したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

ドラゴンクエスト・バトルロワイアルⅢ Lv6

1421 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/08(日) 22:22:21 ID:FjijLnKQ0
お疲れ様です!ローラこっわ!本人がもう亡くなってるだけにぞわぞわしました。
>「ゲントの神よ!!我々に光を!!」
この台詞で巴投げを放つチャモロ好きです。いえ切羽詰まってるんだから当然ですがw

1422 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/12(木) 17:55:09 ID:zEQSja760
もし宜しければまとめ更新をお手伝いしますが如何でしょうか。
作品本文のページは、例えば自分などは前回空白スペースの行をスレッドでは省略して貼り付けしたりしていたので
他の自分でまとめをされる方はそこは自分でやりたいのではないかとは思いますが、マップなど細かい部分は
是非お手伝いさせて頂きたく思います。

1423 ◆vV5.jnbCYw:2019/09/13(金) 23:49:12 ID:bXh3oGWc0
>>1422
ありがとうございます。
ページ制作の際にWiki更新一通りやったので必要ありませんよ。
それとWikiの書き手枠の欄に◆EJXQFOy1D6 さんのページを作っておきました。

1424 光の中に消え去った : 光の中に消え去った 
 光の中に消え去った 

1425 ◆vV5.jnbCYw:2020/02/29(土) 17:26:27 ID:aKiBk96I0
以前破棄した、フアナの話を投下します。

1426そっちへ行ってたの? ◆vV5.jnbCYw:2020/02/29(土) 17:27:06 ID:aKiBk96I0
「う〜ん。ここはどこでしょうか……。」
分け入っても分け入っても青い森。
時計を見たらそろそろ太陽が出そうな時間ですね。
けれど森の中だからか、時計も地図と同じでおかしくなってるのか、まだ暗いままです。


え?地図がおかしい?
何を言ってるのかって?
そりゃあ、当たり前ですよ!!
私、あの紫のターバンの人から逃げたんですよ。
もう走って走って、走りまくりました。
橋を走った(これダジャレじゃないですよ!!)後、いつの間にか森に入ってしまったんですよ!!


え!?それでも地図は悪くないって?


どう考えても自分の方向音痴が原因です。本当にありがとうございました。


しかしどうしたものやら。
私はあの紫ターバンを、強い人たちがいる場所に誘導して、その人と協力して戦おうと思ってたんですよ。
ところが行けども行けどもいないし、しかも紫ターバンを振り切ってしまったようなんです。


そういや、ちょっと前の話なんですけど、確かに見たんですよ。
森の中、一人の青い髪の少女が横切っていたんです。
この辺り危ないですよ、気を付けて、って言ったんですけど、何か切羽詰まっているようで、走って行ってしまいました。


そうしたら、突然衝撃的なことが起こりました。
蒼い髪の少女が何か出したと思いきや、砂煙が発生したんですよ!!
というか、あれは砂柱です。
子供が砂場でバタバタってやったりとか、浜辺の全力ビーチバレーとか、そんなチャチなものじゃありません!!
もっと恐ろしい砂の片鱗を味わいましたよ!!


まあ、砂柱はすぐに消えてしまったんですが、その後もう女の子はいなくなりました。
どっちへ行ったのか分かりませんし、あれは私に止められそうな人じゃなかったので、もう諦めます。
そもそも、あれは本当に人間だったんでしょうか?


寂しくなった私が作り出したヴィジョンじゃないんでしょうか?
え?寂しいのかって?


そりゃあ寂しいですよ。
今までずっと誰かと旅をしてきた私が、一人になってしまったんですから。
ゼシカさんも、ズーボーさんも、バーバラさんも、コニファーさんも、ホープ君も、サヴィオも、アスナもいませんからね。
でも、泣くのはあの紫ターバンを倒して、エビなんとか(いい加減このネタしつこくないですか?)を倒して、帰ってからにしようと思っているんです。
こんな所で泣き崩れてるなんて、誰も望んでいないと思います。


だから、幻を見るのはおかしい気がしますね。

1427そっちへ行ってたの? ◆vV5.jnbCYw:2020/02/29(土) 17:27:28 ID:aKiBk96I0
まあいいでしょう。
この世界でおかしいこと一つ一つ挙げて行けば、キリがありませんからね。

お?ようやく森の出口が見えたようです。
とはいっても、夜の草原。
見晴らしがよいのに、人は見えません。
そういえば、もう参加者の数も、大分少なくなっているようです。

放送と、城での戦いを合わせると、25人にも上らないでしょう。


だからといって、もう少し人に会えてもいいんじゃないですか?
え?町とか村とか、もっと人が集まる場所へ行けばいいんじゃないかって?
いやいやいやいや。私方向音痴じゃないですよ?
元の世界で旅をしていた時は、ほとんど道案内をホープ君に任せてただけです!!
行き先が分からなくても、サヴィオが「こっちいけばいいと思うよ」って指した方向は、確実に町や村があったんです。


そういや、私、旅に出てから自分で行き先を決めて歩いたこと、ないんでした。
最後に自分で道を決めて、自分が先頭に立って歩いたのはいつでしたっけ?


ん?
何か向こうの方の森から声が聞こえましたね。
え?なになに?
『げんとの神よ、我に力を?』


私の知らない神ですね。
そういや、私達が教会で信仰している神って、名前なかったですね。
神父様も、『おお神よどうのこうの』って言ってるだけで、名前を聞いたことないですね。
ルビス……は精霊でしたっけ。
とりあえず、げんととは知らない名前です。


まあ、この戦いは色んな世界の人が呼ばれているようだし、別世界の神様と言われれば納得が行きますが。
気になることですし、あの紫ターバンを倒すための戦力強化のためにも、声の方へ行きましょう。

1428そっちへ行ってたの? ◆vV5.jnbCYw:2020/02/29(土) 17:27:51 ID:aKiBk96I0

さらに草原を進むと、向こうの方に、緑フードと、黄色トンガリ帽子の二人組がいました。
恐らくどっちかが、さっきの声のモトのようですね。


何やら二人で樹と向かい合って黙りっぱなしです。
どうやら、筆談?をしているようですね。

こっちには気づいていないようですが……。
誰にも聞かれたくないようですね。
でも、私には嫌な感じがするんですよね。


二人組の所に、何だか分かりませんが、黒いモヤが漂っているんです。



アリアハン視力コンテスト1位の私でも、目を凝らさないと見れませんが。
いや、これってむしろ、僧侶がなせる業というやつですか?
何かは分かりませんが、どうにもイヤな気がします。
決して、近くにいて良いようなものではありません。

そうそう、どこかで見たと思ったら、アレですよアレ!!



呪われた武器や防具から感じるアレです。
はんにゃの面……でしたっけ……。
珍しいデザインだったから、付けてみたら、急に意識がなくなったんです!!
そのあとしばらくどうなっていたか分からないんですが、その時の私は相当ヤバかったらしいです。
あの人たちも、何か間違って呪われた装備を付けてしまったのでしょうか。



(ん!?)

さっき、黒いモヤの方から、何か聞こえました。
『ゆ×さな×?×ども、返せ?』


ゆるさない、子供、返せ?
全部は聞こえなかったですが、こんなことが聞こえてきたような気がします。
これは、怨念のようなものですか?
実際に、アスナ達との旅の最中も、怨念の敵とは何度も戦いましたね。
そういえば一度アスナに殺されたはずのヘルバトラーも、怨念になって襲ってきましたね。

この世界は、死した者が怨念になりやすいのでしょうか?
それとも、呪いが力を出しやすいのでしょうか?

1429そっちへ行ってたの? ◆vV5.jnbCYw:2020/02/29(土) 17:29:01 ID:aKiBk96I0
あの二人は気付いているのかいないのか今一つ分かりません。
サヴィオがいれば、シャナクの一つでもかけてくれたかもしれませんが、私にはできません。


それに、私は今、魔力がすっからかんです。
どうせターバン男を振り切ってしまったら、一度休憩するか、魔力回復用の道具でも欲しい所なんですがね。


あっ!!
あの二人、私に気付かないまま、走り出しました。


ちょっと、待ってくださいよ!!


……そういや私、この世界で、誰かを追いかけたり追いかけられたりしているような気がします。


私が誰の為でもなく、一人で走ることが出来るのはいつになるのでしょうか?

【F-4/草原/2日目 早朝】

【フアナ(女僧侶)@DQ3】
[状態]:HP1/10 MP 0
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 パラディンの秘伝書 不明支給品0〜1(本人確認済み) かりうどの弓@DQ9 カマエル@DQ9
[思考]:自分だけが出来ることを探す。
[目的]1:仲間たちの死を受け止め生きる。
2:緑フードと、トンガリ帽子(アルスとチャモロ)を追いかける
3:アベルを倒し、アスナとコニファーの仇を討つために仲間を集める。
※バーバラの死因を怪しく思っています。
※ローラがアルスとチャモロにかけた呪いを見ることが出来ます。

1430そっちへ行ってたの? ◆vV5.jnbCYw:2020/02/29(土) 17:31:10 ID:aKiBk96I0
投下終了です。
長らく書いていなかったため、何か矛盾点があるかもしれません。

1431ただ一匹の名無しだ:2020/02/29(土) 17:45:33 ID:rPHeq96w0
投下乙です
フアナはピサロ達と合流するかと思ったが、そっちに行ったかあ
確かに教会で解呪を行う神官に近い僧侶なら呪いに敏感そう(3の僧侶は解呪できないけど)

1432 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:07:07 ID:u8H6lGfA0
投下します。

1433追う者追われる者 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:07:48 ID:u8H6lGfA0
「あれは……。」

ピサロとポーラがトロデーン城へ向かう途中のこと。
まだ小さい姿でしか見えないトロデーン城の、城壁の一部が大きく崩れた。


(アスナ達は、無事なのか?)
ピサロは胸騒ぎを感じながら、足を速める。


(コニファーさん……待ってて……。)
ポーラも、かつて別れた仲間との再会に、期待と不安を抱いて走る。
武闘家の経験を活かした俊足に、星降る腕輪の力も手助けしている。

人間とは異なる筋力や膂力を持っているピサロでさえ、付いていくのが精一杯なほどだ。

数時間前は、未知の敵の存在から、ピサロは退避せざるを得なかった城。
だが、今回は行かざるを得ない。


幸いなことに、同行者はほぼ戦闘能力が無い3人だった前回とは異なり、かなり腕の立つ剣士だ。


しかし、城が大きくなるにつれ、ピサロは違和感を覚え始めた。

「ポーラ、何か邪悪な気配を感じるか。」
「ううん。何も。アンタは感じるの?」


彼にとっての違和感と言うのは、気配がまるで感じなかったことだ。
以前にトロデーン城を訪れた際には、城内から邪悪な気配がこれでもかと言うほど漂ってきた。
だが、いくら城に近づいても、気配を感じない。


気配を消して、自分達が来るのを待ち伏せしている可能性もある。
「待て、ポーラ!待ち伏せしている者がいるかもしれない!!」

「ステルスみたいな?」


ピサロは自分の世界にない魔法の名前を聞かれて、僅かながら戸惑う。
「何だそれは?」
「ピサロは知らないの?姿と気配を消す魔法よ。私は出来ないけど、コニファーさんが得意だった。」


城門を潜り、二人を迎えたのは、最初に見た以上に荒れ果てた城だった。
辺りには瓦礫が散乱し、土地は隆起したり陥没したり焦げたりと、城の中庭とはとても思えないほどだ。
イバラに包まれた時のものとはいえ、その城の姿を知っているピサロは、その変貌には驚くばかりだった。
これが惨状の結果だ、と言わんばかりに、赤い鎧を付けた男が、体を裂かれて倒れている。

(この男は……確かジャンボの言ってた……)

しかし、ピサロにとって肝心なことはそこではない。
ザンクローネの死体を一瞥し、周囲を良く観察する。
城にいるはずの者、特にカマエルの安否の確認。
同様に城にとどまっているはずの襲撃者の討伐。
そして、もう一つは―――――――

1434追う者追われる者 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:08:11 ID:u8H6lGfA0

「コニファーさん?」
ポーラは転がっている、もう一人の死体に駆け寄る。

「待て!!」
それが誰の死体か知っているピサロは、ポーラを止めようとする。
死体をあえて転がしておいて、物陰からその死体に近づいた者や、死体に動揺した者に攻撃を仕掛けるのは一つの作戦だ。


しかし、その制止も意味なく、ポーラは動かなくなったコニファーを、揺さぶったり、声を掛けたりしている。

「間に合わなかったか……。」
その動作で、既にコニファーの魂はこの世を去ったのだと分かった。



敵が隙を晒したポーラを狙わないか、ピサロは気を配る。
だが、なおも襲撃者の姿どころか、敵意すら感じない。

ポーラはピサロを強く見つめる。
理由があったとはいえ、コニファーを助けるのが遅れて、結果として死なせたことを詰られるとピサロは思った。


「ねえ、ピサロって、コニファーと一緒にいたんでしょ?」
しかし、ポーラが話したのは一つの質問だけだった。

「僅かな間だけだ。」
「じゃあ、知らないんだね。何でコニファーが満足そうな顔しているのか。」


血と泥、埃に塗れ、それでいて満足そうな表情を浮かべたまま。

「分からん。だが、この先に分かるかもしれぬ。」

ポーラにとって、久々の再会だった。
ずっと前、最後にポーラが見たコニファーは、世界を守るという大仕事を完了したとは思えない程絶望に満ちていた。


本当は自分達に、本心を悟られまいと取り繕っていたが、それが猶更痛々しく感じた。
もし何らかの形で再会したとしても、きっとあの顔以外を見ることは出来ないだろうと思っていた。


コニファーも、海岸沿いで見たアークもどこか何かをやり遂げたような顔をしていた。
自分も最後はあんな顔が出来るのか、スクルドやアークは出来ると言っていたが、ポーラには僅かな希望と不安がよぎった。

1435追う者追われる者 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:09:30 ID:u8H6lGfA0

ピサロはポーラからの質問も話半分で流し、そのまま城内へ入っていく。
最初は絡みつく茨によって閉鎖させられていた玉座の間への扉が、茨ごと斬り裂かれていたことにピサロは違和感を覚えた。


爆音が静かな城内に響く。
ピサロ早速魔法を放った。


「ちょっと!何してるのよ!!」

ポーラはピサロの挙動を怪しむ。
「誰もいないから燻りだそうとしたが……。」


最後にこの城を後にした時、コニファー以外にアスナと、仲間らしき女僧侶とすれ違った。
従って、コニファー以外はまだ城内のどこかにいるかもしれないと、ピサロは疑う。
「ねえ!!誰かいる!!私達は敵じゃないわ!!」

ポーラの大声が、静まり返った城内に木霊する。


敵じゃないと言われても信用しないだろう、と言いたい気持ちを抑えて、ピサロは辺りを伺う。

しかし、城内はなおも死んだように静まり返ったまま。
死んだように、と言うより文字通り、城内の生存者はポーラとピサロのみなのだが。

「上にも行ってみよう。」
まだ二人は、見回ったことのない2階へ、3階へと足を速める。
とは言っても、柱が倒れている通路は進むことは出来ないので、屋上へまっすぐ向かった。


屋上に着いて、真っ先に目にしたのは、大きな月の光と、それに包まれて倒れている勇者だった。
「アスナ……」
ポーラは初対面の相手なので特別な憐憫の情を抱いたわけではない。
ただ、これほど強い力を持った人間でさえ、死ぬときは死ぬことを思い知らされた。


寿命ではなく、戦った果てに死ぬ。
アークの時点でその事実を知らされていたが、改めてその事実を実感した。


「遅かった……。」

再びそう呟くピサロ
その顔は酷く憎々し気だった。

「ピサロ、遅れたことを悔やんでも、意味がないわよ。」
ポーラはいつもより数倍眉間に皺が寄ったピサロを宥める。

遅れたことを後悔しても仕方がない、という言葉は、ポーラが自身に向けて発した言葉でもあるのだが。


「助けるのが遅れたことじゃない。襲撃者は、もうここにはいない。」
「え?」

ピサロとしても、迂闊だった。
一体どうして、自分はいつまでも襲撃者が一か所に留まっていると思い込んでいたのだろうと。

1436追う者追われる者 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:11:39 ID:u8H6lGfA0
城に入る直前、城壁が大きく崩れたことから、二人はまだ襲撃者が暴れていると勘違いをしていた。
だが襲撃者、アベルは既にこの城を後にしていることに、ようやく二人は気が付いた。


「そうだ……もしかしたらアスナさんが、カマエルを……。」

一瞬ポーラはアスナがカマエルを持っているか期待したが、支給品袋さえなかった。
コニファーも同様に袋そのものが無なかった。
ザンクローネの死体は、強力な技を浴びたからか、支給品袋ごと焼け焦げていた。

「ない…か。襲撃者に奪われたか、それとも誰かに渡したか……。」


「東へ行こう。カマエルは襲撃者が持って行ったんだ。」
「そうだな……これ以上無暗に戦いたくはないのだが……。」

ピサロとポーラは、教会から城へ向かう途中には誰にも会わなかった。
従って、襲撃者は橋を渡り、トラペッタ方面へ向かったと結論付けた。


だが、すぐにもう一つ重要なことを忘れていたことに沈みゆく月から、ピサロは気付く。


「しまった!!月影の窓だ!!」
「ピサロ?何だって?」

今度はポーラの質問を無視して、急いで城の階段を駆け下りた。
トロデーン城の図書室でヤンガスに言われた、月影の窓。


おわかれのつばさに執着するあまり、ピサロにとってもう一つ肝心な情報、月影の窓のことは忘れられていた。

日暮れにトロデーン城を抜け出してから戻るまでに、多くのことがありすぎた。
その過程で、おわかれのつばさという手がかりを掴めた際に、月影の窓の優先順位を下に置いてしまっていた。
ピサロとしては、間近で見て、尚且つその道具について解説している本まで持っているからである。
一方で月影の窓は、ヤンガス一人から聞いただけで、その内容もどうにも御伽噺じみている。


だが、カマエルが奪われた今、月影の窓と、その先の世界に頼らざるを得ないかもしれない。
溺れる者は藁をもつかむと言うが、脱出の可能性がある可能性は手当たり次第に引き寄せなければいけない。


そして、月影の窓と言うのだから、月が沈めば対面は不可能のはず。
次の夜まで待てというのは、いくらなんでものんびりしすぎている。

1437追う者追われる者 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:11:56 ID:u8H6lGfA0
既に空が白み始めている中、二人は急いだ。


「ここなの?どう見ても普通の図書し……!!」
すぐに1階の図書室に到着した二人の目の前には、予想外の光景が広がっていた。

「ピサロ、窓の影が……!!」
「言われなくても分かっている!!」


むき出しになった窓が、巨大な月の光に当てられ、その影が図書館の床を走っている。
その不自然に長く伸びた影は、壁に突き当たっていた。


「「!!!!」」
一見、ただの壁に映った窓の影にしか見えなかった。
だが、影にしては本物の窓のように見えた。


無意識のうちに、二人は影に手を伸ばす。


それは、普通の扉とは何の変わりもなく、

1438追う者追われる者 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:12:28 ID:u8H6lGfA0







開いた。
















ピサロはその中を覗く。
その時、月影の窓が消えた。


「え?」
その理由は子供でも分かるほど簡単なことだった。
月が沈み、この世界で2度目の日が昇る。
窓の影を造る月光が、消えたからだ。


「何が起きたの?」
それに気づかず、ポーラは壁を叩く。



「夜明けだ。ここでやることはもうない。東へ行くぞ。」
ピサロはただそう言った。


「もう少し、待ってみない?」
「月光がないのに、どうしてもう少し待てというのだ?」

ピサロはそのまま図書室を出る。


朝の光が、城を照らした。
恐らくこの太陽が沈むまで、この戦いは終わるだろうと二人には確信があった。

1439追う者追われる者 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:12:51 ID:u8H6lGfA0

だが、この時、ポーラは気付かなかった。
扉の先を見てから一瞬ではあるが、ピサロに驚愕と恐怖が合わさった表情を見せていたことを。
ピサロがこの城を後にすることを主張した理由は、カマエルを持った相手を追うためだけではないのかもしれない。


そして、もう一つ。
これはポーラだけではなく、ピサロにも気づいていないことだった。
ロトの剣を持った少女が、二人を追いかけて、たった今トロデーン城へ入った。


脱出のための手がかりを追う立場だと思っている二人は、実は脱出のために追われる立場なのかもしれない。



【A-4/トロデーン城/2日目 早朝(放送直前)】

【ポーラ@DQ9】
[状態]:HP1/2 MP1/3
[装備]:銀河の剣@DQ9 星降る腕輪@DQ3
[道具]:支給品一式 支給品0〜3個 キメラの翼×1 炎竜の守り@DQ8 魔勇者アンルシアの首輪 アリーナの首輪 割れたラーの鏡
[思考]:殺し合いを止める。
元の世界に戻り、天使信仰を復活させる

※未練を残す死者の幽霊が見えます。そのままでは会話は出来ませんが、何かしらの道具を通すことで会話が出来るかもしれません。
※ラーの鏡を通して人の心の中を見ることが出来ました。今後何かほかの道具でも可能かもしれません。


【ピサロ@DQ4】
[状態]:健康 焦り ???
[装備]:堕天使のレイピア
[道具]:支給品一式 『世界道具百科辞典』『勇者死すべし』 大魔道の手紙 おわかれのつばさ
[思考]:トラペッタ方面へ向かい、カマエルを取り返す。
エビルプリーストをこの手で葬り去る
ロザリーの安否を確認する。
1:ロザリーはどうなった……?
2:月影の窓で見たものは………!?
※ジバ系呪文を実際に見せてもらいました。
※エビルプリーストの背後に黒幕がいることを、手紙によってほぼ確信しました。
現状ではラプソーンが怪しいと考えています
※首輪の仕組み、機能を知りました



【ティア@DQ2(サマルトリアの王女)】
[状態]:健康
[装備]:ロトの剣 氷柱の杖(残4)@トルネコ3 ようせいのくつ@DQ9 
[道具]:支給品一式 脱いだ靴 パーティードレス@DQ7
[思考]:おわかれのつばさを使ってサマルトリアに帰る
※第二放送の内容を聞いてません。

1440追う者追われる者 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/11(水) 11:13:04 ID:u8H6lGfA0
投下終了です。

1441ただ一匹の名無しだ:2020/03/11(水) 21:20:40 ID:nUtmVzcY0
お疲れ様です!暫く見ておらず立ち寄ったら丁度投下が、それも2本もされていて嬉しいです。
フアナは上の方が言われているのと同意見でピサロ、さもなくばティアか竜王達と言った西側勢と
合流する形になるのかと思っていたので、実はもう東にいたというのが意外で面白かったです。
そして月影の窓(?)にただのイシュマウリじゃなくピサロが焦る程の何かがあったとは考えもしませんでした。

1442第四回放送 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/29(日) 17:59:07 ID:XK74tlC60
放送、投下します。

1443第四回放送 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/29(日) 17:59:51 ID:XK74tlC60
時は早朝。
朝日に照らされた雲が集まり、一つの魔族の顔を形成する。
最早新鮮味も何も感じない演出。
4度目の放送の始まりだ。


「諸君、放送の時間だ。」

参加者も僅かになり、高揚したエビルプリーストの声が、島中に響き渡る。

「いきなりだが、前置きはなしにして、死者の放送をさせてもらう。勝手な判断で誠に申し訳ないが、聞くが良い。


セラフィ!
スクルド!
ブライ!
ゴーレム!
ザンクローネ!
ライアン!
ローラ!
アスナ!
コニファー!
ターニア!

死者、10名!!


フフ………フハハハハ!!どうする?
あれほどいた参加者も、とうとう20人を切ってしまったぞ!?
この状況でもまだ、愛や正義を信用するというのか?


否、信用すること自体、不必要だ。
殺せ。そして、勝て。
勝てばそんな幻想など比べ物にならない物を手に入れることが出来る。
進むべきゴールは、もう諸君らの見えるところにある!!

最早私が出来ることは、何もない。
ただ優勝すれば叶う願いのみを目指すがよい!!


そうだ。禁止エリアの追加を報告し忘れていたな。
ここまで死者が出てしまった以上、どうでも良い様な気がしてならないが、一応ルール上なのでな。


2時間後、【F-9】、【B-7】
4時間後、【H-4】、【D-7】
6時間後、【G-1】、【I-7】

以上6箇所を封鎖する。


この世界で改めて太陽が拝めた己の力に感謝し、それを優勝まで繋げるが良い!!


そう遠くない優勝者との我は出会いを楽しみに待とう。これにて放送の終了だ!!」

1444第四回放送 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/29(日) 18:00:11 ID:XK74tlC60

放送が終わってすぐのこと。
デビルプリンスが、何やら怪しげな針のような、また杖のようなものを取り出していた。
その道具を、壁にかかってある地図の、【J-7】、と【F-1】の場所に突き刺す。
3度目の放送で呼ばれた場所だ。


「うむ。ご苦労だ。次の放送も頼むぞ。」


放送を終え、禁止エリアが作られたことを確認し、エビルプリーストは玉座に腰を下ろす。

「ときにキサマは、新たな可能性を手にしたか?」
「……どういうことでしょうか。」

6時間ほど前、自分がした質問をおかしな形で返されたが、今度は突拍子もない質問をされたことに、言い淀む。

「気付かないのか?私もキサマも、新たな可能性を手にしているということを。
試しにそこで念じてみると良い。」

「………!?」

言っていることが分からないながらも、その通りにしてみると、目の前で紫色の魔法エネルギーの塊が爆ぜた。

「今のは……」
それは、ドルマドンという、別世界のデビルプリンスが使っていた魔法。
創造神グランゼニスの作りし世界で、使われていた闇属性の魔法だ。

「それがキサマの、新たな世界の可能性のようだな。」


不敵な笑みを浮かべたエビルプリーストとは対照的に、その下僕の表情は引き攣っていた。
何しろ、自分が知りもしない呪文を唱えたのだから。


そもそも、彼らの世界は、炎や氷、風や雷を操る魔法があっても、光や闇そのものを操る魔法はなかった。
本当にないのか、世界中を探したことがあるのかと聞かれれば肯定しかねるが、魔族の王、ピサロでさえ使えなかったというのだから本当なのだろう。


何が原因か分からないが、エビルプリーストは「別世界の可能性」とやらで、この戦いを開くに至ったことは、哀れな配下の魔物にも理解できた。


「我は新たな力、そして技術を手に入れた。この戦いで世界中の勇者を粛清し、全世界の神になる。」

そして、紅の皇子の顔色が、一層蒼ざめる理由は真実を知ったからではなかった。
この外道が本当のことをベラベラと述べる時を、生前から知っていたからだ。

1445第四回放送 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/29(日) 18:02:29 ID:XK74tlC60
「我がなぜただの下僕でしかない貴様に、ここまで話すか分かるか?」
(!!)
彼にとって、最も恐れていた言葉が耳に飛んできた。
死刑宣告より恐ろしい、いや、その言葉自体が死刑宣告のようなものだが。


「なぜなら……」
エビルプリーストが全て答える前に、闇の力が爆ぜた。

「殺されるくらいなら、キサマを殺すまでだ!!」
窮鼠猫を噛む。それを体現したような状況だ。
悪魔の皇子は、さらに炎の魔法を唱える。
その火球は、デスキャッスルで戦っていた時よりさらに巨大だった。

メラガイアーという名称を、彼は知らないのだが。

「人の話を遮るとは、礼儀をわきまえねばならぬな。」
しかし、闇の爆発も、巨大な火球も、エビルプリーストの前に消えた。
この戦いが始まる前に、ゾーマという魔族が吐いた吹雪のように。


なぜ反射でも、当たった上で無力化されたのでもなく、消えたのか。
それだけは疑問になったが、解明する時間はどうにも有りそうになかった。


「もう貴様も不要だ。次の放送と禁止エリア魔方陣の設置は我一人で行う。」

最後の賭けも敗れ、哀れな下僕は二度目の死を覚悟した。


(!?)
急にエビルプリーストは頭を押さえ始めた。


何度目かの、突然の変貌に恐れる。
そのままエビルプリーストは処刑するつもりだった配下に背を向け、蹲り始めた。

戦意を削がれた悪魔の皇子に、反撃する気は起きなかった。
ただ、逃げようと思った。

互いに背を向け合うという、奇妙な絵面が完成した時、片方の姿が消えた。


「キ……サ……マ…………は………。」
「この男を操るつもりだったが、下僕のことも忘れていたな。」


デビルプリンスの姿は、消えていく。
「……様………じゃ………な……………い」
発声器官まで消され、言葉さえも消えてなくなった。

残ったのは、僅かな羽のみ。
意識を取り戻したエビルプリーストは、知らぬ間に部下を粛清したと自己完結した上で、玉座に戻った。


【デビルプリンス  消滅】


残り、18人

1446第四回放送 ◆vV5.jnbCYw:2020/03/29(日) 18:02:42 ID:XK74tlC60
放送投下終了です。

1447 ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:14:54 ID:n6gfRTV20
投下します。

1448Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:15:28 ID:n6gfRTV20
朝日に混ざった色の服を纏った少年と、草原に混ざった色の服を纏った少年が、一人ずつ。
生まれ出たばかりの、この世界二度目の太陽が、草を、木の葉を照らす。
辺りは両足が草を蹴る音と、植物の匂いのみがある、静かな空間だった。
しかし、アルスとチャモロの、今までの無事を祝うかのような光景を、見る余裕は彼らにはなかった。


目的地を決めて以降、二人は全く会話をせず、放送を聞いた後でも同じだった。
その理由は単純にして簡単。二人はとにかく急いでいたからだ。
どちらも五体満足の状態ではないにしろ、休む余裕も立ち止まって話す余裕はなかった。
二人の表情は緊迫と暗鬱が現れていた。


最も二人が恐れていた、サフィールの死亡報告はなかった。
だが、どういうわけか見失ってしまったターニアが放送で呼ばれていた。


何度も著すのは忍びないことだが、二人は放送以降も走ることに集中していて、一切の会話はしていない。
だが、サフィール達の方向から離れて、自分達からも逃げて、その先で死んだということは、何が起こっているか二人共察しがついていた。


西側、すなわちトロデーン方面から、キラーマジンガ以外のマーダーが向かっているということだ。
そして、サフィールやホイミン、ジャンボは放送でこそ呼ばれてないが、今生きているかどうかは分からないということも。


サフィールに首輪を解く技術があるのかは不明だが、一度サフィールは忌まわしい呪いの仮面を外したという。
従って、そのタネを知っているサフィールが死ねば、呪いを媒体とした首輪を解く情報も無くなってしまう。


走れど走れど目に入るのは、単純な草原地帯。
風景こそ細かく変わっているとはいえ、そんなものは誤差でしかない。
一刻も早くサフィールの元へ。


二人の願いが通じてか、ようやくトラペッタの街を囲む、高い塀が見えてきた。
しかしアルスの表情は、さらに強張り始める。


トラペッタから少し離れた場所から、爆発音が聞こえたのだ。
恐らくそれはサフィールのイオナズンだと、すぐに二人は判断し、爆音の方向に走る。
しかし、その方向に向かうと、急に二人は速度を緩めた。


「ねえ、チャモロさん。これって……。」
心臓が握り潰されるような禍々しい空気を感じ、アルスは久々に声を出す。
このような感触を受けたのは、ダークパレスでオルゴ・デミーラの目の前に出た時以来だ。

「ええ。恐らく、新たな敵がいるのでしょう。」
チャモロも同様に、デスタムーアの城で覚えた感触を思い出した。


「急ごう。取り返しのつかないことになるかもしれない。」
しかし、アルスは元のペースで走り始める。
チャモロも、無言でその言葉に同意した。

待っていた所でこの禍々しい空気は晴れるとは思わないし、もっと悪化する可能性もある可能性も高い。
しかもその先に肝心のサフィールとジャンボがいることを考慮すると、立ち止まって様子を伺うなんて選択肢は愚の骨頂でしかない。

1449Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:16:23 ID:n6gfRTV20

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
こちらでも、放送の内容が響いていた。
同じように、戦友の訃報を嘆く暇は誰にもなかったが。


「コイツを食らいやがれッ!!」
すっかりなじみの武器になったナイトスナイパーから4本の矢が放たれる。
しかし、サフィールの魔法をほとんど無力化した魔王には、大したダメージにはなってない。

(畜生……なんて奴が来やがった……!!)
自分が劣勢の状況に追い込まれているのは、ジャンボはよく分かっていた。
弓矢と魔法が効かない以上は、現在の自分達の攻撃手段の多くが塞がれているということになる。
一応ハンマーか爪を使う攻撃も自分は出来るが、出来るからと言って長剣を持った相手に飛び込みたくはない。


「おい、ネプリム!!しっかりしやがれ!!」
ジャンボは苦戦中のネプリムにバイキルトを唱える。
壁になりうる存在が彼しかいないこの戦いでは、絶対に崩されるわけにはいかない。


聖王の剣と聖王のハンマー、そしてバレットハンマーがぶつかり合い、金属音が辺りに響く。
「マダさふぃーるノ話ハ終ワッテイナイ。」
「不要ダ。あべる様ガ戻リシ以上、破壊シ尽クスマデ戦ウノミ。」


(ジンガーを止められるのも、いつまで出来るか分かんねえ……。マスターを何とかしねえと……!!)
ジャンボは呪いの力に包まれたアベルを見つめ、策を練る。


その時、ジンガーの姿がジャンボから見て、次第に大きくなっていった。
(しまった!!)
一体どうして、ジンガーがネプリムしか攻撃しないと思い込んでいたのか?

回転攻撃でねぷりむを吹き飛ばしたまま、追加攻撃も他所に、まっすぐジャンボの所に向かって行った。
トラップジャマーで回収した砂柱も、もう間に合わない。


「ねぷりむ……じゃんぼ、守ル……。」
「お前……。」
吹き飛ばされたねぷりむはすぐにジャンボとジンガーの間に割り込み、自らの背中を盾にジャンボをハンマーから守った。

「ネプリム、大丈夫!?」
「構ワナイ。コレシキデ壊レタリスルコトハナイ。」
その姿は、かつてジンガーから自分を守った、ゴーレムさながらだとサフィールは感じる。


しかし、ろくに自らの守りも固めずに、ジャンボを守ろうとしたのはネプリムの失敗でもあった。
ジンガーの追加のバレットハンマーの一撃が、ネプリムの左腕にヒットする。

「間に合え!!磁界シールド!!」
ジャンボが咄嗟に這った魔方陣の力で、一撃必殺にすることを止める。
しかし、機械系の魔物に効果を発揮するハンマーにより、ネプリムの左腕には大きなヒビが入った。
ジンガーはなおも前線で攻撃を続ける

1450Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:16:39 ID:n6gfRTV20

ネプリムは剣で受け止めるも、傷ついた腕では受け止めきれず、聖王の剣を腕ごと落としてしまう。

「ネプリム!!」
ホイミンが慌ててホイミを掛けようとする。しかし、欠損は回復魔法では癒せない。


(これは……マジでやべえぞ……!!)

この戦いで経験してしまったことだが、前衛を崩されたまま、敵に内部に入られれば、容易にパーティーは瓦解する。
不変のルールに、ジャンボはメンバー壊滅の危機を感じる。

「どっか行きやがれ……ランドインパクト!!」
「マダ……負ケナイ……ぐらんどいんぱくと!!」
せめてジンガーだけでもこの場所にいさせてはならないと、地面を隆起させる。

ジャンボとネプリムが地面にはなった一撃は、地面を隆起させる。
地面からの鉄槌を受けたジンガーは、ジャンボ達の攻撃が届く箇所から離れる。


それと同時に地面に転がった聖王の剣も離れた所に飛んでいく。
ジャンボの目的としては、地面に聖王の剣をジンガーに奪われまいとすることもあった。
一刀流のジンガーにさえ、苦労している現在、新たな武器を手に入れられれば、ジャンボ達の勝利は極めて遠いものになるのも、周知の事実だ。

「薙ぎ払え……バギクロス!!」
しかしそこへ、魔王からの追撃が来る。
ジャンボとジンガー、近くに固まりすぎたことをチャンスに、風魔法が放たれた。

「爆ぜろ大気よ……イオナズン!!」
「守れ!マジックバリア!!」
ジャンボの放つ魔法の壁が、サフィールの爆発魔法が、横から来る竜巻を吹き飛ばした。

(敵さんの風魔法のコントロールが少しずれてくれて、助かったぜ。)
ジャンボはバギクロスの軌道がずれたおかげで、マジックバリアの詠唱に間に合ったことに感謝する。


壊滅の危機は一時的に去ったが、ジンガーとアベルの波状攻撃は止まらない。
しかもまだアベルが破壊の剣を振るっていないことから、まだ本気を出していないことも分かった。


出来ることならジャンボは物理ダメージを抑えることが出来る磁界シールドの範囲内で戦いたかった。
しかし、一か所に全員で留まり続ければ、全体魔法一網打尽にされる。

そして、ジャンボにとって最悪の状態が訪れた。
「助カリマス。ますたー。」

気が付けば、ジンガーの手にネプリムが落とした聖王の剣が握られていた。

1451Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:17:01 ID:n6gfRTV20

(しまった……ヤツの狙いは……!!)
アベルはバギクロスの軌道を「意図的に」ずらしたことに、ようやくジャンボは気づいた。

竜巻魔法は、敵への攻撃を目的とせずに、地面に転がっていた剣を、味方側に移動させることが狙いだった。


(こうなりゃ……『アレ』を出すしかねえか……。)
二つ目の武器を入手したことで、一気に攻め込もうとするジンガー。
剣を失ったねぷりむの守りが崩されるのも、そう長くはないことだ。


しかし、攻め込みすぎるあまり、ジンガーとアベルの距離が離れていたことをジャンボは見逃さなかった。


(距離が空きすぎだぜ……そらよ!!)
ジャンボは液体の入った瓶を、アベルめがけて投げつける。


しかし、その液体はアベルに降りかかることなく、剣で瓶を割り、中身は草原に染み込んだ。


だが、瓶の中身がアベルに当たらなかったのも気にせず、ジャンボは鞄から折れた灼熱剣エンマを取り出し、瓶の中身が散布された場所に投げつける。



「ねぷりむ!サフィール!!ホイミン!!退くぞ!!」

ジャンボが撤退の合図とともに、アベルとジンガーがいる辺りに、炎が立ち上る。
彼自身、先ほどのマジックバリアが使える最後の魔法だ。
戦っても勝ち目がない以上、撤退を決意した。



「なっ……これは……」
灼熱剣から発せられる炎は、緑の草の上に引かれた赤い絨毯のように広がっていく。
突然燃え盛る炎に、アベルも驚く。


地獄の鎧の力で炎の熱さはほとんどシャットアウトできるにせよ、炎による酸素不足は鎧ではどうにもならない。
空気を求めて、後ろへと下がる。

ジャンボが投げた瓶の中身は、ドワチャカオイル。
彼の第二の故郷、ドワチャッカ大陸でしか採取できない油で、装備品を作るときの潤滑剤や燃料として使われる。
それを炎の力を持つ剣で引火させた。
揮発材として使われることはあまりなかったが、油という名の通り活躍してくれた。



ジャンボの目論見通りジンガーも炎の向こうに行き、アベルの安否を確認する。

「逃ガスカ!!」
「追いますよ!!ジンガー!!」
ジンガーに追跡の指示を出し、炎の渦をバギクロスで吹き飛ばしたアベルも追いかける。

1452Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:17:56 ID:n6gfRTV20
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「あの炎は……」
突然巻き起こる炎の渦に、ただ事じゃないと否が応でも認識させられる。
アルスとチャモロも、冒険中に幾度となく炎の魔法を目にしている。
しかし、目の前に広がる炎は、魔法によるものではなかった。
黒い煙の出方は、明らかに揮発材を燃やした時の炎だ。


ペース配分など知ったこっちゃないとばかりに、二人はさらに足を速める。


そして、二人の片割れ、アルスは剣を構え、限界までその足を速めた。


前方に刃を向け、草原を駆ける。

炎に照らされた場所にいた二人組のうち、人間で「無くなった」方に斬りかかる。
ガキィンと剣がぶつかり合う音が響くが、それを奏でたのは破壊の剣ではなかった。

「あべる様ノ敵ダナ。覚エテイルゾ」


アベルへ斬りかかるのを止めたのは、元から人間で「無い」方、キラーマジンガ。
復活したという話をチャモロから聞いていたが、こうしてみると奇妙に思えた。

「よく出来ました。ジンガー。」
余裕綽々でジンガーの手柄を褒めるアベル。


アルスは鍔迫り合いの相手ではなく、そのマスターを睨みつけて叫んだ。

「あんたはサフィールの父親なんだろ?何でこんなことしてんだよ!!」
アルスは先ほどまで自分達から逃げていた少女の死体が、アベルの足元にあったのを見て、その所業に対して怒鳴りつける。

「何で?何でとはどういう意味ですか?私はただすべてを愛そうとしているだけですよ。」
アベルは即答する。だが、全く話は噛み合っていない。
「ふざけるのもいい加減にしろ!!」


そんなものは愛ではない。
愛のことを気付くのが遅かったアルスでさえ、それだけは分かる。
愛とは、誰かを壊すことではなく、守ることだ。そして、繋ぐことだ。
壊し続けることで作る愛なんて、そんな暴力的なものは間違っている。



「あべる様ノ反逆者ハ、全テ排除スル。」
そして、彼が唱える愛におかしいと意見を唱える場合ではないことにすぐに気付く。
ジンガーの回転で吹き飛ばされるアルス。


間髪入れずに、聖王の剣での攻撃が来た。
慌ててオチェアーノの剣で受け止めるも、一度戦った時とはまるで違う攻撃の精度に、押し切られてしまいそうになる。


(ダメだ……避けきれない……!!)
しかし、チャモロの風の刃が二人の間に入り込み、剣を弾いた。

1453Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:18:19 ID:n6gfRTV20

「アルスさん。一人で行かないでください。」


アベルはチャモロを見つめ、過去の経験を思い返す。
「その雰囲気は……なるほど。初めに私の邪魔をした、あの忌々しい竜ですか。」
見た目こそまるで異なるが、ムシが障るほど発せられる聖なる気配が、同じだった。


「チャモロさんは、サフィールさんたちの所へ!」
「え……アルスさんは……。」

今目の前にいる敵は、二人。
しかもうち一体は、チャモロを幾度となく苦しめてきた強敵だ。
もう一人も得体のしれない鎧と剣を身に着け、異様な雰囲気を醸し出している。


「この場で全滅だってあり得る!だからどっちか一人でも、聞きに行くべきだ!!
僕もすぐに追いかける!!」
「分かりました!!なら絶対に……死なないでください!!」
確かに、どちらか一人でも情報を伝えに行く方が、堅実なやり方だ。
今しなくてはならないことは、アベルとジンガーを倒すことより、首輪の情報を共有することだ。

自分達に対してローラの怨念が取り憑いているはずだが、その呪いが、「害を与えた相手」ならアベルも同じ条件であるはず。
そうなってくれることを願いながら、チャモロはアルスに背を向け、トラペッタへと向かって走る。


「逃ガスト思ッタカ?」
ジンガーはアイセンサーの照準を、チャモロの進行方向に合わせる。
「手を出す必要はありません。折角別れてくれるなら、ありがたく一人ずつ破壊しましょう。」
それをアベルは止めさせ、まずはアルスを殺そうと提案する。


確かに、ジャンボ達相手には余裕を持って戦えていた以上は、アルスとチャモロさえ撃破出来れば問題はない。


「いいんですか?二人なら私達にも勝てたかもしれませんよ。」
余裕綽々とチャモロを見送る。

「僕の命より、重要なものがあるからね。」

そしてアルスは、アベルの鎧の弱点を見抜いていた。
魔法の力を大きく無効化し、物理的な攻撃もあまり効果を示さない、呪われた鎧。
だが、チャモロの鎌鼬が、アベルの顔に短い赤線を走らせていたことで見抜いた。


あの鎧は、防御力を無視した、魔法以外の攻撃からは身を守ることが出来ない。
それを認知したアルスは、アベルの脚めがけて、鎌鼬を打つ。

「あべる様ニ当テルツモリダッタカ?ソウハサセナイ。」
しかし、風の刃が走る軌道上にジンガーが入り込み、無効化させる。
(こいつにはかまいたちは効かないのか……。)

1454Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:18:36 ID:n6gfRTV20

「良いですよ。ジンガー。」
今度はアベルまでも破壊の剣を掲げ、斬りかかってきた。
それまでずっと後ろで指示を出していた相手が急に攻撃に転じたことに対応しきれない。

破壊の剣を受け止め、聖王のハンマーは後ろに飛びのいて躱す。
しかし、避けた先の銀の刃は避けきれない。


(ダメだ……やられる……。)



「やらせません!!」
アルスの背後から、何者かの声が聞こえる。

「邪悪なあなたたちは、清めの灰でも食らってなさい!!バギ!!」
(え……?)

後ろにいた僧侶風の女性は、誰なのか分からない。
だが、目の前の敵は一人はマホカンタがかかっており、もう一人は魔法威力を減退させる鎧を着ている。

だが、彼女の目論見は違った。
一つはアルスへと振るわれた剣の動きを鈍らせること。
もう一つは、ドワチャカオイルと灼熱剣エンマによって、灰と化した草原を、巻き上げること。


「ナンダ!?」
「くっ……考えましたね……。」

いかに頑丈な鎧だろうと機械の体だろうと守りにくい部分の一つに、視覚がある。
真っ黒な灰は、人間の目にはもちろん、機械のモノアイにも覆いかぶさった。


「ここから反撃で「誰か知らないけどありがとう。逃げるよ!!」」
そこから反撃に転じようとするフアナを連れて、アルスは撤退を決意する。
時間はわずかだが確かに稼げたはずだから、もうチャモロたちを追いかけてもよいだろうと判断する。

1455Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:19:00 ID:n6gfRTV20


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

「何とか巻いたみたいですね……。」
トラペッタに戻れて、ひとまず安堵するサフィール。

「安心してんじゃねえ!誰か、ジンガーの腕を修理出来そうなモノを出せ!!」
ジャンボのイマイチ何を用意すればいいのか分からない指示に、残りのメンバーは戸惑う。

「何か……持ってねえか?鉄材だ!武器でも防具でもクズ鉄でも何でもいい!!」


ジャンボの問いかけに、サフィールはショットガンを、ホイミンは鉄の塊のような何かを渡す。

「このボウガンみてえな道具は義手として使えそうだな……。」
ショットガンの原理をよく知らないジャンボは、形状からその用途を判断する。
しかし、もう一つの部品は、ジャンボの目を見張るものがあった。

(これは……いったい何なんだ?ドワーフがかつて使っていたものとは微妙に違うようだが……。)

ウルベア地下遺跡や、ガデリアの洞窟で見たことのある古代兵器のパーツに似ているが、デザインは微妙に異なる。
アストルティアとは異なる世界のからくりを修理するためのパーツは、ジャンボの目から見ても異様なものだった。
だが、見れば見るほど、

「おっと……こればっかりに気にしている場合じゃねえな……。ホイミン!!」
「えっ?」
ジャンボはザックから一束の巻物を投げる。

「それを入り口で読んで、ワナをしかけて来てくれ。」
「うん。わかったよ。」
完全武装状態のアベルと、ワナを踏むことのない魔物のジンガーに通用するかどうかは分からないが、ねぷりむを修理する時間稼ぎにはなると期待して、ワナの巻物を読ませた。


ホイミンに用事を頼んだ後、ねぷりむの修理に取り掛かる。

「スゴイナじゃんぼ。マモノ使イカト思ッタガ、機械職人ダッタノカ?」
「まあ、そんなところだ。防具職人のスキル積んでおいて良かったぜ。」
ドルワームで培った技術が、こんな所で役に立ったことに驚きながらも、手際よく事を進めていく。
銃弾を抜いたショットガンを腕の骨代わりにして、手の指や関節のような細かい箇所は、からくりパーツで代用していく。
壊れたボウガンも、ジンガーから奪ったビッグボウガンに付け換えた。

1456Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:19:47 ID:n6gfRTV20
(……もう少し待ってくれよ……。もう少し……。)

心で強く念じながら、ジャンボは作業を続ける。




【G-2/トラペッタ/2日目 朝】

【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP:7/10 MP 1/6 左足矢傷(応急処置済み)
[装備]:ドラゴンの杖
[道具]:支給品一式×3、へんげの杖、999999ゴールド
[思考]:父の狂気を治める。不可能ならば倒す。
怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
みんな友達大作戦を手伝う

【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:HP7/10 MPほぼ0
[装備]:ナイトスナイパー@DQ8
[道具]:支給品一式、道具0〜3 四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1(ゲレゲレの支給品)ドワチャカオイル@DQ10
支給品0〜1(ヒューザの支給品) 悪魔の爪@DQ5 
天空の剣、罠抜けの指輪 罠の巻物×1 ドラゴンローブ 砂柱の魔方陣×1 折れた灼熱剣エンマ@DQS 天使の鉄槌@DQ10 
メガトンハンマー@DQ8 
[思考]:基本方針:エビルプリーストに借りを返す。
1:アベルを倒す
2:首輪解除を試みる
[備考]:※職業はどうぐ使いです。弓スキルは150です。ハンマースキルは100以上です。

【ホイミン@DQ4】
[状態]:健康 MP1/8 仲間死亡によるショック
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具0〜2個 ヒューザのメモ(首輪解除の手掛かりが書いています)
[思考]:ジャンボとサフィールを手伝う
『みんな友達大作戦』を成功させる ヒューザがくれた手掛かりを守る。

【ねぷりむ@DQ10キラーマジンガB】
[状態]:HP1/6 背中にヒビ 右腕義手
[装備]:名刀・斬鉄丸 @DQJ 聖王のハンマー@DQ10 ビッグボウガン @DQ7 アクセルギア@DQ10
[道具]:支給品一式×3、魔封じの杖、道具0〜2個(ブライの不明支給品)、道具0〜2個(ゴーレムの不明支給品)
[思考]:サフィールについていく。ガンガン戦う。
[備考]:DQ10のキラーマジンガの特技を使いこなします。
ゴーレムの記憶を持っています。

1457Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:20:31 ID:n6gfRTV20
【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:HP1/3
[装備]:バレットハンマー@DQ10 聖王の剣@DQ10
[道具]:なし
[思考]:アベルに従う



【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/4 手に軽い火傷 MP1/6 ※マホキテによる回復
[装備]:破壊の剣 地獄の鎧@DQ3
[道具]:支給品一式 剣の秘伝書 ヘルバトラーの首輪 毒針
[思考]:過去と決別する為戦う。力を得る為、愛情をもって接する(そして失う為に)
アルス達を追う?一度態勢を整える?

※破壊の剣と地獄の鎧の重複効果により、更に強力になった呪いを受けています。
動けなくなる呪いの効果が抑えられている反面、激しい頭痛に襲われています。

【F-3/草原 /2日目 朝】


【 アルス@DQ7】
[状態]:HP1/6 MP1/5 左足に怪我(素早さ低下) 右腕から胸にかけて裂傷(応急処置済み)左肩に刺傷(治療済み)
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜1) ゲルダの不明支給品0〜1個(確認済み) 道具0〜2個(本人確認済み) 
[思考]:この戦いを終わらせる。
ミーティア、キーファを探す。
サフィール達に会いに、トラペッタへ戻る。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。


【フアナ(女僧侶)@DQ3】
[状態]:HP1/10 MP 0
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 パラディンの秘伝書 不明支給品0〜1(本人確認済み) かりうどの弓@DQ9 カマエル@DQ9
[思考]:自分だけが出来ることを探す。
[目的]1:仲間たちの死を受け止め生きる。
2:緑フード(アルス)と共に、トラペッタへ向かう
3:アベルを倒し、アスナとコニファーの仇を討つために仲間を集める。
※バーバラの死因を怪しく思っています。
※ローラがアルスとチャモロにかけた呪いを見ることが出来ます。

1458Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:20:46 ID:n6gfRTV20

迅速に、ジャンボ達のもとに、近づいてくる。
首輪の正体を部分的にだが知った人物が、魔王より先に。
だが、忘れてはならない。
彼が来るということは、同時に『呪い』が来るということを。




彼が、トラペッタの町へ足を踏み入れた瞬間、悪魔が嗤った。
ホイミンが、魔王相手に仕掛けようとして町の入り口で使った、ワナの巻物。


その瞬間、町中に、爆音が響いた。


結論から言うと、誰が悪かったというわけではない。
だが、トラペッタ町はこの戦いの場で、特に死者や争いが多かった場所。
言ってしまえば、呪いというものが、力を特に発揮する場所なのだ。

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP?? MP1/10 左腕骨折(応急処置済み) ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)(加速状態)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:諦めない。ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める 首輪解除の為に、ジャンボ、サフィールへ会いに行く (ジャンボには半信半疑)
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。また、はぐれメタルの職業を少なくともLv7まで経験しています。魔法使い、魔法戦士、賢者、勇者は経験していません。
ジャンボに対しては信頼感の反面、疑いも抱いています。

1459Overture to the end ◆vV5.jnbCYw:2020/10/31(土) 00:21:00 ID:n6gfRTV20
投下終了です。

1460 光の中に消え去った : 光の中に消え去った 
 光の中に消え去った 

1461 光の中に消え去った : 光の中に消え去った 
 光の中に消え去った 

1462ただ一匹の名無しだ:2020/12/08(火) 21:31:18 ID:GY6Eicgg0
投下乙でした。
最強格のモンスターと最強格のモンスター使いのチームが、
終盤のマーダーとしてふさわしすぎるほどに強いんだよなあ・・・
かなり多くの人々にお前おかしいよと言われているのにまるで
聞き入れない点も非常にやっかいですね。機械の相棒はピッタリなのかも。


指摘点というか質問ですが

>>1455
>ウルベア地下遺跡や、ガデリアの洞窟で見たことのある古代兵器のパーツに似ているが、デザインは微妙に異なる。
>アストルティアとは異なる世界のからくりを修理するためのパーツは、ジャンボの目から見ても異様なものだった。
>だが、見れば見るほど、

これはここで文章が途切れていますが、このままでも大丈夫でしょうか。

1463 ◆vV5.jnbCYw:2020/12/09(水) 21:56:29 ID:btkLyJiw0
感想ありがとうございます。

wordファイルから一部コピー漏れがあったみたいです。

ウルベア地下遺跡や、ガデリアの洞窟で見たことのある古代兵器のパーツに似ているが、デザインは微妙に異なる。
アストルティアとは異なる世界のからくりを修理するためのパーツは、ジャンボの目から見ても異様なものだった。
だが、見れば見るほど、部品の一つ一つが、機械の魔物を治すためにあるかのように思えてくる。

+備考 ホイミンの支給品のからくりパーツ@DQ7は、ねぷりむの修理に使われました。

以上が訂正内容です。

1464ただ一匹の名無しだ:2020/12/10(木) 23:20:28 ID:ymE9U4ZU0
投下お疲れ様です。

>「誰か、ジンガーの腕を修理出来そうなモノを出せ!!」
初見気付きませんでしたがネプリムの間違いで合ってますでしょうか。

1465 ◆vV5.jnbCYw:2020/12/13(日) 16:17:02 ID:FBpLspwM0
指摘ありがとうございます。
wiki編集で訂正しました。

1466大切なものに、気付かない僕がいた ◆vV5.jnbCYw:2021/02/16(火) 23:56:32 ID:9QMx.Kjk0
投下します

1467大切なものに、気付かない僕がいた ◆vV5.jnbCYw:2021/02/16(火) 23:56:53 ID:9QMx.Kjk0
二人だけの仲に割り込むかのように、その放送は流れた。
その中でも一際二人の気を引いたのは、ある人物の名前。
それは、この世界に来る前から二人が知っている人の名前ではない。

―――ターニア

「エイト……今の名前。」
「ええ、確かにレックの妹でした。」
「行きましょう。レックさん達のためにも。」
「はい。」

なおもエイトは姫をその両手に抱えて、城へと進む。
その足こそは確かに姫の言う通りになっている。
だが、心は姫の思わざる所にあった。


(レック……奴は一体……?)

ジャンボというドワーフの男が危険視していた青年。
しかし、実際に会ってみた限り、至って普通の好青年という印象だ。
この人物が殺さなければならない危険人物だと断定するなど、相当被害妄想が強くもない限り無理な話だ。
だが、エイトにも一つ分かったことがある。
彼は、ターニアという妹をいたく大事にしていたということだ。


もう一つ、彼は経験したことがある。
ラプソーンの邪念が籠っていた杖といった、道具や呪いなど関係なしに、ほんの些細な出来事が人の気持ちを大きく変えるということを。
例えば、師匠に叱責を受けたことでその杖に手を出したドルマゲスのように。
現にエイトは、この世界で仲間であったククールが参加者の殲滅を目論むようになった経験がある。


従って、エイトは失ったターニアを取り戻すため、レックが自分たちに牙を剝いてくるのではないかという恐れがあった。


残念ながら、当のミーティアはエイトにその気持ちを汲み取ることはなかった。
「エイト、彼らは無事に着けたのでしょうか……。」
「分かりません。無事に着ければ良いですが……。」

まだ疑問に残る点はある。
ミーティア達が目指していたのは、かつてエイトも見たことのある、月影の窓で間違いない。
だが、この世界で月影の窓はあるのか。
仮にあるとしても、日の出まで間に合わず、チャンスを棒に振ることになってしまうかもしれない。
安易な希望は、大きな絶望へと転ずることはある。


「エイト」
何度目か、柔らかな声が草を踏みしめる音に混ざって響く。
「はい」
「あの二人を疑っていませんか?」


図星だった。
しかも一番疑っていると思っていなかった相手から問われたことだから猶更である。

1468大切なものに、気付かない僕がいた ◆vV5.jnbCYw:2021/02/16(火) 23:57:43 ID:9QMx.Kjk0

「なぜそれを?」
本当ならいつものように、「はい」か「いいえ」で答えるべきだ。
ましてや姫に対する従者としての返答なら猶更である。
だが、失礼を承知の上で聞きたかった。


「顔を見れば分かります。貴方がレックと目が合った時、急に浮かない顔になりましたね。」
自分のことを、こんな状況ながらも理解してしまうなんて流石としか思えなかった。

「はい。私はレックのことが、どうにも信用が出来ないのです。」
エイトは返答に困ったが、下手にはぐらかすことは最早無駄でしかない以上は、彼等への疑いを告げる。
ここに来る途中に、レックとその仲間のことを危険視していた人物がいたこと。



「そんなの、らしくないですよ。」
次に聞かれるのは、疑っている理由や、ミーティアに会うまでに何があったのかだとばかり考えていたが、更に予想と異なる回答だった。

「知らない人でも、信用できない人でも、他者から悪く言われた人でも分け隔てなく接する所が、エイトらしい所ですよ。違いますか?」
ミーティアの言う通り、自分は確かに襲ってきた山賊も仲間として引き入れたし、見知らぬ町娘の頼みも、富豪の兄妹の護衛も承諾してきた。
だが、それは全て、巡り巡って主君であるミーティアとトロデのためになると思ってやったことだった。


「ですが、それは……」
「ミーティアのため、と言いたいのでしょう。この世界で会うまでエイトに何があったのか分からないけど、それは違うわ。」

密着した状態ながらも、エイトはミーティアから目を逸らそうとする。だが、ミーティアはじっとエイトを見つめる。

「でも、私は、城にいた人を見捨てました。」
「見捨てたくない気持ちも大きかったはずです。」

「トロデ王が殺されたことを聞いた時、周りの人たちを殺そうとしました。」
「それを忌避した自分もいるはずです。『殺した』じゃなくて、『殺そうとした』のはそういうことよね?」

まるで見てきたかのようにミーティアは語る。
「エイト、もう私を降ろしてくれませんか?」

エイトはただ何も答えず、しゃがんで地面にゆっくりと大切な人を置く。

「私はもう戦えます。だから、『私のため』と言う必要はないですよ。これからはあなたのために生きてください。」

始めて、目が合った。
否、ここまで真剣に語り掛ける以上は、目を逸らしたままでは居られなかった。

1469大切なものに、気付かない僕がいた ◆vV5.jnbCYw:2021/02/16(火) 23:58:26 ID:9QMx.Kjk0

「もう一つ聞きますよ、エイト。貴方の本心は、みんなをこの戦いから救いたい。そうですね?」
「はい。」

今度は、短く回答した。
だが、その二文字は確かにミーティアの心に響いた。


この世界に来るまでも、来てからも何度も何度も思った。
私情を捨て、王と姫を守ることだけに専念せねばと。
でもどこかで、主君だけではなく他の誰かをも助けようとしたくなっていた。
主君や家族、時には他の大切な誰かのために自分の使命を全うしようとしているのは、自分だけではないから。
それを蔑ろにしていい権利など、自分にも誰にもないから。


――――姫様……貴女だけは、どうかご無事で……
初めに出会ったブライを殺せなかったのも、彼が首に槍を突き付けられてなお、主君を想う言葉が出てきたからだ。

――――もうやめようよ。
一度は姫を除くすべてを殺そうと決意しても、結局実行出来なかったのは、アルス達が止めに入ったのもあったが、それでも生き残った者を助けたかったからだ。


人を助けようとして失敗し、挙句ヤンガスまで犠牲にしてしまった後でさえ、トロデーン城へ行くか悩んだのも、同じことだ。


エイトは、主君のみを守ろうとするには、優しすぎる青年だった。


「それでいいわ。本当の気持ちを伝えられて、ミーティアも嬉しい。」
他人は時に自分を映す鏡になると言うが、ミーティアはまさにエイトの気づかなかった部分を見せた鏡になった。

「どうやら、不出来な従者である私は、あなた以外にも助けたい人がいるようです。」
「ええ、このミーティア、力及ばずながらあなたと共に行きましょう。」

まるで主君が従者に対して言うこととは思えない。
だが、そこには結ばれたばかりの夫婦にみられるような、確かな信頼が見えた。
彼らは別の世界の近い未来、主君と従者の関係ではなく、互いに平等な関係を築くので、これが必然なのかもしれない。


先程とは違い、エイトには強く地面を踏みしめて進む姿が見えた。
ミーティアも、それに遅れまいと足を速める。


主君と従者としての生きる道は終わり、そして二人は新たな道を歩き始めた。
陽光が、二人の道を作るかのように草原を照らした。

1470大切なものに、気付かない僕がいた ◆vV5.jnbCYw:2021/02/16(火) 23:58:43 ID:9QMx.Kjk0

【C-5/平原/早朝】
 
【エイト@DQ8】
[状態]:健康 MP2/3 強い決意
[装備]:奇跡の剣
[道具]:支給品一式 魔法の聖水×2(DQ6)、激辛チーズ(DQ8)
[思考]:ミーティアを守る。トロデーン城へ向かう。残された参加者全員を(よほどの悪人を除いて)救う

※現状ではミーティアはチャゴスと結婚出来なくなった事に気づいていません。

【ミーティア@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:アサシンダガー@DQ8
[道具]:支給品一式、あぶないみずぎ、レースのビスチェ、あぶないビスチェ、祝福の杖@DQ7 その他道具0~1個
[思考]:レック、キーファを追う。エイトと共に生きる

1471大切なものに、気付かない僕がいた ◆vV5.jnbCYw:2021/02/16(火) 23:58:55 ID:9QMx.Kjk0
投下終了です。

1472ただ一匹の名無しだ:2021/02/17(水) 19:44:43 ID:iJUXBzZg0
投下乙です
再会するまでの道中のことやらレックのことでひと悶着あるかもと懸念があったが、幼馴染は伊達じゃなかったか
殺し未遂のことまでゲロってもしっかり受け止めるのは強い信頼を感じるな

1473ただ一匹の名無しだ:2021/03/25(木) 19:48:32 ID:ia0RNXNE0
『DQM/テリワン3D初日』
(18:48〜放送開始)

https://youtube.com/watch?v=sQAi53W5ukw

1474ただ一匹の名無しだ:2021/03/28(日) 21:41:31 ID:V283b4XI0
加藤純一(うんこちゃん) Youtubelive

『DQM/テリーのワンダーランド3DS
人生プレイ/3日目』
(19:06〜放送開始)

https://youtu.be/73Adb4Gyam4

1475ただ一匹の名無しだ:2021/04/01(木) 21:03:01 ID:iCaXbh8k0
3DS
『DQM/テリワン3D
人生プレイ/5日目』
(19:05〜放送開始)

https://youtu.be/TrmjSvIWg_A

1476 ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:09:12 ID:S51TxUgs0
投下します

1477Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:12:24 ID:S51TxUgs0




「駄目だ」


ホイミンの発言を遮り、ジャンボは拒否の意を示す。
種族柄、誰かの傷つく声を聞けば駆けつけるほどに純粋で穏やか性質で知れたホイミスライムである。
ゆえに口喧嘩ですら好まぬ彼は触腕をもじもじと絡めるにとどまり、二の句を継げるはずもなく。
ホイミンにも、傍らで見ていたサフィールにも目をくれず黙々とネプリムの身体を修繕していた。


「ジャンボさん……ホイミンさんの気持ち、わたしわかります。少しは聞いてあげても……」


彼らの草原一つを焼け野原へと変える作戦は、辛くも功を奏した。
アベルたちの追跡を逃れ、廃墟と化したトラペッタの奥にこうして身を潜めている。
ギガデーモンに蹂躙された影響からか瓦礫の山と化してはいるが、かろうじて酒場の一角は原型を留めている。
大きな南門からはちょうど死角になる地点だ。
偶然ではあるが、ジンガーの修理を行うのにも適した隠れ家になっていた。


「ぼく、あんなに怖いワナだって知ってたら……」
「悪かった、急ぎとは言え適当に見繕って、しかもお前に任せちまった俺のミスだ」


ホイミンが食い下がったのは、南門に仕掛けるよう頼まれたワナの巻物についてである。
少しでもジンガーの回復のための時間を稼ぐためにジャンボが読むように頼んだものだ。
その手の道具に詳しいわけでもない彼が威力のことなどはつゆ知らず。
命令通りに『道具』を『つかった』ただそれだけに過ぎない。
指示を下したジャンボからしても、ここまで規模の大きいワナが発動するとは考えていなかった。
道具倍化の術も、範囲化の術も加えずに任せたのだから。
ホイミンか、【ワナにかかった何者か】の運がただひたすらに悪かったとしか言えない。


「だったら、お願いだよ。ぼく様子を見に行きたいんだ」
「……いや」


そうだとしても、ジャンボは許可できない。


「それでも、様子を見に行くのはナシだ」
「ジャンボさん……お父さんは私達を見失ってました」


サフィールが抗議の声とともに反証を示す。
ダメージを負ったネプリムを連れているにも関わらず完全に逃げ切れたのは理由がある。
自分たち以外の闖入者に手を割いた為に他ならない。


「それに逃げている間、誰かと剣を交えていたのも聞いたの。お父さんなら時間が合わないもの」
「そうだよ。ワナにかかったのはあのおじさんじゃなくて、他の誰かが─そうだ」


ホイミンは思い出した。
昨日の夜明け、アベルの襲撃があったとき、そしてターニアの逃走を許してしまったとき。

1478Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:14:52 ID:S51TxUgs0


「近くにいたから、チャモロさんかもしれないよね」
「……そうだな、ワナにかかったのがあいつじゃねえとは言い切れない」


ゆらゆらと落ち着かない様子で身体を揺らすホイミン。
ため息まじりにジャンボは彼の方へ向き直す。
今は落ち着いて修理に取りかかれているとは言え、ピンチから脱していない。
ここで言い争い、責任を追求するメリットはどこにもなかった。


「責任は俺にある。お前が震えるこたねえ、俺のせいにしてくれていい」
「ううん。読んだのは……ぼくだよ」


アベル一行が引っかかっていてくれれば、足止めとしての用は成す。
だが、そうでなかったとしたら。
ホイミンはひどく焦っていた。
多くの戦いを傍で見てきたホイミンではあるが、積極的に攻撃に参加してはいない。
はじめて自ら誰かの生命を脅かしたという思いが、不安定な気持ちを生んでいた。


「あのワナで、誰かがケガしたり……し、死んじゃってたら……いやなんだ」


ジャンボに諭されても、流されずにホイミンは自分の意見を告げた。
譲れない、死んでいった「ともだち」との約束がそうさせている。


「だから、もし傷つけてたら……あやまりたい」
「……」
「ぼくは、大作戦を成功させたいんだ。ともだちになるひとを傷つけたくないよ」
「もし不安なら私もついていくから、それなら……」


それでもジャンボは首を横に振る。
どうして、とホイミンはそれでも懇願した。
冒険者において意見の食い違いから起こる、パーティ間の諍い。
こういうとき、一体どうすれば丸く収められていただろうか。


「……俺はお前らのフレンド(友達)じゃねえ、ましてご主人様でもない。今は肩を並べる仲間とは思うがな」
「え?」
「だからこれ以上強い命令はできねえ。こいつは『冒険者の先輩』としてのアドバイスだ。よく聞けよ」
「……う、うん」


ジャンボは遠い昔のようにすら感じられる、アストルティアでの記憶を思い返した。
今の彼らを示す間柄は冒険者と似ている。
数年来の旧知の仲と旅することもあれば、たった今出会った流れの旅人と背中を預け合うこともあった。
それぞれが、バラバラの目的ではあっても、助け合い譲り合う精神。
それがパーティを組んで冒険をする上での常識、鉄則である。


「いざってときに『仲間のため』に動かず『自分のため』に動く奴は怖え。それこそ敵以上にな」

1479Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:17:21 ID:S51TxUgs0

一人では叶わぬ強大な魔物にも、仲間たちとなら戦える。
裏を返せば、仲間との間に綻びが生じれば、それは敗北に直結するのだ。
自分の命を優先して、仲間のために力を尽くさない者。
功を焦り、仲間の助けの及ばぬ方へ突き進む者。
多くの旅を重ねたジャンボは、それだけ間違った冒険者も知っていた。


(ホイミン、お前みたいな「いい奴」ばっかだったらアストルティアは平和だろうな)


彼の希望に蓋をするようで悪いが、今は時間を割くことの危険のほうが大きい。
戦力が圧倒的に不足している今、ネプリムを再び立ち上がらせることが最優先であった。
総合的に見れば、ジャンボの考えは賢明な判断と言えた。


「北西の門が塞がってんのは見た。もし南門が崩れちまってたらここは完全に孤立してんだ」
「……そういえば、そうだったね」


かつてこの町に最初に訪れたときの悲しい記憶を思い返した。
サンディも今の自分のように、落ち着かない、ごちゃごちゃとした気持ちだったのかと、ホイミンは胸を痛める。


「裏を返せば閉じこもって時間を稼ぐ大チャンスってわけさ」
「……」
「悪いとは思うがこらえてくれ。ねぷりむもあと少しでまた戦える。生き残りを探すのは後だ」
「……わかり、ました」
「うん……」
(とは、言ったものの……)


最悪のケースが、頭を横切る。
爆発の被害を被ったのがチャモロ、もしくはアベルの対抗戦力となる人物であること。
さらに身動きの取れない状態で、すぐさまアベル達に遭遇してしまうことだ。


(ワナに嵌って動けないヤツを、アベルは確実に殺すだろう。動けない獲物が転がってるんだからな)


だが、ジャンボはこの考えを口にできない。
真実を告げてホイミンがコントロールを外れることを考えていたのだ。
以前までの彼ならば、合理的な判断で、必要か、そうでないかの線引きをしていただろう。
それこそ、ホイミンは戦力になることが無い、と切り捨てていたかも知れない。
しかし、託されてしまったのなら。
願われてしまったのであれば。


(か細い可能性だが縋るっきゃねえんだ。頼むから犠牲が出ないようにうまいこと転がってくれよ)

1480Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:18:35 ID:S51TxUgs0
むざむざ誰かが死に行くような真似は絶対にさせない。
自分を命懸けで救ってくれたフォズに報いるためにも。
この殺し合いの舞台に上げられる前までとは、明らかな考えの差が生まれていた。


(間に合ってくれ、死なずに済んでくれ)


ネプリムのボルトを締め直す度に、ジャンボの焦燥は積み重なっていった。
故に、口数少ないままに、ネプリムの調整を進めていく。
だからこそ、気づくことはできなかった。

「……」

ホイミンの考えのその先まで。



---------



「─システム再起動完了。アリガトウじゃんぼ」

ややあって、ジャンボは再びネプリムの声を聞くことができた。
右腕の軸はショットガンの銃身を用いての応急措置で換装されているものの、どうにか動作に不備は無い。
もともとミトン型の手をしていたため、複雑な指先の修理を行わずに済んだのも功を奏した。


「動作問題ナシ。コレデマタ戦エル」
「そいつは何より、手間取ってすまなかったが……形にはなってるみたいだな」


体内のギアが噛み合い初めると、巨体が音もなく浮遊を始めた。
関節の稼働を、武器の取り扱いを、すべての動作を確かめている。
アベル一行の追撃に対しての備えが間に合う、そう思われたのだが。


「じゃんぼ、悪イ知ラセダ」
「……良い知らせとセットが良かったぜ」


赤い光を放つ単眼はぐるりと動き、爆発の起きた南門へと向けられる。
ネプリムを隠せる物陰に潜んだ状態であり、現在伺い知ることはできていない。
通れる状態かはわからないが、爆発の影響は少なくないと予想できた。


「動型機ノ接近ヲ感ジル」
「!やけに早くねえか?」


ネプリムは南門の向こうから、同じキラーマジンガの接近を感じていたのだ。
修理中に一旦スリープモードに入ったため、各種センサーの再起動にも少々時間を要していた。

「熱源探知ヨリモせんさーノ範囲ガ若干広イ。誰ガ伴ッテイルノカ解ラナイガ【じんがー】ト思ワレル」
「……そりゃそうだ、キラーマジンガCが居たら俺はもうギブよ」

1481Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:21:55 ID:S51TxUgs0

南門までもう少しでキラーマジンガを連れた誰かは辿り着くようだ。
こちらにとって有利な点といえば、トラペッタを観察した多少の地の利。
他には、まだ近くに手を借りれる誰かが存在している可能性が有るのみとなった。
ネプリムとジンガーが同等の力を持っていても、残る相手が伝説のまものマスターとなれば勝機は薄い。
だが、チャモロと、そのチャモロの仲間。
さらにジャンボらが逃げるときに何者かの援護もあったとサフィールは確認していた。
彼らも無事で居てくれれば、あるいは共に戦える。


「腹くくるしかなさそうだ。サフィール、ホイミン!準備するぜ」
「……」
「サフィール?」


傍らで控えていたはずのサフィールの反応が無いことを訝しみ、ジャンボは振り返る。
少女はかろうじて残っていた酒場の一角、木箱の上、どうやらクッションのようなものに腰掛けている。
いつ転げ落ちるか危なっかしそうに、こくり、こくりと船を漕いでいた。


「まあ、無理もねぇ……か」


年若い彼女が殺し合いを強いられるだけに留まらず、肉親に刃を向けられる。
どれだけの心の強さがあろうとも、負担が限界に達していてもおかしくはない。
母親が、兄が、仲間たちが、ここに至るまでの同行者が。
多くの別離があったことも想像に難くない。


「ザメハは勿体ねえよな。ほいっ」
「ふゃっ」


軽いツッコミでサフィールの覚醒を促す。
つい先刻までの気丈な振る舞いはどこへやら。
慌てて顔を覆い隠す仕草は年相応のそれだった。


「……あっ、おはょっ……ご、ごめっごめななさっ」
「疲れてたんだろ、気にしなくていい。……ねぷりむ起動だぜ」


ジャンボの後ろにぬっ、と現れた白銀の体躯。
その姿は、少女が感じていた多くの不安を、払拭してくれるような頼もしさを感じた。


「……ネプリム!治ったんですね」
「心配ヲカケタ」
「間に合ってよかったぜ。……いよいよあんたの親父とのリベンジが近い」

1482Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:25:01 ID:S51TxUgs0


改めて覚悟を問うのも野暮かもしれないが、少女の意思を確認する。
混乱に継ぐ混乱で、冷静さも奪われていただろう。
戦況がきついのは確実だが、ジャンボは彼女を前線から外すことすら考えていた。
先程ホイミンに告げたように、敵以上に恐れるのは制御しきれない仲間。
『自分のため』に行動し、作戦から逸脱することが最大の障害なのだ。


「……私、もう決めました。覚悟はあります……心配しないで平気です」


しかし、サフィールの瞳は弱々しくはない。
そこにはジャンボも口をつぐむほどの固い覚悟があった。


「みなまで言うな、か。いいぜ、頼らせてもらう」
「じゃあホイミンさん、戦闘前にジャンボさんを回復……」


いつもの鈴の転がるような声がしない。
サフィールの問いは空中に虚しく消える。


「……ホイミン?」


返答はない。
静寂が、彼ら2人と1体の間を支配した。


「ホイミンさん!?」
「スライム系魔物ノ捜索ヲ開始。範囲内ニ反応ガ無イ」
「……マジか!いつからだ!?」



---------



「んっしょ……よし」
「……う、っ……」


突然の爆破により、チャモロは少ない体力をさらに削られていた。
息も絶え絶えの状態でさらに瓦礫と瓦礫の隙間に体を挟まれ、意識を失っていたのだ。
大型の門の瓦礫は、今は崩れることなく安定しているが、危なげな状態だ。


「ぼくの体が、すきまを通れてよかった。今回復するね」
「あな、たは……」


チャモロが覚醒したときに目の前にいたのは、善き心を隠しきれないホイミスライムだった。
傍らには潰されずに済んだのか、彼のトレードマークの僧衣帽が置かれている。


「ホイミ!!……ひどいケガだよ。ごめんね、ほんとうに、ごめんなさい……」

1483Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:26:54 ID:S51TxUgs0



サフィールが木箱に腰掛ける際、そのままでは痛いだろうと、持ち物の枕を渡した。
どうやら心地良かったためか眠りに落ちた彼女を、ホイミンは起こすこともできた─だが。
彼はそうしなかった。
ジャンボの言いつけに背くことになったが、どうしてもこの気持ちを留めておくことができなかった。
最終的に彼が選んだのは、そのスライムの体で瓦礫の隙間をくぐり抜け、トラペッタの外へ出ることだった。


「ここから逃げてください……キラーマジンガが……魔物使いと共に、迫っています」
「ジンガーと、サフィールのお父さんだよね。だいじょうぶ、わかってるんだ」
「サフィール……そうかご存知……でしたか……ならば……伝えて……ほしい……」


チャモロはこの命が尽きようとも、なんとしても首輪の情報を共有するという意思があった。
しかしホイミンはその口をとっさにふさぐ。


「だめだよ、おとなしくしてて。……この爆発はぼくのせいなんだ。だからセキニンがあるの」
「どう、いう……」


ホイミンは消えかかっているチャモロの意識を繋ぐためにも、懸命に説明をした。
自分たちはキラーマジンガとアベルから逃げた後、トラペッタに逃げ込み罠を仕掛けた。
運悪くチャモロが真っ先に引っかかり、門は大破して今の状況に陥ったと。
ホイミンは頼まれて罠を仕掛けたに過ぎない。
だが、かなりの責任を感じていることが、短いやり取りでもチャモロに理解できた。


「全力のホイミでもちょっぴりしか治らなくてごめんね。だから、何度でもかけるよ」
「ありがとう……ございます」


度重なるホイミンの献身により、チャモロはその後どうにか容態を持ち直した。
しかし、瓦礫を除いて彼の身体を引っ張り出すことはどうしても叶わなかった。


「うんしょ、うんしょ!……ちからが足りないや。ううう……本当に、ごめん……」
「謝ることはありません、私には感謝の気持しかないですよ」
「でもぼく、ともだちになりたい人のことを……傷つけちゃった……」


心から悲しむホイミンの純粋な気持ちに触れ、チャモロはゲントの村の子どもたちを思い出した。
人と人との心の繋がりに思い悩む弟や、妹のような世代に広く説法をしていた記憶を。


「……ままあることです。失敗することもある。皆、悩み、苦しみの中に藻掻いているのが当たり前です」
「でも、でも……『みんな友だち大作戦』は、ぼくだけの夢じゃなくて」


ホイミンの脳裏には、今まで触れ合い手を取り合った友だちの顔がよぎる。
一人よぎるたびに、溢れた涙がぽろぽろとこぼれ落ちていく。

りゅうちゃんが考えたこの大作戦をかならず遂行する、そうガボといっしょに約束した。
ライアンとの再開、天使様と養成のサンディ、団長さんとゲルダ、それにドラゴン。
友だちにはならない、と突っぱねたのにかばってくれたヒューザ。
お兄さん思いだったターニアに主人思いのキラーパンサー、ゲレゲレ。

1484Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:27:27 ID:S51TxUgs0


「だから……僕はぜったい、チャモロさんを助けてともだちになるんだ、って」
「……ホイミンさん。私はもう、あなたを友と思います」
「でも……」


彼をこうも傷つけたのは自分だ。
その思いがホイミンに二の足を踏ませたが、チャモロは身を捩り片手を這い出した。
ホイミをかけ続けた彼の触腕を、慈愛に溢れた優しさで包み込む。


「あなたが私の命を繋ぎ、こうして手を取り合うことができるのです。これは友に他なりません」
「いいの?チャモロさん。……ほんとにほんとに、ありがとう」


湧き上がる感情からか、ホイミンの身体がふるふると揺らぐ。
大きな目から溢れる涙を抑えきれずに、顔を触腕でごしごしと拭った。
チャモロは握っていた片腕を力なく緩める。


「……だから、もうお逃げください。じき、キラーマジンガを連れてアベルはここに至るでしょう」
「チャモロさんにも、せんさーがあるの?」
「いえ……そうではありません」


まさかこのメガネが、とホイミンがあたふたするのを否定する。


「奇しくも、私は彼と同じく呪われていたようです。そのためか彼らが近づくのを目で見るよりも早く感じ取れている」


チャモロの身体に刻まれた呪いが、同種とも呼べる地獄の呪いを宿したアベルの接近に反応しているのだ。
宿った呪いの意思は、より強い呪いを感じ取り、共鳴を始めて疼いていた。
皮肉なことに、不運の呪いが近づく危機を知ることとなり、こうして役立っている。


「じゃあ、ジャンボたちを呼んで手伝ってもらおうよ……!」
「いえ、それでは間に合わない……アルスさんが先に到着することを願っていましたが、叶わなかった」


チャモロは苦々しい顔をホイミンに向ける。
諦観を帯びた表情だと、そう言えた。
アベル達がアルスよりも先んじて到着したということは、考えたくは無いが最悪のケースが頭をよぎる。
次々と仲間たちを失い、体力の尽きたこともあり、チャモロは己の無力感、諦めを感じていたのかもしれない。
暗い考えが呪いの勢いを増し、死を徐々に招いているようにすら思えた。


「ともだちになれたばかりの貴方をむざむざ殺させはしません。門の中にお逃げください」
「……ううん」

1485Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:29:12 ID:S51TxUgs0
ホイミンは、ホイミをかける手を止めた。
そして傍らに立て掛けておいた二振りの杖のうち、一本を触腕で握りしめ、杖を空に掲げる。
それは瓦礫の隙間をどうにかくぐり、門の内側から持ち出した、彼の大作戦の切り札のひとつ。


「ベホマみたいに治せなくてごめんね。呼べばきっとサフィールとジャンボと、ねぷりむが助けてくれるから」
「ホイミンさん?待ってください、ホイミンさん!」


杖を掲げたホイミンの姿に、チャモロは驚愕する。
右腕を下ろし、振り返って微笑んだその表情には、何らかの覚悟が秘められていた。


「ぼく、『みんな友だち大作戦』ぜったい成功させるから。だからそれは預かっててね」
「ホイミンさん!」


チャモロの前に大切に取っておいたヒューザのメモを、今しがた掲げた杖を重し代わりに置いていく。
そして、立てかけられたもう一振りの杖を胸に抱え込むように握りしめる。
ホイミンは勢いよく大地を蹴って、駆け出した。
その方角には、ネプリムが察知した同種の機械が。
そしてチャモロの感じ取っていた呪いの力の持ち主が、じわじわと歩み寄っていた。



---------



「ジンガー、停止だ」
「破壊サレタ門デス、熱源反応ガ1ツ」


トラペッタの外壁は高く大きい、やや離れていても街道を進めばすぐに視認できる。
アルスたちを見失ってから、体力を温存しつつゆっくりと街道沿いにトラペッタを目指した彼らもまた容易に確認できた。
だからこそ、大きな音がした後に何かが崩れる音を続けて聞いていた。


「タイミングからして、サフィールたちが門を破壊したと考えられますが……」


破壊した後の対応は大きく2パターン考えられる。
門の中で籠城を決め込むか。
破壊したのはブラフであり、実際は町の外に逃げているのか。
サフィール一人では考えつかない荒っぽい策ではあるが、同行者の発案ならあり得る話だ。
見たことのない種族ではあったが、おそらくホビット、ドワーフ当たりの亜種か。
あれは戦闘においても常に頭を巡らせているように感じられたため、真っ先に警戒すべき対象と考えている。


「まずは、対応を先決しますか」

1486Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:32:49 ID:S51TxUgs0

そんな考えを一旦横に置き、アベルは近づいてくる何者かに意識を移した。
武器を構えるどころか握りもしないのは、余裕の表れか、体力の温存か。


「警戒態勢。迎撃シマスカ」
「少し待とう」


現れたのは、小さな影。
少女だ。
それも、彼が今、求めている姿と相違ない。


「また会えましたね」


アベルはふたたび、娘であるサフィールと相対する。
前に出ようとするジンガーを制して、彼はにこりと微笑んだ。


「……」
「わざわざ一人で来てくれたのはとても嬉しいですよ」
「!」


言葉を一つも交わすことはなく、少女は黙って踵を返す。
トラペッタから見て東、森のある方角へと走り出した。


「おや」
「お父さん、こっち!こっちに、おいでよ!」


先程の戦闘の後とは、想像もつかないほどの元気な声で誘うサフィール。
当然、このようなあからさまな誘導に乗る理由など、アベルには欠片も存在しない。


「鬼ごっこでしょうか?」


薄い笑みを浮かべながら、敢えてアベルは彼女の方へと歩みを進める。
ジンガーは当然付き添うべきものと考えていたが、アベルは掌で制した。


「ジンガー、地図の把握は」
「インプット完了済ミ、地形把握シテオリマス」


良し、とアベルは了承し、指でトラペッタ方面を示す。


「あの町に南門以外の入り口があるかはわかるかな」
「北西ニ中型ノ門扉ヲ確認シテイマス」
「その門の状態の確認を頼みました。あの南門以外から逃れているかもしれない」

1487Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:34:27 ID:S51TxUgs0

敢えて分断し、片方を無事に逃がす作戦が行われていると踏んだアベル。
ゆえに、こちらも同じく分断作戦を取った。
ジンガーに偵察をさせ、目の前の誘いには自身が一人で対処を行う腹だ。

.        ・・
「出会った存在は彼女を除いて、排除して構いません」


ジンガーの腕を軽く叩き、自らはサフィールの向かった方角へと歩みだす。
忠実なる機械兵士は、最後に主へ質問を投げかけた。


「戦闘ニ関スルゴ命令ハ」
「死力を尽くすように。合流の時間は遵守してくださいね」
「了解イタシマシタ」


東の森の方角へと向かう主の背を単眼が見つめていた。
主の見送りも済み、ややあって任務遂行への動作を開始する。


「─?」


センサーが違和感を捉える。
ジンガーは門に向けてもう一度探査を行った。


(熱源反応ガ門ノ位置ヨリ動イテイナイ)


南門の辺りから近づいてきた何者かが、先程察知した1つの熱源ではなかったのだろうか。
主の行く先をさらに探知しようとする。
が、距離が空いていたためか、サーモグラフィーが捉えたのは離れていくアベルの熱源のみであった。
任務から外れるが、南門の熱源の正体を探りに行き、主に伝えるべきか。
それとも主の言葉通りに、北西の門へと向かうべきか。


「……任務開始」


ジンガーは一時動きを止めて─結局、当初の目的を果たすために移動を開始した。
彼は忠実なる機械兵士。
主の命令を絶対遵守する存在であった。




---------

1488Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:36:33 ID:S51TxUgs0


「ようやくターバン男と鎧の魔物を撒けたのに再び出会ってしまうなんて」


丘陵の陰に身を潜めていた女僧侶が、そろりと町に続く街道を見張る。
潜むにはいささか縦に大きい僧侶帽が見つかってしまうので、胸の前に抱えていた。


「ツイていませんね私達。その呪いどうにかなりません?」
「……そういうあけすけなところ、僕けっこう嫌いじゃないよ」


ため息まじりで率直な言動を受け流し、アルスは気づかれない距離から様子を伺う。
アルスは突如として闖入してきた女僧侶フアナの助けを借り、辛くもキラーマジンガの猛攻から逃れた。
しかし目的の方角は見通しの良い街道沿いの平原であり、まっすぐ町へ向かってはあっさり追跡されてしまう。
そのためトラペッタ南西の丘陵地帯を通過して町の西の方角へと向かっていた。
しかし、北西の門が壊れ封鎖されていることを確認して南に戻る途中、南門から見てちょうど外壁の角に隠れている地点。
その地点での休息を余儀なくされていた。


「まあ私は優秀で魅力的でアリアハン美少女コンテスト激励賞受賞ですから、そう思うのも無理ありませんが」
「はいはい。ホイミはまだ無理そうかな」
「最後のバギでもう限界でして……」


なにせ、アルスは戦闘の影響もあり、足の傷も痛みを増している。
フアナのほうもひどい負傷と疲労で魔力も打ち止め、先程逃げ切れたのが奇跡と言っても相違無い。
途中走ることもままならなくなり、結果、アベル一行と接敵寸前の危険な状態に再び陥っている。
ゆえに、彼らはなんとかして戦闘を回避してチャモロとの合流を果たす必要があった。
街道を悠々と、まっすぐ進む2人の姿を確認してからは、こうして息を潜めて居る。


「しかしこちらが感づかれて居ない以上再び急襲すべきと私の勘が働いていますよ」
「ダメだよ、これ以上近づいたらキラーマジンガに感知される。強さだけじゃないんだ、厄介なのは」
「ダメですか。これではいつまで経ってもお連れの僧侶さんと合流できませんよ?」
「うん……まあ。今考えてるよ」


道中、軽く状況を伝えては居るが突拍子もない言動の目立つフアナにアルスは面食らっていた。
底しれぬガッツは評価するものの、はっきり言って協調性があるかと言われれば疑問か浮かぶような女性だ。
とは言え助けられた恩もある。
いつ限界を迎えてぶっ倒れてもおかしくない暴走機関車を前に、アルスは逆に冷静にならざるを得なかった。


「それに何か門がついさっき壊された感じですし……お連れ様、破壊衝動とかお持ちですか?」
「そんなわけないでしょ。たまたま壊れたのか攻撃を受けたのか……チャモロさん大丈夫かな」
「ここから観察したりできれば良いんですけどね。アリアハン野鳥の会に居た頃と比べて随分視力が落ちた感じがします」
「そんな都合よくはいかないよねえ……南門が観察できればなあ」


南門が確認できる方まで南下しては、感知される領域に侵入してしまう。
うかつに伺ってキラーマジンガに見つかっては元も子もないため、周囲を探りきれずにいた。

1489Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:37:03 ID:S51TxUgs0


「……あっ、そうそう。私の仲間に盗賊がいたんですよ」
「盗賊?」
「それで……こうグワッと目を見開いて周囲の様子を探索する術がありましたね」


あっけらかんとした様子のどこかに悲しみを潜ませながらも、仲間の記憶を思い返すフアナ。
そんな便利な特技が本当にあるのかと、疑問に思いつつもアルスは意識を集中させて、町の方角を探ってみた。


「あっ見えた」
「見えました!?」


芸達者アルス、ここにきて記憶に無いはずのタカのめの勘を取り戻す。
本来習得していない特技ではあるはずが、これも『可能性』の為すところなのか。
もしくは、遅咲きの才能の開花が今、徐々に影響しているのかもしれない。


「しーっ、声が大きいよ……うん、見えてる。町の壊れた門と……!」
「なんです?」
「チャモロさんが下敷きに……あと、あの青いのはなんだろう……スライム?」


当然、この特技では何を話しているのかまでは把握ができない。
アルスが目撃したのは、チャモロの命の恩人の正体が、ホイミスライムであること。
そして彼の命を繋いだ後、単身アベルたちの方角へ向かっていったこと。


「ホイミスライム?まさかあの2人に戦いを挑むというのですか!?何というファイティングなスピリット……」
「ちょっ、うるさいから黙って」

エキセントリックな独白を横目に、彼の足取りを追う。
視点を変えたときに把握できた光景は、アベルは何故か東に、キラーマジンガは北西へと進路を変えたこと。
アルス達にとって千載一遇の好機が訪れた。


「二手に分かれた!?これはやはり急襲せよとのお告げ」
「そんな事言ってる場合?キラーマジンガこっちに来るよ」
「……戦力的には勝てる確率が10%とソロバン計算準一級の私が……」
「もっと少ないでしょ。……イチかバチか、だ。フアナさん泳げる?」
「得意ですよ、水泳教室に通ってました」


アベルがキラーマジンガとわざわざ別れて彼女を追いかけていった理由までは正直想像がつかない。
しかしこの機を逃してはならないと、アルスとフアナはトラペッタの堀に身を隠す。
キラーマジンガをやり過ごし、チャモロの救出に向かうためだ。
熱源探査の仕組みを知っていたわけではないだろうが、幸運にも水の中まではその魔の手は及ばない。
それ故彼らは無事にすれ違うことができ、南門方面へと進むことができた。



---------

1490Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:38:18 ID:S51TxUgs0


「今度は隠れんぼですか?あまり奥に行っては禁止エリアに入りますよ」


木々の合間を縫い、徐々に遠ざかる小さき背を見据えながら、優しい口調で語りかける。
彼の面持ちは、殺し合いの場にひどく似合わない様子だった。
まるで、小さな子供が持つ無邪気さすら感じられるほどに澄んだ瞳をしている。


「─ぁっ、はぁっ……はぁっ……」


荒い呼気とともに短めの黒髪が靡き、すっかりくたびれた赤いリボンがゆらゆらと同調する。
少女は着実に迫りくる男の気配を感じ、何度も後ろを振り返りつつ、曲がりくねるように走った。
対する男は涼し気な表情を崩すことはない。
逃れ行く少女の行く先をなぞるように、ひとつだけ立てた指を動かす。
仄かな魔力の光が指の動きに沿い、宙に線を描いた。


「『バギ』」
「!!」


たちまち真空の刃が空気を引き裂き、枝葉を断ち切る。
さらには地面まで深く抉るほどの破壊力は魔獣の牙を彷彿とさせた。
半ば暴走気味の魔力を内包したが故の力を知らしめた呪文。
容易く使いこなすその胆力は身に抱えた呪いの影響か。
それとも、内に秘めたる深淵が解き放たれたが故か。


「たっ……!」


迸る真空の刃の奔流に引き倒されないよう態勢を低くした。
しかし飛び交う小石や矢のように迫る小さな枝が細かな傷を生み出していく。
逃げ惑ううちに、足元がおぼつかなくなり、やがて木の根に足をひっかけた。


「ううっ……!」
「てっきり一騎打ちを挑みに来たのだと思いましたが、逃げるばかりですね」


木々の感覚が広がり、やや視界の開けた位置に少女の姿が飛び出る。
ゆっくりと、まるで散歩でもするかのようにアベルはその空間に現れた。


「……はぁっ、はぁっ、はぁっ……ちがうよ」
「では、何ですか?」


まるで子供に語りかけるように、アベルはしゃがみ込んで目線をあわせた。
両者は、もう2、3歩近づくだけで、抱きすくめることができるほどに接近している。


「ホイミスライムくん?」

1491Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:39:19 ID:S51TxUgs0


たちまち変化の杖の効果が切れ、本来のスライムの姿が顕になる。
後ずさりするホイミンだが、これ以上奥に逃げては本当に禁止エリアに入ってしまう。
無駄だということはすぐに理解してふわりと宙に浮く。


「どうしてわかったの」
「沢山ありますよ。その杖の事前知識もありましたが」


アベルは魔物使いだ。
当然、魔物の生体に関して誰よりも把握している。
ゆえに、目の前の娘の姿をした何某かが、人間の身体を動かすことに不慣れであることは容易に理解できた。
右に、左に曲がる度に体重が制御できていないことも。
浮遊している状態が常であるため、足元の障害への確認が疎かであったことも。
すべてが正体を示していた。


「二本の足で立って歩くなんてよく解らなかったでしょう?」
「……うん、むずかしかったよ……」
「ふふっ」


自分で誘いをかけておきながら、ホイミンは不思議でたまらなかった。
アベルの一番の目的はサフィールを自らの手で殺すことではなかったのだろうか、と。
ジンガーを置いていったときは下唇を噛み締めたが、どうも門に真っ直ぐ向かっていないことだけは横目で確認していた。


「どうして来てくれたの?」


無論、弁論が立つホイミンでは無いためストレートに疑問をぶつけざるを得ない。
アベルはまるで子供に語りかける親かのように、優しい声色でその問に答える。


「君がわざわざこんなことをする理由を知りたかったんですよ。用事があるのは君でしょう?」
「……ぼく、ね。おじさんと、お話がしたかったんだ。どうしても」


アベルは反応があったことに、おや、と笑みを浮かべる。
命を賭けた囮─無論、サフィールが非道な作戦を許すはずもなく。
あの同行者による催眠か命令─であることを想像していた。
ところが確固たる意思で自分に向かってきたと言う。
これでも、旅をしていたころは、多くの魔物たちを従順に従えていた身分である。
魔物の自主的な行動だと予想できなかったことに、疑問が生まれたとともに、ほんの僅かに興味が湧いた。


「ぼくね。『みんな友だち大作戦』を、成功させたかったんだ」
「─友だち?」

1492Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:41:10 ID:S51TxUgs0

ホイミンは、大作戦の全貌を語る。
かつて人類と争った竜王のひ孫という立場の人物が、人間と手を取り合うことを望んだことを。
自分を含め、共感を得たたくさんの人間が、殺し合いの中でも信頼関係を築くことを諦めなかったことを。
しかし─多くの犠牲があったことも。


「それでね。サフィールのお父さんの話を聞いたときに、思ったんだ」
「……」


ホイミンは懇願のような、はたまた怯えるような表情を見せつつも、アベルから逃げようとはしなかった。
祈るような仕草で、自らの触腕を握りしめている。


「おじさんなら、人間も、魔物も、関係なく、みんなと友だちになってくれるかなって」


気づけばぽろぽろと、ホイミンの双眸からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。
魔物であるが故に、彼から感じる深き闇の影響は非常に色濃い。
気圧され、その視線だけでジンガーやリオウのように服従の道を選んでいてもおかしくなかった。
だが、大切な約束だけが、彼のなけなしの勇気を繋ぎ止め、彼と一対一で対峙させることを許していた。


「私にも友だちがいてね」
「えっ?」


穏やかな語り口調が目の前から聞こえてきて、一瞬ホイミンは自分の聴覚を疑った。
腕組みをしたまま、どこまでも深い黒色の澄んだ瞳を細め、アベルは言い聞かせるように話し始めていた。


「ヘンリーと言って、一国の王子でした」
「……?」
「そのころ私は自分もまた王子であることは知らなくて、王子様のくせに乱暴な子だ!なんて思っていましたよ」


まるで旅路の途中焚き火を囲むかのように、ゆっくりと座り込んだアベル。
彼の告げる言葉には不思議な優しさと説得力で満ちていて、ホイミンは気づけば引き込まれていた。


「私の半生もサフィールから聞いたかもしれませんが……訳あって奴隷に身を窶しました。私とヘンリーはね」
「き、聞いたよ。冒険して、おじさんも王子様だと分かったあとも、国同士で仲良しだった……」
「そうですか、そこまで聞いてましたか。─思えば」


多くの過去に浸るかのように上を見上げて思案に耽るアベル。
呟くように思いを吐露した。


「彼と過ごした時間は思い返しても、嫌な気分ではありません。むしろ、心地が良かったのかもしれない」

1493Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:42:09 ID:S51TxUgs0
「……それじゃあ……」
「そうですね……君の言う、誰もが信じあえる間柄となれば、今起きている殺し合いが止まる……」


座り込んだ姿勢から立ち上がり、土を払うアベル。
彼の涼やかな笑顔見たホイミンは、不安、恐怖を吹き飛ばすような気分に駆られた。
ここが未だ殺し合いの舞台であるとは思えないほどに、優しい心地良さがあった。


「それは確かに、そうかもしれない」
「……!だったら、サフィールを傷つけるのはやめて。もう戦わないで」

. ・・・・
「ホイミンくん」


呼吸が遮られたかのように通らない。
視線が、石になったかのように動かせない。
ただ名前を呼ばれただけなのに。
たったそれだけで、心臓を掌握されたかのような感覚が生じた。


「─それには、友だちという脆い絆では足りない」


どっと吹き出る汗だけが、自分が石化した訳ではないという証明だった。
威圧とは、少し違う。
理解し、全てを受け入れる、慈愛染みた感情。
だがそれは愛と言うにはどす黒い。
例えるならば、底の知れぬ穴。
どこまでも深い、吸い込まれてしまうような虚空。
ホイミンは、自分の知るだけの語彙の中から、表現するに相応しい言葉を見つけ出した。


(魔王)


触腕で、後ろ手にいていた杖を掲げようとする。
しかしこの身体は金縛りにあったかのようだ。


(動けない)

「私が8年間の間石となっていたのを救い出したのは自分の子どもたちでした」

(動いて)

「私の行方知れずの母の手がかりを自分自身で見い出した」

(動かなきゃ)

「─私の父が殺されたきっかけは、誰だった?」

1494Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:44:42 ID:S51TxUgs0


(うわああああああああっ!!!)


半ば痙攣し跳ね上がるかのように、竜の頭部を象った杖が頭上に掲げられる。
ホイミンの姿は、またも別のなにかへと転じていった。


「フゎがァああアアあぁーーーーッ!!」


持ち出したもうひとつの杖─ドラゴンの杖の力を借りて、青く透き通るような鱗を持つ竜へと変貌したホイミン。
亡霊に抱擁されたかのような怖気を全身に覚え、恐怖を振り払うかのように頭を激しく動かし、慟哭を上げる。


「友だち……友愛の情もまた、私は否定する。何の力もありません─空虚だ」
「ふゥっ、フゥゥっ!グァァァッ!!!」


心優しいホイミンが、アベルを殺すために考えたたった一つの切り札。
ドラゴンの巨体を利用して、禁止エリアに押し込むことで、自らを犠牲にアベルを倒す。
それが、サフィールに悲しいことをさせないための、自分の取れる唯一の手段であった。


「不愉快さすら、そこには残らない」


激しい叫びと共に、ホイミンは初めて本当の戦闘を体感する。
炎のブレスの吐き方などまるで解らない。
ただ、巨きくなった身体を力任せにぶつけることだけだった。


「ですからホイミンくん、私と『本当の友だち』になりましょう」
「ガアアァァあああぁぁっ!!」


そんな決死の攻撃に対して、アベルは。
打ち払うことも、迎え撃つこともせず。


「言ったでしょう。二本の足で立って歩くのは難しいと」


ただゆっくりと歩いて身を躱した。
それだけで、彼との戦いは終わった。


「!!!」


大きな音と共に転倒して、強かに身体を地面に打ち付ける。
もともと限界だった呼吸が止まりかけ、臓器が潰されたかのように痛んだ。
身を捩って起こそうとしても、自由に身体が操れない。

1495Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:46:10 ID:S51TxUgs0

「尻尾を持ったことが無ければ、自分の足で踏みつけてしまいますよね」
「ひゅぅ、ひゅう……」


ホイミンは、ホイミスライムだ。
決死てドラゴンではあり得ない。
自らの尾を踏みつけ、無様に倒れ伏す結果だけがそこに残った。


「分不相応な物で、よく頑張りました。……ですが、私は魔物つかい」


アベルは追撃を行うでもなく、倒れた竜の顔面の目の前まで行き、じっと目を合わせる。
そして頬を撫でるような仕草で優しく触れながら、諭すように声をかけた。


「その目の前で荒ぶる魔性を発揮したところで逆効果でしかありませんでしたね」
「ぅ……ぁ……」


ほどなく、するすると身体は縮んでいき、元のホイミスライムの姿へと戻る。


【ホイミンを、やっつけた。】


力なく倒れるだけのホイミンの身体を、アベルは赤子のように丁寧に抱き上げた。


【なんとホイミンが おきあがり……】


「ホイミンくんは……」
「……」
「『人間』になるのが夢なんだね?」
「!!」


【なかまにしてほしそうに こちらをみている】


(心を、のぞかれた?)


自分の中の大切な宝物が引きずり出され、博物館の展示品となることを強制されたかのような感覚だった。
言葉が告げられないホイミンは目を背けることも腕から抜け出すことも叶わない。
魔性の者に生まれた宿命か、どう足掻いても、その衝動に逆らえない。


「ならば私と本当の友だちになれば良い。私の母には魔物を人間に変える力があったそうです」
「──」
「君の願いは、夢物語なんかではありません」
(やめて……っ)


ただ、辛うじて身を捩り、頭を振って否定の意を示すことだけで精一杯だった。

1496Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:48:16 ID:S51TxUgs0

【なかまに『してあげますか』?】




---------


「主の生命を第一に考えよ」
【イノチ ダイジニ】

「ホイミ!」

「ホイミ!」


度重なる激戦、蓄積したダメージ、傷ついた身体。
元来、ホイミスライムは助けを求める声に純粋に従う習性がある。
命令があってから、ただひたすらにホイミンはアベルを癒やし続けた。


「ホイミ!」

「ホイミ!」

「もう魔力が尽きたか。ホイミン、また魔力が回復したらお願いしますね」

「ふわふわん」


忠実にアベルの言葉に反応し、付き従うホイミン。
その瞳は虚ろで、何も見ているようには思えない。


「では戻りましょうかホイミン。ジンガーが待っている」

「コンニチワ」

「行動中は私の後ろをついて来るように」

「ハイ、ライアンサン」


突然飛び出た名前に覚えがあったアベルは、ほんの僅かではあるが眉をひそめる。
確か、放送でその名は告げられていた。
激しい戦闘の折、アベル自身はもはや気にして居なかったが、ジンガーが完全に把握していた。
情報共有していなかったらアベルは意にも介して居なかっただろう。


「ライアンというのは、君のご主人さまだったのかな」

「ライアンサン、ダイスキ」


心の無いからくり人形染みた言動。
特に嘲るでもなく、アベルはごく自然に微笑みを崩さずに告げる。
ホイミンが悲しみ嘆くであろう真実を。

1497Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:49:12 ID:S51TxUgs0


「ライアンはもう死んだ。今の君の主は、アベルだ」

「ライアンサン、ライアンサン……」


友愛の情を上塗りして彼と『本当の友だち』となったつもりで居たアベルはこの結果に多少の不満を覚えた。
これから時間をかければかき消えていくと思われたが、これからずっと喚かれるのは少々騒がしいし、何より少々癪である。
アベルは今一度、ホイミンの身体に手を触れ、瞳を見据えて告げた。



「ホイミン。『みんな友だち大作戦』ですが─」

「ピキー……ピキー……」

「さくせんは変更ですよ、ホイミン」

「ア……」


「隷属せよ」
【メイレイ サセロ】



救いを求める声はもはや発せられない。
今のホイミンに許されたのは、ただ、主の命に従うことだけだった。

1498Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:50:09 ID:S51TxUgs0


【G-2/トラペッタ/2日目 午前】

【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP:7/10 MP 1/5 左足矢傷(応急処置済み)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×3、999999ゴールド あんみんまくら@DQ5
[思考]:基本方針:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される。みんな友達大作戦を手伝う。
1:ホイミンを捜索する。
2:父の狂気を治める。不可能ならば倒す。

【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:HP8/10 MPほぼ0
[装備]:ナイトスナイパー@DQ8
[道具]:支給品一式、道具0〜3 四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1(ゲレゲレの支給品)
支給品0〜1(ヒューザの支給品) 悪魔の爪@DQ5 
天空の剣、罠抜けの指輪 罠の巻物×1 ドラゴンローブ 砂柱の魔方陣×1 天使の鉄槌@DQ10 
メガトンハンマー@DQ8 
[思考]:基本方針:エビルプリーストに借りを返す。
1:アベルを倒す
2:首輪解除を試みる
[備考]:※職業はどうぐ使いです。弓スキルは150です。ハンマースキルは100以上です。

※ 折れた灼熱剣エンマ@DQS ドワチャカオイル@DQ10 を状態票から削除


【ねぷりむ@DQ10キラーマジンガB】
[状態]:HP1/6 背中にヒビ 右腕義手
[装備]:名刀・斬鉄丸 @DQJ 聖王のハンマー@DQ10 ビッグボウガン @DQ7 アクセルギア@DQ10
[道具]:支給品一式×3、魔封じの杖、道具0〜2個(ブライの不明支給品)、道具0〜2個(ゴーレムの不明支給品)
[思考]:基本方針:サフィールについていく。ガンガン戦う。
[備考]:DQ10のキラーマジンガの特技を使いこなします。
ゴーレムの記憶を持っています。




【G-2/トラペッタ南門(崩壊)/2日目 午前】

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP1/10 MP1/10 左腕骨折(応急処置済み) ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)(加速状態)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:基本方針:諦めない。ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める
1:ホイミンを救出する
2:首輪解除の為に、ジャンボ、サフィールへ会いに行く (ジャンボには半信半疑)
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。また、はぐれメタルの職業を少なくともLv7まで経験しています。魔法使い、魔法戦士、賢者、勇者は経験していません。
ジャンボに対しては信頼感の反面、疑いも抱いています。

へんげの杖
ヒューザのメモ(首輪解除の手掛かりが書いています)
以上がチャモロの傍に落ちています。

ホイミンのふくろ(支給品一式 (不明支給品0〜2個))は、トラペッタの町側に置いてあります。

1499Premonition of ruin ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:50:48 ID:S51TxUgs0


【G-2/トラペッタ周辺の堀 /2日目 午前】

【アルス@DQ7】
[状態]:HP3/8 MP1/5 左足に怪我(素早さ低下) 右腕から胸にかけて裂傷(応急処置済み)左肩に刺傷(治療済み)ずぶ濡れ
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜1) ゲルダの不明支給品0〜1個(確認済み) 道具0〜2個(本人確認済み) 
[思考]:基本思考:この戦いを終わらせる。
1:ミーティア、キーファを探す。
2:サフィール達に会いに、トラペッタへ戻る。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。
本来習得不可能なはずの「タカのめ」のカンを取り戻した。


【フアナ(女僧侶)@DQ3】
[状態]:HP1/8 MP 0 ずぶ濡れ
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 パラディンの秘伝書 不明支給品0〜1(本人確認済み) かりうどの弓@DQ9 カマエル@DQ9
[思考]:基本思考:自分だけが出来ることを探す。
1:仲間たちの死を受け止め生きる。
2:緑フード(アルス)と共に、トラペッタへ向かう
3:アベルを倒し、アスナとコニファーの仇を討つために仲間を集める。
[備考]:
※バーバラの死因を怪しく思っています。
※ローラがアルスとチャモロにかけた呪いを見ることが出来ます。


【G-3/トラペッタ南東の森〜平原 /2日目 午前】

【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP3/8 手に軽い火傷 MP1/5 ※マホキテによる回復
[装備]:破壊の剣 ドラゴンの杖@DQ5 地獄の鎧@DQ3
[道具]:支給品一式 剣の秘伝書 ヘルバトラーの首輪 毒針
[思考]:過去と決別する為戦う。力を得る為、愛情をもって接する(そして失う為に)
1:すべての愛を消し去るためにも『みんな友だち大作戦』を実行する。

※破壊の剣と地獄の鎧の重複効果により、更に強力になった呪いを受けています。
動けなくなる呪いの効果が抑えられている反面、激しい頭痛に襲われています。


【ホイミン@DQ4】
[状態]:健康 MP0 仲間モンスター化
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:ライアンサン……

1500 ◆2UPLrrGWK6:2021/05/06(木) 02:52:53 ID:S51TxUgs0
投下を終了します

1501ただ一匹の名無しだ:2021/06/03(木) 23:27:55 ID:iacXUCKs0
『ドラゴンクエストIX
星空の守り人実況 その1』
(22:27〜放送開始)

hts://www.youtube.com/watch?v=K5e_9zMvaRg

1502ただ一匹の名無しだ:2021/07/29(木) 01:03:47 ID:cmv4n1CA0
マジかよ!?って口をついた結末でした。面白かったです。
あと、
>だがそれは愛と言うにはどす黒い。
この一文がとても響きました。お疲れ様でした。

1503 ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:32:18 ID:chZJ0etU0
テスト投稿

1504哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:33:12 ID:chZJ0etU0


“ブライ!” “ライアン!”

トロデーン城を後にせんと席を立つピサロの耳に届いた死者の羅列。
彼にとってはひどく忌むべき声によって告げられたその名は、僅かの間ではあるが共通の敵を目指し、共に歩んだ者たちのものだった。

「……」

ピサロの眉根が微かに寄る。
理由は、己に反旗を翻した邪僧のナルシシズムに耽った声が気に障った─

(彼奴を知る者も私だけか)

それだけでは、なかったのかもしれない。


“スクルド!”
“コニファー!”


ポーラもまた、天より響く声から死の事実を突きつけられる。
スクルドの命が潰える瞬間を、自分はその目で見ていた。
コニファーの骸を目の当たりにした。
肩を並べた旅の仲間たちの死を、確かに理解はしていた、そのつもりであった
しかし、彼女は旅の仲間の中ではアークよりもなお若い。
この舞台に一人取り残されたという事実は、辛く、暗い影を落とす。
それは僅かに身を竦める結果を招いた。

「行くぞ」
「!」

先に声を上げたのはピサロだった。
ポーラからは、声に出して尋ねたいことが幾つか浮かぶ。

“あんたの仲間は、生きていたの”
“月影の窓の中に、何を見たの”

それらの疑問点は、ピサ、ロのどこか焦燥した顔を見て、浮かんでは消えていく。
彼の目的が危ぶまれる“何か”を知ったのが理由なのだろうか。
本音を言えばコニファーと、アスナという名の少女の、物言わぬ躯をそのまま荒れ果てた城に打ち捨てることには抵抗があった。
しかし、図書室の扉を乱雑に開くピサロを前に自然と口は噤まれ、ポーラはただその背を追うことしかできなかった。

「……」
「うっ」


そんな彼の背中を追うポーラの鼻先が、どんと軽く背に突き当たる。
バトルマスターとしての実力から考えれば不相応とも言うくらいの背丈である彼女は、顔面を黒い外套に埋めてしまった。

「ちょっとピサロ、何……」
「……」


彼女が不平混じりに魔王の視線の先を覗き込んだ。
トロデーン城の正門が音をたて揺れている。

1505哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:34:26 ID:chZJ0etU0

(どん……どん……

 どんどん……どんどん……)

風や地鳴りによるものではない。
誰かが門の前に居ることは明らかだった。

(どん…)

「来客だ」

( だんッ だん、だんだんだんッ‼︎ )

扉を揺さぶる音が、徐々に焦燥を帯びていく。
揺らす音から叩きつける音に。
その音は高まり続けて、やがてー

「もおっ!」

小さな影が体諸共飛び込むように、扉の隙間から滑り込んで来た。
少女の身体には城門の大扉は些か大きく重たい。
全身で体当たりをするようにしてそれを開いた。
疲労を隠せない肩は荒く上下し、櫛で整えられていたのが常だったであろう巻き毛も乱れている。

「あ、いた!」

ピサロが回収したお別れのつばさを求め、勇者アンルシアの手を振り切って。
幼気な少女に過ぎなかったティアは、たった一人で城に駆け込んだのだ。

「勝手にだいじなもの持っていったでしょ」

微笑ましくも、どこか不安を呼び起こす。
少女はそれほどに空虚な表情を浮かべていた。

「追いかけるの、すごい疲れたんだから」

がちゃり、と少女が背負う剣が鳴る。
前屈みに息を整えた際、滑り落ちかかったそれを慌てて抑えた音だ。

「それに、お兄ちゃんが死んだなんて言うヤな声がまた聞こえてさ」

彼女ーティアの頬が濡れ、涙の線が幾重にも走っていた。
その顔は嫌悪や悲憤により、くしゃくしゃに歪んでいてもおかしくはなかった。
だと言うのにその素振りもなく、生来持ち合わせた元気さを含んだ声はどうやら震えることはない。
それは、勇者の血を引くものとしての強さだった。
だというのに、双眸からはらはらと落ちる涙が矛盾した光景を生む。
これは、弱さの現れだ。

「うるさくて、頭がどうにかなっちゃいそうなんだよ……」

彼女自身、内で荒ぶる感情を、どうしていいかわからないまでに乱されていたのだろう。
快活な声だった声が、ここに来て初めて萎れて行く。

1506哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:36:24 ID:chZJ0etU0
「フ……」

ピサロは、カマエルの捜索とそれに伴った襲撃者の痕跡が辿れぬ現状、さらには月影の窓についての考察など抱えきれぬほどの情報を精査する間もないことに嘆息を漏らす。
加えて危険分子になりつつある少女が単独でここまで辿り着き、何をしでかすかわからないという事実に、宛ら抜き身の刃を不意に目の前に投げ出されたかのような感覚を覚えた。
受け止めるのか、身を躱すのか。
逡巡の時間を求めることすら許されない。

「煩くてどうにかなりそう、か」

大きく息を吐きつつピサロは続ける。
憎きエビルプリーストにも。
誰も彼もが儘ならぬ、自分を含めた生存者たちにも。
思えば最初からそうだった。
魔族の王へと上り詰めるまで、幾多の戦を交えたか。
その争いにやがて人間どもが加わり策を巡らせる羽目となり。
挙句、この舞台では人間たちの殺し合いにも気を張らねばならなかった。
目の前の少女が振りまく子供じみた激情に、ピサロは不覚にも共感めいた感情すら抱いてしまった。
それこそもう、何もかも投げ捨ててしまいたいような。

「全くもって同感だ」

魔族の王は、伝説の剣を携えた勇者の末裔と相対した。


*********


「ねえ……ひとまずつばさを返してあげたほうがいいんじゃない?」

ポーラは見えざるものを見ることができるのと同じように、周囲の人々が抱く感情にも敏感であるという自覚がある。
だからというわけでもないが、肌で感じ、眼で見るだけでも、少女の心の内に対し、何某かを感じた。

「ティアちゃんだっけ。怒って……いや、なんて言えばいいのか……」

憎しみとも、怒りとも少し違っていた。
彼女の心にあるのは巨大な、埋めようのない喪失感。
最愛の兄を、そして同様に慕う兄の仲間たちを立て続けに奪われたからこそだ。
尤も、その仔細を知らぬポーラには一言で表す術を知らない。

「辛そうだよ」
「静かにしろ」
「ええ……」

成り行きで案内役となったポーラである。
こちらの意見を一方的に封じることはあまりに横暴な気もしたものの、状況が状況であった。
ティアを宥めるほど口が達者という自負もない。
できるとすれば戦闘練塾者として、無傷での鎮圧に踏み切るその時だけ。

「様子がおかしいことは解っている。だが……つばさを失う可能性があるのであれば付き合う義理もあるまいよ」

ポーラは反論の言葉を思いつけずにいた。
ピサロがティアから取り上げたあの道具は確かに、この閉塞した状況に風穴を開ける希望の一つである。
天使の道具が持つ神秘の力を、唯一間近で感じた経験のある彼女だからこそ、感情に流されて安易に少女の味方となれない。

「貴様とて脱出の可能性が奪われる可能性があるからこそ、揺蕩っているのだろう」
「……そうだけど、さあ。論破するだけして、嫌われるよ、そういうの」

結果、駄々をこねることがせいぜいだ。
ピサロはその言葉に対して何も示すことはない。

1507哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:37:13 ID:chZJ0etU0

「ねえ、返してくれないの?」
「諦めろ」

ティアの接近に対して、ピサロは腰のレイピアの柄に手を乗せる。
自ら口にしたこともあるように、彼女は勇者ロトの末裔である。
繰り返し成長を遂げた今、剣を振るうだけの力は確かに持ち合わせている。
その血を侮ることはあまりに愚策である、魔王としての経験がそう語っていた。

「帰還の術を、お前一人に使わせるという選択肢はない」
「そんなの勝手だよ」

問答で済ませているうちはまだ良い。
しかしこの舞台は殺し合いがいつ起こっても不思議ではない。
“そういうふうにできていた”。

(そう、思えば最初からだ。エビルプリーストの奴め、世界の理にすら干渉しているのか?かつての力など遥かに凌駕している)

この世界の全ては殺し合いを助長させているとしか思えないほどに、どこか神経を逆撫でる作りとなっている。
殺意に塗りつぶされた者による戦いの残滓が自然とそうさせているのか。
あるいはこの世界を象った大いなる存在の力ゆえなのか。

「それはティアのなの」
「この道具はお前に使えるものではないとしてもか」
「知らない。お兄ちゃんのところに、ティア帰るんだから。返してよ」

剣の柄が両の手で確りと握られる。
小柄な少女にとっては大振りと言える伝説の剣は、特別な血により重さを感じさせていない。
鞘を滑らせる音を僅かに立てつつ、ゆるりとその刃を明らかにしていた。
ピサロは、先ほどティア自ら口にしていた事実を再び突きつけて静止を勧告する。

「名を告げられた以上、お前の兄は死んだのだ」
「あなたもお空の声と同じことを言うのね」

ピサロの顔を睨め付ける大きな瞳に、わずかに敵意が宿る。

「私のお兄ちゃんは死なないもん。前だって、魔物にやられちゃったらサマルトリアに戻ってきたの」

のんきものだからやられちゃったのね、と後ろに付け加える。

「あたしすごい泣いたわ。ルビスさまの加護がなかったら、ほんとに死んじゃってたに違いないって言われた」

“あっ、お兄ちゃんが死んでる……"
“それがしがついて居ながら……すまぬ!すまぬ妹君!”
“えーん、えーん……”

兄がしばしの眠りについたカンオケに縋りついて、ローレルと喉が枯れるまで泣いた記憶が、ありありと蘇る。
あきなは余り印象に残っていないが側にいたかもしれない。
教会で再び起き上がる姿を見るまでは涙が止まらなかったこともはっきりと覚えている。

「神々の加護か。どこも同じものだ」

ピサロが加わった導かれし者たちとの旅路でもまるで似たようなことはあった。
自分が相手取ろうとしていていた相手はなんと神に寵愛されているのだ、と鼻白む思いすら当初は抱いた。
もっとも、その思いはピサロ自らも幾度とない死、そして蘇生を経験してなおも戦いに挑まされるうちに薄れていった。
逆に、なんとも残酷な使命を定められたのであろう、と哀れみすら抱くほどに。

1508哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:42:25 ID:chZJ0etU0

「だから私、お兄ちゃんを待たせるわけにはいかないの」
「その剣を交渉に用いるならば脅しとは受け取らんぞ」

ピサロの腰の鞘から、レイピアがすでに抜き放たれていた。
闘いの気配を感じることには自負があったポーラにも見切れぬほどに。
傍観者でしかなかった彼女もまた目を大きく見開いた。

「私は魔王ピサロ。剣を向けたことを後悔するのならば、今の内だ」
「魔王、あなた、魔王なのね……」

芽生えたばかりの闘争心が、誰かに焚きつけられたかのように熱を持つ。

「お兄ちゃんを傷つけたのも……」

ロトの剣は、少女の戦う心が確かなものとなると同時に完全に引き抜かれる。

「ルーナお姉ちゃんの国を滅ぼしたのも……」

刀身に、今にも油が滴り落ちそうなほどの光沢が走る。
しかし、その鋭い鋒にはわずかな血曇りの跡が残されていた。

「それに、ティアからつばさを取ったあなたも、みいんな魔物。わたし勇者として戦うんだから」


*********

キーファ、レックは一心不乱に走っていた。

竜王の足取りを追ううちに、自然と北の城へ近づく街道沿いをひた走っていた。
旅慣れた2人の健脚であれば、追いつくのもそう難しいことでない、かと思われた。
しかしどういうわけか行けども姿は見えてこない。

「レック、おかしいな……オレたち、もしや追い越しちまったんじゃ」

しかし、彼の人のいい声が相槌を打つことはなく。
そればかりか疾走する足音はいつの間にか1つ分となっていた。

「レック?」

いつの間にか奔ることにばかり気を取られていた。
空を見上げれば、渦巻く雲が彼等を見下している。
鳴り響いていたのは、死者の名を告げる忌々しき闇の使者の声。

「─、レック!」

いつの間にか、死者の名を告げられていた。
力の限り地を踏み締めていたはずの歩みは、その勢いを失う。
目からは光が、表情からは活力が奪われ。
まるで絶望の淵に引き摺り込まれてしまったかのように、無気力なものへと変化していた。

「レック!おい!大丈夫か!」

キーファは危うく見失いかけた同行者に向けて踵を返し、両肩を正面から掴んで強く揺さぶった。
呆けていたレックは、衝撃を受けてようやく我に返る。

1509哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:44:58 ID:chZJ0etU0

「……キーファ?」
「そうだよ!どうしたんだよおい」

二、三度頭を振って平静を取り戻したかに見えたが、傍から見ても明らかだ。
今の彼は尋常ではないと。

「あ、あ……ああ、すまない」
「……今の放送で!レック!」
「今は先を急ごう」

自分たちには、目的がある。
そう続けようとした彼の言葉に、キーファの痛烈な感情がそのままぶつけられる。

「妹さんか……!」
「…………大丈夫」

キーファは妹との今生の別れを、自らの選択により早くから経験している。
知ってか知らずか、レックも似た境遇だ。
家族との、大切な人たちとの別れに、時の彼方と、世界の狭間という差異はあれども。
片や、夢を追いかけるという形で、片や、夢から覚めるという形で、各々が決着をつけた。
まるで鏡合わせのように。
それでも。

「何、言ってんだ……!」

ときおり、張り裂けそうなほどに胸の痛みを覚えるほどに辛い記憶には変わりない。

「無理すんな!そんなツラしといて何が大丈……」

今、それを再び突きつけられた。
“死”という、一方的で、最悪な形で。
痛いほどにわかる、そんな同情の念を抱き諭すのも道理ではあった。

「俺は、彼女が責任を感じちゃうような真似はできないよ」

レックは肩に乗る手に自分の掌を重ねて、否定の意を示す。

「兄ちゃんだから、さ」

それだけ言うと、再び風のように走り出した。
このきつい坂道を越えれば、山の頂に聳える王城が見えてくる。

「立ち止まってごめんな!」
「……強がりが上手いよお前!」

キーファは、顔がどんな顔をしているか見えないよう、彼の背中を追いかける形で駆け出した。


*******


「魔物はいつもそう、私たちからいろんなものを奪う、悪いものよ」

勇者として覚束ない足取りであった少女は、“敵”の存在を執拗なほどに確かなものとする。
そうすることで、自分に流れる血の宿命を従え、一人立つことが出来ると信じていた。

1510哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:45:21 ID:chZJ0etU0

「お兄ちゃんが倒した大神官ハーゴンも……私たちをさらった、エビル……とにかくあいつも」

その剣を握る手には力が宿っている。

「魔物を操って皆を殺すなら、みんな、みんなきらい」
「大神官、そうか。これはまた奇妙な縁だ」

ティアの可憐な外見には不釣り合いですらある苛烈な覚悟の吐露は遮られた。

「憎きエビルプリーストは元は私の部下であり、そして元々は地獄の存在を祀る邪教の僧正。人間だった」
「……?」
「今となっては確かめる術は無いだろうが、お前の兄が殺した大神官もヤツと同じ……」

魔物を操り、ムーンブルクを攻め落とし、世界に混乱を引き起こした大神官ハーゴン。
彼のその正体については兄に聞いてみたことはなかった。
思案に頭を巡らせる間もなく、ピサロの続く言葉は鋭い矢のようにティアに襲い掛かる。

「人間だったのではないか?」

初めは何を言われているのか理解できなかった。
だが、投げかけられたその言葉を噛み砕いていくうちに、内容を飲み込むに至る。

「……‼︎」

遠回しに、本当に遠回しにではあるが。
兄たちを人殺しだと言われた。
途端に冷え切っていた顔がかっと熱くなり、心臓が爆発したのかと思うほどに跳ねる。

1511哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:46:00 ID:chZJ0etU0

「何それ……」
「人ならざる者、と言うだけで溜まった怒りをぶつけられるのはごめんだと、そう言っている」
「あたしたちから奪ってばっかりの魔物が何を言うのよ!!」

激昂した叫びと同時に震えが走った。
同時に、剣の柄本を爪が喰らい込むほどに握り締める。

「もういい!返して!」
「相容れないと分かれば排斥する。それが人間同士であったとしてもだ。善悪をとやかく論ずる気は私にはないが……」

仄かに熱を帯びるティアの声に対して、ピサロの答えは氷のように冷たいままだ。

「他者は魔王の私と勇者のお前、どちらに理があると考えるのか」
「知らないそんなの!」

抜き身の刃を構えたまま、ティアは駆け出した。
小柄な体躯の全体重をかけて刃がピサロに突き出される。

「槍使いの男を刺し殺したときのように考えなしに他人を脅かすのか?」
「うるさい!」

正確に言えば被害者であるエイトは死んではいない。
だが、剣を握ることも、誰かの生死に触れる経験も少なかったティアにとっては、心を揺さぶられる言葉であった。
刃は何を貫くでもなく、ピサロはひらりと攻撃をかわした。

「そういえば貴様が刺した男を癒していたホイミスライムがいたが……心優しいことだ。魔物の身にしてな」
「くっ!ぅええいっ!」
「今のお前はあれも斬るつもりだろう、魔物であるというだけで」

可憐な少女の表情は険しく歪み、奥歯はギリギリと音を立てんばかりに食いしばられている。
悪鬼に取り憑かれたかのように、目を血走らせ、闇雲に伝説の剣を振り回すその姿。
果たしてどちらが善で、どちらが邪悪か、判断に迷うほどに。

「私でなく、後ろの女が奪おうとしたとして。お前は自分の目的を阻む敵として殺すだろう」
「!」

剣を握って1日と経たない少女の攻撃は、到底届かない。
その舌戦と同じく、両者の距離は平行線のままである。
唐突に話に挟まれたポーラは己の顔を指差し驚きながらも置いてけぼりのままだ。

「勇者の血という建前を得て、強い力を己の思うがままに振るうのが心地良いのか」
「そんなわけないじゃない!あなたが、魔王で、魔物のっ、だって、みんなを」

やがてティアは、地団駄を踏み、駄々をこねる子供のように、反論にもならない言葉を投げつけることしかできなくなった。
眼の端から涙が溢れ、一筋の跡が埃に塗れた頬に刻まれる。
やがてティアは、何度目かの太刀筋を労せず避けたピサロに、手首を強く掴まれて捻り上げられる。

「あんたたちが悪いんだッッ!」
「凶暴なものだ。お前の兄を殺した存在と……」

兄との繋がりを、勇者の象徴である剣を取り上げられるものかとティアは痛みに耐えて剣を離さない。
行き場を失い、ぐるぐると体の中で巡り巡る激情。
あまりにも、限界を越えて張り詰めた彼女の感情は、続く一言で─


「今のお前に何の差がある」


─爆ぜる。

1512哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:47:54 ID:chZJ0etU0


*******


「くっそ、近頃坂道が膝に来るってのに……!」

広い平原を踏破し、トロデーンへの全力走行を終えた彼らの眼の前に現れたのは思いの外、急角度な坂道だった。
遠くから城を確認した地点でうすうす感づいていたがよほどな立地だ。
魔物などからの防衛には向いているだろうが、普段の外出は億劫なこともあっただろう。
ともあれ、事態は火急を要する。
深呼吸を挟み、体力を削られながらも駆け抜けきった。

「キーファ……この門の向こうから声が!」
「ぜぇぜぇ……ああ!」

大きな門の向こうから確かに誰かが居る気配がする、果たして竜王はここに来ているのか。
そう、思った矢先だった。

「!?」
「ぐおぁっ!」

門扉に両腕を押し当てて開こうとしたその瞬間、感じたことのないような猛烈な風が吹き抜けた。
身の丈を超えるほどに大きな門扉が、その重さを感じさせない速度で開かれる。
眼の前に立っていたため、跳ね飛ばされた扉にしたたかに額を打ち付けたキーファは、勢いよく後ろに吹き飛ばされかけた。
とっさに身を捩ったレックの伸ばした手を掴まなければ、あのひたすらに長い坂道を下まで転がり落ちていただろう。

「いってぇ……!」
「……なんだ……なんだ、これは……!?」

痛みにこらえて顔を上げたキーファ、そしてその隣でレックは、共に驚愕で眼を見開いた。

「──!!  ─! 〜〜──!!」

ごうごうと、鼓膜を直に叩かれていると錯覚しそうなほどの轟音が。
大きな瓦礫を容易く宙に舞わせ、中空でぶつかり合うたびに破砕するほど勢いを増した暴風が。
木々を、建造物を、大地を切り裂き、傷つけなぎ倒すほどの鎌鼬が。

「……け、 ─て …… っ ー!」 

泣きじゃくる少女を中心に、巻き起こっている。
まるで台風の目にひとり取り残されたかのようだ。
何事か泣きわめいているようではあるが言葉は風の音に阻まれて聞こえない。

「ウソだろ……!」

これまでの生で、各々のかつての冒険においてすら、見たことのない、まったく未知の災害と呼ぶべきモノに直面した彼らは、戦慄する。
その余りにも現実離れした光景に、二人ともが茫然自失としていた。
飛び交う礫が身体を掠め、その頬からつぅ、と垂れる自分の血液の温かみを感じ、やっと正気を取り戻す。

「ぉ に ー ちゃ… !」
「─ッ!」

1513哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:48:20 ID:chZJ0etU0

刹那、放たれた弓矢が如く、レックの身体は勝手に動いていた。
風の刃は嵐の中枢に近づくにつれ彼を傷つける。
彼はそれでも構わず、血飛沫を上げながら、顔を歪めて泣く少女へ駆け寄る。
その一歩一歩で肉体が、魂が削り取られんばかりの傷を負うことさえも厭わない。

「!、レックッ!待っ……」

キーファも彼を追い駆け出そうとした瞬間、より勢いを増した突風が顔面を叩きつけるように吹き込む。
眼を開けることすら困難な中で、レックの背中を、血染めの足跡を、懸命に追いかけようとするが足が前に動かせない。

「ちきしょうっ!」

自分が力不足なばかりに、誰かに置いてかれるという感覚を久しぶりに感じたキーファは、それがひどく辛く感じた。
キーファの脳裏に浮かんだのは、遠い記憶の中にある幼馴染。
そのおだやかな笑みに、胸がちくりと痛んだ。

「……うっ……ああっ」

少女に伸ばそうとしたレックの手に赤い線が走ったかと思えば、吹き出た血が飛び散り風に舞う。
痛みに堪え踏ん張ろうとするも、狙いすますように吹き飛んできた礫が、身体を打ち据えて後退りを強制される。
まるで奇妙なダンスでも踊るかのように。

「……ぐ……っ!!」

不意に、左目の視界が消失した。
鋭い風の刃が、顔面の左半分を削ぐように吹き抜けたらしい。
どうやら左目が開かず、そこには既に感覚すらない。
瞼ごと切り刻まれたか、すでに視覚の半分が奪われたようだ。

「うおおぉぉっ!」

礫が、疾風が、彼の肉体を傷つけていく。
全身に走る痛みはとうに限界を越え、迸る灼熱のような熱さのみをレックは感じていた。
しかし、大地を蹴る勢いは衰えない。
渦巻く嵐のその先には兄を呼び、叫ぶ少女。
彼女とは、からかいまじりに、かりそめの誓いを立てただけの間柄。
レックにとってのティアの存在は、言ってしまえばそれだけだ。
ただ、どうにも彼を突き動かしていたのは。

(バネッ─)
(ターニア……!)

彼女の泣くその姿が。
記憶の中の妹が涙を浮かべる姿に重なっていたから。
ただ、それだけであった。



「おにいちゃんっ! おにいちゃん……!」

涙は頬を伝い、ゆるりと曲線を描き顎先に滴り行くもの。
そんな常識を文字通り吹き飛ばすように、破壊の風はすべてを拒む。

「たすけ……っ ……!」

1514哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:49:45 ID:chZJ0etU0

手にした剣は荒れ狂う獣のように言う事を聞かない。
血流が流れているように蠢き、怒りを秘めているかのように脈動していた。
制御できぬまま、激情に任せ強大な力を振るったとして。
その牙は持ち主である彼女にすら向けられる。

「いたい……いたいよおっ……!」

想像を絶するほどの風の刃は少女の身体を容赦なく傷つけていた。
確かに一般的なそれと同じく、嵐の中心部に近づくにつれ少しはその勢いは弱まっている。
だが、彼女にとっては一つ一つが致命傷になり得る威力に変わりなかった。

「あづっ…… うぅ、ぁあっ……!」

皮が弾け、指先の肉が裂け、桜色の可愛らしい爪が呆気なく吹き飛ぶ。
ふくらんだドレスの裾も、綺羅びやかな装飾の髪飾りも、全く意味をなさぬ襤褸となって切り裂かれていく。
何度目かの風切り音とともに、己の指のどれかが切り飛ばされ、風に舞うのをティアは見た。
ひゅ、と呼気を飲み込むことがせいいっぱいで、全身を蹂躙される恐怖に凍りつき、痛みを味わう余裕すらない。

「たす、け」

もう、伝説の勇者ロトの重き名を、勇者の血脈を、継ぐ存在は彼女しか居ない。
その事実が、重圧が、力の暴走という形でまさに顕現していた。
対となる存在とも言える、魔王との接触を経てしまったことがそもそもの誤りだった。
多くの戦いを得て、さまざまな旅路を経て、”経験値”を積んで成長する。
勇者の力とは、その振るい方も定かでないままに行使できる代物ではなかった。
今や、刃の行き先を見失ったロトの剣は、王者の名を冠した全盛たる力を取り戻していた。
彼女にもはや受け止めきれるはずもなく、すべてを滅ぼす災禍と化す。

「たす……」

指先の、腕のほとんどは血に染まり、ところどころ骨まで達する傷もあった。
もはや武器を振るえる状態にない。
しかし、剣は彼女の手から決して離れようとせず、力の暴走は留まることがない。
剣の方が、最後の勇者の血族を、決して手放すまいと必死で繋ぎ止めているように。
勇者としての宿命が、まるで、彼女らにとって呪いであるかのようにも思えた。

” 助けて おにいちゃん!! ”

勇者として立つことを決めたときから、無理に押し留めた弱音。
風にかき消されたのか、潰れた喉から声にならない呼気として吐き出されただけなのか。
おおよそ聞き取れるようなものではなかった。

「大丈夫か?」

どうやら、妹の叫びは、彼の耳にはしっかりと届いていたらしい。
無惨にも傷だれかになっていようとも。
顔の半分が血に染まっていようとも。
なんでものないような、そんな雰囲気のままに微笑みを投げかける。
その光景は、彼女の頑なになってしまった手から、力を奪うのには足りていた。

「ああ、ぁ、ああ、ああ…………」
「いいんだ」
「だめ……だめだよう」

魔を討ち滅ぼすと決め、きつく縛り付けられた覚悟が解れていく。

1515哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:50:31 ID:chZJ0etU0

「あたしは、お兄ちゃんのかわりに、っ、ゆうしゃじゃなきゃいけないんだ……!!」
「……いいんだ」

魂に刻みつけられた使命という名の鎖が、外されていく。

「君は、こんな傷だらけになってまで、戦いを選ばなくたっていい」

風に飛ばされていた大粒の涙が、正しく頬を伝うように流れを取り戻す。
一度流れ始めれば、それは堰き止められていた河が解放されたかのように、止め処なく落ちていく。

「だって…… だって……!」
「俺が言うのもなんだけど」

強張るほどに握られた手のひらから、ずるりと血を垂らしながら、ロトの剣の柄が滑り落ちる。

「兄貴ってのはたいてい、妹にあんまり無茶させたくないんだ」

─やがて剣を中心として巻き起こった風は勢いを失い、凪を呼ぶ。
初めて、勇者の末裔として誰かの役に立てると思った。
伝説の剣を握れば、誰かを守れると考えていた。
けれども、目の前で、すぐ近くで、たくさんの人が命を失った。
知らない間に、かけがえのない兄も、その友人たちも、皆死んでいた。
自分だけでは何ひとつ救えなかった。
ずっと嫌だった。
突きつけられたその死を、尽く信じたくなかった。
だから、たった一つ残された、その血に縋りつき、勇者として無理に振る舞っていた。
そうすることでまだ、どこかの力なき誰かが、そして一人ぼっちの自分が救われると思っていたから。
けれども、力不足で。
情けないほどに、何もできなかった。
自分は幼く、愚かなままだった。

「あ、あああ ああ……!!」

そんな自分のことを、遠いいつか、それこそ、物心が存在していたかもわからないくらい。
兄が、カインしてくれたときのように。
今、レックが優しく抱きとめてくれていた。
何もできない自分を肯定して、守ってくれようとした。
そう、ほんとうは。

「わああああぁぁぁーーー!」

勇者になんてなりたいわけじゃなかった。
自分に流れる血を、そう誇っているわけでもなかった。
末裔であると主張したのは、大好きな兄たちと肩を並べたい、その一心。
真正面から抱き竦められ、大声で泣き叫んで。
初めて自分の本当の気持ちと向き合うことができた。

「おにいちゃん さみしいよお……! おにいちゃん、おいてかないでよぉ……!」
「……ティア」

1516哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:53:15 ID:chZJ0etU0

尋常でない嵐が晴れた中心に、傷ついた青年が、泣きじゃくる少女を宥めている。
奇妙な光景だが、少女の内なる心の中、幾度となく繰り返された戦い。
それに、こうしてひとつの決着が着いた。
それだけは違いなかった。

傷から滴る血で汚してしまって申し訳ないな、と思いつつも、レックの顔には安堵の微笑みが浮かぶ。
そして、抱きしめられたティアの表情は。
その瞳はまるで人形のように透き通っていて。

死を眼の前にした恐怖で見開かれていた。



「レック後ろだーーーーーッ!」



キーファの叫びは届いたが、それは、もう食い止めようもないこと。
昏き衣を靡かせた魔王が手から飛ばされた、殺意の乗った真空の刃がすぐ側まで迫っていた。
ふたりのうちどちらの物かは定かではないが、凡そ尋常でない量の血が柱を象るように吹き上がり─

「!!!」

目を見開き、激昂したのは間違いない。
キーファの意識はそこを境として、一度途絶えた。




*********



(……なんだ……)

瓦礫に埋もれかかった身体をよじり、起き上がったピサロは、自身の頭に走る鈍い痛みに顔を顰めた。
思わず額に手を当てると、ぬるりとした不快な感触が走る。
見つめる先の手のひらは気高き血で濡れ、長い銀髪も土埃に塗れてしまっていた。

(剣の魔力の……、暴走、か)

1517哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:56:04 ID:chZJ0etU0

凝縮された風の爆弾とでも言おうか、嵐の発生をまともに食らった身体はいかな魔王と言えどただではすまなかった。
節々は吹き飛ばされた勢いのままに弄ばれ、強かに全身を瓦礫の山に叩きつけられたせいか、擦過と切創の目白押しである。
だが、裏を返せばそれだけで済んでいた。

「ぐっ……」

立て続けに頭が痛んだ。
よもや、打ち付けた拍子に記憶の一つでも取りこぼしたか。
その考えは、ピサロの脳内に湧き上がったイメージから即座に払拭される。
これは忘却ではない、むしろ─

「これは……」

逆だ。

それは、この場にいるピサロの意思か。
それとも、どこかでありえたであろうピサロの”可能性”が目指していた歩みなのか。

(なぜ忘れていた)

魔王が足踏み、音をあげ行進を始める。
それを遮るものは、今この場にはない。

(なにを巫山戯ていた?)

手元にあった剣を拾う必要は、今はないだろう。
手のひらには考えるよりも早く、風の刃が顕現している。


(私は魔王ピサロ)


魔王たる彼の力を最大限引き出すのは、相反する存在に対して。
勇者の血を引くものとの対峙は大いなる引き金となり、ピサロの道筋を─覇道を、整えた。


(異世界に君臨するヘルムードなる闇の一族を討伐するため)


腕を一振りすれば、かまいたちが飛ぶ。
引き絞られた矢よりも早く、致命の刃は放たれ、身を寄せ合う兄と妹の身体を深く鋭く、傷つけた。
そこに怒りも、さしたる理由もなく。


(世界を、時間を越える術を得たではないか)


ピサロが目的を、魔王としてやるべきことを取り戻した、それだけだった。

1518哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:56:42 ID:chZJ0etU0


*********


ピサロの前には微動だにしない肉体が2つ転がっている。
少し離れた所にはもう一人。
今しがた殴り飛ばした者が意識を失い大の字で昏倒していた。
息の根があるようだが、もうそれはどうでもよかった。
彼は、自分の前に立ちはだかる存在こと、勇者の血筋を持つ者でもなんでもないからだ。

「……?」

瑞々しく光り輝いていた伝説の剣。
持ち主が手放してからしばらくは、その力を失うことがなかったのか光を湛えている。
魔王たる自分が、若干の嫌悪感すら抱かんばかりの輝きを。
ほどなく、ただの金属光沢に過ぎない鈍い輝きを放つだけの存在へと成り果てた。
血脈が絶たれたゆえに、役割を失ったのだろうと考えた。
誰かの手に渡るくらいならば戯れに拾おうか。
そんなことすら、彼は思わなかった。
すでにピサロにとってそれは、もはや脅威とならない。
振り返ることのない過去、どうでもいいものとなったからだ。

「?」

ほどなくして輝きが失われたはずの剣が微かに脈動し、淡い光に包まれる。
何が起こるか油断なく見つめていた矢先、ロトの剣は小さな宝玉へと姿を変えてしまった。

「……完全に役割を終えた、ということか」

力のオーブが寂しげな光を放ち、ころりと足元に転がる。
踏み砕くも拾い上げるも自由だが、ピサロは無視を決め込んだ。
自分の目的地がはっきりとした今となっては、この場にとどまる選択肢などない。

「……」
「ひ」

ぐるり、と首を動かして振り返れば、そこにはさらにもうひとり居た。
激しい暴風の影響を受け、吹き飛ばされ気を失っていたはずのポーラがいつの間にか目覚めている。
眼をいっぱいに見開き小刻みに震える姿は小動物を彷彿とさせ、胸の前におわかれの翼を抱えていた。
邪なる力とは正反対のものを感じられるそれを、大切そうに。
その方向へ踵を返して歩き出すと、彼女の表情がさらに青ざめた。
じゃり、と瓦礫と血まじりの土を踏みしめ一歩を踏みだすごとに、彼女の呼吸は荒く、大きく弾む。
逃げ出しても良かったのだが、どうもできないように見えた。
奪われてなるものか、そう言わんばかりに固く手に握りしめている、それ。
先程までの彼は、それにひどく、執着していたような気もしたが。

1519哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:58:59 ID:chZJ0etU0

「くれてやる」
「え……?」

しかし、今のピサロには必要がなかった。
近づいたのは風に飛ばされた堕天使のレイピアを回収する、それだけのためであった。
爪や牙が魔物のように発達しているわけでもない今のピサロにとって、剣は相手を絶命させるのに有用な道具である。

「だ……脱出、は……?」
「……」

ともすれば卒倒しそうな雰囲気の中で、彼女は浮かんだ疑問を問いかけた。
歴戦のバトルマスターとしての胆力がそれをギリギリで可能としたようだ。
ピサロはそれに答える必要などなかったが、一時は共に行動したよしみか、気まぐれか。
最後に一言だけ残した。


「そんなものに縋る必要がない。私は自らの力でエビルプリーストに粛清を下す」
「ぁ…… は……?」
「逃げ出したければ、貴様ら人間どもで勝手にするが良い」

ポーラを一瞥することもなく、暴風に半壊した正門へと向かっていった。

「逃げる"先"があれば、な」

それきり中庭を振り返ることもなく彼は外を目指す。
傍らに転がる者たちを、路傍の石かなにかと同じにしか思わぬ様子で。
そして、程なく出会う2人が、王の中の王であろうとも、覚醒した勇者姫であろうとも。
冷たき瞳で、変わらず見下すことは確定している。


*********


「……い……痛ででで……で」

全身が激しく痛む。
扉に強かに衝突し。
全身に瓦礫の雨を受け。
挙句の果てには、羽虫でも払うかのように顔面を打たれて吹き飛ばされたはず。
どれくらい、気を失っていたというのか。

「!レックッ!」

自分のことよりも、この場の誰よりも傷ついているであろう人物を思い出し覚醒した。
ぺろぺろと頬の傷を舐めてくれていたであろうトーポの軽い身体が、勢い良くキーファが起き上がった拍子に飛び跳ねる。
どうやら、一役買っていたのは、レックがエイトから預かっていた一匹のネズミによるものだったらしい。

「あ……ねずみの。お前、無事だったのか」

彼は、レックが懐に入れる形で預かっていたはずだ。
トロデーン城の中に入った際の道案内になればと。
そのトーポがこうして無事であるのならば、彼もまた無事なのではないか。
その希望に答えるように、覚えのある声で名を呼ばれた。

「キーファ、あまり動かないで。まだなんだ」
「レック!お前大丈─」

1520哀しみのとき/哀しみを胸に ◆2UPLrrGWK6:2024/04/29(月) 02:59:25 ID:chZJ0etU0

途中まで言葉を投げかけた姿勢のまま硬直するキーファ。
己に回復呪文をかける青年のその姿はあまりにも痛々しいものであった。
膝立ちになる自分の足元には、まるで湧き水のように血溜まりが広がり続けている。
ベホマを紡ぐ唇は辿々しく、そもそも一呼吸ごとに喀血が止む様子がない。
こちらに視線を向けているつもりの瞳に光は無い。
片方の眼はもはや開くことはなく、見るも無惨に切り刻まれている。
掌は開いているだけで精一杯なのか両腕の震えが収まらない。
そんな大怪我人が、自分の身を擲ち、命を削って自分を癒やしていた。
キーファの頭は即座に冷え切って手を伸ばしかけ、やがてぴたりと動きを止める。
彼に触れればそこで、不安定な硝子細工のように崩れ落ちてしまいそうに見えた。

「魔法の聖水があってよかった……呪文のね。効きがどうも、よくなくて」
「そ、んなの……お前、俺なんかより、ティアのッ」

続く言葉が、口から出てこなかった。
キーファも徐々に悟る。

「生きて、キーファ」

その言葉は、できることならば"彼女"に投げかけたかったのだろう。
傍らに転がる小さき体。
直視するのも憚られるほどの首の傷口は、かろうじて皮膚だけで繋がっているように見える。
もうすでに、生命のすべてを流し尽くしてしまったであろう血だまり。
その量を見てしまっては、もう。

「っ!!」

声にならない怒りが溢れ出しそうになるが、レックの手前何も言えない。
嘘だと思いたくて、ティアの顔をもう一度見やる。
涙を流していた瞳がかろうじて閉じられて居たのは、彼の手によるものと容易に想像できた。
瞼の周りが血で汚しつつも懸命に瞳を閉じようとしたのが見て取れる。
レックの全身を見ればわかる。
ティアの顔を拭えるところが、彼の身体に見当たらない。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板