したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

ドラゴンクエスト・バトルロワイアルⅢ Lv6

1ただ一匹の名無しだ:2016/08/23(火) 21:28:42 ID:1wMv/96g0
こちらはドラゴンクエストのキャラクターのみでバトルロワイアルを開催したら?
というテーマの参加型リレー小説スレッドです。

参加資格は全員にあります。
初心者歓迎、SSは矛盾の無い展開である限りは原則として受け入れられます。
殺し合いがテーマである以上、それを許容できる方のみ参加してください。
好きなキャラが死んでも涙をぐっと堪えて、次の展開に期待しましょう。

まとめWiki
http://seesaawiki.jp/dragonquestbr3rd/

避難所
http://jbbs.shitaraba.net/game/30317/

前回企画

ドラゴンクエスト・バトルロワイアルII
http://seesaawiki.jp/dqbr2/

前々回企画

ドラゴンクエスト・バトルロワイアル
http://dqbr.rasny.net/wiki/wiki.cgi
http://seesaawiki.jp/dqbr1/

DQBR総合 お絵かき掲示板
http://w5.oekakibbs.com/bbs/dqbr2/oekakibbs.cgi

2ただ一匹の名無しだ:2016/08/23(火) 21:29:57 ID:1wMv/96g0
----基本ルール----
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができ、加えて願いを一つ何でも叶えてもらえる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。


----放送について----
 スタートは朝の6時から。放送は6時間ごとの1日4回行われる。
 放送は各エリアに設置された拡声器により島中に伝達される。
 放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去6時間に死んだキャラ名」
 「残りの人数」「主催者の気まぐれなお話」等となっています。


----「首輪」と禁止エリアについて----
 ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「首輪」を填められている。
 首輪が爆発すると、そのプレイヤーは死ぬ。(例外はない)
 主催者側はいつでも自由に首輪を爆発させることができる。
 この首輪はプレイヤーの生死を常に判断し、開催者側へプレイヤーの生死と現在位置のデータを送っている。
 24時間死者が出ない場合は全員の首輪が発動し、全員が死ぬ。  
「首輪」を外すことは専門的な知識がないと難しい。
 下手に無理やり取り去ろうとすると首輪が自動的に爆発し死ぬことになる。
 プレイヤーには説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
 なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
 たとえ首輪を外しても会場からは脱出できないし、禁止能力が使えるようにもならない。
 開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると首輪が自動的に爆発する。
 禁止エリアは2時間ごとに1エリアづつ増えていく。

3ただ一匹の名無しだ:2016/08/23(火) 21:30:29 ID:1wMv/96g0
--スタート時の持ち物--
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を配給され、「ふくろ」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「着火器具、携帯ランタン」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「支給品」
 「ふくろ」→他の荷物を運ぶための小さい麻袋。内部が四次元構造になっており、
       参加者以外ならどんな大きさ、量でも入れることができる。
 「地図」 → 舞台となるフィールドの地図。プレイヤーのスタート位置は記されているが禁止エリアは自分で書き込む必要がある。
 「コンパス」 → 普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「着火器具、携帯ランタン」 →灯り。油は切れない。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「食料・飲料水」 → 複数個のパン(丸二日分程度)と1リットルのペットボトル×2(真水)
 「写真付き名簿」→全ての参加キャラの写真と名前がのっている。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「支給品」 → 何かのアイテム※ が1〜3つ入っている。内容はランダム。

※「支給品」は作者が「作品中のアイテム」と
 「現実の日常品もしくは武器、火器」の中から自由に選んでください。
 銃弾や矢玉の残弾は明記するようにしてください。
 必ずしもふくろに入るサイズである必要はありません。
 また、イベントのバランスを著しく崩してしまうようなトンデモアイテムはやめましょう。
 ハズレアイテムも多く出しすぎると顰蹙を買います。空気を読んで出しましょう。

--制限について--
 身体能力、攻撃能力については基本的にありません。
 治癒魔法については通常の1/10以下の効果になっています。蘇生魔法は発動すらしません。
 キャラが再生能力を持っている場合でもその能力は1/10程度に制限されます。
 しかしステータス異常回復は普通に行えます。
 その他、時空間移動能力なども使用不可となっています。(ルーラなど)
 MPを消費するということは精神的に消耗するということです。
 全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内ということでお願いします。

 ※消費アイテムならば制限されずに元々の効果で使用することが出来ます。(キメラの翼、世界樹のしずく、等)
  ただし消費されない継続アイテムは呪文や特技と同様に威力が制限されます(風の帽子、賢者の石、等)
【本文を書く時は】
 名前欄:タイトル(?/?)
 本文:内容
  本文の最後に・・・
  【名前 死亡】※死亡したキャラが出た場合のみいれる。
  【残り○○人】※死亡したキャラが出た場合のみいれる。

 【座標/場所/時間】

 【キャラクター名】
 [状態]:キャラクターの肉体的、精神的状態を記入。
 [装備]:キャラクターが装備している武器など、すぐに使える(使っている)ものを記入。
 [道具]:キャラクターがふくろなどにしまっている武器・アイテムなどを記入。
 [思考]:キャラクターの目的と、現在具体的に行っていることを記入。(曖昧な思考のみ等は避ける)
 以下、人数分。

※特別な意図、演出がない限りは状態表は必ず本文の最後に纏めてください。

4ただ一匹の名無しだ:2016/08/23(火) 21:30:52 ID:1wMv/96g0
【作中での時間表記】
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 真昼:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24



【D-4/井戸の側/2日目早朝(放送直前)】

【デュラン@DQ6 死亡】
【残り42名】

【ローラ@DQ1】
[状態]:HP3/4
[装備]:エッチな下着 ガーターベルト
[道具]:エッチな本 支給品一式
[思考]:勇者を探す ゲームを脱出する


━━━━━お願い━━━━━
※一旦死亡確認表示のなされた死者の復活はどんな形でも認めません。
※新参加キャラクターの追加は一切認めません。
※書き込みされる方はスレ内を検索し話の前後で混乱がないように配慮してください。
※参加者の死亡があればレス末に必ず【○○死亡】【残り○○人】の表示を行ってください。
※又、武器等の所持アイテム、編成変更、現在位置の表示も極力行ってください。
※具体的な時間表記は書く必要はありません。
※人物死亡等の場合アイテムは、基本的にその場に放置となります。
※本スレはレス数500KBを超えると書き込みできなります故。注意してください。
※その他詳細はスレでの判定で決定されていきます。
※放送を行う際はスレで宣言してから行うよう、お願いします。
※最低限のマナーは守るようお願いします。マナーはスレでの内容により決定されていきます。
※主催者側がゲームに直接手を出すような話は序盤は極力避けるようにしましょう。

5ただ一匹の名無しだ:2016/08/23(火) 21:31:19 ID:1wMv/96g0
5/6【DQ1】○アレフ(勇者)/○ローラ姫/○竜王/○ゴーレム/●ドラゴン/○スライム
5/7【DQ2】○ローレル(ローレシア王子)/○トンヌラ(サマルトリア王子)/○ルーナ(ムーンブルク王女)
      .○ティア(サマルトリア王女)/●竜王のひ孫/●ネプリム(悪魔神官)/○ハーゴン
7/8【DQ3】○アスナ(女勇者)/○フアナ(女僧侶)/●ホープ(男盗賊)/○サヴィオ(男賢者)/○オルテガ
      .○カンダタ/○バラモス/○パトラ(イシス女王)
5/8【DQ4】●ユーリル(男勇者)/○ライアン/○ブライ/●トルネコ/●アリーナ/○クリフト
      .○ホイミン/○ピサロ
8/8【DQ5】○アベル(主人公)/○デボラ/○パパス/○リュビ(息子)/○サフィール(娘)/○ゲマ
      .○ばくだんいわ/○ゲレゲレ(キラーパンサー)
7/8【DQ6】○レック(主人公)/●ハッサン/○チャモロ/○バーバラ/○アモス/○ターニア
      .○デュラン/○ジンガー(キラーマジンガ)
6/7【DQ7】○アルス(主人公)/○マリベル/○キーファ/○フォズ/○メルビン/●アイラ/○ガボ
7/9【DQ8】○エイト(主人公)/○モリー/○ゲルダ/○ゼシカ/○ミーティア/○ヤンガス/○ククール
      .●マルチェロ/●トロデ
6/7【DQ9】○アーク(男主人公)/○スクルド(女僧侶)/○コニファー(男レンジャー)/
      .○ポーラ(女バトルマスター)○イザヤール/○サンディ/●エルギオス
7/9【DQ10】○ジャンボ(男主人公)/●魔勇者アンルシア/○勇者姫アンルシア/○セラフィ
      .○ヒューザ/○ナブレット/●ズーボー/○ザンクローネ
3/5【JOKER】○ヘルバトラー/●ギガデーモン/●アンドレアル/○キングレオ/○バルザック

66/82名

6ただ一匹の名無しだ:2016/08/23(火) 21:33:57 ID:1wMv/96g0
テンプレ終了
いつまでも一時投下スレ使うのもなんなので、こちらに本スレ建てさせていただきました

7ただ一匹の名無しだ:2016/08/23(火) 21:41:03 ID:0TTcKzhQ0
スレ建て乙です!

8 ◆OmtW54r7Tc:2016/08/24(水) 22:26:17 ID:PxZETmTw0
投下します

9それは不思議な出会いなの ◆OmtW54r7Tc:2016/08/24(水) 22:27:13 ID:PxZETmTw0
「うおおおおおおおお!」

走る。
走る。
走りまくる。
ロッキールは今、全力でもと来た道を走っていた。
というのも、地図も見ずに東へ走っていた彼らは、川にぶち当たってしまったのだ。
岩人間と化したこの身体で泳ぐのは至難の業である。
新しく生まれ変わった興奮から少し落ち着いたロッキールは、そこでようやく地図を見て探すという方法に思い至った。
そして近くに城があることを知ったロッキールは、一国の主であるアベルならそこにいるかもしれないと当たりをつけ、東へ進んだ道を引き返しているのだ。

「おお、あれは!」

そうして休むことなく走り続けたロッキールは、見つけた。
先を歩く、3つの影を。
しかもその内の一つは、彼の…正確にはロッキールの半分の人格であるロッキーがよく知る背中だった。


「ゲレゲレ先輩ィィィィ!!」




背中から聞こえてくる声に、ジャンボ、ターニア、ゲレゲレは振り向いた。
そして、揃ってギョッとした。

10それは不思議な出会いなの ◆OmtW54r7Tc:2016/08/24(水) 22:27:40 ID:PxZETmTw0
「それがしでございますよ、ゲレゲレ先輩ィィィ!」

なにか、変な人間がこちらに迫ってきていた。
それは、ターニアがジャンボに対して抱いたそれよりも何倍も奇妙な感覚だった。
灰色の妙にゴツゴツとした肌。
それだけでも奇妙だが、所々に緑やら銀色の肌が混じっていて不気味さを煽っている。

「げ、ゲレゲレ、呼んでるよ…?」

ターニアがゲレゲレの方を向いて言うが、ゲレゲレも困惑しているようだった。
やがてこちらに怪しいゴツゴツ肌人間が追いついてきた。

「くううん…?」

ゲレゲレはじっとその人物を見つめる。
やはりこんな奇妙な人間には会ったことなどないはずだ。
だがしかし、かすかにだが覚えのある匂いを感じるような気もする。


「くうう…グルグルグル……!」


ゲレゲレは何かを思い出そうとしている!


「くううん…」


しかしゲレゲレは思い出せなかった!


と、ここでようやく現れた人物は正体を明かした。

「それがしですよ、ゲレゲレ先輩、ロッキーです」
「ガウ!?」

11それは不思議な出会いなの ◆OmtW54r7Tc:2016/08/24(水) 22:28:28 ID:PxZETmTw0
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「人間とばくだんいわが合体ねえ…」

ロッキールから事情を聞かされたジャンボは、まじまじと見つめる。
何度見ても、奇妙という他ない。

「それでこんなヘンテコな化け物が誕生したってわけか」
「化け物とは失敬な!お主こそ奇妙な姿形をしているではないか!」
「あぁ!?誰がカビ団子だと!?」
「け、喧嘩はやめてください」

睨み合うロッキールとジャンボを、慌てて止めに入るターニア。
そんな彼女もやはりロッキールの外見にはなかなか慣れることができないようで、若干引き気味だ。

「えっと…ロッキールさん?とりあえず座ってください。かなりお疲れのようですし…」

ロッキールは先ほどまで、東へ西へと休みもせずに走り回っていた。
ローレルにとってもロッキーにとっても慣れないこの岩人間の格好での全力疾走は、相当に消耗が激しかったようで、先ほどから会話をしながら肩で息をしていた。

「いやしかし、一刻も早くアベル様のもとに行かなくては!」

そういってロッキールは走り出し……こけた。

「ぜえ、はあ、ぜえ、はあ…」
「落ち着けよ、城にそのご主人様がいるとは限らないだろ?(うお、重いな)」

転んだロッキールを起こしてやりながら、ジャンボが言う。

「しかし、それがしは…」
「アベル様を守る、だろ?それなら体力くらい温存しとけ。いざという時疲れて力が出ないじゃ、シャレにならねえぞ?」
「ガウガウ!」

ジャンボに便乗して、ゲレゲレも止めに入る。

「むうう、ゲレゲレ先輩までそうおっしゃるならば仕方がない。少し休ませてもらおう」

制止を受けたロッキールは結局折れ、その場に横になった。

12それは不思議な出会いなの ◆OmtW54r7Tc:2016/08/24(水) 22:29:02 ID:PxZETmTw0
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


(しかし、ジャンボといったか…)

横になって目をつむりながら、ロッキールは同行者の一人について考えていた。
ターニアについては無害だと判断したが、彼についてはまだ完全に心を許したわけではなかった。
ロッキール自身は実際にジャンボと話してみて、そんなに悪い奴ではなさそうだと思ってはいるのだが…

「グルル…」

問題は、仲間であり先輩のゲレゲレであった。
ジャンボやターニアと話をしながらそれとなく様子を見ていると、どうにもゲレゲレはジャンボに対して敵意を示していた。
ゲレゲレは、一時は野生に帰ったとはいえ幼少期から人間と接してきた故か、理由もなくこのように他人に敵意を向けたりしない。
そんな彼が敵意を示すのは、なにもジャンボが人間ではない種族だからというわけではないだろう。
なにかが、あるのだ。
ゲレゲレに敵意を抱かせる、なにかが。

(ジャンボ殿、お主がもしもアベル様に害を為す存在であるならば…それがしが斬る!)

ひとまずは様子見だ。
ローレルとしての戦士の勘ではこのジャンボという男、かなりの手練れだ。
この慣れない身体と扱いにくい剣では返り討ちになるだけだろうし、もしも無害であるなら頼りになる存在だ。
その辺りはこれから見極めさせてもらおう。

(この剣もリュビ様に返さなくてはな)

支給されたローレルは知らなかったが、彼と融合したロッキーは知っている。
この剣は、天空の剣。
天空の勇者であるリュビの物だ。
アベル様の息子である彼は、少々気弱な所があるし、早く届けたい所だ。

(アベル様、デボラ様、リュビ様、サフィール様…みな、どうかご無事で)

主とその家族の無事を願いながら。

(そういえばルーナやトンヌラはどうしているであろうか…りゅうちゃんも無事だと良いのだが)

仲間や友の安否を気にかけながら。


全力で走って疲れていたのだろう。
ロッキールの意識は、ゆっくりと闇に落ちていき、眠りについた。

13それは不思議な出会いなの ◆OmtW54r7Tc:2016/08/24(水) 22:29:53 ID:PxZETmTw0
【D-4/草原/1日目 昼】
【ロッキール(爆弾岩人)@ローレル@DQ2+ロッキー@DQ5】
[状態]:健康 岩石とオリハルコンとドラゴンローブの合成肌、疲労(大)、熟睡
[装備]:天空の剣
[道具]:支給品一式 罠抜けの指輪 罠の巻物×3
[思考]:アベルを探し、仕える ジャンボには一応警戒

【ゲレゲレ(キラーパンサー)@DQ5】
[状態]:HP2/3、胴体にダメージ(中)、身体側面に切り傷
[装備]:悪魔のツメ@DQ5
[道具]:支給品一式、四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1
[思考]:
基本方針:主催を倒して脱出する。
1:ジャンボに不信感。

【ターニア@DQ6】
[状態]:体の一部に擦り傷あり
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、道具1〜3
[思考]:
基本方針:お兄ちゃんと合流したい。
1:ジャンボについていく。

【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:健康
[装備]:ナイトスナイパー@DQ8
[道具]:支給品一式、道具0〜2
[思考]:
基本方針:エビルプリーストに借りを返す。6世界の人物を……?(非力な人物は除外)
1:トロデーン城へ。
[備考]:
※職業はレンジャーです。少なくともサバイバルスキルが140以上、弓スキルが130以上です。

14 ◆OmtW54r7Tc:2016/08/24(水) 22:30:28 ID:PxZETmTw0
投下終了です

15ただ一匹の名無しだ:2016/08/25(木) 21:33:27 ID:rwArT9Jk0
投下乙
ロッキールの不審さとキャラの濃さ半端ねえ…
ジャンボも順調に不穏なフラグ積み重ねていってるし、先行き不安しかない

16ただ一匹の名無しだ:2016/08/25(木) 23:19:45 ID:LaUL1hME0
投下乙です
ゲレゲレ先輩ィィィ!にワロタwロッキールは二人分の思考が入り乱れてややこしいなw
岩人間にカビ団子にキラーパンサーってすごい見た目だな。ターニア生きろ。

17ただ一匹の名無しだ:2016/08/28(日) 14:46:10 ID:cgcGRzE.0
てすと

18 ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:00:13 ID:OBqYEFU20
だいぶ前に予約してたアルス、クリフト、エイト、ブライ、ククール、ヒューザ、メルビンの話を投下します
長いのでご注意を

19『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:03:47 ID:OBqYEFU20
トロデーン王家家臣としてのエイトの責務。
それらの外的要素をすべて取り除いた、一人の人間エイトの倫理観。
エイトの心の奥で、二つが激しく衝突していた。
有事の際に非情になろうとしつつも、非常に徹しきれてない未熟さ。
実際のところ、そういった人間味のある部分こそミーティア姫とトロデ王は評価しているのだが、エイト本人はそれを知らない。

「……却下だよ」

おそらくククールの言葉から経過してるのは、時間にしてわずか数秒に過ぎないであろう。
しかし、エイトにとってはその何十倍もの時間が経過してるように感じていたはずだ。
苦々しい顔でしたククールへの回答は、ノーだった。
今はまだその時ではない。 それがエイトの見解だ。
状況を見極めるには、まだ何もかもが足りない。
この殺し合いでの身の処し方を決めるのには、あまりにも判断材料が不足している。
何より、殺し合いに乗るという道を選んでしまうと、容易に後戻りできるものではない。
人道的な意味でも、殺し合いに乗ったことを知られた場合への目撃者への対処という意味でもだ。
最悪の場合、1対70数名の可能性を背負ってしまうのだ。
それはあまりにもリスクが高すぎる。

エイトの目的はミーティア、トロデ両名以外の殺害などではない。
最優先の目的は両名の安全の確保と生存であった。
この二人が生き残るのであれば、他に何人生き残っていようが構わない。
そこに善人悪人の区別はない。
ゼシカ達も生き残ってくれると、エイト本人も嬉しい。 
何なら、こんなことを言ってきたククールだろうと生還しても問題ない。
エイトの目的は殺害ではない。 殺害はあくまで目的を達成する手段に留めるべきなのだ。

しかし、ククールは違った。
彼は最初から集団に溶け込み、時期を見て狩る方法ではなく、さっそくアルス達三人の始末を提案した。
彼にとっては殺害が目的なのだ。
両者の違いはここにあった。
普段のククールは皮肉屋な面もあるが、冗談でも皆殺しをしようという血の気の多い輩ではない。
それは長い間旅をしてきたエイトが自信を持って断言できる。

(おそらくこの殺し合いに呼ばれてから、私たち二人が再開するまで)

そこに、ククールを殺しの道へ進ませた何かがあるはずだろうと、エイトは予測をつけた。
しかし、今はその詮索をする時間がエイトにはなかった。

「へえ……」

エイトの言葉をある程度予測していたのだろうか。
ククールは怒気でもなく、失望でもなく、薄い笑みを浮かべた。
現状としては、ククールは自身の企みをうっかりエイトに漏らしてしまったばかりか、それをエイトがアルス達に伝えてしまえばもっと状況は悪くなる。
アルス達の反応次第では、ククールはたった一人で四人との戦いを演じないといけないのだ。
それが分からぬククールではあるまい。

20『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:04:21 ID:OBqYEFU20
「ここから去るんだククール。 せめてもの情けだ。 君だって四人相手に勝てるとは思わないだろう?」

本音を言えば、エイトとしてはククールを殺してしまいたいところだ。
ククールが本当に殺し合いに乗ってしまったのなら、それはもう立派なトロデーン王国、ひいてはトロデ王とミーティア姫の敵だ。
王家に仇名す敵ともなれば、殺さねばならない
だが、言うは易く行うは難い。
まったくの他人であるブライでさえ殺すことに躊躇っていた自分が、かつての仲間であるククールを殺せるのか。
仲間としての情を容易く振り払えるものなのか。
個人的な感情を持ち込んでは、槍の穂先も鈍る。
しかし、そこを乗り越えてこその忠臣だ。
やれるのかと聞かれたら、エイトはやってみせると答えるだろうが、今すぐには不可能な事情もある。

「そいつはありがたいんだが……いいのか? イエスと答えて油断させてから、俺のことをその槍で背後からブスリと刺すことも可能だったはずだ」
「君だって答えがノーである可能性は十分に考慮してるはずだ。 不意打ちは無理だった、そうだろう?」
「よく分かってるじゃないかエイト。 さすがは同じ釜の飯を食った間柄ってとこか」

ククールはレイピアを、エイトは砂塵の槍を取り出し、お互いに距離を開けていく。
言葉だけは応酬を続けつつ、二人の距離は物理的にも精神的にも離れていく。
きっと、元の世界に生還することができたしても、確実に二人の関係は変わっていくだろう。
もう以前のままではいられない。
エイトもククールも、それをなんとなくだが察していた。
修羅の道へと突き進むことを選んだククール。
いまだ修羅に至る道への途中で立ち止まっているエイト。
同じ道にいながら、二人のスタンスは明確に別れていた。
この時点で、前方を歩いていたアルス達三人がようやく異常事態を察知した。

「な……エイトさんククールさん! どうしたんですか!? 喧嘩ですか!?」

クリフトが仲裁に走ろうとしたが、それどころではないことに気付くのは時間はかからなかった。
剣呑な表情で睨み合うだけならまだ微笑ましいレベルだろうが、武器を取り出して構えているのだ。
殺気を隠そうともせず、引き絞られた弓のごとく張りつめた緊張感が漂っている。
今この二人の間に立つ、ということは命の覚悟すらしないといけない。
それだけの認識をクリフトは抱いていた。

(バ、バカな……二人は仲のいい友人だったはずでは……! 何が二人をここまで!?)

ブライもまた、二人を制止しようと動き出していた。
年の功が通用するかは分からないが、少なくともこの中での年長者はブライなのだ。
この場を治めるとしたら、それは自分の役目だ。

「ええい、二人とも今はそんなこと――」

そこまで言いかけたところで、ブライの口の動きが止まる。
エイトがククールに向けて放っている殺気。
あれはエイトに会った頃に首筋に突きつけられたものと、同種のものではないのか。
あの時、間違いなくブライは死を覚悟した。
冷や汗をかき、心臓が口から飛び出さんばかりの心境だったのをブライは覚えている。
迫真の演技だとしても、タチの悪い冗談だと怒り心頭に怒ったほどにだ。

21『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:05:37 ID:OBqYEFU20
(もしやあの時のエイトどのは冗談ではなく本気で……いや今は関係ないではないか!)

ブライは首を振り、降ってわいた疑問を振り払う。

「ククールが、私に提案したんですよ……手を結んで皆さんを殺さないかと」

さすがにアルスも、エイトのその言葉には驚かざるを得ない。
動揺が広がるアルス達三人を尻目に、ククールとエイトの言葉は続く。

「で、お前はそれを断った。 だが、答えを出すまでにえらく時間がかかったじゃないかエイト。
 本音を言ってしまえよ。 お前だって悩んでるんだろう?」
「勝手に決めないでくれ。 誰だって信頼できる仲間の口からそんなことを聞いたら混乱する。
 君の言ってることが聞き違いじゃないかと、飲み込むまでに時間がかかっただけだ」
「はっ、どうだかな」

エイトがククールを殺害できなかった理由はもう一つある。
ククールの殺害をするということは、その光景をアルス、クリフト、ブライの三名に見られるということだ。
この三名の承認を得ないことには、殺害はできない。
事後承諾ではダメなのだ。

ククールを殺すにしても、まずはククールが『悪』であると、三名に認識させないといけない。
ククールの言葉を聞いたエイトが、そんなことは許さないと一瞬で心臓を一突きにしたとして、それが三人の目にどう映るのか。
かつての仲間でさえも容易く手にかける、冷酷な人間との評価が下されかねない。
仕留め損なえばククールの口から、エイトも殺しに乗りかかっていることをしゃべられてしまうかもしれない。
もちろんつい先ほどまで赤の他人だったアルス達三人は、いつ自分らが殺されるのかと不信感を抱いてもおかしくはない。
そうなってしまえば、一緒に行動することすら拒否されてしまうかもしれない。
まずは集団に溶け込むことを選択したエイトとしても、それはできる限り避けたい事態だ。

ククールはこの殺し合いを加速させる行為を働く悪人である。
よって、こいつは確かに殺されても仕方ない。
エイトはそういう大義名分を三名から得ないといけないのだ。

(何なんだ。 ククールのこの余裕と笑みは……?)

エイトにはそれが不可解だった。
今の状況はククールにとって面白くない状況のはず。
今すぐにでも戦闘が始まって、ククールは数の暴力によって抵抗すらままならない可能性もあるのだ。
それが何故笑っていられるのか。
おそらく、ククールにはこの場を切り抜ける公算があるのだろうとエイトは見抜いていた。 
槍を握る力を強くし、警戒のレベルをさらに上げる。

「一つ、いいかな?」
「何だ、アルス?」
「どうして僕たちを殺そうと?」
「意味のない問いだな。 俺に正当な理由があれば、お前は大人しく死んでくれるのか?」
「それは嫌だなあ……」

最後にはははっと軽い笑いを浮かべて頬を掻くアルス。 
あまりにも軽い。 呆れるほどにいつも通り過ぎるのだ。
それに対して疑問を浮かべる人間は、場の雰囲気のためか今は誰もいなかった。

22『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:06:08 ID:OBqYEFU20
「エイト、忠告してやるぜ。
 俺たちが置かれてる状況は、きっとお前が思ってるよりはるかに切迫してる。
 悠長に構えてる暇なんてないはずだ」
「だから、君は殺し合いに乗ったのかい? 私が暢気だとしたら、君は急ぎ過ぎだククール。
 何があったかは分からないけど、それが分からない君じゃないだろう」
「もたもたしてる間に姫さんとトロデ王に何かあったらどうするんだ?
 そのせいで、あの二人がお前のいないところで死ぬ可能性だって――」

「有り得ないッ!!!!!」

その瞬間、エイトの表情が明らかに変わった。
決して踏み込んではいけない領域に、ククールは土足で突っ込んだのだ。

「私のいない場所であの二人が死ぬなんて有り得ない! あってはいけないんだ!!!!
 私はどんな時でもあの方たちの危機には駆けつけないといけない!
 関係ない場所で死んだなんてことは許されない!
 私はあの方の危機にはどのような状況だろうと、絶対に関係してないといけないんだッ!!!
 それができなくて何のための近衛だ! 何のための兵士だ! 
 例え病に伏していようと! 命に関わる怪我をしていようと! 私は這ってでも! あのお方たちの命を救いに行く!!!」

この魂も肉体も、すべてミーティア姫とトロデ王に捧げたのだから。
あの日、あの時、拾われたエイトは一生分の恩を受けたのだから、あとはそれを返していくだけだ。
そう言わんばかりのエイトの表情は、まさに鬼気迫るものがあった。
唾すら飛ばしかねない勢いでまくしたてるエイトに、それを聞いていたものの反応は様々だ。
クリフトとブライは忠臣かくあるべしと感心する一方で、常軌を逸したエイトの様子に対し空恐ろしいものを感じた。
エビルプリーストの何でも一つ願いを叶えるという言葉に、エイトが耳を貸してしまったらどうなのるかと。
もしも本当にミーティア姫とトロデ王が死んだ場合、彼はどうなるのかと一抹の不安を覚える。

「そうだよな。 温厚なお前が唯一怒るとしたら、トロデ王と姫さんのことだったもんな。
 忠誠心だか何だか分からないけど、お前のそういうとこ、欠点だと思うぜ? いつか命取りになる」
「言ってくれるね」
「老婆心みたいなもんさ。 つまらない場所でお前に死なれると俺も寝覚めが悪い」

そんなことは分かっている。
エイトにとってトロデ王たちは、命の恩人を通り越して殿上人のような存在にまでなっていた。
抱いている感情も感謝どころか崇拝の域にまで達しているのも、良くない傾向だとトロデ王本人に窘められたこともあった。
しかし、今更どうしようもないのだ。
そうやって優しい言葉をかけてもらう度に、エイトはまた忠誠心が高まっていくのだから。

「……皆さん、ククールを捕縛します。 最悪の場合、私が責任を持って討ちます!」
「エイトさん、それは……!」
「分かってください。 ここで彼を放っておけば、アリーナ姫をも傷つけてしまうかもしれない」
「そ、それは……!」

クリフトもようやくその可能性を考えたことで、覚悟を決めたのだろう。
声をかけられた三人がそれぞれ戦闘態勢を取ったことを、エイトは背中越しに悟る。

23『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:06:28 ID:OBqYEFU20
ついにエイトはこの場の流れを掴むことに成功したのを確信した。
ククールの明確な殺意を他の三人に証明し、仲間殺しの免罪符を得たのだ。
捕縛を第一条件にはしているが、ククールの口からは色々と語られたら困る情報が出てくる恐れがある。
エイトは最初から、どさくさに紛れての殺害を目論んでいた。
仲間殺しは辛いだろう。 ヤンガスやゼシカたちにも何かしら言われるだろう。
ここに来る前は確かに、エイトはククールのことを、またククールもエイトのことを、かけがえのない仲間だと思っていたのだ。
共に笑ったエピソード、共に傷つき助け合ったエピソードが山ほど思い出せる。
けれども、忠誠を誓った人たちのためならこの槍を振るえる。
楽しかった記憶も温もりも捨ててしまえる。
エイトは私心を殺してみせる。
今この瞬間、エイトは私情を捨てて、王家のために刃を振るう兵士へと変貌した。

(全てはあの人たちのために)

その言葉を心の中で呟いて、エイトは覚悟を決める。
溢れだす魔力が赤熱化して、エイトの周囲を渦巻く。
炎へと形を変えた魔力が、周囲の空気を歪める。
右手へ集束された炎がエイトの指先が示した方角へと、放射状に広がった。

「ベギラマ!」

大地を焦がしながらククールへと殺到するベギラマ。
それを見たククールの対応も素早かった。
一瞬で魔力を最大限まで高めて詠唱を開始する。

「神の御名において、我が敵に苛烈なる裁きを! バギマ!!」

ククールが腕を振るうと同時に、ククールの足元から竜巻が生じた。
押し寄せてくるベギラマの炎に、竜巻が正面からぶつかる。
炎が竜巻の勢いに呑まれまいと燃え上がる。
竜巻が炎を飲み込もうとその勢いを増す。
結果は両方消滅の相殺だった。
だがしかし、その結果が出る前から、エイトは槍を持って大地を蹴っていた。

(手加減はしない。 いや、できない!)

ククールの実力は嫌というほど知っている。
手心を加えると、逆にやられる可能性もあった。
故に、エイトは一切の雑念を捨てた。
槍の一番の利点は接近戦におけるそのリーチの長さにある。
その間合いの広さを生かして、終始ククールの射程外から攻め続けるつもりなのだ。
だが、対極的にククールはあくまでも冷静なままだ。

「バギクロス!」

今度はバギマよりもさらに大きな竜巻を創り出したのだ。
このまま竜巻に突っ込んだら、自身の体はズタズタになる。
余りの風圧に、エイトは一瞬目を閉じる。
エイトは停止して、回避か迎撃かの選択を迫られた。
だが、ククールの放った竜巻は進行を開始しない。
まるで、その場にとどまり続けることをククールに命じられたかのようにだ。
竜巻の向こうにかすかに見えたククールの笑みが、エイトをイラつかせた。

24『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:06:48 ID:OBqYEFU20
「邪魔だ!」

小細工ならすべて突破するまで。
エイトも魔力を最大限まで高めて、今度はベギラゴンを放った。
放たれた圧倒的な量の炎は、まるで絡み合う2頭の炎の竜。
バギクロスとぶつかりあったベギラゴンが、先ほどのベギラマとバギマのやり取りを再現してみせた。 その規模を数倍にしてだ。
最高クラスの呪文の使い手など、世界に一握りの存在だろう。
それはまさに、神話に語り継がれる神々と魔の者との最終決戦にも似た荒々しさ。
天変地異を想起させるほどの圧倒的な魔力のやり取りだが、結末はあっけないものだった。
互いの呪文が消滅すると、熱気を帯びた風が周囲に吹き荒れた。
最大級の呪文の応酬に、アルス達三人もこの戦いが本当の、かつての仲間同士による殺し合いだと思い知ることになる。
ベギラゴンとバギクロスが互いに消え去ったあとに残っていたのは、エイト、アルス、ククール、ブライの四人のみ。

「っ!?」

ククールがいない。

「死んだ……?」
「いや、呪文の威力はほぼ互角だったはずじゃ。 それに死ぬにしても骨くらいは残る」

アルスの声に、攻撃呪文のエキスパートであるブライが答える。
死体は確かにない。 だが、ククールの姿形がどこにも見当たらない。

「逃げられた……」

バギクロスとベギラゴンが激突している時間、確かにククールの姿は見えなかった。
その間に全速力で逃げたのか。
この場で一番納得できる推論を立てて、エイトは槍を地面に突き刺した。

「いや、追わないと」

しかし、エイトは再び槍を地面から引き抜いて、背中に装着して走り出す。
ククールこそが、エイトにとって現状で最も厄介な敵になったのだ。
他の人間に何を吹き込まれるかは分からないし、何よりもククールはトロデ王とミーティア姫に信頼されてる。
出会ってしまえば、ククールは労せずして二人を殺害できるのだ。
見知らぬ相手なら警戒もできよう。 接触する前に逃走することも可能だろう。
トロデ王の実力なら、大抵の人間には後れを取ることはあるまい。
だが、信頼できる人間が殺意を持っていたのだとしたら、逃げようがない。

「エイトさん!」
「すいません、ククールを追います!」

クリフトの制止も振り切って、エイトは駆けた。
だが、すぐに追いつかれることになる。

(どっちだ……どっちなんだ)

本来なら、二手に分かれてそれぞれの場所を目指す分岐点。
トロデーンにはブライとエイトが、トラペッタにはアルスとクリフトが向かうはずだった。
ククールにもその話はすでにしてある。
追跡を避けるために、この二方向以外へと向かう可能性も十分に考えられる。
となると、ククールの逃げた方向はいくつもの候補が生まれることになる。

25『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:07:14 ID:OBqYEFU20
(いや、変わらない!)

ミーティア姫とトロデ王が向かうのなら、間違いなくトラペッタよりもトロデーンだ。
道中にククールがいたのなら今度こそ逃がすつもりはない。
しかし、仕留めることよりも、まずは二人の安全の確保が優先される。
ククールの脅威を伝えて、二人に警戒を促すこともできる。
そう考えたエイトは当初の予定通りトロデーン方面へと走る。
だが、肝心なことをエイトは忘れていた。

止まらない胸騒ぎは、ミーティア姫とトロデ王に危機が迫っているためだと、エイトは思い込んでいた。
何故、ククールはエイトが誘いを断った後も、余裕の表情を浮かべていたのか。
目の前の現象は何かあるとエイトも感じつつも、その余裕の正体を見破れなかったのツケのようなものだった。
だが、それはツケと呼ぶには余りにも大きな代償だった。
即ち、その結果とはクリフトの胸に生えた一本の矢。
いや、生えたのではない。 矢が心臓の付近に刺さっているのだ。

「……がっ!?」

一瞬、クリフトは自身にも何が起きたのかも分からなかった。
ようやく自身の胸に弓矢が刺さっていると気づいて、激痛に顔を歪めるよりも先に、反射的に両の手で矢を掴んでいた。
矢を引き抜こうとするが、返しの部分が肉に食い込み更なる激痛を伴う。
膝から崩れ落ちたクリフトを見て、ようやくエイト、アルス、ブライも状況を認識した。

「バカなぁっ!? 何故矢がクリフトに刺さっておるのじゃ!?」

ブライが真っ先にクリフトに駆け寄った。
状況を説明すると、そうとしか言いようがない。
逃げ出したククールがどちらに逃げたのかをエイトが思案してたところに、クリフトの胸に突如として矢が出現したのだ。
ブライが倒れ込むクリフトの容態を確認するが、すでに目の焦点が合ってない。

「おい! おいクリフト! しっかりするんじゃ! 待て! 矢は抜いたらいかん! 血が吹き出る!」
「待って。 直前に矢の風切り音が聞こえてきた気がする」

アルスもそう言ったものの、自信はなかった。
クリフトに矢が刺さった瞬間を見ていた訳ではないからだ。
矢が刺さったという結果を説明するために、原因になりそうな事を言ってみただけに過ぎない。
そして、結果とそれに対する推測をすり合わせるとこういうことになる。
どこからともなく弓矢が飛んできて、クリフトを射抜いたのだ。
そんな気がする、程度の推測。

「エイト、そっちには」
「誰もいません!」

クリフトに刺さった弓矢を見れば、どちらの方向から飛んできたかはだいたいの見当はつく。
もしも弓矢が発射されたのならば、それはトロデーン王国方面になる。
にも関わらず、アルスもエイトも人影を見つけることはできなかった。
物陰に隠れての発射だったのか、確かに街道を外れれば身を隠すことのできそうな木や岩には事欠かない。

(あいつだ! あいつしかいない!)

26『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:07:40 ID:OBqYEFU20
それしかない。
確信を持って、エイトがトロデーン方面へと走り出す。
剣と杖と、そしてもう一つククールが得意としてた武器がある。 それが弓だ。
狙えばほぼ百発百中の腕前で、味方だった時は飛翔する魔物への攻撃などに大いに頼らせてもらった。
それが今はこうして影も形もなく忍び寄る、最悪の暗殺兵器へと姿を変えた。
魔法はたしかに便利であり、人間の文明を飛躍的に発展させた。
しかし、弓矢が飛び道具としての地位を完全に魔法に奪われることもなく、今も現役で生産が続けられるのは魔法にはない利点があるからだ。
激しい光や炎などの自然現象を伴わない。
また、呪文ほどの大音量を発することもない。 
呪文と違って資質の有無が必要でもない。
故に静かなる殺害が可能。
使い手の熟練が必要なものの、弓は呪文にはない利点を認められ、呪文との共存を可能にしている。

前方。
左右。
後方。
走りながらもエイトは周囲の確認を怠らない。
どこから弓矢が飛んでくるかも分からない恐怖も省みず、エイトはあえて火中へと身を躍らせた。
再度、砂塵の槍を構えて、神経を極限まで集中させる。
放たれた矢を叩き落とすなど、飛んでくる方向が分かればまだ対処しやすいだろう。
だが、どこから飛んでくるかも分からない弓矢に対応することなどできるのだろうか。
もしかしたら、自分はククールのいる場所をすでに通り越していて、ククールはエイトの背中に狙いをつけているのかもしれない。
見られている。 殺気も感じる。 だが、その出所がエイトにはまったく分からない。
いつの間にか、エイトはククールのペースに呑まれていた。

「何、だ……?」

突如として、エイトの進行方向の地面へと白い何かが現れる。
空中に現れたそれはひらひらと、そよ風に揺られつつも地面へと着地した。
あんなもの、数秒前までは存在しなかった。
エイトが瞬きをした次の瞬間に、どこからともなく湧いて出てきたのだ。
速度を落としたエイトが、その白い物体へと慎重に近づいていく。

(怪しい……)

さすがにこれに何の警戒も抱かないという訳にはいかなかった。
ククールがどういう方法でエイトたちの前から姿を消したのか、またどうやって居場所も知られることなくクリフトに弓矢を放てたのか。
バギクロスとベギラゴンの激突の瞬間に逃げ出した。 
隠れた場所から弓矢を撃ったから、誰にも気づかれなかった。
そういう風に強引な説明をつけることは可能だ。 だがしかし、完全に納得できないのもまた事実だった。
あまりにも不可解な点が多すぎる。 

「紙……?」

視界に入っていた白い物体の正体、それは支給された紙だった。 筆記用具の紙片だ。
日記に使うも良し、備忘録に使っても良しと、用途は多岐にわたる。
最大の問題は、その紙が何故こんなところに突如として現れたのかだ。
その紙片に何かが書いてあった。
エイトが警戒を怠ることなく、その紙片の文字へ目を通した。
瞬間、エイトは総毛立つ。

27『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:08:44 ID:OBqYEFU20
『お前の後ろにいる』

同時に、エイトの背後に何かが突きつけられるのを感じた。
エイトの心臓がある位置、そこの背中越しに冷たい感触が伝わる。
鋭い金属の感触だった。 見ることはできないが、確実にエイトを殺害可能な武器であると、それくらいはエイトにも分かった。
完全にエイトは背後を取られていた。

「エイト、お前は今までの俺のことはよく知っていても、ここに来てからの俺のことは知らない」
「ククール……!!」
「例えば、俺がこうやってお前の背後を取れた手段とか……な」

これがククールの自信の源。
エイトの勧誘が失敗に終わった場合でも、安全にこの場を離脱できる根拠。
あの場から逃げ出すことのできた方法、誰にも居場所を知られることなくクリフトを攻撃できた理由。
消え去り草というエイトにとって未知のアイテムが、その二つを線で結ぶ。

「エイト、どうしたの!?」

少し遅れてきたアルスには、状況がまだ把握できていない。
アルスの目に映ったのは、走る速度を落としたエイトがついには完全に停止し、そこから微動だにしない奇妙な光景。

「来るな!」

命令形のエイトの言葉には、尋常ならざる焦りが感じられた。
アルスはその場で制止する。 緊張を孕んだ空気が場に満ちる。

「たぶん、後ろにククールがいる」
「えっ?」

そうは言うものの、アルスの眼には背中を見せたまま動かないエイトしか映っていない。
エイトがこんな状況で嘘をつく人間ではないとは分かるものの、アルスにも未知の事態だった。

「ああ、いるぜ。 ついでにエイトにチェックメイトもかけている」

さすがにエイトの背後の何もない空間からククールの声を聞けば、アルスも疑いを持つことはできなかった。
しかも最悪なのが、相手の姿が見えない故にどういう対応を取るべきなのか分からない点だ。
あえてククールがしゃべったのはアルスに自分の存在を確信させ、下手な行動をとらないための牽制だ。

「まず、俺の言いたいことは分かるよな?」
「……くっ」

エイトが槍を手放した。
どうやってククールが背後に現れたのか、今はそれを詮索している暇はない。
おそらく、ククールの言う通り、ここに来てから得た何かでそれを可能にしているのだ。
情報が不足し過ぎているため、どうやってもエイトには答えにはたどり着けない。

「上出来だ」
「それで、次はどうするんだ?」

今エイトに必要なのは、ククールの透明化の原理を見破ることではなく、如何にしてククールの手から逃れるかだ。
殺されずにこうやって背後を取られていることから分かるように、ククールにとってエイトはまだ何かしらの価値がある。
選択肢さえ間違えなければ、まだこの窮地は十分に乗り切れる。

「もう一度聞く。 俺と手を組め」
「……」
「これが最後だ。 よく考えて答えろ」

28『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:09:26 ID:OBqYEFU20
ククールがレイピアをわずかに押す。
エイトの背中の皮膚に刺さったレイピアから、微かな血が流れだす。
ククールの手にもう少し力が篭ったら、必ずやエイトの心臓を貫くだろう。
いよいよククールも本気なのだと、エイトにもその覚悟が伝わる。
ここで答えを間違えてはいけない。
ククールの機嫌を損ねるような答えを出してはいけない。
アルスにも多少の期待はしているが、おそらく過信は禁物だろう。
むしろ、迂闊な行動を取ってしまわないかの方が心配だった。

(どうする……?)

ここで「はい」と答えるのは簡単だ。
だが、そう答えた場合、数十人の敵を作ってしまう。
かと言って、断れば即死だ。
ククールも断られた時のデメリットを考えると、相当なリスクを承知で今の行動に及んでいるはずだ。
下手な情けをかけはしまい。 エイトはそう考えた。
1秒ですら時間が惜しいこの状況。 迷えばそれだけ不利になる。

(考えろ、考えるんだエイト。 今この状況で何が必要なのか)

何かしらの外的な要因が加わっているとはいえ、ククールに背中を取られたことが悔しいのか。
ククールに屈するような形で、殺し合いに乗ってしまうことが恥なのか。
今ここでエイトの決断を邪魔しているものは何なのか。
エイト一個人のプライドがそんなにも大事なのか。

そうではない。
大事なのはエイトの面子ではない。
何よりも優先されるべきは仕えるべき主の安寧。
そういったものの前では、個人のプライドなど塵芥に等しい。

逆に考えるのだ。
今ここでククールの提案に乗れば、当面の危機は去る。
そして、幾多の修羅場を乗り越えた友を仲間にもできる。
出会ったばかりの行きずりの人間よりよほど信用できるではないか。
ヤンガスたちをもいずれは手にかけてしまうかも、なんていうデメリットは今は考えてはいけない。
背に腹は代えられない。 死ねばそこで終わりだ。
誇りや忠義なんていう立派な言葉も、死ねば途端にその重みを失ってしまう。

(ならば、私の言葉は――)



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



エイトの答えが決まりかけていたその一方で、アルスもこの場をどうにかしようと思案していた。
敵は何らかの方法で透明化したククール。
近づいて戦おうにも太刀筋がまるで見えない。
離れて戦えば、弓矢という飛び道具が襲い掛かってくる。
これに対処するのは相当な苦戦を強いられるとアルスは見た。

(なら、僕のやるべきことは――)
 
このままエイトへの被害も省みず、ククールを制圧する。
それが一番ベストの選択肢だと、アルスには思えた。
お人よしだなんてとんでもない。
アルスは他人からのそういう評価を、常に自身の心の内で否定してきた。

29『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:10:09 ID:OBqYEFU20
ただ、なるようになってきただけ。
もしも自分のやってきたことが世間の批判を受けたとしても、アルスは何も思うことはないだろう。
ひたすら熱心に物事に取り組めば、熱中できる何かが見つかるかもしれない。
最初の頃はそう思い、がむしゃらに人を救い、町を救った。
思えば、他人から見たアルスという人間の人物像は、その頃に完成されたのだろう。
人々の喜び、悲しみ、涙、不幸、愛情、幾多の人間模様。
それらを見ても、アルスの在り方は変わることはなかった。
何をしてもその心に火が灯ることもなく、いつしか惰性で冒険は続けられた。
自分を冒険へと連れだした友は、やるべきことを見つけた、と勝手なことを言って遠いところへ行った。

絶望なんてアルスはしない。
そういった感情すらも湧いてこないからだ。
自分はクズだった、という事実さえ分かれば良い。 そこにそれ以上のプラスもマイナスもない。
それなりに長生きしたいという思いはある。
それなりの生活水準だって維持したい。
しかし、そこにそれ以上の執着はない。
ダメだったと分かれば、アルスはあっさりと諦めてしまう。 

仕方ない。
しょうがない。
世の中はなんて単純なんだろう。
その一言ですべてが片付いてしまう。
それは何もかもを解決してしまう魔法の言葉なのだ。
今回はエイトの命と自身の命が吊り合うことなく、アルスの方に傾いただけ。

アルスはドラゴンキラーに手をかける準備をする。
手甲剣とも言うべき特殊な形状だ。
リーチはないが、その分取り回しに優れている。

(やっぱ、どんな経験でも積んでおくべきだね)

戦士としての経験が、しっぷう突きを可能にする。
エイトの背後にククールがいることまでは分かっている。
狙いをつけるのはさほど難しくない。 体のどこかに当てる自信はあった。
タイミングはエイトが答えを返した瞬間。 その時だけはククールもアルスへの警戒が薄れる。

(どっちでもいいんだよ。 エイトが死のうが生きようが、僕が死のうが生きようが)

多少は抗ってみせる。 でもダメだったら納得する。
そうやって生きてきた。 そしてこれからも。
アルスの刃が音もなく忍び寄る時は近い。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



(何で、俺はこんなことをしている)

意外なことに、この場で一番戸惑っているのはククールだった。
消え去りそうで逃げる。
追いかけられても、エイトの背後を簡単に取れる方法はある。
そして事実、エイトの命運を握った。
なのに、ククールの心に達成感などはなかった。

30『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:10:28 ID:OBqYEFU20
一見万能にも見える消え去り草には、数量と効果時間という制限がついて回る。
その保険の為にも、エイトという得難い戦力を欲した。
断られたが、そこまでは想定内だ。
エイトから逃げおおせ、それどころか1対4の戦力差を覆す状況も作りだした。
しかし、そこからの行動はククール本人すらも予期してないものだった。
当初は断ったエイトを透明化して殺害し、なおも追ってくるのならアルスもブライも殺害するという算段だった。
なのに、自分はこうして再びエイトに誘いをかけている。
これを断られたらどうするのか、それすらも考えていない。
エイトの背後を取るククール。 そしてククールの姿は見えてないがククールの背後にいるアルス。
そういう位置取りになっている。
ここでエイトは殺せるだろうが、ククールの背中にいるアルスにも同時に対応しなければならないのだ。
透明化しているという情報は割れてしまっている。
自身が圧倒的な優位に立っているという驕りは捨てなければならない。 それは分かっている。
こんな相手を屈服させるような形で協力を取り付けた所で、エイトが不満を持たずにククールに味方し続ける訳がないのだ。
心と体が一致しない。 されど、今更この行動を中止することもできず続けるしかない。
ベットが済んだ後のルーレットのように、後は出た目の流れに身を任せるしかないのだ。
三者三様、それぞれの思惑を抱えながら事態は大きく動く。
四人目の人物によってだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「何故じゃ……」

幽鬼のような足取りで、しかしその瞳にだけは激しい怒りを宿しているブライ。
怒りだけではなく、その瞳には滂沱のごとく涙が溢れているではないか。
隠居も目前に控えたこの老魔法使いは、今烈火のごとき怒りを見せていた。
激流のごとき魔力の渦が、ブライを中心にして形成されている。

「クリフトは……?」
「死におった」

クリフトについてケガの様子を見ていたはずの、ブライが一人でここに追いついてきたこと。
その意味は考えるまでもない。 けれど、確認のためにもアルスはブライに問うた。

「姫様のことを頼むと、最期まで姫様のことを案じておった……」

クリフトはまだまだ未熟なところも多い。
ピンチの際には視野狭窄に陥り、ザラキの呪文を連発するような悪癖もあった。
だが、それ以上に実直で誠実な人柄だった。
何よりもまだ、若かった。
もはや死期を待つ日も近いブライと違い、未来がある。
アリーナと共に勇者の度へと同道し、エビルプリーストを倒すというこれ以上ない功績も積んだ。
クリフト本人は知らないだろうが、サントハイム国内では近々昇進や恩賞も検討されている。
期待の新星。 王が現役を退き、アリーナ姫の世代が国政に携わる時期が来れば、必ずや辣腕を振るってくれただろう。
サントハイムの明日を担ってくれる人物だったに違いない。
いずれは子を儲け、生まれてきたその子はさらにサントハイムを盛り立ててくれたであろう。

31『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:11:10 ID:OBqYEFU20
クリフトの秘める淡い想いについては、ブライは姫の教育係という立場上、何も言えなかった。
アリーナには、いつか様々な方面から縁談の話が舞い込んでくるだろう。
そして、それを受けてサントハイムはさらに繁栄するだろう。
現在、サントハイム王家に王子はいないのだ。
サントハイム王が新たな男児でも作らない限り、次代のサントハイム王族の義務はアリーナ一人の双肩にのしかかる。
それが王族としての責務なのだ。 国家という生物の為に、王族は故国に身命を捧げる必要がある。
だが、それでも……もしもアリーナが一人の女性として自由気ままに生きることができたのなら、その相手としてクリフトは申し分ない人物だった。
アリーナが悪い訳ではないし、もちろんクリフトも悪くない。
誰か悪役を作るのならば、互いの生まれた家が悪かったとしか言えない。

「何故じゃ……何故、わしから殺らなかったのじゃあああああ!!!」

自分はもう古い人間だと、ブライはそれを自覚していた。
光陰矢の如し。 月日が経つのはあまりにも早い。
若かりし頃のブライは、頭でっかちな上の人間を疎んじていた。
伝統、格式……そんな耳障りのいい言葉を使うことで、旧態依然とした制度を維持する貴族や諸侯たち。
既得権益にしがみつくことに必死な老害たち。
ブライはそんな老人たちを王家に蔓延るゴミだと軽蔑していた。
そうして、自分自身が人の上に立ち手本を示し、サントハイムを内部から変えようと躍起になった時期があった。

結婚の道はその時捨てた。
同期の出世頭にもなったし禄も増えた。 姫の教育係も任されるほどに王の信任も得た。
だが、家に帰っても出迎えてくれるのは使用人だけ。
それでも前に進む日々を続けた。

ある日、ふとブライは気付く。
自分の陰口を言っている者がいる、と。
しかもその陰口は、ブライの昇進を妬む同世代の人間の声ではなかった。
あのジジイは口うるさいとぼやく、若い世代の人間の声だった。

その時、ブライは自分の容姿の変化に気付いた。
老いてなお盛ん、というのは辞書の中の言葉だけに過ぎない。
髪は白く変色し、生え際を徐々に後退させ、歩くのには杖を使用するようになり、顔中に皺が生まれ、
腕にはところどころに斑点ができ、神経症も患い体の節々を痛めるようになった、非の打ちどころのない老人が出来上がっていた。

ああ、自分はもう老害を排除する側ではなく、老害だと揶揄される存在になったのだ。 
ブライは齢70近くにしてそれに気づいた。
人の持つ価値観は時代と共に変遷していく。 
自分の中の当たり前が、若い世代には当たり前じゃなくなっている。
そういえば、最近は近頃の若い者は……と愚痴ることが多い気がする。
そんなことにも気付くようになった。
クリフトのような若い世代の人間の言葉は、確かに一見したら正論のように見えることもあった。
しかし、それは現実を踏まえていない理想論があまりにも多かった。
地に足がついてないというか、少し考えれば壁にぶつかるものがほとんどで中身が無い。
だから、強く否定もした。 口うるさくしてしまったが、理詰めで却下した。

32『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:11:41 ID:OBqYEFU20
自分のやってきたことは一体何だったのだろうか。 ブライは自問自答する日が続いた。
かつての醜い老人の立場に収まって、若い者には疎んじられ、心を許せる存在も少ない。
だがしかし、今はまだ自分の力が必要だと、ブライは己を叱咤した。
世界にようやく平和がもたらされたこの時こそ、老いも若いもなく、皆一丸となって国の復興に尽くす。
若者の犯した失敗の責任を取る立場の人間が必要だ。
そして、世情が安定したその頃に、それでもと若い世代の人間が自分とは違う考えを出してきたその時は、大人しく従おう。
もう老いぼれの出番は終わったのだと、寂しく口にして。

教育係でありながら、ブライはアリーナの言うことにも理解が示せないことが多くなっていた。
アリーナは言う。 ブライは融通が利かないと。
ブライは反論する。 これもすべて姫様のことを思えばこそ、と。
二人のすれ違いは日増しに多くなっていった。
もはや、ブライは若者の気持ちに寄り添えない。
できることならそうしてやりたいが、それも難しくなっているのだ。
親から子へと、そして孫へと受け継がれる人の営み。
できる限り住みよい国を作り、後は若い衆に任せる。
それがエビルプリーストを倒した後の、ブライの細やかな願いでもあった。
なのに、現実は若いクリフトが死に、老いたブライが生きながらえた。
死ぬべきは間違いなく、クリフトよりも自分自身であったというのに。
クリフトは、断じてこんなところで死んでいい男ではなかった。

「かああああああああああああああああああああっっっ!!!!!」

慟哭の涙を流し、荒れ狂うブライの魔力が白霜を創り出す。
この季節に似合わぬ氷の暴風雨。 それがブライを中心に生み出されているのだ。
小さな氷は針のごとく鋭く、大きな氷は身を寄せ合い氷塊へと変貌していく。
ヒャドやヒャダルコの規模ではない。
それ以上の呪文を、ブライは怒りのままに放とうとしているのだ。
ブライの得意とするのはヒャド系呪文。 
相手は未知の方法で透明化しているククール。
そしてヒャド系の呪文は広範囲に被害をもたらす。
あとは至極単純な流れだ。
そこにエイトがいようとアルスがいようと構わない。
ただ、この激情にブライは身を任せるだけ。

「マヒャ――」
「待ってブライさん!」

巻き込まれてはたまらない。
どう考えてもククールだけへの攻撃とは思えなかったアルスは制止をかける。
それがブライの怒りを止める決定打になるかは分からないが、少なくとも状況を好転させる要素をアルスは見つけていたのだ。

「あれ!」
「む」

マヒャドの氷の嵐でククールの姿が見える。
いや、正確には巻き起こるブリザードがエイトの背後に人間の形を作っているのだ。
背丈から見ても、ククールとほぼ同じ。
マヒャドという呪文の吹雪が、透明なククールに施した雪化粧。
予期せぬ形で判明した消え去り草への対策法だった。
透明化しているだけで、その全てがすり抜けている訳ではない。
この発見は大きな進歩だった。
即ち、エイトたちには消え去り草のアドバンテージは完全に通用しなくなったのだ。

33『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:12:27 ID:OBqYEFU20
これは一転してククールの大ピンチ。
ククールの居場所が分からないなら、辺り一帯ごと凍らせてしまえばいい。
そう思っていたが必要がなくなったのと、この冷気のためか頭の冷えたブライに、他人の声を聴き入れる余裕ができる。
そしてそれを、アルスは見逃さない。

「ブライさん! そのまま呪文を維持して!」

言うが早いか、ドラゴンキラーを手にしたアルスが突進する。
この時、巻き込みを恐れたアルスはブライへ一声をかけている。
そのせいで動き出すのがワンテンポ遅れた。
しっぷう突きではなく普通の、それでも最大速度での突進。

(クソッ、不味ったぜ!)

決断を迫られたのはエイトではなく、ククールの方だった。
殺気と匂いでククールの存在を感知したガボの能力は驚愕に値するものだった。
しかし、それはあくまでガボ個人の優れた嗅覚によって成し得た技だ。
ガボだからこそできた、消え去り草殺しの個人技能に過ぎない。
まだ消え去り草のメリットが無くなった訳ではなかった。
しかし、呪文の使い手は決して珍しくはない。
少しでも頭の切れる者なら、透明化しているという原理を突き止められた瞬間にこの対策法は思いついてしまうだろう。
手にして間もない消え去り草への知識不足が、今回の事態を招いたのだ。
背後にアルスの殺気を感じるし、この状況では間違いなくエイトも動く。
ククールは同時にその二つに対処せざるを得なかった。

「はぁっ!!」
「なっ!?」

その方法とは即ち、ムーンサルトだ。
助走もなしに月面宙返りのごとく真上に飛ぶ。
一瞬遅れて、アルスのドラゴンキラーがククールのいた空間を切り裂いた。
槍を拾おうとしていたエイトに、勢いあまったアルスがぶつかってもみくちゃになる。
そして、ククールはアルスの背中に華麗に着地を決める。
苦悶の表情を浮かべるアルス。
極めることはしなかったが、嗜むことはしていた格闘のスキルが活きた形になる。
そして、アルスと団子状態になっていたエイトにもわずかながら被害は及ぶ。

(今度こそ……!)

アルスごとエイトも串刺しにしてしまえる。
凍てつく人工ブリザードの中、ククールは何度となく考えていた計画を実行に移すべくレイピアをアルスの背中に狙いをつけた。
この氷嵐のごとく、殺意を研ぎ澄ませる。だが――

(……!)

ククールが顔を顰めた。
またしても、ククールはその剣を血に染めることはできなかった。
最後のひと押しができないのだ。
結局、アルスとエイトの首筋に手刀を当て気絶させるだけに留まった。
今度こそ逃走を開始する。

「待たんか!」

ブライの声が響く。
ククールの居場所を探るために出力が抑えられていた氷の呪文が、再び勢いを増した。
しかし、ブライが再びマヒャド級にまで魔力を高めた頃には、もうククールは吹雪の範囲外に脱出していた。
ブライは追いかけようとするが、そもそも体力が圧倒的に違う。
マラソンをするような年齢ではないのだ。

34『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:12:52 ID:OBqYEFU20
さらに、追いかけるということは再び姿を消したククールの弓矢を警戒せねばならないということだ。
走りながら自分の周囲に氷の呪文を展開し続けることは、肉体的にも精神的にも持ちそうになかった。
ブライがやったのは、エイトとアルスを守るためにしばらくの間、人口の吹雪を形成し続けることだけだった。
弓矢も、この風の勢いなら真っすぐ飛ぶことはないだろう、との判断だ。
さすがに、種が割れた以上はククールも手は出してこなかった。
気絶させたエイトとアルスもいつかは回復してくる以上、ブライの魔法力が切れるまで待ちに徹する、という持久戦は危険だったからだ。

「ぜぇっ、ぜぇっ……!」

しばらくしてようやく呪文を解いたブライは、完全に息が上がっていた。
呪文を形成しつつ、放つことなくその場に展開し続けるなど、そうそうある経験ではない。
慣れない呪文の使い方をしたため、ブライの魔力は必要以上に消耗されていた。
吹雪も収まり、抜けるような青空を取り戻したその場所に立っているのはブライだけ。
よろめきながらクリフトの下へ戻る。
そこには、最期まで仕えるべき主の身を案じ続けた神官があった。
仇も討てなかった。
自分の様な老いぼれが生き延びてしまった。
ククールへの怒りよりも、喪失感が上回ったブライはもう一度慟哭の涙を流す。

「くっ、おっ……クリフト……クリフトぉ……!」

打ち所が良かった、という表現はおかしいのかもしれないが、エイトよりも先にアルスが目を覚ます。
周囲を見回して、どういう事情かは分からないがククールは去ったということは分かった。
ブライの元へ近づくと、クリフトの手を取って涙を流していた。
きっと、孫のように可愛がってたんだろうな。
それくらい、アルスにも想像はついた。

クリフトは身分の違いに苦しみながらも、愛する人のために尽くす人物だった。
恋愛感情。 そういうものがこの世にあることはアルスも知っている。
幾多の人々の思いを見届け何も変わらなかったアルスも、誰かを愛することができれば変われるかもしれない。
他人の何かを見ても変わらないのはもう分かっていたことだ。
ならば、自分が体験したことのない何かに打ち込んでみればいいのではないか。
そんな薄い望みも抱いていた。
山も谷もない。ただひたすらに平坦な道を歩むだけの人生。
それが終わる可能性をもった男がクリフトという人物だった。
しかし、覆水は盆に返らない。 死んでしまったのでその道は閉ざされてしまった。
自身の変わる切っ掛けになり得たかもしれない男の死に、アルスは抑揚もなく呟く。

「あーあ、死んじゃった」

過ぎたことを何時までも悔やんでいてもしょうがない。
残念だが仕方ない。 気分を切り替えていくしかない。
だから、ただ事実を述べただけ。
仕方ない。
しょうがない。
いつものようにその言葉を唱える。
幸運にも、その言葉がブライの耳に入ることはなかった。

35『かつて』と『これから』  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:13:35 ID:OBqYEFU20
【クリフト@DQ4 死亡】
【残り65名】


【E-3/平原/1日目 昼】


【アルス@DQ7】
[状態] HP9/10
[装備]:ドラゴンキラー(DQ3)
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:本気になれるものを探す。
   :フォズには今はまだ会いたくない。
[備考]:「職業:なし」で、人間下級職10種を☆7まで習得しています

【エイト@DQ8主人公】
[状態]:HP9/10 気絶
[装備]:砂塵の槍
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ミーティアと合流する それまでは危険分子を排除する

【ブライ@DQ4】
[状態]:健康 MP5/10
[装備]:魔封じの杖
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:アリーナを探し出し、合流する


※支給品一式、クリフトの支給品1〜3がクリフトの遺体の近くにあります。




【ククール@DQ8】
[状態]:HP4/5 MP微消費 裂傷
[装備]:堕天使のレイピア オーディンボウ@DQ8 矢×29本
[道具]:支給品一式×1 消え去り草×1 道具0〜2個(本人確認済)
[思考]:優勝し、『元通りの世界』に帰ることを願う
    エイトが乗れば、アルス、クリフト、ブライを殺す
[備考]:杖スキル9以上

36孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:16:41 ID:OBqYEFU20
「ふむ、ヒューザどのは家族がいないでござるか」
「ああ」

メルビンとヒューザはピサロ達と別れた後、まっすぐにトラペッタを目指して進んでいた。
その道中、仲間を組むのだからと、メルビンはヒューザのことを色々と聞き出していた。
家族構成や生い立ち、趣味、友人関係、将来設計、どうやって生計を立てているのか。
一方のヒューザは答えはするが、メルビンに質問はしない。
彼は喋るのが苦手なわけではないが、会話が好きでもない。
強いて言えば、沈黙が苦ではない性分であった。

彼は数多くの冒険者のひしめくアストルティアにおいて、極めて珍しいソロのスタイルを取っていた。
たまに他人と組んで共同でクエストに赴くこともあったが、基本的には一人だ。
一人で魔物と戦い、一人で食事の用意をし、一人で寝床を確保する。
一人でいるのはヒューザ自身の性格や旅の目的に起因していた。
他人と馴れ合うのは性に合わないし、彼は他の冒険者とは少しばかり求めているものが違った。

キーエンブレム。
その功績を称えられた冒険者が、町や国の為政者から授与される勲章。
これは冒険者なら、誰もが喉から手が出るほど欲しがるアイテムだ。
新たに訪れた町を拠点に活動しようとする際にも、キーエンブレムを見せれば各方面への話が通りやすい。
その町の為政者に会うのも許可が下りやすい。
冒険者としての確かな腕前、そして功績を証明してくれる物なのだ。
しかし、ヒューザはそれすらも欲することはなかった。
現に、ヒューザはキーエンブレムを与えられるほどの活躍をしたことがあるにも関わらず、その授与を固辞した。
彼が欲しいのはそんなものではなかった。

自身の力を他人に認めさせるのに、そんな便利なアイテムはいらなかったのだ。
多くの、いやほぼ全ての冒険者はキーエンブレムを辞退するなど考えたこともないだろう。
そのスタンスの食い違いもあって、ヒューザは他人と関わることはほとんどなかった。

「それでずっと一人で旅を、でござるか」
「一人では無理そうな案件は仲間を集めてたぜ。 今回みたいにな」

ヒューザに肉親はもういない。 親の顔も覚えていない。
祖父はいたが幼い頃に死んだ。
それ以降はレーンの孤児院で育った。
祖父と過ごした記憶はほとんど消えかけてはいるが、ネコは殺してはいけないという言葉だけはよく覚えてる。
ヒューザはそれ以降、一人でずっと生きてきた。
そしてこれからもそのつもりだ。
孤児院から外の世界に出た時、この剣で名を上げてやろうと決めた。

この体一つで世界と向き合い、ひたすらに剣を振るう。
それはモンスターとの戦いというよりも、己との対話であった。
自分に何ができて、何ができないのか。
この世界に自分が生まれた理由は何なのか。
自分は一人でどこまでやれるのか。
天涯孤独となったウェディの青年ヒューザは何者であるのか、ただそれだけを知りたかった。

37孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:18:03 ID:OBqYEFU20
五大陸を股にかけ、縦横無尽に駆け巡る。
ラギ雪原、風車の丘、イナミノ街道、ザクバン丘陵。 
あちこちを訪れ、疲れがたまればウェナ諸島へと戻る。
そうやって流浪の旅を続ける中で、たまに知り合いともすれ違った。
ジャンボからは野生のヒューザだ、と珍獣のような扱いを受けた。
抗議をすると、フレンドになってないからいざ連絡しようにもできないせいだ、と逆切れ気味にジャンボに言われてしまった。

凶悪な魔物と戦い死にかけたこと、大勢の魔物の群れに囲まれて死を覚悟したことすら何度もあった。
それでも、彼は一人で戦い、一人で生きる道を選んでいる。
スリルを楽しんでいる訳ではない。
喉がひり付くようなバトルを楽しみたいような戦闘狂でもない。
ただ、一人でいることを望んだ。
孤高の剣技を磨き続け、戦い続ける日々だった。

夜、焚き木の火を消して、草っ原に大の字になって寝る。
見上げた夜空の星々は、この世界に生み出された宝石のように煌めいていた。
朝、滝の近くの川で顔を洗った時、その水の冷たさにハッと驚く。
街の裏通りで見かけたネコと目が合って、立ち止まる。
そんな何気ないひと時を、誰にも邪魔されたくなかったのかもしれない。
他人と組むと、今日はどこへ行こうか、とか明日はこれをしようよ……と、そんな風に他人に合わせないといけない。
自分のやりたいことだけをやればいい、というヒューザにとってそんなやり取りは苦痛でしかなかった。

「一人旅は危険でござるよ」
「分かってるよ。 メリットデメリットを比べた上でのソロなんだ。 文句は受け付けないぜ」

ラリホーで眠ってしまう。
やけつく息でマヒしてしまう。
野宿をする時も、決して熟睡できない。
他人と組んでる時には簡単に治る状態異常も、一人では死に直結する。
宝箱を開けて、それがミミックだった日には目も当てられない。
メルビンもお節介で言ってる訳ではない。
一人での冒険とはそれほどまでに危険なのだ。

「では家族を作る気はないのでござるか?」
「だから家族はいないって――」
「いないのは聞いたでござるよ。 結婚を考えたことはないのか、ということでござるよ」
「は――?」

鳩が豆鉄砲をくらったような顔をするヒューザ。
家族とは失っていくものではなく、新しく作り増やしていくものだと、そういう考えがなかったのだ。
考えてみれば、それが当たり前なのにだ。

「家族というのはいいものだ。 そう思うでござるよ」
「思うってなんだよ」
「わしも家庭を持ったことはないでござるからな」

長く伸びたヒゲを触りながら、目を閉じるメルビン。
自分がヒューザ位の年齢だったことを思い出しているのだ。

「恥ずかしい話でござるが、わしも昔は『やんちゃ』してたでござるよ」 
「やんちゃって……」
「折しも、オルゴ・デミーラとの戦いも佳境に入り、わしは神様に封じられてしまった。
 もしもの時が起こってしまった場合の、最後の希望として、でござる」
「……そりゃご苦労なことで」
「時代がわしに所帯を持つことを許してくれなかったでござるよ。
 若い頃のわしが一人の女に縛られるのは嫌だ、と思ってたせいもあるでござるが」

38孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:19:39 ID:OBqYEFU20
だが、それでメルビンが家族の良さを知らないということにはならない。
彼にだって生みの親はいて人並みに愛情を注がれてきたし、周りには結婚した夫婦もたくさんいた。
仲睦まじい様子を見せる男女。
愛し合った人と、人生という物語を紡ぎだす夫婦。
二人の愛の結晶である子供は何物にも代えがたい宝物。
同じ道を目指す二人が結婚し、刺激し合ってさらに高みへと昇ることもあった。
愛する人の腕の中で眠る安心感。
どんなに疲れ果てて家に帰っても、出来立ての温かい食事と、帰りを待っていた妻と子供が出迎える。
愛情を注いだ子供が成長し、少しずつ大きくなっていく姿を見られる喜び。
我が子はやがて大人になり、愛する人を見つけ別の家庭を築く。
そしていつかは人は土に還る。 その人が生きていたという証は、子孫たちが証明してくれる。
静かな愛もあった。 燃え上がるような情熱的な愛もあった。 周囲の反対を押し切って成立した、大恋愛もあった。
そこには夫婦の数だけ、違う愛の在り方が存在した。
伝説の英雄と呼ばれたメルビンも、そんな人たちを見て弱き人々を守る決意を固めたのだ。

「ヒューザどのはまだ若いでござるよ。 今はまだやりたいこともたくさんあるでござろう。
 だが、いつかは愛する人を見つけ、家族を作り、生命という輪を繋いでいくでござるよ。
 でないと……わしのようになるでござるよ」

好々爺のように笑うメルビン。
それについて、ヒューザは聞き返す。

「結婚しなかったこと、後悔してんのか?」
「してると言えばしてるでござるし、してないと言えばしてないでござるな。
 結婚すれば、毎日奥さんと幸せにいちゃいちゃ過ごすことができたかもしれないでござる。
 しかし、わしはアルスどのたちと出会った。 かけがえのない戦友、でござるよ。
 結婚すれば、妻や子供のためにも時間を費やさねばならぬでござる。 となると、今の強さもなかったかもしれぬ。
 何か一つでも事情が違ったら、わしは後の世に送られることはなかったかもしれないでござる。
 そう思えば、結婚をしなかったこともあながち無駄ではなかったのかもしれないでござるな」

メルビンは本来、アルスたちとは違う時間に生まれた存在だ。
神により封じられていなければ、アルス達と出会うことは有り得ない。
アルス達と出会えたことは、人の力では実現不可能な奇蹟なのだ。
結婚してるかしてないか、なんていうのはその出会いには関係ないのかもしれない。
それでも、メルビンは前向きに物事を考えていく。
少なくとも、信頼できる戦友と出会い、宿願であったオルゴ・デミーラ討伐を成し遂げた今のメルビンは満ち足りた日々を送っている。
それだけは確かだ。

「……ちっ、何でこんなふざけたカッコしたじーさんに説教されなきゃなんねぇんだ」

こんな会話こそしてるが、実はメルビンはぬいぐるみを装着中だ。
ヒゲを触っていたのも、自前の白い髭ではなくねこひげの方である。
ネコの着ぐるみを身に着けた爺さんに説教をされる、というのはなかなかにシュールな光景であった。
これではどんなに正論を言われても納得しにくい。
しかも、ヒューザにとっては人間大の大きさをしたネコ、という姿がとある豚猫を思い出させるため甚だしく気分が悪くなる。

「いつかはヒューザどのも想像してみるでござるよ。 自分の隣に愛する人がいる光景を」
「んなこと言ったって、実感が湧かねえよ」

39孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:20:27 ID:OBqYEFU20
他人と馴れ合うことを好まなかった自分が、特定の人と死ぬまで共同生活をする。
ヒューザにとっては、水と食料なしでゴブル砂漠を横断しろと言われているようなものだった。
同じメンバーで長期に渡って冒険をするパーティーを俗に固定と呼ぶが、ヒューザはあれに理解が示せない。
毎日毎日、来る日も来る日も同じメンバーで組み続けて何が楽しいのかと思うのだ。
さらに言えば、結婚とは契約関係だ。
固定だろうと、問題が起きれば解散することも簡単だろうが、結婚はそうはいかない。
性格が合わなかった、だから離婚しましょうとは簡単に言えないのだ。
相手の気に入らない部分も、我慢していくしかない。
ウェディであるが故に、ヒューザは貞操観念も強い方に属される。
簡単にくっついたり離れたり、というのは許せないのだ。
結局、ヒューザが止む無くパーティーを組む場合は、金銭を介したその場限りのパーティーの方が後腐れ無くて楽だった。
結婚するよりも、今はまだ自分の剣技を磨く方が楽しい。

「待つでござるよ」

唐突に、メルビンの声のトーンが一段階落とされた。
険しい目つきで前方を見渡すメルビン。
ぬいぐるみの中身が見えないヒューザはメルビンの表情の変化には気づけない。

「誰かが見ているでござる」
「はあ?」

喋りながら歩いていたとはいえ、周囲への警戒は欠かしてないのだ。
一人旅が多いヒューザはもちろん、常にモンスターや野盗の類の気配を探っている。
にも関わらず、メルビンは誰かがいると言うのだ。
何言ってるんだじーさん。 そういう視線をメルビンに向けるが、メルビンはヒューザに構ってられない。

「何だよ、老眼で遠くが見えるとかってやつか?」
「違うでござるよ……ふむ、近いでござるな」

ヒューザの視力では捉えきれないほどの遠い場所にいるなら、ヒューザも納得できただろう。
しかし、メルビンは近い場所にいると言っているのだ。

「獣や魔物の出せる気配ではござらぬな……人間特有の粘ついた視線でござる」

伝説の英雄としての面目躍如といったところか。
メルビンは迷うことなく、ある方向へと一直線に進んでいく。
その後ろに、半信半疑のままのヒューザがついていく。

「そこでござるな」

メルビンが「そこ」と言った場所には何もなかった。
小石と雑草と多少起伏のある地面。
だが、ヒューザもなんとなくだが分かるようになってきた。
確かに、そこには目で見えなくとも何かしらの気配が感じられた。
例えるなら、緑色の中に一点だけ黄緑が混ざってるような、その程度の違和感に過ぎないが。

「怖がらずに出て来るでござ……怖がらずに出てくるにゃん」

姿を隠してる人間はもしかしたら、怖がって怯えているのかもしれない。
そう考えたメルビンは外見を利用して警戒心を解くために、語尾を無理やり変えてみた。
しなを作って、ネコらしいポーズもとってみた。

40孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:22:08 ID:OBqYEFU20
「何やってんだよ、じーさん……」

年の割に、茶目っ気もあるのがメルビンだ。
マスコットキャラクターみたく振る舞えている、とメルビン本人は思っているのだろう。
しかし、声を作ることは忘れているのか、バリトンボイスから繰り出される「にゃん」という語尾は強烈なインパクトを持っていた。

「ささっ、ヒューザどのも一緒に」
「誰がやるか!」

傍から見れば噴飯物のやりとりをしているのだが、観客はおそらく見えない何者か一人。
それにしたって、笑ったり噴き出したりと、何らかのリアクションを見せる気配はない。

「わしの名前はメルビン。 怯えることはないでござるよ」
「おい、もうキャラ作んの忘れてるぞじーさん」

一瞬、空気が変わった。
見えない何者が身じろぎをするかのような、衣擦れの音が聞こえてきたのだ。
メルビンのフレンドリーな対応が功を奏したのだろうか。 そんな淡い期待を抱く。
しかし、その淡い対応は無慈悲にも打ち砕かれる。
何物かがいるであろう場所の土が跳ね上がる。
同時に、メルビンが腰に差した刀を抜いた。
金属が打ち合う音が響く。 メルビンの抜いた刀からかすかに火花が散った。
やがて、つばぜり合いが終わったのだろうか、メルビンが刀を握ってる手から力を抜いた。
何物かの気配がメルビンから離れるのを、ヒューザも確認する。

「何だ!?」
「気を付けよヒューザどの、攻撃されたでござる!」

語気を鋭くしてメルビンが言う。
その手に握った刀はかがみ石とヘビーメタルがふんだんに使われた名刀、斬鉄丸。
極上の業物を握ったメルビンは、その刀の重さを自分の体に覚えさせるためか、何度か軽く振り回す。

「いい刀でござる」

伝説の英雄メルビンは、この斬鉄丸を当面の相棒とすることに不服はない様だ。
突如として襲い掛かってきた何者かの攻撃、そしてそれを受けきったメルビンの技量。
どちらも、ヒューザには驚異的な出来事だった。
ヒューザもダークナイトやシルバーマントとは何度も戦ったことがあるが、持っている武器すら見えない敵というのは初めての経験だった。
達人は見えない者が相手でも、心の眼で相手を捉えることが可能だという。
心眼とかいう、いかにも眉唾なものをメルビンは持っているというのか。
しかし、今はそれを考える場合ではない。
ヒューザもハンマーを取りだした。

「ちっ、軽い武器は嫌いなんだけどな……」

普段のヒューザは状況に応じて様々な武器を扱うが、一番のお気に入りは両手剣だった。
多数の敵と戦う時も、タイマンで戦う時も、両手剣を使う場面が一番多かった。
両手剣は後範囲への攻撃、単体への火力、その両方をバランス備えているのだ。
しかし、今はそれがない。
無いが、嘆いている場面でもない。

41孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:23:11 ID:OBqYEFU20
「透明な敵の対処。 判断を誤れば危険極まりないでござるな。
 だが、色々便利そうでござるが、欠点も多い。 例えば――」

メルビンがバギマの竜巻を作りだした。
その竜巻は地面の砂を巻き上げ、雑草を切り刻み、小石を浮かせる。
透明な何物かの居るであろう場所へ、竜巻は進路を定める。
バギマはそれなりに威力のある呪文ではあるが、ヒューザにはメルビンの言う通り透明な敵への弱点になるとは到底思えない。
速度、威力ともに決定打になりそうな雰囲気ではないのだ。

「正体見たり、でござるよ」
「……人が、いる!?」

しかし、メルビンは予想通りの結果に笑みを浮かべた。
バギマは対象の敵に対して、なんら戦果をもたらさなかった。
透明な何物かを傷つけた感触もなく、容易に避けられたのだ。
だが、重要なのはここからだ。
竜巻の起こした風は、竜巻を中心として渦巻くように形作っている。

当然、巻き上げられた埃や雑草も例外ではない。
そんな中、空中で葉っぱや小石が不意に止まったりしたら不自然だ。
しかも、それが人間の形になるよう集まり方をしていたらなおさらだ。
これが経験値の差。 自分の倍以上の時を生きてきた老獪のなせる業。 ヒューザが感心する。
戦いにおいてもっとも重要なのは技量や度胸でもなく、知識と経験と言われている。
相手がどんな攻撃をしてくるのか、未知の攻撃を繰り出してくる敵にはどう対処すればいいのか。
それを知っているだけで、勝率と生存力は飛躍的に高まる。
培われた知識と経験は、決してその者を裏切らない。

「じーさん、よくやった!」

ヒューザもこれを見逃しはしない。
居合のような形でハンマーを構えた。
次の瞬間、閃光が走ったかのような速度でハンマーを横薙ぎに振るう。
その凄まじい速度が、空気の断層を造り出す。
放たれたのは真空の刃。 無心でこうげきをして、飛ぶ斬撃を作りだしたのだ。

「っ!」

初めて何者かの声が聞こえた。
声の聞こえた辺りから、鮮血と桜吹雪がいくらか飛び散った。
体のどこかを傷つけることには成功したらしい。

「ヒューザどの!」

メルビンが声を上げた。
その原因はヒューザにも分かっている。
何物かはヒューザの方へ向かっている。
まずは仕留めやすいと見たヒューザの方からということだろうか。

「舐められたもんだ」

そんな襲撃者に対して、ヒューザも戦意を高揚させる。
駆け寄ろうとしているメルビンを制止せる。

「来んなじーさん! 巻き込まれるぜ!」

今ならヒューザにも対応はできる。
透明化した敵の武器を受けるという神がかり的な技量など備わってない。
が、武器を持った敵がこちらに殺意をむき出しにして迫っている。
それさえ分かれば、戦い方はいくらでもあるのだ。

42孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:24:06 ID:OBqYEFU20
「うらぁ!」

地面にハンマーを叩きつけた。
ランドインパクトを受けた地面は隆起し、波打ち、衝撃波を生み出す。
敵がどの辺にいるのか、大雑把な位置さえ分かってればこの手で十分に迎撃可能だ。
何故ならランドインパクトは自身を中心とした全方位への攻撃手段。
範囲内に対象がいるのなら、その方向はどこだろうと同じこと。
何物かに衝撃波が直撃するのを感じた。
直撃を受けた何者かは地面を転がっているのか、地面が何度か不自然に抉れ土が撥ねた。

「バギマ!」

直後、バギマの呪文が生成される。
メルビンが新しく唱えたのだ。 舞い上がる砂塵で常にその位置を割り出しておく必要がある。

「マホカンタ!」

しかし、敵もさるもの。
二度とその手段は食うかとばかりに反射呪文を展開させた。
魔力によって形成された鏡面は、バギマの呪文を綺麗に反射させる。

「おっと」

メルビンとヒューザは難なくバギマを避けたが、何物かの居場所を見失ってしまう。
しかし、バギマがなくとも、元々メルビンは相手の気配を察知するくらいはできていたのだ。
互いに武器を構えつつ、メルビンは気配を探り、ヒューザは気を抜かない。

「来ない……」
「油断するでないでござるよヒューザどの」
「ああ、分かってる」

やがて一分、二分と経ち……ついに五分が経過するも、何物かの気配は現れない。

「逃げたか……」
「ふむ、そうでござろう」

透明という、絶対的に有利な条件を揃えておきながら勝てなかったための逃走。
そう考えるのが一番自然だった。
伝説の英雄メルビンの前には、いかなる策も通じないのだ。
メルビンとヒューザが構えを解き、大きく息を吐いた。
全身の筋肉を弛緩させる。

「まさかあんなのがいるとは思わなかったな」
「うむ……しかし何故いきなり攻撃してきたでござろうか」
「相手の事情なんて考えたって仕方ないだろ」

敵への警戒心が薄れたまさにその瞬間。
何物かはずっとこの時を待っていた。

「何、でござる……?」

メルビンの頭上に極小の太陽のような光が生まれていた。
その太陽から生まれたのは、降り注ぐ光の矢の流星群。
敵の攻撃だ。 そう思った頃にはもう遅かった。
いや、少なくともメルビンだけは間に合っていただろう。 
全速力で逃げれば、なんとかなっていたはず。
しかし、隣には完全に気が抜けていたヒューザがいる。
抱えて逃げるには体格が大きすぎた。
窮地にあってメルビンがとった方法とは、両腕を広げ、降り注ぐ光の矢をその身ですべて引き受けること。
それ即ち、全ての攻撃を引き受けるにおうだち。

43孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:25:31 ID:OBqYEFU20
「……おい、じーさん!?」

ヒューザが気付いた直後、光の矢がメルビンの全身を貫いた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



この時を待っていた。
敵の警戒が緩むまさにその瞬間を狙った攻撃だった。
ククールはすでに消え去り草の効果も切れていながら、それでも粘り強く待ち続けたのだ。

エイトたちから逃走してたククールはいまだ消え去り草の効果を維持したまま、トロデ―ン方面へと歩いていたところだ。
人間大のぬいぐるみを着た何者かと、見たことのない青い肌をした亜人種――名簿を見る限り名前はヒューザ――が通りがかろうとしていた。
消え去り草の効果も切れそうな時間帯だったので、やり過ごすことを選んだのだ。
だが、ぬいぐるみの中に入っていた人間の方が曲者だった。
人間離れした気配察知能力を発揮して、ククールの居場所を突き止めてきたのだ。
そこまでなら問題はなかった。
怖かったから隠れていた、そう言い訳すればいいのだから。
しかし、ぬいぐるみの中の人間が語った名前がククールの本能に警鐘を鳴らした。
メルビン、と。
その名前は確かアルスの知り合いではなかったか。

トロデーン方面から東へ向かっていたこの二人は、よほど特別な目的でもない限りトラペッタを目指すはず。
つまり、この二人は自分が逃げてきたエイトやアルスに出会う可能性が限りなく高い。
もちろん、さきほどのククールとアルス一行のやり取りを聞かれたら、こちらへと戻ってくる可能性も高い。
メルビンの人となりを聞く限り、ククールのような人間は許しがたい存在のはず。
ならば、いっそのことこの場で殺すべきだと考えたのだ。
消え去り草の残り時間もおおよその見当は付いていた。
これが無くなれば、もう消え去り草は残り一つしかないのだ。
できる限り、殺せるうちに殺しておきたかった。
そして予想以上の抵抗にあい一度は諦めかけたが、なんとか一人を仕留めることはできた。

「―――っ!」

倒れたメルビンにヒューザが駆け寄り、何事かを叫んでいる。
そこでククールが考えたのは、このままヒューザも殺してしまうか否か、という選択だった。
さすがに、これ以上の時間のロスはエイトたちに後方を突かれる可能性が高い。
しかし、トロデーン方面へ向かおうにもヒューザが立ちふさがる。
この場でヒューザの殺害は時間がかかるだろう。
戦闘能力もある程度高いことは分かっている上に、弓矢という遠距離武器の存在も知られた。
不意打ちも二度は通用しまい。 そして時間がかかるということはエイトたちに追いつかれかねない。
以上からククールがとった行動は、街道を外れることだった。
二方向からの挟撃は避けたい。
そしてヒューザが追いかけてくるのなら、街道から外れた場所でじっくり時間をかけて殺せばいい、という思惑だ。
さすがに赤い衣服は目立つのもあって、ヒューザはほどなくしてククールの存在に気付く。
憤怒の形相で追いかけてくるが、ククールが意に介することはない。
むしろ、あの場で泣き崩れてた方がまだ命があったのに、と冷たい笑みさえ浮かべていた。

44孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:27:18 ID:OBqYEFU20
しばしの間の追いかけっこ。
互いの距離は縮まることはなく、そして街道からは確実に距離が離れていく。
そして、ククールが十分な距離を稼いだと感じた瞬間、反転してヒューザに向き直る。
逃げられないと判断したのではない。
誰の邪魔も入ることなく、ヒューザを殺すことのできる準備ができたためだ。
ククールにとって、今のヒューザは罠にかかった獲物に過ぎない。

だが、ククールの目にあるものが止まる。
ヒューザの右手にメルビンの片手剣、斬鉄丸が握られているのだ。

(形見として譲り受けたか?)

もしそうならお涙頂戴の展開なのだが、重要なのはここからだ。
ヒューザはさらに左手にハンマーも持ったままなのだ。

「お前、ククールなのか?」

右手に片手剣、左手にハンマー。
そこから繰り出されるヒューザのはやぶさ斬り。
通常のはやぶさ斬りの動きが終わった後に、さらにハンマーによる攻撃がククールに襲い掛かる。
ヒューザの二刀流は、はやぶさ斬りの二連撃を三連撃に進化させたのだ。
ただ持っているだけではない。 『装備』している。
明らかにヒューザはこの武器を別個に、そして自分の手足として使いこなしている。

(こいつ、ヘルクラッシャーの親戚か何かか?)

念のために引き気味に様子を窺っていたおかげで、ククールの袖を切り裂くだけで済んだ。
剣とハンマーを同時に使う。 便宜上の呼称は二刀流でいいだろうが、口で言うほど簡単なモノではない。
使いこなすにはそれこそ長い鍛錬と訓練が必要なのだ。
二刀流の剣士というのはごくまれにいるものだが、それぞれ違う武器を使っての二刀流はククールも聞いたことが無い。
マルチェロのあの剣と杖を使ったスタイルも、あくまであの時限定の戦い方のはずだ。

「ヤンガスの話と違うじゃねえか」

○○○にとって最強の武器は何か?
古来より、何度となく議論されてきたお題だろう。
例えば、魔法使いは様々な武器を扱えるが、結局は魔力を高められる杖が最強の武器という結論に落ち着く。
攻撃よりも回復を求められる僧侶も、攻撃に特化した武器ではなく、回復能力を補助または強化するような武器が求められる。
勇者の武器も、やはり伝説の武器が多い剣が最強だと相場が決まっている。
つまり、この手の話題はだいたい結論は決まっているのだ。

はやぶさの剣を使っての片手剣二刀流の連続攻撃か。
両手剣を使って天下無双の専用砲台になるか。
キャンセルショットとランドインパクトでトリッキーに攻めるハンマー二刀流か。
もろば斬りを駆使してのハイリスクハイリターンな戦法か。
宝珠とベルトで極限まで強化した二刀流火炎斬りか。
新装備、はやぶさの剣改を使って再び片手剣二刀流の連続攻撃の時代か。

しかし、これほどまでに激論が交わされ、最強の武器候補が目まぐるしく移り変わった職業は他にないだろう。
その職業の名はバトルマスター。
ヒューザが本職として選び、己の剣技を磨き続けた戦闘のスペシャリスト。

45孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:29:12 ID:OBqYEFU20
「どういうことなんだよ! あぁ!?」

どうやらヤンガスともすでに知り合っていたらしい。
それさえ事前に知ってれば、信用させてから後ろから殺す方法を取れたものを。

(ま、ヤンガスならここでもいつも通りなんだろうな)

捨て去ったはずの温もりに思いを馳せ、ククールもまたレイピアを抜いた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ソロに適した職業は何か。
決して多くはないが、ソロの冒険者の間でも情報は交換され共有される。
第一に候補が挙がるのが旅芸人だ。
回復、攻撃、自己強化、敵の弱体化、これらを幅広く卒のないレベルでこなせるからだ。
もう一つ候補に挙がるのが僧侶やバトルマスターである。
僧侶は死ななきゃ安いを地で行く存在であり、説明は不要であろう。
 
そしてあまり知られてないが、バトルマスターは極めて攻守のバランスに優れた職業だ。
攻撃して死んで生き返って、また攻撃して死んで生き返って、という世間一般のバトルマスターに対するイメージは二流三流のそれでしかない。
一流のバトルマスターはまず死なないことを前提に行動する。
忠誠のチョーカーよりも、金のロザリオを身に着ける方が多いのだ。
アタッカーの役目は一秒でも早く天下無双やタイガークローをすることではない。
身の安全を確保してから攻撃することが何よりも重要なのだ。

死ねばそこで終了のソロであるヒューザは言わずもがなだ。
彼我の素早さに大きな差でもない限り、基本的に一呼吸の合間に繰り出せる行動は自分も敵も一回ずつ。
敵の攻撃を受ければ、回復するか攻撃を継続するかの選択を迫られる。
いくら僧侶の回復能力が高くても、敵に攻撃するチャンスがなければ永遠に倒すことはできないのだ。
その点、バトルマスターは攻防一体の特技ミラクルソードがあった。
回復と攻撃を兼ね備えたこの特技は、普段は出番が少ないものの、ソロになると基本にして究極の奥義と化す。
もちろん敵との相性の問題もある。
旅芸人では倒せるが、バトルマスターでは倒すのが難しい敵もいる。 逆もまた然りだ。
決して万能ではないが、ヒューザがこの職業でいることを選んだのは、様々なリスクを鑑みてこそだった。

「仲間ごっこを続けられるほど、この世界は甘くないってことさ」

ククールの言ってることはヒューザにも、いやむしろヒューザだからこそすんなりと受け入れた。
長い時間共に戦ってきた仲間といえども、意見の不一致や恋愛関係の縺れで解散したパーティーは星の数ほどある。
永遠の絆というのは強固なように見えて、脆い砂上の楼閣のようなもの。
一度パーティーを組んだからには裏切らない。 一蓮托生。 死ぬまで一緒。
そういう考えを持った人はククールの考えは理解できないだろう。
皮肉なものだ。 
ソロでやっていたヒューザは仲間と組む道を選び、特定の仲間と長期間旅をしたククールが一人で殺す側に回っている。

46孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:30:16 ID:OBqYEFU20
「それを聞けて安心したぜ」
「どういうことだ?」

ヒューザが斬りかかる。
二刀流による変幻自在の軌道が、あらゆる角度からククールに襲い掛かる。
しかし恐るべしは、一刀流にも関わらずそれを凌ぐククールの技量。
その全てをいなし、捌いていく。
レイピアは刺突に特化した形状故に、その刀身は細い。
鉄を斬るほどの名刀も、重量のあるハンマーもまともに受ければ刀身が曲がるかさもなくば折れる。
それを分かっているが故に、ククールは下がりながら受けている。

「てめぇを心置きなくぶっ殺せるってことだよ!」

ヒューザにとって最も胸糞が悪くなる展開は、ククールが自身と同じ目的だった場合だ。
その場合は些細な行き違いだったと、ククールのメルビン殺しを容認しなければならない。
もはやヒューザの怒りは、それなりの落とし前でもつけてもらわないことには収まりがつかないのだ。

「ふっ!」

下がり気味に受け続けていたククールが突如として攻撃に転じた。
ヒューザの首を狙うよう突き、しかもそれを瞬きするほどの時間で二度繰り返した。
ヒューザの目には、三つのレイピアが同時に襲い掛かってくるようにしか見えない。
神速の三段突きだ。
頸動脈こそ外したものの、ヒューザは薄く首筋を傷つけられた。

手に持った武器の数だけ強くなれるというのは、初心者が陥りがちな罠だ。
剣が一本しかなくても、いや例え剣一本でも訓練次第でここまで強くなれる。
かつてのマルチェロを圧倒するほどの技量を備えたククールは、間違いなく超一流に属する剣士だ。
レイピアは細いが故に脆い。 しかし、それは同時に軽いという意味でもある。
スピードで勝るのならば、こうして時折カウンターを混ぜるだけでも勝機はある。

「で、誰をぶっ殺すって?」

嘲るような含みをもった笑みだ。
腰を落とし、レイピアを水平に構えているククール。
その切っ先からはヒューザの鮮血がしたたり落ちている。
しかし、その程度で止まるヒューザではない。

「あの世でじーさんに詫びてこい」

ヒューザが斬鉄丸を一回転させて、腰だめに構えた。
その瞬間、すさまじいまでの闘気がヒューザに宿った。
精神統一をして、放たれるのはバトルマスターの心技体、そのすべてが合わさった連撃。

「くらいやがれ!」

バトルマスターを代表する奥義、天下無双。
その攻撃回数、実に秒間七連撃。

「何っ!?」

ククールの表情が驚愕に染まる。
斬鉄丸による唐竹、袈裟斬り、逆袈裟、逆風、右薙ぎ、左薙ぎ。 そしてハンマーによる叩き潰し。
これらが一瞬の間にククールに襲い掛かる。
ククールはヒューザのことを侮っていたことを認めざるを得ない。
まさかここまでの剣技を習得していたとは、と。
意識のすべてを回避に向け、天下無双に対処する。
レイピアで軌道をそらし、バックステップで距離を取り、体捌きを駆使して紙一重で避ける。
しかし、それができたのも五段目まで。
左薙ぎによる太ももへの斬撃、ハンマーによる真横からの衝撃に耐えきれずに吹っ飛ぶ。

47孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:32:05 ID:OBqYEFU20
「ぶふっ!」

肺の中の酸素を吐き出してしまう。
胃の中が逆流しそうなほどの衝撃を受ける。
あばら骨も何本か折れた感触がした。

(ちっ、接近戦はやばいか)

至近距離であの天下無双を連発されて、無傷でいられる自信はククールにはなかった。
何も相手の土俵で戦う理由はない。
ならば、ミドルレンジからの戦いではどうだ。

「闇に在りて闇より昏き雷よ、この地に地獄を現出させよ!」

距離をとったククールがレイピアを一回転させて地面に突き刺す。
呼びだしたのは地獄の雷、ジゴスパークだ。
黒き霹靂はその範囲内にあるすべてに間断なく襲い掛かる。

「やってやろうじゃねぇか」

それを見たヒューザが刀を天に掲げる。
聖なる雷が斬鉄丸に落ちた。
ヒューザは斬鉄丸を光輝の刃へと変貌させたのだ。
そしてその光が、左手のハンマーにも宿る。
光の刃、その属性は魔と闇を滅する断罪の一撃。
ヒューザはギガスラッシュすらも二刀流で放つ。

「ギガ……スラッシュ!!」

交差されたヒューザの腕から、二つのギガスラッシュが放たれる。
斜め十字に交差したギガスラッシュが地獄の雷のテリトリーに踏み込んだ。
荒れ狂う闇の雷、その輝きを増すギガスラッシュ。
その結末を見るよりも先に、事態は動く。
ククールが飛び出す。
何も接近戦そのものを避けたいのではない。
チャンスがあればその都度ものにしていくだけのこと。

一方、ヒューザは心は熱くしたまま、その判断力だけは冷静に保っていた。
ククールが向かってくるのもすでに補足している。
天下無双だけがバトルマスターの真髄と思うことなかれ。
ヒューザがその手に持った武器を持ち替える。
右手ハンマー、左手に片手剣。

「ランド・インパクトッ!」

今度はハンマーだけでなく、斬鉄丸も地面に叩き付ける。
ギガスラッシュと同様に、その衝撃波も二重に発生する。

「その手は読んでる!」

ククールが大きく跳躍する。
如何に強力な攻撃だろうと、地表を這っているだけなら飛べばいいだけのこと。
猛禽類のごとく鋭さで、レイピアを突きだす。
対するヒューザも、迎撃に無心こうげきを放った。
翼なき人の身では、空中で回避行動はとれない。
ならばこの無心こうげきで勝負は決するのか。否。

48孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:33:47 ID:OBqYEFU20
「バギクロス!」

この手は悪手だった。
それを悟ったククールが咄嗟に真空の壁を造りだす。
二重に発生した無心こうげきもバギクロスの前には形無しだ。
そして余力を残したバギクロスは、ヒューザからの着地狩りを許さない。
着地を決めたククールは、己の認識を見つめなおした。
接近戦では向こうに分がある。
また中距離戦もほぼ互角の状態。

「お前のことをだいぶ見くびっていたようで悪かったな」

そう言いながら、ククールは袋から何かを取りだした。
残り最後の消え去り草だった。
これを使う価値のある敵だという、ある意味最大級の賛辞だ。

「だが、この勝負は俺が勝つ」

ヒューザも消え去り草の存在は知らない。
故に、そのアイテムは回復か何かをするものだろうと思っていた。
ククールの姿が消えかけた頃に、ようやくその効果を察する。

「クソッ!」
「あの爺さんにはお前の方から伝えといてくれよ。 悪かったってな」

ヒューザがククールの間合いに飛び込む前に、その姿は完全に周囲と同化する。
その剣を受けるような芸当はヒューザにはできない。
焦ったヒューザがランドインパクトを放った。
が、しかし手ごたえはない。
今度はヒューザの悪手だった。
透明化していようと、気配や外界への物理的影響は隠しきれない。
例えば足跡だったり、草をかきわける音。
それをランドインパクトはかき消してしまったのだ。
瞬殺されるのを恐れたヒューザの短慮が招いた行動だった。
これでは本当にどこに行ったか分からなくなった。
そして、これで退いてくれたと思うほどヒューザも楽観的ではない。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ヒューザは一度も呪文を使ってはいなかった。
そして、近距離及び中距離の射程の特技しかない。 これは追いかけっこの段階でも予想はついていた。
ならば、最大射程において勝っているククールのとる行動は決まっている。
オーディンボウ。
とある神話の最高神の名を冠された珠玉の弓だ。
そしてバイキルトの呪文を唱える。
矢筒から弓を取り出し、番える。
風向きとその強さを計算に入れ、狙いを微調整した。
放たれたのは四連射。 息もつかせぬさみだれうちだ。
しかし、敵はバトルマスターのヒューザ。
天下無双で四本の矢すべてを叩き落とした。
自身の手から離れたものの透明化は解除されるようだ。
無敵にも思えるアイテムにも、落とし穴は存在する。

49孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:35:08 ID:OBqYEFU20
そして、矢の飛んできた方向から大まかなククールの位置の予想をつけたヒューザが迫ってくる。
またランドインパクトでもされたらかなわない。
今度はククールがバギマを使用する。
ヒューザがバギマをなんとかしようとしてる間に、ククールは場所を変える。

そして再びさみだれうち。 またしても天下無双で迎撃。
これは心を摘む戦いだ。
ヒューザの体力か気力が切れた時、その時勝負はつく。
見えない敵からの攻撃を長時間防ぎきるのは、体力的にも精神的にも消耗が激しいのだ。

(器用なヤツだ。 だが……こいつはどうかな?)

今度は矢を番えなかった。
しかし弦だけは引き絞る。
瞬間、光の矢が生まれた。
メルビンをハチの巣にした弓の奥義、シャイニングボウを放つ。

(さあ、そいつは剣で斬れないぜ?)

同じように実体を持った弓矢が飛んでくると予想をつけていたのだろう。
ヒューザは光の矢の出現に顔色を変えた。
泡を食ったように逃げ出すが、そのいくつかが体を貫く。

次はまたさみだれうちだ。
こうすれば、ヒューザは飛んでくるのがシャイニングボウかさみだれうちかをまず判断しないといけない。
気軽にククールのいる方向にも向かっていけない。
近づけばそれだけ、シャイニングボウがヒューザの体に到達する時間が短くなるからだ。
この距離だからこそ、ヒューザはいまだ致命傷は避けられている。

もう何度目だろうか、さみだれうちを撃つ。
体力が切れてきたのだろうか、ヒューザは矢を打ち落とせなくなってきた。
MP切れもククールが狙ってる作戦の一つだ。
ヤンガスやモリーがそうであったように、パワーファイター系の戦士はMPが低めな傾向にある。
ましてや天下無双はあれだけの威力と性能だ。
消耗の度合いも他の特技に比べて高いだろう。

(さて、お次はこれだ。 受けきれるかな?)

弓矢の攻撃に慣れさせるのも、それ以外の攻撃をヒューザに意識させないためだ。
祈りをこめて十字を切ったククールの手から生まれたのは奥義、グランドクロス。
僧職の道を目指し、頂きに辿り着いたものだけが扱える聖なる十字の裁きだ。
持てる火力の全てを駆使し、ククールはヒューザを殺害するつもりだ。
ヒューザが気付いた時にはもう遅かった。
グランドクロスは全てを飲み込み、浄化する。

だが、グランドクロスの進路上に突如割って入る者があった。

鎖帷子を着こんだ老齢の男性。 血だらけだ。
その男性が、鏡合わせのようにグランドクロスを作りだした。
忘れもしない。 名簿でアルスから知り合いだと教わい、そして自分が仕留めたと思いこんだ男。
ぬいぐるみを捨て去った伝説の英雄、メルビンだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「遅くなったでござる!」
「じーさん!?」

50孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:36:28 ID:OBqYEFU20
ククールの失敗はメルビンの死を確認してなかったことだ。
いかに出血が多量でぬいぐるみをの毛を真っ赤に染めてようと、それで安心してはならない。
満身創痍であることには間違いないが、メルビンはまだ死んでなかった。

「わしが……道を開くで……ござるよ」
「何やってんだじーさん! 死ぬぞ!」

戦いの場で死ぬるは本望。 ベッドの上で安らかに息を引き取ることなど考えたこともない。
死者の集う世界には、きっとかつての戦友が待っている。
長らく待たせてしまったが、今ようやくメルビンは彼らの下へ逝くことができるのだ。
共に武勇を競い合った仲間がいた。 夜、かがり火の下で猥談をして友情を深めた仲間がいた。
最後まで死なずに生き残ると、約束した仲間がいた。 結婚を控えた女性でありながら、オルゴ・デミーラとの決戦に赴いた仲間がいた。
そして、その全ての仲間に置いて逝かれた。

(みんな……今……逝くでござる。 土産話がたくさんあるで……ござるよ)

風前の灯となったこの命、使うのなら若い命を救うために使いたい。
いつまでも老人がでしゃばるような世界であってはいけないのだ。

「押し返すでござるよ、ヒューザどの!」
「くそっ、バカ野郎が!」

ヒューザも覚悟を決めた。
右手に片手剣、左手にハンマー。
今一度ギガスラッシュを生み出し、拮抗状態のグランドクロスを切り裂く。
続いて、メルビンが放ったのは凍てつく波動だった。
平和な世の中に戻った後も、人知れず職業を変えては鍛錬を積み重ねていた時に身に着けた特技。

「ヒューザどの!! 後は任せた!」

その言葉を最後に、メルビンは倒れた。
もう本当に虫の息だったのだろう。
託されたものの重みを感じ、ヒューザは走り抜けた。
ヒューザはもう、振り返らなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ヒューザが迷うことなく、ククールの下へと走ってくる。
さみだれうちをククールが放つが、ヒューザは正確にハンマーで叩き落としていく。
少し前までは迎撃すらままならなかったほど弱っていたヒューザが、だ。

(見えている!?)

メルビンが死の間際に放ったあれ。
あれが消え去り草の効果を消している。
マルチェロ以外に凍てつく波動を扱えるものがいるとは、ククールも思わなかった。
それほどまでに、この特技は使い手の少ないのだ。
また、消え去り草の効果を凍てつく波動で消せるのも予想外だった。
これもまた、消え去り草の知識不足が招いた結果だ。
ククールは知らないだろうが、レムオルという呪文がある。
それと消え去り草の効果がレムオルと同じであるならば、凍てつく波動で消せるのも納得の行く話。
メルビンとて、確証を抱いての行動ではなかった。
しかし、こうして伝説の英雄のとった最期の行動は一人の青年の命を救った。

51孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:37:47 ID:OBqYEFU20
「よう」

すでに目前の迫っていたヒューザの拳が、ククールの頬に突き刺さる。
もんどりうって倒れるククールに、ヒューザが拳を鳴らしながら近づいてくる。
ククールを見下ろすヒューザの目には危険なほどの怒気が宿っている。

「もう逃がさねえ。 さっきの草食ってる暇なんかやらねえからな」

もはやククールの手元に消え去り草はないのだが、そんなことヒューザは知らないし関係もない。
燃える闘魂をその拳に宿し、もう一度ククールを殴る。
ククールの鼻から血が出た。

「今のはじーさんの分だ」

ヒューザのテンションが減らない。 それどころかテンションが上がり続けいる。
通常、テンションは貯めるか消費するかの二択しかないはずだ。
故にテンション攻撃は扱いが難しく、隙も大きいとされる。
にも関わらず、このヒューザはテンションを溜めつつ攻撃もしている。

「ふっ」

だからどうしたというのだ。 ククールが軽く鼻を鳴らした。
ククールも凍てつく波動ほどではないにせよ、テンションを下げる方法くらい持っている。
冷たい笑みで上がっていたヒューザのテンションを消す。

「チッ……」

しかしヒューザもさほどショックは受けてはいないようだった。

「抜けよ。 それくらいは待ってやる」

直前まで弓矢を構えていたククールは、手に剣を持っていない。

(舐めやがって……)

ベホマの呪文を唱えながら、堕天使のレイピアを構えたククールが半身になる。
一瞬で勝負を仕留めるべく、ジゴスパークを使おうとする。
しかし――

「させねえよ」

ヒューザのキャンセルショットがククールの体に触れた。
呼びだされかけていた地獄の雷は召喚されることなく、地獄へと還っていく。
ハンマーは非常に嫌らしい攻撃が多いのだ。

「この距離、とったぜ――」
(マズい!)

この超至近距離、この距離はヒューザが最も得意とする範囲のはず。
ヒューザが腰だめになって両手の武器を構える。
高まる闘気。 放たれるのはバトルマスターの奥義、天下無双。

秒間、七連撃!!

52孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:38:50 ID:OBqYEFU20
糸状の閃光が七度、ククールの体に走った。
両手を斬り落とし、足首を絶たれたその体は傾き、胴体が綺麗に切断される。
最後に首を斬り落とし、ククールの体が綺麗に分割された。
その切断面は滑らかだった。 いや、滑らか過ぎるというべきか。
これが達人の技かと思うくらいに平面であり、まったくと言っていいほど骨や筋肉の抵抗がなかった。
そして、一番の特徴はその切断面からは血が一切吹き出てないということだ。
あまりにもおかしすぎた。
その時、ククールの死体が霧散する。
文字通り、霧のように溶けてなくなったのだ。

(やべえ!)

幻惑呪文。
いつの間にかヒューザはマヌーサの呪文を受けていたのだ。
散々透明化したククールによって苦戦させられた意趣返しをしようと、ヒューザがククールに時間を与えたのがそもそもの失敗。
戦場でそんな未熟さ、心の贅肉は命取りという他なかった。
ヒューザの足元に、いつの間にか魔法陣が生み出されていた。

「これが、俺の切り札だ!」

聞こえてくるククールの声。
上空から何かが降り注ぐ。

「天国への階段!」

その正体は幾条もの光による絨毯爆撃。
魔法陣内にあるすべての者に、浄化の光は降り注ぐ。
ヒューザはその威力を存分に味わうこととなった。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっっ!!!!」

声にならない叫びがヒューザから漏れる。
直前にマヌーサの呪文を唱えておいて正解だった。
あの時、キャンセルショットによってジゴスパークが中断させられた後、ククールも甘んじて天下無双を受ける理由はなかった。
スクルトで防御力を高めるのと、どちらにするか迷ったのだがマヌーサで正解だったようだ。
当たらない攻撃など、脅威には値しない。
あと一つククールが警戒することがあるとすれば、ランドインパクトのような全方位への攻撃のみ。
ここまで来て油断などしない。
ククールは念を入れて、シャニングボウをヒューザに向けて放った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



(強ぇ……)

薄れ行く意識の中、ヒューザは思う。
こんな時まで切り札を残していたとは。
メルビンに助けられてさえ、このザマなのだ。
接近戦では勝てたかもしれないが、そんなことはifの話に過ぎない。
勝負では如何に自分の得意を押し付け、相手の不得意な部分を付けるかがカギなのだから。
覚悟が違った。 重みが違った。 この殺し合いに対する熱が違った。
考えてみれば、自分には何もない。
エビルプリーストと因縁が深い訳でもない。

53孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:39:45 ID:OBqYEFU20
帰りを待つ家族もいない。
フレンドを作らなかったが故に、親しい友もいない。
一匹狼を気取っていた自分の自己責任だった。
剣に重さがないのだ。
ヤンガスたちと決別して、一人生き残る道を選んだククールの方がまだそういう覚悟があった。
ここぞという時の覚悟と気迫がヒューザにはない。
その差が如実に表れた戦いだった。 負けるのも当然だったのだろう。
そしてヒューザは、増え続ける疲労と怪我の痛みに負け、意識を手放しそうになる。



                 ヒューザ兄ちゃん!!
                 ……兄ちゃんはやめろ




心臓が熱く鼓動を打つ。
体中に熱が灯る。

(クソッ、何でこんな時にあいつのことを……)

ジュレットの町にいるウェディの少女、ソーミャ。
彼女はヒューザと同じ天涯孤独だった。
しかも、ヒューザよりもはるかに幼い年齢だった。
優しい少女だ。
捨てられた巨猫族のジュニアを拾い、母親として育てようとしていた。
結局、ジュニアは本来の母親の下へ返され、ソーミャはまた一人になった。
健気な少女だった。
天涯孤独となった彼女を心配して、近所の住民は時折世話を焼いてくれるかもしれない。
周りの人間は可哀想だと同情してくれるかもしれない。

しかし、彼女は一人だ。

家に帰れば、一人で住むには不釣り合いな大きさの家の中、一人ぼっち。
一人で食事をして、一人でその日の糧を得て、一人で寝ないといけない。
同じ境遇のヒューザはソーミャと約束した。 一人でも生きていくと。
だからヒューザはそれを証明していかないといけない。

頼れる相手がいるヤツはそいつに頼ればいい。
だが、いないヤツは自分が強くなるしかないのだ。
誰にも頼らず生きていけるように。
いつか愛する人と出会い、一人じゃなくなるその日まで、ソーミャは一人で生きていかないといけないのだ。

(あったぜ。 俺にも負けられない理由が!)

一人でも生きていけると、ヒューザはソーミャに証明し続けねばならない。
だから、こんなところで死んでられないのだ。
ソーミャの存在が、ヒューザの命の灯を賦活化させた。

「うあああああああああああああああっっっ!!!」

瀕死のダメージを受けたヒューザが、新たな力に目覚める。
テンションのオーラがヒューザの全身を包んだ。
武闘家などがテンションを自在に操る代表的な職業だと思われているだろうが、バトルマスターの存在も忘れてはならない。
テンションを操ることには関しては、バトルマスターも一家言持っている。
例えばとうこん打ち、そして例えばテンションブースト。

54孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:40:49 ID:OBqYEFU20
ヒューザはジェイコフに教えを受けたことはない。
しかし、ヒューザは自らの力でバトルマスターの新たな力、必殺技に目覚めたのだ。
テンションブースト。 その効果はテンションの即時充填。 
それ即ち、瞬時にスーパーハイテンションになるということ。
そしてスーパーハイテンションの効果はもう一つ。
体に起こっている状態異常を、すべて治療してしまうということ。
ククールから受けたマヌーサも、もはや用をなさない。

光の矢がヒューザに直撃する。 
が、貫くことはできない。

「何なんだ……一体何なんだ、お前はッ!」」
「ヤバそうな攻撃にやいば受けは基本だ。 覚えとけ」

ヒューザが口の中から血と唾液を吐きだす。
天国への階段も、ヒューザは棒立ちで受けていた訳ではない。
やいばの防御で受けていた。
そして、今のシャイニングボウもスーパーハイテンションによる防御力の上昇と、やいば受けの相乗効果で耐えきって見せた。
基本、とは言ってるものの、やいばの防御受けは極めて高度なテクニックだ。
それを平然と使いこなせるヒューザもまた、超一流の剣士だった。
ヒューザは両手の中にある武器の感覚を確かめる。
あと少しだけ、保ってくれよと強く握りなおした。

メルビンにも二度も助けてもらったのだ。
自分自身の情けなさに腹が立つ思いだった。
けれどもう、終わったことを悔いるのはやめよう。
ヒューザはもう無駄にしない。
メルビンがやったこと、ヒューザを守ってくれたこと、すべて忘れずに生きていく。
だって、ここで死んだらすべて終わりだ。
メルビンのやったことは本当に、無駄死にになってしまう。
泣くな。 涙を流すな。
お前はそんなキャラじゃないだろう?
いつものようにクールに、そしてその胸に宿った闘志だけは忘れずに戦う。
メルビンは後は頼んだ、と最期に言った。
ならば、ヒューザがメルビンに対して言えることがあるとすればたった一つ。

「じーさん……後は、俺に任せろ!」

負けられない理由がある。
託された想いがある
ただその思いだけが、今のヒューザを動かしていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



刀とレイピアの切っ先が交差する。
瞬きの回数すら勝負を左右するほどのしのぎを削る戦い。
苛立ちが収まらない。
何度死にかけても立ち上がってくるこの男が目障りだ。

55孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:42:16 ID:OBqYEFU20
きっとククールはマルチェロを殺してしまった時に、心のどこかが壊れてしまったのだ。
あれは本当に時間の巻き戻されたマルチェロだったのか?
ジャハガロスとの戦いで駆けつけてくれたマルチェロの言葉は真実だろう。
だが、それですべてのわだかまりが消えた訳ではない。
あの時のマルチェロの拒絶もまた真実なのではないかと、確認するのが怖かった。
実力に差ができた今のククールになら、マルチェロを取り抑えることもできたのにだ。
だから、殺した。 これ以上見ないで済むように、臭いものに蓋をするかのように。

そして、あのマルチェロが時間を巻き戻されたかどうか、それは些細なことに過ぎないのだ。
ククールは兄殺しをしたその時からずっと、己の内に問い続けていた。
あのマルチェロは時間を戻されたかもしれないだって?
仮にそれが真実だとしよう。 だが、だとしたらどうなのだ。



時間を巻き戻されたマルチェロは、俺にとっていらない存在なのか?



思い出なんてまた作ればいいだけ。
アンタが俺のことを嫌っていても構わない。
だけど覚えていてくれ。 それでもアンタは俺の兄貴なんだと。
どうしてその言葉が言えなかったのだ。
いつもそうだ、自分は肝心な時に肝心なセリフを言えない。
結局、ククールのやったことは勝手なマルチェロ像を作り上げて、そのイメージと違うマルチェロを否定しただけ。
思い通りにならなかった現実を認めることが出来なかったのだ。

誰か傍にいて欲しかった。
ククールの悲しみに寄り添ってくれとは言わない。
ただ、この島は一人で行動するには寂しすぎた。
今になって気付く。
エイトをあれほどまでに仲間を引き込もうとしていたのもそのためだ。
あの四人の中でクリフトに狙いをつけたのも偶然ではなかった。
愛するお姫様への変わらぬ忠誠を示すクリフトが羨ましかった。
想い人が生きている人間が妬ましかった。
だから、ぐちゃぐちゃに引き裂いてやろうと思った。

「何なんだ」

苛立ちは剣の乱れとなって現れる。

「何だってこんなことになってるんだよ!」

マルチェロを殺してしまったことに対してなのか。
こうしてヒューザと戦い続けていることへなのか。
それともエビルプリーストに殺し合いをさせられていることに対しての嘆きなのか、それすらも分からない。

「知るかよ!」

誰にともなく口にしていたククールの言葉をヒューザが受け取った。

「てめぇが選んだ道だろ!? 何もかもてめぇの自己責任だろうがッ!」

56孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:43:35 ID:OBqYEFU20



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



癒しの光を帯びた斬鉄丸と堕天使のレイピアがぶつかり合う。
勝負はミラクルソードの応酬に移り変わっていた。
回復に時間を取られている暇はないが、逐一ダメージは溜まっていく。
その問題を解決しつつ、相手にも攻撃する。
攻防一体の奥義があと何回使えるかが、この勝負を左右していた。

血だらけのヒューザは剣を振るいながら思う。
きっとククールは己の世界を閉ざしてしまったのだ。
今生きている仲間を捨てて、思い出の中に生きることを選んだのだ。

(たまにいるぜ。 アストルティアにもそういう奴がな)

自らの可能性を信じきれなくなった冒険者。
悲しみを正面から受け止められずに、心を閉ざしてしまった人。
その日々を完全なルーチンワークにして、冒険者としての歩みを止めた者。
そこには人それぞれの事情があった。

そして、ヒューザもそんな中の一人だった。
思考を停止させた冒険者の一人だった。

夕方、町に夜の帳が落ちる時間。
民家の窓からは様々なものが漏れてくる。
温かい光。
美味しそうな夕食の匂い。
心温まる家族の会話。
途切れることのない笑い声。
その全てが、ヒューザには無いものだ。
だから、眩しすぎて逃げた。
自分には一生関係ない、興味ないと、酸っぱいブドウ理論で誤魔化した。

違う。
認めてしまう。
自分はただ強がっていただけだと。
だから、自分はソロで冒険をしていた。
メルビンとの会話で、否応なくそれを自覚させられた。
本心は、誰よりも家族を求めていた。

「!?」

斬鉄丸から癒しの光が失われる。
ついにヒューザのMPが切れたのだ。
天下無双やランドインパクトなどの大技の連発。
そしてここに来てのミラクルソードの連続使用。
それが祟ったのだ。
ヒューザはもうミラクルソードも天下無双も使えない。
使えるようになるには、宿屋等での熟睡が必要だ。
そしてそれを待ってくれるククールではない。
俄然レイピアの鋭さが増した。
そして堕天使のレイピアには未だにミラクルソードの光が宿っている。

57孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:45:49 ID:OBqYEFU20
「ぐうっ!」

ヒューザが苦悶の声を上げる。
ククールの攻撃が一層苛烈さを増した。
しかしこれでいい。 
これこそがMPも消費し尽くしたヒューザの狙いなのだから。
斬鉄丸を掲げて精神を集中させる。

(何だ?)

ヒューザの行動があまりにも無防備過ぎた。
そのことにククールは違和感を覚える。
いや、しかしそんなことを気にしてる暇はない。
隙ができたのならそこをついていくしかない。
突きだしたレイピアはあまりにもすんなりとヒューザの防御を掻い潜る。

そして、堕天使のレイピアは吸い込まれるようにヒューザの心臓に突き刺さった。

刺さったままの堕天使のレイピアから血が滴り落ちる。
その質感は紛れもなく本物である。
マヌーサによる幻惑の線も疑ったが、そもそもヒューザは今に至るまで一度も呪文を使ってない。
そもそもヒューザの行動にブラフでもない限り、ミラクルソードの使用でガス欠を起こしてるはずなのだ。
ククールがレイピアを抜こうとしたその瞬間、ヒューザの瞳に力が宿る。

「もろば――」

肉を斬らせて骨を断つという言葉がある。
その特技は、そんな言葉を体現したかのような危険極まりない特技であった。
自らへのダメージも省みることなく、ただ敵への攻撃を優先させたその一撃。
天下無双と並んで、バトルマスターを代表する特技がある。
その名は――

「――斬りぃ!!」

もろば斬り。
その威力とは裏腹に、消費MPは0。
多大なるリスクを背負う代わりに、破格の威力を持つ特技である。
逆袈裟に振るわれた刃は、完全に油断しきっていたククールの体を深く切り裂いた。
そして忘れてはいけない。
ヒューザは二刀流だということを。
続いて左手のハンマーが、ククールの体の骨という骨を砕いた。

(こんなだから……俺……兄貴に……)

ククールの体から力が抜ける。
結局、最期まで己を貫くこともできず、途中に惨めに倒れて。
それでも、やっと終れるんだと思った瞬間。
何故か、ククールは笑った。
覚めない悪夢から今、解放されたかのように。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

58孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:46:18 ID:OBqYEFU20
ヒューザが自身の胸に刺さったレイピアを抜いた。
その体からは噴水のように血が吹き出ていた。
もろば斬りでククールを仕留めることができたものの、その代償はあまりにも大きい。

たった一度仕留めるのに、数回死にかけた。
実力の差はそれほどまでに開いていた。

(俺もまだまだってことか……)

メルビンを失ったこと。
自身の傷の事。
この後どう動くか。
ヤンガスにこのことをどう伝えるか。
考えることは山ほどあった。
それでも――

(眠ぃ……)

彼の体力もまた、限界を迎えていた。
心臓を串刺しにされた体はもはや、その生命活動を維持できなくなっている。
そして、ヒューザもまたククールと同様に、力尽き倒れた。

そして、その瞬間。

ヒューザの体から天使の羽根のようなものが生まれた。
天使の羽根から発せられた燐光が優しくヒューザを包み込み、傷口を塞ぐ。
止まっていた心臓も、再び規則正しくリズムを刻み始めた。

説明が最後になったが、ヒューザの持つハンマーについて語ろう。
そのハンマーはハンマーであるにも関わらず、パラディンには人気が出なかった。
軽すぎたのだ。
ハンマーとしての異例の軽量さに、重さを求めるパラディンは難色を示したという。
しかし、そのハンマーはバトルマスターと道具使いには人気が出た。
その威力と特殊効果が、この二つの職業には好評だったのだ。
ハンマーでありながらパラディンには売れることなく、そしてそれにも関わらず異例のロングヒットとなったその商品。

その名は、天使の鉄槌。

低確率で天使の守りを発動させる、天使の祝福を受けたハンマー。
この効果が発動しているが故に、ヒューザは最後もろば斬りに踏み込んだのかは定かではない。
ただ一つ確かなことは、ヒューザはソーミャとメルビンとの約束を破らずに済んだ、ということだ。

きっといつか、ヒューザは愛する者を見つけ家庭を持つのだろう。
そしてその時こそ、彼は本当の強さを手に入れるのであろう。
彼の剣技は未だ未完成なのだ。
忘れてはならない。
彼は愛するものを守る時にこそ全力を発揮する種族。
水の民ウェディ、なのだから。

【メルビン@DQ7 死亡】
【ククール@DQ8 死亡】
【残り63名】

59孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:46:41 ID:OBqYEFU20
【E-4南/森林/1日目 昼】

【ヒューザ@DQ10】
[状態]:気絶 HP1/10 MP0
[装備]:名刀・斬鉄丸@DQ10 天使の鉄槌@DQ10
[道具]:支給品一式 支給品0〜2
[思考]:仲間(特にジャンボ)を探す これからどうするか考える


※E-4街道付近に血まみれのぬいぐるみ(DQ3)が落ちてあります。
※メルビンの遺体付近にバニースーツ(DQ10) 支給品一式が落ちてあります。
※ククールの遺体付近に 堕天使のレイピア オーディンボウ@DQ10 矢×9 支給品一式×2が落ちてます

60 ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:47:59 ID:OBqYEFU20
投下終了しました
途中で気づきましたが

>ベギラゴンとバギクロスが互いに消え去ったあとに残っていたのは、エイト、アルス、ククール、ブライの四人のみ。
 
ここのククールはクリフトでした、すいません。
wiki収録時に修正しておきます

61ただ一匹の名無しだ:2016/08/28(日) 19:58:27 ID:AIxiMct.0
投下乙です!
クリフト、メルビン、そしてククールが逝ったか…
後を託そうとした若者のクリフトを失った老人ブライと、若者に後を託して死んだメルビン
二つの戦いの結果が、こうも真逆なことになるとは…

そしてヒューザとククールの戦いが凄かった
どっちも持てる力の全てを出しきって、最後までどっちが勝つのか読めない大激戦でした!

ククールは…やっぱあの時マルチェロを殺したのは不可抗力じゃなく逃避の部分が強かったんだなあって思った
その逃避のツケが、ここに来て回ってしまったというわけか…

大作の投下、改めて乙でした!

62 ◆jHfQAXTcSo:2016/08/28(日) 23:02:21 ID:jF34svGc0
投下乙です
それぞれのキャラや関係、支給品までフル活用していただいて嬉しい限り
最期まで純粋に姫を想って逝ったクリフト、マルチェロを殺してそのまま殺しに生きたククール、二度ククールに立ちはだかり大往生を遂げたメルビン、1stと対になる部分が多くて面白さ二倍です

では私も投下しますね

63生まれて、生きて、死んでいく  ◆jHfQAXTcSo:2016/08/28(日) 23:03:50 ID:jF34svGc0
あたしにとっての世界は、いつだってアルスとキーファ、幼馴染三人でいるものだった。
ありがとうも楽しいも、いつも素直に言えなかったし、その頃から流されていただけかもしれないけれど。
グランエスタード島よりもずっとずっと小さくて、でも、あたしにとってはずっとずっと大きな世界が、そんなに嫌いじゃなかった。
封印されていた島が復活してグランエスタード中が大騒ぎになっても、“あたしの世界”は何も変わらなかった。
だって、あたしたち三人は、それでも一緒だったんだもの。

あたしの世界が急に壊れたのは、キーファがユバールの守り手になると言ってあたしたちと違う道を歩み始めた時。
今までずっと一緒だったのに、なんでそんなにあっさり別れを決意できるの?
あんたの家族は、あんたのパパや妹はどうするの?
もう二度と会えなくても平気なの? 家族とも、あたしたちとも。
言いたいことはたくさんあった。
その鼻先に指をびしっ!と突き付けて、ぶつけたい言葉がたくさんあった。
でも、あいつが――アルスがあまりにもいつもと変わらない調子で、なんでもないことみたいに頷いてて。
なんだか、わけが分からなくなって、あたしが冒険してる理由も、よく分からなくなって――

世界が崩れる音は、聞こえなかった。
だって、気付いた時にはその形を保っていなかったんだもの。





「何れ全ては滅ぶ? 当ったり前でしょ。そんなこと、偉そうに言われるまでもないわ」

でもね、とその目に、言葉に、怒りを込めて、マリベルは男を睨む。
面が取れてみれば、その顔は確かに名簿に載っていた気がする。
視界の隅に赤く汚れた刃が入り、眉間の皺は深くなる。

「だからこそ、人は精一杯生きるのよ!
 だからこそ、人の命を踏みにじって嗤うアンタが許せないのよ!」

アイラ。
ユバールの踊り手。
キーファの子孫。
マリベルにとって、ちょっとだけ特別な仲間。
唯一の同性の仲間で、数少ないキーファとの繋がり。
そして、マリベルの世界を繋ぎ止めてくれた人。

「そんなこと言ったら、みんな、みんな一緒じゃない。生まれて、生きて、死ぬんでしょ?
 あたしだってそう、生まれて、生きて、死んでいくわ。アンタだってそう、生まれて、生きて、死ぬんでしょ?」

アルスと共に様々な時間軸の様々な場所を訪れて、マリベルは様々な人と出会ってきた。
例えば、ウッドパルナで出会ったマチルダ。
例えば、グレンフリークから去っていったペペやリンダ。
誰しもが、それぞれの想いを胸に懸命に生きていた。

「そんな風に言うんじゃないわよ! 人の人生を、そんな風に要約するんじゃないわよ!
 誰かが生きた軌跡は、簡単に要約していいもんじゃないわ!」

兄を想う故に魔王と契約を交わし、しかし最後には抵抗することなく死んでいったマチルダ。
互いに想っていながらも結ばれることなく、命を落として漸く寄り添えたペペとリンダ。
何れ滅ぶべくして消えた命などと、そんな一言で簡単に終わらせろとでもいうのか。

64生まれて、生きて、死んでいく  ◆jHfQAXTcSo:2016/08/28(日) 23:04:23 ID:jF34svGc0
 
ユバールの踊り手だったアイラ。
オルゴデミーラを倒して、世界に平穏を齎して。
魔王復活の引き金を引くことになってしまったという事実から漸く解放されて。
これからアイラという女性の、本当の人生が始まるはずだったのに。
突然殺し合いに巻き込まれ、訳も分からないまま命を奪われ、挙げ句悼まれることすらなく、なんでもないことのようにあしらわれて。
そんな理不尽を許せとでもいうのか。



人は誰かになれると誰が言ったか。
みんなみんな、ただ生まれて、生きて、死んでいくだけの人生だというのなら、成程それは簡単なことだろう。
しかし、そうではない。人は誰かと同じ人生は歩めない。
同じ故郷に生まれ、冒険を共にしたアルスですら、マリベルと同じ人生ということはない。
未来には無限の可能性がある。もしかしたら、昔の自分とは違う、それこそ違う“誰か”のような生き方をするかもしれない。
それでも、歩んできた道は違うのだ。

何れ滅ぶ結末が同じというだけで一まとめにして、だからどうしたというハーゴンを、マリベルは許すことができなかった。



ギィン!と金属音が響く。
大鋏に受け止められた剣を素早く引いて、再び突き出すも、今度は切っ先を逸らされバランスを崩す。
慌てて振り返って横向きに剣を構え、背に致命傷を負わせようとしていた刃を弾き返した。

「ひ弱な小娘と思ったが、中々の反射神経ではないか」

焦りも同様も見せることなくその動きを評する様に、ますます苛立ちが募る。
しかし怒りに任せた攻撃は、混乱が解けて冷静な判断力を取り戻したハーゴンに通じることなく受け流される。
ギリ、と歯噛みするマリベルに、ハーゴンは余裕のある態度を崩さない。

冒険の中で人々の想いを見てきたマリベルと、破壊神の召喚を望むハーゴン。
全く違う世界を見て、全く違うことを感じてきた二人の対立は必然だったのかもしれない。
深い溝をなんとなく感じてか、マリベルの怒りは鎮まる気配を見せない。

65生まれて、生きて、死んでいく  ◆jHfQAXTcSo:2016/08/28(日) 23:04:58 ID:jF34svGc0
 
再び距離を詰め、剣を傾いた十字に振るう。
一撃目は大鋏で防がれ、肩を傷付けようとした二撃目は僅かに身を引く簡単な動作で避けられた。
標的を失い崩れかけた重心を強く足を踏み込むことで安定させ、振り向きざまに魔神の如き一撃を繰り出す。
ハーゴンの背に吸い込まれた攻撃は彼を前のめりに押しやったが、振り向いたその顔にマリベルは固まる。
強力な一撃を受けて少しばかり苦しそうな息は混じっているものの、その口は未だ弧を描いていた。
やや引いた血の気と共に、微かに頭が冷えるが、それに気付くのが遅かった。
魔力が練り上げられ、空気が震えている。
いつから詠唱していたのか分からないが、マリベルの振り向きざまの一撃が入ったのは、魔法の構築にも集中力が割かれていたからなのだろう。

「動きも一撃の重さも中々だ。だが……熱くなりすぎたようだな、娘」

更に口角を上げて、ハーゴンはイオナズンを唱える。
防御も回避も間に合わず、マリベルは真正面から爆発をその身に受け、屋敷の壁に叩きつけられた。

「っの、やろ……」

髪や服が所々焼け焦がれ、正面の熱と背の痛みに顔を歪めながらも、マリベルはハーゴンを睨み付ける。

「ふむ、まだ戦意は衰えぬか。そんなにあの女に思い入れがあるのか?
 所詮全てはいつか滅ぶ命、世界から見れば取るに足らない存在だというのに」
「そんなこと、知らないわよ! アンタから見える世界はそうだとしても、あたしにとっては大事な仲間なのよ!」

勢いよく立ち上がって剣を構え、ハーゴンに噛み付く。

かつてキーファと別れてから、マリベルは自分の世界が壊れたように感じていた。
それを思い直したのは、アイラと出会ってから。
アイラがキーファの子孫だと知って、もう会えなくなったけれど、それでも繋がりは残っているのだと分かって。
どこか懐かしい気配と共に歩んできた道を振り返ってみれば、アルスとキーファ、三人で過ごしたマリベルの世界は、確かに残って、今に続いていた。
世界が崩れる音は、聞こえなかった。
だって、世界はその形を変えただけで、今までのものがなくなったわけではなかったのだから。
ハーゴンの言うように、世界から見ればどうということでもないのかもしれない。
それでも、マリベルにとっては大切な存在だったのだ。
アイラに出会えたからこそ、変わっていく世界の中でも変わらないものを見つけられたから。

構えた剣を振りかぶり、再びハーゴンに斬りかかろうと駆け出していく。

「マリベルさん! 挑発に乗っては……!」
「口出ししないで、サフィール!」

勢いよく攻勢に出るマリベルを見ていられなくなったのか、サフィールが思わず声をあげるが、マリベルは見向きもせずに叫ぶ。
大鋏で弾かれようと幾度も剣を振るい、詠唱する隙を与えない。
ハーゴンもそれを悟ってか、先程よりも鋭い攻撃を繰り出す。
一方が武器を振るえばもう一方は防ぎ、若しくは受け流して反撃に転じ、その反撃を避けて更にカウンターを叩き込む。
その攻防は正に一進一退。拮抗した刃物と刃物のぶつかり合い。
決着がつくとしたら、体力や精神力、様々な要因で保たれたバランスが崩れた時だろう。

66生まれて、生きて、死んでいく  ◆jHfQAXTcSo:2016/08/28(日) 23:21:41 ID:jF34svGc0
 
どれだけ打ち合った頃か、肩で息をしながらマリベルは素早く斜めに剣を振り下ろす。
その軌道は先も見た隼と気付き、ハーゴンは難なく受け止める。

「二度目の技か。芸がない」
「そうね、二度目の技よ。でも、このマリベル様がバカの一つ覚えみたいな真似するわけないでしょ!」

防がれた一撃目から二撃目に移らず、一気に重心を落として足払いを仕掛ける。
剣撃にばかり備えていたハーゴンは咄嗟にそれを避けることができず、足を掬われた。
その隙を見逃さず、魔神斬りを食らった箇所目掛けて回し蹴りを放ち、その勢いのまま身体を回転させ正拳突きも見舞う。
傷に直接打撃を入れられ流石に堪えたのだろう、ハーゴンは呻き声を上げながら振り返る。
その目に映ったのは、既に剣を振りかぶっているマリベルだった。

みるみる剣が炎を纏っていく。
かつてキーファが幾度と放っていた火炎斬り。
その炎は剣の軌道を彩り、燃やし尽くさんと標的に迫る。

ダーマの危機を救って転職をできるようになってすぐの頃、マリベルはキーファの影を追うように彼が愛用していたその技を覚えにいった。
やがてただ追いかけるだけなんて自分らしくない、いっそキーファを追い越してやると思い直して、火炎斬りを覚えてすぐバトルマスターを目指したけれど。

キーファとの繋がりを、キーファの子孫を消し去った男に、キーファの技で天誅を下さんと剣を握る手にありったけの力を込める。

「でやあああぁぁぁぁぁ!!」
「――マリベルさんッ!!」

身体を呑み込み、燃え上がり、炎は全てを焦がしていく。
カランと音を立てて武器を取り落とし、次いでドサリと膝をつく。
まるで収まっていく炎に合わせるかのように……マリベルは地面に倒れ込んだ。

67生まれて、生きて、死んでいく  ◆jHfQAXTcSo:2016/08/28(日) 23:22:35 ID:jF34svGc0
 


「私は構いはしないが、横槍を入れるとは不躾なものだな」
「知ったことではないさ。ローラよりも優先するべきものなど、ありはしない。
 さて、これで一人か」
「イイエ、マダ彼女ノ生命カツドウハ停止シテイマセン」

突如として現れたのは、アベルに言われるままにリーザス村を訪れたアレフとジンガーだった。
ジンガーの冷静な分析にアレフは舌を打つも、立ち上がらない様子に時間の問題だろうと結論を下し、次に狙うべき標的を思案する。
ベギラマの炎で覆った少女の他には、黒い衣に風変わりな武器を手にする男と、ローラを人質に取ったあの男とそっくりな黒髪の少女。
合わせて丁度三人。アベルに突き出された数だ。

「どうして、こんなことを……!」

どちらから殺そうかと考え始めた時、黒髪の少女が口を開いた。
マリベルは止めてくれるなと、口を出すなと真剣な瞳で訴えていた。
それだけに、サフィールは突然の乱入に黙ってなどいられなかった。

「どうしてマリベルさんの想いを踏みにじるようなことを……!」
「誰がどんな想いを抱えてようと関係ない」

しかしアレフは冷たい目で、冷たい声で、ばっさりと斬り捨てる。

「ローラをあのターバンの男から取り戻す為だ。他の者は関係ない」
「え……?」

ターバンの男。サフィールは耳を疑った。
サフィールの家族の――父親の特徴と同じだったから。

「ターバンの男って……まさか」
「……あの男の知り合いなのか」

一層鋭くなった瞳で、アレフはサフィールが聞きたくなかった名前を紡ぐ。

「あの忌々しい……アベルという男の知り合いなのか!」
「ッ‼」

サフィールの脳裏に、かつての旅路の中で時折見せていた父の顔が浮かぶ。
何かに耐えるように、思い詰めるかのように、苦しんでいることがあることに、サフィールは気付いていた。
ミルドラースを倒して、世界に平穏を齎して。けれどアベルは父親と母親を、サフィールからすれば祖父と祖母を失うという、大きすぎる犠牲を払ったのだ。
両親も兄も無事に生きて、加えて自分は流されるように共にいただけという自覚も手伝って、下手に慰めることなどできなかったけれど。

もしかしたら父親は、このゲームに乗ってしまっているのだろうか。
サフィールも僅かに考えてしまったように、甘言に惑わされてしまったのだろうか。

「アベルというのは、私のおとうさんです。お願いです、聞かせて下さい! 一体、何があったんですか!?
 おとうさんは……あなたに何をしたんですか!?」

鎧の男は、目の前でマーサを殺された時の父親と似たような目をしている。
自分が彼の家族と聞いて、憎悪の色はより濃くなった。
もしも父親が自身と同じ苦しみを誰かにばらまいているのなら、家族として受け止めなければならない。
怒りに満ちた男の目は恐ろしいけれど、サフィールはまっすぐに視線を受け止めた。

68生まれて、生きて、死んでいく  ◆jHfQAXTcSo:2016/08/28(日) 23:23:04 ID:jF34svGc0
 
「そうか、あの男の娘か。なら……しっかり聞いてもらおうか。あの男が俺たちに……ローラに何をしたのか!」

足早にサフィールに歩み寄り、その髪を乱暴に掴んで、アレフは語り出す。
サフィールが痛みに涙を浮かべてもお構い無しに、アベルの凶行を並べ連ねる。
アレフとローラを手下に襲わせたこと。
ローラを人質に取り、一方的にアレフを痛め付けたこと。
アレフとローラの関係を見抜き、ローラの唇を奪い、助けたくば南で三人殺せと言われたこと。
アレフの語調が段々と強くなっていったことも相俟って、その事実の数々はサフィールに重くのしかかった。

(おとうさん……なんで、そんなことをするの……?
 おとうさんのおとうさんやサンチョに、良き人間であれと教わってきたって、私たちに教えてくれたのに……)

アレフが無造作にその手を離し、サフィールはその場に崩れ落ちた。
ぐるぐると回る頭を押さえて立ち上がろうとすると、喉元に剣を向けられ、慌てて動きを止める。

「恐らく、俺が焼き払った少女の仲間なんだろう。ジンガーが言うには、あの少女はまだ息があるらしい。
 お前が父親に代わって命を差し出すのなら、見逃してやってもいい」
「え?」
「但し、楽には死なせないがな」

突然の申し出にサフィールは目を丸くする。
大切な人の為に三人殺さねばならないと言っていたのに、何故見逃すなどと言うのだろうか。
アベルの娘というだけでそれすらも凌駕してしまうほど、父親を憎んでいるのだろうか。

「私が死ぬことで、あなたの、おとうさんへの憎しみは消えるんですか……?」
「ローラを取り戻すまで消えはしない。が、いくらか溜飲を下げるくらいにはなるだろう」
「マリベルさんの命は、保証してくれますか?」
「手練れではないが、回復呪文の心得もある。何なら、殺す前に目の前で治療してやるさ」
「なら……」
「サフィールッ!!」

アレフの提案を呑もうとしたサフィールに、気の強い声が飛んでくる。
はっとして振り向くと、全身をボロボロに焦がしながらも、辛うじて立ち上がったマリベルが二人を睨み付けていた。

「マリベルさん!」
「その状態でまだ立ち上がるか。とんだ執念だな」
「うるっさい、わね……簡単にやられて、たまる……もんですか……!」

先程よりも更に酷い火傷の跡や、ズタボロの衣服。
虚勢を張っていることは誰の目にも明らかではあるが、それでもマリベルはアレフに舌を突き出し、サフィールに向き直る。

「サフィール、こんな奴の言うことなんて……聞いちゃダメよ」
「で、でも、マリベルさんが……!」
「あたしのことはいいの!!」

一際大きい声を出して咳き込むマリベルに、サフィールはびくりと肩を震わせる。

「サフィール、正直に……答えなさい。アンタのパパが、酷いことを……したって、聞いた時、どう思った?」
「え、ど、どうして、そんな酷いことを……って」
「それだけ?」
「……」

霞んだ声とは裏腹に、その瞳は力強く見つめてくる。
マリベルに促されるままに、サフィールは口を開いた。

69生まれて、生きて、死んでいく  ◆jHfQAXTcSo:2016/08/28(日) 23:23:44 ID:jF34svGc0
 
「止めなきゃ、って……おとうさんが道を誤ったなら、家族である私たちが、止めないきゃいけないって……」
「なら、行って……やりなさい。アンタの、パパの……ところに」
「でも、マリベルさんを見捨てることもできません!」
「アンタがここで死んでも、同じに……決まってる、でしょ。その鎧男に、私を生かしておく……理由なんてないもの」
「でも……!」
「行きなさい、サフィール! 後悔……したくない、なら!」
「私だけここを逃れても、私きっと、後悔します……!」

マリベルが村の出口の方向を指さす。
同時にアレフが剣を引く。

「アンタ、あたしに、流されてみる……って、言ったでしょ!」
「!」
「逃がすものか!」

アレフが剣を突き出すよりも僅かに早く、サフィールが動いた。
涙を溢して、村の出口へと走る。
同時に動き出したマリベルは、残り少ない力を込めて、サフィールにふくろを投げ渡し、彼女を追いかけようとするアレフにかまいたちを放つ。
鋭い風がアレフの足を傷付けるのと同時に、立っていられる力すらも使い果たしたマリベルはその場に倒れ込んだ。

「悪あがきを……!」
「お生憎さま、あたしは諦め、悪いの……よ」

それでも尚減らず口を叩くマリベルに歯軋りするが、サフィールに向き直り魔力を練る。
傷付いた足では追うのは難しいが、魔法ならまだ届くはずだ。

「! サフィ、ル……! 」
「ベギラマ!」

先程放ったものと同じ魔法を放つ。
しかしマリベルの声がギリギリ届いたのかいち早く魔法の気配に気付いたのか、振り返ったサフィールは素早くマホカンタを唱えてベギラマを弾き返し、再び走り出す。
顔を歪めて自らの炎に呑まれるアレフと、振り向かないよう堪えて走るサフィールを見て、マリベルは笑みを溢した。



アイラ、ごめんね。敵、討てなかったわ。
もう、体が動かないもの。もう一度あの男と対峙するなんて、できっこないわ。
でもサフィールを送り出したのは、後悔してないわよ。
あたしだって、あの時パパを放って他のやりたいことに集中してたら、後悔してたかもしれないもの。
あの子だって、きっとそう。

あーあ、あたしも結局、生まれて、生きて、死んでいくのね。
ああ、でも、でも。
アルス、キーファ、サフィール。
あたしが死んでも、あたしのこと、覚えててくれる?
生まれて、生きて、死んでいく。 言ってしまえば、それだけだけど。
フィッシュベルで生まれて、流されるように生きて、サフィールを流して死んでいった、ひとりの女の子がいたって。
覚えてて、ほしいな。
だって、 あたしは、誰かの人生と一緒くたに要約されるのなんて、絶対に嫌だもの。
ねえ。

「お、ね……が……」

70生まれて、生きて、死んでいく  ◆jHfQAXTcSo:2016/08/28(日) 23:24:14 ID:jF34svGc0
 
命の火が尽きる瞬間に溢れた音は、誰にも届かなかった。
剣を携えて目の前に立つアレフの耳には届いたけれど。
ローラで埋まる彼の心には届くはずもなかった。
サフィールを取り逃がした怒りを込めてか、勢いよく剣を振り下ろすアレフの姿がマリベルが見た最後の光景だった。





密かにアルバート家の屋敷の前から移動し、ハーゴンは民家の裏に隠れ、背に受けた傷を治療していた。
殺しに躊躇いはないが、ハーゴンが目指すのはあくまでゲームからの脱出。
無論振りかかる火の粉は払うが、積極的に戦いに身を投じるのは避けるべきだろう。
それに何より、乱入してきた二人組。
かつて竜王をたった一人で退けた、ロトの血を引く勇者アレフ。
そしてハーゴンは見知らぬ個体だが、キラーマシンを思い起こす機械の敵。
人質を取られたと言っていたアレフのみなら、マリベルのように挑発することもできるだろうが、それを補うかのように感情を持たず常に冷静な判断をできる機械という隙のないバランス。
戦うことでは得策ではないと判断するには十分だった。
できることなら村の外まで逃げておきたかったが、傷がじわじわと痛みを訴え始め、一度足を止めざるを得なかった。
マリベルを侮り回避を疎かにしていた己を恥じる。
真っ直ぐな怒りをぶつけてくる彼女に、無意識に乗せられていたのだろうか。

「完治には程遠いが、動くにはこれくらいで十分か。後はここを離れてやれば……」
「ソノ必要ハアリマセン」
「!?」

背後から聞こえてきた無機質な声に、ぞわりと身の毛がよだつ。
機械を相手に目を盗んで隠密行動など、できるはずがない。
そんなことは分かっていた。だからこそ、治療も最低限にしてこの場を離れようとしたというのに。
もう見つかってしまうなど。

「コノ場カラ逃ゲル必要ハアリマセン。命尽キレバ、意味ノナイコトデス」
「く……!」

ハーゴンが大鋏を構えるよりも先にその懐に潜り込んだジンガーが、その片腕を斬り落とす。
苦悶にのたうつ間もなくメガトンハンマーを足に打ち付けられ、ひしゃげたそれでは体を支えられず尻餅をついてしまう。
この上ない程の隙である。にも関わらず、ジンガーはその剣をハーゴンに振り下ろさず、くるりと背を向けた。

「何故とどめを刺さない……見逃そうとでも言うのか」
「イイエ、アレフヲ呼ンデクルダケデス。私デハナク彼ガ三人、殺サナケレバナリマセンカラ」

一刻モ早クマスターノ元ニ戻リ仕エル為ニモ。
そう言い残して去っていくジンガーに、ハーゴンは顔を歪める。
片腕を失い、足を潰され、しかしどちらも致命傷にはなりえない程のもので、その意識ははっきりとしている。
ジンガーが意図してやったことかは定かではないが、ハーゴンに焦燥と恐怖、そして絶望を与えるには十分なものだった。

71生まれて、生きて、死んでいく  ◆jHfQAXTcSo:2016/08/28(日) 23:24:49 ID:jF34svGc0
 
――いっそ意識がなければ、僅かな時を永遠のように感じる苦痛もなかったのに。
――いっそ四肢を全部失っていれば、回復を間に合わせて逃げようという絶望的なまでに僅かな希望を見出だしたりはしなかったのに。
――いっそその場で殺されていれば、処刑を待つ罪人のように惨めな最期を想像しながら、残った時を惨めに生きたりしなかったのに。

ジンガーに連れられたアレフが現れてその剣を引くまで、ハーゴンは希望が残された絶望という苦痛の時を味わい続けた。
大神官ハーゴン。何れ全て滅ぶと言い切った彼もまた、生まれて、生きて、そして死んでいった。










走る。走る。
涙を拭うことなく、ふくろをぎゅっと抱き締め、サフィールは走る。
目の前で父を殺されたという父親も、かつてこのような気持ちだったのだろうか。
自分がもっと周囲を警戒していれば。
自分がもっと早く乱入者に気付いていれば。
自分にマリベルを守って彼らと戦えるほどの力があれば。
頭に浮かぶのは、そんなことばかりだ。

(マリベルさん、ごめんなさい……ごめんなさい……!)

それでも、北へ向かう足は止めない。
マリベルは命を懸けて自分を流してくれた。
ならばその想いを無駄にしないことが、自分がマリベルにできる唯一の手向けだ。

(絶対に、絶対におとうさんを止めてみせます……マリベルさんの行動を、決して無駄にはしませんから……!)

それは懺悔なのか、決意なのか。
振り返らないように、一心不乱に駆けていく。
流れ落ちる涙だけが、名残惜しそうにリーザス村の方へと消えていった。



【マリベル@DQ7 死亡】
【ハーゴン@DQ2 死亡】
【残り61名】

72生まれて、生きて、死んでいく  ◆jHfQAXTcSo:2016/08/28(日) 23:46:01 ID:jF34svGc0
 


【I-5/リーザス村/1日目・昼】

【アレフ@DQ1勇者】
[状態]:HP1/3、ショック
[装備]:光の剣
[道具]:支給品一式、不明支給品(0〜2)
[思考]:ローラを取り戻す為参加者をあと一人殺す

【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:オールグリーン 人型(海底宝物庫の兵士風の姿)
[装備]:灼熱剣エンマ@DQS メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:アベルの命によりアレフと共闘および監視


【I-6/平原/1日目・昼】

【サフィール@DQ5娘】
 [状態]:健康
 [装備]:
 [道具]:支給品一式支給品一式×3、確認済み道具(1)、ショットガン、999999ゴールド
 [思考]:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
     ゲームに乗ったというおとうさんを止める

73生まれて、生きて、死んでいく  ◆jHfQAXTcSo:2016/08/28(日) 23:46:43 ID:jF34svGc0
以上で投下終了です
指摘、誤字脱字などありましたらよろしくお願いします

74 ◆jHfQAXTcSo:2016/08/29(月) 00:13:06 ID:wISB4Lcg0
すみません、MPと怪我の表記を忘れていました
 


【I-5/リーザス村/1日目・昼】

【アレフ@DQ1勇者】 
[状態]:HP1/3、MP4/5、足に裂傷、ショック
[装備]:光の剣 
[道具]:支給品一式、不明支給品(0〜2) 
[思考]:ローラを取り戻す為参加者をあと一人殺す

【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】 
[状態]:オールグリーン 人型(海底宝物庫の兵士風の姿) 
[装備]:灼熱剣エンマ@DQS メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5 
[道具]:支給品一式 
[思考]:アベルの命によりアレフと共闘および監視


【I-6/平原/1日目・昼】

【サフィール@DQ5娘】
 [状態]:MP微消費
 [装備]:
 [道具]:支給品一式支給品一式×3、確認済み道具(1)、ショットガン、999999ゴールド
 [思考]:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
     ゲームに乗ったのであろうおとうさんを止める

状態表はこちらになります

75ただ一匹の名無しだ:2016/08/30(火) 20:17:20 ID:PO7N6Zwg0
大作が一気に三つも!
皆様投下乙です

>『かつて』と『これから』
消え去り草を範囲呪文で攻略するという発想は成程と思わされました
一度は頭が冷えたブライも、放送後にはアリーナの死を知ることになるわけで、今後どう転ぶか見物ですね

>孤高の剣技、未だ道険し
まさかのククール連戦
二転三転する戦況は最後まで結末が読めずにハラハラしました

>生まれて、生きて、死んでいく
アベルの凶行を知ってしまったサフィール
果たして娘の説得は父の心を変えられるのか
…更なる悲劇フラグにしか見えないのは気のせいですね、はい


あと、二点程気になることが
「孤高の剣技、未だ道険し」にてメルビンが取りだした名刀・斬鉄丸と言うのはどこから出てきた物なのでしょうか?
前話を見てみると、メルビンは元々武器を持っていませんでしたし、
ヒューザの支給品も天使の鉄槌の分しか減ってないので、数が合わないようなのですが

もう一つ、同作品ラストにある、ククールの遺体付近の放置支給品から「道具0〜2個」という記述が消えてますが、
これは書き忘れ等ではなく、もう不明支給品は残っていなかったということでいいですか?

ざっと読み返してみましたがこれらに関する描写は見当たらなかったので指摘させて頂きました(見落としてたらすいません)
細かいことを聞くようで申し訳ないのですが、ご確認お願いします

76ただ一匹の名無しだ:2016/08/31(水) 02:09:10 ID:DelStbcg0
グランドクロスと天国への階段両方使えるククールはカリスマスキル120?

77 ◆CASELIATiA:2016/08/31(水) 18:35:30 ID:3ITG1Jk60
すいません回答が遅れました
昨夜の時点で問題は認識しておりましたが、したらばが不安定なため書き込みできなくてこの時間になってしまいました。

メルビンにはもう不明支給品なかったですね。こちらの確認不足です、すいません。
斬鉄丸はヒューザの支給品で、武器のなかったメルビンに渡した、ということにしたいと思います

ヒューザの不明支給品を0〜1に変更
斬鉄丸はヒューザから受け取った武器であることをwikiの作品内で追加しておきます。

>ククールの遺体付近の放置支給品から「道具0〜2個」が消えている
これは単純にコピペミスでした 
こちらもwiki上にて修正します


>グランドクロスと天国への階段両方使えるククールはカリスマスキル120?
こっちは指摘かどうか微妙なのですが、一応答えておきます。
海外版やリメイク版では使えてたor使えなかった、というのは大した問題ではないと思いましたので両方使えるようにしてます

78 ◆OmtW54r7Tc:2016/09/02(金) 23:10:49 ID:1kcz4zfU0
投下します

79なんとレックたちの体力が全快した!! ◆OmtW54r7Tc:2016/09/02(金) 23:12:06 ID:1kcz4zfU0
スクルドは思わず息をのみ、後ずさりした。
目の前にいる男は、一見人のように見える。
しかし、それは人にあらず。
赤い体色、人間離れした筋肉隆々とした体つき。
そしてなにより、全身から放たれる殺気と威圧感。
それらすべてが、目の前の人物が人間ではない、異形の存在だという事を主張していた。

(強い…)

一目見てすぐ、スクルドは理解した。
目の前の人物、いや魔人には勝てない。
アークやポーラ辺りならともかく、後方支援特化の自分がまともに戦える相手ではない。

「一つ聞く。お前は私を満足させることができるか?」
「ま、満足とは…?」
「私を満足させる戦いができる存在かと聞いている」
「わ、私は後方支援の僧侶です。あなたの期待には応えられないと思います」
「…そうか、それは残念だ」

スクルドの答えにデュランは無念そうな表情を見せた。
スクルドの佇まいを見て、素人ではないことは感じ取っていた。
しかし、その職業が僧侶となれば、確かに期待した戦いを望むことはできないだろう。
別に僧侶という職を軽視しているわけではない。
だが、スクルド自身がそういったように、僧侶とは後方で仲間を支援することで真価を発揮する。
他に誰か一緒にいるならともかく、単独の僧侶と戦ったところで面白味がない。

「では、レックにジャンボ、あるいはそれ以外に、強い者と出会いはしなかったか?」
「強い者、ですか…一つ心当たりが」

スクルドは、リーザス村で出会った仮面の化け物についてデュランに話した。
元々彼女がここまでやってきた目的は、あの化け物を倒せる者を探すためだ。
彼が倒してくれるというならば、ありがたい。

「仮面の化け物…なるほど、興味深い話だ」

スクルドの話に、デュランは興味を持ったようだった。
話を聞き終わると、再び歩き始めた。

「ではさらばだ、僧侶よ。次は誰か強いパートナーでも連れて、出会えることを望むぞ」

そういって、デュランはスクルドの横を通り過ぎて、リーザス村へ向けて歩きだした。

「ま、待ってください!」

だが、そんなデュランをスクルドは呼び止める。
呼び止められて振り向くデュランに対し、スクルドは言った。

「そのパートナー…あなたにお願いします!」
「なん…だと……?」

スクルドの言葉に、デュランは小さな驚きを漏らした。

80なんとレックたちの体力が全快した!! ◆OmtW54r7Tc:2016/09/02(金) 23:12:45 ID:1kcz4zfU0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


「先ほども言った通り私は後方支援の僧侶です。一人で勝ち抜くことなど厳しいですし、優勝する為には一時的にでも誰か強い人と手を組まなければいけません」
「それで私を、というわけか」
「はい!お願いします!」
「断る」

スクルドの懇願を、デュランはあっさりと拒否した。

「私は一人で戦うことを美徳としている。誰かと組むつもりなどない」
「そこをなんとか…お願いします!私には、どうしても叶えなければならない願いがあるんです!その為に、あなたの力が必要なんです!」
「しつこいぞ女。私は………いや、待てよ」

なおも食い下がるスクルドをうっとうしく感じながら断ろうとするデュラン。
しかし、そんなデュランの頭にある一つの考えが浮かんだ。

「…いいだろう、女。そんなに私と組みたいというのなら…この攻撃を受けてみろ!」

デュランは、持っていた鉈を構える。
そして、スクルドとの間合いを一気に詰めて、鉈を振り下ろした。
対するスクルドは、横っ飛びで鉈を回避する。
その後も、二撃目、三撃目と次々とデュランの鉈の攻撃が繰り出されるも、スクルドはそれを的確に回避していく。
やがて攻撃が十ほど続いたころ、デュランの鉈の動きは止まった。

「…合格だ。少なくとも足手まといになるようなヤワな鍛え方はしていないようだ」
「!それじゃあ…」
「待て、私と共に来るというのなら、いくつか従ってもらいたいことがある。この要求が飲めないならば、お前と組むつもりはない」
「要求…ですか?」

81なんとレックたちの体力が全快した!! ◆OmtW54r7Tc:2016/09/02(金) 23:14:17 ID:1kcz4zfU0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


「まず一つ。私が戦うのは強者のみだ。雑魚や非戦闘員とやり合うつもりはない」
「分かりました。そちらは私の方で対処しますが、よろしいですか?」
「好きにしろ」

一つ目の要求を、スクルドは快く承諾した。
強敵さえ引き受けてくれるのなら、こちらとしては困ることなどない。
自分だって数々の修羅場を潜ってきているのだから、弱い相手に遅れを取るつもりはない。

「二つ目。私の戦闘には一切手を出すな。回復はもとより、支援も禁止だ」
「え、それじゃあ共闘の意味が…」
「そちらが手を貸すのは、戦闘が終わった後の治療のみにしていただきたい。戦闘中は手を出すな」
「むう…ちょっと納得いきませんけど、了解です」

戦闘中の援護が禁止という、「共闘」という言葉の意味を疑いたくなるような要求。
釈然としないものを感じながらも、仕方なくスクルドは頷いた。
まあ、手を出せないということは、見方によってはこちらの消耗が減って大助かりだ。
支援ができなくともデュランが負けなければいいのだから、案外悪くないかもしれない。

「これが最後だ。もしも出会った敵が怪我を負い、満足に戦えない状態の時…その時は……」
「……その時は?」
「お前の回復術で治療をしてやれ」
「……はい?」

82なんとレックたちの体力が全快した!! ◆OmtW54r7Tc:2016/09/02(金) 23:14:54 ID:1kcz4zfU0
一瞬、耳を疑った。
一体、目の前のこの魔人は、なにを言っているのだ。
敵を、治療しろ?
そんな、敵に塩を送るような真似を、何故しなければならないのだ。

「私は、対等な戦いを望む。手負いの獣を狩った所で、つまらないからな」

かつて、レックたちはデュランとの戦いを迎える前に、彼の部下であるキラーマジンガや闇に堕ちたテリーと戦った。
連戦の疲れが残る中、対峙したデュランはというと…


―弱っているお前達と戦っても 面白くないのでな


そういって、なんとレックたちの体力を全快させてしまったのだ。
そうして、両者万全の状態での戦いは、見事レックたちの勝利で幕を閉じたというわけだ。

しかし、当然のことながらこの殺し合いの場でそんなチートみたいなことができるはずもない。
戦うべき相手がダメージを負っていようと、その状態のまま戦わなければならない。
それが、デュランには不満であった。

「そこでお前の出番というわけだ、僧侶よ」

そう、デュランが一度は断りながら、思い直して同盟に応じた理由は、そこにあった。
回復術を使う僧侶がいれば、この不満をある程度は解消することができる。

「はあ…正直理解できない考え方です」
「不服だというなら、この話はなかったことにさせてもらう」
「う〜ん…まあいいですよ。分かりました、3つ目の要求にも従います」

若干投げやりな態度ながら、結局スクルドは折れた。
敵に塩を送るデメリット行動と、デュランという頼もしい協力者を得られるメリットを天秤にかけて、後者をとったのである。

「そうか、それでは同盟成立だ」
「よろしくお願いします」

83なんとレックたちの体力が全快した!! ◆OmtW54r7Tc:2016/09/02(金) 23:15:50 ID:1kcz4zfU0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


「これは餞別だ、受け取るといい」

そういって、デュランは自分の荷物から一つの支給品を取り出した。

「これは…?」
「ふしぎなボレロ(ジパング製)というらしい。装備したもののMP消費を1/2にするそうだ」
「ジパングって…?」

ともかく、スクルドは装備してみた。
すると、心が落ち着くような不思議な感覚を感じた。
なるほど、確かにこれならMPの消費を抑えられるというのも頷ける。

「えっと…デュランさん?怪我を負ってますよね?術の調子を確かめるために、治療させてもらっていいですか?」
「ああ、頼む」

スクルドは、「ベホマ」と「べホイム」をデュランにかける。
すると、デュランの傷はわずかに癒されていく。

「うーん、やっぱり回復術には制限をかけられてますね。これはちょっと厄介かも…」
「べホイムか。初めて聞く名の術だ」
「ベホイミとベホマの間に位置する単体回復術なんですけど…体感としては、ベホマと比べてどんな感じですか?」
「あまり変わらんな、ベホマの方が多少治りが早いようには感じるが」
「そうですか…やっぱりこの世界でも、ベホマよりもべホイムの方がMP効率がよさそうですね」

スクルドたちの世界のベホマは、非常に燃費が悪い。
僧侶たちの間では「ベホマよりべホイム」が常識となっており、それは回復術が制限されたこの世界でも変わらないようだった。

「そろそろ行くぞ。随分と時間を使った」
「あ、待ってくださいよ〜」

人間と魔人。
聖職者と魔王。
種族も立場も全く異なる二人の同盟は、まだ始まったばかり。

84なんとレックたちの体力が全快した!! ◆OmtW54r7Tc:2016/09/02(金) 23:16:26 ID:1kcz4zfU0
【I-7/平原/1日目・昼】

【デュラン@DQ6】
[状態]:HP4/5
[装備]:粉砕の大鉈@DQ8
[道具]:支給品一式 道具0〜1個
[思考]:強き者を探す。主人公@DQ6とその仲間とは決着を付けたい。
    リーザス村で仮面の化け物と戦う

【スクルド(僧侶♀)@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:ホーリーランス、不思議なボレロ@DQ3
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:アークを優勝させる
    リーザス村に戻り仮面の化け物をデュランに倒してもらう

85 ◆OmtW54r7Tc:2016/09/02(金) 23:16:59 ID:1kcz4zfU0
投下終了です

86ただ一匹の名無しだ:2016/09/02(金) 23:23:34 ID:utIDd3AE0
投下乙です
デュランと僧侶スクルドの同盟、これは期待!
できる限り万全の敵と戦いたいというのもデュランらしい理由ですね

87 ◆OmtW54r7Tc:2016/09/02(金) 23:33:30 ID:1kcz4zfU0
あ、スクルドのMP微消費が抜けてました
wiki収録の時に書き足しときます

88ただ一匹の名無しだ:2016/09/03(土) 20:17:13 ID:JgH1Q.HE0
投下乙
ハーゴンは死んじゃったけど、リーザスにはまだデュラン好みの強者が何人もいるのでバトルがまたありそう

ていうかwikiの現在位置CGI見たら、リーザス村周辺にマーダーと危険人物集まり過ぎぃ!
西半分はヘルバトラーとバルザックと竜王くらいしか積極的に殺しに回るのいない気がするぞ
これはちょっとマーダー散らせないとやばいっすね……

89ただ一匹の名無しだ:2016/09/04(日) 07:19:42 ID:GRy0XXfI0
支給品一覧と本編を照らし合わせてて思ったんだけど、ヘルバトラーの支給品ってスレイプニール以外に世界樹の雫もあるはずなのでは

90ただ一匹の名無しだ:2016/09/04(日) 17:14:22 ID:HtyKROwA0
確かに世界樹の雫も使ってるね
でもそれだと不明支給品の残り0〜2ってのが合わなくなる
ジョーカーとしての優遇で一個多い可能性がありますとかそんな感じで補完しとけばいいかな

91ただ一匹の名無しだ:2016/09/04(日) 21:37:13 ID:GRy0XXfI0
それは普通に0〜1に修正すればいいんじゃないかね
単に世界樹の雫の存在忘却で0〜2になってただけだろうし

92ただ一匹の名無しだ:2016/09/07(水) 19:37:51 ID:dnuoDAl60
ハーゴンは死んじゃったけどキラーマジンガがいるんだよな、
デュランはどういう反応をするだろう?
そしてサフィールピンチじゃない?

93ただ一匹の名無しだ:2016/09/07(水) 19:40:40 ID:dnuoDAl60
あっサフィールは北に向かってるのか、間違えた

94ただ一匹の名無しだ:2016/09/07(水) 23:57:39 ID:DSKFApCI0
ジンガーが俺の中の萌えキャラになってきてる件
アレフにキルスコア稼がせるためにわざわざハーゴンのトドメを譲るとか可愛い

95ただ一匹の名無しだ:2016/09/08(木) 10:17:10 ID:LQgqyhmU0
ジンガー「あっちに一人足止めしておきましたで」
アレフ「よっしゃ殺しにいくわ」

96ただ一匹の名無しだ:2016/09/08(木) 16:44:09 ID:h5DrRuaw0
リオウとの初対面時の会話もフランクな感じで可愛いよね

97 ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:19:48 ID:K5hqCuOE0
投下します

98 ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:25:16 ID:K5hqCuOE0


「ヒーロー……ヒーロー!!」


熱い叫びが平原に響く。
たなびくマフラー、それは吹きすさぶ風を全身に受けていることがはっきりと解る。
燃える魂を象徴するかのように流れる汗を、ぐいと拭いながら彼は叫んだ。
草むらを駆け巡りながら、必死に探し求めているのだ。
この地で出会った初めての同志である友の声を。


「どこへ行ってしまったんだ、ヒーロー!」

「おい、叫ぶなよ!!俺の声がかき消される!こっちだって!」

「ムッ、こっちか!?ワシの声が聞こえるか、ヒーロー!!」

「下!こっちだ……下だ!おい!待てモリー!踏みつぶされる!!」




◆ ◆ ◆ ◆ ◆



母なる大地を、自分の両足でしっかりと踏みしめて歩くのが性に合う。
そう主張したのはザンクローネだ。
しかし、悲しいかな長駆のモリーとは決定的な差が生じていた。
歩幅だ。


「ヒーロー!一旦停止だ!君は無敵だが、体力は無尽蔵ではない!」

「ふぅ……おいおい、見くびるなよ?まだ俺は走れるさ」


仲間たちの危機を案じ、モリーは北のトロデーンへ向けて一刻も早く向かいたかった。
しかし、常に自分の後ろを疾走する形となるザンクローネをちらと見て、踵を返して立ち止まる。
彼に深くは尋ねなかったものの、モリーは感じていた。
この小さな身体は『呪い』の類によるものではないかと。


「いや。思い出したのだ、ムッシュやプリンセスが、身体を魔物や動物へと変化させられていた事について」

「そいつらは、お仲間かい?」

「ああ、そうとも。呪いによる不自由を強いられていた。解呪の後に聞いた話では、その間の力はかなり削がれていたらしい」


ザンクローネも彼の言いたいことを確かに理解した。
モリーは彼を、呪いのような外法によりこんな身体に"させられた"と考えているのだ、と。
そして彼の身体は大変弱っているのではないか、とも。
ロクな身の上語りもしないうちから、その苦労を案じられていたことにザンクローネは苦笑しつつ頭を掻いた。


「ヒーローよ……ワシは君に無理をさせていたかもしれん」

99小さいからだに大きな望 2/5  ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:26:38 ID:K5hqCuOE0


「まあ、このナリは呪いのようなモンてのは合ってるぜ。だが無理や負担は感じちゃいねえ」


謝ることはない、と胸をドンと一つ叩いたザンクローネは快活に笑う。
それだけを見れば、彼が少女の抱える人形のように小さな身体になっていることなど微塵も感じられない。
精霊としての身体は失われ、消失したザンクローネの体。
いまここに再び取り戻された肉体が、魔女に引き裂かれたときのものになっている理由は未だ不明だ。
それによって明らかに移動に時間を食われるというのは、確かに理不尽な仕打ちと言えるだろう。
だがこの心根だけは、邪悪な存在にも捻じ曲げることは不可能であった。


「こんな状況だ、甘えてる場合じゃない。足を引っ張るのはゴメンだしな」

「しかしだ、ヒーロー」

「どうした?」


ずい、と進み出て腕を組み、勢い良くしゃがみ込んで彼を覗き込む。
そしてその姿勢のままモリーは人差し指を垂直に立てた。
こういうオーバーアクションな所には驚かされるのか、思わず村の英雄は一歩後に退く。


「今後に備え体力は温存するべきであるともワシは思うのだ。心苦しいが、今後戦いが起こることは避けられんはず」

「ん……まあ、そりゃそうか」


そう言いつつ出会ったときのように肩に乗っての移動を提案するモリー。
急ぐ理由があるということは承知していたザンクローネも、この提案に同意した。


「すまねえなモリー、情けない身体なばっかりに」

「謝罪は不要だヒーロー。この行為は、さっき言っていた足を引っ張るということでは決して無い」


謝ることはない、とキラリと光るような笑みとともに親指をサムズアップ。
モリーを包む風が、強まったように感じられた。
周囲と比べ、ここだけ熱い。
そんな錯覚すら抱くほどに、彼は雰囲気を変えてしまう男であった。


「ワシはヒーローのような熱い魂を持つ人間の為とともに歩み、手を取り合う……それが自分の使命だと確信しているのだ」

「へへ……なら、ここで頭を下げたり、恩に着るのは逆に野暮ってもんか」

「そうだとも、共に邪悪を討つのみだ!では行くぞ、ヒーロー!」

「ああ、行こ─」


その発言を最後にザンクローネの声はモリーに届かなくなった。
加速に着いていけずに吹き飛ばされた彼は、後にこう語った。
すごい風とすごい爆炎を、熱く物語りつつ遠ざかっていく背に見た、と。

100小さいからだに大きな望 3/5  ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:28:52 ID:K5hqCuOE0

─そうして、叫び、慌て、草根をかき分ける男と、懸命に声を挙げる小さな英雄。
両者の時は少しばかし捜索に費やされてしまい、結果として周囲の探索に移れずにいたというわけだ。
なんとも馬鹿馬鹿しいかと思う者も居るかもしれないが、生憎当人らは大真面目である。


「おお、ここに居たかヒーロー!まったく背の高い草だ、君のビッグな背中を覆い隠してしまうとは!」

「2、3度潰されるのを覚悟したぜ」


ややあって、ザンクローネを発見したモリーはようやく安堵の息を漏らす。
決して悪い男ではないが、過ぎた熱血漢であるなと今更ながら再認される形となった。


「俺の声が先に枯れちまうかと思ったぜ……」

「すまない!今後は黙々と君を探すと約束しよう!」

「いやもう探される立場は勘弁してくれ……しっかり捕まるか。おし、改めて」


改めてモリーの声のでかさとテンションに驚きを感じつつも、再びモリーの手を借り肩に乗る。
傍らの靡くスカーフを、決して離すまいと気をつけて。


「出発だ!」

「うむ!」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「トンネル内で鉢合わせることを警戒していたが……」

「待ち伏せの存在は無かったな。取り越し苦労で済んで幸いだ」


警戒の様子を見せつつ姿を表したのは壮年の男性と、坊主頭の青年。
パパス、そしてイザヤール。
彼らは正義の志を抱えて邪悪な存在を追い求め、南へ向かっていた。
聞けば、サヴィオの遭遇したと言うバルザックは、執念深く彼の持つカマエルを付け狙っていたと言うではないか。
ならば彼らを追い、すぐ側まで迫っている可能性すらあった。
暗闇での遭遇を考えた二人は、警戒を絶やすことなく真っ直ぐ南へ向かう。
そして、山岳地帯を越えるトンネルをまさにくぐり抜けようというところであった。


「……気がついたか、あの声に」

「ああ。かすかだが猛々しき叫び声のような物が微かにトンネル内にまで届いた」


その正体は、バルザックなのだろうか。
もしそうであれば、戦いは避けられないだろう。
パパスは背中から鋼鉄の剣を抜き、警戒を強める。
イザヤールも太刀をいつでも構えられる体勢を取り、外の様子を伺った。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板