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【場】『 大通り ―星見街道― 』 その3
1
:
名無しは星を見ていたい
:2022/10/03(月) 20:25:40
星見駅を南北に貫く大街道。
北部街道沿いにはデパートやショッピングセンターが立ち並び、
横道に伸びる『商店街』には昔ながらの温かみを感じられる。
---------------------------------------------------------------------------
ミ三ミz、
┌──┐ ミ三ミz、 【鵺鳴川】
│ │ ┌─┐ ミ三ミz、 ││
│ │ ┌──┘┌┘ ミ三三三三三三三三三【T名高速】三三
└┐┌┘┌─┘ ┌┘ 《 ││
┌───┘└┐│ ┌┘ 》 ☆ ││
└──┐ └┘ ┌─┘┌┐ 十 《 ││
│ ┌┘┌─┘│ 》 ┌┘│
┌┘ 【H湖】 │★│┌─┘ 【H城】 .///《//// │┌┘
└─┐ │┌┘│ △ 【商店街】 |│
━━━━┓└┐ └┘┌┘ ////《///.┏━━┿┿━━┓
┗┓└┐┌──┘ ┏━━━━━━━【星見駅】┛ ││ ┗
┗━┿┿━━━━━┛ .: : : :.》.: : :. ┌┘│
[_ _] 【歓楽街】 │┌┘
───────┘└─────┐ .: : : :.》.: :.: ││
└───┐◇ .《. ││
【遠州灘】 └───┐ .》 ││ ┌
└────┐││┌──┘
└┘└┘
★:『天文台』
☆:『星見スカイモール』
◇:『アリーナ(倉庫街)』
△:『清月館』
十:『アポロン・クリニックモール』
---------------------------------------------------------------------------
前スレ:
【場】『 大通り ―星見街道― 』
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/comic/7023/1453647631/
【場】『 大通り ―星見街道― 』 その2
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/comic/7023/1586906856/
835
:
小野塚 遥『ブリリアント・レジリエンス』
:2025/08/12(火) 01:26:50
>>834
「そっか、すみま……ごめんね、ポイ捨て犯になるとこだった」
強くぶんぶんと頭を振ると、女は空き缶を握り潰した。
そして、ここで初めて小石川が喪服姿であることに気付いたらしい。
「人探し……って。別にいいけれど」
『その格好で?』を飲み込んだことに小石川は気付くだろうか。
ちらりと小石川の服装を見やり、すぐに目を逸らしたのがヒントである。
一応、詮索しないでおこうという気遣いはしたようだが。
「ちょっと待って、その前に」
口元を拭い、潰れた空き缶をポケットにねじ込む。
次に、ベンチの傍に置いてあったビニール袋をガサゴソ漁ると、
缶ビールを取り出し、躊躇いなくプルタブを開けた。
『迎え酒』か何かのつもりなのだろう、そのまま勢いよく呷る……
ゴクッ ゴクッ ゴクッ ゴクッ
「ふゥゥー…………遥ちゃん完全復活…………」
「で、誰を探してるって?」
836
:
小石川文子『スーサイド・ライフ』&『ビー・ハート』【4/7】
:2025/08/12(火) 19:35:03
>>835
小野塚が新たなビールを開缶している間、
喪服の女は手元のバッグを開けて中身を確認する。
そこには『小さな布袋』が入っており、
『夢の中で嗅いだ匂い』と同じものが感じられることから、
『これが原因だった』と分かるだろう。
不快な目覚めにならないように、手間を掛けて起こしたらしい。
「……よろしいでしょうか?」
ビールを飲み干す女性を見守り、
念のためにワンクッションを挟んでから再び口を開く。
「その方は――『ノエ』という男性です。
全身に『包帯』を巻いていることが特徴なのですが、
もし見かけていたら教えていただけませんか?」
『尋ね人』を告げた後、さっき開いた『缶ビール』を一瞥した。
おそらく『ノエ』は『水』に関係する能力を持ち、
人目を避けて行動している。
この川辺のような『人目につかない水場』なら、
出会える可能性があるのではないだろうか。
837
:
小野塚 遥『ブリリアント・レジリエンス』
:2025/08/12(火) 22:36:16
>>836
「ノエ?」
ノエの名前を聞いた途端、女の眉がピクリと動いた。
「……………………」
ほんの一瞬、思案するような表情を浮かべたのち。
「いや」 「見たことないなァ」
何が面白いのか、あるいは演技か、ニヤニヤ顔を浮かべて否定の言葉を口にした。
小石川は、女の嘘に気付いても気付かなくてもいいし──
それを追及しても、しなくてもいい。
「まァ、何か事情があるんだろーなってことぐらい分かるから、
ただの好奇心で聞くんだけれどさ」
「なんでその人を探してるの?
警察か、探偵にでも頼めば済む話じゃないのかい?」
ただ、まずは女の質問に答える必要があるだろう。
女は缶ビールに口を付けながら、小石川の返答を待っている。
838
:
小石川文子『スーサイド・ライフ』&『ビー・ハート』【4/7】
:2025/08/12(火) 23:39:03
>>837
小石川の考えは次のようなものだった。
以前ナイから聞いた話によると、ノエは『追われている身』らしい。
そうであるなら、『ノエを知らないか』と尋ねる自分こそが、
『ノエを追う者』だと思われても不思議はないだろう。
「――……」
喪服の女は思案した後、小野塚を見つめる。
その気遣うような眼差しは、さっき話題を変えた時と同じ表情を秘めていた。
相手を尊重しながらも、踏み込み過ぎない奥ゆかしさだ。
「……人は誰でも『デリケート』な部分を持っています。
私が彼を捜す理由には、そういった種類の問題が絡んでいるのです」
詳しくは語らないものの、『公にできない理由がある』ということは伝わるだろう。
「私の口からは、それだけしか言えません」
そして、『好奇心』で聞けるのは『ここまで』だということも。
「ご存知でなければ……もし彼を見かけた時に、
『伝言』をお願いできませんか?」
小石川は『小野塚が黙っている可能性』に気付いていたが、
そのことを敢えて追及しなかった。
839
:
小野塚 遥『ブリリアント・レジリエンス』
:2025/08/13(水) 03:32:07
>>838
「アハ。はぐらかすじゃないか」
慎み深い表情を崩さない小石川に対し、女の態度は軽薄だ。
しかし、その視線には一抹の警戒が混じっているようにも感じられる。
「正直に言うと君、だいぶ怪しいからさァ。
方法を考えないと、見つかるものも見つかんないかもよ?」
「もしくは、そっちが事情を教えてくれれば、あたしも正直に──」
おっと、と言って女は口に手を当てた。極めてわざとらしく。
「まァ、誰にだって話したくないことはあるからね。
ましてや、初対面だし。しょうがないさ」 「お互いにね」
ケラケラと笑いながら、女はビールを一息に飲み干した。
「伝言? いーよいーよ。あたしでよければ」
840
:
小石川文子『スーサイド・ライフ』&『ビー・ハート』【4/7】
:2025/08/13(水) 19:43:48
>>839
次第に沈みつつある夕日が星見町を照らし、茜色に染め上げていく。
小野塚から疑惑を向けられた喪服の女は、悲しげな面持ちで目を伏せる。
帽子の下には濃い影が差しており、町並みの風景と対比を成していた。
「……詳しい事情を明かせない以上、
私が『彼の敵』ではないことを証明できません。
疑われる可能性は承知しています」
だから、この場で無理に疑いを晴らそうとはしない。
「それは――いえ……考えておきましょう」
その口調からは『方法がなくて困っている』というより、
『方法はあるが使うことを躊躇している』といった雰囲気が窺えた。
「――では、こう伝えてください。
『夕暮れに初めて出会った場所で』と……。
きっと彼は覚えていてくれるはずです」
小野塚に託された言葉には、『秘密』に関わる意味が隠されている。
これに気付いた上で、彼が応じてくれるかどうか。
それだけが気掛かりだった。
841
:
小野塚 遥『ブリリアント・レジリエンス』
:2025/08/13(水) 21:51:45
>>840
「そんな顔をしないでくれよ。こっちまで悲しくなっちゃう」
言葉に反して、女の顔には相変わらず薄ら笑いが張り付いている。
「伝言なら、ちゃんと伝えておくからさ」
それは『もし会ったら』というよりは、
ノエと会う手段を知っているかのような含みのある口調だった。
だとしても、やはり女にそれを教えるつもりはないらしい。
「それにしても、そんなに言いたくない事情ねェ。
あたしみたいに薄っぺらで空っぽな人間には想像つかないな」
「でも」
「その『敵』とやらについては教えてくれてもいいんじゃないかい?
ノエって人にとってだけの『敵』とも限らないしさ」
例えば──と、一息置いて。
「君の『敵』でもあったりするのかな?」
弧を描いた目の奥から、まっすぐな視線が小石川の瞳に注がれる。
842
:
小石川文子『スーサイド・ライフ』&『ビー・ハート』【4/7】
:2025/08/13(水) 23:18:40
>>841
喪服の女は思慮深さを湛えた表情で、小野塚を正面から見つめ返す。
「……私自身、ノエさんのことを全て知っているわけではありませんが、
『知人』から彼が追われているらしいと聞きました。
それに関して個人的な考えは持っていますが、あくまでも推測の範疇です」
慎重に言葉を選びながら、さらに話の先を続ける。
「私が『間違い』を犯した時、止めてくれる方々はいらっしゃいます。
ですが、その人達は『味方』です。
ノエさんに『敵』がいるとして、同じような存在だとは思いません……」
小野塚の問い掛けに答える姿は、過ぎ去った日を振り返るような色合いを帯びていた。
「申し訳ありませんが……これ以上は『責任』を持てなくなってしまいます。
もしお知りになりたいのであれば、
『本人』から直接お聞きになってはいただけないでしょうか?」
目の前の相手からは、華奢で控えめな印象を受けるものの、
内面的には芯の強さがあるらしく、核心に近付く部分は決して明かそうとしない。
843
:
小野塚 遥『ブリリアント・レジリエンス』
:2025/08/14(木) 07:58:25
>>842
「ふゥーン……なんだかよく分からないけれど。
君もそのノエさんも、只者じゃないってことはさすがに察するよ」
「世の中、普通に生きてたら見えないものがあるなァ」
不意に目を逸らすと、女は実に楽しそうな笑い声を上げた。
「ま、部外者に事情を教える筋合いもないしね。
君の言う通り、本人に聞くとするよ」 「会えたらね。ふふふふ」
ふうと息を吐き、女はビニール袋を拾って立ち上がった。
立ってみると小石川を上回る長身だが、猫背なので縮こまった印象である。
ゆっくり振り返ると、小石川を見下ろしてにやりと笑いかける。
「じゃあ、こうしよう」
「この話はここでおしまい。起こしてくれたお礼をさせてよ」
その笑顔はだらしなく、好奇と享楽の色が多分に混じっている。
しかし、少なくとも悪意の類はないように見えた。
小石川が酔っ払いに対して嫌悪感を抱かないかどうかは別の問題であるが。
「カフェにでも行かない? お茶ぐらいご馳走するとも。
それに君、面白そうだし。只者じゃないのを抜きにしてもね」
もちろん、女の誘いに乗るか、人探しを続行するかは小石川次第だ。
844
:
小石川文子『スーサイド・ライフ』&『ビー・ハート』【4/7】
:2025/08/14(木) 14:01:24
>>843
小野塚を見る小石川には、ふと思い当たる人物がいた。
知人にも『酒を手放せない者』がいる。
だから何かが分かるわけではないにせよ、飲酒に頼りたい場合があることは理解している。
最近は回数が大きく減り、以前ほど常用しなくなったものの、
小石川自身も時折『鎮静剤』を使用しているのだから。
頭では分かっていても、いったん身に付いてしまった悪癖を完全に取り去るのは難しい。
「そういうことでしたら……まずは『自己紹介』させてください」
スゥッ
ストールを靡かせながら立ち上がり、改めて小野塚と向き合う。
「――私の名前は『小石川文子』です。
普段は『ラベンダーティー』を愛飲しています」
ニコ……
「……よろしければ、ご一緒しましょう」
喪服の女は穏やかな微笑を返し、小野塚に同行する意思を伝えた。
そこから先は、また別の話になるだろう。
だが、ここで『一つの繋がり』が生まれたことは確かだ。
845
:
小野塚 遥『ブリリアント・レジリエンス』
:2025/08/15(金) 00:46:45
>>844
「よしよし。美人さんとお茶する約束できちゃった」
微笑にはからかうような上機嫌な笑い声が返ってきた。
女が酒に溺れている理由は伺い知れないが、
倦み疲れた風貌といい、どこまでが本気か分からない言動といい──
「あたしは小野塚遥。改めて、色々とありがとう」
「ちなみにあたしも紅茶派。
コーヒーは昔吐くまで飲んでから苦手になっちゃってさァ。ゲラゲラ」
ただならぬ経験をあっけらかんと言い放つことといい、
何か計り知れない事情を抱えているのではないかと感じさせる。
ある意味では、小石川の同類と言えるかもしれない。
今後、お互いについてどの程度知ることになるかは当人ら次第だが。
「それじゃあ行こっか、小石川さん。
で、この前聞いたんだけれど、珍しい猫がいるカフェが──」
そして、2人は日暮れゆく川沿いの散歩道を下っていった。
カフェでどんなことを話したのかは、2人しか知らないことである。
846
:
夢見ヶ崎明日美『ドクター・アリス』
:2025/09/01(月) 05:19:01
(ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/comic/7023/1614349479/718-719)から
現在時刻は『23時』――――コッソリ家を抜け出し、
薄暗い通りを歩く『アリス風の少女』。
白ウサギの『ぬいぐるみリュック』を背負い、
100円ショップで購入した『LEDコンサートライト』を携えていた。
ボタン操作で15色に切り替え可能であり、
今は『ライトブルー』の光が闇夜を照らしている。
☆.。.:.+*:゚ ☆*。゚:*+.:.。.☆.゚✲*☆。*゚✲☆*⋆.•*¨*¨*•.⋆*。✩
少女の傍らには『カラフルなリボン』で全身を飾る『金髪の人型スタンド』。
「やっぱりヒトがすくないときは『よくきこえる』」
深夜は人の活動が減り、その分だけ『音』を拾いやすい。
『ドクター・アリス』の『超人的聴覚』を最大限に発揮できるのだ。
新しい発見があることを期待して、
先程キャッチした『手掛かり』を頼りに進んできたのだが、
何か変わったものは見つけられるだろうか。
847
:
夢見ヶ崎明日美『ドクター・アリス』
:2025/09/05(金) 23:26:39
>>846
夢見ヶ崎明日美にとって、『闇』は身近なものだった。
しかし、『光』を得てからは、『闇に目を向ける機会』は大幅に減っている。
だからこそ、こうして『深夜の冒険』を始めたのだ。
『光を得た状態で見る闇』は新鮮であり、それは一つの『新しい世界』。
そして、その扉を開く鍵は、『ドクター・アリス』に他ならない。
848
:
宗像征爾『アヴィーチー』
:2025/09/06(土) 04:46:54
星見街道の商店街で、あるイベントが開催されていた。
大勢で『打ち水』を行うことによって、気温の上昇を抑止しようという試みだ。
元々は社会実験だったものが、今では納涼の一環として定着している。
──────バシャッ
浴衣姿の群衆に、カーキ色の作業服を着た男が混ざっており、
革手袋に覆われた手で柄杓の水を撒いている。
この付近は気温が2℃ほど低く、他の場所よりも涼しく感じられるだろう。
一時的に足を止める者も少なくない。
849
:
宗像征爾『アヴィーチー』
:2025/09/10(水) 07:40:04
>>848
仕事柄、『水』と関わる機会は事欠かない。
蛇口を捻れば当たり前のように水が出てくる。
だが、こうした大規模な打ち水において、
上水道から供給される水を使わないことが慣例になっている。
節水の意味だけではなく、水の重要性を改めて知ろうとする意図も含んでいる。
今回の打ち水に使われている水も、下水に高度処理を施した『再生水』であり、
H市の水道局から委託されて現地に運んできた。
──────バシャッ
軽く柄杓を振って、乾いた地面に水を撒く。
飲用には適さないものの、『汚れた水』にも使い道がある。
どのような代物にも、それなりの活かし方は残されているものだ。
そのように考えながら、通り過ぎる人々を眺めていた時、『ある事実』に思い至った。
「――――――『水』だ」
歩き去る通行人は、誰もが地面を踏む。
少しばかり路面が濡れていたとしても、強いて注意を向ける者は少ない。
言い換えれば、彼らは『地面と同時に水を踏んでいる』。
もし、それらが『俺の水』だったとしたら、どのような結果に繋がり得るか。
あらかじめ広範囲に水を撒いておけば、容易に『ノコギリザメ』の発動が可能になる。
たとえ追尾が終了しても、相手が濡れた地面を踏んだ瞬間、
再び発動条件を満たすことになり、大幅に動きを制限できるだろう。
元来、『鮫』は水の中で生きる生物だ。
水と好相性であることに対しては、自然の摂理に近い印象を覚えた。
『試す機会』が巡ってくるかどうかは不透明だが、事前に確かめるべきかもしれない。
──────バシャッ
『穢れた血』にも、それなりの使い道は残されている。
850
:
小石川文子『スーサイド・ライフ』&『ビー・ハート』【5/7】
:2025/09/11(木) 11:58:48
全身に黒を纏う『喪服の女』が、鵺鳴川に沿って伸びる散歩道を歩く。
以前、この場所で小野塚遥と出会い、一つの伝言を託した。
その時と同じ時間帯に立ち寄っているのは、偶然ではなく意図的なものだ。
コツ コツ コツ…………
ミドルヒールパンプスの靴音を響かせ、
『玉小石のストール』を靡かせながら、散策を続ける。
851
:
小石川文子『スーサイド・ライフ』&『ビー・ハート』【5/7】
:2025/09/13(土) 18:58:11
>>850
ふと立ち止まり、頭上に広がる空を眺めた。
今頃どこかでノエも同じ夕日を見ているのかもしれない。
いつか同じ場所で同じ景色を見られる日は訪れるのだろうか。
目線を正面に戻すと、帽子によって生じた影が顔に落ちる。
おそらく今は待つしかないのだろう。
カツ カツ カツ…………
死者を悼む装束を纏い、黒い女は静かに歩き続ける――――。
852
:
村田瑛壱『ディズィー・スティック』
:2025/10/27(月) 17:25:39
スウ―――――
フウ―――――
口から煙を吐き出しながら、それを持ち去っていく風の冷たさに思わす呟く。
「じきに冬か。」
野生の生き物には厳しい、試練の季節がやってくる。
あるいは、人間にとってもほかの意味で『そう』かもしれないが。
853
:
コヤシキコヤネ『サイレント・ライト』
:2025/10/31(金) 20:50:40
>>852
「うんうん〜、いつの間にか寒くなってきてるよお。
これじゃすぐすぐ雪やコンコン!ってねえ」
『独り言』を声かけと勘違いしたのか、
もしくは暇だったのかもしれない。
『狐耳ヘッドホン』を付けた、金髪の少女が、
笑んでほとんど閉じた目を向け、話しかけてきた。
「今年もまた冬服を着られるのは、
良いことかもしれないけどっ」
言葉通り……分厚くダボっとした白に黄色のラインのジャージ姿だが、
運動部というよりは『そういうファッション』を思わせる。
854
:
村田瑛壱『ディズィー・スティック』
:2025/11/02(日) 21:54:59
>>853
「『期末』」
「『通信簿』」
「『進路』」
フウ――――ッ
「耳障りのよくねえ単語も目白押しだ。よかったな?」
もう一筋煙を吐き出し、わざとらしく笑いながら煙草を片手に女のほうを見る。
このあたりの学生であれば、『受験』という単語がチラつかないだけマシかもしれない。
もっとも、高等部からの編入である村田にしてみればあまり関係のないハナシだ。
「ま、おれにはどれもこれもあまりカンケーのねえ単語だが。」
855
:
コヤシキコヤネ『サイレント・ライト』
:2025/11/02(日) 22:11:11
>>854
「わおわおわお、コンを詰めて勉強しないとだあ。
…………って、言っても〜、
あたしも、自分には関係ないけどっ」
スッ
少し離れた位置にいたから、
話しやすいよう2歩ほど距離を詰めた。
「コヤコヤは学生さんたちを応援のシーズンだねえ。
あ、あたしは『コヤシキコヤネ』。
気軽にコヤコヤって呼んでくれていいよお」
学生の年にしか見えないが、
世の中には正道からは外れた人間もいる。
……というのは、どちらも同じことだろう。
「それ、美味し〜い?」
だからくゆらせる煙にも何も言わない気でいたけれど、
なんとなく……そう口走ってしまっていた。
856
:
村田瑛壱『ディズィー・スティック』
:2025/11/04(火) 00:40:37
>>855
「『これ』か?」
煙草をつまむように持つ目の前の男は、学ランを纏っていて明らかに学生の風体だ。
だが『カンケーない』といって捨てるあたり、『正道からは外れた人間』なのだろう。
「いいや、まったく。
『こんなもの』を美味いだのなんだのと言ってるやつの気は知れたもんじゃねえな。」
スウ―――――
フウ――――
顔を反らして、流れた煙がコヤネにかからないように吐き出す。
「だが、おれには必要なものだ。
案外、こいつを吸ってる他の連中も『そう』なのかもしれねえな。
心の底から煙が美味いだなんて思ってるやつはいないのかもしれん。」
857
:
コヤシキコヤネ『サイレント・ライト』
:2025/11/04(火) 11:45:12
>>856
「わかりやすい『好きな理由』がなくっても、
手放せないものって誰にでもあるよねえ」
吐き出される煙を束の間目で追い、
「あたしは『それ』吸わないけど〜、
人が吸ってるのを見るのは嫌いじゃないんだあ。
なんでなのかはわかんないけどっ」
それから『学ランの男』に向き直る。
「冬、嫌い? あんまり無いかな? 好きとか嫌いとか。
コヤコヤは好きだこ〜ん」
「コンビニにチョコのアイスが増えるからねっ」
最初に拾った呟きのトーンから、そう思った。
別にどっちだってよくはあるが、雑談とはそういうものだ。
858
:
村田瑛壱『ディズィー・スティック』
:2025/11/05(水) 02:12:10
>>857
フ―――― ・ ・ ・
「ふとした拍子に、いろいろと考えが頭を過っちまうことがあるだろ。
だいたいは自分にも誰にも『どうにもならねえ』ことで、考えるだけ無駄なことがな。」
こぼすような口調で、煙のたなびく先を見ながらつぶやく。
「そういうときに、これを吸うんだ。
頭と肺を煙で満たして、そういう無駄な考えを文字通り煙に巻こうとしてんのさ。」
煙草を持っていないほうの腕で、懐から小さな箱を取り出す。
薄いフィルムに包まれた紙箱には、青い弓矢のパッケージが描かれている。
宙に流れて消えていく紫煙からはほんのりと、焦げた蜂蜜のような香りがした。
「『冬』にいい思い出はないが、『夏』よりはマシってとこだ。
寒いのは着りゃいいが、暑いのは脱いだってどうにもならねえからな。
別にどっちも嫌いってわけじゃあない。」
「ただ、ダチが息災かどうかが気になったってだけだ。」
859
:
コヤシキコヤネ『サイレント・ライト』
:2025/11/06(木) 23:24:06
>>858
「わおわお〜っ、詩人だねっ。
…………でも、わかるなあ。
ぜんぶ煙に混ぜて吐き出しちゃえるなら、
どんなにマズくっても、コン輪際手放せないよね」
「むしろ吐くためにマズイのかも?
楽しむのにマズイなんてこんこんちきだもんね」
『煙草』を吸う人間は一人知っていた。
一人だけがどうしても頭にこびりついている。
そのひとも、そうして吸っていたのだろうか?
……鼻先をくすぐった甘く焦げた匂いに、
目の前の人間から離れた考えを呼び戻す。
「遠くに住んでるお友だちなのかな?
寒くなると病気とかしがちだし、心配だよねっ」
それ以上の何かがあるのかもしれないけれど、
『話したいところ』までで良いと思っている。
人の悩みを多く聞いてきたから……概ね、そのようにしていた。
860
:
村田瑛壱『ディズィー・スティック』
:2025/11/08(土) 02:28:25
>>859
「その考えはなかったな。
いわれてみりゃあそうかもしれん。」
手にした短い煙草はゆっくりと燃える。村田はそれが気に入っていた。
ニコチンでぼんやりする頭と合わせて、時間がゆったり流れるような気がするからだ。
「おれはあんまり愛想のいいほうじゃあねえからな。会わねえようにしてんだ。
うっかり鉢合わせしちまったら、お互いに口より先に手が出かねない。」
「おれの見てねえとこで元気してくれてりゃ、それで十分なんだ。」
自嘲気味に笑い、煙を吐き出す。
『自己満足』。そんな言葉が浮かんでくるが、煙に混ぜて吐き出してしまうことにした。
「正直仲は良くねえ。考えも真逆だ。誉め言葉よりも悪態のほうがよく思いつく。
さんざんヒトのことひっかきまわした挙句、ケツまくるのまで他人に任せやがる。とんでもねえヤツだ。」
「だが」
「『ダチ』には違いねえんだ。」
861
:
コヤシキコヤネ『サイレント・ライト』
:2025/11/10(月) 05:26:57
>>860
「そっかあ…………」
想いや考えは目の前の少年の頭の中にあって、
耳で受けたその言葉だけで十分足りている気がした。
「うーん。あたしが言えることって、
ぜんぜん、簡単なことしかないみたい!
こんこんと話す必要なんてなしなし」
それ以上、励ましとか説諭のような言葉は、
付け足す必要を感じなかった。
「お友だち、ちゃんと元気にしててほしいってね!」
「それだけ、だ、こ〜ん」
だから、付け足すなら祈りだけだった。
茶化す調子ではないのは、声色で伝わるはずだ。
ヒュ ォ
「わっ、寒〜っ……コヤコヤそろそろ行こうかなっ。
そういえば〜、お名前。まだ聞いてなかったよね?」
冬の始まりの風が吹き、小さく身震いしてからそう問いかけた。
862
:
村田瑛壱『ディズィー・スティック』
:2025/11/10(月) 23:41:41
>>861
「口に出さなきゃわからないこともある。
いまのおれみたいに、『自分自身』にだってわかってねえこともある。」
頭の中で己を顧みることはあっても、口に出すことは少ない。
だからきっと、自分の意志を口にすることは重要なのだ。
それが『宣言』だったとしても、『反省』だったとしても。
「あいつもきっと『そうしてる』とこなんじゃねえかな。
いや、達者にしてんなら、『そうせざるを得ない』はずだ。」
笑いながら最後の煙を吹き出し、吸殻を携帯灰皿に始末する。
ムラタ エイイチ
「村田。『村田 瑛壱』。」
「名前聴いたからっつって、『おたくの生徒が路上喫煙してます』だなんてタレコミは勘弁だぜ。
別段困るってこともねえが、喧嘩打ってくる馬鹿の相手をすんのは疲れるんだ。」
863
:
コヤシキコヤネ『サイレント・ライト』
:2025/11/11(火) 06:02:50
>>862
「だからみんな誰かと……ううん、誰かに喋りたいんだよね〜。
気持ちを言葉にして、こんこん話して。
そしたらいつか、自分の気持ちを自分のものにできるんだろうね」
そうすれば、煙と一緒じゃなくても……
心の中の煤けたものを吐き出せるだろうから。
「エーイチちゃんだね!よろしくよろしく。
大丈夫大丈夫、コヤコヤこれで結構口は硬いこ〜ん」
軽薄な口ぶりではあったけれど、
実際問題、人に話す気などない。
「あたしたちの出会いに〜コンコングラッシュレーション!
それじゃ、またどこかで会ったらよろしくねえ」
タタッ
キツネのハンドサインを手で作って振り、歩き去っていった。
864
:
宗像征爾『アヴィーチー』
:2025/12/23(火) 09:20:34
カーキ色の作業服を着た壮年の男が、クリスマスを目前に控えた通りを歩いている。
両手は使い込まれた革手袋で覆われており、足元は無骨な安全靴だ。
賑やかな雰囲気の中で、その風貌は浮いているように見えた。
ザッ
人間は『何もない状態』には耐えられない。
それは単に退屈という意味ではなく、『刑罰』においても同じことが言える。
刑務作業を伴わない『禁錮刑』は、
『懲役刑』よりも罪の軽い懲罰として位置づけられていた。
しかし、多くの受刑者達は自ら望んで労働に従事しており、
『純粋な禁錮刑の受刑者』と呼べる者は、ほとんど存在していないのが実情だ。
だからこそ『刑法』が改正されたのだろう。
ザッ
今年から『懲役』と『禁錮』は廃止され、『拘禁刑』に一本化された。
明治時代から『118年』を経て、『新たな刑罰』が誕生したことになる。
どんな場所にも『変化』は訪れるものらしい。
ザッ
しかし、俺自身の状況は変わらない。
俺にとっては『仕事』が全てだ。
それがない時は何もやることがなくなり、
時間を潰すための適当な手段が思いつかない場合、今のように歩くしかなくなる。
「『休館日』に行き当たる可能性を考えていなかった」
ここ最近は『H市立図書館星見分館』に通っていたのだが、
今日は閉まっており、その代わりとして『星見街道』に足を運ぶ形となった。
「――去年は『イトウ』を捌いたな」
飾り付けが施された街並みを眺め、りんと共に『児童施設』へ赴いたことを思い出す。
865
:
宗像征爾『アヴィーチー』
:2025/12/25(木) 10:01:45
>>864
どうやら、いつの間にか『24時』を過ぎていたらしい。
『日付』が変わったことに気付いたのは、
すれ違った通行人の会話が耳に入ったからだ。
今、星見町は『12月25日』を迎えた。
ザ ッ
不意に『何か』を感じ、その場で足を止めて振り返る。
866
:
宗像征爾『アヴィーチー』
:2025/12/26(金) 08:42:33
>>865
一瞬、見覚えのある姿が視界に入ったように感じる。
しかし、『死んだ人間』は戻ってこない。
そう思い直した時には、既に跡形もなく消え失せていた。
「――――妙なこともあるものだ」
現実に立ち返り、再び歩き出す。
ザッ
たとえ刑期を終えたとしても、俺自身の本質は変わらない。
どのような手段であろうと、この命が尽きるまで『贖う』。
だからこそ、俺にとっては『仕事が全て』だ。
867
:
アリアドネ『アリアドネ』
:2025/12/31(水) 11:59:08
公園のベンチに外国人らしき女が座り、
好物の『ロブスターロール』を齧っていた。
小麦色の肌に彫りの深い顔立ちのエキゾチックな容姿で、
ダークブロンドのソバージュヘアをポニーテールに纏めている。
ノースリーブとミニスカートのセットアップに、
クラシックなトレンチコートをマントのように羽織っていた。
靴はハイヒールを履いており、露出度の高い服装と相まって、
水商売風にも思える格好だ。
彼女は『アリアドネ』。
女性ホルモンの『エストロゲン』が多く分泌される体質で、
それが若々しいハリとツヤを保ち、外見こそ『二十代』に見えるものの、
本当の『実年齢』は誰も知らない。
ちなみに、ロブスターは『老化しない生物』なのだが、
それが本人の嗜好と関係しているかは不明である。
ちなみに、今は仕事の合間の『休憩中』だった。
868
:
縁藤『クロス・ザ・ルビコン』
:2026/01/02(金) 17:33:09
>>867
タッ タッ タッ タッ
日課のジョギング、いくつかあるコースの一つ。
その終着点がこの公園であり、ベンチで休憩するのが習慣だった。
「ふぅー…………」
スピードを緩めつつ公園に入っていき、
左手の腕時計で時間を確認しながら、右手で水筒を取り出す……と。
ここで顔を上げ、初めてアリアドネの存在に気付いた。
「…………ども」 ペコリ
軽く会釈を送り、その隣のベンチに腰を下ろす。
いつも通り10分ほど休憩していく予定だ。
ちなみにこちらは黒いジャージ姿の、高校生の青年である。
869
:
アリアドネ『アリアドネ』
:2026/01/03(土) 10:42:31
>>868
特に意識することもなく、
ぼんやりと目の前の景色を眺めていた時、青年の姿が視界に入ってくる。
「こんにちはぁ」
ペコッ
あちらに会釈されたので、こちらも同じように頭を下げる。
同時に返した挨拶の言葉は日本語だった。
瞼を下ろし気味の気だるげな表情で、刺々しさは感じさせない。
「――――運動部の個人練習?」
「あんな風に走ってる人を見ると、
こっちも『たまには運動しないと』って思う。
でも、結局は大抵しないんだけどねぇ」
縁藤の格好を眺めながら、柔らかい声色で軽く笑う。
アリアドネのモットーは『無難に生きること』であり、
そのためには適度に世の中と付き合わなければならない。
だから挨拶だけではなく、ほどほどに世間話もする。
870
:
縁藤『クロス・ザ・ルビコン』
:2026/01/03(土) 19:20:02
>>869
「……ああ、いや」
こちらから会話を始めるつもりはなかったが、
『話しかけられるかも』とは思っていたし、別に嫌でもなかった。
「『帰宅部』っス。
最初は『陸上部』やってたんスけど、半年も経たずに辞めちまって」
「だから、これはただの趣味」
水筒に口を付ける。これまでにも何度か交わしてきた覚えのある会話だ。
「健康のためなら、水泳とかの方が良いらしいっスよ」
「走りすぎると逆に体に悪いとかなんとか」
小耳に挟んだレベルの話なので、信憑性は定かでない。
だが、雑談ってそういうものだろう、とも思う。
871
:
アリアドネ『アリアドネ』
:2026/01/04(日) 11:02:45
>>870
縁藤が水筒に口を付けると同時に、こちらもロブスターロールを齧った。
「ふぅん、趣味ねぇ。
でも、長く続けようと思ったら、それくらい緩い方が良いのかも。
何事も『ほどほど』が一番よ」
世間話の範疇から外れないために、『辞めた理由』については触れない。
「水泳やってみようかな?ま、多分やらないわ」
スゥッ
相槌を打つように笑うと、億劫そうに脚を組み替え、ズレたコートを直す。
「こっちも『お得意様』と縁が切れちゃって、最初どうしようかと思ったけど。
振り返ってみると、なんというか『潮時』だったから」
今の時間は夕方であり、露出の多い服装は『夜の仕事』を思わせる。
872
:
縁藤『クロス・ザ・ルビコン』
:2026/01/04(日) 16:54:19
>>869
「はは。まあ、そうっスね」
苦笑を浮かべつつ、相槌を打つ。
自分のランニングは到底『ほどほど』の範疇には収まらないだろう。
話の腰を折るほどのことでもないので、黙っているが。
「ダイエットとかでもなければ、
歩くだけでも充分なんじゃないっスかね。若いうちは」
もちろん、縁藤もアリアドネの本当の年齢など知る由もない。
見た目からして二十代だろう、と素直に考えていた。
「『お得意様』っスか。仕事は何を?」
そして同じく、『水商売』か何かだろう──とは思っていたが、
失礼だし、違っていたら大変なので、口には出さない。
露出の多い服装にも、なるべく視線は移さない。
873
:
アリアドネ『アリアドネ』
:2026/01/05(月) 11:58:41
>>872
当たり前ではあるものの、縁藤の『心臓』のことは何も知らないので、
それに纏わる『心境』についても理解の範囲外だった。
──────ピキッ
「あは…………まあ、そうね」
ちょっと他所見していたら見落としそうな一瞬、不意に気だるい笑みが固まった。
アリアドネにとって『年齢に関わる話題』はタブーだ。
そういった反応のせいで、『実年齢は見た目の倍以上』という噂も流れている。
無論、あくまでも彼女の周りが知っている程度の話であり、
初対面の縁藤が把握していないのは当然だろう。
だからこそ、アリアドネ自身も『爆発』には至らない。
「ふふ、お仕事はねぇ――『男と女』に関係する内容とだけ言っとくわ。
詳しくはプライバシーってことで、ね」
すぐに気持ちを切り替え、先程と同じような緊張感の薄い表情を取り戻す。
874
:
縁藤『クロス・ザ・ルビコン』
:2026/01/05(月) 22:47:11
>>873
「────?」
アリアドネの様子の変化には気付いたものの、その真意、
そしてトリガーが『年齢』であることには、なおさら辿り着けない。
怪訝そうに眉をピクリと動かしたが、それだけだ。
「……俺にはまだ早そうな世界っスね」
同じく、思考はすぐに次の話題のことに移った。
婉曲的な表現とはいえ、『男と女』と言われれば察するものがある。
わざとそれっぽい言い方をして煙に巻いている可能性もなくはないが、
仮にそうだったとしても、今は素直に騙されておこう。
「ま、縁ってものはあるっスよね。
それに逆らっても、あんまり良い結果にはならないっつーか」
「来る者は拒まず、去る者は追わず……ってやつ?」
例の『お得意様』のことだ。
縁藤自身、人間関係にはそこまで頓着しないタイプである。
結果として、友人の数は多くもなく少なくもなく、といった感じだ。
875
:
アリアドネ『アリアドネ』
:2026/01/06(火) 11:50:57
>>874
『男と女に関係する仕事』――実のところ、その言葉は嘘ではなかった。
「あっはぁ、良いこと言うじゃない。
ま、なかなか大口のツテだったんだけど、不安定なのが玉に瑕だったからさ。
今は儲けが減った代わりに安定を得たって感じねぇ」
アリアドネが『無難な生き方』を心掛けようとしている理由は、
過去に付き合いのあった『お得意様』と無関係ではない。
当時は危ない橋を渡る機会も少なくなかったが、
生来の『女の勘』を駆使して切り抜けてきた。
しかし、現在そういった方面からは距離を置くことに決めたのだ。
「縁って聞くと、『袖振り合うも多生の縁』なんて言い回しを思い出すわ。
こんな風に世間話してるのが『何かの縁』だったりすることもあるかしらぁ?」
もちろん『一期一会』という場合もあるだろうが。
876
:
縁藤『クロス・ザ・ルビコン』
:2026/01/06(火) 22:27:30
>>875
「やっぱ大変なんスね、働くって。今から憂鬱っスよ」
エスカレーター式である『清月学園』において、
高校二年生に相当する縁藤にはまだ先の出来事──就職、そして労働。
未来のこととはいえ、将来への不安に駆られることも当然ある。
進路は、アリアドネのそれとはずいぶん異なるものになるだろうが。
「んなこと言いだしたら、
アンタみたいな職種の人は縁だらけになっちゃうんじゃないスか?」
「『男と女』……なんだろ?」
コミュニケーションを金銭に変えるタイプの仕事だろう、とは推測していた。
そんなに深掘りするつもりはないが……気になるものは気になる。
877
:
アリアドネ『アリアドネ』
:2026/01/07(水) 11:58:20
>>876
手元のロブスターロールを一瞥すると、しばらく咀嚼に集中し、
それを飲み込んでから口を開く。
「――――――まぁねぇ。
でも、これでも『勘』は鋭い方だから。
『女の勘』っていうのは、ちゃんと科学的な根拠があって、
女性ホルモンの『エストロゲン』が認知機能に関係してるってハナシ。
どうやら生まれつき『分泌量』が多い体質らしくってさ」
こうして瑞々しい肌を保っているのも、
生来の体質が齎す恩恵の一端なのだが、逆に害を及ぼす副作用も存在する。
「でも、そのせいで『片頭痛持ち』なのよね。
考え事をしてる時なんかに、こめかみが痛くなってくるのよぉ」
ツ ゥ ッ
おもむろに人差し指を立て、自らの側頭部を指し示す。
「あははぁ、興味を持ってもらえるのは嬉しいわねぇ。
でも、これ以上は『ナイショ』にしとくわ」
深堀りする気がないことは伝わったが、一応こちらの意思も明言しておいた。
「その代わりってワケでもないけど、
名前は『Ariadne(アリアドネ)』――もし街中で会うことがあったら覚えといて」
神話の英雄テセウスが迷宮から脱出する際、
彼の手助けを行ったことで知られる王女と同名であり、
この逸話から『難問解決の鍵』を意味する『アリアドネの糸』という言葉も生まれた。
878
:
縁藤『クロス・ザ・ルビコン』
:2026/01/08(木) 01:07:09
>>877
「へえ……そりゃまた」
一瞬、『本当か?』とも考えたが……
自分にとっても身近ないわゆる『ランナーズハイ』を引き起こすのも、
ホルモンの一種である『エンドルフィン』なのだそうだ。
案外『女の勘』も馬鹿にできないかもしれない。
「……困ったもんスよね、『生まれつき』ってのは」
いかにも苦々しそうに、そう呟く。
縁藤の生まれ持った弱い『心臓』に恩恵など何もなかった。
移植手術を受けなければ、今でも病院での生活を強いられていたか……あるいは、既に。
何千回も頭を過ぎった『もしも』の数がまた一つ増える。
「アリアドネ?」
さすがに、本名ではないだろう──とは思ったものの。
「……かっけえ名前っスね」
本人からもやんわり拒否されていることだし、これ以上の深追いは止めておいた。
安易に考えると、『源氏名』のようなものだろうか?
「俺は縁藤っス。エニシにフジで縁藤」
879
:
アリアドネ『アリアドネ』
:2026/01/08(木) 11:58:09
>>878
縁藤の表情や口調から、何らかの『先天的な疾患』を抱えているらしいことを察した。
そこから先は分からないし、今のところは知りたいという気持ちも起こらない。
平穏無事に生きていくためには、『知り過ぎないこと』も必要なのだ。
「そぉでしょお?」
「――――気に入ってるのよ」
この名前を与えられているのは、アリアドネ自身だけではない。
自らの『精神の象徴』も、『同じ名前』で呼ばれている。
生を受けた時から、それは傍らに存在していた。
「縁藤くん、世間話に付き合ってくれてありがとね。お陰で退屈せずに済んだ」
ゴソ…………
食事を終えてベンチから立ち上がり、
トレンチコートのポケットを探ってスマホを取り出すと、新しいメッセージが届いていた。
「ぼちぼち『仕事』しなきゃならないから、この辺でお別れってことで」
縁藤が休憩を始めてから、もうじき『10分』が経過しようかという頃合いで、
ランニングを再開するにも良いタイミングだろう。
880
:
<削除>
:<削除>
<削除>
881
:
縁藤『クロス・ザ・ルビコン』
:2026/01/08(木) 22:18:45
>>879
「気に入ってる、っスか」
──やはり、本名に対して出てくる形容ではない気はした。
「いや、こっちこそ」
アリアドネが立ち上がったのを見て、チラリと腕時計を一瞥する。
いつもならスマホをいじるなりして過ぎ去るだけの10分だ。
今日はいくばくか有意義に過ごせた気がする。
「じゃ、また……縁があれば、っスね」
口角を僅かに上げつつ、手を振ってアリアドネを見送る。
ここで続いて立ち上がると、肩を並べて公園を出ることになる訳で……
それはなんとなく気まずいので、まだ腰を上げることはしない。
もうしばらく休憩してから立ち去ることにしよう……
882
:
アリアドネ『アリアドネ』
:2026/01/09(金) 11:59:02
>>881
トレンチコートを羽織り直し、縁藤に向き直って笑う。
「それじゃあねぇ」
ピッ
公園を出てから、どこかに電話を掛け始めた。
「――――どうだった?」
「まだ手に入らない?」
カツ カツ カツ
ハイヒールで地面を打ち鳴らし、歩き続ける。
「…………ま、いいかぁ。大体の見当はついてるから、こっちで何とかする」
ふと立ち止まると、しばし公園の方を眺め、先程のやり取りを思い出す。
「それとは関係ないんだけど、ちょっとした出来事があってさ。
こういうの『奇遇』って言うのかもね」
カツ カツ カツ
ヒールの靴音を響かせて、アリアドネは歩いていく。
883
:
夢見ヶ崎明日美『ドクター・アリス』
:2026/05/28(木) 00:26:23
初夏の大通り――小さな公園のベンチに、
パンキッシュにアレンジされた『アリス風ファッション』の少女が、
両目を閉じた状態で座っている。
その目元を覆う『アリスブルーのサングラス』と、
両手の爪を彩る『カラフルなネイルアート』が印象的だ。
彼女の傍らには、輝く『金髪』を靡かせた『人型スタンド』が寄り添う。
「おうさまのミミはロバのミミ」
「アリスのミミはショウトクタイシ」
「パンのミミは…………オヤツ!!」
今まさに『ドクター・アリス』の『超人的聴覚』を使って、
何か面白い話が聞こえてこないか耳を澄ましていた。
気になる『声』や『音』を見つけ次第、
無線の周波数を合わせるように、そちらに意識を集中させる。
なんかないかな??どうよ??なんでもいいぞ!!
884
:
夢見ヶ崎明日美『ドクター・アリス』
:2026/06/04(木) 16:19:08
>>883
しばらく町の音に耳を澄ましていると、その中に奇妙な足音を察知した。
明らかに人間ではないものの、
犬や猫といった普段よく見かける動物の歩き方でもない。
しかし、音から推し量れる大きさは犬ぐらいだ。
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜??」
パ ッ
目を開けてみたが、見える範囲にはいないようだ。
この時、視覚からの情報が入ったために、
聴覚に注いでいた集中力が一時的に薄れる。
そのせいで、背後で遠ざかっていく『何者か』に気付けなかった。
テト テト テト
そして、星見町において、『それ』は珍しい存在ではない。
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