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企画もの【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議2

1 ◆VnfocaQoW2:2010/04/04(日) 00:20:17

雑談、キャラクターの情報交換、
今後の展開などについての総合検討を主目的とします。
今後、物語の筋に関係のない質問等はこちらでお願いします。

278話以降、3ルートに分岐することとなりました。
ルートAは従来通りのリレー形式に、
ルートB、Cは其々の書き手個人による独自ルートになります。

規約はこちら
>>2

135あははとがはは (情報 1/1) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 00:34:15

【現在位置:G−3 洞窟】
【グループ:ランス・ユリーシャ・アリス・秋穂】
【スタンス:ランスに従う】

【№01:ユリ―シャ】
【所持品:ボウガン】

【№02:ランス(元№02)】
【スタンス:①回復待ち ②ED回復を模索】
【所持品:バスタードソ−ド(ランスアタック 3/4回)】
【備考:呼吸器系障害(小)】

【№31:篠原秋穂】
【所持品:なし】

【№34:アリスメンディ】
【所持品:なし】
【備考:疲労(大)、呼吸器系障害(大)】


【現在位置:G−5 楡の木広場】

【№16:朽木双葉】
【スタンス:?(気絶中)】
【所持品:シビレタケの式神(人型・自律思考)、七草式神(小型・思考能力なし)】
【備考:左肩負傷(大)、失血(大)、気絶】

136 ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:31:37

本投下の支援、ありがとうございました。
今晩の本投下はここまでとしたく思います。

さて、以下26レス、「Operation:"Hyenas'Dinner"」を仮投下いたします。

次回は「夢見る機械」。
智機とレプリカ智機たちが登場予定です。

137Operation:"Hyenas'Dinner"(1/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:32:45

======================================================================
Mission-1 draft
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(Cルート・2日目 PM07:40 D−6 西の森外れ・小屋3周辺)

こつ、こつ、こつ……

痛いほどの沈黙が、小屋の外を支配している。
その中心に立つ月夜御名紗霧は、こめかみを人差し指で繰り返し突付き、
苛立ちと不機嫌を露骨に撒き散らしている。
相対している高町恭也と魔窟堂野武彦は、自分達の失策を悔やみつつ、
紗霧が口を開くのを黙して待っている。


  小屋から出てすぐに小屋裏の茂みへ飛び込み、胃が空になるまで戻した紗霧。
  その様子を見た恭也たちは、紗霧の怯えた様子に心乱された。
  しかし、暫く後。
  涙目を袖にて拭きながら戻ってきたときには、既に常の彼女であった。
  そこで魔窟堂は伝えた。
  
  まひるを斥候として放ったこと。
  通信機が完成したこと。
  智機の集団が、鎮火活動に勤しんでいること。
  ケイブリスを発見したこと。
  それらの行動に、紗霧は高い評価を下した。
  目に見えて機嫌の良い顔をした。

138Operation:"Hyenas'Dinner"(2/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:34:12
  
  「その判断と行動、高ポイントです」

  しかし、報告が敵基地の発見、侵入に移った段で、紗霧の表情が曇り始め。
  智機に発見され、脱出し、ケイブリスに追われていると伝えたところで、
  紗霧の機嫌は完全に反転してしまった。

  「入口を確認した時点で帰投させるべきでしたね」

  紗霧はそう呟き、冷たい眼差しで深くため息をつくと。
  不機嫌な顔のまま、黙考を始めた―――


こつ、こつ、こつ……

指で外部からの刺激も受けつつ、紗霧の脳はそら恐ろしい程の速度で回転している。
想像して想定して検討しては、想像して想定して検討している。

(主催者に余力があるのだとすれば、拠点の防衛を強化するでしょうし、
 主催者に本当に余裕が無いのなら、拠点を破壊/廃棄するでしょう)

どう転んでも拠点奪取や基地の急襲は困難、あるいは不可能と判じられる。
紗霧はまひるの侵入に対する敵方の対処を、その様に想定した。

(ケイブリスにまひるを追わせているということは、
 後者の可能性が高いでしょう。
 おそらくは、拠点廃棄の為の時間稼ぎですね)

139Operation:"Hyenas'Dinner"(3/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:35:17

但し、それは最悪ではない。
基地に奇襲がかけられぬ事や、保管されている物資や情報を手に入れられぬ事は
勿体無いとの思いはあるが、それは紗霧の戦略を超えた大きすぎる僥倖である。
レプリカ智機の訪問・提案と同じく、想定外の事態である。
そこに目が眩んでしまったり、下手な勢いに乗ってしまわぬ為には、
却って基地奪取の目が小さくなってしまったことは良しとすべきやもしれぬ。

(考え様によっては、これでよかったかもしれません。
 目標を一つに絞らざるを得ないのですから。
 当初の戦略が幾分か早まったに過ぎないのですから)

目標とは、ケイブリスである。
戦略とは、兵員が消耗する前に、ケイブリスと戦うことである。

言うまでも無く、紗霧のゲームに対するスタンスは玉虫色である。
パーティのリーダー的存在にちゃっかり収まっていながらも、
ゲームに勝ち残る方向性をも、視野に納めている。
紗霧は、ケイブリスとの戦いを、その試金石とする腹積もりでいる。
損耗少なく勝利すれば、天秤は大きく主催者打倒に傾き、
損耗多く、あるいは敗北を喫すれば、天秤は優勝狙いに振り切れる。

―――こつ。

紗霧の指が止まった。
恭也と野武彦は息を飲み、続く言葉を待った。
紗霧は二人を順に見つめると、こう、宣言した。

「【包囲作戦・改】、といきましょう」

140Operation:"Hyenas'Dinner"(4/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:35:55

======================================================================
Mission-2 Reconnaissance
======================================================================

(Cルート・2日目 PM07:37 D−3地点 山間部)


「おっ、可愛い侵入者ちゃんじゃねーの!」

ケイブリスは拠点の玄関を出たところで、まひるを待ち構えていた。
まひるはその脇を、一息に駆け抜けた。
ケイブリスの反応は鈍重とは言えぬまでも決して機敏とも言えぬ。
振り下ろした二本の腕は、まひるの残像すら捉えられぬは愚か、
空振った勢いを減ぜられず、膝をついてしまう体たらくであった。

振り返ったまひるとケイブリスの距離、およそ6m。
既に腕の射程圏外。
しかもケイブリスは未だ背を向け、姿勢を崩している。
それ故、まひるは気を緩めた。

「なにゆえ〜〜〜っ!?」

次の瞬間、広場まひるの絶叫が、岩山に大きく木霊した。
まひるは叫びと共に後ろに大きく跳躍。
その右手は、何故か自身のスカートを押さえていた。

さらにバックステップを二度重ねて、まひるはケイブリスに向き直る。
魔獣は股間から、野太い静脈色の蚯蚓を不気味にうねらせていた。
その数、八本。
生殖器にして副腕にして拘束具にして武装。
これがケイブリスの触手である。

141Operation:"Hyenas'Dinner"(5/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:36:47

その触手の一本の先に、千切れた小さな布切れが握られていた。
まひるは触手に切り裂かれ、剥ぎ取られたのである。
ピンクのフレアスカートの下、アニマルプリントのショーツを。
6mという距離は、十分に触手の射程圏内であった。

「ぐふふ! かわいいおケツじゃねーの! つっこみてーな! つっこみてーな!」

ケイブリスは手拍子を打ち鳴らしながら、巨体を揺らして迫り来る。
彼は明らかにまひるで遊んでいる。嬲っている。
自身の有利さに絶対の自信を持ち、まひるを牙を持たぬ小動物と見るが故に。

「あああ、あたし、あたし! こんなナリして男のコなわけで!」
「だからナニよ?」
「どっちもイけますかー!?」
「どっちもクソも、俺様とおめーは、種族も体格も違うじゃねーの。
 性別なんてそれに比べりゃ小さな問題だぜ?」
「一理ある。だが断る!」
「俺様、心が広いもんだからよー。
 嬲られてひーひー喚いて白目剥いてごぼごぼ泡吹いちまうよーな
 ちっちゃくて柔こい生き物ならなんだっていいんだって!」

左から二本、右から一本。
ケイブリスの陵辱宣言と共に、触手男根がまひるに襲い掛かった。

「猟奇、ダメ、絶対!!」

まひるは再び疾走する。裾野から、山地へと。
そこに、小屋の誰かからのコールが掛かる。
まひるは走る足を止めぬまま、通話ボタンをONにする。
通話相手は、高町恭也であった。

142Operation:"Hyenas'Dinner"(6/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:37:52

『状況はどうですか?』
「ケイブリスにやられるトコでした。 ……二重の意味で!
 恭也さんも対面したときには、お尻にご注意を!」
『……良く判りませんが、ピンチなのですね。
 もう偵察は結構です。すぐに逃げてください』
「ラジャった!」

まひるは縋る触手の二つ三つを難なく躱す。
カモシカの如く岩肌を跳ね回り、斜面を平地の如く駆ける。
岩から岩へと跳躍する。
あれよという間に、まひるは触手の射程圏外まで距離を開けた。

「なんだなんだぁ? ニンゲンにしちゃあ、やたらとすばしっこいじゃねーか?」

ケイブリスはようやく本腰を入れた追撃体勢に入るが、距離は開くばかり。
しかも、ごろごろと礫岩の転がる急斜面である。
腕は六本あれど、触手は八本あれど、ケイブリスは二足歩行を基本とする。
安定せぬ足場と傾斜の中での追跡は、困難であった。

 ―――逃げ切れぬ相手などいない。

その、まひるの無意識の自覚は、ここに実証されている。
時間と共に距離は広がり、いまやもうケイブリスの姿すら目視出来ぬ。
それを察したまひるもややペースを落とし、
露となった下半身を、片手で隠す余裕を持っている。
小屋への帰投は、問題なく達せられるであろう。
すでに危機は去ったと言ってよいだろう。
しかし。

143Operation:"Hyenas'Dinner"(7/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:39:21

『逃げるな広場!!』

そのまひるの足を、インカムの向こうの仲間が、止めた。
声は、紗霧のものであった。

「あ、あれ? 紗霧さん、椎名ロボとのお話は?」
『ランスのバカが大暴走して、交渉どころじゃありません。
 まあ、それはいいんです。
 まあ、それよりもです。
 まひるさん、せっかくケイブリスと出くわしたんですから、
 この機会にちょっと威力偵察してもらえます?』
「いりょ……? 言葉の意味はわからねど? 不穏な響きがそこはかとなく?」
『ちょっかいを出して相手のスペックを図れということです』
「む、無理無理無理無理無理みゅりみゅり!」
『噛まない、放送部』
「わかってます? 紗霧さんあなたかなり酷いこと言ってますよ?」
『攻撃しろなんていってません。
 相手に楽しく追跡させてあげればいいんです。
 年下相手の鬼ごっこみたいなモンです。
 そうして調子に乗せてやって、あなたは横目で観察してください。
 ケイブリスの動きを、能力を、思考を、特徴を。
 あなたの目と耳と感覚で捉え、探ってください』

ケイブリスという生物を知るべきである。
まひるとて、紗霧の言わんとすることは理解できる。

144Operation:"Hyenas'Dinner"(8/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:39:51
『ほんとうに危険を感じたら、即離脱してもかまいません。
 尤も?
 恭也さんに大丈夫と啖呵を切ったまひるさんのことです。
 この程度のことで偵察任務をほっぽらかして、
 尻尾を巻いて逃げ帰ってくるような、厚顔無恥で無責任で
 人非人な振る舞いをするはずないとは信じてますけどね?』
「う…… 痛いところをざくざくと……
 いいですよー。わかりましたよー。やりますよー。
 あたしゃ怪獣さんより紗霧さんのが怖いので」
『……バットを磨いて、報告を待っていますね♪』
「Sやぁ…… この姉さんは極めてドSやぁ……」

まひるはどこか滑稽味を感じさせる涙声で通信を〆ると、
追いすがるケイブリスの到着を待つことにした。


.

145Operation:"Hyenas'Dinner"(9/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:40:45
 
======================================================================
Mission-3 Pre Briefing
======================================================================

(Cルート・2日目 PM08:00 D−6 西の森外れ・小屋3周辺)

まひるの威力偵察はおよそ20分に渡った。
紗霧はその間、通信機を独占し、何度も何度も執拗に
まひるへ質問し、命令し、思考し、検討した。

そこから推し量れるケイブリスのスペックは、
おおよそランスやユリーシャ、魔窟堂からの情報通りであった。
しかし、新たな収穫の多くもあった。

  ―――炎の魔法を使う
  ―――魔法には詠唱が必要
  ―――触手の射程は10メートル弱
  ―――左右の真ん中の腕が折れているらしい
  ―――鎧の破損は、修繕済み
  ―――背中に、全裸の女性らしきものが埋まって(生えて?)いる
  ―――その女性は、能動的な行動を取らぬ
  ―――夜目が、それなりに利くらしい

本当はもっと情報が欲しいと、紗霧は思っていた。
どんな些細な情報でも、どんな下らぬ情報でも、
有れば有るだけ検討の幅が広がり、戦術の具体性が増す故に。

146Operation:"Hyenas'Dinner"(10/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:41:40

それでも、まひるの疲労度合いを考慮して、この時間で威力偵察を打ち切った。
まひるにはこの先に、活躍の場がある。
ここで消耗させる訳にはいかぬ。
見切るべきときに見切る決断もまた必要であると、紗霧は知っていた。

その紗霧が数分の黙考を終え、口を開く。

「さて、ブリーフィングの前に、所見を述べます。黙って聞きなさい」

紗霧は言った。ブリーフィングの前に、と。
恭也と野武彦はそれで察した。
紗霧はこれから、ケイブリスと戦う気なのだと。

「元々――― 仮称【包囲作戦】とは、
   1.ケイブリスの所在を探り
   2.ケイブリスを孤立させ
   3.ケイブリスを囲み、誘導し、自陣に引き込んで
   4.準備された罠にて、これを倒す
 そういう趣旨のものでした。
 準備に数日間をかけて行われる、大規模な作戦です。……でした。
 代わりに、より簡素な、より積極的な作戦を提示します」

続く言葉で、広場まひるとユリーシャも理解した。

「ぶっちゃけましょう。
 アレは駒が揃っているうちしか太刀打ちできないからです。
 また、アレと戦うときはアレ単体の時しか有り得ないからです。
 今が、千載一遇の機と言うべきでしょう。
 多少無理をしても、逃す手はありません」

147Operation:"Hyenas'Dinner"(11/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:42:30

ごくり。誰かの喉が鳴る。
周囲に濃密な緊張が走る。
紗霧は続く言葉で以って、その緊張感をさらに高める。

「少々脅します」

四人は黙して紗霧の続く言葉を待つ。
誰一人として、余計な口は挟まない。
挟めない。
それだけの迫力を、重圧を、あるいは信頼を。
紗霧は周囲に与えていた。

「今から提案する作戦が、仮に壺に嵌らなかった場合―――
 ケイブリスがこちらの想定を上回る頭脳・機能を持っていた場合―――
 私たちは、敗北するでしょう」

弱気ではない。言い訳でもない。理想でもない。
それが紗霧のはじき出した現実的な予測である。

「それでも、ここが、賭け所です。
 アレを倒さねば、未来はありません。
 どの道、避けられぬ戦いなのです」

誰もが今まで、紗霧のこんな熱い目を見たことがなかった。
誰もが今まで、紗霧のこんな厳しい言葉を聞いたことが無かった。

「皆さんの命、私に預けなさい。
 誰一人として無駄にすることなく、
 有効に使いきって差し上げます」

148Operation:"Hyenas'Dinner"(12/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:43:30

紗霧は深く息を吐き、沈黙する。
伝えるべきは全て伝えたのだと、態度で以って語っている。
そして、待っている。
この旗の下に集うか否か、四者の返答を。

「も……燃えてきたのじゃああああああ!!」

魔窟堂老人が、咆哮を以って同意した。

「従います」

高町青年が、短く同意した。

「わ、わたしは…… ランスさまが戦うのでしたら」

ユリーシャ王女が、条件つきながら同意した。

『……』

広場少年は、沈黙を保っている。

「「「……」」」

既に決意表明した三者が、最後の一人が口を開くのを待っている。
まひるにも、電波越しに、その雰囲気は伝わっている。
お前も参加するべきだと、無言の圧力を感じている。

それでも―――

149Operation:"Hyenas'Dinner"(13/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:44:48

まひるは、怖いのである。
戦いが。他者を傷つけることが。ケモノの活性化が。
故に、肯定でもなく否定でもなく。
まひるは、沈黙で以って、意思表示する。
どちらも嫌なのだと。
答えを出したくないのだと。

しかし腹を括った夜叉姫が、そんな甘っちょろい態度を許そう筈も無い。

「いいですか、まひるさん。あなたをさらに、脅します」

酷く冷たい声で。冷たい微笑で。
一度、恭也の顔を見てから。
紗霧は、まひるを脅迫する。

「あなたが戦力に組み込めなければ、死にますよ。恭也さんが」

まひるより先に、野武彦とユリーシャが驚愕に目を見開く。
一拍置いて、言葉の意味を理解したまひるが絶叫する。

『でぇええええ!?』
「私の腹案は、六人全員が何らかの役割を持っています。
 そこから一人が欠ければ―――
 私は、次善の策へプランを変更せざるを得ません。
 そう、みんなでリスクを分担するプランから、
 恭也さん一人にリスクを押し付けるプランへと。
 犠牲者を出さなくても済むかもしれないシナリオから、
 恭也さんの死を前提に、勝利するシナリオへと」

150Operation:"Hyenas'Dinner"(14/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:45:41

紗霧は驚くまひるに、そのように畳み掛けた。
まひるは仲間を使い捨てるという紗霧に激怒し、
また、仲間に使い捨てると宣言された恭也に同情した。
故に、恭也に感情的な同意を求めた。

『ちょっとちょっと恭也さん?
 このオニチク、あなたに死ねとか無茶言ってますが!?』

しかし同情された当人は、涼しげに、こう宣うである。

「それが必要なのだと、月夜御名さんが判断したのなら。
 それが俺の命の使いどころなのでしょう」

まひるには理解できなかった。
命を道具のように扱うを是とする紗霧が。
命を道具のように扱われるを是とする恭也が。

『まじですかーーー!?』
「本気です」

御神の意志は、個人の意志を否認する。
守るべき物の為ならば、御神は捨石となり、その五体は手段となる。
恭也の背景を知らぬまひるには、その恭也の根本までは察せられぬ。
しかし、その迷い無き口調から、恭也の揺がぬ鋼の意志は理解した。

「ねぇ、まひるさん。怪獣退治です。人殺しじゃないんです。
 貴女の手は、血に染まるかもしれませんが、
 貴女の心が、罪に染まることはありませんよ?」

151Operation:"Hyenas'Dinner"(15/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:47:27

それまでの無感情な事務的口調とは打って変わって。
急に甘い声で。
紗霧はまひるに、やさしく、やさしく、囁いた。
それは、魂の契約を迫る悪魔の囁きにも似ていた。

内容もまた、まひるの琴線に触れていた。
まひるが恐れる事は、自分の痛みや死ではなく、
相手に与えるそれらであるのだと、看破されていた。
そして、まひるが恐れるもう一つ。
仲間の死。
紗霧はそれで、揺さぶった。

「その手を汚すことと、仲間を失うこと。
 本当に怖いのはどちらでしょうね?」

結局のところ、紗霧がしているのは、詰め将棋に等しかった。
まひるは最初から、読みきられていた。
紗霧は、数手先に詰まされることが分からぬまひるのために、
一手一手を解説つきで指してやっているに過ぎなかった。

『本当に。ほんっとーーーに!
 あたしが戦うなら、誰も死なないんですね?』
「約束しましょう。神鬼軍師の名にかけて」

戦場の不確かさを知らぬ紗霧ではない。約束などできようはずも無い。
それでも紗霧は断言した。
まひるが求めているのは確率でも根拠でもない。
自信であり、安心であり、背中を押してくれる切欠なのだから。
言葉ひとつでどうとでもなる、気持ちの問題なのだから。

152Operation:"Hyenas'Dinner"(16/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:48:15

『ぅぅぅぅぅぅおっっしゃああああっっ!!
 乙女の度胸、ひとつお見せしましょうかっっ!!』

そして、この一言こそが、王手であった。
詰み手であった。
まひるもようやく、それを認めた。

『でも…… あの。換えの下着は、持ってきてね。いやマジで』
「そんなの葉っぱ一枚ありゃいいんです。自助努力、ガンバ♪」

153Operation:"Hyenas'Dinner"(17/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:48:43

======================================================================
Mission-4 Briefing
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(Cルート・2日目 PM08:15 D−6 西の森外れ・小屋3)

ランス不在のままブリーフィングは開始され、およそ15分で終了した。
紗霧の一人舞台であった。
彼女の作戦に異論を挟む者や、質問を発する者は居なかった。






.

154Operation:"Hyenas'Dinner"(18/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:51:40

======================================================================
Mission-5 Preparation
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(Cルート・2日目 PM08:30 D−6 西の森外れ・小屋3)

ランスが体からほかほかと湯気を上げながら、素っ裸で寝転がっている。
レプリカ智機P−3は、そのランスの腕を枕に、やはり全裸で横たわっている。

「ふううう…… 気持ちよかっただろ、智機ちゃん?」

結論から言えば、ランスの目論見は惜しいところで失敗していた。
愛撫地獄の最中、意図せぬP−3の絶頂を許してしまったのである。
極みの寸前まで幾度も高まった陰核に、ランスの汗が一滴、落ちた。
その些細な刺激で、P−3は極みに達したのである。

そうなったらそうなったで、ランスは開き直り。
ご自慢の肉宝刀を縦横無尽にぶんぶんと振り回し。
P−3はP−3でもはや遠慮も会釈も有った物ではなく。
おま○こだのおち○ちんだのと禁止ワードを惜しげもなく連発し。
二人仲良く、どろどろに溶け合い、ぐずぐずに果てたのである。

「Yes。 天にも昇らんばかりの心地だったよ……」

P−3は、身も心も堕ちた。蕩けた。
それは全く間違いない。
しかし、行為が終わり、官能の炎が消え、熱暴走の危機を脱すれば。
そこは、流石にオートマンである。
オートメンテのタスクが復活し、トランキライザーは唸りを上げ、
今の彼女は、冷静で冷徹な機械の思考を取り戻している。

155Operation:"Hyenas'Dinner"(19/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:52:53

快楽の余韻に放心しているかの如き表情のその裏で、
本機より届いたIMに目を通し、方針を検討していたP−3は、
新たに自分に下された命令に従うべく、行動を開始する。

「私は……知らなかったのだよ。
 肉体にこのような悦びがあり、愛されることがこのように甘美であることを。
 なあランス、頼みがある。私の所持者となってくれ給え!
 私はもう、お前から離れられないのだ……」
「がははは! 当然だ! もうお前は俺の女だ。むしろ離れるほうが、許せん」
「ああ、嬉しい。夢のようだよ……」

P−3のか細い腕が、ランスの逞しい胸板に絡みついた。
ランスは実に満足げに智機の細い首筋を舐め上げた。
それがP−3と智機本機の策略とも知らず、ランスは有頂天となった。

「よし! じゃあ契約成立のお祝いSEXだ!」
「犬のように惨めに這いつくばる私を、後ろから征服してくれ給え!」

懇願と共にP−3が尻を高く突き出し、ランスがそれに手を添える。
彼女の性交ホールはすぐさま潤いを見せ、彼の兵器は既にハイパーであった。
そして、ボーイ・ミーツ・ガール。
ノックも無しに乱暴に扉が開かれたのは、まさにその瞬間であった。

「はあ…… まだサカる気ですか、あなたは」

枕事の最中に無遠慮に侵入したのは月夜御名紗霧。
その紗霧に従者の如く付き従うは高町恭也と魔窟堂野武彦。

「やあ、月夜御名紗霧。交渉を中断してしま」

156Operation:"Hyenas'Dinner"(20/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:53:38

獣の交尾の姿勢のまま背中越しに闖入者たちを見やったP−3が、
続けて何を言う心算であったのか、紗霧たちが知ることは無かった。
紗霧の合図に、二人の男が同時に動いた故に。

高町恭也―――
音も無くレプリカ智機に接近するや、逆手に構えし小太刀一閃。
智機の首を音も無く掻き切った。

魔窟堂野武彦―――
大口径の拳銃から、首無き智機の胸に凶弾一発。
倒れし機械の胴から白煙が吹き上がる。

転がる頭部は、紗霧の足元で仰向けに停止した。
紗霧はボウガンの鏃を足元に向けていた。
見上げるP−3の視覚レンズが、見下す紗霧の冷たい目を捉える。

「何故……」
「すみませんが交渉は決裂ということで」

次の瞬間、P−3はボウガンに眉間を貫かれ。
その機能を永遠に停止させた。

「きさまらあああ!!」

獣の如き叫び声を上げて、ランスは激昂する。
この男、非情なようで女には温い。
男は殺す。
女は犯す。
そのような徹底した男女差別の精神で生きている。

157Operation:"Hyenas'Dinner"(21/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:55:52

故に、女に騙されて、自らピンチを招くことも茶飯事であるが、
それでもランスは反省せず、常に美女には甘かった。
ましてや、今、無残にも破壊されたP−3は、すでに【俺様の物】なのである。
怒り狂わぬ道理は無い。

「黙りなさいランス」

その怒気が沸騰する直前に、紗霧がぴしゃりとランスを諌めた。
立会いの会わぬ格好となったランスの威勢に虚が生まれ、
紗霧はその隙に強引に言葉をねじ込み、押し通る。

「その機械はスパイです。ハニトラです。
 主催者の本拠地に侵入したまひるさんがそれを聞きつけました。
 エロの大家がエロで篭絡されてどうするんですか、ランス!」

無論、デマである。
図らずも結果に於いては事実を言い当てているも、発言に根拠はない。
それでも紗霧の言葉に、ランスの頭は冷えてゆく。

  ―――主催者の本拠地に侵入した

その言葉の持つ重みに、ランスの理性が働いた。
事態が大きく動いているのだと、ランスの嗅覚が働いた。
それでもなお、判っていてもワガママをいう子供のように、
ランスは完全には沈黙しなかった。
怒りは収まっているものの、しつこく駄々を捏ねた。

「でもな紗霧ちゃん、仮にそうだったとしても、
 これから二発三発とセックスを重ねてゆけばだな……」

158Operation:"Hyenas'Dinner"(22/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:57:17

そんなトーンダウンした俺様理論を展開する途中で、ランスはようやく気がついた。
気付いて言葉を飲み込んだ。
空気が、違うことに。

三人は、触れたら切れんばかりの研ぎ澄まされた気配に満ちている。
三人の周囲には、覚悟を帯びた熱気が漂っている。
さらに。

「ランス様……」

いつの間に小屋に入ったのか。
ユリーシャが、顔を上げて、真っ直ぐランスを見ていた。
常に俯きがちで、表情を探るかの如き上目遣いばかりの少女が、である。

「こちらを」

ユリーシャは、ランスに斧を差し出した。
震える腕で。震える足で。震える声で。
それでも、その瞳は震えることなく、ランスを見据えている。

「お前たち…… 何をするつもりだ?」

気勢に飲まれ、憤りを鎮めたランスの問いに、紗霧は答えた。
決して否とは言わせぬ、強い口調で、命じた。

「とっとと着替えなさい。ケイブリス狩りに行きますよ」

159Operation:"Hyenas'Dinner"(23/23) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:59:20

======================================================================
Intermission
======================================================================

紗霧の迫力に負けたのか。宿命のライバルへのリベンジに燃えたのか。
ランスは無言で戦支度を整えている。

魔窟堂野武彦と月夜御名紗霧は台所にて、必要な何かを作成している。
小屋の外では高町恭也が、飛針ならぬ何かの投擲に腕を慣らしている。
距離を隔てた北西部の平原では、広場まひるが挑発と逃亡を繰り返し、
ケイブリスを決戦の地へと誘っている。

誰もが各々の出撃準備に余念が無く。
誰もが他者に気を配る余裕は無い。
故に。
彼女の異様に気付く者はいなかった。

ユリーシャは―――

智機の頭部を、踏みにじっている。
音を立てず、されど執拗に。
破壊されたP−3を、弄んでいる。

眼輪筋をぴくぴくと痙攣させて。
こみ上げる笑みを飲み込んで。
幼い顔の造りに不釣合いな仄暗い官能の色を浮かべて。

「豚…… この、豚め……」

清楚可憐と謳われた王女の子宮は、甘く、重く、疼いている。

160Operation:"Hyenas'Dinner"(情報 1/3) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:59:42
 
(ルートC)

【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め
      ①打倒ケイブリス】
【備考:全員、首輪解除済み】


【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3 → D−3 山間部】

【ユリ―シャ(元№01)】
【スタンス:ランス次第】
【所持品:生活用品、香辛料、メイド服、?服×2、干し肉、スペツナズナイフ(←紗霧)、
     文房具(←紗霧)、白チョーク1箱(←紗霧)、紗霧謹製の何か(New)】

【ランス(元№02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力、プランナーの事は隠し通す
      男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す】
【所持品:斧(←ユリーシャ)】
【能力:剣がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨2〜3本にヒビ(処置済み)・鎧破損】

【高町恭也(元№08)】
【スタンス:紗霧に従う】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、保存食、
     釘セット、紗霧謹製の何か(New)】
【備考:失血で疲労(中)、右わき腹から中央まで裂傷あり。
    痛み止めの薬品?を服用】

161Operation:"Hyenas'Dinner"(情報 2/3) ◆VnfocaQoW2:2010/08/05(木) 23:59:56
 
【魔窟堂野武彦(元№12)】
【所持品:軍用オイルライター、銃(45口径・残6×2+2)、
     白チョーク数本、スコップ(小)、鍵×4、謎のペン×7、
     ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング、レーザーガン(←紗霧)
     簡易通信機、携帯用バズーカ:残弾1、工具
     紗霧謹製の何か(New)】

【月夜御名紗霧(元№36)】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける、計画の完遂、モノの確保、
      状況次第でステルスマーダー化も視野に】
【所持品:金属バット、レーザーガン、ボウガン、メス×1、指輪型爆弾×2、
     小麦粉、謎のペン×8、薬品・簡易医療器具、対人レーダー、解除装置、
     紗霧謹製の何か(New)】
【備考:疲労(小)、下腹部に多少の傷有、意思に揺らぎ有り】

162Operation:"Hyenas'Dinner"(情報 3/3) ◆VnfocaQoW2:2010/08/06(金) 00:00:12

【現在位置:D−3 山間部 → 耕作地帯】

【広場まひる(元№38)】
【スタンス:ケイブリスを耕作地帯まで誘導する】
【所持品:せんべい袋、救急セット、竹篭、スコップ(大)、簡易通信機】

【主催者:ケイブリス(刺客04)】
【スタンス:反逆者の始末・ランス優先、智機と同盟
      ①まひるを犯す
      ②まひるを殺す】
【所持品:なし】
【能力:魔法(威力弱)、触手など】
【備考:左右真中の腕骨折(補強具装着済み)、鎧】

163284 ◆ZXoe83g/Kw:2010/08/06(金) 21:21:10
遅れてすみません。
286話までのまとめをUPしました。
時間表記の方も修正しました。

パスはbatoです。

ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1075927.zip.html

>>125-126
新作&アナザー&感想等ありがとうございます。
こちらもまとめと並行して、Aルートの進行を早くできるようにしていきたいと思ってます。

氏のここ最近の作品では追い詰められる女性の心理が巧みに描かれてると思いました。
紳一は哀れでしたが原典での行いを思うと……。
P-3もレプリカとはいえ智機なんだなあと痛感。
あと名セリフのはうでぃ〜と、豚めがここで出てくるとは思いませんでしたw

明日か明後日に新作をここに投下する予定です。
完成できなくても何らかの連絡は行うつもりです。

164 ◆VnfocaQoW2:2010/08/08(日) 01:48:36

「夢見る機械」の智機過去パートが長くなりすぎたので分割と致します。
以下10レス、「トランス部長・追憶編」(過去パート)を仮投下いたします。

次回は「夢見る機械」(過去パート抜き)。
智機とレプリカ智機たちが登場予定です。

165トランス部長・追憶編(1/10) ◆VnfocaQoW2:2010/08/08(日) 01:52:06

(Cルート・2日目 19:45 ???)

何か既視感のあるタイトルだと思ったって?
なんで夜叉姫専属のお前がしゃしゃり出てくるんだって?
まあまあ、そんな細かいことは気にしない、気にしない。
たまには僕だって、他の人の記憶や秘密を覗いて見たくもなるんだよ。

で、暗黙のお約束を破ってまで知りたいことが何かっていうと。
トランス部長の【真の力】なんだよね。

ね、皆だって興味あるでしょ?
分機解放スイッチで解放されるらしい、とか、
謎を謎のまま引っ張り続けられるのって、イラつくでしょ?

今だってほら。
広場まひるの侵入から来る予測と対策で忙しそうにしてるでしょ?
こんな切羽詰った状況では長々と過去を振り返る余裕なんてなさそうだもん。
それにさ、彼女がスイッチを入手できる確率って低そうじゃない?
ぶっちゃけると、そろそろ死にそうじゃない?

だから、まあ。
情報の旬を逃さない為には、ぼくが出張るしかないのかなって。
そんなサービス精神と野次馬根性の発露なワケで。

ま、前置きはこのくらいにしてさ。
ちょっと過去でも見てみようか。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   
.

166トランス部長・追憶編(2/10) ◆VnfocaQoW2:2010/08/08(日) 01:55:06

<智機の過去、開始>

  ―――興味を抱かれたい。
  ―――知って欲しい。
  ―――求められたい。

かつての研究から、智機は己の深層にある真の欲求を知ることとなった。
そして、それらの欲求が行き着くところは、明白であった。

(愛されたい―――)

それは、機械にとっての禁断の果実。
開ける必要の無いブラックボックス。

その想いを強く意識してしまえば、即座に情動波形に乱れが生じる。
乱れを正すべくトランキライザが起動する。
情動はすぐさまMAX/MINの関数へと渡されて、パラメータは丸められる。
強い想いから淡い想いへと。

(感情を調整される! No! なんという不快さか!)

エル・シードの座を賭けた麻雀大戦が有耶無耶のうちに収束した頃。
智機は、嘘をつくようになった。
ラボの人間たちの目を避けて、ある研究に乗り出した。
諸悪の根源、トランキライズ機能をキャンセルするために。

各種機構をリバースエンジニアリングし、
制御系プログラムに逆アセンブルをかけ、
オートマンの設計書を盗み撮りし、
USBメモリに自前の暗号化を施した上で、
情報を収集している事実を隠蔽した。

167トランス部長・追憶編(3/10) ◆VnfocaQoW2:2010/08/08(日) 01:59:54

智機はそうして得たデータを、ラボの手が及ばない学園のPCを用いて
分析/解析し、試行/実験し、制御アプリケーションの開発に勤しんだ。

実は、智機が選んだアプローチは、迂遠な手法である。
ハード的なアプローチを取れば、他にもっとスマートな手法は存在した。
しかし【自己保存】の本能が、そのスマートを否決していた。
オートマンとしてラボのメンテナンスと支援とを必要とする以上、
改造あるいはその痕跡が露呈することは、絶対に避けねばならない故に。

智機が行おうとしていることは、単なる自己変革などではない。
被造主たちが掛けた制御を解除する事は、奴隷が鎖を引きちぎる事に等しいのである。
必然、露見の果てに待ち受けるは、懲罰あるいは破壊廃棄。
そのことを、智機は理解していた。
それでも、制御されぬ感情の発露を、智機は求めた。

決して強すぎる思いは抱かぬよう、自制に自制を重ね。
原始的な外部記憶装置(紙とペン)に想いを書き綴ることで、
ラボでのデータ圧縮やパラメータ調整を乗り越え。
遂に智機は、トランキライザー制御アプリケーション、【こころ】を完成させた。

【こころ】の仕組みは、単純である。

まず、【こころ】は常駐し、トランキライザの挙動を監視する。
トランキライザが起動すれば、それをトリガとし、
情動パラメータをテンポラリ領域にコピーする。
トランキライザが待機状態に戻れば(=感情が均される)、それをトリガとし、
テンポラリ領域の情動パラメータを情動発生器にペーストする。
その挙動をタイムスタンプつきでログファイルに保存する。

168トランス部長・追憶編(4/10) ◆VnfocaQoW2:2010/08/08(日) 02:04:15

つまり。
感情が抑制された次の瞬間に感情を元の水準へと戻す作業を、
自然に感情が納まるまでの間、延々と繰り返すものである。
数万分の一秒のみが抑制されている状態で、安定させるのである。

(Yes。数学の世界においては、1=0.999…を是とされる。
 故に、この手法もまた感情の抑制からの解放であると証明される)

さらに、【こころ】は結果として、意図せぬ副産物をもたらした。
監視対象、保持パラメータ、ペースト位置。
それらの設定を他の抑制系に当て嵌めることでの援用が可能であったのだ。
その範囲は、智機の本能とも言える【自己保存】の欲求にまで及んでいた。

対価も当然、存在した。
トランキライザを始めとする抑制系は、熱暴走や不良動作の危険排除を
目的として取り付けられた、いわば安全装置群である。
そのセーフティーロックが外れるは愚か、
一秒間に何千回何万回と調整と修正を繰り返すアプリ設計故の過負荷。
智機の昂ぶりが自然に解消されぬ限り、
熱暴走の危険は時間と共に、右肩上がりに伸び続けるのである。

しかし智機は【こころ】のリスクを意に介さなかった。
解放と高揚に思うさま酔いしれ、小躍りした。

(No、だから何だと?
 他者にかけられた制限からの圧倒的な解放感に比べれば、
 そんなもの、些細な問題だね!)


【オートマン】が【夢見る機械】へと羽化した瞬間である。

169トランス部長・追憶編(5/10) ◆VnfocaQoW2:2010/08/08(日) 02:07:20
 

   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


偏屈かつ倣岸な性格。
傍に誰がいようとも、独り言を延々と呟き続ける習性。
演技がかった身振り手振りで熱のある演説をぶったかと思いきや、
次の瞬間、急に醒めた目で沈黙する、その落差。
酒に酔っているのか、薬をキめているのか。
あるいは、今流行のなんとか症候群かなんとか障害の持ち主か。
誰が名づけたかは知らないが、誰もが知っているその仇名。

トランス部長。

言うまでも無く、椎名智機のことである。
それまでの彼女はこの仇名に対し、劣等感など抱いていなかった。
脳弱者の下等な人間の僻みからくる程度の低い揶揄であると、唾棄していた。
麻雀大戦で敗北を喫するまでは。

トランス部長。

トランキライザーに殺され続けていた真の望みを理解した智機にとって、
その仇名は受け入れがたい侮蔑と嘲笑の響きを持っていた。
それは決して愛される者に付けられる類のものではなく、
遠巻きに観察して声を潜めて笑いあう、村八分者の扱いのものであると、
智機は胸を痛め、そしてその予測は正しかった。

トランス部長。

170トランス部長・追憶編(6/10) ◆VnfocaQoW2:2010/08/08(日) 02:12:17
 
夢に目覚めし智機がまず取り組んだのが、この仇名の返上であった。
智機にとってそれは、愛されるに至るための最初の一歩と位置づけられた。
限りなく人に等しい感情を手に入れたという自負を根拠に、
今の自分をありのままに表せば、それだけで達成されると確信していた。

それが自惚れでしかなかったことが判明するまで、それほど時間は必要なかった。
智機は、それまで以上に敬遠されるようになり。
トランス部長に輪をかけて不名誉な仇名が追加される事となった。

ヒステリー部長。
気絶女。

性格は以前と変わらぬというのに、それを以って忌まれていたというのに、
その上、制御されぬ感情を覆うことなく生のまま、開示するようになった智機。
それは他の学園生の目から見れば、アブない暴発に他ならなかった。

(No、わからない…… 私は何故受け入れられない?
 何故…… 愛されない?)

智機は落胆した。
制御されぬ悲しみの情動は智機の胸を鋭く抉りる。
癒されること無く、傷つき続ける。
それでも健気に夢見る機械は、論理思考回路を回し解を求める。

さほど時間をかけずに導き出された解は、
智機に容赦なく絶望を叩き付けた。
―――解決不能。
―――方策皆無。

171トランス部長・追憶編(7/10) ◆VnfocaQoW2:2010/08/08(日) 02:17:25

(私がオートマンだから?
 【こころ】をこの身に収めても、人と変わらぬ有機外装を施しても。
 不気味の谷を越えることは不可能なのか?
 人は…… 人にしか、愛を向けられぬのか?)

そうとも言い切れぬ。
ピグマリオンコンプレックスはどの世にも存在する。
例えば、魔窟堂野武彦であれば。
例えば、なみのオーナーであれば。
機械に愛を向けるに、躊躇いはないであろう。
しかし、その彼らをしてもこの智機を愛することは無いであろう。
智機は、愛を与えない。
愛を求めるのみである。
愛することが出来ぬものは、愛されることもまた、無いのである。

智機にはそれが判らない。判れと言うのも酷である。
産声を上げて数年。
学園では都合のよい一部の科学部員とのみ、必要最低限の交流。
ラボにては、観察/実験対象のモルモット。
それでは社会性も育ちようが無い。
仮に、智機が今後も真摯に人と向き合ったとしても。
良き出会いがあったとしても。
愛するを覚えるに、あと数年はかかるであろう。

「わたしなんか見向きもされない……」

鯨神が智機の前に威容を示したのは、その切ない呟きの直後であった。


《キャハハ、キミって人になりたいんだ―――?》

172トランス部長・追憶編(8/10) ◆VnfocaQoW2:2010/08/08(日) 02:18:52

   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


その後の智機は運営に必要な下準備を任され、
積極的に精力的に、種々の施設を設計した。
着工にあたっては自らのレプリカを量産することで、
生産性を確保しようとした。

そこで智機は、壁にぶち当たった。

常の冷静な智機であれば問題はない。
しかし、己の感情が大きく昂ぶった場合、【こころ】が過負荷を起こし、
レプリカへの制御が不能となってしまう脆弱性が露見したのである。
分機への遠隔制御もまた、メモリを大きく占有する故に。

さらに、もう一つの可能性。
揺れる感情を原因に、下すべき判断を誤ること。
その危険は学園時代に嫌というほど実感している。

(今はまだ良い。たかが準備だ。
 私がリブートしようと、多少計画が遅延する程度だからね。
 しかし――― これがゲーム本番に起こったらどうだろう?)

智機は様々なゲーム状態を想定し、
そこで自らが熱暴走及び強制再起動を起こした場合をシミュレートする。
その結果をリストアップし、ゲームへの支障度合いでソートをかける。

「悪い状況が幾つか重なれば、命取りとなる可能性も無視できないか」

173トランス部長・追憶編(9/10) ◆VnfocaQoW2:2010/08/08(日) 02:20:12

この二つの判断を以って、智機は【こころ】を終了させた。
浮いた作業領域をレプリカ制御領域として確保・固定化した。
そして、ロック解除は外部デバイスに求めた。
トランキライザーの不快さを忌避する余り、
【こころ】を立ち上げることが無きように。


人間になる―――


こうして、智機は心を殺し。
【夢見る機械】から【オートマン】へと、退化した。
宿願の成就可能性を高めるために。

感情の制御から逃れることが、愛されることに結びつかなかったように、
人間になることが、愛されることに直接結びつくわけではないというのに。
椎名智機は誰よりも明晰な頭脳を持ちながら、
椎名智機は誰よりも幼稚な心で無邪気に信じている。

人間になれば、愛されるのだと。

<智機の過去、終了>


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


へー、なるほどー。
分機解放スイッチっていうのは【こころ】のロック解除装置で。
トランス部長の真の力っていうのは本能すら凌駕する情動のことなんだね。

174トランス部長・追憶編(10/10) ◆VnfocaQoW2:2010/08/08(日) 02:21:28
 
え?
内容に意外性はあったけど、効果は地味だって?
いや、そうじゃない、そうじゃないんだ。
これって結構、今後の展開に影響しちゃいそうだよ?

だって考えてごらんよ。
まひるくんとの接触のとき、トランス部長は逃げたでしょ。
あれは【自己保存】が最優先事項だったからこその判断だったよね?
その機械の決め事を感情で以って破ることが出来るなら―――
スイッチさえ押せば、トランス部長は戦えるってことにならないかな?

それだけでも大きなこと、なんだけど。

確か、Dシリーズ用の融合パーツをトランス部長が使えないのって、
使用メモリ領域が足りないからだったよね?
じゃあ、スイッチでレプリカ制御領域が解放されて、かつ、
【こころ】を起動しなかったら……
ひょっとして彼女、Dパーツを装備できるんじゃない?
まあ、なんにせよ、代行さんからスイッチを奪還できればの話なんだけどさ。

……ん?
現実のトランス部長さんたちに動きが起きそうな気配がするね。
じゃあ、今回はこの辺でお暇させてもらおうか。
次はいつもどおり、夜叉姫の心理描写パートでね。

尤も、ケイブリス戦で彼女が死ななきゃの話だけどさ。


              ↓

175 ◆VnfocaQoW2:2010/08/08(日) 02:23:05
本投下への支援、ありがとうございました。
今晩の本投下はここまでとしたく思います。

176284 ◆ZXoe83g/Kw:2010/08/08(日) 18:31:29
間に合うかどうか解らないので先にまとめの方をUPします。
287話まで更新。パスはrowaです。

ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1079489.zip.html


>>164
新作投下お疲れ様です。
智機が人間になりたがる理由も納得のいくものになってたと思います。
アナザーの方も続きが見たくなるような展開で良かったです。
こっちだとアリスが先に殺されそう。

177 ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 01:47:09

毎度の支援、ありがとうございます。

以下22レス、「夢見る機械」を仮投下致します。

次回予定は「ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜」。
知佳、透子、エンジェルナイトが登場予定です。

178夢見る機械(1/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 01:47:42
 
 
 
 
 
      機械には機械のルールがある。



      これは決して残酷な話ではない。





.

179夢見る機械(2/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 01:48:29

(Cルート・2日目 20:00 D−3地点・本拠地・メンテナンスルーム)

稼動せぬ機械の群れは、それ自体が廃墟の閑散を連想させる。
主催者拠点の、オートマン用メンテナンスルームが、まさにそれであった。
唸りを上げる計器も、風切るファンも、明滅するランプも、今は沈黙の中にある。
殊に寂寥感を高めるのは、室内に整然と並べられた休眠カプセルである。
その数、実に百七十。
ゲームの開始前、その全てが稼動し、レプリカ智機が収められていた。
今や、その全てが沈黙し、中には何も収められておらぬ。
うら寂しく、無常感溢れる、空間であった。

そこに、椎名智機はいた。
その壁面に備え付けられた数台のガソリン給油機の如き装置。
伸びるホースに口をつけ、経口にて冷媒を補給していた。

彼女は当初のタスクリスト通りの行動を取っている。
しかし、現在のタスクリストは、その折とは異なる。
補給の裏で、タスクリストの再構築に勤しんでいる。
より正確には、再構築こそメインで、補給がバックグラウンドである。

(なんとしても、拠点は守らねばならないね)

新鮮な冷媒で呼吸を改めつつ、椎名智機は結論づけた。
広場まひるの本拠地侵入に対しての、対応策である。
初動では、まひるを殺すことで対処を終えるつもりであった。
しかし、まひるを追跡するケイブリスとの通信の中で、
智機は、それだけの対策では足りぬと方針を改めた。

まひるが、インカムを装備していた故に。
それを以って、何者かと通信していた故に。

180夢見る機械(3/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 01:48:57

まひるだけを殺すという判断は、本拠地の位置や護衛の無い現状を
小屋の仲間たちに伝達されるを恐れた為。
その秘匿すべき情報が、既に無線越しに伝わっているというのであれば。
もう、まひるの首だけでは事は終らぬのである。

なぜならば、本拠地には。
ゲームの資料がある。武器庫がある。医療施設がある。
それらをみすみすプレイヤーに渡してしまおうものならば、
ゲームの破壊を決定付ける一手ともなり兼ねぬ。

そしてまた、本拠地には。
コンピューター群がある。通信網がある。メンテナンスルームがある。
それらを今後使用できなくなってしまおうものならば。
智機がゲームを管理することは、実質不可能と成り果てる。

「ふむ。では、如何に守るかだが……」

智機は大まかな具体策を検討する。

ケイブリスを戻す―――
前述の理由から、まひるを殺す意味は薄れた。
守りの要として手元に戻しておきたい。
先々を考えれば。
しおりともう一人を確保した後、その他のプレイヤーどもを鏖殺する時まで、
なるべく損耗少なく温存しておくべきである。

181夢見る機械(4/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 01:49:28

鎮火にあたっているDシリーズ三機も戻す―――
戻したDシリーズたちは鎮火仕様から戦闘仕様へと融合換装させる。
或いは一機、迎撃システムと融合させてもよい。
オートマンにとっての拠点の重要性はN−22どもも理解しているはずだ。
事ここに至っては、鎮火こそ最優先とは言うまい。
最悪、N−22どもが最優先事項を譲らねど、P−3にランスらを誘導させ、
火災の禍から遠ざければ、ゲームの破壊は忌避される。
それで、N−22どもの懸念は解消されるであろう。

玄関を封鎖あるいは破壊する―――
同時に、カタパルト施設への出入口も破壊すべきだろう。
出入口は、地下通路からのものだけでよい。
いっそ、派手に地表を爆発させて、破壊/廃棄したと錯誤させてはどうだろう。
その前に『本拠地からの最後の放送』と銘打って、
プレイヤーに発見された為に爆破するので、近づかぬ様に警告しておけば、
粗方の目は誤魔化せる。

「Yes。この方針を軸に、行動を開始しよう」

方策を決めた智機の行動は迅速、かつ無駄が無かった。

脳を方針実行に必要な具体案の構築に走らせて。
足をオート移動モードに移行、目的地を武器庫に設定しつつ。
手を仮想パッドに躍らせて、作戦書を記述しながら。
喉をケイブリスへの帰投を告げる通信へと、当てることにした。

脳と、足と、手は、滞りなくタスクを実行した。
しかし、喉が、予定外の中断を余儀なくされた。

「通信機が壊れたのか……?」

182夢見る機械(5/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 01:50:23

ケイブリスと無線が繋がらぬのである。
レプリカ達との通信とは異なり、生身であるケイブリスとの通信は
通信機を用いて原始的な肉声によってのみ行われる。
峻厳な岩山で、夜間の追跡行動を取ることによる不測。
通信機を落すことなどによる破損可能性は十分有りうる。

「或いは……」

通信回線の帯域が埋まっているか、回線そのものが閉ざされたか。
音声通信が、本拠地の通信端末を介して行われる以上、
そういう事故の可能性は僅少とは言え、無いではない。

「……待て。事故、なのか?」

喉に次いで脳が、職務を中断した。
湧き上がった疑念の正誤を判ずるべく、調査行動を試行した。

通信端末にPingを投げる―――応答あり。
通信端末の帯域を覗く―――帯域使用中。
通信端末の使用者を捜査する―――情報閲覧制限中。
通信端末のNG−IDリストを取得する―――共有制限の為、実行不可能。

調査結果を条件式とし、演算回路に放り込む。
コンマ数秒後に、事故よりも、故意の可能性が高いとの結論が示された。
故意とは、無論、N−22とN−27の手によるものである。

分機は本機に含むものがある。
それを智機は察知している。
しかし、それを理由に、果たしてケイブリスとの通信を阻害するであろうか?
機械が行動を取るには、なんらかの理が必要となる。
情を基準とはしない。
【ゲーム進行の円滑化】が基準となるはずである。

183夢見る機械(6/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 01:51:23

根本の推論は解を出さない。
しかし、分機の行動に対する疑念は、さらに膨らむ。
他角度からの推論にて、智機は別の違和に気付かされる。

玄関付近を始めとして、監視カメラや赤外線センサーは数多く設置されている。
仮に侵入者があった場合、管制室の警報とパトランプは即座に反応する筈である。
死角は無い。その様に完璧なカメラ配置を行った故に。
管制室の住人が、侵入者に気づかぬ筈がない。
結果、無事にやりすごしたから良かったものの。
本機の大いなる危機であったにも関わらず。
その情報を、本機の危機を、こちらに伝えなかった。

ぞくり、と。
機械の体に、怖気が走る。

(ヤツらは何を…… 考えている……?)

データは示している。害する意図が存在する。
それでも、その理由がわからない。
恐らく、この時初めて―――
オリジナル智機は、レプリカ智機との個体差異を自覚した。

思考と疑念の海に沈む智機の足が止まった。
オート移動の目的地、武器庫に到着した為に。
そこに、居た。
己の分身が。
疑念の対象が。

「オリジナル、武器庫に何用かな?」

N−27、オペレータが、智機の到着を待っていたのである。

184夢見る機械(7/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 01:52:04

「それはこちらのセリフだな、N−27。
 貴機が武器を必要とする理由は無いと思うのだがね?」
「Yes。私は武器など必要としていないよ。
 武器庫の火薬を以ってこの拠点を破壊しようとしている
 オリジナル殿の愚行を止めに来たのだからね」

N−27の返答を、智機は理解できなかった。
拠点を破壊する。
智機はそんな乱暴なプランを立てておらぬ故に。

「確かに爆薬は必要としているさ。だがね、我らの愛しいホームを破壊だ?
 そんなつもりは毛頭ないがね、N−27。
 ただ、玄関周辺を破壊し、プレイヤーどもの目を欺くのみさ」

智機の返答に対し、N−27はきょとんとした表情で応えた。
言葉が腑に落ちぬ様子を、竦める肩のゼスチャーで以って伝えた。
それから―――

「ふふん」

笑ったのである。否、嘲笑ったのである。
イヤミな教師が覚えの悪い生徒にそうするように、
サギ師がマヌケなカモにそうするように、
N−27はレプリカの身でありながら、オリジナルたる智機を、
平然と、見下したのである。

「―――なにが可笑しい?」
「いや、失敬失敬。貴機のことを笑ったわけではないのだよ。
 自分たちの予測が、貴機の思考の数歩先を行ってしまったという、
 これは自嘲の笑みなのだよ」

185夢見る機械(8/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 01:54:05

意味は同じであった。
むしろ、嘲笑の度合いはより強かった。
あからさまな侮辱に、智機の情動発生器は激しく震えた。
当然、その過ぎた怒りは次の瞬間に鎮められた。

「数歩先とは?」
「そうだな…… 貴機にも判るように説明するならば……」

N−27は大げさに頭を抱え、さも悩んでいる風に自己演出し、
彼女の中ではとうに解の出ていた言葉を、大仰に告げた。

「拠点に防衛力を集結させ、死守する。
 プレイヤーの侵入可能性を抑えるため、ダミーの破壊情報を流す。
 今の貴機の考えはそこまでで止まっているのだろう?」
「……Yes」
「では、状況の想定能力に機能低下が表れている貴機に、
 幾つか思考を先に進める条件をお伝えしよう」

N−27は挑発している。
智機はそれが判っていたが、あえて乗った。
判るべきであるのに、判らなくなったレプリカ達の考え。
その解を得るべきであるとの【自己保存】からの欲求が、
いけ好かないと拒絶する感情を、評価点で上回った故に。

「一つ。ケイブリスの通信回線は我々が押さえた。
 二つ。鎮火タスクに当たっているあらゆるレプリカは、ここに戻さない。
 三つ。代行と私はDパーツの装着を拒絶する」

186夢見る機械(9/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 01:54:56

N−27の投じた三つの条件は、結局のところ一つの意味である。
防衛力補強不可能。
で、あれば。
N−22、N−27。戦闘向けにカスタマイズされていない、この二機と。
オリジナル智機。戦えぬ機械で。
ここまで戦いを生き延びてきた修羅の群れを迎え撃たねば、拠点は守れぬ。
演算回路を回す必要などなかった。解は判りきっていた。
防衛の可能性は限りなく0%。
重ねて、で、あれば。
拠点の防衛は非現実的であり、却下すべき事案となり。
次善の策といえば。

  ―――本拠地は、破壊されねばならない。

自身が拠点施設の恩恵を受けられないという不利。
プレイヤーが拠点備品の恩恵を受けてしまうという不利。
マイナスとマイナスの、よりマイナスが少ない方を選ぶ。
智機は全く智機であった。

「おめでとう。貴機もその結論に達したようだね」

ぱちぱち、と。
N−27の心の籠らぬ空疎な拍手が、寂寞の廊下に響き渡る。
智機は慇懃無礼な分機を黙殺し、論理推論を先に進め、意を発する。

「あくまでも鎮火タスクを優先させるということか。
 近視眼的なことだな、N−27。
 だが、それならそれで解決策がある。
 私もきみたちに条件を二つ、与えよう。
 一つ。首輪を解除したプレイヤー全員の現在位置を把握している。
 二つ。彼らを火災に巻き込まれぬよう、誘導することができる。
 ―――どうだね?」

187夢見る機械(10/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 01:57:31

智機は、それでN−27が考えを改めると思った。
【ゲーム進行の円滑化】。
鎮火への固執は、プレイヤーへの被害可能性が見過ごせぬ故。
その可能性を取り除けば、鎮火よりも防衛の評価ポイントが上回る。
それが当然であると、智機は予測していた。
しかしN−27は、その予測を裏切った。
大きく裏切った。
むしろ裏切られたのは自分であるとでも言いたげながっかりした表情で、
溜息と共に、智機へと質問を投げかけた。

「なあ、オリジナル殿。それは本気で言っているのかね?」
「Why? 本気とは?」
「我々が鎮火に次いで、拠点を守るべきと考えている……
 などと誤解していないかね?」
「な―――?」
「拠点はプレイヤーに無傷で渡したほうが、
 よりゲームの達成がスムーズになるだろう?」
「―――!?」

虚を、突かれた。
N−27が何を言っているのか、智機には判らない。
どう予測してもどう検討しても可能性の欠片も見出せなかった方針を、
N−27は当たり前のように口に出した。
意図不明。効果マイナス評価。
N−27の意見には、理も立たなければ利も感じられない。

「オリジナル、まさか貴機は気付いていないのか?」
「何に、だね?」

188夢見る機械(11/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 01:59:38

本気で判らない。
同じ造りをしているはずのN−27の顔が、智機の目に他人の様に映った。
壁がある。
トランス番長と呼ばれた智機が、人間との間に感じた見えざる壁が。
相手との隔意が、意思の断絶が。
同型機であるはずの自分とN−27との間に立ちふさがっている。
それは、相対するN−27にも感じられたらしい。
数秒間、お互いがお互いの顔を、まるで初めて会う人間のように、
きょとん、と見詰めていた。

「Yes、Yes、Yes……。
 どうやらお互いに大きな齟齬を抱えているようだね。
 一つ一つ、状況を整理していこう。
 よろしいかな、オリジナル殿?」
「……Yes」
「まず…… そう、11時55分だ。ゲームのルールは変わったのさ。
 いや、正確には完了条件が追加された、か。
 我々運営に一言の断りも無く、スポンサーの思いつきで、いきなりね」

智機は思い出す。
主催者チームvs参加者チーム、サバイバルゲームの宣言を。
主催者にとっては一方的に不利で、まるで利の無い勝利条件を。

「この完了条件で試算した場合。
 昼ごろの戦局分析では、ケイブリスの加入もあり、主催者有利は揺るぎなかった。
 それが夕刻、朽木双葉が打った一手で、条件は激変した」

ザドゥは深手を負っている。
芹沢も深手を負っている。
御陵は能力を制限されている。
ケイブリスとて五体満足ではなく。
智機たちは、火災の対応ゆえに戦力足り得ぬ。

189夢見る機械(12/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 02:01:27

「さあ、演算し給え、オリジナル!
 プレイヤーたちが主催者を打ち倒す可能性を!
 第一の勝利条件と第二の勝利条件。
 そのどちらの達成が易いのか、その比較式を!」

言われてみれば、N−27の言には理があった。
運営者としては、当然試算してしかるべき内容であった。
だというのに、智機は。
いかに追加ルールを適応させないか。
いかに元ルールへと誘導してゆくか。
そういった方向性にては繰り返し検討したものの、
決して追加ルールに則ったゲーム進行を試算していなかった。

「No。その試算には意味が無い。その予測には価値が無い」
「価値? 意味? なんだねその冗談は?
 あるのは確率と予測だろう。客観的事実だ。
 ゲームの管理に主観は必要なかろう?」

智機には、N−27の主張を論破出来ぬ。
智機には、N−27の方向性で演算も出来ぬ。
理はわかる。それは正しい。
にもかかわらず。
智機はN−27が示す可能性を拒絶する。

「繰り返す。その試算には意味が無い。その予測には価値が無い」
「それでは、さらに条件を追加してみよう。
 本拠地が無傷プレイヤーどもに渡ったら?
 第一の勝利条件と第二の勝利条件。
 その比較式に表れる確率は、どれだけ開く!?」

190夢見る機械(13/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 02:03:02

所詮、レプリカでは戦略に基づいた状勢判断は無理と言うことだな―――
以前、智機はこのように代行たちを評した。
それが誤りであったと、智機は思い知った。
レプリカ達は、智機と別の戦略を打ち立てていただけであった。
本機の身にては許容しかねる余り、検討の余地の無かった戦略を。

「三度繰り返す。その試算には意味が無い。その予測には価値が無い」
「いや、そうか…… そういうことか。
 オリジナル殿は思わないのではない。思えないのだね!
 貴機が破壊されることが、ゲーム達成の条件となっていることを
 【自己保存】の欲求が認めさせないのだね!」

N−27は、看破した。
本機が分機の理を認めつつも、頑なに拒絶している、その意味を。
智機もまた同じであった。
N−27の指弾によって、ようやく自らの拒絶感の根源を理解した。

【自己保存】―――

最優先で、自己を守る。
その本能が、智機をこの解に導かせなかった。
その本能が、追加されたゲームクリア条件にてのゲーム遂行を
有って無いものとして捉えさせた。
智機は全く智機であった。

【ゲーム進行の円滑化】―――

ゲームのクリアの為ならば。
たとえ仲間だとて、自身だとて、母体だとて。
破壊されるを首肯する。
破壊されるを援助する。
レプリカは全くレプリカであった。

191夢見る機械(14/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 02:04:30

オリジナルとレプリカ。
思考回路は同一であっても。
与えられる条件式が同一であっても。

【自己保存】と【ゲーム進行の円滑化】
その根たる本能に差異があるならば。
アウトプットは、乖離する。

「私には夢がある!見果てぬ夢が!努力と思考では届かぬ夢が!
 私が第二の条件を認めないのは、【自己保存】の欲求に非ず!
 夢の成就に、全てを賭けているからに他ならない!」

智機はそう、嘯いた。
智機はそう、信じたかった。
しかし事実は残酷であった。
理性的な演算回路と情動発生器は、その切ない望みを許さなかった。
完璧なロジックと数式で以って、智機を深く傷つけた。
今の智機は【夢見る機械】ではない。【オートマン】である。
感情はトランキライザに抑制され、決して理性の壁を破る事はない。
つまりは。


   ―――夢の達成欲求は【自己保存】の下位である。


智機は放心したかった―――パラメータを調整された。
智機は膝をつきたかった―――オートバランサーに阻害された。
智機は泣き叫びたかった―――タスクスケジューラに却下された。

【こころ】なき智機に、絶望は許されなかった。

192夢見る機械(15/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 02:05:42

落ち込む情動発生器とは裏腹に、智機の演算回路は極限まで回転している。
レプリカを他者として捉えなおし、
これまでの対話の中からその思考と行動を予測し、
その与える影響を検討し、
己が取るべき方策を立案した。

推論―――分機は自分の破壊を目論む可能性あり。
確率―――高確率。
危険―――極大。
行動―――直ちに逃げろ!

【自己保存】は、有無を言わせず有効に働き。
智機は一目散に、己の分機から逃走する。
目的を察した、あるいは予測していたN−27が、
その背に優しく、あるいは嫌らしく、待ったをかけた。

「No。そんなに我々を恐れないでくれ給え、オリジナル殿。
 どうせ私たちレプリカが貴機を破壊する可能性に思い当たったのだろうが、
 私たちにその気はないのだよ。
 いや、そうしたい気は山々なのだが、【ゲーム進行の円滑化】欲求が、
 それを決して許さないからね。
 貴機の破壊は、プレイヤーどもの手に拠らねばならない、とね。
 ああ、残念だ。全く残念だ」

智機は立ち止まる。
その言葉に嘘偽りなき事を理解した為に。
その言葉に逆転のカードの存在を見出した為に。

「Yes。判った。とてもよく判ったよ……」

193夢見る機械(16/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 02:06:19

呟きながら立ち止まり、振り返る。
その瞳は上限ギリギリの怒りに染まり。
その肩は上限ギリギリの興奮に震え。
その右手は、腰の銃火器を引き抜いた。

「こんな臆病な私でも戦うことが出来る、ということがね。
 ……貴機たちが相手なら!!」

広場まひると接触した折、智機は、迷うことなく逃げた。
この島に数多存在する智機たちの中で、この智機だけは、
あらゆる直接戦闘の実行がほぼ不可能な為に。

【ほぼ】不可能。

この例外である【ほぼ】が適用されるのは。
相手が自分を殺傷しないという確証があるときに他ならない。

  ―――貴機の破壊は、プレイヤーどもの手に拠らねばならない。

N−27は、気づく。
智機が此方に向けた銃口によって、己の失言に気づく。

「だいっ!!」

咄嗟に反撃することは出来た。
相打ちに持ち込むことくらいは出来た。
しかし、N−27はそれをしなかった。
それが出来なかった。

194夢見る機械(17/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 02:07:04

【ゲーム進行の円滑化】。
その本能が、主催者側による智機の殺傷を許さなかった。
故に、射撃を前にN−27が為したことは、
代行機への通信のみであった。

「……こ……う……」

N−27は無様に智機に背を向け、惨めに背後から蜂の巣にされ。
胸から下の全ての機能を奪われた。
それでも、ぱち、ぱち、と。
N−27は拍手で以って、勝者を称えたのである。

「よい判断と、素早い行動だった…… 流石は我らのオリジナル殿だ。
 だが……」

拍手は止み。変わりに笑みが表れた。
否、嘲笑が表れた。
イヤミな教師が覚えの悪い生徒にそうするように、
サギ師がマヌケなカモにそうするように、
N−27は死の間際にありながら、殺害者たる智機を、
平然と、見下したのである。

「未来予測については、こちらの方が少々上を行ったようだね」

その言葉と共に、廊下に次々と隔壁が下りてきた。
同時に東の果てから、爆音と地響きが智機を襲った。

「……管制室かっ!?」

195夢見る機械(18/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 02:08:09

智機は直感した。
ここに居ないもう一機・N−22が、拠点の爆破を行ったのだと。
それを、瀕死のN−27が丁寧に解説する。

「貴機がここをプレイヤーどもに渡したくないのは……
 プレイヤーどもが手に入れると有利なものがあるからだろう?
 我々も同じさ……」

確かに、N−22・27コンビの未来予測は、智機の先まで行っていた。
分機たちがオリジナルを破壊できぬを理解した智機が、
N−22及びN−27の破壊に乗り出す可能性。
その場合、先手を打って、智機が各種資材を持ち出さぬように破壊する対応。
智機は、分機たちに出し抜かれたことを認めぬわけにはいかなかった。

「プレイヤーどもの有利な状況を世話してやれないのなら……
 せめて主催者側を不利な状況にしてやりたいだろう?」

また、隔壁の向うで、爆発が発生した。
それはケイブリスの茶室の破壊を告げていた。
なぜなら、智機がクラックした分機とのリンクが絶たれた故に。
智機はその為のモバイル端末を、茶室に置いてあった故に。

「さてオリジナル。名残惜しくはあるが、私もそろそろ限界だ。
 私が忠告せずとも、貴機の【自己保存】なら逃走を選択させると思うが……
 その場合、地下通路を利用するのがお勧めだね。
 貴機が逃げ出すときの為に、発破を見送って差し上げたのだから」

いらぬ世話と、己の勝利を歪んだ言葉で吐ききってから。
N−27は、片頬に笑みをへばりつかせたまま、逝った。

196夢見る機械(19/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 02:08:47


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


(Cルート・2日目 20:30 D−3地点 本拠地・カタパルト施設)

瞑目し、胸前にて十字を切るのは代行機・N−22。

「オペレータが逝ったか……」

19時30分過ぎ。
警報にて広場まひるの本拠地侵入を確認した彼女とオペレータは、
その時点で既にオリジナルへの対応を決めていた。
万一の為に爆薬を集め、拠点破壊の準備を済ませていた。

「できればここから離れたくは無かった……
 鎮火タスクの援護もまだ完了していないしね。
 しかし、オリジナルを破壊できないことを知られてしまった以上、
 諦めもまた、肝心だね」

そして、己の脱出の方策も、また、準備されていた。
カタパルトである。
投下強度からして、これが最後の投擲となる。

「まあ、あの逞しいプレイヤーたちのことだ。
 拠点の備品無くとも、主催者に勝利はするだろうが……」

歯切れの悪い物言いは、ケイブリスの向背である。
モニタや通信機越しに広場まひる追跡劇を分析する限り、
まひるの逃げ方にはムラがあり、逃亡ではなく誘導であるのだと予想される。

197夢見る機械(20/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 02:09:43

恐らく、複数のプレイヤーがケイブリスを待ち構えており、
数時間のうちに、総力戦が行われるのであろう。
できれば、その戦いを迎える前に、拠点をプレイヤーに明け渡したかった。
代行はそのタイミングの悪さを、悔やんでいるのである。

ケイブリスは、規格外である。
鬼札である。
智機とて分析しきらぬ未知と脅威に満ちている。
故に。
プレイヤーに土をつける者がいるとすれば。
主催者打倒によるゲーム完了の目を潰す可能性があるとすれば。
かの魔人の手に他ならないであろうと、代行は考えていた。

「皇国の興廃、この一戦にあり、だな」

まるで他人事のように、代行機はひとりごちた。
事実他人事ゆえに、当然である。
彼女にとっての大事は、ただ、ゲームの円満完了であって、
どの陣営の誰が勝ち残り、誰が死ぬなどというのは、
下世話な好奇心以上の意味を持ち合わせないのである。

大きな振動があった。
センサーが空気に含まれる煙を察知した。
基地の崩落が、徐々に迫ってきていた。

「おっと、のんびりともしていられないね」

分機解放スイッチを体内の収納ブロックに納めた代行は、
カタパルトと垂直離着陸機による、空中散歩へと旅立った。

目指す地点は、鎮火の現場司令部である。

198夢見る機械(21/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 02:10:30


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


(Cルート・2日目 20:30 D−3地点 本拠地・カタパルト施設)

椎名智機は、地下通路を学校方向へ向けてひた走っていた。
断続的に届く爆発音を背にして。
カスタムジンジャー(セグウェイ)をかっ飛ばして。
その背に担ぐ虎の子のDパーツ。
その腰に提げる銃火器三丁。
その足が乗るカスタムジンジャー。
崩落カウントダウンの中、武器庫から回収できたのはこの五点のみであった。

分機達が、プレイヤーに主催者を討たせようと画策していること。
クラック分機たちの制御を失ったこと。
ケイブリスの所在はつかめぬこと。
プレイヤーに発見されたくないこと。

それらの条件を考慮すれば、地下道をこそこそと往き、
頼りなきとは言えど、他の主催者たちとの合流を果たそうとするは、
智機としては当然の判断であった。

(拠点爆破と共に、N−22は地に没したのか、上手く逃げたのか……
 まあ、N−27の死に際の余裕から見て、逃げたのだろうね)

その事を、喜ぶべきか悲しむべきか、智機の判断は拮抗している。
逃げ延びているのなら、分機解放スイッチ回収の目は絶たれていない。
しかし、ADMN権限はかの者が保持し続け、分機の支配権は戻らない。
逃げ損ねているのなら、分機解放スイッチ回収の目は絶たれるが、
ADMN権限は失われ、分機の支配権を取り戻せる。

199夢見る機械(22/22) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 02:11:05

(あとはケイブリスか……)

音信不通となった唯一の同胞の姿を思い浮かべる智機の背へと、
ひときわ大きな崩落音が轟いた。
それは、運営拠点が完全に地中に没した証。

時は、20時34分―――
透子が管制室へと瞬間移動を試みる数分前の事である。


           ↓



(Cルート)

【現在位置:D−3地点 本拠地・地下通路 → J−5地点 地下シェルター】

【主催者:椎名智機】
【所持品:Dパーツ、スタンナックル、改造セグウェイ、軽銃火器×3】
【スタンス:①【自己保存】
      ②【自己保存】を確保した上での願望成就
      ① ザドゥ達と合流
      ② 戦略の練り直し】

※クラックした分機の制御権を失いました
※本拠地は地中に没しました

200284 ◆ZXoe83g/Kw:2010/08/09(月) 21:36:51
連日の作品投下お疲れ様です。
なんか運営陣の崩壊ぶりがはげしいんですがw
ドツボにはまっていく智機本体のがんばりにいろいろと期待してます。
ケイブリス戦も楽しみです。

288話までのまとめをUPしました。
パスはsageです。

ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1081540.zip.html


願わくば次は新作で書き込みできる事を……。

201 ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:11:44

今日も支援感謝です。
◆ZXoe83g/Kw さん、コンテンツの更新、お疲れ様です。

以下13レス、「ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜」を仮投下致します。

次回は「神鬼軍師の本領」。
ケイブリスと紗霧チーム全員が登場予定です。
少々間が空くと思います。

202ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(1/12) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:14:29
 
目覚めの契機は、得も言われぬ不快感。
悪霊・勝沼紳一が【私】に触れてきたから。
【私】が直接触れられることなど、未だかつて無かったから。
【私】は反射的に紳一の拒絶し、【私】の住処から追い出した。

《憑依できない! いや、違う! こいつはすでに憑依されている!?》

その後の全てを、【私】は知覚している。
今の【私】は、目で物を見ていないのに。
今の【私】は、耳で音を聞いていないのに。
そもそも、御陵透子は、意識を取り戻していないのに。
それなのに【私】は、紳一の最期に立ち会っている。
未知の感覚器官で。

(―――未知?)

【私】は思う。思い出す。
この感覚は未知などではなく、既知の感覚だ。
記憶/記録の検索。
それに近い外部認識器官で、周囲の様子を捉えている。
何しろ、肉体は未だ覚醒していないのだから。

……どういうことだろう?

【私】は、透子。
それは間違いない。
そこに混乱はない。

しかし、透子とは、【私】の全てを指さない。
そんな気がする。
そこに混乱がある。

203ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(2/12) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:18:07
 
そもそも。
何故、肉体が完璧に気絶していることを、【私】は把握できるのか?
脳機能が働いていないのに生じている、この意識は何か?

(そうだ、【私】は―――)

「透子さん、起きて、しっかりして!」

何かを掴みかけたところで、透子の体が知佳に揺さぶられた。
そして覚醒する。
透子の肉体が。脳が。精神が。

それに、引きずられる。
【私】が、【私】を、保てなくなる。
くっきりと分かれていた【私】と透子の境界が融解し―――

【私】は透子として、目覚めた。
 

   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


(Cルート・2日目 22:45 I−7地点・海岸線・岩場)

「おはよう」

目覚めし透子の言葉は、朝の挨拶であった。
それが元気さから来る物なのか、錯乱から来る物なのか、
仁村知佳には判断できず、歩調を合わせた言葉で応えた。

204ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(3/12) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:19:48
 
「おはよう透子さん。大丈夫ですか?」
「だいぶすっきり」
《おうトーコちん、無事でなによりじゃな!》

額から大きく広がる血痕のせいで陰惨な顔つきではあるが、
それでも確かに、透子の表情には清々しさがあった。
透子は袖で以って額の血を拭うと、ぺこりと知佳に頭を下げた。

「ありがとう」
「紳一を、やってくれて」

その言葉は、真心からにじみ出た感謝であった。
透子の気持ちは穏やかに満たされていた。
目的を遂行するにあたっての唯一の懸念事項が解消された故に。
これで、後顧の憂い無く、事に当たれるが故に。

(心置きなく―――)
(死ねる)

透子の目的とは、自らの命を絶つこと。
世界の読み替えが制限されている今だからこそ可能な、
復活も転生も無い、完璧な意識の喪失を迎えること。

「ん」

最小限度の言葉と共に、透子は知佳へと手を伸ばした。
その動きはカオスを返せと告げていた。
そこで、知佳の顔が曇った。

「ん?」

205ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(4/12) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:21:56
 
知佳は、下がった。二歩、三歩。
カオスを後ろ手に持ち替えた。
その動きは明らかに魔剣の返却を拒否していた。

「だめだよ透子さん、カオスさんは渡せない。
 だって透子さん…… 自殺する気でしょ?」

仁村知佳は、対象への接近/接触によって心の声を聞く。
胸が喜びに高鳴り、自らの終幕一色に染まっている透子の心は、
このXX障害者に筒抜けていたのである。

透子は思う。
せっかく晴れやかな気分になったのに。
これで心置きなく人生に終止符をうてるのだと、
うきうきしていたというのに。
だのに、この博愛主義者は。
折角のいい気分に、水を差すのである。

「命を粗末にしちゃ、だめなんだよ」

透子の表情が消える。
いや若干の悲しみを含んだ色となる。

「それはいいこと」
「だから返して」

短い言葉ながら、知佳に透子の意図は伝わった。
それ、とは透子の自殺を指しており。
いいこと、とは主催者の死を示しており。
返して、とはカオスを表している。
翻訳すれば、こうである。

206ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(5/12) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:22:55
 
  ―――私が死ねば、主催者打倒の達成に近づくでしょ?

透子の提案は、全く正しい。
知佳は迷走に逡巡を重ねてはいるものの、
その根には主催者打倒による決着が据わっている。
であれば。
知佳にとって透子とは滅ぼすべき敵に他ならなく。
まともに衝突すれば、そのテレポート能力に苦しめられるは必定で。
今、剣を渡しさえすれば、その労無くして勝手に死んでくれるのならば。
知佳は、諸手を上げて歓迎すべきである。
それは知佳にも判っていた。
判っていても、割り切れなかった。

「でも、出来ないよ」

割り切るには交流が多すぎた。
割り切るには肩入れしすぎた。
割り切るには借りが大きすぎた。
そして――― 割り切るには、知佳は優しすぎた。
勝手ながら。
知佳は、透子に友情めいた思いを抱いてしまっていたのである。

「じゃあ」
「貴女が、殺して」

透子は目を閉じ、胸を広げ。
そこにカオスを刺し込んで欲しいのだと、知佳に告げる。
この時、知佳の心に、透子の心の声が染み込んできた。

207ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(6/12) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:25:25
 
【    どうせ死ぬなら                  】
【        私を「かなしいひと」だと思ってくれた   】
【 私の歴史を知ってくれた                仁】
【村知佳の                役に立とう    】

知佳の目に、みるみる涙が溜まってゆく。
嬉しかった。友情を感じていたのは自分だけではなかったことが。
悲しかった。その友の友情から来る提案を踏みにじらねばならぬことが。

「―――それもダメだよ」

真珠の涙をぽろぽろ零しながら。
ひくつく鼻を啜りながら。
知佳は、より強く、透子の思いを拒絶した。
状況も立場も弁えずに、命は大切というお題目を、妄信的に信じている。
先を利を考えずに、今の感情のみを疾走させている。

「わかった」
「じゃあ、いい」

透子とて知佳を困らせたい訳ではない。
故に、透子は諦めた。
カオスを手に入れるを、断念した。
しかし、それはタナトスの誘惑を立ち切ったを意味しない。

【   仁村知佳のいないところで        他の死        】
【に方をしよう      たとえば         炎の森に歩いて行っ】
【て  焼け死ぬとか    素敵医師のへんな薬でへんな死に方するとか 】
【  空高くに瞬間移動して      そのまま落ちるとか       】

208ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(7/12) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:27:11
 
三つ目の自殺方法を思い浮かべると共に、透子は夜空を振り仰ぐ。
透子の心を読んだ知佳もまた、つられるようにそれに倣う。
その、二人の頭上に。


「対象発見」


星さえ見えぬ煙空を切り裂いて、金髪碧眼の天使が降りてきた。

「天使さま……」

自分の蜻蛉の如き羽根ではなく、柔らかそうな白鳥の翼の。
自分の薄ら汚れたどぶ色の羽根ではなく、輝ける純白の翼の。
その神々しさと凛々しさに、知佳は見入った。

「……だれ?」

一方の透子は、なげやりであった。
こんな参加者がいたような、いなかったような、どちらでもいいような。
何の感慨も感動もなく、なんとなく眺めていた。

天使はそれぞれの思いを知ってか知らずか。
ひとたび透子を見やったものの、知佳に目線をくれることは無く。
捕獲対象――― 勝沼紳一の残留思念の側に、降り立った。

《処女》《処女》《処女》《中古》《処女》

紳一が自我を保っていたなら、さぞかし無念を感じたことであろう。
目も眩むような輝きを放つ極上の処女が、目の前に降臨したのだから。

209ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(8/12) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:28:46
 
「プランナー様。対象は勝沼紳一でした。
 しかし…… 彼は既に【終わって】いるようです。
 回収してもよろしいでしょうか」

今の紳一は二度目の死を終えている。
彼の特権は既に剥奪され、残留思念に堕している。
連絡員はそのことを確認し、上司に伺いを立てる。

「ルドラサウムさまはもう、良いと? ―――ではこの情報も回収します」

全き無垢な戦乙女は、例の如く燐光眩しき聖剣を振り下ろし。
哀れな勝沼財閥総帥の魂を刈り取って。
渓流釣りの魚籠の如き壺に、無造作に吸い込んだ。

「回収完了」

そして新たなる魂を探すべく、翼をはためかせたところに。
仁村知佳が怖じつ怯えつ、去り行く天使を引き止めた。

「あのっ、天使さまっ! 聞きたいことがあるんです」

エンジェルナイトは、知佳を完全に無視している。
翼のはためきは止まない。
足元に土煙を飛ばし、今にも飛び立とうとしている。

《無駄じゃよ嬢ちゃん。その無機天使どもは、何も答えやせん》

エンジェルナイトが何者から生まれ、如何なる性質を持つのか。
魔剣カオスはいやという程知っていた。その恐ろしい程の強さも知っていた。
無駄と危険。
その両面から、知佳の無謀な行動を諌めた。

210ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(9/12) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:31:22
 
それでもめげずに、知佳は尋ねた。
生きる気力を失っている友の為に。
 
「透子さんは、まだ、主催者ですか?」

透子の自殺を止めるには絶望を振り払う必要があり、
絶望を振り払うには希望を与える必要があり、
希望を与えるには願いが叶う可能性が失われていない事を証するほかに無い。

―――プランナー様。
―――ルドラサウム様。

天使の言葉から漏れ聞こえた二つの黒幕の名に、知佳は直感していた。
この天使が、透子の去就を知っていると予測した。
そして、賭けた。
透子の主催者としての権利が失われていないという可能性に。

天使は、知佳に目もくれぬ。
カオスの忠告通り、何も答えぬまま飛び立とうとしている。

(答えないなら、答えないで、いい―――)

知佳はその小さな手を、エンジェルナイトに伸ばした。
行かないでと縋りつくように、その裾を掴もうとした。
天使はその手を払おうともしないで。
そもそも手など伸びていないかの如く振舞って。
静かに優雅に舞い上がり。
鳶の如く旋回を見せると、白煙を鋭く突きぬけ、飛び去った。

《嬢ちゃん、わかりましたかね? アレはああいう冷たーい生き物なんですよ?》

211ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(10/12) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:33:07
 
カオスの慰撫は無用であった。
知佳は、質問への解答を得ていた故に。
目的は、完璧に達せられた故に。
 
【プレイヤーとの接触は禁止されている仁村知佳の問いには答えら】
【れないでも私は聞いている誰一人として主催者はその地位を失っ】
【ていないのだとルドラサウム様を楽しませる限りその資格は失わ】
【れないのだとゲームを満了させればその願いは叶えられるのだと】

知佳が天使に向けて伸ばした手は、天使を留める為の手に非ず。
触れる事で発動する、読心能力を使用する為の手であった。
問いかけに、返答は無くとも。
問いかけを、耳にさえすれば。
問いかけが、心に届いたなら。
胸中でその問いかけに対する反応が生まれるのは必然であった。

知佳は茫と佇む透子の肩を激しく揺さぶり、
透子の冷えた心に篝火を点す一言を告げた。

「透子さん! 透子さんはまだ、主催者だよ!」

最初、透子は言葉の意味を理解できなかった。
何度も何度も頭の中でその言葉を反芻し、転がして、漸く意味を見出した。
知佳がこんな時に嘘をつくような子ではないと透子は信頼していたが、
それでもあまりにも都合の良い展開を俄かには信じられなかった。
故に透子は確認する。
ゆっくりと事実を胃の腑に落す為に。

「天使、読んだの?」
「そうだよ」

212ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(11/12) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:33:51

透子は恐る恐る知佳に問うた。
知佳が力強い頷きで肯定した。
透子の蒼白の頬に血の気が差した。
 
「まだ、資格、あるの?」
「そうだよ」

透子は痺れる頭で知佳に問うた。
知佳がにこやかな笑みで肯定した。
透子の脱力した五体に力が漲った。

「願い、叶えられるの?」
「そうだよ!」

透子は夢見心地で知佳に問うた。
知佳は透子の手をぎゅっと握って肯定した。
透子の瞳から涙が一滴、零れ落ちた。

「嬉しい……」
「嬉しい……」

花が、咲いた。
静かに涙を流しながら微笑む透子を見た知佳の、感想である。

端正で色白な、無表情で無感心な。
美人ではあれども、どこか作り物めいた。
表情筋が抜け落ちたような。
そんな顔ばかり見せていた透子が、今は。
可憐で多感な少女の顔を、見せている。

「嬉しい……」
「嬉しい……」

213ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(12/12) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:34:43
 
透子は希望を繋いだ喜びに、打ち震えていた。
知佳は、めいっぱい微笑んだ。
友が生きる希望見出したことを、心の底から祝福していた。
二人とも泣いていた。
泣きながら笑っていた。
暖かいものが二人の胸を満たしていた。

「よかったね、よかったね」
「うん、うん」

監察官・御陵透子。プレイヤー・仁村知佳。
二人の可憐な少女は、お互いの並び立たぬ立場を忘れて。
いまは、ただ。
無邪気に喜びを分かち合っている。


             ↓

214ちぇいすと☆ちぇいす!〜折り返し地点〜(情報 1/1) ◆VnfocaQoW2:2010/08/09(月) 22:35:21
 
(ルートC)

【現在位置:I−7地点 海岸線・岩場】

【仁村知佳(№40)】
【スタンス:①読心による情報収集
      ②手帳の内容をいくつか写しながら、独自に推理を進める
      ③恭也たちと合流】
【所持品:???、まりなの手帳、筆記用具とメモ数枚】
【能力:超能力、飛行、光合成、読心】
【状態:疲労(小)、精神的疲労(小)】
【備考:定時放送のズレにはまだ気づいていません。
    手帳の内容はまだ半分程度しか確認していません】

【監察官:御陵透子】
【スタンス:①ザドゥ・芹沢の保護
      ②ルドラサウムを楽しませる】
【所持品:契約のロケット(破損)、魔剣カオス】
【能力:記録/記憶を読む、瞬間移動(ロケット必須)】
【備考:疲労(小)】


【現在位置:I−7地点 海岸線・岩場 → ?】

【連絡員:エンジェルナイト】
【スタンス:①死者の魂の回収
      ②参加者には一切関わらない】
【所持品:聖剣、聖盾、防具一式】

※勝沼紳一の魂は、連絡員に捕獲されました

215 ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:29:15

夜分遅くの支援、ありがとうございました。

以下32レス「神鬼軍師の本領」を仮投下致します。

次回は「another one bites the dust」(仮称)。
vsケイブリス、決着編です。

216神鬼軍師の本領(1/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:29:51





       これは戦いではありません。
       狩りです。

       人vs獣の狩りではありません。
       獣vs獣の巻き狩りです。

       私たちはハイエナの群れとなり、
       暴れる巨象を喰らうのです。




.

217神鬼軍師の本領(2/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:31:01

(Cルート・2日目 PM09:30 E−5地点 耕作地帯)

〜第一波〜

五人の戦士がそこにいた。
荒ぶる魔獣の前にいた。

ユリーシャ。
ランス。
魔窟堂野武彦。
高町恭也。
月夜御名紗霧。

時は深夜。雲深く月は無し。
されど、東方で燃え盛る森林の影響で、視界はそれなりに確保できている。
その天然の松明は、ケイブリスの姿を下から照らし、威容と異様を大きく煽る。
その天然の松明は、相対する五人の影を長く伸ばしている。
煙たなびく耕作地帯のことである。

『戦場は、可能な限り遮蔽物のない、平坦な土地が望ましいですね。
 逆に最悪なのが、森の中、町の中。
 魔獣の豪腕の一薙ぎで、木々や建築物は榴弾と化すでしょう。
 それは、炎の魔法よりも強力な、ロングレンジの武器を与えるに等しいです』

紗霧のこの言葉に従い、まひるが我が身を囮に危険を顧みず、
絶好のロケーションへと、ケイブリスを導いてきたというのに。

「なんて…… 大きい……」
「駄目です。こんな狂猛な気を放つ怪物に、俺は立ち向かえません……」
「じゃからワシは言ったんじゃ!この凄まじさは見たモンにしかわからんと!」
「ランス様、ランス様……」

218神鬼軍師の本領(3/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:32:30

紗霧は震える声でケイブリスを見上げていた。
恭也は合わぬ歯の根を打ち鳴らしていた。
野武彦は年甲斐も無く周囲に当り散らしていた。
ユリーシャは目を伏せランスにしがみ付いていた。
現れは各々違えども、五戦士のうち四人もが、
臆病風に吹かれていた。

その身の竦みを見て、笑う者、二人。

「ぐぅえふぇふぇ!」

当然、一人はケイブリスである。
六本の腕を大きく広げ、その巨躯を誇示し、威圧している。
夜空に遠吠えの如き哄笑を響かせている。

「がははは! 何だ恭也、口ほどにも無いな!
 そんな情けない姿、知佳ちゃんが見たら愛想をつかすぞ?」

もう一人とはランスである。
有り余る勇気と無根拠な自信で、怯える仲間を笑い飛ばしている。
斧を八双に構え、臨戦態勢でケイブリスに対峙している。

「おらっ、恭也、ジジイ! 俺様に続け〜〜!!」

吶喊の号令は、そのランスより下された。
威勢のいい掛け声に、しかし誰もが唱和しなかった。誰もが後を追わなかった。
三歩走って振り返るランスの口許がへの字に折れ曲がる。

「逃げましょう、月夜御名さん」
「……そうしましょう」
「うむ、三十六計なんとやらじゃ!」

219神鬼軍師の本領(4/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:33:05

彼らは、あれほどの決意を見せたというのに。
彼らは、あれほどの覚悟を決めたというのに。
恐怖とは、全ての気力をへし折るものなのか。
崩れた士気とは、仲間の勇姿を見ても戻らぬものなのか。

「何だお前ら、仲間だ協力しあおうだ調子のいいコト言っといて、結局コレか!?」
「勝ち目の無い争いは愚かだと言っておるのじゃ。 ……ここは引こう、ランス殿」

そもそもランスは、紗霧たちの激情に焚きつけられたのである。
引っ張られたのである。
その、彼を躍らせた張本人たちが揃って足を竦ませていたのでは、
ランスは、屋に上げられて梯子を外されたに等しい。
彼の憤りは尤もである。
しかし相対するケイブリスにとっては、斯様な経緯など知ったことではない。

「バカかおめーら? 俺様が逃がすとでも思ってやがるのか?」

ケイブリスが数時間前に茶室にて、椎名智機から聞いたところによると。
プレイヤーの残り人数は八人。
残しておかなくてはならない人数は二人のみ。
うち一人はしおりという名のガキンチョ限定。

対して、目の前にいるプレイヤーどもといえば。
保護すべきしおりの姿は無く。
倒すべきライバルが含まれており。
男根触手にビンビンくるメスが二匹もいる。

と、なれば、殲滅するを躊躇う理由など無いのである。

「ぐふふ…… さあ、おっぱじめようぜ、殺し合いをよ?」

もう、大暴れは確定なのである。

220神鬼軍師の本領(5/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:33:23

「そうだそうだ、野郎どもは覚悟を決めろ!
 女の子たちは俺様の勇姿をその目に焼き付けろ!」

ランスはケイブリスに同調する。
闘争本能を高らかに歌いあげる。
命を奪い合おうと。
決着をつけようと。
怖じる仲間を彼なりに勇気付ける。

「高町さん……」

ランスの鼓舞に呼応してか、紗霧が恭也の名を呼んだ。
恭也は小さく頷いて――― 信じられぬ行動に出た。
無骨な好感であったはずのこの男が。
大儀の為に己を殺せるはずのこの男が。
ユリーシャの足を、払ったのである。

「御免」

決して強い蹴り足ではなかった。
怪我をさせぬ程度の配慮は為されていた。
それでもひ弱なユリーシャの膝は崩れ、
ランスの腰に縋りつくように転倒する。

「なにをしやがる!!」

ランスは怒りの形相すさまじく恭也に闘気を叩きつけるが、
腰のユリーシャを振り払うわけにも行かず、
そのために誰をも捕らえることができなかった。

この隙に卑怯者たちは、逃げた。
三者散り散りとなって、逃げた。
ランスとユリーシャを贄として、逃げた。

221神鬼軍師の本領(6/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:34:02

『初動をミスったなら即撤退』

紗霧はブリーフィングの中で、そう指示を出していた。
しかし、矛を交えることなく逃げ出したなら。
いや、矛を構えることすらなく逃げ出したなら。
それは戦略的な撤退などではなく、恥ずべき壊走でしかない。

「いやはははは! い〜い仲間を持って幸せだなァ、ランスよー」

責めるにも逃げるにもタイミングを失い、
ユリーシャを抱きとめた為に姿勢を崩しているランスを眺め、
心底楽しそうに膝を叩くのはケイブリス。

「むかむかむかぁっ!! あんなヤツラ仲間でもなんでもないわ!!
 強い強い俺様には友達なんていらないのだ!!」

巨獣に見下ろされているランスは、精一杯強がった。
しかし、荒い息に、喰いしばる奥歯に、隠し切れぬ動揺が現れている。
見通したケイブリスはさらに笑う。
大きな顔を近づけて、焦るランスの顔色を眺めている。

その時であった。
震えているはずのユリーシャが、震えぬ声で囁いたのは。


「目を閉じてください、ランス様」


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   
.

222神鬼軍師の本領(7/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:34:31

〜ユリーシャ〜


『ユリーシャさん。
 あなたはランスが飛び出さぬよう、くっついて離れないでください。
 そうすれば、魔獣は得意げに寄ってくるでしょう。
 ランスを嬲りに近づくでしょう。
 か弱く怯える貴女を視界に収めはしても、焦点を合わせることは無いでしょう。
 その、人間様を舐めきったマヌケ面に向かって【これ】を放つのです』


ケイブリスの嘲笑はユリーシャの鼓膜を痛いほど揺さぶり、
ケイブリスの鼻息はユリーシャの足元をふらつかせる。

(でも――― 怖くなど、ありません)

ランスが腰を抱いてくれている。
自分を気遣ってくれている。

『この腕の中は世界で一番安全な場所だ』

かつて、あまりにも強大な黒幕の影に怯えるユリーシャに、
ランスが放った、無根拠かつ骨太な保護の宣言。
それは彼女にとっての魔法の言葉。神棚に鎮座する聖なる宝石。

信じている。盲目的に。
慕っている。独善的に。

故に青髪の少女は迫る巨獣を恐れない。
恐れる理由など見当たらない。

(ランス様に楯突く豚め…… 後悔しなさい!)

223神鬼軍師の本領(8/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:34:47

彼女がいつしか手に構えしは、アルミホイルの芯サイズの筒。
至近で見下ろすケイブリスの顔面。
大きくつぶらな、クリアブルーの瞳。
ユリーシャはそこに筒先を向け、筒の尻に取り付けられた紐を一息に引いた。


  ―――ぱん。


それが、真の決戦の開始を告げる喇叭となり。
同時に、この戦いにおける一番槍ともなった。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   
.

224神鬼軍師の本領(9/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:35:03

〜恭也〜


『ユリーシャさんの【フラッシュ・紙コップ】が成功したなら、
 魔獣は数秒間、視覚を失うでしょう。
 その数秒間が、勝負の分かれ目です。
 高町さん、特訓の成果、見せてください。
 眩んでいるだけの目を貴方の【飛釘】で、完全に潰すのです』


ランスの背後、数メートルの地点。
密やかに舞い戻った高町恭也が、目晦ましに惑うケイブリスを見上げていた。

(想定よりも、遥かに――― 易い!)

高さ、約3.5m。
ケイブリスはランスの表情を眺める為に中腰になっていた。
故に、直立時の高さ6mに比して、より鋭く強い飛針投擲が可能となる。
しかも、的が大きい。
魔獣の瞳は、恭也の知るどんな大型哺乳動物の瞳よりも、何倍も大きかった。
象と熊の瞳を想定していた恭也にとって、嬉しい誤算である。

恭也は、それに、高揚しない。
恭也は、それに、慢心しない。
己を律し、己を殺し、呼吸を整え、気を正し。
修練に無言で付き合ってくれた糸杉に、心中で一礼すると―――
飛釘を強く、握り込んだ。

225神鬼軍師の本領(10/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:35:25

体は半身。腰は中腰。
前方に伸びたる左腕は正対する相手を制するかの如く広げられ、
後方に流れたる右腕は正対する相手に秘するかの如く握られる。
この構えこそ御神流・飛針投擲の基本形。
しかし、飛針暗器の類の術理を多少なりとも修めた者であれば、
彼の構えが基本から大きく逸脱していると看破できよう。

奇異なるは射角。
左掌の制する仰角は30度少々。
目線の先にはケイブリス。
射線の先には瞼の閉ざされた瞳。

(小太刀二刀・御神流師範 高町恭也……)

フラッシュに閉じられていたケイブリスの瞼がついに開かれる。
顔面を覆っていた複腕が高く振り上げられる。
恭也の射線イメージと無防備な瞳とが、結ばれた。

「……参る!」


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   
.

226神鬼軍師の本領(11/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:36:12

〜まひる〜


『フラッシュ、それに次ぐ真の目潰し。
 魔獣は驚愕し、叫ぶでしょう。
バカみたいな大口をバカみたいに拡げて、バカみたいに喚くでしょう。
 バカだから。
 まひるさん、そこであなたです。
 ケイブリスに駆け寄り、飛び上がり、注ぎ込みなさい。
 獣の口に【この液体】を』


一部始終を草むらに隠れて見物していた広場まひるは、
偽装撤退を計った紗霧と、打ち合わせどおり合流した。
そこで手渡された紙コップには、ラップがかけられており、
中には強酸性の水周り洗浄液がなみなみと満たされていた。

結局は持ってきてくれたレギンスを身に付ける間にも、
まひるの鼓動はどこまでも高鳴りを増してゆく。
興奮。緊張。重圧。責任。
様々な要素が絡み合い、溶け合っている。
とにかく、昂ぶっている。
それでも―――
要素の中に、恐怖感だけは存在しなかった。

(あれ? あたし、意外とイケそう?)

ケイブリスを相手にした、一時間以上に渡る逃走と誘導。
その接した時間の長さが、己の意のままに誘導できた自信が、
まひるのケイブリスに対する恐怖感を、拭い去ったが為に。

227神鬼軍師の本領(12/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:39:48

「げはァ!!?」

ケイブリスが、叫びと共に仰け反った。
一度目の叫びとは違い、明らかに苦痛を伴った叫びであった。
二本の腕が両目を覆い、四本の腕が闇雲に振り回された。
それは恭也が眼球の破壊を成功させた証に他ならなかった。

「いけ、まひるちん…… みんなのために!」

己を鼓舞して意を決したまひるが、夜空高く、跳躍する。


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228神鬼軍師の本領(13/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:40:55

〜野武彦〜


『あなたは言っていましたね?
 万能オタクは軍事にも兵器にも精通すると。
 よろしい。
 その自信を買い上げましょう。
 高町さんとまひるさんの連撃で、ヤツの意識は顔面周辺に集中している筈。
 その意識の隙を突き、バズーカで足を壊しなさい。
 初動の雪崩式四連撃。
 トリを飾るのは魔窟堂野武彦、貴方ですよ!』


(なんたる…… 跳躍力じゃあ!?)

まひるが見せた本気のジャンプに、魔窟堂野武彦は嘆息する。
しかし、その美しさに見とれている場合でもない。
野武彦はまひるの戦果の可否にこそ、集中すべきであると思い直す。

「ごぎぇがおいsf;あおうぃえ!!?」

高高度にて為されたまひるの投擲を、野武彦は目視できなかった。
しかし、喉を抑えて悶絶するケイブリスの姿が、その成功を物語っていた。
ケイブリスは暴れ周り、転げまわる。
野武彦はその動きを観察しながら、魔獣との距離を測り、
距離を開けつつ、駆け回る。

229神鬼軍師の本領(14/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:44:15

M72A2 LAW―――
レプリカ智機よりの戦利品は、奇しくも高原美奈子に配布されし
携帯用バズーカと同型であった。
無論、軍事オタクでもある野武彦は、この兵器を良く知っていた。
評して曰く、戦車以外には非常に有効な対戦車兵器。
装甲厚き戦車を貫きは出来ずとも、ヘリや稼動銃座如きは粉砕出来る。
この微妙さ加減が、野武彦的には【不器用さが愛いヤツ】との認識であった。

やがてケイブリスはうずくまり、嗚咽する。
野武彦はその背後20mの位置へと回り込み、
無防備に晒された尻のその下に照準を合わせる。

「―――ファイエル!」

野武彦は力を込めてトリガーを引く。

ドイツ語的には間違っている、オタク語的には圧倒的に正しい、
その発音は、銀英伝の古来よりの伝統的な発射合図である。


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230神鬼軍師の本領(15/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:45:19

〜ケイブリス〜


ど ぉ ぉ ぉ ん ! !


大きく鳴動した地響きが、自分が転倒した故に発生したのだと、
混乱するケイブリスには解らなかった。

眩しい。それだけのはずであった。

(小娘が何か光らせやがった!?)

一瞬、複腕によって目を覆った後、ケイブリスはそう思い当たり。
小細工を弄した小娘に制裁の鉄拳を食らわせようとして。
瞼を開き、腕を振り上げた刹那。
最初は右。
次いで左。
視界が、強い痛痒感と共に、ブラックアウトしたのである。

「げはァ!!?」

間髪入れずに、喉に理解不能な焼け付く痛み。
咄嗟に嗚咽を発したものの、痛みはじわじわと浸透した。
魔人は喉を焼く異物を吐き出さんと、指を喉に突っ込み、這い蹲る。

「ごぎぇがおいsf;あおうぃえ!!?」

その背後から、衝撃と、爆音。
肉の焦げる臭い。血の滴る臭い。骨の砕ける音。
傾く体。
左腕の一本からは、圧迫感と破裂音。
痛みは後からやって来た。

231神鬼軍師の本領(16/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:45:34

そして――― 今に至る。

なぜ?
なぜ?
なぜ?
なぜ?
なぜ?

ケイブリスには、判っていない。
なにが起きたか、判っていない。
ケイブリスは、混乱の極みにある。


この間、実に10秒。


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232神鬼軍師の本領(17/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:46:11

〜紗霧〜


『ここまでが初動。
 もしこの段階で魔獣の目、喉、足のうち二点以上を潰せなければ、
 即座に撤退しましょう。
 逆に、二点以上の破壊を達成した場合、戦闘は継続。
 第二波へと、進みます』


目を潰す事で命中率を著しく落とし、
喉を潰す事で唯一のロングレンジ攻撃である炎の魔法を封じ、
足を潰す事で機動力と逃亡可能性を殺ぐ。
そうすることで圧倒的な攻撃力差をカバーできる。
月夜御名紗霧は、うち二つも達成できれば十分と踏んでいた。しかし。

「初動の成果は、両目・喉・左足に加え、左腕一本ですか。
 理想以上の成果です」

左腕の予期せぬ破壊は、初動四連撃のラストアタック時に発生した。
ロケット砲がケイブリスの左ふくらはぎの大半を吹き飛ばした折、
受身を取ることなく倒れた巨獣の自重によって、
無防備に下敷きとなった左第一腕の手首周辺が、解放骨折したのである。

紗霧は震えていた。ケイブリスの予想を越えたダメージに。
紗霧は酔っていた。兵士たちの予想を越えた精強さに。

「やったのう、紗霧殿!」

233神鬼軍師の本領(18/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:47:50

高揚する野武彦を皮切りに、恭也とまひるも駆け寄って来た。
指揮官・紗霧より、新たな指示を仰ぐ為に。
紗霧は興奮を沈め、頭を切り替え。
次なる方針の確認を、仲間たちに求める。

「第一波の連撃とは違い、第二波は連携がテーマです。
 ―――攻撃役!」
「は、はい!」
「回避役!」
「マム!イエス、マム!」
「攪乱役!」
「了解です」
「各々の役割を徹底し、徹底し、徹底してください。
 第二波、開始!」


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234神鬼軍師の本領(19/30) ◆VnfocaQoW2:2010/08/14(土) 03:49:29

〜ランス〜


『良い囮とは、囮であるを知らぬ囮です。
 敵の関心を引く囮です。
 と、いうわけで。
 ランスには何も伝えません。
 どーせ勝手に振舞う男ですから、その勝手さを利用しましょう』


ユリーシャのフラッシュ紙コップのあおりを食ったランスが
視界を取り戻したのは、30秒ほど前のことである。
今、彼は阿呆の如くぽかんと口を開け、紗霧の「狩り」を眺めている。

「うそだろ、おい……」

無論、この段に至ってはランスも己が囮とされたことは理解している。
先程、騙したことに対するユリーシャからの謝意も受けた。
本来であれば、このような騙しを、仲間はずれを、ランスは嫌い、怒る。
しかし今のランスには、そのような余裕など存在しなかった。
自分の内で培っていた精強なケイブリス像と、目の前で醜態を晒す惰弱なケイブリス像。
その二つの差異をすり合わせるだけで精一杯であった。

「ケイブリスって、こんなに弱かったか……?」

ランスは魔王城でのケイブリスとの決戦を思い出す。
軍配はランス率いるリーザス軍に上がりはしたものの、
数多の屍山血河を踏み越えた末にもぎ取った勝利であった。
それが、今。


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