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投下用SS一時置き場

1名無しさん:2006/05/10(水) 23:41:46 ID:OKj1YCQ2
規制にあって代理投下を依頼したい場合や
問題ありそうな作品を試験的に投下する場所です。

1000ただ一匹の名無しだ:2006/12/15(金) 23:24:16 ID:5EMrHp4c
1000ならこのロワは来年内に感動の完結

1001ただ一匹の名無しだ:2006/12/15(金) 23:33:18 ID:f9posWCk
>>1000
よくやった!十字勲章ものだ!後で処女の血をおごってやる!

1002ただ一匹の名無しだ:2006/12/16(土) 01:21:08 ID:w9Kru9gI
>>998
ヒント:ルーシア

1003ただ一匹の名無しだ:2006/12/16(土) 01:29:54 ID:oBUKh0g6
>>1002
ありゃどくばりだろ。
何故毒と名のつくアイテムと同仕様でなくてはいけんのだ。

1004ただ一匹の名無しだ:2006/12/16(土) 02:03:01 ID:w9Kru9gI
>>1003
毒針は原作では即死か1ダメージ
毒状態はロワオリ解釈なんだから、アサシンダガーも毒状態にできていいのでは?

鸚鵡返しで悪いが、同じ事が言える。
>>982で「8では毒針と錬金する」って指摘した通り、毒が入ってる可能性は非常に高いんだし。
即死のギミックを説明する上で猛毒があるという解釈は実に分かりやすい。

まあ総意には従うよ。
毒がないならそれでもいいです。(アサシンダガーが著しく弱体化するだけだし)
マルチェロがどうのってのは冗談だし、ゲーム中で使えないものを展開の為に使わせるつもりは私にはないしね。

1005ただ一匹の名無しだ:2006/12/16(土) 04:16:23 ID:8e.Qz3Gs
>>1003
まあ、そもそも「ヒント:○○」とか言い出すやつはろくなやつがいないしな。

気にしたら負けだ

1006ただ一匹の名無しだ:2006/12/16(土) 07:32:10 ID:jyY6BqpI
>>1004
錬金術ってのは、ドラクエ的には複数の物を用いて全く別の新たな物に変える術のことを指すので
元の素材がそうだからといって、できた品まで同じ効果を持っているとは限らないよ
まあ、持ってるのもあるけど

言いたいことはわかるとして、
なんで即死状態がある→毒があるに違いないという解釈はよくて
仲間を全快・蘇生してくれる→それなりの治癒魔法の使い手のはずという解釈はダメなんよ

1007 ◆9Hui0gMWVQ:2006/12/16(土) 08:59:11 ID:Y4/Yg4pA
まさか「ちょうどそれっぽいの持ってるから使わせよう」
ぐらいにしか考えてなかったアサシンダガーで、こんなに意見が分かれるとは思いませんで。
書いた本人はそこまで色々考えてませんでした。浅はかだったかな。

どう判断するのが適切なのか、私ではまだちょっと決めかねますが
どのような解釈が採用されるにせよ、それに対応できるようにしておきたいと思います。
それにしても、ホント、一つのアイテムの使い方でこんなに意見が出るなんて。
これもまた様々な人の手によるリレー小説ならではの醍醐味でしょうか。

1008ただ一匹の名無しだ:2006/12/16(土) 13:21:12 ID:QyvBWW/U
>>1006
>仲間を全快・蘇生してくれる→それなりの治癒魔法の使い手のはずという解釈はダメなんよ
一言で言えば、「強力すぎるから」だと思う
転職時のことをそのままロワ内に適用すると、フォズは
「コスト0で蘇生・HPMP全回復」なんてとんでもない特殊能力持ちになってしまう
で、そんな力があるなら今まで投下された作品でちまちまベホイミ使ってるのは不自然
フォズは7ゲーム中のアントリア戦で戦闘参加するキャラなんだし、
そこで確認出来る戦闘能力(ヒャダルコ、ベホイミ)以外は使えないとするのが妥当だと思う
アントリア戦で主人公たちが死んでもフォズは蘇生してくれないしね

1009ただ一匹の名無しだ:2006/12/16(土) 20:59:44 ID:VYM0yOXk
そういえばアサシンダガーは、どのDQでも攻撃1だった??

1010ただ一匹の名無しだ:2006/12/16(土) 21:52:22 ID:pilTUCHc
>>1009
よっしゃ、明日ゼシカに装備させて調べてみる。短剣スキル0だけど

1011ただ一匹の名無しだ:2006/12/16(土) 22:31:47 ID:jyY6BqpI
>>1008
いや、ちょいまち。話が飛躍しすぎ
ここで言われてるのはあくまでキアリーレベルであって
別にザオリクだのベホマズンだのを使わせろって言ってるわけじゃないだろ。

1012 ◆9Hui0gMWVQ:2006/12/16(土) 23:14:43 ID:rxnks7cg
どうしたらよいかわかりかねたのでちょいと調べてみました。公式ガイドブックで。

アサシンダガーが登場する作品はリメイク版3・7・8の3つ
初登場の3では盗賊用の暗殺武器として紹介され、
一撃で敵を昇天させることもあると解説されていました。
おおっと思ったのは7版。
この解説では、はっきりと「刃先に猛毒が塗りこまれている」と明記されています。
なるほど、それならアサシンダガーに毒があるというのはオリ解釈じゃなかったんだなぁ
最後、一番新しい8版
これは別の意味であれっと思いました。錬金に毒針を使うのは事実ですが
このアサシンダガーには従来にはあった即死効果がないのです。
あくまで暗殺者が隠し持ちやすい武器という位置づけのようで。

・・・とまあ、こんな感じでした。7のアサシンダガー設定を採用するならば
毒に侵されてしまうという展開も、十分にアリでしょうね。
但し最新設定である8のを用いるとすると、毒が仕込まれている可能性はほとんどなさそうですが・・・
まあ、アレフが毒に侵されたままの状態になるのを回避したければ
素直にアサシンダガーを使わせないほうが無難でしょうか?

1013 ◆9Hui0gMWVQ:2006/12/16(土) 23:20:51 ID:rxnks7cg
ついでに言っておくと、どの作品にも
敵を即死させることはあっても、猛毒に侵された状態にする効果はないようです。

1014ただ一匹の名無しだ:2006/12/16(土) 23:38:55 ID:jyY6BqpI
>>1012
なるほど、よくわかった。考えようによってはアリな設定なんだな。
よく調べもしないで、いい加減なことを言ってしまったかも。失礼した>>1006

どっちにしても、キアリーくらい使わせてやれよって気はしないでもないけど。

ま、どの作品の設定を採用するかによるけど、
結局「毒があるなら解毒させる」か「解毒する方法がないのなら使わせない」で、
「毒を受けたままの状態にする」という選択肢は、君にはないのね?

1015ただ一匹の名無しだ:2006/12/16(土) 23:39:05 ID:oBUKh0g6
じゃあ今まで使われてないんだから8仕様で毒なしにすれば解決

1016 ◆9Hui0gMWVQ:2006/12/16(土) 23:48:53 ID:rxnks7cg
>>1014
はい。すっぱり言ってしまえば、ないです。
あくまで私のイメージによるものにすぎませんが
今後の展開において、アレフがそれなりに重要な意味を持っているので・・・
今、ここで倒れさせるわけにはいかないのです。

1017ただ一匹の名無しだ:2006/12/16(土) 23:54:55 ID:jyY6BqpI
ごめん、>>1006じゃなくて>>1004だった。
自分に対してレス返してどうするよorz

>>1016
了解。やっぱりそうなのな

1018ただ一匹の名無しだ:2006/12/17(日) 03:06:40 ID:LqrieNEw
>>1007
「あれがいい、これがダメ」という考え方ではなく、アサシンダガーの刃に何の特徴もないのに
即死効果だけは発揮できるというのはありえないのではないか、と考えていての提起でした。
その上で提案したのが猛毒による即死…という仮説だったわけで、別に毒以外でも「即死を説明できる能力」なら何でもよかったんです。

しかし>>1012の調査で「そもそも即死効果のないverがある」と証明されたようですので
今までアサシンダガーが人に突き立った描写が本編でなかった以上、
アサシンダガーを毒なしのverにするかは作者さんの一存で決まるようになったといえると思います。

#おぼろげに覚えていた猛毒設定は7のものでしたか…。
 こちらこそ、もう少し自身のほうで調べてから提起するべきでしたね。
 お手数をおかけしたことをお詫びします。

1019ただ一匹の名無しだ:2006/12/22(金) 20:36:39 ID:GLOJWS/w
今、人大杉。

1020ただ一匹の名無しだ:2006/12/23(土) 03:39:41 ID:Q0CT6Rp2
エイトが上にいるから別に毒状態でもいいんじゃね?

1021 ◆UUnHCwOa2s:2006/12/24(日) 18:53:45 ID:tsa5TG9Y
アリスは暫く、窓越しに井戸の入口から見える空を眺めていた。
少しづつ光を帯びて来たそれは、幼い頃から優しかった故郷の空と微塵も変らない。

そしてまた、瞳を閉じる。
――今は待つ事しか出来ない。
寒さがこたえ、睫毛ひとつ動かすのも億劫になってしまう。
だが、触れた肌部分からの更なる冷たさが付きまとう度に、恐怖が襲いかかるので眠る事が出来ない。

そう、怖いのだ。
隣で揺れる命の炎が正に今かき消えんとして居るのが。
またその悲しみを味わうのが。

(昔から私は何も出来ません。――酷く無力です。)
先程から瞼の奥にちらつくのは、父の姿だった。
いつも死人の事を考える度に思うのは、自身への酷い自己嫌悪だ。

アリスは学んでいた。
死を悲しむ人がいる者が、時に、死に追いやられることを。
だからこそアリスは仲間や母、通じ合える人達との今生の別れを覚悟で地下の世界に身を置くことにした筈だった。
未だ闇を湛えた土地を周り、一人でも多くの人を救うことが、「ロト」の名を冠した自身の責務だと感じたから。
それと同時に仲間には頼らないことも決めていた。
この役目は魔王討伐のように仲間を巻き込んではいけない、と。
各々が別個の人生を歩めるように、と。
思ってのことだった。

――フィオ、サマンサ、デイジー、スピル―・・・
一人は既にこの地に居ない者、一人は未だこの地に居る者、二人はかの地に残してきた者、いずれも仲間の名前が零れる。
アリス自身、自分が無鉄砲なことは自覚していたので散々迷惑をかけたのは容易に想像出来た。
そして、彼女達無しでは自分は魔王どころか孤独にも、打ち勝て無かったであろう自信がある。
今更ながら仲間の存在が骨身に沁みて来た。

――そう、この少女も仲間なのだ。
失ってはいけない、失いたくない大切な人。
そこまで考えると、再び恐怖がアリスの全身を駆け巡った。
自然、マリアと繋いだ手に力が入る。
握り返して来る意思が見られない手はやはり冷たい、その感覚がちくりちくりとアリスの心を蝕んだ。

そして、心に反応するようにカンダダやレックス、リアといった目の前で死んでいった者の死顔のその瞬間、刹那が写真をひとつひとつ現像していく様に甦る。
もちろん、最後に思い出すのは、殺人さえ厭わなくなったあの僧侶。
あの時の狂気を多分に含んだ瞳と、歪まされた感情が忘れられない。
せめてルビスの加護の元、彼とその大切な人が再び巡り逢うことを祈ることぐらいしか出来ない。

クリフトがアリスに二つ残したものがある。
――ひとつは誓い。
真の元凶である主催者を討つ事。
そしてもうひとつは――罪の意識。

もしかしたら殺さずにすんだかも知れない。そんな考えが頭をもたげる。
過去にifはないと分かってはいるが、そんな考えばかりが浮かんでしまう。
無駄だと分かっていても。
分かっている。
だが、その拭い去れない意識は孤独感と共に膨らみ、今にも弾けそうだった。

その時、

――カツーン。

外の方から音がした。
床冷えする身体に緊張が走る。
再び窓越しから井戸の入り口を見ると、人影があるのが分かる。
どうやら先程の音は上から小石が投げ込まれた音らしい。
しかし、此処からではいくら朝に向かって少しずつ光がともって来たといっても、十分ではなく、誰かまでは判別出来ない。
敵か、味方か。
判断がつかずに迷っている時だった。

「・・・誰か居るのかっ?!」

聞き慣れない声。
警戒心が普段の何倍も強い今、判断材料はそれだけだけで十分だった。

1022守るべき仲間を ◆UUnHCwOa2s:2006/12/24(日) 18:56:00 ID:G5ybBZY2
「・・・トロデさん、乱暴な運び方ですいません。」
そういってキーファは、井戸らしきものの近くに、トロデを降ろす。
たしか、この辺りからだった筈だ。
そう思いぐるりと辺りを見回してみる。
しかし見えるのは戦闘があった形跡のみで、ひとっ子一人見当たらない。

可能性があるとすれば、この井戸の中。それ以外はあるまい。
井戸の中に入るとなると、流石に運べないのでトロデを再び担ぎ上げ、安全な所まで移動した。
それから、警戒の為、試しに井戸の中にそこらの小石を放り込んでみた。
――反応はない。
今度は井戸の中を覗いてみる。
すると、薄明かりに人が倒れているのが分かった。

「・・・――誰か居るのかっ!?」
くわんっと、声が反響した。が返事は、無い。

「生きてる・・・よなっ!」
そういうが早いかロープを伝って降りて行く。
途中火傷した手の痛みが気になったが、そうも言ってられなかった。


下に降りた時、最初に眼に飛び込んで来たのは緑の緑色の僧侶の服を来た男の死体だった。
それは無残にも斬られ、飛び散った血が、服を赤と緑という不気味なコントラストにしている。
そして、次に見たのは幼い少女――これもまた、既に生き絶えた骸だが――だった。
やはり、可憐なドレスだったであろう服はあちこちが擦り切れ汚れていて、に深い傷があった。
いずれも死を惜しむ施しがなされており、二人が死した後に人がいた形跡を残している。

キーファをゾクリとさせたのは後者の遺体だった。
キーファは嫌な予感を抱きながら少女の骸へと近付き、そっと、今は熱を持たない組まれた手にそっと自身のそれを重ねる。

まさか間に合わなかったとは思いたくない。
だが、目の前の現実は事前の情報と余りにも符合していた。

「そんなっ・・・嘘だろ・・・?」
友を裏切ったと言う現実の前に、一人の少女さえ守れなかった己の腑甲斐無さが突き付けられた。

気が付けばいつもこうだ。
全てが砂の様にさらりと手から零れ墜ちて行く。
胸を締め付けられる思いから自然手に力が入った。

と、その瞬間、風が凪ぐ。
キーファは、途端に研ぎ澄まされたその空気に殺気が含まれているのを悟り、より強い方――キーファにとっての後ろ――を見る。

そこには細身の剣を構えた少女が立っていた。

1023守るべき仲間を ◆UUnHCwOa2s:2006/12/24(日) 18:58:15 ID:G5ybBZY2
アリスが家の外に出ると、そこには金髪に赤い服を着た少年が、リアの遺体の側にいた。
何をしているのかはこちらからだと伺い知れないが、ひょっとしたら支給品を探しているのかもしれない、アリスはそう思った。
そして、もしそうなら。と、手にした隼の剣を深く握り込む。
まだ足元がふらつくが関係ない。
私がマリアを守らなければ、誰が――その思いが今のアリスを支えていた。

アリスとキーファの間にピンと張り詰めた空気が差し込まれる。
相手は少し前から気付いていたようだが、行動は起こさなかった。

「その子から離れなさいっ!!!」

じりっと、アリスの足元から音がする。
重心を取るために足を少しずらしたのだ。
――体力も少しだけだけど、回復している。
その音を頭の端で聞きながら、確認を取る。現に、先程は立つのもやっとだったが、今は虚勢を張れるぐらいには動けるようになっていた。

「ま、待てよっ。俺は――」
「問答無用っ!!」

そのままパッと攻撃に転じる。いつもと違い力が入らない斬撃だが、はなからアリスの狙いは相手の予想を裏切れる第二次の攻撃だから関係ない。

二手目。
しかし、当たると確信していた攻撃に今の精一杯の力を込めるが、それは空しく空を斬るだけになってしまった。
そのまま体勢を崩してしまう。

――殺られる。
刹那、そう思い無理に体勢を立て直そうとするが、今のこの身体では事態を悪化させる一方だった。
余計にバランスを崩し、地面に倒れ込みそうになる。しかし、その瞬間に来るべき筈の斬撃・衝撃はどちらも来ない。
アリスの誤算、それは相手が素早さを上げていた事だったが、もう一つは幸いにも彼女を救う事になる。

それは、キーファに彼女を傷付ける気が毛頭ないことだった。

キーファもまた、アリスを支えるところまでは良かったのだが、とっさのことでバランスを崩しそうになる。が、こちらは何とか止めることが出来た。
しかし、ちょうどアリスを抱き込むような状態になってしまう。

「――取り敢えず落ち着いて下さい、俺はトルネコさんに頼まれて貴女達を助けに来たんです。」
アリスは少し上の方から降って来た言葉の中の一つの単語に反応した。
本来の救助を待つ相手の名前が出て来たからだ。

「・・・それは本当ですか。」
「勿論です。」

高ぶった感情が、戦闘を中断したことで平常心を取り戻して行く。
アリスはこの時、まずい、と思った。
この少年は信用出来る。何故なら自身が隙をみせた時も、今でさえ殺すチャンスがあるのにそれをしないからだ。
それと、何の根拠もないが彼の言葉には自分と同じ、人を守ろうとする強い意思が見られる。

そうなると、いくら警戒していたからといって、味方を攻撃していいわけが無い。
避けてくれたから良いものの、傷付けなどしてしまったら――と思うと、非常に申し訳ない。

「すいませんでした。敵と勘違いして・・・」
「あ、いえ、気にして無――」

――そこで、キーファが続きをいうのを止める。

そう、悪夢のような放送が、井戸の空気を震わせたのだ。

1024 ◆UUnHCwOa2s:2006/12/24(日) 19:05:17 ID:EApQu/zA
一次投下。

若干アリスが回復しているだけで、状態に変化はありません。

・・・ただ、自分が勘違いしてるところが在りそうで怖いのと、キーファが敬語でいいのかが不安です。

1025ただ一匹の名無しだ:2006/12/24(日) 20:05:12 ID:yAo2Bw6g
エイトに敬語禁止令を出し、アレフにもタメ口だったキーファが、
トロちゃんやアリスに敬語使ってるのは違和感あるなぁ。
キーファが敬語を使っても年上のお姉さま限定だと思われw
それ以外は特に問題はないと思います。

1026ただ一匹の名無しだ:2006/12/24(日) 20:21:37 ID:Ld9hxA7k
ちょいと前の話を読み返したら
トロデにはさんづけはしているものの、普通の話し方してるね。
そこらへんだけ調整するのと、話が終わった後の状態告知を考えておくのとで
いいんじゃないかな。

ていうか、十分うまいよあなた。新規参入乙でした。

1027ただ一匹の名無しだ:2006/12/24(日) 20:35:30 ID:Ld9hxA7k
ああ、ちょっと待って。
間違いと言ってよいのかわからないけど二点ほど記述で気になったことが

>死を悲しむ人がいる者が、時に、死に追いやられることを。
「死を悲しむ人がいる者」って表現が少しピンときません。

あと、>彼女達無しでは自分は魔王どころか孤独にも、打ち勝て無かったであろう自信がある。
そういう書き方をすることもあるけど、負ける時に自信があるっていう表現の仕方もどうかな。
素直に「打ち勝てなかっただろう」でいいような気もしますね。

気づいたのはそんなところですが、全体の流れとしては申し分ないかと思います。
キーファがリアの遺体を確認して、
ランドとの約束を果たせなかったことを悔やむ描写は秀逸でした。

1028 ◆UUnHCwOa2s:2006/12/24(日) 21:18:18 ID:A/psdvXE

>キーファの敬語
彼が田舎の王子なのを失念してました。あと、なんとなく思ったのですが、アレフにも普通って、DQM+のクリオ 以 下 じ ゃ な い か っ!?(まぁ、彼は勇者を尊敬してましたが)
さらに、お年寄りは大切にしないと。

勿論、きちんとタメ語に修正します。ご指摘有り難うございました。


>死を悲しむ人がいる者
正直、自分でもピンと来ません。(爆
実はここは何度も改ざんを重ねた所で、自分の表現力の限界がここにあります。
他にも、擬音語の部分などが、思い当たる日本語が見つからなかったところなので、やたらにそういうのが多いのはそんな理由なのです。

頑張って捻り出してみます。

>彼女達無しでは〜
有無を言わず直します。
有り難うございました。

1029ただ一匹の名無しだ:2006/12/24(日) 21:25:10 ID:yAo2Bw6g
ちょwwwwwww田舎の王子ってwwwwwwwwwww
せめて小島の王子に昇格させてあげてwwwwwwwwwww
どんな王子でもチャ○スよりマシwwwwwwww

1030 ◆YO3pXcw7Kc:2007/01/10(水) 16:49:01 ID:bo9K1f7Y
 できることをやろう。
 竜王アレンに諭された商人トルネコの目には、今までとは異なる、決意の光が宿っていた。
 とはいえ。
 散らばった仲間達の「帰る場所」であるために、居残るべきとは重々理解していれど、
 いかんせん、ただ黙って座っているだけ……というのは、なんと居心地の悪い話でもあった。

 元々、トルネコは好奇心が旺盛な人間である。
 貯蓄したゴールドを一ゴールドたりとも魔物から奪われないようにできる鉄の金庫があると聞けば
 大岩の転がる危険な洞窟へも平然と飛び込んで行ったし、
 高値で売れる女神像があると聞けば、水の流れる洞窟を筏一つで攻略してみたりもした。
 「未知のダンジョン」「未知のお宝」があれば、動かずにはいられない。
 そんなトルネコにとって、ただ待つだけという時間は、無駄な時間にさえ思えるものだった。

 アレンの負傷は軽いものではなく、放送後は自らの回復呪文による治療を続けていた。
 そんな状況で悪いと思いつつも、ファルシオンの火傷の治療も頼んであった。
 手負いの二人を見張りに、自分だけ眠ってしまうというのはいくらなんでも情けない。
 かといって、このまま何もしないというのも落ち着かない。
 ならば今の自分にできることは何か。暫し考えた末に、一つの案にたどり着く。
 それは現状の把握。そして「帰る」為の推理。落ち着いた今だからこそ、できることであった。

 ばさばさと、ザックの中身をぶちまける。
 突然の奇行を怪訝そうに見つめるアレンには引き続き回復を促し、トルネコはメモと鉛筆を取り出した。
 鉛筆を握ったところで、アレンもしようとしていることを察したようで、再び回復に集中しはじめた。

 元々、トルネコは頭脳労働が得意だった。
 武器屋としての道具知識に始まり、かつての道中では、ブライと参謀役を二分することもあった。
 戦闘こそライアンやアリーナのような屈強な戦士に譲ったが、その分頭脳で仲間を支えた自負があった。
 思えばあの頃から、仲間のためにできることを必死に手探りで考え、実践していたような気がする。
 ふっと笑みがこぼれる。何だ、ならば状況は今までとあまり変わっていないではないか。
 改めて、そのことを思い出させてくれたアレンに感謝したかった。

(さて、まず整理すべきは、放送からでしょうか)
 唯一のハーゴン側からの情報提供である、半日に一度行われる定時放送。
 今まで二度行われたそれからは、一見死亡者と禁止エリアの通達以外の情報提供はないようにも思える。
 しかしトルネコはそれ以外にも、情報を手に入れることに成功していた。
 それは、声。
 一度目は、低く冷淡な印象を受けた男の声。あれは確か、ルール説明をした神官と同じものだった。
 対して先ほどの二度目は、ハスキーでおしゃべり――無駄口が多いともいう――な女の声。
 これにより少なくとも、ハーゴンには二人以上の側近がいることが分かった。
 ルール説明や放送を任せるのだ、それなりに地位を任されている者と見て間違いないだろう。

 次にトルネコは、自身がされているだろうと推理した「盗聴」を管理する人件を加味する。
 一つの首輪につき一匹の魔物が担当していると仮定すると、最大で四十三匹。
 参加者の会話を監視する役割ともなれば、こちらもそれなりに頭のいい魔物であると考えられた。
 更に自らこの地に降り立ち、殺戮を行ったあの三匹の魔物を加えると――その数は約五十匹。
 あの三匹こそ撃破したとはいえ、いまだ相当数の魔物が、この惨劇に加担している事になる。
 かつてのピサロの城「デスパレス」が生温く見えるような数字に、トルネコは戦慄を隠せなかった。

 トルネコは、ここから脱出するにあたって最も重要なのは、ハーゴン側の戦力だと分析していた。
 もしその戦力が僅かであれば、打倒せずとも脱出(逃走という表現が正しいか)できる可能性が生まれ
 逆にその戦力が強大なものであれば、打倒する以外に脱出の可能性を見出すのは難しくなるからだ。

(ですが今のところは、ハーゴンの打倒の他に、脱出の術は無いと見るべきでしょうな)
 少なくとも異国・異世界の人間たちを一同に集わせるほどの力を持つものが相手だ。
 万に一つ逃げ出す事が出来たとしても、ハーゴンが存命である限り、脅威は消える事はない。
 いつか再び、この地に呼び戻されるかもしれない。今度はネネやポポロにも、危害が及ぶかもしれない。
 それだけは、絶対に避けなければならなかった。

1031 ◆YO3pXcw7Kc:2007/01/10(水) 16:49:38 ID:bo9K1f7Y
 すらすらと、支給されたメモに考えをまとめながら、気付く。
 このままではこのメモだけでは足りなくなるかもしれないと。
 やむなくトルネコは宿屋のカウンターから宿帳を拝借し、そこに改めて考えをまとめることにした。

(気を取り直して……改めて禁止エリアも見直してみますか)
 地図を開く。
 それは放送内容が反映され、一部エリアが黒く塗りつぶされていた。
 実は一度目の放送でトルネコ自身が情報を記した地図は。クリフトに奪取され手元にないため
 やむなくトルネコはアレンの地図を借り、それに禁止エリアを記述していた。

 一度目の放送で禁止エリアとして潰されたのは、外海であったり、人の寄りにくい山地であったり
 あまり自分たちにとって影響が無い部分であったために、深く考えることはなかった。
 しかし二度目の放送では、一転して拠点「レーベの村」が封鎖されようとしていたのは聞いての通り。
 更によく見直せば、東の祠や洞窟に向かう道も大きく制限される予定であるようだった。
 もしその周辺に生存者がいたとすれれば、大きな影響を及ぼすだろう。
 これが何を意味するのか。名簿と睨めっこしながら、トルネコは一つの結論を出す。

(やはり、アリアハンへの誘導というのが一番可能性が高そうですね)
 今度は名簿を開く。
 線の引かれていない十二名の生存者に、ざっと目を通す。
 生存者のうち、アリアハン周辺にいるのがトルネコとアレンを含めて七名。
 またピサロも最後の連絡状況からしてアリアハン寄りにいる可能性は高く、加えれば八名。
 こうなると、アリアハンを封鎖しこの八名を散らすよりも、残る者をアリアハンに集わせるほうが楽に見える。
 もっともそれは、裏を返せば「アリアハンから逃がさない」という意味にも取れるのだが、
 ともかく人が多く集まるほど、火種が生まれるという事をハーゴンたちはよく分かっているようだった。

(ローラ姫はアレンさんとアレフさんの知り合いとして、残る三人が果たしてどういった方々なのか)
 名簿ではエイト、マルチェロ、フォズと記された三人。写真を見る限りはどれも無害そうに見えるが
 彼らがどういった経緯でこの地で一日を過ごしてきたかは分からない以上、油断はできない。
 近いうちに遭遇する事もあるだろうが、警戒するに越した事はないように思えた。

(それにしても、これではまるで私たちの位置を元に禁止エリアを決めているような……まさか)
 浮かんだ一つの可能性。
 もし「盗聴」だけでなく「監視」もされているとしたら?
 ぶんぶんと首を振り、それは否定する。
 首輪一つ一つに居場所を知らせるような、何らかの呪詛がかけられているだけと信じたい。
 だがもし本当に監視されており、足掻く生存者をほくそ笑みながら見下ろしているとしたら。
 アリアハンへの道中、秘密裏に行ってきた筆談も、全て看過されているとしたら。
 その時は、文字通りお手上げである。
 我々が希望に満ちて首輪を外す瞬間にでも、笑いながら起爆スイッチを押すだろう。

(どの道、動かなければ何も変わらないのなら。ひたすらに足掻いてみるまでですな)
 放送から得られた情報を一通りまとめ終えたところで、ひとまず一息つくことにした。
 ザックから支給されていたパンを取り出し、齧る。――少しだけ、ネネの弁当が恋しくなった。

 ○

「もう、大丈夫なんですか?」
「いつまでも泣き言は言ってられんからな。それに、ファルシオンも治療してやらねば」
「私が僧侶であれば、あなた一人に負担をかけることにはならなかったでしょうが」
「構わぬ。おぬしだからこそ出来ることもあると、先に言ったばかりではないか。
 ……では少し、表に出てくる。話はその後だな」
「分かりました。ファルシオンをお願いします」

 簡単な治療を済ませたアレンを見送り、トルネコも休憩を終えることにする。
 再び宿帳のページをめくり、考えを巡らせる。

(次に考えるべきは、この首輪を外す方法ですね)
 首筋に手を伸ばせば、冷たい感触が伝えられた。
 ハーゴンを倒すためにも、この世界から脱出するためにも、まずこの首輪を何とかしなければならない。
 今まで考えていた禁止エリアも、無視することができるようにもなるだろう。
 夜の森で筆談した内容を思い出しながら、文字を走らせる。

1032 ◆YO3pXcw7Kc:2007/01/10(水) 16:50:32 ID:bo9K1f7Y
(首輪にかけられた強力な呪詛を解くには、『聖なる光』が必要……)
 ザックから放り出した、もう主のいない――元々はビアンカかバズズのどちらかの――首輪を手に取る。
 あの時見た、ラーの鏡の力で具現化した禍々しい呪詛。あれは生半可な光では取り除けそうもなかった。
 言った自分でさえ、そんな光が本当に存在するのかとさえ思うほどに。

 それでもアトラスとの戦中にて、トルネコは一つの可能性を見出していた。
 それは、デインの光。
 選ばれし者のみが使える聖なる雷であれば、あの呪詛を除去できるかもしれない。
 使い手である天空の勇者はいなかったが、アレンらがあの剣をかざした時に放たれた雷。
 あれはまごうことなきギガデインであったように見えた。ならばあれを、呪詛にぶつければ。

(しかし、これには致命的な問題があります)
 それは、外すべき首輪は人体につけられているということ。
 取り外された首輪の呪詛であれば、いくらでもギガデインの直撃を浴びせる事もできるだろう。
 しかし人体につけられた首輪の呪詛を取り除くとなれば、そうもいかない。
 ラーの鏡で具現化した呪詛は、首輪の主のすぐ側にあるはずだった。
 それにギガデインの直撃を与えれば、当然、首輪の主もひとたまりもない。
 失敗すると首輪が爆発するとか、そういう以前の問題だった。
 呪詛を取り除くための聖なる光は、人体には無害なものでなければならないと考えられた。

(聖なる光だけを、確実に放てるような道具……何があるでしょうか)
 ぱっと思い立ったのが、太陽の光。日光といえば、闇を振り払う象徴と言ってもよいものだ。
 しかし、トルネコはすぐに否定する。
 ただの日光に当てたところで、あの強烈な呪詛に効果があるとは思えない。
 そんな甘っちょろい細工で外せるなら、この首輪には何の拘束力もないだろう。

 ならラーの鏡で日光を受け、呪詛をピンポイントに狙ってみてはどうだろう?
 いや、それもダメだ。
 反射すればそれだけ密度の濃い光は生まれるだろう、しかしその分温度も膨大だある。
 呪詛を祓う前に、体が焼き払われてしまう。ギガデインと同じ結論だった。
 太陽の光を放てる道具があればあるいはといったところだが、それは森で否定されたばかりだ。

 ――結局、森での筆談から進歩がないではないか。
 ぐしぐしと頭をかきながら、トルネコは独りごちる。独りではこれが限界なのだろうか。
 気分転換にと、首を回してみる。目に付いたのは、先ほど拾った錬金釜だった。
 それとなく拾い上げ、商人独特の手つきで調べてみる。

(「錬金」という響きからみるに、複数の道具から、新たな道具を生成する道具……ですかね)
 壺のような形状からして、中に道具を放り込めばよいのだろうか。
 ためしに聖なるナイフとプラチナソードを入れてみれば、しばしごとごと動いた後、ぽんと排出された。
 突然の飛び出しに、中を覗こうとしなくて良かったと肝を冷やしながらも、分析を続ける。
 どうやら組み合わせは決まっているらしい。正しくない組み合わせでは、釜に拒否されてしまうようだ。
 正しい組み合わせを見つけた場合、それは受け入れられ、新たな道具となって出てくる仕組みだろうか。

 なるほど調べれば調べるほど不思議な仕組みで、探究心をくすぐられる道具であった。
 詳しい使い方をトロデから聞いていなかったのが悔やまれる一方で、疑問も沸く。
 何故こんな地で、こんな使い方の限られる道具が支給されたのだろうか?

(……ふむ。これも何かのヒントなのかもしれません)
 もしこの錬金釜によって、支給品から何か新しい道具を生み出せるようになっているとしたら。
 もしかしたら、聖なる光を放てる道具が作れる可能性もあるのではないだろうか。
 もちろん、可能性は低いだろう。
 ハーゴンが、わざわざそんな『抜け道』を用意しているかどうかも疑わしい。
 だが絶対にない、とも言い切れないのではないように思えた。

(例えば、『光を放つ道具』と『光を持つ道具』の二つを――)
 この二つを錬金釜に入れてみれば、強力な光を放つ道具が出来上がったりしないだろうか。
 ――ぞくぞくと、好奇心がくすぐられるのが分かった。
 冒険に出かける直前のようなわくわくする感覚が、トルネコの全身を駆け巡る。
 今のところ、手元にそれらしい道具はない。
 だが人が集えば、本当にそれらの道具を持つものが現れるかもしれない。
 あるいは本当に、聖なる光を生み出す事もできるかもしれない。

 錬金釜の可能性を、しっかりと宿帳に書き記しておく。
 もし今後自分やトロデに何かあったとしても、仲間たちへと繋ぐ事ができるように。

1033 ◆YO3pXcw7Kc:2007/01/10(水) 16:51:07 ID:bo9K1f7Y
(さてと。自分ひとりで考えられるのは、このあたりが限界でしょうか)
 大きく息を吐いて、ぱたんと宿帳を閉じる。結構な量を書き綴ったような気もする。

 本当はもう一つ、「ハーゴンが一体どこにいるのか」という問題があった。
 これについては、以前リアから聞いた「ハーゴンは幻術が得意だ」という話から推測する限り
 ハーゴンと同じ世界から呼び出された者達――今となってはマリア一人だが――から話を聞かない事には
 トルネコ一人では分かりそうもなかったため、深く考えることはしなかった。

(後は皆が無事に集ってから、もう一度話をしてみることにしましょう)
 ほんのわずかではあるが、進展したような感覚にトルネコは満足していた。
 窓から射し込む朝の日差しは暖かく、気持ちも相俟って、実に心地よいものだった。

 ○

 たった独りで歩むラダトーム王女ローラが、流れた放送にて最も身を案じたのは
 大切な思い人のことでも、大好きな竜の仕えた竜の王のことでもなく
 目の前で川に流された、バンダナを巻いたとあるお国の兵士長のことだった。

 祈るように聞いた十三名の死亡者の中に、エイトの名前が無かった事に涙を流して喜び
 そしてサマンサとドラゴンの名前があったことに、少しだけ消沈する。

 戦に疎い自分でも、レーベの村でゴンを惑わせた犯人がサマンサであることは理解していた。
 つまり彼女がゴンの死の原因を作ったと言っても過言ではなく、恨みがないといえば嘘になった。
 一方で、こうも思う。彼女も彼女なりに、やらなければいけないことがあったんだろうと。
 そうでなければ、共に歩いた道中、あんな悲しい目をしていたことに説明がつかない。
 できることならもう一度、会って話をしたいとローラは考えていた。
 恨み辛みをぶつけるためではなく、彼女をもっと分かりたかったから。
 それが叶う事はなくなってしまったこと。それがただ、残念だった。

(……あっちでゴンさんと、ケンカしてたりしないでしょうか)
 せめて現世でのいがみ合いは忘れ、仲良くしていてくれればと、ローラはささやかな祈りを捧げた。


 ローラは川沿いを歩いていた。
 アリアハンに向かうためには、そうしていてはやや遠回りになる。
 しかしもしかしたら、岸にエイトが流れ着いているのではないか、という期待が捨てきれなかったからだ。

 結局、城下町が見えるようになっても、エイトを見つけることは叶わなかった。
 生きているという希望のお陰で悲しみは振り払えたが、とにかく心配だった。
 きっと反対側、あの塔の在る小島の方に流れ着いたのだろう。――未だ溺れているとは考えたくもない。
 ならば泳いで向こう岸へ、というわけにも当然いかない。今はただ、彼の身を案ずるしかなかった。

 暫く小島を見つめた後、ローラはそれに背を向けた。
 別れた時に、強くなると決めたのだ。それはエイトが生きていると分かった今も変わらない。
 むしろ再会したときに安心させてあげたいという気持ちのお陰で、その想いがかえって強まっていた。

 今は独りでも、城下町へと向かおう。決意の目を持って、ローラは歩き出した。
 どこからともなく吹いた一陣の風が、歩み始めた彼女の背中を優しく撫でる。
 ローラにはそれがまるで、誰かがその背を押してくれたように感じられた。
 ――杖を持つ右手が妙に軽かったのも、きっとそのせいだったのだろう。

 ○

 元気になったぞ、とでも言いたいのか。
 繋がれたままにぱかぱかと足踏みの真似をするファルシオンを認め、竜王アレンはぐいと背伸びする。
 目に入ってきた日差し眩しくて、思わず目を細める。
 だがそれは、とても美しかった。
 とてもいくつもの悪夢が、そして惨劇が行われてきた地に登るものとは思えないほどに。

「闇に生きた者にも、太陽の光は平等に注がれるか」
 光を忌み嫌い、闇を牙城として地下に潜んできた竜王としての日々。
 その頃は太陽など、ただの敵でしかなかった。むしろ人々から奪いたい、象徴そのものであった。
 事実かつての魔王は人々から太陽の光を奪い、アレフガルドに永遠の闇をもたらせたこともあると言う。
 そんな先祖を持つはずの男が、この光を心地よいと感じる事は、本来考えられないことに思われた。

1034 ◆YO3pXcw7Kc:2007/01/10(水) 16:51:41 ID:bo9K1f7Y
 だが、悪くなかった。
 太陽を肯定できるようになったのも、取り巻く環境や、あるいは考え方の変化が理由だろうか。
 ならばもう一度、本当のアレンに感謝しておく必要がありそうだった。

「アレフよ、何故戻らぬ」
 ふと、その男の先祖である、因縁の男のことを考える。
 放送によってアレフがアトラスの追撃を果たし、勝利した事は分かっていた。
 その事実にどこかで安堵していた自分がいたことも、渋々ながら認めてやったというのに。

(負傷したか、それとも)
 新たな戦乱に巻き込まれ、未だ引くとも出来ぬ状況に陥っているか。
 なまじ一度出会い共闘を果たしていただけに、この情報の欠落が歯がゆかった。
 いっそ今から援軍へ向かおうと思っては、先のトルネコに自分の告げたことを思い出して留まる。
 何度と無く一歩を踏み出しては留まるその姿は、はたから見れば滑稽なものに映ったかもしれない。

(……中に戻るか)
 「自分たちは居場所であるべきだ」と述べた矢先に、うろたえていてはトルネコに示しがつかない。
 苛立ちを押し殺し宿屋へと戻ろうとしたアレンは、一陣の風の流れに乗った、懐かしい匂いを捕らえた。
 反射的に振り返った彼は、城下の入口に佇む一つの人影に、その目を釘付けにする。

 それは光だった。おぼろげでも、見間違えようがなかった。
 それはいつも、暗黒の心の中で場違いに輝く、太陽のような存在だったから。

「……ローラ?」
 その名を呟けば、無意識のうちに足が動いていた。
 まるで誘われるように、アレンは光の射す方へと進んでいた。


 その光は、アレンにとってあまりに眩し過ぎたのだろう。
 だから、大通りに潜む闇には、未だ気付いていなかった。

 ○

 トルネコがザックをぶちまけた際に、一つの石が宿屋の隅へと転がった。
 それぞれのすべきことに集中していた二人は、ただの石だと見向きもしなかった。

 この石に、異変が起きていた。
 それはまるで、近付く何かに反応するように。
 ほんのり熱を持つその石は、今その熱をさらに増し、その体を僅かに赤く染めていた。

 かつて石は、ぐうたらな男にホットストーンと名付けられ、ナンパの材料にされることもあった。
 希少品として大富豪に買い取られ、コレクションの一つになることもあった。
 しかし本当は、その石は伝説の英雄が封印されている、魔法の石だった。
 それを知ったある冒険者達は、世界一高い塔の上で石を掲げることにした。
 無事に伝説の英雄は復活し、それと同時に石は消えてなくなった。

 石はこの地で、当時と変わらぬ姿で、大蛇の荷物に紛れた。
 しかし封印を解かれた英雄も、石に封印されることなくこの地に呼ばれていた。

 英雄と石は、共にあるものではなかった。
 石は英雄の封印のためにその世界に存在し、英雄の復活と共に消えたものだったから。
 英雄が復活している今は、この石は存在するはずがないものだった。

 ならばこの石は、果たしてなんなのだろうか?
 ――本当に、英雄を封印していたそれと同じものなのだろうか?


 石は、何も語らない。
 ただ静かに、胎動を続けていた。

1035 ◆YO3pXcw7Kc:2007/01/10(水) 16:52:12 ID:bo9K1f7Y
【E-4/アリアハン城下町宿屋/朝〜午前】

【トルネコ@DQ4】
[状態]:HP3/4
[装備]:無線インカム 破壊の鉄球 宿帳(トルネコの考察がまとめられている)
[道具]:支給品一式(食料と水は半分) ホットストーン?(異変中) 聖なるナイフ 錬金釜
    プラチナソード 折れた皆殺しの剣 ラーの鏡 マジックシールド 魔封じの杖 首輪×2
[思考]:宿帳に記した考察を仲間に伝える 仲間の安否を気遣いいずれ合流 対主催への強い決意
※トルネコの道具は、宿屋内に広げられています。
※ホットストーンに、何か異変が起き始めています。

※【ファルシオン@DQ6馬車馬】
[状態]:右後ろ脚に火傷(回復) 宿屋の外に待機
[装備]:縞模様の布切れ

【E-4/アリアハン城下町大通り/朝〜午前】

【アレン(竜王)@DQ1】
[状態]:HP1/4 MP1/8
[装備]:さざなみの剣
[道具]:なし
[思考]:あれは…… この儀式を阻止する アレンの遺志を継ぐ

【E-4/アリアハン城下町入口/朝〜午前】

【ローラ@DQ1】
[状態]:HP3/4 火傷  気丈な決意
[装備]:光のドレス 雨雲の杖
[道具]:ロトの剣 炎のブーメラン 支給品一式
[思考]:アレフを探す 竜王にゴンの事を伝える エイトが心配 ゲームを脱出する


※備考:トルネコが宿帳に記した内容は以下の通り(全てトルネコの推測です)
1、首輪による盗聴・監視の可能性。また、そこから考えられるハーゴンたちの戦力について
2、アリアハン周辺に全生存者が集いつつある
3、首輪はラーの鏡に照らすと禍々しい呪詛を生み出す。これを消さない限り首輪は外せない
4、消すためには、人体に無害で、強い聖なる光に照らす必要がある
5、「錬金釜」を使えば、もしかしたら聖なる光を生み出せる道具を作れるかもしれない

1036ただ一匹の名無しだ:2007/01/10(水) 23:47:58 ID:jGbJwxHE
乙&gj!
光を受け入れた魔王vs魔剣に魅入られた僧侶が見れるのかな。
この後の展開が楽しみな話ですね。

1037ただ一匹の名無しだ:2007/02/10(土) 00:26:53 ID:oVjPS1tg
.

1038未題  ◆jOgmbj5Stk:2007/02/13(火) 07:06:42 ID:lq3hT5Jo
一歩足を進めるたびにどくん、どくんと心臓が脈打つ。
それとともに激痛がピサロの全身を駆け巡った。
脂汗を垂らし、壁に身体を寄せながら創痍の魔王は塔の階段を昇っていた。
右腕は完全に破壊され使い物にならず、
血は止まったとはいえ巨人の拳による傷痕は未だ彼の身体に刻まれたままだ。
断続的に唱える回復呪文によってかろうじて彼の意識は保たれている。
先ほどのアレフとの戦闘で更に状態は悪化したようだ。
(無様だな……)
そう自嘲し――途端血を吐いた。

「がふっ」

びしゃびしゃと石段の上に胃液雑じりの血を吐瀉する。
朱に染まる唇を乱暴に拭い、それでも銀の魔王は進んだ。
この場では敵に発見された場合、的にしかならない。
なんとか四方を見渡せ、且つ落ち着ける場所を探さなくてはならなかった。
その条件に最も近いと目星をつけたのが塔の頂上だった。
回復呪文を繰り返しようやく動悸が安定して来た頃、ピサロは塔頂に到着する。
そこには一戸の家屋が建っており、中には寝具なども揃っていた。
「ふん、都合がいい」
力なく笑いベッドに腰を下ろすと自身の回復に集中を始める。
しかし右腕は完全に破壊されていて最早完全に回復は不可能であった。
いっそのこと切り落とそうかとも考えたが、血の足りない今の状態でそんなことをすれば
失血死という間抜けな死に様を晒すことになるだろう。
今は部屋のカーテンを引き裂いてサラシにし、右腕を身体に固定するのが精一杯であった。
動かす度に激痛が走るがその都度ベホマで鎮痛し、なんとか処置を完了する。
内臓へのダメージは今までの回復治療で幾分か和らいでいた。
緩慢に込み上げていた吐き気は徐々に治まり、気分も落ち着いてくる。
だからといって食欲は全くなかったが、ピサロはパンを口にすると水で強引に胃の中に流し込んだ。
受け付けず、逆流してくるモノを喉を押さえつけて飲み下す。
多少無理をしてでも今は血を造るために栄養を取らねばならなかった。

1039未題  ◆jOgmbj5Stk:2007/02/13(火) 07:07:15 ID:lq3hT5Jo
数度、その拷問のような食事を繰り返しようやく彼は一息をつく。
彼の診断では戦闘可能領域への回復まではまだしばらくかかる。
他にもう一人回復呪文の使い手がいればまだ違うがそれは求めてもしようがなかった。
先ほどアレフと相対した時のように無理をすれば現段階でも戦闘は可能だがその分命を縮めてしまう。
残り10人以上いる今、それは良策とはいえない。
(いましばらくはここで回復に専念するしかあるまい)
いつでも動けるように横にはならず、ベッドの奥に腰掛けて壁に身体を預けるように身を休める。
回復呪文の連唱で魔力も底が見えてきている。回復させねばならなかった。
ザックに入っているエルフの飲み薬を使おうかとも考えたが、
即効性のある薬はいざという時の切り札となる。時間的猶予のある今はまだ温存するべきだと考えた。
そして眠りに入ろうとゆっくりと瞳を閉じた時、ヘッドセットから耳障りな音が聞こえてきた。

『ザザ……ブッ、ええー聞こえますか? ピサロさん、聞こえたらどうか返答を……』




放送の後エイトは感情にその身を任せていた。
昂ぶり、知らず紫炎のオーラをその身に纏うと力のままにその拳を燃える炭塊へと叩きつける。
エイトの胴回りの二倍はあろうかという元は巨大な流木だったそれは
ハイテンションの一撃によって粉々に砕け散り、周囲の砂浜に黒い炭屑を撒き散らした。
そのまま膝をつき、今度は砂地に拳をたたきつける。
何度も、何度もたたきつける。
砂が衝撃を吸収してくれたおかげで拳にさほどダメージはない。
しかし今のエイトにはそれすら疎ましかった。
ゼシカが、ククールが死を賭して戦ったに違いないのに何故自分はのうのうとここで立ち止まっているのか。
アリーナ姫も、ローラ姫も、誰も守れずに一人この場に佇んでいるのか。
そんな自分自身を殴り飛ばしてやりたかった。
彼は歯を喰いしばり、涙を拭う。
(そうだ、もうこれ以上休んでなんていられない!)
放送ではローラ姫の名は呼ばれなかった。

1040未題  ◆jOgmbj5Stk:2007/02/13(火) 07:07:51 ID:lq3hT5Jo
ならばアリアハンへと向かっている筈である。
(急いで合流しないと!)
それにトロデ王もアリアハンにいる可能性はある。
ともかく一刻も早く向かわなければならなかった。
エイトは入り口を探して塔の外周を回る。
その時、視界の隅に赤いものが目に入った。
見慣れたその色彩に思わず目を奪われ凝視する。
それは見覚えのあるマントに覆われた一つの死体だった。
「!? まさか!」
顔を青褪めさせながら駆け寄る。
しかしその背格好は彼の脳裏に浮かんだ青年の姿とはかけ離れていた。
恐る恐る手を伸ばし、マントを捲る。
そこには黒い髪をした青年の顔があった。
知った顔でないことに安心し、同時に落胆する。
(ククール、君はいったいどういう最期を迎えたんだい? 僕にはそれを知ることさえ叶わないのか)
名簿を開いてみるとこの青年はアレンという名前らしい。
ふとみると青年の死体には二つの傷跡がある。
肩の矢傷。そして胴を横薙ぎにされた太刀傷。
胴の傷に触れるとそこには僅かな魔力の残滓が感じられた。
その力は彼がよく知る剣の波動。
(まさか……竜神王の剣?)
周囲を見渡すと落雷によると思われる焦げ跡がいたるところにある。
そのことも彼の推測を裏付けていた。
そして死体の脇に添えられている一輪の花に気づく。
彼のマントが掛けられていることといい、この青年はククールが看取ったということなのだろう。
エイトはゆっくりとマントを元に戻すと手を組んで祈りを捧げる。
「人違いでした……どうか安らかにお眠りください」
できうるなら埋葬したいが今はその時がない。
エイトは立ち上がるともう一度深々と頭を下げ、その場を立ち去った。
(竜神王様の剣で彼を殺した者がいる……ククールじゃない。彼は剣に拒まれていた。
 なら……誰が?)

1041未題  ◆jOgmbj5Stk:2007/02/13(火) 07:08:22 ID:lq3hT5Jo




「トルネコか?」

『ああ、ようやく繋がりましたな。突然繋がらなくなってしまったので心配しましたよ。
 こちらもいろいろとあって早く交信しようとしていたのですが……』

「何があった」
ピサロはダメージを受けていることを隠そうと言葉少なに尋ねる。

『ええ、あれから巨人アトラスはなんとか撃退したものの城の地下通路から逃げられてしまいまして……
 それをアレフさんという方が追っていかれてしまったのですよ。
 放送から判断するかぎり、どうやら無事に止めをさせたようですがアレフさんは戻られません……。
 こちらはアレンさんが重傷を負われ、宿に戻れば誰も居ず、アリスさんたちは戻ってこない。
 もうどうしたらいいやら……途方に暮れておるのです。ピサロさんたちは今どちらに?
 早く合流したいのですが』

どうやら向こうも状況が好転しているとは言い難いようだ。
今襲撃をかければ容易く全滅できる……が、今の自分の状態ではそれは不可能だった。

『ああ、そういえばピサロさん達が地下通路を通られたのならアレフさんやアトラスと
 遭遇されませんでしたかな?』

ピサロの目が細められる。
「何故、我らが地下を通ったと?」

『いえ、インカムが通じなくなったのはおそらくそれが原因なのではないかと思いまして。
 レーベとアリアハン間で通じたものが近づくにつれて通じなくなるというのもおかしな話ですしね。
 アレンさんから地下通路の存在は聞いていましたし、レーベの方角にもその通路は延びていたそうなので。
 そして今繋がっているということは……アリアハンに到着されたか途中のナジミの島にでも?』

1042未題  ◆jOgmbj5Stk:2007/02/13(火) 07:09:01 ID:lq3hT5Jo

短い期間の付き合いだがこの時ほどトルネコの聡い部分を疎ましく思ったことはなかった。
あのユーリルといた時も戦闘能力では他の仲間に遅れをとっていたがその知恵はブライの知識とならんで
重宝されていた。僅かな情報から全体を見通し真実に辿りつくその能力。
彼は普段は間抜けな一面も見せるがこういう場面では特に頼りになる人物だった。
だからこそピサロも僅かなりトルネコを認めていたのだ。
だが今は……。
「お前の推測どおりだトルネコ。私は今ナジミの塔にいる。
 そしてアレフという男にも巨人にも遭遇した」
ピサロには二つの選択肢があった。
自分がゲームに乗ったことを隠し、不意をついて彼らを急襲すること。
もう一つは自分が乗ったことを伝え、正面から彼らを打ち破ること。
今の傷ついたピサロにとって前者をとった方が有利なのは当然だった。
実際、そうしようと思っていた。
だが気が変わった。
人を愚者と笑うからには自分はそれよりも高みに存在しなければならない。
ならば人が使うような姑息な手段はとることは出来ない。
誇りを持って彼らを冥府へと導いてやろう。

『おお、やはり。それではアレフさんは今どちらに?
 お側にいるなら一度話をさせてもらいたいのですが』

「フン、さて何処にいるか……手酷い傷を負わせてやったからな。今頃は死んでいるかもしれん」

『ーーっ!?』

そのあからさまな侮蔑の声に狼狽する音がインカムごしに耳に伝わる。
陰湿な愉悦がピサロの唇を僅かに歪ませた。

『……何故です?』

数秒の沈黙のあと、トルネコは搾り出すような声を上げた。

1043未題  ◆jOgmbj5Stk:2007/02/13(火) 07:09:47 ID:lq3hT5Jo
彼は先ほどの答えだけで全てを察したようだった。
「貴様らに人間には失望させてもらった。貴様のそばにいたクリフトという神官然り、私のそばにいた魔女も然り。
 この期に及んでの愚昧なる行動、もはや信に値せん。もう人間などあてにはしない。
 私一人でハーゴンへの道を切り開いてやるということだ」

『ピサロさん……』

「その名で私を呼ぶな……我が名はデスピサロ。貴様ら人間を冥府へといざなう魔族の王だ」




『その名で私を呼ぶな……我が名はデスピサロ。貴様ら人間を冥府へといざなう魔族の王だ』

デスピサロ。かつてトルネコのいた世界を恐怖へと陥れた魔王の名。
再びその名を耳にするとは思わなかった。その名を彼はすでに捨て去ったはずだった。
彼はすべての戦いが終わった後一人の魔族として、ただのピサロとしてロザリーと共に生きていくはずだったのだ。
だが彼は今そう名乗っている。そしてそれがピサロにどれほどの絶望を味合わせたのかが窺い知れた。
(ど、どうする……どうすればいいんですか?)
デスピサロの音に触れ、トルネコは激しく動揺する。
彼は本気だ。でなければ一度捨て去ったはずの名を再び冠するはずはないだろう。
止めなければならない。しかし……今の彼が話を聞いてくれるだろうか?
自分は一度クリフトの説得に失敗している。もうあんな失敗はできなかった。
トルネコは必死に知恵を振り絞って考える。
今はまだ通信は繋がっている。だが次の瞬間には切られるかもしれない。
こちらから交信を呼びかけてもインカムを外されてしまえばそれまでだ。
なんとか、なんとか彼の心に届く呼びかけを――なんでもいい、彼の心を揺さぶる言葉を――

「そんなことをしてもロザリーさんは喜びません!」

自分ではピサロの心に届く言葉をかけることはできない。
ならば彼女に、彼が心を許したただ一人の女性に託すしかない。

1044未題  ◆jOgmbj5Stk:2007/02/13(火) 07:10:32 ID:lq3hT5Jo

『フ、そうだな……ロザリーは喜びはすまい。だが、……悲しみもせん!
 彼女はもうなんの感情も現さない、笑わない、泣かない、怒りも、喜びもしない!
 貴様が、貴様ごときが賢しらにロザリーの名を口にするな!!』

効果はあった。
インカム越しに伝わる彼の怒号。ロザリーの名は確実にピサロの心を揺さぶった。
(怯んではいけない――! 押して押すこと、これぞ商いの極意!!)
やはりあのエルフの少女こそが突破口。
(ロザリーさん、どうか……どうかピサロさんを導いてください!)
「そうです。確かにロザリーさんは死んでしまいました。
 しかしピサロさん、あなたの心の中からもロザリーさんは消え去ってしまったのですか?
 いいえ、そうではないでしょう。あなたの思い出の中にロザリーさんはまだ存在する筈だ!
 あなたの心にいる彼女は今笑っていますか!?」
誰だって心の中心には大切な存在がある。
あの神を捨てた憐れな神官にも最後まで信じていた光があったのだ。
もう彼と同じ過ちを繰り返させないためにも、その光と向き合って欲しい。

『貴様に……何がわかる!!』

「わかりますとも。私の心の中にも愛しい妻と子がいる。
 私はいつも思っています。そして常に妻と子にとって誇りである存在でいたいと思っています。
 ピサロさん、あなたは違うのですか? あなたの心のロザリーさんが永久に笑わなくなったとしても……!
 あなたは魔王となるのですか!?」

『黙れぇッッ!! どんなに奇麗事を吐いたところで貴様らに何ができた?
 人間は悪戯に殺し合い、貶めあい、人数を減らしただけではないか!
 愚かな人間どもにもう付き合っては居られん……もうこのゲームは止まらん、なら……私が勝ち残るまで!
 くだらぬ感傷でもはや私が道を違えることはない!』

言葉の一つ一つに込められた憎悪が、絶望が、トルネコの心に突き刺さるようだった。
だが彼は退けない。もう退き下がるわけにはいかない。

1045未題  ◆jOgmbj5Stk:2007/02/13(火) 07:11:14 ID:lq3hT5Jo
彼の能力の全てを持って、この商売を成功させると決めてしまったのだから。

『この忌々しい首輪を外す術も潰えた。もはや私も貴様も逃れられんのだ!
 待っていろ、今に貴様の首を貰いに行く……!』

ここだ、と思った。攻撃をかけるならここしかない。
ピサロがどのような手段でもって首輪を取り去ろうとしていたのかは解らない。
だが自分達にはまだ可能性が残されているのだ。
そのことを伝えれば――
しかし……その方法がない。インカムで伝えれば主催側にそのことが知られてしまう。
遠く離れたこの場所では筆談で伝えることも出来ない。
だが今しかない。今を逃せばもうピサロが自分の声に聞き耳を持つことはないだろう。
僅かな逡巡の後、トルネコは決断した。
(ネネ、ポポロ! 父さんは、父さんは……最期まで強く生きたぞ!!)
「私が知っています! 戒めを解く方法を私が知っています!!」

『!?』

音に聞こえる動揺の気配。
この言葉は確かにピサロに伝わった。だが、それと同時に主催側にも――
ガタガタとトルネコの手が震え、嫌な汗が全身を伝う。

『愚かな……貴様は取り返しのつかない真似をしたのだぞ……』

どうやらピサロのほうも盗聴の可能性に気づいていたらしい。
「し、承知の上です!」

『知っていて言の葉に乗せたというのか!』

「わ、わわ私が例えここで消えようと、き、希望は残ります!
 わたた、しの望みは唯一つ! この情報をあなたに買ってもらいたい!!
 代価はあなたの『信じる心』です!」

1046未題  ◆jOgmbj5Stk:2007/02/13(火) 07:12:05 ID:lq3hT5Jo

次の瞬間には自分の首が飛んでいるかもしれない。
しかしそれでも譲れないものがあった。
彼を突き動かす何かがあった。

「あ、アリアハン城下町の宿にくれば私がいなくともその情報は手に入れられます。
 ピサロさん……どうか!」

『私に魂を売り渡せというか……ククク、まるで悪魔との取引よな』

「ピサロさん――!」

『トルネコよ……確かに私はかつて人を認めた。信じるに値するものとしてな。
 だがそれはこの世界にて裏切られた。人間とは実に愚かな存在だということを思い知らされた。
 お前が、ユーリルが信じられようと他の大多数の人間を信じることなどできぬ。
 お前一人では何もできない。殺し合いを止める事も、私を止める事もな――』

「待っ――ッ!」

『話は終わりだトルネコよ。私はもう迷わぬと決めた。
 お前の命を賭けた売り物だが代価は渡せん。今死なずともいずれ私がお前を殺しに行く。
 ……さらばだ』

ブッという音がして交信は切れた。
それからは何度スイッチを押しても通じない。どうやらインカムを外されてしまったようだ。
それと悟るとトルネコもまたインカムを外しザックに放り込む。
そして宿の階段を駆け下りた。
(まだ私の首はついている。ならば最期の瞬間まで私は諦めませんぞ!)
アレンに事情を説明し、自分ひとりでだけでもナジミの塔へ向かうのだ。
「うおおおぉおおおおおおおお!! この商人トルネコ、最後まで戦いますぞぉおお!!」
咆哮とともに彼は宿を飛び出し、アレンの姿を探した。

1047未題  ◆jOgmbj5Stk:2007/02/13(火) 07:12:39 ID:lq3hT5Jo


「……さらばだ」
ピサロはインカムを頭部から外すと部屋の隅へと放り投げた。
もう必要はない。もう誰とも話すことはない。
トルネコの言葉が思い返される。彼に放った自分の言葉も。
そう、一人の人間が信じられたとてそれに意味はない。
このゲームが止まることはもはやあり得ないのだから。
だがもし……そこまで思考に上らせ――ピサロは自嘲した。
「下らぬ」
既に我が道は定まった。
あとは行動に移すまでの間鋭気を養うのみ。
だが彼の眠りは二度までも邪魔されることになる。
一度目はインカムからの通信。二度目は……扉を開き朝日とともに現れた訪問者によって。

「何をしにきた……」

ピサロは訪問者に怒気を孕んだ声をかける。
それでも訪問者は――フォズはしっかりとピサロを見据え手を差し出した。



「あなたを……導きに」

1048ただ一匹の名無しだ:2007/02/13(火) 07:14:31 ID:lq3hT5Jo
特に問題のあると思った一部分を投下します。
エイトの検死、首輪盗聴関連、Pの思考、この三つの部分が大丈夫かどうか判断をお願いします。

1049ただ一匹の名無しだ:2007/02/13(火) 20:38:08 ID:FsgEIsWM
>>1048
い…一部分!?ならば完全版を読まないことには何とも言えませんが、
エイトの検死、首輪盗聴、Pの思考については無問題だと思われます。
普通に完全版だと思って読んで『ん?何か話が飛んでる!』と思ったら…やられたぜ!

1050ただ一匹の名無しだ:2007/02/13(火) 22:16:04 ID:XHas1znA
良いと思います。

あとは誤字とレス数とか気をつけてくださいね。
私、以前間違えて恥ずかしかった事があるもので・・・。

1051ただ一匹の名無しだ:2007/02/13(火) 23:03:01 ID:i2TWHMOo
乙です。
 気になったのは、「エイトが地下通路の存在を知っているのか?」という事です
下手に搭を登るより泳ぐ>歩く方が短距離に感じると思うのです。
搭の周辺や搭の入り口付近を「周囲(奇襲)の警戒」もしくは「参加者探し」で調べるのは分かるのですが、急いでいるのに搭の中を捜索してまで時間を割くかどうか。
 ピサロが搭の頂上に居るのを見つけて、トロデやローラよりも優先させるかどうか。
見つけた場合、エイトはモンスターの善悪が判別出来ますから、どう見えたのかの描写が必要のような気がします。

1052ただ一匹の名無しだ:2007/02/13(火) 23:29:51 ID:FsgEIsWM
FFDQ1stのパパスは泳いでたなぁ。しかも二回くらい。
でも橋が落ちて海流が変わったとかって書いていたから、泳ぐのは無理っぽい。
本人もついさっきまで凍えかけてたから。

1053ただ一匹の名無しだ:2007/02/13(火) 23:36:01 ID:i2TWHMOo
>>1052
なるほど。
海流変わってもエイトなら泳げそうな気も若干しますが、一理ありますね。
とすると、

>>1040
>ともかく一刻も早く向かわなければならなかった。
>エイトは入り口を探して塔の外周を回る。

の部分に何か補助的な言葉を補えば良いのかな。
後は次の書き手さんにエイトの行動を委ねればOK・・・かな?

1054ただ一匹の名無しだ:2007/02/13(火) 23:38:08 ID:FsgEIsWM
地下の戦いでのすさまじい覇気とか闘気とか邪気とか魔力とかを感じ取って、
それをたどっていくとか…無理があるかorz

1055ただ一匹の名無しだ:2007/02/13(火) 23:42:10 ID:i2TWHMOo
>>1054
まあ、全部じゃないから、ひょっとしたら作者様が、最後まで書いてるかもしれませんね。

>>1048
問われた3箇所については問題無しと思われます。

それにしても文章レベル高いなぁ。すげぇ。

1056修正案:2007/02/13(火) 23:42:26 ID:lq3hT5Jo
ならばアリアハンへと向かっている筈である。
(急いで合流しないと!)
それにトロデ王もアリアハンにいる可能性はある。
ともかく一刻も早く向かわなければならなかった。
アリアハン城下町の方角を望む。
微かに視認できる距離ではあるが、その間には広い内海が道を閉ざしている。
通常の体力ならば泳ぎきる自信はあったが今の彼ではかなり危険な泳行となる。
下手をすれば自殺行為となりかねない。
地図を見ればここは道なき孤島。四方は内海に囲まれている。
(船……などあるはずもないか。だけどこのままでは身動きは取れない。
 筏を作るか……いや、ククールはここにいた。彼はどうやってここを移動したんだ?)
彼もまた泳いで渡ったのか、船か空を飛ぶアイテムでも支給されたのかそれとも……
(どこかに通路があるか、だ)
考えてみれば殺し合いをさせようというのにともすれば安全圏ともなり得る孤立するような場所を
作るとも思えない。禁止エリアにでもなればそれこそ殺し合いとは無縁な場所だ。
探してみる価値はある。そしてもしあるとするならば……エイトは塔を見た。
(人口的な通路が存在するならばそれは人口的に作られた場所の中が最も可能性が高い)
エイトは入り口を探して塔の外周を回る。

1057ただ一匹の名無しだ:2007/02/13(火) 23:43:03 ID:lq3hT5Jo
このような感じではいかがでしょう。

1058ただ一匹の名無しだ:2007/02/13(火) 23:46:47 ID:i2TWHMOo
「死体発見」>「ククールがここにいた」>「どうやって移動したんだ?」と順番を変えれば問題ないかと。

1059ただ一匹の名無しだ:2007/02/13(火) 23:49:09 ID:lq3hT5Jo
しまった……orz
はい、そう修正します。

1060ただ一匹の名無しだ:2007/02/13(火) 23:49:20 ID:i2TWHMOo
・・・そろそろダウン。眠気が襲ってクルー。

近日のSS投下を心待ちにして、今日は寝ます。

GJ!!!!

1061ただ一匹の名無しだ:2007/02/13(火) 23:50:06 ID:FsgEIsWM
エイト「そうか!ミラクルムーンで海を飛び越えたんだ!!…でもアイツ格闘スキル殆どないし…」
クックル「あるあ…ねーよwwwwwwwwww」

1062ただ一匹の名無しだ:2007/02/18(日) 02:05:59 ID:IEBB356w
age

1063影が光に追いついた 1/22:2007/03/25(日) 03:48:33 ID:EN1v37rk
 路地裏に隠れた魔族と娘はまだ姿を見せない。
まさかこのまま逃がしてもらえると思っているわけではなかろうが、あまり策を練る時間を与えれば後々面倒なことにもなりかねない。

 ならば、燻り出してくれようか。

 掌に意識を集中させ、口の中で力ある言葉を唱えれば、小さな炎の渦が巻き起こる。
だがそれが巨大な火球を成す前、ごうと風を切る音にマルチェロは横へ跳んだ。
家並みの一部を打ち崩しながら叩きつけられた宵色の尾は石畳を深々と抉り、
途中で集中を欠いた炎は空しく四散する。

「なるほど、そちらが本性か」

 現れた宵色の鱗に覆われた巨大な竜の姿に、マルチェロは一人ごちる。
気の弱い者なら一目で威圧されてしまうであろう、圧倒的な存在感を放つ巨竜。
しかし、よくよく見ればその巨大な身体を覆う鱗はあちこちがひび割れ、あるいは傷付き、
先程の巨人との戦いの激しさ、消耗の大きさと、竜と言えども無敵でも不死でもないのだということを如実に物語っていた。
 傷の治療が完全でないこと、小回りの利く人型ではなく頑健な竜の姿を選んだところからして、魔力もそう残ってはいまい。

 ちらりと竜の背後を窺う。
予想通り、娘と白馬の姿は無い。

(これで目的の半分は達成されたわけだ)
 竜が娘たちを逃がすことも、彼らの行き先も予想のうち。
両者を引き離すことには成功した。あとは各個撃破を狙うのみ。

 内心の笑みを隠して、マルチェロは刃を振るった。

1064影が光に追いついた 2/22:2007/03/25(日) 03:49:33 ID:EN1v37rk
「今の音は――?」

 小さな丸い目を不安に曇らせて、トルネコは空を見上げた。
ピサロの元へ行くべく宿を飛び出したものの、
すぐ外でファルシオンの治療に当たっていたはずのアレンの姿は見えず、加えて今の轟音。
 何者かとアレンの間に戦端が開かれたことは、どうやら間違いない。

「まったく、一難さってまた一難どころか……」
 リアの救出に赴いた少女たちと、トロデ、キーファは放送時に生きていたことのほか
全く行方が知れず、アトラスを負ったアレフはピサロの口振りからするに浅くない負傷の様子。
ピサロの乱心だけでも手一杯なのに、新たな襲撃者まで現れるとは――

「考え込んだところで始まりませんな」
 どうにも悲観的になりがちな思考を振り払い、轟音の源へ向かって大きな身体をゆすりゆすり走り出す。
ピサロの元へ向かうことを伝えるにしろ、加勢するにしろどのみち行き先は変わらない。
一刻も早く襲撃者を説得するなり、撃退するなりしてピサロの元へ向かわなければ、
本当に彼は“戻れなくなってしまう”。

『お願いです、どうかピサロ様の、いいえ――』
 彼を一途に想って涙を流した、やさしいエルフの娘はもういない。
彼女自身に殺されるに値する罪など何一つない、理不尽な死。
ピサロの憤りも、何としてでも復讐を、と望む気持ちも分からないでもない。

 だが、トルネコは覚えている。

 これ以上彼の手を血に染まらせないでくれ、と泣き崩れた震える薄い肩を。
思わず、といった風に手を伸べた勇者の少年の掌で音もなく砕けた紅玉の涙の哀しいほどの美しさを。

1065影が光に追いついた 2/22:2007/03/25(日) 03:50:03 ID:EN1v37rk
 死者は黙して語らず、その胸のうちを知る術はない。
「彼女はそんなことは望んでいない」と死者を代弁するのは、ピサロの言う通りナンセンスなのかもしれない。

 だが、少なくとも彼女はそんなことは望んでいな“かった”ことをトルネコは知っている。

 あの日の彼女の言葉を聞いた者は、今やトルネコ一人しか残っていない。
だから、ピサロを止めるのは自分の役目なのだとトルネコは己に課していた。

 勝算は、ある。
先程のインカムを通じた交渉は失敗に終わったが、説得材料は他にもある。
今までにまとめた首輪に関しての考察、解呪に使えそうな道具が幾つか手元にあること、
そして生き残った大半の参加者とは既に接触済みであり、皆信用出来る協力者であること――
盗聴の可能性を鑑みて話すことが出来なかった情報と、己の弁舌と商才の全てをもって
トルネコは銀の魔王の生命と心を買い戻すつもりだった。

 商談の決裂は、すなわち自分とピサロの命運が尽きる時だ。
これ以上に貴重な商品を扱う機会など、おそらく二度とはあるまい。
あまりの重圧に、知らず口から笑みとも溜め息ともつかぬ吐息が漏れた。と、

「――きゃっ!」
「おおっと」

 思考に集中するあまり、周囲に向ける注意力が散漫になっていたのだろうか、
角から飛び出してきた小柄な影を認識したときには既に距離がつまりすぎていて、
慌てて減速をかけるも間に合わず、重量に勝るトルネコが相手を吹き飛ばす形となった。

1066影が光に追いついた 4/22:2007/03/25(日) 03:50:33 ID:EN1v37rk
 直前の減速か、はたまた腹の贅肉が幸いしたのか、
衝撃によろけた娘は同行者に背を支えられてなんとか転倒を免れた。
娘に大した怪我のないことを確かめて、彼女の同行者であるところの白馬は横目でトルネコを睨み、
憤慨したように鼻を鳴らす。
 白い馬など数多くいれど、これほど見事な白馬は滅多にいないだろう。
ましてや住人のいないつくりものの世界の中では、尚更。
 もちろん、知った顔である。

「ファルシオン!?
 なんだってこんなところに……アレンさんは?」
「ということは、あなたがトルネコさんですのね?」

 問い返すや否や、娘はドレスの裾を摘んで優雅に一礼してみせた。
今は汚れてはいるが綺麗に磨かれた桜色の爪、手入れの行き届いた金の髪、
それを押さえる宝冠やちょっとした仕種の優美さからは、いかにも高貴な、
それでいて少女のような可憐さが窺えた。

「私、ローラと申します。先程男の方に襲われたところを、竜王さんに助けていただいて」

 一瞬聞き慣れぬ名に眉根を寄せて、それがアレンの元の呼び名であることを思い出す。
娘の名乗った名は確かに名簿とも合致している。
加えて、気難しいファルシオンが大人しく手綱を引かれていることといい、ローラを疑う理由はないように思えた。
よほど急いで走って来たのか彼女の声は弾んでいて、やや明瞭さを欠いていたものの、
トルネコはなんとか事態の全景を把握することが出来た。

 王都に着き、アレンと再会してすぐ青い服の男に襲われたこと。
ローラを逃がすため、アレンがその襲撃者の足止めを買って出たこと。

1067影が光に追いついた 5/22:2007/03/25(日) 03:51:13 ID:EN1v37rk
 襲撃者の風体を聞き、トルネコは再び思案をめぐらせる。
まだ出会ったことのない参加者の中で男は二名。
マルチェロという名の男の方は確か青い服を着ていたが、服装などいくらでも変えられるものなのだから
それだけでは決め手にはならないが。

「ですが、ローラさんお一人でよくぞ此処まで無事に辿りつけたものですな」
「途中までエイトさんという方と一緒だったんです……橋が崩れた時にはぐれてしまって」

 では、やはり襲撃者はマルチェロという男の方で間違いないのだろう。
これで情報のない参加者はフォズという少女ただ一人。
名簿で顔を見た限りでは、到底殺し合いになど乗りようがない、か弱い少女と見えた。
万一彼女が殺し合いに乗っていたとしても相手は子供。無力化するのはそう難しいことではあるまい。

 現在、殺し合いに乗っている人間は多くて三人。
フォズという少女が殺し合いに乗っていなければ、ピサロを翻意させることが出来れば、
あと一人止めるだけで無意味な殺戮は終わるのだ。
喜ばしいことではあるのだろうが、自分の責任がますます重くなってしまったように思えてトルネコは小さく息を吐いた。

「……では、エイトさんはこちらにはいらしてないのですね」
 やはり向こう岸に流れ着いたのだろうか、と肩を落としたローラにトルネコは眉根を寄せた。
ピサロの現在地はナジミの塔。彼と交戦したらしいアレフも近くにいるとみていいだろう。
もし、そのエイトという青年が今のピサロと出会ってしまったら、まず間違いなく戦闘になる。
そうなればもう説得どころではない。
もっとも、遠く離れたアリアハンから出来ることなど何もない。幸運を祈るほかなかった。

1068影が光に追いついた 6/22:2007/03/25(日) 03:51:51 ID:EN1v37rk
「その方が上手くアレフさんと合流してくれればいいんですが――」
「アレフ様をご存知なのですか!?」

 弾かれたように顔を上げたローラと目が合って、トルネコははじめて己の失態を悟った。
慌てて口を塞ぐも、一度言葉となって口から零れたものは元には戻らない。
言い逃れなど許さない、と言葉よりなお雄弁に語る真っ直ぐな視線に、
トルネコは観念したとばかりに両手を上げ、アレフが手負いの魔物を追って行ったこと、
首尾よく魔物を倒したはいいが、負傷して動けずにいるらしいことをかい摘んで説明する。
ピサロの件を省いたのは、いずれ説明しなければならないにしても、
今は詳しい事情を話す余裕がなく、要らぬ誤解を生まないための意図的なものだった。
どうして離れた場所にいるアレフの負傷のことを知っているのか、と追求されれば終わりの苦しい説明だったが、
やはりローラには愛する人の負傷の方が大事だったらしい。
見る間に顔が強張り、身体の前で揃えた両手が祈るように組み合わされる。

「アレフさんはお強い方ですし、癒しの呪文の心得もおありなんですから。
 しばらく休んだら戻ってきますよ」
「そう、ですね」
 手の震えを隠すようにきつく握り締め、ローラはなんとか微笑と呼べないこともない表情を浮かべてみせた。

「アレフ様は私の勇者様ですもの。きっとご無事です。きっと――」
 自分に言い聞かせるように呟くローラの言葉を遮って轟音が響く。
反射的にそちらを振り向けば、家並みの隙間を縫って覗く空が一瞬赤に染まる。

「……どうやら、長く話しすぎたようですな。私はアレンさんのところへ向かいます。
 ローラさんは――宿に隠れていて下さい。
 じきに他の仲間たちも戻ってくるでしょうし、ファルシオンがいれば怪しまれはしないはずです」

 ローラは一瞬何か言いたげに口を開いたが、すぐに唇を引き結び神妙に頷いた。
一つ頷いてローラに背を向けかけて、ふと思いついて言葉を付け足す。

1069影が光に追いついた 7/22:2007/03/25(日) 03:52:28 ID:EN1v37rk
「ああ、あともう一つ。宿に着いたら一度、宿帳に目を通しておいて下さい」
 盗聴の可能性について教えようにも、紙は先程使い切ってしまった。
地面に書こうにも石畳を削って文字を書くのは容易ではないし、なにより時間が掛かりすぎる。
宿帳にはその辺りの考察も記してある。今説明するよりは分かりやすいはずだ。
 ローラは不思議そうに目を瞬かせたが、素直にこくりと頷いた。
手綱を握りなおした彼女に、どうせ一緒に行くのならファルシオンに乗せてもらえばどうか、と提案すると、

「ファルシオンさんも怪我をしているんですもの。無理をさせるなんてそんなひどい」
 微笑しながら首を振るローラに、なるほど優しい女性だとトルネコは口元を緩ませた。

「ではローラさん、お気をつけて」
「トルネコさんもどうかご無事で。竜王さんも」

 背後で軽い足音と蹄の音が遠ざかっていくのを感じながら、トルネコも再び足を速めた。
振動と時折空を染め上げる炎を頼りに路地を駆け抜け――感じた違和感に足を止める。

(移動、している?)
 じりじりと、戦場が移動している。
それ自体は別に珍しいことではない。片方が何かを守ってでもいない限り、戦いながら場所を変えていくというのはよくある話だ。
 だが、何かが引っ掛かる。
頭の中で街並みを図面におこし、最初の戦場と今のとを線で繋いで、それに気付いたトルネコの顔が一気に蒼褪める。
故意にか、偶然にかは知らないが、このまま戦場が移動を続ければ、その先にあるのは――

「……ローラさん!」
 迷わずトルネコは来た道を駆け戻った。

1070影が光に追いついた 8/22:2007/03/25(日) 03:53:03 ID:EN1v37rk
 鼻先を掠めた刃がちりりと小さな痛みを走らせる。
逃げる身体を追った顎は、だが空に残った青い影を噛み裂くだけに終わった。

 不愉快だ。

 再び同じ距離を置いて男と睨み合い、小さくアレンは鼻を鳴らした。
軽い斬撃程度なら簡単に弾いてしまう竜の鱗にも脆い部分は存在する。
 顔面と下腹部。
それを知っているのか、男は執拗に二点を狙って斬撃を繰り出すが、
半ばで折れた刃はそのほとんどが弾かれ、または浅い傷を残すのみで、有効打を与え切れずにいる。

 ならばアレンが有利なのか、と問われるとそうでもない。
竜の身体は頑健さこそ人より勝るが、その巨体故に動きは鈍重になりがちである。
牙も、爪も、尾も。繰り出す打撃は僅かに男の身体を掠めただけで、吐いた炎も衣の裾を舐めるのみ。
 結果として二人の戦いは地味な消耗戦の様相を呈していた。

 全く、不愉快だ。
遅々として進まない戦いも、行方の知れぬ仲間たちも。

 アリス、マリア、トロデ、キーファ、そしてアレフ。
今朝方の放送で彼らの生存と、それぞれが追った敵の死は確認されている。なのに、
(何故、戻らぬ)
 新たな問題が起きたか、それとも負傷して動けなくでもなったか。
いずれにせよ、今下手にこの男を取り逃がせば、彼らの生命を危険に晒すことにもなりかねない。
 結局、此処で食い止めるほかないのだ。
全く、貧乏くじを引かされたものだ、と凶悪な牙を生やした顎が苦笑の形に歪む。

1071影が光に追いついた 9/22:2007/03/25(日) 03:53:34 ID:EN1v37rk
 幾度目かの変わり映えのしない攻防ののち、アレンの振るった爪が僅かに男の衣を捉えた。
直撃こそはしなかったものの、男の身体がぐらりと傾ぐ。

 ――好機!

 その機を逃さず、アレンの口から炎の奔流が迸る。
赤い流れは瞬く間に男の姿を呑みこんで、アレンの視界までをも埋め尽くす。
途端、頬を微かに撫ぜた風が呼び起こした既視感に、アレンは咄嗟に顔を伏せた。
ほぼ同時、炎の幕を引き裂いて飛来した銀閃が額を薙ぐ。

 眼前には青い男の姿。
避けられぬと悟って自ら剣圧で炎を裂き、その間隙に飛び込んだのだろう。
衣服のところどころが煤に塗れ、これは避け損ねたのか、左腕には炎が宿ったままだった。
 本来なら眼球を刺し貫くはずだった刃は間一髪のところで狙いを逸れ、
がりがりと耳障りな音を立てて額の鱗を削るだけに終わる。
 その不快な感触を感じながら、だがアレンは微苦笑を浮かべた。

(どうやらお前に助けられたようだな、アレフよ)

 男の奇襲に気付けたのは、それが一度喰らったことのある手だったからだ。
火傷も厭わず、炎の壁を切り裂いて突き立てられたロトの剣。
それは竜王と呼ばれていた頃のアレンに一度目の死をもたらした、アレフが使った手だった。
 そして、同じ手を使ってくるのであれば次は予測出来ている。

 必殺の刃が防がれたと見て取ると、ならばとばかりに男は炎に巻かれた左腕を伸ばす。
とうに炭化していてもおかしくないはずの腕は、だが無事で、
男が腕を差し上げるとしゅるしゅると巻き戻って火球を成した。

1072影が光に追いついた 10/22:2007/03/25(日) 03:54:06 ID:EN1v37rk
(やはり擬態か)

 呪文は違えど、やはり同じ手。応じてアレンは口を開く。
喉の奥から迸る灼熱と、叩きつけられた火球とがせめぎあい、弾けた。
ごう、と巻き起こる炎と熱気と土煙とが瞬く間に視界を覆い隠していく。
男の気配は――遠い。

(何処へ消えた?)
 鱗の奥の皮膚を焼く熱気に顔を顰め、薄く目を開けて視線を走らせる。
土煙の向こう、路地に飛び込む青い燕尾が目に入った。

 退いたか――いや。
瞬時に脳裏に街路図を呼び出して、アレンは思わず舌打ちを漏らした。
その路地の先は、トルネコのいる宿のある通りへと繋がっている。

 考えてみれば、あのククールとかいう若者を殺した下手人はアレンたちが到着するより前からアリアハンにいたはずなのだ。
こちらの根城が知られていても何ら不思議はない。
予想して然るべきだったのだ、と苦い後悔が頭を過ぎる。

 トルネコはまだ宿にいるだろうか。ローラは彼の元へ辿り着けただろうか。
男の後を追って足を踏み出しかけ、アレンは再び盛大な舌打ちを漏らした。
このまま竜の姿で狭い路地を通っては、民家を崩す恐れがある。
ハーゴンの作ったまがい物の世界がどうなろうといっこうに構わないが、
もし民家の中で休息を取っていたアリスたちを知らず踏み潰しでもしたら洒落にならない。

 竜型を解き、変化の際に地面に突き立てておいたさざなみの剣を引き抜いて、
改めてアレンは男の後を追った。

1073影が光に追いついた 11/22:2007/03/25(日) 03:54:37 ID:EN1v37rk
「此処……かしら?」
 どうにか宿屋らしい建物の前まで辿り着き、独り言のつもりで漏らした言葉に
ひひん、と威勢のいい返事が返ってきて、ローラは小さく笑った。

 土地勘のないアリアハンで彼女が迷わず此処まで来れたのには、ローラが迷って立ち止まるたび、
鼻面で背中を押して道案内をしてくれたファルシオンによるところが大きい。
 これではどちらが手綱を握っているのか分かったものではない。
ふと思い浮かんだ言葉に苦笑して、ローラは隣に立つファルシオンへと笑みを向けた。

「ファルシオンさんのおかげで助かりましたわ」
 礼を述べれば、得意げに歯を剥いて笑顔を見せるファルシオンに、ローラは改めて目を見張る思いだった。
彼女の生まれ育ったラダトームの王宮の厩舎にも、場所柄名馬は数多くいたはずなのだが、
これほどまでに人の意を解する馬も珍しい。

(まさか、本当は人間だったりなんてしないでしょうけど)
 くすりと笑い、戸に手をかけたところではたと気付いて立ち止まる。
あのハーゴンという男に追い出されたのか、レーべと同じく此処アリアハンにも人影はない。
が、だからといって人様の家に勝手に動物を連れ込むのは気が引ける。
その上、並より大きな体格のファルシオンには、室内はあまりに狭く思えた。

「ファルシオンさんはお外で待っていて下さいね?」
 了解した、とばかりにぶるると鼻を鳴らしたファルシオンに、
手綱を何処かに結んでおいた方がいいだろうかと考えて、首を振る。
これだけ賢い馬が勝手に何処かに行ってしまうとは考えにくいし、何かあったときのためには自由が利いた方がいい。

1074影が光に追いついた 12/22:2007/03/25(日) 03:55:08 ID:EN1v37rk
 念押しするようにファルシオンに微笑みかけて、ローラはドアノブを握る手に力を込めた。
ぎい、と微かに軋んだ音をたててドアが開く。
室内に足を踏み入れながら後ろ手に扉を閉め、ぐるりと視線を巡らせると目的のものはすぐに見つかった。
テーブルの上に置き去りにされた、いかにも使い込まれた風に手摺れした焦げ茶の革表紙。
あれがトルネコの言っていた宿帳だろうと見当を付け、そちらに向かって歩み寄り。
 そのテーブルの下、窓から差し込む陽光を受け、きらりと何かが輝いたのに足を止める。

「剣……の、柄?」
 精緻な、だが何処かおどろおどろしい装飾の掘り込まれた剣の柄。
だがその刃は半ばからぽきりと折れ、もはや使い物にはなりそうにもない。
誰かの――トルネコは此処が彼と仲間たちの拠点なのだと言っていたから、
おそらく彼か、彼の仲間の忘れ物なのだろうが。
 必要なものなのかローラには判断がつかないが、一応回収だけはしておいた方がいいだろう。
身を屈めて、テーブルの下へと手を伸ばし――

 表で激しい嘶きの声。
ローラはぴくりと身を竦ませて、そのまま静止した。

「……ファルシオンさん?」
 顔だけを戸口の方へ向けて呟くが、返事はただ嘶きばかり。
ローラにはそれが「来い」なのか、逆に「来るな、逃げろ」なのかも分からない。
せめて外の様子が分かるよう、戸口は開けたままにしておくべきだったのかもしれない。
今更どうにもならない後悔に、ローラは戸口を見つめて立ち尽くした。

 瞬間、今度は背後でがしゃんと硝子の砕ける音。
次いでどさりと何かが飛び込んできた気配に、ローラは弾かれたように振り返った。

1075影が光に追いついた 13/22:2007/03/25(日) 03:55:45 ID:EN1v37rk
 まず最初に視界に入ったのは青だった。
見覚えのあるその色は、だがローラの愛する人のものではない。
青い男――先程ローラたちを襲った男の、緑柱石のような眼がこちらを見据えて、
ローラはぞわりと悪寒が這い上がるのを感じた。
 まるで、深い森のように得体が知れない。

 逃げなくては。
脳裏に閃いた言葉に従い、テーブルの上の宿帳をひったくるようにしてローラは男に背を向けた。
幸い、まだ荷物を降ろしていない。
戸口に駆け寄りドアノブへと手を伸ばして――あと一歩、踏み出せばとどくところでローラの足は崩れ落ちた。



 いたい。
 あつい。
 ――どうして?



 支えを失った身体が床に投げ出され、その拍子に肩に引っ掛けたザックがどさりと落ちる。
腰に挟んでおいた雨雲の杖がからんと音を立てて床を転がっていった。
 身体を打ちつけた痛みと、思うように動かない身体に顔を顰めつつ、
ずるずると身体を引き摺るようにして壁際に這い寄る。
身体の向きを変えようと、床に着いた手がぬるりと滑る。
 何故だろう。不思議に思って目の前にかざした手は真っ赤に塗装されていた。
視線を上げた先、もうローラのことなど忘れてしまったかのようにこちらに背を向け、
身を屈めた男の右腕の刃も、同じように真っ赤に塗りたくられている。
それでようやく自分が刺されたことに気が付いた。

1076影が光に追いついた 14/22:2007/03/25(日) 03:56:25 ID:EN1v37rk
 そうっと背中に手を這わせる。
べっとりと付着する赤は、先程よりも量を増しているように思えた。
それがどの程度の傷なのかは、膝でも擦り剥こうものなら大騒ぎだったお姫様育ちのローラには分からない。
ただ、暗い洞窟の奥からアレフに助け出されて城まで戻る旅の途中、
魔物との戦いで負傷したアレフの傷を思い返すに、決して浅い傷ではないことだけは理解出来た。
 と、不意に視界が翳ったような気がして目を擦る。
気のせいか、表のファルシオンの嘶きも、蹄を踏み鳴らす音も、少しずつ遠ざかっていくように感じられた。

 ただぼんやりと開いた目に映る景色の中、男の手が剣の柄を拾い上げた。
右手に握った血塗れの刃と、柄に残った途中で折れた刃の断面がぴたりと合致し、滴る血液が継ぎ目を伝った瞬間、
まるで魔法のように刃に走った亀裂が失せて、折れた刃と柄は一本の剣へと姿を変えた。
 禍々しいほどに冴えた刃には刃こぼれ一つない。
改めて右手に握りなおしたそれを男が振るうと、
さして力を込めた風でもないのにテーブルがまるでケーキみたいにぱくりと裂けた。
その結果に満足したのか、男はもう一度軽く剣を振って血糊を振り払うと肩越しにこちらを振り向いた。

 暗い緑の眼が、再びローラの姿を捉える。
ぎし、ぎし、と人の形をした死が近付いてくるのを、ローラはただどうすることも出来ずに見つめていた。
ローラの目の前で男の足が止まり、剣が振り下ろされて、

「――ローラさんっ!!!」

 聞き覚えのある声とともに、蝶番を壊しかねない勢いでドアが開き、
続いてぶん、と唸りを上げて鈍色の風が宙を裂いた。

1077影が光に追いついた 15/22:2007/03/25(日) 03:56:59 ID:EN1v37rk
 男は即座に刃の振り下ろす先をそちらに変え、
一瞬男の握る刃と乱入者の振るった鈍色の鉄球とがぶつかり合って火花を散らす。
が、途中で無理に方向を捻じ曲げた剣では、重さと勢いに勝る鉄球の一撃を支えきることは敵わず、
競り負けた男の身体は横合いに吹っ飛ばされてカウンターに激突した。
 それには目もくれず、乱入者はどたどたと地面を揺らしながらこちらに駆け寄り、
壊れ物を扱うようにそっとローラの上体を抱き起こした。
そうして霞む視界に乱入者の顔が大写しになって、ローラはようやくそれが誰なのか思い至る。

「……ルネ、コさ……ん」
「喋……で!動……すから……」

 ほんの鼻先で話すトルネコの声すらも、ひどくざらついて聞き取りづらい。
薄れる意識を繋ぎとめようと指先に力を入れて、胸に抱えた宿帳の表紙にべったりと赤い手形がついてしまったことに気付き、謝らなければと顔を上げ。
トルネコの肩の向こうでぽうと明かりが灯るのが目に入った。
――いや、それは明かりではなく炎。
炎を支えるのも松明ではなく、青い袖に包まれた腕。

 トルネコは気付いていないのか、男に背中を向けたまま動かない。
注意を喚起しようとトルネコの顔を見上げたところで、ローラはそれが間違いであることに気付いた。
 トルネコは気付かないから動かないのではなく、気付いているからこそ動けないのだ。
身動きのとれぬローラを炎から庇い、自らを盾にしようと。

(駄目です、トルネコさん。私の後ろに)
 あの炎が呪文であれば、光のドレスで跳ね返すことが出来る。
確実な手段ではないが、何の守りもないトルネコが盾になるよりはマシなはずだ。
だが、その意志を伝えようにも、既に力を失った喉はまともな意味を持つ言葉をなさず、ひゅうひゅうと空気を漏らすばかり。

1078影が光に追いついた 16/22:2007/03/25(日) 03:57:47 ID:EN1v37rk
 では、雨雲の杖は。
眼球だけを動かして辺りを探るが、杖は落としたはずみで部屋の隅まで転がっていて、
試すまでもなく手が届かない。
 トルネコの背中越し、灯る赤が一回り大きくなった。

 何か。
 なにか。

 ただやみくもに床の上を彷徨っていた指先が何かに触れた。
それは簡素な作りの麻袋、先程男に切りつけられた際に落としたローラ自身のザックだった。
その拍子にだろうか、しっかりと結んであったはずの口紐は解けかけている。
迷わずローラはザックの口に手を入れて、最初に触れたものに指を這わせた。
 ひやりとした宝玉と金属の感触。
握りには使い込まれてぼろぼろになったなめし革が巻きつけられている――ロトの剣。
邪悪を祓う勇者の剣。だが、正しき持ち主以外には振るうことさえ容易ではない。
そして此処に正統な使い手がいない以上、今の状況を好転させる役には立ちそうもない。

(大地の守り手たる精霊ルビスよ、勇者ロトよ。どうかご加護を)

 掠れた視界の中で炎が踊り、ローラを庇うトルネコがぴくりと身を硬くする。
じき襲い来るであろう灼熱の責め苦を覚悟して、ローラは無意識に剣の柄を強く握り締めた。

(――アレフ様)

 途端、剣を握り締めたローラの右手が跳ね上がる。
ローラの意志ではない。普段の腕力でも両手で抱え上げるのが精一杯のこの剣を、
怪我をしたローラがしかも片手で扱えるはずもない。
 ならば、これは剣の意志か。

1079影が光に追いついた 17/22:2007/03/25(日) 03:58:39 ID:EN1v37rk
 異変に感付いたか、男の口が呪文の最後の一節を紡ぎ、火球が放たれる。
呼応するように振りかざした剣に象嵌された宝玉が一瞬、かつて王者の剣を呼ばれていた頃の輝きを取り戻し、かっと強烈な光を発した。
剣を中心として真空の刃の嵐が吹き荒れる。
――バギクロス。

 驚きに目を見張ったトルネコの頭上のベレー帽が吹き飛ばされて、見る間にぼろ雑巾へと姿を変える。
風の刃は放たれた巨大な火球を切り刻み、無数の小さな火球へと姿を変えさせるだけには留まらず、
術者である男までをも弾き飛ばした。
切り刻まれた小さな火球は無数の小規模な爆発を起こし、壁を焦がす。
 ようやく世界が元の静けさを取り戻したときには、宿は一部壁が突き崩されて半ば廃墟のような酷い有様となっていた。

 徐々に風が弱まると共に宝玉から光が失せて、掌から零れ落ちた剣が床にぶつかり、からんと乾いた音をたてた。
そして、剣の意志による助力を失ったローラの腕もまた、くたりとその場に崩れ落ちる。

1080影が光に追いついた 18/22:2007/03/25(日) 03:59:39 ID:EN1v37rk
 トルネコさんが無事で良かった。

 力の抜けた身体を揺さぶる分厚い手の感触に、ローラはうっすらと笑みを浮かべた。
少し前までは動かすことくらいは出来た指先も、今やほとんど感覚がない。
もしかしたらロトの剣が起こした奇跡が、ローラの生命の最後の一片さえも奪い去ってしまったのかもしれない。
だが、尽きかけた自分の生命と引き換えに誰かを救えたのなら、それも悪くないとローラは思う。
この自分の生命とて、今まで沢山の人に救われてきたのだから。

(ゴンさん。
 あなたは生命を賭して私を助けてくれたのに、長生き出来なくてごめんなさい。
 もしあの世というものがあるのなら、どうか追い返したりせず迎えてやって下さいね。

 竜王さん。
 “ありがとう”と“ごめんなさい”を伝え忘れたままでした。
 私をやさしいドラゴンさんと出会わせてくれてありがとう。
 あのひとを失わせてしまってごめんなさい。
 もう少しあなたとは話してみたかったのだけれど、それはもう叶いそうにもありません。

 エイトさん。
 とっても真面目な人だったから、私のことで悩むんじゃないか心配です。
 私が死んだのは自分がはぐれてしまったせいだなんて、どうか自分を責めないで。
 あなたは十分過ぎるほど私を助けてくれました。

 それから。――それから)

 最期の力を振り絞り、剣の柄に震える掌を重ねた。

(アレフさま)

1081影が光に追いついた 19/22:2007/03/25(日) 04:00:15 ID:EN1v37rk
(もうこの手で剣を届けることは出来ないけれど、
 私の魂はロトの剣と共に、ずっとあなたの傍におりますから。
 悲しまないで。憎まないで。ただ前だけを見つめていて。
 だって、アレフ様は私の勇者様なのだから。

 ああ、でも本当は、もう一度だけ――)



「……会い、た、かっ」
 唇が音にならない最期の言葉を刻んで、
細い首は小さな頭を支える僅かな負荷にも耐えかねたように、ことんと落ちた。




 どん、と小さな爆発音。それも単発ではなく、複数。

 ローラが真っ直ぐ宿屋に着いたとは限らない。
ああ見えてトルネコはなかなかの手練だ。そう簡単に不覚を取るとは思えない。

 どちらも無用な心配のはずだ。
だが、どうにも神経を苛む嫌な予感を振り払いきれず、アレンはただ通りを駆ける。

(間に合え――どうか、杞憂であってくれ)
 正面の入り口へ回る時間も惜しく、アレンは爆発で出来たらしい建物の亀裂からそのまま中へ飛び込んだ。

「トルネコ、ローラ!無事か――」

1082影が光に追いついた 20/22:2007/03/25(日) 04:00:51 ID:EN1v37rk
 目に飛び込んできたのは、まず青い男の背中。
アレンと対峙したときよりさらにその衣服は千切れ、薄汚れて、
その右手に握る剣だけが不気味なほどに冴え冴えとした輝きを放っていた。

 次いで目に入ったのは男と対峙するトルネコ。
鉄球を手に、やや足を開いて油断無く身構えているその身体の影に、それはあった。

 血溜まりに浮かぶのはくたりと弛緩した四肢。
薄く開いたままの珊瑚の唇は、だが二度と言葉を紡ぐことはなく、
かつて太陽のようだと心中で感嘆した眩い金の髪でさえ、心なしか色褪せて見える。

 “光の姫”からただの物体へと変わり果てたローラの姿が。

「……さま。貴様ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 血を吐くようなアレンの怒号にも眉一つ動かさず、
男は――マルチェロは、静かに手に持つ剣の切っ先を向けた。



 その顔には、もはや狂気すら残されてはいなかった。

1083影が光に追いついた 21/22:2007/03/25(日) 04:02:23 ID:EN1v37rk
【E-4/アリアハン城下町宿屋/午前】

【アレン(竜王)@DQ1】
[状態]:HP1/5 MP1/8
[装備]:さざなみの剣
[道具]:なし
[思考]:マルチェロを倒す この儀式を阻止する アレンの遺志を継ぐ

【トルネコ@DQ4】
[状態]:HP3/4 背中に軽度の火傷
[装備]:無線インカム 破壊の鉄球
[道具]:支給品一式(食料と水は半分) ???
[思考]:マルチェロをどうにかする ピサロを止める為にナジミの塔へと向かう 首輪が爆発する瞬間まで諦めない
    宿帳に記した考察を仲間に伝える 仲間の安否を気遣いいずれ合流 対主催への強い決意

【マルチェロ@DQ8】
[状態]:左目欠損(傷は治療) 全身に裂傷、軽度の火傷 HP2/3 MP1/4
[装備]:皆殺しの剣(呪い)
[道具]:84mm無反動砲カール・グスタフ(グスタフの弾 発煙弾×2 照明弾×1)
[思考]:皆殺し

1084影が光に追いついた 22/22:2007/03/25(日) 04:03:03 ID:EN1v37rk
※宿帳(トルネコの考察がまとめられている)はローラの遺体の腕に握られています。
※トルネコは慌てていたので室内にばら撒いていたアイテムのうち、どれかを回収し忘れているかもしれません。
 (ホットストーン?(異変中) 聖なるナイフ 錬金釜 プラチナソード ラーの鏡 マジックシールド 魔封じの杖 首輪×2)
*雨雲の杖は部屋の隅に、ロトの剣とザックはローラの遺体の傍に、それぞれ落ちています。
*光のドレスはローラの遺体が身につけたままです。

【ローラ@DQ1 死亡】
【残り11名】

1085 ◆inu/rT8YOU:2007/03/25(日) 04:05:37 ID:EN1v37rk
以上、投下完了です。
ロトの剣=王者の剣=バギクロスが色々スレスレだと思います。
その他、誤字脱字矛盾等、お気付きの点あれば指摘お願いします。

1086ただ一匹の名無しだ:2007/03/25(日) 06:18:26 ID:Qz4ocH0Q
読んだところ、問題はないと思われます。…それにしてもエイト。レーベでキーファの無為式移されたんじゃなかろうなw

1087ただ一匹の名無しだ:2007/03/25(日) 11:30:18 ID:pVhENZ.A
誤字は見つからなかったですし、
話も不自然ではなかったのでモーマンダイです

たしかにエイト君キーファの無為式移されてるw

1088ただ一匹の名無しだ:2007/03/25(日) 19:35:21 ID:1W4L7s76
>>1064
×「アトラスを負った」
〇「アトラスを追った」
だよな?

あとローラは金髪じゃなく亜麻色の髪だと思う。
金髪はマリアな。

1089ただ一匹の名無しだ:2007/03/25(日) 20:24:35 ID:ExCNajPw
>>1088
マリアの神は菫色

1090 ◆inu/rT8YOU:2007/03/25(日) 20:29:25 ID:EN1v37rk
>>1088
誤字の指摘、有難うございます。
ローラ姫の髪色については、今までの彼女の登場話を全部読み返して、髪色指定のないことは確認しました。
その上で、アレンの「光そのもの」「太陽」という台詞からも、金髪の方が視覚的に分かりやすいこと、
また彼女の公式イラストの髪の色がオレンジっぽいことから、
「濃い金髪」もしくは「赤みがかった金髪」と判断したのですが、まずいでしょうか?

1091ただ一匹の名無しだ:2007/03/25(日) 20:47:52 ID:/akWZktk
体勢崩れて不意つかれて避けられない状態で炭化してもおかしくない様な威力の炎をくらって
それを折れた剣で切り裂いて飛び込んで服煤けるぐらいですんで
同時に燃えたように呪文で偽装するなんてできるのか?

1092 ◆inu/rT8YOU:2007/03/25(日) 20:58:09 ID:EN1v37rk
>>1091
アレンの吐いた炎は呪文でもなんでもない通常攻撃であり、「コスト0の攻撃があんまり強力ってのまずいよな」
という個人的な認識と、「まともに受けたら炭化する」というのはあくまでもアレンの主観であり、
実際は大して強力じゃなかった、という可能性から、自分は「できる」つもりで書きましたが
……実際はどうなんでしょう。読んで「出来ない」と感じる方が多ければ出来ないのだと思いますが。

1093ただ一匹の名無しだ:2007/03/25(日) 21:12:35 ID:ExCNajPw
アレンもアトラスとの戦いで負傷していたし、そのあたりで手元が狂ったとか、
火力が弱まったとかじゃないのかな?
VSヤマタノオロチ第二ラウンドみたいに。

1094ただ一匹の名無しだ:2007/03/25(日) 21:35:19 ID:/akWZktk
コスト0で強力な攻撃なんてドラクエには多いし
ラスボスで竜の王の炎が強力でないとは思えない
勇者とちがってロトの剣も鎧もないわけだし
ただかなり負傷してるし威力が弱まってるというのはあるかもしれんなあ

1095ただ一匹の名無しだ:2007/03/25(日) 22:40:11 ID:mp6McQGk
 必殺の刃が防がれたと見て取ると、ならばとばかりに男は炎に巻かれた左腕を伸ばす。
とうに炭化していてもおかしくないはずの腕は、だが無事で、
男が腕を差し上げるとしゅるしゅると巻き戻って火球を成した。

(やはり擬態か)

 呪文は違えど、やはり同じ手。応じてアレンは口を開く。



今議論になっているのはココか。
威力について議論すると結論が出そうにないんだよな。シリーズによっても違うだろうし。

ぱっと読んだ感じでは、呪文いつ使ったんだ?アレンの炎は呪文じゃなかったよな?
呪文詠唱の時間は?マルチェロの呪文は術者本人には影響がない呪文だったっけ?みたいな。

シナリオ展開自体は問題ないですね。
ローラの髪色は、小説やイラストやファミコン画面リメイク画面で各々バラバラ、DQBRでは色指定はないから書いたもん勝ちかと。
マリアは過去SSで菫色とありましたね。
マリアも色々違っていて、いたスポだと金色、FC画面表示は紫色だったな〜。

1096 ◆inu/rT8YOU:2007/03/25(日) 22:59:58 ID:EN1v37rk
>>1094
一応、1レス目のマルチェロ側からの描写でアレンに負傷があることは書かれています
もう一文、負傷のせいで炎の勢いが弱まっていることを、アレン側から付け足した方が分かりやすいでしょうか?

>>1095
答える項目が多いので、箇条書きで失礼します。

・呪文いつ〜→炎を切り裂いた際に。詠唱は炎の勢いでアレンには聞こえず
・アレンの炎は〜→呪文じゃない
・詠唱時間は〜→同上。
・本人には影響がない〜→ゲーム中でどのように呪文が発生するかの明確な描写がない以上、なんともいえない

アレン側に寄った視点ですので、その時点でアレンが知りえない情報(炎で詠唱聞こえない等)は書けなかったため、
結果的に説明不足になってしまったかもしれません。申し訳ございません。

これ以上、書いた本人が説明したところであまり意味はないように思われますので、
最終的には読んだ皆様がどのように受け取られるかに委ねようと思います。

1097ただ一匹の名無しだ:2007/03/25(日) 23:04:24 ID:ExCNajPw
俺は違和感無く読めました。
炎の勢い弱体化については、マルチェロ、アレン両方の視点で書いたほうが
読み手としては解り易いかな、と思います。

1098ただ一匹の名無しだ:2007/03/25(日) 23:08:17 ID:1W4L7s76
>>1090
いや、金髪にしたいなら別に問題はないんじゃない?
ただFC公式ガイドでは紫、リメイクでは茶だったからさ。

竜王の炎は岩をも溶かすって設定だったな。
海波斬じゃあるまいし、炎を切り裂くのは無理だと思うが、火傷を負いながらも炎の中を突っ込むってのは可能なのでは?
岩をも溶かす炎も、あるレベル以上の者なら耐えられるって感じで。
炎を一度浴びて絶命する程ヤワではない筈。
バラモスやシドーも同レベルの炎を吐くが、それで炭化するならアリスやアレン達も勝てなかった筈。
都合良く炎を避け続けて勝ったとは思えないし。
それでも耐え、勝った。
まぁ回復呪文が効果を発揮してたせいだろうが。

詠唱時間については、素早さの低い戦士より素早い魔法使いの方が、呪文で先制攻撃をかけられる事から、DQの呪文はあまり詠唱らしい詠唱は必要ないのでは?
と思ったが、今までの話だと詠唱必須っぽいので、それに合わせて詠唱の描写を入れた方がいいだろうなぁ。
展開は問題ないと思う。
ローラの死は悲しかったが。

1099ただ一匹の名無しだ:2007/03/25(日) 23:08:18 ID:UQY9CD4c
作中に一切マルチェロの心理描写がないことで、彼の不気味さが現れてる面もあると思う
狡猾さをマーダー補正という言葉で補強しつつ、アレンの疲労を加味すれば現状でも問題なし、かな。

「炭化〜」前後にでも、アレンが自身の体力を把握しなおす描写が再度拾っておくのは効果的かも。




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