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羽娘がいるからちょっと来て見たら?

1代理 ◆Ul0WcMmt2k:2006/08/08(火) 18:57:48 ID:/i4UGyBA
どうぞ

417隣りの名無しさん:2006/08/30(水) 02:28:33 ID:xc/F.KPI
……俺もそういうのがあればいいなぁ(´・ω・`)
セリエさんと中尉がうらやましいよ。・゚(ノД`)゚・。

418隣りの名無しさん:2006/08/30(水) 02:38:32 ID:6l6mqvwA
>辛いから、忘れられないし忘れたくないから、大事だから
良いなぁ……これ。俺も強くなりたいよ。・゚・(ノД`)・゚・。

ところで、曲がセリエさんのためにあるような感じが物凄くするんですがw

419二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/08/30(水) 02:50:43 ID:W7Ssoff.
>>417
「私達の根っこは一緒なのですわね」
「まけるもんか! ですよ!」
「それが溢れているのが曹長ですのね」
「にゃはは、いぐざくとりーぃ!」

>>418
「黙って叩かれるのはもうお終いなのです!」
「自分を強く持つための、何かですの」

*ええ、実はセリエ ポジの候補Aでしたwww

420二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/08/30(水) 22:11:56 ID:W7Ssoff.
*短編『ささやか、せつじつ』

ラプンツェル・フレトリアという女が居る。
彼女の過去を、少しだけ話す。
それは、大事なことで。
それは、言いにくいことで。
それは、嬉しいことだ。

彼女がまだ、軍部に入る前の事だ。
彼女は、悲しい過去を持つ者の一人だった。
親に、物として育てられ。
未だに重荷を背負って、
その重荷を積み重ねていた時代の事。

421二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/08/30(水) 22:13:42 ID:W7Ssoff.
彼女は夢枕で苛まれていた。
目標で、
恐怖の対象で、
疎ましく、
羨ましい、
そんな相手の出る夢だ。
この夢はあの日から、いつまでも。
ある日を境にするまで、幾度も見る夢。
今夜の夢は、いつも通りの、そんな悪夢で、悪くない夢で。
どうしようもなく、苦しい夢だ。

422二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/08/30(水) 22:14:15 ID:W7Ssoff.
(いっきょくめ ここから)
長い道を、どこともしれぬ道を歩く。
その先に居る存在は、彼女を知っている。
彼女もそれを、知っている。
固く閉ざされた扉一つ。
その向こうから、剣気が溢れていた。
切り裂かれても、断たれても、それは当然だろうと思うほどの、鋭い剣気だった。
近寄ることを、彼女は求める。
殺されても良い。
自由になれる。
そして、変われる。
いつも、そう思った。

彼女は、籠の中にとらわれた鳥だと、己を自嘲する。
苦笑一つ、それがこの夢の終わり。
汗ばんだ体と、気だるい眠気、そして倦怠感と共に、今日が始まる。
この切ない朝を、毎日のように恨み、そして体を動かすことは、他人の意志だ。
自分の動かす、他人のための体。
自由のために、誰かを数えた。
1,2,3。
仕事を終えた彼女の顔は、人形のように。
地下道を歩く彼女は、操り人形と言うにふさわしい。

忌まわしき昨日を忘れ、明日のスケジュールなど見たくもない。
同様の今日だけが、命の賭けられる時間だ。
先のことは、何も考えられない生活だったと思う。

423二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/08/30(水) 22:14:47 ID:W7Ssoff.
自由になりたい。
自由は遠かった。
そのための生活は、血塗られたと言って良いだろう。
そしてある日。
再びそいつに出会った。
無表情に小柄な体。軍属の娘は一人で彼女の前に立った。
前と同じで、簡単に負けた。
銃器も、ナイフも、重火器も。
たった一刀の刃にて、死の直前、手を止められた。
「経験の差」
それだけを告げ、軍属の娘は立ち去り。
いつまでも、死を与えられるそいつに憧れた。
勝てないことの悔しさはない。

三度の出会いは、敗北で始まる。
彼女は無敗の暗殺者であったが、こいつにだけは勝てぬ。
それが不思議で、心地よく。

424二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/08/30(水) 22:15:32 ID:W7Ssoff.
自由は、また与えられないのだ。
殺さず。
敗北だけをそいつは与える。
今日はわずかに違い、そいつは口を開いた。
「何故、続けるの」
短い言葉に、彼女は応える。
「一日三人、それで自由が貰えるから……」
「そう」
立ち去り、階段を歩くそいつは、また彼女を殺さない。
平然と、
苦もなく、
彼女に死を与えられる剣技は、美しい舞になって。
それだけが頭に残る。
私を殺して欲しい。
彼女の願いは、いつも叶わない。
頭に残る美しさだけが、いつまでも胸を締め付け、いつもの夢を続けさせる。
(いっきょくめ ここまで オーノキヨフミ 平凡 http://www.jvcmusic.co.jp/speedstar/-/Discography/A018189/VICL-35678.html

425二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/08/30(水) 22:16:41 ID:W7Ssoff.
幾度の夢を見ただろう。
幾度の朝を迎えただろう。
何度、殺してくれと思ったか。
何度、自由になりたいと思ったか。
もう、数えることを止めた。
数えてもきりがない。
手を赤く染めた回数より多いことだけは、確かだ。

これ以上、この手を赤く染めない方法がある。
望みを叶えてくれる、そんな方法がある。
そして、自由になれる。
それを強く思った彼女は。
操り人形の糸を、かすかにほころばせた。

426二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/08/30(水) 22:17:36 ID:W7Ssoff.
(にきょくめ ここから)
願うことを叶えたくて、言葉だけ持って走る。
遠く、どこかへ、知らぬ場へ。
暗殺者は迷える子羊に。それでいい。
空を飛びながら、あの美しい剣技を想う。
それだけで何か不思議なあこがれが胸を焦がした。
忘れた呼吸をして、翼へと力を伝え。
彼女は飛ぶ。
何処へとも知らず、あいつを探すため。
夢で何度も感じた、忘れえぬ気配を求め、ようやくそいつを見つけた。
偶然なのか必然なのかは解らぬが、思い出した再びの呼吸に苦笑した。
出会えた安堵でも、叶えられそうな喜びよりも、
なにより、死にたいと思っていたはずなのに、呼吸を愛おしいと思ったことに苦笑した。

「あなたにお願いがあります」
「暗殺者に、叶えられる事なんて、ない」
「殺してください。自由になりたいの」
そいつの背中はようやく動き、彼女へ向いた。静かに閉じた目が彼女を見ていない。
「お馬鹿。殺すわけない。強くなりなさい」
「強く?!」
彼女は嫌悪している。
強くなる術は、手を赤く染め、それを数えることだけだったから。
「誰よりも殺して、誰よりも強くなれっていうんですか!?」
「お馬鹿」
そいつは、目を閉じたまま短く再びの言葉を吐く。
今思えば、開けた瞳を見たことがない。
完敗の相手は、数段も上だ。
今更、そう思う。

427二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/08/30(水) 22:18:14 ID:W7Ssoff.
「人生暇つぶし。暇はまだ終わってない」
意味の解らない、どうでも良い言葉がそいつから出てきた。
その、どうでも良い言葉が、どうしてこんなに、こんなに。
彼女に笑みを与えるのだろう。
「名前」
「ラプンツェル……プルートゥ」
「死神は今日死んだの。この、小鶴真理が殺した」
初めて見た物、それは瞳。まっすぐな、そいつの、真理の瞳。
瞳に見入った彼女は、不意に肩へ痛みを得た。
彼女を殺す一撃。
肩への、峰打ち。
「さ、来て」
誘われるがまま、真理の導く先へ。
死にたがりの望みは叶えられず、彼女は痛みに、
何故か微笑んだ。

428二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/08/30(水) 22:18:44 ID:W7Ssoff.
歩く。
飛ばなかった。
会話を、一方的に。
「親に、良いように扱われました」
「ん。もう死んだ」
「人をいっぱい……殺しました」
「軍人だから、当然」
「え?」
「ラプンツェル」
「はい……」
「ラプンツェル・フレトリア」
「?」
「今日から、そう」
「はい……」
「今日から、でも」
「でも?」
「歳」
「16です」
「16年前から、ラプンツェル・フレトリア」
「……はい」

429二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/08/30(水) 22:19:17 ID:W7Ssoff.
「死にたがり。死んだ」
「……」
「生きろ」
強く、突き刺さる言葉だった。
「……」
「これは、贖罪」
「……はい」
「目的」
「……?」
「生きる目的を探すまで、生きろ」
「……」
突き刺さるのは、明かな励ましで。
彼女にとって、一番解らぬ事で。
でも、新鮮で。
だから、受け入れてみたくなった。

430二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/08/30(水) 22:19:48 ID:W7Ssoff.
そして、半年――。
「ここで待機」
「はいっ!」
何かを思いだし、生み出したのはラプンツェルで。
教導隊での活動は、生産的な攻撃を生んでいる。
そこに喜びを受け、教官候補の真理は、いつでも彼女を支えていた。
放任された支援だが、十二分に暖かく感じて。
死者が出ることに、友人の死者が出ることに苦しく思う。
時折とは言え、それはやるせないことで。
あの、苦悩の日々には無い、苦しみだ。

友が散り、新しく友が入り。
命のやりとりは苦悩で。
それを守ることに、守れる可能性があることに、彼女は幸いを感じる。
苦悩と背中合わせの幸いが、彼女の出来ることに、鮮やかな色彩を持たせていた。
もう、あの願いは忘れている。
殺して欲しいと。
ふと、一人の夜に彼女はそれを思い出し。
生き延びる、ふがいない自分をあざけり。
生きている自分を、嬉しく思った。

431二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/08/30(水) 22:20:26 ID:W7Ssoff.
ごめんね。

あの、苦悩で関わった命と、自分の命に謝罪して。
彼女は命を背負う。
これから生まれ、これから守れる可能性のある、命を。

432二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/08/30(水) 22:20:59 ID:W7Ssoff.
明日を嬉しく思う。
明日が来ることを嬉しい、と思えるようになった。
まだ、自分の過去や、生い立ちを恨むことはある。
それでも今、この小隊に配属され。
笑っている。
嬉しいと思う。
喜ばしい感情を持っている。
自分の過去を殺した無表情な剣士に、感謝の言葉で描けるほどの思いがある。

あれから、同じ小隊に入ってきた剣士と二人きりになったときの話だ。
「ありがとうございます。今……毎日幸せです」
「昔が不幸だから」
「え?」
「だから、今を幸せに思えばいい」
「ええ……」
星を見る。
あのまっすぐな瞳に映る星は、何より美しいと彼女は思う。
自分を救ってくれた瞳は、いつまでも自分を照らしているようで。
明日も生きている剣士を、そしてそこに宿る星が、
彼女の命の灯火のように、明日も照らしていると確信して。
やっと、柔らかく自然な笑みが出た。
(にきょくめ おわり RADWIMPS 閉じた光 http://www.radwimps.jp/discography.html

433二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/08/30(水) 22:21:55 ID:W7Ssoff.
「という、いきさつ」
「……ちょ、ちょっと待て。真理さんが教導隊蹴った理由がどこにもねっすよ!」
いつもの、平和なオフィスの昼休み。
真理が教導隊を蹴った話をしていたはずだ。
当の本人と、助演女優は、柔らかく笑う。
「まだ入りたてなのに、私を無理に入隊させちゃったからなんですよ」
「教導隊、向いてないし」
いいえ、とラプンツェルは首を振り。
「私にとって、最高の教導でした」
「ラプ子も変わった人生送ってんだな」
「えへへ。恥ずかしいですね」
「申し訳ないと思っているだけ、成長したのよ」
「贖罪も断罪も終わってるから」
「いえ」
まっすぐな瞳を、愛すべき同僚達に向け。
それを歪めた。
弓なりに、微笑みの形。
「救える命がある限り。終わりません」
静かな決意が、確かな決意に。
「手伝い、する」
微笑みは、真理にも映り、
そして、移り。
「頑張ります」
いつもの努力家が、さらに強い意志を持つ。
*終わり

434二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/08/30(水) 22:23:18 ID:W7Ssoff.
これを契機に、最後の勝負を、VIPでしてみる。
期待されようがされまいが、最後の勝負がしたくなったのです。
納得行かない終わりかもしれないが、つき合ってくれたら幸い。

だので、一番大事な部分を短編にして、意欲にさせて貰いますよ。

最後に、
ぶるみゃー、
らっこ君、

良い曲だね。
ありがとう。

435隣りの名無しさん:2006/08/30(水) 22:27:59 ID:6l6mqvwA
うひーww
真理さん、こういう感じに絡んでくるのかーwwwww

教導隊の真理さんもちょっと見たかったかもですが、
暗殺者なラプさんも……(*ノ∀`)

436二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/08/30(水) 22:34:52 ID:W7Ssoff.
>>435
「あの頃は……あはは……」
「あれは、もう死んだし」
「ですね……」

437隣りの名無しさん:2006/08/30(水) 23:43:25 ID:GZvN8BfU
バイトから帰ってきてみたら投下が……(´・ω・`)

やばい、真理さんに惚れそうだ……w

438二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/08/30(水) 23:55:50 ID:W7Ssoff.
>>437
「ぶい」
「カメラ目線っ?!」

439隣りの名無しさん:2006/08/31(木) 02:50:31 ID:M0aRsUZc
今更真理さんの魅力に気付いたのか!ふっ、遅いな…!
ここで平凡くると思わなかったwwwww
続きもwktkしてます(`・ω・´)

440二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/08/31(木) 20:50:39 ID:4tAwoyn.
>>439
なんかぴったりいっちゃったのよねw
輝く星>自由
とか
平凡な数>日常で殺す数
なんてなw


さーて、どうしよかな。
様子見せんと……タイミングむずw

441隣りの名無しさん:2006/08/31(木) 21:25:42 ID:4Fj9GoSk
なるほどー、あくまで平凡は「自分にとって」って事か…うまいもんですなぁ。
ぼくにはとてもできない
そして再開wktk

442二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/08/31(木) 23:33:03 ID:4tAwoyn.
>>441
明日やりまーす!

誰かの平凡は誰かのじゃない。
ってことは、二人にとって大事なことなのさ。
望んで訓練した真理と、望まれぬ訓練をしたラプ子。
望んだ結果を昇華したかったラプ子と、新しい望みを作りたかった真理、
二人はステレオタイプで似たもの同士なのですフフフ

平凡が、それぞれの当然で
閉じた光に感情爆発を頼んでみたのだ!
持ってきた声は殺して、で
忘れてしまって生きている。
良いこと、良い方向に。
すっからかんのころんのすってんころりんちょんのぽんて適当に改名とかなw(ぱぱー

443二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/08/31(木) 23:34:29 ID:4tAwoyn.
なんか怪文書になってるorz
誰かの平凡は自分の平凡じゃない
に改訂

んで、つまり
常識も日常も、他人には異質なもんなんですよ、ってね
過去の癖が強い二人にはぴったりだーって事で組んでみた!

444二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/01(金) 20:22:52 ID:eJj8AVEk
http://ex16.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1157108755/

最終戦争になるかなーって感じで

開始

445二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/01(金) 22:13:06 ID:eJj8AVEk
あれ? 急展開?

446二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/02(土) 02:35:29 ID:Zp/hdOjM
今日のチャットより さすがに情報が偏るのはあれなので
じろ > あ、でも伯爵ー 基本ノーブラって言う世界観なのよ……w
じろ > まあ、勝負下着にブラはありますがね
じろ > ああ、不思議な文化だw
じろ > ブラの類は、隠すのもそうですが あくまで服の一部なので勝負用だったりする!
)じろ > 形状維持のために常時着用はないのです
じろ > 胸筋背筋は、羽根のお陰で十二分にあるから不要なのよー

447隣りの名無しさん:2006/09/02(土) 08:40:46 ID:gXpzf2qg
昨日の羽根スレdat下さいorz
寝過ごしました。

448二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/02(土) 20:37:29 ID:Zp/hdOjM
>>447
俺かちゅ使いだからdat共用出来ないんだよねorz

449隣りの名無しさん:2006/09/02(土) 20:46:54 ID:gX4Y3BKk
俺ギコナビ使いですorz

450隣りの名無しさん:2006/09/02(土) 20:49:32 ID:IM/9pS46
まかせろー

451隣りの名無しさん:2006/09/02(土) 20:52:17 ID:IM/9pS46
ttp://wktk.vip2ch.com/upload.cgi?mode=dl&file=11186
pass: hane

どぞ。俺が持っているのはここまで

452二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/02(土) 20:58:40 ID:Zp/hdOjM
俺の手持ちは175までー

http://ex16.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1157198073/
開始ッ!

453二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/14(木) 20:42:33 ID:5hKc9Sno
ある夏の日でございました。それはそれは、暑い日の事でございます――。
「暑いですねー」
「暑いねー」
いつもと変わらぬ、セリエとドリーのやりとりでした。
窓際でなま暖かい風を受ける二人の奥、オフィスでは――。
「あぢー……」
「はー……」
白黒姉妹(強制)が同時に垂れていまして。
ええ――。
「……いい加減やめなさいな」
「これが……これが撮らずにいられますか!」
激写でした。
「ふんふんふん、っと。完了っす」
「お疲れさま」
こちらでは、何かむやみやたら改造された扇風機を囲んでいました。
「あらー?」
「まとめてみたんですけど」
編み上げてアップになったユニーがいました。
「うーん、これならもう少し落ち着いたリップの方が良いわね」
化粧大好き、ドリーさんと、
「逃がさんっ!」
「いい加減になさい……」
だが激写。
そんな緩やかな時間でした。
「はいはい、お疲れさまですわ」
「お昼ですよー」
オフィスに持ち込まれましたのは、巨大なざるでした。
「おっそばー!」
――ということです。

454二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/14(木) 20:43:06 ID:5hKc9Sno
「うふふふ」
「んふふふふ」
ひときわ幸せそうに蕎麦をたぐるのは、制作者の二人、夕子とラプ子でした。
周囲が唖然とする勢いで、かつ平和な笑顔で。
つるつる、ずるずると。
時折ずぞぞ、と。
「は……はっやー……」
顔は動かず、手の動きだけが的確で、
「蕎麦食いマシン」
ですねー。

さて、その蕎麦も終わりに近寄りまして。
最後をたぐるのは二人でして。
「うふふふふ……ずるずる」
「んふー……つるつる」
相変わらずの状態でして。
「おーい……?」
「映画であったねぇ……」
蕎麦大好きの二人がたぐる一本の蕎麦。
はい、一本でした。
「同じのくわえてるよ?」
「うふふふふ」「んふー……」
聞こえてないようで。
「あ」
ちゅぅ。
ええ、激写ですけど。
「うふふ」「んふー」
「吸いあってる……」
たった一本にかけられた勝負(?)は、それが切れるまで続いたそうで。

455隣りの名無しさん:2006/09/14(木) 20:46:14 ID:A4izs.q.
吸っとるwwwwwwwwwwwww

456二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/14(木) 20:48:59 ID:5hKc9Sno
ノイズの方は活発なのになぁorz

>>455
ちゅるちゅるとなフフフフフフフ

457隣りの名無しさん:2006/09/14(木) 20:58:19 ID:j/qTSgCc
ああ、未来永劫切れることなかれ二人の絆もとい蕎麦と百合の花 (*´Д`)ハァハァ

458隣りの名無しさん:2006/09/14(木) 21:03:43 ID:j/qTSgCc
そして私は、白黒コンビとユニさん&大佐にも同じことを要求するであります(`・ω・´)b

459二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/14(木) 21:54:36 ID:5hKc9Sno
>>457
別に百合ってわけじゃないさーw

>>458
おまwwwwwwwwwwwww

それだけで誰か解る発言だなwwwwwwww

460二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/20(水) 00:03:21 ID:0p5tK0/Y
「ねこー、ねこー、どこいくのー」
「いくのー」

夕暮れ、定時後の軍部でありました。
塀の上を一本橋する、セリエとドミーの二人が追うのは台詞の通りで、
「にゃー」
ぶち猫でした。
仕事を終えた面々は、彼女らを残して一息入れていました。今日の仕事はもうお終いですし。
「うーん、いいわあ」
一名を除きまして――。
「給料の殆どがフィルムに消えるわけね」
一番長くつき合った人の発言は重いです。
重みを示すため息も超重量と言ったところでした。

461二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/20(水) 00:04:07 ID:0p5tK0/Y
もう一人、ため息の発生源が居ました。ユニーです。
「猫いいなー……」
こちらのため息は軽く。
「猫はちょっと」
隣で苦笑したのは夕子でした。
彼女は手荷物を改め、両手に抱えていまして。
「あれ? 大尉、それどうするんですか?」
ユニーが振り返りますと、私物で一杯の両手が伺えました。
ええ、と相づちを打ちまして、
「今日で引っ越しますの」
「近場ですか?」
「勤務に支障のない程度には」
軽く告げた彼女は、私物を運んでいきます。
グラウンドに用意された、個人用の風イカダは彼女の物であるようです。
引っ越しの時はこういう個人用を購入或いはレンタルする物だったりします。
知られざる羽根生活の一端でした。
さておきまして――。
「なんだってゆーこちゃんは引っ越すんだろうねー」
シヴィルのもっともな意見に、いつもの鏡面さんもうなずいたのです。
「職場へ最も近く、安上がりで十分以上の部屋があるわけだものね」
「理由はとにかく……」
飛べば10分、といった所の引っ越し先に関する資料をモニターに映したドリーが顔を上げまして、
「海野大尉の食事が無くなるのは惜しいですね」
その意見にも、全員がうなずいたのでした。

462二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/20(水) 00:04:37 ID:0p5tK0/Y
当の本人のおらぬ夕食後でした。
引っ越され蕎麦なる不毛な汁蕎麦は、すでに調理器具共々片づけを完了し、各々自由に過ごす時間においての事です。
「男ですよ! そーですよー!」
ゴシップ好きの本領発揮といったセリエのテンションは最高潮です。
残念(?)ながら、否定材料が全く――。
「婚約者を待つって言ってるじゃないっすか」
ありました。
「んー……なんだろう」
ドミーの声に、全員が首を捻り。
「何かあったのでしょうか……」
食後の珈琲作成へ心血を注ぐといった状態を、先ほどまで維持していたラプンツェルが落ち着き、言います。
「何かといやぁ……」
うろんげな視線を天井に、そしてため息一つ。
それから彼女――シヴィルは席を立ったのでした。

463二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/20(水) 00:05:39 ID:0p5tK0/Y
「あーもしもし、あたしー」
電話をかけているのは、席を立ったシヴィルでして。
「ゆーこちゃんになんかあった? ここ一〜二週間くらいで」
「無いの? 雨ふるわけだわ」
「へいへい。悪い悪い。んじゃ、問題解ったからー。はいはい……」
それを最後に電話を切ったシヴィルは――。
「孝美じゃないのかぁ」
とまあ、失礼なのか妥当なのか解らぬ疑念を晴らしていました。

464二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/20(水) 00:06:17 ID:0p5tK0/Y
――翌朝は休日でした(それを見越しての引っ越しなんですけどね)。
「よし、ここは思い切ろう!」
全員の意見をまとめ、シヴィルが立ち上がりました。
「ゆーこちゃんとこに電話する!」
流石切り込み隊長、
「……ベル子が」
「んな?!」
……次期候補。
「おおー!」
「頑張ってー!」
「さりげなく聞くのよ?」
よもや、後ろ盾はせり出す壁だったとは。
――ベリルに壁無し、でした。

465二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/20(水) 00:06:47 ID:0p5tK0/Y
「あー……もしもし。クーデルカっす」
ベリルの声と同時、合図がありまして。
小さなスピーカーから夕子の声が。
「はいはい? どうなさいました?」
言葉を必死に選ぶベリルの後ろ、固唾を呑む第三者が数名。
ええ、しらばっくれモードと聞き耳が同時に発動していますね。
「……少し気になったんで、電話させて貰ったんすけど……」
「はい?」
「どうして引っ越したんすかー? ゆこさんの夕飯、大好きだったすからー……」
「あら……それは申し訳ありません……。実は――」
「実は?」

466二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/20(水) 00:07:24 ID:0p5tK0/Y
「わんこちゃんが飼いたくなってしまいまして!」
「――はい?」
「もぉ……であったばかりですのにこの子ったら可愛くてもーっ!」
「ゆ……ゆこさん?」
「はい、たろちゃーん。ご挨拶なさい?」
「きゅうん?」
「きゃー可愛いっ可愛いっ!」
「ゆこさんって……犬好きなんすね……」
「もー大好き大好きっ! あ……こらあ、たろちゃん! それはめーですわ! ……っと、すいません……この辺りで失礼させていただきますわ」
「あ、電話すんませんー。犬と仲良くしてくださいっす」
「はい、ではまた明日……」

通話終了の音が響きまして、一同が微妙な表情をしていました。
「なるほどねー……」
「たいちょーたいちょー」
「? 何?」
「鼻血」
「え!? え!?」
平日は変わらぬ物ですね。

おしまい。

467隣りの名無しさん:2006/09/20(水) 00:26:47 ID:nqjpc5lc
もしや、今までは犬飼えない物件だったのかwwww
というより大統領はどうなんだwwwwwwwww

GJw

468隣りの名無しさん:2006/09/20(水) 00:42:18 ID:oo5obD3w
もう……タマリマセン。
犬に……なりたいです。

469二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/20(水) 01:38:30 ID:0p5tK0/Y
>>467
プライベートルームは基本ペット禁止ね
大統領にはやまれぬ事情が……
個人持ちはダメなのよねー

>>468
ふふふ……ふっふっふ……
「わんこちゃんは大好きですのー!」
「……隊長、鼻血」
「はっ?!」

470隣りの名無しさん:2006/09/21(木) 16:48:11 ID:lfxBgxao
じゃあ、きつねはー?(´・ω・)

471二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/21(木) 22:57:55 ID:wKQsnTPE
>>470
「……うーん」
「なつかない子は嫌いなんでしょうか……」
「そうじゃないですけど飼育が……」

472隣りの名無しさん:2006/09/22(金) 01:10:15 ID:EvX2nZbs
緑のたぬきはー?

473隣りの名無しさん:2006/09/22(金) 01:11:50 ID:sPUHZ7.s
緑のたぬきは、なな&リベッカにプレゼントしましょう

474二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/02(月) 22:52:27 ID:Ggvnncms
>>472
「なんですか、それは?」


>>473
「「しらなーい」」

「「まねすんなー!」」


さて、久々の大きめ投下
サイドストーリー第一話です

475二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/02(月) 22:53:27 ID:Ggvnncms
時は少し違い、場所はかなり違う。
いつもの物語とは違う、隣国のお話――。
たった一人で歌を叫んだ、ある人物のお話。
そのお話は、重要な。
大事な転機を担った話で。
この国ではそれを、
生まれたてのサーガと申します。

476二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/02(月) 22:54:08 ID:Ggvnncms
ここは、隣国でも特に辺鄙な場所だった。
山がちで気温は低く、山脈の一角は万年雪。そんな場所。
大机で虚空を見つめるのは一人の娘で。
二十を過ぎた彼女は、平坦な視線で視線を泳がせていた。
どこかへと向ける視線は現在を見ていない。
過去を見ている。
過去視ではなく、ただの回顧、そういうことだ。
「Jarl?……ヤール! Undskyld.(失礼します)」
現在より来る声はおぼろげに、そして少しずつ明確に。
「あ……、何か?」
ようやく彼女は現在に戻り、視線を一人の娘へと向けた。
意識をようやく集中させた彼女専属のhouse karl(侍従)であり、huskarl(近衛兵)である娘に。
「エルヤ様……。いかに私のようなハスカールが居る時でも、それはヤールとしてどうかと……」
「ごめん、気を付けるよナンナ」
言われたとおり、彼女はヤールだ。
領主であり、騎士である。
伯爵位を与えられている。――例えその領地が辺境であろうとも、狭くとも。
若くしてヤールになった彼女へは十二分の評価があった。
「昔を……思い出されていたのですか?」
「内容は言わないよ」
無言、軽くうなずくのはナンナで。
「で、何?」
ため息一つ。それは苦労とも、心配とも――切なく、とも取れる複雑な物だ。
「いけませんよ、私以外にそんな軽くしては……。仮にも……」
「わーかってるって……」
外見も立場も下だが、ナンナは遠慮を見せず意見を続ける。
「いかにお父上の崩御とは言いましても、実力では折り紙付きなのですから……舐められないように……!」
「そういうプレッシャーは要らないよ……。ボクが上がり症って解ってんの?」
「ほらー! そうやってすぐボクって言う!」
「いいじゃないかよう! 二人っきりだぞ!」
今度はナンナが黙った。赤面を付随して。
「……エルヤ様。まだお昼です」
「いやいやいや、ごめん。……続けてくれる?」
「は、はいっ!」
ようやくの雰囲気を取り戻した一室――執務室――をナンナは動き、大机へと書類を置く。

477二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/02(月) 22:54:45 ID:Ggvnncms
「反乱軍鎮圧への支援要請は午後三時とありますが」
ふむ、と一声。判断はそこで終わる。
「ヘルシール二人分、それでいいや」
「かしこまりました」
ヘルシール、戦場において指揮官の役割を担う者である。
ヤールは陣頭へはあまり顔を出さぬ存在で、必要あらば一騎打ち、あるいは総合指揮を担う程度だ。
「エルヤ様はどうなさいます?」
「開幕だけやる。あとは任せた」
「了解しました。では後ほど……」
一礼、そしてナンナは執務室を静かに立ち去ろうとする。
「ナンナ」
「……はい?」
「ごめん」
「忘れられないんですね。大丈夫ですよ。……気にしてません」
「そう言うことにしとく」
「はい」
挨拶をしつつ、ナンナは後ろ手でドアを開け、音もなく立ち去る。

478二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/02(月) 22:56:02 ID:Ggvnncms
「はー……」
ナンナの雰囲気が消え、エルヤはため息一つ、机に突いた右肘を杖に頭を支えた。
手首にはリングが二つ、そして革紐が一つ。
二つのリングは君主より賜った物だ。この国では君主の配下にヤール、そしてその下の領民となる。
君主より、信頼の証としてリングを送ることは文化として残る物であり、名誉と実力を示す物。
この歳で二つのリングは異例だった。何せ殆どのヤールが一つのリングで人生を終える。
まだ続く人生の中、初期に二つを賜った彼女の実力は、それが物語る。
「落ち着かないなぁ……」
左手で革紐を撫で、昔を思い出す。
アザラシの皮で出来た紐だ。他国でもそうだが、十になるまで飛行は勧められていない。
それを七つの頃、己一人でしとめたアザラシよりなめした物で。
元は綺麗に切り開いた皮だった。
父に憧れ、それを被っていた事もある。
平民出の父は、己の腕一つでヤールに上りつめた。
単純なる一兵卒より、熊皮を纏った、狂戦士に連なる存在ウルフサルクへ、そしてヘルシールと。
熊皮に憧れたアザラシ娘は、ここまで成長した。
文句は多い。問題も多い、それでも実力溢れる若きヤールだ。
「ま……なるようになるよね、父さん」
今は無き、内乱で命を落とした父を思う。

479二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/02(月) 22:56:33 ID:Ggvnncms
午後三時、隣の領地にて。エルヤは二個小隊を率いていた。
彼女も装備を調え、その赤毛の長い髪は、山猫をなめした革帽子が包んでいる。
「さ、準備はいい?」
男達が無言でうなずく。それに満足して視線を真後ろにまでやれば、そこにはビルがあり。
「まさか立てこもるとは……」
ナンナが一言。それは驚愕ではある。
別の意味で。
「好都合、っと!」
エルヤの一息、それによって物体が投擲される。
幅広の物体が空を切り裂き、窓硝子の向こう、内乱を起こす反乱兵の一人目がけ。
弾丸よりも巨大で、人が飛ぶ程の速度を持つそれは手斧だ。
この地域では製鉄技術に遅れがあった。
叩けば曲がり、踏めば戻る、そのような剣ばかりで、兵は斧を愛用するようになった、その名残でもある。
製鉄技術の向上した今でもそれは守られており、エルヤを始め全ての兵が槍あるいは斧を持つ。
手斧は確実にガラスを割り、反乱兵の頭へ食い込む。
「行け!」
エルヤの声と共に、配下の兵がビルへ殺到した。
斧を投げる。銃弾よりも速度は出ない。だが、機先を奪う心理効果では十二分の意味を見せていた。
エルヤはもう、戦闘態勢を取らない。
「エルヤがいるぞ! Himinglaeva(天の輝き)のエルヤだ! もうおしまいだ……逃げろ!」
斧が名刺となり、相手が浮き足立っているからだ。
空のある所でならば上空より襲いかかるそれを確認し、反乱軍は乱れていく。
「お疲れさまです」
誰よりも彼女を理解している(少なくとも彼女の領地では)ナンナがねぎらいの声をかけた。

480二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/02(月) 22:57:04 ID:Ggvnncms
鎮圧終了を理解したのは午後四時。たった一時間の任務であった。
「被害は硝子窓を始め物損のみ。保証は要りません」
「そ。……じゃあ帰るぞ!」
鋭い視線はエルヤがヤールである時間の現れ。
「ったく……仲間内で争ってる場合じゃないのに……」
「全くです。他国へと視線を移すべきなのですが……。そういえば、鷲尾様よりメールが来ていました」
「解った。また厄介事かな」
「ヤール、疑念を抱く者もおります、何かと音便に……」
「解ってるよ。さ、今日の仕事は終わりだ。もうだらける」
「全くぅ……。そういう事をすぐに申されますから、移り気可変欲とラクェル様に言われて……」
「ナンナ」
「もー……もっとしっかりしてくれませんと、私も……」
「ナンナ・ライノッ!」
鋭い声がある。咎めることを第一に、相手の気遣いは全く感じられない遮る声だ。
「あ……申し訳ありません」
ナンナを見つめるエルヤの視線、それは再びヤールの鋭い視線で、
「もう、そんな事はないから。……じゃ、穴埋めね? 文字通り」
途端に笑った。
「そういう言い方はどうかと思いますーっ!」
抗議と赤面は、他の者には伝わらないニュアンスがある。

481二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/02(月) 22:57:59 ID:Ggvnncms
一糸まとわぬ姿、うつぶせで布団にくるまるのはエルヤで。
「まさか二度とはー……」
疲れた様子のナンナを隣に置く。
「今日はそういう気分だったんだもん」
文句を返すエルヤは、鋭さの欠片もない言葉を返す。
「ところで……鷲尾様からのメールは何と……」
「おさそい」
「ちょ、ちょっと! まさかOKとかしてないでしょうね?!」
「あの人、好みじゃないから」
「はぁー……。エルヤ様? 二度呼びましたよ、ラクェル様の事」
「……ごめん」
「いいですよ……代わりでも」
「……」
今はない。そう、帰ってこないラクェルを思い出す。
「忘れる努力はするよ……」
「忘れられる方では無いでしょう? ……昨日より一回減ったからいいです」
「ん……」
そこでつぶれた。頭まで布団を被り、何も言わない。
「いつか、私だけを見てくれるって思ってますよ」
「……ん」
数分の後、返事は布団の中から小さく響く。

*というわけで第一部終わり 今回は隣国から、北欧(デーン、ヴァイキング)風の文化です

482隣りの名無しさん:2006/10/02(月) 23:03:21 ID:UfFOOrMM
おーwwwwwwww

っていうか、大佐、割と顔が広いな(;´∀`)

483二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 00:01:18 ID:wALjVcpI
>>482
色々あってね
詳しく言うとアレだけど、大統領が送られてきたのはこの国からなのさ

さて第二部

484二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 00:01:58 ID:wALjVcpI
「戦いは楽でいいなぁ」
エルヤの何気ない一言は、一人の獲物を追いかける移動と共にある。
略奪者の集団を系譜の根幹に持ち、そして現在は戦士の家系、そんな国家では戦いが全てだ。
――相手が同郷じゃなきゃいいんだけどね。
不安定な国家ではなかったはずだ。
傭兵として、あるいは協力して、己の力を振るう国であったはずなのに。
「なんで……!」
長柄の斧を相手の頭上へ振り上げ、瞬間的に下ろした。
遠慮はない。
父を手に掛けた相手が同郷だと、反乱兵だと思うだけで、それだけで遠慮は消える。
今日は戦いたい、それだけの気分だったはずだ。
それでも、今では嫌な感情を感じている。
「エルヤ様ー!」
「ナンナ……」
無数の木、それがある森の中で立ちつくすエルヤへと、ナンナが飛び寄ってきた。
木立を縫う飛行は、この国では必須の技術だ。もう一つ、寒さに耐えること。
「終わりました」
「ん……」
無言、それを伴い、横へと着地したナンナを抱き寄せる。
「内乱は辛いよ……」
「早く、終わると良いですね……」
ナンナの手が彼女の髪をすく。
「父さんも……ラクェルも帰ってこない……」
ナンナは、胸に顔を埋めるエルヤには見えない表情を曇らせた。
色々な感情がある。
哀れみや、嫉妬や。平穏ではない感情で溢れていた。

485二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 00:02:28 ID:wALjVcpI
「エルヤ様」
ある兵卒の声だ。彼の言葉は執務室であり。
「何かあったか?」
「そろそろ、お気をつけて。……周囲の領が懐柔されそうだと、風の噂ですぜ」
「……解った。もしそうなれば」
「死ぬのが解って戦わないなぞ、この国の流儀じゃありやせん」
戦で死ぬ事、それこそが栄誉であった。この国ではそうだ。
戦士の国、その前の略奪集団。いつだって、戦いと共にある。
「違う。落ち延びろ」
「馬鹿な! 何を言いますか!」
「私は……」
そこで下を向いた。
色々な物が去来した。
「もう……仲間内で殺し合っているのはたくさんだ……!」
「だが……!」
言葉の代わりに音を出す。大机を拳で打ち付けた。彼女の拳は机に押しつけられたまま。
「父も……ラクェルも……! 理不尽に死んでいった! これ以上お前達に……!」
「らしくねぇ……! ヴァルキリヤとまで言われたエルヤ様が弱気ってのは……!」
「守ってきた土地だが……取り返せば済む! だが……人は帰ってこない!」
言葉は終わらない。
息継ぎの代わりに涙が溢れた。
「必ず取り戻す……だから……守ることを意識して死なせはせんからな……!」
「わかりやした。――奪還にはお付き合いさせて貰いますぜ」
「ああ……。尻の一つでも並んで叩こうか」
「何処の映画ですかい。エルヤ様がやったら俺らが釣られますわ」
「はは……。すまん」
「なぁに。俺らの認めるのはあんたです」
「ああ……」
「では、失礼を」
言ってからしばらく、その兵卒は立ち去らない。
ただ一つ、うなずきを。信頼を乗せた物を見せてから立ち去る。

486二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 00:03:01 ID:wALjVcpI
「エルヤ様?」
それは、領地の森でのことだ。
「ナンナ。もう、一旦引こう?」
判断を決めたのは、あの兵卒との会話から数日後だ。
「エルヤ様。一人で残るとか……駄目ですよ?」
「解ってる……それより、あいつらの目的は」
「今に納得していない、それでしょう」
つまり、君主を倒すこと。結論は簡単で。
戦士の国では間違った行動ではなく。
「……他の国が、すこし羨ましいね」
「クーデターはどこでもありますよ」
「今は争っている場合じゃないのに……。鷲尾さんから来たメール、変なことが書いてあったよ」
「は……何と?」
「良く分からない端末が出てきたって。ちょっと上の方で緊張してるんだ」
「上? うちの国ですか?」
「もう一つも……」
「テクノロジーなんて……あんまり欲しくないです」
「上は欲しいんだろうね。ボクらの気も知らないで」
風は冷たい。まだ八月ではある。
「ええ……」
季節はずれの、
「雪、か……八月に降るなんて早いな……」
「全部埋められたら……いいんですけど」
「辛い思い出が埋まってくれたら……」
空を見つめ、エルヤはつぶやく。
「埋めたいです……」
抱きつくナンナに暖かさを覚え。
「ナンナ……苦労を掛けるね」
「いいです」
愛情の数だけ抱きしめて、雪は二人の頭に積もる。

*第二部ここらへん うーんまったりペースな

487二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 01:45:38 ID:wALjVcpI
雪は続き。
例年より二ヶ月弱早い雪は、この地をいつもの姿へ変えていく。
「また……ここを使う季節か……」
エルヤのつぶやきにナンナが苦笑した。
「少し早いですけどね」
彼女らが座る椅子、その周囲には喧噪がある。
喧噪の源はエルヤ配下の兵卒らで、それぞれ模擬戦を繰り広げていた。
高さ三メートル、床面積は十かけ四十メートルの長方形くらいだろうか、それはとても広い平屋だった。
寝食、そして訓練をも内部で行われる、ヤール所持の越冬小屋、ロングハウス内である。
雪の中、鈍り、飢える配下を、それが終わるときまで戦力として維持するための建物だ。
確かに暖房器具や居住施設に問題はない。だが、戦士の国では鍛錬を怠らない事を良しとする。
「今日でしばらくはお別れだ。もうまもなく、反乱軍がここへ来る」
下へ向け、大声でエルヤは叫ぶ。
意志の声は強く、迷いはない。
「我々は一時、この土地を離れる」
ざわめきはあった。それでもエルヤの言葉を遮る者は居ない。
それだけの信頼がある。無論実力も。
「攻め込みが一番人員を割くだろう。占領後、他へ人員を割いたときに奪還を行う」
一息、
「いいか?」
周囲を見回し、エルヤは続ける。
「私は父を失った。そして愛しい人を失った」
そこで、ナンナの肩を抱く。
「ここにも愛しい人が居る。そして……」
肩を抱く力が増し、羽根がわずかに開いた。
「信頼できる者がこれだけいる……!」
まだ、言葉は止まらない。
「失いたくない! この地もだ! だから……最終的に負けぬ為、失わぬ為、一時の喪失を我慢する!」
杯を上げれば、全員がそれに従った。

488二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 01:46:25 ID:wALjVcpI
「誰も失われぬよう、取り戻すことを良しとする! 我等の自由は、我等の地が無くなったことで失われない」
だから、と次ぐ言葉は、いつまでも続くようで。
「解ってくれるか……?」
誰もが無言でうなずいた。
肩を抱かぬ彼女の手は、ナンナが握る。
「では――失い、取り戻すことから始めよう!」
杯を高らかに、一息あり
「Javel!」「ヤヴェル!」
それは、了解の返答。
「さあ、準備だ。隙があれば一撃くれてやれ。ただし、殺すな」
応答は、再び続く。

489二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 01:47:04 ID:wALjVcpI
「多分、ボクを狙う」
二人きりのロングハウス内。兵卒は準備を終え、食堂で英気を養っている。
二人はそのまま残り、来るべき時間までを待つ。
「囮、するからね」
「嫌です」
即答だなぁ、と苦笑しつつ頭を掻くのはエルヤで。
「嫌……っ……」
泣いてしまったナンナはエルヤを離さない。
「次は……エルヤ様がだなんて……もしそうなったら……!」
「大丈夫さ。ボクを信じて」
髪をすく、そして、優しく口づけ。
「やです……」
「だめ、かい?」
「もし死なれたら……私は取り残されてもいいんです……でも……あなたがラクェル様と出会ってしまいそうで……」
「……」
ナンナのうつむいた顔は切ない表情で。それは長く感じられる沈黙を伴った。

490二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 01:47:34 ID:wALjVcpI
「妬けちゃい……ます」
「……可愛い」
「初めて言いましたね?」
「え、そ……そうだった? ……愛してるよ、もしラクェルが居ても、今なら……君だけ……」
「はい……でも、なんかナンパ師みたいですよ」
「ううっ……両手に花はしなかったから許してよ」
「花一つじゃないですか」
「う……あ……えーと……」
頬をかきつつ、エルヤは告げる。
「待っていて。必ず戻ってくる」
「はいっ」
忘れ物の無いよう、ナンナの口づけは長く、長く。

491二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 01:48:19 ID:wALjVcpI
午前四時半。その気配は音を伴い始めた。
「そろそろ、だ。準備は良いか?!」
エルヤの声はヤールの声に戻り、そしてその声は皆をうなずかせる。
誰もが青の戦化粧をしていた。
ウォードという植物から抽出した物だ。
略奪の時に付けられていたそれは、今では戦の奇襲をもたらすため、そして願掛けを伴い付けられる。
「さぁ……囮は私がやる。信じてここを離れろ」
そこへは説得力があった。
彼女の腰に、四本の手斧があった。
いつもと形状の違うそれは、この領地を手に入れる前、エルヤの父、それよりも昔。
祖先より伝わる業物だ。
「ハーブローク、フギン、ムニン、ヴィドフニル」
四つの名前を告げ。彼女の言葉はまだ続く。
「不死の鳥、君たちは知っているだろう?」
異国では、
「ポイニクス、蘇る鳥はどこにでもいる。我々の蘇り。それを願う……」
そして、愛用のポールアクスを掴む。輝くたてがみ、グッルファクシと名付けられ、伝えられたそれを。
「行く……tre……en……to……」
カウントダウンをするエルヤに、皆の意識が集中。
そして、
「Nul!」
エルヤを残し、皆が飛び出す。
そして一息置き、エルヤが真逆より。
彼女は前だけを見つめ、倒すべき者と生かすべき者を思い浮かべた。

*三部終わり そろそろテンション上げて参ります

492二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 01:49:07 ID:wALjVcpI
ただ、心配そうなナンナの表情だけは覚えている。

493二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 02:08:21 ID:wALjVcpI
飛びだした空、そして森は雪に包まれている。足の速い雪だ。
「ああ……まだ降っている」
ちらちら、それが似合うような。
日常の雪の中、一番美しいと思う雪だ。心を落ち着け、彼女の初速は最高速度まで過たず上昇していく。
午前四時を、五時へと向かう時計のように、真っ直ぐと。
始めに行うのは、頭に被られた山猫の帽子に取り付けられた鈴を鳴らすことだ。
意識をこちらに集中させ、
「私はここだ! さぁ……この首取りたくば――かかってこいッ!」
言葉を吐けば、そばかすと三つ編みが特徴的な、愛しい娘を思い浮かべた。
そして、反乱兵とすれ違いざま、ポールアクスが遠慮無く羽根を千切る。
「ヒミングレーヴァのエルヤ! 参るッ!」
名乗りと同時、その名前――天の輝きを見せるがごとく手斧が四つ、不死鳥の手斧が舞った。
左手の一振りで舞う四本の手斧は全て重量配分を異なり、そしてそれは散開して獲物を抉っていく。
ハーブロークは一人の肩へ、フギンはもう一人の翼へ、ムニンは足を抉り、ヴィドフニルはポールアクスが弾き、そのまま弾丸として首を掠めていった。
拾っている暇は無かったが、
――これが絆だ。
ヤールの心でエルヤは小さくつぶやく。
ナンナの紡いだ長い紐、それは彼女のお守りで。
可愛らしい外見を彩る赤毛を一年間かけて紡いだ物。それを使い引き寄せ、再び不死鳥をエルヤは手にする。
――まだ、止まれないんだ。
普段ならばヤールの役目、一騎打ちで終わる仕事、この囮にはその終わりがない。
「さぁ、相手の欲しい壁の花は何処だ?」
再びの構え、そして打ち鳴らす五つの斧。
誰もが恐れ、近寄れず。されど離れることはない。
「なら――往くぞ?」
攻めの飛行ではない。エルヤの人生を考えれば、十年ほど昔にしたきりの行動だ。
いきなりの加速に泡を食う反乱兵の間、そして木立を抜ける飛行は淀みなく。

494二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 02:14:06 ID:wALjVcpI
――そう、それでいい。
「父さんっ?!」
声が聞こえた。

――願えば距離は近くなる。
もう一つの声は約束を告げる。

「父さん、ボク……行くよ――!」
勇敢な父の娘として声を放ち、
「一時はさようなら、我が領地――」
夢と悪夢を乗せ、己を作り、己を壊し、離れようとも共にあり。
そんな領地と一時の別れを、ヤールとして告げる。
――必ず取り戻しに。
広がった皆を思い、いつかまたここに集うため。
そのための逃走は、闘争を交えた物だ。
――もっと、行くところがある、そこまで行きなさい!
「ラクェル!? 何処へ行くの?」
――信じて。お願い。貴方にしかできないことを――。
「解った!」
理由は要らない。
とにかく、信じて、愛して。
そんな二人の声に従い、エルヤは空を走る。
血しぶきは幾重にも、戦化粧の青を消すほどに、灰色がかった翼を重くするまで。
「終わらない――私が死んだとしても――この地は終わらない! 誰も、誰も終わらない!」
聞こえる声は幾重にも。
「ヤール!」「エルヤ様!」
「私達……信じてます!」
背中が熱い。思いを乗せることに、エルヤは炎より蘇る不死鳥を見た。

495二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 02:34:28 ID:wALjVcpI
飛び続け、疲労を感じる午前十時。
聞こえてきた、失われたはずの声は、正しい。
たどり着いたこの森は、木立が多く飛びづらい。
それでもエルヤには当たりはしなかった。
その昔、ラクェルに教えられ。
そして、一人になってからは自分だけの場所にして。
今ではナンナと時を重ねた。
大事な森は、自分を守ってくれている。
迂闊に速度を落とした追跡者から、不死鳥らとポールアクスに落とされる。
――こんな、世界はこのまま変わってしまう?
異国の言語混じりで伝わるそれは、エルヤにも理解できる共通語。
――世界が?
童話を思い出し、そんな話もあったと思い。
叫んだ。己を知らせるために。
追っ手へ、そして見えぬ不安を持つ物へ。
「寂しいのか?! 変わるのが?! なら……変わってからでも間に合う……取り戻せ!」
それだけで追っ手は来た。十分な陽動は終わる、それでも――止まらないのは伝えるべき言葉。

496二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 02:36:10 ID:wALjVcpI
「失うことを恐れ、嫌だとおもうなら――取り戻すんだッ!」
――悔しいよ。悲しいよ。
あの気持ちを忘れずに。だから叫び続ける。
「悔しいんだ! 私も! 大事な人を失ったから――」
――ありがとう
父の声は優しかった。
「だから――強くなって、守れるようになった……そして」
――今のエルヤ、格好良いわ。
ラクェルも優しく、背中を押す。
「気持ちを――力にするんだよ! ボクだって……出来たッ!」
だから、翼は叫ぶ。
小枝をへし折り、敵を断ち、まだ見ぬ道を行く。
「寒いなら――寄り添って暖めてあげなよ!」
――さびしいよ。
誰かの声が聞こえた。
それはやさしく、寂しく。
歌うように、語るように、叫ぶように。
――想いを伝えるといった約束の声みたいだ。
「手を取れば踊ってやる……ボクは踊りだって得意なんだぞ!」
顔も見えない寂しがり屋に手を向ける。

497二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 02:43:13 ID:wALjVcpI
――もう、もう
それは心の叫びで。
「誰かが失われちゃいけないんだよッ!」
――そう、だから。ここにお墓を立ててくれた。
それはラクェルの声で。
――だから、お前はこのまま、行くべき場所へ。
夢でしか逢えぬ、二人の声に力と道しるべを。己の叫びに戦う力を。
それでも、彼女には叶わぬ事があり――。
「っあ!?」
不意の叫びは下からの衝撃だ。
「どこか……らっ!?」
「役に立ったか!」
追跡兵の声。
――異国の罠?!
対空クレイモアがエルヤを射抜く。
血を吐き、それでも、
「それでもッ!」
血が終われば、力は叫びとして口を開かせる。
ポールアクスが地の雪をえぐり、強引に高度を確保、そうすれば海があった。
ストラトフライヤーが飛んでいた。
かつて、彼女と会話した異国の女を思い出す。
「ああ、あの人のマーク……」
遠くから聞こえた絶望は、あの国の言葉だった。
ようやく思い出し、グライダーの滑空は脱力に。
――エルヤぁッ!
――エルヤ……エルヤ……!
二人の声だけが、高度を守る力だ。
「ナンナの……ところに……戻るんだっ!」
三人分でようやく、高さを上げていく。

498二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 02:52:52 ID:wALjVcpI
――もう少しよ。
――エルヤ……翼をもう少し下げるんだ。
アドバイスと励ましはエルヤを飛ばす理由となり。
――エルヤ様……エルヤ様……声が……聞こえます……!
ナンナの声は命を燃やし続けさせた。

「痛いよ……ナンナ……ラクェル……父さん……」
弱音一つで高度が下がり、緩んだ意識で集中力だけを取り戻す。
「痛いけど……もっと痛かったんだよね……みんな……!」
下がった高度を再び、そして海を抜けた。

――もう少し! そこ……その上空よ!
ラクェルの声、それが指すのは。
「この国の中心!」
――叫ぶんだ……あそこで、お前の気持ちを!
父の言う言葉、それは――。
「解ったよ……悔しかったこと、全部吐く!」

――エルヤ様……!
「みんな……」
 ――願えば距離は近くなる
「もう、仲間同士――兄弟同士で喧嘩なんかしないで……!」
こみ上げてくる熱い物を抑え、一息吸う。
「大事な物を無くしちゃうんだ! だから……」
――世界が……取り戻したい!
そんな声は、また聞こえてきた異国の言葉。
「世界が大変なんだぞぉっ!」
そこで吐血した。
それでも叫びは止まらない。
「みんなで……ごほっ!」
血が喉に絡まり、体中から力が抜けていく。
――もう……終わりかな……?
死は穏やかではなかった。
ラクェルも、父も。
告げた感慨は無く。不満がある。
言い足りない、と。

499二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 02:58:37 ID:wALjVcpI
「旦那様――」
声が聞こえた。
「ラクェル様――」
夢ではない。走馬燈かもしれない。エルヤはそう思う。
「私に……愛しい人を守れる力を――!」
意識が戻ってきた。抱き留められており。
「ナン……ナぁ……」
「エルヤ様! しっかりして……くださ……うくっ……」
エルヤの思い人の、暖かな涙が伝わってくる。
「まだ……終わってない……ん……だ……」
力を貰うような、涙。
「世界を救えッ! 仲間同士で喧嘩する前に――世界が危ないんだよぉ――ッ!」
叫び……。
「ありが……と……ナンナ……っ……」
――ナンナ……父さん……ラクェル……。

 ――ばいばい……だよ……。
声にならない声が、距離を無視して伝わる。
不覚にも、愛する人の涙と達成感で意識が薄れていく。
――なさけな。
最後の思い。

*第四部 終わり
使用曲:YUKI『長い夢』 ttp://www.sonymusic.co.jp/Music/Arch/ES/YUKI/ESCL-2651/index.html
歌手ご本人が若くして失った息子へ届けた曲。です。
俺の中で重くなっていて、使えなかった曲だけど。

――賞を出したことをきっかけに。
 叫んだ――!

500二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 03:02:27 ID:wALjVcpI
声は、幾重にも幾重にも響く。
距離を無視した。それだけの思いを込めて。
距離も、壁も突き抜ける声は、反乱兵にも、他のヤール達にも続き。

「エルヤ様……貴方の声……みんなに伝わってますよ……エルヤ様ぁ……っ……」
眠ったような、満足しているような愛しい寝顔がある。
ナンナの涙をひたすら受けるその寝顔は、動かない。

電子音――通信機だ。
「世界を救う戦いに、出ることにした」
「ほら……聞いてくださいエルヤ様っ! みんな……喧嘩してませんよ……ぉっ……うっ……うっ……ううう……っ……」
ただ一人、誰もが声だけを知る。そんな英雄が眠る。
「ヤール!」「エルヤ様ッ!」
皆に慕われ、愛する人に守られ――。

501二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 03:04:30 ID:wALjVcpI
――頑張った……ね。
ラクェルの声が響く。
エルヤをそっと抱くような声。

――自慢の娘だ。
父親の声が響く。
エルヤを労る声。

「エルヤ様……!」
皆の声が響く。
エルヤを慕う声。

「私だけの英雄でいて……欲しかったです……エルヤ様ぁ……っ……」
ナンナの声が響く。
我が儘を込めた、愛情の声。

502二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 03:08:05 ID:wALjVcpI
――でも、ばいばい。よ。
――ああ、まっている。焦るなよ。

「……え?」

――孫は無理そうだな。ははは。
――もうちょっと、頑張って貰うからね。

「な……んな……」
「エルヤ様ッ!」

――もっと戦いを知ってから、来い。
――二人とも、こっちに来たら――三人でかしら? 冗談よ?

「痛い……けど……ボク……」
「エルヤ様っ! エルヤさまぁぁぁ……」

涙と、
「ゆき……きれいだ……」

「君も……」
その声で終わる。力無く愛しい人の頬を撫でるエルヤの手。
それが崩れた。
ただ、
眠りを残し、ゆっくりと。
「よかった……よかったぁ……」
満足に満ちた寝顔の向こう。心を貫かれ団結した一同が、ストラマを目指す。

503二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 03:09:37 ID:wALjVcpI
時をようやく同じとし、場所は動きませんが。
いつもの物語と同じ、隣国の気持ちをつづった――。
たった一人で叫び、多くの人に支えられたある人物のお話。
そのお話は、重要な。
一国の意志をを担った話で。
この国ではそれを、
生まれたてのサーガと申すのでしょう。

終わり

504二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/07(土) 21:19:39 ID:3StvMh4Y
エルヤの声が届き、あの国は互いに向き直ることのできた、そんな話がありました。
それから、世間はストラマを存在として実感し、向き直ることは出来そうで。

さて、
元の時間を戻しますと。
色々なことが始まるのです。
終わりを止めれば、そこからの始まりが。

505二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/07(土) 21:20:23 ID:3StvMh4Y
「ふへー……」
かったるい、と続けるのはシヴィルでした。
「大尉。しっかりして。今日だけは……」
へいへいと返事を返されたのはユニーでした。
「それにしても、寒いですね……」
「さっむいねー……」
二人の見つめる空は鉛色で、ちらほらと白い物が落ちていきます。
「始めて見たんですよ」
「あたしもー」
雪は、彼女たちの国には降らぬ物です。
珍しく、そして寒さがあれど、二人の気分は高まっており……。
「戻ってこーい?」
「ん。もう少し」「くけー」
ええ、盛大にはしゃいでいた人らが居ました。
「ほーら、早くする!」
「うわ、珍しい。雨ふるな」
「もう降ってるような」
「ん、雪が」
――というわけで、『珍しい孝美』の理由などを語る前に、少々時間を戻りましょうか。

506二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/07(土) 21:21:03 ID:3StvMh4Y
「なんだって?」
いつものオフィス、そこでシヴィルは疑問を放ったのでした。
「要は交流なんだけど、向こうの国は武勇が物を言うのよ」
で、と次ぎまして、孝美は真面目な言葉を続けます。珍しいのはここから始まっていました。
「ヴァルキリヤ同志で交流するのが国交にいいだろう、ってさ」
「なんだ、そのヴァルキリヤって」
「戦乙女ね。向こうの伝承よ。死者の魂を導く役、戦いを重んじる向こうの住人には導き手になるんだって」
「へぇー。んで……あたし?」
「あんたなら十分でしょ。あたしと、あんた……後は……」
「ユニ子かねー。あと真理」
「……いい。シヴィル……それいい!」
「……藪蛇?」
失言でありました。

で――。
「大統領もつれてきたい」
真理の言葉でした。
「なんでまた?」
「だって、その国からの贈り物に紛れてきたし、里帰り」
「そういやそうだったなぁ……」
というわけで。
ちょっと不思議なメンバーでの外交でした。

507二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/07(土) 21:21:48 ID:3StvMh4Y
時間を戻しましょうか、合図は簡単に。
「しっかし、なんだって外交役のドリーを連れてこなかったのさ」
「戦いの国だからよ。会談じゃなくて親睦を深めるなら強い者が行くべきってね」
シヴィルのもっともな意見はあっさりとした回答でかえりまして。
「ならフレアねーちゃんでいいじゃん」
「ま……色々あるのよ」
話しながら、一同は孝美に先導されていきました。
針葉樹の茂る雪の森、そこに一軒の巨大な家屋が。
「でっか!」
「ロングハウスって言うのよ。雪に埋もれる地域での訓練所兼寄宿舎みたいな物ね」
「おっきいですねぇ……。雪の間はここから出ないんでしたっけ」
「せーかい! さっすがユニーちゃんね!」
抱きつきはあっさりかわされまして。
「いつも通りですね、鷲尾さんは」
声がありました。
長身長髪の娘と小柄な三つ編み娘が、防寒具に身を包んでおりました。
背後には数名、腕の立ちそうな男達が待機しておりまして。
「エルヤ、ご無沙汰ねー!」
「ストップ。ここはプライベートじゃない」
「おっとっと。ん? 後ならいいのかなぁ……?」
「黙秘するよ」
長身長髪の娘――エルヤは笑いまして、
「ようこそ、ノルストリガルズへ。スピネン共和国の戦士達」
手を出しました、左手を。
先頭の孝美と左手で握手をしまして。
いかなる時でも利き手は武器のため、そんな風習故の握手でした。

508二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/07(土) 21:22:18 ID:3StvMh4Y
さて、後ろの三人と一匹は。
「ノルストリガルズ……?」
聞き慣れない言葉、そこへは由来があると思ったのか、髪を伸ばしてすっかり可愛らしくなったユニーが首をかしげまして。
「北の国って意味らしいぞ」
「それにしても、孝美が代表でスピネンの意味は、怪しい」
「にひひ。どう紡ぐのかって?」
真理は否定的だわ、と心に思い、小声の会話はそこで終了です。
「ナンナ、ロングハウスへ案内してさしあげて。私は先に行く」
三つ編みの娘が恭しく一礼しました。
「かしこまりました、jarl」
そうして、エルヤは飛び去り、一同はナンナに連れられわずかな道を進みます。
「孝美ぃ。ヤールってなんだ?」
「伯爵位ね。簡単に言えば、だけど」
「へぇー……」
「家柄じゃないのよ。武勲次第」
つまり、と前置きしたのは真理で。
「手練れ、そういうこと」
「凄いなぁ……」
「あんたと同じ歳よ。シヴィル」
「うへぇ……」
国交というわりには、少しばかり遠足の匂いを漂わせる一行でした。
ナンナはその様に嫌な顔をしてはおらず――。
むしろ、微笑んでいました。
緊張していたんですよ、彼女。
手練れが来るって言われてたんです。
とにもかくにも、孝美以外の手練れもこんな感じかと安心したみたいで。
そんな事をやっている内、ロングハウスは目の前でした。

509二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/07(土) 21:22:48 ID:3StvMh4Y
ロングハウス内、ここは会議室なのでしょう。
長机がありまして、長辺へ互いに、向かい合うように座りました。
「改めて、お久しぶり。鷲尾大佐。そして、初めまして」
一息ありまして。
「エルヤ・ブレイザブリクと申します」
「……あら?」
名前にすぐ、疑問を露わにしたのは孝美でした。
「前はヒミングレーヴァ、だったわよね……?」
「ああ」
えっと、とおずおず声をかけたのはナンナでした。
「ファミリーネームは無いのです。状況に応じてそれを変えます」
それで、といった前置きで。
「手斧の使い手から天の輝きという意味のヒミングレーヴァだったのですけど、この国をまとめ、ストラマと向き合えるようになったのはエルヤ様の声が通ったからなんです」
「思えば距離は近くなる……か」
シヴィルは思い出しながらつぶやきます。
誰もが、国交を考えていないような会話でした。
文句も出ませんし、いいのでしょう。
いい。と皆は思い。何より階級ではなく武勲が優先する国だからこそでしょうね。
「ええ、ですから――ブレイザブリク、私達の言葉で広がる輝き、といった呼び名になりました」
「だからなのね」
孝美の声と、視線は彼女の右手に注がれていました。
初めて会ったとき、腕輪は一つで、孝美が帰国する前に二つであったものが三つになっていました。
「ええ」
目を細め、エルヤは微笑みます。

510二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/07(土) 21:47:31 ID:3StvMh4Y
「え、えーっと……、これは国儀なのでは……」
遠慮がちなユニーの声に皆が咳払い一つ。
「大丈夫です。あくまで交流ですし」
「この国での関心事は、あなた方のありのままですから」
「それはそれで……色々問題がありません?」
「特に孝美がなー」
視線は一点。でしたとさ。
本人は咳払いで、エルヤは笑っていて、ナンナはラクェルとエルヤから聞いた事実があるので、じと目でした。
「とりあえず――質問いいかな?」
シヴィルの一声でした。
「なんで、あたしを指名したの? もっと強い人なら居たはずだけど」
「それは――」
ナンナの返答は、エルヤの手で止められました。
彼女の言葉を継ぎ、エルヤはシヴィルを見つめました。
「前線で戦うからですよ。ヴァルキリヤとして評されるのは、先頭で配下や同胞を鼓舞する者です」
「なら、私はおまけ」
真理はつぶやきます。悪びれの欠片もない、率直な意見でした。
「お二方とも、実力は配下が見てくれました。本当なら全員お呼びしたいのですが……」
「無理は言わないさ。真理とユニ子はいいけどさ……あたしは勝手にやってるだけだよ? 見た目もいまいちだし」
「そうですか? とても可愛らしいです」
「エルヤ様っ!」
「はは……ナンナが一番だよ?」
「……もぉ」
「……惚気てる」
「エルヤー……私も私も」
「ごめん。鷲尾さんはちょっと……」
「わーんっ!?」

「なんだか普段と変わらない……」
「同感」
ユニーと真理は二人で思うのでした。

511二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/07(土) 22:20:56 ID:3StvMh4Y
「お呼びしたのは他でもないんです」
改め、気を取り直したエルヤの言葉です。
「よろしければシヴィル大尉。模擬戦をお願いしたいのです」
「は?」
「認め合うのは杯を交わすこと、そして武器を打ち鳴らすこと。それがこの国なのですよ」
「あたしー……?」
「道理で……」
疑問の氷解した、そして声を上げたのはユニーでした。
「武器の持ち込みが問題なく行われたのは、そう言うことでしたか」
「戦いの国で武器は当然ですけどね。国儀に武器携帯を願ったのはそういう事です」
「うーん……あたしか……んー……」
「一週間ほど視察期間がありますから、その間にお考え下さいね」
「うーん……」
腕を組み、それっきりのシヴィルがおりまして、時間は今後一週間の予定を語る場になりました。

「以上。では……」
一息、そして目配せ。
両方を行うのはエルヤで。
それだけでナンナを残し、配下が去っていきました。
「ここからは、プライベートだよ」
口調を改め、合図のようなエルヤの声。
合図はもう一つありまして。
「エルヤーっ! ラクェルも居ない事だし私とふふふふ!」
「だ、だめーっ!」
「ぬう。貴方の物ってわけ?」
「そ、そうですよ?!」
「……ラクェルは?」
「……」
沈黙したナンナの隣、穏やかにエルヤが告げました。
「戦死しちゃった」
「……ごめん」
「いいよ。気にしてない。あれから一年だものね、色々変わったよ」
それと。
そんな、彼女の一息に迷いはなく。
「ストラマのおかげかな。あの時、ちょっと話せたよ。だから、気にしないでね」
でも、とありまして。
「だから、鷲尾さんのお誘いは駄目だよ。ナンナもいるし」
「えー……」
「だから、鷲尾さんは趣味じゃないの。いくら攻め上手でもね」
「わーん!」
あーあ。

512二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/07(土) 23:02:40 ID:3StvMh4Y
本日は、それでお終いでした。
はからいもありまして個室をそれぞれ。
ええ、とある方の悪行を見越されてでしょう。
本人は――泣き寝入りのようで。
さてさて、ある個室にて、です。
その個室でへばっていたのは、先ほどからうなりつづけていた人で。
気楽なシヴィルとはいえ、流石に深刻です。
「模擬戦ねー……」
色々思うところはあるらしく、未だにまとまりはつかないようです。
落ち着かない異国の初日。そんな夜でした。
ノックの音に気づいたのは、二度目のノックでした。
そのくらい上の空だったようで。
「はいはい?」
「今晩は。……いいかな?」
エルヤ、でした。
「いいけど。なんか違うね」
「仕事とプライベートは別だよ」
笑顔は確かに、昼間よりも自然で明るい物でした。

513二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/07(土) 23:50:54 ID:3StvMh4Y
「さむっ」
「もっと寒くなるよ?」
笑いを含んだエルヤの声、それが聞こえるのはロングハウスの屋根でした。
屋根の上、シヴィルとエルヤが座っていました。
「寒いのは嫌だなぁ……」
「ははっ。ボクらは慣れてるからね」
寒い夜空は、綺麗な空気と共にありました。
星空を眺める二人には、沈黙と白い息があります。
「戦いは、嫌い?」
「あんまり」
「模擬戦も?」
「だから、かねえ……。練習が大事なのは解るさ。でもな……」
「ん……」
「やっぱり、相手の顔を見て、やらなきゃと思えないんだ」
「そう」
一息、それからエルヤは屋根に立ちまして。
「ボクは、君が嫌い」
シヴィルは無言で彼女を見ました。
「多分同族嫌悪かもしれないけど。嫌い」
「そっか」
「いざというときに戦えないのは、辛いんだよ?」
一息はシヴィルより。真っ白な息が続き。
「……ラクェルさんだっけ? 彼女のこと、良かったら話してくんないかな?」
「嫌いって言ったろ」
「それでもいいさ」
「そ……」
エルヤは再び屋根に座り、二人は同じ場所を、月を見ていました。
やりとりはとにかく。
二人の表情は微笑とも取れそうな、そんな穏やかな、平坦な表情でした。

514二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/08(日) 00:26:56 ID:i0Y8dC7I
ラクェルと出会ったのは、もう思い出せない昔だったよ。
小さい頃だった。隣の領地の娘でね、二つ年上の、いつもおねえさんぶった困った娘だった。
いっつもいっつも、ボクの事を子供扱いしてたんだ。

あの娘は、スカールドだった。
吟遊詩人が本当の意味。でもね、役職としては歴史を伝える為の存在なんだ。
この国には歴史書なんてほとんど無いんだよ。
伝えるのはスカールドの仕事で、あの娘は綺麗な声で、可愛くて。
変だったな、ボク。
20の頃に、久々に出会ったあの娘を見て、胸がどきどきした。
可愛い、って思えたんだよ。
女の子同士だったし、もちろん黙ってた。

ボクが22になって、鷲尾さんがね、視察に来たんだ。
そういえば――あの時と同じ三日月が綺麗だったなぁ。
ボクの事さ、鷲尾さんは気に入っちゃって、べたべたされたんだ。
――はは、あたしも。
そっか。あの人って節操ないね。ふふ。
で……凄く迫られた。
ボクの好みはラクェルで、鷲尾さんみたいな押しの強い人じゃない、おしとやかな人だから。
いきなり、さ。
鷲尾さんにビンタしたんだよ、ラクェルが。
エルヤは私の物です、いい加減にしてくださる? って。
嬉しくて、なんか……抱きついちゃったんだ。
おかげ、うん。
おかげで……ラクェルと気持ちを伝えられるきっかけが出来て……。
それから一年弱、幸せだったよ。

515二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/08(日) 00:28:35 ID:i0Y8dC7I
この国はね、いつも戦いがあった。
何かを変えるには力、戦いで勝てばいい。
だから……当然なのかな? 内乱が起きてね。
ラクェルは、ボクの戦いに付いてきてくれた。
あの頃は全然実戦慣れしてなくて、ラクェルの経験が凄く助かったんだ。
未熟だったんだよ……。

あの日、ボクの隊は孤立しかかっていた。
無茶したんだ。先走ってさ。
手斧、うん。
ラクェルがかばってくれた……。
最後に、諦めないでって言い残してあの娘は……。

ボクは強くなったと思う。
武勲は国民にとって大事な物だけど。
どうして大事なのか、本当の意味をやっと分かったんだ。
命を残して、それでもたどり着く高みに、武勲はあった。
だから、焦ったボクはあの娘を亡くしたんだって、今はそう思うんだ。

516二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/08(日) 00:30:41 ID:i0Y8dC7I
「ありがとう」
らしくない、言い方でした。シヴィルは故人を悼むより、感謝を選びまして。
「いいよ。今はナンナがいる」
「忘れきれる?」
エルヤには鼻で笑うような、――気持ちはそうではありませんが――微笑がありました。
「無理。でも、忘れなきゃって思う。この前の事件からこっち、ちょっとは忘れたと思うよ」
シヴィルも、そしてエルヤも、思い出話を噛みしめるように、輝く三日月は二人の瞳にありました。
「やっぱ、あたしもあんたの事嫌いみたい」
「そっか」
「忘れることなんか無いんだ。それが成長するって事だろ。弱点を覚えてなきゃ強くなった事にならないよ」
軽く息を呑み、エルヤは一つうなずき。
「そうだね。そうする」
「前に進むんだから」
小さく、エルヤが笑いました。それは息ではなく、言葉を伴う微笑で。
「大尉は――」
「シヴィルでいいさ」
「シヴィルは、最速なんだよね」
「一応、ね」
困ったような笑みはシヴィルにありました。
なるためになった最速ではなく、結果的な最速だった。それを思い出し。今では誇りになる速度の称号です。
「前を見たいから?」
「誰よりも……今あるゴールに走るためかな? 普段は寝てる兎でも、起きたら追い抜くつもりでね」
「あは……。やっぱ似てるよ。ボクはね、誰の心配も背負って、潰される前に進むために」
「にひ。かもね」
「「嫌いは好きの裏返し」」
「似てるなぁ」
「あはは。ボクはシヴィルのこと嫌い」
だけど、そんな前置きで月を見上げるシヴィルをエルヤは見つめまして。
「それ以上に好きかも」
はは、そんなシヴィルの笑みには悪戯っぽくも、困ったようでもあり。
「恋愛は勘弁だー」
「ボクにはナンナが居るって」
「浮気も駄目だぞー?」
「こら、ボクは真面目に言ってるのに。そう言う意味じゃないよ!」
可愛らしい。そうシヴィルは思っていました。
恋愛感情ではなく、素直に悪くない。そう思っていたのです。


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