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【ミ】『フリー・ミッションスレッド』 その2

703小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/10/15(日) 00:45:38
>>701

  「――」

  「――……」

  「――……あっ……」

しばらくして、ようやく我に返る。
あまりの出来事に、最初は何が起きたのか分からなかった。
気付けば、蓋を取った姿勢のままで呆然としてしまっていたのだから。

蓋を開けた瞬間に、何か大きな衝撃を受けたような気がする。
少なくとも、今まで感じたことのない体験だったことは覚えていた。

  「……とても――凄いお料理なのね……」

まだ余韻が抜け切っていない状態ながら、
ペイの説明を聞いて先程の衝撃の意味をおぼろげに理解した。

それにしても、選りすぐりの材料を使っただけで、誰にでもこの香りが作れるとは思えなかった。
きっと、料理人の腕が優れているからこそ、この一品に仕上がっているのだろうと思う。
こんな料理を作り出せる彼は、一体何者なのだろう。
知らず知らずの内に、この店に対する畏敬の念が心の中に生じていた。

  「――いただきます……」

心を落ち着かせたのち、厳かな気持ちで手を合わせる。
そして、未知の芳香を立ち昇らせている料理と正面から向き合う。
食事の最中に、こんなに緊張したことは、今までになかったことかもしれない。
気持ちを引き締めていないと、思わずスプーンを取り落としてしまいそうになる。

困難な外科手術に臨む執刀医を思わせる繊細な手つきで、
壺の中に広がる小さな琥珀色の海にスプーンを浅く沈め、一匙分のスープを慎重に掬い取り、
細心の注意を払って口元に運ぶ。

とても長いようで、実際にはごくごく短い時間が過ぎ去り――
やがてスープが舌先に触れるのを感じた。


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