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【場】『自由の場』 その3
258
:
斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』
:2023/05/25(木) 07:40:55
>>257
妖狐が土地から去っていくのを、気配が消え去るまでただ待つ。
相手は怒りもしなければ論じもしなかった、ただうっとうしそうに去っただけだ。
傍目には、小型犬がキャンキャン鳴いてるのを大型犬が迷惑そうに去っていったように見えた。
この場合、何方が滑稽に見えるかなどと論ずるまでもない……小型犬の方だ、斑鳩 翔の方だ。
「…………。」
テ ン プ レ ー ト
(けっ、どーせ『こんなこったろう』と思ってたさ……。)
老人という物はえてして、若者と隔絶し、理解しがたいものに映る。
過ぎ去った昔はよかったと回顧し、あるいは内心で向こう見ずさ等を馬鹿にして、終わり
後に残ったのはから回った間抜けな若者が一人だ。
(『生きるという事は、たいへんな事だ。あちこちから鎖がからまっていて、少しでも動くと、血が噴き出す。』)
だが、今回はそのから回った若者は家を守った
昔は守れなかった家族を、酷く滑稽で間抜けな形とはいえ。
スタンドを手に入れるきっかけとなった、あの事件の時にはできなかった事を。
(安い値段だ。ぎゃあぎゃあと喚いて、顔を真っ赤にして、恥をかいて、かっこ悪かろうが。)
(俺ができなかった事を今できると証明するには随分安いじゃあねえか、えぇ?情けないのに、代わりないがよ……。)
無論悔しい、噛んだ唇から血が滲み、握りこんだ拳の爪が、掌を抉るほどに僕は恥をかいた。
次に見つけたら問答無用でスタンドを叩き込んで、全身の骨を折ってやりたかった。
いやさ、今から追いかけて奴の後頭部に叩き込んでやろうか……そんな考えすら赤熱した火箸を入れられたようにじりじりとする頭によぎった。
(いいや、今は家を守るのが先決だ。優先順位は二度と、二度と間違えない。)
(俺が周囲など顧みず暴れたせいで、私の父と母は病院の寝床から起きなくなったのだ……これ以上僕の家を荒らされてたまるか。どんな理由のある、何処の誰であろうと……。)
(いくら僕たちが泥を飲んだとしても、あってはならない。家族への累が及ぶ事態は……!)
妖狐は知る由もない、目の前で怒っていた子供はかつての妖狐自身とほぼ同じように、心無い者の手によって己自身より大事な家族を奪われた事を。
そして己自身に枷をつけて、未だその胸に炎を付けたままにしている事を。今日の妖狐がした事はまさに、彼にとっての妖狐が受けた仕打ちだという事を。
氷のような瞳を向け、足元の万札を一瞥する。
もう血混じりの泥に汚れてしまって使えるかどうかわからない。
(場所代ね……最後まで本当に馬鹿にしてるな、あの女にとって礼を失すると言う土地の問題は、紙切れ一枚で解決できると思ってた事なのか?)
(それとも人間に合わせただけか?どちらにしても、こっちを馬鹿にしてる事には変わりはないが。)
カゾク
「言うに事欠いて場所代だって?安い値段だ。……俺なら青天井に跳ね上げても売らないぜ、テメェの土地はな。」
拾い上げると、爪に泥が跳ねるのもお構いなしに袂に入れる。
息を吸って、吐く。煮えたぎる重油のような感情と共に吐き出したかった。
(できないな……喉につかえてばかりだ。ちゃんと笑顔を作らないと心配させてしまうぞ。斑鳩翔。)
「……お祖母ちゃんの朝顔の苗は無事として、この匂い、換気でごまかせんのかな。」
「家政婦さんに頭下げなきゃダメかな……こりゃあ。」
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