したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

【お題で嫁を】お題で簡単にSSを作ってみようか【自慢するスレ】

1名前が無い程度の能力:2008/11/26(水) 00:23:45 ID:qDu.RquQ0
安価の人のお題で自分の好きなキャラの妄想をするスレ。

【例】

お題:煙草 キャラ:パチェ

「ここじゃ吸っちゃダメだよな…?」

「図書館の中は禁煙よ」

「…だよな、ちょっと外散歩してくるよ」

「えっ?」

「ほら、パチェも喘息持ちだし、な」

「だ、大丈夫よ、小悪魔、窓を全部開けてきて頂戴、あと○○(名前)に灰皿も」

「…大丈夫か?」

「へ、平気よ。ほら、早く座って、本の感想でも聞かせて頂戴」

「そうか…じゃあここで吸っちゃうぜ」

「え、えぇ」

(…むきゅー)

96名前が無い程度の能力:2010/01/17(日) 02:14:33 ID:ZWF9Guk.0
>>94 『この体の思い出』
 首だけにされた人形が、小さなクッションの上にころんと転がされている。大人一人でいっぱいになるような小部屋には、ランプが一つ。使い込まれたオークの机は見事に整頓され、少女が背を丸めて何かの作業に没頭していた。

「ねえ、思い出があるってどんな感じ?」
 首だけのメディスンが口を開いた。アリスは背中を向けたまま質問には答えず、腕の関節にヤスリを当てている。
「ねえ、どんな感じって聞いてるんだけど?」
「……ああ、御免なさい。集中してたから」
 メディスンが語気を強めると、ようやくアリスが振り向いた。左手には人形の腕を持っている。その関節はランプの光で滑らかに光っていた。
 部屋の主とその客、一人と一体の容貌はよく似ている。金髪碧眼に白い肌、例えるなら「人形のような」としか言いようのない二人だった。

「私は妖怪になってまだ何年も経っていないから、思い出って言葉の意味がよくわからないの。教えてくれる?」
 ある日、忘れられた鈴蘭畑で、捨てられた人形に魂が宿った。数年前に起きた花の異変をきっかけに、メディスンの存在が幻想郷に知られるようになった。彼女は今では永遠邸やアリスなど一部の者と時に行動を共にする間柄になっていた。

「思い出ねぇ。当たり前すぎてかえって難しいわね」
 アリスは作業の手を休め、冷え切った紅茶に手を伸ばす。
「昔のことがふと心に浮かぶ……ってことなんだけど」
「私にはその、昔が、ないのよ。ついさっき生まれてきたところなんだから」
「記憶と思い出は違う、ってのは、なんとなくわかるんだけど」

 アリスは上目遣いに部屋の左右をちらちらと見たが、二の句は継げなかった。
「もういいわよ。無理に説明しなくても。たぶん、長生きしたらわかるんでしょ?」
「それよりさっさと私の修理を終わらせて頂戴。もう3時間は経ってるのに」
 メディスンは当てずっぽうに経過時間を言うと、少しふくれた。

「貴方ぐらい精巧に出来てると、3時間でここまで修理出来れば新記録よ」
「陶製でも樹脂でもない、木製の球体関節人形なんて初めて見たわ……。この木材がいったい何かさえ見当がつかないのに、手探りで修理してるのよ」
 人形に関しては第一人者であるアリスにここまで言わせるのならば、その言葉は本物だった。一度バラバラに解体されたメディスンは右腕を残して修理が完了し、机の上に座っている。今はメディスンの魂とつながっていないために動くことはできないが、それでも滑らかな曲線は今にも動き出しそうな怪しい存在感を放っていた。

97名前が無い程度の能力:2010/01/17(日) 02:15:13 ID:ZWF9Guk.0
「話は仕事が終わったら聞くわ」
 メディスンは目を閉じ、口を結んでしまった。
「……あのね、お説教は閻魔様の仕事だけど、さすがに私も一言いわせてもらうわね」
 アリスはふっとため息を吐くと、体側の間接を仕上げにかかった。

「貴方はもっと自分の体を大事に使いなさい。貴方が良くても体が可哀想よ」
 メディスンの本質は霊体や幽体に近い。人形の本体が傷ついても、メディスンは痛みも苦しみも感じない。毒を操るが、それが自分に中毒することもない。もっとも良いことばかりでもなく、痛みがない故に無理に動いて体を痛めてしまうこともある。

「話はてゐから聞いたわよ。ウサギと一緒に餅つきしようとして肩が抜けたんでしょう? 自分の体重の何倍もある杵を振り回したら、そりゃ肩も抜けちゃうわ」
「抜けたらまたハメるだけよ。壊れたら直せる体だもの。便利だわ」
 メディスンの憎まれ口が止まらないので、アリスはおでこを軽くつついた。

 ようやく体側の間接の仕上げが終わった。アリスはランプを近づけて上下左右から関節の滑らかさを確認する。精巧な作りであるが故に、わずかの曲率の狂いも動作の引っかかりにつながる。
「……あら。何かしら」
 アリスの手が止まる。関節の奥にシミのようなものが見つかった。直接光を当てなければ気づかないほど、薄くにじんだ字で書かれていた。
「たぶん署名ね。ええと……『マイスター』……あとはすり減って読めないわ」

 メディスンが目を開いたので、アリスも目の前に署名を持って行ってやった。
「ふうん。この体を作った奴がいるのね。誰か知らないけど」
 メディスン本人にも署名の心当たりはないようだ。
「当たり前でしょう。こんなに精巧で特殊な人形は、よほどの思い入れがなきゃ作らないわよ。貴方の体は何十年、もしかしたら何百年の歴史があるわ。貴方は生まれてたった数年なのかもしれないけど──」

 メディスンの目を見て、アリスの顔が曇った。人形の目から涙は流れないが、メディスンの顔は明らかに泣き顔だったからだ。
「言い過ぎたわね。御免なさい。……でも、その体は大事に使ってあげて。それだけはわかって欲しかったの」

「……アリス。わかった」
「……なに?」
「思い出。私を作った人の思い出。名前も顔もわからないけど、確かに私の体を作った人の思い出。ちょうどこんな風に私が首だけになって、体ができあがるのをずっと待ってた。そんなことが、あった。あったのよ。うん」
 メディスンは堰を切ったように一息にしゃべった。いつの間にか笑顔になり、体があれば飛び上がりそうな調子で笑っている。

「……そう、良かったわね。人形師として冥利に尽きるわ」
 アリスはメディスンに背中を向けると、最後の関節をはめた。濡らさないように気をつけながら。

「アリス、早く体とくっつけて! 思い出のことをみんなに言いに行くから!」
「服を着せなきゃいけないでしょ。もう少し待ちなさい」
「早く!早く!」

 アリスはメディスンに背中を向けたまま、できるだけ、ゆっくりと、服を着せた。 
                        【終】


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板