷、兜半壊、腹部に打撲、鎧半壊
[装備]:まどろみの剣
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1)
[思考]:ホイミンのみんな友達大作戦も手伝う。

1027明日への架け橋 ◆2zEnKfaCDc:2018/07/08(日) 11:42:19 ID:zaceXZrc0
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1028救われぬ者に救いの手を ◆2zEnKfaCDc:2018/07/10(火) 21:27:46 ID:JHOEi.9w0
投下します。

1029救われぬ者に救いの手を ◆2zEnKfaCDc:2018/07/10(火) 21:28:24 ID:JHOEi.9w0
平原の真ん中。
闇に堕ちた英雄は4度目の眠りについていた。

すぐにでも人間を殺しに向かいたい、彼の心臓と結合したヘルバトラーはそう思ったものの、数多くの人間たちと再び相見えるにはまだ体力は足りているとは言えない。

ザンクローネと比べてもヘルバトラー強と比べても身体能力が向上しているとはいえ、生命力は所詮人間と大差ない妖精のものでしかないのだ。

そう判断するや否や、隠れることもせずその場に寝転がる。

こんな世界で見張りも付けずに、それも遮蔽物もないような場所で眠るというのは、傍から見れば紛うことなき自殺行為。
だが彼の中にはザンクローネとは別に更に2つの生命が存在している。
身体が休息を取っていようとも、精神は常に辺りの気配を察知することが出来るのだ。

(傷が治ったならば……まずは近くの城に向かうとするか。奴らも先の戦いで傷だらけのはず。傷を癒すためには最も近場の城に向かうのだろうが、まさか全員が全員休息を取れているということもあるまい。少なくとも誰かしらは見張りが必要なはずだならな。そやつらから一匹一匹順に殺してやろう。)

眠りこけて意識を無くしたザンクローネとは裏腹に、ヘルバトラーは思考を始める。
魔英雄ザンクローネの意識の主体はあくまでザンクローネのものである。
ただし深層心理にまで入り込んだヘルバトラーとグレイツェルはザンクローネの行動の根本を操ることが出来るのだ。

行動理念を与えてやれば、あとは勝手にザンクローネが暴れてくれる。
ならば知将として、自分を死の淵に追いやった人間どもを確実に殺せる作戦を立てるのみ。

(肉体は滅びたが、まだまだ殺し足りぬ。憎き虫けらどもよ…貴様らを地獄に引きずり込んでくれよう。そして地獄の底で、再び死闘を繰り広げようではないか…!)

1030救われぬ者に救いの手を ◆2zEnKfaCDc:2018/07/10(火) 21:29:37 ID:JHOEi.9w0
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

心の底のザンクローネの意識は無の中にいた。

(俺は……一体何だったんだ?)

自分の心が問いかけてくる。
英雄ザンクローネは何故生まれたのか。何故皆を救いたかったのか。

彼の生まれた理由を遡るなら、それは偽りに塗れた世界が体現したひとつの童話。

メルサンディ村の童話作家パンパニーニとその孫のアイリで完成させた童話「小さな英雄ザンクローネの物語」の主人公が、偽りのレンダーシアで具現化したのがザンクローネである。

つまり、英雄ザンクローネは生まれ持っての英雄だった。
誰かを救ったからこその英雄ではない。童話にそう描かれていたからこそ英雄として生まれたのだ。
誰かを救うために行動してきた彼だったが、その実態はただ英雄として以外の生き方を知らないだけだった。

しかし、まさに絵に書いたような英雄だった彼は全てを救ってきた。
時には村人を連れ去って行く悪夢から、時には水車小屋を荒らす兎達から。
自らの生まれた意味として、がむしゃらに救い続けることが出来た。
その果てには、魔女グレイツェルとなったクレルまでも救ったのだ。

だがこの世界においては、生まれ持っての英雄でさえも皆を救うには力不足だった。
共に歩んできたイザヤールは魔物の攻撃で死んだ。自分が倒しきれなかった魔物の最期の悪あがきからはモリーを守り抜くことが出来なかった。自分の居ないところではパパスも死んでいた。アンルシア、フォズ、ティアの3人も放送時は死んでいなくともあのパパスが死ぬほどの戦いの中でどうなったのか分かったものではない。

1031救われぬ者に救いの手を ◆2zEnKfaCDc:2018/07/10(火) 21:30:41 ID:JHOEi.9w0


救えなかったこと、それは彼が英雄であることの否定。
ふてぶてしく皆を救うのが彼の中の英雄である。
少なくとも童話の中には、誰かを救うことが出来なかったザンクローネの物語は存在しない。


英雄であることの否定、それは彼がザンクローネであることの否定。
童話に描かれたままの英雄でなければ、ザンクローネはもはやザンクローネではない。
彼は童話を元にしたザンクローネなのであって、童話がザンクローネを元にしているのではないのだから。


彼がただの人でさえあれば、「無力感」というありふれた言葉に収束出来たかもしれないそんな想いは、英雄でなくてはならない彼にとっては抱いてはならぬものであったのだ。


(俺はもう……英雄ではないのか……?)

苦境の中でも救いを求める声がある限り立ち上がれるはずだった。
だがこの世界では、あまりにも多くの声が枯れ果て、多くの命が散っていった。

(どうすれば、皆を救える…?)

そんな声に始まった疑問はいずれ、形を変えていった。

(皆を救えない俺は、一体何なんだ…?)

気が付けば何かを欲していた。
英雄でなくなった「ザンクローネ」の生まれた意味となる何かを。



「教えてあげるよ、ザンクローネ。真の救いとは何なのかを」


そんな英雄に、魔女が一言囁いた。
それを聞き入れた途端、彼の見る世界が変わった。

1032救われぬ者に救いの手を ◆2zEnKfaCDc:2018/07/10(火) 21:31:57 ID:JHOEi.9w0


(真の……救い…?じゃあ、俺が今までやってきたことは……)


何かを、欲していた。
救えなかった英雄にも、英雄としての意味を与える何かを。



「偽りの救いなどやめてしまえ。破壊に身を捧げ、共に全てを救おうではないか」


そんな英雄に、地獄の闘士が一言囁いた。
それを聞き入れた途端、彼の在る本質が変わった。

魔物たちに侵食された心。
だが心の本質から変えられたわけではない。
ただベクトルが変わっただけ。

魔英雄へと堕ちたその要因は、間違いなくザンクローネの中にあったものなのだ。


(破壊は……救い…?)


何かを、見つけた。

そうだ。
深く考えることなどない、簡単なことだったのだ。

自分の中にある「救い」の定義。
ただそれを変えるだけで、自分はまだ英雄でいられる。

イザヤールもモリーもパパスも皆、救えなかったのではない。
ただ、ひと足早く救いの手が差し伸べられただけだったのだ。

救えぬ者などいない。
守ることこそが救いなのであれば、守れなかった時にその者は完全に終わる。失った命はもう二度と守ることが出来ないのだから。
だが破壊こそが救いなのであれば、救われぬ者はこれから救うことが出来る。
救った者から消えていき、まだ救える者だけが残るのだ。
何と素晴らしい救いのシステムなのだろうか。

それに破壊に塗れたこの世界には、未だ救われぬ者が何人もいるではないか。
英雄として、救われぬ者たちを救わなくては。



――――――俺の名は、魔英雄ザンクローネ。

これは魔の境地。
だが例え魔であろうとも、英雄として在れること自体にこれ以上無き満足を見出せる程度には、魔物が心を侵食していた。


――――――全てを壊し…全てを救う。

胸に抱くは、大きく歪んだ願い。
だけど本当に歪んでいたのは、童話の中の英雄であることを彼に求め続けた、「ザンクローネ」という英雄そのものだったのかもしれない。

1033救われぬ者に救いの手を ◆2zEnKfaCDc:2018/07/10(火) 21:32:46 ID:JHOEi.9w0

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

(目を覚ませ…魔英雄ザンクローネよ…。)

ヘルバトラーが心臓から直接頭の中に囁いた。
それに呼応してザンクローネは目を覚ます。
誰にとっての幸いか、眠っていた間に近くを通る者は誰もいなかった。

たった数時間の睡眠であったのだが、ただのザンクローネの頃にバルザックとの戦いで負った傷は治りきっていた。
自然治癒の範疇を優に超える、再生能力とでも言うべき力。
バルザックに使用された進化の秘石を心臓に取り込んだ時に得たものであり、実はバルザックにも備わっていた力でもある。

(ククク…人間どもの傷は完治していまい…。まずはトロデーン城へ行け、魔英雄ザンクローネ。救われぬ者どもが貴様の救いの手を待っておるぞ…!)

「そうだな…。まずはトロデーン城とやらにでも向かうとするか。」

ヘルバトラーによる意識操作にも気付くことはなく、心の底から湧き上がってきた本能らしきものに従う魔英雄ザンクローネ。

(ちがう………おれ…………は…………)

いつしか、闇に堕ちていく自らの意識に抗う英雄の叫びは聞こえなくなった。
本当に救われないのは、そして滅びという名の救いを求めているのは、皆を救うはずだった英雄自身。
しかし救いを求めるその声は、既に枯れ果ててしまっていた。

【C-4/平原/1日目真夜中】

【魔英雄ザンクローネ@DQ10】
[状態]:健康
[装備]:斬夜の太刀 @DQ10 ヘルバトラーの魔瘴石with進化の秘石(体内)
[道具]:プラチナさいほう針@DQ10支給品一式 不明支給品(0〜2) イザヤールの支給品(0~1)
[思考]:全てを壊し全てを救う トロデーン城へ向かう
[備考]:グレイツェルの呪いとヘルバトラーの魔瘴により性格が反転し、破壊こそが救いだと考えています。
進化の秘石の力で傷が徐々に再生していきます。

【ヘルバトラー強@JOKER】
 [状態]: 魔瘴石化 ザンクローネの体内に侵入 グレイツェル及び進化の秘石と融合
 [思考]:ザンクローネの身体を使い破壊の限りをつくす
※死骸と闘志、それに魔瘴が合わさり、魔瘴石のような形になっています。
※ザンクローネが死ぬと彼も死にます。

1034救われぬ者に救いの手を ◆2zEnKfaCDc:2018/07/10(火) 21:33:11 ID:JHOEi.9w0
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1035ある戦いの終わり。そして―――― ◆qpOCzvb0ck:2018/07/18(水) 23:53:58 ID:aRxaQ2nQ0
投下します。

1036ある戦いの終わり。そして―――― ◆qpOCzvb0ck:2018/07/18(水) 23:54:11 ID:aRxaQ2nQ0
「だったら俺が教えてやる。俺の――――――いや、人の仲間になれ、竜王。お前とならきっと皆を守れる。もう誰も犠牲になんてさせない。」

男は、自分を呼んだ。
仲間になれ、と。

「――――――だからこそ、もう誰も犠牲なんて作らない。お前が俺の前に立ち塞がると言うのなら、悪として誰かを殺すと言うのなら、俺はお前を斬るだけだ。これは勧誘じゃなく、警告なんだよ。」

男は、貫く。
誰かのためではない。
自分が生きるために。

自分がいた世界では、あらゆる人間が自分を含めた魔物を、完全な敵、と見ていた。
全ての人間が自分の未来のために、魔物ならいくら殺しても構わないと思っていた。
だが、このレックという人間は違う。
自分をただの敵、ではなく、それ以上の可能性のある存在と見ている。

「なるほど、一皮剥けたようじゃな。ならばワシも――――――本気で応えねばなるまい。」

自分にも覚悟はできていた。
それがかつて倒された時の自分になかったもの。

あの時の敗北があったからこそ、それがある。
敗北は強くなるための糧、それは敗者の言い訳だとあの時は思っていた。


「持てる力を全て出し、キサマを倒す!!」

再び竜に姿を変えた。
「この……わからず屋!!」
結局戦うしかなかったことに、レックは竜王を罵る。
「ワシの気持ちは変わらん!!変えようがない!!」

自分は、戦うことしか知らない。
戦場でも部下に指示こそ出したが、部下と協力して敵と戦ったことはない。
生まれてから一度も、「協力する」ということを教えられたことはなかった。
たとえ協力しろ、と言われても、やり方が分からない以上は選択は出来ない。

ならば自分のやることは一つ。
ただ己の誇りに従い、戦うのみだ。
それがレックに言われた通り、ただの理想像だとしても。

「ならば俺も未来の為に、全力でお前を倒す!!」

話し合いの時間は、終わった。
後は、どちらが決意を未来までつなげるかだ。

「行くぞ!!竜王!!」
レックは鋼の剣を構え、竜王に斬りかかる。

「来い!!勇者レック!!」
竜王も爪を構え、レックを引き裂こうとする。
自分は確かに覚悟こそは出来たが、勝てるかどうかは定かではない。
目の前にいる男はあのアレフより心も力も強い。
このような敵に出会え、なおかつ自分の王としての誇りを貫くことが出来る。
変な話だが、それだけはあの小物にも感謝せねばならない。

1037ある戦いの終わり。そして―――― ◆qpOCzvb0ck:2018/07/18(水) 23:54:59 ID:aRxaQ2nQ0

竜王の爪と、勇者の鋼の剣がぶつかった時—――――――――――――

(!?)

鋼の剣が、粉微塵に砕けた。
オルテガが最初に竜王との戦いで使い、やがてレックも竜王、バルザックとの戦いで使い、ギガデインを浴び、刀身がとうに限界を迎えていたのだ。
壊れた剣では竜王の力を抑えきれず、そのままレックも大きく吹き飛ばされる。

「キサマの決意というのは、その程度か?」

(攻撃の威力が、上がっている?)
レックは竜王の攻撃を受けて、実感した。
竜王の「誇り」とはくだらない理想像などではなく、たとえ何を目の前にしても決意を貫くということだった。

続けざまに拳をレックの上に振り下ろす。
レックはそこに飛び蹴りを打ち、反動で距離を離す。

「あいにくと、犠牲にするわけにはいかないんで。自分も、仲間も。」

しかし、状況は極めてまずい。
剣が壊れた以上、戦う選択肢が大きく減る。

ザックにいれた蒼炎の爪や大魔神の斧を使うか?
否、ハッサンならいざ知れず、爪や斧を自分は活かすことは出来ない。
自分に適した武器がないから、適さない武器を使うというのは愚の骨頂だ。

ならば魔法でどうにかするか?
否、雷系以外の呪文では竜王に決定打は与えられないし、雷系の魔法も先程の戦いで使ってしまった以上、何度も食らってくれる相手でもない。


竜王の紅蓮の炎がレックを飲み込もうとする。
レックはマヒャドで対抗し、それらがぶつかり合った跡の水蒸気が辺りに充満する。

竜王は続けざまに爪で引き裂こうとするが、引き裂けたのは数本の青髪のみだった。
紙一重で攻撃を躱すことのできる、見躱し脚の力である。

「なんだ?守ってばかりではないか!!怖気づいたか?」
レックの受け身な戦いに竜王は苛立つ。

「その予想は、外れているよ。」

辺りはレックが目視できないほどではないが、水蒸気で若干視界が悪くなっている。

例えば、地面に何が落ちているか、竜王の目線からは捉えることが出来ない。
レックはそのまま鋼の剣の破片の一つを掴み、竜王めがけてダーツのように投げつける。
勢いよく飛んで行ったそれは腹に刺さり、竜王は僅かにうめき声を上げる。



(これで十分!!一瞬でも気を逸らせれば……)

「竜のチカラよ!!俺の身に纏われ!!ドラゴラム!!」

1038ある戦いの終わり。そして―――― ◆qpOCzvb0ck:2018/07/18(水) 23:55:32 ID:aRxaQ2nQ0
「何だ!?これは!?」

人間の姿で勝てないなら、竜になればいい。

竜王も驚く。ドラゴラム、人が竜に変身する魔法など、伝承でしか聞いたことがない。
(!?)

(あまり使いたい呪文じゃないけどね。)
ドラゴラムという呪文、確かに竜の力こそ手に入るが、行動選択肢が人間の時に比べて著しく狭まる。
加えて一度これを使ってしまうと、戦いを終えるのが難しくなる。
従って、完全に相手を打ちのめすことを決めたこの戦いで初めて、レックはこの呪文を使ったのだ。

「グオオオオオオオオオオン!!」
竜王の目の前に現れた存在、それは緑の竜。
しかし自分の部下であったドラゴンとは、明らかに違う存在だった。


レックが初めて触れ合った竜は、自分達がムドーの城へ向かう時に乗った黄金の竜。


ムドーの城へ乗り込む前に、バーバラが突然自分だけ行かないと告げた。
そして竜を呼ぶオカリナで現れた黄金の竜。
自分はそれはバーバラが何らかの形で変身した姿じゃないのかと思っていた。
ハッサンなんかはその推測に対し笑っていたし、他のメンバーもあまり信用していない様子だった。
しかし、彼女の故郷、カルベローナで大魔女バーバレラが竜に変身できるほどの魔力を持っていたと聞いた。
そこで、自分の予想が確信に近づいた。

自分も、あの時の彼女と同じように、竜として戦う。
(力を貸してくれ!!バーバラ!!)


(これは……たとえ全力をもってしても厄介な相手かもしれぬな。負けるわけにはいかんが。)
竜と言えども自分よりかは小柄だが、秘めているエネルギーは計り知れない。

深緑の翼をはためかせ、竜王の顎にかみつく。
紫竜は顔を振り回す、だが、それだけでは引きはがせない。
両手で引きちぎろうとする。
しかし、掴まれる寸前に離れ、上空に飛ぶ。

紫竜は闇の力を込めた炎で撃ち落そうとする。
しかし、エメラルド色の光が籠る大翼はそれを弾き飛ばしてしまう。


今度は緑竜は急降下。
紫竜も飛ぶ。互いの頭がぶつかり合う。
体格差は紫竜の方が有利だが、ポジションは上から攻撃したレックの方が有利だった。

「グルアアア!!」
「ギャオオオオ!!」

両者痛み分けの状態のまま緑竜の爪攻撃。
紫竜はそれをガッチリ掴んで、受け止める。

ならば、と緑の竜は大口を開け、炎を吐き出す。
それに負けじと超至近距離で紫竜も炎を吐き出す。

互いに鱗の鎧によってある程度の炎耐性があるにしろ、この距離からではダメージがある。
そのダメージの要因は、相手の炎ばかりでもない。
密着状態で互いに炎を吐いたため、自分の炎の熱も体を炙る。
やむを得ず紫竜は、力任せに緑竜を投げ飛ばす。

1039ある戦いの終わり。そして―――― ◆qpOCzvb0ck:2018/07/18(水) 23:56:10 ID:aRxaQ2nQ0
「ガアアアア!!」

緑竜をぶつけられた大岩がそのまま砕ける。
砕けた岩の中からそのまま緑竜は飛び出し、紫竜の脇腹にぶつかる。
大砲から放たれたような威力のそれは、紫竜の皮膚のみならず、内臓にもダメージを与えた。

「グェボッ!!」

紫竜はガスと血、それに唾液と胃液が混じったものを吐き出す。
しかし、負けじと尻尾を振るい、追撃に来る緑竜を弾き飛ばす。

「ガウアア!!」

反撃によって地面に叩きつけられる緑竜。
たとえ手を地面に付けようと、もう一度立てばよい。

再度地面を蹴り、上空に展開する。
また上から攻撃してくるのか、と推測した紫竜は、翼をわしづかみにして引きずり降ろそうとする。
だが、翼は大きく躍動し、両手を寄せ付けない。

翼の攻撃を受けた紫竜の手に、幾筋もの裂傷が走った。
しかし、それだけでは終わらず、紫竜は緑竜の顔面目掛けて火球をぶつけた。

「グウウ!!」
視界を奪われる緑竜。しかし、そんなことは気にせず上空から急降下。
紫竜は拳を固め、殴り落そうと目論む。
否、緑竜が行ったのは、スピードの勢いが付いた爪攻撃だ。
ただの同じ攻撃ではなく、同じ攻撃のように見せかけた別の攻撃。

ざぎゅり、と音がして、紫竜の肉が、皮膚が、鱗が剥がれる。
紫竜の左肩から、右の脇腹まで裂傷が走る。
しかし、紫竜も強引に体を回転させ、その勢いで緑竜を突き飛ばす。


そのまま紫竜は仰向けになった緑竜に、首をハンマーの様にして、とっておきの頭突きを浴びせる。
痛恨の一撃。
骨がぐしゃりと折れる感触が伝わり、緑竜にとって手痛い一撃になった。

しかし、まだ戦いは終わらない。
たとえ姿や戦い方が変わっても、緑竜にはレックだった頃の決意は残っている。
ターニアに会いたい。そのためにこの立ちはだかる壁を崩さないといけない。

「グオアアアアアアアア!!」

振り下ろしてきた紫竜の頭を左手で掴み、鼻先に噛み付き、右手で横顔を殴る。引っ掻く。殴る、引っ掻く。
紫竜は顔を振り回し、腕を振り回し、炎を吐き、抵抗する。
何度攻撃を繰り返したか分からないが、いつの間にか紫竜に突き飛ばされている。

「「グルオオオオオオオオ!!」」
互いの鳴き声がハーモニーと化し、そこから炎が吐き出される。
ちょうど互いの中央でその炎は留まっている。

顔からも体からも血を流し、焼け爛れ、牙や爪で出来た裂傷、尻尾や拳による打撲痕は数えきれない。
緑竜も、紫竜も鱗の多くが剥がれ落ち、出血で互いの区別がつきにくくなっている。
外部の傷だけでなく、内臓も幾分か傷つけられているだろう。

1040ある戦いの終わり。そして―――― ◆qpOCzvb0ck:2018/07/18(水) 23:56:28 ID:aRxaQ2nQ0
しかし、竜王の心に、何かの経験したことのなかったものが芽生え始めた。
高揚するものか消沈するものかと聞かれれば、間違いなく前者だ。
しかし、美しい女性を攫った時、獲物を狩る時、街を滅ぼした時などに比べると、まったく違うものだ。


(なんだ……この気持ちは……)

竜王の目の前には、同じように竜の力を持って戦っている者がいる。

(ワシは今まで隣にいる者がいなかったが………。
そうか……コイツが、『隣にいる者』か。)


隣にいる者、とはあながち仲間ばかりというわけでもない。
同じスタート地点から、どちらが先に目標にたどり着けるか切磋琢磨して競い合う存在なども該当する。
今のこの二人、いや、この二匹は、そういう関係だった。


「グフ、フフフ」
顔は汚れながらも、竜王が笑っているのが見える。

(分かって来たぞ。キサマの言う言葉。だが、ワシは勝つぞ。)

竜王は、ただ勝ちたいという気持ちで一杯だった。
格下の存在ではない、この同格の存在を何としてでも出し抜きたい。
そうでなければ、ここまで築いた誇りも、全て無駄になる。そんな気がした。

この膠着状態を破るには、竜王に一つだけ方法があった。
凍てつく波動を使って、レックの竜状態を解除すること。

ドラゴラム相手に試したことはないが、フバーハのように何らかの形にした魔力を身に纏うタイプの魔法なら。可能のはずだ。
だが、どうにもする気はならなかった。
初めて竜と化し、隣に立つこの竜を、竜のまま倒したかった。
自分の誇りを揺るがそうとするこの敵を何が何でも倒したいのに、矛盾しているとしか思えない。


互いに勢いをつけて頭をぶつけ、痛み分けと共に後方に下がる。


(グフ。ハハハ。)
実はこの戦いを楽しんでいたのは、竜王だけではなかった。
レックもまた、世界を救った後は勇者として崇められてばかりだった。
仲間もレックを、自分達の旅を成功させた「リーダー」として見ていた。
勇者やリーダーではなく、ただ一人の兄として見てくれた妹も夢の彼方へ消えてしまった。
竜王は、レックを勇者と呼んでいたが、それは崇高の対象ではなく、全力を賭して戦う相手の意味を籠めて呼んでいたことは分かっていた。

戦いが怖くて、一度は夢の世界に逃げた自分だ。
今でも、戦いは一つの手段で、やむを得ない場合以外やるものではないと思っている。
自分はそんな存在のはずなのに、今の状況を楽しんでいるなんて、矛盾しているとしか思えない。
だが、今自分がこの戦いを楽しんでいるのは分かっていた。

1041ある戦いの終わり。そして―――― ◆qpOCzvb0ck:2018/07/18(水) 23:56:57 ID:aRxaQ2nQ0
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(なんだ……これは……)

山小屋を後にし、荒野に出てさらに歩いたアベルの耳と目と鼻に、異様な情報が飛び込んできた。
遠くに見える、ぶつかり合う2体の巨竜、
凄まじい咆哮
血と煤の臭い。

つい先ほど、マスタードラゴンに対する憎しみを募らせていたことと何か縁があったのだろうか。
そういえば勇者に対する憎しみを募らせていた時、自分を勇者にしなかった女王に似た女が現れた。


(破壊しろ、と言うことですね)
アベルは自分の解釈を基に、口元をゆがませる。

一番賢いやり方というのは、片方が倒れてから、もう片方を殺すという方法だが、切り札の力を試すためにも、2体纏めて葬ってやろう。


レックと竜王は、互いの戦いに夢中で、蛇のように忍び寄るアベルの存在に気付かなかった。

その隙にアベルは秘伝書を取り出し、剣に向かって強く念じる。
天から、黄金の稲妻がアベルの剣に降り注いだ


緑色の方の竜が気づいたようだ。
だが、遅い。既に剣は力を纏った。

(何だ?これは?)
黄金の光を含んだ勇者の雷が、破壊の剣に落ちた瞬間、それが禍々しく漆黒に染まる。
ジゴスパークや闇の炎を司る魔物がいない世界にいたアベルにとって、ただただ驚くばかりだった。
そして、初めて世界が自分を肯定してくれたことに対して、言いようのない喜びがあった。

「消えろおおおおおおおオオオオオオオオオオオオ!!」

紫竜はいまだに気付いていないようだ、何かの詠唱を緑竜に向かってしている。
目を邪悪に光らせ、剣を一振り。

暗黒剣究極奥義――――――"ジゴスラッシュ"
轟音と、邪悪な光を纏った2重の黒い衝撃波が放たれる。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

1042ある戦いの終わり。そして―――― ◆qpOCzvb0ck:2018/07/18(水) 23:57:22 ID:aRxaQ2nQ0

その力は、二人を捕らえた。衝撃波はさらに進み、離れた岩山に激突する。
そこから起こったのは、凄まじい爆発と舞い上がる噴煙。
ジゴスラッシュの爪痕を激しく残した。


どうなったかは分からないが、紫竜の翼と片腕が吹き飛んだのを見えた。
緑竜の方を優先して狙ったため、緑竜の方はもっと被害が甚大だろう。

「ハハ、ハハハハハハハハハハハハハ!!」
魔王の雷、は期待にたがわずすさまじい威力だった。魔力から逆算して、使えるのはもって2,3発だが、いずれ回復すればいい。
これで世界の破壊も望めるだろう。



「なん……だよ……今の…………。」
レックは、どうにか無事だった。
辺りは煙で覆われ、30センチ先さえ見えない。
何故かは知らないが、人間に戻っている。


「無事か?」
後ろから聞いてきたのは、竜王。
よく見れば、竜王もまた、魔族の姿に戻った。

「あんた、俺を助けただろ。」
先程竜王はレックにジゴスラッシュが当たる直前、凍てつく波動を放った。
一か八かの賭けのようなものだが、それは成功し、レックは竜より小さい人間に戻ることで、危機を逃れたのだ。
竜王が元の姿に戻ったのは、ダメージが大きすぎるのと竜状態の体の欠損で、竜形態使えないと判断したからだ。


「あのような形で戦いを終わらせたくなかったからだ。」
「なんだ、協力するやり方がわからない〜、とか言っておきながら、俺たち人間とも、協力できるじゃないか。」

百聞は一見に如かず。
教えても分からないことなら、先に実践に移せば良い。

「悪いけど、もうしばらく協力してもらうぜ。不意打ちしてくるようなヤツに戦いを潰させられたくないだろ。」
「悔しいが、そうするしかあるまいな。」


煙の向こうにいるはずの、敵に対して身構える。

しかし、脅威は前方向だけではなかった。
後ろから音が聞こえたときは、もうそれは始まっていた。

「岩雪崩だ!!」
レックが叫ぶ。
既に辺りの岩山は二匹の竜との戦いで多くが崩れかけており、それがジゴスラッシュの影響で堰を切ったのだ。

竜の状態ならどうということないが、人間の姿だとこの勢いは厳しいものだし、魔族にしてはやや小柄な竜王とておなじことだ。

「おのれ!!魔力が……!!」
体力を多く使っていたため、しばらくは竜には変身できない。

1043ある戦いの終わり。そして―――― ◆qpOCzvb0ck:2018/07/18(水) 23:57:52 ID:aRxaQ2nQ0

二人はそのまま岩の混じった土砂に巻き込まれる。

「ちっ、生きていましたか。だが生き埋めですね。さようなら。」
アベルは邪悪な笑みを浮かべ、戦場を後にする。


次に目指す場所はトロデーン。
大きな城と言うのは、グランバニアのように人々が集まる中心地として使われる場所だ。
しかし、山岳を登るのは体力を消耗する上に、もうじきあの辺りが禁止エリアになる。
ここは迂回して、洞窟方面から向かおう。
途中で休憩所に出来そうな教会もある。


「無事か?」
今度尋ねたのは、レックの方だった。
「どういうつもりだ、キサマ。」
竜王はつっけんどんに返す。
「さっきの礼みたいなものだよ。」
レックもそれにあっさりと答える。

レックが岩雪崩を凌ぐために唱えたのは、鉄化呪文、アストロン。
竜王のベギラゴンを躱した時、バルザックの衝撃波を躱した時と合わせて、3度目だ。
竜王にとっては、なぜ自分までアストロンの対象なのかが疑問だった。

「さーてと、ここからどうすっかな。」
岩に潰されることこそ避けられたが、二人は生き埋めになってしまった。
闘うのならまだしも、二人纏めて酸欠や圧死で死亡なんて、笑えなさすぎる。

「迂闊に暴れたら、更に岩が襲ってくるぞ。」

魔族である竜王は、人間よりも長く地底にいたため、太陽や月の当たらない世界をよく知っている。

「竜王、アンタ、あとどれくらい魔法が使える?」
「人間に心配されるほど消耗しておらんわ。変身する魔法以外なら、なんだって唱えれる。」

竜王は最後に舌打ちをしている。ほとんど真っ暗闇なので分からないが、苛立った顔をしているだろう。

「レックよ。一見真っ暗闇のようだが、一筋だけ月の光が見える。恐らくそこから脱出できるだろう。」
「月の光?」
レックは驚く。竜王の言っていることは分からない。相も変わらず辺り一面が暗黒の世界だ。

「ワシら魔族は、光を求めて闇を彷徨っていた。だからどんなに細いモノでも光は見つけられる。」
「なんだ、結局アンタも俺達人間や他の生き物と同じで、光が欲しいんだ。」
「キサマらと一緒にするな!!」
「俺も、光は大好きだからさ。ライフコッドって村で、家から出た時に見える朝日なんて最高だぜ。」
「……もういい。」

意外なところで共通点を見つけた二人。
初めてであったのはほんの10数時間前なのに、何故かは知らないが不思議と信頼感があった。

「ワシはその光の場所に向けて魔法を打ち、脱出口を開く。キサマも同じ方向に打て。」
「そうさせてもらうぜ。」
竜王の提案にレックも同意する。

1044ある戦いの終わり。そして―――― ◆qpOCzvb0ck:2018/07/18(水) 23:58:29 ID:aRxaQ2nQ0

「焼き尽くせ!!ベギラゴン!!」
「紅蓮の光よ!!俺たちの希望を繋げ!!ベギラゴン!!」

異なる詠唱で同じ呪文を出す。
二人の炎の魔法によって岩は溶け、そこには夜空が広がっていた。

「どうにか助かったな。感謝するよ、竜王。」
「礼はいらぬ。それはワシとて同じこと。」

「へえ、同じことってのは…アンタも人に感謝すること………」


突然、マヌーサでも使われたかのように竜王の顔がぐにゃりと歪み、ぼやける。
そのまま、レックは崩れ落ちた。

「何!?どういうことだ。起きろ!!キサマ!!」

当然と言えば当然だった。
昼から強敵と戦い続け、休憩できる時間や竜王のくれた薬があったからとはいえ、体力の限界がある。

「終わらせわせん!!こんなところでキサマとの縁を終わらせてたまるか!!」

竜王は叫び続ける。
世界の半分をも超える価値を持った、新たな可能性のために。
だが、それは人の力を再び借りねばならない。

彼の選択の時間は、まだ続く。

【C-7/荒野/1日目 夜中】

【レック@DQ6】
[状態]:HP1/15 気絶 MP1/7
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、大魔神の斧@DQJ 蒼炎のツメ@DQ10モリーの支給品1~3個 確認済み支給品1~2個
[思考]:竜王と協力する。アベルを追う、ターニアを探す。

※体力を使い果たした上での気絶状態です。手当などがない場合は、一定時間後に衰弱死します。

【竜王@DQ1】
[状態]:HP1/10 竜化した場合、背中に傷 片手片翼損失
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1個
[思考]:レックと共に協力し、アベルを倒す。
[備考]:自分の誇りを貫くか、他の人間の協力も借りるか悩んでいます。

【C-6/荒野/1日目 夜中】

【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/3 MP1/6
[装備]:破壊の剣
[道具]:支給品一式 剣の秘伝書
[思考]:過去と決別するために戦う 全てを破壊する

1045ある戦いの終わり。そして―――― ◆qpOCzvb0ck:2018/07/18(水) 23:58:41 ID:aRxaQ2nQ0
投下終了です。

1046ただ一匹の名無しだ:2018/07/19(木) 00:35:05 ID:6IBQGTBo0
投下お疲れ様です。
「人と竜と」から「竜と竜と」になるのが熱すぎる
タイトル見た時から終始ヒヤヒヤしていたけど二人とも何とか生き延びたか…

アレフの前でローラにキスして、ゴーレムと戦って、ピたろうの灼熱くらって、竜王とまで対峙。
これでアベルはゴドラ以外のDQ1勢全員と敵対したわけだ(だが誰も直接殺せていない件)

1047 ◆qpOCzvb0ck:2018/08/08(水) 22:43:41 ID:EFE5Fsog0
ちょっと時間が過ぎましたが投下しますね。

1048残された者たち ◆qpOCzvb0ck:2018/08/08(水) 22:44:31 ID:EFE5Fsog0
アークが死んだ場所への暗い道を、赤髪と蒼髪の少女が歩く。


ポーラはセラフィによくしゃべった。
初めての友達、アークのことを。
アークと見たもの、アークと知ったこと、アークと闘った魔物、アークとの思い出。

何度も、何度も何度も何度も何度も繰り返ししゃべっていた。
ただ話をすることが楽しいのではなく、話をすることで何かから逃れようとしていた。
思い出を話すことで、自分を何かから守ろうとしていた。
思い出をたどることで、自分を保とうとしていた。
その証拠に、話は全てアークと関係することだった。
そして、楽しかった思い出話なのに彼女の頬は一度も緩んでいない。


愛してる人の為だからといって、この人を殺したくない。
この人の為だからといって、愛している人をこのままにしたくない。

目の前にいる人がアークを知っている最後の人だから
そんな理由でアークを見捨てるなんてできない。
アークが大切な仲間だから。
そんな理由でアークのことを知る数少ない命を無下に扱うことは出来ない。


そんな葛藤から少しでも目を背けるために、アークのために全てを殺す決意を固めるために、ポーラはアークのことを話し続けた。


一方でセラフィは、その話にずっと相槌を打っていた。
ほんの数時間ほどだが、一緒にいた仲間について聞きたいことは沢山あった。
でも、今話を遮ることはポーラ自身を包んでいる繭を破ることになってしまいそうだった。

港町に入ってから、何度か波の音が聞こえる。
鼻につく潮の臭いが、アークと共に女神の果実を見つけた時のことをポーラに思い出させた。



「波の音が聞こえる。アークと一緒に女神の果実を探した時のこと、思い出すわ。」
「果実……なのに、どうして波なの?」

久しぶりに、相槌以外の反応をする。

「それはね、あたしがアークと、海に落ちた願いをかなえる果実を探しに行ったのよ。」
「願いをかなえる果実?」


ポーラが話したのは、変わってしまったアークのこと。
願いをかなえることのできる女神の果実さえ食べれば、アークの目にも光が戻るのではないかと。
あたしは藁にも縋る思いで、必死だった。

「そのころからアークさんのこと、大切に想ってたんだね。」
「あたし、それまで一人……だったからさ。初めて友達になれたことがたまらなく嬉しかったんだ。」

1049残された者たち ◆qpOCzvb0ck:2018/08/08(水) 22:44:53 ID:EFE5Fsog0


(やっほ〜!アーク、ポーラ!おっひさ〜!)
(ずっと、会いたかった…!)

女神の果実は、アークに笑顔を取り戻した。
反面、自分との距離は離されてしまったような気がする。
自分には出来なかったことが、サンディにはできたという事実が、自分をそうさせた。
しかし、たとえサンディやアギロに会えても、状況は変わらない。
天使界は消えてしまったし、誰もアークのことは覚えていない。

(世界は広い!!オマエが知らないこともきっとあるだろうよ!!)

アギロはそう言っていたらしいが、アークにとっては、どうすればよいかわからなかった。


やがて、アークも理解し始めた。
彼が生まれた意味と価値は、全て当て嵌められた物に過ぎなかったのだと。

そして、自分も理解し始めた。
自分だけでは、彼の心を取り戻すことは不可能であること。

それが気づいた途端、この戦いに巻き込まれていた。



あたしは、本当のことを言うと、この戦いにある期待をしていた。
この戦いは確かに危険なものだ。それを開いたあの魔導士を許すわけにはいかない。
でも、アークがこの戦いを経て、何かに気付いてくれるのかもしれないということ。


だが、期待は最悪な形で返ってきた。

たとえこのまま元の世界に戻っても、アークもアークのことを知っている人もいないのなら、ただ元の世界に戻っても意味がない。

例えあの魔導士にいいように利用されているだけだとしても、戦わないといけない。


でも、言うは易く行うは難い。
自分はこうやって、目の前にいる少女一人殺すことさえ決めかねている。


他の人なら殺せるか?
否、余程の極悪人ならともかく、悪人か善人か分からない、初対面の相手には刃を向けるのはためらってしまうだろう。

決意を固めたはずなのに、これから殺すつもりの相手と話をしている。

選択肢はこれしかないはずなのに、選ぶのを恐れている。

アークの場所に行きたいけど、行くのを恐れている。

1050残された者たち ◆qpOCzvb0ck:2018/08/08(水) 22:45:37 ID:EFE5Fsog0
☆☆☆☆

(どうすればいいのかな……)

守れなかった。
自分にも守れるものがあるんだと、見栄を切ったが、結局は誰も助けられなかった。
逆に、誰かに助けられるばかりだった。

本当のことを言うと、ポーラさんが人殺しに手を染めることは止めさせたい。
話を聞いてみると、ポーラさんはちょっぴり寂しくて、優しい人だってわかったから余計に。


でも、知っている。

人は、「悪いこと」が悪いことだと分かっていても、やってしまう。

ある時は憎しみに駆られて。
ある時は誰かを守るため。
ある時は全てを捨ててでも幸せになりたくて。


それしか選択肢がなくて、やってしまう。
ベルムドさんやゴリウス兵士長を見ていた時から、薄々感じていたが、この世界でルーナやアベルを見て、それが確信に変わった。

悪事を行う者は、ヒョッヒョマンにような根っからの悪ではなく、そうせざるを得なかった者の方が多いことを。


それを止めたのは、総じて力ある者。
例えばジャンボのような。

思えばベルムドさんを止めることが出来たのも、ゴリウス兵士長を止めることが出来たのも、ジャンボがいたからだ。


自分一人では、結局何もできない。
この世界でも、嫌というほどそれを思い知らされた。

ポーラが助けてくれなければ、私はピたろうもろとも串刺しだった。
それ以前に、アークがいなければルーナのイオナズンで消し飛んでいた可能性が高い。


ポーラに協力したいか、協力しないかと言われたら、やはり協力したい。
一人になってしまった人間のつらさは、ベルムド王への反逆者として扱われた時に分かっている。


だけど、自分にはその力がない。
ポーラに殺し合いを止めさせることも、ポーラの殺し合いの手伝いをすることもできない。
そもそも、後者に至っては自分にする勇気さえない。

「ねえ、どうしたの?」
「!?」

考え事をしていたら、ポーラに呼ばれた。

ポーラは言葉を放出することで、心を保ち、
逆にセラフィはあらゆるものを奥底に押し込むことで、心を保っていた。

1051残された者たち ◆qpOCzvb0ck:2018/08/08(水) 22:47:22 ID:EFE5Fsog0
綺麗に続いていた草原と街道の風景が変わる。
未だに残っている煙の臭い、
崩れた街道と、荒れた台地。
セラフィやヒストリカが持っていたものが辺りに散らばっている。

アークが死んだ場所に近づいてきた。


(もうすぐ、アークに会える。でも、あたしはその時どうすればいいんだろう)

段々と高鳴ってきた鼓動が、一層早くなる。







そこに、アークはいた。

安らかな顔だった。

首から下はあちこちが焼け焦げているため、それを見れば安らか、とも言えないが。

教会の壁画に描かれている天使のような穏やかな表情に包まれていた。

世の全てに満足して最期を迎えたような顔をしていた。

でも、あたしには見えた。

死体とは僅かに離れて、ぼんやりと浮かんでいる、もう一つのアークの姿。

それはあたしが会うことを待ち焦がれていた、アークだ。

違った形でも、その事実は違わない。

会いたかった。

ずっと、会いたかった。

「アーク、だよね。会いた……かったよ。」
他にも言いたい言葉はあるはずだけど、これしか思いつかない。

『アーク』は言葉を話さない。

知っている。
自分は人が見えない存在を見ることこそできるが、話すことは出来ないことを。
未練を残した死者と話が出来るのは、アークだけだった。

会話が普通に出来るなら、幽霊も昔のあたしにとって恐ろしい存在ではなかった。

ぼんやりと見える『アーク』は何かを見つめている。

どこか、悲しそうな顔で。
見つめているそれがあたしなのか、あたしじゃないのかも分からない。
そもそも『アーク』にあたしが見えているのかさえ分からない。

1052残された者たち ◆qpOCzvb0ck:2018/08/08(水) 22:48:28 ID:EFE5Fsog0

「ねえ、あたしのこと、分かる?」
答えは返ってこない。
そうなることが誰よりも分かっているのは自分だ。
それが分かっていても、呼びかけてしまう。

死に顔こそは安らかなのに、あたしが見えるというのは、何か心残りがあるからだ。

その心残りは、何なのかうっすらとだが見当はつく。
でも、正解を聞くのが怖い。


自分がこれからやろうとしていることが、アークを苦しめているのかもしれないからだ。

でも、聞かなければいけない。

自分は今まで、ウジウジ悩んでは出遅れてを繰り返していた。
結局、自分で道を開くことなく、アークの手伝いをするだけであの旅は終わってしまった。

この世界でこそアークなしで動いていたが、始まって半日以上、アークを求めて動いていた。

「お願い!!ほんの一言でいいの!!何か、話してよ!!」

ああ、何だか知らないけど、涙が出てきた。
エルギオスを倒してから、ずっとアークの顔ばかり見てて、自分のことなんか考えてなかったけど、我慢してたんだなあってわかる。


「あたしにはアークの姿が見える!!
それって何かまだ未練があるんでしょ?
教えてよ!!教えてくれたら、あたしがどうにか出来るかもしれないでしょ!?」

『アーク』は答えない。あたしがそこにいるのかすら分かってないのかもしれない。

「教えてよ!!あたしがどうすればいいか!!お願い!!」

話してて、だんだん自分でも感じてくる。
ああ、自分はアークにずっと依存してて、自分では何にもできなかったんだなあって。
武闘家からバトルマスターになる時だってそうだ。
バトルマスターという職を選んだのは自分だ。
でもそのための目的はアークへの敵をもっと多く倒すため。
そして、バトルマスターになるまでの道も、アークの応援によって開かれた。

1053残された者たち ◆qpOCzvb0ck:2018/08/08(水) 22:48:48 ID:EFE5Fsog0
彼天使としての役目を全うして、生きる道を見失ってしまったが、自分も同じようなものだった。

「ねえ、返事してよお……あたし……どうすればいいのか……わからないよお……。」

本当は聞くのが怖いのに聞こうとする。
答えは返ってこないのに聞こうとする。
ああ、本当に矛盾だらけ。

近くでセラフィが見ている。
でも、あたしは子供のように泣きじゃくり、触れることのできない『アーク』に語り続ける。

そして、セラフィにも見える方のアークの体を揺さぶり続ける。

アークの胸に添えられている、ある物を見つけた。

胸に添えてあった銀河を模した剣は、アークの瞳のようにきらきら輝いていた。

「ねえ、セラフィ。この剣、何か知ってる?」

「それは……私が持っていた剣………。」

ルーナに襲われた時、自分が落としてしまったものだ。
セラフィは、アークとルーナの戦いを最後まで見てはいない。

しかし、この剣の置かれ方、戦いの後からそのまま放置されていたようには思えない。

やはり、アークを殺した人も悩み続けていたのだろう。
だからと言って許すわけにはいかないが。

結局のところ分からずじまいだったが、この剣の置き方を見て、一つパズルが埋まった気がする。


アークを殺した人も、あたしと同じで、一人なのが嫌だったのかもしれない。
アークはひとりだったその人を救おうとして、命を落としたのかもしれない。
なにしろ、ひとりだったところをアークに救われたのはあたしもだからだ。


アークを助けるために、殺し合いに乗った結果、また新しいアークのような死者を出してしまうかもしれない。
そうは分かっている。
殺し合いに乗ることは、アークのためではなく、自分のためにしかならないことを。
理屈で分かっていても、納得しきれない自分がここにいる。

銀河の剣をそっと拾い上げる。
アークが持っていたこの剣は、あたしがこのゲームに勝つために大いに活躍してくれるだろう。
だけど、自分は美しい白銀の剣を血に染めるようなことをしていいのか。

そしてあたしが殺人をすれば、それを『アーク』が見ている。
残った人たちとの戦闘能力を抜いても、その事実を受け入れながら人殺しが出来るのだろうか。
やはり、あたしはできない。

でも、アークのため以外にやれることなんて、思いつかない。
例えこの世界で未だに残っているスクルドやコニファーと協力して生還しても、その後どうすればいいのか見当もつかない。

1054残された者たち ◆qpOCzvb0ck:2018/08/08(水) 22:49:30 ID:EFE5Fsog0
(許して!!アーク!!例え地獄へ行っても……)

ポーラは炎の剣をセラフィに向ける。

セラフィは、怯えも抵抗の意思も見せなかった。

「いいよ。」
代わりにこう答える。

「私が死ぬことがポーラとアークさんの未来につながるなら、私死んでもいいよ。どうせ私、一人じゃ生きていけないから。
それなら誰かの為に死んだ方が、満足だから。」

セラフィは表情どころか、目の焦点さえ動かさない。


剣を握る。
不思議と、鉛でも持っているかのように、思い。
刺せ。
心の中で自分を叱咤する。
早く刺せ。
でも、腕はほんのわずか伸びただけだった。
早く刺し殺せ。
腕は意思に判して、ひどく抵抗する。

突然剣が別のものにすり替わったかのように、重くなり、落としてしまった。
(なんで……)
地面にうずくまり、落としたそれを拾おうとする。


そして、ポーラはセラフィが落とした、もう一つの道具を見つけた。

(綺麗な鏡……)


しかし、それよりもポーラが気になることがある。
鏡に映った自分の顔は、紛れもなく自分と同じものだ。


しかし、そこにいる自分は、泣いていた。

この鏡は、人の本心を映し出すものだろうか。

似たような道具と言えば、アバキ草という物があった。
でも、それにはそんな効力はなかったし、たかが鏡に自分を見透かされてしまうのは癪だった。

でも、鏡が出した答えは悔しいが当たっている。

アークが死んだ悲しみに。
アークに何もしてやれなかった悔しさに。
アークのために、これから一人で殺し続けないといけない恐怖に、私の心は涙を流している。


「ポーラさん?」
後ろから、セラフィがそれを覗き込む。

そして、ラーの鏡は映した。
それはホイミスライムの姿だが、あたしと違って、セラフィの表情は変わらない。

どうやら本当に彼女はホイミスライムのようだ。

1055残された者たち ◆qpOCzvb0ck:2018/08/08(水) 22:49:49 ID:EFE5Fsog0

しかし、背景が違った。
後ろが、まるで黒い絵の具でもぶちまけたかのように、真っ黒だった。
言われなくても分かった。
セラフィは今、心が虚無に苛まれているのだ。


「私がどうかしたの?」
「ううん。なんでもない。」

セラフィにはどうやら鏡の奥で泣いているあたしも、虚無に飲まれそうになっている自分も分からないようだ。
どうやら真実を見出す鏡が、見えない存在が見える私だけに新しいものを見せてくれるみたいだ。


(まさか……!?)

『アーク』も最後に映してみる。

後ろにそこに映っているのは、光。
春の訪れを告げるような暖かな、
けれど、冬を告げるようにさみしげな光。

(ポーラ……そこにいるのですね。)

誰かが、心の中に語り掛けてくる。それが誰かはすぐに分かる。
春風のように穏やかな語り方、アーク以外の誰のものでもない。


あまり知られていないことだが、ラーの鏡は、この世ならざる存在の言葉を聞くことのできる媒体にもなる。
現実世界にいた人間が、夢の世界のカガミに囚われた姫の声を聞けたように。

「アーク!?話が出来るの!?あたしは……」
(わざわざ言わなくても、分かっています。私のこと、この世界でも大切に想ってくれてたんですね。気付かなくてごめんなさい。)

「ううん。あたしこそ、ごめんね。アーク。助けられなくて……。」
(大丈夫。私はもう、十分です。後はあなたたちが前を向いて歩いてくれれば私は、安心できます。)

やっぱり、あたし達を心配してくれたから、この世界に残っていたんだ。

でも………。

「嫌だよ!!アーク!!一緒にいたいよ!!アークは満足かもしれないけど、あたしはずっと一緒がいいの!!」

(あなたは今も昔も、優しい人でしたからね。)
「優しくなんか……ないよ。」

(あなたは知らなくても、私は知っていますよ。
だから、あなたは生きてください。
そして、死や別れだけじゃなく、出会いや誕生にも目を向けなさい。)

「だけど………アーク…………。」
涙で言葉を紡げない。

1056残された者たち ◆qpOCzvb0ck:2018/08/08(水) 22:50:20 ID:EFE5Fsog0

(気持ちは分かります。大切な人を失った気持ち、今なら良く分かりますから
でも今すぐ出来ないことでも、周りにいる人と協力すれば、いつかは出来るようになります。)

それはあたしが知っている。
バトルマスターになったのも、強い敵を倒せたのも、全部誰かと協力したおかげだ。
けれど、あたしは協力できる人こそが少なかった。

あたしはこれからそういう人を見つけて、立ち直っていけるのか。

いや、いつまでもアークに縋っていてはいけない。
最後に会えて、話せた。
それがどんな形であれ、あたしの心の支えになっている。

「ねえ。」
セラフィは急にポーラに声を掛けられ、少し驚く。
「あなたは、まだ、何か目的はあるの?」
「ううん。守るべき人はもう、いないから。
そういやレックって人に、デュランさんって魔物が探していたと伝えろと言われたけど、どっちも生きてるのか分からないし。」

レック。ポーラはその名をキーファから聞いた。
でも、彼女にとって重要な人でもない。

「そうじゃないの。本当にしたいこと、言って。」
「この戦い……止めたい。人を殺して、不幸になる人も大切な人が殺されて不幸になる人も、止めたい。」

(だったら正しさを証明してみればいいでしょう。どんな理想論を語ろうと、実現出来ぬまま死んでは戯れ言でしかないのですから。)

アベルに言われた言葉を思い出す。認めたくないが、本当にそうだなあとセラフィは実感した。




「じゃあ、さ。あたしがセラフィの力になる。」
「いいの?あたしのせいで、ポーラも死んじゃうかもしれないよ。」
「構わないわ。あたしも、一人じゃ生きていけないし。」

まだ、完全に決意は固まったわけではない。
誰か別の人に戦いに乗ろうと言われれば、乗るかもしれない。
まだ生きているらしいコニファーやスクルドに会った時、自分は今何をしていると言えばいいかも分からない。
結局アークの決意の下で戦う戦士から、セラフィの決意の下で戦う戦士になっただけだ。
でも、アークの言うことを信じて、生きよう。

エリザを失ったけど、新たに生きる道を見つけたルーフィンのように、あたしにも何か自分の道を見つけられるかもしれない。

「ありがとう。アーク。死んでも、あたしのこと、気にしてくれて。」

アークが持っていたらしい吹雪の剣を手に取る。
切れ味はアークの胸に添えられていた銀河の剣の方がはるかに良いが、これもアークの生きた証になるかもしれない。

1057残された者たち ◆qpOCzvb0ck:2018/08/08(水) 22:50:38 ID:EFE5Fsog0
これだけは、このままにしておこう。


「あと、さ。これ、アークさんがこの戦いを壊すために、持ってたものなの。」

セラフィが散らばっていた道具と共に、黒い金属の輪を持ってくる。
確かに、これを解除すれば、戦いを終わらせることが出来るかもしれない。

「でも、こんなのあたしには調べられないよ。」
「できないなら、解除できる人を見つければいいんじゃない?」

「はっきり言って、上手くできるか分からないけど、やってみるわ。」
「じゃあ……行こうか。」

もう一度セラフィを鏡で映す。
少しだけ、闇が薄まっていた。

「私がどうしたの?」
「なんでもない。行こう。」


残された二人は、歩き出す。
「ばいばい。アーク。」
「さよなら。アークさん。」

二人は最後の挨拶を告げると、新しい道を歩き始めた。


【G-8/草原/一日目 真夜中】


【ポーラ@DQ9】
[状態]:HP3/5 MP1/5
[装備]:吹雪の剣 @DQ5
[道具]:折れた炎の剣@DQ6 ラーの鏡 支給品一式 支給品0〜2個
[思考]:まだ決意しきれていないが、セラフィに協力する。これから会う人によれば、殺し合いに乗るかもしれない。
※未練を残す死者の幽霊が見えます。そのままでは会話は出来ませんが、ラーの鏡を通すことで会話が出来ます。
※ラーの鏡を通して人の心の中を見ることが出来ます。今後何かほかの道具でも可能かもしれません。

【セラフィ@DQ10】
[状態]:HPほぼ全快
 歩くとHP回復(装備効果)
[装備]:ホイミンのTシャツ@DQ8 祈りの指輪
[道具]:星降る腕輪@DQ3 魔勇者アンルシアの不明支給品(0〜2)アリーナの不明支給品(0〜1)太陽の扇@DQ6、フラワーパラソル@DQ5、炎竜の守り@DQ8 魔勇者アンルシアの首輪 アリーナの首輪
[思考]:殺し合いに乗る者を止める。

1058残された者たち ◆qpOCzvb0ck:2018/08/08(水) 22:51:01 ID:EFE5Fsog0
投下終了しました。

1059ただ一匹の名無しだ:2018/08/09(木) 12:36:19 ID:BseNMaxU0
投下乙です
ポーラはひとまず踏みとどまって、セラフィも少し立ち直ったか
ラーの鏡にそんな使い方があったとは
自分はまだそこまで進んでないけど、10のバージョン4で判明したんだっけ?

1060 ◆OmtW54r7Tc:2018/08/11(土) 14:17:28 ID:XP7ethXY0
投下します

1061巡り会う二人の想い人 ◆OmtW54r7Tc:2018/08/11(土) 14:19:11 ID:XP7ethXY0
この殺し合いの場では、様々な再会の形があった。
行動を共にするも、間もなく片割れが死んでしまったり。
意見を違え、戦いになったり。
そして今回もまた、一つの再会の物語が紡がれようとしている、

果たして、彼女たちの選択は―


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「スクルド…!」

最初に口を開いたのは、赤髪の少女、ポーラだった。
その目は、驚きで見開かれている。
それは、隣のセラフィも同様だ。
何故なら、彼女――スクルドのローブには、痛々しい血の跡がついているのだから。

「ポーラ…お久しぶりですね」
「う、うん…って、そうじゃなくて!大丈夫なの!?」
「ええ…応急措置は済ませましたから」
「そう…」

ひとまずホッとするポーラだったが、しかしすぐにじっとスクルドを見つめる。
スクルドは元の世界からの仲間だ。
アークほどではないにしても、信用できる相手…のはずだ。
優しくて頭がよくて、誰よりも天使を信仰する、立派な聖職者で、こんな殺し合いに乗るはずなどない…はずなのだ。
だけど、ここは殺し合いの場で。
自分だって、先ほどまで闇に身を任せかけた。
彼女のこの傷が、どういう経緯でできたものなのか…聞く必要がある。

「ねえ…スクルド」
「ポーラ」

こちらが聞くよりも前に、スクルドが口を開いた。
そして…驚きの言葉を口にした。

「私は…許されないことをしました。この槍で…大勢の命を奪ってしまったんです」

1062巡り会う二人の想い人 ◆OmtW54r7Tc:2018/08/11(土) 14:20:23 ID:XP7ethXY0
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「この殺し合いが始まった時…私は近くの塔に飛ばされました。そして塔を降りているとき…デュランという魔人に出会いました」

デュラン。
セラフィから聞いた名前だった。
ポーラからの視線に気づいたセラフィが、答える。

「デュランさん、東の塔でレックって人を待ってるって言ってたから…間違いないと思う」

デュランはスクルドが僧侶だと知ると、彼女を無理やり従わせたという。
なんでも、「敵とは万全な状態で戦いたいから自分や敵が負傷していたら戦闘前に治療してくれ」ということらしい。

「そいつはまた…随分なバトルジャンキーだこと」

スクルドを従わせた理由に、ポーラは呆れた。
自分もバトルマスターとして多少は戦いを楽しむような心を持ち合わせていないこともないが、こんな殺し合いの場でわざわざ敵に塩を送るような発想はしないし、したくない。

「そして最初の放送が終わったころ…しびれを切らしたのか、デュランはリーザスの村へと向かい…そこで長い戦いが始まったんです」

しかし戦いの中で2回目の放送が行われ、アークの名前が呼ばれたことでスクルドは茫然自失となり、戦いの中に迂闊にも乱入してしまった。
そして戦いを邪魔されたデュランと、彼の対戦相手のアレフは…

「あの二人は…アークを侮辱して私を斬りつけました!私は怒りで我を忘れて、気が付いたら…」

そこまで言うと、スクルドは顔を俯かせて涙を流す。
怒りで我を忘れたスクルドは、ジゴスパークを発動させ、デュランとアルフ…そしてそばにいた二人の計4人を殺してしまったのだという。
話を聞き終え、ポーラとセラフィは悲しそうな表情で嗚咽をもらすスクルドを見つめた。

「あまり自分を責めないでください、スクルドさん」
「セラフィの言う通りだよ。アークのことを馬鹿にされたら…あたしだって同じようなことしてたと思う」
「でも…でも……!」

泣きじゃくるスクルドを見て、ポーラは思う。
こういう時、アークならどうするだろうと。
そう、きっとアークなら。

「スクルド」

ポーラは、スクルドに近づくと彼女の身体を抱きしめた。
そして、頭を撫でてやる。

「一人で抱え込まないで。私たち、一緒に旅してきた仲間でしょ!?スクルドの悲しみは、怒りは、私が一緒に背負うから。だから…!」

こういうのは、いつもならアークの役目だ。
だけど、アークはもういない。
おちゃらけているようで意外と周りのことを気にかけてくれてたコニファーも、この場にはいない。
自分がやるしかないのだ。

「ポーラ…ありがとうございます」
「スクルド…」
「ふふ…ちょっとだけアークのこと思い出しちゃいました」

そういって、スクルドは薄く笑った。
彼女のそんな表情を見たポーラは、ホッと一息ついたのだった。

1063巡り会う二人の想い人 ◆OmtW54r7Tc:2018/08/11(土) 14:21:13 ID:XP7ethXY0
その後、3人は情報交換し、これからの行動について話し合った結果、ポルトリンク方面へ向かうことにした。
ポーラとセラフィにとっては引き返す形となるが、スクルドの話によればリーザス村は廃墟同然のようだし、傷心のスクルドをそちらに引き返させるべきではないと判断したのだ。
それに、ポルトリンクの方には遅れてこっちに向かってるはずのキーファたちがいるかもしれない。

「途中にアークの遺体があるんだけど…どうする?」
「…アークさんには、今は会いません。会うのは…全てが終わってからにしたいです」
「分かった、それじゃ行こう」


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「ねえ、ポーラ。聞きたいことがあるのですが」

道中、スクルドがポーラに声をかける。
なんだろうと思いつつ、ポーラはスクルドの方へ振り向く。

「どしたの、スクルド?」
「…ポーラは、この殺し合いに優勝して、アークさんを蘇らせようとは、思わなかったんですか?」
「え……」

スクルドの問いに、ポーラはギクッとする。
何故。そんなことを。

「リーザス村での一件の後、私、一瞬ですけど思ってしまったんです。優勝すれば、アークを生き返させられるって」

それは、かつてポーラも望んだ願い。
いや…今でもまだ心の奥に燻っている願望だ。

「…正直に言うとね、アークが放送で呼ばれてから、あたし、殺し合いに乗ろうとしてたんだ」
「ポーラ…やっぱり」
「だけど、決めたんだ。今はこの子…セラフィの力になるって」
「…そうですか」

一瞬、スクルドの表情に影が差した。
しかし、それに気づくものは誰もいなかった。

1064巡り会う二人の想い人 ◆OmtW54r7Tc:2018/08/11(土) 14:23:22 ID:XP7ethXY0
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


(…うまくいった、とみてよさそうですね)

表情には出さず、心中でスクルドはほくそ笑む。
この二人には、事実と嘘を織り交ぜた話を語った。
最初に殺したというインパクトの強い事実を伝えれば、嘘をついているとは思われにくいものだ。
ポーラの性格はよく知っているし、セラフィもお人好しな人間のようだったので、ちょっと涙でも見せてやれば、騙すのは容易だった。

(ポーラ…願わくば、あなたにも私と同じ道を歩んでほしいです)

スクルドは見抜いていた。
ポーラが、まだアークを蘇らせることを心の奥底では願っていることを。
未だ、迷いの中にいることを。
もし彼女がその気になってくれれば、スクルドは全力で彼女の優勝のために尽力する。
アークさえ蘇ってくれれば…自分の命など惜しくはないのだから。
だから、ポーラのことは機を見て説得したいところだ。

(セラフィの力になる…ですか)

ちらりと、同行者の少女を見る。
彼女は、生前のアークを知る唯一の生き残りらしい。
おそらくだが…彼女の力になるという別の目的にすり替えることで、アークへの願望を抑え込んでいるのではなかろうか。
そうだとすれば、彼女がいなくなればあるいは…揺らいでくれるかもしれない。

(とはいえ、焦りは禁物です)

上手くいけばポーラをこちらに引きずり込むことができるが、対応を誤れば彼女を敵に回すことになる。
今は、あくまで人畜無害を装う必要がある。

(アーク…)

ポーラに語った通り、今は彼に会う気はない。
きっと生きていれば、アークは自分を止めようとしただろう。
たとえポーラのように言葉を交わすことができなくても…そんな彼に会ってしまったら、決意が鈍りそうだったから。

(待っていてください、アーク。たとえあなたが望んでいなくても、私のエゴでも…私はあなたを蘇らせる)

1065巡り会う二人の想い人 ◆OmtW54r7Tc:2018/08/11(土) 14:24:09 ID:XP7ethXY0
【H-8/草原/一日目 真夜中】

【スクルド(僧侶♀)@DQ9】
[状態]:HP2/3、腹部裂傷(応急処置済み)喪失感 情緒不安定MP1/2
[装備]:ホーリーランス、不思議なボレロ@DQ3
[道具]:支給品一式 キメラの翼×2 支給品0〜1(本人確認済み)
[思考]:アーク(DQ9主人公)を蘇らせる。そのために最後まで戦う。その後自殺する
    ポーラには協力してもらいたいが、無理はしない

【ポーラ@DQ9】
[状態]:HP3/5 MP1/5
[装備]:吹雪の剣 @DQ5
[道具]:折れた炎の剣@DQ6 ラーの鏡 支給品一式 支給品0〜2個
[思考]:まだ決意しきれていないが、セラフィに協力する。これから会う人によれば、殺し合いに乗るかもしれない。
※未練を残す死者の幽霊が見えます。そのままでは会話は出来ませんが、ラーの鏡を通すことで会話が出来ます。
※ラーの鏡を通して人の心の中を見ることが出来ます。今後何かほかの道具でも可能かもしれません。

【セラフィ@DQ10】
[状態]:HPほぼ全快
 歩くとHP回復(装備効果)
[装備]:ホイミンのTシャツ@DQ8 祈りの指輪
[道具]:星降る腕輪@DQ3 魔勇者アンルシアの不明支給品(0〜2)アリーナの不明支給品(0〜1)太陽の扇@DQ6、フラワーパラソル@DQ5、炎竜の守り@DQ8 魔勇者アンルシアの首輪 アリーナの首輪
[思考]:殺し合いに乗る者を止める。

1066 ◆OmtW54r7Tc:2018/08/11(土) 14:24:40 ID:XP7ethXY0
投下終了です

1067星さえ掴むこの瞳で ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:03:59 ID:zXDTL0GM0
ゲリラ投下します。

1068星さえ掴むこの瞳で ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:05:46 ID:zXDTL0GM0
夜が深まる中、魔英雄ザンクローネは茨に包まれた城を前にニヤリと笑った。深い夜の中、この世界は夜よりも遥かに深い闇で覆われている。

明けない夜は無い。
その言葉が示すように、先の見えない闇に対しても根気強く待てば救いは訪れる。
しかし、人は夜明けを待つことは出来ても夜明けを到来させることは出来ない。人は救いをひたすら待ち続けることしか出来ないのだ。自ら救いを勝ち取る力など持っていない。

だからこそ、救いを与える者に取りこぼしがあってはならない。
全てを救う、それがただ1つの願い。
歪んだ笑みを浮かべながら、魔英雄ザンクローネは来る者を拒まぬ空きっぱなしの城門を潜り抜ける。

トロデーン城。
ザンクローネにとってもヘルバトラーにとっても、目指していた場所でありながら無事に辿り着くことのなかった場所である。双方ともこのような姿で拝むこととなるとは夢にも思っていなかっただろう。

ようやく辿り着いたこの城には、どれだけの救いを待つ者が居るのだろうか。どれだけの破壊を尽くせるだろうか。

深い深い闇の中、城を包む静寂と茨が魔英雄の足音をよりいっそう不気味なものに引き立たせる。

そんな中でようやく聞こえた声。
滅びが、救済が、今始まる。

「さあ、救済の時間だ……。まずは――――――お前だ!」

1069星さえ掴むこの瞳で ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:06:51 ID:zXDTL0GM0
刹那、斬夜の太刀が虚空を引き裂いた。 その剣先は獲物を捉えることはなかった。

「あっぶねえ……気づかれてたのかよ。お前、ザンクローネだろ?ジャンボの話と全然違うじゃねえか。」

「おや、お前はジャンボの知り合いか。まあいい、どうせ奴も後で救うさ。」

冷や汗をかきながら姿を現した獲物の名はコニファー。アスナとフアナが眠っている間、外敵からの奇襲を防ぐためにステルス状態で見張っていたのだ。
索敵という目的において、ステルスを使えるコニファーはこれ以上無い適役であったはずだった。

ただし魔に囚われている、いないにかかわらずザンクローネという相手自体がステルス使いにとって相性が悪かったといえる。
そもそもレンジャーとは、自然の中に生きる妖精たちの力を借りて戦う狩人である。ステルスという呪文も妖精の力の一部を借りたものであり、存在の本質が妖精であるザンクローネはエルフが消え去り草で消えた者たちの存在を見破るようにいとも容易くステルスを看破出来るのだ。

「さて、それよりもまずはお前から救ってやる。」

「話が通じる相手…ってわけでもなさそうだな。」

言うが早いか、ザンクローネが横薙ぎに剣を振るう。
当然、それを甘んじて受けるコニファーではない。後方へジャンプして躱し、そのまま矢を数発撃ち込む。しかし、矢が突き刺さるも全く動じない。
体内より溢れ出る魔瘴によってザンクローネの防御力は大幅に上がっているのだ。

一切怯むことなく再びコニファーに斬り掛かる。その太刀は炎を纏っているのが見て取れた。

1070星さえ掴むこの瞳で ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:07:32 ID:zXDTL0GM0

(あれは…フォースか?)

コニファーは武器が魔法を纏うその技を見たことがある。敵の使う魔法剣とでも言うべきそれは、アークの使いこなしていたフォースの類に似ていた。

敵がアークと同じ魔法戦士であるならば補助の部門において最も輝くタイプのはずだ。1VS1の戦闘に向いている相手ではないのだろう、とコニファーは推測する。
しかしそんな推測は即座に粉々に打ち砕かれた。

コニファーが後方へ回避したその先、炎を纏った太刀は大地を叩きつける。
その大地から、巨大な火柱が立ち上がった。

ザンクローネの太刀が纏う魔法は魔法戦士の扱うフォースではない。
体内に巣食うヘルバトラーと魔女が直接唱えた呪文そのものなのだ。
本来物理攻撃と呪文とを同時に扱うことは出来ないのだが、いくつもの命がひとつの個体に宿っていることがそのような芸当を可能としていた。

その威力は、補助を専門とする者の扱う威力ではない。凄まじい熱が肌に伝わってきて、地にはドス黒い染みが遺されていた。

コニファーにとって、その光景は忘れられるはずがないものだった。
ヘルバトラーとの戦いの中で命が焼かれていくあの光景が、コニファーの脳裏に蘇っていった。

1071星さえ掴むこの瞳で ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:09:23 ID:zXDTL0GM0
「お前は…まさか…!!」

「さぁ、何だろうなァ?」

有り得ない。
ヘルバトラーは間違いなく倒したはずだ。
いや、仮に倒していたとしてもいなかったとしても問題の本質はそこではない。
問題なのは、目の前の敵がヘルバトラーに匹敵するだけの力を持っているということ。

「うおおお!」

今までに戦ったどの敵よりも強い、そう悟ったコニファーは毒矢4本を使ってさみだれうちを放つ。
だがその攻撃は風を纏った太刀のひと振りで全て散らされてしまった。

「そんなんじゃ俺は倒せねえぞ?」

「それだけじゃねえさ。行け!」

突如、太刀を振り切ったザンクローネに2匹の狼が襲い掛かる。使役する妖精たちを実体化させて攻撃するレンジャーの大技、オオカミアタック。
こんな世界にも自然は存在し、妖精たちは存在しているのだ。

狼と化した妖精たちの爪撃がザンクローネに傷を付ける。さらにオオカミを振り払っている間、追撃のさみだれうちを放った。4本の毒矢がザンクローネに突き刺さる。

「だから無駄だと言うておろうが!」

ザンクローネはメラゾーマを剣圧にして飛ばす。
あれだけの攻撃を連打してもほとんど通用していない。魔瘴の力がなせる防御力と進化の秘石がなせる再生力は、特別攻撃力が高いわけでもないレンジャーに簡単に崩せる耐久力ではなかった。

1072星さえ掴むこの瞳で ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:09:58 ID:zXDTL0GM0

(これでも効かねえのかよ…)

火球を回避しながらコニファーは考える。
元の世界のように弓の秘伝書があるわけではないので自分の放てる攻撃技はせいぜいさみだれうちが限界であるのだが、矢の本数にも限界はあるのだ。
矢の弾数は特技で補えなくもないが、魔力自体が底を尽き始めている。

(最悪、あいつらにも加勢してもらわなくちゃならねえか。)

出来ることなら休息をとっているアスナとフアナを危険にさらすことなく倒したいのだが、それに拘るあまりに死ぬハメになるのは真っ平御免だ。

仮に仲間も危険にさらされようとも、全員で乗り切って生還するのがコニファーの目標である。今だって1人で立ち向かっているのは自己犠牲の精神などではなく、全員生還を目指すのならアスナとフアナは体力と魔力が回復するまで戦わない方が良いと判断しただけにすぎない。

(素早さではおそらく俺が勝ってる…それならあいつらが起きるまでに剣に纏った魔力を使い切るまで粘ってやるか。)

方針は決まったが、延々と時間稼ぎを続けるというのは口で言うほど簡単ではない。

というのも、敵から離れすぎてしまえば敵が自分の追跡を諦めて2人の居る城の中に入っていくかもしれないからだ。つまりはあくまでも戦場の範囲内で敵の攻撃を回避し続けなくてはならない。
突破口なんて見えないけれど、全員で生き抜くために失敗は許されない。

こちら側の魔力は温存しておきたいとはいえ、さすがに保険のためのまもりのきりくらいは貼っておくことにしてザンクローネの前に立ち塞がる。

1073星さえ掴むこの瞳で ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:11:05 ID:zXDTL0GM0
「その魔法、お前ヘルバトラーなのか?随分とお変わりになっちまったじゃねえか。」

「ククク…そんな魔物は知らんな。俺は魔英雄ザンクローネだ。」

「おっと。」

剣先からほとばしる閃光を横に逸れて躱す。

「魔英雄……こりゃまた大層な肩書きなこった。破壊神とか堕天使とか、クソッタレな女神だってそうだ。ほんっと上の方々ほど信頼出来ない世界だよ。」

「お前の世界の奴らは知らんが、俺は本物の英雄さ。すぐにお前も救ってやる。」

ザンクローネは突撃し、コニファーへと氷を纏った太刀を突き出すがコニファーは再び躱す。

「余計なお世話さ、俺は生きている今の素晴らしさをこれ以上なく噛み締めているんでね。」

矢と共に言葉を放つ。
これは敵の注意をコニファーに向けて離さないための作戦である。
まもりのきりを筆頭に、敵の攻撃を無力化する術の多いコニファーは敵の攻撃を引きつける役となることも多かった。
その手段は知能の発達していない相手であればくちぶえであったり、あるいは言葉の通じる相手であればこのように語りかけての挑発だったりしたものだ。

「ククク……信じぬ者の下にも、救いを!」

「当たるかよ!」

元の世界の仲間たちはそれぞれがそれぞれの役割をしっかりこなしていた。
だからこそ、コニファーは自分の役割のための技能を高め続けてきた。皆が皆自分の力を磨いている中、足手まといにはなりたくなかったからだ。

1074星さえ掴むこの瞳で ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:12:04 ID:zXDTL0GM0
タップダンス。旅芸人の特技ではあるが、これもコニファーが訓練によって身に付けた特技のひとつ。
弓使いとはいえ、近接戦闘であってもコニファーを捉えるのは容易ではない。

「小賢しい!」

ようやくかすった一撃も虚しく、そのままコニファーの身体が消えていく。
ザンクローネの攻撃はまもりのきりを振り払うのみに留まったのだ。

まもりのきりを囮に背後へと回り込むコニファー。
弓を引き絞り、敵の視界外から矢を放とうと試みる。

「甘いっ!」

「なにっ…!」

ただし、ザンクローネの瞳を介さず外界を認知するヘルバトラーとグレイツェルの力でコニファーの居場所に瞬時に気づいたザンクローネは太刀を思い切りぶん回す。
両手剣とよく似た戦闘スタイルでありながらも、太刀の利点はその軽さを活かした隙の少なさ。
想像以上に早く気付かれたことを悟ったコニファーが離れるよりも先に、辺り一面が斬撃と爆発が包まれる。

「ぐあああああっ!」

俊敏な動きと器用な立ち回りに長けているコニファー。不意の一撃とはいえぶん回しは何とか回避することが出来た。ただし、その攻撃に加えてのイオナズンの炸裂までを読み切ることは出来なかった。
闇も深まる時間帯であることもあり、片目を失ったことの弊害は決して少なくはないのだと実感せざるを得ない。

吹き飛ばされ、全身を打ちつけるも、肢体を両断されることがなかったためまだ身体は動く。
戦局はかなり不利だが、片の眼はまだ光を失っていない。

「何故救いを拒む…?滅びこそ真に救いだというのに。」

爆発によって出来た瓦礫の山の頂点から見下ろしながら、ザンクローネはコニファーに問い掛ける。

「死は救済…ってか?…ふざけたことぬかしてんじゃねえ!」

それに対し、柄にもなく感情的に言い返した。
死こそが救済なのだとしたら、役目を終えた天使たちは救われたとでもいうことで、取り残されたアークは救われなかったということである。
そしてその理屈はなまじ間違っているわけでもないからこそ、認めるわけにはいかない。
この世界で仲間たちを置いて向こう側へ行ってしまったアークが救われただなんて、認めるわけにはいかない。

1075星さえ掴むこの瞳で ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:12:47 ID:zXDTL0GM0
女神セレシアによる世界の不条理を目の当たりにした時、殺し合いの世界という不条理に巻き込まれた時、コニファーは自分の感覚が大きく狂ってしまったように感じた。

自分が正しいのか世界が正しいのか分からない。
ただひとつ分かることは、自分が今生きているということ。
その感覚だけを信じてきたからこそ、絶望に塗れた不条理の中でも諦めることなく戦うことが出来た。

だからこそ思う。
それこそが命の命たる所以なのだと。
どんな深い闇の中にも光を見出せて、その光を頼りに足掻くことが出来る。
その光を奪うことが救済であるはずがない。生きることの力を、そして自分の生を証明するために、ここで負けるわけにはいかない。

「さぁ、救ってやるよ……獄雷――――渾身斬りィ!」

傷を負ったコニファーに向け、再び斬り掛かるザンクローネ。
地獄の雷を纏った一撃がコニファーへと向かう。

「がっ…!」

だがその途中、ザンクローネの脚がぴたりと止まった。

「なに…が…!」

「ハッ…てめえは恐ろしいくらいタフだが全く効いてないってわけでもねえようだな。そろそろ矢に塗られてた毒でも回ってきたか?」

これはチャンスだ。
そう判断したコニファーは射手にもかかわらず敵の懐へ飛び込んでいき、手を伸ばす。

1076星さえ掴むこの瞳で ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:14:29 ID:zXDTL0GM0

コニファーはレンジャーとなる前、盗賊の職に就いていた。
それに加え、レンジャー特有の器用さ。素早い動きでザンクローネの持つザックからはみ出しかけていたひとつの光を盗み取った。

盗み取った道具――――プラチナさいほう針を握り込む。
魔英雄ザンクローネの懐で星のように光り輝いていたそれが、コニファーに掴めと囁いてきた気がしたのだ。

それはこの世界に招かれたザンクローネがまだ小さな姿だった時、イザヤールから受け取ったものである。
それをコニファーが掴めたのは、魔英雄となった後にもなお微かに残るザンクローネの意識の、せめてもの抵抗だったのかもしれない。

さて、今ザンクローネの身体には毒矢の毒が回っている。そして手元には小さな針。さらには、弓を扱えなかった盗賊時代に扱っていた武器の心得がコニファーにはある。

「おのれ……貴様!」

眼下のコニファーに太刀が振り下ろされる。だが間に合わない。
太刀が隙の少ない武器であるとはいえ、針の速度に勝るはずもない。

魔英雄から見たコニファーに、さいほう針を構えた小さな英雄ザンクローネの姿が重なって見えた気がした。

そう、これは小さな英雄の小さな武器が起こした、針の穴ほど小さな奇跡。


「掻き混ぜろ――――タナトスハント!」


「がっ……!!」


さいほう針が英雄の胸に突き刺さり、砕け散る。毒針のような小さな針を短剣として扱うことはあるが、さいほう針レベルのサイズでは短剣ではないどころか戦闘用の道具ですらないため、コニファーの力とザンクローネの力の衝突に耐えられないのも致し方ないと言えよう。
それでも、毒特攻の技をまともにぶつけたことは期待以上の威力を発揮し、ザンクローネの身体は吹き飛んで瓦礫の山に追突する。コニファーの手にも敵にダメージを与えた実感が伝わってくる。

1077星さえ掴むこの瞳で ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:15:45 ID:zXDTL0GM0
「お前はさ、なんつーか反則なんだよ。独りのくせに何でも出来るなんてよ。」

近接戦闘の隙の無さ、魔法を纏った剣、攻撃を真っ向から受け切る耐久力。
まるでアークとスクルドの補助を受けたポーラを相手にしているような感覚さえ覚える相手だ。

そう、目の前の相手は攻撃・防御・補助のどれを取っても隙がなさすぎるのだ。
どれもそこそこの比率でしかこなせないレンジャーから見ればまるで上位互換。

どの職業にしても、自分の出来る範囲の役割を弁えた上で動くべき――――――立ち回りの幅が広く、器用であることに特化したレンジャーとしてコニファーはそう考えていた。

独りで全てを出来ていては生きていることの幸せを実感出来ない。人には仲間が必要だからこそ、協調というものが生まれる。
それが、繋がりの中に生きるということなのだ。

「独りでなんでも出来ちまうお前は一生知ることがねえんだ。絶対に守りたいものがあるってことを。」

コニファーにはあの星空の下、守り抜くと誓った仲間がいる。
元の世界の仲間だけではない。
この世界でも新たな仲間たちと出会った。

「そして、守りたいものがあるからこそ思えるんだよ。"負けるものか"ってな。」

コニファーがステップを踏み、踊り始める。今度は回避のためのタップダンスではなく、攻め手に回るための妖精たちのポルカを。

「さぁ、まだ夜は終わらねえ。救いの星ってのはな、最後まで諦めずに足掻いた奴だけが掴めるもんなんだぜ。」

天使たちが星になっていく中、狂ってしまったのはコニファーの感覚でも世界でもなく、仲間という輪だった。
取り残されたアークは絶望に堕ち、アークに寄り添うポーラも共に苦しみ、天使を信仰していたスクルドはその信仰心を根本から叩き折られた。旅を共に続けてきたパーティーは完全に崩壊を迎えたのだ。
しかしこの世界で新たな仲間の輪を見つけて、仲間たちの中に生きるという感覚をコニファーは思い出した。

夜の先に見るのは闇ではない。
星空の先に見るのは救いではない。
片の瞳は光を、そして生きて生きて生き抜いて守り続けていくべきものを、ハッキリと映し出していた。

1078星さえ掴むこの瞳で ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:19:06 ID:zXDTL0GM0

【D-3/トロデーン城外/真夜中】

【コニファー(男レンジャー)@DQ9】
[状態]HP1/8 MP1/10 片目喪失  ピサロへの疑惑 攻撃力・防御力・ブレス耐性上昇
[装備]かりうどの弓@DQ9、毒矢10本 
[道具]支給品一式 カマエル
[思考]自分が生きているという感覚を保つため、とにかく生き抜く。仲間を探す。

【魔英雄ザンクローネ@DQ10】
[状態]:HP2/3 MP9/10
[装備]:斬夜の太刀 @DQ10 ヘルバトラーの魔瘴石with進化の秘石(体内)
[道具]:支給品一式 不明支給品(0〜2) イザヤールの支給品(0~1)
[思考]:全てを壊し全てを救う
[備考]:グレイツェルの呪いとヘルバトラーの魔瘴により性格が反転し、破壊こそが救いだと考えています。
進化の秘石の力で傷が徐々に再生していきます。

【ヘルバトラー強@JOKER】
 [状態]: 魔瘴石化 ザンクローネの体内に侵入 グレイツェル及び進化の秘石と融合
 [思考]:ザンクローネの身体を使い破壊の限りをつくす
※死骸と闘志、それに魔瘴が合わさり、魔瘴石のような形になっています。
※ザンクローネが死ぬと彼も死にます。


※プラチナさいほう針@DQ10は砕け散りました。
※トロデーン城内のアスナ@DQ3とフアナ@DQ3が物音に気付いているかどうかは次の書き手さんにお任せします。

1079 ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:19:26 ID:zXDTL0GM0
投下完了しました。

1080ただ一匹の名無しだ:2018/08/12(日) 00:28:10 ID:OB7ohXRQ0
投下乙!
ヘルバトラーとグレイツェルの力が備わったザンクローネ、凶悪すぎる…
そしてそれに必死で抗うコニファーの意地が、超かっこよかった

1081 ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 14:03:04 ID:0.sRQjlI0
台詞のミス訂正します。

>>1073
「魔英雄……こりゃまた大層な肩書きなこった。破壊神とか堕天使とか、クソッタレな女神だってそうだ。ほんっと上の方々ほど信頼出来ない世界だよ。」


「魔英雄……こりゃまた大層な肩書きなこった。暗黒皇帝とか堕天使とか、クソッタレな神様女神様だってそうだ。ほんっと上の方々ほど信頼出来ない世界だよ。」

に訂正します。

1082 ◆qpOCzvb0ck:2018/08/15(水) 19:20:25 ID:VqUs77Wc0
投下します。

1083噛み合わない状況で ◆qpOCzvb0ck:2018/08/15(水) 19:21:03 ID:VqUs77Wc0
「足跡が続いてる………」

ポルトリンクから出た後、すぐにキーファが来た道の異変に気が付いた。
自分達が向かう方向に別の足跡があることを。

(もしや……アルスか?)
(エイト……入れ違いになったのですか?)

残念ながらそれは二人の知り合いではなく、魔王のものだった。
そもそも足跡の持ち主がアルスやエイトだという根拠はどこにもない。
だが、人間はおのずと根拠がなくても、希望があれば縋りたくなってしまうものだ。

そんなことはつゆ知らず、希望的観測の下、二人は足跡を追い続ける。

「ん!?」

その足跡を追い続けてしばらくして、二人は新しいものを見つけた。

(ここで一度、崩れ落ちた?)
さらにその先を見てみると、足跡以外に棒か何かを刺したような跡が点々と続いている。


この足跡の持ち主は、体に不調を帯びて、今にも倒れそうになりながら歩いていると考えるのが妥当だ。

「ペースを上げていくぞ。大丈夫か?」
「はい。」

もしもアルスかエイトに追いつけなければ、悔やんでも悔やみきれない。
たとえ目当ての人物じゃなくても、追いつけなくて死んでしまえば、目覚めが悪い。
古代船よりも、そちらの方が気がかりだ。

やがて二人は一度滞在した山小屋にたどり着いた。

「おい!!大丈夫か!?」
キーファはドアを開ける。

中は誰かに荒らされていた。
ひょっとすればここでも殺し合いが起きたかもしれない。

「エイト!?いたら、返事してください!!」
ミーティアも声をかける。

しかし、返事はない。

キーファが辺りをランタンで照らす。
しかし、人の姿はどこにもない。

(人はおらず、血痕もない……か。)

タンスや食料が入っているらしき箱の中身が無くなっているのをみると、足跡の持ち主は応急手当をして、すでにここを去ったようだ。
「もうここにはいないみたいだ。行くぞ。」
「はい。」

家を出てすぐに分かったが、まだ足跡は続いているようだ。

1084噛み合わない状況で ◆qpOCzvb0ck:2018/08/15(水) 19:21:28 ID:VqUs77Wc0
「なあ、ミーティア。さっき言ってた古代船って、どのあたりにあるんだ?」
「確か向こうの荒野に、この辺りから見られたはずですが……。もう少し先に行きましょう。」

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「起きろ!!キサマ!!こんな所で終わらせるつもりか!!」
竜王は「戦友」を揺さぶる。

しかし、返事はない。

これからどうするべきか。
先程の自分達の戦いを壊したあの男を追う。
否、悔しいが竜化する魔力が残っていない以上は勝つどころか追いつくことさえ難しい。
それ以前にこの男との戦いを中途半端な形で終わらせてしまう。

この男を手当てする。
否、自分は人間の手当てなどしたことないし、自分のベホイミ程度では心もとない。
支給品の薬はもう使ってしまった。

ならば。
この男を誰か手当て出来る者のところに連れて行く。
このような判断が出来るようになったのも、この男のせいだと思うとどうにも悔しい気がしてならない。
たとえ手当てしてもらった後、その人間もろとも皆殺しにすると仮定したとしても。


「絶対に死ぬな。ワシにあれだけ説教垂れておいて、死ぬなんて許さんぞ。ぐっ……!!」
竜王は戦友を背負い、アベルが向かった反対側に行く。
戦いで消耗しているのは、自分だけではない。
しかし、それぐらいのことで自分の役割を放棄するのは、虚弱な人間だけで十分だ。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「きゃっ!!」
荒野に入ってすぐに、ミーティアが地面につまずいて転んでしまった。
「おい、大丈夫か?」

持っている布と支給品の水で擦り傷を手当てする。

元々運動に向いていない服の上に、竜王の下から逃れてからずっと歩いていたため、脚の疲労は激しくなってきただろう。


キーファは迷わずミーティアを背負う。
「私を置いて行ってください!!」
「オレにもミーティアにも会いてえ人がいる。だから、見捨てるわけにはいけないんだ。」
「でも!!私だって!!」

1085噛み合わない状況で ◆qpOCzvb0ck:2018/08/15(水) 19:21:52 ID:VqUs77Wc0

ミーティアはキーファの背の上で暴れる。
しかし、キーファは冷静になだめる。
「あんまり気負いすぎるな。誰かに頼った方が、上手くいくこともあるぜ。」

キーファの言うことは当たっていた。
自分は考え過ぎていたのかもしれない。
エイトのこと。自分の王女としての生き方。ゲルダが死んだときの自分の薄情さ。


(知ってるんだよな。そういうやつ。まあ、アルスみたいに周りに無頓着なのも困りものだけどよ)

彼がアルス達と別れ、ユバール族の一員として生活しているうちに学んだことだ。
周りに気を遣うあまり、多少のケガや病気も押し隠して仕事を請け負い、結果として取り返しのつかないことになる者がたまにいた。
包帯や薬の数が常に限られているユバール族の中では、それが死に直結することもある。
そういう時は、周りにいる者が仲間の僅かな変化を気づくべきなのだ。
今思えば、マリベルもそういった人で、この戦いでも無理をして力尽きたのかもしれない。

更に歩いていく。
船は、見つからない。
「やっぱりないのでしょうか……大きな船だったから、見つかってもいいはずですが……」

「それに、前この辺りで竜王はいたはずだぜ。一体どこへ……。」

「探さずとも、ワシはここにいるぞ。」

(………竜王……!!)


感じる。
数時間前に味わった魔力が。
レックとの戦いが原因か、一度目に対峙した時より姿はボロボロだった。
どういうわけか分からないが、あの時よりかはどういう訳かその圧力が減っているような気がした。
その原因は恐らく戦いが原因ではないような気がした。

((…………!!!!!))
しかし、それ以上に驚くことが、彼の背の上にあった。

特徴的な色、特徴的な形の髪。
蒼とオレンジの服。
それは、動かないかつての戦友。
レックが、抱えられていた。

1086噛み合わない状況で ◆qpOCzvb0ck:2018/08/15(水) 19:22:23 ID:VqUs77Wc0

「てめえ!!」
「待ってください!!」

ミーティアの制止も振り切り、竜王に飛び掛かっていく。

いくら実力の差があれど、ここばかりは退けない。

「レックの仇だあ!!火炎斬り!!」
炎を纏った二重の斬撃が竜王に襲い掛かる。


「ほう……」
前より力強い。だが、大振りなため隙が大きい。

竜王はレックを背負いながらも、容易にあしらうことが出来た。
一陣目は躱され、二陣目は衣を薄く傷つけるだけに終わった。
そしてその隙を逃さず、キーファに殴打を食らわす。

「キサマはもう少し冷静になるべきだな。」
「ぐあっ!!」

やはり、キーファと竜王の力の差は拭えない。
それは竜王が消耗して、キーファに怒りの力が籠っていても。

「ち、ちくしょう。」
「よく見ろ。コイツは死んでおらん。話を聞け。」

信用できない、という目でキーファは竜王を睨む。
「やはり、キサマら人間には信用できぬか。」

自分は人間を信用したのではなく、あくまでレックを信用したのみ。
他の者は信用したつもりではないし、相手の方も信用してくれる可能性は低い。
人間に頼み、この男を治療してもらおうという目論見も初めから不可能だったのか。

竜王は片手に炎を纏わせる。
「待ってください!!」

二人の間を、ミーティアが割って入る。
「争いは疑いを深めるだけになります!!竜王さんも!!キーファさんも止めてください!!」

彼女にとって、竜王とは恐ろしい存在だ。
オルテガがいなければ、自分は消し炭になっていた。
だが、父親にもエイトにも相談できなかった、自分の誇りについて聞いてくれた存在でもある。
同じ強力な力を持っていても、ドルマゲスのような力に憑りつかれたような存在ではない。
彼が誇りを通すというなら、自分もそうするべきだ。
たとえ力が及ばずとも。

それは、一度竜王の見た光景だった。
「愚か者が。キサマがそれをやって、悲劇を招いたのを忘れたか?」
「忘れてません。でも、ここで下がるわけにはいかないんです!!私の誇りにかけて!!」

「ミーティア!!やめろ!!こんな奴、信用できるわけねえだろ!!」
キーファも再び剣を構え、竜王を睨みつける。

「ならば、今度こそ焼き払ってくれる!!
キサマの誇りがどれほど脆いものか、心に刻み込むがよい!!」

「負けるかぁぁぁっっっ!!!」
キーファも、隼の剣を構えていく。

1087噛み合わない状況で ◆qpOCzvb0ck:2018/08/15(水) 19:22:42 ID:VqUs77Wc0
結果は見えている。
炎の竜がキーファとミーティアを飲み込む。
オルテガに続く、焼死体が完成、のはずだった。

「おっらあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

キーファは竜王ではなく、炎の竜を斬り付ける。
先程と同じ真空を纏った二重の刃が、竜の頭を斬り刻む。

「………!!」

ミーティアの体にも炎の熱さが伝わる。しかし、真空斬りと割って入ったキーファのおかげで、ダメージはほぼなかった。

「ユバール族の守り手、ナメんなよ!!」
「なるほど。キサマも成長したという訳か。だが、いくら力を手に入れても、使い方が分からなければ無意味だぞ。」

ここに誇りを持っている者はレックと竜王、そしてミーティアだけ、ということはない。
キーファとて、縛られた人生が嫌で別の道を歩んだ。
しかし、その事実を噛みしめ、新しい道を命懸けて生きるという誇りはある。

レックを殺し、ミーティアを殺しかけた相手を目の前にして、二度も背を向けるようなことはできない。


「今度こそ……!」
キーファは大きく息を吸い込む。
上半身は柔軟に剣を振るために軽く。下半身は強力な一撃を踏み込むために重く。



(どうしましょう……。)
なんとか助かったのはいいが、さらに二人の戦いを止めに入れない状況になってしまった。

(キーファさん……さっき自分では「気負い過ぎるな」って言ったのに………)
幸いなことに竜王の攻撃の矛先はキーファに向かっている。
せめて道具を使うことで、どうにかできないかと、後ろに下がり、今のうちにと支給品を探る。
そういえばポルトリンクで手に入れた派手な下着以外の自分の持ち物を、まだ確認してなかった。

一つ目にあったのは、優しい光を帯びた杖。
なんでも「祝福の杖」というらしく、使うとベホイミの効果があるとか。
自分の世界には杖を使った同名の技があるそうだが、恐らく偶然だろう。
これでレックを助けられるかもしれないが、そのためにまずは戦いを止めねばならないだろう。

他にも支給品を見てみる。
これらをどう使えば、争いを止められるか。

1088噛み合わない状況で ◆qpOCzvb0ck:2018/08/15(水) 19:23:12 ID:VqUs77Wc0




竜王は振り下ろされる剣をかわし、いなしていく。
一撃一撃の威力はそれほど早くも強くもないが、剣のチカラか妙に攻撃回数は多いため、自分のケガも相まって手間がかかる。

(どうしてこう思い通りにならん……?)

体の痛みも相まって、竜王の胸の奥に、苛立ちが湧き上がる。
目の前にいる男は、レックとは異なり、自分に敵意を持っている。
自分の説得には耳を傾けないほどに。
無理矢理戦いを終わらせようとラリホーも唱えてみたが、怒りの方が上なのか、効いたようには思えない。


一度はレックとの戦いで、自分が「人間に協力する」という可能性を感じた。
しかし、キーファとは到底協力なぞ出来そうにない。
思えばかつて自分を倒した勇者、アレフも協力など考えてなかった。

(俺もお前も、並外れた力を持っていた。そしてその力と、義務にがんじがらめにされているんだ。)

レックに言われた言葉を思い出す。
ヤツのことはまだ分からない。
だが、レックも実は周りの人間からは理解されてなかった存在ではないのかと、疑問に思ってきた。
だからこそ、自分にあんな言葉を投げかけてきたのか。
レックこそ人間の中でも稀な存在であり、実はキーファのような人間が大半なのだろう。

たとえキーファこの男が状況を分かったとしても、手違いで剣を向けてきたような人間に許しを請うマネはし難い。

(やはりワシが協力できるのは「人間」ではなく「レック」なのか…?)

「油断……してんじゃねえ!!」
キーファが火炎を纏った剣で斬りかかる。

一発目、同じように躱す。傷ついたのは黒い衣だけ。
しかし、感情の乱れがあったからか二発目のダメージを許してしまう。

「纏わりつくな!!」
竜王の拳が、キーファの腹にめり込む。

しかしその力を上手く受け流し、ダメージの一部を竜王にも与える。
キーファだけではなく、竜王も腕痛みに悶える。
「ぐぬ………。」


相手のコンディションがここまで悪い状態でやっとついていける戦いかよ、とキーファも嫌になる。
だが、負けるわけにはいかない。
アルスに出会うまでは。ミーティアをエイトに会わせるまでは。


こんなやつに、オルテガさんとレックを殺した奴にミーティアまで殺されてたまるか。

1089噛み合わない状況で ◆qpOCzvb0ck:2018/08/15(水) 19:23:34 ID:VqUs77Wc0

そう。キーファにとって、魔物とは総じて「こんな奴」なのだ。
彼はアルスと石板を通じた冒険をするまで、魔物のことなどおとぎ話の世界の存在だと思っていた。
そして、アルスと冒険を始めてから、魔物に苦しめられている人々、魔物に街を滅ぼされた、滅ぼされかけた人々を見てきた。

彼の世界にも人間に友好的な魔物はいたが、彼には知る由もない。

彼とは別の、友になる可能性を秘めた魔物がいる世界のことをもっと知っていれば、考えは変わったかもしれない。
たとえ誰かに咎められても、長い間ずっと身についていた印象というのは簡単に離れられるものではない。
それは竜王とて、キーファとて同じことだ。


ところで余計な話かもしれないが、この世界の1日がもうすぐ終わりを迎える。
もうじきそれに沿って彼の存命は知らされることになるはずだが、キーファはそれを受け入れられるのだろうか。
レックはなおも意識がない状態で、竜王は苛立ち、キーファは怒りに燃え、そしてミーティアは後ろで「道具」を睨んでいる。
時間に気付いている者は誰もいない。

次の放送は、そしてミーティアの決意は、何かを変えることが出来るのだろうか。


【D-7/荒野/1日目真夜中(放送直前)】

【レック@DQ6】
[状態]:HP1/15 気絶 MP1/7
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、大魔神の斧@DQJ 蒼炎のツメ@DQ10モリーの支給品1~3個 確認済み支給品1~2個
[思考]:竜王と協力する。アベルを追う、ターニアを探す。

※体力を使い果たした上での気絶状態です。手当などがない場合は、一定時間後に衰弱死します。

【竜王@DQ1】
[状態]:HP1/12 竜化した場合、背中に傷 片手片翼損失 苛立ち
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1個
[思考]:レックと共に協力し、アベルを倒す。周りの人間は邪魔するなら殺す。
[備考]:自分の誇りを貫くか、他の人間の協力も借りるか悩んでいます。


【キーファ@DQ7】
[状態]:HP1/4 怒り
[装備]:はやぶさの剣・改@DQ8
[道具]:支給品一式、月影のハープ@DQ8、支給品1〜2個、ユーリルの不明支給品0~1個
[思考]:竜王を倒す。古代船を見つける。
[備考]:竜王がレックを殺したのだと思っています。


【ミーティア@DQ8】
[状態]:健康 膝に擦り傷(応急手当て済み)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、あぶないみずぎ、レースのビスチェ、あぶないビスチェ、祝福の杖@DQ7  その他道具0~2個
[思考]:「支給品」を使ってキーファと竜王の戦いを止める。古代船のもとへ向かう

1090噛み合わない状況で ◆qpOCzvb0ck:2018/08/15(水) 19:23:49 ID:VqUs77Wc0
投下終了です。

1091ただ一匹の名無しだ:2018/08/15(水) 20:49:13 ID:bOwb0W4I0
投下乙
そうか…キーファのモンスター感はまだホイミンみたいな仲間モンスターが現れる前のロトシリーズと似たような感じなのか
彼自身外伝とかでロトとの関わりが多いこともあって、不思議な縁を感じる

1092 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/12(水) 15:22:59 ID:0TzTerqs0
ゲリラ投下しますね。

1093 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/12(水) 15:23:24 ID:0TzTerqs0
ここは、荒野とトロデーンをつなぐトンネル
別の世界の同じ場所では、デビルパピヨンなどが巣くっていたが、ここにはいない。

いるのは、紫のターバンをかぶった一人の男。
普通の人間なら夜のトンネルなど、高揚した気分で抜けることは出来ないだろう。
しかし、心に抱えているどす黒い闇がこの世界の闇と調和したからか、
はたまた自分の期待していた道具が、予想以上の力を見せてくれたからか、気分がハイになっている。

(さて……次に破壊されるのは……誰でしょうかね……)

先程までは孤独に歩きながら、幻に驚き、憤っていたが、そのようなこともない。
トンネルを抜ける。
再び月の光がアベルを照らすが、やはり闇に飲み込まれてしまう。
途中教会で休憩を取ろうと考えていたが、この気持ちを鎮めないためにも、このまま進むことにした。


そのまま城へ向かう道すがら。
(……ん?)

焼け焦げた大地、無残に根元以外が吹き飛ばされた木、イオナズンでも連発したかのようなクレーター。
その地では既に戦いから大分時間が過ぎていた。
しかし、ここだけ別世界にでもなったかのような惨状は、ここでの死闘を物語っている。


(まさか………?)
突然よぎる疑問
そして、彼は見つけた。


彼の父親の死体は、ヘルバトラーと戦った者達によって埋葬された。
しかし、その後に訪れた英雄が、魔瘴石と化したヘルバトラーの呪いを受けた際に抵抗して暴れたため、死骸が野ざらしになっていたのだ。


父親の死骸は、炭化していない部分を見つける方が難しいような有様だった。
自分の成長のみならず、焼き尽くされた影響もあって、酷く小さく見えた。
少年時代にずっと感じた、背中の大きさが何かの間違いだったかのように。


「はは……ははははは………。」
笑う。
笑い続ける。
どこまでも笑い続ける。

(あんたは……また同じように死んだのか……!!)

20年前の惨劇を思い出す。
炎に焼き尽くされて死ぬ父親を。
その時の悲鳴を。

彼には、最早父親に対する尊敬の意思などはなかった。
あったのは、壊れる前のアベルの心にだけ。

激情に駆られて、それを蹴飛ばす。
その心には、悲しみはなかった。
あったのは、滑稽さ。そして、怒り。


なぜこうなったのかは、自分なら見ていなくても分かる。
自分よりも弱い誰かをかばって、死んだのだ。
その人物が、いずれ成長し、自分が果たせなかったことを果たしてくれるために。

1094闇夜の住人 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/12(水) 15:23:55 ID:0TzTerqs0
(分かっていないんだ……。)
そうやって残された人間が、心にどんな傷を負うか。
死にたい。でも、誰かが遺した命だから、死ぬわけにはいかない。
犠牲の果てに生きた人間は、ずっと心の枷を引きずって生きなければいけない。


(それとも、それを分かって、やったのか……!?)

何度も父親の死骸を蹴りつける。
自分に苦しみを負わせた人間を。
自分の役目を押し付けた人間を。



何度蹴ったかは分からない。
自分の父親の死体は、最早誰か分からないような有様になった。


気が付いたら、肩で息をしていた。

最後に、破壊の剣でその体を両断しようとする。
(……?)
手が震える。

剣が思うように振れない。
破壊の剣を持った時に起こる呪いではないはずだ。
むしろ破壊の剣なら、殺意の衝動を後押ししてくれるはず。
なぜ、剣が振れない?
憎くて、憎くて堪らないのに。
全てを破壊するはずなのに。


ここで、誰かがいたら気付いたはずだ。
アベルは、手を震わせながら、「父さん」と呟いていたことを。


アベルは父親の死体に背を向ける。
自分は父親を殺せなかった。
すでに父親が死んでいたというのもあるが。
その事実から目を逸らすために。
自分が抱えている弱さを棄てるために。


そして、目を逸らした先に、見つけてしまった。

(何だ……?)
首輪。自分もつけられているものだ。
この世界では特に珍しいものではない。
しかし、誰も着けていない状態で野ざらしにされていること。
そして、その首輪が凄まじい邪気を放っていたことに、疑問を覚えた。


その首輪は、ヘルバトラーに付けられていたもの。
しかしヘルバトラーの肉体は死とともに魔瘴石化した。
それはザンクローネの心臓に入り込み、この首輪だけが異物として残されたのだ。

1095闇夜の住人 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/12(水) 15:24:18 ID:0TzTerqs0

そんなことは全く知らないアベルは、それを手に取ろうとする。
(!!)
ジュっと手の焼ける音が聞こえ、慌ててそれを離した。
首輪の内側には、濃い紫色の血が、ベットリと付いていた。

(血に触れただけで、こうまで火傷するとは……)
魔力を多く含んだ魔物の血などは、決して触れて良いようなものではない。
敵としても味方としても多く魔物と関わってきた彼ならわかることだ。


だが、乾いた血液に触れただけで手を直接火傷したなんてことはない。
もしこの液体が目や口に入ったりしたら、とんでもないことになっただろう。

猛毒か、はたまた呪いでもかけられているのかと疑問に思った。

(これは、血ではなく、猛毒か何かか?)
その考えはすぐに中断した。
首輪の裏に付いているなら、猛毒よりも血液の可能性が高いだろう。
誰かが付けるはずもない首輪に猛毒を塗る考えが分からない。
呪いならば手に取った瞬間にかかることはなく、身に着けた際に呪いがかかるはずだ。


最も、魔瘴というものを知らない彼がそう思うのも無理はないが。

それよりも不愉快なのは、自分がまだ人間として扱われているということだ。

自分が弱かったからこそ、父親は死んだ。
そしてそれからの旅の途中は、何度も人間の弱さが嫌になっていた。
ドラゴンの杖を手に入れた時は、竜の強さを使うことが出来るのだと胸を躍らせたが、竜の部分的な力のみだった。
それでも人から少しでも遠ざかることで、弱さも捨てられるのではないかと期待していた。

この戦いで、魔物とともに人を苦しめ、殺し、闇の力を操ることで、弱い自分から遠ざかることが出来たと思っていた。


しかし、これは魔物になり、更なる力を得ることを拒絶されたようなものだ。

左手の火傷が、それを語っている。
火傷こそは回復呪文で治せるし、すぐに手放したからそれほど酷いものでもない。


だが、か弱い人間である扱いを受けたのはどうにも苛立ちが収まらなかった。
父親を「殺す」ことが出来なかったのもそれが原因なのだろうか。

ならばと首輪の外側のみを掴んで、ザックの中に入れる。
自分が人間を棄てた時、この首輪に触れてもどうにもならなくなるはずだ。

そうなるまでに、破壊をし続けよう。
まずは、あの城だ。

かつて人の王であった自分が、その拠り所となる城を破壊する。
これ以上に過去を棄てられる方法なんてあるだろうか。

闇を求める王は進む。
それが滅びの道であろうと、知ったことがないとばかりに。

1096闇夜の住人 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/12(水) 15:24:36 ID:0TzTerqs0

【C-4/平原/1日目 真夜中】
【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/3 手に軽い火傷 MP1/6
[装備]:破壊の剣
[道具]:支給品一式 剣の秘伝書 ヘルバトラーの首輪
[思考]:過去と決別するために戦う 全てを破壊する


※アベルによって、ヘルバトラーの首輪が外れていると判明しました。次の放送では、ヘルバトラーも呼ばれます。

1097闇夜の住人 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/12(水) 15:24:49 ID:0TzTerqs0
投下終了です。

1098ただ一匹の名無しだ:2018/09/12(水) 17:38:55 ID:33om5eXc0
投下乙です

アベルがなんかDIOみたいになって来てるような気がする

1099ただ一匹の名無しだ:2018/09/13(木) 08:01:38 ID:pT4xjezk0
投下乙です
アベルも近づいてきて、トロデーン周辺は放送後大変そうだ

>>1098
2話目でズキュウウンする奴だし、しゃあない

1100ただ一匹の名無しだ:2018/09/16(日) 01:41:07 ID:HTXz1FQA0
アベルって他人には冷徹だけど、どこか情が抜けきれないよな
まあ、母親とか父親とか救えなくて堕ちていったんだから元々情が深いやつなのはそりゃそうか
今は人間の残骸って感じがする

1101 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/19(水) 22:39:01 ID:UpbCKx7w0
今のところローラのみが真夜中に到着していませんが、一人だけなら放送後に、「放送前に何をしていたか」書くことが出来ますので、
どなたかローラパート、あるいは第三放送までの他のパートを書きたい方がいない場合は、このまま放送に移ってもいいのではないでしょうか?
ちなみに、放送をどなたか書きたい方がいなければ、私が書くつもりです。

1102 ◆2UPLrrGWK6:2018/09/25(火) 03:22:53 ID:y/2yzTGw0
投下します

1103 ◆2UPLrrGWK6:2018/09/25(火) 03:23:47 ID:y/2yzTGw0
【呪文】じゅ-もん

魔法使いが、魔法を行使する際に唱える言語。
術者はこれを唱え、通常人間界とは別の次元の存在である精霊へと呼びかける。
本来、呪文詠唱の内容は精霊との交信方法により、術者の違い、土地の違い等によるで差異が生じるものだが、
度々用いられた術法は長い歴史の中で形式化され、【ホイミ】【ギラ】といった単純化された名称で広く知られている。
発動の鍵"キーワード"とされるこれを唱えるだけで正式な詠唱をせずとも必要なだけの魔力さえあれば……

「……」

パタン、と呪文形態を解説しているであろう学術書の冒頭を読んだあと、顎に手を添えて考えてみる。
イメージをする、手のひらに思念を集中させることで、考えられる限りの力を発揮できると。
例えば灼熱の炎、あるいは、迸る雷のように。
できないという考えは、今の自分に邪魔なだけ。
今は一心に、自分の秘めた力を信じる。

「レミーラ!!はっ!」

かざした手のひらから、光を放つ。
その想像を、形にするべく。


しかし、何もおこらなかった。


「……」

自分が疲労して、魔力と呼べるものが尽きているからであろうか。
それとも、自分の中の才がまるで磨かれていないのが理由だというのか。
小さな嘆息と共に思いを吐露する。

1104しかしMPがたりない ◆2UPLrrGWK6:2018/09/25(火) 03:24:18 ID:y/2yzTGw0

「……今すぐには……無理かしら……」

アレフに問いかけたことがある。
自らを、おどけたドラゴンが守る牢屋から救出した際、帰還の折に唱えた呪文のことだ。
彼はぼんやりとした光で自らを包み込み、松明で手を塞ぐことなく視界を確保していた。
『レミーラ』、そういう名の呪文だと彼は言った。

「思えばもの知らぬ私に、丁寧に教えてくださいましたね」

ローラは今、呪文という未知の領域へと踏み込みつつ、愛する勇者との掛け替えのない時間を思い出していた。
思い出を一つひとつ、噛みしめるように、紐解くように、記憶の糸を辿っている。

「できれば、もっとたくさんのことを……」

その先の言葉は消え入るように力を失う。
魔法使いは光の精霊に呼びかけることで闇を照らす。
賢者ともなれば、通常では到底成し得ぬ、神秘を顕現する。
だが今の自分には、この暗がりに灯火をもたらすことすらできない。

「……弱気になってはだめ。やるしかありません」

いとおしげに、自らの腹部に手を添える。
命がたやすく消えてなくなる、堕とされた闇の世界の中。
これだけがローラを支えているか細い希望、光そのもの。

(私にしかこの命を守ることはできないもの)

ローラは再び、知恵を持って本棚の群れと格闘する。
書物の頁も、挟まれた羊皮紙の記述一つすらも見逃さぬよう目を凝らして。

1105しかしMPがたりない ◆2UPLrrGWK6:2018/09/25(火) 03:24:47 ID:y/2yzTGw0




◆ ◆ ◆


どれくらい時間が経っただろう。
頭がぼんやりと霧がかかったかのように、はっきりとしない。
瞼がずしりと重くなったかのように感じていく。

「……いけない、眠っては……」

積もる疲労が目を霞ませ、まともな思考を阻んでいた。
姫を守る戦士も居ないままでは、寝台に眠る余裕などあるはずがないのだ。
さらに、放送と禁止エリアの発表という決して無視のできない事柄もある。
両頬が赤らむまで、手のひらをぴしゃり、ぴしゃりと打ち付けた。

「……どうしてうまくいかないのでしょう……?」

知り得る限りの呪文は口にした。
記憶の中の勇者に伺いを立てても、その先に何も見出だせない。

(生き延びる手立てが少しでも必要なのに……)

ローラも城での生活で魔法、と言うものにまるで触れずに育ってきたわけではない。
ラダトーム城には他の多くの王家と同じく宮廷魔術師が存在し、教育係として彼女の傍に着いていた。
魔法使いを本格的に目指す、というわけではない。
多くは学者として世の理や常識というものを授け、果ては政治、国の方針にも寄るが軍事学や帝王学などを教授するための存在であった。
まだほんの少女であったころにその教育係から才を試されたことがあったな、と彼女はふと思い出した。


(姫様は魔法に興味がおありかな?……しかし、わしの知る癒しの術は孤独に戦い傷つく者に必要なもの)


豊かな白髭の下で微笑みつつも、ローラの中の何かを見出したのか、そうでないかはもはや定かでない。
ただあれは、やんわりと魔法の世界へ踏み込むだけの実力を持っていないことを伝えていたのかもしれない、と今となっては感じられる。


(懸命に戦うものたちにより保たれた平穏の中、そこに生きる民を統べることが、王族たる姫様の使命のひとつでありましょう。どうか貴方さまの未来に幸福と、光あれ……)


戦うための、勝ち取るための技術、ローラの生きるアレフガルドにおける魔法とはそういうものだった。
どうか戦いとは無縁であってほしいという思いからの言葉だったのだろう。
彼女自身もその思いには大いに納得できる。
でも、本当は。


(少し不思議で、興味がありました)

1106しかしMPがたりない ◆2UPLrrGWK6:2018/09/25(火) 03:25:13 ID:y/2yzTGw0



◆ ◆ ◆


年の頃は10と少しであった頃のローラの世話を任され、よく会話をする侍女はこう言った。

(ガライに帰省することになりまして。え?これですか?)

彼女の胸元に、ごく小さい宝石の意匠が光る、細工が入ったブローチだった。
誇らしげに、そして嬉しそうに顔を綻ばせる。

(姫様にお守りを頂いたんです。なんでも手作りだとか……)

裁縫や機織り、花束作り。
たまに手慰みとしてそれらをこなしたローラではあるが、中でも細工物には熱心だった。
その腕前はなかなかのもの。
組み合わせによる金細工などの作りは丁寧で、時たま職人ですら唸らせる輝きを持つものも拵えたことがあった、と城の者は語る。

(姫様、私にまでこんなに親切にしてくれて、本当にお優しいですよね)


その後、ラダトームの都に知らせが入る。
ガライへと向かう行商隊がドラキーとがいこつの群れに襲われ、同行した町民を含めて全滅す、と。
人々は一時悲嘆に暮れるも、しばし後、奇跡的にラダトームに務める侍女が戻ったと噂が広まった。
生存者であった彼女は言う。

"姫様の微かなお声が、さ迷う私を導いたのです"と。


同じ頃、王族への教育として厳しく当たっていた家庭教師はこうも言った。

(道楽に感けるお暇があるのなら、もっと姫様としてシャンとしていただかないと!)

彼女の手には懐中時計へ繋ぐであろう銀の鎖と、くず宝石を散りばめた細かな装飾を組み合わせたものが光っていた。

(確かに綺麗でお上手。ですが、姫様は姫様、職人の真似事はほどほどにしていただきたいわ)

教師は時計を持ち歩かなかったため、鎖は娘へと譲られたらしい。
その娘が、家庭教師に夜な夜な泣きつくようになったそうだ。

(あの日から姫様がかわいそう、と娘が泣くようになったのですよ……)

聞けば、ローラ姫が悲しんでいる、泣いている気持ちが娘には伝わってきた、と言うのだ。
はじめは単なる気の所為と感じていたものの、それが幾日も続けば心配にもなる。

(確かに、姫様も娘とさして変わらないまだほんの小さな女の子。厳しく当たり過ぎたのかもしれません……)

それからローラ姫への教育態度は、やや軟化の兆しを見せた。
後に彼女はこう零す。

"姫様の抱えていた思いが、あの飾り物から私の娘に伝わったのかもしれませんね"

1107しかしMPがたりない ◆2UPLrrGWK6:2018/09/25(火) 03:26:26 ID:y/2yzTGw0




◆ ◆ ◆


一度や二度に留まることはない。
度々、自分が思いを込めた"贈り物"は不思議なことを呼び寄せていた。
そして、彼女の生涯最高の作品。
それを贈ったのは、今でも鮮明に思い出せる。
勇者により自由を取り戻した、その翌日のことだ。

(待ってください。ローラはアレフ様に贈り物をしとうございます)

いつか、愛する人が出来たときにこれを捧ごう。
その思いから、竜王の使いにより幽閉される前からずっと、少しずつ手をかけていた物だった。
揺れる飾りの中央に記す意匠は、既に戴冠した自分の肖像を元にしたもの。
環は、果てしなき世界を表す形。
高貴な輝きが、なぜか人の視線を惹き寄せた。

(アレフ様を愛する私の心。どうか受け取ってくださいませ)

こうして勇者アレフは、『王女の愛』を手に入れた。
眼の前に翳せば、勇者と、ローラの心は一つとなる。
世界のどこであろうと、思いを繋ぐ、さながら強き絆の具象化。
─いま、思えば。



(あれは魔法ではないの?)

自分の心が、思念が、距離や時間を越えて相手に届く。
意図して、自在に操れたとは言い難いかもしれない。
しかしこれは紛れもなく、"魔法のアイテムを作り出す才"と呼べるのではないだろうか。
確実ではないが、しかしやってみる価値はあるかもしれない。

(方法を少し変えてみるだけ。魔法の行使が難しいのならば、道具を作るような……そんな形で)

ほんの少しの光明ではあるが、縋るしかない。
そんな思いで乱雑に積み上げた中で、思い出したように一冊の書を手に取った。
単なる呪文書とは違う、"遺失呪文"に関する物だ。
どうしてそれが目に止まり、記憶していたかというと、書の中の図画についさっき見た記憶がある植物が描かれていたからだ。

1108しかしMPがたりない ◆2UPLrrGWK6:2018/09/25(火) 03:33:15 ID:y/2yzTGw0

「『ルラムーン草』……確かに、この植物と同じ……」

豊富な種類の草と粉末が、自身の支給品だった。
その中の一つが素材であったとは、なんたる幸運だろう。
さらに幸運なことは、この植物を媒介として必要とする呪文をローラは体験していたのだ。

(あの日……アレフ様が救って下さった、次の日。マイラで休息したその翌日……)

ラダトームへの帰還を可能とする呪文『ルーラ』により、彼女とアレフの二人の身体は一瞬宙を舞った。
気づいたときには、その身は立ちどころに切望していた王城の眼の前へと移動していたのだ。

(移動の呪文『ルーラ』、はっきり覚えています。そして遺失呪文と言われているこの呪文はそのルーラの"上位呪文")

『合流呪文"リリルーラ"』。
思い描いた相手の元へ、どこへ居ようと現れる。
異なる空間ですら飛び越える、瞬間移動の呪文であるらしい。

「『ルーラ』に対するキメラのつばさがあることは知っています。ならば、この上位呪文もきっと……」

ルラムーン草が手元にあるのだ。
書を読めば、さらに魔法の媒介となる素材(例えば、魔力の含まれた砂といった)となる物を足す必要はあるらしい。
しかしこの呪文の構造を理解し、アイテムを用いることで呪文の効果を発揮できる可能性はきっと、ゼロではない。
とは言え、たった一人で完成まで漕ぎ着けられるのかはやはり疑問が残っていた。

(……最悪、生存者の中に魔法使いが居ることを祈ることになるかもしれませんね)

協力者を得ることは難しいであろうが、手段は選べない。
戦いに勝つわけではなく、生きて帰るためには。
それなりの時は過ぎてしまったが故、他人との接触も考えるには動くことが必要だ。

進路は北か、南か─







【I-5/リーザス村アルバート家/1日目 真夜中】

【ローラ姫@DQ1】
[状態]:健康 疲弊
[装備]:毒針
[道具]:支給品一式、銀のティーセット 草・粉セット(世界樹の葉が使われました ※ルラムーン草が含まれています)
    ハッサンの支給品(引き寄せの杖 場所替えの杖)
    アルバート家の書物(遺失呪文の書を含む)
[思考]:愛する我が子の為に戦う。魔法使いに会いたい。
[備考]:複数の呪文の知識の他『リリルーラ』の知識を取得しました。

1109しかしMPがたりない ◆2UPLrrGWK6:2018/09/25(火) 03:34:45 ID:y/2yzTGw0

◆ ◆ ◆


ローラはまだ気がついてはいない。
結論から言えば、彼女が行使した力は魔法とは違う存在であった。
欠如しているのは、自然との調和や意思を通わせる、といった精霊に力を乞うプロセスである。
だがローラが引き起こす奇跡は、それとは違う。
偏に彼女の強い意思、思念にのみ依存している。

人は正の感情に傾いたそれを"愛"や"絆"、"心"といった名で呼ぶだろう。
ひとたび逆転し、負に傾けば"嫌悪"や"憎しみ"、"妄執"などとも呼ばれることだろう。
時に恐ろしく強く、永遠に続く恐ろしさすら秘めている。

例えば人間を犬や猫、馬に変えてしまうような力。
生きとし生けるものの時を止め、石像へと変えてしまうような力。
国まるごとを封印し、茨と化すほどの強大な力。

そして戒めの首輪により殺し合いを強制する、そんな力。
それを纏めて呼ぶとすれば、即ち─

『呪い』と。
そう呼べるのではないだろうか。


[備考]:『呪い』スキルパネルが開放されました。

1110 ◆2UPLrrGWK6:2018/09/25(火) 03:35:00 ID:y/2yzTGw0
投下終了です

1111ただ一匹の名無しだ:2018/09/25(火) 20:38:20 ID:Ea.totVY0
投下乙です
ローラがなんか物騒なスキルを習得しとる…
後、魔法の定義とかの解説も、それっぽくて好き

1112 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/26(水) 16:07:14 ID:Q4.2npGY0
投下します。

1113第三回放送 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/26(水) 16:08:04 ID:Q4.2npGY0
その瞬間、この世界の天を覆っているすべての雲が、一か所に集まり、巨大な顔を形成する。
夜になっているため、凝視しにくくなると思いきや、月光が照明代わりになる。

「いまだにしぶとく生き残ってる諸君、ご機嫌如何かな?
6時間経ったので、お休みの時間の者もいるかもしれないが、ルール通り報告させてもらうぞ。


まずは禁止エリアの追加からだ。戦いと共に、増えていくぞ。

2時間後に【D-7】【H-8】
4時間後に【H-3】
6時間後に【J-7】【F-1】だ。

これで禁止エリアは12だ。敵に気をつけるあまり迂闊に入り込むことのないようにな。
勿論狩る側も狩りに夢中になりすぎず、自分の居場所に気を遣うように。


続いて、この地で死者の仲間入りになった者の名前だ。心して聞くがよい。
スライム
デュラン
トンヌラ
アレフ
ゼシカ
サヴィオ
ヘルバトラー
イザヤール
バルザック
モリー
ゲレゲレ
フォズ
ヒューザ
ヤンガス

以上、14名だ。

ここまで来てこのペースを保てるとは、貴様たちは私の予想以上のケダモノのようだ。
正義の味方も、ならず者も殺しの快感に身を委ねて好きなように殺し合うがいい。
くだらないことを考えて殺されぬ前にな。
たとえ愛する者を殺めても、優勝すれば生きかえらせてやるぞ。
まあ、今更忠告するまでもないことだが。


では、日の出とともに、また会おう。」

1114第三回放送 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/26(水) 16:08:37 ID:Q4.2npGY0
雲は元の形に戻り、エビルプリーストも再び席に戻る。
そこで、ある者が近くへ現れる。

「エビルプリースト様。あのキラーマジンガはいったいどのような存在でしょうか。」

そこにいるのは紅蓮の身体を持った悪魔。
デビルプリンスが聞いてくる。

「ほう……いきなり参加者の一人に興味を持ち始めるとは、どういう風の吹きまわしだ?」

「いえ………そうではありません。新しく現れたという、キラーマジンガです。」

「何……?「新しく現れた」……だと?」
エビルプリーストは何を言っているのか分からないような顔をする。

そこへ、エビルプリーストの顔が変わる。
「フフフ……面白い存在だ………面白い………」

また同じことだ。
エビルプリーストは、復活して以来、変わった。
まるで何者かに操られているかのような挙動をたびたび見せる。

正直のところを言うと、コイツ自体はどうなってもいい。
自分はピサロのやることには反対だったが、それはそうとしてエビルプリーストに付き従いたくはなかった。
誰に操られていようが、はたまた芝居でやってることなのか。
元々大掛かりな演出を好む性格だったし、後者のことも考えられる。
だがそんなことはどうでもいい。


問題は生き返った自分も、同じように操られているのではないか。
自分もエビルプリーストも一度は勇者に滅ぼされた。

そしてエビルプリーストによって、アンドレアルやヘルバトラ―、大魔道などと共に蘇った。
今のところ自我はしっかりしている。
他のジョーカー達も、やっていることを聞く限りは自分の意思のままに動いている。

しかし、その「自分の意思」も誰かに作られたものだとしたら?
自分達は、決して関わってはいけないような強大な何かと隣り合わせにあるということになる。

それを聞くわけにもいかない。

1115第三回放送 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/26(水) 16:08:51 ID:Q4.2npGY0

「面白い……新たな世界………可能性………フフフ……。」

そして「面白い」の間に訳の分からない単語を交える。

「どうした?早く仕事にかかれ。それとも貴様も大魔道のようになりたいか?」

友人の名前を言われ、仕事を強制させられる。
どうやら元のエビルプリーストに戻ったようだ。
そして自分が何を聞いたか、どう答えたかはもう覚えてないらしい。


大魔道。
ヤツからの仕事を拒否したため、殺された生前からの仲間だ。


友の仇を取るためにも、すぐにでもヤツの首を刈り取ってやりたい。
不意を突けば上手くいくかもしれない。
力を見せればひょっとして自分が知らないことを教えてくれるかもしれない。

だが、それが原因で。
ヤツの後ろにいる存在に、死ぬよりもおぞましい目に遭わされるかもしれない。


全てが推測の域を超えない。だが、知らないことが多すぎる。
かつて悪魔の皇子だった者は、何も出来ず、その時を待つ。




残り、29人

1116第三回放送 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/26(水) 16:10:38 ID:Q4.2npGY0
投下終了です。
何かありましたらご意見を。
それから次回以降の予約はご自由に(ただし何らかの理由でこのssを破棄することになれば予約も破棄されます)
投下は明日の18:00からということにします。

1117ただ一匹の名無しだ:2018/09/26(水) 21:23:08 ID:ofq01Vg20
投下乙です

内容に関しては特に問題ないと思うんですが、禁止エリアの場所についてちょっと
2時からの2か所ですが、それぞれ平地をふさいでしまっています
勿論ポーラみたいに力業で抜けることもできなくはないのでしょうが、ミーティアやローラなどの近くにいる一般人の女性には厳しいでしょう
しかもこの2か所の位置関係、ミーティア達を前方、後方共にふさいで閉じ込めてしまっています
ですのでこの2か所については、変更した方がいいのではないでしょうか

1118ただ一匹の名無しだ:2018/09/26(水) 21:28:33 ID:ofq01Vg20
ミーティア達の場所、勘違いしてた
閉じ込められるのはポルトリンク方面に向かってるセラフィ達か

1119第三回放送 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/26(水) 21:35:10 ID:Q4.2npGY0
ご意見拝読しました。
私は「キーファと竜王が戦っているところを禁止エリアにすることで、戦いをやめさせるか続けるか」
という状態にさせたかったがために、これからその辺りに向かう予定のポーラ組のことを考えてなかったです。
【H-8】はそのままで、[D-7]を[D-8]に変更します。

1120ただ一匹の名無しだ:2018/09/26(水) 21:42:07 ID:ofq01Vg20
修正乙です
上ではああ書きましたが、進路or退路の片方だけふさがれるだけなら致命的な問題にはならないと思うので、これでいいと思います

1121天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 18:48:56 ID:YhkkX4Lw0
投下します。

1122天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 18:49:59 ID:YhkkX4Lw0
ねえ?だれかいるの?

いるのだったら 姿を見せてよ。 なにか 言ってよ。

もう、そんな人びとの声は聞こえなくなった。

人は身勝手だ。

人は見たいものしか見えないように出来ている。
天使様を信仰しなくなった世界で、誰も彼を天使と呼ばない。

さらには人は、傲慢だ。

見えていないものがあるというのに、あたかも自分が全て見えているかのような錯覚に陥る。
そして失くしたものも知らないままに、知らないからこそ充足を覚える。
天使信仰を失くした世界の住民は皆、何も変わらずに毎日を過ごしていた。

自己完結した日々の中で、誰も彼のことを信じない。
世界から脅威が去った世界に心の支えは必要とされなくなった。

どうして、皆は天使様を忘れてしまったの?
あの星空を守ったのはアークなのに。

あなた達の幸せは、天使様たちが見守っていてくれていたからこそ成り立っているものなのに。

「誰か…誰か……。」

声は届かない。
自ら掴み取ることすら出来ない幸せを当たり前のように享受する人々に天使信仰は受け入れられない。

「天使様に、祈りを………」

人は身勝手で傲慢だ。
アークの守った人間はひたすら愚かなもので、それがいっそうアークの行いを否定されているように思えて我慢ならなかった。

だが、忘れるなかれ。
世界で唯一天使を信仰している者であっても、世界で唯一この世ならざるものが見える者であっても、結局は人なのだ。
理解出来ているつもりで、その本質とて見えていない。
見えているつもりでも、見たいものしか見えていない。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

1123天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 18:50:47 ID:YhkkX4Lw0
「スクルド……スクルド!」

スクルドの意識はポーラの声によって現実に引き戻された。
情報交換を終えて、セラフィの計らいでポーラの背で眠らせて貰っていたのだ。
しかし周りにも分かるくらい悪夢にうなされ始めた様子を見て起こされたらしい。

「嫌な…夢を見ました…。邪悪な力で……ここに居る全員が死んでしまう、そんな夢を……。」

天使様への執着を悟られたくなかったため、夢の内容に関しては咄嗟に嘘をついた。

あの夜から何度この夢を見たことだろうか。
あの日、世界中の町に祀られていた守護天使像は置物と化し、教会は天使様ではなく神や女神を讃える場所へと変わった。

「大丈夫。あたし達が、そんな夢を現実にはさせない。」

「そうだよ。ポーラさんにスクルドさんに、ジャンボさんまで居るんだから。」


(スクルド……やっぱり疲れてるんだ……。まあ、無理もないか。)

スクルドの話によると4人もの人を殺してしまったらしい。
ゆっくり休ませてあげられるだけの時間は欲しいけれど、あまり時間をかけすぎると色々なものが手遅れになるかもしれない。

未だ居場所の分からないコニファーだけでなく、ミーティアやキーファ、そしてその探し人たち。
合流したい人はたくさんいる。

もしかしたら、この人たちもすでにもう――――――


「いまだにしぶとく生き残ってる諸君、ご機嫌如何かな?」


答え合わせと言わんばかりの定時放送が始まり、同時にポルトリンクのアーチが見えてくる。ポーラが第2回放送を聞いたのもちょうどこの町の入口付近だった。

(結局あたしは、迷っていた6時間前から少しも進めていないんだなあ…。)

ポルトリンクの町へ入り、落ち着いて放送を聞くために噴水に腰掛けた。
こんな時、周りに誰かが居てくれることがとても心強く思えた。
しかしポーラはすぐに思い知ることとなる。
誰かが周りにいるということは自分の苦しみを分かち合えるだけではないのだ。

1124天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 18:51:54 ID:YhkkX4Lw0


「イザヤール」


唐突に、冷たい声で告げられた名前。
ピクリとスクルドの肩が震えたのがポーラにもセラフィにも見て取れた。
誰かが周りにいるということは誰かの苦しみを共に背負うということでもあるのだ。


「そんな…イザヤール様までもが……。もう、天使様は誰も生きていないんですね…。」

「スクルド……。」

(知り合いはもうジャンボさんしかいないから、私は大丈夫だったけど……。)

それぞれ、何かしらのことを考えさせられる。
特にセラフィは2人の感慨とは無縁であり、何と声をかけていいのか分からないといった様子だ。

ただ正直なところ、ポーラはイザヤールの死をあまり悲しんではいなかった。

ポーラはスクルドやコニファーとは違い、イザヤールの姿を見ることが出来たし声も聞くことが出来た。天使や妖精といった者たちは声を聞けない幽霊とは一線を画した存在だからだろう。イザヤールがアークを裏切ったかのように振舞っていた時の悪印象をこの目と耳で体験しているのだ。アークからの伝聞でしかその出来事を知らないスクルドやコニファーとは事情が違う。

それどころか誤解も解けてようやく再会した時、イザヤールはあろうことかアークの目の前で殺された。
あの時のアークの絶望に満ちた表情はずっと脳裏に焼き付いている。

裏切ったフリをしていたことについても納得はしたし、もちろん死んだこともイザヤールに非があるわけではないのは分かっている。しかしイザヤールの行動がことごとくアークから笑顔を奪う結果となったこともまた事実なのだ。

表面上は許したつもりでいても、心の底では簡単に水に流すことも出来ない。イザヤールとはその程度の相手であるため、今回の放送はむしろ、セラフィと同じように所在の分からない仲間たちの名前が呼ばれなかったことに安堵を覚えたくらいだ。

しかしスクルドにとってはそうではないだろう。
天使の熱心な信者である彼女はイザヤールの死を自分よりも重く捉えているはずだ。
彼女のことをよく知っている自分だからこそ彼女の支えにならなくては……。

決意を胸にポーラは両の拳を握り込んだ。

1125天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 18:53:05 ID:YhkkX4Lw0


(この状況、利用出来ますね…。)

そんなポーラの決意に反して、スクルドもイザヤールの死を全く重く受け止めていなかった。

どの道全員殺すつもりなのだ。
ただアークのために戦ってくれるかもしれない人物の内の1人が脱落したというだけ。
協力者候補なら隣にポーラがいる今、イザヤールの死に特に心を振り回されることも無かった。むしろ殺したはずのローラの名前が呼ばれなかったことの方が気になるくらいである。

だが、ポーラから見たら今の自分は信仰しているものを失った可哀想な少女。アークが死んでいる地点でこの形容が間違っているわけではないのだが、イザヤールが死んだことによってその立ち位置はより決定的なものとなった。

情には甘いポーラのことだ。
天使様の信仰者としての自分が追い詰められれば追い詰められるほど、アークを取り戻すことに勧誘しやすくなる。

しかも最悪それに失敗しても、過度な動揺による一時の気の迷いであると水に流してもらえる可能性すらある。

機は訪れた。
核心に多少踏み込んでも今なら安全だろう。

「ポーラ…先ほど言いましたよね、アークの幽霊と話した、と。」

「う、うん…。」

先ほど行った情報交換は大まかなもので、細かい会話の内容までは聞いていなかった。

「彼が何を言っていたのか詳しく教えてください。あなたがゲームに乗るのを踏みとどまることが出来た、その理由を。」

本当は分かっている。
アークと話した後にも、ポーラはまだ完全に踏みとどまることが出来ているわけではないと。だからポーラがゲームに乗らなかった理由がハッキリすれば、逆にゲームに乗せる方法も見えてくるかもしれない。
ここはこれからの方針を考えるにあたって是非とも知っておきたい情報である。

1126天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 18:53:44 ID:YhkkX4Lw0


「……私も、この心の迷いを振り切りたいんです。」


「スクルド、それって…。」


さらに、自分が皆殺しの道に進みかけていることを暗示してみる。
自分も同じような迷いを持っていると分かれば、さすがに向こうから提案してくることはなくても、かねての仲間と共に殺し合いに投じるというビジョンを少なからず頭にチラつかせることが出来る。
アークを復活させた、その後の理想の世界をもう一度思い起こさせることが出来る。その世界を自分と共に実現したいと少しでも考えてくれるのなら今はそれでよい。

自分がその迷いを振り切りたいと言っている間は危険思想の持ち主として切り捨てる選択はポーラにもセラフィにも取れないのだから、じっくりと再び機を待てば良いのだから。

「教えてください、ポーラ。」

「うん……。前を向け……アークはそう言ってた。死や別れだけじゃなくて、出会いや誕生にも目を向けなさいって。」

とはいえ思った通り、アークの言葉を聞くのは胸が苦しいものだった。
元々殺し合いに乗ることが彼の本意ではないことは分かっていたけれど、自分の行いを彼の言葉で拒絶されるのはやはりどこか悲しくなる。

1127天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 18:54:36 ID:YhkkX4Lw0

「だからあたしは、まずセラフィとの出会いに目を向けることにしたの。」

でもやっぱり自分たちは、アークからたくさんの影響を受けているんだって思った。

私が天使信仰をあの世界に取り戻そうと考えたのはアークの存在によるもので、私が皆殺しに走っているのもアークの死によるもので――――――


「それが正しいのかどうかはまだ分からないけど…」


ポーラが殺し合いに乗らないのはアークの言葉によるもので、ポーラが殺し合いに乗ろうと思ったのもアークの死によるもので――――――


「でもアークの言葉だから信じてみようと思ったの。」





……あれ?


ふと覚えた違和感。
ポーラの声色に、ポーラの目に。
狂信者だとか、殺し合いの世界だとか、そんな様々なスクルドである前に、ただ一人の乙女として感じた違和感。

ポーラがアークのことを信頼しているのは知っている。
だけど、これではまるで……


「やっぱり……あたしはアークのことが好きなんだって、思い知らされた。」


(あっ………)


ここにきて、スクルドの最も大きな誤算が露わになった。
知らなかったのだ。
ポーラがアークに恋心を抱いているという、たったそれだけのことを。

1128天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 18:55:27 ID:YhkkX4Lw0


ポーラにとって、アークは"見える"世界を共有出来る初めての人物だった。

だからポーラはアークを信頼しているのだと思っていた。
ポーラが殺し合いに乗りかけていたという話を聞いたスクルドは、アークを「見える世界を共有出来る者」として、すなわち「天使」として生き返らせようとしていたのだと思っていた。

だが天使としての彼ではなく、アークの人格、それ自体にポーラが惹かれているのだとしたら。

そう、ポーラにアークを天使として復活させる理由なんて何処にもありはしないのだ。
人間と天使は恋をすることが出来ない、それはエルギオスの悲劇が証明していたのだから。


あれだけ軽々と振るえていたはずのホーリーランスが、やけに重く感じられた。
私はおそらくこの2人の雰囲気に押されて少し心を緩めていたのだろう。
たどたどしくも何処か安心感を感じさせてくれるポーラと、仲間を失った悲しみを無理に明るく振舞って癒そうとしているセラフィ。
もう少しこのままで居たいと、残酷な世界に放り込まれた1人の少女の心が叫んでいた。

だけど、そんな想いはもう捨てよう。

この人たちも、殺さなくちゃ……。
天使様は俗世に汚れちゃいけないの。
天使様の守っていくあの世界に、許されてはならない恋に身をやつしたあなたはいらない。


スクルドが覚えた殺意。それは所詮心の中だけのもの。
だけど、強い想いは何かを変える。たったひとつの願いが天使さえも人間へと変えたかもしれないように、この想いも、何かを――――――

1129天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 18:56:39 ID:YhkkX4Lw0
「うわっ!」
「なにこれっ!」
「っ!?」

刹那、辺りに光が満ちた。
その輝きは誰もが目を奪われるほど美しく、そしてそれが照らす先の少女はその輝きと対をなすかのように真っ黒に染まっていた。


「っ…!スクルド、あんた…!」


突然の光の正体、ラーの鏡が映し出したのはスクルドの殺意。


「ポーラさん!スクルドさん!駄目……!戦わないで…!」

何が起こっているのかを理解して止めに入ってきたセラフィまでを見据え、ホーリーランスで薙ぎ払う。
しかしそれは即座にポーラの剣に止められてしまった。

「落ち着いてスクルド!あたしたちが戦っても、何にもならないじゃない!」

「っ……!」

スクルドとて言われるまでもなくそんなことは分かっている。
ポーラは呪文を使えないことを除けば、アーク以上の戦闘のスペシャリストだ。幼い頃から培ってきた武闘家としての才もあり、素早さというバトルマスターの弱点すら克服している。僧侶一筋で戦ってきた自分ごときが少しの工夫なんかで勝てる相手では無い。

「………。」

ここで戦うのは得策ではない。
そう、そんなことは分かっているのだ。



「…………ふざけないでっ!!」



だけど、様々な感情が込み上げてきてもはや止めることが出来なかった。
アークと話をした時にも使ったというあの鏡の力なのか、それとも自分自身が今の状況を止められないのかは分からない。

1130天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 18:57:20 ID:YhkkX4Lw0
「私は嬉しかったんです……!ひとり、またひとりとアークのことを、天使様のことを知っている人がいなくなっていく、そんな中で……あなたは…あなただけは…天使様のアークを信じてくれてるのだと思ってました………!」

想いは次々と言葉へと変換されていって。

「でもポーラ、あなたにとってもアークが天使様であることは邪魔なことでしかなかった。世界の荒廃を……彼の絶望を……心の底では喜んでいた!」

発せられた言葉が、さらに感情を打ち付けて。

「私だけが………そう、たった独り、私だけが天使様としての彼を見ている。」

募る想いと共に、スクルドは自分の中の黒い感情が増幅していくのを感じた。

「誰も天使様に祈りを捧げない、そんな世界で私はたった独りぼっち……。でもこれが、愚かな狂信者の末路なのね…。」

もはやこれ以上なく昂ったスクルドの感情。内にも外にも矛先の向いた絶望と憎悪――――――女神の加護を得た天使さえ堕天使へと変えるそんな感情を、神にすら見捨てられた人間が抱いたとしたら。


人々が天使を忘れてからも、スクルドは独り、天使像に祈りを捧げ続けてきた。


「身を焦がす想いよ、咎人を赦す祈りよ」


祈りは力を生み出す。


「理を覆す力となれ」


聖なる心をもって祈れば、誰かを癒す力を。


「憎悪の激しさを」


邪悪なる心をもって祈れば、究極魔法さえ放てるほどの魔力を。


「絶望の深さを」


そして仮に、祈りという行為の本質を歪めて荒れ狂う心をもって祈ったならば。
今までの祈りに込められた、抑圧され続けてきた感情を、一度に開放したならば。


「今、解き放つ」


その時は「回復」という祈りの恩恵すら捻じ曲げる、破壊の力を。

かの究極魔法すら凌駕するその力に全てが飲み込まれていくその様を、一言で言い表すならば。

1131天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 18:58:06 ID:YhkkX4Lw0



"天地崩壊"



天すら砕けて地に崩れ落ちていくその様を、とある世界ではそう表現したという。


スクルドが大地に槍を突き刺した次の瞬間、その地点を中心とした煉獄の焔がその場の全てを飲み込んだ。
人も、周りの建物も、空も海も大地も、何もかもが黒の中に混ざっていく。



(ああ……そっか…。そうなんだ………。)

これがお前の罪なんだって、ポーラにはそう告げられているように思えた。


――――――アークが、人間だったらいいのに。


アークを絶望の底に叩き落としたのはあの願いだ。そんな罪の意識にずっと苛まれていた。
だが、アークだけではなかった。スクルドもアークが人間として取り残されたことでずっとずっと苦しんできたんだ。

スクルドの心を壊したのは、あたしなんだ。

ずっと迷っていたことの答えが、ようやく分かった気がした。
あたしはこの世界でどうするべきなのか、その答えが。

「ねえ、スクルド。」

身体の感覚が消えていく。
だけどこの言葉だけは、スクルドに届けなければならない。

「あたしは……あんたに殺されるべきだったんだと思う。」

「待って……ポーラさん……!」

崩壊に巻き込まれているセラフィが消え入りそうなほど弱々しく叫ぶ声に、あたしは応えなかった。

「ごめんね、スクルド。アークを人間にしたのはあたしなの。あたしが、そう願ったの。」

ずっと抱えてた罪の意識をやっと話せた。それも、絶対に許してくれないであろう者に。
その言葉をかけた瞬間、スクルドの瞳に何かの感情が宿ったのが見えた。

「だから、スクルドの罪はあたしが全部引き受ける。きっとそれは、ほんとはあたしの罪だったものだから。」

1132天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 18:58:41 ID:YhkkX4Lw0

心は抑え込めば抑え込むだけそれが爆発した時の反動は大きくなる。ポーラは恋心を抑え込むのをやめ、アークが人間となることを願った。
でもその願いが叶わなかったとしたら、その心の反動が向かっていた先はおそらく今のスクルドと同じ場所だったのだろう。

スクルドは今、行き場の無い絶望と憎悪の中で苦しんでいる。
だったらそこに追いやったあたしはその感情の行き場にならなくちゃいけない。

「ねえ……ねえってば………」

なのに、それなのに。
そんな目で、見ないでほしい。

(――――――あたし、アークのこと信じてるよ。だから、そんな顔…しないで?)

(――――――ごめんなさい、ポーラ。今はそんな気分になれなくて……。)

あの夜のアークの姿がスクルドと重なったように思えた。
目には悲しみが浮かんでいて、あたしもそれに引き込まれて悲しくなった。もう、二度と見たくなかったあの表情。

やめて。
あたしを見ないで。
そんな、悲しみに満ちた目で――――――



(あれ…?あたしは………何がしたかったんだっけ………。)

(……ああ…そっか……あたしはアークの笑顔が見たくって………なのに…それなのにあたしは……みんなに悲しい顔をさせてばっかり………)

「ねえ、スクルド。」

最後に振り絞った言葉は、ただただ嘆くことしか出来なかった。

「あたしたち……どうして……こうなっちゃったんだろ……ね………。」

次第に言葉も、その命も、崩壊の中に消えていく。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

1133天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 19:01:09 ID:YhkkX4Lw0

「はあ……………はあ……………」

そこにあったのは惨状。
何もかもが壊れた街の中、スクルドだけがそこに立っていた。

「天使様、これがあなたのお導きなのですね……。これは私に課せられた聖戦……必ず、勝ち抜いてみせます………!」

両手を天に仰がせて高らかに叫ぶ。
仰ぐ先は永遠を感じさせるほど深い宵闇。それはまるで彼女の向かう先を暗示しているようだった。

「ようやく分かりました。この世界には誰も私の味方など居ない…。でもこれが愚かな狂信者の末路ならば、甘んじて受け入れましょう。」

次に瞳に映るのは天ではなく、地に崩れたかつての友。
そして出会って間もない相手ではあるが、自分のことをとても気にかけてくれた人。

たった今、自分が殺した者たち。


「……………でも、それでも、こんな末路………」

地に伏した大切な人たちを見下ろして、心の中で何かが変わった。

漏れ出したのは少しばかりの本音と少しばかりの涙。



「少し………悲しい…ですよ………。」



それは、彼女の想いの全てを物語っていた。

信仰の先に待っていた絶望。
信頼の先に待っていた憎悪。

神は私たちを赦さなかった。
女神は私たちを救わなかった。

心の拠り所となる天使様は居なくなった。
心を許せる仲間は殺してしまった。
心の支えとなってくれた貴方は、死んでしまった。

天からも地からも見放された今、私は何によって赦され、救われるというのか。

1134天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 19:01:53 ID:YhkkX4Lw0





ゴーーーーーーーーーーン



天より地まで落ちてきた教会の鐘が、鈍くて、それでもなお荘厳さを残した音を奏でる。
真下に位置していた、一人の少女を潰しながら。

全てが消えた街でまた、儚き命が露と消えた。

人間を赦し救うもの、それは、人間でしかなかったのかもしれない。
罪の理解者であった仲間を殺し、天使の名を模した少女とて殺した、罪深き彼女に下ったのはただただ残酷な罰。

やはり人は愚かで傲慢で、そして何よりも弱かったから。おそらく、本質的に独りでは生きていくことが出来ないものであったのだろうか。

崩壊した港町、中に動く者は誰もいなくなった。



【F-9/ポルトリンク/2日目 深夜】

【ポーラ@DQ9 死亡】
【セラフィ@DQ10 死亡】
【スクルド@DQ9 死亡】

【残り26人】

1135天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 19:02:41 ID:YhkkX4Lw0











ああ、そうか。
あたしは死んだんだ。
好きな人の応援に応えることも出来ず、大切な仲間の罪を背負うことも出来ずに。

真っ黒な虚無の中、気がつけばあたしはそこにいた。

なるほど、これがあの世というものなのだろうか。きっとあたしはあの星空の一部になるのだろう。

目を閉じ、全てを受け入れようとした。これがあたしの罪の代償なのだと。
あたしの祈りが皆を完全に壊してしまった、その罪の。

「いいえ、ポーラ。」

「……スクルド。」

あたしへの罰の代行者となった彼女が、そこにいた。
死ぬのはあたし1人で充分だったのに……。

「本当は、妬ましかったんです。」

ポーラが「アークが好きだ」と口走ったあの時にスクルドが抱いた黒い感情の正体。
それは、ポーラに期待を裏切られたことへの絶望とか、憎悪だとか、そんなものだけではなかったのだ。

これは、認めてしまえば彼女の中の信仰心が崩壊する、そんな感情。

1136天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 19:04:45 ID:YhkkX4Lw0

「私も……アークのことが好きでした。」


彼女にとって、恋心の告白はすなわち"罪"の告白だった。
そもそもスクルドは恋をするなど許されない聖職者である。
ましてや、その相手は崇拝対象である天使だったのだから。

「私は貴方のようには出来なかった。彼のことが好きである以前に、天使様のことを信じているから。」

ようやく、理解出来た。
あたしとスクルドは、一緒だったんだ。
同じ人に恋をして、そして、同じ壁が立ち塞がった。

人間と天使は、恋が出来ない。
だけど天使が人間となるのなら――――――そのことを願ったのか願うことが出来なかったのか、あたし達の間にあるのはたったそれだけの違い。

そう、本当にたったそれだけ。
だけどスクルドは――――――

「――――――あなたとは違い、殺し合いに乗って何人もの人を殺してしまいました。もちろん、今でも後悔はしていません。だけど…………やっぱり思うんです。もっと違う末路もあったのではないか、と……。」

そしてスクルドも自分と同じく、自分の罪を後悔し続けていた。
あたし達は本当に、ほとんど同じだったのだ。

「だからポーラ、貴方は私のようにはならないで。盲信ではなく、ただ純粋に彼の笑顔を求めたその想い…天使様はきっと、正しい方向へ導いてくれるでしょう。」

「でも……もう……」

1137天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 19:05:23 ID:YhkkX4Lw0
「大丈夫。」

振り返ると、そこにはあたしのせいで巻き込んでしまったもう1人の少女、セラフィがいた。

「ポーラさんは、独りじゃ生きていけなかった私を救ってくれたんだから。もっと胸を張っていいんだよ。」

「ううん、あたしだってあなたに救われた。アークが居なくなって独りぼっちだったあたしを………」

「私ね、ずっと祈ってたんだ。ポーラさんが前を向いて、こんな悪夢を終わらせてくれますようにって。」

セラフィはそう言ったけれど、あたしは1度とて前を向くことは出来なかった。
殺し合いに乗るべきか迷いに迷って、結局スクルドの感情に呑み込まれる最期を選んだ、それがあたしだ。

「………ごめん、叶えてあげられなくて。」

「ううん、まだだよ。」

「え…?」

「まだ終わりじゃない。この理不尽な世界を終わらせて。もう誰の笑顔も奪われなくていいように。そして誰も復讐なんかに手を染めなくていいように。」

「だから、あたしは――――――」

もう死んだんだ。
その言葉が発せられる直前、温かくて、それでいて懐かしい光が、胸の内に灯った気がした。

「……これは……この力は………。」

「ポーラさん。あなたのこと、信じてる。」

そのまま、2人の姿は見えなくなった。

最後に見たセラフィの顔は、出会ってから1度も見ていなかった心からの笑顔。
大切な者達を失い続けた先に迷い込んだ彼女も、きっとその本質はあたしと同じだったのかもしれない。

(あたしも……また笑顔になれる日が来るのかな……貴方のいない世界で……。)

答えはまだ分からないけれど、せめて今は前を向こうって、そう思えた。

「もう一度、チャンスをちょうだい……………アーク。」

胸に灯った光の意味はすぐに理解出来た。
今なら、飛べる。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

1138天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 19:05:56 ID:YhkkX4Lw0
動くものの無くなった港町。
そんな中、1人の少女の停止した心臓は動きを見せ、二度と開かれなかったはずの瞳には光が戻った。

横たわった身体はふわりと浮かび上がり、空中から大地を踏みしめて立ち上がる。
蘇った少女――ポーラの頭上と背中には天使の輪と翼が現れていた。感情の焔に焼かれて一度は燃え尽きたはずの魂は、「天使の守り」の力によって再びこの世へと舞い降りたのだ。

しかし、天使の守りは聖職に就いた者の信仰心を以てのみ得られる天使の加護である。
そもそもポーラの世界では僧侶でさえ、星の数ほど存在する天使から守りの力を与えてもらうことは出来ないはず。ましてやバトルマスターであるポーラに、その力を得られる道理などなおさらないはずだ。

しかし現実、ポーラは天使の守りを得てこの世界に蘇った。



(――――――星空はね、成仏していった命の輝きなの。)

天地が崩壊していくあの時、2人の命が尽きる直前に、セラフィはポーラの言葉を思い出した。

実はセラフィは、この世界に招かれて間もなくして試したことがある。それは天使の守りを使ってみること。
天使の守りは聖女の守りなどの時間制限のある特技とは異なり、1度発動するといてつくはどうなどで解除されない限りほぼ永続的に効果を維持し続ける。
いつ殺されるかも分からないこのような場所なので、保険のために天使の守りをかけておくことはこれ以上なく理にかなっている行動のはずだった。

しかし、出来なかった。
殺し合いというコンセプトさえ捻じ曲げかねない特技だからだろうか。天使の加護を得られた実感が全く湧いてこなかった。

ここはセラフィが元いた世界とは別の世界。だから加護を与えてくれる天使がこの空には存在しないのである。

しかし、もしもポーラの言うことが本当なら、あの星空には一人、自分たちを守ってくれる天使が居るはずだ。

そのことに気付いたセラフィは、ポーラが生き残ることにずっと祈りを込め続けた。
天使の守りでは、自分は助けられてもポーラは助けられない。
だからそれよりも大きな奇跡を祈った。

1139天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 19:06:29 ID:YhkkX4Lw0
祈りは力を生み出す。
さらにその祈りの力を高めたものが、セラフィの指に装備されていた祈りの指輪の力である。

祈りを一心に受けて今や粉々に砕け散ったその指輪――ヒストリカとの友情の証が、天使の守りの力を他人に分け与える新たなる特技「天使の祈り」を発動させる媒介となったのである。



(セラフィ……アーク……。あたしはまた、あなた達に救われたんだね。)


教会の鐘に潰されたスクルドと、自分と一緒に焼き尽くされたセラフィの亡骸を見下ろす。

セラフィがもしも死んでしまったら…あるいは、アークを生き返らせる道に走るような出会いがあったら…
ここまで色々と迷い続けて、それらを経た上でついに独りぼっちになってしまった。

でも、もう迷いはしない。

あたしは皆から想いを託されたのだから。
アークもスクルドもセラフィも、あたしが自己満足の罪滅ぼしをすることなんか望んでいない。


たどたどしく前を向いてみると、そこには今まで見たことのない景色で溢れていた。天使の力で蘇ったポーラには、新たなものが「見える」ようになっていたのだ。

この港町の中では様々な想いが交わされ、そして散っていった。セラフィとスクルドだけではない。
娘や家臣に伝えたいことを少女に託した呪われし王。
海を見たいという望みを叶えられた偽りの勇者。
生きる価値を見失っていたところに、仮初の意味を与えられた死にたがりの少女。
命を賭して守りたいものを守り抜いた勇者の如き1匹の魔物。

1140天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 19:07:00 ID:YhkkX4Lw0
また、この場には居なくとも、ポルトリンクの町は多くの人々の様々な想いを伝え合う場となった。

ポーラに見えたもの、それはそんな人々の想いの結晶がそこら一帯に満ち溢れていた光景。
「星のオーラ」と呼ばれるそれらの存在をポーラは知ってこそいたものの見たことは一度もなかった。

(アーク…あたし、今まで貴方のことしか見えていなかった。でも新しい出会いにも目を向けてみたら………こんなに綺麗な景色、見えたんだね。)

アークのいない世界で知らない人たちと協力するのはまだ怖い。今までは人の悪意ばかりに晒され、恐怖の対象しか見えてこなかったから。
だけど少し視点を変えれば、人の想いはこんなにも綺麗に見えるものなのだと分かった。

「……行ってきます、みんな。」

その時、天使の輪と羽は役目を果たして消えてしまった。
今度取り残されたのは、貴方じゃなくてあたしだけれども。

だけど絶望はしない。
貴方たちがあの星空の向こうで見守ってくれていることを、あたしは知っているから。


【F-9/ポルトリンク/2日目 深夜】

【ポーラ@DQ9】
[状態]:HP1/4 MP1/4
[装備]:吹雪の剣 @DQ5
[道具]:折れた炎の剣@DQ6 ラーの鏡 支給品一式 支給品0〜2個
[思考]:殺し合いを止める。
※未練を残す死者の幽霊が見えます。そのままでは会話は出来ませんが、ラーの鏡を通すことで会話が出来ます。
※ラーの鏡を通して人の心の中を見ることが出来ます。今後何かほかの道具でも可能かもしれません。

※F-9/ポルトリンクの民家は全て崩壊しました。船着き場や船など、描写の無い部分の町の壊れ具合は以降の書き手さんにお任せします。

【残り27人】

1141天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 19:07:36 ID:YhkkX4Lw0
投下完了しました。
外伝作品の特技を使っているので、一応解説を。

①天地崩壊
モンスターズバトルロードシリーズで、堕天使エルギオスが"とどめの一撃"と呼ばれる必殺技として使う特技です。
使う際には「エルギオスは絶望と憎悪に身を焦がした!」と表示されるので、リーザスでのジゴスパークと同じく感情の昂りで発動出来ると判断しました。
作品内でのエフェクトとしてはスマホゲーム、どこでもモンスターパレードで使われる天地崩壊のエフェクトの方がイメージしやすいと思います。

②天使の祈り
スマホゲーム、DQMSLで「チョメ&セラフィ」が覚える特技です。
効果としては「味方全体のHPを回復し、確率(約10%)でリザオラル(=天使の守り)を付与する」というものです。
祈りの指輪というキーアイテムや9勢が天使の守りで復活するということの特別な意味合いもあり、外伝産の特技でも発動出来る理由付けとしては充分だと考えています。

1142ただ一匹の名無しだ:2018/09/27(木) 19:17:46 ID:0t0VZiVA0
投下乙です
天使のアークと人間のアーク…
それぞれの求めるものの微妙なズレがこんな事態を引き起こすとは
スクルドはほんと怒らせたら怖いな…
セラフィの起こした奇跡で復活して、完全に覚悟を決めたポーラのこれからに期待!

1143ただ一匹の名無しだ:2018/09/27(木) 19:44:02 ID:fRXDVGcE0
投下乙です
セラフィとスクルドの死は予想できなかった
地味にスクルドがトップマーダーになったな

1144ただ一匹の名無しだ:2018/09/27(木) 23:41:02 ID:aMCZlDE60
投下乙です
この僧侶なかなか前衛向き。
しかし、今回のロワは施設がひどい目に遭いまくり、もう無事な拠点がほぼほぼない。
展開の方は全滅かと思ってからのたった一人の生還、このパターン何度見ても来るものがあります。
拾った命を大事にしてもらいたいところですが、果たして次誰と合流できるやら・・・

1145 ◆2zEnKfaCDc:2018/09/28(金) 01:50:54 ID:TDCwKmWA0
すみません。矛盾があったので訂正します。

>>1136
「――――――あなたとは違い、殺し合いに乗って何人もの人を殺してしまいました。もちろん、今でも後悔はしていません。だけど…………やっぱり思うんです。もっと違う末路もあったのではないか、と……。」

そしてスクルドも自分と同じく、自分の罪を後悔し続けていた。
あたし達は本当に、ほとんど同じだったのだ。

から

「――――――あなたとは違い、殺し合いに乗って何人もの人を殺してしまいました。もちろん、間違っていたとは思っていません。だけど…………やっぱり思うんです。もっと違う末路もあったのではないか、と……。」

そしてスクルドもあたしと同じく、自分の罪を後悔し続けていた。
あたし達は本当に、ほとんど同じだったのだ。

に訂正します。

1146 ◆qpOCzvb0ck:2018/10/08(月) 22:47:17 ID:O6720ytU0
投下します。

1147守れなかった仲間 止められない心 ◆qpOCzvb0ck:2018/10/08(月) 22:48:25 ID:O6720ytU0
二人が橋から一歩足を踏み出した瞬間、「それ」は流れた。

「そうか……フォズ。キミにも伝えられなかったか………。」

その台詞を聞いただけで、ライアンはアルスに何があったか察する。
思えば前の放送の時も、同じようなことをしていた。

しかし今度ばかりは、ライアンも冷静ではいられない。
城へ戻ると言って自分達と別れたヤンガス。
彼とやり取りをしていたのはほんの数時間だけだが、だからと言って彼の死を無視するわけにはいかない。

その近くにいるはずのブライやサフィール、ゴーレムにも危機が及んでいるとも考える必要がある。


だが、今更引き返すわけにもいかない。

自分はこのアルスという少年の成長を見届ける義務がある。
誰に言われたわけでもない。
かつて共に旅した勇者、ユーリルと同じで、イメージカラーが緑だからか。
それとも同じように傷つきながらも未来へ歩いて行った人物に当たるからか。
なぜそう思うかは知らないが、これは自分の決意だ。

アルスの瞳を見ると、決意に満ちた光を帯びていた。

「行こう。」
「うむ。」

呼びかけに、短い言葉で答える。


それからは誰に会うこともなく、リーザスの村へとたどり着いた。

「……ねえ、ライアンさん。ここで、あってるよね?」
「…すぐ近くの看板も示しているし、ここで間違いなかろう。」


赤と緑の二人が目にした光景は、黒一色に包まれた、村の残骸だった。
ここですさまじい戦いが繰り広げられたのだろう。
良く周りを見れば、大きいサイズや人並みなサイズの死体が転がっている。

全員同じ技を食らったのか、いずれも黒焦げだ。
しかし、どういうわけか顔だけは綺麗に手当てされている。
ここで戦いが起こったのち、別の誰かが訪れて死体の手当てを施したのか。

しかし、ここで転がっているのは二人の男と、巨大な魔人のみ。
うち一人は、サフィールから聞いたアレフという男だろう。
肝心のマリベルやアイラが見つからない。

1148守れなかった仲間 止められない心 ◆qpOCzvb0ck:2018/10/08(月) 22:48:56 ID:O6720ytU0

「ここにはいないようだ。別の場所を探ろう。」
「向こうに屋敷がみえるでござる。そこにいるかもしれませんぞ。」

ライアンに言われた通り、ただ一つ残っている屋敷に入ってみる。

「真っ暗でござるな。」
「誰かいるかもしれない。ライアンさん。明かりをすぐにはつけないで。もし敵がいたら、格好の的になる。」

アルスは代わりにと小石を遠くに投げつける。
そうすれば敵は自分達ではなく、石の音がしたところに攻撃を向けるから。

しかし、二人の警戒心とは異なり、屋敷に生きている者は誰もいなかった。

ライアンもようやくと明かりを取り出し、屋敷の中を見回す。

1階には誰もおらず、2階へ向かう。


アイラの死骸が見つかった。
腹を何度も引き裂かれ、恐怖に満ちた表情で事切れている。

その悲惨さから、何とも言えない気持ちになった。
とにかく、死体とは言え、再会できたことは出来た。
屋敷の中に放置するのは何とも寝覚めが悪いため、外に埋葬しようと、二人で運ぶ。
血を拭くために、屋敷のベッドからシーツも拝借する。

アイラは見つけた。
次はマリベルだ。

「…………!!」
屋敷から出た後すぐに、マリベルの死体も見つかった。
壊れた民家の裏にあったため、最初は気付かなかったらしい。

しかし、アルスが受けたショックはそれだけではない。
死体が、見るも無残な姿であったことだ。
それこそ、アイラの死体の無残さが可愛らしく見えるほどに。

表に転がっている男や魔人のように焼け焦げているだけではなく、胸に深い刺傷があり、さらに攻撃を加えられたのか、十字に刻まれている。
四肢は戦いで吹き飛ばされた影響かおかしな方向に曲がっており、これでは人というよりぐちゃぐちゃになった何かのような気にさえなる。

しかもこれまで見つけた死体とは異なり、顔の手当てさえされていないため、マリベルであると断定することさえ難しい。

マリベルのことをよく知っているアルスが、ボロボロになった頭巾で辛うじて特定できたぐらいだ。

「………なんでだよ。」
「アルス殿!?」

ライアンはこれまでのアルスの穏やかな雰囲気からは感じられないものを感じた。

1149守れなかった仲間 止められない心 ◆qpOCzvb0ck:2018/10/08(月) 22:49:58 ID:O6720ytU0
「………なんでマリベルが、こんな死に方しなきゃいけないんだ!?」

「アルス殿……!!」
「だってこれじゃ、あんまりだろ!?マリベルが何をしたって言うんだよ!?」

豹変したアルスを必死でライアンはなだめる。

「アルス殿!!泣き叫ぶことは、あの男を倒してからも出来るでござるよ!!」
「……ああ、そうだね。」

今の気持ちはなんだったんだろう。
アルスの心にはその疑問が尽きなかった。

ひとまずマリベルとアイラの死体は見つかった。
彼女らは屋敷の横に埋葬した。

「アルス殿は拙者が守る。だから安心するでござるよ。」
「ごめん……。マリベル、アイラ。君たちが大切だったってこと、気づけなかった。
今更身勝手だと思うけど、僕は必ずこの戦い、止めるから、見守ってて。」


それからアレフ達が倒れている方に戻ってきた時だった。
なぜこいつらの顔は綺麗に手当てされていて、マリベルの死体はあんなことになったんだと思ったその時。

アルスの心を、急に「何か」が襲った。
(あれ?
この気持ち……一体……何?)


そんなことはつゆ知らず、ライアンは倒れたアレフをも埋葬しようとする。

(!?)




ライアンはアレフの死体を掴もうとした瞬間、それは無くなった。


アルスがアレフの死体を遠くに蹴飛ばしたからだ。

「ざまあみろ」
(!?)
これまでの穏やかな雰囲気とは一変したアルスの態度や目のぎらつきにライアンは驚く。

「……いったい何を……」
ライアンが次の言葉を全て発する前に、アルスがまくし立てる。

「僕からの弔いさ。マリベルを殺した奴へのね。」
「アルス殿!?本気で言ってるでござるか?」
「そうだよ。こいつのせいで、マリベルはあんな姿になってしまったんだ。」

アレフが死んでいる以上は、その原因はアレフのみにあるとは思えない。
そしてどんな理由があろうと、死者に暴行を加えていい理由にならないはずだ。

「ライアンさん、どいてよ。こんな奴、綺麗な顔で死んでいいわけないだろ。」
アルスはライアンを押しのけ、さらにアレフの死体を蹴りつける。

1150守れなかった仲間 止められない心 ◆qpOCzvb0ck:2018/10/08(月) 22:51:03 ID:O6720ytU0
「つらい気持ちは分かるでござるよ!!でも、今は………!!」
無理矢理ライアンがアルスを羽交い絞めにする。

アルスは荒い呼吸と共に、体を震わせながら呟く。
「分かってる……分かってるんだ………。」

抵抗されると思いきや急に力が抜けたアルスに驚き、ライアン一瞬力を緩めた。
しかし、力がそれまでよりも強くなる。
華奢な少年とは思えない力で、ライアンは突き飛ばされる。

「でも!!僕はこいつが憎くてしょうがないんだ!!」

そしてアレフの顔を踏みつける。
アルスの足音が何度も、静かな村に響いた。


突き飛ばされて、ライアンは気付いた。
今のアルスは、感情を手に入れた半面、それをコントロールする技術は未熟ということを。

しばらくの間アルスはひたすらにアレフの死体を攻撃し続けた。
足で蹴り、剣で斬り付けた。
何度も攻撃した後で、急にアルスを眠気が襲った。




「目が覚めたでござるか?」
「あれ?何してんだ………。」
その言葉を発した後、大きく肩で呼吸をしていた。

「アルス殿!?」

「ライアンさん?僕は……。」
目の光は元に戻っていた。
しかし、涙が流れていた。

「大丈夫でござるか?
さっき危ないと思って、とっさにまどろみの剣の力でアルス殿を眠らせたでござる。」

ライアンが心配そうに声をかける。
まどろみの剣は、斬り付けるだけではなく道具として使うことでダメージを与えずに眠らせることが出来る。

「ライアンさん……ごめんなさい……。」
アルスの体は震えていた。

1151守れなかった仲間 止められない心 ◆qpOCzvb0ck:2018/10/08(月) 22:51:53 ID:O6720ytU0
恐らくコントロールできない自分の感情に、恐怖しているのだろう。

「恐らくアルス殿の心は生まれたばかり。自由にコントロール出来ないのでござるよ。」
「だからといって……」
「「だからこそ」でござるよ」

まだ怯えを含んだ瞳をしているアルスに、ライアンが説く。
「ここは閉じられた空間。怨みや憎しみがたまりやすい場所でござる。
そんな場所で仲良き者の死体など見れば、気持ちが不安定になるのもおかしくはない。」

ライアンも王宮にいた時代、同僚から嫌がらせを受けたことを思い出す。
今思えば、彼も狭い王宮で仕事を続けさせられ、ストレスが溜まっていたのだろう。

そしてアルスも思い出した。
霧の中に囚われ、死の恐怖に襲われ、神父を殺そうとしたレブレサックの住人を。
岩山と沼地に閉ざされ、暴力で全てを解決しようとした吹き溜まりの街の住人を。

閉じられた空間で邪気に侵され、殺戮や破壊の衝動に身を任せる人々を。

ヤンガスの仲間やサフィールの父が人を殺していたのも、エビルプリーストが作った閉じられた空間で邪気を浴びたことが原因かもしれない。

自分には関係はない、と思っていた。
しかし、今自分はその住人達と同じことになりかけているのだ。

ついさっきこそライアンさんがいてくれたが、いなかったらどうなっていたか。
先へ進むのが、急に恐ろしくなった。

「勇気とは恐怖を知らないことではなく、恐怖を受け入れることでござる。
これからアルス殿が、自分の心と向き合っていけばよいでござるよ。」

「そうだね……ライアンさん。これからどこへ向かおうか!?」
「トラペッタに戻るでござる。ブライ殿やサフィール殿が心配でならぬ。
それにここから港町へ行く道は、先程閉鎖されたらしいでござる。」

とりあえずライアンの言う通りに、トラペッタへ向かおうとする。
二人は村を出たところで、白いドレスの高貴な女性に出会った。

1152守れなかった仲間 止められない心 ◆qpOCzvb0ck:2018/10/08(月) 22:53:27 ID:O6720ytU0
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

村へ戻ってきた。
予想外な足止めを食った。早く何かしないと。
村から出て南へ向かおうとしていたが、放送で南の道が閉鎖されると知って、こちらへ戻ってきた。
ドレスの裾がすれてきた。疲労が体を蝕む。

「あなた方は?」
村を出たところで二人の男に出会う。あの戦いにいた誰かの知り合いだろうか。

「そこの御婦人。拙者はライアン。こちらはアルス。怪しい者ではござらん。
この村であったこと、知っているでござるか?」
赤い鎧の男の方が自分に訪ねる。
「ええ……ほんの少しだけです。」

緑の服の方が訪ねてきた。
「じゃあ、教えてくれるかな?この村で何があったのか……。」


【I-5/リーザス村前/2日目 深夜】

【ローラ姫@DQ1】
[状態]:健康 疲弊
[装備]:毒針
[道具]:支給品一式、銀のティーセット 草・粉セット(世界樹の葉が使われました ※ルラムーン草が含まれています)
    ハッサンの支給品(引き寄せの杖 場所替えの杖)
    アルバート家の書物(遺失呪文の書を含む)
[思考]:愛する我が子の為に戦う。魔法使いに会いたい。アルスとライアンに警戒
[備考]:複数の呪文の知識の他『リリルーラ』の知識を取得しました。

アルス@DQ7】
[状態]:HP1/4 MP微消費 恐怖
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜2) ゲルダの不明支給品0〜1個 道具0〜2個(本人確認済み)
[思考]:この戦いを終わらせる。ミーティア、キーファを探す。トラペッタへ戻る。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。

【ライアン@DQ4】
[状態]:HP1/3 全身の打ち身、顔に傷、兜半壊、腹部に打撲、鎧半壊
[装備]:まどろみの剣
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1)
[思考]:ホイミンのみんな友達大作戦も手伝う。

1153守れなかった仲間 止められない心 ◆qpOCzvb0ck:2018/10/08(月) 22:53:41 ID:O6720ytU0
投下終了です。

1154ただ一匹の名無しだ:2018/10/08(月) 23:44:31 ID:QmZkUZqQ0
投下お疲れ様です。
ちょくちょく垣間見えてたアルスの心の未熟さが今までで1番浮き出ていた回だった
ローラとの会話によっては一体どう変わることやら……
そしてライアンも、ブライとは違う方向でアルスを支えてくれてるのがいいよなあ

1155 光の中に消え去った : 光の中に消え去った 
 光の中に消え去った 

1156 光の中に消え去った : 光の中に消え去った 
 光の中に消え去った 

1157 ◆qpOCzvb0ck:2018/11/29(木) 23:20:43 ID:41yJyd720
投下します。

1158光は死なない ◆qpOCzvb0ck:2018/11/29(木) 23:21:46 ID:41yJyd720
「さぁ、まだ夜は終わらねえ。救いの星ってのはな、最後まで諦めずに足掻いた奴だけが掴めるもんなんだぜ。」

「てんめえ………。」

ザンクローネがコニファーを睨む。
そのまま剣を一閃。


「あーらよっと!!」
その後に起こった爆発もろとも簡単に躱す。

「どうした!?さっきより動きが鈍ってるぜ?」

毒の力がまだ効いているようだ。
これはチャンスだ。

動き回りながらも、次の行動の最適解を見出していく。
目の横に手を当てて、魔方陣を作る。
そこから出た光は、ダメージこそ与えないが、ザンクローネをしっかりと照らした。
彼が次に出した技は「みやぶる」。

まだ相手のことがよく分からない以上は、敵のことを知っておくのが最良だ。
敵が剣を振った際に、魔法の力が発動するタネも分かるかもしれない。


(当たりだぜ……良くねえ当たりだがな………!!)

ヘルバトラーと、彼が閉じ込めていた邪悪な魔女の魂がザンクローネを操っているようだ。
しかも胸の内にある進化を促す秘石が、更にその力を増幅させているらしい。
そうなると、斬撃が来た直後、ノータイムで魔法が来るという理由も納得がいく。
ついでにザンクローネと言う名前は、クロワッサンとチョココロネから来ているというどうでもいい情報まで知った。

「どうやらてめえのその顔、分かっちまったみてえだな。」

正体が明かされたが、それがどうしたとばかりにザンクローネは嗤う。

「ああ。分かりたくなかったことだがね。なぜこうも分かりたくねえことばかり分かるようになるのやら。」

「どうやら貴様は、誰と一人で戦っていたか知ったようだな。ならばおとなしく………。」

再び剣を振りかざそうとする魔英雄。
しかし、突然自分の胸を引っ掻き始めた。

1159光は死なない ◆qpOCzvb0ck:2018/11/29(木) 23:22:13 ID:41yJyd720
(!?)
訳の分からない行動に、コニファーは戸惑う。

「人の……体奪って………ロクでもねえことするのも……大概にしやがれ……!!」

そこから見えた、ザンクローネの眼光は、闇に染まったモノではなかった。
苦しみながらも、強くて芯の通った、英雄の眼光だった。

コニファーの一撃が、押し込められた「英雄」の意思をわずかながら戻したのか。

元々煌めく宝石は、古今東西魔を払う力があると言われている。
プラチナもその例外ではない。
魔を払うとされるプラチナで作られた針の欠片が、ザンクローネの体内に入ったのが原因か、
はたまた、その最初の持ち主のイザヤールの願いか。

「はや…く………ここに………させ………。」

「英雄」は胸を鷲掴みにし、コニファーに指示を出す。

呻き声に紛れて聞こえにくいが、何を求めているのかコニファーにはすぐに分かった。

「分かったぜ!!英雄だったって話は本当だったようだな!!」
ヘルバトラーの魂に侵されながらも、抗い続ける英雄の意思に応えようとする。

暗闇と片眼の損失で狙いは定まりにくい。
だが、動きの止まっている今なら。

コニファーは矢をナイフのように構え、ザンクローネが押さえている部分にまっすぐ突き刺そうとする。


「近寄るなア!!」

しかし、ザンクローネの胸まで届くほんの僅かの所で、邪悪な気配が戻る。

「がはっ!!」
思わぬタイミングで腹に蹴りを入れられる。
剣でなかったことが幸いだが、それでもかなりの威力だった。


(人の体?あなたって、今も昔も何もわかってないのね。)

「英雄」の胸の奥に、魔女の声が木霊する。

(貴様が存在できるのは、マデサゴーラ様が偽りの世界を作ったからだ。まさか知らないはずじゃないよな?)

「英雄」の胸の奥に、地獄の闘士の声が木霊する。

(黙れ!!)

必死でその声に抗おうとするも、意識は飲み込まれていく。

1160光は死なない ◆qpOCzvb0ck:2018/11/29(木) 23:23:01 ID:41yJyd720
(だから貴様は意思も何も、最初からなかったのだよ。全てはマデサゴーラ様がの戯れで作られた存在だ。)

(でもあなたの存在が、誰のものでも構わないわ。英雄として、救いなさい。)

(ちくしょう………)

再び意識は魔女と魔物の闇の力に飲み込まれていく。


(チッ、あと少しだったが……)
どうにか起き上がったコニファーは、ザンクローネの胸を見つめる。
紫色の血がそこから垂れているが、その奥に僅かながら、何かが光っているのが見える。
恐らく、あの場所を狙えと言ったのだろう。


「いまだにしぶとく生き残っている諸君、ご機嫌如何かな?」

激しい戦いの中で忘れていたが、時刻は12時を回り、放送の時間になった。

(くそっ!!)

イザヤールが持っていた剣を手にしていたことから、彼が死んでしまったのはうすうす感づいていた。
しかし、まさか数時間前共に戦っていたはずのフォズ、この城で情報交換したゲレゲレまで死んでしまうとは。

恐らく、フォズ達が向かった先にも強大な敵がいるということだ。
ザンクローネの攻撃から逃げ続け、ピサロ達にぶつけるという考えも練っていたが、それも難しいらしい。

だが、彼らのことはこの強大な敵を倒してから考えるべきだ。
他人を案ずるあまり、自分が死んでしまっては、本末転倒もいいところである。

コニファーにとって、更に絶望的な出来事はすぐに起こった。

「まだやるつもりか。なら……。」
ザンクローネが力を入れたような動作を見せると、体に邪悪なオーラが纏わり
つく。


瞬く間に、タナトスハントで斬り付けた傷も、矢傷も、「英雄」の手で作られた傷もほとんど消えてしまった。

(冗談だろ……)
攻撃力や防御力のみならず、圧倒的な治癒力まで見せられれば、流石にうんざりする。

1161光は死なない ◆qpOCzvb0ck:2018/11/29(木) 23:23:42 ID:41yJyd720

「絶望したか!?無駄だと分かったか!?
じきに毒も治る。キサマがやったことなど、全て無駄なのだよ!!
さあ、呼ばれた奴らと同じように、救ってやるぜ!!」

ザンクローネは大きくジャンプする。
そのまま斬りかかるかと思いきや、地面に剣を突き刺す、
その地点からコニファーがいる場所まで光の線が出来たかと思った瞬間、
地面から火山の噴火のように火柱が噴き出た。

だが、力の動きを呼んでいたコニファーは、素早くその火柱から離れる。

「オマエも懲りねえ奴だな。オレは絶望せずに、星をつかみ取ってやるって言ってるのによ。」

今度は弓矢に聖なる光を纏わせ、ザンクローネに向かって打つ。
ダメージと共に自分の魔力を回復する、天使の矢だ。
まだ魔力に余裕はあるが、いつ底を尽きるか分からないので、回復という考えに出た。

「フン」
それを何の面白みもないように片手で払う。

(しまったな………魔力を回復しようと思ったんだが……)

ダメージの回復はこの世界で制限されている。
それに加え、魔瘴の力で回復できる魔力も大幅に制限されてしまった。

この状況下では、一発撃った回復量はホイミ一発使えるか使えないかだ。

「これならどうだ!?」

隼切り、いや、その倍はあるスピードだから、超隼切りとでもいうべきか。
その要領で剣を4回振る。
4方向から氷の刃が迫りくる。

「効かねえぜ!!五月雨打ち!!」

それに対抗して撃った4本の矢が、氷を射る。
流石に砕くこと自体はかなわないが、氷の飛んでくる軌道をずらし、当たらないようにする。

(なんとか防いだが、防戦一方だな………)

矢も魔力も残り少なくなってきたし、どこまで持つかは、不安になってくる。
せめて仲間が来るまで致命傷を負わなければいいのだが。



「残念だが、もう引き金引かせる暇なんか与えねえぜ!!」


今度はぶん回しからの爆発攻撃か。


一度は食らってしまった攻撃だが、二度も三度も食らうほど甘くはない。
しかもさっきよりも敵の踏ん張りが深い。

1162光は死なない ◆qpOCzvb0ck:2018/11/29(木) 23:24:46 ID:41yJyd720
そう、深すぎるほどだ。

これなら斬撃と爆発のどちらも力をためているうちに躱すことが出来る。


(!?)

そう思い、油断したのが間違いだった。
いや、極論を言うと、油断していなくても同じことだが。

「うわあああ!!!なんだあああああ!?これはああああ!?」

黒い色をした、巨大な竜巻が起こった。
そのサイズは、バギクロス、いや、バギムーチョにも勝る。

その危険性を感じる間もなく、コニファーは巻き上げられる。


魔女とヘルバトラーの強大な魔力で竜巻を起こし、
それをザンクローネのぶん回しで増幅させたのだ。


息が出来ない。体はバラバラに引きちぎられそうになる。ともに巻き上げられた廃城の瓦礫が、身体中に突き刺さる。


いくら自然を味方につけたレンジャーといっても、これほどまでに理不尽な力には対抗することさえできない。
妖精たちのポルカで受けた守りの力も、こんなものの前では空気抵抗に等しい。

(すまねえ……みんな……)

そのまま竜巻の中でぼろ切れになると思ったその瞬間。


「荒ぶる竜巻よ!!コニファーさんを助けなさい!!バギクロス!!」

ザンクローネが起こした竜巻よりは小さいが、強力な聖なる竜巻がすぐ近くで巻き起こる。

邪悪な竜巻に比べると流石に心もとないが、その力を緩めた。

「アスナ!!今です!!」
「いっけえええええ!!ライ・ディィィィィィィン!!!」

真珠のように綺麗に青白く光る雷が、死を呼ぶ漆黒の竜巻を貫く。

地面に落ちそうになるコニファーを、寸前でフアナが受け止めた。

「お前ら………。」
「えっと……その………」
いつもの口調のアスナに戻ったようだ。どうやら無我夢中だったらしい。

「無事でした!?さっきの竜巻の止め方、『アリアハンコマ回し大会』の決勝戦を基にしたんですよ!!」

どうやらこちらも同じ様子だ。

1163光は死なない ◆qpOCzvb0ck:2018/11/29(木) 23:27:00 ID:41yJyd720

「ようやく本命のお出ましか。全員纏めて救ってやるよ。本当の英雄はオレだ。」
一度は宿主を倒した勇者が現れ、ザンクローネは邪悪に笑う。


ふっ、と笑みがこぼれる。
相も変わらず勝てる可能性は極めて低い、だが、絶望する気は全く起きない。
やはり仲間と言うのはいいものだ。

「私達がついていますからね!!絶対に諦めちゃだめですよ!!」

たとえすぐ近くにいなくても、どこかで見守ってくれる。

(――――――いつまでもウダウダしてんじゃねえ。俺たちがついてんじゃねえか。)
あの時アークに言った言葉。
こんな形で自分に返ってくるとは。

(なあ、アーク。お前だって、きっと感じてたよな。仲間ってやつの温かさ。)

まだ負けるわけにはいかない。
どんなに強い闇が襲ってきても、絶望が降りかかっても、光は死んでいないはずだ。






しかし、彼らはまだ気づいていなかった。




(何やら騒がしいですね……)
密かに城門に近づいたアベルは、戦いが起こっているのを見る。

あの竜巻を起こしたのは誰だ。
上手く仲間に出来れば、ジンガーやリオウ以上の力を手に入れることが出来る。

だが、城内にいるのが何者なのか分からない以上は、落ち着いて様子を伺おう。


怒りや喜びと言った感情は、邪魔になることはこの戦いで知っている。
思えばローラもろとも飛竜を逃がした怒りをそのままゴーレムとの戦いに引きずったため、剣の秘伝書が凄まじい武器になることを見逃した。
そのせいでゴーレムを仕留め損ね、後々で厄介なことになった。

港町の近くに飛ばされたのち、秘伝書の力は分かったが、自分で死のうとしている少女を怒りに任せて殺したせいで、面倒なことになった。

1164光は死なない ◆qpOCzvb0ck:2018/11/29(木) 23:27:41 ID:41yJyd720
思えば自分の人生は、ラインハットやグランバニアのように、城で大きく変わった。

このトロデーンという城で、どのように変わるかは、自分の行動次第だろう。


魔王はじっと待つ。
破壊のその瞬間を。


妖精にも、精霊にも、魔物にもない
人間にしか秘めることのできない、本当の闇を、そこにいる者達はまだ知らない。


【D-3/トロデーン城外/2日目 深夜】

【フアナ(女僧侶)@DQ3】
[状態]:HP1/4 MP1/10
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 パラディンの秘伝書 不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:自分だけが出来ることを探す。
:コニファーとアスナを守る
※バーバラの死因を怪しく思っています。

【アスナ(女勇者)@DQ3】
[状態]:HP1/6 MP1/10
性格「ひっこみじあん」
助骨骨折、内臓一部損傷
[装備]:ゴディアスの剣@DQ7  オーガシールド@DQ5
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)  サヴィオの支給品一式 道具0〜1個バレットハンマー@DQ10  ウェディングドレス@DQ9 アルゴンリング@DQ8
[思考]:エビルプリーストを倒す。
:ひっこみじあんを克服したい。
[備考]:不明支給品の中に性格を変える効果を持った本や装飾品は入ってません。
トロデーン城の地理を把握しています。


【コニファー(男レンジャー)@DQ9】
[状態]HP1/12 MP1/15 片目喪失  ピサロへの疑惑 攻撃力・防御力・ブレス耐性上昇
[装備]かりうどの弓@DQ9、毒矢5本 
[道具]支給品一式 カマエル
[思考]自分が生きているという感覚を保つため、とにかく生き抜く。仲間を探す。
[備考]:「みやぶる」でザンクローネの情報を入手しています。

【魔英雄ザンクローネ@DQ10】
[状態]:HPほぼ全快 MP7/10
[装備]:斬夜の太刀 @DQ10 ヘルバトラーの魔瘴石with進化の秘石(体内)
[道具]:支給品一式 不明支給品(0〜2) イザヤールの支給品(0~1)
[思考]:全てを壊し全てを救う
[備考]:グレイツェルの呪いとヘルバトラーの魔瘴により性格が反転し、破壊こそが救いだと考えています。
進化の秘石の力で傷が徐々に再生していきます。

【ヘルバトラー強@JOKER】
 [状態]: 魔瘴石化 ザンクローネの体内に侵入 グレイツェル及び進化の秘石と融合
 [思考]:ザンクローネの身体を使い破壊の限りをつくす
※死骸と闘志、それに魔瘴が合わさり、魔瘴石のような形になっています。
※ザンクローネが死ぬと彼も死にます。

1165光は死なない ◆qpOCzvb0ck:2018/11/29(木) 23:28:07 ID:41yJyd720
D-3/トロデーン城 城門/2日目 深夜

【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/3 手に軽い火傷 MP1/6
[装備]:破壊の剣
[道具]:支給品一式 剣の秘伝書 ヘルバトラーの首輪
[思考]:過去と決別するために戦う 全てを破壊する

1166光は死なない ◆qpOCzvb0ck:2018/11/29(木) 23:39:41 ID:41yJyd720
投下終了です。
以前60話と127話で、アベルの剣の秘伝書に関して矛盾があったそうなので、半ば無理矢理ですが設定を入れました。

60話の時点で、アベルはゴーレムのせいでローラとチャモロに逃げられたことで苛立っていた。

60話に、「支給品に雷を落とせる「ような」もの」と書いていたため、剣の秘伝書が雷を落とせるものだということを見落としていた
とこのように半ばご都合主義的に解釈しました。

・それが雷を落とせるものだと判明した時は、109話〜116話にかけて、アベルの描写に空白があるため、その際に剣の秘伝書の効果を知ったのだと解釈。
(109話では最後に予想外な形でルーラ草で飛ばされたため、不時着した際に荷物が散らばっていた可能性もあるため)

そのような形で、今回の投下でほぼ無理矢理な形ですが、埋め合わせを行いました。

仮にそれが「無理じゃね!?」だと思われても、今回の投下にはさほど問題がないため、そのまま採用します(アベルの秘伝書の件は保留にします。)


長くなりましたが、他に何かありましたらご意見よろしくお願いします。

1167ただ一匹の名無しだ:2018/12/02(日) 07:48:13 ID:XdfEcPtg0
投下乙です
やべえ敵を相手にしてるのに、新たにやってきたのがアベルとか…
アスナ達生き残れるのか…?

後、チョココロネとクロワッサンに笑ったw
見破るの精度パねえ

1168ただ一匹の名無しだ:2018/12/02(日) 11:49:31 ID:Qj4/ROjM0
投下乙です。

アベルは自身のアイデンティティが絡むと感情的になるキャラだと思っているので、
雷の部分については見落としがあっても違和感はないかなあと。

アベル自身、勇者以外が雷を扱うことで自分の存在意義を打ち消されるのを恐れ、認めていないような描写もあるし、
当人にとってかなりデリケートな部分なので情報の抜け漏れや見落としが生じたとしても大丈夫じゃないかな、と思います。

1169選択肢はそこにある ◆2zEnKfaCDc:2018/12/09(日) 23:21:01 ID:l.QKHOIg0
支給品の矛盾、大変申し訳ありませんでした。
埋め合わせ、本当にありがとうございます。

投下します。

1170選択肢はそこにある ◆2zEnKfaCDc:2018/12/09(日) 23:22:44 ID:l.QKHOIg0
何もかもが嘘のように消えていった。
自らの信じる正義も、もう助かる見込みもなかったほどの身体の深い傷も、いつも隣にいた元山賊の大男も。

我武者羅に伸ばした手は、何も掴めなかった。
だったら、最初から見えないものに手など伸ばさなければよかった。寄り道などしている暇はなかったというのに。


時間ばかりが過ぎ去っていく。
焦燥は次第に増していく。

先程まで死にかけていたようには到底見えない速さで、エイトは見慣れた道を走り続けた。

ただひとつの見慣れない景色として、トロデーン国領とトラペッタ地方を繋ぐ架け橋が繋がっていた。ヤンガスと出会った場所。

―――お前まさか……!あやつめはわしらを襲った相手じゃぞ!それを助けるというのか!?

―――ええ、ここで助けなければ、姫様もきっと罪悪感を背負うことになるでしょう。命だけは助けましょう。

この橋から落ちかけたヤンガスを助けたのは情けなどではなかった。
だというのに、ヤンガスは自分を兄貴分だと慕うようになった。

命の恩人への従属―――どこか自分と重ね合わせてしまい、自分にはヤンガスの同行を拒むことが出来なかった。
おそらくトロデ王も自分の思いを汲み取って、同行を認めてくださったのだろう。

当初は王に牙を向いた無法者を旅に加えること自体は気が乗らなかった。
しかしその実力が頼りになることはすぐに理解したし、人情味溢れる人間性までを信頼出来るようになるまで時間はかからなかった。

ヤンガスの同行を認めたことは正しかった―――その実感はすぐに湧いてきた。


(でも違う、違うんだ)


助けたわけではない。
自分のやるべきことをやったら勝手に向こうが助かっていただけなのだ。


(私のためなんかに命まで捨てなくても……)


そんな見返りを求めていたわけではない。
背中を預けられる相棒の存在に、自分も充足を覚えていたのだから。

1171選択肢はそこにある ◆2zEnKfaCDc:2018/12/09(日) 23:24:42 ID:l.QKHOIg0


(命懸けの献身なんて、求めてなんか――――)

そこまで考えたところで、思い至る。


(もしかして……貴方たちも……そうだったのですか?)


今までの自分がしてきてことが、ヤンガスと同じことなのだと。



―――お〜い!!

ふと、かつての記憶が頭の中に蘇ってきた。
あれは、無実の罪で投獄された煉獄島を脱出した時のことだった。


―――このアホっ!心配をかけおってからに!!どれだけ探したと思っとるんじゃ!

トロデ王は煉獄島に捕まっている自分たちをずっと探していたのだ。


―――陛下……どうしてこちらに……こんな、近衛兵ひとりのためにどうしてこんなにまで……!

自分はトロデ王の手足となって楽をさせねばならぬ立場であるのに、むしろ手間をかける枷となってしまっていることが心苦しかった。


―――阿呆が。


そんなエイトに対して、トロデ王は一言こう返した。

―――お前のことは、本当の息子のように思っとるよ。父が居なくなった息子を探すのに、理由など必要あるまい。

エイトの疑問に真っ直ぐ打ち込まれた言葉は、トロデにとっては"咎め"の一言だったはずだったのだ。従属関係ではなく、もっと踏み込んだ関係でありたいという願いがその言葉には込められていた。

しかしそれは、エイトにとっては"栄誉"でしかなかった。
優しい言葉をかけられる度に、その喜びは忠誠心へと変わっていった。


―――エイト。貴方はトロデーンの近衛兵として頑張ってくれていますわ。でも………

頭の中に蘇ってきた記憶はもうひとつあった。
ふしぎな泉を訪れ、一時的に話が出来るようになったミーティアに言われた言葉。


―――少し、哀しくもあるのです。貴方はいつも、私を守る者として私の前に立ってばかり。だから………どうか、私のことは姫様などではなく"ミーティア"とお呼びくださいませ。


―――分かりました。貴方のご命令とあらば。

エイトが答えたその時、ミーティアの顔はよりいっそう曇ったように見えた。

1172選択肢はそこにある ◆2zEnKfaCDc:2018/12/09(日) 23:25:44 ID:l.QKHOIg0
ヤンガスの死をもって、ようやく考えが至った。
今まで、自分は2人の本心を考えていなかったのではないだろうか。

いや、そもそも考えることの必要性自体を感じていなかった。
エイトにとって、2人の言葉は無条件に正しいものであったのだから。



(もしかして私は――――――)


走る。
嫌な考えを振り切るように、ただただ走り続ける。


(間違っていたのでは――――――)


その時、殺し合いの世界に第3回放送を告げる合図が響き渡った。

大地から空へと視線を移す。
放送を告げるエビルプリースト型の雲を空に認める。
そして空から大地へと視線を移す。
殺し合いに招かれた者たちを嘲笑うかのようなちょっとした空の演出が、実際の時間の何倍ももどかしく思えた。
早く、ミーティアの生存を確かめて安心したかった。

そんなエイトの焦燥を擽るかの如く、仲間の名前が次々と呼ばれていった。
ゼシカ。モリー。ヤンガス。
知っている名前が呼ばれたときでさえ、その名が"ミーティア"でなかったことに安堵する。



「さて…………」

トロデーン国領に入ってから初めて肉声を出した。
ただし、それは独り言ではない。

「もう仲間は誰も残っていないのに、彼女が生きているだけで安心している自分がいる……本当に私は冷たいですよね、お爺様。」

エイトに呼ばれたグルーノ、もといトーポがポケットから顔を出した。
しかし答えは何も返ってこなかった。

1173選択肢はそこにある ◆2zEnKfaCDc:2018/12/09(日) 23:26:31 ID:l.QKHOIg0
「おや………」


そのまま走りながら、トロデーン城の方をふと見る。
そこでは遠目でも分かるくらいの激しい戦闘が行われているようだ。
ククールのバギクロスを遥かに凌駕するほどの竜巻がちょうど巻き起こっており、城の天井が一部無くなっているのも見える。

「どうやら城でも殺し合いが起こっているみたいですね」

ふとポケットに目を移すと、こちらを見上げているトーポと目が合った。

「……分かっています。これを見過ごせばきっと人が死ぬと。でも……」

チーズをあげるときのようにトーポを手のひらに乗せる。

「例え誰が死のうとも、私には守りたい人がいるのです」

ここまでで手に入れた情報によると、ミーティアがトロデーンにいる可能性はゼロではないがかなり低いようだ。
少し前の自分なら、ゼロではない可能性を潰すためにトロデーン城へ突撃していただろう。

ただ、これまで微細な可能性を潰そうとしたことで多大な時間を浪費した。

もし最初に、ミーティアを殺すかもしれないと思って他の参加者を殺そうなどと考えなければ。
ミーティアがいる可能性を考えてトラペッタで連戦に巻き込まれなければ。
ターニアとホイミンに縋られるままに殺し合いに乗ってもいない者たちとの戦いを繰り広げなければ。

結果論ではあるが、そんな後悔の連続の果てにこの選択がある。

仲間と敵の区別を無くす。
ちょうど元の世界の仲間も全員居なくなった今、他の参加者たちをミーティアとそれ以外で区別すればやるべきことが明瞭に見えてくるように思えた。

1174選択肢はそこにある ◆2zEnKfaCDc:2018/12/09(日) 23:27:24 ID:l.QKHOIg0
「……お爺様」

だからといって、もちろん迷いがないわけではない。

「だんだん、分からなくなってきました。私がしようとしていることを彼女が真に望んでいるのか」

自分は近衛兵だ。
守るべき人は無条件で守らなくてはならない。
今まで疑うことのなかったその価値観に、一筋の疑問が浮かび上がってきた。

「私は……正しいですか?」

幼い頃から真面目で、忠誠心が強くて、そして。 
心優しい、穏やかな青年。

そんな人物であるエイトに、誰かを見捨てる選択には少なからず葛藤が襲いかかる。 

「肯定なら、左肩に」

返事の出来ないトーポに対し、合図を示す。
ただし、トーポは動かない。

つまりは、自分が間違っているということだろう。

このままお爺様の指し示すままに行動して、自分で選択を行わずに済むのならどれほど楽だろうか。

次の瞬間、何かに思い至ったかのようにエイトはぶんぶんと首を振った。



「………否定なら、右肩に」



やはりと言うべきか、逆の合図を発してもトーポは一向に動く気配を見せない。


ああ、そうか。


「貴方は今も、今までも、ずっと傍観者だったのですね―――お爺様」

1175選択肢はそこにある ◆2zEnKfaCDc:2018/12/09(日) 23:28:33 ID:l.QKHOIg0

アルゴンリングを渡された時、グルーノはそれをどう使うべきかについては何も言わなかった。
トーポとして旅に同行していた彼は、その指輪がどんな意味を持つのか分かっているはずなのに、だ。

エイトの両親、エルトリオとウィニアの恋路はグルーノによって引き裂かれた。
それは娘のことを思っての行動であると理解しているし、彼の後悔も充分に伝わってきている。
だから、彼自身の行いによって自分たちの幸せを妨げるのを過剰に恐れていたのだろう。


「お爺様、私は………貴方を恨みます。私と彼女の間に消えない呪いをかけた貴方を………」


そう、全ての始まりはエルトリオとウィニアの悲劇だった。
ミーティアの結婚相手がチャゴス王子になったのも、人間と竜神族の子として産まれた自分が真っ当な人生を送れなかったのも――――そして何より、自分がミーティアと同じ立場でいられないことも。


それを言い放った時、祖父の姿がその姿以上に小さく見えた。


「……とはいえ感謝もしているのです。近衛兵としてあの方々と過ごす生き方は、私にとって幸せな日々でした」



「でも―――それでも………」



「もうひとつの生き方が与えられた時、私の世界は変わりました」



「あのチャゴス王子を蹴落とせる自分を知ってしまいました」



「近衛兵ではなく、花婿として。彼女の隣に並び立てる自分を知ってしまいました」



「しかしそれは、真に望む自分ではなかった」



「そう、私は本当は………」



「貴方のように、なりたかった」



「大切な人の誇りを守って、そしてその行く先を見届けたかった」



「貴方が私に届けてくださったことを、大切な人に届けたかった」

1176選択肢はそこにある ◆2zEnKfaCDc:2018/12/09(日) 23:29:21 ID:l.QKHOIg0



「たった、それだけでした」



祖父は最後まで動かなかった。
エイトの問いに答えを出さなかった――――否。それが、それこそが、彼の答えだった。


エイトは、分かりましたと小さく呟く。


「私の正しさは私が選択します」


祖父は自分の選択を責めない。
最後まで傍観者で在ることを選んだのだ。


「そして私はやはり、彼女だけを守る近衛兵で在りたいようです」


この世界から生還した時、あの呪われし結婚式が再び彼女を待ち受けるのだろう。
チャゴス王子に委ねては、ミーティアは幸せになれない。
アルゴンリングを提示すれば、自分は近衛兵ではいられない。

一見、茨にまとわりつかれたかのように八方塞がりの状況。
だけど、ハッピーエンドの余地はまだ残っている。


「…お爺様」


なぜなら、選択権は彼が握っているのだから。


「………私に選ばせてくれて、ありがとうございます」


【C-4/トロデーン地方 草原/2日目 深夜】

【エイト@DQ8】
[状態]:健康 MP1/3
[装備]:奇跡の剣
[道具]:支給品一式 道具0〜2個 トーポ(DQ8)、激辛チーズ(DQ8)
[思考]:ミーティアを守る。それまで誰とも協力せず、誰とも戦わない。

※レックとチャモロを危険人物ではないかと疑っています。
※トーポは元の姿には戻れなくされています。

1177選択肢はそこにある ◆2zEnKfaCDc:2018/12/09(日) 23:29:47 ID:l.QKHOIg0
投下終了しました。

1178ただ一匹の名無しだ:2018/12/10(月) 23:54:14 ID:yA6SGSuE0
投下乙です
ヤンガスを助けたエイトとこのロワのエイトがどうしても重ならない違和感が今まであったけど、なるほどこういう解釈の仕方もあるんだなあ

1179 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/05(土) 23:44:02 ID:50PiqKQ.0
少し遅くなりました、すみません。
トリップを忘れてしまって変わってしまいましたが、◆jHfQAXTcSoを使っていた者です。またもトリップでミスをしてしまって申し訳ないです……。
それでは投下します。

1180そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/05(土) 23:45:40 ID:50PiqKQ.0
「へんげの杖、ですか」

ジャンボが到着していないかチャモロが様子を見に行っている間、サフィールとブライは支給品の確認を始めていた。
二人ともが扱う武器である杖は特に、特殊な力を秘めたものが多い。把握しておいて損はないだろう。
自らの力だけに頼らずそういったものを駆使すれば、不利をもひっくり返すことができる。
消え去り草で姿を消してクリフトを射抜き、ブライたち四人から逃げ延びたククール。
彼の手によって失われた若い命は悔やんでも悔やみきれないが、だからこそ、彼との戦いから活かせることは活かしておきたかった。

「うむ。これを使えば、名前の通り姿を変化させられるのじゃ。人になることもできれば、魔物になることだってできる」
「人にも、魔物にも……」

神妙な顔をして、サフィールは杖をじっと見つめる。

(ゲマがおかあさんに化けてたのは、きっとこの杖を使ったから……)

父への仕打ち、母の騙り。許せないゲマの悪行はいくらでもある。
正直なところ、複雑な想いが消えはしない。
けれど。

「……この杖、わたしが使ってもいいですか?」
「サフィール殿が?」
「はい。わたしには、魔物の友達もたくさんいるんです。おとうさんが仲間にした子たちが。
 姿だけ借りてもみんなほど強くはないかもしれませんが、もしかしたら……役に立つかもしれません」
「ふむ、そうか。ならば確かにサフィール殿が持つのが適任じゃな。打撃に使うのは向かんから、そこは気を付けられよ」
「はい。ありがとうございます 」

仇敵が持っていたから使わないと選り好みをしているようでは、アベルと再び対峙することができない。
兄を失い、母も失い、もうこの世界にはたった一人、父であるアベルしか家族が残っていないのだ。
絶対に、アベルを止める為に。たった一人置いていかれない為に。
決意を込めて、へんげの杖を受け取った。

1181そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/05(土) 23:47:31 ID:50PiqKQ.0
 


「サフィールさん、ブライさん!!」
――いまだにしぶとく生き残ってる諸君、ご機嫌如何かな?

その時だった、ふたつの声が同時に聞こえてきたのは。

「チャモロ殿、そんなに慌ててどうしたのじゃ?」
「しまった、放送が……いえ、それどころではありません。すぐにここから逃げなければ!」
――まずは禁止エリアの追加からだ。
「すぐに、ですか!?」
「すぐにです、この街にキラーマジンガが……!」
――2時間後に【D-8】【H-8】
「なんじゃと!? ライアン殿とアルス殿はすれ違ってしまったのじゃろうか……」
「なら今度こそ友達に……あ、待って下さい、禁止エリアが……!」
「ですが、キラーマジンガが二体に増えていて、それどころでは……!」
「え……二体!?」
――4時間後に【H-3】

今後の命に関わる禁止エリアが通達される放送と、街を訪れたキラーマジンガ。しかも二体。
チャモロがパニックに陥っていることもあり、瞬く間に混乱が広がる。

「元の世界でも何度か戦ったことがありますが、こんなことは一度も……!」
――6時間後に【J-7】【F-1】だ。
「……っ、先に禁止エリアじゃ。メモを終えたらすぐに出ますぞ!」
「あ……すみません、取り乱して…… 」

項垂れるチャモロに大丈夫じゃと声をかけ、急いで地図を取り出し、ブライは禁止エリアを書き込んでいく。
D-8とH-8に2、H-3に4、J-7とF-1に6。
禁止になるまでの時間を入れるだけという最低限のメモを終え、三人は建物から飛び出す。

「ゴーレムさん、合流できました! 逃げましょ……っ!!」

少し距離を空けたところでキラーマジンガの足止めをしていたゴーレムにチャモロが声を張り上げるが、その鼻先を矢が掠めた。
飛んできた方向を見ると、折れていない剣を持っているキラーマジンガ。
ゴーレムが止めているキラーマジンガもまた、足止めの役を担っていたようだ。
微かに顔をチャモロたちの方に向けたので、ゴーレムに声は届いたようだ。

――ゲレゲレ
「え……!?」

その間も無情な放送は続き、死者の名前を連ねていく。
大きな反応を見せたのはサフィールだ。

(ゲレゲレが……)

矢を警戒しながら顔を歪める。
しかし、今は悲しんでいる余裕も、弔っている余裕もない。
心の中で、何もできなかったこと、何もしてあげられないことを謝り続ける。

1182そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/05(土) 23:48:53 ID:50PiqKQ.0
(ちゃんと、祈ってあげたい……でもごめんね、今はまだできそうにありません。
 かならず、きちんと祈るから……今は少しだけ、あなたの力を貸してください)

「チャモロさん、ブライさん!」

へんげの杖を振りかざしながら、サフィールは二人に向かって叫ぶ。

「へんげの杖を使います! 私に乗ってください!」

杖の力を使ってキラーパンサーに変化する。
サフィールが知る中でも足が速く、イメージもし易いキラーパンサーは、この場を切り抜けるには最適だ。
素早く礼を述べて、チャモロとブライはその背に乗り込む。

「ジャンボさん、でしたっけ。こうなると、早く合流した方が良いですね」
「ああ。ヤンガス殿はここより南西で会ったらしく……」
――ヤンガス

ほぼ同時に放送でヤンガスの名前が挙げられる。
サフィールは不安そうに一瞬立ち止まり、チャモロとブライは顔をこわばらせる。
告げられた名前が意味すること。
それは、ヤンガスが死んでしまったこと。西で何かがあったこと。そして、名前こそ呼ばれなかったが、ジャンボが無事ではない可能性もあること。
どうしましょう……と言うように、サフィールがガルルと弱々しく咽を鳴らす。

「……南にはどのみち、アルスさんたちくらいしかいないと思います。一か八か、南西に向かいましょう。いざとなったら、近くの城にも向かえます」
「うむ、彼らとは合流するにも時間がかかりそうじゃ……それまでに追い付かれるわけにもいかんしな」
「すみません、女性に足を任せてしま……あ、危ない!」

サフィールに声をかけていたチャモロは咄嗟に振り向き、かまいたちを放つ。
キラーマジンガから放たれた矢が、勢いを失って地面に落ちた。
矢を引き絞りながら向かってくる様子に歯噛みする。
キラーマジンガの襲来と逃避に頭がいっぱいで、チャモロはローラの名前が放送で呼ばれなかったことに気付かなかった。
再びかまいたちを放つ準備をしていると、すぐ側で魔力が渦巻くのを感じた。

「ブライさん、何を……!?」
「矢避けになればと思いましてな。磨耗するが、そうとも言ってられぬ」

1183そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/05(土) 23:50:35 ID:50PiqKQ.0
ククールの居場所を突き止め、追撃を封じたマヒャドの吹雪。
発動直前の魔法の維持はかなりの疲労に襲われるが、今は生きて逃げることが最優先だ。
キラーマジンガは二体いる。矢を射つ相手が一体だけならチャモロに任せても大丈夫だろうが、二方向からの射撃は対処しづらいだろう。
少し遅れてついてくるゴーレムもどちらかを抑えるよう動いているが、やはり身軽なのはキラーマジンガたちの方だ。

(このまま逃げ切れるといいのですが)

自分よりもずっと幼いサフィールに走らせ、自分よりもずっと長く生きているブライに矢避けを任せるこの状況はもどかしいが、その分チャモロはキラーマジンガたちを注視し警戒する。
足止めしているゴーレムの対処よりも逃げる三人を追うのを優先しているらしい、どちらのキラーマジンガもゴーレムの攻撃を受け止め、回避することはあっても反撃はしていない。
どちらかが近付いてきてもいいように、しんくうはの構えを取る。

吹雪いていては矢が通じないと、キラーマジンガたちも判断している。
ならば素早く近付いて接近戦を持ちかけてくるはず。
そのチャモロの予想に反し、ゴーレムの横をすり抜けたキラーマジンガは距離を空けて止まった。
不思議に思いつつ警戒を解かずにいると、いつの間に拾っていたのか、大きな瓦を放り投げ、ハンマーで打ち付けて飛ばしてくるではないか。

(まずい……! 一本一本が軽い矢ならともかく、あの瓦は流石に吹雪では防ぎきれない!)

焦りを感じ、チャモロはしんくうはで瓦を砕く。
直撃こそ免れたがそれが災いして、砕けてひとつひとつが軽い欠片になった瓦が吹雪に舞い、チャモロたちに細かい傷を付けていく。
咄嗟に骨折している左手を右手で覆って庇うが、その隙に、もうひとつ瓦が飛ばされてきた。

「しまった……!」

行動を起こす暇もなく、瓦礫がサフィールの後ろ足に直撃する。
必死なのだろう、サフィールは転倒こそしなかったものの、揺れるリズムが急に変わったことで魔法の維持に集中していたブライが振り落とされてしまった。

「ブライさん!!」

チャモロが叫び、サフィールが立ち止まる。
幸い大きな怪我はないようだが、ギリギリまで展開していたマヒャドは霧散せず、制御が効かなくなりキラーマジンガにぶつけられた。
こんな状況でブライにマヒャドが跳ね返ったらと青ざめるチャモロは、次の瞬間の光景に驚く。

(魔法が跳ね返されていない……!?)

1184そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/05(土) 23:52:03 ID:50PiqKQ.0
そのキラーマジンガが手にしているのは、聖王のつるぎと聖王のハンマー。体の下部には聖王の弓。
トンヌラやアルスたちと戦ったキラーマジンガとは別の、いつの間にか増えていた方のキラーマジンガのようだ。
疑問を抱きつつブライに駆け寄ろうとするが、吹雪が消えたことによりキラーマジンガが矢を引き絞ってこちらに向けていることに気付く。
ブライを助け起こそうとする隙を狙うつもりだったのだろう。
迂闊に近寄れずにいると、ゴーレムが足止めしていた方のキラーマジンガも見計らってすり抜け、ブライと分断しようとチャモロたちに向かっていく。

「チャモロ殿、サフィール殿と共に先に南西へ!」
「ですが……!」
「ゴーレム殿もおる、上手くいけば奴らの方も分断できる。急ぐのじゃ!」

キラーマジンガBが放った矢を、大きな腕が阻む。
気圧されたのか納得したのか、チャモロはサフィールと目を合わせ頷き合うと、ジンガーの剣を避けて、ブライに叫んだ。

「すぐに助太刀に戻ります! ご無事で!」

そのままジンガーから離れるように跳躍すると、サフィールが駆けてきて背でチャモロを受け止める。
二体でこの場に残さないように、挑発するようにジンガーを振り返り攻撃射程ギリギリの距離を保って走っていく。
例えジャンボが無事でなくても、一体相手なら二体同時に相手取るより余程良い。

「個体B」
「yes」

しかしそれに合わせてくれるほど、機械兵はお人好しではない。
一方は無理な魔法の展開で息切れする老人と攻撃が大振りで見切りやすいゴーレム。
もう一方は近接戦の心得がある少年と魔物に変化する術を手に入れた少女。
先に二体がかりで後者を始末するべきだと二体ともが判断して動き始めた。

「しんくうは!」
「ヒャド!」

チャモロとブライもまた、キラーマジンガたちに合わせる道理はない。
真空の刃は二体の間を通るように放たれ、氷塊はキラーマジンガBの関節部分を正確に狙って生まれ、微かに動きを鈍らせる。
キラーマジンガを見慣れていないブライだが、ジンガーの折れた灼熱剣エンマが目印になり、魔法を弾かないのがどちかをすぐに認識できた。

1185そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/05(土) 23:53:52 ID:50PiqKQ.0
しんくうはとヒャドで生まれた隙を見逃さず、ゴーレムもまた行動に出る。
自身を狙う拳を受け止めようとするが、ブライがかけたピオリムによってインプットされていたデータを超える素早さでゴーレムが迫り、キラーマジンガBは軽く吹き飛ばされた。
サフィールも走る方向を急転換してジンガーに突進し、更に二体の距離を引き離す。

互いに分断された状態。
合流して二体で連携を取るのが難しいと判断したのか、キラーマジンガたちはそれぞれ近い方の二人組に向き直る。
サフィールたちは常にジンガーと付かず離れずの距離を保ち、合流に向かう素振りがあればすぐさまチャモロがかまいたちやしんくうはで妨害する。
そうして「まずは自分たちを倒さねば合流できない」と認識させ、徐々にキラーマジンガ同士の距離を空けていった。
一方ブライたちは大きな動きは見せず、キラーマジンガBと対峙する。
ピオリムに加えバイキルトもゴーレムにかけて、合流に向かおうものなら先程よりも手痛い一撃を叩き込む準備ができていると見せ付ける。

サフィールたちがジンガーを引き離して、すぐには駆けつけられない程の距離になった頃、キラーマジンガBが先制を仕掛けた。
ゴーレムの現在の素早さは既に記録していたが、バイキルトで増幅された力も測る為、軽く斬りかかる。
腕全体で横に払われたが、その勢いに体が持っていかれかけた。

(恐ラク今ノママデハ、マトモニ当タルト深刻ナ損傷ニ繋ガル)

ゴーレムの戦闘データを更新しながら、キラーマジンガBはブライに向けて矢を引き絞る。

「ヒャド!」

再びブライが関節部分に氷を発生させ、その動きを鈍らせて狙いから逸れる。

(威力ハ気ニスル必要ナシ。シカシ一瞬、稼働範囲ニ支障アリ。矢ニヨル攻撃ハ非効率)

キラーマジンガBはそのままブライを深追いせず、射撃を止めようと背後から向かってくるゴーレムの腕を聖王のつるぎで逸らし、聖王のハンマーを叩き込んで即座に離れた。
人間であれば骨も砕けかねない攻撃にも動じず、ゴーレムは距離を詰める。

1186そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/05(土) 23:54:38 ID:50PiqKQ.0
「ピオリム!」

ブライの補助を受けると同時に、掴むようにキラーマジンガBに手を突き出す。
更に素早さを増したそれを回避しきれず、剣とハンマーでギリギリ受け止めた。機械の腕がミシミシと音を立てる。

(素早サノ上書キ完了。補助ト同時ノ攻撃パターン、インプット完了)

先程より更にゴーレムから距離を取るとキラーマジンガは矢を番え、再びブライに狙いを定める。

「ヒャド!」

ブライが関節に氷を発生させ、その隙に堅いゴーレムが射線上に割り込んだ。
キラーマジンガBはそのまま矢をゴーレムに射ち、反撃が来る前に横に逸れる。

(氷塊発生カラ射撃マデノラグ、把握。両者射程外カラノ攻撃ヘノ反応、インプット完了)

ジンガーが持っていたデータによれば、ゴーレムの行動は、ほとんどが「誰かを守る」為のものであるらしい。
キラーマジンガBはそのデータが正確であること、ある程度時間が経っているが変わってはいないことを確認できた。
ブライもまた、ヒャドで動きに制限をかけたりゴーレムへの補助はしているが、マヒャドのような大技は放ってこない。
どちらかというとキラーマジンガBを倒すよりも、粘って時間を稼いでいるような戦い方だ。

(町デ断片的ニ聞コエタ会話カラ、仲間ガじゃんぼトイウ者ヲ連レテ来ルノヲ待ッテイルト予測)

キラーマジンガBはジンガーが一度彼らの仲間に誘われたというデータは持っている。
だが、その根底にある“みんな友達大作戦”の存在は知らない。ジンガーが誘われたのも、単純に戦力の強化を求められただけとしか判断していない。
ジンガーをトレースこそしているものの、あくまで持つものは経験ではなくデータ。
心の無い機械兵はそれに揺り動かされることもなく、理由を知ろうとすることもない。

1187そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/05(土) 23:56:18 ID:50PiqKQ.0
(バイキルトもまだ残っておるし、ピオリムももう一回は効果があるはず)

キラーマジンガBの挙動に注意したまま、ブライは考える。

(ヒャドで一時的に鈍らせることはできる。じゃが、それもいつまでも持つまい……)

相手は疲れを知らず、思考も止まることのない機械。
その場しのぎの対策など、すぐに通用しなくなるはずだ。

キラーマジンガBが矢を番えたことに気付く。
しかしブライだけでなくゴーレムも射線上にいるため、ヒャドを使って逃げる必要はなさそうだ。
動き出すゴーレムに合わせて、ブライは呪文を唱える。

「ピオリム!」

効果の上限ギリギリまで素早さを上げて、少しでも均衡をこちらに傾かせる。
一先ずピオリムやバイキルトを切らさずこのまま膠着させておけば、被害を抑えられる。
その間に次の手を考えよう。
そう思っていた。

――キラーマジンガBが凍てつく魔弾を放つまでは。



凍てつく魔弾を撃ち終わると、キラーマジンガBは素早くハンマーを構えて、ゴーレムに打撃を加える。
防御するゴーレムの動きは目に見えて素早さが落ちていて、キラーマジンガBの腕も微かな振動こそあるものの、先程と比べ大して音は立たなかった。
ピオリムもバイキルトも、効果が失われていることは明白だ。

「今のは一体……ぐっ!?」

予想外の展開にブライは大きな隙を見せてしまう。
それを見逃すはずもなく、キラーマジンガBに矢を放たれ――胸を深く貫かれた。

ジンガーと同じ機械兵でありながら、その実違う機械兵のキラーマジンガB。
ジンガーに関する情報とは違う部分が、大きな痛手となったのだった。

1188そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/05(土) 23:57:43 ID:50PiqKQ.0
 


「……微弱ナガラ生体反応、アリ。支給品次第デハ回復ノ恐レ、アリ。追撃ノ必要、アリ」

即死こそ免れたものの、ならば確実に仕留めようとキラーマジンガBがブライに迫る。
その間に、ゴーレムが割って入った。

「邪魔ダ」

ゴーレムの拳と聖王のハンマーがぶつかり合う。
腕の隙間を縫って矢をブライに向けると、ゴーレムはハンマーを横に逸らしてキラーマジンガBの体ごと狙いを外させた。

「イクラ守ロウト、モウ時間ノ問題ダ。何故無駄ナコトヲスル?」

もの言わぬゴーレムは何も答えない。
キラーマジンガBの疑問は解けることなく、だからといって解こうともされなかった。
矢を番えるとゴーレムに矢を叩き落とされる。それと同時にキラーマジンガBはハンマーでゴーレムを叩き付ける。
ブライを狙うと必ずゴーレムはその行動に反応して防ごうとしてくる。
キラーマジンガBはゴーレムの脇を抜けるように剣を振り上げ、矢を番え、ブライを狙っては、それを阻止するゴーレムをハンマーで殴り着実にダメージを与えていった。



(情けない……まだ若者が残っておる。ゴーレム殿だって、こうして戦っておる。まだ、死ぬわけにはいかんというのに……)

痛みと大粒の汗に顔を歪めながら無理矢理目を開けると、ゴーレムとキラーマジンガBの攻防が見える。
自分が狙われているために、ゴーレムがダメージを負っていっている。
せめて、もう一仕事。
守ろうとしてくれる彼の為に、できることをしなくては。
幾度めかの番えられた矢を叩き落とそうとしているのか、ゴーレムが腕を動かしている。

「ピオ、リム……」
「バイ……キ、ル、ト……」

先程も使っていた呪文をゴーレムにかける。
キラーマジンガBももうこの呪文を使えることは把握しているだろうが、この状況なら無意味にはならないだろう。

サントハイムに誰も残せないこと。
アリーナのことも、クリフトのことも、語り継げないこと。
アルスやライアン、チャモロやサフィール――この世界で知り合った仲間たちを置いていくこと。
目の前のゴーレムすらも見届けられないこと。
若者たちよりも先が短いながら、ブライにはやり残したこと、悔しいことがいくつも残っていた。

(すみませんのう、姫様、クリフト……わしも、そなたらの所に――)

1189そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/05(土) 23:59:03 ID:50PiqKQ.0
 




ブライが最期に残したピオリムとバイキルト。
再び強化されたゴーレムの腕は、凍てつく魔弾を放たれる前に聖王の弓を掴んだ。

「……!? 離セ……!」

聖王のハンマーで何度もゴーレムを叩き付けるが、ゴーレムは頑なにその手を離さない。
抜け出そうにも、バイキルトで増している腕力相手には分が悪すぎる。
再び強化を解除しようにも、至近距離で肝心の弓を掴まれてはそれも叶わない。

(早ク抜ケ出サナケレバ、増援ノ可能性アリ)

何度も何度も叩き付ける。
ボロボロとゴーレムの体が崩れていくが、それでも手は離れない。

ガツン! ガツン!
大きめに片腕が欠けた。
ガツン! ガツン!
同じ部分を叩き付けると更に抉れた。
ガツン! ガツン!
ゴーレムは反撃しようとしない。不可解だ。
ガツン! ガツン! ……ゴトン
片腕が落ちた。だが、もう一方の手がまだ弓を掴んでいる。
ガツン! ガツン!
まだ打つ。ジンガーと合流して命令を待たなければならないのだ。

残った腕も落ちそうになった時、ゴーレムの体に光が集まり始めた。
落ちた片腕も、残っていた抉れた腕も、衝撃で胴体から零れ落ちていた欠片も。
大部分が元通りになっていく。

「…………」

それでも尚、ゴーレムは攻撃を加えてこない。

「……不可解ダ」

ゴーレムの行動の不可解さやメルキドの秘法によるダメージの回復。
事象が重なり、キラーマジンガBは回路が熱暴走でもしたかのように怒りを表し始めた。

「生命活動ガ停止シタ者ノ前ニ立チ続ケルノモ、ヤツラガ協力ヲ持チカケルノモ、不可解ダ。ソンナ者ニ邪魔ヲサレルノモ不可解ダ!」

1190そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/06(日) 00:00:00 ID:G1.zpUhU0
聖王のハンマーに力を溜め始めると、弓を掴んでいた腕が片方ハンマーを握る手にも伸びてきた。
その伸ばされた腕を拒否するように聖王のつるぎではげしく斬りつける。
刃こぼれも気にせず繰り返し斬りつけ、再び腕が近付く前にハンマーを振り下ろす。
怒りの込もったグランドインパクトが地面を震わせ、自分ごとゴーレムに衝撃波を浴びせる。
斬りつけられた腕が砕け、反対の腕や胴体からもパラパラと瓦礫が落ちる。
体の中心にはすかさず痛恨の一撃が繰り出され、咄嗟の防御も間に合わず、ゴーレムはガラガラと崩れ落ちた。



「撃退、完了――」

ゴーレムに掴まれたまま無理矢理グランドインパクトを放ったせいで、キラーマジンガBの聖王の弓はボロボロになってしまった。もう使えないだろう。
時間がかかったため追い付くのに多少時間はかかるだろうが、ジンガーの元へ向かわなければならない。
ブライとゴーレムのふくろを回収して、キラーマジンガBはそのままくるりと向きを変えた。
が、進もうとした時。

「――熱源感知」

新たな気配を察知し、キラーマジンガBは止まって振り返る。
ゴーレムだった瓦礫から反応があるようだ。
まさか復活でもしたのかとゆっくりと近付く。





「……っ!」
「サフィールさん?」

ジンガーを警戒しながらジャンボを探していたサフィールは、ぴくりと耳を動かして北東に顔を向ける。

「どうかしましたか?」

チャモロの言葉に首を振ると、 少しジンガーに詰められた距離をまた空けて、サフィールは駆け出した。

1191そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/06(日) 00:01:07 ID:G1.zpUhU0
 


◇◆◇◆◇

あたたかいものをもらった。
ネプリムに名前をもらった時。
サフィールの小さな手に触れた時。
彼女たちを、そして、そのあたたかいものを守りたいと思った。

サフィールがみんな友達大作戦に協力すると言った。
友達というものが何なのか、ゴーレムにはよく分からない。
けれど、みんなで手を取り合うという作戦は、一度垣間見た闇の記憶とは真逆の内容だった。
闇に覆われたメルキドは争い合い、憎み合い、冷たくて醜い世界だった。
そうならない世界を、サフィールたちと作っていく。
ゴーレムもまた、言葉にこそできないが、協力したいと思った。

サフィールはジンガーとも友達になろうとしていた。きっとキラーマジンガBとも友達になろうとする。
ならば、未来の仲間を傷付けてはならない。
二体同時に攻撃を掻い潜りながら友達になるのは難しくても、一体相手なら。近くに協力者の当てもあるのなら。
サフィールがジンガーを友達にして戻ってくるまで待たなければならない。
戻ってくるまで傷付けず、耐えようとしていた。



サフィールと出会った場所に、ひとつの醜くなったものがあった。
人だったはずの、原形を留めていない塊だった。
命を落として尚、守られなかった者がそこにいた。

ネプリムの穏やかな顔を思い出した。
同じような目に遇わせたくなかった。
消えてしまった命にも、守りの手は必要なのだということも知った。





守りたいものがたくさんできた。
守りきれないけれど守りたい。
花で囲んだ彼女のことも。
すぐ側で死んでしまった老人のことも。
まだ西で頑張っている彼女のことも。
守りたい。
もっと守りたい。



守りたいという強い想い、消えない想い。
瓦礫になってしまったゴーレムの残骸に、その想いが宿った。

ゴーレムの心は、まだそこに遺されている。

1192そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/06(日) 00:02:40 ID:G1.zpUhU0
 


【ブライ@DQ4 死亡】
【ネプリム(ゴーレム)@DQ1 死亡】

【残り25人】


【F-3/平原/2日目 深夜】

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP7/10 MP1/6 左腕骨折(応急処置済み) ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)軽くパニック状態
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める サフィールと共にキラーマジンガから逃げてジャンボを探す
※チャモロはローラが死んだと思っています。
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。また、はぐれメタルの職業を少なくともLv7まで経験しています。魔法使い、魔法戦士、賢者、勇者は経験していません。

【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP:9/10 MP 2/5
[装備]:ドラゴンの杖
[道具]:支給品一式×3、へんげの杖、ショットガン、999999ゴールド
[思考]:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
おとうさんを見つけて止める
みんな友達大作戦を手伝う

【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:HP1/4 
[装備]:折れた灼熱剣エンマ@DQS メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:アベルを探す、邪魔する者は破壊する。
[備考]:サフィール達に疑問を抱いています。


【F-2/平原/2日目 深夜】

【キラーマジンガB@DQ10】
[状態]:HP5/8
[装備]:聖王のつるぎ@DQ10 聖王のハンマー@DQ10 壊れた聖王の弓@DQ10 アクセルギア@DQ10
[道具]:支給品一式
[思考]:ジンガーと同じことをする。
[備考]:DQ10のキラーマジンガの特技を使いこなします。
アベルと出会う前のジンガーのように、命令がインプットされていない状態です。
命令する者が現れるまでは、ジンガーの行動をトレースします。

※ゴーレムの体の一部がゴーレムの心に変化しました。

1193 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/06(日) 00:03:53 ID:G1.zpUhU0
以上で投下終了です。
誤字、脱字、指摘などあればお願いします。

今年もドラクエロワが盛り上がりますように!

1194ただ一匹の名無しだ:2019/01/06(日) 00:43:55 ID:ieaf3Q5.0
投下お疲れ様です

2体のキラーマジンガとの戦いの中に見られる、10で前衛の相撲が崩れて後続の魔法使いが射程に入ってしまった様子なんかを想起させるような細かい描写には魅入られるよなぁ
状況がありありと思い浮かぶ
お互いに色々考えながら戦っているのがすごく伝わってきて、読み手側としても、おそらくブライ自身としても、マジンガBには呪文が効くからブライとの相性は悪くない、そう思っていたところに撃ち込まれた凍てつく魔弾の絶望感は本当に背筋が凍てついた

ゴーレムが遺して、ジンガーも含むキラーマジンガを巡る話の鍵となりそうな"心"がどう動くのか楽しみでならない

改めて、投下お疲れ様です

1195ただの一匹の名無しだ:2019/01/06(日) 01:24:38 ID:3BIDUP0E0
投下乙です!!
心無いはずのキャラクターが心を手に入れて、他の強敵に立ち向かう展開は何度読んでも熱い!!
ブライもお疲れ様。ククールバラモスマジンガと強敵相手によく戦ったよ。
それからジャンボ早く来てくれ!!

1196 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/06(日) 08:55:49 ID:G1.zpUhU0
すみません、そこに宿る心の状態表を一部直し忘れてました。



【F-3/平原/2日目 深夜】

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP7/10 MP1/6 左腕骨折(応急処置済み) ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)軽くパニック状態
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める サフィールと共にキラーマジンガから逃げてジャンボを探す
※チャモロはローラが死んだと思っています。
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。また、はぐれメタルの職業を少なくともLv7まで経験しています。魔法使い、魔法戦士、賢者、勇者は経験していません。

【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP:9/10 MP 2/5 左足打撲
[装備]:ドラゴンの杖
[道具]:支給品一式×3、へんげの杖、ショットガン、999999ゴールド
[思考]:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
おとうさんを見つけて止める
みんな友達大作戦を手伝う

【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:HP1/4 
[装備]:折れた灼熱剣エンマ@DQS メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:アベルを探す、邪魔する者は破壊する。
[備考]:サフィール達に疑問を抱いています。


【F-2/平原/2日目 深夜】

【キラーマジンガB@DQ10】
[状態]:HP5/8
[装備]:聖王のつるぎ@DQ10 聖王のハンマー@DQ10 壊れた聖王の弓@DQ10 アクセルギア@DQ10
[道具]:支給品一式×3、魔封じの杖、道具0〜2個(ブライの不明支給品)、道具0〜2個(ゴーレムの不明支給品)
[思考]:ジンガーと同じことをする。
[備考]:DQ10のキラーマジンガの特技を使いこなします。
アベルと出会う前のジンガーのように、命令がインプットされていない状態です。
命令する者が現れるまでは、ジンガーの行動をトレースします。

※F-2にゴーレムの心が出現しました。



正しくはこちらになります。

1197ただ一匹の名無しだ:2019/01/06(日) 17:16:14 ID:.Za9ZJVc0
投下乙です
バフで均衡保ってるとこにバフ解除とかそんなん来られたらたまったもんじゃないよなあ
Bはランドインパクトとかも使えるみたいだし、反射がない代わりにジンガーが使えないような絡め手を持ってるのが厄介か

1198 ◆2zEnKfaCDc:2019/01/14(月) 22:55:04 ID:a3SVvFg60
ゲリラ投下します。

1199星空を継ぐ者 ◆2zEnKfaCDc:2019/01/14(月) 22:56:22 ID:a3SVvFg60
あたしは、天使信仰というものが大嫌いだった。

――ポーラには不思議なものが見えるのよね。きっと、瞳に天使様が宿ってるんじゃないかしら。

「見える」ことにコンプレックスを抱えていたあたしを励まそうと、母はそう言った。

冗談じゃない。
仮にそうだとして、みんなが信じて止まない天使様のご加護とやらはこんなにあたしを苦しめているじゃないか。
反抗心を露わにすることこそなかったが、あたしはいつも面白くなかった。

そしてアークのことを知ってからは、天使信仰がもっと嫌いになった。
人々は"天使様"に縋るだけで、"天使様"であろうとするアークがどれだけ苦労しているのか知らない。

天使信仰が世界から消えてからは、天使信仰よりも人々のことが嫌いになった。
奴らは揃いも揃って、天使のことを忘れていた。
アークはもう、"天使様"であろうとすることさえ許されなかったのだ。そもそも"天使様"が必要とされていないのだから。


この世界の殺し合いを止めたら、元の世界に帰れるかもしれない。
だけどあたしは、元の世界に戻って一体何をするというのだろう。
元の世界に戻ったとして、あたしを待っているものは何も無い。
あの時のアークと同じ、孤独が待っているのみだ。

だけどこの場で自らに剣を突き立てて死のうものならば、すぐにでもアークの下に行ける。

あたしはどうして、戦うの?

あたしはずっと、己にそう問いかけ続けていた。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

1200星空を継ぐ者 ◆2zEnKfaCDc:2019/01/14(月) 22:57:49 ID:a3SVvFg60

スクルドの放った"天地崩壊"で家屋も、そしてシンボルでもある船着場も、何もかもが廃墟同然になった港町。
その中に1人取り残された少女ポーラは、まずは辺りに残された道具―――いや、"遺された"という方が正しいのかもしれない。とにかく持ち主のいない道具を一通り集めることにした。

瓦礫と化したレンガ建ての家の残骸を退け、粉々に割れたツボやタルの破片を脚で払いながら、その場にある支給品を何も見逃さないように探す。
アークならきっとこうすると思ったからだ。

アークはいつも、行く先々で地面にキラリと光る何かを認めてはすぐにそれを拾って集めていた。
コニファーは貧乏性だとかケチくさいとか言っていたし、スクルドも面白い様子ではなさそうだった。
でも、アークが錬金に熱心であればあるほどカマエルが喜んでいる様子が目に見えるあたしだけにはアークの優しさが伝わっていた。


しかし集めた道具の内のほとんどは天地崩壊の焔に焼かれて使えなくなっていた。
それだけスクルドが大きな感情を溜め込んでいたんだなって思うと、少し悲しくなった。
とりあえず、スクルドの持っていた物は一通り無事だった。
あの焔が彼女自身を焼くことはなかったらしく、彼女の身に付けていたものにも大した被害は及んでいなかったようだ。

そしてセラフィのザックの中身は、炎を完全に防ぐ装飾品である炎竜の守りと、それに接していた星空を象った腕輪、ついでに熱には強く造られているのだろうか、誰か他の参加者の首輪だけが無事だった。

1201星空を継ぐ者 ◆2zEnKfaCDc:2019/01/14(月) 22:58:38 ID:a3SVvFg60
(これを付けてたらセラフィも無事だったかもしれないのに………)

セラフィと一緒にいた時間にはアークのことを喋ってばかりだったが、そもそもこんな世界にいるのだ。もう少し生き残るための情報を共有していたら………

そこまで考えて、ぶんぶんと首を横に振った。

(きっとそれでも、セラフィはこの御守りをあたしに押し付けてたんだろうな………)

誰かを助けるためなら、自分が助かる道を捨てることも厭わない。
アークといいセラフィといい、あたしの大切だった人たちは嫌になるほどお人好しだ。

「あなたも、ね」

言葉を向けた先には、1匹のスライムの死体。地面が隆起したことで、先ほど作った墓から飛び出したようだ。

アベルという男がセラフィへと剣を向けたあの時、自分はセラフィを助けようとはしていなかった。あの戦いでセラフィが生き残ったのは、紛れもなくピたろうの功績だ。

そして、スクルドとの戦いでセラフィはあたしの命を守った。
間接的に、ピたろうはあたしの命を守ってくれたということになる。

そんな単純な理由だけでは説明出来ないけど、彼に言いたいこともたくさんあった。
セラフィを守ってくれてありがとう、とか。
セラフィを守れなくてごめんね、とか。

でも、今伝えるべきなのはそんなことではない。
セラフィにもスクルドにも向けて、この決意を送りたいと思った。

「あなたたちの心は、あたしが受け継いでみせる。」

ピたろうを抱え上げ、セラフィの腕の中に包み込む。きっと冷たい土の中よりはこっちの方がこの子の弔いにもなるだろう。

「さて、と………」

1202星空を継ぐ者 ◆2zEnKfaCDc:2019/01/14(月) 22:59:30 ID:a3SVvFg60
ここにきてようやく、最も中を覗くのが怖かった自分のザックを開く。
そして、答えは最悪の形だった。

「割れてる、かぁ……」

ラーの鏡は、先ほどの衝撃で粉々に砕け散っていた。
思った通り、掲げてみても死者の声は聞こえない。

(別れだけじゃなくて、出会いにも目を向けろ――この鏡もそう言いたいのかな…)

この鏡を通じてアークに言われた言葉を思い出す。
でも、口で言うほど簡単なものではない。

好きな人と。
大切な仲間と。
信頼出来た友達と。
ここ数時間だけでも、別れの数は割り切るには多すぎた。

そしてこの世界での新たな出会い――キーファとミーティアに目を向けようにも、あの2人が今どこにいるのか全く分からない。
2人は竜王とやらの居る場所へ戻ったのか、それともアークの居る場所と往復する間にニアミスしたのか。

(まあ、うだうだ悩んでてもしょーがないよね。)

鞘から取り出すと同時にドロドロと溶けだした吹雪の剣を捨てながら歩き始めた。
どうせキーファとミーティアの行先なんて考えて分かるものでもないし、それに行先はどの道決まっていた。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

1203星空を継ぐ者 ◆2zEnKfaCDc:2019/01/14(月) 23:00:05 ID:a3SVvFg60
そこには、さっきと変わらない様子でアークが横たわっていた。

「また来たよ、アーク。」

結局かれこれ数時間、ポルトリンクとここを往復してばかりだ。
だけど迷いを振り切った今、アークの元を訪れる理由がポーラにはあった。

「決めたんだ、あたし。……まあちょっと遅かったんだけど…でも、もう迷わない。」

以前とは違い、ラーの鏡はもう無いためアークの声は聞こえない。

「今までずっと思ってた。あたしはアークと同じ景色を見てるんだって。」

それは、あたしの誇りだった。
"見える"体質のせいで小さな頃からろくな目にあってこなかったけど、それがアークと自分の世界を繋ぐ共通点だと実感出来た時、あたしは初めてこの体質に感謝した。

「でも、違ったんだね。アークが見ていた景色は、あたしが見ているのよりずっとずっと綺麗だった。」

だけど、あたしの目には星のオーラが映っていなかった。
だからあたしは人の心を恐れた。
ずっと見えるはずのものが見えてきたことで、"見えない"ことが怖かった。

「分かったんだ。アークが生きた証はずっとあたし達の周りにあったんだって。アークは誰にでも優しい人だったから、みんなの感謝の気持ちがあの星空に浮かんでるんだって。」

だからこそ、アークがこの世界に生きた証を、"見える"形で残したかった。
そうでないと、アークが生きていたことが無駄になってしまうような気がしたから。

1204星空を継ぐ者 ◆2zEnKfaCDc:2019/01/14(月) 23:02:09 ID:a3SVvFg60

「あたし、嬉しかった。アークが今までやってきたことは無駄じゃなかったんだって実感出来たから。」

その証というもののひとつは、アークの死体に置かれていた一本の剣だった。
まるでアークのために作られたかのようなその剣を、殺し合いに乗るか反抗するか迷っていたあたしは持っていくことが出来なかった。

「だから……どうか、安らかに眠ってね……。」

手を合わせ、そっと祈りを捧げる。
この空の先に天使界が無いことは分かってる。
この空の先に神などいないことも分かってる。

天使様に感謝を――人々はそう言って天使像に祈りを捧げる。

ある時は、町を包む病魔から。
またある時は、国民のことを考えない自分勝手な女王様から。
人々を助けたのはアークなのに、感謝の矛先が向くのはいつも天使像だ。

だからあたしは、天使像に祈るという行為自体が嫌いだった。

だけど、祈る。
大嫌いな女神や神に祈るのではない。
ただ、星に祈るのだ。

この殺し合いの夜を作り上げている深い絶望、そして憎悪。
そんな夜に一筋の光をくれるあの星に――そして何より、星空に生きた証を残した人たちに、敬意を表して。

祈りの本質はそれでいい。
人々はアークではなく天使像の方を見ていたとしても、その気持ちは星のオーラとなってアークに伝わっていたのだと分かったから。

1205星空を継ぐ者 ◆2zEnKfaCDc:2019/01/14(月) 23:04:48 ID:a3SVvFg60
さて――と小さく呟き、再びアークの方へと顔を向ける。
本題はここからだ。

「もうひとつ、決めたの。元の世界に帰ってからやりたいこと。」

天使が世界から消えたあの夜以来、あたしの世界は終わった。
アークから笑顔が消えて、引き込まれてあたしまで苦しんで――そしてアークが死んだ今、元の世界に帰ること自体に意味なんてなかったはずだった。

「あたしはあの景色を守りたい。人々の想いで溢れるあの星空を――あなたが守った星空を、守りたい。」

だけど見つけた。
アークを失ったあたしに仮初の意味を与えてくれる"クエスト"を。

人は独りじゃ生きていけない――だけど誰かの想いを背負ったならば、生きようともがくことが出来るかもしれない。

「だからあたしは、あの世界に天使信仰を蘇らせるって決めた。」

分かってる。スクルドの真似事をしたって、それが独りよがりの自己満足にしかならないってことくらい。
天使信仰があの世界に戻ったところでスクルドの絶望がなかったことになるわけでもないし、あたしの罪が消えるわけでもないのだから。

だけど、アークの物語を全て「見て」きたのはあたししかいない。
天使信仰と共に天使への感謝の気持ちを蘇らせて、あの世界をもう一度星のオーラで埋めつくしたい。
天使への感謝の気持ちを蘇らせて、そしてきっとどこまでも綺麗な景色を作り上げて、あなたが守った世界はこんなに綺麗な気持ちで溢れてるんだよって、星空の向こうにいるアークに見せてあげたい。
やっぱりあたしは、新しい出会いに目を向けながらでも、あなたのために生きていたいんだ。

「そのために…あなたが生きた証を一旦あたしに託して。」

アークの死体に置かれた剣に手をかざす。
あたしの手のひらに呼応するかのように、剣に象られた星がキラリと瞬いた。
そのまま剣を手に取ると、銀河が手のひらへと収まったかのように血が熱く滾ったのを感じた。

――――ありがとう。

アークの死体に背を向けたその時、もう聞こえないはずの彼の声が聞こえた気がした。

1206星空を継ぐ者 ◆2zEnKfaCDc:2019/01/14(月) 23:05:34 ID:a3SVvFg60
【G-8/草原/二日目 深夜】

【ポーラ@DQ9】
[状態]:HP2/5 MP1/3
[装備]:銀河の剣@DQ9 星降る腕輪@DQ3
[道具]:支給品一式 支給品0〜3個 キメラの翼×2 炎竜の守り@DQ8 魔勇者アンルシアの首輪 アリーナの首輪
[思考]:殺し合いを止める。
元の世界に戻り、天使信仰を復活させる

※未練を残す死者の幽霊が見えます。そのままでは会話は出来ませんが、何かしらの道具を通すことで会話が出来るかもしれません。
※ラーの鏡を通して人の心の中を見ることが出来ました。今後何かほかの道具でも可能かもしれません。

1207 ◆2zEnKfaCDc:2019/01/14(月) 23:08:54 ID:a3SVvFg60
投下終了しました。

「天に祈りを、地に悲しみを」の話は、放送直後に起こる話であり、そこから長い時間が経過するような描写もないので、今回のポーラ単独での移動距離を考えても時間帯はギリギリ深夜のままにしています。
まだリーザスへと続く道が禁止エリアになる前です。

1208 ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:26:46 ID:v7iq5tBs0
投下します。

1209かの恐怖、再臨す ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:27:31 ID:v7iq5tBs0
「じゃあ、教えてくれるかな?この村で何があったのか……。」

緑色の頭巾を被った少年の言葉が、リーザスの静寂をより一層重くした。

その重圧に耐えきれずにローラが1歩引き下がると、それに合わせて少年も1つ歩みを進める。
その静かさと穏やかさが逃げ道はないのだと囁きかけているようにローラには思えた。

(彼は怒っている…?いや、もっと別の感情を……?)

この村で死んだ誰かの知り合いであるのかも読めないが、考えが纏まらない。
得体の知れないものが首筋に突き付けられているような、そんな恐怖を感じていた。

「大丈夫、僕たちは敵じゃない。だから落ち着いて。」

「……分かり…ました…。」

ローラの額からぽたりと汗が流れ落ちた。
とりあえずは敵ではないようだが、間違ってもこれを敵に回してはいけないのだと本能的にわかってしまった。

「お話します…。この村の惨劇を招いた、非道な魔王の行いを。」

さて、ここで真っ赤な嘘を付くという手は間違いなくあった。
しかしそれに伴うリスクをローラはどうしても避けたかった。
仮に嘘がバレた場合には、少年が腰に携えた美しい装飾の剣でバッサリと斬り伏せられる、そんな未来の光景が嫌というほど脳を支配していた。

1210かの恐怖、再臨す ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:28:48 ID:v7iq5tBs0
「私は……アレフ様にあのような非道を強要したアベルという男を許すことが出来ません。」

ローラの下した選択は、嘘をつくことなく一部の事実だけを語るということ。
自分たちが元々殺し合いに乗っていたということは隠し、あくまでアベルに強要されて行ったことだと語り始める。
そこに全く嘘は含まれていないため、矛盾など生じるはずがない。

「…そして、あのアベルという男は、あろうことか………私に無理やり……キスを………!」

さらに、必要な部分は強調してアベルへのヘイトを集める。

殺し合いが始まって、アベルに捕らえられたこと。
チャモロの手によってアベルから助けられたこと。
パトラ、リュビ、トンヌラの3人と合流したものの、パトラに殺されかけてリーザスへと逃げ出したこと。
リーザスでキラーマジンガに撃たれ、デュランとスクルドに人質にされていたこと。
スクルドの放った特技でリーザスが崩壊したこと。

この殺し合いの全ての戦闘において、自分が被害者であったことを語る。
これで2人の矛先が自分に向くことはないだろうとローラは推察した。

「……サフィール殿の父親はこの村にも悲劇をもたらしたのですな………。」

ライアンはその話を聞き終えるとともに、再びリーザスの方へ祈りを捧げた。

(拙者らは本当に、"みんな友達大作戦"のみを糧に戦えるのでござろうか……。)

ライアンでさえも、ローラの話を聞くと怒りが少なからず湧いてきた。
人が人を愛する心を利用して踏みにじる、人間の悪意の存在。
みんな友達大作戦に従う者たちは、そういった怒りをぶつける相手を失ってしまうのだ。

(拙者にはホイミンと交わした使命がある……分かってはいるのでござるが………!)

やり場のない思いに駆られ、ライアンは拳を握り込んだ。


「……本当のことを言うとね、僕は許したくはない。アレフはもちろん、君のことも。」

続くアルスの一言に、ローラの眉がぴくりと動いた。

「でも……だからといって矛先だけは間違えたくない。全ての発端はエビルプリーストだ。だけど―――」

アルスの言葉は、以前チャモロに投げかけられた言葉とちょうど重なるものだ。
しかしアルスの言葉には、より強く迫るような気迫が篭っていた。

「―――罪から逃げることは許さない。死んだアレフの分まで背負ってもらうから。」

アルスはくるりと背を向ける。
その背が頼りなく震えていることに、俯いたままのローラは気付くことができなかった。

(アルス殿……よかった……)

しかしアレフを前にしたアルスの行動を見たライアンは、アルスの不安定さを知っている。
怒りが爆発しそうになるのを抑えるためのアルスの苦心はよく分かった。

(ブライ殿、あなたの信じた若き芽はきっと、立派な花へと育ちましょうぞ……)

勇者を探すという使命に駆られて生きてきたライアンは、勇者だと思われて魔族に狙われている子供を守ることはあったが、その成長を見守る経験はなかった。

1211かの恐怖、再臨す ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:29:35 ID:v7iq5tBs0
(父親とは、このような気持ちを子に抱くのでしょうかな……)

肯定してはいけない。
だけど、それでもアレフが自分の子供に抱いた父親としての気持ちは無下にしてはいけないものだとライアンは感じた。

「あの……。よろしければ、教えていただけませんか」

そして今度は、ローラが動き出す。

「どうやらあなた達は既に多くの人々と出会っているご様子。知っている範囲で構いません。私のいないところでアレフ様がどう戦っていたのか、知りたいんです」

「ふむ……サフィール殿から聞いた限りの話であれば、不肖ライアン、お伝え致しましょう」

「……だったら僕は、見張りをしておくよ。この先の道が禁止エリアになるからスクルドって人が戻ってくるかもしれない」

おそらくローラと話を続けるのが辛いのだろう。
ライアンは黙って頷き、ローラとリーザス村へと入っていく。
見張りをするなら村の入口が1番効率的だ。
だからアルスが見張りを任されている以上、村の中が安全だとの判断である。

「まずローラ殿には、見せないといけないものがあるでござる」

村に入るならば、当然目に入るのはアレフの遺体だ。
アルスが何度も傷つけたことでローラが整えたのが分からないほどに悲惨な姿へと変わっていた。

1212かの恐怖、再臨す ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:30:16 ID:v7iq5tBs0

「……これが、アルス殿の心の現れでござる。そして、これはまたアレフ殿の罪でもあるのでござるよ」

ローラは俯いたまま喋らない。

「お分かりでしょう。彼がどんな気持ちでローラ殿と喋っていたのか。ローラ殿、こんな感情に苛まれながらもあなたを許したアルス殿を、どうか信じてほしいのでござる」

こくり、と首を縦に振る。
そしてようやく言葉を発した。

「これがアレフ様の罪ならば、私も背負います。だから―――どうか教えてください。アレフ様の罪を……」

そして、ライアンはサフィールから聞いた話を1から10まで話した。
彼女がマリベルと出会ったこと。スクルドに騙されこと。
仲間の1人、アイラの死体を見つけ、呪われたハーゴンと対立したこと。
そして、マリベルとハーゴンのその戦いにアレフが乱入して来たこと。
ここから先のことはローラの方がよく知っていることだろう。

「アレフ様は、強いお方でした。身体だけではなく心も」

「……ええ、そうでしょうな」

「それだけ、あの魔王から私とこの子を守りたかったのです。罪もない少女を殺さざるを得ないほどに……」

「……ええ、この世界の出来事はただ悲しいだけでござる。かのアベルとて、魔王の如き所行へと走ったのはこの世界に呼ばれたことが原因でしょう。」

「……ライアン様、どうかお祈りください。エビルプリーストを倒す、アレフ様の力もお借りしたいのです」

「うむ、祈らせていただくでござる。彼の想いを受け継ぎ、必ずやあなた方を御守りしましょう」

ライアンはアレフの前に座り込み、手を合わせる。
そして目を閉じ、祈る。
この世界で志を共にすることが出来なかった者たちと、今度こそ戦えるように。

1213かの恐怖、再臨す ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:30:58 ID:v7iq5tBs0

「あの、ライアン様………」

そうして祈っていると、背中に人の身体の感触を感じた。

「えっ?」

「お願いが………あります………」

ローラは背後から、ライアンの兜を外す。アレフと泊まった宿屋での体験の成果か、桃色の兜はスムーズに持ち主の元を離れた。

「どうか……どうか私のために………」

「一体、何を………」

わけも分からぬまま振り返るライアン。
そしてローラはゆっくりと、ライアンの頬へと唇を近付けて……




「――呪いを受けてくださいませ……」




たった一言、耳元で囁いた。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

1214かの恐怖、再臨す ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:31:38 ID:v7iq5tBs0

リーザス村の入口で、アルスは拳を握りしめていた。
ローラの話を信じるのなら、ローラは完全に被害者だ。
マリベルの死の要因の一つとはいえ、それはかなり遠回りなものでしかない。
そんなことは分かっているけれど、許したくないのだ。

(お前たちは、心を持っていたじゃないか)

心を持っていたのに、それを他人を傷付けることに使う人たちを、許したくないのだ。

(僕が辿り着けなかった答えを最初から知っていながら、どうして………)

だけど、それだけではないことにも気付いた。

(……違う。僕はまだ、過去から抜け出せていないんだ)

最初から心を持って真剣に殺し合いに抗っていたら、マリベル、ガボ、アイラ、メルビン、フォズ……全員は難しくても、誰か一人くらいは守れていたかもしれない。

守れなかったんだ、僕は。
だから八つ当たりをしている。
心を持っていながらみんなを守ろうともしなかった者たちに。

(そっか。これが、僕なんだ)

拳をさらに握り込む。
手に血が浮き出てくるほど、強く。

(怖いんだ、僕のせいかもしれないって認めるのが)

大地や木々を殴りつけ、自分の手を痛めつけてもその想いの矛先は消えない。
ただ、己の醜さを再確認するのみ。

「僕はこんなに弱くなんか―――」

気付けば声が漏れていた。
そしてその言葉に返すくるように、アルスはひとつの言葉を思い出した。

(―――そういった自分の弱さと向き合うことも、きっと心の成長に繋がりましょう。)

手から、そっと力が緩む。
そうだ。
こんな自分を信じてくれた人がいる。
こんな自分を、何とかしてくれようと苦心してくれた人たちがいる。

「心の成長……か」

自分の弱さを知ったところで成長なんて実感できないけれど。
心を持っていない時の方が気持ちは安定していたかもしれないけれど。
誰かの優しさを実感できた今だけは、心が前に進めた気がした。

1215かの恐怖、再臨す ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:32:13 ID:v7iq5tBs0
(大丈夫、僕はやり直せるはずだ)

もう取り戻せないものはたくさんある。
石版を叩きつけても巻き戻せない世界がある。
だけど、まだ全てを失ったわけではない。
新たな仲間が、そして何より、心を真に交わせぬまま会えなくなった親友が、まだこの世界に残っている。

前を向いて、戦おう。
そんな気分を覚えたその時だった。

唐突に襲い来る、目眩のような感覚。
その目眩から立ち直ったその時、アルスはリーザス村の中にいた。

「っ……!?」

何が起こったのか分からない。
だが何か緊急事態が起こったのは間違いない。
村の中に引きずり込まれたところを見るに、ライアンやローラにも危害が及んでいる可能性もある。
とりあえず、現状把握を………

―――ザクッ

さらに次の瞬間、左足に鋭い痛みが走る。どうやら何者かに背後から剣で斬りつけられたらしい。

(敵襲……!?だったら―――)

咄嗟に"敵"に向けて呪文を放つ。

「―――メラミ!」

至近距離からの火球を受けた"敵"は一歩退き、アルスは痛む足を抑えて"敵"と対峙する。

「そんな………一体どうして………」

1216かの恐怖、再臨す ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:33:00 ID:v7iq5tBs0
"敵"の正体は想像もつかぬものであった。
アルスのよく知る者―――桃色の鎧に身を包み、そのたくましい体格を持ってアルスを守ってくれていた者―――

「どうして………ライアンさん……!」

―――導かれし者ライアンが、不気味な風貌の仮面を被って佇んでいた。

これはまずい。
足を斬りつけられたことにより機動力は削がれ、さらにはまどろみの剣に塗られた眠り薬による眠気まで襲ってくる。先程のライアンの計らいで一度眠っていなかったら、すでに意識を持っていかれていたかもしれない。

「………ぐっ!」

再び剣を振りかぶったライアンに思い切り体当たりをぶつける。それでも思った以上に手応えが感じられない。
身につけた仮面の力でライアンの防御力は極限まで高まっているようだ。

体当たりでは防げず、振り下ろされる剣。
アルスは咄嗟にオチェアーノの剣で防ぐも、体格差も相まって衝撃で吹き飛ばされてしまう。

「ライアンさん……一体何が……。」

何となく予想はつく。
おそらくはローラの仕業だ。
でも、一体どうやって?
……いや、それよりも今は目の前の状況を考えなくては。

カチャ……カチャ……カチャ……

1歩、また1歩と、桃色の鎧が奏でる音が迫ってくる。
同行していた時間はそれほど長くも無かったけれど、自分の心の弱さを支えてくれていたライアンは大切な仲間だ。
しかし今や、無精髭だらけのあの顔は見えない。
夜の闇と、呪われた仮面が覆い尽くしてしまっているから。

(戦わなくちゃいけない……だけど……)

人間相手に戦わなくてはならない時は何度もあった。
だけど、こんなにも剣を取る手が震えるのは初めてだ。

(殺すのか……?僕は、ライアンさんを……?)

心を持った今、もう一度過去に囚われたままの自分をやり直したい。今度こそ、大切な仲間を守りたい。
そんな願いは、再び打ち砕かれてしまうのかもしれない。

【I-5/リーザス村跡地/2日目 黎明】

【 アルス@DQ7】
[状態]:HP1/5 MP微消費 恐怖 左足に怪我(素早さ低下)
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜2) ゲルダの不明支給品0〜1個 道具0〜2個(本人確認済み)
[思考]:この戦いを終わらせる。ミーティア、キーファを探す。トラペッタへ戻る。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。

【ライアン@DQ4】
[状態]:HP1/3 全身の打ち身、顔に傷、腹部に打撲、鎧半壊
[装備]:まどろみの剣 般若の面@DQ3
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1)
[思考]:???(呪いの影響により方針不明)
正気の時の行動方針
:ホイミンのみんな友達大作戦を手伝う。

1217かの恐怖、再臨す ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:35:01 ID:v7iq5tBs0



「………うまく……いったみたいですわね………」

リーザスから走り去りながら、ローラは1人ほくそ笑む。


"般若の面"
被った者は混乱し、敵味方の区別なく襲いかかるという。

ライアンが祈りを捧げている間、ローラはひとつの死体の傍に落ちてあるその仮面を見つけた。
実際に見たことはなかったが、かつて読んだことがあるロトの勇者の文献の中に、勇者の仲間の女僧侶が誤って被ってしまい仲間たちに襲いかかった、という逸話をローラは知っている。

ライアンの話と照合するに、アレフが殺した神官が身につけていた仮面だろうというのもすぐに予想がついた。

(もし、アルスという少年を始末出来るのなら……)

そして眼前の恐怖を打ち破る方法も、即座に思いついた。
まずは目を閉じて祈るライアンを横目に、遠くの般若の面に向けて引き寄せの杖を振るい、そうして手に入れた面を背後からライアンに被せた。

声を発しなくなったライアンは、すくりと立ち上がると腰に差した剣を乱雑に引き抜いた。
その矛先は即座にローラに向けられることとなった。

カチャ……カチャ……カチャ……

ライアンが一歩、一歩とローラに近づく度に鎧が地に押し付けられる音だけが響く。

追ってくるライアンから逃げながら、しかしそれでも心だけは冷静に。ローラはアルスの方へと駆け出した。

そしてアルスの姿が見えると同時にこれまた一本の杖を振るった。今度使ったのは場所替えの杖。これによりアルスはリーザス村の中へと移動したのだ。

1218かの恐怖、再臨す ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:35:40 ID:v7iq5tBs0
そうしてアルスとライアンをぶつけつつ、ローラは1人だけリーザス村を出ることが出来た。

逃げることは許さない。
アルスはそう言った。
この世界からリリルーラで脱出する手段があったとしても、彼がすんなりと許してくれるとは思わない。
そして見るからに魔法を使えないライアンにはそもそも用がない。
だから、この2人を始末することに決めた。

これが、ローラが画策した全てである。

「呪われし者は人々に受け入れられない………そうでしたわよね、お父様………?」



あれはアレフに助けられて、間もなくしてのことだった。

(―――おいっ!大丈夫か!)

そんな声が、城の外から聞こえてきたのをローラは聞いた。
竜王に囚われた自分を助けるために、アレフ以外にも多くの戦士が派遣されていたのだが、その内の1人が帰ってきたようだ。

魔物との戦いに敗北したのか全身に傷は深く、誰かが診てやらないともう長くは生きられないのは明らかだったようだ。

1219かの恐怖、再臨す ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:36:37 ID:v7iq5tBs0
しかし、たったひとつ、声が挙がった。

「―――おい…この男…………呪われし者だ!」

次第にその声は、ひとつ、もうひとつと増えて行く。

「―――まあ、なんて汚らわしい!」

「―――絶対に城に入れるな!」

「―――はやく追い出せ!」


どうして?


「―――のろわれしものよ、でてゆけっ!」


どうしてあんなベルトひとつのためにこんな仕打ちを受けなくちゃならないの?


バルコニーからその様子を見ていたローラは、その光景に言い表しようもない恐怖を覚えた。

「お父様!戦士様が大変です!!早く手当を――――」

そして何より、その時の父の顔つきは今も脳に焼き付いている。

「―――よいのだ、ローラ。これも国のため。呪われし者は人々に受け入れられないのじゃよ。」

「そんなっ……!」

反抗したい気持ちは強かったが、そういうものなのだと納得せざるを得なかった。
あの優しい父をしてこうも言わしめる呪いの存在。
それは罪もない人の命を奪っていく、病のように残酷なものなのだ、と。

【H-6/リーザス地方/2日目 黎明】

【ローラ姫@DQ1】
[状態]:健康 疲弊
[装備]:毒針
[道具]:支給品一式、銀のティーセット 草・粉セット(世界樹の葉が使われました ※ルラムーン草が含まれています)
ハッサンの支給品(引き寄せの杖 場所替えの杖)
アルバート家の書物(遺失呪文の書を含む)
[思考]:愛する我が子の為に戦う。魔法使いに会いたい。
[備考]:複数の呪文の知識の他『リリルーラ』の知識を取得しました。

1220かの恐怖、再臨す ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:38:11 ID:v7iq5tBs0



もし、引き寄せの杖の光弾が般若の面に当たらなければ。
もし、ライアンに上手く面を被せることが出来なければ。
もし、アルスが場所替えの杖の光弾を回避していれば。
もし、アルスと場所を入れ替えた直後にアルスが足を負傷せず、そのままローラを追って来ていれば。

考案から実行までの期間が極めて短いローラの計画には、穴と呼べる点は多くあった。
それでもこの杜撰な計画が上手くいったのは、偶然などではない。
鍵を握っていたのはこの世界でローラが身につけた呪いの力である。

ロトの世界に「ふこうのかぶと」という呪われし装備品があるように、"うんのよさ"などという曖昧な事象にも呪いの力は作用する。

ローラが敵意を持った相手の運を無くすことで、相手に都合が悪くなるように周りの事象を動かす、"不幸の呪い"とでも呼ぶべき力。そんな呪いの力が本人にも無自覚の内に引き起こされている。


"呪われし者は人々に受け入れられない"

この言葉の向かう先は、果たして――――――



[備考]:『呪い』スキルパネルより、『常時 不幸の呪い』を取得しました。

1221 ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:38:41 ID:v7iq5tBs0
投下完了しました。

1222ただ一匹の名無しだ:2019/02/17(日) 06:59:51 ID:GAAKdArs0
投下乙です
アルスの受難が続くなあ
ローラは非力な中で上手いことやったもんだ

後、なにげにフアナさんの逸話がまた増えてるw
なにやってんだあの人…w

1223ただ一匹の名無しだ:2019/02/17(日) 21:35:36 ID:4WSrVef20
投下乙です
ローラさんぱねぇなぁ、般若の面こええ
でもdq1で呪われていたら城に入れないやつ、確かに可哀想だなあと思った。

アルスくん……強く生きるんや……

1224 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:33:33 ID:ghEfv5qg0
以前予約してたのを投下しますね。

1225 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:34:28 ID:ghEfv5qg0
にげる
おにいちゃん

少女の心はその二つの言葉しか残ってなかった。

「待って!!ターニア!!」

追いついたホイミンが声をかける。


「ターニア!!待て!!」
続いてジャンボも声をかける。

二人の姿は、少女もよく覚えていた。

一人は、かつて自分と一緒に逃げたホイミスライム。
もう片方は………

兄を殺そうとしていた邪悪な存在。


今ジャンボが何のために自分を追ってきたか
そんなことは考える余裕はなかった。

ザックから半ば無意識に杖を取り出す。
その使い方は少女に分からないはずだが、半ば無意識に杖を振る。


幸か不幸かその杖は、魔力を持たない者でも効果を発揮した。

「「うわっ!!」」

ジャンボとホイミンの周りに、砂煙が立ち込める。

その砂煙の勢いはどう考えても自然発生の物ではない。
ターニアが振った、砂柱の杖によって発生したのである。
ホイミスライムの体から水分を奪っていく。
勿論ジャンボにとっても脅威である。
ゴブル砂漠やアラハギーロ地方を渡った時でさえ、こんなことはなかった。

前を見ることはおろか、呼吸さえできない。

だが、急にその砂煙は晴れた。

「大丈夫か?」

ヒューザたちが首輪解除に求めていた技、トラップジャマーだ。
魔方陣や爆弾などの道具を分解し、立ちどころに自分の武器にしてしまう特技
砂煙を消し去ったジャンボはホイミンに声をかける。

「あ……ありがと………。」

ホイミンの眼を見て、ジャンボは理解した。
やはり、このホイミスライムはまだ自分を完全に信用しているわけではないことを。
まあ、あれだけの大それたことが明るみに出た今、信じろという方が無理矢理でしかないのだが。

1226 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:34:47 ID:ghEfv5qg0

「構わねえよ。」
そう察したジャンボは、短い一言で終わらせる。



砂煙の影響でターニアとの間はまた離されてしまったが、今度はジャンボがピオリムをかける。

再びターニアの背中が見えてきたが、同時に向こうに見えていた町もだんだん大きくなっていく。


しかし、その前に何かが見えてきた。

レンジャー、盗賊と目の良さがそのまま実力に繋がる職業を経験してきたジャンボには何かよくわかる。

機械兵、キラーマジンガ。

そして、それ以上にジャンボにとって奇妙に映る者。
自分がつい先ほどまで追い求めていた少年、チャモロ。
それを乗せているのは、自分のせいで死んでしまったはずの魔物。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


時は少し遡り、場所はトラペッタから抜け出してすぐの場所。

二人、傍から見れば一人と一匹は、なおも走り続けていた。

それを追いかけるのは、一体の機械兵。
刀身が折れてもなお灼熱剣エンマは闇夜の中で紅く光り、獲物の血を求めている。
尾のボウガンも、執拗に二人を射抜かんと連続して撃ち続ける。


しかし、チャモロのかまいたちで撃ち落され、別の矢は届かない。

逃げる側も必死だが、追いかける側も必死で矢を撃った。
未だ会えないマスターのためにも、一人でも多くの獲物を討たねば。

しかし、ジンガーのスコープが新たな生命を感知する。

「熱源感知。危険性、ナシ。戦闘えねるぎー、ホボ0.」


(…あれは……?)
キラーパンサーの姿をしたサフィールが、向こうからやってくるターニアの姿を捕らえる。

1227 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:35:15 ID:ghEfv5qg0
チャモロはその姿を知っている。
しかし視線はジンガーと、その矢にばかり集中しており、姿は分からない。


サフィールはターニアのことを知らない。
ましてや、この戦いで彼女に何が起こったかなんて、知る由もない。


(しまった……)

サフィールは変化の杖の使い方を誤った。
確かにキラーパンサーの姿の方が、逃げるのには適している。
しかし、言葉が話せない以上、コミュニケーションに難がある。
加えて今は敵に追われている最中。
前であったことを後ろの敵と戦っている人に伝えるのは難しい。


ここで、キラーマジンガは急に作戦を変えた。

今この攻撃を続けていても、奴等は倒せない。
何か方法はないか。

(ジンガー、殺れ)
(イエス、マスター)

(ワタシハスベテノこまんどヲりせっとサレタ状態デココヘ転移シタ。
 マスターハワタシニ新タナこまんどヲいんぷっとシテクレタノダ)

(子を想う親の気持ちというのは、素晴らしいものですね……反吐が出るほどに)

(でも、マリベルさんを見捨てることもできません!)
(アンタがここで死んでも、同じに……決まってる、でしょ。その鎧男に、私を生かしておく……理由なんてないもの)
(行きなさい、サフィール! 後悔……したくない、なら!)
(私だけここを逃れても、私きっと、後悔します……!)

(ローラ!? どうしてここに君が……)
(アレフ様に会いたい、その一心で)
(そんなに怪我だらけになって……!)
(アレフ様こそ……私が捕らえられてしまったばっかりに、多くのお怪我を……)
(いいんだ、ローラ、君さえ生きてくれるなら)

チャモロたちを襲いつつも、過去の戦闘データから、最適解を見出す。


(以下ノ戦闘情報カラ、奴ラハ自分ヨリ弱イ者ヲ優先シテ守ル傾向アリ。
アノ少女ニ攻撃ヲ加エタ場合、何ラカノ変化ガ起コル可能性、80ぱーせんと)


ジンガ―は、狙いをターニアに向けて矢を引く。

1228 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:35:32 ID:ghEfv5qg0

(!?)
チャモロは、矢が明らかに自分より高く飛んで行ったことを怪しく思う。
人間の敵であるならまだしも、機械兵であるキラーマジンガが、そんなミスをすること自体おかしい。

(!!?)

急にサフィールが声を上げ、加速する。

前方に異変があるのかと、ようやくチャモロも異変に気が付く。
そこにいたのは、レックが誰よりも大切にしていた少女。
もはや手遅れだった。

ジンガーは、チャモロ達を外したのではなく、誰よりも正確に、ターニアを狙ったのだ。

ターニアは慌てて杖を振る。
再び人ほどの高さがある砂柱が立ち、矢は砂に埋もれる。

そのままターニアは逃走方向を変え、南へ逃げる。

しかし、砂柱の杖の延長線上にいたサフィールとチャモロは、ただでは済まない。

だが、ジンガーは機械である以上、多少の地形の変化など無視して二人に迫りくる。


「!!」
「ターニアさん!!!なぜ!?」

二人は砂煙の中で戸惑う。

キラーパンサーの跳躍力を生かして、どうにか砂煙の中から抜け出す。
そのままターニアを追いかけようとする。

しかし、そこにジンガーが狙いを定めていた。

次の矢は、ターニアに向かっていったサフィールの脚に向けて、放たれる。
いくら速く走っていても、攻撃をガードする者もおらず、進む方向も認識できれば、当てるのは容易だ。


一本の矢が、確実にサフィールの前脚を貫く。

そのままバランスを崩して空中でチャモロは振り落とされる。

「ぐうっ!!」
胸を打ったが、その痛みを気にしている暇はない。

サフィールがもう走れないのではないか。
その心配をしている暇もない。

「トドメダ。」

ジンガーはメガトンハンマーを振りかぶる。

1229 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:35:56 ID:ghEfv5qg0
(僕は……結局、何も出来ませんでした………何も……)

元居た世界にいた仲間も、この世界で出会った仲間も、誰も助けることが出来ず、チャモロの心を絶望が覆う。


ブンとハンマーが振り下ろされる音が聞こえる。
このまま、チャモロの体はぐちゃぐちゃになる。
チャモロ自身もそう思っていた。




「ヒューザ、技、借りるぜ。ランド・インパクト!!」

突然すぐ近くに轟音が響き、キラーマジンガが吹き飛ばされる。


「あなたは……」

かつてライアンが言っていた「頼りになる」人物。
サフィールも、ブライもトラペッタでやってくるのを待ちわびていた人物。


「そう期待する目で見るんじゃねえ。オレはただ、借りを返すだけだよ。」

名簿に描いてある通り、ドワーフの姿をしていた男は、そう答えた。

「ケガしてるよ!!大丈夫!?」

ホイミンが、遅れてやってくる。

「僕は大丈夫です。それよりも向こうのサフィールさんを!!」


チャモロに言われた通り、ホイミンは向こうで蹲っているサフィールの治療へと向かう。

ちょうど変身が解け、元の姿に戻っていた。


「新タニ敵、発見。コウゲキカイシ。」

ジンガーは獲物を狩る邪魔をした、ジャンボをターゲットにする。
距離からは、ハンマーと剣でも十分届く距離。

そう判断したジンガーは矢を使わず、剣と槌でジャンボを襲った。

だが、その二重攻撃は、ジャンボの天使の鉄槌一つで止められる。

1230 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:37:05 ID:ghEfv5qg0
「予想外ノ事態発生。通常ノ威力ト比ベテ、20ぱーせんと減少。」

「へっ、こんなもんよ。」
いつの間にやらジャンボは辺りに磁界シールドを敷き、ジンガーの攻撃を弱めた。


「あーあ。マジでふざけんなよ。どいつもこいつもよぉ。」

死ぬ原因になった人に救世主呼ばわりされて
ついさっきまで殺そうと思っていた人にこんな形で出会う。


ドワーフの姿が嫌で、ようやく自分の姿に愛着がわいてきた時に、人間に戻れる選択肢が与えられることも、
遠い場所への遠征に慣れてきた頃に、移動手段が多く供給されることだってそうだ。
本当に、たまったものじゃない。


「けどな、あがき続けてやるよ!!折角貰った命だからな!!」

だからと言って、ヒューザが、フォズが託してくれた道を無下に扱うわけにはいかない。

あいつらの借りを返すためにも、自分のやるべきことはここにいる全員を守ることだ。

(敵ノ張ッタ魔方陣ニぱわーだうんノ仕掛ケガアル可能性、85ぱーせんと)
ジンガーはグランドインパクトを放とうと、ハンマーを振りかぶる。

「そう来るよな。」
しかし、ジャンボはその行動を読んでキャンセルショットを撃つ。
ハンマーに溜められていたエネルギーは霧散し、技は不発に終わる。


今のジャンボは、道具使い。
元々機械や物質で作られた魔物のクセや弱点を見慣れている上に、キラーマジンガとは何度も戦った経験がある。

闘牛士が猛牛をいなすかのようにジンガーの攻撃をいなしながら、チャモロに声をかける。



「おい!!そこで寝っ転がってるヤツ!!チャモロ……だよな!?
寝ている暇があったら、後ろの二人を守ってろ!!
早くコイツを倒して、あの子を助けに行くんだよ!!」

今は優勢だが、相手は魔法の迷宮でも名の知れた魔物の一匹。
油断は禁物である。

本当は誰かをターニア捜索に使いたいのだが、ホイミン一人では心もとないし、サフィールは脚を怪我している。


そのため、先にこの魔物を倒して、ターニアを助けに行く選択肢を選んだ。

1231 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:37:24 ID:ghEfv5qg0

ジンガーがドラゴン斬りで、ジャンボを切り裂こうとする。

(ドラゴン斬りだあ!?何か剣が折れてるし、オレが知ってるキラーマジンガとは、違うようだな……)

ジャンボの知ってるパターンとは異なるキラーマジンガの攻撃に驚く。
天使の鉄槌で受け止めるが、右手に小さな切り傷が走った。


続いて、第二撃、ハンマーが襲い来る。
しかしハンマー攻撃は、かまいたちの風圧で邪魔をされた。


(そうだ……僕も、まだ終わってないんだ……!!)

まだこの場には戦っている人もいる。
サフィールもいる。
レックだって、ブライさんだって、ゴーレムだって、今もきっとどこかで足掻いている。

自分だけ死んでもないのに、諦めるわけにはいかない。
どうにかしてこの魔物を仲間にし、ターニアを助けに行かなければ。

痛む片腕を押さえ、チャモロもまた立ち上がる。



「全員あべる様ノ脅威ニナル敵ト判断。殲滅活動ヲ続行」


「誰かに従ってるヤツか……望むところだぜ。来いよ。」


「ジャンボさん!!その魔物を殺さないで!!仲間にしてください!!」
「はあ!?」


チャモロの言葉にジャンボは戸惑う。

「無理だ!!」
「僕もそのモンスターを仲間にしたことはありません!!でも成功すれば……。」
「違うんだよ!!不可能ってのは、既に別のマスターに従っている魔物を仲間にすることなんだ!!」

ジンガーの攻撃をいなしながらも、ジャンボは剣幕で怒鳴る。


仲間に出来るモンスターは、魔王や他の人間のマスターに忠誠を誓っていない者だけ。
チャモロも、言われるまで気づかなかったが、それは納得できた。

1232 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:37:47 ID:ghEfv5qg0

ジンガーは体を大きく回転させて薙ぎ払おうとする。
しかしジャンボは回転の動作を見切って、攻撃範囲外に逃げる。

そこから武器をナイトスナイパーに持ち替え、天使の矢を放つ。
ジンガーは再び迫りくるが、その間を利用して再びハンマーを使い、回復したMPでスタンショットを撃つ。
決定打こそ道具使いであるがゆえに中々与えられないが、少しづつジンガーを追い詰めている。


しかし、チャモロとしては破壊したくはない。
今ジンガーは、ジャンボに掛かりきりになっている。


どうにか代替案がないかと頭を捻らせていた所に、後ろにいつの間にか紫のターバンの男が立っていた。



(異常事態。何ヲシテイル…個体B……)

ジャンボに行動を悉く読まれ、またしても膠着状態に追い込まれたジンガー。
個体Bも何を手間取っているのかやってこない。


「戦いを止めるのです!!」

「あ……あべる様!?」
ジンガーのアイセンサーが、半日以上会ってない主人、アベルの姿を捕らえた。


予想外の状態にこの場で敵味方問わず驚く。
その中で驚いていない者が一匹だけいた。


「大丈夫かな……」
ホイミンがそれを不安そうに見つめる。

自分のホイミで傷を最低限治してもらった後、サフィールはすぐに変化の杖で、アベルに姿を変えたのだ。

「命令です。その者達は敵ではありません!!」

キラーマジンガは戦いをやめて、「マスター」の下へ近づく。

(アベル様との整合性100ぱーせんと。問題ナシ。)

「キラーマジンガ。これからは私達と……。」

急にキラーマジンガは武器をサフィールに構える。
「ナゼ……名前ヲ呼ンデ下サラナイ……?」

1233 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:38:06 ID:ghEfv5qg0
(しまった!!)
父親が魔物を仲間にするとき、必ず名前を付ける。
そういえばリーザス村で襲ってきたアレフが、キラーマジンガをジンガーと呼んでいた。

即興の案で作った作戦だったから、肝心なところが抜けていた。

「貴様、あべる様ヲ騙ッタ、偽物ダナ。」

「「間に合ええええ!!」」

ジャンボとチャモロが異口同音に声を荒げ、サフィールに攻撃が届く前に、ジンガーに攻撃を仕掛けた。


チャモロの正拳突きと、ジャンボのキャンセルシショットがジンガーの頭に同時に命中する。


ジンガーは大きく吹っ飛ぶ。

「キサマラ!!ヨクモあべる様ヲ侮辱シタナ!!」
ジンガーは再び怒り、襲ってくる。


「キレやがってよお。ちょっとは落ち着きな。ロストブレイク!!」
しかしその怒りは1度目とは異なり、解除方法を知っている者がいたため、容易に鎮められる。

その隙を見逃さず、チャモロが二度目のジゴスパークを纏った正拳突きをジンガーに打ち込んだ。

再びジンガーは電気を内側から浴び、大破する。

二度目の友達大作戦も失敗に終わってしまった。



その姿をサフィールが何も言わずに見つめている。

「チッ、結局壊してしまったのかよ……まあいい。早くターニアを助けに行くぞ!!」

すぐに走り出そうとするジャンボを、チャモロが止める。

「待って下さい!!多分もう一体います!!」


「なるほど。おかしいと思ったぜ。」
突拍子もない発言とは裏腹に、ジャンボは妙に落ち着いていた。

「どういうことですか?」

「オレが戦ったキラーマジンガってのは、普通二体いてな、一体が壊れたらもう一体が復活させるんだ。」

そう言われてチャモロは納得が行った。

「そうだったのですか……さっき突然現れたのは……。」

1234 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:38:30 ID:ghEfv5qg0


「なあ、チャモロ。今、「さっき突然現れた」って言ってたよな!!」
「は、はい。」

意図の分からない質問にチャモロは答える。

「もう一度聞くぜ。「そいつ」がマスターと一緒にいた時はあったか?」
「い、いえ……見たことはないです。」

チャモロは意図の分からない質問に答え続ける。

「ひょっとしたらそいつは、まだ誰のモンスターになっていないのかもしれねえ。勧誘してみる価値はあるぜ!!
それからチャモロはそろそろターニアを追いかけてくれ!!知り合いなんだよな!?」
「はい!!でも、街の方にブライさんって人が……」

「チャモロさん!!ブライさんやゴーレムさんのことは私達に任せてください!!」

サフィールはジャンボと共にトラペッタへ向かおうとする。
二体目のキラーマジンガには呪文は通じるし、ゴーレムとの付き合いは彼女が一番長いから、順当と言えば順当だろう。

脚のケガも、ホイミンの力で治った。


なぜこの男が自分を知っているのかという疑問をよそに、チャモロはターニアを追いかけていく。
片腕を思うように動かせないが、ジャンボにかけてもらったピオリムのおかげで、その足は速い。


「オレ達も行くぞ。向こうでまだ人が戦ってるんだろ?」
「はい!!」

ジャンボはトラペッタの方に向かう。
二体目のキラーマジンガと戦っている最中に、一体目を復活させられたら厄介なこと極まりない。
闘う場所は移動しておいた方がよいだろう。

「ジャンボさん……」
ホイミンはまだ、ジャンボの人間性は信用出来てなかった。
だが、この人物の能力は信用できると確信した。


自分の目的。それは「みんな友達大作戦」を成功すること。
そのために、協力する相手の選り好みなんて出来ない。
走っていくジャンボの後を追う。

1235 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:39:32 ID:ghEfv5qg0
丁度トラペッタの方から、もう一体のキラーマジンガがやって来た。



身体に付いているのは人の血、それにゴーレムの身体の破片。

ブライとゴーレムが、どうなったのかサフィールも察する。

しかしジャンボの眼には希望の光が浮かんでいた。


「見せてやるぜ。ドワーフの心髄ってヤツをな」
ジャンボは死んだ旧友の形見を握り締め、キラーマジンガBに立ち向かっていく。

【F-3/街道 /2日目黎明】

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP7/10 MP1/6 左腕骨折(応急処置済み) ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)(加速状態)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:諦めない。ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める ジャンボのサポートをする その後ターニアを助けに行く。
※チャモロはローラが死んだと思っています。
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。また、はぐれメタルの職業を少なくともLv7まで経験しています。魔法使い、魔法戦士、賢者、勇者は経験していません。

【F-3/平原/2日目黎明】


【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP:9/10 MP 2/5 左足矢傷(応急処置済み)
[装備]:ドラゴンの杖
[道具]:支給品一式×3、へんげの杖、ショットガン、999999ゴールド
[思考]:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
おとうさんを見つけて止める
みんな友達大作戦を手伝う

【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:HP7/8 MP2/5
[装備]:ナイトスナイパー@DQ8
[道具]:支給品一式、道具0〜4 四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1(ゲレゲレの支給品)支給品0〜1(ヒューザの支給品) 天使の鉄槌@DQ10 名刀・斬鉄丸@DQS 悪魔の爪@DQ5 天空の剣、罠抜けの指輪 罠の巻物×2 ドラゴンローブ  砂柱の魔方陣×1
[思考]:
基本方針:エビルプリーストに借りを返す。
1:キラーマジンガBを仲間にする
2:ターニアを見つける
3:首輪解除を試みる

[備考]:※職業はどうぐ使いです。弓スキルは150です。ハンマースキルは100以上です。

【ホイミン@DQ4】
[状態]:健康 MP1/8 仲間死亡によるショック
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個 ヒューザのメモ(首輪解除の手掛かりが書いています)
[思考]:ジャンボ手伝う 『みんな友達大作戦』を成功させる ヒューザがくれた手掛かりを守る。

1236 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:40:24 ID:ghEfv5qg0
【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:仮死状態(リモートペアで復活できます)
[装備]:折れた灼熱剣エンマ@DQS メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:アベルを探す、邪魔する者は破壊する。
[備考]:サフィール達に疑問を抱いています。

【キラーマジンガB@DQ10】
[状態]:HP5/8
[装備]:聖王のつるぎ@DQ10 聖王のハンマー@DQ10 壊れた聖王の弓@DQ10 アクセルギア@DQ10
[道具]:支給品一式×3、魔封じの杖、道具0〜2個(ブライの不明支給品)、道具0〜2個(ゴーレムの不明支給品)
[思考]:ジンガーと同じことをする。
[備考]:DQ10のキラーマジンガの特技を使いこなします。
アベルと出会う前のジンガーのように、命令がインプットされていない状態です。
命令する者が現れるまでは、ジンガーの行動をトレースします。


【F-4/平原/2日目 深夜】


【ターニア@DQ6】
[状態]:健康 恐怖
[装備]:無し
[道具]:支給品一式(ランタン無し)、愛のマカロン×6 砂柱の杖@トルネコ3 道具0〜1
[思考]:基本方針:お兄ちゃんと合流したい。
首輪を解除してくれる者を探す 
周りに流されず、自分で行動する

1237 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:40:37 ID:ghEfv5qg0
投下終了しました。

1238ただ一匹の名無しだ:2019/02/18(月) 18:18:54 ID:AmCZj6HY0
投下乙です
ジンガーなんか一つの生物になってきてるような気がするな

1239ただ一匹の名無しだ:2019/02/18(月) 18:37:48 ID:pZMcc3Jg0
投下乙です
ジンガーほんとアベル大好きだなあ
相棒の離脱フラグが立つ中、どうなるか
ジャンボはまともに味方やってくれると頼りになるな
久しぶりに一話目のジャンボを見たような感じ

1240 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/19(火) 00:54:33 ID:zqO9UgL20
すいませんタイトル忘れてました。「それぞれの戦い方」です。

1241 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/20(水) 19:42:41 ID:KMz.2j5M0
「それぞれの戦い方」の訂正

ジャンボがジンガーに打った技、「ロストブレイク」→「ロストアタック」
状態表のターニアの時間帯「深夜」→「黎明」

「星空を継ぐ者」、「かの恐怖、再臨す」、「それぞれの戦い方」のWiki編集のついでに訂正しておきました。

1242ただ一匹の名無しだ:2019/02/25(月) 17:12:34 ID:xSslXn2g0
>>589
あばよ同類

1243 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/07(木) 12:26:08 ID:xIgJwNtM0
修正報告
「星空を継ぐ者」のポーラの持ち物に「割れたラーの鏡」を書き忘れていたので訂正しました

1244 ◆qpOCzvb0ck:2019/03/15(金) 11:21:35 ID:2PVX0PQ20
投下します。

1245 ◆qpOCzvb0ck:2019/03/15(金) 11:22:03 ID:2PVX0PQ20
今一度状況を確認しよう。

つい先刻まで有象無象が集まっていたこの場所だが、今は自分を合わせて5人しかいない。

ほとんどがこの地を去ったか、戦いの果てに死んでしまった。



そして、つい先ほどジャンボとホイミン、二人が遠くへ行った。

それをアンルシアがぼんやりと眺めている。

残りは、自分も入れて3人。
加えて一人はなおも気絶している。


そして、目的の道具が目の前にある。

結論を言うと、今がロザリーのもとに帰る、千載一遇のチャンスと言える。


今一度周りを確認する。
誰も自分の動きには注目していない。

ゆっくりと、ゆっくりとティアのザックに手を伸ばす。
おわかれのつばさは、何の苦労もなく、自分の手に収まった……はずだった。
だが、どういう訳か出来ない。

なぜだ。
手が震える。
目の前にある翼を持つことが出来ない。

人の物を無断で取る罪の意識か?
いや、ちがう。
そんなものを感じた覚えはないし、人間のことなどどうでもよかったはずだ。

そうだ。
今、目の前にいる、虚ろな目をしたアンルシアと言う名の少女。

自分が長い間信じてやってきたことが、間違いだったと気づいた時の目。
まるで、あの時のユーリルの目だ。

そして、もう一つ気になること。
ヤンガスが兄貴と言っていた男、エイトを刺した剣。

使い手自身は、どう見ても普通の少女だ。
だが、そうならば混戦状態の中とはいえ、エイトを刺すことが出来る辻褄が合わない。
だとするとこの剣が、特別な力を持っているということになる。
例えば、ユーリルの天空の剣のような。

1246どうにも踏み出せなくて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/15(金) 11:22:36 ID:2PVX0PQ20
その案が正しいとなると、この少女も勇者と言うことになるのか?

そして、自分はこの二人の少女をユーリルと重ね、同情しているというのか?

いや、その考えはおかしい。
ユーリルの時も、奴への同情より人間への怒りの方が強かったはず。

疑問は深まるばかり。
とりあえず、この場所は危険だ。
ティアからおわかれのつばさを奪うにしろ、奪わないにしろ、こんな場所にとどまり続けるのは危険だ。
先程の騒動で、新たな敵がやってくる可能性もある。


「我々は城に戻る。二人共大丈夫だな。」

「…………。」

「ヤンガスの話によると、城には月の世界へ行ける窓があるらしい。脱出の手がかりもあるかもしれん。」

本当にこの状況の打破を望んでいるのは、自分かもしれない。
アンルシアは黙ってティアを抱え、ピサロについていく。

なぜティアからおわかれのつばさを取ることが出来ない?
時間が過ぎれば過ぎるほど、ロザリーに危機が迫る可能性が高い。

いくらこの二人にユーリルと通ずる所があるからといって、ロザリーより優先順位を上にする義理はない。

ピサロがそう考え続けていたところで、3度目の放送が流れた。



――――――「まずは禁止エリアの………」

どの道脱出するのだからどうでもい……はずだがその場所をメモしてしまう。
まるでまだこの世界でやることが残されているかのように。

アンルシアはジャンボが走って行った方をじっと眺めている。なおも変わらないままだ。

―――――「続いて、この地で死者の仲間入りになった………」

私にとって、生死が気になるのはこの戦いに参加した者ではない。


この鳥籠の外にいるロザリーだ。
ただの煩いノイズだ。

その中で、一人の名前が読み上げられた時、ふいにティアが目を覚ました。

「お兄ちゃん!?」

ティアが突然目を覚ました。

1247どうにも踏み出せなくて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/15(金) 11:24:02 ID:2PVX0PQ20
全くもって考えてなかった。
この少女の兄が呼ばれたとは。


「ティアちゃん!?」
アンルシアも意識を向け始めた。

「お兄ちゃん……どうして……なの?」

兄を失って、予想通りと言えばそうだが、ティアは錯乱状態だ。
アンルシアの背中の上で暴れ始める。

「落ち着け!!小娘!!」
ピサロとアンルシアの声も聞かずに、ティアは泣き始める。


どうにかアンルシアがティアをなだめるも、どちらも精神的に極めて不安定な状態だ。

こんな時に別の敵からの襲撃が来れば、大変なことになる。
どさくさに紛れておわかれのつばさのみを持ち逃げするというやり方もあるが。



城が見えてきた。

(……!?)

だが、その城からは何とも邪悪な気配が伝わってくる。

元々ヤンガスの話によると、あの城はかつて呪われた時の姿になっていたという。
だが、そんなものではない。
昼間とは全く気配が違う。


他の二人は気付いていない。

一つはかつての自分の部下、ヘルバトラー……のようだが圧迫感が全く違う。
もう一つ、さらに城に近づいてくる邪悪なオーラを感じる。


城は今でも安全だとばかり思っていたが、そうでないことがすぐに伝わった。

月影の窓を見つけるどころか、以前現れたという場所である図書館に行くことさえ難しい可能性が高い。

だが、どうすればいい?
城が安全じゃないなら、他の場所が安全だということにはつながらない。

1248どうにも踏み出せなくて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/15(金) 11:24:18 ID:2PVX0PQ20

「止まれ!!」
城へ向かおうとしている二人に警告をする。

「城から邪悪な気配を感じる。しかも、二つもだ。」


「え!?」
アンルシアが慌て始める。


更に、城の中から、巨大な竜巻が巻き起こる。
バギクロスよりはるかに巨大なサイズだ。

ここにいてもいつ敵に感づかれるか分からない。

しかもタイミングの悪いことに、ティアが泣き始めた。
「おにいちゃん!!たすけてぇ!!どこにいるの!?おにいちゃぁん!!」

「静かにしろ!!キサマの兄は死んだ!!」

言ってすぐに、自分の行動を後悔した。

「おにいちゃんはどこぉ!?おにいちゃんが……しんじゃうはずがない………。」

子供をあやしたことなんて、一度もない。
どうにもできない状況で、予想外な周りの状況の変化に頭が回らない。

厄介な事態はさらに続く。


「そうだ!!お城にかえれば、おにいちゃんも、みんないるはずだよ!!」

ティアが自分のザックを探り始めた。

「待って!!ティア!!」

アンルシアがそれを止めようとする。
全く持ってこれは予想外だった。

てっきりティアがおわかれのつばさの使い道を知らずに、ザックに仕舞っていたのだとばかり思っていた。
だが、既に知っていたとは。

大方、仲間と共に使いたいとか、人間特有のくだらない理由で使わなかったのだろうが、今更理由などはどうでもよい。

おわかれのつばさどころではない。
早くこの場から離れないと十中八九面倒なことになる。

咄嗟にラリホーマを唱え、ティアを眠らせる。

「………ティアを止めてくれて、ありがとうございます。」
「構わん。」

1249どうにも踏み出せなくて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/15(金) 11:24:37 ID:2PVX0PQ20
今のは、ティアのためではなく、勝手におわかれのつばさを使わせないため。
しかし、危ない所だった。

もしおわかれのつばさを奪っていたら、ティアに気付かれるところだった。
仮にそれがまごうことなき脱出用の道具だとしても、すぐに効果が発揮される道具なのか分からない。

辞典とは痒い所に手が届くようで届かないものだ。
しかし、問題はこの先のこと。


ヤンガスが死んでしまい、エイトも行方知らず。
月影の窓のことを詳しく知る者が今周りにいない。
加えて、その手掛かりとなる場所には敵がいる。


自分一人ならともかく、足手纏いになっている少女二人を抱えて、正体も分からない敵を倒すのは難しい。

戦いに紛れて、おわかれのつばさを失う可能性もある。


加えてティアもいつまで抑えられるか心配だ。
ラリホーやメダパニといった、神経に作用する呪文は何度もかけ続けていると、やがて耐性が身に付く。


月影の窓の手がかりか、自分の身。
あるいは、おわかれのつばさのどれかの安全を棄てることになる。

ここでピサロは、月影の窓を棄てる選択に出た。
ヤンガスの話も今一つ信用が出来なかったことに加えて、今の状況で敵陣に飛び込むにはコンディションが悪すぎるからだ。

ひとまず情緒不安定の小娘二人を安全な場所に置いてから、行動を映した方がよいだろう。

地図を見てみると、南の教会がベターだ。
ティアを寝かせるためのベッドもあるかもしれない。

「方向を変えろ。あの場所は危険だ。南へ向かう。」

アンルシアは黙って頷く。
にげる。いざという時に必要なことだと、アンルシアがジャンボから教わった言葉。
あの時こそ、ジャンボの考えには反対したが、今の自分は力がない。

ピサロは逃げる。
自分の行動に対して疑問を抱きながら。


アンルシアは逃げる。
隣の男が何を考えているのかも知らずに。

1250どうにも踏み出せなくて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/15(金) 11:25:14 ID:2PVX0PQ20
【D-4/トロデーン地方 草原/2日目 深夜】

【ピサロ@DQ4】
[状態]:健康 焦り アンルシアとティアに疑問
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 『世界道具百科辞典』 『勇者死すべし』 大魔道の手紙
[思考]:トロデーン南の教会に避難する
エビルプリーストをこの手で葬り去る
ロザリーの安否を確認する。
1:ロザリーはどうなった……?
※ジバ系呪文を実際に見せてもらいました。
※エビルプリーストの背後に黒幕がいることを、手紙によってほぼ確信しました。
現状ではラプソーンが怪しいと考えています
※首輪の仕組み、機能を知りました


【勇者姫アンルシア@DQ10】
[状態]:健康 MP1/8 情緒不安定 自信喪失
[装備]:戦姫のレイピア@DQ10
[道具]:支給品一式 とつげき丸@DQ10 不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:トロデーン城から逃げる
トロデーン南の教会へ向かう
ティアを守る
最後まで戦う
彼に会いたい
彼を守りたい
彼の隣に居たい

[備考]:全てのスキルポイントが一時的に0になっています。それに伴い、戦闘力の低下とギガデイン・ベホマラー等の呪文が使えなくなっています。

【ティア@DQ2(サマルトリアの王女)】
[状態]:健康  睡眠状態
[装備]:ロトの剣 氷柱の杖(残5)@トルネコ3 ようせいのくつ@DQ9 
[道具]:支給品一式 脱いだ靴 パーティードレス@DQ7
[思考]:恐怖
※第二放送の内容を聞いてません。

1251どうにも踏み出せなくて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/15(金) 11:26:49 ID:2PVX0PQ20
投下終了です。内容に前回の仮投下スレのような無理矢理な部分はないはずです。
それ以外に何か無理な部分がありましたらご意見を。

1252ただ一匹の名無しだ:2019/03/15(金) 23:14:25 ID:bzyKWqVc0
投下乙です

ティアは先の話で一気に不安定になったなあ…
ピサロとアンルシアもますます雲行きが怪しい感じになってきたなあ…

1253救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:03:46 ID:s1N3sclc0
投下します。

1254救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:04:08 ID:s1N3sclc0
ヘルバトラーの頃の自分を打ち倒したアスナの姿を見つけた魔英雄は、ふてぶてしさなど残っていないどこまでも醜悪な笑みを浮かべている。
獲物を狙う蛇の目。
3対1のこの状況においても危機感を覚えている様子などは一切見受けられない。

「お前ら、気をつけろ!コイツの斬撃は呪文そのものだ!ヘルバトラーが体内から操ってて剣と呪文を同時に撃ってくるんだ!」

アスナとフアナの回復呪文を受けながら、コニファーが見破った情報を簡潔にアスナとフアナに説明する。

「わ、私だって!右手で絵を描きながら左手で字を書けますよ!」

「ヘルバトラー……私が、ちゃんと倒してれば……」

仲間というのは頼もしいものだ。先程まであれだけ絶望的な状況で、今もなお相手に戦局は傾いているままであるというのに、そこに仲間が居てくれるだけでどんな強敵でも打ち倒せるような気がしてくる。

「よし……行くぞお前ら!俺たちは負けねえ!」

「救いを受け入れぬ…か。いいだろう!」

ザンクローネが剣に呪文を纏う。再び先程の竜巻を起こして一網打尽にするつもりだ。

「させるかよ!」

竜巻を作る時間を稼がせないよう、コニファーが敵に向かって駆け出す。その後に続きアスナもフアナも走る。
射手のコニファーが最前列に立っていることに疑問を覚えながらも、真空斬りでコニファーを狙う。

1255救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:04:44 ID:s1N3sclc0
「守りの霧!」

飛ばされた風の刃はコニファーにも、後続の2人にも届くことなく消え去る。
そしてコニファーは立ち止まり、矢を放つ。ザンクローネは太刀で矢を弾し、さらに左腕に激しい炎を纏わせて接近するアスナに熱波を飛ばす。

「させません!フバーハ!」

超高温の気体がアスナの身体を包み込むも、フアナの呪文によってそのダメージの大部分は防がれる。
そのままザンクローネの眼前に辿り着いたアスナが剣を振るうも、ザンクローネは難なく太刀で弾き返す。
弾き返され着地したアスナに向けて、ザンクローネの左の掌が向けられる。そのまま魔女の呪文による攻撃を行うつもりだ。

しかしそれを見越したコニファーが掌に向けて矢を放ち、呪文の発動を阻止する。
攻撃を防がれてザンクローネに向けて、フアナが胸に蹴りを入れようと走り込む。
慌ててザンクローネは胸部を防御し、フアナの蹴りはザンクローネの腕を蹴飛ばすのみに留まり、振り払われてしまった。

(やっぱり弱点は心臓か…)

女僧侶のただの蹴りなど、魔英雄の再生力をもってすれば躱すまでも防御するまでもない一撃。それをわざわざ腕で受け止める必要があったのは、先ほど一瞬正気に戻ったザンクローネな言っていた通り心臓が弱点で、心臓に衝撃を与えるのを少しでも防ぐためなのだろうとコニファーは推察する。

「アスナ、フアナ。心臓を狙え。それがアイツの弱点だ」

「は、はい!」

「分かりました!」

そう、これが仲間の頼もしさだ。
それぞれが役割を持って戦うからこそ、安心して自分の役割に専念できる。
そして自分は偵察役として先立って敵と戦っており、2人よりも多くの敵の情報を掴んでいるのだ。
頭より先に体が動くタイプの2人を的確に導けるのは自分しかいない。

1256救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:05:26 ID:s1N3sclc0
「攻め込むぜ……オオカミアタック!」

アスナの剣による強撃や雷呪文。そういった大ダメージを心臓にぶつけ、再生する暇もないように即死させるという方針を定める。
そのために、囮となる弾数を増やせる特技で狙い撃つ。
2匹のオオカミが2つの弧を描き、ザンクローネに飛びかかった。

「霧散しろ!」

太刀をぶん回し、イオナズンを斬撃として撃ち出されてオオカミたちは消し飛ばされた。
辺り一面に爆発が巻き起こり、爆風がトロデーン城の庭を包み込んだ。

「バギ!」

爆風をフアナは真空呪文で払い飛ばす。そうして開けた活路を突っ切ったアスナが斬り掛かる。

「ぐ……!!」

アスナの斬撃は逸れて躱そうとしたザンクローネの心臓を貫くことこそなかったものの、横腹に深い傷を残す。
その隙を逃すことなく、コニファーが追撃のさみだれ撃ちを放つ。
アスナと距離を取ろうとしたザンクローネを妨害するように、移動先を見越して心臓を狙う4本の矢がザンクローネの移動を封じる。

アスナが距離を詰め、今度こそ心臓に向けて刺突を繰り出した。

「おのれ……極氷フリーズブレード!」

しかしザンクローネもやられっぱなしではない。
右手で持った太刀を天に向けて突き上げ、魔女の氷呪文をザンクローネの両手剣の特技に載せた大技で、辺りに氷のフィールドを作り上げアスナの接近を妨害する。

「いいえ、まだです!天なる雷よ!悪を討て!!」

「勇者の雷など……消し去ってくれる!!地獄の雷撃よ!我に宿れ!!」

接近を封じられ、呪文による攻撃を試みるアスナにそれを見抜いたザンクローネ。両者がほぼ同時に詠唱を終える。
しかし、それよりも先に―――

「悪しき者よ、沈黙せよ――マホトーン!!」
「なっ……!」

――詠唱を終えていたフアナがザンクローネの呪文を封じ込めた。

1257救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:06:12 ID:s1N3sclc0
「いっけえええ!!ギガデイーーーン!!」

アスナの放った雷が真っ直ぐにザンクローネに伸び、その胸に直撃する。

「ぎああああああ!!!」

ザンクローネのものとも、魔物のものとも、魔女のものとも分からない悲鳴がこだまする。
土埃が舞い上がり、煙まで立ち昇っていて姿はハッキリと見えないが、あの威力の雷を心臓に受けて生きているはずはないだろう。

「はぁ……はぁ……やりました……」

「さっすがアスナです!第2回アリアハン未来予想大会優勝の私にはこのビジョンが見えていましたよ!」

「うっし……誰も……死んでねえな?」

誰もが勝利を喜んでいたその瞬間――――



―――クククッ!勇者の雷、その程度か……

「「「なっ!!」」」

魔英雄ザンクローネの言葉が響き渡り、そしてその次の瞬間、空から"何か"が降り注いだ。

突然の攻撃を受けてコニファーは吹き飛ばされる。隣ではフアナも同じように攻撃を受けていた。

(馬鹿な……あんなのまるで………)

土埃や煙が消え、ようやく見えたザンクローネの姿。
その身体には、真っ黒な羽根が生えていた。魔女グレイツェルの魔力を発現させて羽根を生やし、身を包むことで先程のギガデインから心臓を守ったのだ。

(「堕天使」じゃ…ねえか…!!)

ザンクローネは倒れたコニファーたちに向けて追撃をぶつけるため、攻撃の姿勢を取る。

しかし、アスナが立ち塞がる。不意をついてコニファーとフアナを吹き飛ばした「フェザースコール」を、アスナだけはオーガシールドで防いでいたのだ。

「やはり……貴様と俺は戦う運命なのだろうな、勇者よ」

「フアナも、コニファーさんも、まもる。そう誓った……だから……手出しは、させない!!」

1258救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:06:50 ID:s1N3sclc0
次の瞬間、弾かれたようにアスナはザンクローネの眼前に飛び込み、オーガシールドを胸に叩きつける。

「ぐ………!」

剣を振りかぶるという動作すら必要としない最速の攻撃に怯むザンクローネと対照的に、アスナは今度こそ剣を引いて追撃の準備をする。

ざくり。
鋭い音がするも、ザンクローネの心臓には届かない。
太刀での防御は咄嗟に出来ないため、左手でアスナの刺突を受けていた。
ザンクローネは背中の羽根を羽ばたかせながら後方へバックし、一旦距離を置こうと試みる。しかし羽根が起こす風圧をものともせず、アスナが再び飛び込んでいく。

アスナは時々、危機的な状況で爆発的な戦闘能力の増加を見せることがあった。
しかし大きな問題がひとつ。
これまでアスナは極度の緊張のせいでその力を制御することが出来なかった。

しかし今のアスナは、仲間を守ることしか考えていない。
引っ込み思案という性格ゆえに抱く、他者に真っ向から立ち向かうことへの恐怖や緊張、そういったものをすっかり忘れている。

よってアスナの爆発的な能力上昇――別の世界では"ゾーン突入"とも呼ばれている現象――を100%コントロールすることが出来ているのである。

1259救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:07:24 ID:s1N3sclc0

「ぐ……痛え………」

フェザースコールを受け、地面に這いつくばることとなったコニファーは何とか起き上がる。
少し離れたところにはフアナも倒れている。
結構な隙を晒したはずだが、アスナが戦ってくれているため敵の追撃が飛んでくることはなかったらしい。

「おいフアナ、大丈夫か――――ん?」

フアナの方へ向かいながら、フアナの支給品袋から何かがはみ出ているのに気付く。

「これは……おい、フアナ!一体どこでこれを……いや、そんなこたぁどうでもいい」

「コニファーさん!それ知ってるんですか?せくしぃぎゃるの本じゃないですよ?」

フアナの怪我はコニファーよりも軽かったらしく、難なく起き上がった。

「これはパラディンの秘伝書って書物だ。俺の世界にあった道具なんだけどよ………最高だ。逆転の星、掴んだかもしれねえぜ」

「ってことは、コニファーさんはそれを使えるんですね!いっちょやっちゃってください!」

フアナの期待の目を横目にコニファーは首を横に振る。

「駄目だ、フアナ。お前がやるんだ」

「え………?私……ですか?」

「俺じゃあアイツを倒せねえ。この技は僧侶が撃つのがいちばん強えんだ」

輝く星雲を炸裂させて敵を撃つパラディンの奥義、グランドネビュラ。その力の源は癒しの魔力であるため、最も使いこなせるのは僧侶の職に就く者なのである。

フアナは言っていた。
回復呪文の制限されたこの世界において、僧侶は無力な存在だと。
しかしここでは、僧侶であっても――否、僧侶であるからこそ為せる役割がある。
フアナにとっても無力感を払拭する、またとない機会のはずだ。しかし――

1260救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:07:59 ID:s1N3sclc0
「――無理ですよ」

そんなフアナの口から弱い言葉が零れ落ちた。

「そんなの、私には出来ない……ですよ……」

「フア…ナ……?」

コニファーは驚き、フアナの眼を見つめる。

「コニファーさん、その本のこと知ってるんですよね?だったら……」

そしてふと、何かに気付いたようにコニファーは唇を噛んだ。

(そうか、フアナは………)

聖職者でありながら、誰よりも元気に戦場を駆け回っていたこの少女は。

守られてばかりの自分から変わりたいと言ったこの少女は。

みえっぱりで、いつも自分を大きく見せようとしていたこの少女は。

(本当は誰よりも、自分ってモンに自信がねえんだ……)

成功体験―――それだけがフアナが自分を肯定出来る材料であった。
それは時には権力者に化けた魔物から街を救ったことであったり、時には自前の技能を駆使して大会で功績を残したことだったりもした。

「…やっぱり私よりも、コニファーさんの方が向いてるんじゃ……」

だが、そんな鎧はここでは何の意味も成さなかったのだ。
かつて人々を癒し、仲間を救ってきた回復呪文は制限を受けてしまった。
かつて様々な功績を残してきた器用さだけでは到底敵を倒すことは出来なかった。

失敗の連続。
それがフアナに一抹の不安を植え付けてしまっているのだ。

1261救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:08:32 ID:s1N3sclc0
(くっ……)

ザンクローネの再生力を突破するには一瞬の最高火力を放つしかない。自分の放つグランドネビュラでは難しいだろう。
アークの繊細さとポーラの荒々しさを兼ね備えたかのようなアスナの剣技も敵を追い詰めは出来るかもしれないものの、あの圧倒的な再生力の前には突破力に欠ける。

(説得するしかない、か…)

緊張でガチガチになった状態では特技を放つことに集中出来ず、真価を発揮できない。まずはフアナの緊張を解くほかに敵を倒す手段はないのだ。

「フアナ、簡単な質問をするぜ。お前は何で僧侶になったんだ?」

「えっ…?」

どうして今?とでも言わんばかりにフアナが面食らった顔でコニファーの瞳を見つめた。
もちろんコニファーとて話をする時間は惜しい。
しかし、パラディンの秘伝書とて使いこなせるであろうフアナの実力と、あのザンクローネを相手にも時間をバッチリ稼いでくれるであろうアスナの実力を信じているからこそ、こうするのが最善手だと判断した。

「俺にはさ、惚れた女が居たんだ」

まだキョトンとしているフアナを横目に話を続ける。

「本当は自分が誰よりも冒険に行きたいくせに、冒険者たちのために酒場を開いてるような不器用な女さ。

冒険の中で彼女と同じ職業、盗賊を極めて、そして彼女の仕事を代わってやれるくらい冒険について分かった時、彼女を思うままの冒険に送り出してやりたかったんだ。……そいつが俺の冒険の始まりだった。

ま、途中でもっと強大な使命みたいなもん背負っちまったもんで、職業も変えて冒険の目的もだんだん変わっちまったんだけどよ。

俺が盗賊の職に就いた理由はこんなちっぽけな理由さ。
だけど世界に絶望するような出来事が起こっても、その始まりの記憶は俺を支えてくれた。

じゃあフアナ、お前が僧侶になった理由は何だ?」

1262救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:09:04 ID:s1N3sclc0
「私……は……」

(――隣の村が魔物に襲われたらしいわよ)

(――大変だ!子供が崖から落ちて、怪我を……!)

(――誰か、誰か助けてくれ!)

思い出す。
子供の頃の記憶。
やるせなさや無力感を噛み締めていたあの頃の自分を。

「そう、私は…………救い…たかったんです……苦しんでる人たちを……何も出来ないのが悔しくって……」

コニファーは黙って頷いた。
人の想いがとてつもない力になることを、彼は知っている。

「コニファーさんは、こんな私を信じられるんですか?ズーボーさんも、ゼシカさんも、サヴォオも、私は救えなかったんですよ…?」

「俺が信じてるのは、失敗したお前じゃねえ。成功したお前でもねえ。誰かを救いたい――そう言ったお前の想いを信じてる。そのためにひたむきに特訓し続けてきた、1人の僧侶のお前を信じてる」

言葉と共に、秘伝書をフアナに投げ渡す。

天使たちが星に変わったあの夜に、完全に途切れてしまった仲間の輪。
あの夜、自分のかける言葉によっては、アークの絶望も払い除けてもう一度やり直せていたのではないか――――そんな想いが、どこか心の中に燻っていたのだろうか。
この戦いとは関係無しに、何となくフアナには前を向いて欲しいと思った。

「そっか………私にもあったんだ。誰にも譲れない、私だけのものが………。コニファーさん、私……やってみます!」

何かから解き放たれたような気分で、フアナは秘伝書を開く。
今度こそ、仲間を守りたい。
今度こそ、誰かを救いたい。
胸にそれだけ、想いを宿して。

1263救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:09:39 ID:s1N3sclc0
何度も何度もぶつかり合う剣と太刀。勇者と英雄。本来であれば背を預け合う者同士であってもおかしくない2人がこの場では全力を以て殺し合っている。

「絶対に、まもる!」

片や、仲間を守るために。

「貴様には誰も救えない!」

片や、歪んだ救いをもたらすために。

「たああああああ!!」
「うおおおおおお!!」

両者ともに雄叫びを上げ、正面から剣と太刀が鍔競り合う。

鍔競り合いを制したのは英雄の側であった。
ザンクローネは鍔競り合うアスナを剣ごと振り払い、吹っ飛ばした。
元より、1人の人間の少女に対して3体の魔物やそれに近い存在の集合体が相手である。さらにはアスナは元々大怪我を負っており、ザンクローネはほとんど無傷であった。勝てないのが当然の相手。むしろこれだけ食い下がれたのは勇者アスナの実力が規格外であることを充分に示しているとさえ言える。

「焼き落せ――メラガイアー!」

アスナが飛ばされた先の大地を着弾点として、火球が天から地へと落とされる。

しかしアスナもまだ殺されるわけにはいかない。
身体が地面に落ちる瞬間、手で大地を思い切り叩き、それをバネに横に逸れて火球を躱す。

「ククク………俺を圧倒した、闘う者の眼をした時のお前でさえ今の俺には叶わない………失望したぞ、勇者よ」

「はあ…………はあ…………」

命こそ助かったものの、既にアスナの体力は限界に近い。
これ以上1人で戦えば、死んでしまうのは言うまでもない。

「待たせたな、アスナ!」

「ごめんなさい、遅くなりました!」

ただし、このまま1人で戦えばの話だ。彼女には信頼出来る仲間が居るのだ。

「そういえば私、この世界に来てからずっとあなたと戦ってるんですよ。だから……じゃないですけど、あなたは私が倒します」

「虫けらが何人増えたところで同じことだ!今度こそ地獄に送ってやろうぞ!」

1264救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:10:07 ID:s1N3sclc0
ザンクローネはイオナズンの呪文を太刀に纏う。全ての世界のヘルバトラーの可能性が集約した最大級の爆発呪文が込められた太刀が、3人に襲い掛かる。

(アーク。俺は新しい仲間たちを守りたい。だから……手を貸してくれ。この一撃に全てを込めて――――)

「――天使の矢!」

「ぐっ……!」

ザックに残っていたたった1本の毒矢がザンクローネへと飛んでいく。普通の攻撃と威力は変わらないはずのたった1本の矢。それは運命に導かれたように毒をザンクローネの体中に巡らせる。そしてたった一瞬、ザンクローネの動きを止めることに成功した。

「今だ!!行け、フアナ!!」

「おのれ、舐めるな!!」

対してザンクローネは、3人の中心でイオナズンを炸裂されることを諦める。
その代わりにイオナズンの呪文を一点に集中し、そのエネルギーを太刀から撃ち出す。凝縮されたイオナズンがコニファーただ1人に迫る。

「させません!ギガデイン!!」

それを後方のアスナが撃ち返す。
イオナズンとギガデインの応酬――――数時間前にも繰り広げられた光景がトロデーンに再現される。

そして前回はイオナズンが上回ったこれらの衝突は――――

「な……押され……!」

――――仲間を守りたい、そんなアスナの決意が上回った。
イオナズンの魔力は完全に霧散する。

「遥かなる星空よ………仲間を守る、力を――――」

「氷塊よ!我が盾に――――」

ザンクローネはフアナの放つ技に対し、グレイツェルの操る氷呪文で応戦しようと詠唱を始める。
しかし、間に合わない。第14回アリアハン早口言葉大会で優勝したフアナの詠唱速度に追いつくことが出来ない。

「輝け――グランドネビュラ!!」

ザンクローネを輝く星雲が取り囲み、そして炸裂した。

1265救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:10:40 ID:s1N3sclc0
「ぐおおおおおおおおおおオオオオオオオオ!!!!何故だ………完全な肉体を手に入れた俺は……無敵のはず………!」

地獄の闘士が断末魔の叫びを上げる。魔瘴石と結合したザンクローネの心臓に亀裂が入る。

「認めない………こんなの、認めないわ……!」

魔女が断末魔の叫びを上げる。魔女の恨みや呪いを宿したザンクローネの心臓にさらに亀裂が入る。

輝く星雲に包まれて、ザンクローネの心臓が完全に砕けるその直前。
"魔英雄"は最期の足掻きを見せた。斬夜の太刀を地に突き刺す。

「まだだ………終われぬ……魔蝕ビッグバン!」

「なっ……!アイツ、まだ……!」

「ククク………刮目せよ、愚かな英雄の物語の終曲を!貴様らも地獄に道連れだ!!」

その言葉を最後に、魔英雄ザンクローネは命を散らした。
その身体から、死をもたらす魔瘴を散らしながら。

「ちくしょう……これで…終わりだってのか?人間の力は…!」

コニファーの目の前に魔瘴が目の前に迫ってくる。フアナもアスナも逃げるのは難しいだろう。

1266救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:11:10 ID:s1N3sclc0
「ううん、ちがう」

それでも、それでもだ。
守りたい仲間が居る。
死なせたくない仲間が居る。
そしてその想いは、3人ともが同じだ。

「コニファーさん、アスナ。大丈夫です。言いましたよね、私たちは無敵だって」

そうだった。
コニファーは知っているのだ。
独りでは乗り越えられない壁も、仲間が集まれば乗り越えられることがあるということを。
そう、その方法は―――

「ああ……そうだったな」
「わたしも、信じてる」
「手、借りますよ。3人で輪を作るんです!」



―――それは、"超必殺技"。



「「「精霊の守り!!!」」」



3人を魔瘴が包み込むが、それは身体を蝕むことなく消えていく。
ザンクローネの討伐と、仲間の全員生還。それは理想的な形で達成された。

ところで、超必殺技は仲間4人が集まって初めて発動出来る必殺技。3人しか居ないのに発動出来たのが何故なのかは分からない。しかし、元の世界ではパラディンの秘伝書を使いこなすようになる過程で、アークに1匹の精霊が取り憑いていたのをコニファーは思い出した。もしかしたらその精霊が、この世界でも秘伝書を扱うフアナを見守ってくれていたのだろうか。まあその精霊の名前すら、姿を見れなかったコニファーは忘れてしまったのだが。

1267救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:11:39 ID:s1N3sclc0

「終わった……な」

「終わり…ましたね」

「つかれました……」

魔瘴が消え、精霊の守りも消え、全員がその場に座り込む。
今まででいちばんの強敵を倒した達成感から、今すぐにでもふかふかのベッドで横になりたい気分だ。

まだ殺し合いは終わっていない。
だけど今は、今だけは。
守り抜いた仲間たちと、掴み取った一時の平和を噛み締めていたい。


なあ。お願いだ。
この生きているって感覚を、もう少し――――。



「お疲れ様でした、皆さん」



―――そんな感慨の中。
ふと、前方を見ると。



「――――そして、さようなら」

「「「なっ……!!」」」


ドス黒い雷を纏った"死"が迫ってきていた。


「ジゴ……スラッシュ!!」

1268救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:12:17 ID:s1N3sclc0

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


ずっと一網打尽に出来る隙を伺っていた。
勇者の雷の使い手がもう1人居るのを見ても心を乱されることなく、僧侶と思われる女が強力な爆発を引き起こしても冷静に。
まさかザンクローネ(名簿とは微妙に姿が異なるようだが)が負けるとは思っていなかったが、そこですぐさま飛び込まなかったおかげで魔瘴とかいうものを被弾することもなくやり過ごすことが出来た。
ザンクローネを仲間に引き込む計画は失敗のようだが、3人もの参加者を死ぬ寸前まで追い詰めてくれたのでそれで充分だ。

やはり冷静に立ち回れるようになってからは調子が良い。
魔王アベルは、ニッコリと微笑んだ。
今こそ、全てに破壊を――――

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

1269救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:13:35 ID:s1N3sclc0

今度こそ終わった。
隙を突かれ、対抗する術も持たなかったアスナ、フアナ、コニファーの3人はそう感じた。



剣に纏われた雷が命を焼く鋭い音がトロデーンに鳴り響く。


「……?」


しかし、その雷はアスナには届かなかった。
アスナは立ち上がり、おそるおそる前を見る。

そして、その雷はフアナにも届かなかった。
フアナは立ち上がり、おそるおそる前を見る。



「悪…かったな……お前ら……」

掠れた声が聞こえた。



「お、お前は……」

何とその雷は、最も前方にいたコニファーにさえ届いていなかった。

3人の前に、ひとつの影が立ち塞がっていたのだ。


「お前は………ザンクローネ!!」


その影は、ついさっきまで3人と戦っていた男、ザンクローネ。
しかしその身体からは、全身を包む黒いオーラも醜悪な笑みも消え、代わりに紅い鎧を身に纏い、ふてぶてしく笑っていた。

「俺は、いつでも、駆け付ける………お前らの声が、枯れない限り、な………」

そもそも、ザンクローネが生きる活力は"願い"である。
心臓を失ったからといって生命活動が即座に停止することはない。

「だが、すまねえ…。どうやら、俺は、ここまで…みてえだ…」

それでも心臓を失ったダメージは決して小さいものではなく、その上さらに魔王のジゴスラッシュまでもをその一身に受けたのだ。とっくに身体の限界など超えている。

「ちっ………余計なことを………!死ね!!」

アベルが横薙ぎにザンクローネの身体を引き裂く。

「くっ……くくくく……」

英雄はふてぶてしく笑いながら崩れ落ちる。

1270救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:14:12 ID:s1N3sclc0
魔英雄ザンクローネのヘルバトラーとグレイツェルの意識は、周囲の者たちを視覚ではなく魔力で感知していたため、アベルの存在にコニファーたちと戦っている時からずっと気付いていた。
魔英雄は自分に牙を向くことが無かったため無視していたのだが、ヘルバトラーやグレイツェルの思念が消えたことで守るべき対象が変わったのだ。

(どうやら……間に合ったみてえだな……)

闇に堕ち、正義を志す者たちを襲うことになったのは本当に残念だ。
それでも、命を奪うことなくギリギリで"救う"ことが出来た。

(ありがとう……俺を"救って"くれて………)

魔英雄ではなく英雄として散れたこと。
それだけが、ザンクローネにとっての"救い"であった。


「ザンクローネ…お前はやっぱり英雄だったぜ……」

「か、彼はどうして助けてくれたんでしょうね?コニファーさんには分かるんですか?」

「何にしても……あの人に救われた命、無駄にはしたくない…です…」

魔英雄ザンクローネとの戦いは、3人の内の誰も死なないまま乗り切ることが出来た。

「命拾いしたようですが、結果は変わりません。……………すぐに皆殺しにして差し上げますよ」

しかしトロデーン城の戦いはまだまだ終わらない。
光が死なないとしても、闇もまた死なないものなのだ。

1271救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:14:50 ID:s1N3sclc0

【D-3/トロデーン城外/2日目 黎明】

【フアナ(女僧侶)@DQ3】
[状態]:HP1/10 MP 0
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 パラディンの秘伝書 不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:自分だけが出来ることを探す。
:コニファーとアスナを守る 
※バーバラの死因を怪しく思っています。

【アスナ(女勇者)@DQ3】
[状態]:HP1/12 MP1/20
性格「ひっこみじあん」
助骨骨折、内臓一部損傷
[装備]:ゴディアスの剣@DQ7  オーガシールド@DQ5
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)  サヴィオの支給品一式 道具0〜1個バレットハンマー@DQ10  ウェディングドレス@DQ9 アルゴンリング@DQ8
[思考]:エビルプリーストを倒す。
:ひっこみじあんを克服したい。
[備考]:不明支給品の中に性格を変える効果を持った本や装飾品は入ってません。 
トロデーン城の地理を把握しています。

【コニファー(男レンジャー)@DQ9】
[状態]HP1/20 MP1/20 片目喪失  ピサロへの疑惑 攻撃力・防御力・ブレス耐性上昇
[装備]かりうどの弓@DQ9、毒矢0本 
[道具]支給品一式 カマエル
[思考]自分が生きているという感覚を保つため、とにかく生き抜く。仲間を探す。
[備考]:

【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/3 手に軽い火傷 MP1/10
[装備]:破壊の剣
[道具]:支給品一式 剣の秘伝書 ヘルバトラーの首輪
[思考]:過去と決別するために戦う 全てを破壊する


【ヘルバトラー@JOKER 死亡】
【ザンクローネ@DQ10 死亡】

【残り23人】

※次の放送でヘルバトラーの名前は呼ばれません。

1272救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:15:04 ID:s1N3sclc0
投下終了しました。

1273 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:22:31 ID:s1N3sclc0
細かいリクエストですが、wikiの死亡者リストにおいて
ヘルバトラーの殺害者はフアナ
ザンクローネの殺害者はアベル
でお願いします

1274ただ一匹の名無しだ:2019/03/23(土) 22:07:17 ID:IuYYOxfQ0
投下乙です!

魔英雄ザンクローネ倒したと思ったところでアベルが牙を向いた!
つい少し前までトロデーン城が3rd屈指の安全地帯だったとは考えれない位の連続バトルだなぁ
そして気付けば最初は9人いた10勢も今はジャンボとアンルシアだけになったな

1275ただ一匹の名無しだ:2019/03/24(日) 07:19:54 ID:2eLXsM0M0
投下乙です
しぶとく手強かったヘルバトラーもついに終わったか…いやほんとしぶとい奴だった
なんとか犠牲者なく倒したと思ったとこで連戦とはきついな
ザンクローネは散々だったけど、誰も殺さずに済んだことと最後に英雄としての使命を全うできたのが彼にとっての「救い」だったな

1276 ◆qpOCzvb0ck:2019/03/25(月) 00:19:21 ID:v3QQx8VQ0
少し予約時間過ぎてしまいましたが投下します。

1277希望を求めて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/25(月) 00:21:14 ID:v3QQx8VQ0
キーファは竜王に斬りかかっていく。
自分の実力など、どうでもいい。
ここで竜王に一矢報いなければ、レックもオルテガさんも浮かばれない。

その一心が、キーファの剣の鋭さを増長した。

この強大な敵を倒し、ライラの所に帰るのだ。


「目障りだ!!燃え尽きろ!!ベギラマ!!」
キーファめがけて、紅蓮の竜が迫る。

竜王が使うベギラマは、メラミのように標的を狭めて、代わりに威力を上げることも出来る。

「邪魔だ!」
多少の火傷をよそに、真空斬りで竜を吹き飛ばし、続く二閃目が竜王の首を狙う。

だが、一閃目で軌道を読まれ、躱されてしまう。

(やはりギリギリまで突っ込まねえとダメか……?)
再び体勢を立て直し、次の攻撃案を練るキーファ。

それに対抗し、竜王も身構える。

キーファが地面を蹴りつけ、斬りかかる。
竜王はそれを迎え撃つ。

(よかろう。どうやっても死にたいようだな。)

「手負いだからと言って、貴様ごときに倒せると思うな!!」
このままでは竜王かキーファ、どちらかの攻撃が命中する。

その中央部分に、いくつか閃光がはじけた。


キーファは吹き飛ばされ、竜王も熱風に顔をしかめる。


ロトの勇者の仲間の賢者が使っていた魔法。
キーファの仲間が使っていた呪文。

今戦っている2人はどちらも使えない。

じゃあ、使ったのは……。

「ダメだよ、竜王……その人は……味方…………。」

「レック!!」
「レック!?」
「レックさん!?」

1278 光の中に消え去った : 光の中に消え去った 
 光の中に消え去った 

1279 光の中に消え去った : 光の中に消え去った 
 光の中に消え去った 

1280希望を求めて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/25(月) 00:23:54 ID:v3QQx8VQ0
レックは衰弱状態から竜王のベホイミによって、わずかながら体力を回復していた。
竜王とキーファの戦いを止めようと、荒いやり方だがイオを唱えて、二人を吹き飛ばしたのだ。


さらに、戦いは突如、放送によって妨げられる。


これでキーファもはっきりと理解した。
レックは、死んでいなかった。

「キーファさん!!竜王さんの言うことは、本当です!!」

ミーティアが後ろから声をかける。
その一声で、キーファも我に返る。

「本当……なのかよ。」

張りつめていた体が弛緩して、隼の剣を落としてしまう。

だが、キーファはまだ納得のいかないことがある。
「じゃあ、なんでだよ!!なんでオマエがレックを運んできたんだ!?」



「キサマに話をしても、何もわかるまい。」
「うわっ!!」

竜王はレック乱暴に投げ捨て、そのまま去ろうとする。

「待てよ!!まだ話は終わってねえぞ!!」
「レックを手当てをしてやれ。ワシの話はそれだけだ。」

竜王の姿が見えなくなる。
どこに行くかも伝えずに、人間たちを置いて消え去る。

「おい!!待ってくれ!!竜王……痛っつ!!」

レックの身体に、痛みが走り、再び崩れ落ちる。

「キーファさん!!水と布……貸してください!!」
ミーティアは自分が持っている祝福の杖と、山小屋で取ってきた布地を使って、レックの手当てをし始める。

「あーくそ……乱暴だなアイツ。もう少し親切にしてくれてもいいのに。」

レックの傷は酷く、生きているのが不思議なくらいだった。
キーファの言い分はもっともだと、ミーティアは思った。
闘った末にレックをボロボロに痛めつけて、それで治療するように頼むなんておかしい。

自分とキーファがいない間に、何かあったのだろうか。
それとも、割り込んできた第三者に襲われたのか。

1281希望を求めて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/25(月) 00:25:00 ID:v3QQx8VQ0

キーファも手伝う。
ミーティアとは異なり、少ない道具で治療するのには自分の方が慣れていると思った。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

二人の治療の甲斐があって、レックの傷がふさがってきた。

今すぐにでも竜王を追いかけて行きたいが、レックもキーファも疲労が重なっている状態のため、休憩をとる。

ポルトリンクの民家から調達した干し魚と、支給品のパンと水で、腹を膨らませる。
相当腹が減っていたのか、王族の3人にも代えがたい味だった。


「無事で良かったです!!」
「そうか……あなたは……竜王に捕まっていたミーティア姫ですね。
そちらこそご無事で何よりです。」

「そんな改まった言い方しなくても……普通にミーティアとお呼び下さい!!」

ひとまずレックの無事は保証されたことに、ミーティアとキーファは安堵する。

「キーファもよくミーティア姫を守ってくれたな。ありがとう。」
屈託のない笑顔。竜王と戦う前に見た戦友のそれだ。

「なあ、レック。あの後どうなったのか、教えてくれ。竜王は敵なのか?味方なのか?」

わざわざレックを背負って、自分達の下へ来てくれたのは、本当のようだ。
だが、それだけでオルテガさんを殺した罪が帳消しになるわけではない。

レックは最初から話した。
竜王との戦い。
途中で見えた怪物、バルザックの姿。
助けに行こうとする自分に、回復薬をくれた竜王
誇りをかけた戦い。
ふいに横槍を入れてきた人間。
竜王と協力して、窮地を乗り切ったこと。
その後に自分が体力を使い過ぎて、倒れてしまったこと。


「やはり、竜王さんは……悩んでいたのでしょうか。」
ミーティアはその話を聞いて、一つ分からなかったことが分かった。
竜王もまた自分と同じ王族として、どのように生きるべきか悩んでいたのだろう。
だから自分の悩みに親身になって答えてくれたのだと。

「そうだと思う。俺との話も、妙に人間臭かったんだよね。」
レックもその考えには同感だった。
自分と同じように、「勇者」や「魔王」といった肩書抜きに話し合える者を、心のどこかで求めていた。

1282希望を求めて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/25(月) 00:25:53 ID:v3QQx8VQ0

「ちくしょう………。」

それを聞いたキーファが、悔し気に地面を殴る。

何も出来なかった。
レックの仇を取るつもりが、逆に竜王が自分達の仲間になるチャンスを壊してしまった。
下手をすれば、レックもミーティアも死んでいた。
思えば自分がユバール族になろうとしたきっかけが、あまりに馬鹿で子供だったから、その先で変わろうと思っていたのに。
目の前で突っ走って、迷惑かけて、誰かに助けられて、昔と変わってないんじゃないか。


強くなりたい。
魔王のような強大な敵に勝てるまではいかなくても、誰かの邪魔をしないくらいには。

「気にするなよ。キーファ。こんな世界だから、それぐらいの行き違いはあるさ。」

「ああ、すまねえな。本当に……」


「レックさん……ですよね?一つ聞きたいことがあるんです。竜王と戦っている間に、船を見ませんでした?」

せっかく再開できたのに雰囲気を悪くしないために、ミーティアが話の内容を転換させる。

「船?一度竜王の背に乗ったけど、そんなものは見なかったなあ……。しかしどうして急に?」

ミーティアも話した。
以前自分達はこの辺りで、荒野に打ち上げられた船を見つけたこと。
月世界の住人イシュマウリと、月影のハープを用いて古代船を復活させたこと。
そして今自分が、月影のハープを持っていること。


「へえ……。」
レックはミーティアから月影のハープを受け取る。
デザインこそ美しいが、いたっておかしい部分や、魔力などは伝わってこない。

「そういやマーメイドハープってやつに似てるな。
以前俺の世界で手に入れたんだけど、人魚の力で海底にもぐることが出来るんだ。」

「海底……ですか。ちょっと見てみたい気もします。レックさんの仲間に、特別なハープ弾きがいたんですか?」

「いや……そんな人はいなかったな……マーメイドハープは誰でも弾けたし。」

「月影のハープは、特別な者でなければ力を引き出すことは出来ませんでした。たとえこの辺りに船があっても、復活させるには難しいでしょう。」

「その……なんだっけ………へちま売りって人か。」

「エイトさん、へちま売りじゃなくて、イシュマウリですよ。」

ヤンガスさんと同じ間違いしないでください、と言いたい気持ちを抑える。

「にわかには信じがたい話ばかりだけど、俺も予想外な経験ばかりしてきたからな。」

1283希望を求めて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/25(月) 00:27:03 ID:v3QQx8VQ0
「レックさん……ですよね?一つ聞きたいことがあるんです。竜王と戦っている間に、船を見ませんでした?」

せっかく再開できたのに雰囲気を悪くしないために、ミーティアが話の内容を転換させる。

「船?一度竜王の背に乗ったけど、そんなものは見なかったなあ……。しかしどうして急に?」

ミーティアも話した。
以前自分達はこの辺りで、荒野に打ち上げられた船を見つけたこと。
月世界の住人イシュマウリと、月影のハープを用いて古代船を復活させたこと。
そして今自分が、月影のハープを持っていること。


「へえ……。」
レックはミーティアから月影のハープを受け取る。
デザインこそ美しいが、いたっておかしい部分や、魔力などは伝わってこない。

「そういやマーメイドハープってやつに似てるな。
以前俺の世界で手に入れたんだけど、人魚の力で海底にもぐることが出来るんだ。」

「海底……ですか。ちょっと見てみたい気もします。レックさんの仲間に、特別なハープ弾きがいたんですか?」

「いや……そんな人はいなかったな……マーメイドハープは誰でも弾けたし。」

「月影のハープは、特別な者でなければ力を引き出すことは出来ませんでした。たとえこの辺りに船があっても、復活させるには難しいでしょう。」

「その……なんだっけ………へちま売りって人か。」

「エイトさん、へちま売りじゃなくて、イシュマウリですよ。」

ヤンガスさんと同じ間違いしないでください、と言いたい気持ちを抑える。

「にわかには信じがたい話ばかりだけど、俺も予想外な経験ばかりしてきたからな。」
「しかしよお、たとえ船を見つけても、何だ。そのハープ弾きがいないんじゃ、船を動かせないんだろ?」

キーファもその話に疑問を唱える。
レックは月を見上げる。
白く、大きく、丸い月が輝いている。

「そうです!!肝心なことを忘れてました!!」

突然ミーティアが大きな声を出して、レックもキーファも驚く。

「え?どうしたの?」
「私達の城、トロデーン城で、月世界の入り口を以前見つけたんです!!」

月影の窓。そんな名前だった。それがトロデーン城で開いたことは1度しかない。
それに今は満月。
昔ヤンガスが壊した橋が地図に書いてあったり、ポルトリンクに船がなかったりと、元の世界とは辻褄が会わない部分こそある。

だが、調べてみる価値はある。

1284希望を求めて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/25(月) 00:27:27 ID:v3QQx8VQ0

「だったら……」
「行きましょう。トロデーン城へ。レックさんとキーファさんは、怪我の方はどうですか?」

「俺はもう普通に動けるよ。それにターニアを早く探しに行きたいし。
それに竜王は恐らく…俺たちの戦いに横槍を入れてきたヤツを倒しに行くつもりなんだと思う。」
「オレもだ。会いたい人がいるのはミーティアやレックだけじゃねえ。」

先程の放送で、フォズが呼ばれた。
アンルシアやティアは呼ばれていないが、北で敵に襲われているのかもしれない。
最初の放送以降再開していないし、合流したい。

それに「月影の窓」というくらいなら、月が落ちて朝日が昇れば、折角のチャンスも失ってしまうかもしれない。


三人は竜王やアンルシア達を追う形で歩き始める。

未来への扉の鍵を求めて。





(…………。)

ミーティアの心には、一つのわだかまりがあった。
どうにか自分の力で竜王とキーファの争いを止めようとしたが。
しかし、結局その争いを止めたのはレック自身。

本来なら守られなければいけない程の傷を負ったレックだ。
道を誤った者を見かければ、止めて正しい道を説くのが人の上に立つ者の役目だ。

力ない者は、誇りを通すことも出来ないのか。

誇り無き力がこのバトルロワイヤルのような無秩序な戦いを招く。
だが、力なき誇りはそういった無秩序の中で、何一つ役に立たないのか。


キーファとレックの後ろで、もう一度支給品の一つを見る。

それは、癒しの力を持つ道具と対を成すかのようにザックの中で眠っていた。

暗殺者の名を秘めた短剣。
刃先には危険な毒が塗られているらしく、力が弱くても狙った場所を刺せば致命傷を負わせることが出来るらしい。

争いを止めるのは、強い力が必要だということは感じていた。

だが、武器を使えたところで、仲間を助けることが出来るのだろうか。
何より自分の誇りを貫くための道具に出来るのだろうか。

1285希望を求めて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/25(月) 00:27:55 ID:v3QQx8VQ0

彼女はそのナイフ程の細く小さい、だが消えないわだかまりを持って、先へ進む。
いつか竜王も言っていた、王族としての誇りを見せられる時を待ちながら。



【D-7/荒野/2日目深夜】

【レック@DQ6】
[状態]:HP1/4  MP1/5
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、大魔神の斧@DQJ 蒼炎のツメ@DQ10モリーの支給品1~3個 確認済み支給品1~2個
[思考]:竜王と協力する。アベルを追う、ターニアを探す。



【キーファ@DQ7】
[状態]:HP1/2 
[装備]:はやぶさの剣・改@DQ8
[道具]:支給品一式、月影のハープ@DQ8、支給品1〜2個、ユーリルの不明支給品0~1個
[思考]:竜王を追ってトロデーン城へ行く。イシュマウリに会う。



【ミーティア@DQ8】
[状態]:健康 膝に擦り傷(応急手当て済み)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、あぶないみずぎ、レースのビスチェ、あぶないビスチェ、祝福の杖@DQ7  アサシンダガー@DQ8 その他道具0~1個
[思考]:トロデーン城に向かい、月影の窓からイシュマウリに出会う。


【C-6/荒野/2日目深夜】


【竜王@DQ1】
[状態]:HP1/12 竜化した場合、背中に傷 片手片翼損失 苛立ち
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1個
[思考]:レックと共に協力し、アベルを倒す。周りの人間は邪魔するなら殺す。
[備考]:自分の誇りを貫くか、他の人間の協力も借りるか悩んでいます。

1286希望を求めて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/25(月) 00:31:00 ID:v3QQx8VQ0
投下終了しました。

まずは2点ほど私の失敗を。

・パソコンが急に動かなくなったため、スレッド1276~1279まで同じ内容を書き込んでしまったこと。
そのため、どなたか1276~1279のうち、1つ以外の消去をお願いします。
・上記の際にトリップが入ってしまったため、次回から別のトリップを使わせていただきます。

その他に、何かありましたらご意見を。

1287ただ一匹の名無しだ:2019/03/25(月) 13:26:09 ID:A/kHEck.0
投下乙です!
なんもか誰も死なずに済んだけど、ミーティアとキーファは抱えてるものがちょっと深刻化してしまった……みんな自分の納得できる答えを見つけられるようがんばれ


>「その……なんだっけ………へちま売りって人か。」
>「エイトさん、へちま売りじゃなくて、イシュマウリですよ。」

このエイトはレックの間違いでしょうか? ここだけ気になりました
パソコンの不調など大変な中、改めて投下乙です

1288 ◆vV5.jnbCYw:2019/03/25(月) 16:04:43 ID:v3QQx8VQ0
>>1287
申し訳ありません。明らかにエイトではなくレックです。

酉を変えていますが、◆qpOCzvb0ckです。次回からこの酉で進めさせていただきます。

1289 ◆vV5.jnbCYw:2019/03/27(水) 11:43:16 ID:PjKsXpDU0
投下します。

1290その声は届かない ◆vV5.jnbCYw:2019/03/27(水) 11:43:51 ID:PjKsXpDU0
恐怖の仮面を付けた仲間が、アルスに迫る。

「ライアンさん!!目を覚まして!!」

声は届かず、ライアンは襲い掛かる。

「くそっ!!」
慌ててオチェアーノの剣で、まどろみの剣を受け止める。

剣の強さは圧倒的にオチェアーノの剣が有利、のはずだった。
予想外なまでの力の強さに、アルスの手が痺れる。

何とかライアンの攻撃を受け止めることが出来るが、力が強すぎて、防戦一方だ。
ここでアルスは気付いた。
自分はライアンを殺したくないと思っているが、混乱状態のライアンは全く思ってない。
ただ全力で、目の前にいる敵を殺すことに集中している。

そう考えているうちに、後がなくなってきた。

まずい。
剣を落としたら最期だ。

イチかバチか。ガボが得意としていた技を試みる。
この世界でも通じるかどうかは分からなかったが、その作戦は成功した。

廃村の至る所に小さな魔方陣が現れ、そこから一斉に羊達が現れる。
羊たちは瓦礫や枯れ枝を吹き飛ばし、ライアンに迫り来る。

(しめた!!)
怒涛の羊。
ガボが羊飼いをやった際に、自分の遠吠えを羊の守護霊に応用できないか試して、成功した技だ。


予想外な伏兵により、鍔迫り合いは一時中断される。

(ありがとう。助かったよ、ガボ。)
亡き友に感謝をするアルス。
このまま距離を離そうと画策する。

幸いなことに遠距離からの攻撃手段は自分の方が豊富だ。
この脚では振り切ることこそ難しいが、遠距離と近距離では、間違いなく前者の方が有利だ。

しかし、逃げることに成功したわけではなかった。

1291その声は届かない ◆vV5.jnbCYw:2019/03/27(水) 11:44:33 ID:PjKsXpDU0
ザク……ザク……ザク……

ライアンは、無慈悲に羊の群れを薙ぎ払う。

蜘蛛の子を散らすように邪魔者を突き飛ばし、アルスに迫る。

そして、災難はその後に起こった。
「うわっ!!」

吹き飛ばされた羊の一頭が、アルスの身体に激突した。

「!!」
予想外の衝撃にたまらず、地面に転がる。

般若の面によって、思考能力が失われているライアンが狙って羊を突き飛ばした訳ではないはずだ。

アルスは、自分の不運を呪いたくなった。

カチャ……カチャ……カチャ……

何事もなかったかのようにライアンは一歩ずつ歩み寄る。
もう一度羊達に願いをかけてみたが、もう現れることはなかった。


忘れてはいけない。
今のアルスは決して1対1の状況ではない。

ローラという、見えざる敵もいる。

もしライアンとアルスが戦った場合、剣での勝負はライアンの方に軍配が上がるが、戦略の面ではそうもいかない。

多岐に渡る特技と呪文で、ライアンとの接近戦を確実に防ぐはずだ。


だが、ローラがもたらした不幸の呪いは、確実にアルスの選択肢を狭めていく。


痛む脚に鞭打って、どうにかライアンから離れようとする。
先程地面に転がった時に、掴んだ砂を利用して、砂煙を巻き起こす。


(これで時間を稼げれば……!!)

カチャ……カチャ……カチャ……

ライアンは何のためらいもなく砂煙の中に入り、アルスに斬りかかった。
般若の面によって元々視界がふさがれている反面、命の動きを狙って攻撃してくるということを、アルスは知らなかった。

距離が先程より離れていたから、何とか自分の剣で身を守るも、またもアルスの作戦は失敗してしまった。

アルスは剣の腹でまどろみの剣を受け止める。
だが、威力を殺しきれず、後方に下がらざるを得なくなる。

1292その声は届かない ◆vV5.jnbCYw:2019/03/27(水) 11:44:56 ID:PjKsXpDU0

「うわっ!!」
踵が出っ張りに引っかかり、仰向けに転倒する。


アルスの砂煙や怒涛の羊のみならず、村で繰り返される戦いで、コンディションが極めて悪くなっているのだ。


「ライアンさん!!やめて!!僕たちは仲間だろ!!
あんな奴の言いなりにならないでよ!!」

カチャ……カチャ……カチャ……


アルスの言葉も届かず、ライアンはアルスを串刺しにしようとする。

だが、その瞬間を待っていた。
(マリベル……力を貸してくれ!!)

ライアンに足払いをかける。
予想外の攻撃にバランスを崩したライアン。

それでも剣を振るうのを止めようとせず、不安定な体制のままアルスを斬り付けようとする。

それをアルスは片手持ちしたオチェアーノの剣で弾く。

(これで十分!!一瞬でも時間を稼げば………。)

手こそ衝撃が走るが、直接ダメージは受けていない。

足払いで、相手の守りをがら空きにしてからの、正拳突き。
昼間暴走状態になりかけたエイトを止めようとした時も使った、マリベルの得意としていたコンボだ。


「目を覚ませぇ!!」
心の籠ったアルスの拳が、ライアンの般若の面に命中する。
今度はブライがいないが、バイキルトはオチェアーノの剣の能力で代用できる。
バラモスゾンビの巨体さえ吹き飛ばしたこの技だ。
あの恐ろしい表情をした仮面でさえも、破壊できるはず。



(!?)

アルスの拳から、血が噴き出した


(これでも……壊せないのか……?)
般若の面が危険な道具なのにもかかわらず、破壊されることはなかった理由は簡単。
呪いのチカラが籠っており、誰も破壊することが出来ず、人目のない所に保管するしかなかったからだ。

1293その声は届かない ◆vV5.jnbCYw:2019/03/27(水) 11:46:01 ID:PjKsXpDU0

魔神斬りのような渾身の力を込めた一撃なら、破壊できるかもしれないが、ライアンさんまでダメージを負わせてしまう

「しまった!!」
今度は隙が出来たアルスにライアンの剣が襲い掛かる。

紙一重で躱そうとするアルス。
ユバール族の踊り手の技術を応用した、アイラの見躱し脚だった。
腕に傷を負ってしまったが、致命傷こそは避けた。


それから自分の脚と腕にベホマをかけつつ、ライアンから距離を離し始める。
自分のケガをしても、メルビンは仲間のケガを優先して治してくれた。

(みんな……力を貸してくれ………。)


まどろみの剣の影響で、時々眠気が襲ってくる。
脳の活動が妨げられている状態で、鬼気迫る中、激しい運動をしたせいで、アルスの顔は真っ青だった。

過呼吸でも起こしたかのように息が荒い。
身体は自分でも冷えているのを感じる。なのに汗はひっきりなしに出てくる。

思うように回らない頭で、状況のことを考える。


どうにかライアンの剣の射程距離から離れた所まで距離を置く。

しかし、前にばかり気に掛けるあまり、またも後ろの状況のことに気付かなかった。

スクルドのジゴスパークを受け、ボロボロになった枯れ木がアルスの所に倒れてくる。

「くそ……バギ!!」
どうにかして枯れ木を吹き飛ばすが、いくつかの木片が手に刺さり、痛みを感じる。

カチャ……カチャ……カチャ……

今度はライアンが近づいてくる。
斬撃を後方に避け、距離を再び離す。


段々と村の奥まで追い詰められていく。


カチャ……カチャ……カチャ……

ローラの後を追いかけないと。

1294その声は届かない ◆vV5.jnbCYw:2019/03/27(水) 11:46:22 ID:PjKsXpDU0
今度は何をしでかすか分からない。
下手をすると、トラペッタにいるブライやチャモロ、サフィールまで危機が及ぶかもしれない。


だが、この状況を打破する手立てもない。
強力すぎる技を撃てば仲間を殺してしまう。
かといって、半端な技ではせいぜい足止めにしかならない。

そう考えているうちに、ライアンの剣がアルスに襲い掛かった。
止む無くオチェアーノの剣で受け止める。


剣の威力とバイキルトの後押を考えれば自分の方が有利。殺意と腕力を考えればライアンの方が有利。

今度は痛み分けと言う形で、両者互いに拮抗状態に持ち込めた。

しかし、コンディションならアルスが圧倒的に悪いため、均衡が崩れるのは時間の問題だ。
両者は互いに弾き飛ばされ、距離が開いた。

しかし、姿勢を戻すのにアルスは若干の時間を要したのに対し、ライアンはすぐに歩み寄る。


殺意だけを糧に攻撃を仕掛ける。
似たような相手を、少し前に見たことがある。


4人がかりで倒した、バラモスゾンビ。




そうだ。

頭がふらふらし、視界に靄がかかっていた状態で、ようやく打開策をひらめいた。

バラモスゾンビと戦った時に使った、マジャスティスがある。
あの魔法でバラモスゾンビの動きを止めた時のように、ライアンさんも止めることが出来るはずだ。

ライアンが振り下ろした剣を避ける。

方針は立った。あとはマジャスティスを撃つ時間を作るだけ。

だが、今は仲間が誰もいない。
頼れる仲間がいないなんて、ここまで心細いことなのだろうか。

バラモスゾンビの時は、殺意の標的が多かったため、それぞれがそれぞれの役割を持って、攪乱させたうえで倒すことが出来た。
今度は自分一人だから、それが出来ない。

時間稼ぎも、そして最後の仕上げも、自分一人でやらなければならないのだ。

失敗して、仲間を失うのが怖い。
それ以上に、自分が殺されるのが怖い。
だからといって、やるしかない。

1295その声は届かない ◆vV5.jnbCYw:2019/03/27(水) 11:46:43 ID:PjKsXpDU0

勇気とは、恐怖を知らぬことではなく、克服すること。

「ヒャダルコ!!」
地面に向けて氷を撃つ。

氷の刃はライアンの脚に当たっても、般若の面の邪悪なオーラで弾かれ、脚を止めることは出来ない。

だが、地面に張り付いた氷が、ライアンの歩みを確実に鈍らせる。
勝負の一歩目は、成功だ。

フォズ。彼女が得意としていた魔法だ。

彼女も自分やカシムが助けに来るまで、一人でいた。
一人で牢獄の奥深くに閉じ込められて、心細かっただろう。
きっとこの世界でも自分を顧みず、この戦いを止めるために奔走したんだろう。


カチャ……カチャ……カチャ……


今ならその心細さは分かる。
だが。いや、だからこそ、一人で仲間を救う覚悟は出来ている。



カチャ……カチャ……カチャ……


一つアイデアをひらめいたからか、頭の方は、幾分かマシになった。
距離を離した後、ザックからドラゴンキラーを取り出し、ライアンに投げつける。

「いっけぇ!!」

その程度では当然ライアンは止められない、とアルスは理解している。
案の定まどろみの剣であっさりと弾き飛ばされる。


だが、そこで作られた時間は、アルスが呪文を紡ぐための、確実な布石になった。

今度は周りには魔法の妨げになるような障害物はない。

「悪しき魔力よ、すべて消えたまえ………
有は無に、一つは零に………マジャスティス!!!!!!!!!!」

派手な色を纏った光が、黒一色で包まれた夜の廃村を照らす。


成功した。
あの状況から避けることは、混乱状態の相手には難しい。
アルスは勝利を確信した。

1296その声は届かない ◆vV5.jnbCYw:2019/03/27(水) 11:47:01 ID:PjKsXpDU0



ザシュッ




(……え!?)

一筋の紅い線がアルスの肩から胸まで走った。
何が起こったか分からず、アルスの服の布地と血が飛んだことから、一瞬紅い鳥が舞ったのかと思った。

途端に襲い来る激痛で、オチェアーノの剣を落としてしまう。

目の前に般若の面を付けた男が、視界一杯に立っている。


アルスはすぐに気が付いた。
バラモスゾンビのような、魔法にかけられた呪いならマジャスティスで解くことが出来る。
しかし、般若の面のような道具による呪いは、解くことが出来ないのだと。


まどろみの剣が人を殺すのに特化していないため、傷は心臓には届かなかったが、何の幸いにもならない。

ザックには、まだ使ってない支給品がある。
だが、たとえ回復道具があっても、出す時間はもう与えられそうにない。

大量の出血か、はたまたまどろみの剣を深く受けたからか、視界に映る般若も歪んで見える。


(ごめん……みんな………。)
ライアンが剣を振り上げる。

その瞬間、アルスの意識は永遠に失われるはずだった。


(!?)

カラン

剣が地面に落ちた音だけが聞こえる。

何が起こったのか分からないアルスが、再びライアンの顔を除く。

ライアンが苦しみながら、般若の面を引きはがそうとしていた。
戦士として、「勇者」と認めた人物を守る者としての決意が、般若の面の、そしてローラの呪いに抗おうとしているのだ。

「ぬおおおおおおおおおおおおおお!!」
仮面越しにも聞こえてくる。
頼りになる戦士の叫び声。誰かを守ろうとする決意を秘めた声。


だが。
それは呪いで纏わりついている仮面。
力ずくで剥がせるものではないし、そんなことをしたら大変なことになる。

「ライアンさん!!やめてよ!!そんなこと……したら……」
「拙者の手で………仲間を……殺させてたまるかぁぁぁぁ!!!」

1297その声は届かない ◆vV5.jnbCYw:2019/03/27(水) 11:47:22 ID:PjKsXpDU0
ぶちぶちぶちと、ライアンの顔の皮膚が、顔の筋肉が千切れる気持ち悪い音が聞こえる。

「何やってんだよ!!ライアンさん!!」
アルスの声を無視して、ライアンは力を籠める。

ライアンの丸太のような太い腕から、筋肉が膨張し、手や腕から血がにじみ出ても、止めようとしなかった。


「ぬおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

ライアンの顔から大量の血が流れると同時に、般若の面を上空に投げる。

「アルス殿ぉぉぉぉ!!」

「うああああああああああああ!!!」
引きはがされた忌まわしい仮面に、魔神のごとき一撃を入れる。

アルスの心を纏った一撃は、呪いで守られた般若の面を粉微塵に砕いた。


「やったでござるな………アルス殿」

ライアンの顔は、皮膚が破れ、血が噴き出て、見るに堪えないことになっていた。
子供がぐちゃぐちゃに描いた絵に、赤い絵の具をぶちまけたような有様だった。
人の顔とは思えないような状態だった。
けれど、アルスは決して気持ち悪いとは思わなかった。

「ライアンさん!!なんであんな無茶したんだよ!!」
「もう…若い者が死ぬのは……嫌でござる……よ。」

唇も剥がれているため、言葉が上手く話せない。

「ライアンさん!!お願いだ!!逝かないでくれ!!」
自分のザックをひっくり返す。
その中で(ギガデーモンの支給品)に特薬草があって、それを使おうとする。


「ライアンさん……今、手当するから………。」

「それは……アルス殿の……傷を治すのに使うの……ですぞ。」

ライアンは自分の手当てを拒否する。

「何……で………うっ!!。」
ふと自分の傷も危ないということが痛みで分かる。


「アルス……殿。あの……女性を恨んでは……いけない………。」


ライアンが発した最期の言葉。
勇者を守り、またここで勇気のある若者を守り続けた、心優しい男の命が終わりを告げた。

1298その声は届かない ◆vV5.jnbCYw:2019/03/27(水) 11:49:39 ID:PjKsXpDU0
殺す。


だが、アルスの瞳は、怒りでぎらついていた。
ライアンが息をしていないと分かった後、
特薬草で応急処置を自分に施してから、すぐにローラを追い始めた。


あの女を、殺してやる。
ライアンさんとマリベルの苦しみを、何百倍にもして味合わせてから殺してやる。


声が届かなかったのは、ライアンではなく、自分だということにも気づかず、アルスは走り始めた。


【ライアン@DQ4 死亡】
【残り22人】


【I-5/リーザス村跡地/2日目 黎明】

【 アルス@DQ7】
[状態]:HP1/8 MP1/3 ローラへの殺意 左足に怪我(素早さ低下) 右腕から胸にかけて裂傷(応急処置済み)
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜1) ゲルダの不明支給品0〜1個(確認済み) 道具0〜2個(本人確認済み) 
[思考]:この戦いを終わらせる。ローラを殺す ミーティア、キーファを探す。トラペッタへ戻る。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。

1299その声は届かない ◆vV5.jnbCYw:2019/03/27(水) 11:49:54 ID:PjKsXpDU0
投下終了です。

1300ただ一匹の名無しだ:2019/03/27(水) 13:39:39 ID:jZTU6jsY0
投下乙です

うわああああああああああああああああ!!!!とうとうライアン死んでしまったあああああああああ!!!!!
しかもアルスもますますヤバい感じになっちゃった…
ティアといいピサロといいどんどん対主催が精神的に不安定になっていくなあ

1301ただ一匹の名無しだ:2019/03/27(水) 17:44:21 ID:M3Ig3E1I0
投下おつです!
タイトルのダブルミーニングが綺麗に繋がってて好き……
アルスの心に大きな変化が訪れて、そしてローラは一気に窮地に立たされたなぁ

「アルスは自分の不運を呪いたくなった」
この言い回しの皮肉力が強すぎる……

ドラクエ7には教会以外の解呪手段が無いんだよな
元の世界でマジャスティスを使わなかったアルスが、シャナクという呪文の存在や装備の呪いがマジャスティスでは解けないことを知らないのも無理ないし、そういう意味でもアルスは不幸だったんだなって

1302そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:20:58 ID:rzJCpoRQ0
投下します。

1303そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:21:53 ID:rzJCpoRQ0
『定時放送毎に禁止エリアを追加する。禁止エリア内に立ち入った場合、首輪より警告が行われる。その後10秒毎に警告を発し、30秒が経過しても禁止エリアから立ち退いていない場合、その参加者の首輪を爆破し、その死を以て制裁とする。』

ポーラは参加者全員に支給されているルールブックを読んでいる。
たった今自分がいる場所は、同じく全員に支給された地図で言うとG-8。そして2時になると、隣接するエリアH-8は禁止エリアとなる。
時計を見ると、現在1時57分。

闊達な少女の持ち前の敏捷さ。
それを最大限引き出す、ほしふるうでわ。

この仕事に必要な「素早さ」は充分満たしているだろう。
ポーラは屈伸し、準備運動を終える。

「やってやる……」

キーファとミーティアとは第2回放送以来別れたままであり、殺し合いに乗る迷いを振り切った今、すぐにでも合流したい相手だ。
しかし仮に、2人がポルトリンクで引き返さずリーザス側に向かっていたとしたら、H-8が禁止エリアとなってリーザス・ポルトリンク間の道が通行不可能となると2人と合流するのは絶望的に難しくなる。


「残り3分上等!渡り切ってやるーーー!!」


クラウチングスタートでエリアH-8へ走り込む。
もしミーティアやキーファがリーザスに向かっていない場合、それはそれで合流が絶望的に難しくなるだろうとか、そんなツッコミを入れてはいけない。(事実、2人はリーザスに向かっていないのだが)期間限定で通れる道―――通らなくては損というなんとも人間的な感情が考えるより先にポーラの足を動かした。

「警告だ。禁止エリアに侵入した。30秒以内に立ち退かない場合は首輪を爆破する。」

1304そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:22:38 ID:rzJCpoRQ0

走り初めて3分、首輪からエビ何とかという魔道士の声が聞こえてくる。うるさい、と小さく呟きさらに走る。

「残り、20秒だ」

死のカウントダウンが進んで行くも、まだまだ走り続ける。

「残り、10秒だ」

残り時間が僅か。
でも、諦めない。
あたしはこの先で……

(9……)

キーファやミーティアと合流して……

(8……)

今度こそ仲間を守るために戦って……

(7……)

そしてみんなで帰るんだ、元の世界に!

(6……)

そう、あたしは…………

(5……)

1305そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:23:11 ID:rzJCpoRQ0



「……やっぱこれ無理!!」


ポーラはザックの中から"命綱"を取り出す。

そして勢いのままポーラは、命綱――キメラの翼を放り投げた。
幸か不幸か、向かっていたリーザス方面からは遠のいて飛んでいく。

「禁止エリアからの立ち退きを確認。カウント停止だ。」

嘲笑うかのような声で魔道士の笑う声にムカムカしながら、ポーラはとある地点へと真っ逆さまに落ちていく。

余談だが、彼女の想い人もまた旅の各所で高いところから落下していたようだ。

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1306そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:24:15 ID:rzJCpoRQ0

結論から言おう。
おわかれのつばさ――天使の世界に由来するこの道具こそが、このパーティーの命運を握る鍵である。
何者かからおわかれのつばさに関する情報を与えられ、脱出の鍵として追い求めてきたピサロ。フォズとジャンボの力を借りて、おわかれのつばさを全員で脱出する手段として守り抜こうとしてきたアンルシア。そしてもう1人。おわかれのつばさを使えば兄に会えると信じているティア。

これまでゆっくりと情報交換をする時間がなく、動くことのなかった者たち。そしてそこに、もう1つのパズルのピースが組み込まれることとなる。



『おわかれのつばさについて持っている情報を全て書け。』

例のごとく筆談で、ピサロはアンルシアに命じた。

(――そうだ!!お城にかえれば、おにいちゃんも、みんないるはずだよ!!)

ティアのこの発言から見るに、アンルシア達がおわかれのつばさを脱出の道具と捉えていたのは明白だ。
ティアはあの時、間違いなくおわかれのつばさを使おうとしていた。

『おわかれのつばさについて、ひとつの計画があった。』

『ほう。』

おわかれのつばさについて聞かれたアンルシアの顔が暗くなったことに、ピサロは気づかない。

そしてアンルシアは書き記していく。
フォズがジャンボを道具使いに転職させて、道具範囲化術でおわかれのつばさの効果範囲を広げる計画。
職業とは何か。転職とは何か。
いくつかの説明は滞りながらもピサロに計画の大筋を話し終える。その最後に、たった一言書いておいた。

1307そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:24:55 ID:rzJCpoRQ0

『フォズが死んで、ジャンボは転職出来ない。』

エイトとアンルシアの戦いから4つもの命が失われたあの戦い。
その中で原因も分からずフォズは命を落とした。ジャンボはヒューザの支給品だけを回収して、すぐにターニアを追って行ってしまった。フォズが死に際にジャンボを道具使いに転職させていたことをアンルシアは知らない。

(まさかあの男がそんな重要な役割を……行かせるべきではなかった、か……)

今から追ってジャンボを連れ戻すことも考えたが、さすがに距離が離れすぎている。
そもそも、転職の手段が絶たれたかもしれない今ジャンボを手元に置いておく意味は薄く、さらには最悪自分一人でもおわかれのつばさで脱出してエビルプリーストと戦いに行くだけの気概はある。

「ごめんなさい……私がフォズを守れなかったから……」

「……わかった、もういい。」

アンルシアはまだフォズの死から立ち直れていない。
様子を見ているとハッキリと伝わってくる。

「フォズといえば……奴の支給品はお前が持っているのだったな。」

「……ええ。フォズの、遺品を…」

「……丁度いい機会だ。支給品を振り分けるぞ。」

1308そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:25:57 ID:rzJCpoRQ0

ゲレゲレ、フォズ、ヒューザ、ヤンガスの4名が死んだあの戦いの後、ゲレゲレとヒューザの支給品はジャンボが回収して行ったらしく残っていなかったが、フォズとヤンガスの支給品はピサロとアンルシアで回収していた。

ひとまず、ピサロはヤンガスの持っていた堕天使のレイピアを身に付ける。
レイピアという武器は使い慣れないが、剣には充分心得があるため、素手よりはマシだろう。

その他の道具はアンルシアに渡すことにした。ピサロは自分の力だけで身を守れる自信があるが、今のアンルシアは弱々しく勇者には見えないほど頼り難い。
道具の力でも何でも借りて、身の安全を保証すべきだと思った。

「……ごめんなさい、こんなにたくさん持って行っちゃって…」

「気にするな。私には不要だ。」

私も随分と変わったものだ、とピサロはつくづく思う。
以前の自分なら、足でまといになったアンルシアやティアなど即座に切り捨てて支給品と共におわかれのつばさを奪い取っていただろう。

(大切な者が死んで、自分までもを見失った勇者、か……)

そこで1人の男の顔を思い浮かべてしまうのが面白くなかった。
あの村を滅ぼしたことは自らの信念に従ったまで。
反省だとか贖罪だとか、そういった考えは自分の信念に逆らうことに他ならない。

一旦ぐちゃぐちゃになった心をリセットしよう、そう考えてふと空を見上げたその時。
星空から何かが降ってくるのをピサロは見つけた。

(あれは………空から女の子が……?)

まるで流れ星の如く、ポーラはピサロの前に降り立った。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

1309そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:26:29 ID:rzJCpoRQ0
「貴様は……ポーラだったか。コニファーの仲間だったな。」

コニファーとの情報交換を頼りに落ちてきた少女に話しかける。

面倒なことになった―――ピサロはそう思った。コニファーからの情報によると、ポーラは警戒心が強いとのこと。今はティアの持つおわかれのつばさを手に入れたいので、簡単に騙しにくそうな人物と行動を共にするのは避けたい。仮に実力行使に出るとしても、実力が未知数のポーラを相手にするのはリスクが高いため動きにくくなる。

「………貴方たちはいい人なの?」

ピサロの言葉から、少なくともコニファーが信頼して情報交換をした相手だとポーラには伝わる。

「私の善悪など知らん。ただしこの殺し合いに反抗する意志は持っている。今はそれで充分だろう?」

「わかった、とりあえず今はそれで信じてあげる。」

他人を信じることの出来なかったポーラは、いい人、悪い人を見分けなければならないことが怖かった。だからこそ、善を振りかざして仲間を自称する者よりは信頼に足ると思えた。

「それで……コニファーはどこにいるの?」

「トロデーン城だ。おそらくたった今も敵襲を受けている。救援に向かうなら急いだ方がいいだろうな。」

ポーラの疑問はもっともだ。
ポーラをここから早く遠ざけたいピサロは、トロデーンに向かうよう暗示する。しかし、それは悪手であったとすぐに分かることとなる。

1310そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:27:26 ID:rzJCpoRQ0
「ありがと、すぐに向かう………って言いたいとこだけどさ。それ知ってるのにアンタらはどうしてこんなとこに来てるわけ?殺し合いに反抗してるっていうのさっそく疑わしく思えてきたんだけど。自分の命が可愛いだけなんじゃないの?」

ポーラの指摘に対し、ピサロはため息をつく。

(スタンスと行動が一致してないのは確か……。中途半端な誤魔化しはかえって逆効果、か……)

そう感じたピサロは正直に話すことを決めた。

『エビルプリーストが盗聴しているかもしれん。ここからは筆談で話すぞ。』

そう書いた紙をポーラとアンルシアに見せる。
ポーラは「主催者そんな名前だったんだ」などと思いながら、コクリと頷いた。

『私がここに来たのはこの道具の保護のためだ。』

そう書き記し、アンルシアの背で眠っているティアのザックからおわかれのつばさを取り出す。
ピサロの目的がそれだとは思っていなかったアンルシアは目を丸くしてピサロの方を見る。
アンルシアからのピサロの信頼が多少薄まったのをピサロは感じたが、それよりも今はポーラの信頼を得るのが先決だとピサロは決めた。

『この道具はこの世界の脱出に利用できる可能性がある。失うわけにはいかんのだ。』

『それ、おわかれのつばさ?』

(ほう、知っているのか)

1311そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:27:53 ID:rzJCpoRQ0
正直、ポーラがおわかれのつばさについて深く知っていることをピサロはそれほど期待していなかった。
ポーラの仲間であるコニファーがおわかれのつばさを見たことがないと言ったのだ。ポーラもまた見たこともないのだろうと何となく考えていた。

しかしポーラはコニファーとは違い、「見る」ことが出来る人間である。
アークがラヴィエルと話し、おわかれのつばさを受け取るところをポーラは何度か見たことがある。

そして、おわかれのつばさは実はポーラにとっては面白くない思い出のある道具だ。天使以外は世界を行き来できない―――つまり人間であるポーラたちは、運命の扉を経由してもおわかれのつばさを経由しても、別の世界に行くことは出来ない。時々桃色の髪の少女に会いに行っていたアークを、ポーラたちは見送ることしか出来なかった。

そんな記憶に対し苦い顔をしながら、その事実を書き記す。

『それ、人間には使えない。』


「な、何だと!?」

今までの考えを根底から崩しかねないポーラの言葉に、ピサロは筆談すら忘れて思わずポーラの肩に掴みかかる。
ずっと会いたかったとサンディに向かって駆け出した、あの時のアークばりの勢いで。
男の人から唐突に大声をあげられて、乙女の身体に掴みかかられる事案。紛れもなく、ポーラにとって恐怖そのものであった。

「わあああああ!!この変態っ!」

ピサロに渾身の闘魂打ちが叩きつけられる。良い人か悪い人かの2度目の問答と、ピサロの謝罪が繰り広げられた後、仕切り直し。

1312そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:28:32 ID:rzJCpoRQ0

『そもそも、おわかれのつばさとは?』

頬を押さえながら、改めてピサロが問いかける。

『他の世界に行った天使が自分の世界に帰る道具。』

おわかれのつばさの説明書に書かれている説明、『別の世界から自分の世界へ帰るための道を開く』という記載と大方一致しているので、どうやらポーラからの情報は信頼に足るようだ。ただし気になるのは、「天使」という記述である。

『この殺し合いの場にその天使とやらは生き残っているのか?』

「他の世界」というフレーズも気になったが、それ以上に気になった単語について尋ねる。
その返事として、ポーラは文字に起こすことなく、少し暗い顔をしてから首を横に振った。

『では知る天使の名を書けるだけ書いてくれ。この世界に居るかどうかも、生死も問わない。』

『アーク、イザヤール、エルギオス』

この世界に招かれているその3人の名前は真っ先に出てきた。アークは人間になってからもおわかれのつばさを使えていたので、この文脈上では天使に分類しても良いだろう。(イザヤールが人間になっていることはポーラは知らない)

そして少しの間を開けて、先ほどおわかれのつばさに関する記憶の中に出てきた『ラヴィエル』の名も加えておいた。

でも、何かを忘れているような気がしてならない。
まだ何か、スクルドやコニファーには見えない存在があったような…………

「あっ」

ちょっと声が漏れ、そこにスっと書き加えた。

『カマエル』

「カマエルですって!?」

今度はアンルシアが叫び、ポーラの肩に掴みかかる。
ただしアンルシアが女性だったことや背中に眠った女の子を背負っていることがあり、闘魂打ちは飛ばなかった。

1313そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:28:55 ID:rzJCpoRQ0
「イザヤールさんが言ってました!コニファーさんという方がカマエルを持っていると!」

「カマエルもここに…!?」

「何だと!?」

ポーラの話が本当であれば、おわかれのつばさを使用するのに天使であるカマエルは不可欠な存在かもしれない。だとしたらジャンボ以上の重要人物だ。トロデーンでたった今巻き起こっている戦闘で死なせるわけにはいかない。

「ポーラ、着いてこい。すぐにトロデーンへ向かうぞ。アンルシア、お前はティアを見守っていろ。これはカマエルとやらに見せるために預かっておくが、いいな?」

「え、ええ……わかったわ。」

ティアの道具を勝手に持っていくのは気が引けるが、状況が状況なのでアンルシアはやむなく了承した。
こうしてアンルシアを残し、おわかれのつばさを持ってピサロとポーラはトロデーンに向けて走り出す。

(何とか上手くいったか……)

そしてピサロはひっそりとほくそ笑む。
混乱のままにおわかれのつばさを使おうとしていたティアから、おわかれのつばさをうまく取りあげることができた。また、ポーラという腕の立つ協力者も確保できた。

不気味なほど手際よく進んでいる物事に多少の違和感を覚えながらも、エビルプリーストに1歩ずつ近づいている実感が湧き上がってきた。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

1314そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:29:29 ID:rzJCpoRQ0

ピサロやポーラに残された私は、ひとまずベッドにティアを寝かせる。
呪文で眠っているため、間もなく起きることとなるだろう。

待つというのは何とも辛くて仕方がない。
ルジェンダ様やクロウズが有力な情報を得て戻ってくるまで、私とジャンボはいつも動くことが出来なかった。
こうしている間にもマデサゴーラは奈落の門に向かっているかもしれないとか、トーマ兄さんの遺体が悪事に利用されているかもしれないとか、元の世界ではそんな焦りが常にちくちく胸を刺していた。

そんな思い出に浸っていると、いつの間にかティアが起き上がっていた。

「起きたのね、ティア。」

ティアを不安にしてはいけない。そう思って気楽な様子を装って話しかけた私を待っていたのは、昨日までとは違うティアであった。

「アンルシアお姉ちゃん。ティア、もう帰りたいの。おわかれのつばさを使って先に帰るね。」

良い人たちに囲まれて楽しそうにはしゃいでいたティアは、別人のように暗く、冷たい声でそう言った。
やはりティアはおわかれのつばさを使おうとしている。
ピサロが持って行ったのは正しい判断だったようだ。

「あの道具はピサロさんが持ってるわ。今トロデーンに仲間を助けに行ってるの。」

「じゃあティア、返してもらってくるよ。」

安全や危険といった分別はつくだけの年齢ではあるはずなのだが、ティアは平然とそう言ってのけた。
今のティアはおわかれのつばさを使うことしか頭にない。

「待って、ティア。向こうは危ないから……」

アンルシアは引き留めようとする。
しかしそんな制止も聞かず、ティアが教会の出口に向かって走り出す。

1315そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:30:06 ID:rzJCpoRQ0
(マズい……!)

アンルシアはティアの前に立ち塞がる。
対してティアはアンルシアを避けて通ろうとする。

アンルシアとしては、ティアに剣を向ける訳にはいかない。しかし自分の腕力では素手であっても全力で止めようとしたら殺してしまいかねない。
だから女の子一人を止めるのには充分な力に手加減して、ティアを抑え込んだ―――


「邪魔しないで、アンルシアお姉ちゃん…」


―――つもりだった。


「えっ………?」


アンルシアの腕は、いとも容易く振り払われた。思いもよらないティアの腕力に呆然とするアンルシアを、ティアは両手で思い切り突き飛ばす。何が起こっているのかも分からず、踏ん張ることすら忘れていたアンルシアの身体は簡単に後ろに倒され、尻もちをつく。
そして守りががら空きのアンルシアの足に向けて、ティアはザックから取り出した杖を振るった。

その杖は氷柱の杖。
アンルシアの左足は一気に凍り付き、身動きがほとんど取れなくなる。

「しまっ………待って!ティア!!」

アンルシアが声を張り上げるも、見向きもせずにティアは教会の扉を抜けて走り出す。

アンルシアの誤算はふたつ。
1つ目。アンルシアは自分の早とちりから知り合いのヒューザや同行者のフォズを含む多くの命を犠牲にしてしまったことがトラウマとなり、戦いに対して力が発揮できなくなっていた。そして、それを自分で把握していなかったのだ。

そして2つ目は、ティアの力を侮っていたことである。
「殺し合い」に何度も巻き込まれたことでの戦闘経験。多くの"経験値"を得たことで、ティアは戦闘能力において「女の子一人」の域を遥かに超えていた。


フォズを守れなかったのに続き、ティアまで危険な場所へとみすみす放り込んでしまった。

1316そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:30:35 ID:rzJCpoRQ0

(何が……何が、『勇者姫』よ…)

勇者姫の称号。
それは私の背負うものをいっそう重くした。
勇者だから、誰かを守らないと。
勇者だから、逃げてはいけないと。

ではその「勇者」はこの世界で一体何ができた?

殺し合いの世界に飛ばされた最初の時、私は迷っていた。
私は本当に勇者なのか、と。

ここがレンダーシアであれば迷うことなんてひとつもなかった。ルジェンダ様の下に彼を呼び出して、賢者様たちの知識と彼の頭脳を駆使して作戦を立てて、そして戦いの鍵を握る私は彼に言うのだ。

"私はあなたの後ろについて行くわ"と。

そうして私は彼に全てを委ねる。
彼の剣として、盾として。そして彼の隣に立つ者として、悪に立ち向かう。
いつものことだ。仮に奈落の門が開いたとしても、仮に世界の終末が近付いていたとしても、それはきっと変わらない。

しかしあの時は彼がいなかった。
たったそれだけで私は、私より小さな少女に心を支えられるほど弱くなった。

そしてその少女は死んだ。
私が彼のことしか見ていなかったから。彼の敵を倒すことしか考えられなくて、"守る"ことを忘れていたから。
守れなかった私は"逃げる"ことを選んだ 。

勇者の使命なんてかなぐり捨ててしまった。
どうせ私は守れなかったんだ。
私は勇者などではない。
幾度となく心がそう叫んだ。

そして今、私は女の子さえ止められない者へと成り下がったのだ。

命を守れなかった自分は勇者ではない。
戦いから逃げてしまった自分は勇者ではない。


だったら私は一体何?

私はもう戦えない……。
あの頃のように力も記憶も封印して、また"ミシュア"に閉じこもるの?


ティアがピサロからおわかれのつばさを奪い取ろうとも、あるいは奪われないようピサロがティアを殺そうとも、私には関係の無いことだ。
勇者でない私に、一体何を望むの……?

1317そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:31:03 ID:rzJCpoRQ0
昔の私なら、きっとそう言っていた。

だけど、それでも―――



戦姫のレイピアを振り上げ、氷柱の呪縛を左足ごと突き刺す。

「っ………!!」

耐え難い痛みが足を襲い、出来上がった傷によって左足はその機能をほとんど失ってしまう。



―――それでも、勇者で在りたい私がいる。
まだ仲間を守りたい、そして逃げたくない私が心の底にいる。

それは兄さんが死んで勇者の使命から逃げたあの時と、たったひとつ違うものがあるから。



ジャンボ。

今の私にはあなたが盟友であってくれている。
貴方は"勇者の盟友"として私の隣に立っているのでしょう。
だけど本当は、私がそうあって欲しいと思っている。
勇者ではなく、"盟友の勇者"で在りたい私がいる。


「あの翼は……私たちの希望。」


教会を出てトロデーンに向けて進み始める。
左足はほとんど動かないので、フォズの使っていたルーンスタッフを杖として、何とか前に進む。


「貴方に繋げる未来の翼。」


道具使いに転職したジャンボが道具範囲化術を使い、全員でこの世界を脱出する。そのためにも、ティアにあの翼を使わせるわけにはいかない。


「だから待ってて、ジャンボ。必ず貴方に希望を繋いでみせる。」


これは本来なら紡がれなかった物語。しかし物語は、何者かの手でピサロにおわかれのつばさの情報が与えられたことによって、大きく歪むこととなった。

数奇な運命か、何者かの叡智か。彼らの味方なのか、それとも敵なのか。
何に導かれているのかも分からないまま、物語は動き出す。
たったひとつの、翼を巡って。

1318そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:32:22 ID:rzJCpoRQ0
【C-4/トロデーン地方 草原/2日目 黎明】

【ポーラ@DQ9】
[状態]:HP1/2 MP1/3
[装備]:銀河の剣@DQ9 星降る腕輪@DQ3
[道具]:支給品一式 支給品0〜3個 キメラの翼×1 炎竜の守り@DQ8 魔勇者アンルシアの首輪 アリーナの首輪 割れたラーの鏡
[思考]:殺し合いを止める。
元の世界に戻り、天使信仰を復活させる

※未練を残す死者の幽霊が見えます。そのままでは会話は出来ませんが、何かしらの道具を通すことで会話が出来るかもしれません。
※ラーの鏡を通して人の心の中を見ることが出来ました。今後何かほかの道具でも可能かもしれません。


【ピサロ@DQ4】
[状態]:健康 焦り
[装備]:堕天使のレイピア
[道具]:支給品一式 『世界道具百科辞典』『勇者死すべし』 大魔道の手紙 おわかれのつばさ
[思考]:トロデーンでカマエルを保護する
エビルプリーストをこの手で葬り去る
ロザリーの安否を確認する。
1:ロザリーはどうなった……?
※ジバ系呪文を実際に見せてもらいました。
※エビルプリーストの背後に黒幕がいることを、手紙によってほぼ確信しました。
現状ではラプソーンが怪しいと考えています
※首輪の仕組み、機能を知りました

【C-5/トロデーン地方 草原/2日目 黎明】

【ティア@DQ2(サマルトリアの王女)】
[状態]:健康
[装備]:ロトの剣 氷柱の杖(残4)@トルネコ3 ようせいのくつ@DQ9 
[道具]:支給品一式 脱いだ靴 パーティードレス@DQ7
[思考]:おわかれのつばさを使ってサマルトリアに帰る
※第二放送の内容を聞いてません。

【B-5/トロデーン地方 草原/2日目 黎明】

【勇者姫アンルシア@DQ10】
[状態]:HP 1/2 MP1/8 自信喪失 左足故障
[装備]:戦姫のレイピア@DQ10
[道具]:支給品一式 とつげき丸@DQ10 不明支給品0〜2(本人確認済み) ルーンスタッフ@DQ8ようせいのうでわ@DQ9 フォズの不明支給品0〜1(本人確認済み) ヤンガスの不明支給品0〜2 スライムの冠(DQ8)バニースーツ(DQ10) オーディーンボウ@DQ10 矢×9
[思考]:彼におわかれのつばさを託す
[備考]:全てのスキルポイントが一時的に0になっています。それに伴い、戦闘力の低下とギガデイン・ベホマラー等の呪文が使えなくなっています。ただし、心境の変化により、一部または全部のスキルポイントが元に戻っている可能性があります。

1319そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:32:38 ID:rzJCpoRQ0
投下終了しました。

1320ただの一匹の名無しだ:2019/04/09(火) 01:15:00 ID:ADFiV.kk0
投下乙です。
前半のポーラのアクションと後半のティアの豹変ぶり、ギャップありすぎる。
というか2ndに毒され過ぎたせいでティアの場合これくらいしでかした方が自然と思ってしまうんだ。

竜王たちもトロデーン目指してるし大集合となるか、それともまだ何かあるか……

1321ただ一匹の名無しだ:2019/04/09(火) 12:54:17 ID:hj/ZiPTI0
投下乙です
そういやイザヤールもカマエルならあるいは…って言ってたか
ヘルバトラー戦の直後はジャンボとの合流急いでてそれどころじゃなかったが
おわかれのつばさに有力な情報が共有されて、光明が見えてきてるが…
ティアとアンルシア大丈夫か

1322 ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:34:23 ID:oHOCNhvs0
少し遅れてしまいすみません。
投下します。

1323雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:36:03 ID:oHOCNhvs0
 
いかなる苦しみの時も
いかなる悲しみの時も
いかなる時も
人を信じ 人を愛せ

とある神父が遺した言葉。
それはきっと、とても難しいこと。
だからこそ、とてもまぶしいこと。

村人たちを守る為にその姿を魔物に変え、村人たちに殺されようとしていた彼は、それでも誰を恨むでもなく村人たちの為に村を出ていった。
遥か未来の形はさておき、神父の気高い心は、確かに村を善き方向へと導いた。






(お兄ちゃん……お兄ちゃん……っ)

何度も兄に呼び掛ける。
声にはならない。走っていては息が切れて、言葉もろくに発せられない。
心の中で、何度も、何度も。どこにいるかも分からない兄に呼び掛ける。

(お兄ちゃん……!!)

足を動かした回数よりも多く呼び掛けているのではないか、そんな気さえしてくる。
逃げなければ、兄を殺そうとしていた彼から逃げなければ。
あなたを殺そうとしている人がいると、兄に伝えなければ。
走る。
走る。
走る。

「きゃっ!?」
「……っ!?」

気付けば人にぶつかっていた。
しまったと思っても、もう遅い。
彼が企んでいたように、兄がそうなろうとしていたように、自分も殺されてしまうのではないか。
恐怖が更に膨れ上がり、足が縺れ、そのまま人影に倒れ掛かってしまっていた。

1324雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:37:06 ID:oHOCNhvs0
「ご、ごめんなさい、私……!」
「いえ、大丈夫ですわ。怪我はございませんか?」

咄嗟に謝ると、優しい声が返ってきた。
倒れ掛かってしまったことで恐怖に戦き震えていることに気付いたのか、落ち着かせるように優しく、優しく抱き締めてくれる。

「あ……」

温かく、包み込んでくれる。
久方ぶりにも思える人肌を感じ、ターニアは僅かに落ち着きを取り戻していった。
手の震えはなんとか止まったが、そのままぎゅっと、ぶつかった彼女……ローラのドレスを握り締める。

「ありがとう、ございます……その、私……」
「……このような殺し合いの世界なのです、恐ろしい何かに出会ってしまったのでしょう? 怯えてしまっても仕方ありませんわ」

わたくしも、大切な方を失ってしまい、恐ろしさが燻っています。
そう言うとローラはそっと目を伏せ、そこに寂しさを滲ませた。

(大切な人を……)

頭に浮かぶのはいつも優しくしてくれる兄の姿。
目の前のこの人が言うように、この殺し合いの世界で、兄を失ってしまったら……。

「お兄ちゃん……お兄ちゃん……いやだよ、そんなの……」
「お兄様がいらっしゃるのですか?」
「はい……放送では呼ばれてないけど……どこにいるかも分からないけど……」

ローラが背中をさすってくれる。
白くて細い頼りない手が、縮こまってしまったターニアの背を何度も往復する。

「そう、お兄ちゃん……お兄ちゃんを、殺そうとしてる人がいて……みんな、どこかにいったり、いなくなったり……こわくて、私……」

多少落ち着いたとはいえ、少女の恐怖は簡単には消えない。
支離滅裂なものだと頭では分かっていても、ぽろぽろと言葉が零れていく。
そんなターニアを咎めることなく、無理に宥めようとすることなく、ローラは優しい笑みを口に浮かべてその言葉を聞いている。

「この世界で、すぐに出会った人で……カビ団子みたいな、緑の人……最初は助けてくれて、ずっと、気にかけてくれて……。
 でも、聞いちゃって……その人が、お兄ちゃんを殺そうって……仲間の人に、一緒に殺そうって言ってたのを……」

1325雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:38:38 ID:oHOCNhvs0
つぅ、と涙が一筋流れた。
逃げるのに精一杯で塞き止められていたそれらが、ひとつ、またひとつと顔を覗かせていく。

「私を助けてくれたのは、ずっと一緒にいてくれたのは……きっと私が、お兄ちゃんの妹だから、都合がいいから……」

改めて口に出してみると、なんともミジメだ。なんとも不様だ。
兄に会いたいという自分を、彼はどんな想いで見ていたのか。 心の内でしたり顔でもしていたのだろうか。
それ以上言葉を紡げず、泣きじゃくる。
しがみついている相手に敵意があるかどうかを考える余裕もなかった。
そんなターニアを、ローラはぎゅっと、一際強く抱き締めた。

「怖かったですわね……辛かったですわね」

そっと、少女の体に手を添わせる。城を覆う茨のように。
母親のように、幼子をあやすように、時折背中をぽんぽんと叩く。
安心できるように――安心しても大丈夫だと言い含めるように。
優しく、優しく――。

「わたくしはローラと申します。貴女の名前を、お聞きしても?」
「わ、わたし……ひぐっ、ターニア……ターニアです」
「そう、ターニアさん」

彼女の背で両手が触れあうほどに絡み付いていた手を片方解き、頭に添わせる。



「怖いでしょう、その方も、人を信じることも。今はご自身だけを信じましょう。お兄様に会いたい、そんな自分だけを」



自分、だけ……。
未だ震える唇を動かし、ターニアは小さく呟いた。
ささやき声が、すっと頭に浸透していく。
やがて涙が止まり落ち着くと、ターニアはローラに倒れかかった状態から慌てて立ち上がった。

「あ……ご、ごめんなさい! いきなりぶつかって、しがみついて……」
「気になさらないで下さい」

ローラもまた微笑んで、ドレスの裾を軽く払いながら立ち上がる。

(わたくしも、貴女のようなか弱い少女と出会えたのは都合が良いですから)

見るからに普通の娘。
恐怖に戦く姿は戦いや呪文の心得があるようには思えない。
ならば、特に用はないだろう。
立ち上がったターニアとの距離を詰めながら、ローラは後ろ手に毒針を構える。

「私ばっかり、泣きじゃくって……ローラさんも、大切な人を失くしたって言ってたのに……」
「確かに、この身が引き裂かれる想いですわ。でも……今もあの方は、わたくしに力を下さっているのです」

あと、一歩。
そう、このように。
胸を目掛けて毒針を――

1326雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:40:20 ID:oHOCNhvs0
 


「ターニアさん!!」



聞き覚えのある声が聞こえて、ローラは慌ててその手を止めた。
幸いターニアにも声の主にも気付かれなかったようだ。

「え……チャモロさん……?」
「ターニアさん、無事で良かった。ええ、チャモロです……、……?」

現れたのは、やはり彼だった。
アベルから救出してくれて、ハッサンの事実を突き付けてきたチャモロ。
同行した時間は長くはないとはいえ、その声は忘れていなかった。
決して逃げることはできない人。向き合わなければならない人。

チャモロはローラに気付くと、目を見開いた。
ローラが慎重に言葉を探してる間に、呆然と呟く。

「ローラさん……生きて、いる……? 僕はてっきり、あの黒い雷に呑まれたとばかり……」
「……え?」

ターニアが顔をこわばらせたことに気付かず、チャモロは信じられないという目でローラを見る。

「わたくしも死を覚悟しましたが……この通り、生きています。
 ……チャモロさんも、あの場にいたのですか?」

チャモロは確かに言った。黒い雷と。
それに呑み込まれ、共にいた命を埋葬したローラだが、チャモロが訪れた痕跡は村になかった。
具体的な事象を知っているのだから、出任せではないだろう。

「あそこにいたのに、彼女を止めなかったのですか? まさか、わたくしたちを見殺しに……」

チャモロの性格を考えると、村に姿を現さなかったことに疑問を覚える。
到着が遅れて雷に巻き込まれなかったとしても、その後にすら足を踏み入れていなかったのだ。
震えた声を出し、チャモロを疑う――ように見せかけて、ターニアをちらりと見やる。その顔がまた青ざめていた。

「……違います」

答えは、どちらでも良いのだ。

「確かに僕は、あの時近くにいました。ですが、あの僧侶の女性――スクルドさんにキメラの翼を押し付けられて……」

心の底からチャモロを疑っているわけではない。

「そして……あの黒い雷を見ながら、滝の上の一軒家へと引っ張られたのです」

今この場で彼女を殺せないなら、利用できるようにするべきだから。

「そのようなことが……申し訳ございません。失礼なことを……」
「いえ……そう思われても仕方ない状況でしたから」

ほら、胸を撫で下ろしているけれど、彼女の顔から不安は消えていない。

知っている者が人を見殺しにした可能性を知ってしまうと、それを簡単には忘れられないだろう。
明日は我が身。いつ自分が同じ目に遇うか、いつ自分が見殺しにされるか、分かったものではない世界なのだから。

1327雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:42:46 ID:oHOCNhvs0
(自分の身を守る為に使いなさい、とでも言って、後で毒の粉を少し渡しましょうか)

考えを巡らせながら、ローラはターニアに手を向けてチャモロに問いかける。

「ところで、彼女を追いかけて来ていたようですが……北で何かあったのですか?」
「あ……すみませんターニアさん! 逃げ出してしまった貴女が心配で追いかけてきたというのに……」
「あ、ううん……! 大丈、夫……」

口では大丈夫と言うものの、ターニアはすぐに俯いてしまう。
チャモロとローラは、その傍に心配そうに寄り添う。

「キラーマジンガに狙われた時、貴女は既に何かから必死に逃げているようでした。何があったのですか?」
「あ、お兄ちゃん……お兄ちゃん、が……」
「レックさんも近くに?」
「ううん、違う……お兄ちゃんが、殺され……」
「レックさんが……殺されてしまったのですか!?」

驚いて叫んでしまうが、ターニアはふるふると首を横に振る。
早とちりだったことに安堵しながら、続きの言葉を待つ。

「お兄ちゃんには、会ってなくて。そうじゃなくて……ジャンボさんが、お兄ちゃんを殺そうって言ってるのを聞いて……そうだ、チャモロさんだって殺そうって言われてた……!」
「ジャンボさんが!?」

再び声を張り上げてしまう。
サフィールやブライが信じて待ち、先程キラーマジンガから助けてくれた彼が、レックや自分を殺そうと?

「僕はジャンボさんに窮地を救われ、今こうしてここにいるんです。何かの間違いでは……」
「間違いなんかじゃないよ! 確かに聞いたんだもの……チャモロさんだって、いいように使われてるのかも……!」
「まさか、そんな……」
「私だって、お兄ちゃんを殺す為に利用されようとしてたのかもしれない……チャモロさんだって、私を連れ戻す為に利用されてるだけかもしれないよ……!」

チャモロとしては、自分を救ってくれて、ターニアも心配していたように感じるジャンボを信じたい。
だが、青ざめて震えるターニアが嘘を吐いているようにも見えないし、彼女が嘘を吐くような人物でもないと知っている。

「……わたくしはそのジャンボという方に会ったことがないので、なんとも言えませんが……どうするのですか?」

静観していたローラが、口を挟んだ。

「このような状態の彼女をそのジャンボさんの元に連れて行くのも酷だと思いますが……」
「ですが、南に向かってもほぼ壊滅状態の村、その先の道は禁止エリア……あ、そうだ、ローラさん」
「はい?」
「あの村で生き延びたのなら、アルスさんとライアンさんに会いませんでしたか?」
「…………っ」

唇を結び、ローラは目を逸らす。
その様子に、今度はチャモロが疑いを向ける番だった。

「……まさか、ローラさん」
「違います」
「貴女、あのふたりを……」
「違います!」

目を伏せたまま、ローラは言葉を紡いでいく。

「あの村に、お面が落ちていたんです。伝承で守備の力があるものだと知っていたので、それをライアンさんに勧めたのですが……」
「お面?」
「ええ。ですが……伝承には載っていなかった呪いの力が込められていて……」

1328雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:44:18 ID:oHOCNhvs0
 









「それが、君の言い訳?」

低い声が聞こえた。
三人ともが驚いてそちらを見ると、疾風の如くローラに突進する緑の影。
その手には、オチェアーノの剣。
その刃が捉えるのは――ローラの腹部。

目にありったけの殺意を込めて、怒りに燃えるアルスがそこにいた。

「アルスさん!?」
「な、何……!?」
「……!!」

誰も止められないまま、アルスが持つ刃は真っ直ぐにローラの腹部に埋まる。

「もっと遠くまで逃げてたらどうしようかと思ったけど」

すぐに引き出し、もう一度。
同じ場所を刺す。

「助かったよ、こんな所で油を売っててくれて」

もう一度。刺す。

「こうして追い付けたし、何より――」

刺す。

「――お前を殺す余力が、十分ある」

致命傷にはなり得ないよう、急所は外されている。
しかしそれが余計に、ローラを追い詰めた。
愛する我が子が、アレフの生きた証が、何度も、何度も、生きている自分の中で刺されている。

「い、やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うるさい!!」
「ッ!!」

悲鳴が煩わしく、アルスはローラの顔を殴りつけた。

「マリベルは……! ライアンさんは! もっともっと苦しんだんだ!!」
「アルスさん!!」
「こんな傷じゃ足りないくらい! マリベルは、手足だってぐちゃぐちゃにされて!! ライアンさんは、顔中から血を流して……!!」
「アルスさん、止めて下さい!」
「もっともっともっともっともっと、お前より、お前らよりずっと、ずっと! 苦しんだんだ!!」

1329雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:46:04 ID:oHOCNhvs0
我に返ったチャモロがアルスを羽交い締めにしても、アルスはまだローラを痛めつけようと暴れる。
肘がチャモロの顎を打ち、外れた手から自由になった右手のオチェアーノの剣の柄がその頬を掠める。

「邪魔しないでよ!! そいつは、絶対に殺してやる……絶対に許さない!!」

チャモロを突き飛ばして再び向かっていくと同時に、ローラが杖を振るのが見えた。
その身に魔力を感じた瞬間、目の前にいたローラが消える。
振り返ると、チャモロの傍に杖を持ったローラがいた。

「……はは」

乾いた笑いが唇から漏れる。

「はは、あははははは、やっぱり。あの時と一緒だ。やっぱり全部、全部全部! ぜーんぶ、お前が仕組んだんじゃないか!!」

それはまるで答え合わせ。
リーザス村の出入口で見張りをしていた時と同じ魔力、同じ現象。
アルスからしたら、自ら手品の種明かしをする道化のようだ。

アルスが地面を蹴る。ローラがまた杖を振る。
同じ轍は踏むものかと、オチェアーノの剣を魔力の弾に向かって投げる。
剣とローラの位置が入れ替わるに留まり、アルスの前に目の見開かれた顔が現れた。
逃げられる前にその顔を両手で掴み、鳩尾を蹴る。膝で蹴り、もう一度膝で蹴り、最後に全体重をかけて蹴り飛ばす。
吹き飛ばされたローラは咳き込みながらチャモロに受け止められ、ベホマの光を当てられる。
その様子に、アルスは更に腸が煮えくりかえるのを感じた。

「なんでだよ、そんな奴に治療なんて必要ないよ。もっともっと苦しませた上で殺してやらないと!」
「落ち着いて下さい、アルスさん! こんなことしたって、何にもなりません!」
「なるさ! マリベルの分もライアンさんの分も、苦しみを全部返して、もっと与えて、後悔させてやる!!」
「…………ない」
「え?」

ゆるさない。
小さな声と共に、チャモロの腕から立ち上がったローラが、杖を振る。
アルスは拾い上げたオチェアーノの剣を再び投げるが、ローラの殺意に呪力が比例して強まったのか、不運にも剣は光弾に当たらなかった。
場所の入れ替わりに備えていたアルスは、しかし次の瞬間、目の前にローラを、左肩に激痛を認めた。
深々と刺さっているのは毒針。
引き寄せの杖で鋭い切っ先へと引っ張られていた。

「アレフ様の子を、アレフ様が生きた証をよくも……許しません…………!」
「先に奪ったのはお前たちの方だ!」

毒針を乱暴に抜き、ローラに振りかぶる。
激情のままに繰り出されるそれはしゃがんで避けられ、体当たりを見舞われた。
戦い慣れていないローラの体当たりは大したダメージにはならないものの、毒針が手からすっぽ抜けてしまう。
放物線を描いた毒針が向かった先を見て、初めてアルスに殺意以外の表情が浮かんだ。

1330雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:48:14 ID:oHOCNhvs0
「え、や、やだ……!」

起きている事態に付いて行けず腰を抜かしていたターニアがその着地点にいた。
アルスの殺意はローラへのみ向けられたものだ。他の者――更に言うなら見るからに普通の少女を殺すつもりなどない。
チャモロが毒針を手刀で落として間一髪事なきを得たが、その隙を付いてまたもローラに体当たりをされた。
焦りが一瞬で怒りに染まり、オチェアーノの剣を拾って、毒針を拾いに行こうとするローラに向かって駆けていく。

殺意を滾らせ、憎しみを込めて。
アルスはもっともっと痛め付けてやろうと距離を詰める。



「いい加減に――しなさいッ!!!」



瞬間、ふたりの間を駆ける一刃。
チャモロの胸中をその身に背負っているかのように荒々しく、けれどアルスとローラ、未だに震えるターニア、その誰もを傷付けないように慎重に。
かまいたちに注意が逸れ、ふたりともがチャモロを見る。

「邪魔しないでよ!」
「横槍を入れないで下さい!」
「お断りです!!」

堪忍袋の緒が切れて、腹の底から叫ぶ。
ターニアを危険に曝した上で暴走を止めないふたりを力一杯睨み付けて。

「ハッサンさんを殺され、理由はどうあれアモスさんを殺してしまった僕だからこそ――貴方たちを止めなければならない!」

怒り、悲しみ、後悔、決意。
様々な感情をない交ぜにして、チャモロは言葉を紡ぐ。

「僕はかつて僕に影響を与えてくれた友、ハッサンさんを殺され、遺志を継ぐことを決めました。そしてその原因であるローラさんとも、少なからず関わりを持ちました。
 だからこそ言える。アルスさん。憎しみに囚われて殺意に身を任せてはいけません」
「…………」

アルスは唇を噛み、俯く。
その手をぎゅっと握り締めて。

「僕は元の世界でも関わりがあった人を、経緯はどうあれ手にかけてしまいました。殺したくなかった反面、そうすることでしか彼を救えなかったと理解してしまい、事実を受け入れるしかありませんでした。
 だからこそ言える。ローラさん。これは貴女の罪なのです。受け止めなければなりません」
「う、あ……ああ…………」

ローラは目を彷徨わせ、やがて力が抜けたように座り込む。
アレフ様、ごめんなさい、不甲斐ないばかりに、譫言のようにアレフへの言葉を繰り返して。

「僕たちは皆、大切な方を失ってしまいました。だからこそ、その方の死を無駄にしない為に、憎しみで剣を取るのではなく、互いの手を取らねばならないんです」
「じゃあ……」

顔を上げたアルスはぎっとチャモロを睨み付け、唸り声とも思える低い声で問いかける。

「じゃあ、許せって言うの? 君だって大切な人を殺されたって言った。僕だって大切な人を、僕を導いてくれた恩人を、こいつの所為で失った。それを全部、許せって言うの?」
「許せとは言いません。憎むなとも。僕だって、ハッサンさんを殺した彼女を許したわけではありません。今でも……憎いです」

ローラがぴくりと肩を震わせたのが分かった。
全てのきっかけをズタズタに傷つけられて気力を失ったか糸が切れたか、それでも座り込んだままだ。

「ですが、憎しみに任せて復讐したって、ハッサンさんは帰ってこない。それに……正義感に溢れたあの人は、きっと何よりもこのゲームを止めることを望むはずです」

1331雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:49:43 ID:oHOCNhvs0
滝の上の一軒家の決意を思い出す。
この世界での全ての始まり。
殺された後であることは悔やまれるが、最初に出会えたのがハッサンだったことはチャモロにとって揺るぎない反抗の誓いの証になった。

「死人に口はありません。けれど、彼をよく知る僕の中の彼は、敵討ちなんて望まない。
 僕の中のあの人がそう言うのなら、それを叶えるのが僕のやるべき事です」

――ふざけるな。
――あいつらはハッサンを殺した。
――これは神が下した罰なんだ。
――自業自得なんだ。
――いい気味だ。
――二人仲良く、地獄で己の行為を悔やめ。
――助ける必要なんてないんだ。

チャモロだって、最初はアレフとローラにそうやって憎しみを募らせた。
それを上回ってローラの救出に突き動かしたのは、他ならないハッサンだったのだ。
アルスの気持ちは痛いほど分かる。だからこそ、アルスにローラを殺させたくなかった。

「アルスさん。貴方の中の大切な人たちは、貴方にどんな言葉を投げ掛けていますか」
「…………」



――あたしが死んだらアルスはあたしのこと、ずっと覚えててくれる?

アルスの脳裏を真っ先に過ったのは、トラペッタでも思い出したマリベルの言葉。
かつてはその奥底の想いを理解できなかった言葉。
この世界で、漸く本当の答えを見つけた言葉。

(マリベル、君は……それだけでいいの?)

こんなに憎いのに。
こんなに許せないのに。
既に手遅れだったアイラと出会ったマリベルだって、ハーゴンと対立して戦ったと聞いている。
それなのに、マリベルは覚えていてもらえるだけでいいのだろうか。

マリベルだって、敵と戦って、そして――



もしアレフたちが乱入しなければ、マリベルはその先どうしたのだろうか。
憎しみに任せて殺していた?
それとも戦いを制した上で、罪を認めさせたかった?
償わせたかった?



――死が必ずしもその人の価値をなくしちゃうとは限らないわよ。

(……あ)

――もしアルスが死んでも、あたしはきっとアルスのこと忘れないもの。



またひとつ思い出した、マリベルの言葉。
あの時は分からなかった。
死んだらそれまで。価値も何もあったものではない。
そうとしか思わなかった。

1332雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:54:24 ID:oHOCNhvs0
(そうじゃ、ないんだ)

アイラの存在を軽んじられてマリベルが激昂したことを、アルスは知らない。

(僕が覚えてなきゃ……生きてきたみんなを受け止めなきゃ、いけないんだ)

けれど、戦いの中で変化を手にすることができたアルスは、ほんの少しずつ人の心も想像できるようになってきている。

(ありのままのみんなを、覚えていなきゃ。じゃないと、みんなの価値……ううん、価値なんてものじゃない。みんなが生きた証が、ひとつ失くなってしまうんだ)

マリベルのことも、ライアンさんのことも、忘れない。
……ライアンさん。



――あの……女性を恨んでは……いけない………。



聞こえていたはずなのに聞こえていなかった言葉が、今、漸く届いた。
アルスを導いてくれた彼は、最期までその手を引いてくれていたのだ。
理由を持たない曇った殺意は、きっと自分なりの理由を持った殺人者よりも悲劇を巻き起こす種になる。
そうならないように、ライアンはアルスに恨むなと伝えたのだろうか。

(ライアンさん……どこまでも優しい貴方を、僕も殺してしまうところだったんだね。貴方を貴方として遺せなくなるところだったんだ)



「……はは」

つい今しがたローラと対峙した時と同じく、軽い笑いが溢れた。
乾いたものであることに違いはないけれど、全く違う感情を込めて。

(エイトのこと、言えたものじゃなかったね。僕だって、衝動的に殺してしまうところだった)

自嘲は短かった。
眦から想いが流れた。
それもその一筋で終わった。

「……ありがとう。止めてくれて」

掠れた、小さな声。
憎しみは完全に消えてはいない。まだ心はコントロールしきれない。
それでも、なんとかブレーキをかけることができたから。

「……いえ。僕の方こそ」
「?」
「貴方たちと出会った時、実は僕も憎しみに……八つ当たりにも近い憎しみを抱いていたんです。アルスさんたちがいなければ、どうなっていたことか」

リーザスの惨劇での無力感から、キラーマジンガへと憎しみが向いていた。
そんなチャモロの元に駆け付けてくれたのがアルスたちだ。
サフィールの無事やみんな友達大作戦の情報も、確かにチャモロに刻み込まれた。
アルス、ライアンとの出会いは、確かにチャモロに大きな変化を齎したのだ。

「本当は、僕にも大きな口を叩けたものではないんです。ですが……手遅れにならなくて、本当に良かった」
「僕だって。人を殺したとある人にきつい言葉を投げ掛けたのに、自分も道を踏み外すところだった。お互い様だよ」

互いが互いに助けられていた。
合わせられた目は、少し可笑しそうに見えた。

1333雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:55:49 ID:oHOCNhvs0
「……そういえば、ひとつ約束をしてたよね」
「……ええ、そうですね」

もう一度会えたらその時は――――――また僕を仲間と呼んでほしい。
その約束は、ふたりとも覚えている。

今更言葉にするのがもどかしくて、どちらともなく握手を交わした。
それだけで良かった。
少年たちは漸く、仲間として手を取り合い始めた。





(アルスさんが踏み留まってくれて、本当に良かった……)

アルスの説得に成功して安堵のため息を吐いたチャモロは、ローラの方へ視線を遣る。
今度こそ彼女と向き合う為に。

「ローラさん、貴女も…………ローラさん?」

そこで不意に覚えた違和感。
いつの間にか譫言さえ止んで静かになっているローラに近付く。
それどころか足音が近寄っても、声をかけても、一切反応しない。

「ローラさん……?」

不思議に思ったチャモロは彼女の肩を揺すり……絶句した。
その背がべったりと、血で染まっていたのだ。
肩より少し下、左胸の辺りの刺傷が、鮮やかなドレスを更に鮮やかな深紅で彩っている。
その目は虚ろに見開かれたまま、呼吸は完全に止まっていた。

「どうしたの…………え、これ……」

近寄ってきたアルスもそれに気付き、呆然とする。
今の今まで殺したくて殺したくて仕方がなかった相手なのに、いざその姿を見ると動揺が走った。

「もしかして、近くに誰かが潜んでた……?」
「そんな気配は……、…………ッ!? 待って下さい、ターニアさんがいない!?」
「え、じゃあ……まさか」
「いえ、ですがターニアさんはそんなことをする人じゃ……!」
「でも、あれ……!」

アルスが指さした先には、この場から離れるように点々と赤い雫が付いている。

「毒針もあの子の近くに落ちたし、可能性は高いと思う」

1334雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:59:53 ID:oHOCNhvs0
ローラへの殺意を剥き出しにした自分が彼女を怯えさせてしまった自覚はある。
アルスは自分が蒔いてしまったかもしれない種に、大粒の汗を流していた。








走る。
逃げる。
走る。
逃げる。
走る。
逃げる。
逃げなきゃ。逃げなきゃ。

(お兄ちゃん、どこにいるの……怖いよ、助けて……)

優しく抱き締めてくれたローラも、人を殺したという。
兄の仲間のチャモロも、知り合いを殺したという。
怒り心頭に現れたアルスも、ローラを殺そうとしていた。

ひたすらに怖かった。

この世界で起こったことも、それぞれがどんな想いを抱いていたかも、ターニアには分からない。
確かなのは“みんな誰かを殺したこと、殺そうとしていたこと”だけだ。
落ち着きかけていた恐怖は、反動からかそれまで以上に膨れ上がっていた。

ここにいちゃ駄目だ。
兄が信頼していた仲間ですら、人を殺してしまっていた。
明日は我が身。いつ自分が同じ目に遇うか分からない世界。

――気付いた時には、拾い上げた毒針を、ローラの背に突き刺していた。
ぬるりと、生ぬるい嫌な感覚が手を伝う。

1335雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 13:01:20 ID:oHOCNhvs0
「え、あ…………あぁぁ……!?」

信じられない。
ここにいては駄目だ。そう思って逃げようとしていたはずなのに。
どうして、私は――

(だって、優しくして付け込まれて利用されるところだったかもしれない)
(先にやらないと、私が殺されてたかもしれない)
(ここから逃げる為には、必要なことなんだ)

混乱する頭に必死に言い訳を並べながら、今度こそ、その場から逃げ出す。



――今はご自身だけを信じましょう。お兄様に会いたい、そんな自分だけを。



ターニアの頭に纏わり付いて、離れない言葉。
流されないよう、自分で考えて行動しよう。そんな想いに絡み付く呪詛のような声。
声の主の命の灯が潰えて尚、ターニアの恐怖をかき立てる。
混乱からきた行動なのか、抗えない呪いに蝕まれた行動なのか。
ターニア自身にも分からなかった。
それが余計に怖かった。

北にいるジャンボ、南の街道に設定された禁止エリア。
それらを避けて、西へ走る。兄に会いたい一心で。





――人を信じるのが怖い。
――人を殺した人がたくさんいるもの。
――でも今、自分も人を殺した。
――あの人はハッサンさんを殺したって言ってた。
――だから殺した?
――私もあの人に殺されてたかもしれない。
――でもあの人は座り込んで、追いかけて来そうになかった。
――それでも、怖かった。
――人を殺した人が怖かった。

――じゃあ、自分自身も、怖い?
――自分の意思じゃないところで人を殺してしまった自分が、怖い?



幻聴なのか、自問自答なのか。
ぐちゃぐちゃとした思考を纏めることも放棄して。
逃げる。
逃げる。
少女は逃げる。
ここにいない兄に、助けを求めながら。

1336雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 13:02:31 ID:oHOCNhvs0
 


【ローラ@DQ1 死亡】
【残り21人】


【G-5/森/2日目 早朝】

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP3/5 MP1/7 左腕骨折(応急処置済み) ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)(加速状態)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:諦めない。ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める ターニアを助けに行く ジャンボへの不信感(半信半疑)
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。また、はぐれメタルの職業を少なくともLv7まで経験しています。魔法使い、魔法戦士、賢者、勇者は経験していません。

【 アルス@DQ7】
[状態]:HP1/9 MP1/3 左足に怪我(素早さ低下) 右腕から胸にかけて裂傷(応急処置済み)左肩に刺傷
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜1) ゲルダの不明支給品0〜1個(確認済み) 道具0〜2個(本人確認済み) 
[思考]:この戦いを終わらせる。ミーティア、キーファを探す。トラペッタへ戻る。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。


【F-3/森/2日目 早朝】

【ターニア@DQ6】
[状態]:健康 恐怖
[装備]:毒針
[道具]:支給品一式(ランタン無し)、愛のマカロン×6 砂柱の杖@トルネコ3 道具0〜1
[思考]:基本方針:お兄ちゃんと合流したい。
首輪を解除してくれる者を探す 
周りに流されず、自分で行動する

1337 ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 13:03:07 ID:oHOCNhvs0
以上で投下終了です。
誤字脱字、指摘などあればお願いします。

1338ただ一匹の名無しだ:2019/04/13(土) 18:58:33 ID:wVYzVTMc0
投下乙です
アルスは踏みとどまれたけど、ターニアがやっちゃった…
ジャンボの過去スタンスがチャモロに伝わって、どうなるやら
ローラは…アレフ共々ドンマイ
赤ちゃん守れなかったか…

1339 ◆i1hhTb.klQ:2019/04/17(水) 21:12:20 ID:P2aF99zo0
すみません、雪解け水に毒は揺蕩うの状態表にて、ターニアの位置をF-4と間違えてF-3にしていました。
正しくはF-4になります。wikiにて修正させていただきました。

それと、こちらでいいのか分かりませんが、タイトルを間違えたページを作成してしまいました。
雪解け“の”水に毒は揺蕩うになっている方が間違えたものです。
削除していただけたらと思います。

1340 ◆vV5.jnbCYw:2019/05/01(水) 01:36:11 ID:WyLXwBkE0
竜王、アンルシア予約します。

1341 ◆vV5.jnbCYw:2019/05/01(水) 23:01:01 ID:WyLXwBkE0
投下します。

1342 ◆vV5.jnbCYw:2019/05/01(水) 23:03:23 ID:WyLXwBkE0
(なぜ……なぜこんなことに………。)

竜王はトンネルを進む。
その姿はかつての威厳も何もない。

今、自分は何をしているのか。
自分とレックの戦いを邪魔した男を追いかけ、殺す。

それが可能なのか?
否。今の自分の状態は、万全のそれとは程遠い。
竜に変身することさえ出来ず、歩くことがやっとである。

加えてレックとの戦いで、キーファとの戦いで受けたダメージを今になって感じる。
先程までは怒りを伴って戦いに没頭していたため、感じる暇がなかった。
今こうして戦わずにいると、体のあちこちがキリキリと痛む。


(何が王だ………)
自分がやろうとしたこと。この世界で何一つ出来てないではないか。
悪にもなり切れず、かといって人間と協力も出来ず。
死ぬことさえ出来ず、無様に生きながらえている。

さらに竜王の心を抉ったことは、もう一つある。


先の放送で、アレフの名が呼ばれたこと。

ロトの剣をオルテガに渡し、自分が悪事を働いていることを広めれば、必ず自分を殺しに来ると思っていた。

それが、何の噂も入ってこないうちに殺されているとは。

既に死者はヤツや知っている者を含め、4分の3近くになる。

到底あの魔導士の息のかかった魔物だけで殺しきれる数ではない。
恐らくこの世界の闇に飲まれ、殺しに手を染めた人間が多いと考えるのが妥当だ。
その中にはキーファのような勘違いも含まれるだろう。


人々を飲まんとする闇を払い、正しい道へと導くのが勇者の役目ではないのか。
一度は我が身を滅ぼした存在が、こんなにもあっさりと膝を屈するものなのか?

決して報復が出来なかったことが悔しいのではない。
だが、何がヤツを殺したのだ?
自分やアレフをおも上回る存在に殺されたのならまだいい。
もしや、ヤツもこの世界の闇に飲まれたというのか?

1343ラストチャンス ◆vV5.jnbCYw:2019/05/01(水) 23:03:48 ID:WyLXwBkE0

ワシは一体、何をすればよかったのだ?

トンネルを抜ける。
月がなおも自分を照らす。
そろそろ太陽が新たに顔を出す頃だろう。
しかし、それでいてなお不気味なまで光っている。

かつては地上に侵攻した時でさえ、月の光など見向きもしなかったのに、どういうことか。


(所詮は、偽物の光が………。)
月は太陽の光を借りて輝くという。

かつては自分も勇者という光を借りて存在していた。
だからこそ、自分達にしかない光を求めて、光の玉を奪った。

だが、今は月として勇者と言う名の太陽を引き立てる役目を全うしようとした。

その役目すら許されないとは、どういうことだ。

竜王は今、答えのない道を歩いている。
万に一つでも襲撃者を殺したとして、それがどうなるのか。

襲撃者を殺したものとして、また誰かがキバを剥いてくる。


更に歩いていくと、見知らぬ少女が一人いた。
ローラ姫に似た年齢。
脚を怪我しているのか、歩く速さは竜王のそれよりも遅い。


だが、自分には気にする必要はない。


「竜王………!?」

少女は竜王を睨みつける。

既にアンルシアは竜王のことをオルテガから知らされており、そのオルテガを殺した人物もまた、竜王だと思っていた。

「ほう……ワシの名もよく知られているようだ。」


アンルシアは戦姫のレイピアを震える手で握り締める。

なるほど、やはりそうくるかと竜王も身構える。
やはり人間との協力など、夢物語。
仮に仲間になれたとしても、第三者からの殺意を受ける。

1344ラストチャンス ◆vV5.jnbCYw:2019/05/01(水) 23:04:07 ID:WyLXwBkE0
竜王が右手に炎を纏った直後に、アンルシアは気付いた。

(落ち着きなさい!!今、やるべきことは何!?戦うべき敵は誰!?)

自分は誰が敵か味方かの区別もつけず、戦いに飛び込んでいった。
その結果が、あの大量の犠牲者だ。

ここで、迂闊に敵に戦いを挑むことは、逃げること以上に死につながる。
恐ろしいことは手ごわい敵がいることではない。敵か味方かの判別が難しいことだ。

自分がやることは………。
戦姫のレイピアを、地面に突き刺した。


(!?)
この行動には、さしもの竜王も驚く。
「どういうつもりだ。キサマ戦いを放棄するのか。」

竜王も手に纏っていた炎を消す。

この魔物は、理性がある。
もし人を殺すことしか意思がなければ、すぐに自分に魔法を放っていたはずだ。


アンルシアは、賭けに出た。

「お願い!!私に、力を貸して!!」
「どういうことだ……キサマ、血迷ったか?」



竜王は怪訝な目で自分を見る。
見られて当然のことをしたという自覚はアンルシアにもあったが。

「私は仲間を助けに行かなきゃいけないの!! だから、あなたとは戦えない!!」

アンルシアは自分の決意を伝える。
だが、竜王はアンルシアの脚のケガを見抜いていた。


「ほう……その傷ついた、歩くこともままならぬ脚で、助けに行くというのか?」
「…………!!」

竜王の言うことは至極全うだった。
今の脚では、ティアさえ追うことが出来ない。
しかも凍傷と刺し傷のせいで、無理に動かしたら悪化するだろう。
回復呪文を唱えようにも、自分の力を間違った方向に使ったあの出来事がフラッシュバックし、唱えられない。

「力無き決意は決意無き力と同様、無力だということを教えてくれる者はいなかったのか?」

「だから、私には助けが必要なの!!あなただって、ケガしている!!
ここで必要なことは、協力することよ!!」
「くだらん。」
「あなたの目的は何?教えてくれたら、私も協力できるかもしれないわ。」
「聞いたところでどうする?人間などに協力してもらうほど、我が誇りは廃れておらぬわ。」


アンルシアの必死の説得を、竜王は一蹴する。

1345ラストチャンス ◆vV5.jnbCYw:2019/05/01(水) 23:04:30 ID:WyLXwBkE0

「キサマが今の状況を脱却出来た後、掌返して裏切らない保証はどこにある?
たとえワシがキサマと協力したところで、キサマが助けたいという仲間は納得してくれるのか?
魔物であるワシに助けられて、ワシに素直に感謝できるのか?」

「…………!!」

アンルシアも知っている。
500年前のアストルティアで起こった偽りの太陽、レイダメデスの事件。
オーガ達はレンダーシアの人間の為に、自らの城を貸した。

だが、他の種族をも助けることで、水の分け前が減ることを恐れた人間が、オーガを城から追い出した。

他の種族さえ排他的な人間が、魔族に味方意識なんて持てるのだろうか。

考えたことがなかった。
レイダメデスの悲劇は500年も前に起こったことで、ジャンボにしか聞いたことがない話だ。
けれど自分も、道具使いとして、魔物を従えているジャンボを見るまで魔族とは兄の仇で、自分の倒すべき種族だとばかり思っていた。

「諦めろ。キサマはどの道、助けることは出来ない。助かることもない。ワシの時間の無駄だ。」


竜王はアンルシアを無視して、城へ向かおうとする。

(待って……)
アンルシアは、竜王が一人でこの先へ向かうことを、危険視していた。

それは、この先にいるであろうティアの存在。
彼女も自分と同様、竜王が危険人物だということを知っている。
それに加え、今ティアは竜王が渡したロトの剣を持っている。

あの時のバンダナの青年のように、斬りかかられる可能性だってある。
斬りかかられた結果、報復を受け、ティアが殺される可能性もある。
実際にあの戦いでも、ヤンガスがメガザルを唱えてくれなければ、もっと怪我人が増えていたし、ティアも死んでいたかもしれない。


だが、この竜王と言う魔物が味方になれば。
この竜王と言う魔物が協力してくれれば、仲間を守れるかもしれない。

1346ラストチャンス ◆vV5.jnbCYw:2019/05/01(水) 23:05:29 ID:WyLXwBkE0
今、竜王をトロデーンに向かわせてはならない。
かといって五体不満足な自分一人で向かっても、トロデーン城の「襲撃者」を倒し、ティアを救うのは難しい。

二人で同時にトロデーン城へ向かうことで、自分の目的を完遂することが出来る。


こんな時に必要なのは、勇者としての力だけじゃない。
ジャンボが見せた、「交渉力」。
彼は目的を果たすために、ゴールドを払って引き入れる用心棒だけではなく、「仲間」を多く引き入れていた。
中にはドワーフや人間以外の異種族もおり、魔物もいた。

自分は持ち前の勇者の力を半分も出せないが、ジャンボと冒険した時の記憶は、今もなお深く根付いている。


まず目的の為の仲間を作るには、相手の目的を見抜くのも必要だ。


「私は知ってるわ。あなたはロトの剣を持っている勇者を探している。そして私は、その勇者がいる場所も知っている!!」

(何!?)

竜王は愕然とした。
勇者アレフは既に息絶えている。
証拠を見たわけではないが、自分の炎に焼かれたオルテガが死者として呼ばれたから、そうだと信じるのが妥当だ。

だが、覚えている。
かつてアレフガルドに光を取り戻したという勇者。
赤茶けた古い書物でしか見たことがないが、仲間も併せて同じ顔をした者が、この戦いの名簿に映っていた。

この娘は出まかせを言っているわけではない、竜王はそう確信した。


「案内してやるから協力しろ、まずは自分の傷を癒せ、そうとでも言いたいのか。」

話に乗ってきた。これはチャンスだ。
アンルシアの心は高揚した。
ロトの剣を持っている勇者、ティアのことかアスナのことか分からないが、どちらもトロデーン城にいる可能性が高い。
万が一いなくても、竜王と協力して、襲撃者を倒せる可能性もある。

「その通りよ。」

「なるほどなるほど。争いを嫌う人間らしく、話が上手いな。
だが、関係ないことよ。案内役が貴様である必要はない。」

(!?)

「それに教えてくれたな。居場所を知っている、と。
大方この北にある城だろう?人間という者は、総じて大きな建物に集まりたがる。」

見抜かれてしまった。
これでは自分がいなくてはならないという意味にならない。

1347ラストチャンス ◆vV5.jnbCYw:2019/05/01(水) 23:05:50 ID:WyLXwBkE0
「よくも邪魔をしてくれたな。鬱陶しい貴様を、焼き尽くしてから行くとするか。」
竜王は再び炎を手に纏う。

(……!!)

「キサマ一人焼くのは雑作もない!!燃え尽きろ!!ベギラゴン!!」

炎の矢が自分に迫り来る。


逃げることも出来ない、魔法を唱えることもない。
自分はこの世界ではどうしようもない、ただの少女なのか。

そうだ、あの時もそうだった。
自分の力がなければ。
自分が勇者じゃなければ、トーマ兄さまも死ななかった。

勇者であることを誰よりも拒否して、ただの少女として、村で生きていた。


今の私も、勇者の力を拒否し、カラに閉じこもっている。
あの4人の死は、勇者の力ではなく、その力の使い方を間違えたからなのに。


身勝手かもしれないけど。
もう一度、力が戻ってほしい。
私やジャンボのためだけではなく、この戦いに閉じ込められた、全員を救うために。





炎が命中し、爆散する。
アンルシアは、確かに灰燼に帰したはずだった。

(何だ!?)

突然、まばゆい光が竜王の目をくらませた。
それは、この世界に現れた二度目の太陽の光、それだけではない。

新たな物語の始まりを告げる光。
ある世界では、勇者覚醒の光、と呼ばれていた。
彼女が1度目に勇者の力を復活は、クロウズという竜族の導きの下に成され、
2度目の勇者の力の復活もまた、竜族の導きにより成されたのは偶然だろうか。

1348ラストチャンス ◆vV5.jnbCYw:2019/05/01(水) 23:06:14 ID:WyLXwBkE0

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

(何だ……これは………。)
凄まじい光が出て、何も見えないと思ったら、何か映っている。


(あれは……ワシか?)

その姿は竜王ではない。
同じ竜族でこそあるが、性別も、見た目も、全く違う。
それなのに、別人の気がしない。
あるいは、同じ血を持つ者だろうか。

竜の王、いや、竜の女王か。
かつて書物で呼んだ勇者に、何か渡している。

(光の玉?)

確かに竜王自身が奪った物だ。

一体何があったのか、あの女王は何なのか、それが知りたい。

しかし、竜王の願いはかなわず、女王も、古の勇者達も、光の玉も消える。


今度現れたのは、過去の自分、ではない。

先程の女王以上に自分と似ている姿だが、どこか違う。
近い縁の者だろうか。

その竜が、かつて自分の城だった場所で、三人の人間と談話している。



今度は光の中に、様々な自分が映る。
それまでに見た似ている存在とは異なり、確固たる自分だった。

どことは分からぬ洞窟で、勇者達とは別の4人と戦い、強化され続ける自分。
青い帽子の少年に仕え、他の魔物と共に戦いに身を投じる自分。
太った商人と金髪の女性、そして少女を守って紫毛の猿の魔物と戦う自分。
赤髪の少女を守って、少女の姿をした戦鬼と戦う自分。


(これは、全部ワシなのか……?)

世界は選択の数だけ存在する、とは聞いたが、実際に見てみると妙に間が抜けて見える。


(この光は、ワシに何をもたらすのだ?人間と協力しているワシやワシに近い者の姿を見せて……)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


光が消え、目の前にはアンルシアが立っていた。
アンルシアがレイピアを構え、竜王に向けている。
その姿は、前の頼りなさげな姿とは全く違う。

1349ラストチャンス ◆vV5.jnbCYw:2019/05/01(水) 23:07:02 ID:WyLXwBkE0
脚に傷を負い、立っているだけで精一杯のはず。
なのにその猛々しさ、凛々しさは勇者アレフやレックにも並ぶほどだった。

「それがキサマの覚悟か。」
「そうよ。私はティアを助けに行く。そして、あなたも助ける。」

二人を、ベホマラーの白い光が照らす。

完治とはいかないにしろ、それは二人の傷を確かに癒した。


「城へ向かうぞ。そういえば、キサマの名を聞いていなかったな。」
「グランゼドーラ王国のアンルシアよ。」

「アンルシアよ。ワシがその勇者を見つけ、ワシに傷を負わせた敵を殺すまで、しばし共に行かせてもらう。」

「ありがとう。力を貸してもらうわ。」


なぜ光が、竜王に別の自分を見せたのか、それは分からない。
勇者覚醒の光は、現れた場所によって、何をもたらしたかは異なった。
だが、それはすべて新たな物語へ繋がる導きになった。

竜王は新たな可能性を、新たな未来を確信したのだろう。


(恐らくロトの勇者が城にいるとすれば、ワシとレックを襲った者と戦っているはず。殺められてなければよいのだが……。)

(待っていて、ティア。私は必ずあなたも、皆も守るから。
そしてジャンボ……それをあなたにつないで見せる。)


勇者と魔王。
どちらもその力を間違えてしまった。
だが、最後のチャンスを見つけた今、残った全てを賭け、前へ進む。


【B-5/トロデーン地方 草原/2日目早朝】

【勇者姫アンルシア@DQ10】
[状態]:HP 2/3 MP1/8 
[装備]:戦姫のレイピア@DQ10
[道具]:支給品一式 とつげき丸@DQ10 不明支給品0〜2(本人確認済み) ルーンスタッフ@DQ8ようせいのうでわ@DQ9 フォズの不明支給品0〜1(本人確認済み) ヤンガスの不明支給品0〜2 スライムの冠(DQ8)バニースーツ(DQ10) オーディーンボウ@DQ10 矢×9
[思考]:彼におわかれのつばさを託す
[備考]:仲間を助けるという決意の下、勇者の力が戻りました。



【竜王@DQ1】
[状態]:HP1/8 竜化した場合、背中に傷 片手片翼損失 
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1個
[思考]:アンルシアと協力して、アベルを倒す。その後ロトの勇者を探す。
勇者を見つけてからも人間と協力するかは不明。

1350ラストチャンス ◆vV5.jnbCYw:2019/05/01(水) 23:07:14 ID:WyLXwBkE0
投下終了しました。

1351 ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:25:37 ID:GvrPP0H60
投下します。

1352One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:27:41 ID:GvrPP0H60
「サフィール、お前の世界では魔物を仲間にする時どうするんだ?」

ゲレゲレやロッキーがサフィールの仲間だと知っているジャンボは問いかける。

「心を通わせるんです。魔物の心を理解し、魔物に心を理解してもらいます。」

サフィールの返事を聞いたジャンボは肩を竦める。

「50点だな。確かに仲間にするってのはてなづけて操るのとはわけが違う。腹の底を打ち明けて魔物の方から着いて行きたいと思わせなくちゃならねえ。ただしそれは、相手が心を持っているのが大前提なのさ。」

心の有無。それは魔物使いと道具使いがそれぞれ扱うモンスターの大きい差だ。
心を持った魔物を仲間にするにはその魔物のことを深く理解する必要がある。そのため魔物使い用のスカウトの書には魔物の気持ちの理解の仕方が書かれている。

「じゃあさ、こういう心の無い機械兵を仲間にするのに必要なのは何だと思う?」

ジャンボはキラーマジンガBに背を向け、後ろ指を指してそう言った。
会話が終わるのを待ってはくれないキラーマジンガBはそんなジャンボに背後から剣で斬りかかる。

「ジャンボさん、危ない!」

ホイミンがあわてて叫ぶも、心配は要らないとでも言うようにジャンボは剣を飛び越えて躱し、キラーマジンガBの背後に回り込み、ドラムクラッシュを叩き込む。
特攻付きの攻撃の威力にキラーマジンガBは引き下がり、今度はサフィールの方へと狙いを定める。
ただし弓はゴーレムに壊されているので接近を試みる。

サフィールの方へ向かうキラーマジンガBの前に、さらにジャンボが立ち塞がり、鋼鉄の胴体に体重を掛けて押す。
キラーマジンガBは着実にサフィールの方へと向かっていくが、ジャンボの妨害によってその速度はかなり落とされている。

「もちろん理解は必要だ。戦闘に負けてちゃ仲間になんか出来ねえ。攻撃や追撃のパターン、必要な耐性、立ち回り方……理解すべき項目を1個ずつ挙げてちゃキリがねえぜ。でも理解よりもっと必要なもんがあるのさ。それは―――」

一瞬の隙が命取りになるような戦況の中でもジャンボは喋り続ける。

キラーマジンガBがサフィールへの攻撃を諦めてグランドインパクトを放とうとした瞬間、ジャンボは押すのを止めて射程外へと下がる。

1353One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:28:38 ID:GvrPP0H60
「技術だよ。」

道具使い用のスカウトの書。その中でも特に機械の魔物の書に書かれているのは機械に命令されたコマンドを取り消し、新たな命令を与えることが出来る技術である。道具使いなら誰でも分かるようなシンプルな解説を用いており、スカウトの書に載った機械の魔物はどれも仲間に出来ると考えて良いだろう。

だがここでの問題は至ってシンプル。キラーマジンガの書は存在しないということだ。
道具使いは確かに技術によって魔物を仲間にする職業であるが、キラーマジンガを仲間にする技術自体が開発されていないのだ。

ただし、開発されていないことと不可能であることは同義ではない。
例えばジャンボの居た世界では、ミステリードールを仲間にする技術は開発されていなかった。
しかしジャンボがここに来た時よりも近い未来にはその技術が広まり、雪の降るグレン住宅村の中でもVIP御用達のラッカラン住宅村の中でも、様々な人々がゴツゴツのミステリードールを連れ歩くようになる。

道具使いの技術とはそういうものだ。先駆者が1人いれば直ちに誰もが利用出来るようになる。

では何故キラーマジンガを仲間にする技術が開発されていないのか。それは道具使いの技術が追いついている、いないの問題では無いとジャンボは考える。

そもそも、キラーマジンガは魔法の迷宮に特別なコインやカードを捧げることによって出現し、それ以外の目撃例はひとつも無い。この地点でキラーマジンガと戦える人物は比較的限られてくる。魔法の迷宮の出入りに必要な魔法の鍵は、ある程度の実力を持つ冒険者にしか与えられないため、道具使いの研究者はキラーマジンガと出会うことすらままならない。そしてキラーマジンガと戦うような実力のある冒険者は、技術開発よりも自分磨きにご執心である。
そういった要因がキラーマジンガの研究を進みにくくしている。

断言しよう。
アストルティアの中に、キラーマジンガにスカウトアタックを放った人物は存在しない。

実験すら成されていないのであれば、案外すんなりと既存の技術と噛み合って、キラーマジンガを仲間に出来るかもしれない。
これが、ジャンボがキラーマジンガBを仲間に出来る可能性を信じる所以である。

「出来ない壁にぶち当たったら、技術力を駆使して乗り越える……これがドワーフの心髄ってヤツよ。」

はるか昔の時代より、ドワーフの文明は技術に支えられてきた。反面、その技術に身を滅ぼしてくるようなこともあったのだが、それは深くは語らないことにしよう。

1354One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:29:28 ID:GvrPP0H60
(コノ男、コレマデノ敵ヨリ強イ…。ダガ、攻撃ヲシテコナイ…?)

キラーマジンガBは再び思考を始める。
ジャンボたちが逃走せずに自分の邪魔をしている地点で、自らを害する意志が無い可能性は考えていない。

(後方ノ少女ガチカラヲ溜メテイルノヲ待ッテイル…?)

ジャンボの意図を大きく読み間違えたキラーマジンガBは重さに任せてジャンボを横に払い除け、強引にサフィールの元へと向かっていく。

「させっかよ!スタンショット!」

そんなマジンガBをジャンボは後方から打ちつけ、動きを止める。

「さあ、ようやく隙が出来たぜ。まずは――――」

キラーマジンガは既存の技術でコントロールできるのではないか。それがジャンボの仮説。

「――キラーマシン用…スカウトアタック!!」

だったら話は早い。
道具使いの書のある魔物の操作技術を片っ端から試してみる。それだけである。

「………だめーじ、小」

一方でキラーマジンガBも現状が把握出来ていない。
スタンショットの怯みの間に受けた、普通の攻撃とも何か違う攻撃。
攻撃の正体をプログラムの中から探すも見つからない。

結果、何かしらの対策を見出そうとすることもなく、再び戦闘態勢に移る。

たった一人であのキラーマジンガを圧倒しているその光景を、サフィールもホイミンも目を丸くして眺めていた。

当然、何度もキラーマジンガを相手にしているジャンボといえどソロで勝てるほどの実力は持ち合わせていない。
人間が1の行動を取る間に2の攻撃を繰り出す機械兵。
それと互角に渡り合えるのには理由がある。

それは機械兵に取り付けられた弓がゴーレムによって破壊されていることである。
それによってジャンボが警戒するべき射程は限られている。
敵の初撃をハンマーで防ぎ、第二撃が来る前に1歩下がればそれだけで完全に敵の攻撃を無力化し切ることが出来る。

また、弓を失ったキラーマジンガは剣と槌の二刀流。精神論と言ってしまえばそれまでではあるが、ジャンボにとって負けるわけにはいかない相手だ。
自分の悪巧みが巡り巡って多くの犠牲者を生んだ、その中の1人であるヒューザ。彼もまた、剣と槌の二刀流で立ち向かってきた。
目の前の機械兵は、攻撃の精度こそヒューザよりも高いものの、一撃一撃がヒューザのそれよりも軽い。
キラーマジンガBは個体Aを蘇生し、共に財宝を狙う者を排除するためだけに生まれた影の機械兵。背負った宿命など無い。戦う理由など無い。
そんなキラーマジンガBの一撃に、ヒューザの背負っていたものの重みが乗るはずもないのだ。

信念、意思、闘魂。多くの想いに突き動かされていたヒューザを打ち破ってきたジャンボは、こんな何も無い機械兵などに負けるわけにはいかない。

さらに後方からサフィールがバイキルトの呪文でジャンボを援護する。ハンマーで攻撃を受け止めた時の衝撃で少しずつ蓄積されていくダメージも、ホイミンが回復してくれる。
重さの足りないジャンボではキラーマジンガの前進を止めることは出来ない。
しかし普段キラーマジンガと戦う舞台であった魔法の迷宮とは異なり、ここは広大な草原。
押された分だけサフィールやホイミンが下がれば良いのだ。

1355One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:31:37 ID:GvrPP0H60
キラーマジンガBが攻め、ジャンボ達がそれを完全に受け切る。お互いに傷を負うことのない、たったそれだけの戦闘が2分ほど繰り広げられる。

サフィールもホイミンも不安に思い始める。確かにジャンボはキラーマジンガBの攻撃を防ぎ切っているが、こちらから攻撃が出来ているわけでもない。
引き延ばされた戦闘の中でジャンボがたった1発まともに攻撃を受けるだけで戦局は容易く覆されるだろう。

しかし、ジャンボだけは余裕の笑みを浮かべていた。

ヒューザがゲレゲレに放った技、そしてついさっきジャンボがキラーマジンガBに放った技でもある「スタンショット」。これは一般的な特技とは使い勝手が違う。

消費MP量は一般的な特技とそこまで変わらないのだが、MPとは異なる身体エネルギーを用いて放つ特技である故、一度使ったらもう一度使うのにしばらくのチャージタイムを必要とする。

「もう1発!スタン――」

(120秒前ト同ジ攻撃ヲ確認!防ギ………)

「――ショットォ!!」

キラーマジンガBの反応も間に合わない。ジャンボの前に再び、機械のボディが無防備に晒される。

「さあて、次はメタッピー用だ。スカウトアタック!!」

「……?だめーじ、小。」

今度もまた、キラーマジンガBの身体にかすり傷を付けるのみに留まった。

「……こりゃあ、長い戦いになりそうだな。」

2分ごとに放てるスタンショットによる気絶。
これがこちらから攻撃を放つ余裕のある唯一の時間である。

回復魔法が制限されていること、それだけで戦いはこんなに窮屈なものになってしまう。

長い間手練の僧侶と共に戦い、キラーマジンガなどは常に安定攻略してきたジャンボ。ギリギリを攻める戦いの緊張感はどうしても慣れるものではない。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

理解出来ない。
破壊されるのに充分な隙は何度も晒してきたはずだ。
だが目の前のドワーフはその隙が生まれる度に自分にかすり傷を付けては再び防戦に移行する。

だが理解する必要は無い。
破壊されないのなら、こちらが破壊するのみ。
それが機械兵の戦い方――在り方なのだから。

「スタンショット!」

再び2分が経過した。
ハンマーによる強打で、一時的な機能停止に陥る。

「今度はさまようよろいだ、スカウトアタック!!」

そして大したダメージを受けることもなく、再び戦線に復帰する。
そしてまた2分が経過。

「ダメ元……フォンデュ用スカウトアタック!」
「デビルアーマーならどうだ?」

様々な技術を駆使してキラーマジンガBの回路に干渉する。

1356One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:32:39 ID:GvrPP0H60
(じんがーニヨルト現在殺シ合イガ進行中トノコト。但シ、コレマデノ戦闘者カラハ殺害ノ意思ヲ確認出来ヌ。之ハ殺シ合イデハナイ…?)

機械兵の思考回路に一筋の仮説が立てられる。何度も何度もデタラメなスカウトアタックを受け続けたことで、思考を司る回路に多少の変更が加えられ、ジャンボ達の行動について「考える」過程が始まったのだ。

但し、戦闘は終わることがない。
キラーマジンガBはジンガーの行動方針をトレースしている。それ即ち、アベルに命じられた破壊のコマンド。考えることを始めたからと言って、その根本が捻じ曲げられることは無い。

聖王の剣をジャンボに向かって振り下ろす。先程から何度も繰り返されている応酬の通り、ジャンボはハンマーでそれを防ぐ。追撃のハンマーによる打撃も、ジャンボは一歩下がって躱す。

その2連続攻撃を終えるや否や、ジャンボは再びキラーマジンガBに張り付いてサフィールとホイミンへの接近を防ぐ。
キラーマジンガは2度の攻撃の後、しばしのインターバルを必要とするのだ。

その時、キラーマジンガBのフォーカスの、表面からは見えない部分に取り付けられた「何か」がキラリと輝いた。

2連続攻撃の後にキラーマジンガBは攻撃行動を取らない。
そう思い込んでいたジャンボが機械兵の次の動作に気付いた時、緑色のジャンボの顔がウェディの様に真っ青になった。

前衛を払い除けて攻撃に向かいたい後衛。
さらに、前衛が3回目の連続行動に気付かれていないであろう今の状況。
その状況から即座に導き出される最適解。




――グランドインパクト!




キラーマジンガBの構えにジャンボが気付いた時にはもう遅かった。

「馬鹿な……動けるはずが………」

地面に聖王のハンマーが叩きつけられ、衝撃で大地が隆起し、辺り一面を吹き飛ばした。

ジャンボの誤算はただひとつ。
アストルティアでキラーマジンガといえば誰もが連想できるものであり、低確率で行動回数を増やす装飾品、「アクセルギア」をまさかキラーマジンガB自身が装備しているとは夢にも思わなかったということ。

1357One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:34:30 ID:GvrPP0H60
何はともあれ、吹っ飛ばされて倒れるジャンボ。それによりキラーマジンガBの絶好の攻撃のチャンスが生み出される。

(じゃんぼ。状態:転び。攻撃優先度:中。)

散々キラーマジンガBの邪魔をしていた前衛のジャンボよりも。

(ほいみん。状態:健康。但シ攻撃能力無シ。攻撃優先度:低。)

効果の制限された回復魔法しか使わないホイミンよりも。

(さふぃーる。状態:健康。使ウ魔法、未知。攻撃優先度:高。)

キラーマジンガBはサフィールに向けて急接近する。

「!!」

キラーマジンガにはマホカンタがかかっているとサフィールは思っているため、イオナズンやマヒャドでの撃退は出来ない。
しかしここで逃げようものならジャンボさんやホイミンが危ない。

(戦うしか……ない…!)

考えるが早いか、ドラゴンの杖を掲げる。

「ガアアアァァァ!!!」

サフィールを心配するホイミンの叫びも、逃げろと叫ぶジャンボの声もかき消して、まだ幼い女の子の声だとは思えないような声――否、咆哮が響き渡った。

ドラゴンの杖で竜へと姿を変えたサフィールが、その剛力でキラーマジンガBのハンマーを受け止めていた。
そしてそのまま、力の限りキラーマジンガBを抑え込む。

ガシャン、と機械を落としてしまった時のような鈍い音が辺りに響く。
さらに、左腕でハンマーを、右腕で剣を押さえ込んで制圧する。
横目でジャンボがグランドインパクトによる転倒から立ち直っているのも確認出来た。

1358One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:35:02 ID:GvrPP0H60
まずはキラーマジンガBの武器を取り上げて、ジャンボに有利な戦局を作っておいて………状況的に優位に立ったサフィールは次の行動を考える。

だが忘れてはならない。
キラーマジンガの「第3の武器」について。

弓の特技は基本的に矢に力を込めて放たれる。その矢に込める力を自由に扱えるのであれば、「弓」という媒体は必要無い。

もう分かるだろう。
サフィールが制圧していない、キラーマジンガの第3の手。
弓は折れて使えなくなっていても、矢はまだ残っている。
そしてその矢を使い、至近距離から撃ち込まれたのだ――凍てつく魔弾が。

「っ……!?」

いつの間にかサフィールは人間に戻っていた。
当然、その身体でキラーマジンガBを制圧できるはずもなく、簡単に振り落とされる。
そして仰向けに倒れたサフィールに向けて、今度こそキラーマジンガBのハンマーが振り下ろされようとしていた。

(畜生……俺はまた、守れないのか……?)

(そんな……サフィールが、死んじゃう!)

スタンショットはまだチャージタイム中。キャンセルショットは詠唱の無いただの攻撃には効果がない。

ジャンボにキラーマジンガBを止める手段など無い。もちろんホイミンも同様である。

誰もが無力感を噛み締める中、機械兵の一撃はひとつの命を無惨に散らすはずだった。

1359One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:35:44 ID:GvrPP0H60
しかし……




(離れろ………!)

何かが。



(守る………!)

何かが込み上げてくる。



(サフィール、守る………!)

機械兵の持つはずのなかった、何かが………



「マダ……守リタイ…………彼女ヲ………」

その何かを認めた瞬間、キラーマジンガBの動きは停止した。

振り下ろされようとしていたハンマーはサフィールの命を砕くことはない。
ジャンボが駆け付け、キラーマジンガBの動きが止まったことを不思議に思いつつもサフィールの前に立ち塞がり、磁界シールドを張り巡らす。

「よく分かんねえが、助かった。今度はしくじらねえ。」

「不可解ダ。何故、ワタシハ………」

何が起こったのか、ジャンボには分からない。キラーマジンガB本人にも分からない。だけどただ1人、キラーマジンガBが停止した理由を確信する者がいた。

「ゴーレムです。」

サフィールの一言に、ジャンボは目を丸くする。

「彼はゴーレムです!彼の心を感じました!」

ゴーレムにもキラーマジンガにも心など生まれるはずがない。
だけどその言葉は、どこか信じられる力強さがあった。

1360One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:38:12 ID:GvrPP0H60
「信じるぜ、サフィール。ゴーレム用……スカウトアタック!!」

ジャンボが人間だった頃、アバ様に言われてシンイと共にテンスの花を取りに行く道中で立ちふさがった魔物。
アストルティアに転生し、転職の儀式を受けるための試練として戦った魔物。
何かと宿命の多かったゴーレムを道具使いになって仲間にした時は、少なからず感銘が湧いてきたものだ。

そんな感慨と共に放ったスカウトアタックからは、確かな手応えを感じられた。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「――熱源感知」

ゴーレムが崩れ去ったあの時、キラーマジンガBは瓦礫の中から何かを見つけた。

「用途不明。ダガ……何カ……特別ナチカラヲ持ッテ……」

次の瞬間、ゴーレムの心はキラーマジンガBの身体に吸い込まれていった。
それによってキラーマジンガBに何か変化をもたらすことはなかった。

しかしサフィールの危機を前にして、ゴーレムの心は立ち塞がった。
守りたい。もう一度チャンスがあるのなら、今度こそ彼女を守りたい。ただその想いだけを胸に倒れていったゴーレムの最後の「まもるちから」。それは「せめるちから」へと変わり、キラーマジンガの身体をわずかな時間、支配した。


そしてその短い期間にジャンボのスカウトアタックが叩き込まれる。

その結果…





スカウト成功!

キラーマジンガBが仲間になった!

1361One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:41:04 ID:GvrPP0H60
「……深奥ヨリ込ミ上ゲテ来ル心ニ従イ、オ前達ヲ守ロウ。」


「………成功…したのか?」

「…ええ。彼が導いてくれたんです。」

「やった……あんな怖い機械兵でも仲良しになれるんだ!」

魔物が仲間になる。
ホイミン以外にとっては何度も経験したことのある出来事だ。

しかしここは魔物だけでなく人までもが他者を殺す世界。そんな中で殺戮を命じられた機械兵を仲間に出来た達成感は、今までのそれとはまた違ったものであった。

「さて……まずはコイツに名前を付けてやらねえとな。」

「そうですね…。何かいい名前は………」

「ねぷりむ。」

「「「え?」」」

「ごーれむノ心ガ言ッテイル。守レナカッタ少女ノ名。ソシテ志半バデ倒レタ守護者ノ名。ドウカワタシニ継イデ欲シイト。」

「うん、分かったよ。よろしくね!ねぷりむ!」

誰もが新たな仲間との邂逅に喜びの声を上げる。
でも、まだだ。
まだやるべきことは残っている。

機械兵との戦い、それだけをピックアップしても、まだ戦いは終わっていない。

1362One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:44:17 ID:GvrPP0H60
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「サフィール、本当にいいの?」

「断言するが、コイツは仲間にならねえぞ?」

「ええ、分かってます。だけどやっぱり、このまま終わらせたくないんです。」

「居タ。……コレナラ、マダ直セル。」

2人と2体は再び、ジンガーが倒れている場所にやって来ていた。
その目的は、ジンガーの蘇生。

アベルに関するジンガーの反応を見るに、ジンガーのアベルに対する忠誠はかなり深い。
だからこそこんな形で終わらせたくないとサフィールは思った。

ジンガーはこの世界に来る前の父のことを知らない。
父がどれほど心優しい人物で、どれだけ慕われる国王だったのか。
この世界で破壊の限りを尽くすことが、本当に父の幸せに繋がるのか。

「ねぷりむ。ジンガーを生き返らせてください。話がしたいんです。」

「承知シタ。」

形式上はスカウトした俺がマスターのはずなんだけどな…と舌を巻きながらも、ジャンボは蘇生の前にジンガーの支給品を回収する。


「Code 87:Remote Repair 開始。」


ジンガーは再び蘇り、顔を合わせる2体の機械兵。
但し今度は、敵と味方に分かれているのだが。

「……あべる様ヲ裏切ッタカ、個体Bヨ。」

「個体Bデハナイ。ねぷりむ。ソレガワタシノ名前。」

「マアイイ。何故ワタシヲ蘇ラセタ?」

これが山場だ。
恐怖を抑え込み、サフィールはジンガーと向き合う。

「貴方と、話をしに来ました――おとうさんについて。」

仲間にはなれなくても。貴方を止めることは出来ないのだとしても。
せめてもう一度、貴方と理解し合えるチャンスを、どうか私に………。

1363One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:45:25 ID:GvrPP0H60
【F-3/平原/2日目 早朝】

【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP:7/10 MP 2/5 左足矢傷(応急処置済み)
[装備]:ドラゴンの杖
[道具]:支給品一式×3、へんげの杖、ショットガン、999999ゴールド
[思考]:ジンガーと話をする。
怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
おとうさんを見つけて止める
みんな友達大作戦を手伝う

【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:HP7/10 MP1/8
[装備]:天使の鉄槌@DQ10
[道具]:支給品一式、道具0〜4 四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1(ゲレゲレの支給品)支給品0〜1(ヒューザの支給品) ナイトスナイパー@DQ8 名刀・斬鉄丸@DQS 悪魔の爪@DQ5 天空の剣、罠抜けの指輪 罠の巻物×2 ドラゴンローブ  砂柱の魔方陣×1 折れた灼熱剣エンマ@DQS メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[思考]:
基本方針:エビルプリーストに借りを返す。
1:サフィールとジンガーの話を見守る
2:ターニアを見つける 
3:首輪解除を試みる

[備考]:※職業はどうぐ使いです。弓スキルは150です。ハンマースキルは100以上です。

【ホイミン@DQ4】
[状態]:健康 MP1/8 仲間死亡によるショック
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個 ヒューザのメモ(首輪解除の手掛かりが書いています)
[思考]:ジャンボを手伝う ターニアを追う
『みんな友達大作戦』を成功させる ヒューザがくれた手掛かりを守る。


【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:HP 1/4
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:アベルを探す、邪魔する者は破壊する。
[備考]:サフィール達に疑問を抱いています。

【ねぷりむ(キラーマジンガB@DQ10)】
[状態]:HP1/3
[装備]:聖王のつるぎ@DQ10 聖王のハンマー@DQ10 壊れた聖王の弓@DQ10 アクセルギア@DQ10
[道具]:支給品一式×3、魔封じの杖、道具0〜2個(ブライの不明支給品)、道具0〜2個(ゴーレムの不明支給品)
[思考]:サフィールについていく
[備考]:DQ10のキラーマジンガの特技を使いこなします。
ゴーレムの記憶を持っています。

1364One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:47:07 ID:GvrPP0H60
投下終了しました。

1365ただ一匹の名無しだ:2019/05/05(日) 05:10:48 ID:KK0m5ik.0
投下乙です
まもの使いメイン職にしてる身としては、どうぐ使いとのスカウトの差は興味深かった
そしてそれをドワーフの特性と絡めてて上手いなあって思いました

そして決め手になったのがゴーレムの心…上手く繋げたなあ
改めて、乙です!

1366ただ一匹の名無しだ:2019/05/05(日) 20:27:12 ID:OgbbwOpg0
投下乙です
キラーマジンガを御するには、確かに道具使いとしての技術、熟練度がモノを言ったわけだけど
最後の最後、仲間に入れる為には最初にジャンボが言った”50点”がとても大事だったって話。
ゴーレムもマジンガも同じ物質系、ココロなき魔物ではあるはずにもかかわらず、
”主”というか側にいた人物の思いがこうも明暗分けるかという、なんとも言えない感情が生まれました。
マーダー達の主戦力がぼつぼつ落ちていくなかマジンガとアベルの動向がさらに気になりました。
改めて乙です。

1367 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:51:45 ID:TSPijSe20

それは今からちょうど10年前の話。

アリアハンという、小さな町の出来事。


その日は町中で、大騒ぎが起こっていた。

「オイ!!誰か助けに行け!!」
「イヤだよ!!なんでオレが行かなきゃなんねえんだ!!」
「誰かがどうにかしねえと、大変なことになるのが、わかんねえのか?」


髭もじゃの男が、空き家の2階から顔を出し、一人の少女を見せつけながら叫ぶ。


「このガキを返してほしけりゃ、今日中に838861ゴールド用意しろ!!」

デフレが進み、一番高い品でも500ゴールドに満たない物価安のアリアハンに、そんな大金があるわけない。


アリアハンは、犯罪件数が異常な程少ない。
虫メガネを使えれば探偵の資格を得ることが出来るのも、犯罪捜査を吸うこと自体がほとんどないからだ。
よって珍しいもの見たさに、町中の群衆が集まってきたのだ。


助けに行きたいのはやまやまだが、私はまだ、8歳の少女だった。

それに私は、8歳にして才能を見出され、『アリンピック強化合宿』へ向かわなければいけなかった。


合宿所へ向かっている途中、一人の女性が私の道を塞いだ。

「どいてください!!急いでいるんです!!」
「ん、グッドなおねーさんの私から言わせるとねえ。今焦るのはあなたのためにならないさね。」
「何を言ってるんですか!!早くいかないと!えぇ!?」


突然、その空き家から凄い音と悲鳴が聞こえ、「何か」大きいものが吹っ飛んできた。
グッドなおねーさん?とやらが止めてくれなかったら、私は下敷きになっていただろう。


何が起こったのかは、すぐ気が付いた。
少女が誘拐犯の男の腕をへし折り、拘束が解けるや否やそのまま私の近くに投げ飛ばしたのだ。

助かった少女のもとに、やじ馬たちがケガはないかと一斉に走っていく。

私よりも幼く、相手は大の大人。
それでも容易に投げ飛ばせたことには、確かな理由がある。



誘拐された少女が、勇者だからだ。

1368 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:51:59 ID:TSPijSe20
投下宣言忘れてました。

1369 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:52:21 ID:TSPijSe20
彼女が後の勇者であることを知っているから、そんな大金を吹っ掛けたわけではない。
運命のいたずらか、それが偶々勇者だったというだけのこと。


男がこのようなことになったのは、空き家の二階から足を滑らせたことにされた。

「あの……ありがとうございます。声をかけてくれなかったら………。
本当に助かりました!!『アリアハン検定3級』のこの私に、お礼をさせてください!!」

「嬢ちゃん、誰に話しているのだ?」
その女性はもう消えていた。

でも、その女性がどこへ行ったかよりもっと重要なことがある。

この地面に埋まっている男も、ゴールド欲しさとは言え、愚かなことをしたものだ。



私が近づこうとするも、アスナは群衆に囲まれて、姿を見ることさえなかった。


やがて、アスナの母親が血相変えて走ってくる。


その誘拐事件はそれっきりに終わった。
人の噂も七十五日、というが、多くのアリアハンの住人が初めて見たであろう誘拐事件の話も、3日経たずに噂されなくなった。

しかし、私だけは彼女のことが気になり、合間を縫ってアスナの家に顔を出した。
門前払いかと思いきや、意外とアスナの家族は話をしてくれた。

何度かアスナの母と話をしているうちに、いくつか分かったことがあった。
近所には内緒にしているが、アスナは英雄オルテガの娘で、勇者として世界を救う人物になるという

だが、それに関する問題が出来てしまった。

アスナの母親曰く、娘はあの時のショックで、知らない人を兎に角怖がっている、らしい。
誘拐されたことよりも、自分の力をコントロールできずに、人を傷つけてしまったことにショックを受けている、らしい。
元々内気な性格を治そうと、一人でおつかいに行かせてみたのだが、今回の事件で逆に引っ込み思案が加速してしまったとか。


その後も何度かアスナの家を訪ねてみたが、ついぞアスナに会うことは出来なかった。

そもそも私はあの事件では、ただの野次馬の一人でしかなかった。
誘拐された少女の年が私と近いから、というわけでもない。
誰に頼まれたわけでもないのに、何故か私はやっていた。

思えば、私の様々な資格は、色んな大人が自分の才能を褒めたたえ、努力を強制させたことの結果だ。

1370 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:52:57 ID:TSPijSe20

取った資格は両手でも数えきれないほどあれど、自分の意思で挙げた成果は、片手で数え切れるほどもない。


結局、アスナの顔を初めて見たのは、10年後。
彼女には初対面であるかのように、自己紹介をした。

当然のことではあるが、アスナは私を知ってはいなかった。



――――――――――――――――そして、10年後。現在


私は、これまでで最大の危機を目の当たりにしていた。

この戦いに巻き込まれてから、自分の予想をもはるかに上回る敵相手に生き延びてきた。
だが、最大の危機とは、今目の前にいる敵の強さだけではない。

自分達の手札が、ほとんど残されていないこと。

アスナのギガデイン
私のグランドネビュラ
使うための魔力は、もう残ってない。
そして、コニファーさんが持っている矢も、底を尽きている。


反面、敵は幾分かダメージを受けている様子だが、戦いに差し支えるほどではなさそうだ。
加えて持っている剣。
それから、とてつもないほどのオーラを感じる。
まさしく、私が読んだ創世記に出てくる、巨大な剣を持ち、邪魔する者全てを葬り去ろうという魔王のようだった。


「逃げるぞ!!おまえら!!オオカミアタック!!」
「何!?」

二頭のオオカミが、魔王に襲い掛かる。

先手を取ったコニファーさんが、すぐに私とアスナを引っ張る形で、城の中へ入っていく。

「とりあえず、第一作戦、成功ってトコか………。」
逃げた先は図書館の内部。

魔王は既にオオカミを斬り裂き、追いかけてきている。


「まだここがゴールじゃねえんだ。もっと奥へ行くぞ!!」
「「はい!!」」

コニファーさんの指示に従って、さらに進む。

1371 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:53:36 ID:TSPijSe20

私は改めて感心した。
コニファーさんという人間の頭の良さに。

攻める目的、逃げる目的で同じ技でも使い分け、状況が不利なら、有利になるまで逃げる。
加えて私たちは城内の構造をよく知っているが、相手は知らない可能性が高い。

逃げる先は図書館から食堂、食堂から玉座の間へ。


「玉座の間まで逃げるぞ。
そしたらフアナは柱の裏、アスナは玉座の裏に隠れろ。
そしてアイツが攻撃の動作に入ったらフアナ、ヤツに飛び掛かれ。オトリは俺がやる。」
「え!?逆にやられたら……私……。」
突拍子もない作戦に、私は冷や汗をかく。

「大丈夫だ。フアナはオトリのオトリってやつだ。
敵がフアナに意識を向けた瞬間こそ、アスナ、一気に斬りかかれ。」


確かにコニファーさんの作戦は納得のいくものだった。
どんなスポーツでも戦いでも、少ない力で相手を破るなら、カウンター攻撃が一番だ。
そしてオトリや陽動作戦は、戦場において手を変え品を変え、取り入れられている。

だが、私はそれが不安でならなかった。

本当に相手に通用するのか。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

2頭のオオカミが私に襲い掛かる。
初めて見た攻撃に一瞬戸惑うも、すぐに一頭目を斬り裂き、返す刀で二頭目も両断する。
しかし、相手が企んでいたのは、オオカミで自分を倒すことではないようだ。

既に相手は城の中へ逃げていた。
(なるほど、考えましたね……。)

だが、どこへ逃げても無駄だ。
ジゴスラッシュで、城ごと薙ぎ払ってやろう。


懐から剣の秘伝書を取り出そうとしたところ、急に考えを改める。
もしや、奴等の狙いはそれではないだろうか。

ジゴスラッシュを打たせようとして、その隙をついて反撃を仕掛ける。
現に、奴等は一度私のジゴスラッシュを見ている。

ジゴスラッシュに頼るという考え方は、どうやら悪手になりそうだ。


それと、奴等の逃げ方、明らかに思い切りが良い。
恐らく、この城の構造を私よりも知っているだろう。

大方、奴らは残り体力こそ劣っているが、ステージは有利だ。

そう思っているのだろう。

1372 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:54:02 ID:TSPijSe20

その考えの失敗は、私自身が王だということ。
王にとって、城とは切っても切れない縁にある。


城の外見さえ見れば、王であり、世界中の城を見てきた私にとって、城の中身を見抜くなどどうということはない。

私は同じように図書館から入る、ようなことはせず、正面玄関から入る。
鬼ごっこにわざわざ付き合う必要はない。
入り口は茨が覆っていたが、破壊の剣で扉ごと突き破る。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

コニファーは食堂から、玉座の間へ向かう際に、急にうすら寒いものを感じた。


アベルが追ってくる様子も、ザンクローネを殺したあのギガブレイクのような技を使う素振りもない。

それどころか、まず姿さえも見えないではないか。

自分達が焦りすぎたあまり、振り切ってしまったのかとも思った。
だが、もう遅い。

この食堂は図書館から入ると、玉座の間への道一本しかない。
もう片方の入り口は、茨と瓦礫で封鎖されている。

作戦は変更せずに、このまま先へ進むことにしよう。


「「「!!」」」

三人の目の前で、破壊の剣を持ったアベルが襲い掛かる。

「フアナ!!コニファーさん!!今のうちです!!」
剣が振り下ろされる前に、アスナのゴディアスの剣が、止めに入った。

「どうしました?剣筋が乱れていますよ。」
しかし、その剣は破壊の剣で弾き返される。

「アスナ!!」
「無理だ!!逃げろ!!」

言われた通り、アスナは踵を返してコニファー達の所に逃げる。

1373 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:54:30 ID:TSPijSe20

アスナとアベルの鍔迫り合いで出来た僅かな時間を利用し、フアナとコニファーは既に玉座の間の後方へ離れていた。


あの体勢から逃れることが出来るなんて、反射神経も、流石勇者だなとコニファーは思う。
だが、そのアスナの体力でさえ、もう限界に近い。

魔英雄との戦いでの消耗が、明確に表れ始めている。

作戦の手順は決まったが、どうやらゴーサインを出すまでの猶予は、あまり残されていない。


玉座の間の奥の通路を走る。
右へ行けば、行き止まりなので、左の2階へ続く道を選択する。

幸いなことに、その先にあるのは螺旋階段。
段差と見晴らしの悪さは、逃走者の方に有利な設計だ。


そのまま2階へ3階へと上に登っていく。

しかし2階は、登ってすぐの通路が瓦礫で塞がれている。
3階には、屋上の出口しかない。

「屋上まで行くぞ。走れるか?」
「「はい!!」」


コニファーは仲間の安否を気遣いながら、作戦を練っていく。
またしても奴は自分を追いかけるのをやめて、先回りしてくるかと推測したが、下から聞こえてくる足音からそうでもないようだ。



アベルより早く屋上へ着き、三人は敵がやってくる瞬間を待つ。
作戦は大体玉座の間の時と変わらない。


コニファーが目の前に出て、アベルの攻撃をしようとした瞬間、アスナが斬りかかる。


魔英雄との戦い、そして1度目の作戦の失敗で、相手に手の内をある程度読まれてしまった。
だが、もう手札が残されていない以上は、ここで手札を切るしかない。

自分を信じろとフアナに言った自分が、ここで仲間を信じられなくてどうするとコニファーは自分に言い聞かせる。


「失敗した時の脱出経路なら任せてください!!
実はあのせくしいぎゃるの本以外に、こんなのも支給されてたんですよ!!」

フアナが得意げに、先端にフックが付いている頑丈そうなロープを見せる。
いざとなれば、ここからこれで中庭まで降りろというわけか。

「だからアレはそんなものじゃねえって……」
コニファーは呆れながらも、フアナの諦めない心に励まされる。

1374 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:54:56 ID:TSPijSe20

「よし、頼むぜ、アスナ!!」

そろそろ時間だ。
コニファーが屋上の出口の前に構え、アスナとフアナは瓦礫と茨の陰に隠れる。
本当なら、フアナだけでも先に逃げるべきだったが、自分一人で逃げたくはないとそれを拒否する。
いざとなれば、いつでもロープを使って降りろと命令する。


亡き天使であった友に、そして今も酒場を経営している旧友に願をかけ、コニファーは屋上の扉の前に構える。


「随分、手間をかけさせてくれましたね。」
アベルも遅れて、屋上に到着した。

「ああ、でも一つだけ聞きてえ。アンタ、ゲレゲレの主人だろ?なんでこんなことしてんだ?」

「知った所で、どうなりますか?これから死ぬあなた方が。」


アベルは直にコニファーに斬りかかるわけでも、ジゴスラッシュを打つわけでもなかった。


「バギクロス!!」
「なっ………!!」

使ったのは、彼が元いた世界で使っていた最強の魔法


(それはちょっと予想外だったな。だがアスナ、今だ!!今しかねえ!!)

竜巻が飛ばされると同時に、アスナが瓦礫の裏から脚に全力を籠め、カウンターの準備を始める。

斬撃にしろ、バギクロスにしろ、ジゴスラッシュにしろ、攻撃後にはスキが生まれる。

斬撃ならば、コニファーが躱した直後の隙をついて攻撃。
ジゴスラッシュなら、構えに入ってから打たれる前に攻撃。

しかし、斬撃より攻撃範囲が広く、なおかつジゴスラッシュよりラグが短いバギクロスは予想外だった。

1375 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:55:17 ID:TSPijSe20
コニファーは敵の攻撃手段がジゴスラッシュか斬撃しか考慮に入れておかなかったことを後悔する。

しかし、バギクロスは外れ、明後日の方向に飛んで行った。
ある程度のダメージは覚悟していたが、コニファーは自分の運の良さに感謝するしかなかった。


もう邪魔なものはない。
アスナの動体視力と膂力、腕力ならこの瞬間、コイツを斬り付けることが出来る。
コニファーはそう確信した。






「え!?どうして!?ああああああ!!」

コニファーの後ろから聞こえたのは、フアナの悲鳴。

見れば、フアナが隠れていた辺りの場所に、城の屋根の一部が、落ちてこようとしていた。


((しまった!!))

ようやく気付いた。
アベルのバギクロスはコニファーを狙っていたのではなく、城の屋根を狙ったということ。

その瓦礫で、徒手空拳のレンジャーではなく他の二人を優先して圧死させようとしたのだ。
アスナは既に瓦礫の落下地点からは逃れられていたが、フアナは完全に逃げ遅れた。
「フアナ!!間に合っ……!!」

アスナは方向を変えて、ゴディアスの剣をバットのように振り回して、瓦礫を打ち飛ばす。





「そんな…………。」

小さい礫がフアナの体に降り注ぐが、致命傷にはならない。
しかし、そんなこととは比べ物にならない程、絶望的な光景がフアナの目の前に広がっていた。

アスナが方向を変える隙、そしてフアナを助けるために瓦礫を破壊する隙を、アベルは決して逃さなかった。

「ぐ………あっ………。」

アスナの心臓から、破壊の剣の刃が生えていた。
「これで、終わりですよ。」

1376 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:57:33 ID:TSPijSe20
残酷にも、剣は引き抜かれる。
勇者と言えども、心臓を貫かれては生きることは出来ない。

出血量から見て、フアナは分かった。何よりも分かりたくなかったが。
自分の魔力ではどうにもならないし、そもそも今は魔法が使えない。

フアナの目の前が、白黒になった。

「ダメ………とど……け……。ラ……い………でい……ん。」

アスナは事切れる瞬間、残された最後の魔力で、ライデインを唱えた。
空から雷が、アベルの邪悪な心を焼き焦がさんとする。

しかし、避雷針となる相手は待ってましたとばかりの得意げな顔を見せた。
アベルは避けるどころか、剣をまっすぐに構えた。




「いいじゃないですか。あなた方もあの勇者の向こうへ行けるのですから。」

剣に落ちた聖なる雷が、真っ黒な地獄の雷へと姿を変える。

(何だよ………アレ……。ふざけんなよ!!)

その瞬間は、聖なる力を持った天使が、人間の絶望に飲み込まれ、堕天使と化したかのように思えた。

――――――斬り裂け、ジゴスラッシュ。

闇を纏った一撃が、二人を呑み込む。

1377 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:57:50 ID:TSPijSe20

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


ここは………?

気が付くと、私はよく知らない場所にいた。

それはどこかで見た、どこにもない街だった。

とりあえず辺りを探ってみる。アリアハンの地図を町全体を歩破することで作った私だからやれることだ。

「おーい!!フアナ!!どうしたんだよ!!」
歩き始めてすぐに、目の前に現れたのは、浅黒い肌と、白髪が印象的な少年。

「え!?ホープくん……ですよね?」

思いがけない再会に、私は目を丸くしてホープを見つめる。
「そうだよ。買い物済ませたし、これから宿屋にいるアスナを迎えに行こうとしてるんじゃん。」
「!?」
イマイチ状況が飲み込めず、戸惑う私に、後ろから賢者の男が声をかけた。

「おいおい。何ボンヤリしてんだよ〜。そーゆーのは僕の役目なのに。」

「サヴィオ!?無事だったのですか!?」
ヘルバトラーとの戦い以来の再開だ。

「は!?僕がキミを庇って死んだ?やめてよね。フアナのガラでもないでしょ。」


「ええ〜。フアナ、泣いてるよ。確かにズレてる所あったけど、そんなキャラだっけ?」

ホープも何事もなかったかのように私をからかう。
よかった。もう二度と話せないと思っていたのに、嬉しかった。
我慢できずに、涙がとめどもなくあふれてきた。

もう、絶対に離さない。
アリアハンにいた時は、自分の事はすべて自分で出来ていたと思っていたが、私は寂しがり屋で、どうしようもなく弱い人間だった。

それから宿屋へ行き、アスナの部屋に入る。

「おーい!!アスナ〜。食べ物と武器と防具買って来たよ〜。」

「あ、いつもいつも、ありがとうございます。」
アスナは部屋の隅から私たちの姿を確認すると、ようやく出てくる。

「いやいやいいよ別に。人には人の向き不向きってのあるし。」
それをホープが謙遜する。

「ところでさあ、フアナ。その首輪、何?」
「そ………それは……ですね…。」


昔から、サヴィオは妙なところで勘が働くのだ。

はっきりと覚えている。戦いが始まってからずっとつけられた、生殺与奪を握る装置。
本当は、忘れたふりをしていただけかも。

1378 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:58:11 ID:TSPijSe20

やっぱりあれは、夢じゃなかったのだ。

いや、ひょっとして今いるこの世界は。

「え!?私、死んじゃったんですか?」
「大丈夫です。フアナ、あなたは生きてますよ。」


アスナは私「は」と言った。
やっぱり、アスナはあの時死んでしまったのだろう。

「でも、私なんかが残っても、出来ることなんかないですよ!!
どうやってあんな恐ろしい人と戦えるんですか!?」

「そんなことない!!フアナは、色んな事が出来た!!わたしよりも、ずっと!!」

アスナがそれを否定する。
彼女は、ただ強かっただけじゃなかった。

私達三人が持っていた弱い部分を、受け入れてくれた。
私達がマイナス思考に陥った時、励ましてくれた。
私達が傷ついた時、敵を倒すより先に傷を癒してくれた。


アスナは、そんな意味でも勇者だったのだ。

「わたし、フアナのこと、昔から知っていた。色んなコンテストで優勝し続ける、凄い人がいたって。」

でも、そんな経歴、この戦いでは通用しなかった。
結局悪戯に仲間を死なせてしまい、挙句の果てにアスナまで犠牲になった。

「そんなの、勇者の力には、足元にも及びませんよ!!」

「力ってのは、強い弱いじゃなくて、どう使うかだと思うな。
盗賊の使い方だって、人の為になるってみんなとの冒険で分かったから。」

ホープが私を元気づけようとする。

「今まではさ、色んな人に言われて色んな事をやってきたんじゃん。
でも、その時間はもう終わり。これからは、自分自身の為に、その力を使ってよ。」

「へえ、サヴィオにしては、良いこと言うね。」
「サヴィオにしては、は余計だ!!」


いつものようなやり取りをしているホープとサヴィオ。
でも、その姿は段々と消えていく。


「分かりました。やるだけやって見せます。」

「やるだけ、じゃダメだよ。いつものフアナらしく、やってやるって言わなきゃ。」

最後にアスナがVサインを送り、消えていく。

1379 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:58:30 ID:TSPijSe20


「おい!!大丈夫か?」

代わって、聞こえてきたのは、別の人の声。
アスナとは別の方向から、私を励ましてくれた人の声だ。


「コニファーさん!?」
突然視界が、元のトロデーン城に戻る。

どういうわけか、服のあちこちに葉っぱやら雑草が付いている。

よく見ればトロデーン城の中庭に広がっている茂みだった。

「危なかったぜ。さっきあいつがギガブレイクもどきを打つ瞬間、おまえを引っ張ってロープで降りたんだ。
途中であいつがロープを斬りやがったけど、下が茂みで助かったぜ。」

「コニファーさん……。無事でよかったです。」

「そうでもねえな。さっき、不時着した時、足をくじいたらしい。ちょっとキツイかもな。」

よく見ればコニファーさんの脚に、枝が刺さっていた。

「俺のケガなんか心配している暇はねえ。上を見ろ!!」


上を見ると、屋上が一部崩壊している。
さっきターバンの男が放った技のすさまじさを物語っていた。


そしてさらにもう一つ、フアナが驚いたのは。
上からロープも使わずに、落ちてくる男の姿だ。


しかし地面に叩きつけられる瞬間、地面に風の魔法を打ち、衝撃を緩和させる。

風の魔法は自分でも得意としていたが、相手の方が1枚も2枚も上手だった。

「まだ生きていたのですか……いいかげん楽になってくださいよ。」


最早魔力の残っていない僧侶と、片目で、脚を負傷したレンジャー。
敵は未だカードを使いきっていない魔王。

勝てない。
アスナが私を庇わなければ。
五体満足の状態で戦えれば。

そんなことを考える暇もないのに、考えてしまう。

1380 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:59:25 ID:TSPijSe20

「おらぁ!!」

「何っ!?」
「へへっ、ちょっとだけ格闘スキル、積んどいてよかったぜ。」
魔王が剣を構えた所、コニファーさんが殴り掛かった。
予想外の反撃に、さしもの魔王も怯む。

「何終わったかのような顔してんだ!!『おまえの』逃避行はまだ終わってねえんだよ!!」


そうだった。
私は魔力はないけど、手足も付いてるし、命に関わるほどの傷も負ってない。

この戦いは、負けだ。
惨敗だ。
けれど、私はまだ生きている。

生きて、必ずアスナの仇を打つ。


コニファーさんの支給品を受け取ると、すぐに私は立ちあがり、走り出した。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


私はあの女僧侶の気持ちは、よくわかった。
どんなに絶望しても、いや、どんなに絶望してるからこそ、何よりも純粋に希望を追い求めたくなる。
それはかつての私と同じだから。

だからそれを、丁寧にぐちゃぐちゃにしてやろうと思った。
だが、最早何も残されていないはずの狩人が、素手で歯向かってくるとは。


よく見れば狩人は脚を怪我している。
だから狙うのは、五体満足な女僧侶の方だ。

「逃がしませんよ。」

だが、急に狙いを定めていた片手が、急に上がらなくなる。

「オマエの相手はオレだ。それとも、五体満足な相手じゃ、楽しくないのか?」

狩人が地面に散らばっていた、折れた矢を私の腕に突き刺していた。
毒があるらしく、僅かに虚脱感が襲う。

こんなもの、キアリーでどうにでもなる。
だが、三人全員を殺すチャンスはもう失われた。


「邪魔をするなあ!!」
破壊の剣を一振り。

狩人の腹と口から、どっと鮮血が迸る。
立ち上がろうとするが、もう立てる肌の色はしていない。
狩人の男の浅黒い肌からも、その状態が見える。
もう、立って歩けるような状態ではないだろう。

1381 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:59:48 ID:TSPijSe20

しかし、狩人の顔は、思ったより安らかだった。

「なんだよ……魔王かと思ったら、よく見りゃオレと同じくらいの年じゃねえか。」
「それがどうしました?これからの世界は、若いことも年老いたことも関係ありません。力が全てですよ。」

「まだ、希望とか、あるだろ?好きな人……とか、子供……とかよお。」
「すべて私が捨てた物ですね。」

私は力を手に入れた。
勇者だって殺したし、魔王だって殺した。
この世界の人間もこの戦いを開いた魔物も必ず殺す。

「持ってるモノを託すことが出来ねえ命に、価値なんてねえんだよ。
力なんて、やがて無くなるモノに縋ってどうするんだ。」


捨てようとしたはずの怒りが、戻ってきた。
「愛や友情の方が、すぐに無くなるものだって、なぜ分からない?」

幻想にしか縋れない男の、寝言などはもう聞き飽きた。

刺された矢の毒を治癒する方が先だ。

勇者は殺した。
そして私の世界の勇者はもういない。
勇者の雷も手に入れた。

あとはどこかで生き残っているはずのジンガーを取り戻し、残された人間をせん滅するだけだ。

出血多量だし、回復手段も持ち合わせていないようでは、助からないはずだが、最後に心臓に一太刀入れ、最後の炎を吹き消した。


だが、この満足そうな顔は何故だ。
絶望的な戦いに投じられて、仲間は次々に倒れていき。

あんな無力な女一人残せただけで、満足しているというのか?

服に付いたインクのように消えない疑念は、早く払ってしまおう。
もっと強い色で塗りつぶせば、消えてしまうはずだ。

力への欲求と言う、強い色で。

1382 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 01:00:05 ID:TSPijSe20
D-3/トロデーン城入口/2日目 黎明】

【フアナ(女僧侶)@DQ3】
[状態]:HP1/10 MP 0
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 パラディンの秘伝書 不明支給品0〜1(本人確認済み) かりうどの弓@DQ9 カマエル@DQ9
[思考]:自分だけが出来ることを探す。
:最後まで、生きる
※バーバラの死因を怪しく思っています。


【D-3/トロデーン城外/2日目 黎明】

【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/3 手に軽い火傷 MP ほぼ0
[装備]:破壊の剣
[道具]:支給品一式 剣の秘伝書 ヘルバトラーの首輪 支給品一式 アスナの支給品0〜2 サヴィオの支給品一式 道具0〜1個バレットハンマー@DQ10  ウェディングドレス@DQ9 アルゴンリング@DQ8
[思考]:過去と決別するために戦う 全てを破壊する

※トロデーン城の屋上が一部分崩壊しました。
また茨で覆っている城の正面玄関が開かれています。

【アスナ@DQ3 死亡】
【コニファー@DQ9 死亡】

【残り19人】

1383 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 01:00:15 ID:TSPijSe20
投下終了です。

1384ただ一匹の名無しだ:2019/06/27(木) 06:26:51 ID:QmEjLfu60
投下乙です
魔英雄戦から続けて頑張ってきたが、遂に犠牲者が出てしまったか
残されたフアナがんばれ

1385ただ一匹の名無しだ:2019/06/27(木) 06:29:38 ID:QmEjLfu60
ああそれとタイトル忘れてるみたいですよ

1386とある勇者の始まり ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 09:47:54 ID:TSPijSe20
タイトル抜けてました。「とある勇者の始まり」です。

1387 ◆2zEnKfaCDc:2019/06/28(金) 01:06:59 ID:IaVqPUIA0
投下乙です!
トロデーン内を駆け回りながらの追いかけっこ、引き込まれますね
過去の回想や夢の中の世界とリンクしながら進んでいく手法だからか、夜の城での鬱話という舞台のせいか、ドラクエ10のアンルシアの記憶の中のようなモノクロ調の世界がイメージされて、悲壮感溢れる話でした。

1388 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/06(金) 11:15:00 ID:Vu.ru6IU0
投下させて頂きます

1389吊り橋効果と云うけれど ◆EJXQFOy1D6:2019/09/06(金) 11:15:45 ID:Vu.ru6IU0
  
【C-7/南西の荒野/黎明】

トロデーン城を目指すレック、キーファ、そしてミーティアの一行。
彼らは『月の世界の人』イシュマウリに会うべく道を急いでいた。

「あ、あらあら?…ごめんなさい、この道じゃなかったみたいですわ…」

かつて来た道として二人を先導していたミーティアだったが、行き止まりに出てしまい
狼狽えながら謝罪する。

「気にするなよ姫さん。こんな入り組んだ地形で、しかも夜中だもんな。
こりゃ確かに昔は海だったって感じの峡谷だぜ。古代の船があったのも納得だ」

「トンネルを抜けたらお城はもう見えてくるんだろう?焦らなくとも大丈夫さ」

「キーファさん、レックさん…ありがとうございます」

ミーティアは二人の励ましに応えるべく、精一杯の元気な声を出す。

「参りましょう。ミーティア、今度こそきちんとご案内しますわ!」

しかし二人の優しさを有り難く感じると同時に、ミーティアは卑屈な感情を覚えていた。
彼らもまた大切な仲間を失っているだろうに、悲しみを表に出すことなく他人を思いやって
くれさえする。

もし月影の窓が現れなかったらと思うと怖くなる。
自分は完全に役立たずのお荷物、それだけでなく彼らに無為に時間を費やさせ、彼らの
大切な人達に会う機会を奪ったどうしようもない足手まといになってしまう。

エイトだけは、そんな自分でも見捨てずに居てくれるだろうと思う。けれどそれは、飽くまで
忠実な兵士としてなのかも知れない。そう考えるととても悲しかった。

1390吊り橋効果と云うけれど ◆EJXQFOy1D6:2019/09/06(金) 11:16:37 ID:Vu.ru6IU0
 
 
【C-4/平原/黎明】

一方その頃。
はやる気持ちとは裏腹に、エイトもまた歩みが進まずにいた。

「ゼシカ、君なのか…」

自分がトラペッタ付近でトラブルに嵌っていた間、トロデーン城周辺でも相当に激しい戦いが
繰り広げられていた事をエイトは見て取っていた。先程通り過ぎた巨大なクレーターの他にも
あちこちで地面がえぐれ、木々がなぎ倒されている。

だがこんな場所に仲間が居たのだとは、放送でその名を聴いた時も想像出来てはいなかった。

「──すまない。本当にすまない」

ややあって、エイトが喉から絞り出したのは謝罪だった。
ゼシカの横にもう一人、若い男の遺体が並んで横たわっていた。
二人とも胸の前で手を組み、穏やかな顔をしている。ゼシカの遺体は所々火傷に爛れていたが、
その髪やドレスは誰かの手で綺麗に整えられていた。

エイトは袋から小さな花のついた木の枝を取り出し、組まれた手の間に添えた。
何の慰めにもならないとはいえ、遺体を整えてくれた誰かの例に倣いたかった。

ゼシカの身に何が起きたのかは解らない。
しかし彼女がどのように戦い抜いたか解ってしまったから、エイトは「申し訳ない」と言う気持ちに
襲われていた。

仲間達が全員死んだのを知った時、エイトは安堵した。もはや何の憂慮も無くミーティアを探し
守る事に徹していられると。
その気持ちは今なお変わっておらず、否定する必然性があるとは到底思えない。

仲間として死を悼む資格はもう無い。
ただただ申し訳ないと言う思いに、エイトは項垂れていた。

1391吊り橋効果と云うけれど ◆EJXQFOy1D6:2019/09/06(金) 11:17:05 ID:Vu.ru6IU0
 
 
 
【C-5/平原/早朝】

「この男だ。しかとは見えなかったが、まだ生き残っている中で特徴が一致するのはこの男のみ」

竜王が顔写真付きの名簿の一点を指差した。

「名前はアベル、か…。会った事は無いわね」

暫定容疑者の顔と睨めっこをしながらアンルシアが答える。しかし名前には覚えがある気がした。
一体どこで聞いたのだったろう?

「あ、一応念を押したいんだけど。
この人って貴方の戦いを何か誤解したり、止めようとした結果割りこんだって訳じゃないのね?」

「無い」

二度と間違いは起こしたくないと思うアンルシアの問いに、竜王はきっぱりと断言する。

「そんな即答されると逆に不安だわ…もう少し、誰とどんな状況で戦ったとか教えてくれない?」

「それこそ貴様には関り無い事だ。誰にも、何にも恥じぬ一対一の勝負だった。卑劣にも漁夫の利を
漁ろうとしたこの男、けして生かしては置かん」

「…オーケー、とりあえず解った。この人には気を付けとく」

これ以上竜王から客観的な証言は得られそうになかったので、アンルシアは話題を締め括った。
どのみち彼と勝負した相手はオルテガ(亡くなってしまったけれど)、キーファ、レックのいずれかで
あるのは状況的に確実だし、また会えたならその時ははっきりするだろう。

それよりも今はティアの事だ。

如才なく氷柱の杖を振るってのけたティア。兄の死を告げられた事で、彼女の眠っていた才能が目覚め
かけている様だった。
正しく育てられれば勇者たり得る才能。でも現状では、彼女を傷つけた世界に対して小さな牙が芽生えた
と言う処。

(その牙が誰かを傷つければ、やがてティア自身も傷つく事になる)

そうならない為に早く見つけて、あの子をしっかりつかまえていなくては。

「何やら思い耽っているようだが、勇者姫よ。周りをよく見てみろ」

「え?あ…!」

言われて周囲を見渡すと、前方のなだらかな丘の上に歩く人影があった。ティアか、と思ったが背格好は
まるで違う。男性のようだった。

「あの姿、あの人は……!」

1392吊り橋効果と云うけれど ◆EJXQFOy1D6:2019/09/06(金) 11:19:54 ID:Vu.ru6IU0
 
不意に名前を呼ばれて見ると、さして懐かしくもない人物が海側から駆けてくる処だった。後ろのもう一人、
悠々と歩いてくる男に見覚えは無い。関りたくなかったが、無防備に背中を向ける訳にも行かなかった。

「よ、よかった、エイト。貴方には謝り損ねていたから──あの時は、本当にごめんなさい」

一気に駆け抜けて来たアンルシアはエイトの前に辿り着くと、乱れた呼吸もそのままに謝罪を口にした。

「…どうも。ですが別に構いません。色々な間が悪かっただけ、それだけの事です」

「それなら貴方を刺した子の事も許してくれるかしら?私が連れていた子なんだけど、彼女があんな
真似をしたのも私を助けようと夢中でした事なの。あの子の分まで謝るわ、この通り!」

エイトは自分を刺した者の姿を見ていない。念のためを考えてか名前を言わないのは引っかかったが、
却って信憑性は増した。なるほど、そう言う事だったかと納得する。

「良いんですよ。ヤンガスが死ぬ羽目になったのも、元々あの場に居た誰も責めるつもりはなかった」

敢えて責めるとしたらヤンガス以外の全員だ。しかしそれは全員を救おうとした彼の意思に反する。

「ごめんなさい…ありがとう」

アンルシアは顔を上げてエイトの目を暫く見詰めた。そして意を決した様に言う。

「あの、私その女の子を探しているの。ティアって言うんだけど、身長はこれくらい。顔写真は…」

「いえすみませんが、私はあれ以降誰にも会っていません」名簿を取り出そうとするアンルシアを
エイトは制する。

「一応、顔を覚えて置いて。実はあの子に説明する暇もないままはぐれてしまって。もしかしたら
貴方を敵だと思い込んでる事もあるかも…」

そう言う事はそっちで片付けておいて欲しかった。エイトは軽く溜め息をつき、名簿の顔を確認する。

「ごめんね」

「もう良いです。折角だから私も尋ねますが、この女性を見かけてはいませんか?伝聞でも構いません」

今度はエイトが名簿をめくり、一人の女性を指し示す。

「んん…ミーティアさん、おでこの綺麗な人ね。残念だけど知らないわ」

「そうですか。ではこれで」

軽く会釈をして踵を返したエイトに、今までアンルシアの後ろで黙していた竜王が声を掛けた。

「知っている」

「──何だと?」

「へっ、そうなの?」

エイトはゆっくりと振り返った。早くも警戒心をたっぷり含んだ目つきで竜王を睨んでいる。

1393吊り橋効果と云うけれど ◆EJXQFOy1D6:2019/09/06(金) 11:20:56 ID:Vu.ru6IU0

「貴様は竜の一族だな。そこの小ねずみも真の姿ではない。そんな貴様があの姫とどう関りを持つ?」

突然言い当てられ、エイトも流石にたじろぐ。思わずポケットに目を遣ると、トーポが身を乗り出して
竜王をじっと見ていた。

「──ただの兵士だ。トロデ王亡き今、私が仕えるべきは姫だけ。お前こそ姫を知っているとは?
返答によっては容赦しない」

「ちょ、ちょっと待ってよ」

和解した端からこんな空気になると思わなかったアンルシアが慌てて割って入ろうとする。まさか、
まさか竜王はミーティアを……

「そうか兵士か。ならば早く迎えに行くが良い。姫はここから南、地図で言えばD7の荒野に居る。
もっとも今頃こちらへ向かっているかも知れんがな」

続いた言葉に、アンルシアはかくんと膝の力が抜けた。

「なによ、生きてるって事!?」

「達者だ。わしが最後に観た限りではな」

なによもう!ともう一度、今度は嬉しそうに声を上げてアンルシアがエイトの方を見る。と、緊張が
一気に抜けたらしくエイトは脱力してへたり込んでいた。

「良かったわねエイト!ごめんなさいね、この人王様気質強めだから言い方とかちょっとアレで」

「ええ、いえ…。本当に、本当なんですね?」

エイトは一転して縋るような目で竜王を見る。言葉だけだ、なんの保証もないと頭で解っていつつも
ついに見えてきた希望に冷静ではいられなかった。

「愚か者が、このわしに保証を求めるな。兵ならば走れ。それが役目であり答えだろう」

「ッ……」

喉元で詰まった言葉を捨ててエイトは走り出した。背後から「頑張って!」と聴こえる声があったが、
振り返らずエイトは南へと駆ける。

1394吊り橋効果と云うけれど ◆EJXQFOy1D6:2019/09/06(金) 11:21:34 ID:Vu.ru6IU0

段差を飛び降り、また飛び越えてエイトは最短距離を全速力で走り抜けていく。

───こんな風に走るのは久しぶりだ。

エイトは思った。ドルマゲスを追って西へ東へ奔走していたあの頃。
足が重くなったのはいつからだったろう。

兵士、と言う言葉が頭に浮かんだ。名を訊き忘れた不思議な男が言った言葉。

そうなんだ。やるべきことが解っていたから走れた。
トロデ王と姫、そして城の人々を襲った怨敵ドルマゲスを追う旅に疑問は一点もなかった。
しかし旅を続けるうちに問題は複雑になっていった。他人の事情に振り回され、肝心な時に賢者の末裔を
むざむざ死なせてしまった。
英雄なんかじゃない。最終的に暗黒神が空に現れたのを幸いに、自分はただ突撃していっただけだ。

こんな自分だからなのか?
姫の傍に居て良い場所は、そこしかないと思うのは。

あの従兄弟を笑えないじゃないか。
自分だって充分臆病で、卑怯で───

エイトは走った。心臓が破れんばかりに暴れて脈打ち、呼吸する度吐き気を覚えながら。
しかしいくら走っても心に浮かんだ疑問は彼を追いかけ続けていた。
たった一つ解っている事──ミーティアの傍に居る──彼にとってたった一つの真実を目指して
エイトはひた走る。

1395吊り橋効果と云うけれど ◆EJXQFOy1D6:2019/09/06(金) 11:22:01 ID:Vu.ru6IU0
  
【C-5/トロデーン西のトンネル/早朝】

三人はトンネルを慎重に歩いていた。魔物が出ないのは良いが、それぞれの手にランタンを持っても
トンネルはなお暗い。

「姫、足は大丈夫かい?」

「ええ、ちょっとマメが出来たくらいです。回復の杖もありますし、ここを抜けたら草地ですから。
ミーティアも靴を脱いでぱっと走る事ができますわ」

精一杯元気よく返事を返すミーティアだったが、自分のせいで速度が落ちているのだと再び卑屈な
気持ちになっていた。
お馬さんのままだったら良かったのに。と何度目かに彼女が考えていた時、キーファが声を掛けた。

「姫さん、レックも。無理しなくたって良いんだぜ」

「えっ。…そんな」

咄嗟に否定しつつ、ミーティアは後ろを歩くキーファを振り返る。

「俺は王族でもなくなったし、世界を救う冒険者でもなくなった。元はと言えば自分から誘った事
だったのにな。こんな俺が言っても有難みなんかないだろうけどさ、お前たちは凄いよ。竜王が
頑張るまでもなく誇りをしっかり持ってる」

ミーティアはキーファの言わんとする事を考えて黙り込んだ。先頭を行くレックも沈黙している。

「…どう、でしょうか。ミーティアには自信がありません…」

「それでも良いじゃないか。姫さん、こうならなきゃって思うのは否定しないが、本当にそう
ありたい自分ってのを忘れないでいて欲しいんだ。二人とも会いたい人が居るんだろ?脱出方法も
そりゃ大事だけど、どっちを先に探すかは自分で選んで良いんだぜ。……そろそろ出口だな」

その言葉にミーティアも足元から前へ視線を移す。窓の様にぽっかりと海辺の景色が開けていた。

「遠くに誰か居るな」

レックが呟く。後ろの二人にもその姿が見えた。

「あれは──あの人は」

ランタンが地面に落ちてガシャンと音を立てる。その時にはミーティアは既にレックを追い越し
出口へ走り出していた。

「エイト!!」

1396吊り橋効果と云うけれど ◆EJXQFOy1D6:2019/09/06(金) 11:22:33 ID:Vu.ru6IU0
【C-5/草原/早朝】
 
 
 
ミーティアは走った。足に出来た幾つものマメが潰れるのも構わず。

エイトも走っていた。もはや歩いているのと変わらない程の速度だったが、その姿を見とめた以上
彼に足を止めると言う選択はもうなかった。

身分と使命。それぞれ自分を縛りつけていた呪いの事も忘れ、二人はお互いの元へただ走っていた。

「ミーティア!!!」

肺の中身を全て吐き出すようにエイトは叫んだ。そこで足がもつれて地に膝を着く。辿り着いた
ミーティアが両腕を伸ばすと、二人は手を取り合って草の上に座り込んだ。
 
 

「心配する事なかったかな?」

トンネルを出た所で立ち止まり、キーファは肩をすくめて言う。

「いいや、俺は嬉しかったよ。有難うキーファ」

レックは言った。息を切らせたまま見つめ合う二人を眺めながら。


 
【レック@DQ6】
[状態]:HP9/10 MP2/3
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、大魔神の斧@DQJ 蒼炎のツメ@DQ10モリーの支給品1~3個 確認済み支給品1~2個
[思考]:①キーファと共にトロデーン城で月影の窓を探すか、ターニアを探すかを考える
    ②竜王と協力する
    ③アベルを追う

【キーファ@DQ7】
[状態]:HP9/10 
[装備]:はやぶさの剣・改@DQ8
[道具]:支給品一式、月影のハープ@DQ8、支給品1〜2個、ユーリルの不明支給品0~1個
[思考]:竜王を追ってトロデーン城へ行く。イシュマウリに会う。

1397吊り橋効果と云うけれど ◆EJXQFOy1D6:2019/09/06(金) 11:22:48 ID:Vu.ru6IU0
【ミーティア@DQ8】
[状態]:健康 足にマメ 若干の疲労
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、あぶないみずぎ、レースのビスチェ、あぶないビスチェ、祝福の杖@DQ7 アサシンダガー@DQ8 その他道具0~1個
[思考]:トロデーン城に向かい、月影の窓からイシュマウリに出会う。
    エイトと共に誇りを持って進む。

【エイト@DQ8】
[状態]:健康 MP1/2 若干の疲労
[装備]:奇跡の剣
[道具]:支給品一式 トーポ(DQ8)、激辛チーズ(DQ8)
[思考]:ミーティアを守る

※レックとチャモロを危険人物ではないかと【若干】疑っています。
※トーポは元の姿には戻れなくされています。

※エイトの不明支給品0〜2「サクラのひとえだ」はC-4平原、ゼシカの遺体の傍に放置されました。
不明支給品の残りは有りません。

1398 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/06(金) 11:33:00 ID:Vu.ru6IU0
間違いなく全文置けたようです。問題が無ければまた自分でまとめ更新をしておきます。
立て続けに書かせて頂きましたが、これで自分にも動かせそうなキャラは居なくなりました。
今後は読み手として定住させて頂きたく思います。ありがとうございました。

1399ただ一匹の名無しだ:2019/09/06(金) 17:29:11 ID:pCISO.CM0
投下乙です
ようやっとエイトとミーティアが再会したが…
エイトはレックに多少とはいえ疑惑抱いてるし、放送でターニア呼ばれるし、波乱の予感…

1400ただ一匹の名無しだ:2019/09/06(金) 19:57:49 ID:pCISO.CM0
ああ、すみません
乙した後なんですが、気になる点が
トラペッタの後、エイトは真っ先にその場を後にして、アンルシアは遅れて出発しています
その上、エイトは城によりませんでしたが、アンルシアたちは北上して城の目前までは来る寄り道をしています
この進行状況で、西に進むエイトが東へ進むアンルシアと遭遇するのは、結構無理があるように思います

1401ただ一匹の名無しだ:2019/09/06(金) 19:59:56 ID:pCISO.CM0
>>1400

×トラペッタの後

〇145話の乱戦の後

間違えた

1402 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/07(土) 03:48:23 ID:4ds2wAGo0
あれっ!?今自分の脳内移動ルートがどこで読み間違え(見落とし)したか迷子になってるようです。
少しお時間を頂いて整理してみます。

1403 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/07(土) 04:14:10 ID:4ds2wAGo0
先にどういう認識で書いたかを記録してみます。
①エイトは乱戦の後誰にも会わず、160話/深夜に城で戦闘があるのを遠巻きに知り、C-4の辺りに居た。
②アンルシアも城の戦闘を遠巻きに知り、それを避けてB-5の教会でティアを休ませていたが、
 169話/黎明にティアが城へピサロ(の道具)を追って出て行く。
③171話で足止めをされたアンルシアが遅れてB-5からティアを追う矢先、南から来た竜王に会い、早朝に共に城へ向かおうとする。
この認識で、B-5を出発したばかりのアンルシアと竜王にエイトを会わせていました。

1404 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/07(土) 04:19:29 ID:4ds2wAGo0
…というか今気づいたんですが、話の最後の方にいたキャラ以外の状態表を書き忘れてました!!!!
すいません!!!!

1405 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/07(土) 19:12:49 ID:gL6Z7Fw20
どこかで見落としたまま思い込みをしていて見えてるものが見つからないでいるのかもしれないと思ってはいるのですが、
どうしても169話/黎明の時点でピサロ、アンルシア、ティアは一旦「B-5 海辺の教会」におり、
次の171話/早朝に竜王と出会って城へ向かう事になり、今回で早朝にエイトと出会うと言う流れの中に
間違いを見つける事がまだ出来ていません。
もしかしたらアンルシアと竜王の状態表を書き忘れた事で齟齬を生じさせてしまったのではないかとも考えていて、
当面どうすればよいか解らないでおります。もうちょっと考えさせてください。

1406ただ一匹の名無しだ:2019/09/07(土) 20:51:06 ID:M3bsX/DM0
>>1405
1400でわからないとなると説明に困るが…
145話時点でエイトとアンルシアの位置関係は

エイト→西
アンルシア→東

こうなってる
それが今回の話では

エイト→東
アンルシア→西

こうなってる
アンルシアがエイトを追い抜いて位置関係逆転させるのが可能かって考えたら分からないですかね?

1407ただ一匹の名無しだ:2019/09/08(日) 01:30:45 ID:4d90TSvE0
完璧に把握できてるかはわからないんで間違ってたらごめんなさいだけど、
最新作が通ったとしたら、エイト、アンルシア、竜王がどういう進行になったかを図にしてみた
結構この辺の時系列複雑かつ制約多いような?
http://ichinichiittai.wiki.fc2.com/upload_dir/i/ichinichiittai/439b72b8e785e71773c63915c037045b.png

今回指摘されてそうなところ
・深夜→黎明で、エイトがC4からほとんど動かず、アンルシア組とエイトがお互い気付かないまま追い抜いてたことになる
  →アンルシアたちは上空の流れ星ポーラに気を取られて、エイトはゼシカのお墓を見ててお互いに気付かなかったとか?
・黎明→早朝で、ピサロとポーラもトロデーンに向かっているため、こちらの二人もすれ違ったことになるのではないか?

最新話ひとつ前時点での制約
・竜王が深夜→早朝にエイトに会わずに教会まで来ているため、エイトは深夜の早い段階でトンネルを抜けたかまだトンネルを抜けてないかのどちらかになりそう
 エイトは竜王を見たけどミーティアじゃないのでスルーしたか、竜王が深夜→黎明の時間に荒野で迷ってたかもありうる?
・ティアははっきりとどこに行くかは明言してないっぽいので、会わなくてもなんとかなるけど竜王に鉢合わせてないからトンネル側に行くのは難しそう
 竜王が人間じゃないので隠れて様子見てたとかでフォローは効くのかな?
 でもティアがトロデーンに向かってた場合は彼女もエイトとすれ違うことに

エイトの位置はきっちり整合性取るの結構難しいかもしれない

1408 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/08(日) 04:31:19 ID:wbUsOS7.0
あ、そうか「エイトいつまでも北西側でうろうろしすぎ」と言う事だったんですね!
それに加えてティアがどこに行ったかが難しくなりそうだと。

確かにそこは最初考えてました。しかしエイトは結構悩んでいたのと、あの辺りを丁寧に姫探しを
していたら時間も経つかも。と考えそのままうろうろさせていました。
ティアについてはトロデーンに向かっているとアンルシアから聞いているのでそのまま向かうものと考え
エイトとは単にお互い気付かなかったかエイトのみ気付かなかったものと考えました。

うーん、「うろうろしていたから」と言うのはやはり強引ですね…。それを追記してもやはり
きついものがあるでしょうか?

1409ただ一匹の名無しだ:2019/09/08(日) 06:59:58 ID:l4Y8mAPM0
>>1408
その理屈で行くと、エイトはうろうろして丁寧に探してたのに「アンルシア、ピサロ、ティア」を見逃し、「ピサロ、ポーラ」を見逃し、「ティア」を見逃したことになる
丁寧に探しててこれだけの通行人を見逃すのは変じゃないか?
それ以前にただの通り道であるあの辺を重点的に探すこと自体が不自然だし

>>1407で触れられてるように、エイトはアンルシアと合流する前の竜王とすれ違ってると思う
竜王側が気づいてなさそうだから、お互い気づかなかったか、エイトが目視したけどスルーしたかになるだろうけど

1410 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/08(日) 16:23:35 ID:vDCqkE8w0
うーん、実走してみるとあのへんは段々畑的な高低差が多い地形で、「平原」と言うのは
飽くまでロワ共通用語としての表現と思っていました。あえてそれに矛盾する地形描写を
入れるのも妙だし、大丈夫だろうと片付けていたんですね。
ですので見逃してください!とお願いしたい所ですが、後もつかえていますしなかった事に
させて頂こうと思います。お時間を取らせてしまいすみません。

1411 ◆vV5.jnbCYw:2019/09/08(日) 21:23:17 ID:Q0q9LtoQ0
今回は残念でしたが、またどこか書けるパートを見つければ投下してください。

では、私も投下します。

1412 ◆vV5.jnbCYw:2019/09/08(日) 21:26:16 ID:Q0q9LtoQ0
「ローラさん!!しっかりしてください!!」
チャモロは魔法をかけながら、動かなくなったローラを揺さぶる。

その姿をアルスは冷や汗をかきながら見ていた。


つい数分前まで、出来るだけ苦しめて殺そうとした相手。
だが、こんな形で死ぬことを望んではいなかった。
しかし、居ても立ってもいられず、アルスは言葉を発する。

「チャモロさん!!僕はターニアを追うよ!!」
「ええ、お願いします!!」

二人にとって目下の課題は、ローラだけではない。
先程の戦いから、多くの血を見せてしまったことで、恐怖を覚え逃げ出したターニア。


アルスがそう言ったのは、本当は自分がそれをやりたかったからではなかった。
最早戦闘能力はほとんどなくなったとはいえ、ライアンや、マリベルの死の原因になった相手を、これ以上見たくなかったのもあった。


しかし、ターニアが逃げた方向に向けて、走り出そうとした瞬間、突然アルスの体が崩れ落ちた

「あれ?」
何故か言うことを聞かない体に、疑問を覚える。
アルスの異変を察したチャモロが、慌てて駆け寄る。

「アルスさん!!大丈夫ですか!?」
「キミは、ローラさんを……。」
「もうダメです。呼吸も脈も止まってました。」

ローラが助からないと分かるや否や、アルスの手当てを始める。

アルスが動けなかった原因は、いたってシンプルな要因だった。

呪われたライアンとの戦いによる出血。
手当こそはしたが、極めて簡易的なものでしかない上に、失った血は戻らない。
それに加えて、ローラに刺された毒針による毒は、致死量ではないにしろ、まだ体に残っていた。

これまでは怒りに任せて動いていたから気力でカバーできたものの、いざその矛先を失ってしまうと、代償は一気に襲ってくる。


「チャモロ、僕より、あの子を……。」
「こんな所に置いていくなんて出来ません!!」

慌ててチャモロはキアリーを、アルスにかけ始める。

1413見え始めた光明 ◆vV5.jnbCYw:2019/09/08(日) 21:26:44 ID:Q0q9LtoQ0
今はいないだけで、別の襲撃者が来ない保証はどこにもない。
簡単な話、歩くことさえ難しい人間を戦場に置いていくなんて、殺すようなものだ。

「どうして……?」

チャモロは突然、魔法を唱える動作に入ってから硬直した。
「チャモロさん!?」
「魔法が……出ないんです。」

「魔力が切れた?」

アルスはありきたりな理由を挙げる。

「いえ、確かに魔法はまだ使えるはずです。」


理由はこれまた簡単だった。
運や身体的な動きだけではなく、魔法を制限する呪いと言うのも存在する。
そして、呪いと言うのは一部の魔法と同じで、術者が死しても解けることはない。
むしろ、怨みの心を死の間際に残せば、さらに増幅する。
それが近くの者にも伝染することくらい、全くおかしい話ではない。

つまり、死してもローラの呪いは消えなかったということだ。


「あそこに……」
アルスは不自由な手を動かして、ローラの死骸を指さす。
ローラの亡骸の近くに、支給品袋が転がっていた。

確かに、回復するための道具があるかもしれない。

チャモロは中身を空けてみる。
妙に高貴なティーセット、いくつかの杖、そして、何かの草が入った袋。

(何か、薬草……。)
薬草や毒消し草が入っている可能性も高い。


一縷の望みをかけて、袋から草を取り出す。
だが、出てくるのはチャモロの知らない草と、知っていても薬にならないものばかり。

見たことのない草が、薬なのかもしれないが、そんなものをアルスに飲ませるのはリスクが高すぎる。


(くそ……動いてくれよ……僕の身体………。)
チャモロが道具を探すのに苦労している間も、アルスは自分に魔法をかけようとする。
アルスの想いに呼応したからか、手に光が宿り始める。
回復魔法を使う時にある、淡い光だ。

1414見え始めた光明 ◆vV5.jnbCYw:2019/09/08(日) 21:27:09 ID:Q0q9LtoQ0
回復魔法とは異なり、解毒魔法は制限されていない。
アルスから虚脱感は幾分か抜け、顔色も僅かだが良くなる。


「アルスさん……ダメでした……薬になりそうなものはもうありません。」
「見てきてくれて、ありがと。チャモロ。」

それからも二人は回復魔法を唱え続ける。
不幸中の幸いか、魔法は常に封じられるというわけではなく、何度かに一度くらいだった。

毒は抜け、立って歩ける程度にはアルスは回復する。
しかし、ターニアの姿はとっくに見えなくなってしまった。
チャモロはジャンボにピオリムをかけてもらっていたが、その効果も既に切れている。


「もう大丈夫だ。チャモロ、あの子を追いかけよう」

アルスの体調も完治していないまま、すぐに二人はターニアが走った方向へと駆ける。
彼女は北上した後、西か東かどちらへ向かったか分からない。
アルスは東であることを願った。
東のトラペッタなら、その先でブライやサフィール、ゴーレムが助けてくれるはずだから。


しかし、二人が気を付けなければならないのは、他にもあった。
むしろ、この戦いの中では、1,2を争うほど重要なことだ。



「「警告だ。禁止エリアに侵入した。30秒以内に立ち退かない場合は首輪を爆破する。」」



二人の首輪から同時に発された警告と共に、ピッ、ピッ、と聞きなれない音が聞こえる。
チャモロがいち早く、アルスの首輪が点滅していることに気付いた。
「しまった!!禁止エリアです!!」

【G-5】からターニアを追っているうちに、二人は禁止エリア【G-4】へと足を踏み入れてしまっていた。

ターニアのことや、自分達の既存の危険に夢中になりすぎて、禁止エリアのことまで頭になかった。

「チャモロさん!!来た道を戻ろう!!」

二人の心に、ターニアもこうして禁止エリアに踏み込んでしまったのではないかという恐れがよぎった。

だが、それどころではない。
もう地図を見ている余裕はないので、首輪の音が止むまで来た方向に走るしかない。


「「残り、20秒だ。」」
首輪の警告が始まった場所からして、あまり深く踏み込んではない。
地面も草原や街道、石畳ほどではないが、走るのに難儀するほど悪くもない。
従って、ここで自分達が首輪の爆破による可能性は低い。

1415見え始めた光明 ◆vV5.jnbCYw:2019/09/08(日) 21:27:31 ID:Q0q9LtoQ0

しかし、呪い以外のことを心配した瞬間、呪いは不幸となって訪れる。

「っ!!」
アルスの靴が、根の丈夫な草に引っかかった。

アルスが脚を押さえて蹲っている
どうやら転んだ先に尖った石が転がっており、打ち所が悪かったようだ。

制限されている魔法でもすぐに治療できる傷だが、今はそれどころではない。

「アルスさん!!しっかりしてください!!」
チャモロがアルスの手を引っ張る。

「「残り10秒」」
首輪の光も、段々とまぶしくなっていく。


「チャモロさん!!キミだけでも!!」
あと数mで、死地からは脱出できる。だが、その数mが長い。

アルスは脚の怪我をした自分を置いていくように頼む。

「そんなこと出来ません!!」
「残り7秒」
チャモロは無理矢理アルスを抱える。

「やめろ……そんなことしたら……」

アルスはチャモロに背負われることを拒否する。
「ゲントの神よ!!我々に光を!!」

チャモロが突然叫んだと思ったら、アルスを思いっきり投げた。
「え!?うわああああ!!」



悲鳴と共に、アルスは禁止エリア外へ飛んでいく。
彼は、アルスを背負って禁止エリアから脱出しようとしたのではない。
巴投げ。武闘家の修行の過程で、仲間と共に覚えた技だ。


「残り3秒」
アルスを禁止エリア外に投げ飛ばすと、自分も全速力でエリア外に出る。


「残り1秒」

「ゼ……禁止エリアからの立ち退きを確認。カウント停止だ。」

済んでのところで、チャモロは脱出した。

「無事でよかった。流石にアレは予想してなかったよ。」
体のあちこちに草や土で汚れながらも、互いの無事を喜ぶ。

1416見え始めた光明 ◆vV5.jnbCYw:2019/09/08(日) 21:28:45 ID:Q0q9LtoQ0
「僕も、仲間と共に覚えた技が、こんな形で役に立つなんて思いませんでした。」


「何とか助かったけど、これからどうする?」
アルスは自分の脚に回復魔法をかけながら、チャモロに問いかける。
相変わらず魔法は成功したりしなかったりだ。
さらにアルスが追い始めた時に既に姿が見えなくなっていた。ターニアとの距離は完全に離れてしまった。
このままでは追いつくことが出来ないし、奇跡的に追いついたとしても、拒絶される可能性もある。

「仕方ありません。一度トラペッタに行きましょう。
サフィールさん達がまだキラーマジンガ達と戦っているかもしれません。」
「キラーマジンガだって!?」

アルスは驚く。
こんなタイミングでチャモロはウソを言うような人間ではないし、あの時キラーマジンガはチャモロの攻撃で、砕かれたはずだ。


「ええ。僕としても全く訳が分からないんです。」


チャモロは、キラーマジンガの件以外にも疑問に残っていることが多かった。


1つめは、ジャンボというドワーフの正体。
自分はサフィールと共にキラーマジンガに殺されかけた所を、ジャンボに救われた。
何度も苦戦を強いられた強敵を鮮やかに翻弄する戦いを見ても、彼にはこの戦いから脱出するための重要人物だと確信していた。
だが、ターニアはジャンボを恐れていた。
さらに、ジャンボは自分とレックを殺そうとしていたらしい。
そして、今のターニアは、かつてチャモロがライフコッドで会った天真爛漫な少女とは、まるで違っていた。



2つめは、自分達の今の状態。
魔法が突然使えなくなることといい、連続の不運続き。
不運は不運だと言えばそこまでだが、何か超常的なものが纏わりついているような気がした。
このバトルロワイヤル自体が超常的な何かで作られたような気もするが。


「2体目……。」
「はい。アルスさんと別れてトラペッタへ行った後すぐに、2体のキラーマジンガが襲ってきました。」

トラペッタへ向かう途中、チャモロは身に起こったことを全部話した。

「そして、僕はジャンボさんに頼まれて、ターニアを追いかけて来たんです。」
「じゃあ、早くブライさん達を助けに行かないと!!」
「大丈夫。恐らくジャンボさんが助けに行っているはずです。」

1417見え始めた光明 ◆vV5.jnbCYw:2019/09/08(日) 21:29:05 ID:Q0q9LtoQ0

本当のことを言うと、チャモロはまだジャンボに対して疑問を抱いている。
しかし、今頼れる人物がジャンボしかいない以上、そう言わざるを得なかった。

「勿論、ターニアやブライ達のこともあるけど、僕はそれ以上に気になることがある。」
「え!?」

チャモロは、ジャンボの目的だと思っていたが、違っていた。

立ち止まったアルスが、紙とペンを取り出し、さらさらと書く。



『首輪の正体、分かったかも』
「!!」

戦いが始まってほぼ1日、自分達を縛り付けていた首輪の正体が分かった。
周りにはチャモロしかいないが、もしもっと多くの人がいれば、一斉に注目の視線を浴びることになっていただろう。


「もっと詳しく教えてください!!」
『聴かれるとまずい。』


チャモロははやる気持ちを押さるようにと指示を出す。

『呪い』

二文字だけの内容の紙を、チャモロに見せる。
さらにアルスは二枚目の紙に続きを書く。

「呪われた装備って、見たことある?」
「はい。少しだけですが……。」

アルスは呪われた面を身に着け、襲ってきたライアンとの戦いから薄々感じていた。
立て続けに不運がやってくる現在の状況を。
2度や3度くらいなら、ただの偶然と割り切ることが出来るが、こうまで立て続けに不運に見舞われると、何か原因があるとしか思えない。


そして、普段は使える魔法まで突然使えなくなるのは、完全に何か違う原因があるとしか思えなくなる。
恐らく、自分達を殺そうとして、無念のうちに死したローラが、怨念となって付きまとっているのだ。



だが、自分達に付き纏っている呪いはローラのものだけではない。
この殺し合いが始まってから色んな事が立て続けに起こったため忘れていたが、先程の禁止エリアで、長らく存在を忘れていた首輪のことを思い出した。

1418見え始めた光明 ◆vV5.jnbCYw:2019/09/08(日) 21:29:24 ID:Q0q9LtoQ0

首輪も、呪われた装備と同様の存在なのではないかと。
外そうと思っても外せず、回復や蘇生と言った魔法を阻害する。

『恐らく、僕らの首輪も、その一種だ。』
『一理あるかもしれません。』

チャモロも予想外だった。
首輪爆破の原因が、自分の想像もつかない超常的な何かではなく、呪いだということを。


アルスにとっても、予想外だった。
だが、マジャスティスを打っても首輪に異常はなかったことから、首輪の正体が魔法ではない可能性が高い。

二人共この世界で見た支給品で、呪いを解除できる道具など一度も見たことがなかった。
いや、たとえあったとしても、支給されている道具程度では解除できない強い呪いなのかもしれない。


『あの首輪の爆破も「首輪をしている人」にだけ大ダメージを与えるのかもしれない。』
『破滅の盾みたいなものですか?』

二人は、装備するとかえってダメージが大きくなり、大したことのない魔法でさえ致命傷になる盾を思い出した。
この罠を応用すれば、首輪に干渉する魔法を増大させることも可能なのではないか。


「そうだ!!」
書きながら、アルスは突然叫んだ。

「え!?何かアルスさんは手掛かりがあるのですか?」
「サフィールさんが……。」

2度目の放送の直後、情報交換中に、サフィールが話していた。

彼女はリーザス村で呪いの仮面を付けた男に襲われたと。
呪いの仮面、とはあのライアンに付けられたもので間違いないのだが、問題はそこではない。
あの時サフィールはマリベルと共に、呪いを解いたと言っていた。
仮に使い捨ての道具だったとしても、何かを応用して、その道具を作る可能性もある。

「なるほど……そんな話を。では早速サフィールさんの所へ行きましょう。ジャンボさんに聞きたいこともあります。」

1419見え始めた光明 ◆vV5.jnbCYw:2019/09/08(日) 21:31:53 ID:Q0q9LtoQ0
新たな目的を見つけた瞬間、少年たちは再び走り出す

ローラからの不幸の呪いを、首輪と関連付けて、初めてアドバンテージとして利用した二人。
それもそのはず。多くの犠牲の果てに生き延びてきた二人が、呪い程度で死ぬわけがないだろう。
いや、本当の小さな光とは、闇の中にいないと見えないのかもしれない。




【F-4/草原/2日目 早朝】

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP3/5 MP1/10 左腕骨折(応急処置済み) ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)(加速状態)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:諦めない。ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める 首輪解除の為に、ジャンボ、サフィールへ会いに行く (ジャンボには半信半疑)
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。また、はぐれメタルの職業を少なくともLv7まで経験しています。魔法使い、魔法戦士、賢者、勇者は経験していません。
ジャンボに対しては信頼感の反面、疑いも抱いています。

【 アルス@DQ7】
[状態]:HP1/6 MP1/5 左足に怪我(素早さ低下) 右腕から胸にかけて裂傷(応急処置済み)左肩に刺傷(治療済み)
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜1) ゲルダの不明支給品0〜1個(確認済み) 道具0〜2個(本人確認済み) 
[思考]:この戦いを終わらせる。ミーティア、キーファを探す。サフィール達に会いに、トラペッタへ戻る。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。

※アルス、チャモロには『ローラの呪い』が付き纏っています。どのように解呪されるかは次の書き手におまかせします。

※首輪の状態についてある程度知りました。

・首輪には何かしらの呪いがかかっています。現在判明した呪いは以下の通りです。
1.原作のはめつの盾のように、何らかの魔法のみ大した威力でなくとも瞬殺級の効果に変える呪い
2.従来の呪い装備のように、外せない呪い

1420見え始めた光明 ◆vV5.jnbCYw:2019/09/08(日) 21:32:38 ID:Q0q9LtoQ0
投下終了です。今回の話で首輪について新たな発見がありましたが、何か不備があれば指摘お願いします。

1421 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/08(日) 22:22:21 ID:FjijLnKQ0
お疲れ様です!ローラこっわ!本人がもう亡くなってるだけにぞわぞわしました。
>「ゲントの神よ!!我々に光を!!」
この台詞で巴投げを放つチャモロ好きです。いえ切羽詰まってるんだから当然ですがw

1422 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/12(木) 17:55:09 ID:zEQSja760
もし宜しければまとめ更新をお手伝いしますが如何でしょうか。
作品本文のページは、例えば自分などは前回空白スペースの行をスレッドでは省略して貼り付けしたりしていたので
他の自分でまとめをされる方はそこは自分でやりたいのではないかとは思いますが、マップなど細かい部分は
是非お手伝いさせて頂きたく思います。

1423 ◆vV5.jnbCYw:2019/09/13(金) 23:49:12 ID:bXh3oGWc0
>>1422
ありがとうございます。
ページ制作の際にWiki更新一通りやったので必要ありませんよ。
それとWikiの書き手枠の欄に◆EJXQFOy1D6 さんのページを作っておきました。

1424 光の中に消え去った : 光の中に消え去った 
 光の中に消え去った 

1425 ◆vV5.jnbCYw:2020/02/29(土) 17:26:27 ID:aKiBk96I0
以前破棄した、フアナの話を投下します。

1426そっちへ行ってたの? ◆vV5.jnbCYw:2020/02/29(土) 17:27:06 ID:aKiBk96I0
「う〜ん。ここはどこでしょうか……。」
分け入っても分け入っても青い森。
時計を見たらそろそろ太陽が出そうな時間ですね。
けれど森の中だからか、時計も地図と同じでおかしくなってるのか、まだ暗いままです。


え?地図がおかしい?
何を言ってるのかって?
そりゃあ、当たり前ですよ!!
私、あの紫のターバンの人から逃げたんですよ。
もう走って走って、走りまくりました。
橋を走った(これダジャレじゃないですよ!!)後、いつの間にか森に入ってしまったんですよ!!


え!?それでも地図は悪くないって?


どう考えても自分の方向音痴が原因です。本当にありがとうございました。


しかしどうしたものやら。
私はあの紫ターバンを、強い人たちがいる場所に誘導して、その人と協力して戦おうと思ってたんですよ。
ところが行けども行けどもいないし、しかも紫ターバンを振り切ってしまったようなんです。


そういや、ちょっと前の話なんですけど、確かに見たんですよ。
森の中、一人の青い髪の少女が横切っていたんです。
この辺り危ないですよ、気を付けて、って言ったんですけど、何か切羽詰まっているようで、走って行ってしまいました。


そうしたら、突然衝撃的なことが起こりました。
蒼い髪の少女が何か出したと思いきや、砂煙が発生したんですよ!!
というか、あれは砂柱です。
子供が砂場でバタバタってやったりとか、浜辺の全力ビーチバレーとか、そんなチャチなものじゃありません!!
もっと恐ろしい砂の片鱗を味わいましたよ!!


まあ、砂柱はすぐに消えてしまったんですが、その後もう女の子はいなくなりました。
どっちへ行ったのか分かりませんし、あれは私に止められそうな人じゃなかったので、もう諦めます。
そもそも、あれは本当に人間だったんでしょうか?


寂しくなった私が作り出したヴィジョンじゃないんでしょうか?
え?寂しいのかって?


そりゃあ寂しいですよ。
今までずっと誰かと旅をしてきた私が、一人になってしまったんですから。
ゼシカさんも、ズーボーさんも、バーバラさんも、コニファーさんも、ホープ君も、サヴィオも、アスナもいませんからね。
でも、泣くのはあの紫ターバンを倒して、エビなんとか(いい加減このネタしつこくないですか?)を倒して、帰ってからにしようと思っているんです。
こんな所で泣き崩れてるなんて、誰も望んでいないと思います。


だから、幻を見るのはおかしい気がしますね。

1427そっちへ行ってたの? ◆vV5.jnbCYw:2020/02/29(土) 17:27:28 ID:aKiBk96I0
まあいいでしょう。
この世界でおかしいこと一つ一つ挙げて行けば、キリがありませんからね。

お?ようやく森の出口が見えたようです。
とはいっても、夜の草原。
見晴らしがよいのに、人は見えません。
そういえば、もう参加者の数も、大分少なくなっているようです。

放送と、城での戦いを合わせると、25人にも上らないでしょう。


だからといって、もう少し人に会えてもいいんじゃないですか?
え?町とか村とか、もっと人が集まる場所へ行けばいいんじゃないかって?
いやいやいやいや。私方向音痴じゃないですよ?
元の世界で旅をしていた時は、ほとんど道案内をホープ君に任せてただけです!!
行き先が分からなくても、サヴィオが「こっちいけばいいと思うよ」って指した方向は、確実に町や村があったんです。


そういや、私、旅に出てから自分で行き先を決めて歩いたこと、ないんでした。
最後に自分で道を決めて、自分が先頭に立って歩いたのはいつでしたっけ?


ん?
何か向こうの方の森から声が聞こえましたね。
え?なになに?
『げんとの神よ、我に力を?』


私の知らない神ですね。
そういや、私達が教会で信仰している神って、名前なかったですね。
神父様も、『おお神よどうのこうの』って言ってるだけで、名前を聞いたことないですね。
ルビス……は精霊でしたっけ。
とりあえず、げんととは知らない名前です。


まあ、この戦いは色んな世界の人が呼ばれているようだし、別世界の神様と言われれば納得が行きますが。
気になることですし、あの紫ターバンを倒すための戦力強化のためにも、声の方へ行きましょう。

1428そっちへ行ってたの? ◆vV5.jnbCYw:2020/02/29(土) 17:27:51 ID:aKiBk96I0

さらに草原を進むと、向こうの方に、緑フードと、黄色トンガリ帽子の二人組がいました。
恐らくどっちかが、さっきの声のモトのようですね。


何やら二人で樹と向かい合って黙りっぱなしです。
どうやら、筆談?をしているようですね。

こっちには気づいていないようですが……。
誰にも聞かれたくないようですね。
でも、私には嫌な感じがするんですよね。


二人組の所に、何だか分かりませんが、黒いモヤが漂っているんです。



アリアハン視力コンテスト1位の私でも、目を凝らさないと見れませんが。
いや、これってむしろ、僧侶がなせる業というやつですか?
何かは分かりませんが、どうにもイヤな気がします。
決して、近くにいて良いようなものではありません。

そうそう、どこかで見たと思ったら、アレですよアレ!!



呪われた武器や防具から感じるアレです。
はんにゃの面……でしたっけ……。
珍しいデザインだったから、付けてみたら、急に意識がなくなったんです!!
そのあとしばらくどうなっていたか分からないんですが、その時の私は相当ヤバかったらしいです。
あの人たちも、何か間違って呪われた装備を付けてしまったのでしょうか。



(ん!?)

さっき、黒いモヤの方から、何か聞こえました。
『ゆ×さな×?×ども、返せ?』


ゆるさない、子供、返せ?
全部は聞こえなかったですが、こんなことが聞こえてきたような気がします。
これは、怨念のようなものですか?
実際に、アスナ達との旅の最中も、怨念の敵とは何度も戦いましたね。
そういえば一度アスナに殺されたはずのヘルバトラーも、怨念になって襲ってきましたね。

この世界は、死した者が怨念になりやすいのでしょうか?
それとも、呪いが力を出しやすいのでしょうか?

1429そっちへ行ってたの? ◆vV5.jnbCYw:2020/02/29(土) 17:29:01 ID:aKiBk96I0
あの二人は気付いているのかいないのか今一つ分かりません。
サヴィオがいれば、シャナクの一つでもかけてくれたかもしれませんが、私にはできません。


それに、私は今、魔力がすっからかんです。
どうせターバン男を振り切ってしまったら、一度休憩するか、魔力回復用の道具でも欲しい所なんですがね。


あっ!!
あの二人、私に気付かないまま、走り出しました。


ちょっと、待ってくださいよ!!


……そういや私、この世界で、誰かを追いかけたり追いかけられたりしているような気がします。


私が誰の為でもなく、一人で走ることが出来るのはいつになるのでしょうか?

【F-4/草原/2日目 早朝】

【フアナ(女僧侶)@DQ3】
[状態]:HP1/10 MP 0
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 パラディンの秘伝書 不明支給品0〜1(本人確認済み) かりうどの弓@DQ9 カマエル@DQ9
[思考]:自分だけが出来ることを探す。
[目的]1:仲間たちの死を受け止め生きる。
2:緑フードと、トンガリ帽子(アルスとチャモロ)を追いかける
3:アベルを倒し、アスナとコニファーの仇を討つために仲間を集める。
※バーバラの死因を怪しく思っています。
※ローラがアルスとチャモロにかけた呪いを見ることが出来ます。

1430そっちへ行ってたの? ◆vV5.jnbCYw:2020/02/29(土) 17:31:10 ID:aKiBk96I0
投下終了です。
長らく書いていなかったため、何か矛盾点があるかもしれません。

1431ただ一匹の名無しだ:2020/02/29(土) 17:45:33 ID:rPHeq96w0
投下乙です
フアナはピサロ達と合流するかと思ったが、そっちに行ったかあ
確かに教会で解呪を行う神官に近い僧侶なら呪いに敏感そう(3の僧侶は解呪できないけど)

1432 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:07:07 ID:u8H6lGfA0
投下します。

1433追う者追われる者 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:07:48 ID:u8H6lGfA0
「あれは……。」

ピサロとポーラがトロデーン城へ向かう途中のこと。
まだ小さい姿でしか見えないトロデーン城の、城壁の一部が大きく崩れた。


(アスナ達は、無事なのか?)
ピサロは胸騒ぎを感じながら、足を速める。


(コニファーさん……待ってて……。)
ポーラも、かつて別れた仲間との再会に、期待と不安を抱いて走る。
武闘家の経験を活かした俊足に、星降る腕輪の力も手助けしている。

人間とは異なる筋力や膂力を持っているピサロでさえ、付いていくのが精一杯なほどだ。

数時間前は、未知の敵の存在から、ピサロは退避せざるを得なかった城。
だが、今回は行かざるを得ない。


幸いなことに、同行者はほぼ戦闘能力が無い3人だった前回とは異なり、かなり腕の立つ剣士だ。


しかし、城が大きくなるにつれ、ピサロは違和感を覚え始めた。

「ポーラ、何か邪悪な気配を感じるか。」
「ううん。何も。アンタは感じるの?」


彼にとっての違和感と言うのは、気配がまるで感じなかったことだ。
以前にトロデーン城を訪れた際には、城内から邪悪な気配がこれでもかと言うほど漂ってきた。
だが、いくら城に近づいても、気配を感じない。


気配を消して、自分達が来るのを待ち伏せしている可能性もある。
「待て、ポーラ!待ち伏せしている者がいるかもしれない!!」

「ステルスみたいな?」


ピサロは自分の世界にない魔法の名前を聞かれて、僅かながら戸惑う。
「何だそれは?」
「ピサロは知らないの?姿と気配を消す魔法よ。私は出来ないけど、コニファーさんが得意だった。」


城門を潜り、二人を迎えたのは、最初に見た以上に荒れ果てた城だった。
辺りには瓦礫が散乱し、土地は隆起したり陥没したり焦げたりと、城の中庭とはとても思えないほどだ。
イバラに包まれた時のものとはいえ、その城の姿を知っているピサロは、その変貌には驚くばかりだった。
これが惨状の結果だ、と言わんばかりに、赤い鎧を付けた男が、体を裂かれて倒れている。

(この男は……確かジャンボの言ってた……)

しかし、ピサロにとって肝心なことはそこではない。
ザンクローネの死体を一瞥し、周囲を良く観察する。
城にいるはずの者、特にカマエルの安否の確認。
同様に城にとどまっているはずの襲撃者の討伐。
そして、もう一つは―――――――

1434追う者追われる者 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:08:11 ID:u8H6lGfA0

「コニファーさん?」
ポーラは転がっている、もう一人の死体に駆け寄る。

「待て!!」
それが誰の死体か知っているピサロは、ポーラを止めようとする。
死体をあえて転がしておいて、物陰からその死体に近づいた者や、死体に動揺した者に攻撃を仕掛けるのは一つの作戦だ。


しかし、その制止も意味なく、ポーラは動かなくなったコニファーを、揺さぶったり、声を掛けたりしている。

「間に合わなかったか……。」
その動作で、既にコニファーの魂はこの世を去ったのだと分かった。



敵が隙を晒したポーラを狙わないか、ピサロは気を配る。
だが、なおも襲撃者の姿どころか、敵意すら感じない。

ポーラはピサロを強く見つめる。
理由があったとはいえ、コニファーを助けるのが遅れて、結果として死なせたことを詰られるとピサロは思った。


「ねえ、ピサロって、コニファーと一緒にいたんでしょ?」
しかし、ポーラが話したのは一つの質問だけだった。

「僅かな間だけだ。」
「じゃあ、知らないんだね。何でコニファーが満足そうな顔しているのか。」


血と泥、埃に塗れ、それでいて満足そうな表情を浮かべたまま。

「分からん。だが、この先に分かるかもしれぬ。」

ポーラにとって、久々の再会だった。
ずっと前、最後にポーラが見たコニファーは、世界を守るという大仕事を完了したとは思えない程絶望に満ちていた。


本当は自分達に、本心を悟られまいと取り繕っていたが、それが猶更痛々しく感じた。
もし何らかの形で再会したとしても、きっとあの顔以外を見ることは出来ないだろうと思っていた。


コニファーも、海岸沿いで見たアークもどこか何かをやり遂げたような顔をしていた。
自分も最後はあんな顔が出来るのか、スクルドやアークは出来ると言っていたが、ポーラには僅かな希望と不安がよぎった。

1435追う者追われる者 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:09:30 ID:u8H6lGfA0

ピサロはポーラからの質問も話半分で流し、そのまま城内へ入っていく。
最初は絡みつく茨によって閉鎖させられていた玉座の間への扉が、茨ごと斬り裂かれていたことにピサロは違和感を覚えた。


爆音が静かな城内に響く。
ピサロ早速魔法を放った。


「ちょっと!何してるのよ!!」

ポーラはピサロの挙動を怪しむ。
「誰もいないから燻りだそうとしたが……。」


最後にこの城を後にした時、コニファー以外にアスナと、仲間らしき女僧侶とすれ違った。
従って、コニファー以外はまだ城内のどこかにいるかもしれないと、ピサロは疑う。
「ねえ!!誰かいる!!私達は敵じゃないわ!!」

ポーラの大声が、静まり返った城内に木霊する。


敵じゃないと言われても信用しないだろう、と言いたい気持ちを抑えて、ピサロは辺りを伺う。

しかし、城内はなおも死んだように静まり返ったまま。
死んだように、と言うより文字通り、城内の生存者はポーラとピサロのみなのだが。

「上にも行ってみよう。」
まだ二人は、見回ったことのない2階へ、3階へと足を速める。
とは言っても、柱が倒れている通路は進むことは出来ないので、屋上へまっすぐ向かった。


屋上に着いて、真っ先に目にしたのは、大きな月の光と、それに包まれて倒れている勇者だった。
「アスナ……」
ポーラは初対面の相手なので特別な憐憫の情を抱いたわけではない。
ただ、これほど強い力を持った人間でさえ、死ぬときは死ぬことを思い知らされた。


寿命ではなく、戦った果てに死ぬ。
アークの時点でその事実を知らされていたが、改めてその事実を実感した。


「遅かった……。」

再びそう呟くピサロ
その顔は酷く憎々し気だった。

「ピサロ、遅れたことを悔やんでも、意味がないわよ。」
ポーラはいつもより数倍眉間に皺が寄ったピサロを宥める。

遅れたことを後悔しても仕方がない、という言葉は、ポーラが自身に向けて発した言葉でもあるのだが。


「助けるのが遅れたことじゃない。襲撃者は、もうここにはいない。」
「え?」

ピサロとしても、迂闊だった。
一体どうして、自分はいつまでも襲撃者が一か所に留まっていると思い込んでいたのだろうと。

1436追う者追われる者 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:11:39 ID:u8H6lGfA0
城に入る直前、城壁が大きく崩れたことから、二人はまだ襲撃者が暴れていると勘違いをしていた。
だが襲撃者、アベルは既にこの城を後にしていることに、ようやく二人は気が付いた。


「そうだ……もしかしたらアスナさんが、カマエルを……。」

一瞬ポーラはアスナがカマエルを持っているか期待したが、支給品袋さえなかった。
コニファーも同様に袋そのものが無なかった。
ザンクローネの死体は、強力な技を浴びたからか、支給品袋ごと焼け焦げていた。

「ない…か。襲撃者に奪われたか、それとも誰かに渡したか……。」


「東へ行こう。カマエルは襲撃者が持って行ったんだ。」
「そうだな……これ以上無暗に戦いたくはないのだが……。」

ピサロとポーラは、教会から城へ向かう途中には誰にも会わなかった。
従って、襲撃者は橋を渡り、トラペッタ方面へ向かったと結論付けた。


だが、すぐにもう一つ重要なことを忘れていたことに沈みゆく月から、ピサロは気付く。


「しまった!!月影の窓だ!!」
「ピサロ?何だって?」

今度はポーラの質問を無視して、急いで城の階段を駆け下りた。
トロデーン城の図書室でヤンガスに言われた、月影の窓。


おわかれのつばさに執着するあまり、ピサロにとってもう一つ肝心な情報、月影の窓のことは忘れられていた。

日暮れにトロデーン城を抜け出してから戻るまでに、多くのことがありすぎた。
その過程で、おわかれのつばさという手がかりを掴めた際に、月影の窓の優先順位を下に置いてしまっていた。
ピサロとしては、間近で見て、尚且つその道具について解説している本まで持っているからである。
一方で月影の窓は、ヤンガス一人から聞いただけで、その内容もどうにも御伽噺じみている。


だが、カマエルが奪われた今、月影の窓と、その先の世界に頼らざるを得ないかもしれない。
溺れる者は藁をもつかむと言うが、脱出の可能性がある可能性は手当たり次第に引き寄せなければいけない。


そして、月影の窓と言うのだから、月が沈めば対面は不可能のはず。
次の夜まで待てというのは、いくらなんでものんびりしすぎている。

1437追う者追われる者 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:11:56 ID:u8H6lGfA0
既に空が白み始めている中、二人は急いだ。


「ここなの?どう見ても普通の図書し……!!」
すぐに1階の図書室に到着した二人の目の前には、予想外の光景が広がっていた。

「ピサロ、窓の影が……!!」
「言われなくても分かっている!!」


むき出しになった窓が、巨大な月の光に当てられ、その影が図書館の床を走っている。
その不自然に長く伸びた影は、壁に突き当たっていた。


「「!!!!」」
一見、ただの壁に映った窓の影にしか見えなかった。
だが、影にしては本物の窓のように見えた。


無意識のうちに、二人は影に手を伸ばす。


それは、普通の扉とは何の変わりもなく、

1438追う者追われる者 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:12:28 ID:u8H6lGfA0







開いた。
















ピサロはその中を覗く。
その時、月影の窓が消えた。


「え?」
その理由は子供でも分かるほど簡単なことだった。
月が沈み、この世界で2度目の日が昇る。
窓の影を造る月光が、消えたからだ。


「何が起きたの?」
それに気づかず、ポーラは壁を叩く。



「夜明けだ。ここでやることはもうない。東へ行くぞ。」
ピサロはただそう言った。


「もう少し、待ってみない?」
「月光がないのに、どうしてもう少し待てというのだ?」

ピサロはそのまま図書室を出る。


朝の光が、城を照らした。
恐らくこの太陽が沈むまで、この戦いは終わるだろうと二人には確信があった。

1439追う者追われる者 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:12:51 ID:u8H6lGfA0

だが、この時、ポーラは気付かなかった。
扉の先を見てから一瞬ではあるが、ピサロに驚愕と恐怖が合わさった表情を見せていたことを。
ピサロがこの城を後にすることを主張した理由は、カマエルを持った相手を追うためだけではないのかもしれない。


そして、もう一つ。
これはポーラだけではなく、ピサロにも気づいていないことだった。
ロトの剣を持った少女が、二人を追いかけて、たった今トロデーン城へ入った。


脱出のための手がかりを追う立場だと思っている二人は、実は脱出のために追われる立場なのかもしれない。



【A-4/トロデーン城/2日目 早朝(放送直前)】

【ポーラ@DQ9】
[状態]:HP1/2 MP1/3
[装備]:銀河の剣@DQ9 星降る腕輪@DQ3
[道具]:支給品一式 支給品0〜3個 キメラの翼×1 炎竜の守り@DQ8 魔勇者アンルシアの首輪 アリーナの首輪 割れたラーの鏡
[思考]:殺し合いを止める。
元の世界に戻り、天使信仰を復活させる

※未練を残す死者の幽霊が見えます。そのままでは会話は出来ませんが、何かしらの道具を通すことで会話が出来るかもしれません。
※ラーの鏡を通して人の心の中を見ることが出来ました。今後何かほかの道具でも可能かもしれません。


【ピサロ@DQ4】
[状態]:健康 焦り ???
[装備]:堕天使のレイピア
[道具]:支給品一式 『世界道具百科辞典』『勇者死すべし』 大魔道の手紙 おわかれのつばさ
[思考]:トラペッタ方面へ向かい、カマエルを取り返す。
エビルプリーストをこの手で葬り去る
ロザリーの安否を確認する。
1:ロザリーはどうなった……?
2:月影の窓で見たものは………!?
※ジバ系呪文を実際に見せてもらいました。
※エビルプリーストの背後に黒幕がいることを、手紙によってほぼ確信しました。
現状ではラプソーンが怪しいと考えています
※首輪の仕組み、機能を知りました



【ティア@DQ2(サマルトリアの王女)】
[状態]:健康
[装備]:ロトの剣 氷柱の杖(残4)@トルネコ3 ようせいのくつ@DQ9 
[道具]:支給品一式 脱いだ靴 パーティードレス@DQ7
[思考]:おわかれのつばさを使ってサマルトリアに帰る
※第二放送の内容を聞いてません。

1440追う者追われる者 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:13:04 ID:u8H6lGfA0
投下終了です。

1441ただ一匹の名無しだ:2020/03/11(水) 21:20:40 ID:nUtmVzcY0
お疲れ様です!暫く見ておらず立ち寄ったら丁度投下が、それも2本もされていて嬉しいです。
フアナは上の方が言われているのと同意見でピサロ、さもなくばティアか竜王達と言った西側勢と
合流する形になるのかと思っていたので、実はもう東にいたというのが意外で面白かったです。
そして月影の窓(?)にただのイシュマウリじゃなくピサロが焦る程の何かがあったとは考えもしませんでした。

1442第四回放送 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/29(日) 17:59:07 ID:XK74tlC60
放送、投下します。

1443第四回放送 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/29(日) 17:59:51 ID:XK74tlC60
時は早朝。
朝日に照らされた雲が集まり、一つの魔族の顔を形成する。
最早新鮮味も何も感じない演出。
4度目の放送の始まりだ。


「諸君、放送の時間だ。」

参加者も僅かになり、高揚したエビルプリーストの声が、島中に響き渡る。

「いきなりだが、前置きはなしにして、死者の放送をさせてもらう。勝手な判断で誠に申し訳ないが、聞くが良い。


セラフィ!
スクルド!
ブライ!
ゴーレム!
ザンクローネ!
ライアン!
ローラ!
アスナ!
コニファー!
ターニア!

死者、10名!!


フフ………フハハハハ!!どうする?
あれほどいた参加者も、とうとう20人を切ってしまったぞ!?
この状況でもまだ、愛や正義を信用するというのか?


否、信用すること自体、不必要だ。
殺せ。そして、勝て。
勝てばそんな幻想など比べ物にならない物を手に入れることが出来る。
進むべきゴールは、もう諸君らの見えるところにある!!

最早私が出来ることは、何もない。
ただ優勝すれば叶う願いのみを目指すがよい!!


そうだ。禁止エリアの追加を報告し忘れていたな。
ここまで死者が出てしまった以上、どうでも良い様な気がしてならないが、一応ルール上なのでな。


2時間後、【F-9】、【B-7】
4時間後、【H-4】、【D-7】
6時間後、【G-1】、【I-7】

以上6箇所を封鎖する。


この世界で改めて太陽が拝めた己の力に感謝し、それを優勝まで繋げるが良い!!


そう遠くない優勝者との我は出会いを楽しみに待とう。これにて放送の終了だ!!」

1444第四回放送 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/29(日) 18:00:11 ID:XK74tlC60

放送が終わってすぐのこと。
デビルプリンスが、何やら怪しげな針のような、また杖のようなものを取り出していた。
その道具を、壁にかかってある地図の、【J-7】、と【F-1】の場所に突き刺す。
3度目の放送で呼ばれた場所だ。


「うむ。ご苦労だ。次の放送も頼むぞ。」


放送を終え、禁止エリアが作られたことを確認し、エビルプリーストは玉座に腰を下ろす。

「ときにキサマは、新たな可能性を手にしたか?」
「……どういうことでしょうか。」

6時間ほど前、自分がした質問をおかしな形で返されたが、今度は突拍子もない質問をされたことに、言い淀む。

「気付かないのか?私もキサマも、新たな可能性を手にしているということを。
試しにそこで念じてみると良い。」

「………!?」

言っていることが分からないながらも、その通りにしてみると、目の前で紫色の魔法エネルギーの塊が爆ぜた。

「今のは……」
それは、ドルマドンという、別世界のデビルプリンスが使っていた魔法。
創造神グランゼニスの作りし世界で、使われていた闇属性の魔法だ。

「それがキサマの、新たな世界の可能性のようだな。」


不敵な笑みを浮かべたエビルプリーストとは対照的に、その下僕の表情は引き攣っていた。
何しろ、自分が知りもしない呪文を唱えたのだから。


そもそも、彼らの世界は、炎や氷、風や雷を操る魔法があっても、光や闇そのものを操る魔法はなかった。
本当にないのか、世界中を探したことがあるのかと聞かれれば肯定しかねるが、魔族の王、ピサロでさえ使えなかったというのだから本当なのだろう。


何が原因か分からないが、エビルプリーストは「別世界の可能性」とやらで、この戦いを開くに至ったことは、哀れな配下の魔物にも理解できた。


「我は新たな力、そして技術を手に入れた。この戦いで世界中の勇者を粛清し、全世界の神になる。」

そして、紅の皇子の顔色が、一層蒼ざめる理由は真実を知ったからではなかった。
この外道が本当のことをベラベラと述べる時を、生前から知っていたからだ。

1445第四回放送 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/29(日) 18:02:29 ID:XK74tlC60
「我がなぜただの下僕でしかない貴様に、ここまで話すか分かるか?」
(!!)
彼にとって、最も恐れていた言葉が耳に飛んできた。
死刑宣告より恐ろしい、いや、その言葉自体が死刑宣告のようなものだが。


「なぜなら……」
エビルプリーストが全て答える前に、闇の力が爆ぜた。

「殺されるくらいなら、キサマを殺すまでだ!!」
窮鼠猫を噛む。それを体現したような状況だ。
悪魔の皇子は、さらに炎の魔法を唱える。
その火球は、デスキャッスルで戦っていた時よりさらに巨大だった。

メラガイアーという名称を、彼は知らないのだが。

「人の話を遮るとは、礼儀をわきまえねばならぬな。」
しかし、闇の爆発も、巨大な火球も、エビルプリーストの前に消えた。
この戦いが始まる前に、ゾーマという魔族が吐いた吹雪のように。


なぜ反射でも、当たった上で無力化されたのでもなく、消えたのか。
それだけは疑問になったが、解明する時間はどうにも有りそうになかった。


「もう貴様も不要だ。次の放送と禁止エリア魔方陣の設置は我一人で行う。」

最後の賭けも敗れ、哀れな下僕は二度目の死を覚悟した。


(!?)
急にエビルプリーストは頭を押さえ始めた。


何度目かの、突然の変貌に恐れる。
そのままエビルプリーストは処刑するつもりだった配下に背を向け、蹲り始めた。

戦意を削がれた悪魔の皇子に、反撃する気は起きなかった。
ただ、逃げようと思った。

互いに背を向け合うという、奇妙な絵面が完成した時、片方の姿が消えた。


「キ……サ……マ…………は………。」
「この男を操るつもりだったが、下僕のことも忘れていたな。」


デビルプリンスの姿は、消えていく。
「……様………じゃ………な……………い」
発声器官まで消され、言葉さえも消えてなくなった。

残ったのは、僅かな羽のみ。
意識を取り戻したエビルプリーストは、知らぬ間に部下を粛清したと自己完結した上で、玉座に戻った。


【デビルプリンス  消滅】


残り、18人

1446第四回放送 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/29(日) 18:02:42 ID:XK74tlC60
放送投下終了です。

1447 ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:14:54 ID:n6gfRTV20
投下します。

1448Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:15:28 ID:n6gfRTV20
朝日に混ざった色の服を纏った少年と、草原に混ざった色の服を纏った少年が、一人ずつ。
生まれ出たばかりの、この世界二度目の太陽が、草を、木の葉を照らす。
辺りは両足が草を蹴る音と、植物の匂いのみがある、静かな空間だった。
しかし、アルスとチャモロの、今までの無事を祝うかのような光景を、見る余裕は彼らにはなかった。


目的地を決めて以降、二人は全く会話をせず、放送を聞いた後でも同じだった。
その理由は単純にして簡単。二人はとにかく急いでいたからだ。
どちらも五体満足の状態ではないにしろ、休む余裕も立ち止まって話す余裕はなかった。
二人の表情は緊迫と暗鬱が現れていた。


最も二人が恐れていた、サフィールの死亡報告はなかった。
だが、どういうわけか見失ってしまったターニアが放送で呼ばれていた。


何度も著すのは忍びないことだが、二人は放送以降も走ることに集中していて、一切の会話はしていない。
だが、サフィール達の方向から離れて、自分達からも逃げて、その先で死んだということは、何が起こっているか二人共察しがついていた。


西側、すなわちトロデーン方面から、キラーマジンガ以外のマーダーが向かっているということだ。
そして、サフィールやホイミン、ジャンボは放送でこそ呼ばれてないが、今生きているかどうかは分からないということも。


サフィールに首輪を解く技術があるのかは不明だが、一度サフィールは忌まわしい呪いの仮面を外したという。
従って、そのタネを知っているサフィールが死ねば、呪いを媒体とした首輪を解く情報も無くなってしまう。


走れど走れど目に入るのは、単純な草原地帯。
風景こそ細かく変わっているとはいえ、そんなものは誤差でしかない。
一刻も早くサフィールの元へ。


二人の願いが通じてか、ようやくトラペッタの街を囲む、高い塀が見えてきた。
しかしアルスの表情は、さらに強張り始める。


トラペッタから少し離れた場所から、爆発音が聞こえたのだ。
恐らくそれはサフィールのイオナズンだと、すぐに二人は判断し、爆音の方向に走る。
しかし、その方向に向かうと、急に二人は速度を緩めた。


「ねえ、チャモロさん。これって……。」
心臓が握り潰されるような禍々しい空気を感じ、アルスは久々に声を出す。
このような感触を受けたのは、ダークパレスでオルゴ・デミーラの目の前に出た時以来だ。

「ええ。恐らく、新たな敵がいるのでしょう。」
チャモロも同様に、デスタムーアの城で覚えた感触を思い出した。


「急ごう。取り返しのつかないことになるかもしれない。」
しかし、アルスは元のペースで走り始める。
チャモロも、無言でその言葉に同意した。

待っていた所でこの禍々しい空気は晴れるとは思わないし、もっと悪化する可能性もある可能性も高い。
しかもその先に肝心のサフィールとジャンボがいることを考慮すると、立ち止まって様子を伺うなんて選択肢は愚の骨頂でしかない。

1449Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:16:23 ID:n6gfRTV20

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
こちらでも、放送の内容が響いていた。
同じように、戦友の訃報を嘆く暇は誰にもなかったが。


「コイツを食らいやがれッ!!」
すっかりなじみの武器になったナイトスナイパーから4本の矢が放たれる。
しかし、サフィールの魔法をほとんど無力化した魔王には、大したダメージにはなってない。

(畜生……なんて奴が来やがった……!!)
自分が劣勢の状況に追い込まれているのは、ジャンボはよく分かっていた。
弓矢と魔法が効かない以上は、現在の自分達の攻撃手段の多くが塞がれているということになる。
一応ハンマーか爪を使う攻撃も自分は出来るが、出来るからと言って長剣を持った相手に飛び込みたくはない。


「おい、ネプリム!!しっかりしやがれ!!」
ジャンボは苦戦中のネプリムにバイキルトを唱える。
壁になりうる存在が彼しかいないこの戦いでは、絶対に崩されるわけにはいかない。


聖王の剣と聖王のハンマー、そしてバレットハンマーがぶつかり合い、金属音が辺りに響く。
「マダさふぃーるノ話ハ終ワッテイナイ。」
「不要ダ。あべる様ガ戻リシ以上、破壊シ尽クスマデ戦ウノミ。」


(ジンガーを止められるのも、いつまで出来るか分かんねえ……。マスターを何とかしねえと……!!)
ジャンボは呪いの力に包まれたアベルを見つめ、策を練る。


その時、ジンガーの姿がジャンボから見て、次第に大きくなっていった。
(しまった!!)
一体どうして、ジンガーがネプリムしか攻撃しないと思い込んでいたのか?

回転攻撃でねぷりむを吹き飛ばしたまま、追加攻撃も他所に、まっすぐジャンボの所に向かって行った。
トラップジャマーで回収した砂柱も、もう間に合わない。


「ねぷりむ……じゃんぼ、守ル……。」
「お前……。」
吹き飛ばされたねぷりむはすぐにジャンボとジンガーの間に割り込み、自らの背中を盾にジャンボをハンマーから守った。

「ネプリム、大丈夫!?」
「構ワナイ。コレシキデ壊レタリスルコトハナイ。」
その姿は、かつてジンガーから自分を守った、ゴーレムさながらだとサフィールは感じる。


しかし、ろくに自らの守りも固めずに、ジャンボを守ろうとしたのはネプリムの失敗でもあった。
ジンガーの追加のバレットハンマーの一撃が、ネプリムの左腕にヒットする。

「間に合え!!磁界シールド!!」
ジャンボが咄嗟に這った魔方陣の力で、一撃必殺にすることを止める。
しかし、機械系の魔物に効果を発揮するハンマーにより、ネプリムの左腕には大きなヒビが入った。
ジンガーはなおも前線で攻撃を続ける

1450Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:16:39 ID:n6gfRTV20

ネプリムは剣で受け止めるも、傷ついた腕では受け止めきれず、聖王の剣を腕ごと落としてしまう。

「ネプリム!!」
ホイミンが慌ててホイミを掛けようとする。しかし、欠損は回復魔法では癒せない。


(これは……マジでやべえぞ……!!)

この戦いで経験してしまったことだが、前衛を崩されたまま、敵に内部に入られれば、容易にパーティーは瓦解する。
不変のルールに、ジャンボはメンバー壊滅の危機を感じる。

「どっか行きやがれ……ランドインパクト!!」
「マダ……負ケナイ……ぐらんどいんぱくと!!」
せめてジンガーだけでもこの場所にいさせてはならないと、地面を隆起させる。

ジャンボとネプリムが地面にはなった一撃は、地面を隆起させる。
地面からの鉄槌を受けたジンガーは、ジャンボ達の攻撃が届く箇所から離れる。


それと同時に地面に転がった聖王の剣も離れた所に飛んでいく。
ジャンボの目的としては、地面に聖王の剣をジンガーに奪われまいとすることもあった。
一刀流のジンガーにさえ、苦労している現在、新たな武器を手に入れられれば、ジャンボ達の勝利は極めて遠いものになるのも、周知の事実だ。

「薙ぎ払え……バギクロス!!」
しかしそこへ、魔王からの追撃が来る。
ジャンボとジンガー、近くに固まりすぎたことをチャンスに、風魔法が放たれた。

「爆ぜろ大気よ……イオナズン!!」
「守れ!マジックバリア!!」
ジャンボの放つ魔法の壁が、サフィールの爆発魔法が、横から来る竜巻を吹き飛ばした。

(敵さんの風魔法のコントロールが少しずれてくれて、助かったぜ。)
ジャンボはバギクロスの軌道がずれたおかげで、マジックバリアの詠唱に間に合ったことに感謝する。


壊滅の危機は一時的に去ったが、ジンガーとアベルの波状攻撃は止まらない。
しかもまだアベルが破壊の剣を振るっていないことから、まだ本気を出していないことも分かった。


出来ることならジャンボは物理ダメージを抑えることが出来る磁界シールドの範囲内で戦いたかった。
しかし、一か所に全員で留まり続ければ、全体魔法一網打尽にされる。

そして、ジャンボにとって最悪の状態が訪れた。
「助カリマス。ますたー。」

気が付けば、ジンガーの手にネプリムが落とした聖王の剣が握られていた。

1451Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:17:01 ID:n6gfRTV20

(しまった……ヤツの狙いは……!!)
アベルはバギクロスの軌道を「意図的に」ずらしたことに、ようやくジャンボは気づいた。

竜巻魔法は、敵への攻撃を目的とせずに、地面に転がっていた剣を、味方側に移動させることが狙いだった。


(こうなりゃ……『アレ』を出すしかねえか……。)
二つ目の武器を入手したことで、一気に攻め込もうとするジンガー。
剣を失ったねぷりむの守りが崩されるのも、そう長くはないことだ。


しかし、攻め込みすぎるあまり、ジンガーとアベルの距離が離れていたことをジャンボは見逃さなかった。


(距離が空きすぎだぜ……そらよ!!)
ジャンボは液体の入った瓶を、アベルめがけて投げつける。


しかし、その液体はアベルに降りかかることなく、剣で瓶を割り、中身は草原に染み込んだ。


だが、瓶の中身がアベルに当たらなかったのも気にせず、ジャンボは鞄から折れた灼熱剣エンマを取り出し、瓶の中身が散布された場所に投げつける。



「ねぷりむ!サフィール!!ホイミン!!退くぞ!!」

ジャンボが撤退の合図とともに、アベルとジンガーがいる辺りに、炎が立ち上る。
彼自身、先ほどのマジックバリアが使える最後の魔法だ。
戦っても勝ち目がない以上、撤退を決意した。



「なっ……これは……」
灼熱剣から発せられる炎は、緑の草の上に引かれた赤い絨毯のように広がっていく。
突然燃え盛る炎に、アベルも驚く。


地獄の鎧の力で炎の熱さはほとんどシャットアウトできるにせよ、炎による酸素不足は鎧ではどうにもならない。
空気を求めて、後ろへと下がる。

ジャンボが投げた瓶の中身は、ドワチャカオイル。
彼の第二の故郷、ドワチャッカ大陸でしか採取できない油で、装備品を作るときの潤滑剤や燃料として使われる。
それを炎の力を持つ剣で引火させた。
揮発材として使われることはあまりなかったが、油という名の通り活躍してくれた。



ジャンボの目論見通りジンガーも炎の向こうに行き、アベルの安否を確認する。

「逃ガスカ!!」
「追いますよ!!ジンガー!!」
ジンガーに追跡の指示を出し、炎の渦をバギクロスで吹き飛ばしたアベルも追いかける。

1452Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:17:56 ID:n6gfRTV20
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「あの炎は……」
突然巻き起こる炎の渦に、ただ事じゃないと否が応でも認識させられる。
アルスとチャモロも、冒険中に幾度となく炎の魔法を目にしている。
しかし、目の前に広がる炎は、魔法によるものではなかった。
黒い煙の出方は、明らかに揮発材を燃やした時の炎だ。


ペース配分など知ったこっちゃないとばかりに、二人はさらに足を速める。


そして、二人の片割れ、アルスは剣を構え、限界までその足を速めた。


前方に刃を向け、草原を駆ける。

炎に照らされた場所にいた二人組のうち、人間で「無くなった」方に斬りかかる。
ガキィンと剣がぶつかり合う音が響くが、それを奏でたのは破壊の剣ではなかった。

「あべる様ノ敵ダナ。覚エテイルゾ」


アベルへ斬りかかるのを止めたのは、元から人間で「無い」方、キラーマジンガ。
復活したという話をチャモロから聞いていたが、こうしてみると奇妙に思えた。

「よく出来ました。ジンガー。」
余裕綽々でジンガーの手柄を褒めるアベル。


アルスは鍔迫り合いの相手ではなく、そのマスターを睨みつけて叫んだ。

「あんたはサフィールの父親なんだろ?何でこんなことしてんだよ!!」
アルスは先ほどまで自分達から逃げていた少女の死体が、アベルの足元にあったのを見て、その所業に対して怒鳴りつける。

「何で?何でとはどういう意味ですか?私はただすべてを愛そうとしているだけですよ。」
アベルは即答する。だが、全く話は噛み合っていない。
「ふざけるのもいい加減にしろ!!」


そんなものは愛ではない。
愛のことを気付くのが遅かったアルスでさえ、それだけは分かる。
愛とは、誰かを壊すことではなく、守ることだ。そして、繋ぐことだ。
壊し続けることで作る愛なんて、そんな暴力的なものは間違っている。



「あべる様ノ反逆者ハ、全テ排除スル。」
そして、彼が唱える愛におかしいと意見を唱える場合ではないことにすぐに気付く。
ジンガーの回転で吹き飛ばされるアルス。


間髪入れずに、聖王の剣での攻撃が来た。
慌ててオチェアーノの剣で受け止めるも、一度戦った時とはまるで違う攻撃の精度に、押し切られてしまいそうになる。


(ダメだ……避けきれない……!!)
しかし、チャモロの風の刃が二人の間に入り込み、剣を弾いた。

1453Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:18:19 ID:n6gfRTV20

「アルスさん。一人で行かないでください。」


アベルはチャモロを見つめ、過去の経験を思い返す。
「その雰囲気は……なるほど。初めに私の邪魔をした、あの忌々しい竜ですか。」
見た目こそまるで異なるが、ムシが障るほど発せられる聖なる気配が、同じだった。


「チャモロさんは、サフィールさんたちの所へ!」
「え……アルスさんは……。」

今目の前にいる敵は、二人。
しかもうち一体は、チャモロを幾度となく苦しめてきた強敵だ。
もう一人も得体のしれない鎧と剣を身に着け、異様な雰囲気を醸し出している。


「この場で全滅だってあり得る!だからどっちか一人でも、聞きに行くべきだ!!
僕もすぐに追いかける!!」
「分かりました!!なら絶対に……死なないでください!!」
確かに、どちらか一人でも情報を伝えに行く方が、堅実なやり方だ。
今しなくてはならないことは、アベルとジンガーを倒すことより、首輪の情報を共有することだ。

自分達に対してローラの怨念が取り憑いているはずだが、その呪いが、「害を与えた相手」ならアベルも同じ条件であるはず。
そうなってくれることを願いながら、チャモロはアルスに背を向け、トラペッタへと向かって走る。


「逃ガスト思ッタカ?」
ジンガーはアイセンサーの照準を、チャモロの進行方向に合わせる。
「手を出す必要はありません。折角別れてくれるなら、ありがたく一人ずつ破壊しましょう。」
それをアベルは止めさせ、まずはアルスを殺そうと提案する。


確かに、ジャンボ達相手には余裕を持って戦えていた以上は、アルスとチャモロさえ撃破出来れば問題はない。


「いいんですか?二人なら私達にも勝てたかもしれませんよ。」
余裕綽々とチャモロを見送る。

「僕の命より、重要なものがあるからね。」

そしてアルスは、アベルの鎧の弱点を見抜いていた。
魔法の力を大きく無効化し、物理的な攻撃もあまり効果を示さない、呪われた鎧。
だが、チャモロの鎌鼬が、アベルの顔に短い赤線を走らせていたことで見抜いた。


あの鎧は、防御力を無視した、魔法以外の攻撃からは身を守ることが出来ない。
それを認知したアルスは、アベルの脚めがけて、鎌鼬を打つ。

「あべる様ニ当テルツモリダッタカ?ソウハサセナイ。」
しかし、風の刃が走る軌道上にジンガーが入り込み、無効化させる。
(こいつにはかまいたちは効かないのか……。)

1454Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:18:36 ID:n6gfRTV20

「良いですよ。ジンガー。」
今度はアベルまでも破壊の剣を掲げ、斬りかかってきた。
それまでずっと後ろで指示を出していた相手が急に攻撃に転じたことに対応しきれない。

破壊の剣を受け止め、聖王のハンマーは後ろに飛びのいて躱す。
しかし、避けた先の銀の刃は避けきれない。


(ダメだ……やられる……。)



「やらせません!!」
アルスの背後から、何者かの声が聞こえる。

「邪悪なあなたたちは、清めの灰でも食らってなさい!!バギ!!」
(え……?)

後ろにいた僧侶風の女性は、誰なのか分からない。
だが、目の前の敵は一人はマホカンタがかかっており、もう一人は魔法威力を減退させる鎧を着ている。

だが、彼女の目論見は違った。
一つはアルスへと振るわれた剣の動きを鈍らせること。
もう一つは、ドワチャカオイルと灼熱剣エンマによって、灰と化した草原を、巻き上げること。


「ナンダ!?」
「くっ……考えましたね……。」

いかに頑丈な鎧だろうと機械の体だろうと守りにくい部分の一つに、視覚がある。
真っ黒な灰は、人間の目にはもちろん、機械のモノアイにも覆いかぶさった。


「ここから反撃で「誰か知らないけどありがとう。逃げるよ!!」」
そこから反撃に転じようとするフアナを連れて、アルスは撤退を決意する。
時間はわずかだが確かに稼げたはずだから、もうチャモロたちを追いかけてもよいだろうと判断する。

1455Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:19:00 ID:n6gfRTV20


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

「何とか巻いたみたいですね……。」
トラペッタに戻れて、ひとまず安堵するサフィール。

「安心してんじゃねえ!誰か、ジンガーの腕を修理出来そうなモノを出せ!!」
ジャンボのイマイチ何を用意すればいいのか分からない指示に、残りのメンバーは戸惑う。

「何か……持ってねえか?鉄材だ!武器でも防具でもクズ鉄でも何でもいい!!」


ジャンボの問いかけに、サフィールはショットガンを、ホイミンは鉄の塊のような何かを渡す。

「このボウガンみてえな道具は義手として使えそうだな……。」
ショットガンの原理をよく知らないジャンボは、形状からその用途を判断する。
しかし、もう一つの部品は、ジャンボの目を見張るものがあった。

(これは……いったい何なんだ?ドワーフがかつて使っていたものとは微妙に違うようだが……。)

ウルベア地下遺跡や、ガデリアの洞窟で見たことのある古代兵器のパーツに似ているが、デザインは微妙に異なる。
アストルティアとは異なる世界のからくりを修理するためのパーツは、ジャンボの目から見ても異様なものだった。
だが、見れば見るほど、

「おっと……こればっかりに気にしている場合じゃねえな……。ホイミン!!」
「えっ?」
ジャンボはザックから一束の巻物を投げる。

「それを入り口で読んで、ワナをしかけて来てくれ。」
「うん。わかったよ。」
完全武装状態のアベルと、ワナを踏むことのない魔物のジンガーに通用するかどうかは分からないが、ねぷりむを修理する時間稼ぎにはなると期待して、ワナの巻物を読ませた。


ホイミンに用事を頼んだ後、ねぷりむの修理に取り掛かる。

「スゴイナじゃんぼ。マモノ使イカト思ッタガ、機械職人ダッタノカ?」
「まあ、そんなところだ。防具職人のスキル積んでおいて良かったぜ。」
ドルワームで培った技術が、こんな所で役に立ったことに驚きながらも、手際よく事を進めていく。
銃弾を抜いたショットガンを腕の骨代わりにして、手の指や関節のような細かい箇所は、からくりパーツで代用していく。
壊れたボウガンも、ジンガーから奪ったビッグボウガンに付け換えた。

1456Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:19:47 ID:n6gfRTV20
(……もう少し待ってくれよ……。もう少し……。)

心で強く念じながら、ジャンボは作業を続ける。




【G-2/トラペッタ/2日目 朝】

【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP:7/10 MP 1/6 左足矢傷(応急処置済み)
[装備]:ドラゴンの杖
[道具]:支給品一式×3、へんげの杖、999999ゴールド
[思考]:父の狂気を治める。不可能ならば倒す。
怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
みんな友達大作戦を手伝う

【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:HP7/10 MPほぼ0
[装備]:ナイトスナイパー@DQ8
[道具]:支給品一式、道具0〜3 四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1(ゲレゲレの支給品)ドワチャカオイル@DQ10
支給品0〜1(ヒューザの支給品) 悪魔の爪@DQ5 
天空の剣、罠抜けの指輪 罠の巻物×1 ドラゴンローブ 砂柱の魔方陣×1 折れた灼熱剣エンマ@DQS 天使の鉄槌@DQ10 
メガトンハンマー@DQ8 
[思考]:基本方針:エビルプリーストに借りを返す。
1:アベルを倒す
2:首輪解除を試みる
[備考]:※職業はどうぐ使いです。弓スキルは150です。ハンマースキルは100以上です。

【ホイミン@DQ4】
[状態]:健康 MP1/8 仲間死亡によるショック
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具0〜2個 ヒューザのメモ(首輪解除の手掛かりが書いています)
[思考]:ジャンボとサフィールを手伝う
『みんな友達大作戦』を成功させる ヒューザがくれた手掛かりを守る。

【ねぷりむ@DQ10キラーマジンガB】
[状態]:HP1/6 背中にヒビ 右腕義手
[装備]:名刀・斬鉄丸 @DQJ 聖王のハンマー@DQ10 ビッグボウガン @DQ7 アクセルギア@DQ10
[道具]:支給品一式×3、魔封じの杖、道具0〜2個(ブライの不明支給品)、道具0〜2個(ゴーレムの不明支給品)
[思考]:サフィールについていく。ガンガン戦う。
[備考]:DQ10のキラーマジンガの特技を使いこなします。
ゴーレムの記憶を持っています。

1457Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:20:31 ID:n6gfRTV20
【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:HP1/3
[装備]:バレットハンマー@DQ10 聖王の剣@DQ10
[道具]:なし
[思考]:アベルに従う



【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/4 手に軽い火傷 MP1/6 ※マホキテによる回復
[装備]:破壊の剣 地獄の鎧@DQ3
[道具]:支給品一式 剣の秘伝書 ヘルバトラーの首輪 毒針
[思考]:過去と決別する為戦う。力を得る為、愛情をもって接する(そして失う為に)
アルス達を追う?一度態勢を整える?

※破壊の剣と地獄の鎧の重複効果により、更に強力になった呪いを受けています。
動けなくなる呪いの効果が抑えられている反面、激しい頭痛に襲われています。

【F-3/草原 /2日目 朝】


【 アルス@DQ7】
[状態]:HP1/6 MP1/5 左足に怪我(素早さ低下) 右腕から胸にかけて裂傷(応急処置済み)左肩に刺傷(治療済み)
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜1) ゲルダの不明支給品0〜1個(確認済み) 道具0〜2個(本人確認済み) 
[思考]:この戦いを終わらせる。
ミーティア、キーファを探す。
サフィール達に会いに、トラペッタへ戻る。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。


【フアナ(女僧侶)@DQ3】
[状態]:HP1/10 MP 0
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 パラディンの秘伝書 不明支給品0〜1(本人確認済み) かりうどの弓@DQ9 カマエル@DQ9
[思考]:自分だけが出来ることを探す。
[目的]1:仲間たちの死を受け止め生きる。
2:緑フード(アルス)と共に、トラペッタへ向かう
3:アベルを倒し、アスナとコニファーの仇を討つために仲間を集める。
※バーバラの死因を怪しく思っています。
※ローラがアルスとチャモロにかけた呪いを見ることが出来ます。

1458Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:20:46 ID:n6gfRTV20

迅速に、ジャンボ達のもとに、近づいてくる。
首輪の正体を部分的にだが知った人物が、魔王より先に。
だが、忘れてはならない。
彼が来るということは、同時に『呪い』が来るということを。




彼が、トラペッタの町へ足を踏み入れた瞬間、悪魔が嗤った。
ホイミンが、魔王相手に仕掛けようとして町の入り口で使った、ワナの巻物。


その瞬間、町中に、爆音が響いた。


結論から言うと、誰が悪かったというわけではない。
だが、トラペッタ町はこの戦いの場で、特に死者や争いが多かった場所。
言ってしまえば、呪いというものが、力を特に発揮する場所なのだ。

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP?? MP1/10 左腕骨折(応急処置済み) ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)(加速状態)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:諦めない。ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める 首輪解除の為に、ジャンボ、サフィールへ会いに行く (ジャンボには半信半疑)
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。また、はぐれメタルの職業を少なくともLv7まで経験しています。魔法使い、魔法戦士、賢者、勇者は経験していません。
ジャンボに対しては信頼感の反面、疑いも抱いています。

1459Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:21:00 ID:n6gfRTV20
投下終了です。

1460 光の中に消え去った : 光の中に消え去った 
 光の中に消え去った 

1461 光の中に消え去った : 光の中に消え去った 
 光の中に消え去った 

1462ただ一匹の名無しだ:2020/12/08(火) 21:31:18 ID:GY6Eicgg0
投下乙でした。
最強格のモンスターと最強格のモンスター使いのチームが、
終盤のマーダーとしてふさわしすぎるほどに強いんだよなあ・・・
かなり多くの人々にお前おかしいよと言われているのにまるで
聞き入れない点も非常にやっかいですね。機械の相棒はピッタリなのかも。


指摘点というか質問ですが

>>1455
>ウルベア地下遺跡や、ガデリアの洞窟で見たことのある古代兵器のパーツに似ているが、デザインは微妙に異なる。
>アストルティアとは異なる世界のからくりを修理するためのパーツは、ジャンボの目から見ても異様なものだった。
>だが、見れば見るほど、

これはここで文章が途切れていますが、このままでも大丈夫でしょうか。

1463 ◆vV5.jnbCYw:2020/12/09(水) 21:56:29 ID:btkLyJiw0
感想ありがとうございます。

wordファイルから一部コピー漏れがあったみたいです。

ウルベア地下遺跡や、ガデリアの洞窟で見たことのある古代兵器のパーツに似ているが、デザインは微妙に異なる。
アストルティアとは異なる世界のからくりを修理するためのパーツは、ジャンボの目から見ても異様なものだった。
だが、見れば見るほど、部品の一つ一つが、機械の魔物を治すためにあるかのように思えてくる。

+備考 ホイミンの支給品のからくりパーツ@DQ7は、ねぷりむの修理に使われました。

以上が訂正内容です。

1464ただ一匹の名無しだ:2020/12/10(木) 23:20:28 ID:ymE9U4ZU0
投下お疲れ様です。

>「誰か、ジンガーの腕を修理出来そうなモノを出せ!!」
初見気付きませんでしたがネプリムの間違いで合ってますでしょうか。

1465 ◆vV5.jnbCYw:2020/12/13(日) 16:17:02 ID:FBpLspwM0
指摘ありがとうございます。
wiki編集で訂正しました。

1466大切なものに、気付かない僕がいた ◆vV5.jnbCYw:2021/02/16(火) 23:56:32 ID:9QMx.Kjk0
投下します

1467大切なものに、気付かない僕がいた ◆vV5.jnbCYw:2021/02/16(火) 23:56:53 ID:9QMx.Kjk0
二人だけの仲に割り込むかのように、その放送は流れた。
その中でも一際二人の気を引いたのは、ある人物の名前。
それは、この世界に来る前から二人が知っている人の名前ではない。

―――ターニア

「エイト……今の名前。」
「ええ、確かにレックの妹でした。」
「行きましょう。レックさん達のためにも。」
「はい。」

なおもエイトは姫をその両手に抱えて、城へと進む。
その足こそは確かに姫の言う通りになっている。
だが、心は姫の思わざる所にあった。


(レック……奴は一体……?)

ジャンボというドワーフの男が危険視していた青年。
しかし、実際に会ってみた限り、至って普通の好青年という印象だ。
この人物が殺さなければならない危険人物だと断定するなど、相当被害妄想が強くもない限り無理な話だ。
だが、エイトにも一つ分かったことがある。
彼は、ターニアという妹をいたく大事にしていたということだ。


もう一つ、彼は経験したことがある。
ラプソーンの邪念が籠っていた杖といった、道具や呪いなど関係なしに、ほんの些細な出来事が人の気持ちを大きく変えるということを。
例えば、師匠に叱責を受けたことでその杖に手を出したドルマゲスのように。
現にエイトは、この世界で仲間であったククールが参加者の殲滅を目論むようになった経験がある。


従って、エイトは失ったターニアを取り戻すため、レックが自分たちに牙を剝いてくるのではないかという恐れがあった。


残念ながら、当のミーティアはエイトにその気持ちを汲み取ることはなかった。
「エイト、彼らは無事に着けたのでしょうか……。」
「分かりません。無事に着ければ良いですが……。」

まだ疑問に残る点はある。
ミーティア達が目指していたのは、かつてエイトも見たことのある、月影の窓で間違いない。
だが、この世界で月影の窓はあるのか。
仮にあるとしても、日の出まで間に合わず、チャンスを棒に振ることになってしまうかもしれない。
安易な希望は、大きな絶望へと転ずることはある。


「エイト」
何度目か、柔らかな声が草を踏みしめる音に混ざって響く。
「はい」
「あの二人を疑っていませんか?」


図星だった。
しかも一番疑っていると思っていなかった相手から問われたことだから猶更である。

1468大切なものに、気付かない僕がいた ◆vV5.jnbCYw:2021/02/16(火) 23:57:43 ID:9QMx.Kjk0

「なぜそれを?」
本当ならいつものように、「はい」か「いいえ」で答えるべきだ。
ましてや姫に対する従者としての返答なら猶更である。
だが、失礼を承知の上で聞きたかった。


「顔を見れば分かります。貴方がレックと目が合った時、急に浮かない顔になりましたね。」
自分のことを、こんな状況ながらも理解してしまうなんて流石としか思えなかった。

「はい。私はレックのことが、どうにも信用が出来ないのです。」
エイトは返答に困ったが、下手にはぐらかすことは最早無駄でしかない以上は、彼等への疑いを告げる。
ここに来る途中に、レックとその仲間のことを危険視していた人物がいたこと。



「そんなの、らしくないですよ。」
次に聞かれるのは、疑っている理由や、ミーティアに会うまでに何があったのかだとばかり考えていたが、更に予想と異なる回答だった。

「知らない人でも、信用できない人でも、他者から悪く言われた人でも分け隔てなく接する所が、エイトらしい所ですよ。違いますか?」
ミーティアの言う通り、自分は確かに襲ってきた山賊も仲間として引き入れたし、見知らぬ町娘の頼みも、富豪の兄妹の護衛も承諾してきた。
だが、それは全て、巡り巡って主君であるミーティアとトロデのためになると思ってやったことだった。


「ですが、それは……」
「ミーティアのため、と言いたいのでしょう。この世界で会うまでエイトに何があったのか分からないけど、それは違うわ。」

密着した状態ながらも、エイトはミーティアから目を逸らそうとする。だが、ミーティアはじっとエイトを見つめる。

「でも、私は、城にいた人を見捨てました。」
「見捨てたくない気持ちも大きかったはずです。」

「トロデ王が殺されたことを聞いた時、周りの人たちを殺そうとしました。」
「それを忌避した自分もいるはずです。『殺した』じゃなくて、『殺そうとした』のはそういうことよね?」

まるで見てきたかのようにミーティアは語る。
「エイト、もう私を降ろしてくれませんか?」

エイトはただ何も答えず、しゃがんで地面にゆっくりと大切な人を置く。

「私はもう戦えます。だから、『私のため』と言う必要はないですよ。これからはあなたのために生きてください。」

始めて、目が合った。
否、ここまで真剣に語り掛ける以上は、目を逸らしたままでは居られなかった。

1469大切なものに、気付かない僕がいた ◆vV5.jnbCYw:2021/02/16(火) 23:58:26 ID:9QMx.Kjk0

「もう一つ聞きますよ、エイト。貴方の本心は、みんなをこの戦いから救いたい。そうですね?」
「はい。」

今度は、短く回答した。
だが、その二文字は確かにミーティアの心に響いた。


この世界に来るまでも、来てからも何度も何度も思った。
私情を捨て、王と姫を守ることだけに専念せねばと。
でもどこかで、主君だけではなく他の誰かをも助けようとしたくなっていた。
主君や家族、時には他の大切な誰かのために自分の使命を全うしようとしているのは、自分だけではないから。
それを蔑ろにしていい権利など、自分にも誰にもないから。


――――姫様……貴女だけは、どうかご無事で……
初めに出会ったブライを殺せなかったのも、彼が首に槍を突き付けられてなお、主君を想う言葉が出てきたからだ。

――――もうやめようよ。
一度は姫を除くすべてを殺そうと決意しても、結局実行出来なかったのは、アルス達が止めに入ったのもあったが、それでも生き残った者を助けたかったからだ。


人を助けようとして失敗し、挙句ヤンガスまで犠牲にしてしまった後でさえ、トロデーン城へ行くか悩んだのも、同じことだ。


エイトは、主君のみを守ろうとするには、優しすぎる青年だった。


「それでいいわ。本当の気持ちを伝えられて、ミーティアも嬉しい。」
他人は時に自分を映す鏡になると言うが、ミーティアはまさにエイトの気づかなかった部分を見せた鏡になった。

「どうやら、不出来な従者である私は、あなた以外にも助けたい人がいるようです。」
「ええ、このミーティア、力及ばずながらあなたと共に行きましょう。」

まるで主君が従者に対して言うこととは思えない。
だが、そこには結ばれたばかりの夫婦にみられるような、確かな信頼が見えた。
彼らは別の世界の近い未来、主君と従者の関係ではなく、互いに平等な関係を築くので、これが必然なのかもしれない。


先程とは違い、エイトには強く地面を踏みしめて進む姿が見えた。
ミーティアも、それに遅れまいと足を速める。


主君と従者としての生きる道は終わり、そして二人は新たな道を歩き始めた。
陽光が、二人の道を作るかのように草原を照らした。

1470大切なものに、気付かない僕がいた ◆vV5.jnbCYw:2021/02/16(火) 23:58:43 ID:9QMx.Kjk0

【C-5/平原/早朝】
 
【エイト@DQ8】
[状態]:健康 MP2/3 強い決意
[装備]:奇跡の剣
[道具]:支給品一式 魔法の聖水×2(DQ6)、激辛チーズ(DQ8)
[思考]:ミーティアを守る。トロデーン城へ向かう。残された参加者全員を(よほどの悪人を除いて)救う

※現状ではミーティアはチャゴスと結婚出来なくなった事に気づいていません。

【ミーティア@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:アサシンダガー@DQ8
[道具]:支給品一式、あぶないみずぎ、レースのビスチェ、あぶないビスチェ、祝福の杖@DQ7 その他道具0~1個
[思考]:レック、キーファを追う。エイトと共に生きる

1471大切なものに、気付かない僕がいた ◆vV5.jnbCYw:2021/02/16(火) 23:58:55 ID:9QMx.Kjk0
投下終了です。

1472ただ一匹の名無しだ:2021/02/17(水) 19:44:43 ID:iJUXBzZg0
投下乙です
再会するまでの道中のことやらレックのことでひと悶着あるかもと懸念があったが、幼馴染は伊達じゃなかったか
殺し未遂のことまでゲロってもしっかり受け止めるのは強い信頼を感じるな

1473ただ一匹の名無しだ:2021/03/25(木) 19:48:32 ID:ia0RNXNE0
『DQM/テリワン3D初日』
(18:48〜放送開始)

https://youtube.com/watch?v=sQAi53W5ukw

1474ただ一匹の名無しだ:2021/03/28(日) 21:41:31 ID:V283b4XI0
加藤純一(うんこちゃん) Youtubelive

『DQM/テリーのワンダーランド3DS
人生プレイ/3日目』
(19:06〜放送開始)

https://youtu.be/73Adb4Gyam4

1475ただ一匹の名無しだ:2021/04/01(木) 21:03:01 ID:iCaXbh8k0
3DS
『DQM/テリワン3D
人生プレイ/5日目』
(19:05〜放送開始)

https://youtu.be/TrmjSvIWg_A

1476 ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:09:12 ID:S51TxUgs0
投下します

1477Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:12:24 ID:S51TxUgs0




「駄目だ」


ホイミンの発言を遮り、ジャンボは拒否の意を示す。
種族柄、誰かの傷つく声を聞けば駆けつけるほどに純粋で穏やか性質で知れたホイミスライムである。
ゆえに口喧嘩ですら好まぬ彼は触腕をもじもじと絡めるにとどまり、二の句を継げるはずもなく。
ホイミンにも、傍らで見ていたサフィールにも目をくれず黙々とネプリムの身体を修繕していた。


「ジャンボさん……ホイミンさんの気持ち、わたしわかります。少しは聞いてあげても……」


彼らの草原一つを焼け野原へと変える作戦は、辛くも功を奏した。
アベルたちの追跡を逃れ、廃墟と化したトラペッタの奥にこうして身を潜めている。
ギガデーモンに蹂躙された影響からか瓦礫の山と化してはいるが、かろうじて酒場の一角は原型を留めている。
大きな南門からはちょうど死角になる地点だ。
偶然ではあるが、ジンガーの修理を行うのにも適した隠れ家になっていた。


「ぼく、あんなに怖いワナだって知ってたら……」
「悪かった、急ぎとは言え適当に見繕って、しかもお前に任せちまった俺のミスだ」


ホイミンが食い下がったのは、南門に仕掛けるよう頼まれたワナの巻物についてである。
少しでもジンガーの回復のための時間を稼ぐためにジャンボが読むように頼んだものだ。
その手の道具に詳しいわけでもない彼が威力のことなどはつゆ知らず。
命令通りに『道具』を『つかった』ただそれだけに過ぎない。
指示を下したジャンボからしても、ここまで規模の大きいワナが発動するとは考えていなかった。
道具倍化の術も、範囲化の術も加えずに任せたのだから。
ホイミンか、【ワナにかかった何者か】の運がただひたすらに悪かったとしか言えない。


「だったら、お願いだよ。ぼく様子を見に行きたいんだ」
「……いや」


そうだとしても、ジャンボは許可できない。


「それでも、様子を見に行くのはナシだ」
「ジャンボさん……お父さんは私達を見失ってました」


サフィールが抗議の声とともに反証を示す。
ダメージを負ったネプリムを連れているにも関わらず完全に逃げ切れたのは理由がある。
自分たち以外の闖入者に手を割いた為に他ならない。


「それに逃げている間、誰かと剣を交えていたのも聞いたの。お父さんなら時間が合わないもの」
「そうだよ。ワナにかかったのはあのおじさんじゃなくて、他の誰かが─そうだ」


ホイミンは思い出した。
昨日の夜明け、アベルの襲撃があったとき、そしてターニアの逃走を許してしまったとき。

1478Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:14:52 ID:S51TxUgs0


「近くにいたから、チャモロさんかもしれないよね」
「……そうだな、ワナにかかったのがあいつじゃねえとは言い切れない」


ゆらゆらと落ち着かない様子で身体を揺らすホイミン。
ため息まじりにジャンボは彼の方へ向き直す。
今は落ち着いて修理に取りかかれているとは言え、ピンチから脱していない。
ここで言い争い、責任を追求するメリットはどこにもなかった。


「責任は俺にある。お前が震えるこたねえ、俺のせいにしてくれていい」
「ううん。読んだのは……ぼくだよ」


アベル一行が引っかかっていてくれれば、足止めとしての用は成す。
だが、そうでなかったとしたら。
ホイミンはひどく焦っていた。
多くの戦いを傍で見てきたホイミンではあるが、積極的に攻撃に参加してはいない。
はじめて自ら誰かの生命を脅かしたという思いが、不安定な気持ちを生んでいた。


「あのワナで、誰かがケガしたり……し、死んじゃってたら……いやなんだ」


ジャンボに諭されても、流されずにホイミンは自分の意見を告げた。
譲れない、死んでいった「ともだち」との約束がそうさせている。


「だから、もし傷つけてたら……あやまりたい」
「……」
「ぼくは、大作戦を成功させたいんだ。ともだちになるひとを傷つけたくないよ」
「もし不安なら私もついていくから、それなら……」


それでもジャンボは首を横に振る。
どうして、とホイミンはそれでも懇願した。
冒険者において意見の食い違いから起こる、パーティ間の諍い。
こういうとき、一体どうすれば丸く収められていただろうか。


「……俺はお前らのフレンド(友達)じゃねえ、ましてご主人様でもない。今は肩を並べる仲間とは思うがな」
「え?」
「だからこれ以上強い命令はできねえ。こいつは『冒険者の先輩』としてのアドバイスだ。よく聞けよ」
「……う、うん」


ジャンボは遠い昔のようにすら感じられる、アストルティアでの記憶を思い返した。
今の彼らを示す間柄は冒険者と似ている。
数年来の旧知の仲と旅することもあれば、たった今出会った流れの旅人と背中を預け合うこともあった。
それぞれが、バラバラの目的ではあっても、助け合い譲り合う精神。
それがパーティを組んで冒険をする上での常識、鉄則である。


「いざってときに『仲間のため』に動かず『自分のため』に動く奴は怖え。それこそ敵以上にな」

1479Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:17:21 ID:S51TxUgs0

一人では叶わぬ強大な魔物にも、仲間たちとなら戦える。
裏を返せば、仲間との間に綻びが生じれば、それは敗北に直結するのだ。
自分の命を優先して、仲間のために力を尽くさない者。
功を焦り、仲間の助けの及ばぬ方へ突き進む者。
多くの旅を重ねたジャンボは、それだけ間違った冒険者も知っていた。


(ホイミン、お前みたいな「いい奴」ばっかだったらアストルティアは平和だろうな)


彼の希望に蓋をするようで悪いが、今は時間を割くことの危険のほうが大きい。
戦力が圧倒的に不足している今、ネプリムを再び立ち上がらせることが最優先であった。
総合的に見れば、ジャンボの考えは賢明な判断と言えた。


「北西の門が塞がってんのは見た。もし南門が崩れちまってたらここは完全に孤立してんだ」
「……そういえば、そうだったね」


かつてこの町に最初に訪れたときの悲しい記憶を思い返した。
サンディも今の自分のように、落ち着かない、ごちゃごちゃとした気持ちだったのかと、ホイミンは胸を痛める。


「裏を返せば閉じこもって時間を稼ぐ大チャンスってわけさ」
「……」
「悪いとは思うがこらえてくれ。ねぷりむもあと少しでまた戦える。生き残りを探すのは後だ」
「……わかり、ました」
「うん……」
(とは、言ったものの……)


最悪のケースが、頭を横切る。
爆発の被害を被ったのがチャモロ、もしくはアベルの対抗戦力となる人物であること。
さらに身動きの取れない状態で、すぐさまアベル達に遭遇してしまうことだ。


(ワナに嵌って動けないヤツを、アベルは確実に殺すだろう。動けない獲物が転がってるんだからな)


だが、ジャンボはこの考えを口にできない。
真実を告げてホイミンがコントロールを外れることを考えていたのだ。
以前までの彼ならば、合理的な判断で、必要か、そうでないかの線引きをしていただろう。
それこそ、ホイミンは戦力になることが無い、と切り捨てていたかも知れない。
しかし、託されてしまったのなら。
願われてしまったのであれば。


(か細い可能性だが縋るっきゃねえんだ。頼むから犠牲が出ないようにうまいこと転がってくれよ)

1480Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:18:35 ID:S51TxUgs0
むざむざ誰かが死に行くような真似は絶対にさせない。
自分を命懸けで救ってくれたフォズに報いるためにも。
この殺し合いの舞台に上げられる前までとは、明らかな考えの差が生まれていた。


(間に合ってくれ、死なずに済んでくれ)


ネプリムのボルトを締め直す度に、ジャンボの焦燥は積み重なっていった。
故に、口数少ないままに、ネプリムの調整を進めていく。
だからこそ、気づくことはできなかった。

「……」

ホイミンの考えのその先まで。



---------



「─システム再起動完了。アリガトウじゃんぼ」

ややあって、ジャンボは再びネプリムの声を聞くことができた。
右腕の軸はショットガンの銃身を用いての応急措置で換装されているものの、どうにか動作に不備は無い。
もともとミトン型の手をしていたため、複雑な指先の修理を行わずに済んだのも功を奏した。


「動作問題ナシ。コレデマタ戦エル」
「そいつは何より、手間取ってすまなかったが……形にはなってるみたいだな」


体内のギアが噛み合い初めると、巨体が音もなく浮遊を始めた。
関節の稼働を、武器の取り扱いを、すべての動作を確かめている。
アベル一行の追撃に対しての備えが間に合う、そう思われたのだが。


「じゃんぼ、悪イ知ラセダ」
「……良い知らせとセットが良かったぜ」


赤い光を放つ単眼はぐるりと動き、爆発の起きた南門へと向けられる。
ネプリムを隠せる物陰に潜んだ状態であり、現在伺い知ることはできていない。
通れる状態かはわからないが、爆発の影響は少なくないと予想できた。


「動型機ノ接近ヲ感ジル」
「!やけに早くねえか?」


ネプリムは南門の向こうから、同じキラーマジンガの接近を感じていたのだ。
修理中に一旦スリープモードに入ったため、各種センサーの再起動にも少々時間を要していた。

「熱源探知ヨリモせんさーノ範囲ガ若干広イ。誰ガ伴ッテイルノカ解ラナイガ【じんがー】ト思ワレル」
「……そりゃそうだ、キラーマジンガCが居たら俺はもうギブよ」

1481Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:21:55 ID:S51TxUgs0

南門までもう少しでキラーマジンガを連れた誰かは辿り着くようだ。
こちらにとって有利な点といえば、トラペッタを観察した多少の地の利。
他には、まだ近くに手を借りれる誰かが存在している可能性が有るのみとなった。
ネプリムとジンガーが同等の力を持っていても、残る相手が伝説のまものマスターとなれば勝機は薄い。
だが、チャモロと、そのチャモロの仲間。
さらにジャンボらが逃げるときに何者かの援護もあったとサフィールは確認していた。
彼らも無事で居てくれれば、あるいは共に戦える。


「腹くくるしかなさそうだ。サフィール、ホイミン!準備するぜ」
「……」
「サフィール?」


傍らで控えていたはずのサフィールの反応が無いことを訝しみ、ジャンボは振り返る。
少女はかろうじて残っていた酒場の一角、木箱の上、どうやらクッションのようなものに腰掛けている。
いつ転げ落ちるか危なっかしそうに、こくり、こくりと船を漕いでいた。


「まあ、無理もねぇ……か」


年若い彼女が殺し合いを強いられるだけに留まらず、肉親に刃を向けられる。
どれだけの心の強さがあろうとも、負担が限界に達していてもおかしくはない。
母親が、兄が、仲間たちが、ここに至るまでの同行者が。
多くの別離があったことも想像に難くない。


「ザメハは勿体ねえよな。ほいっ」
「ふゃっ」


軽いツッコミでサフィールの覚醒を促す。
つい先刻までの気丈な振る舞いはどこへやら。
慌てて顔を覆い隠す仕草は年相応のそれだった。


「……あっ、おはょっ……ご、ごめっごめななさっ」
「疲れてたんだろ、気にしなくていい。……ねぷりむ起動だぜ」


ジャンボの後ろにぬっ、と現れた白銀の体躯。
その姿は、少女が感じていた多くの不安を、払拭してくれるような頼もしさを感じた。


「……ネプリム!治ったんですね」
「心配ヲカケタ」
「間に合ってよかったぜ。……いよいよあんたの親父とのリベンジが近い」

1482Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:25:01 ID:S51TxUgs0


改めて覚悟を問うのも野暮かもしれないが、少女の意思を確認する。
混乱に継ぐ混乱で、冷静さも奪われていただろう。
戦況がきついのは確実だが、ジャンボは彼女を前線から外すことすら考えていた。
先程ホイミンに告げたように、敵以上に恐れるのは制御しきれない仲間。
『自分のため』に行動し、作戦から逸脱することが最大の障害なのだ。


「……私、もう決めました。覚悟はあります……心配しないで平気です」


しかし、サフィールの瞳は弱々しくはない。
そこにはジャンボも口をつぐむほどの固い覚悟があった。


「みなまで言うな、か。いいぜ、頼らせてもらう」
「じゃあホイミンさん、戦闘前にジャンボさんを回復……」


いつもの鈴の転がるような声がしない。
サフィールの問いは空中に虚しく消える。


「……ホイミン?」


返答はない。
静寂が、彼ら2人と1体の間を支配した。


「ホイミンさん!?」
「スライム系魔物ノ捜索ヲ開始。範囲内ニ反応ガ無イ」
「……マジか!いつからだ!?」



---------



「んっしょ……よし」
「……う、っ……」


突然の爆破により、チャモロは少ない体力をさらに削られていた。
息も絶え絶えの状態でさらに瓦礫と瓦礫の隙間に体を挟まれ、意識を失っていたのだ。
大型の門の瓦礫は、今は崩れることなく安定しているが、危なげな状態だ。


「ぼくの体が、すきまを通れてよかった。今回復するね」
「あな、たは……」


チャモロが覚醒したときに目の前にいたのは、善き心を隠しきれないホイミスライムだった。
傍らには潰されずに済んだのか、彼のトレードマークの僧衣帽が置かれている。


「ホイミ!!……ひどいケガだよ。ごめんね、ほんとうに、ごめんなさい……」

1483Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:26:54 ID:S51TxUgs0



サフィールが木箱に腰掛ける際、そのままでは痛いだろうと、持ち物の枕を渡した。
どうやら心地良かったためか眠りに落ちた彼女を、ホイミンは起こすこともできた─だが。
彼はそうしなかった。
ジャンボの言いつけに背くことになったが、どうしてもこの気持ちを留めておくことができなかった。
最終的に彼が選んだのは、そのスライムの体で瓦礫の隙間をくぐり抜け、トラペッタの外へ出ることだった。


「ここから逃げてください……キラーマジンガが……魔物使いと共に、迫っています」
「ジンガーと、サフィールのお父さんだよね。だいじょうぶ、わかってるんだ」
「サフィール……そうかご存知……でしたか……ならば……伝えて……ほしい……」


チャモロはこの命が尽きようとも、なんとしても首輪の情報を共有するという意思があった。
しかしホイミンはその口をとっさにふさぐ。


「だめだよ、おとなしくしてて。……この爆発はぼくのせいなんだ。だからセキニンがあるの」
「どう、いう……」


ホイミンは消えかかっているチャモロの意識を繋ぐためにも、懸命に説明をした。
自分たちはキラーマジンガとアベルから逃げた後、トラペッタに逃げ込み罠を仕掛けた。
運悪くチャモロが真っ先に引っかかり、門は大破して今の状況に陥ったと。
ホイミンは頼まれて罠を仕掛けたに過ぎない。
だが、かなりの責任を感じていることが、短いやり取りでもチャモロに理解できた。


「全力のホイミでもちょっぴりしか治らなくてごめんね。だから、何度でもかけるよ」
「ありがとう……ございます」


度重なるホイミンの献身により、チャモロはその後どうにか容態を持ち直した。
しかし、瓦礫を除いて彼の身体を引っ張り出すことはどうしても叶わなかった。


「うんしょ、うんしょ!……ちからが足りないや。ううう……本当に、ごめん……」
「謝ることはありません、私には感謝の気持しかないですよ」
「でもぼく、ともだちになりたい人のことを……傷つけちゃった……」


心から悲しむホイミンの純粋な気持ちに触れ、チャモロはゲントの村の子どもたちを思い出した。
人と人との心の繋がりに思い悩む弟や、妹のような世代に広く説法をしていた記憶を。


「……ままあることです。失敗することもある。皆、悩み、苦しみの中に藻掻いているのが当たり前です」
「でも、でも……『みんな友だち大作戦』は、ぼくだけの夢じゃなくて」


ホイミンの脳裏には、今まで触れ合い手を取り合った友だちの顔がよぎる。
一人よぎるたびに、溢れた涙がぽろぽろとこぼれ落ちていく。

りゅうちゃんが考えたこの大作戦をかならず遂行する、そうガボといっしょに約束した。
ライアンとの再開、天使様と養成のサンディ、団長さんとゲルダ、それにドラゴン。
友だちにはならない、と突っぱねたのにかばってくれたヒューザ。
お兄さん思いだったターニアに主人思いのキラーパンサー、ゲレゲレ。

1484Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:27:27 ID:S51TxUgs0


「だから……僕はぜったい、チャモロさんを助けてともだちになるんだ、って」
「……ホイミンさん。私はもう、あなたを友と思います」
「でも……」


彼をこうも傷つけたのは自分だ。
その思いがホイミンに二の足を踏ませたが、チャモロは身を捩り片手を這い出した。
ホイミをかけ続けた彼の触腕を、慈愛に溢れた優しさで包み込む。


「あなたが私の命を繋ぎ、こうして手を取り合うことができるのです。これは友に他なりません」
「いいの?チャモロさん。……ほんとにほんとに、ありがとう」


湧き上がる感情からか、ホイミンの身体がふるふると揺らぐ。
大きな目から溢れる涙を抑えきれずに、顔を触腕でごしごしと拭った。
チャモロは握っていた片腕を力なく緩める。


「……だから、もうお逃げください。じき、キラーマジンガを連れてアベルはここに至るでしょう」
「チャモロさんにも、せんさーがあるの?」
「いえ……そうではありません」


まさかこのメガネが、とホイミンがあたふたするのを否定する。


「奇しくも、私は彼と同じく呪われていたようです。そのためか彼らが近づくのを目で見るよりも早く感じ取れている」


チャモロの身体に刻まれた呪いが、同種とも呼べる地獄の呪いを宿したアベルの接近に反応しているのだ。
宿った呪いの意思は、より強い呪いを感じ取り、共鳴を始めて疼いていた。
皮肉なことに、不運の呪いが近づく危機を知ることとなり、こうして役立っている。


「じゃあ、ジャンボたちを呼んで手伝ってもらおうよ……!」
「いえ、それでは間に合わない……アルスさんが先に到着することを願っていましたが、叶わなかった」


チャモロは苦々しい顔をホイミンに向ける。
諦観を帯びた表情だと、そう言えた。
アベル達がアルスよりも先んじて到着したということは、考えたくは無いが最悪のケースが頭をよぎる。
次々と仲間たちを失い、体力の尽きたこともあり、チャモロは己の無力感、諦めを感じていたのかもしれない。
暗い考えが呪いの勢いを増し、死を徐々に招いているようにすら思えた。


「ともだちになれたばかりの貴方をむざむざ殺させはしません。門の中にお逃げください」
「……ううん」

1485Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:29:12 ID:S51TxUgs0
ホイミンは、ホイミをかける手を止めた。
そして傍らに立て掛けておいた二振りの杖のうち、一本を触腕で握りしめ、杖を空に掲げる。
それは瓦礫の隙間をどうにかくぐり、門の内側から持ち出した、彼の大作戦の切り札のひとつ。


「ベホマみたいに治せなくてごめんね。呼べばきっとサフィールとジャンボと、ねぷりむが助けてくれるから」
「ホイミンさん?待ってください、ホイミンさん!」


杖を掲げたホイミンの姿に、チャモロは驚愕する。
右腕を下ろし、振り返って微笑んだその表情には、何らかの覚悟が秘められていた。


「ぼく、『みんな友だち大作戦』ぜったい成功させるから。だからそれは預かっててね」
「ホイミンさん!」


チャモロの前に大切に取っておいたヒューザのメモを、今しがた掲げた杖を重し代わりに置いていく。
そして、立てかけられたもう一振りの杖を胸に抱え込むように握りしめる。
ホイミンは勢いよく大地を蹴って、駆け出した。
その方角には、ネプリムが察知した同種の機械が。
そしてチャモロの感じ取っていた呪いの力の持ち主が、じわじわと歩み寄っていた。



---------



「ジンガー、停止だ」
「破壊サレタ門デス、熱源反応ガ1ツ」


トラペッタの外壁は高く大きい、やや離れていても街道を進めばすぐに視認できる。
アルスたちを見失ってから、体力を温存しつつゆっくりと街道沿いにトラペッタを目指した彼らもまた容易に確認できた。
だからこそ、大きな音がした後に何かが崩れる音を続けて聞いていた。


「タイミングからして、サフィールたちが門を破壊したと考えられますが……」


破壊した後の対応は大きく2パターン考えられる。
門の中で籠城を決め込むか。
破壊したのはブラフであり、実際は町の外に逃げているのか。
サフィール一人では考えつかない荒っぽい策ではあるが、同行者の発案ならあり得る話だ。
見たことのない種族ではあったが、おそらくホビット、ドワーフ当たりの亜種か。
あれは戦闘においても常に頭を巡らせているように感じられたため、真っ先に警戒すべき対象と考えている。


「まずは、対応を先決しますか」

1486Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:32:49 ID:S51TxUgs0

そんな考えを一旦横に置き、アベルは近づいてくる何者かに意識を移した。
武器を構えるどころか握りもしないのは、余裕の表れか、体力の温存か。


「警戒態勢。迎撃シマスカ」
「少し待とう」


現れたのは、小さな影。
少女だ。
それも、彼が今、求めている姿と相違ない。


「また会えましたね」


アベルはふたたび、娘であるサフィールと相対する。
前に出ようとするジンガーを制して、彼はにこりと微笑んだ。


「……」
「わざわざ一人で来てくれたのはとても嬉しいですよ」
「!」


言葉を一つも交わすことはなく、少女は黙って踵を返す。
トラペッタから見て東、森のある方角へと走り出した。


「おや」
「お父さん、こっち!こっちに、おいでよ!」


先程の戦闘の後とは、想像もつかないほどの元気な声で誘うサフィール。
当然、このようなあからさまな誘導に乗る理由など、アベルには欠片も存在しない。


「鬼ごっこでしょうか?」


薄い笑みを浮かべながら、敢えてアベルは彼女の方へと歩みを進める。
ジンガーは当然付き添うべきものと考えていたが、アベルは掌で制した。


「ジンガー、地図の把握は」
「インプット完了済ミ、地形把握シテオリマス」


良し、とアベルは了承し、指でトラペッタ方面を示す。


「あの町に南門以外の入り口があるかはわかるかな」
「北西ニ中型ノ門扉ヲ確認シテイマス」
「その門の状態の確認を頼みました。あの南門以外から逃れているかもしれない」

1487Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:34:27 ID:S51TxUgs0

敢えて分断し、片方を無事に逃がす作戦が行われていると踏んだアベル。
ゆえに、こちらも同じく分断作戦を取った。
ジンガーに偵察をさせ、目の前の誘いには自身が一人で対処を行う腹だ。

.        ・・
「出会った存在は彼女を除いて、排除して構いません」


ジンガーの腕を軽く叩き、自らはサフィールの向かった方角へと歩みだす。
忠実なる機械兵士は、最後に主へ質問を投げかけた。


「戦闘ニ関スルゴ命令ハ」
「死力を尽くすように。合流の時間は遵守してくださいね」
「了解イタシマシタ」


東の森の方角へと向かう主の背を単眼が見つめていた。
主の見送りも済み、ややあって任務遂行への動作を開始する。


「─?」


センサーが違和感を捉える。
ジンガーは門に向けてもう一度探査を行った。


(熱源反応ガ門ノ位置ヨリ動イテイナイ)


南門の辺りから近づいてきた何者かが、先程察知した1つの熱源ではなかったのだろうか。
主の行く先をさらに探知しようとする。
が、距離が空いていたためか、サーモグラフィーが捉えたのは離れていくアベルの熱源のみであった。
任務から外れるが、南門の熱源の正体を探りに行き、主に伝えるべきか。
それとも主の言葉通りに、北西の門へと向かうべきか。


「……任務開始」


ジンガーは一時動きを止めて─結局、当初の目的を果たすために移動を開始した。
彼は忠実なる機械兵士。
主の命令を絶対遵守する存在であった。




---------

1488Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:36:33 ID:S51TxUgs0


「ようやくターバン男と鎧の魔物を撒けたのに再び出会ってしまうなんて」


丘陵の陰に身を潜めていた女僧侶が、そろりと町に続く街道を見張る。
潜むにはいささか縦に大きい僧侶帽が見つかってしまうので、胸の前に抱えていた。


「ツイていませんね私達。その呪いどうにかなりません?」
「……そういうあけすけなところ、僕けっこう嫌いじゃないよ」


ため息まじりで率直な言動を受け流し、アルスは気づかれない距離から様子を伺う。
アルスは突如として闖入してきた女僧侶フアナの助けを借り、辛くもキラーマジンガの猛攻から逃れた。
しかし目的の方角は見通しの良い街道沿いの平原であり、まっすぐ町へ向かってはあっさり追跡されてしまう。
そのためトラペッタ南西の丘陵地帯を通過して町の西の方角へと向かっていた。
しかし、北西の門が壊れ封鎖されていることを確認して南に戻る途中、南門から見てちょうど外壁の角に隠れている地点。
その地点での休息を余儀なくされていた。


「まあ私は優秀で魅力的でアリアハン美少女コンテスト激励賞受賞ですから、そう思うのも無理ありませんが」
「はいはい。ホイミはまだ無理そうかな」
「最後のバギでもう限界でして……」


なにせ、アルスは戦闘の影響もあり、足の傷も痛みを増している。
フアナのほうもひどい負傷と疲労で魔力も打ち止め、先程逃げ切れたのが奇跡と言っても相違無い。
途中走ることもままならなくなり、結果、アベル一行と接敵寸前の危険な状態に再び陥っている。
ゆえに、彼らはなんとかして戦闘を回避してチャモロとの合流を果たす必要があった。
街道を悠々と、まっすぐ進む2人の姿を確認してからは、こうして息を潜めて居る。


「しかしこちらが感づかれて居ない以上再び急襲すべきと私の勘が働いていますよ」
「ダメだよ、これ以上近づいたらキラーマジンガに感知される。強さだけじゃないんだ、厄介なのは」
「ダメですか。これではいつまで経ってもお連れの僧侶さんと合流できませんよ?」
「うん……まあ。今考えてるよ」


道中、軽く状況を伝えては居るが突拍子もない言動の目立つフアナにアルスは面食らっていた。
底しれぬガッツは評価するものの、はっきり言って協調性があるかと言われれば疑問か浮かぶような女性だ。
とは言え助けられた恩もある。
いつ限界を迎えてぶっ倒れてもおかしくない暴走機関車を前に、アルスは逆に冷静にならざるを得なかった。


「それに何か門がついさっき壊された感じですし……お連れ様、破壊衝動とかお持ちですか?」
「そんなわけないでしょ。たまたま壊れたのか攻撃を受けたのか……チャモロさん大丈夫かな」
「ここから観察したりできれば良いんですけどね。アリアハン野鳥の会に居た頃と比べて随分視力が落ちた感じがします」
「そんな都合よくはいかないよねえ……南門が観察できればなあ」


南門が確認できる方まで南下しては、感知される領域に侵入してしまう。
うかつに伺ってキラーマジンガに見つかっては元も子もないため、周囲を探りきれずにいた。

1489Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:37:03 ID:S51TxUgs0


「……あっ、そうそう。私の仲間に盗賊がいたんですよ」
「盗賊?」
「それで……こうグワッと目を見開いて周囲の様子を探索する術がありましたね」


あっけらかんとした様子のどこかに悲しみを潜ませながらも、仲間の記憶を思い返すフアナ。
そんな便利な特技が本当にあるのかと、疑問に思いつつもアルスは意識を集中させて、町の方角を探ってみた。


「あっ見えた」
「見えました!?」


芸達者アルス、ここにきて記憶に無いはずのタカのめの勘を取り戻す。
本来習得していない特技ではあるはずが、これも『可能性』の為すところなのか。
もしくは、遅咲きの才能の開花が今、徐々に影響しているのかもしれない。


「しーっ、声が大きいよ……うん、見えてる。町の壊れた門と……!」
「なんです?」
「チャモロさんが下敷きに……あと、あの青いのはなんだろう……スライム?」


当然、この特技では何を話しているのかまでは把握ができない。
アルスが目撃したのは、チャモロの命の恩人の正体が、ホイミスライムであること。
そして彼の命を繋いだ後、単身アベルたちの方角へ向かっていったこと。


「ホイミスライム?まさかあの2人に戦いを挑むというのですか!?何というファイティングなスピリット……」
「ちょっ、うるさいから黙って」

エキセントリックな独白を横目に、彼の足取りを追う。
視点を変えたときに把握できた光景は、アベルは何故か東に、キラーマジンガは北西へと進路を変えたこと。
アルス達にとって千載一遇の好機が訪れた。


「二手に分かれた!?これはやはり急襲せよとのお告げ」
「そんな事言ってる場合?キラーマジンガこっちに来るよ」
「……戦力的には勝てる確率が10%とソロバン計算準一級の私が……」
「もっと少ないでしょ。……イチかバチか、だ。フアナさん泳げる?」
「得意ですよ、水泳教室に通ってました」


アベルがキラーマジンガとわざわざ別れて彼女を追いかけていった理由までは正直想像がつかない。
しかしこの機を逃してはならないと、アルスとフアナはトラペッタの堀に身を隠す。
キラーマジンガをやり過ごし、チャモロの救出に向かうためだ。
熱源探査の仕組みを知っていたわけではないだろうが、幸運にも水の中まではその魔の手は及ばない。
それ故彼らは無事にすれ違うことができ、南門方面へと進むことができた。



---------

1490Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:38:18 ID:S51TxUgs0


「今度は隠れんぼですか?あまり奥に行っては禁止エリアに入りますよ」


木々の合間を縫い、徐々に遠ざかる小さき背を見据えながら、優しい口調で語りかける。
彼の面持ちは、殺し合いの場にひどく似合わない様子だった。
まるで、小さな子供が持つ無邪気さすら感じられるほどに澄んだ瞳をしている。


「─ぁっ、はぁっ……はぁっ……」


荒い呼気とともに短めの黒髪が靡き、すっかりくたびれた赤いリボンがゆらゆらと同調する。
少女は着実に迫りくる男の気配を感じ、何度も後ろを振り返りつつ、曲がりくねるように走った。
対する男は涼し気な表情を崩すことはない。
逃れ行く少女の行く先をなぞるように、ひとつだけ立てた指を動かす。
仄かな魔力の光が指の動きに沿い、宙に線を描いた。


「『バギ』」
「!!」


たちまち真空の刃が空気を引き裂き、枝葉を断ち切る。
さらには地面まで深く抉るほどの破壊力は魔獣の牙を彷彿とさせた。
半ば暴走気味の魔力を内包したが故の力を知らしめた呪文。
容易く使いこなすその胆力は身に抱えた呪いの影響か。
それとも、内に秘めたる深淵が解き放たれたが故か。


「たっ……!」


迸る真空の刃の奔流に引き倒されないよう態勢を低くした。
しかし飛び交う小石や矢のように迫る小さな枝が細かな傷を生み出していく。
逃げ惑ううちに、足元がおぼつかなくなり、やがて木の根に足をひっかけた。


「ううっ……!」
「てっきり一騎打ちを挑みに来たのだと思いましたが、逃げるばかりですね」


木々の感覚が広がり、やや視界の開けた位置に少女の姿が飛び出る。
ゆっくりと、まるで散歩でもするかのようにアベルはその空間に現れた。


「……はぁっ、はぁっ、はぁっ……ちがうよ」
「では、何ですか?」


まるで子供に語りかけるように、アベルはしゃがみ込んで目線をあわせた。
両者は、もう2、3歩近づくだけで、抱きすくめることができるほどに接近している。


「ホイミスライムくん?」

1491Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:39:19 ID:S51TxUgs0


たちまち変化の杖の効果が切れ、本来のスライムの姿が顕になる。
後ずさりするホイミンだが、これ以上奥に逃げては本当に禁止エリアに入ってしまう。
無駄だということはすぐに理解してふわりと宙に浮く。


「どうしてわかったの」
「沢山ありますよ。その杖の事前知識もありましたが」


アベルは魔物使いだ。
当然、魔物の生体に関して誰よりも把握している。
ゆえに、目の前の娘の姿をした何某かが、人間の身体を動かすことに不慣れであることは容易に理解できた。
右に、左に曲がる度に体重が制御できていないことも。
浮遊している状態が常であるため、足元の障害への確認が疎かであったことも。
すべてが正体を示していた。


「二本の足で立って歩くなんてよく解らなかったでしょう?」
「……うん、むずかしかったよ……」
「ふふっ」


自分で誘いをかけておきながら、ホイミンは不思議でたまらなかった。
アベルの一番の目的はサフィールを自らの手で殺すことではなかったのだろうか、と。
ジンガーを置いていったときは下唇を噛み締めたが、どうも門に真っ直ぐ向かっていないことだけは横目で確認していた。


「どうして来てくれたの?」


無論、弁論が立つホイミンでは無いためストレートに疑問をぶつけざるを得ない。
アベルはまるで子供に語りかける親かのように、優しい声色でその問に答える。


「君がわざわざこんなことをする理由を知りたかったんですよ。用事があるのは君でしょう?」
「……ぼく、ね。おじさんと、お話がしたかったんだ。どうしても」


アベルは反応があったことに、おや、と笑みを浮かべる。
命を賭けた囮─無論、サフィールが非道な作戦を許すはずもなく。
あの同行者による催眠か命令─であることを想像していた。
ところが確固たる意思で自分に向かってきたと言う。
これでも、旅をしていたころは、多くの魔物たちを従順に従えていた身分である。
魔物の自主的な行動だと予想できなかったことに、疑問が生まれたとともに、ほんの僅かに興味が湧いた。


「ぼくね。『みんな友だち大作戦』を、成功させたかったんだ」
「─友だち?」

1492Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:41:10 ID:S51TxUgs0

ホイミンは、大作戦の全貌を語る。
かつて人類と争った竜王のひ孫という立場の人物が、人間と手を取り合うことを望んだことを。
自分を含め、共感を得たたくさんの人間が、殺し合いの中でも信頼関係を築くことを諦めなかったことを。
しかし─多くの犠牲があったことも。


「それでね。サフィールのお父さんの話を聞いたときに、思ったんだ」
「……」


ホイミンは懇願のような、はたまた怯えるような表情を見せつつも、アベルから逃げようとはしなかった。
祈るような仕草で、自らの触腕を握りしめている。


「おじさんなら、人間も、魔物も、関係なく、みんなと友だちになってくれるかなって」


気づけばぽろぽろと、ホイミンの双眸からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。
魔物であるが故に、彼から感じる深き闇の影響は非常に色濃い。
気圧され、その視線だけでジンガーやリオウのように服従の道を選んでいてもおかしくなかった。
だが、大切な約束だけが、彼のなけなしの勇気を繋ぎ止め、彼と一対一で対峙させることを許していた。


「私にも友だちがいてね」
「えっ?」


穏やかな語り口調が目の前から聞こえてきて、一瞬ホイミンは自分の聴覚を疑った。
腕組みをしたまま、どこまでも深い黒色の澄んだ瞳を細め、アベルは言い聞かせるように話し始めていた。


「ヘンリーと言って、一国の王子でした」
「……?」
「そのころ私は自分もまた王子であることは知らなくて、王子様のくせに乱暴な子だ!なんて思っていましたよ」


まるで旅路の途中焚き火を囲むかのように、ゆっくりと座り込んだアベル。
彼の告げる言葉には不思議な優しさと説得力で満ちていて、ホイミンは気づけば引き込まれていた。


「私の半生もサフィールから聞いたかもしれませんが……訳あって奴隷に身を窶しました。私とヘンリーはね」
「き、聞いたよ。冒険して、おじさんも王子様だと分かったあとも、国同士で仲良しだった……」
「そうですか、そこまで聞いてましたか。─思えば」


多くの過去に浸るかのように上を見上げて思案に耽るアベル。
呟くように思いを吐露した。


「彼と過ごした時間は思い返しても、嫌な気分ではありません。むしろ、心地が良かったのかもしれない」

1493Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:42:09 ID:S51TxUgs0
「……それじゃあ……」
「そうですね……君の言う、誰もが信じあえる間柄となれば、今起きている殺し合いが止まる……」


座り込んだ姿勢から立ち上がり、土を払うアベル。
彼の涼やかな笑顔見たホイミンは、不安、恐怖を吹き飛ばすような気分に駆られた。
ここが未だ殺し合いの舞台であるとは思えないほどに、優しい心地良さがあった。


「それは確かに、そうかもしれない」
「……!だったら、サフィールを傷つけるのはやめて。もう戦わないで」

. ・・・・
「ホイミンくん」


呼吸が遮られたかのように通らない。
視線が、石になったかのように動かせない。
ただ名前を呼ばれただけなのに。
たったそれだけで、心臓を掌握されたかのような感覚が生じた。


「─それには、友だちという脆い絆では足りない」


どっと吹き出る汗だけが、自分が石化した訳ではないという証明だった。
威圧とは、少し違う。
理解し、全てを受け入れる、慈愛染みた感情。
だがそれは愛と言うにはどす黒い。
例えるならば、底の知れぬ穴。
どこまでも深い、吸い込まれてしまうような虚空。
ホイミンは、自分の知るだけの語彙の中から、表現するに相応しい言葉を見つけ出した。


(魔王)


触腕で、後ろ手にいていた杖を掲げようとする。
しかしこの身体は金縛りにあったかのようだ。


(動けない)

「私が8年間の間石となっていたのを救い出したのは自分の子どもたちでした」

(動いて)

「私の行方知れずの母の手がかりを自分自身で見い出した」

(動かなきゃ)

「─私の父が殺されたきっかけは、誰だった?」

1494Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:44:42 ID:S51TxUgs0


(うわああああああああっ!!!)


半ば痙攣し跳ね上がるかのように、竜の頭部を象った杖が頭上に掲げられる。
ホイミンの姿は、またも別のなにかへと転じていった。


「フゎがァああアアあぁーーーーッ!!」


持ち出したもうひとつの杖─ドラゴンの杖の力を借りて、青く透き通るような鱗を持つ竜へと変貌したホイミン。
亡霊に抱擁されたかのような怖気を全身に覚え、恐怖を振り払うかのように頭を激しく動かし、慟哭を上げる。


「友だち……友愛の情もまた、私は否定する。何の力もありません─空虚だ」
「ふゥっ、フゥゥっ!グァァァッ!!!」


心優しいホイミンが、アベルを殺すために考えたたった一つの切り札。
ドラゴンの巨体を利用して、禁止エリアに押し込むことで、自らを犠牲にアベルを倒す。
それが、サフィールに悲しいことをさせないための、自分の取れる唯一の手段であった。


「不愉快さすら、そこには残らない」


激しい叫びと共に、ホイミンは初めて本当の戦闘を体感する。
炎のブレスの吐き方などまるで解らない。
ただ、巨きくなった身体を力任せにぶつけることだけだった。


「ですからホイミンくん、私と『本当の友だち』になりましょう」
「ガアアァァあああぁぁっ!!」


そんな決死の攻撃に対して、アベルは。
打ち払うことも、迎え撃つこともせず。


「言ったでしょう。二本の足で立って歩くのは難しいと」


ただゆっくりと歩いて身を躱した。
それだけで、彼との戦いは終わった。


「!!!」


大きな音と共に転倒して、強かに身体を地面に打ち付ける。
もともと限界だった呼吸が止まりかけ、臓器が潰されたかのように痛んだ。
身を捩って起こそうとしても、自由に身体が操れない。

1495Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:46:10 ID:S51TxUgs0

「尻尾を持ったことが無ければ、自分の足で踏みつけてしまいますよね」
「ひゅぅ、ひゅう……」


ホイミンは、ホイミスライムだ。
決死てドラゴンではあり得ない。
自らの尾を踏みつけ、無様に倒れ伏す結果だけがそこに残った。


「分不相応な物で、よく頑張りました。……ですが、私は魔物つかい」


アベルは追撃を行うでもなく、倒れた竜の顔面の目の前まで行き、じっと目を合わせる。
そして頬を撫でるような仕草で優しく触れながら、諭すように声をかけた。


「その目の前で荒ぶる魔性を発揮したところで逆効果でしかありませんでしたね」
「ぅ……ぁ……」


ほどなく、するすると身体は縮んでいき、元のホイミスライムの姿へと戻る。


【ホイミンを、やっつけた。】


力なく倒れるだけのホイミンの身体を、アベルは赤子のように丁寧に抱き上げた。


【なんとホイミンが おきあがり……】


「ホイミンくんは……」
「……」
「『人間』になるのが夢なんだね?」
「!!」


【なかまにしてほしそうに こちらをみている】


(心を、のぞかれた?)


自分の中の大切な宝物が引きずり出され、博物館の展示品となることを強制されたかのような感覚だった。
言葉が告げられないホイミンは目を背けることも腕から抜け出すことも叶わない。
魔性の者に生まれた宿命か、どう足掻いても、その衝動に逆らえない。


「ならば私と本当の友だちになれば良い。私の母には魔物を人間に変える力があったそうです」
「──」
「君の願いは、夢物語なんかではありません」
(やめて……っ)


ただ、辛うじて身を捩り、頭を振って否定の意を示すことだけで精一杯だった。

1496Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:48:16 ID:S51TxUgs0

【なかまに『してあげますか』?】




---------


「主の生命を第一に考えよ」
【イノチ ダイジニ】

「ホイミ!」

「ホイミ!」


度重なる激戦、蓄積したダメージ、傷ついた身体。
元来、ホイミスライムは助けを求める声に純粋に従う習性がある。
命令があってから、ただひたすらにホイミンはアベルを癒やし続けた。


「ホイミ!」

「ホイミ!」

「もう魔力が尽きたか。ホイミン、また魔力が回復したらお願いしますね」

「ふわふわん」


忠実にアベルの言葉に反応し、付き従うホイミン。
その瞳は虚ろで、何も見ているようには思えない。


「では戻りましょうかホイミン。ジンガーが待っている」

「コンニチワ」

「行動中は私の後ろをついて来るように」

「ハイ、ライアンサン」


突然飛び出た名前に覚えがあったアベルは、ほんの僅かではあるが眉をひそめる。
確か、放送でその名は告げられていた。
激しい戦闘の折、アベル自身はもはや気にして居なかったが、ジンガーが完全に把握していた。
情報共有していなかったらアベルは意にも介して居なかっただろう。


「ライアンというのは、君のご主人さまだったのかな」

「ライアンサン、ダイスキ」


心の無いからくり人形染みた言動。
特に嘲るでもなく、アベルはごく自然に微笑みを崩さずに告げる。
ホイミンが悲しみ嘆くであろう真実を。

1497Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:49:12 ID:S51TxUgs0


「ライアンはもう死んだ。今の君の主は、アベルだ」

「ライアンサン、ライアンサン……」


友愛の情を上塗りして彼と『本当の友だち』となったつもりで居たアベルはこの結果に多少の不満を覚えた。
これから時間をかければかき消えていくと思われたが、これからずっと喚かれるのは少々騒がしいし、何より少々癪である。
アベルは今一度、ホイミンの身体に手を触れ、瞳を見据えて告げた。



「ホイミン。『みんな友だち大作戦』ですが─」

「ピキー……ピキー……」

「さくせんは変更ですよ、ホイミン」

「ア……」


「隷属せよ」
【メイレイ サセロ】



救いを求める声はもはや発せられない。
今のホイミンに許されたのは、ただ、主の命に従うことだけだった。

1498Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:50:09 ID:S51TxUgs0


【G-2/トラペッタ/2日目 午前】

【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP:7/10 MP 1/5 左足矢傷(応急処置済み)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×3、999999ゴールド あんみんまくら@DQ5
[思考]:基本方針:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される。みんな友達大作戦を手伝う。
1:ホイミンを捜索する。
2:父の狂気を治める。不可能ならば倒す。

【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:HP8/10 MPほぼ0
[装備]:ナイトスナイパー@DQ8
[道具]:支給品一式、道具0〜3 四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1(ゲレゲレの支給品)
支給品0〜1(ヒューザの支給品) 悪魔の爪@DQ5 
天空の剣、罠抜けの指輪 罠の巻物×1 ドラゴンローブ 砂柱の魔方陣×1 天使の鉄槌@DQ10 
メガトンハンマー@DQ8 
[思考]:基本方針:エビルプリーストに借りを返す。
1:アベルを倒す
2:首輪解除を試みる
[備考]:※職業はどうぐ使いです。弓スキルは150です。ハンマースキルは100以上です。

※ 折れた灼熱剣エンマ@DQS ドワチャカオイル@DQ10 を状態票から削除


【ねぷりむ@DQ10キラーマジンガB】
[状態]:HP1/6 背中にヒビ 右腕義手
[装備]:名刀・斬鉄丸 @DQJ 聖王のハンマー@DQ10 ビッグボウガン @DQ7 アクセルギア@DQ10
[道具]:支給品一式×3、魔封じの杖、道具0〜2個(ブライの不明支給品)、道具0〜2個(ゴーレムの不明支給品)
[思考]:基本方針:サフィールについていく。ガンガン戦う。
[備考]:DQ10のキラーマジンガの特技を使いこなします。
ゴーレムの記憶を持っています。




【G-2/トラペッタ南門(崩壊)/2日目 午前】

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP1/10 MP1/10 左腕骨折(応急処置済み) ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)(加速状態)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:基本方針:諦めない。ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める
1:ホイミンを救出する
2:首輪解除の為に、ジャンボ、サフィールへ会いに行く (ジャンボには半信半疑)
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。また、はぐれメタルの職業を少なくともLv7まで経験しています。魔法使い、魔法戦士、賢者、勇者は経験していません。
ジャンボに対しては信頼感の反面、疑いも抱いています。

へんげの杖
ヒューザのメモ(首輪解除の手掛かりが書いています)
以上がチャモロの傍に落ちています。

ホイミンのふくろ(支給品一式 (不明支給品0〜2個))は、トラペッタの町側に置いてあります。

1499Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:50:48 ID:S51TxUgs0


【G-2/トラペッタ周辺の堀 /2日目 午前】

【アルス@DQ7】
[状態]:HP3/8 MP1/5 左足に怪我(素早さ低下) 右腕から胸にかけて裂傷(応急処置済み)左肩に刺傷(治療済み)ずぶ濡れ
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜1) ゲルダの不明支給品0〜1個(確認済み) 道具0〜2個(本人確認済み) 
[思考]:基本思考:この戦いを終わらせる。
1:ミーティア、キーファを探す。
2:サフィール達に会いに、トラペッタへ戻る。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。
本来習得不可能なはずの「タカのめ」のカンを取り戻した。


【フアナ(女僧侶)@DQ3】
[状態]:HP1/8 MP 0 ずぶ濡れ
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 パラディンの秘伝書 不明支給品0〜1(本人確認済み) かりうどの弓@DQ9 カマエル@DQ9
[思考]:基本思考:自分だけが出来ることを探す。
1:仲間たちの死を受け止め生きる。
2:緑フード(アルス)と共に、トラペッタへ向かう
3:アベルを倒し、アスナとコニファーの仇を討つために仲間を集める。
[備考]:
※バーバラの死因を怪しく思っています。
※ローラがアルスとチャモロにかけた呪いを見ることが出来ます。


【G-3/トラペッタ南東の森〜平原 /2日目 午前】

【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP3/8 手に軽い火傷 MP1/5 ※マホキテによる回復
[装備]:破壊の剣 ドラゴンの杖@DQ5 地獄の鎧@DQ3
[道具]:支給品一式 剣の秘伝書 ヘルバトラーの首輪 毒針
[思考]:過去と決別する為戦う。力を得る為、愛情をもって接する(そして失う為に)
1:すべての愛を消し去るためにも『みんな友だち大作戦』を実行する。

※破壊の剣と地獄の鎧の重複効果により、更に強力になった呪いを受けています。
動けなくなる呪いの効果が抑えられている反面、激しい頭痛に襲われています。


【ホイミン@DQ4】
[状態]:健康 MP0 仲間モンスター化
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:ライアンサン……

1500 ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:52:53 ID:S51TxUgs0
投下を終了します

1501ただ一匹の名無しだ:2021/06/03(木) 23:27:55 ID:iacXUCKs0
『ドラゴンクエストIX
星空の守り人実況 その1』
(22:27〜放送開始)

hts://www.youtube.com/watch?v=K5e_9zMvaRg

1502ただ一匹の名無しだ:2021/07/29(木) 01:03:47 ID:cmv4n1CA0
マジかよ!?って口をついた結末でした。面白かったです。
あと、
>だがそれは愛と言うにはどす黒い。
この一文がとても響きました。お疲れ様でした。

1503 ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:32:18 ID:chZJ0etU0
テスト投稿

1504哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:33:12 ID:chZJ0etU0


“ブライ!” “ライアン!”

トロデーン城を後にせんと席を立つピサロの耳に届いた死者の羅列。
彼にとってはひどく忌むべき声によって告げられたその名は、僅かの間ではあるが共通の敵を目指し、共に歩んだ者たちのものだった。

「……」

ピサロの眉根が微かに寄る。
理由は、己に反旗を翻した邪僧のナルシシズムに耽った声が気に障った─

(彼奴を知る者も私だけか)

それだけでは、なかったのかもしれない。


“スクルド!”
“コニファー!”


ポーラもまた、天より響く声から死の事実を突きつけられる。
スクルドの命が潰える瞬間を、自分はその目で見ていた。
コニファーの骸を目の当たりにした。
肩を並べた旅の仲間たちの死を、確かに理解はしていた、そのつもりであった
しかし、彼女は旅の仲間の中ではアークよりもなお若い。
この舞台に一人取り残されたという事実は、辛く、暗い影を落とす。
それは僅かに身を竦める結果を招いた。

「行くぞ」
「!」

先に声を上げたのはピサロだった。
ポーラからは、声に出して尋ねたいことが幾つか浮かぶ。

“あんたの仲間は、生きていたの”
“月影の窓の中に、何を見たの”

それらの疑問点は、ピサ、ロのどこか焦燥した顔を見て、浮かんでは消えていく。
彼の目的が危ぶまれる“何か”を知ったのが理由なのだろうか。
本音を言えばコニファーと、アスナという名の少女の、物言わぬ躯をそのまま荒れ果てた城に打ち捨てることには抵抗があった。
しかし、図書室の扉を乱雑に開くピサロを前に自然と口は噤まれ、ポーラはただその背を追うことしかできなかった。

「……」
「うっ」


そんな彼の背中を追うポーラの鼻先が、どんと軽く背に突き当たる。
バトルマスターとしての実力から考えれば不相応とも言うくらいの背丈である彼女は、顔面を黒い外套に埋めてしまった。

「ちょっとピサロ、何……」
「……」


彼女が不平混じりに魔王の視線の先を覗き込んだ。
トロデーン城の正門が音をたて揺れている。

1505哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:34:26 ID:chZJ0etU0

(どん……どん……

 どんどん……どんどん……)

風や地鳴りによるものではない。
誰かが門の前に居ることは明らかだった。

(どん…)

「来客だ」

( だんッ だん、だんだんだんッ‼︎ )

扉を揺さぶる音が、徐々に焦燥を帯びていく。
揺らす音から叩きつける音に。
その音は高まり続けて、やがてー

「もおっ!」

小さな影が体諸共飛び込むように、扉の隙間から滑り込んで来た。
少女の身体には城門の大扉は些か大きく重たい。
全身で体当たりをするようにしてそれを開いた。
疲労を隠せない肩は荒く上下し、櫛で整えられていたのが常だったであろう巻き毛も乱れている。

「あ、いた!」

ピサロが回収したお別れのつばさを求め、勇者アンルシアの手を振り切って。
幼気な少女に過ぎなかったティアは、たった一人で城に駆け込んだのだ。

「勝手にだいじなもの持っていったでしょ」

微笑ましくも、どこか不安を呼び起こす。
少女はそれほどに空虚な表情を浮かべていた。

「追いかけるの、すごい疲れたんだから」

がちゃり、と少女が背負う剣が鳴る。
前屈みに息を整えた際、滑り落ちかかったそれを慌てて抑えた音だ。

「それに、お兄ちゃんが死んだなんて言うヤな声がまた聞こえてさ」

彼女ーティアの頬が濡れ、涙の線が幾重にも走っていた。
その顔は嫌悪や悲憤により、くしゃくしゃに歪んでいてもおかしくはなかった。
だと言うのにその素振りもなく、生来持ち合わせた元気さを含んだ声はどうやら震えることはない。
それは、勇者の血を引くものとしての強さだった。
だというのに、双眸からはらはらと落ちる涙が矛盾した光景を生む。
これは、弱さの現れだ。

「うるさくて、頭がどうにかなっちゃいそうなんだよ……」

彼女自身、内で荒ぶる感情を、どうしていいかわからないまでに乱されていたのだろう。
快活な声だった声が、ここに来て初めて萎れて行く。

1506哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:36:24 ID:chZJ0etU0
「フ……」

ピサロは、カマエルの捜索とそれに伴った襲撃者の痕跡が辿れぬ現状、さらには月影の窓についての考察など抱えきれぬほどの情報を精査する間もないことに嘆息を漏らす。
加えて危険分子になりつつある少女が単独でここまで辿り着き、何をしでかすかわからないという事実に、宛ら抜き身の刃を不意に目の前に投げ出されたかのような感覚を覚えた。
受け止めるのか、身を躱すのか。
逡巡の時間を求めることすら許されない。

「煩くてどうにかなりそう、か」

大きく息を吐きつつピサロは続ける。
憎きエビルプリーストにも。
誰も彼もが儘ならぬ、自分を含めた生存者たちにも。
思えば最初からそうだった。
魔族の王へと上り詰めるまで、幾多の戦を交えたか。
その争いにやがて人間どもが加わり策を巡らせる羽目となり。
挙句、この舞台では人間たちの殺し合いにも気を張らねばならなかった。
目の前の少女が振りまく子供じみた激情に、ピサロは不覚にも共感めいた感情すら抱いてしまった。
それこそもう、何もかも投げ捨ててしまいたいような。

「全くもって同感だ」

魔族の王は、伝説の剣を携えた勇者の末裔と相対した。


*********


「ねえ……ひとまずつばさを返してあげたほうがいいんじゃない?」

ポーラは見えざるものを見ることができるのと同じように、周囲の人々が抱く感情にも敏感であるという自覚がある。
だからというわけでもないが、肌で感じ、眼で見るだけでも、少女の心の内に対し、何某かを感じた。

「ティアちゃんだっけ。怒って……いや、なんて言えばいいのか……」

憎しみとも、怒りとも少し違っていた。
彼女の心にあるのは巨大な、埋めようのない喪失感。
最愛の兄を、そして同様に慕う兄の仲間たちを立て続けに奪われたからこそだ。
尤も、その仔細を知らぬポーラには一言で表す術を知らない。

「辛そうだよ」
「静かにしろ」
「ええ……」

成り行きで案内役となったポーラである。
こちらの意見を一方的に封じることはあまりに横暴な気もしたものの、状況が状況であった。
ティアを宥めるほど口が達者という自負もない。
できるとすれば戦闘練塾者として、無傷での鎮圧に踏み切るその時だけ。

「様子がおかしいことは解っている。だが……つばさを失う可能性があるのであれば付き合う義理もあるまいよ」

ポーラは反論の言葉を思いつけずにいた。
ピサロがティアから取り上げたあの道具は確かに、この閉塞した状況に風穴を開ける希望の一つである。
天使の道具が持つ神秘の力を、唯一間近で感じた経験のある彼女だからこそ、感情に流されて安易に少女の味方となれない。

「貴様とて脱出の可能性が奪われる可能性があるからこそ、揺蕩っているのだろう」
「……そうだけど、さあ。論破するだけして、嫌われるよ、そういうの」

結果、駄々をこねることがせいぜいだ。
ピサロはその言葉に対して何も示すことはない。

1507哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:37:13 ID:chZJ0etU0

「ねえ、返してくれないの?」
「諦めろ」

ティアの接近に対して、ピサロは腰のレイピアの柄に手を乗せる。
自ら口にしたこともあるように、彼女は勇者ロトの末裔である。
繰り返し成長を遂げた今、剣を振るうだけの力は確かに持ち合わせている。
その血を侮ることはあまりに愚策である、魔王としての経験がそう語っていた。

「帰還の術を、お前一人に使わせるという選択肢はない」
「そんなの勝手だよ」

問答で済ませているうちはまだ良い。
しかしこの舞台は殺し合いがいつ起こっても不思議ではない。
“そういうふうにできていた”。

(そう、思えば最初からだ。エビルプリーストの奴め、世界の理にすら干渉しているのか?かつての力など遥かに凌駕している)

この世界の全ては殺し合いを助長させているとしか思えないほどに、どこか神経を逆撫でる作りとなっている。
殺意に塗りつぶされた者による戦いの残滓が自然とそうさせているのか。
あるいはこの世界を象った大いなる存在の力ゆえなのか。

「それはティアのなの」
「この道具はお前に使えるものではないとしてもか」
「知らない。お兄ちゃんのところに、ティア帰るんだから。返してよ」

剣の柄が両の手で確りと握られる。
小柄な少女にとっては大振りと言える伝説の剣は、特別な血により重さを感じさせていない。
鞘を滑らせる音を僅かに立てつつ、ゆるりとその刃を明らかにしていた。
ピサロは、先ほどティア自ら口にしていた事実を再び突きつけて静止を勧告する。

「名を告げられた以上、お前の兄は死んだのだ」
「あなたもお空の声と同じことを言うのね」

ピサロの顔を睨め付ける大きな瞳に、わずかに敵意が宿る。

「私のお兄ちゃんは死なないもん。前だって、魔物にやられちゃったらサマルトリアに戻ってきたの」

のんきものだからやられちゃったのね、と後ろに付け加える。

「あたしすごい泣いたわ。ルビスさまの加護がなかったら、ほんとに死んじゃってたに違いないって言われた」

“あっ、お兄ちゃんが死んでる……"
“それがしがついて居ながら……すまぬ!すまぬ妹君!”
“えーん、えーん……”

兄がしばしの眠りについたカンオケに縋りついて、ローレルと喉が枯れるまで泣いた記憶が、ありありと蘇る。
あきなは余り印象に残っていないが側にいたかもしれない。
教会で再び起き上がる姿を見るまでは涙が止まらなかったこともはっきりと覚えている。

「神々の加護か。どこも同じものだ」

ピサロが加わった導かれし者たちとの旅路でもまるで似たようなことはあった。
自分が相手取ろうとしていていた相手はなんと神に寵愛されているのだ、と鼻白む思いすら当初は抱いた。
もっとも、その思いはピサロ自らも幾度とない死、そして蘇生を経験してなおも戦いに挑まされるうちに薄れていった。
逆に、なんとも残酷な使命を定められたのであろう、と哀れみすら抱くほどに。

1508哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:42:25 ID:chZJ0etU0

「だから私、お兄ちゃんを待たせるわけにはいかないの」
「その剣を交渉に用いるならば脅しとは受け取らんぞ」

ピサロの腰の鞘から、レイピアがすでに抜き放たれていた。
闘いの気配を感じることには自負があったポーラにも見切れぬほどに。
傍観者でしかなかった彼女もまた目を大きく見開いた。

「私は魔王ピサロ。剣を向けたことを後悔するのならば、今の内だ」
「魔王、あなた、魔王なのね……」

芽生えたばかりの闘争心が、誰かに焚きつけられたかのように熱を持つ。

「お兄ちゃんを傷つけたのも……」

ロトの剣は、少女の戦う心が確かなものとなると同時に完全に引き抜かれる。

「ルーナお姉ちゃんの国を滅ぼしたのも……」

刀身に、今にも油が滴り落ちそうなほどの光沢が走る。
しかし、その鋭い鋒にはわずかな血曇りの跡が残されていた。

「それに、ティアからつばさを取ったあなたも、みいんな魔物。わたし勇者として戦うんだから」


*********

キーファ、レックは一心不乱に走っていた。

竜王の足取りを追ううちに、自然と北の城へ近づく街道沿いをひた走っていた。
旅慣れた2人の健脚であれば、追いつくのもそう難しいことでない、かと思われた。
しかしどういうわけか行けども姿は見えてこない。

「レック、おかしいな……オレたち、もしや追い越しちまったんじゃ」

しかし、彼の人のいい声が相槌を打つことはなく。
そればかりか疾走する足音はいつの間にか1つ分となっていた。

「レック?」

いつの間にか奔ることにばかり気を取られていた。
空を見上げれば、渦巻く雲が彼等を見下している。
鳴り響いていたのは、死者の名を告げる忌々しき闇の使者の声。

「─、レック!」

いつの間にか、死者の名を告げられていた。
力の限り地を踏み締めていたはずの歩みは、その勢いを失う。
目からは光が、表情からは活力が奪われ。
まるで絶望の淵に引き摺り込まれてしまったかのように、無気力なものへと変化していた。

「レック!おい!大丈夫か!」

キーファは危うく見失いかけた同行者に向けて踵を返し、両肩を正面から掴んで強く揺さぶった。
呆けていたレックは、衝撃を受けてようやく我に返る。

1509哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:44:58 ID:chZJ0etU0

「……キーファ?」
「そうだよ!どうしたんだよおい」

二、三度頭を振って平静を取り戻したかに見えたが、傍から見ても明らかだ。
今の彼は尋常ではないと。

「あ、あ……ああ、すまない」
「……今の放送で!レック!」
「今は先を急ごう」

自分たちには、目的がある。
そう続けようとした彼の言葉に、キーファの痛烈な感情がそのままぶつけられる。

「妹さんか……!」
「…………大丈夫」

キーファは妹との今生の別れを、自らの選択により早くから経験している。
知ってか知らずか、レックも似た境遇だ。
家族との、大切な人たちとの別れに、時の彼方と、世界の狭間という差異はあれども。
片や、夢を追いかけるという形で、片や、夢から覚めるという形で、各々が決着をつけた。
まるで鏡合わせのように。
それでも。

「何、言ってんだ……!」

ときおり、張り裂けそうなほどに胸の痛みを覚えるほどに辛い記憶には変わりない。

「無理すんな!そんなツラしといて何が大丈……」

今、それを再び突きつけられた。
“死”という、一方的で、最悪な形で。
痛いほどにわかる、そんな同情の念を抱き諭すのも道理ではあった。

「俺は、彼女が責任を感じちゃうような真似はできないよ」

レックは肩に乗る手に自分の掌を重ねて、否定の意を示す。

「兄ちゃんだから、さ」

それだけ言うと、再び風のように走り出した。
このきつい坂道を越えれば、山の頂に聳える王城が見えてくる。

「立ち止まってごめんな!」
「……強がりが上手いよお前!」

キーファは、顔がどんな顔をしているか見えないよう、彼の背中を追いかける形で駆け出した。


*******


「魔物はいつもそう、私たちからいろんなものを奪う、悪いものよ」

勇者として覚束ない足取りであった少女は、“敵”の存在を執拗なほどに確かなものとする。
そうすることで、自分に流れる血の宿命を従え、一人立つことが出来ると信じていた。

1510哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:45:21 ID:chZJ0etU0

「お兄ちゃんが倒した大神官ハーゴンも……私たちをさらった、エビル……とにかくあいつも」

その剣を握る手には力が宿っている。

「魔物を操って皆を殺すなら、みんな、みんなきらい」
「大神官、そうか。これはまた奇妙な縁だ」

ティアの可憐な外見には不釣り合いですらある苛烈な覚悟の吐露は遮られた。

「憎きエビルプリーストは元は私の部下であり、そして元々は地獄の存在を祀る邪教の僧正。人間だった」
「……?」
「今となっては確かめる術は無いだろうが、お前の兄が殺した大神官もヤツと同じ……」

魔物を操り、ムーンブルクを攻め落とし、世界に混乱を引き起こした大神官ハーゴン。
彼のその正体については兄に聞いてみたことはなかった。
思案に頭を巡らせる間もなく、ピサロの続く言葉は鋭い矢のようにティアに襲い掛かる。

「人間だったのではないか?」

初めは何を言われているのか理解できなかった。
だが、投げかけられたその言葉を噛み砕いていくうちに、内容を飲み込むに至る。

「……‼︎」

遠回しに、本当に遠回しにではあるが。
兄たちを人殺しだと言われた。
途端に冷え切っていた顔がかっと熱くなり、心臓が爆発したのかと思うほどに跳ねる。

1511哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:46:00 ID:chZJ0etU0

「何それ……」
「人ならざる者、と言うだけで溜まった怒りをぶつけられるのはごめんだと、そう言っている」
「あたしたちから奪ってばっかりの魔物が何を言うのよ!!」

激昂した叫びと同時に震えが走った。
同時に、剣の柄本を爪が喰らい込むほどに握り締める。

「もういい!返して!」
「相容れないと分かれば排斥する。それが人間同士であったとしてもだ。善悪をとやかく論ずる気は私にはないが……」

仄かに熱を帯びるティアの声に対して、ピサロの答えは氷のように冷たいままだ。

「他者は魔王の私と勇者のお前、どちらに理があると考えるのか」
「知らないそんなの!」

抜き身の刃を構えたまま、ティアは駆け出した。
小柄な体躯の全体重をかけて刃がピサロに突き出される。

「槍使いの男を刺し殺したときのように考えなしに他人を脅かすのか?」
「うるさい!」

正確に言えば被害者であるエイトは死んではいない。
だが、剣を握ることも、誰かの生死に触れる経験も少なかったティアにとっては、心を揺さぶられる言葉であった。
刃は何を貫くでもなく、ピサロはひらりと攻撃をかわした。

「そういえば貴様が刺した男を癒していたホイミスライムがいたが……心優しいことだ。魔物の身にしてな」
「くっ!ぅええいっ!」
「今のお前はあれも斬るつもりだろう、魔物であるというだけで」

可憐な少女の表情は険しく歪み、奥歯はギリギリと音を立てんばかりに食いしばられている。
悪鬼に取り憑かれたかのように、目を血走らせ、闇雲に伝説の剣を振り回すその姿。
果たしてどちらが善で、どちらが邪悪か、判断に迷うほどに。

「私でなく、後ろの女が奪おうとしたとして。お前は自分の目的を阻む敵として殺すだろう」
「!」

剣を握って1日と経たない少女の攻撃は、到底届かない。
その舌戦と同じく、両者の距離は平行線のままである。
唐突に話に挟まれたポーラは己の顔を指差し驚きながらも置いてけぼりのままだ。

「勇者の血という建前を得て、強い力を己の思うがままに振るうのが心地良いのか」
「そんなわけないじゃない!あなたが、魔王で、魔物のっ、だって、みんなを」

やがてティアは、地団駄を踏み、駄々をこねる子供のように、反論にもならない言葉を投げつけることしかできなくなった。
眼の端から涙が溢れ、一筋の跡が埃に塗れた頬に刻まれる。
やがてティアは、何度目かの太刀筋を労せず避けたピサロに、手首を強く掴まれて捻り上げられる。

「あんたたちが悪いんだッッ!」
「凶暴なものだ。お前の兄を殺した存在と……」

兄との繋がりを、勇者の象徴である剣を取り上げられるものかとティアは痛みに耐えて剣を離さない。
行き場を失い、ぐるぐると体の中で巡り巡る激情。
あまりにも、限界を越えて張り詰めた彼女の感情は、続く一言で─


「今のお前に何の差がある」


─爆ぜる。

1512哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:47:54 ID:chZJ0etU0


*******


「くっそ、近頃坂道が膝に来るってのに……!」

広い平原を踏破し、トロデーンへの全力走行を終えた彼らの眼の前に現れたのは思いの外、急角度な坂道だった。
遠くから城を確認した地点でうすうす感づいていたがよほどな立地だ。
魔物などからの防衛には向いているだろうが、普段の外出は億劫なこともあっただろう。
ともあれ、事態は火急を要する。
深呼吸を挟み、体力を削られながらも駆け抜けきった。

「キーファ……この門の向こうから声が!」
「ぜぇぜぇ……ああ!」

大きな門の向こうから確かに誰かが居る気配がする、果たして竜王はここに来ているのか。
そう、思った矢先だった。

「!?」
「ぐおぁっ!」

門扉に両腕を押し当てて開こうとしたその瞬間、感じたことのないような猛烈な風が吹き抜けた。
身の丈を超えるほどに大きな門扉が、その重さを感じさせない速度で開かれる。
眼の前に立っていたため、跳ね飛ばされた扉にしたたかに額を打ち付けたキーファは、勢いよく後ろに吹き飛ばされかけた。
とっさに身を捩ったレックの伸ばした手を掴まなければ、あのひたすらに長い坂道を下まで転がり落ちていただろう。

「いってぇ……!」
「……なんだ……なんだ、これは……!?」

痛みにこらえて顔を上げたキーファ、そしてその隣でレックは、共に驚愕で眼を見開いた。

「──!!  ─! 〜〜──!!」

ごうごうと、鼓膜を直に叩かれていると錯覚しそうなほどの轟音が。
大きな瓦礫を容易く宙に舞わせ、中空でぶつかり合うたびに破砕するほど勢いを増した暴風が。
木々を、建造物を、大地を切り裂き、傷つけなぎ倒すほどの鎌鼬が。

「……け、 ─て …… っ ー!」 

泣きじゃくる少女を中心に、巻き起こっている。
まるで台風の目にひとり取り残されたかのようだ。
何事か泣きわめいているようではあるが言葉は風の音に阻まれて聞こえない。

「ウソだろ……!」

これまでの生で、各々のかつての冒険においてすら、見たことのない、まったく未知の災害と呼ぶべきモノに直面した彼らは、戦慄する。
その余りにも現実離れした光景に、二人ともが茫然自失としていた。
飛び交う礫が身体を掠め、その頬からつぅ、と垂れる自分の血液の温かみを感じ、やっと正気を取り戻す。

「ぉ に ー ちゃ… !」
「─ッ!」

1513哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:48:20 ID:chZJ0etU0

刹那、放たれた弓矢が如く、レックの身体は勝手に動いていた。
風の刃は嵐の中枢に近づくにつれ彼を傷つける。
彼はそれでも構わず、血飛沫を上げながら、顔を歪めて泣く少女へ駆け寄る。
その一歩一歩で肉体が、魂が削り取られんばかりの傷を負うことさえも厭わない。

「!、レックッ!待っ……」

キーファも彼を追い駆け出そうとした瞬間、より勢いを増した突風が顔面を叩きつけるように吹き込む。
眼を開けることすら困難な中で、レックの背中を、血染めの足跡を、懸命に追いかけようとするが足が前に動かせない。

「ちきしょうっ!」

自分が力不足なばかりに、誰かに置いてかれるという感覚を久しぶりに感じたキーファは、それがひどく辛く感じた。
キーファの脳裏に浮かんだのは、遠い記憶の中にある幼馴染。
そのおだやかな笑みに、胸がちくりと痛んだ。

「……うっ……ああっ」

少女に伸ばそうとしたレックの手に赤い線が走ったかと思えば、吹き出た血が飛び散り風に舞う。
痛みに堪え踏ん張ろうとするも、狙いすますように吹き飛んできた礫が、身体を打ち据えて後退りを強制される。
まるで奇妙なダンスでも踊るかのように。

「……ぐ……っ!!」

不意に、左目の視界が消失した。
鋭い風の刃が、顔面の左半分を削ぐように吹き抜けたらしい。
どうやら左目が開かず、そこには既に感覚すらない。
瞼ごと切り刻まれたか、すでに視覚の半分が奪われたようだ。

「うおおぉぉっ!」

礫が、疾風が、彼の肉体を傷つけていく。
全身に走る痛みはとうに限界を越え、迸る灼熱のような熱さのみをレックは感じていた。
しかし、大地を蹴る勢いは衰えない。
渦巻く嵐のその先には兄を呼び、叫ぶ少女。
彼女とは、からかいまじりに、かりそめの誓いを立てただけの間柄。
レックにとってのティアの存在は、言ってしまえばそれだけだ。
ただ、どうにも彼を突き動かしていたのは。

(バネッ─)
(ターニア……!)

彼女の泣くその姿が。
記憶の中の妹が涙を浮かべる姿に重なっていたから。
ただ、それだけであった。



「おにいちゃんっ! おにいちゃん……!」

涙は頬を伝い、ゆるりと曲線を描き顎先に滴り行くもの。
そんな常識を文字通り吹き飛ばすように、破壊の風はすべてを拒む。

「たすけ……っ ……!」

1514哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:49:45 ID:chZJ0etU0

手にした剣は荒れ狂う獣のように言う事を聞かない。
血流が流れているように蠢き、怒りを秘めているかのように脈動していた。
制御できぬまま、激情に任せ強大な力を振るったとして。
その牙は持ち主である彼女にすら向けられる。

「いたい……いたいよおっ……!」

想像を絶するほどの風の刃は少女の身体を容赦なく傷つけていた。
確かに一般的なそれと同じく、嵐の中心部に近づくにつれ少しはその勢いは弱まっている。
だが、彼女にとっては一つ一つが致命傷になり得る威力に変わりなかった。

「あづっ…… うぅ、ぁあっ……!」

皮が弾け、指先の肉が裂け、桜色の可愛らしい爪が呆気なく吹き飛ぶ。
ふくらんだドレスの裾も、綺羅びやかな装飾の髪飾りも、全く意味をなさぬ襤褸となって切り裂かれていく。
何度目かの風切り音とともに、己の指のどれかが切り飛ばされ、風に舞うのをティアは見た。
ひゅ、と呼気を飲み込むことがせいいっぱいで、全身を蹂躙される恐怖に凍りつき、痛みを味わう余裕すらない。

「たす、け」

もう、伝説の勇者ロトの重き名を、勇者の血脈を、継ぐ存在は彼女しか居ない。
その事実が、重圧が、力の暴走という形でまさに顕現していた。
対となる存在とも言える、魔王との接触を経てしまったことがそもそもの誤りだった。
多くの戦いを得て、さまざまな旅路を経て、”経験値”を積んで成長する。
勇者の力とは、その振るい方も定かでないままに行使できる代物ではなかった。
今や、刃の行き先を見失ったロトの剣は、王者の名を冠した全盛たる力を取り戻していた。
彼女にもはや受け止めきれるはずもなく、すべてを滅ぼす災禍と化す。

「たす……」

指先の、腕のほとんどは血に染まり、ところどころ骨まで達する傷もあった。
もはや武器を振るえる状態にない。
しかし、剣は彼女の手から決して離れようとせず、力の暴走は留まることがない。
剣の方が、最後の勇者の血族を、決して手放すまいと必死で繋ぎ止めているように。
勇者としての宿命が、まるで、彼女らにとって呪いであるかのようにも思えた。

” 助けて おにいちゃん!! ”

勇者として立つことを決めたときから、無理に押し留めた弱音。
風にかき消されたのか、潰れた喉から声にならない呼気として吐き出されただけなのか。
おおよそ聞き取れるようなものではなかった。

「大丈夫か?」

どうやら、妹の叫びは、彼の耳にはしっかりと届いていたらしい。
無惨にも傷だれかになっていようとも。
顔の半分が血に染まっていようとも。
なんでものないような、そんな雰囲気のままに微笑みを投げかける。
その光景は、彼女の頑なになってしまった手から、力を奪うのには足りていた。

「ああ、ぁ、ああ、ああ…………」
「いいんだ」
「だめ……だめだよう」

魔を討ち滅ぼすと決め、きつく縛り付けられた覚悟が解れていく。

1515哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:50:31 ID:chZJ0etU0

「あたしは、お兄ちゃんのかわりに、っ、ゆうしゃじゃなきゃいけないんだ……!!」
「……いいんだ」

魂に刻みつけられた使命という名の鎖が、外されていく。

「君は、こんな傷だらけになってまで、戦いを選ばなくたっていい」

風に飛ばされていた大粒の涙が、正しく頬を伝うように流れを取り戻す。
一度流れ始めれば、それは堰き止められていた河が解放されたかのように、止め処なく落ちていく。

「だって…… だって……!」
「俺が言うのもなんだけど」

強張るほどに握られた手のひらから、ずるりと血を垂らしながら、ロトの剣の柄が滑り落ちる。

「兄貴ってのはたいてい、妹にあんまり無茶させたくないんだ」

─やがて剣を中心として巻き起こった風は勢いを失い、凪を呼ぶ。
初めて、勇者の末裔として誰かの役に立てると思った。
伝説の剣を握れば、誰かを守れると考えていた。
けれども、目の前で、すぐ近くで、たくさんの人が命を失った。
知らない間に、かけがえのない兄も、その友人たちも、皆死んでいた。
自分だけでは何ひとつ救えなかった。
ずっと嫌だった。
突きつけられたその死を、尽く信じたくなかった。
だから、たった一つ残された、その血に縋りつき、勇者として無理に振る舞っていた。
そうすることでまだ、どこかの力なき誰かが、そして一人ぼっちの自分が救われると思っていたから。
けれども、力不足で。
情けないほどに、何もできなかった。
自分は幼く、愚かなままだった。

「あ、あああ ああ……!!」

そんな自分のことを、遠いいつか、それこそ、物心が存在していたかもわからないくらい。
兄が、カインしてくれたときのように。
今、レックが優しく抱きとめてくれていた。
何もできない自分を肯定して、守ってくれようとした。
そう、ほんとうは。

「わああああぁぁぁーーー!」

勇者になんてなりたいわけじゃなかった。
自分に流れる血を、そう誇っているわけでもなかった。
末裔であると主張したのは、大好きな兄たちと肩を並べたい、その一心。
真正面から抱き竦められ、大声で泣き叫んで。
初めて自分の本当の気持ちと向き合うことができた。

「おにいちゃん さみしいよお……! おにいちゃん、おいてかないでよぉ……!」
「……ティア」

1516哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:53:15 ID:chZJ0etU0

尋常でない嵐が晴れた中心に、傷ついた青年が、泣きじゃくる少女を宥めている。
奇妙な光景だが、少女の内なる心の中、幾度となく繰り返された戦い。
それに、こうしてひとつの決着が着いた。
それだけは違いなかった。

傷から滴る血で汚してしまって申し訳ないな、と思いつつも、レックの顔には安堵の微笑みが浮かぶ。
そして、抱きしめられたティアの表情は。
その瞳はまるで人形のように透き通っていて。

死を眼の前にした恐怖で見開かれていた。



「レック後ろだーーーーーッ!」



キーファの叫びは届いたが、それは、もう食い止めようもないこと。
昏き衣を靡かせた魔王が手から飛ばされた、殺意の乗った真空の刃がすぐ側まで迫っていた。
ふたりのうちどちらの物かは定かではないが、凡そ尋常でない量の血が柱を象るように吹き上がり─

「!!!」

目を見開き、激昂したのは間違いない。
キーファの意識はそこを境として、一度途絶えた。




*********



(……なんだ……)

瓦礫に埋もれかかった身体をよじり、起き上がったピサロは、自身の頭に走る鈍い痛みに顔を顰めた。
思わず額に手を当てると、ぬるりとした不快な感触が走る。
見つめる先の手のひらは気高き血で濡れ、長い銀髪も土埃に塗れてしまっていた。

(剣の魔力の……、暴走、か)

1517哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:56:04 ID:chZJ0etU0

凝縮された風の爆弾とでも言おうか、嵐の発生をまともに食らった身体はいかな魔王と言えどただではすまなかった。
節々は吹き飛ばされた勢いのままに弄ばれ、強かに全身を瓦礫の山に叩きつけられたせいか、擦過と切創の目白押しである。
だが、裏を返せばそれだけで済んでいた。

「ぐっ……」

立て続けに頭が痛んだ。
よもや、打ち付けた拍子に記憶の一つでも取りこぼしたか。
その考えは、ピサロの脳内に湧き上がったイメージから即座に払拭される。
これは忘却ではない、むしろ─

「これは……」

逆だ。

それは、この場にいるピサロの意思か。
それとも、どこかでありえたであろうピサロの”可能性”が目指していた歩みなのか。

(なぜ忘れていた)

魔王が足踏み、音をあげ行進を始める。
それを遮るものは、今この場にはない。

(なにを巫山戯ていた?)

手元にあった剣を拾う必要は、今はないだろう。
手のひらには考えるよりも早く、風の刃が顕現している。


(私は魔王ピサロ)


魔王たる彼の力を最大限引き出すのは、相反する存在に対して。
勇者の血を引くものとの対峙は大いなる引き金となり、ピサロの道筋を─覇道を、整えた。


(異世界に君臨するヘルムードなる闇の一族を討伐するため)


腕を一振りすれば、かまいたちが飛ぶ。
引き絞られた矢よりも早く、致命の刃は放たれ、身を寄せ合う兄と妹の身体を深く鋭く、傷つけた。
そこに怒りも、さしたる理由もなく。


(世界を、時間を越える術を得たではないか)


ピサロが目的を、魔王としてやるべきことを取り戻した、それだけだった。

1518哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:56:42 ID:chZJ0etU0


*********


ピサロの前には微動だにしない肉体が2つ転がっている。
少し離れた所にはもう一人。
今しがた殴り飛ばした者が意識を失い大の字で昏倒していた。
息の根があるようだが、もうそれはどうでもよかった。
彼は、自分の前に立ちはだかる存在こと、勇者の血筋を持つ者でもなんでもないからだ。

「……?」

瑞々しく光り輝いていた伝説の剣。
持ち主が手放してからしばらくは、その力を失うことがなかったのか光を湛えている。
魔王たる自分が、若干の嫌悪感すら抱かんばかりの輝きを。
ほどなく、ただの金属光沢に過ぎない鈍い輝きを放つだけの存在へと成り果てた。
血脈が絶たれたゆえに、役割を失ったのだろうと考えた。
誰かの手に渡るくらいならば戯れに拾おうか。
そんなことすら、彼は思わなかった。
すでにピサロにとってそれは、もはや脅威とならない。
振り返ることのない過去、どうでもいいものとなったからだ。

「?」

ほどなくして輝きが失われたはずの剣が微かに脈動し、淡い光に包まれる。
何が起こるか油断なく見つめていた矢先、ロトの剣は小さな宝玉へと姿を変えてしまった。

「……完全に役割を終えた、ということか」

力のオーブが寂しげな光を放ち、ころりと足元に転がる。
踏み砕くも拾い上げるも自由だが、ピサロは無視を決め込んだ。
自分の目的地がはっきりとした今となっては、この場にとどまる選択肢などない。

「……」
「ひ」

ぐるり、と首を動かして振り返れば、そこにはさらにもうひとり居た。
激しい暴風の影響を受け、吹き飛ばされ気を失っていたはずのポーラがいつの間にか目覚めている。
眼をいっぱいに見開き小刻みに震える姿は小動物を彷彿とさせ、胸の前におわかれの翼を抱えていた。
邪なる力とは正反対のものを感じられるそれを、大切そうに。
その方向へ踵を返して歩き出すと、彼女の表情がさらに青ざめた。
じゃり、と瓦礫と血まじりの土を踏みしめ一歩を踏みだすごとに、彼女の呼吸は荒く、大きく弾む。
逃げ出しても良かったのだが、どうもできないように見えた。
奪われてなるものか、そう言わんばかりに固く手に握りしめている、それ。
先程までの彼は、それにひどく、執着していたような気もしたが。

1519哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:58:59 ID:chZJ0etU0

「くれてやる」
「え……?」

しかし、今のピサロには必要がなかった。
近づいたのは風に飛ばされた堕天使のレイピアを回収する、それだけのためであった。
爪や牙が魔物のように発達しているわけでもない今のピサロにとって、剣は相手を絶命させるのに有用な道具である。

「だ……脱出、は……?」
「……」

ともすれば卒倒しそうな雰囲気の中で、彼女は浮かんだ疑問を問いかけた。
歴戦のバトルマスターとしての胆力がそれをギリギリで可能としたようだ。
ピサロはそれに答える必要などなかったが、一時は共に行動したよしみか、気まぐれか。
最後に一言だけ残した。


「そんなものに縋る必要がない。私は自らの力でエビルプリーストに粛清を下す」
「ぁ…… は……?」
「逃げ出したければ、貴様ら人間どもで勝手にするが良い」

ポーラを一瞥することもなく、暴風に半壊した正門へと向かっていった。

「逃げる"先"があれば、な」

それきり中庭を振り返ることもなく彼は外を目指す。
傍らに転がる者たちを、路傍の石かなにかと同じにしか思わぬ様子で。
そして、程なく出会う2人が、王の中の王であろうとも、覚醒した勇者姫であろうとも。
冷たき瞳で、変わらず見下すことは確定している。


*********


「……い……痛ででで……で」

全身が激しく痛む。
扉に強かに衝突し。
全身に瓦礫の雨を受け。
挙句の果てには、羽虫でも払うかのように顔面を打たれて吹き飛ばされたはず。
どれくらい、気を失っていたというのか。

「!レックッ!」

自分のことよりも、この場の誰よりも傷ついているであろう人物を思い出し覚醒した。
ぺろぺろと頬の傷を舐めてくれていたであろうトーポの軽い身体が、勢い良くキーファが起き上がった拍子に飛び跳ねる。
どうやら、一役買っていたのは、レックがエイトから預かっていた一匹のネズミによるものだったらしい。

「あ……ねずみの。お前、無事だったのか」

彼は、レックが懐に入れる形で預かっていたはずだ。
トロデーン城の中に入った際の道案内になればと。
そのトーポがこうして無事であるのならば、彼もまた無事なのではないか。
その希望に答えるように、覚えのある声で名を呼ばれた。

「キーファ、あまり動かないで。まだなんだ」
「レック!お前大丈─」

1520哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:59:25 ID:chZJ0etU0

途中まで言葉を投げかけた姿勢のまま硬直するキーファ。
己に回復呪文をかける青年のその姿はあまりにも痛々しいものであった。
膝立ちになる自分の足元には、まるで湧き水のように血溜まりが広がり続けている。
ベホマを紡ぐ唇は辿々しく、そもそも一呼吸ごとに喀血が止む様子がない。
こちらに視線を向けているつもりの瞳に光は無い。
片方の眼はもはや開くことはなく、見るも無惨に切り刻まれている。
掌は開いているだけで精一杯なのか両腕の震えが収まらない。
そんな大怪我人が、自分の身を擲ち、命を削って自分を癒やしていた。
キーファの頭は即座に冷え切って手を伸ばしかけ、やがてぴたりと動きを止める。
彼に触れればそこで、不安定な硝子細工のように崩れ落ちてしまいそうに見えた。

「魔法の聖水があってよかった……呪文のね。効きがどうも、よくなくて」
「そ、んなの……お前、俺なんかより、ティアのッ」

続く言葉が、口から出てこなかった。
キーファも徐々に悟る。

「生きて、キーファ」

その言葉は、できることならば"彼女"に投げかけたかったのだろう。
傍らに転がる小さき体。
直視するのも憚られるほどの首の傷口は、かろうじて皮膚だけで繋がっているように見える。
もうすでに、生命のすべてを流し尽くしてしまったであろう血だまり。
その量を見てしまっては、もう。

「っ!!」

声にならない怒りが溢れ出しそうになるが、レックの手前何も言えない。
嘘だと思いたくて、ティアの顔をもう一度見やる。
涙を流していた瞳がかろうじて閉じられて居たのは、彼の手によるものと容易に想像できた。
瞼の周りが血で汚しつつも懸命に瞳を閉じようとしたのが見て取れる。
レックの全身を見ればわかる。
ティアの顔を拭えるところが、彼の身体に見当たらない。

1521哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:59:47 ID:chZJ0etU0

「ターニアに言いたかったことも言えなかった」

誰もに優しくあろうと、常に溌剌とあろうとした兄の隠し通した本音。
現実の自分がどうであろうと、"このレックにとって"たったひとりの肉親への再会。
取り返しのつかない悔恨となって、震える声で零れ落ちた。

「ティアちゃんも、こんなに泣かせて……」
「レック……」
「後悔しても、仕方、ないのになぁ」

伸ばしていた手が、力なく下がる。

キーファがその身体を支えようとした手は残る痛みからか届かず、空を切った。
前のめりに倒れたレックは、横たわりながらぼんやりと傷ついた瞼を開く。
見えていないであろうその視線の先に居たのは、再会することが叶わなかった仲間たちか。
求めてやまなかったターニアの姿か。
その最期まで命がけで向き合い、救いを求めていたティアか。
レックの血で汚してしまったその顔を見ていると、すっかり赤で塗りつぶされていて、最期の意思すら読み取り難い。

「駄目な兄ちゃんだったよ、俺」
「……違ぇよ、お前は……」

キーファは、這いずるように近づき、回復呪文の効力でようやく動かせる用になった手を伸ばす。
汚れた手袋を口で引っ張り、素手で彼女の顔へ触れる。
彼女の目元に広がる血の汚れを、どうにか、優しい指先で拭い去った。
その表情は、これまでと変わらず傷だらけには違いない。
けれども、先ほどまでよりも少しだけ安らいで見えた。



「お前は、俺より……よっぽど立派な兄貴だよ」


レックの口元も、小さな少女の表情を知る術は無いであろうに、わずかに綻んだ。
そんな風に思えた。


「……」

砂利を踏む音が聞こえた。
おずおず、と歩み出た人物に、キーファは痛む身体を動かして視線を向けた。
彼女のその手に握られていたのは刃ではない。


「また会ったな、ポーラ」
「キーファ……」

死者を悼む彼が要るだろうと、汚れていない布を見繕い、キーファに向けて差し出していた。



【ティア@DQ2(サマルトリアの王女)死亡】
【レック@DQ6 死亡】

1522哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 03:00:38 ID:chZJ0etU0
【A-4/トロデーン城/2日目 朝】


【キーファ@DQ7】
[状態]:HP4/5 レックによる治療済
[装備]:はやぶさの剣・改@DQ8
[道具]:支給品一式、月影のハープ@DQ8、支給品1〜2個、ユーリルの不明支給品0〜1個 トーポ@DQ8
大魔神の斧@DQJ 蒼炎のツメ@DQ10 モリーの支給品1〜3個 確認済み支給品1〜2個
[思考]:大きな喪失感 竜王とアンルシアはどこに?
※トーポは元の姿に戻れなくされています。

※「ロトの剣」はちからのオーブ@DQCHへと姿を変えました
※氷柱の杖(残4)@トルネコ3 が近くに落ちています
※ようせいのくつ@DQ9 パーティードレス@DQ7 が喪失しました



【ポーラ@DQ9】
[状態]:HP2/5 MP1/3 
[装備]:銀河の剣@DQ9 星降る腕輪@DQ3
[道具]:支給品一式 支給品0〜3個 キメラの翼×1 炎竜の守り@DQ8 魔勇者アンルシアの首輪 アリーナの首輪 割れたラーの鏡 おわかれのつばさ
[思考]:殺し合いを止める。
元の世界に戻り、天使信仰を復活させる

※未練を残す死者の幽霊が見えます。そのままでは会話は出来ませんが、何かしらの道具を通すことで会話が出来るかもしれません。
※ラーの鏡を通して人の心の中を見ることが出来ました。今後何かほかの道具でも可能かもしれません。


【ピサロ@DQ4】
[状態]:HP1/3
[装備]:堕天使のレイピア
[道具]:支給品一式 『世界道具百科辞典』『勇者死すべし』 大魔道の手紙
[思考]:この空間を飛び越えてエビルプリーストをこの手で葬り去る

1:目的に向かってただ進む
2:勇者や魔王との戦いは経験値を得るために避けない

※異なる世界のピサロが辿った記憶・経験に覚醒しました
※首輪の仕組み、機能を知りました


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