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ドラゴンクエスト・バトルロワイアルⅢ Lv6

661ただ一匹の名無しだ:2017/11/11(土) 20:47:02 ID:DQ9N.fFU0
>>660
ダサいからやめな

662ただ一匹の名無しだ:2017/11/13(月) 19:03:13 ID:ee46RK/k0
>>657 >>659   >>661
今までの非礼を詫びるすまなかった。

663ただ一匹の名無しだ:2017/11/26(日) 10:50:44 ID:ZjGNfAlg0
予約来た!
これで勝つる!

664ただ一匹の名無しだ:2017/11/26(日) 10:56:33 ID:Ju27JOOA0
驚くぐらい反応はやいなお前

665 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/26(日) 21:50:03 ID:RkIRCQzk0
投下します

666Lucky Dice ◆znvIEk8MsQ:2017/11/26(日) 21:50:48 ID:RkIRCQzk0
運命とは、双六盤のようなものである。
沢山のマス目に、様々なことが書かれている。
それが止まった者にとって幸せな結果をもたらしたり、不幸せな結果をもたらしたり。
中には、マス目一つで、人生が180度変わってしまうこともある。


とりあえず、この二人がいま止まっているマスは、間違いなく悪いマスだろう。

なにしろ、剣が槌、もしくは矢が絶え間なく降り注ぐのだから。
「くそっ!!」
間一髪のところで剣を躱したトンヌラが、舌打ちをする。
剣の次は矢で攻撃。これはチャモロのかまいたちが撃ち落とした。


普通なら攻撃を避けた後は、こちらから攻撃に転じればいい。
だが、この強力な機械兵、キラーマジンガにはそれが通じないのだ。
攻撃を避けた先に、さらに追加で攻撃が来るのだ。
剣、弓、槌の3つを使った多段攻撃。
しかもそれぞれが中距離、遠距離、近距離攻撃の役割を担っているのだから、安全地帯が全くない。
それらの武器の威力も、スクルトをかけておいたとはいえ、まともに当たれば致命傷は免れないものだろう。

「まずいですね……以前戦ったキラーマシンに似ていますが、強さは段違いです。
それにケガしているはずのローラを早く助けに行かないと………」

後ろに下がり、ベレッタM92をキラーマジンガに向けて発砲する。
トンヌラ達を察知しているらしき目のような部分を狙って打ったが、やはり使い慣れていない武器なので、狙いは逸れてしまった。
銃弾はキラーマジンガの肩に命中したが、その部分のフレームを薄く傷つけただけだった。
「折角の武器も、この程度とは………」

やはりアサルトライフルを使うべきだったのだろうか。
いや、無いものねだりをしていても意味がない。

今度はお返しにとばかり、矢を連射しながらキラーマジンガが迫ってきた。
しかもそれはトンヌラを集中して狙っている。

667Lucky Dice ◆znvIEk8MsQ:2017/11/26(日) 21:51:25 ID:RkIRCQzk0

「しまった!!」
「なんのこれしき!!」

しかし、チャモロが多数の真空の刃を飛ばす。
さっき使っていたかまいたちの応用編であるしんくうはだ。
トンヌラを狙っていた矢は、一本残らず撃ち落とされた。

「凄いじゃないですか!!」
トンヌラも褒めざるを得なくなる。
「でも、これではあの魔物は倒せません。」

キラーマジンガのボディには、魔法を跳ね返す力がある。
それのみならず、固いボディは真空の刃を通さないのだ。


だが、これまで遠距離から技を使っていたチャモロが一転して敵に突っ込む。
キラーマジンガはチャモロに向けて斬撃を放つが、フェイントをかけて躱し、続いて襲い来るメガトンハンマーも紙一重で避ける。

チャモロが武闘家の修行で培ったフットワークだ

(ハッサンさん!!力を貸してください!!)
キラーマジンガに向けて真っ直ぐに拳を突き刺す。
彼の亡き友が得意としていた、正拳突きだ。
それだけでは倒せないが、地に足を付けていないキラーマジンガは大きく吹き飛ばされた。

「今です、トンヌラさん!!」
チャモロの合図で、離れてしまったアサルトライフルを拾いに行く。


「チャモロさん、魔法だけじゃなく、体術も使えたのですね。」
「ええ。僕の仲間のおかげです。」
トンヌラは武器を取り戻し、少し落ち着きを取り戻す。
チャモロに、前衛も後衛も務められることに親近感を感じ、同時に仲間のおかげで強くなれたと言っているチャモロに少し妬みを感じた。
だが、今はそんなことを感じている場合ではない。
距離を大きく離されたキラーマジンガが、再び迫ってくる。

668Lucky Dice ◆znvIEk8MsQ:2017/11/26(日) 21:51:48 ID:RkIRCQzk0



以前キラーマジンガと戦った時、チャモロは一つ見抜いていた。
3つの武器を持ち、魔法も跳ね返される。
一見隙のないように見える相手だが、そうでもない。

一つは、チャモロが自分で示したように、急に攻撃のパターンを変えると、対応するためのテンポが悪くなること。
もう一つは剣、矢、槌のうち2つを使ったら、次の攻撃まで一瞬のタイムラグがあること。


トンヌラにも勝るとも劣らない観察力や分析力、判断力から導き出した答えだ。
しかし、これで楽勝かと言われれば大違い。
敵のことを知っているだけで勝てるのなら苦労はいらない。
相変わらず自分達の攻撃手段は限られているし、敵の攻撃が強力なのは変わらない。
さっきのようにチャモロの正拳突きを食らってくれるという保証もないだろう。


チャモロはしんくうはで矢を撃ち落とし、トンヌラは取り戻したアサルトライフルをキラーマジンガに向けて発砲する。
しかし、思い通りにいかない。
戦いに関してはめっきり素人だったパトラの、銃を撃ち落とした時とは訳が違う。
このままでは距離を詰められてさっきの状態に戻されてしまう。
今持っている武器については、実は良く分からない。
この使い方でキラーマジンガを倒すのは難しいが、何か他の使い方があるのだろうか。


隣にいたチャモロが、あるものに気付く。
(トンヌラさんが使っている武器は、何でしょうか?)
(引き金を引くことで金属の欠片を飛ばしていることから、ビッグボウガンに似ている物だと思いますが………)

更にトンヌラが撃つ。だが、やはり大きな効果は見られない。
同様にしてトンヌラも、自分の武器に疑問を持っていた。
(そういえば破裂音、煙の臭い………もしや?)

さっきからトンヌラが不自然に思っていたのは、誰も火の呪文を使っていないのに、煙の臭いがすることだ。
キラーマジンガが持っている剣は、炎の力を纏っているが、それではないようだ。

669Lucky Dice ◆znvIEk8MsQ:2017/11/26(日) 21:52:16 ID:RkIRCQzk0


「チャモロさんは、火の呪文が使えますか?」
「僕は風の魔法しか使えないです。」
「そうですか……なら、これを持っておいてください。」
「いいですが、どういうことですか?」

トンヌラはチャモロにアサルトライフルを渡す。
一応自分にはもう一つ武器があるし、ここで裏切られる危険性もほぼない以上は、渡しても構わないだろう。

キラーマジンガが迫ってくる。
あと数秒で剣先が届きそうだし、迷っている暇はない。

「「剣に向かって、投げてください!!」
トンヌラがチャモロにアサルトライフルを渡すや否や、指示を出す。

(!?)
撃っても余り効かないからといって、武器ごとぶつけても変わらないと思うが、なりふり構わず投げる。

言われた通りに、銃を剣に向かって投げつける。
「炎の力よ、集まれ、ベギラマ!!」
「トンヌラさん、それじゃ……」

トンヌラが放ったベギラマは、キラーマジンガに当たって跳ね返されるかと思いきや、チャモロが投げた銃に命中する。


同時にキラーマジンガは、投擲物に対応して、灼熱剣エンマで薙ぎ払う。







(!?)

派手な爆音と共に、アサルトライフルが暴発を起こした。


「読み通りです!!行きますよ、チャモロさん!!」
そのまま二人はキラーマジンガを無視して、橋を通り過ぎる。
追撃の攻撃は来ない。
暴発によって壊されたか否かは不明だが、先へ進む。

最初は逃げるつもりはなかったが、このやり方で倒せないなら二人で完全に打ち倒すのはほぼ不可能だ。
それに、これ以上時間をかけすぎるとローラの身が危ない。


どうにかして二人は危険なマスから抜け出す。

670Lucky Dice ◆znvIEk8MsQ:2017/11/26(日) 21:53:05 ID:RkIRCQzk0
「トンヌラさん、今、何をしたのですか?」
橋からある程度離れた後、何が起こったか分からないチャモロが尋ねる。
「あの武器から煙の臭いがしたので、何か爆発か炎をトリガーにしているのだと気づきました。
ならば炎の魔法と、キラーマジンガの炎の力を持った剣を使えば、武器の暴発と、それによるダメージも狙えるのではないかと思ったのです」
「なるほど。初めての武器なのに、素晴らしい洞察力ですね。恐れ入りました。」
「いえ。さっきチャモロさんが敵の攻撃のテンポを見せてくれたからです。それよりもローラさんが心配です。急ぎましょう。」



チャモロも自分と同様に、観察力に長けているようだ。
二人で強敵であるキラーマジンガを倒せたのも、頭脳によるものだ。



「トンヌラさん、これは……」
「確かローラさんが、使っていたものです。移動を助けるものらしいですね。」

暫く進んだ後、平原に落ちている杖を見つける。光が消えていることから、使えなくなって捨てたのだろう。

「恐らく、ローラさんはあの村に向かったのでしょう。」
足跡からそう考えるのが妥当だ。
多少足止めを食わされたとしても、ケガをしていることに加えて身重であるローラに追いつくのは、そう遠くないことだろう。



トンヌラの口元に、笑みがこぼれる。
理由の一つは自分の観察力で、自分より強い敵を出し抜いた、すなわち、忌まわしい二人では出来ない方法で成功したという優越感。
もう一つはチャモロという役に立つ人間が自分を信頼しているということ。


(おっといけませんね。慢心すると、足をすくわれます)

トンヌラは唇を引き締める。
まだローラの安否は確認しておらず、機械兵の脅威から逃れたとはいえ、一つ武器を犠牲にしてしまった。
次に現れる敵も、さっきと同じように都合よく勝てることもないだろう。
それに肝心の、ローレルとルーナがどうなっているかも分からない。
既に死んでくれていれば万々歳だが、万が一出くわしてしまえば、面倒なことになるだろう。

671Lucky Dice ◆znvIEk8MsQ:2017/11/26(日) 21:53:28 ID:RkIRCQzk0




トンヌラが知る由もないことだが、二人は既に死んでいる。
一人は騙され、一人は死ぬことを求めすぎて死んだ。
彼は近々、それを知ることになる。
キラーマジンガとの戦いを運よく切り抜けたことといい、彼の双六は良いマスが多いのだろう。


だが、もうじき知ることになる。
彼の双六は、決して良いマスばかりではないということを。


○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○



時は少し遡る。
(………だめーじ、50ぱーせんと。移動問題ナシ)
残念ながら、ジンガーは壊れてはいなかった。
(進行方向ト戦闘力ヲケイサンシテ、ヤツラガあべるサマニキガイヲ加エル可能性、20パーセント。)
(あべるサマノモトニ戻ルコトヲ優先シマス。)


ジンガーはトンヌラ達とは逆の方向に進む。
その方向にアベルはいないのだが、破壊兵は新たに何を始めるのだろうか。



【I-5/平原/1日目・夕方(放送直前)】

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP5/10 MP3/5 腕、肩、脇腹に切り傷(応急処置済) ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める
    ローラを追いかける
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。

【トンヌラ@DQ2】
[状態]:健康 MP微消費
[装備]:ベレッタM92@現実(残弾2)
[道具]:支給品一式 支給品0〜1(本人確認済み)
[思考]:様子を見つつ、生き延びる。ローレルとルーナに殺し合いの中で死んでもらう為、危険人物として吹聴する
    ローラを追いかける

※トンヌラはローラの死による自分達の消滅を危惧していますが、その可能性はまずありません

【G-6/平原/1日目・夕方(放送直前)】
【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:HP1/2 
[装備]:灼熱剣エンマ(ヒビ)@DQS メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:アベルの元に戻る


※SIG SG550 Sniper(アサルトライフル、残り弾9)は暴発しました。

672Lucky Dice ◆znvIEk8MsQ:2017/11/26(日) 21:57:58 ID:RkIRCQzk0
投下終了です。
作中にトンヌラがアサルトライフルをベギラマで暴発させる描写がありますが、実は銃の仕様上おかしくなっているかもしれません。
一応、アサルトライフルとベレッタについては調べましたが、私はガンオタクではないので銃に詳しい方がいらっしゃれば指摘お願いします。
その他矛盾点などがあればよろしくお願いします。

673ただ一匹の名無しだ:2017/11/27(月) 23:39:15 ID:PIWubQGs0
投下乙
何だこのチャモロかっけえ
これは間違いなくパーティのリーダーの器
アサルトライフルが爆発するかどうかは知らないけどまあその辺は適当でいいのでは

674 ◆2zEnKfaCDc:2017/12/06(水) 01:11:43 ID:i6behV3I0
投下します。

675Usual:2017/12/06(水) 01:13:11 ID:i6behV3I0
トラペッタ、リブルアーチ、ポルトリンク、トロデーン城。
この殺し合いの舞台には4つの拠点と言えるべき土地が用意されている。
その中でもトラペッタは外壁に囲まれた構造からトロデーン城に次いで潜伏や籠城に適した拠点であった。
しかし、その外壁は皮肉にもことごとく正義の使徒へと牙を剥く結果となってしまうこととなった。
ギガデーモンの襲撃時にはその外壁は内部の者たちの脱出を阻む障害物となった。
外部の視界を遮断していたその壁はゲマの奇襲を成功に導いた。

そして、今やその外壁によって隔離していたはずのバラモスゾンビは封鎖された扉を打ち壊し、再び殺し合いの場に解き放たれた。

バラモスゾンビは崩れ去る瓦礫の中からゆっくりと顔を出すと、目の前に"獲物"がうようよと居ることに気づく。
突然の襲撃に虚をつかれた皆が武器を構えるより先に、口から吐き出した酸のブレスで辺り一面を濃霧に変え、戦いの場を整える。
かつて魔王だった者の目には命などもはや喰らうものにしか映らないのだった。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

676Usual:2017/12/06(水) 01:13:59 ID:i6behV3I0

エイトは真っ先にバラモスゾンビに向かって走り始めた。

見るからに危険だと分かる明確な敵。
放置すると誰に危害が及ぶか…
その先を考えるや否やエイトは飛び出していた。

バラモスゾンビはエイトの剣を腕で受け止める。
これが痛覚を持つ生物でさえあれば、腕は裂けもう動かすこともままならないだろう。
しかしバラモスゾンビは気にも留めずにその剣を振り払いそのままエイトへと振り下ろす。

エイトはすかさず横へ飛び退き回避する。
空を切った腕は大地を隆起させ、その場の全員にその破壊力を思い知らせた。

「動きはそんなに速くないから、気をつけて戦えば大丈夫だよ。」

アルスがぼそりと呟いた。
どれだけ破壊力のある一撃も当たらなければ意味は無い。
そんな戦いの常識とさえ言えるようなことも感覚から抜け落ちていたことにエイトは気づく。

見たところ敵の攻撃の威力はいつか戦った巨竜の力を解放した竜神王に及ぶかどうかといったところ。
しかし回復効果が制限されている状況下では今までのように回復呪文で敵の攻撃を受けつつ相殺するというわけにはいかない。
今までの戦いとは違うのだとエイトはつくづく思い知らされる。

677Usual:2017/12/06(水) 01:15:12 ID:i6behV3I0
「ブライさん、お願い。」

その一言を残しアルスがバラモスゾンビに向けて走り込むと、バラモスゾンビはアルスを前に片腕を振り下ろした。
その腕がアルスへと届く寸前――――――

「ピオリム!」

ブライの補助を受けてアルスは加速する。
叩きつけられる腕の着弾点をするりと抜け、バラモスゾンビの胴体を思い切り蹴りつけた。
バラモスゾンビはその威力に一歩引き下がりはするものの当然致命打にはなり得ず、懐に潜り込んだままのアルスへと爪を突き出す。
身体を捻ってそれを躱したアルスはそのままドラゴンキラーを突き刺す。

「っ!」

アルスはその時、自分の不運に気づいた。
バラモスゾンビはアルスにとっては天敵と言えるほど相性の悪い相手だった。
上級職に就けなかったアルスはマスターも出来ない下級職で身につけられる小技のみで戦える戦闘スタイルを身につけた。
しかしどれだけ洗練しても小技は小技の域を出ることはない。
バラモスゾンビのように小技を真っ向から跳ね返せるだけの守備力を持った敵を崩す手段をアルスは持たないのだ。
剣は胴体に突き刺さらずに弾かれる。
想像以上の硬さに空中に放り出されたアルスへとバラモスゾンビの腕が振り下ろされんとしていた。

――――――ギィン!

バラモスゾンビの爪と割って入ったエイトの奇跡の剣が鈍い音を奏でる。
地に落ちたアルスが受け身をとって立ち上がると同時にエイトはバラモスゾンビの腕を弾き返す。

678Usual:2017/12/06(水) 01:17:08 ID:i6behV3I0
殺意の対象をエイトへと変えたバラモスゾンビはエイトを踏みつけるため右足を上げる。

「大防御!」

全体重を載せた一撃は受け止められないと判断し、ダメージを最小限に抑えるために奇跡の剣を投げ捨てての完全防御の構え。
バラモスゾンビの攻撃を受け止めたエイトは投げ捨てた剣を拾い上げ、受けたダメージを相殺するかのように斬り付ける。
奇跡の剣で放つミラクルソードであっても効果がほとんど感じられない。



「まずいわね…」

ふとデボラが呟くのをアルスは聞いた。

「どうしたの?」

「アイツ、傷がだんだん治ってるじゃないの。」

アルスやエイトがつけた傷がじわじわと治っていっているのだ。
考えてみると、ひとつの街を崩壊させるほどの戦闘を終えているにも関わらず身体に傷らしい傷も見受けられなかった。

実際のところは街の大部分を崩壊させたのはバラモスゾンビではないのだがそのことをアルスが知る由はない。

「つまり、ちまちま攻撃しても勝てないということですかな。」

「…僕には出来ないよ。あいつを一気に倒すことなんて。」

自分が無力だということは実感出来ても、悔しいだとかそんな感情はなかった。
こんな敵と出会ってしまったのも天命なのだろう。
ここで殺されるとしても構わない。サイコロの目が悪い方向に傾いた。ただそれだけのことなのだ。
仮にその不運の贄が自分の命だとしても。

679Usual:2017/12/06(水) 01:18:38 ID:i6behV3I0

「私なら撃てます。」

しかし、バラモスゾンビの攻撃を何とかいなしながらエイトが名乗り出る。

「しかしそれには時間が必要です。アルスさん、デボラさん、ブライさん、お任せしてもよろしいですか。」

「…わかった、任せて。」

そうだった。
未知数なのは敵の力だけではない。
隣にいるのはいつもの味方ではない。
ガボでもメルビンでもアイラでも、マリベルでもないのだ。

既に死んでいる人もいれば、どこにいるのかも分からない人もいる。
もしかしたらもうみんな死んでいるのかもしれない。



エイトはアルスとデボラの後ろへと下がる。
ブライより後ろに下がることは出来なかった。
ブライがトロデ王の面影を残しているからなのか、いつもの戦いで後列を担うことになっても魔法使いのゼシカより後ろには下がらなかったからなのかは分からない。
それでもバラモスゾンビの射程外に居ることを確認し、全身に力を溜め始める。
アルスとデボラは前線に出て戦い始めた。
二人とも身軽なもので、一撃一撃が重いバラモスゾンビの攻撃を的確に躱していく。
ブライはその二人を持ち前の呪文で補助している。
そんな中、自分が一撃必殺のために力を溜める。
一見バラモスゾンビに対して完璧な布陣のように思える。
しかしこの布陣に引っかかる点があるのも確かだ。

いつもの戦いではこういった相手に真っ先に飛び込んでいくのはヤンガスだった。
それをゼシカやククールが呪文や道具で補助して、ゲルダとモリーは多彩な手数で相手を撹乱していた。
それだけで勝てる相手であれば自分はそれらの補完をして、ジャハガロスやラプソーンなどの強敵が相手であれば必殺の一撃を叩き込むために力を溜める。
その戦い方はおそらく正しかったのだろう。

そこまで考えたところでエイトは現状に足りない部分に気づいてしまった。
この布陣がひとつの失敗で崩壊し得るとても脆いものであるということに。

アルスとデボラは確かに無傷のまま敵の攻撃を捌き続けている。
でも、ここにはヤンガスのように敵の攻撃を受け止められる者がいないのだ。
攻撃を受け止めること。
それが成立するのためには言うまでもなく敵の攻撃と同じだけの回復が不可欠である。
回復の制限されたこの世界では危険な行動であるのは間違いない。
しかし真っ向から攻撃を受け止められるということは多少の想定外の出来事にも対応出来るということ。
一度回避に失敗するだけで突破されてしまう今の布陣にエイトは不安を感じ始める。
しかし、だからといって何が出来るというのだろうか。
自分に出来ることは力を溜め続けることだけ。

誰か前線で戦ってくれる人が居てくれれば――――――

エイトにはそう願うことしか出来なかった。

680Usual:2017/12/06(水) 01:20:02 ID:i6behV3I0
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

トラペッタを脱出したライアンは気がつくと深い深い暗闇の中にいた。これが生と死の狭間というものだろうか。

私はここで死ぬ。

先ほど呟いた一言を思い出す。
それでも私はギリギリのところで生き延びている。
私だけが生き延びて、他の皆は死んでしまった。

そもそも、死とは何なのだろうか。

かつての戦いの中でもライアンは幾度となく死を経験してきた。
人間と魔物の戦いは空論上、魔物の方が有利だ。身体のポテンシャルが根本から異なるのだから、人間はそれぞれの適正に合わせ個別の"役割"を持った行動を心がけることで戦いの中のポテンシャルの差を埋めていく。

そしてライアンの役割は明文化されていたわけではないが、暗黙の了解として"敵の攻撃を受け止めること"だと決まっていた。ユーリルやクリフトなど、パーティーが崩壊しないためには死んではならぬ者がいる。
だから頑丈な鎧に包まれたライアンが最前線に立って壁となる。
当然、強力な敵を前にしては仲間を守って死ぬこともしばしばだった。
それでも自分にとっての次の瞬間には仲間や教会の神父が生き返らせてくれている。

681Usual:2017/12/06(水) 01:20:48 ID:i6behV3I0

おそらく、この世界での死ではその"次"がないのだろう。

ユーリルは故郷を、そして恋人を失ったことで勇者として覚醒した。理不尽に叩きつけられた"死"への怒りが彼を物語の主人公へと変えたのだろう。
物語の終末を彩るはずだったピサロもまた、理不尽な"死"への怒りを胸に異形の姿へと化した。
彼らにとっての"死"は私の思い描くそれとは大きく異なるものなのだろう。

では、私はどうなのだ。
命に対してどれほど真剣に向き合っていられたのだろうか。
聖なる存在の加護のおかげで失おうとも再び与えられる命を繰り返し、私は"死"を恐れなくなった。
その加護を失い、亡くした命が戻ることのないこの世界でも心の底に根強く残るその感覚は私の中に在るのだ。

私はここで死ぬ。
いつものように死に、いつもとは違って2度と目覚めない。

「それでいいのよ。」

いつか聞いた声。
暗闇の中にかつての仲間、アリーナ姫が立っていた。

682Usual:2017/12/06(水) 01:25:26 ID:i6behV3I0
「悪は何度だって蘇る。仮に今回倒せたとしても世界が平和になることはないの。もう希望なんてないんだわ。」

武道に対して天賦の才を持っていたとはいえ、彼女はまだ子供だった。だからこそ、現実を知った反動も大きかったのかもしれない。

「妻も子供もいないあなたに守らなくてはならないものなんてないでしょう。もう楽になって良いのですぞ。」

新たな影が浮かび上がる。
武器屋トルネコ。
この世界に呼ばれたことで妻と一人息子を置いて死ぬこととなってしまった男である。

「守りたかったものを守れずに失った時、人は死ぬのです。命の炎は消えずとも、既にあなたは死んでいるのではないですか?」

サントハイム城の神官クリフト。彼は誰よりもアリーナ姫のことを気にかけていた。おそらくこの殺し合いでも、アリーナ姫を探し回っていたのだろう。

「なあ――――――使命のことなんか忘れちまえよ。俺みたいにさ。」

やはり、というべきだろうか。最後の人物が浮かび上がる。
私が10年以上かけて探し出した勇者ユーリルがそこにいた。

「"勇者を探す"というアンタの使命の果てに待ってたのは何だ?そう、残ったのは俺たちが不要になった世界だけだ。俺は勇者として使命を果たしたんじゃない。自分で自分の居場所を失くしただけなんだよ。」

自分がずっと探し続けた勇者がとても勇者とは思えないような言葉を吐き続ける。
彼はもう、勇者ではないのだ。

「「「「さあ――――――」」」」

4人の声が重なる。
このまま眠るように死ぬのが私にとって最良の選択なのだろうか。

「「「「――――――こっちへおいでよ…。」」」」

違う。
私はまだ死ぬわけにはいかない。
殺された皆の無念を背負っている私は最後まで戦い抜かなければならないのだ。

「ぬおおおおおお!!」

暗闇を晴らし、ライアンは立ち上がる。
悪魔の囁きを頭から捨て、ナブレットから貰った剣を握りしめる。

「ジャンボ、という者を探すのでござったな…。」

自分を信頼してくれたナブレット。彼から受け継いだ使命をまずは果たそう。
ライアンは走り出した。
彼の胸に宿る命はもはやひとつではない。
トラペッタで散っていった多くの者の命を宿し、悲劇の元凶エビルプリーストを討つことを心に決めた。
勇者を探す旅ではなく、悪の根源を断つ勇者へと変わる旅が幕を開けた。

683Usual:2017/12/06(水) 01:26:00 ID:i6behV3I0





「ライアン殿、行ってしまいましたな。」

「ま、エビルプリーストに勝てるなんて思わないけどね。」

「あぁもぉー素直じゃねーなぁア・リ・ィ・ナ・ちゅゎん!ほら、スマイルスマイル!きゃわいいお顔が台無しだぜ?」

「ユ、ユーリル殿いいいい一体何を!?ザザザ、ザラキ!」

深き闇の底、ライアンを見送る影が4つ。
彼の胸に宿る想いはトラペッタで散った想いだけではない。

「――――――ま、こっちの方がライアンらしいよな。」

そして幻影は闇の彼方へと沈んでいく。
ライアンが最後に見た勇者であることをやめた者の眼は、確かに勇者の眼をしていたという。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

684Usual:2017/12/06(水) 01:26:35 ID:i6behV3I0

「グアアアアアアァ!」

敵が咆哮を上げながら迫り来る。

「ヒャダイン!」

後方からの氷塊呪文で敵の脚を突き刺して脚が一瞬止まる。
その隙に敵の攻撃の着弾点を予測して余裕を持って離れる。

仲間の顔ぶれこそ違えど感覚はいつもの戦いと同じだった。
僕は勝利を確信していた。

敵の両腕が大地を殴りつける。
僕がいない大地に穴が空き、エイトから注意を逸らすために敵の脚を斬り付けて離れる。
相変わらず深い傷を付けるには至らない。
ふと見たところ、エイトは何かの準備をしているようだ。
離れていても身体が痺れるようなオーラを感じる。

デボラさんも問題なく敵の攻撃を避け続けている。
このままエイトの準備が整うのを待てば、この戦いが終わるのも遠くはない。

一体どうして、僕なんかが生き残っちゃうんだろうとつくづく思う。
口は悪いけどとにかく芯の強いマリベル。
一族の使命に駆られ続けたアイラ。
古来よりずっと天魔王と戦い続けたメルビン。
僕なんかよりずっと生きる価値を見出していたはずの人たちが死んで、それの出来ない僕が生き残っている。
放送で名前を呼ばれた他の19人も、あの放送から今に至るまでに死んだ人たちも、きっと僕よりずっと生に執着していたはずだ。

685Usual:2017/12/06(水) 01:27:19 ID:i6behV3I0
敵が再び近づいてくる。
振り下ろされる両腕を避けて頭の前へと飛び上がる。

隣にいたデボラさんは一歩下がり、次の攻撃に備えている。
一方僕は思い切り敵の頭を蹴りつけた。
敵は首を大きく仰け反らせる。
僕はそのまま着地をして、敵の手でも足でも避けられる体制を整える。

しかし、誰が言っていたのだろうか。
敵の攻撃が手足だけだなんて。
いや、勝手に僕が思い込んでいただけだ。
その力の強さから搦め手を使う敵ではないと、いつもの戦いの記憶からそう思い込んでいた。
別に頭突きやら噛みつきやらを思考の外へ投げ出していたわけではない。
むしろ敵の歯が誰かの血で赤く染まっていたことから頭も敵の武器になることくらいは分かっていた。
仮に段々と哀れな姿になっていったオルゴデミーラみたいに身体の一部を飛ばして攻撃してきたとしても避けられるという自身はあった。
しかし敵の攻撃はそんな想定の範囲を大きく外れていたのだ。

敵は仰け反らせた頭を戻しながら、着地する僕と後ろにいるデボラさんの足元に向けて、"かがやくいき"を放った。

比喩ではなく、そのままの意味で足が凍り付いた。
僕とデボラさんの動きはまんまと封じられたわけだ。

686Usual:2017/12/06(水) 01:27:57 ID:i6behV3I0
このブレスは何度か受けたことがあるが、これほどの威力はなかったはず。
おそらく、最初に敵が吐き出した酸のブレスがかがやくいきの威力を高めているのだろう。
敵は最初から搦め手に回っていたのに気づけなかったということだ。

悔しくはない。
ただ、意思のない傀儡人形のように見えて行動ひとつひとつが意味を成していたというその事実を僕は賞賛するだけ。

悔しくはない。
ただ、"意思のない傀儡人形"というのは他でもない僕のことじゃないかと、僕は自嘲するだけ。


さて、どうやらこんな僕もここで終わりを迎えてしまうようだ。
エイトは目を丸くしている。
まあ、助けなんて期待するだけ無駄だろう。
この距離では間に合うはずもないし、何かしようとして今までの準備を不意にするようでは僕らがここで死ぬ事が無駄になる。

ゆっくりと、敵が近づいてくる。

「ハッ!こんなものでアタシたちを封じた気になるたぁ笑わせるねぇ。」

こんな状況下でもデボラさんは笑い出し――――――

「ベギラゴン!」

――――――灼熱の閃光で僕の足を縛り付ける氷を溶かし始めた。

「ガアアアアアアァァ!!」

属性の効果を高める酸の嵐が仇となったのか、火力により氷から解放された僕は敵の攻撃を避ける。
しかし、デボラさんの足を縛る氷の膜は未だ溶けていない。
あろうことか僕の呪縛を解くのを優先して、自分の危機に間に合わなかったらしい。

そのまま敵の爪は一直線に、デボラさんの胴を引き裂いた。

687Usual:2017/12/06(水) 01:31:21 ID:i6behV3I0
「が…ふっ…!」

目の前が血の紅に染まっていく。
僕は聞かずにはいられなかった。

「どうして…?」

助ける道理なんてないはずだ。
僕と彼女は出会ったばかりの他人。
自分の命を投げ出す価値など見出せるはずもないのに。

「さぁ…ね…。」

全身から血を失いながらも、臓器を垂らしながらも何とか言葉を発する。

「アンタの…その純粋な眼…リュビのこと…思い出しちゃったの…」

そしてぷつりと糸が切れたかのように、デボラさんは事切れた。
僕よりも生きることに意味のある人だった。
そして、女性でありながらも気丈に振る舞うその姿が誰かと重なった気がした。
きっと、"彼女"もこうして強く気高いまま死んでいったのだろう。




(――――――あたしが死んだらアルスはあたしのこと、ずっと覚えててくれる?)

(――――――ううん、きっとすぐ忘れちゃうよ。ほら、僕こんなだから。)

(――――――ふん!じゃああんたが死んだら、あんたの思い出なんか――――――)

(――――――だから、死なないでね。そばにいる人のことは絶対、忘れないから。)



いつかの記憶が頭の中を蠢く。

もう一度、"敵"を真っ直ぐに見据えてみる。
既に息絶えたデボラさんを投げ捨てて一歩ずつ、僕の方へとそれは近づく。
鈍い光沢を放つ全身は死を象徴しているかのようだった。



ねぇ、マリベル。
このいつもと違う気持ち、何なのかやっと分かったよ。

――――――デボラを貫いた腕が"死"を纏ってアルスに向かって伸びる。

僕は嘘をついた。
死んでしまった君のこと、僕はずっと覚えてると思う。

――――――空を切ったその腕を魔人の如く斬りつけた。心の乗ったその一撃が外れるはずもなく、デボラの血で染まった腕は粉々に砕け散る。


君を失って僕は――――――悲しかったんだ。



アルスの眼からは、ぽつり、ぽつりと涙が零れ落ちていた。

688Usual:2017/12/06(水) 01:32:36 ID:i6behV3I0
【G-3/トラペッタ外部/午後】

【エイト@DQ8】
[状態]:HP2/3
[装備]:奇跡の剣
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ミーティアを守る
:バラモスゾンビ@DQ3を倒す

【アルス@DQ7】
[状態]:HP2/5
[装備]:ドラゴンキラー(DQ3)
[道具]:支給品一式 道具0〜2個(本人確認済み)
[思考]:バラモスゾンビ@DQ3を倒す
:夢中になれるものを探す
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターし、「魔人斬り」、「かまいたち」、「ヒャダルコ」、「ザオラル」、「死のおどり」、「ぬすっとぎり」、「つなみ」、「天使のうたごえ」、「どとうのひつじ」、「へんてこ斬り」を習得しました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。

【ブライ@DQ4】
[状態]:健康 MP2/5
[装備]:魔封じの杖
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:バラモスゾンビ@DQ3を倒す


【バラモスゾンビ@DQ3】
[状態]:HP7/10 MP2/3 右腕壊滅
 [装備]:なし
 [道具]:なし
 [思考]:殺戮と破壊
 [備考]:一定時間ごとに、ダメージが少しずつ回復します。


【ライアン@DQ4】
[状態]:HP1/2 全身の打ち身、顔に傷、兜半壊、腹部に打撲、鎧半壊
[装備]:こおりのやいば
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1)
[思考]:ジャンボを探す。ホイミンのみんな友達大作戦も手伝う。


【デボラ@DQ5 死亡】
【残り42人】

689 ◆2zEnKfaCDc:2017/12/06(水) 01:35:46 ID:i6behV3I0
投下完了しました。

690ただ一匹の名無しだ:2017/12/06(水) 08:43:18 ID:Y5Oa9W0I0
投下乙です

デボラの死が、アルスの心を動かしたか
戦いの心を得たアルスのこれからに期待!

691ただの一匹の名無しだ:2017/12/06(水) 22:22:01 ID:lwnVLcTE0
投下乙です!!
ついにアルスの覚醒キターーーーーー!!
これでバラ骨(これの元ネタ知ってる人いる?)くんも死亡待ったなしか?
デボラさん、あんたよくやったよ。
ライアンも死ぬ気で頑張れ。

めっちゃどうでもいい話だけど、最初の段落にある施設って、リブルアーチじゃなくてリーザスじゃないですか?
改めて、投下乙です!!

692 ◆2zEnKfaCDc:2017/12/06(水) 22:57:04 ID:i6behV3I0
>>691
ご感想、御指摘ありがとうございます。
大陸飛び越えてましたね…

リブルアーチ→リーザス村
変更お願いします。

693 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/19(火) 20:44:27 ID:IFpTpiCI0
投下します。

694 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/19(火) 20:45:05 ID:IFpTpiCI0
こんにちは。
え?オイラが誰だって?
今、カビ団子のお兄さんのお尻の下にいるよ。
そう、ゲレゲレ。
アベル様の仲間で、ロッキーの先輩のゲレゲレ。


ジャンボがトロデーン城から出ていった後、オイラもどうするか悩んだ結果、ジャンボについていくことにした。
ターニアまで巻き込むのはイヤだけど、彼女も兄を探したいらしい。
それにあのピサロって魔族も、あんまり信用できないし。
やはりオイラはジャンボのことが気になる。


(おい、やべえぞ敵襲だ!)
(また敵が来やがって、ロッキールが……)
(メガンテを使いやがった………)

オイラは納得がいかない。
ロッキーは爆弾岩の中でも大人しい性格で、余程のことがない限りメガンテを使うヤツじゃない。
最も他の魔物達はそんなこともつゆ知らず、爆弾岩だという理由で恐れて近寄らなかった。だからアベル様が手を差し伸べるまでは仲間がいなかったけど。
ロッキーがメガンテを使わざるを得なくなるほど手ごわいヤツが現れたら、オイラが気配を察知するはずだ。
カビ団子が知るはずもないが、オイラがアベル様と再会してからすぐにロッキーも仲間になったから、オイラはアイツのことをよく知っている。

(それがしでございますよ、ゲレゲレ先輩ィィィ!)

とはいえ、オイラがこの世界で会ったロッキーは、オイラの知ってるロッキーではなかった。
自分のことをロッキールと名乗ったアイツは、バカみたいに明るい性格になっていた。
だから突発的にメガンテを唱えるような猪突猛進な性格になったのだという解釈もあるが。


まだ気になる点はある。
「グランマーズ」って誰だ?
あれはよく覚えている。
ターニアがグランマーズって人のことを話した時だ。
彼女の世界の人間らしいが、どういう訳かジャンボのヤツも知っているらしい。
ジャンボの奴、ヤケに熱心にソイツの話を聞いていた。
まるで他人ごとでないかのように。
その表情からは、オイラが威嚇せざるを得ないほど、おぞましいものを感じた。
ターニアは恐ろしいことを話してはいなかったし、これはどういうことだ?


兎に角、ロッキーを死なせたのは、オイラの責任だ。
仮にロッキーが自分の意志でメガンテを使ったのだとしても、オイラが近くにいればそれを制止できたかも知れない。
ターニアを守ればいいと思っていたが、同時にジャンボの見張りをしなければいけなかった。
ジャンボを警戒しながら、ゲマをはじめとするどこにいるか分からない敵が現れることを警戒し、それでいてターニアを守るのは難しい。
とりあえず背中に乗せておけばそう簡単に後ろ暗いことが出来ないだろう。

695 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/19(火) 20:45:41 ID:IFpTpiCI0

そんなわけで、今はジャンボとターニアを乗せて、トラペッタへ向かっている。
ジャンボの地図でみたけど、ここから先は平原や荒野が多かった大陸の西側と違って、森や茂みが多い。
日も沈んできたし、これまで以上に警戒する必要がありそうだ。
ジャンボにも、誰とも分からない襲撃者にも。

「わあっ、はやーい!!」
「ありがとよ。これでヒューザにも追いつけるぜ!!」
上にいる二人が感謝を告げる。
トロデーン城でピサロやコニファーと話していた時は、計算高いが特に危険な面はないドワーフの青年、という印象だった。
誰かに危害を加えようとするのがウソのように。
本当にロッキーを自爆させたのがジャンボなら、城にいた誰かもだまし討ちにかけようとしたんじゃないか?


そして、ジャンボ以上に気がかりな人物がいる。
アベル様。
ミルドラースとの戦いはオイラも覚えている。
名前は会うまでに何度も聞いていたが、いざその姿を見た時、オイラも恐ろしかった。
仲間のほとんどは威圧感に押されていたし、リュビ様なぞ家族がいなければすぐに逃げ出してしまいそうだった。

だが、最も怯えていたのは、アベル様が指示する凄まじい攻撃を受けていた、ミルドラース本人だった。
オイラを始め多くの魔物を従えたアベル様は、絶え間なく仲間に攻撃の指示を出して、仲間が死にそうになると回復させてまた容赦なく攻撃していた。
それは、どちらが魔王なのか分からなくなったくらい。


アベル様が今この世界で何をしているのか知りたい。
誰かを手にかけたりしていなければいいのだが。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ククールとメルビンの墓を作り終え、ヒューザの姿が見えなくなってしばらくした後、ヤンガスは再び歩き出そうとした。
「よしっ!!」
顔を自分の両手でパンと叩き、自分を鼓舞する。

やはり自分は考えるのに向いていない。
自分は体を動かす方が性に合っている。
自分は仲間を探さなければいけない。
先程、この世界では自分の想像を超えることが起こると実感した。


エイトが、ゼシカが、モリーが、ゲルダが、そしてミーティアがククールのように死なないために。

696 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/19(火) 20:46:11 ID:IFpTpiCI0
彼ら、彼女らがククールのような『馬鹿なこと』をしでかさないように。
ヒューザと同じ方向に行くのは癪だが、エイト達がいるのだとすればトラペッタの可能性が高い。
ひょっとすれば、ゼシカの故郷であるリーザスの可能性もある。
どちらにせよ、目ぼしい施設が教会一軒ぐらいしかない西側にいる可能性よりかは高い。


かつて自分が壊したはずの橋を渡り、街道を進む。
暫く街道を歩いてから、ヒューザに後ろを歩いていることを気づかれないように、街道から少し離れた平原を進んでいた。

(こ………これは…………)
自分がよく知っている者を見つける。
聖堂騎士団の団長、だった男の死骸。
彼によって、2度も牢獄に入れられた苦い思い出がある。
ラプソーンが復活したのも、考えようには彼の仕業だ。
だが、ヤンガスはそれを赦そうとしていた。

窮地に陥ったジャハガロス戦で駆け付けたマルチェロ。
それだけで赦したつもりはなかったが、仲間のククールの顔を見て気が変わった。
露骨に声に出して喜んでいたわけではないが、彼が途方もなく喜んでいたことは顔に書いてあった。
元々ポーカーフェイスの彼が、表情を変えるとすればオディロ院長か、はたまた義兄によるものだったからだ。

彼がすでに死んでいることは、放送で聞いたことだった。
だが、驚いたことはそれではない。
マルチェロの死の原因となったらしき胸の傷。
多少の火傷もあるが、それではないだろう。

(これは………間違いねえ。レイピアで刺された痕でがす。)

レイピア、というと真っ先に思い浮かぶ。
自分の仲間であったククールの得意としていた武器だ。
この世界でもククールは死んだとき、血に染まったレイピアを手にしていた。
レイピアの使い手が他にもいる、その血はヒューザやメルビンなどの解釈の余地がある。
だがククールが死んでいたあの場所からして、距離的に彼が殺した可能性は十分にある。


(何が……どうなってんでげしょう…………)
ククールがヒューザ達を襲ったのも、マルチェロを殺したことが原因だったかもしれない。
自分が知っているククールとマルチェロならば、殺し合う可能性は低い。
ジャハガロスの時のように、再び協力もできることさえ期待していた。
ヤンガスが知る由もないが、ククール本人もそう思っていた。


しかし、自分のない頭であれこれ考えても仕方がない。
自分が出来ることと言えば、やはりこれだ。

穴を掘り、死体を埋葬する。

少し前、ククールとメルビンをそうしたように。

(今度こそ、天国で仲良くするでげすよ)

再び街道に戻る。
長身のマルチェロを埋葬するのは苦労したため、流石にUターンでもしてこない限り、ヒューザとの距離は離れたはずだ。
ところが、後ろを振り向くと、キラーパンサーが走ってきていた。

697 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/19(火) 20:46:37 ID:IFpTpiCI0

「おーーーーーい!!」
「!?」

よく見ると、キラーパンサーの上に緑色の亜人のようなものと、青い髪の少女がいる。
「ヤンガスだろ?」
「カビ団子のクセに、なぜアッシのことを知ってるでげす?」
「またカビ団子かよ……ドワーフと似たような体形しやがって………」
「なにぃ!?アッシのどこがドワーフに似ているでがす!!」
「ちょっと!!いきなりケンカはやめてよ!」


事実、球に近い体形、小柄、鋭い目つき、色黒の肌と、似ている点は多くあるのだが。
実際に、ヤンガスの背を少し低くし、肌に緑がかかればジャンボと区別するのは極めて難しくなるはずだが、そこは話さないでおく。

「オレ達はトロデーンにいたピサロから、オマエのことを聞いたんだ。」
「ピサロの旦那を、知っているんでげすか?」
「ああ、ついさっき城へ来た時、話をしたんだ。」

そこへゲレゲレが喉を鳴らし、ヤンガスになつく。
「こらこら。どうしたでげすか?」
「へえ、アンタ、魔物に好かれるタチか?」
「アッシは子供の頃、「アニマルヤンちゃん」と呼ばれて、動物に好かれていたんでげすよ。」
「へえ……魔物使いでもないのにねえ……」
「魔物使い?魔物マスターならお兄ちゃんたちから聞いたことあるけど……」


ジャンボだけでなく、ターニアも疑り深そうな目で見ていた
しかし事実として、ヤンガスは魔物や動物と触れ合う機会は多かった。
少年時代ポッタルランドという世界で、モリーの壺という道具を使いながらも、魔物を仲間にして冒険していた。
つい最近でも、そのモリーが経営するバトルロードや、ラパンハウスで魔物と多くかかわった。


「あと、ヒューザのヤツを知っているんだろ?オレはアイツを追って、城から来たんだ。」
「あ、アンタがヒューザの言っていたドワーフでげすか!!」
戦いに参加しているドワーフは一人しかいないだろというツッコミを入れたかったが、黙っておいた。

「で、ヒューザのヤツはどこにいるんだ?」
「それが……アッシが怪我の治療をした後、すぐに東へ行ってしまったでげす!!」
「なんでだよ。」
「まあ、アッシやヒューザにも色々あったんでげす!!それから、ヒューザもアンタを頼りにしているようでげす!!」
「言ってる意味が分かんねえよ!!とにかく、アンタとはぐれたんだろ?」

698 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/19(火) 20:48:10 ID:IFpTpiCI0
ジャンボは再びゲレゲレを走らせる。
ヒューザの目撃者がいたということは、彼に会えるのもそう遠いことではないだろう。
「あ!!少し待ってくれ!!」
「まだあんのかよ!」
ヤンガスは名簿で、エイト達のページを見せる。

「この人達はアッシの知っている人でげす。もしヒューザに会う途中、この人たちにも会ったらこう伝えるでげす。
ヤンガスが仲間を探しているからトロデーンで合流しやしょうって。」

「OK。でも、もし上手くいかなくても、気にすんなよ。それとアンタはどうするんだ?」
「アッシは別の場所を探るでげす。この大陸には、知り合いの故郷の村もあるんで。手分けして探しやしょう。」
「それじゃあ、ある程度やること終えたら、トロデーンで落ち合おうぜ」


ヤンガスは再び出会った人物と別れる。
ジャンボ達は当初の予定通り東へ。ヤンガスはリーザス村を目指して南西へ行くことにした。




(まあ、たしかに手分けした方が仲間を探すのは簡単だがな)

「ジャンボさん、さっきのヤンガスって人と、一緒に行かなくていいの?」
「本人も別に行くところがあるらしいし、無理に付き添わなくてもいいだろ?」

実を言うと、ヤンガスが付いてこなくて、安心しているのはジャンボの方だった。
仲間を集めるのは良いとして、あまり仲間が多すぎるのも困りものだった。


ジャンボは他の参加者とは異なり、やるべきことがこの戦いを終わらせる以外にある。
自分の世界を滅ぼす遠い要因になる人物を消すこと。
大魔王を倒したということから、かなりの実力が伺えるし、バーバラの時のように都合よく殺せることもないだろう。
ネルゲルやマデサゴーラ、ダークドレアムのようなただの強敵なら仲間と協力できる。
奴らは満場一致で敵だと判断できるからこそ、仲間も集まった。
だが、事情を知らない人物にこの二人を敵だと信じさせるのは難しい。
そして彼らを殺すところを誰かに見られれば最後、事情はどうであれ危険人物のレッテルを貼られる。
従って、敵にも味方にも知られずに殺す必要があるのだ。


従って、同行者は極力少ない方がいい。
本当のことを言うと、ターニアもゲレゲレも城にいて欲しかった。
ゲレゲレの場合は、人とのコミュニケーションが難しいこと、乗っていれば早いこともあるから文句は言えないが

699 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/19(火) 20:48:37 ID:IFpTpiCI0


だが、もうじき会う予定のヒューザや、他の自分のことを知ってる仲間達。
自分のことを信頼している人物なら別。
彼らは、自分が極めて頼れる人物だと思っている。
自分の世界が滅ぼされることは、彼らの世界が滅ぼされることでもあるため、他人事にもならない
だからレックとチャモロを殺すことにも、口車に乗せれば手伝わせることもできるかもしれない。
ウソをついてもある程度なら信じてくれるだろう。
ジャンボが第一優先で知り合いを集めたいのは、そういうこともある。


そもそも、「自分達の世界がこの戦いのとある参加者が原因で滅ぼされること」はウソではない。
誰もが信じ難いだけの真実だ。
ズーボーだけは馬鹿正直すぎるため、世界滅亡を防ぐために誰かを殺すなんて言ったら、「オイラは納得できないのだ!!」とか言って言うことを聞きそうにないが、どの道アイツは死んでしまった。
もちろん、一番重要な目的でもあるエビルプリースト戦にも役に立つ。(ヒューザとアンルシア以外は微妙だが)




自分を信用してくれる人物を集め、そうでない人物と距離を置く。
その点、オレのことを疑っているらしき尻の下にいるゲレゲレと、後ろに座っているターニアも、どうするか悩むところだ。
オレがレックとチャモロを殺す話を、仲間に持ち掛けたら最後、二人を敵に回してしまうことは避けては通れないだろう。
特にレックを兄に持つターニアからは決定的に糾弾されるはずだ。
いっそのこと三人だけになった時点で不意を突いて殺してしまうことも考えたが、素振り一つ見せただけでゲレゲレが襲い掛かってくるに違いない。
そもそも殺人は自分の最終手段であり、だれかれ構わず殺したいわけではない。
それ以前に自分から進んで殺しに行かなくても、勝手に殺される可能性だってある。


そこまで考えると、急にため息が出た。
距離感がどうとか、いつからオレはこんなみみっちい奴になっちまったんだと。
自分を信じてくれる仲間に対して殺人を正当化し、ましてや手伝わせようとするなど、間違ってもやってはいけないことだ。
(まあ、仕方ねえよな。世界を守って、シンイの所へ行くまで、オレはどんな汚れ仕事でもやってやるさ)

700 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/19(火) 20:49:30 ID:IFpTpiCI0


そうこうしているうちに、人影が見える。
丁度ヒューザが、ホイミンを連れてトロデーンへ戻ろうとしていたのだ。
二人で話し合った結果、トラペッタには巨大な魔獣の死体があり、人を集めるのには向かないということと、ポルトリンクは二人で行くには不安なほど距離があるため。

とりあえず仲間を一人見つけたことで、ジャンボも喜ぶ。
やはりゲレゲレのスピードは伊達ではなかった。
自分の世界ではキラーパンサーのデザインのドルボードしかなかったが、ゲレゲレのスピードはそれに勝るとも劣らない。

「おーい!!ヒューザ!!」


「オマエは……ジャンボ!!」

ひとまず、目的の人物には一人は出会えた。
だが、オレの仕事はここから。
さて、目の前にいる二人は、何を言えばオレの思い通りに動いてくれるか。
それと、周りにいる二人のことも、算段に入れておかねえとな。


非常にどうでもいい話だが、今から6時間ほど前、この場所でとある若者二人が、参加者を殺すか否かの話し合いをしていた。
次の話し合いは、どうなるのか。


【E-3/草原/夕方】

【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:健康
[装備]:ナイトスナイパー@DQ8
[道具]:支給品一式、道具0〜2 天空の剣、罠抜けの指輪 罠の巻物×3 ドラゴンローブ
[思考]:
基本方針:エビルプリーストに借りを返す。6世界の人物を……?(非力な人物は除外)
1:ヒューザ捜索。今はとにかく仲間を集める。
自分を信じてくれる人物は自分のやることを手伝わせ、そうでない人物とは一定の距離を置く。
2:自分のことを疑っているゲレゲレもどうするか考える。
[備考]:
※職業はレンジャーです。少なくともサバイバルスキルが140以上、弓スキルが130以上です。
※エビルプリーストの背後に黒幕がいるのではと疑っています

【ゲレゲレ(キラーパンサー)@DQ5】
[状態]:HP2/3、胴体にダメージ(中)、身体側面に切り傷
[装備]:悪魔のツメ@DQ5
[道具]:支給品一式、四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1
[思考]:
基本方針:主催を倒して脱出する。
1:ジャンボに不信感。

701 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/19(火) 20:50:16 ID:IFpTpiCI0

【ターニア@DQ6】
[状態]:体の一部に擦り傷あり
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、愛のマカロン×6 道具0〜2
[思考]:基本方針:お兄ちゃんと合流したい。

【ヤンガス@DQ8】
[状態]:健康 MP7/10
[装備]:スライムの冠(DQ8) ふつうのチーズ(DQ8) 激辛チーズ(DQ8)
[道具]:支給品一式 トーポ(DQ8) バニースーツ(DQ10) 堕天使のレイピア オーディーンボウ@DQ10 矢×9 不明支給品0〜2
[思考]:リーザスに向かい、仲間たち(特にエイト)との合流を図る。
黒幕の情報を集める ジョーカーへピサロの伝言を伝える
第三回放送の頃に可能であればトロデーン城に戻る
※トーポは元の姿には戻れなくされています



【ヒューザ@DQ10】
[状態]:HP3/10 MP0
[装備]:名刀・斬鉄丸@DQ10 天使の鉄槌@DQ10
[道具]:支給品一式 支給品0〜1
[思考]:仲間(特にジャンボ)を探す

【ホイミン@DQ4】
[状態]:MP1/8 健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個
[思考]:ガボと共に『みんな友達大作戦』を成功させる ヒューザに付いていく。

702 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/19(火) 20:57:04 ID:IFpTpiCI0
投下終了です。
投下中に脱字を気づいたので訂正を。
699の「自分を信用してくれる人物を集め、そうでない人物と距離を置く。」
を「自分を信用してくれる人物を集めるが、そうでない人物、あるいは自分が良く分からない人物とは一定の距離を置く」
にしておいてください。

今回の話では、ゲレゲレの考えやジャンボの考えを多く書いたため、これまでの所から見て矛盾してる可能性もあります。
一度大きく書き直した所もあるので、意見お願いします。
それと予約欄にターニア書き忘れてました。すいません。

703 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/19(火) 21:00:41 ID:IFpTpiCI0
それとタイトルが抜けてました。「再会」です。

704ただ一匹の名無しだ:2017/12/19(火) 23:53:41 ID:6B/cMWqA0
投下お疲れ様です。

ところで3DS版のドラクエ8で検証してみたのですが、E-3からリーザス村に向かおうとすると、なるべく近道を通って何かとのエンカウント無しに進んでもリーザス村の辺りで大体6時間が経過するので第三回放送までにトロデーンに戻るのはまず不可能です。
ある程度の速度調整はSSなので効かせてもいいとは思いますが、第三回放送までの6時間少しでリーザスを経由してトロデーンに戻るのは他のキャラの進み具合を見てもある程度の域を出ているように思えます。

実際にその距離を走ったことのあるヤンガスが間に合わないことに気づかないのも不自然なので、リーザス村に向かうのであればトロデーンに向かうことを諦める考察を加えた方がいいと思います。

ちなみにこれは代案ですが、ヤンガスがリーザスに向かいつつ第三回放送までにトロデーンにイシュマウリについてよく知る人物を送り込みたいのなら、ヤンガスを一旦トラペッタに行かせてエイトがトロデーン、ヤンガスがリーザスに分割するという手もあるので御一考頂ければと思います。

705 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/20(水) 00:43:50 ID:zJgW50H.0
ご指摘ありがとうございます。すいません。時間関係のことを完全に忘れていました。

ではこの話を終える間際に、この文章を。
それとヤンガス一人場所が違うため、現在地をヤンガスだけE-3 森に変更します。


(しまったてげす……)
ジャンボ達と別れてしばらく進んでいたヤンガスは、重要なことに気付いた。
(リーザスに向かうってジャンボに見栄を切ったでげすが、恐らくリーザスに向かえば……)

ヤンガスはうっかりしていた。
もう日は沈もうとしているのに、遥々リーザスに向かえば、イシュマウリが出るかもしれない第三放送までに間に合わない。
ルーラも制限されている上に、キメラの翼を持っている人に会える可能性も低い。

不幸中の幸いというべきか、まだあまり道を逸れてはいない。
今からでも一人でトラペッタへ向かうべきか、エイト達に会える可能性は幾分か低いが、滝の洞窟近くを探すべきか。

(やっぱり、急に予定は変更するべきでないでげす………)

【E-3/森/1日目 夕方】

【ヤンガス@DQ8】
[状態]:健康 MP7/10
[装備]:スライムの冠(DQ8) ふつうのチーズ(DQ8) 激辛チーズ(DQ8)
[道具]:支給品一式 トーポ(DQ8) バニースーツ(DQ10) 堕天使のレイピア オーディーンボウ@DQ10 矢×9 不明支給品0〜2
[思考]:仲間たち(特にエイト)との合流を図る。
黒幕の情報を集める ジョーカーへピサロの伝言を伝える
第三回放送の頃に可能であればトロデーン城に戻る
※トーポは元の姿には戻れなくされています

※一人でトラペッタへ向かうか、それ以外の近場を探るかは次の書き手にお任せします。

706 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/24(日) 00:52:18 ID:GvRx5MIg0
投下します。

707決意 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/24(日) 00:53:02 ID:GvRx5MIg0

ねぇ、マリベル。
このいつもと違う気持ち、何なのかやっと分かったよ。

僕は嘘をついた。
死んでしまった君のこと、僕はずっと覚えてると思う。

君を失って僕は――――――悲しかったんだ。

あの時それが分かっていたら――――――なんて言えていたのかな。


(雰囲気が………変わった?)
(これは………)

アルスから漂っている、ふわふわした空気が突然燃え盛る炎のようなものに変わっていったことは、ブライにもエイトにも分かった。


「ガアアアアアアアアアアアアア!!」
腕を壊されたバラモスゾンビがアルスに突進してくる。
彼は死ぬまで戦い続ける呪いを受けている。
腕一本ぐらい失ったくらいで戦いを終える筋合いはない。


(デボラさんの………仇だ………)
涙に濡れた目で、強大な怪物を睨みつける。
バラモスゾンビは残った腕でアルスを握りつぶそうとする。

「危ない!!」
ブライは思わず声を上げる。

しかし、アルスは無言で腕を振った。
アルスが起こしたかまいたちが、バラモスゾンビの凶悪な腕を弾く。
間髪入れずにアルスは跳び上がり、ドラゴンキラーを振りかざし次の攻撃の準備をする。
バラモスゾンビも大きく口を開く。
さっきアルス達を襲った、かがやくいきを吐くつもりだ。
だが、彼の攻めはそんなものでは止まらない。

「へんてこ斬り!!」
文字通り軌道のつかめない斬撃はバラモスゾンビの頭の向きを明後日の方向に変えた。
当然かがやくいきも見当違いの方向に当たる。


「ヒャダルコ!!」
追加で尻尾の攻撃が来るが、それも無数の氷の刃に阻まれ、アルスには当たらない。

(すごい……)
それを端で見ていたブライも感心する。
動きの目まぐるしさはさっきまでとあまり変わらない。
しかし、これまではその目まぐるしさが原因で攻撃の破壊力が欠けていた印象だった。
一方で今のアルスにはそれがある。

708決意 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/24(日) 00:53:26 ID:GvRx5MIg0

「アルス殿!!バイキルト!!」
ブライも賭けようとした。
アリーナやクリフトではない若者の新たな可能性に。
これまでのようにピオリムではなく、新たに目覚めた力を完全に活かすための呪文をアルスにかける。

アルスは地面に着地して、正拳突きをバラモスゾンビに放つ。
これは以前のアルスでも使えた技だが、ブライのバイキルトも相まって、威力は桁違いだった。
バラモスゾンビは吹っ飛び、瓦礫の山の下敷きになる。

「やったか?」
「ダメだよ。あの程度で倒せるようなら、もっと早く倒れている。」
「もう少し待っててください。私の力を最大まで高めれば……」



言った通り、瓦礫の山からバラモスゾンビが這い出てきた。
アルスはこの見境なく破壊を続ける魔物に見覚えがある。


(ど…どうしたことだ……。何も見えん………。暗や……みが……おそい……かかってくる……)

力を求めすぎるあまりに究極魔法、マナスティスによって破壊神と化したゼッペル王。
バラモスゾンビからも、何かこの魔物が放っている物とは別の邪悪な力を感じる。

(今なら、あの呪文を使うことができる……。)
そのマナスティスを打ち破る唯一の呪文、マジャスティス。
しかし、アルスはこの呪文を何故か使う気がなかった。



(ねえ、あの敵はスクルトで守りを固めてくるから、大神官のあの魔法で解除すればよかったのに、なんであの呪文を使わないの?)
(アルス、なんで使わないんだ?)
(何か使いたくない理由でもあるのでござるか?)



誰が何と言おうと使う気はなかった。
あれは、大神官が大事なゼッペル王を失いたくないという決意をもって、苦労しながら研究の果てに編み出した特別な呪文だ。
決して、メラやギラのような誰にでも覚えられるものではない。
誰かを守りたい、失いたくない。
そんな気持ちを持っていないアルスが、マジャスティスを使う資格は全くないと感じた。


(ねえ、僕よりも、他の誰かの方が、使う資格あるんじゃないの?)


しかし、他の誰も使うことは出来なかった。
残ったのは、いまいち判然としない気持ちだけだった。
その魔法を使わなくても困ることはなかったため、話題にも挙げられなくなった。

709決意 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/24(日) 00:54:06 ID:GvRx5MIg0
「グオオオオオオオ!!!」



バラモスゾンビは両手を失ってなおも迫ってくる。以前のギクシャクしていた動きよりもスピードが上がっていた。
ゾーマがバラモスに掛けた呪いと、エビルプリーストが掛けた魔法が、バラモスゾンビの体とシンクロしてきたのである。
最初のレミールとの戦いは殴る蹴るの物理攻撃ばかりだったのに対し、ライアンとナブレットとの戦いで頭を投げる攻撃を行い、そして酸や氷の息を吐き始めるようになったのもそれが原因だ。
それに合わせて、自動回復の速度も上がっている。
アルスの魔人斬りによって粉砕された腕は、既に修復が始まっていた。
ここで食い止めなければ、倒すのは難しいだろう。



アルスは呪文の詠唱を始める。
(な、なんじゃ?あれは………)
(知らない魔法だ……)


今の自分には分かった。
自分と同じで、大切な人を失ってしまったゼッペル王の気持ちが。
自分と同じで、大切な人を失いたくないと思う大神官の気持ちが。

アルスにとって、デボラが自分と重ねたリュビ、という人物が誰なのかは分からない。
でも、彼女にとっても大事な人がいたはずだ。

今、僕は誰かを守りたい。
これ以上誰かを失いたくない。
だって、大事な人を失うことは、悲しいことだから。

「悪しき魔力よ、すべて消えたまえ………有は無に、一つは零に………
マジャスティス!!!!!!!!!!」
アルスの手から、青、黄、赤、橙、水色、金、銀、様々な色の光が出る。
彩り鮮やかな光がバラモスゾンビを照らす。


この魔物も、この世界で自らを犠牲にしてでも新たな力を求めたのだろうか。
それとも、ルーシアを目の前で失ったゼッペル王のように、誰かを守りたかったのだろうか。


(ガ…アアアアアア!!!!!!)
既に元々の生命はレミールによって死ぬ直前まで追い込まれていたため、バラモスの動力源はエビルプリーストとゾーマの魔法だけだった。
今まで斬っても突いてもダメージを受けた様子のなかったバラモスゾンビが苦しみ始める。


「アルスさん、ブライさん、ありがとうございます!!」
既にテンションが最大まで上がったエイトが、光を纏った奇跡の剣でバラモスゾンビに斬りかかる。
ミイラ男や、腐った死体、シャドーなどの命のないまま魔力や怨念によってうごめき続ける魔物には、テンションの籠った一撃が効果的だ。
バラモスゾンビは死なばもろともと、残った力を使ってかがやくいきをエイトに浴びせる。
だが、既に魔力を失いかけているバラモスゾンビのブレスごときで、エイトを止められる訳がない。
彼もまた、ミーティアを守るという決意があるのだ。
それにブレイクブレスの効果は、スーパーハイテンションの時に消えていた。

710決意 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/24(日) 00:55:02 ID:GvRx5MIg0





「消えろ、邪悪な魔物よ……ギガ・ブレイク!!」
凄まじい光の刃が、バラモスゾンビを飲み込む。
「ギャアアアアアアアアアアア!!)
巨大な悲鳴と共に、消えていく。
その悲鳴も、どんどん小さくなる。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



(終わった………)
(なんとかなったようじゃな。)


バラモスゾンビを倒して、安堵している二人をよそに、エイトはトラペッタの町に入る。
既に入り口の瓦礫は、ギガブレイクの余波で吹き飛ばされていた。



中に外観以上に悲惨なことになっていた。
町の多くを占拠している巨大な魔獣の死体。その近くには、魔獣ほどではないが大きな竜の死体もあった。
まともな形を保っている建物は一つもない。
だが、まだここでミーティアが隠れているかもしれない。
死体だとしてもトロデ王とだって、会いたい。

「ミーティア!!いたら返事してくれ!!」
エイトは大声を上げ続け、彼女を探し続ける。



一方でアルスとブライは、デボラの遺体を埋葬していた。
エイトは自分達を置いて行って中に入ったが、彼に関しては仕方がない。
アルスの心が熱を手に入れた代償は、間違っても小さいと言える物ではない。
(なんで……私より若い者が……次々と…)
(デボラさん。ありがとうございました。本当に……)
二人共涙を流す。
でも、泣いてばかりいる訳にはいかない。

「この男の子だったようです。デボラ殿がさっき言ったリュビというのは。」
ブライが名簿を開き、アルスに見せる。
「……子供だったのかもしれないよ。デボラさんの。」
アルスと余り年は変わらない子供だ。
髪の色が同じで、くせっ毛なところから、家族なのかもしれない。
アルスも、やがてボルカノとマーレ、そしてシャークアイとアニエスのように誰かと結婚して、子供を作るだろう。
その時、自分は父親として、子供に自分の生き方を見せることが出来るだろうか。
そして想像したくないが、自分が何もできないままその子供が死んだ時、自分はどう感じるのだろう。

711決意 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/24(日) 00:55:30 ID:GvRx5MIg0


彼女の墓を作り、武器に使っていたダイヤモンドネイルを置く。
「この戦いを終わらせよう。僕はやっと分かったんだ。誰かが死ぬことの悲しさを。」
死んだら、それで終わりではなかった。
死んでも、その人が生きたことは誰かの心の中に残る。
デボラさんが、マリベルが身を挺してそれを教えてくれた。



(アリーナ様……クリフト殿………)
自分の託した未来を担ってくれるはずの二人を失ったブライには、もう何も残っていないはずだった。
しかし、アルスの心の変わりようを見て、新たな決意を固めた。
生きよう。
そしてこの戦いが終われば、自分の命を全て語り手として費やそう。
一人でも多くの人々に覚えておいてもらうのだ。
最後まで運命に抗い続けた姫の話を。
最後まで大切な人のことを想い続けた神官の話を。


陳腐なフレーズだが、人は忘れられた時本当に死ぬという。
二人が本当に死なないためにも。自分にはやることがある。



「ところで、ブライさん。」
「どうしたのですか?」
「向こうに、何か引っかかってますよ。」


近くの木の上にあったものは、死んだゲマが持っていたザックだった。
バラモスゾンビとの戦いで、吹き飛ばされていたのだろう。そういえばデボラさんが出てきたのも、このザックからだ。
一応、何があるか分からないが開けてみる。
杖に地図、剣からよく分からないものまで、予想外なほど多くの道具が出てくる。
この魔物はエイトに殺されるまで多くの人を襲っていたのだろう。


(これは、王家の墓の宝……確かにこの戦いでは危険な道具になりそうじゃ…)
「ブライさん、知っている道具がありました?」
「はい。これは依然我々が使っていた、変身が出来る杖なのです。」
「へえ……。あ、これは………!!」
「アルス殿も、何か見つけましたか?」

それは、海の力を借りた剣。
アルスはかつてこれでオルゴ・デミーラを打ち破った。ダークパレスの滝の裏側で見つかったものが、こんな所にあるとは。
(また、力を貸してもらうよ)
アルスには、今度はこの剣を完全に使いこなすことも、戦いを終わらせる自身もあった。

712決意 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/24(日) 00:56:30 ID:GvRx5MIg0


「ああ、これは……」
アルスが剣の説明をする。

それ以外にも、武器や防具、その他の道具など、いずれも戦いに使えそうなものばかりがある。
しかし、一つだけ例外があった。
「何ですかな、この……人形は?」
人形、というと昔ブライがアリーナにプレゼントして、3日後格闘術の練習台にしたアリーナによってボロボロになって帰ってきた苦い思い出があった。
この戦いの舞台にあることから、ただの人形でないと考えるのが妥当だ。

「ちょっと待ってください。説明書も、付いてますよ。」
「え〜と、『メッセージ吹き込んだ後、別の相手が手にはめれば、相手に自分のメッセージが伝わる?』」
「テレパシーのようなもの?」
「でも、これは我々の世界の技術でも、魔法の道具でもない。エビルプリーストのヤツ、こんなものまでどこから手に入れた?」

アルスが持っていた最強の剣に、何なのか全く分からないぬいぐるみ。自分の国の秘宝であった杖。
ブライはエビルプリーストの背後にいる、巨大な何かの存在を無意識に感じ取った。


【バラモス@DQ3 死亡】
【残り41人】

【G-3/トラペッタ内部/夕方】

【エイト@DQ8】
[状態]:HP2/3 MP微消費
[装備]:奇跡の剣
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ミーティアを守る

【G-3/トラペッタ外部/夕方】

【アルス@DQ7】
[状態]:HP2/5 MP微消費
[装備]:オチェアーノの剣 (DQ7)
[道具]:支給品一式 ドラゴンキラー(DQ3)まどろみの剣 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜2) ゲルダの不明支給品0〜1個
道具0〜2個(本人確認済み)
[思考]:この戦いを終わらせる。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。

【ブライ@DQ4】
[状態]:健康 MP3/10
[装備]:魔封じの杖
[道具]:支給品一式 へんげの杖 白き導き手@DQ10  道具0〜2個
[思考]:生きる。生きてアリーナとクリフトのことを知ってもらう。

※このあと白き導き手@DQ10を二人がどのように使うかは次の書き手さんにお任せします。
※【G-3/トラペッタ外部】にダイヤモンドネイル@DQ5が置かれました。

713決意 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/24(日) 00:58:04 ID:GvRx5MIg0
投下終了です。
物語の後半に白き導き手が出ましたが、シオンからのメッセージが来るかどうかは分かりません。
その他、矛盾点がありましたら、指摘お願いします。

714ただ一匹の名無しだ:2017/12/24(日) 02:44:36 ID:gb5ZTVjQ0
投下乙です
バラモスゾンビが倒されて、新たな決意を胸に抱いたアルスとブライのこれからが楽しみ
エイトはミーティア次第でまだ怖いが…その同行者がキーファなのは不思議な巡りあわせだよなあ

715 ◆2zEnKfaCDc:2017/12/24(日) 20:38:22 ID:OYriccYY0
投下します。

716血の色は違えども:2017/12/24(日) 20:39:16 ID:OYriccYY0
人間と魔物の間には壁がある。
古来より魔物は人間を襲い、多くの死者を出していた。
そして人間は魔物を恐怖し、魔物を討伐することに軍事力を注いでいった。
そこにあるのは加害者と被害者の関係だと信じて疑わなかった。
しかし、魔物もまた襲い来る人間に恐怖しているのだということを誰が想像しただろうか。
互いに血を伴うこの対立の根源が人間側による攻撃にあるのかもしれないということを、いったい誰が想像しただろうか。



ナブレットから聞いた「ジャンボ」という男を筆頭にバラモスゾンビに対抗する戦力を探すため、ライアンは草原を走っていた。

目的地は滝の洞窟。
強い者は平原よりも洞窟の方にいるのが世の常でござる!…と、武人に相応しくないRPG地味た発想によるものだった。
『街の外に出て歩き続けるとやがて夜になりましょう。』などという当たり前のことを忠告してくる同僚もいる辺り、バトランドの教えはどこかおかしいようだ。

バラモスゾンビとの遭遇の危険性を危惧してトラペッタから離れて草原を南下していたため、トラペッタに既にバラモスゾンビと戦うパーティーが出来上がっていることなどライアンには知る由もなかった。
それが幸であったのか不幸であったのか、それは誰にも計り知れない。

717血の色は違えども:2017/12/24(日) 20:41:06 ID:OYriccYY0
「ムッ…誰かいるでござるな…」

道の先に大きな影が見える。
その巨体から見るに人間ではなく、呪術で動くミステリードールの類の魔物のようだ。
交戦の合図か、両腕と両足を開きライアンの前に立ち塞がる。

この類の魔物は意思を持たず、術者の命令にただ従うのみ。
ましてやこんな殺し合いの世界に呼ばれるくらいだ。
皆殺しの命令がインプットされていてもおかしくない。

「みんな友達大作戦」を成し遂げるために出来ればほかの参加者と戦いたくはないのだが、バラモスゾンビのようにどうしても話の通じない相手は少なからず存在する。

悲しいことだが、「みんな友達大作戦」はそういった存在を排除した後にしか成立し得ないのだろう。
全身に痛みが走る中でこのような巨体を相手では分が悪いとはいえ、戦うしかないのかもしれない。
腰の剣に手を当てた直後であった。

「待ってください!私たちは戦う気はありません!」

声が響き渡った。
巨体に隠れて見えなかった黒髪の女の子がこちらへ向かって走って来る。

「あの…!この子はいい子なんです!だから…だから…戦わないでください!」

("いい子"でござるか…)

その言葉に思う節があるライアンは尋ねる。

「怖くはないのでござるか?」

「はい。こんなに優しい子を怖がる理由なんて、ありませんから。」

718血の色は違えども:2017/12/24(日) 20:42:41 ID:OYriccYY0
『 ホイミンは"いい魔物"だから仲良くしてほしいでござる。』

ホイミンを怖がる街人にはいつもこう言っていたが、この少女の言葉との差異をを考えてみると分かる。
自分の言葉の暗に意味していたところは『人間にとって都合の悪い存在ではない』なのだ。
基本的に人間は人間を利害のみで判断したりはしない。
ホイミンを魔物として線引きしてほしくないと思っていたが、人間の都合の観点ばかりから魔物の善悪を定めようとすることは、まさに人間と魔物の線引きと呼ぶに差し支えないのではないか。
しかし、この少女からはそんな線引きが一切感じられなかったのだ。
子供ながらの無邪気さというのもあるのだろうが、人間と魔物の間にある差異を全く感じさせない。もしかしたら、小さい頃から魔物と共存する環境で育ったのかもしれない。

「かたじけない、変なことを聞いたでござるな。忘れてくだされ。」

「いいえ、私もこの子も気にしてませんよ。」

少女の言葉に対応するかのごとく、ふと魔物がこちらへ近付いて握手を求めてきた。
握りしめたその手は冷たくてごつごつとして人間味など到底感じられるものではなかったが、心の底は温まっていくような気がした。

719血の色は違えども:2017/12/24(日) 20:44:37 ID:OYriccYY0
おそらく、自分を見つけたこの魔物がとった構えはこの少女を危険から離すための仁王立ちの姿勢だったのだろう。
自分もユーリルやクリフトを死なせないために同じような姿勢で戦いに挑んだことはあるが、それは二人が死ぬと戦線に多大な影響が及ぶからだ。

命を打算的にしか見ていない者と、打算抜きにか弱い命を守ろうとする者。
いったいどちらが人間でどちらが魔物だというのか。

実際、人間と魔物の差などそんなものなのかもしれない。
魔物の志にまで踏み込むと、そこには人間と違わぬ想いがあるのではないだろうか。

「拙者はバトランドの戦士、ライアンと申す。北の地で暴れているバラモスゾンビという魔物を――――――止めてやりたいのでござるよ。」

"倒したい"とは言わなかった。
もうバラモスゾンビと和解することは不可能だと分かっていながらも、もう線引きをしたくないという意思の表れでもあった。

「私はサフィールです。こちらの子はゴーレムという魔物です。――――――お父さんを止めたいと思っています。」

「お父さんを…?」

「はい。この殺し合いに積極的になっているお父さんを…」

「ふむ…よりによって父親が殺しに積極的とは…辛いものでござるなぁ…。」

「いいえ、本当に辛いのはきっとお父さんなんです。お父さん、聞いた話ではとても不幸な人生を歩んできて――――――」

720血の色は違えども:2017/12/24(日) 20:46:33 ID:OYriccYY0
それからサフィールが簡潔に語ったサフィールの父親アベルの人生は、魔物に負けた自分の人生だった。
アベルは勇者を探し周る中で実力が付く前に強い魔物に目をつけられたのが不幸の始まりだという。
仮にあの塔にいたのがピサロの手先と大目玉ではなく、例えばヘルバトラーやアンドレアルなどのもっと強い魔物だったとしたら、自分もアベルのように奴隷として過ごしたり、あるいはその場で死んでいてもおかしくなかった。

だからといって同情するばかりというわけでもない。
何しろ既に人を殺しているようだ。
サフィールの話からは父親の様子に殺すことへの強い執着も感じられ、これも既に和解には遠いのだろうとさえ思う。
みんな友達大作戦の一番の弊害は邪悪な心を持つ魔物だと思っていたが、本当に恐ろしいのは強い意志に囚われた人間なのではないだろうか。

「拙者も協力させてはもらえないでござるか?」

アベルのことを自分が迎えていたかもしれない未来だと考えるとどうしても他人事だとは思えなかった。

「え、いいんですか?でも…ライアンさんにも目的があるはずでは…」

「うむ。でもバラモスゾンビと戦うにはまだ戦力が足りないのでござるよ。誰の仕業かは分からぬが、奴は北の街に閉じ込められているから人が集まるまでは放置しておいても問題はなかろう。他の仲間を集めてサフィールの父も止めて、みんな友達になってから戦ってもいいのでござる。」

721血の色は違えども:2017/12/24(日) 20:48:19 ID:OYriccYY0
その際、みんな友達大作戦についてサフィールに話すことにした。

「みんな友達大作戦…?」

「そう、人間も魔物も平等に生きてここから脱出するための作戦。父上を止めることにもきっと繋がりましょう。是非、御尽力いただけないでござろうか。」

平等であること。
それは当たり前のもののようであるが実現するのはとても難しいものだった。
ほとんどの者は心の底で魔物を恐れ、無意識に遠ざけている。

「分かりました、協力します!」

「かたじけない。恩に着るでござるよ!」

それでもライアンは知った。
例え言葉が通じずとも、例え相手がゴーレムであっても、心では通じ合えるということを。
人間も魔物も同じように守りたいものがあり、同じように苦しんでいることを。

そしてそれこそがみんな友達大作戦の本質だった。
提唱者である竜王の曾孫には、かつて3人の友達がいた。

ローレシアの王子ローレル。
魔物を含めた世界に向けた彼の愛に打算など存在しなかった。
ただ人間と魔物の両者に等しき愛を注いだのである。

サマルトリアの王子トンヌラ。
彼は竜王の子孫であったことで人々から迫害を受けた曾孫に最も同情的だった。
人間も魔物も関係なく、血筋によって自分の姿を先祖の姿の奥に見られることの苦しさを彼は誰よりも知っていた。

ムーンブルクの王女ルーナ。
彼女は世界に無関心だった。
人間も魔物も同様に自分を苦しめる存在と見なし、逆に両者を分け隔てなく受け入れた。

種族の壁を経てもなお平等な相手。
それが竜王の曾孫が求めた"友達"の関係だったのだ。


「ライアンさん、ゴーレムさん、みんなで友達になって、そして生きて帰りましょう!」

サフィールの足取りは出会って間もない頃よりは少し軽くなっていた。
物理的な距離も心の距離も遠く離れてしまった父親に対して何をすべきか具体的には分からなかったところに新たな目標を与えられたのだ。

また、ライアンにもひとつ目標が与えられた。
このゴーレムと同じように、この少女の笑顔を「守りたい」と思ったのだ。



さて、こうしてみんな友達大作戦の名のもとに人間と魔物の壁を失くすひとつのキッカケになり得る同盟がここに成立した。

しかし今、アベルが残した機械兵がその同盟へと向かっている。
アベルの支配によって破壊の化身と化した機械兵に「友達」という概念はあるのだろうか。
そしてその両者の衝突は、果たして何を生むのだろうか。

722血の色は違えども:2017/12/24(日) 20:51:08 ID:OYriccYY0
【F-5/平原 /夕方】
【ライアン@DQ4】
[状態]:HP1/2 全身の打ち身、顔に傷、兜半壊、腹部に打撲、鎧半壊
[装備]:こおりのやいば
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1)
[思考]:ジャンボを探す。ホイミンのみんな友達大作戦も手伝う。

【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP:ほぼ全快 MP 3/5
[装備]:ドラゴンの杖
[道具]:支給品一式×3、ショットガン、999999ゴールド
[思考]:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
おとうさんを見つけて止める
みんな友達大作戦を手伝う

【ネプリム(ゴーレム@DQ1】
[状態]:HPほぼ全快
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ネプリムとサフィール、そして彼女らがくれたものを守る
サフィールと仲良しなライアンを信頼

723 ◆2zEnKfaCDc:2017/12/24(日) 20:52:07 ID:OYriccYY0
投下終了しました。

724ただ一匹の名無しだ:2017/12/24(日) 21:21:09 ID:gb5ZTVjQ0
投下乙です
バドランドの教えw
確かにわざわざ言う事じゃないけどw

後これは指摘ですが、ひ孫に対するトンヌラの認識
49話を見る限り、トンヌラはひ孫についていい感情を抱いてる様子は全くなさそうです

725 ◆2zEnKfaCDc:2017/12/24(日) 21:40:20 ID:OYriccYY0
>>724
ご指摘ありがとうございます。
結構重大な心理描写見逃してましたね…

トンヌラのくだりのところを以下の文に訂正します。

サマルトリアの王子トンヌラ。
彼もまた自分の姿を他の誰かの姿の奥に見られることに苦しんでいた。
人間も魔物も関係なく、同じ苦しみを抱くことを竜王の曾孫は知った。

726 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/27(水) 01:05:26 ID:MOQ6JMJI0
これで生存キャラ全員が、夕方まで到着しました。そろそろ第二放送に移ってもいいと思いますが、どなたかまだ書きたい方いませんか?
その他に自分が放送書きたいって方はいらっしゃいませんか?なければ自分が予約して書こうと思います。

727 ◆2zEnKfaCDc:2017/12/27(水) 07:10:44 ID:JYK.vEy.0
このまま放送移行で異論ありません。
放送で扱うネタも温めていないので書いていただけるのであれば是非お願いしたいです。

728 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/28(木) 08:51:21 ID:IUhZfz7A0
第二回放送投下しますね

729第二回放送 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/28(木) 08:52:18 ID:IUhZfz7A0
再び、天空に6時間ほど前と同じ現象が起こった。
はるか上空に雲が集まり、エビルプリーストの顔が作られた。

「諸君、ご機嫌如何かな?
中には戦っている者もいて、お取込み中の所すまないが、新たな放送の時間になったのでな。
ルール通り、放送させてもらうぞ。

まずは禁止エリアの追加からだ。今回は一つ増えて4つだぞ。
2時間後に【E-2】.
4時間後に【H―5】
6時間後に【D-5】、そして【B-―6】だ。


これで禁止エリアは7つになる。くれぐれも注意して移動をするように


次はこの6時間で死んだ者の名前だ。心して聞くがよい。

ガボ
ロッキー
ローレル
バーバラ
ゲルダ
サンディ
アモス
ナブレット
カンダタ
ゲマ
パトラ
オルテガ
リオウ
ヒストリカ
アーク
ルーナ
パパス
デボラ
バラモス

以上、19名だ。
素晴らしい。これでとうとう半分になったではないか。
そして大事な者を失ったことで、復讐や破壊に走る者もいるだろう。
好きなようにするがよい。
我は種族や身分の貴賤は問わぬ。
優勝者には誰でも好きなだけ欲しい物、失ったものをくれてやろう。
残された者共の奮起を期待する。
己の願望や欲望の赴くがままに殺戮を続けるがよい。ではさらばだ!!」

730第二回放送 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/28(木) 08:52:44 ID:IUhZfz7A0


「全く、愚かな者共よ」
エビルプリーストは放送を終えた後、殺風景な部屋にいる大量の魔物の死骸を見つめていた。
大魔道が殺されてから、第二放送に到着する少し前、ピサロ側の魔物達が一斉に反乱を起こし、中にはそれに便乗する中立派だった魔物もいた。
しかし、究極の力を手に入れたエビルプリーストの敵ではなかった。
彼らは、エビルプリーストに襲い掛かってから1分足らずで物言わぬ血と肉の塊と化した。
「何のための生き返った命だと思っているのだ。」

ジョーカーも5のうち3減って、残りは2匹。
こちらで生き残っている者は、最初から自分に従っていた魔物と、ただただ反乱も服従もせずに怯えている者だけ。
生き返った魔族も、残り僅かになった。





突然、どこかで感じたような頭痛が走る。

(ピサロがおるではないか。)
そうだ、裏切り者で、なおかつ生き返ったわけではないが、この世界にはピサロという忌々しい魔族の野良犬もいた。
「何?ピサロ?」
エビルプリーストは独り言のようにつぶやく。


問題はこれからだ。
順調に人数は減っているが、いかんせんゲームに乗る者、殺人を犯す者が減りつつある。
折角復活させたバラモスも、もう少し働いてくれると思ったが、殺した人数は3人どまりだった。
残った二匹のジョーカーも、何人か犠牲を出すとは思うが、それもまた遠からず滅びるだろう。

(ロザリーを攫ってきたはずだ)
「む?ロザリー?そんなことをした覚えは………」

(あの男を唆せ。今ヤツは一人いるはずだ。一人だと、人間も魔族もありもしない考えを抱くようになる。)




「だまれ!!何だ貴様は!!」
エビルプリーストは「それ」に対して抵抗を続ける。
表情は狂ったようにぐるぐると変わっている。目の焦点は合わない。
(折角蘇らせたのに、貴様呼ばわりとは、無礼な奴だがまあいい。)


それは、まるで道化の一人芝居のようだったが、誰も止める者はいなかった。


残り、41人


※エビルプリーストがピサロに介入するかどうかは、次の書き手にお任せします。

731第二回放送 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/28(木) 08:53:18 ID:IUhZfz7A0
投下終了です。
初めて放送を書いたので、何かルールに違反していれば指摘お願いします。

732ただ一匹の名無しだ:2017/12/28(木) 22:38:54 ID:rR9u0EKA0
投下乙です
内容に特に問題はないかと

733 ◆znvIEk8MsQ:2017/12/28(木) 22:56:12 ID:IUhZfz7A0
連絡し忘れていました。既に予約を始めてる方もいるため予約は自由ですが、
何かの理由があってこのssを破棄することになれば取り消すことになります。
また、投下解禁は12月30日0:00から始めようと思います。

734 ◆2zEnKfaCDc:2017/12/30(土) 00:22:57 ID:po/9pLpk0
投下します。

735The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:24:32 ID:po/9pLpk0
「…ま、しょーがないか。」

口から零れたのはそんな一言だった。

放送から聞こえてきた最愛の人の名前。
ポーラはそれをまるで分かっていたと言うかのごとく平然と受け入れた。

アークは自分と同じく剣を扱っていたが、バトルマスターになってからひたすら剣の腕ばかりを磨き続けた自分とは違い斧からブーメランに至るまで様々な武器の心得を取得していた。
支給品の武具がどんなものであれ対応は出来ただろうし、そもそも武具の力抜きにもアークは強かった。
それでもアークが不死身ではないなんてことくらい分かっていた。
何せ、彼だって人間なのだから。
そしてそうあることを願ったのは他でもない、自分だった。

喪失感に打ち負けて狂ってでもいれば、もっと楽だったのかもしれない。
現実から逃げ出すくらいに心が弱かったらこんな想いに駆られることも無かっただろう。
しかし生憎と頭は冴え渡り、次に取る行動は様々に形を変えて頭を過ぎり続ける。

ポーラは死後の世界の存在を知っている。
仮にこの場で剣を自分の喉にでも突き立てようものならばすぐにでも向こうの世界でアークと出会えるのだろう。

しかし、放送の中でポーラの心を揺さぶった名前はひとつではなかった。
サンディ。
あの妖精も向こう側にいる。
向こうでアークに出会えるとしても、彼が受け入れてくれる保証なんて、どこにもない。

剣の柄を強く握り込む。
独りで生き残らなければならないことなど戸惑うことでも何でもない。
アークと出会う前のように、誰も信じなければいいのだから。

キーファとミーティアは出会って数時間もしない内に別れることとなったが、良い人だった。
でも、彼らには自分が【見える人】であることを話していない。
そのことを知ればあの二人だってどう態度を翻すかなどわかったものでは無い。
人は保身のためならば他人を平気で傷つける。
ましてやこのような殺し合いの舞台なのだ。
他人を信じた結果裏切られて死んだ人だって何人いるかわかったものではない。

「待っててね、アーク。絶対にあなたを取り戻すから。」

剣を抜き、ここにはいないアークに向かって呟いた。

736The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:25:20 ID:po/9pLpk0

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


時は少し遡る。



「あなたは…どうして人を殺すの?」

破壊の剣の射程外から、セラフィはアベルに問いかけた。

「おかしな質問ですね。そもそもここはそういう場のはずですよ。」

こうは返すものの、アベルはセラフィの言うことの表面上の正しさは理解している。
殺し合いを強制されたからといって実際に他人を殺して回る必要などない。事実彼は、20年間も奴隷としての生活に反抗してきた。
アベルは殺し合いの場の中で生き残るために戦うのではなく、心の赴くまま破壊するために戦っているだけなのだ。

「そんなことない! アークさんもヒストリカさんもほかの人を犠牲にして生き残ろうなんて考える人じゃなかった!」

「では、その人たちは何故ここに居ないのです?」

「…。」

「おそらく、殺されたんですよね?」

「…違う。そんな簡単に言わないで!」

"殺された"。
結果だけ見るとそうなのだろう。
死ぬ必要のなかったアークさんやヒストリカさんが死んだ。
それは紛れもなく"殺された"と表現するに相応しく、二人を殺したルーナさんのことは許してはいけないのだけど、それでも彼女の心の弱さに漬け込み凶行に駆り立てたのはこの世界なのだ。それなのにルーナさんの悪意だけを抽出して結果を語る目の前の男が許せなかった。
強い意志を持ちながらも意味もなく命を奪っていくあなたとは違うんだって言ってやりたかった。

「仲間だの協力だの、所詮は力無き者の戯れ言です。より大きな力の前では簡単に破壊されてしまう。」

でも、男が語る結果論もまたひとつの事実だった。
だけどそれを認めたくないと心が抗っている。

「そんなの、間違ってる!」

それでも根拠の無い否定など届くはずはなかった。

「だったら正しさを証明してみればいいでしょう。どんな理想論を語ろうと、実現出来ぬまま死んでは戯れ言でしかないのですから。」

アベルは腰を低く落とし、剣を構える。
セラフィとピたろうも来る攻撃に備え、アベルの動きを注視し始めた、その時だった。

737The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:26:41 ID:po/9pLpk0
「諸君、ご機嫌如何かな?」


第二回放送の始まり。
そしてそれを待っていたと言わんばかりのタイミングで、アベルがセラフィに斬りかかった。

「うわっ!」

咄嗟に飛び退いて回避するセラフィ。

「ちょっと!放送が始まったんだよ!」

「ええ。あなたの気も紛れて、絶好の殺し時だと思いましたが、何か?」

アベルは更に前に出て斬りかからんと迫る。
両者の実力差は明確だった。
魔物の中でも最弱種といわれるスライム系が"魔王"を止めようと奮闘しているのだ。

その中でも彼女らの幸運は、アベルが直前の戦闘でかなり疲弊していることだった。
幻魔ドメディのグランドクロスをまともに受け、大地を踏みしめるたびに崩れ落ちそうになるほどの負傷を既にアベルは負っている。
失い続ける生命力を自分にベホマを掛け続けることによって補ってはいるが、回復魔法の制限下では魔力の消耗ばかりが激しく、詠唱のためどうしても動きは鈍くなる。

そのためアベルの前に出る速度と、セラフィが後ろに下がる速度は大体釣り合っており、急激に距離を詰められることも逆に安全地帯まで下がることもない。

しかし、互いに現状の戦局を維持し続けるとなれば斬ることのみに徹する側と避けることのみに徹する側、肉体的にも精神的にも疲弊の度合いは全く違う。体力か精神力か、どちらが尽きてもセラフィに待つのは死。そしてその極限までの緊張感を張り詰め続けるのにもいずれは限界が来る。

そもそも、アベルには互いの戦局を維持する道理がない。
アベルは術式を組み、詠唱を始める。

「バギクロス!」

そして巨大な竜巻がセラフィを襲う。
呪文自体は即死させるほどの威力ではないが、受ければ足にも支障が出るのは必須。アベルの狙いは攻撃の数を増やすことで本命である破壊の剣による一撃を避けにくくすることだった。

738The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:27:45 ID:po/9pLpk0
しかしその詠唱を見逃さなかったセラフィはその間、目を閉じて空へと祈っていた。
回復魔力を高める"聖なる祈り"。
その極意が秘められたバッジにはセラフィの顔が載っているという。

竜巻がセラフィを襲う。
巻き込まぬようピたろうから離れてそれを受けつつ――――――

「ベホイム!」

"祈りベホイム"による一瞬の回復で相殺する。
単体への回復力と詠唱速度に優れているベホイムはわずかな時間の隙が生死を分ける戦いでは時にベホマラーよりも重宝される。
本来なら牽制程度に放たれるバギクロスなど、聖なる祈りを使えばホイミでも相殺出来るのだが、回復呪文が制限を受けているこの世界ではそうはいかなかった。

バギクロスの回復呪文による相殺は予想外だったが、アベルの次の行動は変わらない。
剣を振りかぶりセラフィに迫る。

『いいか、セラフィ。回復役は意地でも死んじゃならねえ。来る攻撃の軌道をしっかり読んで、離れたり横に逸れたり後ろに回ったり、時にはジャンプしたりもして避けられる攻撃はしっかり避けるんだ。』

いつかジャンボが言っていたことを思い出す。
アラハギーロのリーダーとして歩むことを決めた私に護身術として教えてもらった戦い方。まさか実践する時がくるとは夢にも思っていなかった。

真っ直ぐ振り下ろされる直線上の斬撃。
攻撃の軌道を読み切ったセラフィは歩む道を直角に曲げて回避する。

「あなたが殺すのをやめるまで、いつまでも耐えてみせるから!」

「良いでしょう。ではすぐにでも終わらせてあげますよ。」

乗る必要もない安い挑発。
しかし呪いに心を蝕まれているアベルはそれを聞き流す余裕を無くしていた。

739The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:28:48 ID:po/9pLpk0
「ピキッ!(セラフィちゃんをいじめるな!)」

ピたろうが毒針をくわえてアベルに飛びかかる。
その業物の危険に気づいたアベルはピたろうとの射程の差を活かし大振りで応戦する。

「危ないっ!」

アベルの視線がピたろうに移ったことに気づいたセラフィは自分を見ていないアベルに回転しつつ体当たりをぶつける。
アベルはホイミスライムによるものだとは思えないほどの衝撃に半ばよろめく。
よろよろと姿勢を戻したアベルの目にはいっそう殺意が篭っていた。

アベルは剣を構え、セラフィへと振るう。
左右に躱せない横薙ぎの斬撃をセラフィは一歩下がって避ける。足元にいたピたろうがアベルの足に毒針を突き刺そうとするが、アベルは足で毒針の付け根を上から踏みつけ、毒針を落としたピたろうを蹴飛ばす。

「ピュギッ!?(いてっ!)」

飛んでいくピたろうを外目にアベルは毒針を拾い上げる。
そしてそのままその毒針をピたろうに向けて投げつけた。

「ピィ!(わ!)」

ピたろうは咄嗟に跳んで躱す。
しかし、空中にいるピたろうに逃げ場はない。

「まずは…一匹!」

アベルは走り込み、ピたろうに向かって剣を持ち上げた。
しかし、ピたろうにそれが振り下ろされることはなかった。


「ヒストリカ。」


「アーク。」


定時放送から聞こえてきた名前。
セラフィはあらかじめ二人の死を知らしめられていたからこそ放送で呼ばれる名前に心を乱されることはなかったし、幸運なことに元の世界のセラフィの知り合いがその放送で呼ばれることはなかった。

しかし、セラフィがこの世界で共に行動していた者の名前を耳に入れたアベルは思いつく。彼はこれから愛しい者が殺されようとしている時、セラフィのような――――――父のような人間が、黙って見ていられないことを知っていた。

「待っ――――――」

セラフィは迂闊にもピたろうの近くへと駆け寄る。
ピたろうに刃を振り上げたアベルが横目でセラフィを見据えていることに気付いた時にはもう止まることは出来ないくらい勢いがついていた。
前にもこうやってアークのところへ駆け寄って殺されかけた。
それでも、セラフィには見捨てるという選択肢を取ることは出来なかった。たとえその向かう先に全滅が待っているとしても。
アベルはニヤリと笑い、剣の切っ先をピたろうからセラフィに向け直す。

「ほらね。くだらない感情のせいでこうしてあなたは殺される。」

そこにいたのはただただ残酷に命を弄ぶ"魔王"だった。
斬撃がセラフィの喉を切り裂き、次の瞬間にはそのままピたろうも一突きで肉塊へと変える。

740The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:29:44 ID:po/9pLpk0
そんな未来がセラフィの脳裏を掠めた瞬間――――――アベルが勝ちを確信した瞬間を狙ったかのように、この世界に居る者全てに声が響き渡った。



「パパス。――――――デボラ。」



放送から聞こえるそれらの名前が耳を掠めた次の瞬間にはアベルの動きは硬直していた。

かつて無償の愛を注いでくれた父親、かつて愛し愛された相手。その者たちの死を連続して知らしめられたことは、アベルの心の奥底に眠っていた僅かな良心を引き出した。

たった一瞬の迷いだった。
普通であれば眼前の光景が理性を殺し、振るう剣の太刀筋も大きく逸れることなどないだろう。
しかしアベルは破壊の剣の呪いを利用しているに過ぎないのであり、呪いに蝕まれてはいるのだ。
一瞬であれど剣から湧き出る破壊衝動に抗うことは、剣の呪いを引き起こすことに繋がった。

時間にして、たったの数秒間の呪いによる硬直。
アベルの剣が、そしてアベル自身が呪われているということを本人も最も自覚することとなった数秒間。
それは駆け寄ってきたセラフィがピたろうを連れて離れるのには充分な時間だった。
そしてそれは――――――



「たあああぁぁ!」



――――――乱入者が割って入るには充分な時間だった。

「なっ!」


――――――ギィン!


硬直が解けたアベルは乱入者ポーラの剣を破壊の剣でギリギリのところで受け止める。

ポーラは鍔迫り合ったアベルの剣を力で強引に振り払った。
吹き飛ばされたアベルが尻をつき、ここぞとばかりに斬りかかる。

「ぐっ…バギクロス!」

倒れた姿勢から大地に向けて炸裂させた真空呪文。
ポーラの進路を妨げ、放った勢いでアベルは後方へと退く。

バギクロスを強引に斬撃で振り払うポーラを狙ってアベルは剣で受け止めにくい刺突を繰り出す。バギクロスの対処で体制が整わないポーラの心臓を正確に狙う一撃だった。

身体を捻り、急所への直撃を何とか裂けたものの、ポーラの脇腹に赤い筋を残す。
回避に精一杯のポーラには反撃の隙も与えられず、アベルの第二擊が来る前に一歩引き下がる。

741The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:30:53 ID:po/9pLpk0
奇襲が上手くいかなかったポーラは戦術を組み直す。
目の前の男は他の参加者との戦闘を繰り広げた後なのか、すでに満身創痍。
攻める側であれば守りを崩すのは難しくないだろう。

しかし、互いのコンディションで一概に勝敗を見定められないのが人間の脆さである。
コンディションがほとんど万全のポーラも破壊の剣ほどの業物で急所を叩き斬られれば死は免れない。

ならば体力差を活かし、攻める隙を与えない。
攻撃は最大の防御というが、"すてみ"の覚悟で相手の行動猶予を最低限に留めたまま倒すというバトルマスターのバトルスタイルに最も沿った言葉だとポーラは常々思う。

突撃し、剣の射程に入ると同時にアベルを斬りつける。
ポーラより速く攻撃するだけの体力のないアベルはその地点で防御を半ば強いられる。
そしてアベルの反撃が来るより先に射程外へと離れる。
アベルの斬撃は空を斬ることしか出来ず、先に攻め手に回るポーラにはどうしても届かない。
理想的な戦術の押し付けをポーラは狙っていた。

この応酬を幾度か繰り返していると、不意にアベルはポーラに問いかけた。

「よろしければあなたの戦う理由、聞かせていただけませんか?」

仮に目的が一致するのであれば戦わずともリオウやジンガーのように味方に引き込めばいいとアベルは考えていた。
しかしポーラはその意図を察する。

「お断り。あなたの目的とは相容れないから安心して逝きなさい。」

「そうですか、それは残念。」

目的は個人的なものであるとの意味を含ませた返答。
ポーラの目的はアークを生き返らせることだけではない。
アークを生き返らせた上で自分も生き残ることが必須なのだ。
自分は死んでもいいからアークだけは生き返らせたい――――――そんな目的の人以外と目的が合うことはないし、目的が背反する者と協力体制を組んだところでいずれ裏切られる。
そんな突拍子もない願いを持つ人など探すまでもなくいないと断じたポーラの頭の中からは誰かと協力するという発想は抜け落ちていた。

愛を貫いて戦う者と愛を否定し破壊する者。
過去の人となってしまった想い人を取り戻すために戦う者と過去を払拭し消しさらんとする者。その二人が相容れる要素など微塵も存在しない。
交わすのは剣のみで充分だと両者に知らしめるかのように二人の剣が耳をつんざく金属音を鳴らし、再び戦いが始まった。

742The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:31:46 ID:po/9pLpk0
ポーラの戦術を理解したアベルは先ずはその嵌めからの脱出にかかる。

「バギ!」

ポーラが前に出るのに合わせてアベルは絡め手を放つ。
魔力も底が見え始めているのか、あるいは詠唱時間の短縮なのか、先ほど放ったバギクロスではなく微小な攻撃呪文での撹乱。

大方小さな竜巻に隠れて死へと誘う斬撃を混ぜこもうとしているのだろう。
そう判断したポーラはその竜巻を無視してアベルの斬撃に対してカウンターを仕掛けるべく備える。
しかしアベルがバギで隠したかったのは斬撃ではなく、背中に持つ杖であった。

左手で肩の杖をくるりと回しながら掴み込み、吹き飛ばしの杖をポーラへと振るう。
ポーラは突然の魔法弾により後方に積まれていた積荷の中へと飛ばされ、背を打って膝を付く。

そして死へと直結する斬撃が今度こそポーラへと迫る。アベルは破壊の剣を両腕で握り込み、下段から両手剣のように斬り上げた。

ポーラは舞い上がる埃の中、後方の木の壁を蹴って横薙ぎに剣を振るう。

交差する縦と横の斬撃。
交錯する人と人。
そして、1本の刃が宙に舞った。
ポーラの持つ炎の剣が互いの業物の破壊力の差に耐えきれずポッキリと音を立てて折れたのだった。

「っ…!」

折れたとは言えど刀身の半分程度は残っており、剣の殺傷力自体は健在である。

しかしリーチはどうしても不利を取るため、先程のような射程に任せた戦術を取ることは出来ない。このまま敵へと斬り込む場合、少なからず命を落とすリスクを負うこととなる。

ポーラは小さく舌打ちをしつつ折れた剣の柄に魔力を込める。

剣を極めた者の極意であるギガスラッシュの応用。
失われた刃を補うかのように剣は雷光を帯びた。
剣が元々纏っていた炎と交わって黄金色に輝き始めた。
そのままもう一度アベルに向かって走り込む。

「――――――認めない。」

アベルは呟く。
ギガスラッシュの雷の煌めきに、アベルはただ目を奪われていた。

「――――――勇者の雷など認めない!」

アベルは再び吹き飛ばしの杖をポーラに向けて振るった。
杖の魔力に抗うことは出来ず再び後方へと吹き飛ばされが、先ほどの不意打ちとは違いタネは分かっていたため体制を崩すこともなく着地する。それは撃ち合いを先延ばしにするだけのただの時間稼ぎにしかならなかった。

743The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:33:55 ID:po/9pLpk0

アベルはポーラの持つ雷の力を半ば無意識に恐れていた。
アベルの中で雷は勇者にのみ操ることを許されたものだったからだ。

アベルの人生は勇者に壊されたといっても過言ではない。
父の勇者を探す旅に同行し、10年の奴隷生活を強いられることとなった。
その後も勇者を探す旅は続いたが、真実は残酷なものだった。

父が生涯をかけて探し求めていた勇者はまだこの世に存在していなかったのだ。
そしてアベルが石と化している間にその勇者も勝手に育っていった。

アベルは自分の人生に"勇者の父親"として勇者を作り出したことしか意義を見出せなかった。
奴隷として生きた10年間も、石像として生きた8年間も、父と共に、あるいは父の後を継いで勇者を探したからこそ過ごすこととなった時間だ。
当時は存在していなかった勇者を、あるいは既に見つかっているはずの勇者を探してアベルは意義のない多大な時間を失った。

そして息子のリュビは紛れもない勇者だった。
その証としてリュビは雷を操ることが出来た。
自分が勇者でさえあればとアベルは何度も思ったが、リュビの操る雷は自分が勇者の器ではないということを幾度となく思い知らせた。

だからこそ、アベルは他の勇者の存在を、雷を操る者の存在を受け入れられなかった。
ポーラの操る雷は"勇者の父親"というアベルの唯一の存在意義さえ否定するものだったのだ。

だからアベルは吹き飛ばしの杖で否定する。
目の前で繰り広げられる勇者の力の存在を。

そしてアベルは否定する。
"皆を守る"勇者を。
アベルはポーラが吹き飛ばされている間に破壊の対象を変えた。
ポーラではなく、眼前で繰り広げられる戦いをただ眺めていたセラフィの方へと向き直り斬り掛かる。

「見ろ、お前は誰も守れない!」
「そんなの、どーでもいーの。あたしが守りたいのは――――――」

彼の笑顔だけだから。その一言を飲み込んで、ポーラもまたアベルに向かって走り出した。
ポーラは皆を守る勇者などではなく、そこの少女が斬り殺されようがポーラには何も関係がない。既に殺し合いに身を投じる覚悟は決まっている。遅かれ早かれそこの少女にも死んでもらうのだから。

しかし他の誰かを斬る間は隙が生まれるかもしれない。
その隙を突くべくポーラは雷光を纏った剣を握りしめた。

744The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:36:39 ID:po/9pLpk0
「ピー!」(セラフィちゃん危ない!)

そんな中、セラフィの背中から"勇者"が飛び出しセラフィの前に躍り出る。

「ピたろう、逃げてえええぇ!!!」

セラフィは叫ぶ。
しかしピたろうの耳には届かない。
ピたろうの身体は後方にいるセラフィにも、そして前方から迫って来るアベルにさえ伝わるほど凄まじい熱気を放っていた。

(この熱気は…!)

いつだったか。自分たちが追い詰めたミルドラースも同じような熱気を放ち、その熱源を直接吐き出した。
その時の戦いを思い返してみても、リュビのフバーハが無ければどのような結末を迎えていたのか想像出来る。

そんなピたろうのただならぬ様子に気づいたアベルは咄嗟に吹き飛ばしの杖をピたろうに振りかざす。
背後にいたセラフィを巻き込んでピたろうは後方へと飛ばされていく。

そして魔力弾に吹き飛ばされる中、ピたろうがアベルに向けて灼熱の炎を吐き出した。

「バギクロス!」

距離を離してもなおアベルに襲い来る業火へ向けて放つ。
魔王の呪文とスライムの吐息がぶつかり拮抗する。そして両者はそのまま消滅した。
セラフィにはそれを呆然と眺めていることしか出来なかった。

そしてアベルは撤退を余儀なくされていた。
灼熱の炎を吐くスライムに勇者の力を使う乱入者の両方を相手にするには体力も魔力も足りない。

しかし安易な撤退は死に直結する。
ポーラが既に自らに向けて走り出しており、ならばと吹き飛ばしの杖をかざしても魔力弾は飛ばない。すでに杖は魔力を使い果たしていた。
ポーラの攻撃は実体を持たない魔力の刃であるため剣で受けることさえも出来ない。
アベルは近付いてくるポーラにバギの連射で応戦する。

真空波にも似た高速の刃がポーラの肌に切り傷をつけるものの、ポーラは止まらない。

呪文も使えない。剣も届かない。
しかし最後に少しでも足止めになればと投げた吹き飛ばしの杖は、思わずして最後の効力を発揮した。

745The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:39:09 ID:po/9pLpk0
「えっ…?」

ポーラは再び吹き飛んでいく。
ポーラを一時的に遠ざけたアベルはピたろうの追撃を注視するが、アベルの危惧は杞憂となる。
ピたろうは再びアベルに灼熱の炎を吐くことはなかった。
口からなお立ち込める煙を見て、アベルはピたろうを注意対象から外す。
ポーラとピたろう、両方の危険分子を遠ざけたアベルはそのまま撤退を成功させた。

「ま、好都合か。」

剣に纏わせた雷光を消しながらポーラは呟く。
敵がマーダーのスタンスを保つのなら撤退して他の参加者を殺して回ってくれた方が都合が良い。ゲームに乗っている参加者を排除しようとする正義の味方とでも相打ちになってくれれば理想的だ。
それに正直なところ、あのまま戦っていたら危なかったかもしれない。
本来魔法を一切使わないバトルマスターの職に就いているポーラの魔力の量は少なく、ギガスラッシュを纏わせた剣を維持し続けることは出来なかった。
こんな荒業は本来、剣も魔法も洗練しているアークのような者が行うべきなのだ。

そんなことを考えているポーラにセラフィは駆け寄る。

「あの…!ありがとうございます!ピたろうも、守ってくれてありがとっ!」

これは愛の力が成した奇跡なのだろうか。
本来相応の習熟無しにはスライムが扱うことの出来ない灼熱の炎を戦いの経験など全くない1匹のスライムが放ち、少女の命を救った。

「あれ…ピたろう…?どうしたの…?」

これは愛の力が課した代償なのだろうか。
戦闘によって成熟していくはずの器官が成熟しないまま灼熱の炎を扱ったピたろうの体内は自らの炎によって焼き尽くされていた。

「ねえ!返事してよ!ピたろうってば…!」


セラフィは何度も名前を呼びながらホイミを唱え続ける。
傍から見る分にはピたろうに外傷はなく、すやすやと眠っているかのようにすら見える。

「無駄よ。…もう、死んでるから。」

その光景を見ていられなくなったポーラは冷徹な声で告げた。

「どうしてそんなことが――――――」

それに続く彼女の言葉は、ポーラも全く予想していないものだった。

「――――――そっか。"見える"んだ。」

「え?」

746The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:41:45 ID:po/9pLpk0

ポーラにはスライムの"霊"が見えていた。
空っぽになった肉体と動き回る霊体の両方が目に見えている状態。
旅の途中にも何度か見たことのある光景だが、幽霊が見えるポーラやアークには肉体の持ち主がひと目で死んでいると分かってしまうのだった。
この世界で死者と対面することになるのは初めてだった。
これだけ人が殺されている殺し合いの世界の中で死と無縁でいられたこと自体は比較的幸運な部類に入るのだろうが、アークを失ったポーラにその幸せを噛みしめることは出来なかった。

ところで何故この少女は何故そのことを知っているのか。
コニファーやスクルドやサンディから聞いたという可能性もあったが、何故か彼らではないと確信を持っていた。

「アークに…会ったのね?」

「うん…。ポーラさん、ピたろうは…向こうでどうしてるの?」

「ここにいる。きっとあなたを最後まで守り通せなかったことが未練となって魂が成仏出来なかったのね。」

「そっか…。ピたろう、そこにいるんだね。守ってくれてありがとう。そしてごめんね、あなたを守ってあげられなくて…。」

あたしは、泣きじゃくる彼女を黙って見ていることしか出来なかった。
このゲームに乗っているあたしには、ここで折れた剣を突き刺して殺すという選択肢もあったのだろうけど、どうしても出来なかった。
彼女がこの世界のアークのことを知る最後の1人かもしれないという思いがあたしの心の片隅に引っかかっていた。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

存在意義を否定された"魔王"は怒りに震えていた。
破壊衝動に一瞬でも抗ってしまったことへの不覚、突然の乱入者の存在、そしてその乱入者を出し抜いたのにスライムごときに邪魔をされてホイミスライムの少女を殺せないどころか貴重な魔力や吹き飛ばしの杖まで使わされ、誰も自分の手で殺せないまま惨めに逃げ帰る始末。
苛立ちを感じるのも致し方ないと言えよう。

だからこそ、アベルは支給品として配られたものの内のひとつが気に入らなかった。

『剣の秘伝書』という書物。
これを持つ者は勇者の雷を剣に纏わせ敵を断ずる伝説の剣技が使えるそうだ。

ふざけるな。
こんな書物ひとつで誰でも勇者の力を扱えるだと?
人生全てを否定する書物の存在を認めたくなかった。

それでも先ほどの戦いの乱入者が剣に纏わせた雷光は勇者の力が唯一無二のものではないことを私に知らしめ、しかも危うく命を落とすところだった。
信念やら意地やらで持つ力を行使せずに敗北しては元も子もない。
むしろそれこそ"余計な感情"に他ならない。

ならば、捨てよう。
自分の存在意義など、自分の歩んできた過去の産物だ。
過去を払拭すると決めた今、そんなものに拘っていたことがそもそも間違いだったのだ。
そして新たな歴史を刻もう。
この書物に記された''勇者の雷"を、いずれ"魔王の雷"と呼ばせてみせようではないか。

魔王はまたひとつ、過去をぬぐい去る。
彼が最も捨てたかったのは過去の他人との関係ではなく、敗北を続けた自分だったのかもしれない。



ところで、このような話をご存知だろうか。
勇者の雷を剣へと纏わせ敵を斬りつける剣の奥義は様々な世界に存在する。
しかし破壊の剣に勇者の雷を纏わせる時のみ、その雷は禍々しく漆黒に染まり、真に"はかいのいちげき"と化す。
そしてその剣技はとある世界ではこう呼ばれているという。
暗黒剣究極奥義――――――"ジゴスラッシュ"と。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

747The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:42:48 ID:po/9pLpk0

少しして、彼女はスライムの墓を作り終えた。
遺体を土に埋め、埋めてある場所の土に毒針を立てているだけの簡潔な墓だった。
後で掘り起こす人でもいたら、目立った外傷も見受けられないのに死んでいるスライムを見つけて立てられていた毒針が凶器だと誤解するかもしれない。

必死に墓を作っている最中に何もすることがなかったあたしは既に名簿で名前は確認していたけど、セラフィはまだ名乗っていなかったことに気づいたらしく慌てて自己紹介を始めた。

正体はホイミスライムだと聞いた時はさすがに驚いたけど、呪術師シャルマナという前例を知っていたあたしは割とすぐに受け入れることが出来た。
むしろ自分の能力を受け入れてくれるという点では人間よりも接しやすい相手だとさえ思える。

「ポーラさん、今はピたろうはどこにいるの?」

そう言われて辺りを見回してみると、いつの間にかスライムの霊はいなくなっていた。
彼女の想いに触れて満足し成仏したのだろう、と特に不思議には思わなかった。

「もういないわ。きっと、星になったの。」

大人が子供に諭す迷信とは違った意味合いでそう言った。
もちろん、あたしがその言葉の裏に星へと変わっていった天使達の存在を見ていることなんかセラフィには伝わっていない。

「星に、かぁ。…そういえば、もう夜だね。この世界に見える星も私たちの居た世界と同じ星なのかな?」

「ううん、そんなわけない。」

星へと変わっていった天使たちはいつだってアークを守ってくれているはずだった。いや、守ってくれていないと割に合わないという逆説でもあった。
アークが人間へと身を落としてまで守った星空の下でアークが死ぬなんて救われない、だからこの星空はあの星空じゃない。
都合の良い理屈だとは思うけど、そうでも思わないとアークとの旅が全て否定されてしまうかのように思えてならなかった。

748The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:43:33 ID:po/9pLpk0
「星空はね、成仏していった命の輝きなの。…こんな誰も浮かばれない世界の空じゃいけないでしょ。」

「そう、だよね…。この星空も偽りなんだよね…。」

"も"という一文字が気になったが深くは追究しなかった。
あたしが星空の先に見ているものがセラフィに伝わらないように、セラフィの見ている星空の先にあるものもあたしには伝わらないのだろう。
相手の全てを理解しようとしない、そのくらいの関係があたしには丁度いい。
表面だけの人間関係、上っ面だけの信頼、そんなものはあたしが"見えている"世界を共有した途端にことごとく剥がれ落ちていった。

その後、セラフィといわゆる情報交換というものを行ったが、アークが死んだ場所に居合わせなかったセラフィには死因すら分からないとのことだった。

アークを殺した人は既に死んでいるという事実もあたしを苛立たせた。
背後にはそいつの死体が転がっていたけど霊は見えない。
たぶん、彼女なりに何かしら自己完結しながら死んでいったのだろう。
アークの命を奪っておきながら成仏出来ているというのもあたしの気持ちを最もぶつけるべき対象と出会えないのも気に入らないし、何よりもアークは彼女を守ろうとして死んだのかもしれないというセラフィの推測が気に入らなかった。
アークが命を賭して守ったかもしれない命はあんなにも凄惨な最期を迎えているとすると、アークの死はどこまでも報われないではないか。

そしてセラフィについて分かったことといえば、彼女がこの世界で知り合った仲間が既に皆死んでいるということ。
あたしはあたしの全てだったアークを失ったことでとっくに何かが壊れてるんだろうけど、セラフィもセラフィで彼女の人格を形成している何かが壊れているのかもしれない。
事実、性格は明るそうに見えるセラフィはあたしと出会ってから一度も笑っていない。
あたしがゲーム開始後間もなく出会った仏頂面の男はセラフィの元の世界の知り合いだったらしいのだが、その大体の居場所が分かっても大した反応も示さなかった。

749The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:44:29 ID:po/9pLpk0
そんな風に何かへの執着が一切見えなかったからだろうか。
この一言を言うにも大して躊躇はしなかった。

「あたし、このゲームに乗ろうと思ってるの。」

隠しておくことも出来た。
でも少なからず親しくなってしまったセラフィには言っておかなければいけない気がした。
死者が見えてしまうからこそ、あたしは殺した相手と今一度向き合わなくちゃいけない。
仮に彼女を不意打ちで殺したとしても、霊となった彼女と再び向き合える自信がなかった。
あたしのこの力はこんなところでもあたしを縛り付けるものらしい。

「そう…。それは…アークさんを生き返らせるためなの?」

返ってきたのは質問。
あたしは黙って首を縦に振った。

「そっかぁ。愛してるんだね。アークさんのこと。」

自分の恋の成就のためにゲームに乗るという身勝手を認めたくなくて肯定はできなかった。
アークを生き返らせることを善行であるかのように自分の中で完結させたかったのだろうか。

「んと…止めないの?」

止めてほしいというわけではないが、アークのことから話題を逸らしたくてそう聞いてみた。

「…そう言われると辛いなぁ。ここに来たばかりの私だったら、絶対に止めてたもん。」

「一応、あなたにも手を下すという意味で言ったのだけれど。」

そのことも理解していたらしく、セラフィは頷いていた。

「私ね、たくさんの人の死を見ちゃった。死にそうなのに仲間のことを気にかけているような優しい人もいたし、ピたろうやヒストリカさんは私を庇って死んで、アークさんも、アークさんを殺した人も…。」

セラフィは泣くこともなく、ただただ無表情のままに話し続ける。

「逆に人を殺す人もいっぱい見てきたの。さっきの人は誰かを愛する心まで全部壊そうとしてた。アークさんを殺した人はたぶん、生き方を見失ってたんだと思う。」

アークは見ず知らずの人のお願いも聞いてあげるくらい優しかったから、こんな殺し合いの世界で自分を見失っている人を助けようとしたのも理解出来る。
それでも納得の出来ないあたしがいるんだけども。

「他にもね、復讐のために魔物になってしまった人間同士を戦わせて殺し続けたベルムドさんって人もいたの。復讐なんかしても失った命が戻ってくるわけがないのに…。」

セラフィは背を向けて俯いていた。

「でもね。」

突然、くるりと振り返る。

750The Polestar toward the Ark:2017/12/30(土) 00:49:20 ID:po/9pLpk0
「だからこそ、失ったものを取り戻すために、そして愛する人のために戦うポーラさんのこと、悪い人だって言えないの。」

たぶん、セラフィは悔しいのだろう。
仲間になった人たちが自分の隣から次々に零れ落ちていったことが。抗いたいのに抗う力がなくて、取り戻したいのに失ったものは戻らない。
そういう無力感とか、自分だけが残ってしまうことへの罪悪感とか――――――
そこまで考えて、目の前にいるセラフィがたった1人で人間の世界に取り残されたかつてのアークと重なることに気づいた。
あたしは本当にセラフィを殺せるのだろうか。

「でも、その前に。ねぇ、アークさんのところにいこうよ。」
「え…?」

突然の提案にあたしは驚いた。
殺し合いに乗ろうとしているあたしはアークに合わせる顔がないというのに。
それは慣用句なんかじゃなくて、あたしは本当にアークの幽霊と出会うかもしれないんだ。でも――――――
「分かった。…連れてって。」
――――――あたしは逃げない。
例えあなたに責められようとも最後まで戦い抜く。
だってあたしは――――――あなたを愛しているから。

【F-9/ポルトリンク/二日目 夜】

【ポーラ@DQ9】
[状態]:HP3/5 MP1/5
[装備]:折れた炎の剣@DQ6
[道具]:支給品一式 支給品0〜2個
[思考]:ゲームで優勝し、アークを生き返らせる。アークの死んだ場所へ行き、その後セラフィを殺す。

※未練を残す死者の幽霊が見えます。会話の可否等、ここまでで触れていないポーラの能力の詳細は以降の書き手さんにお任せします。

【セラフィ@DQ10】
[状態]:HP5/6 歩くとHP回復(装備効果)
[装備]:ホイミンのTシャツ@DQ8 祈りの指輪
[道具]:
[思考]:アークの死んだ場所へ行く。ポーラの行いは否定しない。ジャンボを探す。レックにはデュランのことを伝えてあげよう。

※仲間モンスターのホイミスライムと同じ呪文、特技が使えます。

【F-8/二日目 夜】

【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/5 MP1/20
[装備]:破壊の剣
[道具]:支給品一式 剣の秘伝書
[思考]:過去と決別するために戦う

※ポルトリンクのスライムの遺体が埋められている場所に毒針と不要なスライムの支給品全てが、町の中には吹き飛ばしの杖(0)が放置されています。

【スライム@DQ1 死亡】
【残り40人】


かつて、世界を大洪水が襲った。神に選ばれた少年ノアがお告げに従い方舟を創ったことで、人間は絶滅を逃れた。

しかし、この世界の方舟の定員はたったのひとり。乗れなかった者には等しく死が訪れる。
そして方舟に乗れるのは神に選ばれた正しき者であるとは限らない。 方舟の先に待つのが希望であるのかどうかもまだ分からない。
救いの手すら崩れ落ちそうな、そんな絶望の中に彼女たちは迷い込んでいる。

それでも、"愛"は彼女に希望を残す。
その"愛"は"北極星"のように、彼女の進む道――――――方舟を追い求める道を、移ろうことなく示し続けるのだった。

751 ◆2zEnKfaCDc:2017/12/30(土) 00:59:03 ID:po/9pLpk0
投下終了しました。

もしも◆CASELIATiAさんがご覧になっているのであれば、是非またSSを投下してほしいと思い、自分を発端とした問題が起こった作品に一種の邂逅の意を込めてリレーさせていただきました。

752 ◆2zEnKfaCDc:2017/12/30(土) 09:54:00 ID:po/9pLpk0
早速ですが誤植修正を。

>>746
だからこそ、アベルは支給品として配られたものの内のひとつが気に入らなかった。

が文脈に合ってなかったので

また、アベルは支給品として配られたものの内のひとつが気に入らなかった。

に訂正します。

753ただの一匹の名無しだ:2017/12/31(日) 01:04:27 ID:cMTWbC320
いきなりの大作の投下、乙です!!
そしてピたろうも、乙です!!
アベル、セラフィ、ポーラ、そしてピたろうの決意が良く浮き彫りになっていました!!
やっぱりスライムの最後(色んな意味で)は灼熱の炎ですね。
Casさんがどう思っているのか分かりませんが正直もうあの件は気にせず書き続けるといいと思いますよ。

754ただ一匹の名無しだ:2017/12/31(日) 16:40:54 ID:ybLQI4Hk0
投下乙です

ピたろう…ムチャしやがって
ただのスライムが炎吐くって、愛の力ってすごい…
ボロボロのアベルも、まだまだ予断を許さない状況のポーラとセラフィも、どうなることやら…

755 ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:34:53 ID:3uAnN46U0
投下します。

756闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:37:35 ID:3uAnN46U0


「ジャンボ。無事でよかったぜ。なによりだ。」
「ヒューザこそボロボロじゃねえか。」


とりあえず、二人は再会を喜ぶ。
長らく会わなかった親友同士の再会のように
最もそれほど共闘する回数は多かったわけではないが。


「この人?たち、ジャンボさんの知り合い?」
「ああ、昔何度か一緒に冒険した仲間でな。ホイミスライムの方は知らないが、大方同行者だろ。」

ターニアは不思議そうに二人を見る(最もヒューザとホイミンを「二人」と数えるかは難しいが)


「このアブラ粘土みたいな人がヒューザの言っていたジャンボって人?」
「見た目はそうだけど、この戦いで大いに活躍してくれるはずだ。オマエのなんとか作戦も手伝ってくれるはずだぜ。」

一方でホイミンもジャンボの姿を怪しみヒューザに尋ねる。
最も、仲間を集めるのが得意なのは、魔物と少女が同行しているから、本当のようだ。


「まあ、5人もそろって立ち話ってのもナンだ。向こうの方に広場みたいな所があるし、そこで座ろうぜ。」

ジャンボの言われたまま他の4人も従って森の中に入る。
このメンバーは誰一人知らないことだが、かつてとある国の王と姫とその従者、そして山賊も休憩に使った場所である。
ジャンボはヒューザにベホイムをかけ始めた。回復量ホイミンやヤンガスのホイミとは全然違う。

「初めまして、ライフコッドのターニアです。お兄ちゃんを探しています。」
「ぼくホイミン。この戦いの参加者全員と友達になるんだ。友達になってくれる?」
「レーン村のヒューザだ。ジャンボとは、まあ、知り合いみたいなところだ。」
「あ、一応、自己紹介しておくぜ。アグラニ町出身の、ジャンボだ。一応、首輪解除の手掛かりを探している。」
「ガウ、ガウ。」
「こいつはゲレゲレ。アベルってご主人様を探してるらしいぜ。」

互いの自己紹介から始まり、持っているパンと水で食事を摂る。

757闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:38:13 ID:3uAnN46U0




「なあ、ジャンボ」
「分かってるぜ。首輪と、仲間集め、だろ。」
「なら話が早え。早速、手にした情報を教えてくれ。」
「まあ、そう焦るなよ。オレも実はピサロってヤツから…………」


(諸君、ご機嫌如何かな?)

「「「「「!?」」」」」

その場にいた5人が突然始まった放送に一斉に驚く。


だが、放送を聞いた後は、それどころではなくなった。

ガボ
ゲルダ
サンディ
ナブレット

「うわああああああああああああ!!!」
一番最初に悲鳴を上げたのはホイミン。

「どうした!?」
一番最初にヒューザが声をかける。


「みんなが………、みんなが…………!!」

トラペッタで新しく知り合ったメンバーは全滅だ。
りゅうちゃんに続いてガボまで死んだことが分かり、『みんな友達大作戦』の初期メンバーはとうとう一人になってしまった。

「しっかりしろ!!オマエが言ってたライアンって戦士は呼ばれてねえだろ!!」
最初の放送の直後に自分を襲ったバラモスが呼ばれたことと、ライアンが呼ばれてないことから、バラモスはライアンが倒したのだろう。
だが、まだ会えないのは同じだし、そんなことは慰めにならない。
ここの人達と新たに友達になったところで、また死んでしまうのではないか。


動揺したのはホイミンとヒューザだけではない。

758闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:38:51 ID:3uAnN46U0

パパス
デボラ

「ガウウウウウウウ!!!」
ご主人さまの大切な人と、そしてご主人様と同じくらい自分を大切にしてくれた人
大事な二人を失ったことと、自分の無力さを雄たけびにして表現する。


「バーバラさん………」
ホイミンとゲレゲレほどではないが、ターニアも悲しむ。
レックの仲間達の中でももう二度と会えないはずの人だった。
だからこそこの世界で会うことを楽しみにしていたのに。
きっと、お兄ちゃんはもっと悲しいだろう。



仲間を失った者、仲間を失った仲間を見ている者。全員多かれ少なかれの悲しみを抱いた。




一人のドワーフの男を除いて。




(やっぱり、この世界で「いいヤツ」ってのは生き残れねえんだな)

「いいヤツ」というのは「都合のいいヤツ」ではない。
ナブレットにヒストリカ。前の放送で聞いたズーボーも当てはまる。

生真面目で誰よりも弱い者を守る意思の固いパラディンのズーボー
観客の子供達のことをずっと考えているナブレット
コミュニケーション能力に若干の問題があるが、情熱的で友情に憧れているヒストリカ博士

彼らは融通の利かない所もあった。
だが、人が傷つくくらいなら自分が傷つくことを選ぶほど、優しい「いいヤツ」ばかりだった。
自分はどうしてもそういう人になれない。
あれこれクエストなども承諾していたが、それは旅人としての名声値やお礼の品、もしくはわが身を守るためのためであった。
間違っても人から感謝されることが目的ではない。


(さてと、あんまり気は進まねえが、やるしかねえんだな。)
ジャンボは悲しみを抱かず、冷静に場の状況を考える。
放送でレックとチャモロが呼ばれていないことから、決意を固める

759闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:39:22 ID:3uAnN46U0




ターニア曰く二人共かなりの実力派で、人間性にも問題ないらしいので、対主催の陣営に入っている可能性が極めて高い。
そしてその陣営は、時間が過ぎれば過ぎるほど大きくなっていくだろう。
そうなるとその輪の中にいる二人だけを狙って殺害するのはどんどん難しくなる。


やるなら、この時点から算段を打っておく必要がある。


(あ、まだ大事なことがあったな。)
もう一つ悪いことがある。
ついさっき入った森の広場が、ギリギリ2時間後の禁止エリア、【E―2】に該当していた。
少し戻ればエリアから脱出できるので、普通に考えればこれが原因で死ぬ危険性はまずないが、全員が動揺している中ではどうなるか分からない。


「オイ!!みんな落ち着け!!」
ジャンボはパンパンと手を叩き、全員の注目を集める。
「ここが禁止エリアになるみたいだ!!出ろ!!」
特にホイミンは気が進まない様子だったが、ヒューザとゲレゲレがそれぞれを運ぶ。

「忘れ物とかないよな?ここでの忘れ物はシャレになんねえぞ!!」




どうにか広場の外へ出る。まだ他の者たちの落ち着きは戻っていないようだ。
こんな所でこんなことを聞かされれば、落ち着いている方がおかしいのだが。

「ターニア、ゲレゲレ、そしてそこのホイミスライム。オマエらに一つ言っておきたい。」
「どうした、ジャンボ」
ヒューザがジャンボに声をかける。

「仲間探しはオレとヒューザだけで行く。後のヤツは城に帰れ。」
「「「「!?」」」」

「どうしてそんなこと言いだすのよ?まだお兄ちゃんを見つけてないのに!!」

760闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:39:51 ID:3uAnN46U0
「ガウ!!ガウ!!」
「確かに城へ行くのは目的だったけど……。」
「オイ、いきなり帰れはねえだろ?」


ターニアとゲレゲレは当然ながら反対する。ホイミスライムもあまり乗り気はしないようだ

「これからは暗くなるし、前にも増して危険になる。それにな、良い子はおねんねの時間だぜ。
城なら寝所もあるし、安全って訳でもないが、ここよりかはマシだろ。」


ジャンボがこういった理由は、言うまでもなく彼らのためではない。
これからのヒューザとの話を聞かれたくないからだ。

結局3人の態度に負け、自分はこれからヒューザとの話があるから少し離れてくれ、ゲレゲレは二人を守れとの話で終わらせた。


「別にアイツらを向こうに追いやらなくてもいいんじゃないのか?まあいいけどよ。」
「じゃあ、まずは首輪のことだけどな、ジバ系の呪文ってあるだろ?あれを応用して使われているんじゃないかって、ピサロから聞いたんだ。」
「オマエもピサロを知っているのか?」
「ああ、ヒューザが城を出てからオレがピサロに会って、そっからヒューザのことを聞いたんだ。」
「入れ違いになってたみてえだな。」

「話を戻すぜ。トラップジャマーって技を知ってるか?」
「なんだそりゃ?」


どんな世界でも、日々新しい技術が発明される。アストルティアも例外ではない。
ヒューザも一人で旅を続けているうちに新しい技を身に付けたが、戦士やバトルマスターに関わること以外は余り分からない。

「地面に設置されている魔法陣や爆弾みたいなワナを無力化して、そのままそっくり自分のモノにしてしまうって技さ。勿論ジバ系の魔法も例外じゃねえ。」
「すげえじゃねえか!!早速やってみろよ。」

ようやく、光明が見えてくる。流石ジャンボ、期待通りのドワーフだ。

「今はダメだ。それはどうぐ使いって職業になってねえと、使えねえんだよ。」
「なんだよそれ。」
「だから、どうにかしてオレが転職できる方法を見つけなきゃダメなんだ。」
「ダメじゃねえか!ここにはダーマ神殿出張所はねえんだぞ!」
「落ち着け、声がでけえよ。」

世の中そんなに甘くない、というヤツか。

「他には、首輪にかかっている魔法を解除するって方法も考えられるな。」
「零の洗礼、みたいなヤツか?」

そういえばククールとの戦いで、メルビンのじいさんが凍てつく波動で透明状態を解除していた。首輪の反応は変わってなかったが。

761闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:40:16 ID:3uAnN46U0

「でも、そいつじゃ多分ダメだ。はどうガードって聞いたことあるか?
オレは知り合いの冒険者から聞きかじったくらいで、その力を持った敵と戦ったことはねえんだけどよ。零の洗礼なんかを無効化するらしいんだ。」

確かに、こんな首輪を作る技術があるならランプ錬金のように首輪に何かしらの耐性を付けることも不可能ではないはずだ。

「それもダメなのか。」
「まあ、気を落とすな。零の洗礼以外の魔力解除の技を使えばどうにかなるかもしれねえ。
それからシャナクって古の呪文を使って首輪に掛けられた魔法を解く、
魔瘴石を太陽石に変換する要領で別の無害な魔法の道具に変えてしまう。
首輪に魔法が掛けられていることを仮定すると、思い当たるフシはこのあたりかな。」



ジャンボが言っているのは、あくまで仮説でしかない。
だが、仮説とはいえここまで多くのアイデアを出すとは。

ヒューザはいざという時のためにジャンボの案を箇条書きしている。


「さてと、今のところ首輪の話は終わりだ、今度は戦力として力を貸してもらうぜ。」
「任せな。」

今度ばかりはソロを突き通すという訳にもいかないだろう。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

一方でターニア、ゲレゲレ、ホイミンの三人はジャンボ達とは距離を離れて、二人の会話が終わるのを待っていた。
遠くに居ろ、と言われたので、居場所は暗いながらも分かるが、何をしているのか分からない。
「ホイミンさん?だったね。大丈夫?」
「うん……………でも、ぼくが友達を作る前に、みんな死んじゃうんじゃないかな。」
「そんなことないよ!!きっとまだまだ新しい友達が出来るって!!」
「ガウウウ………」

一方でこの二人はまだ意気消沈だった。
ジャンボの言う通り、城へ戻ったほうが良かったかもしれない。

「ジャンボさん、半魚人の人と何話してるのかな。あれ?ゲレゲレ、どうしたの?」

ゲレゲレはこの状況にとある既視感を感じた。
確かロッキーは、ジャンボとマンツーマンでいた時に自爆したのだ。
ひょっとしたらあの魚人も危ないかもしれない。

「ちょっとあの二人に明かりを持っていくよ。暗くなってきたし。」
ターニアが支給品のランタンを持って、そのゲレゲレよりも先にヒューザ達の方へ行く。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

762闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:40:42 ID:3uAnN46U0

「それと、もう一つ大事な話がある。」
「まだ何かあんのか?」

ジャンボも、流石にこれを言うのははばかられる。
先に首輪の話を持ち掛けたのも、これが理由だ。

だが、仕方がない。
レックかチャモロ、あるいはその両方が仲間を増やしてしまえば、対処は難しくなる。


タイムリミットがある仕事は、少しでも早く行った方がいい。
旅人バザーだって、目を付けていた商品をタッチの差で別の人に買われてしまったことだって何度もあった。
カルデア洞窟のフレイム、ザクバン丘陵のメガザルロック。他の冒険者に狩られる前に狩るべき魔物もいた。
アストルティアの世界はスピード勝負。
この世界も同じだ。
いかに犠牲者が出ないうちに仲間と情報を集め、他に必要なことを行うかが勝負だ。
ゲレゲレとターニア、そしてあのホイミスライムに聞かれる可能性もあるし、ヒューザに話を持ちかけたあとどう扱うかも悩むが、今やっておくべきだ。



本当ならば理由があるとはいえ、これから仲間に対して行うのは間違ってもやってはいけないことだ。
ジャンボは小さい、しかしヒューザの耳によく入る言い方で語る。









「オレたちの世界は、近いうちに滅びる」







「!?」

ヒューザも顔色が変わる。
「世界が滅びる」というのは幾年にも渡ってデマとして使い古されたネタだ。
だが、この緊迫した状況でデマとして使うには非常識すぎるし、信頼している仲間が言うのなら、信じてしまう。
それにジャンボの態度は、どう見てもウソをついているようには思えない。

「どういうことだよ、それ?あのエビルプリッツと関係があるのか!?」
ヒューザとしてはたとえこの世界で自分が死んでも、アストルティアには直接の被害はないとばかり思っていた。
最も、黒幕を絶たねばアストルティアからもまた新しい強者が集められ、戦いが開かれるかもしれないが。

763闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:41:03 ID:3uAnN46U0





「それが違うんだよ。原因は、この二人にいる。」

ジャンボが名簿を開き、写真を見せる。
一人は青髪の男。いかにも好青年、という印象だ。
もう一人は眼鏡の男。年は自分達や青髪の青年にも似ている。敬虔な聖職者、という印象だ。
どちらも世界を滅ぼす要因になる、という印象ではない。



「どういうことだよ?オマエ、何を知っているんだ?」

実の所、ヒューザはジャンボと久しく会ってなかった。
レンダーシアに向かってそこでも大活躍を遂げたという話は聞いたが、だからといって自分も赴こうとは思わなかった。
ジャンボがレンダーシアへ行っている間、もしくはこの世界で会っていない間に、何か自分の全く知らない情報を仕入れていてもおかしくない。

「とにかく理由が複雑すぎて説明できねえ。ヒューザはオレに付いてきてくれ。」
「ちょっと待てよ!!オレ達は、そのレック………てヤツと、チャモロってヤツを殺すのか?」

ヒューザの言うことは我儘でも融通の利かなさでもなく、至極まっとうな意見だ。
知り合いとはいえ、今やっていることを手放して馬の骨とも分からないヤツの殺しを手伝え、と言われたら流石に戸惑う。
ジャンボの方も次に出したらいい言葉が分からない。ほんの数秒、しかし数時間にも感じるほどの沈黙が訪れる。


「え!?今、なんて!?」

その沈黙を破ったのは、ヒューザでもジャンボでもなく、メモをとっているヒューザに明かりを渡そうと近づいてきたターニアだった。

「なんでもねえよ!!向こうでゲレゲレ達と待ってろ!!」
ジャンボも焦ってごまかそうとする。
やはり一刻も早く行動に移すことを考えるあまり、余計な第三者を視界内に置いたまま話すのはマズかったようだ。

「違うでしょ……今、レック兄ちゃんを殺すってそっちの人が言ってたでしょ!?どういうこと?」

それを怪しんだホイミンとゲレゲレもやってくる。

(やっぱり、考えが杜撰過ぎたぜ。)

764闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:41:36 ID:3uAnN46U0

こういうシンプルな質問こそ、誤魔化すのが困難だ。
ターニアはゲレゲレと違い、言葉が話せる。
加えてゲレゲレに吠えられた時はあくまで「考え」の段階だった。
バーバラとロッキーを殺してさえいない。
だが今は事情が違う。ヒューザにはっきりと殺害計画を持ち掛けている。


「何?オマエ、このレックってヤツの妹なのか?」
「そうだよ。本当は違うけど、でも私にとってのたった一人の家族で、お兄ちゃんなの。」


自分の状況がどんどんまずいことになっているのは、ジャンボ本人が分かった。
前から知っていることだが、ヒューザはソーミャやジュニアのような自分より弱い者の肩を持つ傾向がある。
このままいくと、孤立するのは目に見えている。

今ならまだ行動には移っていない。
ロッキールを自爆させてバーバラもろとも殺害したことは知られていない。
首輪の情報をある程度持っているし、全部冗談だと言えば、大顰蹙を買うが孤立まではしないかもしれない。
だが、二人を殺害するのは一層難しくなるし、よしんばエビルプリーストを倒しても、帰る世界がなくなる可能性だってある。


「ガウッ!!」
「うわあ!!」
どうするべきか考えていたところ、ゲレゲレが飛び掛かってきた。間一髪で躱す。
既にゲレゲレはジャンボを危険人物だと断定していた。

「ジャンボさん……やっぱり……!!」


もう完全に分かってしまったようだ。
これ以上は弁解の余地はないだろう。

「ああ、そうだよ。ターニア。オマエの兄貴とその仲間を殺さねえと、オレの世界がなくなっちまうんだ。」

(!?)
ガチャリとランタンが落ちる音が木霊する。
ターニアは混乱状態だった。
なんでジャンボが兄を殺さないといけないんだ。
ジャンボや兄ほどの力があれば、その世界を滅ぼす原因を倒せるのではないか。

「なあ、ヒューザもだよ。もう時間は残ってねえんだ。ここで事を成さねえとオマエの村の連中も、そしてソーミャも危ねえんだぞ。」

ソーミャの名を出して、ヒューザに揺さぶりをかける。
だが、それもヒューザに効かなかった。

「ジャンボさ、オマエ、スジが通ってねえよ。
自分のエゴのためにコイツらみてえな弱い奴らを犠牲にするって、それじゃ昔のブタネコと同じだろ?」
「ちげえよ!!」
「どこが違う?コイツの兄貴を殺すことは、コイツを殺すことでもあるだろ?」

765闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:42:21 ID:3uAnN46U0


ヒューザは知っている。ソーミャとジュニアの関係を。
血は繋がっていなくても、いや、繋がっていないからこそ本当の親子のような親密な関係だった。
本当はソーミャの方が子供として大切に育てられなければいけないのに。

ターニア、というこの少女と、レックの詳しい関係は分からない。でも先程の切羽詰まった様子から、大事な存在なんだろう。
きっと、自分の命と大差ないくらい大事な存在に違いない。
レックの命を奪うことは、恐らくこの少女から命に似た大事なものを奪うことになるだろう。

他人だから、自分の未来のためだからと言って、先へ進むために弱い者を犠牲にしてどうなるのだ。
その先に待っているのは、自分が犠牲になる運命だけだ。
この世界で戦ったククールが、かつての反乱を企てていたキャット・リベリオがそれを証明した。




(バカかよ、こいつ……自分の世界が滅ぶって言ってるだろ…)

ギリ、と歯軋りする。そこへゲレゲレが飛び掛かってくる。ターニアとホイミンは様子を伺っているだけだが、到底味方に引き込めそうにない。


もはやコイツらも敵として見なした方がよさそうだ。
協力はアンルシアなりザンクローネなりに求めた方がいい。
使えないものは早々に見切りをつける。
味方にできない旅の同行者でも。
ギルドで作った星一つか無しの製品でも。
トンブレロやピンクモーモンのように突然経験値が減った魔物の狩場も
それはアストルティアを生きる上での必要事項だ。


「あわてんな。ゲレゲレ。こんなときどうするべきか分かるだろ。」
攻撃を再びかわしたジャンボは、懐に飛び込んで、突然後頭部を撫で始めた。

4対1。
傍から見れば不利に見えるが、そうでもない。


ターニアは戦力外。
ホイミンはよく分からないが、ホイミスライム程度に引けを取る可能性は低い。

ヒューザのことはある程度分かっている。

そして以前ロッキールに使った「これ」をゲレゲレに使えば……

766闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:43:34 ID:3uAnN46U0






「ガルルルルルルル!!」
突然、ゲレゲレの目が光を失い、涎を垂らしながら唸り声を上げ始める。
まるで狂犬病になった犬のようだ。

(さあ、好き放題暴れな。終わったら、向こうの禁止エリアにでも行っちまえ)

ロッキールの時と同じように「てなずけ」を使う。
エモノ呼びが流行って使われなくなった技が、ここでこんなにも猛威を振るうとは。


「どうしたの?ゲレゲレ?」
ターニアは驚く暇もなく、ゲレゲレが自分とホイミンの方に襲ってきた。

「きゃっ!!」
食われる、と思った瞬間。

「おらあ!!」
ヒューザはゲレゲレにとうこん打ちを入れ、注意をそらす。

「これ、持っていけ!!逃げろ!!」
ヒューザは急いで先程のメモをホイミンに渡す。
「でも、ぼく……」

「行けよ!!『みんな友達大作戦』を成功させるんだろ?」

ホイミンとターニアは逃げる。
どちらの方向かもわからず。
ヒューザが渡したメモを持って。


「オマエ、本当にバカだぜ。バカヤロウだよ。」
実はジャンボ本人も、ヒューザがあのホイミスライムに対して協力的とは思ってなかった。

「バカはどっちだ!!」
ヒューザは昔の知り合いに啖呵を切る。
気が付くとジャンボは闇の中に消えている。近くにいるのはジャンボの傀儡と化したゲレゲレだ。
ターニアが先ほど落としたランタンによって自分の姿だけが丸見えになる。

一番頼りになると思っていた者が、敵と化してしまった。

だが、これで良かったのかもしれない。
自分はソロでの戦いが得意だ。
1対2とはいえ、負ける気はしない。
ケガの方もある程度治ってきた。
魔力も弱い特技を数回使えるほどだは回復している。
その要因は何の皮肉かジャンボのベホイムにあるのだが。


彼は水の民ウェディ。
愛する者を守る時にこそ全力を発揮する種族。

767闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:44:43 ID:3uAnN46U0


負けるわけにはいかない。
唯一の家族を探す少女のためにも。
託された『みんな友達大作戦』を実行しようとする魔物のためにも。

【E-3/草原/夜】

【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:健康 MP微消費
[装備]:ナイトスナイパー@DQ8
[道具]:支給品一式、道具0〜2 天空の剣、罠抜けの指輪 罠の巻物×3 ドラゴンローブ
[思考]:
基本方針:エビルプリーストに借りを返す。6世界の人物を……?(非力な人物は除外)
1:自分の行いを知っている者達の口封じを行う。
2:自分の知り合いを探す
3:どうにかしてどうぐ使いに転職し、首輪解除を試みる
[備考]:
※職業はレンジャーです。少なくともサバイバルスキルが140以上、弓スキルが130以上です。
※エビルプリーストの背後に黒幕がいるのではと疑っています

【ゲレゲレ(キラーパンサー)@DQ5】
[状態]:HP1/2、胴体にダメージ(中)、身体側面に切り傷 魅了
[装備]:悪魔のツメ@DQ5
[道具]:支給品一式、四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1
[思考]:
基本方針:主催を倒して脱出する。
1:ジャンボに不信感。
※ジャンボに「てなずけ」で操られています。
解除されなければヒューザを倒した後、禁止エリアへ行くことになります。

【ヒューザ@DQ10】
[状態]:HP2/3 MP1/10
[装備]:名刀・斬鉄丸@DQ10 天使の鉄槌@DQ10
[道具]:支給品一式 支給品0〜1
[思考]:仲間を探す 、ホイミン、ターニアを守る
ジャンボ、ゲレゲレを止める

※近くにターニアの支給品のランタンが落ちています。

【E-3/街道/夜】


【ターニア@DQ6】
[状態]:体の一部に擦り傷あり 恐怖
[装備]:無し
[道具]:支給品一式(ランタン無し)、愛のマカロン×6 道具0〜2
[思考]:基本方針:お兄ちゃんと合流したい。
首輪を解除してくれる者を探す ジャンボとゲレゲレから逃げる



【ホイミン@DQ4】
[状態]:MP1/8 仲間死亡によるショック
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個 ヒューザのメモ(首輪解除の手掛かりが書いています)
[思考]:『みんな友達大作戦』を成功させる ヒューザがくれた手掛かりを守る。

※二人がどちら側に逃げたかは次の書き手さんにお任せします。

768闇の中へ ◆znvIEk8MsQ:2018/01/06(土) 18:47:52 ID:3uAnN46U0
投下終了です。
この物語のジャンボはver2,4終了時点で、はどうガードはこの時期の敵になかったような気がしたので、
「聞きかじった」ということにしておきました。
これが納得いかない、という方がいらっしゃれば破棄も考えるし、他に矛盾点がありましたらよろしくお願いします。

とりあえずあけましておめでとうございます。今年も投下していくつもりなのでよろしくお願いします。

769ただ一匹の名無しだ:2018/01/08(月) 14:40:05 ID:COkun/1c0
投下乙です
ジャンボェ…今回で人間関係が致命的に崩壊してしまったなあ
なんかもうまともに対主催やる余裕なさそうだが、ファイト

770ただ一匹の名無しだ:2018/01/10(水) 01:58:28 ID:t2va89kg0
投下乙です
ジャンボだせぇな、完全に小悪党になっちまった
しかしそれはそれとしてヒューザも死にかけに近い状態だがどうなるか

771 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:35:03 ID:NaJAhaNQ0
投下します。

772 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:35:40 ID:NaJAhaNQ0
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
アレフは光の剣を構え、デュランに斬りかかる。
「がああああああああああああああああああああああああ!!!」
デュランも粉砕の大鉈を振るい、それを迎え撃つ。


武器と武器のぶつかり合い。それを制したのは………


「がっ!?」

ダメージを受けた時の声、それを発したのはデュランの方だった。
アレフが剣を横に振り、それをデュランが撃ち返そうとするや否や、アレフはそれをバネ仕掛けの人形のように飛び越える。
そのままデュランの顔を拳で打ち抜いたのだ。


デュランは武器を持っていない方の手でアレフをはたき落とそうとする。
だが、そのままアレフはデュランの胸に蹴りを入れ、その反動で後方に下がる。

「フ、フフフ。武器で襲ってくると見せかけて、体一つで攻撃してくるとは、やるではないか。」

デュランは理解していた。手数は少なくなったが、機械兵と共闘していた時以上にアレフを仕留めるのは難しいことを。


彼の得意な戦い方は、1対1のぶつかり合い。
多対多のチームプレイ、もしくは1対多の戦いは若干苦手な反面、敵が一人なら竜王さえも打ち破るほど。
そして目の前に、愛する女性がいる。
もうアベルの傀儡として動かされることもない、彼女の安否を気遣う必要もない。
アレフのコンディションは最高であった。


(私はアレフ様の無事を祈っています。)
その遠くで戦いを見守っているローラは、以前と同じものを感じた。
自分を助けるために、強大なドラゴンに立ち向かっていたアレフ。
今も彼は強大な魔人と戦っている。自分を助けるために。


(貴女はその身に抱えた命すら背負えていない。言い訳にしているに過ぎない。
 言い訳して、人の命を奪うことの重さから逃げている!)

チャモロという僧侶に言われた言葉。

あの時は確かに覚悟が足りなかった。
機械兵の矢を体に受けて、一度子供と共に死に瀕したため、それがよく分かる。
自分の体は万全と言うのは難しいが、僧侶の女性の回復呪文によって、出血も止まっている。

以前聞いた話だが、勇者とはただ勇気があるだけではなく、周りの者さえも勇気づける存在であること。

今度は自分も勇者を愛する人として、勇者に勇気づけられた者として戦い抜くのだ。

773 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:36:29 ID:NaJAhaNQ0



一方でそのローラに回復呪文をかけたスクルドも、別のことを考えていた。
(これは、万が一のことも考えておかねばなりませんね………。あのアレフという青年の力、予想以上です。)
デュランが殺された後、どうにかして場を脱出することを考えねば。
「動かないでください。肩に刃の欠片が入っているようなので、それを出します。」
「うっ!!」
パトラが放った銃弾を抜き、そこに回復呪文をかける。


どういう武器で襲われたのかは知らないが、ローラの肩に鉛の欠片が入っていた。
顔の方は入っていなかったが、同じ武器で狙われたようである。
いざというときはこれを見せつけて恩を売るべきか、
いや、シンプルに人質のままにして逃げおおせるか、


自分はこんなところで死ぬわけにはいかない。
目の前の敵がどれほど恐ろしくても、やらなければならないことがある。
アークが、自分の大切な人が、希望を取り戻すため。
これは傍から見れば愚かな狂信者の末路かもしれない。
それでも、構わない。



ポーラがバトルマスターになり、コニファーがレンジャーになっても、自分だけ僧侶のままでいたのは、昔から抱いていた信仰心を忘れたくなかったからだ。
他の仲間たちはパラディンや賢者になってもいいのではないかと聞いた。
でも、やはり自分は僧侶としての気持ちを抱いたまま、アークを癒したかった。
今でもそれは変わらない。アークの心に空いてしまった大きな穴を埋めるのだ。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

(だ、大丈夫ですか?)
あれはナザム村で受けた、自分が僧侶の力を更に向上させるための試練。
瀕死の仲間を20回ベホイムで癒すことが課された。
だがそれには誰かが傷つかねばならない。
癒すために傷つくとは、なんという理不尽な試練だと憤ったが、力を上げるためなら仕方がない。

(全然構いませんよ。さあ、早く回復呪文を。)
そして傷つく役として、一早くアークがその役目を受けたのだ。
元々僧侶という職業上、アークや他の仲間が傷ついているのを見ることは慣れていた。
しかしその試練は違った。
アークは、自分のためだけに自分から敵の攻撃を受けているのだ。
それを何度も繰り返す

自分のためだけに傷ついたアークを見て、その傷を癒すたびにいたたまれない気分になった。

774 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:36:53 ID:NaJAhaNQ0


そしてその試練で自分の心を苛んだのはそれだけではない。
試練を課したその老人は、「仲間」を癒せと言った。
私にとって、アークは仲間と認められるのだろうか。
仲間という平等な関係ではなく、崇拝する側とされる側という関係ではないのか。
試練が終わりに近づけば近づくほどその不安が心をよぎり、それで押しつぶされそうになった。


だが、それは杞憂に終わった。
僧侶としての道をひとつ極めただけではなく、ずっと崇拝していた存在に自分を仲間として認められたのだ。
嬉しかった。ただの身勝手かもしれないが、とてつもなく嬉しかった。


あの時のことがあったからこそ、アークが人間になってもこう言えたのだ。



(貴方はもう、天使様ではなくなりました。それでも、「私」たちの仲間なのは変わりませんよ。)



自分がそれを言っても、アークの瞳に光は戻らなかった。
あの言葉は、アークに届いていたのだろうか。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

(!!)

昔の思い出にふけっていたが、突然アレフとデュランの剣がぶつかった轟音で、我に返る。
いけない。そんなものを思い返している暇などないはずだ。
もしあの男がデュランを倒せば、自分も殺しに来るだろう。
そして今捕らえているローラ姫も、武器を隠しているかもしれない。


彼女はまだ知らない。
丁度その時、最愛の人が守護天使としての最期の役目を全うしたことを。

775 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:38:54 ID:NaJAhaNQ0





「猛火よ、わが手に宿れ、ベギラマ!!」
「甘いわ!!マホターン!!」

デュランは光の壁を張り、炎の矢を跳ね返そうとする。
だが、アレフの呪文は、直接デュランを狙ったわけではなかった。
地面に打った反動で、高く跳ね上がる。
そのまま上空から、デュランの胸に向けて剣を突き刺そうとする。

「流石だ、だが……」
デュランは笑みを消すことなく、その軌道を読み、大鉈で攻撃を弾き落とす。


(なに?)
それは剣ではなく、アレフが咄嗟に掴んで投げた地面に転がっている石。

「そいつはオモテだ!!」
裏をかいたアレフは、デュランの額を切り裂こうとする。
しかし、巨体に似合わぬ瞬発力で躱されてしまった。
それは額の皮膚を数ミリ傷つけただけに終わる。

これ以上深追いするとカウンターが来ると予想したアレフは、やむを得ず追加の攻撃を諦める。


「今度はこちらから行くぞ!!」
飛び退いて距離を離したデュランは、アレフが地面に着地するとすぐに鎌鼬の構えに出た。

「甘いのはそっちもだ!!」
アレフは地面を蹴り上げ、砂煙を巻き起こす、
それが鎌鼬の軌道を可視化させることで、回避を容易にさせた。
砂塵に移るそれを躱しながら突進する。

そしてデュランの脚に剣を入れる。
せめて素早さをどうにかできれば。

だがアレフの望みは叶わず、またも良い所で躱される。

しかし、戦いは一転してアレフが押し始めていた。
自分の戦いは仲間の支援を受けたことはほとんどない。
それならば、地形を上手く味方に付ければよいのではないか。
敵の能力や地形を上手く読み取り、それを自分が有利なように仕向けるのは、1対1の戦いにおいて重要なことだ。

776 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:39:15 ID:NaJAhaNQ0

そして彼に知る由もないが、それは子孫のトンヌラに受け継がれている。

「ならば、これはどうかな?」
(来る!!)

一度自分が手痛いダメージを受けたあの目にもとまらぬ連撃が来る。
だが、その時に比べると覚悟も集中力も全く違っていた。

当たれば兜から股まで真っ二つにされるであろう上段からの唐竹割りを剣で打ち返す。
続いて、肩へ向けて横薙ぎ。これは姿勢を低くして避ける。
三発目。脇腹に向けての蹴り。
しかし、姿勢を低くした状態から懐に転がり込み、ほぼ密着状態のまま斬撃を軸足の腿に入れる。

「ぬぐぅ!?」
デュランが崩れ落ちた。

(やった!!)
今までで一番大きな手ごたえだった。
反撃で裏拳が来るが、躱してそのまま後ろに下がる。


「まさか今の攻撃までも読み切るとはな。」
だが、デュランはその程度の傷で倒れるほどヤワな魔人ではない。
脚から血を流し、多少片足摺りになりながらも、戦いには全く困らないという様子だ。


デュランの目には、このアレフという人間の瞳を、見たことがあった。


(デュラン、お前を許さない!!人の心をもてあそぶお前を、許すものか!!)
かつて敵の強さを図るためにレック達とテリーを戦わせる余興を行ってみたが、それが原因でレックの怒りを買い、殺されてしまった。


今のアレフも、かつてのレックと同じ瞳をしている。
炎のように熱く、氷のように冷静で、ダイヤモンドのように揺るぎがない。
人間の心は、侮れるものではない。時にその人間の数十倍の力を出すことだって可能になる。

同じ失敗で二度も倒されるわけにはいかない。




「我も、新たなやり方が必要だな。自分の武器があればよいのだが、仕方あるまい。」



(!?)
突然自分の大鉈を二つに折った。
武器を捨てて、徒手空拳で来るつもりか?

777 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:39:37 ID:NaJAhaNQ0


アレフの予想は、それとは大きく違った。
右手に大鉈の刃、左手にその持ち手を握る。
そのまま片足が怪我したとは思えないほど高く飛び、折った武器二つで十字を形作る。

(なんだ?あの構えは!?)
それは危険な技だと、アレフの第六感が告げた。
デュランが作った十字が、光を帯びる。

これまでの技と違って逃げるのも難しそうだし、見たことのない技だからカウンターに持ち込むのも不可能に近い。



(これだ!!)
一か八かと、たまたま近くに転がっていた「あるもの」を掴む。

「何をしようと無駄だ!!食らえい!!グランドクロス!!」

光りの十字がアレフを襲う。

「アレフさまーーーーーーーーっ!!」
その凄まじい光と音から、ローラも悲鳴をあげる。


手ごたえはあった。光の十字に刻まれる人影が見えたことでデュランは笑う。


「でりゃああああああ!!!」
突然後ろからアレフが背中を斬りつけた。
「ぐうううう!!貴様、何故?」


「流石に、危なかったぜ。」
咄嗟に自分が殺したマリベルの死体を十字に向けて投げたのだ。
死後、時間が経っていたため体は重くなっていたはずだが、それは火事場の馬鹿力というもの。
それでもある程度は食らってしまったが、致命傷には程遠い。
そして大技の後には、大体スキが出来る。
そこを狙って背面へ回り込み、斬りつけたのだ。


「いいぞ!!もっと来い!!」
こちらが攻めれば攻めるほど、相手も活きの良さを感じ、高笑いを始める。
だが、デュランも息切れし始めてきた。
このままいけば勝利も考えられるだろう。

778 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:40:02 ID:NaJAhaNQ0


「諸君、ご機嫌如何かな?」

そこへ、突然エビルプリーストの声が村にも響き渡る。


アレフにとってもローラにとっても、それはどうでもいい話だった。
お互い唯一にして一番大事な人の生存は知っているから。
デュランにとっても、それはほとんど気にすることのない情報だった。
彼に興味があるのは生きている強者だけで、死者には関心がなかった。
強いて挙げるとするなら、以前笑い方を自分に聞いてきた少女が死んだことぐらいだが、戦いに差し支えるほど気にとめては居なかった。



(アーク)

しかし、残りの一人、スクルドにとってはそういう訳にはいかなかった。
「そんな……アークが…………」
彼女はこの瞬間だけはショックが大きかった。
だが、彼女は肉体、精神と共に修行を積んだ身。

この殺し合いにアークが死んだ場合も算段に入れていたし、ショックを受けてもすぐに次に行う最適な行動を考え始めただろう。


もし、放送を聞いた後、彼女の身に何も起こらなければ。


ほんの数秒だけだった。
放送でアークの名が呼ばれ、スクルドは頭が真っ白になり、捕らえていたローラを手放し、夢遊病者のようにふらりと歩き出した。


「は!?」
すぐに我に返る。

(アークが死んだ、死んだのなら……)

しかし運の悪いことに、丁度そこは、アレフとデュランの戦っている場所の近くだった。
アレフは勢いがついて剣を振り回し、デュランは持ち前のパワーとスピードで、再度グランドクロスに入るスキを作ろうとする

もし、無意識に歩いた先に、戦闘狂二人が戦っていなければ。



ざくり。


無抵抗な状態の腹に剣が入る。
「誰が死んだのか知らないが、そんなヤツのことでジャマをするな!!」

それは、ローラを取り戻す戦いをジャマされた怒りに身を任せたアレフのものだった。

「がはっ!!」
腹から、口から鮮血があふれ出す。
さらに別の方向から腕を捕まれる。
「戦闘中に勝手に入るなと言っただろう!!死んだ弱者を気に掛けて来るな!!」

779 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:40:21 ID:NaJAhaNQ0


戦いが最高潮に達したところに横槍を入れられたデュランは機嫌を損ね、そのままスクルドを村の外まで力いっぱい投げ飛ばした。


邪魔者を吹き飛ばしたデュランは、ローラに戦いが終わるまで逃げるなと一睨みした後、再び戦いが始まる。
デュランとアレフ、戦いを目的とする者と手段とする者。


勝利の女神は、どちらに微笑むのか。


【I-5/リーザス村/1日目・夜】

【アレフ@DQ1勇者】
[状態]:HP1/3、MP1/2、肩と鳩尾に打撲
[装備]:光の剣
[道具]:支給品一式、不明支給品(0〜2)
[思考]:ローラを取り戻す為デュランを倒す

【ローラ姫@DQ1】
[状態]:HP1/8、 顔、右肩に銃創(治療済)、腹部に刺創(止血済)
[装備]:毒針
[道具]:支給品一式、銀のティーセット 草・粉セット
    ハッサンの支給品(引き寄せの杖 場所替えの杖)
[思考]:愛する我が子の為に戦う。アレフの邪魔をしない
[備考]:最低限の治療しか施されていません

【デュラン@DQ6】
[状態]:HP1/4、下腹部、脇腹、背中に裂傷、右腿に刺し傷、
[装備]:折れた粉砕の大鉈@DQ8
[道具]:支給品一式 道具0〜1個
[思考]:強き者を探す。主人公@DQ6とその仲間とは決着を付けたい。
    リーザス村でアレフを倒す


【スクルド(僧侶♀)@DQ9】
[状態]:??????? MP1/3
[装備]:ホーリーランス、不思議なボレロ@DQ3
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:???????

780 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:40:41 ID:NaJAhaNQ0











ところが、どういう運命の悪戯かは分からないが、この戦いはそんなシンプルな形で終ることを許さなかった。



戦いは、新たにリーザス村の前に現れた人物によって静かに、しかし確実に狂い始める。


(キツイですね、この戦い)
チャモロはハッサンに続いて、また新たな仲間が死んでしまったことで苦しんでいた。

自分の知らない場所で知らない形で仲間が一人ずついなくなっていく。次は自分か、それともレックか。

「チャモロさん。今の放送に、仲間が呼ばれたのですか?」
(やったぞ、やった。ざまあみろ。あははははははははは!!)
一方でトンヌラは、心の底からわき上がるような思いだった。
あれほど鬱陶しかった二人が、纏めて死んだのだ。
これで目的はローラと共に生還するだけだ。

ロトの世界を自分が手にするまで、もうほとんど障害は残っていないだろう。

「僕も仲間を二人失いました。チャモロさん。その人達の分まで、絶対に生き残りましょう。」
明らかに口数が多くなっていたが、トンヌラは上機嫌になっていたということをチャモロは気付く余裕はなかった。


村の入り口にさしかかったとき、知らない女性が飛んできた。

「どうしましたか!?」
チャモロ慌ててそれを受け止め、訪ねる。
よく見ると腹を切られて、血がどくどくと流れて、すでに顔色は半分死人のようになっている。
状況を聞くどころではない。

「べ……ほ……ま……。」
どうやら回復呪文は使えるようだが、効果が薄いこの世界ではどこまで頼りになるか分からない。
傷口は深く、自分も回復呪文をかけないと回復する前に失血死してしまうだろう。


「トンヌラさん!!またしてもすいませんが、ローラさんを確かめに行ってください!!」
「分かりました!!」

お人好しな人間は大変だなと思いながらも、村に入る。ローラが死ぬことで危機が及ぶのは、自分であってチャモロは関係ない。

781 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:41:02 ID:NaJAhaNQ0



「大丈夫ですか?今僕がベホマをかけるので、それまで生きててください!!」
「お……わ………れ………な……」
終われない、と言いたいのか。彼女も大切な人を失ったのか。
チャモロは連続してベホマをかけ続ける。
その甲斐あってか、流れる血が少なくなってきた。




「…………。」
彼女自身もベホマを使い始める。MP効率がどうのと言ってられない。
回復呪文が抑えられていても、世界でもトップレベルの僧侶二人によって、一命はどうにか取り留める。


「もう大丈夫ですよ。血は止まりました。」
「ありがとうございました。」

スクルドは身体をよろけさせながらも立ち上がり、リーザス村へ行こうとする。
「無茶です!!怪我は治りましたが、まだ万全ではありません!!」
どうにか応急処置は出来たが、過度な運動によって再び傷口が開くかもしれない。
それに、失った血の量は決して少なくないはずだ。


「私は、大切な人を失いました。そして、私を傷つけた人たちは、その人を弱者と嘲りました。その人達を私は許しません。」
青い顔で、淡々とした口調で話す。
それは、下手に熱意をこもったしゃべり方より恐ろしさがあった。
チャモロも思わず後ずさってしまう。

「そして、彼を取り戻すために、私は戦います。」

「このゲームに乗ることが、大切な人を救うことなのですか!!大切なのは、あなたが生きていることじゃないんですか!!」

それでもチャモロは説得を試みる。
でもどこかチャモロには諦めの気持ちがあった。
今目の前にいる女性を説得して、止めることは自分には不可能だろうと。
ハッサンの命、バーバラの命、アモスの命。
自分はどうにも出来なかった。
パラディンになったのに。大魔王だって倒したのに。


「あなたは、大切な人の誇りが踏みにじられて、生きることが出来ますか?
その人は私が幼いころからずっと心の支えだったんです。
たとえ命があっても、死んでいるようなものです。」
「すいません。言い方が軽率過ぎました。でも、それはただの自暴自棄ではないのですか?」
「かもしれません。でも、私は昔から誰かに縋ることしかできない弱い人です。自分で未来を創る力なんてありません。」

自分も仲間を二人失っている。それを簡単に忘れることなんてできない。
彼は感づいていた。
このまま彼女を放っておけば、誰かが犠牲になる。
だが、返す言葉が見つからない。自分はなんて無力なのだ。

782 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:41:22 ID:NaJAhaNQ0

(ずるいですよ……そんな言い方………)

「でもあなたはどこか私の大切な人に似ています。
少ししか会っていませんが、分かりますよ。
自分の役目を全うしようとして、上手くいかなくて、自分が一番傷ついてしまう所が。
だから………。」


スクルドはザックを開けて、何かを取り出す。
それは、チャモロも冒険の途中に何度も見たもの。

「あなただけは、巻き込みたくない。」
「止めてください!!」

スクルドはチャモロに無理矢理押し付けるようにキメラの翼を渡す。
彼女の想いに呼応するかのように、それは否応なくチャモロを地面から離した。


「さようなら」


その一言を告げた後、ホーリーランスを構え、村に戻る。
アレフとデュランの攻撃を受けて分かった。
この世界では、もはや誰もアークを崇拝してくれないのだと。
アークがいない世界では、自分は生きる価値のない存在なのだと。
元の世界に戻っても、それは同じことだろう。


なぜチャモロを逃がしたのか彼女自身にも分からない。
いくら自分を助けてくれたからといって、どの道アークが生き返るために、全員殺さなければならないのに。


今こそ、あの技の出番だ。
私の中にある怒りと悲しみ、そして憎しみによって秘伝書の力を使わずともあの技を使うことが出来るはずだ。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


(予想通りです。あそこにローラさんがいますね。)
トンヌラは蛇のようにリーザス村に潜入した。



しかし、少し離れた場所で戦っている戦士(恐らくアレフ)と赤い魔人がいるため、迂闊に刺激させるわけにはいかない。
ローラに関しても悲鳴をあげられれば何かと面倒なため、同じことが言える。
一度遠くから戦いを見る。

一度民家の裏に隠れる。
そこに何かが隠れていたような気がして一瞬驚く。
それは自分達のかつての敵、ハーゴンだった。
(死骸の分際で、驚かせるな。あいつらと同じ場所にでも行ってろ)
トンヌラは首と片手が取られ、片足が潰されている仇敵を気にせず、そこから村の状況を見る。

783 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:41:44 ID:NaJAhaNQ0


アレフの方が押しているように見えるが、魔人の方も負けてはいない。どちらかが倒されるのを待つのは、時間がかかりそうだ。
一早くアレフに加勢しようとも考えたが、正直なところ自分にとって必要な人物は子供を身籠ったローラであり、アレフは必要ない。
それに、下手に加勢したことが原因で、死んでしまっては話にならない。


だが、今ローラが身籠っているのは長子で、自分の祖父、もしくは祖母に当たるのは第二子、第三子かもしれないから、そういう訳にもいかない。
銃を使って狙い撃ちをするにはまだ難しい。
手元が狂ってデュランを狙うつもりが、アレフに当たりかねないし、通用するかも怪しい所だ。

気を逸らそうと二発銃を撃ってみたが、反応はない。
どうやら距離が遠いのと戦いに夢中になりすぎて、気付いていないようだ。

一度チャモロの所に戻り、協力を頼むべきか?


どうするか物陰で悩んでいた彼は、デュランとアレフ、そしてローラのことばかり考えて、スクルドが戻ってきていることに気付かなかった。

もし、アレフが切り裂いたのが彼女の腹ではなく胸ならば、
もし、デュランが彼女を投げ飛ばすようなことをせず、その場で殺していれば
もし、チャモロが彼女の傷を癒していなければ、
もし、トンヌラが慢心によって僅かに観察力を欠いていなければ。
もし、アレフとデュランが互いの戦いに集中しすぎて、周りが見えなくなっていなければ、
もし、ローラがアレフの行く末ばかり見ていて、後ろにもう少し早く気付けば。

戦いの歯車は、狂わなかっただろう。


スクルドは、槍を構えて戦いの場に近づく。
聖なる槍と呼ばれたそれの先端は、どす黒い雷が溜まっていた。
(!!)
その魔力に気付いたローラは、手を震わせながらも毒針を構えてスクルドに向かっていく。

ローラの反応に気付いたアレフも、同じようにデュランとの斬り合いを中断し、スクルドに向かっていく。

アレフの反応に気付いたデュランも、二度も戦いを邪魔されてたまるかとスクルドに向かっていく。

そして三人の反応に気付いたトンヌラも、その原因に気付き、銃を向ける。
しかし、反応はない。銃弾はさっきの牽制ですべて失われていたのだ。

784 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:42:03 ID:NaJAhaNQ0










「黒の雷よ、全てを飲み込め。」

そのすべてが、手遅れだった。


何もかもが飲み込まれていく。
真っ黒に。




「きゃああああああああ!!!!!」
「ローラああああああああああああ!!!!!」
「おのれえええええええ!!!貴様あああああああ!!」
「なん……で……?嫌だ………しにたく………ない…………」

4人はそれぞれ声を上げるも、あえなく轟音にかき消される。


「スクルドさん!!トンヌラさん!!ローラさん!!!」

地上から既に遠く離れていたチャモロも、轟音と光で只事じゃないことは分かった。
分かっているが、自分は何もできない。

「あああああああああ!!」
無力さを慟哭にして吐き出すだけだった。








轟音が鳴り響き、そこから悲鳴が。崩れ落ちる人、魔物、建物、畑。
そして、静寂。


ゴーーーーーーーーーーン


その静寂を破ったのは、地面に落ちたリーザス村の教会の鐘だった。

聖職者たる者が教会を破壊するなど、あってはならない行為だろう。
だが、そんなことは関係ない。
彼女にとって崇拝する存在は、アーク一人なのだから。
アークを崇めない教会などに、どうなろうと興味はないのだ。

785 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:42:28 ID:NaJAhaNQ0

その教会以外にも、周りの民家、畑、店などは崩壊しきっている。
ただ爆心地から距離が離れ、頑丈な作りになっているアルバート家だけが残っていた。
元々この地は、アルバート家だけしかなかったらしいので、原点回帰、というものなのかもしれない。


彼女は秘伝書なしのジゴスパークを使うことができず、その秘伝書も支給品になかったはずだ。
それなのに地獄からの雷を使うことが出来たのはなぜか。


元々彼女の世界の、槍を媒体にして使うジゴスパークは、エルシオン卿の怒りから発生したものだと言われている。
彼女も、敵への怒りを溜めて、全てをエネルギーに変えて解き放ったのだ。
その威力は凄まじく、秘伝書を元に使う技以上の威力を秘めていた。
彼女の世界に対する憤りは、それほどのものだったのだろう。


周りを見ると、4人が物言わずに転がっている。
その元凶になった彼女は、他人事のように冷たく呟いた。
「終わり……ましたね。」


でも、これで終わりではない。
最後の一人になるまで、戦い続けるのだ。
これからどうしようか。
あの力は、何度も出せるものではないし、たとえ使っても倒せない者がいるかもしれない。
また同盟を組もうか、既に半分になったため、チームはある程度作られてしまう。
どんなことをしてでも、最後まで生き残るのだ。

彼女は歩き出す。
愛する人を失い、絶望と夜の闇に飲まれた彼女はどこへ行くのか。
(天使様……どうか最後まで私を、見守っていてください。必ず居場所は作ります。)


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

スクルドが村を出て行って暫く経ったあと。


(アレフ様……)
空が暗い。ここは、地獄だろうか。
「え!?」
ローラは生きていた。

「よ……か……った……」
アレフはスクルドに向かっていくかと思ったが、実は咄嗟にローラに被さり、その身を挺して彼女を守ったのだ。
ただそれだけではない。
ローラの支給品の草・粉セットに、世界樹の葉が紛れており、その力が彼女とその子供を、冥土から戻したのだ。

「アレフ様?」
ザックを開き、道具を取り出す。
しかし、回復できる物は入っていない。
「いいんだ………守って………くれ……俺達の……未来を…。」

そのまま彼女の大事な人は事切れる。
凄まじい雷を一身に受けたのだ。普通は生きていられるはずがない。
アレフはローラに最後の一言を伝える決意で生きていたのだ。

786 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:42:52 ID:NaJAhaNQ0


「ありがとうございます。ローラは戦って、生きます。」
何があっても守らなければならない。
死を二度も目の当たりにして、怖くて怖くてたまらない。でも。
アレフとの可能性は、自分の腹の中にあるから。

デュランとトンヌラは、そのまま黒焦げになって、何も言わず息絶えていた。
アレフは死ぬ前に何かを伝えることができ、この二人はそれが出来なかった。
それは信じる人がいたか、いなかったか。
そういうごく小さな違いだけなのかもしれない。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇



一方でチャモロは、一つの小屋に降り立っていた。
「ハッサンさん……」
そこに以前見た、友の死体が転がっていることから、知っている場所だと分かる。
それは、何も変わっていない。
そして、チャモロは何も変えることが出来なかった。



自分は、パラディン失格だ。
ハッサンも、バーバラも、トンヌラも死なせてしまった。
アモスは救えなかった。
ローラはアベルの手から取り戻すも、結局死んでしまった。
スクルドは止められなかった。



泣きたかった。
動かなくなった友の目の前で、何もせず自分の無力さを嘆き続けられたら、どんなにいいかと思った。
でも、行かなければならない。
時間は経ったが、以前すぐ近くにアベルがいたため、サフィールとも合流できるかも知れない。

787 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:43:18 ID:NaJAhaNQ0
行こう。
これまでのように、無駄に終わるのかもしれないけど。

(最後まで戦います。だから……)

最後まで、見守っていてください。



【デュラン@DQ6 死亡】
【トンヌラ@DQ2 死亡】
【アレフ@DQ1 死亡】
【残り37人】

【I-5/リーザス村/夜】

【ローラ姫@DQ1】
[状態]:健康
[装備]:毒針
[道具]:支給品一式、銀のティーセット 草・粉セット(世界樹の葉が使われました)
    ハッサンの支給品(引き寄せの杖 場所替えの杖)
[思考]:愛する我が子の為に戦う。
[備考]:最低限の治療しか施されていません

【I-5/街道/夜】

【スクルド(僧侶♀)@DQ9】
[状態]:HP2/3、腹部裂傷(応急処置済み)喪失感 情緒不安定MP1/2
[装備]:ホーリーランス、不思議なボレロ@DQ3
[道具]:支給品一式 キメラの翼×2 支給品0〜1(本人確認済み)
[思考]:アーク(DQ9主人公)を蘇らせる。そのために最後まで戦う。その後自殺する

【F-6/滝の上の一軒家前/夜】

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP6/10 MP3/5 腕、肩、脇腹に切り傷(応急処置済) ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)喪失感
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める 近くにいる可能性のあるサフィールと合流する
    ※チャモロはローラが死んだと思っています。
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。

※I-5/リーザス村で、アルバート家を除いて全ての家屋が崩壊しました。
※アレフ、デュラン、トンヌラの支給品、装備品は全て燃え尽きました。

788 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:46:18 ID:NaJAhaNQ0
投下終了です。かなり進めてしまったため、何かマズい点があるかもしれません。
(ジゴスパークのくだりとか特に)
普通はワープしたら着地場所を次の書き手の方に任せるはずなのに、
チャモロの場所を滝ノ上の一軒家にしたのは、
前のアベルのようなことにさせたくなかったからです。

789 ◆znvIEk8MsQ:2018/02/09(金) 19:55:52 ID:NaJAhaNQ0
タイトル忘れてました。
「愚か者達の輪舞」です。

790ただ一匹の名無しだ:2018/02/09(金) 21:14:16 ID:QWGS5mF20
投下乙です。
リーザスの戦いを制するのがスクルドとは…
意外な展開ながらも鬼気迫る様子が伝わってきて鳥肌が立ちっぱなしでした。

ワンターンスリーキルゥ…

791ただ一匹の名無しだ:2018/02/10(土) 07:56:02 ID:xLl6XzNw0
投下乙です
スクルドちゃんの怒りの鉄槌、おっかねえ…

※I-5/リーザス村で、アルバート家を除いて全ての家屋が崩壊しました。

アルバート家の耐久力おっかねえ…

792ただ一匹の名無しだ:2018/02/10(土) 11:48:18 ID:EwKPX95w0
投下乙です
大事な人の為に戦ってたアレフが大事な人を蔑ろにされたスクルドに殺されるとは、皮肉なものだ……トンヌラはご愁傷さますぎる
チャモロもローラも頑張れ……

793 ◆OmtW54r7Tc:2018/02/10(土) 15:20:41 ID:xLl6XzNw0
投下します

794郷愁 ◆OmtW54r7Tc:2018/02/10(土) 15:21:45 ID:xLl6XzNw0
「ガボ…」

放送が終わり、キーファはかつての仲間の名を呟いた。
ガボ。
かつての旅で行動を共にした仲間の一人。
人間の身体に精神が憑依したという変わった生い立ちの少年だ。

「……?」

キーファは違和感を感じる。
前回の放送でマリベルの名前が呼ばれた時は、胸を締め付けられるような苦しさがあった。
しかし今の自分は、悲しみこそあれど、あの時のような苦しさを感じない。
仲間の名前を呼ばれるのが2度目で慣れてしまったのか?
いや、確かにそれもあるかもしれないが、それだけじゃない。
俺は――

「…薄情、ですわね」

突然の言葉に、キーファはギクリとしながら顔をあげる。
そこにいたのは、顔を俯かせているミーティアだった。

「な、なんのことだ?」
「…わたし、自分の薄情さを嫌悪してしまいますわ」
「へ?」

てっきり自分への言葉だと思っていたキーファは、呆気にとられた表情となる。
そんなキーファを尻目に、ミーティアは言葉を続ける。

「今回の放送で、かつて旅をした仲間がまた一人、呼ばれましたわ」
「そ、そうか。それは、その…」
「…でも、前回の放送でお父様やククールさんが呼ばれた時よりも、ショックが少ない気がするんです」

ミーティアの言葉に、キーファは再びギクリとした。
彼女は、自分と同じことを考えていたのだ。

「2回目の放送で耐性ができただけじゃないか?呼ばれたのも前回より少ないみたいだし」
「…確かにそうかもしれません。でも、それだけじゃないと思うんです。ゲルダさんは…一緒に旅をした期間が短かった。それでお父様やククールさんほど情が湧かないのではないかって…そう、感じるんです」

そう言って、再び顔を俯かせるミーティア。
ミーティアという少女は、旅の間ほとんど馬の姿であった。
トロデのように言葉を発することができない彼女は、言葉によるコミュニケーションによって絆を深めるという行為ができなかった。
故に、エイトやトロデ以外の仲間に対しては、どうしても付き合いの長さがそのまま情の深さに直結してしまうところがあるのだ。

795郷愁 ◆OmtW54r7Tc:2018/02/10(土) 15:22:29 ID:xLl6XzNw0
そんな彼女を、複雑そうな表情で見つめるキーファ。
普通なら、「そんなことない」とでも言って、彼女を励ますところだろう。
しかし、

(…そこまで同じかよ、くそ)

キーファに、そのような言葉をかけることなどできなかった。
なぜなら、全く同じことをガボに対して考えてしまったから。
ガボと一緒にいたのは、仲間になった後、2〜3つの町を解放した程度の期間でしかない。
そこから更に何年もの年月が経過してしまった。
幼馴染として過ごしたアルスやマリベルほど、情が湧かないのだ。

「…気にするなよ」
「でも…」
「ここは殺し合いの場だ。仲間の死に割り切りができるなら、それに越したことはない」
「そんな…!」

キーファの冷たい物言いに、思わず顔を上げて抗議の声を上げるミーティア。
が、その先の言葉は続かなかった。
薄情な自分に、ゲルダの為に怒る資格などあるのか…
そんな考えが、頭をよぎってしまったのだ。

「……………」
「……………」

そうして二人は沈黙したまま、しばし見つめ合っていたが…

「…この話は終わりにしよう、行こうぜ」
「…ええ、そうですわね」

付き合いの長さや関係性によって情の優劣に差が出るのは、誰しも当然のことだった。
しかし、キーファもミーティアも、それを割り切るにはまだまだ若かったのだ。
お互い気まずさを残しつつも、支度を整えると先へと進んだ。

796郷愁 ◆OmtW54r7Tc:2018/02/10(土) 15:23:40 ID:xLl6XzNw0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

そうして、しばらく進むと、町が見えてきた。
なお、町から逃れた魔王と少し前にニアミスしているのだが、両者ともに気づかないまますれ違っていた。
さらに言えば元ホイミスライムの少女と放送前まで一緒にいた少女も町を出た後であり、やはり出会うことはなかった。

「あれがポルトリンク、港町ですわ」
「港町か…」

キーファは思い出す。
漁村と港町という違いはあれど、同じ海と船に関係した場所であるフィッシュベルを。
かつて、友と過ごした懐かしき村を。

(アルス…)

アルス。
元からの知り合いで現在唯一生き残った少年。
キーファにとってアルスは親友だ。
それはたとえ、どれだけ離れようとも、時間が経過しようとも色あせることはない、かけがえのないものだ。
少なくとも自分はそう信じている。
だが…アルスはどうなのだろうか?

(あいつは俺のこと、どう思ってたんだろうな…)

ユバールのキャンプ地にて仲間達と別れる時。
あいつは何も言わず、いつもと変わらない様子で、頷くだけだった。
あの時のあのなんでもないような表情が、今でも脳裏に焼き付いて離れない。

(あいつにとって、俺はどうでもいい存在だったんじゃないだろうか)

胸の内に渦を巻くそんな疑念と共に、離れてくれない。
先ほどガボに対して感じた感情と同じような淡白な感情しか、アルスは自分に対して感じていないのではないかと。
少し前に、石版に手紙を記して放流したことがあった。
そのあて先は、マリベルでもなければ、父や妹ですらなく、アルスへのもの。


―どんなに はなれていても
―オレたちは 友だちだよな!


最後のこの一文は、半分本音で、半分アルスに対する確認だった。
無理だと分かっていても、アルスからの肯定の言葉を、返事が聞きたかった。

(なあアルス…どんなに離れていても、オレたちは友達…だよな?そう信じて、いいんだよな?)

797郷愁 ◆OmtW54r7Tc:2018/02/10(土) 15:24:15 ID:xLl6XzNw0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

「こいつは…」

ポルトリンクに入ったキーファとミーティアは、しばらく歩いた先にて一つの死体を見つけた。
胸に穴を空けたその少女の死体に、キーファはミーティアに「見るな」と声をかけて視界から遠ざけさせ、死体を検分する。

「こいつはティアが言ってた…ルーナって奴か」
「知っている方なのですか?」
「いや、知り合いってわけじゃない。ここで出会った女の子から話を聞いただけだ」

ティアの明るい笑顔を思い出す。
それほど交流があったわけではないそうだが、女の子同士友達になりたいと話していた。
聞けばこのルーナという少女は、故郷を滅ぼされて笑えなくなったということだったが…

「…笑ってる」

少女の死体は、笑みを浮かべていた。
苦しかっただろうに、どうしてこんな表情で死んでいるのだろうか。

「まあ、ティアの友達をこんなところに野ざらしにはできねえな」

キーファはルーナを弔うことにした。
遺体を持ち上げると、教会へ連れていき棺の中に安置した。
そして、棺を閉じると、ついてきたミーティアと共に黙祷を捧げる。

「…彼女が持ってたこっちの荷物は、君が預かってくれないか」

黙祷を捧げた後、キーファはバツが悪そうに目をそらしながらルーナのそばに落ちていた二つの荷物の内の一つをミーティアに渡した。
キーファの様子を不思議に思いつつも、中身を確かめたミーティアは…

「こ、これは…」

中身を見て、赤面した。
そして、赤面しながらキーファを睨みつけた。

「…ミーティアに、これを着て欲しいんですか?」
「い、いや、一応女性用だし、俺が持ってるのも、な…?」
「着ませんからね!」
「着て欲しいなんて言ってないだろ!」

798郷愁 ◆OmtW54r7Tc:2018/02/10(土) 15:25:27 ID:xLl6XzNw0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

その後、結局ルーナの荷物はミーティアが受け取ることとなり、二人は町の探索を始めた。
幸いにもミーティアが知っている場所なので、彼女の案内のもと、探索を行う。

「それにしても、港町なのに船が一隻もないなんてな」
「そうですね…私の知っているポルトリンクは、船が何隻もあって、活気にあふれた場所でしたが…」
「…なあミーティア、一つ聞いていいか?」
「?…なんでしょう?」
「ここってあんた達の世界の大陸なんだよな?この海の向こうに、他の大陸はあるのか?」
「ええ、この大陸以外にも、他にいくつも大陸がありますわ」
「…この世界の海の向こうは、どうなってるんだろうな?」
「この世界の…さあ、分かりませんね」

海の向こうには、ここからでは何も見えない。
いったい、どうなっているのだろう。
元の世界のように、他の大陸があるのか、それとも海しかないのか。
あるいは、もっと別のなにかがあるのか。

「…俺たちの世界ってさ、昔は一つの大陸しかなかったんだよ」
「そうなのですか?」
「ああ、他には海しかなくてさ…」
「…その話、詳しく聞かせてもらえませんか?」
「ん?まあ、いいぜ」

それからキーファは、自分達の世界のことを話した。
遺跡と石版
そこから始まった過去の世界への旅。
そして現れた大陸の事を。

「まあそういうことだからさ…この世界の海の向こうになにがあるか、無性に気になるんだよな」
「不思議な話ですね…」
「そうだろ?港に船があれば、確かめてみたいんだけどな」

それは、単に好奇心だけというわけではない。
地図には、この大陸と周りを囲う海しか描かれていない。
地図の外側の詳細が不明なのだ。
もしかすれば、この地図の外側…海の向こう側にこそ、エビルプリーストの根城があるのではないか。
安直かもしれないが、そんな考えもあって、なんとか海を渡ってみたかった。

799郷愁 ◆OmtW54r7Tc:2018/02/10(土) 15:26:13 ID:xLl6XzNw0
「船なら…心当たりがありますわ」

キーファの言葉に、ミーティアは言った。
船の、心当たりがあると。

「もしかしたらここに…船があるかもしれません」

ミーティアが差したのは、ここから西の方向。
自分達が当初いた場所から近く、今までの道を引き返すことになる方角だ。

「こんな荒野の真ん中に船が?」
「ええ…今度はミーティアが、お話しする番ですね」

そしてミーティアは語った。
かつて見つけた古代船。
ハープと歌の力で蘇った魔法の船の事を。

「…そりゃまた、不思議な話だな」
「この世界が私達の世界を模したものなら、あの船ももしかしたらあるかもしれません…」

勿論、エビルプリーストがそんな都合の良いものを用意しているとは思えない。
ポルトリンクの船のように消されているかもしれないし、そもそも元の世界では起動させて今はもうあの場所にはないのだ。
同じ場所に船が戻ってきているなど、希望的観測に過ぎなかった。

「そのハープってさ、もしかしてこれか?」

そういって、キーファは先ほどのルーナの荷物の内の一つ…元々はユーリルが持っていた荷物の一つを取り出した。

「それは…間違いありません!月影のハープです!」
「ビンゴかよ…うーん」

キーファは考え込む様子を見せる。
そうしてしばらくすると、顔を上げて言った。

「…案内してくれないか、その場所に」
「え、でも…」
「確かに確証はないかもしれない。だけどどの道てがかりなんてないんだ。可能性があるなら、それに賭けてみるのもありだと思うぜ」
「引き返すことになりますが、よろしいんですの?せっかくレックさんという方が逃がしてくれたのに…」
「どっちに進んだって、危険はつきものだ。どっちも危ないなら、俺は希望のある道に進みたい」

―もしもの時にも、あなた達は殺したくないから。

思い出すのは、ポーラの別れ際の言葉。
先にポルトリンクへと向かった彼女がいないということは、おそらく更に東へ進んだのだろう。
不吉なその言葉と放送で呼ばれた彼女の仲間のアークの名前に、キーファは不吉なものを感じていた。
だからなんとなく、このまま東に進んでいても、危険からは逃れられない気がするのだ。
それに、西にはレックがいる。
放送で呼ばれなかったことを考えると竜王との戦いをやり過ごし、こちらに向かってきているかのしれず、合流できるかもしれない。

「分かりましたわ」

キーファの説得に、ミーティアも折れた。
彼女としても、西の竜王に対して心残りがあった。
自分のせいでオルテガが死んでしまったことに対して、罪悪感はあるが…それでも、彼女の誇りはまだ死んでいない。
諦めたくはなかった。
それに、もしも船があるなら…イシュマウリがいないので上手くいかないかもしれないが、自分の歌が役に立つかもしれない。

「行きましょう。…希望への道を、探しに!」

800郷愁 ◆OmtW54r7Tc:2018/02/10(土) 15:26:46 ID:xLl6XzNw0
【F-9/ポルトリンク/二日目 夜中】

【キーファ@DQ7】
[状態]:HP2/3
[装備]:はやぶさの剣・改@DQ8
[道具]:支給品一式、月影のハープ@DQ8、支給品1〜2個、ユーリルの不明支給品0~1個
[思考]:古代船のもとへ向かう

【ミーティア@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、あぶないみずぎ、レースのビスチェ、あぶないビスチェ、道具1〜3個
[思考]:古代船のもとへ向かう

801 ◆OmtW54r7Tc:2018/02/10(土) 15:27:32 ID:xLl6XzNw0
投下終了です

802ただ一匹の名無しだ:2018/02/10(土) 19:20:38 ID:ymdT/78s0
投下乙です
>愚か者達の輪舞
勝者はまさかのスクルド。これは意外過ぎた
マリベルの死体を盾に使ったり勇者の行いとはどんどん遠ざかっていったアレフだが、ローラを想う気持ちだけはブレなかった

>郷愁
付き合った時間で情に差が出るのは仕方ない。そのことに傷つくのも仕方ない。
そしてなんか本当にイシュマウリが出てきそうな雰囲気になってきたがはてさて……
しかしミーティアは今回もエロ装備を持たされたが、何が何でも一度はエロ装備を着せてやるという決意の現れなのかw?

803高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:27:04 ID:aK.LGmEs0
人は、生きているうちに必ず大きな壁に当たる。
それを、打ち破るか、飛び越えるか、はたまた諦めて何もしないか。
その行動によって、人は決まっていく。

勇者の力を手に入れた魔物を倒し、兄を倒し、マデサゴーラを倒した彼女は、一番高く厚い壁に直面していた。
仲間はほとんど壊滅状態、武器は玩具のようなもの1つしかない。逃げようにも後にも壁。

「さあ、どうする?武器もないし、頼れる仲間もいない。」
高く厚い壁、ヘルバトラー強は笑った。
(だからといって………)
「逃げられるかッ!!」
アンルシアは地面を思いっきり蹴り、向かっていく。
「むおっ!?」
剣として使っても傷つけることないとつげき丸を顔に投げつけ、視界を奪う。

(まだ、ひとつ試してないことがある!!)

そのまま高く飛び上がり、呪文の詠唱に入る。

「天なる雷よ、悪を討て!!ギガデイン!!」
数百の光の矢がヘルバトラ―強に襲い掛かる。
しかし、ヘルバトラー強はそんなものをものともせずに跳び上がる。

「が………」
そのまま殴打でアンルシアを撃ち落とし、地面に叩きつける。
ヘルバトラー強もある程度雷を受けた火傷があるが、致命傷には程遠い。


彼女、彼らにはもはや全滅しか無いようだった。
今度はロトの剣の持ち主は気絶している。

「これでトドメだ!!」
ヘルバトラー強はイオグランデの詠唱に移る。
その瞬間だった。
岩壁が壊される。それはまだよい。
アンルシアだって壊すことが出来たし、他にもある程度の力や技術を備えた者なら出来ることだ。
予想外なことは、岩壁が壊される音と共に、ものすごい勢いで何かが飛んできたことだ。
それは、魔瘴で強化された魔物でさえも反応できないほどの威力とスピード。
アンルシアにトドメを刺そうとしたヘルバトラー強の背中に凄まじい衝撃が入り、転がっていく。
そのまま最初に背を預けていた大木に激突した。


フアナとサヴィオは、最初何なのか全く分からなかったが、それが知っている人だと気づく。
「みん……な……。」
「アスナ!!それに、コニファーさん!!」
「ゼシカさんまで!!でも『アリアハン検定1級』の私は来てくれると信じていましたよ!!」

「これは……」
遅れて入ってきたゼシカとコニファーは、戦場の酷い有様を見渡す。
草木は何の影響か枯れ果て、大地はクレーターのようにボコボコとした穴が空いている。
それはかつてゼシカが見た場所とはとても思えない有様だった。
気絶している少女と、それを守るかのように覆いかぶさり、黒焦げになっている戦士
その近くには、怯えている神官らしい風貌の少女と、彼女より年上だが傷を負った少女もいる。
フアナとの再会は果たしたが、それまでの犠牲は大きかった。

804高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:27:36 ID:aK.LGmEs0
すいません投下宣言忘れてました

805高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:27:57 ID:aK.LGmEs0

「皆ひどいケガだな。」
「僕はまだ大丈夫です。それよりも他の人を!!」
サヴィオは魔触を受けて思うように動かない体に鞭打って、仲間を回復しようとする。
「回復呪文はそこまで出来るワケじゃねえけど……ところで誰と戦ってたんだ?」
コニファーは傷ついている人に片端からベホイムをかけていく。
サヴィオとフォズ、それにアスナもそれを手伝う。

「ヘルバトラーって怪物だよ。フアナと協力して倒したはずなのに、復活したと思ったら急に強くなったんだ。」
(ヘルバトラー……か)
トロデーン城で、ピサロから聞いた名だ。
絶望と憎悪の魔宮にもいた魔物だが、明らかに違う者だろう。
試してみる価値はある。

やはり、というかヘルバトラー強は生きていた。
体に傷を負ったが、その程度で倒れるような敵ではない。
ズシン、ズシンと地獄の鬼の太鼓のような足音を立ててやってくる。

(コニファー様?)
(危ないですよ!!)


再び近づいてくるが、そこでカマエルとサヴィオの反対を押し切って前へ出たコニファーが一声を上げた。


「オマエは、ピサロの元部下だな。」
「何!?」
向かってくるかと思いきや見知らぬ人間が話をしてくるとは。
「ピサロがオマエを待っている。オレがアイツの場所まで案内しよう」

コニファーは理解していた。
この魔物は、とてつもない戦闘能力を持っている。
戦いになれば仮に勝てたとしても、犠牲者は少なくないだろう。
だが、元とは言え上司の名をちらつかせれば、一時しのぎくらいにはなるかもしれない。

「一応聞こう。ピサロは今何をしている?」
「そこまでは話せないな。だが、ピサロがオマエを必要としているのは事実だ。」

(やはりコイツはピサロへの忠誠心はないな……)
ヘルバトラーが「ピサロ」と様付けせずに読んだ時点でコニファーも予想はついていた。
ピサロ本人もあまり期待はしていなかったようだが

(この男、食えない奴だ……)
下手に殺すとピサロの居場所も目的も知らなくなる。だが。
「ならば力づくで聞きだすまでよ!!」
爪の攻撃がコニファーに襲い掛かる。

806高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:28:29 ID:aK.LGmEs0

当たればパパスやアンルシアといった歴戦の勇士でさえもタダでは済まない。
当たればの話だが。

「ぬ!?」
確かに攻撃は当たった。だが、手ごたえは全くない。
今度は炎の息を吐く。だがそれは後ろに回り込んだため、地面を焦がすだけに終わった。

コニファーは一手目に守りの霧を張り、攻撃をしのいだのだ。
次は物理攻撃以外の技が来ると予想し、敵の背後へ回り込んだ。

(何……?あの動き……)
攻撃を柔軟に凌ぐ、コニファーの独特の戦い方にアンルシアは驚く。
自分もスピードには自信はあったがあんな動き方はしなかった。

「ジャン……ボ………」
未だこの世界で会うことのない盟友の名前を呟く。
それもそのはず。コニファーとジャンボは同じレンジャーだからだ。
更に、彼はレンジャーになる前は、盗賊だった。
敵の攻撃を柔軟にかわし、先の先を読んで動く。
敵の持ち物を奪う盗賊も、大自然を味方につけ、時に敵として対峙するレンジャーにも必須のスキルだ。


アンルシアのスピードが、敵を砕くためにある「剛の速さ」なら、いわば彼は「柔の速さ」。

「さあ、次は、どうする?」
「…………。」

意外と厄介な敵だ。
ヘルバトラー強はそれを実感し始めた。
しかも後ろの小娘が杖でスクルトの呪文を、一度戦ったことのある赤毛の女がマジックバリアをかけている。
交渉に入っている途中は攻撃はしないが、決裂した時のために守りは固めておこうというヤツか。

しかし、このタイミングでアクシデントが起こる。
ヘルバトラー強にとってラッキーな。

(諸君、ご機嫌如何かな?)


(ガボ)
初めにフォズの仲間が呼ばれる

(バーバラ)
フアナとゼシカの戦友が呼ばれる

(ローレル)
ティアの兄の仲間が呼ばれる

(ゲルダ)
次にゼシカの仲間が呼ばれる

(オルテガ)
次にアスナの父が

(アーク)
コニファーの心配していた仲間が

(ルーナ)
ティアの兄の二人目の仲間が

807高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:28:47 ID:aK.LGmEs0



一番放心状態になった時間が長かったのは、コニファーだった。
(ウソ………だろ?)
ホープ、リュビ、そしてアーク。
なんで自分より若いヤツから死ぬんだ。
あいつらは、これからいくらでも楽しいことがあったはずなのに。

これはチャンスだ。
ピサロの場所など、今いる敵を倒してからゆっくり聞き出すなり自分で探すなりすればよい。
ピサロが何を考えているのか分からないが、どのみち今の自分に恐れるものなどない。

その隙を逃さず、鋭い爪がコニファーを襲う。
(しまった!!)



アンルシアが地を蹴飛ばし走っていく。既に拾っていたとつげき丸を一閃。
ゲルダの死のショックをはねのけて、ゼシカがその手にメラミを放つ。
そしてフォズが使っていた。ルーンスタッフの守りの力。


ざくり。

「ぐあああああ!!」

その三条件が重なり、凶悪な爪はコニファーの命そのものを抉ることはできなかった。
しかし、顔の左上からは鮮血が飛び散る。

「あああああああああああああ!!!!!!」
それを見たアスナは、ヘルバトラーに向けて弾丸のように走り出した。
既に彼女は、父を失ったことを知らされていっそう情緒不安定になっている。
自分をフアナとサヴィオの所に導いてくれたコニファーの喪失を恐怖し、襲い掛かる。


「バイキルト!!」
ゼシカはアスナに補助呪文をかける。
今がどういう状況なのか今一つ掴めないが、感覚のみで最善と判断する行動をとる。
自分の魔力はほとんどないが、だからといって1つも使わないわけにはいかない。
補助呪文なら攻撃呪文に比べて使わなければならない回数は少ない。
ゼシカはヤンガスやモリーに比べれば思考から行動に移すケースの方が多かったが、この戦いはそういう訳にもいかない。

「来い!!」
ヘルバトラー強はアンルシアの攻撃も避けなければならない。
一度後ろに大きく飛び退く。

「うあああああああああああ!!!」
それを追ってきたアスナは手にしたゴディアスの剣を振り回す。
ヘルバトラー強は一撃目をかわす。
反撃に移ろうとする、が、あまりのスピードにカウンターを放つことも避けることも出来ない。
追加でやってくる二撃目に脇腹を鋭く切られる。

「ぐうう!?」
魔瘴の混ざったどろどろした濃いムラサキの血が流れる。
続いて三撃目。
これでヘルバトラー強の胸を切り裂くーーーことは出来なかった。
ティアのロトの剣で斬られてない方の腕に力を集めて致命傷だけを防ぎ、筋肉と魔瘴の圧力でゴディアスの剣を弾き飛ばす。

808高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:29:03 ID:aK.LGmEs0


「大丈夫ですか?」
アンルシアがベホイミでコニファーの傷口に回復呪文をかける。
「ああ、大丈夫だ。」
しかし、もう片目は機能しないだろう。
弓矢の使い手としても、隻眼ならば苦労が多いはずだ。
それ以前に、アークを失ったことによる自分の心の乱れのために、交渉のチャンスを無駄にしてしまったことが悔しい。

自分は感情的ではないと思っていたのに、このザマだ。


一方でアスナとヘルバトラー強の戦いを見ていたアンルシアは、憂えていた。

今、目の前にいる二人が、自分より高い次元で戦っている。
勝てなかった。
ヘルバトラー強というとてつもない敵に。
力が足りないだけではない。
それが及ばなくても、レンジャーの男がやったように戦略で相手を翻弄させることも出来るはずだ。


自分にはフォズや新しく参戦した赤毛の女性のように、サポートに徹することさえ出来ない。
二人ともスピードも凄まじく、特にアスナは周りが見えなくなっている分今攻撃を仕掛ければ、逆に足を引っ張る可能性がある。


仲間を守れず、パパスさんまで失ってしまった。
やはり自分は、ジャンボがいないと何もできないのだろうか。
それても、賢者との修行のように、何かを行えば新しい勇者の力を出せるのだろうか。


「ああああああああああああああああ!!!!!」
アスナは武器を失ってもヘルバトラー強に蹴りを入れる。
弾丸のようなそれは、ヘルバトラー強の腹にめり込む。

「ぬぐうううう!!」
だが、アスナの攻撃に慣れてきたのだろうか。
ヘルバトラー強は地面にどっしりと足を突き立て、多少動かされながらも踏みとどまる。

(コイツは、今我を失って暴走している。)
どんなに早く、重い攻撃でも、動きが分かれば対処は難しくない。

「がああああああああああああああああ!!」
今度はダッシュしながらの右ストレート。

「ふんぬっ!!」
「がはっ!!」

カウンターの正拳突きが入った。
いくら潜在能力があっても、人間は人間。肉体の頑丈さには限りがある。

809高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:30:18 ID:aK.LGmEs0
ぐじゃりと骨がひしゃげる気持ち悪い感覚が走る。内臓もタダでは済まなかったようだ。

「まだまだぁ!!」

口から血を零しながらも、高く飛び上がる。

「天の神々!!空の女神!!」
「地上の空気よ!!闇の魔の力よ!!全て俺の手に集え!!」

「来たれ!!我が雷!!」
「吹き飛ばせ!!大爆発よ!!」



「ギ  ガ  デ  イ  ン!!!」
「イ  オ  グ  ラ  ン  デ!!」

雷の呪文と、爆発の呪文がぶつかり合い、空気を、大地を、空を、岩を、全てを揺らす。
その衝撃に合わせて出る光も、見るだけで目を焼いてしまうほどのものだった。

「なんだよ!!これ!!」
「立っているだけで、やっとだわ!!」
「ああ!!蓋がとれそうです!!」

ゼシカとコニファーとカマエルは、その凄まじい衝撃に耐えることしか考えられなかった。

しかし、アンルシアはいち早く爆心地に向かっていく。
「ちょ……何してるのよ!!」



「ヤバイな………こりゃ。」
「助けに行かなきゃ!!第2回アリアハン………きゃ!!」
「フアナさん………大丈夫ですか?」

フアナとサヴィオは知っていた。
アスナは何か恐ろしいことがあると、筋力や魔力のボルテージが恐ろしいほど上昇することを。
それは火事場の馬鹿力という次元ではない。
だが、知っているからと言って、助けに行くことは出来なかった。
魔法がぶつかり合っている方に行っても、衝撃の余波で弾き飛ばされてしまうのがオチだ。
特にフアナは魔力がほとんど残っていないし、呪いも切れていない。

フォズはサヴィオの足にしがみついている。
しかし体力的に消耗しており、ガボを失ったことで精神的にも不安定なフォズは、手を離してしまう。

しかし、その手はフアナががっちりと掴む。
「絶対!!離しません!!アリアハン腕相撲大会優勝の私にかけて!!」

810高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:30:55 ID:aK.LGmEs0


しかし、この戦禍の中で行方が分からなくなった者がいた。

「ティアはどこだ!?」
自分とそのすぐ近くにばかり気が向きすぎて、ティアのことを忘れていた。
自分達でさえも立つのがやっとの程の衝撃だ。
ティアなら誰かが守っていない限り、飛んで行ってしまうに違いない。

「大丈夫だよ!!フアナ!!何故かは知らないけど、飛ばされていない!!」

サヴィオが見渡すと、少し離れた場所でそのまま倒れていた。
ロトの剣が嵐のような状況の中でも光っているのが見える。
剣の力が、持ち主を守っているのだ。


極大魔法同士のぶつかり合いは、互角といったところ。
だがアスナの方に、後援が入る。

(少しでも、力になれば……)
この状況なら、さっきよりも簡単に支援に入れる。
「天なる雷よ、悪を討て!!ギガデイン!!」

(しまった!!)
アスナのものより劣るとはいえ、もう一人雷の呪文の使い手がいたことを忘れていた。
普通は転職でもしない限り、勇者が一つの世界の一つの時代に何人も現れることなどありえないが、この世界は別。

「ぬぐおおおおおおおおお!!!!!」
二つのギガデイン。そしてイオグランデの衝撃までまとめてヘルバトラー強に襲い掛かった。
最大級の爆発と衝撃が来る。
周囲にいた6人、気絶している人も入れて7人は、目も開けられないほどだった。




それからどれくらい経ったのだろうか。
いや、単純な時間にしてはほんの10数秒くらいだが、戦いの舞台にいる者達には永遠のように感じた。
ヘルバトラー強が一度背中を預けていた大木は、切り株だけ残して無残な姿になっている。
爆心地はクレーターのようになり、
その中心に黒焦げになったヘルバトラー強が横たわっている。


「アスナ!!」
一早くフアナが彼女の下に走り出す。
「フアナ………」
「バカ……今までどれだけ心配かけたと思っているんですか!!」
「ごめんなさい!!でも、生きていて良かったです!!」

二人は涙しながら抱き合う。




「コニファー様、お怪我はありませんか?」
「感動の再会ってワケか。」
その二人を離れた場所から見たコニファーとカマエルも少し安堵する。

811高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:31:26 ID:aK.LGmEs0
「しかし……ご主人様は……」
ゼシカからコニファーに渡されたカマエルは、アークを失ったことで落ち込んでいるようだ。
釜からの表情を読み取るのは難しいが。
「ああ。」
それに対して、ごく短文で答える。どう答えればいいのか分からない。
兎に角、今はこれ以上知っている人間の犠牲を払わなくて済んだ。
自分の片目ぐらいならどうということはない。

ただ、いまだに気になるのは他の二人の仲間。
アークを失ったことで、暴走していなければいいのだが。
若いということは、感情が豊かということ。
それは、良いことにも悪いことにもつながる。


「勇者って……何なのかしら。」
アンルシアはアスナの戦いを見て、呟く。
自分は盟友の力を借りながらも、魔王を倒すために生まれた唯一無二の勇者だと思っていた。
しかし、アスナという存在。
勝てなかったヘルバトラーさえ打ち倒す、自分より強い勇者。
自分の存在価値は何なのだろう。

「ジャンボ………」
再び盟友の名を呟く。

「なあ。アンタさ、さっき「ジャンボ」って言わなかったか?」
「え?その人は……ドワーフの………。」
「そいつだな。俺はコニファーってヤツだけど、さっき向こうのトロデーン城で会ったんだよ。」
「え?今はどこにいるのですか?」

ようやくつかめた盟友の手掛かりに、目を輝かせる。
「東の町の方に向かうらしいが、仲間を集めているらしいし、今から向かえば会えるんじゃねえのか?」
逢える。ジャンボに。
彼なら、今自分の心に纏わりつくもやもやした物を、払ってくれる。
闇に中から、一縷の光が現れたような気がした。

「分かったわ。ありがとう!!」

812高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:31:44 ID:aK.LGmEs0







「大丈夫ですか?」
フォズがようやくティアの下に駆け寄る。
ティアはなおも気絶したままだ。
敵は倒したが、彼女が目を覚ますのを待った方がいいだろう。
放送のことは伝えないほうがいいかもしれない。
フォズはすでにティアから聞いた二人が命を落としたことを知っている、

「キミもケガしてるじゃないか。僕はまだ大丈夫だから。」
そこへ時間経過で呪いが解けたサヴィオがやってくる。ティアとフォズに回復呪文をかけながら、ティアを背負おうとする。
フアナの方もそろそろ魔触の呪いは切れたはずだが、魔力の方はほとんど残っていないだろう。
せめてこういう時ぐらい自分の行動を成さなきゃ。
「でも、ここじゃ出来ることは限られている。向こうのお城へ行けば、休憩ぐらいはできるだろう。」
「はい。」

「この剣は?」
「アンルシアさんも、他の人達も抜けなかったんですが、何故かティアさんにだけ抜けたのです。」
サヴィオはティアが持っていたロトの剣に気が付いた。
そういえば、ヘルバトラーを斬りつけることができたのも、これだ。
そしてティアをイオグランデとギガデインの反動から守っていたのも、これだった。
何か特別な力があるのかもしれない。
自分には装備できないようだが、それに何かを感じた。
(アスナなら、装備できるのかな?)



「ゼシカさん、無事で何よりです!!ズーボーさんも、バーバラさんも、いなくなってしまったから………」
「フアナも無事でよかったわ。でもね、聞いて。バーバラは、知らない人のメガンテで……」




ぴかり

突然ゼシカの背後で、何かが光った。
それに驚いて、彼女は後ろを向く。
メラガイアーの炎が背後に迫ってきていた。

「危ない!!」
その場にいたアスナ、フアナ、ゼシカの三人は慌てて逃げようとするも、既に遅かった。


「あああああああ!!」
ヒットしたのはゼシカ。
辛うじて直撃こそせず、マジックバリアの加護もあったが、それでも重度の火傷を負う。



「ちっ。本命ははずしたか。」
そこにいたのは、死んだはずのヘルバトラー強。
体中を真っ黒に焦がし、両角と翼は再び失ったがまだ生きていた。
彼が最後に使おうと思っていた、とっておきの世界樹の雫は、二つのギガデインとイオグランデの二重攻撃でザックごと炭化していた。
黒い体から魔瘴の混じった血が滴り、その中でも殺意と闘志に燃えた瞳がギラギラと輝く。
そのおぞましさは、魔瘴の力で復活した時よりも上だった。

813高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:32:07 ID:aK.LGmEs0

(思ったより傷が深いな……)
再び魔瘴と体を融合させて傷の回復を図るも、思ったほど回復が出来ない。
2度目はそれほど効果を成さないのだろう。

「よくもゼシカさんを!!」
アスナは再びギガデインの詠唱に入ろうとする。

「その呪文は使わせん!!」
ヘルバトラー強が飛び掛かり、アスナは大きく跳ね飛ばされる。
最早彼に余裕はなかった。ただ、死なずに敵を全滅させればよい。その意思だけだった。

「させません!!」
「邪魔だ!!」
フアナが立ちふさがるも、腕の一振りで吹き飛ばされる。

「今だ!!」

アスナとフアナ、ヘルバトラー強の距離が離れたのを機に他の仲間も攻撃する。
サヴィオがメラミを、コニファーが五月雨打ちを、フォズがヒャダルコを、アンルシアがギガデインを放つ。

だが、それらは全部片腕で受け止める。
ボロボロの状態で無茶な防御をしたため、そのまま片腕がぼとりと落ちる。
しかし、倒すことはできそうにない。


再び地面に寝転がっていたアスナが地面を蹴飛ばし、ヘルバトラー強に迫る。
しかし、その速さはこれまで程ではない。
長時間全力全開フルパワーフルスイングで戦っていたため、体力が消耗してきたのだ。
いくら勇者でも潜在能力が化け物じみていても、体力が無尽蔵にあるわけではない。


ヘルバトラー強はその攻撃を読み切り、カウンターの一撃を放つ。
「ぎゃっ!!」。
それによって跳ね飛ばされた。

「コイツさえ倒せば、雑魚ばかりなのは変わりないようだな!!」
ヘルバトラー強は吠える。
こんなに敵はボロボロで無残な状態なのに、倒せない。倒せそうもない。
ある程度時間を稼いで、アスナにギガデインを再び打たせれば勝てるはず。
しかし、その時間稼ぎすら出来そうにない。
殺される。この場から逃げ出すことさえ出来そうにない。


「そうかしら?」
そこで立ち上がり啖呵を切ったのはゼシカだった。
そのゼシカも、服や肌、髪の毛があちこち焼け焦げ、立っているのもやっとの状態だった。
街を歩けば男なら誰もが振り返るその姿は、見る影もない。

魔力も消耗しており、使う魔法は攻撃呪文も仲間を補助する呪文さえできないはずだ。

「これを受けたのを忘れたの?」
ゼシカの魔力が高まっていく。
(!!)

一度目に食らった究極魔法を思い出す。
それだけで死ぬとは思わないが、この状態で食らえば致命的なのは間違いない。
しかし、この女も人間である以上は、体力に限りがあるはず。
なぜ2度もマダンテなどができるのだ。

814高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:32:51 ID:aK.LGmEs0

ゼシカの心配をする。
「心配しないで。それより危ないから、下がってて!!」
ゼシカの言われた通り、後ろに下がる。
魔力も切れているし、この状態では自分は足手まといにしかならない。
自分は『アリアハンスライムカーリング大会』でチームを優勝まで導いたのに、なんというザマだ。

光が溢れる。
再びゼシカの魔力が大きな球体となって顕在化する。
魔力が弾けて渦巻く音、聞き覚えがあった。


「まさか?」


『全ての力を、ここに!!マダンテーっ!!』
「させるかああああ!!」

魔力の光が、ヘルバトラー強の視界をくらませる。
それに対してヘルバトラー強も一度目の時と同様に、魔蝕で跳ね返そうとする。
視界を眩ませただけだった。

全ての魔力を使う呪文、マダンテ。
実は使い方さえ知れば、魔力はあれば、いつでも同じエフェクトのものが使えるのだ。
それは魔力が最高の状態でも、メラを使えるかどうかといった状態でも使うことは可能だ。
単に威力が違うだけである。


「この子、ティアちゃんって子なんですけど、今は守っててください!!」
だが、マダンテの轟音と光の中でも、サヴィオとアンルシアは走り出した。
「おい!!何やってんだ!!やめろ!!くそっ!!」
「二人共、無茶です!!」
光で前が見えなくなっているコニファーが、悪態をつく。
吹き飛ばされそうになるフォズが止めようとする。
サヴィオからいまだに気絶しているティアを自分に頼んで、どうするつもりだ。

答えは簡単だ。
前者は前線で戦い続ける友のため。
後者はたとえ倒せなくても、最後まで悪と近くで戦い続けるため。


ゼシカはこれでヘルバトラー強を倒すのではなく、時間稼ぎに打ったのだ。

しかし、ゼシカのマダンテは見せかけだけの存在なのに対して、それに対する魔蝕は本物の威力を持っていた。

815高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:33:42 ID:aK.LGmEs0

でも、これでいい。
ズーボーも死に、バーバラも死んだ。
ここでフアナやその仲間まで死ぬのは、もっと嫌だ。


ただ、心残りがあるのは、エイトのこと。
彼は、自分が知らぬ間に恋心を抱いていたのは知っていたのだろうか。
竜神王の里でアルゴンリングを手に入れた時から、彼の結婚相手は決まっていたけれど。
それでも、気持ちを突然変えてくれたらいいかなって。


(みんな………ごめんね。)

「貴様!!これが最初から目的か!!」


「これで終わりです!!ギガデイン!!」
「負けるかあああアアアあああ!!イオナズン!!
俺様はあらゆる時代で戦っていたのだ!!勇者と言えど負けるわけにはいかん!!」


ある時は、ピサロの部下として戦い、
ある時は、後に魔王となる魔物使いの下で戦い、
ある時は、平和な世界で復活した魔王の城の兵士として戦い、
ある時は、絶望と憎悪の中に生まれた魔宮で戦い、
ある時は、芸術的な魔王が大事にしていた部下の付き人として戦った。

彼の歴史は長かったが、それは総じて戦いの歴史。
そして彼の使う技は、周囲の環境に応じて変わっていったが、その中でも常にイオナズンはありつづけた。

戦いの中で自分の一つとして在り続けたその呪文は、魔瘴の力とその決意も相まってイオグランデと同じか、はたまたそれ以上。


「お願い!!彼女を助けて!!ギガデイン!!」
もう少しの辛抱だ。もう少しでジャンボに会える。それまで、負けるものか。


完全には相殺できなかったが、決意と共に放った最強のイオナズンは、二つのギガデインを吹き飛ばした。


「勝った!!勝ったぞ!!これでトドメだ!!」
直撃ではないとはいえ何度もギガデインを受け、もはや見る影もない姿になりながらも、ヘルバトラー強は、自信に満ちてアスナに爪を入れようとする。
「アスナーーーーーーーーーーッ!!」
「サヴィオ!?」

816高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:34:10 ID:aK.LGmEs0


彼はズーボーが持っていたオーガシールドを両手で構えて、ゆっくりと強力な呪文の衝撃波を凌ぎながらやってきたのだ。
普段の彼なら、例え戦い中でも無茶なマネはしなかった。
それでも、フアナとアスナが近くで強大な敵と戦っているのに、後ろにいるわけにはいかないと。
勇者とは、ただ勇気があるだけではなくて周りにいる者も勇気づける者。
なげきの巨像との試練で、アンルシアが知ったことだ。



「これを使……?ぶべ!!」
ギリギリまで近づいたサヴィオは、オーガシールドを手放し、ザックからロトの剣を渡そうとする。
しかし、地面が穴だらけになっていたことに気付かず、つまずいて転ぶ。
遊び人時代、よくやらかしていたことだ。
しかし、そのはずみで飛んでいった剣はアスナの所へ渡る。
剣がアスナに装備できる物か、剣が全然違う方向に飛んでいかないのか。
そんなことは心配ない。
何故なら彼は、運の良さ255、生粋のラッキーマンだからだ。

ゴディアスの剣を弾き飛ばされてからずっと徒手空拳だったアスナに、武器が渡る。
文字通り目と鼻の先までヘルバトラー強の片腕が迫ってきている。

「ひゃ!!」
そのままアスナは慌ててその剣を振る。

「ぐぬお!?」
ヘルバトラー強のもう片方の腕も切り落とされる。
「そ、その剣は!!」
そうだ。あの何の戦闘力もなさそうな小娘が持っていた剣だ。


「これで終わりです!!」
アスナはロトの剣を構え高く飛び上がる。
掛け声とともにロトの剣を構える姿に、ヘルバトラー強にある姿がフラッシュバックする。
天空の剣を構える、勇者ユーリル。
「貴様、まさか!!」


(何も出来ぬよりかは良い!!)
まだ両手以外は死んでいない。たとえ死んでも、勇者の仲間ぐらいは道連れだ!!
その刃が体に入る前に足で地面を踏み鳴らす。
魔瘴の影響でひび割れ、固くなった土地が、地面の槍となって襲い掛かる。
アンルシアは既にフィールドへの攻撃の避け方はジバルンバなどから学んでいた。
ジャンプして、地面に模様に少しでも違和感がある場所から避ける。
しかし、フアナとサヴィオは知らなかった。


何なのか分からないそれが、フアナに襲い掛かる。
前後上左右の攻撃ならともかく、地面からの攻撃はフアナの世界ではなかった。
「危ない!!」
「え!?」

サヴィオは自分の身を顧みず、フアナを突き飛ばし、隆起する地面の犠牲になる。
地表の槍が、サヴィオの首に、胸に、腹に刺さる。
どうして彼はそんな行動に出たのだろう。
ラッキーマンの彼なら、それに突き刺されずに済んだはず。

817高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:34:32 ID:aK.LGmEs0
少なくとも、致命傷を負うことはなかったのだが。

「でえやあああああああああああああ!!」
「ぐおおおおおおおおおお!!」
ロトの剣の斬撃を受けて、頭から両断される。


そこから凄まじい量の魔瘴が出る。
後ろにいる3人はともかく、他の人は危ない。

「私が守る!!あなたも、私の近くに!!」
「え!?」
「早く!!」

動けないサヴィオの近くから、フアナとアスナを呼び寄せる。
近くに寄せたアンルシアが、勇者の盾で三人を守る。

「やりましたよ……フアナ……サヴィオ………ホープ君………」
魔力も体力も使い果たした彼女は、その場で糸が切れたように倒れる。


「おい!!大丈夫か!?」
魔力の衝撃や魔瘴など、近づけなくなる原因がなくなり、コニファーとフォズもティアを近づく。

「やっ……たね………。」
「サヴィオ!!大丈夫ですか!!」
「やったよ……僕はね………初めてマジになれた………好きな人と……勇者を、助けたんだ………。」

魔瘴を浴び、地面に串刺しにされて、呼吸と血を漏らしながら最期の言葉を放つ。
もう回復呪文でもどうにもならない。

「まだ死なせません!!」
介護職の経験もあるフアナは、魔力が尽きてもサヴィオの心臓を必死でマッサージしようとする。
だが、心臓は動かない。
アンルシアも残った魔力でベホイミをかけ続ける。
もう手遅れだった。

「畜生!!俺が出来るのは、こんなことだけかよ!!」
コニファーは自棄になったかのように周りにベホイムをかけ続ける。
もう動かないサヴィオとゼシカ以外にも、放っておけば死んでしまいそうな怪我人ばかりだ。
アークのみならず、この戦いで若い命が二人分も亡くなった。

818高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:35:05 ID:aK.LGmEs0


フォズは嬉しそうに話しかける。

「あの、怖い奴は?」
「大丈夫ですよ。」
フォズが笑顔で微笑む。
それが倒されたのだとティアも気づく。
「おねえちゃんがやっつけたんだね!!すごいよ!!おねえちゃん!!」
ヘルバトラーを倒したのは彼女ではないのだが、それはもうどうでもいい。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

残った6人は、パパスとゼシカとサヴィオの埋葬を済ませた。
既に天空では星空が輝いている。

「あ、アスナ、目が覚めましたか!!良かったです!!」
「フアナ?」
そこでフアナは堰を切ったように涙を流し続ける。
「私、いろんな人に大切なことを伝えられなかったんです。アスナまで死んだらどうしようかって……」
「泣かないでください。泣いたら、私まで、悲しくなるじゃないですか。」

いくら強い力を持っているからと言っても、心はまだ若い娘二人のままだった。

「いい所で悪いけどよ、ここじゃ危ないし、一度城の方に戻った方がいいんじゃないか?多少ボロくなってるけど、休むところもあるぞ。」

ここで別の誰かが襲ってきたら最悪だ。
コニファーの判断は悪いことじゃないだろう。


「おねえちゃん!!ティアを守ってくれて、ありがとう!!」
ティアが、満面の笑みでアンルシアに感謝する。
「いいのよ。」
ティアの感謝の言葉。それがアンルシアのひび割れた心に染み渡る。
どんなに過酷な戦いでも、グランゼドーラ王国に戻り、勇者として感謝されると、疲れは吹き飛んでしまう。
だが、今は完全には治らなかった。

「あれ?その剣、ティアのお兄ちゃんの剣だよ。なんで持てるの?」
ティアと目があった瞬間、思い出したかのようにアスナはロトの剣を置き、フアナの後ろに隠れる。
「ねえ?どうしたの?」
「知らない人が苦手なんじゃないですか?そっとしておきましょう。」
それを見ていたフォズがティアを止める。
「ちゃっ、つまんない。でもこれはお兄ちゃんの剣だからね!!」
そこへアスナはフアナに耳打ちした。

「それでもかまわない、って言ってるそうですよ。」

ティアが再び腰に差したロトの剣。
竜王が探し求めていた人間、というのはアスナのことかもしれないが、今はそれどころではない。
今のアスナなら休憩を取らないと竜王には勝てないだろう。
アスナとティアに装備出来て、自分にはできなかった武器。
しかもティア曰く、彼女の兄もまた勇者で、剣を装備できるという。
自分には何が足りないのか。
自分が強ければ、パパスを守れたんじゃないのか。

819高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:35:34 ID:aK.LGmEs0
自分が強ければ、ゼシカを守れたんじゃないか。
自分が強ければ、サヴィオを守れたんじゃないのか。
自分よりアスナの方が勇者じゃないのか。
もっと強い敵がいれば、もっと多くの守るべき人が死ぬんじゃないのか。

レックやフォズの世界では、勇者は誰にでもなれるらしい。
だからこの世界でも、勇者という肩書だけでは何の役にも立たない。


私は、かつて戦った魔勇者を、自分の偽物だと言った。
しかし、自分も勇者の偽物ではないのか。

自分は、何?
その気持ちはアンルシアの心の中では、極めて小さいが、どうにも消えないものだった。

「私は、城には行かないわ。」
「え!?」
「ジャンボは、東の町の方にいるんでしょ?私は一人でそっちへ行かせて。一刻も早く、彼に逢いたいの。」
アンルシアはとつげき丸を拾い上げ、行こうとする。
ティア、とフォズにも探し人はいるが、コニファーの話によるとトロデーン城には全員いないようだ。


「俺は止めないけど、危なくなったら逃げろよ。もう若いヤツが死ぬのはゴメンだ。
それともう一つ、これを持っていけ。」
コニファーはザックから一つ剣を取り出した。
「それは……!!」
ジャンボと共に戦った際に使ったレイピア。懐かしい。この剣を買ってきてくれたジャンボにも会いたい。
「俺は弓の方が得意だからな。少なくともそんなオモチャみたいな武器よりかはマシだろ。」
「ありがとう。何もお礼できないけれど……」
「私も行きます!!ジャンボさんを転職させるために。アルスさんに会うために。」
「じゃあ私も!!」
フォズとティアもついていく。



コニファーも城へ行くことにする。
怪我人二人だけで城に向かわせるのは危険だ。
行方不明のスクルドとポーラも心配だが。


アスナとフアナ、コニファーはトロデーンへ戻ろうとする。
敵は倒した。
犠牲になった人もいたが、それ以上に全員に何かわだかまりの残る戦いだった。
ある者は自分の弱さに、
またある者は仲間を失った喪失感に
またある者は自分の存在価値に。

820高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:39:35 ID:aK.LGmEs0



【ゼシカ@DQ8 死亡】
【サヴィオ@DQ3 死亡】
【ヘルバトラー強@JOKER 死亡】
【残り34人】

【C-4/平原/1日目夜】


【アスナ(女勇者)@DQ3】
[状態]:HP1/10  MPほぼ0性格「ひっこみじあん」 肋骨骨折、内臓一部損傷
オルテガ、サヴィオ死亡による情緒不安定
[装備]:ゴディアスの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)  サヴィオの支給品一式 道具0〜1個バレットハンマー@DQ10 オーガシールド@DQ5 
     ウェディングドレス@DQ9 アルゴンリング@DQ8
[思考]:エビルプリーストを倒す。
ひっこみじあんを克服したい。
   :トロデーン城で休息をとる
[備考]:不明支給品の中に性格を変える効果を持った本や装飾品は入ってません。
    トロデーン城の地理を把握しています。

【コニファー(男レンジャー)@DQ9】
[状態]HP2/5 MP1/5片目喪失  アーク死亡による喪失感
[装備]かりうどの弓@DQ9、毒矢25本 
[道具]支給品一式 ) カマエル
[思考]自分が生きているという感覚を保つため、とにかく生き抜く。
   仲間を探す。 アスナとフアナを先導する。

【フアナ(僧侶♀)@DQ3】
[状態]:HP1/8 MP0  ゼシカ、サヴィオ死亡による喪失感
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜3(本人確認済み)ゼシカの不明支給品(0〜2)
[思考]:トロデーンへ行き、休憩する 。
※バーバラの死因を怪しく思っています。



【ティア@DQ2(サマルトリアの王女)】
 [状態]:HPほぼ全快 挫いた足(治療済) 打撲
 [装備]:ロトの剣 氷柱の杖(残5)@トルネコ3 ようせいのくつ@DQ9 
  [道具]:支給品一式 脱いだ靴 おわかれのつばさ@DQ9 パーティードレス@DQ7
 [思考]:兄とその仲間たちを探すため、トラペッタへ向かう。兄にロトの剣を渡す 職業に就いてみたい
※第二放送の内容を聞いてません。

【勇者姫アンルシア@DQ10】
[状態]:HP1/4 MP1/4 情緒不安定 自信喪失
[装備]:戦姫のレイピア@DQ10
[道具]:支給品一式 とつげき丸@DQ10 不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:ジャンボに会いに、トラペッタへ向かう。
フォズとティアを守る
最後まで戦う
    彼に会いたい
    彼を守りたい
    彼の隣に居たい
    彼に道具使いになってもらう

821高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:39:59 ID:aK.LGmEs0
【フォズ@DQ7】
[状態]:HP1/2  MP1/2
[装備]:ルーンスタッフ@DQ8 ようせいのうでわ@DQ9
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1(本人確認済み)
[思考]:仲間を集める。
    ジャンボをどうぐ使いに転職させる。
アンルシアについていく




「まだだ………終わって、たまるか。」








たとえ肉体が滅びようと、彼の破壊の欲求は途絶えることはなかった。
誰よりも何よりも戦い、破壊、そして殺害を求め続けた。
ヘルバトラー強は、たとえ肉体は滅んでも、魂まで失わなかった。
そしてその意思は残った濃厚な魔瘴、ヘルバトラー強の死んだ細胞と融合する。
それはとあるドルワームの王国を襲った天魔の魂が魔瘴石になったようなもの。
小さい、が、言い表しようもないほど邪悪なオーラを秘めた石がそこに転がっていた。
彼と戦った者は既にその場を去り、満月のみがそれを照らしていた。


【ヘルバトラー?@JOKER】
 [状態]: ??????????
 [装備]:なし
 [道具]:なし
 [思考]:破壊
※死骸と闘志、それに魔瘴が合わさり、魔瘴石のような形になっています。

822高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 15:41:14 ID:aK.LGmEs0
投下終了しました。長文になってしまったのでどこか矛盾点あれば指摘お願いします。
それと最後の展開(ヘルバトラーが魔瘴石になったやつ)はありですか?

823ただ一匹の名無しだ:2018/03/05(月) 19:34:15 ID:drpvso0Q0
投下乙です

まさに死闘…大技が何度にも渡って飛び交う大迫力のバトルだった
アンルシアはようやくジャンボの居所を掴んだが、今の彼に会ってしまったらどうなってしまうのだろうか

魔しょう石についてはよく分からないので他の方の意見に任せます

824ただ一匹の名無しだ:2018/03/05(月) 19:39:09 ID:okWdfz4E0
なしだと思うなら最初から書くなよ

825高鳴る鼓動 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/05(月) 19:50:13 ID:aK.LGmEs0
誤字発見しましたので訂正を。
>>818
誤ー「ちゃっ、つまんない。でもこれはお兄ちゃんの剣だからね!!」
正ー「ちぇっ、つまんない。でもこれはお兄ちゃんの剣だからね!!」

それとヘルバトラー?のステータスに関して、明らかに道具と装備の欄は書かなくてもよかったですね。

826ただ一匹の名無しだ:2018/03/06(火) 21:06:12 ID:tlbNUcaI0
よく状況がわからないけどとりあえずヘルバトラー強は死亡したという見方であってるかな?

827 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/06(火) 21:11:02 ID:S3IRlncI0
>>826 肉体は死亡した、けれど思念だけは残っている、みたいな状況です。

828ただ一匹の名無しだ:2018/03/06(火) 21:29:12 ID:tlbNUcaI0
>>827
つまり死者スレにヘルバトラーを出してもいいと言うことですか?

829ただ一匹の名無しだ:2018/03/06(火) 21:37:15 ID:YqFpOReo0
支給品化した、くらいの認識でいいのでは?

830 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/06(火) 22:06:41 ID:S3IRlncI0
>>828 >>829 そんな感じです。なのでまだ死者スレには出さないでください。

831 ◆2zEnKfaCDc:2018/03/08(木) 01:00:25 ID:5iXOj5OQ0
投下します。

832白馬に遺す言葉:2018/03/08(木) 01:02:31 ID:5iXOj5OQ0
トラペッタは繰り返された闘いを忘れるかのごとく静まり返っていた。
死骸は数多くあれど何も語らない。
僅かに残る生者も放送を前にそれぞれの想いを胸に抱えている。

「ここにはいない…か…。」

トラペッタの中にミーティアの姿がなかったことへの安堵と、無事を確認出来なかったことへの不安を込めてエイトが呟いた。
エイトはアルスとブライのいる場所に戻り、2人が手に入れた支給品を確認する。

「おや、これは…?」

エイトが最初に興味を持ったのはブライの持つ白き導き手だった。
白馬を模した人形に、呪われていた時のミーティアの姿を重ねたのかもしれない。
支給品の説明書を受け取り、大まかに確認する。

「なるほど、メッセージを残せる道具というわけですね。」

確かに便利な道具ではあるものの、殺し合いの場において有効活用する方法は思いつかなかった。特定の相手にメッセージを送ることが出来ない以上、下手にミーティアへの伝言でも残せば悪意ある人物に拾われた場合にどう利用されるか分かったものではない。
しかしエイトには、殺し合いには役に立たない用途がひとつ思い浮かんでいた。

833白馬に遺す言葉:2018/03/08(木) 01:03:47 ID:5iXOj5OQ0
「これ、私が使ってもよろしいですか?」

「うむ、構いませぬぞ。この土地にも詳しいエイト殿が使うのが最善じゃろう。」

「ありがとうございます。少し、待っていてください。」

そう言うとエイトは白き導き手を手に持って再びトラペッタの中へと消えていった。

「さて、支給品の確認も一通り終えましたな。あとは放送を――――――」

「まあ、そう上手くはいかないよね。」

ブライの言葉を遮るようにアルスが口を開く。その視線の先にはひとつの遺体が焼け焦げていた。

「そっか、君も死んじゃったんだ――――――ガボ。」

どうやらメラ系の呪文で殺されたようだ。おそらくはエイトの殺した2人の内の1人だろう。

ブライは何と声をかけて良いのか分からなかった。
というのも、先程までのアルスとは全く違った表情を浮かべていたからだ。
無念を噛み殺しているような、苦々しい顔をアルスはしていた。

「僕はちょっと、遅すぎたみたいだ。来るのも――――――気付くのも。」

そう言ってアルスは物言わぬガボの死体をそっと抱きかかえる。
ガボの死。それはアルスにとって、現代を生きる者との最後の繋がりが絶たれたということに他ならない。
このままエビルプリーストを倒して元の世界に帰ったとしても、そこに仲間たちは誰もいないことが既に確定してしまっているのだ。

834白馬に遺す言葉:2018/03/08(木) 01:04:46 ID:5iXOj5OQ0


――――――諸君、ご機嫌如何かな?


そんな悲しみに水を差すように第二放送が始まる。
読み上げられる死者の中でも一番初めに呼ばれるガボの名。
もしガボの死体に気付くのがもう少し遅れていれば放送で知らしめられることとなっていただろう。
ガボの死を知るという結果は変わらずとも、放送のたった2文字だけで死を伝えられるのに比べると、死体を先に見つけたことは幸いだったのかもしれない。


結果として、それからの死者の読み上げは特に何事も無く終わった。
ミーティアの名も、過去の世界のアルスの知り合いの名も、導かれし者たちの名も呼ばれていない。
それぞれが安堵し、落ち着いた気分で放送を聴き終えることとなった。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「――――――――――――。」

放送でミーティアの生存を確認したエイトは白き導き手にミーティアへのメッセージを残し始める。
それは殺し合いで生き残るためのメッセージではない。

この世界にはまだ積極的に殺しに回っている者がいる。知略に長け、実力も伴っているゲルダでさえ死んでしまったのだ。
自分だっていつ死んでしまうのか分かったものではない。

ミーティアだって――――――

そこまで考えてエイトはぶんぶんと首を振った。白き導き手に多少のノイズが録音される。

それは仮に自分が死んだ時のミーティアへのメッセージ。
エイトの頭の中には声も聞けないまま今生の別れとなったトロデ王のことがずっと残っている。
ミーティアを守るためならば自分の命など惜しくもないが、そうなればきっと彼女は悲しむのだろう。
今のうちに遺しておけるものがあれば、それだけでもミーティアのためになるのではないだろうかと考えて遺言を吹き込んでおくことに決めたのだった。

835白馬に遺す言葉:2018/03/08(木) 01:05:30 ID:5iXOj5OQ0


「終わりました。お待たせしてすみません。」

そのままエイトは戻ってきた。

「アルスさん。これ、預かっていてもらえませんか。」

そう言って白き導き手をアルスに渡す。そのいたたまれない表情からアルスはエイトの意図を察した。

「使わない方が望ましい、ってことかな。分かった、もしもの時はミーティア姫に渡しておくよ。」

「話が早くて助かります。」

遺言を伝えるということは相手の悲しみに嫌でも触れてしまうことになる。
キーファがもう戻ってこないことをバーンズ王やリーサ姫に伝える時も、無気力だったアルスでさえ気が進まなかった。

でもアルスはエイトを責める気にはなれなかった。
今から言おうとしていることは、場合によってはもっと大きな禍根を残すことになるだろうから。

「さてエイト、こんな時なんだけど、ひとつハッキリさせておこうか。」

心中の読めないあの無表情でアルスは問いかける。このメンバーの中でアルスが主体となって主張するのは初めてのことだった。

「エイトは一度、ブライさんを殺そうとした。…間違いない?」

エイトとブライの顔色がそれぞれ変わる。

「アルス殿!仮にそうでも、エイト殿は思いとどまったのじゃ。私もそれを責めるつもりなどありませぬぞ!」

そんなブライの声をアルスは左手で制止する。

「…答えて。」

836白馬に遺す言葉:2018/03/08(木) 01:06:44 ID:5iXOj5OQ0
その眼は真剣そのものだった。
圧力に負けてか、多少の時間が流れた後にエイトは口を開いた。

「…はい。私はブライさんを殺そうとしました。ミーティアやトロデ王への危害となる可能性を考え、排除しようと考えての行動です。」

「…っ!」

首筋に突きつけられた槍の冷たさをブライは再び思い出す。
もしあの時、自分が少しでも抵抗の意思を見せていたら、足元の死体のようになっていたのは自分だったのかもしれないと嫌でも思い知らされたのだ。

「エイト、今はどうあれ君は激情に任せて他人を殺すという道を選んだ。そして一度外れたトリガーはそう簡単に戻らないんだ。」

マナスティスを開発したゼッペルもその一例である。彼は目的だったラグラーズへの復讐を果たした後も力に溺れ、魔物へと化した。

「もしもミーティアって人が死んだ時、君は――――――」

その言葉を口にした途端、エイトの目が殺気を帯びる。
エイトが背中の剣に手が伸びかけたのをアルスもブライも見逃さなかった。

「――――――そういうことだよ。そして君は強い。あとは、わかるよね。」

「つまり…私は2人に着いていくべきではないということでしょうか。」

「アルス殿!それはあんまりですじゃ!」

「酷なことを言っているのは分かってるよ。でも、これはブライさんの安全にも関わってくることなんだ。」

それを持ち出されてはブライの反論も弱くなる。
実際、エイトが危険人物であるとの認識はブライにも残っているのだ。

「…分かりました。どの道、私はトロデーンへ向かいます。」

「じゃあ、僕たちはひとまず南の洞窟に向かうよ。ミーティア姫と出会ったら必ず守ってトロデーンに連れていくから、そこは安心して。」

「し、しかし…」

「分かりました。ブライさん、あなたの命を狙ったこと、本当に申し訳ございませんでした。」

こうして、ブライにとってはどことなくやりきれない気分のまま、エイトのみがひとり別れることとなった。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

837白馬に遺す言葉:2018/03/08(木) 01:07:43 ID:5iXOj5OQ0

「アルス殿…本当によかったのですかな?」

エイトと別れた後、草原を歩きながらブライはアルスに尋ねる。

「まあ、次の放送でエイトが呼ばれたりしたら…なんて思うところはあるよね。」

これが最悪のパターンだろう。
エイトから受け取った白き導き手はやはり使う時が来ない方が望ましいのだから。

「でも、これでいいんだよ。もしエイトがミーティア姫と合流すれば、エイトは必ず1人でも彼女を守るはずだ。もちろん、僕たちが見つけても彼女は誰にも殺させない。だったら最初から別れて探す方が合理的なはずだよ。」

「ふ、ふむ…しかし…」

「それにエイトは大丈夫。あれだけ強いんだから。僕たちはミーティア姫を見つけることを考えればいい。もし彼女に何かあって、またエイトと闘うことにはなりたくないからね。」

ミーティア姫が死のうものなら、今度こそエイトはどうなってしまうか分からない。ならばエイトを1人にして身の危険のリスクを増やしてでも、彼女の散策を優先すべきだということだ。

「ふむ…?しかしそれだとあのような突き放し方をする必要はなかったのではありませぬか…?」

アルスは困ったように頭を掻く。
ガボの亡骸を抱きかかえた時、アルスは殺し合いを止めるとさらに強く決意した。
でも、決意とは裏腹に覚えてしまった感情もあったのだ。

838白馬に遺す言葉:2018/03/08(木) 01:08:53 ID:5iXOj5OQ0
「エイトのしたことは許しちゃいけないことなんだ。感情に任せて魔物だけでなくひとりの人間も殺していた。それなのに――――――僕はきっと、ガボの仇を討ってくれたエイトに対して感謝してるんだ。殺し合いを止めると決めたのにエイトの殺しを肯定したい僕もいるんだ。だからエイトに有無を言えない状況を作ってその僕を突き放した――――――ただそれだけのことだよ。」

「なるほど…しかしアルス殿。そのような想いを抱くことは決して、恥じるようなものではありませんぞ。」

アルスに欠けていた心はバラモスゾンビとの戦いを通して補われたのだろう。しかし、まだ自分の感情への対処には慣れていないようだ。
自分の立場と対立する想いに割り切るということをアルスはまだ知らない。
それならば、それを教えるのは大人の役目だ。

(私にも、次なる可能性の芽を育てられるのなら――――――)

ブライもまた、大切な人たちを亡くしたことで失いかけていた自分の生きる意味をバラモスゾンビとの戦いで見出したのだ。

「私もふとエイト殿に対して思いました。本当に守りたいと思える者が生きていることが妬ましい、と。そういった自分の弱さと向き合うことも、きっと心の成長に繋がりましょう。」

「"心"…か…。」

昔のアルスには足りなかったもの。今からは手に入れるのではなく、育てるために時間をかけていく。

839白馬に遺す言葉:2018/03/08(木) 01:13:16 ID:5iXOj5OQ0

"心"を身につけたら会いに行くと約束したフォズ。"心"を持って向き合わないまま別れることとなったキーファ。
彼らは未熟な過去の自分でもあった。
自分の弱さとも、今なら向き合おうと思える。

「フォズには謝らないとな、こんなに遅くなっちゃったわけだし。そしてキーファは泣かせたマリベルやリーサの分までぶん殴って――――――なんだ、やりたいことなんて溢れているじゃないか。」

前を向いたアルスを横目にブライは微かに笑みを零すのだった。

【F-3/トラペッタ地方/夜】

【エイト@DQ8】
[状態]:HP3/4 MP微消費
[装備]:奇跡の剣
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ミーティアを守る。トロデーンへ向かう。

【F-4/トラペッタ地方/夜】

【アルス@DQ7】
[状態]:HP3/5 MP微消費
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 まどろみの剣 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜2) ゲルダの不明支給品0〜1個 道具0〜2個(本人確認済み)
[思考]:この戦いを終わらせる。ミーティア、キーファ、フォズを探す。滝の洞窟へ向かう。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。

【ブライ@DQ4】
[状態]:健康 MP2/5
[装備]:魔封じの杖
[道具]:支給品一式 へんげの杖  道具0〜2個
[思考]:生きる。生きてアリーナとクリフトのことを知ってもらう。滝の洞窟へ向かう。

840 ◆2zEnKfaCDc:2018/03/08(木) 01:14:46 ID:5iXOj5OQ0
投下終了しました。

841ただ一匹の名無しだ:2018/03/09(金) 03:30:17 ID:b74d6vWo0
投下乙です
やっぱエイトは一応は矛をおさめたとはいえまだグレーだよな
変わりゆくアルスとそれを見守るブライはいいコンビになりそうな予感

それと一つ疑問があるのですが、アルスはどこでエイトのブライへの殺害未遂を知ったのでしょうか
最初の場面にアルスはいあわせなかったですし

842 ◆2zEnKfaCDc:2018/03/09(金) 14:25:23 ID:CrGBdkuI0
>>841
ご指摘ありがとうございます。情報交換をしているからこの世界に来てからのある程度の状況も共有している、というつもりではいましたがその辺りの説明を飛躍していると感じたので「このメンバーの中でアルスが主体となって主張するのは初めてのことだった。」以下を次の文に訂正します。

「エイトは最初から、僕たちを殺そうとしていた…間違いない?」

当初から、エイトが自分たちに抱いている警戒心が警戒の域を超えているような感覚に違和感はあったが、確信は持てなかった。
しかし、ククールとの戦いの中、ククールと隠れて話しながら悩むような素振りを見せていたこと、こうして実際に衝動的な殺害に走ったことなどから、疑惑は確信に変わっていた。

「アルス殿!仮にそうでも、エイト殿は思いとどまったのじゃ。私もそれを責めるつもりなどありませぬぞ!」

そんなブライの声をアルスは左手で制止する。

「…答えて。」

その眼は真剣そのものだった。
圧力に負けてか、多少の時間が流れた後にエイトは口を開いた。

「…はい。私は皆さんを殺そうとしていました。ミーティアやトロデ王への危害となる可能性を考え、排除しようと考えての行動です。」

「…っ!」

首筋に突きつけられた槍の冷たさをブライは再び思い出す。
もしあの時、自分が少しでも抵抗の意思を見せていたら、足元の死体のようになっていたのは自分だったのかもしれないと嫌でも思い知らされたのだ。

「もう殺すつもりはありません。今までのやりとりで信頼したつもりではいます。でも――――――」

「そう。今はどうあれ君は激情に任せて他人を殺すという道を選んだ。そして一度外れたトリガーはそう簡単に戻らないんだ。」

マナスティスを開発したゼッペルもその一例である。彼は目的だったラグラーズへの復讐を果たした後も力に溺れ、魔物へと化した。

「もしもミーティアって人が死んだ時、君は――――――」

その言葉を口にした途端、エイトの目が殺気を帯びる。
エイトが背中の剣に手が伸びかけたのをアルスもブライも見逃さなかった。

「――――――そういうことだよ。そして君は強い。あとは、わかるよね。」

「はい。私はここからは別行動することにします。」

「アルス殿!しかしそれはあまりにも――――――」

「酷なことを言っているのは分かってるよ。でも、これはブライさんの安全にも関わってくることなんだ。」

それを持ち出されてはブライの反論も弱くなる。
実際、エイトが危険人物であるとの認識はブライにも残っているのだ。

「…分かりました。どの道、私はトロデーンへ向かいます。」

「じゃあ、僕たちはひとまず南の洞窟に向かうよ。ミーティア姫と出会ったら必ず守ってトロデーンに連れていくから、そこは安心して。」

「し、しかし…」

「分かりました。これまでの御無礼、本当に申し訳ありませんでした。」

こうして、ブライにとってはどことなくやりきれない気分のまま、エイトのみがひとり別れることとなった。

843 ◆znvIEk8MsQ:2018/03/25(日) 00:04:39 ID:.kj0PRTw0
投下します。

844集え、者たち ◆znvIEk8MsQ:2018/03/25(日) 00:05:19 ID:.kj0PRTw0
「デボラ」
たった一言、氷のように冷たく告げられた言葉。
ライアンはサフィールの顔色の変化を見逃さなかった。

幸いなことに残り少ない導かれし者たちがこれ以上減ることはなかった。
自分が半ば無理矢理逃がしたホイミンも、どこかで生きている。
バラモスゾンビも誰かの手により倒された。
だからといって喜ぶ気には全くなれなかった。


「サフィールどの………」
「大丈夫です。それより、その魔物を止められなかったのが残念です。」
ライアンが大丈夫か、と聞く前に、サフィールはあっさりと答えた。
それでライアンが安心したかというと、そうでもない。

こうして子供と行動を共にするのは、誘拐事件の帰り以来だ。
彼らは魔物に捕らえられている間も、一緒に帰っている間も帰りたい、おなかがすいたと感情を露わにしていた。
サフィールという少女は、彼らと似た年齢にも関わらず、感情を抑えすぎている。

(一番苦しい人は、『苦しい』って言えない人なのでござるな………。)

そして、苦しいとか悲しいとか、逆にうれしいとかの感情を出せなかった人が、どうなるか知っている。

「彼」は、エビルプリーストを倒すまではいかなる感情も表に出さなかった。
確かに旅は楽か辛いか聞かれれば、間違いなく後者の方である。
だが、自分を含めそれぞれに楽しいこともあった。


未知なる強敵と出会い生き生きとして拳を振るっていたアリーナ。
そのアリーナを回復したり、街で綺麗なドレスを買ってあげたクリフト。
その二人のやり取りを見て、やれやれと言いながらも微笑んでいたブライ。
天空の剣やはぐれメタルの剣を見て、興奮していたトルネコ。
たまに出向いたカジノで777を当てたマーニャ。
あまり知られていないが、綺麗な星などの美しい風景を見たミネア。
そして、子供達の笑顔を受け取っていた自分。


一人を除いて、楽しい時は心から笑っていた。
だが、勇者ユーリルは違っていた。
悲しい時も表情を変えることはなかったし、仲間と共に笑うような場面でも常に一目でわかる作り笑いだった。
その先がどうだったかはもう説明するまでもない。
喜怒哀楽どれでも、感情は抑えすぎると爆発し、止めどもないことになってしまうのだ。
はたまた死んだように生きることになったり、異常な方向に曲がってしまうかもしれない。

845集え、者たち ◆znvIEk8MsQ:2018/03/25(日) 00:06:01 ID:.kj0PRTw0

この少女を心から泣けるようにし、それを越えて笑えるようにするためにも、『みんな友達大作戦』を成功させねばならない。


しかし、他人の心配をしているどころではない。
三人の下に、強力な魔物が迫っていた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


時は少し遡る。
「りおう。ドウシタノダ?」
トンヌラやチャモロとの戦いを経て暫く進んだところで、ジンガーが発見したのはリオウの死体だった。
身体は黒焦げ、4本あった腕は1本が切り落とされオリハルコンの爪と共に平原に転がっている、

そこへ放送が流れる。
(反応ノ無イコト、放送内容カラシテ、生存シテイル可能性、0ぱーせんと)

問題はそれだけではない。
(あべる様ニ危機ガ及ンデイル可能性、80ぱーせんと。)
同行していたリオウが殺された、ということはアベルにも危機が迫っている可能性が高い。


向こうに人影がある。
奴らが、リオウとアベルについて知っているかもしれない。

一人は、見たことのある人間。
確か、リーザス村で見たアベル様の娘だ。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「「「!!」」」
三人は敵の存在に気付く。
放たれた二本の矢は、一本はライアンの振るった氷の刃に、もう一本はゴーレムの殴打で弾かれた。

「気を付けてください!!おとうさんが従えた機械の魔物です!!」
「なんと!!」
剣で矢を受けてみて分かったが、手の痺れからして、相当手ごわい魔物だ。
自分はまだ戦いの傷が癒えていない以上は、戦っても勝てる可能性は低い。
だが、自分はホイミンから教えてもらった。
自分のこの世界でやれることは、戦うこと以外にもある。

「あべる様ハ、ドコダ。」

「おとうさんは、私も知りません!!」
「危ない!!」

846集え、者たち ◆znvIEk8MsQ:2018/03/25(日) 00:06:21 ID:.kj0PRTw0
一早くサフィールが前に出る。
「ですから、私も一緒に探し………」
「知ラナイナラ、問題ナイ。見ツカルマデあべるサマノ敵ヲ、破壊スルノミ。」

サフィールが全部を言い終わる前に、剣と槌が襲い掛かる。
直撃すれば、少女の体は瞬く間に肉塊になる、が。


「ゴーレム!?」
その寸前にゴーレムの放ったパンチが、少女と武器の間の境界になった。
「くっ!!」
ライアンは悔しかった。
今の攻撃、ゴーレムが抵抗しなければサフィールは確実に死んでいた。
やはりホイミンの努力も空しく、半数が死んだこの世界で、参加者全員と友達になるのは無理なのか。


いや、違う。
ゴーレムの打撃は、サフィールを守るために放たれたのであり、キラーマジンガを攻撃するために放たれたのではない。
ゴーレムも、『みんな友達大作戦』に協力してくれているのだ。
勿論キラーマジンガの攻撃はゴーレムの腕に当たる。
腕からはレンガがボロボロ崩れ落ちるが、ゴーレムは反撃の意思を示さない。
その隙を突いてキラーマジンガは攻撃しようとするが、今度は氷の刃から飛ぶ氷塊が、それを遮る。

キラーマジンガはお返しにと矢をライアンに向けて撃つが、サフィールのヒャダルコに撃ち落とされる。
今度はサフィールに迫るも、ゴーレムがキラーマジンガを抱えて投げ飛ばし、サフィールと距離を離す。

誰かが攻撃されれば、誰かが守る。
サフィール達は攻撃する気はないが、キラーマジンガの方も決定打が与えられない。
戦いは完全な膠着状態になっていた。


どういうことだ。
奴らは抵抗を見せるが、攻撃を全くしてこない。
だからといって逃げるわけでもないし、逃げる気が失せたようにも思えない。
キラーマジンガにとって、過去の戦いにおいて全く経験したことのない戦いだった。
しかも自分が攻撃の姿勢を見せているのにも関わらず、協力を持ち掛けている。
どう戦えばよいのか。
自分のデータには、マスター別とは別の人物の言いなりになることなど、インプットされてなかった。

キラーマジンガの思考には機械ゆえの性格さと合理性は富んでいたが、柔軟性や未知の経験への対処には乏しかった。


しかし、戦いは膠着状態に見せかけて、実の所はキラーマジンガの方が優勢だった。
答えは単純明快。
キラーマジンガは機械の体を持つため、壊れるまで首尾一貫して同じペースで戦い続けられる。
反面ゴーレムはともかく、人間二人はそういう訳にはいかない。


「くそっ!!体が言うことを聞かん!!」
敵の攻撃を思うように弾けず、ダメージは増えていく。
「大丈夫ですか?ライアンさん!!」

847集え、者たち ◆znvIEk8MsQ:2018/03/25(日) 00:06:40 ID:.kj0PRTw0


サフィールはドメディのベホマズンと一時的な休息によってダメージは回復していたが体力が乏しく、
逆にライアンの方は体力こそ自信があったが、これまでの戦いで傷を負っていたため、万全ではなかった。


「ならば……マヌーサ!!」
サフィールはあえて攻撃呪文を使わず、敵の攻撃を少しでも無効化できればと呪文を使う。

「!?」
それが、不運であった。
いや、迂闊にイオナズンなど使っていれば大惨事になること間違いなしだったから、幸運というべきか。

すぐに敵にマホカンタがかかっていたことに気付く。

「しまった!!」
「サフィール殿!?ぐう!!」

異常に気付いたキラーマジンガがサフィールに向かってくる。
ライアンが行く手をふさごうとするが、斬撃に邪魔される。
ゴーレムも拳を伸ばして止めようとするが、キラーマジンガの打撃で砕かれてしまう。

「ライアンさん!!ゴーレムさん………!!」
サフィールは二人の心配をしようとするが、すぐにそれどころではないことに気付く。
ドラゴンの杖で剣を受け止める。
しかし、もう片方の槌はどうにもならない。



そのまま少女の体は、メガトンハンマーの餌食になろうとした、その時。

「うおおおおおおおおおあああああああ!!」
後から突然大きな声が聞こえたとともに、巨大な岩がキラーマジンガを下敷きにした。

「アッシは!!絶対!!誰も!!殺させねえでがす!!」
後ろを向くと、トゲ付きの帽子をかぶった人相の悪い男が立っていた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

848集え、者たち ◆znvIEk8MsQ:2018/03/25(日) 00:07:33 ID:.kj0PRTw0
これは放送が終わった直後のこと。
新しい知り合いを探して滝の洞窟へ向かっていたヤンガスは、憤っていた。そして悔しかった。


幼馴染のゲルダ。
かつてヤンガスは少年期にゲルダと共にポッタルランドを冒険したことがある。
彼女は単純な腕力こそ自分より低かったが、逃げ足だけは自分より遥かに優れていた。
だからたとえトロデやククールが死んだとしても、アイツだけはなんだかんだ生き延びると確信していた。
それが、こんなにあっさりと放送で呼ばれてしまうとは。


ヤンガスは自分も死ぬのではないかという恐怖よりも、怒りや悔しさの方が勝っていた。
その怒りを晴らすかのように、走った。
その姿はヤンガスの体型も相まって、まるで坂を転がる岩のような勢いだった。
その先に見えたのは魔物に襲われている戦士と、少女と、何故かゴーレム。
機械の魔物はキラーマシンに似ている魔物だが、違う種族らしい。

だが、そんなことはどうでもよかった。


(ドルマゲスの野郎にも逃げられたことだし、ここはいっちょ憂さ晴らしに魔物でも退治しに行きますか!!)


彼にとって魔物退治というのはストレス発散の一環であったからだ。

そして、武器を持っていない彼が今使うと言えば、スーパー・グランド・マスターの称号を持つ彼が使うあの技。
「うおおおおおおおおおあああああああ!!」
太い腕で巨大な岩を掘り出す。
そのまま、機械の魔物に向けて投げた。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「サフィール殿!!大丈夫か!?」
「はい……私は……。おじさん。ありがとうございます!!」
「間に合ってよかったでがす。」

今までのヤンガスの行動は、遅れてばかりだった。
そのせいでククールが、トロデが、ゲルダが命を失った。
助けた人たちが自分の知らない人でも、関係ない。

「サフィール殿、ここは一度逃げるべきでござるよ。」
「え?でも……。」
「一度体勢を整えるべき。あの魔物と戦うのも、説得するのも3人では難しいでござる。」


以前の自分なら、体力を気にせず倒れるまで突っ込んでいた。
しかし今の自分は、そういう訳にはいかないことを承知していた。
トラペッタで多くの犠牲が払われた中生きていたからこそ、命を大事にせねば。

バラモスゾンビとの戦いで、ライアンは命を繋げるためには逃げる選択肢も必要だと知った。

849集え、者たち ◆znvIEk8MsQ:2018/03/25(日) 00:08:03 ID:.kj0PRTw0


「それなら、アッシに任せるでげす。この辺りでアッシは以前山賊をやっていて……」

ヤンガスはトラペッタへ案内する。
もう一度岩石落としを食らわせようと思ったが、やり直しがきかないこの世界で深追いは禁物だ。
彼は元々滝の洞窟へ向かおうとしていたが、トラペッタへ再度方向を変える。

「よし!!ならばそこへ向かおう!!」
「山賊をやっていた」という言葉が妙に引っかかるが、悪い人ではないような気がする。
ライアン、サフィール両方が無言で理解していた。

「うむ。助かるでござる!!」
ライアンの場合は往復するだけの道になってしまうが、上手くいけばバラモスゾンビを倒したパーティーに会えるかもしれない。


サフィールはキラーマジンガと友達になれなかったことで不服そうだった。
そこをゴーレムが残った片腕でサフィールを抱え、肩に乗せる。
確かに、ヤンガスが出てこなければキラーマジンガを仲間にするどころか、逃げることも倒すことも不可能だったはずだ。
逃げることは正解だろう。

「大丈夫ですか?」
サフィールがゴーレムの心配をする。
もう片方の腕が、キラーマジンガの殴打で砕かれていた。
自分は回復呪文はできないし、薬草やホイミで回復することもできるかわからない。


ゴーレムの右腕に光が集まったと思いきや、瞬く間に失われたそれが元通りに戻った。
それは、とある世界では「メルキドの秘宝」と呼ばれた奥義。
ネプリムを、サフィールを、そしてライアンを守りながら戦う内に、「まもるチカラ」が培われていた。


(アリガトウ)
「!?」

サフィールには、そう聞こえたような気がした。
他の二人には聞こえなかったようだが。


「ありがとうございます。私はサフィールといって、仲間を集めて、この戦いを止めようとしています。」
「アッシはヤンガスといって、エイトって人を探しているんでげす!!」
「かたじけない。拙者はライアンという者。今は失った仲間に代わって、ジャンボという者を探して……」
「えっ!!ジャンボを探してるでげすか?」
ヤンガスは突然、『おっさん!!いつの間に!!」のポーズをとる。


「アッシ……ついさっきジャンボってカビ団子のおっさんと、ターニアって女の子と、キラーパンサーと……」
「え?それって、『ゲレゲレ』って名前じゃないですか?」
「ええ?それもお嬢ちゃんの知り合いでげすかぁ?」
ヤンガスは再び『おっさん!!いつの間に!!』のポーズをとる。

850集え、者たち ◆znvIEk8MsQ:2018/03/25(日) 00:08:28 ID:.kj0PRTw0


まさか、入れ違いが生じているとは。
「まあ、あの二人もトラペッタに行くつもりらしいし、街できっと会えるでげすよ。」
「そうなのだといいでござるが……。」
ヤンガスとしては、ヒューザと合流して気まずい思いをするかもしれないが、仕方のないことだ。

一方でサフィールは期待に胸を膨らませていた。
キラーマジンガを説得できなかったのは残念だが、ライアンに続いてヤンガスまで仲間になった。
しかもこれから、ジャンボという『みんな友達大作戦』の成功に大きく貢献しそうな仲間に会える可能性が高いのだ。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



彼女の不運は二つ。
一つ目は、その人物はトラペッタに着いていないこと。
二つ目は、その人物は彼女の思っているような人物ではないこと。



(オノレ。ヤツラメ。)
キラーマジンガは生き埋めになっていた所からようやく抜け出した。
すでに銃の暴発やゴーレムの殴打や氷の刃を立て続けに受けていた灼熱剣は折れてしまった。

それより気になるのは、奴らの戦い方。
戦略も初めて見たものだったし、そこから編み出される目的も分からない。
自分の主はアベルのみ。アベルがいないというなら、見つかるまで破壊を続けるのみだ。
機械兵は、再び動き始める。
主人を探し、その力になるため。


【F-4/平原 /夜】
【ライアン@DQ4】
[状態]:HP1/4全身の打ち身、顔に傷、兜半壊、腹部に打撲、鎧半壊
[装備]:こおりのやいば
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1)
[思考]:ジャンボを探す。ホイミンのみんな友達大作戦も手伝う。

【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP:5/6 MP 2/5
[装備]:ドラゴンの杖
[道具]:支給品一式×3、ショットガン、999999ゴールド
[思考]:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
おとうさんを見つけて止める
みんな友達大作戦を手伝う

851集え、者たち ◆znvIEk8MsQ:2018/03/25(日) 00:08:45 ID:.kj0PRTw0
【ネプリム(ゴーレム@DQ1】
[状態]:HP2/3
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ネプリムとサフィール、そして彼女らがくれたものを守る
サフィールと仲良しなライアンを信頼
[備考]サフィールやネプリムとの戦いによって、「まもりのチカラ」のスキルが上がりました。
以降も他のスキルが上がるかもしれません。

【ヤンガス@DQ8】
[状態]:健康 MP6/10
[装備]:スライムの冠(DQ8) ふつうのチーズ(DQ8) 激辛チーズ(DQ8)
[道具]:支給品一式 トーポ(DQ8) バニースーツ(DQ10) 堕天使のレイピア オーディーンボウ@DQ10 矢×9 不明支給品0〜2
[備考]格闘スキル100
[思考]:トラペッタに向かい、仲間たち(特にエイト)との合流を図る。
黒幕の情報を集める ジョーカーへピサロの伝言を伝える
第三回放送の頃に可能であればトロデーン城に戻る
※トーポは元の姿には戻れなくされています

【F-5/平原 /夜】
【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:HP1/3 
[装備]:折れた灼熱剣エンマ@DQS メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:アベルを探す、邪魔する者は破壊する
[備考]:サフィール達に疑問を抱いています。

852集え、者たち ◆znvIEk8MsQ:2018/03/25(日) 00:09:00 ID:.kj0PRTw0
投下終了です。

853ただ一匹の名無しだ:2018/03/26(月) 20:35:44 ID:b9YOhxEg0
投下乙です
ジンガーはなかなかキルスコア上げられんなあ(ハーゴンは実質彼の手柄とはいえ)
アベルも遠く行っちゃったしドンマイ

854 ◆OmtW54r7Tc:2018/04/08(日) 06:21:55 ID:K1djLQPE0
投下します

855繋がる情報 ◆OmtW54r7Tc:2018/04/08(日) 06:22:45 ID:K1djLQPE0
「へえ、おっさん、あのピサロの旦那の仲間だったでやんすか!?」
「仲間というかなんというか…まあ、エビルプリーストを倒すため、共闘したのは確かでござるよ」

ライアン、サフィール、ヤンガス、ゴーレムは、道すがら情報交換をすることにした。
そしてそこで、ヤンガスはライアンという戦士がピサロの知り合いであることを知る。

「ピサロ殿からは拙者のことは聞いてなかったでござるか?」
「はあ、それがあの人、自分のことはあんま話してくれなかったでやんすよ。勇者一行がどうたらって話はしてやしたが」
「そうでござるか…、まあ、あ奴らしいではござるな」

ヤンガスの話を聞いて、ライアンは苦笑した。
ピサロは一応ともに旅をした仲ではあるが、あくまでエビルプリーストを倒すために共闘をしたに過ぎない。
旅を通じてそれなりに歩み寄れたようには思うが…それでも元々の関係もあり、完全に心を許せる相手ではない。
とはいえ、この場のピサロはヤンガスの話を聞く限り今回も協力しあうことができそうで、その点については安堵した。

「みなさん、前から誰か来ます」

そうしてしばらく歩いていると、サフィールが前方から誰かやってくるのに気が付いた。
一同は警戒しつつ前方に注意を向けるが…

「…む、あれは」

しかしすぐさま、その緊張は解けることとなった。
近づいてくる人物は…よく知る者であったから。

「無事で何よりでござるよ、ブライ殿」
「こちらこそなによりじゃ、ライアン殿」

ブライとライアン。
導かれしものの二人は、再会した。

856繋がる情報 ◆OmtW54r7Tc:2018/04/08(日) 06:23:41 ID:K1djLQPE0
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

「そっちの人は…ヤンガスだね。エイトの仲間の」
「あんた…メルビンの旦那から聞いてるでやんすよ。アルス…だったか」

アルスとヤンガスは、お互いのことを知っていた。
アルスはエイトから、ヤンガスはメルビンから聞いていたのだ。

「私もアルスさんのことは聞いています。その…マリベルさんから」
「!…そっちはマリベルと会ったんだ」
「アルス殿。ここはお互いの情報を詳しく整理した方がよさそうじゃぞ」

ブライの言葉に、アルスは頷いた。
今話を聞いただけでも、メルビンやマリベルの名前が出てきた。
そして自分たちもまた、ヤンガスの仲間であるエイトの情報を持っている。
他にもつつけばかなりいろいろと情報が出てきそうだ。

「うーん、それじゃあ、まずは自己紹介して…それから、紙に『元からの知り合い』と『この場で出会った人』をまとめようか」

アルスの言葉に従い、一同はまずお互いの名前を名乗り(ゴーレムはサフィールが紹介した)、それからゴーレム以外は紙を取り出し情報を書き連ねた。
そして、書き終えると見せ合う。

「!デボラ…お母さんに会ったんですか」
「ブライ殿は、クリフト殿とも再会していたでござるか」
「ああ、わしの目の前で死んでしまった…ほう、ピサロ殿と出会ったものもいるのか」
「あっしでやんす…そっちは兄貴だけじゃなくククールとも出会ってたでやんすか…」
「ライアンさん…ガボと出会ってたんだ」

結果、お互いに思った以上に知り合いの情報について知ることとなった。
これらの情報をさらに詳しく共有するべく、続けて今度は一人ずつ説明をすることとなった。

857繋がる情報 ◆OmtW54r7Tc:2018/04/08(日) 06:24:23 ID:K1djLQPE0
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

「じゃあまずは僕とブライさんから」
「わしらはほとんど一緒におったから、別々に説明する必要はないじゃろうからの」

二人は説明した。
お互いにクリフトとエイトと出会い、4人で合流したこと。
続けて合流したククールとの闘い。
放送直前に一人移動したエイトを追いかけてデボラと出会い、彼女を殺そうとしていたエイトを説得したこと。
直後のバラモスゾンビとの戦闘。
デボラの死と、エイトとの別れ。

「まあ、こんなところかな」
「お母さん…」
「ごめんね、君のお母さん…デボラさんが死んだのは、僕のせいだ」
「…いえ、そんなことは」
「あの人は、最後まで強い人だったよ」
「ええ…私の自慢の、お母さんですから」

そういうサフィールの表情は、泣きそうな顔をしながらも笑っていた。
母の死は悲しかったが、それでも、あの人は父とは違い変わってしまうことなく最後まで自分を貫いたのだ。
そのことが、とても嬉しかった。

「ククールだけじゃなく、兄貴まで…くそっ!」
「一応今は思いとどまってくれておるが、それでも不安はある。お主には、すぐにでも合流してほしいところじゃ」
「ああ…そうでげすな」

ブライの言葉に、ヤンガスは同意する。
とはいえ、出発するのはこの情報交換が終わってからだ。
アルスにはメルビンのことを伝えないといけないし、ライアンからはゲルダのことも聞きたい。



「次はあっしが説明するでやんす」

858繋がる情報 ◆OmtW54r7Tc:2018/04/08(日) 06:25:33 ID:K1djLQPE0
ヤンガスは説明する。
城で、メルビンとピサロ、そしてしばらくしてヒューザとも出会ったこと。
メルビンとヒューザとは別れ、城の図書館で調べ物をしていたこと。
放送後、気絶少女との出会いがありつつも仲間探しに一人で出かけ、死んだククールとメルビン、瀕死のヒューザを発見し、ヒューザからことの顛末を聞かされたこと。
ヒューザと別れた後遺体を埋葬し、それからジャンボ、ターニア、ゲレゲレと出会ったこと。
放送後、ジンガーと戦うライアンたちの助太刀に入り、彼らと行動を共にして今に至ること。

「以上でやんす…アルス、うちの仲間がすまねえことをしたでやんす」
「…多分、その戦いがあったのは僕たちの戦闘からすぐ後だったんだろうね」

話を聞いたアルスの表情は、暗い。
あの時ククールを取り逃していなければ、メルビンは死ぬことはなかったのだ。
勿論あの時は逃走するククールを追いかける余裕などなかったわけだし、今更たらればの話をしても仕方ないとはいえ、それでも考えてしまう。



「次は私が話します」

859繋がる情報 ◆OmtW54r7Tc:2018/04/08(日) 06:26:11 ID:K1djLQPE0
続いて説明をするのはサフィールの番だ。
殺し合いが始まってすぐにマリベルと出会い、彼女に流されることにしたこと。
スクルドとの出会い。
アイラの遺体の発見と、呪いの仮面に操られたハーゴンとの闘い。
ハーゴンの呪いは解けたが、結局戦闘になってしまったこと。
途中で奇襲してきたアルフとジンガー。
自分を逃がしてくれたマリベル。
チャモロとの出会い。
父と父の連れた魔物、リオウとの闘い。
ゴーレムとの出会いと共闘。
ライアンとの出会いとジンガーとの戦闘。

「…そして、その戦闘中にヤンガスさんが現れてその場を逃走し、今に至ります」
「アイラ…マリベル」

アルスは、仲間の名前をつぶやいた。
出会った時には死んでいたから、先ほどの紙にはアイラのことは書かなかったらしい。
彼女とマリベルは…共にリーザス村で眠っている。

「アルス殿…」
「…ブライさん、この情報交換が終わったら、予定を変えてリーザス村の方に行くよ。彼女たちを…弔いたい」
「そうじゃな、それがいいじゃろうて」
「まさか、死んだ仲間の情報が一気に出そろうなんてな…」

アルスは複雑そうにつぶやく。
こうして仲間の情報は偶然にも一気に入ってきたが…全員死んでいる。
その一方で生きているキーファやフォズに関する情報がないのがもどかしかった。

「一つ気になることがあるのだが」

そんな中、ライアンがサフィールに質問をした。

「話の最初の方に出てきたスクルドという女性…彼女はもしや」
「はい、おそらくあの人は殺し合いに乗っている……そうでなくとも、油断のできない相手だと思います」

彼女は、嘘をついていた。
リーザス村には特に誰もいなかった、と言っていたにも関わらず、実際にはアイラの遺体と操られたハーゴンがいた。
まあ、軽く探したと言っていたから、本当に気づかなかったか、あるいは彼女が街を探索していた時には本当に誰もいなかった、という線もなくはないが…
マリベルも怪しんでいたように、嘘をついていた、と考えた方がいいだろう。



「最後は拙者でござるな」

860繋がる情報 ◆OmtW54r7Tc:2018/04/08(日) 06:27:37 ID:K1djLQPE0
最後に、ライアンが説明をする。
殺し合いが始まってすぐのドラゴンと天使と出会い、その後しばらく気絶したこと。
目を覚ました時、巨大なギガデーモンとの闘いが勃発しており、前述のドラゴンや天使、それとホイミン、ガボ、サンディ、ゲルダ、ナブレットを合わせた総勢8人で力を合わせて戦ったこと。
放送後、バラモスゾンビの襲撃にあい分断され、ナブレットの犠牲で辛くも街を脱出したこと。

「その後、サフィール殿とこちらのゴーレムと出会い…そこからは他の者たちの話通りでござる」
「てえことは、おっさんはゲルダがどうやって死んだのかは知らねえってことか?」
「うむ、かたじけない…彼女は分断されてガボ殿やサンディ殿と一緒にいたようなのだが…全滅してしまったようでござる」
「もう一人の敵については、心当たりがある」

ライアンの話に、アルスが割り込んできた。

「僕たちが来た時にはもう終わってたから、詳しく話さなかったんだけど…エイトから聞かされた話があるんだよ」

エイトは、アルスたちが追いつく前、とある二人組と戦い、殺したのだという。
おそらく、バラモスゾンビ以外のもう一つの襲撃者は、そいつらだ。

「デボラ殿の話によれば、その二人はカンダタという男と、ゲマという魔族で…ゲマという者は、デボラ殿の姿に化けておったらしい」
「ゲマ…!」

話を聞いて、珍しくサフィールが怒りの表情を見せていた。
ゲマ。
自分たち家族にとって…特に父にとっては、因縁の相手。
父が狂気に堕ちた原因のほとんどは、このゲマの仕業といっていい。
そんな彼は、ここで母の姿を騙っていたのだという。
悪い意味で…母と同様彼も変わっていなかった。



「ああ、そういえばサフィールの嬢ちゃんとアルス、あんたらに聞いときたいんだが」

一通りの情報交換を終えた後、話を切り出したのはヤンガスだった。

861繋がる情報 ◆OmtW54r7Tc:2018/04/08(日) 06:28:55 ID:K1djLQPE0
「これは城を出る前にピサロの旦那から頼まれたことなんだが…」

ヤンガスは、ピサロの考察について一同に説明した。
この殺し合いにエビルプリースト以外の黒幕がいるかもしれないということについて。

「ふむ、そう言われてみればマーニャ殿とミネア殿がいないのは確かに妙でござるな」
「そういうわけでよ、ピサロの旦那の知り合いの旦那とじいさんはともかく、二人にはそういう奴に心当たりがいないか確認しときたいでやんすよ」
「心当たりは…あります」
「僕もある…かな」

二人は一同にそれぞれの心当たりを簡単に説明した。
サフィールはミルドラースを、アルスはオルゴ・デミーラについて。

「ミルドラースにオルゴ・デミーラ…また大仰な名前でやんすな」
「ミルドラースについては、ゲマが参加させられていますし、可能性は低いんじゃないかと思います」
「いや、そうとは限らんでござる。ピサロ配下の幹部の魔物達…彼らがおそらくエビルプリーストの手先として殺し合いにいる以上、ゲマという魔族もその一味ではないと言い切れないでござるよ」
「オルゴ・デミーラは…結構可能性は高いかも。あいつやあいつの仲間、結構悪趣味なことしてきたし、それにあいつ、一回倒したと思ったら生きてたし」

ともかく、情報は手に入った。
ミルドラースにオルゴ・デミーラ…これらの情報の検討については、ピサロに任せようということで、話は打ち切りとなった。

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

「それじゃあ、あっしは城に向かうでやんすよ」

話を終えると、ヤンガスは城へ行くと言う。
一刻も早くエイトと合流したいし、ピサロとの約束もある。

「ピサロといえば…エイト、ピサロの話を聞いたとき少し怖い顔してた気がする。なおさら急いだ方がいいかも」
「分かったでやんす!それじゃあこれで失礼するでやんす!」

アルスの話を聞くと、ヤンガスは城に向けてダッシュしていった。

「ブライ殿、そなたはサフィール殿とゴーレムと共にトラペッタへ向かって欲しいのでござる」
「はて?…わしはアルス殿とリーザス村を目指す気でいたんじゃが」
「そちらには拙者がいくでござるよ」
「どういうこと、ライアンさん?」

ライアンの提案にブライもアルスも疑問符を浮かべる。
そんな二人に対し、サフィールはライアンの意図に気づいたらしく、説明に加わる。

「さっき話したお父さんが引き連れてた機械の魔物…あの魔物は、マホカンタを使ってくるみたいなんです」
「サフィール殿やブライ殿にとっては天敵の魔物…そいつがまだ南に潜伏している可能性があるのでござるよ」
「むう、そういうことなら仕方がないの」

二人の説明に、ブライは納得するしかなかった。
自身も使えるマホカンタの脅威については、よく知っている。

「名残惜しいが…アルス殿、しばらくお別れじゃの」
「お世話になったよ、ブライさん。僕…頑張るから」

こうして、ブライ、サフィール、ゴーレムはトラペッタへ。
アルスとライアンはリーザス村を目指してそれぞれ歩き出した。
いつかまた、再会できると信じて。

862繋がる情報 ◆OmtW54r7Tc:2018/04/08(日) 06:29:37 ID:K1djLQPE0
【F-4/平原/夜】

【ヤンガス@DQ8】
[状態]:健康 MP6/10
[装備]:スライムの冠(DQ8) ふつうのチーズ(DQ8) 激辛チーズ(DQ8)
[道具]:支給品一式 トーポ(DQ8) バニースーツ(DQ10) 堕天使のレイピア オーディーンボウ@DQ10 矢×9 不明支給品0〜2
[備考]格闘スキル100
[思考]:城へ戻り、エイトと合流する
黒幕の情報を集める ジョーカーへピサロの伝言を伝える
※トーポは元の姿には戻れなくされています

【アルス@DQ7】
[状態]:HP3/5 MP微消費
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 まどろみの剣 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜2) ゲルダの不明支給品0〜1個 道具0〜2個(本人確認済み)
[思考]:この戦いを終わらせる。ミーティア、キーファ、フォズを探す。リーザス村でアイラとマリベルを弔う
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。

【ライアン@DQ4】
[状態]:HP1/4全身の打ち身、顔に傷、兜半壊、腹部に打撲、鎧半壊
[装備]:こおりのやいば
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1)
[思考]:ジャンボを探す。ホイミンのみんな友達大作戦も手伝う。

【ブライ@DQ4】
[状態]:健康 MP2/5
[装備]:魔封じの杖
[道具]:支給品一式 へんげの杖  道具0〜2個
[思考]:生きる。生きてアリーナとクリフトのことを知ってもらう。

【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP:5/6 MP 2/5
[装備]:ドラゴンの杖
[道具]:支給品一式×3、ショットガン、999999ゴールド
[思考]:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
おとうさんを見つけて止める
みんな友達大作戦を手伝う

【ネプリム(ゴーレム)@DQ1】
[状態]:HP2/3
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ネプリムとサフィール、そして彼女らがくれたものを守る
[備考]サフィールやネプリムとの戦いによって、「まもりのチカラ」のスキルが上がりました。
以降も他のスキルが上がるかもしれません。

863 ◆OmtW54r7Tc:2018/04/08(日) 06:30:12 ID:K1djLQPE0
投下終了です

864 ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:03:59 ID:iWDSU1Ps0
投下します。

865Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:05:08 ID:iWDSU1Ps0
夢を見た。

一つ目は、自分の弟子と初めて協力して、人間を守った時の夢。
その時の弟子の満ち足りた顔。
二つ目は、ガナン帝国に近づくために、弟子を裏切った振りをした時の夢。
その時の弟子の絶望した顔
三つ目は、自分がガナサダイの攻撃をその身に受け、死した時の夢。
その時の弟子の、その時以上に絶望した顔


ああ、そうだ。
自分は弟子に絶望しか与えなかったのだ。
ガナン帝国に囚われた師、エルギオスを救うことを優先した結果が、これだ。


だからこそ、自分はあの時願をかけた。
「これ以上大切な人を悲しませたくない」と。
そんなことを願うのは人間だけ。
天使は任務を遂行するのみ。
アークに会う前の自分なら、そう思っていた。


「マスター!!」
声が聞こえる。
自分の大切な人が自分を呼ぶ呼び方ではない。
以前に自分をそういう呼び方をする者はいなかったはずだ。

「マスター!!」

そうだ。私はあの人間だった魔物と戦って、そして攻撃を受けて……。


「気が付いたか?」
深紅の鎧を付けた小人が、顔を覗き込む。
「マスター!!無事で何よりだ!!」
「ううっ!!」

意識とともに、痛みも戻ってくる。

「すまないな。手当はまだ済んでおらん。」
モリーがそう言いながらベホイミをかけ続けるが、あまり効果がないようだ。
「構わん。ところで、ここはどこだ?」

イザヤールは辺りを見回した。
それは狭いが大人二人プラスαなら入れるくらいの穴だった。
こんなものは以前あったか。


そこへ、ズシンという足音と、岩が崩れる音。
穴の外から聞こえてくる。
先程進化の秘石を使ったバルザック、と考えるのが妥当だろう。

866Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:05:32 ID:iWDSU1Ps0


「危ねえところだったぜ。
あのバケモンが拳で地面に開けた大穴に入るっていう、モリーの起点がなけりゃ、お陀仏だったはずだ。」
「すまなかった。」
ザンクローネの発言に、イザヤールは感謝と謝罪を告げる。
「わしは構わん。だが、この後どうする?」

戦略に長けているモリーだからこそ、あの状況を打破できるとっさの判断ができたのだろう。
しかし、この先にどうすればいいのかモリーも分からないようだ。


上ではなおもバルザックが我々を探して暴れている。
戦力差はなおも明らか。
逃げるのも難しいし、そんなのは守護天使の意思に反している。
だからといって、ここにいつまでもいても崩落か襲撃で命を落とすのは明白だ。

『諸君、ご機嫌如何かな?』
そこへエビルプリーストの放送が入る。

(くそっ!!マドモアゼルまでもが……。)
(パパス!?何があったんだ!?くそったれ……。)


モリーとザンクローネの二人が動揺している中、イザヤールは静かだった。
そして、いきなり穴の中から飛び出す。


「こんなところにいたのか。」
バルザックは獲物を見失って暴れていたが、標的を見つけるとすぐに腕を振りかざし、イザヤールを握り潰そうとする。

「させるか!!」
「何!?」
バルザックの掌がイザヤールを握り潰す直前、イザヤールは剣を縦に回転させ、魔物の指を斬りおとした。

「ぐああ!!」

窮鼠猫を噛む。
それを体現したかのような思わぬ反撃に、バルザックは雄たけびを上げる。

「キサマアアアアアア!!」
死にぞこないの予想外の攻撃に、バルザックは吠え、大きく息を吸い込む。
そして、絶対零度の吹雪を浴びせた。

「効かん!!」
しかしイザヤールはそれを突っ切り、バルザックの腹を殴り飛ばす。
「ぐはっ!!」
その殴打は極めて強いもので、バルザックの巨体を動かした。
反動で拳と腕からは出血しているが、そんなものに構ってはいられない。

867Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:05:51 ID:iWDSU1Ps0

「マスター!?」
「イザヤール!!」


彼の変貌ぶりに、驚いた二人も穴から出てくる。


彼は、決意を固めた。
愛弟子の死を告げられた時から。
戦う。
そして、勝つ。
勝って、パパスの近くにいるはずのアンルシア達を助けに行く。

師、エルギオスは一度目の放送で命を失い、そして愛弟子も同じ道をたどった。
他の者は役目を終え、天に還って行った。
これで自分達の世界にいた守護天使だった者は、自分一人になってしまった。
いくら元の世界の人々が守護天使の存在を忘れてしまったからと言って、それでいいのか。

否。良いはずがない。
それで、アークが喜ぶはずがない。
翼と頭上の輪は失っても、記憶は心に根強く留まっている。
守護天使としての記憶。エルギオスの弟子として人々を救った記憶。アークの師として人々を救った記憶。

自分は最後の守護天使として、人々を守り続け、生き続けるだけだ。


(ん!?)
突然イザヤールは自身の異変を感じた。
まるで天使の羽を取り戻したかのように軽くなる体。
斬夜の太刀がまるで棒切れでも持っているかのように軽くなる感触。
そして止め処もなく湧き上がる力。

これは、まさか。

それは必殺技、と呼ばれているもの
守護天使の時には出来なかったが、人間になった自分の新たな可能性だ。

(ありがたい!!使わせてもらうぞ!!人間のチカラを!!)

呼吸を整え、力と血液の全てを右腕と、その先にある大剣に注ぐ。

「会     心    必     中     ‼」


「ぐぬああああああああああああ!!!」
持ちうるすべての力がバルザックの腹に突き刺さり、青紫色の血が噴水のように出る。
しかし、それを受けてもまだ生きているのは、進化の秘宝の賜物か。

「行くぞ!!ヒーロー!!マスターに後れを取るな!!」
モリーとザンクローネも攻撃に加わる。

「すまん!!頭を借りるぞ!!」
「何!?」

モリーが走りこんできたところ、イザヤールがその頭を踏み台にジャンプする。
そして、まだ壊れていなく、高さがある岩に飛び移る。

バルザックはそれに気づき、モリーとザンクローネを無視して、イザヤールが乗った岩ごと叩き潰そうとする。

868Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:06:10 ID:iWDSU1Ps0

それをチャンスに、イザヤールは剣を上に向け、大きくジャンプした。
狙いは、勿論バルザックの心臓。

いくら進化しようと、心臓を貫かれて生きているはずがない。
バルザックの殴打を躱し、攻撃に移ったイザヤールは、勝利を確信した。
氷のブレスはこの状態からでは突っ切ることができる。
バルザックは足が短いため、蹴られて撃ち落されることもない。
呪文は詠唱が間に合わない。
イザヤールの決意とともに放った一撃。
それは、イザヤールの予想通り、決定打につながった。




「イザヤールへの」決定打、だが。

(バカめが。)

「跳んだ!?」
この展開は、イザヤールも予想できなかった。
信じられない。
このタイミングで、あの巨体で、あれだけ高く跳ぶなど。
キングスライムのように、巨体ながらも飛び掛かりを武器にする魔物はいるが、それらも助走や踏ん張りを使わないと出来ない。
余程被害妄想の強い人間ならいざ知らず、常にリアリストを貫いてきたイザヤールには予想できなかった。


そのまま、イザヤールはその巨体に踏みつぶされる。
聞こえたのは、自分の肉がひしゃげ、骨が砕け、内臓が潰れる音だった。
(無念……。)
イザヤールが声を出すことができたら、こう言っていたであろう。

「そんな!?」
「マスター!?マスター!!」

しかし、二人はすぐにイザヤールの心配をするどころではないことを気づかされた。


あれほどの巨体が跳び上がれば、当然地面に反応が来る。
「モリー!!気をつけろ!!とんでもねえ地響きが来るぞ!!」


ザンクローネの言った通り、凄まじい衝撃波が迫ってくる。

869Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:06:44 ID:iWDSU1Ps0
「ぬおおおおおおおおお!!!」
モリーは物凄いダッシュでそれから逃げる。
ザンクローネは離すものかと必死にそのマフラーにしがみつく。


しかし、砂煙や礫岩などによって可視化されて迫りくる衝撃波には、いくらモリーといえども逃げ切れるはずはない。

「アストロン!!」
向こうに青い髪の青年が見えたな、と思った瞬間、その男が知らない呪文を唱えた。
その魔法について疑問を残す暇は、二人にはなかった。
なぜなら、すぐに青年もろとも鉄の塊になったから。


「ぷはっ!!間に合ってよかった。」
鉄化状態から解放され、体にこびりついた岩の欠片や埃を振るう。

「キミがレックボーイか。危ないところをありがとう。」
「俺のこと、知っているんですか?」
「ああ。アンルシアからキミのことは聞いていてな。」
「色々聞きてえことと言いてえこと、沢山あるが今はそれどころじゃねえぞ。」


モリーのマフラーにしがみ付いている小人(?)の言う通り、バルザックが迫ってきていた。


「バギクロス!!」
レックがすぐさま竜巻の呪文を唱える。

それじゃ倒すのは難しいぞ、と二人は思うが、レックの目的は直接攻撃することではなかった。
「ぬう!?」

竜巻によって巻き上げられた小石や岩の欠片、砂ぼこりがバルザックの視界を奪う。

両目を抑えながらも、バルザックは突進してきた。
「危なっ!!なんだよアイツ!!」

攻撃のベクトルは極めて単純だったため、3人はどうにか躱す。
そのまま大きな岩にぶつかることはなく、それも砕いてしまった。

レックが予想していた通りだったが、戦うことしか頭にないようだ。
少なくとも竜王のように話を聞くスキルは持っていないだろう。


「恐らくエビ……エビ……ヤツが遣わした魔物だ。」
「ヘンな石を食ったと思ったら、突然強くなっちまったんだよ。」

870Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:07:00 ID:iWDSU1Ps0

「急激に変貌したタイプの魔物か……」
しかもムドーやジャミラスのような黒幕側近の魔物なら、止めることは不可能だろう。
じゃあ逃げるか?
ダメだ。放っておけば魔物がキーファ達や、ともすればターニアに危機を及ぼしかねない。

今度は方向を切り替え、氷の呪文を唱え始める。
「今度は何だ?」
レックは前もって、マジックバリアで対処しようとする。
その魔力の高まりから、ただの呪文ではないことがわかる。
「ヤバい、マヒャド以上だよこれ!!何かで迎撃しないと!!」


「氷河の牢獄よ、奴等を凍結地獄へ繋げ。マヒャデドス!!」
それは、バルザックの世界にはなかったはずの呪文。
これが使えるようになったのも、進化の秘石の影響か。
一つ一つがその辺りの岩くらいの大きさの氷塊が、矢継ぎ早に三人に襲い掛かる。

「ベギラゴン!!」
「モリーバーニング!!」
「ビッグバン!!」

マジックバリアに頼り過ぎるわけにもいかず、それぞれの炎属性の技で対抗する。

多くの氷の中で、三人に当たりそうなものだけ融解していく。
完全に無効化までとはいかなかったが、残った分はマジックバリアでさらに弱められた。

「うむ。わしらでもどうにか通用するぞ!!」
「三人がかりでやっとだけどな。」
「確かに。このままじゃ魔力が持たないよ。」


辛くもマヒャデドスをしのいだ三人は、バルザックの別の異変に気付く。

「あいつ……なんで指が戻ってやがる?」

バルザックが呪文の詠唱の際に片手を大きく前に出した。
それはイザヤールの斬撃で斬り落とされたはずなのに、何事もなかったかのようになっている。

「それだけでないぞ。腹の傷を見ろ。もう血が止まっている。」
イザヤールの攻撃を食らったのはついさっきのはずなのに、明らかに止血のスピードが速い。

「自動回復持ちか。太鼓腹とか垂らしている舌とか、トロルボンバーに似てるけどそこまで似なくてもいいのに。」


「あれでリホイミ状態かよ。さすがの俺でも気が滅入るぜ。」
「自動回復とは……わしが仲間にしたベホマスライムより厄介ということか!!」

871Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:07:26 ID:iWDSU1Ps0

「じゃあ、一撃で倒す必要があるな。俺がそれを引き受ける。二人とも時間稼ぎを頼む。」
「おい!!」
「ヒーローよ。焦る気持ちはわかるが、ここはレックボーイの考えに乗ってやろうではないか。」


ザンクローネは英雄はオレだぞと不服そうな顔をしつつも、モリーの言う通りにする。

あのタイミングでとっさにやり過ごすための魔法を唱える判断力。
地面がえぐれているのを見計らって、竜巻の魔法を使って目隠しの材料にするという発想力。
そして、最高レベルの魔法を簡単に操れるほどの戦闘経験。


悔しい話だが、自分よりもレックの方が強い勇者である。


ならば、全力でレックのサポートをする。
オマエが勇者なら、オレは違った方向の勇者として。


「行くぜ!!後れを取るな!!」
「ヒーロー!!深追いしすぎるなよ!!」

二人はバルザックに向かっていくかと思いきや、直前で二手に分かれ、バルザックの周りを走り回る。
一方でレックはバルザックとは逆方向に走っていく。


そこへバルザックが蜘蛛の子を散らすように片手を払う。
最初に狙われたのはモリーだった。
しかし、素早い身のこなしでそれを確実によけていく。


ターゲットを思うように狙えないためバルザックは、今度は狙いをザンクローネに定める。

「へっ。デカいくせに、やってることは小せえ魔物だな。」
ザンクローネは戦いの影響で荒野にできた出っ張りや穴ぼこをフルに活用し、それを凌いでいく。

片方はスピードに優れ、片方は攻撃を当てるのが難しいサイズである。
しかも今度は二人は敵の攻撃をかわすことに力の全てを使っているので、一層難しい。

872Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:08:29 ID:iWDSU1Ps0

一方でレックは、バルザックからの集中を逸らすために、ある程度距離を離した。
そこに、血だまりの中でぼろきれのようになっている男がいたのを見つけた。

(ア、アーク?これは……まぼろしなのか?)
体が動かないだけではなく、出血量が多すぎて視界すらまともに開けない。
両足は折れ、下敷きになることを唯一避けた片手だけがまともな状態だ。
生きているのがむしろ不思議なくらいだし、いつ死んでもおかしくないだろう。
言葉を話そうとすると、口から文字とともに血が吐かれる。折れた肋骨の一部が、肺に刺さっているのだろう。
イザヤールは、誰かの気配がする方向を見る。
かつて自分はガナサダイの攻撃で負傷した際、駆け付けたアークを幻だと思った。
あの時のアークは本物だったが、今度の状況では、間違いなく幻だろう。


「大丈夫ですか!?」
レックは人間とすら思えない有様になっているそれに、回復呪文をかけていく。
モリーとザンクローネが時間を稼いでいるので、こんなことに時間をかけるわけにはいかない。
それに、もうこの男は回復呪文が制限されたベホマ程度で、助からないだろう。


そんなことはわかっている。
自分は、「勇者だから」「これから敵を倒さなきゃいけないから」という理由で、誰かを犠牲にしたくない。
それが自分の義妹でも、最愛の人でも、知らない男でも同じことだ。
すでに半分の命が息絶え、中には好きだった人も、頼れる友もその中に入ってしまった状況では猶更だ。


自分の手から出る光が弱まっていたのを気づく。
竜王から貰った回復薬を3分の1ほど飲む。
再びイザヤールに呪文をかけ続ける。

(笑っちゃうよ。こんなの。)
レックは自嘲の笑みを浮かべる。
これはバルザックを倒した後、竜王と再び戦う際に渡されたモノなのに。
そもそも襲われているのが見ず知らずの三人だと分かった以上、見捨ててターニアを探せばいいのに。
誰もこんなところで使うことを望んでいないだろう。



何度目かベホマを唱えようとしたところ、イザヤールがぱん、と自分の手を叩いた。

「そのチカラは……君の大切な……人を助けるのにとっておけ………。」
レックの魔法も空しく、イザヤールは呼吸も血の気も、眼の光も弱まっていく。
「そんなのお断りだ!!俺は呪文を使いたいときに使う!!」
誰かを犠牲にして勝つのは、デスタムーアとの戦いで十分だ。

最早ベホマなどではどうにもならない。
意地で人を治せるなら、神父も世界樹の葉は不要だ。

「私は……もう助からない。あの二人を……助けに行け。」
「……だめだ!!そんなに死にそうなのに、見捨てられないよ!!」
「ならば、名を覚えていてくれないか……天使……イザヤール……と、我が弟子…アーク…のこと……。」
「分かった。」
「感謝……する……。」

873Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:08:51 ID:iWDSU1Ps0
「……。」

それっきり、イザヤールは動かなくなった。
バルザックに気付かれるか否かの距離まで行き、一番背の高い岩の上に飛ぶ。
自分が頼んだ通りのことを二人はやっているようだ。




「くそっ!!イザヤールも、レックもいないんじゃ、オレ達の負担がデケエぞ!!」
「レックボーイ!!早く頼む!!」

二人はなおもバルザックの攻撃をかわし続けている。
だが、それは時間に限りがあった。
攻める側は好きなペースで攻めればいいが、守る側は体力が切れればそれで終わりだ。
そして、進化の秘宝の力を得た怪物と体力比べをしていたら、いずれ限界は見える。

何度目か躱した末に、バルザックの殴打がモリーのすぐ横を捉えた。
激しい運動によって体は火照っているはずなのに、体が急に冷えた。

「トドメだ。」
バルザックが再びマヒャデドスの詠唱に入る。
「何!?」
背中に何かの感触を感じる。
レックが一直線に鋼の剣を、バルザックの背骨に当たる部分に投げつけたのだ。

「天の雷よ、我に力を、ギガデイン!!」
雷の呪文は、鋼の剣を避雷針にし、バルザックの体に流れ込む。
「グギャアアアアアアア!!!」
遠くにいても耳をつんざくほどの雄たけびが聞こえる。


「よし!!いいぞ!!効いている!!」
苦しみ始めたバルザックを見てモリーは歓喜する。


(効いている!?まずいな、そりゃ。)
逆の方向にいたザンクローネの表情は暗かった。
(アイツ、あれで「トドメを刺す」つもりだったんじゃねえのか?)



ザンクローネの予想は当たっていた。
脊髄に剣を刺されて、そこから勇者の雷を全身に流されて戦えるなど、余程のバケモノじゃない限りあり得ない。

(流石に信じられないよ。)
しかもバルザックは体のあちこちから煙を出し、悶絶しながらレックに向かって迫ってきた。
「まずい!!」
もう一度ギガデインを……と思ったが、その時間は与えてくれなさそうだ。

レックは岩の上から飛び降りる。
すんでのところでバルザックの殴打がその足場を崩壊させた。
敵はレックを狙ってきている。
今度はギガデインを打てそうにない。
剣もバルザックの背中に突き刺さったまま。

874Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:09:07 ID:iWDSU1Ps0


状況はレックが思った以上に悪いことになっている。
一度目の攻撃は足場を犠牲にすることで避けられた。
しかし、2打目のテールスイングは直撃を食らってしまった。

2,3度バウンドして、岩に叩きつけられる……ところをイザヤールの死体がクッションになり助かる。

(助けようとした人を助けられなくて、逆にその人に助けられるとはね。)

レックはイザヤールから斬夜の太刀をもらい受け、疾風の速さで戦線に復帰する。

当然のことながらバルザックが片手でレックを叩き潰そうとする。
しかし、それを大剣で受け流す。
残夜の太刀は、鋼の剣に比べて重い反面、幅広の剣であるため、防御にも役に立った。
しかし、この間にバルザックのダメージはどんどん回復していく。
再びギガデインを当てないといけないのに、チャンスはなおも見つからないままだ。


「タイガークロー!!」
「天下無双!!」
後ろからモリー達が横やりを入れるが、そんなものを気にせず攻撃を行い続ける。


「おいみんな!!オレに考えがある!!」
モリーのマフラーと敵の腹の上への移動を繰り返し続けるザンクローネが、大声を上げた。

「何?」
レックはバルザックの攻撃を躱し、そして弾きつつ、二人のもとに近づく。

「どうにかして、オレをヤツの口まで運べ!!」
「どうするつもりだ?」
「ヤツの力の源は、ヤツの腹の中にある!!あとはわかるな?」
「心中するつもりか?ダメだ!?」

レックが、敵の攻撃を剣で受け止めながら反対する。

「死ぬことはねえよ。ただ、オレが腹の中に入ったら、思いっきり『勝ってくれ』って念じろ。」

状況にしてはあまりに突拍子もない言い方に、レックもモリーもハトが豆鉄砲食らったような顔になる。

875Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:09:25 ID:iWDSU1Ps0

「時間はあまり残ってねえぞ!!早くしろ!!」
「うむ!!わかった!!行くぞ!!」

モリーが地面を蹴って高く跳び上がる。
バルザックはなおもレックに掛かりきりで、その二人の攻撃について対処していない。
これはチャンス、と三人共確信していた。


レックに構えば、ザンクローネからの攻撃に対処できず、
逆にモリー達に構えば、レックからギガデインを受ける。
呪文で纏めて倒すにも、詠唱時間がかかる。
ブレスで対抗しようにも、二方向からでは全員に当てるのが難しい。

「今だ!!」
モリーの合図で、ザンクローネがさらに高く跳び上がる。
その瞬間だった。
突然バルザックの腕がモリー達を狙い始めた。

「何!?ぐはあっ!!」
「うわああ!!」

それだけではない。
バルザックはレックを狙って、モリーを叩き落としたのだ。

地面で激しいクラッシュが起こる。
モリーの方は最早重傷、レックも、ただでは済まなかった。

モリーという頼れる仲間が、最悪の投擲道具になってしまった。
それでもザンクローネはバルザックの口の中に侵入しようとする。
ここで英雄の役目を全うせずに、いつするのだ。


傲慢な英雄ならば、そうするかもしれない。


「どちくしょおおおおおおお!!」
ザンクローネはバルザックの顎を蹴り、方向を変える。
地面にいる二人を叩き潰そうとするバルザックの太い腕の付け根に、思いっきり針を突き刺した。

針で斬られてもダメージを受けなかったバルザックも、腕の付け根に針を思いっきり刺されれば苦しむ。

「ガアアア!!」
腕を思いっきり振り回すも、ザンクローネは必死でしがみ付き、離れようとしない。

「みんな!!逃げろ!!」
その間に下にいる二人に声をかける。

レックはどうにか立ち上がるが、モリーの方はダメージが大きいからか立ち上がれない。
それをレックがどうにか担ぐ。

バルザックは尻尾を振り回して二人を倒そうとするが、間一髪で躱されてしまう。

腕を振り回しても離れないザンクローネにもしびれを切らしたバルザックは、腕ごと食いちぎろうとする。
しかし、それこそザンクローネの狙いだった

「予想通りだぜ!!」
すかさずザンクローネが口の中に飛び込む。

876Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:09:56 ID:iWDSU1Ps0


残された2人は、その行く末を見守った。

「ム!?」
体内に異変を感じたバルザックは、手を口の中に突っ込んで吐き出そうとする。

だが、ザンクローネも負けじと体内の、進化の秘石がある所まで潜りこむ。

「俺たちは諦めないぜ!!行けえええええ!!」
「わしらは無事だ!!だから!!勝つのだあああああああ!!」


レックもモリーも、ザンクローネに言われた通り勝利の念を送る。



そこで二人は、バルザックの体内から違う強い力を感じた。

「グギャアアアアアアア!!」
同時にバルザックは何かに苦しみ始めた。

何かが、腹を破って出ようとしているのだ。
バルザックの抵抗もむなしく、腹が破れ、そこから血が滝のように溢れる。

「おらああああっ!!」
そこから出たのは予想通り、ザンクローネだった。
片手には、例の秘石。
予想とは異なる点が、ザンクローネの大きさだ。
どういうわけか、レック達と同じ大きさになっていた。

「そん……な………くっ………ぐふっ……」
力の源を失い、腹も破られたバルザックは、死ぬのも時間の問題だ。
力なく地面に崩れ落ちる。

しかし、レックはバルザックから、力の減少以外のあるものを感じていた。

(コイツは……もしや……)
さっきまでの破壊しか考えていないような目とは違い、敵意の中にどこか恐怖や怯えを感じさせられた。
それは、バルザックが人間だった時の感情である。
進化の秘石が無くなったため、僅かでも自我が戻ったのか。

877Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:10:15 ID:iWDSU1Ps0

コイツはまだ生きている。まだ刺さっている鋼の剣に、ギガデインを打ち込めばすぐにトドメを刺せるだろう。


「……。」
自分はもう誰も犠牲にしたくなかった。
エビルプリーストのようなどうしようもないヤツなら仕方がないけど。
何故かバルザックが自分達と同じ、選択の自由なく戦いに巻き込まれた被害者に見えたから。
モリー達から、この魔物は凄い力を持つ道具を呑み込んだことで、暴走したことを聞いたから猶更だ。
もしもコイツに、大切な人や者があったら、どうするんだ?
失うのは、夢の世界とそこに住む大切な人たちだけでもう沢山だ。

(バーバラ……こんな時、キミなら何て言うんだ?
『バカ』って罵るのか?
『優しいね』って褒めてくれるのか?)

自分がいた世界で失い、そしてこの世界でも会えることなく失われた少女のことを思う。
何故かターニアではなく、バーバラのことばかり思った。

すぐにその葛藤が、間違いだったことに気付く。




掠れたような声が聞こえた。
マヒャデドスを紡ぐ呪文の詠唱が。

(!!!)
遅かった。
最初にかけたマジックバリアはもう切れている。
マホカンタも、間に合わない。


バルザックは逆転を狙って、3人纏めて最強の呪文で殺そうとした。
その魔法を使うための秘石はもうないはずなのに。
最後の命を代償に魔法を使ったのだ。


キラキラと光るクリスタルのような氷が現れる。
竜王に対して、大見得きって躍り出た戦いなのに、不思議と、レックに悔しさはなかった。
敵味方共に、全てを犠牲にして戦い続けた。
それなのに自分だけは「誰かを犠牲にして勝ちたくない」と贅沢を言い続けた。
負けるのも当然の話だ。

悪いのは、全て自分の甘さだ。

878Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:10:37 ID:iWDSU1Ps0

(!?)
頭上のまぶしい光に、目がくらむ。
既に太陽は沈み、辺りは暗いはずなのに。


よく見ると、それはモリーだった。
なぜ。自分よりボロボロのはずなのに。
蒼炎の爪の先に、小型の太陽のようなエネルギーが集まっている。
「ゴォッッッドォォォォ!!!スマァァァァッシュ!!!!!!!」

そのままモリーは急降下し、自分たちを殺すはずだった氷ごとバルザックの頭を砕く。


こんな勇者がいただろうか?自分はどれほど無力なのか?
モリーのゴッドスマッシュとバルザックのマヒャデドスがぶつかり合った時、自分はただ立ち尽くしていた。
何か出来たはずなのに。その何かが思いつかない。


「私は……まだ………終わらない………。」
そう言って、バルザックは二度と動かなくなった。
腹を破られ、頭を切り裂かれ、力の源も奪われても戦い続けた。
敵ながら、道具の力を借りながらも、凄いヤツだった。
少なくとも自分よりかは。


そして、頭上から勝った男が、力を失ってそのまま落ちてくる。
レックとザンクローネは、それを受け止めた。
受け止めたときの感触で、あちこちの骨が折れていることが分かった。
モリーは自分のケガも気にせず、若者の行く末を案じる年長者のような目で優しく二人を見つめる。


「わっはっはっは。わしも、歳だな。」
「大丈夫かよ!!笑っている場合じゃねえだろ?」
「ごめんなさい!!さっき俺が……油断しなかったら……ごめんなさい!!」

もう助からない、のはわかっていたが、ベホマを唱え続けた。
自分を誰かを犠牲にしなければ何もできない弱い人間だと認めたくなかったから。

「ヒーロー……レックボーイ……そんな悲しい顔をするな。
君達は………勇者としての……使命を全うしただけだ。
わしやマスターが、死んだのは……ただ、弱かった……から……。」


「だから……わしらのことは……気にするな。」
それから、全てが風の中に消えていった。



「なあ。」
「どうした?」
レックはもう一人、ヒーロー、と呼ばれていた男に声をかけた。

「キミは、どうして大きくなったんだ?」
「オレの力の源だった心臓は、アイリって少女を救う時に失ったんだ。
でもな、応援の力があれば、いつでも戻れるんだよ……ちっ。」

突然ザンクローネが崩れ落ちた。

879Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:11:13 ID:iWDSU1Ps0
「大丈夫か?」
「やっぱり……心臓がないと、キツイな。いつまで持つか……分かんねえ。
ベーコンエビパンを倒す時まで取っておこうと思ったけど……これじゃあな。」


レックは羨ましかった。
大切な少女を守る。それは以前レックが出来なかったことだから。


だが、まだ二人にはやることが残されている。
辺りに散らばっていた支給品を回収した後、レックの持っていた回復薬を共有し、体力を回復させる。

「このままイザヤールとモリーを弔ってやりてえが、そうもいかねえ。
さっきオレ達と別れたパパスってやつが放送で呼ばれた。しかもアンルシア達も同行しているんだ。」

「俺も……行きたいところだが、すまない。竜王ってやつと決着をつけてないんだ。」

「じゃあ全て終わったら、ここで落ち合おうぜ。」
「ああ。その時こそ、この二人も弔おう。」

ザンクローネはレックの持っていたイザヤールの剣を借りて行く。
彼としては、大剣が振り回すのが性に合う。
レックはバルザックに刺さっていた鋼の剣と、最初にバルザックが持っていた大魔神の斧を手に取る。


「ご武運を」
「そっちこそ、しくじるなよ。」

二人は別の方向へ向かう。
生きる者がいなくなったそこには、夜風の音だけが響いた。

【イザヤール @DQ9 死亡】
【バルザック @JOKER 死亡】
【モリー @DQ8 死亡】
【残り32名】

【ザンクローネ(小)@DQ10】
[状態]:HP1/3 MPほぼ全快 
[装備]:斬夜の太刀 @dq10
[道具]:プラチナさいほう針@DQ10支給品一式、不明支給品(0〜2) イザヤールの支給品(0~1)
[思考]:ふてぶてしく全てを救う アンルシア達を助けに行く
[備考]:元の体(本来のサイズ)に戻りました。半面疲労状態になります。
【レック@DQ6】
[状態]:HP1/8 MP6/7
[装備]:鋼の剣
[道具]:支給品一式、大魔神の斧@DQJ 蒼炎のツメ@DQ10モリーの支給品1~3個 確認済み支給品1~2個
[思考]:竜王の下に戻る。ターニアを探す。
[備考]:竜王に好奇心を抱いています。

880Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:11:32 ID:iWDSU1Ps0
投下終了しました。

881Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/14(土) 23:26:17 ID:iWDSU1Ps0
早速訂正を。
>>878のザンクローネのセリフ「でもな、応援の力があれば〜」
を「でもな、希望の応援の力があれば〜」でお願いします。

882ただ一匹の名無しだ:2018/04/15(日) 06:45:44 ID:xiiGslL20
投下乙です
まさかバルザックの体内に入って力の源を取り出すとは…
小さくなったことがこんなところで功を奏するとはなあ

竜王との決着をつけにいったレックと、元のサイズに戻ったザンクローネは、それぞれどうなるやら

883ただ一匹の名無しだ:2018/04/15(日) 14:32:46 ID:VWcf2dws0
投下乙です

一つ質問があります
時間と現在地が書かれていませんが演出ですか?

884Brave spirits ◆znvIEk8MsQ:2018/04/15(日) 15:27:55 ID:9LooztOg0
>>883
申し訳ありません。忘れてました。
二人共
【C-7/荒野/1日目 夜】です。wiki編集の際には追加しておきます。

885 ◆OmtW54r7Tc:2018/05/03(木) 05:16:34 ID:QTXXukpM0
投下します

886魔女+魔物+進化 ◆OmtW54r7Tc:2018/05/03(木) 05:18:01 ID:QTXXukpM0
「はあ…はあ……」

小人状態から脱した英雄、ザンクローネは北へと向かっていた。
しかし、身体は元に戻ったものの、心臓を失ってしまっているからか、疲労が激しかった。

(いや…本当にそれだけが理由か?)

辺りの景色は夜となり暗くなっていっている。
それに比例するように、彼の身体の疲労も上がっていた。
身体が、どんどん重くなっていくのを感じる。

(しっかりしろよ、俺の身体…こんなところで、止まってる場合じゃないんだからな)

そして、トンネルを抜けて北の大陸に降り立ち、そこからさらに北へと進んだザンクローネは…その場所に到達した。

「これは…」

辺りには誰もいない。
しかし他とは明らかに違う地面の焦げ跡やら荒れようで、そこで激しい戦いがあったことは間違いなかった。
ザンクローネは、暗い中周囲の様子を調べ、そして…

「…ちくしょう!」

見つけたのは、3つの不自然に盛り上がった地面。
そこになにがあるかは、掘り起こさなくとも明らかだ。
うち一つは先ほど放送で呼ばれたパパスのもので、それ以外にもさらに死亡したものが二人いるということだろう。

「また、守れなかったのか、俺は!」

その場に膝をつき、地面を拳で殴りつける。
何が英雄だ。
何がヒーローだ。
何がすべてを救うだ。
何も…救えていないじゃないか。
すぐそばにいたイザヤールやモリーでさえも。

身体が、さらに重くなるのを感じる。
それでも、ザンクローネは立ち上がる。
まだだ、まだ殺し合いは終わっちゃいない。
足を止めている場合ではない。
すべてを救うために…たとえ何度苦境に立たされようとも、歩き続ける。
俺は英雄…ザンクローネなのだから。

887魔女+魔物+進化 ◆OmtW54r7Tc:2018/05/03(木) 05:19:07 ID:QTXXukpM0
「ん?」

決意を固めたザンクローネは、ふと気配を感じ振り向く。
そこには誰もいない。
あるのは、奇妙な石だけだ。

「あの石…なんだ?」

奇妙な石は、なにか禍々しい存在感を放っていた。
明らかに、関わるべきではないものだ。
しかし…


サワレ サワレ


頭の中に、不思議な声が響いてくる。
そして、ザンクローネの身体はその声に従うかのように石の方へと近づいていた。
石との距離が縮まり、手を伸ばせば触れることができるほどのところで、一瞬ザンクローネの動きは止まる。
しかし…


フレロ フレロ フレロ!


声はより一層激しくなり…ザンクローネはついに、目の前の奇妙な石に触れてしまう。

―待っていたぞ

「!…石から声が!?」

―ほう、貴様、内に闇を飼っているな。これは都合がいい

「おい、何言って…」

―貴様の身体、貰い受けるぞ!

「!?うあああああああああああ!」

そうして…ザンクローネの意識はそこで途切れた。

888魔女+魔物+進化 ◆OmtW54r7Tc:2018/05/03(木) 05:20:44 ID:QTXXukpM0
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

「…んあ?」

ザンクローネが目を覚ました時、そこは真っ暗闇の何もない空間だった。
夜になって辺りが暗くなったというわけではない。
目を凝らしてみても、正真正銘なにもない、ただ闇だけが辺りを包み込んでいた。

「これは…なんだ?ここはどこだ?」
「久しぶりだね、ザンクローネ」

聞こえてきた声に、ザンクローネは声の方向へと振り向く。
聞き覚えのある女の声。
忘れるはずがない…こいつは!

「グレイツェル!…いや、クレル…なのか?」

赤いとんがり帽子に黒いかざりを装飾し。
やはり赤い、セクシーな衣装に身を包んだ魔女。
かつて戦い、そして人間クレルに戻したはずの魔女が、目の前にいた。
グレイツェルは、不敵な笑みを浮かべると口を開いた。

「私はクレルじゃないわ。魔女グレイツェルよ」
「クレルじゃあ…ないのか?」
「…ねえザンクローネ、あなたが元の世界で消えた理由、覚えてる?」

ザンクローネの質問に答えず、逆にこちらに問うてくるグレイツェル。
質問の意図が分からず怪訝な表情を浮かべつつも、ザンクローネは答えた。

「人間クレルを魔女グレイツェルに変貌させた恨みの念を、自分の身体に取り込んだからだ」
「そう、そしてそれと共にあなたは消えた…だけど今、再びこうして復活してる」
「それがどうした」
「ふふ…分からないかしら?恨みの思念と共にあなたが消えて…そのあなたが蘇ったなら、じゃああなたが体内に受け止めた恨みは、どこへ行ったのかしら?」

グレイツェルの言葉に、ザンクローネは数秒考えを巡らせ…そして、ギョッとした。

「まさか…今も俺の身体の中に!」
「ふふ、大正解♪まあ、今はもう一人いるんだけどね」
「なんだと?」

動揺を見せるザンクローネの目の前に、グレイツェルとは違うもう一つの人影が現れた。
いや、その姿は人ではない。
魔物だ。

「なんだ、てめえは?」
「俺はヘルバトラー。この魔女同様、今は貴様の中に潜りこませてもらっている」
「その声…さっきの石か?」
「ああ、そして今は貴様の身体の中だ」

889魔女+魔物+進化 ◆OmtW54r7Tc:2018/05/03(木) 05:22:53 ID:QTXXukpM0
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

何が起こってるのか、一から説明しよう。
まず、ザンクローネの復活と共に、彼が生前自身の身体に受け止めた魔女グレイツェルの力も彼の体内にて蘇った。
グレイツェルの恨みを体内に宿していても消えないのは、精霊の加護の力が弱められ、人間に近い身体にされたためだ。
復活したグレイツェルは、ザンクローネの心を乗っ取ろうと画策していた。
しかし彼の強い精神はそれを許さず、かつてのように力を奪うのが精いっぱいだった。(アイリの願いにより戻ったはずの身体が再び小さくなっていたのはこの為である)

しかし、チャンスは訪れた。
夜が近づきグレイツェルの魔女の力が強くなったのに加え、モリー達の死やヘルバトラーの戦い跡地での墓の発見、これらがわずかとはいえザンクローネの精神に隙を作った。
その上、付近にはヘルバトラーが模した魔瘴石があった。
グレイツェルはザンクローネがその石に触れるよう誘導した。
精神を摩耗させていた彼はその声にあらがうことができず、石に触れて。
そしてその瞬間、ヘルバトラーは彼の体内…空っぽになっていた心臓部分へと入り込み、そこでグレイツェルの力と融合したのだ。

890魔女+魔物+進化 ◆OmtW54r7Tc:2018/05/03(木) 05:23:38 ID:QTXXukpM0
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

「…とまあ、こういうわけよ。分かったかしら?」
「…ああ、よ〜く分かったよ」

話を聞き終えたザンクローネは…にやりと笑みを浮かべていた。
いつものような、ふてぶてしい笑みを。

「お前らを、今ここで浄化してやりゃあいいってことをよ!」

両手を突き出し、光を放つ。
しかし…

「力が…弱い!?」
「いったはずだよ、ザンクローネ。精霊の力は弱められているって」
「今の貴様に…俺達を止める力などない!」

グレイツェルとヘルバトラー、二人分の闇がザンクローネを襲う!
ザンクローネもか細い精霊の力でふんばるが、どんどん押し込まれていく。

「次に目を覚ました時、あなたは私たちにその精神を乗っ取られてるでしょう」
「なにか言い残すことはあるか?」

グレイツェルとヘルバトラーのあざける言葉に、ザンクローネは…

「へっ」

ふてぶてしいまでの態度で笑っていた。
そして…自分の胸をその拳で貫いた。

「「なっ!?」」
「言ったよな…あんた、俺の心臓があった場所に潜り込んだって。そしてグレイツェル、お前の力と結びついたって」
「ザンクローネ…あんたまさか、体内の魔瘴石を破壊する気かい!?」
「ああ、そのまさかだよ」
「やめろ!今の俺は、貴様と一心同体!俺を壊せば、貴様も死ぬぞ!」
「だろうな…だが、あんたとグレイツェルもそれで終わりだ!」

ザンクローネが、体内の魔瘴石を握りしめる。
それと共に、グレイツェルとヘルバトラーは苦しみだす。
このまま握りつぶせば、彼らは消えることだろう。
ザンクローネの命と共に。

891魔女+魔物+進化 ◆OmtW54r7Tc:2018/05/03(木) 05:24:43 ID:QTXXukpM0










「認めん…認めんぞ……」

ザンクローネに一つ誤算があったとすれば、それは。

「俺は…こんなところでやられてたまるかああああああああ!」

ヘルバトラーの執念が、彼の想定を大きく上回っていたことだ。

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

「ぐ!?なんだ、身体に何かが…」

ザンクローネは、身体に異物が入り込むのを感じた。
なにか、強い力が入り込むのを感じる。
そしてザンクローネがそう感じた通り、闇の世界に新たなる住人が現れた。
その住人は、もはや生物ですらない。
その名は…「進化の秘石」。
進化の秘石は、ふらふらと空中を漂ったかと思うと、ヘルバトラーの手元にすぽんと収まった。
彼の執念は、無機物であるはずの秘石をも、引き寄せたのだ。

「なるほど、俺に力を貸してくれるというのか」

ヘルバトラーは、一目でその石の用途を理解すると、自らの身体に…正確に言えば自身の模した魔瘴石と合体した。

「ぐあっ!?」

その瞬間、胸に突っ込まれていたザンクローネの手は、弾かれるように胸から引っこ抜かれて。

「終わりだああああ!ザンクローネェェェ!」

ヘルバトラーの闇が、今度こそザンクローネの身体を飲み込み、彼の意識は、そこで再び闇に閉ざされた。

892魔女+魔物+進化 ◆OmtW54r7Tc:2018/05/03(木) 05:25:43 ID:QTXXukpM0
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

三度、目を覚ますザンクローネ。
だが、その様子は以前の彼とは異なっていた。
姿こそ以前と同じであるが、髪も身体も服も、黒く染まっている。
そして、ふてぶてしさとはほど遠い、醜悪な笑みを浮かべていた。

「俺の名は、魔英雄ザンクローネ」

魔女と魔物に心を蹂躙された彼に、もはやかつての面影はない。

「全てを壊し…全てを救う」

大きく歪んだ、願いだけを残して。


【C-4/平原/1日目夜中】

【魔英雄ザンクローネ@DQ10】
[状態]:HP3/10 MPほぼ全快 胸に出血 闇化
[装備]:斬夜の太刀 @dq10 ヘルバトラーの魔瘴石with進化の秘石(体内)
[道具]:プラチナさいほう針@DQ10支給品一式 不明支給品(0〜2) イザヤールの支給品(0~1)
[思考]:全てを壊し全てを救う
[備考]:グレイツェルの呪いとヘルバトラーの魔瘴により性格が反転し、破壊こそが救いだと考えています。
魔瘴石がザンクローネの心臓代わりを果たしたことや闇を拒むのをやめたことで、疲労状態はなくなりました。

【ヘルバトラー強@JOKER】
 [状態]: 魔瘴石化 ザンクローネの体内に侵入 グレイツェル及び進化の秘石と融合
 [思考]:ザンクローネの身体を使い破壊の限りをつくす
※死骸と闘志、それに魔瘴が合わさり、魔瘴石のような形になっています。
※ザンクローネが死ぬと彼も死にます。

893 ◆OmtW54r7Tc:2018/05/03(木) 05:26:46 ID:QTXXukpM0
投下終了です

894 ◆znvIEk8MsQ:2018/05/23(水) 23:45:44 ID:RvKF9gRM0
投下します。

895ロザリーのために ◆znvIEk8MsQ:2018/05/23(水) 23:47:06 ID:RvKF9gRM0

「ロザリー………」
一人だけしかいない図書室で、譫言のようにつぶやく

今、彼女はどこでどうしている?
そういえば、ここへ連れてこられてから、彼女がどうなったか分からない。
しかし、まだ半日過ぎていない。
ロザリーヒルの住民達に、自分が留守中の間は護衛を頼んだはずだ。
それだけでなく、ロザリーヒルの塔も改築を行い、新しい隠れ場所を作った。
知っているのは自分とロザリーだけのはず。

たとえエビルプリーストが自分を凌駕するほどの力を入手しても、半日足らずでロザリーを攫うことなんて不可能のはずだ。


そう思うなら、信じなければいい。
あくまで証拠は一つもないのだ。
だが、それは信頼できる部下が命を懸けて送ってきた情報なのだ。
しかも戦いの舞台の片隅に置いてある本に手紙を挟むという、極めて不安定な手段で。
自分が見つけたからよかったものの、他人ならば有効に活用できない。
いや、逆に情報源として弱みを握られる可能性だってある。
既にこの場所では、情報というのは板金の価値があるというのは分かっていることだ。


しかし、どうすればよいか。
本当ならすぐにでもロザリーヒルに戻り、彼女の安否を確かめに行きたい。
だが、ここはまだ鍵の分からない箱の中。
ロザリーヒルへ行くどころか、抜け出すことさえ出来ない。
先程のドワーフの男曰く、ヘルバトラーと少し離れた所で出会ったそうだ。
しかし、そのヘルバトラーも詳しいことを知らされていないのかもしれない。
ひょっとしたら大分離れた場所に移動しているから会えないかもしれない。


流石にエビルプリーストもロザリーを捕らえても、すぐには殺さないだろう。
仮に自分が奴ならば、人質としていざという時の道具として利用する。
だからすぐにその対処に移さなくてもよい。



ロザリーを捕らえたのが奴ならば。



自分はこの戦いの主催者は別の存在だと疑っている。
そして大魔道の手紙で、予想はほぼ真実になった。
もし彼女を捕らえた存在が、自分の全く知らない存在ならば。
彼女は対自分への人質ではなく、自分が予想すらしないような何かに使われる可能性だってある。
兎に角、時間は経てば経つほど彼女の身に危険なことが起こる可能性がある。

896ロザリーのために ◆znvIEk8MsQ:2018/05/23(水) 23:48:32 ID:RvKF9gRM0
首輪のことも、気を配らねばならない。

大魔道の手紙によると、首輪の特徴はこうだ。

・録音機能
・エビルプリーストの魔力に反応して爆発する機能
・禁止エリアに反応する機能


そこでどさっと下から音がして、驚く。
それは自分が先ほどまでに持っていた「勇者死すべし」の本だった。
手紙に夢中になりすぎて、それを挟んでいた本のことは忘れていたようだ。

今は本に集中している場合ではない。
大魔道がこの本に手紙を挟んだことも相まってまだ気になるが、それどころではない。

考えろ。
幸いなことにこちらの行動は何もかもが筒抜けという訳ではないらしい。
少なくともこうやって考えている中身までは分からないだろう。
もし戦いが始まってしまえば、考えをまとめるのが難しくなる。
今のうちに情報を整理しておこう。
積極的に動くにしろ、そうでないにしろそれぞれの危険が伴う。

突然、部屋が暗くなる。丁度夕日が沈んだ。
これから、闇の時がやってくる。
闇に乗じて、この城に襲ってくる者も現れるかもしれない。

(諸君、ご機嫌如何かな?)
エビルプリーストの放送だ。
どうやら私のかつての部下の一人、キングレオが死んだそうだが今はどうでもよい。
ここから出て行った者達も今のところは無事なようだ。
今は脱出道具を探さねば。

(まてよ……?)

首輪の機能は分かった。
だが、あの3つだけでどうやって死者が分かるのだ?
既に手紙では生命反応や視覚機能は付けられていないということは確定している。

戦いの音や悲鳴?
いや、それだけでは不完全だろう。
影のように忍び寄る存在に、ひっそりと悲鳴を上げる間もなく殺されることだってあるはずだ。
首輪の監視以外に何者かが定期的に監視を行っている?


そういえば、大魔道が蘇ったというなら、エビルプリーストやアンドレアル達以外にも生きかえった者がいるかもしれない。

だが、生き物は目に見えなくても、誰かに見つめられていると自然と違和感を覚えるものだ。
この戦いが始まってからは、そのような感覚に覚えはない。
そもそも見知らぬ世界という以上、怪しいものに目を付けろと言われれば、森羅万象を疑わねばならない。
自分ほどの手練れをもってしても、気配が察知できないような存在は、エビルプリーストや自分の部下にいたことはない。

897ロザリーのために ◆znvIEk8MsQ:2018/05/23(水) 23:48:58 ID:RvKF9gRM0


先走るあまり考えがおろそかになるのは愚の骨頂だが、逆もまた然り。



そしてもう一つ気になる点は大魔道の手紙にあった、
「支給された即座に脱出可能なアイテム」だ。

これの正体が気になる。
もし誰かの支給品に紛れ込んでいるなら、是が非でも使いたいところだ。
命が惜しいわけではないが。ただ、ロザリーの安否を確かめるためにも使いたい。


しかし、その問題が2つある。
1つ目は、その道具が全く分からないこと。
どんな大きさか、どんな見た目か、何より誰が持っているかも分からない。
最悪の場合は、戦渦に巻き込まれて消失してしまったり、知らず知らずのうちに海にでも投げ捨てられてしまったかもしれない。

2つ目は、持ち主に道具をもらえるか。
仮に道具を持っている者を見つけたとしても、それを譲ってくれる可能性は低い。
強奪すれば即座に危険人物として扱わる。
かといって、「大事な人が気がかりだから元の世界に戻るためにそれをください」と頼んでも、譲ってくれる可能性は低い。
それ以前に過度に交渉すれば、自分がロザリーのことが気がかりであることがエビルプリーストに伝わりかねない。

結論を言うと、この状況で正体の分からないアイテムを探すのは極めてリスキーだ。

もう何時間か待てば、ヤンガスや例のドワーフの男が仲間を集めてきて戻ってくる。
上手くいけばその中に脱出道具の持ち主もいるかもしれない。
だが、期待しすぎるのも危険だ。

(ん?)
突然何かを蹴飛ばしたような気がした。
『世界道具百科辞典』

その本には書いてあった。
既に6時間以上この場で作業を続け、アスナやヤンガスも手伝ってくれたため、大分めぼしい資料が集まった。

しかし、これほどの優れた資料を見落としているとは思わなかった。

(これで脱出道具について、目処がたてられるか?)

ただし、いい加減なことが書かれているかもしれない。
まずは最初に自分が支給されていた道具について見てみる。

898ロザリーのために ◆znvIEk8MsQ:2018/05/23(水) 23:49:23 ID:RvKF9gRM0

目次を開く。

あった。
ふつうのチーズ、激辛チーズ。

 『ふつうのチーズ』
 どこの家庭にもある、食料としてのありふれた味のチーズ
 そのまま食べることもできるが、竜神族が食すことで、修行を積んでいない者でも簡単に火の息が吐ける
 使用対象者 敵全員
 錬金作成方法 おいしいミルク+レンネットの粉 もしくは超辛チーズ+輝くチーズ

 『激辛チーズ』
 神鳥守りし世界で生産されるチーズ
 人間がそのまま食べるのは難しいが、竜神族が食すことで、修行を積んでいなくても激しい炎を吐くことが出来る
 使用対象者 敵全員
 錬金作成方法 辛口チーズ+赤いカビ×2

なるほど。ヤンガスの言っていることと間違いないようだし、この本を信用してもよいだろう。

早速、どのような脱出道具があるか確認しておこう。

目次を開き、「移動道具」の項目をめくる。

 『移動道具』
 キメラの翼:   P9
 おもいでのすず  P65
 空飛ぶ靴:    P101
 魔法のじゅうたん P112
 おわかれのつばさ P238
 ドルボード    P303
 ブレイブストーン P355

(こんなにもあるのか……?)
この項目の中で知っていた道具は、キメラの翼と空飛ぶ靴の二つだけ。
全てがこの戦いで支給されているとは誰も言っていないし、この本にも載っていない道具が支給品に交じっているかもしれない。
それでも、参考にする価値はあるだろう。


その中で脱出のカギになれそうなものは二つ。

 『おわかれのつばさ』
 グランゼニスの創成せし世界固有の移動道具
 天使の中でも、特別な力を持った存在のみが作成可能
 別の世界から自分の世界へ帰るための道を開く
 使用対象者 一人 
 錬金作成方法 なし

見た目はキメラの翼と何ら変わらない。
何のことだかさっぱりな記述もあるが、元の世界に帰ることは出来そうだ。
出来てくれないとこちらが困る。
しかし、対象は一人ということから、事が知れば血を見るような奪い合いになるかもしれない。

899ロザリーのために ◆znvIEk8MsQ:2018/05/23(水) 23:50:51 ID:RvKF9gRM0
『ブレイブストーン』
 アストルティア固有の移動アイテム
 その出所は、竜族の世界とも、どこか別の世界だともいわれている。
 勇者が使うと、次元を超えて移動することが出来る。
 使用対象者 勇者と、その付近にいる者全員
 錬金作成方法 なし


とりあえず、めぼしい物としてはこの二つだ。
幸いなことに、この本には道具の絵も描いてある。
錬金で作れないのは残念だが、自分にはその技術は持ち合わせておらず、そのための環境も整っていない以上は、考えるだけ無駄だ。

とにかく、この本のおかげで、何を探せばいいのかは見当がついた。
まだ分からないことは多いが、これをチャンスに行動するべきだろう。

念のために、書置きは残しておく。
本当は後に戻ってくるはずのアスナやジャンボのためのものだが、まだ見ぬ敵が来ることも存在して、内容は最低限にした。
手っ取り早く人に見せるために、『おわかれのつばさ』と『ブレイブストーン』のページを抜き取っておく。
『世界道具百科辞典』と『勇者死すべし』は回収してザックに入れる。




図書館を後にするのは気が引ける。
知識は、傍から見れば狂っているとしか思えない考えを止めるための道具になってくれる。
ここは、その知識を享受する場所だからだ。

だが、このような状況なら仕方がない。



図書館を出てすぐに、頭上を見上げた。
そこにあるのは、闇夜に浮かぶ満月。
しかし、それにしては妙に大きく、強い光を放っている。

夜になっても明かりなしで本を読むことが出来たのは、月光のおかげだった。

まあ、創られた世界の月に関して、意見をどうこうと述べるのもバカげた話だ。
つくり物の月とロザリー、どちらに構うべきかというと、だれがどう考えても後者だ。

だが、何故かアレに気を取られてしまう

(月………)
月というと、自分の世界でも様々な噂はあった。
魔力の濃度は月光の量によって変わるとか、月には別の世界が広がっているとか。
自分の世界では、既に空を飛べる技術は備わっていたが、そこまで高くへ行くことはできなかった
ヤンガス達は以前、月世界の住人というのに会ったらしい。

(まさか……な。)
その話を照らし合わせると、何か思いつきそうな気がしたが、それは突拍子もない答えになりそうだからやめた。

ふと耳をすますと、かすかだが爆発音のようなものが定期的に聞こえてくる
あの場所で戦いがあるのだろうか。

900ロザリーのために ◆znvIEk8MsQ:2018/05/23(水) 23:51:13 ID:RvKF9gRM0
これからどこへ向かうか。
地図を見てみると、東と南へ向かう道があるようだ。
東へ向かえば町がある一方で、南には寂れた教会と荒野しかない。
ここは東へ向かう方が、多くの人に会えるだろう。
しかし、少なくとも何人かは東側へいる人はジャンボやヤンガスが連れてくるはずだ。
頼りすぎるのは危険だが、東にいる人物はトロデーンで合流できることを願って、ここは南側へ向かってみよう。
以前話した、アスナの仲間とやらにも会えるかもしれない。

脱出用の道具をどうしても見つけねばならない。

(すぐに戻る。それまで無事でいてくれ!!ロザリー!!)


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


(!!)
城を出てからしばらくして出会ったのはアスナとコニファー、そして見たことのない僧侶の女。

「ピサロの旦那……か」
「ヘルバトラーはどうなった?」
「どうにか倒したんだが……な……。」
最初に声をかけたコニファーは、片目が無くなっている。
しかし、あとの二人は体の欠損こそないが、コニファー以上にボロボロだ。

「これを知らないか?」


明らかに焦燥しているのは3人にも伝わった。
既にピサロに出会っているアスナとコニファーは、ピサロが冷静な人物だという認識があったので猶更である。

「どうしました?アリアハン『アイテム鑑定団』出場経験のフアナ……」
「前置きはいい。この二つを知っているか?」

アスナとフアナはピサロが見せたページを目を凝らして眺めている。
残念ながら見たことも持っていることもないものらしい。

「これは……どういうことだ?」
しかし、コニファーが呟いた。
「貴様!!知っているのか?」
ピサロが掴みかかりそうな勢いで尋ねる。


そこへピサロが紙切れを取り出した。
そこにはこう書いてある。

901ロザリーのために ◆znvIEk8MsQ:2018/05/23(水) 23:52:25 ID:RvKF9gRM0
『誰にも盗み聞きされたくない。ここに書いてくれ。』

何のことやらさっぱりだが、コニファーはそれに応じる。
『石の方はさっぱりだ。でも翼の方は、オレ達の世界のものだ。』

創造神グランゼニスの創りし世界、とはコニファー達の世界なのだろう。
『だとすれば、手掛かりはあるか?』
『ない。そもそもオレは見たことがない。ましてやこの世界で

「おい!!」
まだ書き終わってすらいないのに走り出してしまったピサロをコニファーは呼ぶが、反応はなかった。

「何なんですかあの男は!!イケメンなのを鼻にかけて冷たい態度を取っていますが、絶対女の子にモテませんよ!!」
「「……そういう問題じゃない………。」」


走っていくピサロを見送ったコニファーは、何か嫌な予感がした。
あの挙動不審さ
あの二つの道具の絵が描いた紙は、一体何なのか。

「おい、もう少しで城だ。大丈夫か?」
しかし、肝心なのはヘルバトラーとの戦いで傷を負った二人。
ピサロが走ってきた時は、襲撃を受けたことも危惧したが、争った跡は見られなかったので、その考えはすぐに検討した。


(無事でいろ!!ロザリー!!)
コニファーと別れて、すぐに走り出す。
彼の不運は3つ。

コニファーの話を最後まで聞いていなかったため、おわかれのつばさの持ち主の居場所を聞きそびれてしまったこと。
もう一つは、焦るあまり、その人物とニアミスしてしまったこと。

最後の一つは、ピサロが急に見つけたその本は、実は最初は図書館にはなかった。

誰が、どういった目的で、その本を置いたのかは分からないが、それは真実だ。



焦りは不運を呼び、不運はさらなる焦りを生む。

902ロザリーのために ◆znvIEk8MsQ:2018/05/23(水) 23:53:11 ID:RvKF9gRM0
【D-3/トロデーン城付近/夜】
【ピサロ@DQ4】
[状態]:HP:9/10 焦り
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 『世界道具百科辞典』 『勇者死すべし』 大魔道の手紙
[思考]:図書室で首輪を外す方法を探す  エビルプリーストをこの手で葬り去る 南へ向かう脱出用道具を見つけ、ロザリーの安否を確認する。
余裕があれば第三放送頃に戻る。
1:ロザリーはどうなった……?
※ジバ系呪文を実際に見せてもらいました。
※エビルプリーストの背後に黒幕がいることを、手紙によってほぼ確信しました。
現状ではラプソーンが怪しいと考えています
※首輪の仕組み、機能を知りました


【アスナ(女勇者)@DQ3】
[状態]:HP1/10  MPほぼ0性格「ひっこみじあん」 肋骨骨折、内臓一部損傷
オルテガ、サヴィオ死亡による情緒不安定
[装備]:ゴディアスの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)  サヴィオの支給品一式 道具0〜1個バレットハンマー@DQ10 オーガシールド@DQ5 
     ウェディングドレス@DQ9 アルゴンリング@DQ8
[思考]:エビルプリーストを倒す。
ひっこみじあんを克服したい。
   :トロデーン城で休息をとる
[備考]:不明支給品の中に性格を変える効果を持った本や装飾品は入ってません。
    トロデーン城の地理を把握しています。

【コニファー(男レンジャー)@DQ9】
[状態]HP2/5 MP1/5片目喪失  アーク死亡による喪失感 ピサロへの不信感
[装備]かりうどの弓@DQ9、毒矢25本 
[道具]支給品一式 ) カマエル
[思考]自分が生きているという感覚を保つため、とにかく生き抜く。
   仲間を探す。 アスナとフアナを先導する。

【フアナ(僧侶♀)@DQ3】
[状態]:HP1/8 MP0  ゼシカ、サヴィオ死亡による喪失感
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜3(本人確認済み)
[思考]:トロデーンへ行き、休憩する。
※バーバラの死因を怪しく思っています。

903ロザリーのために ◆znvIEk8MsQ:2018/05/23(水) 23:53:32 ID:RvKF9gRM0
投下終了です。

904ただ一匹の名無しだ:2018/05/24(木) 20:00:08 ID:hXW0/L5Y0
投下乙です
ピサロ、現状手掛かり一番多く持ってるし、なんとか頑張ってほしいが…どうなるかな
第二回放送見る限りロザリー誘拐はエビルプリーストの意思じゃなく黒幕の仕業っぽいが、単にピサロを動揺させるためなのか、それとも別の狙いがあるのか…

905誇り高き竜の夢 ◆2zEnKfaCDc:2018/05/27(日) 21:49:16 ID:WJR0iMFY0
投下します。

906誇り高き竜の夢 ◆2zEnKfaCDc:2018/05/27(日) 21:50:42 ID:WJR0iMFY0
「終わったのか。」

「ああ。」

人と竜とは再び顔を合わせる。
ただ、レックは先の戦いでの疲弊が落ちきっていないのを竜王は見て取れた。

「…言わずとも分かる。良い結果には終わらなかったのじゃろう?」

「そうだな。戦いには勝ったけど…犠牲もあった。」

渡した薬をレックは自分自身には使わなかったのだろうと竜王は推察する。
尤もあまり不服ではなかった。
レックはそういう男だと竜王には分かっている。

「しばらく休むがよい。そんなボロボロな貴様を倒したところで、ワシの名に傷がつくのみよ。」

「悪いな。俺も少し、休みたかったところなんだ。」

休んでいる間に殺されるようなこともないだろう。
竜王はそういう男だとレックには分かっている。

戦いを重ね、誰かの死を噛み締め、仲間や妹の死を恐れ――――――
早い話が、肉体的にも精神的にも限界だった。

907誇り高き竜の夢 ◆2zEnKfaCDc:2018/05/27(日) 21:52:25 ID:WJR0iMFY0
そうしてしばらく瞑想にふけっていると、不意に竜王がレックに話しかけた。

「ときにレックよ。貴様にとっての戦いとは何じゃ。」

レックは自分を殺そうとして戦っていたわけではなかった。むしら、レックは自分を懐柔するために戦っているような印象を覚えた。
戦いに勝つために勇者アレフを懐柔しようとしていた、かつての自分との違いを見出したかったのだ。

「ただの手段さ。失いたくない大切なものがある。それを失わないために戦うんだ。だからお前とも戦わなくて済むのならそれが一番だと思ってる。」

レックは一度、戦いから逃げた男だ。
戦うのが怖くて、夢の世界のレックを創り出した。
現実の自分と合体した今も、戦わなくて済む道があるのならば迷わずそれを選んでいるだろう。

「貴様らしい答えよ。じゃが、ワシは認めぬ。自分の領域を侵されぬためにしか戦えぬのならそれは獣にすら劣るではないか。」

「何が言いたいんだ?」

「悪を前にして躊躇をするなと言うておる。この世界に蔓延る悪は受け身の姿勢のみで打ち破れるようなものではない。現実を見よ。」

人間たちの力が集まれば、強大な悪も必ず打ち破れる。
だからこそ、何をすべきか分かっていない者には現実を見せなくてはならない。
誰かが守ることを想定してミーティア姫を攻撃したのも、彼女にまだ本当の悪というものが見えていなかったからだ。

908誇り高き竜の夢 ◆2zEnKfaCDc:2018/05/27(日) 21:54:31 ID:WJR0iMFY0
「現実、ねぇ…。なんというかさ、お前は本当に悪なのか?こういう会話とか見ててもさぁ、やっぱり純粋な悪、というようには見えないんだよね。」

「そうじゃな、お前の思う悪とは異なるやもしれぬ。ただワシは人と協力する気がないだけじゃ。かといってあの魔族に従って殺し合いに身を投じる気も毛頭ない。ワシは誇り高き竜として――――――戦い抜くのみよ。」

「それだよ、その"誇り"ってやつ。そんなもんに振り回されて色んなもんを見失ってるんじゃないの?」

「貴様…我が誇りを愚弄する気か?」

竜王はレックを鋭く睨みつける。
おーこわ、と首をすくめながらレックは話し続ける。

「お前の言う誇りってのはお前の思い描く理想像だ。誰に強制されたわけでもなく、自分がどうありたいかを語っている。」

「それの何が悪い。理想なくして野望は叶わぬ。」

「悪いとは言わない。でも人はそれを"夢"と呼ぶんだ。そんなものに執着して現実の自分から逃げたところで何も守ることなんて出来ない。お前は俺に現実を見ろと言ったけどさ――――――」

一度夢へと逃げたレックだからこそ、そして多くの"夢"と向かい合ってきたレックだからこそ、伝わることがある。

909誇り高き竜の夢 ◆2zEnKfaCDc:2018/05/27(日) 21:55:27 ID:WJR0iMFY0

「――――――俺は誰よりも現実を目の当たりにしてるんだ。だって俺は、世界に広がる"夢"を終わらせたんだから。」

竜の王としての誇りの否定。
竜王の糧となってきた戦う意味を引き剥がしていく。
これ以上誰かを失うのは嫌だ。
竜王が真の悪でないのならば、きっと届くはずだと信じて。

「じゃが、ワシはこの生き方以外の生き方を知らぬ。産まれてから一度も、誰もワシの隣には立っておらんかった。」

竜王もレックが闇雲な言葉を投げかけているのでないと知っている。
竜としての誇りを否定する言葉の裏には、紛れもなくそれを語るだけの実力がある。それを語るだけの過去もある。

「だったら俺が教えてやる。俺の――――――いや、人の仲間になれ、竜王。お前とならきっと皆を守れる。もう誰も犠牲になんてさせない。」

「ククク…ワシが仲間、か。そんなことを言った者は貴様が初めてよ。じゃが献上品は――――――世界の半分じゃあ足らんぞ?」

「悪いけど、俺の世界はもう半分無くなってるんでね――――――」

一瞬だった。
レックは鋼の剣を竜王の喉元に突きつけた。

「――――――だからこそ、もう誰も犠牲なんて作らない。お前が俺の前に立ち塞がると言うのなら、悪として誰かを殺すと言うのなら、俺はお前を斬るだけだ。これは勧誘じゃなく、警告なんだよ。」

先程の戦いでは、トドメを刺す寸前に情けをかけようとしてバルザックの最後の攻撃を許してしまい、また仲間を死なせてしまった。
もしも竜王が敵ならばもう迷わない。例え本意ではなくとも、皆を守るためならばこの手で竜王を斬ることも覚悟している。

「なるほど、一皮剥けたようじゃな。ならばワシも――――――本気で応えねばなるまい。」

誇りに従い竜としての道を貫くのか、自分の心に従い人へと歩み寄るのか。
最後の選択の時がついに訪れたのだ。

910誇り高き竜の夢 ◆2zEnKfaCDc:2018/05/27(日) 21:56:22 ID:WJR0iMFY0
【C-7/荒野/1日目 夜】

【レック@DQ6】
[状態]:HP1/5 MP6/7
[装備]:鋼の剣
[道具]:支給品一式、大魔神の斧@DQJ 蒼炎のツメ@DQ10モリーの支給品1~3個 確認済み支給品1~2個
[思考]:竜王を仲間にする。叶わないのなら殺す。ターニアを探す。

【竜王@DQ1】
[状態]:HP3/5 背中に傷
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1個
[思考]:悪を演じ、誇り高き竜として討たれる。
[備考]:レックの仲間になるか、自分の誇りを貫くか悩んでいます。

911誇り高き竜の夢 ◆2zEnKfaCDc:2018/05/27(日) 21:57:26 ID:WJR0iMFY0
投下終了です。

912ただ一匹の名無しだ:2018/05/27(日) 22:18:34 ID:l1ijTFBg0
投下乙
二人の台詞回しがかっこいい…
竜王の世界の半分発言に対する言葉、レックならではで上手いなって思った

913想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:01:56 ID:7rxWTKjA0
まだwikiの方が深夜到達していませんが、投下から採用までの一定時間は満たしていると判断しゲリラ投下します。
仮に「ロザリーのために」「誇り高き竜の夢」のどちらかが没となれば一旦この話も没にしてください。

914想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:02:39 ID:7rxWTKjA0
(――――――一緒に戦ってくれって言ってんだよ。後れを取んじゃねえぞ!)

(――――――はっ、こっちの台詞よ!)

この催しが無ければ、いつか訪れるはずだった未来。
いつか背を預け合うはずだった二人は向かい合い、闇の中へと消えていく。
かつての信頼関係にはかつてない亀裂が入ってしまった。

時にはコロシアムでの立ち回りへの不満、時にはコインの持ち寄り詐欺。
信頼関係の崩壊などアストルティアでは日常茶飯事であった。

(そう、よくあることじゃねえか。今更何を迷ってやがるってんだ。)

ヒューザはもちろん、冷酷であるはずのジャンボでさえも冷や汗をかいている。
未来は無から生まれるわけではない。
いずれ結ばれるはずだった信頼関係も、それに至るまでの"過去"は間違いなく存在していたのだ。
ジャンボもヒューザも少なからず迷っている。

そんな中、戦いの口火を切ったのはジャンボだった。
迷いを振り切るかのように弓を引き、その手を離した瞬間に風切り音と共に"殺し合い"は始まってしまった。
放たれた矢に合わせて魅了されたゲレゲレがヒューザに飛びかかる。

915想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:03:21 ID:7rxWTKjA0

この暗闇の中、矢の軌道を読んで弾くというだけでも至難の業なのに、目の前のゲレゲレに意識を集中しておかなければ喉笛を即座に掻っ切られかねない。
ゲレゲレの隙をついて狙撃手のジャンボを無力化させようにもそもそもジャンボの姿は暗闇の奥。また、鼻のきくゲレゲレも 相手にしているのでは逆に暗闇を利用することも不可能である。
さらに、傷らしい傷を負っていないジャンボとさっきまで死にかけていたヒューザではコンディション差も著しい。
戦局は明らかにジャンボに傾いているかのように思える。

「でもよ――――――」

連射された矢をサイドステップで躱しながらヒューザは笑う。

「――――――とち狂ったダチの目を覚まさせないまま死ぬわけにはいかねえさ。」

「馬鹿が、とち狂ってんのはどっちだっつーんだ。いい加減現実を見やがれ。」

それぞれがそれぞれの想いを押し付け合う。ただそれだけのことなのにふたりは殺し合う。それは両者が男であるからに他ならない。
話し合って折衷案を探す、互いに干渉せずそれぞれの道を歩む、そういった妥協案はふたりの中に存在しない。
ふたりとも相容れない友を自分の道へと引きずり込むために戦っている。

「ヒューザ、俺たちの世界が滅びるんだぞ!てめえはそれを指くわえて見てるってのか?」

言葉と共にさみだれうちを撃つ。
ヒューザにとってはククールとの戦いでも見た技だ。軌道を見切り、間一髪で身を躱す。

「だからって他の誰かを犠牲にしていいって道理にはならねえだろうが!そうしなくていい道を探すことは出来ねえのかよ!」

「詭弁だな――――――」

「ガウッ!」

ヒューザの躱した先にゲレゲレが走り、悪魔のツメを振るう。
ツメでの戦闘において最も理想的なのはゼロ距離に近い近接戦。
ゼロ距離の相手では剣もハンマーも振るいにくくヒューザの攻撃は通らない。
大筋は剣とハンマーで防ぐものの、一部は防げずにヒューザの体に着実に傷をつけていく。

916想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:04:03 ID:7rxWTKjA0
さらに剣とハンマーの射程圏外にいるジャンボが追撃のサンダーボルトを放つ。

苦手とする2種類の射程からの同時攻撃にヒューザは対応出来ない。

「ぐあっ…!」

「――――――手段を選んでたら掴めないものだってあるんだぜ。」

「くそっ…俺の相手は…てめぇじゃねえ…うらぁ!」

そんな中でゲレゲレを何とか振り払い、少ない魔力を振り絞りランドインパクトを放つ。
地表を隆起させ、ゲレゲレの接近を妨害した上で微かに見えるジャンボの姿を追う。
当然、それを許すジャンボではない。剣の届く距離まで近づかれれば弓の出来ることなど限られている。
近付くのを拒むように、再びさみだれうちがヒューザを襲う。
ヒューザから距離をとったジャンボは再び暗闇に紛れて見えなくなった。
剣も想いも、ジャンボには届かない。

「くっ…どこだ…?」

背後からはゲレゲレが迫ってくる。
振り下ろされた爪を躱し、そのまま蹴りを入れる。
ジャンボに操られているだけのゲレゲレを殺すのはヒューザとしても忍びないため、チャンスではあったが斬撃を入れることはしなかった。

(集中しろ…見えねえ敵ならさっき攻略したばかりじゃねえか…!)

目を閉じ、全神経を研ぎ澄ます。
ヒューザの落ち着きぶりに困惑したか、背後から足音が漏れ、更に矢を放つ音が聞こえた。
咄嗟にヒューザは横に逸れて矢を躱す。

(コイツ…見えてやがんのか!?)

矢の方向から位置は掴んだ。今度こそジャンボへと近づいていく。暗闇の中のジャンボの輪郭がハッキリと見え始める。

「うおおおおお!!」

雄叫びを上げ、矢を放ち続けるジャンボに突撃する。防ぎきれなかった矢がところどころ腰に刺さっていくが問題無い。剣はジャンボを捉えている。

917想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:05:00 ID:7rxWTKjA0
「うらぁ!」

勢いのままに斬りつける。
素早さに任せた戦闘スタイルのジャンボ相手にはまず一撃、機動力を落とせるだけの攻撃をぶつけたいところだ。しかし――――――

「嘘…だろ…」

ジャンボに剣は届かなかった。
バトルマスターの一撃を、弓装備のレンジャーの腕力と装備で受けきれるはずがない。
だが目の前では現実に、ヒューザの剣をジャンボが弓で受け止めている。

「馬鹿正直に突っ込んでくるからだ。簡単にお前の射程内で戦わせてやると思ってたら大怪我するぜ。」

ヒューザの剣技の威力が鈍ったのはジャンボの放った暗黒の霧。
元々辺りが真っ暗なため、ジャンボにとって有利なフィールドが作り上げられていることにヒューザは気づけなかったのだ。
それでも幻惑状態に陥ることがなかったのはククールとの戦いで受けたマヌーサにより、微かに耐性が出来ていたからか。

攻撃力が下がっていようとも、剣VS弓の鍔迫り合いという有利な状況に加え、左手にはハンマーも持っている。
このまま続ければジャンボの守りを崩せるのも遠くないだろう。
ただし、ゲレゲレという存在がそれを許さない。
襲いかかる爪撃をハンマーでいなすが、その隙にジャンボに1歩下がることを許してしまう。

(駄目だ…ここでジャンボを逃がしちまったら…もう届かねえ…!)

魔力に余裕のないヒューザのジャンボへの攻撃手段は限られている。
そしてその限られた攻撃を絡め手で充分捌けるだけの技術をジャンボは持っている。

だが、幸いなことにジャンボはヒューザと直接手合わせしたことがなかった。
ジャンボから模擬戦を申し込んだことはあったが、過去に修行中の事故で偶然にも"ジャンボ"という名の友を殺めてしまったことのあるヒューザはどうしてもそのことを思い出し、それを断り続けてきたのだ。

だからこそ、ジャンボはコロシアムで他のバトルマスターとは何度も戦ったことがあるからとヒューザの立ち回りをその範疇でしか考えられていない。
ジャンボはヒューザの軒並み外れた戦闘センスと彼の闘魂を測り損ねていたのだ。

「逃がさねえ!」

ヒューザはゲレゲレの攻撃を最小限の動きで潜り抜け、気合いだけでジャンボに突撃していく。

「なっ――――――」

そして一閃。
霧の力で弱体化した剣をジャンボは弓で防ぐ。
だが、まだ終わらない。
ここでジャンボを逃がしてしまっては、何のために近接戦闘での技捌きに優れた片手剣を使っているというのか。

「超――――――隼斬り!」

「ぐあ!」

受けられた一撃では飽き足らず、隼斬りさえも超える神速の3連撃を加えていく。
だが、それでもまだ終わらない。
二刀流の内、まだ右手の片手剣しか使っていない。
左手のハンマーを振りかぶる。

918想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:05:52 ID:7rxWTKjA0
「いい加減、目を覚ましやがれえぇぇ!!」

連続攻撃の内のたった一撃。
それも利き手ではない左手での一撃。到底死ぬような威力の攻撃ではない。

だが、友の目を覚まさせるには充分だ。



――――――届いていれば、の話だが。

ヒューザは突然、左足に強烈な痛みを感じた。

「間に…あったか…!」

「なにっ…!」

ヒューザがゲレゲレを振り払うのにもう少しかかると踏んでいたジャンボはとあるワナを用意していた。

それはロッキールの支給品だった「ワナの巻物」と「ワナ抜けの指輪」による一方的なワナの結界。

ヒューザの予想外の攻撃でダメージを受けてしまったが、最終的にはジャンボの思惑通りワナに嵌めることに成功した。

しかも、ヒューザが踏んでしまったワナは運悪くトラバサミだった。薄黒い刃がヒューザの足をガッチリと掴み移動を封じる。

そして、背後からはゲレゲレが迫る。
ヒューザに飛びかからんとするその瞬間――――――



「――――――ゲレゲレ、待て。」

ジャンボがゲレゲレを制止し、武器の届かない位置からの対話にかかる。

「さて、これで戦いは俺の勝ちだ。俺はいつでもお前を殺せるんだぜ。」

「それがどうしたよ、恩でも売って協力させようってか?」

「ああそうさ。何もしなかったらアストルティアは滅びる。だがよ、今なら防ぐことが出来るんだ。」

一度、目を閉じる。
確かにジャンボの言うことは筋は通っている。
アストルティアが滅びる。
今居る場所がアストルティアではないからその重みを正確に測りきれていないのかもしれない。
アストルティアの滅亡を防ぐために他の世界を滅ぼすことになったとしても、こればかりは正当防衛ではないか。自分の世界とどこかの誰かの世界を天秤にかけた時にどちらに傾くのか、ただそれだけの話ではないのか。

919想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:06:48 ID:7rxWTKjA0


「――――――はっ馬鹿馬鹿しい。」

ヒューザは嘲笑と共に顔を上げる。
後は任せた――――――最期の時にメルビンはそう言った。命を投げ出してまで自分の可能性を信じてくれたメルビンの想いも自分の中には宿っているのだ。
ここで命惜しさに誰かの大切なものを奪う側に回るのがメルビンの意志なのか、そんなこと、言うまでもなくNoである。

また、ヒューザはククールを殺したのだ。
それが間違っていたとは思わない。誰かが止めなければククールはまた誰かを殺していたのだから。
しかし、ククールを悪として断じたヒューザはククールと同じ奪う側に回るわけにはいけない。それが奪った命に対して筋を通すということなのだ。

「お断りだ。そんな生き延び方した俺じゃあ、家族が出来た時に胸張れねえだろうが。」

そう言い張れたヒューザに、後悔は無かった。

「まあお前らしいと言えばお前らしい死に方だよな、ヒューザ。その強情とも言えるほど真っ直ぐなとこ、嫌いじゃなかったぜ。」

暗闇の中、ヒューザは微かにジャンボの顔を垣間見た。
自分たちの世界を何としても守り通そうとしているジャンボ。しかし、その目の先にはヒューザのことも――――――そしてジャンボ自身のことも映っていないように思えた。

「ジャンボ、お前は――――――誰のために戦ってる?」

「……そんなモン、俺のために決まってんだろうが。」

「違う、てめーは冷酷だが理不尽じゃねえ。」

ヒューザの言葉がジャンボに突き刺さる。
他人のために戦うような"いい奴"はこの世界では生き残れない。それはジャンボが何度も実感してきたことだ。

「チッ…やっぱお前は鋭いな、ヒューザ。だがな、間違ってるぜ。誰かのためじゃねえ、俺が戦ってんのはあくまでも、俺の――――――"ジャンボ"のためさ。」

ヒューザに背負うものがあるように、ジャンボにもまた背負うものがある。ジャンボの本質は悪ではないのだ。

「この世はな、弱い奴が犠牲になることで成り立ってんだ。そして――――――」

おそらく、これは相手がかねての友であるヒューザであったからだろう。

「――――――そんなクソッタレな世界の中でも、何としても守りてえモンもあるんだよ。」

相手がヒューザであったから、ジャンボは心の内に仕舞い続けてき本音を零してしまったのかもしれない。

920想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:07:37 ID:7rxWTKjA0
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

多種族が混在するアストルティアには、種族差に関する問題が少なからず存在した。
ジュレットの町での猫族とウェディの関係もその一例といえる。誰も虐げられることのない世界、それは多くの人が掲げる理想像だろう。

しかし、それはなくなることがないとジャンボは悟ってしまった。
弱き者を犠牲にしているのは人でも魔物でもない、この世界なのだから。

そのことに気づいたのは、破邪船の技術を復活させるために過去の世界に旅立つ際に、人間の姿のままふとアグラニの町へと立ち寄った時だった。
ジャンボが人間の姿へと変わった時、アグラニの町のジャンボは何かしらの大いなる力で最初から人間だったことになっていたのだ。

最初は随分と優遇されているものだ、程度にしか思っていなかった。自分のために世界中の者たちの記憶を書き換えてくれるとは、何と畏れ多いことだろうか、と。

しかし、ジャンボは最初からおかしかったことに気づいてしまった。
ご丁寧にオーガ、ウェディ、プクリポ、エルフ、そしてドワーフのどれに転生するかどうかを選ばせておいて、ドワーフを選んだら「偶然にも同姓同名の、偶然にもドワーフの男が、偶然にもたった今死んだ」と何者かは言った。

そんなわざとらしい偶然も、この世界が人の過去を平気で捻じ曲げるように作られているのだとすると説明がつく。

次にジャンボが考えたのは、一体何が偶然ではなかったのかということ。

仮説がひとつ。
もしかしたら、"ジャンボ"の名前はジャンボではなかったのかもしれない。
本当に偶然死んだだけのドワーフの男が、ジャンボという名前だったことにされているだけなのだろうか。
それならばまだ罪悪感は薄い。

しかし想像はそこで終わることは無かった。
この時ばかりは、ジャンボは自分の頭の小賢しさを疎ましく思うこととなる。

921想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:08:55 ID:7rxWTKjA0
――――――そう、もしかしたら"ジャンボ"は世界を救うこととなる自分の受け皿となるためにこの世界から殺されたのかもしれないのだ。

ジャンボは世界を旅する中で様々な称号を授かるだけの功績を残してきた。
しかしその下には、弱き者の犠牲がある。世界から見放された者たちがいる。
その理不尽にも、そしてその理不尽の上に胡座をかいて座っている自分自身にも嫌気がさす。

しかし弱き者はその理不尽を受け入れるしかなく、そんな世界の仕組みを変えるだけの力が自分にあるわけでもない。

「だったら――――――せめてお前の居場所くらいは守り抜いてやるさ、"ジャンボ"。」

自分がこの世界における弱き者ではないことは分かっていた。
むしろ、自分を中心に世界が回っているかのような感覚さえ覚えるくらいにアストルティアの旅は上手く進んでいった。

でも、このアストルティアは本来は自分の世界ではない。
自分は冥王ネルゲルに殺され、自分の居場所は既に失っていたはずなのだ。今ここにいられるのは"ジャンボ"の居場所を奪っているだけに過ぎない。

居場所を失うのは自分だけでいい。
住んでいた家も、親しい友人も、大切な兄弟も、全て炎の中に飲み込まれていくあの光景を、あの想いを、"ジャンボ"には味合わせたくなかった。

自分が奪った居場所をいつか返せる時が来るのなら――――――いや、仮に返せなくとも自分を通じて"ジャンボ"が居るべき場所に居られるのなら――――――



――――――こんな理不尽なアストルティアでも、襲いかかる脅威から守っていこうと誓った。

それがジャンボにとって、奪った命に筋を通すということなのだ。

そう、ジャンボは借りはきっちり返すタチであった。
金も、怒りも――――――そして、自らの罪も。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

922想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:10:26 ID:7rxWTKjA0

(どうした…?なぜ撃ってこねえ?)

ヒューザとジャンボは未だに硬直していた。

トラバサミによる拘束も時間制限はある。
交渉に応じないヒューザを殺すには絶好のチャンスだというのに、ジャンボはヒューザを殺さずにいた。

いや、殺せずにいたのだ。

それも当然だった。
見ず知らずのククールでさえ、ヒューザを殺すことに迷いながら剣を振るっていたのだ。
2年以上の付き合いであるジャンボが迷わない道理はない。

アストルティアを、"ジャンボ"の居場所を守るために戦ってきたはずだった。
それなのに何故、アストルティアを守る側の存在であるはずのヒューザと戦っているのだろう。
感情がぐるぐる渦巻いて止まらない。
もはやジャンボはヒューザを殺すことを心の底で拒んでいることを認めざるを得ない。
そしてそのことに気づいた今、自らとどめを刺すことも躊躇われた。

「ゲレゲレ、コイツを殺せ!」

行き場を失くした力を腹に込めて叫ぶ。
そして操られた執行者は当然、躊躇うこともなくヒューザを見据え飛びかかる。
ジャンボから待てをくらっていた間、ずっと力を溜めていたのだ。
今までのどの攻撃よりも強力な一撃がヒューザに向かって放たれんとしていた。

「悪いな、ゲレゲレ。男と男の戦いに第三者はいらねえんだ。」

かといってヒューザも負けるわけにはいかない。
ジャンボの繰り出したのは逃げの一手だ。
決まっていない覚悟をゲレゲレに託して逃げているだけ。
そんなものに負けるヒューザではなかった。

「スタン――――――」

ヒューザはハンマーを右手に握る。
片手剣や両手剣に比べた場合、ハンマーの役割は敵を殺すことではない。キャンセルショット然りMPブレイク然り、敵の戦力を排除すること。
そしてゲレゲレに向けて放つのは、その真髄とも言えるハンマーの大技。

「――――――ショット!」

脳天にハンマーの衝撃が響き渡り、ゲレゲレの爪はヒューザに届くことなく地に伏すこととなった。
そして、これは魅了された仲間に対する対処法としても有効な一手でもある。
ツッコミを入れる、タライを落とす、そのような対状態異常専門の特技を覚えていなくとも魅了状態は解除出来るのだ。
そしてその方法は至ってシンプルで、殺さない程度に殴れば時々治る。

923想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:11:36 ID:7rxWTKjA0

「逃げは許さねぇぜジャンボ、てめぇがかかってきな!」

拘束していたトラバサミも消え、再びジャンボに向き直る。

「仕方ねえな…お望み通り、この俺が引導を渡してやらあ!」

ゲレゲレが気絶し、本当に覚悟を決めざるを得ないことを認識したジャンボが弓矢を引く。
その矢は暗闇の中でもなお禍々しく映るほど濃い闇に染まっていた。

(ククール。お前のことを許すことは出来ねえけどよ、お前がただ邪悪なだけの奴じゃねえことは知ってる。だからよ、お前みたいに道を踏み外した奴の目を覚ますため、少し力を貸してくれ。)

ヒューザの持つハンマーに一筋の光が灯される。

(メルビンのじーさん。あんたの信じてくれた可能性ってもんに掛けてみるさ。あんたに顔向け出来ないような真似だけは、したくねえからな。)

ヒューザの持つ剣に一筋の光が灯される。

「――――――ダークネスショット!」

向かい合うジャンボの弓から大技が放たれる。
まるで死を象徴しているかのように真っ黒な一撃。
ヒューザの残り少ない魔力で迎撃出来るような生半可な威力ではないだろう。

しかし、今やジャンボは完全に独りだ。
それに対しヒューザは独りではない。
殺し合いの世界であっても触れてきた人々の想いがあった。
ジャンボがどれだけ強い想いを抱えていても、精神的に孤立している限りそこに「チャンス」は生まれる。

「――――――グランドクロス!」

放ったのはククールが撃ってきた特技。メルビンが命を張って撃ち返した特技。
ふたりの想いを背負い、見よう見まねで撃ち出す。

「ぐっ…てめぇ…どこにこんな魔力を残してやがったんだ!」

「てめーには分からねえさ。誰かの想いを踏みにじる奴にはよ!」

光と闇、対となるふたつの力がぶつかり合い、完全に拮抗する。
ふたりの立場は正義と悪に分断出来るものではない。背負うものが本質的に違うだけなのだ。
だからこそ、正義は勝つという正統論では決着がつかない。

勝敗を決めたのは背負った想いの数だった。
ヒューザのグランドクロスが更なる力を発揮する。
メルビンの想い、ククールの想い、それぞれを乗せて作られた光の十字架。そしてそれを正面から貫く三本目の光――――――ヒューザの想いまでもを乗せた三連撃がジャンボの操る闇の力を消し去った。

「うがあああああ!!」

グランドクロスの余波を受けたジャンボは咄嗟に防御の姿勢を取り、ダメージを軽減する。
しかしそれは同時に大きな隙となる。
ヒューザは一気にジャンボとの距離を詰め、ジャンボの手に収まっていたナイトスナイパーをハンマーで叩き落とす。

「俺たちの戦いに、武器なんざいらねえ!」

そして、ヒューザ自身もまた剣とハンマーを投げ捨てる。
武器が拳ひとつとなったヒューザは思い切りジャンボを殴りつけた。

924想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:12:28 ID:7rxWTKjA0
「ぐっ…てめえ…!」

「さあ、始めようぜ、ジャンボ。俺たちの第2ラウンドを。」

ヒューザはジャンボを殺す気など毛頭ない。
友人同士として腹を割って話すのに凶器など不要だ。
そしてこの瞬間、二人の"殺し合い"は幕を閉じた。
始まるのは、拳と拳の、想いと想いの、ぶつけ合い。

【E-3/草原/真夜中】

【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:1/4 MP4/5
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、道具0〜2 天空の剣、罠抜けの指輪 罠の巻物×2 ドラゴンローブ
[思考]:
基本方針:エビルプリーストに借りを返す。レックとチャモロを殺す。
1:自分の行いを知っている者達の口封じを行う。
2:自分の知り合いを探す
3:どうにかしてどうぐ使いに転職し、首輪解除を試みる

[備考]:※職業はレンジャーです。少なくともサバイバルスキルが140以上、弓スキルは150です。
※エビルプリーストの背後に黒幕がいるのではと疑っています

【ゲレゲレ(キラーパンサー)@DQ5】
[状態]:HP1/4、胴体にダメージ(中)、身体側面に切り傷 魅了?(※) 気絶
[装備]:悪魔のツメ@DQ5
[道具]:支給品一式、四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1
[思考]:
基本方針:主催を倒して脱出する。

※気絶から立ち直った後、ジャンボの「てなづけ」による魅了が解除されているかどうかは次の書き手さんにお任せします。解除されていなければヒューザを倒した後、禁止エリアへ行くことになります。

【ヒューザ@DQ10】
[状態]:HP1/5 MP0
[装備]:無し
[道具]:支給品一式 支給品0〜1
[思考]:仲間を探す 、ホイミン、ターニアを守る
ジャンボ、ゲレゲレを止める

※近くにターニアの支給品のランタン、ナイトスナイパー@DQ8、名刀・斬鉄丸@DQ10、天使の鉄槌@DQ10が落ちています。
ワナの巻物によるワナはトラバサミと共に時間経過で消えました。

925想いを背負って ◆2zEnKfaCDc:2018/06/01(金) 02:13:45 ID:7rxWTKjA0
投下終了しました。

926ただ一匹の名無しだ:2018/06/01(金) 20:18:13 ID:ckohvGxo0
投下乙です
ここで止まるかー!
近くにアンルシアとかエイトとかいる中、どういう決着が着くだろうか
ヒューザはもとより、ジャンボも自分の主張を曲げる気はなさそうだしなあ
ネルゲルとの決戦時の約束とかもあって、10主にとって身体の元主の存在は重いからなあ

927 ◆znvIEk8MsQ:2018/06/10(日) 14:09:44 ID:zEIRyHuU0
まだ一時投下の方の採用が決まっていませんが投下しますね。

928孤独な王 ◆znvIEk8MsQ:2018/06/10(日) 14:10:49 ID:zEIRyHuU0
ポーラの追撃を振り切ったアベルは、北へ向かっていた。

時刻は既に夜7時を過ぎている。
太陽の加護を受ける時間は、既に終わった。
あるのは、闇。

月や星の光こそあるが、そのような弱い光ではこの男を照らすことは出来ない。
闇を呑み込み、闇に染まった剣を持ち、闇を撒き散らしながら男は進む。
向かうあてもなく。


闇は、様々な幻を見せる。


一人目に現れたのは、悪魔神官の少女
仮面に塞がれて顔全ては見えないが、笑っているのが分かる。

「あなたはまだ、幸せを見つけていないのね?」
「黙れ。」

邪悪な瞳で睨みつけ、剣を一振り。
消える。

それもそのはず。彼女は自分が殺したから。


次に現れたのは、高貴な身なりの女性
顔も体も覆っている部分が少ないため、一層笑っているのが分かる。

「心は私よりも醜くなったようですね。」

突然、自分が切り刻んだ時の姿に変わる。
それでも冷たく笑っている。

次に現れたのは、リオウ。
やはりというか、笑っている。
「主殿、まだまだ足りぬぞ。もっと破壊しようではないか。」

予想通り、というわけか。
今度現れたのは、港町で刺し殺した少女。
彼女もまた、笑っている。


笑っている。
この世界で関わって、死人となった者が、皆笑っている。

何がしたい。
自分の生きざまを、笑いに来たのか?
自分の負けてばかりだった人生が、そんなに見ていて面白いか?

929孤独な王 ◆znvIEk8MsQ:2018/06/10(日) 14:11:19 ID:zEIRyHuU0

「消えろ!!」

剣をまた一振り。
それらは、どこかへ消える。


今度現れたのは、自分の息子
リュビは、笑っているのではなく、泣いていた。

「おとうさん!!お願い!!やめて!!」

そして、生涯共に生きる相手として誓った存在が、現れる。
彼女は、笑っても、泣いてもおらず、怒っていた。
「それがアンタの答え?だとしたら見損なったわ!!」


最後に、20年以上顔を合わせていない父親が現れる。
父親は、笑っても、泣いても、そして怒ってもいない。
ただ、じっと自分を見つめている。

幻のはずなのに。その瞳は本物のように強い。

「消えろ!!」
剣を一振り。
それで、幻は消える。

幻が消えたとともに、アベルは崩れ落ちた。

(?)

その理由は簡単だ。
体力の消耗。

どれほど戦慣れした者でも、朝から夜まで戦いを続けていればいずれ体力が底を尽きる。
怒りや憎しみを戦いの原動力に変換するような戦い方は、それをぶつける相手がいなくなった瞬間に疲れがどっと出てくる。

ダメージを受けた分は、ベホマで回復し続けていたが、そのベホマも限界をもうじき使えなくなるだろう。
これでは、この剣の秘伝書で必殺の一撃を放つどころではない。

しかも自分のことばかり集中しすぎて、周りを見ていなかった。
実はつい先ほど、目を凝らせば見えるほどの近くを男女が通って行ったのを気づかなかったのは、このためである。
最も、彼らも急いでいたということもあるのだが、

(こんなところで、死んでたまるか……)
再度立ち上がる。
しかしそのエネルギーも、闇の力が元だ。

(あれは……)
遠くに見えるのは、山小屋だ。
是非とも、休憩を取りたいところだった。
破壊の剣を杖代わりにし、ゆっくりとそこへ近づく。

930孤独な王 ◆znvIEk8MsQ:2018/06/10(日) 14:11:49 ID:zEIRyHuU0
人がいるのを警戒したが、その心配はないようだ。
明かりを付け、中を見渡す。


中は小さいが、ここの持ち主は宿屋を営んでいたらしく、寝床がある。

どさり、とベッドに倒れこんだ。
「………。」
その目は、どこを見ているのか分からない。
ただ、何かに対して言いようもない憎しみを抱いていた。

この場で眠りに落ちたいところだが、それどころではない。
寝た所を、誰かに襲われる可能性だってあるからだ。

その代わりといってはなんだが、シーツを拝借する。
剣の刃先で器用に破き、支給品の水に浸して傷口に巻き付ける。
奴隷時代も、旅人だった時も、物資は常に不足気味だったので、こういうことはよくやっていた。

続いてタンスを開き、何かないか調べる。
宿屋を営んでいた場所だけあって、粗末ではあるが保存食がある。
干し肉や野菜、チーズなどが置いてあった。

この場で火をおこすなどもっての外だが、そのまま食べられる物も多い。
不思議なほど食欲は出ないが、文句を言うどころではない。

無理矢理胃袋に押し込む形で、栄養を摂る。
最初は受けたダメージも相まって胃袋が受け入れず、吐き気も催したが、それごと呑み込むにつれて食欲も戻ってきた。


あれは一体何だったのか。
この世界が見せる幻か。
それとも、自分の心が蝕まれた結果だろうか。

(!?)
闇に浮かぶ影。
また幻か、と思う。

目を凝らしてみると、それは幻ではなく、実体だった。
ただし、それは生物ではない。
天使を模した石像だった。


それは、穏やかな笑みを浮かべている。
このような戦いの世界の中でも変わらずに。


飾り気はないが、丁寧な作りだった。
旅をするにつれて多くの石像や他の芸術作品を多く見てきたアベルがそう思うほど。

931孤独な王 ◆znvIEk8MsQ:2018/06/10(日) 14:13:31 ID:zEIRyHuU0

ここは旅人の宿屋としての施設だったのだとばかり思っていた。
だが、教会としても兼用されていたのかもしれない。
ここを訪れた者が、自分の旅の無事を祈っていたのだろうか。


そういえば、自分の父も旅に出る前は祈りをささげていた。
あの忌まわしいラインハットへの遠征の前も。

10年後、かつて父が祈りを捧げていた教会へ行った時、シスターが自分の境遇を憐れんだ。
そして、母が見つかるようにと、そのシスターと共に祈りを捧げた。


ふざけるな。


私は神など信じない。
神がいるというのなら、なぜ信仰していた私達親子をこのような境遇に陥れるのだ。

ミルドラースは「神を超えた」とほざいていたが、あんなものを見ているからあのザマだったのではないか?

自分達の世界を統治していたマスタードラゴンも同じような存在だ。
奴が何をしてくれた?
私は奴隷として苦しめられている間、石像として苦しんでいる間。
奴は薄暗い洞窟でトロッコを乗り回していただけだ。

神も天使もマスタードラゴンも信じるだけムダだ。
この世はやはり力が全てなのだ。
それ以外を信じる者も、信じている存在も、全て打ち砕いてやろう。

憎しみを込めて、一刀の下に天使像を叩き壊す。
折角幾分か回復した体力を無駄遣いするのは勿体無いが、笑みを浮かべた天使像の存在が憎くてならなかった。

私は神など信じない。
既に放送で、半分が息絶えたと知った。
その中に私の父や妻、息子、ついでに忌まわしい仇敵も含まれていた。

しかし、私は傷を負いながらも生きている。
この世界で神への信仰に背いた行為をあれほど行ってもだ。


ゲマはともかくとして、父や妻や息子は悪と闘っただろう。
娘がそうしたように。
だが結局死んでしまった。
先程の闘いも、父や妻の死に一瞬でも動揺したのが敗因に繋がった。
やはり、この世界は力が全てなのだ。

自分の世界は、既に壊れ始めている。
否、壊したのは自分だ。
だからぼろきれのような世界に代わる、新しい世界を自分で作ろう。
家族や恋人、神に頼らず、自分で幸せをつかみ取る世界を。
それが自分以外のすべての人間を不幸にすることなら、全ての人間を不幸にしよう。


もう少し休憩したいところだが、そのために行かなければならない。

932孤独な王 ◆znvIEk8MsQ:2018/06/10(日) 14:14:45 ID:zEIRyHuU0
最後に、まだ開けていなかったタンスを開けてみる。
布の服でも、包帯替わりにはなるだろう。


そこには求めていたものはなかった。
代わりにあったのは小さなメダル。
この世界でも光を放っていた。
だが、この世界で役に立つ物ではないだろう。
この戦いが始まった直後なら、裏表の結果に沿って行動できるくらいはしたかもしれないが。

しかし、その面を見ていると思い出す。

メダルを見つけてはしゃいでいるリュビを。
それを見て笑っているサフィールを。
これでいい品が貰えるなら、おとうさまに頼んで作ってもらおうかしらと冗談を言うデボラを。

消えない。
三人の笑顔が、脳内から消えない。
あの時、自分はどんな顔をしていたのだろう。

やめろ。
私が作る世界に、そんなものはいらない。
私の作る世界に、すぐに壊れてしまう幸せなんていらない。

それは決意したはずなのに。
自分の足枷にしかならないと実感したばかりのはずなのに。

「消えろ!!」
不愉快なものを投げ捨てる。



孤独な王は再び歩き始める。
一歩、また一歩と、暗黒の道を歩く。
もう、幻は見えなかった。
彼が決意を固めたからか、体力が回復したからか、はたまた幻にさえ見放されたか。
その答えは、闇だけが知っている。


【E-7/一日目 夜中】

【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/3 MP1/4
[装備]:破壊の剣
[道具]:支給品一式 剣の秘伝書
[思考]:過去と決別するために戦う

933孤独な王 ◆znvIEk8MsQ:2018/06/10(日) 14:14:59 ID:zEIRyHuU0
投下終了です

934ただ一匹の名無しだ:2018/06/10(日) 16:25:59 ID:tk09QvhQ0
投下乙
闇を深めつつも、人間としての情はなかなか捨てきれないもんだな

935ただ一匹の名無しだ:2018/06/10(日) 19:58:19 ID:ebMNEvmA0
投下乙です

936踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:42:45 ID:LjyLYJEw0
一時投下スレの分、投下します。

937踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:43:09 ID:LjyLYJEw0
また、守れなかった。
ひとり、ひとりと、隣からいなくなっていく。

微かに見えた黒い雷は、おそらくジゴスパークだろう。
レックやテリーが使っていたのを何度も見たことがあるし、はぐれメタルの職を経験している自分も使える技だ。

それでも、彼女の使う地獄の雷は自分のそれの比ではなかった。
そうさせたのは、彼女の実力か、それともそれほど強い想いなのか。
どちらにせよ、あの威力では先に行っていたローラとアレフはもちろん、後からついて行ったトンヌラもただでは済んでいないだろう。

ハッサンを殺した2人が死んで、ざまあみろと思う気持ちが心の片隅を支配して、聖職者でありながらそんな邪な気持ちを抱く自分にも嫌気が差して、スクルドを止められなかったことも自分を責める材料になって――――――

なぜ、こんなことになったのか。自分の中から原因を見出すのは簡単すぎるからこそ、他人の中から原因を見出したくもなる。

そしてその対象はキラーマジンガ。
あの機械兵が間違いなく原因のひとつだ。
あの時、橋の上で妨害を受けなければもっと早くリーザス村に到着して、また違う結末を迎えていただろう。

たらればの話をしても仕方がないなんて分かっている。
もはや八つ当たりにも近いことだと分かっている。

海底宝物庫で、デュランとの戦いの中で、これまで幾度となく自分たちを苦しめてきたあの機械兵。こんな場所でも立ち塞がるのか、そう思えてさらに苛立ちを感じた。

「生命反応ヲ確認。」

機械兵と相対する。
橋の上で戦った時には折れていなかった剣が折れているのに気づく。あの後にまた誰かと戦ったのだろう。
じゃあ、それは誰と?

答えはすぐに思い浮かんだ。

おそらく、この辺りにいたはずのサフィールだろう。

そして機械兵がここにいるということは――――――

938踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:43:53 ID:LjyLYJEw0



――――――ああ、また守れなかったのか。

サフィールが逃げ延びたのだとか、戦ったのは別の人物だったのだとか、そんな可能性はあったのかもしれないがそんなことを考慮する余裕はなかった。

憎い。
絶望が、憎悪が、溢れ出して止まらない。



あの機械兵が――――――憎い。



「敵ト、認識。」

そうだ。
奴にとって僕が敵であるように、僕にとっても奴は敵なのだ。

人の心を弄ぶあの魔王の如き男の手先。
多くの命を奪っていった敵――――――

いや、本当の意味で皆の敵なのは僕なのかもしれない。
ハッサンも、もう少し早く動いていれば死なずに済んだのだろうか。
アモスとも最後の瞬間はきっと分かり合えていた。殺さなくても、何かしらの手段はあったはずだ。

トンヌラも、アレフも、ローラも、リュビも、サフィールも――――――


一旦、考えるのをやめた。


せめて、今はこれ以上誰も失うことのないように。

「キラーマジンガ。貴方は、僕が倒す。」

「戦闘開始。あべる様ノタメニ、破壊ヲ。」

言うが早いか、ジンガーより早くチャモロは動く。
ドラゴンの杖をサフィールに渡したチャモロは今は何も武器を持っていない。
元より格闘技を特別好むチャモロではないが、キラーマジンガには呪文が通用しない。
また、威力の高い特技は発動までの隙が大きい。遠距離戦では弓矢を駆使して戦うキラーマジンガ相手に使う余地があるとは思えない。

ちまちまとした攻撃では鋼鉄の装甲を貫けるはずもなく、勝機があるとすれば接近戦での高威力の格闘技が最も有効だろうとチャモロは判断した。

939踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:44:33 ID:LjyLYJEw0
チャモロが近づくと予定調和とでも言うが如く振り下ろされる槌。キラーマジンガにとっては牽制程度の攻撃なのだろう。
だがそんな簡単な攻撃でさえ軽装備の人間相手には一撃必殺となり得る。
仮に死なずとも、これをまともに受けてはその後の剣による追撃を避けられない。

それでも、不思議と怖くはなかった。
何度も戦ったことのある相手だからだろうか、それとも多くの死を間近で経験し過ぎたからだろうか。槌による牽制を難なく躱す。

ただ、躱したからといって油断など出来ない。
槌により叩きつけられた地面から砂埃が巻き起こり、微かにチャモロの足を取る。
大局的に見るとただの砂埃でもコンマ1秒の動きの乱れが生死を分ける戦いの中では立派な障害物になりうるのだ。

だが、チャモロは次の一手を回避に回すために動いていなかった。
キラーマジンガの攻撃を2度受けきると隙が出来ると分析したが、相手の行動にパターンがあるとはいえ自分の行動までもをパターン化するのは危ないかもしれないからだ。

初撃を回避してすぐに動く。
砂埃で足が取られないよう、回避と同時に大地を踏みしめていた。そして敵が剣を振り下ろす直前、地面をバネに飛び上がり膝蹴りを入れる。

ガシャリと鋼の音が鳴り響き、ジンガーは後退する。
折れた剣での第二撃はチャモロには届かない。



「ヤハリ、ソウカ。」

ジンガーは呟いた。
先程の戦いは殺し合いではなかった。だが、今は紛れもない、殺し合いをしている。
破壊し、破壊される――――――このために、自分は動いているのだ。



中距離まで離れたジンガーはビッグボウガンを引く。
それに気づいたチャモロは1歩引き下がる。
矢を放たれて1番厄介なのは遠距離ではなく中距離である。
目視で回避出来るだけの距離があればこちらからの攻撃手段はなくともリスクを負うこともないのだ。

放たれたジンガーの矢を逸れて躱したチャモロは再び距離を詰めにかかる。槌にも剣にも対抗出来るよう両方に注意を払っていた。

来たのは横薙ぎの斬撃。
斬撃の軌道に合わせて身体を逸らして躱し、そのまま爆裂拳を叩き込む。
高速打から逃れるようにジンガーは引き下がった。

940踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:45:49 ID:LjyLYJEw0
チャモロは攻撃を防いでいるのではなく捌いている。
あくまで、相手の攻撃に対応する目的は自分の攻撃を一方的に通すことにあるのだ。

それでも、割に合わないとでも言うべきか。
1回相手を怯ませるのに2回の命の危険を潜らなくてはならない。どれだけ追い詰めても一瞬で形勢は逆転しうるのだ。
負けるビジョンはいくらでも見えるというのに、勝機は見えない。

でも、引くわけにはいかない。
ここで倒さなくては、直接的であれ間接的であれ、また誰かが犠牲になるかもしれない。

初撃。
ジンガーはチャモロに対し矢を連射する。
これまで回避を主とした戦術を取っていたためか、線状ではなく扇状の攻撃。

「はっ!」

真空刃でその全てを弾き飛ばして道を作り、前進する。

次は、打撃か斬撃か。
どちらが来ても反応出来るよう、ジンガーの両腕へと意識を集中する。

(!?)

しかし、ジンガーの取った行動はどちらでもなかったのだ。
第二撃は単純な体当たりだった。
衝撃がチャモロの身体を弾き飛ばし、草原の上に転がす。

もしも初撃にこれを受けていればそのまま追撃の矢を心臓に受け、無事では済まなかっただろう。
だが、キラーマジンガは2回の攻撃行動の後は次の攻撃行動までにしばしのインターバルを必要とする。
よって攻撃行動の出来ないジンガーがとった行動は接近。
チャモロが立ち上がる瞬間を狙い、次の攻撃行動として槌を振り下ろす。

避けられない。
槌の一撃がチャモロに命中し、骨にヒビが入る音が響く。
だが、命までを奪うことは出来ない。

「大防御…!!」

チャモロは左腕で一撃を何とか受け止めていた。
体つきは華奢なチャモロだが、それでもパラディンの職を極めているのだ。並の戦士を優に凌駕する防御力を持っている。

だが、勝てるわけではない。
左腕をやられ、武闘を駆使しての戦いも半ば封じられてしまった。
何度も倒してきた相手だと言うのに、隣に誰もいない、ただそれだけのことで人はこんなにも弱くなってしまうのだろうか。

でも、諦めるわけにはいかない。

「僕は――――――最後まで戦う…!」

誓いを言葉にして吐き出す。
根性論で乗り切れる戦いではないと分かっていても、叫ばずにはいられなかった。

941踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:46:39 ID:LjyLYJEw0



「―――そう、諦めちゃだめだ。」

「―――助太刀するでござる。」

その時、剣を振りかざすジンガーと素手で対抗せんとするチャモロの間に割って入る二人がいた。

その者の内の1人は炎を纏う赤剣と対をなすかのように青く美しい剣を構え、機械兵の斬撃を受け止める。
もう1人はその状態のキラーマジンガに体当たりをして怯ませる。

「間に合ってよかったでござる、チャモロ殿。お主のことはサフィール殿から聞いております。」

その者は図らずもサフィールが生きていることを伝えてくれた。

「…と、名乗るのが遅れたね。僕はアルスで、こっちはライアンさん。この殺し合いを終わらせるために仲間を集めてるんだ。」

そして孤立し弱っていたチャモロに、仲間がいることの安心感を思い出させてくれたのだった。

「アルス殿、一旦離れましょう。作戦についてチャモロ殿に。」

「分かった。」

アルスとライアンは予め何かしらの考えがあって挑んでいるらしい。
最低限の会話で行動方針を決めていく。

「魔神――斬り!」

アルスは攻撃の後の僅かなインターバルの時間を利用して渾身の一撃を叩き込み、ジンガーは数メートル吹き飛んでいく。

再び戦闘へと戻ろうとするも、既にアルスたちは逃走を成功させていた。

942踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:47:25 ID:LjyLYJEw0

「みんな友達大作戦…?」

ハッサンやアモスを想起させるような屈強な男の口から飛び出たのは、何とも可愛らしい作戦名だった。
人も魔物も、全員仲間にして主催を倒す。
確かに理想的ではあるだろうが、現実的に可能なのだろうか。

「しかし、相手はあのキラーマジンガです。仲間にすることは出来るのでしょうか?それに、この世界でも奴は破壊の限りを尽くしてきたはずです。やはり納得しない人だっているかもしれません。」

「そう…思うよ。」

サフィールの話では、マリベルの死には少なからずキラーマジンガが関わっていたそうだ。もちろん、憎いという心が全く無いといえば嘘になる。

「でも、それは機械兵が悪いんじゃない。裏にはいつも人間や魔物の悪意があるんだ。」

(――――――ぼくとしては戦いしか知らぬからくり兵に同情しているくらいだ。真に悪といえる存在がかれらではないということが人間たちにはわからんのさ。)

いつかゼボットが言っていた言葉。彼もかつてのアルスと同じように、自分の、そして他人の命に対して無頓着だった。
ただし彼は彼のやりたいことを見つけていた。だからこそエリーを作り上げられたのだろう。

それでも機械兵を憎まずにいられない人がいることも理解出来るが、アルスの意見がどうしてもゼボット側に傾くのは、長く命への関心を持っていなかったからかもしれない。

「…分かりました。ただ、どうやってあれを仲間にするのですか?」

「それには、考えがあるのでござる。」

「うん。サフィールによると、キラーマジンガは人間に従っているそうなんだ。」

「それは私も知っています。あのアベルという男の意思に従って破壊を繰り返しているそうです。」

「そう、奴はただ無差別に人を襲っているのではなく人の命令に従っているのでござる。ならば、何かしらの方法でこちらから命令することも可能なのではなかろうか。」

「なるほど、命令を上書きするわけですね。」

「ふたつ、可能性がある。まず1つ目。過去に機械の兵団と戦った時に、エラーを引き起こす音波を発する装置を使ったことがあるんだ。さすがに同じものは支給されてないだろうけど、何かしらの音波を発するものがあれば回路を狂わせることが出来るかもしれない。」

ただ、残念なことに音に関する道具は誰も持っていなかった。
そもそも橋の上で銃を暴発させた時キラーマジンガの近くでかなり大きな爆音が響いたはずだが、それで何のエラーも起こっていないことを見るに音によるエラーは現実的ではないのかもしれない。

「そして2つ目。これは…成功するかどうかは実は僕次第だ。"魔物ならし"という技があってね。魔物を手懐ける特技なんだけど、それが機械相手にも通用することがあるんだ。それを使えば、破壊の命令を解除することも出来るかもしれない。」

「そんな技が…!アルスさんは使えるんですか?」

「それが、僕は使えないんだ。でも他に方法がないのなら試してみるよ。仲間が使っているのを見たことだけならあるからね。」

ガボはモンスターマスターを極めていた。
生きていれば、きっとみんな友達大作戦の立役者となってくれていたのだろうが、感慨にふけっている暇はない。

こちらを発見した機械兵が迫ってきているのだから。

「敵ヲ、確認。破壊シマス。」

「違うさ、僕らは敵なんかじゃない。」

作戦開始。
そして殺し合いとは呼べない何かが、始まる。

943踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:48:11 ID:LjyLYJEw0
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

ジンガーがアルスを槌で殴り掛かる。
ライアンが割って入り受け止めるが、想像以上の重圧に氷の刃を弾かれる。

炎剣による第2撃を後続のアルスが弾き、ライアンは事なきを得た。

「助かったでござる…!そして気をつけてくだされ!心無しか斬撃の精度が上がっているでござるよ!」

ジンガーは戦った相手の行動パターンを分析している。
よって防御の手薄になりがちな部分を持ち前の正確さで確実に突くことが出来るのだ。

「ならば…真空刃!」

攻撃の軌道をずらすべく風の刃を放つ。
ジンガーの振るった剣は空を斬るに留まる。

正直に言うのなら、チャモロはキラーマジンガを仲間にするのにあまり乗り気ではない。
ただしそれは個人の感情によるものが大きい。
海底宝物庫での戦いはチャモロだけでなく、パーティー全員に大きなトラウマを与えた。
デュランとの戦いの前座として召喚されたキラーマジンガもレックのラミアスの剣を持ってしても苦戦を強いられた。
チャモロにはこれを仲間にするのは信じられないとさえ思える。

だが、仮に成功すればかなりの戦力となるのは間違いない。
ここで自分の感情を押し通して、そのせいで守れない命があればきっとまた後悔することになる。

だから出来る限りのことをしようと決めた。
元の世界に帰りたい、きっとその想い自体は誰もが同じはずだ。

チャモロの攻撃によって怯んだジンガーは後退しながら矢を連続で放つ。
接近攻撃を主とする3人を相手にするジンガーにとっては適度に距離を置く方が有利なのだ。

だが、ジンガーはアルスの素早さを見誤っていた。
疾風突きの勢いに乗せてアルスは接近する。
灼熱剣エンマによる斬撃が放たれるも、アルスはオチェアーノの剣で押し返す。
ジンガーはまだアルスと戦ったことがなく、動きのパターンがインプット出来ていないのだ。

そしてアルスはジンガーの下へと辿り着く。
武器を納め、鋼鉄の身体に触れる。

「もう破壊をやめるんだ、キラーマジンガ。エビルプリーストを倒すため、君の力を貸してほしい。」

言葉を紡ぎ語りかける。
機械相手に、周りから見たら滑稽だと笑われるかもしれない。
でも、人間の愛に触れて育てば機械兵にも"心"が芽生えるのだとアルスは知っている。
現代のフォロッド城のエリーを巡る騒動。アルスが自分の心の問題について考え始めたのもこの出来事があってのことだった。

944踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:50:20 ID:LjyLYJEw0

「誰も死ぬことがあってはいけないんだ。君も、君のマスターも、みんなでこの閉ざされた世界から脱出しよう。」

「ますたー…あべる様…?」

アルスの言葉にジンガーが反応を示す。
それは有効だったのか、それとも悪手だったのか。

「ソウ、あべる様ハイナクナッタ。あべる様ノ指示ガ必要ナノダ。」

「だったら僕たちも探すのに協力する。今は敵対しているかもしれないけれど、君のマスターも仲間にしてみせる。」

「ソウカ、分カッタ。」

言葉が届いた。
アベルと出会った時にどうなるかは分からないが一時的とはいえ成功したのだろうか。



「――――――オマエタチハ、今ハあべる様ノ敵ナノダナ。」

(…!)

一瞬抱いたそんな幻想は、すぐに打ち砕かれた。
ジンガーはメガトンハンマーで地面を思い切り叩きつけ、辺り一面を衝撃波で吹き飛ばす。

「ぐっ…!」

「駄目で…ござるか…!」

「やっぱり、アイツは…!」


言葉は届いた。
だが、ジンガーのアベルへの忠誠を読み違えていたらしい。

もっと早くに心を取り戻し、魔物マスターに転職出来ていたら。
もっと早くにトラペッタに辿り着き、ガボを守れていたら。
心を取り戻したアルスに待っていたのは後悔の連続だった。

もう、後悔はしたくない。
だが実力が足りない。

衝撃波によりアルスは空へと放り出される。
最も近くで衝撃波を受けた分、他の2人よりも大きなダメージを負ってしまったのだ。

そして、ジンガーの追撃がアルスに迫る。

「アルス殿!ぬおおおお!!」

ライアンがアルスの前に立ち塞がり、ジンガーの斬撃を氷の刃で受け止める。

想像以上の重圧に押し返されそうになる。
さらにその時、ジンガーの持つ灼熱剣エンマが更なる熱を放つ。

945踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:51:12 ID:LjyLYJEw0

アルスを狙ったのは隙が出来たからでも近くにいたからでもない。
アベルと敵対しているとの言葉を吐いたアルスにジンガーは怒っていた。
それは天使の守る世界の人々やアストルティアに生きる人々には"怒り"と呼ばれている現象。

だが、この場の全員が知らない。知る由もない。
この状態の者の放つ一撃は、平常時よりも遥かに強力であるということを。

「ぐっ…ぬおおお…!」

灼熱剣の熱で氷の刃が溶け始める。
だが、即座に完全に溶けるには至らない。それは氷の刃が強力な武器であったからなのか、それとも剣の元々の持ち主である今は亡きナブレットの執念なのか。

どちらにせよ、ライアンの守りが崩れるのは遠くはない。
アルスはすぐに戦闘復帰するにはダメージが大きいだろう。
動けるのは自分だけだ。そして、動くとするならば今しかない。

「黒き雷よ――――――」

ごめんなさい。
心の中で呟いた。

魔物も機械も、全員が協力して戦えるのならそれは本当に夢のような話だと思える。

だけど、そんな夢に執着して目の前で消えるかもしれない命を見捨てることは出来なかった。

「我が敵を―――飲み込め。」

あの時のスクルドもきっと、守りたい何かがあったのだろう。
それは命かもしれないし、想いかもしれないし――――――何にせよ、許してはいけないのに許さなくてはならない気がした。

彼女も、方向性は違うのかもしれないけれど、今の僕のように苦しんでいたのだ。

「ジゴスパーク――――――」

地獄の雷を呼び出す。だが打ち出すことはしない。
このまま放とうものならライアンもアルスも巻き添えにしてしまう。
チャモロは荒れ狂う力を右腕に込める。

(ハッサンさん…見守っていてくれていますか?今の僕はあなたに胸を張ることは出来ないけれど――――――)

ジンガーに近づくにつれて灼熱剣の熱気が伝わってくる。
裸出した顔を、腕を焦がすその熱がやけに冷たく感じられた。

(せめて、今はこの技で――――――)



「正拳――突き!!」

946踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:52:12 ID:LjyLYJEw0



地獄の雷を纏った拳が、ジンガーの装甲を真っ直ぐに貫いた。
悲鳴をあげることもなく、機械兵はただただ砕けていく。
機械が誤作動を起こした時の不快な音が鳴り響き、それも徐々に止まっていく。

「あべる…様…オ役二立テズ…申シ訳アリマセン…。」

そんな中でただひとつ、機械兵が最期に発した言葉は、機械兵のものとはとても思えないくらいに、人間味に溢れていて――――――

この機械兵も苦しんでいたのか?
そんな疑問が、そんな迷いが頭の中を掠めた時には、既に全てが終わった後だった。

作戦は失敗した。
キラーマジンガを殺したこと自体は間違っていなかったはずだ。
ライアンとアルスの命を守れたことを誇りに思うべきなのに。

でもキラーマジンガをこの手で殺したことを、この作戦の失敗を、どこかで喜んでいる自分がいたのも確かだった。



その後は、どことなくいたたまれない空気が辺りを支配していた。

「僕たちはリーザス村へと向かう。チャモロ、君も仲間になって欲しいんだ。」

「…ごめんなさい。僕はトラペッタ方面に向かいます。」

サフィールが向かったらしい場所。
たった今、感情の枠にヒビが入って感情が零れ出して、そのままにキラーマジンガを殺した。
今リーザスに向かって、もしもハッサンの仇の2人が生きていたら、スクルドと再び出会ったら、その時自分がどうするのか、それを考えるのが怖かったのだ。

「サフィールさんは僕が守ります。彼女と共に仲間も集めます。だから、もう一度会えたらその時は――――――また僕を仲間と呼んでほしい。」

「そっか。分かったよ。さて、行こうか、ライアンさん。」

「うむ…」

ナブレットの形見だった氷の刃は完全に溶けてなくなっていた。
形見の武器自体にそれほどの執着があるわけではなかった。大切なのは、あの時にナブレットが剣を渡してくれたから自分は今こうして生きているということ。

「ナブレット殿…ありがとうでござる。」

小さく呟いて、アルスの渡してくれた新たな剣を装備する。
まどろみの剣。ラリホーの効力のあるこの剣はきっとみんな友達大作戦に貢献してくれるだろう。
散っていった命に報いるため、せめて前を向いて、戦おう。

ある者は無力感を噛み締め、ある者は使命に燃えて、ある者は罪悪感に苛まれ――――――それぞれがそれぞれに思うところのあるこの戦い。
ただし、戦いはまだ終わっていない。
この戦いは始まりにしか過ぎないことを、この時はまだ誰も知らなかった。

947踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:53:26 ID:LjyLYJEw0


【G-5/平原/真夜中】

【アルス@DQ7】
[状態]:HP1/5 MP微消費
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜2) ゲルダの不明支給品0〜1個 道具0〜2個(本人確認済み)
[思考]:この戦いを終わらせる。ミーティア、キーファ、フォズを探す。リーザス村でアイラとマリベルを弔う。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。

【ライアン@DQ4】
[状態]:HP1/4 全身の打ち身、顔に傷、兜半壊、腹部に打撲、鎧半壊
[装備]:まどろみの剣
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1)
[思考]:ホイミンのみんな友達大作戦も手伝う。

【F-4/平原 /真夜中】

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP3/10 MP1/5 左腕骨折 ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)喪失感
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める 近くにいる可能性のあるサフィールと合流する
※チャモロはローラが死んだと思っています。
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。また、はぐれメタルの職業を少なくともLv7まで経験しています。魔法使い、魔法戦士、賢者、勇者は経験していません。

948踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:59:29 ID:LjyLYJEw0


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「くくく…キラーマジンガ――――――いや、ジンガーと言うのだったな。本当に恐ろしい機械兵よ。主への忠誠心から、自ら別の世界の可能性を掴み取るとは…!」

主催者エビルプリーストは笑っていた。
ジンガーの放ったグランドインパクトも怒りによる能力上昇も、彼のいた世界のキラーマジンガが使いこなせるものではない。

「バラモスが死んで退屈しておったでな――――――救ってやろうとも考えていたが、どうやらその必要もないようだ。」

奴が他の世界の可能性を掴み取ったのなら、必ずや起こる現象があるはずだ。
そしてそれは何を生み出すのか、予測もつかない。

「何とも面白い…面白いではないか…くはははははははははは!!!」

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

(あべる…様…オ役二立テズ…申シ訳アリマセン…。)

機械の域を超えたその忠誠心は、もはや心と呼ぶに相応しいものであった。
そしてジンガー自身がそれを認めた瞬間、"怒り"なる感情が芽生え、気付けばそれまでインプットすらされていなかった攻撃を放っていた。

だが、異なる世界の可能性はそれだけには留まらない。
アルス、ライアン、チャモロの3人がジンガーの居た場所を離れてしばらくした後、1体の機械兵が天より舞い降りた。

その機械兵はキラーマジンガであり、ジンガーではない。彼は地に伏し動かなくなったジンガーを見下ろしている。

「Code 87:Remote Repair 開始。」

そしてあらかじめインプットされていたデータの通りに、ジンガーに腕を宛てて壊れた部品を組み直していく。地獄の雷によって破壊された装甲が、アクセルが、修復されていった。

(あべ…る…様…)

あの方の下に戻りたい。
あの方の力になりたい。
あの方の腕として、破壊の限りを尽くしたい。
盲信とも言えるだけの心を心臓部に宿して、ジンガーは地の底より舞い戻った。

「助カッタ。宜シク頼厶、個体Bヨ。」

「…。」

心の宿った機械兵と、心無き機械兵。
2体はそれ以上言葉を交わすこともなく、アクセルを踏み込んだ。

949踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:59:48 ID:LjyLYJEw0
【F-5/平原 /真夜中】

【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:HP1/4 
[装備]:折れた灼熱剣エンマ@DQS メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:アベルを探す、邪魔する者は破壊する。
[備考]:サフィール達に疑問を抱いています。
アルス達の向かった先を知りません。

【キラーマジンガB@DQ10】
[状態]:健康
[装備]:聖王のつるぎ@DQ10 聖王のハンマー@DQ10 聖王の弓@DQ10 アクセルギア@DQ10
[道具]:支給品一式
[思考]:無し
[備考]:DQ10のキラーマジンガの特技を使いこなします。
アベルと出会う前のジンガーのように、命令がインプットされていない状態です。

【残り33名】

950 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 23:03:41 ID:LjyLYJEw0
投下終了しました。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

続いて、投下します。

951星空、遥か遠く ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 23:06:04 ID:LjyLYJEw0
コニファー、フアナ、アスナの3人はトロデーン城に辿り着いた。

恐らくトロデーン城内は今、この世界で最も安全な場所のはずだとコニファーは推察する。

ヘルバトラーとの戦い中に辺りに敵が潜んでいたとは思えない。仮に居たとすれば全員が傷だらけになっている絶好の狩り時を逃すはずがない。また、東から敵が襲ってくるには先に行ったジャンボ一行やそこに居るというジャンボの仲間、更にはジャンボを追いかけるアンルシア達やその後を続くピサロまでを突破する必要がある。
これ以上心強い防衛ラインはそうそうないだろう。
心配があるとすれば南に居るというバルザックだが、自分が出会ったイザヤールに加えて2人の助っ人が戦ってくれているらしい。
サヴィオ1人で翻弄出来るくらいの魔物相手に3人がかりで戦っていて、その3人が放送当時は誰も死んでいなかったとなると、おそらくはそれほど大きな脅威でもないだろう。

かといって心が休まることはない。皆が皆、失いたくない人を失ってしまった。
一時的に安全を確保したことにより、当たり前のように隣にいたかつての仲間がもういないということをどうしても実感してしまう。

喪失感はフアナが最も大きいように見える。
何せかつての仲間が自分を庇って死んだのだ。それも、とても告白とは言えない、不完全な告白を残して。
あの時ああしていれば――――――そんな後悔が渦巻いているのだろう。
その後悔は必要なものだ。
むしろ何とも思われていないのならサヴィオが報われない。
必要なのはその死から目を逸らさず、受け止めた上で前を向くことだ。

「なあ、お前ら。」

コニファーは2人に話しかける。

「ハ、ハイ!」

「ふ、ふふふふふぁい!!」

片目の潰れた自分の風貌もあってかフアナの返事はどことなくぎこちない。分かってはいたがアスナの返事はどこまでもぎこちない。

旅を始めたばかりのスクルドとポーラもこのくらいの距離感だったなと2人に妙な親近感を覚えると共に、そこに居ないアークの枠は二度と埋まることはないのだと思うとどうにもやりきれなくなってくる。

952星空、遥か遠く ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 23:07:16 ID:LjyLYJEw0
(アーク…優しかったお前のことだ…きっと誰かを守って死んだんだろ?)

新しい町に行っては人々の頼み事を片っ端から聞いて回るようなお人好しだったアークが殺す側に回っていたとは到底思えない。そしてアークに真っ向から勝負を挑んで勝てるような奴がまだこの世界にいるなんて考えたくもないというのも半分あった。

「ええと…コニファーさん?」

フアナの声でふと現実に立ち返る。
そういえばこいつらに話しかけたんだっけか、とコニファーは頭を掻いた。

「お前らは早いとこ休みたいところかもしれねーが、大事なことだ。ちとテラスに来な。」

行き場のない2人の想いをこのままにしておいてはいけない。
今は何ともなくても溜まりに溜まった想いはいずれ絶望に変わる。アークというその実例をコニファーは知っていた。

言うが早いか、ずんずんと城の中を突き進みテラスへの扉を開く。

例え作り物の世界だとしても、立ち込める茨が風物詩だとさえ思えるくらいには綺麗な景色だと思えた。上方には、数えきれないほどの星空が広がっていたのだ。

子供の頃、星空とはコニファーをどこまでも惹きつけるものだった。
無限に広がるように思えるその果てを想像して、彼はその中に自分の儚さを見た。果てしない世界の中で無限なる何かに包まれ、次第にそれに吸い込まれていくような感覚を覚える。星の光を見ているのか空の暗黒を見ているのか、それすらも分からなくなっていって――――――



でもコニファーはそんな感覚をもう忘れてしまった。
子供だとか大人だとか、そのような問題ではない。
あの星空の向こうにある神々も天使たちも、手に届く存在だったのだと知ってしまったから。
そして小さいのは自分ではなく世界の方なのだと見えてしまったから。

世界の小ささに、儚さに、そこに居る自分というものまでもを見失ってしまう。生きているという実感さえも忘れてしまう。
それがコニファーにとっての星空だった。

「ほら、星が綺麗だぜ。」

それでも星空は綺麗だ。天使だとか神々だとかの実態を知る前であれば、もっと清廉な気持ちでこの空を見上げることが出来たのだろうか。何にせよ、星空は何の知識もないまま見るのが一番だ。

953星空、遥か遠く ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 23:08:10 ID:LjyLYJEw0


「みんな――――――みんな、私を置いていきました。」

そして、しばらく黙りこくっていたフアナがようやく口を開いた。
幻想的なものを前にすると、人は少し素直になるのだ。

「ズーボーさんも、ゼシカさんも、サヴィオさんも、みんな、私を守るために…私の目の前で…」

ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
偽りの月明かりが、全てが終わるまで流すまいと決めたはずの涙を照らし出した。

「私は僧侶なのに…!傷付いた仲間を助けるのが私の役目なのに…何も…出来なくて…!!」

(ああ、そういえば確かに、不公平な世界だよなァ。)

そう、この世界は不公平だ。
この世界で誰かを傷つけるとなると元の世界と何も変わらない。元の世界でも戦いに生きてきた者であれば、こんな場所でもいつも通り過ごしていくのだろう。

だが誰かを癒すとなると話は違う。
ホイミなんて雀の涙ほどの回復量でしかなく、魔力を振り絞って唱えたベホイムでさえほとんど回復しない。ザオラルザオリクに至っては発動すらしない。
コニファーとて戦闘が終わって全員に回復呪文をかけている時は少なからず無力感に苛まれたものだ。
だが攻撃も回復も両方こなせるコニファーとは違い、フアナは何か自分の仕事をこなそうとする度にあんな無力感が付きまとうのだ。

「だから、あの時私じゃなくてサヴィオが生き残ったらよかったのにって――――――」

「違う!」

フアナの言葉を遮ったアスナの今までにない大声にコニファーもフアナも驚いた。
もしかしたらアスナ自身が最も驚いていたのかもしれない。

「そんなこと…ない…。」

「アスナ…。」

自分の言葉の意味するところの残酷さに気付いたフアナも、その気持ちに不器用ながら寄り添うアスナも、とても見ていられない。

一度零れた感情が止まる所を知らず溢れ出して、考えること全てが悪循環していって――――――
支えを失った人間は脆いものだ。
アークがああなってからはポーラもスクルドも打ちのめされていって、結局自分は3人の支えにはなれなかった。

きっとこれは自分なりの罪滅ぼしなのだろう。

954星空、遥か遠く ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 23:09:47 ID:LjyLYJEw0

「フアナ、お前はさ、好きだったのか?サヴィオのこと。」

「えっ…!なな、何を急に――――――」

「アイツに何か伝えたいことがあるなら、ハッキリ言ってやりな。アイツは、そこにいるから。」

星空を指さしてそう言った。
フアナにとってもサヴィオの想いに何も答えられないままなのは重荷となるだろう。

「星は消えた命の向かう先なんだ。今もずっと、死んだ奴らが見守ってくれてるんだぜ?」

「え、ええと…」

何も間違ったことを言っているわけではないのだが、子供扱いされているようにでも思っているのだろうか。
とはいえ自分も、天使だとか女神だとか、そういったものの存在をなかなか受け入れるのには時間がかかった。
そういった存在と隣り合わせに生きてきたポーラや天使への信仰心の塊のようなスクルドとはまた違った受け止め方があった。

「少し、ひとりにしてやろうぜ、アスナ。俺達がいると、言いにくいこともあるだろうさ。」

そう言ってアスナの肩を叩きかけたコニファーの手を、アスナはそっと戻した。

「ねえ…ホープ…くん。」

突然、アスナが星空へ向かって呟いた。彼女の溜まっていた想いを吐き出すかのように。

「わたし……あなたのことすきだった…!いつもこわがって…にげてばかり…そんなわたしにくれた手のあたたかさ…これからもずっと、忘れないから――――――」

コニファーもフアナも、目を見開いて聞き入っていた。
その視線にアスナが気付くや否や脱兎のごとく逃げ出そうとする――――――しかし、逃げ出さない。
これはアスナの決意であり、フアナへの優しさでもあった。

「つぎ…フアナのばん…。」

「そんなの、ズルいですよ…。」

アスナは身を張ってフアナの逃げ道を無くした。
彼女にとってそれがどれだけ勇気の必要なものだったのか、フアナには痛いほど伝わってくる。

気持ちに整理がついたのか、服の端をつまんでフアナは一歩踏み出した。

955星空、遥か遠く ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 23:10:40 ID:LjyLYJEw0
「えっと…サヴィオ、本当にそこにいるんですか…?そして、ごめんなさい…私は…貴方と冒険する日々がだんだん当たり前のようになっていて、好きだとかの前に、大切な仲間だって方が強くって――――――」

フアナは少し俯いた。
2度3度、唾を飲み込んで再び空を見上げる。

「――――――でも、私の中で貴方はずっと変わることの無い特別な人…。サヴィオ、最後まで見守っていてください。もう誰かに守られるだけの私じゃない。変わった私を、貴方に見せたいから。」

その言葉に呼応するかのように、星が瞬いたような気がした。
きっとフアナの言葉はサヴィオに届いたのだろう。

ふぅ、と大きな溜め息がフアナの口から漏れる。

「何でしょうね、思ってること吐き出しちゃったら、少し楽になりましたよ。」

「そいつは何よりだな。」

これでいい。
僧侶らしさの欠片も持たずサヴィオをそっちのけで走り回っていたように、フアナは元気が有り余っているくらいが丁度いい。
周りの大人を翻弄するくらいの活発さが子供の取り柄なのだ。

「コニファーさん。私、今度は――――――今度こそはきっと守ります。貴方のことも、アスナのことも…」

「ああ、頼んだぜ。」

アスナもフアナもまだまだ若いが、失ったものを何とか受け止めて前を向いていける、そんな強さを持っている。

(そうだよな…ポーラ…スクルド…お前らもきっと…。)

流れ星のように儚い期待を胸に抱いて、コニファーもまた前を向く。

956星空、遥か遠く ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 23:13:47 ID:LjyLYJEw0
「あ、あの……。ええと…わたしも、フアナと…コニファーさん…まもるから…。」

アスナもたどたどしい言葉を紡いで意志を示す。
さすがに少女2人にここまで言わせては男としてのプライドが廃るというものだ。

「ったく…怪我人ばっかでしゃばりやがって…餓鬼は大人を頼ってりゃいいんだよ。いいか、お前らは俺が死なせねえ。」

「だったら、私たちは無敵ですよ!みんながみんな2人から守られてるんですから!それに私、実はガードマンの資格も持ってるんですよ!」

フアナは笑った。
アスナも、そしてコニファーも笑っていた。
こんな絶望に満ちた世界なのに、こうしているとつい笑顔が零れてしまう。
そういえば笑顔は零れるものだったのだと実感せずにはいられない。世界で初めて笑顔を零れると表現したどこかのロマンチストにふと敬意を覚えた。
とにかくそれくらい、目の前の2人の笑顔は眩しく見えたのだ。

ああ、そうだ。
アークが絶望に囚われてパーティーが崩壊して、それからの長い間ずっと忘れていた感覚。
意志を同じくする奴らが集まって、皆で誓いを交わして、誰かが馬鹿なこと言っては皆が笑顔になって――――――そして俺はこう実感するんだ。

俺はこいつらと共に、確かに生きているんだ、と。

もう一度見上げた星空は、相変わらず綺麗なままで――――――そして、今までよりも遥かに遠く感じられた。


【D-3/トロデーン城テラス/真夜中】

【アスナ(女勇者)@DQ3】
[状態]:HP1/10 MPほぼ0
性格「ひっこみじあん」
助骨骨折、内臓一部損傷
[装備]:ゴディアスの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)  サヴィオの支給品一式 道具0〜1個バレットハンマー@DQ10 オーガシールド@DQ5 ウェディングドレス@DQ9 アルゴンリング@DQ8
[思考]:エビルプリーストを倒す。
:ひっこみじあんを克服したい。
:休息をとる
[備考]:不明支給品の中に性格を変える効果を持った本や装飾品は入ってません。 
トロデーン城の地理を把握しています。

【フアナ(女僧侶)@DQ3】
[状態]:HP1/8 MP0
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜3(本人確認済み)
[思考]:休憩する。
※バーバラの死因を怪しく思っています。

【コニファー(男レンジャー)@DQ9】
[状態]HP2/5 MP1/5片目喪失  ピサロへの疑惑
[装備]かりうどの弓@DQ9、毒矢25本 
[道具]支給品一式 カマエル
[思考]自分が生きているという感覚を保つため、とにかく生き抜く。仲間を探す。

957星空、遥か遠く ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 23:14:59 ID:LjyLYJEw0
投下終了しました。

958ただ一匹の名無しだ:2018/06/11(月) 23:26:05 ID:tCZPjqec0
2作投下乙です

>踏み込んで、天と地まで
調べてみたら、10のキラーマジンガは時間経過で2体目が出現して、相方が倒れてると蘇生させてくるのか…
なかなか厄介なパワーアップを遂げたジンガーともう1体のキラーマジンガ、今度こそキルスコア奪えるのか否か…

>星空、遥か遠く
死んだ仲間へ想いを伝える女の子2人がかわいい&切ない
そしてポーラとスクルドの現状を思うと、二人の無事を祈るコニファーが不憫でならない
二人ともアークのことばっかだしなあ…位置が離れてるのは幸か不幸か…

959ただの一匹の名無しだ:2018/06/11(月) 23:39:04 ID:6bsvhHCI0
投下乙です。
魔英雄化したザンクローネに続いて新たなキラーマジンガとこれまた厄介な敵が登場。
トロデーンは今のところ殺し合いらしい殺し合いは行われてないし、今だけでもこの3人は平和に過ごして欲しい。

960彼女なりのシリアス回 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/13(水) 01:22:13 ID:ELMKKjOg0
ゲリラ投下します。

961彼女なりのシリアス回 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/13(水) 01:23:17 ID:ELMKKjOg0
「サヴィオが913匹…サヴィオが914匹…」

テラスでの一件の後の話。
フアナもアスナも茨の侵食の度合いの小さい適当な部屋を見繕って休むこととなった。

「サヴィオが965匹…サヴィオが966匹…。」

大きな怪我、溜まった疲労。
身体はこれ以上なく睡眠を欲している。
だがこの世界で眠るということは無抵抗で殺される危険性が少なからずあるわけで、精神は睡眠を拒んでいる。

「サヴィオが999匹…サヴィオが1000匹………。うーん……ヒツジ、ウサギ、サル、クマ、サヴィオ…色々数えてみましたが全然眠れません。これだからサヴィオは女の子にモテないんですよ。」

1000匹のサヴィオが蠢くサヴィオランドを閉幕させ、フアナは眠りにつくことを諦めた。

暇つぶしになりそうなものを探そうとするが、探し回るまでもなく部屋の中には大きなグランドピアノがあった。きっと育ちの良い人の部屋なのだろう。
ここが城であることを考えると、王族の部屋を模して作られたところなのかもしれない。

他にやることもないのでフアナはピアノを弾き始める。ちなみに選曲は"おおぞらをとぶ"。
音を外すことなく奏でていく。
綺麗な演奏―――おそらく、誰に聞かせてもそう思わせるくらいの腕前。
過去にピアノなら数ヶ月くらい練習したことがある。
覚えの良さに先生には褒められていたし自分自身も結構な実感は湧いていたけれど、第18回アリアハンピアノコンクールで予選落ちしてからはめっきり弾かなくなっていた。

962彼女なりのシリアス回 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/13(水) 01:23:59 ID:ELMKKjOg0
さすがのフアナもそればかりを貫いて生きてきた人間にはどうしても勝てない。
フアナの得てきた成果の数々が謎の分野に偏っている理由はそこにあった。


(別に、完璧超人を目指してたわけじゃないんですけどねえ。)


例えばホープはフアナよりずっと鋭い観察眼を持っていた。戦闘以外でも悪人の嘘をずばりと見抜いたり、戦闘においても自慢の観察眼を駆使して誰も気づかなかった敵に真っ先に気付いたりもしていた。

本人から聞いた話によると、ホープは貧民街で産まれたらしい。
盗まなければ盗まれる。
騙さなければ騙される。
常に周りに気を配っていなければ金品はおろか命さえすぐに危険に晒される、そんな世界で生きてきた生粋の盗賊少年。あの童顔の仮面の下にはそんな過去があった。


アスナに至っては言うまでもなく、あのずば抜けた戦闘センス。
特に危機に陥るなどして感情が大きく揺さぶられた時、自分の何倍も素早く動き回るアスナを何度か見たことがある。

最初は所詮勇者の血筋のなせる技だと思っていた。
だけど彼女と一緒に冒険するようになって、その実力を裏付けるものが勇者の血筋だけではなく、血のにじむほどの努力であることを知った。
自分の才能がかなり恵まれている部類に入ることは分かっていても、彼女のようにはなれない。アスナほど純粋に誰かを助けたくて戦っている勇者を、フアナは知らない。


サヴィオは………うん、何故かとても運がいい。
理屈は分からない。その幸運の裏で不幸を被るのがいつもホープなのも理屈が分からない。
でも、自分の小手先の技術よりずっと有効に働くことだってしばしばあった。

まあ、こればかりは納得いってませんけども私。

963彼女なりのシリアス回 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/13(水) 01:24:44 ID:ELMKKjOg0


そう、何にせよ皆何かしら突出したものを持っていた。
それに比べ、自分は何か特別なものがあるだろうか。
何にでも興味が湧いては手を出して、そしてすぐに飽きて、それを繰り返している内に出来ることだけは多様にはなったけれど。


(こんなモン、いざって時に役に立たないんですよねえ。)


なりふり構わず何もかもをやりたかったわけではない。
ただやりたいことだけは、何でも出来るようになりたくて、次第にその範囲のものしか目指さなくなって―――求められるもののハードルが少し上がった瞬間、自分は何も出来なくなった。

多彩なものを持つ自分のことだ。小手先の細かい技術で何かしらに貢献することは出来るかもしれない。

でも、2回に渡るヘルバトラーとの戦いで小手先だけのそれは通用しなかった。
自分がここに生きているのはこんな自分を守ってくれた人たちの犠牲があったからに過ぎないのだ。
これから激化していく戦いの中で自分は何が出来るのか、何をすべきなのか。

(ほんと、私だから出来ることって、何なんでしょうかねえ。)

アスナのような戦闘センスがあれば倒すべき敵を倒せる。

ホープのような観察眼があれば戦場でも適格に動くことが出来る。

サヴィオのような得体の知れない力を持っていれば守りたい人を守れる。

でも自分には何も無い。
何もかもが出来ながら、何も出来ない。
皆を守ると誓ったけれど、具体的に何が出来るのかを見つけられないのなら、それはただの口先だけの虚勢でしかなくって――――――

964彼女なりのシリアス回 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/13(水) 01:27:15 ID:ELMKKjOg0


(まったく、こんなの私のキャラじゃないですってば。)


どうしたんでしょうかね、と呟きながら目の前の物体を支えに立ち上がる。
ピアノであることを忘れられていたそれに体重が加わり、突然鳴り響いた不協和音にフアナは驚いた。


こんな経験をしたことはないだろうか。
簡素な風景の薄暗い部屋。
独りぼっちの自分。
そんな自分の心に疑問形で問いかけてくる自分。
自分とは何か?
それはまずそんな問いに始まり。
何のために生きているのか?
こうして根源的な問いへと変化していって。


(ああ、たぶん人恋しいんでしょうね私。)


誰かが側にいるならば、無理にでもきっといつものように明るく振る舞える気がした。
皆を引っ張っていくそんな存在でありたいと常々思っていたのも、みんなから離れたくないという潜在的意識によるものだったのかもしれない。


もうアスナのところに行こうか―――ふとそう思ったが自分よりも酷い怪我をしているアスナの部屋に飛び込んでいくつもりはない。


じゃあコニファーさんのところに―――いやいやこんな真夜中に殿方のところになんて行きませんってば!

965彼女なりのシリアス回 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/13(水) 01:27:51 ID:ELMKKjOg0


(あっ…。アスナといえば…元の世界では性格を変える本を探してましたね。)

ふと、自分の支給品の中に本の類のものが入っていたのを思い出した。

(別にわたしゃアスナは今のままでもいいと思うんですけどねえ。)

ひっこみじあんなところを含めて彼女の魅力なのだとフアナは思う。既に打ち解けて一緒に冒険しているフアナから見たら、初めの一歩さえ踏み出すことが出来たなら彼女はとてもいい子だ。
きっとサヴィオもそう思っていたし、アスナに恋するホープなんて間違いなくそう思っていた。
だからこそ、本なんかで作り上げた人格ではなく、彼女自身の努力で踏み出していけるようになってほしいものだ。

(娘の自立を待つお母さんってこんな気分なんでしょうかねえ。)

などと考えながらその本を取り出す。
支給品を大まかに確認くらいはしていたものの、じっくりと確認するに至る前にズーボーと出会い、それから心休まる時が全くなかったために支給品の詳細把握は遅れていた。

966彼女なりのシリアス回 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/13(水) 01:28:26 ID:ELMKKjOg0

絵本やら雑誌やら、そういったものとは違う書物とでも言うべき重々しさのあるそれは、わざわざ支給されていることから考えてもただの書物ではないのだろう。
うん、まさかただの絵本が支給品だなんてあるはずがない。

悟りの書でないことは見て分かったので、彼女の世界の道具のバリエーションを考えて消去法的に性格を変える類の書物だろうと結論づけた。

「とはいえ、読んで確かめるわけにはいきませんよね。本は何故か消費アイテムなわけですし。ほんと不思議ですよねえ。」

ちなみに、彼女はアイテム鑑定士の資格を持っているだけあり大体の道具についての知識はあるのだが、実際にその中身を知っている訳では無い。

「それにですね、も、もしもこれが"せくしぃぎゃる"になる本だったりしたら…これは…これはたいへんな事件ですよ!」

そう言いながら本をバッグに強引にしまい込む。
曲がりなりにも聖職者である自分が、このような俗物的かもしれない本に手を出すわけにはいかない。

967彼女なりのシリアス回 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/13(水) 01:29:36 ID:ELMKKjOg0




「うーん………。」




「何も無いわけですし……やっぱどうしても、退屈ですよねえ。」




「…ほら、私、『THE・ガマン大会8668』で優勝するくらいのメンタルはあるので?性格を変える本ごときに負ける気はしないんですよ。ちょっと挑戦してみようかなあ。」




「うーむ……せくしぃぎゃる。……あ、べつに興味があるわけじゃあないんですけどね?」




「うう…そりゃ私も女性なわけですし?グッドなおねーさんへの憧れが多少はあったりもしますよ?多少、ですけど。」




「うん………ちょっとだけ……そう、ちょっとだけですから!」




誰に対しての言葉か分からない茶番を終え、支給品袋から素早く本を引き抜いてペラペラと捲り始める。

968彼女なりのシリアス回 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/13(水) 01:31:51 ID:ELMKKjOg0
「ごくり…ど、どれどれ…『汝、この書を以て敵を見据え唱えよ』んーと?ぐらんど…ねびゅら?こ、これはまさか――――――」







「――――――せくしぃぎゃるの本じゃないんでしょうかね?」


【D-3/トロデーン城ミーティアの部屋/真夜中】

【フアナ(女僧侶)@DQ3】
[状態]:HP1/6 MP1/8
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 パラディンの秘伝書 不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:自分だけが出来ることを探す。
:休憩する。
※バーバラの死因を怪しく思っています。

969彼女なりのシリアス回 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/13(水) 01:34:37 ID:ELMKKjOg0
投下終了しました。

秘伝書のくだりを「星空、遥か遠く」に収めようとしてましたが蛇足と感じたので独立した1話として書いてみました。

970彼女なりのシリアス回 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/13(水) 01:43:53 ID:ELMKKjOg0
すみません、早速ですが訂正です。

>>962
サヴィオは………うん、何故かとても運がいい。
理屈は分からない。その幸運の裏で不幸を被るのがいつもホープなのも理屈が分からない。
でも、自分の小手先の技術よりずっと有効に働くことだってしばしばあった。

の部分が死者スレ内のネタを引っ張っていたので

サヴィオは………うん、何故かとても運がいい。
理屈は分からない。
サヴィオが転んで偶然躱せたボストロールの痛恨の一撃が何故かホープの方に飛んでいったりと、その幸運の裏でいつもホープが不幸な目にあっているのも分からない。
でも、自分の小手先の技術よりずっと有効に働くことだってしばしばあった。

に訂正します。

971 ◆qpOCzvb0ck:2018/06/24(日) 23:21:32 ID:R8NGe3IY0
投下します。

972 ◆qpOCzvb0ck:2018/06/24(日) 23:22:03 ID:R8NGe3IY0
走る。
街へ向かって、ただ走り続ける。
怪我をした左手が痛む。
それでもなお、走り続ける。

向かっているのは、トラペッタ。
ただ、生きている仲間が欲しかった。
トンヌラ、ローラ、アモス、パトラ、リュビ。そしてキラーマジンガ。
この世界で会った者は、仲間と呼べる者、そうでない者問わず、次々と死んでしまった。


キラーマジンガとの戦いで加勢してくれた二人、アルスとライアンは、自分のことを仲間として受け入れてくれた。
でも、彼らと行く道には、自分が見たくないものがある。
それに自分は怖かった。


あの二人も、自分が何もできない形で死んでしまうのが。
先程の戦いも、誰かが犠牲になってもおかしくない激戦だった。


あの時、レックだったらどうしたのだろうか。
いや、やめておこう。
その時いない人物のことについて考えるのはただただ無駄な話だ。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


あれは牢獄の街に囚われた人々を開放し、その人たちと共に宴を楽しんでいた時。
「ハッハッハ!!チャモロも一杯いくか?」
「いや、僕は………」
「あーそうだったな!!チャモロはまだ酒飲んじゃいけねえガキだったか!!ハッハッハ!!」

聖職者だから……と言いたかったが、酔っ払っているハッサンは一人で話し続けた。

「ところで、ハッサンさん。」
「なんだあ〜!?」
「その……酔っ払ってるって……どういう感覚ですか?」
「あ〜。なんだ。ゼニスの城へ行く時に光に乗るだろ?あれがずっと続く感覚だぁ〜。」
「……分かるようで、わかりません。」
「そこにコップが2つあるだろ?3つに見えたら、酔っ払ってるってことだ。」
「何言ってるんですか?コップは1つしかないですよ。」
「なぬぅ〜?」

973 ◆qpOCzvb0ck:2018/06/24(日) 23:22:21 ID:R8NGe3IY0

あの時ほどひどくないにしろ、ハッサンは酒に酔うと、誰彼構わず絡んでいた。
遊び人をやっていた時は、酒を飲んで敵に炎を吐いたり、戦闘中に爆睡したりしていた。
自分はあの時、それを頼れる仲間の数少ない欠点だと思っていた。
だが、今の自分は、それを求めている。
自分に絡んでくれる人が欲しかった。
自分を頼ってくれる人が欲しかった。
自分と笑ってくれる人が欲しかった。
自分と生きてくれる人が欲しかった。

誰かに、自分の存在を証明して欲しかった。

(僕って、こんなに弱かったんでしょうか………。)

一人で考えているうちに、トラペッタにたどり着いた。


(!?)
巨大な土人形が動いていた。
よく見れば、穴を掘っている。

一瞬身構えたが、敵意はないらしい。
土人形は、街の中に入った。
チャモロも、その後を追う。

土人形は、大きなドラゴンの死体を抱えていた。
そのまま、先程の穴に入れる。
どうやら、死体を埋葬しているらしい。

チャモロも、長く魔物を見ていたが、埋葬という文化は人間にしかないのだと思っていた。
その珍しさに魅入られていると、別の方向から声が聞こえた。

「チャモロさん!!」
「サフィールさん!!無事で………よかった………。」

突然、涙が溢れ出す。
傍から見れば、大人になっていない、だがずっと年上の少年が、少女の前で泣いている、情けない光景に見える。
自分でもそう思ったが、どうでもよくなった。

会えた。
自分を知っている人に、会えた。
なんてことないのに、嬉しくてたまらない。

「どうしたのですか?」
「………。」

「わたしも、おとうさんを止められませんでした。あと少しのところで……。」
「サフィール殿!!どうかしたのですか?」

遠くから、老人の声が聞こえた。

見れば、ゲントの長老を思い出す風貌をしている。

974蘇る幸せ、そして恐怖 ◆qpOCzvb0ck:2018/06/24(日) 23:23:51 ID:R8NGe3IY0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


サフィールとブライ、それにゴーレムはアルス達と別れトラペッタへ行った。
ジャンボやゲレゲレはまだ来ていないらしいので、待つことにした。
だが、戦渦に晒された場所で何もしないのも落ち着かない話だ。
そこでサフィールの提案で、街の中での死骸、がれきに埋もれたドラゴンと頭のかみ砕かれた獣人の墓を作っていた。
ゴーレムが10人分は働いてくれたので、時間はそこまでかからなかった。
街を大きく占めていたギガデーモンの死体こそ、大きすぎて手に負えなかったが。


それが済むと、比較的壊れていない宿屋を使って、休息をとっていた。
中のセッティングはブライとサフィールが行った。

「チャモロ殿。これで一先ず安心ですぞ。」
チャモロはブライに折れた左腕の添え木をしてもらっていた。
「ありがとうございます。」
「これくらいのこと、昔からやってましたからな。」

ブライは回復呪文こそ使えないが、小さな怪我を治療する知識は、王宮の教育係として備えていた。
たとえ薬草などがなくても、周りにあった布や棒きれなどで容易に出来る。

「誰かの……お世話係なのですか?」
チャモロはその慣れた手つきを見て、伺う。
「そうじゃ。お世話係……だったのです。」
そこから先は聞く必要はなかった。
なぜ、この老人が「だった」と言ったのかは想像が容易につくからだ。


「チャモロさん。杖を貸してくれて、ありがとうございました。」
サフィールは、チャモロに向かってほほ笑み、ドラゴンの杖を返そうとする。
「いいえ。それは、サフィールさんにとって必要な物です。」
チャモロも、それに応えてほほ笑む。

事態は、まったく好転していない。
だが、チャモロにはこの世界で経験したことのなかった、安らぎがどこかにあった。
自分がさっきまで求めていたのは、これだったのかもしれない。




(なんででしょうか……)
サフィールもまた、チャモロと似たようなものを感じていた。
チャモロといると、今まで全く感じたことないが、どこか心地よい気分になる。
グランバニアの人々も、旅先で会った人々も、自分より勇者であった兄を見ていた。
自分はこれまで必要な人間と思っていなかった、だが、チャモロは自分を必要としてくれている。
だが、それだけでないような気がする。
(本当に……何故でしょう)


「申し遅れました。私は、サントハイムの宮廷魔術師、ブライと申します。」
「ゲントの村の神官、チャモロといいます。サフィールさんとは昼間知り合いました。」

チャモロと握手を交わした時、ブライはあることに気付いた。
アリーナと同じ、格闘の修業を積んだ者の手だと。
また、クリフトと同じ、回復の魔法を使える者だと。

975蘇る幸せ、そして恐怖 ◆qpOCzvb0ck:2018/06/24(日) 23:24:35 ID:R8NGe3IY0


「ひとり」だった者、「ひとり」になってしまった者。
大切な者を失ってしまった苦しみや悲しさ。
同じ世界の、異なる時代の三人が気持ちを分かち合えるのは、当然のことだった。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆

一方で、そこから離れた平原。

「個体Bヨ。ワタシハあべる様ヲサガサナケレバナラナイ。協力ヲタノム。」
「ワタシハこまんどガ無イ。個体Aヨ。新タナ命令ガ降リルマデ、行動ヲとれーすサセテモラウ。」
「個体Aデハナイ。ジンガー。ソレガワタシノ名前。ますたー、あべるガ付ケテクレタ名前ダ。」
「ナラバジンガー。行ク場所ヘ向カッテクレ。」

二体は、トラペッタまで動き始めた。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


三人は宿屋の中で腰を下ろし、自分達のことや故郷、昔話に花を咲かせている。
その姿はまるで兄妹とそれを愛でる祖父のようだった。
この戦いが始まってから感じたことのなかった気持ち。
彼らにとって、紛れもなく幸せな時間だった。

出来ることならずっと、「このまま」が続いてほしい。

彼らの心を覆っていた靄は、消え去った、とまでにはいかないにしろ、大きく晴れていた。

「ところでチャモロ殿。」
「どうしました?」
「私達は、もうじきここへ来るという、「ジャンボ」というドワーフの男を待っているのですが……。」
「もう来ているかもしれません。ちょっと僕が周りを見てきます。」
「チャモロさんは怪我が……私が行きます!」
その役目をサフィールが出る。
「いいえ。怪我の方はもうあらかた治りましたので。」
ブライの応急手当と、自分の回復呪文で、ケガした左腕もある程度は治っていた。
後は自然治癒に、回復呪文を後押しすれば治るだろう。

時間を見ると、三度目の放送までそう遠くはない。
ジャンボが来るにしろ来ないにしろ、今後の行動方針を練る必要があるだろう。

宿を出ると、そこに土人形(サフィール曰くゴーレムという名前なんだとか)がいた。

「ゴーレムさんも、サフィールを守ってくれて、ありがとうございました。」
お礼を一つ告げ、広場へ向かう。
チャモロは気分が良かった。
自分をまだ大切にしてくれる人、頼ってくれる人がいる。

(死んでしまった人の分まで、私は守り続けます。
サフィールさんもブライさんもゴーレムさんも。
勿論、会えたらターニアさんも。)

そうだ、ジャンボさん達が来たら、今度こそスクルドさんに会いに行こう。
救えなかった人のことで悩むのは、救える人を救った後でいい。

そのまま広場へ行く。

976蘇る幸せ、そして恐怖 ◆qpOCzvb0ck:2018/06/24(日) 23:26:32 ID:R8NGe3IY0



(!!!!!!)



そこへいたのは、自分が砕いたはずのキラーマジンガ。
構えているのは、折れた紅蓮の剣と、黄土色の槌。
間違いなく、さっき戦った個体だ。
だが、自分には決意がある。
今度こそ、仲間にしてみせよう。


その決意は、瞬く間に消え去った。

(なぜ…………?)


幸せな時間が、終わりを告げた。


(二体いる……?)

二体目は、今まで一度も見たことのないキズ一つない白く輝く剣と、槌を構えていた。


自分の高揚していた気持ちが、一瞬にして消え失せる。
それに代わって頭に入ってきたのは、ハッサンが昔酒に酔っていた時のジョーク。
(自分は、どうしてしまったのでしょう……)



予想を遥かに超えた状況に硬直状態になっていたところを、一体目のキラーマジンガから、無機質な声が聞こえた。

「テキ。ハッケン。攻撃、カイシ。」
数十本の矢が襲い掛かる。
(しまった……!!)
真空刃を出すには、もう遅い。

ギィン!!

しかし、それを遮る太い腕があった。
「ゴーレムさん!!」

しかし、今度はゴーレムの横から、二体目のキラーマジンガが襲い掛かる。
(!!)

それをゴーレムがもう片方の腕によるパンチで、殴り飛ばす。

どうにか助かった。
しかし、チャモロの脳裏には、それによる安堵よりも、機械兵二体の統制の取れた攻撃への恐怖が強かった。

(もしこの宝が欲しければ、私を倒していくがよい。)

海底宝物庫で味わった2体のキラーマジンガの恐怖。
あの時よりかは強くなっているが、今度は二人。しかも守らなければならない人もいる。

977蘇る幸せ、そして恐怖 ◆qpOCzvb0ck:2018/06/24(日) 23:27:07 ID:R8NGe3IY0

「ゴーレムさん!!あの二人を助けに行きます!!それから逃げますよ!!」

今度こそ、キラーマジンガを仲間にしよう、などの考えはすぐに消え去った。
このメンバーでキラーマジンガ二体相手など、仲間にする以前の問題だ。
仮に倒そうにも、どういうからくりか分からないが復活する可能性がある。

「逃ガスナ。追ウゾ。」
二体のキラーマジンガも二人を追いかける。


三度目のトラペッタへの襲撃者の登場。

出来ることならずっと、「このまま」が続いてほしい。
その望みは、思ったより早く砕かれるかもしれない。


【G-2/トラペッタ内部 広場 /真夜中】

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP7/10 MP1/5 左腕骨折(応急処置済み) ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)軽くパニック状態
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める ブライ、サフィール、ゴーレムと共にキラーマジンガから逃げる
※チャモロはローラが死んだと思っています。
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。また、はぐれメタルの職業を少なくともLv7まで経験しています。魔法使い、魔法戦士、賢者、勇者は経験していません。


【ネプリム(ゴーレム)@DQ1】
[状態]:HP1/2
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ネプリムとサフィール、そして彼女らがくれたものを守る
[備考]サフィールやネプリムとの戦いによって、「まもりのチカラ」のスキルが上がりました。
以降も他のスキルが上がるかもしれません。

978蘇る幸せ、そして恐怖 ◆qpOCzvb0ck:2018/06/24(日) 23:27:27 ID:R8NGe3IY0
【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:HP1/4 
[装備]:折れた灼熱剣エンマ@DQS メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:アベルを探す、邪魔する者は破壊する。
[備考]:サフィール達に疑問を抱いています。

【キラーマジンガB@DQ10】
[状態]:HP7/8
[装備]:聖王のつるぎ@DQ10 聖王のハンマー@DQ10 聖王の弓@DQ10 アクセルギア@DQ10
[道具]:支給品一式
[思考]:ジンガーと同じことをする。
[備考]:DQ10のキラーマジンガの特技を使いこなします。
アベルと出会う前のジンガーのように、命令がインプットされていない状態です。
命令する者が現れるまでは、ジンガーの行動をトレースします。

【G-2/トラペッタ内部 宿屋/真夜中】

【ブライ@DQ4】
[状態]:健康 MP2/5
[装備]:魔封じの杖
[道具]:支給品一式 へんげの杖  道具0〜2個
[思考]:生きる。生きてアリーナとクリフトのことを知ってもらう。

【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP:ほぼ全快 MP 2/5
[装備]:ドラゴンの杖
[道具]:支給品一式×3、ショットガン、999999ゴールド
[思考]:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
おとうさんを見つけて止める
みんな友達大作戦を手伝う


※トラペッタ外部に、ゴドラ@DQ1、ナブレット@DQ10の墓が出来ました。

979蘇る幸せ、そして恐怖 ◆qpOCzvb0ck:2018/06/24(日) 23:28:03 ID:R8NGe3IY0
投下終了しました。

980ただ一匹の名無しだ:2018/06/25(月) 21:39:08 ID:oWaTzoIg0
投下乙です
チャモロの格闘とゴーレムの肉弾戦でダブルマジンガをどこまで抑えられるのか
キルスコア逃し続けたジンガーだけど、今回ばかりはまじでやばいかもしれんな

981 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:01:21 ID:VCc.tgBI0
投下します。

982天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:03:29 ID:VCc.tgBI0
「誰か…誰か…」

ターニアとホイミンは走っていた。

分からない。
何故、ジャンボさんはお兄ちゃんを殺そうとしているのか。

「誰か――――――助けてください!」

声を張り上げて叫ぶ。
仮に悪意を持った誰かに聞かれていようものならすぐさま駆けつけられて殺されるだろう。
しかしそんなことを気にしている余裕はなかった。

「どうしましたか?」

幸いか不幸か、声をかけたのは赤いバンダナを被った青年。

もしもこの時トロデーン側に逃げていたのなら、また違う結末が待っていたのかもしれない。
結論から言えば、この出会いは悲劇の始まりだった。


「なるほど。仲間だと思っていた人たちが貴方の兄を殺す算段を立てているところを聞いてしまった、と。」

「はい…。」

エイトはジャンボ達の下に向かいながら大まかな話をターニアとホイミンから聞く。
その上で、気になる点がいくつかあった。

まずひとつめ。
何故殺す対象がジャンボと面識のないはずのレックやその仲間に限られているのか。生き残りたい者が皆殺しを計画するのなら分かる。だがジャンボは脱出の計画を立てている中心人物であり、基本的に仲間を集めて回っていたという。ターニアとジャンボは別の世界から来ているらしく、ここに来る前の個人的な動機とも思えない。

次にふたつめ。
何故ジャンボはヒューザに殺しの話を持ちかけたのかということ。
結局話し合いは破綻し、ヒューザの正義感によりジャンボとヒューザは敵対することとなったようだが、2人が元の世界からの知り合いであれば相手の性格はある程度分かっているはずだ。
この世界で殺しに誘うというのは断られた時に大きなリスクを負うことになる。

結果だけを見ればククールの皆殺しの誘いを自分は断ったが、ククールだって闇雲に誘っていたわけではあるまい。自分の中には乗るという選択肢も少なからずあったし、ククールもそうであることを見越した上で誘っていた。
ククールとの交渉の破綻の原因は互いのスタンスの違いにあった。その2人で考えると、特定の相手を殺そうとするジャンボのスタンスと対立しているヒューザのスタンスはおそらく対主催。

そう、考えを突き詰めていくとここで分からなくなる。
対主催の立場を取る相手を、特定の人物の殺害に加担させることを図るに足るだけの交渉材料とは何なのか。

これらのふたつの疑問に答えを出せる結論として考えられるのは、レック達について。
もしかすると、ジャンボはレックとその仲間が主催者と対立するにあたって邪魔な存在――――例えば無差別マーダーであるというような、妹であるターニアさえ持っていない情報を持っているのかもしれない。
つまり、ジャンボが本当に危険人物なのかどうかはまだ分からないということだ。

「天の雷よ、我が剣に宿れ――――――」

少し誤った推測を胸に、エイトは剣に雷光を纏わせた。

983天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:05:26 ID:VCc.tgBI0
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

場所はジャンボとヒューザの戦地。
ヒューザに武器は叩き落とされ、ゲレゲレは気絶している。
圧倒的にヒューザが不利だった戦いは今やジャンボの方が追い詰められていたはずだった。

だが、武器のないジャンボに対してヒューザも自ら武器を捨てた。
それの意味するところは不殺生。ジャンボを殺すつもりはないと宣言したようなものだ。

(まあお前ならそうするだろうよ、ヒューザ。本当に甘い奴だ。)

「うおおおお!!」

ヒューザが拳ひとつでジャンボに殴り掛かる。
単純な攻撃―――故に真っ向から勝負するとなると最も厄介な攻撃。

(さて、殴り合いになりゃ勝てねえなこりゃ。)

頭脳で処理できることならどんな相手でも打ち負かせる自信はある。だが、今やヒューザの武器は胸の中の闘魂ただひとつ。

ではこのままヒューザと同じ土俵で戦うか?
否、ここでの立ち回りの最適解は搦め手。ヒューザの闘魂に対抗出来るジャンボの武器はその小賢しい頭しかないのだ。

「連続―――ジバリア!」

ヒューザの動く先々に魔法陣の罠を張り巡らす。
時間差の爆発がヒューザを襲い続ける中での殴り合いであれば単純な殴り合いでもジャンボに分がある。

「俺は負けるわけにはいかねえんだ。手段なんざ選んでいられねえ。」

「ちっ…!」

アストルティアを守る。自分をドワーフに転生させるための受け皿として殺された"ジャンボ"の居場所を守るために。
胸に抱くは、たったひとつの信念。

「そうやって誰かを蹴落として掴んだ未来で――――――てめえの守りたい奴は笑ってんのかよ!」

ソーミャに本当の強さというものを証明する。そのためにも自分のために死んだ、そして自分が殺したメルビンとククールに顔向け出来る生き方を通す。
胸に抱くは、たったひとつの信念。

「うおおおお!!」

「おらあああ!!」

二人とも命を奪うことの重みは理解している。
そして二人とも、その重みから目を逸らすことなく立ち向かっている。

覚悟に優劣があるわけではない。
想いに優劣があるわけでもない。
ただそれらのベクトルの向きが違うだけ。

大地が断続的に爆発する中、2人の拳が衝突する。

(まさか武器無しで戦うはめになるたあな。格闘振っといて良かったぜ。)

単純な攻撃で立ち向かうヒューザに対し、ジャンボは格闘の特技ばくれつけんを中心に立ち回る。
格闘スキルは実戦向きの特技は少ないが、ばくれつけん辺りまで取っておくと色々と便利なのである。

正面から正攻法で戦うヒューザと搦め手や技術を駆使して戦うジャンボ。
性格というものは戦闘スタイルに少なからず反映される。

984天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:08:43 ID:VCc.tgBI0

(俺は―――何をやってんだ。)

ジャンボの頭の中にふと疑問が浮かんだ。

守るために戦ってきたはずだった。そのためならどんな犠牲も厭わないと割り切っていたはずだった。
それなのに、そうしたくないと叫んでいる自分がいる。

(――――俺にもまだ、人間の良心が残っているとでも言うのか?)

違う。
俺はあの時からずっとドワーフのジャンボだ。
今更人間ぶるんじゃない。

しかしヒューザは全く折れる気配がない。
素手と素手との戦いでも、自分にはジバルンバというヒューザを殺す手段があるというのに、撃つことは出来ない。

殺せば戦いは終わる。
そうなれば後戻りは出来ない。
ヒューザを早く片付けて自分の本性を知ってしまったターニア達を殺しに行かなくてはならないというのに、このままずっと殴り合っていたいようなそんな錯覚すら覚える。

(しっかりしろ…俺はこんな腰抜けじゃあなかっただろうが…!)

乱れる想いに呼応するように乱れる拳。
その一瞬の隙を、ヒューザは見逃さない。

「うおらぁ!」

「ぐあっ…!」

ヒューザの拳がジャンボの胴体に命中する。
突き刺さるような痛みが胴にも口の中にも広がっていく。
その時、ジャンボは感じたひとつの想いに気付いた。

「くっ…はは…ははははは!!」

「何がおかしいんだよ。気でも狂ったか?」

「…悪くねぇ。そう思ってな。」

気など狂っていない。
むしろいつもの感覚が戻ってきているかのような気分だ。

この戦いを純粋に楽しんでいる自分がいたのだ。

思えばこの世界に来てからというもの、ずっと気を張ってばかりだった。

脱出の手段は?
黒幕の正体は?
生き残る方法は?
アストルティアへの危機は?

そんな溜まりに溜まった疑問を、この戦いの間だけは忘れさせてくれる。

そう、戦いは本来娯楽であるべきなのだ。
ピラミッドの新たな階層が発見された時。強戦士の書の新たなページが開かれた時。新たな世界への冒険へと向かう時。
その先のまだ見ぬ強敵との戦いにジャンボはいつも胸を踊らせていた。

それを楽しいと思えなくなった冒険者はもはや冒険者ではない。
何となくフレンドとの繋がりだけは維持しておきたくて―――あるいは今まで続けてきた冒険をやめるのが何となく勿体なくて―――そんな惰性に満ちた冒険を冒険だと思えなくなって消えていった冒険者など山ほどいる。

985天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:09:29 ID:VCc.tgBI0

そんな中でもジャンボが冒険者たる所以は戦いを楽しんでいるから。
勇者の盟友だとか何処ぞの救世主だとか、そんな大層な称号の持ち主である前にジャンボは1人の冒険者なのだ。

「ああ、そうだな。悪くねぇ。本当にそう思うぜ。」

そしてヒューザもまたアストルティアの冒険者である。
ピラミッドの地下に前代未聞の強敵が現れたとの情報あらばハイエナの如く群がり、半日とせずに討伐を成し遂げる、そんな戦闘狂たちの一人。

そしてそんな狂った冒険者の中でもトップクラスの実力を持った2人が、お互いの全てを賭けてぶつかり合っているのだ。
これを楽しまぬ道理など彼らにはなかった。

「さあ、とっとと続けようぜヒューザァ!」

「はっ、次で終わらせてやんよ!」

互いに拳を構え殴り掛かる。
ふたりの目にはそれぞれ相手しか映っていない。
ここが殺し合いの世界だということなど忘れ、これ以上なく今を楽しむのみ。

だだ、忘れるなかれ。
ここはコロシアムでも決闘場でもなく、殺し合いの戦場なのだ。
目の前の相手しか見ていない2人に、更なる相手が介入してこない保証などどこにもない。



「――――――そのまま動かないでください。逆らうのなら命はありません。」


「なっ…!」

「ぐっ…!」

気が付くと突然の乱入者、エイトが剣にギガスラッシュを纏って2人に突き付けていた。
男と男の決闘は決着のつく前に終わることとなる。



さて、現状エイトは殺し合っていた2人の命を完全に掌握している状態である。
武器を捨てさせるまでもなく2人は武器を持っておらず、このままギガスラッシュを放つだけで屍がふたつ出来上がる。

ジャンボはレックという参加者の一味を殺そうと画策している。その理由によっては矛先がミーティアに向かないという保証はない。
また、スタンスが対立していれば元の世界の仲間でも切り捨てられるヒューザも安全と断定するには早い。互いを切り捨てようとしていた自分とククールは周りから見ればどちらも危険な存在であったのがその例だ。

このまま殺すべき―――本能がそう訴える。

986天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:10:22 ID:VCc.tgBI0

しかしエイトは迷っていた。
アルスやブライはこんな自分を信頼してくれた。
目の前の人物が完全にゲームに乗っているとの確証が得られるまでは殺したくはなかった。

「経緯を話してください。答えによっては命は奪いません。ターニアさんとホイミンさんから大まかですが事情は聞いていますので、嘘で乗り切れるとは思わぬように。」

エイトの答えは保留。

2人の命をいつでも奪える状態に持ち込みながら、レックを殺す動機を聞き出すというもの。
判決を下すのはその後でも遅くはないだろう。心の迷いは悟られぬよう冷酷さを演じて。


(ちっ…ターニアたちを逃がしたのは失敗だったか…?)

ジャンボは目の前の男の顔を知っている。ヤンガスが最も信頼を置いていた男。
この小柄な体つきに秘めているのはヤンガスをして兄貴と呼ばせる実力。しかもヤンガスの知り合いであるということはこの世界で地理的な利もあるということだ。

そしてエイトを敵に回すということはヤンガスまでもを敵に回すと言っても過言ではない。
仮に上手く立ち回って自分だけがこの場で生き残ったとしてもヤンガスと再会すれば必ず事情を聞かれる。ヤンガスと既に出会っているヒューザに罪を擦り付けるのも難しいだろう。

そもそも、生殺与奪の権利を握られているこの状況を脱する好機すら見つからない。
策を弄しても何も思い浮かぶことはなく、ジャンボは拳を握り締めた。


(コイツ…エイトだっけか…?面倒なことになっちまったぜ…。)

ヒューザもまたヤンガス経由でエイトの顔を知っている。
ただし、ヤンガスはククールの人格を見誤っていた。ヤンガスはエイトのことを高く評価していたが、それもどこまで信用に足るか分かったものではない。

ジャンボの行いを咎める立場であるのなら敵対することはないのだろうが、エイトと協力することも面白くない。
ここでエイトと手を組んではヤンガスの同行を断ったことに対して、そして何よりコイツの仲間のせいで死んだメルビンに対して筋が通らない。

987天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:11:00 ID:VCc.tgBI0

さて、それぞれの想いが交錯するこの構図。ここで今の構図を第三者視点で眺めてみることにしよう。
エイトが今は2人を殺す気がないとか、そもそもの原因はジャンボたちにあるだとか、そんなものは目には見えない。
目に見える情報は、傷だらけのジャンボとヒューザ。そしてその2人へ剣を向けるエイトのみ。
そう、まさにエイトが2人を殺さんとしている構図である。



「――――――っ…!!ジャンボ!!!」



また、その第三者はそもそも先入観を持っていた。
ジャンボは純粋にこのゲームに反抗しているのだと、そしてヒューザはジャンボの心強い味方だとも思っている彼女――――――勇者姫アンルシアはこの状況に冷静さを保てるはずもなく、閃光の如くエイトの元へとレイピアを構えて駆け出していく。

「なっ…!」

ジャンボたちを殺すべきか殺さぬべきか考え込んでいたエイトは暗闇の中から現れたアンルシアの姿を捉えるのに一瞬遅れる。
オーバーステップで下がりアンルシアの一閃を何とか回避するが、ジャンボたちからはどうしても注意を外すこととなった。

「誰だか分かりませんが…向かってくるのなら容赦はしません。」

溜めていたギガスラッシュをアンルシアに向けて放つ。
エイトの最強の技というわけでもないが、それでも勇者の雷を纏った大技がアンルシアへと迫る。

「誰なのかは知らないけど…あの人の敵なら許しはしない。」

一方アンルシアは剣圧だけでそれを消し飛ばす。
ジャンボの危険という状況下により持ち前の怪力がいつもにも増して発揮されている。

988天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:11:54 ID:VCc.tgBI0
刹那、アンルシアはエイトとの距離を詰めてレイピアを突き刺す。
エイトは咄嗟に剣で振り払うがアンルシアが腕を引いた次の瞬間には再び閃撃がエイトを襲っていた。
アンルシアの腕のバネが可能にする神速の2回攻撃。近距離戦での速度と瞬間火力に優れるレイピアという武器はアンルシアの戦闘スタイルとこれ以上なくマッチしているのだ。

2度目を完全に捌ききることは出来ず、心臓からは逸らしたもののエイトの脇腹をしっかりと抉る。

傷の痛みに悶えながらエイトは後退する。
こんな威力の攻撃を心臓に受けようものなら即死である。
こちらの業物、奇跡の剣の回復効果など雀の涙にも役に立つまい。
敵の動きを削ぐのが先決――――――エイトはそう判断した。

アンルシアは焦っていた。
あの2度の閃撃で仕留められないことからも目の前の相手がかなりの実力者なのは分かる。ただ、この相手1人にジャンボとヒューザがあそこまで追い詰められていたとは思えない。
まだジャンボへの危険が去っていないのなら、この相手にあまり時間を割くわけにはいかない。しかし相手は自分の得意な近距離戦を拒んでいるようだ。
敵の動きを削ぐのが先決――――――アンルシアはそう判断した。

皮肉にも、その手段として選ばれたのは同じ呪文。


「「天なる雷よ、悪を討て――――――」」


「姫さん、待て!ソイツは多分敵じゃねえ!」

アンルシアの誤解に気付いたヒューザが叫ぶが、詠唱に合わせて鳴り始めた雷鳴に遮られてアンルシアには届かない。


「「ギガデイン!!」」


呪われし勇者と眠れる勇者。
2つの世界の勇者の操る雷がぶつかり合う。
弾け飛んで辺りに降り注いだ雷がヒューザの目の前に落ち、ヒューザは拳を握り締め立ちすくむことしか出来なかった。

989天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:12:39 ID:VCc.tgBI0

(最高のタイミングだぜ、アンルシア。)

エイトの注意はアンルシアに逸れ、ヒューザはその戦場に向かっている。
ここが好機と、ジャンボは落とされたナイトスナイパーを回収しに向かう。
そして、その姿を遠目で見ていた者がいた。


「ティアさん!ここは危ないです!下がっててください!」

「で、でも…アンルシアお姉ちゃんが…」

「私たちがあの中に飛び込んだらアンルシアさんが気になって戦えません。どうか今は堪えて。」

「…うん。分かった…。」

アンルシアに同行していたフォズはティアを戦場から引き離す。
アンルシアの叫んだ言葉から向こうにジャンボがいることは分かった。

そして人影がひとつ走り去って行ったのも何とか見て取れた。おそらくあれがジャンボだろう。

ならばフォズのすべきことはひとつ。
本来神官として人の命に優劣をつけるわけにはいかないのだが、ジャンボは首輪の解除の鍵となる存在。言い換えるのならジャンボの命はこの世界全員の命だ。アンルシアが敵と戦ってくれている今、この危険だらけの場所でジャンボの傍に居られるのは自分しかいない。

(ごめんなさい、アンルシアさん…あなたの加勢には行けません…!)

アンルシアに心の中で謝りながら、フォズはジャンボの元へ向かう。



「駄目だよ…戦わないで…!!」

エイトとアンルシアの戦いに混じることなど到底出来ず、ホイミンはただただ叫ぶばかりだった。
しかし、その声は当然のように届かない。
隣のターニアは依然として俯いたままだ。
自分が声を掛けたことでエイトがこんな危険に巻き込まれたことに少なからず責任を感じているのだろう。


それぞれがそれぞれ想いを抱える戦場。だが、決して交わることはなく、どこまでもすれ違い続ける。
互いに互いをゲームに乗っていると勘違いする二人を中心に巻き起こる戦いの嵐。
そしてそれとは別に、もう一つ、戦いが勃発しようとしていた。

990天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:13:25 ID:VCc.tgBI0

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

ここは…どこだ?
記憶がハッキリしない。
だがやるべき事は分かっている。倒すべき敵はハッキリしている。

頭の中に残る最後の記憶――――ニヤリと笑う邪悪な顔に、耳の中に反響し続ける手を叩く音。
どうやら奴は魔物の心を掌握する能力でも持っていたようだ。

これでもうひとつの疑問も解けた。大切な後輩は奴の能力によってメガンテを唱えさせられたのだ。
許せない。いくつもの命を奪っておいてのうのうと仲間面をして潜んでいたなんて。奴の目的こそ分からないけれど、このままだと皆が危ないことは何となく分かった。

幸か不幸か、これまで出会ってきた人たちは皆いい人だ。奴を殺すことだって躊躇するに決まってる。

とはいえ自分では奴に勝てない。このまま立ち向かったところでまた手駒にされることだろう。

いや、方法はある。
奴の能力を封じればよいのだ。
心を掌握されるあの景色を見なくて済むように、そしてあの音を聞かなくて済むようにすれば――――――
思いつくが早いか、悪魔の爪で自らの両の眼を、そして両の耳を、順に潰していく。嗅覚は奴を捉えられるから問題は無い。
しかし顔面を深く抉った4つもの傷跡には悪魔の爪による致死量の猛毒が流れ込む。

だがこれでいい。
こんな腐った世界なのに馬鹿みたいにいい人たちの代わりに、自分が汚れ役を引き受けてやるのだ。
オイラの分も奴の分も、皆のところに血の汚れなんて一滴も残すものか。


さあジャンボ、道連れにしてやる。ロッキーとはまた違うけれど、これがオイラのメガンテだ。
オイラと共に、地獄に落ちろ。

地獄の殺し屋ゲレゲレは静かに立ち上がった。
あと僅かで燃え尽きるはずの命を復讐心で燃え上がらせて。

991天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:17:02 ID:VCc.tgBI0
ジバリアを仕掛けた位置を悟られにくくするため、ヒューザと格闘戦を繰り広げている内にジャンボとヒューザの位置は当初の場所から大きく動いていた。
そのため、落とされた武器はすぐには見つからない。
こんな時、地理を把握している世界の奴らは有利だよなとジャンボは不平をこぼす。

「確か、この辺に――――――あった!」

ジャンボは落としたナイトスナイパーを拾い上げた。
名前の通り弓は闇に紛れ込んでおり、よく目を凝らしてようやく見ることが出来た。
それに神経を注いでいるジャンボは背後から迫る危険に気付かない。



「――――グオォォ!!」



「っ!しまっ――――――」



ギリギリで背後から飛びかかってくるゲレゲレに気付く。
ジャンボは紙一重でゲレゲレの攻撃を躱す。
危ないところだったが、初撃を躱せたのでもう何も問題は無い。
次の攻撃が飛んでくる前に、再び手懐けて手駒へとしてしまえばいいのだから。

「―――ちっ…!飼い猫に手を噛まれるたあ失敗したぜ。だが、ここまでだ。お前のすべきことはこんなことじゃあねえだろ?」

ゲレゲレに向けて手を叩く。
ジャンボは知らない。
ゲレゲレが目も耳も使えない状態であるということを。

(さあて、これで武器にゃあ困らねえ。こっからどうすっかね。)

ゲレゲレを放して1歩下がる。
アンルシアの方を向き直し、どれから対処しようかと策を巡らせる。ゲレゲレが魅了されていないことになど、一切気付いていなかった。

ゲレゲレは力を溜めていた。
次は当たる。もうジャンボの気はゲレゲレの方へ向いていない。
これが自分の最期の一撃になるとゲレゲレは確信していた。

「よし、ゲレゲレ。まずはあのエイトって奴を――――――」

「グル……グルォォアアアアア!!」

命を吐き出し尽くすかのように雄叫びを上げて、全てを込めた一撃が放たれた。



――――――グシャ。



命を抉る、そんな音が聴こえた。
ゲレゲレの全てを込めた一撃は、見事に胴体を貫いた。

992天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:17:53 ID:VCc.tgBI0


「かはっ…」



目の前の景色ががセピア色に染まっていくような、そんな錯覚を覚えた。
もう助からない、傷口をよく見るまでもなく本能が理解する。

「どう…して――――――」

ジャンボは失いかけた声を絞り出す。
何が起こったのか理解するには脳が追いつかなくて、目を擦ってみれば、手のひらを満たすおびただしい量の血に気付いた。

「どうして――――」

分からない。
何故、こんなことになっているのか。

「―――どうして!俺を助けた!!」

そう、ジャンボは出会ったこともない少女に庇われていた。

自業自得の死を迎えるはずだったその寸前に、意味もわからぬ生を与えられて。
ジャンボに出来るのは、ただ疑問を口から吐き出すことだけだった。

「貴方は…わたしたちの希望…。」

フォズが口を開く。
ジャンボの命が失われてしまえばもうこの世界の脱出は不可能になる。
だから飛びかかろうとするゲレゲレを見た途端、咄嗟にジャンボの前に立ち塞がったのだ。

「ぐ…もう、時間が――。ジャンボさん…手を、出して…。」

臓器もほとんど駄目になって、呼吸すらまともに出来ないはず。
即死してもおかしくないほどの傷なのに、どうやって出しているのかも分からない声を捻り出してジャンボに語りかける。
もはや何が起こっているのかも未だ分からないまま、言われた通りにジャンボは手を伸ばした。
フォズは震える手を伸ばしてジャンボの手を取る。

「これで……いいのか?」

フォズは頷く代わりににこりと笑った。

「おお、この世の全ての命を司る神よ…!ジャンボに新たな人生を歩ませたまえ――――――」

そのまま、ジャンボを魔法陣が包み込む。
ジャンボにとっては冒険の中で何度も見たことのある光。
しかし何度も見たその光景に、血塗れの少女など1度たりとて含まれていなかった。

「これは……転職!?オイ、お前…これは一体!」

993天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:18:36 ID:VCc.tgBI0

ジャンボは首輪解除の手段として首輪にどうぐ使いのトラップジャマーを使うことを見出していた。
また、フォズ達は脱出の手段としておわかれのつばさにどうぐ使いの道具広域化を使うことを見出していた。

このふたつの手段に必要な「ジャンボのどうぐ使いへの転職」という奇妙な一致は、はたまた偶然か必然か。
何にせよ、フォズは命を賭してこの世界の僅かな希望を残したのだ。

「繋ぐことが出来て……良かった――――――どうか、私たちの希望……を………。」

「おい…待て……死ぬんじゃねえ……!」

ジャンボの叫びも虚しく、その一言を最後にフォズは息絶えた。

眠っているだけなのではないかと思うくらいには安らかな顔をしていた。

おそらく、この世界で転職の力なんてものは相当珍しいものだったのだろう。
自分の転職がこの世界の僅かな希望だと言うのなら、それまでの彼女の生存も紛うことなく希望の一端を担うものだった。

フォズはこれまでこの世界の全員の命をこの小さな背に背負っていたのだ。
何としても生きなくてはならない、その難しさは放送で呼ばれた人数が物語っている。
他の参加者よりも身の安全には気を配っていただろう。気の休まる時なんてあったはずもない。そんな重圧をようやく下ろすことが出来た。


そしてその隣で、ゲレゲレもまた身体に回った毒と多大な出血で息絶えていた。
ここでようやくジャンボはゲレゲレが自分の目と耳を悪魔の爪で抉りとっていたことに気づく。

ゲレゲレは自分の命を犠牲にしてまでジャンボという危険分子を排除しにかかったのだ。
殺したのがジャンボではなく無関係の少女だったことを命が尽きる寸前に悔やんだのだろうか。それともそれに気づく前に絶命したのだろうか。
故人の想いなんて今やどうでもいいのだが、何となく後者であって欲しいとジャンボは思った。

(ほんっと、自分の命より皆のことを考える「いい奴」ばっかなんだよ。)

ジャンボは素直に感心していた。
こんな世界くらい自分勝手に振舞っていい。というより自己防衛のためならそう振る舞うべきではないのか。
それでも、自分はそんないい奴に助けられた。

(貴方は…わたしたちの希望…。)

フォズの言葉を思い出して溜め息を漏らす。

希望―――自分はそんな大層な呼ばれ方をされるような行いなんてこの世界では全くしていない。
むしろ5つもの命を奪ってきたのだ。良い奴ばかりが犠牲になって、こんな悪党がのうのうと生き延びて、あろうことか皆の希望扱いされて。まったくたまったもんじゃない。

だが、命を捨ててまで僅かな希望を繋いでくれたフォズの想いを無下にすることも出来そうになかった。
何度も言うようだが、ジャンボは借りは必ず返すタチである。

「ちっ……ったく……わーったよ!俺が希望だってんなら、全部救ってやろうじゃねえか!」

決意と職業を新たにして目の前の事態に向き合う。
まずは付近に落ちている全ての武器とフォズとゲレゲレの支給品の確認。
今のジャンボはどうぐ使い。
その名の通り、アイテムがあるのならとことん駆使して戦うのみ。

「ああ、救ってやらあ。この世界も、アストルティアも、ターニアの世界も、全部な……。」

彼が思い出したのは、特別言うまでもない、当たり前のこと。
ガートラントの優しい聖騎士にしても、国想いなメギストリスの王にしてもそう。誰かの犠牲の上に何かを守っても、ただ虚しいだけだ、と。

994天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:19:43 ID:VCc.tgBI0
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(呪文同士のぶつかり合いは互角――――――だったら剣技で圧倒する!)

ギガデインを相殺され、アンルシアは再び接近戦を図る。
そこからとめどなく放たれるアンルシアの攻撃を前に、エイトは捌くのに精一杯で全く踏み込めずにいた。
エイトとアンルシアとでは攻撃に踏み込む際のリスクが大きく違う。
まず攻撃の速度、これこそ重量の小さいレイピアに分がある。
心臓を正確に狙う技術があるのなら、そして使い手に初速から肉を断ち切るほどの力があるのなら、レイピアは高速で一撃必殺を連打出来る武器である。

反面、レイピアと比べた剣の利点はその重量を活かした防御力。
特にエイトの持つ奇跡の剣は攻撃と防御を両立し得る業物である。
ただし、アンルシアの攻撃の速度と威力、さらにガードのしにくい点状攻撃のせいで剣の利点は全く活かせていない。

仮にエイトがアンルシアに致命傷を与えることが出来ても、踏み込んでおいて即死させることが出来なければ彼女の持つレイピアは即座にエイトを殺す。ちょうど彼女の名を騙った魔勇者がとある姫君を道連れに殺したように。

(私はまだ死ぬわけにはいかない…。ミーティアがどこかで戦っている、その限り…。)

目を見開く。
そう、閃撃の嵐のせいで飛び込めないというのであれば話は早い。

「――――――」

エイトが何かを詠唱して始めたのはアンルシアにも見て取れた。
ギガデインか、それとももっと他の攻撃呪文か…。
いや、それが攻撃呪文であれば問題無い。
正面から呪文による攻撃をするのであれば、ある程度の距離を置いていることは必須。

攻撃呪文を放つその瞬間はどうしても守りが手薄になる。
攻撃呪文に即死させるほどの破壊力はなくてもレイピアを心臓につき刺せば死ぬ。距離さえ詰めていれば並大抵の呪文には対応出来る自信がアンルシアにはあった。

接近するアンルシア。
放たれる閃撃。
しかし、対するエイトが放ったのは呪文ではなかった。

「はやぶさ斬り!」

「やあっ!」

エイトの剣技をアンルシアは力技で粉砕する。
攻撃呪文でないのならそれこそ何も問題ない。
また先と同じ応酬に移るだけ、アンルシアはそう判断した。

しかし、アンルシアに比べたエイトの強みは持ち前の特技の豊富さ。接近戦以外では行動に余裕があるのなら、エイトはミドルレンジの内に弾数を温存して接近戦での瞬間火力に備えればよいのだ。そして既に、呪文は詠唱済み。

「―――さらに!ベギラゴン!」

「なっ…あああああ!!」

剣の動きばかりを注視していたアンルシアに閃光が襲いかかる。勇者姫とて、ベギラゴンクラスの呪文をまともに全身に受けてはただでは済まない。

(畳み掛けるなら、今!)

追撃のため剣を構えて飛び込む。ただしその追撃を許すアンルシアではない。
身を焦がす灼熱の中、痛みを感じぬばりの鋭い勘で剣筋を見切り弾き返す。

押し返されたエイトは舌打ちをしながら着地する。
再び、剣と剣の応酬が始まった。

995天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:21:08 ID:VCc.tgBI0
遠く離れたミーティアのことばかりを気にかけているエイトと、すぐ近くにいるジャンボを守るために戦うアンルシアとでは戦いへの覚悟の度合いが全く違う。
この戦いで命を失ったとしてもジャンボを守れるのならアンルシアとしては本望なのだ。


ヒューザはそこへ駆けつけることが出来ずにいた。
アンルシアを説得に向かえば間違いなく命が危険に晒される。
エイトは勿論、アンルシアのためにでも自らの命を投げ打つ義理などない。ヒューザに言わせれば、仮にこの2人が死のうとも勝手に早とちりをした2人の自業自得なのだ。
ただしもちろん思うところはある。
自分が犠牲になることなど真っ平御免だが、何も犠牲にすることなく救えるかもしれない命を見捨てるのとはまた話が違う。

「何か奴らを止める方法があれば――――――そんな顔してんな、ヒューザ。」

背後から現れたジャンボがヒューザの武器、名刀・斬鉄丸と天使の鉄槌をぶっきらぼうに投げ渡す。

「ジャンボ!お前今までこれを――――――ってどうした!血塗れじゃねえかお前!!」

「後で話すさ。ところでさ、どうぐ使いって何する職だと思う?」

「知るか!今はそれどころじゃねえだろ!」

「―――当たりだよ。戦場に独り立たされたどうぐ使いなんざ、俺も何をすりゃいいか分かんねえ。」

弓、ハンマーなどの便利な武器はあるものの、パーティーの攻撃の要となるほどのものではない。
回復は基本道具頼りで、レンジャーなどと比べ、どうぐ使いは単体で完結しているとはとても言い難い。

どうぐ使いが最も輝ける分野、それは仲間を補助する特技や呪文の豊富さ。
また、防御の補助を特に得意とすることから守りが薄くなりがちなバトルマスターとどうぐ使いの相性はとても良いのだ。

「俺は1人じゃ何も出来ねえ。だがよ、信頼出来る仲間がひとりでもいればソイツの背中を誰よりも受け持ってやれる。」

ジャンボはヒューザを仲間に招待している。
何年も同じ世界で戦いに身を投じていた2人、そしてついさっきまで殺し合っていた2人。だからこそ、互いの実力は誰よりも分かっている。

「……分かった。何か策があるんだろ?で、どうすりゃいいんだ?」

「突っ込んで奴らを止めてくれ。足りない分は俺が補う。」

「ああ、任せとけ。後れを取んじゃねえぞ!」

「はっ、こっちの台詞よ!」

戦友は互いに背を預け合う。
その場所は奈落の門の先ではなかったのだが、そんなことで彼等の信頼は変わることはなかった。

996天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:22:20 ID:VCc.tgBI0

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幾度となく続く剣と剣の応酬。
その度にチラつく死の影。
肉体的にも精神的にも2人の勇者に疲れが見え始める頃合であった。

戦わなくて済むのならそうしたい。誰も殺さなくて済むのならそうしたい。
互いにそう思っていることに彼らは気づけない。

「守らなくてはならない人がいる……こんなところで、貴方に負けるわけにはいかないんだ!!」

だからこそ自分に言い聞かせる。自分の戦う意味を忘れないために、そして自分の行いを正当化するために。

「ええ、それは私も同じ。あの人は優しい人だから襲い来る危険にも自分を貫くはず。だから勇者である私が代わりに貴方を倒すの。」

アンルシアもまた自分に言い聞かせる。軽くて、そしてその軽さ故に感じる剣の重みに押し潰されないように。

「うおおおおおお!!」
「うらあああああ!!」

さらに、危険から遠ざけたはずの2人は再び危険の中に飛び込もうとしていた。

「なっ……駄目、ジャンボ!!こっちに来ちゃ――――――」

アンルシアの忠告も虚しく2人は戦場の中心地に飛び込む。
今更中断することも出来ず、エイトとアンルシアの剣が2人を襲う。
そしてそれらを両手にそれぞれ武器を持ったヒューザが受け止める。
ヒューザ1人で勇者2人分の攻撃を受け止められる、そのタネはどうぐ使いとなったジャンボの掛けた補助呪文である。
バイキルトとスクルト、ヒューザの押す力も耐える力も格段に上がっている。

「磁界シールド!」

その防御壁をジャンボがさらに強固にする。
乗った者へのダメージを減らす魔法陣。どうぐ使いは呪文以外でも守りを補助することが出来るのだ。
そしてそのまま、ヒューザはエイトを制圧した。

997天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:23:04 ID:VCc.tgBI0

「ジャンボ……一体どうして…?」

「勘違いなんだよ、アンルシア。コイツはゲームには乗っちゃいねえ。」

「えっ……?」

一瞬、理解が追いつかなかった。
ようやく言葉を交わせた盟友の口から出た一言は、今までの自分の行いを完全に否定するものだった。

感謝が欲しかった訳では無い。
褒めて欲しかったわけでも無い。
だけど、否定の言葉なんて聞きたくもなかった。
聞かされるなんて思ってもいなかった。

「え……?あ……嫌…嘘…そんな……。」

分かっている。
彼はそんな嘘は言わない。
周りが何も信じられない、こんな世界の中でも唯一信じることが出来た彼の言うこと。アンルシアの中ではそれは無条件に真実となるものであった。

ジャンボを見つけた喜びとジャンボを失うんじゃないかという恐れが冷静なアンルシアを心の中から追い出して、殺し合いの中に放り込んだ。

勇者だとか姫だとかの前に、人間として踏み越えてはいけないラインを、危うく踏み越えるところだったのだ。
自分の愚かさに気付く。

「……アンタには迷惑かけたな、エイト。」

「…。」

エイトにもある程度の状況は伝わったようで、まだ息は荒らげながらも戦闘の意思は落ち着いたようだ。

エイトもアンルシアも、更にはジャンボも自分も傷だらけで、まったくとんだ勘違いに巻き込まれちまったもんだとヒューザはため息をつく。
とはいえ、死人が誰も出なかったのは幸いなことだ。
フォズとゲレゲレの死を知らないヒューザはまた安堵する。

エイトもまた、安堵していた。
過程はどうあれ、誰も殺さずに済んだということ。敵に回すと強敵だったが、味方となればミーティアを守るのにも心強いであろう存在が目の前に3人も現れたこと。
戦いの疲れを吐き出すかのように、深くため息をついた、その時。



――――――ザクッ



「えっ…?」


エイトは背後から剣で刺されていた。
何が起こったのか分からない。
だけど、これが何かのトリガーになってしまったことだけは確かなのだ。

そして、再び悲劇は始まる。
だがその前に、過去に戻り、戦いの外の視点からここまでの経緯を紐解くことにしよう。

998天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:23:59 ID:VCc.tgBI0

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アンルシアとエイトの戦いに巻き込まれないよう、フォズにはその場で待っているように言われた。
たしかにあの戦禍に巻き込まれては何も出来ずに死ぬだろう。
それは年端もいかない少女を震え上がらせるには充分な要因だった。

でも、何も出来ないのは嫌だ。
だから彼女は、出来ることを探そうとフォズの後について行ったのだった。

「――――――っ!!!」

その先は、語るまでもない。
彼女の目の前で突きつけられる死。
仲良くなった友達の死を目の当たりにして、今にももう1人、お姉ちゃんのような友達が死ぬかもしれない事態に直面していて、それなのに自分は何も出来ないでいて。
そんなの、嫌だ。
自暴自棄になったかのように、ティアはロトの剣を鞘から取り出す。

「アンルシアお姉ちゃんが危ない…私も戦わなくちゃ…!」

するりと抜けた剣は、ティアが勇者の血を引いていることを何よりも証明してくれていて、それがいっそう自信を煮えたぎらせてくれた。

フォズに続いてアンルシアまでもを失いたくはない。
優しいお姉ちゃんがあんなにも一生懸命戦っている敵なのだから、きっと悪い奴に決まっている。

無謀にもアンルシアの元へ向かおうとしたその時、ティアは背後から腕を掴まれていた。

「ティアちゃんでしょ…?どこに行く気なの?」

掴んでいたのはターニア。
ロッキールに聞かされていてティアのことは知っていたのだ。

「離して!私だって戦える!」

「駄目だよ!こんな戦い、止めなくちゃ!」

ホイミンも一緒に説得にかかる。だが、そんなもので止まれるほどティアの動揺は軽くはなかった。

「私だって、お兄ちゃんみたいに勇者の血を引いてるの!キーファお兄ちゃんも、レックお兄ちゃんも戦っているのに、私だけ逃げてるわけにはいかないんだから!!」

「レック……お兄ちゃん?」

ティアの思いがけない言葉にターニアの時間が一瞬凍り付いた。
自分はレックの本当の妹ではない。それでも、兄として一緒に居た時間はとても充実していて、その絆はそこらの本当の兄弟姉妹にも負けていないと胸を張って言える。
だけど、レックお兄ちゃんには魔物に殺されたらしい本当の妹が居るという話は知っていて、そして目の前の女の子がレックお兄ちゃんのことを兄と呼んで、一瞬、ティアをレックの本物の妹だったかのように勘違いしてしまって――――――

999天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:24:57 ID:VCc.tgBI0

気がつくと、力の抜けた手をティアはするりと抜けていた。

「あっ……待って!」

ティアは戦場へ向かって駆け出した。
目をやると、ジャンボとヒューザまでもが戦いに混ざっていた。

分からない。
どんどん激化していく戦いをどうすれば止められるのか。
何の力もない少女がこんな世界に巻き込まれて、何をすれば正解なのだろうか。
ティアちゃんみたいに自分の信じることを正義として突き進むのが正解なのか。それとも、誰かを傷付けるかもしれない道を進むのを恐れて、何も出来ずにいるままなのが正解なのか。

この世界に来てからというもの、ジャンボに流されるままに動き続けた。そして流される波を間違えていたことに気付いた。その波から外れようと、エイトという新しい波を見つけてみたら、今度は流される方向を最初から間違っていたことに気付いた。

何が出来ていたのだろう。
何をすべきだったのだろう。
彼女を止められていたら何かが変わっていたのだろうか。それとも何かを変えていれば彼女を止められていたのだろうか。

このままティアを追いかけないことも出来た。
これで彼女が命を失ったとしても、きっと誰も責めないはずだ。
それでも、ホイミンは迷うことなく駆け出した。その行動力がちょっと羨ましく思えて。
そしてターニアはまた、ホイミンに流されるようにティアを追いかけ始めた。
戦場に辿り着くまでの、たった10秒ちょっとの時間が、ターニアには何よりも長く感じられた。

1000天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:26:29 ID:VCc.tgBI0

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そしてもうひとつ、この戦いに混ざる者がいた。

「何が…起こっているというのだ…!」

分からない。
何故ヤンガスの世界の勇者と、ジャンボやヒューザの世界の勇者が戦っているのか。
脱出手段を探して焦っていたピサロに与えられた光景は、彼の予想を遥かに超えるものだった。
何が起こっているのか全く理解が追いつかない中で、唯一明らかなのは、この後に及んでの強者の死は脱出を目論むピサロ達にとって都合が悪いということ。

どちらが仕掛けた戦いか、誰を攻撃していいのかも分からない。だが、この距離では分かった時にも何も出来ない。

この戦いの音を奏でる最後の人物が戦場へ向かう。

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(アンルシアお姉ちゃんを――――――守らなくちゃ!)

「駄目!待って!」

ターニアとホイミンを振り切って使命感に燃えた少女が、エイトへと迫る。
既に戦いは終わっていたのに、ティアはそれに気付かない。気付くはずもない。ティアは戦場になんて1度も立ったことのない少女。何を以て戦いは終わるのか、そんな判断基準は彼女の中に用意されていない。
彼女の中で、立場の分断というのは正義と悪以外になかった。
ハーゴンという明確な悪、3人の勇者という明確な正義、対立構造の中心に立場が明確なそれを見て育った彼女。
正義と正義のぶつかり合いなど考えたこともなかった。



――――――ザクッ



必然、その時は訪れる。
エイトの背に突き刺さったロトの剣。
少女の細腕による攻撃であっても、仮にも伝説の武器。エイトに致命傷を与えるには充分であった。

1001天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:27:02 ID:VCc.tgBI0

「い…いやああああああぁ!!」

ターニアが悲鳴をあげて、ホイミンが狂ったようにホイミを重ねがけする。

反射的に振り返ったエイトの目には、ティアの姿は見えない。彼女はショックで気絶してしまい、一時的にエイトの霞む視界の外へと消えていた。
その代わりに微かに見えたのは、ブライから聞いていた者の姿。
かつて人間を滅ぼそうと企んだ魔族の王、名前はピサロといったか。真っ先に頭に浮かんだ言葉は、ミーティアへ危害を加える可能性の高い、明らかな敵。

刺したのは奴なのか?
そんな疑問はもはや湧いてこない。
今さらそんなものは何でも良かったし誰でも良かった。
重要なのはまだ戦いは終わっていなかったという事実。

分からない。
誰が味方で、誰が敵なのか。
誰彼構わず殺すのを辞めた途端、敵か味方かの判別が格別難しい相手と連続して出会ってしまったのがエイトの不運だった。

自分も含め、8人の人物がそこに居た。
その中で信じられるのは自分だけという状況。更には血を失うことで同様に失われていく判断力。
エイトの中で、何かが壊れる音がした。
もはや、7体の敵に囲まれているかのような、そんな錯覚。

「解き放て、眠れる竜の魂を――――――」

消してしまいたかった。
自分を惑わす者たちを。
空も海も大地も、何もかもが偽りに満ちたこの世界。
誰かの命ももはや、自分を縛る呪いのように見えて仕方なかった。

自分が何を始めるのかもハッキリ理解していないまま、エイトの姿は変貌していく。

「「「――――――!!」」」

悲鳴や感嘆が入り交じった声が聞こえた気がした。
だが本当に叫びたいのはエイト本人だった。

虚無が、広がっていく。それは痛みで失われていく視界だったのかもしれないし、自分の心の内側の深淵を覗き込んでいたのかもしれない。


ドラゴンソウル。
竜の力を解放する、竜神族の奥義。
破壊を象徴したような圧倒的な力の前に天は荒れ、地は砕けていく。

1002天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:27:45 ID:VCc.tgBI0

(これが……勇者の力だと言うのか…?禍々しい…これではまるで……!)

かの魔王ピサロさえもその力の前に圧倒されていた。
何が起こったのかはまだ分からないが、ユーリルの壊れた感情が形となって顕現したのを目の当たりにしたかのような、そんな感覚を覚えた。

「ピサロ!ボサっとしてんじゃねえ!止めるぞ!」

ジャンボの声。
目を奪われていたピサロを不意に現実に引き戻す。

「貫け、シャイニングボウ!」

「飲み込め、ジゴスパーク!」

ジャンボとピサロが全身全霊を持って光の竜を止めようと試みる。だが、いずれもエイトを止めるには至らない。
止まらない、呪われし光の竜。

号哭にも似た咆哮を上げ、その場にいる全員を光の中へと巻き込んでいく。

宵闇の中、ひとつの場所で光が途絶えた。

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何が起こった?
辺りは闇に閉ざされていた。
エイトが竜へと姿を変えて、光の中に皆が消えていった。
しかし起き上がろうとして全身に感じた痛みは、まだ自分が、ジャンボが、生きているのだということを実感させてくれた。

何とか立ち上がると、ようやく視界がクリアになっていく。
同じように何とか立ち上がってのけるアンルシアとピサロ、重症ではありながらも何とか生きているターニアとティアとホイミン。
生きているのか死んでいるのか、一目では判別できないエイト。

あの威力の無差別破壊を受けておいてこの程度…いや、充分大事ではあるのだが、それでもこの程度で済んでいるのが不思議だった。

「まだ……生き…てん…な、ジャン…ボ…。」

不意に、まだ姿を認めていない友の声が聞こえた。
声のする方を向く。

1003天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:28:14 ID:VCc.tgBI0

その時目に入ってきた景色を敢えて言い表すのであれば、戦友が終わっていた。

身体は左半身がほとんど潰れて無くなっていて、未だ焦点の定まらない眼は、光を吸い込みすぎてもう何も映さなくなった。
明らかに他の全員とは傷の度合いが違う理由は、ジャンボにはすぐに分かった。

「ヒューザ…お前…!俺たち全員を庇って…!!」

言葉を返す代わりに、ヒューザはニヤリと笑った。
本望だ、とでも言うように。

「馬鹿野郎が!どうして皆そうなんだよ!!自分の命なんざ顧みねえ、そんな馬鹿ばかり!お前は…お前らは……本当にそれで良かったってのかよ!!」

ヒューザを詰っていたはずの言葉は、いつの間にかこの世界で死んだ色んな奴に向けられていた。

「いいんだよ………。」

もはや数秒の命。
その中でただ、ヒューザは思う。
これは全て自業自得なのだと。
一人で生きていくことを曲げて、仲間を庇うことを選んだからこそのこの結果。

弱い奴ながらも絶望に囚われることなく前だけを向けるホイミン。
ソーミャをどこか思い起こさせる、そんな優しさを備えたターニア。
不器用ながらも盟友のために戦うアンルシア。
そして何より、何年も腐れ縁を続けてきた戦友のジャンボ。

こんな馬鹿どもを庇って逝けるのなら、きっとメルビンのじーさんも認めてくれる。

「こいつらの為なら……構わねぇよ。」

もう顔も見えない戦友の言葉に、ヒューザは心からそう答えた。

1004天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:28:47 ID:VCc.tgBI0

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深い深い、闇の中。
前も後ろも、自分の居場所も見えない。
ただ分かるのは、もう自分は助からないだろうということ。

ロトの剣の一撃、シャイニングボウとジゴスパークの直撃、全身全霊のドラゴンソウルによる疲労など、命が終わりへと向かっていくのがエイト自身にも痛いほど分かった。

ミーティアを守らなくては。

もはや本能的にそう思い、自分にベホマをかけ続ける。
「延命治療」の4文字が頭を掠めた。制限下のただの回復呪文に、身体の底まで浸透した傷を癒すことは出来ない。

(ミー…ティア…。私は…貴方を……。)

振り絞って出そうとした声は音に変わることはなかった。


(兄貴………!兄貴………!)


代わりに、懐かしい声が聞こえたような気がした。



「畜生、兄貴……!!」

また、間に合わなかった。
戦いの音を聞き取り、急いで駆け付けたヤンガス。
しかし到着した時には、全てが終わっていた。

「何が……起こったって言うんでげすか!」

この悲劇の役者になれなかったヤンガスは、その惨状を前にただ嘆いた。
この感覚は何度経験しても慣れない。慣れたくもない。
修道院でも、石工の町でも、雪国でも、目の前で死んでいく人を今まで何度も見殺しにしてきた。

「答えろよ!何でヒューザが死んでる!何で兄貴も、アンタらも、皆死にそうなんだってんだ!!」

そう言うものの、ヤンガスは何となく悟っていた。あの優しかった兄貴でさえこの世界では殺しに走っていたということをアルス達から聞いていた。

「頼む…答えてくれ…!!兄貴が……アンタらを襲ったんでがすか…?」

だとしたらククールの死と同じ、エイトの自業自得。
認めたくはなかったが、これほどの惨状を引き起こせる人物などヤンガスは1人しか知らない。

「いいや、違うさ。俺が戦いを起こしたんだ。」

正直に、ジャンボは答える。
まともに動けるのが事情を詳しく知らないアンルシアとピサロだけである以上、誤魔化すという選択肢もジャンボには存在した。
でも、出来なかった。
ここで覚悟を決められずして、ヒューザの死を悼む権利など無い。

1005天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:29:48 ID:VCc.tgBI0
「ああ……。分かった。」

「怒らねえのか?いくらでも殴られる覚悟なら出来てるんだぜ。……まだ、殺されてやるわけにはいかねえんだけどよ。」

「もう、誰かを恨むのはやめたでがす。」

みんな友達大作戦。
ライアンからその詳細を聞いた時、ヤンガスは協力したいと思った。
1日もの間、多くの死者を出し続けながら人間関係が交差し続けたのだ。自分とヒューザがそうだったように、元の世界の仲間絡みのしがらみもこの世界には多くあるだろう。
でも、誰かがそれに囚われていては作戦は成り立たない。

もしもそんなしがらみが生まれる前にこの作戦が進んでいたのなら、兄貴もククールもきっと、馬鹿なことなど始めなかったはずだ。

「ありがとうでがす。最後に兄貴のこと、信じさせてくれて。」

ジャンボは何も言えなかった。
感謝されるようなことはひとつもしていない。
むしろ、殴られた方が楽だったかもしれない。
ただ、この時はまだヤンガスの言葉の意味を理解していなかったのは確かだった。

ヤンガスは笑って、そして、何か言葉を紡いだ。
そのまま、糸が切れたかのように死んでいった。

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エイトの瞳に、光が再び宿る。
回復呪文では助からない、そう思っていた傷は完全に塞がっていた。

そして起き上がった時、すぐ側で倒れているヤンガスを見た時、ようやく全てを理解した。

自己犠牲呪文、メガザル。

ヤンガスは、自分の命を助けるために自ら命を捨てたのだ。
見渡せば、メガザルの対象は自分だけではなかったらしく、生きていた者たちが身体を起こし始めている。

メガザルは自分の命と引き換えに、「仲間」全員を回復する呪文。
ここにいる全員は敵ではない。皮肉にもかつての、本当の意味で仲間だった者の死によって実感させられた。

「気がついたか、エイト。悪いが、時間がないので簡潔に言わせてもらう、力を貸せ。ヤンガスが死んだ今、へちま売りとやらを知るのはお前しかいない。」

仲間らしき者の誰かが何かを言っていた。
だけど、そんなことはどうでもよかった。

「トロデーン城に、ミーティアという名の黒髪の女性は居ますか?」

「…いや、少なくとも私の知る限りでは居ない。」

「そうですか、ありがとうございます。」

ならばトロデーン城に用は無い。
ミーティアを、探さなければ。

「おい!どこへ行く!」

有象無象の者たちを殺す時間とて惜しい。
誰かの叫びを無視して飛び出した。

1006天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:30:28 ID:VCc.tgBI0
仲間などいらない。
敵もいらない。
根本的に目的が違うのだ。
ゲームが始まった瞬間から全ての者との同行を拒み、全ての者との戦いとて拒んでいれば、今頃はこの世界を1周してミーティアを探し出すことが出来ていただろう。どこで死んだのか分からないトロデ王だって、あるいは助けられていたかもしれない。

(お前のことは、本当の息子のように思っとるよ。)

忠義を誓った者たちに、いつかかけてもらった言葉が。

(どうか、私のことは姫様などではなく"ミーティア"とお呼びくださいませ。)

深い深い、虚無の中に溶けていく。

何も守れなかった自分の最果てを、虚無の中に見てしまった。

その時、自分の中に何か残るだろうか。
煩わしいものだけを消し去りたいと感じた時、自分が人ではなくなっていくような感覚を覚えた。

いや、元々自分は人ではなかった。
いつの間にかポケットの中にあったそれを認めた時、自分が生まれつきかけられていた呪いを思い出した。

「……あなたも、巻き込まれていたのですね。」

挨拶の代わりに、久しぶりに再会した祖父にチーズをひとつ、いつものように食べさせた。
そしていつものように吐かれた小さな炎が、深い闇の中に一筋の光を灯した。

この光の向かう先は正しい道なのか。
本来は真偽のないはずの命題を自らに問いかけるも、答えはまだ分からない。
ミーティアを守れるかどうか。
彼にとっての行動の真偽はそれだけだった。

1007天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:31:08 ID:VCc.tgBI0
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「仕方ない…へちま売りとやらは私たちで探すしかないようだな。さて、次はお前だ、ジャンボ。何があったのか聞かせてもらおうか。」

「ああ…。全部、話すさ。俺が企んでたことも、俺がやったことも。」

今更隠すつもりなどない。
どれだけ失望されようとも、信頼を失おうとも、自分が脱出の鍵を握る限りピサロに殺されることは無いのだから。
とはいえ、誰かとの人間関係すらもこんな打算に満ち溢れている自分の小賢しい頭が少し疎ましく思えた。

戦いの原因を作った悪党は俺だってのに、その犠牲になった奴らは皆いい奴だった。
その中にかねての友も混ざっているのだからその感覚がよりリアルに伝わってくる。

罪滅ぼしだとかそんな陳腐な動機で戦うつもりはない。
だけど託された物くらいは大事にしたいと思う。

やりたいこと、やるべきこと、まだハッキリとは分からない。
まだ何も終わっていないのは変わらない。

アストルティアだけでなくターニアの世界までを守る、その手段を探さなくてはならないのだから、今までよりもハードルは上がったはずだ。

それでも何か、肩の荷が降りたかのような、そんな感覚を覚えていた。

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ヒューザが死んだ。
いつの間にかフォズが死んでいた。
さらに、2つの命が犠牲になった。

私のせいだ。
ジャンボを見つけた喜びで周りが何も見えなくなっていた。
後悔したとしても命は戻ってこない。魔王に利用された兄のように再び会えることもない。

人々は私を勇者姫と呼ぶ。
だが、独りよがりな正義を貫いて、それを誰が勇者だと言うのだろうか。
勇者の雷、それは勇者である私の武器。
真理を見失った私に、それを扱う資格などあるのだろうか。

勇気が、闘志が、そして忍耐が、勇者としての自分を構成する色々なものが、剥がれ落ちていくような感覚を覚えた。


―――私は もう戦えない……。

絶望に堕ちた勇者姫のふと洩らした弱音を聞く者は誰もいなかった。

1008天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:34:20 ID:VCc.tgBI0

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

(お兄ちゃん…どこにいるの…?)

兄を殺す計画を立てていたジャンボに立ち向かってくれたヒューザもゲレゲレも、死んでしまった。
同じく立ち向かってくれたエイトはどこかへと走り去って行った。

ターニアは怖かった。
このままジャンボのいる場に居続けることが。

自分で何かを成すほどの力はなくて、だから強い人について行く道を選んだ。
お兄ちゃんと出会うには、それが1番の近道だと本能的に思ったのだ。
事実、ジャンボがいなければ自分は最初のヘルバトラーに殺されていただろう。

でも、流されているだけでは駄目だと思った。
流されて、都合のいいように使われるだけの生き方に恐怖を感じた。

このままジャンボたちについて行く気にはなれなくて、ターニアはその場から逃げ出した。

最初から何かが間違っていたと言うのなら、既に辿り着いた場所は間違った場所なのかもしれない。
それでも、自分で選んだ道ならきっと後悔しないでいられると感じた。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「待って!ターニア!」

逃げ出したターニアを追いかけようとするホイミンの腕をピサロは掴む。

「放っておけ、時間が無い。」

既に月が登り始めてきている。
月の世界への扉を開くのならば、すぐに城に戻らなければ間に合わないだろう。

それに、ターニアを追いかけるのに適切な実力者が居ない。
自分が行くつもりはないし、今回の件の発端らしいジャンボが行くのは逆効果だろう。
アンルシアも、1人で誰かを追えるような精神状態ではないし、ホイミンが行ったところで敵に襲われたら一網打尽にされるだけだ。

「たぶん大丈夫だろう。あっちにゃヤンガスが向かってたはずなんだがアイツは引き返してきてた。エイトがこっちに向かってるって情報でも与えた奴らでもいるはずさ。」

「違うよ、理屈じゃないんだ。」

ジャンボの言葉をホイミンは遮る。

「皆でこの世界を脱出するのに、誰かを置いていってちゃいけないんだ。だって僕たちはみんな友達なんだから!」

その言葉の裏にあるのは、バラモスゾンビとの戦いで自分だけ逃がされて多くの人が死んでいく中何も出来なかったことへの後悔。
放送であの時感じた絶望感をもう一度味わいたくはなかった。

1009天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:35:32 ID:VCc.tgBI0
「……ピサロ。アンルシアとこのティアって子、頼めるか。」

「お前は冷静な奴だと思っていたのだがな。情でも湧いたか?」

「簡単なことよ。俺のせいでああなったんだ。俺がちゃんと、ケジメつけなきゃなんねえだろ。」

それに、ヒューザならきっと追いかける。ジャンボはそう思った。

「アンルシア。すまなかったな。俺は胸を張れる盟友じゃねえんだ。」

「ジャンボ……また、離れて行っちゃうの?」

「必ず、ターニアとホイミンを連れて戻るさ。」

「まあいいだろう。どうやら私も、目的は果たしたらしいからな。」

ピサロの視線は、気絶したティアのザックからはみ出した、翼を模した道具に注がれていた。

【E-4/トロデーン地方 草原/真夜中】

【エイト@DQ8】
[状態]:健康 MP1/4
[装備]:奇跡の剣
[道具]:支給品一式 道具0〜2個 トーポ(DQ8)、激辛チーズ(DQ8)
[思考]:ミーティアを守る。それまで誰とも協力せず、誰とも戦わない。

※レックとチャモロを危険人物ではないかと疑っています。
※トーポは元の姿には戻れなくされています。

1010天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:43:33 ID:VCc.tgBI0
【E-3/草原/真夜中】

【ピサロ@DQ4】
[状態]:健康 焦り
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 『世界道具百科辞典』 『勇者死すべし』 大魔道の手紙
[思考]:トロデーン城に戻り、イシュマウリ(名前はへちま売りと勘違い)と会えるか試す
エビルプリーストをこの手で葬り去る
ロザリーの安否を確認する。
1:ロザリーはどうなった……?
※ジバ系呪文を実際に見せてもらいました。
※エビルプリーストの背後に黒幕がいることを、手紙によってほぼ確信しました。
現状ではラプソーンが怪しいと考えています
※首輪の仕組み、機能を知りました


【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:健康 MP3/5
[装備]:ナイトスナイパー@DQ8
[道具]:支給品一式、道具0〜4 天空の剣、罠抜けの指輪 罠の巻物×2 ドラゴンローブ
[思考]:
基本方針:エビルプリーストに借りを返す。
1:ターニアを追う
2:自分の知り合いを探す
3:首輪解除を試みる

[備考]:※職業はどうぐ使いです。弓スキルは150です。
※エビルプリーストの背後に黒幕がいるのではと疑っています


【勇者姫アンルシア@DQ10】
[状態]:健康 MP1/8 情緒不安定 自信喪失
[装備]:戦姫のレイピア@DQ10
[道具]:支給品一式 とつげき丸@DQ10 不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:ピサロについていく
ティアを守る
最後まで戦う
彼に会いたい
彼を守りたい
彼の隣に居たい

[備考]:全てのスキルポイントが一時的に0になっています。それに伴い、戦闘力の低下とギガデイン・ベホマラー等の呪文が使えなくなっています。

【ティア@DQ2(サマルトリアの王女)】
[状態]:健康 気絶
[装備]:ロトの剣 氷柱の杖(残5)@トルネコ3 ようせいのくつ@DQ9 
[道具]:支給品一式 脱いだ靴 おわかれのつばさ@DQ9 パーティードレス@DQ7
[思考]:兄とその仲間たちを探すため、トラペッタへ向かう。兄にロトの剣を渡す 職業に就いてみたい
※第二放送の内容を聞いてません。
※気絶直前のことを覚えているかどうかは次の書き手にお任せします。

【ホイミン@DQ4】
[状態]:健康 MP1/8 仲間死亡によるショック
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個 ヒューザのメモ(首輪解除の手掛かりが書いています)
[思考]:トラペッタ方面に向かい、ターニアを追う
『みんな友達大作戦』を成功させる ヒューザがくれた手掛かりを守る。

1011天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:43:47 ID:VCc.tgBI0

【F-3/街道/真夜中】

【ターニア@DQ6】
[状態]:健康 恐怖
[装備]:無し
[道具]:支給品一式(ランタン無し)、愛のマカロン×6 道具0〜2
[思考]:基本方針:お兄ちゃんと合流したい。
首輪を解除してくれる者を探す 
周りに流されず、自分で行動する

【ゲレゲレ@DQ5 死亡】
【フォズ@DQ7 死亡】
【ヒューザ@DQ10 死亡】
【ヤンガス@DQ8 死亡】
【残り29人】

1012天地狂わす八重奏 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/30(土) 09:44:07 ID:VCc.tgBI0
投下完了しました

1013ただ一匹の名無しだ:2018/06/30(土) 10:08:24 ID:waw/XKX.0
投下乙です
11人の参加者…不穏な奴はいれど殺し合いに乗ってる奴は一人もいないはずだったのにこんなことになるとは…
死者多数で生きてる奴も心身ともにボロボロ…
ジャンボの転職&改心で希望が繋がったのが不幸中の幸いってとこか

1014 ◆jHfQAXTcSo:2018/06/30(土) 19:21:33 ID:e5wpmUQY0
投下乙です
悪意のない戦いが悲惨な結末に……
精神的にガタガタだけど、希望も多いチームだけに今後が心配

では私も投下します

1015お姫様じゃいられない ◆jHfQAXTcSo:2018/06/30(土) 19:23:25 ID:e5wpmUQY0
小さくてのどかな村だった。
奥にはアルバート家の屋敷が建っていて、そこを中心として築かれていった村だった。
畑を耕す者、こじんまりとした教会で祈りを捧げる者、村を守る為に日々駆け回る少年たち。
小さいながらも輝く命が溢れた村だった。
リーザス村がそんな場所だったと思う者は、今はもういないだろう。
崩れ落ちた建物たち、大きく抉れた地面、散らばる血と、真っ黒になって動かないモノ。
今はただ、そこかしこに死があるのみだ。

最愛の人の手を組ませ、ローラは祈りを捧げていた。
守ってくれた感謝を告げるように、別れ惜しむように。
地獄の雷を受けて長く経ってないその手に触れた時、腹を貫かれた時を越える凄まじい熱がローラを襲った。
思わず一度その手を離してしまったが、歯を食いしばり、ドレスの裾を緩和材代わりにして、その手を組ませる為に再び触れた。
それでも熱く、痛みすら伴う。
けれど、それは命ある証だと言い聞かせ、なんとかアレフの手を組ませることに成功したのだ。

祈りに組んだ手を解き、ローラはその掌を見つめた。
熱と痛みに震える、とても小さい、弱い手だ。
アレフはその手に光の剣を持ち、ハッサンの首を落とし、アベルたちと対峙し、デュランとの一騎打ちに臨んだ。
自分の命と、ローラの命、我が子の命をその手に乗せて、最期までローラたちの為に戦い抜いた。

「やはり、アレフ様はお強いです。貴方が共にいてくれるだけで、とても心強かったですわ」

もう聞いてくれる者はいない中、ローラはぽつりと溢した。

「でも……もう、一人で戦うしかありません。もっと、強くならないといけません。
 アレフ様。どうか、見守っていて下さい。貴方を傍に感じられるだけで、ローラは強くなれるのです」

少しだけ、ですけれど。
一際小さな声で呟くと、支給品の水を取り出して、せめてここだけでもとアレフの顔を清める。
そこに絶望は映っておらず、ローラへ希望を繋ぐ決意と、言葉を伝えられた安堵の色が見てとれた。
アレフの強さに敬意を込めて、ローラはもう一度祈りを捧げた。

1016お姫様じゃいられない ◆jHfQAXTcSo:2018/06/30(土) 19:24:38 ID:e5wpmUQY0
次にローラが目を遣ったのは、残りの焦死体たち。
つい先刻までアレフと戦っていたデュランと、もう一人はいつの間に追い付いたのか、よく見ると北で出会ったトンヌラだということが分かった。
暫く彼らを見つめて、決意したようにローラは二人に近付いた。
アレフと同じ要領で手を組ませ、顔を水で洗い流す。
怒りに満ちた顔と、絶望に染まった顔が現れた。
デュランには決して良い感情を持っていないし、パトラのことを考えると助けられた面があるとはいえ、身籠っていることを言い当てたトンヌラにも警戒心はあった。
だが、二人とも少なからずローラが関わり合った命だ。
これから生きていく為に、それまでの道のりを忘れない為に。
ハッサンの時のようにアレフにすがるのではなく、自分でしっかりと向き合った。
言葉は発することなく、ローラはただ静かに、二人に祈りを捧げた。



(真っ暗ですわ……)

弔いを終え、気付けばとうに日が暮れていた。
先刻まで剣から生まれる火花やベギラマなどの魔法、最後にはジゴスパークまで放たれていて眩しく、辺りが暗くなっていることに気付かなかった。
夜風を感じ、ぶるりと震える。
水で清めたにも関わらずまだ手はじんじんと熱を持っているのに、意識した途端身体が冷えてきた。
同時に、急激に足から力が抜ける。
体の内の我が子と共に殺し合いに巻き込まれて約半日、肉体的にも精神的にも安らげる時はほぼなかった。
傷こそ世界樹の葉によって完治したものの、心までは癒せない。
静寂に緊張の糸が切れ、か弱い王女の体は今になって内側から悲鳴を上げたのだった。

1017お姫様じゃいられない ◆jHfQAXTcSo:2018/06/30(土) 19:26:00 ID:e5wpmUQY0
力を振り絞って屋敷に向かい、中に足を踏み入れる。
屋敷内の照明も機能しておらず、支給されていたランタンで足元を照らす。
外も中も、全てが暗い。
こんなに世界が暗いと思ったのは久しぶりだ。

(アレフ様がもういないからでしょうか、こんなに暗いのは)

竜王に捕らえられた時も、ローラは暗闇の中で震えていた。
もう一生このままなのか、もう太陽を見ることもできないのかと恐怖に支配された日々だった。
そんな彼女の元にアレフが現れ、ドラゴンを打ち倒して、ローラを抱きかかえて外の世界へと連れ出してくれた。
太陽の光と、何よりもアレフが、ローラの目には輝いて見えた。
ローラの世界は再び光を取り戻し、鮮やかに色付いたのだ。
ふとアレフの方を見ると、助けに現れた時よりも力強さを感じる眼差しと目が合った。
そこに言葉こそなかったが、互いに互いの世界を色付けた二人は確かに惹かれ合っていた。





1階ではあまり安心できず、ローラは2階へと歩みを進めた。
登ってすぐの位置にテーブルと椅子を見つけ、雪崩れるように腰を下ろす。
疲労を癒すにはベッドを使うのが1番だろうが、目の前で繰り広げられた激闘がまだ鮮明に脳裏に焼き付いていて、妙に目は冴えている。
加えていつ誰が訪れるかも分からない不安もあって、眠らずにこのまま回復を待つことにした。

(それに、まだこれからのことも考えなければなりませんもの)

命を懸けて守ってくれたアレフの為にも、生き延びなければならない。
それには後手に回ってしまわないように、しっかりとした意志を持って行動する必要がある。
これまではアレフと共に行動し、アベルから逃れて以降はアレフと共に戦う為に動いてきた。
そのアレフはもういない。ローラのバトルロワイヤルは、新たな始まりを迎えなければならない。

1018お姫様じゃいられない ◆jHfQAXTcSo:2018/06/30(土) 19:29:10 ID:e5wpmUQY0
ランタンを置いて地図や支給品を並べる。
まずは禁止エリアを書き込んでいる地図を手に取った。
今いるリーザス村には、もうローラ以外に生きた者がいない。
ならば人がいそうな場所を目指すべきだろう。
トロデーン城は遠すぎるため除外するとして、行き先の候補は北のトラペッタと南西のポルトリンク。

(スクルドと呼ばれていましたか、あの人はもう村にはいませんでした。どちらに向かったのでしょうか……)

乗り物やキメラの翼のような道具を持っていない限り、最も近くにいるのは間違いなく彼女だろう。
デュランと行動を共にしていたことを考えると、ゲームに乗っていることはほぼ確実だと思われる。
回復魔法を操る上に、槍も使いこなす彼女と一人で再会するのは危険すぎる。

(もうここを発っているようですし、私がこうして生き延びていることには恐らく気付いていないはず。放送が来る前に彼女と距離を取って誰か他の参加者と合流できればいいのですけれど……)

武器にできるものが毒針と、ハッサンに使ったような毒性の粉くらいしかない以上、集団に紛れ込む以外の生き延びる道は少ないだろう。
思いつつも、難しいことだと首を振る。
飛びつきの杖がもう手元にないのが悔やまれる。
リーザス村を訪れた時と同様に使えば、スクルドの脅威は薄れていたはずだ。
放送で生存が明らかになってもこちらに戻ってくるとは限らないが、やはり不安要素は少なくしておきたい。

(私にも、戦う力があれば良かったのに)

スクルドを回避できたとしても、もし次に会う人物がゲームに乗った者だったら。
毒針はリーチが短く、毒を盛るのも現実的ではない。
毒針を構えて引き寄せの杖を使うことも考えたが、相手の体格によっては攻撃するどころかローラ自身が吹き飛ばされる可能性もある。
迎え撃つことは厳しいだろう。

力のない“お姫様”であることが悔しい。
考えても考えても懸念の方が増えていってしまう。
次の放送までにここを出発すること、一人でスクルドに鉢合わせないようにすること。
はっきりと決められたのは、結局それくらいだった。

1019お姫様じゃいられない ◆jHfQAXTcSo:2018/06/30(土) 19:31:56 ID:e5wpmUQY0
歯噛みしながらふと顔を上げると、本棚が目に入った。
何か助けになるようなものはないかと藁にすがる思いで手を伸ばす。
取り出した本をぱらぱらと捲ると、この屋敷の一族の由来が書かれていた。

“アルバート家の血筋を遡れば魔法剣士にして天才彫刻家シャマル・クランバートルにつながる”

「魔法剣士……」

“シャマルは賢者と呼ばれ数々の歴史にのこる業績をなしとげた偉大なる人物である”

(ここは賢者と呼ばれるほどの方の子孫のお屋敷だったのですね)

本を閉じて、 他の本たちに視線を移す。
ここが賢者と呼ばれた魔法剣士の子孫の屋敷ならば、魔法に関する本もあるかもしれない。
そう思い至り、何冊かを引っ張り出し、テーブルへと持っていく。
全て読んでいたら次の放送には間に合わないが、ある程度疲労が回復するまでの時間くらいは宛てられる。
読みきれなかった分は持ち出してしまえば、また読む機会も訪れるかもしれない。

ホイミやギラといった下級魔法でも構わない、少しでもできることを増やしたかった。
自分に魔法の才があるかは分からないけれど、可能性が1と0では全然違う。
アレフの為、我が子の為、生き延びる為なら、1パーセントの可能性にだって賭けられる。
もう、か弱いままのお姫様ではいられないのだ。
支給されている時計をこまめに確認しながら、手にした本と向き合う。
99パーセントにだって打ち勝ってみせる、それだけの決意を秘めて。



【I-5/リーザス村アルバート家/1日目 夜中】

【ローラ姫@DQ1】
[状態]:健康
[装備]:毒針
[道具]:支給品一式、銀のティーセット 草・粉セット(世界樹の葉が使われました)
    ハッサンの支給品(引き寄せの杖 場所替えの杖)
    アルバート家の書物
[思考]:愛する我が子の為に戦う。
※アルバート家の書物の具体的な数や内容は次の書き手さんにお任せします

1020 ◆jHfQAXTcSo:2018/06/30(土) 19:32:50 ID:e5wpmUQY0
以上で投下終了です
誤字脱字、指摘などあればお願いします

1021明日への架け橋 ◆2zEnKfaCDc:2018/07/08(日) 11:34:45 ID:zaceXZrc0
投下します

1022明日への架け橋 ◆2zEnKfaCDc:2018/07/08(日) 11:35:42 ID:zaceXZrc0
トラペッタとリーザス村は、関所の役割を持っていた橋で繋がれている。
ただし、関所として旅人の行く手を遮っていたのは過去の話。
今や関所だったものは完膚無きまでに破壊されている。
いや、この世界では破壊されたものをモチーフにして創られているといった方が正しいのかもしれない。
何にせよ、今やその関所は関所ではなく万人を通すただの橋である。

橋の上にはおびただしい数の矢が落ちており、更には火薬の匂いも蔓延していた。
このような痕跡はここで殺し合いが行われたことをこれ以上なく物語っている。人間が撃ち続けるには厳しい矢の数や機械片が落ちていることから考えて戦闘者の片方はキラーマジンガだろうとアルスは推測する。

そしておそらくリーザス村に辿り着いてもマリベルやアイラを殺した何らかの痕跡が、更には死体が、自分たちを待っているのだろう。

向き合うのが怖くないはずがない。自分の過去の無力さを噛み締めずにいられるはずもない。
どうしてもアルスの両腕に力がこもり、それを見越してか、ライアンはアルスに声をかけた。

「ここで休憩するでござる。アルス殿もキラーマジンガ戦の疲れが出ている頃でござろう。」

アルスはその言葉に甘えることにした。こんな細かい言動の隅々に仲間への気遣いが見て取れるライアンの背中に、そして何よりも彼のござる口調に、メルビンの面影を感じずには居られなかった。

ちなみにライアンもまた、アルスにユーリルの面影を感じていた。
選ばれし者としての素質――――――などではなく全身に纏った緑色に対して。

1023明日への架け橋 ◆2zEnKfaCDc:2018/07/08(日) 11:36:59 ID:zaceXZrc0


さて、整備された橋の中央でアルスとライアンは座り込む。
四方八方のどこから敵が現れるか分からない草原に比べて、前後のみに意識を向けていればよい橋の上は休憩にはちょうど良い場所だった。

橋を見て真っ先に思い出すのは、夜のグランエスタード城。夜にキーファのところに向かおうにも架け橋が上げられて城に入ることは出来なかったため、夜中に抜け出す時はいつもキーファの方から自分の下を訪れていた。

今だからこそ思う。
キーファと友達で居たのはあの橋のように一方通行の関係でしかなかったのだと。

こうして心というものを自分の中に認めて以来、振り返る過去に残るのは後悔ばかりだ。
もしもキーファとの関係に橋を架けられていたのなら、キーファがみんなの下を去ることもなかったのではないだろうか。

(どんなに離れていても友達…。僕にはそんな言葉を受け取る資格なんてあったのかな…。)

「ええと…アルス殿?」

「おっと、ごめん。どうしたの?」

気が付くと、ライアンが2度3度自分の名前を呼んでいた。
下手に考え事にのめり込むと敵襲にも気付かないことになりそうだなと、冗談にならない想像を拭い去って頭を掻いた。

「別に用があるというわけではないのだが…本当に、色々なことが起こった1日でござったなあと思いましてな。」

「……ああ、そっか。もう今日は終わるんだっけ。そして今日が終わったら、明日が来る…と。」

一瞬、ライアンが何を言っているのかが分からなかった。
時間が経つこと、そんな当たり前のことにさえアルスの関心は向かってこなかったのだ。
今日の出来事を振り返ること、そんな経験とて初めてだった。

1024明日への架け橋 ◆2zEnKfaCDc:2018/07/08(日) 11:38:16 ID:zaceXZrc0
アルスは知る。
今日の後悔に苛まれる夜がこんなにも辛いものだったのだということを。来たる明日に一種の恐怖すら覚える、そんな今日を生きるということを。

そう、周りに関心を回してみればそこに広がっていたのは今までとは違う新しい世界だった。
空白の中を生きてきた今日までとは違い、自らの心の中に生きる明日がある。
アルスにとっては、言うならば「初めての明日」が訪れるのだ。

「…まあ、橋も繋がってることだし。」

アルスの頭の中にあったのは、かつての冒険の中の不思議な出来事。ただ、アルスが何を言っているのか分かっていないライアンは首を傾げていた。

「もし、色々なものを失った今日をやり直せたなら――――――この橋を見てたらつい、そんな期待を抱いちゃって。」

繰り返される同じ1日。
いつになっても完成しない橋。
リートルードの町で体験したタイムマスターを巡る出来事を、アルスはライアンに掻い摘んで話した。

「なるほど、時の砂でござるか。それにしても同じ日を何度も繰り返すとは何ともまあ、不思議な体験をなさったものでござるなあ。」

この世界にやり直しはないということくらい、幾度となく過去をやり直してきたアルスにも分かっている。
だからこそ、なおさら過去の世界で体験した不思議な出来事に縋りたくもなる。

アルスは今まで後味の悪い仕事は率先して引き受けてきた。
他の誰もが躊躇っている中、マチルダを斬ったのもチビィを斬ったのもアルスだった。

これが元凶なら仕方ないじゃないか――――――当たり前のようにそう言った時のマリベルの何とも言えない表情を、アルスはもう忘れてしまった。

1025明日への架け橋 ◆2zEnKfaCDc:2018/07/08(日) 11:39:20 ID:zaceXZrc0

心を得るのが遅れた分、長きに渡る日々の中で徐々に受けるはずだった心の痛みをアルスはこんな絶望まみれの世界で一気に受けることとなったのだ。

そして夜の暗闇は、その絶望を相乗的に強めるには充分なものだった。

「僕って、こんなに弱かったのか。」

ぽつりと漏れたその弱音が声となっていたことすらもアルスは気付けなかった。


(何かを守りたい者には、心など無い方が良いのかもしれませんな…。)

ライアンが思い出すのは当然、勇者ユーリルであった。
心は必要なものだ。
だけれども時にそれは自らを殺す刃にもなりうる。
何年もの間剣を振るってきたライアンでさえも、心以上に鋭く残酷な刃を知らない。

「アルス殿は、今日の戦いの中で心を知ったとのことでしたな。」

ライアンの唐突な言葉に対してアルスはきょとんとした表情のまま頷いた。

「心は知らないなら知らないままの方が、こんな場所では安全かもしれませぬな。時にアルス殿は、心を得たことに後悔しているでござるか?」

「ううん。」

アルスは即答する。

「確かに心を持ったことで失ったことに気付いたものはたくさんあったよ。でも、それ以上の何かを手に入れた、そんな気はするんだ。」

アルスはそれでも前を向いていた。根幹にある芯の強さは、心の有無に関わらず何も変わっていない。

まだこの世界には、心を持って会いにいくと約束した人がいる。あんな自分のことも親友だと言ってくれた人もいる。
それだけで、アルスは立ち上がれる気がした。

1026明日への架け橋 ◆2zEnKfaCDc:2018/07/08(日) 11:41:30 ID:zaceXZrc0

「『橋の先は新たな世界。レベルを上げるまで決して渡るなかれ。』…拙者の祖国、バトランドの教えでござる。大丈夫、この橋を超える明日のアルス殿はきっと、今日の経験を通じてレベルアップしているでござるよ。」

「ありがとう。……この先に何が待っていたとしても僕は負けない。この先には僕の守れなかった仲間が、僕の弱かった過去が、待っているんだ。」

どれだけ後悔しようとも、今日はもう巡ってくることはない。
だけど、仲間を守れなかった過去はアルスの前に立ち塞がる。

今までの冒険も過去に向かうものばかりだった。
だけど、リーザス村で大切なものを守れなかった自分と向き合えば、きっとそれからは未来へ向かっていくことが出来ると思うから。

欠けた台座に心という石版を嵌め込んで、過去を巡る最後の旅が始まる。
常に死と隣合わせの今日を生き抜いた2人は、明日へと一歩を踏み出した。

【G-6/関所/真夜中】

【アルス@DQ7】
[状態]:HP1/4 MP微消費
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜2) ゲルダの不明支給品0〜1個 道具0〜2個(本人確認済み)
[思考]:この戦いを終わらせる。ミーティア、キーファ、フォズを探す。リーザス村でアイラとマリベルを弔う。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。

【ライアン@DQ4】
[状態]:HP1/3 全身の打ち身、顔に傷、兜半壊、腹部に打撲、鎧半壊
[装備]:まどろみの剣
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1)
[思考]:ホイミンのみんな友達大作戦も手伝う。

1027明日への架け橋 ◆2zEnKfaCDc:2018/07/08(日) 11:42:19 ID:zaceXZrc0
投下終了しました。

1028救われぬ者に救いの手を ◆2zEnKfaCDc:2018/07/10(火) 21:27:46 ID:JHOEi.9w0
投下します。

1029救われぬ者に救いの手を ◆2zEnKfaCDc:2018/07/10(火) 21:28:24 ID:JHOEi.9w0
平原の真ん中。
闇に堕ちた英雄は4度目の眠りについていた。

すぐにでも人間を殺しに向かいたい、彼の心臓と結合したヘルバトラーはそう思ったものの、数多くの人間たちと再び相見えるにはまだ体力は足りているとは言えない。

ザンクローネと比べてもヘルバトラー強と比べても身体能力が向上しているとはいえ、生命力は所詮人間と大差ない妖精のものでしかないのだ。

そう判断するや否や、隠れることもせずその場に寝転がる。

こんな世界で見張りも付けずに、それも遮蔽物もないような場所で眠るというのは、傍から見れば紛うことなき自殺行為。
だが彼の中にはザンクローネとは別に更に2つの生命が存在している。
身体が休息を取っていようとも、精神は常に辺りの気配を察知することが出来るのだ。

(傷が治ったならば……まずは近くの城に向かうとするか。奴らも先の戦いで傷だらけのはず。傷を癒すためには最も近場の城に向かうのだろうが、まさか全員が全員休息を取れているということもあるまい。少なくとも誰かしらは見張りが必要なはずだならな。そやつらから一匹一匹順に殺してやろう。)

眠りこけて意識を無くしたザンクローネとは裏腹に、ヘルバトラーは思考を始める。
魔英雄ザンクローネの意識の主体はあくまでザンクローネのものである。
ただし深層心理にまで入り込んだヘルバトラーとグレイツェルはザンクローネの行動の根本を操ることが出来るのだ。

行動理念を与えてやれば、あとは勝手にザンクローネが暴れてくれる。
ならば知将として、自分を死の淵に追いやった人間どもを確実に殺せる作戦を立てるのみ。

(肉体は滅びたが、まだまだ殺し足りぬ。憎き虫けらどもよ…貴様らを地獄に引きずり込んでくれよう。そして地獄の底で、再び死闘を繰り広げようではないか…!)

1030救われぬ者に救いの手を ◆2zEnKfaCDc:2018/07/10(火) 21:29:37 ID:JHOEi.9w0
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

心の底のザンクローネの意識は無の中にいた。

(俺は……一体何だったんだ?)

自分の心が問いかけてくる。
英雄ザンクローネは何故生まれたのか。何故皆を救いたかったのか。

彼の生まれた理由を遡るなら、それは偽りに塗れた世界が体現したひとつの童話。

メルサンディ村の童話作家パンパニーニとその孫のアイリで完成させた童話「小さな英雄ザンクローネの物語」の主人公が、偽りのレンダーシアで具現化したのがザンクローネである。

つまり、英雄ザンクローネは生まれ持っての英雄だった。
誰かを救ったからこその英雄ではない。童話にそう描かれていたからこそ英雄として生まれたのだ。
誰かを救うために行動してきた彼だったが、その実態はただ英雄として以外の生き方を知らないだけだった。

しかし、まさに絵に書いたような英雄だった彼は全てを救ってきた。
時には村人を連れ去って行く悪夢から、時には水車小屋を荒らす兎達から。
自らの生まれた意味として、がむしゃらに救い続けることが出来た。
その果てには、魔女グレイツェルとなったクレルまでも救ったのだ。

だがこの世界においては、生まれ持っての英雄でさえも皆を救うには力不足だった。
共に歩んできたイザヤールは魔物の攻撃で死んだ。自分が倒しきれなかった魔物の最期の悪あがきからはモリーを守り抜くことが出来なかった。自分の居ないところではパパスも死んでいた。アンルシア、フォズ、ティアの3人も放送時は死んでいなくともあのパパスが死ぬほどの戦いの中でどうなったのか分かったものではない。

1031救われぬ者に救いの手を ◆2zEnKfaCDc:2018/07/10(火) 21:30:41 ID:JHOEi.9w0


救えなかったこと、それは彼が英雄であることの否定。
ふてぶてしく皆を救うのが彼の中の英雄である。
少なくとも童話の中には、誰かを救うことが出来なかったザンクローネの物語は存在しない。


英雄であることの否定、それは彼がザンクローネであることの否定。
童話に描かれたままの英雄でなければ、ザンクローネはもはやザンクローネではない。
彼は童話を元にしたザンクローネなのであって、童話がザンクローネを元にしているのではないのだから。


彼がただの人でさえあれば、「無力感」というありふれた言葉に収束出来たかもしれないそんな想いは、英雄でなくてはならない彼にとっては抱いてはならぬものであったのだ。


(俺はもう……英雄ではないのか……?)

苦境の中でも救いを求める声がある限り立ち上がれるはずだった。
だがこの世界では、あまりにも多くの声が枯れ果て、多くの命が散っていった。

(どうすれば、皆を救える…?)

そんな声に始まった疑問はいずれ、形を変えていった。

(皆を救えない俺は、一体何なんだ…?)

気が付けば何かを欲していた。
英雄でなくなった「ザンクローネ」の生まれた意味となる何かを。



「教えてあげるよ、ザンクローネ。真の救いとは何なのかを」


そんな英雄に、魔女が一言囁いた。
それを聞き入れた途端、彼の見る世界が変わった。

1032救われぬ者に救いの手を ◆2zEnKfaCDc:2018/07/10(火) 21:31:57 ID:JHOEi.9w0


(真の……救い…?じゃあ、俺が今までやってきたことは……)


何かを、欲していた。
救えなかった英雄にも、英雄としての意味を与える何かを。



「偽りの救いなどやめてしまえ。破壊に身を捧げ、共に全てを救おうではないか」


そんな英雄に、地獄の闘士が一言囁いた。
それを聞き入れた途端、彼の在る本質が変わった。

魔物たちに侵食された心。
だが心の本質から変えられたわけではない。
ただベクトルが変わっただけ。

魔英雄へと堕ちたその要因は、間違いなくザンクローネの中にあったものなのだ。


(破壊は……救い…?)


何かを、見つけた。

そうだ。
深く考えることなどない、簡単なことだったのだ。

自分の中にある「救い」の定義。
ただそれを変えるだけで、自分はまだ英雄でいられる。

イザヤールもモリーもパパスも皆、救えなかったのではない。
ただ、ひと足早く救いの手が差し伸べられただけだったのだ。

救えぬ者などいない。
守ることこそが救いなのであれば、守れなかった時にその者は完全に終わる。失った命はもう二度と守ることが出来ないのだから。
だが破壊こそが救いなのであれば、救われぬ者はこれから救うことが出来る。
救った者から消えていき、まだ救える者だけが残るのだ。
何と素晴らしい救いのシステムなのだろうか。

それに破壊に塗れたこの世界には、未だ救われぬ者が何人もいるではないか。
英雄として、救われぬ者たちを救わなくては。



――――――俺の名は、魔英雄ザンクローネ。

これは魔の境地。
だが例え魔であろうとも、英雄として在れること自体にこれ以上無き満足を見出せる程度には、魔物が心を侵食していた。


――――――全てを壊し…全てを救う。

胸に抱くは、大きく歪んだ願い。
だけど本当に歪んでいたのは、童話の中の英雄であることを彼に求め続けた、「ザンクローネ」という英雄そのものだったのかもしれない。

1033救われぬ者に救いの手を ◆2zEnKfaCDc:2018/07/10(火) 21:32:46 ID:JHOEi.9w0

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

(目を覚ませ…魔英雄ザンクローネよ…。)

ヘルバトラーが心臓から直接頭の中に囁いた。
それに呼応してザンクローネは目を覚ます。
誰にとっての幸いか、眠っていた間に近くを通る者は誰もいなかった。

たった数時間の睡眠であったのだが、ただのザンクローネの頃にバルザックとの戦いで負った傷は治りきっていた。
自然治癒の範疇を優に超える、再生能力とでも言うべき力。
バルザックに使用された進化の秘石を心臓に取り込んだ時に得たものであり、実はバルザックにも備わっていた力でもある。

(ククク…人間どもの傷は完治していまい…。まずはトロデーン城へ行け、魔英雄ザンクローネ。救われぬ者どもが貴様の救いの手を待っておるぞ…!)

「そうだな…。まずはトロデーン城とやらにでも向かうとするか。」

ヘルバトラーによる意識操作にも気付くことはなく、心の底から湧き上がってきた本能らしきものに従う魔英雄ザンクローネ。

(ちがう………おれ…………は…………)

いつしか、闇に堕ちていく自らの意識に抗う英雄の叫びは聞こえなくなった。
本当に救われないのは、そして滅びという名の救いを求めているのは、皆を救うはずだった英雄自身。
しかし救いを求めるその声は、既に枯れ果ててしまっていた。

【C-4/平原/1日目真夜中】

【魔英雄ザンクローネ@DQ10】
[状態]:健康
[装備]:斬夜の太刀 @DQ10 ヘルバトラーの魔瘴石with進化の秘石(体内)
[道具]:プラチナさいほう針@DQ10支給品一式 不明支給品(0〜2) イザヤールの支給品(0~1)
[思考]:全てを壊し全てを救う トロデーン城へ向かう
[備考]:グレイツェルの呪いとヘルバトラーの魔瘴により性格が反転し、破壊こそが救いだと考えています。
進化の秘石の力で傷が徐々に再生していきます。

【ヘルバトラー強@JOKER】
 [状態]: 魔瘴石化 ザンクローネの体内に侵入 グレイツェル及び進化の秘石と融合
 [思考]:ザンクローネの身体を使い破壊の限りをつくす
※死骸と闘志、それに魔瘴が合わさり、魔瘴石のような形になっています。
※ザンクローネが死ぬと彼も死にます。

1034救われぬ者に救いの手を ◆2zEnKfaCDc:2018/07/10(火) 21:33:11 ID:JHOEi.9w0
投下終了しました

1035ある戦いの終わり。そして―――― ◆qpOCzvb0ck:2018/07/18(水) 23:53:58 ID:aRxaQ2nQ0
投下します。

1036ある戦いの終わり。そして―――― ◆qpOCzvb0ck:2018/07/18(水) 23:54:11 ID:aRxaQ2nQ0
「だったら俺が教えてやる。俺の――――――いや、人の仲間になれ、竜王。お前とならきっと皆を守れる。もう誰も犠牲になんてさせない。」

男は、自分を呼んだ。
仲間になれ、と。

「――――――だからこそ、もう誰も犠牲なんて作らない。お前が俺の前に立ち塞がると言うのなら、悪として誰かを殺すと言うのなら、俺はお前を斬るだけだ。これは勧誘じゃなく、警告なんだよ。」

男は、貫く。
誰かのためではない。
自分が生きるために。

自分がいた世界では、あらゆる人間が自分を含めた魔物を、完全な敵、と見ていた。
全ての人間が自分の未来のために、魔物ならいくら殺しても構わないと思っていた。
だが、このレックという人間は違う。
自分をただの敵、ではなく、それ以上の可能性のある存在と見ている。

「なるほど、一皮剥けたようじゃな。ならばワシも――――――本気で応えねばなるまい。」

自分にも覚悟はできていた。
それがかつて倒された時の自分になかったもの。

あの時の敗北があったからこそ、それがある。
敗北は強くなるための糧、それは敗者の言い訳だとあの時は思っていた。


「持てる力を全て出し、キサマを倒す!!」

再び竜に姿を変えた。
「この……わからず屋!!」
結局戦うしかなかったことに、レックは竜王を罵る。
「ワシの気持ちは変わらん!!変えようがない!!」

自分は、戦うことしか知らない。
戦場でも部下に指示こそ出したが、部下と協力して敵と戦ったことはない。
生まれてから一度も、「協力する」ということを教えられたことはなかった。
たとえ協力しろ、と言われても、やり方が分からない以上は選択は出来ない。

ならば自分のやることは一つ。
ただ己の誇りに従い、戦うのみだ。
それがレックに言われた通り、ただの理想像だとしても。

「ならば俺も未来の為に、全力でお前を倒す!!」

話し合いの時間は、終わった。
後は、どちらが決意を未来までつなげるかだ。

「行くぞ!!竜王!!」
レックは鋼の剣を構え、竜王に斬りかかる。

「来い!!勇者レック!!」
竜王も爪を構え、レックを引き裂こうとする。
自分は確かに覚悟こそは出来たが、勝てるかどうかは定かではない。
目の前にいる男はあのアレフより心も力も強い。
このような敵に出会え、なおかつ自分の王としての誇りを貫くことが出来る。
変な話だが、それだけはあの小物にも感謝せねばならない。

1037ある戦いの終わり。そして―――― ◆qpOCzvb0ck:2018/07/18(水) 23:54:59 ID:aRxaQ2nQ0

竜王の爪と、勇者の鋼の剣がぶつかった時—――――――――――――

(!?)

鋼の剣が、粉微塵に砕けた。
オルテガが最初に竜王との戦いで使い、やがてレックも竜王、バルザックとの戦いで使い、ギガデインを浴び、刀身がとうに限界を迎えていたのだ。
壊れた剣では竜王の力を抑えきれず、そのままレックも大きく吹き飛ばされる。

「キサマの決意というのは、その程度か?」

(攻撃の威力が、上がっている?)
レックは竜王の攻撃を受けて、実感した。
竜王の「誇り」とはくだらない理想像などではなく、たとえ何を目の前にしても決意を貫くということだった。

続けざまに拳をレックの上に振り下ろす。
レックはそこに飛び蹴りを打ち、反動で距離を離す。

「あいにくと、犠牲にするわけにはいかないんで。自分も、仲間も。」

しかし、状況は極めてまずい。
剣が壊れた以上、戦う選択肢が大きく減る。

ザックにいれた蒼炎の爪や大魔神の斧を使うか?
否、ハッサンならいざ知れず、爪や斧を自分は活かすことは出来ない。
自分に適した武器がないから、適さない武器を使うというのは愚の骨頂だ。

ならば魔法でどうにかするか?
否、雷系以外の呪文では竜王に決定打は与えられないし、雷系の魔法も先程の戦いで使ってしまった以上、何度も食らってくれる相手でもない。


竜王の紅蓮の炎がレックを飲み込もうとする。
レックはマヒャドで対抗し、それらがぶつかり合った跡の水蒸気が辺りに充満する。

竜王は続けざまに爪で引き裂こうとするが、引き裂けたのは数本の青髪のみだった。
紙一重で攻撃を躱すことのできる、見躱し脚の力である。

「なんだ?守ってばかりではないか!!怖気づいたか?」
レックの受け身な戦いに竜王は苛立つ。

「その予想は、外れているよ。」

辺りはレックが目視できないほどではないが、水蒸気で若干視界が悪くなっている。

例えば、地面に何が落ちているか、竜王の目線からは捉えることが出来ない。
レックはそのまま鋼の剣の破片の一つを掴み、竜王めがけてダーツのように投げつける。
勢いよく飛んで行ったそれは腹に刺さり、竜王は僅かにうめき声を上げる。



(これで十分!!一瞬でも気を逸らせれば……)

「竜のチカラよ!!俺の身に纏われ!!ドラゴラム!!」

1038ある戦いの終わり。そして―――― ◆qpOCzvb0ck:2018/07/18(水) 23:55:32 ID:aRxaQ2nQ0
「何だ!?これは!?」

人間の姿で勝てないなら、竜になればいい。

竜王も驚く。ドラゴラム、人が竜に変身する魔法など、伝承でしか聞いたことがない。
(!?)

(あまり使いたい呪文じゃないけどね。)
ドラゴラムという呪文、確かに竜の力こそ手に入るが、行動選択肢が人間の時に比べて著しく狭まる。
加えて一度これを使ってしまうと、戦いを終えるのが難しくなる。
従って、完全に相手を打ちのめすことを決めたこの戦いで初めて、レックはこの呪文を使ったのだ。

「グオオオオオオオオオオン!!」
竜王の目の前に現れた存在、それは緑の竜。
しかし自分の部下であったドラゴンとは、明らかに違う存在だった。


レックが初めて触れ合った竜は、自分達がムドーの城へ向かう時に乗った黄金の竜。


ムドーの城へ乗り込む前に、バーバラが突然自分だけ行かないと告げた。
そして竜を呼ぶオカリナで現れた黄金の竜。
自分はそれはバーバラが何らかの形で変身した姿じゃないのかと思っていた。
ハッサンなんかはその推測に対し笑っていたし、他のメンバーもあまり信用していない様子だった。
しかし、彼女の故郷、カルベローナで大魔女バーバレラが竜に変身できるほどの魔力を持っていたと聞いた。
そこで、自分の予想が確信に近づいた。

自分も、あの時の彼女と同じように、竜として戦う。
(力を貸してくれ!!バーバラ!!)


(これは……たとえ全力をもってしても厄介な相手かもしれぬな。負けるわけにはいかんが。)
竜と言えども自分よりかは小柄だが、秘めているエネルギーは計り知れない。

深緑の翼をはためかせ、竜王の顎にかみつく。
紫竜は顔を振り回す、だが、それだけでは引きはがせない。
両手で引きちぎろうとする。
しかし、掴まれる寸前に離れ、上空に飛ぶ。

紫竜は闇の力を込めた炎で撃ち落そうとする。
しかし、エメラルド色の光が籠る大翼はそれを弾き飛ばしてしまう。


今度は緑竜は急降下。
紫竜も飛ぶ。互いの頭がぶつかり合う。
体格差は紫竜の方が有利だが、ポジションは上から攻撃したレックの方が有利だった。

「グルアアア!!」
「ギャオオオオ!!」

両者痛み分けの状態のまま緑竜の爪攻撃。
紫竜はそれをガッチリ掴んで、受け止める。

ならば、と緑の竜は大口を開け、炎を吐き出す。
それに負けじと超至近距離で紫竜も炎を吐き出す。

互いに鱗の鎧によってある程度の炎耐性があるにしろ、この距離からではダメージがある。
そのダメージの要因は、相手の炎ばかりでもない。
密着状態で互いに炎を吐いたため、自分の炎の熱も体を炙る。
やむを得ず紫竜は、力任せに緑竜を投げ飛ばす。

1039ある戦いの終わり。そして―――― ◆qpOCzvb0ck:2018/07/18(水) 23:56:10 ID:aRxaQ2nQ0
「ガアアアア!!」

緑竜をぶつけられた大岩がそのまま砕ける。
砕けた岩の中からそのまま緑竜は飛び出し、紫竜の脇腹にぶつかる。
大砲から放たれたような威力のそれは、紫竜の皮膚のみならず、内臓にもダメージを与えた。

「グェボッ!!」

紫竜はガスと血、それに唾液と胃液が混じったものを吐き出す。
しかし、負けじと尻尾を振るい、追撃に来る緑竜を弾き飛ばす。

「ガウアア!!」

反撃によって地面に叩きつけられる緑竜。
たとえ手を地面に付けようと、もう一度立てばよい。

再度地面を蹴り、上空に展開する。
また上から攻撃してくるのか、と推測した紫竜は、翼をわしづかみにして引きずり降ろそうとする。
だが、翼は大きく躍動し、両手を寄せ付けない。

翼の攻撃を受けた紫竜の手に、幾筋もの裂傷が走った。
しかし、それだけでは終わらず、紫竜は緑竜の顔面目掛けて火球をぶつけた。

「グウウ!!」
視界を奪われる緑竜。しかし、そんなことは気にせず上空から急降下。
紫竜は拳を固め、殴り落そうと目論む。
否、緑竜が行ったのは、スピードの勢いが付いた爪攻撃だ。
ただの同じ攻撃ではなく、同じ攻撃のように見せかけた別の攻撃。

ざぎゅり、と音がして、紫竜の肉が、皮膚が、鱗が剥がれる。
紫竜の左肩から、右の脇腹まで裂傷が走る。
しかし、紫竜も強引に体を回転させ、その勢いで緑竜を突き飛ばす。


そのまま紫竜は仰向けになった緑竜に、首をハンマーの様にして、とっておきの頭突きを浴びせる。
痛恨の一撃。
骨がぐしゃりと折れる感触が伝わり、緑竜にとって手痛い一撃になった。

しかし、まだ戦いは終わらない。
たとえ姿や戦い方が変わっても、緑竜にはレックだった頃の決意は残っている。
ターニアに会いたい。そのためにこの立ちはだかる壁を崩さないといけない。

「グオアアアアアアアア!!」

振り下ろしてきた紫竜の頭を左手で掴み、鼻先に噛み付き、右手で横顔を殴る。引っ掻く。殴る、引っ掻く。
紫竜は顔を振り回し、腕を振り回し、炎を吐き、抵抗する。
何度攻撃を繰り返したか分からないが、いつの間にか紫竜に突き飛ばされている。

「「グルオオオオオオオオ!!」」
互いの鳴き声がハーモニーと化し、そこから炎が吐き出される。
ちょうど互いの中央でその炎は留まっている。

顔からも体からも血を流し、焼け爛れ、牙や爪で出来た裂傷、尻尾や拳による打撲痕は数えきれない。
緑竜も、紫竜も鱗の多くが剥がれ落ち、出血で互いの区別がつきにくくなっている。
外部の傷だけでなく、内臓も幾分か傷つけられているだろう。

1040ある戦いの終わり。そして―――― ◆qpOCzvb0ck:2018/07/18(水) 23:56:28 ID:aRxaQ2nQ0
しかし、竜王の心に、何かの経験したことのなかったものが芽生え始めた。
高揚するものか消沈するものかと聞かれれば、間違いなく前者だ。
しかし、美しい女性を攫った時、獲物を狩る時、街を滅ぼした時などに比べると、まったく違うものだ。


(なんだ……この気持ちは……)

竜王の目の前には、同じように竜の力を持って戦っている者がいる。

(ワシは今まで隣にいる者がいなかったが………。
そうか……コイツが、『隣にいる者』か。)


隣にいる者、とはあながち仲間ばかりというわけでもない。
同じスタート地点から、どちらが先に目標にたどり着けるか切磋琢磨して競い合う存在なども該当する。
今のこの二人、いや、この二匹は、そういう関係だった。


「グフ、フフフ」
顔は汚れながらも、竜王が笑っているのが見える。

(分かって来たぞ。キサマの言う言葉。だが、ワシは勝つぞ。)

竜王は、ただ勝ちたいという気持ちで一杯だった。
格下の存在ではない、この同格の存在を何としてでも出し抜きたい。
そうでなければ、ここまで築いた誇りも、全て無駄になる。そんな気がした。

この膠着状態を破るには、竜王に一つだけ方法があった。
凍てつく波動を使って、レックの竜状態を解除すること。

ドラゴラム相手に試したことはないが、フバーハのように何らかの形にした魔力を身に纏うタイプの魔法なら。可能のはずだ。
だが、どうにもする気はならなかった。
初めて竜と化し、隣に立つこの竜を、竜のまま倒したかった。
自分の誇りを揺るがそうとするこの敵を何が何でも倒したいのに、矛盾しているとしか思えない。


互いに勢いをつけて頭をぶつけ、痛み分けと共に後方に下がる。


(グフ。ハハハ。)
実はこの戦いを楽しんでいたのは、竜王だけではなかった。
レックもまた、世界を救った後は勇者として崇められてばかりだった。
仲間もレックを、自分達の旅を成功させた「リーダー」として見ていた。
勇者やリーダーではなく、ただ一人の兄として見てくれた妹も夢の彼方へ消えてしまった。
竜王は、レックを勇者と呼んでいたが、それは崇高の対象ではなく、全力を賭して戦う相手の意味を籠めて呼んでいたことは分かっていた。

戦いが怖くて、一度は夢の世界に逃げた自分だ。
今でも、戦いは一つの手段で、やむを得ない場合以外やるものではないと思っている。
自分はそんな存在のはずなのに、今の状況を楽しんでいるなんて、矛盾しているとしか思えない。
だが、今自分がこの戦いを楽しんでいるのは分かっていた。

1041ある戦いの終わり。そして―――― ◆qpOCzvb0ck:2018/07/18(水) 23:56:57 ID:aRxaQ2nQ0
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(なんだ……これは……)

山小屋を後にし、荒野に出てさらに歩いたアベルの耳と目と鼻に、異様な情報が飛び込んできた。
遠くに見える、ぶつかり合う2体の巨竜、
凄まじい咆哮
血と煤の臭い。

つい先ほど、マスタードラゴンに対する憎しみを募らせていたことと何か縁があったのだろうか。
そういえば勇者に対する憎しみを募らせていた時、自分を勇者にしなかった女王に似た女が現れた。


(破壊しろ、と言うことですね)
アベルは自分の解釈を基に、口元をゆがませる。

一番賢いやり方というのは、片方が倒れてから、もう片方を殺すという方法だが、切り札の力を試すためにも、2体纏めて葬ってやろう。


レックと竜王は、互いの戦いに夢中で、蛇のように忍び寄るアベルの存在に気付かなかった。

その隙にアベルは秘伝書を取り出し、剣に向かって強く念じる。
天から、黄金の稲妻がアベルの剣に降り注いだ


緑色の方の竜が気づいたようだ。
だが、遅い。既に剣は力を纏った。

(何だ?これは?)
黄金の光を含んだ勇者の雷が、破壊の剣に落ちた瞬間、それが禍々しく漆黒に染まる。
ジゴスパークや闇の炎を司る魔物がいない世界にいたアベルにとって、ただただ驚くばかりだった。
そして、初めて世界が自分を肯定してくれたことに対して、言いようのない喜びがあった。

「消えろおおおおおおおオオオオオオオオオオオオ!!」

紫竜はいまだに気付いていないようだ、何かの詠唱を緑竜に向かってしている。
目を邪悪に光らせ、剣を一振り。

暗黒剣究極奥義――――――"ジゴスラッシュ"
轟音と、邪悪な光を纏った2重の黒い衝撃波が放たれる。


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1042ある戦いの終わり。そして―――― ◆qpOCzvb0ck:2018/07/18(水) 23:57:22 ID:aRxaQ2nQ0

その力は、二人を捕らえた。衝撃波はさらに進み、離れた岩山に激突する。
そこから起こったのは、凄まじい爆発と舞い上がる噴煙。
ジゴスラッシュの爪痕を激しく残した。


どうなったかは分からないが、紫竜の翼と片腕が吹き飛んだのを見えた。
緑竜の方を優先して狙ったため、緑竜の方はもっと被害が甚大だろう。

「ハハ、ハハハハハハハハハハハハハ!!」
魔王の雷、は期待にたがわずすさまじい威力だった。魔力から逆算して、使えるのはもって2,3発だが、いずれ回復すればいい。
これで世界の破壊も望めるだろう。



「なん……だよ……今の…………。」
レックは、どうにか無事だった。
辺りは煙で覆われ、30センチ先さえ見えない。
何故かは知らないが、人間に戻っている。


「無事か?」
後ろから聞いてきたのは、竜王。
よく見れば、竜王もまた、魔族の姿に戻った。

「あんた、俺を助けただろ。」
先程竜王はレックにジゴスラッシュが当たる直前、凍てつく波動を放った。
一か八かの賭けのようなものだが、それは成功し、レックは竜より小さい人間に戻ることで、危機を逃れたのだ。
竜王が元の姿に戻ったのは、ダメージが大きすぎるのと竜状態の体の欠損で、竜形態使えないと判断したからだ。


「あのような形で戦いを終わらせたくなかったからだ。」
「なんだ、協力するやり方がわからない〜、とか言っておきながら、俺たち人間とも、協力できるじゃないか。」

百聞は一見に如かず。
教えても分からないことなら、先に実践に移せば良い。

「悪いけど、もうしばらく協力してもらうぜ。不意打ちしてくるようなヤツに戦いを潰させられたくないだろ。」
「悔しいが、そうするしかあるまいな。」


煙の向こうにいるはずの、敵に対して身構える。

しかし、脅威は前方向だけではなかった。
後ろから音が聞こえたときは、もうそれは始まっていた。

「岩雪崩だ!!」
レックが叫ぶ。
既に辺りの岩山は二匹の竜との戦いで多くが崩れかけており、それがジゴスラッシュの影響で堰を切ったのだ。

竜の状態ならどうということないが、人間の姿だとこの勢いは厳しいものだし、魔族にしてはやや小柄な竜王とておなじことだ。

「おのれ!!魔力が……!!」
体力を多く使っていたため、しばらくは竜には変身できない。

1043ある戦いの終わり。そして―――― ◆qpOCzvb0ck:2018/07/18(水) 23:57:52 ID:aRxaQ2nQ0

二人はそのまま岩の混じった土砂に巻き込まれる。

「ちっ、生きていましたか。だが生き埋めですね。さようなら。」
アベルは邪悪な笑みを浮かべ、戦場を後にする。


次に目指す場所はトロデーン。
大きな城と言うのは、グランバニアのように人々が集まる中心地として使われる場所だ。
しかし、山岳を登るのは体力を消耗する上に、もうじきあの辺りが禁止エリアになる。
ここは迂回して、洞窟方面から向かおう。
途中で休憩所に出来そうな教会もある。


「無事か?」
今度尋ねたのは、レックの方だった。
「どういうつもりだ、キサマ。」
竜王はつっけんどんに返す。
「さっきの礼みたいなものだよ。」
レックもそれにあっさりと答える。

レックが岩雪崩を凌ぐために唱えたのは、鉄化呪文、アストロン。
竜王のベギラゴンを躱した時、バルザックの衝撃波を躱した時と合わせて、3度目だ。
竜王にとっては、なぜ自分までアストロンの対象なのかが疑問だった。

「さーてと、ここからどうすっかな。」
岩に潰されることこそ避けられたが、二人は生き埋めになってしまった。
闘うのならまだしも、二人纏めて酸欠や圧死で死亡なんて、笑えなさすぎる。

「迂闊に暴れたら、更に岩が襲ってくるぞ。」

魔族である竜王は、人間よりも長く地底にいたため、太陽や月の当たらない世界をよく知っている。

「竜王、アンタ、あとどれくらい魔法が使える?」
「人間に心配されるほど消耗しておらんわ。変身する魔法以外なら、なんだって唱えれる。」

竜王は最後に舌打ちをしている。ほとんど真っ暗闇なので分からないが、苛立った顔をしているだろう。

「レックよ。一見真っ暗闇のようだが、一筋だけ月の光が見える。恐らくそこから脱出できるだろう。」
「月の光?」
レックは驚く。竜王の言っていることは分からない。相も変わらず辺り一面が暗黒の世界だ。

「ワシら魔族は、光を求めて闇を彷徨っていた。だからどんなに細いモノでも光は見つけられる。」
「なんだ、結局アンタも俺達人間や他の生き物と同じで、光が欲しいんだ。」
「キサマらと一緒にするな!!」
「俺も、光は大好きだからさ。ライフコッドって村で、家から出た時に見える朝日なんて最高だぜ。」
「……もういい。」

意外なところで共通点を見つけた二人。
初めてであったのはほんの10数時間前なのに、何故かは知らないが不思議と信頼感があった。

「ワシはその光の場所に向けて魔法を打ち、脱出口を開く。キサマも同じ方向に打て。」
「そうさせてもらうぜ。」
竜王の提案にレックも同意する。

1044ある戦いの終わり。そして―――― ◆qpOCzvb0ck:2018/07/18(水) 23:58:29 ID:aRxaQ2nQ0

「焼き尽くせ!!ベギラゴン!!」
「紅蓮の光よ!!俺たちの希望を繋げ!!ベギラゴン!!」

異なる詠唱で同じ呪文を出す。
二人の炎の魔法によって岩は溶け、そこには夜空が広がっていた。

「どうにか助かったな。感謝するよ、竜王。」
「礼はいらぬ。それはワシとて同じこと。」

「へえ、同じことってのは…アンタも人に感謝すること………」


突然、マヌーサでも使われたかのように竜王の顔がぐにゃりと歪み、ぼやける。
そのまま、レックは崩れ落ちた。

「何!?どういうことだ。起きろ!!キサマ!!」

当然と言えば当然だった。
昼から強敵と戦い続け、休憩できる時間や竜王のくれた薬があったからとはいえ、体力の限界がある。

「終わらせわせん!!こんなところでキサマとの縁を終わらせてたまるか!!」

竜王は叫び続ける。
世界の半分をも超える価値を持った、新たな可能性のために。
だが、それは人の力を再び借りねばならない。

彼の選択の時間は、まだ続く。

【C-7/荒野/1日目 夜中】

【レック@DQ6】
[状態]:HP1/15 気絶 MP1/7
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、大魔神の斧@DQJ 蒼炎のツメ@DQ10モリーの支給品1~3個 確認済み支給品1~2個
[思考]:竜王と協力する。アベルを追う、ターニアを探す。

※体力を使い果たした上での気絶状態です。手当などがない場合は、一定時間後に衰弱死します。

【竜王@DQ1】
[状態]:HP1/10 竜化した場合、背中に傷 片手片翼損失
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1個
[思考]:レックと共に協力し、アベルを倒す。
[備考]:自分の誇りを貫くか、他の人間の協力も借りるか悩んでいます。

【C-6/荒野/1日目 夜中】

【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/3 MP1/6
[装備]:破壊の剣
[道具]:支給品一式 剣の秘伝書
[思考]:過去と決別するために戦う 全てを破壊する

1045ある戦いの終わり。そして―――― ◆qpOCzvb0ck:2018/07/18(水) 23:58:41 ID:aRxaQ2nQ0
投下終了です。

1046ただ一匹の名無しだ:2018/07/19(木) 00:35:05 ID:6IBQGTBo0
投下お疲れ様です。
「人と竜と」から「竜と竜と」になるのが熱すぎる
タイトル見た時から終始ヒヤヒヤしていたけど二人とも何とか生き延びたか…

アレフの前でローラにキスして、ゴーレムと戦って、ピたろうの灼熱くらって、竜王とまで対峙。
これでアベルはゴドラ以外のDQ1勢全員と敵対したわけだ(だが誰も直接殺せていない件)

1047 ◆qpOCzvb0ck:2018/08/08(水) 22:43:41 ID:EFE5Fsog0
ちょっと時間が過ぎましたが投下しますね。

1048残された者たち ◆qpOCzvb0ck:2018/08/08(水) 22:44:31 ID:EFE5Fsog0
アークが死んだ場所への暗い道を、赤髪と蒼髪の少女が歩く。


ポーラはセラフィによくしゃべった。
初めての友達、アークのことを。
アークと見たもの、アークと知ったこと、アークと闘った魔物、アークとの思い出。

何度も、何度も何度も何度も何度も繰り返ししゃべっていた。
ただ話をすることが楽しいのではなく、話をすることで何かから逃れようとしていた。
思い出を話すことで、自分を何かから守ろうとしていた。
思い出をたどることで、自分を保とうとしていた。
その証拠に、話は全てアークと関係することだった。
そして、楽しかった思い出話なのに彼女の頬は一度も緩んでいない。


愛してる人の為だからといって、この人を殺したくない。
この人の為だからといって、愛している人をこのままにしたくない。

目の前にいる人がアークを知っている最後の人だから
そんな理由でアークを見捨てるなんてできない。
アークが大切な仲間だから。
そんな理由でアークのことを知る数少ない命を無下に扱うことは出来ない。


そんな葛藤から少しでも目を背けるために、アークのために全てを殺す決意を固めるために、ポーラはアークのことを話し続けた。


一方でセラフィは、その話にずっと相槌を打っていた。
ほんの数時間ほどだが、一緒にいた仲間について聞きたいことは沢山あった。
でも、今話を遮ることはポーラ自身を包んでいる繭を破ることになってしまいそうだった。

港町に入ってから、何度か波の音が聞こえる。
鼻につく潮の臭いが、アークと共に女神の果実を見つけた時のことをポーラに思い出させた。



「波の音が聞こえる。アークと一緒に女神の果実を探した時のこと、思い出すわ。」
「果実……なのに、どうして波なの?」

久しぶりに、相槌以外の反応をする。

「それはね、あたしがアークと、海に落ちた願いをかなえる果実を探しに行ったのよ。」
「願いをかなえる果実?」


ポーラが話したのは、変わってしまったアークのこと。
願いをかなえることのできる女神の果実さえ食べれば、アークの目にも光が戻るのではないかと。
あたしは藁にも縋る思いで、必死だった。

「そのころからアークさんのこと、大切に想ってたんだね。」
「あたし、それまで一人……だったからさ。初めて友達になれたことがたまらなく嬉しかったんだ。」

1049残された者たち ◆qpOCzvb0ck:2018/08/08(水) 22:44:53 ID:EFE5Fsog0


(やっほ〜!アーク、ポーラ!おっひさ〜!)
(ずっと、会いたかった…!)

女神の果実は、アークに笑顔を取り戻した。
反面、自分との距離は離されてしまったような気がする。
自分には出来なかったことが、サンディにはできたという事実が、自分をそうさせた。
しかし、たとえサンディやアギロに会えても、状況は変わらない。
天使界は消えてしまったし、誰もアークのことは覚えていない。

(世界は広い!!オマエが知らないこともきっとあるだろうよ!!)

アギロはそう言っていたらしいが、アークにとっては、どうすればよいかわからなかった。


やがて、アークも理解し始めた。
彼が生まれた意味と価値は、全て当て嵌められた物に過ぎなかったのだと。

そして、自分も理解し始めた。
自分だけでは、彼の心を取り戻すことは不可能であること。

それが気づいた途端、この戦いに巻き込まれていた。



あたしは、本当のことを言うと、この戦いにある期待をしていた。
この戦いは確かに危険なものだ。それを開いたあの魔導士を許すわけにはいかない。
でも、アークがこの戦いを経て、何かに気付いてくれるのかもしれないということ。


だが、期待は最悪な形で返ってきた。

たとえこのまま元の世界に戻っても、アークもアークのことを知っている人もいないのなら、ただ元の世界に戻っても意味がない。

例えあの魔導士にいいように利用されているだけだとしても、戦わないといけない。


でも、言うは易く行うは難い。
自分はこうやって、目の前にいる少女一人殺すことさえ決めかねている。


他の人なら殺せるか?
否、余程の極悪人ならともかく、悪人か善人か分からない、初対面の相手には刃を向けるのはためらってしまうだろう。

決意を固めたはずなのに、これから殺すつもりの相手と話をしている。

選択肢はこれしかないはずなのに、選ぶのを恐れている。

アークの場所に行きたいけど、行くのを恐れている。

1050残された者たち ◆qpOCzvb0ck:2018/08/08(水) 22:45:37 ID:EFE5Fsog0
☆☆☆☆

(どうすればいいのかな……)

守れなかった。
自分にも守れるものがあるんだと、見栄を切ったが、結局は誰も助けられなかった。
逆に、誰かに助けられるばかりだった。

本当のことを言うと、ポーラさんが人殺しに手を染めることは止めさせたい。
話を聞いてみると、ポーラさんはちょっぴり寂しくて、優しい人だってわかったから余計に。


でも、知っている。

人は、「悪いこと」が悪いことだと分かっていても、やってしまう。

ある時は憎しみに駆られて。
ある時は誰かを守るため。
ある時は全てを捨ててでも幸せになりたくて。


それしか選択肢がなくて、やってしまう。
ベルムドさんやゴリウス兵士長を見ていた時から、薄々感じていたが、この世界でルーナやアベルを見て、それが確信に変わった。

悪事を行う者は、ヒョッヒョマンにような根っからの悪ではなく、そうせざるを得なかった者の方が多いことを。


それを止めたのは、総じて力ある者。
例えばジャンボのような。

思えばベルムドさんを止めることが出来たのも、ゴリウス兵士長を止めることが出来たのも、ジャンボがいたからだ。


自分一人では、結局何もできない。
この世界でも、嫌というほどそれを思い知らされた。

ポーラが助けてくれなければ、私はピたろうもろとも串刺しだった。
それ以前に、アークがいなければルーナのイオナズンで消し飛んでいた可能性が高い。


ポーラに協力したいか、協力しないかと言われたら、やはり協力したい。
一人になってしまった人間のつらさは、ベルムド王への反逆者として扱われた時に分かっている。


だけど、自分にはその力がない。
ポーラに殺し合いを止めさせることも、ポーラの殺し合いの手伝いをすることもできない。
そもそも、後者に至っては自分にする勇気さえない。

「ねえ、どうしたの?」
「!?」

考え事をしていたら、ポーラに呼ばれた。

ポーラは言葉を放出することで、心を保ち、
逆にセラフィはあらゆるものを奥底に押し込むことで、心を保っていた。

1051残された者たち ◆qpOCzvb0ck:2018/08/08(水) 22:47:22 ID:EFE5Fsog0
綺麗に続いていた草原と街道の風景が変わる。
未だに残っている煙の臭い、
崩れた街道と、荒れた台地。
セラフィやヒストリカが持っていたものが辺りに散らばっている。

アークが死んだ場所に近づいてきた。


(もうすぐ、アークに会える。でも、あたしはその時どうすればいいんだろう)

段々と高鳴ってきた鼓動が、一層早くなる。







そこに、アークはいた。

安らかな顔だった。

首から下はあちこちが焼け焦げているため、それを見れば安らか、とも言えないが。

教会の壁画に描かれている天使のような穏やかな表情に包まれていた。

世の全てに満足して最期を迎えたような顔をしていた。

でも、あたしには見えた。

死体とは僅かに離れて、ぼんやりと浮かんでいる、もう一つのアークの姿。

それはあたしが会うことを待ち焦がれていた、アークだ。

違った形でも、その事実は違わない。

会いたかった。

ずっと、会いたかった。

「アーク、だよね。会いた……かったよ。」
他にも言いたい言葉はあるはずだけど、これしか思いつかない。

『アーク』は言葉を話さない。

知っている。
自分は人が見えない存在を見ることこそできるが、話すことは出来ないことを。
未練を残した死者と話が出来るのは、アークだけだった。

会話が普通に出来るなら、幽霊も昔のあたしにとって恐ろしい存在ではなかった。

ぼんやりと見える『アーク』は何かを見つめている。

どこか、悲しそうな顔で。
見つめているそれがあたしなのか、あたしじゃないのかも分からない。
そもそも『アーク』にあたしが見えているのかさえ分からない。

1052残された者たち ◆qpOCzvb0ck:2018/08/08(水) 22:48:28 ID:EFE5Fsog0

「ねえ、あたしのこと、分かる?」
答えは返ってこない。
そうなることが誰よりも分かっているのは自分だ。
それが分かっていても、呼びかけてしまう。

死に顔こそは安らかなのに、あたしが見えるというのは、何か心残りがあるからだ。

その心残りは、何なのかうっすらとだが見当はつく。
でも、正解を聞くのが怖い。


自分がこれからやろうとしていることが、アークを苦しめているのかもしれないからだ。

でも、聞かなければいけない。

自分は今まで、ウジウジ悩んでは出遅れてを繰り返していた。
結局、自分で道を開くことなく、アークの手伝いをするだけであの旅は終わってしまった。

この世界でこそアークなしで動いていたが、始まって半日以上、アークを求めて動いていた。

「お願い!!ほんの一言でいいの!!何か、話してよ!!」

ああ、何だか知らないけど、涙が出てきた。
エルギオスを倒してから、ずっとアークの顔ばかり見てて、自分のことなんか考えてなかったけど、我慢してたんだなあってわかる。


「あたしにはアークの姿が見える!!
それって何かまだ未練があるんでしょ?
教えてよ!!教えてくれたら、あたしがどうにか出来るかもしれないでしょ!?」

『アーク』は答えない。あたしがそこにいるのかすら分かってないのかもしれない。

「教えてよ!!あたしがどうすればいいか!!お願い!!」

話してて、だんだん自分でも感じてくる。
ああ、自分はアークにずっと依存してて、自分では何にもできなかったんだなあって。
武闘家からバトルマスターになる時だってそうだ。
バトルマスターという職を選んだのは自分だ。
でもそのための目的はアークへの敵をもっと多く倒すため。
そして、バトルマスターになるまでの道も、アークの応援によって開かれた。

1053残された者たち ◆qpOCzvb0ck:2018/08/08(水) 22:48:48 ID:EFE5Fsog0
彼天使としての役目を全うして、生きる道を見失ってしまったが、自分も同じようなものだった。

「ねえ、返事してよお……あたし……どうすればいいのか……わからないよお……。」

本当は聞くのが怖いのに聞こうとする。
答えは返ってこないのに聞こうとする。
ああ、本当に矛盾だらけ。

近くでセラフィが見ている。
でも、あたしは子供のように泣きじゃくり、触れることのできない『アーク』に語り続ける。

そして、セラフィにも見える方のアークの体を揺さぶり続ける。

アークの胸に添えられている、ある物を見つけた。

胸に添えてあった銀河を模した剣は、アークの瞳のようにきらきら輝いていた。

「ねえ、セラフィ。この剣、何か知ってる?」

「それは……私が持っていた剣………。」

ルーナに襲われた時、自分が落としてしまったものだ。
セラフィは、アークとルーナの戦いを最後まで見てはいない。

しかし、この剣の置かれ方、戦いの後からそのまま放置されていたようには思えない。

やはり、アークを殺した人も悩み続けていたのだろう。
だからと言って許すわけにはいかないが。

結局のところ分からずじまいだったが、この剣の置き方を見て、一つパズルが埋まった気がする。


アークを殺した人も、あたしと同じで、一人なのが嫌だったのかもしれない。
アークはひとりだったその人を救おうとして、命を落としたのかもしれない。
なにしろ、ひとりだったところをアークに救われたのはあたしもだからだ。


アークを助けるために、殺し合いに乗った結果、また新しいアークのような死者を出してしまうかもしれない。
そうは分かっている。
殺し合いに乗ることは、アークのためではなく、自分のためにしかならないことを。
理屈で分かっていても、納得しきれない自分がここにいる。

銀河の剣をそっと拾い上げる。
アークが持っていたこの剣は、あたしがこのゲームに勝つために大いに活躍してくれるだろう。
だけど、自分は美しい白銀の剣を血に染めるようなことをしていいのか。

そしてあたしが殺人をすれば、それを『アーク』が見ている。
残った人たちとの戦闘能力を抜いても、その事実を受け入れながら人殺しが出来るのだろうか。
やはり、あたしはできない。

でも、アークのため以外にやれることなんて、思いつかない。
例えこの世界で未だに残っているスクルドやコニファーと協力して生還しても、その後どうすればいいのか見当もつかない。

1054残された者たち ◆qpOCzvb0ck:2018/08/08(水) 22:49:30 ID:EFE5Fsog0
(許して!!アーク!!例え地獄へ行っても……)

ポーラは炎の剣をセラフィに向ける。

セラフィは、怯えも抵抗の意思も見せなかった。

「いいよ。」
代わりにこう答える。

「私が死ぬことがポーラとアークさんの未来につながるなら、私死んでもいいよ。どうせ私、一人じゃ生きていけないから。
それなら誰かの為に死んだ方が、満足だから。」

セラフィは表情どころか、目の焦点さえ動かさない。


剣を握る。
不思議と、鉛でも持っているかのように、思い。
刺せ。
心の中で自分を叱咤する。
早く刺せ。
でも、腕はほんのわずか伸びただけだった。
早く刺し殺せ。
腕は意思に判して、ひどく抵抗する。

突然剣が別のものにすり替わったかのように、重くなり、落としてしまった。
(なんで……)
地面にうずくまり、落としたそれを拾おうとする。


そして、ポーラはセラフィが落とした、もう一つの道具を見つけた。

(綺麗な鏡……)


しかし、それよりもポーラが気になることがある。
鏡に映った自分の顔は、紛れもなく自分と同じものだ。


しかし、そこにいる自分は、泣いていた。

この鏡は、人の本心を映し出すものだろうか。

似たような道具と言えば、アバキ草という物があった。
でも、それにはそんな効力はなかったし、たかが鏡に自分を見透かされてしまうのは癪だった。

でも、鏡が出した答えは悔しいが当たっている。

アークが死んだ悲しみに。
アークに何もしてやれなかった悔しさに。
アークのために、これから一人で殺し続けないといけない恐怖に、私の心は涙を流している。


「ポーラさん?」
後ろから、セラフィがそれを覗き込む。

そして、ラーの鏡は映した。
それはホイミスライムの姿だが、あたしと違って、セラフィの表情は変わらない。

どうやら本当に彼女はホイミスライムのようだ。

1055残された者たち ◆qpOCzvb0ck:2018/08/08(水) 22:49:49 ID:EFE5Fsog0

しかし、背景が違った。
後ろが、まるで黒い絵の具でもぶちまけたかのように、真っ黒だった。
言われなくても分かった。
セラフィは今、心が虚無に苛まれているのだ。


「私がどうかしたの?」
「ううん。なんでもない。」

セラフィにはどうやら鏡の奥で泣いているあたしも、虚無に飲まれそうになっている自分も分からないようだ。
どうやら真実を見出す鏡が、見えない存在が見える私だけに新しいものを見せてくれるみたいだ。


(まさか……!?)

『アーク』も最後に映してみる。

後ろにそこに映っているのは、光。
春の訪れを告げるような暖かな、
けれど、冬を告げるようにさみしげな光。

(ポーラ……そこにいるのですね。)

誰かが、心の中に語り掛けてくる。それが誰かはすぐに分かる。
春風のように穏やかな語り方、アーク以外の誰のものでもない。


あまり知られていないことだが、ラーの鏡は、この世ならざる存在の言葉を聞くことのできる媒体にもなる。
現実世界にいた人間が、夢の世界のカガミに囚われた姫の声を聞けたように。

「アーク!?話が出来るの!?あたしは……」
(わざわざ言わなくても、分かっています。私のこと、この世界でも大切に想ってくれてたんですね。気付かなくてごめんなさい。)

「ううん。あたしこそ、ごめんね。アーク。助けられなくて……。」
(大丈夫。私はもう、十分です。後はあなたたちが前を向いて歩いてくれれば私は、安心できます。)

やっぱり、あたし達を心配してくれたから、この世界に残っていたんだ。

でも………。

「嫌だよ!!アーク!!一緒にいたいよ!!アークは満足かもしれないけど、あたしはずっと一緒がいいの!!」

(あなたは今も昔も、優しい人でしたからね。)
「優しくなんか……ないよ。」

(あなたは知らなくても、私は知っていますよ。
だから、あなたは生きてください。
そして、死や別れだけじゃなく、出会いや誕生にも目を向けなさい。)

「だけど………アーク…………。」
涙で言葉を紡げない。

1056残された者たち ◆qpOCzvb0ck:2018/08/08(水) 22:50:20 ID:EFE5Fsog0

(気持ちは分かります。大切な人を失った気持ち、今なら良く分かりますから
でも今すぐ出来ないことでも、周りにいる人と協力すれば、いつかは出来るようになります。)

それはあたしが知っている。
バトルマスターになったのも、強い敵を倒せたのも、全部誰かと協力したおかげだ。
けれど、あたしは協力できる人こそが少なかった。

あたしはこれからそういう人を見つけて、立ち直っていけるのか。

いや、いつまでもアークに縋っていてはいけない。
最後に会えて、話せた。
それがどんな形であれ、あたしの心の支えになっている。

「ねえ。」
セラフィは急にポーラに声を掛けられ、少し驚く。
「あなたは、まだ、何か目的はあるの?」
「ううん。守るべき人はもう、いないから。
そういやレックって人に、デュランさんって魔物が探していたと伝えろと言われたけど、どっちも生きてるのか分からないし。」

レック。ポーラはその名をキーファから聞いた。
でも、彼女にとって重要な人でもない。

「そうじゃないの。本当にしたいこと、言って。」
「この戦い……止めたい。人を殺して、不幸になる人も大切な人が殺されて不幸になる人も、止めたい。」

(だったら正しさを証明してみればいいでしょう。どんな理想論を語ろうと、実現出来ぬまま死んでは戯れ言でしかないのですから。)

アベルに言われた言葉を思い出す。認めたくないが、本当にそうだなあとセラフィは実感した。




「じゃあ、さ。あたしがセラフィの力になる。」
「いいの?あたしのせいで、ポーラも死んじゃうかもしれないよ。」
「構わないわ。あたしも、一人じゃ生きていけないし。」

まだ、完全に決意は固まったわけではない。
誰か別の人に戦いに乗ろうと言われれば、乗るかもしれない。
まだ生きているらしいコニファーやスクルドに会った時、自分は今何をしていると言えばいいかも分からない。
結局アークの決意の下で戦う戦士から、セラフィの決意の下で戦う戦士になっただけだ。
でも、アークの言うことを信じて、生きよう。

エリザを失ったけど、新たに生きる道を見つけたルーフィンのように、あたしにも何か自分の道を見つけられるかもしれない。

「ありがとう。アーク。死んでも、あたしのこと、気にしてくれて。」

アークが持っていたらしい吹雪の剣を手に取る。
切れ味はアークの胸に添えられていた銀河の剣の方がはるかに良いが、これもアークの生きた証になるかもしれない。

1057残された者たち ◆qpOCzvb0ck:2018/08/08(水) 22:50:38 ID:EFE5Fsog0
これだけは、このままにしておこう。


「あと、さ。これ、アークさんがこの戦いを壊すために、持ってたものなの。」

セラフィが散らばっていた道具と共に、黒い金属の輪を持ってくる。
確かに、これを解除すれば、戦いを終わらせることが出来るかもしれない。

「でも、こんなのあたしには調べられないよ。」
「できないなら、解除できる人を見つければいいんじゃない?」

「はっきり言って、上手くできるか分からないけど、やってみるわ。」
「じゃあ……行こうか。」

もう一度セラフィを鏡で映す。
少しだけ、闇が薄まっていた。

「私がどうしたの?」
「なんでもない。行こう。」


残された二人は、歩き出す。
「ばいばい。アーク。」
「さよなら。アークさん。」

二人は最後の挨拶を告げると、新しい道を歩き始めた。


【G-8/草原/一日目 真夜中】


【ポーラ@DQ9】
[状態]:HP3/5 MP1/5
[装備]:吹雪の剣 @DQ5
[道具]:折れた炎の剣@DQ6 ラーの鏡 支給品一式 支給品0〜2個
[思考]:まだ決意しきれていないが、セラフィに協力する。これから会う人によれば、殺し合いに乗るかもしれない。
※未練を残す死者の幽霊が見えます。そのままでは会話は出来ませんが、ラーの鏡を通すことで会話が出来ます。
※ラーの鏡を通して人の心の中を見ることが出来ます。今後何かほかの道具でも可能かもしれません。

【セラフィ@DQ10】
[状態]:HPほぼ全快
 歩くとHP回復(装備効果)
[装備]:ホイミンのTシャツ@DQ8 祈りの指輪
[道具]:星降る腕輪@DQ3 魔勇者アンルシアの不明支給品(0〜2)アリーナの不明支給品(0〜1)太陽の扇@DQ6、フラワーパラソル@DQ5、炎竜の守り@DQ8 魔勇者アンルシアの首輪 アリーナの首輪
[思考]:殺し合いに乗る者を止める。

1058残された者たち ◆qpOCzvb0ck:2018/08/08(水) 22:51:01 ID:EFE5Fsog0
投下終了しました。

1059ただ一匹の名無しだ:2018/08/09(木) 12:36:19 ID:BseNMaxU0
投下乙です
ポーラはひとまず踏みとどまって、セラフィも少し立ち直ったか
ラーの鏡にそんな使い方があったとは
自分はまだそこまで進んでないけど、10のバージョン4で判明したんだっけ?

1060 ◆OmtW54r7Tc:2018/08/11(土) 14:17:28 ID:XP7ethXY0
投下します

1061巡り会う二人の想い人 ◆OmtW54r7Tc:2018/08/11(土) 14:19:11 ID:XP7ethXY0
この殺し合いの場では、様々な再会の形があった。
行動を共にするも、間もなく片割れが死んでしまったり。
意見を違え、戦いになったり。
そして今回もまた、一つの再会の物語が紡がれようとしている、

果たして、彼女たちの選択は―


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「スクルド…!」

最初に口を開いたのは、赤髪の少女、ポーラだった。
その目は、驚きで見開かれている。
それは、隣のセラフィも同様だ。
何故なら、彼女――スクルドのローブには、痛々しい血の跡がついているのだから。

「ポーラ…お久しぶりですね」
「う、うん…って、そうじゃなくて!大丈夫なの!?」
「ええ…応急措置は済ませましたから」
「そう…」

ひとまずホッとするポーラだったが、しかしすぐにじっとスクルドを見つめる。
スクルドは元の世界からの仲間だ。
アークほどではないにしても、信用できる相手…のはずだ。
優しくて頭がよくて、誰よりも天使を信仰する、立派な聖職者で、こんな殺し合いに乗るはずなどない…はずなのだ。
だけど、ここは殺し合いの場で。
自分だって、先ほどまで闇に身を任せかけた。
彼女のこの傷が、どういう経緯でできたものなのか…聞く必要がある。

「ねえ…スクルド」
「ポーラ」

こちらが聞くよりも前に、スクルドが口を開いた。
そして…驚きの言葉を口にした。

「私は…許されないことをしました。この槍で…大勢の命を奪ってしまったんです」

1062巡り会う二人の想い人 ◆OmtW54r7Tc:2018/08/11(土) 14:20:23 ID:XP7ethXY0
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「この殺し合いが始まった時…私は近くの塔に飛ばされました。そして塔を降りているとき…デュランという魔人に出会いました」

デュラン。
セラフィから聞いた名前だった。
ポーラからの視線に気づいたセラフィが、答える。

「デュランさん、東の塔でレックって人を待ってるって言ってたから…間違いないと思う」

デュランはスクルドが僧侶だと知ると、彼女を無理やり従わせたという。
なんでも、「敵とは万全な状態で戦いたいから自分や敵が負傷していたら戦闘前に治療してくれ」ということらしい。

「そいつはまた…随分なバトルジャンキーだこと」

スクルドを従わせた理由に、ポーラは呆れた。
自分もバトルマスターとして多少は戦いを楽しむような心を持ち合わせていないこともないが、こんな殺し合いの場でわざわざ敵に塩を送るような発想はしないし、したくない。

「そして最初の放送が終わったころ…しびれを切らしたのか、デュランはリーザスの村へと向かい…そこで長い戦いが始まったんです」

しかし戦いの中で2回目の放送が行われ、アークの名前が呼ばれたことでスクルドは茫然自失となり、戦いの中に迂闊にも乱入してしまった。
そして戦いを邪魔されたデュランと、彼の対戦相手のアレフは…

「あの二人は…アークを侮辱して私を斬りつけました!私は怒りで我を忘れて、気が付いたら…」

そこまで言うと、スクルドは顔を俯かせて涙を流す。
怒りで我を忘れたスクルドは、ジゴスパークを発動させ、デュランとアルフ…そしてそばにいた二人の計4人を殺してしまったのだという。
話を聞き終え、ポーラとセラフィは悲しそうな表情で嗚咽をもらすスクルドを見つめた。

「あまり自分を責めないでください、スクルドさん」
「セラフィの言う通りだよ。アークのことを馬鹿にされたら…あたしだって同じようなことしてたと思う」
「でも…でも……!」

泣きじゃくるスクルドを見て、ポーラは思う。
こういう時、アークならどうするだろうと。
そう、きっとアークなら。

「スクルド」

ポーラは、スクルドに近づくと彼女の身体を抱きしめた。
そして、頭を撫でてやる。

「一人で抱え込まないで。私たち、一緒に旅してきた仲間でしょ!?スクルドの悲しみは、怒りは、私が一緒に背負うから。だから…!」

こういうのは、いつもならアークの役目だ。
だけど、アークはもういない。
おちゃらけているようで意外と周りのことを気にかけてくれてたコニファーも、この場にはいない。
自分がやるしかないのだ。

「ポーラ…ありがとうございます」
「スクルド…」
「ふふ…ちょっとだけアークのこと思い出しちゃいました」

そういって、スクルドは薄く笑った。
彼女のそんな表情を見たポーラは、ホッと一息ついたのだった。

1063巡り会う二人の想い人 ◆OmtW54r7Tc:2018/08/11(土) 14:21:13 ID:XP7ethXY0
その後、3人は情報交換し、これからの行動について話し合った結果、ポルトリンク方面へ向かうことにした。
ポーラとセラフィにとっては引き返す形となるが、スクルドの話によればリーザス村は廃墟同然のようだし、傷心のスクルドをそちらに引き返させるべきではないと判断したのだ。
それに、ポルトリンクの方には遅れてこっちに向かってるはずのキーファたちがいるかもしれない。

「途中にアークの遺体があるんだけど…どうする?」
「…アークさんには、今は会いません。会うのは…全てが終わってからにしたいです」
「分かった、それじゃ行こう」


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「ねえ、ポーラ。聞きたいことがあるのですが」

道中、スクルドがポーラに声をかける。
なんだろうと思いつつ、ポーラはスクルドの方へ振り向く。

「どしたの、スクルド?」
「…ポーラは、この殺し合いに優勝して、アークさんを蘇らせようとは、思わなかったんですか?」
「え……」

スクルドの問いに、ポーラはギクッとする。
何故。そんなことを。

「リーザス村での一件の後、私、一瞬ですけど思ってしまったんです。優勝すれば、アークを生き返させられるって」

それは、かつてポーラも望んだ願い。
いや…今でもまだ心の奥に燻っている願望だ。

「…正直に言うとね、アークが放送で呼ばれてから、あたし、殺し合いに乗ろうとしてたんだ」
「ポーラ…やっぱり」
「だけど、決めたんだ。今はこの子…セラフィの力になるって」
「…そうですか」

一瞬、スクルドの表情に影が差した。
しかし、それに気づくものは誰もいなかった。

1064巡り会う二人の想い人 ◆OmtW54r7Tc:2018/08/11(土) 14:23:22 ID:XP7ethXY0
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


(…うまくいった、とみてよさそうですね)

表情には出さず、心中でスクルドはほくそ笑む。
この二人には、事実と嘘を織り交ぜた話を語った。
最初に殺したというインパクトの強い事実を伝えれば、嘘をついているとは思われにくいものだ。
ポーラの性格はよく知っているし、セラフィもお人好しな人間のようだったので、ちょっと涙でも見せてやれば、騙すのは容易だった。

(ポーラ…願わくば、あなたにも私と同じ道を歩んでほしいです)

スクルドは見抜いていた。
ポーラが、まだアークを蘇らせることを心の奥底では願っていることを。
未だ、迷いの中にいることを。
もし彼女がその気になってくれれば、スクルドは全力で彼女の優勝のために尽力する。
アークさえ蘇ってくれれば…自分の命など惜しくはないのだから。
だから、ポーラのことは機を見て説得したいところだ。

(セラフィの力になる…ですか)

ちらりと、同行者の少女を見る。
彼女は、生前のアークを知る唯一の生き残りらしい。
おそらくだが…彼女の力になるという別の目的にすり替えることで、アークへの願望を抑え込んでいるのではなかろうか。
そうだとすれば、彼女がいなくなればあるいは…揺らいでくれるかもしれない。

(とはいえ、焦りは禁物です)

上手くいけばポーラをこちらに引きずり込むことができるが、対応を誤れば彼女を敵に回すことになる。
今は、あくまで人畜無害を装う必要がある。

(アーク…)

ポーラに語った通り、今は彼に会う気はない。
きっと生きていれば、アークは自分を止めようとしただろう。
たとえポーラのように言葉を交わすことができなくても…そんな彼に会ってしまったら、決意が鈍りそうだったから。

(待っていてください、アーク。たとえあなたが望んでいなくても、私のエゴでも…私はあなたを蘇らせる)

1065巡り会う二人の想い人 ◆OmtW54r7Tc:2018/08/11(土) 14:24:09 ID:XP7ethXY0
【H-8/草原/一日目 真夜中】

【スクルド(僧侶♀)@DQ9】
[状態]:HP2/3、腹部裂傷(応急処置済み)喪失感 情緒不安定MP1/2
[装備]:ホーリーランス、不思議なボレロ@DQ3
[道具]:支給品一式 キメラの翼×2 支給品0〜1(本人確認済み)
[思考]:アーク(DQ9主人公)を蘇らせる。そのために最後まで戦う。その後自殺する
    ポーラには協力してもらいたいが、無理はしない

【ポーラ@DQ9】
[状態]:HP3/5 MP1/5
[装備]:吹雪の剣 @DQ5
[道具]:折れた炎の剣@DQ6 ラーの鏡 支給品一式 支給品0〜2個
[思考]:まだ決意しきれていないが、セラフィに協力する。これから会う人によれば、殺し合いに乗るかもしれない。
※未練を残す死者の幽霊が見えます。そのままでは会話は出来ませんが、ラーの鏡を通すことで会話が出来ます。
※ラーの鏡を通して人の心の中を見ることが出来ます。今後何かほかの道具でも可能かもしれません。

【セラフィ@DQ10】
[状態]:HPほぼ全快
 歩くとHP回復(装備効果)
[装備]:ホイミンのTシャツ@DQ8 祈りの指輪
[道具]:星降る腕輪@DQ3 魔勇者アンルシアの不明支給品(0〜2)アリーナの不明支給品(0〜1)太陽の扇@DQ6、フラワーパラソル@DQ5、炎竜の守り@DQ8 魔勇者アンルシアの首輪 アリーナの首輪
[思考]:殺し合いに乗る者を止める。

1066 ◆OmtW54r7Tc:2018/08/11(土) 14:24:40 ID:XP7ethXY0
投下終了です

1067星さえ掴むこの瞳で ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:03:59 ID:zXDTL0GM0
ゲリラ投下します。

1068星さえ掴むこの瞳で ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:05:46 ID:zXDTL0GM0
夜が深まる中、魔英雄ザンクローネは茨に包まれた城を前にニヤリと笑った。深い夜の中、この世界は夜よりも遥かに深い闇で覆われている。

明けない夜は無い。
その言葉が示すように、先の見えない闇に対しても根気強く待てば救いは訪れる。
しかし、人は夜明けを待つことは出来ても夜明けを到来させることは出来ない。人は救いをひたすら待ち続けることしか出来ないのだ。自ら救いを勝ち取る力など持っていない。

だからこそ、救いを与える者に取りこぼしがあってはならない。
全てを救う、それがただ1つの願い。
歪んだ笑みを浮かべながら、魔英雄ザンクローネは来る者を拒まぬ空きっぱなしの城門を潜り抜ける。

トロデーン城。
ザンクローネにとってもヘルバトラーにとっても、目指していた場所でありながら無事に辿り着くことのなかった場所である。双方ともこのような姿で拝むこととなるとは夢にも思っていなかっただろう。

ようやく辿り着いたこの城には、どれだけの救いを待つ者が居るのだろうか。どれだけの破壊を尽くせるだろうか。

深い深い闇の中、城を包む静寂と茨が魔英雄の足音をよりいっそう不気味なものに引き立たせる。

そんな中でようやく聞こえた声。
滅びが、救済が、今始まる。

「さあ、救済の時間だ……。まずは――――――お前だ!」

1069星さえ掴むこの瞳で ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:06:51 ID:zXDTL0GM0
刹那、斬夜の太刀が虚空を引き裂いた。 その剣先は獲物を捉えることはなかった。

「あっぶねえ……気づかれてたのかよ。お前、ザンクローネだろ?ジャンボの話と全然違うじゃねえか。」

「おや、お前はジャンボの知り合いか。まあいい、どうせ奴も後で救うさ。」

冷や汗をかきながら姿を現した獲物の名はコニファー。アスナとフアナが眠っている間、外敵からの奇襲を防ぐためにステルス状態で見張っていたのだ。
索敵という目的において、ステルスを使えるコニファーはこれ以上無い適役であったはずだった。

ただし魔に囚われている、いないにかかわらずザンクローネという相手自体がステルス使いにとって相性が悪かったといえる。
そもそもレンジャーとは、自然の中に生きる妖精たちの力を借りて戦う狩人である。ステルスという呪文も妖精の力の一部を借りたものであり、存在の本質が妖精であるザンクローネはエルフが消え去り草で消えた者たちの存在を見破るようにいとも容易くステルスを看破出来るのだ。

「さて、それよりもまずはお前から救ってやる。」

「話が通じる相手…ってわけでもなさそうだな。」

言うが早いか、ザンクローネが横薙ぎに剣を振るう。
当然、それを甘んじて受けるコニファーではない。後方へジャンプして躱し、そのまま矢を数発撃ち込む。しかし、矢が突き刺さるも全く動じない。
体内より溢れ出る魔瘴によってザンクローネの防御力は大幅に上がっているのだ。

一切怯むことなく再びコニファーに斬り掛かる。その太刀は炎を纏っているのが見て取れた。

1070星さえ掴むこの瞳で ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:07:32 ID:zXDTL0GM0

(あれは…フォースか?)

コニファーは武器が魔法を纏うその技を見たことがある。敵の使う魔法剣とでも言うべきそれは、アークの使いこなしていたフォースの類に似ていた。

敵がアークと同じ魔法戦士であるならば補助の部門において最も輝くタイプのはずだ。1VS1の戦闘に向いている相手ではないのだろう、とコニファーは推測する。
しかしそんな推測は即座に粉々に打ち砕かれた。

コニファーが後方へ回避したその先、炎を纏った太刀は大地を叩きつける。
その大地から、巨大な火柱が立ち上がった。

ザンクローネの太刀が纏う魔法は魔法戦士の扱うフォースではない。
体内に巣食うヘルバトラーと魔女が直接唱えた呪文そのものなのだ。
本来物理攻撃と呪文とを同時に扱うことは出来ないのだが、いくつもの命がひとつの個体に宿っていることがそのような芸当を可能としていた。

その威力は、補助を専門とする者の扱う威力ではない。凄まじい熱が肌に伝わってきて、地にはドス黒い染みが遺されていた。

コニファーにとって、その光景は忘れられるはずがないものだった。
ヘルバトラーとの戦いの中で命が焼かれていくあの光景が、コニファーの脳裏に蘇っていった。

1071星さえ掴むこの瞳で ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:09:23 ID:zXDTL0GM0
「お前は…まさか…!!」

「さぁ、何だろうなァ?」

有り得ない。
ヘルバトラーは間違いなく倒したはずだ。
いや、仮に倒していたとしてもいなかったとしても問題の本質はそこではない。
問題なのは、目の前の敵がヘルバトラーに匹敵するだけの力を持っているということ。

「うおおお!」

今までに戦ったどの敵よりも強い、そう悟ったコニファーは毒矢4本を使ってさみだれうちを放つ。
だがその攻撃は風を纏った太刀のひと振りで全て散らされてしまった。

「そんなんじゃ俺は倒せねえぞ?」

「それだけじゃねえさ。行け!」

突如、太刀を振り切ったザンクローネに2匹の狼が襲い掛かる。使役する妖精たちを実体化させて攻撃するレンジャーの大技、オオカミアタック。
こんな世界にも自然は存在し、妖精たちは存在しているのだ。

狼と化した妖精たちの爪撃がザンクローネに傷を付ける。さらにオオカミを振り払っている間、追撃のさみだれうちを放った。4本の毒矢がザンクローネに突き刺さる。

「だから無駄だと言うておろうが!」

ザンクローネはメラゾーマを剣圧にして飛ばす。
あれだけの攻撃を連打してもほとんど通用していない。魔瘴の力がなせる防御力と進化の秘石がなせる再生力は、特別攻撃力が高いわけでもないレンジャーに簡単に崩せる耐久力ではなかった。

1072星さえ掴むこの瞳で ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:09:58 ID:zXDTL0GM0

(これでも効かねえのかよ…)

火球を回避しながらコニファーは考える。
元の世界のように弓の秘伝書があるわけではないので自分の放てる攻撃技はせいぜいさみだれうちが限界であるのだが、矢の本数にも限界はあるのだ。
矢の弾数は特技で補えなくもないが、魔力自体が底を尽き始めている。

(最悪、あいつらにも加勢してもらわなくちゃならねえか。)

出来ることなら休息をとっているアスナとフアナを危険にさらすことなく倒したいのだが、それに拘るあまりに死ぬハメになるのは真っ平御免だ。

仮に仲間も危険にさらされようとも、全員で乗り切って生還するのがコニファーの目標である。今だって1人で立ち向かっているのは自己犠牲の精神などではなく、全員生還を目指すのならアスナとフアナは体力と魔力が回復するまで戦わない方が良いと判断しただけにすぎない。

(素早さではおそらく俺が勝ってる…それならあいつらが起きるまでに剣に纏った魔力を使い切るまで粘ってやるか。)

方針は決まったが、延々と時間稼ぎを続けるというのは口で言うほど簡単ではない。

というのも、敵から離れすぎてしまえば敵が自分の追跡を諦めて2人の居る城の中に入っていくかもしれないからだ。つまりはあくまでも戦場の範囲内で敵の攻撃を回避し続けなくてはならない。
突破口なんて見えないけれど、全員で生き抜くために失敗は許されない。

こちら側の魔力は温存しておきたいとはいえ、さすがに保険のためのまもりのきりくらいは貼っておくことにしてザンクローネの前に立ち塞がる。

1073星さえ掴むこの瞳で ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:11:05 ID:zXDTL0GM0
「その魔法、お前ヘルバトラーなのか?随分とお変わりになっちまったじゃねえか。」

「ククク…そんな魔物は知らんな。俺は魔英雄ザンクローネだ。」

「おっと。」

剣先からほとばしる閃光を横に逸れて躱す。

「魔英雄……こりゃまた大層な肩書きなこった。破壊神とか堕天使とか、クソッタレな女神だってそうだ。ほんっと上の方々ほど信頼出来ない世界だよ。」

「お前の世界の奴らは知らんが、俺は本物の英雄さ。すぐにお前も救ってやる。」

ザンクローネは突撃し、コニファーへと氷を纏った太刀を突き出すがコニファーは再び躱す。

「余計なお世話さ、俺は生きている今の素晴らしさをこれ以上なく噛み締めているんでね。」

矢と共に言葉を放つ。
これは敵の注意をコニファーに向けて離さないための作戦である。
まもりのきりを筆頭に、敵の攻撃を無力化する術の多いコニファーは敵の攻撃を引きつける役となることも多かった。
その手段は知能の発達していない相手であればくちぶえであったり、あるいは言葉の通じる相手であればこのように語りかけての挑発だったりしたものだ。

「ククク……信じぬ者の下にも、救いを!」

「当たるかよ!」

元の世界の仲間たちはそれぞれがそれぞれの役割をしっかりこなしていた。
だからこそ、コニファーは自分の役割のための技能を高め続けてきた。皆が皆自分の力を磨いている中、足手まといにはなりたくなかったからだ。

1074星さえ掴むこの瞳で ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:12:04 ID:zXDTL0GM0
タップダンス。旅芸人の特技ではあるが、これもコニファーが訓練によって身に付けた特技のひとつ。
弓使いとはいえ、近接戦闘であってもコニファーを捉えるのは容易ではない。

「小賢しい!」

ようやくかすった一撃も虚しく、そのままコニファーの身体が消えていく。
ザンクローネの攻撃はまもりのきりを振り払うのみに留まったのだ。

まもりのきりを囮に背後へと回り込むコニファー。
弓を引き絞り、敵の視界外から矢を放とうと試みる。

「甘いっ!」

「なにっ…!」

ただし、ザンクローネの瞳を介さず外界を認知するヘルバトラーとグレイツェルの力でコニファーの居場所に瞬時に気づいたザンクローネは太刀を思い切りぶん回す。
両手剣とよく似た戦闘スタイルでありながらも、太刀の利点はその軽さを活かした隙の少なさ。
想像以上に早く気付かれたことを悟ったコニファーが離れるよりも先に、辺り一面が斬撃と爆発が包まれる。

「ぐあああああっ!」

俊敏な動きと器用な立ち回りに長けているコニファー。不意の一撃とはいえぶん回しは何とか回避することが出来た。ただし、その攻撃に加えてのイオナズンの炸裂までを読み切ることは出来なかった。
闇も深まる時間帯であることもあり、片目を失ったことの弊害は決して少なくはないのだと実感せざるを得ない。

吹き飛ばされ、全身を打ちつけるも、肢体を両断されることがなかったためまだ身体は動く。
戦局はかなり不利だが、片の眼はまだ光を失っていない。

「何故救いを拒む…?滅びこそ真に救いだというのに。」

爆発によって出来た瓦礫の山の頂点から見下ろしながら、ザンクローネはコニファーに問い掛ける。

「死は救済…ってか?…ふざけたことぬかしてんじゃねえ!」

それに対し、柄にもなく感情的に言い返した。
死こそが救済なのだとしたら、役目を終えた天使たちは救われたとでもいうことで、取り残されたアークは救われなかったということである。
そしてその理屈はなまじ間違っているわけでもないからこそ、認めるわけにはいかない。
この世界で仲間たちを置いて向こう側へ行ってしまったアークが救われただなんて、認めるわけにはいかない。

1075星さえ掴むこの瞳で ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:12:47 ID:zXDTL0GM0
女神セレシアによる世界の不条理を目の当たりにした時、殺し合いの世界という不条理に巻き込まれた時、コニファーは自分の感覚が大きく狂ってしまったように感じた。

自分が正しいのか世界が正しいのか分からない。
ただひとつ分かることは、自分が今生きているということ。
その感覚だけを信じてきたからこそ、絶望に塗れた不条理の中でも諦めることなく戦うことが出来た。

だからこそ思う。
それこそが命の命たる所以なのだと。
どんな深い闇の中にも光を見出せて、その光を頼りに足掻くことが出来る。
その光を奪うことが救済であるはずがない。生きることの力を、そして自分の生を証明するために、ここで負けるわけにはいかない。

「さぁ、救ってやるよ……獄雷――――渾身斬りィ!」

傷を負ったコニファーに向け、再び斬り掛かるザンクローネ。
地獄の雷を纏った一撃がコニファーへと向かう。

「がっ…!」

だがその途中、ザンクローネの脚がぴたりと止まった。

「なに…が…!」

「ハッ…てめえは恐ろしいくらいタフだが全く効いてないってわけでもねえようだな。そろそろ矢に塗られてた毒でも回ってきたか?」

これはチャンスだ。
そう判断したコニファーは射手にもかかわらず敵の懐へ飛び込んでいき、手を伸ばす。

1076星さえ掴むこの瞳で ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:14:29 ID:zXDTL0GM0

コニファーはレンジャーとなる前、盗賊の職に就いていた。
それに加え、レンジャー特有の器用さ。素早い動きでザンクローネの持つザックからはみ出しかけていたひとつの光を盗み取った。

盗み取った道具――――プラチナさいほう針を握り込む。
魔英雄ザンクローネの懐で星のように光り輝いていたそれが、コニファーに掴めと囁いてきた気がしたのだ。

それはこの世界に招かれたザンクローネがまだ小さな姿だった時、イザヤールから受け取ったものである。
それをコニファーが掴めたのは、魔英雄となった後にもなお微かに残るザンクローネの意識の、せめてもの抵抗だったのかもしれない。

さて、今ザンクローネの身体には毒矢の毒が回っている。そして手元には小さな針。さらには、弓を扱えなかった盗賊時代に扱っていた武器の心得がコニファーにはある。

「おのれ……貴様!」

眼下のコニファーに太刀が振り下ろされる。だが間に合わない。
太刀が隙の少ない武器であるとはいえ、針の速度に勝るはずもない。

魔英雄から見たコニファーに、さいほう針を構えた小さな英雄ザンクローネの姿が重なって見えた気がした。

そう、これは小さな英雄の小さな武器が起こした、針の穴ほど小さな奇跡。


「掻き混ぜろ――――タナトスハント!」


「がっ……!!」


さいほう針が英雄の胸に突き刺さり、砕け散る。毒針のような小さな針を短剣として扱うことはあるが、さいほう針レベルのサイズでは短剣ではないどころか戦闘用の道具ですらないため、コニファーの力とザンクローネの力の衝突に耐えられないのも致し方ないと言えよう。
それでも、毒特攻の技をまともにぶつけたことは期待以上の威力を発揮し、ザンクローネの身体は吹き飛んで瓦礫の山に追突する。コニファーの手にも敵にダメージを与えた実感が伝わってくる。

1077星さえ掴むこの瞳で ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:15:45 ID:zXDTL0GM0
「お前はさ、なんつーか反則なんだよ。独りのくせに何でも出来るなんてよ。」

近接戦闘の隙の無さ、魔法を纏った剣、攻撃を真っ向から受け切る耐久力。
まるでアークとスクルドの補助を受けたポーラを相手にしているような感覚さえ覚える相手だ。

そう、目の前の相手は攻撃・防御・補助のどれを取っても隙がなさすぎるのだ。
どれもそこそこの比率でしかこなせないレンジャーから見ればまるで上位互換。

どの職業にしても、自分の出来る範囲の役割を弁えた上で動くべき――――――立ち回りの幅が広く、器用であることに特化したレンジャーとしてコニファーはそう考えていた。

独りで全てを出来ていては生きていることの幸せを実感出来ない。人には仲間が必要だからこそ、協調というものが生まれる。
それが、繋がりの中に生きるということなのだ。

「独りでなんでも出来ちまうお前は一生知ることがねえんだ。絶対に守りたいものがあるってことを。」

コニファーにはあの星空の下、守り抜くと誓った仲間がいる。
元の世界の仲間だけではない。
この世界でも新たな仲間たちと出会った。

「そして、守りたいものがあるからこそ思えるんだよ。"負けるものか"ってな。」

コニファーがステップを踏み、踊り始める。今度は回避のためのタップダンスではなく、攻め手に回るための妖精たちのポルカを。

「さぁ、まだ夜は終わらねえ。救いの星ってのはな、最後まで諦めずに足掻いた奴だけが掴めるもんなんだぜ。」

天使たちが星になっていく中、狂ってしまったのはコニファーの感覚でも世界でもなく、仲間という輪だった。
取り残されたアークは絶望に堕ち、アークに寄り添うポーラも共に苦しみ、天使を信仰していたスクルドはその信仰心を根本から叩き折られた。旅を共に続けてきたパーティーは完全に崩壊を迎えたのだ。
しかしこの世界で新たな仲間の輪を見つけて、仲間たちの中に生きるという感覚をコニファーは思い出した。

夜の先に見るのは闇ではない。
星空の先に見るのは救いではない。
片の瞳は光を、そして生きて生きて生き抜いて守り続けていくべきものを、ハッキリと映し出していた。

1078星さえ掴むこの瞳で ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:19:06 ID:zXDTL0GM0

【D-3/トロデーン城外/真夜中】

【コニファー(男レンジャー)@DQ9】
[状態]HP1/8 MP1/10 片目喪失  ピサロへの疑惑 攻撃力・防御力・ブレス耐性上昇
[装備]かりうどの弓@DQ9、毒矢10本 
[道具]支給品一式 カマエル
[思考]自分が生きているという感覚を保つため、とにかく生き抜く。仲間を探す。

【魔英雄ザンクローネ@DQ10】
[状態]:HP2/3 MP9/10
[装備]:斬夜の太刀 @DQ10 ヘルバトラーの魔瘴石with進化の秘石(体内)
[道具]:支給品一式 不明支給品(0〜2) イザヤールの支給品(0~1)
[思考]:全てを壊し全てを救う
[備考]:グレイツェルの呪いとヘルバトラーの魔瘴により性格が反転し、破壊こそが救いだと考えています。
進化の秘石の力で傷が徐々に再生していきます。

【ヘルバトラー強@JOKER】
 [状態]: 魔瘴石化 ザンクローネの体内に侵入 グレイツェル及び進化の秘石と融合
 [思考]:ザンクローネの身体を使い破壊の限りをつくす
※死骸と闘志、それに魔瘴が合わさり、魔瘴石のような形になっています。
※ザンクローネが死ぬと彼も死にます。


※プラチナさいほう針@DQ10は砕け散りました。
※トロデーン城内のアスナ@DQ3とフアナ@DQ3が物音に気付いているかどうかは次の書き手さんにお任せします。

1079 ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 00:19:26 ID:zXDTL0GM0
投下完了しました。

1080ただ一匹の名無しだ:2018/08/12(日) 00:28:10 ID:OB7ohXRQ0
投下乙!
ヘルバトラーとグレイツェルの力が備わったザンクローネ、凶悪すぎる…
そしてそれに必死で抗うコニファーの意地が、超かっこよかった

1081 ◆2zEnKfaCDc:2018/08/12(日) 14:03:04 ID:0.sRQjlI0
台詞のミス訂正します。

>>1073
「魔英雄……こりゃまた大層な肩書きなこった。破壊神とか堕天使とか、クソッタレな女神だってそうだ。ほんっと上の方々ほど信頼出来ない世界だよ。」


「魔英雄……こりゃまた大層な肩書きなこった。暗黒皇帝とか堕天使とか、クソッタレな神様女神様だってそうだ。ほんっと上の方々ほど信頼出来ない世界だよ。」

に訂正します。

1082 ◆qpOCzvb0ck:2018/08/15(水) 19:20:25 ID:VqUs77Wc0
投下します。

1083噛み合わない状況で ◆qpOCzvb0ck:2018/08/15(水) 19:21:03 ID:VqUs77Wc0
「足跡が続いてる………」

ポルトリンクから出た後、すぐにキーファが来た道の異変に気が付いた。
自分達が向かう方向に別の足跡があることを。

(もしや……アルスか?)
(エイト……入れ違いになったのですか?)

残念ながらそれは二人の知り合いではなく、魔王のものだった。
そもそも足跡の持ち主がアルスやエイトだという根拠はどこにもない。
だが、人間はおのずと根拠がなくても、希望があれば縋りたくなってしまうものだ。

そんなことはつゆ知らず、希望的観測の下、二人は足跡を追い続ける。

「ん!?」

その足跡を追い続けてしばらくして、二人は新しいものを見つけた。

(ここで一度、崩れ落ちた?)
さらにその先を見てみると、足跡以外に棒か何かを刺したような跡が点々と続いている。


この足跡の持ち主は、体に不調を帯びて、今にも倒れそうになりながら歩いていると考えるのが妥当だ。

「ペースを上げていくぞ。大丈夫か?」
「はい。」

もしもアルスかエイトに追いつけなければ、悔やんでも悔やみきれない。
たとえ目当ての人物じゃなくても、追いつけなくて死んでしまえば、目覚めが悪い。
古代船よりも、そちらの方が気がかりだ。

やがて二人は一度滞在した山小屋にたどり着いた。

「おい!!大丈夫か!?」
キーファはドアを開ける。

中は誰かに荒らされていた。
ひょっとすればここでも殺し合いが起きたかもしれない。

「エイト!?いたら、返事してください!!」
ミーティアも声をかける。

しかし、返事はない。

キーファが辺りをランタンで照らす。
しかし、人の姿はどこにもない。

(人はおらず、血痕もない……か。)

タンスや食料が入っているらしき箱の中身が無くなっているのをみると、足跡の持ち主は応急手当をして、すでにここを去ったようだ。
「もうここにはいないみたいだ。行くぞ。」
「はい。」

家を出てすぐに分かったが、まだ足跡は続いているようだ。

1084噛み合わない状況で ◆qpOCzvb0ck:2018/08/15(水) 19:21:28 ID:VqUs77Wc0
「なあ、ミーティア。さっき言ってた古代船って、どのあたりにあるんだ?」
「確か向こうの荒野に、この辺りから見られたはずですが……。もう少し先に行きましょう。」

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「起きろ!!キサマ!!こんな所で終わらせるつもりか!!」
竜王は「戦友」を揺さぶる。

しかし、返事はない。

これからどうするべきか。
先程の自分達の戦いを壊したあの男を追う。
否、悔しいが竜化する魔力が残っていない以上は勝つどころか追いつくことさえ難しい。
それ以前にこの男との戦いを中途半端な形で終わらせてしまう。

この男を手当てする。
否、自分は人間の手当てなどしたことないし、自分のベホイミ程度では心もとない。
支給品の薬はもう使ってしまった。

ならば。
この男を誰か手当て出来る者のところに連れて行く。
このような判断が出来るようになったのも、この男のせいだと思うとどうにも悔しい気がしてならない。
たとえ手当てしてもらった後、その人間もろとも皆殺しにすると仮定したとしても。


「絶対に死ぬな。ワシにあれだけ説教垂れておいて、死ぬなんて許さんぞ。ぐっ……!!」
竜王は戦友を背負い、アベルが向かった反対側に行く。
戦いで消耗しているのは、自分だけではない。
しかし、それぐらいのことで自分の役割を放棄するのは、虚弱な人間だけで十分だ。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「きゃっ!!」
荒野に入ってすぐに、ミーティアが地面につまずいて転んでしまった。
「おい、大丈夫か?」

持っている布と支給品の水で擦り傷を手当てする。

元々運動に向いていない服の上に、竜王の下から逃れてからずっと歩いていたため、脚の疲労は激しくなってきただろう。


キーファは迷わずミーティアを背負う。
「私を置いて行ってください!!」
「オレにもミーティアにも会いてえ人がいる。だから、見捨てるわけにはいけないんだ。」
「でも!!私だって!!」

1085噛み合わない状況で ◆qpOCzvb0ck:2018/08/15(水) 19:21:52 ID:VqUs77Wc0

ミーティアはキーファの背の上で暴れる。
しかし、キーファは冷静になだめる。
「あんまり気負いすぎるな。誰かに頼った方が、上手くいくこともあるぜ。」

キーファの言うことは当たっていた。
自分は考え過ぎていたのかもしれない。
エイトのこと。自分の王女としての生き方。ゲルダが死んだときの自分の薄情さ。


(知ってるんだよな。そういうやつ。まあ、アルスみたいに周りに無頓着なのも困りものだけどよ)

彼がアルス達と別れ、ユバール族の一員として生活しているうちに学んだことだ。
周りに気を遣うあまり、多少のケガや病気も押し隠して仕事を請け負い、結果として取り返しのつかないことになる者がたまにいた。
包帯や薬の数が常に限られているユバール族の中では、それが死に直結することもある。
そういう時は、周りにいる者が仲間の僅かな変化を気づくべきなのだ。
今思えば、マリベルもそういった人で、この戦いでも無理をして力尽きたのかもしれない。

更に歩いていく。
船は、見つからない。
「やっぱりないのでしょうか……大きな船だったから、見つかってもいいはずですが……」

「それに、前この辺りで竜王はいたはずだぜ。一体どこへ……。」

「探さずとも、ワシはここにいるぞ。」

(………竜王……!!)


感じる。
数時間前に味わった魔力が。
レックとの戦いが原因か、一度目に対峙した時より姿はボロボロだった。
どういうわけか分からないが、あの時よりかはどういう訳かその圧力が減っているような気がした。
その原因は恐らく戦いが原因ではないような気がした。

((…………!!!!!))
しかし、それ以上に驚くことが、彼の背の上にあった。

特徴的な色、特徴的な形の髪。
蒼とオレンジの服。
それは、動かないかつての戦友。
レックが、抱えられていた。

1086噛み合わない状況で ◆qpOCzvb0ck:2018/08/15(水) 19:22:23 ID:VqUs77Wc0

「てめえ!!」
「待ってください!!」

ミーティアの制止も振り切り、竜王に飛び掛かっていく。

いくら実力の差があれど、ここばかりは退けない。

「レックの仇だあ!!火炎斬り!!」
炎を纏った二重の斬撃が竜王に襲い掛かる。


「ほう……」
前より力強い。だが、大振りなため隙が大きい。

竜王はレックを背負いながらも、容易にあしらうことが出来た。
一陣目は躱され、二陣目は衣を薄く傷つけるだけに終わった。
そしてその隙を逃さず、キーファに殴打を食らわす。

「キサマはもう少し冷静になるべきだな。」
「ぐあっ!!」

やはり、キーファと竜王の力の差は拭えない。
それは竜王が消耗して、キーファに怒りの力が籠っていても。

「ち、ちくしょう。」
「よく見ろ。コイツは死んでおらん。話を聞け。」

信用できない、という目でキーファは竜王を睨む。
「やはり、キサマら人間には信用できぬか。」

自分は人間を信用したのではなく、あくまでレックを信用したのみ。
他の者は信用したつもりではないし、相手の方も信用してくれる可能性は低い。
人間に頼み、この男を治療してもらおうという目論見も初めから不可能だったのか。

竜王は片手に炎を纏わせる。
「待ってください!!」

二人の間を、ミーティアが割って入る。
「争いは疑いを深めるだけになります!!竜王さんも!!キーファさんも止めてください!!」

彼女にとって、竜王とは恐ろしい存在だ。
オルテガがいなければ、自分は消し炭になっていた。
だが、父親にもエイトにも相談できなかった、自分の誇りについて聞いてくれた存在でもある。
同じ強力な力を持っていても、ドルマゲスのような力に憑りつかれたような存在ではない。
彼が誇りを通すというなら、自分もそうするべきだ。
たとえ力が及ばずとも。

それは、一度竜王の見た光景だった。
「愚か者が。キサマがそれをやって、悲劇を招いたのを忘れたか?」
「忘れてません。でも、ここで下がるわけにはいかないんです!!私の誇りにかけて!!」

「ミーティア!!やめろ!!こんな奴、信用できるわけねえだろ!!」
キーファも再び剣を構え、竜王を睨みつける。

「ならば、今度こそ焼き払ってくれる!!
キサマの誇りがどれほど脆いものか、心に刻み込むがよい!!」

「負けるかぁぁぁっっっ!!!」
キーファも、隼の剣を構えていく。

1087噛み合わない状況で ◆qpOCzvb0ck:2018/08/15(水) 19:22:42 ID:VqUs77Wc0
結果は見えている。
炎の竜がキーファとミーティアを飲み込む。
オルテガに続く、焼死体が完成、のはずだった。

「おっらあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

キーファは竜王ではなく、炎の竜を斬り付ける。
先程と同じ真空を纏った二重の刃が、竜の頭を斬り刻む。

「………!!」

ミーティアの体にも炎の熱さが伝わる。しかし、真空斬りと割って入ったキーファのおかげで、ダメージはほぼなかった。

「ユバール族の守り手、ナメんなよ!!」
「なるほど。キサマも成長したという訳か。だが、いくら力を手に入れても、使い方が分からなければ無意味だぞ。」

ここに誇りを持っている者はレックと竜王、そしてミーティアだけ、ということはない。
キーファとて、縛られた人生が嫌で別の道を歩んだ。
しかし、その事実を噛みしめ、新しい道を命懸けて生きるという誇りはある。

レックを殺し、ミーティアを殺しかけた相手を目の前にして、二度も背を向けるようなことはできない。


「今度こそ……!」
キーファは大きく息を吸い込む。
上半身は柔軟に剣を振るために軽く。下半身は強力な一撃を踏み込むために重く。



(どうしましょう……。)
なんとか助かったのはいいが、さらに二人の戦いを止めに入れない状況になってしまった。

(キーファさん……さっき自分では「気負い過ぎるな」って言ったのに………)
幸いなことに竜王の攻撃の矛先はキーファに向かっている。
せめて道具を使うことで、どうにかできないかと、後ろに下がり、今のうちにと支給品を探る。
そういえばポルトリンクで手に入れた派手な下着以外の自分の持ち物を、まだ確認してなかった。

一つ目にあったのは、優しい光を帯びた杖。
なんでも「祝福の杖」というらしく、使うとベホイミの効果があるとか。
自分の世界には杖を使った同名の技があるそうだが、恐らく偶然だろう。
これでレックを助けられるかもしれないが、そのためにまずは戦いを止めねばならないだろう。

他にも支給品を見てみる。
これらをどう使えば、争いを止められるか。

1088噛み合わない状況で ◆qpOCzvb0ck:2018/08/15(水) 19:23:12 ID:VqUs77Wc0




竜王は振り下ろされる剣をかわし、いなしていく。
一撃一撃の威力はそれほど早くも強くもないが、剣のチカラか妙に攻撃回数は多いため、自分のケガも相まって手間がかかる。

(どうしてこう思い通りにならん……?)

体の痛みも相まって、竜王の胸の奥に、苛立ちが湧き上がる。
目の前にいる男は、レックとは異なり、自分に敵意を持っている。
自分の説得には耳を傾けないほどに。
無理矢理戦いを終わらせようとラリホーも唱えてみたが、怒りの方が上なのか、効いたようには思えない。


一度はレックとの戦いで、自分が「人間に協力する」という可能性を感じた。
しかし、キーファとは到底協力なぞ出来そうにない。
思えばかつて自分を倒した勇者、アレフも協力など考えてなかった。

(俺もお前も、並外れた力を持っていた。そしてその力と、義務にがんじがらめにされているんだ。)

レックに言われた言葉を思い出す。
ヤツのことはまだ分からない。
だが、レックも実は周りの人間からは理解されてなかった存在ではないのかと、疑問に思ってきた。
だからこそ、自分にあんな言葉を投げかけてきたのか。
レックこそ人間の中でも稀な存在であり、実はキーファのような人間が大半なのだろう。

たとえキーファこの男が状況を分かったとしても、手違いで剣を向けてきたような人間に許しを請うマネはし難い。

(やはりワシが協力できるのは「人間」ではなく「レック」なのか…?)

「油断……してんじゃねえ!!」
キーファが火炎を纏った剣で斬りかかる。

一発目、同じように躱す。傷ついたのは黒い衣だけ。
しかし、感情の乱れがあったからか二発目のダメージを許してしまう。

「纏わりつくな!!」
竜王の拳が、キーファの腹にめり込む。

しかしその力を上手く受け流し、ダメージの一部を竜王にも与える。
キーファだけではなく、竜王も腕痛みに悶える。
「ぐぬ………。」


相手のコンディションがここまで悪い状態でやっとついていける戦いかよ、とキーファも嫌になる。
だが、負けるわけにはいかない。
アルスに出会うまでは。ミーティアをエイトに会わせるまでは。


こんなやつに、オルテガさんとレックを殺した奴にミーティアまで殺されてたまるか。

1089噛み合わない状況で ◆qpOCzvb0ck:2018/08/15(水) 19:23:34 ID:VqUs77Wc0

そう。キーファにとって、魔物とは総じて「こんな奴」なのだ。
彼はアルスと石板を通じた冒険をするまで、魔物のことなどおとぎ話の世界の存在だと思っていた。
そして、アルスと冒険を始めてから、魔物に苦しめられている人々、魔物に街を滅ぼされた、滅ぼされかけた人々を見てきた。

彼の世界にも人間に友好的な魔物はいたが、彼には知る由もない。

彼とは別の、友になる可能性を秘めた魔物がいる世界のことをもっと知っていれば、考えは変わったかもしれない。
たとえ誰かに咎められても、長い間ずっと身についていた印象というのは簡単に離れられるものではない。
それは竜王とて、キーファとて同じことだ。


ところで余計な話かもしれないが、この世界の1日がもうすぐ終わりを迎える。
もうじきそれに沿って彼の存命は知らされることになるはずだが、キーファはそれを受け入れられるのだろうか。
レックはなおも意識がない状態で、竜王は苛立ち、キーファは怒りに燃え、そしてミーティアは後ろで「道具」を睨んでいる。
時間に気付いている者は誰もいない。

次の放送は、そしてミーティアの決意は、何かを変えることが出来るのだろうか。


【D-7/荒野/1日目真夜中(放送直前)】

【レック@DQ6】
[状態]:HP1/15 気絶 MP1/7
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、大魔神の斧@DQJ 蒼炎のツメ@DQ10モリーの支給品1~3個 確認済み支給品1~2個
[思考]:竜王と協力する。アベルを追う、ターニアを探す。

※体力を使い果たした上での気絶状態です。手当などがない場合は、一定時間後に衰弱死します。

【竜王@DQ1】
[状態]:HP1/12 竜化した場合、背中に傷 片手片翼損失 苛立ち
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1個
[思考]:レックと共に協力し、アベルを倒す。周りの人間は邪魔するなら殺す。
[備考]:自分の誇りを貫くか、他の人間の協力も借りるか悩んでいます。


【キーファ@DQ7】
[状態]:HP1/4 怒り
[装備]:はやぶさの剣・改@DQ8
[道具]:支給品一式、月影のハープ@DQ8、支給品1〜2個、ユーリルの不明支給品0~1個
[思考]:竜王を倒す。古代船を見つける。
[備考]:竜王がレックを殺したのだと思っています。


【ミーティア@DQ8】
[状態]:健康 膝に擦り傷(応急手当て済み)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、あぶないみずぎ、レースのビスチェ、あぶないビスチェ、祝福の杖@DQ7  その他道具0~2個
[思考]:「支給品」を使ってキーファと竜王の戦いを止める。古代船のもとへ向かう

1090噛み合わない状況で ◆qpOCzvb0ck:2018/08/15(水) 19:23:49 ID:VqUs77Wc0
投下終了です。

1091ただ一匹の名無しだ:2018/08/15(水) 20:49:13 ID:bOwb0W4I0
投下乙
そうか…キーファのモンスター感はまだホイミンみたいな仲間モンスターが現れる前のロトシリーズと似たような感じなのか
彼自身外伝とかでロトとの関わりが多いこともあって、不思議な縁を感じる

1092 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/12(水) 15:22:59 ID:0TzTerqs0
ゲリラ投下しますね。

1093 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/12(水) 15:23:24 ID:0TzTerqs0
ここは、荒野とトロデーンをつなぐトンネル
別の世界の同じ場所では、デビルパピヨンなどが巣くっていたが、ここにはいない。

いるのは、紫のターバンをかぶった一人の男。
普通の人間なら夜のトンネルなど、高揚した気分で抜けることは出来ないだろう。
しかし、心に抱えているどす黒い闇がこの世界の闇と調和したからか、
はたまた自分の期待していた道具が、予想以上の力を見せてくれたからか、気分がハイになっている。

(さて……次に破壊されるのは……誰でしょうかね……)

先程までは孤独に歩きながら、幻に驚き、憤っていたが、そのようなこともない。
トンネルを抜ける。
再び月の光がアベルを照らすが、やはり闇に飲み込まれてしまう。
途中教会で休憩を取ろうと考えていたが、この気持ちを鎮めないためにも、このまま進むことにした。


そのまま城へ向かう道すがら。
(……ん?)

焼け焦げた大地、無残に根元以外が吹き飛ばされた木、イオナズンでも連発したかのようなクレーター。
その地では既に戦いから大分時間が過ぎていた。
しかし、ここだけ別世界にでもなったかのような惨状は、ここでの死闘を物語っている。


(まさか………?)
突然よぎる疑問
そして、彼は見つけた。


彼の父親の死体は、ヘルバトラーと戦った者達によって埋葬された。
しかし、その後に訪れた英雄が、魔瘴石と化したヘルバトラーの呪いを受けた際に抵抗して暴れたため、死骸が野ざらしになっていたのだ。


父親の死骸は、炭化していない部分を見つける方が難しいような有様だった。
自分の成長のみならず、焼き尽くされた影響もあって、酷く小さく見えた。
少年時代にずっと感じた、背中の大きさが何かの間違いだったかのように。


「はは……ははははは………。」
笑う。
笑い続ける。
どこまでも笑い続ける。

(あんたは……また同じように死んだのか……!!)

20年前の惨劇を思い出す。
炎に焼き尽くされて死ぬ父親を。
その時の悲鳴を。

彼には、最早父親に対する尊敬の意思などはなかった。
あったのは、壊れる前のアベルの心にだけ。

激情に駆られて、それを蹴飛ばす。
その心には、悲しみはなかった。
あったのは、滑稽さ。そして、怒り。


なぜこうなったのかは、自分なら見ていなくても分かる。
自分よりも弱い誰かをかばって、死んだのだ。
その人物が、いずれ成長し、自分が果たせなかったことを果たしてくれるために。

1094闇夜の住人 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/12(水) 15:23:55 ID:0TzTerqs0
(分かっていないんだ……。)
そうやって残された人間が、心にどんな傷を負うか。
死にたい。でも、誰かが遺した命だから、死ぬわけにはいかない。
犠牲の果てに生きた人間は、ずっと心の枷を引きずって生きなければいけない。


(それとも、それを分かって、やったのか……!?)

何度も父親の死骸を蹴りつける。
自分に苦しみを負わせた人間を。
自分の役目を押し付けた人間を。



何度蹴ったかは分からない。
自分の父親の死体は、最早誰か分からないような有様になった。


気が付いたら、肩で息をしていた。

最後に、破壊の剣でその体を両断しようとする。
(……?)
手が震える。

剣が思うように振れない。
破壊の剣を持った時に起こる呪いではないはずだ。
むしろ破壊の剣なら、殺意の衝動を後押ししてくれるはず。
なぜ、剣が振れない?
憎くて、憎くて堪らないのに。
全てを破壊するはずなのに。


ここで、誰かがいたら気付いたはずだ。
アベルは、手を震わせながら、「父さん」と呟いていたことを。


アベルは父親の死体に背を向ける。
自分は父親を殺せなかった。
すでに父親が死んでいたというのもあるが。
その事実から目を逸らすために。
自分が抱えている弱さを棄てるために。


そして、目を逸らした先に、見つけてしまった。

(何だ……?)
首輪。自分もつけられているものだ。
この世界では特に珍しいものではない。
しかし、誰も着けていない状態で野ざらしにされていること。
そして、その首輪が凄まじい邪気を放っていたことに、疑問を覚えた。


その首輪は、ヘルバトラーに付けられていたもの。
しかしヘルバトラーの肉体は死とともに魔瘴石化した。
それはザンクローネの心臓に入り込み、この首輪だけが異物として残されたのだ。

1095闇夜の住人 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/12(水) 15:24:18 ID:0TzTerqs0

そんなことは全く知らないアベルは、それを手に取ろうとする。
(!!)
ジュっと手の焼ける音が聞こえ、慌ててそれを離した。
首輪の内側には、濃い紫色の血が、ベットリと付いていた。

(血に触れただけで、こうまで火傷するとは……)
魔力を多く含んだ魔物の血などは、決して触れて良いようなものではない。
敵としても味方としても多く魔物と関わってきた彼ならわかることだ。


だが、乾いた血液に触れただけで手を直接火傷したなんてことはない。
もしこの液体が目や口に入ったりしたら、とんでもないことになっただろう。

猛毒か、はたまた呪いでもかけられているのかと疑問に思った。

(これは、血ではなく、猛毒か何かか?)
その考えはすぐに中断した。
首輪の裏に付いているなら、猛毒よりも血液の可能性が高いだろう。
誰かが付けるはずもない首輪に猛毒を塗る考えが分からない。
呪いならば手に取った瞬間にかかることはなく、身に着けた際に呪いがかかるはずだ。


最も、魔瘴というものを知らない彼がそう思うのも無理はないが。

それよりも不愉快なのは、自分がまだ人間として扱われているということだ。

自分が弱かったからこそ、父親は死んだ。
そしてそれからの旅の途中は、何度も人間の弱さが嫌になっていた。
ドラゴンの杖を手に入れた時は、竜の強さを使うことが出来るのだと胸を躍らせたが、竜の部分的な力のみだった。
それでも人から少しでも遠ざかることで、弱さも捨てられるのではないかと期待していた。

この戦いで、魔物とともに人を苦しめ、殺し、闇の力を操ることで、弱い自分から遠ざかることが出来たと思っていた。


しかし、これは魔物になり、更なる力を得ることを拒絶されたようなものだ。

左手の火傷が、それを語っている。
火傷こそは回復呪文で治せるし、すぐに手放したからそれほど酷いものでもない。


だが、か弱い人間である扱いを受けたのはどうにも苛立ちが収まらなかった。
父親を「殺す」ことが出来なかったのもそれが原因なのだろうか。

ならばと首輪の外側のみを掴んで、ザックの中に入れる。
自分が人間を棄てた時、この首輪に触れてもどうにもならなくなるはずだ。

そうなるまでに、破壊をし続けよう。
まずは、あの城だ。

かつて人の王であった自分が、その拠り所となる城を破壊する。
これ以上に過去を棄てられる方法なんてあるだろうか。

闇を求める王は進む。
それが滅びの道であろうと、知ったことがないとばかりに。

1096闇夜の住人 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/12(水) 15:24:36 ID:0TzTerqs0

【C-4/平原/1日目 真夜中】
【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/3 手に軽い火傷 MP1/6
[装備]:破壊の剣
[道具]:支給品一式 剣の秘伝書 ヘルバトラーの首輪
[思考]:過去と決別するために戦う 全てを破壊する


※アベルによって、ヘルバトラーの首輪が外れていると判明しました。次の放送では、ヘルバトラーも呼ばれます。

1097闇夜の住人 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/12(水) 15:24:49 ID:0TzTerqs0
投下終了です。

1098ただ一匹の名無しだ:2018/09/12(水) 17:38:55 ID:33om5eXc0
投下乙です

アベルがなんかDIOみたいになって来てるような気がする

1099ただ一匹の名無しだ:2018/09/13(木) 08:01:38 ID:pT4xjezk0
投下乙です
アベルも近づいてきて、トロデーン周辺は放送後大変そうだ

>>1098
2話目でズキュウウンする奴だし、しゃあない

1100ただ一匹の名無しだ:2018/09/16(日) 01:41:07 ID:HTXz1FQA0
アベルって他人には冷徹だけど、どこか情が抜けきれないよな
まあ、母親とか父親とか救えなくて堕ちていったんだから元々情が深いやつなのはそりゃそうか
今は人間の残骸って感じがする

1101 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/19(水) 22:39:01 ID:UpbCKx7w0
今のところローラのみが真夜中に到着していませんが、一人だけなら放送後に、「放送前に何をしていたか」書くことが出来ますので、
どなたかローラパート、あるいは第三放送までの他のパートを書きたい方がいない場合は、このまま放送に移ってもいいのではないでしょうか?
ちなみに、放送をどなたか書きたい方がいなければ、私が書くつもりです。

1102 ◆2UPLrrGWK6:2018/09/25(火) 03:22:53 ID:y/2yzTGw0
投下します

1103 ◆2UPLrrGWK6:2018/09/25(火) 03:23:47 ID:y/2yzTGw0
【呪文】じゅ-もん

魔法使いが、魔法を行使する際に唱える言語。
術者はこれを唱え、通常人間界とは別の次元の存在である精霊へと呼びかける。
本来、呪文詠唱の内容は精霊との交信方法により、術者の違い、土地の違い等によるで差異が生じるものだが、
度々用いられた術法は長い歴史の中で形式化され、【ホイミ】【ギラ】といった単純化された名称で広く知られている。
発動の鍵"キーワード"とされるこれを唱えるだけで正式な詠唱をせずとも必要なだけの魔力さえあれば……

「……」

パタン、と呪文形態を解説しているであろう学術書の冒頭を読んだあと、顎に手を添えて考えてみる。
イメージをする、手のひらに思念を集中させることで、考えられる限りの力を発揮できると。
例えば灼熱の炎、あるいは、迸る雷のように。
できないという考えは、今の自分に邪魔なだけ。
今は一心に、自分の秘めた力を信じる。

「レミーラ!!はっ!」

かざした手のひらから、光を放つ。
その想像を、形にするべく。


しかし、何もおこらなかった。


「……」

自分が疲労して、魔力と呼べるものが尽きているからであろうか。
それとも、自分の中の才がまるで磨かれていないのが理由だというのか。
小さな嘆息と共に思いを吐露する。

1104しかしMPがたりない ◆2UPLrrGWK6:2018/09/25(火) 03:24:18 ID:y/2yzTGw0

「……今すぐには……無理かしら……」

アレフに問いかけたことがある。
自らを、おどけたドラゴンが守る牢屋から救出した際、帰還の折に唱えた呪文のことだ。
彼はぼんやりとした光で自らを包み込み、松明で手を塞ぐことなく視界を確保していた。
『レミーラ』、そういう名の呪文だと彼は言った。

「思えばもの知らぬ私に、丁寧に教えてくださいましたね」

ローラは今、呪文という未知の領域へと踏み込みつつ、愛する勇者との掛け替えのない時間を思い出していた。
思い出を一つひとつ、噛みしめるように、紐解くように、記憶の糸を辿っている。

「できれば、もっとたくさんのことを……」

その先の言葉は消え入るように力を失う。
魔法使いは光の精霊に呼びかけることで闇を照らす。
賢者ともなれば、通常では到底成し得ぬ、神秘を顕現する。
だが今の自分には、この暗がりに灯火をもたらすことすらできない。

「……弱気になってはだめ。やるしかありません」

いとおしげに、自らの腹部に手を添える。
命がたやすく消えてなくなる、堕とされた闇の世界の中。
これだけがローラを支えているか細い希望、光そのもの。

(私にしかこの命を守ることはできないもの)

ローラは再び、知恵を持って本棚の群れと格闘する。
書物の頁も、挟まれた羊皮紙の記述一つすらも見逃さぬよう目を凝らして。

1105しかしMPがたりない ◆2UPLrrGWK6:2018/09/25(火) 03:24:47 ID:y/2yzTGw0




◆ ◆ ◆


どれくらい時間が経っただろう。
頭がぼんやりと霧がかかったかのように、はっきりとしない。
瞼がずしりと重くなったかのように感じていく。

「……いけない、眠っては……」

積もる疲労が目を霞ませ、まともな思考を阻んでいた。
姫を守る戦士も居ないままでは、寝台に眠る余裕などあるはずがないのだ。
さらに、放送と禁止エリアの発表という決して無視のできない事柄もある。
両頬が赤らむまで、手のひらをぴしゃり、ぴしゃりと打ち付けた。

「……どうしてうまくいかないのでしょう……?」

知り得る限りの呪文は口にした。
記憶の中の勇者に伺いを立てても、その先に何も見出だせない。

(生き延びる手立てが少しでも必要なのに……)

ローラも城での生活で魔法、と言うものにまるで触れずに育ってきたわけではない。
ラダトーム城には他の多くの王家と同じく宮廷魔術師が存在し、教育係として彼女の傍に着いていた。
魔法使いを本格的に目指す、というわけではない。
多くは学者として世の理や常識というものを授け、果ては政治、国の方針にも寄るが軍事学や帝王学などを教授するための存在であった。
まだほんの少女であったころにその教育係から才を試されたことがあったな、と彼女はふと思い出した。


(姫様は魔法に興味がおありかな?……しかし、わしの知る癒しの術は孤独に戦い傷つく者に必要なもの)


豊かな白髭の下で微笑みつつも、ローラの中の何かを見出したのか、そうでないかはもはや定かでない。
ただあれは、やんわりと魔法の世界へ踏み込むだけの実力を持っていないことを伝えていたのかもしれない、と今となっては感じられる。


(懸命に戦うものたちにより保たれた平穏の中、そこに生きる民を統べることが、王族たる姫様の使命のひとつでありましょう。どうか貴方さまの未来に幸福と、光あれ……)


戦うための、勝ち取るための技術、ローラの生きるアレフガルドにおける魔法とはそういうものだった。
どうか戦いとは無縁であってほしいという思いからの言葉だったのだろう。
彼女自身もその思いには大いに納得できる。
でも、本当は。


(少し不思議で、興味がありました)

1106しかしMPがたりない ◆2UPLrrGWK6:2018/09/25(火) 03:25:13 ID:y/2yzTGw0



◆ ◆ ◆


年の頃は10と少しであった頃のローラの世話を任され、よく会話をする侍女はこう言った。

(ガライに帰省することになりまして。え?これですか?)

彼女の胸元に、ごく小さい宝石の意匠が光る、細工が入ったブローチだった。
誇らしげに、そして嬉しそうに顔を綻ばせる。

(姫様にお守りを頂いたんです。なんでも手作りだとか……)

裁縫や機織り、花束作り。
たまに手慰みとしてそれらをこなしたローラではあるが、中でも細工物には熱心だった。
その腕前はなかなかのもの。
組み合わせによる金細工などの作りは丁寧で、時たま職人ですら唸らせる輝きを持つものも拵えたことがあった、と城の者は語る。

(姫様、私にまでこんなに親切にしてくれて、本当にお優しいですよね)


その後、ラダトームの都に知らせが入る。
ガライへと向かう行商隊がドラキーとがいこつの群れに襲われ、同行した町民を含めて全滅す、と。
人々は一時悲嘆に暮れるも、しばし後、奇跡的にラダトームに務める侍女が戻ったと噂が広まった。
生存者であった彼女は言う。

"姫様の微かなお声が、さ迷う私を導いたのです"と。


同じ頃、王族への教育として厳しく当たっていた家庭教師はこうも言った。

(道楽に感けるお暇があるのなら、もっと姫様としてシャンとしていただかないと!)

彼女の手には懐中時計へ繋ぐであろう銀の鎖と、くず宝石を散りばめた細かな装飾を組み合わせたものが光っていた。

(確かに綺麗でお上手。ですが、姫様は姫様、職人の真似事はほどほどにしていただきたいわ)

教師は時計を持ち歩かなかったため、鎖は娘へと譲られたらしい。
その娘が、家庭教師に夜な夜な泣きつくようになったそうだ。

(あの日から姫様がかわいそう、と娘が泣くようになったのですよ……)

聞けば、ローラ姫が悲しんでいる、泣いている気持ちが娘には伝わってきた、と言うのだ。
はじめは単なる気の所為と感じていたものの、それが幾日も続けば心配にもなる。

(確かに、姫様も娘とさして変わらないまだほんの小さな女の子。厳しく当たり過ぎたのかもしれません……)

それからローラ姫への教育態度は、やや軟化の兆しを見せた。
後に彼女はこう零す。

"姫様の抱えていた思いが、あの飾り物から私の娘に伝わったのかもしれませんね"

1107しかしMPがたりない ◆2UPLrrGWK6:2018/09/25(火) 03:26:26 ID:y/2yzTGw0




◆ ◆ ◆


一度や二度に留まることはない。
度々、自分が思いを込めた"贈り物"は不思議なことを呼び寄せていた。
そして、彼女の生涯最高の作品。
それを贈ったのは、今でも鮮明に思い出せる。
勇者により自由を取り戻した、その翌日のことだ。

(待ってください。ローラはアレフ様に贈り物をしとうございます)

いつか、愛する人が出来たときにこれを捧ごう。
その思いから、竜王の使いにより幽閉される前からずっと、少しずつ手をかけていた物だった。
揺れる飾りの中央に記す意匠は、既に戴冠した自分の肖像を元にしたもの。
環は、果てしなき世界を表す形。
高貴な輝きが、なぜか人の視線を惹き寄せた。

(アレフ様を愛する私の心。どうか受け取ってくださいませ)

こうして勇者アレフは、『王女の愛』を手に入れた。
眼の前に翳せば、勇者と、ローラの心は一つとなる。
世界のどこであろうと、思いを繋ぐ、さながら強き絆の具象化。
─いま、思えば。



(あれは魔法ではないの?)

自分の心が、思念が、距離や時間を越えて相手に届く。
意図して、自在に操れたとは言い難いかもしれない。
しかしこれは紛れもなく、"魔法のアイテムを作り出す才"と呼べるのではないだろうか。
確実ではないが、しかしやってみる価値はあるかもしれない。

(方法を少し変えてみるだけ。魔法の行使が難しいのならば、道具を作るような……そんな形で)

ほんの少しの光明ではあるが、縋るしかない。
そんな思いで乱雑に積み上げた中で、思い出したように一冊の書を手に取った。
単なる呪文書とは違う、"遺失呪文"に関する物だ。
どうしてそれが目に止まり、記憶していたかというと、書の中の図画についさっき見た記憶がある植物が描かれていたからだ。

1108しかしMPがたりない ◆2UPLrrGWK6:2018/09/25(火) 03:33:15 ID:y/2yzTGw0

「『ルラムーン草』……確かに、この植物と同じ……」

豊富な種類の草と粉末が、自身の支給品だった。
その中の一つが素材であったとは、なんたる幸運だろう。
さらに幸運なことは、この植物を媒介として必要とする呪文をローラは体験していたのだ。

(あの日……アレフ様が救って下さった、次の日。マイラで休息したその翌日……)

ラダトームへの帰還を可能とする呪文『ルーラ』により、彼女とアレフの二人の身体は一瞬宙を舞った。
気づいたときには、その身は立ちどころに切望していた王城の眼の前へと移動していたのだ。

(移動の呪文『ルーラ』、はっきり覚えています。そして遺失呪文と言われているこの呪文はそのルーラの"上位呪文")

『合流呪文"リリルーラ"』。
思い描いた相手の元へ、どこへ居ようと現れる。
異なる空間ですら飛び越える、瞬間移動の呪文であるらしい。

「『ルーラ』に対するキメラのつばさがあることは知っています。ならば、この上位呪文もきっと……」

ルラムーン草が手元にあるのだ。
書を読めば、さらに魔法の媒介となる素材(例えば、魔力の含まれた砂といった)となる物を足す必要はあるらしい。
しかしこの呪文の構造を理解し、アイテムを用いることで呪文の効果を発揮できる可能性はきっと、ゼロではない。
とは言え、たった一人で完成まで漕ぎ着けられるのかはやはり疑問が残っていた。

(……最悪、生存者の中に魔法使いが居ることを祈ることになるかもしれませんね)

協力者を得ることは難しいであろうが、手段は選べない。
戦いに勝つわけではなく、生きて帰るためには。
それなりの時は過ぎてしまったが故、他人との接触も考えるには動くことが必要だ。

進路は北か、南か─







【I-5/リーザス村アルバート家/1日目 真夜中】

【ローラ姫@DQ1】
[状態]:健康 疲弊
[装備]:毒針
[道具]:支給品一式、銀のティーセット 草・粉セット(世界樹の葉が使われました ※ルラムーン草が含まれています)
    ハッサンの支給品(引き寄せの杖 場所替えの杖)
    アルバート家の書物(遺失呪文の書を含む)
[思考]:愛する我が子の為に戦う。魔法使いに会いたい。
[備考]:複数の呪文の知識の他『リリルーラ』の知識を取得しました。

1109しかしMPがたりない ◆2UPLrrGWK6:2018/09/25(火) 03:34:45 ID:y/2yzTGw0

◆ ◆ ◆


ローラはまだ気がついてはいない。
結論から言えば、彼女が行使した力は魔法とは違う存在であった。
欠如しているのは、自然との調和や意思を通わせる、といった精霊に力を乞うプロセスである。
だがローラが引き起こす奇跡は、それとは違う。
偏に彼女の強い意思、思念にのみ依存している。

人は正の感情に傾いたそれを"愛"や"絆"、"心"といった名で呼ぶだろう。
ひとたび逆転し、負に傾けば"嫌悪"や"憎しみ"、"妄執"などとも呼ばれることだろう。
時に恐ろしく強く、永遠に続く恐ろしさすら秘めている。

例えば人間を犬や猫、馬に変えてしまうような力。
生きとし生けるものの時を止め、石像へと変えてしまうような力。
国まるごとを封印し、茨と化すほどの強大な力。

そして戒めの首輪により殺し合いを強制する、そんな力。
それを纏めて呼ぶとすれば、即ち─

『呪い』と。
そう呼べるのではないだろうか。


[備考]:『呪い』スキルパネルが開放されました。

1110 ◆2UPLrrGWK6:2018/09/25(火) 03:35:00 ID:y/2yzTGw0
投下終了です

1111ただ一匹の名無しだ:2018/09/25(火) 20:38:20 ID:Ea.totVY0
投下乙です
ローラがなんか物騒なスキルを習得しとる…
後、魔法の定義とかの解説も、それっぽくて好き

1112 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/26(水) 16:07:14 ID:Q4.2npGY0
投下します。

1113第三回放送 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/26(水) 16:08:04 ID:Q4.2npGY0
その瞬間、この世界の天を覆っているすべての雲が、一か所に集まり、巨大な顔を形成する。
夜になっているため、凝視しにくくなると思いきや、月光が照明代わりになる。

「いまだにしぶとく生き残ってる諸君、ご機嫌如何かな?
6時間経ったので、お休みの時間の者もいるかもしれないが、ルール通り報告させてもらうぞ。


まずは禁止エリアの追加からだ。戦いと共に、増えていくぞ。

2時間後に【D-7】【H-8】
4時間後に【H-3】
6時間後に【J-7】【F-1】だ。

これで禁止エリアは12だ。敵に気をつけるあまり迂闊に入り込むことのないようにな。
勿論狩る側も狩りに夢中になりすぎず、自分の居場所に気を遣うように。


続いて、この地で死者の仲間入りになった者の名前だ。心して聞くがよい。
スライム
デュラン
トンヌラ
アレフ
ゼシカ
サヴィオ
ヘルバトラー
イザヤール
バルザック
モリー
ゲレゲレ
フォズ
ヒューザ
ヤンガス

以上、14名だ。

ここまで来てこのペースを保てるとは、貴様たちは私の予想以上のケダモノのようだ。
正義の味方も、ならず者も殺しの快感に身を委ねて好きなように殺し合うがいい。
くだらないことを考えて殺されぬ前にな。
たとえ愛する者を殺めても、優勝すれば生きかえらせてやるぞ。
まあ、今更忠告するまでもないことだが。


では、日の出とともに、また会おう。」

1114第三回放送 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/26(水) 16:08:37 ID:Q4.2npGY0
雲は元の形に戻り、エビルプリーストも再び席に戻る。
そこで、ある者が近くへ現れる。

「エビルプリースト様。あのキラーマジンガはいったいどのような存在でしょうか。」

そこにいるのは紅蓮の身体を持った悪魔。
デビルプリンスが聞いてくる。

「ほう……いきなり参加者の一人に興味を持ち始めるとは、どういう風の吹きまわしだ?」

「いえ………そうではありません。新しく現れたという、キラーマジンガです。」

「何……?「新しく現れた」……だと?」
エビルプリーストは何を言っているのか分からないような顔をする。

そこへ、エビルプリーストの顔が変わる。
「フフフ……面白い存在だ………面白い………」

また同じことだ。
エビルプリーストは、復活して以来、変わった。
まるで何者かに操られているかのような挙動をたびたび見せる。

正直のところを言うと、コイツ自体はどうなってもいい。
自分はピサロのやることには反対だったが、それはそうとしてエビルプリーストに付き従いたくはなかった。
誰に操られていようが、はたまた芝居でやってることなのか。
元々大掛かりな演出を好む性格だったし、後者のことも考えられる。
だがそんなことはどうでもいい。


問題は生き返った自分も、同じように操られているのではないか。
自分もエビルプリーストも一度は勇者に滅ぼされた。

そしてエビルプリーストによって、アンドレアルやヘルバトラ―、大魔道などと共に蘇った。
今のところ自我はしっかりしている。
他のジョーカー達も、やっていることを聞く限りは自分の意思のままに動いている。

しかし、その「自分の意思」も誰かに作られたものだとしたら?
自分達は、決して関わってはいけないような強大な何かと隣り合わせにあるということになる。

それを聞くわけにもいかない。

1115第三回放送 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/26(水) 16:08:51 ID:Q4.2npGY0

「面白い……新たな世界………可能性………フフフ……。」

そして「面白い」の間に訳の分からない単語を交える。

「どうした?早く仕事にかかれ。それとも貴様も大魔道のようになりたいか?」

友人の名前を言われ、仕事を強制させられる。
どうやら元のエビルプリーストに戻ったようだ。
そして自分が何を聞いたか、どう答えたかはもう覚えてないらしい。


大魔道。
ヤツからの仕事を拒否したため、殺された生前からの仲間だ。


友の仇を取るためにも、すぐにでもヤツの首を刈り取ってやりたい。
不意を突けば上手くいくかもしれない。
力を見せればひょっとして自分が知らないことを教えてくれるかもしれない。

だが、それが原因で。
ヤツの後ろにいる存在に、死ぬよりもおぞましい目に遭わされるかもしれない。


全てが推測の域を超えない。だが、知らないことが多すぎる。
かつて悪魔の皇子だった者は、何も出来ず、その時を待つ。




残り、29人

1116第三回放送 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/26(水) 16:10:38 ID:Q4.2npGY0
投下終了です。
何かありましたらご意見を。
それから次回以降の予約はご自由に(ただし何らかの理由でこのssを破棄することになれば予約も破棄されます)
投下は明日の18:00からということにします。

1117ただ一匹の名無しだ:2018/09/26(水) 21:23:08 ID:ofq01Vg20
投下乙です

内容に関しては特に問題ないと思うんですが、禁止エリアの場所についてちょっと
2時からの2か所ですが、それぞれ平地をふさいでしまっています
勿論ポーラみたいに力業で抜けることもできなくはないのでしょうが、ミーティアやローラなどの近くにいる一般人の女性には厳しいでしょう
しかもこの2か所の位置関係、ミーティア達を前方、後方共にふさいで閉じ込めてしまっています
ですのでこの2か所については、変更した方がいいのではないでしょうか

1118ただ一匹の名無しだ:2018/09/26(水) 21:28:33 ID:ofq01Vg20
ミーティア達の場所、勘違いしてた
閉じ込められるのはポルトリンク方面に向かってるセラフィ達か

1119第三回放送 ◆qpOCzvb0ck:2018/09/26(水) 21:35:10 ID:Q4.2npGY0
ご意見拝読しました。
私は「キーファと竜王が戦っているところを禁止エリアにすることで、戦いをやめさせるか続けるか」
という状態にさせたかったがために、これからその辺りに向かう予定のポーラ組のことを考えてなかったです。
【H-8】はそのままで、[D-7]を[D-8]に変更します。

1120ただ一匹の名無しだ:2018/09/26(水) 21:42:07 ID:ofq01Vg20
修正乙です
上ではああ書きましたが、進路or退路の片方だけふさがれるだけなら致命的な問題にはならないと思うので、これでいいと思います

1121天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 18:48:56 ID:YhkkX4Lw0
投下します。

1122天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 18:49:59 ID:YhkkX4Lw0
ねえ?だれかいるの?

いるのだったら 姿を見せてよ。 なにか 言ってよ。

もう、そんな人びとの声は聞こえなくなった。

人は身勝手だ。

人は見たいものしか見えないように出来ている。
天使様を信仰しなくなった世界で、誰も彼を天使と呼ばない。

さらには人は、傲慢だ。

見えていないものがあるというのに、あたかも自分が全て見えているかのような錯覚に陥る。
そして失くしたものも知らないままに、知らないからこそ充足を覚える。
天使信仰を失くした世界の住民は皆、何も変わらずに毎日を過ごしていた。

自己完結した日々の中で、誰も彼のことを信じない。
世界から脅威が去った世界に心の支えは必要とされなくなった。

どうして、皆は天使様を忘れてしまったの?
あの星空を守ったのはアークなのに。

あなた達の幸せは、天使様たちが見守っていてくれていたからこそ成り立っているものなのに。

「誰か…誰か……。」

声は届かない。
自ら掴み取ることすら出来ない幸せを当たり前のように享受する人々に天使信仰は受け入れられない。

「天使様に、祈りを………」

人は身勝手で傲慢だ。
アークの守った人間はひたすら愚かなもので、それがいっそうアークの行いを否定されているように思えて我慢ならなかった。

だが、忘れるなかれ。
世界で唯一天使を信仰している者であっても、世界で唯一この世ならざるものが見える者であっても、結局は人なのだ。
理解出来ているつもりで、その本質とて見えていない。
見えているつもりでも、見たいものしか見えていない。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

1123天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 18:50:47 ID:YhkkX4Lw0
「スクルド……スクルド!」

スクルドの意識はポーラの声によって現実に引き戻された。
情報交換を終えて、セラフィの計らいでポーラの背で眠らせて貰っていたのだ。
しかし周りにも分かるくらい悪夢にうなされ始めた様子を見て起こされたらしい。

「嫌な…夢を見ました…。邪悪な力で……ここに居る全員が死んでしまう、そんな夢を……。」

天使様への執着を悟られたくなかったため、夢の内容に関しては咄嗟に嘘をついた。

あの夜から何度この夢を見たことだろうか。
あの日、世界中の町に祀られていた守護天使像は置物と化し、教会は天使様ではなく神や女神を讃える場所へと変わった。

「大丈夫。あたし達が、そんな夢を現実にはさせない。」

「そうだよ。ポーラさんにスクルドさんに、ジャンボさんまで居るんだから。」


(スクルド……やっぱり疲れてるんだ……。まあ、無理もないか。)

スクルドの話によると4人もの人を殺してしまったらしい。
ゆっくり休ませてあげられるだけの時間は欲しいけれど、あまり時間をかけすぎると色々なものが手遅れになるかもしれない。

未だ居場所の分からないコニファーだけでなく、ミーティアやキーファ、そしてその探し人たち。
合流したい人はたくさんいる。

もしかしたら、この人たちもすでにもう――――――


「いまだにしぶとく生き残ってる諸君、ご機嫌如何かな?」


答え合わせと言わんばかりの定時放送が始まり、同時にポルトリンクのアーチが見えてくる。ポーラが第2回放送を聞いたのもちょうどこの町の入口付近だった。

(結局あたしは、迷っていた6時間前から少しも進めていないんだなあ…。)

ポルトリンクの町へ入り、落ち着いて放送を聞くために噴水に腰掛けた。
こんな時、周りに誰かが居てくれることがとても心強く思えた。
しかしポーラはすぐに思い知ることとなる。
誰かが周りにいるということは自分の苦しみを分かち合えるだけではないのだ。

1124天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 18:51:54 ID:YhkkX4Lw0


「イザヤール」


唐突に、冷たい声で告げられた名前。
ピクリとスクルドの肩が震えたのがポーラにもセラフィにも見て取れた。
誰かが周りにいるということは誰かの苦しみを共に背負うということでもあるのだ。


「そんな…イザヤール様までもが……。もう、天使様は誰も生きていないんですね…。」

「スクルド……。」

(知り合いはもうジャンボさんしかいないから、私は大丈夫だったけど……。)

それぞれ、何かしらのことを考えさせられる。
特にセラフィは2人の感慨とは無縁であり、何と声をかけていいのか分からないといった様子だ。

ただ正直なところ、ポーラはイザヤールの死をあまり悲しんではいなかった。

ポーラはスクルドやコニファーとは違い、イザヤールの姿を見ることが出来たし声も聞くことが出来た。天使や妖精といった者たちは声を聞けない幽霊とは一線を画した存在だからだろう。イザヤールがアークを裏切ったかのように振舞っていた時の悪印象をこの目と耳で体験しているのだ。アークからの伝聞でしかその出来事を知らないスクルドやコニファーとは事情が違う。

それどころか誤解も解けてようやく再会した時、イザヤールはあろうことかアークの目の前で殺された。
あの時のアークの絶望に満ちた表情はずっと脳裏に焼き付いている。

裏切ったフリをしていたことについても納得はしたし、もちろん死んだこともイザヤールに非があるわけではないのは分かっている。しかしイザヤールの行動がことごとくアークから笑顔を奪う結果となったこともまた事実なのだ。

表面上は許したつもりでいても、心の底では簡単に水に流すことも出来ない。イザヤールとはその程度の相手であるため、今回の放送はむしろ、セラフィと同じように所在の分からない仲間たちの名前が呼ばれなかったことに安堵を覚えたくらいだ。

しかしスクルドにとってはそうではないだろう。
天使の熱心な信者である彼女はイザヤールの死を自分よりも重く捉えているはずだ。
彼女のことをよく知っている自分だからこそ彼女の支えにならなくては……。

決意を胸にポーラは両の拳を握り込んだ。

1125天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 18:53:05 ID:YhkkX4Lw0


(この状況、利用出来ますね…。)

そんなポーラの決意に反して、スクルドもイザヤールの死を全く重く受け止めていなかった。

どの道全員殺すつもりなのだ。
ただアークのために戦ってくれるかもしれない人物の内の1人が脱落したというだけ。
協力者候補なら隣にポーラがいる今、イザヤールの死に特に心を振り回されることも無かった。むしろ殺したはずのローラの名前が呼ばれなかったことの方が気になるくらいである。

だが、ポーラから見たら今の自分は信仰しているものを失った可哀想な少女。アークが死んでいる地点でこの形容が間違っているわけではないのだが、イザヤールが死んだことによってその立ち位置はより決定的なものとなった。

情には甘いポーラのことだ。
天使様の信仰者としての自分が追い詰められれば追い詰められるほど、アークを取り戻すことに勧誘しやすくなる。

しかも最悪それに失敗しても、過度な動揺による一時の気の迷いであると水に流してもらえる可能性すらある。

機は訪れた。
核心に多少踏み込んでも今なら安全だろう。

「ポーラ…先ほど言いましたよね、アークの幽霊と話した、と。」

「う、うん…。」

先ほど行った情報交換は大まかなもので、細かい会話の内容までは聞いていなかった。

「彼が何を言っていたのか詳しく教えてください。あなたがゲームに乗るのを踏みとどまることが出来た、その理由を。」

本当は分かっている。
アークと話した後にも、ポーラはまだ完全に踏みとどまることが出来ているわけではないと。だからポーラがゲームに乗らなかった理由がハッキリすれば、逆にゲームに乗せる方法も見えてくるかもしれない。
ここはこれからの方針を考えるにあたって是非とも知っておきたい情報である。

1126天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 18:53:44 ID:YhkkX4Lw0


「……私も、この心の迷いを振り切りたいんです。」


「スクルド、それって…。」


さらに、自分が皆殺しの道に進みかけていることを暗示してみる。
自分も同じような迷いを持っていると分かれば、さすがに向こうから提案してくることはなくても、かねての仲間と共に殺し合いに投じるというビジョンを少なからず頭にチラつかせることが出来る。
アークを復活させた、その後の理想の世界をもう一度思い起こさせることが出来る。その世界を自分と共に実現したいと少しでも考えてくれるのなら今はそれでよい。

自分がその迷いを振り切りたいと言っている間は危険思想の持ち主として切り捨てる選択はポーラにもセラフィにも取れないのだから、じっくりと再び機を待てば良いのだから。

「教えてください、ポーラ。」

「うん……。前を向け……アークはそう言ってた。死や別れだけじゃなくて、出会いや誕生にも目を向けなさいって。」

とはいえ思った通り、アークの言葉を聞くのは胸が苦しいものだった。
元々殺し合いに乗ることが彼の本意ではないことは分かっていたけれど、自分の行いを彼の言葉で拒絶されるのはやはりどこか悲しくなる。

1127天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 18:54:36 ID:YhkkX4Lw0

「だからあたしは、まずセラフィとの出会いに目を向けることにしたの。」

でもやっぱり自分たちは、アークからたくさんの影響を受けているんだって思った。

私が天使信仰をあの世界に取り戻そうと考えたのはアークの存在によるもので、私が皆殺しに走っているのもアークの死によるもので――――――


「それが正しいのかどうかはまだ分からないけど…」


ポーラが殺し合いに乗らないのはアークの言葉によるもので、ポーラが殺し合いに乗ろうと思ったのもアークの死によるもので――――――


「でもアークの言葉だから信じてみようと思ったの。」





……あれ?


ふと覚えた違和感。
ポーラの声色に、ポーラの目に。
狂信者だとか、殺し合いの世界だとか、そんな様々なスクルドである前に、ただ一人の乙女として感じた違和感。

ポーラがアークのことを信頼しているのは知っている。
だけど、これではまるで……


「やっぱり……あたしはアークのことが好きなんだって、思い知らされた。」


(あっ………)


ここにきて、スクルドの最も大きな誤算が露わになった。
知らなかったのだ。
ポーラがアークに恋心を抱いているという、たったそれだけのことを。

1128天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 18:55:27 ID:YhkkX4Lw0


ポーラにとって、アークは"見える"世界を共有出来る初めての人物だった。

だからポーラはアークを信頼しているのだと思っていた。
ポーラが殺し合いに乗りかけていたという話を聞いたスクルドは、アークを「見える世界を共有出来る者」として、すなわち「天使」として生き返らせようとしていたのだと思っていた。

だが天使としての彼ではなく、アークの人格、それ自体にポーラが惹かれているのだとしたら。

そう、ポーラにアークを天使として復活させる理由なんて何処にもありはしないのだ。
人間と天使は恋をすることが出来ない、それはエルギオスの悲劇が証明していたのだから。


あれだけ軽々と振るえていたはずのホーリーランスが、やけに重く感じられた。
私はおそらくこの2人の雰囲気に押されて少し心を緩めていたのだろう。
たどたどしくも何処か安心感を感じさせてくれるポーラと、仲間を失った悲しみを無理に明るく振舞って癒そうとしているセラフィ。
もう少しこのままで居たいと、残酷な世界に放り込まれた1人の少女の心が叫んでいた。

だけど、そんな想いはもう捨てよう。

この人たちも、殺さなくちゃ……。
天使様は俗世に汚れちゃいけないの。
天使様の守っていくあの世界に、許されてはならない恋に身をやつしたあなたはいらない。


スクルドが覚えた殺意。それは所詮心の中だけのもの。
だけど、強い想いは何かを変える。たったひとつの願いが天使さえも人間へと変えたかもしれないように、この想いも、何かを――――――

1129天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 18:56:39 ID:YhkkX4Lw0
「うわっ!」
「なにこれっ!」
「っ!?」

刹那、辺りに光が満ちた。
その輝きは誰もが目を奪われるほど美しく、そしてそれが照らす先の少女はその輝きと対をなすかのように真っ黒に染まっていた。


「っ…!スクルド、あんた…!」


突然の光の正体、ラーの鏡が映し出したのはスクルドの殺意。


「ポーラさん!スクルドさん!駄目……!戦わないで…!」

何が起こっているのかを理解して止めに入ってきたセラフィまでを見据え、ホーリーランスで薙ぎ払う。
しかしそれは即座にポーラの剣に止められてしまった。

「落ち着いてスクルド!あたしたちが戦っても、何にもならないじゃない!」

「っ……!」

スクルドとて言われるまでもなくそんなことは分かっている。
ポーラは呪文を使えないことを除けば、アーク以上の戦闘のスペシャリストだ。幼い頃から培ってきた武闘家としての才もあり、素早さというバトルマスターの弱点すら克服している。僧侶一筋で戦ってきた自分ごときが少しの工夫なんかで勝てる相手では無い。

「………。」

ここで戦うのは得策ではない。
そう、そんなことは分かっているのだ。



「…………ふざけないでっ!!」



だけど、様々な感情が込み上げてきてもはや止めることが出来なかった。
アークと話をした時にも使ったというあの鏡の力なのか、それとも自分自身が今の状況を止められないのかは分からない。

1130天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 18:57:20 ID:YhkkX4Lw0
「私は嬉しかったんです……!ひとり、またひとりとアークのことを、天使様のことを知っている人がいなくなっていく、そんな中で……あなたは…あなただけは…天使様のアークを信じてくれてるのだと思ってました………!」

想いは次々と言葉へと変換されていって。

「でもポーラ、あなたにとってもアークが天使様であることは邪魔なことでしかなかった。世界の荒廃を……彼の絶望を……心の底では喜んでいた!」

発せられた言葉が、さらに感情を打ち付けて。

「私だけが………そう、たった独り、私だけが天使様としての彼を見ている。」

募る想いと共に、スクルドは自分の中の黒い感情が増幅していくのを感じた。

「誰も天使様に祈りを捧げない、そんな世界で私はたった独りぼっち……。でもこれが、愚かな狂信者の末路なのね…。」

もはやこれ以上なく昂ったスクルドの感情。内にも外にも矛先の向いた絶望と憎悪――――――女神の加護を得た天使さえ堕天使へと変えるそんな感情を、神にすら見捨てられた人間が抱いたとしたら。


人々が天使を忘れてからも、スクルドは独り、天使像に祈りを捧げ続けてきた。


「身を焦がす想いよ、咎人を赦す祈りよ」


祈りは力を生み出す。


「理を覆す力となれ」


聖なる心をもって祈れば、誰かを癒す力を。


「憎悪の激しさを」


邪悪なる心をもって祈れば、究極魔法さえ放てるほどの魔力を。


「絶望の深さを」


そして仮に、祈りという行為の本質を歪めて荒れ狂う心をもって祈ったならば。
今までの祈りに込められた、抑圧され続けてきた感情を、一度に開放したならば。


「今、解き放つ」


その時は「回復」という祈りの恩恵すら捻じ曲げる、破壊の力を。

かの究極魔法すら凌駕するその力に全てが飲み込まれていくその様を、一言で言い表すならば。

1131天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 18:58:06 ID:YhkkX4Lw0



"天地崩壊"



天すら砕けて地に崩れ落ちていくその様を、とある世界ではそう表現したという。


スクルドが大地に槍を突き刺した次の瞬間、その地点を中心とした煉獄の焔がその場の全てを飲み込んだ。
人も、周りの建物も、空も海も大地も、何もかもが黒の中に混ざっていく。



(ああ……そっか…。そうなんだ………。)

これがお前の罪なんだって、ポーラにはそう告げられているように思えた。


――――――アークが、人間だったらいいのに。


アークを絶望の底に叩き落としたのはあの願いだ。そんな罪の意識にずっと苛まれていた。
だが、アークだけではなかった。スクルドもアークが人間として取り残されたことでずっとずっと苦しんできたんだ。

スクルドの心を壊したのは、あたしなんだ。

ずっと迷っていたことの答えが、ようやく分かった気がした。
あたしはこの世界でどうするべきなのか、その答えが。

「ねえ、スクルド。」

身体の感覚が消えていく。
だけどこの言葉だけは、スクルドに届けなければならない。

「あたしは……あんたに殺されるべきだったんだと思う。」

「待って……ポーラさん……!」

崩壊に巻き込まれているセラフィが消え入りそうなほど弱々しく叫ぶ声に、あたしは応えなかった。

「ごめんね、スクルド。アークを人間にしたのはあたしなの。あたしが、そう願ったの。」

ずっと抱えてた罪の意識をやっと話せた。それも、絶対に許してくれないであろう者に。
その言葉をかけた瞬間、スクルドの瞳に何かの感情が宿ったのが見えた。

「だから、スクルドの罪はあたしが全部引き受ける。きっとそれは、ほんとはあたしの罪だったものだから。」

1132天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 18:58:41 ID:YhkkX4Lw0

心は抑え込めば抑え込むだけそれが爆発した時の反動は大きくなる。ポーラは恋心を抑え込むのをやめ、アークが人間となることを願った。
でもその願いが叶わなかったとしたら、その心の反動が向かっていた先はおそらく今のスクルドと同じ場所だったのだろう。

スクルドは今、行き場の無い絶望と憎悪の中で苦しんでいる。
だったらそこに追いやったあたしはその感情の行き場にならなくちゃいけない。

「ねえ……ねえってば………」

なのに、それなのに。
そんな目で、見ないでほしい。

(――――――あたし、アークのこと信じてるよ。だから、そんな顔…しないで?)

(――――――ごめんなさい、ポーラ。今はそんな気分になれなくて……。)

あの夜のアークの姿がスクルドと重なったように思えた。
目には悲しみが浮かんでいて、あたしもそれに引き込まれて悲しくなった。もう、二度と見たくなかったあの表情。

やめて。
あたしを見ないで。
そんな、悲しみに満ちた目で――――――



(あれ…?あたしは………何がしたかったんだっけ………。)

(……ああ…そっか……あたしはアークの笑顔が見たくって………なのに…それなのにあたしは……みんなに悲しい顔をさせてばっかり………)

「ねえ、スクルド。」

最後に振り絞った言葉は、ただただ嘆くことしか出来なかった。

「あたしたち……どうして……こうなっちゃったんだろ……ね………。」

次第に言葉も、その命も、崩壊の中に消えていく。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

1133天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 19:01:09 ID:YhkkX4Lw0

「はあ……………はあ……………」

そこにあったのは惨状。
何もかもが壊れた街の中、スクルドだけがそこに立っていた。

「天使様、これがあなたのお導きなのですね……。これは私に課せられた聖戦……必ず、勝ち抜いてみせます………!」

両手を天に仰がせて高らかに叫ぶ。
仰ぐ先は永遠を感じさせるほど深い宵闇。それはまるで彼女の向かう先を暗示しているようだった。

「ようやく分かりました。この世界には誰も私の味方など居ない…。でもこれが愚かな狂信者の末路ならば、甘んじて受け入れましょう。」

次に瞳に映るのは天ではなく、地に崩れたかつての友。
そして出会って間もない相手ではあるが、自分のことをとても気にかけてくれた人。

たった今、自分が殺した者たち。


「……………でも、それでも、こんな末路………」

地に伏した大切な人たちを見下ろして、心の中で何かが変わった。

漏れ出したのは少しばかりの本音と少しばかりの涙。



「少し………悲しい…ですよ………。」



それは、彼女の想いの全てを物語っていた。

信仰の先に待っていた絶望。
信頼の先に待っていた憎悪。

神は私たちを赦さなかった。
女神は私たちを救わなかった。

心の拠り所となる天使様は居なくなった。
心を許せる仲間は殺してしまった。
心の支えとなってくれた貴方は、死んでしまった。

天からも地からも見放された今、私は何によって赦され、救われるというのか。

1134天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 19:01:53 ID:YhkkX4Lw0





ゴーーーーーーーーーーン



天より地まで落ちてきた教会の鐘が、鈍くて、それでもなお荘厳さを残した音を奏でる。
真下に位置していた、一人の少女を潰しながら。

全てが消えた街でまた、儚き命が露と消えた。

人間を赦し救うもの、それは、人間でしかなかったのかもしれない。
罪の理解者であった仲間を殺し、天使の名を模した少女とて殺した、罪深き彼女に下ったのはただただ残酷な罰。

やはり人は愚かで傲慢で、そして何よりも弱かったから。おそらく、本質的に独りでは生きていくことが出来ないものであったのだろうか。

崩壊した港町、中に動く者は誰もいなくなった。



【F-9/ポルトリンク/2日目 深夜】

【ポーラ@DQ9 死亡】
【セラフィ@DQ10 死亡】
【スクルド@DQ9 死亡】

【残り26人】

1135天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 19:02:41 ID:YhkkX4Lw0











ああ、そうか。
あたしは死んだんだ。
好きな人の応援に応えることも出来ず、大切な仲間の罪を背負うことも出来ずに。

真っ黒な虚無の中、気がつけばあたしはそこにいた。

なるほど、これがあの世というものなのだろうか。きっとあたしはあの星空の一部になるのだろう。

目を閉じ、全てを受け入れようとした。これがあたしの罪の代償なのだと。
あたしの祈りが皆を完全に壊してしまった、その罪の。

「いいえ、ポーラ。」

「……スクルド。」

あたしへの罰の代行者となった彼女が、そこにいた。
死ぬのはあたし1人で充分だったのに……。

「本当は、妬ましかったんです。」

ポーラが「アークが好きだ」と口走ったあの時にスクルドが抱いた黒い感情の正体。
それは、ポーラに期待を裏切られたことへの絶望とか、憎悪だとか、そんなものだけではなかったのだ。

これは、認めてしまえば彼女の中の信仰心が崩壊する、そんな感情。

1136天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 19:04:45 ID:YhkkX4Lw0

「私も……アークのことが好きでした。」


彼女にとって、恋心の告白はすなわち"罪"の告白だった。
そもそもスクルドは恋をするなど許されない聖職者である。
ましてや、その相手は崇拝対象である天使だったのだから。

「私は貴方のようには出来なかった。彼のことが好きである以前に、天使様のことを信じているから。」

ようやく、理解出来た。
あたしとスクルドは、一緒だったんだ。
同じ人に恋をして、そして、同じ壁が立ち塞がった。

人間と天使は、恋が出来ない。
だけど天使が人間となるのなら――――――そのことを願ったのか願うことが出来なかったのか、あたし達の間にあるのはたったそれだけの違い。

そう、本当にたったそれだけ。
だけどスクルドは――――――

「――――――あなたとは違い、殺し合いに乗って何人もの人を殺してしまいました。もちろん、今でも後悔はしていません。だけど…………やっぱり思うんです。もっと違う末路もあったのではないか、と……。」

そしてスクルドも自分と同じく、自分の罪を後悔し続けていた。
あたし達は本当に、ほとんど同じだったのだ。

「だからポーラ、貴方は私のようにはならないで。盲信ではなく、ただ純粋に彼の笑顔を求めたその想い…天使様はきっと、正しい方向へ導いてくれるでしょう。」

「でも……もう……」

1137天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 19:05:23 ID:YhkkX4Lw0
「大丈夫。」

振り返ると、そこにはあたしのせいで巻き込んでしまったもう1人の少女、セラフィがいた。

「ポーラさんは、独りじゃ生きていけなかった私を救ってくれたんだから。もっと胸を張っていいんだよ。」

「ううん、あたしだってあなたに救われた。アークが居なくなって独りぼっちだったあたしを………」

「私ね、ずっと祈ってたんだ。ポーラさんが前を向いて、こんな悪夢を終わらせてくれますようにって。」

セラフィはそう言ったけれど、あたしは1度とて前を向くことは出来なかった。
殺し合いに乗るべきか迷いに迷って、結局スクルドの感情に呑み込まれる最期を選んだ、それがあたしだ。

「………ごめん、叶えてあげられなくて。」

「ううん、まだだよ。」

「え…?」

「まだ終わりじゃない。この理不尽な世界を終わらせて。もう誰の笑顔も奪われなくていいように。そして誰も復讐なんかに手を染めなくていいように。」

「だから、あたしは――――――」

もう死んだんだ。
その言葉が発せられる直前、温かくて、それでいて懐かしい光が、胸の内に灯った気がした。

「……これは……この力は………。」

「ポーラさん。あなたのこと、信じてる。」

そのまま、2人の姿は見えなくなった。

最後に見たセラフィの顔は、出会ってから1度も見ていなかった心からの笑顔。
大切な者達を失い続けた先に迷い込んだ彼女も、きっとその本質はあたしと同じだったのかもしれない。

(あたしも……また笑顔になれる日が来るのかな……貴方のいない世界で……。)

答えはまだ分からないけれど、せめて今は前を向こうって、そう思えた。

「もう一度、チャンスをちょうだい……………アーク。」

胸に灯った光の意味はすぐに理解出来た。
今なら、飛べる。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

1138天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 19:05:56 ID:YhkkX4Lw0
動くものの無くなった港町。
そんな中、1人の少女の停止した心臓は動きを見せ、二度と開かれなかったはずの瞳には光が戻った。

横たわった身体はふわりと浮かび上がり、空中から大地を踏みしめて立ち上がる。
蘇った少女――ポーラの頭上と背中には天使の輪と翼が現れていた。感情の焔に焼かれて一度は燃え尽きたはずの魂は、「天使の守り」の力によって再びこの世へと舞い降りたのだ。

しかし、天使の守りは聖職に就いた者の信仰心を以てのみ得られる天使の加護である。
そもそもポーラの世界では僧侶でさえ、星の数ほど存在する天使から守りの力を与えてもらうことは出来ないはず。ましてやバトルマスターであるポーラに、その力を得られる道理などなおさらないはずだ。

しかし現実、ポーラは天使の守りを得てこの世界に蘇った。



(――――――星空はね、成仏していった命の輝きなの。)

天地が崩壊していくあの時、2人の命が尽きる直前に、セラフィはポーラの言葉を思い出した。

実はセラフィは、この世界に招かれて間もなくして試したことがある。それは天使の守りを使ってみること。
天使の守りは聖女の守りなどの時間制限のある特技とは異なり、1度発動するといてつくはどうなどで解除されない限りほぼ永続的に効果を維持し続ける。
いつ殺されるかも分からないこのような場所なので、保険のために天使の守りをかけておくことはこれ以上なく理にかなっている行動のはずだった。

しかし、出来なかった。
殺し合いというコンセプトさえ捻じ曲げかねない特技だからだろうか。天使の加護を得られた実感が全く湧いてこなかった。

ここはセラフィが元いた世界とは別の世界。だから加護を与えてくれる天使がこの空には存在しないのである。

しかし、もしもポーラの言うことが本当なら、あの星空には一人、自分たちを守ってくれる天使が居るはずだ。

そのことに気付いたセラフィは、ポーラが生き残ることにずっと祈りを込め続けた。
天使の守りでは、自分は助けられてもポーラは助けられない。
だからそれよりも大きな奇跡を祈った。

1139天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 19:06:29 ID:YhkkX4Lw0
祈りは力を生み出す。
さらにその祈りの力を高めたものが、セラフィの指に装備されていた祈りの指輪の力である。

祈りを一心に受けて今や粉々に砕け散ったその指輪――ヒストリカとの友情の証が、天使の守りの力を他人に分け与える新たなる特技「天使の祈り」を発動させる媒介となったのである。



(セラフィ……アーク……。あたしはまた、あなた達に救われたんだね。)


教会の鐘に潰されたスクルドと、自分と一緒に焼き尽くされたセラフィの亡骸を見下ろす。

セラフィがもしも死んでしまったら…あるいは、アークを生き返らせる道に走るような出会いがあったら…
ここまで色々と迷い続けて、それらを経た上でついに独りぼっちになってしまった。

でも、もう迷いはしない。

あたしは皆から想いを託されたのだから。
アークもスクルドもセラフィも、あたしが自己満足の罪滅ぼしをすることなんか望んでいない。


たどたどしく前を向いてみると、そこには今まで見たことのない景色で溢れていた。天使の力で蘇ったポーラには、新たなものが「見える」ようになっていたのだ。

この港町の中では様々な想いが交わされ、そして散っていった。セラフィとスクルドだけではない。
娘や家臣に伝えたいことを少女に託した呪われし王。
海を見たいという望みを叶えられた偽りの勇者。
生きる価値を見失っていたところに、仮初の意味を与えられた死にたがりの少女。
命を賭して守りたいものを守り抜いた勇者の如き1匹の魔物。

1140天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 19:07:00 ID:YhkkX4Lw0
また、この場には居なくとも、ポルトリンクの町は多くの人々の様々な想いを伝え合う場となった。

ポーラに見えたもの、それはそんな人々の想いの結晶がそこら一帯に満ち溢れていた光景。
「星のオーラ」と呼ばれるそれらの存在をポーラは知ってこそいたものの見たことは一度もなかった。

(アーク…あたし、今まで貴方のことしか見えていなかった。でも新しい出会いにも目を向けてみたら………こんなに綺麗な景色、見えたんだね。)

アークのいない世界で知らない人たちと協力するのはまだ怖い。今までは人の悪意ばかりに晒され、恐怖の対象しか見えてこなかったから。
だけど少し視点を変えれば、人の想いはこんなにも綺麗に見えるものなのだと分かった。

「……行ってきます、みんな。」

その時、天使の輪と羽は役目を果たして消えてしまった。
今度取り残されたのは、貴方じゃなくてあたしだけれども。

だけど絶望はしない。
貴方たちがあの星空の向こうで見守ってくれていることを、あたしは知っているから。


【F-9/ポルトリンク/2日目 深夜】

【ポーラ@DQ9】
[状態]:HP1/4 MP1/4
[装備]:吹雪の剣 @DQ5
[道具]:折れた炎の剣@DQ6 ラーの鏡 支給品一式 支給品0〜2個
[思考]:殺し合いを止める。
※未練を残す死者の幽霊が見えます。そのままでは会話は出来ませんが、ラーの鏡を通すことで会話が出来ます。
※ラーの鏡を通して人の心の中を見ることが出来ます。今後何かほかの道具でも可能かもしれません。

※F-9/ポルトリンクの民家は全て崩壊しました。船着き場や船など、描写の無い部分の町の壊れ具合は以降の書き手さんにお任せします。

【残り27人】

1141天に祈りを、地に悲しみを ◆2zEnKfaCDc:2018/09/27(木) 19:07:36 ID:YhkkX4Lw0
投下完了しました。
外伝作品の特技を使っているので、一応解説を。

①天地崩壊
モンスターズバトルロードシリーズで、堕天使エルギオスが"とどめの一撃"と呼ばれる必殺技として使う特技です。
使う際には「エルギオスは絶望と憎悪に身を焦がした!」と表示されるので、リーザスでのジゴスパークと同じく感情の昂りで発動出来ると判断しました。
作品内でのエフェクトとしてはスマホゲーム、どこでもモンスターパレードで使われる天地崩壊のエフェクトの方がイメージしやすいと思います。

②天使の祈り
スマホゲーム、DQMSLで「チョメ&セラフィ」が覚える特技です。
効果としては「味方全体のHPを回復し、確率(約10%)でリザオラル(=天使の守り)を付与する」というものです。
祈りの指輪というキーアイテムや9勢が天使の守りで復活するということの特別な意味合いもあり、外伝産の特技でも発動出来る理由付けとしては充分だと考えています。

1142ただ一匹の名無しだ:2018/09/27(木) 19:17:46 ID:0t0VZiVA0
投下乙です
天使のアークと人間のアーク…
それぞれの求めるものの微妙なズレがこんな事態を引き起こすとは
スクルドはほんと怒らせたら怖いな…
セラフィの起こした奇跡で復活して、完全に覚悟を決めたポーラのこれからに期待!

1143ただ一匹の名無しだ:2018/09/27(木) 19:44:02 ID:fRXDVGcE0
投下乙です
セラフィとスクルドの死は予想できなかった
地味にスクルドがトップマーダーになったな

1144ただ一匹の名無しだ:2018/09/27(木) 23:41:02 ID:aMCZlDE60
投下乙です
この僧侶なかなか前衛向き。
しかし、今回のロワは施設がひどい目に遭いまくり、もう無事な拠点がほぼほぼない。
展開の方は全滅かと思ってからのたった一人の生還、このパターン何度見ても来るものがあります。
拾った命を大事にしてもらいたいところですが、果たして次誰と合流できるやら・・・

1145 ◆2zEnKfaCDc:2018/09/28(金) 01:50:54 ID:TDCwKmWA0
すみません。矛盾があったので訂正します。

>>1136
「――――――あなたとは違い、殺し合いに乗って何人もの人を殺してしまいました。もちろん、今でも後悔はしていません。だけど…………やっぱり思うんです。もっと違う末路もあったのではないか、と……。」

そしてスクルドも自分と同じく、自分の罪を後悔し続けていた。
あたし達は本当に、ほとんど同じだったのだ。

から

「――――――あなたとは違い、殺し合いに乗って何人もの人を殺してしまいました。もちろん、間違っていたとは思っていません。だけど…………やっぱり思うんです。もっと違う末路もあったのではないか、と……。」

そしてスクルドもあたしと同じく、自分の罪を後悔し続けていた。
あたし達は本当に、ほとんど同じだったのだ。

に訂正します。

1146 ◆qpOCzvb0ck:2018/10/08(月) 22:47:17 ID:O6720ytU0
投下します。

1147守れなかった仲間 止められない心 ◆qpOCzvb0ck:2018/10/08(月) 22:48:25 ID:O6720ytU0
二人が橋から一歩足を踏み出した瞬間、「それ」は流れた。

「そうか……フォズ。キミにも伝えられなかったか………。」

その台詞を聞いただけで、ライアンはアルスに何があったか察する。
思えば前の放送の時も、同じようなことをしていた。

しかし今度ばかりは、ライアンも冷静ではいられない。
城へ戻ると言って自分達と別れたヤンガス。
彼とやり取りをしていたのはほんの数時間だけだが、だからと言って彼の死を無視するわけにはいかない。

その近くにいるはずのブライやサフィール、ゴーレムにも危機が及んでいるとも考える必要がある。


だが、今更引き返すわけにもいかない。

自分はこのアルスという少年の成長を見届ける義務がある。
誰に言われたわけでもない。
かつて共に旅した勇者、ユーリルと同じで、イメージカラーが緑だからか。
それとも同じように傷つきながらも未来へ歩いて行った人物に当たるからか。
なぜそう思うかは知らないが、これは自分の決意だ。

アルスの瞳を見ると、決意に満ちた光を帯びていた。

「行こう。」
「うむ。」

呼びかけに、短い言葉で答える。


それからは誰に会うこともなく、リーザスの村へとたどり着いた。

「……ねえ、ライアンさん。ここで、あってるよね?」
「…すぐ近くの看板も示しているし、ここで間違いなかろう。」


赤と緑の二人が目にした光景は、黒一色に包まれた、村の残骸だった。
ここですさまじい戦いが繰り広げられたのだろう。
良く周りを見れば、大きいサイズや人並みなサイズの死体が転がっている。

全員同じ技を食らったのか、いずれも黒焦げだ。
しかし、どういうわけか顔だけは綺麗に手当てされている。
ここで戦いが起こったのち、別の誰かが訪れて死体の手当てを施したのか。

しかし、ここで転がっているのは二人の男と、巨大な魔人のみ。
うち一人は、サフィールから聞いたアレフという男だろう。
肝心のマリベルやアイラが見つからない。

1148守れなかった仲間 止められない心 ◆qpOCzvb0ck:2018/10/08(月) 22:48:56 ID:O6720ytU0

「ここにはいないようだ。別の場所を探ろう。」
「向こうに屋敷がみえるでござる。そこにいるかもしれませんぞ。」

ライアンに言われた通り、ただ一つ残っている屋敷に入ってみる。

「真っ暗でござるな。」
「誰かいるかもしれない。ライアンさん。明かりをすぐにはつけないで。もし敵がいたら、格好の的になる。」

アルスは代わりにと小石を遠くに投げつける。
そうすれば敵は自分達ではなく、石の音がしたところに攻撃を向けるから。

しかし、二人の警戒心とは異なり、屋敷に生きている者は誰もいなかった。

ライアンもようやくと明かりを取り出し、屋敷の中を見回す。

1階には誰もおらず、2階へ向かう。


アイラの死骸が見つかった。
腹を何度も引き裂かれ、恐怖に満ちた表情で事切れている。

その悲惨さから、何とも言えない気持ちになった。
とにかく、死体とは言え、再会できたことは出来た。
屋敷の中に放置するのは何とも寝覚めが悪いため、外に埋葬しようと、二人で運ぶ。
血を拭くために、屋敷のベッドからシーツも拝借する。

アイラは見つけた。
次はマリベルだ。

「…………!!」
屋敷から出た後すぐに、マリベルの死体も見つかった。
壊れた民家の裏にあったため、最初は気付かなかったらしい。

しかし、アルスが受けたショックはそれだけではない。
死体が、見るも無残な姿であったことだ。
それこそ、アイラの死体の無残さが可愛らしく見えるほどに。

表に転がっている男や魔人のように焼け焦げているだけではなく、胸に深い刺傷があり、さらに攻撃を加えられたのか、十字に刻まれている。
四肢は戦いで吹き飛ばされた影響かおかしな方向に曲がっており、これでは人というよりぐちゃぐちゃになった何かのような気にさえなる。

しかもこれまで見つけた死体とは異なり、顔の手当てさえされていないため、マリベルであると断定することさえ難しい。

マリベルのことをよく知っているアルスが、ボロボロになった頭巾で辛うじて特定できたぐらいだ。

「………なんでだよ。」
「アルス殿!?」

ライアンはこれまでのアルスの穏やかな雰囲気からは感じられないものを感じた。

1149守れなかった仲間 止められない心 ◆qpOCzvb0ck:2018/10/08(月) 22:49:58 ID:O6720ytU0
「………なんでマリベルが、こんな死に方しなきゃいけないんだ!?」

「アルス殿……!!」
「だってこれじゃ、あんまりだろ!?マリベルが何をしたって言うんだよ!?」

豹変したアルスを必死でライアンはなだめる。

「アルス殿!!泣き叫ぶことは、あの男を倒してからも出来るでござるよ!!」
「……ああ、そうだね。」

今の気持ちはなんだったんだろう。
アルスの心にはその疑問が尽きなかった。

ひとまずマリベルとアイラの死体は見つかった。
彼女らは屋敷の横に埋葬した。

「アルス殿は拙者が守る。だから安心するでござるよ。」
「ごめん……。マリベル、アイラ。君たちが大切だったってこと、気づけなかった。
今更身勝手だと思うけど、僕は必ずこの戦い、止めるから、見守ってて。」


それからアレフ達が倒れている方に戻ってきた時だった。
なぜこいつらの顔は綺麗に手当てされていて、マリベルの死体はあんなことになったんだと思ったその時。

アルスの心を、急に「何か」が襲った。
(あれ?
この気持ち……一体……何?)


そんなことはつゆ知らず、ライアンは倒れたアレフをも埋葬しようとする。

(!?)




ライアンはアレフの死体を掴もうとした瞬間、それは無くなった。


アルスがアレフの死体を遠くに蹴飛ばしたからだ。

「ざまあみろ」
(!?)
これまでの穏やかな雰囲気とは一変したアルスの態度や目のぎらつきにライアンは驚く。

「……いったい何を……」
ライアンが次の言葉を全て発する前に、アルスがまくし立てる。

「僕からの弔いさ。マリベルを殺した奴へのね。」
「アルス殿!?本気で言ってるでござるか?」
「そうだよ。こいつのせいで、マリベルはあんな姿になってしまったんだ。」

アレフが死んでいる以上は、その原因はアレフのみにあるとは思えない。
そしてどんな理由があろうと、死者に暴行を加えていい理由にならないはずだ。

「ライアンさん、どいてよ。こんな奴、綺麗な顔で死んでいいわけないだろ。」
アルスはライアンを押しのけ、さらにアレフの死体を蹴りつける。

1150守れなかった仲間 止められない心 ◆qpOCzvb0ck:2018/10/08(月) 22:51:03 ID:O6720ytU0
「つらい気持ちは分かるでござるよ!!でも、今は………!!」
無理矢理ライアンがアルスを羽交い絞めにする。

アルスは荒い呼吸と共に、体を震わせながら呟く。
「分かってる……分かってるんだ………。」

抵抗されると思いきや急に力が抜けたアルスに驚き、ライアン一瞬力を緩めた。
しかし、力がそれまでよりも強くなる。
華奢な少年とは思えない力で、ライアンは突き飛ばされる。

「でも!!僕はこいつが憎くてしょうがないんだ!!」

そしてアレフの顔を踏みつける。
アルスの足音が何度も、静かな村に響いた。


突き飛ばされて、ライアンは気付いた。
今のアルスは、感情を手に入れた半面、それをコントロールする技術は未熟ということを。

しばらくの間アルスはひたすらにアレフの死体を攻撃し続けた。
足で蹴り、剣で斬り付けた。
何度も攻撃した後で、急にアルスを眠気が襲った。




「目が覚めたでござるか?」
「あれ?何してんだ………。」
その言葉を発した後、大きく肩で呼吸をしていた。

「アルス殿!?」

「ライアンさん?僕は……。」
目の光は元に戻っていた。
しかし、涙が流れていた。

「大丈夫でござるか?
さっき危ないと思って、とっさにまどろみの剣の力でアルス殿を眠らせたでござる。」

ライアンが心配そうに声をかける。
まどろみの剣は、斬り付けるだけではなく道具として使うことでダメージを与えずに眠らせることが出来る。

「ライアンさん……ごめんなさい……。」
アルスの体は震えていた。

1151守れなかった仲間 止められない心 ◆qpOCzvb0ck:2018/10/08(月) 22:51:53 ID:O6720ytU0
恐らくコントロールできない自分の感情に、恐怖しているのだろう。

「恐らくアルス殿の心は生まれたばかり。自由にコントロール出来ないのでござるよ。」
「だからといって……」
「「だからこそ」でござるよ」

まだ怯えを含んだ瞳をしているアルスに、ライアンが説く。
「ここは閉じられた空間。怨みや憎しみがたまりやすい場所でござる。
そんな場所で仲良き者の死体など見れば、気持ちが不安定になるのもおかしくはない。」

ライアンも王宮にいた時代、同僚から嫌がらせを受けたことを思い出す。
今思えば、彼も狭い王宮で仕事を続けさせられ、ストレスが溜まっていたのだろう。

そしてアルスも思い出した。
霧の中に囚われ、死の恐怖に襲われ、神父を殺そうとしたレブレサックの住人を。
岩山と沼地に閉ざされ、暴力で全てを解決しようとした吹き溜まりの街の住人を。

閉じられた空間で邪気に侵され、殺戮や破壊の衝動に身を任せる人々を。

ヤンガスの仲間やサフィールの父が人を殺していたのも、エビルプリーストが作った閉じられた空間で邪気を浴びたことが原因かもしれない。

自分には関係はない、と思っていた。
しかし、今自分はその住人達と同じことになりかけているのだ。

ついさっきこそライアンさんがいてくれたが、いなかったらどうなっていたか。
先へ進むのが、急に恐ろしくなった。

「勇気とは恐怖を知らないことではなく、恐怖を受け入れることでござる。
これからアルス殿が、自分の心と向き合っていけばよいでござるよ。」

「そうだね……ライアンさん。これからどこへ向かおうか!?」
「トラペッタに戻るでござる。ブライ殿やサフィール殿が心配でならぬ。
それにここから港町へ行く道は、先程閉鎖されたらしいでござる。」

とりあえずライアンの言う通りに、トラペッタへ向かおうとする。
二人は村を出たところで、白いドレスの高貴な女性に出会った。

1152守れなかった仲間 止められない心 ◆qpOCzvb0ck:2018/10/08(月) 22:53:27 ID:O6720ytU0
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

村へ戻ってきた。
予想外な足止めを食った。早く何かしないと。
村から出て南へ向かおうとしていたが、放送で南の道が閉鎖されると知って、こちらへ戻ってきた。
ドレスの裾がすれてきた。疲労が体を蝕む。

「あなた方は?」
村を出たところで二人の男に出会う。あの戦いにいた誰かの知り合いだろうか。

「そこの御婦人。拙者はライアン。こちらはアルス。怪しい者ではござらん。
この村であったこと、知っているでござるか?」
赤い鎧の男の方が自分に訪ねる。
「ええ……ほんの少しだけです。」

緑の服の方が訪ねてきた。
「じゃあ、教えてくれるかな?この村で何があったのか……。」


【I-5/リーザス村前/2日目 深夜】

【ローラ姫@DQ1】
[状態]:健康 疲弊
[装備]:毒針
[道具]:支給品一式、銀のティーセット 草・粉セット(世界樹の葉が使われました ※ルラムーン草が含まれています)
    ハッサンの支給品(引き寄せの杖 場所替えの杖)
    アルバート家の書物(遺失呪文の書を含む)
[思考]:愛する我が子の為に戦う。魔法使いに会いたい。アルスとライアンに警戒
[備考]:複数の呪文の知識の他『リリルーラ』の知識を取得しました。

アルス@DQ7】
[状態]:HP1/4 MP微消費 恐怖
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜2) ゲルダの不明支給品0〜1個 道具0〜2個(本人確認済み)
[思考]:この戦いを終わらせる。ミーティア、キーファを探す。トラペッタへ戻る。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。

【ライアン@DQ4】
[状態]:HP1/3 全身の打ち身、顔に傷、兜半壊、腹部に打撲、鎧半壊
[装備]:まどろみの剣
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1)
[思考]:ホイミンのみんな友達大作戦も手伝う。

1153守れなかった仲間 止められない心 ◆qpOCzvb0ck:2018/10/08(月) 22:53:41 ID:O6720ytU0
投下終了です。

1154ただ一匹の名無しだ:2018/10/08(月) 23:44:31 ID:QmZkUZqQ0
投下お疲れ様です。
ちょくちょく垣間見えてたアルスの心の未熟さが今までで1番浮き出ていた回だった
ローラとの会話によっては一体どう変わることやら……
そしてライアンも、ブライとは違う方向でアルスを支えてくれてるのがいいよなあ

1155 光の中に消え去った : 光の中に消え去った 
 光の中に消え去った 

1156 光の中に消え去った : 光の中に消え去った 
 光の中に消え去った 

1157 ◆qpOCzvb0ck:2018/11/29(木) 23:20:43 ID:41yJyd720
投下します。

1158光は死なない ◆qpOCzvb0ck:2018/11/29(木) 23:21:46 ID:41yJyd720
「さぁ、まだ夜は終わらねえ。救いの星ってのはな、最後まで諦めずに足掻いた奴だけが掴めるもんなんだぜ。」

「てんめえ………。」

ザンクローネがコニファーを睨む。
そのまま剣を一閃。


「あーらよっと!!」
その後に起こった爆発もろとも簡単に躱す。

「どうした!?さっきより動きが鈍ってるぜ?」

毒の力がまだ効いているようだ。
これはチャンスだ。

動き回りながらも、次の行動の最適解を見出していく。
目の横に手を当てて、魔方陣を作る。
そこから出た光は、ダメージこそ与えないが、ザンクローネをしっかりと照らした。
彼が次に出した技は「みやぶる」。

まだ相手のことがよく分からない以上は、敵のことを知っておくのが最良だ。
敵が剣を振った際に、魔法の力が発動するタネも分かるかもしれない。


(当たりだぜ……良くねえ当たりだがな………!!)

ヘルバトラーと、彼が閉じ込めていた邪悪な魔女の魂がザンクローネを操っているようだ。
しかも胸の内にある進化を促す秘石が、更にその力を増幅させているらしい。
そうなると、斬撃が来た直後、ノータイムで魔法が来るという理由も納得がいく。
ついでにザンクローネと言う名前は、クロワッサンとチョココロネから来ているというどうでもいい情報まで知った。

「どうやらてめえのその顔、分かっちまったみてえだな。」

正体が明かされたが、それがどうしたとばかりにザンクローネは嗤う。

「ああ。分かりたくなかったことだがね。なぜこうも分かりたくねえことばかり分かるようになるのやら。」

「どうやら貴様は、誰と一人で戦っていたか知ったようだな。ならばおとなしく………。」

再び剣を振りかざそうとする魔英雄。
しかし、突然自分の胸を引っ掻き始めた。

1159光は死なない ◆qpOCzvb0ck:2018/11/29(木) 23:22:13 ID:41yJyd720
(!?)
訳の分からない行動に、コニファーは戸惑う。

「人の……体奪って………ロクでもねえことするのも……大概にしやがれ……!!」

そこから見えた、ザンクローネの眼光は、闇に染まったモノではなかった。
苦しみながらも、強くて芯の通った、英雄の眼光だった。

コニファーの一撃が、押し込められた「英雄」の意思をわずかながら戻したのか。

元々煌めく宝石は、古今東西魔を払う力があると言われている。
プラチナもその例外ではない。
魔を払うとされるプラチナで作られた針の欠片が、ザンクローネの体内に入ったのが原因か、
はたまた、その最初の持ち主のイザヤールの願いか。

「はや…く………ここに………させ………。」

「英雄」は胸を鷲掴みにし、コニファーに指示を出す。

呻き声に紛れて聞こえにくいが、何を求めているのかコニファーにはすぐに分かった。

「分かったぜ!!英雄だったって話は本当だったようだな!!」
ヘルバトラーの魂に侵されながらも、抗い続ける英雄の意思に応えようとする。

暗闇と片眼の損失で狙いは定まりにくい。
だが、動きの止まっている今なら。

コニファーは矢をナイフのように構え、ザンクローネが押さえている部分にまっすぐ突き刺そうとする。


「近寄るなア!!」

しかし、ザンクローネの胸まで届くほんの僅かの所で、邪悪な気配が戻る。

「がはっ!!」
思わぬタイミングで腹に蹴りを入れられる。
剣でなかったことが幸いだが、それでもかなりの威力だった。


(人の体?あなたって、今も昔も何もわかってないのね。)

「英雄」の胸の奥に、魔女の声が木霊する。

(貴様が存在できるのは、マデサゴーラ様が偽りの世界を作ったからだ。まさか知らないはずじゃないよな?)

「英雄」の胸の奥に、地獄の闘士の声が木霊する。

(黙れ!!)

必死でその声に抗おうとするも、意識は飲み込まれていく。

1160光は死なない ◆qpOCzvb0ck:2018/11/29(木) 23:23:01 ID:41yJyd720
(だから貴様は意思も何も、最初からなかったのだよ。全てはマデサゴーラ様がの戯れで作られた存在だ。)

(でもあなたの存在が、誰のものでも構わないわ。英雄として、救いなさい。)

(ちくしょう………)

再び意識は魔女と魔物の闇の力に飲み込まれていく。


(チッ、あと少しだったが……)
どうにか起き上がったコニファーは、ザンクローネの胸を見つめる。
紫色の血がそこから垂れているが、その奥に僅かながら、何かが光っているのが見える。
恐らく、あの場所を狙えと言ったのだろう。


「いまだにしぶとく生き残っている諸君、ご機嫌如何かな?」

激しい戦いの中で忘れていたが、時刻は12時を回り、放送の時間になった。

(くそっ!!)

イザヤールが持っていた剣を手にしていたことから、彼が死んでしまったのはうすうす感づいていた。
しかし、まさか数時間前共に戦っていたはずのフォズ、この城で情報交換したゲレゲレまで死んでしまうとは。

恐らく、フォズ達が向かった先にも強大な敵がいるということだ。
ザンクローネの攻撃から逃げ続け、ピサロ達にぶつけるという考えも練っていたが、それも難しいらしい。

だが、彼らのことはこの強大な敵を倒してから考えるべきだ。
他人を案ずるあまり、自分が死んでしまっては、本末転倒もいいところである。

コニファーにとって、更に絶望的な出来事はすぐに起こった。

「まだやるつもりか。なら……。」
ザンクローネが力を入れたような動作を見せると、体に邪悪なオーラが纏わり
つく。


瞬く間に、タナトスハントで斬り付けた傷も、矢傷も、「英雄」の手で作られた傷もほとんど消えてしまった。

(冗談だろ……)
攻撃力や防御力のみならず、圧倒的な治癒力まで見せられれば、流石にうんざりする。

1161光は死なない ◆qpOCzvb0ck:2018/11/29(木) 23:23:42 ID:41yJyd720

「絶望したか!?無駄だと分かったか!?
じきに毒も治る。キサマがやったことなど、全て無駄なのだよ!!
さあ、呼ばれた奴らと同じように、救ってやるぜ!!」

ザンクローネは大きくジャンプする。
そのまま斬りかかるかと思いきや、地面に剣を突き刺す、
その地点からコニファーがいる場所まで光の線が出来たかと思った瞬間、
地面から火山の噴火のように火柱が噴き出た。

だが、力の動きを呼んでいたコニファーは、素早くその火柱から離れる。

「オマエも懲りねえ奴だな。オレは絶望せずに、星をつかみ取ってやるって言ってるのによ。」

今度は弓矢に聖なる光を纏わせ、ザンクローネに向かって打つ。
ダメージと共に自分の魔力を回復する、天使の矢だ。
まだ魔力に余裕はあるが、いつ底を尽きるか分からないので、回復という考えに出た。

「フン」
それを何の面白みもないように片手で払う。

(しまったな………魔力を回復しようと思ったんだが……)

ダメージの回復はこの世界で制限されている。
それに加え、魔瘴の力で回復できる魔力も大幅に制限されてしまった。

この状況下では、一発撃った回復量はホイミ一発使えるか使えないかだ。

「これならどうだ!?」

隼切り、いや、その倍はあるスピードだから、超隼切りとでもいうべきか。
その要領で剣を4回振る。
4方向から氷の刃が迫りくる。

「効かねえぜ!!五月雨打ち!!」

それに対抗して撃った4本の矢が、氷を射る。
流石に砕くこと自体はかなわないが、氷の飛んでくる軌道をずらし、当たらないようにする。

(なんとか防いだが、防戦一方だな………)

矢も魔力も残り少なくなってきたし、どこまで持つかは、不安になってくる。
せめて仲間が来るまで致命傷を負わなければいいのだが。



「残念だが、もう引き金引かせる暇なんか与えねえぜ!!」


今度はぶん回しからの爆発攻撃か。


一度は食らってしまった攻撃だが、二度も三度も食らうほど甘くはない。
しかもさっきよりも敵の踏ん張りが深い。

1162光は死なない ◆qpOCzvb0ck:2018/11/29(木) 23:24:46 ID:41yJyd720
そう、深すぎるほどだ。

これなら斬撃と爆発のどちらも力をためているうちに躱すことが出来る。


(!?)

そう思い、油断したのが間違いだった。
いや、極論を言うと、油断していなくても同じことだが。

「うわあああ!!!なんだあああああ!?これはああああ!?」

黒い色をした、巨大な竜巻が起こった。
そのサイズは、バギクロス、いや、バギムーチョにも勝る。

その危険性を感じる間もなく、コニファーは巻き上げられる。


魔女とヘルバトラーの強大な魔力で竜巻を起こし、
それをザンクローネのぶん回しで増幅させたのだ。


息が出来ない。体はバラバラに引きちぎられそうになる。ともに巻き上げられた廃城の瓦礫が、身体中に突き刺さる。


いくら自然を味方につけたレンジャーといっても、これほどまでに理不尽な力には対抗することさえできない。
妖精たちのポルカで受けた守りの力も、こんなものの前では空気抵抗に等しい。

(すまねえ……みんな……)

そのまま竜巻の中でぼろ切れになると思ったその瞬間。


「荒ぶる竜巻よ!!コニファーさんを助けなさい!!バギクロス!!」

ザンクローネが起こした竜巻よりは小さいが、強力な聖なる竜巻がすぐ近くで巻き起こる。

邪悪な竜巻に比べると流石に心もとないが、その力を緩めた。

「アスナ!!今です!!」
「いっけえええええ!!ライ・ディィィィィィィン!!!」

真珠のように綺麗に青白く光る雷が、死を呼ぶ漆黒の竜巻を貫く。

地面に落ちそうになるコニファーを、寸前でフアナが受け止めた。

「お前ら………。」
「えっと……その………」
いつもの口調のアスナに戻ったようだ。どうやら無我夢中だったらしい。

「無事でした!?さっきの竜巻の止め方、『アリアハンコマ回し大会』の決勝戦を基にしたんですよ!!」

どうやらこちらも同じ様子だ。

1163光は死なない ◆qpOCzvb0ck:2018/11/29(木) 23:27:00 ID:41yJyd720

「ようやく本命のお出ましか。全員纏めて救ってやるよ。本当の英雄はオレだ。」
一度は宿主を倒した勇者が現れ、ザンクローネは邪悪に笑う。


ふっ、と笑みがこぼれる。
相も変わらず勝てる可能性は極めて低い、だが、絶望する気は全く起きない。
やはり仲間と言うのはいいものだ。

「私達がついていますからね!!絶対に諦めちゃだめですよ!!」

たとえすぐ近くにいなくても、どこかで見守ってくれる。

(――――――いつまでもウダウダしてんじゃねえ。俺たちがついてんじゃねえか。)
あの時アークに言った言葉。
こんな形で自分に返ってくるとは。

(なあ、アーク。お前だって、きっと感じてたよな。仲間ってやつの温かさ。)

まだ負けるわけにはいかない。
どんなに強い闇が襲ってきても、絶望が降りかかっても、光は死んでいないはずだ。






しかし、彼らはまだ気づいていなかった。




(何やら騒がしいですね……)
密かに城門に近づいたアベルは、戦いが起こっているのを見る。

あの竜巻を起こしたのは誰だ。
上手く仲間に出来れば、ジンガーやリオウ以上の力を手に入れることが出来る。

だが、城内にいるのが何者なのか分からない以上は、落ち着いて様子を伺おう。


怒りや喜びと言った感情は、邪魔になることはこの戦いで知っている。
思えばローラもろとも飛竜を逃がした怒りをそのままゴーレムとの戦いに引きずったため、剣の秘伝書が凄まじい武器になることを見逃した。
そのせいでゴーレムを仕留め損ね、後々で厄介なことになった。

港町の近くに飛ばされたのち、秘伝書の力は分かったが、自分で死のうとしている少女を怒りに任せて殺したせいで、面倒なことになった。

1164光は死なない ◆qpOCzvb0ck:2018/11/29(木) 23:27:41 ID:41yJyd720
思えば自分の人生は、ラインハットやグランバニアのように、城で大きく変わった。

このトロデーンという城で、どのように変わるかは、自分の行動次第だろう。


魔王はじっと待つ。
破壊のその瞬間を。


妖精にも、精霊にも、魔物にもない
人間にしか秘めることのできない、本当の闇を、そこにいる者達はまだ知らない。


【D-3/トロデーン城外/2日目 深夜】

【フアナ(女僧侶)@DQ3】
[状態]:HP1/4 MP1/10
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 パラディンの秘伝書 不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:自分だけが出来ることを探す。
:コニファーとアスナを守る
※バーバラの死因を怪しく思っています。

【アスナ(女勇者)@DQ3】
[状態]:HP1/6 MP1/10
性格「ひっこみじあん」
助骨骨折、内臓一部損傷
[装備]:ゴディアスの剣@DQ7  オーガシールド@DQ5
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)  サヴィオの支給品一式 道具0〜1個バレットハンマー@DQ10  ウェディングドレス@DQ9 アルゴンリング@DQ8
[思考]:エビルプリーストを倒す。
:ひっこみじあんを克服したい。
[備考]:不明支給品の中に性格を変える効果を持った本や装飾品は入ってません。
トロデーン城の地理を把握しています。


【コニファー(男レンジャー)@DQ9】
[状態]HP1/12 MP1/15 片目喪失  ピサロへの疑惑 攻撃力・防御力・ブレス耐性上昇
[装備]かりうどの弓@DQ9、毒矢5本 
[道具]支給品一式 カマエル
[思考]自分が生きているという感覚を保つため、とにかく生き抜く。仲間を探す。
[備考]:「みやぶる」でザンクローネの情報を入手しています。

【魔英雄ザンクローネ@DQ10】
[状態]:HPほぼ全快 MP7/10
[装備]:斬夜の太刀 @DQ10 ヘルバトラーの魔瘴石with進化の秘石(体内)
[道具]:支給品一式 不明支給品(0〜2) イザヤールの支給品(0~1)
[思考]:全てを壊し全てを救う
[備考]:グレイツェルの呪いとヘルバトラーの魔瘴により性格が反転し、破壊こそが救いだと考えています。
進化の秘石の力で傷が徐々に再生していきます。

【ヘルバトラー強@JOKER】
 [状態]: 魔瘴石化 ザンクローネの体内に侵入 グレイツェル及び進化の秘石と融合
 [思考]:ザンクローネの身体を使い破壊の限りをつくす
※死骸と闘志、それに魔瘴が合わさり、魔瘴石のような形になっています。
※ザンクローネが死ぬと彼も死にます。

1165光は死なない ◆qpOCzvb0ck:2018/11/29(木) 23:28:07 ID:41yJyd720
D-3/トロデーン城 城門/2日目 深夜

【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/3 手に軽い火傷 MP1/6
[装備]:破壊の剣
[道具]:支給品一式 剣の秘伝書 ヘルバトラーの首輪
[思考]:過去と決別するために戦う 全てを破壊する

1166光は死なない ◆qpOCzvb0ck:2018/11/29(木) 23:39:41 ID:41yJyd720
投下終了です。
以前60話と127話で、アベルの剣の秘伝書に関して矛盾があったそうなので、半ば無理矢理ですが設定を入れました。

60話の時点で、アベルはゴーレムのせいでローラとチャモロに逃げられたことで苛立っていた。

60話に、「支給品に雷を落とせる「ような」もの」と書いていたため、剣の秘伝書が雷を落とせるものだということを見落としていた
とこのように半ばご都合主義的に解釈しました。

・それが雷を落とせるものだと判明した時は、109話〜116話にかけて、アベルの描写に空白があるため、その際に剣の秘伝書の効果を知ったのだと解釈。
(109話では最後に予想外な形でルーラ草で飛ばされたため、不時着した際に荷物が散らばっていた可能性もあるため)

そのような形で、今回の投下でほぼ無理矢理な形ですが、埋め合わせを行いました。

仮にそれが「無理じゃね!?」だと思われても、今回の投下にはさほど問題がないため、そのまま採用します(アベルの秘伝書の件は保留にします。)


長くなりましたが、他に何かありましたらご意見よろしくお願いします。

1167ただ一匹の名無しだ:2018/12/02(日) 07:48:13 ID:XdfEcPtg0
投下乙です
やべえ敵を相手にしてるのに、新たにやってきたのがアベルとか…
アスナ達生き残れるのか…?

後、チョココロネとクロワッサンに笑ったw
見破るの精度パねえ

1168ただ一匹の名無しだ:2018/12/02(日) 11:49:31 ID:Qj4/ROjM0
投下乙です。

アベルは自身のアイデンティティが絡むと感情的になるキャラだと思っているので、
雷の部分については見落としがあっても違和感はないかなあと。

アベル自身、勇者以外が雷を扱うことで自分の存在意義を打ち消されるのを恐れ、認めていないような描写もあるし、
当人にとってかなりデリケートな部分なので情報の抜け漏れや見落としが生じたとしても大丈夫じゃないかな、と思います。

1169選択肢はそこにある ◆2zEnKfaCDc:2018/12/09(日) 23:21:01 ID:l.QKHOIg0
支給品の矛盾、大変申し訳ありませんでした。
埋め合わせ、本当にありがとうございます。

投下します。

1170選択肢はそこにある ◆2zEnKfaCDc:2018/12/09(日) 23:22:44 ID:l.QKHOIg0
何もかもが嘘のように消えていった。
自らの信じる正義も、もう助かる見込みもなかったほどの身体の深い傷も、いつも隣にいた元山賊の大男も。

我武者羅に伸ばした手は、何も掴めなかった。
だったら、最初から見えないものに手など伸ばさなければよかった。寄り道などしている暇はなかったというのに。


時間ばかりが過ぎ去っていく。
焦燥は次第に増していく。

先程まで死にかけていたようには到底見えない速さで、エイトは見慣れた道を走り続けた。

ただひとつの見慣れない景色として、トロデーン国領とトラペッタ地方を繋ぐ架け橋が繋がっていた。ヤンガスと出会った場所。

―――お前まさか……!あやつめはわしらを襲った相手じゃぞ!それを助けるというのか!?

―――ええ、ここで助けなければ、姫様もきっと罪悪感を背負うことになるでしょう。命だけは助けましょう。

この橋から落ちかけたヤンガスを助けたのは情けなどではなかった。
だというのに、ヤンガスは自分を兄貴分だと慕うようになった。

命の恩人への従属―――どこか自分と重ね合わせてしまい、自分にはヤンガスの同行を拒むことが出来なかった。
おそらくトロデ王も自分の思いを汲み取って、同行を認めてくださったのだろう。

当初は王に牙を向いた無法者を旅に加えること自体は気が乗らなかった。
しかしその実力が頼りになることはすぐに理解したし、人情味溢れる人間性までを信頼出来るようになるまで時間はかからなかった。

ヤンガスの同行を認めたことは正しかった―――その実感はすぐに湧いてきた。


(でも違う、違うんだ)


助けたわけではない。
自分のやるべきことをやったら勝手に向こうが助かっていただけなのだ。


(私のためなんかに命まで捨てなくても……)


そんな見返りを求めていたわけではない。
背中を預けられる相棒の存在に、自分も充足を覚えていたのだから。

1171選択肢はそこにある ◆2zEnKfaCDc:2018/12/09(日) 23:24:42 ID:l.QKHOIg0


(命懸けの献身なんて、求めてなんか――――)

そこまで考えたところで、思い至る。


(もしかして……貴方たちも……そうだったのですか?)


今までの自分がしてきてことが、ヤンガスと同じことなのだと。



―――お〜い!!

ふと、かつての記憶が頭の中に蘇ってきた。
あれは、無実の罪で投獄された煉獄島を脱出した時のことだった。


―――このアホっ!心配をかけおってからに!!どれだけ探したと思っとるんじゃ!

トロデ王は煉獄島に捕まっている自分たちをずっと探していたのだ。


―――陛下……どうしてこちらに……こんな、近衛兵ひとりのためにどうしてこんなにまで……!

自分はトロデ王の手足となって楽をさせねばならぬ立場であるのに、むしろ手間をかける枷となってしまっていることが心苦しかった。


―――阿呆が。


そんなエイトに対して、トロデ王は一言こう返した。

―――お前のことは、本当の息子のように思っとるよ。父が居なくなった息子を探すのに、理由など必要あるまい。

エイトの疑問に真っ直ぐ打ち込まれた言葉は、トロデにとっては"咎め"の一言だったはずだったのだ。従属関係ではなく、もっと踏み込んだ関係でありたいという願いがその言葉には込められていた。

しかしそれは、エイトにとっては"栄誉"でしかなかった。
優しい言葉をかけられる度に、その喜びは忠誠心へと変わっていった。


―――エイト。貴方はトロデーンの近衛兵として頑張ってくれていますわ。でも………

頭の中に蘇ってきた記憶はもうひとつあった。
ふしぎな泉を訪れ、一時的に話が出来るようになったミーティアに言われた言葉。


―――少し、哀しくもあるのです。貴方はいつも、私を守る者として私の前に立ってばかり。だから………どうか、私のことは姫様などではなく"ミーティア"とお呼びくださいませ。


―――分かりました。貴方のご命令とあらば。

エイトが答えたその時、ミーティアの顔はよりいっそう曇ったように見えた。

1172選択肢はそこにある ◆2zEnKfaCDc:2018/12/09(日) 23:25:44 ID:l.QKHOIg0
ヤンガスの死をもって、ようやく考えが至った。
今まで、自分は2人の本心を考えていなかったのではないだろうか。

いや、そもそも考えることの必要性自体を感じていなかった。
エイトにとって、2人の言葉は無条件に正しいものであったのだから。



(もしかして私は――――――)


走る。
嫌な考えを振り切るように、ただただ走り続ける。


(間違っていたのでは――――――)


その時、殺し合いの世界に第3回放送を告げる合図が響き渡った。

大地から空へと視線を移す。
放送を告げるエビルプリースト型の雲を空に認める。
そして空から大地へと視線を移す。
殺し合いに招かれた者たちを嘲笑うかのようなちょっとした空の演出が、実際の時間の何倍ももどかしく思えた。
早く、ミーティアの生存を確かめて安心したかった。

そんなエイトの焦燥を擽るかの如く、仲間の名前が次々と呼ばれていった。
ゼシカ。モリー。ヤンガス。
知っている名前が呼ばれたときでさえ、その名が"ミーティア"でなかったことに安堵する。



「さて…………」

トロデーン国領に入ってから初めて肉声を出した。
ただし、それは独り言ではない。

「もう仲間は誰も残っていないのに、彼女が生きているだけで安心している自分がいる……本当に私は冷たいですよね、お爺様。」

エイトに呼ばれたグルーノ、もといトーポがポケットから顔を出した。
しかし答えは何も返ってこなかった。

1173選択肢はそこにある ◆2zEnKfaCDc:2018/12/09(日) 23:26:31 ID:l.QKHOIg0
「おや………」


そのまま走りながら、トロデーン城の方をふと見る。
そこでは遠目でも分かるくらいの激しい戦闘が行われているようだ。
ククールのバギクロスを遥かに凌駕するほどの竜巻がちょうど巻き起こっており、城の天井が一部無くなっているのも見える。

「どうやら城でも殺し合いが起こっているみたいですね」

ふとポケットに目を移すと、こちらを見上げているトーポと目が合った。

「……分かっています。これを見過ごせばきっと人が死ぬと。でも……」

チーズをあげるときのようにトーポを手のひらに乗せる。

「例え誰が死のうとも、私には守りたい人がいるのです」

ここまでで手に入れた情報によると、ミーティアがトロデーンにいる可能性はゼロではないがかなり低いようだ。
少し前の自分なら、ゼロではない可能性を潰すためにトロデーン城へ突撃していただろう。

ただ、これまで微細な可能性を潰そうとしたことで多大な時間を浪費した。

もし最初に、ミーティアを殺すかもしれないと思って他の参加者を殺そうなどと考えなければ。
ミーティアがいる可能性を考えてトラペッタで連戦に巻き込まれなければ。
ターニアとホイミンに縋られるままに殺し合いに乗ってもいない者たちとの戦いを繰り広げなければ。

結果論ではあるが、そんな後悔の連続の果てにこの選択がある。

仲間と敵の区別を無くす。
ちょうど元の世界の仲間も全員居なくなった今、他の参加者たちをミーティアとそれ以外で区別すればやるべきことが明瞭に見えてくるように思えた。

1174選択肢はそこにある ◆2zEnKfaCDc:2018/12/09(日) 23:27:24 ID:l.QKHOIg0
「……お爺様」

だからといって、もちろん迷いがないわけではない。

「だんだん、分からなくなってきました。私がしようとしていることを彼女が真に望んでいるのか」

自分は近衛兵だ。
守るべき人は無条件で守らなくてはならない。
今まで疑うことのなかったその価値観に、一筋の疑問が浮かび上がってきた。

「私は……正しいですか?」

幼い頃から真面目で、忠誠心が強くて、そして。 
心優しい、穏やかな青年。

そんな人物であるエイトに、誰かを見捨てる選択には少なからず葛藤が襲いかかる。 

「肯定なら、左肩に」

返事の出来ないトーポに対し、合図を示す。
ただし、トーポは動かない。

つまりは、自分が間違っているということだろう。

このままお爺様の指し示すままに行動して、自分で選択を行わずに済むのならどれほど楽だろうか。

次の瞬間、何かに思い至ったかのようにエイトはぶんぶんと首を振った。



「………否定なら、右肩に」



やはりと言うべきか、逆の合図を発してもトーポは一向に動く気配を見せない。


ああ、そうか。


「貴方は今も、今までも、ずっと傍観者だったのですね―――お爺様」

1175選択肢はそこにある ◆2zEnKfaCDc:2018/12/09(日) 23:28:33 ID:l.QKHOIg0

アルゴンリングを渡された時、グルーノはそれをどう使うべきかについては何も言わなかった。
トーポとして旅に同行していた彼は、その指輪がどんな意味を持つのか分かっているはずなのに、だ。

エイトの両親、エルトリオとウィニアの恋路はグルーノによって引き裂かれた。
それは娘のことを思っての行動であると理解しているし、彼の後悔も充分に伝わってきている。
だから、彼自身の行いによって自分たちの幸せを妨げるのを過剰に恐れていたのだろう。


「お爺様、私は………貴方を恨みます。私と彼女の間に消えない呪いをかけた貴方を………」


そう、全ての始まりはエルトリオとウィニアの悲劇だった。
ミーティアの結婚相手がチャゴス王子になったのも、人間と竜神族の子として産まれた自分が真っ当な人生を送れなかったのも――――そして何より、自分がミーティアと同じ立場でいられないことも。


それを言い放った時、祖父の姿がその姿以上に小さく見えた。


「……とはいえ感謝もしているのです。近衛兵としてあの方々と過ごす生き方は、私にとって幸せな日々でした」



「でも―――それでも………」



「もうひとつの生き方が与えられた時、私の世界は変わりました」



「あのチャゴス王子を蹴落とせる自分を知ってしまいました」



「近衛兵ではなく、花婿として。彼女の隣に並び立てる自分を知ってしまいました」



「しかしそれは、真に望む自分ではなかった」



「そう、私は本当は………」



「貴方のように、なりたかった」



「大切な人の誇りを守って、そしてその行く先を見届けたかった」



「貴方が私に届けてくださったことを、大切な人に届けたかった」

1176選択肢はそこにある ◆2zEnKfaCDc:2018/12/09(日) 23:29:21 ID:l.QKHOIg0



「たった、それだけでした」



祖父は最後まで動かなかった。
エイトの問いに答えを出さなかった――――否。それが、それこそが、彼の答えだった。


エイトは、分かりましたと小さく呟く。


「私の正しさは私が選択します」


祖父は自分の選択を責めない。
最後まで傍観者で在ることを選んだのだ。


「そして私はやはり、彼女だけを守る近衛兵で在りたいようです」


この世界から生還した時、あの呪われし結婚式が再び彼女を待ち受けるのだろう。
チャゴス王子に委ねては、ミーティアは幸せになれない。
アルゴンリングを提示すれば、自分は近衛兵ではいられない。

一見、茨にまとわりつかれたかのように八方塞がりの状況。
だけど、ハッピーエンドの余地はまだ残っている。


「…お爺様」


なぜなら、選択権は彼が握っているのだから。


「………私に選ばせてくれて、ありがとうございます」


【C-4/トロデーン地方 草原/2日目 深夜】

【エイト@DQ8】
[状態]:健康 MP1/3
[装備]:奇跡の剣
[道具]:支給品一式 道具0〜2個 トーポ(DQ8)、激辛チーズ(DQ8)
[思考]:ミーティアを守る。それまで誰とも協力せず、誰とも戦わない。

※レックとチャモロを危険人物ではないかと疑っています。
※トーポは元の姿には戻れなくされています。

1177選択肢はそこにある ◆2zEnKfaCDc:2018/12/09(日) 23:29:47 ID:l.QKHOIg0
投下終了しました。

1178ただ一匹の名無しだ:2018/12/10(月) 23:54:14 ID:yA6SGSuE0
投下乙です
ヤンガスを助けたエイトとこのロワのエイトがどうしても重ならない違和感が今まであったけど、なるほどこういう解釈の仕方もあるんだなあ

1179 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/05(土) 23:44:02 ID:50PiqKQ.0
少し遅くなりました、すみません。
トリップを忘れてしまって変わってしまいましたが、◆jHfQAXTcSoを使っていた者です。またもトリップでミスをしてしまって申し訳ないです……。
それでは投下します。

1180そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/05(土) 23:45:40 ID:50PiqKQ.0
「へんげの杖、ですか」

ジャンボが到着していないかチャモロが様子を見に行っている間、サフィールとブライは支給品の確認を始めていた。
二人ともが扱う武器である杖は特に、特殊な力を秘めたものが多い。把握しておいて損はないだろう。
自らの力だけに頼らずそういったものを駆使すれば、不利をもひっくり返すことができる。
消え去り草で姿を消してクリフトを射抜き、ブライたち四人から逃げ延びたククール。
彼の手によって失われた若い命は悔やんでも悔やみきれないが、だからこそ、彼との戦いから活かせることは活かしておきたかった。

「うむ。これを使えば、名前の通り姿を変化させられるのじゃ。人になることもできれば、魔物になることだってできる」
「人にも、魔物にも……」

神妙な顔をして、サフィールは杖をじっと見つめる。

(ゲマがおかあさんに化けてたのは、きっとこの杖を使ったから……)

父への仕打ち、母の騙り。許せないゲマの悪行はいくらでもある。
正直なところ、複雑な想いが消えはしない。
けれど。

「……この杖、わたしが使ってもいいですか?」
「サフィール殿が?」
「はい。わたしには、魔物の友達もたくさんいるんです。おとうさんが仲間にした子たちが。
 姿だけ借りてもみんなほど強くはないかもしれませんが、もしかしたら……役に立つかもしれません」
「ふむ、そうか。ならば確かにサフィール殿が持つのが適任じゃな。打撃に使うのは向かんから、そこは気を付けられよ」
「はい。ありがとうございます 」

仇敵が持っていたから使わないと選り好みをしているようでは、アベルと再び対峙することができない。
兄を失い、母も失い、もうこの世界にはたった一人、父であるアベルしか家族が残っていないのだ。
絶対に、アベルを止める為に。たった一人置いていかれない為に。
決意を込めて、へんげの杖を受け取った。

1181そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/05(土) 23:47:31 ID:50PiqKQ.0
 


「サフィールさん、ブライさん!!」
――いまだにしぶとく生き残ってる諸君、ご機嫌如何かな?

その時だった、ふたつの声が同時に聞こえてきたのは。

「チャモロ殿、そんなに慌ててどうしたのじゃ?」
「しまった、放送が……いえ、それどころではありません。すぐにここから逃げなければ!」
――まずは禁止エリアの追加からだ。
「すぐに、ですか!?」
「すぐにです、この街にキラーマジンガが……!」
――2時間後に【D-8】【H-8】
「なんじゃと!? ライアン殿とアルス殿はすれ違ってしまったのじゃろうか……」
「なら今度こそ友達に……あ、待って下さい、禁止エリアが……!」
「ですが、キラーマジンガが二体に増えていて、それどころでは……!」
「え……二体!?」
――4時間後に【H-3】

今後の命に関わる禁止エリアが通達される放送と、街を訪れたキラーマジンガ。しかも二体。
チャモロがパニックに陥っていることもあり、瞬く間に混乱が広がる。

「元の世界でも何度か戦ったことがありますが、こんなことは一度も……!」
――6時間後に【J-7】【F-1】だ。
「……っ、先に禁止エリアじゃ。メモを終えたらすぐに出ますぞ!」
「あ……すみません、取り乱して…… 」

項垂れるチャモロに大丈夫じゃと声をかけ、急いで地図を取り出し、ブライは禁止エリアを書き込んでいく。
D-8とH-8に2、H-3に4、J-7とF-1に6。
禁止になるまでの時間を入れるだけという最低限のメモを終え、三人は建物から飛び出す。

「ゴーレムさん、合流できました! 逃げましょ……っ!!」

少し距離を空けたところでキラーマジンガの足止めをしていたゴーレムにチャモロが声を張り上げるが、その鼻先を矢が掠めた。
飛んできた方向を見ると、折れていない剣を持っているキラーマジンガ。
ゴーレムが止めているキラーマジンガもまた、足止めの役を担っていたようだ。
微かに顔をチャモロたちの方に向けたので、ゴーレムに声は届いたようだ。

――ゲレゲレ
「え……!?」

その間も無情な放送は続き、死者の名前を連ねていく。
大きな反応を見せたのはサフィールだ。

(ゲレゲレが……)

矢を警戒しながら顔を歪める。
しかし、今は悲しんでいる余裕も、弔っている余裕もない。
心の中で、何もできなかったこと、何もしてあげられないことを謝り続ける。

1182そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/05(土) 23:48:53 ID:50PiqKQ.0
(ちゃんと、祈ってあげたい……でもごめんね、今はまだできそうにありません。
 かならず、きちんと祈るから……今は少しだけ、あなたの力を貸してください)

「チャモロさん、ブライさん!」

へんげの杖を振りかざしながら、サフィールは二人に向かって叫ぶ。

「へんげの杖を使います! 私に乗ってください!」

杖の力を使ってキラーパンサーに変化する。
サフィールが知る中でも足が速く、イメージもし易いキラーパンサーは、この場を切り抜けるには最適だ。
素早く礼を述べて、チャモロとブライはその背に乗り込む。

「ジャンボさん、でしたっけ。こうなると、早く合流した方が良いですね」
「ああ。ヤンガス殿はここより南西で会ったらしく……」
――ヤンガス

ほぼ同時に放送でヤンガスの名前が挙げられる。
サフィールは不安そうに一瞬立ち止まり、チャモロとブライは顔をこわばらせる。
告げられた名前が意味すること。
それは、ヤンガスが死んでしまったこと。西で何かがあったこと。そして、名前こそ呼ばれなかったが、ジャンボが無事ではない可能性もあること。
どうしましょう……と言うように、サフィールがガルルと弱々しく咽を鳴らす。

「……南にはどのみち、アルスさんたちくらいしかいないと思います。一か八か、南西に向かいましょう。いざとなったら、近くの城にも向かえます」
「うむ、彼らとは合流するにも時間がかかりそうじゃ……それまでに追い付かれるわけにもいかんしな」
「すみません、女性に足を任せてしま……あ、危ない!」

サフィールに声をかけていたチャモロは咄嗟に振り向き、かまいたちを放つ。
キラーマジンガから放たれた矢が、勢いを失って地面に落ちた。
矢を引き絞りながら向かってくる様子に歯噛みする。
キラーマジンガの襲来と逃避に頭がいっぱいで、チャモロはローラの名前が放送で呼ばれなかったことに気付かなかった。
再びかまいたちを放つ準備をしていると、すぐ側で魔力が渦巻くのを感じた。

「ブライさん、何を……!?」
「矢避けになればと思いましてな。磨耗するが、そうとも言ってられぬ」

1183そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/05(土) 23:50:35 ID:50PiqKQ.0
ククールの居場所を突き止め、追撃を封じたマヒャドの吹雪。
発動直前の魔法の維持はかなりの疲労に襲われるが、今は生きて逃げることが最優先だ。
キラーマジンガは二体いる。矢を射つ相手が一体だけならチャモロに任せても大丈夫だろうが、二方向からの射撃は対処しづらいだろう。
少し遅れてついてくるゴーレムもどちらかを抑えるよう動いているが、やはり身軽なのはキラーマジンガたちの方だ。

(このまま逃げ切れるといいのですが)

自分よりもずっと幼いサフィールに走らせ、自分よりもずっと長く生きているブライに矢避けを任せるこの状況はもどかしいが、その分チャモロはキラーマジンガたちを注視し警戒する。
足止めしているゴーレムの対処よりも逃げる三人を追うのを優先しているらしい、どちらのキラーマジンガもゴーレムの攻撃を受け止め、回避することはあっても反撃はしていない。
どちらかが近付いてきてもいいように、しんくうはの構えを取る。

吹雪いていては矢が通じないと、キラーマジンガたちも判断している。
ならば素早く近付いて接近戦を持ちかけてくるはず。
そのチャモロの予想に反し、ゴーレムの横をすり抜けたキラーマジンガは距離を空けて止まった。
不思議に思いつつ警戒を解かずにいると、いつの間に拾っていたのか、大きな瓦を放り投げ、ハンマーで打ち付けて飛ばしてくるではないか。

(まずい……! 一本一本が軽い矢ならともかく、あの瓦は流石に吹雪では防ぎきれない!)

焦りを感じ、チャモロはしんくうはで瓦を砕く。
直撃こそ免れたがそれが災いして、砕けてひとつひとつが軽い欠片になった瓦が吹雪に舞い、チャモロたちに細かい傷を付けていく。
咄嗟に骨折している左手を右手で覆って庇うが、その隙に、もうひとつ瓦が飛ばされてきた。

「しまった……!」

行動を起こす暇もなく、瓦礫がサフィールの後ろ足に直撃する。
必死なのだろう、サフィールは転倒こそしなかったものの、揺れるリズムが急に変わったことで魔法の維持に集中していたブライが振り落とされてしまった。

「ブライさん!!」

チャモロが叫び、サフィールが立ち止まる。
幸い大きな怪我はないようだが、ギリギリまで展開していたマヒャドは霧散せず、制御が効かなくなりキラーマジンガにぶつけられた。
こんな状況でブライにマヒャドが跳ね返ったらと青ざめるチャモロは、次の瞬間の光景に驚く。

(魔法が跳ね返されていない……!?)

1184そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/05(土) 23:52:03 ID:50PiqKQ.0
そのキラーマジンガが手にしているのは、聖王のつるぎと聖王のハンマー。体の下部には聖王の弓。
トンヌラやアルスたちと戦ったキラーマジンガとは別の、いつの間にか増えていた方のキラーマジンガのようだ。
疑問を抱きつつブライに駆け寄ろうとするが、吹雪が消えたことによりキラーマジンガが矢を引き絞ってこちらに向けていることに気付く。
ブライを助け起こそうとする隙を狙うつもりだったのだろう。
迂闊に近寄れずにいると、ゴーレムが足止めしていた方のキラーマジンガも見計らってすり抜け、ブライと分断しようとチャモロたちに向かっていく。

「チャモロ殿、サフィール殿と共に先に南西へ!」
「ですが……!」
「ゴーレム殿もおる、上手くいけば奴らの方も分断できる。急ぐのじゃ!」

キラーマジンガBが放った矢を、大きな腕が阻む。
気圧されたのか納得したのか、チャモロはサフィールと目を合わせ頷き合うと、ジンガーの剣を避けて、ブライに叫んだ。

「すぐに助太刀に戻ります! ご無事で!」

そのままジンガーから離れるように跳躍すると、サフィールが駆けてきて背でチャモロを受け止める。
二体でこの場に残さないように、挑発するようにジンガーを振り返り攻撃射程ギリギリの距離を保って走っていく。
例えジャンボが無事でなくても、一体相手なら二体同時に相手取るより余程良い。

「個体B」
「yes」

しかしそれに合わせてくれるほど、機械兵はお人好しではない。
一方は無理な魔法の展開で息切れする老人と攻撃が大振りで見切りやすいゴーレム。
もう一方は近接戦の心得がある少年と魔物に変化する術を手に入れた少女。
先に二体がかりで後者を始末するべきだと二体ともが判断して動き始めた。

「しんくうは!」
「ヒャド!」

チャモロとブライもまた、キラーマジンガたちに合わせる道理はない。
真空の刃は二体の間を通るように放たれ、氷塊はキラーマジンガBの関節部分を正確に狙って生まれ、微かに動きを鈍らせる。
キラーマジンガを見慣れていないブライだが、ジンガーの折れた灼熱剣エンマが目印になり、魔法を弾かないのがどちかをすぐに認識できた。

1185そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/05(土) 23:53:52 ID:50PiqKQ.0
しんくうはとヒャドで生まれた隙を見逃さず、ゴーレムもまた行動に出る。
自身を狙う拳を受け止めようとするが、ブライがかけたピオリムによってインプットされていたデータを超える素早さでゴーレムが迫り、キラーマジンガBは軽く吹き飛ばされた。
サフィールも走る方向を急転換してジンガーに突進し、更に二体の距離を引き離す。

互いに分断された状態。
合流して二体で連携を取るのが難しいと判断したのか、キラーマジンガたちはそれぞれ近い方の二人組に向き直る。
サフィールたちは常にジンガーと付かず離れずの距離を保ち、合流に向かう素振りがあればすぐさまチャモロがかまいたちやしんくうはで妨害する。
そうして「まずは自分たちを倒さねば合流できない」と認識させ、徐々にキラーマジンガ同士の距離を空けていった。
一方ブライたちは大きな動きは見せず、キラーマジンガBと対峙する。
ピオリムに加えバイキルトもゴーレムにかけて、合流に向かおうものなら先程よりも手痛い一撃を叩き込む準備ができていると見せ付ける。

サフィールたちがジンガーを引き離して、すぐには駆けつけられない程の距離になった頃、キラーマジンガBが先制を仕掛けた。
ゴーレムの現在の素早さは既に記録していたが、バイキルトで増幅された力も測る為、軽く斬りかかる。
腕全体で横に払われたが、その勢いに体が持っていかれかけた。

(恐ラク今ノママデハ、マトモニ当タルト深刻ナ損傷ニ繋ガル)

ゴーレムの戦闘データを更新しながら、キラーマジンガBはブライに向けて矢を引き絞る。

「ヒャド!」

再びブライが関節部分に氷を発生させ、その動きを鈍らせて狙いから逸れる。

(威力ハ気ニスル必要ナシ。シカシ一瞬、稼働範囲ニ支障アリ。矢ニヨル攻撃ハ非効率)

キラーマジンガBはそのままブライを深追いせず、射撃を止めようと背後から向かってくるゴーレムの腕を聖王のつるぎで逸らし、聖王のハンマーを叩き込んで即座に離れた。
人間であれば骨も砕けかねない攻撃にも動じず、ゴーレムは距離を詰める。

1186そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/05(土) 23:54:38 ID:50PiqKQ.0
「ピオリム!」

ブライの補助を受けると同時に、掴むようにキラーマジンガBに手を突き出す。
更に素早さを増したそれを回避しきれず、剣とハンマーでギリギリ受け止めた。機械の腕がミシミシと音を立てる。

(素早サノ上書キ完了。補助ト同時ノ攻撃パターン、インプット完了)

先程より更にゴーレムから距離を取るとキラーマジンガは矢を番え、再びブライに狙いを定める。

「ヒャド!」

ブライが関節に氷を発生させ、その隙に堅いゴーレムが射線上に割り込んだ。
キラーマジンガBはそのまま矢をゴーレムに射ち、反撃が来る前に横に逸れる。

(氷塊発生カラ射撃マデノラグ、把握。両者射程外カラノ攻撃ヘノ反応、インプット完了)

ジンガーが持っていたデータによれば、ゴーレムの行動は、ほとんどが「誰かを守る」為のものであるらしい。
キラーマジンガBはそのデータが正確であること、ある程度時間が経っているが変わってはいないことを確認できた。
ブライもまた、ヒャドで動きに制限をかけたりゴーレムへの補助はしているが、マヒャドのような大技は放ってこない。
どちらかというとキラーマジンガBを倒すよりも、粘って時間を稼いでいるような戦い方だ。

(町デ断片的ニ聞コエタ会話カラ、仲間ガじゃんぼトイウ者ヲ連レテ来ルノヲ待ッテイルト予測)

キラーマジンガBはジンガーが一度彼らの仲間に誘われたというデータは持っている。
だが、その根底にある“みんな友達大作戦”の存在は知らない。ジンガーが誘われたのも、単純に戦力の強化を求められただけとしか判断していない。
ジンガーをトレースこそしているものの、あくまで持つものは経験ではなくデータ。
心の無い機械兵はそれに揺り動かされることもなく、理由を知ろうとすることもない。

1187そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/05(土) 23:56:18 ID:50PiqKQ.0
(バイキルトもまだ残っておるし、ピオリムももう一回は効果があるはず)

キラーマジンガBの挙動に注意したまま、ブライは考える。

(ヒャドで一時的に鈍らせることはできる。じゃが、それもいつまでも持つまい……)

相手は疲れを知らず、思考も止まることのない機械。
その場しのぎの対策など、すぐに通用しなくなるはずだ。

キラーマジンガBが矢を番えたことに気付く。
しかしブライだけでなくゴーレムも射線上にいるため、ヒャドを使って逃げる必要はなさそうだ。
動き出すゴーレムに合わせて、ブライは呪文を唱える。

「ピオリム!」

効果の上限ギリギリまで素早さを上げて、少しでも均衡をこちらに傾かせる。
一先ずピオリムやバイキルトを切らさずこのまま膠着させておけば、被害を抑えられる。
その間に次の手を考えよう。
そう思っていた。

――キラーマジンガBが凍てつく魔弾を放つまでは。



凍てつく魔弾を撃ち終わると、キラーマジンガBは素早くハンマーを構えて、ゴーレムに打撃を加える。
防御するゴーレムの動きは目に見えて素早さが落ちていて、キラーマジンガBの腕も微かな振動こそあるものの、先程と比べ大して音は立たなかった。
ピオリムもバイキルトも、効果が失われていることは明白だ。

「今のは一体……ぐっ!?」

予想外の展開にブライは大きな隙を見せてしまう。
それを見逃すはずもなく、キラーマジンガBに矢を放たれ――胸を深く貫かれた。

ジンガーと同じ機械兵でありながら、その実違う機械兵のキラーマジンガB。
ジンガーに関する情報とは違う部分が、大きな痛手となったのだった。

1188そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/05(土) 23:57:43 ID:50PiqKQ.0
 


「……微弱ナガラ生体反応、アリ。支給品次第デハ回復ノ恐レ、アリ。追撃ノ必要、アリ」

即死こそ免れたものの、ならば確実に仕留めようとキラーマジンガBがブライに迫る。
その間に、ゴーレムが割って入った。

「邪魔ダ」

ゴーレムの拳と聖王のハンマーがぶつかり合う。
腕の隙間を縫って矢をブライに向けると、ゴーレムはハンマーを横に逸らしてキラーマジンガBの体ごと狙いを外させた。

「イクラ守ロウト、モウ時間ノ問題ダ。何故無駄ナコトヲスル?」

もの言わぬゴーレムは何も答えない。
キラーマジンガBの疑問は解けることなく、だからといって解こうともされなかった。
矢を番えるとゴーレムに矢を叩き落とされる。それと同時にキラーマジンガBはハンマーでゴーレムを叩き付ける。
ブライを狙うと必ずゴーレムはその行動に反応して防ごうとしてくる。
キラーマジンガBはゴーレムの脇を抜けるように剣を振り上げ、矢を番え、ブライを狙っては、それを阻止するゴーレムをハンマーで殴り着実にダメージを与えていった。



(情けない……まだ若者が残っておる。ゴーレム殿だって、こうして戦っておる。まだ、死ぬわけにはいかんというのに……)

痛みと大粒の汗に顔を歪めながら無理矢理目を開けると、ゴーレムとキラーマジンガBの攻防が見える。
自分が狙われているために、ゴーレムがダメージを負っていっている。
せめて、もう一仕事。
守ろうとしてくれる彼の為に、できることをしなくては。
幾度めかの番えられた矢を叩き落とそうとしているのか、ゴーレムが腕を動かしている。

「ピオ、リム……」
「バイ……キ、ル、ト……」

先程も使っていた呪文をゴーレムにかける。
キラーマジンガBももうこの呪文を使えることは把握しているだろうが、この状況なら無意味にはならないだろう。

サントハイムに誰も残せないこと。
アリーナのことも、クリフトのことも、語り継げないこと。
アルスやライアン、チャモロやサフィール――この世界で知り合った仲間たちを置いていくこと。
目の前のゴーレムすらも見届けられないこと。
若者たちよりも先が短いながら、ブライにはやり残したこと、悔しいことがいくつも残っていた。

(すみませんのう、姫様、クリフト……わしも、そなたらの所に――)

1189そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/05(土) 23:59:03 ID:50PiqKQ.0
 




ブライが最期に残したピオリムとバイキルト。
再び強化されたゴーレムの腕は、凍てつく魔弾を放たれる前に聖王の弓を掴んだ。

「……!? 離セ……!」

聖王のハンマーで何度もゴーレムを叩き付けるが、ゴーレムは頑なにその手を離さない。
抜け出そうにも、バイキルトで増している腕力相手には分が悪すぎる。
再び強化を解除しようにも、至近距離で肝心の弓を掴まれてはそれも叶わない。

(早ク抜ケ出サナケレバ、増援ノ可能性アリ)

何度も何度も叩き付ける。
ボロボロとゴーレムの体が崩れていくが、それでも手は離れない。

ガツン! ガツン!
大きめに片腕が欠けた。
ガツン! ガツン!
同じ部分を叩き付けると更に抉れた。
ガツン! ガツン!
ゴーレムは反撃しようとしない。不可解だ。
ガツン! ガツン! ……ゴトン
片腕が落ちた。だが、もう一方の手がまだ弓を掴んでいる。
ガツン! ガツン!
まだ打つ。ジンガーと合流して命令を待たなければならないのだ。

残った腕も落ちそうになった時、ゴーレムの体に光が集まり始めた。
落ちた片腕も、残っていた抉れた腕も、衝撃で胴体から零れ落ちていた欠片も。
大部分が元通りになっていく。

「…………」

それでも尚、ゴーレムは攻撃を加えてこない。

「……不可解ダ」

ゴーレムの行動の不可解さやメルキドの秘法によるダメージの回復。
事象が重なり、キラーマジンガBは回路が熱暴走でもしたかのように怒りを表し始めた。

「生命活動ガ停止シタ者ノ前ニ立チ続ケルノモ、ヤツラガ協力ヲ持チカケルノモ、不可解ダ。ソンナ者ニ邪魔ヲサレルノモ不可解ダ!」

1190そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/06(日) 00:00:00 ID:G1.zpUhU0
聖王のハンマーに力を溜め始めると、弓を掴んでいた腕が片方ハンマーを握る手にも伸びてきた。
その伸ばされた腕を拒否するように聖王のつるぎではげしく斬りつける。
刃こぼれも気にせず繰り返し斬りつけ、再び腕が近付く前にハンマーを振り下ろす。
怒りの込もったグランドインパクトが地面を震わせ、自分ごとゴーレムに衝撃波を浴びせる。
斬りつけられた腕が砕け、反対の腕や胴体からもパラパラと瓦礫が落ちる。
体の中心にはすかさず痛恨の一撃が繰り出され、咄嗟の防御も間に合わず、ゴーレムはガラガラと崩れ落ちた。



「撃退、完了――」

ゴーレムに掴まれたまま無理矢理グランドインパクトを放ったせいで、キラーマジンガBの聖王の弓はボロボロになってしまった。もう使えないだろう。
時間がかかったため追い付くのに多少時間はかかるだろうが、ジンガーの元へ向かわなければならない。
ブライとゴーレムのふくろを回収して、キラーマジンガBはそのままくるりと向きを変えた。
が、進もうとした時。

「――熱源感知」

新たな気配を察知し、キラーマジンガBは止まって振り返る。
ゴーレムだった瓦礫から反応があるようだ。
まさか復活でもしたのかとゆっくりと近付く。





「……っ!」
「サフィールさん?」

ジンガーを警戒しながらジャンボを探していたサフィールは、ぴくりと耳を動かして北東に顔を向ける。

「どうかしましたか?」

チャモロの言葉に首を振ると、 少しジンガーに詰められた距離をまた空けて、サフィールは駆け出した。

1191そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/06(日) 00:01:07 ID:G1.zpUhU0
 


◇◆◇◆◇

あたたかいものをもらった。
ネプリムに名前をもらった時。
サフィールの小さな手に触れた時。
彼女たちを、そして、そのあたたかいものを守りたいと思った。

サフィールがみんな友達大作戦に協力すると言った。
友達というものが何なのか、ゴーレムにはよく分からない。
けれど、みんなで手を取り合うという作戦は、一度垣間見た闇の記憶とは真逆の内容だった。
闇に覆われたメルキドは争い合い、憎み合い、冷たくて醜い世界だった。
そうならない世界を、サフィールたちと作っていく。
ゴーレムもまた、言葉にこそできないが、協力したいと思った。

サフィールはジンガーとも友達になろうとしていた。きっとキラーマジンガBとも友達になろうとする。
ならば、未来の仲間を傷付けてはならない。
二体同時に攻撃を掻い潜りながら友達になるのは難しくても、一体相手なら。近くに協力者の当てもあるのなら。
サフィールがジンガーを友達にして戻ってくるまで待たなければならない。
戻ってくるまで傷付けず、耐えようとしていた。



サフィールと出会った場所に、ひとつの醜くなったものがあった。
人だったはずの、原形を留めていない塊だった。
命を落として尚、守られなかった者がそこにいた。

ネプリムの穏やかな顔を思い出した。
同じような目に遇わせたくなかった。
消えてしまった命にも、守りの手は必要なのだということも知った。





守りたいものがたくさんできた。
守りきれないけれど守りたい。
花で囲んだ彼女のことも。
すぐ側で死んでしまった老人のことも。
まだ西で頑張っている彼女のことも。
守りたい。
もっと守りたい。



守りたいという強い想い、消えない想い。
瓦礫になってしまったゴーレムの残骸に、その想いが宿った。

ゴーレムの心は、まだそこに遺されている。

1192そこに宿る心 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/06(日) 00:02:40 ID:G1.zpUhU0
 


【ブライ@DQ4 死亡】
【ネプリム(ゴーレム)@DQ1 死亡】

【残り25人】


【F-3/平原/2日目 深夜】

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP7/10 MP1/6 左腕骨折(応急処置済み) ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)軽くパニック状態
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める サフィールと共にキラーマジンガから逃げてジャンボを探す
※チャモロはローラが死んだと思っています。
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。また、はぐれメタルの職業を少なくともLv7まで経験しています。魔法使い、魔法戦士、賢者、勇者は経験していません。

【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP:9/10 MP 2/5
[装備]:ドラゴンの杖
[道具]:支給品一式×3、へんげの杖、ショットガン、999999ゴールド
[思考]:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
おとうさんを見つけて止める
みんな友達大作戦を手伝う

【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:HP1/4 
[装備]:折れた灼熱剣エンマ@DQS メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:アベルを探す、邪魔する者は破壊する。
[備考]:サフィール達に疑問を抱いています。


【F-2/平原/2日目 深夜】

【キラーマジンガB@DQ10】
[状態]:HP5/8
[装備]:聖王のつるぎ@DQ10 聖王のハンマー@DQ10 壊れた聖王の弓@DQ10 アクセルギア@DQ10
[道具]:支給品一式
[思考]:ジンガーと同じことをする。
[備考]:DQ10のキラーマジンガの特技を使いこなします。
アベルと出会う前のジンガーのように、命令がインプットされていない状態です。
命令する者が現れるまでは、ジンガーの行動をトレースします。

※ゴーレムの体の一部がゴーレムの心に変化しました。

1193 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/06(日) 00:03:53 ID:G1.zpUhU0
以上で投下終了です。
誤字、脱字、指摘などあればお願いします。

今年もドラクエロワが盛り上がりますように!

1194ただ一匹の名無しだ:2019/01/06(日) 00:43:55 ID:ieaf3Q5.0
投下お疲れ様です

2体のキラーマジンガとの戦いの中に見られる、10で前衛の相撲が崩れて後続の魔法使いが射程に入ってしまった様子なんかを想起させるような細かい描写には魅入られるよなぁ
状況がありありと思い浮かぶ
お互いに色々考えながら戦っているのがすごく伝わってきて、読み手側としても、おそらくブライ自身としても、マジンガBには呪文が効くからブライとの相性は悪くない、そう思っていたところに撃ち込まれた凍てつく魔弾の絶望感は本当に背筋が凍てついた

ゴーレムが遺して、ジンガーも含むキラーマジンガを巡る話の鍵となりそうな"心"がどう動くのか楽しみでならない

改めて、投下お疲れ様です

1195ただの一匹の名無しだ:2019/01/06(日) 01:24:38 ID:3BIDUP0E0
投下乙です!!
心無いはずのキャラクターが心を手に入れて、他の強敵に立ち向かう展開は何度読んでも熱い!!
ブライもお疲れ様。ククールバラモスマジンガと強敵相手によく戦ったよ。
それからジャンボ早く来てくれ!!

1196 ◆i1hhTb.klQ:2019/01/06(日) 08:55:49 ID:G1.zpUhU0
すみません、そこに宿る心の状態表を一部直し忘れてました。



【F-3/平原/2日目 深夜】

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP7/10 MP1/6 左腕骨折(応急処置済み) ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)軽くパニック状態
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める サフィールと共にキラーマジンガから逃げてジャンボを探す
※チャモロはローラが死んだと思っています。
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。また、はぐれメタルの職業を少なくともLv7まで経験しています。魔法使い、魔法戦士、賢者、勇者は経験していません。

【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP:9/10 MP 2/5 左足打撲
[装備]:ドラゴンの杖
[道具]:支給品一式×3、へんげの杖、ショットガン、999999ゴールド
[思考]:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
おとうさんを見つけて止める
みんな友達大作戦を手伝う

【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:HP1/4 
[装備]:折れた灼熱剣エンマ@DQS メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:アベルを探す、邪魔する者は破壊する。
[備考]:サフィール達に疑問を抱いています。


【F-2/平原/2日目 深夜】

【キラーマジンガB@DQ10】
[状態]:HP5/8
[装備]:聖王のつるぎ@DQ10 聖王のハンマー@DQ10 壊れた聖王の弓@DQ10 アクセルギア@DQ10
[道具]:支給品一式×3、魔封じの杖、道具0〜2個(ブライの不明支給品)、道具0〜2個(ゴーレムの不明支給品)
[思考]:ジンガーと同じことをする。
[備考]:DQ10のキラーマジンガの特技を使いこなします。
アベルと出会う前のジンガーのように、命令がインプットされていない状態です。
命令する者が現れるまでは、ジンガーの行動をトレースします。

※F-2にゴーレムの心が出現しました。



正しくはこちらになります。

1197ただ一匹の名無しだ:2019/01/06(日) 17:16:14 ID:.Za9ZJVc0
投下乙です
バフで均衡保ってるとこにバフ解除とかそんなん来られたらたまったもんじゃないよなあ
Bはランドインパクトとかも使えるみたいだし、反射がない代わりにジンガーが使えないような絡め手を持ってるのが厄介か

1198 ◆2zEnKfaCDc:2019/01/14(月) 22:55:04 ID:a3SVvFg60
ゲリラ投下します。

1199星空を継ぐ者 ◆2zEnKfaCDc:2019/01/14(月) 22:56:22 ID:a3SVvFg60
あたしは、天使信仰というものが大嫌いだった。

――ポーラには不思議なものが見えるのよね。きっと、瞳に天使様が宿ってるんじゃないかしら。

「見える」ことにコンプレックスを抱えていたあたしを励まそうと、母はそう言った。

冗談じゃない。
仮にそうだとして、みんなが信じて止まない天使様のご加護とやらはこんなにあたしを苦しめているじゃないか。
反抗心を露わにすることこそなかったが、あたしはいつも面白くなかった。

そしてアークのことを知ってからは、天使信仰がもっと嫌いになった。
人々は"天使様"に縋るだけで、"天使様"であろうとするアークがどれだけ苦労しているのか知らない。

天使信仰が世界から消えてからは、天使信仰よりも人々のことが嫌いになった。
奴らは揃いも揃って、天使のことを忘れていた。
アークはもう、"天使様"であろうとすることさえ許されなかったのだ。そもそも"天使様"が必要とされていないのだから。


この世界の殺し合いを止めたら、元の世界に帰れるかもしれない。
だけどあたしは、元の世界に戻って一体何をするというのだろう。
元の世界に戻ったとして、あたしを待っているものは何も無い。
あの時のアークと同じ、孤独が待っているのみだ。

だけどこの場で自らに剣を突き立てて死のうものならば、すぐにでもアークの下に行ける。

あたしはどうして、戦うの?

あたしはずっと、己にそう問いかけ続けていた。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

1200星空を継ぐ者 ◆2zEnKfaCDc:2019/01/14(月) 22:57:49 ID:a3SVvFg60

スクルドの放った"天地崩壊"で家屋も、そしてシンボルでもある船着場も、何もかもが廃墟同然になった港町。
その中に1人取り残された少女ポーラは、まずは辺りに残された道具―――いや、"遺された"という方が正しいのかもしれない。とにかく持ち主のいない道具を一通り集めることにした。

瓦礫と化したレンガ建ての家の残骸を退け、粉々に割れたツボやタルの破片を脚で払いながら、その場にある支給品を何も見逃さないように探す。
アークならきっとこうすると思ったからだ。

アークはいつも、行く先々で地面にキラリと光る何かを認めてはすぐにそれを拾って集めていた。
コニファーは貧乏性だとかケチくさいとか言っていたし、スクルドも面白い様子ではなさそうだった。
でも、アークが錬金に熱心であればあるほどカマエルが喜んでいる様子が目に見えるあたしだけにはアークの優しさが伝わっていた。


しかし集めた道具の内のほとんどは天地崩壊の焔に焼かれて使えなくなっていた。
それだけスクルドが大きな感情を溜め込んでいたんだなって思うと、少し悲しくなった。
とりあえず、スクルドの持っていた物は一通り無事だった。
あの焔が彼女自身を焼くことはなかったらしく、彼女の身に付けていたものにも大した被害は及んでいなかったようだ。

そしてセラフィのザックの中身は、炎を完全に防ぐ装飾品である炎竜の守りと、それに接していた星空を象った腕輪、ついでに熱には強く造られているのだろうか、誰か他の参加者の首輪だけが無事だった。

1201星空を継ぐ者 ◆2zEnKfaCDc:2019/01/14(月) 22:58:38 ID:a3SVvFg60
(これを付けてたらセラフィも無事だったかもしれないのに………)

セラフィと一緒にいた時間にはアークのことを喋ってばかりだったが、そもそもこんな世界にいるのだ。もう少し生き残るための情報を共有していたら………

そこまで考えて、ぶんぶんと首を横に振った。

(きっとそれでも、セラフィはこの御守りをあたしに押し付けてたんだろうな………)

誰かを助けるためなら、自分が助かる道を捨てることも厭わない。
アークといいセラフィといい、あたしの大切だった人たちは嫌になるほどお人好しだ。

「あなたも、ね」

言葉を向けた先には、1匹のスライムの死体。地面が隆起したことで、先ほど作った墓から飛び出したようだ。

アベルという男がセラフィへと剣を向けたあの時、自分はセラフィを助けようとはしていなかった。あの戦いでセラフィが生き残ったのは、紛れもなくピたろうの功績だ。

そして、スクルドとの戦いでセラフィはあたしの命を守った。
間接的に、ピたろうはあたしの命を守ってくれたということになる。

そんな単純な理由だけでは説明出来ないけど、彼に言いたいこともたくさんあった。
セラフィを守ってくれてありがとう、とか。
セラフィを守れなくてごめんね、とか。

でも、今伝えるべきなのはそんなことではない。
セラフィにもスクルドにも向けて、この決意を送りたいと思った。

「あなたたちの心は、あたしが受け継いでみせる。」

ピたろうを抱え上げ、セラフィの腕の中に包み込む。きっと冷たい土の中よりはこっちの方がこの子の弔いにもなるだろう。

「さて、と………」

1202星空を継ぐ者 ◆2zEnKfaCDc:2019/01/14(月) 22:59:30 ID:a3SVvFg60
ここにきてようやく、最も中を覗くのが怖かった自分のザックを開く。
そして、答えは最悪の形だった。

「割れてる、かぁ……」

ラーの鏡は、先ほどの衝撃で粉々に砕け散っていた。
思った通り、掲げてみても死者の声は聞こえない。

(別れだけじゃなくて、出会いにも目を向けろ――この鏡もそう言いたいのかな…)

この鏡を通じてアークに言われた言葉を思い出す。
でも、口で言うほど簡単なものではない。

好きな人と。
大切な仲間と。
信頼出来た友達と。
ここ数時間だけでも、別れの数は割り切るには多すぎた。

そしてこの世界での新たな出会い――キーファとミーティアに目を向けようにも、あの2人が今どこにいるのか全く分からない。
2人は竜王とやらの居る場所へ戻ったのか、それともアークの居る場所と往復する間にニアミスしたのか。

(まあ、うだうだ悩んでてもしょーがないよね。)

鞘から取り出すと同時にドロドロと溶けだした吹雪の剣を捨てながら歩き始めた。
どうせキーファとミーティアの行先なんて考えて分かるものでもないし、それに行先はどの道決まっていた。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

1203星空を継ぐ者 ◆2zEnKfaCDc:2019/01/14(月) 23:00:05 ID:a3SVvFg60
そこには、さっきと変わらない様子でアークが横たわっていた。

「また来たよ、アーク。」

結局かれこれ数時間、ポルトリンクとここを往復してばかりだ。
だけど迷いを振り切った今、アークの元を訪れる理由がポーラにはあった。

「決めたんだ、あたし。……まあちょっと遅かったんだけど…でも、もう迷わない。」

以前とは違い、ラーの鏡はもう無いためアークの声は聞こえない。

「今までずっと思ってた。あたしはアークと同じ景色を見てるんだって。」

それは、あたしの誇りだった。
"見える"体質のせいで小さな頃からろくな目にあってこなかったけど、それがアークと自分の世界を繋ぐ共通点だと実感出来た時、あたしは初めてこの体質に感謝した。

「でも、違ったんだね。アークが見ていた景色は、あたしが見ているのよりずっとずっと綺麗だった。」

だけど、あたしの目には星のオーラが映っていなかった。
だからあたしは人の心を恐れた。
ずっと見えるはずのものが見えてきたことで、"見えない"ことが怖かった。

「分かったんだ。アークが生きた証はずっとあたし達の周りにあったんだって。アークは誰にでも優しい人だったから、みんなの感謝の気持ちがあの星空に浮かんでるんだって。」

だからこそ、アークがこの世界に生きた証を、"見える"形で残したかった。
そうでないと、アークが生きていたことが無駄になってしまうような気がしたから。

1204星空を継ぐ者 ◆2zEnKfaCDc:2019/01/14(月) 23:02:09 ID:a3SVvFg60

「あたし、嬉しかった。アークが今までやってきたことは無駄じゃなかったんだって実感出来たから。」

その証というもののひとつは、アークの死体に置かれていた一本の剣だった。
まるでアークのために作られたかのようなその剣を、殺し合いに乗るか反抗するか迷っていたあたしは持っていくことが出来なかった。

「だから……どうか、安らかに眠ってね……。」

手を合わせ、そっと祈りを捧げる。
この空の先に天使界が無いことは分かってる。
この空の先に神などいないことも分かってる。

天使様に感謝を――人々はそう言って天使像に祈りを捧げる。

ある時は、町を包む病魔から。
またある時は、国民のことを考えない自分勝手な女王様から。
人々を助けたのはアークなのに、感謝の矛先が向くのはいつも天使像だ。

だからあたしは、天使像に祈るという行為自体が嫌いだった。

だけど、祈る。
大嫌いな女神や神に祈るのではない。
ただ、星に祈るのだ。

この殺し合いの夜を作り上げている深い絶望、そして憎悪。
そんな夜に一筋の光をくれるあの星に――そして何より、星空に生きた証を残した人たちに、敬意を表して。

祈りの本質はそれでいい。
人々はアークではなく天使像の方を見ていたとしても、その気持ちは星のオーラとなってアークに伝わっていたのだと分かったから。

1205星空を継ぐ者 ◆2zEnKfaCDc:2019/01/14(月) 23:04:48 ID:a3SVvFg60
さて――と小さく呟き、再びアークの方へと顔を向ける。
本題はここからだ。

「もうひとつ、決めたの。元の世界に帰ってからやりたいこと。」

天使が世界から消えたあの夜以来、あたしの世界は終わった。
アークから笑顔が消えて、引き込まれてあたしまで苦しんで――そしてアークが死んだ今、元の世界に帰ること自体に意味なんてなかったはずだった。

「あたしはあの景色を守りたい。人々の想いで溢れるあの星空を――あなたが守った星空を、守りたい。」

だけど見つけた。
アークを失ったあたしに仮初の意味を与えてくれる"クエスト"を。

人は独りじゃ生きていけない――だけど誰かの想いを背負ったならば、生きようともがくことが出来るかもしれない。

「だからあたしは、あの世界に天使信仰を蘇らせるって決めた。」

分かってる。スクルドの真似事をしたって、それが独りよがりの自己満足にしかならないってことくらい。
天使信仰があの世界に戻ったところでスクルドの絶望がなかったことになるわけでもないし、あたしの罪が消えるわけでもないのだから。

だけど、アークの物語を全て「見て」きたのはあたししかいない。
天使信仰と共に天使への感謝の気持ちを蘇らせて、あの世界をもう一度星のオーラで埋めつくしたい。
天使への感謝の気持ちを蘇らせて、そしてきっとどこまでも綺麗な景色を作り上げて、あなたが守った世界はこんなに綺麗な気持ちで溢れてるんだよって、星空の向こうにいるアークに見せてあげたい。
やっぱりあたしは、新しい出会いに目を向けながらでも、あなたのために生きていたいんだ。

「そのために…あなたが生きた証を一旦あたしに託して。」

アークの死体に置かれた剣に手をかざす。
あたしの手のひらに呼応するかのように、剣に象られた星がキラリと瞬いた。
そのまま剣を手に取ると、銀河が手のひらへと収まったかのように血が熱く滾ったのを感じた。

――――ありがとう。

アークの死体に背を向けたその時、もう聞こえないはずの彼の声が聞こえた気がした。

1206星空を継ぐ者 ◆2zEnKfaCDc:2019/01/14(月) 23:05:34 ID:a3SVvFg60
【G-8/草原/二日目 深夜】

【ポーラ@DQ9】
[状態]:HP2/5 MP1/3
[装備]:銀河の剣@DQ9 星降る腕輪@DQ3
[道具]:支給品一式 支給品0〜3個 キメラの翼×2 炎竜の守り@DQ8 魔勇者アンルシアの首輪 アリーナの首輪
[思考]:殺し合いを止める。
元の世界に戻り、天使信仰を復活させる

※未練を残す死者の幽霊が見えます。そのままでは会話は出来ませんが、何かしらの道具を通すことで会話が出来るかもしれません。
※ラーの鏡を通して人の心の中を見ることが出来ました。今後何かほかの道具でも可能かもしれません。

1207 ◆2zEnKfaCDc:2019/01/14(月) 23:08:54 ID:a3SVvFg60
投下終了しました。

「天に祈りを、地に悲しみを」の話は、放送直後に起こる話であり、そこから長い時間が経過するような描写もないので、今回のポーラ単独での移動距離を考えても時間帯はギリギリ深夜のままにしています。
まだリーザスへと続く道が禁止エリアになる前です。

1208 ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:26:46 ID:v7iq5tBs0
投下します。

1209かの恐怖、再臨す ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:27:31 ID:v7iq5tBs0
「じゃあ、教えてくれるかな?この村で何があったのか……。」

緑色の頭巾を被った少年の言葉が、リーザスの静寂をより一層重くした。

その重圧に耐えきれずにローラが1歩引き下がると、それに合わせて少年も1つ歩みを進める。
その静かさと穏やかさが逃げ道はないのだと囁きかけているようにローラには思えた。

(彼は怒っている…?いや、もっと別の感情を……?)

この村で死んだ誰かの知り合いであるのかも読めないが、考えが纏まらない。
得体の知れないものが首筋に突き付けられているような、そんな恐怖を感じていた。

「大丈夫、僕たちは敵じゃない。だから落ち着いて。」

「……分かり…ました…。」

ローラの額からぽたりと汗が流れ落ちた。
とりあえずは敵ではないようだが、間違ってもこれを敵に回してはいけないのだと本能的にわかってしまった。

「お話します…。この村の惨劇を招いた、非道な魔王の行いを。」

さて、ここで真っ赤な嘘を付くという手は間違いなくあった。
しかしそれに伴うリスクをローラはどうしても避けたかった。
仮に嘘がバレた場合には、少年が腰に携えた美しい装飾の剣でバッサリと斬り伏せられる、そんな未来の光景が嫌というほど脳を支配していた。

1210かの恐怖、再臨す ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:28:48 ID:v7iq5tBs0
「私は……アレフ様にあのような非道を強要したアベルという男を許すことが出来ません。」

ローラの下した選択は、嘘をつくことなく一部の事実だけを語るということ。
自分たちが元々殺し合いに乗っていたということは隠し、あくまでアベルに強要されて行ったことだと語り始める。
そこに全く嘘は含まれていないため、矛盾など生じるはずがない。

「…そして、あのアベルという男は、あろうことか………私に無理やり……キスを………!」

さらに、必要な部分は強調してアベルへのヘイトを集める。

殺し合いが始まって、アベルに捕らえられたこと。
チャモロの手によってアベルから助けられたこと。
パトラ、リュビ、トンヌラの3人と合流したものの、パトラに殺されかけてリーザスへと逃げ出したこと。
リーザスでキラーマジンガに撃たれ、デュランとスクルドに人質にされていたこと。
スクルドの放った特技でリーザスが崩壊したこと。

この殺し合いの全ての戦闘において、自分が被害者であったことを語る。
これで2人の矛先が自分に向くことはないだろうとローラは推察した。

「……サフィール殿の父親はこの村にも悲劇をもたらしたのですな………。」

ライアンはその話を聞き終えるとともに、再びリーザスの方へ祈りを捧げた。

(拙者らは本当に、"みんな友達大作戦"のみを糧に戦えるのでござろうか……。)

ライアンでさえも、ローラの話を聞くと怒りが少なからず湧いてきた。
人が人を愛する心を利用して踏みにじる、人間の悪意の存在。
みんな友達大作戦に従う者たちは、そういった怒りをぶつける相手を失ってしまうのだ。

(拙者にはホイミンと交わした使命がある……分かってはいるのでござるが………!)

やり場のない思いに駆られ、ライアンは拳を握り込んだ。


「……本当のことを言うとね、僕は許したくはない。アレフはもちろん、君のことも。」

続くアルスの一言に、ローラの眉がぴくりと動いた。

「でも……だからといって矛先だけは間違えたくない。全ての発端はエビルプリーストだ。だけど―――」

アルスの言葉は、以前チャモロに投げかけられた言葉とちょうど重なるものだ。
しかしアルスの言葉には、より強く迫るような気迫が篭っていた。

「―――罪から逃げることは許さない。死んだアレフの分まで背負ってもらうから。」

アルスはくるりと背を向ける。
その背が頼りなく震えていることに、俯いたままのローラは気付くことができなかった。

(アルス殿……よかった……)

しかしアレフを前にしたアルスの行動を見たライアンは、アルスの不安定さを知っている。
怒りが爆発しそうになるのを抑えるためのアルスの苦心はよく分かった。

(ブライ殿、あなたの信じた若き芽はきっと、立派な花へと育ちましょうぞ……)

勇者を探すという使命に駆られて生きてきたライアンは、勇者だと思われて魔族に狙われている子供を守ることはあったが、その成長を見守る経験はなかった。

1211かの恐怖、再臨す ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:29:35 ID:v7iq5tBs0
(父親とは、このような気持ちを子に抱くのでしょうかな……)

肯定してはいけない。
だけど、それでもアレフが自分の子供に抱いた父親としての気持ちは無下にしてはいけないものだとライアンは感じた。

「あの……。よろしければ、教えていただけませんか」

そして今度は、ローラが動き出す。

「どうやらあなた達は既に多くの人々と出会っているご様子。知っている範囲で構いません。私のいないところでアレフ様がどう戦っていたのか、知りたいんです」

「ふむ……サフィール殿から聞いた限りの話であれば、不肖ライアン、お伝え致しましょう」

「……だったら僕は、見張りをしておくよ。この先の道が禁止エリアになるからスクルドって人が戻ってくるかもしれない」

おそらくローラと話を続けるのが辛いのだろう。
ライアンは黙って頷き、ローラとリーザス村へと入っていく。
見張りをするなら村の入口が1番効率的だ。
だからアルスが見張りを任されている以上、村の中が安全だとの判断である。

「まずローラ殿には、見せないといけないものがあるでござる」

村に入るならば、当然目に入るのはアレフの遺体だ。
アルスが何度も傷つけたことでローラが整えたのが分からないほどに悲惨な姿へと変わっていた。

1212かの恐怖、再臨す ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:30:16 ID:v7iq5tBs0

「……これが、アルス殿の心の現れでござる。そして、これはまたアレフ殿の罪でもあるのでござるよ」

ローラは俯いたまま喋らない。

「お分かりでしょう。彼がどんな気持ちでローラ殿と喋っていたのか。ローラ殿、こんな感情に苛まれながらもあなたを許したアルス殿を、どうか信じてほしいのでござる」

こくり、と首を縦に振る。
そしてようやく言葉を発した。

「これがアレフ様の罪ならば、私も背負います。だから―――どうか教えてください。アレフ様の罪を……」

そして、ライアンはサフィールから聞いた話を1から10まで話した。
彼女がマリベルと出会ったこと。スクルドに騙されこと。
仲間の1人、アイラの死体を見つけ、呪われたハーゴンと対立したこと。
そして、マリベルとハーゴンのその戦いにアレフが乱入して来たこと。
ここから先のことはローラの方がよく知っていることだろう。

「アレフ様は、強いお方でした。身体だけではなく心も」

「……ええ、そうでしょうな」

「それだけ、あの魔王から私とこの子を守りたかったのです。罪もない少女を殺さざるを得ないほどに……」

「……ええ、この世界の出来事はただ悲しいだけでござる。かのアベルとて、魔王の如き所行へと走ったのはこの世界に呼ばれたことが原因でしょう。」

「……ライアン様、どうかお祈りください。エビルプリーストを倒す、アレフ様の力もお借りしたいのです」

「うむ、祈らせていただくでござる。彼の想いを受け継ぎ、必ずやあなた方を御守りしましょう」

ライアンはアレフの前に座り込み、手を合わせる。
そして目を閉じ、祈る。
この世界で志を共にすることが出来なかった者たちと、今度こそ戦えるように。

1213かの恐怖、再臨す ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:30:58 ID:v7iq5tBs0

「あの、ライアン様………」

そうして祈っていると、背中に人の身体の感触を感じた。

「えっ?」

「お願いが………あります………」

ローラは背後から、ライアンの兜を外す。アレフと泊まった宿屋での体験の成果か、桃色の兜はスムーズに持ち主の元を離れた。

「どうか……どうか私のために………」

「一体、何を………」

わけも分からぬまま振り返るライアン。
そしてローラはゆっくりと、ライアンの頬へと唇を近付けて……




「――呪いを受けてくださいませ……」




たった一言、耳元で囁いた。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

1214かの恐怖、再臨す ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:31:38 ID:v7iq5tBs0

リーザス村の入口で、アルスは拳を握りしめていた。
ローラの話を信じるのなら、ローラは完全に被害者だ。
マリベルの死の要因の一つとはいえ、それはかなり遠回りなものでしかない。
そんなことは分かっているけれど、許したくないのだ。

(お前たちは、心を持っていたじゃないか)

心を持っていたのに、それを他人を傷付けることに使う人たちを、許したくないのだ。

(僕が辿り着けなかった答えを最初から知っていながら、どうして………)

だけど、それだけではないことにも気付いた。

(……違う。僕はまだ、過去から抜け出せていないんだ)

最初から心を持って真剣に殺し合いに抗っていたら、マリベル、ガボ、アイラ、メルビン、フォズ……全員は難しくても、誰か一人くらいは守れていたかもしれない。

守れなかったんだ、僕は。
だから八つ当たりをしている。
心を持っていながらみんなを守ろうともしなかった者たちに。

(そっか。これが、僕なんだ)

拳をさらに握り込む。
手に血が浮き出てくるほど、強く。

(怖いんだ、僕のせいかもしれないって認めるのが)

大地や木々を殴りつけ、自分の手を痛めつけてもその想いの矛先は消えない。
ただ、己の醜さを再確認するのみ。

「僕はこんなに弱くなんか―――」

気付けば声が漏れていた。
そしてその言葉に返すくるように、アルスはひとつの言葉を思い出した。

(―――そういった自分の弱さと向き合うことも、きっと心の成長に繋がりましょう。)

手から、そっと力が緩む。
そうだ。
こんな自分を信じてくれた人がいる。
こんな自分を、何とかしてくれようと苦心してくれた人たちがいる。

「心の成長……か」

自分の弱さを知ったところで成長なんて実感できないけれど。
心を持っていない時の方が気持ちは安定していたかもしれないけれど。
誰かの優しさを実感できた今だけは、心が前に進めた気がした。

1215かの恐怖、再臨す ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:32:13 ID:v7iq5tBs0
(大丈夫、僕はやり直せるはずだ)

もう取り戻せないものはたくさんある。
石版を叩きつけても巻き戻せない世界がある。
だけど、まだ全てを失ったわけではない。
新たな仲間が、そして何より、心を真に交わせぬまま会えなくなった親友が、まだこの世界に残っている。

前を向いて、戦おう。
そんな気分を覚えたその時だった。

唐突に襲い来る、目眩のような感覚。
その目眩から立ち直ったその時、アルスはリーザス村の中にいた。

「っ……!?」

何が起こったのか分からない。
だが何か緊急事態が起こったのは間違いない。
村の中に引きずり込まれたところを見るに、ライアンやローラにも危害が及んでいる可能性もある。
とりあえず、現状把握を………

―――ザクッ

さらに次の瞬間、左足に鋭い痛みが走る。どうやら何者かに背後から剣で斬りつけられたらしい。

(敵襲……!?だったら―――)

咄嗟に"敵"に向けて呪文を放つ。

「―――メラミ!」

至近距離からの火球を受けた"敵"は一歩退き、アルスは痛む足を抑えて"敵"と対峙する。

「そんな………一体どうして………」

1216かの恐怖、再臨す ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:33:00 ID:v7iq5tBs0
"敵"の正体は想像もつかぬものであった。
アルスのよく知る者―――桃色の鎧に身を包み、そのたくましい体格を持ってアルスを守ってくれていた者―――

「どうして………ライアンさん……!」

―――導かれし者ライアンが、不気味な風貌の仮面を被って佇んでいた。

これはまずい。
足を斬りつけられたことにより機動力は削がれ、さらにはまどろみの剣に塗られた眠り薬による眠気まで襲ってくる。先程のライアンの計らいで一度眠っていなかったら、すでに意識を持っていかれていたかもしれない。

「………ぐっ!」

再び剣を振りかぶったライアンに思い切り体当たりをぶつける。それでも思った以上に手応えが感じられない。
身につけた仮面の力でライアンの防御力は極限まで高まっているようだ。

体当たりでは防げず、振り下ろされる剣。
アルスは咄嗟にオチェアーノの剣で防ぐも、体格差も相まって衝撃で吹き飛ばされてしまう。

「ライアンさん……一体何が……。」

何となく予想はつく。
おそらくはローラの仕業だ。
でも、一体どうやって?
……いや、それよりも今は目の前の状況を考えなくては。

カチャ……カチャ……カチャ……

1歩、また1歩と、桃色の鎧が奏でる音が迫ってくる。
同行していた時間はそれほど長くも無かったけれど、自分の心の弱さを支えてくれていたライアンは大切な仲間だ。
しかし今や、無精髭だらけのあの顔は見えない。
夜の闇と、呪われた仮面が覆い尽くしてしまっているから。

(戦わなくちゃいけない……だけど……)

人間相手に戦わなくてはならない時は何度もあった。
だけど、こんなにも剣を取る手が震えるのは初めてだ。

(殺すのか……?僕は、ライアンさんを……?)

心を持った今、もう一度過去に囚われたままの自分をやり直したい。今度こそ、大切な仲間を守りたい。
そんな願いは、再び打ち砕かれてしまうのかもしれない。

【I-5/リーザス村跡地/2日目 黎明】

【 アルス@DQ7】
[状態]:HP1/5 MP微消費 恐怖 左足に怪我(素早さ低下)
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜2) ゲルダの不明支給品0〜1個 道具0〜2個(本人確認済み)
[思考]:この戦いを終わらせる。ミーティア、キーファを探す。トラペッタへ戻る。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。

【ライアン@DQ4】
[状態]:HP1/3 全身の打ち身、顔に傷、腹部に打撲、鎧半壊
[装備]:まどろみの剣 般若の面@DQ3
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1)
[思考]:???(呪いの影響により方針不明)
正気の時の行動方針
:ホイミンのみんな友達大作戦を手伝う。

1217かの恐怖、再臨す ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:35:01 ID:v7iq5tBs0



「………うまく……いったみたいですわね………」

リーザスから走り去りながら、ローラは1人ほくそ笑む。


"般若の面"
被った者は混乱し、敵味方の区別なく襲いかかるという。

ライアンが祈りを捧げている間、ローラはひとつの死体の傍に落ちてあるその仮面を見つけた。
実際に見たことはなかったが、かつて読んだことがあるロトの勇者の文献の中に、勇者の仲間の女僧侶が誤って被ってしまい仲間たちに襲いかかった、という逸話をローラは知っている。

ライアンの話と照合するに、アレフが殺した神官が身につけていた仮面だろうというのもすぐに予想がついた。

(もし、アルスという少年を始末出来るのなら……)

そして眼前の恐怖を打ち破る方法も、即座に思いついた。
まずは目を閉じて祈るライアンを横目に、遠くの般若の面に向けて引き寄せの杖を振るい、そうして手に入れた面を背後からライアンに被せた。

声を発しなくなったライアンは、すくりと立ち上がると腰に差した剣を乱雑に引き抜いた。
その矛先は即座にローラに向けられることとなった。

カチャ……カチャ……カチャ……

ライアンが一歩、一歩とローラに近づく度に鎧が地に押し付けられる音だけが響く。

追ってくるライアンから逃げながら、しかしそれでも心だけは冷静に。ローラはアルスの方へと駆け出した。

そしてアルスの姿が見えると同時にこれまた一本の杖を振るった。今度使ったのは場所替えの杖。これによりアルスはリーザス村の中へと移動したのだ。

1218かの恐怖、再臨す ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:35:40 ID:v7iq5tBs0
そうしてアルスとライアンをぶつけつつ、ローラは1人だけリーザス村を出ることが出来た。

逃げることは許さない。
アルスはそう言った。
この世界からリリルーラで脱出する手段があったとしても、彼がすんなりと許してくれるとは思わない。
そして見るからに魔法を使えないライアンにはそもそも用がない。
だから、この2人を始末することに決めた。

これが、ローラが画策した全てである。

「呪われし者は人々に受け入れられない………そうでしたわよね、お父様………?」



あれはアレフに助けられて、間もなくしてのことだった。

(―――おいっ!大丈夫か!)

そんな声が、城の外から聞こえてきたのをローラは聞いた。
竜王に囚われた自分を助けるために、アレフ以外にも多くの戦士が派遣されていたのだが、その内の1人が帰ってきたようだ。

魔物との戦いに敗北したのか全身に傷は深く、誰かが診てやらないともう長くは生きられないのは明らかだったようだ。

1219かの恐怖、再臨す ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:36:37 ID:v7iq5tBs0
しかし、たったひとつ、声が挙がった。

「―――おい…この男…………呪われし者だ!」

次第にその声は、ひとつ、もうひとつと増えて行く。

「―――まあ、なんて汚らわしい!」

「―――絶対に城に入れるな!」

「―――はやく追い出せ!」


どうして?


「―――のろわれしものよ、でてゆけっ!」


どうしてあんなベルトひとつのためにこんな仕打ちを受けなくちゃならないの?


バルコニーからその様子を見ていたローラは、その光景に言い表しようもない恐怖を覚えた。

「お父様!戦士様が大変です!!早く手当を――――」

そして何より、その時の父の顔つきは今も脳に焼き付いている。

「―――よいのだ、ローラ。これも国のため。呪われし者は人々に受け入れられないのじゃよ。」

「そんなっ……!」

反抗したい気持ちは強かったが、そういうものなのだと納得せざるを得なかった。
あの優しい父をしてこうも言わしめる呪いの存在。
それは罪もない人の命を奪っていく、病のように残酷なものなのだ、と。

【H-6/リーザス地方/2日目 黎明】

【ローラ姫@DQ1】
[状態]:健康 疲弊
[装備]:毒針
[道具]:支給品一式、銀のティーセット 草・粉セット(世界樹の葉が使われました ※ルラムーン草が含まれています)
ハッサンの支給品(引き寄せの杖 場所替えの杖)
アルバート家の書物(遺失呪文の書を含む)
[思考]:愛する我が子の為に戦う。魔法使いに会いたい。
[備考]:複数の呪文の知識の他『リリルーラ』の知識を取得しました。

1220かの恐怖、再臨す ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:38:11 ID:v7iq5tBs0



もし、引き寄せの杖の光弾が般若の面に当たらなければ。
もし、ライアンに上手く面を被せることが出来なければ。
もし、アルスが場所替えの杖の光弾を回避していれば。
もし、アルスと場所を入れ替えた直後にアルスが足を負傷せず、そのままローラを追って来ていれば。

考案から実行までの期間が極めて短いローラの計画には、穴と呼べる点は多くあった。
それでもこの杜撰な計画が上手くいったのは、偶然などではない。
鍵を握っていたのはこの世界でローラが身につけた呪いの力である。

ロトの世界に「ふこうのかぶと」という呪われし装備品があるように、"うんのよさ"などという曖昧な事象にも呪いの力は作用する。

ローラが敵意を持った相手の運を無くすことで、相手に都合が悪くなるように周りの事象を動かす、"不幸の呪い"とでも呼ぶべき力。そんな呪いの力が本人にも無自覚の内に引き起こされている。


"呪われし者は人々に受け入れられない"

この言葉の向かう先は、果たして――――――



[備考]:『呪い』スキルパネルより、『常時 不幸の呪い』を取得しました。

1221 ◆2zEnKfaCDc:2019/02/15(金) 00:38:41 ID:v7iq5tBs0
投下完了しました。

1222ただ一匹の名無しだ:2019/02/17(日) 06:59:51 ID:GAAKdArs0
投下乙です
アルスの受難が続くなあ
ローラは非力な中で上手いことやったもんだ

後、なにげにフアナさんの逸話がまた増えてるw
なにやってんだあの人…w

1223ただ一匹の名無しだ:2019/02/17(日) 21:35:36 ID:4WSrVef20
投下乙です
ローラさんぱねぇなぁ、般若の面こええ
でもdq1で呪われていたら城に入れないやつ、確かに可哀想だなあと思った。

アルスくん……強く生きるんや……

1224 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:33:33 ID:ghEfv5qg0
以前予約してたのを投下しますね。

1225 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:34:28 ID:ghEfv5qg0
にげる
おにいちゃん

少女の心はその二つの言葉しか残ってなかった。

「待って!!ターニア!!」

追いついたホイミンが声をかける。


「ターニア!!待て!!」
続いてジャンボも声をかける。

二人の姿は、少女もよく覚えていた。

一人は、かつて自分と一緒に逃げたホイミスライム。
もう片方は………

兄を殺そうとしていた邪悪な存在。


今ジャンボが何のために自分を追ってきたか
そんなことは考える余裕はなかった。

ザックから半ば無意識に杖を取り出す。
その使い方は少女に分からないはずだが、半ば無意識に杖を振る。


幸か不幸かその杖は、魔力を持たない者でも効果を発揮した。

「「うわっ!!」」

ジャンボとホイミンの周りに、砂煙が立ち込める。

その砂煙の勢いはどう考えても自然発生の物ではない。
ターニアが振った、砂柱の杖によって発生したのである。
ホイミスライムの体から水分を奪っていく。
勿論ジャンボにとっても脅威である。
ゴブル砂漠やアラハギーロ地方を渡った時でさえ、こんなことはなかった。

前を見ることはおろか、呼吸さえできない。

だが、急にその砂煙は晴れた。

「大丈夫か?」

ヒューザたちが首輪解除に求めていた技、トラップジャマーだ。
魔方陣や爆弾などの道具を分解し、立ちどころに自分の武器にしてしまう特技
砂煙を消し去ったジャンボはホイミンに声をかける。

「あ……ありがと………。」

ホイミンの眼を見て、ジャンボは理解した。
やはり、このホイミスライムはまだ自分を完全に信用しているわけではないことを。
まあ、あれだけの大それたことが明るみに出た今、信じろという方が無理矢理でしかないのだが。

1226 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:34:47 ID:ghEfv5qg0

「構わねえよ。」
そう察したジャンボは、短い一言で終わらせる。



砂煙の影響でターニアとの間はまた離されてしまったが、今度はジャンボがピオリムをかける。

再びターニアの背中が見えてきたが、同時に向こうに見えていた町もだんだん大きくなっていく。


しかし、その前に何かが見えてきた。

レンジャー、盗賊と目の良さがそのまま実力に繋がる職業を経験してきたジャンボには何かよくわかる。

機械兵、キラーマジンガ。

そして、それ以上にジャンボにとって奇妙に映る者。
自分がつい先ほどまで追い求めていた少年、チャモロ。
それを乗せているのは、自分のせいで死んでしまったはずの魔物。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


時は少し遡り、場所はトラペッタから抜け出してすぐの場所。

二人、傍から見れば一人と一匹は、なおも走り続けていた。

それを追いかけるのは、一体の機械兵。
刀身が折れてもなお灼熱剣エンマは闇夜の中で紅く光り、獲物の血を求めている。
尾のボウガンも、執拗に二人を射抜かんと連続して撃ち続ける。


しかし、チャモロのかまいたちで撃ち落され、別の矢は届かない。

逃げる側も必死だが、追いかける側も必死で矢を撃った。
未だ会えないマスターのためにも、一人でも多くの獲物を討たねば。

しかし、ジンガーのスコープが新たな生命を感知する。

「熱源感知。危険性、ナシ。戦闘えねるぎー、ホボ0.」


(…あれは……?)
キラーパンサーの姿をしたサフィールが、向こうからやってくるターニアの姿を捕らえる。

1227 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:35:15 ID:ghEfv5qg0
チャモロはその姿を知っている。
しかし視線はジンガーと、その矢にばかり集中しており、姿は分からない。


サフィールはターニアのことを知らない。
ましてや、この戦いで彼女に何が起こったかなんて、知る由もない。


(しまった……)

サフィールは変化の杖の使い方を誤った。
確かにキラーパンサーの姿の方が、逃げるのには適している。
しかし、言葉が話せない以上、コミュニケーションに難がある。
加えて今は敵に追われている最中。
前であったことを後ろの敵と戦っている人に伝えるのは難しい。


ここで、キラーマジンガは急に作戦を変えた。

今この攻撃を続けていても、奴等は倒せない。
何か方法はないか。

(ジンガー、殺れ)
(イエス、マスター)

(ワタシハスベテノこまんどヲりせっとサレタ状態デココヘ転移シタ。
 マスターハワタシニ新タナこまんどヲいんぷっとシテクレタノダ)

(子を想う親の気持ちというのは、素晴らしいものですね……反吐が出るほどに)

(でも、マリベルさんを見捨てることもできません!)
(アンタがここで死んでも、同じに……決まってる、でしょ。その鎧男に、私を生かしておく……理由なんてないもの)
(行きなさい、サフィール! 後悔……したくない、なら!)
(私だけここを逃れても、私きっと、後悔します……!)

(ローラ!? どうしてここに君が……)
(アレフ様に会いたい、その一心で)
(そんなに怪我だらけになって……!)
(アレフ様こそ……私が捕らえられてしまったばっかりに、多くのお怪我を……)
(いいんだ、ローラ、君さえ生きてくれるなら)

チャモロたちを襲いつつも、過去の戦闘データから、最適解を見出す。


(以下ノ戦闘情報カラ、奴ラハ自分ヨリ弱イ者ヲ優先シテ守ル傾向アリ。
アノ少女ニ攻撃ヲ加エタ場合、何ラカノ変化ガ起コル可能性、80ぱーせんと)


ジンガ―は、狙いをターニアに向けて矢を引く。

1228 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:35:32 ID:ghEfv5qg0

(!?)
チャモロは、矢が明らかに自分より高く飛んで行ったことを怪しく思う。
人間の敵であるならまだしも、機械兵であるキラーマジンガが、そんなミスをすること自体おかしい。

(!!?)

急にサフィールが声を上げ、加速する。

前方に異変があるのかと、ようやくチャモロも異変に気が付く。
そこにいたのは、レックが誰よりも大切にしていた少女。
もはや手遅れだった。

ジンガーは、チャモロ達を外したのではなく、誰よりも正確に、ターニアを狙ったのだ。

ターニアは慌てて杖を振る。
再び人ほどの高さがある砂柱が立ち、矢は砂に埋もれる。

そのままターニアは逃走方向を変え、南へ逃げる。

しかし、砂柱の杖の延長線上にいたサフィールとチャモロは、ただでは済まない。

だが、ジンガーは機械である以上、多少の地形の変化など無視して二人に迫りくる。


「!!」
「ターニアさん!!!なぜ!?」

二人は砂煙の中で戸惑う。

キラーパンサーの跳躍力を生かして、どうにか砂煙の中から抜け出す。
そのままターニアを追いかけようとする。

しかし、そこにジンガーが狙いを定めていた。

次の矢は、ターニアに向かっていったサフィールの脚に向けて、放たれる。
いくら速く走っていても、攻撃をガードする者もおらず、進む方向も認識できれば、当てるのは容易だ。


一本の矢が、確実にサフィールの前脚を貫く。

そのままバランスを崩して空中でチャモロは振り落とされる。

「ぐうっ!!」
胸を打ったが、その痛みを気にしている暇はない。

サフィールがもう走れないのではないか。
その心配をしている暇もない。

「トドメダ。」

ジンガーはメガトンハンマーを振りかぶる。

1229 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:35:56 ID:ghEfv5qg0
(僕は……結局、何も出来ませんでした………何も……)

元居た世界にいた仲間も、この世界で出会った仲間も、誰も助けることが出来ず、チャモロの心を絶望が覆う。


ブンとハンマーが振り下ろされる音が聞こえる。
このまま、チャモロの体はぐちゃぐちゃになる。
チャモロ自身もそう思っていた。




「ヒューザ、技、借りるぜ。ランド・インパクト!!」

突然すぐ近くに轟音が響き、キラーマジンガが吹き飛ばされる。


「あなたは……」

かつてライアンが言っていた「頼りになる」人物。
サフィールも、ブライもトラペッタでやってくるのを待ちわびていた人物。


「そう期待する目で見るんじゃねえ。オレはただ、借りを返すだけだよ。」

名簿に描いてある通り、ドワーフの姿をしていた男は、そう答えた。

「ケガしてるよ!!大丈夫!?」

ホイミンが、遅れてやってくる。

「僕は大丈夫です。それよりも向こうのサフィールさんを!!」


チャモロに言われた通り、ホイミンは向こうで蹲っているサフィールの治療へと向かう。

ちょうど変身が解け、元の姿に戻っていた。


「新タニ敵、発見。コウゲキカイシ。」

ジンガーは獲物を狩る邪魔をした、ジャンボをターゲットにする。
距離からは、ハンマーと剣でも十分届く距離。

そう判断したジンガーは矢を使わず、剣と槌でジャンボを襲った。

だが、その二重攻撃は、ジャンボの天使の鉄槌一つで止められる。

1230 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:37:05 ID:ghEfv5qg0
「予想外ノ事態発生。通常ノ威力ト比ベテ、20ぱーせんと減少。」

「へっ、こんなもんよ。」
いつの間にやらジャンボは辺りに磁界シールドを敷き、ジンガーの攻撃を弱めた。


「あーあ。マジでふざけんなよ。どいつもこいつもよぉ。」

死ぬ原因になった人に救世主呼ばわりされて
ついさっきまで殺そうと思っていた人にこんな形で出会う。


ドワーフの姿が嫌で、ようやく自分の姿に愛着がわいてきた時に、人間に戻れる選択肢が与えられることも、
遠い場所への遠征に慣れてきた頃に、移動手段が多く供給されることだってそうだ。
本当に、たまったものじゃない。


「けどな、あがき続けてやるよ!!折角貰った命だからな!!」

だからと言って、ヒューザが、フォズが託してくれた道を無下に扱うわけにはいかない。

あいつらの借りを返すためにも、自分のやるべきことはここにいる全員を守ることだ。

(敵ノ張ッタ魔方陣ニぱわーだうんノ仕掛ケガアル可能性、85ぱーせんと)
ジンガーはグランドインパクトを放とうと、ハンマーを振りかぶる。

「そう来るよな。」
しかし、ジャンボはその行動を読んでキャンセルショットを撃つ。
ハンマーに溜められていたエネルギーは霧散し、技は不発に終わる。


今のジャンボは、道具使い。
元々機械や物質で作られた魔物のクセや弱点を見慣れている上に、キラーマジンガとは何度も戦った経験がある。

闘牛士が猛牛をいなすかのようにジンガーの攻撃をいなしながら、チャモロに声をかける。



「おい!!そこで寝っ転がってるヤツ!!チャモロ……だよな!?
寝ている暇があったら、後ろの二人を守ってろ!!
早くコイツを倒して、あの子を助けに行くんだよ!!」

今は優勢だが、相手は魔法の迷宮でも名の知れた魔物の一匹。
油断は禁物である。

本当は誰かをターニア捜索に使いたいのだが、ホイミン一人では心もとないし、サフィールは脚を怪我している。


そのため、先にこの魔物を倒して、ターニアを助けに行く選択肢を選んだ。

1231 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:37:24 ID:ghEfv5qg0

ジンガーがドラゴン斬りで、ジャンボを切り裂こうとする。

(ドラゴン斬りだあ!?何か剣が折れてるし、オレが知ってるキラーマジンガとは、違うようだな……)

ジャンボの知ってるパターンとは異なるキラーマジンガの攻撃に驚く。
天使の鉄槌で受け止めるが、右手に小さな切り傷が走った。


続いて、第二撃、ハンマーが襲い来る。
しかしハンマー攻撃は、かまいたちの風圧で邪魔をされた。


(そうだ……僕も、まだ終わってないんだ……!!)

まだこの場には戦っている人もいる。
サフィールもいる。
レックだって、ブライさんだって、ゴーレムだって、今もきっとどこかで足掻いている。

自分だけ死んでもないのに、諦めるわけにはいかない。
どうにかしてこの魔物を仲間にし、ターニアを助けに行かなければ。

痛む片腕を押さえ、チャモロもまた立ち上がる。



「全員あべる様ノ脅威ニナル敵ト判断。殲滅活動ヲ続行」


「誰かに従ってるヤツか……望むところだぜ。来いよ。」


「ジャンボさん!!その魔物を殺さないで!!仲間にしてください!!」
「はあ!?」


チャモロの言葉にジャンボは戸惑う。

「無理だ!!」
「僕もそのモンスターを仲間にしたことはありません!!でも成功すれば……。」
「違うんだよ!!不可能ってのは、既に別のマスターに従っている魔物を仲間にすることなんだ!!」

ジンガーの攻撃をいなしながらも、ジャンボは剣幕で怒鳴る。


仲間に出来るモンスターは、魔王や他の人間のマスターに忠誠を誓っていない者だけ。
チャモロも、言われるまで気づかなかったが、それは納得できた。

1232 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:37:47 ID:ghEfv5qg0

ジンガーは体を大きく回転させて薙ぎ払おうとする。
しかしジャンボは回転の動作を見切って、攻撃範囲外に逃げる。

そこから武器をナイトスナイパーに持ち替え、天使の矢を放つ。
ジンガーは再び迫りくるが、その間を利用して再びハンマーを使い、回復したMPでスタンショットを撃つ。
決定打こそ道具使いであるがゆえに中々与えられないが、少しづつジンガーを追い詰めている。


しかし、チャモロとしては破壊したくはない。
今ジンガーは、ジャンボに掛かりきりになっている。


どうにか代替案がないかと頭を捻らせていた所に、後ろにいつの間にか紫のターバンの男が立っていた。



(異常事態。何ヲシテイル…個体B……)

ジャンボに行動を悉く読まれ、またしても膠着状態に追い込まれたジンガー。
個体Bも何を手間取っているのかやってこない。


「戦いを止めるのです!!」

「あ……あべる様!?」
ジンガーのアイセンサーが、半日以上会ってない主人、アベルの姿を捕らえた。


予想外の状態にこの場で敵味方問わず驚く。
その中で驚いていない者が一匹だけいた。


「大丈夫かな……」
ホイミンがそれを不安そうに見つめる。

自分のホイミで傷を最低限治してもらった後、サフィールはすぐに変化の杖で、アベルに姿を変えたのだ。

「命令です。その者達は敵ではありません!!」

キラーマジンガは戦いをやめて、「マスター」の下へ近づく。

(アベル様との整合性100ぱーせんと。問題ナシ。)

「キラーマジンガ。これからは私達と……。」

急にキラーマジンガは武器をサフィールに構える。
「ナゼ……名前ヲ呼ンデ下サラナイ……?」

1233 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:38:06 ID:ghEfv5qg0
(しまった!!)
父親が魔物を仲間にするとき、必ず名前を付ける。
そういえばリーザス村で襲ってきたアレフが、キラーマジンガをジンガーと呼んでいた。

即興の案で作った作戦だったから、肝心なところが抜けていた。

「貴様、あべる様ヲ騙ッタ、偽物ダナ。」

「「間に合ええええ!!」」

ジャンボとチャモロが異口同音に声を荒げ、サフィールに攻撃が届く前に、ジンガーに攻撃を仕掛けた。


チャモロの正拳突きと、ジャンボのキャンセルシショットがジンガーの頭に同時に命中する。


ジンガーは大きく吹っ飛ぶ。

「キサマラ!!ヨクモあべる様ヲ侮辱シタナ!!」
ジンガーは再び怒り、襲ってくる。


「キレやがってよお。ちょっとは落ち着きな。ロストブレイク!!」
しかしその怒りは1度目とは異なり、解除方法を知っている者がいたため、容易に鎮められる。

その隙を見逃さず、チャモロが二度目のジゴスパークを纏った正拳突きをジンガーに打ち込んだ。

再びジンガーは電気を内側から浴び、大破する。

二度目の友達大作戦も失敗に終わってしまった。



その姿をサフィールが何も言わずに見つめている。

「チッ、結局壊してしまったのかよ……まあいい。早くターニアを助けに行くぞ!!」

すぐに走り出そうとするジャンボを、チャモロが止める。

「待って下さい!!多分もう一体います!!」


「なるほど。おかしいと思ったぜ。」
突拍子もない発言とは裏腹に、ジャンボは妙に落ち着いていた。

「どういうことですか?」

「オレが戦ったキラーマジンガってのは、普通二体いてな、一体が壊れたらもう一体が復活させるんだ。」

そう言われてチャモロは納得が行った。

「そうだったのですか……さっき突然現れたのは……。」

1234 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:38:30 ID:ghEfv5qg0


「なあ、チャモロ。今、「さっき突然現れた」って言ってたよな!!」
「は、はい。」

意図の分からない質問にチャモロは答える。

「もう一度聞くぜ。「そいつ」がマスターと一緒にいた時はあったか?」
「い、いえ……見たことはないです。」

チャモロは意図の分からない質問に答え続ける。

「ひょっとしたらそいつは、まだ誰のモンスターになっていないのかもしれねえ。勧誘してみる価値はあるぜ!!
それからチャモロはそろそろターニアを追いかけてくれ!!知り合いなんだよな!?」
「はい!!でも、街の方にブライさんって人が……」

「チャモロさん!!ブライさんやゴーレムさんのことは私達に任せてください!!」

サフィールはジャンボと共にトラペッタへ向かおうとする。
二体目のキラーマジンガには呪文は通じるし、ゴーレムとの付き合いは彼女が一番長いから、順当と言えば順当だろう。

脚のケガも、ホイミンの力で治った。


なぜこの男が自分を知っているのかという疑問をよそに、チャモロはターニアを追いかけていく。
片腕を思うように動かせないが、ジャンボにかけてもらったピオリムのおかげで、その足は速い。


「オレ達も行くぞ。向こうでまだ人が戦ってるんだろ?」
「はい!!」

ジャンボはトラペッタの方に向かう。
二体目のキラーマジンガと戦っている最中に、一体目を復活させられたら厄介なこと極まりない。
闘う場所は移動しておいた方がよいだろう。

「ジャンボさん……」
ホイミンはまだ、ジャンボの人間性は信用出来てなかった。
だが、この人物の能力は信用できると確信した。


自分の目的。それは「みんな友達大作戦」を成功すること。
そのために、協力する相手の選り好みなんて出来ない。
走っていくジャンボの後を追う。

1235 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:39:32 ID:ghEfv5qg0
丁度トラペッタの方から、もう一体のキラーマジンガがやって来た。



身体に付いているのは人の血、それにゴーレムの身体の破片。

ブライとゴーレムが、どうなったのかサフィールも察する。

しかしジャンボの眼には希望の光が浮かんでいた。


「見せてやるぜ。ドワーフの心髄ってヤツをな」
ジャンボは死んだ旧友の形見を握り締め、キラーマジンガBに立ち向かっていく。

【F-3/街道 /2日目黎明】

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP7/10 MP1/6 左腕骨折(応急処置済み) ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)(加速状態)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:諦めない。ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める ジャンボのサポートをする その後ターニアを助けに行く。
※チャモロはローラが死んだと思っています。
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。また、はぐれメタルの職業を少なくともLv7まで経験しています。魔法使い、魔法戦士、賢者、勇者は経験していません。

【F-3/平原/2日目黎明】


【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP:9/10 MP 2/5 左足矢傷(応急処置済み)
[装備]:ドラゴンの杖
[道具]:支給品一式×3、へんげの杖、ショットガン、999999ゴールド
[思考]:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
おとうさんを見つけて止める
みんな友達大作戦を手伝う

【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:HP7/8 MP2/5
[装備]:ナイトスナイパー@DQ8
[道具]:支給品一式、道具0〜4 四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1(ゲレゲレの支給品)支給品0〜1(ヒューザの支給品) 天使の鉄槌@DQ10 名刀・斬鉄丸@DQS 悪魔の爪@DQ5 天空の剣、罠抜けの指輪 罠の巻物×2 ドラゴンローブ  砂柱の魔方陣×1
[思考]:
基本方針:エビルプリーストに借りを返す。
1:キラーマジンガBを仲間にする
2:ターニアを見つける
3:首輪解除を試みる

[備考]:※職業はどうぐ使いです。弓スキルは150です。ハンマースキルは100以上です。

【ホイミン@DQ4】
[状態]:健康 MP1/8 仲間死亡によるショック
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個 ヒューザのメモ(首輪解除の手掛かりが書いています)
[思考]:ジャンボ手伝う 『みんな友達大作戦』を成功させる ヒューザがくれた手掛かりを守る。

1236 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:40:24 ID:ghEfv5qg0
【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:仮死状態(リモートペアで復活できます)
[装備]:折れた灼熱剣エンマ@DQS メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:アベルを探す、邪魔する者は破壊する。
[備考]:サフィール達に疑問を抱いています。

【キラーマジンガB@DQ10】
[状態]:HP5/8
[装備]:聖王のつるぎ@DQ10 聖王のハンマー@DQ10 壊れた聖王の弓@DQ10 アクセルギア@DQ10
[道具]:支給品一式×3、魔封じの杖、道具0〜2個(ブライの不明支給品)、道具0〜2個(ゴーレムの不明支給品)
[思考]:ジンガーと同じことをする。
[備考]:DQ10のキラーマジンガの特技を使いこなします。
アベルと出会う前のジンガーのように、命令がインプットされていない状態です。
命令する者が現れるまでは、ジンガーの行動をトレースします。


【F-4/平原/2日目 深夜】


【ターニア@DQ6】
[状態]:健康 恐怖
[装備]:無し
[道具]:支給品一式(ランタン無し)、愛のマカロン×6 砂柱の杖@トルネコ3 道具0〜1
[思考]:基本方針:お兄ちゃんと合流したい。
首輪を解除してくれる者を探す 
周りに流されず、自分で行動する

1237 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/18(月) 11:40:37 ID:ghEfv5qg0
投下終了しました。

1238ただ一匹の名無しだ:2019/02/18(月) 18:18:54 ID:AmCZj6HY0
投下乙です
ジンガーなんか一つの生物になってきてるような気がするな

1239ただ一匹の名無しだ:2019/02/18(月) 18:37:48 ID:pZMcc3Jg0
投下乙です
ジンガーほんとアベル大好きだなあ
相棒の離脱フラグが立つ中、どうなるか
ジャンボはまともに味方やってくれると頼りになるな
久しぶりに一話目のジャンボを見たような感じ

1240 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/19(火) 00:54:33 ID:zqO9UgL20
すいませんタイトル忘れてました。「それぞれの戦い方」です。

1241 ◆qpOCzvb0ck:2019/02/20(水) 19:42:41 ID:KMz.2j5M0
「それぞれの戦い方」の訂正

ジャンボがジンガーに打った技、「ロストブレイク」→「ロストアタック」
状態表のターニアの時間帯「深夜」→「黎明」

「星空を継ぐ者」、「かの恐怖、再臨す」、「それぞれの戦い方」のWiki編集のついでに訂正しておきました。

1242ただ一匹の名無しだ:2019/02/25(月) 17:12:34 ID:xSslXn2g0
>>589
あばよ同類

1243 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/07(木) 12:26:08 ID:xIgJwNtM0
修正報告
「星空を継ぐ者」のポーラの持ち物に「割れたラーの鏡」を書き忘れていたので訂正しました

1244 ◆qpOCzvb0ck:2019/03/15(金) 11:21:35 ID:2PVX0PQ20
投下します。

1245 ◆qpOCzvb0ck:2019/03/15(金) 11:22:03 ID:2PVX0PQ20
今一度状況を確認しよう。

つい先刻まで有象無象が集まっていたこの場所だが、今は自分を合わせて5人しかいない。

ほとんどがこの地を去ったか、戦いの果てに死んでしまった。



そして、つい先ほどジャンボとホイミン、二人が遠くへ行った。

それをアンルシアがぼんやりと眺めている。

残りは、自分も入れて3人。
加えて一人はなおも気絶している。


そして、目的の道具が目の前にある。

結論を言うと、今がロザリーのもとに帰る、千載一遇のチャンスと言える。


今一度周りを確認する。
誰も自分の動きには注目していない。

ゆっくりと、ゆっくりとティアのザックに手を伸ばす。
おわかれのつばさは、何の苦労もなく、自分の手に収まった……はずだった。
だが、どういう訳か出来ない。

なぜだ。
手が震える。
目の前にある翼を持つことが出来ない。

人の物を無断で取る罪の意識か?
いや、ちがう。
そんなものを感じた覚えはないし、人間のことなどどうでもよかったはずだ。

そうだ。
今、目の前にいる、虚ろな目をしたアンルシアと言う名の少女。

自分が長い間信じてやってきたことが、間違いだったと気づいた時の目。
まるで、あの時のユーリルの目だ。

そして、もう一つ気になること。
ヤンガスが兄貴と言っていた男、エイトを刺した剣。

使い手自身は、どう見ても普通の少女だ。
だが、そうならば混戦状態の中とはいえ、エイトを刺すことが出来る辻褄が合わない。
だとするとこの剣が、特別な力を持っているということになる。
例えば、ユーリルの天空の剣のような。

1246どうにも踏み出せなくて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/15(金) 11:22:36 ID:2PVX0PQ20
その案が正しいとなると、この少女も勇者と言うことになるのか?

そして、自分はこの二人の少女をユーリルと重ね、同情しているというのか?

いや、その考えはおかしい。
ユーリルの時も、奴への同情より人間への怒りの方が強かったはず。

疑問は深まるばかり。
とりあえず、この場所は危険だ。
ティアからおわかれのつばさを奪うにしろ、奪わないにしろ、こんな場所にとどまり続けるのは危険だ。
先程の騒動で、新たな敵がやってくる可能性もある。


「我々は城に戻る。二人共大丈夫だな。」

「…………。」

「ヤンガスの話によると、城には月の世界へ行ける窓があるらしい。脱出の手がかりもあるかもしれん。」

本当にこの状況の打破を望んでいるのは、自分かもしれない。
アンルシアは黙ってティアを抱え、ピサロについていく。

なぜティアからおわかれのつばさを取ることが出来ない?
時間が過ぎれば過ぎるほど、ロザリーに危機が迫る可能性が高い。

いくらこの二人にユーリルと通ずる所があるからといって、ロザリーより優先順位を上にする義理はない。

ピサロがそう考え続けていたところで、3度目の放送が流れた。



――――――「まずは禁止エリアの………」

どの道脱出するのだからどうでもい……はずだがその場所をメモしてしまう。
まるでまだこの世界でやることが残されているかのように。

アンルシアはジャンボが走って行った方をじっと眺めている。なおも変わらないままだ。

―――――「続いて、この地で死者の仲間入りになった………」

私にとって、生死が気になるのはこの戦いに参加した者ではない。


この鳥籠の外にいるロザリーだ。
ただの煩いノイズだ。

その中で、一人の名前が読み上げられた時、ふいにティアが目を覚ました。

「お兄ちゃん!?」

ティアが突然目を覚ました。

1247どうにも踏み出せなくて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/15(金) 11:24:02 ID:2PVX0PQ20
全くもって考えてなかった。
この少女の兄が呼ばれたとは。


「ティアちゃん!?」
アンルシアも意識を向け始めた。

「お兄ちゃん……どうして……なの?」

兄を失って、予想通りと言えばそうだが、ティアは錯乱状態だ。
アンルシアの背中の上で暴れ始める。

「落ち着け!!小娘!!」
ピサロとアンルシアの声も聞かずに、ティアは泣き始める。


どうにかアンルシアがティアをなだめるも、どちらも精神的に極めて不安定な状態だ。

こんな時に別の敵からの襲撃が来れば、大変なことになる。
どさくさに紛れておわかれのつばさのみを持ち逃げするというやり方もあるが。



城が見えてきた。

(……!?)

だが、その城からは何とも邪悪な気配が伝わってくる。

元々ヤンガスの話によると、あの城はかつて呪われた時の姿になっていたという。
だが、そんなものではない。
昼間とは全く気配が違う。


他の二人は気付いていない。

一つはかつての自分の部下、ヘルバトラー……のようだが圧迫感が全く違う。
もう一つ、さらに城に近づいてくる邪悪なオーラを感じる。


城は今でも安全だとばかり思っていたが、そうでないことがすぐに伝わった。

月影の窓を見つけるどころか、以前現れたという場所である図書館に行くことさえ難しい可能性が高い。

だが、どうすればいい?
城が安全じゃないなら、他の場所が安全だということにはつながらない。

1248どうにも踏み出せなくて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/15(金) 11:24:18 ID:2PVX0PQ20

「止まれ!!」
城へ向かおうとしている二人に警告をする。

「城から邪悪な気配を感じる。しかも、二つもだ。」


「え!?」
アンルシアが慌て始める。


更に、城の中から、巨大な竜巻が巻き起こる。
バギクロスよりはるかに巨大なサイズだ。

ここにいてもいつ敵に感づかれるか分からない。

しかもタイミングの悪いことに、ティアが泣き始めた。
「おにいちゃん!!たすけてぇ!!どこにいるの!?おにいちゃぁん!!」

「静かにしろ!!キサマの兄は死んだ!!」

言ってすぐに、自分の行動を後悔した。

「おにいちゃんはどこぉ!?おにいちゃんが……しんじゃうはずがない………。」

子供をあやしたことなんて、一度もない。
どうにもできない状況で、予想外な周りの状況の変化に頭が回らない。

厄介な事態はさらに続く。


「そうだ!!お城にかえれば、おにいちゃんも、みんないるはずだよ!!」

ティアが自分のザックを探り始めた。

「待って!!ティア!!」

アンルシアがそれを止めようとする。
全く持ってこれは予想外だった。

てっきりティアがおわかれのつばさの使い道を知らずに、ザックに仕舞っていたのだとばかり思っていた。
だが、既に知っていたとは。

大方、仲間と共に使いたいとか、人間特有のくだらない理由で使わなかったのだろうが、今更理由などはどうでもよい。

おわかれのつばさどころではない。
早くこの場から離れないと十中八九面倒なことになる。

咄嗟にラリホーマを唱え、ティアを眠らせる。

「………ティアを止めてくれて、ありがとうございます。」
「構わん。」

1249どうにも踏み出せなくて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/15(金) 11:24:37 ID:2PVX0PQ20
今のは、ティアのためではなく、勝手におわかれのつばさを使わせないため。
しかし、危ない所だった。

もしおわかれのつばさを奪っていたら、ティアに気付かれるところだった。
仮にそれがまごうことなき脱出用の道具だとしても、すぐに効果が発揮される道具なのか分からない。

辞典とは痒い所に手が届くようで届かないものだ。
しかし、問題はこの先のこと。


ヤンガスが死んでしまい、エイトも行方知らず。
月影の窓のことを詳しく知る者が今周りにいない。
加えて、その手掛かりとなる場所には敵がいる。


自分一人ならともかく、足手纏いになっている少女二人を抱えて、正体も分からない敵を倒すのは難しい。

戦いに紛れて、おわかれのつばさを失う可能性もある。


加えてティアもいつまで抑えられるか心配だ。
ラリホーやメダパニといった、神経に作用する呪文は何度もかけ続けていると、やがて耐性が身に付く。


月影の窓の手がかりか、自分の身。
あるいは、おわかれのつばさのどれかの安全を棄てることになる。

ここでピサロは、月影の窓を棄てる選択に出た。
ヤンガスの話も今一つ信用が出来なかったことに加えて、今の状況で敵陣に飛び込むにはコンディションが悪すぎるからだ。

ひとまず情緒不安定の小娘二人を安全な場所に置いてから、行動を映した方がよいだろう。

地図を見てみると、南の教会がベターだ。
ティアを寝かせるためのベッドもあるかもしれない。

「方向を変えろ。あの場所は危険だ。南へ向かう。」

アンルシアは黙って頷く。
にげる。いざという時に必要なことだと、アンルシアがジャンボから教わった言葉。
あの時こそ、ジャンボの考えには反対したが、今の自分は力がない。

ピサロは逃げる。
自分の行動に対して疑問を抱きながら。


アンルシアは逃げる。
隣の男が何を考えているのかも知らずに。

1250どうにも踏み出せなくて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/15(金) 11:25:14 ID:2PVX0PQ20
【D-4/トロデーン地方 草原/2日目 深夜】

【ピサロ@DQ4】
[状態]:健康 焦り アンルシアとティアに疑問
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 『世界道具百科辞典』 『勇者死すべし』 大魔道の手紙
[思考]:トロデーン南の教会に避難する
エビルプリーストをこの手で葬り去る
ロザリーの安否を確認する。
1:ロザリーはどうなった……?
※ジバ系呪文を実際に見せてもらいました。
※エビルプリーストの背後に黒幕がいることを、手紙によってほぼ確信しました。
現状ではラプソーンが怪しいと考えています
※首輪の仕組み、機能を知りました


【勇者姫アンルシア@DQ10】
[状態]:健康 MP1/8 情緒不安定 自信喪失
[装備]:戦姫のレイピア@DQ10
[道具]:支給品一式 とつげき丸@DQ10 不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:トロデーン城から逃げる
トロデーン南の教会へ向かう
ティアを守る
最後まで戦う
彼に会いたい
彼を守りたい
彼の隣に居たい

[備考]:全てのスキルポイントが一時的に0になっています。それに伴い、戦闘力の低下とギガデイン・ベホマラー等の呪文が使えなくなっています。

【ティア@DQ2(サマルトリアの王女)】
[状態]:健康  睡眠状態
[装備]:ロトの剣 氷柱の杖(残5)@トルネコ3 ようせいのくつ@DQ9 
[道具]:支給品一式 脱いだ靴 パーティードレス@DQ7
[思考]:恐怖
※第二放送の内容を聞いてません。

1251どうにも踏み出せなくて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/15(金) 11:26:49 ID:2PVX0PQ20
投下終了です。内容に前回の仮投下スレのような無理矢理な部分はないはずです。
それ以外に何か無理な部分がありましたらご意見を。

1252ただ一匹の名無しだ:2019/03/15(金) 23:14:25 ID:bzyKWqVc0
投下乙です

ティアは先の話で一気に不安定になったなあ…
ピサロとアンルシアもますます雲行きが怪しい感じになってきたなあ…

1253救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:03:46 ID:s1N3sclc0
投下します。

1254救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:04:08 ID:s1N3sclc0
ヘルバトラーの頃の自分を打ち倒したアスナの姿を見つけた魔英雄は、ふてぶてしさなど残っていないどこまでも醜悪な笑みを浮かべている。
獲物を狙う蛇の目。
3対1のこの状況においても危機感を覚えている様子などは一切見受けられない。

「お前ら、気をつけろ!コイツの斬撃は呪文そのものだ!ヘルバトラーが体内から操ってて剣と呪文を同時に撃ってくるんだ!」

アスナとフアナの回復呪文を受けながら、コニファーが見破った情報を簡潔にアスナとフアナに説明する。

「わ、私だって!右手で絵を描きながら左手で字を書けますよ!」

「ヘルバトラー……私が、ちゃんと倒してれば……」

仲間というのは頼もしいものだ。先程まであれだけ絶望的な状況で、今もなお相手に戦局は傾いているままであるというのに、そこに仲間が居てくれるだけでどんな強敵でも打ち倒せるような気がしてくる。

「よし……行くぞお前ら!俺たちは負けねえ!」

「救いを受け入れぬ…か。いいだろう!」

ザンクローネが剣に呪文を纏う。再び先程の竜巻を起こして一網打尽にするつもりだ。

「させるかよ!」

竜巻を作る時間を稼がせないよう、コニファーが敵に向かって駆け出す。その後に続きアスナもフアナも走る。
射手のコニファーが最前列に立っていることに疑問を覚えながらも、真空斬りでコニファーを狙う。

1255救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:04:44 ID:s1N3sclc0
「守りの霧!」

飛ばされた風の刃はコニファーにも、後続の2人にも届くことなく消え去る。
そしてコニファーは立ち止まり、矢を放つ。ザンクローネは太刀で矢を弾し、さらに左腕に激しい炎を纏わせて接近するアスナに熱波を飛ばす。

「させません!フバーハ!」

超高温の気体がアスナの身体を包み込むも、フアナの呪文によってそのダメージの大部分は防がれる。
そのままザンクローネの眼前に辿り着いたアスナが剣を振るうも、ザンクローネは難なく太刀で弾き返す。
弾き返され着地したアスナに向けて、ザンクローネの左の掌が向けられる。そのまま魔女の呪文による攻撃を行うつもりだ。

しかしそれを見越したコニファーが掌に向けて矢を放ち、呪文の発動を阻止する。
攻撃を防がれてザンクローネに向けて、フアナが胸に蹴りを入れようと走り込む。
慌ててザンクローネは胸部を防御し、フアナの蹴りはザンクローネの腕を蹴飛ばすのみに留まり、振り払われてしまった。

(やっぱり弱点は心臓か…)

女僧侶のただの蹴りなど、魔英雄の再生力をもってすれば躱すまでも防御するまでもない一撃。それをわざわざ腕で受け止める必要があったのは、先ほど一瞬正気に戻ったザンクローネな言っていた通り心臓が弱点で、心臓に衝撃を与えるのを少しでも防ぐためなのだろうとコニファーは推察する。

「アスナ、フアナ。心臓を狙え。それがアイツの弱点だ」

「は、はい!」

「分かりました!」

そう、これが仲間の頼もしさだ。
それぞれが役割を持って戦うからこそ、安心して自分の役割に専念できる。
そして自分は偵察役として先立って敵と戦っており、2人よりも多くの敵の情報を掴んでいるのだ。
頭より先に体が動くタイプの2人を的確に導けるのは自分しかいない。

1256救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:05:26 ID:s1N3sclc0
「攻め込むぜ……オオカミアタック!」

アスナの剣による強撃や雷呪文。そういった大ダメージを心臓にぶつけ、再生する暇もないように即死させるという方針を定める。
そのために、囮となる弾数を増やせる特技で狙い撃つ。
2匹のオオカミが2つの弧を描き、ザンクローネに飛びかかった。

「霧散しろ!」

太刀をぶん回し、イオナズンを斬撃として撃ち出されてオオカミたちは消し飛ばされた。
辺り一面に爆発が巻き起こり、爆風がトロデーン城の庭を包み込んだ。

「バギ!」

爆風をフアナは真空呪文で払い飛ばす。そうして開けた活路を突っ切ったアスナが斬り掛かる。

「ぐ……!!」

アスナの斬撃は逸れて躱そうとしたザンクローネの心臓を貫くことこそなかったものの、横腹に深い傷を残す。
その隙を逃すことなく、コニファーが追撃のさみだれ撃ちを放つ。
アスナと距離を取ろうとしたザンクローネを妨害するように、移動先を見越して心臓を狙う4本の矢がザンクローネの移動を封じる。

アスナが距離を詰め、今度こそ心臓に向けて刺突を繰り出した。

「おのれ……極氷フリーズブレード!」

しかしザンクローネもやられっぱなしではない。
右手で持った太刀を天に向けて突き上げ、魔女の氷呪文をザンクローネの両手剣の特技に載せた大技で、辺りに氷のフィールドを作り上げアスナの接近を妨害する。

「いいえ、まだです!天なる雷よ!悪を討て!!」

「勇者の雷など……消し去ってくれる!!地獄の雷撃よ!我に宿れ!!」

接近を封じられ、呪文による攻撃を試みるアスナにそれを見抜いたザンクローネ。両者がほぼ同時に詠唱を終える。
しかし、それよりも先に―――

「悪しき者よ、沈黙せよ――マホトーン!!」
「なっ……!」

――詠唱を終えていたフアナがザンクローネの呪文を封じ込めた。

1257救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:06:12 ID:s1N3sclc0
「いっけえええ!!ギガデイーーーン!!」

アスナの放った雷が真っ直ぐにザンクローネに伸び、その胸に直撃する。

「ぎああああああ!!!」

ザンクローネのものとも、魔物のものとも、魔女のものとも分からない悲鳴がこだまする。
土埃が舞い上がり、煙まで立ち昇っていて姿はハッキリと見えないが、あの威力の雷を心臓に受けて生きているはずはないだろう。

「はぁ……はぁ……やりました……」

「さっすがアスナです!第2回アリアハン未来予想大会優勝の私にはこのビジョンが見えていましたよ!」

「うっし……誰も……死んでねえな?」

誰もが勝利を喜んでいたその瞬間――――



―――クククッ!勇者の雷、その程度か……

「「「なっ!!」」」

魔英雄ザンクローネの言葉が響き渡り、そしてその次の瞬間、空から"何か"が降り注いだ。

突然の攻撃を受けてコニファーは吹き飛ばされる。隣ではフアナも同じように攻撃を受けていた。

(馬鹿な……あんなのまるで………)

土埃や煙が消え、ようやく見えたザンクローネの姿。
その身体には、真っ黒な羽根が生えていた。魔女グレイツェルの魔力を発現させて羽根を生やし、身を包むことで先程のギガデインから心臓を守ったのだ。

(「堕天使」じゃ…ねえか…!!)

ザンクローネは倒れたコニファーたちに向けて追撃をぶつけるため、攻撃の姿勢を取る。

しかし、アスナが立ち塞がる。不意をついてコニファーとフアナを吹き飛ばした「フェザースコール」を、アスナだけはオーガシールドで防いでいたのだ。

「やはり……貴様と俺は戦う運命なのだろうな、勇者よ」

「フアナも、コニファーさんも、まもる。そう誓った……だから……手出しは、させない!!」

1258救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:06:50 ID:s1N3sclc0
次の瞬間、弾かれたようにアスナはザンクローネの眼前に飛び込み、オーガシールドを胸に叩きつける。

「ぐ………!」

剣を振りかぶるという動作すら必要としない最速の攻撃に怯むザンクローネと対照的に、アスナは今度こそ剣を引いて追撃の準備をする。

ざくり。
鋭い音がするも、ザンクローネの心臓には届かない。
太刀での防御は咄嗟に出来ないため、左手でアスナの刺突を受けていた。
ザンクローネは背中の羽根を羽ばたかせながら後方へバックし、一旦距離を置こうと試みる。しかし羽根が起こす風圧をものともせず、アスナが再び飛び込んでいく。

アスナは時々、危機的な状況で爆発的な戦闘能力の増加を見せることがあった。
しかし大きな問題がひとつ。
これまでアスナは極度の緊張のせいでその力を制御することが出来なかった。

しかし今のアスナは、仲間を守ることしか考えていない。
引っ込み思案という性格ゆえに抱く、他者に真っ向から立ち向かうことへの恐怖や緊張、そういったものをすっかり忘れている。

よってアスナの爆発的な能力上昇――別の世界では"ゾーン突入"とも呼ばれている現象――を100%コントロールすることが出来ているのである。

1259救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:07:24 ID:s1N3sclc0

「ぐ……痛え………」

フェザースコールを受け、地面に這いつくばることとなったコニファーは何とか起き上がる。
少し離れたところにはフアナも倒れている。
結構な隙を晒したはずだが、アスナが戦ってくれているため敵の追撃が飛んでくることはなかったらしい。

「おいフアナ、大丈夫か――――ん?」

フアナの方へ向かいながら、フアナの支給品袋から何かがはみ出ているのに気付く。

「これは……おい、フアナ!一体どこでこれを……いや、そんなこたぁどうでもいい」

「コニファーさん!それ知ってるんですか?せくしぃぎゃるの本じゃないですよ?」

フアナの怪我はコニファーよりも軽かったらしく、難なく起き上がった。

「これはパラディンの秘伝書って書物だ。俺の世界にあった道具なんだけどよ………最高だ。逆転の星、掴んだかもしれねえぜ」

「ってことは、コニファーさんはそれを使えるんですね!いっちょやっちゃってください!」

フアナの期待の目を横目にコニファーは首を横に振る。

「駄目だ、フアナ。お前がやるんだ」

「え………?私……ですか?」

「俺じゃあアイツを倒せねえ。この技は僧侶が撃つのがいちばん強えんだ」

輝く星雲を炸裂させて敵を撃つパラディンの奥義、グランドネビュラ。その力の源は癒しの魔力であるため、最も使いこなせるのは僧侶の職に就く者なのである。

フアナは言っていた。
回復呪文の制限されたこの世界において、僧侶は無力な存在だと。
しかしここでは、僧侶であっても――否、僧侶であるからこそ為せる役割がある。
フアナにとっても無力感を払拭する、またとない機会のはずだ。しかし――

1260救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:07:59 ID:s1N3sclc0
「――無理ですよ」

そんなフアナの口から弱い言葉が零れ落ちた。

「そんなの、私には出来ない……ですよ……」

「フア…ナ……?」

コニファーは驚き、フアナの眼を見つめる。

「コニファーさん、その本のこと知ってるんですよね?だったら……」

そしてふと、何かに気付いたようにコニファーは唇を噛んだ。

(そうか、フアナは………)

聖職者でありながら、誰よりも元気に戦場を駆け回っていたこの少女は。

守られてばかりの自分から変わりたいと言ったこの少女は。

みえっぱりで、いつも自分を大きく見せようとしていたこの少女は。

(本当は誰よりも、自分ってモンに自信がねえんだ……)

成功体験―――それだけがフアナが自分を肯定出来る材料であった。
それは時には権力者に化けた魔物から街を救ったことであったり、時には自前の技能を駆使して大会で功績を残したことだったりもした。

「…やっぱり私よりも、コニファーさんの方が向いてるんじゃ……」

だが、そんな鎧はここでは何の意味も成さなかったのだ。
かつて人々を癒し、仲間を救ってきた回復呪文は制限を受けてしまった。
かつて様々な功績を残してきた器用さだけでは到底敵を倒すことは出来なかった。

失敗の連続。
それがフアナに一抹の不安を植え付けてしまっているのだ。

1261救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:08:32 ID:s1N3sclc0
(くっ……)

ザンクローネの再生力を突破するには一瞬の最高火力を放つしかない。自分の放つグランドネビュラでは難しいだろう。
アークの繊細さとポーラの荒々しさを兼ね備えたかのようなアスナの剣技も敵を追い詰めは出来るかもしれないものの、あの圧倒的な再生力の前には突破力に欠ける。

(説得するしかない、か…)

緊張でガチガチになった状態では特技を放つことに集中出来ず、真価を発揮できない。まずはフアナの緊張を解くほかに敵を倒す手段はないのだ。

「フアナ、簡単な質問をするぜ。お前は何で僧侶になったんだ?」

「えっ…?」

どうして今?とでも言わんばかりにフアナが面食らった顔でコニファーの瞳を見つめた。
もちろんコニファーとて話をする時間は惜しい。
しかし、パラディンの秘伝書とて使いこなせるであろうフアナの実力と、あのザンクローネを相手にも時間をバッチリ稼いでくれるであろうアスナの実力を信じているからこそ、こうするのが最善手だと判断した。

「俺にはさ、惚れた女が居たんだ」

まだキョトンとしているフアナを横目に話を続ける。

「本当は自分が誰よりも冒険に行きたいくせに、冒険者たちのために酒場を開いてるような不器用な女さ。

冒険の中で彼女と同じ職業、盗賊を極めて、そして彼女の仕事を代わってやれるくらい冒険について分かった時、彼女を思うままの冒険に送り出してやりたかったんだ。……そいつが俺の冒険の始まりだった。

ま、途中でもっと強大な使命みたいなもん背負っちまったもんで、職業も変えて冒険の目的もだんだん変わっちまったんだけどよ。

俺が盗賊の職に就いた理由はこんなちっぽけな理由さ。
だけど世界に絶望するような出来事が起こっても、その始まりの記憶は俺を支えてくれた。

じゃあフアナ、お前が僧侶になった理由は何だ?」

1262救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:09:04 ID:s1N3sclc0
「私……は……」

(――隣の村が魔物に襲われたらしいわよ)

(――大変だ!子供が崖から落ちて、怪我を……!)

(――誰か、誰か助けてくれ!)

思い出す。
子供の頃の記憶。
やるせなさや無力感を噛み締めていたあの頃の自分を。

「そう、私は…………救い…たかったんです……苦しんでる人たちを……何も出来ないのが悔しくって……」

コニファーは黙って頷いた。
人の想いがとてつもない力になることを、彼は知っている。

「コニファーさんは、こんな私を信じられるんですか?ズーボーさんも、ゼシカさんも、サヴォオも、私は救えなかったんですよ…?」

「俺が信じてるのは、失敗したお前じゃねえ。成功したお前でもねえ。誰かを救いたい――そう言ったお前の想いを信じてる。そのためにひたむきに特訓し続けてきた、1人の僧侶のお前を信じてる」

言葉と共に、秘伝書をフアナに投げ渡す。

天使たちが星に変わったあの夜に、完全に途切れてしまった仲間の輪。
あの夜、自分のかける言葉によっては、アークの絶望も払い除けてもう一度やり直せていたのではないか――――そんな想いが、どこか心の中に燻っていたのだろうか。
この戦いとは関係無しに、何となくフアナには前を向いて欲しいと思った。

「そっか………私にもあったんだ。誰にも譲れない、私だけのものが………。コニファーさん、私……やってみます!」

何かから解き放たれたような気分で、フアナは秘伝書を開く。
今度こそ、仲間を守りたい。
今度こそ、誰かを救いたい。
胸にそれだけ、想いを宿して。

1263救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:09:39 ID:s1N3sclc0
何度も何度もぶつかり合う剣と太刀。勇者と英雄。本来であれば背を預け合う者同士であってもおかしくない2人がこの場では全力を以て殺し合っている。

「絶対に、まもる!」

片や、仲間を守るために。

「貴様には誰も救えない!」

片や、歪んだ救いをもたらすために。

「たああああああ!!」
「うおおおおおお!!」

両者ともに雄叫びを上げ、正面から剣と太刀が鍔競り合う。

鍔競り合いを制したのは英雄の側であった。
ザンクローネは鍔競り合うアスナを剣ごと振り払い、吹っ飛ばした。
元より、1人の人間の少女に対して3体の魔物やそれに近い存在の集合体が相手である。さらにはアスナは元々大怪我を負っており、ザンクローネはほとんど無傷であった。勝てないのが当然の相手。むしろこれだけ食い下がれたのは勇者アスナの実力が規格外であることを充分に示しているとさえ言える。

「焼き落せ――メラガイアー!」

アスナが飛ばされた先の大地を着弾点として、火球が天から地へと落とされる。

しかしアスナもまだ殺されるわけにはいかない。
身体が地面に落ちる瞬間、手で大地を思い切り叩き、それをバネに横に逸れて火球を躱す。

「ククク………俺を圧倒した、闘う者の眼をした時のお前でさえ今の俺には叶わない………失望したぞ、勇者よ」

「はあ…………はあ…………」

命こそ助かったものの、既にアスナの体力は限界に近い。
これ以上1人で戦えば、死んでしまうのは言うまでもない。

「待たせたな、アスナ!」

「ごめんなさい、遅くなりました!」

ただし、このまま1人で戦えばの話だ。彼女には信頼出来る仲間が居るのだ。

「そういえば私、この世界に来てからずっとあなたと戦ってるんですよ。だから……じゃないですけど、あなたは私が倒します」

「虫けらが何人増えたところで同じことだ!今度こそ地獄に送ってやろうぞ!」

1264救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:10:07 ID:s1N3sclc0
ザンクローネはイオナズンの呪文を太刀に纏う。全ての世界のヘルバトラーの可能性が集約した最大級の爆発呪文が込められた太刀が、3人に襲い掛かる。

(アーク。俺は新しい仲間たちを守りたい。だから……手を貸してくれ。この一撃に全てを込めて――――)

「――天使の矢!」

「ぐっ……!」

ザックに残っていたたった1本の毒矢がザンクローネへと飛んでいく。普通の攻撃と威力は変わらないはずのたった1本の矢。それは運命に導かれたように毒をザンクローネの体中に巡らせる。そしてたった一瞬、ザンクローネの動きを止めることに成功した。

「今だ!!行け、フアナ!!」

「おのれ、舐めるな!!」

対してザンクローネは、3人の中心でイオナズンを炸裂されることを諦める。
その代わりにイオナズンの呪文を一点に集中し、そのエネルギーを太刀から撃ち出す。凝縮されたイオナズンがコニファーただ1人に迫る。

「させません!ギガデイン!!」

それを後方のアスナが撃ち返す。
イオナズンとギガデインの応酬――――数時間前にも繰り広げられた光景がトロデーンに再現される。

そして前回はイオナズンが上回ったこれらの衝突は――――

「な……押され……!」

――――仲間を守りたい、そんなアスナの決意が上回った。
イオナズンの魔力は完全に霧散する。

「遥かなる星空よ………仲間を守る、力を――――」

「氷塊よ!我が盾に――――」

ザンクローネはフアナの放つ技に対し、グレイツェルの操る氷呪文で応戦しようと詠唱を始める。
しかし、間に合わない。第14回アリアハン早口言葉大会で優勝したフアナの詠唱速度に追いつくことが出来ない。

「輝け――グランドネビュラ!!」

ザンクローネを輝く星雲が取り囲み、そして炸裂した。

1265救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:10:40 ID:s1N3sclc0
「ぐおおおおおおおおおおオオオオオオオオ!!!!何故だ………完全な肉体を手に入れた俺は……無敵のはず………!」

地獄の闘士が断末魔の叫びを上げる。魔瘴石と結合したザンクローネの心臓に亀裂が入る。

「認めない………こんなの、認めないわ……!」

魔女が断末魔の叫びを上げる。魔女の恨みや呪いを宿したザンクローネの心臓にさらに亀裂が入る。

輝く星雲に包まれて、ザンクローネの心臓が完全に砕けるその直前。
"魔英雄"は最期の足掻きを見せた。斬夜の太刀を地に突き刺す。

「まだだ………終われぬ……魔蝕ビッグバン!」

「なっ……!アイツ、まだ……!」

「ククク………刮目せよ、愚かな英雄の物語の終曲を!貴様らも地獄に道連れだ!!」

その言葉を最後に、魔英雄ザンクローネは命を散らした。
その身体から、死をもたらす魔瘴を散らしながら。

「ちくしょう……これで…終わりだってのか?人間の力は…!」

コニファーの目の前に魔瘴が目の前に迫ってくる。フアナもアスナも逃げるのは難しいだろう。

1266救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:11:10 ID:s1N3sclc0
「ううん、ちがう」

それでも、それでもだ。
守りたい仲間が居る。
死なせたくない仲間が居る。
そしてその想いは、3人ともが同じだ。

「コニファーさん、アスナ。大丈夫です。言いましたよね、私たちは無敵だって」

そうだった。
コニファーは知っているのだ。
独りでは乗り越えられない壁も、仲間が集まれば乗り越えられることがあるということを。
そう、その方法は―――

「ああ……そうだったな」
「わたしも、信じてる」
「手、借りますよ。3人で輪を作るんです!」



―――それは、"超必殺技"。



「「「精霊の守り!!!」」」



3人を魔瘴が包み込むが、それは身体を蝕むことなく消えていく。
ザンクローネの討伐と、仲間の全員生還。それは理想的な形で達成された。

ところで、超必殺技は仲間4人が集まって初めて発動出来る必殺技。3人しか居ないのに発動出来たのが何故なのかは分からない。しかし、元の世界ではパラディンの秘伝書を使いこなすようになる過程で、アークに1匹の精霊が取り憑いていたのをコニファーは思い出した。もしかしたらその精霊が、この世界でも秘伝書を扱うフアナを見守ってくれていたのだろうか。まあその精霊の名前すら、姿を見れなかったコニファーは忘れてしまったのだが。

1267救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:11:39 ID:s1N3sclc0

「終わった……な」

「終わり…ましたね」

「つかれました……」

魔瘴が消え、精霊の守りも消え、全員がその場に座り込む。
今まででいちばんの強敵を倒した達成感から、今すぐにでもふかふかのベッドで横になりたい気分だ。

まだ殺し合いは終わっていない。
だけど今は、今だけは。
守り抜いた仲間たちと、掴み取った一時の平和を噛み締めていたい。


なあ。お願いだ。
この生きているって感覚を、もう少し――――。



「お疲れ様でした、皆さん」



―――そんな感慨の中。
ふと、前方を見ると。



「――――そして、さようなら」

「「「なっ……!!」」」


ドス黒い雷を纏った"死"が迫ってきていた。


「ジゴ……スラッシュ!!」

1268救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:12:17 ID:s1N3sclc0

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


ずっと一網打尽に出来る隙を伺っていた。
勇者の雷の使い手がもう1人居るのを見ても心を乱されることなく、僧侶と思われる女が強力な爆発を引き起こしても冷静に。
まさかザンクローネ(名簿とは微妙に姿が異なるようだが)が負けるとは思っていなかったが、そこですぐさま飛び込まなかったおかげで魔瘴とかいうものを被弾することもなくやり過ごすことが出来た。
ザンクローネを仲間に引き込む計画は失敗のようだが、3人もの参加者を死ぬ寸前まで追い詰めてくれたのでそれで充分だ。

やはり冷静に立ち回れるようになってからは調子が良い。
魔王アベルは、ニッコリと微笑んだ。
今こそ、全てに破壊を――――

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

1269救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:13:35 ID:s1N3sclc0

今度こそ終わった。
隙を突かれ、対抗する術も持たなかったアスナ、フアナ、コニファーの3人はそう感じた。



剣に纏われた雷が命を焼く鋭い音がトロデーンに鳴り響く。


「……?」


しかし、その雷はアスナには届かなかった。
アスナは立ち上がり、おそるおそる前を見る。

そして、その雷はフアナにも届かなかった。
フアナは立ち上がり、おそるおそる前を見る。



「悪…かったな……お前ら……」

掠れた声が聞こえた。



「お、お前は……」

何とその雷は、最も前方にいたコニファーにさえ届いていなかった。

3人の前に、ひとつの影が立ち塞がっていたのだ。


「お前は………ザンクローネ!!」


その影は、ついさっきまで3人と戦っていた男、ザンクローネ。
しかしその身体からは、全身を包む黒いオーラも醜悪な笑みも消え、代わりに紅い鎧を身に纏い、ふてぶてしく笑っていた。

「俺は、いつでも、駆け付ける………お前らの声が、枯れない限り、な………」

そもそも、ザンクローネが生きる活力は"願い"である。
心臓を失ったからといって生命活動が即座に停止することはない。

「だが、すまねえ…。どうやら、俺は、ここまで…みてえだ…」

それでも心臓を失ったダメージは決して小さいものではなく、その上さらに魔王のジゴスラッシュまでもをその一身に受けたのだ。とっくに身体の限界など超えている。

「ちっ………余計なことを………!死ね!!」

アベルが横薙ぎにザンクローネの身体を引き裂く。

「くっ……くくくく……」

英雄はふてぶてしく笑いながら崩れ落ちる。

1270救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:14:12 ID:s1N3sclc0
魔英雄ザンクローネのヘルバトラーとグレイツェルの意識は、周囲の者たちを視覚ではなく魔力で感知していたため、アベルの存在にコニファーたちと戦っている時からずっと気付いていた。
魔英雄は自分に牙を向くことが無かったため無視していたのだが、ヘルバトラーやグレイツェルの思念が消えたことで守るべき対象が変わったのだ。

(どうやら……間に合ったみてえだな……)

闇に堕ち、正義を志す者たちを襲うことになったのは本当に残念だ。
それでも、命を奪うことなくギリギリで"救う"ことが出来た。

(ありがとう……俺を"救って"くれて………)

魔英雄ではなく英雄として散れたこと。
それだけが、ザンクローネにとっての"救い"であった。


「ザンクローネ…お前はやっぱり英雄だったぜ……」

「か、彼はどうして助けてくれたんでしょうね?コニファーさんには分かるんですか?」

「何にしても……あの人に救われた命、無駄にはしたくない…です…」

魔英雄ザンクローネとの戦いは、3人の内の誰も死なないまま乗り切ることが出来た。

「命拾いしたようですが、結果は変わりません。……………すぐに皆殺しにして差し上げますよ」

しかしトロデーン城の戦いはまだまだ終わらない。
光が死なないとしても、闇もまた死なないものなのだ。

1271救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:14:50 ID:s1N3sclc0

【D-3/トロデーン城外/2日目 黎明】

【フアナ(女僧侶)@DQ3】
[状態]:HP1/10 MP 0
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 パラディンの秘伝書 不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:自分だけが出来ることを探す。
:コニファーとアスナを守る 
※バーバラの死因を怪しく思っています。

【アスナ(女勇者)@DQ3】
[状態]:HP1/12 MP1/20
性格「ひっこみじあん」
助骨骨折、内臓一部損傷
[装備]:ゴディアスの剣@DQ7  オーガシールド@DQ5
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)  サヴィオの支給品一式 道具0〜1個バレットハンマー@DQ10  ウェディングドレス@DQ9 アルゴンリング@DQ8
[思考]:エビルプリーストを倒す。
:ひっこみじあんを克服したい。
[備考]:不明支給品の中に性格を変える効果を持った本や装飾品は入ってません。 
トロデーン城の地理を把握しています。

【コニファー(男レンジャー)@DQ9】
[状態]HP1/20 MP1/20 片目喪失  ピサロへの疑惑 攻撃力・防御力・ブレス耐性上昇
[装備]かりうどの弓@DQ9、毒矢0本 
[道具]支給品一式 カマエル
[思考]自分が生きているという感覚を保つため、とにかく生き抜く。仲間を探す。
[備考]:

【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/3 手に軽い火傷 MP1/10
[装備]:破壊の剣
[道具]:支給品一式 剣の秘伝書 ヘルバトラーの首輪
[思考]:過去と決別するために戦う 全てを破壊する


【ヘルバトラー@JOKER 死亡】
【ザンクローネ@DQ10 死亡】

【残り23人】

※次の放送でヘルバトラーの名前は呼ばれません。

1272救い無き英雄録 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:15:04 ID:s1N3sclc0
投下終了しました。

1273 ◆2zEnKfaCDc:2019/03/23(土) 03:22:31 ID:s1N3sclc0
細かいリクエストですが、wikiの死亡者リストにおいて
ヘルバトラーの殺害者はフアナ
ザンクローネの殺害者はアベル
でお願いします

1274ただ一匹の名無しだ:2019/03/23(土) 22:07:17 ID:IuYYOxfQ0
投下乙です!

魔英雄ザンクローネ倒したと思ったところでアベルが牙を向いた!
つい少し前までトロデーン城が3rd屈指の安全地帯だったとは考えれない位の連続バトルだなぁ
そして気付けば最初は9人いた10勢も今はジャンボとアンルシアだけになったな

1275ただ一匹の名無しだ:2019/03/24(日) 07:19:54 ID:2eLXsM0M0
投下乙です
しぶとく手強かったヘルバトラーもついに終わったか…いやほんとしぶとい奴だった
なんとか犠牲者なく倒したと思ったとこで連戦とはきついな
ザンクローネは散々だったけど、誰も殺さずに済んだことと最後に英雄としての使命を全うできたのが彼にとっての「救い」だったな

1276 ◆qpOCzvb0ck:2019/03/25(月) 00:19:21 ID:v3QQx8VQ0
少し予約時間過ぎてしまいましたが投下します。

1277希望を求めて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/25(月) 00:21:14 ID:v3QQx8VQ0
キーファは竜王に斬りかかっていく。
自分の実力など、どうでもいい。
ここで竜王に一矢報いなければ、レックもオルテガさんも浮かばれない。

その一心が、キーファの剣の鋭さを増長した。

この強大な敵を倒し、ライラの所に帰るのだ。


「目障りだ!!燃え尽きろ!!ベギラマ!!」
キーファめがけて、紅蓮の竜が迫る。

竜王が使うベギラマは、メラミのように標的を狭めて、代わりに威力を上げることも出来る。

「邪魔だ!」
多少の火傷をよそに、真空斬りで竜を吹き飛ばし、続く二閃目が竜王の首を狙う。

だが、一閃目で軌道を読まれ、躱されてしまう。

(やはりギリギリまで突っ込まねえとダメか……?)
再び体勢を立て直し、次の攻撃案を練るキーファ。

それに対抗し、竜王も身構える。

キーファが地面を蹴りつけ、斬りかかる。
竜王はそれを迎え撃つ。

(よかろう。どうやっても死にたいようだな。)

「手負いだからと言って、貴様ごときに倒せると思うな!!」
このままでは竜王かキーファ、どちらかの攻撃が命中する。

その中央部分に、いくつか閃光がはじけた。


キーファは吹き飛ばされ、竜王も熱風に顔をしかめる。


ロトの勇者の仲間の賢者が使っていた魔法。
キーファの仲間が使っていた呪文。

今戦っている2人はどちらも使えない。

じゃあ、使ったのは……。

「ダメだよ、竜王……その人は……味方…………。」

「レック!!」
「レック!?」
「レックさん!?」

1278 光の中に消え去った : 光の中に消え去った 
 光の中に消え去った 

1279 光の中に消え去った : 光の中に消え去った 
 光の中に消え去った 

1280希望を求めて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/25(月) 00:23:54 ID:v3QQx8VQ0
レックは衰弱状態から竜王のベホイミによって、わずかながら体力を回復していた。
竜王とキーファの戦いを止めようと、荒いやり方だがイオを唱えて、二人を吹き飛ばしたのだ。


さらに、戦いは突如、放送によって妨げられる。


これでキーファもはっきりと理解した。
レックは、死んでいなかった。

「キーファさん!!竜王さんの言うことは、本当です!!」

ミーティアが後ろから声をかける。
その一声で、キーファも我に返る。

「本当……なのかよ。」

張りつめていた体が弛緩して、隼の剣を落としてしまう。

だが、キーファはまだ納得のいかないことがある。
「じゃあ、なんでだよ!!なんでオマエがレックを運んできたんだ!?」



「キサマに話をしても、何もわかるまい。」
「うわっ!!」

竜王はレック乱暴に投げ捨て、そのまま去ろうとする。

「待てよ!!まだ話は終わってねえぞ!!」
「レックを手当てをしてやれ。ワシの話はそれだけだ。」

竜王の姿が見えなくなる。
どこに行くかも伝えずに、人間たちを置いて消え去る。

「おい!!待ってくれ!!竜王……痛っつ!!」

レックの身体に、痛みが走り、再び崩れ落ちる。

「キーファさん!!水と布……貸してください!!」
ミーティアは自分が持っている祝福の杖と、山小屋で取ってきた布地を使って、レックの手当てをし始める。

「あーくそ……乱暴だなアイツ。もう少し親切にしてくれてもいいのに。」

レックの傷は酷く、生きているのが不思議なくらいだった。
キーファの言い分はもっともだと、ミーティアは思った。
闘った末にレックをボロボロに痛めつけて、それで治療するように頼むなんておかしい。

自分とキーファがいない間に、何かあったのだろうか。
それとも、割り込んできた第三者に襲われたのか。

1281希望を求めて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/25(月) 00:25:00 ID:v3QQx8VQ0

キーファも手伝う。
ミーティアとは異なり、少ない道具で治療するのには自分の方が慣れていると思った。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

二人の治療の甲斐があって、レックの傷がふさがってきた。

今すぐにでも竜王を追いかけて行きたいが、レックもキーファも疲労が重なっている状態のため、休憩をとる。

ポルトリンクの民家から調達した干し魚と、支給品のパンと水で、腹を膨らませる。
相当腹が減っていたのか、王族の3人にも代えがたい味だった。


「無事で良かったです!!」
「そうか……あなたは……竜王に捕まっていたミーティア姫ですね。
そちらこそご無事で何よりです。」

「そんな改まった言い方しなくても……普通にミーティアとお呼び下さい!!」

ひとまずレックの無事は保証されたことに、ミーティアとキーファは安堵する。

「キーファもよくミーティア姫を守ってくれたな。ありがとう。」
屈託のない笑顔。竜王と戦う前に見た戦友のそれだ。

「なあ、レック。あの後どうなったのか、教えてくれ。竜王は敵なのか?味方なのか?」

わざわざレックを背負って、自分達の下へ来てくれたのは、本当のようだ。
だが、それだけでオルテガさんを殺した罪が帳消しになるわけではない。

レックは最初から話した。
竜王との戦い。
途中で見えた怪物、バルザックの姿。
助けに行こうとする自分に、回復薬をくれた竜王
誇りをかけた戦い。
ふいに横槍を入れてきた人間。
竜王と協力して、窮地を乗り切ったこと。
その後に自分が体力を使い過ぎて、倒れてしまったこと。


「やはり、竜王さんは……悩んでいたのでしょうか。」
ミーティアはその話を聞いて、一つ分からなかったことが分かった。
竜王もまた自分と同じ王族として、どのように生きるべきか悩んでいたのだろう。
だから自分の悩みに親身になって答えてくれたのだと。

「そうだと思う。俺との話も、妙に人間臭かったんだよね。」
レックもその考えには同感だった。
自分と同じように、「勇者」や「魔王」といった肩書抜きに話し合える者を、心のどこかで求めていた。

1282希望を求めて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/25(月) 00:25:53 ID:v3QQx8VQ0

「ちくしょう………。」

それを聞いたキーファが、悔し気に地面を殴る。

何も出来なかった。
レックの仇を取るつもりが、逆に竜王が自分達の仲間になるチャンスを壊してしまった。
下手をすれば、レックもミーティアも死んでいた。
思えば自分がユバール族になろうとしたきっかけが、あまりに馬鹿で子供だったから、その先で変わろうと思っていたのに。
目の前で突っ走って、迷惑かけて、誰かに助けられて、昔と変わってないんじゃないか。


強くなりたい。
魔王のような強大な敵に勝てるまではいかなくても、誰かの邪魔をしないくらいには。

「気にするなよ。キーファ。こんな世界だから、それぐらいの行き違いはあるさ。」

「ああ、すまねえな。本当に……」


「レックさん……ですよね?一つ聞きたいことがあるんです。竜王と戦っている間に、船を見ませんでした?」

せっかく再開できたのに雰囲気を悪くしないために、ミーティアが話の内容を転換させる。

「船?一度竜王の背に乗ったけど、そんなものは見なかったなあ……。しかしどうして急に?」

ミーティアも話した。
以前自分達はこの辺りで、荒野に打ち上げられた船を見つけたこと。
月世界の住人イシュマウリと、月影のハープを用いて古代船を復活させたこと。
そして今自分が、月影のハープを持っていること。


「へえ……。」
レックはミーティアから月影のハープを受け取る。
デザインこそ美しいが、いたっておかしい部分や、魔力などは伝わってこない。

「そういやマーメイドハープってやつに似てるな。
以前俺の世界で手に入れたんだけど、人魚の力で海底にもぐることが出来るんだ。」

「海底……ですか。ちょっと見てみたい気もします。レックさんの仲間に、特別なハープ弾きがいたんですか?」

「いや……そんな人はいなかったな……マーメイドハープは誰でも弾けたし。」

「月影のハープは、特別な者でなければ力を引き出すことは出来ませんでした。たとえこの辺りに船があっても、復活させるには難しいでしょう。」

「その……なんだっけ………へちま売りって人か。」

「エイトさん、へちま売りじゃなくて、イシュマウリですよ。」

ヤンガスさんと同じ間違いしないでください、と言いたい気持ちを抑える。

「にわかには信じがたい話ばかりだけど、俺も予想外な経験ばかりしてきたからな。」

1283希望を求めて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/25(月) 00:27:03 ID:v3QQx8VQ0
「レックさん……ですよね?一つ聞きたいことがあるんです。竜王と戦っている間に、船を見ませんでした?」

せっかく再開できたのに雰囲気を悪くしないために、ミーティアが話の内容を転換させる。

「船?一度竜王の背に乗ったけど、そんなものは見なかったなあ……。しかしどうして急に?」

ミーティアも話した。
以前自分達はこの辺りで、荒野に打ち上げられた船を見つけたこと。
月世界の住人イシュマウリと、月影のハープを用いて古代船を復活させたこと。
そして今自分が、月影のハープを持っていること。


「へえ……。」
レックはミーティアから月影のハープを受け取る。
デザインこそ美しいが、いたっておかしい部分や、魔力などは伝わってこない。

「そういやマーメイドハープってやつに似てるな。
以前俺の世界で手に入れたんだけど、人魚の力で海底にもぐることが出来るんだ。」

「海底……ですか。ちょっと見てみたい気もします。レックさんの仲間に、特別なハープ弾きがいたんですか?」

「いや……そんな人はいなかったな……マーメイドハープは誰でも弾けたし。」

「月影のハープは、特別な者でなければ力を引き出すことは出来ませんでした。たとえこの辺りに船があっても、復活させるには難しいでしょう。」

「その……なんだっけ………へちま売りって人か。」

「エイトさん、へちま売りじゃなくて、イシュマウリですよ。」

ヤンガスさんと同じ間違いしないでください、と言いたい気持ちを抑える。

「にわかには信じがたい話ばかりだけど、俺も予想外な経験ばかりしてきたからな。」
「しかしよお、たとえ船を見つけても、何だ。そのハープ弾きがいないんじゃ、船を動かせないんだろ?」

キーファもその話に疑問を唱える。
レックは月を見上げる。
白く、大きく、丸い月が輝いている。

「そうです!!肝心なことを忘れてました!!」

突然ミーティアが大きな声を出して、レックもキーファも驚く。

「え?どうしたの?」
「私達の城、トロデーン城で、月世界の入り口を以前見つけたんです!!」

月影の窓。そんな名前だった。それがトロデーン城で開いたことは1度しかない。
それに今は満月。
昔ヤンガスが壊した橋が地図に書いてあったり、ポルトリンクに船がなかったりと、元の世界とは辻褄が会わない部分こそある。

だが、調べてみる価値はある。

1284希望を求めて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/25(月) 00:27:27 ID:v3QQx8VQ0

「だったら……」
「行きましょう。トロデーン城へ。レックさんとキーファさんは、怪我の方はどうですか?」

「俺はもう普通に動けるよ。それにターニアを早く探しに行きたいし。
それに竜王は恐らく…俺たちの戦いに横槍を入れてきたヤツを倒しに行くつもりなんだと思う。」
「オレもだ。会いたい人がいるのはミーティアやレックだけじゃねえ。」

先程の放送で、フォズが呼ばれた。
アンルシアやティアは呼ばれていないが、北で敵に襲われているのかもしれない。
最初の放送以降再開していないし、合流したい。

それに「月影の窓」というくらいなら、月が落ちて朝日が昇れば、折角のチャンスも失ってしまうかもしれない。


三人は竜王やアンルシア達を追う形で歩き始める。

未来への扉の鍵を求めて。





(…………。)

ミーティアの心には、一つのわだかまりがあった。
どうにか自分の力で竜王とキーファの争いを止めようとしたが。
しかし、結局その争いを止めたのはレック自身。

本来なら守られなければいけない程の傷を負ったレックだ。
道を誤った者を見かければ、止めて正しい道を説くのが人の上に立つ者の役目だ。

力ない者は、誇りを通すことも出来ないのか。

誇り無き力がこのバトルロワイヤルのような無秩序な戦いを招く。
だが、力なき誇りはそういった無秩序の中で、何一つ役に立たないのか。


キーファとレックの後ろで、もう一度支給品の一つを見る。

それは、癒しの力を持つ道具と対を成すかのようにザックの中で眠っていた。

暗殺者の名を秘めた短剣。
刃先には危険な毒が塗られているらしく、力が弱くても狙った場所を刺せば致命傷を負わせることが出来るらしい。

争いを止めるのは、強い力が必要だということは感じていた。

だが、武器を使えたところで、仲間を助けることが出来るのだろうか。
何より自分の誇りを貫くための道具に出来るのだろうか。

1285希望を求めて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/25(月) 00:27:55 ID:v3QQx8VQ0

彼女はそのナイフ程の細く小さい、だが消えないわだかまりを持って、先へ進む。
いつか竜王も言っていた、王族としての誇りを見せられる時を待ちながら。



【D-7/荒野/2日目深夜】

【レック@DQ6】
[状態]:HP1/4  MP1/5
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、大魔神の斧@DQJ 蒼炎のツメ@DQ10モリーの支給品1~3個 確認済み支給品1~2個
[思考]:竜王と協力する。アベルを追う、ターニアを探す。



【キーファ@DQ7】
[状態]:HP1/2 
[装備]:はやぶさの剣・改@DQ8
[道具]:支給品一式、月影のハープ@DQ8、支給品1〜2個、ユーリルの不明支給品0~1個
[思考]:竜王を追ってトロデーン城へ行く。イシュマウリに会う。



【ミーティア@DQ8】
[状態]:健康 膝に擦り傷(応急手当て済み)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、あぶないみずぎ、レースのビスチェ、あぶないビスチェ、祝福の杖@DQ7  アサシンダガー@DQ8 その他道具0~1個
[思考]:トロデーン城に向かい、月影の窓からイシュマウリに出会う。


【C-6/荒野/2日目深夜】


【竜王@DQ1】
[状態]:HP1/12 竜化した場合、背中に傷 片手片翼損失 苛立ち
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1個
[思考]:レックと共に協力し、アベルを倒す。周りの人間は邪魔するなら殺す。
[備考]:自分の誇りを貫くか、他の人間の協力も借りるか悩んでいます。

1286希望を求めて ◆qpOCzvb0ck:2019/03/25(月) 00:31:00 ID:v3QQx8VQ0
投下終了しました。

まずは2点ほど私の失敗を。

・パソコンが急に動かなくなったため、スレッド1276~1279まで同じ内容を書き込んでしまったこと。
そのため、どなたか1276~1279のうち、1つ以外の消去をお願いします。
・上記の際にトリップが入ってしまったため、次回から別のトリップを使わせていただきます。

その他に、何かありましたらご意見を。

1287ただ一匹の名無しだ:2019/03/25(月) 13:26:09 ID:A/kHEck.0
投下乙です!
なんもか誰も死なずに済んだけど、ミーティアとキーファは抱えてるものがちょっと深刻化してしまった……みんな自分の納得できる答えを見つけられるようがんばれ


>「その……なんだっけ………へちま売りって人か。」
>「エイトさん、へちま売りじゃなくて、イシュマウリですよ。」

このエイトはレックの間違いでしょうか? ここだけ気になりました
パソコンの不調など大変な中、改めて投下乙です

1288 ◆vV5.jnbCYw:2019/03/25(月) 16:04:43 ID:v3QQx8VQ0
>>1287
申し訳ありません。明らかにエイトではなくレックです。

酉を変えていますが、◆qpOCzvb0ckです。次回からこの酉で進めさせていただきます。

1289 ◆vV5.jnbCYw:2019/03/27(水) 11:43:16 ID:PjKsXpDU0
投下します。

1290その声は届かない ◆vV5.jnbCYw:2019/03/27(水) 11:43:51 ID:PjKsXpDU0
恐怖の仮面を付けた仲間が、アルスに迫る。

「ライアンさん!!目を覚まして!!」

声は届かず、ライアンは襲い掛かる。

「くそっ!!」
慌ててオチェアーノの剣で、まどろみの剣を受け止める。

剣の強さは圧倒的にオチェアーノの剣が有利、のはずだった。
予想外なまでの力の強さに、アルスの手が痺れる。

何とかライアンの攻撃を受け止めることが出来るが、力が強すぎて、防戦一方だ。
ここでアルスは気付いた。
自分はライアンを殺したくないと思っているが、混乱状態のライアンは全く思ってない。
ただ全力で、目の前にいる敵を殺すことに集中している。

そう考えているうちに、後がなくなってきた。

まずい。
剣を落としたら最期だ。

イチかバチか。ガボが得意としていた技を試みる。
この世界でも通じるかどうかは分からなかったが、その作戦は成功した。

廃村の至る所に小さな魔方陣が現れ、そこから一斉に羊達が現れる。
羊たちは瓦礫や枯れ枝を吹き飛ばし、ライアンに迫り来る。

(しめた!!)
怒涛の羊。
ガボが羊飼いをやった際に、自分の遠吠えを羊の守護霊に応用できないか試して、成功した技だ。


予想外な伏兵により、鍔迫り合いは一時中断される。

(ありがとう。助かったよ、ガボ。)
亡き友に感謝をするアルス。
このまま距離を離そうと画策する。

幸いなことに遠距離からの攻撃手段は自分の方が豊富だ。
この脚では振り切ることこそ難しいが、遠距離と近距離では、間違いなく前者の方が有利だ。

しかし、逃げることに成功したわけではなかった。

1291その声は届かない ◆vV5.jnbCYw:2019/03/27(水) 11:44:33 ID:PjKsXpDU0
ザク……ザク……ザク……

ライアンは、無慈悲に羊の群れを薙ぎ払う。

蜘蛛の子を散らすように邪魔者を突き飛ばし、アルスに迫る。

そして、災難はその後に起こった。
「うわっ!!」

吹き飛ばされた羊の一頭が、アルスの身体に激突した。

「!!」
予想外の衝撃にたまらず、地面に転がる。

般若の面によって、思考能力が失われているライアンが狙って羊を突き飛ばした訳ではないはずだ。

アルスは、自分の不運を呪いたくなった。

カチャ……カチャ……カチャ……

何事もなかったかのようにライアンは一歩ずつ歩み寄る。
もう一度羊達に願いをかけてみたが、もう現れることはなかった。


忘れてはいけない。
今のアルスは決して1対1の状況ではない。

ローラという、見えざる敵もいる。

もしライアンとアルスが戦った場合、剣での勝負はライアンの方に軍配が上がるが、戦略の面ではそうもいかない。

多岐に渡る特技と呪文で、ライアンとの接近戦を確実に防ぐはずだ。


だが、ローラがもたらした不幸の呪いは、確実にアルスの選択肢を狭めていく。


痛む脚に鞭打って、どうにかライアンから離れようとする。
先程地面に転がった時に、掴んだ砂を利用して、砂煙を巻き起こす。


(これで時間を稼げれば……!!)

カチャ……カチャ……カチャ……

ライアンは何のためらいもなく砂煙の中に入り、アルスに斬りかかった。
般若の面によって元々視界がふさがれている反面、命の動きを狙って攻撃してくるということを、アルスは知らなかった。

距離が先程より離れていたから、何とか自分の剣で身を守るも、またもアルスの作戦は失敗してしまった。

アルスは剣の腹でまどろみの剣を受け止める。
だが、威力を殺しきれず、後方に下がらざるを得なくなる。

1292その声は届かない ◆vV5.jnbCYw:2019/03/27(水) 11:44:56 ID:PjKsXpDU0

「うわっ!!」
踵が出っ張りに引っかかり、仰向けに転倒する。


アルスの砂煙や怒涛の羊のみならず、村で繰り返される戦いで、コンディションが極めて悪くなっているのだ。


「ライアンさん!!やめて!!僕たちは仲間だろ!!
あんな奴の言いなりにならないでよ!!」

カチャ……カチャ……カチャ……


アルスの言葉も届かず、ライアンはアルスを串刺しにしようとする。

だが、その瞬間を待っていた。
(マリベル……力を貸してくれ!!)

ライアンに足払いをかける。
予想外の攻撃にバランスを崩したライアン。

それでも剣を振るうのを止めようとせず、不安定な体制のままアルスを斬り付けようとする。

それをアルスは片手持ちしたオチェアーノの剣で弾く。

(これで十分!!一瞬でも時間を稼げば………。)

手こそ衝撃が走るが、直接ダメージは受けていない。

足払いで、相手の守りをがら空きにしてからの、正拳突き。
昼間暴走状態になりかけたエイトを止めようとした時も使った、マリベルの得意としていたコンボだ。


「目を覚ませぇ!!」
心の籠ったアルスの拳が、ライアンの般若の面に命中する。
今度はブライがいないが、バイキルトはオチェアーノの剣の能力で代用できる。
バラモスゾンビの巨体さえ吹き飛ばしたこの技だ。
あの恐ろしい表情をした仮面でさえも、破壊できるはず。



(!?)

アルスの拳から、血が噴き出した


(これでも……壊せないのか……?)
般若の面が危険な道具なのにもかかわらず、破壊されることはなかった理由は簡単。
呪いのチカラが籠っており、誰も破壊することが出来ず、人目のない所に保管するしかなかったからだ。

1293その声は届かない ◆vV5.jnbCYw:2019/03/27(水) 11:46:01 ID:PjKsXpDU0

魔神斬りのような渾身の力を込めた一撃なら、破壊できるかもしれないが、ライアンさんまでダメージを負わせてしまう

「しまった!!」
今度は隙が出来たアルスにライアンの剣が襲い掛かる。

紙一重で躱そうとするアルス。
ユバール族の踊り手の技術を応用した、アイラの見躱し脚だった。
腕に傷を負ってしまったが、致命傷こそは避けた。


それから自分の脚と腕にベホマをかけつつ、ライアンから距離を離し始める。
自分のケガをしても、メルビンは仲間のケガを優先して治してくれた。

(みんな……力を貸してくれ………。)


まどろみの剣の影響で、時々眠気が襲ってくる。
脳の活動が妨げられている状態で、鬼気迫る中、激しい運動をしたせいで、アルスの顔は真っ青だった。

過呼吸でも起こしたかのように息が荒い。
身体は自分でも冷えているのを感じる。なのに汗はひっきりなしに出てくる。

思うように回らない頭で、状況のことを考える。


どうにかライアンの剣の射程距離から離れた所まで距離を置く。

しかし、前にばかり気に掛けるあまり、またも後ろの状況のことに気付かなかった。

スクルドのジゴスパークを受け、ボロボロになった枯れ木がアルスの所に倒れてくる。

「くそ……バギ!!」
どうにかして枯れ木を吹き飛ばすが、いくつかの木片が手に刺さり、痛みを感じる。

カチャ……カチャ……カチャ……

今度はライアンが近づいてくる。
斬撃を後方に避け、距離を再び離す。


段々と村の奥まで追い詰められていく。


カチャ……カチャ……カチャ……

ローラの後を追いかけないと。

1294その声は届かない ◆vV5.jnbCYw:2019/03/27(水) 11:46:22 ID:PjKsXpDU0
今度は何をしでかすか分からない。
下手をすると、トラペッタにいるブライやチャモロ、サフィールまで危機が及ぶかもしれない。


だが、この状況を打破する手立てもない。
強力すぎる技を撃てば仲間を殺してしまう。
かといって、半端な技ではせいぜい足止めにしかならない。

そう考えているうちに、ライアンの剣がアルスに襲い掛かった。
止む無くオチェアーノの剣で受け止める。


剣の威力とバイキルトの後押を考えれば自分の方が有利。殺意と腕力を考えればライアンの方が有利。

今度は痛み分けと言う形で、両者互いに拮抗状態に持ち込めた。

しかし、コンディションならアルスが圧倒的に悪いため、均衡が崩れるのは時間の問題だ。
両者は互いに弾き飛ばされ、距離が開いた。

しかし、姿勢を戻すのにアルスは若干の時間を要したのに対し、ライアンはすぐに歩み寄る。


殺意だけを糧に攻撃を仕掛ける。
似たような相手を、少し前に見たことがある。


4人がかりで倒した、バラモスゾンビ。




そうだ。

頭がふらふらし、視界に靄がかかっていた状態で、ようやく打開策をひらめいた。

バラモスゾンビと戦った時に使った、マジャスティスがある。
あの魔法でバラモスゾンビの動きを止めた時のように、ライアンさんも止めることが出来るはずだ。

ライアンが振り下ろした剣を避ける。

方針は立った。あとはマジャスティスを撃つ時間を作るだけ。

だが、今は仲間が誰もいない。
頼れる仲間がいないなんて、ここまで心細いことなのだろうか。

バラモスゾンビの時は、殺意の標的が多かったため、それぞれがそれぞれの役割を持って、攪乱させたうえで倒すことが出来た。
今度は自分一人だから、それが出来ない。

時間稼ぎも、そして最後の仕上げも、自分一人でやらなければならないのだ。

失敗して、仲間を失うのが怖い。
それ以上に、自分が殺されるのが怖い。
だからといって、やるしかない。

1295その声は届かない ◆vV5.jnbCYw:2019/03/27(水) 11:46:43 ID:PjKsXpDU0

勇気とは、恐怖を知らぬことではなく、克服すること。

「ヒャダルコ!!」
地面に向けて氷を撃つ。

氷の刃はライアンの脚に当たっても、般若の面の邪悪なオーラで弾かれ、脚を止めることは出来ない。

だが、地面に張り付いた氷が、ライアンの歩みを確実に鈍らせる。
勝負の一歩目は、成功だ。

フォズ。彼女が得意としていた魔法だ。

彼女も自分やカシムが助けに来るまで、一人でいた。
一人で牢獄の奥深くに閉じ込められて、心細かっただろう。
きっとこの世界でも自分を顧みず、この戦いを止めるために奔走したんだろう。


カチャ……カチャ……カチャ……


今ならその心細さは分かる。
だが。いや、だからこそ、一人で仲間を救う覚悟は出来ている。



カチャ……カチャ……カチャ……


一つアイデアをひらめいたからか、頭の方は、幾分かマシになった。
距離を離した後、ザックからドラゴンキラーを取り出し、ライアンに投げつける。

「いっけぇ!!」

その程度では当然ライアンは止められない、とアルスは理解している。
案の定まどろみの剣であっさりと弾き飛ばされる。


だが、そこで作られた時間は、アルスが呪文を紡ぐための、確実な布石になった。

今度は周りには魔法の妨げになるような障害物はない。

「悪しき魔力よ、すべて消えたまえ………
有は無に、一つは零に………マジャスティス!!!!!!!!!!」

派手な色を纏った光が、黒一色で包まれた夜の廃村を照らす。


成功した。
あの状況から避けることは、混乱状態の相手には難しい。
アルスは勝利を確信した。

1296その声は届かない ◆vV5.jnbCYw:2019/03/27(水) 11:47:01 ID:PjKsXpDU0



ザシュッ




(……え!?)

一筋の紅い線がアルスの肩から胸まで走った。
何が起こったか分からず、アルスの服の布地と血が飛んだことから、一瞬紅い鳥が舞ったのかと思った。

途端に襲い来る激痛で、オチェアーノの剣を落としてしまう。

目の前に般若の面を付けた男が、視界一杯に立っている。


アルスはすぐに気が付いた。
バラモスゾンビのような、魔法にかけられた呪いならマジャスティスで解くことが出来る。
しかし、般若の面のような道具による呪いは、解くことが出来ないのだと。


まどろみの剣が人を殺すのに特化していないため、傷は心臓には届かなかったが、何の幸いにもならない。

ザックには、まだ使ってない支給品がある。
だが、たとえ回復道具があっても、出す時間はもう与えられそうにない。

大量の出血か、はたまたまどろみの剣を深く受けたからか、視界に映る般若も歪んで見える。


(ごめん……みんな………。)
ライアンが剣を振り上げる。

その瞬間、アルスの意識は永遠に失われるはずだった。


(!?)

カラン

剣が地面に落ちた音だけが聞こえる。

何が起こったのか分からないアルスが、再びライアンの顔を除く。

ライアンが苦しみながら、般若の面を引きはがそうとしていた。
戦士として、「勇者」と認めた人物を守る者としての決意が、般若の面の、そしてローラの呪いに抗おうとしているのだ。

「ぬおおおおおおおおおおおおおお!!」
仮面越しにも聞こえてくる。
頼りになる戦士の叫び声。誰かを守ろうとする決意を秘めた声。


だが。
それは呪いで纏わりついている仮面。
力ずくで剥がせるものではないし、そんなことをしたら大変なことになる。

「ライアンさん!!やめてよ!!そんなこと……したら……」
「拙者の手で………仲間を……殺させてたまるかぁぁぁぁ!!!」

1297その声は届かない ◆vV5.jnbCYw:2019/03/27(水) 11:47:22 ID:PjKsXpDU0
ぶちぶちぶちと、ライアンの顔の皮膚が、顔の筋肉が千切れる気持ち悪い音が聞こえる。

「何やってんだよ!!ライアンさん!!」
アルスの声を無視して、ライアンは力を籠める。

ライアンの丸太のような太い腕から、筋肉が膨張し、手や腕から血がにじみ出ても、止めようとしなかった。


「ぬおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

ライアンの顔から大量の血が流れると同時に、般若の面を上空に投げる。

「アルス殿ぉぉぉぉ!!」

「うああああああああああああ!!!」
引きはがされた忌まわしい仮面に、魔神のごとき一撃を入れる。

アルスの心を纏った一撃は、呪いで守られた般若の面を粉微塵に砕いた。


「やったでござるな………アルス殿」

ライアンの顔は、皮膚が破れ、血が噴き出て、見るに堪えないことになっていた。
子供がぐちゃぐちゃに描いた絵に、赤い絵の具をぶちまけたような有様だった。
人の顔とは思えないような状態だった。
けれど、アルスは決して気持ち悪いとは思わなかった。

「ライアンさん!!なんであんな無茶したんだよ!!」
「もう…若い者が死ぬのは……嫌でござる……よ。」

唇も剥がれているため、言葉が上手く話せない。

「ライアンさん!!お願いだ!!逝かないでくれ!!」
自分のザックをひっくり返す。
その中で(ギガデーモンの支給品)に特薬草があって、それを使おうとする。


「ライアンさん……今、手当するから………。」

「それは……アルス殿の……傷を治すのに使うの……ですぞ。」

ライアンは自分の手当てを拒否する。

「何……で………うっ!!。」
ふと自分の傷も危ないということが痛みで分かる。


「アルス……殿。あの……女性を恨んでは……いけない………。」


ライアンが発した最期の言葉。
勇者を守り、またここで勇気のある若者を守り続けた、心優しい男の命が終わりを告げた。

1298その声は届かない ◆vV5.jnbCYw:2019/03/27(水) 11:49:39 ID:PjKsXpDU0
殺す。


だが、アルスの瞳は、怒りでぎらついていた。
ライアンが息をしていないと分かった後、
特薬草で応急処置を自分に施してから、すぐにローラを追い始めた。


あの女を、殺してやる。
ライアンさんとマリベルの苦しみを、何百倍にもして味合わせてから殺してやる。


声が届かなかったのは、ライアンではなく、自分だということにも気づかず、アルスは走り始めた。


【ライアン@DQ4 死亡】
【残り22人】


【I-5/リーザス村跡地/2日目 黎明】

【 アルス@DQ7】
[状態]:HP1/8 MP1/3 ローラへの殺意 左足に怪我(素早さ低下) 右腕から胸にかけて裂傷(応急処置済み)
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜1) ゲルダの不明支給品0〜1個(確認済み) 道具0〜2個(本人確認済み) 
[思考]:この戦いを終わらせる。ローラを殺す ミーティア、キーファを探す。トラペッタへ戻る。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。

1299その声は届かない ◆vV5.jnbCYw:2019/03/27(水) 11:49:54 ID:PjKsXpDU0
投下終了です。

1300ただ一匹の名無しだ:2019/03/27(水) 13:39:39 ID:jZTU6jsY0
投下乙です

うわああああああああああああああああ!!!!とうとうライアン死んでしまったあああああああああ!!!!!
しかもアルスもますますヤバい感じになっちゃった…
ティアといいピサロといいどんどん対主催が精神的に不安定になっていくなあ

1301ただ一匹の名無しだ:2019/03/27(水) 17:44:21 ID:M3Ig3E1I0
投下おつです!
タイトルのダブルミーニングが綺麗に繋がってて好き……
アルスの心に大きな変化が訪れて、そしてローラは一気に窮地に立たされたなぁ

「アルスは自分の不運を呪いたくなった」
この言い回しの皮肉力が強すぎる……

ドラクエ7には教会以外の解呪手段が無いんだよな
元の世界でマジャスティスを使わなかったアルスが、シャナクという呪文の存在や装備の呪いがマジャスティスでは解けないことを知らないのも無理ないし、そういう意味でもアルスは不幸だったんだなって

1302そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:20:58 ID:rzJCpoRQ0
投下します。

1303そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:21:53 ID:rzJCpoRQ0
『定時放送毎に禁止エリアを追加する。禁止エリア内に立ち入った場合、首輪より警告が行われる。その後10秒毎に警告を発し、30秒が経過しても禁止エリアから立ち退いていない場合、その参加者の首輪を爆破し、その死を以て制裁とする。』

ポーラは参加者全員に支給されているルールブックを読んでいる。
たった今自分がいる場所は、同じく全員に支給された地図で言うとG-8。そして2時になると、隣接するエリアH-8は禁止エリアとなる。
時計を見ると、現在1時57分。

闊達な少女の持ち前の敏捷さ。
それを最大限引き出す、ほしふるうでわ。

この仕事に必要な「素早さ」は充分満たしているだろう。
ポーラは屈伸し、準備運動を終える。

「やってやる……」

キーファとミーティアとは第2回放送以来別れたままであり、殺し合いに乗る迷いを振り切った今、すぐにでも合流したい相手だ。
しかし仮に、2人がポルトリンクで引き返さずリーザス側に向かっていたとしたら、H-8が禁止エリアとなってリーザス・ポルトリンク間の道が通行不可能となると2人と合流するのは絶望的に難しくなる。


「残り3分上等!渡り切ってやるーーー!!」


クラウチングスタートでエリアH-8へ走り込む。
もしミーティアやキーファがリーザスに向かっていない場合、それはそれで合流が絶望的に難しくなるだろうとか、そんなツッコミを入れてはいけない。(事実、2人はリーザスに向かっていないのだが)期間限定で通れる道―――通らなくては損というなんとも人間的な感情が考えるより先にポーラの足を動かした。

「警告だ。禁止エリアに侵入した。30秒以内に立ち退かない場合は首輪を爆破する。」

1304そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:22:38 ID:rzJCpoRQ0

走り初めて3分、首輪からエビ何とかという魔道士の声が聞こえてくる。うるさい、と小さく呟きさらに走る。

「残り、20秒だ」

死のカウントダウンが進んで行くも、まだまだ走り続ける。

「残り、10秒だ」

残り時間が僅か。
でも、諦めない。
あたしはこの先で……

(9……)

キーファやミーティアと合流して……

(8……)

今度こそ仲間を守るために戦って……

(7……)

そしてみんなで帰るんだ、元の世界に!

(6……)

そう、あたしは…………

(5……)

1305そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:23:11 ID:rzJCpoRQ0



「……やっぱこれ無理!!」


ポーラはザックの中から"命綱"を取り出す。

そして勢いのままポーラは、命綱――キメラの翼を放り投げた。
幸か不幸か、向かっていたリーザス方面からは遠のいて飛んでいく。

「禁止エリアからの立ち退きを確認。カウント停止だ。」

嘲笑うかのような声で魔道士の笑う声にムカムカしながら、ポーラはとある地点へと真っ逆さまに落ちていく。

余談だが、彼女の想い人もまた旅の各所で高いところから落下していたようだ。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

1306そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:24:15 ID:rzJCpoRQ0

結論から言おう。
おわかれのつばさ――天使の世界に由来するこの道具こそが、このパーティーの命運を握る鍵である。
何者かからおわかれのつばさに関する情報を与えられ、脱出の鍵として追い求めてきたピサロ。フォズとジャンボの力を借りて、おわかれのつばさを全員で脱出する手段として守り抜こうとしてきたアンルシア。そしてもう1人。おわかれのつばさを使えば兄に会えると信じているティア。

これまでゆっくりと情報交換をする時間がなく、動くことのなかった者たち。そしてそこに、もう1つのパズルのピースが組み込まれることとなる。



『おわかれのつばさについて持っている情報を全て書け。』

例のごとく筆談で、ピサロはアンルシアに命じた。

(――そうだ!!お城にかえれば、おにいちゃんも、みんないるはずだよ!!)

ティアのこの発言から見るに、アンルシア達がおわかれのつばさを脱出の道具と捉えていたのは明白だ。
ティアはあの時、間違いなくおわかれのつばさを使おうとしていた。

『おわかれのつばさについて、ひとつの計画があった。』

『ほう。』

おわかれのつばさについて聞かれたアンルシアの顔が暗くなったことに、ピサロは気づかない。

そしてアンルシアは書き記していく。
フォズがジャンボを道具使いに転職させて、道具範囲化術でおわかれのつばさの効果範囲を広げる計画。
職業とは何か。転職とは何か。
いくつかの説明は滞りながらもピサロに計画の大筋を話し終える。その最後に、たった一言書いておいた。

1307そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:24:55 ID:rzJCpoRQ0

『フォズが死んで、ジャンボは転職出来ない。』

エイトとアンルシアの戦いから4つもの命が失われたあの戦い。
その中で原因も分からずフォズは命を落とした。ジャンボはヒューザの支給品だけを回収して、すぐにターニアを追って行ってしまった。フォズが死に際にジャンボを道具使いに転職させていたことをアンルシアは知らない。

(まさかあの男がそんな重要な役割を……行かせるべきではなかった、か……)

今から追ってジャンボを連れ戻すことも考えたが、さすがに距離が離れすぎている。
そもそも、転職の手段が絶たれたかもしれない今ジャンボを手元に置いておく意味は薄く、さらには最悪自分一人でもおわかれのつばさで脱出してエビルプリーストと戦いに行くだけの気概はある。

「ごめんなさい……私がフォズを守れなかったから……」

「……わかった、もういい。」

アンルシアはまだフォズの死から立ち直れていない。
様子を見ているとハッキリと伝わってくる。

「フォズといえば……奴の支給品はお前が持っているのだったな。」

「……ええ。フォズの、遺品を…」

「……丁度いい機会だ。支給品を振り分けるぞ。」

1308そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:25:57 ID:rzJCpoRQ0

ゲレゲレ、フォズ、ヒューザ、ヤンガスの4名が死んだあの戦いの後、ゲレゲレとヒューザの支給品はジャンボが回収して行ったらしく残っていなかったが、フォズとヤンガスの支給品はピサロとアンルシアで回収していた。

ひとまず、ピサロはヤンガスの持っていた堕天使のレイピアを身に付ける。
レイピアという武器は使い慣れないが、剣には充分心得があるため、素手よりはマシだろう。

その他の道具はアンルシアに渡すことにした。ピサロは自分の力だけで身を守れる自信があるが、今のアンルシアは弱々しく勇者には見えないほど頼り難い。
道具の力でも何でも借りて、身の安全を保証すべきだと思った。

「……ごめんなさい、こんなにたくさん持って行っちゃって…」

「気にするな。私には不要だ。」

私も随分と変わったものだ、とピサロはつくづく思う。
以前の自分なら、足でまといになったアンルシアやティアなど即座に切り捨てて支給品と共におわかれのつばさを奪い取っていただろう。

(大切な者が死んで、自分までもを見失った勇者、か……)

そこで1人の男の顔を思い浮かべてしまうのが面白くなかった。
あの村を滅ぼしたことは自らの信念に従ったまで。
反省だとか贖罪だとか、そういった考えは自分の信念に逆らうことに他ならない。

一旦ぐちゃぐちゃになった心をリセットしよう、そう考えてふと空を見上げたその時。
星空から何かが降ってくるのをピサロは見つけた。

(あれは………空から女の子が……?)

まるで流れ星の如く、ポーラはピサロの前に降り立った。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

1309そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:26:29 ID:rzJCpoRQ0
「貴様は……ポーラだったか。コニファーの仲間だったな。」

コニファーとの情報交換を頼りに落ちてきた少女に話しかける。

面倒なことになった―――ピサロはそう思った。コニファーからの情報によると、ポーラは警戒心が強いとのこと。今はティアの持つおわかれのつばさを手に入れたいので、簡単に騙しにくそうな人物と行動を共にするのは避けたい。仮に実力行使に出るとしても、実力が未知数のポーラを相手にするのはリスクが高いため動きにくくなる。

「………貴方たちはいい人なの?」

ピサロの言葉から、少なくともコニファーが信頼して情報交換をした相手だとポーラには伝わる。

「私の善悪など知らん。ただしこの殺し合いに反抗する意志は持っている。今はそれで充分だろう?」

「わかった、とりあえず今はそれで信じてあげる。」

他人を信じることの出来なかったポーラは、いい人、悪い人を見分けなければならないことが怖かった。だからこそ、善を振りかざして仲間を自称する者よりは信頼に足ると思えた。

「それで……コニファーはどこにいるの?」

「トロデーン城だ。おそらくたった今も敵襲を受けている。救援に向かうなら急いだ方がいいだろうな。」

ポーラの疑問はもっともだ。
ポーラをここから早く遠ざけたいピサロは、トロデーンに向かうよう暗示する。しかし、それは悪手であったとすぐに分かることとなる。

1310そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:27:26 ID:rzJCpoRQ0
「ありがと、すぐに向かう………って言いたいとこだけどさ。それ知ってるのにアンタらはどうしてこんなとこに来てるわけ?殺し合いに反抗してるっていうのさっそく疑わしく思えてきたんだけど。自分の命が可愛いだけなんじゃないの?」

ポーラの指摘に対し、ピサロはため息をつく。

(スタンスと行動が一致してないのは確か……。中途半端な誤魔化しはかえって逆効果、か……)

そう感じたピサロは正直に話すことを決めた。

『エビルプリーストが盗聴しているかもしれん。ここからは筆談で話すぞ。』

そう書いた紙をポーラとアンルシアに見せる。
ポーラは「主催者そんな名前だったんだ」などと思いながら、コクリと頷いた。

『私がここに来たのはこの道具の保護のためだ。』

そう書き記し、アンルシアの背で眠っているティアのザックからおわかれのつばさを取り出す。
ピサロの目的がそれだとは思っていなかったアンルシアは目を丸くしてピサロの方を見る。
アンルシアからのピサロの信頼が多少薄まったのをピサロは感じたが、それよりも今はポーラの信頼を得るのが先決だとピサロは決めた。

『この道具はこの世界の脱出に利用できる可能性がある。失うわけにはいかんのだ。』

『それ、おわかれのつばさ?』

(ほう、知っているのか)

1311そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:27:53 ID:rzJCpoRQ0
正直、ポーラがおわかれのつばさについて深く知っていることをピサロはそれほど期待していなかった。
ポーラの仲間であるコニファーがおわかれのつばさを見たことがないと言ったのだ。ポーラもまた見たこともないのだろうと何となく考えていた。

しかしポーラはコニファーとは違い、「見る」ことが出来る人間である。
アークがラヴィエルと話し、おわかれのつばさを受け取るところをポーラは何度か見たことがある。

そして、おわかれのつばさは実はポーラにとっては面白くない思い出のある道具だ。天使以外は世界を行き来できない―――つまり人間であるポーラたちは、運命の扉を経由してもおわかれのつばさを経由しても、別の世界に行くことは出来ない。時々桃色の髪の少女に会いに行っていたアークを、ポーラたちは見送ることしか出来なかった。

そんな記憶に対し苦い顔をしながら、その事実を書き記す。

『それ、人間には使えない。』


「な、何だと!?」

今までの考えを根底から崩しかねないポーラの言葉に、ピサロは筆談すら忘れて思わずポーラの肩に掴みかかる。
ずっと会いたかったとサンディに向かって駆け出した、あの時のアークばりの勢いで。
男の人から唐突に大声をあげられて、乙女の身体に掴みかかられる事案。紛れもなく、ポーラにとって恐怖そのものであった。

「わあああああ!!この変態っ!」

ピサロに渾身の闘魂打ちが叩きつけられる。良い人か悪い人かの2度目の問答と、ピサロの謝罪が繰り広げられた後、仕切り直し。

1312そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:28:32 ID:rzJCpoRQ0

『そもそも、おわかれのつばさとは?』

頬を押さえながら、改めてピサロが問いかける。

『他の世界に行った天使が自分の世界に帰る道具。』

おわかれのつばさの説明書に書かれている説明、『別の世界から自分の世界へ帰るための道を開く』という記載と大方一致しているので、どうやらポーラからの情報は信頼に足るようだ。ただし気になるのは、「天使」という記述である。

『この殺し合いの場にその天使とやらは生き残っているのか?』

「他の世界」というフレーズも気になったが、それ以上に気になった単語について尋ねる。
その返事として、ポーラは文字に起こすことなく、少し暗い顔をしてから首を横に振った。

『では知る天使の名を書けるだけ書いてくれ。この世界に居るかどうかも、生死も問わない。』

『アーク、イザヤール、エルギオス』

この世界に招かれているその3人の名前は真っ先に出てきた。アークは人間になってからもおわかれのつばさを使えていたので、この文脈上では天使に分類しても良いだろう。(イザヤールが人間になっていることはポーラは知らない)

そして少しの間を開けて、先ほどおわかれのつばさに関する記憶の中に出てきた『ラヴィエル』の名も加えておいた。

でも、何かを忘れているような気がしてならない。
まだ何か、スクルドやコニファーには見えない存在があったような…………

「あっ」

ちょっと声が漏れ、そこにスっと書き加えた。

『カマエル』

「カマエルですって!?」

今度はアンルシアが叫び、ポーラの肩に掴みかかる。
ただしアンルシアが女性だったことや背中に眠った女の子を背負っていることがあり、闘魂打ちは飛ばなかった。

1313そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:28:55 ID:rzJCpoRQ0
「イザヤールさんが言ってました!コニファーさんという方がカマエルを持っていると!」

「カマエルもここに…!?」

「何だと!?」

ポーラの話が本当であれば、おわかれのつばさを使用するのに天使であるカマエルは不可欠な存在かもしれない。だとしたらジャンボ以上の重要人物だ。トロデーンでたった今巻き起こっている戦闘で死なせるわけにはいかない。

「ポーラ、着いてこい。すぐにトロデーンへ向かうぞ。アンルシア、お前はティアを見守っていろ。これはカマエルとやらに見せるために預かっておくが、いいな?」

「え、ええ……わかったわ。」

ティアの道具を勝手に持っていくのは気が引けるが、状況が状況なのでアンルシアはやむなく了承した。
こうしてアンルシアを残し、おわかれのつばさを持ってピサロとポーラはトロデーンに向けて走り出す。

(何とか上手くいったか……)

そしてピサロはひっそりとほくそ笑む。
混乱のままにおわかれのつばさを使おうとしていたティアから、おわかれのつばさをうまく取りあげることができた。また、ポーラという腕の立つ協力者も確保できた。

不気味なほど手際よく進んでいる物事に多少の違和感を覚えながらも、エビルプリーストに1歩ずつ近づいている実感が湧き上がってきた。

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1314そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:29:29 ID:rzJCpoRQ0

ピサロやポーラに残された私は、ひとまずベッドにティアを寝かせる。
呪文で眠っているため、間もなく起きることとなるだろう。

待つというのは何とも辛くて仕方がない。
ルジェンダ様やクロウズが有力な情報を得て戻ってくるまで、私とジャンボはいつも動くことが出来なかった。
こうしている間にもマデサゴーラは奈落の門に向かっているかもしれないとか、トーマ兄さんの遺体が悪事に利用されているかもしれないとか、元の世界ではそんな焦りが常にちくちく胸を刺していた。

そんな思い出に浸っていると、いつの間にかティアが起き上がっていた。

「起きたのね、ティア。」

ティアを不安にしてはいけない。そう思って気楽な様子を装って話しかけた私を待っていたのは、昨日までとは違うティアであった。

「アンルシアお姉ちゃん。ティア、もう帰りたいの。おわかれのつばさを使って先に帰るね。」

良い人たちに囲まれて楽しそうにはしゃいでいたティアは、別人のように暗く、冷たい声でそう言った。
やはりティアはおわかれのつばさを使おうとしている。
ピサロが持って行ったのは正しい判断だったようだ。

「あの道具はピサロさんが持ってるわ。今トロデーンに仲間を助けに行ってるの。」

「じゃあティア、返してもらってくるよ。」

安全や危険といった分別はつくだけの年齢ではあるはずなのだが、ティアは平然とそう言ってのけた。
今のティアはおわかれのつばさを使うことしか頭にない。

「待って、ティア。向こうは危ないから……」

アンルシアは引き留めようとする。
しかしそんな制止も聞かず、ティアが教会の出口に向かって走り出す。

1315そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:30:06 ID:rzJCpoRQ0
(マズい……!)

アンルシアはティアの前に立ち塞がる。
対してティアはアンルシアを避けて通ろうとする。

アンルシアとしては、ティアに剣を向ける訳にはいかない。しかし自分の腕力では素手であっても全力で止めようとしたら殺してしまいかねない。
だから女の子一人を止めるのには充分な力に手加減して、ティアを抑え込んだ―――


「邪魔しないで、アンルシアお姉ちゃん…」


―――つもりだった。


「えっ………?」


アンルシアの腕は、いとも容易く振り払われた。思いもよらないティアの腕力に呆然とするアンルシアを、ティアは両手で思い切り突き飛ばす。何が起こっているのかも分からず、踏ん張ることすら忘れていたアンルシアの身体は簡単に後ろに倒され、尻もちをつく。
そして守りががら空きのアンルシアの足に向けて、ティアはザックから取り出した杖を振るった。

その杖は氷柱の杖。
アンルシアの左足は一気に凍り付き、身動きがほとんど取れなくなる。

「しまっ………待って!ティア!!」

アンルシアが声を張り上げるも、見向きもせずにティアは教会の扉を抜けて走り出す。

アンルシアの誤算はふたつ。
1つ目。アンルシアは自分の早とちりから知り合いのヒューザや同行者のフォズを含む多くの命を犠牲にしてしまったことがトラウマとなり、戦いに対して力が発揮できなくなっていた。そして、それを自分で把握していなかったのだ。

そして2つ目は、ティアの力を侮っていたことである。
「殺し合い」に何度も巻き込まれたことでの戦闘経験。多くの"経験値"を得たことで、ティアは戦闘能力において「女の子一人」の域を遥かに超えていた。


フォズを守れなかったのに続き、ティアまで危険な場所へとみすみす放り込んでしまった。

1316そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:30:35 ID:rzJCpoRQ0

(何が……何が、『勇者姫』よ…)

勇者姫の称号。
それは私の背負うものをいっそう重くした。
勇者だから、誰かを守らないと。
勇者だから、逃げてはいけないと。

ではその「勇者」はこの世界で一体何ができた?

殺し合いの世界に飛ばされた最初の時、私は迷っていた。
私は本当に勇者なのか、と。

ここがレンダーシアであれば迷うことなんてひとつもなかった。ルジェンダ様の下に彼を呼び出して、賢者様たちの知識と彼の頭脳を駆使して作戦を立てて、そして戦いの鍵を握る私は彼に言うのだ。

"私はあなたの後ろについて行くわ"と。

そうして私は彼に全てを委ねる。
彼の剣として、盾として。そして彼の隣に立つ者として、悪に立ち向かう。
いつものことだ。仮に奈落の門が開いたとしても、仮に世界の終末が近付いていたとしても、それはきっと変わらない。

しかしあの時は彼がいなかった。
たったそれだけで私は、私より小さな少女に心を支えられるほど弱くなった。

そしてその少女は死んだ。
私が彼のことしか見ていなかったから。彼の敵を倒すことしか考えられなくて、"守る"ことを忘れていたから。
守れなかった私は"逃げる"ことを選んだ 。

勇者の使命なんてかなぐり捨ててしまった。
どうせ私は守れなかったんだ。
私は勇者などではない。
幾度となく心がそう叫んだ。

そして今、私は女の子さえ止められない者へと成り下がったのだ。

命を守れなかった自分は勇者ではない。
戦いから逃げてしまった自分は勇者ではない。


だったら私は一体何?

私はもう戦えない……。
あの頃のように力も記憶も封印して、また"ミシュア"に閉じこもるの?


ティアがピサロからおわかれのつばさを奪い取ろうとも、あるいは奪われないようピサロがティアを殺そうとも、私には関係の無いことだ。
勇者でない私に、一体何を望むの……?

1317そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:31:03 ID:rzJCpoRQ0
昔の私なら、きっとそう言っていた。

だけど、それでも―――



戦姫のレイピアを振り上げ、氷柱の呪縛を左足ごと突き刺す。

「っ………!!」

耐え難い痛みが足を襲い、出来上がった傷によって左足はその機能をほとんど失ってしまう。



―――それでも、勇者で在りたい私がいる。
まだ仲間を守りたい、そして逃げたくない私が心の底にいる。

それは兄さんが死んで勇者の使命から逃げたあの時と、たったひとつ違うものがあるから。



ジャンボ。

今の私にはあなたが盟友であってくれている。
貴方は"勇者の盟友"として私の隣に立っているのでしょう。
だけど本当は、私がそうあって欲しいと思っている。
勇者ではなく、"盟友の勇者"で在りたい私がいる。


「あの翼は……私たちの希望。」


教会を出てトロデーンに向けて進み始める。
左足はほとんど動かないので、フォズの使っていたルーンスタッフを杖として、何とか前に進む。


「貴方に繋げる未来の翼。」


道具使いに転職したジャンボが道具範囲化術を使い、全員でこの世界を脱出する。そのためにも、ティアにあの翼を使わせるわけにはいかない。


「だから待ってて、ジャンボ。必ず貴方に希望を繋いでみせる。」


これは本来なら紡がれなかった物語。しかし物語は、何者かの手でピサロにおわかれのつばさの情報が与えられたことによって、大きく歪むこととなった。

数奇な運命か、何者かの叡智か。彼らの味方なのか、それとも敵なのか。
何に導かれているのかも分からないまま、物語は動き出す。
たったひとつの、翼を巡って。

1318そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:32:22 ID:rzJCpoRQ0
【C-4/トロデーン地方 草原/2日目 黎明】

【ポーラ@DQ9】
[状態]:HP1/2 MP1/3
[装備]:銀河の剣@DQ9 星降る腕輪@DQ3
[道具]:支給品一式 支給品0〜3個 キメラの翼×1 炎竜の守り@DQ8 魔勇者アンルシアの首輪 アリーナの首輪 割れたラーの鏡
[思考]:殺し合いを止める。
元の世界に戻り、天使信仰を復活させる

※未練を残す死者の幽霊が見えます。そのままでは会話は出来ませんが、何かしらの道具を通すことで会話が出来るかもしれません。
※ラーの鏡を通して人の心の中を見ることが出来ました。今後何かほかの道具でも可能かもしれません。


【ピサロ@DQ4】
[状態]:健康 焦り
[装備]:堕天使のレイピア
[道具]:支給品一式 『世界道具百科辞典』『勇者死すべし』 大魔道の手紙 おわかれのつばさ
[思考]:トロデーンでカマエルを保護する
エビルプリーストをこの手で葬り去る
ロザリーの安否を確認する。
1:ロザリーはどうなった……?
※ジバ系呪文を実際に見せてもらいました。
※エビルプリーストの背後に黒幕がいることを、手紙によってほぼ確信しました。
現状ではラプソーンが怪しいと考えています
※首輪の仕組み、機能を知りました

【C-5/トロデーン地方 草原/2日目 黎明】

【ティア@DQ2(サマルトリアの王女)】
[状態]:健康
[装備]:ロトの剣 氷柱の杖(残4)@トルネコ3 ようせいのくつ@DQ9 
[道具]:支給品一式 脱いだ靴 パーティードレス@DQ7
[思考]:おわかれのつばさを使ってサマルトリアに帰る
※第二放送の内容を聞いてません。

【B-5/トロデーン地方 草原/2日目 黎明】

【勇者姫アンルシア@DQ10】
[状態]:HP 1/2 MP1/8 自信喪失 左足故障
[装備]:戦姫のレイピア@DQ10
[道具]:支給品一式 とつげき丸@DQ10 不明支給品0〜2(本人確認済み) ルーンスタッフ@DQ8ようせいのうでわ@DQ9 フォズの不明支給品0〜1(本人確認済み) ヤンガスの不明支給品0〜2 スライムの冠(DQ8)バニースーツ(DQ10) オーディーンボウ@DQ10 矢×9
[思考]:彼におわかれのつばさを託す
[備考]:全てのスキルポイントが一時的に0になっています。それに伴い、戦闘力の低下とギガデイン・ベホマラー等の呪文が使えなくなっています。ただし、心境の変化により、一部または全部のスキルポイントが元に戻っている可能性があります。

1319そして、踏み出す時 ◆2zEnKfaCDc:2019/04/08(月) 21:32:38 ID:rzJCpoRQ0
投下終了しました。

1320ただの一匹の名無しだ:2019/04/09(火) 01:15:00 ID:ADFiV.kk0
投下乙です。
前半のポーラのアクションと後半のティアの豹変ぶり、ギャップありすぎる。
というか2ndに毒され過ぎたせいでティアの場合これくらいしでかした方が自然と思ってしまうんだ。

竜王たちもトロデーン目指してるし大集合となるか、それともまだ何かあるか……

1321ただ一匹の名無しだ:2019/04/09(火) 12:54:17 ID:hj/ZiPTI0
投下乙です
そういやイザヤールもカマエルならあるいは…って言ってたか
ヘルバトラー戦の直後はジャンボとの合流急いでてそれどころじゃなかったが
おわかれのつばさに有力な情報が共有されて、光明が見えてきてるが…
ティアとアンルシア大丈夫か

1322 ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:34:23 ID:oHOCNhvs0
少し遅れてしまいすみません。
投下します。

1323雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:36:03 ID:oHOCNhvs0
 
いかなる苦しみの時も
いかなる悲しみの時も
いかなる時も
人を信じ 人を愛せ

とある神父が遺した言葉。
それはきっと、とても難しいこと。
だからこそ、とてもまぶしいこと。

村人たちを守る為にその姿を魔物に変え、村人たちに殺されようとしていた彼は、それでも誰を恨むでもなく村人たちの為に村を出ていった。
遥か未来の形はさておき、神父の気高い心は、確かに村を善き方向へと導いた。






(お兄ちゃん……お兄ちゃん……っ)

何度も兄に呼び掛ける。
声にはならない。走っていては息が切れて、言葉もろくに発せられない。
心の中で、何度も、何度も。どこにいるかも分からない兄に呼び掛ける。

(お兄ちゃん……!!)

足を動かした回数よりも多く呼び掛けているのではないか、そんな気さえしてくる。
逃げなければ、兄を殺そうとしていた彼から逃げなければ。
あなたを殺そうとしている人がいると、兄に伝えなければ。
走る。
走る。
走る。

「きゃっ!?」
「……っ!?」

気付けば人にぶつかっていた。
しまったと思っても、もう遅い。
彼が企んでいたように、兄がそうなろうとしていたように、自分も殺されてしまうのではないか。
恐怖が更に膨れ上がり、足が縺れ、そのまま人影に倒れ掛かってしまっていた。

1324雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:37:06 ID:oHOCNhvs0
「ご、ごめんなさい、私……!」
「いえ、大丈夫ですわ。怪我はございませんか?」

咄嗟に謝ると、優しい声が返ってきた。
倒れ掛かってしまったことで恐怖に戦き震えていることに気付いたのか、落ち着かせるように優しく、優しく抱き締めてくれる。

「あ……」

温かく、包み込んでくれる。
久方ぶりにも思える人肌を感じ、ターニアは僅かに落ち着きを取り戻していった。
手の震えはなんとか止まったが、そのままぎゅっと、ぶつかった彼女……ローラのドレスを握り締める。

「ありがとう、ございます……その、私……」
「……このような殺し合いの世界なのです、恐ろしい何かに出会ってしまったのでしょう? 怯えてしまっても仕方ありませんわ」

わたくしも、大切な方を失ってしまい、恐ろしさが燻っています。
そう言うとローラはそっと目を伏せ、そこに寂しさを滲ませた。

(大切な人を……)

頭に浮かぶのはいつも優しくしてくれる兄の姿。
目の前のこの人が言うように、この殺し合いの世界で、兄を失ってしまったら……。

「お兄ちゃん……お兄ちゃん……いやだよ、そんなの……」
「お兄様がいらっしゃるのですか?」
「はい……放送では呼ばれてないけど……どこにいるかも分からないけど……」

ローラが背中をさすってくれる。
白くて細い頼りない手が、縮こまってしまったターニアの背を何度も往復する。

「そう、お兄ちゃん……お兄ちゃんを、殺そうとしてる人がいて……みんな、どこかにいったり、いなくなったり……こわくて、私……」

多少落ち着いたとはいえ、少女の恐怖は簡単には消えない。
支離滅裂なものだと頭では分かっていても、ぽろぽろと言葉が零れていく。
そんなターニアを咎めることなく、無理に宥めようとすることなく、ローラは優しい笑みを口に浮かべてその言葉を聞いている。

「この世界で、すぐに出会った人で……カビ団子みたいな、緑の人……最初は助けてくれて、ずっと、気にかけてくれて……。
 でも、聞いちゃって……その人が、お兄ちゃんを殺そうって……仲間の人に、一緒に殺そうって言ってたのを……」

1325雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:38:38 ID:oHOCNhvs0
つぅ、と涙が一筋流れた。
逃げるのに精一杯で塞き止められていたそれらが、ひとつ、またひとつと顔を覗かせていく。

「私を助けてくれたのは、ずっと一緒にいてくれたのは……きっと私が、お兄ちゃんの妹だから、都合がいいから……」

改めて口に出してみると、なんともミジメだ。なんとも不様だ。
兄に会いたいという自分を、彼はどんな想いで見ていたのか。 心の内でしたり顔でもしていたのだろうか。
それ以上言葉を紡げず、泣きじゃくる。
しがみついている相手に敵意があるかどうかを考える余裕もなかった。
そんなターニアを、ローラはぎゅっと、一際強く抱き締めた。

「怖かったですわね……辛かったですわね」

そっと、少女の体に手を添わせる。城を覆う茨のように。
母親のように、幼子をあやすように、時折背中をぽんぽんと叩く。
安心できるように――安心しても大丈夫だと言い含めるように。
優しく、優しく――。

「わたくしはローラと申します。貴女の名前を、お聞きしても?」
「わ、わたし……ひぐっ、ターニア……ターニアです」
「そう、ターニアさん」

彼女の背で両手が触れあうほどに絡み付いていた手を片方解き、頭に添わせる。



「怖いでしょう、その方も、人を信じることも。今はご自身だけを信じましょう。お兄様に会いたい、そんな自分だけを」



自分、だけ……。
未だ震える唇を動かし、ターニアは小さく呟いた。
ささやき声が、すっと頭に浸透していく。
やがて涙が止まり落ち着くと、ターニアはローラに倒れかかった状態から慌てて立ち上がった。

「あ……ご、ごめんなさい! いきなりぶつかって、しがみついて……」
「気になさらないで下さい」

ローラもまた微笑んで、ドレスの裾を軽く払いながら立ち上がる。

(わたくしも、貴女のようなか弱い少女と出会えたのは都合が良いですから)

見るからに普通の娘。
恐怖に戦く姿は戦いや呪文の心得があるようには思えない。
ならば、特に用はないだろう。
立ち上がったターニアとの距離を詰めながら、ローラは後ろ手に毒針を構える。

「私ばっかり、泣きじゃくって……ローラさんも、大切な人を失くしたって言ってたのに……」
「確かに、この身が引き裂かれる想いですわ。でも……今もあの方は、わたくしに力を下さっているのです」

あと、一歩。
そう、このように。
胸を目掛けて毒針を――

1326雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:40:20 ID:oHOCNhvs0
 


「ターニアさん!!」



聞き覚えのある声が聞こえて、ローラは慌ててその手を止めた。
幸いターニアにも声の主にも気付かれなかったようだ。

「え……チャモロさん……?」
「ターニアさん、無事で良かった。ええ、チャモロです……、……?」

現れたのは、やはり彼だった。
アベルから救出してくれて、ハッサンの事実を突き付けてきたチャモロ。
同行した時間は長くはないとはいえ、その声は忘れていなかった。
決して逃げることはできない人。向き合わなければならない人。

チャモロはローラに気付くと、目を見開いた。
ローラが慎重に言葉を探してる間に、呆然と呟く。

「ローラさん……生きて、いる……? 僕はてっきり、あの黒い雷に呑まれたとばかり……」
「……え?」

ターニアが顔をこわばらせたことに気付かず、チャモロは信じられないという目でローラを見る。

「わたくしも死を覚悟しましたが……この通り、生きています。
 ……チャモロさんも、あの場にいたのですか?」

チャモロは確かに言った。黒い雷と。
それに呑み込まれ、共にいた命を埋葬したローラだが、チャモロが訪れた痕跡は村になかった。
具体的な事象を知っているのだから、出任せではないだろう。

「あそこにいたのに、彼女を止めなかったのですか? まさか、わたくしたちを見殺しに……」

チャモロの性格を考えると、村に姿を現さなかったことに疑問を覚える。
到着が遅れて雷に巻き込まれなかったとしても、その後にすら足を踏み入れていなかったのだ。
震えた声を出し、チャモロを疑う――ように見せかけて、ターニアをちらりと見やる。その顔がまた青ざめていた。

「……違います」

答えは、どちらでも良いのだ。

「確かに僕は、あの時近くにいました。ですが、あの僧侶の女性――スクルドさんにキメラの翼を押し付けられて……」

心の底からチャモロを疑っているわけではない。

「そして……あの黒い雷を見ながら、滝の上の一軒家へと引っ張られたのです」

今この場で彼女を殺せないなら、利用できるようにするべきだから。

「そのようなことが……申し訳ございません。失礼なことを……」
「いえ……そう思われても仕方ない状況でしたから」

ほら、胸を撫で下ろしているけれど、彼女の顔から不安は消えていない。

知っている者が人を見殺しにした可能性を知ってしまうと、それを簡単には忘れられないだろう。
明日は我が身。いつ自分が同じ目に遇うか、いつ自分が見殺しにされるか、分かったものではない世界なのだから。

1327雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:42:46 ID:oHOCNhvs0
(自分の身を守る為に使いなさい、とでも言って、後で毒の粉を少し渡しましょうか)

考えを巡らせながら、ローラはターニアに手を向けてチャモロに問いかける。

「ところで、彼女を追いかけて来ていたようですが……北で何かあったのですか?」
「あ……すみませんターニアさん! 逃げ出してしまった貴女が心配で追いかけてきたというのに……」
「あ、ううん……! 大丈、夫……」

口では大丈夫と言うものの、ターニアはすぐに俯いてしまう。
チャモロとローラは、その傍に心配そうに寄り添う。

「キラーマジンガに狙われた時、貴女は既に何かから必死に逃げているようでした。何があったのですか?」
「あ、お兄ちゃん……お兄ちゃん、が……」
「レックさんも近くに?」
「ううん、違う……お兄ちゃんが、殺され……」
「レックさんが……殺されてしまったのですか!?」

驚いて叫んでしまうが、ターニアはふるふると首を横に振る。
早とちりだったことに安堵しながら、続きの言葉を待つ。

「お兄ちゃんには、会ってなくて。そうじゃなくて……ジャンボさんが、お兄ちゃんを殺そうって言ってるのを聞いて……そうだ、チャモロさんだって殺そうって言われてた……!」
「ジャンボさんが!?」

再び声を張り上げてしまう。
サフィールやブライが信じて待ち、先程キラーマジンガから助けてくれた彼が、レックや自分を殺そうと?

「僕はジャンボさんに窮地を救われ、今こうしてここにいるんです。何かの間違いでは……」
「間違いなんかじゃないよ! 確かに聞いたんだもの……チャモロさんだって、いいように使われてるのかも……!」
「まさか、そんな……」
「私だって、お兄ちゃんを殺す為に利用されようとしてたのかもしれない……チャモロさんだって、私を連れ戻す為に利用されてるだけかもしれないよ……!」

チャモロとしては、自分を救ってくれて、ターニアも心配していたように感じるジャンボを信じたい。
だが、青ざめて震えるターニアが嘘を吐いているようにも見えないし、彼女が嘘を吐くような人物でもないと知っている。

「……わたくしはそのジャンボという方に会ったことがないので、なんとも言えませんが……どうするのですか?」

静観していたローラが、口を挟んだ。

「このような状態の彼女をそのジャンボさんの元に連れて行くのも酷だと思いますが……」
「ですが、南に向かってもほぼ壊滅状態の村、その先の道は禁止エリア……あ、そうだ、ローラさん」
「はい?」
「あの村で生き延びたのなら、アルスさんとライアンさんに会いませんでしたか?」
「…………っ」

唇を結び、ローラは目を逸らす。
その様子に、今度はチャモロが疑いを向ける番だった。

「……まさか、ローラさん」
「違います」
「貴女、あのふたりを……」
「違います!」

目を伏せたまま、ローラは言葉を紡いでいく。

「あの村に、お面が落ちていたんです。伝承で守備の力があるものだと知っていたので、それをライアンさんに勧めたのですが……」
「お面?」
「ええ。ですが……伝承には載っていなかった呪いの力が込められていて……」

1328雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:44:18 ID:oHOCNhvs0
 









「それが、君の言い訳?」

低い声が聞こえた。
三人ともが驚いてそちらを見ると、疾風の如くローラに突進する緑の影。
その手には、オチェアーノの剣。
その刃が捉えるのは――ローラの腹部。

目にありったけの殺意を込めて、怒りに燃えるアルスがそこにいた。

「アルスさん!?」
「な、何……!?」
「……!!」

誰も止められないまま、アルスが持つ刃は真っ直ぐにローラの腹部に埋まる。

「もっと遠くまで逃げてたらどうしようかと思ったけど」

すぐに引き出し、もう一度。
同じ場所を刺す。

「助かったよ、こんな所で油を売っててくれて」

もう一度。刺す。

「こうして追い付けたし、何より――」

刺す。

「――お前を殺す余力が、十分ある」

致命傷にはなり得ないよう、急所は外されている。
しかしそれが余計に、ローラを追い詰めた。
愛する我が子が、アレフの生きた証が、何度も、何度も、生きている自分の中で刺されている。

「い、やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うるさい!!」
「ッ!!」

悲鳴が煩わしく、アルスはローラの顔を殴りつけた。

「マリベルは……! ライアンさんは! もっともっと苦しんだんだ!!」
「アルスさん!!」
「こんな傷じゃ足りないくらい! マリベルは、手足だってぐちゃぐちゃにされて!! ライアンさんは、顔中から血を流して……!!」
「アルスさん、止めて下さい!」
「もっともっともっともっともっと、お前より、お前らよりずっと、ずっと! 苦しんだんだ!!」

1329雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:46:04 ID:oHOCNhvs0
我に返ったチャモロがアルスを羽交い締めにしても、アルスはまだローラを痛めつけようと暴れる。
肘がチャモロの顎を打ち、外れた手から自由になった右手のオチェアーノの剣の柄がその頬を掠める。

「邪魔しないでよ!! そいつは、絶対に殺してやる……絶対に許さない!!」

チャモロを突き飛ばして再び向かっていくと同時に、ローラが杖を振るのが見えた。
その身に魔力を感じた瞬間、目の前にいたローラが消える。
振り返ると、チャモロの傍に杖を持ったローラがいた。

「……はは」

乾いた笑いが唇から漏れる。

「はは、あははははは、やっぱり。あの時と一緒だ。やっぱり全部、全部全部! ぜーんぶ、お前が仕組んだんじゃないか!!」

それはまるで答え合わせ。
リーザス村の出入口で見張りをしていた時と同じ魔力、同じ現象。
アルスからしたら、自ら手品の種明かしをする道化のようだ。

アルスが地面を蹴る。ローラがまた杖を振る。
同じ轍は踏むものかと、オチェアーノの剣を魔力の弾に向かって投げる。
剣とローラの位置が入れ替わるに留まり、アルスの前に目の見開かれた顔が現れた。
逃げられる前にその顔を両手で掴み、鳩尾を蹴る。膝で蹴り、もう一度膝で蹴り、最後に全体重をかけて蹴り飛ばす。
吹き飛ばされたローラは咳き込みながらチャモロに受け止められ、ベホマの光を当てられる。
その様子に、アルスは更に腸が煮えくりかえるのを感じた。

「なんでだよ、そんな奴に治療なんて必要ないよ。もっともっと苦しませた上で殺してやらないと!」
「落ち着いて下さい、アルスさん! こんなことしたって、何にもなりません!」
「なるさ! マリベルの分もライアンさんの分も、苦しみを全部返して、もっと与えて、後悔させてやる!!」
「…………ない」
「え?」

ゆるさない。
小さな声と共に、チャモロの腕から立ち上がったローラが、杖を振る。
アルスは拾い上げたオチェアーノの剣を再び投げるが、ローラの殺意に呪力が比例して強まったのか、不運にも剣は光弾に当たらなかった。
場所の入れ替わりに備えていたアルスは、しかし次の瞬間、目の前にローラを、左肩に激痛を認めた。
深々と刺さっているのは毒針。
引き寄せの杖で鋭い切っ先へと引っ張られていた。

「アレフ様の子を、アレフ様が生きた証をよくも……許しません…………!」
「先に奪ったのはお前たちの方だ!」

毒針を乱暴に抜き、ローラに振りかぶる。
激情のままに繰り出されるそれはしゃがんで避けられ、体当たりを見舞われた。
戦い慣れていないローラの体当たりは大したダメージにはならないものの、毒針が手からすっぽ抜けてしまう。
放物線を描いた毒針が向かった先を見て、初めてアルスに殺意以外の表情が浮かんだ。

1330雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:48:14 ID:oHOCNhvs0
「え、や、やだ……!」

起きている事態に付いて行けず腰を抜かしていたターニアがその着地点にいた。
アルスの殺意はローラへのみ向けられたものだ。他の者――更に言うなら見るからに普通の少女を殺すつもりなどない。
チャモロが毒針を手刀で落として間一髪事なきを得たが、その隙を付いてまたもローラに体当たりをされた。
焦りが一瞬で怒りに染まり、オチェアーノの剣を拾って、毒針を拾いに行こうとするローラに向かって駆けていく。

殺意を滾らせ、憎しみを込めて。
アルスはもっともっと痛め付けてやろうと距離を詰める。



「いい加減に――しなさいッ!!!」



瞬間、ふたりの間を駆ける一刃。
チャモロの胸中をその身に背負っているかのように荒々しく、けれどアルスとローラ、未だに震えるターニア、その誰もを傷付けないように慎重に。
かまいたちに注意が逸れ、ふたりともがチャモロを見る。

「邪魔しないでよ!」
「横槍を入れないで下さい!」
「お断りです!!」

堪忍袋の緒が切れて、腹の底から叫ぶ。
ターニアを危険に曝した上で暴走を止めないふたりを力一杯睨み付けて。

「ハッサンさんを殺され、理由はどうあれアモスさんを殺してしまった僕だからこそ――貴方たちを止めなければならない!」

怒り、悲しみ、後悔、決意。
様々な感情をない交ぜにして、チャモロは言葉を紡ぐ。

「僕はかつて僕に影響を与えてくれた友、ハッサンさんを殺され、遺志を継ぐことを決めました。そしてその原因であるローラさんとも、少なからず関わりを持ちました。
 だからこそ言える。アルスさん。憎しみに囚われて殺意に身を任せてはいけません」
「…………」

アルスは唇を噛み、俯く。
その手をぎゅっと握り締めて。

「僕は元の世界でも関わりがあった人を、経緯はどうあれ手にかけてしまいました。殺したくなかった反面、そうすることでしか彼を救えなかったと理解してしまい、事実を受け入れるしかありませんでした。
 だからこそ言える。ローラさん。これは貴女の罪なのです。受け止めなければなりません」
「う、あ……ああ…………」

ローラは目を彷徨わせ、やがて力が抜けたように座り込む。
アレフ様、ごめんなさい、不甲斐ないばかりに、譫言のようにアレフへの言葉を繰り返して。

「僕たちは皆、大切な方を失ってしまいました。だからこそ、その方の死を無駄にしない為に、憎しみで剣を取るのではなく、互いの手を取らねばならないんです」
「じゃあ……」

顔を上げたアルスはぎっとチャモロを睨み付け、唸り声とも思える低い声で問いかける。

「じゃあ、許せって言うの? 君だって大切な人を殺されたって言った。僕だって大切な人を、僕を導いてくれた恩人を、こいつの所為で失った。それを全部、許せって言うの?」
「許せとは言いません。憎むなとも。僕だって、ハッサンさんを殺した彼女を許したわけではありません。今でも……憎いです」

ローラがぴくりと肩を震わせたのが分かった。
全てのきっかけをズタズタに傷つけられて気力を失ったか糸が切れたか、それでも座り込んだままだ。

「ですが、憎しみに任せて復讐したって、ハッサンさんは帰ってこない。それに……正義感に溢れたあの人は、きっと何よりもこのゲームを止めることを望むはずです」

1331雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:49:43 ID:oHOCNhvs0
滝の上の一軒家の決意を思い出す。
この世界での全ての始まり。
殺された後であることは悔やまれるが、最初に出会えたのがハッサンだったことはチャモロにとって揺るぎない反抗の誓いの証になった。

「死人に口はありません。けれど、彼をよく知る僕の中の彼は、敵討ちなんて望まない。
 僕の中のあの人がそう言うのなら、それを叶えるのが僕のやるべき事です」

――ふざけるな。
――あいつらはハッサンを殺した。
――これは神が下した罰なんだ。
――自業自得なんだ。
――いい気味だ。
――二人仲良く、地獄で己の行為を悔やめ。
――助ける必要なんてないんだ。

チャモロだって、最初はアレフとローラにそうやって憎しみを募らせた。
それを上回ってローラの救出に突き動かしたのは、他ならないハッサンだったのだ。
アルスの気持ちは痛いほど分かる。だからこそ、アルスにローラを殺させたくなかった。

「アルスさん。貴方の中の大切な人たちは、貴方にどんな言葉を投げ掛けていますか」
「…………」



――あたしが死んだらアルスはあたしのこと、ずっと覚えててくれる?

アルスの脳裏を真っ先に過ったのは、トラペッタでも思い出したマリベルの言葉。
かつてはその奥底の想いを理解できなかった言葉。
この世界で、漸く本当の答えを見つけた言葉。

(マリベル、君は……それだけでいいの?)

こんなに憎いのに。
こんなに許せないのに。
既に手遅れだったアイラと出会ったマリベルだって、ハーゴンと対立して戦ったと聞いている。
それなのに、マリベルは覚えていてもらえるだけでいいのだろうか。

マリベルだって、敵と戦って、そして――



もしアレフたちが乱入しなければ、マリベルはその先どうしたのだろうか。
憎しみに任せて殺していた?
それとも戦いを制した上で、罪を認めさせたかった?
償わせたかった?



――死が必ずしもその人の価値をなくしちゃうとは限らないわよ。

(……あ)

――もしアルスが死んでも、あたしはきっとアルスのこと忘れないもの。



またひとつ思い出した、マリベルの言葉。
あの時は分からなかった。
死んだらそれまで。価値も何もあったものではない。
そうとしか思わなかった。

1332雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:54:24 ID:oHOCNhvs0
(そうじゃ、ないんだ)

アイラの存在を軽んじられてマリベルが激昂したことを、アルスは知らない。

(僕が覚えてなきゃ……生きてきたみんなを受け止めなきゃ、いけないんだ)

けれど、戦いの中で変化を手にすることができたアルスは、ほんの少しずつ人の心も想像できるようになってきている。

(ありのままのみんなを、覚えていなきゃ。じゃないと、みんなの価値……ううん、価値なんてものじゃない。みんなが生きた証が、ひとつ失くなってしまうんだ)

マリベルのことも、ライアンさんのことも、忘れない。
……ライアンさん。



――あの……女性を恨んでは……いけない………。



聞こえていたはずなのに聞こえていなかった言葉が、今、漸く届いた。
アルスを導いてくれた彼は、最期までその手を引いてくれていたのだ。
理由を持たない曇った殺意は、きっと自分なりの理由を持った殺人者よりも悲劇を巻き起こす種になる。
そうならないように、ライアンはアルスに恨むなと伝えたのだろうか。

(ライアンさん……どこまでも優しい貴方を、僕も殺してしまうところだったんだね。貴方を貴方として遺せなくなるところだったんだ)



「……はは」

つい今しがたローラと対峙した時と同じく、軽い笑いが溢れた。
乾いたものであることに違いはないけれど、全く違う感情を込めて。

(エイトのこと、言えたものじゃなかったね。僕だって、衝動的に殺してしまうところだった)

自嘲は短かった。
眦から想いが流れた。
それもその一筋で終わった。

「……ありがとう。止めてくれて」

掠れた、小さな声。
憎しみは完全に消えてはいない。まだ心はコントロールしきれない。
それでも、なんとかブレーキをかけることができたから。

「……いえ。僕の方こそ」
「?」
「貴方たちと出会った時、実は僕も憎しみに……八つ当たりにも近い憎しみを抱いていたんです。アルスさんたちがいなければ、どうなっていたことか」

リーザスの惨劇での無力感から、キラーマジンガへと憎しみが向いていた。
そんなチャモロの元に駆け付けてくれたのがアルスたちだ。
サフィールの無事やみんな友達大作戦の情報も、確かにチャモロに刻み込まれた。
アルス、ライアンとの出会いは、確かにチャモロに大きな変化を齎したのだ。

「本当は、僕にも大きな口を叩けたものではないんです。ですが……手遅れにならなくて、本当に良かった」
「僕だって。人を殺したとある人にきつい言葉を投げ掛けたのに、自分も道を踏み外すところだった。お互い様だよ」

互いが互いに助けられていた。
合わせられた目は、少し可笑しそうに見えた。

1333雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:55:49 ID:oHOCNhvs0
「……そういえば、ひとつ約束をしてたよね」
「……ええ、そうですね」

もう一度会えたらその時は――――――また僕を仲間と呼んでほしい。
その約束は、ふたりとも覚えている。

今更言葉にするのがもどかしくて、どちらともなく握手を交わした。
それだけで良かった。
少年たちは漸く、仲間として手を取り合い始めた。





(アルスさんが踏み留まってくれて、本当に良かった……)

アルスの説得に成功して安堵のため息を吐いたチャモロは、ローラの方へ視線を遣る。
今度こそ彼女と向き合う為に。

「ローラさん、貴女も…………ローラさん?」

そこで不意に覚えた違和感。
いつの間にか譫言さえ止んで静かになっているローラに近付く。
それどころか足音が近寄っても、声をかけても、一切反応しない。

「ローラさん……?」

不思議に思ったチャモロは彼女の肩を揺すり……絶句した。
その背がべったりと、血で染まっていたのだ。
肩より少し下、左胸の辺りの刺傷が、鮮やかなドレスを更に鮮やかな深紅で彩っている。
その目は虚ろに見開かれたまま、呼吸は完全に止まっていた。

「どうしたの…………え、これ……」

近寄ってきたアルスもそれに気付き、呆然とする。
今の今まで殺したくて殺したくて仕方がなかった相手なのに、いざその姿を見ると動揺が走った。

「もしかして、近くに誰かが潜んでた……?」
「そんな気配は……、…………ッ!? 待って下さい、ターニアさんがいない!?」
「え、じゃあ……まさか」
「いえ、ですがターニアさんはそんなことをする人じゃ……!」
「でも、あれ……!」

アルスが指さした先には、この場から離れるように点々と赤い雫が付いている。

「毒針もあの子の近くに落ちたし、可能性は高いと思う」

1334雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 12:59:53 ID:oHOCNhvs0
ローラへの殺意を剥き出しにした自分が彼女を怯えさせてしまった自覚はある。
アルスは自分が蒔いてしまったかもしれない種に、大粒の汗を流していた。








走る。
逃げる。
走る。
逃げる。
走る。
逃げる。
逃げなきゃ。逃げなきゃ。

(お兄ちゃん、どこにいるの……怖いよ、助けて……)

優しく抱き締めてくれたローラも、人を殺したという。
兄の仲間のチャモロも、知り合いを殺したという。
怒り心頭に現れたアルスも、ローラを殺そうとしていた。

ひたすらに怖かった。

この世界で起こったことも、それぞれがどんな想いを抱いていたかも、ターニアには分からない。
確かなのは“みんな誰かを殺したこと、殺そうとしていたこと”だけだ。
落ち着きかけていた恐怖は、反動からかそれまで以上に膨れ上がっていた。

ここにいちゃ駄目だ。
兄が信頼していた仲間ですら、人を殺してしまっていた。
明日は我が身。いつ自分が同じ目に遇うか分からない世界。

――気付いた時には、拾い上げた毒針を、ローラの背に突き刺していた。
ぬるりと、生ぬるい嫌な感覚が手を伝う。

1335雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 13:01:20 ID:oHOCNhvs0
「え、あ…………あぁぁ……!?」

信じられない。
ここにいては駄目だ。そう思って逃げようとしていたはずなのに。
どうして、私は――

(だって、優しくして付け込まれて利用されるところだったかもしれない)
(先にやらないと、私が殺されてたかもしれない)
(ここから逃げる為には、必要なことなんだ)

混乱する頭に必死に言い訳を並べながら、今度こそ、その場から逃げ出す。



――今はご自身だけを信じましょう。お兄様に会いたい、そんな自分だけを。



ターニアの頭に纏わり付いて、離れない言葉。
流されないよう、自分で考えて行動しよう。そんな想いに絡み付く呪詛のような声。
声の主の命の灯が潰えて尚、ターニアの恐怖をかき立てる。
混乱からきた行動なのか、抗えない呪いに蝕まれた行動なのか。
ターニア自身にも分からなかった。
それが余計に怖かった。

北にいるジャンボ、南の街道に設定された禁止エリア。
それらを避けて、西へ走る。兄に会いたい一心で。





――人を信じるのが怖い。
――人を殺した人がたくさんいるもの。
――でも今、自分も人を殺した。
――あの人はハッサンさんを殺したって言ってた。
――だから殺した?
――私もあの人に殺されてたかもしれない。
――でもあの人は座り込んで、追いかけて来そうになかった。
――それでも、怖かった。
――人を殺した人が怖かった。

――じゃあ、自分自身も、怖い?
――自分の意思じゃないところで人を殺してしまった自分が、怖い?



幻聴なのか、自問自答なのか。
ぐちゃぐちゃとした思考を纏めることも放棄して。
逃げる。
逃げる。
少女は逃げる。
ここにいない兄に、助けを求めながら。

1336雪解け水に毒は揺蕩う ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 13:02:31 ID:oHOCNhvs0
 


【ローラ@DQ1 死亡】
【残り21人】


【G-5/森/2日目 早朝】

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP3/5 MP1/7 左腕骨折(応急処置済み) ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)(加速状態)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:諦めない。ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める ターニアを助けに行く ジャンボへの不信感(半信半疑)
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。また、はぐれメタルの職業を少なくともLv7まで経験しています。魔法使い、魔法戦士、賢者、勇者は経験していません。

【 アルス@DQ7】
[状態]:HP1/9 MP1/3 左足に怪我(素早さ低下) 右腕から胸にかけて裂傷(応急処置済み)左肩に刺傷
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜1) ゲルダの不明支給品0〜1個(確認済み) 道具0〜2個(本人確認済み) 
[思考]:この戦いを終わらせる。ミーティア、キーファを探す。トラペッタへ戻る。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。


【F-3/森/2日目 早朝】

【ターニア@DQ6】
[状態]:健康 恐怖
[装備]:毒針
[道具]:支給品一式(ランタン無し)、愛のマカロン×6 砂柱の杖@トルネコ3 道具0〜1
[思考]:基本方針:お兄ちゃんと合流したい。
首輪を解除してくれる者を探す 
周りに流されず、自分で行動する

1337 ◆i1hhTb.klQ:2019/04/13(土) 13:03:07 ID:oHOCNhvs0
以上で投下終了です。
誤字脱字、指摘などあればお願いします。

1338ただ一匹の名無しだ:2019/04/13(土) 18:58:33 ID:wVYzVTMc0
投下乙です
アルスは踏みとどまれたけど、ターニアがやっちゃった…
ジャンボの過去スタンスがチャモロに伝わって、どうなるやら
ローラは…アレフ共々ドンマイ
赤ちゃん守れなかったか…

1339 ◆i1hhTb.klQ:2019/04/17(水) 21:12:20 ID:P2aF99zo0
すみません、雪解け水に毒は揺蕩うの状態表にて、ターニアの位置をF-4と間違えてF-3にしていました。
正しくはF-4になります。wikiにて修正させていただきました。

それと、こちらでいいのか分かりませんが、タイトルを間違えたページを作成してしまいました。
雪解け“の”水に毒は揺蕩うになっている方が間違えたものです。
削除していただけたらと思います。

1340 ◆vV5.jnbCYw:2019/05/01(水) 01:36:11 ID:WyLXwBkE0
竜王、アンルシア予約します。

1341 ◆vV5.jnbCYw:2019/05/01(水) 23:01:01 ID:WyLXwBkE0
投下します。

1342 ◆vV5.jnbCYw:2019/05/01(水) 23:03:23 ID:WyLXwBkE0
(なぜ……なぜこんなことに………。)

竜王はトンネルを進む。
その姿はかつての威厳も何もない。

今、自分は何をしているのか。
自分とレックの戦いを邪魔した男を追いかけ、殺す。

それが可能なのか?
否。今の自分の状態は、万全のそれとは程遠い。
竜に変身することさえ出来ず、歩くことがやっとである。

加えてレックとの戦いで、キーファとの戦いで受けたダメージを今になって感じる。
先程までは怒りを伴って戦いに没頭していたため、感じる暇がなかった。
今こうして戦わずにいると、体のあちこちがキリキリと痛む。


(何が王だ………)
自分がやろうとしたこと。この世界で何一つ出来てないではないか。
悪にもなり切れず、かといって人間と協力も出来ず。
死ぬことさえ出来ず、無様に生きながらえている。

さらに竜王の心を抉ったことは、もう一つある。


先の放送で、アレフの名が呼ばれたこと。

ロトの剣をオルテガに渡し、自分が悪事を働いていることを広めれば、必ず自分を殺しに来ると思っていた。

それが、何の噂も入ってこないうちに殺されているとは。

既に死者はヤツや知っている者を含め、4分の3近くになる。

到底あの魔導士の息のかかった魔物だけで殺しきれる数ではない。
恐らくこの世界の闇に飲まれ、殺しに手を染めた人間が多いと考えるのが妥当だ。
その中にはキーファのような勘違いも含まれるだろう。


人々を飲まんとする闇を払い、正しい道へと導くのが勇者の役目ではないのか。
一度は我が身を滅ぼした存在が、こんなにもあっさりと膝を屈するものなのか?

決して報復が出来なかったことが悔しいのではない。
だが、何がヤツを殺したのだ?
自分やアレフをおも上回る存在に殺されたのならまだいい。
もしや、ヤツもこの世界の闇に飲まれたというのか?

1343ラストチャンス ◆vV5.jnbCYw:2019/05/01(水) 23:03:48 ID:WyLXwBkE0

ワシは一体、何をすればよかったのだ?

トンネルを抜ける。
月がなおも自分を照らす。
そろそろ太陽が新たに顔を出す頃だろう。
しかし、それでいてなお不気味なまで光っている。

かつては地上に侵攻した時でさえ、月の光など見向きもしなかったのに、どういうことか。


(所詮は、偽物の光が………。)
月は太陽の光を借りて輝くという。

かつては自分も勇者という光を借りて存在していた。
だからこそ、自分達にしかない光を求めて、光の玉を奪った。

だが、今は月として勇者と言う名の太陽を引き立てる役目を全うしようとした。

その役目すら許されないとは、どういうことだ。

竜王は今、答えのない道を歩いている。
万に一つでも襲撃者を殺したとして、それがどうなるのか。

襲撃者を殺したものとして、また誰かがキバを剥いてくる。


更に歩いていくと、見知らぬ少女が一人いた。
ローラ姫に似た年齢。
脚を怪我しているのか、歩く速さは竜王のそれよりも遅い。


だが、自分には気にする必要はない。


「竜王………!?」

少女は竜王を睨みつける。

既にアンルシアは竜王のことをオルテガから知らされており、そのオルテガを殺した人物もまた、竜王だと思っていた。

「ほう……ワシの名もよく知られているようだ。」


アンルシアは戦姫のレイピアを震える手で握り締める。

なるほど、やはりそうくるかと竜王も身構える。
やはり人間との協力など、夢物語。
仮に仲間になれたとしても、第三者からの殺意を受ける。

1344ラストチャンス ◆vV5.jnbCYw:2019/05/01(水) 23:04:07 ID:WyLXwBkE0
竜王が右手に炎を纏った直後に、アンルシアは気付いた。

(落ち着きなさい!!今、やるべきことは何!?戦うべき敵は誰!?)

自分は誰が敵か味方かの区別もつけず、戦いに飛び込んでいった。
その結果が、あの大量の犠牲者だ。

ここで、迂闊に敵に戦いを挑むことは、逃げること以上に死につながる。
恐ろしいことは手ごわい敵がいることではない。敵か味方かの判別が難しいことだ。

自分がやることは………。
戦姫のレイピアを、地面に突き刺した。


(!?)
この行動には、さしもの竜王も驚く。
「どういうつもりだ。キサマ戦いを放棄するのか。」

竜王も手に纏っていた炎を消す。

この魔物は、理性がある。
もし人を殺すことしか意思がなければ、すぐに自分に魔法を放っていたはずだ。


アンルシアは、賭けに出た。

「お願い!!私に、力を貸して!!」
「どういうことだ……キサマ、血迷ったか?」



竜王は怪訝な目で自分を見る。
見られて当然のことをしたという自覚はアンルシアにもあったが。

「私は仲間を助けに行かなきゃいけないの!! だから、あなたとは戦えない!!」

アンルシアは自分の決意を伝える。
だが、竜王はアンルシアの脚のケガを見抜いていた。


「ほう……その傷ついた、歩くこともままならぬ脚で、助けに行くというのか?」
「…………!!」

竜王の言うことは至極全うだった。
今の脚では、ティアさえ追うことが出来ない。
しかも凍傷と刺し傷のせいで、無理に動かしたら悪化するだろう。
回復呪文を唱えようにも、自分の力を間違った方向に使ったあの出来事がフラッシュバックし、唱えられない。

「力無き決意は決意無き力と同様、無力だということを教えてくれる者はいなかったのか?」

「だから、私には助けが必要なの!!あなただって、ケガしている!!
ここで必要なことは、協力することよ!!」
「くだらん。」
「あなたの目的は何?教えてくれたら、私も協力できるかもしれないわ。」
「聞いたところでどうする?人間などに協力してもらうほど、我が誇りは廃れておらぬわ。」


アンルシアの必死の説得を、竜王は一蹴する。

1345ラストチャンス ◆vV5.jnbCYw:2019/05/01(水) 23:04:30 ID:WyLXwBkE0

「キサマが今の状況を脱却出来た後、掌返して裏切らない保証はどこにある?
たとえワシがキサマと協力したところで、キサマが助けたいという仲間は納得してくれるのか?
魔物であるワシに助けられて、ワシに素直に感謝できるのか?」

「…………!!」

アンルシアも知っている。
500年前のアストルティアで起こった偽りの太陽、レイダメデスの事件。
オーガ達はレンダーシアの人間の為に、自らの城を貸した。

だが、他の種族をも助けることで、水の分け前が減ることを恐れた人間が、オーガを城から追い出した。

他の種族さえ排他的な人間が、魔族に味方意識なんて持てるのだろうか。

考えたことがなかった。
レイダメデスの悲劇は500年も前に起こったことで、ジャンボにしか聞いたことがない話だ。
けれど自分も、道具使いとして、魔物を従えているジャンボを見るまで魔族とは兄の仇で、自分の倒すべき種族だとばかり思っていた。

「諦めろ。キサマはどの道、助けることは出来ない。助かることもない。ワシの時間の無駄だ。」


竜王はアンルシアを無視して、城へ向かおうとする。

(待って……)
アンルシアは、竜王が一人でこの先へ向かうことを、危険視していた。

それは、この先にいるであろうティアの存在。
彼女も自分と同様、竜王が危険人物だということを知っている。
それに加え、今ティアは竜王が渡したロトの剣を持っている。

あの時のバンダナの青年のように、斬りかかられる可能性だってある。
斬りかかられた結果、報復を受け、ティアが殺される可能性もある。
実際にあの戦いでも、ヤンガスがメガザルを唱えてくれなければ、もっと怪我人が増えていたし、ティアも死んでいたかもしれない。


だが、この竜王と言う魔物が味方になれば。
この竜王と言う魔物が協力してくれれば、仲間を守れるかもしれない。

1346ラストチャンス ◆vV5.jnbCYw:2019/05/01(水) 23:05:29 ID:WyLXwBkE0
今、竜王をトロデーンに向かわせてはならない。
かといって五体不満足な自分一人で向かっても、トロデーン城の「襲撃者」を倒し、ティアを救うのは難しい。

二人で同時にトロデーン城へ向かうことで、自分の目的を完遂することが出来る。


こんな時に必要なのは、勇者としての力だけじゃない。
ジャンボが見せた、「交渉力」。
彼は目的を果たすために、ゴールドを払って引き入れる用心棒だけではなく、「仲間」を多く引き入れていた。
中にはドワーフや人間以外の異種族もおり、魔物もいた。

自分は持ち前の勇者の力を半分も出せないが、ジャンボと冒険した時の記憶は、今もなお深く根付いている。


まず目的の為の仲間を作るには、相手の目的を見抜くのも必要だ。


「私は知ってるわ。あなたはロトの剣を持っている勇者を探している。そして私は、その勇者がいる場所も知っている!!」

(何!?)

竜王は愕然とした。
勇者アレフは既に息絶えている。
証拠を見たわけではないが、自分の炎に焼かれたオルテガが死者として呼ばれたから、そうだと信じるのが妥当だ。

だが、覚えている。
かつてアレフガルドに光を取り戻したという勇者。
赤茶けた古い書物でしか見たことがないが、仲間も併せて同じ顔をした者が、この戦いの名簿に映っていた。

この娘は出まかせを言っているわけではない、竜王はそう確信した。


「案内してやるから協力しろ、まずは自分の傷を癒せ、そうとでも言いたいのか。」

話に乗ってきた。これはチャンスだ。
アンルシアの心は高揚した。
ロトの剣を持っている勇者、ティアのことかアスナのことか分からないが、どちらもトロデーン城にいる可能性が高い。
万が一いなくても、竜王と協力して、襲撃者を倒せる可能性もある。

「その通りよ。」

「なるほどなるほど。争いを嫌う人間らしく、話が上手いな。
だが、関係ないことよ。案内役が貴様である必要はない。」

(!?)

「それに教えてくれたな。居場所を知っている、と。
大方この北にある城だろう?人間という者は、総じて大きな建物に集まりたがる。」

見抜かれてしまった。
これでは自分がいなくてはならないという意味にならない。

1347ラストチャンス ◆vV5.jnbCYw:2019/05/01(水) 23:05:50 ID:WyLXwBkE0
「よくも邪魔をしてくれたな。鬱陶しい貴様を、焼き尽くしてから行くとするか。」
竜王は再び炎を手に纏う。

(……!!)

「キサマ一人焼くのは雑作もない!!燃え尽きろ!!ベギラゴン!!」

炎の矢が自分に迫り来る。


逃げることも出来ない、魔法を唱えることもない。
自分はこの世界ではどうしようもない、ただの少女なのか。

そうだ、あの時もそうだった。
自分の力がなければ。
自分が勇者じゃなければ、トーマ兄さまも死ななかった。

勇者であることを誰よりも拒否して、ただの少女として、村で生きていた。


今の私も、勇者の力を拒否し、カラに閉じこもっている。
あの4人の死は、勇者の力ではなく、その力の使い方を間違えたからなのに。


身勝手かもしれないけど。
もう一度、力が戻ってほしい。
私やジャンボのためだけではなく、この戦いに閉じ込められた、全員を救うために。





炎が命中し、爆散する。
アンルシアは、確かに灰燼に帰したはずだった。

(何だ!?)

突然、まばゆい光が竜王の目をくらませた。
それは、この世界に現れた二度目の太陽の光、それだけではない。

新たな物語の始まりを告げる光。
ある世界では、勇者覚醒の光、と呼ばれていた。
彼女が1度目に勇者の力を復活は、クロウズという竜族の導きの下に成され、
2度目の勇者の力の復活もまた、竜族の導きにより成されたのは偶然だろうか。

1348ラストチャンス ◆vV5.jnbCYw:2019/05/01(水) 23:06:14 ID:WyLXwBkE0

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

(何だ……これは………。)
凄まじい光が出て、何も見えないと思ったら、何か映っている。


(あれは……ワシか?)

その姿は竜王ではない。
同じ竜族でこそあるが、性別も、見た目も、全く違う。
それなのに、別人の気がしない。
あるいは、同じ血を持つ者だろうか。

竜の王、いや、竜の女王か。
かつて書物で呼んだ勇者に、何か渡している。

(光の玉?)

確かに竜王自身が奪った物だ。

一体何があったのか、あの女王は何なのか、それが知りたい。

しかし、竜王の願いはかなわず、女王も、古の勇者達も、光の玉も消える。


今度現れたのは、過去の自分、ではない。

先程の女王以上に自分と似ている姿だが、どこか違う。
近い縁の者だろうか。

その竜が、かつて自分の城だった場所で、三人の人間と談話している。



今度は光の中に、様々な自分が映る。
それまでに見た似ている存在とは異なり、確固たる自分だった。

どことは分からぬ洞窟で、勇者達とは別の4人と戦い、強化され続ける自分。
青い帽子の少年に仕え、他の魔物と共に戦いに身を投じる自分。
太った商人と金髪の女性、そして少女を守って紫毛の猿の魔物と戦う自分。
赤髪の少女を守って、少女の姿をした戦鬼と戦う自分。


(これは、全部ワシなのか……?)

世界は選択の数だけ存在する、とは聞いたが、実際に見てみると妙に間が抜けて見える。


(この光は、ワシに何をもたらすのだ?人間と協力しているワシやワシに近い者の姿を見せて……)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


光が消え、目の前にはアンルシアが立っていた。
アンルシアがレイピアを構え、竜王に向けている。
その姿は、前の頼りなさげな姿とは全く違う。

1349ラストチャンス ◆vV5.jnbCYw:2019/05/01(水) 23:07:02 ID:WyLXwBkE0
脚に傷を負い、立っているだけで精一杯のはず。
なのにその猛々しさ、凛々しさは勇者アレフやレックにも並ぶほどだった。

「それがキサマの覚悟か。」
「そうよ。私はティアを助けに行く。そして、あなたも助ける。」

二人を、ベホマラーの白い光が照らす。

完治とはいかないにしろ、それは二人の傷を確かに癒した。


「城へ向かうぞ。そういえば、キサマの名を聞いていなかったな。」
「グランゼドーラ王国のアンルシアよ。」

「アンルシアよ。ワシがその勇者を見つけ、ワシに傷を負わせた敵を殺すまで、しばし共に行かせてもらう。」

「ありがとう。力を貸してもらうわ。」


なぜ光が、竜王に別の自分を見せたのか、それは分からない。
勇者覚醒の光は、現れた場所によって、何をもたらしたかは異なった。
だが、それはすべて新たな物語へ繋がる導きになった。

竜王は新たな可能性を、新たな未来を確信したのだろう。


(恐らくロトの勇者が城にいるとすれば、ワシとレックを襲った者と戦っているはず。殺められてなければよいのだが……。)

(待っていて、ティア。私は必ずあなたも、皆も守るから。
そしてジャンボ……それをあなたにつないで見せる。)


勇者と魔王。
どちらもその力を間違えてしまった。
だが、最後のチャンスを見つけた今、残った全てを賭け、前へ進む。


【B-5/トロデーン地方 草原/2日目早朝】

【勇者姫アンルシア@DQ10】
[状態]:HP 2/3 MP1/8 
[装備]:戦姫のレイピア@DQ10
[道具]:支給品一式 とつげき丸@DQ10 不明支給品0〜2(本人確認済み) ルーンスタッフ@DQ8ようせいのうでわ@DQ9 フォズの不明支給品0〜1(本人確認済み) ヤンガスの不明支給品0〜2 スライムの冠(DQ8)バニースーツ(DQ10) オーディーンボウ@DQ10 矢×9
[思考]:彼におわかれのつばさを託す
[備考]:仲間を助けるという決意の下、勇者の力が戻りました。



【竜王@DQ1】
[状態]:HP1/8 竜化した場合、背中に傷 片手片翼損失 
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1個
[思考]:アンルシアと協力して、アベルを倒す。その後ロトの勇者を探す。
勇者を見つけてからも人間と協力するかは不明。

1350ラストチャンス ◆vV5.jnbCYw:2019/05/01(水) 23:07:14 ID:WyLXwBkE0
投下終了しました。

1351 ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:25:37 ID:GvrPP0H60
投下します。

1352One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:27:41 ID:GvrPP0H60
「サフィール、お前の世界では魔物を仲間にする時どうするんだ?」

ゲレゲレやロッキーがサフィールの仲間だと知っているジャンボは問いかける。

「心を通わせるんです。魔物の心を理解し、魔物に心を理解してもらいます。」

サフィールの返事を聞いたジャンボは肩を竦める。

「50点だな。確かに仲間にするってのはてなづけて操るのとはわけが違う。腹の底を打ち明けて魔物の方から着いて行きたいと思わせなくちゃならねえ。ただしそれは、相手が心を持っているのが大前提なのさ。」

心の有無。それは魔物使いと道具使いがそれぞれ扱うモンスターの大きい差だ。
心を持った魔物を仲間にするにはその魔物のことを深く理解する必要がある。そのため魔物使い用のスカウトの書には魔物の気持ちの理解の仕方が書かれている。

「じゃあさ、こういう心の無い機械兵を仲間にするのに必要なのは何だと思う?」

ジャンボはキラーマジンガBに背を向け、後ろ指を指してそう言った。
会話が終わるのを待ってはくれないキラーマジンガBはそんなジャンボに背後から剣で斬りかかる。

「ジャンボさん、危ない!」

ホイミンがあわてて叫ぶも、心配は要らないとでも言うようにジャンボは剣を飛び越えて躱し、キラーマジンガBの背後に回り込み、ドラムクラッシュを叩き込む。
特攻付きの攻撃の威力にキラーマジンガBは引き下がり、今度はサフィールの方へと狙いを定める。
ただし弓はゴーレムに壊されているので接近を試みる。

サフィールの方へ向かうキラーマジンガBの前に、さらにジャンボが立ち塞がり、鋼鉄の胴体に体重を掛けて押す。
キラーマジンガBは着実にサフィールの方へと向かっていくが、ジャンボの妨害によってその速度はかなり落とされている。

「もちろん理解は必要だ。戦闘に負けてちゃ仲間になんか出来ねえ。攻撃や追撃のパターン、必要な耐性、立ち回り方……理解すべき項目を1個ずつ挙げてちゃキリがねえぜ。でも理解よりもっと必要なもんがあるのさ。それは―――」

一瞬の隙が命取りになるような戦況の中でもジャンボは喋り続ける。

キラーマジンガBがサフィールへの攻撃を諦めてグランドインパクトを放とうとした瞬間、ジャンボは押すのを止めて射程外へと下がる。

1353One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:28:38 ID:GvrPP0H60
「技術だよ。」

道具使い用のスカウトの書。その中でも特に機械の魔物の書に書かれているのは機械に命令されたコマンドを取り消し、新たな命令を与えることが出来る技術である。道具使いなら誰でも分かるようなシンプルな解説を用いており、スカウトの書に載った機械の魔物はどれも仲間に出来ると考えて良いだろう。

だがここでの問題は至ってシンプル。キラーマジンガの書は存在しないということだ。
道具使いは確かに技術によって魔物を仲間にする職業であるが、キラーマジンガを仲間にする技術自体が開発されていないのだ。

ただし、開発されていないことと不可能であることは同義ではない。
例えばジャンボの居た世界では、ミステリードールを仲間にする技術は開発されていなかった。
しかしジャンボがここに来た時よりも近い未来にはその技術が広まり、雪の降るグレン住宅村の中でもVIP御用達のラッカラン住宅村の中でも、様々な人々がゴツゴツのミステリードールを連れ歩くようになる。

道具使いの技術とはそういうものだ。先駆者が1人いれば直ちに誰もが利用出来るようになる。

では何故キラーマジンガを仲間にする技術が開発されていないのか。それは道具使いの技術が追いついている、いないの問題では無いとジャンボは考える。

そもそも、キラーマジンガは魔法の迷宮に特別なコインやカードを捧げることによって出現し、それ以外の目撃例はひとつも無い。この地点でキラーマジンガと戦える人物は比較的限られてくる。魔法の迷宮の出入りに必要な魔法の鍵は、ある程度の実力を持つ冒険者にしか与えられないため、道具使いの研究者はキラーマジンガと出会うことすらままならない。そしてキラーマジンガと戦うような実力のある冒険者は、技術開発よりも自分磨きにご執心である。
そういった要因がキラーマジンガの研究を進みにくくしている。

断言しよう。
アストルティアの中に、キラーマジンガにスカウトアタックを放った人物は存在しない。

実験すら成されていないのであれば、案外すんなりと既存の技術と噛み合って、キラーマジンガを仲間に出来るかもしれない。
これが、ジャンボがキラーマジンガBを仲間に出来る可能性を信じる所以である。

「出来ない壁にぶち当たったら、技術力を駆使して乗り越える……これがドワーフの心髄ってヤツよ。」

はるか昔の時代より、ドワーフの文明は技術に支えられてきた。反面、その技術に身を滅ぼしてくるようなこともあったのだが、それは深くは語らないことにしよう。

1354One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:29:28 ID:GvrPP0H60
(コノ男、コレマデノ敵ヨリ強イ…。ダガ、攻撃ヲシテコナイ…?)

キラーマジンガBは再び思考を始める。
ジャンボたちが逃走せずに自分の邪魔をしている地点で、自らを害する意志が無い可能性は考えていない。

(後方ノ少女ガチカラヲ溜メテイルノヲ待ッテイル…?)

ジャンボの意図を大きく読み間違えたキラーマジンガBは重さに任せてジャンボを横に払い除け、強引にサフィールの元へと向かっていく。

「させっかよ!スタンショット!」

そんなマジンガBをジャンボは後方から打ちつけ、動きを止める。

「さあ、ようやく隙が出来たぜ。まずは――――」

キラーマジンガは既存の技術でコントロールできるのではないか。それがジャンボの仮説。

「――キラーマシン用…スカウトアタック!!」

だったら話は早い。
道具使いの書のある魔物の操作技術を片っ端から試してみる。それだけである。

「………だめーじ、小」

一方でキラーマジンガBも現状が把握出来ていない。
スタンショットの怯みの間に受けた、普通の攻撃とも何か違う攻撃。
攻撃の正体をプログラムの中から探すも見つからない。

結果、何かしらの対策を見出そうとすることもなく、再び戦闘態勢に移る。

たった一人であのキラーマジンガを圧倒しているその光景を、サフィールもホイミンも目を丸くして眺めていた。

当然、何度もキラーマジンガを相手にしているジャンボといえどソロで勝てるほどの実力は持ち合わせていない。
人間が1の行動を取る間に2の攻撃を繰り出す機械兵。
それと互角に渡り合えるのには理由がある。

それは機械兵に取り付けられた弓がゴーレムによって破壊されていることである。
それによってジャンボが警戒するべき射程は限られている。
敵の初撃をハンマーで防ぎ、第二撃が来る前に1歩下がればそれだけで完全に敵の攻撃を無力化し切ることが出来る。

また、弓を失ったキラーマジンガは剣と槌の二刀流。精神論と言ってしまえばそれまでではあるが、ジャンボにとって負けるわけにはいかない相手だ。
自分の悪巧みが巡り巡って多くの犠牲者を生んだ、その中の1人であるヒューザ。彼もまた、剣と槌の二刀流で立ち向かってきた。
目の前の機械兵は、攻撃の精度こそヒューザよりも高いものの、一撃一撃がヒューザのそれよりも軽い。
キラーマジンガBは個体Aを蘇生し、共に財宝を狙う者を排除するためだけに生まれた影の機械兵。背負った宿命など無い。戦う理由など無い。
そんなキラーマジンガBの一撃に、ヒューザの背負っていたものの重みが乗るはずもないのだ。

信念、意思、闘魂。多くの想いに突き動かされていたヒューザを打ち破ってきたジャンボは、こんな何も無い機械兵などに負けるわけにはいかない。

さらに後方からサフィールがバイキルトの呪文でジャンボを援護する。ハンマーで攻撃を受け止めた時の衝撃で少しずつ蓄積されていくダメージも、ホイミンが回復してくれる。
重さの足りないジャンボではキラーマジンガの前進を止めることは出来ない。
しかし普段キラーマジンガと戦う舞台であった魔法の迷宮とは異なり、ここは広大な草原。
押された分だけサフィールやホイミンが下がれば良いのだ。

1355One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:31:37 ID:GvrPP0H60
キラーマジンガBが攻め、ジャンボ達がそれを完全に受け切る。お互いに傷を負うことのない、たったそれだけの戦闘が2分ほど繰り広げられる。

サフィールもホイミンも不安に思い始める。確かにジャンボはキラーマジンガBの攻撃を防ぎ切っているが、こちらから攻撃が出来ているわけでもない。
引き延ばされた戦闘の中でジャンボがたった1発まともに攻撃を受けるだけで戦局は容易く覆されるだろう。

しかし、ジャンボだけは余裕の笑みを浮かべていた。

ヒューザがゲレゲレに放った技、そしてついさっきジャンボがキラーマジンガBに放った技でもある「スタンショット」。これは一般的な特技とは使い勝手が違う。

消費MP量は一般的な特技とそこまで変わらないのだが、MPとは異なる身体エネルギーを用いて放つ特技である故、一度使ったらもう一度使うのにしばらくのチャージタイムを必要とする。

「もう1発!スタン――」

(120秒前ト同ジ攻撃ヲ確認!防ギ………)

「――ショットォ!!」

キラーマジンガBの反応も間に合わない。ジャンボの前に再び、機械のボディが無防備に晒される。

「さあて、次はメタッピー用だ。スカウトアタック!!」

「……?だめーじ、小。」

今度もまた、キラーマジンガBの身体にかすり傷を付けるのみに留まった。

「……こりゃあ、長い戦いになりそうだな。」

2分ごとに放てるスタンショットによる気絶。
これがこちらから攻撃を放つ余裕のある唯一の時間である。

回復魔法が制限されていること、それだけで戦いはこんなに窮屈なものになってしまう。

長い間手練の僧侶と共に戦い、キラーマジンガなどは常に安定攻略してきたジャンボ。ギリギリを攻める戦いの緊張感はどうしても慣れるものではない。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

理解出来ない。
破壊されるのに充分な隙は何度も晒してきたはずだ。
だが目の前のドワーフはその隙が生まれる度に自分にかすり傷を付けては再び防戦に移行する。

だが理解する必要は無い。
破壊されないのなら、こちらが破壊するのみ。
それが機械兵の戦い方――在り方なのだから。

「スタンショット!」

再び2分が経過した。
ハンマーによる強打で、一時的な機能停止に陥る。

「今度はさまようよろいだ、スカウトアタック!!」

そして大したダメージを受けることもなく、再び戦線に復帰する。
そしてまた2分が経過。

「ダメ元……フォンデュ用スカウトアタック!」
「デビルアーマーならどうだ?」

様々な技術を駆使してキラーマジンガBの回路に干渉する。

1356One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:32:39 ID:GvrPP0H60
(じんがーニヨルト現在殺シ合イガ進行中トノコト。但シ、コレマデノ戦闘者カラハ殺害ノ意思ヲ確認出来ヌ。之ハ殺シ合イデハナイ…?)

機械兵の思考回路に一筋の仮説が立てられる。何度も何度もデタラメなスカウトアタックを受け続けたことで、思考を司る回路に多少の変更が加えられ、ジャンボ達の行動について「考える」過程が始まったのだ。

但し、戦闘は終わることがない。
キラーマジンガBはジンガーの行動方針をトレースしている。それ即ち、アベルに命じられた破壊のコマンド。考えることを始めたからと言って、その根本が捻じ曲げられることは無い。

聖王の剣をジャンボに向かって振り下ろす。先程から何度も繰り返されている応酬の通り、ジャンボはハンマーでそれを防ぐ。追撃のハンマーによる打撃も、ジャンボは一歩下がって躱す。

その2連続攻撃を終えるや否や、ジャンボは再びキラーマジンガBに張り付いてサフィールとホイミンへの接近を防ぐ。
キラーマジンガは2度の攻撃の後、しばしのインターバルを必要とするのだ。

その時、キラーマジンガBのフォーカスの、表面からは見えない部分に取り付けられた「何か」がキラリと輝いた。

2連続攻撃の後にキラーマジンガBは攻撃行動を取らない。
そう思い込んでいたジャンボが機械兵の次の動作に気付いた時、緑色のジャンボの顔がウェディの様に真っ青になった。

前衛を払い除けて攻撃に向かいたい後衛。
さらに、前衛が3回目の連続行動に気付かれていないであろう今の状況。
その状況から即座に導き出される最適解。




――グランドインパクト!




キラーマジンガBの構えにジャンボが気付いた時にはもう遅かった。

「馬鹿な……動けるはずが………」

地面に聖王のハンマーが叩きつけられ、衝撃で大地が隆起し、辺り一面を吹き飛ばした。

ジャンボの誤算はただひとつ。
アストルティアでキラーマジンガといえば誰もが連想できるものであり、低確率で行動回数を増やす装飾品、「アクセルギア」をまさかキラーマジンガB自身が装備しているとは夢にも思わなかったということ。

1357One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:34:30 ID:GvrPP0H60
何はともあれ、吹っ飛ばされて倒れるジャンボ。それによりキラーマジンガBの絶好の攻撃のチャンスが生み出される。

(じゃんぼ。状態:転び。攻撃優先度:中。)

散々キラーマジンガBの邪魔をしていた前衛のジャンボよりも。

(ほいみん。状態:健康。但シ攻撃能力無シ。攻撃優先度:低。)

効果の制限された回復魔法しか使わないホイミンよりも。

(さふぃーる。状態:健康。使ウ魔法、未知。攻撃優先度:高。)

キラーマジンガBはサフィールに向けて急接近する。

「!!」

キラーマジンガにはマホカンタがかかっているとサフィールは思っているため、イオナズンやマヒャドでの撃退は出来ない。
しかしここで逃げようものならジャンボさんやホイミンが危ない。

(戦うしか……ない…!)

考えるが早いか、ドラゴンの杖を掲げる。

「ガアアアァァァ!!!」

サフィールを心配するホイミンの叫びも、逃げろと叫ぶジャンボの声もかき消して、まだ幼い女の子の声だとは思えないような声――否、咆哮が響き渡った。

ドラゴンの杖で竜へと姿を変えたサフィールが、その剛力でキラーマジンガBのハンマーを受け止めていた。
そしてそのまま、力の限りキラーマジンガBを抑え込む。

ガシャン、と機械を落としてしまった時のような鈍い音が辺りに響く。
さらに、左腕でハンマーを、右腕で剣を押さえ込んで制圧する。
横目でジャンボがグランドインパクトによる転倒から立ち直っているのも確認出来た。

1358One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:35:02 ID:GvrPP0H60
まずはキラーマジンガBの武器を取り上げて、ジャンボに有利な戦局を作っておいて………状況的に優位に立ったサフィールは次の行動を考える。

だが忘れてはならない。
キラーマジンガの「第3の武器」について。

弓の特技は基本的に矢に力を込めて放たれる。その矢に込める力を自由に扱えるのであれば、「弓」という媒体は必要無い。

もう分かるだろう。
サフィールが制圧していない、キラーマジンガの第3の手。
弓は折れて使えなくなっていても、矢はまだ残っている。
そしてその矢を使い、至近距離から撃ち込まれたのだ――凍てつく魔弾が。

「っ……!?」

いつの間にかサフィールは人間に戻っていた。
当然、その身体でキラーマジンガBを制圧できるはずもなく、簡単に振り落とされる。
そして仰向けに倒れたサフィールに向けて、今度こそキラーマジンガBのハンマーが振り下ろされようとしていた。

(畜生……俺はまた、守れないのか……?)

(そんな……サフィールが、死んじゃう!)

スタンショットはまだチャージタイム中。キャンセルショットは詠唱の無いただの攻撃には効果がない。

ジャンボにキラーマジンガBを止める手段など無い。もちろんホイミンも同様である。

誰もが無力感を噛み締める中、機械兵の一撃はひとつの命を無惨に散らすはずだった。

1359One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:35:44 ID:GvrPP0H60
しかし……




(離れろ………!)

何かが。



(守る………!)

何かが込み上げてくる。



(サフィール、守る………!)

機械兵の持つはずのなかった、何かが………



「マダ……守リタイ…………彼女ヲ………」

その何かを認めた瞬間、キラーマジンガBの動きは停止した。

振り下ろされようとしていたハンマーはサフィールの命を砕くことはない。
ジャンボが駆け付け、キラーマジンガBの動きが止まったことを不思議に思いつつもサフィールの前に立ち塞がり、磁界シールドを張り巡らす。

「よく分かんねえが、助かった。今度はしくじらねえ。」

「不可解ダ。何故、ワタシハ………」

何が起こったのか、ジャンボには分からない。キラーマジンガB本人にも分からない。だけどただ1人、キラーマジンガBが停止した理由を確信する者がいた。

「ゴーレムです。」

サフィールの一言に、ジャンボは目を丸くする。

「彼はゴーレムです!彼の心を感じました!」

ゴーレムにもキラーマジンガにも心など生まれるはずがない。
だけどその言葉は、どこか信じられる力強さがあった。

1360One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:38:12 ID:GvrPP0H60
「信じるぜ、サフィール。ゴーレム用……スカウトアタック!!」

ジャンボが人間だった頃、アバ様に言われてシンイと共にテンスの花を取りに行く道中で立ちふさがった魔物。
アストルティアに転生し、転職の儀式を受けるための試練として戦った魔物。
何かと宿命の多かったゴーレムを道具使いになって仲間にした時は、少なからず感銘が湧いてきたものだ。

そんな感慨と共に放ったスカウトアタックからは、確かな手応えを感じられた。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「――熱源感知」

ゴーレムが崩れ去ったあの時、キラーマジンガBは瓦礫の中から何かを見つけた。

「用途不明。ダガ……何カ……特別ナチカラヲ持ッテ……」

次の瞬間、ゴーレムの心はキラーマジンガBの身体に吸い込まれていった。
それによってキラーマジンガBに何か変化をもたらすことはなかった。

しかしサフィールの危機を前にして、ゴーレムの心は立ち塞がった。
守りたい。もう一度チャンスがあるのなら、今度こそ彼女を守りたい。ただその想いだけを胸に倒れていったゴーレムの最後の「まもるちから」。それは「せめるちから」へと変わり、キラーマジンガの身体をわずかな時間、支配した。


そしてその短い期間にジャンボのスカウトアタックが叩き込まれる。

その結果…





スカウト成功!

キラーマジンガBが仲間になった!

1361One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:41:04 ID:GvrPP0H60
「……深奥ヨリ込ミ上ゲテ来ル心ニ従イ、オ前達ヲ守ロウ。」


「………成功…したのか?」

「…ええ。彼が導いてくれたんです。」

「やった……あんな怖い機械兵でも仲良しになれるんだ!」

魔物が仲間になる。
ホイミン以外にとっては何度も経験したことのある出来事だ。

しかしここは魔物だけでなく人までもが他者を殺す世界。そんな中で殺戮を命じられた機械兵を仲間に出来た達成感は、今までのそれとはまた違ったものであった。

「さて……まずはコイツに名前を付けてやらねえとな。」

「そうですね…。何かいい名前は………」

「ねぷりむ。」

「「「え?」」」

「ごーれむノ心ガ言ッテイル。守レナカッタ少女ノ名。ソシテ志半バデ倒レタ守護者ノ名。ドウカワタシニ継イデ欲シイト。」

「うん、分かったよ。よろしくね!ねぷりむ!」

誰もが新たな仲間との邂逅に喜びの声を上げる。
でも、まだだ。
まだやるべきことは残っている。

機械兵との戦い、それだけをピックアップしても、まだ戦いは終わっていない。

1362One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:44:17 ID:GvrPP0H60
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「サフィール、本当にいいの?」

「断言するが、コイツは仲間にならねえぞ?」

「ええ、分かってます。だけどやっぱり、このまま終わらせたくないんです。」

「居タ。……コレナラ、マダ直セル。」

2人と2体は再び、ジンガーが倒れている場所にやって来ていた。
その目的は、ジンガーの蘇生。

アベルに関するジンガーの反応を見るに、ジンガーのアベルに対する忠誠はかなり深い。
だからこそこんな形で終わらせたくないとサフィールは思った。

ジンガーはこの世界に来る前の父のことを知らない。
父がどれほど心優しい人物で、どれだけ慕われる国王だったのか。
この世界で破壊の限りを尽くすことが、本当に父の幸せに繋がるのか。

「ねぷりむ。ジンガーを生き返らせてください。話がしたいんです。」

「承知シタ。」

形式上はスカウトした俺がマスターのはずなんだけどな…と舌を巻きながらも、ジャンボは蘇生の前にジンガーの支給品を回収する。


「Code 87:Remote Repair 開始。」


ジンガーは再び蘇り、顔を合わせる2体の機械兵。
但し今度は、敵と味方に分かれているのだが。

「……あべる様ヲ裏切ッタカ、個体Bヨ。」

「個体Bデハナイ。ねぷりむ。ソレガワタシノ名前。」

「マアイイ。何故ワタシヲ蘇ラセタ?」

これが山場だ。
恐怖を抑え込み、サフィールはジンガーと向き合う。

「貴方と、話をしに来ました――おとうさんについて。」

仲間にはなれなくても。貴方を止めることは出来ないのだとしても。
せめてもう一度、貴方と理解し合えるチャンスを、どうか私に………。

1363One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:45:25 ID:GvrPP0H60
【F-3/平原/2日目 早朝】

【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP:7/10 MP 2/5 左足矢傷(応急処置済み)
[装備]:ドラゴンの杖
[道具]:支給品一式×3、へんげの杖、ショットガン、999999ゴールド
[思考]:ジンガーと話をする。
怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
おとうさんを見つけて止める
みんな友達大作戦を手伝う

【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:HP7/10 MP1/8
[装備]:天使の鉄槌@DQ10
[道具]:支給品一式、道具0〜4 四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1(ゲレゲレの支給品)支給品0〜1(ヒューザの支給品) ナイトスナイパー@DQ8 名刀・斬鉄丸@DQS 悪魔の爪@DQ5 天空の剣、罠抜けの指輪 罠の巻物×2 ドラゴンローブ  砂柱の魔方陣×1 折れた灼熱剣エンマ@DQS メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[思考]:
基本方針:エビルプリーストに借りを返す。
1:サフィールとジンガーの話を見守る
2:ターニアを見つける 
3:首輪解除を試みる

[備考]:※職業はどうぐ使いです。弓スキルは150です。ハンマースキルは100以上です。

【ホイミン@DQ4】
[状態]:健康 MP1/8 仲間死亡によるショック
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個 ヒューザのメモ(首輪解除の手掛かりが書いています)
[思考]:ジャンボを手伝う ターニアを追う
『みんな友達大作戦』を成功させる ヒューザがくれた手掛かりを守る。


【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:HP 1/4
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:アベルを探す、邪魔する者は破壊する。
[備考]:サフィール達に疑問を抱いています。

【ねぷりむ(キラーマジンガB@DQ10)】
[状態]:HP1/3
[装備]:聖王のつるぎ@DQ10 聖王のハンマー@DQ10 壊れた聖王の弓@DQ10 アクセルギア@DQ10
[道具]:支給品一式×3、魔封じの杖、道具0〜2個(ブライの不明支給品)、道具0〜2個(ゴーレムの不明支給品)
[思考]:サフィールについていく
[備考]:DQ10のキラーマジンガの特技を使いこなします。
ゴーレムの記憶を持っています。

1364One More Chance ◆2zEnKfaCDc:2019/05/05(日) 00:47:07 ID:GvrPP0H60
投下終了しました。

1365ただ一匹の名無しだ:2019/05/05(日) 05:10:48 ID:KK0m5ik.0
投下乙です
まもの使いメイン職にしてる身としては、どうぐ使いとのスカウトの差は興味深かった
そしてそれをドワーフの特性と絡めてて上手いなあって思いました

そして決め手になったのがゴーレムの心…上手く繋げたなあ
改めて、乙です!

1366ただ一匹の名無しだ:2019/05/05(日) 20:27:12 ID:OgbbwOpg0
投下乙です
キラーマジンガを御するには、確かに道具使いとしての技術、熟練度がモノを言ったわけだけど
最後の最後、仲間に入れる為には最初にジャンボが言った”50点”がとても大事だったって話。
ゴーレムもマジンガも同じ物質系、ココロなき魔物ではあるはずにもかかわらず、
”主”というか側にいた人物の思いがこうも明暗分けるかという、なんとも言えない感情が生まれました。
マーダー達の主戦力がぼつぼつ落ちていくなかマジンガとアベルの動向がさらに気になりました。
改めて乙です。

1367 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:51:45 ID:TSPijSe20

それは今からちょうど10年前の話。

アリアハンという、小さな町の出来事。


その日は町中で、大騒ぎが起こっていた。

「オイ!!誰か助けに行け!!」
「イヤだよ!!なんでオレが行かなきゃなんねえんだ!!」
「誰かがどうにかしねえと、大変なことになるのが、わかんねえのか?」


髭もじゃの男が、空き家の2階から顔を出し、一人の少女を見せつけながら叫ぶ。


「このガキを返してほしけりゃ、今日中に838861ゴールド用意しろ!!」

デフレが進み、一番高い品でも500ゴールドに満たない物価安のアリアハンに、そんな大金があるわけない。


アリアハンは、犯罪件数が異常な程少ない。
虫メガネを使えれば探偵の資格を得ることが出来るのも、犯罪捜査を吸うこと自体がほとんどないからだ。
よって珍しいもの見たさに、町中の群衆が集まってきたのだ。


助けに行きたいのはやまやまだが、私はまだ、8歳の少女だった。

それに私は、8歳にして才能を見出され、『アリンピック強化合宿』へ向かわなければいけなかった。


合宿所へ向かっている途中、一人の女性が私の道を塞いだ。

「どいてください!!急いでいるんです!!」
「ん、グッドなおねーさんの私から言わせるとねえ。今焦るのはあなたのためにならないさね。」
「何を言ってるんですか!!早くいかないと!えぇ!?」


突然、その空き家から凄い音と悲鳴が聞こえ、「何か」大きいものが吹っ飛んできた。
グッドなおねーさん?とやらが止めてくれなかったら、私は下敷きになっていただろう。


何が起こったのかは、すぐ気が付いた。
少女が誘拐犯の男の腕をへし折り、拘束が解けるや否やそのまま私の近くに投げ飛ばしたのだ。

助かった少女のもとに、やじ馬たちがケガはないかと一斉に走っていく。

私よりも幼く、相手は大の大人。
それでも容易に投げ飛ばせたことには、確かな理由がある。



誘拐された少女が、勇者だからだ。

1368 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:51:59 ID:TSPijSe20
投下宣言忘れてました。

1369 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:52:21 ID:TSPijSe20
彼女が後の勇者であることを知っているから、そんな大金を吹っ掛けたわけではない。
運命のいたずらか、それが偶々勇者だったというだけのこと。


男がこのようなことになったのは、空き家の二階から足を滑らせたことにされた。

「あの……ありがとうございます。声をかけてくれなかったら………。
本当に助かりました!!『アリアハン検定3級』のこの私に、お礼をさせてください!!」

「嬢ちゃん、誰に話しているのだ?」
その女性はもう消えていた。

でも、その女性がどこへ行ったかよりもっと重要なことがある。

この地面に埋まっている男も、ゴールド欲しさとは言え、愚かなことをしたものだ。



私が近づこうとするも、アスナは群衆に囲まれて、姿を見ることさえなかった。


やがて、アスナの母親が血相変えて走ってくる。


その誘拐事件はそれっきりに終わった。
人の噂も七十五日、というが、多くのアリアハンの住人が初めて見たであろう誘拐事件の話も、3日経たずに噂されなくなった。

しかし、私だけは彼女のことが気になり、合間を縫ってアスナの家に顔を出した。
門前払いかと思いきや、意外とアスナの家族は話をしてくれた。

何度かアスナの母と話をしているうちに、いくつか分かったことがあった。
近所には内緒にしているが、アスナは英雄オルテガの娘で、勇者として世界を救う人物になるという

だが、それに関する問題が出来てしまった。

アスナの母親曰く、娘はあの時のショックで、知らない人を兎に角怖がっている、らしい。
誘拐されたことよりも、自分の力をコントロールできずに、人を傷つけてしまったことにショックを受けている、らしい。
元々内気な性格を治そうと、一人でおつかいに行かせてみたのだが、今回の事件で逆に引っ込み思案が加速してしまったとか。


その後も何度かアスナの家を訪ねてみたが、ついぞアスナに会うことは出来なかった。

そもそも私はあの事件では、ただの野次馬の一人でしかなかった。
誘拐された少女の年が私と近いから、というわけでもない。
誰に頼まれたわけでもないのに、何故か私はやっていた。

思えば、私の様々な資格は、色んな大人が自分の才能を褒めたたえ、努力を強制させたことの結果だ。

1370 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:52:57 ID:TSPijSe20

取った資格は両手でも数えきれないほどあれど、自分の意思で挙げた成果は、片手で数え切れるほどもない。


結局、アスナの顔を初めて見たのは、10年後。
彼女には初対面であるかのように、自己紹介をした。

当然のことではあるが、アスナは私を知ってはいなかった。



――――――――――――――――そして、10年後。現在


私は、これまでで最大の危機を目の当たりにしていた。

この戦いに巻き込まれてから、自分の予想をもはるかに上回る敵相手に生き延びてきた。
だが、最大の危機とは、今目の前にいる敵の強さだけではない。

自分達の手札が、ほとんど残されていないこと。

アスナのギガデイン
私のグランドネビュラ
使うための魔力は、もう残ってない。
そして、コニファーさんが持っている矢も、底を尽きている。


反面、敵は幾分かダメージを受けている様子だが、戦いに差し支えるほどではなさそうだ。
加えて持っている剣。
それから、とてつもないほどのオーラを感じる。
まさしく、私が読んだ創世記に出てくる、巨大な剣を持ち、邪魔する者全てを葬り去ろうという魔王のようだった。


「逃げるぞ!!おまえら!!オオカミアタック!!」
「何!?」

二頭のオオカミが、魔王に襲い掛かる。

先手を取ったコニファーさんが、すぐに私とアスナを引っ張る形で、城の中へ入っていく。

「とりあえず、第一作戦、成功ってトコか………。」
逃げた先は図書館の内部。

魔王は既にオオカミを斬り裂き、追いかけてきている。


「まだここがゴールじゃねえんだ。もっと奥へ行くぞ!!」
「「はい!!」」

コニファーさんの指示に従って、さらに進む。

1371 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:53:36 ID:TSPijSe20

私は改めて感心した。
コニファーさんという人間の頭の良さに。

攻める目的、逃げる目的で同じ技でも使い分け、状況が不利なら、有利になるまで逃げる。
加えて私たちは城内の構造をよく知っているが、相手は知らない可能性が高い。

逃げる先は図書館から食堂、食堂から玉座の間へ。


「玉座の間まで逃げるぞ。
そしたらフアナは柱の裏、アスナは玉座の裏に隠れろ。
そしてアイツが攻撃の動作に入ったらフアナ、ヤツに飛び掛かれ。オトリは俺がやる。」
「え!?逆にやられたら……私……。」
突拍子もない作戦に、私は冷や汗をかく。

「大丈夫だ。フアナはオトリのオトリってやつだ。
敵がフアナに意識を向けた瞬間こそ、アスナ、一気に斬りかかれ。」


確かにコニファーさんの作戦は納得のいくものだった。
どんなスポーツでも戦いでも、少ない力で相手を破るなら、カウンター攻撃が一番だ。
そしてオトリや陽動作戦は、戦場において手を変え品を変え、取り入れられている。

だが、私はそれが不安でならなかった。

本当に相手に通用するのか。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

2頭のオオカミが私に襲い掛かる。
初めて見た攻撃に一瞬戸惑うも、すぐに一頭目を斬り裂き、返す刀で二頭目も両断する。
しかし、相手が企んでいたのは、オオカミで自分を倒すことではないようだ。

既に相手は城の中へ逃げていた。
(なるほど、考えましたね……。)

だが、どこへ逃げても無駄だ。
ジゴスラッシュで、城ごと薙ぎ払ってやろう。


懐から剣の秘伝書を取り出そうとしたところ、急に考えを改める。
もしや、奴等の狙いはそれではないだろうか。

ジゴスラッシュを打たせようとして、その隙をついて反撃を仕掛ける。
現に、奴等は一度私のジゴスラッシュを見ている。

ジゴスラッシュに頼るという考え方は、どうやら悪手になりそうだ。


それと、奴等の逃げ方、明らかに思い切りが良い。
恐らく、この城の構造を私よりも知っているだろう。

大方、奴らは残り体力こそ劣っているが、ステージは有利だ。

そう思っているのだろう。

1372 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:54:02 ID:TSPijSe20

その考えの失敗は、私自身が王だということ。
王にとって、城とは切っても切れない縁にある。


城の外見さえ見れば、王であり、世界中の城を見てきた私にとって、城の中身を見抜くなどどうということはない。

私は同じように図書館から入る、ようなことはせず、正面玄関から入る。
鬼ごっこにわざわざ付き合う必要はない。
入り口は茨が覆っていたが、破壊の剣で扉ごと突き破る。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

コニファーは食堂から、玉座の間へ向かう際に、急にうすら寒いものを感じた。


アベルが追ってくる様子も、ザンクローネを殺したあのギガブレイクのような技を使う素振りもない。

それどころか、まず姿さえも見えないではないか。

自分達が焦りすぎたあまり、振り切ってしまったのかとも思った。
だが、もう遅い。

この食堂は図書館から入ると、玉座の間への道一本しかない。
もう片方の入り口は、茨と瓦礫で封鎖されている。

作戦は変更せずに、このまま先へ進むことにしよう。


「「「!!」」」

三人の目の前で、破壊の剣を持ったアベルが襲い掛かる。

「フアナ!!コニファーさん!!今のうちです!!」
剣が振り下ろされる前に、アスナのゴディアスの剣が、止めに入った。

「どうしました?剣筋が乱れていますよ。」
しかし、その剣は破壊の剣で弾き返される。

「アスナ!!」
「無理だ!!逃げろ!!」

言われた通り、アスナは踵を返してコニファー達の所に逃げる。

1373 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:54:30 ID:TSPijSe20

アスナとアベルの鍔迫り合いで出来た僅かな時間を利用し、フアナとコニファーは既に玉座の間の後方へ離れていた。


あの体勢から逃れることが出来るなんて、反射神経も、流石勇者だなとコニファーは思う。
だが、そのアスナの体力でさえ、もう限界に近い。

魔英雄との戦いでの消耗が、明確に表れ始めている。

作戦の手順は決まったが、どうやらゴーサインを出すまでの猶予は、あまり残されていない。


玉座の間の奥の通路を走る。
右へ行けば、行き止まりなので、左の2階へ続く道を選択する。

幸いなことに、その先にあるのは螺旋階段。
段差と見晴らしの悪さは、逃走者の方に有利な設計だ。


そのまま2階へ3階へと上に登っていく。

しかし2階は、登ってすぐの通路が瓦礫で塞がれている。
3階には、屋上の出口しかない。

「屋上まで行くぞ。走れるか?」
「「はい!!」」


コニファーは仲間の安否を気遣いながら、作戦を練っていく。
またしても奴は自分を追いかけるのをやめて、先回りしてくるかと推測したが、下から聞こえてくる足音からそうでもないようだ。



アベルより早く屋上へ着き、三人は敵がやってくる瞬間を待つ。
作戦は大体玉座の間の時と変わらない。


コニファーが目の前に出て、アベルの攻撃をしようとした瞬間、アスナが斬りかかる。


魔英雄との戦い、そして1度目の作戦の失敗で、相手に手の内をある程度読まれてしまった。
だが、もう手札が残されていない以上は、ここで手札を切るしかない。

自分を信じろとフアナに言った自分が、ここで仲間を信じられなくてどうするとコニファーは自分に言い聞かせる。


「失敗した時の脱出経路なら任せてください!!
実はあのせくしいぎゃるの本以外に、こんなのも支給されてたんですよ!!」

フアナが得意げに、先端にフックが付いている頑丈そうなロープを見せる。
いざとなれば、ここからこれで中庭まで降りろというわけか。

「だからアレはそんなものじゃねえって……」
コニファーは呆れながらも、フアナの諦めない心に励まされる。

1374 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:54:56 ID:TSPijSe20

「よし、頼むぜ、アスナ!!」

そろそろ時間だ。
コニファーが屋上の出口の前に構え、アスナとフアナは瓦礫と茨の陰に隠れる。
本当なら、フアナだけでも先に逃げるべきだったが、自分一人で逃げたくはないとそれを拒否する。
いざとなれば、いつでもロープを使って降りろと命令する。


亡き天使であった友に、そして今も酒場を経営している旧友に願をかけ、コニファーは屋上の扉の前に構える。


「随分、手間をかけさせてくれましたね。」
アベルも遅れて、屋上に到着した。

「ああ、でも一つだけ聞きてえ。アンタ、ゲレゲレの主人だろ?なんでこんなことしてんだ?」

「知った所で、どうなりますか?これから死ぬあなた方が。」


アベルは直にコニファーに斬りかかるわけでも、ジゴスラッシュを打つわけでもなかった。


「バギクロス!!」
「なっ………!!」

使ったのは、彼が元いた世界で使っていた最強の魔法


(それはちょっと予想外だったな。だがアスナ、今だ!!今しかねえ!!)

竜巻が飛ばされると同時に、アスナが瓦礫の裏から脚に全力を籠め、カウンターの準備を始める。

斬撃にしろ、バギクロスにしろ、ジゴスラッシュにしろ、攻撃後にはスキが生まれる。

斬撃ならば、コニファーが躱した直後の隙をついて攻撃。
ジゴスラッシュなら、構えに入ってから打たれる前に攻撃。

しかし、斬撃より攻撃範囲が広く、なおかつジゴスラッシュよりラグが短いバギクロスは予想外だった。

1375 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:55:17 ID:TSPijSe20
コニファーは敵の攻撃手段がジゴスラッシュか斬撃しか考慮に入れておかなかったことを後悔する。

しかし、バギクロスは外れ、明後日の方向に飛んで行った。
ある程度のダメージは覚悟していたが、コニファーは自分の運の良さに感謝するしかなかった。


もう邪魔なものはない。
アスナの動体視力と膂力、腕力ならこの瞬間、コイツを斬り付けることが出来る。
コニファーはそう確信した。






「え!?どうして!?ああああああ!!」

コニファーの後ろから聞こえたのは、フアナの悲鳴。

見れば、フアナが隠れていた辺りの場所に、城の屋根の一部が、落ちてこようとしていた。


((しまった!!))

ようやく気付いた。
アベルのバギクロスはコニファーを狙っていたのではなく、城の屋根を狙ったということ。

その瓦礫で、徒手空拳のレンジャーではなく他の二人を優先して圧死させようとしたのだ。
アスナは既に瓦礫の落下地点からは逃れられていたが、フアナは完全に逃げ遅れた。
「フアナ!!間に合っ……!!」

アスナは方向を変えて、ゴディアスの剣をバットのように振り回して、瓦礫を打ち飛ばす。





「そんな…………。」

小さい礫がフアナの体に降り注ぐが、致命傷にはならない。
しかし、そんなこととは比べ物にならない程、絶望的な光景がフアナの目の前に広がっていた。

アスナが方向を変える隙、そしてフアナを助けるために瓦礫を破壊する隙を、アベルは決して逃さなかった。

「ぐ………あっ………。」

アスナの心臓から、破壊の剣の刃が生えていた。
「これで、終わりですよ。」

1376 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:57:33 ID:TSPijSe20
残酷にも、剣は引き抜かれる。
勇者と言えども、心臓を貫かれては生きることは出来ない。

出血量から見て、フアナは分かった。何よりも分かりたくなかったが。
自分の魔力ではどうにもならないし、そもそも今は魔法が使えない。

フアナの目の前が、白黒になった。

「ダメ………とど……け……。ラ……い………でい……ん。」

アスナは事切れる瞬間、残された最後の魔力で、ライデインを唱えた。
空から雷が、アベルの邪悪な心を焼き焦がさんとする。

しかし、避雷針となる相手は待ってましたとばかりの得意げな顔を見せた。
アベルは避けるどころか、剣をまっすぐに構えた。




「いいじゃないですか。あなた方もあの勇者の向こうへ行けるのですから。」

剣に落ちた聖なる雷が、真っ黒な地獄の雷へと姿を変える。

(何だよ………アレ……。ふざけんなよ!!)

その瞬間は、聖なる力を持った天使が、人間の絶望に飲み込まれ、堕天使と化したかのように思えた。

――――――斬り裂け、ジゴスラッシュ。

闇を纏った一撃が、二人を呑み込む。

1377 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:57:50 ID:TSPijSe20

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


ここは………?

気が付くと、私はよく知らない場所にいた。

それはどこかで見た、どこにもない街だった。

とりあえず辺りを探ってみる。アリアハンの地図を町全体を歩破することで作った私だからやれることだ。

「おーい!!フアナ!!どうしたんだよ!!」
歩き始めてすぐに、目の前に現れたのは、浅黒い肌と、白髪が印象的な少年。

「え!?ホープくん……ですよね?」

思いがけない再会に、私は目を丸くしてホープを見つめる。
「そうだよ。買い物済ませたし、これから宿屋にいるアスナを迎えに行こうとしてるんじゃん。」
「!?」
イマイチ状況が飲み込めず、戸惑う私に、後ろから賢者の男が声をかけた。

「おいおい。何ボンヤリしてんだよ〜。そーゆーのは僕の役目なのに。」

「サヴィオ!?無事だったのですか!?」
ヘルバトラーとの戦い以来の再開だ。

「は!?僕がキミを庇って死んだ?やめてよね。フアナのガラでもないでしょ。」


「ええ〜。フアナ、泣いてるよ。確かにズレてる所あったけど、そんなキャラだっけ?」

ホープも何事もなかったかのように私をからかう。
よかった。もう二度と話せないと思っていたのに、嬉しかった。
我慢できずに、涙がとめどもなくあふれてきた。

もう、絶対に離さない。
アリアハンにいた時は、自分の事はすべて自分で出来ていたと思っていたが、私は寂しがり屋で、どうしようもなく弱い人間だった。

それから宿屋へ行き、アスナの部屋に入る。

「おーい!!アスナ〜。食べ物と武器と防具買って来たよ〜。」

「あ、いつもいつも、ありがとうございます。」
アスナは部屋の隅から私たちの姿を確認すると、ようやく出てくる。

「いやいやいいよ別に。人には人の向き不向きってのあるし。」
それをホープが謙遜する。

「ところでさあ、フアナ。その首輪、何?」
「そ………それは……ですね…。」


昔から、サヴィオは妙なところで勘が働くのだ。

はっきりと覚えている。戦いが始まってからずっとつけられた、生殺与奪を握る装置。
本当は、忘れたふりをしていただけかも。

1378 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:58:11 ID:TSPijSe20

やっぱりあれは、夢じゃなかったのだ。

いや、ひょっとして今いるこの世界は。

「え!?私、死んじゃったんですか?」
「大丈夫です。フアナ、あなたは生きてますよ。」


アスナは私「は」と言った。
やっぱり、アスナはあの時死んでしまったのだろう。

「でも、私なんかが残っても、出来ることなんかないですよ!!
どうやってあんな恐ろしい人と戦えるんですか!?」

「そんなことない!!フアナは、色んな事が出来た!!わたしよりも、ずっと!!」

アスナがそれを否定する。
彼女は、ただ強かっただけじゃなかった。

私達三人が持っていた弱い部分を、受け入れてくれた。
私達がマイナス思考に陥った時、励ましてくれた。
私達が傷ついた時、敵を倒すより先に傷を癒してくれた。


アスナは、そんな意味でも勇者だったのだ。

「わたし、フアナのこと、昔から知っていた。色んなコンテストで優勝し続ける、凄い人がいたって。」

でも、そんな経歴、この戦いでは通用しなかった。
結局悪戯に仲間を死なせてしまい、挙句の果てにアスナまで犠牲になった。

「そんなの、勇者の力には、足元にも及びませんよ!!」

「力ってのは、強い弱いじゃなくて、どう使うかだと思うな。
盗賊の使い方だって、人の為になるってみんなとの冒険で分かったから。」

ホープが私を元気づけようとする。

「今まではさ、色んな人に言われて色んな事をやってきたんじゃん。
でも、その時間はもう終わり。これからは、自分自身の為に、その力を使ってよ。」

「へえ、サヴィオにしては、良いこと言うね。」
「サヴィオにしては、は余計だ!!」


いつものようなやり取りをしているホープとサヴィオ。
でも、その姿は段々と消えていく。


「分かりました。やるだけやって見せます。」

「やるだけ、じゃダメだよ。いつものフアナらしく、やってやるって言わなきゃ。」

最後にアスナがVサインを送り、消えていく。

1379 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:58:30 ID:TSPijSe20


「おい!!大丈夫か?」

代わって、聞こえてきたのは、別の人の声。
アスナとは別の方向から、私を励ましてくれた人の声だ。


「コニファーさん!?」
突然視界が、元のトロデーン城に戻る。

どういうわけか、服のあちこちに葉っぱやら雑草が付いている。

よく見ればトロデーン城の中庭に広がっている茂みだった。

「危なかったぜ。さっきあいつがギガブレイクもどきを打つ瞬間、おまえを引っ張ってロープで降りたんだ。
途中であいつがロープを斬りやがったけど、下が茂みで助かったぜ。」

「コニファーさん……。無事でよかったです。」

「そうでもねえな。さっき、不時着した時、足をくじいたらしい。ちょっとキツイかもな。」

よく見ればコニファーさんの脚に、枝が刺さっていた。

「俺のケガなんか心配している暇はねえ。上を見ろ!!」


上を見ると、屋上が一部崩壊している。
さっきターバンの男が放った技のすさまじさを物語っていた。


そしてさらにもう一つ、フアナが驚いたのは。
上からロープも使わずに、落ちてくる男の姿だ。


しかし地面に叩きつけられる瞬間、地面に風の魔法を打ち、衝撃を緩和させる。

風の魔法は自分でも得意としていたが、相手の方が1枚も2枚も上手だった。

「まだ生きていたのですか……いいかげん楽になってくださいよ。」


最早魔力の残っていない僧侶と、片目で、脚を負傷したレンジャー。
敵は未だカードを使いきっていない魔王。

勝てない。
アスナが私を庇わなければ。
五体満足の状態で戦えれば。

そんなことを考える暇もないのに、考えてしまう。

1380 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:59:25 ID:TSPijSe20

「おらぁ!!」

「何っ!?」
「へへっ、ちょっとだけ格闘スキル、積んどいてよかったぜ。」
魔王が剣を構えた所、コニファーさんが殴り掛かった。
予想外の反撃に、さしもの魔王も怯む。

「何終わったかのような顔してんだ!!『おまえの』逃避行はまだ終わってねえんだよ!!」


そうだった。
私は魔力はないけど、手足も付いてるし、命に関わるほどの傷も負ってない。

この戦いは、負けだ。
惨敗だ。
けれど、私はまだ生きている。

生きて、必ずアスナの仇を打つ。


コニファーさんの支給品を受け取ると、すぐに私は立ちあがり、走り出した。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


私はあの女僧侶の気持ちは、よくわかった。
どんなに絶望しても、いや、どんなに絶望してるからこそ、何よりも純粋に希望を追い求めたくなる。
それはかつての私と同じだから。

だからそれを、丁寧にぐちゃぐちゃにしてやろうと思った。
だが、最早何も残されていないはずの狩人が、素手で歯向かってくるとは。


よく見れば狩人は脚を怪我している。
だから狙うのは、五体満足な女僧侶の方だ。

「逃がしませんよ。」

だが、急に狙いを定めていた片手が、急に上がらなくなる。

「オマエの相手はオレだ。それとも、五体満足な相手じゃ、楽しくないのか?」

狩人が地面に散らばっていた、折れた矢を私の腕に突き刺していた。
毒があるらしく、僅かに虚脱感が襲う。

こんなもの、キアリーでどうにでもなる。
だが、三人全員を殺すチャンスはもう失われた。


「邪魔をするなあ!!」
破壊の剣を一振り。

狩人の腹と口から、どっと鮮血が迸る。
立ち上がろうとするが、もう立てる肌の色はしていない。
狩人の男の浅黒い肌からも、その状態が見える。
もう、立って歩けるような状態ではないだろう。

1381 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 00:59:48 ID:TSPijSe20

しかし、狩人の顔は、思ったより安らかだった。

「なんだよ……魔王かと思ったら、よく見りゃオレと同じくらいの年じゃねえか。」
「それがどうしました?これからの世界は、若いことも年老いたことも関係ありません。力が全てですよ。」

「まだ、希望とか、あるだろ?好きな人……とか、子供……とかよお。」
「すべて私が捨てた物ですね。」

私は力を手に入れた。
勇者だって殺したし、魔王だって殺した。
この世界の人間もこの戦いを開いた魔物も必ず殺す。

「持ってるモノを託すことが出来ねえ命に、価値なんてねえんだよ。
力なんて、やがて無くなるモノに縋ってどうするんだ。」


捨てようとしたはずの怒りが、戻ってきた。
「愛や友情の方が、すぐに無くなるものだって、なぜ分からない?」

幻想にしか縋れない男の、寝言などはもう聞き飽きた。

刺された矢の毒を治癒する方が先だ。

勇者は殺した。
そして私の世界の勇者はもういない。
勇者の雷も手に入れた。

あとはどこかで生き残っているはずのジンガーを取り戻し、残された人間をせん滅するだけだ。

出血多量だし、回復手段も持ち合わせていないようでは、助からないはずだが、最後に心臓に一太刀入れ、最後の炎を吹き消した。


だが、この満足そうな顔は何故だ。
絶望的な戦いに投じられて、仲間は次々に倒れていき。

あんな無力な女一人残せただけで、満足しているというのか?

服に付いたインクのように消えない疑念は、早く払ってしまおう。
もっと強い色で塗りつぶせば、消えてしまうはずだ。

力への欲求と言う、強い色で。

1382 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 01:00:05 ID:TSPijSe20
D-3/トロデーン城入口/2日目 黎明】

【フアナ(女僧侶)@DQ3】
[状態]:HP1/10 MP 0
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 パラディンの秘伝書 不明支給品0〜1(本人確認済み) かりうどの弓@DQ9 カマエル@DQ9
[思考]:自分だけが出来ることを探す。
:最後まで、生きる
※バーバラの死因を怪しく思っています。


【D-3/トロデーン城外/2日目 黎明】

【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/3 手に軽い火傷 MP ほぼ0
[装備]:破壊の剣
[道具]:支給品一式 剣の秘伝書 ヘルバトラーの首輪 支給品一式 アスナの支給品0〜2 サヴィオの支給品一式 道具0〜1個バレットハンマー@DQ10  ウェディングドレス@DQ9 アルゴンリング@DQ8
[思考]:過去と決別するために戦う 全てを破壊する

※トロデーン城の屋上が一部分崩壊しました。
また茨で覆っている城の正面玄関が開かれています。

【アスナ@DQ3 死亡】
【コニファー@DQ9 死亡】

【残り19人】

1383 ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 01:00:15 ID:TSPijSe20
投下終了です。

1384ただ一匹の名無しだ:2019/06/27(木) 06:26:51 ID:QmEjLfu60
投下乙です
魔英雄戦から続けて頑張ってきたが、遂に犠牲者が出てしまったか
残されたフアナがんばれ

1385ただ一匹の名無しだ:2019/06/27(木) 06:29:38 ID:QmEjLfu60
ああそれとタイトル忘れてるみたいですよ

1386とある勇者の始まり ◆vV5.jnbCYw:2019/06/27(木) 09:47:54 ID:TSPijSe20
タイトル抜けてました。「とある勇者の始まり」です。

1387 ◆2zEnKfaCDc:2019/06/28(金) 01:06:59 ID:IaVqPUIA0
投下乙です!
トロデーン内を駆け回りながらの追いかけっこ、引き込まれますね
過去の回想や夢の中の世界とリンクしながら進んでいく手法だからか、夜の城での鬱話という舞台のせいか、ドラクエ10のアンルシアの記憶の中のようなモノクロ調の世界がイメージされて、悲壮感溢れる話でした。

1388 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/06(金) 11:15:00 ID:Vu.ru6IU0
投下させて頂きます

1389吊り橋効果と云うけれど ◆EJXQFOy1D6:2019/09/06(金) 11:15:45 ID:Vu.ru6IU0
  
【C-7/南西の荒野/黎明】

トロデーン城を目指すレック、キーファ、そしてミーティアの一行。
彼らは『月の世界の人』イシュマウリに会うべく道を急いでいた。

「あ、あらあら?…ごめんなさい、この道じゃなかったみたいですわ…」

かつて来た道として二人を先導していたミーティアだったが、行き止まりに出てしまい
狼狽えながら謝罪する。

「気にするなよ姫さん。こんな入り組んだ地形で、しかも夜中だもんな。
こりゃ確かに昔は海だったって感じの峡谷だぜ。古代の船があったのも納得だ」

「トンネルを抜けたらお城はもう見えてくるんだろう?焦らなくとも大丈夫さ」

「キーファさん、レックさん…ありがとうございます」

ミーティアは二人の励ましに応えるべく、精一杯の元気な声を出す。

「参りましょう。ミーティア、今度こそきちんとご案内しますわ!」

しかし二人の優しさを有り難く感じると同時に、ミーティアは卑屈な感情を覚えていた。
彼らもまた大切な仲間を失っているだろうに、悲しみを表に出すことなく他人を思いやって
くれさえする。

もし月影の窓が現れなかったらと思うと怖くなる。
自分は完全に役立たずのお荷物、それだけでなく彼らに無為に時間を費やさせ、彼らの
大切な人達に会う機会を奪ったどうしようもない足手まといになってしまう。

エイトだけは、そんな自分でも見捨てずに居てくれるだろうと思う。けれどそれは、飽くまで
忠実な兵士としてなのかも知れない。そう考えるととても悲しかった。

1390吊り橋効果と云うけれど ◆EJXQFOy1D6:2019/09/06(金) 11:16:37 ID:Vu.ru6IU0
 
 
【C-4/平原/黎明】

一方その頃。
はやる気持ちとは裏腹に、エイトもまた歩みが進まずにいた。

「ゼシカ、君なのか…」

自分がトラペッタ付近でトラブルに嵌っていた間、トロデーン城周辺でも相当に激しい戦いが
繰り広げられていた事をエイトは見て取っていた。先程通り過ぎた巨大なクレーターの他にも
あちこちで地面がえぐれ、木々がなぎ倒されている。

だがこんな場所に仲間が居たのだとは、放送でその名を聴いた時も想像出来てはいなかった。

「──すまない。本当にすまない」

ややあって、エイトが喉から絞り出したのは謝罪だった。
ゼシカの横にもう一人、若い男の遺体が並んで横たわっていた。
二人とも胸の前で手を組み、穏やかな顔をしている。ゼシカの遺体は所々火傷に爛れていたが、
その髪やドレスは誰かの手で綺麗に整えられていた。

エイトは袋から小さな花のついた木の枝を取り出し、組まれた手の間に添えた。
何の慰めにもならないとはいえ、遺体を整えてくれた誰かの例に倣いたかった。

ゼシカの身に何が起きたのかは解らない。
しかし彼女がどのように戦い抜いたか解ってしまったから、エイトは「申し訳ない」と言う気持ちに
襲われていた。

仲間達が全員死んだのを知った時、エイトは安堵した。もはや何の憂慮も無くミーティアを探し
守る事に徹していられると。
その気持ちは今なお変わっておらず、否定する必然性があるとは到底思えない。

仲間として死を悼む資格はもう無い。
ただただ申し訳ないと言う思いに、エイトは項垂れていた。

1391吊り橋効果と云うけれど ◆EJXQFOy1D6:2019/09/06(金) 11:17:05 ID:Vu.ru6IU0
 
 
 
【C-5/平原/早朝】

「この男だ。しかとは見えなかったが、まだ生き残っている中で特徴が一致するのはこの男のみ」

竜王が顔写真付きの名簿の一点を指差した。

「名前はアベル、か…。会った事は無いわね」

暫定容疑者の顔と睨めっこをしながらアンルシアが答える。しかし名前には覚えがある気がした。
一体どこで聞いたのだったろう?

「あ、一応念を押したいんだけど。
この人って貴方の戦いを何か誤解したり、止めようとした結果割りこんだって訳じゃないのね?」

「無い」

二度と間違いは起こしたくないと思うアンルシアの問いに、竜王はきっぱりと断言する。

「そんな即答されると逆に不安だわ…もう少し、誰とどんな状況で戦ったとか教えてくれない?」

「それこそ貴様には関り無い事だ。誰にも、何にも恥じぬ一対一の勝負だった。卑劣にも漁夫の利を
漁ろうとしたこの男、けして生かしては置かん」

「…オーケー、とりあえず解った。この人には気を付けとく」

これ以上竜王から客観的な証言は得られそうになかったので、アンルシアは話題を締め括った。
どのみち彼と勝負した相手はオルテガ(亡くなってしまったけれど)、キーファ、レックのいずれかで
あるのは状況的に確実だし、また会えたならその時ははっきりするだろう。

それよりも今はティアの事だ。

如才なく氷柱の杖を振るってのけたティア。兄の死を告げられた事で、彼女の眠っていた才能が目覚め
かけている様だった。
正しく育てられれば勇者たり得る才能。でも現状では、彼女を傷つけた世界に対して小さな牙が芽生えた
と言う処。

(その牙が誰かを傷つければ、やがてティア自身も傷つく事になる)

そうならない為に早く見つけて、あの子をしっかりつかまえていなくては。

「何やら思い耽っているようだが、勇者姫よ。周りをよく見てみろ」

「え?あ…!」

言われて周囲を見渡すと、前方のなだらかな丘の上に歩く人影があった。ティアか、と思ったが背格好は
まるで違う。男性のようだった。

「あの姿、あの人は……!」

1392吊り橋効果と云うけれど ◆EJXQFOy1D6:2019/09/06(金) 11:19:54 ID:Vu.ru6IU0
 
不意に名前を呼ばれて見ると、さして懐かしくもない人物が海側から駆けてくる処だった。後ろのもう一人、
悠々と歩いてくる男に見覚えは無い。関りたくなかったが、無防備に背中を向ける訳にも行かなかった。

「よ、よかった、エイト。貴方には謝り損ねていたから──あの時は、本当にごめんなさい」

一気に駆け抜けて来たアンルシアはエイトの前に辿り着くと、乱れた呼吸もそのままに謝罪を口にした。

「…どうも。ですが別に構いません。色々な間が悪かっただけ、それだけの事です」

「それなら貴方を刺した子の事も許してくれるかしら?私が連れていた子なんだけど、彼女があんな
真似をしたのも私を助けようと夢中でした事なの。あの子の分まで謝るわ、この通り!」

エイトは自分を刺した者の姿を見ていない。念のためを考えてか名前を言わないのは引っかかったが、
却って信憑性は増した。なるほど、そう言う事だったかと納得する。

「良いんですよ。ヤンガスが死ぬ羽目になったのも、元々あの場に居た誰も責めるつもりはなかった」

敢えて責めるとしたらヤンガス以外の全員だ。しかしそれは全員を救おうとした彼の意思に反する。

「ごめんなさい…ありがとう」

アンルシアは顔を上げてエイトの目を暫く見詰めた。そして意を決した様に言う。

「あの、私その女の子を探しているの。ティアって言うんだけど、身長はこれくらい。顔写真は…」

「いえすみませんが、私はあれ以降誰にも会っていません」名簿を取り出そうとするアンルシアを
エイトは制する。

「一応、顔を覚えて置いて。実はあの子に説明する暇もないままはぐれてしまって。もしかしたら
貴方を敵だと思い込んでる事もあるかも…」

そう言う事はそっちで片付けておいて欲しかった。エイトは軽く溜め息をつき、名簿の顔を確認する。

「ごめんね」

「もう良いです。折角だから私も尋ねますが、この女性を見かけてはいませんか?伝聞でも構いません」

今度はエイトが名簿をめくり、一人の女性を指し示す。

「んん…ミーティアさん、おでこの綺麗な人ね。残念だけど知らないわ」

「そうですか。ではこれで」

軽く会釈をして踵を返したエイトに、今までアンルシアの後ろで黙していた竜王が声を掛けた。

「知っている」

「──何だと?」

「へっ、そうなの?」

エイトはゆっくりと振り返った。早くも警戒心をたっぷり含んだ目つきで竜王を睨んでいる。

1393吊り橋効果と云うけれど ◆EJXQFOy1D6:2019/09/06(金) 11:20:56 ID:Vu.ru6IU0

「貴様は竜の一族だな。そこの小ねずみも真の姿ではない。そんな貴様があの姫とどう関りを持つ?」

突然言い当てられ、エイトも流石にたじろぐ。思わずポケットに目を遣ると、トーポが身を乗り出して
竜王をじっと見ていた。

「──ただの兵士だ。トロデ王亡き今、私が仕えるべきは姫だけ。お前こそ姫を知っているとは?
返答によっては容赦しない」

「ちょ、ちょっと待ってよ」

和解した端からこんな空気になると思わなかったアンルシアが慌てて割って入ろうとする。まさか、
まさか竜王はミーティアを……

「そうか兵士か。ならば早く迎えに行くが良い。姫はここから南、地図で言えばD7の荒野に居る。
もっとも今頃こちらへ向かっているかも知れんがな」

続いた言葉に、アンルシアはかくんと膝の力が抜けた。

「なによ、生きてるって事!?」

「達者だ。わしが最後に観た限りではな」

なによもう!ともう一度、今度は嬉しそうに声を上げてアンルシアがエイトの方を見る。と、緊張が
一気に抜けたらしくエイトは脱力してへたり込んでいた。

「良かったわねエイト!ごめんなさいね、この人王様気質強めだから言い方とかちょっとアレで」

「ええ、いえ…。本当に、本当なんですね?」

エイトは一転して縋るような目で竜王を見る。言葉だけだ、なんの保証もないと頭で解っていつつも
ついに見えてきた希望に冷静ではいられなかった。

「愚か者が、このわしに保証を求めるな。兵ならば走れ。それが役目であり答えだろう」

「ッ……」

喉元で詰まった言葉を捨ててエイトは走り出した。背後から「頑張って!」と聴こえる声があったが、
振り返らずエイトは南へと駆ける。

1394吊り橋効果と云うけれど ◆EJXQFOy1D6:2019/09/06(金) 11:21:34 ID:Vu.ru6IU0

段差を飛び降り、また飛び越えてエイトは最短距離を全速力で走り抜けていく。

───こんな風に走るのは久しぶりだ。

エイトは思った。ドルマゲスを追って西へ東へ奔走していたあの頃。
足が重くなったのはいつからだったろう。

兵士、と言う言葉が頭に浮かんだ。名を訊き忘れた不思議な男が言った言葉。

そうなんだ。やるべきことが解っていたから走れた。
トロデ王と姫、そして城の人々を襲った怨敵ドルマゲスを追う旅に疑問は一点もなかった。
しかし旅を続けるうちに問題は複雑になっていった。他人の事情に振り回され、肝心な時に賢者の末裔を
むざむざ死なせてしまった。
英雄なんかじゃない。最終的に暗黒神が空に現れたのを幸いに、自分はただ突撃していっただけだ。

こんな自分だからなのか?
姫の傍に居て良い場所は、そこしかないと思うのは。

あの従兄弟を笑えないじゃないか。
自分だって充分臆病で、卑怯で───

エイトは走った。心臓が破れんばかりに暴れて脈打ち、呼吸する度吐き気を覚えながら。
しかしいくら走っても心に浮かんだ疑問は彼を追いかけ続けていた。
たった一つ解っている事──ミーティアの傍に居る──彼にとってたった一つの真実を目指して
エイトはひた走る。

1395吊り橋効果と云うけれど ◆EJXQFOy1D6:2019/09/06(金) 11:22:01 ID:Vu.ru6IU0
  
【C-5/トロデーン西のトンネル/早朝】

三人はトンネルを慎重に歩いていた。魔物が出ないのは良いが、それぞれの手にランタンを持っても
トンネルはなお暗い。

「姫、足は大丈夫かい?」

「ええ、ちょっとマメが出来たくらいです。回復の杖もありますし、ここを抜けたら草地ですから。
ミーティアも靴を脱いでぱっと走る事ができますわ」

精一杯元気よく返事を返すミーティアだったが、自分のせいで速度が落ちているのだと再び卑屈な
気持ちになっていた。
お馬さんのままだったら良かったのに。と何度目かに彼女が考えていた時、キーファが声を掛けた。

「姫さん、レックも。無理しなくたって良いんだぜ」

「えっ。…そんな」

咄嗟に否定しつつ、ミーティアは後ろを歩くキーファを振り返る。

「俺は王族でもなくなったし、世界を救う冒険者でもなくなった。元はと言えば自分から誘った事
だったのにな。こんな俺が言っても有難みなんかないだろうけどさ、お前たちは凄いよ。竜王が
頑張るまでもなく誇りをしっかり持ってる」

ミーティアはキーファの言わんとする事を考えて黙り込んだ。先頭を行くレックも沈黙している。

「…どう、でしょうか。ミーティアには自信がありません…」

「それでも良いじゃないか。姫さん、こうならなきゃって思うのは否定しないが、本当にそう
ありたい自分ってのを忘れないでいて欲しいんだ。二人とも会いたい人が居るんだろ?脱出方法も
そりゃ大事だけど、どっちを先に探すかは自分で選んで良いんだぜ。……そろそろ出口だな」

その言葉にミーティアも足元から前へ視線を移す。窓の様にぽっかりと海辺の景色が開けていた。

「遠くに誰か居るな」

レックが呟く。後ろの二人にもその姿が見えた。

「あれは──あの人は」

ランタンが地面に落ちてガシャンと音を立てる。その時にはミーティアは既にレックを追い越し
出口へ走り出していた。

「エイト!!」

1396吊り橋効果と云うけれど ◆EJXQFOy1D6:2019/09/06(金) 11:22:33 ID:Vu.ru6IU0
【C-5/草原/早朝】
 
 
 
ミーティアは走った。足に出来た幾つものマメが潰れるのも構わず。

エイトも走っていた。もはや歩いているのと変わらない程の速度だったが、その姿を見とめた以上
彼に足を止めると言う選択はもうなかった。

身分と使命。それぞれ自分を縛りつけていた呪いの事も忘れ、二人はお互いの元へただ走っていた。

「ミーティア!!!」

肺の中身を全て吐き出すようにエイトは叫んだ。そこで足がもつれて地に膝を着く。辿り着いた
ミーティアが両腕を伸ばすと、二人は手を取り合って草の上に座り込んだ。
 
 

「心配する事なかったかな?」

トンネルを出た所で立ち止まり、キーファは肩をすくめて言う。

「いいや、俺は嬉しかったよ。有難うキーファ」

レックは言った。息を切らせたまま見つめ合う二人を眺めながら。


 
【レック@DQ6】
[状態]:HP9/10 MP2/3
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、大魔神の斧@DQJ 蒼炎のツメ@DQ10モリーの支給品1~3個 確認済み支給品1~2個
[思考]:①キーファと共にトロデーン城で月影の窓を探すか、ターニアを探すかを考える
    ②竜王と協力する
    ③アベルを追う

【キーファ@DQ7】
[状態]:HP9/10 
[装備]:はやぶさの剣・改@DQ8
[道具]:支給品一式、月影のハープ@DQ8、支給品1〜2個、ユーリルの不明支給品0~1個
[思考]:竜王を追ってトロデーン城へ行く。イシュマウリに会う。

1397吊り橋効果と云うけれど ◆EJXQFOy1D6:2019/09/06(金) 11:22:48 ID:Vu.ru6IU0
【ミーティア@DQ8】
[状態]:健康 足にマメ 若干の疲労
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、あぶないみずぎ、レースのビスチェ、あぶないビスチェ、祝福の杖@DQ7 アサシンダガー@DQ8 その他道具0~1個
[思考]:トロデーン城に向かい、月影の窓からイシュマウリに出会う。
    エイトと共に誇りを持って進む。

【エイト@DQ8】
[状態]:健康 MP1/2 若干の疲労
[装備]:奇跡の剣
[道具]:支給品一式 トーポ(DQ8)、激辛チーズ(DQ8)
[思考]:ミーティアを守る

※レックとチャモロを危険人物ではないかと【若干】疑っています。
※トーポは元の姿には戻れなくされています。

※エイトの不明支給品0〜2「サクラのひとえだ」はC-4平原、ゼシカの遺体の傍に放置されました。
不明支給品の残りは有りません。

1398 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/06(金) 11:33:00 ID:Vu.ru6IU0
間違いなく全文置けたようです。問題が無ければまた自分でまとめ更新をしておきます。
立て続けに書かせて頂きましたが、これで自分にも動かせそうなキャラは居なくなりました。
今後は読み手として定住させて頂きたく思います。ありがとうございました。

1399ただ一匹の名無しだ:2019/09/06(金) 17:29:11 ID:pCISO.CM0
投下乙です
ようやっとエイトとミーティアが再会したが…
エイトはレックに多少とはいえ疑惑抱いてるし、放送でターニア呼ばれるし、波乱の予感…

1400ただ一匹の名無しだ:2019/09/06(金) 19:57:49 ID:pCISO.CM0
ああ、すみません
乙した後なんですが、気になる点が
トラペッタの後、エイトは真っ先にその場を後にして、アンルシアは遅れて出発しています
その上、エイトは城によりませんでしたが、アンルシアたちは北上して城の目前までは来る寄り道をしています
この進行状況で、西に進むエイトが東へ進むアンルシアと遭遇するのは、結構無理があるように思います

1401ただ一匹の名無しだ:2019/09/06(金) 19:59:56 ID:pCISO.CM0
>>1400

×トラペッタの後

〇145話の乱戦の後

間違えた

1402 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/07(土) 03:48:23 ID:4ds2wAGo0
あれっ!?今自分の脳内移動ルートがどこで読み間違え(見落とし)したか迷子になってるようです。
少しお時間を頂いて整理してみます。

1403 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/07(土) 04:14:10 ID:4ds2wAGo0
先にどういう認識で書いたかを記録してみます。
①エイトは乱戦の後誰にも会わず、160話/深夜に城で戦闘があるのを遠巻きに知り、C-4の辺りに居た。
②アンルシアも城の戦闘を遠巻きに知り、それを避けてB-5の教会でティアを休ませていたが、
 169話/黎明にティアが城へピサロ(の道具)を追って出て行く。
③171話で足止めをされたアンルシアが遅れてB-5からティアを追う矢先、南から来た竜王に会い、早朝に共に城へ向かおうとする。
この認識で、B-5を出発したばかりのアンルシアと竜王にエイトを会わせていました。

1404 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/07(土) 04:19:29 ID:4ds2wAGo0
…というか今気づいたんですが、話の最後の方にいたキャラ以外の状態表を書き忘れてました!!!!
すいません!!!!

1405 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/07(土) 19:12:49 ID:gL6Z7Fw20
どこかで見落としたまま思い込みをしていて見えてるものが見つからないでいるのかもしれないと思ってはいるのですが、
どうしても169話/黎明の時点でピサロ、アンルシア、ティアは一旦「B-5 海辺の教会」におり、
次の171話/早朝に竜王と出会って城へ向かう事になり、今回で早朝にエイトと出会うと言う流れの中に
間違いを見つける事がまだ出来ていません。
もしかしたらアンルシアと竜王の状態表を書き忘れた事で齟齬を生じさせてしまったのではないかとも考えていて、
当面どうすればよいか解らないでおります。もうちょっと考えさせてください。

1406ただ一匹の名無しだ:2019/09/07(土) 20:51:06 ID:M3bsX/DM0
>>1405
1400でわからないとなると説明に困るが…
145話時点でエイトとアンルシアの位置関係は

エイト→西
アンルシア→東

こうなってる
それが今回の話では

エイト→東
アンルシア→西

こうなってる
アンルシアがエイトを追い抜いて位置関係逆転させるのが可能かって考えたら分からないですかね?

1407ただ一匹の名無しだ:2019/09/08(日) 01:30:45 ID:4d90TSvE0
完璧に把握できてるかはわからないんで間違ってたらごめんなさいだけど、
最新作が通ったとしたら、エイト、アンルシア、竜王がどういう進行になったかを図にしてみた
結構この辺の時系列複雑かつ制約多いような?
http://ichinichiittai.wiki.fc2.com/upload_dir/i/ichinichiittai/439b72b8e785e71773c63915c037045b.png

今回指摘されてそうなところ
・深夜→黎明で、エイトがC4からほとんど動かず、アンルシア組とエイトがお互い気付かないまま追い抜いてたことになる
  →アンルシアたちは上空の流れ星ポーラに気を取られて、エイトはゼシカのお墓を見ててお互いに気付かなかったとか?
・黎明→早朝で、ピサロとポーラもトロデーンに向かっているため、こちらの二人もすれ違ったことになるのではないか?

最新話ひとつ前時点での制約
・竜王が深夜→早朝にエイトに会わずに教会まで来ているため、エイトは深夜の早い段階でトンネルを抜けたかまだトンネルを抜けてないかのどちらかになりそう
 エイトは竜王を見たけどミーティアじゃないのでスルーしたか、竜王が深夜→黎明の時間に荒野で迷ってたかもありうる?
・ティアははっきりとどこに行くかは明言してないっぽいので、会わなくてもなんとかなるけど竜王に鉢合わせてないからトンネル側に行くのは難しそう
 竜王が人間じゃないので隠れて様子見てたとかでフォローは効くのかな?
 でもティアがトロデーンに向かってた場合は彼女もエイトとすれ違うことに

エイトの位置はきっちり整合性取るの結構難しいかもしれない

1408 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/08(日) 04:31:19 ID:wbUsOS7.0
あ、そうか「エイトいつまでも北西側でうろうろしすぎ」と言う事だったんですね!
それに加えてティアがどこに行ったかが難しくなりそうだと。

確かにそこは最初考えてました。しかしエイトは結構悩んでいたのと、あの辺りを丁寧に姫探しを
していたら時間も経つかも。と考えそのままうろうろさせていました。
ティアについてはトロデーンに向かっているとアンルシアから聞いているのでそのまま向かうものと考え
エイトとは単にお互い気付かなかったかエイトのみ気付かなかったものと考えました。

うーん、「うろうろしていたから」と言うのはやはり強引ですね…。それを追記してもやはり
きついものがあるでしょうか?

1409ただ一匹の名無しだ:2019/09/08(日) 06:59:58 ID:l4Y8mAPM0
>>1408
その理屈で行くと、エイトはうろうろして丁寧に探してたのに「アンルシア、ピサロ、ティア」を見逃し、「ピサロ、ポーラ」を見逃し、「ティア」を見逃したことになる
丁寧に探しててこれだけの通行人を見逃すのは変じゃないか?
それ以前にただの通り道であるあの辺を重点的に探すこと自体が不自然だし

>>1407で触れられてるように、エイトはアンルシアと合流する前の竜王とすれ違ってると思う
竜王側が気づいてなさそうだから、お互い気づかなかったか、エイトが目視したけどスルーしたかになるだろうけど

1410 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/08(日) 16:23:35 ID:vDCqkE8w0
うーん、実走してみるとあのへんは段々畑的な高低差が多い地形で、「平原」と言うのは
飽くまでロワ共通用語としての表現と思っていました。あえてそれに矛盾する地形描写を
入れるのも妙だし、大丈夫だろうと片付けていたんですね。
ですので見逃してください!とお願いしたい所ですが、後もつかえていますしなかった事に
させて頂こうと思います。お時間を取らせてしまいすみません。

1411 ◆vV5.jnbCYw:2019/09/08(日) 21:23:17 ID:Q0q9LtoQ0
今回は残念でしたが、またどこか書けるパートを見つければ投下してください。

では、私も投下します。

1412 ◆vV5.jnbCYw:2019/09/08(日) 21:26:16 ID:Q0q9LtoQ0
「ローラさん!!しっかりしてください!!」
チャモロは魔法をかけながら、動かなくなったローラを揺さぶる。

その姿をアルスは冷や汗をかきながら見ていた。


つい数分前まで、出来るだけ苦しめて殺そうとした相手。
だが、こんな形で死ぬことを望んではいなかった。
しかし、居ても立ってもいられず、アルスは言葉を発する。

「チャモロさん!!僕はターニアを追うよ!!」
「ええ、お願いします!!」

二人にとって目下の課題は、ローラだけではない。
先程の戦いから、多くの血を見せてしまったことで、恐怖を覚え逃げ出したターニア。


アルスがそう言ったのは、本当は自分がそれをやりたかったからではなかった。
最早戦闘能力はほとんどなくなったとはいえ、ライアンや、マリベルの死の原因になった相手を、これ以上見たくなかったのもあった。


しかし、ターニアが逃げた方向に向けて、走り出そうとした瞬間、突然アルスの体が崩れ落ちた

「あれ?」
何故か言うことを聞かない体に、疑問を覚える。
アルスの異変を察したチャモロが、慌てて駆け寄る。

「アルスさん!!大丈夫ですか!?」
「キミは、ローラさんを……。」
「もうダメです。呼吸も脈も止まってました。」

ローラが助からないと分かるや否や、アルスの手当てを始める。

アルスが動けなかった原因は、いたってシンプルな要因だった。

呪われたライアンとの戦いによる出血。
手当こそはしたが、極めて簡易的なものでしかない上に、失った血は戻らない。
それに加えて、ローラに刺された毒針による毒は、致死量ではないにしろ、まだ体に残っていた。

これまでは怒りに任せて動いていたから気力でカバーできたものの、いざその矛先を失ってしまうと、代償は一気に襲ってくる。


「チャモロ、僕より、あの子を……。」
「こんな所に置いていくなんて出来ません!!」

慌ててチャモロはキアリーを、アルスにかけ始める。

1413見え始めた光明 ◆vV5.jnbCYw:2019/09/08(日) 21:26:44 ID:Q0q9LtoQ0
今はいないだけで、別の襲撃者が来ない保証はどこにもない。
簡単な話、歩くことさえ難しい人間を戦場に置いていくなんて、殺すようなものだ。

「どうして……?」

チャモロは突然、魔法を唱える動作に入ってから硬直した。
「チャモロさん!?」
「魔法が……出ないんです。」

「魔力が切れた?」

アルスはありきたりな理由を挙げる。

「いえ、確かに魔法はまだ使えるはずです。」


理由はこれまた簡単だった。
運や身体的な動きだけではなく、魔法を制限する呪いと言うのも存在する。
そして、呪いと言うのは一部の魔法と同じで、術者が死しても解けることはない。
むしろ、怨みの心を死の間際に残せば、さらに増幅する。
それが近くの者にも伝染することくらい、全くおかしい話ではない。

つまり、死してもローラの呪いは消えなかったということだ。


「あそこに……」
アルスは不自由な手を動かして、ローラの死骸を指さす。
ローラの亡骸の近くに、支給品袋が転がっていた。

確かに、回復するための道具があるかもしれない。

チャモロは中身を空けてみる。
妙に高貴なティーセット、いくつかの杖、そして、何かの草が入った袋。

(何か、薬草……。)
薬草や毒消し草が入っている可能性も高い。


一縷の望みをかけて、袋から草を取り出す。
だが、出てくるのはチャモロの知らない草と、知っていても薬にならないものばかり。

見たことのない草が、薬なのかもしれないが、そんなものをアルスに飲ませるのはリスクが高すぎる。


(くそ……動いてくれよ……僕の身体………。)
チャモロが道具を探すのに苦労している間も、アルスは自分に魔法をかけようとする。
アルスの想いに呼応したからか、手に光が宿り始める。
回復魔法を使う時にある、淡い光だ。

1414見え始めた光明 ◆vV5.jnbCYw:2019/09/08(日) 21:27:09 ID:Q0q9LtoQ0
回復魔法とは異なり、解毒魔法は制限されていない。
アルスから虚脱感は幾分か抜け、顔色も僅かだが良くなる。


「アルスさん……ダメでした……薬になりそうなものはもうありません。」
「見てきてくれて、ありがと。チャモロ。」

それからも二人は回復魔法を唱え続ける。
不幸中の幸いか、魔法は常に封じられるというわけではなく、何度かに一度くらいだった。

毒は抜け、立って歩ける程度にはアルスは回復する。
しかし、ターニアの姿はとっくに見えなくなってしまった。
チャモロはジャンボにピオリムをかけてもらっていたが、その効果も既に切れている。


「もう大丈夫だ。チャモロ、あの子を追いかけよう」

アルスの体調も完治していないまま、すぐに二人はターニアが走った方向へと駆ける。
彼女は北上した後、西か東かどちらへ向かったか分からない。
アルスは東であることを願った。
東のトラペッタなら、その先でブライやサフィール、ゴーレムが助けてくれるはずだから。


しかし、二人が気を付けなければならないのは、他にもあった。
むしろ、この戦いの中では、1,2を争うほど重要なことだ。



「「警告だ。禁止エリアに侵入した。30秒以内に立ち退かない場合は首輪を爆破する。」」



二人の首輪から同時に発された警告と共に、ピッ、ピッ、と聞きなれない音が聞こえる。
チャモロがいち早く、アルスの首輪が点滅していることに気付いた。
「しまった!!禁止エリアです!!」

【G-5】からターニアを追っているうちに、二人は禁止エリア【G-4】へと足を踏み入れてしまっていた。

ターニアのことや、自分達の既存の危険に夢中になりすぎて、禁止エリアのことまで頭になかった。

「チャモロさん!!来た道を戻ろう!!」

二人の心に、ターニアもこうして禁止エリアに踏み込んでしまったのではないかという恐れがよぎった。

だが、それどころではない。
もう地図を見ている余裕はないので、首輪の音が止むまで来た方向に走るしかない。


「「残り、20秒だ。」」
首輪の警告が始まった場所からして、あまり深く踏み込んではない。
地面も草原や街道、石畳ほどではないが、走るのに難儀するほど悪くもない。
従って、ここで自分達が首輪の爆破による可能性は低い。

1415見え始めた光明 ◆vV5.jnbCYw:2019/09/08(日) 21:27:31 ID:Q0q9LtoQ0

しかし、呪い以外のことを心配した瞬間、呪いは不幸となって訪れる。

「っ!!」
アルスの靴が、根の丈夫な草に引っかかった。

アルスが脚を押さえて蹲っている
どうやら転んだ先に尖った石が転がっており、打ち所が悪かったようだ。

制限されている魔法でもすぐに治療できる傷だが、今はそれどころではない。

「アルスさん!!しっかりしてください!!」
チャモロがアルスの手を引っ張る。

「「残り10秒」」
首輪の光も、段々とまぶしくなっていく。


「チャモロさん!!キミだけでも!!」
あと数mで、死地からは脱出できる。だが、その数mが長い。

アルスは脚の怪我をした自分を置いていくように頼む。

「そんなこと出来ません!!」
「残り7秒」
チャモロは無理矢理アルスを抱える。

「やめろ……そんなことしたら……」

アルスはチャモロに背負われることを拒否する。
「ゲントの神よ!!我々に光を!!」

チャモロが突然叫んだと思ったら、アルスを思いっきり投げた。
「え!?うわああああ!!」



悲鳴と共に、アルスは禁止エリア外へ飛んでいく。
彼は、アルスを背負って禁止エリアから脱出しようとしたのではない。
巴投げ。武闘家の修行の過程で、仲間と共に覚えた技だ。


「残り3秒」
アルスを禁止エリア外に投げ飛ばすと、自分も全速力でエリア外に出る。


「残り1秒」

「ゼ……禁止エリアからの立ち退きを確認。カウント停止だ。」

済んでのところで、チャモロは脱出した。

「無事でよかった。流石にアレは予想してなかったよ。」
体のあちこちに草や土で汚れながらも、互いの無事を喜ぶ。

1416見え始めた光明 ◆vV5.jnbCYw:2019/09/08(日) 21:28:45 ID:Q0q9LtoQ0
「僕も、仲間と共に覚えた技が、こんな形で役に立つなんて思いませんでした。」


「何とか助かったけど、これからどうする?」
アルスは自分の脚に回復魔法をかけながら、チャモロに問いかける。
相変わらず魔法は成功したりしなかったりだ。
さらにアルスが追い始めた時に既に姿が見えなくなっていた。ターニアとの距離は完全に離れてしまった。
このままでは追いつくことが出来ないし、奇跡的に追いついたとしても、拒絶される可能性もある。

「仕方ありません。一度トラペッタに行きましょう。
サフィールさん達がまだキラーマジンガ達と戦っているかもしれません。」
「キラーマジンガだって!?」

アルスは驚く。
こんなタイミングでチャモロはウソを言うような人間ではないし、あの時キラーマジンガはチャモロの攻撃で、砕かれたはずだ。


「ええ。僕としても全く訳が分からないんです。」


チャモロは、キラーマジンガの件以外にも疑問に残っていることが多かった。


1つめは、ジャンボというドワーフの正体。
自分はサフィールと共にキラーマジンガに殺されかけた所を、ジャンボに救われた。
何度も苦戦を強いられた強敵を鮮やかに翻弄する戦いを見ても、彼にはこの戦いから脱出するための重要人物だと確信していた。
だが、ターニアはジャンボを恐れていた。
さらに、ジャンボは自分とレックを殺そうとしていたらしい。
そして、今のターニアは、かつてチャモロがライフコッドで会った天真爛漫な少女とは、まるで違っていた。



2つめは、自分達の今の状態。
魔法が突然使えなくなることといい、連続の不運続き。
不運は不運だと言えばそこまでだが、何か超常的なものが纏わりついているような気がした。
このバトルロワイヤル自体が超常的な何かで作られたような気もするが。


「2体目……。」
「はい。アルスさんと別れてトラペッタへ行った後すぐに、2体のキラーマジンガが襲ってきました。」

トラペッタへ向かう途中、チャモロは身に起こったことを全部話した。

「そして、僕はジャンボさんに頼まれて、ターニアを追いかけて来たんです。」
「じゃあ、早くブライさん達を助けに行かないと!!」
「大丈夫。恐らくジャンボさんが助けに行っているはずです。」

1417見え始めた光明 ◆vV5.jnbCYw:2019/09/08(日) 21:29:05 ID:Q0q9LtoQ0

本当のことを言うと、チャモロはまだジャンボに対して疑問を抱いている。
しかし、今頼れる人物がジャンボしかいない以上、そう言わざるを得なかった。

「勿論、ターニアやブライ達のこともあるけど、僕はそれ以上に気になることがある。」
「え!?」

チャモロは、ジャンボの目的だと思っていたが、違っていた。

立ち止まったアルスが、紙とペンを取り出し、さらさらと書く。



『首輪の正体、分かったかも』
「!!」

戦いが始まってほぼ1日、自分達を縛り付けていた首輪の正体が分かった。
周りにはチャモロしかいないが、もしもっと多くの人がいれば、一斉に注目の視線を浴びることになっていただろう。


「もっと詳しく教えてください!!」
『聴かれるとまずい。』


チャモロははやる気持ちを押さるようにと指示を出す。

『呪い』

二文字だけの内容の紙を、チャモロに見せる。
さらにアルスは二枚目の紙に続きを書く。

「呪われた装備って、見たことある?」
「はい。少しだけですが……。」

アルスは呪われた面を身に着け、襲ってきたライアンとの戦いから薄々感じていた。
立て続けに不運がやってくる現在の状況を。
2度や3度くらいなら、ただの偶然と割り切ることが出来るが、こうまで立て続けに不運に見舞われると、何か原因があるとしか思えない。


そして、普段は使える魔法まで突然使えなくなるのは、完全に何か違う原因があるとしか思えなくなる。
恐らく、自分達を殺そうとして、無念のうちに死したローラが、怨念となって付きまとっているのだ。



だが、自分達に付き纏っている呪いはローラのものだけではない。
この殺し合いが始まってから色んな事が立て続けに起こったため忘れていたが、先程の禁止エリアで、長らく存在を忘れていた首輪のことを思い出した。

1418見え始めた光明 ◆vV5.jnbCYw:2019/09/08(日) 21:29:24 ID:Q0q9LtoQ0

首輪も、呪われた装備と同様の存在なのではないかと。
外そうと思っても外せず、回復や蘇生と言った魔法を阻害する。

『恐らく、僕らの首輪も、その一種だ。』
『一理あるかもしれません。』

チャモロも予想外だった。
首輪爆破の原因が、自分の想像もつかない超常的な何かではなく、呪いだということを。


アルスにとっても、予想外だった。
だが、マジャスティスを打っても首輪に異常はなかったことから、首輪の正体が魔法ではない可能性が高い。

二人共この世界で見た支給品で、呪いを解除できる道具など一度も見たことがなかった。
いや、たとえあったとしても、支給されている道具程度では解除できない強い呪いなのかもしれない。


『あの首輪の爆破も「首輪をしている人」にだけ大ダメージを与えるのかもしれない。』
『破滅の盾みたいなものですか?』

二人は、装備するとかえってダメージが大きくなり、大したことのない魔法でさえ致命傷になる盾を思い出した。
この罠を応用すれば、首輪に干渉する魔法を増大させることも可能なのではないか。


「そうだ!!」
書きながら、アルスは突然叫んだ。

「え!?何かアルスさんは手掛かりがあるのですか?」
「サフィールさんが……。」

2度目の放送の直後、情報交換中に、サフィールが話していた。

彼女はリーザス村で呪いの仮面を付けた男に襲われたと。
呪いの仮面、とはあのライアンに付けられたもので間違いないのだが、問題はそこではない。
あの時サフィールはマリベルと共に、呪いを解いたと言っていた。
仮に使い捨ての道具だったとしても、何かを応用して、その道具を作る可能性もある。

「なるほど……そんな話を。では早速サフィールさんの所へ行きましょう。ジャンボさんに聞きたいこともあります。」

1419見え始めた光明 ◆vV5.jnbCYw:2019/09/08(日) 21:31:53 ID:Q0q9LtoQ0
新たな目的を見つけた瞬間、少年たちは再び走り出す

ローラからの不幸の呪いを、首輪と関連付けて、初めてアドバンテージとして利用した二人。
それもそのはず。多くの犠牲の果てに生き延びてきた二人が、呪い程度で死ぬわけがないだろう。
いや、本当の小さな光とは、闇の中にいないと見えないのかもしれない。




【F-4/草原/2日目 早朝】

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP3/5 MP1/10 左腕骨折(応急処置済み) ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)(加速状態)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:諦めない。ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める 首輪解除の為に、ジャンボ、サフィールへ会いに行く (ジャンボには半信半疑)
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。また、はぐれメタルの職業を少なくともLv7まで経験しています。魔法使い、魔法戦士、賢者、勇者は経験していません。
ジャンボに対しては信頼感の反面、疑いも抱いています。

【 アルス@DQ7】
[状態]:HP1/6 MP1/5 左足に怪我(素早さ低下) 右腕から胸にかけて裂傷(応急処置済み)左肩に刺傷(治療済み)
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜1) ゲルダの不明支給品0〜1個(確認済み) 道具0〜2個(本人確認済み) 
[思考]:この戦いを終わらせる。ミーティア、キーファを探す。サフィール達に会いに、トラペッタへ戻る。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。

※アルス、チャモロには『ローラの呪い』が付き纏っています。どのように解呪されるかは次の書き手におまかせします。

※首輪の状態についてある程度知りました。

・首輪には何かしらの呪いがかかっています。現在判明した呪いは以下の通りです。
1.原作のはめつの盾のように、何らかの魔法のみ大した威力でなくとも瞬殺級の効果に変える呪い
2.従来の呪い装備のように、外せない呪い

1420見え始めた光明 ◆vV5.jnbCYw:2019/09/08(日) 21:32:38 ID:Q0q9LtoQ0
投下終了です。今回の話で首輪について新たな発見がありましたが、何か不備があれば指摘お願いします。

1421 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/08(日) 22:22:21 ID:FjijLnKQ0
お疲れ様です!ローラこっわ!本人がもう亡くなってるだけにぞわぞわしました。
>「ゲントの神よ!!我々に光を!!」
この台詞で巴投げを放つチャモロ好きです。いえ切羽詰まってるんだから当然ですがw

1422 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/12(木) 17:55:09 ID:zEQSja760
もし宜しければまとめ更新をお手伝いしますが如何でしょうか。
作品本文のページは、例えば自分などは前回空白スペースの行をスレッドでは省略して貼り付けしたりしていたので
他の自分でまとめをされる方はそこは自分でやりたいのではないかとは思いますが、マップなど細かい部分は
是非お手伝いさせて頂きたく思います。

1423 ◆vV5.jnbCYw:2019/09/13(金) 23:49:12 ID:bXh3oGWc0
>>1422
ありがとうございます。
ページ制作の際にWiki更新一通りやったので必要ありませんよ。
それとWikiの書き手枠の欄に◆EJXQFOy1D6 さんのページを作っておきました。

1424 光の中に消え去った : 光の中に消え去った 
 光の中に消え去った 

1425 ◆vV5.jnbCYw:2020/02/29(土) 17:26:27 ID:aKiBk96I0
以前破棄した、フアナの話を投下します。

1426そっちへ行ってたの? ◆vV5.jnbCYw:2020/02/29(土) 17:27:06 ID:aKiBk96I0
「う〜ん。ここはどこでしょうか……。」
分け入っても分け入っても青い森。
時計を見たらそろそろ太陽が出そうな時間ですね。
けれど森の中だからか、時計も地図と同じでおかしくなってるのか、まだ暗いままです。


え?地図がおかしい?
何を言ってるのかって?
そりゃあ、当たり前ですよ!!
私、あの紫のターバンの人から逃げたんですよ。
もう走って走って、走りまくりました。
橋を走った(これダジャレじゃないですよ!!)後、いつの間にか森に入ってしまったんですよ!!


え!?それでも地図は悪くないって?


どう考えても自分の方向音痴が原因です。本当にありがとうございました。


しかしどうしたものやら。
私はあの紫ターバンを、強い人たちがいる場所に誘導して、その人と協力して戦おうと思ってたんですよ。
ところが行けども行けどもいないし、しかも紫ターバンを振り切ってしまったようなんです。


そういや、ちょっと前の話なんですけど、確かに見たんですよ。
森の中、一人の青い髪の少女が横切っていたんです。
この辺り危ないですよ、気を付けて、って言ったんですけど、何か切羽詰まっているようで、走って行ってしまいました。


そうしたら、突然衝撃的なことが起こりました。
蒼い髪の少女が何か出したと思いきや、砂煙が発生したんですよ!!
というか、あれは砂柱です。
子供が砂場でバタバタってやったりとか、浜辺の全力ビーチバレーとか、そんなチャチなものじゃありません!!
もっと恐ろしい砂の片鱗を味わいましたよ!!


まあ、砂柱はすぐに消えてしまったんですが、その後もう女の子はいなくなりました。
どっちへ行ったのか分かりませんし、あれは私に止められそうな人じゃなかったので、もう諦めます。
そもそも、あれは本当に人間だったんでしょうか?


寂しくなった私が作り出したヴィジョンじゃないんでしょうか?
え?寂しいのかって?


そりゃあ寂しいですよ。
今までずっと誰かと旅をしてきた私が、一人になってしまったんですから。
ゼシカさんも、ズーボーさんも、バーバラさんも、コニファーさんも、ホープ君も、サヴィオも、アスナもいませんからね。
でも、泣くのはあの紫ターバンを倒して、エビなんとか(いい加減このネタしつこくないですか?)を倒して、帰ってからにしようと思っているんです。
こんな所で泣き崩れてるなんて、誰も望んでいないと思います。


だから、幻を見るのはおかしい気がしますね。

1427そっちへ行ってたの? ◆vV5.jnbCYw:2020/02/29(土) 17:27:28 ID:aKiBk96I0
まあいいでしょう。
この世界でおかしいこと一つ一つ挙げて行けば、キリがありませんからね。

お?ようやく森の出口が見えたようです。
とはいっても、夜の草原。
見晴らしがよいのに、人は見えません。
そういえば、もう参加者の数も、大分少なくなっているようです。

放送と、城での戦いを合わせると、25人にも上らないでしょう。


だからといって、もう少し人に会えてもいいんじゃないですか?
え?町とか村とか、もっと人が集まる場所へ行けばいいんじゃないかって?
いやいやいやいや。私方向音痴じゃないですよ?
元の世界で旅をしていた時は、ほとんど道案内をホープ君に任せてただけです!!
行き先が分からなくても、サヴィオが「こっちいけばいいと思うよ」って指した方向は、確実に町や村があったんです。


そういや、私、旅に出てから自分で行き先を決めて歩いたこと、ないんでした。
最後に自分で道を決めて、自分が先頭に立って歩いたのはいつでしたっけ?


ん?
何か向こうの方の森から声が聞こえましたね。
え?なになに?
『げんとの神よ、我に力を?』


私の知らない神ですね。
そういや、私達が教会で信仰している神って、名前なかったですね。
神父様も、『おお神よどうのこうの』って言ってるだけで、名前を聞いたことないですね。
ルビス……は精霊でしたっけ。
とりあえず、げんととは知らない名前です。


まあ、この戦いは色んな世界の人が呼ばれているようだし、別世界の神様と言われれば納得が行きますが。
気になることですし、あの紫ターバンを倒すための戦力強化のためにも、声の方へ行きましょう。

1428そっちへ行ってたの? ◆vV5.jnbCYw:2020/02/29(土) 17:27:51 ID:aKiBk96I0

さらに草原を進むと、向こうの方に、緑フードと、黄色トンガリ帽子の二人組がいました。
恐らくどっちかが、さっきの声のモトのようですね。


何やら二人で樹と向かい合って黙りっぱなしです。
どうやら、筆談?をしているようですね。

こっちには気づいていないようですが……。
誰にも聞かれたくないようですね。
でも、私には嫌な感じがするんですよね。


二人組の所に、何だか分かりませんが、黒いモヤが漂っているんです。



アリアハン視力コンテスト1位の私でも、目を凝らさないと見れませんが。
いや、これってむしろ、僧侶がなせる業というやつですか?
何かは分かりませんが、どうにもイヤな気がします。
決して、近くにいて良いようなものではありません。

そうそう、どこかで見たと思ったら、アレですよアレ!!



呪われた武器や防具から感じるアレです。
はんにゃの面……でしたっけ……。
珍しいデザインだったから、付けてみたら、急に意識がなくなったんです!!
そのあとしばらくどうなっていたか分からないんですが、その時の私は相当ヤバかったらしいです。
あの人たちも、何か間違って呪われた装備を付けてしまったのでしょうか。



(ん!?)

さっき、黒いモヤの方から、何か聞こえました。
『ゆ×さな×?×ども、返せ?』


ゆるさない、子供、返せ?
全部は聞こえなかったですが、こんなことが聞こえてきたような気がします。
これは、怨念のようなものですか?
実際に、アスナ達との旅の最中も、怨念の敵とは何度も戦いましたね。
そういえば一度アスナに殺されたはずのヘルバトラーも、怨念になって襲ってきましたね。

この世界は、死した者が怨念になりやすいのでしょうか?
それとも、呪いが力を出しやすいのでしょうか?

1429そっちへ行ってたの? ◆vV5.jnbCYw:2020/02/29(土) 17:29:01 ID:aKiBk96I0
あの二人は気付いているのかいないのか今一つ分かりません。
サヴィオがいれば、シャナクの一つでもかけてくれたかもしれませんが、私にはできません。


それに、私は今、魔力がすっからかんです。
どうせターバン男を振り切ってしまったら、一度休憩するか、魔力回復用の道具でも欲しい所なんですがね。


あっ!!
あの二人、私に気付かないまま、走り出しました。


ちょっと、待ってくださいよ!!


……そういや私、この世界で、誰かを追いかけたり追いかけられたりしているような気がします。


私が誰の為でもなく、一人で走ることが出来るのはいつになるのでしょうか?

【F-4/草原/2日目 早朝】

【フアナ(女僧侶)@DQ3】
[状態]:HP1/10 MP 0
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 パラディンの秘伝書 不明支給品0〜1(本人確認済み) かりうどの弓@DQ9 カマエル@DQ9
[思考]:自分だけが出来ることを探す。
[目的]1:仲間たちの死を受け止め生きる。
2:緑フードと、トンガリ帽子(アルスとチャモロ)を追いかける
3:アベルを倒し、アスナとコニファーの仇を討つために仲間を集める。
※バーバラの死因を怪しく思っています。
※ローラがアルスとチャモロにかけた呪いを見ることが出来ます。

1430そっちへ行ってたの? ◆vV5.jnbCYw:2020/02/29(土) 17:31:10 ID:aKiBk96I0
投下終了です。
長らく書いていなかったため、何か矛盾点があるかもしれません。

1431ただ一匹の名無しだ:2020/02/29(土) 17:45:33 ID:rPHeq96w0
投下乙です
フアナはピサロ達と合流するかと思ったが、そっちに行ったかあ
確かに教会で解呪を行う神官に近い僧侶なら呪いに敏感そう(3の僧侶は解呪できないけど)

1432 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:07:07 ID:u8H6lGfA0
投下します。

1433追う者追われる者 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:07:48 ID:u8H6lGfA0
「あれは……。」

ピサロとポーラがトロデーン城へ向かう途中のこと。
まだ小さい姿でしか見えないトロデーン城の、城壁の一部が大きく崩れた。


(アスナ達は、無事なのか?)
ピサロは胸騒ぎを感じながら、足を速める。


(コニファーさん……待ってて……。)
ポーラも、かつて別れた仲間との再会に、期待と不安を抱いて走る。
武闘家の経験を活かした俊足に、星降る腕輪の力も手助けしている。

人間とは異なる筋力や膂力を持っているピサロでさえ、付いていくのが精一杯なほどだ。

数時間前は、未知の敵の存在から、ピサロは退避せざるを得なかった城。
だが、今回は行かざるを得ない。


幸いなことに、同行者はほぼ戦闘能力が無い3人だった前回とは異なり、かなり腕の立つ剣士だ。


しかし、城が大きくなるにつれ、ピサロは違和感を覚え始めた。

「ポーラ、何か邪悪な気配を感じるか。」
「ううん。何も。アンタは感じるの?」


彼にとっての違和感と言うのは、気配がまるで感じなかったことだ。
以前にトロデーン城を訪れた際には、城内から邪悪な気配がこれでもかと言うほど漂ってきた。
だが、いくら城に近づいても、気配を感じない。


気配を消して、自分達が来るのを待ち伏せしている可能性もある。
「待て、ポーラ!待ち伏せしている者がいるかもしれない!!」

「ステルスみたいな?」


ピサロは自分の世界にない魔法の名前を聞かれて、僅かながら戸惑う。
「何だそれは?」
「ピサロは知らないの?姿と気配を消す魔法よ。私は出来ないけど、コニファーさんが得意だった。」


城門を潜り、二人を迎えたのは、最初に見た以上に荒れ果てた城だった。
辺りには瓦礫が散乱し、土地は隆起したり陥没したり焦げたりと、城の中庭とはとても思えないほどだ。
イバラに包まれた時のものとはいえ、その城の姿を知っているピサロは、その変貌には驚くばかりだった。
これが惨状の結果だ、と言わんばかりに、赤い鎧を付けた男が、体を裂かれて倒れている。

(この男は……確かジャンボの言ってた……)

しかし、ピサロにとって肝心なことはそこではない。
ザンクローネの死体を一瞥し、周囲を良く観察する。
城にいるはずの者、特にカマエルの安否の確認。
同様に城にとどまっているはずの襲撃者の討伐。
そして、もう一つは―――――――

1434追う者追われる者 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:08:11 ID:u8H6lGfA0

「コニファーさん?」
ポーラは転がっている、もう一人の死体に駆け寄る。

「待て!!」
それが誰の死体か知っているピサロは、ポーラを止めようとする。
死体をあえて転がしておいて、物陰からその死体に近づいた者や、死体に動揺した者に攻撃を仕掛けるのは一つの作戦だ。


しかし、その制止も意味なく、ポーラは動かなくなったコニファーを、揺さぶったり、声を掛けたりしている。

「間に合わなかったか……。」
その動作で、既にコニファーの魂はこの世を去ったのだと分かった。



敵が隙を晒したポーラを狙わないか、ピサロは気を配る。
だが、なおも襲撃者の姿どころか、敵意すら感じない。

ポーラはピサロを強く見つめる。
理由があったとはいえ、コニファーを助けるのが遅れて、結果として死なせたことを詰られるとピサロは思った。


「ねえ、ピサロって、コニファーと一緒にいたんでしょ?」
しかし、ポーラが話したのは一つの質問だけだった。

「僅かな間だけだ。」
「じゃあ、知らないんだね。何でコニファーが満足そうな顔しているのか。」


血と泥、埃に塗れ、それでいて満足そうな表情を浮かべたまま。

「分からん。だが、この先に分かるかもしれぬ。」

ポーラにとって、久々の再会だった。
ずっと前、最後にポーラが見たコニファーは、世界を守るという大仕事を完了したとは思えない程絶望に満ちていた。


本当は自分達に、本心を悟られまいと取り繕っていたが、それが猶更痛々しく感じた。
もし何らかの形で再会したとしても、きっとあの顔以外を見ることは出来ないだろうと思っていた。


コニファーも、海岸沿いで見たアークもどこか何かをやり遂げたような顔をしていた。
自分も最後はあんな顔が出来るのか、スクルドやアークは出来ると言っていたが、ポーラには僅かな希望と不安がよぎった。

1435追う者追われる者 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:09:30 ID:u8H6lGfA0

ピサロはポーラからの質問も話半分で流し、そのまま城内へ入っていく。
最初は絡みつく茨によって閉鎖させられていた玉座の間への扉が、茨ごと斬り裂かれていたことにピサロは違和感を覚えた。


爆音が静かな城内に響く。
ピサロ早速魔法を放った。


「ちょっと!何してるのよ!!」

ポーラはピサロの挙動を怪しむ。
「誰もいないから燻りだそうとしたが……。」


最後にこの城を後にした時、コニファー以外にアスナと、仲間らしき女僧侶とすれ違った。
従って、コニファー以外はまだ城内のどこかにいるかもしれないと、ピサロは疑う。
「ねえ!!誰かいる!!私達は敵じゃないわ!!」

ポーラの大声が、静まり返った城内に木霊する。


敵じゃないと言われても信用しないだろう、と言いたい気持ちを抑えて、ピサロは辺りを伺う。

しかし、城内はなおも死んだように静まり返ったまま。
死んだように、と言うより文字通り、城内の生存者はポーラとピサロのみなのだが。

「上にも行ってみよう。」
まだ二人は、見回ったことのない2階へ、3階へと足を速める。
とは言っても、柱が倒れている通路は進むことは出来ないので、屋上へまっすぐ向かった。


屋上に着いて、真っ先に目にしたのは、大きな月の光と、それに包まれて倒れている勇者だった。
「アスナ……」
ポーラは初対面の相手なので特別な憐憫の情を抱いたわけではない。
ただ、これほど強い力を持った人間でさえ、死ぬときは死ぬことを思い知らされた。


寿命ではなく、戦った果てに死ぬ。
アークの時点でその事実を知らされていたが、改めてその事実を実感した。


「遅かった……。」

再びそう呟くピサロ
その顔は酷く憎々し気だった。

「ピサロ、遅れたことを悔やんでも、意味がないわよ。」
ポーラはいつもより数倍眉間に皺が寄ったピサロを宥める。

遅れたことを後悔しても仕方がない、という言葉は、ポーラが自身に向けて発した言葉でもあるのだが。


「助けるのが遅れたことじゃない。襲撃者は、もうここにはいない。」
「え?」

ピサロとしても、迂闊だった。
一体どうして、自分はいつまでも襲撃者が一か所に留まっていると思い込んでいたのだろうと。

1436追う者追われる者 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:11:39 ID:u8H6lGfA0
城に入る直前、城壁が大きく崩れたことから、二人はまだ襲撃者が暴れていると勘違いをしていた。
だが襲撃者、アベルは既にこの城を後にしていることに、ようやく二人は気が付いた。


「そうだ……もしかしたらアスナさんが、カマエルを……。」

一瞬ポーラはアスナがカマエルを持っているか期待したが、支給品袋さえなかった。
コニファーも同様に袋そのものが無なかった。
ザンクローネの死体は、強力な技を浴びたからか、支給品袋ごと焼け焦げていた。

「ない…か。襲撃者に奪われたか、それとも誰かに渡したか……。」


「東へ行こう。カマエルは襲撃者が持って行ったんだ。」
「そうだな……これ以上無暗に戦いたくはないのだが……。」

ピサロとポーラは、教会から城へ向かう途中には誰にも会わなかった。
従って、襲撃者は橋を渡り、トラペッタ方面へ向かったと結論付けた。


だが、すぐにもう一つ重要なことを忘れていたことに沈みゆく月から、ピサロは気付く。


「しまった!!月影の窓だ!!」
「ピサロ?何だって?」

今度はポーラの質問を無視して、急いで城の階段を駆け下りた。
トロデーン城の図書室でヤンガスに言われた、月影の窓。


おわかれのつばさに執着するあまり、ピサロにとってもう一つ肝心な情報、月影の窓のことは忘れられていた。

日暮れにトロデーン城を抜け出してから戻るまでに、多くのことがありすぎた。
その過程で、おわかれのつばさという手がかりを掴めた際に、月影の窓の優先順位を下に置いてしまっていた。
ピサロとしては、間近で見て、尚且つその道具について解説している本まで持っているからである。
一方で月影の窓は、ヤンガス一人から聞いただけで、その内容もどうにも御伽噺じみている。


だが、カマエルが奪われた今、月影の窓と、その先の世界に頼らざるを得ないかもしれない。
溺れる者は藁をもつかむと言うが、脱出の可能性がある可能性は手当たり次第に引き寄せなければいけない。


そして、月影の窓と言うのだから、月が沈めば対面は不可能のはず。
次の夜まで待てというのは、いくらなんでものんびりしすぎている。

1437追う者追われる者 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:11:56 ID:u8H6lGfA0
既に空が白み始めている中、二人は急いだ。


「ここなの?どう見ても普通の図書し……!!」
すぐに1階の図書室に到着した二人の目の前には、予想外の光景が広がっていた。

「ピサロ、窓の影が……!!」
「言われなくても分かっている!!」


むき出しになった窓が、巨大な月の光に当てられ、その影が図書館の床を走っている。
その不自然に長く伸びた影は、壁に突き当たっていた。


「「!!!!」」
一見、ただの壁に映った窓の影にしか見えなかった。
だが、影にしては本物の窓のように見えた。


無意識のうちに、二人は影に手を伸ばす。


それは、普通の扉とは何の変わりもなく、

1438追う者追われる者 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:12:28 ID:u8H6lGfA0







開いた。
















ピサロはその中を覗く。
その時、月影の窓が消えた。


「え?」
その理由は子供でも分かるほど簡単なことだった。
月が沈み、この世界で2度目の日が昇る。
窓の影を造る月光が、消えたからだ。


「何が起きたの?」
それに気づかず、ポーラは壁を叩く。



「夜明けだ。ここでやることはもうない。東へ行くぞ。」
ピサロはただそう言った。


「もう少し、待ってみない?」
「月光がないのに、どうしてもう少し待てというのだ?」

ピサロはそのまま図書室を出る。


朝の光が、城を照らした。
恐らくこの太陽が沈むまで、この戦いは終わるだろうと二人には確信があった。

1439追う者追われる者 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:12:51 ID:u8H6lGfA0

だが、この時、ポーラは気付かなかった。
扉の先を見てから一瞬ではあるが、ピサロに驚愕と恐怖が合わさった表情を見せていたことを。
ピサロがこの城を後にすることを主張した理由は、カマエルを持った相手を追うためだけではないのかもしれない。


そして、もう一つ。
これはポーラだけではなく、ピサロにも気づいていないことだった。
ロトの剣を持った少女が、二人を追いかけて、たった今トロデーン城へ入った。


脱出のための手がかりを追う立場だと思っている二人は、実は脱出のために追われる立場なのかもしれない。



【A-4/トロデーン城/2日目 早朝(放送直前)】

【ポーラ@DQ9】
[状態]:HP1/2 MP1/3
[装備]:銀河の剣@DQ9 星降る腕輪@DQ3
[道具]:支給品一式 支給品0〜3個 キメラの翼×1 炎竜の守り@DQ8 魔勇者アンルシアの首輪 アリーナの首輪 割れたラーの鏡
[思考]:殺し合いを止める。
元の世界に戻り、天使信仰を復活させる

※未練を残す死者の幽霊が見えます。そのままでは会話は出来ませんが、何かしらの道具を通すことで会話が出来るかもしれません。
※ラーの鏡を通して人の心の中を見ることが出来ました。今後何かほかの道具でも可能かもしれません。


【ピサロ@DQ4】
[状態]:健康 焦り ???
[装備]:堕天使のレイピア
[道具]:支給品一式 『世界道具百科辞典』『勇者死すべし』 大魔道の手紙 おわかれのつばさ
[思考]:トラペッタ方面へ向かい、カマエルを取り返す。
エビルプリーストをこの手で葬り去る
ロザリーの安否を確認する。
1:ロザリーはどうなった……?
2:月影の窓で見たものは………!?
※ジバ系呪文を実際に見せてもらいました。
※エビルプリーストの背後に黒幕がいることを、手紙によってほぼ確信しました。
現状ではラプソーンが怪しいと考えています
※首輪の仕組み、機能を知りました



【ティア@DQ2(サマルトリアの王女)】
[状態]:健康
[装備]:ロトの剣 氷柱の杖(残4)@トルネコ3 ようせいのくつ@DQ9 
[道具]:支給品一式 脱いだ靴 パーティードレス@DQ7
[思考]:おわかれのつばさを使ってサマルトリアに帰る
※第二放送の内容を聞いてません。

1440追う者追われる者 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:13:04 ID:u8H6lGfA0
投下終了です。

1441ただ一匹の名無しだ:2020/03/11(水) 21:20:40 ID:nUtmVzcY0
お疲れ様です!暫く見ておらず立ち寄ったら丁度投下が、それも2本もされていて嬉しいです。
フアナは上の方が言われているのと同意見でピサロ、さもなくばティアか竜王達と言った西側勢と
合流する形になるのかと思っていたので、実はもう東にいたというのが意外で面白かったです。
そして月影の窓(?)にただのイシュマウリじゃなくピサロが焦る程の何かがあったとは考えもしませんでした。

1442第四回放送 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/29(日) 17:59:07 ID:XK74tlC60
放送、投下します。

1443第四回放送 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/29(日) 17:59:51 ID:XK74tlC60
時は早朝。
朝日に照らされた雲が集まり、一つの魔族の顔を形成する。
最早新鮮味も何も感じない演出。
4度目の放送の始まりだ。


「諸君、放送の時間だ。」

参加者も僅かになり、高揚したエビルプリーストの声が、島中に響き渡る。

「いきなりだが、前置きはなしにして、死者の放送をさせてもらう。勝手な判断で誠に申し訳ないが、聞くが良い。


セラフィ!
スクルド!
ブライ!
ゴーレム!
ザンクローネ!
ライアン!
ローラ!
アスナ!
コニファー!
ターニア!

死者、10名!!


フフ………フハハハハ!!どうする?
あれほどいた参加者も、とうとう20人を切ってしまったぞ!?
この状況でもまだ、愛や正義を信用するというのか?


否、信用すること自体、不必要だ。
殺せ。そして、勝て。
勝てばそんな幻想など比べ物にならない物を手に入れることが出来る。
進むべきゴールは、もう諸君らの見えるところにある!!

最早私が出来ることは、何もない。
ただ優勝すれば叶う願いのみを目指すがよい!!


そうだ。禁止エリアの追加を報告し忘れていたな。
ここまで死者が出てしまった以上、どうでも良い様な気がしてならないが、一応ルール上なのでな。


2時間後、【F-9】、【B-7】
4時間後、【H-4】、【D-7】
6時間後、【G-1】、【I-7】

以上6箇所を封鎖する。


この世界で改めて太陽が拝めた己の力に感謝し、それを優勝まで繋げるが良い!!


そう遠くない優勝者との我は出会いを楽しみに待とう。これにて放送の終了だ!!」

1444第四回放送 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/29(日) 18:00:11 ID:XK74tlC60

放送が終わってすぐのこと。
デビルプリンスが、何やら怪しげな針のような、また杖のようなものを取り出していた。
その道具を、壁にかかってある地図の、【J-7】、と【F-1】の場所に突き刺す。
3度目の放送で呼ばれた場所だ。


「うむ。ご苦労だ。次の放送も頼むぞ。」


放送を終え、禁止エリアが作られたことを確認し、エビルプリーストは玉座に腰を下ろす。

「ときにキサマは、新たな可能性を手にしたか?」
「……どういうことでしょうか。」

6時間ほど前、自分がした質問をおかしな形で返されたが、今度は突拍子もない質問をされたことに、言い淀む。

「気付かないのか?私もキサマも、新たな可能性を手にしているということを。
試しにそこで念じてみると良い。」

「………!?」

言っていることが分からないながらも、その通りにしてみると、目の前で紫色の魔法エネルギーの塊が爆ぜた。

「今のは……」
それは、ドルマドンという、別世界のデビルプリンスが使っていた魔法。
創造神グランゼニスの作りし世界で、使われていた闇属性の魔法だ。

「それがキサマの、新たな世界の可能性のようだな。」


不敵な笑みを浮かべたエビルプリーストとは対照的に、その下僕の表情は引き攣っていた。
何しろ、自分が知りもしない呪文を唱えたのだから。


そもそも、彼らの世界は、炎や氷、風や雷を操る魔法があっても、光や闇そのものを操る魔法はなかった。
本当にないのか、世界中を探したことがあるのかと聞かれれば肯定しかねるが、魔族の王、ピサロでさえ使えなかったというのだから本当なのだろう。


何が原因か分からないが、エビルプリーストは「別世界の可能性」とやらで、この戦いを開くに至ったことは、哀れな配下の魔物にも理解できた。


「我は新たな力、そして技術を手に入れた。この戦いで世界中の勇者を粛清し、全世界の神になる。」

そして、紅の皇子の顔色が、一層蒼ざめる理由は真実を知ったからではなかった。
この外道が本当のことをベラベラと述べる時を、生前から知っていたからだ。

1445第四回放送 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/29(日) 18:02:29 ID:XK74tlC60
「我がなぜただの下僕でしかない貴様に、ここまで話すか分かるか?」
(!!)
彼にとって、最も恐れていた言葉が耳に飛んできた。
死刑宣告より恐ろしい、いや、その言葉自体が死刑宣告のようなものだが。


「なぜなら……」
エビルプリーストが全て答える前に、闇の力が爆ぜた。

「殺されるくらいなら、キサマを殺すまでだ!!」
窮鼠猫を噛む。それを体現したような状況だ。
悪魔の皇子は、さらに炎の魔法を唱える。
その火球は、デスキャッスルで戦っていた時よりさらに巨大だった。

メラガイアーという名称を、彼は知らないのだが。

「人の話を遮るとは、礼儀をわきまえねばならぬな。」
しかし、闇の爆発も、巨大な火球も、エビルプリーストの前に消えた。
この戦いが始まる前に、ゾーマという魔族が吐いた吹雪のように。


なぜ反射でも、当たった上で無力化されたのでもなく、消えたのか。
それだけは疑問になったが、解明する時間はどうにも有りそうになかった。


「もう貴様も不要だ。次の放送と禁止エリア魔方陣の設置は我一人で行う。」

最後の賭けも敗れ、哀れな下僕は二度目の死を覚悟した。


(!?)
急にエビルプリーストは頭を押さえ始めた。


何度目かの、突然の変貌に恐れる。
そのままエビルプリーストは処刑するつもりだった配下に背を向け、蹲り始めた。

戦意を削がれた悪魔の皇子に、反撃する気は起きなかった。
ただ、逃げようと思った。

互いに背を向け合うという、奇妙な絵面が完成した時、片方の姿が消えた。


「キ……サ……マ…………は………。」
「この男を操るつもりだったが、下僕のことも忘れていたな。」


デビルプリンスの姿は、消えていく。
「……様………じゃ………な……………い」
発声器官まで消され、言葉さえも消えてなくなった。

残ったのは、僅かな羽のみ。
意識を取り戻したエビルプリーストは、知らぬ間に部下を粛清したと自己完結した上で、玉座に戻った。


【デビルプリンス  消滅】


残り、18人

1446第四回放送 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/29(日) 18:02:42 ID:XK74tlC60
放送投下終了です。

1447 ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:14:54 ID:n6gfRTV20
投下します。

1448Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:15:28 ID:n6gfRTV20
朝日に混ざった色の服を纏った少年と、草原に混ざった色の服を纏った少年が、一人ずつ。
生まれ出たばかりの、この世界二度目の太陽が、草を、木の葉を照らす。
辺りは両足が草を蹴る音と、植物の匂いのみがある、静かな空間だった。
しかし、アルスとチャモロの、今までの無事を祝うかのような光景を、見る余裕は彼らにはなかった。


目的地を決めて以降、二人は全く会話をせず、放送を聞いた後でも同じだった。
その理由は単純にして簡単。二人はとにかく急いでいたからだ。
どちらも五体満足の状態ではないにしろ、休む余裕も立ち止まって話す余裕はなかった。
二人の表情は緊迫と暗鬱が現れていた。


最も二人が恐れていた、サフィールの死亡報告はなかった。
だが、どういうわけか見失ってしまったターニアが放送で呼ばれていた。


何度も著すのは忍びないことだが、二人は放送以降も走ることに集中していて、一切の会話はしていない。
だが、サフィール達の方向から離れて、自分達からも逃げて、その先で死んだということは、何が起こっているか二人共察しがついていた。


西側、すなわちトロデーン方面から、キラーマジンガ以外のマーダーが向かっているということだ。
そして、サフィールやホイミン、ジャンボは放送でこそ呼ばれてないが、今生きているかどうかは分からないということも。


サフィールに首輪を解く技術があるのかは不明だが、一度サフィールは忌まわしい呪いの仮面を外したという。
従って、そのタネを知っているサフィールが死ねば、呪いを媒体とした首輪を解く情報も無くなってしまう。


走れど走れど目に入るのは、単純な草原地帯。
風景こそ細かく変わっているとはいえ、そんなものは誤差でしかない。
一刻も早くサフィールの元へ。


二人の願いが通じてか、ようやくトラペッタの街を囲む、高い塀が見えてきた。
しかしアルスの表情は、さらに強張り始める。


トラペッタから少し離れた場所から、爆発音が聞こえたのだ。
恐らくそれはサフィールのイオナズンだと、すぐに二人は判断し、爆音の方向に走る。
しかし、その方向に向かうと、急に二人は速度を緩めた。


「ねえ、チャモロさん。これって……。」
心臓が握り潰されるような禍々しい空気を感じ、アルスは久々に声を出す。
このような感触を受けたのは、ダークパレスでオルゴ・デミーラの目の前に出た時以来だ。

「ええ。恐らく、新たな敵がいるのでしょう。」
チャモロも同様に、デスタムーアの城で覚えた感触を思い出した。


「急ごう。取り返しのつかないことになるかもしれない。」
しかし、アルスは元のペースで走り始める。
チャモロも、無言でその言葉に同意した。

待っていた所でこの禍々しい空気は晴れるとは思わないし、もっと悪化する可能性もある可能性も高い。
しかもその先に肝心のサフィールとジャンボがいることを考慮すると、立ち止まって様子を伺うなんて選択肢は愚の骨頂でしかない。

1449Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:16:23 ID:n6gfRTV20

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
こちらでも、放送の内容が響いていた。
同じように、戦友の訃報を嘆く暇は誰にもなかったが。


「コイツを食らいやがれッ!!」
すっかりなじみの武器になったナイトスナイパーから4本の矢が放たれる。
しかし、サフィールの魔法をほとんど無力化した魔王には、大したダメージにはなってない。

(畜生……なんて奴が来やがった……!!)
自分が劣勢の状況に追い込まれているのは、ジャンボはよく分かっていた。
弓矢と魔法が効かない以上は、現在の自分達の攻撃手段の多くが塞がれているということになる。
一応ハンマーか爪を使う攻撃も自分は出来るが、出来るからと言って長剣を持った相手に飛び込みたくはない。


「おい、ネプリム!!しっかりしやがれ!!」
ジャンボは苦戦中のネプリムにバイキルトを唱える。
壁になりうる存在が彼しかいないこの戦いでは、絶対に崩されるわけにはいかない。


聖王の剣と聖王のハンマー、そしてバレットハンマーがぶつかり合い、金属音が辺りに響く。
「マダさふぃーるノ話ハ終ワッテイナイ。」
「不要ダ。あべる様ガ戻リシ以上、破壊シ尽クスマデ戦ウノミ。」


(ジンガーを止められるのも、いつまで出来るか分かんねえ……。マスターを何とかしねえと……!!)
ジャンボは呪いの力に包まれたアベルを見つめ、策を練る。


その時、ジンガーの姿がジャンボから見て、次第に大きくなっていった。
(しまった!!)
一体どうして、ジンガーがネプリムしか攻撃しないと思い込んでいたのか?

回転攻撃でねぷりむを吹き飛ばしたまま、追加攻撃も他所に、まっすぐジャンボの所に向かって行った。
トラップジャマーで回収した砂柱も、もう間に合わない。


「ねぷりむ……じゃんぼ、守ル……。」
「お前……。」
吹き飛ばされたねぷりむはすぐにジャンボとジンガーの間に割り込み、自らの背中を盾にジャンボをハンマーから守った。

「ネプリム、大丈夫!?」
「構ワナイ。コレシキデ壊レタリスルコトハナイ。」
その姿は、かつてジンガーから自分を守った、ゴーレムさながらだとサフィールは感じる。


しかし、ろくに自らの守りも固めずに、ジャンボを守ろうとしたのはネプリムの失敗でもあった。
ジンガーの追加のバレットハンマーの一撃が、ネプリムの左腕にヒットする。

「間に合え!!磁界シールド!!」
ジャンボが咄嗟に這った魔方陣の力で、一撃必殺にすることを止める。
しかし、機械系の魔物に効果を発揮するハンマーにより、ネプリムの左腕には大きなヒビが入った。
ジンガーはなおも前線で攻撃を続ける

1450Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:16:39 ID:n6gfRTV20

ネプリムは剣で受け止めるも、傷ついた腕では受け止めきれず、聖王の剣を腕ごと落としてしまう。

「ネプリム!!」
ホイミンが慌ててホイミを掛けようとする。しかし、欠損は回復魔法では癒せない。


(これは……マジでやべえぞ……!!)

この戦いで経験してしまったことだが、前衛を崩されたまま、敵に内部に入られれば、容易にパーティーは瓦解する。
不変のルールに、ジャンボはメンバー壊滅の危機を感じる。

「どっか行きやがれ……ランドインパクト!!」
「マダ……負ケナイ……ぐらんどいんぱくと!!」
せめてジンガーだけでもこの場所にいさせてはならないと、地面を隆起させる。

ジャンボとネプリムが地面にはなった一撃は、地面を隆起させる。
地面からの鉄槌を受けたジンガーは、ジャンボ達の攻撃が届く箇所から離れる。


それと同時に地面に転がった聖王の剣も離れた所に飛んでいく。
ジャンボの目的としては、地面に聖王の剣をジンガーに奪われまいとすることもあった。
一刀流のジンガーにさえ、苦労している現在、新たな武器を手に入れられれば、ジャンボ達の勝利は極めて遠いものになるのも、周知の事実だ。

「薙ぎ払え……バギクロス!!」
しかしそこへ、魔王からの追撃が来る。
ジャンボとジンガー、近くに固まりすぎたことをチャンスに、風魔法が放たれた。

「爆ぜろ大気よ……イオナズン!!」
「守れ!マジックバリア!!」
ジャンボの放つ魔法の壁が、サフィールの爆発魔法が、横から来る竜巻を吹き飛ばした。

(敵さんの風魔法のコントロールが少しずれてくれて、助かったぜ。)
ジャンボはバギクロスの軌道がずれたおかげで、マジックバリアの詠唱に間に合ったことに感謝する。


壊滅の危機は一時的に去ったが、ジンガーとアベルの波状攻撃は止まらない。
しかもまだアベルが破壊の剣を振るっていないことから、まだ本気を出していないことも分かった。


出来ることならジャンボは物理ダメージを抑えることが出来る磁界シールドの範囲内で戦いたかった。
しかし、一か所に全員で留まり続ければ、全体魔法一網打尽にされる。

そして、ジャンボにとって最悪の状態が訪れた。
「助カリマス。ますたー。」

気が付けば、ジンガーの手にネプリムが落とした聖王の剣が握られていた。

1451Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:17:01 ID:n6gfRTV20

(しまった……ヤツの狙いは……!!)
アベルはバギクロスの軌道を「意図的に」ずらしたことに、ようやくジャンボは気づいた。

竜巻魔法は、敵への攻撃を目的とせずに、地面に転がっていた剣を、味方側に移動させることが狙いだった。


(こうなりゃ……『アレ』を出すしかねえか……。)
二つ目の武器を入手したことで、一気に攻め込もうとするジンガー。
剣を失ったねぷりむの守りが崩されるのも、そう長くはないことだ。


しかし、攻め込みすぎるあまり、ジンガーとアベルの距離が離れていたことをジャンボは見逃さなかった。


(距離が空きすぎだぜ……そらよ!!)
ジャンボは液体の入った瓶を、アベルめがけて投げつける。


しかし、その液体はアベルに降りかかることなく、剣で瓶を割り、中身は草原に染み込んだ。


だが、瓶の中身がアベルに当たらなかったのも気にせず、ジャンボは鞄から折れた灼熱剣エンマを取り出し、瓶の中身が散布された場所に投げつける。



「ねぷりむ!サフィール!!ホイミン!!退くぞ!!」

ジャンボが撤退の合図とともに、アベルとジンガーがいる辺りに、炎が立ち上る。
彼自身、先ほどのマジックバリアが使える最後の魔法だ。
戦っても勝ち目がない以上、撤退を決意した。



「なっ……これは……」
灼熱剣から発せられる炎は、緑の草の上に引かれた赤い絨毯のように広がっていく。
突然燃え盛る炎に、アベルも驚く。


地獄の鎧の力で炎の熱さはほとんどシャットアウトできるにせよ、炎による酸素不足は鎧ではどうにもならない。
空気を求めて、後ろへと下がる。

ジャンボが投げた瓶の中身は、ドワチャカオイル。
彼の第二の故郷、ドワチャッカ大陸でしか採取できない油で、装備品を作るときの潤滑剤や燃料として使われる。
それを炎の力を持つ剣で引火させた。
揮発材として使われることはあまりなかったが、油という名の通り活躍してくれた。



ジャンボの目論見通りジンガーも炎の向こうに行き、アベルの安否を確認する。

「逃ガスカ!!」
「追いますよ!!ジンガー!!」
ジンガーに追跡の指示を出し、炎の渦をバギクロスで吹き飛ばしたアベルも追いかける。

1452Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:17:56 ID:n6gfRTV20
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「あの炎は……」
突然巻き起こる炎の渦に、ただ事じゃないと否が応でも認識させられる。
アルスとチャモロも、冒険中に幾度となく炎の魔法を目にしている。
しかし、目の前に広がる炎は、魔法によるものではなかった。
黒い煙の出方は、明らかに揮発材を燃やした時の炎だ。


ペース配分など知ったこっちゃないとばかりに、二人はさらに足を速める。


そして、二人の片割れ、アルスは剣を構え、限界までその足を速めた。


前方に刃を向け、草原を駆ける。

炎に照らされた場所にいた二人組のうち、人間で「無くなった」方に斬りかかる。
ガキィンと剣がぶつかり合う音が響くが、それを奏でたのは破壊の剣ではなかった。

「あべる様ノ敵ダナ。覚エテイルゾ」


アベルへ斬りかかるのを止めたのは、元から人間で「無い」方、キラーマジンガ。
復活したという話をチャモロから聞いていたが、こうしてみると奇妙に思えた。

「よく出来ました。ジンガー。」
余裕綽々でジンガーの手柄を褒めるアベル。


アルスは鍔迫り合いの相手ではなく、そのマスターを睨みつけて叫んだ。

「あんたはサフィールの父親なんだろ?何でこんなことしてんだよ!!」
アルスは先ほどまで自分達から逃げていた少女の死体が、アベルの足元にあったのを見て、その所業に対して怒鳴りつける。

「何で?何でとはどういう意味ですか?私はただすべてを愛そうとしているだけですよ。」
アベルは即答する。だが、全く話は噛み合っていない。
「ふざけるのもいい加減にしろ!!」


そんなものは愛ではない。
愛のことを気付くのが遅かったアルスでさえ、それだけは分かる。
愛とは、誰かを壊すことではなく、守ることだ。そして、繋ぐことだ。
壊し続けることで作る愛なんて、そんな暴力的なものは間違っている。



「あべる様ノ反逆者ハ、全テ排除スル。」
そして、彼が唱える愛におかしいと意見を唱える場合ではないことにすぐに気付く。
ジンガーの回転で吹き飛ばされるアルス。


間髪入れずに、聖王の剣での攻撃が来た。
慌ててオチェアーノの剣で受け止めるも、一度戦った時とはまるで違う攻撃の精度に、押し切られてしまいそうになる。


(ダメだ……避けきれない……!!)
しかし、チャモロの風の刃が二人の間に入り込み、剣を弾いた。

1453Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:18:19 ID:n6gfRTV20

「アルスさん。一人で行かないでください。」


アベルはチャモロを見つめ、過去の経験を思い返す。
「その雰囲気は……なるほど。初めに私の邪魔をした、あの忌々しい竜ですか。」
見た目こそまるで異なるが、ムシが障るほど発せられる聖なる気配が、同じだった。


「チャモロさんは、サフィールさんたちの所へ!」
「え……アルスさんは……。」

今目の前にいる敵は、二人。
しかもうち一体は、チャモロを幾度となく苦しめてきた強敵だ。
もう一人も得体のしれない鎧と剣を身に着け、異様な雰囲気を醸し出している。


「この場で全滅だってあり得る!だからどっちか一人でも、聞きに行くべきだ!!
僕もすぐに追いかける!!」
「分かりました!!なら絶対に……死なないでください!!」
確かに、どちらか一人でも情報を伝えに行く方が、堅実なやり方だ。
今しなくてはならないことは、アベルとジンガーを倒すことより、首輪の情報を共有することだ。

自分達に対してローラの怨念が取り憑いているはずだが、その呪いが、「害を与えた相手」ならアベルも同じ条件であるはず。
そうなってくれることを願いながら、チャモロはアルスに背を向け、トラペッタへと向かって走る。


「逃ガスト思ッタカ?」
ジンガーはアイセンサーの照準を、チャモロの進行方向に合わせる。
「手を出す必要はありません。折角別れてくれるなら、ありがたく一人ずつ破壊しましょう。」
それをアベルは止めさせ、まずはアルスを殺そうと提案する。


確かに、ジャンボ達相手には余裕を持って戦えていた以上は、アルスとチャモロさえ撃破出来れば問題はない。


「いいんですか?二人なら私達にも勝てたかもしれませんよ。」
余裕綽々とチャモロを見送る。

「僕の命より、重要なものがあるからね。」

そしてアルスは、アベルの鎧の弱点を見抜いていた。
魔法の力を大きく無効化し、物理的な攻撃もあまり効果を示さない、呪われた鎧。
だが、チャモロの鎌鼬が、アベルの顔に短い赤線を走らせていたことで見抜いた。


あの鎧は、防御力を無視した、魔法以外の攻撃からは身を守ることが出来ない。
それを認知したアルスは、アベルの脚めがけて、鎌鼬を打つ。

「あべる様ニ当テルツモリダッタカ?ソウハサセナイ。」
しかし、風の刃が走る軌道上にジンガーが入り込み、無効化させる。
(こいつにはかまいたちは効かないのか……。)

1454Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:18:36 ID:n6gfRTV20

「良いですよ。ジンガー。」
今度はアベルまでも破壊の剣を掲げ、斬りかかってきた。
それまでずっと後ろで指示を出していた相手が急に攻撃に転じたことに対応しきれない。

破壊の剣を受け止め、聖王のハンマーは後ろに飛びのいて躱す。
しかし、避けた先の銀の刃は避けきれない。


(ダメだ……やられる……。)



「やらせません!!」
アルスの背後から、何者かの声が聞こえる。

「邪悪なあなたたちは、清めの灰でも食らってなさい!!バギ!!」
(え……?)

後ろにいた僧侶風の女性は、誰なのか分からない。
だが、目の前の敵は一人はマホカンタがかかっており、もう一人は魔法威力を減退させる鎧を着ている。

だが、彼女の目論見は違った。
一つはアルスへと振るわれた剣の動きを鈍らせること。
もう一つは、ドワチャカオイルと灼熱剣エンマによって、灰と化した草原を、巻き上げること。


「ナンダ!?」
「くっ……考えましたね……。」

いかに頑丈な鎧だろうと機械の体だろうと守りにくい部分の一つに、視覚がある。
真っ黒な灰は、人間の目にはもちろん、機械のモノアイにも覆いかぶさった。


「ここから反撃で「誰か知らないけどありがとう。逃げるよ!!」」
そこから反撃に転じようとするフアナを連れて、アルスは撤退を決意する。
時間はわずかだが確かに稼げたはずだから、もうチャモロたちを追いかけてもよいだろうと判断する。

1455Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:19:00 ID:n6gfRTV20


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

「何とか巻いたみたいですね……。」
トラペッタに戻れて、ひとまず安堵するサフィール。

「安心してんじゃねえ!誰か、ジンガーの腕を修理出来そうなモノを出せ!!」
ジャンボのイマイチ何を用意すればいいのか分からない指示に、残りのメンバーは戸惑う。

「何か……持ってねえか?鉄材だ!武器でも防具でもクズ鉄でも何でもいい!!」


ジャンボの問いかけに、サフィールはショットガンを、ホイミンは鉄の塊のような何かを渡す。

「このボウガンみてえな道具は義手として使えそうだな……。」
ショットガンの原理をよく知らないジャンボは、形状からその用途を判断する。
しかし、もう一つの部品は、ジャンボの目を見張るものがあった。

(これは……いったい何なんだ?ドワーフがかつて使っていたものとは微妙に違うようだが……。)

ウルベア地下遺跡や、ガデリアの洞窟で見たことのある古代兵器のパーツに似ているが、デザインは微妙に異なる。
アストルティアとは異なる世界のからくりを修理するためのパーツは、ジャンボの目から見ても異様なものだった。
だが、見れば見るほど、

「おっと……こればっかりに気にしている場合じゃねえな……。ホイミン!!」
「えっ?」
ジャンボはザックから一束の巻物を投げる。

「それを入り口で読んで、ワナをしかけて来てくれ。」
「うん。わかったよ。」
完全武装状態のアベルと、ワナを踏むことのない魔物のジンガーに通用するかどうかは分からないが、ねぷりむを修理する時間稼ぎにはなると期待して、ワナの巻物を読ませた。


ホイミンに用事を頼んだ後、ねぷりむの修理に取り掛かる。

「スゴイナじゃんぼ。マモノ使イカト思ッタガ、機械職人ダッタノカ?」
「まあ、そんなところだ。防具職人のスキル積んでおいて良かったぜ。」
ドルワームで培った技術が、こんな所で役に立ったことに驚きながらも、手際よく事を進めていく。
銃弾を抜いたショットガンを腕の骨代わりにして、手の指や関節のような細かい箇所は、からくりパーツで代用していく。
壊れたボウガンも、ジンガーから奪ったビッグボウガンに付け換えた。

1456Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:19:47 ID:n6gfRTV20
(……もう少し待ってくれよ……。もう少し……。)

心で強く念じながら、ジャンボは作業を続ける。




【G-2/トラペッタ/2日目 朝】

【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP:7/10 MP 1/6 左足矢傷(応急処置済み)
[装備]:ドラゴンの杖
[道具]:支給品一式×3、へんげの杖、999999ゴールド
[思考]:父の狂気を治める。不可能ならば倒す。
怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
みんな友達大作戦を手伝う

【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:HP7/10 MPほぼ0
[装備]:ナイトスナイパー@DQ8
[道具]:支給品一式、道具0〜3 四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1(ゲレゲレの支給品)ドワチャカオイル@DQ10
支給品0〜1(ヒューザの支給品) 悪魔の爪@DQ5 
天空の剣、罠抜けの指輪 罠の巻物×1 ドラゴンローブ 砂柱の魔方陣×1 折れた灼熱剣エンマ@DQS 天使の鉄槌@DQ10 
メガトンハンマー@DQ8 
[思考]:基本方針:エビルプリーストに借りを返す。
1:アベルを倒す
2:首輪解除を試みる
[備考]:※職業はどうぐ使いです。弓スキルは150です。ハンマースキルは100以上です。

【ホイミン@DQ4】
[状態]:健康 MP1/8 仲間死亡によるショック
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具0〜2個 ヒューザのメモ(首輪解除の手掛かりが書いています)
[思考]:ジャンボとサフィールを手伝う
『みんな友達大作戦』を成功させる ヒューザがくれた手掛かりを守る。

【ねぷりむ@DQ10キラーマジンガB】
[状態]:HP1/6 背中にヒビ 右腕義手
[装備]:名刀・斬鉄丸 @DQJ 聖王のハンマー@DQ10 ビッグボウガン @DQ7 アクセルギア@DQ10
[道具]:支給品一式×3、魔封じの杖、道具0〜2個(ブライの不明支給品)、道具0〜2個(ゴーレムの不明支給品)
[思考]:サフィールについていく。ガンガン戦う。
[備考]:DQ10のキラーマジンガの特技を使いこなします。
ゴーレムの記憶を持っています。

1457Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:20:31 ID:n6gfRTV20
【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:HP1/3
[装備]:バレットハンマー@DQ10 聖王の剣@DQ10
[道具]:なし
[思考]:アベルに従う



【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/4 手に軽い火傷 MP1/6 ※マホキテによる回復
[装備]:破壊の剣 地獄の鎧@DQ3
[道具]:支給品一式 剣の秘伝書 ヘルバトラーの首輪 毒針
[思考]:過去と決別する為戦う。力を得る為、愛情をもって接する(そして失う為に)
アルス達を追う?一度態勢を整える?

※破壊の剣と地獄の鎧の重複効果により、更に強力になった呪いを受けています。
動けなくなる呪いの効果が抑えられている反面、激しい頭痛に襲われています。

【F-3/草原 /2日目 朝】


【 アルス@DQ7】
[状態]:HP1/6 MP1/5 左足に怪我(素早さ低下) 右腕から胸にかけて裂傷(応急処置済み)左肩に刺傷(治療済み)
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜1) ゲルダの不明支給品0〜1個(確認済み) 道具0〜2個(本人確認済み) 
[思考]:この戦いを終わらせる。
ミーティア、キーファを探す。
サフィール達に会いに、トラペッタへ戻る。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。


【フアナ(女僧侶)@DQ3】
[状態]:HP1/10 MP 0
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 パラディンの秘伝書 不明支給品0〜1(本人確認済み) かりうどの弓@DQ9 カマエル@DQ9
[思考]:自分だけが出来ることを探す。
[目的]1:仲間たちの死を受け止め生きる。
2:緑フード(アルス)と共に、トラペッタへ向かう
3:アベルを倒し、アスナとコニファーの仇を討つために仲間を集める。
※バーバラの死因を怪しく思っています。
※ローラがアルスとチャモロにかけた呪いを見ることが出来ます。

1458Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:20:46 ID:n6gfRTV20

迅速に、ジャンボ達のもとに、近づいてくる。
首輪の正体を部分的にだが知った人物が、魔王より先に。
だが、忘れてはならない。
彼が来るということは、同時に『呪い』が来るということを。




彼が、トラペッタの町へ足を踏み入れた瞬間、悪魔が嗤った。
ホイミンが、魔王相手に仕掛けようとして町の入り口で使った、ワナの巻物。


その瞬間、町中に、爆音が響いた。


結論から言うと、誰が悪かったというわけではない。
だが、トラペッタ町はこの戦いの場で、特に死者や争いが多かった場所。
言ってしまえば、呪いというものが、力を特に発揮する場所なのだ。

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP?? MP1/10 左腕骨折(応急処置済み) ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)(加速状態)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:諦めない。ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める 首輪解除の為に、ジャンボ、サフィールへ会いに行く (ジャンボには半信半疑)
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。また、はぐれメタルの職業を少なくともLv7まで経験しています。魔法使い、魔法戦士、賢者、勇者は経験していません。
ジャンボに対しては信頼感の反面、疑いも抱いています。

1459Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:21:00 ID:n6gfRTV20
投下終了です。

1460 光の中に消え去った : 光の中に消え去った 
 光の中に消え去った 

1461 光の中に消え去った : 光の中に消え去った 
 光の中に消え去った 

1462ただ一匹の名無しだ:2020/12/08(火) 21:31:18 ID:GY6Eicgg0
投下乙でした。
最強格のモンスターと最強格のモンスター使いのチームが、
終盤のマーダーとしてふさわしすぎるほどに強いんだよなあ・・・
かなり多くの人々にお前おかしいよと言われているのにまるで
聞き入れない点も非常にやっかいですね。機械の相棒はピッタリなのかも。


指摘点というか質問ですが

>>1455
>ウルベア地下遺跡や、ガデリアの洞窟で見たことのある古代兵器のパーツに似ているが、デザインは微妙に異なる。
>アストルティアとは異なる世界のからくりを修理するためのパーツは、ジャンボの目から見ても異様なものだった。
>だが、見れば見るほど、

これはここで文章が途切れていますが、このままでも大丈夫でしょうか。

1463 ◆vV5.jnbCYw:2020/12/09(水) 21:56:29 ID:btkLyJiw0
感想ありがとうございます。

wordファイルから一部コピー漏れがあったみたいです。

ウルベア地下遺跡や、ガデリアの洞窟で見たことのある古代兵器のパーツに似ているが、デザインは微妙に異なる。
アストルティアとは異なる世界のからくりを修理するためのパーツは、ジャンボの目から見ても異様なものだった。
だが、見れば見るほど、部品の一つ一つが、機械の魔物を治すためにあるかのように思えてくる。

+備考 ホイミンの支給品のからくりパーツ@DQ7は、ねぷりむの修理に使われました。

以上が訂正内容です。

1464ただ一匹の名無しだ:2020/12/10(木) 23:20:28 ID:ymE9U4ZU0
投下お疲れ様です。

>「誰か、ジンガーの腕を修理出来そうなモノを出せ!!」
初見気付きませんでしたがネプリムの間違いで合ってますでしょうか。

1465 ◆vV5.jnbCYw:2020/12/13(日) 16:17:02 ID:FBpLspwM0
指摘ありがとうございます。
wiki編集で訂正しました。

1466大切なものに、気付かない僕がいた ◆vV5.jnbCYw:2021/02/16(火) 23:56:32 ID:9QMx.Kjk0
投下します

1467大切なものに、気付かない僕がいた ◆vV5.jnbCYw:2021/02/16(火) 23:56:53 ID:9QMx.Kjk0
二人だけの仲に割り込むかのように、その放送は流れた。
その中でも一際二人の気を引いたのは、ある人物の名前。
それは、この世界に来る前から二人が知っている人の名前ではない。

―――ターニア

「エイト……今の名前。」
「ええ、確かにレックの妹でした。」
「行きましょう。レックさん達のためにも。」
「はい。」

なおもエイトは姫をその両手に抱えて、城へと進む。
その足こそは確かに姫の言う通りになっている。
だが、心は姫の思わざる所にあった。


(レック……奴は一体……?)

ジャンボというドワーフの男が危険視していた青年。
しかし、実際に会ってみた限り、至って普通の好青年という印象だ。
この人物が殺さなければならない危険人物だと断定するなど、相当被害妄想が強くもない限り無理な話だ。
だが、エイトにも一つ分かったことがある。
彼は、ターニアという妹をいたく大事にしていたということだ。


もう一つ、彼は経験したことがある。
ラプソーンの邪念が籠っていた杖といった、道具や呪いなど関係なしに、ほんの些細な出来事が人の気持ちを大きく変えるということを。
例えば、師匠に叱責を受けたことでその杖に手を出したドルマゲスのように。
現にエイトは、この世界で仲間であったククールが参加者の殲滅を目論むようになった経験がある。


従って、エイトは失ったターニアを取り戻すため、レックが自分たちに牙を剝いてくるのではないかという恐れがあった。


残念ながら、当のミーティアはエイトにその気持ちを汲み取ることはなかった。
「エイト、彼らは無事に着けたのでしょうか……。」
「分かりません。無事に着ければ良いですが……。」

まだ疑問に残る点はある。
ミーティア達が目指していたのは、かつてエイトも見たことのある、月影の窓で間違いない。
だが、この世界で月影の窓はあるのか。
仮にあるとしても、日の出まで間に合わず、チャンスを棒に振ることになってしまうかもしれない。
安易な希望は、大きな絶望へと転ずることはある。


「エイト」
何度目か、柔らかな声が草を踏みしめる音に混ざって響く。
「はい」
「あの二人を疑っていませんか?」


図星だった。
しかも一番疑っていると思っていなかった相手から問われたことだから猶更である。

1468大切なものに、気付かない僕がいた ◆vV5.jnbCYw:2021/02/16(火) 23:57:43 ID:9QMx.Kjk0

「なぜそれを?」
本当ならいつものように、「はい」か「いいえ」で答えるべきだ。
ましてや姫に対する従者としての返答なら猶更である。
だが、失礼を承知の上で聞きたかった。


「顔を見れば分かります。貴方がレックと目が合った時、急に浮かない顔になりましたね。」
自分のことを、こんな状況ながらも理解してしまうなんて流石としか思えなかった。

「はい。私はレックのことが、どうにも信用が出来ないのです。」
エイトは返答に困ったが、下手にはぐらかすことは最早無駄でしかない以上は、彼等への疑いを告げる。
ここに来る途中に、レックとその仲間のことを危険視していた人物がいたこと。



「そんなの、らしくないですよ。」
次に聞かれるのは、疑っている理由や、ミーティアに会うまでに何があったのかだとばかり考えていたが、更に予想と異なる回答だった。

「知らない人でも、信用できない人でも、他者から悪く言われた人でも分け隔てなく接する所が、エイトらしい所ですよ。違いますか?」
ミーティアの言う通り、自分は確かに襲ってきた山賊も仲間として引き入れたし、見知らぬ町娘の頼みも、富豪の兄妹の護衛も承諾してきた。
だが、それは全て、巡り巡って主君であるミーティアとトロデのためになると思ってやったことだった。


「ですが、それは……」
「ミーティアのため、と言いたいのでしょう。この世界で会うまでエイトに何があったのか分からないけど、それは違うわ。」

密着した状態ながらも、エイトはミーティアから目を逸らそうとする。だが、ミーティアはじっとエイトを見つめる。

「でも、私は、城にいた人を見捨てました。」
「見捨てたくない気持ちも大きかったはずです。」

「トロデ王が殺されたことを聞いた時、周りの人たちを殺そうとしました。」
「それを忌避した自分もいるはずです。『殺した』じゃなくて、『殺そうとした』のはそういうことよね?」

まるで見てきたかのようにミーティアは語る。
「エイト、もう私を降ろしてくれませんか?」

エイトはただ何も答えず、しゃがんで地面にゆっくりと大切な人を置く。

「私はもう戦えます。だから、『私のため』と言う必要はないですよ。これからはあなたのために生きてください。」

始めて、目が合った。
否、ここまで真剣に語り掛ける以上は、目を逸らしたままでは居られなかった。

1469大切なものに、気付かない僕がいた ◆vV5.jnbCYw:2021/02/16(火) 23:58:26 ID:9QMx.Kjk0

「もう一つ聞きますよ、エイト。貴方の本心は、みんなをこの戦いから救いたい。そうですね?」
「はい。」

今度は、短く回答した。
だが、その二文字は確かにミーティアの心に響いた。


この世界に来るまでも、来てからも何度も何度も思った。
私情を捨て、王と姫を守ることだけに専念せねばと。
でもどこかで、主君だけではなく他の誰かをも助けようとしたくなっていた。
主君や家族、時には他の大切な誰かのために自分の使命を全うしようとしているのは、自分だけではないから。
それを蔑ろにしていい権利など、自分にも誰にもないから。


――――姫様……貴女だけは、どうかご無事で……
初めに出会ったブライを殺せなかったのも、彼が首に槍を突き付けられてなお、主君を想う言葉が出てきたからだ。

――――もうやめようよ。
一度は姫を除くすべてを殺そうと決意しても、結局実行出来なかったのは、アルス達が止めに入ったのもあったが、それでも生き残った者を助けたかったからだ。


人を助けようとして失敗し、挙句ヤンガスまで犠牲にしてしまった後でさえ、トロデーン城へ行くか悩んだのも、同じことだ。


エイトは、主君のみを守ろうとするには、優しすぎる青年だった。


「それでいいわ。本当の気持ちを伝えられて、ミーティアも嬉しい。」
他人は時に自分を映す鏡になると言うが、ミーティアはまさにエイトの気づかなかった部分を見せた鏡になった。

「どうやら、不出来な従者である私は、あなた以外にも助けたい人がいるようです。」
「ええ、このミーティア、力及ばずながらあなたと共に行きましょう。」

まるで主君が従者に対して言うこととは思えない。
だが、そこには結ばれたばかりの夫婦にみられるような、確かな信頼が見えた。
彼らは別の世界の近い未来、主君と従者の関係ではなく、互いに平等な関係を築くので、これが必然なのかもしれない。


先程とは違い、エイトには強く地面を踏みしめて進む姿が見えた。
ミーティアも、それに遅れまいと足を速める。


主君と従者としての生きる道は終わり、そして二人は新たな道を歩き始めた。
陽光が、二人の道を作るかのように草原を照らした。

1470大切なものに、気付かない僕がいた ◆vV5.jnbCYw:2021/02/16(火) 23:58:43 ID:9QMx.Kjk0

【C-5/平原/早朝】
 
【エイト@DQ8】
[状態]:健康 MP2/3 強い決意
[装備]:奇跡の剣
[道具]:支給品一式 魔法の聖水×2(DQ6)、激辛チーズ(DQ8)
[思考]:ミーティアを守る。トロデーン城へ向かう。残された参加者全員を(よほどの悪人を除いて)救う

※現状ではミーティアはチャゴスと結婚出来なくなった事に気づいていません。

【ミーティア@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:アサシンダガー@DQ8
[道具]:支給品一式、あぶないみずぎ、レースのビスチェ、あぶないビスチェ、祝福の杖@DQ7 その他道具0~1個
[思考]:レック、キーファを追う。エイトと共に生きる

1471大切なものに、気付かない僕がいた ◆vV5.jnbCYw:2021/02/16(火) 23:58:55 ID:9QMx.Kjk0
投下終了です。

1472ただ一匹の名無しだ:2021/02/17(水) 19:44:43 ID:iJUXBzZg0
投下乙です
再会するまでの道中のことやらレックのことでひと悶着あるかもと懸念があったが、幼馴染は伊達じゃなかったか
殺し未遂のことまでゲロってもしっかり受け止めるのは強い信頼を感じるな

1473ただ一匹の名無しだ:2021/03/25(木) 19:48:32 ID:ia0RNXNE0
『DQM/テリワン3D初日』
(18:48〜放送開始)

https://youtube.com/watch?v=sQAi53W5ukw

1474ただ一匹の名無しだ:2021/03/28(日) 21:41:31 ID:V283b4XI0
加藤純一(うんこちゃん) Youtubelive

『DQM/テリーのワンダーランド3DS
人生プレイ/3日目』
(19:06〜放送開始)

https://youtu.be/73Adb4Gyam4

1475ただ一匹の名無しだ:2021/04/01(木) 21:03:01 ID:iCaXbh8k0
3DS
『DQM/テリワン3D
人生プレイ/5日目』
(19:05〜放送開始)

https://youtu.be/TrmjSvIWg_A

1476 ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:09:12 ID:S51TxUgs0
投下します

1477Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:12:24 ID:S51TxUgs0




「駄目だ」


ホイミンの発言を遮り、ジャンボは拒否の意を示す。
種族柄、誰かの傷つく声を聞けば駆けつけるほどに純粋で穏やか性質で知れたホイミスライムである。
ゆえに口喧嘩ですら好まぬ彼は触腕をもじもじと絡めるにとどまり、二の句を継げるはずもなく。
ホイミンにも、傍らで見ていたサフィールにも目をくれず黙々とネプリムの身体を修繕していた。


「ジャンボさん……ホイミンさんの気持ち、わたしわかります。少しは聞いてあげても……」


彼らの草原一つを焼け野原へと変える作戦は、辛くも功を奏した。
アベルたちの追跡を逃れ、廃墟と化したトラペッタの奥にこうして身を潜めている。
ギガデーモンに蹂躙された影響からか瓦礫の山と化してはいるが、かろうじて酒場の一角は原型を留めている。
大きな南門からはちょうど死角になる地点だ。
偶然ではあるが、ジンガーの修理を行うのにも適した隠れ家になっていた。


「ぼく、あんなに怖いワナだって知ってたら……」
「悪かった、急ぎとは言え適当に見繕って、しかもお前に任せちまった俺のミスだ」


ホイミンが食い下がったのは、南門に仕掛けるよう頼まれたワナの巻物についてである。
少しでもジンガーの回復のための時間を稼ぐためにジャンボが読むように頼んだものだ。
その手の道具に詳しいわけでもない彼が威力のことなどはつゆ知らず。
命令通りに『道具』を『つかった』ただそれだけに過ぎない。
指示を下したジャンボからしても、ここまで規模の大きいワナが発動するとは考えていなかった。
道具倍化の術も、範囲化の術も加えずに任せたのだから。
ホイミンか、【ワナにかかった何者か】の運がただひたすらに悪かったとしか言えない。


「だったら、お願いだよ。ぼく様子を見に行きたいんだ」
「……いや」


そうだとしても、ジャンボは許可できない。


「それでも、様子を見に行くのはナシだ」
「ジャンボさん……お父さんは私達を見失ってました」


サフィールが抗議の声とともに反証を示す。
ダメージを負ったネプリムを連れているにも関わらず完全に逃げ切れたのは理由がある。
自分たち以外の闖入者に手を割いた為に他ならない。


「それに逃げている間、誰かと剣を交えていたのも聞いたの。お父さんなら時間が合わないもの」
「そうだよ。ワナにかかったのはあのおじさんじゃなくて、他の誰かが─そうだ」


ホイミンは思い出した。
昨日の夜明け、アベルの襲撃があったとき、そしてターニアの逃走を許してしまったとき。

1478Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:14:52 ID:S51TxUgs0


「近くにいたから、チャモロさんかもしれないよね」
「……そうだな、ワナにかかったのがあいつじゃねえとは言い切れない」


ゆらゆらと落ち着かない様子で身体を揺らすホイミン。
ため息まじりにジャンボは彼の方へ向き直す。
今は落ち着いて修理に取りかかれているとは言え、ピンチから脱していない。
ここで言い争い、責任を追求するメリットはどこにもなかった。


「責任は俺にある。お前が震えるこたねえ、俺のせいにしてくれていい」
「ううん。読んだのは……ぼくだよ」


アベル一行が引っかかっていてくれれば、足止めとしての用は成す。
だが、そうでなかったとしたら。
ホイミンはひどく焦っていた。
多くの戦いを傍で見てきたホイミンではあるが、積極的に攻撃に参加してはいない。
はじめて自ら誰かの生命を脅かしたという思いが、不安定な気持ちを生んでいた。


「あのワナで、誰かがケガしたり……し、死んじゃってたら……いやなんだ」


ジャンボに諭されても、流されずにホイミンは自分の意見を告げた。
譲れない、死んでいった「ともだち」との約束がそうさせている。


「だから、もし傷つけてたら……あやまりたい」
「……」
「ぼくは、大作戦を成功させたいんだ。ともだちになるひとを傷つけたくないよ」
「もし不安なら私もついていくから、それなら……」


それでもジャンボは首を横に振る。
どうして、とホイミンはそれでも懇願した。
冒険者において意見の食い違いから起こる、パーティ間の諍い。
こういうとき、一体どうすれば丸く収められていただろうか。


「……俺はお前らのフレンド(友達)じゃねえ、ましてご主人様でもない。今は肩を並べる仲間とは思うがな」
「え?」
「だからこれ以上強い命令はできねえ。こいつは『冒険者の先輩』としてのアドバイスだ。よく聞けよ」
「……う、うん」


ジャンボは遠い昔のようにすら感じられる、アストルティアでの記憶を思い返した。
今の彼らを示す間柄は冒険者と似ている。
数年来の旧知の仲と旅することもあれば、たった今出会った流れの旅人と背中を預け合うこともあった。
それぞれが、バラバラの目的ではあっても、助け合い譲り合う精神。
それがパーティを組んで冒険をする上での常識、鉄則である。


「いざってときに『仲間のため』に動かず『自分のため』に動く奴は怖え。それこそ敵以上にな」

1479Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:17:21 ID:S51TxUgs0

一人では叶わぬ強大な魔物にも、仲間たちとなら戦える。
裏を返せば、仲間との間に綻びが生じれば、それは敗北に直結するのだ。
自分の命を優先して、仲間のために力を尽くさない者。
功を焦り、仲間の助けの及ばぬ方へ突き進む者。
多くの旅を重ねたジャンボは、それだけ間違った冒険者も知っていた。


(ホイミン、お前みたいな「いい奴」ばっかだったらアストルティアは平和だろうな)


彼の希望に蓋をするようで悪いが、今は時間を割くことの危険のほうが大きい。
戦力が圧倒的に不足している今、ネプリムを再び立ち上がらせることが最優先であった。
総合的に見れば、ジャンボの考えは賢明な判断と言えた。


「北西の門が塞がってんのは見た。もし南門が崩れちまってたらここは完全に孤立してんだ」
「……そういえば、そうだったね」


かつてこの町に最初に訪れたときの悲しい記憶を思い返した。
サンディも今の自分のように、落ち着かない、ごちゃごちゃとした気持ちだったのかと、ホイミンは胸を痛める。


「裏を返せば閉じこもって時間を稼ぐ大チャンスってわけさ」
「……」
「悪いとは思うがこらえてくれ。ねぷりむもあと少しでまた戦える。生き残りを探すのは後だ」
「……わかり、ました」
「うん……」
(とは、言ったものの……)


最悪のケースが、頭を横切る。
爆発の被害を被ったのがチャモロ、もしくはアベルの対抗戦力となる人物であること。
さらに身動きの取れない状態で、すぐさまアベル達に遭遇してしまうことだ。


(ワナに嵌って動けないヤツを、アベルは確実に殺すだろう。動けない獲物が転がってるんだからな)


だが、ジャンボはこの考えを口にできない。
真実を告げてホイミンがコントロールを外れることを考えていたのだ。
以前までの彼ならば、合理的な判断で、必要か、そうでないかの線引きをしていただろう。
それこそ、ホイミンは戦力になることが無い、と切り捨てていたかも知れない。
しかし、託されてしまったのなら。
願われてしまったのであれば。


(か細い可能性だが縋るっきゃねえんだ。頼むから犠牲が出ないようにうまいこと転がってくれよ)

1480Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:18:35 ID:S51TxUgs0
むざむざ誰かが死に行くような真似は絶対にさせない。
自分を命懸けで救ってくれたフォズに報いるためにも。
この殺し合いの舞台に上げられる前までとは、明らかな考えの差が生まれていた。


(間に合ってくれ、死なずに済んでくれ)


ネプリムのボルトを締め直す度に、ジャンボの焦燥は積み重なっていった。
故に、口数少ないままに、ネプリムの調整を進めていく。
だからこそ、気づくことはできなかった。

「……」

ホイミンの考えのその先まで。



---------



「─システム再起動完了。アリガトウじゃんぼ」

ややあって、ジャンボは再びネプリムの声を聞くことができた。
右腕の軸はショットガンの銃身を用いての応急措置で換装されているものの、どうにか動作に不備は無い。
もともとミトン型の手をしていたため、複雑な指先の修理を行わずに済んだのも功を奏した。


「動作問題ナシ。コレデマタ戦エル」
「そいつは何より、手間取ってすまなかったが……形にはなってるみたいだな」


体内のギアが噛み合い初めると、巨体が音もなく浮遊を始めた。
関節の稼働を、武器の取り扱いを、すべての動作を確かめている。
アベル一行の追撃に対しての備えが間に合う、そう思われたのだが。


「じゃんぼ、悪イ知ラセダ」
「……良い知らせとセットが良かったぜ」


赤い光を放つ単眼はぐるりと動き、爆発の起きた南門へと向けられる。
ネプリムを隠せる物陰に潜んだ状態であり、現在伺い知ることはできていない。
通れる状態かはわからないが、爆発の影響は少なくないと予想できた。


「動型機ノ接近ヲ感ジル」
「!やけに早くねえか?」


ネプリムは南門の向こうから、同じキラーマジンガの接近を感じていたのだ。
修理中に一旦スリープモードに入ったため、各種センサーの再起動にも少々時間を要していた。

「熱源探知ヨリモせんさーノ範囲ガ若干広イ。誰ガ伴ッテイルノカ解ラナイガ【じんがー】ト思ワレル」
「……そりゃそうだ、キラーマジンガCが居たら俺はもうギブよ」

1481Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:21:55 ID:S51TxUgs0

南門までもう少しでキラーマジンガを連れた誰かは辿り着くようだ。
こちらにとって有利な点といえば、トラペッタを観察した多少の地の利。
他には、まだ近くに手を借りれる誰かが存在している可能性が有るのみとなった。
ネプリムとジンガーが同等の力を持っていても、残る相手が伝説のまものマスターとなれば勝機は薄い。
だが、チャモロと、そのチャモロの仲間。
さらにジャンボらが逃げるときに何者かの援護もあったとサフィールは確認していた。
彼らも無事で居てくれれば、あるいは共に戦える。


「腹くくるしかなさそうだ。サフィール、ホイミン!準備するぜ」
「……」
「サフィール?」


傍らで控えていたはずのサフィールの反応が無いことを訝しみ、ジャンボは振り返る。
少女はかろうじて残っていた酒場の一角、木箱の上、どうやらクッションのようなものに腰掛けている。
いつ転げ落ちるか危なっかしそうに、こくり、こくりと船を漕いでいた。


「まあ、無理もねぇ……か」


年若い彼女が殺し合いを強いられるだけに留まらず、肉親に刃を向けられる。
どれだけの心の強さがあろうとも、負担が限界に達していてもおかしくはない。
母親が、兄が、仲間たちが、ここに至るまでの同行者が。
多くの別離があったことも想像に難くない。


「ザメハは勿体ねえよな。ほいっ」
「ふゃっ」


軽いツッコミでサフィールの覚醒を促す。
つい先刻までの気丈な振る舞いはどこへやら。
慌てて顔を覆い隠す仕草は年相応のそれだった。


「……あっ、おはょっ……ご、ごめっごめななさっ」
「疲れてたんだろ、気にしなくていい。……ねぷりむ起動だぜ」


ジャンボの後ろにぬっ、と現れた白銀の体躯。
その姿は、少女が感じていた多くの不安を、払拭してくれるような頼もしさを感じた。


「……ネプリム!治ったんですね」
「心配ヲカケタ」
「間に合ってよかったぜ。……いよいよあんたの親父とのリベンジが近い」

1482Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:25:01 ID:S51TxUgs0


改めて覚悟を問うのも野暮かもしれないが、少女の意思を確認する。
混乱に継ぐ混乱で、冷静さも奪われていただろう。
戦況がきついのは確実だが、ジャンボは彼女を前線から外すことすら考えていた。
先程ホイミンに告げたように、敵以上に恐れるのは制御しきれない仲間。
『自分のため』に行動し、作戦から逸脱することが最大の障害なのだ。


「……私、もう決めました。覚悟はあります……心配しないで平気です」


しかし、サフィールの瞳は弱々しくはない。
そこにはジャンボも口をつぐむほどの固い覚悟があった。


「みなまで言うな、か。いいぜ、頼らせてもらう」
「じゃあホイミンさん、戦闘前にジャンボさんを回復……」


いつもの鈴の転がるような声がしない。
サフィールの問いは空中に虚しく消える。


「……ホイミン?」


返答はない。
静寂が、彼ら2人と1体の間を支配した。


「ホイミンさん!?」
「スライム系魔物ノ捜索ヲ開始。範囲内ニ反応ガ無イ」
「……マジか!いつからだ!?」



---------



「んっしょ……よし」
「……う、っ……」


突然の爆破により、チャモロは少ない体力をさらに削られていた。
息も絶え絶えの状態でさらに瓦礫と瓦礫の隙間に体を挟まれ、意識を失っていたのだ。
大型の門の瓦礫は、今は崩れることなく安定しているが、危なげな状態だ。


「ぼくの体が、すきまを通れてよかった。今回復するね」
「あな、たは……」


チャモロが覚醒したときに目の前にいたのは、善き心を隠しきれないホイミスライムだった。
傍らには潰されずに済んだのか、彼のトレードマークの僧衣帽が置かれている。


「ホイミ!!……ひどいケガだよ。ごめんね、ほんとうに、ごめんなさい……」

1483Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:26:54 ID:S51TxUgs0



サフィールが木箱に腰掛ける際、そのままでは痛いだろうと、持ち物の枕を渡した。
どうやら心地良かったためか眠りに落ちた彼女を、ホイミンは起こすこともできた─だが。
彼はそうしなかった。
ジャンボの言いつけに背くことになったが、どうしてもこの気持ちを留めておくことができなかった。
最終的に彼が選んだのは、そのスライムの体で瓦礫の隙間をくぐり抜け、トラペッタの外へ出ることだった。


「ここから逃げてください……キラーマジンガが……魔物使いと共に、迫っています」
「ジンガーと、サフィールのお父さんだよね。だいじょうぶ、わかってるんだ」
「サフィール……そうかご存知……でしたか……ならば……伝えて……ほしい……」


チャモロはこの命が尽きようとも、なんとしても首輪の情報を共有するという意思があった。
しかしホイミンはその口をとっさにふさぐ。


「だめだよ、おとなしくしてて。……この爆発はぼくのせいなんだ。だからセキニンがあるの」
「どう、いう……」


ホイミンは消えかかっているチャモロの意識を繋ぐためにも、懸命に説明をした。
自分たちはキラーマジンガとアベルから逃げた後、トラペッタに逃げ込み罠を仕掛けた。
運悪くチャモロが真っ先に引っかかり、門は大破して今の状況に陥ったと。
ホイミンは頼まれて罠を仕掛けたに過ぎない。
だが、かなりの責任を感じていることが、短いやり取りでもチャモロに理解できた。


「全力のホイミでもちょっぴりしか治らなくてごめんね。だから、何度でもかけるよ」
「ありがとう……ございます」


度重なるホイミンの献身により、チャモロはその後どうにか容態を持ち直した。
しかし、瓦礫を除いて彼の身体を引っ張り出すことはどうしても叶わなかった。


「うんしょ、うんしょ!……ちからが足りないや。ううう……本当に、ごめん……」
「謝ることはありません、私には感謝の気持しかないですよ」
「でもぼく、ともだちになりたい人のことを……傷つけちゃった……」


心から悲しむホイミンの純粋な気持ちに触れ、チャモロはゲントの村の子どもたちを思い出した。
人と人との心の繋がりに思い悩む弟や、妹のような世代に広く説法をしていた記憶を。


「……ままあることです。失敗することもある。皆、悩み、苦しみの中に藻掻いているのが当たり前です」
「でも、でも……『みんな友だち大作戦』は、ぼくだけの夢じゃなくて」


ホイミンの脳裏には、今まで触れ合い手を取り合った友だちの顔がよぎる。
一人よぎるたびに、溢れた涙がぽろぽろとこぼれ落ちていく。

りゅうちゃんが考えたこの大作戦をかならず遂行する、そうガボといっしょに約束した。
ライアンとの再開、天使様と養成のサンディ、団長さんとゲルダ、それにドラゴン。
友だちにはならない、と突っぱねたのにかばってくれたヒューザ。
お兄さん思いだったターニアに主人思いのキラーパンサー、ゲレゲレ。

1484Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:27:27 ID:S51TxUgs0


「だから……僕はぜったい、チャモロさんを助けてともだちになるんだ、って」
「……ホイミンさん。私はもう、あなたを友と思います」
「でも……」


彼をこうも傷つけたのは自分だ。
その思いがホイミンに二の足を踏ませたが、チャモロは身を捩り片手を這い出した。
ホイミをかけ続けた彼の触腕を、慈愛に溢れた優しさで包み込む。


「あなたが私の命を繋ぎ、こうして手を取り合うことができるのです。これは友に他なりません」
「いいの?チャモロさん。……ほんとにほんとに、ありがとう」


湧き上がる感情からか、ホイミンの身体がふるふると揺らぐ。
大きな目から溢れる涙を抑えきれずに、顔を触腕でごしごしと拭った。
チャモロは握っていた片腕を力なく緩める。


「……だから、もうお逃げください。じき、キラーマジンガを連れてアベルはここに至るでしょう」
「チャモロさんにも、せんさーがあるの?」
「いえ……そうではありません」


まさかこのメガネが、とホイミンがあたふたするのを否定する。


「奇しくも、私は彼と同じく呪われていたようです。そのためか彼らが近づくのを目で見るよりも早く感じ取れている」


チャモロの身体に刻まれた呪いが、同種とも呼べる地獄の呪いを宿したアベルの接近に反応しているのだ。
宿った呪いの意思は、より強い呪いを感じ取り、共鳴を始めて疼いていた。
皮肉なことに、不運の呪いが近づく危機を知ることとなり、こうして役立っている。


「じゃあ、ジャンボたちを呼んで手伝ってもらおうよ……!」
「いえ、それでは間に合わない……アルスさんが先に到着することを願っていましたが、叶わなかった」


チャモロは苦々しい顔をホイミンに向ける。
諦観を帯びた表情だと、そう言えた。
アベル達がアルスよりも先んじて到着したということは、考えたくは無いが最悪のケースが頭をよぎる。
次々と仲間たちを失い、体力の尽きたこともあり、チャモロは己の無力感、諦めを感じていたのかもしれない。
暗い考えが呪いの勢いを増し、死を徐々に招いているようにすら思えた。


「ともだちになれたばかりの貴方をむざむざ殺させはしません。門の中にお逃げください」
「……ううん」

1485Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:29:12 ID:S51TxUgs0
ホイミンは、ホイミをかける手を止めた。
そして傍らに立て掛けておいた二振りの杖のうち、一本を触腕で握りしめ、杖を空に掲げる。
それは瓦礫の隙間をどうにかくぐり、門の内側から持ち出した、彼の大作戦の切り札のひとつ。


「ベホマみたいに治せなくてごめんね。呼べばきっとサフィールとジャンボと、ねぷりむが助けてくれるから」
「ホイミンさん?待ってください、ホイミンさん!」


杖を掲げたホイミンの姿に、チャモロは驚愕する。
右腕を下ろし、振り返って微笑んだその表情には、何らかの覚悟が秘められていた。


「ぼく、『みんな友だち大作戦』ぜったい成功させるから。だからそれは預かっててね」
「ホイミンさん!」


チャモロの前に大切に取っておいたヒューザのメモを、今しがた掲げた杖を重し代わりに置いていく。
そして、立てかけられたもう一振りの杖を胸に抱え込むように握りしめる。
ホイミンは勢いよく大地を蹴って、駆け出した。
その方角には、ネプリムが察知した同種の機械が。
そしてチャモロの感じ取っていた呪いの力の持ち主が、じわじわと歩み寄っていた。



---------



「ジンガー、停止だ」
「破壊サレタ門デス、熱源反応ガ1ツ」


トラペッタの外壁は高く大きい、やや離れていても街道を進めばすぐに視認できる。
アルスたちを見失ってから、体力を温存しつつゆっくりと街道沿いにトラペッタを目指した彼らもまた容易に確認できた。
だからこそ、大きな音がした後に何かが崩れる音を続けて聞いていた。


「タイミングからして、サフィールたちが門を破壊したと考えられますが……」


破壊した後の対応は大きく2パターン考えられる。
門の中で籠城を決め込むか。
破壊したのはブラフであり、実際は町の外に逃げているのか。
サフィール一人では考えつかない荒っぽい策ではあるが、同行者の発案ならあり得る話だ。
見たことのない種族ではあったが、おそらくホビット、ドワーフ当たりの亜種か。
あれは戦闘においても常に頭を巡らせているように感じられたため、真っ先に警戒すべき対象と考えている。


「まずは、対応を先決しますか」

1486Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:32:49 ID:S51TxUgs0

そんな考えを一旦横に置き、アベルは近づいてくる何者かに意識を移した。
武器を構えるどころか握りもしないのは、余裕の表れか、体力の温存か。


「警戒態勢。迎撃シマスカ」
「少し待とう」


現れたのは、小さな影。
少女だ。
それも、彼が今、求めている姿と相違ない。


「また会えましたね」


アベルはふたたび、娘であるサフィールと相対する。
前に出ようとするジンガーを制して、彼はにこりと微笑んだ。


「……」
「わざわざ一人で来てくれたのはとても嬉しいですよ」
「!」


言葉を一つも交わすことはなく、少女は黙って踵を返す。
トラペッタから見て東、森のある方角へと走り出した。


「おや」
「お父さん、こっち!こっちに、おいでよ!」


先程の戦闘の後とは、想像もつかないほどの元気な声で誘うサフィール。
当然、このようなあからさまな誘導に乗る理由など、アベルには欠片も存在しない。


「鬼ごっこでしょうか?」


薄い笑みを浮かべながら、敢えてアベルは彼女の方へと歩みを進める。
ジンガーは当然付き添うべきものと考えていたが、アベルは掌で制した。


「ジンガー、地図の把握は」
「インプット完了済ミ、地形把握シテオリマス」


良し、とアベルは了承し、指でトラペッタ方面を示す。


「あの町に南門以外の入り口があるかはわかるかな」
「北西ニ中型ノ門扉ヲ確認シテイマス」
「その門の状態の確認を頼みました。あの南門以外から逃れているかもしれない」

1487Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:34:27 ID:S51TxUgs0

敢えて分断し、片方を無事に逃がす作戦が行われていると踏んだアベル。
ゆえに、こちらも同じく分断作戦を取った。
ジンガーに偵察をさせ、目の前の誘いには自身が一人で対処を行う腹だ。

.        ・・
「出会った存在は彼女を除いて、排除して構いません」


ジンガーの腕を軽く叩き、自らはサフィールの向かった方角へと歩みだす。
忠実なる機械兵士は、最後に主へ質問を投げかけた。


「戦闘ニ関スルゴ命令ハ」
「死力を尽くすように。合流の時間は遵守してくださいね」
「了解イタシマシタ」


東の森の方角へと向かう主の背を単眼が見つめていた。
主の見送りも済み、ややあって任務遂行への動作を開始する。


「─?」


センサーが違和感を捉える。
ジンガーは門に向けてもう一度探査を行った。


(熱源反応ガ門ノ位置ヨリ動イテイナイ)


南門の辺りから近づいてきた何者かが、先程察知した1つの熱源ではなかったのだろうか。
主の行く先をさらに探知しようとする。
が、距離が空いていたためか、サーモグラフィーが捉えたのは離れていくアベルの熱源のみであった。
任務から外れるが、南門の熱源の正体を探りに行き、主に伝えるべきか。
それとも主の言葉通りに、北西の門へと向かうべきか。


「……任務開始」


ジンガーは一時動きを止めて─結局、当初の目的を果たすために移動を開始した。
彼は忠実なる機械兵士。
主の命令を絶対遵守する存在であった。




---------

1488Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:36:33 ID:S51TxUgs0


「ようやくターバン男と鎧の魔物を撒けたのに再び出会ってしまうなんて」


丘陵の陰に身を潜めていた女僧侶が、そろりと町に続く街道を見張る。
潜むにはいささか縦に大きい僧侶帽が見つかってしまうので、胸の前に抱えていた。


「ツイていませんね私達。その呪いどうにかなりません?」
「……そういうあけすけなところ、僕けっこう嫌いじゃないよ」


ため息まじりで率直な言動を受け流し、アルスは気づかれない距離から様子を伺う。
アルスは突如として闖入してきた女僧侶フアナの助けを借り、辛くもキラーマジンガの猛攻から逃れた。
しかし目的の方角は見通しの良い街道沿いの平原であり、まっすぐ町へ向かってはあっさり追跡されてしまう。
そのためトラペッタ南西の丘陵地帯を通過して町の西の方角へと向かっていた。
しかし、北西の門が壊れ封鎖されていることを確認して南に戻る途中、南門から見てちょうど外壁の角に隠れている地点。
その地点での休息を余儀なくされていた。


「まあ私は優秀で魅力的でアリアハン美少女コンテスト激励賞受賞ですから、そう思うのも無理ありませんが」
「はいはい。ホイミはまだ無理そうかな」
「最後のバギでもう限界でして……」


なにせ、アルスは戦闘の影響もあり、足の傷も痛みを増している。
フアナのほうもひどい負傷と疲労で魔力も打ち止め、先程逃げ切れたのが奇跡と言っても相違無い。
途中走ることもままならなくなり、結果、アベル一行と接敵寸前の危険な状態に再び陥っている。
ゆえに、彼らはなんとかして戦闘を回避してチャモロとの合流を果たす必要があった。
街道を悠々と、まっすぐ進む2人の姿を確認してからは、こうして息を潜めて居る。


「しかしこちらが感づかれて居ない以上再び急襲すべきと私の勘が働いていますよ」
「ダメだよ、これ以上近づいたらキラーマジンガに感知される。強さだけじゃないんだ、厄介なのは」
「ダメですか。これではいつまで経ってもお連れの僧侶さんと合流できませんよ?」
「うん……まあ。今考えてるよ」


道中、軽く状況を伝えては居るが突拍子もない言動の目立つフアナにアルスは面食らっていた。
底しれぬガッツは評価するものの、はっきり言って協調性があるかと言われれば疑問か浮かぶような女性だ。
とは言え助けられた恩もある。
いつ限界を迎えてぶっ倒れてもおかしくない暴走機関車を前に、アルスは逆に冷静にならざるを得なかった。


「それに何か門がついさっき壊された感じですし……お連れ様、破壊衝動とかお持ちですか?」
「そんなわけないでしょ。たまたま壊れたのか攻撃を受けたのか……チャモロさん大丈夫かな」
「ここから観察したりできれば良いんですけどね。アリアハン野鳥の会に居た頃と比べて随分視力が落ちた感じがします」
「そんな都合よくはいかないよねえ……南門が観察できればなあ」


南門が確認できる方まで南下しては、感知される領域に侵入してしまう。
うかつに伺ってキラーマジンガに見つかっては元も子もないため、周囲を探りきれずにいた。

1489Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:37:03 ID:S51TxUgs0


「……あっ、そうそう。私の仲間に盗賊がいたんですよ」
「盗賊?」
「それで……こうグワッと目を見開いて周囲の様子を探索する術がありましたね」


あっけらかんとした様子のどこかに悲しみを潜ませながらも、仲間の記憶を思い返すフアナ。
そんな便利な特技が本当にあるのかと、疑問に思いつつもアルスは意識を集中させて、町の方角を探ってみた。


「あっ見えた」
「見えました!?」


芸達者アルス、ここにきて記憶に無いはずのタカのめの勘を取り戻す。
本来習得していない特技ではあるはずが、これも『可能性』の為すところなのか。
もしくは、遅咲きの才能の開花が今、徐々に影響しているのかもしれない。


「しーっ、声が大きいよ……うん、見えてる。町の壊れた門と……!」
「なんです?」
「チャモロさんが下敷きに……あと、あの青いのはなんだろう……スライム?」


当然、この特技では何を話しているのかまでは把握ができない。
アルスが目撃したのは、チャモロの命の恩人の正体が、ホイミスライムであること。
そして彼の命を繋いだ後、単身アベルたちの方角へ向かっていったこと。


「ホイミスライム?まさかあの2人に戦いを挑むというのですか!?何というファイティングなスピリット……」
「ちょっ、うるさいから黙って」

エキセントリックな独白を横目に、彼の足取りを追う。
視点を変えたときに把握できた光景は、アベルは何故か東に、キラーマジンガは北西へと進路を変えたこと。
アルス達にとって千載一遇の好機が訪れた。


「二手に分かれた!?これはやはり急襲せよとのお告げ」
「そんな事言ってる場合?キラーマジンガこっちに来るよ」
「……戦力的には勝てる確率が10%とソロバン計算準一級の私が……」
「もっと少ないでしょ。……イチかバチか、だ。フアナさん泳げる?」
「得意ですよ、水泳教室に通ってました」


アベルがキラーマジンガとわざわざ別れて彼女を追いかけていった理由までは正直想像がつかない。
しかしこの機を逃してはならないと、アルスとフアナはトラペッタの堀に身を隠す。
キラーマジンガをやり過ごし、チャモロの救出に向かうためだ。
熱源探査の仕組みを知っていたわけではないだろうが、幸運にも水の中まではその魔の手は及ばない。
それ故彼らは無事にすれ違うことができ、南門方面へと進むことができた。



---------

1490Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:38:18 ID:S51TxUgs0


「今度は隠れんぼですか?あまり奥に行っては禁止エリアに入りますよ」


木々の合間を縫い、徐々に遠ざかる小さき背を見据えながら、優しい口調で語りかける。
彼の面持ちは、殺し合いの場にひどく似合わない様子だった。
まるで、小さな子供が持つ無邪気さすら感じられるほどに澄んだ瞳をしている。


「─ぁっ、はぁっ……はぁっ……」


荒い呼気とともに短めの黒髪が靡き、すっかりくたびれた赤いリボンがゆらゆらと同調する。
少女は着実に迫りくる男の気配を感じ、何度も後ろを振り返りつつ、曲がりくねるように走った。
対する男は涼し気な表情を崩すことはない。
逃れ行く少女の行く先をなぞるように、ひとつだけ立てた指を動かす。
仄かな魔力の光が指の動きに沿い、宙に線を描いた。


「『バギ』」
「!!」


たちまち真空の刃が空気を引き裂き、枝葉を断ち切る。
さらには地面まで深く抉るほどの破壊力は魔獣の牙を彷彿とさせた。
半ば暴走気味の魔力を内包したが故の力を知らしめた呪文。
容易く使いこなすその胆力は身に抱えた呪いの影響か。
それとも、内に秘めたる深淵が解き放たれたが故か。


「たっ……!」


迸る真空の刃の奔流に引き倒されないよう態勢を低くした。
しかし飛び交う小石や矢のように迫る小さな枝が細かな傷を生み出していく。
逃げ惑ううちに、足元がおぼつかなくなり、やがて木の根に足をひっかけた。


「ううっ……!」
「てっきり一騎打ちを挑みに来たのだと思いましたが、逃げるばかりですね」


木々の感覚が広がり、やや視界の開けた位置に少女の姿が飛び出る。
ゆっくりと、まるで散歩でもするかのようにアベルはその空間に現れた。


「……はぁっ、はぁっ、はぁっ……ちがうよ」
「では、何ですか?」


まるで子供に語りかけるように、アベルはしゃがみ込んで目線をあわせた。
両者は、もう2、3歩近づくだけで、抱きすくめることができるほどに接近している。


「ホイミスライムくん?」

1491Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:39:19 ID:S51TxUgs0


たちまち変化の杖の効果が切れ、本来のスライムの姿が顕になる。
後ずさりするホイミンだが、これ以上奥に逃げては本当に禁止エリアに入ってしまう。
無駄だということはすぐに理解してふわりと宙に浮く。


「どうしてわかったの」
「沢山ありますよ。その杖の事前知識もありましたが」


アベルは魔物使いだ。
当然、魔物の生体に関して誰よりも把握している。
ゆえに、目の前の娘の姿をした何某かが、人間の身体を動かすことに不慣れであることは容易に理解できた。
右に、左に曲がる度に体重が制御できていないことも。
浮遊している状態が常であるため、足元の障害への確認が疎かであったことも。
すべてが正体を示していた。


「二本の足で立って歩くなんてよく解らなかったでしょう?」
「……うん、むずかしかったよ……」
「ふふっ」


自分で誘いをかけておきながら、ホイミンは不思議でたまらなかった。
アベルの一番の目的はサフィールを自らの手で殺すことではなかったのだろうか、と。
ジンガーを置いていったときは下唇を噛み締めたが、どうも門に真っ直ぐ向かっていないことだけは横目で確認していた。


「どうして来てくれたの?」


無論、弁論が立つホイミンでは無いためストレートに疑問をぶつけざるを得ない。
アベルはまるで子供に語りかける親かのように、優しい声色でその問に答える。


「君がわざわざこんなことをする理由を知りたかったんですよ。用事があるのは君でしょう?」
「……ぼく、ね。おじさんと、お話がしたかったんだ。どうしても」


アベルは反応があったことに、おや、と笑みを浮かべる。
命を賭けた囮─無論、サフィールが非道な作戦を許すはずもなく。
あの同行者による催眠か命令─であることを想像していた。
ところが確固たる意思で自分に向かってきたと言う。
これでも、旅をしていたころは、多くの魔物たちを従順に従えていた身分である。
魔物の自主的な行動だと予想できなかったことに、疑問が生まれたとともに、ほんの僅かに興味が湧いた。


「ぼくね。『みんな友だち大作戦』を、成功させたかったんだ」
「─友だち?」

1492Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:41:10 ID:S51TxUgs0

ホイミンは、大作戦の全貌を語る。
かつて人類と争った竜王のひ孫という立場の人物が、人間と手を取り合うことを望んだことを。
自分を含め、共感を得たたくさんの人間が、殺し合いの中でも信頼関係を築くことを諦めなかったことを。
しかし─多くの犠牲があったことも。


「それでね。サフィールのお父さんの話を聞いたときに、思ったんだ」
「……」


ホイミンは懇願のような、はたまた怯えるような表情を見せつつも、アベルから逃げようとはしなかった。
祈るような仕草で、自らの触腕を握りしめている。


「おじさんなら、人間も、魔物も、関係なく、みんなと友だちになってくれるかなって」


気づけばぽろぽろと、ホイミンの双眸からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。
魔物であるが故に、彼から感じる深き闇の影響は非常に色濃い。
気圧され、その視線だけでジンガーやリオウのように服従の道を選んでいてもおかしくなかった。
だが、大切な約束だけが、彼のなけなしの勇気を繋ぎ止め、彼と一対一で対峙させることを許していた。


「私にも友だちがいてね」
「えっ?」


穏やかな語り口調が目の前から聞こえてきて、一瞬ホイミンは自分の聴覚を疑った。
腕組みをしたまま、どこまでも深い黒色の澄んだ瞳を細め、アベルは言い聞かせるように話し始めていた。


「ヘンリーと言って、一国の王子でした」
「……?」
「そのころ私は自分もまた王子であることは知らなくて、王子様のくせに乱暴な子だ!なんて思っていましたよ」


まるで旅路の途中焚き火を囲むかのように、ゆっくりと座り込んだアベル。
彼の告げる言葉には不思議な優しさと説得力で満ちていて、ホイミンは気づけば引き込まれていた。


「私の半生もサフィールから聞いたかもしれませんが……訳あって奴隷に身を窶しました。私とヘンリーはね」
「き、聞いたよ。冒険して、おじさんも王子様だと分かったあとも、国同士で仲良しだった……」
「そうですか、そこまで聞いてましたか。─思えば」


多くの過去に浸るかのように上を見上げて思案に耽るアベル。
呟くように思いを吐露した。


「彼と過ごした時間は思い返しても、嫌な気分ではありません。むしろ、心地が良かったのかもしれない」

1493Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:42:09 ID:S51TxUgs0
「……それじゃあ……」
「そうですね……君の言う、誰もが信じあえる間柄となれば、今起きている殺し合いが止まる……」


座り込んだ姿勢から立ち上がり、土を払うアベル。
彼の涼やかな笑顔見たホイミンは、不安、恐怖を吹き飛ばすような気分に駆られた。
ここが未だ殺し合いの舞台であるとは思えないほどに、優しい心地良さがあった。


「それは確かに、そうかもしれない」
「……!だったら、サフィールを傷つけるのはやめて。もう戦わないで」

. ・・・・
「ホイミンくん」


呼吸が遮られたかのように通らない。
視線が、石になったかのように動かせない。
ただ名前を呼ばれただけなのに。
たったそれだけで、心臓を掌握されたかのような感覚が生じた。


「─それには、友だちという脆い絆では足りない」


どっと吹き出る汗だけが、自分が石化した訳ではないという証明だった。
威圧とは、少し違う。
理解し、全てを受け入れる、慈愛染みた感情。
だがそれは愛と言うにはどす黒い。
例えるならば、底の知れぬ穴。
どこまでも深い、吸い込まれてしまうような虚空。
ホイミンは、自分の知るだけの語彙の中から、表現するに相応しい言葉を見つけ出した。


(魔王)


触腕で、後ろ手にいていた杖を掲げようとする。
しかしこの身体は金縛りにあったかのようだ。


(動けない)

「私が8年間の間石となっていたのを救い出したのは自分の子どもたちでした」

(動いて)

「私の行方知れずの母の手がかりを自分自身で見い出した」

(動かなきゃ)

「─私の父が殺されたきっかけは、誰だった?」

1494Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:44:42 ID:S51TxUgs0


(うわああああああああっ!!!)


半ば痙攣し跳ね上がるかのように、竜の頭部を象った杖が頭上に掲げられる。
ホイミンの姿は、またも別のなにかへと転じていった。


「フゎがァああアアあぁーーーーッ!!」


持ち出したもうひとつの杖─ドラゴンの杖の力を借りて、青く透き通るような鱗を持つ竜へと変貌したホイミン。
亡霊に抱擁されたかのような怖気を全身に覚え、恐怖を振り払うかのように頭を激しく動かし、慟哭を上げる。


「友だち……友愛の情もまた、私は否定する。何の力もありません─空虚だ」
「ふゥっ、フゥゥっ!グァァァッ!!!」


心優しいホイミンが、アベルを殺すために考えたたった一つの切り札。
ドラゴンの巨体を利用して、禁止エリアに押し込むことで、自らを犠牲にアベルを倒す。
それが、サフィールに悲しいことをさせないための、自分の取れる唯一の手段であった。


「不愉快さすら、そこには残らない」


激しい叫びと共に、ホイミンは初めて本当の戦闘を体感する。
炎のブレスの吐き方などまるで解らない。
ただ、巨きくなった身体を力任せにぶつけることだけだった。


「ですからホイミンくん、私と『本当の友だち』になりましょう」
「ガアアァァあああぁぁっ!!」


そんな決死の攻撃に対して、アベルは。
打ち払うことも、迎え撃つこともせず。


「言ったでしょう。二本の足で立って歩くのは難しいと」


ただゆっくりと歩いて身を躱した。
それだけで、彼との戦いは終わった。


「!!!」


大きな音と共に転倒して、強かに身体を地面に打ち付ける。
もともと限界だった呼吸が止まりかけ、臓器が潰されたかのように痛んだ。
身を捩って起こそうとしても、自由に身体が操れない。

1495Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:46:10 ID:S51TxUgs0

「尻尾を持ったことが無ければ、自分の足で踏みつけてしまいますよね」
「ひゅぅ、ひゅう……」


ホイミンは、ホイミスライムだ。
決死てドラゴンではあり得ない。
自らの尾を踏みつけ、無様に倒れ伏す結果だけがそこに残った。


「分不相応な物で、よく頑張りました。……ですが、私は魔物つかい」


アベルは追撃を行うでもなく、倒れた竜の顔面の目の前まで行き、じっと目を合わせる。
そして頬を撫でるような仕草で優しく触れながら、諭すように声をかけた。


「その目の前で荒ぶる魔性を発揮したところで逆効果でしかありませんでしたね」
「ぅ……ぁ……」


ほどなく、するすると身体は縮んでいき、元のホイミスライムの姿へと戻る。


【ホイミンを、やっつけた。】


力なく倒れるだけのホイミンの身体を、アベルは赤子のように丁寧に抱き上げた。


【なんとホイミンが おきあがり……】


「ホイミンくんは……」
「……」
「『人間』になるのが夢なんだね?」
「!!」


【なかまにしてほしそうに こちらをみている】


(心を、のぞかれた?)


自分の中の大切な宝物が引きずり出され、博物館の展示品となることを強制されたかのような感覚だった。
言葉が告げられないホイミンは目を背けることも腕から抜け出すことも叶わない。
魔性の者に生まれた宿命か、どう足掻いても、その衝動に逆らえない。


「ならば私と本当の友だちになれば良い。私の母には魔物を人間に変える力があったそうです」
「──」
「君の願いは、夢物語なんかではありません」
(やめて……っ)


ただ、辛うじて身を捩り、頭を振って否定の意を示すことだけで精一杯だった。

1496Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:48:16 ID:S51TxUgs0

【なかまに『してあげますか』?】




---------


「主の生命を第一に考えよ」
【イノチ ダイジニ】

「ホイミ!」

「ホイミ!」


度重なる激戦、蓄積したダメージ、傷ついた身体。
元来、ホイミスライムは助けを求める声に純粋に従う習性がある。
命令があってから、ただひたすらにホイミンはアベルを癒やし続けた。


「ホイミ!」

「ホイミ!」

「もう魔力が尽きたか。ホイミン、また魔力が回復したらお願いしますね」

「ふわふわん」


忠実にアベルの言葉に反応し、付き従うホイミン。
その瞳は虚ろで、何も見ているようには思えない。


「では戻りましょうかホイミン。ジンガーが待っている」

「コンニチワ」

「行動中は私の後ろをついて来るように」

「ハイ、ライアンサン」


突然飛び出た名前に覚えがあったアベルは、ほんの僅かではあるが眉をひそめる。
確か、放送でその名は告げられていた。
激しい戦闘の折、アベル自身はもはや気にして居なかったが、ジンガーが完全に把握していた。
情報共有していなかったらアベルは意にも介して居なかっただろう。


「ライアンというのは、君のご主人さまだったのかな」

「ライアンサン、ダイスキ」


心の無いからくり人形染みた言動。
特に嘲るでもなく、アベルはごく自然に微笑みを崩さずに告げる。
ホイミンが悲しみ嘆くであろう真実を。

1497Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:49:12 ID:S51TxUgs0


「ライアンはもう死んだ。今の君の主は、アベルだ」

「ライアンサン、ライアンサン……」


友愛の情を上塗りして彼と『本当の友だち』となったつもりで居たアベルはこの結果に多少の不満を覚えた。
これから時間をかければかき消えていくと思われたが、これからずっと喚かれるのは少々騒がしいし、何より少々癪である。
アベルは今一度、ホイミンの身体に手を触れ、瞳を見据えて告げた。



「ホイミン。『みんな友だち大作戦』ですが─」

「ピキー……ピキー……」

「さくせんは変更ですよ、ホイミン」

「ア……」


「隷属せよ」
【メイレイ サセロ】



救いを求める声はもはや発せられない。
今のホイミンに許されたのは、ただ、主の命に従うことだけだった。

1498Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:50:09 ID:S51TxUgs0


【G-2/トラペッタ/2日目 午前】

【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP:7/10 MP 1/5 左足矢傷(応急処置済み)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×3、999999ゴールド あんみんまくら@DQ5
[思考]:基本方針:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される。みんな友達大作戦を手伝う。
1:ホイミンを捜索する。
2:父の狂気を治める。不可能ならば倒す。

【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:HP8/10 MPほぼ0
[装備]:ナイトスナイパー@DQ8
[道具]:支給品一式、道具0〜3 四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1(ゲレゲレの支給品)
支給品0〜1(ヒューザの支給品) 悪魔の爪@DQ5 
天空の剣、罠抜けの指輪 罠の巻物×1 ドラゴンローブ 砂柱の魔方陣×1 天使の鉄槌@DQ10 
メガトンハンマー@DQ8 
[思考]:基本方針:エビルプリーストに借りを返す。
1:アベルを倒す
2:首輪解除を試みる
[備考]:※職業はどうぐ使いです。弓スキルは150です。ハンマースキルは100以上です。

※ 折れた灼熱剣エンマ@DQS ドワチャカオイル@DQ10 を状態票から削除


【ねぷりむ@DQ10キラーマジンガB】
[状態]:HP1/6 背中にヒビ 右腕義手
[装備]:名刀・斬鉄丸 @DQJ 聖王のハンマー@DQ10 ビッグボウガン @DQ7 アクセルギア@DQ10
[道具]:支給品一式×3、魔封じの杖、道具0〜2個(ブライの不明支給品)、道具0〜2個(ゴーレムの不明支給品)
[思考]:基本方針:サフィールについていく。ガンガン戦う。
[備考]:DQ10のキラーマジンガの特技を使いこなします。
ゴーレムの記憶を持っています。




【G-2/トラペッタ南門(崩壊)/2日目 午前】

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP1/10 MP1/10 左腕骨折(応急処置済み) ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)(加速状態)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:基本方針:諦めない。ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める
1:ホイミンを救出する
2:首輪解除の為に、ジャンボ、サフィールへ会いに行く (ジャンボには半信半疑)
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。また、はぐれメタルの職業を少なくともLv7まで経験しています。魔法使い、魔法戦士、賢者、勇者は経験していません。
ジャンボに対しては信頼感の反面、疑いも抱いています。

へんげの杖
ヒューザのメモ(首輪解除の手掛かりが書いています)
以上がチャモロの傍に落ちています。

ホイミンのふくろ(支給品一式 (不明支給品0〜2個))は、トラペッタの町側に置いてあります。

1499Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:50:48 ID:S51TxUgs0


【G-2/トラペッタ周辺の堀 /2日目 午前】

【アルス@DQ7】
[状態]:HP3/8 MP1/5 左足に怪我(素早さ低下) 右腕から胸にかけて裂傷(応急処置済み)左肩に刺傷(治療済み)ずぶ濡れ
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜1) ゲルダの不明支給品0〜1個(確認済み) 道具0〜2個(本人確認済み) 
[思考]:基本思考:この戦いを終わらせる。
1:ミーティア、キーファを探す。
2:サフィール達に会いに、トラペッタへ戻る。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。
本来習得不可能なはずの「タカのめ」のカンを取り戻した。


【フアナ(女僧侶)@DQ3】
[状態]:HP1/8 MP 0 ずぶ濡れ
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 パラディンの秘伝書 不明支給品0〜1(本人確認済み) かりうどの弓@DQ9 カマエル@DQ9
[思考]:基本思考:自分だけが出来ることを探す。
1:仲間たちの死を受け止め生きる。
2:緑フード(アルス)と共に、トラペッタへ向かう
3:アベルを倒し、アスナとコニファーの仇を討つために仲間を集める。
[備考]:
※バーバラの死因を怪しく思っています。
※ローラがアルスとチャモロにかけた呪いを見ることが出来ます。


【G-3/トラペッタ南東の森〜平原 /2日目 午前】

【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP3/8 手に軽い火傷 MP1/5 ※マホキテによる回復
[装備]:破壊の剣 ドラゴンの杖@DQ5 地獄の鎧@DQ3
[道具]:支給品一式 剣の秘伝書 ヘルバトラーの首輪 毒針
[思考]:過去と決別する為戦う。力を得る為、愛情をもって接する(そして失う為に)
1:すべての愛を消し去るためにも『みんな友だち大作戦』を実行する。

※破壊の剣と地獄の鎧の重複効果により、更に強力になった呪いを受けています。
動けなくなる呪いの効果が抑えられている反面、激しい頭痛に襲われています。


【ホイミン@DQ4】
[状態]:健康 MP0 仲間モンスター化
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:ライアンサン……

1500 ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:52:53 ID:S51TxUgs0
投下を終了します

1501ただ一匹の名無しだ:2021/06/03(木) 23:27:55 ID:iacXUCKs0
『ドラゴンクエストIX
星空の守り人実況 その1』
(22:27〜放送開始)

hts://www.youtube.com/watch?v=K5e_9zMvaRg

1502ただ一匹の名無しだ:2021/07/29(木) 01:03:47 ID:cmv4n1CA0
マジかよ!?って口をついた結末でした。面白かったです。
あと、
>だがそれは愛と言うにはどす黒い。
この一文がとても響きました。お疲れ様でした。

1503 ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:32:18 ID:chZJ0etU0
テスト投稿

1504哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:33:12 ID:chZJ0etU0


“ブライ!” “ライアン!”

トロデーン城を後にせんと席を立つピサロの耳に届いた死者の羅列。
彼にとってはひどく忌むべき声によって告げられたその名は、僅かの間ではあるが共通の敵を目指し、共に歩んだ者たちのものだった。

「……」

ピサロの眉根が微かに寄る。
理由は、己に反旗を翻した邪僧のナルシシズムに耽った声が気に障った─

(彼奴を知る者も私だけか)

それだけでは、なかったのかもしれない。


“スクルド!”
“コニファー!”


ポーラもまた、天より響く声から死の事実を突きつけられる。
スクルドの命が潰える瞬間を、自分はその目で見ていた。
コニファーの骸を目の当たりにした。
肩を並べた旅の仲間たちの死を、確かに理解はしていた、そのつもりであった
しかし、彼女は旅の仲間の中ではアークよりもなお若い。
この舞台に一人取り残されたという事実は、辛く、暗い影を落とす。
それは僅かに身を竦める結果を招いた。

「行くぞ」
「!」

先に声を上げたのはピサロだった。
ポーラからは、声に出して尋ねたいことが幾つか浮かぶ。

“あんたの仲間は、生きていたの”
“月影の窓の中に、何を見たの”

それらの疑問点は、ピサ、ロのどこか焦燥した顔を見て、浮かんでは消えていく。
彼の目的が危ぶまれる“何か”を知ったのが理由なのだろうか。
本音を言えばコニファーと、アスナという名の少女の、物言わぬ躯をそのまま荒れ果てた城に打ち捨てることには抵抗があった。
しかし、図書室の扉を乱雑に開くピサロを前に自然と口は噤まれ、ポーラはただその背を追うことしかできなかった。

「……」
「うっ」


そんな彼の背中を追うポーラの鼻先が、どんと軽く背に突き当たる。
バトルマスターとしての実力から考えれば不相応とも言うくらいの背丈である彼女は、顔面を黒い外套に埋めてしまった。

「ちょっとピサロ、何……」
「……」


彼女が不平混じりに魔王の視線の先を覗き込んだ。
トロデーン城の正門が音をたて揺れている。

1505哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:34:26 ID:chZJ0etU0

(どん……どん……

 どんどん……どんどん……)

風や地鳴りによるものではない。
誰かが門の前に居ることは明らかだった。

(どん…)

「来客だ」

( だんッ だん、だんだんだんッ‼︎ )

扉を揺さぶる音が、徐々に焦燥を帯びていく。
揺らす音から叩きつける音に。
その音は高まり続けて、やがてー

「もおっ!」

小さな影が体諸共飛び込むように、扉の隙間から滑り込んで来た。
少女の身体には城門の大扉は些か大きく重たい。
全身で体当たりをするようにしてそれを開いた。
疲労を隠せない肩は荒く上下し、櫛で整えられていたのが常だったであろう巻き毛も乱れている。

「あ、いた!」

ピサロが回収したお別れのつばさを求め、勇者アンルシアの手を振り切って。
幼気な少女に過ぎなかったティアは、たった一人で城に駆け込んだのだ。

「勝手にだいじなもの持っていったでしょ」

微笑ましくも、どこか不安を呼び起こす。
少女はそれほどに空虚な表情を浮かべていた。

「追いかけるの、すごい疲れたんだから」

がちゃり、と少女が背負う剣が鳴る。
前屈みに息を整えた際、滑り落ちかかったそれを慌てて抑えた音だ。

「それに、お兄ちゃんが死んだなんて言うヤな声がまた聞こえてさ」

彼女ーティアの頬が濡れ、涙の線が幾重にも走っていた。
その顔は嫌悪や悲憤により、くしゃくしゃに歪んでいてもおかしくはなかった。
だと言うのにその素振りもなく、生来持ち合わせた元気さを含んだ声はどうやら震えることはない。
それは、勇者の血を引くものとしての強さだった。
だというのに、双眸からはらはらと落ちる涙が矛盾した光景を生む。
これは、弱さの現れだ。

「うるさくて、頭がどうにかなっちゃいそうなんだよ……」

彼女自身、内で荒ぶる感情を、どうしていいかわからないまでに乱されていたのだろう。
快活な声だった声が、ここに来て初めて萎れて行く。

1506哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:36:24 ID:chZJ0etU0
「フ……」

ピサロは、カマエルの捜索とそれに伴った襲撃者の痕跡が辿れぬ現状、さらには月影の窓についての考察など抱えきれぬほどの情報を精査する間もないことに嘆息を漏らす。
加えて危険分子になりつつある少女が単独でここまで辿り着き、何をしでかすかわからないという事実に、宛ら抜き身の刃を不意に目の前に投げ出されたかのような感覚を覚えた。
受け止めるのか、身を躱すのか。
逡巡の時間を求めることすら許されない。

「煩くてどうにかなりそう、か」

大きく息を吐きつつピサロは続ける。
憎きエビルプリーストにも。
誰も彼もが儘ならぬ、自分を含めた生存者たちにも。
思えば最初からそうだった。
魔族の王へと上り詰めるまで、幾多の戦を交えたか。
その争いにやがて人間どもが加わり策を巡らせる羽目となり。
挙句、この舞台では人間たちの殺し合いにも気を張らねばならなかった。
目の前の少女が振りまく子供じみた激情に、ピサロは不覚にも共感めいた感情すら抱いてしまった。
それこそもう、何もかも投げ捨ててしまいたいような。

「全くもって同感だ」

魔族の王は、伝説の剣を携えた勇者の末裔と相対した。


*********


「ねえ……ひとまずつばさを返してあげたほうがいいんじゃない?」

ポーラは見えざるものを見ることができるのと同じように、周囲の人々が抱く感情にも敏感であるという自覚がある。
だからというわけでもないが、肌で感じ、眼で見るだけでも、少女の心の内に対し、何某かを感じた。

「ティアちゃんだっけ。怒って……いや、なんて言えばいいのか……」

憎しみとも、怒りとも少し違っていた。
彼女の心にあるのは巨大な、埋めようのない喪失感。
最愛の兄を、そして同様に慕う兄の仲間たちを立て続けに奪われたからこそだ。
尤も、その仔細を知らぬポーラには一言で表す術を知らない。

「辛そうだよ」
「静かにしろ」
「ええ……」

成り行きで案内役となったポーラである。
こちらの意見を一方的に封じることはあまりに横暴な気もしたものの、状況が状況であった。
ティアを宥めるほど口が達者という自負もない。
できるとすれば戦闘練塾者として、無傷での鎮圧に踏み切るその時だけ。

「様子がおかしいことは解っている。だが……つばさを失う可能性があるのであれば付き合う義理もあるまいよ」

ポーラは反論の言葉を思いつけずにいた。
ピサロがティアから取り上げたあの道具は確かに、この閉塞した状況に風穴を開ける希望の一つである。
天使の道具が持つ神秘の力を、唯一間近で感じた経験のある彼女だからこそ、感情に流されて安易に少女の味方となれない。

「貴様とて脱出の可能性が奪われる可能性があるからこそ、揺蕩っているのだろう」
「……そうだけど、さあ。論破するだけして、嫌われるよ、そういうの」

結果、駄々をこねることがせいぜいだ。
ピサロはその言葉に対して何も示すことはない。

1507哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:37:13 ID:chZJ0etU0

「ねえ、返してくれないの?」
「諦めろ」

ティアの接近に対して、ピサロは腰のレイピアの柄に手を乗せる。
自ら口にしたこともあるように、彼女は勇者ロトの末裔である。
繰り返し成長を遂げた今、剣を振るうだけの力は確かに持ち合わせている。
その血を侮ることはあまりに愚策である、魔王としての経験がそう語っていた。

「帰還の術を、お前一人に使わせるという選択肢はない」
「そんなの勝手だよ」

問答で済ませているうちはまだ良い。
しかしこの舞台は殺し合いがいつ起こっても不思議ではない。
“そういうふうにできていた”。

(そう、思えば最初からだ。エビルプリーストの奴め、世界の理にすら干渉しているのか?かつての力など遥かに凌駕している)

この世界の全ては殺し合いを助長させているとしか思えないほどに、どこか神経を逆撫でる作りとなっている。
殺意に塗りつぶされた者による戦いの残滓が自然とそうさせているのか。
あるいはこの世界を象った大いなる存在の力ゆえなのか。

「それはティアのなの」
「この道具はお前に使えるものではないとしてもか」
「知らない。お兄ちゃんのところに、ティア帰るんだから。返してよ」

剣の柄が両の手で確りと握られる。
小柄な少女にとっては大振りと言える伝説の剣は、特別な血により重さを感じさせていない。
鞘を滑らせる音を僅かに立てつつ、ゆるりとその刃を明らかにしていた。
ピサロは、先ほどティア自ら口にしていた事実を再び突きつけて静止を勧告する。

「名を告げられた以上、お前の兄は死んだのだ」
「あなたもお空の声と同じことを言うのね」

ピサロの顔を睨め付ける大きな瞳に、わずかに敵意が宿る。

「私のお兄ちゃんは死なないもん。前だって、魔物にやられちゃったらサマルトリアに戻ってきたの」

のんきものだからやられちゃったのね、と後ろに付け加える。

「あたしすごい泣いたわ。ルビスさまの加護がなかったら、ほんとに死んじゃってたに違いないって言われた」

“あっ、お兄ちゃんが死んでる……"
“それがしがついて居ながら……すまぬ!すまぬ妹君!”
“えーん、えーん……”

兄がしばしの眠りについたカンオケに縋りついて、ローレルと喉が枯れるまで泣いた記憶が、ありありと蘇る。
あきなは余り印象に残っていないが側にいたかもしれない。
教会で再び起き上がる姿を見るまでは涙が止まらなかったこともはっきりと覚えている。

「神々の加護か。どこも同じものだ」

ピサロが加わった導かれし者たちとの旅路でもまるで似たようなことはあった。
自分が相手取ろうとしていていた相手はなんと神に寵愛されているのだ、と鼻白む思いすら当初は抱いた。
もっとも、その思いはピサロ自らも幾度とない死、そして蘇生を経験してなおも戦いに挑まされるうちに薄れていった。
逆に、なんとも残酷な使命を定められたのであろう、と哀れみすら抱くほどに。

1508哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:42:25 ID:chZJ0etU0

「だから私、お兄ちゃんを待たせるわけにはいかないの」
「その剣を交渉に用いるならば脅しとは受け取らんぞ」

ピサロの腰の鞘から、レイピアがすでに抜き放たれていた。
闘いの気配を感じることには自負があったポーラにも見切れぬほどに。
傍観者でしかなかった彼女もまた目を大きく見開いた。

「私は魔王ピサロ。剣を向けたことを後悔するのならば、今の内だ」
「魔王、あなた、魔王なのね……」

芽生えたばかりの闘争心が、誰かに焚きつけられたかのように熱を持つ。

「お兄ちゃんを傷つけたのも……」

ロトの剣は、少女の戦う心が確かなものとなると同時に完全に引き抜かれる。

「ルーナお姉ちゃんの国を滅ぼしたのも……」

刀身に、今にも油が滴り落ちそうなほどの光沢が走る。
しかし、その鋭い鋒にはわずかな血曇りの跡が残されていた。

「それに、ティアからつばさを取ったあなたも、みいんな魔物。わたし勇者として戦うんだから」


*********

キーファ、レックは一心不乱に走っていた。

竜王の足取りを追ううちに、自然と北の城へ近づく街道沿いをひた走っていた。
旅慣れた2人の健脚であれば、追いつくのもそう難しいことでない、かと思われた。
しかしどういうわけか行けども姿は見えてこない。

「レック、おかしいな……オレたち、もしや追い越しちまったんじゃ」

しかし、彼の人のいい声が相槌を打つことはなく。
そればかりか疾走する足音はいつの間にか1つ分となっていた。

「レック?」

いつの間にか奔ることにばかり気を取られていた。
空を見上げれば、渦巻く雲が彼等を見下している。
鳴り響いていたのは、死者の名を告げる忌々しき闇の使者の声。

「─、レック!」

いつの間にか、死者の名を告げられていた。
力の限り地を踏み締めていたはずの歩みは、その勢いを失う。
目からは光が、表情からは活力が奪われ。
まるで絶望の淵に引き摺り込まれてしまったかのように、無気力なものへと変化していた。

「レック!おい!大丈夫か!」

キーファは危うく見失いかけた同行者に向けて踵を返し、両肩を正面から掴んで強く揺さぶった。
呆けていたレックは、衝撃を受けてようやく我に返る。

1509哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:44:58 ID:chZJ0etU0

「……キーファ?」
「そうだよ!どうしたんだよおい」

二、三度頭を振って平静を取り戻したかに見えたが、傍から見ても明らかだ。
今の彼は尋常ではないと。

「あ、あ……ああ、すまない」
「……今の放送で!レック!」
「今は先を急ごう」

自分たちには、目的がある。
そう続けようとした彼の言葉に、キーファの痛烈な感情がそのままぶつけられる。

「妹さんか……!」
「…………大丈夫」

キーファは妹との今生の別れを、自らの選択により早くから経験している。
知ってか知らずか、レックも似た境遇だ。
家族との、大切な人たちとの別れに、時の彼方と、世界の狭間という差異はあれども。
片や、夢を追いかけるという形で、片や、夢から覚めるという形で、各々が決着をつけた。
まるで鏡合わせのように。
それでも。

「何、言ってんだ……!」

ときおり、張り裂けそうなほどに胸の痛みを覚えるほどに辛い記憶には変わりない。

「無理すんな!そんなツラしといて何が大丈……」

今、それを再び突きつけられた。
“死”という、一方的で、最悪な形で。
痛いほどにわかる、そんな同情の念を抱き諭すのも道理ではあった。

「俺は、彼女が責任を感じちゃうような真似はできないよ」

レックは肩に乗る手に自分の掌を重ねて、否定の意を示す。

「兄ちゃんだから、さ」

それだけ言うと、再び風のように走り出した。
このきつい坂道を越えれば、山の頂に聳える王城が見えてくる。

「立ち止まってごめんな!」
「……強がりが上手いよお前!」

キーファは、顔がどんな顔をしているか見えないよう、彼の背中を追いかける形で駆け出した。


*******


「魔物はいつもそう、私たちからいろんなものを奪う、悪いものよ」

勇者として覚束ない足取りであった少女は、“敵”の存在を執拗なほどに確かなものとする。
そうすることで、自分に流れる血の宿命を従え、一人立つことが出来ると信じていた。

1510哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:45:21 ID:chZJ0etU0

「お兄ちゃんが倒した大神官ハーゴンも……私たちをさらった、エビル……とにかくあいつも」

その剣を握る手には力が宿っている。

「魔物を操って皆を殺すなら、みんな、みんなきらい」
「大神官、そうか。これはまた奇妙な縁だ」

ティアの可憐な外見には不釣り合いですらある苛烈な覚悟の吐露は遮られた。

「憎きエビルプリーストは元は私の部下であり、そして元々は地獄の存在を祀る邪教の僧正。人間だった」
「……?」
「今となっては確かめる術は無いだろうが、お前の兄が殺した大神官もヤツと同じ……」

魔物を操り、ムーンブルクを攻め落とし、世界に混乱を引き起こした大神官ハーゴン。
彼のその正体については兄に聞いてみたことはなかった。
思案に頭を巡らせる間もなく、ピサロの続く言葉は鋭い矢のようにティアに襲い掛かる。

「人間だったのではないか?」

初めは何を言われているのか理解できなかった。
だが、投げかけられたその言葉を噛み砕いていくうちに、内容を飲み込むに至る。

「……‼︎」

遠回しに、本当に遠回しにではあるが。
兄たちを人殺しだと言われた。
途端に冷え切っていた顔がかっと熱くなり、心臓が爆発したのかと思うほどに跳ねる。

1511哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:46:00 ID:chZJ0etU0

「何それ……」
「人ならざる者、と言うだけで溜まった怒りをぶつけられるのはごめんだと、そう言っている」
「あたしたちから奪ってばっかりの魔物が何を言うのよ!!」

激昂した叫びと同時に震えが走った。
同時に、剣の柄本を爪が喰らい込むほどに握り締める。

「もういい!返して!」
「相容れないと分かれば排斥する。それが人間同士であったとしてもだ。善悪をとやかく論ずる気は私にはないが……」

仄かに熱を帯びるティアの声に対して、ピサロの答えは氷のように冷たいままだ。

「他者は魔王の私と勇者のお前、どちらに理があると考えるのか」
「知らないそんなの!」

抜き身の刃を構えたまま、ティアは駆け出した。
小柄な体躯の全体重をかけて刃がピサロに突き出される。

「槍使いの男を刺し殺したときのように考えなしに他人を脅かすのか?」
「うるさい!」

正確に言えば被害者であるエイトは死んではいない。
だが、剣を握ることも、誰かの生死に触れる経験も少なかったティアにとっては、心を揺さぶられる言葉であった。
刃は何を貫くでもなく、ピサロはひらりと攻撃をかわした。

「そういえば貴様が刺した男を癒していたホイミスライムがいたが……心優しいことだ。魔物の身にしてな」
「くっ!ぅええいっ!」
「今のお前はあれも斬るつもりだろう、魔物であるというだけで」

可憐な少女の表情は険しく歪み、奥歯はギリギリと音を立てんばかりに食いしばられている。
悪鬼に取り憑かれたかのように、目を血走らせ、闇雲に伝説の剣を振り回すその姿。
果たしてどちらが善で、どちらが邪悪か、判断に迷うほどに。

「私でなく、後ろの女が奪おうとしたとして。お前は自分の目的を阻む敵として殺すだろう」
「!」

剣を握って1日と経たない少女の攻撃は、到底届かない。
その舌戦と同じく、両者の距離は平行線のままである。
唐突に話に挟まれたポーラは己の顔を指差し驚きながらも置いてけぼりのままだ。

「勇者の血という建前を得て、強い力を己の思うがままに振るうのが心地良いのか」
「そんなわけないじゃない!あなたが、魔王で、魔物のっ、だって、みんなを」

やがてティアは、地団駄を踏み、駄々をこねる子供のように、反論にもならない言葉を投げつけることしかできなくなった。
眼の端から涙が溢れ、一筋の跡が埃に塗れた頬に刻まれる。
やがてティアは、何度目かの太刀筋を労せず避けたピサロに、手首を強く掴まれて捻り上げられる。

「あんたたちが悪いんだッッ!」
「凶暴なものだ。お前の兄を殺した存在と……」

兄との繋がりを、勇者の象徴である剣を取り上げられるものかとティアは痛みに耐えて剣を離さない。
行き場を失い、ぐるぐると体の中で巡り巡る激情。
あまりにも、限界を越えて張り詰めた彼女の感情は、続く一言で─


「今のお前に何の差がある」


─爆ぜる。

1512哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:47:54 ID:chZJ0etU0


*******


「くっそ、近頃坂道が膝に来るってのに……!」

広い平原を踏破し、トロデーンへの全力走行を終えた彼らの眼の前に現れたのは思いの外、急角度な坂道だった。
遠くから城を確認した地点でうすうす感づいていたがよほどな立地だ。
魔物などからの防衛には向いているだろうが、普段の外出は億劫なこともあっただろう。
ともあれ、事態は火急を要する。
深呼吸を挟み、体力を削られながらも駆け抜けきった。

「キーファ……この門の向こうから声が!」
「ぜぇぜぇ……ああ!」

大きな門の向こうから確かに誰かが居る気配がする、果たして竜王はここに来ているのか。
そう、思った矢先だった。

「!?」
「ぐおぁっ!」

門扉に両腕を押し当てて開こうとしたその瞬間、感じたことのないような猛烈な風が吹き抜けた。
身の丈を超えるほどに大きな門扉が、その重さを感じさせない速度で開かれる。
眼の前に立っていたため、跳ね飛ばされた扉にしたたかに額を打ち付けたキーファは、勢いよく後ろに吹き飛ばされかけた。
とっさに身を捩ったレックの伸ばした手を掴まなければ、あのひたすらに長い坂道を下まで転がり落ちていただろう。

「いってぇ……!」
「……なんだ……なんだ、これは……!?」

痛みにこらえて顔を上げたキーファ、そしてその隣でレックは、共に驚愕で眼を見開いた。

「──!!  ─! 〜〜──!!」

ごうごうと、鼓膜を直に叩かれていると錯覚しそうなほどの轟音が。
大きな瓦礫を容易く宙に舞わせ、中空でぶつかり合うたびに破砕するほど勢いを増した暴風が。
木々を、建造物を、大地を切り裂き、傷つけなぎ倒すほどの鎌鼬が。

「……け、 ─て …… っ ー!」 

泣きじゃくる少女を中心に、巻き起こっている。
まるで台風の目にひとり取り残されたかのようだ。
何事か泣きわめいているようではあるが言葉は風の音に阻まれて聞こえない。

「ウソだろ……!」

これまでの生で、各々のかつての冒険においてすら、見たことのない、まったく未知の災害と呼ぶべきモノに直面した彼らは、戦慄する。
その余りにも現実離れした光景に、二人ともが茫然自失としていた。
飛び交う礫が身体を掠め、その頬からつぅ、と垂れる自分の血液の温かみを感じ、やっと正気を取り戻す。

「ぉ に ー ちゃ… !」
「─ッ!」

1513哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:48:20 ID:chZJ0etU0

刹那、放たれた弓矢が如く、レックの身体は勝手に動いていた。
風の刃は嵐の中枢に近づくにつれ彼を傷つける。
彼はそれでも構わず、血飛沫を上げながら、顔を歪めて泣く少女へ駆け寄る。
その一歩一歩で肉体が、魂が削り取られんばかりの傷を負うことさえも厭わない。

「!、レックッ!待っ……」

キーファも彼を追い駆け出そうとした瞬間、より勢いを増した突風が顔面を叩きつけるように吹き込む。
眼を開けることすら困難な中で、レックの背中を、血染めの足跡を、懸命に追いかけようとするが足が前に動かせない。

「ちきしょうっ!」

自分が力不足なばかりに、誰かに置いてかれるという感覚を久しぶりに感じたキーファは、それがひどく辛く感じた。
キーファの脳裏に浮かんだのは、遠い記憶の中にある幼馴染。
そのおだやかな笑みに、胸がちくりと痛んだ。

「……うっ……ああっ」

少女に伸ばそうとしたレックの手に赤い線が走ったかと思えば、吹き出た血が飛び散り風に舞う。
痛みに堪え踏ん張ろうとするも、狙いすますように吹き飛んできた礫が、身体を打ち据えて後退りを強制される。
まるで奇妙なダンスでも踊るかのように。

「……ぐ……っ!!」

不意に、左目の視界が消失した。
鋭い風の刃が、顔面の左半分を削ぐように吹き抜けたらしい。
どうやら左目が開かず、そこには既に感覚すらない。
瞼ごと切り刻まれたか、すでに視覚の半分が奪われたようだ。

「うおおぉぉっ!」

礫が、疾風が、彼の肉体を傷つけていく。
全身に走る痛みはとうに限界を越え、迸る灼熱のような熱さのみをレックは感じていた。
しかし、大地を蹴る勢いは衰えない。
渦巻く嵐のその先には兄を呼び、叫ぶ少女。
彼女とは、からかいまじりに、かりそめの誓いを立てただけの間柄。
レックにとってのティアの存在は、言ってしまえばそれだけだ。
ただ、どうにも彼を突き動かしていたのは。

(バネッ─)
(ターニア……!)

彼女の泣くその姿が。
記憶の中の妹が涙を浮かべる姿に重なっていたから。
ただ、それだけであった。



「おにいちゃんっ! おにいちゃん……!」

涙は頬を伝い、ゆるりと曲線を描き顎先に滴り行くもの。
そんな常識を文字通り吹き飛ばすように、破壊の風はすべてを拒む。

「たすけ……っ ……!」

1514哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:49:45 ID:chZJ0etU0

手にした剣は荒れ狂う獣のように言う事を聞かない。
血流が流れているように蠢き、怒りを秘めているかのように脈動していた。
制御できぬまま、激情に任せ強大な力を振るったとして。
その牙は持ち主である彼女にすら向けられる。

「いたい……いたいよおっ……!」

想像を絶するほどの風の刃は少女の身体を容赦なく傷つけていた。
確かに一般的なそれと同じく、嵐の中心部に近づくにつれ少しはその勢いは弱まっている。
だが、彼女にとっては一つ一つが致命傷になり得る威力に変わりなかった。

「あづっ…… うぅ、ぁあっ……!」

皮が弾け、指先の肉が裂け、桜色の可愛らしい爪が呆気なく吹き飛ぶ。
ふくらんだドレスの裾も、綺羅びやかな装飾の髪飾りも、全く意味をなさぬ襤褸となって切り裂かれていく。
何度目かの風切り音とともに、己の指のどれかが切り飛ばされ、風に舞うのをティアは見た。
ひゅ、と呼気を飲み込むことがせいいっぱいで、全身を蹂躙される恐怖に凍りつき、痛みを味わう余裕すらない。

「たす、け」

もう、伝説の勇者ロトの重き名を、勇者の血脈を、継ぐ存在は彼女しか居ない。
その事実が、重圧が、力の暴走という形でまさに顕現していた。
対となる存在とも言える、魔王との接触を経てしまったことがそもそもの誤りだった。
多くの戦いを得て、さまざまな旅路を経て、”経験値”を積んで成長する。
勇者の力とは、その振るい方も定かでないままに行使できる代物ではなかった。
今や、刃の行き先を見失ったロトの剣は、王者の名を冠した全盛たる力を取り戻していた。
彼女にもはや受け止めきれるはずもなく、すべてを滅ぼす災禍と化す。

「たす……」

指先の、腕のほとんどは血に染まり、ところどころ骨まで達する傷もあった。
もはや武器を振るえる状態にない。
しかし、剣は彼女の手から決して離れようとせず、力の暴走は留まることがない。
剣の方が、最後の勇者の血族を、決して手放すまいと必死で繋ぎ止めているように。
勇者としての宿命が、まるで、彼女らにとって呪いであるかのようにも思えた。

” 助けて おにいちゃん!! ”

勇者として立つことを決めたときから、無理に押し留めた弱音。
風にかき消されたのか、潰れた喉から声にならない呼気として吐き出されただけなのか。
おおよそ聞き取れるようなものではなかった。

「大丈夫か?」

どうやら、妹の叫びは、彼の耳にはしっかりと届いていたらしい。
無惨にも傷だれかになっていようとも。
顔の半分が血に染まっていようとも。
なんでものないような、そんな雰囲気のままに微笑みを投げかける。
その光景は、彼女の頑なになってしまった手から、力を奪うのには足りていた。

「ああ、ぁ、ああ、ああ…………」
「いいんだ」
「だめ……だめだよう」

魔を討ち滅ぼすと決め、きつく縛り付けられた覚悟が解れていく。

1515哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:50:31 ID:chZJ0etU0

「あたしは、お兄ちゃんのかわりに、っ、ゆうしゃじゃなきゃいけないんだ……!!」
「……いいんだ」

魂に刻みつけられた使命という名の鎖が、外されていく。

「君は、こんな傷だらけになってまで、戦いを選ばなくたっていい」

風に飛ばされていた大粒の涙が、正しく頬を伝うように流れを取り戻す。
一度流れ始めれば、それは堰き止められていた河が解放されたかのように、止め処なく落ちていく。

「だって…… だって……!」
「俺が言うのもなんだけど」

強張るほどに握られた手のひらから、ずるりと血を垂らしながら、ロトの剣の柄が滑り落ちる。

「兄貴ってのはたいてい、妹にあんまり無茶させたくないんだ」

─やがて剣を中心として巻き起こった風は勢いを失い、凪を呼ぶ。
初めて、勇者の末裔として誰かの役に立てると思った。
伝説の剣を握れば、誰かを守れると考えていた。
けれども、目の前で、すぐ近くで、たくさんの人が命を失った。
知らない間に、かけがえのない兄も、その友人たちも、皆死んでいた。
自分だけでは何ひとつ救えなかった。
ずっと嫌だった。
突きつけられたその死を、尽く信じたくなかった。
だから、たった一つ残された、その血に縋りつき、勇者として無理に振る舞っていた。
そうすることでまだ、どこかの力なき誰かが、そして一人ぼっちの自分が救われると思っていたから。
けれども、力不足で。
情けないほどに、何もできなかった。
自分は幼く、愚かなままだった。

「あ、あああ ああ……!!」

そんな自分のことを、遠いいつか、それこそ、物心が存在していたかもわからないくらい。
兄が、カインしてくれたときのように。
今、レックが優しく抱きとめてくれていた。
何もできない自分を肯定して、守ってくれようとした。
そう、ほんとうは。

「わああああぁぁぁーーー!」

勇者になんてなりたいわけじゃなかった。
自分に流れる血を、そう誇っているわけでもなかった。
末裔であると主張したのは、大好きな兄たちと肩を並べたい、その一心。
真正面から抱き竦められ、大声で泣き叫んで。
初めて自分の本当の気持ちと向き合うことができた。

「おにいちゃん さみしいよお……! おにいちゃん、おいてかないでよぉ……!」
「……ティア」

1516哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:53:15 ID:chZJ0etU0

尋常でない嵐が晴れた中心に、傷ついた青年が、泣きじゃくる少女を宥めている。
奇妙な光景だが、少女の内なる心の中、幾度となく繰り返された戦い。
それに、こうしてひとつの決着が着いた。
それだけは違いなかった。

傷から滴る血で汚してしまって申し訳ないな、と思いつつも、レックの顔には安堵の微笑みが浮かぶ。
そして、抱きしめられたティアの表情は。
その瞳はまるで人形のように透き通っていて。

死を眼の前にした恐怖で見開かれていた。



「レック後ろだーーーーーッ!」



キーファの叫びは届いたが、それは、もう食い止めようもないこと。
昏き衣を靡かせた魔王が手から飛ばされた、殺意の乗った真空の刃がすぐ側まで迫っていた。
ふたりのうちどちらの物かは定かではないが、凡そ尋常でない量の血が柱を象るように吹き上がり─

「!!!」

目を見開き、激昂したのは間違いない。
キーファの意識はそこを境として、一度途絶えた。




*********



(……なんだ……)

瓦礫に埋もれかかった身体をよじり、起き上がったピサロは、自身の頭に走る鈍い痛みに顔を顰めた。
思わず額に手を当てると、ぬるりとした不快な感触が走る。
見つめる先の手のひらは気高き血で濡れ、長い銀髪も土埃に塗れてしまっていた。

(剣の魔力の……、暴走、か)

1517哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:56:04 ID:chZJ0etU0

凝縮された風の爆弾とでも言おうか、嵐の発生をまともに食らった身体はいかな魔王と言えどただではすまなかった。
節々は吹き飛ばされた勢いのままに弄ばれ、強かに全身を瓦礫の山に叩きつけられたせいか、擦過と切創の目白押しである。
だが、裏を返せばそれだけで済んでいた。

「ぐっ……」

立て続けに頭が痛んだ。
よもや、打ち付けた拍子に記憶の一つでも取りこぼしたか。
その考えは、ピサロの脳内に湧き上がったイメージから即座に払拭される。
これは忘却ではない、むしろ─

「これは……」

逆だ。

それは、この場にいるピサロの意思か。
それとも、どこかでありえたであろうピサロの”可能性”が目指していた歩みなのか。

(なぜ忘れていた)

魔王が足踏み、音をあげ行進を始める。
それを遮るものは、今この場にはない。

(なにを巫山戯ていた?)

手元にあった剣を拾う必要は、今はないだろう。
手のひらには考えるよりも早く、風の刃が顕現している。


(私は魔王ピサロ)


魔王たる彼の力を最大限引き出すのは、相反する存在に対して。
勇者の血を引くものとの対峙は大いなる引き金となり、ピサロの道筋を─覇道を、整えた。


(異世界に君臨するヘルムードなる闇の一族を討伐するため)


腕を一振りすれば、かまいたちが飛ぶ。
引き絞られた矢よりも早く、致命の刃は放たれ、身を寄せ合う兄と妹の身体を深く鋭く、傷つけた。
そこに怒りも、さしたる理由もなく。


(世界を、時間を越える術を得たではないか)


ピサロが目的を、魔王としてやるべきことを取り戻した、それだけだった。

1518哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:56:42 ID:chZJ0etU0


*********


ピサロの前には微動だにしない肉体が2つ転がっている。
少し離れた所にはもう一人。
今しがた殴り飛ばした者が意識を失い大の字で昏倒していた。
息の根があるようだが、もうそれはどうでもよかった。
彼は、自分の前に立ちはだかる存在こと、勇者の血筋を持つ者でもなんでもないからだ。

「……?」

瑞々しく光り輝いていた伝説の剣。
持ち主が手放してからしばらくは、その力を失うことがなかったのか光を湛えている。
魔王たる自分が、若干の嫌悪感すら抱かんばかりの輝きを。
ほどなく、ただの金属光沢に過ぎない鈍い輝きを放つだけの存在へと成り果てた。
血脈が絶たれたゆえに、役割を失ったのだろうと考えた。
誰かの手に渡るくらいならば戯れに拾おうか。
そんなことすら、彼は思わなかった。
すでにピサロにとってそれは、もはや脅威とならない。
振り返ることのない過去、どうでもいいものとなったからだ。

「?」

ほどなくして輝きが失われたはずの剣が微かに脈動し、淡い光に包まれる。
何が起こるか油断なく見つめていた矢先、ロトの剣は小さな宝玉へと姿を変えてしまった。

「……完全に役割を終えた、ということか」

力のオーブが寂しげな光を放ち、ころりと足元に転がる。
踏み砕くも拾い上げるも自由だが、ピサロは無視を決め込んだ。
自分の目的地がはっきりとした今となっては、この場にとどまる選択肢などない。

「……」
「ひ」

ぐるり、と首を動かして振り返れば、そこにはさらにもうひとり居た。
激しい暴風の影響を受け、吹き飛ばされ気を失っていたはずのポーラがいつの間にか目覚めている。
眼をいっぱいに見開き小刻みに震える姿は小動物を彷彿とさせ、胸の前におわかれの翼を抱えていた。
邪なる力とは正反対のものを感じられるそれを、大切そうに。
その方向へ踵を返して歩き出すと、彼女の表情がさらに青ざめた。
じゃり、と瓦礫と血まじりの土を踏みしめ一歩を踏みだすごとに、彼女の呼吸は荒く、大きく弾む。
逃げ出しても良かったのだが、どうもできないように見えた。
奪われてなるものか、そう言わんばかりに固く手に握りしめている、それ。
先程までの彼は、それにひどく、執着していたような気もしたが。

1519哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:58:59 ID:chZJ0etU0

「くれてやる」
「え……?」

しかし、今のピサロには必要がなかった。
近づいたのは風に飛ばされた堕天使のレイピアを回収する、それだけのためであった。
爪や牙が魔物のように発達しているわけでもない今のピサロにとって、剣は相手を絶命させるのに有用な道具である。

「だ……脱出、は……?」
「……」

ともすれば卒倒しそうな雰囲気の中で、彼女は浮かんだ疑問を問いかけた。
歴戦のバトルマスターとしての胆力がそれをギリギリで可能としたようだ。
ピサロはそれに答える必要などなかったが、一時は共に行動したよしみか、気まぐれか。
最後に一言だけ残した。


「そんなものに縋る必要がない。私は自らの力でエビルプリーストに粛清を下す」
「ぁ…… は……?」
「逃げ出したければ、貴様ら人間どもで勝手にするが良い」

ポーラを一瞥することもなく、暴風に半壊した正門へと向かっていった。

「逃げる"先"があれば、な」

それきり中庭を振り返ることもなく彼は外を目指す。
傍らに転がる者たちを、路傍の石かなにかと同じにしか思わぬ様子で。
そして、程なく出会う2人が、王の中の王であろうとも、覚醒した勇者姫であろうとも。
冷たき瞳で、変わらず見下すことは確定している。


*********


「……い……痛ででで……で」

全身が激しく痛む。
扉に強かに衝突し。
全身に瓦礫の雨を受け。
挙句の果てには、羽虫でも払うかのように顔面を打たれて吹き飛ばされたはず。
どれくらい、気を失っていたというのか。

「!レックッ!」

自分のことよりも、この場の誰よりも傷ついているであろう人物を思い出し覚醒した。
ぺろぺろと頬の傷を舐めてくれていたであろうトーポの軽い身体が、勢い良くキーファが起き上がった拍子に飛び跳ねる。
どうやら、一役買っていたのは、レックがエイトから預かっていた一匹のネズミによるものだったらしい。

「あ……ねずみの。お前、無事だったのか」

彼は、レックが懐に入れる形で預かっていたはずだ。
トロデーン城の中に入った際の道案内になればと。
そのトーポがこうして無事であるのならば、彼もまた無事なのではないか。
その希望に答えるように、覚えのある声で名を呼ばれた。

「キーファ、あまり動かないで。まだなんだ」
「レック!お前大丈─」

1520哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:59:25 ID:chZJ0etU0

途中まで言葉を投げかけた姿勢のまま硬直するキーファ。
己に回復呪文をかける青年のその姿はあまりにも痛々しいものであった。
膝立ちになる自分の足元には、まるで湧き水のように血溜まりが広がり続けている。
ベホマを紡ぐ唇は辿々しく、そもそも一呼吸ごとに喀血が止む様子がない。
こちらに視線を向けているつもりの瞳に光は無い。
片方の眼はもはや開くことはなく、見るも無惨に切り刻まれている。
掌は開いているだけで精一杯なのか両腕の震えが収まらない。
そんな大怪我人が、自分の身を擲ち、命を削って自分を癒やしていた。
キーファの頭は即座に冷え切って手を伸ばしかけ、やがてぴたりと動きを止める。
彼に触れればそこで、不安定な硝子細工のように崩れ落ちてしまいそうに見えた。

「魔法の聖水があってよかった……呪文のね。効きがどうも、よくなくて」
「そ、んなの……お前、俺なんかより、ティアのッ」

続く言葉が、口から出てこなかった。
キーファも徐々に悟る。

「生きて、キーファ」

その言葉は、できることならば"彼女"に投げかけたかったのだろう。
傍らに転がる小さき体。
直視するのも憚られるほどの首の傷口は、かろうじて皮膚だけで繋がっているように見える。
もうすでに、生命のすべてを流し尽くしてしまったであろう血だまり。
その量を見てしまっては、もう。

「っ!!」

声にならない怒りが溢れ出しそうになるが、レックの手前何も言えない。
嘘だと思いたくて、ティアの顔をもう一度見やる。
涙を流していた瞳がかろうじて閉じられて居たのは、彼の手によるものと容易に想像できた。
瞼の周りが血で汚しつつも懸命に瞳を閉じようとしたのが見て取れる。
レックの全身を見ればわかる。
ティアの顔を拭えるところが、彼の身体に見当たらない。

1521哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:59:47 ID:chZJ0etU0

「ターニアに言いたかったことも言えなかった」

誰もに優しくあろうと、常に溌剌とあろうとした兄の隠し通した本音。
現実の自分がどうであろうと、"このレックにとって"たったひとりの肉親への再会。
取り返しのつかない悔恨となって、震える声で零れ落ちた。

「ティアちゃんも、こんなに泣かせて……」
「レック……」
「後悔しても、仕方、ないのになぁ」

伸ばしていた手が、力なく下がる。

キーファがその身体を支えようとした手は残る痛みからか届かず、空を切った。
前のめりに倒れたレックは、横たわりながらぼんやりと傷ついた瞼を開く。
見えていないであろうその視線の先に居たのは、再会することが叶わなかった仲間たちか。
求めてやまなかったターニアの姿か。
その最期まで命がけで向き合い、救いを求めていたティアか。
レックの血で汚してしまったその顔を見ていると、すっかり赤で塗りつぶされていて、最期の意思すら読み取り難い。

「駄目な兄ちゃんだったよ、俺」
「……違ぇよ、お前は……」

キーファは、這いずるように近づき、回復呪文の効力でようやく動かせる用になった手を伸ばす。
汚れた手袋を口で引っ張り、素手で彼女の顔へ触れる。
彼女の目元に広がる血の汚れを、どうにか、優しい指先で拭い去った。
その表情は、これまでと変わらず傷だらけには違いない。
けれども、先ほどまでよりも少しだけ安らいで見えた。



「お前は、俺より……よっぽど立派な兄貴だよ」


レックの口元も、小さな少女の表情を知る術は無いであろうに、わずかに綻んだ。
そんな風に思えた。


「……」

砂利を踏む音が聞こえた。
おずおず、と歩み出た人物に、キーファは痛む身体を動かして視線を向けた。
彼女のその手に握られていたのは刃ではない。


「また会ったな、ポーラ」
「キーファ……」

死者を悼む彼が要るだろうと、汚れていない布を見繕い、キーファに向けて差し出していた。



【ティア@DQ2(サマルトリアの王女)死亡】
【レック@DQ6 死亡】

1522哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 03:00:38 ID:chZJ0etU0
【A-4/トロデーン城/2日目 朝】


【キーファ@DQ7】
[状態]:HP4/5 レックによる治療済
[装備]:はやぶさの剣・改@DQ8
[道具]:支給品一式、月影のハープ@DQ8、支給品1〜2個、ユーリルの不明支給品0〜1個 トーポ@DQ8
大魔神の斧@DQJ 蒼炎のツメ@DQ10 モリーの支給品1〜3個 確認済み支給品1〜2個
[思考]:大きな喪失感 竜王とアンルシアはどこに?
※トーポは元の姿に戻れなくされています。

※「ロトの剣」はちからのオーブ@DQCHへと姿を変えました
※氷柱の杖(残4)@トルネコ3 が近くに落ちています
※ようせいのくつ@DQ9 パーティードレス@DQ7 が喪失しました



【ポーラ@DQ9】
[状態]:HP2/5 MP1/3 
[装備]:銀河の剣@DQ9 星降る腕輪@DQ3
[道具]:支給品一式 支給品0〜3個 キメラの翼×1 炎竜の守り@DQ8 魔勇者アンルシアの首輪 アリーナの首輪 割れたラーの鏡 おわかれのつばさ
[思考]:殺し合いを止める。
元の世界に戻り、天使信仰を復活させる

※未練を残す死者の幽霊が見えます。そのままでは会話は出来ませんが、何かしらの道具を通すことで会話が出来るかもしれません。
※ラーの鏡を通して人の心の中を見ることが出来ました。今後何かほかの道具でも可能かもしれません。


【ピサロ@DQ4】
[状態]:HP1/3
[装備]:堕天使のレイピア
[道具]:支給品一式 『世界道具百科辞典』『勇者死すべし』 大魔道の手紙
[思考]:この空間を飛び越えてエビルプリーストをこの手で葬り去る

1:目的に向かってただ進む
2:勇者や魔王との戦いは経験値を得るために避けない

※異なる世界のピサロが辿った記憶・経験に覚醒しました
※首輪の仕組み、機能を知りました


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