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灰羽連盟SSスレ

1I25127:2003/06/23(月) 01:22
 灰羽連盟関係のSSをアップするのに、一々あぷろだ等を使うの
が面倒だなー、という方は、このスレにコピペしてください。
 なお、設定上1回の書き込みの上限は「30行まで」「4096字まで」
ですので、これを越える場合は、本文を分割するなどして対応してく
ださい。

2I25127:2003/06/23(月) 01:36
分割する場合、ハンドルor本文1行目に『x/y』といった形で「そのレスがそのSS全体
の内のどれくらいか」を示しておくと良いかと思います。

また、ハァハァスレ用のSSの場合、見る人を選ぶと思いますので、ハンドルor本文1
行目に『ハァハァ』と入れておくのがベターかと思われます。『ハァハァ』とか『ハァハァ
スレ用』とか『ハァハァSS』とか。
#ハァハァで、かつ分割する場合、『ハァハァx/y』ですね。
#JBBSは半角を嫌うかも知れないので、全角カタカナの方が良いかも。

3罪の輪捏造工房:2003/07/10(木) 00:19
 とんからきりきり、くーるくる。
 いとよきれるな、ざぐりよまわれ。
壁の向こうの空は夕焼けに染まり、街はすっかり宵闇に沈む真冬の日暮れ時。街の広場に沢山の馬車が、馬を外され静かに眠る。
 とんからきりきり、くーるくる。
 ばんのしまいがおそくなるー。
迷路のような間を彷徨い抜けて、わたしは歌声の主を捜している。透き通るような子供の声。懐かしいよな、悲しいような、そんな歌。
中からぽやっと明るい幌馬車ひとつ。荷台の上に、小さなカンテラと黒い髪の少女がとんと置かれているのを見つけた。すねたように頬杖をついてそっぽを向いて、そこからぷわっと煙立つ。この人が歌っていたのかしら。
「あの……。」
少女は黙ったまま、身動きひとつしない。恐る恐る回り込んでみる。黒髪に隠れた横顔が薄闇に白く浮かぶ。息が止まる。
「レキ…………!」
黒い瞳がくるっと動く。無表情のまま頬杖をやめて、わたしの方にゆっくりと向き直る。
「君、誰?」
「わ……たしは……。」
ラッカ、やっとの思いでそう名乗ると、少女は一転して満面の笑み。
「ラッカちゃん。君はラッカという名前なんだね。わたしは」
影。そう、少女は名乗った。
「持ち主のいない、影。誰かに切り取られてしまったのだけど、持ち主のいない影なんて間抜けじゃなくて? だから商隊(トーガ)に紛れて持ち主を捜してるの。ラッカ、あなた、わたしの持ち主、ご存じなくて?」
少女は立て続けにしゃべって、わたしはちょっと気圧される。
「あの……歌声を聞いて、懐かしくて……それでレキにとっても似てるから……」
レキ、レキ、少女は何度かその名を繰り返し唱えた。
「似てるの、わたしに? 俄然興味あるじゃん。案内して、その人のところへ。」
そう言いながら、ひらりと彼女は地上へ舞い降りた。

4ユメ:2003/07/13(日) 05:45
煙草なんて 気にしないわ
駆け落ちだって だって だって カコイイもん
子供たちが 大好き
だけど人参 大嫌い
あなたは あなたは あなたはレキ
巣立ちの日を思うと ちょっぴり寂しい
そんな時 こう言うの ひざを抱えて
笑って 笑って 笑ってラッカ
罪憑きなんてさよなら ね

5ユメ:2003/07/13(日) 05:45
煙草なんて 気にしないわ
駆け落ちだって だって だって カコイイもん
オールドホームが 大好き
グリの街が 大好き
あなたは あなたは あなたはレキ
巣立ちの日を思うと ちょっぴり寂しい
そんな時 こう言うの ひざを抱えて
笑って 笑って 笑ってラッカ
罪憑きなんてさよなら ね

#3、4行目は最終話最後のラッカの長台詞から引用したので
#一応ネタバレ扱いとしました。

6ユメ:2003/07/13(日) 05:46
SSではありませんがお借りします。
後リンクにちょっと地震が無いから
>>4 >>5

ではまた。

7光輪捏造工房:2003/07/14(月) 01:23
ちょっとお借りします。

81/10:2003/07/14(月) 01:24
 あーあ、つまんない。
 ダイが工場の方に返っちゃったからボクはひま。
 僕だって廃工場に帰りたいのに
 ハナや他のみんなと遊んでもいいんだけどなんかつまんないし。
 うーん、ひまだひまだ。
 ひまだひまだ。
 ひまだひまだひまだひまだひまだひまだ。
 !
 そうだ、街に出かけよう。
 まだ一人でいったことないけど、いつもレキたちにつれてってもらってるから道は知ってるし。道もだいたい覚えてる。
 きっとダイジョブさ。
 ボクはレキや寮母のおばあさんに見つからないようにそっとオールドホームを抜け出した。見つかったらきっととてもとても怒られるんだろうけど、ひまなんだから仕方がない。
 街まではボクの足じゃあ少し遠い。
 でもがんばって歩こうと思った。
 オールドホームでレキたちに囲まれてすごすのも退屈だ。
 それに今日のお昼ご飯はニンジンが出るってレキが言ってたし。
 あ、でもおやつはショートケーキって言ってたなあ。
 ボクはショートケーキは他の何より好きなんだ。
 うーん、ちょっと戻ろうかな。
 うーん、うーん。
 よし。
 ここまで来たんだし、せっかくだから街へ行こう。おやつの時間までに帰ればいいんだし。
 ボクは一生懸命歩いた。

91/10:2003/07/14(月) 01:24
 しばらく歩いてやっと街の中に入った。
 ちょっと疲れたけどね
 街の中にはいろんなものがあって面白い。
 オールドホームじゃ見られない機械。
 オールドホームじゃ見られない品物。
 オールドホームじゃ見られない世界。
 でも一つだけ困ったことがある。
 うーん。
 困った。
 ああ、どうしよう?
 ここはどこだろう? 
 道がわからなくなっちゃった。
 もと来た道を戻ろうとしたけれど、そもそも来た道がどれなのかがわからない。
 やっぱりグリの街はボクには広すぎる。
 周りの人たちはまるでボクがいないように通り過ぎていく。
 ボクは街の中、ひとりぼっち。
 ひとりぼっち。
 ボクは、ボクはかなしくなって、涙を―

103/10:2003/07/14(月) 01:25
「あ、灰羽だ。」
 突然、ボクの頭の後ろの方で声が聞こえた。
 ボクはその声に反応して首を後ろに回した。
「何、あんた。泣いてるの?」
 ハナよりちょっと大きいくらいかな。それぐらいの年の人間のおんなのこだった。
 背はボクより大きかったけど。
 髪の毛はカナくらいの短さで、着ているものはネムくらい地味な洋服だ。
 ボクは黙っていた。
「迷子?」
 おんなのこはボクにきいた
 ボクはしぶしぶうなずいた。
 認めるのはいやだったけどね。
「はいはい、ほごしゃは? これだからガキは困るのよね。」
 ボクとあんまり年が変わらないはずなのにやけに大人ぶった様子でおんなのこは言った。まるでラッカみたいだ。
「いない。ひとりで来た。」
 ボクは言った。
 おんなのこはあきれたようにため息をついた。
「ええっと、あんたどっから来たの? 」
「オールドホーム」
 ボクはすぐさま答えた。
「オールドホームってたしか、あの丘のむこうの? ふーん、ずいぶん遠くから来たのね。」
 おんなのこはボクをゆっくり見回した。
 なんだか恥ずかしい。
 恥ずかしかったのでちょっとだけ羽を動かした。
「いいわ」
 何がいいのかわからない。
「街の外までつれてってあげる。どうせひまだし。」
 おんなのこは胸を張って言った。
「ついてきなさい」
 ボクは言われるままにおんなのこについていった。

114/10:2003/07/14(月) 01:26
「やーい、やーい」
 突然声がした。
 おとこのこの声だった。
 声のした方をふりむくとおんなのこと同じ年くらいの大きな体のおとこのことそのこのそばにちいさな(とは言ってもボクよりちょっと小さいくらいだけど)おとこのこが二人いた。
その三人のおとこのこたちはふしぎなことにボクたち灰羽みたいに小さなてづくりの灰色の羽とはりがねで支えてある光輪(ひかってないけどね)をつけていた。
「『ハネナシー』、『ハネナシ―』」
 おとこのこたちはむじゃきに叫んでいた。
「『ハネナシ』?」
 ボクはおんなのこに訊いた。
「ああ、えーとね、あれは周りで流行ってる玩具。
 市場で売ってるの。
 灰羽は祝福されたものだからって
 灰羽のまねをするが楽しいらしいの。
 馬鹿みたい」
 おんなのこはおこったように(じっさいおこっていたのだろうけど)言った。
 ボクは黙っていた。
「あ、ごめんね。
 べつに灰羽が馬鹿って言ってるわけじゃないのよ。
 ただ真似するのが馬鹿だって言ってるの」
 おんなのこはボクに向けてやさしく言った。
「うん、わかってるよ」
 ボクはおんなのこに向けてやさしく言った。
「やーい、やーい。ビンボー、ビンボー」
 おとこのこたちが叫んだ。
 おんなのこの様子がちょっと変わったような気がした。
 なんというかニンジンを残したときのレキに似ている。
 時計を壊したときのカナにも似てるかな。
 おんなのこは急に足元の石ころを拾うとそれをおとこのこたちに向けておもいっきり放り投げた。
 おとこのこたちがちりぢりになる。
 そして、おとこのこたちはありきたりの捨て台詞のような言葉を残して逃げていった。
 おんなのこは拳を握り締めてふるえていた。

125/10:2003/07/14(月) 01:26
「ね、ねえ」
 ボクはおんなのこに話し掛けた。
「いきましょ」
 おんなのこは声を無視してボクの手を取るとつかつかと歩き出した。
 おんなのこはとてもつよく手を握っていたから握り締められた手が痛かったけど、ボクは何も言わなかった。
「ほら、ここまで来ればダイジョブでしょ」
 街のはずれまで来た時、おんなのこは言った。
 ボクは黙ってうなずいた。
「あ、ちょっとさ。頼みたいことがあるんだけど」
 おんなのこはちょっと何かを思い出したようだった。
「ちょっと、羽とさ、ワッカがどうなってるのか見たいんだけど」
 ボクは黙ってうなずいた。
「ふーん、こうなってるのね」
 おんなのこはボクをみまわした。
 ボクはちょっと恥ずかしかった。
 恥ずかしかったからボクはちょっと羽を動かした。
「ありがと」
 おんなのこは言った。
「じゃあね」
 おんなのこはそのまま後ろを向いたまま街の中へと消えた。
 ボクは来たときと同じように一人で歩いてオールドホームへと帰った。







 オールドホームに帰るとレキの頭に角が生えていた。

135/10:2003/07/14(月) 01:26
 昨日はレキにこっぴどく叱られた。
 ひっぱたかれたおしりが痛い。
 ちょっとひりひりする。
 まだダイは帰ってこない。
 あーひまだ、ひまだ。
 ひまだひまだ。
 !
 そうだ、また街へ出かけよう。
 ボクはちょっと荷物を準備した。
 ボクはレキや寮母のおばあさんに見つからないようにそっとオールドホームを抜け出す。
 街まではボクの足じゃあ少し遠いけど、前にも行ったことあるし。
 ダイジョブダイジョブ。
 ボクは街まで歩いた。

147/10:2003/07/14(月) 01:27
 歩いて歩いて街の中に入った。
 ええと昨日来たとこは、ええとええと、あ、こっちだ。
 そうやって道を思い出しながら進んでいくと昨日おんなのこと会ったところに着いた。
 おんなのこはいない。
 街の人たちはまるで誰もいないようにボクの周りを通りすぎてく。
 ボクはおんなのこを探した。
 おんなのこはやっぱりいなかった。
 でも、昨日見かけたおとこのこたちはすぐに見つかった。
 昨日見たときと同じようににせものの羽とつくりものの光輪をつけていた。
 ボクはちょっと怖かったけど勇気をふりしぼっておとこのこたちにおんなのこのことをきいた。
「ああ、あいつか。あいつなら今日は来てねえぜ。家にいるんじゃねえの。」
 一番体の大きなおとこのこが答えた。
 ボクはおんなのこの家を尋ねた。
「あいつんちならあっちだぜ。」
 おとこのこは街の外れの方を指差した。
「でも、あいつ、イヤがるかもな」
 最後にぼそっとつぶやくようにおとこのこが言った。
 でもボクはおんなのこの家を訪ねた。

158/10:2003/07/14(月) 01:27
 おんなのこの家は街の一番外れにあった。
 街の外れの外れの外れの外れ。
 おんぼろで今にも壊れそうな家。
 そこがおんなのこの家みたいだった。
 ボクはボロボロのドアをノックした。
 ドアを開けるときはノックしなさいってヒカリがウルサク言ってたからね。
 ボクはドアの向こうからなんとなくだけど視線を感じた。
 キシム音を立ててドアが開く。
 ドアの向こう側にはおんなのこと同じような服を来たやせたおんなのひとが立っていた。
 たぶんおんなのこのお母さんだろう。
「あら、どうしたの?」
 おんなのこのお母さんは眠たそうな声で言った。
「ええと、あの。」
 ちょっと困った。
 おんなのこがいるかどうか訊こうと思ったのだけれど、よく考えればあのおんなのこの名前を知らない。
 困った困った。
「あの、おんなのこ…」
 ボクは下を向いたまま呟いた。
「ああ、あの娘の友達?」
 ボクはゆっくりうなずいた。
「あの娘ならそのへんで遊んでると思うわ」
 おんなのこのお母さんは面倒くさそうに言うと、ドアを勢いよく閉めた。
 ドアがきしむ。
 ボクはドアに背を向けるとおんなのこを探した。
 おんなのこはすぐに見つかった。

169/10:2003/07/14(月) 01:28
 近くの広場でひとりぼっちで遊んでいた。
「や、やあ」
 ボクはおんなのこに声をかけた。
 おんなのこがこっちを振り向く。
「あんた―」
「ねえ―」
 次の瞬間、ボクたちは同時に言った。
『どうしてそんなカッコしてるの?』
 おんなのこは不思議なカッコウをしていた。
 なんというか…布で作った、カナみたいなブキッチョがせいいっぱいがんばってつくったようなギザギザでボロボロの灰色の羽…みたいなもの。それとやっぱりへんなかたちの木の枝で作った丸くないけど丸っぽい…たぶん…光輪。
 おんなのこはその二つを身に付けていた。
 ヘンな格好だ。
「なによそのカッコ。」
 おんなのこはボクを人差し指で指差した。
「ヘンな帽子。」
 ボクは前に古着屋さんからもらった帽子を光輪の上からかぶっていた。
「ヘンなリュック。」
 ボクはリュックを背負っていた。中にはいろんなガラクタを詰めてきた。ガラクタ自体にあんまり意味はない。問題なのはリュックの大きさだけだ。このぐらいの大きさがあれば羽が隠れる。
「ボクは。」
 ボクはおんなのこの目を見ていった。
「ボクは、うまく言えないけど、きっとそういうことなんだと思うよ。」
 ボクは笑った。

1710/10:2003/07/14(月) 01:29
 おんなのこはきょとんとしたように目を見開いていたけど、少しして笑った。
 そして身に付けていたヘンなものをはずすと、急に早口でいった。
「オールドホームへの帰り方わかる?どうせわかんないでしょ?しょうがないわね、トチュウまで送ってあげるわ。ありがたくおもいなさい。」
 ボクは笑ってうなずいた。
 ボクとおんなのこは手をつないで歩いた。
 途中おとこのこたちに会って昨日と同じようにからかわれた。
 おんなのこが舌を出してあっかんべえをしたのでボクもまねをして同じようにあっかんべえをした。
「ねえ」
 街の出口の近くまで来たときおんなのこが言った。
「あんた名前は?」
 ボクは告げた。
「ボクの名前はショータ。ショートケーキが好きだから。」
「ふーん、『ショータ』ね。おぼえといてあげるわ。」
 おんなのこはぶっきらぼうに言った。
 おんなのこは空の方を見て何か考えているようだった。
「あたしの、あたしの名前はね。」
 おんなのこは自分の名前を告げた。
 ボクはその名前を心にきざんだ。
 ずっとおぼえておこうと思った。
 たぶん一生忘れないだろう。
 そしてボクたちは街の出口についた。
「さて、ここまで来れば帰れるでしょ。じゃあね。」
 おんなのこはそう言うと後ろを向いた。
「うん!じゃあね。また」
 ボクは言った。
「そう、またね…それと、」
 おんなのこは後ろを向いたまま、
「ありがと。」
 と、聞き取れるか聞き取れないかぐらいの小さな声で言った。
 ボクは笑った。
 そのまま、おんなのこと別れた。
 ボクは胸を張ってオールドホームへの道を歩いた。
 







 オールドホームに帰ると鬼がいた。

18NPCさん:2003/07/14(月) 03:07
( ´ー`)フゥー...読んだ.満足。人間からの視点が入ってていいね。
100%人間視点ていうSSもあったけど、これもまたよし。
俺的には「壁の中で生きる人間の苦悩」を描けたらおもしろいだろうな
って思う。いや俺は文才無いからね・・・。

191/12:2003/07/23(水) 19:19
 アタシはいつもベレー帽をかぶってる。
 だからみんなからはベレー帽(beret)の頭文字を取って『ビィ』って呼ばれてる。
 アタシの仕事は街の洋服屋さんの手伝い。
 灰羽は人の使ったものしか着ちゃいけないきまりだから、扱ってる洋服が着られないのがかなりくやしい。
 流行の服が全く着られない。
 まあ、流行に流されるよーなファッションセンスはないけど。
 それでも選択肢が狭くなるのはイタイ。
 やっぱ、生きている以上オシャレしなきゃダメよね〜。
 この前、丘の向こうのオールドホームの灰羽が廃工場に来てたの見たんだけど、本人はけっこうカワイイのに、きてる服がてんでダメだった。何よあのオヤジくさい服は。
 まあ、あそこはでこっぱちの地味以外の何物でもないコやどっから持ってきたのかすっごく分厚い眼鏡をかけてるコ(まったく初めてみた時は10年前にタイムスリップしたかと思った)あげくの果てにもんのすごくおばさんくさ〜い服したコがオテホンだからしょうがないっちゃしょうがない。(なんかもう一人二人、ファッションセンス以前のコがいたような気がするけど気にしない)

202/12:2003/07/23(水) 19:19
ってなわけでアタシは仕事が終わると、広場を通り過ぎて、今日も古着屋へ向かう。
 街は過ぎ越しの祭りの準備のせいか活気づいている。
 あ、鈴の実買わなきゃ。
 もう、そんな季節だ。
 アタシには目標がある。毎年の目標だ。
 今年こそは今年こそは
 黄色い実をもらいた〜い!
 それもとびっきりのイイ男から。
 でも残念ながら、今の廃工場にイイ男なんてもんはいないし。
 オールドホームには女のコしかいないし。
 職人地区のほうとはまったく連絡つかないし。
 人間との種族を超えたダイナミックラブってのもヤだし。
 とにかく、普通の恋がしたいのだ。
 誰かさんみたいにカケオチってのはカッコ悪い。
 ああ、どこかにイイ男いないかしら。
 アタシはいつもそんなことを考えている。

213/12:2003/07/23(水) 19:20
「ビィ〜」
 アタシのアダ名を呼ぶ声がする。
 アタシほどではないが割りとセンスのいい服。長く伸ばした髪の毛を二つにまとめている。ファッションチェック…60点、ギリギリ合格ってとこかしら。
「ちょっと先いかないでよ。広場で待ち合わせって言ったでしょ」
 エイだ。本名ではない。なんか由来は忘れたけどそういうアダ名だ。
「遅れてくるアンタのほうが悪いのよ」
 5分も待ったのだ。来ない方が悪い。
「しょおがないでしょ。ちょっと仕事が忙しかったんだからぁ」
 エイは文句を言った。
「ウルサイわね。こーして追いついたんだからいいでしょ」
「あ〜、ひっど〜い。そんなんだからオトコもよりつかないのよ〜」
 アタシはエイを睨みつけた。
「それはアンタもいっしょでしょ」
 エイにもオトコがいない。最悪、エイに先を越されることだけはさけたい。ミドリはあんなんに惚れてるから安全だけど、このコはけっこうつかめないトコがあるから不安だ。
「いいから行くわよ」
 アタシたちはいつもの古着屋へと向かった。

224/12:2003/07/23(水) 19:20
 相変わらずセンスのない店構えだ。どうにかなんないのかしら。
「いらっしゃ〜い」
 アタシたちが扉を開けると気の抜けた古着屋のオジサンの声がした。
「ちわ〜。なんかイイの入ってる?」
 アタシはオジサンに訊く。けっこう頻繁に来てるので会話もフランクだ。
「ん〜。こんなのはどうかな?」
 オジサンは棚から一つのコートを取り出した。
 茶色のアタシにはやや大きいコート。
「ダサ。」
 アタシは呟いた。このオジサン、オジサンらしくセンスがやや古い。
 アタシは凍りついたように固まったオジサンを無視して陳列されてある服をエイと一緒に物色し始めた。
 ん〜、コレはアレに会うわね…あ、でも値段が…まあ、バーゲンの時でいいか。あ、コレなんかいいかも、ねえねえ、エイはどう思う? あ、そうか、そうよね〜。エイ、それはやめといたほうがいいわよ。コレなんかどう? ・・・
 だいたいいつもこんな感じで時計の長針が2回転するくらいの時間を過ごす。
 頭の後ろから古着屋のオジサンの欠伸の音がたまに聞こえてくるけどそんなのはもちろん無視することにしている。
 今日の戦果はこのぐらいかしら。

235/12:2003/07/23(水) 19:21
 アタシは机に突っ伏して眠っている古着屋のオジサンに数点の服と灰羽手帳を差し出す。
 オジサンは眠そうな顔で手帳から数枚のページを取り外す。
 ああ、今月も厳しい。連盟も給料あげてくんないかしら。
 だいたいオシャレなんだから必要経費として認めてくれてもいいじゃない。
 ムカツク。
 エイの方の計算が終わるのを待っている間、今月の食費の計算をする。
 豆のスープで何日持つかしら。
 ダイエットにはちょうどいいくらいかな。
 精算が終わるとアタシたちは古着屋を後にして広場へと向かう。
 うう、買い過ぎた荷物で前が見難い。アタシはベレー帽が落ちてしまわないよう細心の注意を払いながら歩く。
 広場の人ごみが邪魔だ。
 いなくなんないかしらこの人たち。
 あ〜、邪魔だ。
 ムカツク
 と、突然、ドスン! と、誰かに背中を押されるような衝撃に襲われて足がもつれる。アタシはとっさにベレー帽が落ちてしまわないように、両手で頭を押さえた。すると、当然今まで持っていた荷物は行き場を失うわけで、空中に放り出された洋服たちが地面に叩きつけられる。ああ、まだ着てないのに。アタシはすぐさましゃがみこんで紙袋から離脱した洋服たちをかき集める。
 一体、誰よ、アタシにぶつかったヤツは! と思い、眉間にしわをよせながら、後ろを振り向く。
 視線の先の顔があるべき場所にはえらくガタイのいい胸板。背中には灰色の羽がついている。どうやら灰羽のようだ。
 そのまま視線を上げると…
 
 
 ウホッ、イイオトコ。

246/12:2003/07/23(水) 19:21
 すぐさま、視線を下に落としてファッションをチェックする。
 う〜ん、65点。問題ナシってとこ。廃工場のオトコどもよりは圧倒的にイイ。
「だいじょぶ?」
 そのオトコのコはアタシに手を差し伸べながら言った。
「えと…うんと…あいたたた、ちょっと足ひねっちゃったかな?」
 アタシは手で左足を押さえながら言った。
 我ながらナイスアイディアだ。
「立てる?」
 オトコのコは手を差し伸べたまま訊いた。
 アタシは「なんとか」と答えてオトコのコの手を取って立ち上がる。
「だいじょぶ、ビィ?」
 頭の後ろからエイの声がする。
 邪魔。
 アタシは一瞬だけエイの方を振り向いて
「うん、だいじょうぶ」
 と言いながら笑顔で眉間にしわを造る。オトコのコからはアタシの表情が見えないことは計算済みだ。
「……ええと、あ、そうそう、アタシ、用事思い出したから先に廃工場に帰るね。ビィの荷物もってってあげる」
 さすがアタシの友人、わかってる。
「あ、そう? 残念ね、これからアタシ、鈴の実、買いに行こうと思ってたんだけど。足痛いし、どうしようかしら〜」
 アタシはオトコのコの方を向き直って言った。
 気づけ、気づけ、気づけえ。
 ちょっと念波を送ってみる。

257/12:2003/07/23(水) 19:22
「それなら俺、一緒に行くよ。こんなことになったの俺のせいだし。」
 ゲッツ!
 アタシは心の中で小さくガッツポーズをとった。
「えっ!いいの?迷惑じゃない?ゴメンね。じゃあ、エイは先に帰っててね。」
 アタシは一息で言い放った。
 エイはその言葉に何かを感じ取ったのか、怯えるようにそそくさと視界から消えた。
「肩貸すよ」
 オトコのコはアタシの右側に立つと右肩にアタシの右腕を回した。
 うう、こんなことだったらもうちょっと質のいい香水つけてくるべきだった。
 ちょっと後悔。
「歩ける?」
 身長差があるせいでオトコのコは中腰だ。
「うん、なんとか」
 アタシはできるだけ元気そうに(実際元気なんだけど)言った。
「じゃあ、行こうか」
 アタシは右足を引きずりながらオトコのコと一緒に歩いた。
 鈴の実の市まで行く間、アタシはオトコのコといろんな話をした。
 名前。
 住んでるとこ。(職人地区の灰羽らしい)
 仕事の愚痴。
 趣味とか、
 あといろんなことー。
 ふふふ、秘密。
 結論。
 ますます、イイオトコ。
 アタシは心躍らせて鈴の実の市へと入った。

268/12:2003/07/23(水) 19:23
 とりあえず、仕事関係で使う予定の赤い実を何個か取る。
 廃工場のみんなの分は…今月厳しいので勘弁してもらおう。
 アタシの視界にちらちらと黄色い実が写る。
 思わず手に取ろうとしてしまいそうになる。
 ダメ、ダメ、ダメ。
 品のない女だと思われたら困るじゃない。
 アタシはミドリとは違うのだ。
 オトコのコが黄色の実に手を延ばす。
 まさか、まさか−
「渡す人とかいるの?」
 訊いてみた。
 ドキドキ。心臓が高鳴る。
「いや、いないんだけどね。何となく買っておこうと思ってね。渡す人もいないのに笑えるよね…」
 アタシはその瞬間、お花畑にいた。
 お花畑で踊っていた。
 情熱的なフラメンコだ。
 お花畑でフラメンコを一生懸命、踊っている。
 そんなイメージだ。
 だから、アタシは背後でクソガキどもが遊んでいるのにも気づかなかったし、そのクソガキどもがアタシにぶちあたってアタシの身体が鈴の実の棚に突っ込むのにも気づかなかった。
 うげ。
 おもいっきり頭から突っ込んだ。
 でもアタシはえらいからめげずにそのまま体勢を整えて笑顔のまま、身体をまっすぐにした。
 笑顔笑顔。
 この際だからぶつかったことは許したげる。
 アタシはオトコのコの顔を見た。
 アレ?
 オトコのコの顔が何処となく歪んでいる。
 それに頭の上が何か冷たい。
 あ。
 アタシはようやく重要な失敗に気づいた。
 ぶつかったショックで帽子が脱げてしまっている。
 


 
 アタシはいつもベレー帽をかぶってる。
 それはファッションでもあったし、それ以外の意味もあった。
 アタシが繭から生まれた時、それは既に頭の上に存在していた。
 それを隠すためにアタシは帽子をかぶっていた。



 アタシの頭の上には円形上のハゲがあった。

279/12:2003/07/23(水) 19:26
まったく世界ってのは不公平に出来ていると思う。
 何も女の子の頭の上にこんなものを作らなくてもいいじゃない。
 髪を長くのばして隠そうとおもったけれど、生まれつきのクセ毛のせいか髪の毛がうまくいうことをきいてくれない。
 しかたがないから、アタシはベレー帽をかぶって頭の上を隠すようにしていた。

 アタシはオトコのコの顔を見た。
 いつのまにかオトコのコはアタシの隣から飛びのいていた。
 歪んだ顔。
 醜い顔。
 今まで何度も見てきた顔だった。
 いつもそうだ。
 いつもこの頭のせいでオトコが逃げていく。
 アタシのせいじゃないのに。
 アタシが悪いわけじゃないのに。
 目じりに涙が溜まる。
 ダメだ。
 泣いちゃダメだ。
 女だからこそ涙たやすく見せちゃいけない。
 泣くな泣くな。
 泣くなアタシ。
 アタシはアタシに言い聞かせる。

2810/12:2003/07/23(水) 19:26
 アタシは目を閉じて涙を無理やり止めさせる。
 唇をきつく噛みしめる。
 拳を強く握り締める。
 再び目を開く。
 世界が少しだけにじんで見える。
 前を向いて胸を張る。
 そして、オトコのコの方をキッと睨みつけ……
 睨みつけ……
 睨みつけ……?
 ……
 あれ?
 何かおかしい。
 オトコのコの格好がヘンだ。
 何と言うか、オトコのコはよじれた顔をして手足を広げ空中に浮かんでいた。
 浮かんだまま遠くの方に飛んだかと思うとそのまま不恰好に頭から地面に着地する。
 鈍い音があたりに響く。
 いったい何が起こったというのだろう。
 パン パン パン
 誰かが手を叩く音。
「まったくー」
 エイだった。
 エイがいつのまにかアタシの傍に立っていて何か汚いものを落とすように手を払っていた。
「まったく、失礼なヤツ!」
 エイはまるで自分のことのように言った。
 アタシはエイに抱きつくと人目も気にせずわんわん泣いた。

2911/12:2003/07/23(水) 19:27
 思い出したことがある。

 あれは確か、アタシがまだ生まれたばかりのころで、古着屋からもらってきたベレー帽をかぶり始めたときだった。
「似合う?」
 アタシはエイに訊いた。
 エイの方がちょっとだけ先に生まれていて割りと年も近いせいかすぐにトモダチになれた。だからこの日も帽子の具合をチェックするためアタシの部屋で二人だべっていた。
「微妙」
 とエイは答える。
 その答えを受けてアタシは鏡を見ながら何度もベレー帽をかぶり直す。
「ねえ」
 背後でエイが呟く。
「アンタ、それ、ずっとかぶってるつもり?」
 面倒くさそうにエイが言った。
「なによ、悪い?」
 アタシは振り返らずに答えた。帽子の位置がうまくきまらない。
「別に」
 そう答えるとエイはそのまま黙りこくってしまった。
 アタシは無言で鏡の中のアタシと格闘する。
 うまく帽子がキまらない。
「ビィ!」
 唐突にエイが言葉を発した。
「ビィ。ベレー帽のB。それがアンタのアダ名」
「なによ、それ」
 アタシは鏡の中を見たまま、不満の声をあげた。
 エイはアタシの言葉を無視して続けた。
「アタシのアダ名は『エイ』。『エイ』は『ビィ』より先だから」


 確かそんな感じだったような気がする……

3012/12:2003/07/23(水) 19:28

 ばぁぁぁぁん



 ばぁぁぁぁん


 どこかの馬鹿の打ち上げた黄色い花火が五月蝿い。
 アタシは花火を下から眺める。
 エイや他とみんなと一緒に眺める。
 キレイなことはキレイだ。
 ただそれがムカツク。
「あれ?帽子どうしたの?」
 花火の音が鳴り響く中、隣にいたエイが訊く。
 アタシは帽子をはずしていた。
「なんとなく…なんとなくね…」
 アタシは小さく言った。
「ふ〜ん」
 エイが鼻を鳴らしながら笑う。

 ごぉぉぉぉぉん

 鐘の音が五月蝿い。
 あ〜あ、結局、今年も黄色い鈴の実貰えなかったなあ。
 まあ、また来年があるか。
 と自分を無理やり納得させる。
 ちょっと悲しいけどね。
「――」
 急にエイが珍しくアタシを本名で呼んだ。珍しいことだ。何だというのだろう。
「これ、あのコから」
 エイはバックから取り出した茶色の封筒をアタシに差し出した。
 封筒を開けると手紙があってそこには下手糞な歪んだ文字が書かれてある。


『ごめん
 あやまる
 またあおう』
 

 そして、 小さな鈴の実。

31NPCさん:2003/07/23(水) 19:30
お借りしますた。
とりあえず、ここに貼り付けるのは多分コレが最後…だと思います。
う、鬱だ氏のう。

321/11:2003/07/27(日) 04:54
 定規でまっすぐ線をひくみたいに
 私は空を落ちていく

 ただ灰色の世界へ―




 目覚まし時計が鳴っている。
 朝だ。
 まだ眠い。
 それでも朝だ。
 起きなければならない。
 起きて学校へいかなければならない。
 私は五月蝿いモノにふたをするとふらつきながらベットから離れ洗面所へ向かう。
 洗面所の鏡の前に立つと、どうしても逆立ってしまう腰の強い寝癖をスプレーで無理やり直す。
 自室に戻ると母の買ってきた趣味の悪いパジャマを脱ぎ捨て中学の制服(割りとかわいいセーラー服で私は少し気に入っている)に着替える。
 そして朝ご飯を食べにダイニングへと向かう。
 食卓では父が新聞を読みながら黙々とご飯を食べている。母はテレビを見ながらなにやら独り言を呟いている。私は昨日の晩御飯の残りをおかずに冷えたご飯を食べる。
 挨拶はない。
 会話もない。
 これが私の家の朝の風景だ。
 ご飯を食べ終わると茶碗を洗って、鞄を持ち家を出る。
 まだ学校へ行くには早すぎる時間だ。でも私はいつもこの時間に家を出る。
 あまりこの家にはいたくない。

332/11:2003/07/27(日) 04:55
 玄関を出ると今の季節特有のうっとおしい雨がふっていた。
 玄関先の庭にはアジサイが咲いている。
 青い色。
 アルカリ性だか酸性だかは知らない。
 ともかく青い色は私の大好きな色である。
 だから私はこのアジサイに毎日お辞儀をして家を出ることにしていた。
 私は自転車を漕いで学校へと行く。
 格好悪い学校指定の合羽が邪魔だ。
 学校へ着くと自転車を止めて教室へ行く。
 雨の日はみんな少しずつだけど登校時間が遅くなる。
 でもやっぱり早く来る人は早く来る。
 神代さんもそんな一人だ。
 神代さんはいつも一番早く学校に来る。
 そんなに学校が好きなんだろうか。
 神代さんは背が高くて、頭もよくて、かわいくて、人気者で。とにかく私とはすべてが違う人だ。
 神代さんは私が教室に入ってくるのを見ると「おはよう」と挨拶した。
 私はそれに笑顔で答える。
 つきあいで笑顔を見せてはいるが実のところ私は神代さんのことがあまり好きではない。
 むしろ、嫌いだ。
 大嫌い。
 だから、私は、私たちはそれから皆が来るまで一言も会話を交わさない。
 ただ二人で黙って窓から見える変わりばえのしない景色でも眺めながら過ごす。
 それが私たちの朝だった。

343/11:2003/07/27(日) 04:56
 そのうちクラスの皆が次々に登校してきて、いつもの退屈な授業が始まる。
 授業は退屈だ。
 ただ先生が黒板に書いたものをどうせ見返さないのにノートに書き写しながら無駄な時間を過ごす。
 休み時間も退屈だ。
 話し友達なんてものはいないし、やることもないので机に座ったまま時計の秒針が10回回るのを見てる。
 そんな退屈な時間が重なって一日という貴重な時間は消えていく。
 時々考える。
 私が生きている意味なんてあるんだろうかって。
 私は一人ぼっちだ。
 空気のように
 何もない人間だ。
 そんな私が生きている意味なんてきっとない。
 でも死ぬのはイヤ。
 怖いから。
 だから、私は生きているわけでも死んでいるわけでもなく酸素を二酸化炭素に変えるだけの毎日を過ごしている
 頭の後ろの方から話し声が聞こえる。
 神代さんが友達と話している声だ。
 流行の歌手がどうしたこうしたという他愛のない話だ。
 何故だかむしょうに腹が立った。
 放課後も退屈だ。
 家には帰りたくない。
 部活をやる気にもならない。
 放課後はいつも開放されている屋上で過ごすことにしている。
 屋上で転落防止用の柵にもたれかかりながら変わり映えのない外の景色が闇につつまれるのを見る。
 誰か私の背中を押してくれないかな。
 いつも考えている。
 そうしたらここから落っこちて死ねるのに。
 いつも思っている。
 あーあ、世界はなんてつまんないんだろ。

354/11:2003/07/27(日) 04:56
 その時だ。屋上への古くて重い扉が軋んだ音とともに開いた。
 神代さんだ。
 何をしに来たのだろう。
 いつもは私しか来ないのに。
 私はとっさに給水塔の影に隠れた。神代さんからは私の姿は見えないはずだ。
 神代さんは肩を震わせて泣いていた。
 私には理解できなかった。
 どうして神代さんが泣くんだろう。
 あんなに友達に囲まれて美人で人気のある神代さんが何故泣く必要があるのか解らなかった。
 神代さんは散々泣きじゃくった後セーラー服の袖で涙をふくと屋上から出て行った。
 私はとても腹がたった。
 泣きたいのはこっちの方だ。
 友達もいない。かわいくもない。頭も悪い。
 神代さんとは大違いだ。
 みじめだ。
 その日はあまりに腹が立ったので自転車のハンドルを強く握り締めながら家に帰った。

365/11:2003/07/27(日) 04:57
 朝、目覚まし時計が鳴っている。
 私はいつものとおりに意地の悪い寝癖を直して家を出る。
 庭の青いアジサイが形よく咲いていた。
 アジサイにお辞儀をして自転車に乗る。
 学校へ着くとやっぱり教室には神代さんがいた。
 神代さんは「おはよう」と言って来たけれど昨日のこともあったので私は挨拶を無視した。
 神代さんが泣くのは間違ってる。
 私はそう考えていた。
 神代さんが何か一言二言呟いたような気がした。
 私の耳はその音を拾わなかった。
 例え聞こえていたとしても無視しただろう。
 私はそれほど怒っていた。
 そしてそのまま誰とも何も会話せずに一日を過ごした。
 神代さんはやはりいつもと同じように笑っていた。
 昨日の涙のことなど微塵も感じさせない笑顔だ。
 腹が立つ。
 そして私はつまらない一日の後、屋上でつまらない風景を眺める。
 あーあ、つまらない。
 本当に誰か背中を押してくれないだろうか。
 すぐさま下へ落ちてやるのに。
 あまりにつまらないのでそんなつまらないことを考えている。
 と、誰かが屋上へ続く階段を登って来る足音が耳に入った。
 上履き独特の音。何となく頼りない足音だ。
 私はまた給水塔の影に隠れた。
 その足音の主は神代さんだった。
 そしてやはり泣いていた。
 一体なんなんだと言うのだろう。
 二日続けて泣いているなんて。
 わからない。
 神代さんは昨日と同じように大量の涙を流すとやはり同じように制服の袖で涙をふくと屋上をあとにした。
 今度は腹は立たなかった。
 腹が立つ以上に呆れていたからだ。
 私は本当に神代さんという人間がわからなくなった

376/11:2003/07/27(日) 04:57
 朝。
 やっぱり目覚ましが鳴っている。
 そしてやっぱり頑固な寝癖を直して家を出る。
 庭のアジサイは…枯れていた。
 私は枯れたアジサイにお辞儀をする。
 私は決めた。
 前から決めていたことだ。
 自転車を漕いで学校へ行く。
 その日私は教室へは向かわなかった。
 階段を登り古くて重い扉を開けて屋上へと出る。
 どんよりとした天気の中、無神経に輝く太陽が眩しかった。
 私は靴を脱ぐと転落防止用の柵を乗り越えた。

387/11:2003/07/27(日) 04:58
 端に立つ。
 下から吹き付ける風が心地いい。
 端から見える景色はいつもと同じようでいつもと何か違っていた。
 ここに立つとつまらない景色も何か面白く見えてくるから不思議だ。
 風が制服をなびかせる。
 何か歌でも口ずさんだ方がいいだろうか。
 私はそんなつまらないことを考える。
 でも何か楽しかった。
 希望が見えたからかもしれない。
 ここから抜け出す希望が。
 私は前方を見つめた。
 何かが、目に見えない何かが光っている。
 その光を掴もうと私は手を伸ばした。
 届かない。
 光を掴みたかった。
 だから―

 私は何もない空に一歩足を踏み出した。

 私の身体が宙に浮く。

 定規でまっすぐ線をひくみたいに

 私は空を落ちていく

 
 …

398/11:2003/07/27(日) 04:58
 …はずだった。

 私の身体は空中で止まっていた。
 足が痛い。
 誰かが私の足首を掴んでいた。
「――」
 誰かが私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
 誰だろう。
 私は頭を天に向けて私の足を掴む誰かの顔を見た。
 神代さんだった。
 神代さんが身を乗り出して私の足首を掴んでいた。
 左手で柵を掴んで右手で私の体重を支えている。
 神代さんの手は震えていた。
 私、重いから。
「離して」
 私はぽつりと呟いた。
「離すもんか!絶対離すもんか!」
 神代さんの手には汗が滲んでいた。
「どうせ私なんか生きててもしょうがないんだし、離してよ」
「離すもんか!離すもんか!」
 神代さんは繰り返した。
「どうして?どうしてなの?どうして私なんか」
「そんなこと言うもんじゃない!自分を粗末に扱うな!!」
 神代さんは怒鳴った。
 神代さんは本気で怒っているようだった。
「どうして私なんかを助けてくれるの」
 私は逆さになったまま地面を見つめながら神代さんに訊いた。
「あたし、あたし!あんたと話したかった!一緒に話したかった!」
 神代さんは叫んだ。右手が苦しそうだ。
「同情なんていらないよ」
 そうだ。同情はいらない。そんなことをされるくらいならそれこそ死んだ方がましだ。

409/11:2003/07/27(日) 04:59
「違う!!」
 神代さんは私の言葉を打ち消した。
「同情なんかじゃない!!あたし、あんたがうらやましかった!!いつも笑っているあんたがうらやましかった!!あたしはあんたと友達になりたかった!」
 私は神代さんの言葉が信じられなかった。
 じゃあ、じゃあ、あの涙は。
「あたし、あんたと友達になりたくて!話したいことたくさんあるんだ!でも伝わんなくて、あたし、あたし、ずっと泣いてたんだよ!」
 神代さんの目には涙が浮かんでいた。
「だから、だから絶対あんたを死なせやしない!あたしはあんたを助けてみせる!」
 その言葉は神代さんの決意のように思えた。
 …
 私はやっと神代さんの言葉を信じられるような気がしてきた。
 信じる気になった。
 でも、もう遅かった。
 馬鹿な私。
「ありがとう、神代さん。でももういいよ。もういいんだよ。このままじゃ神代さんまで落ちちゃうよ。だから、手を離して。お願いだから離して」
 神代さんの右手には血が浮かんでいた。
 もう限界に違いない。
「いやだ!いやだ!離すもんか!」
 私は決めた。
 あいている方の足でえいっと神代さんの右手を思いっきり蹴る。
 神代さんが短く叫び、手を離す。
 私の身体は空へ浮かび、
 たった一人で地面へ向けて旅立っていく

4110/11:2003/07/27(日) 04:59
 はずだった。
 でも神代さんは手を離さなかった。
 神代さんが離したのは右手ではなく左手だ。
 私の足首を掴んでいる右手ではなく柵を掴んでいる左手だ。
 私と神代さんの身体は空に舞った。
 落ちていく。
 どんどんどんどん落ちていく。
 ただまっすぐに落ちていく。
 ふたりで一緒に落ちていく
 落ちていく途中ようやく私は理解した。
 結局、一緒だったんだね、私たち。
 弱くて、情けなくて、さびしくて。
 孤独で、おびえてて、ちっぽけで。
 ごめん、神代さん。
 私に勇気があったらよかったのに。
 私にもうちょっとだけ勇気があったらよかったのに。
 ぐんぐん地面は近づいてくる。
 地面はもうすくそこだ。
 頭の上に地面が見える。
 地面と触れる直前、私は目を閉じて神代さんの身体を強く抱きしめた。
 神代さんの体温が伝わってくる。
 あったかい。
 私、
 私―

4211/11:2003/07/27(日) 05:00













 

 


「私、生きたい!」
 
















 定規でまっすぐ線をひくみたいに
 私は空を落ちていく

 ただ灰色の世界へ―

43NPCさん:2003/08/21(木) 17:06
お借りします
8〜17のSSの続きなのでご注意を

44NPCさん:2003/08/21(木) 17:06
お借りします
8〜17のSSの続きなのでご注意を

451/17:2003/08/21(木) 17:07
 レキがいなくなって数日がたった。
 不思議なことにみんなの生活は変わらない。
 ラッカたちは新しく出来た二つの繭の世話にかかりっきりで忙しいみたいだ。
 カナなんかは仕事がどうしたこうしたとブツブツ文句みたいなことを呟いている。
 ボクはレキがいなくなって大変そうなラッカたちに迷惑をかけないようにオギョウギよくふるまっていた。そのへんボクはダイやハナよりオトナなんだ。
 ダイの言葉を聞いたのはそんなときだ。
「レキに会いにいこうぜ」
 ボクはびっくりした。ダイがおかしくなったのかと思った。レキはもういなくなってしまったというのに。
 ボクはダイに抗議した。
「レキは壁の向こうに行ったんだよ。会えないじゃないか」
 ちょっと怒った。レキにはもう会えないってことをボクがボク自身に言い聞かせようとしていたときだったからよけいに腹が立った。
「レキが壁の向こうに行ったんなら、オレたちも壁の向こうに行けばいいじゃないか」
 ダイは平然としていた。
「どうやってだよ」
 かなり怒った。ボクは子供だけどダイがかなり無茶苦茶なことを言っていることはなんとなくわかった。そのムチャクチャさがイヤだ。
 ダイは空を指差した。
 今日は晴れ。だから緑色の空がよく見える。ダイが指差した先には鳥が羽を広げて飛んでいた。鳥は壁を越えられる唯一の生き物だ。前にレキが言っていた。
「鳥になるんだ」

462/17:2003/08/21(木) 17:07
 ダイの話によれば、鳥はとべるから鳥なんだそうだ。
 オレたちの背中には羽が生えているけれど、空は飛べない。だから鳥じゃない。
 ダイらしい考えだ。
 じゃあ、オレたちがとべるようになれば、オレたちは鳥になれる。鳥なんだから、壁を越えても怒られない。
 ダイの鼻の穴は大きく開いていた。
 こーいうのを『ヘリクツ』っていうんだろうな。
 ボクはあたまのなかで思った。
 ダイが言うには、ボクたちの羽はとぶには小さすぎるらしい。もっと大きな羽があればとんで行ける。そう考えているらしい。そんな話どこから聴いたんだろ。
「鳥の羽を集めてくれ」
 ダイはボクにめーれーした。
「ハネ? そんなものどうするの?」
 ボクはダイに尋ねた。
 ダイは何も言わなかった。
 ボクとダイは二人でひみつのけーかくをはじめた。

473/17:2003/08/21(木) 17:08
「……なにしてるの?」
 燃えるゴミを両手に抱えたハナがボクたちに訊いた。
 ボクとダイはごみすてばで鳥を追いまわして落ちる羽を拾い集めていた。ダイがホウキで鳥を追いまわす役。ボクは落ちた羽を拾い集める役。自分でいうのもなんだけど、ハナから見たらものすごくバカみたいなかっこうに見えるだろうなあ。
すぐにダイがホウキを置いてハナにボクたちがやっていることをはなし始めた。鼻の穴が大きい。ちょっとだけ顔が赤い。ダイはハナのことがスキらしい。まえにダイがボクに話してくれた。しょーらいはけっこんするんだそうだ。ぼくはよくわからない。あ、この話はダイにクチドメされてるんだった。あぶないあぶない、気をつけよう。
「あたしもやる」
 ダイの話を聴いたハナが目を輝かせていた。ダイは少しとまどっていたようだったけれど、すぐにまあ、いいかといった風にハナの参加を認めた。
 ひみつのけーかくの参加者は三人になった。

 ハナが入ったせいかどうかはわからないけれど、予定の量の羽は二,三日ですぐに集まった。
「次は布だ」
 ダイの鼻の穴はいっそう大きくなっていた。鼻息が荒い。
 これはけっこう簡単だった。オールドホームの空き部屋を回って使われてないカーテンを破って一箇所に集めた。オトナたちに見つからないようにしんちょうにしんちょうに。
 そして、集めた布にのりで羽を一つづつ貼り付けていった。これはタイヘンだった。単純な作業だから飽きっぽいダイが最初にやめた。いいだしっぺはダイなのに。次にハナがさじを投げた。ボクは一人で羽を布にくっつけっていった。地味な作業で途中なんども辞めそうになったけど、ボクもレキに会いたかったから一人で続けた。一人で続けていたボクを見てハナが戻ってきた。ハナはやさしい。きっといいお嫁さんになるだろうな。ボクがハナと二人っきりでいたのが気にくわなかったのかダイが戻ってきた。ダイはぶつくさ文句をいいながら羽をのりで布にくっつけていった。
そうしてボクたちの羽は出来上がった。
 ボクたちの『羽』はマントような形をしていた。おとぎばなしのヒーローがみにつけているようなおおきなマント。違うのはそのマントの一面に羽がくっついているということだ。もとのカーテンの布地が見えないほどびっしりと羽をしきつめた。
 これがボクたちの羽。
 つくっているときはわからなかったけどなんだか『羽』を見ていると本当にとべるような気がしてきた。壁の向こうにとんでいって笑顔のレキに会えるような気がした。
 出来上がった『羽』を眺めながら、ボクたち三人はそれぞれみつめあった。
 そして、
 笑った。

484/17:2003/08/21(木) 17:08
 そして、次の日、ボクたちはけーかくをさいしゅうだんかいにうつした。
 決行の場所は、灰羽連盟のお寺の近くの崖。下には川が流れている。まんがいち、まんがいちだけど、落ちてもだいじょうぶだ。
 でもここで問題が一つ出た。
 いったい誰がこの『羽』をつけてとぶんだろ?
 ボクはやっぱりいいだしっぺのダイがいいんじゃないかなと推した。
 ダイはいちばんこーけんしたのはおまえだと言ってボクを推した。
 ハナはこういうことはおとこのこがといって自分以外を推した。
 ボク一票。ダイ一票。ハナ0票。
 ……
 結局、ながいながい話し合いのすえ、じゃんけんということになった。
 ボクはあんまりじゃんけんがすきじゃない。紙が石に勝つというのがいまいちなっとくがいかないからだ。紙で石をつつんだって石は生きているじゃないか。むかし、レキにそのことを話したらレキはただ笑っているだけだった。
「じゃあ、『さいしょはぐー』だぜ」
 ダイが拳を振り上げた。やるきマンマンだ。
 ダイがちょっとハナの方を見て何か口を動かした。なんなのだろう。ボクは別にきにしなかった。
「さいしょはぐー」
 ぼくたち三人は手を握って同時に石を出した。
「じゃんけんー」
 いったん手をひく。
「ぽ―」
 その時、ハナが叫んだ。
「あ、鳥」
 ハナがボクの後ろの方を指差している。
 反応してボクは振り向いた。
 鳥なんていない。
 緑色のきれいな空が広がっているだけ。
 ボクは思った。
 ハメられた!
 急にヘンなことを言われたからボクの手は紙だった。
 そして二人の手は案の定、はさみだった。
 いんぼーだ!
 ボクは抗議したけれど二人は認めなかった。
 ダイは今日は空がきれいだよなとしらばっくれていた。
 ハナはハナでガンバッテネとボクの肩をぽんっと叩いた。
 ひ、ひどい……。
 でも、ま、ま、まま、まあ、いい、か。

495/17:2003/08/21(木) 17:09
 逆に考えた。
 この『羽』でボクがとんでいけば、レキに会えるのはボクだけだ。
 むしろ、おトクじゃないか。
 ボクは首に『羽』を取り付けて、とびたつ準備を整えた。こうしていると図書館でネムが読んでくれたオトギバナシのヒーローになったみたいだ。背中の『羽』で飛び回って敵をばったばったとやっつけるヒーロー。
 三人で運んできたときはきづかなかったけれど意外に背中の大きな『羽』は重い。こんなんでとべるのかな。ちょっと不安になる。
 ちょっと崖っぷちに立って下のほうを確認する。
 くらくら。
 くらくらくら。
 たかすぎ。
 下の川がちっちゃく見える。
「やっぱ、無理なんじゃないかな」
 ボクはダイたちの方を見た。
「ここまで来てあきらめるのかよ」
「ガンバッテね」
 この場合ハナの応援のほうがつらい。
 うう。
 とぶしかないみたいだ。
 ボクはいったん崖っぷちから遠ざかった。逃げたわけじゃない。助走をつけるためだ。
 息を吸う。
 胸を膨らませる。
 足を一歩踏み出す。
 地面をしっかりと掴み取る
 そして、
 思いっきり駆け出す。

506/17:2003/08/21(木) 17:10
 ダッシュ

 ダッシュ

 ダッシュ

 ずりずりとあたまの後ろのほうで『羽』が地面とこすれる音がする。

 ダッシュ

 ダッシュ

 ダッシュ

 崖下の川が見える。ものすごくちっちゃい。怖い。

 ダッシュ

 ダッシュ

 ダッシュ

 アンド

517/17:2003/08/21(木) 17:10
 フルブレーキ

 ボクは身体を崖っぷちギリギリで緊急停止させた。
 やっぱり怖い。
 ちょっと息を吸おう。座って休憩しよう。
 別に逃げたわけじゃない。休憩だ。
「ねえ、ちょっとキュウケイしない……ってあれ?」
 ダイたち二人がいない。
 どこへいったのだろう、と首を回そうと思った瞬間のことだった。
 誰かがボクの身体を押した。
 おっとっととボクはバランスを崩して数歩ふらついた。
 ぽん
 ぽん
 ぽん
 あ  れ  ?

 行き着いた先に地面はなかった。
 ボクの身体は空中に浮いていた。



 ギニャ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 落ちながらボクは考えた。






 これはとんだとはいわない。

528/17:2003/08/21(木) 17:11
 どぼ〜ん
 ぶくぶくぶく

 く、くるしい。
 ボクは意識を失った。




 ボクは夢を見ていた。
 
 夢の中でボクは笑顔のレキと一緒にお花畑で踊っていた。

 お花畑の中でくるくる回って、


 ぷしゅー

 ボクは飲み込んだ水を噴水のように吹き出した。
「お、生きてたか」
 ダイが寝そべったボクのお腹の上に乗っている。
 重い。
「大丈夫?」
 ハナが心配そうにボクを見つめる。
 ハナの大きな目で見つめられるとちょっと恥ずかしい。
 背中の灰色の羽をぱたぱたと動かす。
「ええっと、どうなったの?」
 ボクは訊いた。確か『羽』をつけてとび出そうとしたら誰かに突き落とされて……そこから覚えていない。
 ダイとハナが顔を見合わせた。二人とも少し表情が引きつっているような気がする。
「やっぱ……無理だったか……」
「おしかったね」
 ボクを突き落としたのは、この二人だろう。
 なんて、やつらだ。
 二人に抗議しようと思ったけど、何か言う気力がボクにはなかった。
 レキに会うのはもう少し先になりそうだ……。

539/17:2003/08/21(木) 17:12
「レキに会いに行こうぜ」
 また、だ。
 あれから数日経っていた。
 ダイはまったくこりてないらしい。
 結局、ダイがしたことは『羽』を作ることだけだから、当然といえば当然だけど。
 ボクはあやうくしにかけたっていうのに。
「もう、『羽』をつくるのはいやだよ」
 あの『羽』はボクが溺れたときに首から外れて流されて行ってしまった。水と一緒に流れにのって…………ドコへ行ったのだろう? わからない。けれど、なくなってしまったことは確かだ。
「だいじょうぶだって。こんどは『翼』だ!」
 また、ダイがさっぱりわからない言葉をしゃべる。
 ボクが呆れ顔で口を開いて黙っていると、ダイはドコからもって来たのか古臭い本を取り出してボクに見せた。オトギバナシの本だった。まえに図書館でネムが読んでくれた本のひとつ。びんぼうな『しょみん』のおとこの人がお城に閉じ込められてかわいそうなお姫さまを助け出す話。さいごの場面でおとこの人がお姫さまと一緒にお城のかべを超えるんだけど、その場面には挿絵がついている。
 翼の生えた自転車。
 一言で言うならそんな感じだ。おとこの人はお姫さまを後ろに乗せてこの翼の生えた自転車で飛ぶんだ。飛んでいってその後どうなったかは本がそこで終わっているのでわからないけど。
 ボクはなんとなくダイのやりたいことを理解した。
「これ、つくるの?」
 と、ボクがきくと
「当然だろ!」
 と、ダイが鼻の穴を大きくして胸を大きく張って答える。
 なにが当然なんだろ。
「でも、ダイ。自転車はどーすんのさ」
 ボクの言葉にダイは『アタリマエのこときくなよ』というような目をした。
「カナのがあるだろ」
 予想通りの答えだ。
 ……いいんだろうか、それ。
「でも、この『翼』はどうするの?」
『翼』は前にボクたちが作った『羽』よりはずいぶん大きい。だいたい、挿絵を見るかぎり、この『翼』を作るにはちゃんとした材木やきちんとした道具がひつようだ。ボクたちにそんなものはない。いったいどうするというのだろう。
「さあ」
 ボクはおもいっきりずっこけた。
「おまえが考えることだろ!」
 さらにもう一回ずっこけた。
 か、かんがえてなかったのか……。
「ボクに言われたって……」
 まったく、ボクに言われたってしょうがないじゃないか、ボクだって何かできるわけじゃないのに。
「レキに会いたくないのかよ!」
 ボクだってレキに会いたいさ。でもボクは黙っていた。ボクがしゃべったことで何かできるわけじゃないから。
 ボクはむりょくだ。何も出来ない。
 何も出来ないけど、何かできることはないかな。ちょっと考えた。
 ……
 思いついたことがある。
 ボクはダイを連れて街へ向かった。

5410/17:2003/08/21(木) 17:12
 グリの街の外れの外れの外れの外れにあのおんなの子の家はある。
 ボクはおんなの子の家を訪ねた。
 彼女はまえにボクがオールドホームから抜け出して街で遊んでいたときに知りあった友達だ。
 あの子に助けてもらえないかな。
 こーいうのを『たりきほんがん』っていうのかなとも思ったけど、すぐにその想いを打ち消した。たまにはいいだろう。
 ボクはおんなの子の家の壊れかけた古いドアをノックした。
「はーい」
 かわいい声。
 ボロボロの家の奥の方からおんなの子の声が聞こえた。
「あら、あんた」
 おんなのこはボクを見るなり目を丸くした。ちょっとびっくりさせちゃったかな。
「いきなり、どうしたの?」
 ボクはおんなの子にじょうきょーを説明した。
「う〜ん、あたしに言われてもねえ……」
 おんなの子は悩んでいるようだった。う〜、やっぱむりだったか。
「あ、そうだ」
 おんなの子は手をポンッと叩いた。
「ついてきなさい!」
 ボクとダイはいきなり駆け出したおんなの子の後を走ってついていった。

5511/17:2003/08/21(木) 17:13
 グリの街の広場。
 ボクたちがおんなの子についていくとそこに辿り着いた。
 おんなの子はずいぶん先についていて、誰かと話している。
 話している人たちに見覚えがある。
 あれは、あの男の子たちだ。
 まえにグリの街に来たときに会った名前も知らない三人組の男の子たち。このまえはケンカしてたんだけどきっと仲直りしたんだろう。いまは仲良く話している。
「おもしろそうだな」
 三人組の真ん中のふとっちょの男の子が目を輝かせている。きょうみしんしんみたいだ。
「こいよ」
 真ん中の男の子がてまねきした。ついてこいということらしい。
 はなしをきくとこの男の子のお父さんが大工さんだそうだ。そのことを聞いた瞬間、ダイが身を乗り出して話しをしだした。ダイは大工さんになりたいのだ。ボクはケーキ屋さんになりたい。ショートケーキが好きだから。
 男の子についていくと街の外の何かがらくたみたいなのがいっぱいつまった古小屋に招待された。
 男の子たちの『ひみつきち』らしい。
 ボクたちはその『ひみつきち』で『ひみつのけーかく』を始めた。
 6人がかりのひみつのけーかく。

5612/17:2003/08/21(木) 17:14
 まず最初にボクとダイでカナの自転車を借りてきた。もちろん、カナには何もいっていない。急に自転車がなくなったのでカナはおどろいていたけど、レキに会いに行くためだしかたがない。ちょっとごめん。
 つぎにふとっちょの男の子のいうことにしたがって材木をひみつきちに運んだ。
「はは〜ん、そ〜いうことだったのね〜」
 ボクたちが『ひみつきち』に足をふみいれると頭の後ろから声が聞こえた。ボクは心臓が飛び出すかと思った。その声はカナにそっくりだったからだ。
 首を回して振り向くと、ハナだった。
 ボクたちの後をついてきたみたいだ。
 自分が呼ばれなかったことに腹を立てているらしい。
 仲間にいれないとカナにばらすわよときょーはくされた。しかたがないのでハナも仲間に入った。これでひみつのけーかくの参加者は七人になった。
 最後にボクたちは運んできた材木を自転車に組み立て始めた。ふとっちょの男の子がもってきたのこぎりで木を切ったり、布で『翼』を組み立てたり……。
 そうやってボクたちの翼は『完成』した。
 かんどーだ。
 でも、その感動はすぐに打ち消された。

5713/17:2003/08/21(木) 17:14
「はは〜ん、そういうことだったのか」
 完成のよいんにひたっていると頭の後ろでカナみたいな声が聞こえた。またハナかなと思ったけれど、ハナはおんなの子と一緒にべちゃくちゃ話している。
 じゃあ……ボクはぎぎぎと首を回して後ろを確認した。
 本物ののカナだった。
 ヒカリもいる。
 やばい。
 二人とも角が生えている。
 ボクたちは蜘蛛の子を散らすように逃げた。
 またたくまに、ダイが捕まった。ハナが捕まった。みんな捕まった。
 残ったのはボク一人だ。
「ショータ、走れ!」
 ダイが叫んだ。
「走れ〜」
 ハナが叫んだ。
「走れ」
 みんなが叫んだ。
 ボクは走った。走るときに、『翼』にまたがった。元は自転車だ。ペダルを漕げば、走るよりは速い。ボクはペダルを漕いで走り出した。サドルにお尻をつけると足が下まで届かなくなるから立ったまま全速力で。『ひみつきち』には『てき』にしんにゅうされたときのために反対側の方にもいざというときの出口が用意してあった。まったく準備がいい。ボクはその『ひみつのでぐち』から外へ飛び出した。
 ほおを横切る風が気持ちいい。
 これからドコへいくのだろう?
 ボクはボクに問い掛けた。
 決まっている。
 ボクがボクに答える。
 風の丘だ。
 目指すは風の丘のてっぺんだ。
 つくっている最中にみんなで話し合って決めたことだ。
 ボクはおもいっきりペダルを漕いだ。

5814/17:2003/08/21(木) 17:15
 風の丘のふもとに着く。
 上を見上げると首が痛い。
 ボクは『翼』に乗って坂を登る。
 坂はきつい。
 ペダルが重い。
 しんぞうがドキドキする。
 カナたちはボクを追ってきているだろうか。振り返らないからわからない。
 立ち漕ぎのままペダルを踏む。
 だんだん速度が遅くなる。
 ゆっくりになって
 そして、ついに止まる。
 ボクは自転車を降りて、押しながら走る。
 後ろは振り返らない。
 きつい。
 しんぞうがくちから飛び出そうだ。
 あとすこし、あとすこしだ。
 てっぺんまであとすこし。
 疲れて息をするのもつらい。
 ボクは最後の力を振り絞った。
 空が蒼い。
 目の下に西の森が見える。
 ボクは風の丘のてっぺんに立っていた。
 けっこうきもちがいい。

5915/17:2003/08/21(木) 17:15
 でもこれでおわりじゃない。
 ここからが本番だ。
 ボクは『翼』のついた自転車に飛び乗った。
 坂を下る。
 自転車はすごい勢いで走っていく。
 道がでこぼこしているから自転車が跳ねそうになる。
 ボクはひっしでハンドルを押さえた。
 跳ねるんじゃない。
 自転車は加速する。
『翼』のきしむ音が聞こえる。
 まだスピードが足りないのだろうか。
 ボクは立ち上がってペダルを漕いだ。
 走るそくどが速すぎてペダルが空回りする。
 それでもボクはベダルを漕いだ。
 まだ足りない。
 自転車が石を踏んで暴れる。
 跳ねるんじゃない!
 転びそうになるギリギリのところで無理矢理自転車を押さえつける。
 ボクはひっしでペダルを漕いだ。
 無駄とわかっていても漕いだ。
 頬のそばを何かがびゅんびゅん通り過ぎていく。
 ボクは歯をくいしばる。

6016/17:2003/08/21(木) 17:16

「飛ベーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー―ー――ーーーー―――ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」







 そのとき、
 風が吹いた。
 風に乗ってボクは―














 きもちがよかった

6117/17:2003/08/21(木) 17:17
 その時のことは実を言うとあんまりよく覚えていない。気づいたときには壊れた自転車と一緒に空を見上げていた。
 空はとても蒼かった。

 オールドホームに帰ると大人たちはやっぱり怒っていてこっぴどく叱られてた。
 しばらくショートケーキは食べれそうにない。
 結局、レキには会えなかった。
 カナの自転車は壊れた。
 すっごく叱られた。
 とても疲れた。
 
 でも、なんか、いいきもちだ。

62NPCさん:2003/08/21(木) 17:18
43、44重複してしまった鬱だ氏膿。

63NPCさん:2003/08/24(日) 14:06
お借りします

64ハァハァ:2003/08/24(日) 14:08
私は夢をみている。
夢の中でもールドホームの大きなベットに横たわっている。
誰かがゲストルームの中に入ってくる。
黒くて長いやわらかい髪の毛。あ、レキだ。
レキが近づいてきて私の躯に触れる。
だめだよ。服がしわになっちゃう。
レキは何も言わない。
くせだらけの髪の毛をなじられる。
レキは何も言わない。
うなじを噛まれる。少しいたい。
レキは何も言わない。
肩紐がほどかれて落ちる。この瞬間はすきだ。ちょっとだけ。
うしろからあったかい手がふれてくる。はずかしいから羽を動かす。

ぱたぱた。

レキが何か呪文を呟く。
……うん。
うなずく。
ゆっくりとレキの手が円を描いて動く。ヘンなきもちだ。
だんだんと重力がなくなっていく。
レキがつぼみに口づける。やだぁ。
羽を動かす。

ぱたぱたぱた。

私はレキを受け入れる。
ベットのシーツを強く握り締める。
光輪が揺れる。
無重力のせかいに落ちていく。
躯があつくなってほてってきて

ぱたぱたぱたぱた。


私はそらをとぶ。






朝。いつもより早く起きて下着を替えにいく。

65ハァハァ:2003/08/24(日) 14:08
お借りしました

66カナの時計 </b><font color=#FF0000>(F4otqVt2)</font><b>:2003/12/18(木) 16:50
お借りします。関東の最終回から一周年記念日ですね。それとトリップテスト。


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