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【お題で嫁を】お題で簡単にSSを作ってみようか【自慢するスレ】
97
:
名前が無い程度の能力
:2010/01/17(日) 02:15:13 ID:ZWF9Guk.0
「話は仕事が終わったら聞くわ」
メディスンは目を閉じ、口を結んでしまった。
「……あのね、お説教は閻魔様の仕事だけど、さすがに私も一言いわせてもらうわね」
アリスはふっとため息を吐くと、体側の間接を仕上げにかかった。
「貴方はもっと自分の体を大事に使いなさい。貴方が良くても体が可哀想よ」
メディスンの本質は霊体や幽体に近い。人形の本体が傷ついても、メディスンは痛みも苦しみも感じない。毒を操るが、それが自分に中毒することもない。もっとも良いことばかりでもなく、痛みがない故に無理に動いて体を痛めてしまうこともある。
「話はてゐから聞いたわよ。ウサギと一緒に餅つきしようとして肩が抜けたんでしょう? 自分の体重の何倍もある杵を振り回したら、そりゃ肩も抜けちゃうわ」
「抜けたらまたハメるだけよ。壊れたら直せる体だもの。便利だわ」
メディスンの憎まれ口が止まらないので、アリスはおでこを軽くつついた。
ようやく体側の間接の仕上げが終わった。アリスはランプを近づけて上下左右から関節の滑らかさを確認する。精巧な作りであるが故に、わずかの曲率の狂いも動作の引っかかりにつながる。
「……あら。何かしら」
アリスの手が止まる。関節の奥にシミのようなものが見つかった。直接光を当てなければ気づかないほど、薄くにじんだ字で書かれていた。
「たぶん署名ね。ええと……『マイスター』……あとはすり減って読めないわ」
メディスンが目を開いたので、アリスも目の前に署名を持って行ってやった。
「ふうん。この体を作った奴がいるのね。誰か知らないけど」
メディスン本人にも署名の心当たりはないようだ。
「当たり前でしょう。こんなに精巧で特殊な人形は、よほどの思い入れがなきゃ作らないわよ。貴方の体は何十年、もしかしたら何百年の歴史があるわ。貴方は生まれてたった数年なのかもしれないけど──」
メディスンの目を見て、アリスの顔が曇った。人形の目から涙は流れないが、メディスンの顔は明らかに泣き顔だったからだ。
「言い過ぎたわね。御免なさい。……でも、その体は大事に使ってあげて。それだけはわかって欲しかったの」
「……アリス。わかった」
「……なに?」
「思い出。私を作った人の思い出。名前も顔もわからないけど、確かに私の体を作った人の思い出。ちょうどこんな風に私が首だけになって、体ができあがるのをずっと待ってた。そんなことが、あった。あったのよ。うん」
メディスンは堰を切ったように一息にしゃべった。いつの間にか笑顔になり、体があれば飛び上がりそうな調子で笑っている。
「……そう、良かったわね。人形師として冥利に尽きるわ」
アリスはメディスンに背中を向けると、最後の関節をはめた。濡らさないように気をつけながら。
「アリス、早く体とくっつけて! 思い出のことをみんなに言いに行くから!」
「服を着せなきゃいけないでしょ。もう少し待ちなさい」
「早く!早く!」
アリスはメディスンに背中を向けたまま、できるだけ、ゆっくりと、服を着せた。
【終】
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