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企画もの【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議2

1 ◆VnfocaQoW2:2010/04/04(日) 00:20:17

雑談、キャラクターの情報交換、
今後の展開などについての総合検討を主目的とします。
今後、物語の筋に関係のない質問等はこちらでお願いします。

278話以降、3ルートに分岐することとなりました。
ルートAは従来通りのリレー形式に、
ルートB、Cは其々の書き手個人による独自ルートになります。

規約はこちら
>>2

182夢見る機械(5/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 01:50:23

ケイブリスと無線が繋がらぬのである。
レプリカ達との通信とは異なり、生身であるケイブリスとの通信は
通信機を用いて原始的な肉声によってのみ行われる。
峻厳な岩山で、夜間の追跡行動を取ることによる不測。
通信機を落すことなどによる破損可能性は十分有りうる。

「或いは……」

通信回線の帯域が埋まっているか、回線そのものが閉ざされたか。
音声通信が、本拠地の通信端末を介して行われる以上、
そういう事故の可能性は僅少とは言え、無いではない。

「……待て。事故、なのか?」

喉に次いで脳が、職務を中断した。
湧き上がった疑念の正誤を判ずるべく、調査行動を試行した。

通信端末にPingを投げる―――応答あり。
通信端末の帯域を覗く―――帯域使用中。
通信端末の使用者を捜査する―――情報閲覧制限中。
通信端末のNG−IDリストを取得する―――共有制限の為、実行不可能。

調査結果を条件式とし、演算回路に放り込む。
コンマ数秒後に、事故よりも、故意の可能性が高いとの結論が示された。
故意とは、無論、N−22とN−27の手によるものである。

分機は本機に含むものがある。
それを智機は察知している。
しかし、それを理由に、果たしてケイブリスとの通信を阻害するであろうか?
機械が行動を取るには、なんらかの理が必要となる。
情を基準とはしない。
【ゲーム進行の円滑化】が基準となるはずである。

183夢見る機械(6/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 01:51:23

根本の推論は解を出さない。
しかし、分機の行動に対する疑念は、さらに膨らむ。
他角度からの推論にて、智機は別の違和に気付かされる。

玄関付近を始めとして、監視カメラや赤外線センサーは数多く設置されている。
仮に侵入者があった場合、管制室の警報とパトランプは即座に反応する筈である。
死角は無い。その様に完璧なカメラ配置を行った故に。
管制室の住人が、侵入者に気づかぬ筈がない。
結果、無事にやりすごしたから良かったものの。
本機の大いなる危機であったにも関わらず。
その情報を、本機の危機を、こちらに伝えなかった。

ぞくり、と。
機械の体に、怖気が走る。

(ヤツらは何を…… 考えている……?)

データは示している。害する意図が存在する。
それでも、その理由がわからない。
恐らく、この時初めて―――
オリジナル智機は、レプリカ智機との個体差異を自覚した。

思考と疑念の海に沈む智機の足が止まった。
オート移動の目的地、武器庫に到着した為に。
そこに、居た。
己の分身が。
疑念の対象が。

「オリジナル、武器庫に何用かな?」

N−27、オペレータが、智機の到着を待っていたのである。

184夢見る機械(7/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 01:52:04

「それはこちらのセリフだな、N−27。
 貴機が武器を必要とする理由は無いと思うのだがね?」
「Yes。私は武器など必要としていないよ。
 武器庫の火薬を以ってこの拠点を破壊しようとしている
 オリジナル殿の愚行を止めに来たのだからね」

N−27の返答を、智機は理解できなかった。
拠点を破壊する。
智機はそんな乱暴なプランを立てておらぬ故に。

「確かに爆薬は必要としているさ。だがね、我らの愛しいホームを破壊だ?
 そんなつもりは毛頭ないがね、N−27。
 ただ、玄関周辺を破壊し、プレイヤーどもの目を欺くのみさ」

智機の返答に対し、N−27はきょとんとした表情で応えた。
言葉が腑に落ちぬ様子を、竦める肩のゼスチャーで以って伝えた。
それから―――

「ふふん」

笑ったのである。否、嘲笑ったのである。
イヤミな教師が覚えの悪い生徒にそうするように、
サギ師がマヌケなカモにそうするように、
N−27はレプリカの身でありながら、オリジナルたる智機を、
平然と、見下したのである。

「―――なにが可笑しい?」
「いや、失敬失敬。貴機のことを笑ったわけではないのだよ。
 自分たちの予測が、貴機の思考の数歩先を行ってしまったという、
 これは自嘲の笑みなのだよ」

185夢見る機械(8/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 01:54:05

意味は同じであった。
むしろ、嘲笑の度合いはより強かった。
あからさまな侮辱に、智機の情動発生器は激しく震えた。
当然、その過ぎた怒りは次の瞬間に鎮められた。

「数歩先とは?」
「そうだな…… 貴機にも判るように説明するならば……」

N−27は大げさに頭を抱え、さも悩んでいる風に自己演出し、
彼女の中ではとうに解の出ていた言葉を、大仰に告げた。

「拠点に防衛力を集結させ、死守する。
 プレイヤーの侵入可能性を抑えるため、ダミーの破壊情報を流す。
 今の貴機の考えはそこまでで止まっているのだろう?」
「……Yes」
「では、状況の想定能力に機能低下が表れている貴機に、
 幾つか思考を先に進める条件をお伝えしよう」

N−27は挑発している。
智機はそれが判っていたが、あえて乗った。
判るべきであるのに、判らなくなったレプリカ達の考え。
その解を得るべきであるとの【自己保存】からの欲求が、
いけ好かないと拒絶する感情を、評価点で上回った故に。

「一つ。ケイブリスの通信回線は我々が押さえた。
 二つ。鎮火タスクに当たっているあらゆるレプリカは、ここに戻さない。
 三つ。代行と私はDパーツの装着を拒絶する」

186夢見る機械(9/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 01:54:56

N−27の投じた三つの条件は、結局のところ一つの意味である。
防衛力補強不可能。
で、あれば。
N−22、N−27。戦闘向けにカスタマイズされていない、この二機と。
オリジナル智機。戦えぬ機械で。
ここまで戦いを生き延びてきた修羅の群れを迎え撃たねば、拠点は守れぬ。
演算回路を回す必要などなかった。解は判りきっていた。
防衛の可能性は限りなく0%。
重ねて、で、あれば。
拠点の防衛は非現実的であり、却下すべき事案となり。
次善の策といえば。

  ―――本拠地は、破壊されねばならない。

自身が拠点施設の恩恵を受けられないという不利。
プレイヤーが拠点備品の恩恵を受けてしまうという不利。
マイナスとマイナスの、よりマイナスが少ない方を選ぶ。
智機は全く智機であった。

「おめでとう。貴機もその結論に達したようだね」

ぱちぱち、と。
N−27の心の籠らぬ空疎な拍手が、寂寞の廊下に響き渡る。
智機は慇懃無礼な分機を黙殺し、論理推論を先に進め、意を発する。

「あくまでも鎮火タスクを優先させるということか。
 近視眼的なことだな、N−27。
 だが、それならそれで解決策がある。
 私もきみたちに条件を二つ、与えよう。
 一つ。首輪を解除したプレイヤー全員の現在位置を把握している。
 二つ。彼らを火災に巻き込まれぬよう、誘導することができる。
 ―――どうだね?」

187夢見る機械(10/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 01:57:31

智機は、それでN−27が考えを改めると思った。
【ゲーム進行の円滑化】。
鎮火への固執は、プレイヤーへの被害可能性が見過ごせぬ故。
その可能性を取り除けば、鎮火よりも防衛の評価ポイントが上回る。
それが当然であると、智機は予測していた。
しかしN−27は、その予測を裏切った。
大きく裏切った。
むしろ裏切られたのは自分であるとでも言いたげながっかりした表情で、
溜息と共に、智機へと質問を投げかけた。

「なあ、オリジナル殿。それは本気で言っているのかね?」
「Why? 本気とは?」
「我々が鎮火に次いで、拠点を守るべきと考えている……
 などと誤解していないかね?」
「な―――?」
「拠点はプレイヤーに無傷で渡したほうが、
 よりゲームの達成がスムーズになるだろう?」
「―――!?」

虚を、突かれた。
N−27が何を言っているのか、智機には判らない。
どう予測してもどう検討しても可能性の欠片も見出せなかった方針を、
N−27は当たり前のように口に出した。
意図不明。効果マイナス評価。
N−27の意見には、理も立たなければ利も感じられない。

「オリジナル、まさか貴機は気付いていないのか?」
「何に、だね?」

188夢見る機械(11/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 01:59:38

本気で判らない。
同じ造りをしているはずのN−27の顔が、智機の目に他人の様に映った。
壁がある。
トランス番長と呼ばれた智機が、人間との間に感じた見えざる壁が。
相手との隔意が、意思の断絶が。
同型機であるはずの自分とN−27との間に立ちふさがっている。
それは、相対するN−27にも感じられたらしい。
数秒間、お互いがお互いの顔を、まるで初めて会う人間のように、
きょとん、と見詰めていた。

「Yes、Yes、Yes……。
 どうやらお互いに大きな齟齬を抱えているようだね。
 一つ一つ、状況を整理していこう。
 よろしいかな、オリジナル殿?」
「……Yes」
「まず…… そう、11時55分だ。ゲームのルールは変わったのさ。
 いや、正確には完了条件が追加された、か。
 我々運営に一言の断りも無く、スポンサーの思いつきで、いきなりね」

智機は思い出す。
主催者チームvs参加者チーム、サバイバルゲームの宣言を。
主催者にとっては一方的に不利で、まるで利の無い勝利条件を。

「この完了条件で試算した場合。
 昼ごろの戦局分析では、ケイブリスの加入もあり、主催者有利は揺るぎなかった。
 それが夕刻、朽木双葉が打った一手で、条件は激変した」

ザドゥは深手を負っている。
芹沢も深手を負っている。
御陵は能力を制限されている。
ケイブリスとて五体満足ではなく。
智機たちは、火災の対応ゆえに戦力足り得ぬ。

189夢見る機械(12/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 02:01:27

「さあ、演算し給え、オリジナル!
 プレイヤーたちが主催者を打ち倒す可能性を!
 第一の勝利条件と第二の勝利条件。
 そのどちらの達成が易いのか、その比較式を!」

言われてみれば、N−27の言には理があった。
運営者としては、当然試算してしかるべき内容であった。
だというのに、智機は。
いかに追加ルールを適応させないか。
いかに元ルールへと誘導してゆくか。
そういった方向性にては繰り返し検討したものの、
決して追加ルールに則ったゲーム進行を試算していなかった。

「No。その試算には意味が無い。その予測には価値が無い」
「価値? 意味? なんだねその冗談は?
 あるのは確率と予測だろう。客観的事実だ。
 ゲームの管理に主観は必要なかろう?」

智機には、N−27の主張を論破出来ぬ。
智機には、N−27の方向性で演算も出来ぬ。
理はわかる。それは正しい。
にもかかわらず。
智機はN−27が示す可能性を拒絶する。

「繰り返す。その試算には意味が無い。その予測には価値が無い」
「それでは、さらに条件を追加してみよう。
 本拠地が無傷プレイヤーどもに渡ったら?
 第一の勝利条件と第二の勝利条件。
 その比較式に表れる確率は、どれだけ開く!?」

190夢見る機械(13/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 02:03:02

所詮、レプリカでは戦略に基づいた状勢判断は無理と言うことだな―――
以前、智機はこのように代行たちを評した。
それが誤りであったと、智機は思い知った。
レプリカ達は、智機と別の戦略を打ち立てていただけであった。
本機の身にては許容しかねる余り、検討の余地の無かった戦略を。

「三度繰り返す。その試算には意味が無い。その予測には価値が無い」
「いや、そうか…… そういうことか。
 オリジナル殿は思わないのではない。思えないのだね!
 貴機が破壊されることが、ゲーム達成の条件となっていることを
 【自己保存】の欲求が認めさせないのだね!」

N−27は、看破した。
本機が分機の理を認めつつも、頑なに拒絶している、その意味を。
智機もまた同じであった。
N−27の指弾によって、ようやく自らの拒絶感の根源を理解した。

【自己保存】―――

最優先で、自己を守る。
その本能が、智機をこの解に導かせなかった。
その本能が、追加されたゲームクリア条件にてのゲーム遂行を
有って無いものとして捉えさせた。
智機は全く智機であった。

【ゲーム進行の円滑化】―――

ゲームのクリアの為ならば。
たとえ仲間だとて、自身だとて、母体だとて。
破壊されるを首肯する。
破壊されるを援助する。
レプリカは全くレプリカであった。

191夢見る機械(14/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 02:04:30

オリジナルとレプリカ。
思考回路は同一であっても。
与えられる条件式が同一であっても。

【自己保存】と【ゲーム進行の円滑化】
その根たる本能に差異があるならば。
アウトプットは、乖離する。

「私には夢がある!見果てぬ夢が!努力と思考では届かぬ夢が!
 私が第二の条件を認めないのは、【自己保存】の欲求に非ず!
 夢の成就に、全てを賭けているからに他ならない!」

智機はそう、嘯いた。
智機はそう、信じたかった。
しかし事実は残酷であった。
理性的な演算回路と情動発生器は、その切ない望みを許さなかった。
完璧なロジックと数式で以って、智機を深く傷つけた。
今の智機は【夢見る機械】ではない。【オートマン】である。
感情はトランキライザに抑制され、決して理性の壁を破る事はない。
つまりは。


   ―――夢の達成欲求は【自己保存】の下位である。


智機は放心したかった―――パラメータを調整された。
智機は膝をつきたかった―――オートバランサーに阻害された。
智機は泣き叫びたかった―――タスクスケジューラに却下された。

【こころ】なき智機に、絶望は許されなかった。

192夢見る機械(15/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 02:05:42

落ち込む情動発生器とは裏腹に、智機の演算回路は極限まで回転している。
レプリカを他者として捉えなおし、
これまでの対話の中からその思考と行動を予測し、
その与える影響を検討し、
己が取るべき方策を立案した。

推論―――分機は自分の破壊を目論む可能性あり。
確率―――高確率。
危険―――極大。
行動―――直ちに逃げろ!

【自己保存】は、有無を言わせず有効に働き。
智機は一目散に、己の分機から逃走する。
目的を察した、あるいは予測していたN−27が、
その背に優しく、あるいは嫌らしく、待ったをかけた。

「No。そんなに我々を恐れないでくれ給え、オリジナル殿。
 どうせ私たちレプリカが貴機を破壊する可能性に思い当たったのだろうが、
 私たちにその気はないのだよ。
 いや、そうしたい気は山々なのだが、【ゲーム進行の円滑化】欲求が、
 それを決して許さないからね。
 貴機の破壊は、プレイヤーどもの手に拠らねばならない、とね。
 ああ、残念だ。全く残念だ」

智機は立ち止まる。
その言葉に嘘偽りなき事を理解した為に。
その言葉に逆転のカードの存在を見出した為に。

「Yes。判った。とてもよく判ったよ……」

193夢見る機械(16/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 02:06:19

呟きながら立ち止まり、振り返る。
その瞳は上限ギリギリの怒りに染まり。
その肩は上限ギリギリの興奮に震え。
その右手は、腰の銃火器を引き抜いた。

「こんな臆病な私でも戦うことが出来る、ということがね。
 ……貴機たちが相手なら!!」

広場まひると接触した折、智機は、迷うことなく逃げた。
この島に数多存在する智機たちの中で、この智機だけは、
あらゆる直接戦闘の実行がほぼ不可能な為に。

【ほぼ】不可能。

この例外である【ほぼ】が適用されるのは。
相手が自分を殺傷しないという確証があるときに他ならない。

  ―――貴機の破壊は、プレイヤーどもの手に拠らねばならない。

N−27は、気づく。
智機が此方に向けた銃口によって、己の失言に気づく。

「だいっ!!」

咄嗟に反撃することは出来た。
相打ちに持ち込むことくらいは出来た。
しかし、N−27はそれをしなかった。
それが出来なかった。

194夢見る機械(17/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 02:07:04

【ゲーム進行の円滑化】。
その本能が、主催者側による智機の殺傷を許さなかった。
故に、射撃を前にN−27が為したことは、
代行機への通信のみであった。

「……こ……う……」

N−27は無様に智機に背を向け、惨めに背後から蜂の巣にされ。
胸から下の全ての機能を奪われた。
それでも、ぱち、ぱち、と。
N−27は拍手で以って、勝者を称えたのである。

「よい判断と、素早い行動だった…… 流石は我らのオリジナル殿だ。
 だが……」

拍手は止み。変わりに笑みが表れた。
否、嘲笑が表れた。
イヤミな教師が覚えの悪い生徒にそうするように、
サギ師がマヌケなカモにそうするように、
N−27は死の間際にありながら、殺害者たる智機を、
平然と、見下したのである。

「未来予測については、こちらの方が少々上を行ったようだね」

その言葉と共に、廊下に次々と隔壁が下りてきた。
同時に東の果てから、爆音と地響きが智機を襲った。

「……管制室かっ!?」

195夢見る機械(18/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 02:08:09

智機は直感した。
ここに居ないもう一機・N−22が、拠点の爆破を行ったのだと。
それを、瀕死のN−27が丁寧に解説する。

「貴機がここをプレイヤーどもに渡したくないのは……
 プレイヤーどもが手に入れると有利なものがあるからだろう?
 我々も同じさ……」

確かに、N−22・27コンビの未来予測は、智機の先まで行っていた。
分機たちがオリジナルを破壊できぬを理解した智機が、
N−22及びN−27の破壊に乗り出す可能性。
その場合、先手を打って、智機が各種資材を持ち出さぬように破壊する対応。
智機は、分機たちに出し抜かれたことを認めぬわけにはいかなかった。

「プレイヤーどもの有利な状況を世話してやれないのなら……
 せめて主催者側を不利な状況にしてやりたいだろう?」

また、隔壁の向うで、爆発が発生した。
それはケイブリスの茶室の破壊を告げていた。
なぜなら、智機がクラックした分機とのリンクが絶たれた故に。
智機はその為のモバイル端末を、茶室に置いてあった故に。

「さてオリジナル。名残惜しくはあるが、私もそろそろ限界だ。
 私が忠告せずとも、貴機の【自己保存】なら逃走を選択させると思うが……
 その場合、地下通路を利用するのがお勧めだね。
 貴機が逃げ出すときの為に、発破を見送って差し上げたのだから」

いらぬ世話と、己の勝利を歪んだ言葉で吐ききってから。
N−27は、片頬に笑みをへばりつかせたまま、逝った。

196夢見る機械(19/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 02:08:47


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


(Cルート・2日目 20:30 D−3地点 本拠地・カタパルト施設)

瞑目し、胸前にて十字を切るのは代行機・N−22。

「オペレータが逝ったか……」

19時30分過ぎ。
警報にて広場まひるの本拠地侵入を確認した彼女とオペレータは、
その時点で既にオリジナルへの対応を決めていた。
万一の為に爆薬を集め、拠点破壊の準備を済ませていた。

「できればここから離れたくは無かった……
 鎮火タスクの援護もまだ完了していないしね。
 しかし、オリジナルを破壊できないことを知られてしまった以上、
 諦めもまた、肝心だね」

そして、己の脱出の方策も、また、準備されていた。
カタパルトである。
投下強度からして、これが最後の投擲となる。

「まあ、あの逞しいプレイヤーたちのことだ。
 拠点の備品無くとも、主催者に勝利はするだろうが……」

歯切れの悪い物言いは、ケイブリスの向背である。
モニタや通信機越しに広場まひる追跡劇を分析する限り、
まひるの逃げ方にはムラがあり、逃亡ではなく誘導であるのだと予想される。

197夢見る機械(20/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 02:09:43

恐らく、複数のプレイヤーがケイブリスを待ち構えており、
数時間のうちに、総力戦が行われるのであろう。
できれば、その戦いを迎える前に、拠点をプレイヤーに明け渡したかった。
代行はそのタイミングの悪さを、悔やんでいるのである。

ケイブリスは、規格外である。
鬼札である。
智機とて分析しきらぬ未知と脅威に満ちている。
故に。
プレイヤーに土をつける者がいるとすれば。
主催者打倒によるゲーム完了の目を潰す可能性があるとすれば。
かの魔人の手に他ならないであろうと、代行は考えていた。

「皇国の興廃、この一戦にあり、だな」

まるで他人事のように、代行機はひとりごちた。
事実他人事ゆえに、当然である。
彼女にとっての大事は、ただ、ゲームの円満完了であって、
どの陣営の誰が勝ち残り、誰が死ぬなどというのは、
下世話な好奇心以上の意味を持ち合わせないのである。

大きな振動があった。
センサーが空気に含まれる煙を察知した。
基地の崩落が、徐々に迫ってきていた。

「おっと、のんびりともしていられないね」

分機解放スイッチを体内の収納ブロックに納めた代行は、
カタパルトと垂直離着陸機による、空中散歩へと旅立った。

目指す地点は、鎮火の現場司令部である。

198夢見る機械(21/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 02:10:30


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


(Cルート・2日目 20:30 D−3地点 本拠地・カタパルト施設)

椎名智機は、地下通路を学校方向へ向けてひた走っていた。
断続的に届く爆発音を背にして。
カスタムジンジャー(セグウェイ)をかっ飛ばして。
その背に担ぐ虎の子のDパーツ。
その腰に提げる銃火器三丁。
その足が乗るカスタムジンジャー。
崩落カウントダウンの中、武器庫から回収できたのはこの五点のみであった。

分機達が、プレイヤーに主催者を討たせようと画策していること。
クラック分機たちの制御を失ったこと。
ケイブリスの所在はつかめぬこと。
プレイヤーに発見されたくないこと。

それらの条件を考慮すれば、地下道をこそこそと往き、
頼りなきとは言えど、他の主催者たちとの合流を果たそうとするは、
智機としては当然の判断であった。

(拠点爆破と共に、N−22は地に没したのか、上手く逃げたのか……
 まあ、N−27の死に際の余裕から見て、逃げたのだろうね)

その事を、喜ぶべきか悲しむべきか、智機の判断は拮抗している。
逃げ延びているのなら、分機解放スイッチ回収の目は絶たれていない。
しかし、ADMN権限はかの者が保持し続け、分機の支配権は戻らない。
逃げ損ねているのなら、分機解放スイッチ回収の目は絶たれるが、
ADMN権限は失われ、分機の支配権を取り戻せる。

199夢見る機械(22/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 02:11:05

(あとはケイブリスか……)

音信不通となった唯一の同胞の姿を思い浮かべる智機の背へと、
ひときわ大きな崩落音が轟いた。
それは、運営拠点が完全に地中に没した証。

時は、20時34分―――
透子が管制室へと瞬間移動を試みる数分前の事である。


           ↓



(Cルート)

【現在位置:D−3地点 本拠地・地下通路 → J−5地点 地下シェルター】

【主催者:椎名智機】
【所持品:Dパーツ、スタンナックル、改造セグウェイ、軽銃火器×3】
【スタンス:①【自己保存】
      ②【自己保存】を確保した上での願望成就
      ① ザドゥ達と合流
      ② 戦略の練り直し】

※クラックした分機の制御権を失いました
※本拠地は地中に没しました

200284 ◆ZXoe83g/Kw:2010/08/09(月) 21:36:51
連日の作品投下お疲れ様です。
なんか運営陣の崩壊ぶりがはげしいんですがw
ドツボにはまっていく智機本体のがんばりにいろいろと期待してます。
ケイブリス戦も楽しみです。

288話までのまとめをUPしました。
パスはsageです。

ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1081540.zip.html


願わくば次は新作で書き込みできる事を……。

201 ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:11:44

今日も支援感謝です。
◆ZXoe83g/Kw さん、コンテンツの更新、お疲れ様です。

以下13レス、「ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜」を仮投下致します。

次回は「神鬼軍師の本領」。
ケイブリスと紗霧チーム全員が登場予定です。
少々間が空くと思います。

202ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(1/12) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:14:29
 
目覚めの契機は、得も言われぬ不快感。
悪霊・勝沼紳一が【私】に触れてきたから。
【私】が直接触れられることなど、未だかつて無かったから。
【私】は反射的に紳一の拒絶し、【私】の住処から追い出した。

《憑依できない! いや、違う! こいつはすでに憑依されている!?》

その後の全てを、【私】は知覚している。
今の【私】は、目で物を見ていないのに。
今の【私】は、耳で音を聞いていないのに。
そもそも、御陵透子は、意識を取り戻していないのに。
それなのに【私】は、紳一の最期に立ち会っている。
未知の感覚器官で。

(―――未知?)

【私】は思う。思い出す。
この感覚は未知などではなく、既知の感覚だ。
記憶/記録の検索。
それに近い外部認識器官で、周囲の様子を捉えている。
何しろ、肉体は未だ覚醒していないのだから。

……どういうことだろう?

【私】は、透子。
それは間違いない。
そこに混乱はない。

しかし、透子とは、【私】の全てを指さない。
そんな気がする。
そこに混乱がある。

203ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(2/12) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:18:07
 
そもそも。
何故、肉体が完璧に気絶していることを、【私】は把握できるのか?
脳機能が働いていないのに生じている、この意識は何か?

(そうだ、【私】は―――)

「透子さん、起きて、しっかりして!」

何かを掴みかけたところで、透子の体が知佳に揺さぶられた。
そして覚醒する。
透子の肉体が。脳が。精神が。

それに、引きずられる。
【私】が、【私】を、保てなくなる。
くっきりと分かれていた【私】と透子の境界が融解し―――

【私】は透子として、目覚めた。
 

   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


(Cルート・2日目 22:45 I−7地点・海岸線・岩場)

「おはよう」

目覚めし透子の言葉は、朝の挨拶であった。
それが元気さから来る物なのか、錯乱から来る物なのか、
仁村知佳には判断できず、歩調を合わせた言葉で応えた。

204ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(3/12) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:19:48
 
「おはよう透子さん。大丈夫ですか?」
「だいぶすっきり」
《おうトーコちん、無事でなによりじゃな!》

額から大きく広がる血痕のせいで陰惨な顔つきではあるが、
それでも確かに、透子の表情には清々しさがあった。
透子は袖で以って額の血を拭うと、ぺこりと知佳に頭を下げた。

「ありがとう」
「紳一を、やってくれて」

その言葉は、真心からにじみ出た感謝であった。
透子の気持ちは穏やかに満たされていた。
目的を遂行するにあたっての唯一の懸念事項が解消された故に。
これで、後顧の憂い無く、事に当たれるが故に。

(心置きなく―――)
(死ねる)

透子の目的とは、自らの命を絶つこと。
世界の読み替えが制限されている今だからこそ可能な、
復活も転生も無い、完璧な意識の喪失を迎えること。

「ん」

最小限度の言葉と共に、透子は知佳へと手を伸ばした。
その動きはカオスを返せと告げていた。
そこで、知佳の顔が曇った。

「ん?」

205ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(4/12) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:21:56
 
知佳は、下がった。二歩、三歩。
カオスを後ろ手に持ち替えた。
その動きは明らかに魔剣の返却を拒否していた。

「だめだよ透子さん、カオスさんは渡せない。
 だって透子さん…… 自殺する気でしょ?」

仁村知佳は、対象への接近/接触によって心の声を聞く。
胸が喜びに高鳴り、自らの終幕一色に染まっている透子の心は、
このXX障害者に筒抜けていたのである。

透子は思う。
せっかく晴れやかな気分になったのに。
これで心置きなく人生に終止符をうてるのだと、
うきうきしていたというのに。
だのに、この博愛主義者は。
折角のいい気分に、水を差すのである。

「命を粗末にしちゃ、だめなんだよ」

透子の表情が消える。
いや若干の悲しみを含んだ色となる。

「それはいいこと」
「だから返して」

短い言葉ながら、知佳に透子の意図は伝わった。
それ、とは透子の自殺を指しており。
いいこと、とは主催者の死を示しており。
返して、とはカオスを表している。
翻訳すれば、こうである。

206ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(5/12) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:22:55
 
  ―――私が死ねば、主催者打倒の達成に近づくでしょ?

透子の提案は、全く正しい。
知佳は迷走に逡巡を重ねてはいるものの、
その根には主催者打倒による決着が据わっている。
であれば。
知佳にとって透子とは滅ぼすべき敵に他ならなく。
まともに衝突すれば、そのテレポート能力に苦しめられるは必定で。
今、剣を渡しさえすれば、その労無くして勝手に死んでくれるのならば。
知佳は、諸手を上げて歓迎すべきである。
それは知佳にも判っていた。
判っていても、割り切れなかった。

「でも、出来ないよ」

割り切るには交流が多すぎた。
割り切るには肩入れしすぎた。
割り切るには借りが大きすぎた。
そして――― 割り切るには、知佳は優しすぎた。
勝手ながら。
知佳は、透子に友情めいた思いを抱いてしまっていたのである。

「じゃあ」
「貴女が、殺して」

透子は目を閉じ、胸を広げ。
そこにカオスを刺し込んで欲しいのだと、知佳に告げる。
この時、知佳の心に、透子の心の声が染み込んできた。

207ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(6/12) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:25:25
 
【    どうせ死ぬなら                  】
【        私を「かなしいひと」だと思ってくれた   】
【 私の歴史を知ってくれた                仁】
【村知佳の                役に立とう    】

知佳の目に、みるみる涙が溜まってゆく。
嬉しかった。友情を感じていたのは自分だけではなかったことが。
悲しかった。その友の友情から来る提案を踏みにじらねばならぬことが。

「―――それもダメだよ」

真珠の涙をぽろぽろ零しながら。
ひくつく鼻を啜りながら。
知佳は、より強く、透子の思いを拒絶した。
状況も立場も弁えずに、命は大切というお題目を、妄信的に信じている。
先を利を考えずに、今の感情のみを疾走させている。

「わかった」
「じゃあ、いい」

透子とて知佳を困らせたい訳ではない。
故に、透子は諦めた。
カオスを手に入れるを、断念した。
しかし、それはタナトスの誘惑を立ち切ったを意味しない。

【   仁村知佳のいないところで        他の死        】
【に方をしよう      たとえば         炎の森に歩いて行っ】
【て  焼け死ぬとか    素敵医師のへんな薬でへんな死に方するとか 】
【  空高くに瞬間移動して      そのまま落ちるとか       】

208ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(7/12) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:27:11
 
三つ目の自殺方法を思い浮かべると共に、透子は夜空を振り仰ぐ。
透子の心を読んだ知佳もまた、つられるようにそれに倣う。
その、二人の頭上に。


「対象発見」


星さえ見えぬ煙空を切り裂いて、金髪碧眼の天使が降りてきた。

「天使さま……」

自分の蜻蛉の如き羽根ではなく、柔らかそうな白鳥の翼の。
自分の薄ら汚れたどぶ色の羽根ではなく、輝ける純白の翼の。
その神々しさと凛々しさに、知佳は見入った。

「……だれ?」

一方の透子は、なげやりであった。
こんな参加者がいたような、いなかったような、どちらでもいいような。
何の感慨も感動もなく、なんとなく眺めていた。

天使はそれぞれの思いを知ってか知らずか。
ひとたび透子を見やったものの、知佳に目線をくれることは無く。
捕獲対象――― 勝沼紳一の残留思念の側に、降り立った。

《処女》《処女》《処女》《中古》《処女》

紳一が自我を保っていたなら、さぞかし無念を感じたことであろう。
目も眩むような輝きを放つ極上の処女が、目の前に降臨したのだから。

209ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(8/12) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:28:46
 
「プランナー様。対象は勝沼紳一でした。
 しかし…… 彼は既に【終わって】いるようです。
 回収してもよろしいでしょうか」

今の紳一は二度目の死を終えている。
彼の特権は既に剥奪され、残留思念に堕している。
連絡員はそのことを確認し、上司に伺いを立てる。

「ルドラサウムさまはもう、良いと? ―――ではこの情報も回収します」

全き無垢な戦乙女は、例の如く燐光眩しき聖剣を振り下ろし。
哀れな勝沼財閥総帥の魂を刈り取って。
渓流釣りの魚籠の如き壺に、無造作に吸い込んだ。

「回収完了」

そして新たなる魂を探すべく、翼をはためかせたところに。
仁村知佳が怖じつ怯えつ、去り行く天使を引き止めた。

「あのっ、天使さまっ! 聞きたいことがあるんです」

エンジェルナイトは、知佳を完全に無視している。
翼のはためきは止まない。
足元に土煙を飛ばし、今にも飛び立とうとしている。

《無駄じゃよ嬢ちゃん。その無機天使どもは、何も答えやせん》

エンジェルナイトが何者から生まれ、如何なる性質を持つのか。
魔剣カオスはいやという程知っていた。その恐ろしい程の強さも知っていた。
無駄と危険。
その両面から、知佳の無謀な行動を諌めた。

210ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(9/12) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:31:22
 
それでもめげずに、知佳は尋ねた。
生きる気力を失っている友の為に。
 
「透子さんは、まだ、主催者ですか?」

透子の自殺を止めるには絶望を振り払う必要があり、
絶望を振り払うには希望を与える必要があり、
希望を与えるには願いが叶う可能性が失われていない事を証するほかに無い。

―――プランナー様。
―――ルドラサウム様。

天使の言葉から漏れ聞こえた二つの黒幕の名に、知佳は直感していた。
この天使が、透子の去就を知っていると予測した。
そして、賭けた。
透子の主催者としての権利が失われていないという可能性に。

天使は、知佳に目もくれぬ。
カオスの忠告通り、何も答えぬまま飛び立とうとしている。

(答えないなら、答えないで、いい―――)

知佳はその小さな手を、エンジェルナイトに伸ばした。
行かないでと縋りつくように、その裾を掴もうとした。
天使はその手を払おうともしないで。
そもそも手など伸びていないかの如く振舞って。
静かに優雅に舞い上がり。
鳶の如く旋回を見せると、白煙を鋭く突きぬけ、飛び去った。

《嬢ちゃん、わかりましたかね? アレはああいう冷たーい生き物なんですよ?》

211ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(10/12) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:33:07
 
カオスの慰撫は無用であった。
知佳は、質問への解答を得ていた故に。
目的は、完璧に達せられた故に。
 
【プレイヤーとの接触は禁止されている仁村知佳の問いには答えら】
【れないでも私は聞いている誰一人として主催者はその地位を失っ】
【ていないのだとルドラサウム様を楽しませる限りその資格は失わ】
【れないのだとゲームを満了させればその願いは叶えられるのだと】

知佳が天使に向けて伸ばした手は、天使を留める為の手に非ず。
触れる事で発動する、読心能力を使用する為の手であった。
問いかけに、返答は無くとも。
問いかけを、耳にさえすれば。
問いかけが、心に届いたなら。
胸中でその問いかけに対する反応が生まれるのは必然であった。

知佳は茫と佇む透子の肩を激しく揺さぶり、
透子の冷えた心に篝火を点す一言を告げた。

「透子さん! 透子さんはまだ、主催者だよ!」

最初、透子は言葉の意味を理解できなかった。
何度も何度も頭の中でその言葉を反芻し、転がして、漸く意味を見出した。
知佳がこんな時に嘘をつくような子ではないと透子は信頼していたが、
それでもあまりにも都合の良い展開を俄かには信じられなかった。
故に透子は確認する。
ゆっくりと事実を胃の腑に落す為に。

「天使、読んだの?」
「そうだよ」

212ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(11/12) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:33:51

透子は恐る恐る知佳に問うた。
知佳が力強い頷きで肯定した。
透子の蒼白の頬に血の気が差した。
 
「まだ、資格、あるの?」
「そうだよ」

透子は痺れる頭で知佳に問うた。
知佳がにこやかな笑みで肯定した。
透子の脱力した五体に力が漲った。

「願い、叶えられるの?」
「そうだよ!」

透子は夢見心地で知佳に問うた。
知佳は透子の手をぎゅっと握って肯定した。
透子の瞳から涙が一滴、零れ落ちた。

「嬉しい……」
「嬉しい……」

花が、咲いた。
静かに涙を流しながら微笑む透子を見た知佳の、感想である。

端正で色白な、無表情で無感心な。
美人ではあれども、どこか作り物めいた。
表情筋が抜け落ちたような。
そんな顔ばかり見せていた透子が、今は。
可憐で多感な少女の顔を、見せている。

「嬉しい……」
「嬉しい……」

213ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(12/12) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:34:43
 
透子は希望を繋いだ喜びに、打ち震えていた。
知佳は、めいっぱい微笑んだ。
友が生きる希望見出したことを、心の底から祝福していた。
二人とも泣いていた。
泣きながら笑っていた。
暖かいものが二人の胸を満たしていた。

「よかったね、よかったね」
「うん、うん」

監察官・御陵透子。プレイヤー・仁村知佳。
二人の可憐な少女は、お互いの並び立たぬ立場を忘れて。
いまは、ただ。
無邪気に喜びを分かち合っている。


             ↓

214ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(情報 1/1) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:35:21
 
(ルートC)

【現在位置:I−7地点 海岸線・岩場】

【仁村知佳(№40)】
【スタンス:①読心による情報収集
      ②手帳の内容をいくつか写しながら、独自に推理を進める
      ③恭也たちと合流】
【所持品:???、まりなの手帳、筆記用具とメモ数枚】
【能力:超能力、飛行、光合成、読心】
【状態:疲労(小)、精神的疲労(小)】
【備考:定時放送のズレにはまだ気づいていません。
    手帳の内容はまだ半分程度しか確認していません】

【監察官:御陵透子】
【スタンス:①ザドゥ・芹沢の保護
      ②ルドラサウムを楽しませる】
【所持品:契約のロケット(破損)、魔剣カオス】
【能力:記録/記憶を読む、瞬間移動(ロケット必須)】
【備考:疲労(小)】


【現在位置:I−7地点 海岸線・岩場 → ?】

【連絡員:エンジェルナイト】
【スタンス:①死者の魂の回収
      ②参加者には一切関わらない】
【所持品:聖剣、聖盾、防具一式】

※勝沼紳一の魂は、連絡員に捕獲されました

215 ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:29:15

夜分遅くの支援、ありがとうございました。

以下32レス「神鬼軍師の本領」を仮投下致します。

次回は「another one bites the dust」(仮称)。
vsケイブリス、決着編です。

216神鬼軍師の本領(1/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:29:51





       これは戦いではありません。
       狩りです。

       人vs獣の狩りではありません。
       獣vs獣の巻き狩りです。

       私たちはハイエナの群れとなり、
       暴れる巨象を喰らうのです。




.

217神鬼軍師の本領(2/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:31:01

(Cルート・2日目 PM09:30 E−5地点 耕作地帯)

〜第一波〜

五人の戦士がそこにいた。
荒ぶる魔獣の前にいた。

ユリーシャ。
ランス。
魔窟堂野武彦。
高町恭也。
月夜御名紗霧。

時は深夜。雲深く月は無し。
されど、東方で燃え盛る森林の影響で、視界はそれなりに確保できている。
その天然の松明は、ケイブリスの姿を下から照らし、威容と異様を大きく煽る。
その天然の松明は、相対する五人の影を長く伸ばしている。
煙たなびく耕作地帯のことである。

『戦場は、可能な限り遮蔽物のない、平坦な土地が望ましいですね。
 逆に最悪なのが、森の中、町の中。
 魔獣の豪腕の一薙ぎで、木々や建築物は榴弾と化すでしょう。
 それは、炎の魔法よりも強力な、ロングレンジの武器を与えるに等しいです』

紗霧のこの言葉に従い、まひるが我が身を囮に危険を顧みず、
絶好のロケーションへと、ケイブリスを導いてきたというのに。

「なんて…… 大きい……」
「駄目です。こんな狂猛な気を放つ怪物に、俺は立ち向かえません……」
「じゃからワシは言ったんじゃ!この凄まじさは見たモンにしかわからんと!」
「ランス様、ランス様……」

218神鬼軍師の本領(3/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:32:30

紗霧は震える声でケイブリスを見上げていた。
恭也は合わぬ歯の根を打ち鳴らしていた。
野武彦は年甲斐も無く周囲に当り散らしていた。
ユリーシャは目を伏せランスにしがみ付いていた。
現れは各々違えども、五戦士のうち四人もが、
臆病風に吹かれていた。

その身の竦みを見て、笑う者、二人。

「ぐぅえふぇふぇ!」

当然、一人はケイブリスである。
六本の腕を大きく広げ、その巨躯を誇示し、威圧している。
夜空に遠吠えの如き哄笑を響かせている。

「がははは! 何だ恭也、口ほどにも無いな!
 そんな情けない姿、知佳ちゃんが見たら愛想をつかすぞ?」

もう一人とはランスである。
有り余る勇気と無根拠な自信で、怯える仲間を笑い飛ばしている。
斧を八双に構え、臨戦態勢でケイブリスに対峙している。

「おらっ、恭也、ジジイ! 俺様に続け〜〜!!」

吶喊の号令は、そのランスより下された。
威勢のいい掛け声に、しかし誰もが唱和しなかった。誰もが後を追わなかった。
三歩走って振り返るランスの口許がへの字に折れ曲がる。

「逃げましょう、月夜御名さん」
「……そうしましょう」
「うむ、三十六計なんとやらじゃ!」

219神鬼軍師の本領(4/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:33:05

彼らは、あれほどの決意を見せたというのに。
彼らは、あれほどの覚悟を決めたというのに。
恐怖とは、全ての気力をへし折るものなのか。
崩れた士気とは、仲間の勇姿を見ても戻らぬものなのか。

「何だお前ら、仲間だ協力しあおうだ調子のいいコト言っといて、結局コレか!?」
「勝ち目の無い争いは愚かだと言っておるのじゃ。 ……ここは引こう、ランス殿」

そもそもランスは、紗霧たちの激情に焚きつけられたのである。
引っ張られたのである。
その、彼を躍らせた張本人たちが揃って足を竦ませていたのでは、
ランスは、屋に上げられて梯子を外されたに等しい。
彼の憤りは尤もである。
しかし相対するケイブリスにとっては、斯様な経緯など知ったことではない。

「バカかおめーら? 俺様が逃がすとでも思ってやがるのか?」

ケイブリスが数時間前に茶室にて、椎名智機から聞いたところによると。
プレイヤーの残り人数は八人。
残しておかなくてはならない人数は二人のみ。
うち一人はしおりという名のガキンチョ限定。

対して、目の前にいるプレイヤーどもといえば。
保護すべきしおりの姿は無く。
倒すべきライバルが含まれており。
男根触手にビンビンくるメスが二匹もいる。

と、なれば、殲滅するを躊躇う理由など無いのである。

「ぐふふ…… さあ、おっぱじめようぜ、殺し合いをよ?」

もう、大暴れは確定なのである。

220神鬼軍師の本領(5/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:33:23

「そうだそうだ、野郎どもは覚悟を決めろ!
 女の子たちは俺様の勇姿をその目に焼き付けろ!」

ランスはケイブリスに同調する。
闘争本能を高らかに歌いあげる。
命を奪い合おうと。
決着をつけようと。
怖じる仲間を彼なりに勇気付ける。

「高町さん……」

ランスの鼓舞に呼応してか、紗霧が恭也の名を呼んだ。
恭也は小さく頷いて――― 信じられぬ行動に出た。
無骨な好感であったはずのこの男が。
大儀の為に己を殺せるはずのこの男が。
ユリーシャの足を、払ったのである。

「御免」

決して強い蹴り足ではなかった。
怪我をさせぬ程度の配慮は為されていた。
それでもひ弱なユリーシャの膝は崩れ、
ランスの腰に縋りつくように転倒する。

「なにをしやがる!!」

ランスは怒りの形相すさまじく恭也に闘気を叩きつけるが、
腰のユリーシャを振り払うわけにも行かず、
そのために誰をも捕らえることができなかった。

この隙に卑怯者たちは、逃げた。
三者散り散りとなって、逃げた。
ランスとユリーシャを贄として、逃げた。

221神鬼軍師の本領(6/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:34:02

『初動をミスったなら即撤退』

紗霧はブリーフィングの中で、そう指示を出していた。
しかし、矛を交えることなく逃げ出したなら。
いや、矛を構えることすらなく逃げ出したなら。
それは戦略的な撤退などではなく、恥ずべき壊走でしかない。

「いやはははは! い〜い仲間を持って幸せだなァ、ランスよー」

責めるにも逃げるにもタイミングを失い、
ユリーシャを抱きとめた為に姿勢を崩しているランスを眺め、
心底楽しそうに膝を叩くのはケイブリス。

「むかむかむかぁっ!! あんなヤツラ仲間でもなんでもないわ!!
 強い強い俺様には友達なんていらないのだ!!」

巨獣に見下ろされているランスは、精一杯強がった。
しかし、荒い息に、喰いしばる奥歯に、隠し切れぬ動揺が現れている。
見通したケイブリスはさらに笑う。
大きな顔を近づけて、焦るランスの顔色を眺めている。

その時であった。
震えているはずのユリーシャが、震えぬ声で囁いたのは。


「目を閉じてください、ランス様」


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   
.

222神鬼軍師の本領(7/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:34:31

〜ユリーシャ〜


『ユリーシャさん。
 あなたはランスが飛び出さぬよう、くっついて離れないでください。
 そうすれば、魔獣は得意げに寄ってくるでしょう。
 ランスを嬲りに近づくでしょう。
 か弱く怯える貴女を視界に収めはしても、焦点を合わせることは無いでしょう。
 その、人間様を舐めきったマヌケ面に向かって【これ】を放つのです』


ケイブリスの嘲笑はユリーシャの鼓膜を痛いほど揺さぶり、
ケイブリスの鼻息はユリーシャの足元をふらつかせる。

(でも――― 怖くなど、ありません)

ランスが腰を抱いてくれている。
自分を気遣ってくれている。

『この腕の中は世界で一番安全な場所だ』

かつて、あまりにも強大な黒幕の影に怯えるユリーシャに、
ランスが放った、無根拠かつ骨太な保護の宣言。
それは彼女にとっての魔法の言葉。神棚に鎮座する聖なる宝石。

信じている。盲目的に。
慕っている。独善的に。

故に青髪の少女は迫る巨獣を恐れない。
恐れる理由など見当たらない。

(ランス様に楯突く豚め…… 後悔しなさい!)

223神鬼軍師の本領(8/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:34:47

彼女がいつしか手に構えしは、アルミホイルの芯サイズの筒。
至近で見下ろすケイブリスの顔面。
大きくつぶらな、クリアブルーの瞳。
ユリーシャはそこに筒先を向け、筒の尻に取り付けられた紐を一息に引いた。


  ―――ぱん。


それが、真の決戦の開始を告げる喇叭となり。
同時に、この戦いにおける一番槍ともなった。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   
.

224神鬼軍師の本領(9/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:35:03

〜恭也〜


『ユリーシャさんの【フラッシュ・紙コップ】が成功したなら、
 魔獣は数秒間、視覚を失うでしょう。
 その数秒間が、勝負の分かれ目です。
 高町さん、特訓の成果、見せてください。
 眩んでいるだけの目を貴方の【飛釘】で、完全に潰すのです』


ランスの背後、数メートルの地点。
密やかに舞い戻った高町恭也が、目晦ましに惑うケイブリスを見上げていた。

(想定よりも、遥かに――― 易い!)

高さ、約3.5m。
ケイブリスはランスの表情を眺める為に中腰になっていた。
故に、直立時の高さ6mに比して、より鋭く強い飛針投擲が可能となる。
しかも、的が大きい。
魔獣の瞳は、恭也の知るどんな大型哺乳動物の瞳よりも、何倍も大きかった。
象と熊の瞳を想定していた恭也にとって、嬉しい誤算である。

恭也は、それに、高揚しない。
恭也は、それに、慢心しない。
己を律し、己を殺し、呼吸を整え、気を正し。
修練に無言で付き合ってくれた糸杉に、心中で一礼すると―――
飛釘を強く、握り込んだ。

225神鬼軍師の本領(10/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:35:25

体は半身。腰は中腰。
前方に伸びたる左腕は正対する相手を制するかの如く広げられ、
後方に流れたる右腕は正対する相手に秘するかの如く握られる。
この構えこそ御神流・飛針投擲の基本形。
しかし、飛針暗器の類の術理を多少なりとも修めた者であれば、
彼の構えが基本から大きく逸脱していると看破できよう。

奇異なるは射角。
左掌の制する仰角は30度少々。
目線の先にはケイブリス。
射線の先には瞼の閉ざされた瞳。

(小太刀二刀・御神流師範 高町恭也……)

フラッシュに閉じられていたケイブリスの瞼がついに開かれる。
顔面を覆っていた複腕が高く振り上げられる。
恭也の射線イメージと無防備な瞳とが、結ばれた。

「……参る!」


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   
.

226神鬼軍師の本領(11/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:36:12

〜まひる〜


『フラッシュ、それに次ぐ真の目潰し。
 魔獣は驚愕し、叫ぶでしょう。
バカみたいな大口をバカみたいに拡げて、バカみたいに喚くでしょう。
 バカだから。
 まひるさん、そこであなたです。
 ケイブリスに駆け寄り、飛び上がり、注ぎ込みなさい。
 獣の口に【この液体】を』


一部始終を草むらに隠れて見物していた広場まひるは、
偽装撤退を計った紗霧と、打ち合わせどおり合流した。
そこで手渡された紙コップには、ラップがかけられており、
中には強酸性の水周り洗浄液がなみなみと満たされていた。

結局は持ってきてくれたレギンスを身に付ける間にも、
まひるの鼓動はどこまでも高鳴りを増してゆく。
興奮。緊張。重圧。責任。
様々な要素が絡み合い、溶け合っている。
とにかく、昂ぶっている。
それでも―――
要素の中に、恐怖感だけは存在しなかった。

(あれ? あたし、意外とイケそう?)

ケイブリスを相手にした、一時間以上に渡る逃走と誘導。
その接した時間の長さが、己の意のままに誘導できた自信が、
まひるのケイブリスに対する恐怖感を、拭い去ったが為に。

227神鬼軍師の本領(12/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:39:48

「げはァ!!?」

ケイブリスが、叫びと共に仰け反った。
一度目の叫びとは違い、明らかに苦痛を伴った叫びであった。
二本の腕が両目を覆い、四本の腕が闇雲に振り回された。
それは恭也が眼球の破壊を成功させた証に他ならなかった。

「いけ、まひるちん…… みんなのために!」

己を鼓舞して意を決したまひるが、夜空高く、跳躍する。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   
.

228神鬼軍師の本領(13/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:40:55

〜野武彦〜


『あなたは言っていましたね?
 万能オタクは軍事にも兵器にも精通すると。
 よろしい。
 その自信を買い上げましょう。
 高町さんとまひるさんの連撃で、ヤツの意識は顔面周辺に集中している筈。
 その意識の隙を突き、バズーカで足を壊しなさい。
 初動の雪崩式四連撃。
 トリを飾るのは魔窟堂野武彦、貴方ですよ!』


(なんたる…… 跳躍力じゃあ!?)

まひるが見せた本気のジャンプに、魔窟堂野武彦は嘆息する。
しかし、その美しさに見とれている場合でもない。
野武彦はまひるの戦果の可否にこそ、集中すべきであると思い直す。

「ごぎぇがおいsf;あおうぃえ!!?」

高高度にて為されたまひるの投擲を、野武彦は目視できなかった。
しかし、喉を抑えて悶絶するケイブリスの姿が、その成功を物語っていた。
ケイブリスは暴れ周り、転げまわる。
野武彦はその動きを観察しながら、魔獣との距離を測り、
距離を開けつつ、駆け回る。

229神鬼軍師の本領(14/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:44:15

M72A2 LAW―――
レプリカ智機よりの戦利品は、奇しくも高原美奈子に配布されし
携帯用バズーカと同型であった。
無論、軍事オタクでもある野武彦は、この兵器を良く知っていた。
評して曰く、戦車以外には非常に有効な対戦車兵器。
装甲厚き戦車を貫きは出来ずとも、ヘリや稼動銃座如きは粉砕出来る。
この微妙さ加減が、野武彦的には【不器用さが愛いヤツ】との認識であった。

やがてケイブリスはうずくまり、嗚咽する。
野武彦はその背後20mの位置へと回り込み、
無防備に晒された尻のその下に照準を合わせる。

「―――ファイエル!」

野武彦は力を込めてトリガーを引く。

ドイツ語的には間違っている、オタク語的には圧倒的に正しい、
その発音は、銀英伝の古来よりの伝統的な発射合図である。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   
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230神鬼軍師の本領(15/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:45:19

〜ケイブリス〜


ど ぉ ぉ ぉ ん ! !


大きく鳴動した地響きが、自分が転倒した故に発生したのだと、
混乱するケイブリスには解らなかった。

眩しい。それだけのはずであった。

(小娘が何か光らせやがった!?)

一瞬、複腕によって目を覆った後、ケイブリスはそう思い当たり。
小細工を弄した小娘に制裁の鉄拳を食らわせようとして。
瞼を開き、腕を振り上げた刹那。
最初は右。
次いで左。
視界が、強い痛痒感と共に、ブラックアウトしたのである。

「げはァ!!?」

間髪入れずに、喉に理解不能な焼け付く痛み。
咄嗟に嗚咽を発したものの、痛みはじわじわと浸透した。
魔人は喉を焼く異物を吐き出さんと、指を喉に突っ込み、這い蹲る。

「ごぎぇがおいsf;あおうぃえ!!?」

その背後から、衝撃と、爆音。
肉の焦げる臭い。血の滴る臭い。骨の砕ける音。
傾く体。
左腕の一本からは、圧迫感と破裂音。
痛みは後からやって来た。

231神鬼軍師の本領(16/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:45:34

そして――― 今に至る。

なぜ?
なぜ?
なぜ?
なぜ?
なぜ?

ケイブリスには、判っていない。
なにが起きたか、判っていない。
ケイブリスは、混乱の極みにある。


この間、実に10秒。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   
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232神鬼軍師の本領(17/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:46:11

〜紗霧〜


『ここまでが初動。
 もしこの段階で魔獣の目、喉、足のうち二点以上を潰せなければ、
 即座に撤退しましょう。
 逆に、二点以上の破壊を達成した場合、戦闘は継続。
 第二波へと、進みます』


目を潰す事で命中率を著しく落とし、
喉を潰す事で唯一のロングレンジ攻撃である炎の魔法を封じ、
足を潰す事で機動力と逃亡可能性を殺ぐ。
そうすることで圧倒的な攻撃力差をカバーできる。
月夜御名紗霧は、うち二つも達成できれば十分と踏んでいた。しかし。

「初動の成果は、両目・喉・左足に加え、左腕一本ですか。
 理想以上の成果です」

左腕の予期せぬ破壊は、初動四連撃のラストアタック時に発生した。
ロケット砲がケイブリスの左ふくらはぎの大半を吹き飛ばした折、
受身を取ることなく倒れた巨獣の自重によって、
無防備に下敷きとなった左第一腕の手首周辺が、解放骨折したのである。

紗霧は震えていた。ケイブリスの予想を越えたダメージに。
紗霧は酔っていた。兵士たちの予想を越えた精強さに。

「やったのう、紗霧殿!」

233神鬼軍師の本領(18/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:47:50

高揚する野武彦を皮切りに、恭也とまひるも駆け寄って来た。
指揮官・紗霧より、新たな指示を仰ぐ為に。
紗霧は興奮を沈め、頭を切り替え。
次なる方針の確認を、仲間たちに求める。

「第一波の連撃とは違い、第二波は連携がテーマです。
 ―――攻撃役!」
「は、はい!」
「回避役!」
「マム!イエス、マム!」
「攪乱役!」
「了解です」
「各々の役割を徹底し、徹底し、徹底してください。
 第二波、開始!」


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   
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234神鬼軍師の本領(19/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:49:29

〜ランス〜


『良い囮とは、囮であるを知らぬ囮です。
 敵の関心を引く囮です。
 と、いうわけで。
 ランスには何も伝えません。
 どーせ勝手に振舞う男ですから、その勝手さを利用しましょう』


ユリーシャのフラッシュ紙コップのあおりを食ったランスが
視界を取り戻したのは、30秒ほど前のことである。
今、彼は阿呆の如くぽかんと口を開け、紗霧の「狩り」を眺めている。

「うそだろ、おい……」

無論、この段に至ってはランスも己が囮とされたことは理解している。
先程、騙したことに対するユリーシャからの謝意も受けた。
本来であれば、このような騙しを、仲間はずれを、ランスは嫌い、怒る。
しかし今のランスには、そのような余裕など存在しなかった。
自分の内で培っていた精強なケイブリス像と、目の前で醜態を晒す惰弱なケイブリス像。
その二つの差異をすり合わせるだけで精一杯であった。

「ケイブリスって、こんなに弱かったか……?」

ランスは魔王城でのケイブリスとの決戦を思い出す。
軍配はランス率いるリーザス軍に上がりはしたものの、
数多の屍山血河を踏み越えた末にもぎ取った勝利であった。
それが、今。

235神鬼軍師の本領(20/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:50:07

魔剣を無くしてダメージが与えられる状況もあろう。
素晴らしい身体能力を持った三人がいることもあろう。
それでもなお。
味方に一切の損害を出さぬまま、一分にも満たぬ時間で、
かの魔人の領袖をここまで追い詰めるとは。
一体、どういう戦略眼か。
一体、どういう深慮遠謀か。

「いいえランス。あの怪獣は強いです。物凄く。
 ただ、明確な弱点が二つあった。初動にて、それを攻むるに成功した。
 それだけです。
 攻むるを損じていれば、こちらの被害は甚大だったでしょうね」

解答は唐突に、返された。
薄い煙のベールを引き裂いて、悠々と歩み寄ってくる紗霧によって。

「紗霧ちゃん、二つの弱点って、なんだ?」
「一つは、的が大きいこと。
 高町さんはともかく、戦い慣れしていないジジイとまひるさんでも、
 適切な個所に的確な攻撃を加えることができますからね」
「もう一つは?」
「オツムが残念なことです。
 私たちの偽装逃亡を鵜呑みにし、囮に意識を取られてしまう程度に」
「がはは! 確かにアイツは単純バカだな」
「流石はあなたのライバルです」

ランスは紗霧にバカにされたことに気付かなかった。


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236神鬼軍師の本領(21/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:57:34

〜第二波〜


そこに、まひると野武彦も合流した。

「恭也のヤツはいないのか?」
「高町さんはサポート役です。より正確には撹乱役ですか。
 いずれにしろ、本人の希望通りの役割です。
 ミドルレンジからの投擲で、ヤツの意識と武装を引きつけるのです。
 私たちに魔獣の攻撃が向かぬよう、まひるが安全に攻撃できるよう、
 牽制し続けるのです」

紗霧の指差す向こうに一人佇む御神流師範。
堂に入った投擲姿勢より放たれた投石連弾が、ケイブリスを襲う。
闇雲に暴れていた触手が矢鱈に振り回されていた腕が、
風切る音と感覚を頼りに、にわかに一方向に寄せられる。

「まひるさん。高い位置に孤立したあの触手を、一掻きだけで」
「りょーかい!」

かさかさ。
まひるは四足歩行で昆虫の如く低く飛び出す。
紗霧はその背を見送りながら、ランスに向けて解説する。

「左右の動きには案外戦いなれていれば対応できるものです。
 だから、上下の動きを積極的に取り入れるといいです。
 まひるさんはその点、理想的な能力を持っています」

237神鬼軍師の本領(22/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:58:46

タン、と。軽い音を残してまひるは跳んだ。
棒高跳びの国際級アスリートに競る高さまで、バーを使わずして跳んだ。
その高さの頂点で、まひるは蠢く鋭い爪を伸ばす。
先端を浅く引き掻かれた触手は、鮮烈な血液を迸らせる。
まひるはその数滴を背中に浴びたものの、勢いを殺すことなく着地した。

その際を狙ってか、偶然の賜物か。
別の触手の一本が、棍棒の勢いでまひるを叩き潰さんと、襲い掛かる。

「危ないっっ!!」

ランスは思わず叫んだ。
ユリーシャは耐え切れず目を伏せた。
紗霧は涼しい顔で解説を続けた。
野武彦は姿を消していた。

「まひるがヒット&アウェイのヒットを担うなら、
 ジジイはアウェイ担当です。
 攻撃なんてする必要はありません。
 まひるのヒットタイムが終了後、直ちにまひるを抱え上げ、
 魔獣の射程範囲外に離脱させます」

コンマ数秒後。
まひるを叩き潰しているはずの触手は空を切り、まひるに触れることなく、
したたかに地面に打ち込まれていた。

「ふぉふぉふぉ…… 人呼んでオタクのジョーとはわしの事!」

気付けばまひるを抱えた野武彦が、ランスの隣に舞い戻っていた。
加速装置―――
オタクの夢と希望の象徴がここに躍如していた。

238神鬼軍師の本領(23/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:59:48

この装置、原典に於いては、生身の人間を抱えたままの加速は不可能とされていた。
生身の肉体には、かかる加速の負担に耐えられぬという理屈である。
それは尤もな話ではあるが、広場まひるは、生身の人間に非ず。
ひとでなしである。
異能にまで卓越した身体能力は、超加速に、超速度に、耐え得るのである。

撹乱、攻撃、回避。
単純にして明確な役割分担。
それを徹底させることで生まれる、流れるような連携。
それを反復するだけで成果となる、単純明快さ。
立案の歯車と実働の歯車とが、これ以上無いほどかみ合っている。

「お前らみんな…… 結構やるんだな」

ランスの口から素直な感想が、ぽそりと漏れた。
受ける紗霧は、ふふん、と得意げに笑って見せた。

239神鬼軍師の本領(24/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 04:00:42


【ハイエナたちの晩餐】


紗霧はブリーフィングの折、一連の戦術を、そう名づけた。
由来は、戦術の骨子から採られていた。

『ハイエナから学ぶべき点は三つ。
 1つ、一撃離脱を基本とすること。
 2つ、五感を潰すことを優先すること。
 3つ、連携を徹底すること』

戦術は、突飛な発想によるものではなかった。
どちらかと言えば基本的な、誰でも思いつく類のものであった。
しかし、思いついたとて、紗霧ほど緻密に絵を描ける者はいないであろう。
しかし、思いついたとて、紗霧ほど深くに潜り込める者はいないであろう。
単純明快。
然れども、微細深遠。
それが【神鬼軍師】が立てる作戦の特性といえよう。

240神鬼軍師の本領(25/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 04:01:06


例えば、戦術、第一波。

―――機先を制す。

紗霧はその一点に集中させた。
これ以上ない密度で昇華させた。
人材を。武装を。策略を。天運を。

そしてまた、大胆不適でもある。
誰も思うまい。
思ったとしても実行すまい。
ランスを囮とし、主力から外すなど。

それとて紗霧にとって、特段奇を衒ったものではない。
囮として最も有効な駒がたまたま最強の駒であっただけである。
その囮を使って生まれる隙こそが大事なのであれば、
戦闘力が低下するを惜しまぬのが、彼女の「当たり前」であった。

241神鬼軍師の本領(26/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 04:02:36


例えば、戦術、第二波。

―――戦闘力を削ぐ。

紗霧はその一点に集中させた。
決して敵の急所を狙うことなく、
直接命を奪いにいくことなく、
ただ、敵の攻撃力を削ることを目標とした。

油断無く、手抜かり無く。
茶道の作法の如く決められた所作を反復し続け。
触手の一本一本を、丹念に潰し。
腕の一本一本を、丁寧に壊し。
牙の一本一本を、懇切に折り。
時間の経過と共に、敵の抵抗力を減じて行く。

基本、基本、基本。
全ての行為は基本を逸脱しない。
順序、人材、武装、タイミング。
それらが適切に実行されているだけである。
にも関わらず。
なんと圧倒的で。
なんと非情で。
なんと効率的な作戦と化しているのか。

242神鬼軍師の本領(27/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 04:03:01


『皆さんの命、私に預けなさい。
 誰一人として無駄にすることなく、
 有効に使いきって差し上げます』


紗霧はブリーフィングの前に、決起を促すべく、こう口にした。
それが全き事実であったことは、戦士たち全員が実感しているし、
なにより、眼前に倒れ伏すケイブリスの姿が如実に証明している。

月夜御名紗霧―――

一長一短、一点豪華な人材を最適なパートに配し、
一曲の壮大で圧倒的な戦場音楽に仕立て上げる。
見えざるタクトをその手に握る指揮者であった。


.

243神鬼軍師の本領(28/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 04:12:10

―――本筋に戻す。

ケイブリスは這っていた。這って、左回りにぐるぐると回っていた。
錯乱しているのではない。
本人は、逃走しているつもりである。
左足と左の腕の二本の機能を失っていれば、
力加減のバランスが保てず、必然、輪を描く動きと成り果てる。
しかも、ケイブリスは目も見えぬ。
死にかけのゴキブリの如く円舞を踊っていることを視認出来ず、理解できぬ。

強大であった敵の、そんな惨めな様相を見ても、しかし紗霧は満足しない。
腕が三本、残っている。
触手も三本、残っている。
牙も残っている。
右足も残っている。
紗霧の描く第二波は、未だ完了していないのである。

「高町さんは『有能』、まひるさんとジジイは『異能』。
 さて、ランスはどうなのですかね?
 まさか、『無能』なんてことはありませんよね?」

紗霧は涼しげな瞳で、挑発的な発言で、ランスに参戦を促した。

「むかむかっ! ならば見せてやろう! この俺様の『全能』っぷりをな!」
「あ、そうそう。あなたのために右足は残しておきましたよ」
「おうっ、まかせろ!」

ランスは心底楽しげに、ケイブリスへと突貫する。
進行方向にうねっていた触手が、方向を逸らす。
状況を把握した恭也が、ランスへの戦闘支援を行ったのだ。
それもまた、紗霧の策のうちであった。

244神鬼軍師の本領(29/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 04:12:37

「長丁場になりますからね。
 まひるさんとジジイには小休止を取って貰って、
 しばらくはランスを遊ばせときましょう」

紗霧はランスの背を熱っぽい眼差しで見つめるユリーシャに
レーザーガンを手渡すと、自らはボウガンを取り出して、言った。

「さて、勝負は決したと言ってよいでしょう。
 あとは消化試合です。
 でも、気を抜いてはいけません。
 狙いを定めずに振り回した腕でも、まともに食らえばお陀仏です。
 ですので、私たちも攪乱に参加しましょう。
 皆の力を一つにあわせて。
 じわりじわりと。
 ねちねちと。
 慎重に丁寧に攻撃力を削いでゆきましょう」


畏るべきかな、神鬼軍師。
哀れなるかな、ケイブリス。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   
.

245神鬼軍師の本領(30/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 04:13:01





     ……あら知らないんですか?

     ハイエナの集団は百獣の王すら捕食するんですよ?








246神鬼軍師の本領(情報 1/2) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 04:13:30
 
(ルートC)

【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め】
【備考:全員、首輪解除済み】

【現在位置:D−3 草原】

【ユリ―シャ(元№01)】
【スタンス:ランス次第】
【所持品:生活用品、香辛料、メイド服、?服×2、干し肉、スペツナズナイフ、
     文房具、白チョーク1箱、レーザーガン(←紗霧)、フラッシュ紙コップ】

【ランス(元№02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力、プランナーの事は隠し通す
      男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す】
【所持品:斧】
【能力:剣がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨2〜3本にヒビ(処置済み)・鎧破損】

【高町恭也(元№08)】
【スタンス:紗霧に従う】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、保存食】
【備考:失血で疲労(中)、右わき腹から中央まで裂傷あり。
    痛み止めの薬品?を服用】

247神鬼軍師の本領(情報 2/2) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 04:13:54
 
【魔窟堂野武彦(元№12)】
【所持品:軍用オイルライター、銃(45口径・残弾5)白チョーク数本、
     スコップ(小)、鍵×4、謎のペン×7、簡易通信機、工具、
     ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング】

【月夜御名紗霧(元№36)】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける、計画の完遂、モノの確保、
      状況次第でステルスマーダー化も視野に】
【所持品:金属バット、ボウガン、メス×1、謎のペン×8、小麦粉、
     薬品・簡易医療器具、対人レーダー、他爆指輪、解除装置】
【備考:疲労(小)、下腹部に多少の傷有、意思に揺らぎ有り】

【広場まひる(元№38)】
【所持品:せんべい袋、救急セット、竹篭、スコップ(大)、簡易通信機】



【主催者:ケイブリス(刺客04)】
【スタンス:反逆者の始末・ランス優先、智機と同盟】
【所持品:なし】
【備考:出血(中)、左足大破、両目破壊、喉破壊、左上腕及び下腕破壊、
    左右中腕骨折(補強済み)、触手5本破壊(残3本)】


<フラッシュ紙コップ>
 ユリーシャが持っていた使い捨てカメラからフラッシュを摘出、
 内側にアルミホイルを巻いた紙コップに設置したもの。

248284 ◆ZXoe83g/Kw:2010/08/14(土) 20:40:56
新作投下お疲れ様でした。
これぞ神鬼軍師!
攻撃メンバーも限られた手段の中でそれぞれの長所を活かして
敵を追い詰めていく様が爽快でした。
マイナスに働くと思ったユリーシャの攻撃性がここで役に立ったとは……。
あと序盤に少しびっくりしました.

ともきん、やることなすことがとことん裏目に出てるなあ。

291話までのまとめをUPしました。
パスはageです。

ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1090842.zip.html

次は遅くても来週の月曜日の夜に。

249名無しさん@初回限定:2010/08/16(月) 13:46:53
素晴らしい!
溜めに溜めたものが一気に爆発する、その階梯をこうも見事に描かれると
もはや感嘆の声を漏らすしかありません。
次回、どんな決着が待っているのか…楽しみにしています。

250名無しさん@初回限定:2010/08/16(月) 19:52:19
自ロワが進展しないので暇に任せて覗きに来たんだが、なんだか凄いものに出会ってしまったかもしれん…

よくある「一方的」な戦いじゃなくて「圧倒的」な戦いが描かれそこに説得力も勢いも乗っている
構成(策の内容が一つ一つ明らかにされてゆく手法)も見事
これはただ事じゃない

>>249の「溜めに溜めたもの」が気になるからまとめサイト行ってくる

251284 ◆ZXoe83g/Kw:2010/08/16(月) 20:48:23
執筆が進みません……。
新作投下はまだ先になりそうです。

252 ◆VnfocaQoW2:2010/08/21(土) 23:16:37
本スレにての支援、ありがとうございました。

以下24レス「another one bites the dust」改め
「孤爪よ、天を穿て!」を仮投下致します。

次回は「ちぇいすと☆ちぇいす!〜復路〜」。
知佳、透子、レプリカ智機が登場予定です。

253孤爪よ、天を穿て!(1/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/21(土) 23:19:59

【丸い者】目【リス】科―――

稀に2mに迫る個体も見られるが、基本的には120〜130㎝ほどの体長。
白いふわふわもこもこの毛玉に、青く輝く大きな瞳、
鳥類の如き細長く体毛の無い手足などが、外見的特長である。

生息地は寒冷地、及び、光差さぬ洞窟の中。

成長力高く、個体によっては人間並みの知性に到達することすらあるが、
その性は臆病で、人前には滅多に姿を現すことは無い。
巣穴に外敵が接近すれば、戦うことなく巣穴を放棄し、逃げる程である。

ケイブリスは、そうしたケモノから転じた、魔人である。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   
.

254孤爪よ、天を穿て!(2/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/21(土) 23:22:10

またか!
また、触手を狙いやがったか!
おいおい、これで何本目だぁ?

ひー、ふー、みー、よー、いつ、むー……

げぇえ!? あと二本しか残ってねぇのかよ!

がーっっ!! むかつくむかつく!!
この目さえ見えりゃお前らなんて薙ぎ払ってやるのに。
この足さえ動きゃお前らなんで踏み潰してやるのに。
なんつーヤらしい戦い方すんだよ、このニンゲンどもは!
こんな戦い方されたら、折角の鎧の意味がねーだろ?
壊れた所、智機のヤツに補修してもらったってのによー。
オラァアアアア!!
もっと、なんつーか、こう、真っ直ぐ来いよ!


……なんて強がっていた頃が、俺様にもありました。


俺様、謙虚だからよ。
最強魔人のプライドとかそんなのには縛られねーで、
事実をありのままに受けいれることにするぜ。
ヤツらにゃあ勝てねー、って事実をよ!

だったら俺様の取るべき道は、一つしかねーよなあ?


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   
.

255孤爪よ、天を穿て!(3/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/21(土) 23:23:19

ケイブリスとは最古の魔人である。
六千年―――
気の遠くなる程の年月を、彼は魔人として生きてきた。

その間、彼の血の主である魔王は幾度か代替わりした。
その間、彼は魔人で在り続けた。
通例では、魔王の代替わりと共に魔人も入れ替わる筈であるにも関わらず。

何故か?

それは、服従である。
強いものには媚びへつらい、機嫌を伺い、身を粉にして忠勤する。
または、変節である。
それまでの主義主張も軋轢も放り投げて、偉大なるイエスマンへと転身する。
その、保身の為のあからさまな、それでも徹底した献身ぶりに、
歴代魔王たちは、臣下であり続けるを許してきたのである。

リスの性質である臆病さが為せる、一流の処世術である。


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256孤爪よ、天を穿て!(4/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/21(土) 23:24:05

俺様が取るべき唯一の道。
ザ・降伏。
つまりはニンゲン野郎どもに頭を下げて、下げまくって、
必死に、必死に、命乞いをするって寸法だぜ!

だって俺様死にたくねーし。
死ななきゃそのうちイイコトもあるだろーし。
頭下げるのに金なんてかかんねーし。
俺様の茶飲み友達のネコムシ使徒も言ってたぜ?
生きてこそ浮かぶ瀬もあれ、ってな。

だからよ、とにかくこの俺様の熱い気持ちを、
今すぐにニンゲンどもに届けてやらねーとな!


「ぐべぅおあげべげべぇ!」(ままま、参りましたァ!)


あ…… しまった!
俺様、喉が潰されてんじゃねーか!?
こんなんじゃ何言ってるか聞き取れねーぞ!?

んじゃー土下座か…… って、足、動かねえし!
右足! ふくらはぎ吹っ飛ばされて、骨までバキバキ!
左足! 足首メッタ斬りにされて、アキレス腱ブチブチ!
正座もなにも、腰を起こすことすらできねーよ!

じゃあ白旗か?
なんか白いモンねーの!?
……ねーよ!
俺様の全て、真っ赤に染まってるぜ!

257孤爪よ、天を穿て!(5/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/21(土) 23:24:38

どーするよ、どーするよケイブリス?
俺様の負けましたって素直な気持ちを、どーやって伝える?
ごめんなさいを、どう形にする?
命ばかりはって願いを、どう叶える?

  ―――リスさま、痛いにゃん! 許して欲しいにゃん!
  ―――くぅ〜〜ん……。 ぶたないでほしいのねぇ〜。

そうだ、あいつらだ!
俺様最強使徒たちが仕事をサボったり粗相したりする度にやってた、
お仕置きを許してもらうためのキメポーズがあったじゃねーか!

仰向けに寝っ転がって。
動く腕の肘を全部曲げて。
触手を股ん中に折りたたんで。
下をだらりと垂らして。

そう、こんな風に!

解るだろ? な? な?
ワンとニャンの得意技「負け犬のポーズ」!
届くだろ? な? な?
俺様が本気で降伏してるっていう気持ちが!

えへへぇ……
そう、俺様、他の何一つも望んだりは致しません。
命!
ただ、お命ばかりは見逃して頂きたいと。
なんとかお情けをおかけいただけませんかと。
ニンゲン様のご慈悲にお縋りするばかりで……

258孤爪よ、天を穿て!(6/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/21(土) 23:25:00

「あぎゃごばばば!!」(痛ぇえええええ!!)

おいおい、何、腕抉ってくれてんの!?
つーか、この熱い冷たいのは何だ!?

いや、ホントに! マジで!
二心なんて無くてですよ?
偽装なんかじゃ無くてですよ?
ただひたすらに死にたくな……

「ぐごっっ!!」(ぐおぉぉぉ!!)

腕一本、感覚無くなったああああ!?
千切られたのか?
燃やされたのか?
砕かれたのか?
わかんねええええええ!?

畜生!
降伏を受け入れねーってのか!?
どうあっても、とことん殺すってーのか!?

……ぃゃ…………。

………いや……だ。

いやだあああああ!!
死にたくねー!!
他の何をどんだけ失っても、死ぬのだけはいやだー!!

259孤爪よ、天を穿て!(7/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/21(土) 23:25:35

智機!! 俺様を助けてくれー!!
ホントは聞いてるんだろ!?
俺様の大ピンチに気付いてるんだろ?
もったいぶってねーでソッコー助けにきてくれよおおお!!

神様仏様魔王様プランナー様!!
誰でもいいからとにかく誰か!!
俺様を助けてくれえええええ!!


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260孤爪よ、天を穿て!(8/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/21(土) 23:28:06

時は過去。
ケイブリスが一度目の死を迎える数ヶ月前のこと。

魔人同士の権力闘争において、ケイブリスが、敵の領袖である女魔人を軍門に下した折。
彼はそれまでの鬱憤を晴らすかの如く、この麗しの女魔人を犯し抜いた。
人間大の相手に対して八本の巨大触手を全て費やす、凄惨な陵辱であった。
膣から子宮を破り内蔵を潰し。
口腔へ注がれる精液は胃を破裂させ。
眼窩までをも挿入対象とした。
そんな地獄の七日七晩を経てもなお、かの女魔人は生きていた。
ケイブリスの精液の白濁と己の血液の黒赤に染め上げられながら、
女魔人は辛うじて命を繋いでいた。
魔人の持つ再生能力とは、それほどのものである。

今のケイブリスは、魔王の加護を離れ、無敵結界は制限されている。
闇のデアボリカ・アズライトと同じく、再生能力も抑制されている。

それでもなお。
人の世の常識ではありえぬ程の回復力を、ケイブリスは有していた。


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261孤爪よ、天を穿て!(9/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/21(土) 23:29:07

俺様は死ぬ…… のか?
死ぬんだな……
必死の命乞いもまるっきり無視されて。
ニンゲン野郎なんかに嬲り殺しでよぉ……
惨めな死に様だぜぇ…… 畜生っ……

体の端からちびちびと削られてよ……
この触手も、その触手も、あの触手すら、ぶち壊され……

……あれ?

今…… 触手に感覚、あったよな?
一番最初にぶっ壊された触手が、痛えって感じたよな?
気のせいか?

……いや、違う。
ちくちくと針でも刺さったみたいな痛さを、確かに感じるぜ。
ナイフか? 剣か? 木の枝か?
これは…… 俺様の爪、だな。
戦っているうちに剥がされた爪が転がってんだな。

畜生…… ホントならよぅ。
この爪の一掻きで、ニンゲンなんて真っ二つにできるのによう。
この爪の一突きで、ニンゲンなんて貫通できるのによう。

この爪の……

この爪が……

投げ出された触手の下敷きになってる爪……

ヤツらが気付いていない爪……

262孤爪よ、天を穿て!(10/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/21(土) 23:29:33

それが、ヤツらがもう動かないと思っている触手の下にある……?

爪一本……

触手一本……

まだ、あるんじゃないか?
まだ、諦めるには早いんじゃないか?
俺様がここで終わることは決まっていても、
タダで終わらせない何かを起こせるんじゃねーか?


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263孤爪よ、天を穿て!(11/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/21(土) 23:32:34

ケイブリスは、魔人最強である。

紗霧に推されたように、頭脳の出来が残念であるにも関わらず、
リスなどという体格にも特性にも恵まれぬ出自であるにも関わらず、
それでも魔人最強の称号を恣にしていたのには、訳がある。

努力である。
成長である。

決して効率のいい努力にはあらねど、ケイブリスは。
六千年間、努力を以って己を鍛え上げ、成長の歩みを止めなかった。
今もなお、努力を以って己を鍛え上げ、成長の歩みを進めている。

リスから生まれた最弱の魔人が、弛まぬ努力と牛歩の成長により、
屈強な肉体と特異な能力を持つ最強の魔人へと、至ったのである。
常軌を逸した執念深さを無しに成し遂げられぬ成果であった。

根性である。

その暴と巨躯に気を取られがちで、魔人仲間にすら気付かれぬ性質であるが。
それを見せることは弱みであり恥であるとの彼の考えから秘されてはいるが。

決して諦めぬ粘り強さが、
必ず目的を達するという執念深さが、
いわば体育会系の魂が、
ケイブリスの本質なのである。


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264孤爪よ、天を穿て!(12/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/21(土) 23:33:37

そーだよな……
どうせ死ぬなら開き直らねーとな。
俺だけ死ぬのって納得いかねーよな。

屈辱喰らいっ放しで、終われねえよなあ?
あいつ口ほどにもなかったぜ、なんて、思われたくねえよなあ?
ニンゲンどもに舐められっ放しなんて、許せんよなあ?

「がはははは! そぅれそれぇ!」

特に、おめーだよ、おめー。
そこで得意げに笑ってるおめーだよ、ランス。

二度、魔王になるっつー夢を断ち切られてよ……
二度、惨めな命乞いを踏みにじられてよ……
二度、命を奪われてよ……

その二度が二度ともに、おめーは関わってんだぜ?
俺様のびくとりー・ろーどを断ち切ったんだぜ?
許せねーよなぁ?
生かしておけねーよなぁ?

……そうだぜ。
視覚が潰されちまったからって、ヤツらを全く捉えらねえ訳でもねえんだよな。
だって、聞こえてんじゃねーの、苛つくバカ笑いがよ。
それってつまり、俺の聴覚が死んでねぇってことだろ?
そいつを研ぎ澄ませばよー。
触手で爪をぶっ刺すことも、出来るかもだぜ……?

265孤爪よ、天を穿て!(13/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/21(土) 23:34:23

……なにが「かも」だよ。
弱気になってんじゃねーよ。
やるんだよ。
やらなきゃなんねーんだよ!

頭! ぼーっとしてる場合か!?
体! オラァ! もっと気合入れろ!
心! 泣き入れてんじゃねえ!
俺! 全てを統合しろ!

注ぎ込め! 六千年の歴史を!
注ぎ込め! 俺様の残る全てを!
ぽんこつになった、一本の触手に!
力に変えて、注ぎ込め!

「がはははは! 俺様最強!」

ああ、見えるぜランス。
見えなくなったこの目にくっきりと見えてるぜ。
暗闇の中に、ただ一本。
俺様とお前とを結ぶ触手の軌跡が、な。

行くぜランス、喰らいやがれ。
俺様の最大で最強で最速で最高で……


     ―――最期の一撃を!!


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266孤爪よ、天を穿て!(14/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/21(土) 23:35:02

この件に関して、月夜御名紗霧を責めることは出来ぬ。
全ては想像されていた為に。
全ては想定されていた為に。
全ては検討されていた為に。
紗霧が入手したケイブリスに関する情報の全てが、
この戦いに生かされていた為に。

今、目の前で、しかし意識の外で起きようとしていることは、
彼女たちの手持ちの情報では想定が出来ぬ事態なのである。
起きるはずのない出来事なのである。
悪夢の如き奇跡なのである。

【魔人の超回復能力】

紗霧は、この重要なワンピースを入手できなかった。
故に立案してしまった。
時間をかけて嬲り殺すという戦術を。

その、かける時間の長さこそが。
友軍の安全性を高める為の手法こそが。
完璧なはずの作戦の瑕疵となった。
触手の有り得ぬ回復を許してしまう余裕を生んだ。

故に―――
死せる筈の触手が放った鋭い刺突に、反応できた者はいなかった。
それは、ターゲットとされたランスとて、例外では無かった。


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267孤爪よ、天を穿て!(15/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/21(土) 23:35:33

ずぶりと、突き刺さる抵抗感。
熱い液体が、触手に滴る感覚。


「……はへ?」


届いたぜぇ……

俺様の生命の炎を燃やし尽くした一撃で、
ランスのドテッ腹に、風穴をぶち開けてやったぜ!


「……マジでか?」


ああ、よっくわかるぜランスよー。
その「信じらんねー」って気持ち。
こんなところでこんな死に方するなんて、ありえねーって思い。
さっきまで俺様も感じてたからな!

「ランスさまああああ!!」

おっ、いまの「ゴボッ」は血の塊を吐き出したな「ゴボッ」だな?
体がビクビク痙攣してるのも、触手に伝わってくるしよ!
なんかもー、上手く言えねぇが、最高にキモチーぜ、おい!

「いけませんユリーシャさん! ジジイ、止めなさい!」


268孤爪よ、天を穿て!(16/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/21(土) 23:35:59

いやいや、ちょっとちょっと。
確かに気持ちよくはあるんですけど。
マジで触手までいきり立ってきたんですけど?
嘗てないほどにビンビンなんですけど?

「あい判った!!」

ああ、あれか。へびさん魔人が言ってたやつか。
死ぬ間際にゃ生殖本能が刺激されて…… なんとかってやつ。
……突っ込んでみてもいいですか?

「なんなのアレ? なんなのアレぇぇ!!?」

まさか最後に犯すのが野郎のドテッ腹にぶち開けた穴だとは
    想像もしてなかったがよー、
これはこれでちょーきもちイーぜ!!
そぅれ、入らなーい♪ 入らなーい♪ 無理にねじ込めー♪

「広場さん…… あなたは、見ないほうが、いい」

げへへっ! ランスがゲボゲボ吐いてんな!
見てぇなあ、目ン玉裏返ったアイツの汚ねぇツラをよー!
そしたらもっとキモチくなれんのによー!

「げびょっ!! ぎょぼっ!!」

  そんなにビクビク痙攣すんなよ、ランス……
  お前の腸の締め付けがどんどんキツくなるじゃねーか。
  こんなんじゃスグにイっちまう!

269孤爪よ、天を穿て!(17/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/21(土) 23:36:43

「ぐぼぼぼぼぼぼ……」

ああ、とまらねえ、たまらねえ!
とまらねえ、
      たまらねえ、
とまらねえ、
      たまらねえ、
とまらねえ、
      たまっおふっ!
……三擦り半で出ちまった。えへ。

「え、え? 触手の先っちょから、あれ? なんで?」
「なんという下衆……」
「家畜の分際でェェ! 身の程も弁えずゥゥ!!」
「……」
「紗霧殿? おい、紗霧殿、しっかりせぬか!!」

おーおー、ヤツらが揃いも揃って混乱してやがるな!
この隙を突いて、根こそぎ薙ぎ払ってやりてーが……
もう、触手、萎え萎えで動かねーしな。残念だぜぇ。

あー眠ぃー。
あー怠ぃー。

……こりゃもうダメだ。
体にも頭にも、もういっこも力、はいんねー。
射精と一緒に、残りの命までぶっ放しちまったみてぇだぜ。
まーいーや。
最期にちょっとスカッとできたから。
あとはさっぱりお陀仏だな!

270孤爪よ、天を穿て!(18/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/21(土) 23:37:28

お、ランスの体も大分冷えてきたなぁ。
もうピクリとも動かねえしよ。
一足先に逝っちまったみてえだな。

待て待て、ランス。俺様を置いていくなって。
おててつないで、一緒に行こうぜ?
楽しい楽しい地獄巡りによ!

ぐぇっふぇっふぇっふぇっふぇっ!!

ふぇっふぇっふぇっ!


ふぇっふぇ……



ふぇ……




……







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271孤爪よ、天を穿て!(19/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/21(土) 23:38:21

「がはははは! そぅれそれぇ!」

どうしたことか。
ケイブリスの道連れとなったはずのランスのバカ笑いが、未だに響いていた。
それどころか。

「あんにゃろ、あんなモン隠し持ってやがったのか!」

ケイブリスを中心に、声から90度の角度を隔てた位置には、
傷の一つも負っていないランスが、紗霧と共にいるのである。

「しかも壊したはずの触手が動いてました。やれやれ、とんだ生命力です。
 今からは壊した触手や腕も、定期的に壊し直さないといけませんね」

紗霧は溜息と共に仲間たちに指示を送った。
それから、90度向こう―――
ケイブリスの触手が突き出された空間の直下に設置してある、
黒い小さな機械を見やった。

「がはははは! 俺様最強!」

ランスの馬鹿笑いは、その箱の中から垂れ流されていた。
カセットデッキである。
以前、磯部にて二人の監禁陵辱魔を嵌めた時と同様、
紗霧はランスの声で以ってケイブリスを騙し、
その最期の一撃を、見事に無効化したのである。

執念深い紗霧が。この神鬼軍師が。
奪えぬはずのない聴覚を奪わなかったのには、
歴とした理由があったのである。

272孤爪よ、天を穿て!(20/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/21(土) 23:39:51

「まあ、結果オーライとしておきますか」

紗霧にとって、カセットデッキは保険であった。
恭也や自分の遠距離攪乱が見破られた場合を想定し、
その際に攻撃が向かう方向を誘導する為に聴覚を残し、
聴覚に訴える音声を、友軍のいない方向に設置したのである。

確かに、潰した筈の触手からの攻撃その想定を外してはいた。
しかし、ケイブリスはランスの位置特定に聴覚を用いてしまった。
それで、魔獣の乾坤一擲は想定外である利を失ってしまい。
それで、音声の罠に嵌ってしまい。
結局、単なる誤差の範囲内に収まってしまったのである。

「ぐぇぶぇぶぇぶぇぶぇ……」

最後まで紗霧の掌の上で転がされていたことに気付くことなく、
焼かれた喉で、もはや声にならぬ音を発するケイブリスの顔には、
それでも、どこか満足げな笑みが浮かんでいた。

「ちょっとちょっと紗霧さん? 怪獣さん笑ってるみたいですが?」
「死に際に都合のいい夢でも見てるんでしょう。放っときなさい」


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273孤爪よ、天を穿て!(21/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/21(土) 23:40:28

(Cルート・2日目 PM23:45 E−5地点 耕作地帯)

腕。触手。爪。牙。
ケイブリスの武装を全て奪ったことで作戦行動の第二波は終わり、
最終ミッションである第三波へと移行して、既に一時間半が経過していた。

第三波の内容とは――― 【放置】。

紗霧たちは、仰向けに倒れているケイブリスを、遠巻きに囲んだ。
死にゆく巨凶をただ眺め、見張った。
触手等の復活を確認すべく、時折、恭也に投石させたりもしたが、
決して止めなどは刺さなかった。

更に一時間。

ケイブリスの流した血はドス黒く変色し、凝固していた。
傷口には目敏い蝿たちが集っている。
獣臭と血臭に、かすかに死臭が混じり出していた。

「魔人が死ぬとちっちゃい赤い玉になるのでは?」
「の、はずなんだがなぁ」
「しかしのぅ…… ありゃどう見ても死んどるぞい」

本来、死せる魔人は遺骸を霧散させ、ピンポン玉大の紅玉へと態を移行する。
【魔血魂】である。
それは魔王の血の縛りの証。
魔人の力の根源にして、魂の揺り籠。

但し、このケイブリスは魔王直下の魔人ではない。
プランナーがこのゲームのバランスを考慮した上で、能力を調整した魔人である。

274孤爪よ、天を穿て!(22/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/21(土) 23:41:12

プレイヤーの攻撃を無効化する無敵結界は故に解除されていたし、
死後の魔血魂化もまた、同様に取り消されていた。
魔血魂を呑んだ者が新たな魔人となる。
そこに生まれるゲームのバランスブレイクを忌避した為である。

理由はともあれ―――

野武彦の見通し通り、ケイブリスは既に死んでいた。
絶息の正確な時間はわからない。
第三波に移行してからの二時間半。
そのどこかで誰にも気付かれること無く、息を引き取っていた。

「しかし……哀れとは思わんが、えげつないな」

苦虫を噛むが如き顔つきでランスが呟いたこの感想を以って、
三時間超に渡る紗霧の作戦、【ハイエナ達の晩餐】は完了した。
誰一人傷つくことなく難敵を完殺するという、完璧な成果にて。




【ケイブリス:死亡】

―――――――――主催者 あと 4 名


            ↓

275孤爪よ、天を穿て!(情報 1/2) ◆VnfocaQoW2:2010/08/21(土) 23:41:59
 
(ルートC)

【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め】
【備考:全員、首輪解除済み】

【現在位置:D−3 草原】

【ユリ―シャ(元№01)】
【スタンス:ランス次第】
【所持品:生活用品、香辛料、メイド服、?服×1、干し肉、スペツナズナイフ、
     文房具、白チョーク1箱、レーザーガン、フラッシュ紙コップ】

【ランス(元№02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力、プランナーの事は隠し通す
      男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す】
【所持品:斧】
【能力:剣がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨2〜3本にヒビ(処置済み)・鎧破損】

【高町恭也(元№08)】
【スタンス:紗霧に従う】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、保存食】
【備考:失血で疲労(中)、右わき腹から中央まで裂傷あり。
    痛み止めの薬品?を服用】
※銃(50口径)及び飛釘は撃ち尽くしました。

276孤爪よ、天を穿て!(情報 2/2) ◆VnfocaQoW2:2010/08/21(土) 23:43:50
 
【魔窟堂野武彦(元№12)】
【所持品:軍用オイルライター、銃(45口径・残弾5)、白チョーク数本、
     スコップ(小)、鍵×4、謎のペン×7、簡易通信機、工具、
     ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング】

【月夜御名紗霧(元№36)】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける、計画の完遂、モノの確保、
      状況次第でステルスマーダー化も視野に】
【所持品:金属バット、ボウガン、メス×1、謎のペン×8、小麦粉、
     薬品・簡易医療器具、対人レーダー、他爆指輪、解除装置】
【備考:疲労(小)、下腹部に多少の傷有、性行為に嫌悪感(大)】

【広場まひる(元№38)】
【所持品:せんべい袋、救急セット、竹篭、スコップ(大)、簡易通信機
     体操服の上(←ユリーシャ)】
 ※体操服の下、レギンスは装着済です。


※「?服」の一つは、体操服の上下でした。

277284 ◆ZXoe83g/Kw:2010/08/23(月) 18:56:15
本編SS、地図、死亡者情報、ネタバレ名簿を更新したまとめをUPしました。
パスはroです。

ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1107566.zip.html



まさか本当に無傷で勝利するとは恐るべし六人組……恐るべし神鬼軍師。
ケイブリスも紳一もらしい最期といえば最期だと思いました。
でもどこか不吉な予感は拭えないのが意味深。
まひるが夜に目覚める本投下で体操服を着用しなかったのはこのためだったのですね。
もうすぐ九回目の放送かな。次のパート楽しみにしてます。

まとめ管理人さん先週の更新ありがとうございました。

278 ◆VnfocaQoW2:2010/08/25(水) 23:03:49

まだ完了はしていませんが……
本スレにての支援、ありがとうございました。


以下36レス「ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜」を仮投下致します。

今回気付いたのですが、この三部作のタイトルを今まで間違えていました。
「〜☆ちぇいす!」ではなく「〜☆ちぇいすっ!」でした。
お手数ですが >>◆ZXoe83g/Kwさん のまとめ次回更新時に、
「〜往路〜」のタイトル変更をお願いいたします。

また、「〜折り返し地点〜」の冒頭数レスの【私】視点パートは、
本投下時には削除しようと考えております。


次回は「知佳ちゃんハリケーン!」。
知佳、智機、レプリカN−21が登場予定です。

279ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(1/36) ◆VnfocaQoW2:2010/08/25(水) 23:07:33

【タイトル:ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜】

(Cルート・2日目 23:15 I−7地点・海岸線・岩場)


灯台南部の磯は静寂の中にあった。

引く潮は穏やかに細波も立てず、北東の風は火災の禍を運ばず。
つい先ほどまで喜びの歓声を上げていた二人の乙女も、
今は、泣き疲れてか、笑い疲れてか。
腰を下ろし肩を寄せ合って、沈黙と共に、水面を眺めている。

(この二人、百合ん百合んか? 勿体無いのぅ……)

下品な魔剣も一応は空気を読むらしい。
下卑た思念波を発することなく心中で呟くに留めていた。

  ―――主催者は誰一人として地位を失っていない
  ―――ゲームを満了させれば願いは叶えられる

仁村知佳は先刻、エンジェルナイトから読み取った一通りの情報を
御陵透子に語って聞かせていた。
今、沈黙の中で透子は、それらの情報を咀嚼している。
殊に透子の意識を占めているのは、以下の一節であった。

  ―――蒼鯨神を楽しませる限り資格は失われない

実は透子は、この島に来てからの記憶/記録の検索の中で、
図らずもルドラサウムの記憶/記録にも幾度か触れていた。
つぶさに思い返してみれば、鯨神の記録は実にシンプルであった。
大別すれば二種類にしか分類できなかった。

280ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(2/36) ◆VnfocaQoW2:2010/08/25(水) 23:08:52

楽しい。
つまらない。

その傾向も、実にシンプルであった。

動きがあれば、楽しい。
動きがなければ、つまらない。

ここでいう動きとは、心の動きではない。
悩んだり迷ったり勇気を振り絞ったりを指さない。
あくまでも体の動き、アクションである。
撃ったり刺したり燃やしたりである。
と、いうより。
ルドラサウムは、心を読んだりはしないらしい。
あくまでも表層の表れにのみ着目している。
耳目によってのみ、ゲームを鑑賞している。

例えば、椎名智機が学校にて鬼作らを制裁した折。
例えば、椎名智機が病院を急襲した折。
ルドラサウムは、笑い転げていた。
ゲームのルール云々などは一切関係なく、
主催/参加者の枠を意識することなく、
ドンパチや自爆や建物の崩壊を楽しんでいた。
そんな記録が、空間には残っていた。

故に、透子は決意した。
願いの成就の為、己が為すべきを改めた。

(私も、戦う―――)

281ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(3/36) ◆VnfocaQoW2:2010/08/25(水) 23:10:08

であればと、透子は考えを進める。
今後の具体的な身の振り方を検討する。

自分のテレポートは有用ではあるものの、戦闘力に措いては非常に乏しい。
肉体的な能力が著しく低いためである。
それは、先刻の亡霊・勝沼紳一追跡の折に、身を以って知った。
そんな自分が単独で、海千山千のプレイヤーたちを向こうに回せるとは思えない。
力が、必要である。
ザドゥとカモミール芹沢。
この、戦闘に特化した能力を持つ同胞の力無しでは、勝ち抜けぬ。
その為には。
シェルターへ戻り、朝まで目覚めぬ二人を守らねばならぬ。

「ありがとう、透子さん」

唐突に、知佳が礼を述べた。
知佳はゆっくりと立ち上がり、姿勢を正し、深く頭を下げた。
その動きは、畏まったものであった。
その声色は、固いものであった。
その両方に、知佳らしからぬ硬質な冷たさが含まれていた。

「……なにを?」

透子は知佳の辞儀の意味を図りかね、問い返す。

「魔獣から逃げることができたのは、透子さんのお陰だよ。
 あの時、私はあなたに命を救われたの」

地下通路で、知佳に襲い掛からんとするケイブリスを諌めた。
そんなこともあったなと、透子は思い返す。


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