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戦場スレpart2

114アカリ ◆Tg./UqnJ52:2012/09/06(木) 07:01:40 ID:72krXpCk
>>113続き
通常空間に復帰した甲斐からの通信。その声を聞き、アカリは呻きながら目を開けた。

「う……つつ、頭打った……。ったく、アイツめ、爆発するならもうちょっと時間くれたって良いじゃない……てて」

頭を押さえながら、よろよろと通信回線を開くためにコンソールを打つ。
衝撃波を一番近くで受けたゲシュペンストはボロボロだった。銛を持っていたはずの右手が肘から吹き飛び、頭がもぎ取られ、
右側のスカートアーマーと右足までもが持って行かれている。
コクピットもそんな機体の状況を表す表示が、映像の乱れているモニターに所狭しと並べられ、
脇に寄せておいたはずのヘルメットが視界の端を漂っている有様だ。
だが幸いなことに、通信機は生きていた。

「甲斐、こちらクレマチ……。無事です、生きてます」
『クレマチ伍長、よく無事でしたね。あなたはあの衝撃波の中心部に一番近かったはずですが』
「ええ……あまり機体の基幹部分にダメージを受けていなかったのが幸いしたようです。それでもこんなにボロボロですけど」
『推進器は生きていますか? 生きているのならば、こちらへ向かって欲しいのですが』

向かって欲しい?
その言い回しに違和感を覚えたアカリは、少し考えて、

「バーニアとスラスターは生きているようです。しかし少尉、「帰還」ではないのですか?」
『いいえ。戦闘ログを確認したところ、一瞬ではありますが、あなたの機体は侵食されてしまっています。
 ハヤミ曹長のゲシュペンスト同様、大事を取ってその機体は破壊処分されます』
「そ、そんなぁ」
『伍長、わかったのならば復唱を』
「了解しました……」

自分と共にいくつかの戦場を駆け回ってきたこの機体を破壊しなければならない。
その事実に打ちのめされた気分になったアカリは、そんな自分の反応を意外に思う。
ボロだポンコツだと言っていても、そのことに意気消沈している自分は、
気づかなかっただけでこの機体に愛着を持ち始めていたのだな……と、フットペダルを踏みながら思った。
機体のシステムは、衝撃波によるダメージを抜かせば、特に問題はないように見える。
だが、甲斐のハンガーにいつの間にか入り込み、ストライクストームを乗っ取るという芸当までしてみせた相手に、念を入れたくなるリリーの気持ちもわからなくもない。
みんなの命の保証と、自分一人だけの機体への愛着。どちらを優先せねばならないかは一目瞭然だが、割り切れない気持ちがあるのも事実。

「はあ……」

機体を破壊する以外にどうしようもないアカリは、せめてもの抵抗のように、深いため息をつく。
そうして自機への愛着を精算している間に、ゲシュペンストは甲斐の近くまで来てしまっていた。

『そこでストップです、クレマチ伍長。そこで機体を停止させ、あなたはコクピットから出て甲斐に戻ってください。
 機体備え付けのスラスターユニットとマグネットガンを持ち出すのと、ヘルメットを被り直すのを忘れないように』
「了解です」

シートベルトを外したアカリは、ふわふわと舞い上がる髪を少しの苦闘の後に纏め、ヘルメットを被り直す。
そして、シートの裏側に備え付けてある機外活動用のスラスターユニットとマグネットガンを取り出し、ユニットを背負う。
コンソールを叩き、コクピットハッチを開くと、その先に広がるのは宇宙である。

(まさか、こんなところで宇宙遊泳をやる羽目になるなんてね……)

ハッチの縁に足をかけ、機体の外にでたアカリは振り返り、甲斐に対して後ろ向きになってハッチを蹴り、機体から離れる。
あちこちケーブルが飛び出たり、火花を散らしている自機の状態は、コクピットで把握した状態よりも酷かった。
その様に何かこみあげるものがあったが、それをアカリはグッと飲み込み、愛機に向かって敬礼する。

(ばいばい、私のゲシュペンスト……。重い子だったけど、あなたと過ごした時間は、そう悪いものではなかったわ)

心中で別れを告げたアカリは愛機に背を向け、口を開けたままのカタパルトへ、スラスターとマグネットガンを使って入り込む。
その間、彼女は愛機の方を振り向かなかった。
甲斐の主砲が稼働し、愛機にHEAT弾が撃ち込まれる音を聞いても、一切振り向くことはなかった。


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