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【場】『 湖畔 ―自然公園― 』

655高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/17(日) 14:27:56
>>654

「ぼくが……アイドル……」

自分の理想と現実の中にあって、どうにもならぬ気持ちというのがある。
高宮にとって気の重くなる毎日の事がこの一瞬で努力の日々に昇華される。

「はい、お互いに」

「今度はここじゃなくて、現場で会えるように」

客と演者ではなく、演者同士として。
そして、舞台を降りれば人間同士として。

「頑張ります」

656美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/17(日) 22:18:48
>>655

「自信に裏打ちされている貴女は輝いてる」

「貴女には、これからも輝いていて欲しいわ」

「――私の分までね」

私は輝きを失った過去の星。
かつての栄光を夢見る事も、時にはある。
だけど、少しでも誰かの支えになれるのなら――今の私も、そんなに悪いものじゃないわよね。

「そうね」

「いつかゲストに来て貰えたら嬉しいな」

「――なんてね」

クスッ

「ええ、私も頑張るわ」

明るい微笑を浮かべながら、彼女の前に片手を差し出す。
この出会いの締め括りとして、最後に握手を交わしたかった。
これは、いつの日か共通の場所で再会したいという気持ちの表れでもあった。

「――いつか何処かで、またお会いしましょう」

657高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/18(月) 01:13:07
>>656

「……私の分までなんて、言わないで下さい……」

「今でも美作さんは輝いてますから……」

場所こそ変われど、輝く星に変わりわない。
嘘偽りのない言葉で返す。

「ゲストになった時はよろしくお願いします。ぼくはもっといいアイドルになりますから」

「またどこかで」

優しく、しかし確かに手を握った。

658美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/03/18(月) 19:33:21
>>657

真摯な言葉を受け取って、静かに息を呑んだ。
私は輝きを失ったんじゃなく、以前とは異なる種類の輝きを纏っている。
その意味を噛み締めて、緩やかに口元を綻ばせた。

「アハハ、そうね」

「――ありがとう」

言われてみれば、その通りだった。
忘れていた訳じゃない。
ただ、改めて再認識させて貰えたのは確かだ。

「私も、その時までに腕を上げておくわ」

「『See You Again』」

似通った点を持つ二人の間で、穏やかに握手が交わされる。
それぞれの場所で輝く二つの星の交わり。
夜空に瞬く星々が、その光景を優しく見守っていた。

659三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/22(金) 21:36:21

   ザック ザック
             ザック ザック

そろそろ辺りが暗くなり始めた時間のことでした。
林の奥から規則的な音が聞こえます。
地面を掘っている音のようです。

   ザック ザック
             ザック ザック

近付いたら、地面に穴が開いているのが見えると思います。
かなり大きな穴です。
人一人は十分に入れるくらいでしょうか。

   ザック ザック
             ザック ザック

穴を掘っているのは、『シャベル』を持った『墓堀人』です。
目深に被ったフードの奥で二つの目が光っています。
近くには人の姿はありません。

    ピタリ

         《――――…………》

ふと、『墓堀人』が動きを止めました。
何かの気配を感じたような気がしたからです。
でも、もしかすると気のせいかもしれません。

660三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/25(月) 20:45:44

        ザクッ
              ――――フッ

穴から出てきた『墓堀人』が、穴の手前の地面にシャベルを突き立てました。
次の瞬間には、穴は消えてなくなっていました。
それを確かめた『墓堀人』は、シャベルを肩に担いで歩き去っていきました。

661夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/04/07(日) 00:25:48

「――――『パーティーかいじょう』はココだな…………」

          ザッ

ピクニックの用意をして、自然公園にやって来た。
『春の一大イベント』である『花見』に興じるためだ!!
しかし――――。

「ヒトがおおい!!おおすぎるぞ!!」

桜は『満開』で、天気は『快晴』だ。
おまけに今日は『週末』と来ている。
桜の花が咲き誇るこの場所に、人が集まらないワケがなかった。

「サクラくらいであつまってくるなんて、みんなケッコーヒマなんだな〜〜〜」

      キョロ
           キョロ

自分のことを棚に上げて、周囲を見渡す。
空いている場所を探しているのだが、大抵の場所は埋まっていた。
特に、『桜の真下』は人が多い。

「マズいな……。『ベストスポット』は、スデにヤツらのテに……!!
 ムッ!?アレは……!!むこうのほうにスペースがあいているぞ!!
 いそがねば!!ヤツらにおさえられるマエに、『あのポイント』をカクホする!!」

        ダダダダダッ

巧みな動きで人々の合間を縫って、全力ダッシュで駆け抜けていく。
速やかに目的地に到着し、背中に背負っていたリュックを下ろす。
『ウサギ』の形のアニマルリュックだ。

         バサァッ

「――――『カクホ』!!」

リュックからレジャーシートを出して広げ、素早く地面に敷く。
その上に腰を下ろして、ランチとして準備してきたサンドイッチを取り出した。
なお他の場所は大体埋まっているが、この辺りはまだ多少の空きがあるようだ。

662夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/04/14(日) 16:33:45
>>661

「ソレにしても――――」

リュックを枕代わりに、レジャーシートに寝転がる。
頭の上には、溢れそうな程に咲き乱れる桜の花。
サングラス越に、その光景に見入る。
その時、やや強めの風が吹き抜けていった。
枝が揺れて花びらが散り、薄桃色の花吹雪となって舞い落ちる。

「――――キレイだな」

こんなキレイなモノを見られなかったなんて、ジンセー損してたな。
だからこそ、これから今までの分を取り戻さなきゃ。
ジンセーは短いんだ。
その間に、たくさんのモノを見ないといけない。
セカイには、もっとスゴいモノやキレイなモノやフシギなモノがいっぱいあるハズ。
それをゼンブ見てみたい。
『セカイのゼンブ』を見るのが、わたしのユメだから。

「おん??」

気付けば、ケッコー時間が経っていたようだ。
ぼちぼち日が傾きだして、ヒトも徐々に少なくなっている。
起き上がり、片付けを済ませてから、近くに立つ桜の樹を見上げる。

「――――んじゃッ!!」

桜の樹に向かい合い、片手を上げて別れの挨拶を送る。
そして、軽快な足取りで歩き出す。
こうして『アリス』は、次の冒険に向かうのだ。

663今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/13(木) 00:45:58

        ザ ァァァ ァ ァ ァ  ァ …… 

「うわ〜っ」

暑いから油断してたけど、梅雨なんだった。
傘は、ちゃんと持ってきておくべきだったな。

「先生、傘になりそうなもの作れたりしないんですか?」
「こう、テープで布を貼り付けたりして・・・」

      『先生ハ ソウイウ〝能力〟デハ ナイデスヨ』

「わかってますけど〜」「ああ」
「木の下で雨宿りって漫画とかで見ますけど、やっぱり濡れちゃいますねえ」

「・・・早く止まないかなあ」

このあたりで雨宿りができるのは、ここしかないから、出るにも出られないんだよね。

664小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/13(木) 01:31:46
>>663

そいつは傘をさしていなかった。
黒い髪も、服も、全てが雨ざらしになっていた。
それでも走ることは無く、焦った雰囲気もなく、小鍛治明は歩いていた。
ゆっくりと、晴れと変わら無いテンポで歩いていた。

「……」

同じ木の下に入ってきた。
ぼんやりと髪を手ですく。

「いい雨ね」

そうとだけ呟いた。

665今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/13(木) 20:41:32
>>664

「え?」「あ、はいっ、そうですねえ」
「『梅雨』っぽい感じの雨ですねっ」

         ザ ァ ァ ・・・

湿っぽい雨で、あんまりよくはないけど。
この人は……雨が好きなのかな?

「いきなり降ってきたし」
「すごい勢いで降ってるし」

「……」
「あのーっ、びしょ濡れですけどっ」
「タオルとか、使います?」

濡れてるの気にならないのかな。雨が好きだから?

666小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/13(木) 22:08:35
>>665

「いいわ、別に」

タオルはいらないらしい。
彼女が髪をかきあげると額に髪が張り付いていた。
濡れているものの、雨ざらしの子犬のような風情はなかった。
シャワーでも浴びたあとのようだ。
黒い彼女の髪が艶やかなひとつの塊になっていた。

「雨宿り?」

667今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/13(木) 22:41:55
>>666

「あ、そうですか……冷たくないんです?」
「まー拭いてもキリないといえば、ないですけど」

この人は、雨に濡れてもいい人なのかも。
私にはわからないけど、そういう自信がありそうだ。

そういえば、先生は引っ込んでいた。
人が来たからかもしれない。

「そうですね、傘忘れちゃいまして」
「屋根があるところも、ないですし」        
「予報も、たしか晴れでしたし」 

「えーと」
「あなたも雨宿りですかっ?」

そうじゃなきゃここには来ないとは思うけど。
もしかして、私に用事とかだったらってこともある。確認はしておく。

668小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/13(木) 22:52:09
>>667

「別にそういうのは気にしないわ」

ぱてぱたと雫が服から滑り落ちた。
彼女の肌は元から白いらしく、血色の程はわからないらしい。

「雨宿りよ。人と待ち合わせたのだけれど」

「この天気だと厳しそうね」

669今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/14(金) 00:09:57
>>668

「待ち合わせですか〜っ」
「災難ですねえ・・・」

     ザ ァァァ ァ ァ ・ ・ ・

雨は、とてもじゃないけど止みそうにもない。
私はもう用事とか終わってて、まだマシだったのかも。

「これ……止みそうにないですもんねえ」

「ちなみに」
「どこに行く予定だったんです?」

670小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/14(金) 01:11:37
>>669

「どこに行く……そうねぇ」

「山、かしら?」

ぼうっと遠くに視線を投げてそんなことを言った。
確かにそちらには山がある。
だが車で行った方がいいような遠い所だ。

「彼が来て欲しいって言ったのだけれど」

「この天気だとそんなに早くは来れないかもね」

671今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/14(金) 02:00:34
>>670

「山……」「えーと」

「この辺で山ってありましたっけ」
「……あっちの方だったかな?」

この人が見てる方を見たら、あった。
でも、あんなところにある山行くのに、なんでここいるんだろ?

まあフツーに家がこの辺だから、とかなのかな。

「ここ、自然公園から車で行くんです?」
「って言っても、止んでしばらくしないと山は危ないですか」

672小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/14(金) 02:38:03
>>671

「車というか、なんというか」

一瞬視線を外す。
答えにちょうどいい言葉を頭の中で探す。
が、結局途中で諦めてしまった。

「そうね、山道がぬかるんでると崩れる可能性もあるし、良くはないわね」

「……私の話ばかりしても良くないわね」

「あなたは何かをする途中? それとも、し終わったのかしら?」

673今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/14(金) 03:00:30
>>672(小鍛治)

「えーっと? バスとか?」
「まあいっか」

「え、私ですか? 大した用ではないですけども」
「友達とちょっと買い物してきた帰りでして〜」

カバンをちょっとだけ開けて、見せる。
買ったのはアクセサリーとか。

別に見せていいものしかないから、いいよね。

「だから、し終わった方ですねっ」
「・・・後なら降っていいわけじゃないですけどっ」

「スカイモールまで行ってたんです」
「その時、傘も買っておいたらよかったな・・・」

折り畳み傘は通学カバンに入れっぱなしだし。
もう一つくらい買っておいた方が便利な気はするんだよね。

674小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/14(金) 15:32:56
>>673

カバンに視線を向ける。
覗き込むようにして見ないのは自分の体から落ちる雫が入らないようにするためだ。

「仕方ないわ。予報は晴れだったんですもの」

「傘が必要だなんて誰も思わないわ」

雨はまだ降り続けている。

「備えあればと言うけれどね」

「本当に備えておけることなんて少ないのよ」

675今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/14(金) 22:47:47
>>674

「そうですよね、それがフツーですよねっ」
「全部に備えるなんて、無理ですよね」

       ザ ァ ァ ァ ・・・

「雨……全然緩くならないですねえ」

もう濡れてもいいから帰ろうかな。
夜まで止まなかったら、どうしようかな。

「そういえば」

「お名前、聞いてませんでしたっけ?」
「あっ」「私、『今泉 未来(イマイズミ ミライ)』って言います」

676小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/14(金) 23:53:35
>>675

「小鍛冶明」

「小さな鍛冶屋は明るいで小鍛冶明」

微笑みながら、話した。
冷たい印象の目元が少しだけ和らいだ気がした。

「どこかで会った気もするけれど」

「よろしくね、今泉さん」

677今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/15(土) 00:10:12
>>676

「小鍛治、さん……小鍛治明さん」「あれ?」

聞いたことあるような。
……どこでだっけ?

「どうでしたっけ……言われてみれば」
「会ったこと、あったかも」

「・・・」「どうでしたっけ」

何となく会ったような……気はする。
あっ。……そうだ。

「あっ」

他にびっくりすることがありすぎて、忘れてた。

「あ〜〜〜っあの、ほら、白い街で!」
「これ見せたら小鍛治さんも思い出すかな」

「――――『先生』」

           『今泉サン』

           『……貴女ハ、〝小鍛治〟サンデスネ』

    コール・イット・ラヴ
「ほら、私の『先生』」

「あの時は、あまりゆっくりお話しできませんでしたよねっ」

                   「状況が状況でしたし」

678小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/15(土) 00:46:46
>>677

「あぁ、やっぱり……」

「お久しぶりね」

軽く、頭を下げた。

「状況が状況でしたものね」

「あれから状況はどう?」

679今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/15(土) 01:41:48
>>678

「すみません、顔見ただけで思い出せなくって」
「あの後ですか……特に変わりはないですね」

「うーん」
「いやまあ、少しはありますけども」

ほんとに、派手な話とかないんだよね。
引っ越そうとしてるとか、私事というか。
そもそも家の話もしたことないヒトだし。

「何かスタンド絡みの事件とか」
「そういうのもないですし」
「あは、それは無くてフツーですけどっ」

フツーな事しかない。いいことだけど。

「小鍛治さんは……」
「特にお変わりとか、なさそうですかね」

見た目とかはあんまり変わってない。
元気じゃなさそうとか、そういう感じでもないし。

「いや、変わる前をほとんど知らないんですけども〜っ」

「ほんと、出会いがフツーじゃなさすぎましたもんねえ」

680小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/15(土) 02:37:57
>>679

「そんなものよ」

「そんなに目立つこともしてなかったし」

気付かないのも仕方がないと小鍜治が言う。
事実がどうであったかはその目で見た人のみが知る。

「……そうね、変わらないわね」

「普通じゃない出会い、そうね。確かに普通じゃなかったわ」

白い指が唇に触れて、思案顔。
ほんの少しの間があったが概ね言った通りなのだろう。

「普段なら、変わる前を知らないなら今から知ればいいじゃないの、なんて言うんだけど」

また、髪を撫でる。
降りてきた髪が指の股に入り、ゆっくりと持ち上げられる。
生え際の辺りまで手の底が上がる。
上目遣いをするような形で、口元を緩めて言葉を吐き出す。
真っ白な肌と真っ黒な髪、ほのかに感じる血の色の赤みがコントラストになっていた。

「どうかしら、今泉さん?」

681今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/15(土) 03:11:16
>>680

「私もあんまり目立ってなかったですしねえ」
「目立ちたかったわけでもないですけど」

小鍛治さんも私のこと忘れてたっぽいし。
でも、あれは仕方ないと思うんだよね。

芽足さん、個性すごいし。
カレンさんとかタマキさんも濃かったし。
小鍛治さんと一緒にいた人も和服だったし。

私と小鍛治さんは、『スタンド使い』だけど『フツーなほう』だったんだよ。

「そうですねっ」
「自己紹介だけじゃ、分かんない事もありますし」

「……」

なんだか『色気』っていうのがある人だ。
私あんまり、たぶん、そういうのないんだよね。
そういうのもやっぱり、よくわかんないしさ。

「今からお互いのこと、知りましょっか小鍛治さん!」
「とりあえず……」

   ゴソッ

「『連絡先』とかからでも!」
「何か『変わった』りしたら連絡できますし〜」

682小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/15(土) 12:07:52
>>681

「そう、じゃあそうしようかしら」

小鍜治もスマホを取りだした。
カバーも何も無い、むき身のそれ。

「じゃあ何か変わったことがあれば」

「それこそ、前見たいことがあればよろしくね」

683今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/15(土) 20:27:42
>>682

あ、スマホにカバー付けてないんだ。
私のは……白いカバーにマステを巻いてる。
カバー無しで持ちにくくないのかな。滑らない?
無しが普通だと、むしろ付いてる方が邪魔なのかな。

「スマホ、カバーとか付けない派なんですね」
「えーと」「じゃあQRで……」

「……よしっ」

「これでいつでも連絡できますねっ」

      『〝異常〟ハ ナイニ コシタコトハ ナイデスガ』
      『モシ ソノヨウナコトニナレバ、ヨロシクオ願イシマス』

          ペコーッ

先生が頭を下げてた。

「私からもよろしくお願いしますっ」
「おかしなことじゃなくて、フツーのことでも」
「何かあったら、連絡してきてくださいね!」

だから、私も小さく下げておいた。

それから、スマホをカバンにしまった。
雨は相変わらず、止みそうにないけど・・・どうやって帰ろうかなあ。

684小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/15(土) 23:45:43
>>683

「これでいいのよ、人間じゃないんだから着飾らなくても」

「作ってる人だってカバーをつける前提でデザインしているわけでもないでしょう?」

そういう理論らしい。
そして、頭を下げた『先生』に礼を返す。
不思議な光景だった。

「ええ、連絡させてもらうわ」

そう言葉を返し、空を見上げる。
まだ雲は重い。
だけれど構わず一歩を踏み出した。

「仕方ないわね」

また雨模様の中に自分を放り投げる。

685今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/06/16(日) 08:38:29
>>684

「…………なんだか、かっこいいですねっ」

「私はそれでも、飾らせちゃいますけど」
「人間じゃなくっても」「おしゃれな方がいいかなって」

人間は、着飾るものだもんね。
それがフツーだしそうするべきだ。
でも、人気じゃなくても着飾ることは出来る。

「あっ」

「……はいっ、連絡待ってますね!」
「小鍛治さん、それじゃあまたっ」

         『風邪ニハ オ気ヲツケテ』
         『サヨウナラ、小鍛治サン』

そうだった、この人は濡れても平気なんだ。
いや……平気とは違うのかもしれない。
雨で濡れるのも、きっとカバーを付けないのと同じ。
そういう『前提』だって、受け入れられる人なんだ。

         『今泉サン、帰リマスカ?』

「いやー、私はもうちょっとだけ、待ってみます」
「小鍛治さんみたいに、かっこよくはないから」

木の下から、その後ろ姿が遠ざかるのを見送る。
私が帰るのは、それから1時間くらいしてからになった。

686小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2019/06/17(月) 04:04:07
>>685

「なんてことないわ」

「私はこれを飾らないだけだもの」

黒のスマートホンを黒いままにして使う女が言った。

「ええ、さようなら」

「またいつかね」

雨の中を歩いていく。
不意に着信が入って、通話と書かれた画面をタッチする。

「もしもし、カレンさん?」

「ええ、問題ないわ。これも仕事みたいなものだしね」

687ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/06/20(木) 22:33:51

青々とした芝生の上に、花柄のワンピースを着た少女がいた。
年の頃は、小学校に上がったくらいだろうか。
彼女の足元には、小さな黒い塊があった。

「よーし、あっちまで先についた方が勝ちだからねー」

少女が元気よく声を発し、足元の塊が動く。
それは一匹の『チワワ』だった。
『スムースコート』と呼ばれる短毛種で、毛の色は黒一色だ。

「――スタートッ!」

パッ

少女の合図で、一人と一匹は同時に走り出す。
犬の方が速いと思われたが、実際のスピードは似たようなものだった。
正確には、チワワが少女に合わせて速度を落としているらしい。

タンッ

「ゴールッ!」

少女とチワワは、一本の樹の前で足を止める。
少女は腰を下ろし、チワワが隣に座った。
チワワの首輪には『DEAN』という名前が入っていた――。

688音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/06/21(金) 22:26:03
>>687

       キキキィィー

「おぉー、微笑ましいものだな」

ポロシャツに七分丈パンツというスポーツウェア姿で、
ロードバイクを乗っていると、思わずブレーキを掛けた。

    「(何かの拍子にビックリして、
      急に走り出したら危ないからな……。

      どーれ、ちょっと様子を見てみようかね)」

少し離れたサイクリングロードの路肩で、
飼い犬とかけっこをする少女を見守っている。

689ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/06/21(金) 23:24:38
>>688

「アハッ、一緒だねー」

「ね、ディーン。ヨシエ、前より速くなったかなー?」

少女は、横に座るチワワに話しかけている。
チワワの目線は少女に向けられていた。
まるで彼女の話を聞いているようにして。

「もう一回やろうよ!今度は勝つからねー!」

少女は立ち上がり、そのまま走り出した。
視線はチワワに注がれており、前を見ていない。
早い話が、余所見をしていたのだった。

バッ

「――わッ」

前方を見ていたチワワが駆け出し、少女の前に飛び出した。
そして、停まっていたロードバイクと少女の中間辺りで立ち止まった。
ぶつかるのを阻止しようとしたらしい。

「あ、ごめんなさい……」

ペコッ

そう言って、少女は頭を下げる。
チワワは少女の無事を確かめるように彼女を見上げてから、男に視線を向けた。
元々超小型犬だが、大柄な男が近くにいると、少女といるよりも更に小柄に見える。

690音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/06/21(金) 23:37:05
>>689
「賢いワンちゃんだ」

     「君がぶつかる前に、
      ちゃんと教えてくれたんだね」

傍に樹立するケヤキにロードバイクを立て掛ける。
新品の『U字ロック』がハンドルの中央に引っ掛けられている。

     「気にすることはないさ。
      お兄さんも、君とワンちゃんが転ばないか、
      よぉぉ〜〜〜く、見てただけだからね。うん」

ウェーブ掛かった黒髪に鳶色の瞳、潔く割れたケツアゴ。
スポーツウェアから伸びる四肢は、樹皮のように逞しい。

     「気にせず、元気に遊んでおいて。
      だけど、こっちの『道路』の方は危ないから、
      なるべく、……そうだな。向こうの『丘』の方で遊ぶといい」

公園とはいえ、『サイクリングロード』の方は、自転車やランナーも通る。
広場の中央に位置する、小さく盛り上がった『丘』を指差した。

腰を落とし、視線を少女に合わせながら、朗らかに話をする。
走り寄ってきた『チワワ』を無造作に撫でながら、柔らかく口角を上げた。

691ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/06/22(土) 00:07:13
>>690

(……デカい人間だな)

それが俺――『ディーン』から見た第一印象だった。
サイズとしては、今まで見てきた中で一番かもしれない。
少なくとも、直接お目にかかった中ではそうだろう。

「…………」

普通、ガタイが良いものほど力が強いというのが『自然の法則』だ。
それに従えば、この男も相当なものなんだろうな。
だが、俺にとっての問題は、どちらかといえば『内面』の方だ。

「はーい!今度からは、あっちの方で遊ぶねー!」

軽く見た限りでは、『そっちの方』も問題はなさそうだ。
そう考えながら、俺は男に撫でられていた。
気持ち良いものは気持ち良い――これもまた『自然の法則』というヤツだ。

チラッ

「変わった自転車ですねー。見たことない!
カッコいいねー、ディーン?」

少女はロードバイクが珍しいらしく、そちらに視線を向けた。
彼女に名前を呼ばれたチワワも、同じ方向を向く。

692音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/06/22(土) 00:19:51
>>691

     ワシ ワシ ワシ ワシ ッ

喉下や耳の後ろ、脇腹を丹念に揉み摩っていく。
十指が代わる代わる『ディーン』の身体を圧し解していく。

   「お目が高いね、お嬢ちゃん。

    故郷のフランスから運んできたんだ。
    オーダーメイドだからね、世界に一つきりなんだよ」

頑強さとしなやかさを兼ねた、優美なフレームが陽光を照り返す。
それを語る口振りは何処か愛しげに。

   「この子は『ディーン』っていうのかい。
    ……おっと、『首輪』にも書いてあるね。

    私は『音無ピエール』だ。
    この国じゃあ、カタカナの名前は珍しいからね。
    少数派同士、仲よくしような。ディーン、よしよしっ」

    ウシ ウシ ウリ ウリ

子犬を撫でる感触にすっかりハマってしまい、中々離そうとしない。

693ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/06/22(土) 00:53:55
>>692

「『オーダーメイド』?それって、ヨシエも聞いたことあるよー!
えっと――『特別』なんだよねー!」

ヨシエは自転車を見ながら、そんな事を言っている。
言われてみると、いかにも速そうな印象を感じるのは確かだ。
いつかテレビで見た『野性の豹』のような、それに近い雰囲気を感じた。

「ピエールさんって、フランスの人なのー?
フランスって、どんなところー?」

ヨシエは自転車から視線を外し、男――『ピエール』に問いかける。
ところで、そろそろ俺から手を離してもらえると有り難い所だ。
撫でられるのは悪くないが、限度ってものがあるからな。

クーン

ここは、ヨシエに手を貸してもらう事にしよう。
『ワン・フォー・ホープ』を使うという訳にもいかないからな。
そう思って、俺は軽く鼻を鳴らした。

「?ディーン、ヨシエはここだよー?」

俺の意図を読み取ってくれたか定かじゃないが、ヨシエは俺を呼んでくれた。
これで、ピエールが俺を解放してくれるんじゃないかと期待した訳だ。

694音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/06/22(土) 01:16:30
>>694
「今は色々と騒がしくなってしまったが、
 私にとっては『ステキ』な故郷だよ」

     「この『ロードバイク』が唯一の『名残』だけどね。
      そういう意味でも、この自転車は『特別』なんだ」

『ヨシエ』の呼びかけに任せるように、
『ディーン』をワシャワシャする手を離す。

     「おっと、君の友達をすっかり引き留めてしまったね。
      小さいけれど意外としっかりした身体だ。毛並もサッパリしてるし」

     「ついつい、長く遊んでしまったよ」

爪の間に残った短毛を払い落しながら、
『ロードバイク』のハンドルを掴むと、己の身傍に引き寄せる。

     「それじゃあ、日が暮れる前に帰るんだよ」

     「『H湖』を照らす『夕焼け』はキレイだけど、
      見惚れていたら、真っ暗になっちゃうからね」

『ヨシエ』に優しく忠告すると、長い脚を蹴り上げてサドルに跨った。

695ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/06/22(土) 01:38:25
>>694

「その自転車は、ピエールのお兄さんの『大事なもの』なんだねー」

「それって――ヨシエとディーンみたい!」

「だって、ディーンは『特別』で『一番大事な友達』だから!」

ヨシエは、どこまでも明るい笑顔でピエールに言った。
俺にとっても、ヨシエは特別な存在だ。
少し違うのは、ヨシエが俺の『守るべき存在』だって所だろう。
もっとも、さっきは俺の方がヨシエに助けてもらった訳だが、
何はともあれ、ようやく解放してくれたのは素直に有り難かった。

「ありがとー、ピエールのお兄さん!ディーンも、きっと喜んでたと思うよ!」

まぁ、撫でられるのは嫌いじゃない。
特に手荒でもなかったしな。
ほどほどにしておいてくれると、もっと良いんだが。

ワンッ

俺は一声鳴いた。
今度はヨシエに対してではなく、ピエールに向かって――だ。
ちょっとした別れの挨拶ってヤツさ。

「バイバーイ!ピエールのお兄さーん!」

ヨシエはピエールに手を振って、また歩き出した。
行き先は『丘』の方だ。
斜面は転びやすいから、注意しておかないとな。

696鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/07/19(金) 22:42:21
『H湖』を一望できるベンチに腰掛けている、学生服の少年。傍らには、『竹刀袋』がかけられている。
特に何をするでもなく、ぼおっと静かな湖を見つめていた。

(…何だかこうして日常に帰ってくると、一月ほど前に命を懸けたやり取りをしていたのが…ウソみたいだな)

「・・・・・・・・・・」


>私に言わせれば、あんたは危なっかしいんだよ。
>一見すると、『生真面目なヤツ』って印象だったが………決定的なところが、危なっかしい。
>『危険』だ。


(塞川さんの通りだと思う。…思ったより、自分は人を傷付ける事に対して『抵抗』がなかったな)
(このまま日常から、段々と離れていくことになるんだろうか)

697一抹 貞世『インダルジェンス』:2019/07/20(土) 01:41:21
>>696
これほど思索に耽るのに適した場所はないだろう。
そう、湖面を揺るがす者が現れなければ…

「噛みつき亀! 『インダルジェンス』ッッ!」
「良い感じに捕獲して! お小遣い!」

涼しく刺すような玲瓏とした風貌のあどけない少年が騒いでいる。
傍らに発現した近距離パワー型と思わしきスタンドが日光浴中の
亀を網で的確に捕獲している。

「ルンバとマスミも逮捕されたし、当面は夏休みを満喫!」

S県警に押し買い詐欺集団が逮捕された話を知っていれば、
『班目倫巴』と『神原真純』の名前である事に気づくだろう。

698鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/07/20(土) 03:50:38
>>697

湖面を騒がす水音に、そちらの方へと視線を向けた。

「・・・・・ッ?!」

驚いた。あの少年、『スタンド使い』か。
しかも無警戒にスタンドを出している。少年故に無鉄砲なのか、あるいは、逆なのか───?
『スタンド』に亀を取らせているようだ。恐らく、危険な子ではないだろう。

彼が口にした『犯罪者』の名前も気になるが、ひとまず話しかけてみよう。
立ち上がり、竹刀袋を肩にかける。そうして湖の方へと近付いた。

「こんにちは」「その亀には、『自由研究』にでも協力してもらうのかい?」

699一抹 貞世『インダルジェンス』:2019/07/20(土) 08:05:00
>>698
声を掛けられた少年は不思議そうに振り返る。
捕まえた亀が口を開くも強引にスタンドが指で閉じる。

「違いますよ。近所の中華亭で買い取ってもらうんです。
 売るも良し、自分で食べるも良し」

「お兄さんは駆除のバイトに雇われた大学生さんでしょうか?」

淡い青色に微かなエメラルドの反射が混じる瞳で鉄を見つめる。
竹刀袋に視線を移して小首を傾げた。

「いや、指導役の人が見当たらないし、部活帰りに奇妙な子供が
 居たから話し掛けてみたってところですね」

小学生の癖に可愛い気というものがない。
逆に観察されてるように感じるかもしれない。

700鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/07/20(土) 21:09:48
>>699

「買い取ってもらう…?食べられるのか?カミツキガメって」
「確か、危険な外来生物で駆除の対象になってるんだったか…エラいな、君は」

幼いのに勤労とは、と口にしようとして止める。
恐らく五歳以上年齢が離れているとはいえ、あまり子供扱いをするものではない。
こんな利発そうな子なら尚更だ。

「ああ、オレは─────」

>「いや、指導役の人が見当たらないし、部活帰りに奇妙な子供が
> 居たから話し掛けてみたってところですね」

「…おや」

自分が答える前に答えられ、思わず驚く。それも、極めて正解に近い答えだ。
利発そうどころか、かなり聡明だ。子供にされた名探偵が現実にいたら、こんな風なのだろうか?

「その通りだ。まぁあえて付け加えるなら、その奇妙な行動に『スタンド』を使っていたから、かな」

鉄は微笑みながら、傍らに己のスタンド、『シヴァルリー』を発現する。騎士のような姿の人型スタンドだ。
そして鉄も、刃先のような前髪の下、灰色の瞳でその小学生を見つめ返した。

「オレは清月学園高等部二年生、鉄 夕立(くろがね ゆうだち)だ」「スタンドは『シヴァルリー』」
「君の名は?」

701一抹 貞世『インダルジェンス』:2019/07/20(土) 21:51:43
>>700
「内臓を傷つけないように解体すると美味しいです。
 未知なる寄生虫を持つ場合もあるので油断ならない子達ですよ」

「おおっ、意外とスタンド使いって多いんですね。
 この王道な感じのスタンド! 凄く真っ当で嬉しいです」

騎士の姿をしたスタンドに目を輝かせる。
今の今まで変り種のヴィジョンしか見た事がなかったから新鮮だ。

「私は一抹貞世です。中学一年生になったばかりです
 よろしくお願いしますね? 先輩?」

年上っぽいので彼を先輩と呼ぶことにしよう。
それにしても本当に真っ当なスタンド使いだ。
短期間に薄汚いクズを見過ぎたせいで彼の爽やかな雰囲気が心地良い。

「シルバ…『シヴァルリー』ですか。見た目的に近接パワー型。
 竹刀袋を持ち歩いてるから武器に関連するタイプでしょうか?」

「しかし、本当に王道な見た目で素敵です…」

702鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/07/20(土) 22:21:45
>>701

「そうなのか…君は博識だな」「『中華料理屋』か。今度食べてみるとしよう」

亀の肉は食べたことはなかったが、美味なら食べてみたい。ましてや害を及ぼす生物となれば、一石二鳥だろう。
頷きながら、自分も湖面へと近付いていく。『カミツキガメ』を探してみよう。

「あぁ、よろしく一抹くん」
「そうだな…少なくとも会った限りでは、一学年に一人はいてもおかしくなさそうだったな」
「中学一年生では、今のところ一抹くんしか知らないけれど」

同じ学年には三枝さんがいたが、彼女はスタンド使いではないだろう。…恐らく。

「そこまで褒められると照れるな…」

もちろん悪い気はしないが。

「しかし、君のスタンドも中々カッコいいと思うよ」
「ああ、『シヴァルリー』は刃物を能力のキーとするタイプだ」
「君のスタンドはどういう能力なんだ?」

703一抹 貞世『インダルジェンス』:2019/07/20(土) 23:09:15
>>702
湖面に近寄ると器用に泳ぐ亀が数匹ばかり見えた。
侵略的外来種ワースト100に指定された凶悪な生物だけあって
漁師も駆除に駆り出されるという。

「私の『インダルジェンス』は無痛と鎮静が能力。
 敵の口を割らせるなら鎮静。戦闘は強く当たって砕けろで…」

「お陰で毎回、現地の同行者に命を救われる始末。
 最近は『通り魔』が色々とやらかしてるようですし、
 私達も気をつけないと」

未だに夢の中には残党が潜み、現実では『通り魔』が暗躍。
『通り魔』もスタンド使いではないかと疑ってしまう。

「鉄先輩はスタンド使いとの戦闘経験は…?
 私のスタンドを見て怯える感じがしなかった」

「とても強いのか、既に怯える域を通り過ぎたか。
 ちょっと気になります」

704鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/07/20(土) 23:51:01
>>703

「なるほど、こいつが…」

見様見真似で、自分も『シヴァルリー』でカミツキガメを捕まえる。
思ったより素早い動作に驚くが、注意をこちらに向けつつ背後からスタンドを回せばそう難しくはなかった。
『シヴァルリー』の精密動作性もあるのかもしれない。
とりあえず、これは一抹くんへ渡すとしよう。

「『無痛』と『鎮静』」「優しいようで、恐ろしくもある…面白い能力だな」
「それは一抹くんの性格と関係があるのか?」

少し笑いながら、冗談めかして訊ねてみる。


>「お陰で毎回、現地の同行者に命を救われる始末。
> 最近は『通り魔』が色々とやらかしてるようですし、
> 私達も気をつけないと」

「…そうだな。もし『通り魔』がスタンド使いなら、対抗できるのはスタンド使いだけだしな」

『通り魔』。その単語を聞いた瞬間、細めの鉄の目が更に鋭くなる。

「いいや、スタンドでの戦闘経験はたった一度だけだ。それもつい最近だな」
「『インダルジェンス』を見ても恐れなかったのは…君が『危険な子』そうじゃなかったからだ」
「まぁ、ただの勘だけど」

「…ところで一抹くんは、さっき『詐欺集団』の犯人の名前を叫んでいなかったか?」
「事件に巻き込まれてしまったとか?」

705一抹 貞世『インダルジェンス』:2019/07/21(日) 10:55:23
>>704
『シヴァルリー』の手から逃れようと足掻く亀。
同種の鼻先をも食い千切る恐ろしい気性の荒さだ。

「噛みつき亀は苛々すると同種の手だろうが鼻だろうが
 噛み千切ろうとするんです。『痛み』が存在するから」

「自分の生い立ちが分かって、取り巻くものを憎み続けて。
 私は人の醜さを消し去りたかった。だから、こんなに分かりやすい」

『インダルジェンス』が亀に触れた途端に亀の抵抗が止まった。
分かりやすく亀の恐怖と怒りを『鎮静化』して見せたのだ。

「こう見えてもやる時はやる派なんですよ?
 ニュースを見るにルンバは生きてるようですが」

「彼等は人の夢に不法侵入して夢の主を殺して歩くスタンド使いの
 集まり。自分たちに都合の良い世界を作り移住する気でしたよ」

マイルドに説明したつもりだが連中のクズさは衰えない。
清々しいまでのクズさに行動力が加わり碌でもない。

「また、あの二人と戦っても勝てる気がしません。
 あの連中のスタンド能力はヤバいですよ…」

706鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/07/21(日) 22:03:31
>>705

>「噛みつき亀は苛々すると同種の手だろうが鼻だろうが
> 噛み千切ろうとするんです。『痛み』が存在するから」
>「自分の生い立ちが分かって、取り巻くものを憎み続けて。
> 私は人の醜さを消し去りたかった。だから、こんなに分かりやすい」

「…すまない。気安く訊ねていい話題じゃあなかったな」

中学一年生という若さでありながら、彼のこれまでの人生は、決して楽しいものだけではなかったようだ。
もし、彼が自分と同じように『スタンド』を求めたのだとしたら。
そこも自分と同じように、常ならざる理由があったのだろう。
『インダルジェンス』の能力により、『鎮静化』された亀を見て、思う。
あるいは一抹くんも、同じように安らぎを求めているのだろうか。

「『捕縛』向きの能力だな」「人を深く傷付けることなく終わらせることもできる、いい『スタンド』だ」

『鎮静化』したカメを置き、『二匹目』以降を探していく。要するに彼のお手伝いだ。

「ああ、侮っているように聞こえたならすまない」
「いきなり見境なく人を襲うような『通り魔』には見えなかった、そんな意味だ」
「君の戦闘能力を疑っているわけじゃあない───」

むしろ、その後の話を聞けば彼の経験のほどが分かった。既に命を懸けたやり取りを、最低でも一度終えたということだ。
そしてあの『詐欺集団』が、実際にはより危険な犯罪者であったことも。

「…そういう『スタンド』もあるのか」「危険だな」
「しかし表向きはあの罪状なら、恐らく『死刑』にはならない」
「『スタンド使い』はそういった所が面倒だ」

基本的にはありとあらゆる状況で、『スタンド』は発現することができる。
例え両手を手錠で拘束されてもだ。そして、『スタンド』は一般人の目には映らない。
率直に言って、可能ならばその両名は始末しておきたい。

707一抹 貞世『インダルジェンス』:2019/07/22(月) 01:46:28
>>706
『鎮静化』を受けた亀は抵抗もせずバケツに放り込まれる。
恐怖や怒りを抑圧して安息を得た先に存在するのは安心ではなく、
隷属や感性の緩やかな死だろう。

「いえいえ、既に『過去』で苦しむ段階は終わりました。
 『過去』を捨て去って都合良く人の居場所を横取り
 しようとする反面教師でしたからね、ルンバは…」

「それと連中は四人組なんですが最後のリーダー格に負けちゃった
 んですよ。夢の世界に詳しくスタンドも精神干渉が得意そうな男に」

「……あっ、無事に出所して来たら報復に来るかもしれませんね。
 二人揃って対人特化で片方が毒物散布を得意とする奴です。
 一緒に戦った方が居なければ毒殺行きでしたよ」

既に『解呪』されたルンバが夢に現れる事もないだろう。
次に会うとしたら現実で報復に現れた時だ。マスミ付きで…

「鉄先輩はどのような案件に巻き込まれましたか?
 近接戦闘が得意そうな先輩なら搦手以外は何とかなりそう」

亀とて恐怖の感情を有するのだろう。
二人で世間話をしてる間に亀たちは散開していく。

708鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/07/22(月) 22:13:48
>>707

「成る程」「戦いを糧に『過去』を乗り越えたってことか?」

人間万事塞翁が馬とは言うが、確かに敵を通して自分を見つめる機会もある。
自分が戦った『加佐見』は悪人ではあったが、特別な人間ではなかった。
誰にでも、ああなってしまう可能性がある。『悪』というのは特殊なものではない。
自分にも、戒める必要があると感じた。もっとも、目的に対して避けて通れないのであれば、『悪』もやむを得ないが。

「最後の一人とやらが、夢の世界に関する『スタンド使い』なのだろうか」
「何にせよ、もしそういった危険があれば『加勢』に向かうさ。連絡してくれ」

スマホを取り出す。そいつらが危険だというのも勿論だが、何より一抹くんの身が危ないのだろう。
こんな子供が理不尽に命を奪われるなど、あってはならない。

「オレかい?」
「『警察』の依頼を仲介してもらって、『窃盗犯』探しに協力したんだ」
「犯人からの反撃にあったけど、こちらは『二人』だったし無事に捕まえられたよ」
「オレの『シヴァルリー』よりも速度が上だった…なかなか手強かったよ」

もう亀を捕まえるのは難しいか。また今度ここに来た時に、駆除の手伝いをしておこう。

709一抹 貞世『インダルジェンス』:2019/07/23(火) 00:12:21
>>708
「やっぱり背中を守ってくれる方が居ると心強いです。
 お役に立てるか怪しいものですが口を割らせるなら『鎮静』ですよ」

「『シヴァルリー』よりスピードが格上で窃盗向きのスタンド。
 痕跡を残さず本体はコソコソ隠れて戦うタイプでしょうか?」

「追いつめられても二人相手に抵抗可能な戦闘力と手数。
 条件付きのヴィジョン発現でスペックが変わる群像型かな?
 発現に制約を有するスタンドは厄介っぽいですから」

『インダルジェンス』の手の甲から『慈悲の刃』を発現する。
武器をトリガーに能力が発動する『シヴァルリー』の助けとなるかもしれない。

「こっちが『無痛』の斬撃を伴う力。最後の〆に丁度良い隠し札。
 初戦で使った相手にも、ルンバにもよく刺さりました」

「連絡交換! 前に夢の中で失敗したから再チャレンジです!」

スマホを取り出して連絡先を交換する。ライ…アレも便利なものだ。
能力の相性は分からないが非常に真っ当で爽やかな先輩である。
宗像さんと両親しか登録先のない連絡リストが埋まる喜びに目を輝かせる。

「しかし、ルンバとマスミも生き続ける事で変わるかもしれません。
 生きる事に『痛み』は付き物。罪を抱えたまま『無限地獄』を歩む
 知り合いも居ますし、延々と『痛み』を味わうのもまた罰となりましょう」

「さてと、あまり長く話してると亀がストレスで共食いを始めるので帰る事に
 します。それに『インダルジェンス』が微成長するようですから寄らないと…」

710鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/07/23(火) 00:35:13
>>709

「ご名答。『FAX』をキーワードとすることで、遠隔ながら近接パワー型並のスペックを発揮するタイプだ」
「紙を媒介としてヴィジョンを形成するタイプだった。『打撃』の類はカウンターでしか当たらない、厄介なタイプだ」
「もっとも、オレともう一人の仲間と相性は悪くなかったが」

『シヴァルリー』の斬撃、『クリスタライズド・ディスペア』のガラス化はどちらも有効打となった。
しかし、一抹くんは本当に聡明だ。言の葉の僅かな情報から正確な考察を作り上げる。
もし共闘する機会があったなら、頼りになるだろう。…できれば子供を戦闘に巻き込みたくはないが。
─────だが、しかし。

「…君との相性は、極めて良いみたいだな」
「オレの『シヴァルリー』、能力は『斬撃の統制』」「視認した『刃物』の切れ味を奪い、扱う」「例えば、こんな風に」

『インダルジェンス』が発現した『慈悲の刃』、その殺傷力を奪い。
同じように、『シヴァルリー』の手の甲から『慈悲の刃』を発現してみせる。
能力はすぐに解除するが。
もちろん奪っている間は『インダルジェンス』からその部分の能力は失われるが、
奪う際の引き寄せ、あるいは解除時の引き戻しの刃にも『能力』は乗る。
『死角』から飛来する『無痛』の刃。強力な武器だろう。

「…かもしれないな。本当に。改心してくれるなら、それに越した事はない」

互いの連絡先を登録し、スマホをしまう。
何事もないのが一番いい。深く反省して、二度と私利私欲のために『スタンド』を使わないのなら、それでいい。
…そう上手くはいかないことの方が多いだろうが。

「…成長?『スタンド』も、人間のように成長することがあるんだな…」
「了解、気をつけて」

頷き、そういえばと最後に一言付け加える。

「ああ、そうだ。三枝千草さんを知ってるかな?」
「君と同い年で、君と同じようにいい子なんだ。もし出会ったら、仲良くなれると思う」

711一抹 貞世『インダルジェンス』:2019/07/23(火) 01:48:23
>>710
紙を媒体にヴィジョン形成を行う上に近接パワー型に匹敵するスタンド。
打撃が通じないとなれば、濡らすか焼くかの選択肢しかない。
生半な傷では紙の補充によりヴィジョンの復元も可能だろう。

「タフな癖に並の近接パワー型のヴィジョンで打撃を受けつけない。
 ただし、射程距離の問題がある。紙も尽きれば追加しなきゃいけない」

「馬鹿正直に付き合ってやる必要もない。逃げながら本体を探せばいい。
 一度でも能力が判明したら対策されて終わり」

「それは敵も分かっている筈だから逃げられない密室、または
 自分のよく知る建物内でスプリンクラーと燃える物を片付けてしまう。
 よく勝てましたね。無限湧きほど恐ろしいものはないです」

マスミとルンバも徹底的に勝率を上げる状況を作り上げていた。
だが、肝心なところで『本気』を出す致命的なミスを犯した。
無敵のバシリスクも小林さんの手で窒息死する始末。
スタンド使い同士の殺し合いは最後まで結果は分からない。

「相性が良いと同時に私の天敵みたいなスタンド能力。
 刃が要となるスタンド泣かせですよ」

「えっ、私と同い年のスタンド使いが存在するんですか!?
 動物のスタンド使いも存在するし意外と多いものですね。
 仲良くは、うん、どうにかなりますよ。たぶん。きっと!」

暴れ始めた亀を『鎮静化』してバケツを手にする。
『音仙』の住まいに向かう前に軽く稼いで土産を買うとしよう。

「あぁ、でも、きっと世の中には地獄すら生温いクズが潜んでいる筈です。
 人に『痛み』を与える事が生き甲斐のような邪悪が」

「そのような者は殺すしかありません。それには人の理屈は通じませんよ
 見逃すのは手を貸すようなもの。出会ったら責任をもって仕留めなければ…」

「取り逃がした間抜けの戯言ですよ。気にしないでくださいね。
 普通に生きてたら絶対に出会わない類の輩です。では、お元気で!」

712鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/07/23(火) 02:12:17
>>711

「いや、『スタンド使い』じゃあないんだが…」
「…というか、動物の『スタンド使い』もいるのか?」「人間に対して友好的ならありがたいが」

思ったよりスタンド使いのバリエーションは広いらしい。
一体どの程度の知能を有する動物なら、『スタンド』を持てるのだろうか?
もし、小型の動物や昆虫のまでもが『スタンド』を持てるとしたら。
…あまり想像したくはない。そんな存在が人を容易く殺せる力を持つ可能性は。

>「あぁ、でも、きっと世の中には地獄すら生温いクズが潜んでいる筈です。
> 人に『痛み』を与える事が生き甲斐のような邪悪が」
>「そのような者は殺すしかありません。それには人の理屈は通じませんよ
> 見逃すのは手を貸すようなもの。出会ったら責任をもって仕留めなければ…」

「その意見には概ね同意だが、あまり自分を責めすぎないようにな」
「そこでやられてしまうよりは、生きて帰ってきた方が次に繋がる」
「もしまた戦う機会があれば、今度仕留めよう。それまで腕を鍛えればいいさ」
「それじゃあ、また」

カミツキガメを連れて行く一抹くんに、手を振って別れを告げる。

あんな子ですら、非日常にも身を置いている。進んで鉄火場へ飛び込んで行きたいかと言われれば
確実に否定するが、子供が傷付けられるのを見過ごすことはできない。やはり、覚悟を決める必要がある。

(…その内、これも必要なくなってしまうかもな)

肩にかけた竹刀袋をチラリと一瞥し、自分も帰途へと付く。
さて、次はどこで『通り魔』の情報を得るとしようか。

713ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/07/24(水) 21:22:43

俺は一人で――いや、『一匹』で走っていた。
遊んでいる最中に、ヨシエが急に具合を悪くしてしまったからだ。
おそらく、この暑さのせいだろう。

(…………俺の責任だ)

一緒にいながら、事前に防げなかった。
だが、今から助ける事は出来る。
そのために、俺は走っていた。

      シュルルルルル

首輪に結ばれた『リボンタイ』が、独りでに解けていく。
『光の紐』――『ワン・フォー・ホープ』を発現した。
先端にある『手』の中には、銀色の硬貨が握られている。

    チャリッ
          ピッ
               ガコンッ

ヨシエの小遣いである五百円玉を『自販機』に投入し、ボタンを押す。
こういう場面に出くわす度に、便利なものだと改めて思う。
『自販機』もだし、『スタンド』もだ。

(さて――急いで戻らないとな……)

水のペットボトルに『ワン・フォー・ホープ』を巻き付かせ、取り出す。
『何か』を忘れているような気はしたが――俺は無視して走り始めた。
事実、俺は『釣銭』を自販機に残したままだった。

714朝山『ザ・ハイヤー』:2019/07/25(木) 19:17:04
>>713

「んおっ! こりゃーめっずらしい光景っス!
権三郎! お仲間のワン君が自販機から飲み物買ってるっス!
賢いワンちゃんも居たもんっスね〜!!」

権三郎『パウッ!(すごいねっ!)』

今日も今日とて権三郎と悪の首領の日課としての体力錬成!!
お散歩けん悪のランニングっス!!!

けど、賢いワン君だけど釣り銭をとらないでいっちゃってるっス!
なんか急いでるっぽいけど、これじゃー損する事になるっス!!!

「お〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!!! お金を忘れてるっスよーーーーー!!!」

権三郎『パゥーーーーーー!!!(待ってーーーー!!!)』


 急いで追いかけるっス!!!!!

715ディーン『ワン・フォーホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/07/25(木) 21:28:28
>>714

後ろから、犬と人間の声が重なって聞こえた。
こういう取り合わせは、この辺じゃあ珍しくない。
もっとも、犬も人間も俺の知ってるヤツじゃなさそうだが。

(何か聞こえたが……今は急いでるんだ。悪いな。後にしてくれ)

俺は、そのまま走り続けた。
そう時間は掛からず、正面にヨシエの姿が見えてくる。
今、ヨシエは木陰で休んでいた。

「――あっ、ディーン」

       トスッ

俺は、ペットボトルをヨシエの足元に置いた。
そして、『ワン・フォー・ホープ』をヨシエに接続する。
これで俺とヨシエは、『種族の壁』を越えて会話が出来るようになる。

《具合はどうだ?水を持ってきたぞ》

「ありがとー。ヨシエは平気だよー」

ヨシエは水を飲んでいて、俺はそれを見守っている。
そういえば、さっき『何か』…………。
そう思って、俺は後ろを振り返った。

716朝山『ザ・ハイヤー』:2019/07/25(木) 22:00:06
>>715

「うおぉぉぉ!! 中々早いっス!! 権三郎!! 私達も
負けないっス!! いざ!!! パワフル全開っスぅぅうううう!!!!!」

権三郎『(`・ω・´) パァァァウウゥゥゥ!!!』

ドタドタドタ!!!

ワンコ目がけて全力疾走っス!! そうすると、一人の女の子が見えたっス!

日射病だったりしたら大変っスけど、お水を普通に飲んでるようだし
どうやら、そこまで深刻そうじゃないっス!!

「こんにちわっス!! そこのワンちゃんが自販機の
お釣りを忘れてたっスよ!!」 スッ!!

「自分、朝山 佐生っス!! 十四歳で清月学園の中学二年生っス!!!」シャキーン!

権三郎『パウッ パゥパウッ!(僕っ 権三郎っ!)』シュタッ!

権三郎も前足上げて決めポーズ! 自分も一緒に悪の決めポーズ!!

「お近づきの印に、塩ラムネもあげちゃうっス! 暑さは油断大敵!
ナトリウムもちゃんと摂るっス!!」 シャキーン スッ!!

権三郎と私用に、真夏は何時も携行している塩ラムネをちょっと分けてあげるっス!!

717朝山『ザ・ハイヤー』:2019/07/25(木) 22:06:45

あ! 権三郎のは塩無添加のおやつっス! それを少女の
ワンちゃん(ディーン)に分けてあげるっス!

718ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/07/25(木) 22:44:07
>>716
>>717

《あ、ああ……》

今まで出会った中では、あまり見ないタイプの人間だった。
どうやら、犬の方も似たような性格のようだ。
『犬は飼い主に似る』って言葉があるらしいが、まさにソレだな。

「そうなんだー、ありがとう!朝山のお姉さん!権三郎さん!
 ヨシエはヨシエだよー。嬉野好恵!」

ヨシエは、俺が忘れてきた釣銭を受け取った。
『ワン・フォー・ホープ』と接続した人間は、『犬語』が分かる。
だから、ヨシエは佐生と権三郎の二人に――いや、一人と一匹に話し掛けている。

《わざわざ悪かったな。俺はディーンと呼ばれてる。アンタも、そう呼んでくれ》

一方、俺は『権三郎』だけに話し掛けた。
『ワン・フォー・ホープ』は実体化している。
だから、それが見えたからといってスタンド使いかどうかは判別出来ない。
それに何より、俺は『犬』だからな。
『犬』が『犬』と会話をするのは、『犬』が『人』と会話をするより自然な事だ。

「ありがとー!」

ヨシエは佐生に礼を言ってラムネをもらっている。
俺も、犬用のオヤツを分けられた。
これはまだ食った事がない。

《アンタの飼い主に『ありがとう』、と言っておいてくれ。
 いや――それは無理な話だったな……。アンタが『人間語』を喋れるっていうなら別だが》

俺は、権三郎にそう言った。
『ワン・フォー・ホープ』のようなスタンドでもない限り、犬と人間が会話するのは不可能だ。
だがまぁ――――たとえ『言葉』が通じなくても、『心』が伝わる事はある。

719朝山『ザ・ハイヤー』:2019/07/25(木) 23:15:44
>>718

「おーー!!  ヨシエちゃんはとっても元気が良いっス!
けども! まだまだ私には及ばないっス!! 私のパワフルさは
星見町!! いや日本一かも知れないと言われた事もあるっスからね!」フンッ!

「佐生ねーちゃんと気軽に呼んで構わないっス! 特別っスよ!!」

クルクルッ! シュタッ シャキーン!!


>アンタの飼い主に『ありがとう』、と言っておいてくれ。
 いや――それは無理な話だったな……。アンタが『人間語』を喋れるっていうなら別だが

『・・・おや、可笑しな事をおっしゃる。死するまで寄り添え合える存在ならば例え獣の身形で
あろうとも通じえあえるものでなかろうか? ディーン殿』 パゥ・・・ワフッ

そう短く犬語で伝えると、上目遣いで主人の朝山を権三郎は見上げて特に言葉を載せない
パウッ! と言う一声を発した。

朝山「ぉ? おー!! こっちのワンちゃんと、もう友達になれたっスか?
さーすが権三郎っス!! 私に似て友達作りのプロフェッショナルっス!!
おやつのお礼なら気にしなくて良いっス! その代わり!! 権三郎の
友達になってくれたら嬉しいっス!」 ナデナデナデ!!

『・・・な』

ディーンと一緒に揉みくちゃに撫でられつつも、穏やかな同意の眼差しを
権三郎はディーンに向ける。

720ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/07/26(金) 00:16:42
>>719

《悪いが、俺は『リアリスト』でね。
 言葉が通じないから伝えたくても伝えられない事もある》

《俺は『もみくちゃにして欲しい』とは思ってないからな。
 言葉が伝わるなら、どんなボディランゲージを使うよりも穏便に解決できる問題だ》

激しく撫でられながら、権三郎と佐生を見つめる。

《だがまぁ――》

《『言葉が通じなくても伝わる事がある』のは同意見だ》

   フッ――――

俺は軽く笑った。
そして、権三郎と佐生から離れて背を向ける。

《ヨシエ、俺は走って少し疲れた》

《少しの間、あっちで休憩させてくれ》

俺はヨシエに言って、少し離れた木陰まで歩いていく。
『ワン・フォー・ホープ』が解除され、元通りの『リボンタイ』として首輪に結ばれた。
黒単色――『ブラックソリッド』の短毛で覆われた後ろ姿が遠ざかる。

「分かったー。じゃあー、あっちで見ててねー」

ヨシエは、俺に手を振った。
俺は、尻尾を軽く振って、それに答えた。

「――えっとー、ヨシエとお話してくれますかー?お散歩してたんですよねー?」

「近くに住んでるんですかー?ヨシエはー、けっこう近くですよー!」

『犬』と話すばかりじゃあなく、『人』と話す時間。
ヨシエには、こういう時間も必要だろう。
『たまには』――――な。

721斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/08/19(月) 23:21:00
――それが なんでもない事のように
マリーゴールドの花束を 湖畔に放り投げた。

病院に行ったところで 愛する人達になんて声をかけたらいいのか
わからなかった から。



『遠州灘』にほど近い『H湖』のほとりには
海への視界を遮るほどの樹木が、同様に海からのべたつく潮風も遮る

夏の日差しも木の葉に遮られ
水辺で有る事が熱気をも奪う、ここは 避暑地としては中々の物だ

 「それでも、夏の氷菓子は格別だね。」

森と水場特有の匂いが、ないまぜになって鼻をくすぐるなか
『斑鳩』は 新しいアイスキャンディーを頬張りながら

カーボン製の青い釣竿を放る、鏡のような湖畔に
まっかな浮きが漂いはじめた。

今日の空模様と同じく、真っ青なクーラーボックスには
幸福な胃袋のように アイスとドリンクが詰め込まれていて

その上で 同じ色の鳥のぬいぐるみをのっけた 古ぼけたラジオが
電波を拾って 洋楽のひとつを流している。

……傍には靴下を履いたような猫が、今日の晩ごはんを期待してか
気怠そうに尾をゆらしながら丸まっていた。

722宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/21(水) 20:25:50
>>721

釣り道具を持った男が近付いて来た。
カーキ色の作業服を着た中年の男だ。
そう遠くない場所で立ち止まって同じように釣竿を振る。

「アビシニアンではないな」

視界に入った猫を見下ろして呟いた。
過去の一件から猫を見るとアビシニアンという単語が頭に浮かぶ。
その名前が記憶の片隅に残っている。

「――全く違う」

専門家ではないがアビシニアンとは別物である事は分かる。
仮に同じ種類だったとしても奴である筈は無い。
今頃は何処かで少なくとも生きているだろう。

723斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/08/22(木) 20:37:12
>>722


宗像征爾に見下ろされた猫は、彼に一瞬だけ目を向けると、興味のなさそうなフリをして丸まった
ただ、その瞬間 少しだけ猫の口角が上がったように見えた。


――僕が彼を見た第一印象はこうだった。

(随分とガタイのいい人だなあ)

その壮年の男性は、斑鳩よりも一回りは上の背をしていて
作業服を着た上からでも 解る程度には鍛え上げられた身体をしていた。

(でも、作業服? ここの管理人……ではないよな 服が違うし。)

あまりじろじろと見るのも失礼だろう、そう考え、視線を戻す
しかし、釣り等と言う 待ち時間を楽しむような事をしていると、どうにも妙な方に考えがいく。

赤い浮きがぷかぷかと湖面を漂う最中

――彼を見て、斑鳩は1人の女性を思い出していた
夏に会った、何処か あの景色にはちぐはぐな印象を受けた、喪服を着た女性。

 (あの人は、大切な人を失っていたんだった。)

猫がひとつ 欠伸をして起き上がる。

 (……まさかな、僕の考えすぎだとも。)
 (でも愛犬を失った傷心を釣りで癒してるとかだったら、傷つけたりとかしたくないなあ……そっとしておこう。)

ふと思い出し、勝手についてきた雑種の猫に話しかける

 「君も邪魔するなよ、スリープ……」

 「あれ?『スリープ・トゥギャザー』?何処行った?」

困惑しつつも周囲を見渡して、驚愕と呆れに斑鳩は固まった
壮年の男、『宗像征爾』の背後に、いつの間にかこっそりとあの猫が忍び寄り、魚を釣る為の餌を貪り食う為に探している。

 意地の悪い笑みを湛えながら。

724宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/22(木) 22:03:13
>>723

猫を見て思い出したのは奴を殺し損ねた事だった。
その考えは間も無く霧散する。
既に過去の一部だ。

「君は俺より経験が有りそうだな」

釣り糸を垂らしながら少年に声を掛ける。
特に含みの無い口調だ。
視線は湖面に向いていた。

「俺は一匹も釣れた事が無い」

釣りを始めたのは最近の事だった。
これといった理由は無い。
釣具も借り物だ。

「何かコツがあれば教えてくれないか」

男は移動した猫に気付いていない。
そもそも注意を払ってさえいないだろう。
見つからない限り何をしようと自由だ。

725斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/08/22(木) 23:40:16
>>724

宗像に話しかけられて、少年は周囲を見渡す
勿論周りには斑鳩以外に当てはまる人物はいなさそうだ。

 「……あっ、僕?」

間抜けな声が出た。

(やばい。)
(あの剃刀のような眼ならサックリやりかねない。)
(口調が優しい所が、むしろ怖い。)

彼の背後で餌を盗もうとしている猫に、可愛げはまったくない
ましてやスタンド使いの猫である、ついた知恵を、いかに腹を満たすかに使う猫である

だが、ここで見捨てるのも後味が悪かった
なにせここで捨て置いたら、後日、東京湾に猫入りコンクリが浮かびかねない(と、彼は思っている)のだ。

(何とかして、猫の事をバレる事無く、こちら側に引きずり戻さねば……!)
(彼が、湖面をまだ!見ている内に!)

斑鳩は額から汗が流れないように祈った。
割と真剣に神様にお祈りした。

そして何とか上ずらないように舌を回し始めた。


 「そうだな、僕の爺さんの受け売りで良いなら話せるよ」
 「でも、人の事を『あんた』って呼ぶのは気が引ける、年上なら尚更。」

(考えろ……何とか考え出さなくては。)

 「名前を聞いていいかい?」
 「僕は斑鳩だ、斑鳩 翔。 ……空は飛べないけど。」

……ウキは未だに魚1つかかる気配がない。

726宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/23(金) 17:20:31
>>725

少年が何を考えているか分かる筈も無い。
その逆も同じ事だろう。
お互い様だ。

「空を飛べないのか?」

相変わらず魚は食い付かない。
腕が悪いのか道具が悪いのか。
あるいは両方という可能性もある。

「――俺も飛べない」

水面に浮かぶ枝から鳥が飛び立つ光景を目にした。
飛べない鳥は存在するが空を飛べる人間は滅多に見かけない。
少なくとも常識の範囲内の話だが。

「宗像征爾――」

主に意識を向けているのは湖と少年だ。
今は振り返る必要も無かった。
猫が餌を盗もうと思えば何の支障も無い。

「そういう名だ」

湖面から少年に視線を移す。
挨拶する時ぐらいは顔を合わせるべきだろうという考えがあった。
最低限の礼儀という奴だ。

727斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2019/08/23(金) 19:54:35
>>726

「むなかたさん、だね 宜しく。」

宗像の礼節に対して礼を返し、竿を右手に持ち替え、湖面に向き直る
斑鳩はそのまま背後に視線が行かない事を祈るしかない。

(釣りの事で、尚且つ即座に効果があるアドバイスと言えば、アレくらいか
 上手くいけば、彼はその場からは動かないし、湖面にも視線を集中させられる。)

心の中で深呼吸を一つ。
友人に話しかけるような気楽さで舌を回すべきだ。

「それじゃ、僕の爺さんから聞いた話だけど」
「普通の池なら、魚が隠れる事が出来る水草の周りを狙うらしい、でも」

手近な葉の一枚を千切って、池に投げ込む
ふらふらと空中を漂いながら、湖面に着水した葉っぱはそのまま……

漂わずに、一直線に流れていく
方向は【遠州灘】の方角だ。

「この池は、海に向かって行く 『流れ込み』 がある」
「水が混ぜられて、酸素や、餌になる虫とかが多い場所、魚もそこに集まる。」

斑鳩の視線がチラリと宗像の背後を見た
その後すぐに視線を戻す

汗は夏だからと言い訳もつくが
焦りに口調を変えないように努めるのは骨が折れる。

「後は、針を垂らせばいい 魚が待ち伏せしていた『餌の一つ』みたいに、だ」

 ゴホン ゴホン

「『馬鹿な魚が勝ち誇ったように食らいついた時、既にソイツは儂が釣り上げている』」

態と喉を抑え、しわがれた様な老人の話し方をする
おそらく彼の祖父の真似なのだろう。

「そうやって、魚を騙すのが楽しいんだって、捻くれた爺さんだと思うけど。」
「……でも、一番は待つのを楽しむ事だと思うな!うん!」

最後の言葉は斑鳩にとっては事実だが
同時に嘘も混じっていた。

(……そうじゃないと、『猫がスリしようとしてる背後』とかに、注意とか行くかもしれないからね!)
(後少しだけそのまま見ててくれよ、僕の『スタンド』の準備が完了するまでは。)

クーラーボックスの上、ラジオが一つの放送を終え、別の洋楽をかけ始める、そして

宗像の視界外、斑鳩少年の左腕には『半透明の鎖』が巻き付き
その掌には直径9cm、鎖を結合して作られた、銀色に鈍く輝く『スタンドの鉄球』が、僅かに造形を変えながら出番を待っていた。

728宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/23(金) 21:49:51
>>727

助言を受けて水中に沈んだ釣り糸を引き上げる。
当然のように当たりは来て無い。
それを確かめてから竿を軽く振り被った。

「分かり易い説明で助かる」

再び仕掛けを投じたのは先程とは違う位置だ。
後は同じようにしていれば良い。
掛からなければ何か他の要因があるのだろう。

「俺が釣れたら君の爺さんに礼を言っておいてくれ」

視線の方向は変わらない。
陽光を照り返す湖に注がれている。
そこから動いたとしても大きく逸れる事は無い。

「釣れなければ餌が悪いのかもしれないな」

依然として猫の動きは自由だ。
鎖のスタンドも確認は出来ていない。
それに気付くとすれば何かが起きた後になる。

729斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/08/23(金) 23:27:36
>>728

 「それは……どうも、爺さんも喜びますよ。」

(こういう人を騙してるのは気が引けるなあ……けど。)

 「幸運を」

猫を捕まえる準備は整った、後はチャンスだけだ
そしてそれは来た 湖面に浮かぶウキが沈んだ、宗像の竿に魚が食いついたのだ。

針の先にあるものが鮎か鱒かハゼか、はたまた根がかりかは知らないが

 (――きたッ!)

宗像が自らの浮きに目を奪われた瞬間に、行動を起こす。
回転、投擲、分離。

左手から遠心力で音もなく放たれた鉄球は、中にある5mの鎖を、引きずり出しながら猫に向かって飛翔し
同時に、鉄球は分割し、ボーラのようになって猫の腹に巻き付き、再結合してそれを引っ張る。


 だが、そう上手くはいかなかった
 人生とは失敗の連続である。


ボーラは、猫の胴体には確かに絡みついた
結合も出来た、無事に引っ張りもした。

そして猫、『スリープ・トゥギャザー』は引っ張られた瞬間
手近にある物に、反射的に『爪を出してしがみつこうとした』

具体的に言うと宗像の靴に。

畳をかぎ爪で引っ掻くような
特徴的な破壊音と同時に、靴のかかとに亀裂が走った。


同時に、鎖が巻き付いた胴体を中心に、『猫の下半身が分離して』斑鳩に向かって飛んできた。
――飛び蹴りの態勢で。

 「ぶっ!?」

 直撃。

頬に肉球の跡を付けて、斑鳩がひっくり返ったのと、
猫が前足だけで「ザマーミロ」とでも言うかのように顔を洗い出すのは、ほぼ同時だった。

730宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/24(土) 00:04:01
>>729

セーフティーブーツの踵に爪痕が走った。
その音を聞いて自分の足元に視線を向ける。
自然な流れとして両方の目が猫の姿を捉えた。

「さっきの奴らしいな」

餌として持参した魚肉ソーセージを狙っていたか。
どうでも良い事だ。
そいつがスタンド使いという事実に比べれば取るに足らない。

「――大丈夫か」

続いて少年の方へ視線を動かして言葉を投げ掛ける。
一撃を食らったようだが重傷を負わされたようには見えない。
少なくとも救急車を呼ぶ必要は無さそうだ。

「スタンド使いの猫――」

引いている竿を無視して再び猫を正面から見据える。
また出くわす事になるとは思いもしなかった。
だが考えてみれば意外な話でも無い。

「ここにもいたか」

スタンド使いの人間は数多く存在する。
猫であっても例外にはならないだろう。
複数いるのは当然の事だ。

731斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/08/24(土) 00:49:57
>>730

「この糞猫が……!」

悪態と共に咳込み、すぐに立ち上がって衣服を払う
ダメージは無いが、スカーフに土片が付かないかだけが心配だ

腕時計にも傷が無い事を確認して安堵し、彼に言うべき事が有る。

「すいません、その猫のコンクリ詰めだけは、どうかご勘弁を!
 ちょっとお腹減ってるだけなんです!靴の方は弁償を……できたらいいなあ。」

情けないが安易に責任が取れるわけでも無い以上、迂闊に発言するのは無責任である
そんな自分の焦りとは裏腹に、猫の方は宗像の足元で呑気に顔を洗っている

そして猫の下半身が『瞬間移動』して上半身にくっついた
切断面はもうどこにも見えない。

「……違うんです、それはマジックです、人体切断に類する感じの。」

自分で言っておいて何だが大分苦しいと思う
小学生すら騙せるか疑わしい。

「早く戻れ『スリープ・トゥギャザー』!」
「お前の……えーと……『スタンド』?」

靴下を履いているような柄をしたその猫は
傍目にはまったく他の猫と変わらない

指を鼻の前に差し出せば、反射的に嗅ぐ猫である。
ただし『体をバラバラにして瞬間移動できる』という点を除けば、だが。

「……もしや」
「宗像さん、『新手のスタンド使い』?」

宗像の発言にようやく思考が追い付き
斑鳩は一歩距離を取った。

猫は宗像に視線を合わせた後、鼻をひくひくさせ
目を輝かせている、当然諦めていない。

732宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/24(土) 01:20:58
>>731

魚肉ソーセージの束から一つ取り出してフィルムを剥がす。
それを丸ごと猫の足元に放った。
何処にでも売っている何の変哲も無い代物だ。

「弁償する必要は無い」

一連の行動を済ませた後で思い出したように竿を引き上げる。
針の先に魚はいない。
上げるのが遅かったせいで餌だけ取られたようだ。

「傷が一つ増えただけだ」

仕掛けを確認してから少年に向き直った。
視線は鎖のスタンドに向けられてる。
それが見えている事は明らかだ。

「ああ――」

スタンド使いの猫とスタンド使いの人間か。
それ自体は別に不思議な事でも無い。
両方と同時に遭遇する機会は多くないだろうが。

「そういう事になるな」

距離を置いた少年に変わらない口調で言葉を返す。
その場からは動かない。
動く理由が無いからだ。

733斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/08/24(土) 19:00:57
>>732

足元に放られた それ に視線を移すと
ピンクの鼻を引くつかせながら近寄り
靴下のような前足で、器用に引き寄せて齧りつく。

(なんと言うか、一度や二度ではなさそうだな)

そんな猫と彼の様子を見ながらそんな事を考えた
彼の冷めた態度に起因している事も大きいのだろうが
妙に落ち着いているように見える

 「ああ、良かった……それはどうも。」

これなら猫は放っておいていい。

そう判断すると『鎖』を消し、再び放ってった釣竿を持ち上げる
斑鳩の竿の先にも餌は無い、クーラーボックスから取り出して粘土のような餌を引っかけ、放る

 「けどまさか、隣の人が偶々、同じとは……」

 「探すと見つからない物なのになあ。」

(しかし、この落ち着き用はそれ以上と言うべきか
 この人は何度遭遇して、何回戦っているのだ?そして……)

口から出そうになった疑問を飲み込んだ
何人殺しているのだ?等と、聞けるわけもないし
聞いても何も意味が無いだろう。

734宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/24(土) 21:30:51
>>733

針に餌を付け直して水面に投じる。
猫は好きにさせておく。
悪知恵が働くようだが今は放置しても問題は無いと判断した。

「俺も驚いた」

スタンド使いはスタンド使いと遭遇しやすいらしい。
だが日常的に出くわす存在でもない。
ここで出会った事に驚きがあったのは確かだ。

「隣の人間が偶然スタンド使いだった――か」

不意に硯研一郎の事を思い出した。
斑鳩と硯が同じぐらいの年齢に見えるからだろう。
硯もスタンド使いであり俺は彼と敵対した経験がある。

「――次に出会う時は敵同士かもしれないな」

変化の無いウキを眺めながら呟く。
あくまでも可能性の一つに過ぎない話だ。
しかし可能性は常に存在する。

735斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/08/24(土) 23:23:14
>>734

クーラーボックスから餌ついでに
アイスキャンディーと瓶入りコーラを取り出し
コーラの蓋を齧って飛ばす。

 「……あんまり、ぞっとしない話だな」

敵同士というのは、有り得ない事では無い
斑鳩の目的を妨害するか、両親を馬鹿にされれば
斑鳩は嫌でも自分から仕掛ける他は無い。

 「傷つくのも、傷つけられるのも好きではないし
  見知った人間なら尚更に。」

かつて共に戦った硯という男を思い出す
自分とは正反対の彼、あれから如何しているのだろうか
まだこの町の何処かで、不良相手に大立ち回りをしているのだろうか

勿論、斑鳩はその彼が、隣の宗像と敵対した事など知らない。

 「――じゃあ、次が味方だという事を祈っておこうかな、祈りは誰の邪魔にもならないし。」

猫はひとしきり食べ終わったらまた眠くなったのか
クーラーボックスの日陰でまた丸まり出した。

……ラジオからは相変わらず、古い洋楽が流れ
ウキは鏡のような湖面に沈む様子すらない。

736宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/25(日) 00:28:10
>>735

俺と斑鳩が敵同士になる可能性は極めて低いだろう。
硯と出会った時も同じように考えていた。
だが実際は敵対する事になった。

「同感だな」

大きな憎しみは相応の諍いを呼ぶ。
それが無かったとしても立場や価値観の違いで争いは起きる。
あの時も状況は似たようなものだった。

「気分の良い事じゃない」

それは紛れも無い事実だ。
だが各々に譲歩出来ない理由があれば話は違う。
それぞれの目的を達成する事を最優先に考えなければならなくなる。

「いや――」

釣竿を握ったまま自身のスタンドを傍らに発現する。
人型のスタンドだ。
ノコギリザメの意匠が施された右腕からは1m程のノコギリが伸びていた。

「俺は君のスタンドを見たが君は俺のスタンドを見ていない」

仮に敵対する事があったとして相手のスタンドを見ている方が幾らか有利になる。
その考えに従うと今は俺の方に多少の利点が存在する事になるだろう。
互いに相手のスタンドを見た事があれば情報の差は縮まる。

「――これで公平だ」

それだけ言ってスタンドを解除する。
実際に争いが始まれば相手を気に掛ける余裕は無い。
だから今の内に胸の痞えを取り除いておきたかった。

737斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/08/25(日) 01:41:03
>>736

左腕に『ノコギリザメ』の意匠を持つ
人型の近距離パワー型スタンド、『アヴィーチー』

斑鳩はそのスタンドを見た時
意図がまるで読めなかった

彼も争いを嫌悪し、それでもいずれ敵対するのなら
それは本来秘匿されるべき物だったからだ

見せた所で抑止にはならず
何の利益も無いのだから。

ただ、彼の、『公平』という言葉に
心の中で すとん と音がして、納得がいった。

 「――ああ」

人が言葉で伝えられるものは5%にすら満たないという
だが彼の行為と言動で、ほんの僅かにでも解った気になれたかもしれない。

 「……宗像さん、その生真面目さで苦労しますよ、絶対。」

苦笑交じりに、笑いながら斑鳩はそう零した
例え自らにとって不利益でも、筋を通すその真面目さが

敬愛する父を思い出す様で、嫌いではなかったから。

738宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/25(日) 02:10:35
>>737

敵になる事は望まないが万一という事もある。
いざという時に躊躇わないようにしておくという考えもあった。
その機会が訪れないのが最良である事は言うまでもないが。

「これでも俺は義理堅い主義だ」

受けたものは返す事にしている。
それが恩であれ仇であれ差別は無い。
俺は必ず返す。

「――君にも礼を言わなければならないな」

竿を握る手に力が入る。
沈んだウキの周辺の湖面に波紋が生じる。
どうやら獲物が掛かったようだ。

「助言を与えてくれた事に感謝する」

言葉と同時に水中から仕掛けを引き上げる。
針の先には一匹の鮎が食い付いていた。
そこそこの大きさだ。

739斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/08/25(日) 04:42:04
>>738

この出会いで一番良かったのは、彼の『スタンド』がどう見ても
『両親の精神を回復できるスタンド』では無いと言う事だ。

 「どういたしまして。」

……これで、『僕達』に後悔はない 『両親』 の為に
彼と戦う事が有っても、善悪関係なく、何の後悔も、ためらいもなく殺せる。

覚悟が有るかは、殺した後に解るだろう。

 「――初の釣果、おめでとう。」

透明な氷片を入れたような瞳で彼を見る

感謝の言葉を、どちらにどういう意味で言ったかは
僕自身にも解らなかった。

釣り針の先にかかった鮎の鱗が、夏の陽光を反射して煌めく

水音とラジオの音楽がない交ぜになり、仄かに潮の香りが漂い始めた
8月の終わりに近い、ある夏の休日の事だった。

740鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/09/09(月) 22:03:25
夜の公園。その敷地の中で奥側に位置する、静かに佇む木々の群れ。
そこに一人の学生服の少年が立っていた。
既に辺りは暗くなっているが、スマホの明かりを胸ポケットから付けて視界を確保している。

「・・・・・」

『シュッ!』

手にした何かを、5mほど離れた所にある木に向かって投げているようだ。
ただ、もしそれを近くで見る人がいれば気付いたかもしれない。少年の手は投擲物を持ってはいるが、動かずにそれが放たれている事に。

741比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/09/10(火) 20:55:53
>>740

「――あれは……?」

モノトーンのストライプスーツとフェドーラ帽を身に纏った男が、公園内を歩いていた。
仕事を終えた後の軽い気分転換のつもりで立ち寄ったのだ。
ふと視線を向けると、木々の間から光が漏れているのが見える。

(さて……『君子危うきに近寄らず』、『触らぬ神に祟りなし』とは言いますが……)

そのまま通り過ぎても良かったが、少し興味が湧いた。
そこにいるのは誰で、何をしているのか。
だから、確かめてみる事にした。

(とはいえ――絶対に『危険』がないとも言い切れません)

    シュンッ

手の中に五枚の『カード』――『オルタネイティヴ4』を発現する。
もう片方の手で一枚を抜き取ると、『カード』は『白い兵士』に変わった。
胸に刻まれたスートは『スペード』だ。

(念の為に、遠くから確認させてもらいますよ)

林に背を向けた本体は、近くに設置されてあるベンチに腰を下ろす。
同時に、『兵士』が光の方へ進んでいく。
その先で見つけたのは、制服姿の少年だった。

(これは少々意外ですね。見た所、素行の悪いタイプでもなさそうですが……)

何かを投げているようだが、何を投げているだろうか?
それを見極めるために、彼の手元を注視していた。
そうすると、妙な事に気が付いた。

(――手が動いていない?これは、ますます『奇妙』ですね……)

物陰に隠した『兵士』の視界で、少年の行動を観察する。
手を動かさずに物を投げる事など、普通は出来ない。
そう、『普通』なら――。

742鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/09/10(火) 21:27:23
>>741

『オルタネイティブ4』───発現した『スタンド』に偵察をさせ、少年の行動を伺う。
彼が手にし、また木に向かって投げつけていたのはどうやら『ダーツ』のようだ。
手が加えられているのか、木の表面に突き刺さる程度には鋭くなっている。

『ズキュウン!』 『シュッ!』

少年は、またもや鋭い軌道でダーツを投擲する。そして比留間は気付いただろう。
彼がダーツを所持している手、そこから幽体離脱かのように『騎士』のような腕が浮き上がり、
少年の手からダーツを抜き取り、代わりに木へ目掛けて投げつけているのだ。
間違いなく、『スタンド』だろう。

743比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/09/10(火) 22:28:34
>>742

(――なるほど。大体は分かりました)

夜中に人目につきにくい場所で、『スタンド』を使ってダーツを投げている。
これらから導き出されるのは、訓練をしているらしいという結論だ。
『力』を手に入れた人間なら、確かに練習は必要だ。

(しかし、『改造ダーツ』とは……。随分と物騒な小道具ですね)

ただ練習するためだけに、そんな物を用意したのだろうか?
自分が同じ立場だったとすれば、もっと身近な物で済ませる。
もっとも、何かしら『明確な目的』があるなら話は違ってくるが。

(単なる当て推量ですが――彼には何か目的があるのかもしれませんね……)

これで『誰が何をしているのか』という疑問は解決した。
このまま帰っても良かったのだが、少々惜しいような気もする。
自分と同じような力を持つ人間に出会った経験は少ない。
他のスタンドに関する知識も、十分とは言えない。
ここで『情報』を得ておくのは悪い事ではないだろう。

              ガサッ

(……おっと)

よく見ておこうと『兵士』を動かした拍子に、草が揺れる小さな音がした。
決して大きな音ではないが、人気のない林の中では目立ってしまう。
『兵士』は隠れているので見られないとは思うが、出てしまった音までは隠せない。

744鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/09/10(火) 22:51:52
>>743

>              ガサッ

「ッ?!」

「・・・・・・・・・・」

突然の草の揺れる音に反応して 、そちらを振り向く。
しかし、特に何か変わったものは見えない。
ただの風や小動物ならいいが、万が一そうでなかった場合少々面倒な事になる。
一応言い訳は用意してある、このまま大事はされたくない。
念のため『シヴァルリー』を前に発現しながら音の方へと近寄っていく。
一般人なら見えはしない、特に警戒させることはないだろう。

745比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/09/10(火) 23:23:42
>>744

『騎士』のスタンドを正面に立たせ、音の方へ近付いていく。
少なくとも人間ではないだろう。
そこは人間が身を隠せるような場所ではなかったからだ。
風や小動物の可能性はある。
あるいは、『別の何か』か。

(やはり気付かれましたか……。ですが――)

――――シュンッ

見つかってしまえば厄介な事になりかねない。
彼が危険な人物でなかったとしても、『隠れて見ていた』というのは攻撃される理由に成り得る。
そうなる前に『兵士』を解除する。
解除された『兵士』は『カード』に戻り、再び手の中に戻ってきた。
彼が辺りの物陰を探したとしても、そこにスタンドが潜んでいた証拠は何も残らないだろう。

(……私も、まだまだ訓練が足りませんね)

音に近付いた時、林の向こう側に設置されているベンチが見えた。
そこには一人の男が座っている。
背中を向けているため、どんな人物かは定かではない。
しかし、鉄が林に入った時には誰もいなかったはずだ。
その後で来た事は間違いない。

746鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/09/10(火) 23:55:35
>>745


『コ゛コ゛コ゛コ゛コ゛』


「・・・・・」

『ガサッ』

「・・・・・何もない、か」

少し神経質過ぎたか。流石にこのスペースに人間が隠れられるはずもない。
そして人間だとしたら、瞬間移動でもなければ見つかるはずだ。
もしそれが人間ならば、だが。あるいは人間だが、超能力を持っていれば話は別だ。

「・・・・・あの人は」

自分の記憶が正しければ、先程はいなかったはずだ。
これはただの偶然かもしれない。しかし、丁度休憩するのもいいと思っていた所だ。
木に突き刺さったダーツを回収すると、ポケットに入れてスマホの明かりを消してベンチの方へと歩いていく。

「こんばんは」「隣に座らせて頂いても、よろしいですか?」

747比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/09/11(水) 00:29:32
>>746

ベンチに歩いていくと、やがて男の顔が見えた。
年齢は三十台前半といった所だろう。
優男風の顔立ちだ。

「――ええ、構いませんよ。どうぞ、ご遠慮なく」

         ――――フッ

あくまで自然な態度を装い、少年の言葉に応じる。
そして彼が近付く前に、手元にある『オルタネイティヴ4』を解除した。
これで完全に証拠は消せるはずだ。

「この辺りを散歩するのが趣味でしてね。よく来るんですよ。
 明るい内に訪れるのも良いですが、夜は夜で違った趣がある」

「静かで――それでいて少しばかり非日常的で……。
 特に考えが纏まらない時は、こうした場所で思索に耽る事にしているんです」

何気ない調子で滑らかに口を開く。
ただし、これは『嘘』だ。
そういう趣味がある訳ではなく、たまたま気が向いたから来ただけに過ぎない。
自分の趣味は、『嘘をつく事』だ。
実害を及ぼさない『小さな嘘』をつく事が、自分にとって何よりの楽しみと言える。

「失礼ですが、あなたは何を?学生の方のようですが……」

「――ああ、いえ。他意はありませんよ」

『名目上』の自分の目的を語った上で、続けて相手に話を振る。
さっき目撃した光景に関して、より詳しい事情を知りたいからだ。
もっとも、彼が素直に事実を話してくれるとは思っていない。
何しろ、人目につかない場所を選んで投擲練習をしていたくらいだ。
だから、まず彼の返し方を見てから次の言葉を考えるつもりだった。

748鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/09/11(水) 00:39:23
>>747

「ありがとうございます」ペコリ

一礼をして、隣に座る。同時に『シヴァルリー』を解除。
決して警戒を解いたわけではないが、同時にもし相手が『スタンド使い』なら、相手にいらぬ警戒をさせるかもしれない。
そして仮に彼が『スタンド使い』なら、あの場面は見られていると考えていいだろう。
いきなり『スタンド』を発現した男に声をかけられて、全く動揺がないのは流石に不自然だ。
とはいえ、一般人である可能性が一番高い。取り越し苦労ならそれでいい。


>「静かで――それでいて少しばかり非日常的で……。
> 特に考えが纏まらない時は、こうした場所で思索に耽る事にしているんです」

「確かに、住宅街や繁華街とは違ってこういった場所には独特の静けさがありますね」
「オレもあなたと同じく、集中したい時などはよくここを訪れています」

「特に、少し『特訓』などをしたい時には」
「家の中でやるよりも、やはり外の方が身体も動かしやすいですし」
「申し遅れました。オレは鉄 夕立、清月学園高等部二年生。剣道部に所属しています」

749比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/09/11(水) 01:11:54
>>748

「あなたは真面目な方ですね。とても礼儀正しく、誠実な印象を受ける。
 初めて会った私が言うのも変な話ですが、そういった姿勢は見習いたいものです」

そう思ったのは本当だった。
『近頃の若者は』などという言葉があるが、彼には当てはまらないようだ。
そんな鉄に嘘を言った事に対して『罪悪感』を覚えた。
だが、同時に『心地良さ』も感じる。
これこそが、自分が『嘘』をつく理由なのだ。

「ご丁寧な挨拶、恐縮です。
 私は比留間彦夫という者で、『司法書士』をさせて頂いております」

これは嘘ではない。
名前や職業を偽るのは、自分にとっても相手にとっても実害に繋がる可能性が出てくる。
そして、教えたとしても不利益にはならないだろう。

「『剣道部』――では、今夜も『特訓』のために来ておられた訳でしょうか?
 見た所、『竹刀』などは持っていらっしゃらないようですが……。
 失礼、どうも『剣道』というと『竹刀』のイメージが強いもので」

鉄の周りを軽く見回してから、そう尋ねる。
自分が見た限りでは、剣道に関する道具などは持っていなかったようだった。
もちろん、あれが剣道の特訓ではない事は分かっていたが。

750鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/09/11(水) 01:28:17
>>749

「ありがとうございます。…ですが、自分はまだまだ若輩者で」
「正しくあるというのは難しいことだというのを、この前も痛感したばかりです」

いざとなれば、力尽くでも一般人から『霧絵』から情報を得ようとした。
『通り魔』を追うため、あるいは同じような犯人を捕まえる為にどうしても必要ならば、正しくない事も行うつもりだ。
ただ、そのハードルは低くてはならない。限界まで、諦めてはいけない。
それを止めてくれた『立石』さんには、改めて感謝しかない。

「『比留間』さん、ですね。よろしくお願いします」

再度、一礼。この人は自分を褒めてくれたが、比留間さんこそ礼儀正しいと思う。
それも自分とは違って、柔軟な印象を受ける。『司法書士』には法に関する書類を作成する仕事という
大雑把な認識しかないが、それでいてこうも人当たりに優れているとは。
それとも仕事関係なく、比留間さんの生まれながらの人格かもしれないが。

「・・・・・・・・」
「はい、今夜は道具を持ってきていません。というのも、今日は『剣道』の特訓ではなかったので」
「もちろん竹刀がなくても身体を鍛えることはできますが」
「…コレ、ですね」

そう言って胸ポケットからダーツの羽を見せる。
誤魔化すことはできたが、この人からは誠実な印象を受ける。
なるべく嘘はつきたくないし、悪意のない相手に、上手に嘘を付く自信もない。
もちろん、何故ここでと質問が来るかもしれない。さて、その場合はなんと答えたものか。

751比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/09/11(水) 02:04:36
>>750

「それは――『ダーツ』……ですか?
 確かに『剣道』に『矢』は使いませんね。『弓道』なら分かりますが。
 鉄さんは、ダーツがご趣味で?」

見せられたダーツの羽を見て、意外そうな表情を見せる。
既に見ていたので、これは演技だ。
さっき見た時は、本当に意外ではあったが。
ポケットから出して見せないのは、先端を鋭く尖らせてあるからだろう。
その事は確認済みなので、こちらから突っ込むつもりもない。

「自然公園でダーツというのも珍しいですが、目新しい新鮮さがありますね。
 気分が変わって、良い投げ方のコツが掴めるかもしれませんし」

「何年か前に、私も少しばかり挑戦した事がありますが、さっぱり上達しませんでした。
 きっと投げ方が悪いんでしょうね。
 鉄さんのように外で投げてみたら、良い練習になったかもしれませんね」

『ダーツを嗜んだ経験』というささやかな嘘を織り交ぜ、鉄の言葉に応じる。
彼が話しているのは、確かに事実だ。
ダーツの練習をしていたのは紛れもなく真実なのだから。

「鉄さんは、いつ頃からダーツをなさっているのでしょうか?
 私なんかは、『屋内』でしかした事がありませんからね。
 『屋外』で練習とは、かなり気合いが入っているように見受けられましたので」

「――もし何かコツなどあれば、ご教授願えませんか?
 やはり『手首』の動きでしょうかねえ」

片手を上げて、軽くダーツを投げる真似をして見せる。
あまり踏み込みすぎると、逆にこちらの首を絞めかねない。
突っ込む場所を慎重に吟味し、必要ならば何時でも引く心構えをしながら問い掛ける。

752鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/09/11(水) 21:44:52
>>751

「──────────」

「『今日から』、ですね」

「今のところ趣味ではありませんが…これを機に、案外ハマるかもしれません」

あからさまに不自然だと我ながら思う返答をしつつ。静かに比留間さんの瞳を覗く。
これ以上の説明をするなら、自然と『スタンド』の話題に踏み込むことになる。
だから、その前に確認しておきたい。果たして、この人は『一般人』なのか?

『剣道部』が特訓をしていると聞き、『竹刀』の有無を訊ねる。それは不自然ではない。
が、中にはどこか見えない所に置いているのか。あるいは筋トレの類なのか。
そう納得してそれ以上訊ねない可能性もある。あえて、それを訊いたのは、既に見ていたからなのでは?
だから、ここで分水嶺を作る。

「ですから、オレにはとても比留間さんに教えられることなどありません」
「・・・・・」「ただ一つ言えるなら」
「『超能力』があるならば、あるいは」

さて、どう出るか。一笑に付すか、更に質問を重ねてくるか。あるいは───。

753比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/09/11(水) 22:54:52
>>752

「ああ、そうですか。いや、失礼しました」

軽く微笑して、事も無げに返す。
今日から始めたなら、なおさら屋内でやるだろう。
第一印象でもそうだったが、あまり嘘をつくのが得意なタイプではないと感じた。

「『超能力』…………ですか?つまり、透視とか念力といったような類の?
 それとも、それくらい凄い特技という意味の比喩表現でしょうか?」

驚きと困惑の入り混じった表情を浮かべる。
いきなり超能力と言われた場合の一般人のそれだ。
それから少し考え込んでいたが――。

「――ええ、『ありますよ』。良ければ、お見せしましょうか?」

そう言って、懐から封筒を取り出す。
何の変哲もない『茶封筒』だ。
その中に入っていた『三枚のカード』を、ベンチの座面に並べる。

「この中から一枚選んで、その上にこの『マッチ箱』を置いて下さい。
 少しお時間を頂けるなら、私の『予知能力』をご覧に入れましょう」

『赤』、『白』、『青』の三枚のカードが並べられている。
そして、鉄に『マッチ箱』を差し出す。
後は、彼に選んでもらうだけだ。

754鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/09/11(水) 23:07:58
>>753

反応を見た雰囲気は、限りなく『シロ』に近い。
これでもし比留間さんが『クロ』ならば、相当に嘘が上手い人間なのだろう。
そして嘘を付くにはそれなりに理由があるはずで、その内容次第ではこちらも警戒すべきだ。
とはいえ、単に『スタンド使い』を危険だとみなし、あまり関わり合いたくないだけの可能性もあるが。

>「――ええ、『ありますよ』。良ければ、お見せしましょうか?」

「…是非」コクリ

頷き、次の動作を待つ。
果たして彼がスタンド使いなら、一体どんなスタンドを出してくるのか。
懐に手を伸ばした。『道具型』ということか?
しかし、そこに出されたのは一般的な茶封筒だ。これが比留間さんの『超能力』だというのだろうか。

「…『手品』ですか?」

トランプとは違うような、謎のカードが中から出てきた。その上に『マッチ箱』を置いてみてほしいと彼は言う。
それはあたかも手品のようだ。

「失礼ながら、『マッチ箱』の中身を改めさせて頂いても?」

755比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/09/11(水) 23:27:29
>>754

スタンドの能力は多種多様だ。
あるいは、『カード』に関するような能力もあるのかもしれない。
事実、鉄の目の前にいる男が『それ』なのだから。

「ええ、もちろん。確かめて頂いた方が、当てた時の効果が大きいですからね」

『マッチ箱』は、ごく普通の品物のようだった。
中には当然のように『マッチ』が入っている。
そして、それ以外は何も入っていない。
変わっている事と言えば、『トランプ』を思わせる絵柄であるという事くらいだ。
どうやら外国のものらしい。

「――確認が済みましたら、お願いします」

ふと、スカイモールで出会った女性を思い出した。
彼女にも、同じような事をして見せたからだ。
塞川という名前だった。
彼女も『スタンド使い』だった。
そして――『自分』も。

756鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/09/11(水) 23:39:36
>>755

一通り改めた後、『マッチ箱』を青いカードの上に置いた。
どうやら何の変哲もないマッチ箱のようだ。───少なくとも確認できる限りは。
『スタンド能力』ならば、仕込みは容易い。誰にも確認できないようなものも。
つまり、『シロ』かを確認するのにここで色々と調べるのは無意味だということだ。

「タネも仕掛けもないようですね」

ひとまずそう口にして、比留間さんの出方を伺う。
この人の動きには、一つ一つ卒がない。だからこそ、逆に疑ってしまうのだろうか。

757比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/09/11(水) 23:56:17
>>756

『手品』には当然『タネ』がある。
それは『スタンド』も同じだ。
違う点があるとすれば、より『仕込み』が容易いという点だろう。

「ありがとうございます。なるほど、『青』ですか……」

「実を申しますと、鉄さんが『青』を選ぶ事は最初から分かっていました。
 その証拠をお見せしましょう」

「では、『青のカード』を裏返して下さい。『そこ』に書いておきましたよ」

納得した様子で小さく頷くと、そのように言葉を続けた。
鉄が『青のカード』を裏返したなら、そこに書いてある文字が目に入るだろう。
そこには、次のように記されていた。
『あなたは青のカードを選ぶ』――と。
一見すると、あたかも『予知能力』のように見える。

「これが、私の『超能力』です。お気に召して頂けましたか?」

758鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/09/12(木) 00:02:20
>>757

「・・・・・なるほど」

「ちなみに、当然他のカードには描かれていないのでしょうか」

念の為、『赤』と『白』のカードもめくって確かめる。
これで同じことが書かれていたら、流石に子供騙しが過ぎるだろうが。
さて、どうだろうか?

759比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/09/12(木) 00:31:58
>>758

赤と白のカードを裏返すが、何も書かれていない。
明らかに『無地』だ。
しかし、鉄の考え自体は正しかった。

「鉄さん、あなたは『目の付け所』が良い。ですが、ちょっと違うんですよ。
 『他の二枚にも書いてある』というのは、いささか分かり易さが過ぎますからね」

「ですから――多少の『工夫』をしてあります」

マッチ箱を手に取り、スライドさせる。
そして、『蓋の裏側』を鉄の方に見せる。
そこには、『あなたは赤のカードを選ぶ』と記されている。

「もし『赤のカード』を選んでいたら、『これ』を見るように言うつもりでした。
 『白のカード』なら、『封筒を裏返して欲しい』と言えば『的中』です」

そう言って、茶封筒を裏返す。
言葉通り、『あなたは白のカードを選ぶ』と書いてあった。
つまり、どれが選ばれても百パーセントの確率で当たるという事だ。

「全ての可能性に備えて、事前に答えを用意しておいたという訳です。
 この場合、選択肢は『三つ』しか有り得ないので、準備は難しくありません。
 ただし、『メッセージは一つしか存在しない』と思ってもらわなくてはいけませんからね。
 ですから、別々の場所に用意するのですよ」

「――納得して頂けましたか?」

無論、これは単なる『手品』だ。
『オルタネイティヴ4』は使っていないし、当然『スタンド』とは何の関係もない。
つまり――シラを切りとおす事にしたという事だ。
明かしても良かったのだが、今は止めておくことにした。
塞川の時のように、相手が感付いた場合は明かした方が安全だろうが、
そうでなければ今は必要はないと判断した。

760鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/09/12(木) 00:55:33
>>759

「…ふむ」

『無地』のカード、やはり何らかの仕込みがあるのだろうか?常より更に目を細め、カードを街灯に照らしてみる。
だが、疑う自分を前に比留間さんが種明かしをしてくれた。
成る程、仕組みは単純だが人間の思考を上手く利用している。記してある場所がバラバラならば、疑われにくい。

「仕掛けがあったのは『カード』だけではない、という事ですね」「やられました」

両手を挙げ、降参の意思を伝える。
だが、この経験は価値があった。疑うなら、更に一歩引いて考えてみる事が重要だと。
この場合、文字が書かれているのはカードに限らないといった視点だ。
いい勉強になった、流石は大人の男性ということか。

「ありがとうございました」

「ただその『超能力』だと、ダーツには用いるのは難しそうですね」
「例えば、もし精密な動きの出来る『念動力』なら」
「ダーツの技術も上達が早いかもしれません」

胸元から二本のダーツを取り出し、一本を宙に投げる。
真上に飛んだそれは、すぐに真下へと落ちていき─────。

『ピタリ』

自分の腕の上に発現した、『シヴァルリー』の腕で保持されたもう一本のダーツ。
その穂先と、先に投げて落ちてきた穂先が綺麗に重なる。そしてズレて落ちる前に、鉄本体が二本のダーツを回収した。

761比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/09/12(木) 01:23:21
>>760

「これは……!いや、驚きました。
 流石は『剣道部員』――といった所でしょうか?」

「その『技術』も素晴らしいですが、見事な『集中力』です。
 やはり、『精神面』での鍛錬も積んでおられるんでしょうね」

「いや、全く驚嘆の一言です。大人しく兜を脱ぎますよ」

       パチパチパチ

目の前で披露された『技』に対して、賞賛の拍手を送る。
林の中でも見たが、優れた『精密性』を備えているようだ。
これならば、ダーツを正確に命中させられるのも当然だろう。

「素晴らしいものを見せて頂きました。お会い出来て良かった。
 実に有意義な時間を過ごせましたからね」

本当に有意義だった。
『スタンド』について情報を得られたのだから。
それが第一だが、それだけではない。
鉄は優れた人間性を持つ好青年のように感じた。
そういった人物と言葉を交わす機会は、『スタンド』とは関係なく意義があるものだ。

「さて、このまま散らかしておく訳にはいきませんね」

封筒をカードに収めてマッチ箱を片付ける。
それから、胸ポケットから鎖付きの懐中時計を取り出して時間を確認した。
ベンチから立ち上がり、鉄に向き直る。

「私は、お先に失礼します。鉄さん、ありがとうございました。
 もし機会があれば、またお目に掛かりましょう」

「――それでは」

一礼し、背中を向けて歩いていく。
やはり『スタンド』を知るには、より多くの『スタンド使い』と出会う必要があるのかもしれない。
胸中で思いを巡らせながら、その場を後にする――。

762鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/09/12(木) 21:53:19
>>761

「・・・・・ありがとうございます」

しばしの沈黙の後、二本のダーツを胸ポケットに入れながら、軽く頭を下げる。
今、落ちてくる矢に対して『シヴァルリー』が対の矢を合わせたのを見たのだろうか?
例えば彼が一般人だとして、宙に浮くダーツに対して見えてはいたが目の錯覚だと思ったのか。
それともハッキリ見たが、自分をうさん臭いと思い始め、適当に付き合う事にしたのか。
それともやはり『スタンド使い』で─────全てを理解した上で、あえて口にしているのか。

「こちらこそ、楽しい時間を過ごせました。佐久間さんのような大人とお話をできるのは、貴重な経験です」

これに関しては嘘偽りない。少なくとも、腹芸に関しては彼に勝てる気は全くしない。
色々と探りを入れてみたが、それで理解したのは、彼がその気になれば自分が情報を得られる事はないだろうという事実だ。
それでも『シヴァルリー』の精密動作性を見せたのは、手品の種明かしをした佐久間さんへの公正さ故だ。
仮に彼の言葉にいくつか嘘があったとしても、あの仕掛けだけは本当だろう。
ならば、こちらも見せるものは見せる。…もっとも、やはり一般人でただの取り越し苦労の可能性も大いにあるが。

「ありがとうございました、佐久間さん。またお会いしましょう」

立ち上がり、去りゆく佐久間さんへと向けて一礼。
その背中が見えなくなるまで待ち、ふぅ、と息を吐く。あまりこういった事は慣れない。

「・・・・・・・・・・」


>>     「いる……」
>>
>>     「朗らかに話しかけ、あたかも常人のように振る舞い、
>>                                   . .
>>      ――――平然と『力』を振るう人間は、この世にいる」


音無さんの言葉を思い出しつつ。
できればあの人はそういう人でないことを願いながら、自分も公園を後にした。

763ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/10/24(木) 22:24:47

「行くよー」

          ポーンッ

「――ワウッ」

               ポーンッ

芝生の上で、一人の少女と一匹のチワワがボールで遊んでいた。
一つのボールを落とさないように交互に打ち合っている。
少女は両手を使い、チワワは頭で器用に打っていた。

764鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/10/25(金) 00:31:03
>>763

「…おや」

そこへ、竹刀袋を肩にかけた一人の少年が通りがかった。『清月学園高等部』の制服を身につけている。

(犬はペットの中でも知性が高いと聞くけれど、まさかあんな事まで出来るとは)

感心するように、足を止めて二人のボール遊びを眺めている。

765ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/10/25(金) 00:55:39
>>764

「――――あっ」

        トンッ
             トンッ トンッ
                     コロコロコロコロコロ…………

何度目かの打ち合いの時、少女がボールを受け損なった。
地面に落ちたボールが、そのまま転がっていく。
黒毛のチワワが顔を向け、ボールの行方を目で追いかけていた。

「すいませーんっ」

ややあって、少女が少年に声を掛けた。
ボールが彼の足元に転がってくる。
チワワは、ボールから少年に視線を移したように見えた。

766鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/10/25(金) 01:06:13
>>765

「はい、どうぞ」

ボールを手に取り、笑顔で少女へと渡す。小学生だろう。
妹にもこんな風小さくて可愛い頃があったな、と少し懐かしくなる。

「二人とも、ボールを扱うのが上手だな」「特に君のワンちゃんは」

767ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/10/25(金) 01:20:20
>>766

「ありがとー」

「あっ」

「ありがとーございますー」

お礼を丁寧に言い直し、少女がボールを受け取る。
少女は、かなり小柄な背丈だった。
まだ小学校一年生くらいだろう。

「うん!『ディーン』はー、とっても賢いからー!」

チワワは少女の横に来ていた。
やや使い込まれた首輪には、『DEAN』という名前が書かれている。
その首輪に、真新しい『リボンタイ』が結んであった。

768鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/10/25(金) 01:28:25
>>767

「礼儀正しい子だな、君は」

どこか誇らしげにチワワ、『ディーン』の事を語る少女に微笑ましくなる。
本当に家族のように思っているのだろう。

「オレは清月学園の高等部二年生、鉄 夕立(くろがね ゆうだち)と言うんだ」
「よろしく、ディーン。それと君も」

まずはしゃがみ込み、傍らに寄ってきたディーンに挨拶する。
何となく、手を伸ばしてみよう。流石に犬と握手ができるとは思ってないが、何かしら触れ合えるかもしれない。

769ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/10/25(金) 01:50:08
>>768

少女は全体的に小奇麗な身なりだった。
それなりに裕福な家の子供らしい。
犬の事を語る少女の口ぶりには、強い『親愛』が感じられる。

「はじめましてー、夕立のお兄さん!」

「ヨシエは『嬉野好恵』っていいまーす。一年生です!」

鉄に応じて、ヨシエが元気よく挨拶を返す。
一方、ディーンは黙って鉄の顔を見ていた。
その次に、差し出された手を見た。

(…………)

差し出された手を見て、俺は少し考えた。
思うに、ここには『二つの選択肢』があるだろう。
つまり、『何かリアクションする』か『無視する』かだ。

(まぁ、そこまで深く考える事もないか……)

考えた結果、俺は『前者』を選ぶ事にした。
別に大した理由はないが、要するに『消去法』ってヤツさ。
無視する方を選んだとして、
『マイナス』になる事はあっても『プラス』にはならない。

        ポンッ

かくして、俺は『ユウダチ』の手に『自分の手』を重ねた。
いや、この表現は違ったな。
正確に言うと『前足』だ。

770鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/10/25(金) 02:03:57
>>769

「おお…」

差し出された手に同じく手(正確には前足だか)を重ねられたのを見て、驚きつつ、軽く前足を握った。
いや、そういえば犬には『お手』というのがあったはずだ。自分はペットを飼った事はないので分からないが。
つまりこれは握手ではなく、躾けられた芸の一種なのだろう。
いや、だとしても初めて会った人間に対して同じように出来るのは賢いのだろうが。

「好恵ちゃんか。よろしく」

続いて、好恵ちゃんにも手を差し出す。

「好恵ちゃんは、ディーンと暮らして長いのかい?」

ディーンはいくつくらいなのだろう。犬を飼った経験がないので、見た目から年齢を図ることはできない。

771ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/10/25(金) 02:31:15
>>770

    ギュッ

前足を握られ、『握手』のような形になった。
人間式の挨拶だが、友好的なのは悪い事じゃない。
少なくとも、敵意を向けられたりするよりは遥かにマシだ。

「――よろしくお願いしまーす」

ヨシエがユウダチと握手する。
俺は、その光景を横で眺めていた。
ユウダチは危険なヤツではなさそうに見えた。
『この前の事』もあるから、その辺りは気を遣う必要がある。
確か、『鎖の男』もユウダチと似たような年頃だったハズだ。

「んーとねー」

「『一年ちょっと』かなー」

「『友達になって一年の記念』に、ヨシエがプレゼントしたんだよー」

そう言って、ヨシエは俺の首輪に結んである『リボンタイ』を指差した。
この首輪は、前の飼い主だった女が、名前と一緒に俺に与えたものだ。
あいつは俺を捨てたが、俺はあいつに与えられたものを捨てていない。
考えてみれば妙な話かもしれない。
あるいは、どうでもいい事かもしれないが。

「今、2歳なんだってー」

少女が鉄に言う。
誰かから聞いたような言い方だった。

772鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/10/25(金) 02:47:09
>>771

「そうか。じゃあディーンにとっては、もう好恵ちゃんと一緒にいる時間の方が長いんだ」
「ディーンにとっても、君は大切な家族なんだろうな」
「うん、可愛いリボンだ」

恐らく、彼(名前から男性と判断しよう)も同様に思っているような気がする。
先程のボールのやり取りも含め、人生の半分以上を過ごしたとなると、あれだけ息が合っているのも頷ける。
そう言えば、小型犬は二歳になる前には既に成犬、つまり人間で換算すると二十歳以上と聞いた事がある。
そうなると、彼は自分より先輩となるのだろうか。
まぁ仮にそうだとしても、この可愛らしい二人が触れ合っている姿は、何とも心が癒される光景だ。

(・・・・・ん?)

好恵ちゃんの言い方に、何とも微妙な違和感を覚えた。本人がそう確信しているのではなく、誰かから聞いたような風だ。
子供だし、そういう事もあるのかもしれないが。一応訊ねてみよう。

「お母さんか、お父さんがそう言ってたのか?」

773ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/10/25(金) 03:05:24
>>772

小型犬の二歳というのは、既に大人の範疇だ。
人間の年齢で言うと23か24か。
おそらく、その辺りだろう。

「えっとねー」

「――『ディーン』から聞いたんだよー」

ヨシエは、ごくごく何気ない口調で、そう言った。
しかし、彼女は幼い子供だ。
本人が『そう思っているだけ』かもしれない。

(…………)

俺は、少しだけ不安を感じた。
ヨシエは、まだ小さい。
だから時々、言わなくていい事も喋ってしまう。
もっとも、『俺から聞いた』なんて話を真に受ける人間はいないだろう。
そう、『普通は』いないはずだ。

774鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/10/25(金) 03:15:32
>>773

>「――『ディーン』から聞いたんだよー」

「・・・・・」「そうなのか」

じっと好恵ちゃんの目を見ながら、小さく頷いた。
ふざけているようにも、ウソをついているようにも見えない。
もちろん子供の感受性の豊かさは知っているし、動物と話せたと思う子もいるだろう。
しかし『喜んでいる』『悲しんでいる』ならともかく、具体的に年齢を聞くなど出来るのだろうか?
例えば、ディーンに対して手当たり次第に年齢を訊ねて、首を縦に振るか否か。
いや、これはこれで異常だろう。人間の言葉を理解するなど、あまりに知力が高過ぎる。

動物が言っていたという言葉を信じる人間など、『普通は』いない。
ただこの鉄夕立は、生真面目で、そして何より『スタンド使い』だった。


「…好恵ちゃん。話は変わるけれど、君は人に見えないものが見えたり、
 身の回りで不思議な出来事が起きたりしたことはあるか?」

ひょっとしてこの子は、『スタンド使い』ではないか?それも、生まれながらの。
『音仙』さんに、そういう人間もいるのだと聞いた。その能力で動物の声を聞けるのかもしれない。
もしだとしたなら、そして仮に『スタンド』の知識がないのなら、教えておく必要がある。
何より、身を守る術を知らなくては。

775ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/10/25(金) 17:29:18
>>774

「――んー……?」

返ってきたのは『微妙』な反応だった。
はっきり『ある』とも『ない』とも言っていない。
かといって、ごまかしているようには見えなかった。

「『それ』って、どんなのですかー?」

無邪気に話すヨシエを見守りながら、俺は考えていた。
ユウダチが口にしたのは、おそらく『スタンド』に関する事だろう。
ひょっとすると、ユウダチは『スタンド使い』かもしれない。
そうなると話は少々違ってくる。
こちらとしても慎重にならざるを得ない。

(場合によっては『対処』する必要が出てくる――か)

『ワン・フォー・ホープ』を使うには『紐』が必要だが、そこは問題ない。
この首輪の『リボンタイ』が、その役割を果たしてくれる。
もちろん、使わないで済むなら、それに越した事はないが。

(まずは様子を見させてもらおう。
 どういう理由で聞いてきたか……分からないからな……)

776鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/10/25(金) 21:39:41
>>775

>「『それ』って、どんなのですかー?」

「…例えば、こういうのとか」

人差指で右隣を示しながら、自分の真横に『シヴァルリー』を発現。
騎士のような見た目をした、人型のスタンドだ。
姿も大きく、装いも優しいとは言えないため、女の子に見せるのは少々躊躇われたが。
いや、そもそも見えないならそれに越したことはない。

「何か見えたり、感じたりするものはあるかい?」

777ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/10/25(金) 22:31:53
>>776

「――――?」

少女は人差し指の先を見つめた。
そして、首を傾げた。
『何も見えていない』ようだ。
その割には、先程の質問に対しては曖昧な答え方だった。
どちらとも解釈できるようにも見えるが、
彼女に『シヴァルリー』が『見えていない』のは間違いなさそうだ。

(……やはり『スタンド使い』か)

『人型』を見たのは、これで『四度目』だった。
スタンドには、この手のタイプが多いのかもしれないな。
もっとも、単に『人間だから』とも考えられる。
たとえば、本体が犬なら『犬型』になる方が自然なんだろう。
少なくとも俺は違うが。

          キョロ キョロ

ヨシエは周りを見始めた。
何か見えるものがないか探しているらしい。
彼女の足元で、チワワは『シヴァルリー』の方向を見ていた。

778鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/10/25(金) 23:46:23
>>777

(見えていない…か。杞憂だったな)

安心したように息を吐く。
『スタンド使い』でないのであれば、自ら危険に飛び込むような事にもなるまい。
最も、何かに襲われた時に身を守る術もないということだが…その場合は、自分のような物が出向けばいい。

「ごめん、何でもない。オレの勘違いだったみたいだ、気にしないでくれ」

軽く頭を下げて、謝罪する。
恐らく、彼女にはディーンの言葉が聞こえるような気がするのだろう。
子供の時には、そういう思い込みもあってもおかしくない。

「君はディーンとお話することができるんだね」「他にはどんな事を話すんだ?」

779ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/10/26(土) 00:02:38
>>778

「えっとー」

「『今日あった事』とかー」

「『明日したい事』とかー!」

ヨシエは、ただ無邪気に語る。
彼女は『スタンド使い』ではない。
『スタンド』でもない限り、犬と会話をする事など出来ないだろう。
だから、『話をした』というのは彼女の思い込みに過ぎない。
そう考えるのは、極めて自然な事だと言える。

(一見、『危険なヤツ』には見えないが……)

(……質問してきた意図が分からないからな)

俺はユウダチを見上げる。
さっきから気になっていた事が一つある。
肩に掛けているモノの正体が何かって事だ。

     ジッ

似たような事は、ヨシエも考えていたらしい。
話すのを中断して、ユウダチの肩に視線を向けた。
俺にとってもヨシエにとっても、あまり馴染みのない代物だ。

780鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/10/26(土) 00:09:19
>>779

「そうか。人間ともお喋りできるほど賢かったんだな、ディーンは」

そう言って、何となく好恵ちゃんの頭を撫でる。
いつか大きくなるにつれ、彼女も知るようになるのだろうか。
いや、母親の知り合いのお婆さんも、あたかも自分の子供のように愛猫を語っていた。
言葉は通じなくとも、長年共に過ごすと意志の疎通はできるのかもしれない。


>     ジッ


「…ん」「ああ、これか?」「好恵ちゃんは『剣道』って聞いた事はあるかな?」
「オレはその武道をやってるんだよ」

そう言って、袋の中から竹刀と鍔を取り出して、付けて見せる。好恵ちゃんの手の届く範囲だ。

「今日ここに来たのも、これを使って素振りをしようとしてたんだ」

781ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/10/26(土) 00:30:02
>>780

ヨシエは大人しく頭を撫でられていた。
ヨシエの両親は家にいない事が多く、ヨシエは寂しさを抱えている。
だから、こうして『人』と関わるのが嬉しいのかもしれないな。

「知ってるー!」

取り出された竹刀を見て、ヨシエがはしゃいだように言う。
知ってるとは言うものの、実際に見た事はないはずだ。
俺も実物を見るのは初めてだった。

      ソッ

ヨシエは手を伸ばして、竹刀に軽く触れた。
これが包丁やナイフなら止めている所だ。
だが、これは刃物じゃないから、触ったとしても危険はないだろう。

「どんな風にやるんですかー?」

そう言ってから、ヨシエが少し離れた。
やって見せてもらおうとしているのだろう。
実演があるかどうか分からないが、俺も後ろに下がった。

782鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/10/26(土) 00:39:26
>>781

「おや、知ってるのか。あまり小学校でやる機会はないはずだけど」
「好恵ちゃんは物知りなんだな。賢いのはディーンだけじゃなかったか」

どうやるのか、と訊ねられ、頷いて立ち上がる。
そして竹刀を正面に構え、両足を前後に分けた。一番基本的な『中段』の構えだ。

「戦う時は、防具って言って全身に痛くないような服を着てるんだけど」
「その中で、四つ相手に攻撃を当てていい場所があるんだ。相手より先に、上手くこっちが当てられれば勝ち」

一応ルールを説明しながら、素早く竹刀を振り被り、正面に下ろす。

「『面』」

同じように振り被り、今度は左下方に下ろす。

「『小手』」

三度目は、左から右へと薙ぎ払うように。

「『胴』」

四度目は、構えたまま歩みを進め、一気に竹刀を突き出す。

「『突き』」

「…こんな感じかな?」

783名無しは星を見ていたい:2019/10/26(土) 00:57:57
>>782

「――――『テレビ』で見たから!」

ああ、それは俺も見たような気がする。
あれは何だったか。
確か、どこかの『学校』が映っていた覚えがあった。

「わー!かっこいいー!」

      パチパチパチ

ヨシエが小さな手で拍手を送った。
これは、純粋に見栄えの良さに対する賛辞だろう。
俺が考えていたのは別の事だった。

(ムダがない『シャープ』な動きだな。素人が見ても、そう思う)

ユウダチという男は運動神経が良いらしい。
それだけではなく、鍛えられている事も窺える。
敵には回さない方が良さそうだ。
その予定がないのは幸いだろう。
あの頑強そうな『スタンド』と合わせて、そう思う。

784鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/10/26(土) 01:33:48
>>783

竹刀を脇に納めて、頭を下げた。
少し照れ臭くもあるが、褒められるのは多少なりともやはり嬉しさがある。

「ありがとう。…まぁオレはこの通り、少し腕が立つんだ」
「だから、好恵ちゃんも何かあったら、すぐに周りの人に助けを呼ぶんだよ」
「夜が近付いてきたら、あまり外には出かけないようにな」

そう言って、立ち上がる。

「それじゃあ、オレは少し離れた所で素振りしているから」

流石にこの二人の側で素振りをしていたら、第三者から見れば不審者の極みだ。
通報されたくはない。

785ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/10/26(土) 01:49:25
>>784

「うん、わかりましたー!」

ヨシエは砕けた口調と丁寧な言葉が入り混じった返事を返す。
今までの様子から判断すると、ユウダチは危険な人物ではないようだ。
ひとまず、俺はそのような結論を出した。

(ヨシエに質問してきた理由は単に心配しただけか?)

(……それなら良いんだがな)

「――――続きやろー!」

      ポーン

考え事をしている最中、ヨシエが再びボールを投げた。
そのせいで、俺は疑問を頭の片隅に追いやらなければならなくなった。
ヨシエを一人にする訳にはいかないからだ。

            ポーン

素振りをする少年の向こう側で、少女と犬がボール遊びに興じている。
至って平和な光景だ。
おそらく、誰が見ても同じように思っただろう。

786鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/10/26(土) 02:09:00
>>785

『ヒュンッ』『ヒュンッ』

竹刀が風を切る音を聞きながら、視界の端で二人(正確には一人と一匹だが)が楽しんでいる。
しかし改めてその様子を見ても、本当にディーンは賢い犬だ。
ボールを口に咥える犬は何度も見たことがあるが、ああやって即座に返せる犬は初めて見た。
インスタグラム、というのに撮影した動画を上げたらパズル?のではないだろうか。

「・・・・・・・・・・」

犬と人間を分けるのは、生物の中における分類だろうか。だとしたなら、猿と人間は知能の違いが決定的な差だろうか。
それならば、猿はひょっとして『スタンド使い』たり得るのか?
だが、世の中には普通の猿より賢いかもしれない生き物もいる。それらも『スタンド使い』になる可能性があるのか?
仮にそれらが全て是とすれば、あるいはあの『ディーン』も?

(…考え過ぎだな。それこそ、好恵ちゃんが『スタンド使い』だというよりも、有り得ない)

今度『音仙』さんの所を訪れた時は、一応そういった存在があり得るのか、訊いてみよう。
ただ、万が一にも『ディーン』がスタンド使いならば、きっと好恵ちゃんを様々な危機から守ってくれるだろう。
まるで『騎士』のように。それは子供向けの物語のようで、そうだとしたら、とても素敵だなと思った。

787ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/05(火) 00:09:56

林の奥に、一人の女がいる。
逆巻いた前髪を持つ長髪の女だ。
白、青、紫のグラデーションという目立つ髪色をしている。
それ以上に目立つのは、その『格好』だった。
背中に天使の羽を思わせる『羽衣』を持ち、
両腕は『羽毛』で覆われ、踵には『蹴爪』が見える。

「 『♪』 『♪』 『♪』 」

「 『♪』 『♪』 『♪』 」

女が『鳥のような声』を出す。
すると、付近の木々に留まっていた野鳥達が集まってきた。
その一群を前に、女が『鳥用フード』の袋を開ける。

「ご苦労様でした。今日の分の『報酬』をお渡し致しますわ」

「おっと……」

「 『♪』 『♪』 『♪』 『♪』 『♪』 」

(この姿でいると、時々『本来の自分』を忘れてしまう……。
 『知性の弊害』というのも、時にはあるものですわね)

         パッ パッ パッ

『同族達』に『契約分の報酬』を支払いながら、そんな事を考える。
彼女の名は『ハーピー』。
『鳥人を模したコスチューム』を身に纏い、
『鳥とコミュニケーションする技能』を駆使して、
街で『パフォーマンス』を披露している素性不明のパフォーマー。
だが、それは人間社会に溶け込むための『仮の姿』だ。
彼女の正体は、『ハゴロモセキセイインコ』の『ブリタニカ』である。

788ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/13(水) 20:43:36
>>787

やがて野鳥の群れは飛び去り、同時に女も姿を消していた。
一羽のインコが舞い上がり、常緑針葉樹林の奥へ飛んでいく。
目指す先は、一本の樹だ。
地上から大きく離れた高さの位置に、針金で固定された『巣箱』がある。
こうして、インコは『隠れ家』の一つに戻っていった。

789斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/11/14(木) 23:37:58
裏山の木々が色づき始める頃、ふと見れば足元に枯葉が散らばる物で
秋と言うものは足早に過ぎ去っていくのだなあと、考えさせられるもので。


赤いスカーフにライダーズジャケット、つやの無い黒い頭髪は軍人風に短く刈り込まれていた
僕、斑鳩翔は散らばった落ち葉を蹴り集めていた


自然公園で紅葉狩りというのも季節感が有っていい事だ……が、本題はそれではない
目的は、右手に掴んだ茶色の紙袋の中身にある。

 「――このくらいで、いいか。」

何事にもやるべき時と場所がある物だ
例えば『落ち葉の拾える公園』で『秋にしか出来ない事』とか。

   ガサゴソ

               ポイ ポイ

コンクリートブロックで作られた、使われてないキャンプ場のかまどに
大量の落ち葉と共に、銀紙を巻いた包みを放り込む、紙袋の中に入っていたBB弾が数個、あたりに散らばった

 「〜♪」

紙袋をねじってライターを取り出し、着火して落ち葉の底にねじ込む
白煙が落ち葉の隙間から上がるのを見れば
どこからともなく取り出した『ロスト・アイデンティティ製:金属の棒』でつつきながら、後は待つだけだ。

 「寒い季節に、死ぬほどホクホクなさつまいも」
 
 「『焼き芋』って、こういう時に食べる物だよなァ――ッ」

おっとでき上がりを想像して、口内がよだれで一杯に
はやくできないかな、焼き芋。

790ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/15(金) 00:39:09
>>789

ザッ ザッ ザッ

向こうの方から、一人の『女』が歩いてきた。
白と青と紫で構成されたトリコロールカラーの長髪。
背中に備わる『羽』と両腕を覆う『羽毛』、踵に生えた『蹴爪』。

「――――なるほど」

その時、彼女にとっての『問題』は一つであった。
すなわち、『隠れ家』と同じエリアで『火が焚かれている』という事実だ。
これは『調査』する必要がある。
『隠れ家』は街の中に複数あるため、
最悪『放棄』する形になっても困る事はないのだが、
そうならないのが最善であるのは言うまでもない。
真相を確認すべく、こうして歩いてきていたのであった。

791斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/11/16(土) 14:56:58
>>790

 「〜♪」

 「いたっ」

何事かと腹部を見れば、何故か『スタンド』が発現して僕のお腹をつねっている

 「? ……??」

彼の事だ、嫌がらせかとも思ったが

 「あ」

気が付かない内に女性が1人、此方に歩いてきている
参った、赤の他人でもこういう所を見られるのは少し恥ずかしい

 「……こんにちは!」

挨拶の基本は元気よく笑顔でする事にある。

792ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/16(土) 20:07:03
>>791

「こんにちは」

「どうもどうも」

    ザッ ザッ ザッ

少しずつ近付いていく。
そこで、彼が『林檎をくれた少年』である事に気付いた。
珍しい偶然もあるものだ。

「『芋』ですか」

「それは『サツマイモ』ですね」

この時期になると、『人間』は芋を食べたくなるらしい。
街を歩くと、この頃は目にする機会が多い。
『ポテト』という別の名称も多く用いられるようだ。

           ザッ

「そのために『火』を起こしていらっしゃった訳ですか。なるほど」

「――――納得致しました」

そうであれば、そこまで問題にする事でもなかろう。
せっかくなので、見せてもらう事にする。
適当な場所に座って、少年の作業を見つめる。

793斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/11/17(日) 01:07:13
>>792

(奇麗な髪をした人だなぁ)

 「ええ、こういう季節でないと、できませんからね。」

白、青、紫

山の色合いよりも色鮮やかな、かつ美しい頭髪は僕の眼を引いた
お陰で彼女が多少……奇妙な服装でも、少しだけ気にはしなかった

服装と言う点では、僕の通う学校の学生寮には、不審なメイドが出るという噂である
感覚がマヒしているのかもしれない、驚いてはいられぬ、いられぬのだ。

 「――何方から来たんです?」

そんな質問が微笑む僕の口から出たのは
どうにも彼女の佇まいと言語のちぐはぐさ故である

外国人……と言うには日本語が流暢で
日本人……と言うには文字通り、毛色が違う。

僕の行いをマジマジと観察する姿は
知性は高くても季節柄の事を知らないように思える。

 (……何処から来たのか見当もつかないな。)

794ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/17(日) 01:26:26
>>793

「『あちらから』ですが」

言いながら、今来た方向を指差す。
そちらには森があった。
『どこの出身か』という答え方ではない。

「――――というような事をお聞きではないのでしょう?」

「その答えは『秘密』です」

ダークブルーの瞳が少年を見つめ、
口元にミステリアスな笑みが浮かぶ。
笑うというのは、本来の自分にはできない芸当だ。
『表情筋』は『飛行』に不要であるために退化しているからだ。

「失礼致しました。私は『ハーピー』」と申します。
 『ストリートパフォーマンス』を生業とする者でございますわ」

    スッ

芝居がかった身振りで、恭しく頭を下げる。
この奇妙な格好も、『パフォーマンスの一環』なのかもしれない。
そうだとすれば、むしろ『自然ないでたち』と呼べるだろう。

795斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/11/17(日) 22:31:42
>>794

(レス遅れ申し訳ございません)

 「――『ハーピー』?」

芝居がかった動作も、こういう人がすると嫌味にすらならない物かと驚ける
間抜けに聞き返した僕の脳みそがハーピーについて考え……

 (…………。)

――記憶の引き出しが錆び付いていたのでスマホに頼ることにした
文明の利器万歳。


魔物の一種。 ギリシア神話に登場する怪物
主に腕が鳥の羽になっており下半身も鳥の様になっている女性を指して使われる


 「成程」

さて、改めて女性を見てみれば、背中に備わる『羽』と両腕を覆う『羽毛』
確かにハーピーと言って差し支えない風体である、これは人目を引くに違いない
『ストリートパフォーマンス』……きっといい噂になるのだろう。

 「ご丁寧にどうも、僕の名は『斑鳩』」

 「『学生』な物で、『ストリートパフォーマンス』みたいな事は言えないのが悔やまれるなァ」

枯葉の中に、スタンド製トングっぽい棒を突き刺すと
先端にアルミホイルの包みを挟んで引きずり出す、僕のスタンドはこういう時に便利だ。

 「あちっ あち」

なお、熱までは管轄外である、人様の前でこれがスタンドですとバラすわけにもいかない
厚手の手袋で掴んで慎重に銀紙を剥いて、半分に割る。

黄金色のしっとりとした山脈のような断面が
湯気を立たせながら香ばしくも甘い香りを放ち、周囲の紅葉によく映える
人を引き付けてやまないものは、こういう物である。

 「一人で食べるのも寂しいもので、お一つ要ります?『ハーピー』さん。」

そう言いながら、僕は片方を差し出した。

796ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/17(日) 23:11:01
>>795
【お気になさらず】

「せっかくのお誘いを断るのも失礼ですわね。頂きましょう」

羽毛に覆われた手を伸ばし、芋を受け取る。
『本体』が食べる訳ではないが、この仮初の体にも『味覚』はある。
味わう事くらいは出来るだろう。

「――――そうそう、あと『もう一人』お呼び致しましょうか」

「 『♪』 」

「 『♪』 『♪』 『♪』 」

    バササッ

近くの木々に向かって、『鳥のような声』を発する。
その呼び掛けに応じて、一羽のカラスが飛んできた。
そして、『ハーピー』の肩に着地する。

「まだ熱いかもしれませんわ。注意して下さいね」

焼き芋の欠片を掌に載せて、カラスに差し出す。
この時は、うっかり『人語』で話してしまったために伝わらなかったが。
少し観察してから、カラスは芋の欠片を嘴で摘み上げた。

「このように――――
 『鳥とコミュニケーションするパフォーマンス』を披露しております」

カラスは肩の上で大人しくしている。
『野鳥』とは思えない程に。
かといって、事前に飼い慣らした鳥でもなさそうだ。

797斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/11/19(火) 20:11:34
>>796

目の前で起こった事に目を丸くする

 「……やあ、凄いな」

まるで何でもない事のように、彼女は鳥と会話しているように見える
バードコールと言う道具を使ったのかと思ったが、手元にそう言うのも見えない。

 「『猫』や『梟』に芸を仕込んでいるのは、昔、両親と見た事がある」

 「でも、それはあくまで屋内で……貴女みたいな事はしなかった。」

どうやったのかは解らないが、解らないからパフォーマンスなのだ
彼女の実力は確かであると、それを証明してみせた、疑うのも野暮だろう。

 「――鳥と話せるんです? 例えそうだとしても、貴女の場合、驚く事じゃなさそうだ。」

良い物を見れたと思いながら、右手に持ったものを口元に運び……

 「あつっ ほふっ」

舌を火傷しかけた、瑞々しい甘さが口内に広がるが
注意力散漫である。

798ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/19(火) 21:22:26
>>797

焼き芋を口にすると、スタンドを通して『熱』と『甘さ』を感じた。
本体は、外部の寒さを完全にシャットアウトする空間内にいるのだ。
『ハロー・ストレンジャー』だけが、『中と外』を繋いでいる。

「ええ、話せます。私は『ハーピー』ですからね」

「人と鳥の『バイリンガル』ですわ」

妙な理屈だったが、それが理由のようだ。
人と鳥の中間の存在であるから話せるという事なのか。
これも『パフォーマンス』の一部なのかもしれない。

「ああ、良い事を思い付きました。
 何か『彼』にお聞きになりたい事はおありですか?」

「焼き芋のお礼に、私が『通訳』致します」

もっとも、『鳥の言葉』が分かるのは自分だけなので、
証明しようがないのが事実だ。
だから、これは実際のパフォーマンスでは余りしない。
逆に言うと、こういう場だからこそ出来るとも言える。

799斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/11/19(火) 23:55:54
>>798

 「『通訳』。」

……さて、困った。
またとない機会ではあるのだが、急に来られると大して思い浮かばない

 「えっと……」

ディズニープリンセスに憧れる少女なら、眼を宝石の如く輝かせて即答するのだろうが
こうして悩むのは、自分が貧困な発想の人間だと言う事か
言葉に詰まって芋を一口齧る、甘い。

 「――『心を治せる人間』」

芋の甘さで舌を滑らせる
そんな人間が何処にいる物かと言いたいが、何故か此処にいるのだ
 
 「いや、違う…えっと……」

内心慌てて別の台詞を探す
とはいえ普段話せない相手に何を聞くべきなのか?

 「アレです、明日の天気とか? ……って解らないか」

 「うーん……すいません、ちょっと思いつきませんね。」

 「それに、お礼を期待して渡したわけでは無いので お気持ちだけで結構ですよ、ハーピーさん。」

笑顔でそう帰すと芋をパクつく

人から信頼を得るには? まず笑顔でいる事だ
では人を騙すには? ……まず笑顔でいる事だ。

800ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/20(水) 00:27:32
>>799

「では、尋ねてみましょう……。ご存知ですか?」

「 『♪』 『♪』 『♪』 」

『人語』と『鳥語』でカラスに呼び掛ける。
一口に『鳥』と言っても、人間と同じように『個人差』がある。
賢い者もいれば、そうでない者もいるのだ。
もちろん、『ブリタニカ』は前者である。
何故なら、そう自負しているからだ。

「ええ、なるほど――――」

「『朝、公園のハトにパン屑をやってる婆さんなら知ってる』と」

つまり、『知らない』という事だ。
当然だろう。
これも、『ハーピー』の独り言と言われてしまえば、それまでだが。

「申し訳ございませんね」

『笑顔』は効果的だ。
少なくとも、『人』に対しては。
『ブリタニカ』は『人』ではなかった。

(誤魔化すのが下手ですね。なぜ隠すのです?
 知られてはならない『秘密』があるとでも?)

(――――それなら『私と同じ』ですわね)

この身は脆い。
ゆえに、『正体』は秘匿せねばならない。
ストリートパフォーマーとしての名前と姿は、そのための隠れ蓑。

「さて、私は『仕事』に向かう事に致します。
 斑鳩様、また何処かでお会い致しましょう」

「では、失礼を」

大きな動作で別れの挨拶を告げ、肩にカラスを乗せたまま歩いていく。
『食い扶持』を得るために、仕事はしなければならない。
そして、己の『知性』を追求するためにも。



【これにて落ちます。交流に感謝を。お疲れ様でした】

801美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/11/30(土) 21:01:22

静寂に包まれた夜中の自然公園。
その一角に設置された東屋の中に、誰かが座っていた。
ラフなアメカジファッションに身を包んだ女だ。

「あはっ――――」

「……ちょ〜っとだけ飲み過ぎちゃったかなぁ〜」

「気持ち良いぃ〜……」

「――――あははっ」

頬に赤みが差しているのは化粧のせいではない。
明らかに『酔っている』のが分かる。
何処かの店で一杯やってきた帰りのようだ。

「何かぁ〜眠くなってきちゃったなぁ〜」

「ふあぁ〜」

    ドサッ

欠伸を一つして、そのまま無防備に横たわる。
今の季節だと『凍死』も有り得るかもしれない。
まともな思考が働いていないため、本人の頭の中には、
そのような考えは全くなかった。

802宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2019/12/02(月) 17:39:23
>>801


(うげ、)


 口には出さずに悪態をついたのは、見知らぬ女性に対してではない。

 彼女が身を横たえた東屋―――に、『擬態』した巨大な『怪物』。
 それが、『グロテスキュアリー』を通じて得られる宍戸 獅堂の視界だ。

(あのサイズじゃ、睨んで脅してもビビんねえんだよな……)

 『怪物』に気付かなければ、素通りしていただろう。
 寒空の下、顔も知らない他人を放置することには、然程抵抗はない。
 それで彼女が風邪を引こうが、浮浪者や暴漢に襲われようが、
 気の毒には思うけれど、気に病むことはないというのが、自分の線引きだ。

 が、『怪物』がそこにいるとなれば、話は違う。


    ザッ ザッ ザッ・・・


 ため息を吐いて、女性の陰に歩み寄る。
 スマホ(これは『怪物』ではない)のライトを、眩しすぎないように顔に当てる。


「もしもーし」「大丈夫ですか」

 先ずは声をかけて様子見だ。

 目を開けるなら、学生服を着崩した不健康そうな少年が、
 陰気な表情で美作を覗き込んでいることに気付くだろう。

「襲われますよ、マジで」

 何に、というのはボカしておこう。

803美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/12/02(月) 19:37:39
>>802

擬態した『怪物』を目撃出来るのは、この世で宍戸だけだ。
他の者には、決して認識する事の出来ない存在。
そして、それは『この女』にとっても例外ではない。

「……ん〜?なぁにぃ〜?」

顔に向けられた光に反応して、うっすらと目蓋が開かれた。
やがて緩慢な動作で身体を起こし、数回瞬きする。
その両目が、制服姿の少年を捉えた。

「『襲われる』って誰によぉ?」

「だぁ〜れもいないじゃないのぉ〜」

「あ!分かったぁ!」

「君……私の事、襲うつもりなんでしょ?」

「ダメよぉ、君とは出会ったばっかりなんだから……」

眼前の少年に向かって、見当違いの説教を始めた。
アルコールで麻痺した脳では、まともな思考など望むべくもない。
どうやら、すっかり勘違いされてしまったようだ。

804宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2019/12/02(月) 21:48:34
>>803


(こ、コイツ……!!)


 不健康そうな少年の陰気な表情が、いっそう翳る。


「……、違います」
「酒臭い人、あんまり好みじゃないんで……」

 容疑については、ちょっと強めに否定しておこう。
 アルコールの匂いに顔を顰めながら、周囲を見回す。

「……だが、そーゆー女が『都合いい』っていう輩もいる。
 浮浪者や卑劣漢、野犬にとっちゃ、格好の獲物だったろうな」


 そして、当然『怪物』にとっても。


「財布は無事ですか? スマホや免許証は?
 まさか『無い』とは思うけど、体におかしなところは?」

 さて、酔いを醒ますには、ビビらせ……
 もとい、ショック療法が一番だ。

 手頃なサイズの『怪物』が、都合よく徘徊してはいないものか。

805美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/12/02(月) 22:34:07
>>804

「なぁにぃ〜?私に『魅力』が足りないっていうのぉ〜?」

「――――『上等』じゃない」

    ガバッ
         ツカ ツカ ツカ

不意に立ち上がり、東屋を出て少年に近付く。
目が据わっている。
宍戸の言葉で、妙な『スイッチ』が入ってしまったようだ。

       「『この私』に――」

        「『魅力』が――」

       「『足りない』ですって?」

           バッ

着ていた上着――スタジャンを勢いよく脱ぎ去る。
ちなみに、これは『怪物』ではなかった。
下に着ているのは、胸元の緩いタンクトップだった。

    カサッ

その時、草の上で『白い紙』が微かな音を立てた。
コンビニの『レシート』のようだ。
スタジャンを脱いだ時に、ポケットから落ちたらしい。
宍戸には、その正体が分かった。
『怪物』だ。

806宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2019/12/02(月) 23:59:46
>>805

(マジかよ)

 マジかよ。

「お、襲われる……! 俺の方が……!!」

 妙な迫力に後ずさる。

「クソッ……間抜けな『餌』は俺だったか……!
 弱っているフリをして、『擬傷』みてーなモンだったとは……」

「服を脱ぐなッ 服を―――――っ!!!
 俺がマジにヤベー暴漢だったらどうするつもりだ お前ェ――ッ!」

 青少年の正しき反応として、緩い胸元に目が向くのは当然のことだ。

 それはそれとして、女性が自ら『怪物』の足元から脱出したのもイイ。
 解決まで、あと『一歩』といったところか。


(だが、この酔っ払いを落ち着かせて、この場を収めるために
 無理やり『魅力的』だって認めさせられるのはかなり癪だ……!
 こちとら『怪物』から助け出してやった『恩人』だってのに……!)


    カサッ


「――――――!!」

 緑色の眼球、すなわち『グロテスキュアリー』が発現。

 『レシート』に『擬態』していた『怪物』の正体を暴く。
 そのまま地面を這って女性の足元へ向かわせ、
 思いっきり体を打ちつけさせる(破ス精BBE with 手加減)。

 気付けの一発、といったところだろうか。

807美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/12/03(火) 00:36:23
>>806

果たして、本当に『襲う』つもりなのだろうか。
女の真意は不明だ。
そして、彼女は更に言葉を続ける。

「とくと見せてあげるわ。私の『魅力』を」

    ズイ

「私の『声』を。私の『喉』を」

           ズイ

「『カナリア』と呼ばれた私の『歌唱力』をね」

                  ズイ

脱いだスタジャンを腰に括り付け、少しずつ宍戸に迫る。
上着を脱いだのは、単なる『景気付け』だったらしい。
しかし、客観的に見てどう映るかは分からない。

「あー…………コホン」

喉の調子を整えるために、軽く咳払いをした。
その瞬間、『擬態』を解かれた『怪物』が突進する。
『怪物』の体当たりは、スニーカーを履いた女の足に命中した。

    ドンッ!

          グラッ

              「――――っと?」

予想外の一撃を受けて、女の身体が傾く。
元が酔った状態だったため、その足元は平時よりも不安定だった。
姿勢の安定が崩れ、女の身体が後ろ向きに倒れていく……。

         ――――ゴッ

『鈍い音』がした。
どうなったかは一目瞭然だった。
間違っても死んではいないし、大きな怪我も負っていない。
しかし、『何事もなし』とはいかなかったようだ。
後頭部を打ったせいで、完全に気を失っている。

…………一応は『解決』と言えるだろうか?

808宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2019/12/03(火) 07:21:03
>>807

「……は? 歌?」

 『怪物』から視線を戻したときには、既に遅かった。


         ――――ゴッ


 驚かすついでに、痛覚で気付けする程度の心算だったが……
 思いの外、暴威を振るった『怪物』によって女性は気絶してしまった。

「…………」

「一先ず落ち着いたが……『早とちり』だったかもな」

 独り立ち尽くす少年は、地を這う『レシート』を睨みつける。

「……ここまでやれ、とは言ってねえ」「が、」
「これは俺の『ミス』だな……」

 やはり、『怪物』は埒外の存在だ。
 視線で脅して、恐怖で支配することはできても、
 意を汲ませて服従させる、というのは難しいらしい。

「『お前』を責め立ててやりたいが……クソ。
 言葉足らずだったのは俺の方だ。
 いやそもそも、言葉も通じてんのかもだしな……」

「引っ越して間もないってのに、ツイてねー……はぁ」

 東屋の『怪物』が妙な気を起こさないように牽制しつつ、
 救急車を電話で呼ぶ、くらいの責任は取る。
 サイレンの音が聞こえたら、そっとその場を去ろう。

809今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/12/21(土) 01:51:22

「よいしょっ」

      バサリ

私は制服の上に羽織ったコートを直した。

寒いよね。
フツーに寒い。みんな寒いと思う。
だから今の季節、ここには人がいないんだ。

「……」

天体観測。
ロマンチックな趣味とかじゃないよ。
課題なんだよね、学校の。
今はまだ、ぎりぎり補導されない時間だ。

              ドサ


カバンを置いて空を見た。
星はまばらに出ていて、その並びが何の形なのかは、まだ覚えていない。

810斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/12/22(日) 15:57:59
>>809

 「冬のお空に天体観測、ロマンチックだよね」

間延びした声、或いはからかうような声が、透き通るような冬空に通る
イヤホンを外しながら語りかけたのは、その子が見知った気がする顔だったからだ。

 「今泉さんって、そういう素敵な趣味をお持ちだったの?」

赤いスカーフ、黒いジャケット

僕達の服装は夏でも冬でもあまり変わり映えはしない、特にスカーフの部分は
精々ジャケットの襟元にファーがついてたり、袖先のデザイン違うなあ、くらいのもんだ。

 「――やあ」

なんでもない事のように僕は少し離れた木の根元に佇んでいる
移動方法?少し恥ずかしいんで聞かれない限りは秘密だ。

811今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/12/22(日) 23:11:41
>>810

           クルッ

人に会うかも、って思ってたわけじゃなかった。
でも、人がいてもおかしくはないと思っていた。
それでよかったと思う。急にびっくりせずに済んで。

「わっ」

「イカルガ先輩! 奇遇ですね〜っ」

      ニコ

「音楽室で会って以来ですよね!」

私は笑った。
それから、空を一度見て、先輩を見る。
ユメミンとデート行ったんだよね。
それから会うのは、確か初めてだ。

「趣味だったらよかったんですけども」
「『課題』なんです」「天体観測」
「星座を見つけて来いって!」

「あは。多分、先生の趣味なんですよね〜」

手元の『星座早見表』を先輩に見せる。
・・・先輩は何しに来たんだろ?

「イカルガ先輩はお散歩ですか? それとも、先輩も星を?」

812斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/12/22(日) 23:51:42
>>811

 「まずは驚かせて悪いね」

笑顔を返し、傍まで歩み寄る
何やら意外な反応が返ってきた、こういうの多いな僕。

 「ご存じの通り、今日は散歩ついでにここまで来ました、君の先輩の斑鳩翔、だよ。
 呼び方はいーくんでも翔ちゃんでも可。」

手元の正座早見表に目を向ける
 
 「冬の夜空で星座探しかあ、まあ、確かに月見とか音楽聞いてる時意外じゃ
 こういう時くらいじゃないとマジマジとは見ないけど、趣味で立たされると……音楽?」

苦笑しながらも唐突に出てきた台詞に、困惑と共に首をかしげる
さて、僕の腕前では『猫ふんじゃった』が『猫ひいちゃった』になる悲しい悲しい腕前なのだが、
音楽の授業でも見られたのだろうか?少し恥ずかしい

 「まあ初対面……ではないかな、ユメミンって多分、夢見ヶ崎だろ?
 彼女に『僕や彼女と同じ』だと話を聞いてたんだよ、『特別な力』があるってね」

無論、この同じというのは出身校だとか、住所ではない
『スタンド使い』という意味である、僕の学校には嫌に多いのだ、メイドとかメイドとか。

 「あ、この事については彼女を責めないでほしい
 僕が知ったのは完璧に僕の事情であって、彼女の口が軽いというわけでは無いんだ。」

そこまで言って、ふと何かに思い至り、苦虫をかみつぶしたような面持ちで顔を覆う
まさか、というのは常に最悪の形で来るものだ、僕の短い人生経験の、数少ない教訓。

 「……ところで、その 急に気になってきたんだけど ユメミン僕の事なんか言ってた?」

813今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/12/23(月) 03:52:15
>>812

「いえいえ、こちらこそ驚いちゃいましてすみません」
「知り合い……それも、先輩に会うとは思ってなくって」

             ニコ…

「適当にネットとかで、調べようかと思ったんですけどねえ。星の画像」
「誘った友達はそうするって言ってたし」

「でも先輩の言う通り、こういう時くらいしかしっかり星って見ないですし」
「しっかり見るなら、ここが良いスポットなのかな〜って」

笑ったまま、傍に来た先輩を見る。

「あ。名前はイカルガ先輩って呼びますねっ」
「先輩にくんとかちゃん付けって、フツーじゃない感じだし」

イカルガ先輩。
前に会ったのは『音楽室』で、ピアノを弾いてくれた。
それと、ユメミンとデートに行って、『バラ』をプレゼントした人。

・・・なんだろう。確かにキザ、かも。
というか、『クール』な感じが無い?
音楽室で会った時、こんな感じだっけ?

「はい、ユメミンは私の友達で、あす……夢見ヶ崎さんですね!」

「いやぁ〜、別に責めたりしませんよ」
「隠しといてとかユメミンに言ってないし」
「もちろん、聞いた先輩のことを責めたりもしませんしっ」

音楽室で会った時より前に、ユメミンから話したのかな。
でも音楽室で会った時は私のこと知ってる風だっけ?
うーん、そう言われれば知った上で話してたような気もしてきたけど。

「んん・・・? まあいいや、それよりですねっ」

イカルガ先輩には、なんというか違和感がある・・・けど、置いておいて。

「聞きましたよ〜っ。デートしたお話、いろいろ」
「安心してください! ユメミン、楽しかったって言ってましたよ〜」
「他にもいろいろ・・・フツーに、悪いようには言ってなかったです」

これはほんと。『謎でキョーミがある』とも言ってたけど。

「あとはですね、『不思議なものを探してるから見かけたら教えて』って!」
「ユメミンはですねえ、不思議なものをいっつも追いかけてるんですよっ」
「お店とか」「食べ物とか」「いろいろ……」

「もし何かあったら、よかったら教えたげてくださいね!」
「それこそ、あの音楽室みたいな・・・」

ユメミンに言っといてって頼まれたことは言えたし、それはよかった。

「ちなみに・・・・・・・・・その〜。イカルガ先輩的には、ユメミンってけっこう、タイプだったりとかっ?」

これは別に頼まれてないんだけどね。こういうのはフツー、気になるものだと思うんだ。

814斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/12/23(月) 22:24:31
>>813

 「だよねぇー 言っちゃうよね!」

僕は努めて軽い口調で笑う
最近のくしゃみの理由が、寒さだけでは無いと解った瞬間だ

 「いやあ、僕でも話のネタにするけど 当事者になると凄い恥ずかしいねコレ!
 時計仕掛けのオレンジの如く踊りたくなるよ。」


 「それで、タイプかどうか? それは……」

貯めて貯めて、シーッと人差し指を立てて、密やかに

 「ナイショ。」

   ニッ

 「君から伝わると解ったら、下手な事言えないからねー、同じ轍は踏まない先輩だよ。」

照れ笑いと共に肩を竦める
素面で言うのは少し無理だ、それこそスパイディみたいに軽口を叩かないと。

 「……」

でも、やはり気になる事が有る
自分が忘れているだけかと思ったが、やはりそれは『記憶にない』。

 「んーー……ねえ、今泉ちゃん」

心底不思議な事だ、故にそれを問う必要が出てくる
寒さで僅かに紅潮する頬を、指で掻きながら

 「――『不思議な音楽室』って何の事?」


 「まあその……僕の記憶力は、クラスメイトの勉強会が必要な時点でお察しという前提なんだけども
 その、思い出せなくって。」

815今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/12/23(月) 23:37:06
>>814

「あはは、恥ずかしいと踊っちゃうんです?」
「そういう映画なのかな」
「見たことないんですよね〜、『時計仕掛けのオレンジ』」

昔いろんな映画見たりはしたんだけどね。
その映画は見たことないから先輩のジョークなのか分からない。

「内緒、ですか〜」
「フツーに残念ですっ」

     ニコ

そんなに残念とかじゃないけどね。
フツーに言ってくれた方がびっくりするかも。

でも、それより。

「いやあ、やっぱり先輩は甘くないですね〜。・・・? えっ?」

「?」「やだなあ……イカルガ先輩、あの『音楽室』ですよ!」
「『雨の日にのみ現れる、もう一つの音楽室』のお話」
「私が普通の音楽室と間違えて入っちゃって」
「先輩がそこで『ジムノペディ』を弾いてくれて」

「というか、どういう部屋なのか自体先輩が教えて」「くれたのに」「……」

――――――――――――――――――――――――――――――
そういえば、ショウくんってココロをなおすスタンドをさがしてるんだって
――――――――――――――――――――――――――――――

「……」

先輩の『こころ』は、私にもユメミンにも分からない所がある。
そして先輩、自身にも。『自分のこころが分からない』・・・それは。

「あれ、もしかして、私の勘違いとか、記憶違いとか、人違いとか」「そーいう話、ですかね」

816斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/12/24(火) 01:39:25
>>815

時計仕掛けのオレンジ、それは最後に拍手の中で、笑顔で終わる話だ。
こう説明するとまるでハッピーエンド、ただしそれはえげつなく、その終わりに至る過程は更にむごい。

 「―――― ッ」

頭を抑える、寒さで頭痛でもしているのだろう
目の前の女の子は、僕の知らない音楽室の話をしている
『始めて会った女の子が。』

 「ああ、いや……」

眩暈がする、なぜだろう、とても気分が悪い
最近夢見が悪いせいだろうか、そんなこと誰にも話せないけれど。

 「いや、そうだな 『思い出した』……よ。」

しっかりしろ斑鳩、オマエは彼女の先輩だ
心配をかけさせるのは『良い子』ではない、そうだろ?

 「安心してくれ、『俺』の可愛い後輩、『勘違い』でも、『人違い』でも、ましてや『記憶違い』でもない。」

顔色を解らぬように戻す、『嘘はついていない』
ただ、靴下が見つからないと思ったら、別の棚にしまってあっただけだ。

 「気に入ったのなら、また弾いてやるよ ……今度はユメミンも連れてこようぜ、きっと大喜びさ。」

俺にだけわかる雨の匂いがする
ニヤリと犬歯が覗くように口角を吊り上げ笑う、吐きそうだ。

 「――どうした?そんな顔して」
 「寒いなら、アツアツの飲み物でもいるか?奢るぞ。」

817今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/12/24(火) 23:14:22
>>816

『私』『僕』『俺』――――私が知ってるだけで3つだ。
イカルガ先輩は自分のことをいろんな呼び方をする。
それに、なんというか、たぶん、『こころ』も違っている気がする。

「あはは」

フツーなら、『演技』だと思う。でも。
演技だとしたらそれは、すごすぎる。
こころが、1つは元からある。そこに2つ作らなきゃいけない。
ゼロから1つ作るのだってすごくむずかしいのにね。

「イカルガ先輩……」

        ニコ…

「忘れっぽいんですねっ」
「あの演奏、とっても素敵でした。私の好きな曲だし」
「またいつか聴かせてください」「音楽室じゃなくっても」

「いつか、今度は三人で遊びましょうよ」

だからきっと、『イカルガ先輩』は本当に、『3つ』あるんだ。
何でかは分からないし、聞かなきゃいけないとも思わない。
イカルガ先輩が言わないのに、私が聞いちゃいけないと思う。

「え、いいんですかっ? お言葉に甘えちゃおうかな〜」
「向こうに自販機あったかな」

「ちなみにイカルガ先輩は、紅茶とコーヒーならどっち派ですっ?」

それが、『こころを直したい理由』なのかもしれないし・・・私と先生には直せない。

818斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/12/25(水) 00:52:58
>>817

 (いやあ、誤魔化せてねえなあコレ、まさか『アイツ』の方が出て来てたとは流石に想定外の右斜め上だ。
 女の笑顔を硬くさせるのは、流石に本意じゃねえんだが。)

このお嬢ちゃんも、音楽室……なんとも悪いタイミングで遭遇したもんだ
正直困るだろうに、とは思う、多分 俺はエスパーでないんで人の心は読めないからな

 「そりゃあ勿論、紅茶さ、子供みたいな感想だと思うが
 元が苦行僧の眠気覚ましなんだぜ?あんな見た目が泥で、毒入りの如く苦いのは飲み物と言わない……」

スタンドは超能力だろって?
ジョークだジョーク、両親が5年間ぶっ倒れてるのも、多重人格なのも
ジョークじゃ無けりゃ漫画だろって言いたいね。

 「って言いたいんだけど、今居候してる家のお祖母ちゃん、母さんと同じくコーヒー派でさぁ
 馴染みの店に『豆』取りに行かせるんだよな、お蔭で店員に顔が覚えられてヤンの。」

俺の知る限りでは、彼女は俺の役に立たないし、俺も彼女の役に立てない
だったら其処で一線を引いて、この話は終わりだ、エンディング、幕引き、FIN、etc…。

 「どう?このお気にのジャケットコーヒー豆の匂いしない?大丈夫?」

もし、それでも鎖のように絡む時が来てしまったら、それは『運命』とやらなんだろう
俺は俺が嫌いだ、故に他人が俺のようになるのは好まない

 (しっかし笑顔を崩さないっていうのも結構疲れるぜ……本来なら『僕』が出張る時に
 『私』の行動が記憶とかち合って、バグみたいな扱いでその時の記憶を持ってる『俺』が引きずり出されたんだろうが。)

その運命が悪意と共に来るなら
この後輩達を襲う前に引きずり降ろして地獄の業火の中に叩き込んでやる。

819今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/12/25(水) 03:19:06
>>818

「私も、やっぱり紅茶派なんですよね〜」
「葉っぱにこだわりとかは無いですけど」

「あ。でもコーヒーもテスト前とかは飲みますねっ」
「カフェイン、お茶の方が多いとか聞きますけども」
「イメージなのかな」「コーヒーの方が眠気がなくなりますね」

先輩に何を聞くことも、いう事もしない。
・・・私と先輩には、似ているところがある。

でも、それも言う事はしない。
私はフツーなだけでいい。
フツーな私があるべき私だ。

「え。匂いですかっ」
「・・・」「どれどれ」

       クン

「フツーです!」
 
       ニコ

「フツーの、ジャケットの匂いですね〜」
「ジャケットの匂いに詳しいわけじゃないですけどっ」

それに似てることがいいことかどうか、分からないし。
考えているのはそんなこと。でも、私は笑った。
笑う事と考えている事は、繋がってなくても良い。

「今から缶コーヒー零したりしなければ大丈夫だと思いますよ!」
「自販機、確か向こうにありましたんで」「行きましょう、イカルガ先輩!」

820斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/12/25(水) 13:06:22
>>819

 「そう?それは良かった」

それは良かった、だ。

だから、ここからは蛇足

最近聞かなくなった通り魔も。
特定の人間を引きずり込む、妙な悪夢の話も。

僕が歩き回って見つけられなかった事
恐らく、他の誰かが解決したのだろう。

次は誰とかち合うのか解らないが。

この後輩がそれに巻き込まれない事を祈ろう。

 「いやあ、急に元気になったなー ……僕が言うのもなんだが」

 「星座の事、忘れてないか?」

821今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/12/25(水) 23:17:30
>>820

「あっ、急でしたか!?」
「すみません、あはは……現金でしたっ」

「あっ」

それから先輩の言葉を聞いて空を見た。
星はいくつも光っていた。
きっときれいなんだと思った。
星は消えない・・・雨とか、太陽の光で隠れても。
誰でも、いつでも、綺麗だと思えるフツーの光景だ。

「星は、だってほら、後でも見れますもん」
「でも先輩は帰っちゃったらいないじゃないですか?」

「なんて」「そーいう言い訳しちゃいますけどっ」

「先生には通じないと思うんで、飲み終わったらちゃんとやります!」

・・・イカルガ先輩の秘密は、誰にも言わない。でも、私は忘れない。

822ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/01/29(水) 23:37:47

『奇妙な女』がいる。
ポンパドールの髪は白・青・紫のトリコロール。
その身を覆う服装も似たような色調だ。
何よりも背中に翼、両腕に羽毛、踵に蹴爪。
『鳥のようなコスチューム』は、まさしく『鳥人』を思わせる。

「この空模様だと今日は一日晴れ――――」

「有り難い事でございますわ」

高さ『約5m』ほど。
一本の樹の上に、悠然と腰を下ろしている。
その姿は、『羽を休める鳥』にも見えるかもしれない。

823ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/02/04(火) 20:47:33
>>822

     ――――フッ

次の瞬間、女の姿は消え失せた。
女が一羽の『小鳥』に変わったのだ。
この場合、『元の姿に戻った』と呼ぶ方が正しいのかもしれない。

              バササササァッ

小鳥が飛び去った。
翼を羽ばたかせ、街の方向に向かって飛んでいく。
その姿は一つの点になり、やがて見えなくなった。

824俵藤 道標『ボディ・アンド・ソウル』:2020/02/12(水) 22:58:01
二月、日差しと大気がソフトになってきたとはいえ…未だ湖から寒い風がやってくる湖畔の昼下がり。


「あれーッ…」
  「どこ置いてきちゃったんだ〜俺ぇ〜」

なにやら男がウロついている…ダウンジャケットを着た、白髪の若者…


「 あのォーっ…そこのあなたァ… 」

  「 …すいません、ちょっと、いいですか」

『休憩』していたのか…それとも『たまたま』か、何かほかの理由があったのか…
ともかく、『ベンチ』の近くにいたあなた…(>>825の君のコトだ…)に、男が声を掛けてきた。

825ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/02/13(木) 00:23:41
>>824

ベンチに座っていたのは奇妙な女だった。
白・青・紫のトリコロールカラーのポンパドールヘア。
身に纏う衣服も同じような色合いだ。
そして、背中に『羽衣』、両腕には『羽毛』、踵には『蹴爪』。
一言で表現するなら『鳥人』のような姿だった。

「 『♪』 『♪』 『♪』 」

不意に、女が『鳥のような声』を発する。
肩に止まっていた野鳥に『鳥語』で告げたのだ。
『この話はまた後で』という意味だった。

「――――ハイ、何でございましょう?」

       グリンッ

どことなく鳥を思わせる動作で、やや大きく首を傾げた。
そして、目の前の『人間』を観察する。
一見すると、何かを探しているように思えた。

826俵藤 道標『ボディ・アンド・ソウル』:2020/02/13(木) 01:13:04
>>825
「 …あッえっとォ…」
 (日本語通じんのか?このヒト…ヒト?)
声を掛けてきた若者だが、(君ほどじゃあ無いが)ちょっとヘンな格好だ…
その辺のヒューマンと同じような見た目の割に…クツが何故か『サンダル』…あんまりあったかそうではない…

>「――――ハイ、何でございましょう?」

     > グリンッ
「オワぁっ!」
  (うわっこっち向いた喋った!)

君の…何やら地に足ついてないかんじの雰囲気にビビッてるみたいだ。君にはあまり近付いて来ないで話しかけてくる…

「 …あーエットぉ…『ご歓談』?中の所失礼します」
「 その辺、なんか『荷物』落ちてませんでした?」
 「 そこ昼頃俺がヒルネしてたベンチで」
   「 結構大事なもの置いてきちゃったかもしれなくて…」

あなたの予想ドンピシャ…『探し物』みたいだ。
少なくとも『ベンチ』の上には無さそう。下を覗けばあるかも…

827ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/02/13(木) 01:53:48
>>826

(これは『サンダル』ですね。しかし『夏用』のはずでは?
 冬季に使う人間を見た事はありません)

(価値観がズレていらっしゃるのでしょうか?)

自分自身を棚に上げて考える。
だが、このブリタニカは『人間』ではないのだ。
物の考え方に違いがあるのは、むしろ『当然』と言える。

「いえいえ、どうぞお気になさらず。
 大した話ではございませんので」

肩に乗った鳥は大人しくしている。
おそらくは野鳥なのだろうが、飼い慣らされているかのようだ。
『話をしていた』というのも、あながち間違いではないかもしれない。

「それはそれは。
 よろしければ、お手伝い致しましょうか?」

      スッ

立ち上がり、肩の『同胞』と共にベンチの下を覗き込む。
人間社会に溶け込むためには、こうした活動も時には必要だ。
さて、果たして何が見つかるのだろうか?

828俵藤 道標『ボディ・アンド・ソウル』:2020/02/13(木) 02:17:27
>>827
「あっわざわざどうも…」
 (親切そうで良かった…)

ベンチの下を除きこむと…何かある。
『ビニール袋』…オニギリが入ってるっぽい…と、『黒い輪っか』…直径40センチほど…が、冷たい地べたに転がっている…

「…あります?」
 「俺の『マイハンドル』…」
  「命の次の次ぐらいに大事にしてる俺のハンドル…」
男は落ち着かない様子で君たちを窺っている…

829ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/02/13(木) 02:32:34
>>828

「ええ、そのようで…………」

「確かに『ココ』にございますわ」

最初に考えたのは、『これは何なのか』という事だ。
己の『知性』が、その疑問を疑問のままにしておくのを許さない。
これは何か――解明の余地がある。

      ガシッ
               ガシッ

無造作に置かれた『ビニール袋』と『輪っか』を両手で掴む。
探究すべきなのは『輪』の方だ。
『ハンドル』という物は知っている。
しかし、通常それは乗り物に取り付けられている物だ。
自然公園の地面に置かれている物ではない。

「――――どうぞ」

          スッ

「つかぬ事をお聞きしますが、『マイハンドル』とは?」

両手の荷物を男に渡しながら、問い掛ける。
一方、『同胞』はビニール袋の方を気にしていた。
『食べ物』が入っているからだろう。

830俵藤 道標『ボディ・アンド・ソウル』:2020/02/13(木) 18:53:58
>>829
『ビニール袋』は、コンビニのやつだ。よく風に吹かれてるやつ。
中にはいっているおにぎり(二個。しゃけと、おかか。)は、何やら手付かず。

そして地面の冷たさを吸ってひんやりとしている黒い割っか…『マイハンドル』。
硬い芯材の輪に、ゴムの皮が貼られており、輪の中心部から銀色のパイプ状の突起が生えている…
…一般的に『自動車』に搭載される『ハンドル』を、まさに抜き取ってきたような形。
目立つ汚れも傷も無く、『よく手入れされている』印象を受ける。


>「ええ、そのようで…………」
>「確かに『ココ』にございますわ」

「あーそれですそれです!『マイハンドル』!!…と、ごはん!」
 
  
  スッ

 「よかったー…」
    「ありがとう『空力特性が悪そう』なお姉さん!!…と鳥さん。」
                      「良かったら食べます?おれの食べ忘れた昼ごはんなんですけど」


安心した様子で君に寄ってきて、『マイハンドル』を受けとる…ビニール袋は二の次みたいだ…どうも『ごはん』よりも大事なものらしい。
男は現在カバンの類を持っていない…つまりこの『輪っか』が男の唯一の手荷物、という事になる。


>つかぬ事をお聞きしますが、『マイハンドル』とは?」

「え…?そりゃあ」
「俺の車のハンドルだからそりゃあ『マイハンドル』でしょう」

「…ああ、取り外してることですか?」
「スマホとハンドルってあんまり手放したくないじゃないですか?
  脱着式のボスを噛ませてやればこうやって外して持ち歩けるんですよ」

…『マイハンドル』は、男にとっては『持ち歩いてないこと』が不思議なほど大事な物らしい。
…にも関わらずベンチに置き忘れたようだが。

831ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/02/13(木) 22:26:11
>>830

「『空力特性』――――」

「――――ですか」

        バサァッ

「『タイヤ』は空を飛ぶための物ではないでしょう?」

「『翼』は空を飛ぶための物です」

両腕を大きく広げて見せる。
翼は空を飛ぶ物であり、地上で走るための物ではない。
そのように言いたいようだ。

「なるほど」

        グリンッ

再び大きく首を傾げて『マイハンドル』を眺める。
鳥の目というのは、人間のように『正面』ではなく、
『側面』に備わっている。
だから、目の前の物を見る時には、
こうして傾いた方が観察しやすいのだ。
もっとも、今は人間と同じく『正面』に備わっているのだが。
本能というか習性というか、大方そのようなものだ。

「手放したくない物ですか。お気持ちは理解できます」

「生憎『スマホ』は持ち合わせておりませんが」

確かに見た目は普通のハンドル。
それを取り外して持ち歩くのは普通ではなさそうだが。
しかし、彼にとっては普通なのだろう。

「『ごはん』……いえ、それは。
 食事を供給して頂く程の事はしておりませんので」

野生動物にとって、『食の確保』は最重要問題。
『知性』を何よりも尊重するブリタニカでさえ、
その重要さを無視する事は出来ない。
だから、この手の話は慎重に検討するようにしている。
食事を与えられるというのは大きな借りを作る事になる。
たとえ相手が何とも思っていないとしてもだ。

「そうですね……。
 では、これから私がちょっとした『芸』をお見せします。
 それをお気に召して頂けたら、その『ごはん』を頂く事にしましょう」

「 『♪』 『♪』 『♪』 」

「――――よろしいでしょうか?」

         バササッ

肩の『同胞』に声を掛けて、男の前から一歩下がる。
そして、話を聞いた鳥が飛び立った。
『パフォーマンスの準備』をするためだ。

832俵藤 道標『ボディ・アンド・ソウル』:2020/02/13(木) 23:29:08
>>831

>「『翼』は空を飛ぶための物です」

(なるほど…)

車を運転し、公道で最速を目指す『走り屋』をやってる男…『俵藤』には、
君の服装が【軽くて暖かそうだが、空気抵抗が凄そうなのであまり優れていない】ものに見えていた…。
全てのものを、地べたを這いずり走る『車両』基準で観察する、俵藤特有の視点だ…。

(ただ…『飛ぶ』事が目的の服装ってんなら話が別だよな…)
(おれは”それ”を正しく評価する必要がある…『速さ』を目指すために。)


>「そうですね……。
 では、これから私がちょっとした『芸』をお見せします。
 それをお気に召して頂けたら、その『ごはん』を頂く事にしましょう」
>「――――よろしいでしょうか?」

       > バササッ

「…王には王に、料理人には料理人に相応しい『服装』があると言いますケド…」

『俵藤』のペラッペラのサンダルも似たようなものだ…。クツを履いていると、地面の温度、風の流れを感じることができない…
普段から『路面』を感じ取り、最適の運転を探るためにサンダルを履いているのだ…


「…お姉さんのその服装もそういう類のものだ、と…なにかをするための格好だと、そういう事ですね…」

 ザッ
    ガシッ

「いいですね、ゼヒ見せてください。その『服装《チューン》』の意味。」
「『ごはん』とか関係ないや、気になっちゃって…お姉さんの『芸』が。」

男は一歩下がり、何故か『マイハンドル』を構えて、君のほうを向く。
これは彼なりの真面目な態度…『運転』してる時のように目の前の景色に集中しようという、『俵藤』の本能というか習性というか…を表す、そういう姿勢だ。

833ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/02/14(金) 00:20:37
>>832

「ええ――――そういう事です」

実際は少し違う。
この服装というか『姿』は、人間社会に溶け込むのが主な目的。
それを自然に見せるために『パフォーマー』を名乗っている。

「では、始めさせて頂きましょう。
 貴方お一人のための『特別公演』です。
 お見逃しお聞き逃しのないよう、ご注意下さい」

    「 『♪』 『♪』 『♪』 『♪』 『♪』 」

 バササササッ       バササササァッ
       バササササァッ        バサササササッ
               バササササッ        バササササァッ

森の方から何かが飛んできた。
女の声に応じて現れたのは『野鳥の群れ』だ。
ただ映画とは違い、人に襲い掛かったりはしない。

      「『♪』」
            クルッ
                「『♪』」
                      クルッ

女は『指揮者』のように立っている。
両手の人差し指を立て、女が腕を動かした。
女が右手を回すと、群れは右旋回する。
同じように左手を回せば左に旋回した。
鳥達は女の指示通りに動いているようだ。

      「 『♪』 『♪』 『♪』 」

          クルッ 
                クルッ

  バササササササササァ――――ッ
              
              バササササササササァ――――ッ

最後に、両手を高く掲げ、交差させるように振り下ろす。
それを合図に、鳥の群れが二つのグループに分かれた。
女の腕の動きに連動して、右翼と左翼に飛び去っていく。
その中には、先程まで女の肩に留まっていた鳥の姿もあった。
彼に頼んで『顔見知りの同胞』を呼んで来てもらったのだ。

「――――『ストリートパフォーマー・ハーピー』による、
 『翼のショータイム』、お楽しみ頂けましたでしょうか?」

834俵藤 道標『ボディ・アンド・ソウル』:2020/02/14(金) 20:18:52
>>833
「『曲芸走行』の類は好きですよ…『一芸』は身を助く、って言葉もありますし」
「真剣な『芸』の中にこそ、生きる術って奴は有るんじゃないすかね」
「しっかり『独り占め』させてもらいますヨ」



    ……………………


>「――――『ストリートパフォーマー・ハーピー』による、
 『翼のショータイム』、お楽しみ頂けましたでしょうか?」


  バスバスバスバス…

『マイハンドル』の中心を叩いて、拍手の代わりとする…

「…数は力なんて言葉もありますケド…」
「…意味のないパーツをいくら寄せ集めたって、ガラクタしか生まれやしない…それじゃあ『烏合の衆』だ」

                          「あっこれは鳥さん達を悪く言ってる訳じゃなくてですねッ」


「…パーツそれぞれが『意図』をもって精密に噛み合うコトが、『ゴキゲンな機構』、そして『ゴキゲンな結果』が生まれる秘訣ですよね」
「『数』のもつ力、その真価って奴を垣間見た気がします。」



「あとええっと…このへん沢山いるんですね、『お姉さん』のトモダチ…」
「…たまに夜、この辺をクルマで飛ばしてるんですけど、あんま迷惑してるようだったらちょっと場所移します」
「ひとまずそのオニギリを差し上げるんで、この場は堪忍してつかあさい…」
「…………って、鳥さんに伝えといてください…」

835ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/02/14(金) 21:21:32
>>834

「仰る通り、鳥達と言葉を通わせる事が私の『一芸』でございます」

「そのお言葉――――『光栄』ですわ」

    フフッ

奇妙な風貌に相応しく、何処か謎めいた笑みを浮かべる。
『鳥語を解する人間』というのは、あくまで表向きの顔。
その実態が、『人語を解する鳥』である事は秘密だ。

「ご心配には及びません。
 窓を開けて大音量で音楽を鳴らしていなければ、
 彼らも気を悪くする事はないでしょう」

「この世は人間だけのものではありません。
 そして、鳥だけのものでもありません。
 お互いが幸せになれるのなら、それが一番ですもの」

実際、この辺りにはブリタニカの『家』もあった。
森の中の見つかりにくい場所に、『巣箱』を設置してあるのだ。
そして、それは一ヶ所だけではない。
同じような『隠れ家』を、この町のあちこちに用意していた。
それらを行き来する事で、『住所』を特定されないようにしている。

「では…………」

    ガサッ

「――――せっかくですから、ご一緒しませんか?
 『燃料』がなければ車は動きません。
 人間も『燃料』がなければ、十分な運転が出来ないのでは?
 空腹で事故を起こしたら大変ですわ」

「それに、お互いが幸せになれるのなら、それが一番ですもの」

袋から『おかか』を取って、ベンチの端の方に座り直した。
包装を外し、おにぎりを齧る。
『シャケおにぎり』入りのビニール袋は、
ベンチの真ん中辺りに置いた。

836俵藤 道標『ボディ・アンド・ソウル』:2020/02/14(金) 22:40:32
>>835

「ううむ」
(徹底的に不思議なお姉さんだな…文字通り生きてる世界が違う、ってカンジだ…)
(気分を害してないのなら良かったのだけれど)

「…ゴ相伴にあずかりますか」


不思議な巡り合わせで手に入れた不思議な力…『スタンド』。
様々な機械の燃料の代替ができる自身のスタンドの意味を考え、
食事をとる気にもなれずボンヤリ彷徨っているうちに、ベンチで眠ってしまい……
そのままボンヤリ起きて立ち去った際に、荷物を忘れていった、という顛末だったのだが…

俵藤が忘れ物に気づき慌ててたところに、鳥とトモダチのお姉さんとの不思議な出会い。
この世界は不思議の積み重ねでできている…


    ススス…
 
「『燃料補給』は大事ですね、ウン。なんかちょっと忘れかけてました。」

ベンチの反対側に腰を下ろし、『マイハンドル』を足元に下ろし、ビニール袋を手繰り寄せる…


バリガサッ
  「…いただきます。」

『不思議な力』は俵藤のごはんの代わりにはならない…こいつは『料理人』のスタンドではないから…
鳥のような格好で鳥と語らう不思議なお姉さんだってご飯を食べるんだから、俵藤だってご飯を食べてもいいじゃないか…


ゴクン
「…お姉さん、なんて呼べばいいんですかね」
「お姉さんには一飯と一ハンドルの恩があるので…そんなヒトをお姉さん呼ばわりし続けるのもちょっと…」

837ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/02/15(土) 00:23:53
>>836

そんなヒト。
『人ではない』などと訂正はしなかった。
自分は人を名乗っているし、そう思われていなければならない。
『人間』――おそらく現在の地球上で最も繁栄している種族。
その知性を研究するために、
ブリタニカは人の姿を借りて人間界に溶け込む。

「『名前』、ですか?」

「『ハーピー』――――と」

「『人と鳥を繋ぐ者』でございます」

「よろしければ、そのようにお呼び下さい」

    フフッ

おにぎりを食べつつ、丁重に答えを返す。
人間と鳥の入り混じった伝承上の怪物の名。
『ブリタニカ』は、それを自らの名前として使っている。
『ハロー・ストレンジャー』は、鳥と人という二つの世界を繋ぐ能力。
その力は、まさしく現実に存在する『ハーピー』だ。

「あなたは私に『新たな知識』を教授して下さったようですね」

「『あなた』とお呼びするのも礼を失するという事を」

「何とお呼び致しましょうか?『ハンドル』のお方」

おにぎりを食べ終えて、両手を軽く払う。
男が何を考えているかなど分からない。
鳥であるブリタニカは、人の機微を全て理解してはいない。
男がブリタニカの『正体』を知らないのと同じように。
しかし、それでも何かしら『通じるもの』はあったのも確かだ。

838俵藤 道標『ボディ・アンド・ソウル』:2020/02/15(土) 01:49:35
>>837

エエト…
「じゃあ、『ハーピーさん』。ハーピーさんって呼ぶことにします」
(明らかに芸名だけど…)

名前なんて…要は認識の問題だ…
俵藤は、鳥のようなヒトであるキミを、混ざり物…『ハーピー』の名前で呼ぶことは…
とても『正確』な認識で…、しっくりくるなぁ、と思えた。


「自分には『俵藤 道標(ひょうどう みちしるべ)』、って本名がありますが」
「…まぁ、ハーピーさんの好きな名前で呼べばいいんじゃないんですかね」


「ただ…『あなた』呼びは嫌ではないんですケド…個体として認識されてない気がして…」
「「なんか機嫌悪いんですか?」って思っちゃいますね」

「『ハンドルの人』ならまぁ…」
  「ハンドル持ってるんだからハンドルの人ですよねェ…」



  ガサガサ…
     …ガシッ

「…食うものも食ったし、出るとしますね」

「…クルマが必要な用事があったら声を掛けて下さい、星見の夜の山道で水色のクルマが走り回ってたらそれが俺です」
「別に人を載せて見せびらかすために車に乗ってるワケでは無いんですけど…」
「なんかハーピーさんにはちょっと見せびらかしたくなりました」


君にどういうバックボーンがあって、どのような世界に生き、何を考えているかを俵藤は知る由もないのだが…
俵藤もまた…『ハーピー』が世界を見つめる目に、ちょっとした『シンパシー』を感じたのも確かだった…


     ダッ
      「…そいじゃ!」

今度は『マイハンドル』と『ビニール袋』をちゃんと持って、俵藤は駆けだしていった…

839ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/02/15(土) 08:06:09
>>838

「では、『俵藤さん』とお呼び致します。こんにちは、俵藤さん」

ブリタニカには『翼』があった。
道がなくとも、『空』さえあれば何処へでも行けるのだ。
大抵の移動なら、それで事足りる。
だから、乗り物を必要としない。
『普通の鳥』なら、そう考えるだろう。

「ええ、その際は是非拝見させて頂きたいと思います」

このブリタニカは、『普通の鳥』の一歩先を進む『先進的鳥類』。
『人間研究』のチャンスは見逃さない。
少しでも多くの情報を集積する事が、
『研究』の精度を高める事に繋がる。
それは自分という一固体だけのものではない。
この地上で高度な社会を築き上げた『人の知性』を追究し、
得られた成果を『我々の世界』にフィードバックし、
種族全体を支える『繁栄の糧』とするのだ。

「さようなら、俵藤さん。お気を付けて行ってらっしゃいませ」

俵藤も、また『独自の視点』から世界を観察している。
ブリタニカは、そのように感じていた。
それも、人間という種族の知性の表れなのかもしれない……。

「さて――――」

        シュンッ

俵藤と別れた後のベンチに、一羽の『インコ』がいた。
白・青・紫のトリコロール。
背中の羽毛の一部が、『天使の羽』のように広がっている。
それは『羽衣』と呼ばれる。
『羽衣セキセイインコ』の特徴だ。

                バササササッ

インコが空に舞い上がる。
町に向かって飛んでいく。
やがて姿が見えなくなった。

840鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/02/17(月) 21:50:10
公園のベンチに一人座る学生服の少年。その横には、いつも通りの『竹刀袋』が置かれていた。
そして彼は膝の上で和柄の包装紙を広げている。その中身は『みたらし団子』だった。
素振りの前に、軽く腹拵えをしておきたいという所存のようだ。

(…もう二月か)パク

団子を頬張りながら、ふと思う。
二月ともなれば、高校三年生はもうすぐだ。そしてそうなれば、進路の事を考えだす頃合いでもある。
進学か、就職か。どちらにしても、志すからには将来への展望も考慮しなければならない。
自分は何を目指したいのだろう?───どういった人間になりたいのだろう?

841塞川唯『クリスタライズド・ディスペア』:2020/02/18(火) 21:39:19
>>840

ブロロロロロロロ………

          ギギィーーーーーッ!

『ベンチ』からは少し離れた場所にある、
『自然公園』内の『車道』。
そこを通っていた車が、鉄の眼前を横切った後……急停止した。

「うるせぇーな。
眠ィんだよ、あんたの話はよぉ〜〜」

車の方から、何か言い争うような声が聞こえて来た。
程なくして、車はゆっくりと発進し、どこかで見た女が近づいてくる。

「よおーーーー『鉄』。
『奇遇』だなァ」

相変わらず、着崩した服を整えようともせず、
ベンチの傍らで立ち止まり、にんまりと笑った。

842鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/02/18(火) 21:54:28
>>841

唐突に停止した車を、荒い運転だなと思いながら、何となくその後を見続ける。
間も無く始まった言い争うかのような声。車から聞こえてきたその内の片方には、覚えがある気がした。
その声の主が降りてきた事で、それは正しい事が証明された。

「『塞川さん』。こんにちは」

膝の上の団子を包装紙ごと一旦横へ退かして、立ち上がり一礼する。
続いて、車が去っていった方をチラリと見た。

「…同行者の方は、いいんですか?」

843塞川唯『クリスタライズド・ディスペア』:2020/02/18(火) 22:07:54
>>842
「はっは、相変わらず真面目な奴。
いや、『礼儀正しい』か。『礼儀』はイイよな。美徳だ」

適当にしゃべりながら、どっかとベンチに腰掛けて脚を組む。
『鉄』に言われて、ちらりと去っていく車を見た。

「ああ、別にあんたが気にするよーな事じゃあねえ。
私もだがな。
ツマラン話が好きな奴だったからな、丁度良かったよ。
下らねー話を長々する人間にはなるんじゃあねーぞ、あんたは」

全く悪びれずに、吐き捨てるように言い、
ふと、傍らの『竹刀袋』を見た。

「『部活』の帰りかァ?
一人でこんなトコで団子なんか食って……年寄りみてーな奴だな。
幾つだっけ、あんた」

844鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/02/18(火) 22:15:51
>>843

ベンチに腰をかけた塞川さんに合わせ、こちらも座る。
彼女とは三度目の遭遇で、しかも初対面の時点で命を共に懸けた間柄だ。
至近距離で目を合わせる、とかでなければ会話に支障を来す程ではない。

「成る程。自分はあまり面白い話のできる人間ではないので、そうなるのは難しそうな気もしますが…心に留めておきます」

何か説教のような事でも言われたのだろうか。ただ、恐らく運転手の方は男性だろう。
あまり踏み入る話題ではないな、と察して肯く程度にしておく。

「はい、部活の後の自主トレをとしてこの公園はよく訪れています。
 今はその前に、小腹が空いたので軽く栄養補給を、と」モグモグ

「自分は十七歳、高校二年生です。友人にも、よく年寄りっぽいとは言われます」

そう言って、小さく笑う。

845塞川唯『クリスタライズド・ディスペア』:2020/02/18(火) 22:34:56
>>844
「客観的に自分が見られる内はイイんだよ。
自分に自信がつくほどに……要は歳食うほどに、そういうのは消えちまうからな。
ま、世の中にゃあ、そうやって自分に酔わなきゃあ、
とてもじゃねーができないって事も多いけどなァ」

話を興味深そうに聞きながら、
察するように話題を変えた『鉄』に、少し目を細めた。

「十七歳かァ〜〜。聞いたような気もするな。
私は17の時なんて、なんも考えずに生きてたよーな気がするな。
何考えて生きてんの? 今のコーコーセーは」

846鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/02/18(火) 22:50:41
>>845

「そうですね…今は『進路』が一番多い悩みでしょうか」
「進学か、就職か…相対的には、やはり進学の方が多いとは思いますが」

かく言う自分もその一人だ。
まだ一年の余裕はあるが、それでも不安というものはそれなりにある。

「塞川さんは、どういった人生を歩まれてきたのですか?」

参考に、是非訊ねてみたい。彼女は自分と違い、立派な成人女性だ。

847塞川唯『クリスタライズド・ディスペア』:2020/02/18(火) 23:11:45
>>846
「進路………ねえ。
フツーだなァ。ま、面白い話かどうかなんてのは、
本人にとっちゃァ、何も関係のない話だからな。
『スタンド使い』でも、悩み事は年相応、か」

話を振られて、すっと目を逸らして前を向き、
何かを考えるような素振りを見せる。

「私の話………?
別に、大した『人生』じゃあねーよ。
少なくとも、『高校生』のあんたの参考になるようなモノはない。
だが、まあ………そうだな。『スタンド使い』としてなら、話しても面白い事はあるかもな」

「あんた、心に『空洞』がある………、
そういう感覚について、理解できるか?」

848鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/02/18(火) 23:38:00
>>847

「少なくともオレは、この『超能力』で、生計を立てていこうとは思わないですね。
 元より、そういったことに向いている『スタンド』でもありませんし」

精々が手品くらいだろうか。切れ味を奪ったり戻したりして、観客を楽しませる程度。
もっともあまりにワンパターン過ぎて、すぐ飽きられてしまうだろう。
彼女の場合はどうだろう?綺麗な『ガラス細工』として売り出せるかもしれない。
とはいえ、持続時間の問題もあって『詐欺まがい』になってしまうかもしれないが。

「『空洞』…ですか?」「…『虚無感』…のようなものとは違いますか?」

849塞川唯『クリスタライズド・ディスペア』:2020/02/19(水) 00:03:50
>>848
「からっぽなヤツ、とかいうだろう。それだよ。
どこか、上っ面を繕うような事だけが得意で、
実際のところ、なにも『大切』なものがない。
それゆえに、自分も、相手も、省みることがない……そんな人間だ」

いつになく真剣な様子で、ゆっくりと話し出す。
その様子は、どこか狂気じみてすら見える。

「私には、いつからか、なんとなくそれがわかった。
そういう奴らに好かれたし、
一緒にいる事で、私自身、不思議と安心したんだ。
私だけじゃあない、ってな」

「そうして、バカみてーに色んな奴と無為な時間を過ごした。
そんな人生さ。気が付いたらこの町にいたんだ。
だが…………こいつに目覚めた」

眼前に出した腕に、飛来した『鳥』が止まる。
中身のない『硝子細工』の、『クリスタライズド・ディスペア』。

「こいつが元々『私の中』にあったものなら……
私だって、何者かになれる。そうだろう?」

「だから私は、こいつの事が知りたいんだ。
『スタンド』とは何なのか? そういう事がな」

一息をついて、ふっと腕を振ると『スタンド』が掻き消える。
暫く押し黙って、『鉄』の方を見た。

「………ま、私の方はそんなカンジだな。
簡単に纏めると、無職にはなんなよ、ってトコだよ」

850鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/02/19(水) 00:27:40
>>849

「からっぽなヤツ、ですか。…何となく、分かる気はします」
「その中でも、望んでそうなっているタイプと、何も見つけられないタイプと」

クラスメイトの中にも、そういう種類の人間はいる。
彼の場合は、どちらかと言えば後者だが。
何でもそつなくこなせるが、だからこそ熱中できるものもなく、
誰とでも平均的に仲がいいが、共に居ることを心から楽しんでいる様子もない。
と、そこまで同意して、これは彼女自身の話なのだと気付いた。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

沈黙して、最後の団子に口を付ける。
内にある『空洞』。ガラス細工のような小鳥。彼女のスタンド、『クリスタライズド・ディスペア』。
それは、そういうことなのだろう。内に秘めた精神性の現れ。
何者にもなれなかった、何事も為せなかった虚無感が


「…なるほど。『スタンド』を知る事で、介して己を知る、と言うことですか」
「『無職』にはなりたくないですね…。両親や、妹を心配させてしまいますから」

冗談交じりに、少し微笑んだ。
『スタンド』をしまった彼女とは逆に、『シヴァルリ
ー』を反対側に発現する。
だとすれば、これは自分の何の現れなのだろう。これを用いて、何をすべきなのだろう。
そもそも、自分は何故この力を求めたのか。
─────何となく、答えの方向性は見えてきた気がする。

「…塞川さん。あなたは少なくとも、もう何者か、にはなってると思いますよ」
「あなたがいなければ、『加佐見』は倒せなかった。少なくともオレにとっちゃあ、あなたは必要な人だった」

851塞川唯『クリスタライズド・ディスペア』:2020/02/19(水) 00:56:54
>>850
「ああ。私のことがわかれば………。
奴らの事も、もっとわかってやれるだろうしな」

どこか茫洋として、発現した『シルヴァリー』をふと見つめる。
いつか考えたことを思い出した。

(切れ味を奪い、自らがそれを振るう『スタンド』………
私はあの時、これは、こいつの二面性を顕していると思った。
危険から守りたいという気持ちと
そいつらを自らが『罰する』という気持ち。
タガが外れたなら、危険な精神性だと………)

>「…塞川さん。あなたは少なくとも、もう何者か、にはなってると思いますよ」
>「あなたがいなければ、『加佐見』は倒せなかった。少なくともオレにとっちゃあ、あなたは必要な人だった」

想いを巡らしているところに、鉄の言葉を聞いて、
虚を突かれたような面持ちで立ち上がり、視線を『鉄』に移す。

「…………そうかい。
だったら、私も………少しは報われたってトコだな。
じゃあな、稽古も、ほどほどにしとけよ」

ようやく、といった様子で言葉を絞り出し、
出会った時と同じく、顔を背けて足早にその場を去っていった。

852鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/02/19(水) 01:16:52
>>851

(ああ…そういう事なのか)

この人は、自分を知りたいだけでなく、その先で自分のような人間を救いたい気持ちもあるのか。
そしてそれは、きっと彼女のような人間にしかできないだろう。
言葉というのは、同じような境遇であればあるほど、届きやすいものだと思うから。

「はい、ご忠告痛み入ります。お話ありがとうございました、大変参考になりました。
 またお会いしましょう、塞川さん」

顔を背けた塞川さんに、変なことを言ってしまったかと思ったが。
これに関しては自分の率直な気持ちだ、もし何か傷付けてしまったとしたら、後で謝罪しよう。
包装紙と団子の串を近くのゴミ箱に捨て、竹刀を取り出す。

(そもそも『シヴァルリー』を求めたのは、理不尽に対抗する力が欲しかったからだ)
(それなら、自分がもっとも為したい事というのは、そこにあるのだろうか)
(『武』を担うもの、危険より守るもの…『シヴァルリー』)

『スタンド』で生計を立てることは出来ないし、したいとも思わない。が、『スタンド』から己を知る事ができるのなら。
例えば『警察官』、あるいは『消防官』、『自衛隊』など。自分のやりたい事というのは、そういうものかもしれない。
素振りを始めながら、帰宅した後にスマホで色々と調べてみようと思った。

853斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/03(火) 21:05:00
――梅の花が咲いた一週間後には、雨が降ってしまった
3月の空は春の訪れが待ち遠しいのか、何処か落ち着かない様子で
地面に散らばった丸い花弁は、その色とあいまって何処か雪のように見える

 (まあ、元よりあの『病室』に『梅の枝』とか、そういう尖った物は持ち込めないのだけど。)

僕がここを歩いているのは『日課』の為だ
雨降って地固まる、茶色と白のまだら模様ですっかり乾いた地面をスニーカーで踏みしめる
肺の中いっぱいにここの空気を吸うと、少し気が楽になる。

 (けれども、やっぱり学校の噂の方を調べるべきかな……『喋る焼却炉』だったか)

耳にしたイヤホンからは、柔らかなピアノの音が響く
何処かで足を止めて、ジャケットの懐に入るくらい薄く、小さい本を読むのもいい
通りすがりの人々は殆どがマスクをしている、そういう季節なのだろう。

 (『スタンド』に関わりが有るとは思えないけど、ね)

……それよりも、ホワイトデーのお返しを考えるべきかもしれない
あまり高価な物も委縮させるだろうし、やっぱり消え物が一番だろう
手作りの焼き菓子とか……いや、手作りはやめとこう、趣味じゃない。

 「〜♪」

鼻歌交じりに歩き、時折落ち葉を蹴り飛ばす
……そういえば、あの子に会ったのはこの辺りだっただろうか?
最近姿を見ないので、きっと大人しくしてはいるのだろう……『スタンド使い』、か。

 「……思えば、一番衝撃的だったケースかもね、『本体に害をなす』。」

誰に言うでもなく、そう独り呟いた。

854鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/04(水) 22:15:34
>>853

「・・・・・?」「…あの人は」

いつも通り、自主練のために公園を訪れていた。そこへ、学校で何度か見た姿が現れた。
直接話したことはないが、後輩から彼の話を聞いた事はある。
その点で少し気になることも言っていたし、可能ならば話してみたいものだ。急ぎでなければいいのだが。

「こんにちは」


黒の学生服に身を包んだ、黒髪の少年が小さく笑いながら話しかけてきた。肩には『竹刀袋』を背負っている。

855斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/04(水) 22:35:39
>>854

――は、その声に振り返った
ライダーズジャケットに、学生服の時と同じく赤いマフラーを纏った彼は
イヤホンを外すと視線を声の主に向けた。

(…………。)

 ニッ

 「――やあ!」

彼は少しの間、貴方を見つめると
人懐っこい笑顔を作り、挨拶をかえす。

 「剣道部の人か、自主練かい?それとも終わって帰り?」

856鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/04(水) 22:50:11
>>855

(私服…部活動には所属していないのか。それとも休日なのかな)
(しかし、音楽を聴いている最中だったのか.悪いことをしてしまったか)

音楽を聴きながら散歩をするのが趣味だとしたら、その時間を邪魔してしまった事になる。
しかし、彼は人当たりのいい笑顔で返事をしてくれた。少し安堵する。

「ああ、どちらもだ。部活の後の自主練さ」
「オレは高等部二年生、剣道部の鉄 夕立(くろがね ゆうだち)。キミは、斑鳩くん…で合ってるかな?」

857斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/04(水) 23:21:05
>>856

 「ああ、『斑鳩 翔』(イカルガ ショウ)さ、いい名前だろう?」

肩を竦め、ウインクを一つ

(しかし……『自主練』か、何とも努力家だね、剣道って言えば呆れるくらい素振りをするのだっけ?)
(僕なら三日たつ前に飽きてやめる自信が有るな、大違いだ。)

 「そういう君は『黒 夕立』(クロガネ ユウダチ)……?聞き覚えがあるな」

奇妙な記憶に首をかしげる、はて?何処で聞いたのだったか?同級生なので話題にあがるせいか?
記憶の鎖を手繰り寄せる、少なくとも5年前でないことは確かだが

 「ウーン 確か……そう、後輩の三枝が言っていたような、知り合いかい?」

858鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/04(水) 23:40:36
>>857

「あぁ、いい名前だと思う。響きがカッコいい」「キミの名付け親のセンスが良かったんだな」

これは世事抜きに本当だ。
斑鳩(いかるが)、という名字だけで既にカッコ良さはあるが、飛翔の翔、ともなれば非の打ちどころがない。
自分の名前にも自信がないわけはないが、彼のような華やかさはない。

「その通り、三枝千草さんの知り合いだ。斑鳩くんに世話になったと彼女から聞いてね」
「…それと、キミは心の中で何か大きな目標を掲げているのではないかと」
「その辺りも含めて、色々話をしたいんだが…時間はあるか?」

そう言って、近くのベンチを指で示す。立ち話もなんだから、もし応じるならどうだろう?という誘いだ。

859斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/05(木) 00:11:13
>>858

 「――構わないよ」
 「そろそろ、今日は諦めようと思ってたんだ。」

彼の提案にゆっくりと頷くと、一足先にベンチへ向かう
枯葉の音が耳に心地よいが、それより彼の聞きたい事、というのに興味が湧いた。

 (さて、後輩の話だと彼も『スタンド使い』の筈だが……僕に何を聞きたいのだろう?)

ホワイトデーのお返しについての相談だろうか?
彼が女性に慣れていない事くらいは、同級生から聞いているが

 (それとも、『バレンタイン放送事件』のアレかな?主犯見つかってないけれど)

それはそうだ、何せ自分がやったのだし

ベンチに腰を下ろし、足を組む
何であろうと、少なくとも今の事態は、『僕達』の事を退屈にはさせてくれないのは確かだ。

 「――それで?三枝ちゃんから聞いて……何が気になったんだい?」

そう呟くと、彼は値踏みするような視線を向けた。

860鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/05(木) 00:28:45
>>859

「ありがとう」
「・・・・・・・・・・」

軽く頭を下げて、彼の隣に座る。
しかし、何から切り出したものかと思う。まずは軽く世間話からがセオリーだと思うが、
共通点はあまりないように思える。クラスも違うし、部活動も彼は無所属だ。
やはり、単刀直入に訊ねるとしよう。

「三枝さんに、キミはオレに似て何か、覚悟を決めている物事があるのでは、と考えていた」
「ちなみにオレには、ある」
「もしキミにも同じようなものがあるとしたら、協力できないかと思ってな」

これがただの思い過ごしならそれでいいし、違うのなら是非とも協力したい。
何せ自分は『スタンド使い』だ。普通の人間にはできない事ができる。

861斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/05(木) 00:59:16
>>860

 「…………。」

少し驚き、疑問を持ち、首をかしげる

(そうかそうか、つまり、君はそういう奴なんだな。)

 「――三枝ちゃんが、ねぇ……僕の事をそういう風に?」

さて、何と答えた物か、あの後輩、人を見る眼が有ったのやら無かったのやら
馬鹿正直に『真実』を語ってもいいし、当たり障りのない『嘘』をついてもいい

(他人を傷つける真実も有れば、優しい嘘というのもあるだろう。)
(しかし……)

 「『誤解だね』、それは。」

――断言する、できる。

 「僕は、生まれてこのかた『覚悟』なんてした事ないよ、これはホント。」
 「『覚悟』が必要な事なんてなかったし……デートに女の子誘う時くらい?違うか。」

『覚悟』『努力』実際、僕には必要なかった事だ、そんな事をしなくても大体は『できる』ではないか
まあ、今の僕では結構苦労するが……それでもやってできない事はあまりない『スタンド』もある事だし。

 「ああ、でも……『人生の目的』ならあるよ、とても困難で、出来るかどうかも解らない事なら これもホント。」
 「でも、これは『何に置いても絶対に実行しなくてはならない事』だし、でも、それは『覚悟』とは違う。」

……もっと重いか、汚いものだ。

 「――でも、『協力』って、何故そんな事をしようと?部活動の一環?」

862鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/05(木) 01:20:39
>>861

> 「『誤解だね』、それは。」

「・・・・・・・・・・」

自分は人の嘘を見抜くのは得意ではない。だから、この彼の発言が真実か偽りかは分からない。
だから、ここで重要なのは斑鳩くんの気持ちだ。仮にこの発言が嘘であったとしても、
それならそれで触れられたくないものなのだろう。ならばそのままでいいのだ。

「それならいいんだ」

頷き、彼から目線を外して少し姿勢を崩す。ふぅ、と息を吐いた。…が。

> 「ああ、でも……『人生の目的』ならあるよ、とても困難で、出来るかどうかも解らない事なら これもホント。」
> 「でも、これは『何に置いても絶対に実行しなくてはならない事』だし、でも、それは『覚悟』とは違う。」

その言葉に、再び横を、斑鳩くんの顔を見る。
何か意思を伴う行動であるが故に『覚悟』があり、それは絶対に遂げなければならないからこそ『覚悟』ではないと。
それこそ、命を賭しても成し遂げなければならないもの。果たして普通の高校生が持つものだろうか?

だが、それに質問をするよりも先に彼から訊ねられる。まずは返答をするのが礼儀だ。

「…そうだな。キミは三枝さんの知り合いだし、…その、オレには人よりもできる事があるんだ」
「その能力を活かせば、キミの助けになれるんじゃあないかと思ってな」

『超能力使い』です、などとは流石にいきなりは言わない。
万が一頭のおかしいやつだと思われてしまったら、少し傷付く。

「オレは『理不尽』に傷付く人がいるなら、その助けになりたいんだ」

863斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/05(木) 02:46:08
>>862

その顔には何も浮かんではいない
彼の瞳と同様に、『それが普通だ』と言わんばかりに柔らかく微笑んでいるだけだ。
それが普通になってしまったのか、自らそうしたのかは、誰にわかるわけもない

   パチ    パチ
      パチ

そんな彼の手がゆっくりと拍手をする

 「立派な物言いだと思うよ」
 「少なくとも、口に出して実行しようとしているのは。」

口に出してはみたが、実行するのは容易い事では無い事はいくらでもある
かく言う僕も、一念発起してみたものの『覚悟』など持てそうにない、自分の命など賭けれないし、今の生活も大切だ、捨てられない物は結構ある
こんな事では、何と言えばいいのか言語化が難しい物だ、それでも、あえて名前をつけるなら――

 「でも、今の言い方だと君にメリットが無いように聞こえるけど。」
 「――単純に、『善意』だけかい?それとも……」

……『殺意』だろうか、その方がしっくりくる。

 「君自身に『なにかあった』とか? ……さっき言っていたものな、『覚悟している事がある』って。」

864鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/05(木) 20:53:00
>>863

「そう言われると、面映いな」

拍手をされ、頬をかく。
学生の内からそういった経験を積む事は、自分の将来の夢にも関係していると考えている。
とはいえ、目標を掲げているだけでは意味がない。実際に人の助けにならなくては。

「鋭いな」
「いわゆる『善意』…と呼んでいいのか分からないが、恐らくそれが大半だ」
「けれど、もしキミがとある『情報』を持っていたり、これから入手する事があったら、オレに教えてほしいんだ」

顔だけでなく、上半身の向きを変え、斑鳩くんに向き合った。

「妹が『通り魔』に傷付けられた。オレはその『通り魔』を探している」
「…キミの『人生の目的』というのは何だ?」

こちらから何かを要求するなら、当然見返りが必要だ。
仮にこちらが得るものがなかったとしても、どちらにせよ斑鳩くんの力にはなりたいが。

865斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/05(木) 22:59:41
>>864

(『家族』か。)

まあ、彼のような人間を突き動かす物ならば、そう選択肢は多くないだろう
身内を傷つけられれば、猶更だ。

 (…………。)

 「理由なら……」

木々の隙間を僕は指差した

 「――もう見えてる。」

人差し指の示す先には、真っ白な四角い建物が、異物のようにそこにある
『アポロン・クリニックセンター』 それが、その建造物の名前だった

 「君の場合は『妹』だった、僕の場合は……」
 「『父』と『母』だ。」

聞かせろと言ったのは君の方だ、曲がりなりにもそう言ったのなら
僕の運命に巻き込まれても、文句は言えない。

 「SF(サイエンス・フィクション)の作品に、こういう台詞が有る」
 「『大半の医者がドラッグストアの棚に並んだが、未だに幅を利かせているのが、精神科医だ。』」
 「僕の両親は、僕を見ても、清潔なシーツの上から身じろぎ一つせず、息子だと認識しない ……知ってるかい?」

『鉄 夕立』に、視線を向ける                       Lost Identity
その瞳は氷のように冷たく、水晶のように透き通っている、そして、『なにもない』。

 「両親の声を忘れるには、5年もあれば十分なのさ。」

足を組み替える。

 「それで、なんだったかな えーと……そうそう」

わざとらしく忘れたふりをしながら、彼の台詞を思い出す

 「『助けになりたい』……だっけ?」

言うのは簡単だ ――『覚悟』はあるのか?

866鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/05(木) 23:43:30
>>865

> 「君の場合は『妹』だった、僕の場合は……」
> 「『父』と『母』だ。」

身動ぎ一つせずに、静かに耳を傾ける。
同じだ。彼も何かによって、家族が傷付けられている。
─────尚更、共に戦いたい気持ちになる。
しかもその様子からすれば、彼の両親はまだあの白い病院の中にいるのだろう。

「…そうか。キミの両親の場合は、『心』が傷付いてしまったのか」

自分の妹、朝陽(あさひ)も未だにトラウマは残っている。人混みに対して忌避感があるのだ。
しかし、斑鳩くんの両親はその程度ではない。─────全く反応がない。それは家族として、どれだけの辛さがあるだろう。
思わず、膝を握る手に力が籠る。

「つまり、両親の心を治せる人を探している…そういう事でいいのか?」
「通常の手段では、治せる見込みはない、とも」


鉄夕立は、その冷たい瞳を真っ向から見て、逆に確認をした。
家族の事ともなれば、彼にとって踏み込まない理由にはならない。
改めて問いかけた斑鳩に対し、間を置かずに即座に言葉を紡いだ。

867斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/06(金) 00:27:32
>>866

 「実行可能な手段は全て試したよ ……結論は『50年後には治療可能かもしれない』」

実行可能、5年前の僕にとってはかなり意味合いが広い言葉だ
少なくとも、『私』に比類すると思える才能は、医学界を見ても見当たらなかったのだから
今、再計算すれば数年は短縮できるかもしれない ……それでも意味がない

 「『方法は見つかりました、患者が老衰で死んだ後で』……意味無いだろう?」

視線を戻す、この椅子に座ってからずっと見ていたあの場所に
あそこに僕の愛する両親がいる。

 「――『奇跡』が欲しいんだ、その一端はもう見つけた」
 「後は探すだけだ、それが例え、砂漠の中で砂金粒を拾い上げるような行いだったとしても。」

自分の奇跡がそうでは無かった時は失望した、それでもあきらめる理由にはならなかった
……遠くからエンジン音、バイク5台、大型も混じっている

 「両親が、愛する父と母が倒れたのは、僕が原因なのだから。」 
 「『例え何をしてでも、必ず見つける 弱音を吐いて立ち止まっても、絶対に諦めない』 ――そう決めたんだ。」

おそらくボーイズギャングだろう、僕の方の客だ
まだ距離は有るが……『協力』の、『お礼』だろう。

 「――それで、聞きたい事は終わり?」

868鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/06(金) 00:39:10
>>867

> 「実行可能な手段は全て試したよ ……結論は『50年後には治療可能かもしれない』」
> 「『方法は見つかりました、患者が老衰で死んだ後で』……意味無いだろう?」
> 「――『奇跡』が欲しいんだ、その一端はもう見つけた」
> 「後は探すだけだ、それが例え、砂漠の中で砂金粒を拾い上げるような行いだったとしても。」
> 「両親が、愛する父と母が倒れたのは、僕が原因なのだから。」 
> 「『例え何をしてでも、必ず見つける 弱音を吐いて立ち止まっても、絶対に諦めない』 ――そう決めたんだ。」

「全て、承知した」

深く頷く。
やはり現実的な手段では方法がない。しかし、それ以外の手段がある事を自分は知っている。
『スタンド能力』。
あらゆる現実を塗り替えるこの『超能力』ならば、彼の両親の心が壊れてしまった原因を取り除く事ができるのではないか?

「オレも『奇跡』を知っている。いや、正確には持っているんだ。…だが、オレのはキミの両親を治せるようなものじゃあない」
「しかし『奇跡』には幾つか種類がある。もしかしたら、その中にはキミの両親を治せるものがあるかもしれない」

あるいは、その口振りからして既に知っているのか?もしくは、既にその『奇跡』を持っているのか?
どちらでも構わない、彼に向けて握手を求めるように手を差し出す。
斑鳩くんが同じように手を出してきたら、『シヴァルリー』を発現。彼の手を握らせる。
これで『スタンド使い』でなかったとしても、『超能力』そのものは信じてくれるかもしれない。

「オレも探すよ」「『精神に干渉できる能力』…必要なのはそれだな」
「…オレの知り合いには、未だそんな人間はいないけれど。何か情報を掴んだら、必ずキミに伝えよう」

遠くから聞こえるエンジンの音をチラリと見るも、そして斑鳩くんの方を見て、ハッキリと断言する。

869斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/06(金) 01:27:04
>>868

 「それこそ口先だけでも有難いよ。」
 「代わりにこちらは通り魔の情報を、君みたいに勤勉には無理だけど。」

微笑みながら
差し出された手をとろうとして――

 「……それにしても、君、詐欺とかには注意した方がいいな」
 「僕にとっては人が好過ぎる。」

手を戻し、席を立つ
音の方を見れば、もう視界に入ってきている

 (この状況で握手とかしてると、彼も標的に入りかねないな……まったくタイミングが悪い。)

大型に二人乗りしてるのが1、他が4、計6人 顔はヘルメットで解らないが、少なくとも運転に『金属バット』や『バールのようなもの』は必要ないだろうに
それにしても……マフラーに何かしら手を加えたのだろうが、五月蠅くて仕方がない。

――そうそう、忘れない内に、彼に顔を向けて言伝を

 「鉄(クロガネ)、君、早く逃げたほうがいい 関係ないからね」
 「――君が怪我したら、妹さんが悲しむだろ? また学校で。」

 「それと……お話、有難う、それじゃ」

視線を戻す、笑顔を作る時間は終わりだ。

――さて、『俺』の出番か?
連中は半月状に包囲を縮めてきている、彼我の距離は一番近い奴から約10m
武器持ちが2、無手が4、メリケンサックかナイフくらい隠し持ってるかもしれないが、生憎解らない
一番近い奴が『俺の女』だの『小指の礼』だのと喚いているが、俺としちゃあどーでもいい事だ

大体、手前の地位で俺の女になれとかほざいて、女に断られて逆切れして……心底ダセェムーブかましたのはテメーだろうに。

――斑鳩が手首を振るう
その腕に、半透明の鎖が無数の蛇のように 渦を巻いて絡みつき始めた。

870鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/06(金) 01:39:20
>>869

音が近付き過ぎている。
握手を途中で止め、立ち上がった斑鳩くんも『無関係』ではなさそうだ。
周囲を確認すると、改造バイクに乗った暴走族のような連中が乗り付けていた。
穏やかではないな、そう思った。

「一応訊いておきたいんだが、やはり『被害者』はキミの方だな?」

斑鳩くんに訊ねながら、背中の竹刀袋から『竹刀』と『鍔』を取り出して、装着する。
もちろんこれでこの連中と戦うわけではない。
相手に武器を誤認させるため、あるいは敵の武器が防ぎ切れなかった時の防御用だ。
こいつらとやり合うための武器は、隣に立つ彼と同じ。

「…やはりキミも」「『スタンド使い』」

斑鳩くんの手首に巻かれた鎖を見ながら、呟く。半ば予想していた事だが、それは確信に変わった。
そして、暴走族のような連中に向き直り、『シヴァルリー』を正面に立たせた。
人生で初めてのケンカになるが、ひどく落ち着いているのが分かる。
あのビルで命を懸けてやり合った事に比べれば、さほど大した事はない。

871斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/06(金) 02:37:57
>>870

残念な事に、どうやら『俺』の出番は今回ないらしい ちえっ
それというのもクロガネ?とか言う野郎が、逃げずに竹刀を構えたお陰だ どうやらやる気のつもりらしい
流石に俺が出て行って残虐ファイトかました場合、どう不利益を被るかっていうのくらいは想像がつく

 「……ああ、どうにも話が噛み合わないと思ったら、後輩から聞いてなかったのか?」

喧嘩は1人を連中がどん引くくらいボコボコにして、『次はテメェか?』と言ってやるのが一番早いんだが
こうなるとやり方を穏当に……『半分くらいぶちのめす』か、『武器持ちを即座に潰す』事だ
今度は両手の小指だな、骨折が治って病院から出てくる頃には頭が冷えてんだろ たぶん。

 「――stand up『Lost Identity』」

腕に巻き付いていた鎖が、その一言で俺の前進に巻き付いていく
瞬きの合間に、俺の全身は銀の鎖で覆われている……『纏うタイプ』の『スタンド』
俺の悩みから生まれた、もう一つの俺達、縋るべき奇跡の一つ。

 「それが僕のもう一つの『名前』だよ、『スタンド使い』の 鉄 夕立 君。」

クロガネの『スタンド』は未だに見えない、『器物』『近距離パワー』…あるとしたらそのどちらかか、『自動操縦』だろう
単純に、他ヴィジョンが見えないのと、他なら距離がある内に発動しておいた方がいいからな。

 (さて、応用のその一。)

チンピラ…まあボーイズギャングの質の悪いほうは、どうもクロガネが竹刀を構えたのをみて興奮してるらしい
さて、そんな感じにカッコつけてる合間に、連中が距離を『5m』まで詰めてきて……

 (『5m分』の鉄球2つを手の内に これで充分。)

『武器持ちの二人』だけが近づき、彼我の距離『3m』切ったところで、奇声を上げ、『走りながら得物を振り回してきた』
俺に向けては上段からの振り下ろし、クロガネに向けては大振りかつ中断からの薙ぎ払い 双方隙だらけ。
他の4人は俺達を逃がさないように、俺達から『5m』の地点でヘラヘラ笑っていやがる、さて……お手並み拝見だな。

勿論、チンピラの話じゃない 鉄 夕立の話だ。

872鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/06(金) 02:50:30
>>871

「三枝さんから?いいや、キミが抱えていた目標の他には何も」

どうやら彼が狙われる理由は三枝さんも知っているらしい。
とはいえ、あまりそういった危険な物事については話したくなかったのか、彼女から伝えられてはいなかった。
もし伝えられていたとしても、行動は変わらないかったろうから一向に構わないが。

「『ロスト・アイデンティティ』」
「『スタンド』を…『鎧』のように身に纏う」「初めて見るタイプの『スタンド』だな」

斑鳩くんと話している間に、謎の暴走族が得物を振り回して襲いかかってくる。
こちらを狙う間合いは確かだ。竹刀に比べれば速度は遅いが。
─────もっとも、こちらを狙って踏み込んできている時点で勝ち目はない。
既にそこは、前面に構えさせた『シヴァルリー』の射程の中なのだから。
右の拳で得物を叩き落とし、左の拳で鳩尾に一撃を叩き込む。パス精BCB
『不可視』で、かつ膂力も精密性も優れた人型に勝てる人間はいないだろう。

873斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/06(金) 03:13:16
>>872

残った4人の反応は様々なもんだった
笑みがそのまま引き攣ったように変わるヤツ、顔色が白だの青だのカラフルになるヤツ
共通点は総じて無様だって事くらいだ……まあ無理もねぇが

何せ一人は突然武器を手落とし、呆然として何が起こったのか理解する前に、体がくの字に曲がったかと思えば
震えながら地面に倒れて気絶するし。

 「――あ、そう?」

もう1人は俺の隣を通り過ぎた、と思えば
全身が鎖で武器ごとぐるぐる巻きになって、地面に倒れ込んだんだからな。
そして何かを言う前に、『僕』の奴にヘルメットごと踏みつけられて動かなくなった

 「三枝ちゃんも、『スタンド使い』だったし、僕もそうだと見せていたし……もう僕がそうだと知ってるのかと思って。」

『僕』が何をしたか?
振り下ろしてきたのを避けざまに……『鎖の塊』である鉄球を放り投げて分離しただけだ
そのまま慣性に従って、奴の全身を覆った鎖をそのまま結合、結果として残るのは……

 「それで話しかけてきたと思ってたんだけど。」

身動きできない『1/1チンピラメタルフィギュア』が一つ。

結果的に汗一つかかずに『運動』は終わって
青ざめた連中は蜘蛛の子を散らすみたいに逃げ始めた、あ、此奴ら連れてけよ。

 「……それで、ええと 何の話だったっけ 『助けてくれて有難う』?『巻き込んで御免』かな?」
 「イカした『スタンド』を見せて貰ったけど 名前を聞いても?」

874鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/06(金) 03:38:24
>>873

「『鎖』を自分に巻くだけでなくて、自在に操ったり、人に巻き付ける事もできるのか」
「『応用力』が高そうな『スタンド』だ」

鎖というのは頑丈で、そして『拘束力』が極めて高い。殺さずとも敵を無力化できる、いいスタンドだと思う。
ふと、この前ここで塞川さんと話していた事を思い出す。
『スタンド』が本体の内に潜む精神性を表すなら、彼の『鎖』には一体どんな意味があるんだろう?
しかし、そんな疑問は彼の次の言葉ですぐに消え失せた。

「─────『スタンド使い』?三枝さんが?」

それは初めて聞いた話だ。
もちろん、有り得ない話ではない。だがあのような子が、争いを嫌う子が、『スタンド』に目覚める。
そういう事もあるのだろうか。そもそも、彼女も自分と同じように『スタンド』を求めたのだとしたら、
そこには理由があるはずだ。それは一体、何なのだろう。

「…そうだったのか」

ひとまず、納得する。どちらにせよ、三枝さんに直接訊ねなくては分からない。
斑鳩くんに名前を聞かれ、答える。

「『シヴァルリー』。オレに『スタンド』を目覚めさせてくれた人は、そう名付けてくれた」
「それと、謝罪や感謝はいらないよ。これはオレがしたくてやった事だからな」

ああいったタイプの人間は、一度反省して痛い目を見るべきだろう。
でなければ、また無関係の人間が巻き込まれてしまう可能性がある。
去りゆく連中を見ながら、できれば二度とこんな事をしないことを願っている。

875斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/06(金) 21:50:52
>>874

 「そう見えたなら、多少は扱いが上手くなったのかな。」

茶化すように肩を竦める。

 「それでも、隣の芝は青く見えるもので その純粋な『人型』のパワーは憧れるんだけどね」

(『俺』が同じことをしようとすると、パワーの3分の1使って木端微塵かどてっぱらに穴が開くからな いやぁ剣呑剣呑。)

全身の鎖を解除すると、足元のチンピラも元の姿に戻った
これはこのまま放置でもいいだろう それで困る奴もいないし、もう一度くるガッツがあるなら大歓迎
人は逆風の中でこそ成長するのだから、吹かないのなら自分で吹かせるしかないだろう。

(しかし、あの後輩は彼に言ってなかったのか ……やっべ。)

 「ま、確認は好きにしてくれ(僕に飛び火すると困るけど) ほら、僕の見間違いの可能性も有るし?(那由多の彼方くらいの確率で)」
 「あの時も今みたいに騒がしかったしネ!(嘘ではない、確認はその前だが)……でも女の子なんだから、隠し事のひとつくらい許してやれよ?」

(……取り合えずコレで彼女が嘘ついても、僕の見間違いの線で行けるかな、うんイケるイケる。)

 「ほら、『女の子は秘密を着飾って美しくなる』って言うだろ?(本来は浮気を皮肉って言う言葉だけど、追及激しくされると遠因で僕が困るし)」

無闇に相槌を打ちながら断言する、これで予防線はバッチリだ
こういうのはデリケートな問題である、それくらいの問題は解る機敏がこの元天才にもあった。
単に彼女がうっかり言ってないだけの問題であることを切に願った。

 「――それじゃ、ほら」

懐から本用の栞を一枚とり出し、鉄の胸ポケットに差し込む

 「それに僕の『電話番号』が書いてある、何か問題が出てきたら呼んでくれ」
 「余り余裕は無いけど、今の君みたいに、僕も『したくてやる』かもしれないからな『シヴァルリー』。」

 「あ、一緒にナンパに行きたい時は大歓迎だよ……荒事は苦手だからね。」

ウインクを一つやってこの場を去ろうとする
……中々、有意義な時間を過ごせた。

876鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/06(金) 22:38:11
>>875

「成る程、そういうものか」
「『人型』はリーチに優れ、一般人に対して悟られずに動ける利点はあるが…
 やはり本体という『脆弱性』は明確な弱点になるからな。その点、キミのタイプならその心配はなさそうだ」

斑鳩くんの言葉に頷く。
彼の言う通り、三枝さんが言いたくないのであれば、無理やり問い詰めるつもりはない。
出来る限り、やんわりと、さり気なく訊ねてみよう。…自分にできる限りで。

「ああ、感謝する」「…斑鳩くんは人の名を『スタンド』で呼ぶのか?」
「確かにそれも『コードネーム』みたいでカッコいいが…」

自分も非常時は彼のことを『ロスト・アイデンティティ』と呼んだ方がいいだろうか。…悪くない。
受け取った『電話番号』を取り出し、スマホからその場でワンギリの要領でかける。
これで彼のスマホにもこちらの番号が表示されただろう。

「こちらは『荒事』は比較的得意だ。キミに『仁義』のある戦いならば、呼んでくれ」
「…ナンパの方は、その…申し訳ないが、力になれないからな…」

俯いて力なく答える。初対面の女性とまともに話せたことなど一度もないからだ。

「ああ、ありがとう斑鳩くん」「お互いに気を付けて。また今度」

去り行く彼に手を振って、自分は素振りをする所定の位置へ付く。
同じような境遇の『仲間』が増えたことは、とても心強い。同学年だし、彼は男性だ。
頼りになる友人ができたこの出会いに、感謝をしながら素振りを始めた。
…倒した暴走族の人間は、トラブルに巻き込まれない限り放置しておこう。

877斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/03/06(金) 23:46:54
>>876

 (……そろそろ、今日は諦めようと思ってたんだ。)
 (後輩から『スタンド使い』だと聞いた以上、重力に引かれて何時かは出会うかもしれない、そう考えて歩いていたから。)

背後の声に軽く手を振って歩き出す
落ち葉を踏みしめる音も、そろそろ聞けなくなるだろう

 (思惑通りに『偶然』会えたわけだ、おまけに『善性』であの境遇なら僕に多少なりとも同情するだろう……とは考えた)
 (ここまで自分に都合がいいのは想定外だけど、彼の人柄と、その友人になる事で信用を得られるメリットは大きい、ならば精々利用させて貰う。)

イヤホンを再び耳につけ、再生ボタンを押す
ドビュッシー作曲の『月の光』が耳に響きだす、優し気な美しい旋律が僕の視界を歪ませる

 (自分の命は犠牲に出来ない、両親から貰った数少ない一つなんだ、出来るわけがない ……だけどね)
 (他人の命は勘定に入れない 関係無いとも言わせない 僕から両親を奪ったのは、お前たちの作り出した『規範』なんだからな。)

冬の帰り道、寒空の下でふと考える
……僕の帰る場所は何処にあるのだろう、と。

878夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/03/14(土) 19:28:50

ある晴れた日の午後。
芝生の上にうつ伏せに寝そべり、
食い入るように何かを見つめていた。
視線の先には、一匹の小さな虫がいる。
それは、指に乗るくらいの大きさの『カマキリ』だ。
鎌を舐めて手入れしているらしい。

      ジィィィィィィィィィィ〜〜〜〜〜ッ

こうして観察を始めてから、かれこれ30分程が経過していた。
しかし、まだまだ飽きそうにない。
『色』、『形』、『動き』――
その全てが『アリス』の好奇心を強く掻き立てる。
コイツも『いいかげんどっかいけよ』っておもってるかも。
でも、もうチョットみてたいキブンだ。

             スススッ……

「――――おん??」

そうこうしていると、ヤツがうごきはじめたぞ。
ドコにいくのか、つきとめねばなるまい。
ワレワレちょうさはんは、ただちにツイセキをこころみた!!

             ズズイィッ

移動を開始したカマキリの後方から、匍匐前進で追跡する。
こっちのアングルからみたフォルムも、
なかなかアジがあるじゃないか!!
『カマキリのうしろすがた』っていうコトワザもあるしな。
『めだたないけど、じつはイケてる』っていうイミで。
イマつくった。

879鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/17(火) 02:15:55
>>878

「・・・・・・・・・・」

いつもと同じように、自己鍛錬のために竹刀袋を肩にかけて訪れた『自然公園』。
そこで、見慣れた姿を見かけた。
もっとも、その彼女が取った行動自体は全く見慣れていないものだったが。
公園の芝生で匍匐前進をしている女性を見たのは人生初めてだった。
記念にスマホで撮影しておくべきかと思ったが、無断で動画を撮るのは失礼だと思って流石にやめておいた。

「(アリスは何をしているんだ…?)」

周囲に他に人がいないか確認して、ゆっくりとその少女、夢見ヶ崎明日美へと近付く。
色々と奇天烈な行動をする事も多いが、流石にこれは何らかの理由があるだろう。多分。
声に出して訊ねてもいいのだが、何かに集中しているのならば、邪魔をするのも申し訳ない。

880夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/03/17(火) 16:17:07
>>879

近くまで寄ってみると、草陰で何かが動いているのが見える。
小さな『カマキリ』だ。
どうやら、それを追いかけているらしい。

    ズズッ ズズッ ズズッ

もし『ドクター』をだしてたら、
ちかづくダレカに『オト』できづいたかもしれない。
しかし、イマはだしてなかったようだ。
ウンがよかったな。
どっちみち、『ミチのセイブツ』にシュウチュウしてるから、
タブンきづかんかったけど。
イマこのしゅんかん、わたしにはコイツしかみえない!!

             ズズッ ズズッ ズズッ

なおも芝生を這い進み、『未知の生物』――
『カマキリ』を追いかける。
そもそも『カマキリ』というもの自体を見た事がなかったのだ。
存在は知っていたが、実際に目にしたのは初めてだった。

881鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/17(火) 22:00:35
>>880

(ああ、カマキリか)

そこまで物珍しい生き物ではないが、彼女にとってはそうではないのだろう。
故に彼女の旺盛な好奇心が、そこの小さな生き物へと向いたとしても何らおかしくはない。
そのカマキリにとっては少々迷惑かもしれないが、そこは甘んじて受けて頂きたい。

(この状況では声をかけるのも躊躇われるな)

観察に集中しているアリスは、接近するこちらに気付く素振りはない。それに声をかけると、驚いたカマキリが逃げ出してしまうかもしれない。
結局、自分もアリスと同じことをする事にした。カマキリと、それを観察している様子を。
幼い頃と違い、自分は虫を見る機会など最近はほとんどなかった、久し振りに見るのも面白いかもしれない。
顎に手を当て、上体を折り曲げる。

…一匹の虫と、それを匍匐前進で追いかけるアリスと、更にその後ろから
両者を観察している男というのもかなりシュールな気がするが。

882夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/03/17(火) 22:43:22
>>881

それは、あまりにもシュールな光景だった。
もし第三者が通りかかっていたら、
間違いなく足を止めていただろう。
クロガネくんのうしろから、またベツのダレカがみてたら、
もっとオモシロいのに。
そのうしろから、さらにまたベツのヒトが……。
そんなカンジでドンドンひろがっていったら、
きっとセカイがヘイワになるとおもうぞ。

          〜〜〜♪

「――――あ、ナンカきた」

        ゴソ

不意に、スマホの着信音が鳴った。
ポケットから取り出して、這いずる姿勢のまま通知を確認する。
その間に、カマキリは少しずつ遠ざかっていく。

「ん??ん??ん??」

      キョロ キョロ キョロ

やがて辺りを見渡すが、カマキリの姿がない。
どうやら見失ってしまったらしい。
仕方なく起き上がり、両手で服の汚れを払い落とす。
しかし、アリスはあきらめないぞ。
こんかいはにげられてしまったが、
ワレワレはこんごもチョウサをゾッコウする!!

       クルッ

決意を新たにし、おもむろに振り返った。
すると、そこに『クロガネくん』がいるじゃないか!!
さっきのアイツにはニゲられたし、いいタイミングだぜ〜〜〜。

「よう、ようようよう――――」

「ようようようようよう、クロガネくんよ。ゲンキかね??」

     ツカツカツカツカツカ

声を掛けながら、距離を詰めていく。
クロガネくんも、さっきのヤツにまけずおとらずオモシロい。
アリスの『ターゲット』がヘンコウされたシュンカンだ!!

883鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/17(火) 22:55:04
>>882

と、アリスのスマホに通知が来たようだ。
彼女がそれに気を取られている内に、小さなカマキリはこれ幸いと、あっという間に逃げ出していく。
生い茂る草の中に身を隠した直後、アリスが再び顔を上げた。完全に見失ってしまったようだ。
彼(彼女だろうか?)は上手くやった、達者に生きてほしい。

その場から去ったカマキリの事を思っていると、おもむろに少女は立ち上がった。
まあ目的と思わしき観察を終えたのだ、そうなるだろう。
さて、何と声をかけようかと考えていると、いきなり彼女が振り返った。

「こんにちは、アリス」「オレは相変わらず、無病息災だ」
「どうでもいいが、『よう』が多いな。…キミも元気そうで何よりだ」

その顔を見て、挨拶をかわす。そして目線を逸らし、地面を見た。
相変わらずぐいぐい来る少女だ、だが決して不快ではない。
…むしろ黙って様子を観察していた男の方が、不快と思われても仕方ないが。
あまりに面白そうだったので、ついやってしまった。

「『カマキリ』はどうだった?」

884夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/03/17(火) 23:37:14
>>883

「ほうほう、アレがウワサの『カマキリ』か!!
 やっぱりナマでみるとちがうな〜〜〜!!
 いや〜〜〜『イイ』!!『イイ』よ〜〜〜うんうん」

「あんなのがいるなんてフシギだよね〜〜〜。
 だって、『こんな』だよ!!『こんな』!!
 これはセカイテキハッケンだな!!スゴイもんだ!!」

   ササッ

興奮した口調で熱っぽく語りながら、
両手を持ち上げて『カマキリのポーズ』をしてみせる。
この世界には、まだ見ぬ『不思議』が溢れている。
それを考えるだけで、胸がときめく。

「――――ま、ソレはおいといて……」

      ザッ

「クロガネくんさぁ〜〜〜」

           ザッ

「さいきん、ナンカおもしろいコトとかなかった??」

                ザッ

一歩ずつ足を踏み出し、さらに近付いていく。
その視線は、目の前の相手に真っ直ぐ向けられている。
口元には、悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。

885鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/17(火) 23:53:32
>>884

「そうだろう。カマキリのあの独特な動きは、遥か古代から『中国拳法』にも取り入れられた程だ」
「ただ、もし今度その『卵』を見つけても家には持ち帰らない方がいいな。それで友人が酷い目に会った」

心底楽しそうに『カマキリ』の事を語るアリスに、こちらも思わず笑みがこぼれる。
見慣れたものにも改めて価値があると再確認できるし、何より友人の幸せそうな姿は心暖まるものだ。
この世界は彼女にとって、まさに『ワンダーランド』なのだ。どんどんと面白いものを見つけてほしい。
などと一人感慨に耽っていると。

>      ザッ

>           ザッ

>                ザッ


「いや、待て」「この距離でも声が聞こえるんだから、それ以上、近付く意味は、ないと思うんだが」

接近する彼女に、両手を小さく上げながらゆっくりと後退する。とはいえ速度があまりに違うが。
何度かの遭遇でアリスに慣れてきたとはいえ、精々先程のように一瞬目を合わせるくらいだ。
まだ、あまり近付かれると、その、困る。耳が熱くなってくるのを感じる。
ひとまず彼女を納得させるワードを何か出さなければ。

「しかし、面白いことか…」「ああ、面白いことかは分からないが、最近共に協力し合える友人ができたんだ」
「オレと同じ学年の、斑鳩翔くんと言うんだが…見た事はあるか?」

886夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/03/18(水) 00:34:31
>>885

「まあまあ、そうエンリョしなさんなって。
 おたがいに、もうチョイしんぼくをふかめていこうぜ??
 たのしいコトはミンナでわけあうと、
 もっとタノシクなるからさぁ〜〜〜」

      ザッ

前進と後退では、やはり前進の方が早い。
二人の距離は、だいぶ近くなっている。
さらに近付こうとした時、
『知っている名前』が出てきて足を止めた。

「『イカルガショウ』??
 ああ〜〜〜イカルガのショウくんか!!
 しってるしってる。いろいろオモシロいヤツだよね〜〜〜。
 ミョーにナゾっぽいっていうか」

「ナツごろにさそわれてさぁ。
 いっかい『デート』したコトあるぜ!!
 さいしょ、ただのシャレだとおもったのに、
 マジだったからビックリしたな!!
 いや〜〜〜アレはオモシロかった!!
 あ、『シャシン』みる??」

返事を待たずに、スマホの画面を見せる。
そこには、『夏祭り』の時に撮影した写真が表示されていた。
屋台の群れを背景に、青い浴衣姿の夢見ヶ崎が写っている。

「ショウくんが『ユカタきてこい』っつったから、
 ワザワザきてきてやったんだよな〜〜〜。
 まあ、たのしかったからイイけど!!」

887鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/18(水) 00:55:21
>>886

「あぁ、確かにミステリアスだな…一見話しかけ辛そうだが、話してみるととてもいいヤツだった」

知っているのならば話は早い。
確かに彼はクール、あるいはミステリアスという言葉が相応しい。
どこか言葉も選んでいるような雰囲気もあるし、よく言う一般人とは一線を画すオーラがある。
それも彼の事情を顧みれば、致し方のない事だが。もちろんこの場でそれを話したりはしない。
既にアリスも知っているかもしれないが、そうでない場合の事を考えて─────。

「─────え」

思わず、再度アリスの顔を見てしまった。
『デート』というのは、その、男女が二人で出かける、それなりに親密な関係で行われるアレの事だろうか?
斑鳩くんの方から誘ったという事は、斑鳩くんはアリスに満更ではない、という事なのか。
いや、彼の去り際のセリフからすると、結構なプレイボーイであり、そこまでではないのか。それとも本名なのか。
それに、アリスも応じた辺りからして、それなりに彼の事を気に入っているということか。
これは聞いてしまって良かったのか。これからどういう態度で接すればいいのか。
色恋沙汰に疎い自分は、何とも言えないモヤモヤと混乱が頭を支配していく中、唐突にアリスがスマホの画面を見せてきた。

「…これは」

どうやら『夏祭り』の様子だ。二人のデートはそこで行われたようだ。
青い浴衣に身を包んだアリスが、よくある屋台を背景に、楽しそうにしている。

「…綺麗だな。似合ってる」

やはり和服は良いな、と個人的な感情は胸に秘めつつ、楽しそうな彼女も微笑ましく眺める。
彼ら二人の思いがどうであれ、それが楽しかったなら何の問題もないだろう。
そこに自分が気を揉む必要はない。頭がスッキリして、落ち着いてきた。自分の胸に手を置く。

「楽しんだみたいだな、夏祭り。キミも彼も、無事で良かった」

ああいった人が集まる場所には、良くない輩も狙いやすい。
最近こそ落ち着いているが、いつまたあの『通り魔』が現れないとも限らない。

888夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/03/18(水) 01:30:02
>>887

「うんうん、いいコトバだ!!
 まったくクロガネくんは、ヒトをほめるのがウマいな〜〜〜。
 スエは『そうりだいじん』か??
 このよわたりじょうず!!」

何だかんだ言っても、褒められて悪い気はしない。
素直に喜び、上機嫌で明るく笑う。
しかし、マジメに言われると、少々照れが入る。
実のところ、この笑いには若干照れ隠しの意味もあった。
顔を見られていなかったのは、運が良かったのかもしれない。

「まあ、そのあとはコレといってなかったけど!!
 あ、そういえば『バレンタインチョコ』あげたんだった。
 『てづくり』で。
 やっぱり『アリス』としては、
 そういうイベントはみのがせんからな〜〜〜」

あれには、謎めいている彼の反応を探るという目的もあった。
しかし、一番の理由は『季節のイベント』に乗りたかったから。
要するに、『一石二鳥』狙いというヤツだ。

「『ブジ』??そうそう、ブジブジ。イマもピンピンしてる。
 ほら、ウデもアシもアタマもくっついてるし」

「まあ、もしヘンなヤツとかいてもダイジョーブ。
 ワタシがぶっとばすしな!!」

そう言いつつ、やたら自信ありげに胸を張る。
その根拠は、もちろん『ドクター・ブラインド』だ。
スタンド使いとして、『実戦』を経験したという自負もあった。

889鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/18(水) 01:47:40
>>888

「うぅむ。褒める、と言うのもなんだか不思議だ」
「美味しい料理を食べた時に『美味しい』と言うのを褒めると称するなら、確かにそれかもしれない」

地面を見たままブツブツと呟く。
自分はウソや世辞はあまり得意ではない。それが人を幸福にするならともかく、
こういった事を自分に言われて喜ぶ人間がそうそういるとは思えない。
なので誰かを喜ばせるためではなく、綺麗、上手い、カッコいいなどは感じたままに言っているだけだ。

「あぁ、バレンタインチョコを。しかも『手作り』とは、気合が入っているな」
「しかし斑鳩くんはモテそうだからな。ライバルは多そうだ」

仮に彼女にその気がなかったとしても、『食べ比べ』としてのライバルという事だ。
ちなみに自分は家族、母と妹以外にもらった事は生涯ない。これからもそうかもしれない。
しかしそれは言わない。彼女に対して今更見栄もないかもしれないが、こう、最低限の誇りはある。
涙は心の中で流しておく。

「キミの事は信じているが、やはり『女性』だからな」「単純な力勝負では分が悪い」
「もし男相手に喧嘩になったら逃走を第一に考えて。それが無理なら、武器を持つか急所を狙って攻撃するんだぞ」

この前、ここの公園で斑鳩くんと共に暴走族のような連中と殴り合いになったのを思い出す。
『通り魔』以外にも、ああいう存在はこの街にいるのだ。
…しかし女性に対して護身法をレクチャーというのも、なんか、モテない理由はこういうのが原因なのかもしれないと我ながら思った。

890夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/03/18(水) 02:20:56
>>889

「まあね〜〜〜マジでねらうんならライバルおおいカモ。
 でも、ワタシもう『コイビト』いるから。
 すっごいミリョクテキで、
 ずっとイッショにいてもあきないんだよね〜〜〜」

「『このセカイ』っていうコイビトがさぁ〜〜〜。
 だから、ヒトリのあいてにしばられてられないってコト!!」

 アリス   ワンダーランド
『自分』は『この世界』に恋をしている。
特定の相手と付き合っている暇などないのだ。
少なくとも、当分の間は。

「あぁ〜〜〜たしかに『チカラ』はよわい!!
 さすがはクロガネくん、イイとこをついてくるな〜〜〜。
 するどいシテキだ!!ソコはヒテイしないぞ」

「あ、でも『ブキ』ならもってる!!
 チカラでまけるぶんは――『ココ』でカバーだ!!」

自身の頭を付け爪の先でつつきながら返す。
『ドクター』のパワーは人間より弱い。
しかし、その両手には鋭利な『爪』が備わっている。
それこそが『武器』であり、『能力の鍵』だ。
その『能力』には大きな自信があった。

「まあ、ベツになぐりあいとかしたいワケじゃないけど。
 ダレカをボコボコにするなんてシュミじゃないし。
 ジンセー、おたがいにたのしくなきゃね〜〜〜」

「――そういえば、ショウくんと『キョウリョクしあう』ってナニ??
 やっぱり『アレ』のコト??ほら、こないだの『アレ』」

ゲームセンターで会った時の事を思い出す。
その時、自分も『協力する』と言ったのだ。
あれから特に収穫はないが、多分その事だろうと思った。

891鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/18(水) 02:43:24
>>890

「…なるほど、それは確かに忙しいな」
「逆にキミの事を愛する人間は大変だ。文字通り、世界を敵(ライバル)に回すって事なんだからな」

実に彼女らしい言葉に頷く。この世界以上に魅力的な人物が、果たしてこの世界にいるだろうか?
世界を敵に回してでも。少女漫画で聞いたような台詞だが、アリスを捕まえるにはそれ相応の覚悟が必要なようだ。
もっとも、彼女はそんな出来事があろうがなかろうが人生を謳歌するだろうが。

「『頭』か。確かに戦略は大事だ」
「オレも相手の動きや得意技は常に頭に入れて動くが、限られた『ルール』の中の武道と違い
 路上の喧嘩は常に流動的だ。フィジカルで不利なら、そこが逆転の鍵になるだろうな」

アリスの動作の意図はそういう事だと思い、頷き下を向く。
しかしこの前は少数対多数故に『スタンド』を使ったが、やはり一般人相手に『スタンド』は過剰な暴力になりかねない。
…その暴力に飲み込まれないよう、自分も気を付けなければ。その点は塞川さんや立石さんにも指摘されている。

「全くその通りだな。争いなんてこの世からなくなってほしい」
「…誰も突然な悲しみに襲われない世界になってくれるなら、それに越した事はない」

アリスは世界を愛していると言った。しかし、自分は彼女ほどは胸を張れない。
特に妹の事件が起きた直後は、理不尽に彼女を狙った人間に、それを捕まえられなかった警察に、その場にいなかっと自分に、色々と苛立ってしまったものだ。
自分は少し時間をおいて頭を冷やせたが、今でもそれなり感情は燻っている。
…ならば、斑鳩くんはどうなのだろう?彼も、自分と同じく納得できているのだろうか。

「その通りだ。アリスと同じく、情報提供の関係さ」
「一人より二人、二人より三人だからな」

直接的な言及を避けるアリスに、やはり彼女も気を遣っているんだな、と優しさを感じつつ頷く。
恐らく、アリスも自分と同じくまだ手掛かりは得ていないだろう。あの警察から無事に逃げおおせているのだ、そう短期間で情報が手に入るものではない。

892夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/03/18(水) 18:52:11
>>891

「やっぱり『そっちカンケイ』なんだ。
 にんずうがおおいってコトは、
 『め』がおおいってコトだからな〜〜〜。
 『め』がおおいほうがみつけやすい。
 そりゃそーだ、うんうん」

『斑鳩翔』もスタンド使い。
そして、彼も探しているものがあったハズだ。
協力関係としては、ちょうどイイのかもしれない。

「ところでさぁ、クロガネくん。
 『れいのヤツ』をみつけたとするじゃん。
 そしたら、どうすんの??」

「まぁ、あいてしだいだろうけど。
 もしハンセーしてたら??
 それとも、ぜんぜんハンセーしてなかったら??」

彼の性格から考えると、『立ち向かう』つもりなんだろう。
前に聞いた『不可視の刃』の正体は間違いなく『スタンド』だ。
無力とは言わないまでも、スタンドを持たない人間が、
単独でスタンド使いに挑むのは無謀に近い。

「クロガネくんはどうしたいのかなって。
 アリスとしては、『みつけてからかんがえる』ってのも、
 アリだとおもうけど。
 あせってもイイことないし」

だから、遠回しに尋ねるコトにした。
『危ないコトをするのが分かっていて行かせた』というのは、
何となくキブンが悪いからだ。
せめて、『一人で行かせる』のは止めとくべきだろう。

「――クロガネくんは、タブンつよいんだろうけどさ」

そう言って、竹刀袋に目を向けた。
竹刀というのは武器にもなる。
しかし、さすがにスタンド相手じゃ分が悪い。

893鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/18(水) 21:10:25
>>892

>「ところでさぁ、クロガネくん。
> 『れいのヤツ』をみつけたとするじゃん。
> そしたら、どうすんの??」



「・・・・・・・・・・」

視線を上げ、アリスと目を合わせる夕立。薄刃にも似た、灰色の瞳が少女を見つめる。

「可能ならば、『法』の裁きを受けさせる」
「『警察』に知り合いがいる。その犯罪を立証できれば、何らかの手段で『見えない刃』にも刑罰を下せるかもしれない」
「───とは言え、その知り合いは先日『見えない刃』で斬りつけられ、意識不明だ」
「彼の意識が戻らないことには、この選択は不可能だろうな」

元々は、その『通り魔』は自分の手で裁くつもりだった。しかし塞川さんや立石さんと会って、それは危険な考えだと思い始めた。
反省していようといまいと、その処罰に自分が関わるべきではない。今ではそう思っている。
だが、『法』ではヤツを拘束できないのなら。そのまま野放しにするくらいなら。

「だから、少なくとも今はオレが決めるつもりでいる」
「…十分に反省して、二度と同じ事をしないと誓えるなら。その言葉を信じられるなら、そこまで手荒な事はしない」
「けれどそうでない場合は、マトモに表を出歩けないよう、『再起不能』になってもらう。
 とはいえ、やり合っている内にそこで止められない可能性もあるが、これに関してはオレも同じだからな」

もし殺してしまった場合、『スタンド』を上手く使って証拠を消せるだろうか?
『シヴァルリー』はそういう事に向かない、難しいかもしれない。
『墓穴』のような物を作り出せる『スタンド使い』と協力関係を結べたなら、非常にありがたいが。
流石にそれは、自分にとって都合が良すぎるだろう。

「負けるつもりはないが、勝負は何が起きるかは分からない。だからオレが失踪したら、そういう事だと思ってほしい。
 …ついでに妹、朝陽(あさひ)にオレは旅に出たとか、そう言ってくれるとありがたい」
「そもそも見つけられたと仮定して、の話だけどな」

犯人を探せなければ、全て机上の空論に過ぎない。直接刃を交えるよりも、その方が難易度が高いと思っている。

894夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/03/18(水) 22:19:00
>>893

「――――そっか」

灰色の瞳に宿る光に、強い意志を感じた。
だから、多くは語らない。
スタンドは法律ではどうにも出来ないし、
中には反省のカケラもない人間もいる。
実際、自分も『ロクでもないヤツ』に遭遇した経験があるのだ。
そういう場合は、『実力行使』しかないんだろうとは、
何となく理解していた。

「でも、『タビにでた』ってのはヤダね。
 そんなコトつたえるなんてオコトワリだよ。
 どんだけたのまれてもさぁ」

「これからのジンセー、
 ずっとソレをかかえていくコトになるじゃん??
 そんなのゼンゼンたのしくないし。
 ワタシにカタボーかつがせようなんて、おもわないでよね」

刃の輝きを秘めた瞳を見返し、ハッキリした口調で言葉を返す。
もし今、この申し出を承知したら、
それが一生心に残り続けるコトになる。
冗談じゃあない。
だから引き受けられない。
引き受けたくない。

「だから、ゼッタイもどってくるように!!
 ナニかするときは、ちゃんとワタシにもいうコト!!
 まえにヤクソクしたでしょ??
 『ジョーホーキョーユー』するって」

「あいては『バケモン』みたいヤツなんだぜ??
 ナニもいわずにヒトリでいくなんてマジでアブネーから」

「『ヒトリよりフタリ』、『フタリよりサンニン』――でしょ??」

895鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/18(水) 23:19:42
>>894

「…いや、確かにそうだな。アリスの言う通りだ」
「キミに負担をかけるような事を頼んでしまってすまない」

彼女の言葉に、成る程と頷く。何一つ非の打ち所のない、よく考えてみれば当然の道理だ。
冷静であろうとは心掛けているが、やはりあの犯人の事を考えると、つい熱が入ってしまうようだ。
もし実際に遭遇した時も、こうなってしまっては足元をすくわれてしまうかもしれない。
肝に銘じておこう。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

そして冷静に考えれば、ここで『絶対』などと言う言葉を使うのは不誠実だ。
これがどれだけ危険な行為なのか、自分も彼女も分かっている。
自分はウソが得意ではない。だから、ここで偽りの約束する事はできない。

───ならば、これを本当にするしかない。

「分かった。約束だ、オレは絶対に生きて帰る」
「それに犯人に会いに行く時は、必ずキミに連絡を入れてから行く」

宣言したからには、実行しなくては。それが矜恃というものだ。
これで差し違えてでも、などというわけには行かなくなった。
だが、彼女がこうまで言ってくれるなら、やる価値はあるだろう。

「民主主義の国らしく、犯罪者を『数の暴力』で圧倒してやるか」

軽く冗談交じりに呟いて、微笑む。

896夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/03/18(水) 23:51:59
>>895

「よろしい!!
 やっぱり、そうじゃなきゃあいけない!!
 うんうん、そのいきだ!!」

満足した様子で大きく頷いてみせる。
悲しい結末なんて望まない。
もちろん、そうなってしまう可能性は常に存在するのだろう。
だが、そんなものは知ったこっちゃないのだ。
アリスの物語には、『不思議』はあっても『悲惨』などない。

「『カイブツ』があいてだしさ。
 それくらいでちょうどいいハンデってヤツ」

「――だから、むしろ『コーヘー』だね」

      ニヤッ

微笑に対して、威勢よく笑い返す。
相手の『能力』には分からない部分が多い。
何よりも、敵を見くびっていいコトなど一つもない。
だからこそ、協力するコトには意味がある。
一人で挑まなきゃならないルールがあるワケでもないのだ。

「じゃ、カタいハナシはこのヘンにして……。
 クロガネくん、『レンシュー』するんでしょ??
 だって、『ソレ』もってきてるし」

「ワタシ、ちかくでみてるから。
 ジツは、まだ『ケンドー』みたコトないんだよね〜〜〜」

「だからさ、みせてよ」

    ザッ ザッ ザッ
               トンッ

軽い足取りで芝生を歩いていき、ベンチに腰を下ろす。
そこで見学するつもりらしい。
惜しくも逃してしまった『カマキリ』の代わりだ。

897鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/03/19(木) 01:03:56
>>896

正直に言ってしまえば、死ぬのは多少なりとも怖い。
家族を悲しませてしまうのも嫌だし、妹の将来を見たい気持ちもある。
しかしそういったのを犠牲にしなければ、平気で人を傷つけ殺すような『スタンド使い』には勝てないと思い込んでいた。
そうかもしれない。けれど、それは自分一人ならば、の話だ。
今の自分にはアリスと、斑鳩くんがいる。ましてや斑鳩くんは『スタンド使い』だ。
剣道は一対一だが、これは剣道とは違う。仲間を頼ってもいいのだから。

「(それに、色々な世界を感じで楽しそうにしているアリスも見ていたいしな)」

生き残りたい理由は、いくつ有ってもいいだろう。


「・・・・・・・・・・・・・・・いや、まぁ、構わないが」

何一つ面白くないぞ、と言おうとしたが、やめた。彼女にとってこれは好奇心の対象なのだし、
色々な世界を見ているアリスを見ていたい、というのは今言ったばかりだ。
がっかりさせるかもしれないが、まぁ物は試しだ。竹刀袋から竹刀と鍔を取り出して、柄に通す。
そして空になった袋をベンチにかけると、中段の構えを取った。

「────────」

見られていると集中できない、などというのは小学生の段階で終わる。
ただ一つ、理想の一本を決めるためにひたすら竹刀を振る事だけを考えれば、それ以外は何も気にならない。
素早く竹刀を頭上に掲げながら摺り足で前進し、後ろ足を引きつけながら、更に素早く竹刀を振り下ろす。
上半身は同じ動きで、今度は下がりながら再び竹刀を振り下ろす。
ひとまずは300本、『面』に集中して繰り返す。…これを彼女が気に入ったかどうかは、あえて訊かないでおこう。

898斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/04/01(水) 22:01:33
四月一日……『エイプリルフール』である。

エイプリルフールというのはつまり、『嘘をついていい日』の事である
イギリスでは『正午まで』という刻限が決められているが、それ以外では一日中行われている。
奇妙な事に、その起源は一切の謎に包まれているという…………。


 「――――『イカルガァァァア!ボンッバァァアアアア』!!!」

       チョドォォォーン!               ――ザァァァアアア
                  パァァアアア……

斑鳩の『スタンド能力』の応用、『鎖』を融合し『鉄球』を作成、内部の鎖を分離し、投擲 『鉄球』内部で『おしくらまんじゅう』の要領で上昇する圧力が外殻を破裂させる
投げ込まれた湖が爆発し、四散した飛沫が可視光を反射、4月の空に美しい虹をかけた。

 「……わぁ」 「まるで『嘘』みたいな威力だぁ。」

 ミズウミヲバクハシテニジヲカケル
断じて『こ う い う 日』ではない。

因みに僕は授業中にペン回ししながら思いついた必殺技、『イカルガボンバー(仮)』を試しに湖畔で実験していた。
『敵の眼前で思い付きの応用失敗して死亡』とか笑えないしね!でもちょっとこの威力は予想外だった。
ノリノリで中二病発症させながら名前を考えようと思ったら、どう考えてもやりすぎの力だった。『必』ず『殺』す『技』と書いて『必殺技』である。

 「……これは、封印しとこうね『スリーピング』 殺人とかチョット、非効率的だし。」

猫の耳裏を掻き、不気味なゴロゴロ音を聞きながら次の技を考えよう。

899斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/04/03(金) 20:52:22
>>898

 「正直、まじめにコレを考えようとすると頭痛くなるんだけどなぁ」

元がスタンド能力とかいう物理法則を無視した超能力である
それを起点に物理法則に則った現象を起こして攻撃なぞするから、どうしても勘違いと不明点が出てくる。
ネコを撫でながら一つの鎖を千切る…『鉄の輪っか』、これは自分から分離したので『実体化』していて物理法則に準じる。
この『鉄の輪』にもう一つの『鉄の輪』を融合させる…ロスト・アイデンティティのルールに則って連結器も無く融合し、2つが1つになる。
 
 「ここまではいいんだ、スタンドの能力内だし、これは物理法則に準じない」
 「問題は……」

一つになった『鎖』に触れ、融合した鎖を分離させる
すると『鎖』が2つに戻り、同じところに存在できない鎖が……

 「――ここだ」
 「本来あり得ない状態から、まったく時間をかけずに『スタンドのルール』から『物理法則』に移行する」

ここで鎖の状態を掴めなくなる、解れた鎖はどうなるのか?
1.『互いの原子同士がぶつかり合い、瞬時に圧縮された後にその圧力で吹き飛ぶ』
2.『互いの鎖が存在する空間の圧縮が引き起こされ、空間が元に戻る勢いで双方の鎖が吹き飛ぶ』

最初、斑鳩翔はコレが『クレイモア』のような
『火薬を使って内部の圧力を上昇、高圧に耐える構造の殻が耐え切れず破裂、その勢いで散弾を放つ』ような応用法である、そう考えていた
実際、火薬を用いる以外は間違ってはいない、問題なのは圧力の用意方法で『火薬』等の外部からの作用では無く『同じ場所にある物を、瞬時に同じ場所に存在できなくさせる』という物だ。

スマホを見る「……現実でそんな事起こせないから、参考に出来る実験記録がない」凄く困る。

1番から考えよう、細胞分裂時の映像を参考にすればいいだろうか、同じ場所にある細胞核が、中央から分断され、半月状になった双方がゆっくりと同じ形に戻る。
これと同じ事を起こしていると考えると…もし一つずつ分裂するなら、得に何も問題は無い、破裂時の威力はそこそこで済むし、圧力も外殻内の鎖の質量におおむね比例するような形で上昇するだろう
問題は、この分裂が『大量の鉄の輪』が『全て同時に分裂する』事に有る、1+1=2とか、2*2=4とかそういう勢いで圧力が増えない。『同時に分裂する鎖の数が増える程に同じ場所にある鎖を押しのける』のだから
一つ一つの鎖は当然、細胞核を分裂させるように縮小する、だが細胞核と違うのはそれぞれがそのサイズを保とうとしている点だ、必然的に一時的にとはいえ『無数の鎖が同位置に存在可能なように圧縮される』
そして酸素等の空気なら圧力を熱量などに変換させられるが、金属類は圧力を変換せず、そのまま圧力として扱う、その圧力は分離させる数でいっそ暴力的なまでに増えていく

 「……下手したら『衝突核融合反応』とか起こるかな、分離する中心の圧力がえげつない事になるよねコレ」

2番目はもはやSFの領域であり、そうなるという証明方法すらない。

 「……ハハッ」

遠い目でネコを抱き上げる、どうして猫はこんなに伸びるのだろう、カワイイナー
目の前で起こっている物理法則には欠片も可愛さが無い。

 「『音仙』さんに聞いたら全部教えてくれないかな…無理かな、あの人スタンド使いだけど物理学者じゃないし」
 「――なんもかんも同位置に鎖同士が融合するのと切り離したら実体化して物理法則に従うのが悪い。」

風の噂にアリーナというところで夜な夜な賞金を賭けてスタンドバトルが行われていると聞くが、自分が勝つための行動を考えるに……
そこの観客も『遠距離から一方的に片方が爆殺される様』とか見たくあるまい、僕は頭を抱えた。

 「いや待て、別に完璧に同位置に鎖が存在しないのだし、多少のズレさえあれば外殻に寄るにつれて圧力の差ができるのでは?」
 「…規模から考えると誤差かな、中心点の圧力がえげつない事になるの変わらないし」

ネコの顎下を優しく撫でてやると、さも気持ちよさそうに目を細める。

(…取り合えずひとしきり『外殻を維持しながら圧力融解させた内部金属を水鉄砲みたいに撃つ』とか、『融解した金属を収めた金属球の小さな穴から噴射し続けてヒートソード』とか、『靴底に圧縮爆破弾仕込んで高速移動』とか試してから帰ろう)

彼は慢心とは無縁である、何故なら慢心とは、自分以外の比較対象と自身を比べ『自分の限界』を知り、自分がそれ以上だと誤認する事により起こるものであるから。
このスタンドとその応用法の何処に限界があるのかを規定可能な比較対象が存在しないが故に。彼は慢心すらできない。
崖に激突して死ぬツバメが、宙返りの角度の危険の限界を親ツバメから教わっていないために、つい 無謀な角度で飛行して死んでしまうように。

900宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2020/04/12(日) 22:10:30

 生まれ育った町を飛び出して、『星見町』に引っ越して、はや数ヶ月が経過した。
 『大都会』というほどまで栄えてはいないが、『田舎』というほどに寂れてもいない。

 ここは、『いい街』なのだろう。

(せめて、『怪物』がいなけりゃあな)

 だが、眼鏡をかけた陰気な男子学生―――宍戸獅堂は、不機嫌だった。

(むしろ、『クソみてーな街』とかでもよかった……『怪物』さえいなけりゃあなァ……)

 獅堂の両目に重なるように発現した、もうひとつの眼球『グロテスキュアリー』。

 身近なものに『擬態』している『怪物』を見抜く、という無二の代物だが……
 その視界が与える、常識の埒外の視界のためか。
 神経質そうにあちらこちらを見渡しては、『波止場』や『ミミズの死骸』を睨みつけ。

 せっかくの『海浜公園』に、重苦しい溜め息を巻き散らしている。ちょっとした『公害』だ。

901中務千尋『エイミー・ワインハウス』:2020/04/12(日) 23:58:43
>>900

「あはー……ほんと、ヤバいなぁ……」

スマホを取り出し、ミミズの死骸の写真を取る女がいた。
オーバーサイズのパーカーを身にまとい、下はショートパンツらしい。
ミリタリーベレーを被って日の光を避けている。

「締め切りに間に合ったけど、自信ないなぁ……」

苦笑いを浮かべてふらふらと歩いている。

902宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2020/04/13(月) 00:29:28
>>901

「ヤベェじゃん……」

 鸚鵡返しのように口遊みながら、そんな女を見つけて立ち止まる。
 はた、と口元を抑えるものの、一度口に出した言葉は消えない。

 だが、ここまでの『役満』もなかなかないものだ。

 『ミミズの死骸』……に、『擬態』した『怪物』。
 何故か、それを『スマホ』に収めながら、何かをつぶやいている女。

(……とはいえ、なァ〜〜〜〜。
 あれくらい小物の『怪物』なら放っといてもいいんだろうが
 『万が一』ってのが起きちまったら、スゲー寝覚め悪りぃしなァ〜〜……)


「……あの、大丈夫スか」

 神経質そうな少年が声をかける。
 『何が』とは聞かない。

 自分が他人にどう見えるか、それくらいは分かっている。
 大丈夫、と応じられれば、そそくさと退散する構えだ。

(こんなんSSR不審者だろ……俺なら『ヒク』ね。100『ヒク』)

903中務千尋『エイミー・ワインハウス』:2020/04/13(月) 01:04:27
>>902

「……へ?」

「あ、いや……え、だ、大丈夫? 大丈夫……です、はい……多分」

急に声をかけられたのに驚いたのかわたわたと言葉を返す。
引いている、と言えばそうでもなく。
ただ困惑しているような雰囲気はあった。

「あーえっと。別に怪しいものじゃなくて……って、これ言う人大体怪しいか……」

「私は大丈夫、です。それで貴方は……」

904宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2020/04/13(月) 21:40:17

>>903

「あー、そうスよね……」

 見知らぬ他人の事情は知らない。
 口をはさむ義務も権利もないが、『大丈夫』というなら大丈夫なのだろう。

 問題は、時間を稼ぐための口実がない、というところだ。


 『グロテスキュアリー』。


 宍戸自身の眼球から浮き出るように発現する、もうひとつの眼球。
 緑色の視線が、『ミミズの死骸』を凝視する。

「俺? 俺は……『ボランティア』ッスね。『ゴミ拾い』の……」

 口から出まかせだが、ないよりマシだ。

「『公園』の景色、綺麗でしょ?
 でも、たま〜にポイ捨てする輩もいるみたいで……
 アンタも、要らないゴミとかあったら引き取りますよ」


 ……中務の足元では、『ミミズの死骸』が起き上がると、


(いなくなれ。いなくなれ。見えないくらい遠くに消えろ)


     ビクッ !
               ニュキニュキニュキニュキニュキニュキ……


 ミミズにあるまじき速さ(スB)で、逃げるかのように遠ざかっていく……。

905中務千尋『エイミー・ワインハウス』:2020/04/13(月) 23:17:45
>>904

「あぁ、なるほど」

「いや私は別にゴミとか……」

そういうものは持っていない。
カバンの類もないし、飲み物などと特にない。

「すごいんですね、ゴミ拾いとか」

「私は……そういうのしないし」

中務はそういうタイプではない。
悪人でもないし善人でもない。

「うわっ……」

その視線が逃げゆくミミズをとらえた。
肩がビクリと跳ねて、小さく声を上げた。

906宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2020/04/14(火) 00:40:54

>>905

「すごいって……『ゴミ拾い』が?」

 『ミミズ』の全長は、たいしたものではない。
 如何な猛スピードで動いても、視界の端に消えるまで、もう少しかかるだろうか。

「特別なことじゃないスよ。やらない方が賢くて、たぶんフツーです」

 宍戸の定規は、善悪ではなく、損得だ。
 中務の評価に、不思議そうに首を傾げている。

「俺も……、別にやりたいわけじゃあ、ないし。
 ただ、『視界』に入ると、どうしても気になっちまうってだけで」

 自分の生活圏に、どれほどの『怪物』がいるのかを見回る。

 その挙句、どうしても気になっては、こうして排除しているのだから、
 この湖畔に訪れたのも、『ゴミ拾い』のようなものと呼べるだろうか。


「……キモ速かったなぁ、あのミミズ。
 覚えてたら夢に出そうだし、さっさと忘れた方がよさそうスね!」

 同意を求めるように大声で呼び掛けながら、緑色の眼球で周囲を探る。

 安全確認は大事だ。雑魚を追い払ったからといって、気を緩めてはいけない。
 あんなもん、1匹を見かけたら、30匹はいるのだ。

907中務千尋『エイミー・ワインハウス』:2020/04/14(火) 01:30:40
>>906

「まぁ賢いかどうかはともかく……」

「良いんじゃないですかね」

少なくとも中務はそう思ってる。
そして、会話していくうちに感じる少しの違和感。
何となく、彼と自分の間に認識の歪みがあるように思った。

「あの、さっきから何の話、してるんですか?」

「あのミミズ、死んでましたよね?」

緑色の眼球。
それを見ている。
世界が違う、何かズレている。
溝、確かにそこにある。

「そう思ってますけど」

908宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2020/04/14(火) 22:56:35

>>907

「あー……まあ、こっちの話。スンマセンね、ちょっと思うところがあって」

 『ゴミ拾い』に準えたつもりだったが、不自然な点もあったのだろう。


      ギョ ロ・・・
                    グリ ン !


 四方に視線を散らし、その端々から『怪物』を睨みつける。
 どれほど効果があるかは分からないが……『牽制』、にはなるだろうか。

「そう。どこからどう見ても、立派な『ミミズの死骸』だったけれど……」


「『動き出した』」


「……『死んだフリ』だったのかもしれないし、
 ただ単純に、たまたま『動いていなかった』だけかも。
 或いは、『ミミズの死骸』によく似ただけの、別の生き物だったか」

 その『正体』を。
 敢えて明かすこともないだろう。

「まあ、『この町』はそーゆーコトも多いみたいなんで」
「あんま気にしすぎない方がいいスよ。『怪談』とか、好きなら別だけど」

 そこにあるのが当たり前だと思っていたモノが、実は生きていて。
 自分たちを値踏み、欺き、隠れ潜んでいる。
 そんなこと、知らなくていい。あまりに気の毒だ。

 そもそも、信用してもらえないかもしれないが……

「……出会い頭に、スンマセン。長々と喋っちまって」

 ふと、緑の眼球が消える。
 そこで我に返って、不躾であったことを詫びた。

909宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2020/04/14(火) 22:57:19
>>907

910中務千尋『エイミー・ワインハウス』:2020/04/14(火) 23:32:53
>>908

「あはは……ホントですか?」

疑うとは違う。
中務千尋は知っている。
その緑の目の正体を知っている。
この世ならざるものの存在を確かに肌身で感じている。

「別にいいっスよ。私は信じるんで……」

「信じざる負えないんで」

相手の目を見ている。
くすくすと笑みを浮かべて。

911宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2020/04/15(水) 06:05:03

>>910

「信じる? ……あ、『怪談』をってコト?」

 中務とは対照的に、宍戸はなかなか視線を合わせない。
 人好きのしない不躾な態度にも見えるだろうが、そのくせに口は回る。

「まあ、『正体見たり枯れ尾花』って言うしな。
 あんまり真正面から信じない方が良いこともあるスよ。ホント」

「たぶん、『ミミズの死骸』も見間違いでしょ。この町そういうトコあっからな〜マジ」

 夢もロマンもへったくれもない、枯れた言葉で釘を刺す。
 あまり意味深な言葉で混乱させるのも、彼女に悪い。

(『イイ人』……っぽいよなぁ〜〜〜。
 物腰柔らかだし、大人しそうだし……笑顔もチョイ可愛いし。
 『SSR初対面キモ不審者』の俺にも、全然ヒかないで話聞いてくれっし……)

 だからこそ、『グロテスキュアリー』の視界を明かすわけにはいかないのだが。
 彼女はきっと一般人だろうし、猶更だ。


 …………。


(誰だろうが、『怪物』に人間襲わせるわけにゃあいかねーが……
 『イイ人』を救ったって思うと、何かスゲー得した気になるな。
 …………LI〇Eの連絡先とか、ワンチャン……
 いやいや、初対面でキモすぎだろ。ここら辺がベストな『引き際』と見たぜ)

912中務千尋『エイミー・ワインハウス』:2020/04/15(水) 21:26:05
>>911

「どうっスかねぇ」

「私、この世にあるものはなんだって繋がってると思いますよ」

その言葉の意味を中務は教えない。
彼女の中にある絶対的ルール。
この世のあらゆる存在が存在する理由。
即ち、役割という割り振りによって全てが存在しているという価値観。


「あ、そういえばお名前聞いてなかったっスね」

「私、えっと、中務千尋って言うんですけど」

「お兄さんは?」

913宍戸 獅堂『グロテスキュアリー』:2020/04/15(水) 23:42:49
>>912

「? ……ふぅん」

 言葉の意味は計りかねたが、おそらくは彼女の信条のようなものだろう。
 初対面で、あまり踏み込みすぎるのも礼儀がない。相槌のみに留める。

「宍戸。宍戸 獅堂。高3」

「ライオンの獅子の『獅』に、威風堂々の『堂』ね」

 声に自嘲の色が混じる。
 我ながら、似つかわしくない名前だ。

「『お兄さん』……てコトは、もしかして年下?」

 女性の外見は、特に見た目に分かりにくい。
 こちらから年齢にも触れにくいし、相手からとっかかりをもらったのはありがたいことだ。

「まあ、縁があれば……せっかくお互いに名前も知ったことだし」
「よけりゃ、また」

 ぜひ逢えればよいのだろうが、とはいえ、あまりがっついた感じも出したくはない。
 別れ際は、さらり、と締めたい。


(……っしゃァ〜〜〜〜〜名前ゲットォ〜〜〜〜〜!!!)


 目の見えないほど遠くで、ちょっとガッツポーズをしたのは秘密だ。

914中務千尋『エイミー・ワインハウス』:2020/04/16(木) 00:09:59
>>913

「私高二なんスよね」

「宍戸さんですね、どうも」

遠くに行く宍戸を見送る。
そして、中務のスマートフォンに映る映像。
ミミズの死骸が画面の中で踊っていた。

「死んでるか生きてるか、っスよ」

「この世の全てのものは死んでるやつ以外は生きているんスから」

『エイミー・ワインハウス』
無生物のキャスティング・ボートを握るもの。
万物は踊る。
それを中務は知っていた。

915白町 千律『ハード・タイムス』:2020/04/16(木) 01:52:36

             ギ …

その少女は『学校指定ジャージ』を着ていた。
何を捉えるとも思えない、アンテナのように跳ねた頭頂部の一房を筆頭に、
流れるように後ろへ跳ねるショートカットと、見開いたような目が特徴だった。

        ギ …

バツ印を模した大きな髪飾りが、月光を反射して照る。
バランスを取るように両手を広げ、目を閉じて歩く。


――――『湖の上へ歩き出す少女』がいた。


             ギ…


その傍らには『ヴィジョン』が浮かんでいた。
手足が長く、蜘蛛めいて不気味で、白い。

水面の上1mに『広げられ』足場となる『大布』と共に、
見る者が見たならば、その『奇跡』ないし『奇術』の正体を示してもいた。

916白町 千律『ハード・タイムス』:2020/04/21(火) 01:20:49
>>915

「『2m』……『是正』……………」

       ゴソ   ゴソ

――やがて布をまとめて、その場を立ち去るのだった。

917ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/04/26(日) 04:07:19

『女』がいた。
白・青・紫の三色で構成されたポンパドールヘア。
古代ギリシャの装束である『キトン』を身に纏い、
足元は『サンダル』だ。
風変わりだが、『それ以外の特徴』に比べれば、
大きく目立つ部分でもない。
背中には『翼』が生え、両腕は『羽毛』で覆われ、
踵に『蹴爪』が備わっている。
神話に登場する『鳥人』を思わせる姿の女だ。
この街で、彼女は『ハーピー』と名乗っている。

  「♪♪♪」
          「♪♪♪」
                  「♪♪♪」

女が『鳥のような声』を発する。
彼女は『枝の上』に座っていた。
大体『10m』程の高さだろうか。
足を掛けられそうな場所もなく、どうやって登ったかは不明だ。
そこに腰を下ろして、『誰かと喋っている』。

     カァ カァ
           カァ カァ カァ

『カラス』だ。
女は『カラスと喋っている』。
そう見えるだけで、実際は違うのかもしれない。
しかし、『会話が成立している』と思える程に『自然』だ。
そもそも、至近距離にいるというのに、
カラスは全く逃げようとしない。

         「♪♪♪♪♪」

          カァ カァ カァ

         「♪♪♪♪♪」

          カァ カァ カァ

         「♪♪♪♪♪」

          カァ カァ カァ

『会話』は続く。
なかなか『盛り上がっている』ようだ。
その『内容』は定かではない。

918猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/04/28(火) 21:06:07
>>917

そこへ少年が通りがかった。
青みがかった髪色に、金色の瞳。
ベレー帽を被り、白いワイシャツにベストを付け、ハーフパンツを履いている。
何かの声が聞こえ、木の上を見上げた。そこで謎の『ハーピー』と、カラスが話している様子が見えた。

「ねえ、お姉さん。お姉さんは鳥とお話しできるの?」

少年は、訊ねた。

919ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/04/28(火) 23:07:17
>>918

  ピクッ……

呼び掛けられて、女の動きが止まる。
その視線が、少年の姿を捉えた。
見覚えのない相手だ。

     「 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ 」

  バ サ サ サ サ サ サ サ サ サ サ サ サ ァ ッ

女が『声』を発すると、唐突に『多量のカラス』が飛来した。
それらが厚いカーテンのように、女の姿を覆い隠す。
『カラスの群れ』が通過した後、枝の上には誰もいなかった。

「――――私、『ハーピー』と申します」

          ザッ

「こんにちは、『ニンゲン』の方」

女が『いた』。
木の陰から出てきて、恭しく少年に挨拶する。
いつの間にか降りてきたらしい。

  カァ カァ

肩には『一羽のカラス』が留まっていた。
先程まで喋っていたカラスのようだ。
やはり、野鳥とは思えない程に『馴れている』。

「ええ――『出来ます』」

「何故なら、私は『ハーピー』で御座いますので」

920猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/04/28(火) 23:38:40
>>919

大量のカラスが集まった姿を見て、少年は大きい目を少し細めた。
アレに襲われたらタダじゃあすまないかな、なんて事を考えながら、女性の次の動きを待つ。

カーテンみたいになったカラスが消えた後には、その女性の姿は木の上になくて。
気付いたら目の前の地面の上にいた。すごいなぁ、なんてぼんやり考える。

「『ハーピー』ってゲームで見たことあるよ。手足が鳥の、女の人でしょ」

「じゃあ人間の言葉も、鳥の言葉も分かるんだ。鳥って普段はどんなこと考えてるの?」

そう訊ねながら、近づいて行く。ボクが近付いても鳥は平気なのかな。

921ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/04/29(水) 00:01:26
>>920

「よく御存知でいらっしゃいますね。
 ええ、『ハーピー』はギリシャ神話の『怪物』とされております」

「文献によっては、
 非常に邪悪で『ニンゲン』を襲う事もあるそうで――」

目を細め、少年に謎めいた笑いを向ける。
『怪物』の名を名乗る女は、確かにギリシャ風のいでたちだ。
そして、鳥の特徴も備えている。

「彼らの考える事は、あなた方と変わりありません。
 『昨日』の事、『今日』の事、そして『明日』の事で御座います」

「『鳥』に御興味がおありですか?」

カラスは少年を見ている。
しかし、様子を見ているのか逃げようとしない。
あるいは、『この女』がいるからか。

「何かお聞きになりたい事があれば、ご遠慮なくどうぞ」

うっすらと笑みを浮かべて、少年に告げる。
どうやら『通訳』するつもりらしい。
当人しか分からない以上、それが本当である保障はないが。

922猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/04/29(水) 00:23:28
>>921

「ふうん、そうなんだ」
「お姉さんはなに食べるの?やっぱりニンゲン?」

一種の警告とも取れる言葉を耳にしながらも、少年の歩みは止まらない。
手を伸ばせば触れる位置まで来ると、羽毛などを興味深そうに見上げる。

「トクベツ、鳥さんだけに興味があるわけじゃないけど」
「動物と喋れたら面白いかなぁって」

逃げようともしない様子に、少年はますます興味が出てくる。
完全にこの女性に信頼感を抱いているということだ。野鳥は警戒心が強い、なんてのもどこかで見た。
それをここまで調教するのは、並大抵の技術ではないだろう。

「聞きたいことかぁ」
「うーん」「・・・・・『たくらん』って知ってる?」

923ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/04/29(水) 00:46:30
>>922

「ニンゲンは食べません。
 私は『良いハーピー』で御座いますので」

「食べようと思えば食べられない事も御座いませんが」

本気とも冗談ともつかない言葉だった。
しかし、『敵意』はなさそうに見える。
少なくとも、この場で襲ってきたりはしないだろう。

「『穀物』・『野菜』・『果物』――
 その辺りが私の『好物』となっております」

どれも『鳥が食べるもの』だ。
鳥なのだから『当然』だが。
もっとも、それ以外のものでも食べる事は出来る。
この体は、人と同等の感覚を備えている。
それら外界からの刺激は、全て『ブリタニカ』に反映される。

「お気持ちは、よく分かります。
 私も『ニンゲン』の方とお話するのは、
 非常に『面白い』事で御座いますから」

『ニンゲン』――地上で最も高度な社会を築く種族。
それを研究する事が、『繁栄』を手に入れる鍵となる。
だからこそ『ブリタニカ』は、密かに人の社会に紛れ込む。

「『他所の巣に卵を託す行為』で御座いますね。
 ええ、存じ上げております」

924猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/04/29(水) 00:57:28
>>923

「へぇー。悪い『ハーピー』ってどこかにいるの?」

「ニンゲンっておいしくないって聞くけどどうなんだろうね。」
「まぁでも、おいしくてもボクは食べたくないな。カワイソーだもん」

『ハーピー』の好物を耳にして、少年はふんふんと頷いた。
意外と人間と変わらないなぁ、なんて思うけど。そもそも珍しいものばかり食べてたら生き残れないのかもしれない。

「割とフツーだね。ボクも好きだよ、フルーツとか」
「野菜はそれなりかな。コク物ってなんだっけ、パンとかコーンとか?」

「ニンゲンと、って言うってことは、『ハーピー』さんは鳥側の人なの?人っていうか鳥なの?」

「あぁ、知ってるんだ。多分、その鳥は『たくらん』する鳥じゃないんだろうけどさ」
「その鳥は、どんな気持ちでそういう事をするんだろうねって」「ちょっと聞いてみたいな」


謎の鳥人間に臆する事もなく、質問攻めだ。

925ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/04/29(水) 01:24:22
>>924

「私は『ニンゲン』を食べた経験は御座いません。
 もし『死ぬほど飢えていれば』食べる事もあるでしょうか。
 その時は、『悪いハーピー』になってしまうかもしれません」

「何しろ『空腹は最高のスパイス』と申しますので」

ややズレた感のある一言を付け加えた。
『ブリタニカ』は『先進的鳥類』を自負している。
通常の鳥よりも先に進んだ存在という事だ。
『人の研究』も、その一つに当たる。
しかし、『鳥である』のは変わりないため、
人の感性を完全に理解するのは難しい。

「私は『ハーピー』です。
 『ヒトと鳥を繋ぐ存在』だとお考え下さい。
 普段は、街で『パフォーマンス』を行っておりますので、
 機会が御座いましたら是非ご覧下さいませ」

『この体』と違い、『ブリタニカ』の肉体は非常に脆い。
ゆえに、『正体の秘匿』は『絶対』。
『ハーピー』を名乗るのは、そのためでもある。

「『どういう気持ちか』――――ですか?」

          グ リ ン ッ

ややオーバーな程に、大きく首を傾げる。
観察する時の『癖』だ。
この姿の時には必要ない動作だが、身に付いた癖というのは、
なかなか抜けないものだ。

「はい、通常この種は『托卵』を行いません。
 その質問にお答えする事は、少々難しいと存じます」

「何故その質問をなさったか、お聞きしても宜しいでしょうか?」

926猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/04/29(水) 20:33:12
>>925

「うわぁ。やばたにえん」
「でも確かに、他に食べ物なかったらニンゲンのお肉でも食べちゃうかなぁ」
「あ、ボクはあまりお肉付いてないからおいしくないと思うよ?」

顎に手を当てて、ふぅむと考える。そのまま空腹で死んでしまうくらいなら、
目の前に人間の肉と言われた肉があったら食べてしまうかもしれない。そのままの姿だったらムリ。

「『パフォーマー』なんだ、ハーピーのお姉さんは」
「歓楽街の方で芸をやる時は、気を付けてね。あまり目立ち過ぎるとヤバーい人に狙われちゃうから」

さっきみたいに鳥に言うことを聞かせられるなら、見せ物としてほとんどのことはできるだろう。
色んな年の人からも受けが良さそうだ。お店に来た人に、勧めてみてもいいかもしれない。
こっそり、さっきから見ていた『羽毛』に触れてみる。もふもふしてるんだろうか。


>「何故その質問をなさったか、お聞きしても宜しいでしょうか?」

『クリン』

『ハーピー』が首を傾げるのに合わせて、少年も同じ方向に首を傾げた。
同じ角度でしばらく目を合わせた後、彼は明後日の方を向く。

「別に、大したことじゃないよ。ただ、自分の子供を捨てる親の気持ちって、どんなのかなって」
「…まぁ、そもそも親の気持ちなんて分からないけどね。ボク子供いないし」

そう言って、少年は肩をすくめた。
人間の行動を常日頃研究している『ブリタニカ』には、あるいはこれらの仕草から、
この言葉の中に『嘘』があると見抜くことができるかもしれない。

927ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/04/29(水) 22:33:59
>>926

「幸い食糧には不自由しておりません。
 私は『パフォーマー』で御座いますので。
 ご覧下さった皆様から、十分な金額を頂戴しております」

野生の身にとって、『食料の安定的な確保』は、
真っ先に解決せねばならない問題だった。
そのために考え出したのが、
『ストリートパフォーマー・ハーピー』という存在だ。
『パフォーマー』として『食い扶持』を手に入れ、
かつ自然な形で人間社会に溶け込める。
『一石二鳥』とは、まさしくこの事だろう。
ただ、『一石二鳥』という『字面』は気に入らないが。

「有り難う御座います。ご心配には及びません。
 こう見えても、私は『素早い』ですので。
 そんじょそこらのニンゲンに捕まるような事は御座いません」

『この体』が全力で走れば、
そのスピードは『チーター』にも匹敵する。
引き離した所で『本来の姿』に戻り、
大空に舞い上がってしまえば見つからない。
これまでも、そうして切り抜けてきた。

      ――――モフッ

『羽毛』は、とても柔らかい手触りだった。
作り物とは思えない。
極めて『本物』に近い感触――というより『本物』かもしれない。
同時に、ほのかに漂う『不思議な香り』。
香ばしいナッツのような、晴れた日に干した布団のような、
もしくはバラの香水のような……。
人によって、表現の分かれる匂いだ。
ただ、悪い匂いではない。

「哺乳類と違って、鳥の表情は大きく変化致しません。
 『飛ぶために不要なもの』を極力減らさねばなりませんので。
 『表情筋』も、その一つで御座います」

「ですが、ニンゲンと同様に『感情』を備えております。
 意地悪な相手には『嫌がらせ』をしたくなります。
 時には『嘘』もつきます」

「それを暴く事もあれば、暴かない事も御座います。
 その点も、あなた方と同様で御座います」

『ブリタニカ』自身、『正体』を隠すために嘘をついている。
そして、それを暴かれないように立ち回っている。
もし、正体を知ろうとする者が現れた時は、
『全力』で対処する必要が出てくる。
だから、この少年が嘘をついていたとしても、
それを暴くような気は起こらなかった。
自分自身も、暴かれると困る『秘密』を持っているからだ。

「――私の『羽』は如何ですか?」

928猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/04/29(水) 23:18:23
>>927

「お姉さん、売れそうだもんね。さっきのカラスと協力して登場とかカッコ良かったもん」

ハーピーのお姉さんの人気がある限りは、ニンゲンが食糧になることはなさそうだ。
少なくとも、しばらくは身の危険を感じなくて済みそう。

「ほえー、運動神経もいいんだ?そういや木の上に登ってたっけ」
「特に手をひっかけられそうな場所なんかもなかったのに…そういえばお姉さん飛べるの?」

木登りが得意、では説明のつかない高さだった気がする。
でもこの人なら、その羽を使って飛べるのかも。だとしたらスゴい。それだけでも食べていけそう。


>      ――――モフッ


「ふ」
「ふおおおおおっ?」

あまりのもふもふさにやられた。かなりのもふもふっぷりだ。
いや、人生で一番のもふもふかもしれない。近所のさもえど?犬よりもすごい。
頭から突っ込む。このもふもふっぷりは、全身で感じなければ。

「…ふーん?よく分かんないけど、ニンゲンの事にも詳しいんだね、お姉さん」
「鳥もニンゲンも、やっぱり感情があって、イヤな相手にはイヤなことするんだ」

ブリタニカの指摘が自分のついたウソを指し示しているとも気付かず、『羽毛』に頭を突っ込みながら、頷く。

「さいこーです」
「いや、お姉さん、これそこら辺の人をもふらせるだけでもお金取れちゃうな…」

くんかくんか。いい匂い、本当の鳥みたい。

929ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/04/29(水) 23:47:20
>>928

『この体』と同じく、『羽毛』は実体化したスタンドだ。
しかし、その感触は本物と変わらない。
顔を埋めれば、『羽毛布団』に包まれたような感覚があった。

「『飛ぶ』事は、なるべく控えるようにしております。
 『ヤバイ人」に目を付けられては困りますので」

木に登れたのは『飛んだ』からだ。
降りてきたのも、カラスの群れに紛れて本来の姿に戻り、
木陰で『また戻った』からだった。
『この姿』のままでは飛べない。
飛ぶためには『正体』を晒す必要がある。
ゆえに、人前では見せられないのだ。

              ――――――ニヤッ

『お金が取れる』という言葉を聞いた瞬間、
『良い事に気付いた』かのように、意味ありげに口元を歪めた。
羽毛に顔を埋めている少年には見えなかったかもしれない。
『そういう手』もあるのか――そんな笑みだった。

「――こうすれば、『より』お気に召して頂けると存じます」

           ギ ュ ッ

そう言うと、両腕を回して少年の体を抱き締めた。
柔らかな『羽毛』が、小柄な体を包み込んだ。
『独特の香り』が鼻腔をくすぐる。

930猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/04/30(木) 00:24:20
>>929

「うーん、その方がいいよ…お姉さんは捕まったら、絶対高く売れちゃうからね」

自ら動き出した羽毛に包まれて、夢現のまま呟く。
どうでもいいけど、このまま寝たら気持ちいいって時って大体寝ちゃいけないよね。
流石にこのまま寝たらハーピーさんに迷惑がかかるし、公園に放置されても大変な事になるかもしれない。
名残惜しいけど、羽毛の中から離れる。あくびが出た。

「ふわぁ…ありがとう、お姉さん。鳥さんも大体同じ匂いがするの?」
「一緒に住んでみるのも、なんだか悪くない気がするね」

お金に余裕があれば、の話だけど。
鳥って飼うのにどれくらいお金が必要なんだろう。

931ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/04/30(木) 00:50:54
>>930

「ふふふ、そうですね。私は『高い』ですので」

「ふふふふふ」

ブリタニカは『羽衣セキセイインコ』である。
翼の一部と頭の毛が逆巻いているのが特徴だ。
通常のセキセイインコよりも高値が付き、
美しさを競う品評会も行われている。
値を付けられるのは、あまり好きではない。
だが、高く評価されるのは悪い気分ではないのだ。

「ご満足頂けましたか?それは何よりでした」

「それでは、『料金』を頂戴致します」

少年が離れた後、にこやかな表情で告げる。
『冗談』には見えない顔だ。
そして、一瞬の『間』が空いた。

「――――『冗談』で御座います。
 先程も申しましたように、
 『嘘をつく』のはニンゲンだけとは限りませんので」

「ほんの少し、『ニンゲンごっこ』をしてみたくなりました」

どうやら『冗談』だったらしい。
人の真似事をするというのも、一つの『研究』。
元々『インコ』であるため、『物真似』は得意分野なのだ。

「匂いは『種類』によります。
 生まれ持った『体質』や『食べ物』によって……」

「ニンゲンの中では、『この匂いがたまらない』という方も、
 少なくないと聞いております」

『インコ特有の匂い』を愛好する人間は多いらしい。
他の種族を魅了できる事は有用だ。
それは、生存のための『武器』に成り得る。

932猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/04/30(木) 01:05:16
>>931

『料金』を頂戴します、と言われた少年は眠そうな目をこすり、こくこくと頷いた。
ある程度、この流れも想定内だったらしい。そういう仕事に慣れているかのように。


「…うーん、まぁ仕方ないね。お姉さんも生きるためだし」

後から料金を伝えるやり方はあまり良くないけど、お金になる、と言ったのはボクだから。
その責任は取るけど、最初にいくらと言わなかったから、こっちで決めさせてもらおうと、ポケットから財布を取り出そうとして。

>「――――『冗談』で御座います。

「うん、いいの?お金になるって言ったのは本当だし」「『対価』は払われるべきだよ」
「社会ってそういうものなんでしょ?ボクも似たようなお仕事してるし」

近くの木に寄りかかりながら、じっとお姉さんの瞳を見上げる。
もちろんお金に余裕があるわけじゃないから、払わなくていいと言うなら従うけど。
価値のあるものを提供したなら見返りがあるべきだと、ボクは思う。

「ほうほう、鳥の種類により違うんだね。今度スマホで調べてみよっと」
「お姉さんみたいな匂いのする鳥さんがいたらいいな。もっといい匂いのするのもいるかもだけど」

「そうだ、ハーピーのお姉さんと写真撮っていい?インスタにあげるから」
「宣伝にも繋がるから、撮って損はないと思うけど」

にこにこ笑いながら、スマホを取り出してお姉さんに見せる。

933ブリタニカ『』ハロー・ストレンジャー:2020/04/30(木) 01:24:04
>>932

「ええ、仰る通りです。
 『価値』には『対価』がつき物。
 そして、私にはそれに見合うだけの『価値』が御座います」

「ですが、私は『有料』だとは申しませんでした。
 両者の合意がなければ『ビジネス』は成立致しません。
 差し詰め『アコギな商売』と申しましょうか」

「『種族』に関わらず、社会は『信用』で成り立っております。
 『信用されない者』は、いずれ死に絶えてしまいます。
 私はそうなりたくありませんので、お気持ちだけ頂戴致します」

「それに――今は『生活』に不自由しておりませんので」

少年の申し出を、やんわりと断る。
あくどい手口というのは、『その場しのぎ』にしかならない。
最初は稼げても、すぐに立ち行かなくなるのは見えている。

「『インスタ』――『インスタ』ですか」

「『インスタ』」

「ええ、構いません。どうぞ『インスタ』なさって下さい」

新しい言葉を覚えるように、何度も繰り返す。
それが何なのかは分からない。
しかし、何やら宣伝になるらしいので承諾しておいた。

934猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/04/30(木) 01:45:39
>>933

『ハーピー』の的確な説明は、少年の意図していた事と同じだ。
口元を隠して、くすくすと笑う。

「…へえ、さすがニンゲン社会に詳しいね」
「お姉さんの言う通りだよ。いわゆる『ぼったくり』とかで最初はお金をいっぱい稼げても、
 『SNS』とかが発達してるこのご時世、すぐに情報が共有されちゃうからね」
「そこで信用を失っちゃったら、後はお店が潰れるだけ。まぁお店ならまだやり直しができるかも
 しれないけど、お姉さんの場合は顔を見せてるからね」

悪い噂があまりに流れちゃったら、段々と『パフォーマンス』で稼ぐのも難しくなるかもしれない。
でもこのお姉さんはいいハーピーらしいし、その腕も本物だから、仮に同じ仕事の人が嫉妬して
悪い噂が流したとしても、すぐに取り返せるだろうけど。つまり心配はいらないってこと。

「…生活に不自由してないってのはいいことだよ。食べるものも、寝るところも。誰にでも、あって当たり前のものじゃないからね」

そう言いながら、スマホをインカメにしてハーピーのお姉さんの隣に移動する。
ギリギリまで手を離しながら、二人とも写真の中に収まるようにして。

「えっ、お姉さんインスタ知らないの?スマホの写真をネットにあげて、皆に見てもらうんだよ」
「まぁでも、お姉さんが今困ってないならいいかな?はい、ぴーす」

カメラに向かってピースサインをする。いえーい。
今更だけどこのお姉さんの髪色、すごーく映えるね。

935ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/04/30(木) 02:05:33
>>934

「ええ、生活基盤がなければ『次』も御座いませんので。
 その辺りは私も『色々』と用意しております」

『次』とは『研究』の事だ。
しかし、『生存戦略』を疎かに出来ない。
全ては、その上に成立するものなのだから。
ちなみに、住む場所は『ここ』にもある。
この森の中心部に、密かに『巣箱』を設置してあるのだ。

「『情報伝達』の一種で御座いますか。
 『スマホ』は存じております。皆様、『あれ』がお好きなようで」

人間達が弄っているのを、よく見かける。
ただ、自分は持ってない。
『人外』の身では、まともな『契約』は出来ない。

「なるほど――『ピース』ですか」

「『ピース』」

少年の真似をして、『ピースサイン』をしてみせる。
写真には、少年と同じポーズの姿が写っている事だろう。
髪色は『地毛』だった。
正確には、『羽毛の色』と呼ぶべきかもしれない。
ともかく、目立つ事は間違いない。

936猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/04/30(木) 02:27:18
>>935

『カシャツ』

「もちろん。今の中学生以上なら大体持ってるんじゃないかな」
「それだけみんなが見てるってことは、それを使って『宣伝』すれば効果バツグンってことだよ」

スマホをすいすいっと操作してすぐさまインスタにあげる。
ハッシュタグは『#パフォーマー』『#街中に現れる鳥のお姉さん』『#髪色すごいオシャレ』『#めっちゃいい匂い』辺りでいいかな。
まぁクラスメイトとかがリポストしてくれれば、それなりに広がってくれると思う。
しょせん中学生だから、あまり上客って感じではないかもしれないけど。
その内大人の目に止まったらラッキーって感じかな。

「…じゃあボクも、そろそろお仕事の時間だから。お話ありがとう、ハーピーのお姉さん」
「また今度、お姉さんのパフォーマンスを見せてもらうよ。その時はちゃんとお金を払うから」

そういえば、と思い出して。ハーフパンツのポケットに手を入れてごそごそ探す。
取り出したのは、色々なフルーツの味がするアメ玉だ。それを握った分、お姉さんに渡す。

「それは『羽毛』のお布団に対しての気持ち。対価じゃなくて、これならいいでしょ?」
「じゃあねー」

そう言って、ぶんぶんと手を振ってトリコロール色の髪のお姉さんに別れを告げる。
今更だけど、トリと『トリ』コロールをかけてるのかな。いや、たまたまかな。

937ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/04/30(木) 20:48:48
>>936

『ブリタニカ』は『鳥』だ。
そして、その髪色は『三色』――即ち『トリコロール』。
もしかすると、『何らかの意味』があるのかもしれない……。

「――――『気持ち』」

  ジッ

渡された飴玉を見下ろす。
珍しいという訳ではない。
『気持ち』という部分を理解しようとしていたのだ。

「はい。確かに『気持ち』頂戴致しました」

「さようなら、『ニンゲンさん』」

少年に挨拶を返し、遠ざかっていく姿を見送る。
『ニンゲン』については、まだ分からない部分が多い。
それを解明する事が、『我々の種族』を栄えさせるための、
重要な『礎』となる。
いつの日か、鳥類が『制空権』を獲得し、
『世界中の空』を席巻する。
『ブリタニカ』は、そんな『ささやかな夢』を抱いていた。

         「『ピース』」

湖面に映る自分に向かって、『ピースサイン』をしてみせる。
これが何なのかも、まだ分からなかった。
『研究の余地』が尽きる事はない――――――。

938斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/05/04(月) 08:52:04
5月――ブラックバスという魚がいる。

これは元来日本には生息せず
外国から釣りの好きな人々が、その引きの強さを楽しむために
勝手に日本国内に放流した外来種である。

その繫殖力で増え続け、強い引きを実現する巨体で本来あった生態系を荒らしまわり
じゃあ釣って食って減らそう!と、しようとすればその身は臭くて食えたものではない。

 「――傲慢な人の都合で住処を移され、人の都合で殺される。」
 「いやー悲しいね、どうでもいいけど。」

   ――ヒュッ
           チャポン

今の季節に釣れる魚と言えば『ヒメマス』や『ヤマメ』だ
釣り針の先に粘土のような餌を括り付けて清流の中に放り
釣竿をホルダーに立てかけ、『嵐が丘』でも読みながら釣れるのを祈ろう

……傍でわちゃわちゃしている数匹の子猫に、ラジオの上の鳥がメチャメチャにされる前に!

939斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2020/05/07(木) 00:23:48
>>938

 ――パシャン!

釣り上げた魚を接続した鎖――鎖を更に接続すれば、最短距離で溶接したようになる――のを串がわりに刺し
乾燥した木切れと新聞紙で火をつけたキャンプ用の竈で焼く

表面に焦げ目がついたら子猫の前に1尾ほうってやると、最初は匂いを嗅いでいたり、警戒していたりしたようだが
途中からは一心不乱に食いだした。

 「優しいか…優しい?」

あの子は何故そんな事を言ったのだろう?

 「打算は有る、最初に良い印象を与えておけば 人間関係は後が楽だ。」

新しい苦悩、新しい苦痛

 「……猫にその必要はないだろう。」
 「何故? 猫に恨みはない 憎み怒るのは人間だけだ。」

――僕はかつて父の持っていたクーラーボックスから、キンキンに冷えた飲み物が幾らでも出てくるのを見て
それがドラえもんのポケットのような、魔法の箱だとその瞬間だけ信じていた

勿論今は信じていないし
その時も冷静に考えれば、そんなわけはないのだとすぐに解った事だった

ただ、父親と釣りに行き、あの夏の日差しの下で2人 他愛もない事を話しながら……
あの瞬間だけが、僕の中ではそれこそ魔法のように輝いていたのだ

才ゆえに何事にもすぐに飽きるような男だが
それでもこの趣味だけが続いていたのは ただそれだけが理由だと思いたい。

――そんな父の声が思い出せない。どんなに大切でも 何時かは終わりがくる、それを拒否は出来ない。
運命を否定はしない、ただ取り返したいだけだ、奇跡に縋る他は無い 他は何も思いつかない 祈るだけだ。

 「――でも祈りには意味がない」

バックと釣竿を手にし、火を消してベンチの上で丸まって眠る三匹からその場を後にする
……次が欲しい。

940三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/05/08(金) 21:30:25

  モグ モグ

千草です。
今、芝生で『あんパン』を食べています。
天気のいい日が続くので、外で食べてみたくなりました。
大げさかもしれませんが、『ピクニック』というのでしょうか。
この『あんパン』も、普段とは少し違った味に感じられます。

                 モク ゙モグ

千草の隣には、小さな『人形』が座っていました。
これは『ビケ』です。
『ビケ』は『人形』なので、千草のように死ぬ事はありません。
だから、見ていると落ち着きます。
言ってみれば、『お守り』のようなものです。

         モグ……

『ビケ』は『あんパン』を食べません。
『人形』ですから。
千草も『人形』だったら、死ぬ事もなくなるのでしょう。
その方が幸せなのでしょうか。
でも、もし『人形』だったら、
家族や友達や先輩達とは会えなかったでしょう。

『人形』には『人形の苦労』があるのかもしれません。
『ビケ』も苦労しているのでしょうか。
そうだとしたら、千草は一緒にいてあげようと思います。

941鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/05/09(土) 00:34:24
>>940

いつものように素振りか、あるいは人目がなければ『スタンド』の修練でもしようかと考えて、公園を訪れた。
するとそこには、見慣れた小さな少女の姿があった。微笑みながら、声をかける。

「こんにちは、三枝さん」

ゆっくり歩いて近付くと、膝立ちになって目線を合わせる。
傍らには人形の姿が見える。三枝さんのお友達だろうか?

「お邪魔させて頂いてもいいだろうか?」

942三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/05/09(土) 11:08:33
>>941

「あっ、鉄先輩」

「奇遇ですね。お会い出来て嬉しいです」

      ペコッ

「――――どうぞ」

何となく、寂しさのようなものを感じていた所でした。
正確には『ビケ』がいるのですが。
でも、『ビケ』は喋ってくれませんから。

「しばらく過ごしやすい日が続いていますね」

「先輩は、お散歩の途中ですか?」

何の気なしに、鉄先輩の手元を見てみます。
先輩は『剣道部』に所属していて、とても熱心な人です。
もしかすると、自主練習に来ていらっしゃるのかもしれません。

943鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/05/09(土) 18:32:19
>>942

「ありがとう」ペコリ

礼を返して、隣に座る。隣、といっても間に人形を挟んでいるが。

「ああ、いや。今日は部活の後に、自主練をと思ってね」
「正確には、その前に軽く腹拵えをするけれど」

そう言う鉄の背中には、いつものように『竹刀袋』が、
そしてその右手には、『鈴眼』と書かれた紙袋がある。

「ところで、この子は?」

間にある人形のことを三枝さんに訊ねながら、竹刀袋を背中から外して傍へと置く。
そして紙袋を開けて、中から『スポーツ羊羹』を取り出した。

944三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/05/09(土) 20:09:55
>>943

「自主練習ですか……。
 部活が終わった後も鉄先輩は頑張ってらっしゃるのですね」

鉄先輩は、とても熱心な方です。
真摯な姿勢だけではなく、真面目で誠実な人でもあります。
だからこそ、心から尊敬しています。

「――――お疲れ様です」

きっと先輩は、沢山の人達から慕われているのでしょう。
鉄先輩は『立派な人』ですから。
いつか自分も、そんな風になれたら嬉しいのですが。

「あ、ええと…………」

ほんの少し、迷いました。
変に思われないかどうか心配だったからです。
でも、『嘘をつく』のは良くない事です。

「これは『ビケ』です。その――『お守り』のようなものです」

「…………変だと思いませんでしたか?」

不安で視線を泳がせていた時、『羊羹』が目に入りました。
手早くエネルギーを補給できる『羊羹』は、
山登りの行動食としてもポピュラーだと聞いた事があります。
部活動が終わった後の自主練習の前に食べるのは、
とても『合理的』だと思いました。

945鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/05/09(土) 20:32:33
>>944

「はは。そうでもないと、オレは強くなれないからな」
「自分より強い相手に勝つ為には、事前に出来る事を全てやる事で、ようやくスタートラインに立てるんだ」

自分は凡才だ。同学年の中では少し背が高いくらいで、他に特別優れたものはない。
県大会に出られたのも、人一倍の努力をしたからだと自負している。
そして、相手の動きを見て立ち回りや苦手な技を把握し、それに合わせて動く。
自分にできるのは、それだけだ。

「そうか、『ビケ』というんだな。よろしく、『ビケ』」

そう言って、人形の片手を握る。

「確かに珍しい名前だとは思うが、変だとは思わないさ」「三枝さんとの付き合いは長いのか?」

『羊羹』を齧りながら、首を振る。『ビケ』という名には、何らかの意味があるんだろうか。
それにしても、やはりここの羊羹は美味い。更にエネルギーにもなるのだから、一石二鳥だ。

946三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/05/09(土) 20:58:58
>>945

「そう――――ですか」

中学生になって『人形』を持ち歩いているというのは、
あまり良くない事ではないのかもしれません。
そのように思われる事が、少しだけ不安でした。
だから、先輩の言葉を聞いて安心しました。

「『それなりに長い』、でしょうか……。
 他の方と比べてどうなのかは分かりませんが……」

『人形を持ち歩く人』を、あまり見た事がありませんから。
小学生でも、見る機会は少ないです。
小学生よりも小さな子なら、時々見かけますが。

「持っていると『安心』するんです。それで、今までずっと――」

「……『この前』の和菓子屋さんとは違うお店ですね」

紙袋の名前を見て、それに気付きました。
以前にも何度かお聞きした通り、
やはり鉄先輩は『和菓子』がお好きなようです。
見ていると、何だか美味しそうに思えてきました。
『隣の芝生は青い』という事でしょうか。
手の中には、まだ『あんパン』が残っていますが。

947鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/05/09(土) 21:50:23
>>946

「そうか。じゃあ、もう『親友』と言っても過言ではないんだな」
「君にとっての『ビケ』は、ライナスの毛布というわけだ」

それだけ長く一緒にいたなら、当然愛着も湧くだろう。大切にしているのも肯ける。
付き合いの深さに時間は関係ないという人もいるが、自分は基本的に、仲の良さは時間に比例するものだと思っている。
高校生になった今でも『親友』と呼べる友人は、幼稚園から中学生まで一緒だった一人だけだ。
友人は皆大切だが、その中でもまた特別な人間というのはいる。

「ああ、ここは後輩の石動くんが教えてくれたんだ。『大通り』にあるお店だった」
「珍しい『和菓子』なんかもあるし、どれもとても美味しかった。三枝さんも、機会があれば是非寄ってみてほしい」

そう言って、二口目を食べる。残り半分くらいだ。

「…しかし、『ビケ』は喋ることができないのが残念だな。できたら更に楽しくなるだろうに」
「それとも三枝さんは、そういう非科学的なことはあまり信じない方かな?」

948三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/05/09(土) 22:20:31
>>947

「ええ、『美味しそう』ですし……」

  チラッ

「今度、立ち寄ってみたいと思います」

『石動さん』――聞き覚えのない名前でした。
大きな学校なので、それも当たり前の事なのでしょう。
石動さんも、和菓子がお好きなのでしょうか。

「…………はい。でも、『人形』ですから」

「千草は『人間』ですし、鳥は『鳥』。魚は『魚』です。
 生まれつきのものですし、変えられる事でもありません」

「『ありのまま』を受け入れるのが幸せな事なのかなと――」

「それぞれ良い所があって、
 それを尊重していきたいと思っています」

          ニコ

『人形』には『人形の良い所』があります。
それは『死なない』という事です。
千草は死にます。
もちろん今すぐではありませんが、いつかは死にます。
死なないからこそ、『ビケ』は安心を与えてくれるのです。

「……でも、もし喋れたら楽しいと思います。
 世の中には『髪が伸びる人形』もあると聞きますし、
 何処かに『喋る人形』もいるのかもしれません」

「鉄先輩は、『不思議な話』はお好きなのですか?」

949鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/05/09(土) 22:50:11
>>948

「…三枝さんも、食べてみるか?」

微笑みながら、食べかけの羊羹を差し出して訊ねる。
何となく三枝さんの考えていることが分かってしまった。
『鈴眼』の味の美味しさを確かめる意味でも、いいかもしれない。

「やはり君は大人な一面もあるな。それは確かにその通りで、ないものを求め続けるのは辛い事だ」
「そして『鳥』は空を飛べるし、『魚』は水の中で生きる事ができる。
 それを認め尊重することは、とても大事だとオレも思うよ」

三枝の笑顔に頷きながら、紙袋の中から『最中』を取り出す。羊羹の次に食べる予定だったものだ。

「そうだな…昔話の『妖怪退治』なんかは好きだ。小学生の頃は色々調べたりしたよ」
「ひょっとしたら『ビケ』にも何か超常の力が働いて、話せるようになるかもしれない、なんて思ったりするんだ」
「それこそ、『超能力』で眠れる意思を目覚めさせる、とかでもいいかもしれない」

950三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/05/09(土) 23:19:51
>>949

「…………いいんですか?」

そう言いながら、羊羹を受け取ってしまいました。
『顔』に出ていたのでしょうか。
先輩には申し訳ないですが、せっかくなので頂く事にします。

       モグ……

「――『美味しい』、です」

「『妖怪退治』――ですか?
 『狐』や『狸』は人を化かすとか……」

「あ……でも、それは『妖怪』とは違うのでしょうか?
 ええと……『河童』の話なら聞いた事があります」

「侍に手を切られた河童が、
 それを返してもらうのと引き換えに、
 薬の作り方を教えたとかで……」

        モグ……

『河童』は空想の生き物です。
少なくとも、そういう事になっています。
でも、もしかするといるのかもしれません。
今はいなくても、昔はいたのかもしれません。
そう考えてみると、何だか不思議な感じがしてきます。

         ピタ

「『超能力で』――――」

ビケは死にませんが、千草は死にます。
千草には『能力』がありますが、ビケにはありません。
それも、『違い』の一つです。

「……そうですね」

「そういう事も――あるのかもしれません」

951鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/05/10(日) 00:09:42
>>950

「それなら良かった」ニコリ
「しかし、君は博識でもあるな…何かの本で読んだのか?
 そういうのだよ。妖怪退治と言ったが、別に倒さなくても穏便に解決できるのも良い」
「他には、そうだな…『鵺退治』なんか好きだな」
「二条天皇を悩ませた怪異を、英雄たる源頼光と家来の猪早太が退治するお話だ」

「もし興味があれば、今度本を持ってくるよ」モグモグ

男として、そういう話にはやはり目が輝いてしまう。
『シヴァルリー』のような超能力がある以上、そういった怪異ももしかしたら現実のものかもしれない。
人々を危険に晒す怪異は流石にいない方がいいが、木霊のような生き物ならいても面白いと思う。

「・・・・・」
「そういうのも面白い、というだけさ。『超能力』がこの世にあるかどうか
 なんて、実際に会ってみないと分からないもんな」
「高校生になっても、意外とこういう事を考えるのは楽しいんだ」

そして、三枝さんが話すつもりがないのなら、それもいいと思う。
何もかも共有する必要はないし、自分が『スタンド使い』であるという事を隠しておく人間は多いだろうから。
最中を食べ終え、一人うんうんと頷く。

952三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/05/10(日) 00:47:52
>>951

「その、少しだけですけど……」

本は出来るだけ読むようにしています。
『将来の目標』のために勉強しなければいけませんから。
色々な事を学んで、『立派な人』になって、
『素晴らしい最期』を迎えられるように。

「『鵺退治』ですか?それは知りませんでした。
 『英雄』――何だか凄そうなお話ですね」

「いつか、その本を見せて下さい。一度読んでみたいので」

『英雄』というのは『立派な人』という意味です。
きっと、見習うべき部分も見つかる事でしょう。
『妖怪』よりも、そちらの方に関心が向いてしまいました。

「はい、千草もそう思います」

「中学生でも、そういう事を考えるのは楽しいですから」

          ニコ

楽しい事ばかりではないでしょう。
幸い出会った事はありませんが、
『スタンド』の世界には危険もあるのは、何となく分かります。
でも、楽しい事もあります。
まだ少ないですが、『スタンド』が縁で知り合った方もいます。
だから、『ありのまま』を受け入れようと思うのです。

「あ……すっかり話し込んでしまいました。
 先輩は『自主練習』をされるのでしたね」

「お邪魔になるといけないので、寮に帰っています。
 先輩に負けないように、
 千草も『予習』と『復習』をしておきたいので。
 今日は鉄先輩とお話が出来て、とても楽しかったです」」

           ペコリ

「――――ありがとうございました」

『ビケ』とあんパンの袋を持って、立ち上がります。
先輩は『立派な人』です。
だから、尊敬できる先輩と同じように、
千草も頑張ろうと思いました。

953鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/05/10(日) 01:29:12
>>952

「勤勉であることは素晴らしい。オレも見習わなきゃな」

中学一年生でなお生徒会に入り、今もなお様々な事から学び続けている立派な少女だ。
ちなみに、自分はあまり学業に自信はない。日本史と国語が多少得意だが、世界史と英語が苦手なので結局平均点だ。
決して疎かにしているつもりはないのだが。もう少し三枝さんのように、本を読む回数も増やすべきだろうか。

「ああ、それなら今度持ってくるよ。都合の良い日をLINEで伝えるから」

本当は、もっと率直に『スタンド使い』である事を訊ねる事もできたが、それでこの子を傷付けてしまうことを恐れた。
三枝さんは暴力的な話に極めて耐性が低く、少し心配になる時もある。そんな彼女が、なぜ『スタンド』を求めたのか。
あるいは、生まれつきなのか。それとも何かしらの転機があって、目覚めたのか。
『スタンド』は精神の発露であるならば、触れられたくない人もいるだろう。
中には踏み込める人間もいるのだろうが、自分はこういう人間だ。

「いや、気を遣わせてすまない」
「こちらこそありがとう。三枝さんと話すのは、色々と勉強になるよ」
「それじゃあ、また今度」

立ち上がった少女へ向けて、同じく立ち上がって会釈をする。そして傍の『ビケ』にも。
手を振って、彼女が去っていくのを黙って見送る────。

「───三枝さん。オレは源頼光のような英雄じゃあないが、それでも人を助けるためにできることがある」
「だから、さっきの『怪異』じゃあないが。困った事があったら、すぐに呼んでくれ」
「・・・・・じゃあ、また」

『スタンド使い』というものは、基本的に一般人より高い戦闘力がある。だから、本来は三枝さんの事をそこまで心配しなくてもいいのかもしれない。
ただそれでもこんな事を言ってしまうのは。
彼女の性格が戦闘向きではないこと、それに何より、彼女に妹の姿を重ねてしまっているのかもしれない。
『スタンド』が見えてしまうからこそ、トラブルに巻き込まれる事もありえるだろう。
それでもどうか、そんなものとは無縁の世界にいて欲しい。ただそう願う。

954鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/05/10(日) 02:10:58
×源頼光
○源頼政

955三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/05/10(日) 21:30:34
>>953

  ガチャ…………

寮に帰ってきて、自分の部屋のドアを開けます。
朝は、ここを出て学校へ行き、夕方頃に帰ってくるのです。
最初は少し戸惑いましたが、もう慣れたものです。

「――――ふぅ」

        トスッ

椅子に腰を下ろし、机に向かいます。
『ビケ』はベッドの上に座ってもらいました。
鞄から教科書とノートを出したら、
今日の『復習』と『予習』を始めましょう。

        カリカリカリ
               カリカリカリ

「――――…………」

ふと、手が止まってしまいました。
別れ際に、鉄先輩に言われた言葉を思い出したからです。
『人を助けるために出来る事がある』と。

「『人を助けるために出来る事』……」

千草の『墓堀人』も、『誰かを助ける』事が出来るのでしょうか。
もし出来るなら――『そうしてみたい』と思います。
そうする事で、『立派な人間』に近付ける気がするからです。

                カリカリカリ
                       カリカリカリ

でも、今は『勉強』に集中する事にします。
一つの事をキチンと出来ないようでは、
『立派な人間』にはなれませんから。
でも、いつか――――
『誰かを助けられるような人』になりたいです。

956シルク『トワイライト・トーン』&『トワイライト・ゾーン』:2020/05/22(金) 00:44:51

       〜〜℃¥$¢£%#&*@§♪

森の奥から、『調子の外れた歌声』が聞こえる。
いや――それを『歌声』と形容する事は適切ではない。
正確には、他者を不快に陥れる『怪音波』とでも言おうか。

  〜〜℃¥$¢£%#&*@§♪

事実、それを聞いた人間は奇怪な『頭痛』を感じるだろう。
ここが人の少ない場所である事は不幸中の幸いだった。
ただし、『動物達の迷惑を無視すれば』という注釈は必要だ。

          〜〜℃¥$¢£%#&*@§♪

ずっと前から、『私』は疑問に感じている事がある。
『発生源』であるシルク自身は、どうして平気でいられるのか。
本人だけが平然としつつ、周囲に被害を及ぼす行為は、
まさしく『邪悪』以外の何物でもないと『私』は思う。

      〜〜℃¥$¢£%#&*@§♪

しかし、『私』にはシルクの蛮行を食い止める事は出来ない。
『私』に可能なのは、『諸悪の根源』たるシルクが、
人々を苦しめる光景を見守る事だけなのだ。
どれほど言葉を尽くしたとしても、
この物悲しさを完璧に表現するには至らない。

957猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/05/22(金) 01:53:29
>>956

『ズキン』

「んっ…」


運悪くそこを通りがかったのは、黒い『和ゴス』のドレスに身を包んだポニーテールの少女だ。
頭を抑えながら、時折木に手を添え寄りかかりつつも、音の発生源へと向かっていく。


「なんなのかしら、この金切り声は…」

仕事の前に、宣伝を兼ねて公園を散歩をしようかと思っていたら。騒音を超えて、破壊力を持った音が森の奥から聞こえてきた。
本当はそのまま離れても良かったのだが、その音源に対する好奇心が勝った。
とはいえ、今は半分ほど後悔している。もう少し歩いて見つからなければ、諦めて帰ってしまおう。
そう考えながら、音の主へと近づいていく。

958シルク『トワイライト・トーン』&『トワイライト・ゾーン』:2020/05/22(金) 13:58:27
>>957

森の中を進んでいくと、徐々に『音源』が見えてきた。
同じくらいの年齢らしい少女だ。
『燕尾服』風に改造した制服を着ている。
どうやら『歌っている』らしい。
それを『歌』と呼ぶのであれば。

   〜〜℃¥$¢£%#&*@§♪

          ザッ

「――えっ?あ、あれっ?」

「ひ、人がいたの?うぅ、恥ずかしいなぁ……」

不意に歌うのを止めた少女が、そちらを向いた。
襟の辺りに、コウモリ型の『ピンマイク』がくっついている。
『スタンド』だ。

        《………………》

その隣に『私』――『トワイライト・ゾーン』がいた。
人間の目には『奇妙な生物』が立っているように映るだろう。
『異次元生物』と表現するのが分かり易いかもしれない。

959猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/05/22(金) 19:07:59
>>958

「まさか、本当に人間の声なの…?」

ようやく辿り着いた先に見えたのは、発生練習をしていた一人の少女だった。
もっともあの音響兵器を声と呼ぶなら、だが。
しかもあの『改造制服』には見覚えがある。同学年の少女だ。クラスは違うが。
こちらは格好も髪型も『普段』と違う。恐らくは気付かれないと思う、というかそうであってほしい。

「─────こんにちは」ペコリ

スカートの端をつまみ、笑顔で軽く一礼。
色々と訊ねたいことはある。その『スタンド』や、隣に立つ見たことのない生き物についてだ。
だが、まずは敵意の有無を確かめなければ。

「ねぇ、こんなところで何をしていたの?」

960シルク『トワイライト・トーン』&『トワイライト・ゾーン』:2020/05/22(金) 20:07:51
>>959

『私』は、現れた『少女』の姿を目で追った。
もし可能であれば、『ここは危険だ』と警告していただろう。
清月学園中等部において、
シルクは『合唱部のお荷物部員』として知られている。
その歌声を耳にした者は、
例外なく言い知れぬ不快感に襲われる事になる。
もっとも悪質なのは、シルク自身に『悪意が無い』という点だ。

「あっ――こ、こんにちはっ!」

     ペコッ

(ホントは誰かが近付いてたら、
 『エコロケーション』で分かるはずなんだけど……。
 集中しすぎちゃってたのかなぁ?)

思いがけず丁寧に挨拶され、慌てて挨拶を返す。
少女に似た同学年の『少年』は知っていた。
しかし、『練習』を見られて動揺していた事もあり、
全く気付かなかった。

「えっと、『歌の練習』をしてるんですよ。
 私、まだまだ『上手じゃない』から、
 誰かに聞かれちゃったら恥ずかしいし……」

「それで、人のいない場所で『練習』しようかなって。
 エヘ……でも、見られちゃいましたね」

『敵意』は感じられない。
そこが、シルクという少女の厄介な部分だった。
すなわち、『敵意の無い人災』だ。

961猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/05/22(金) 20:38:17
>>960

「─────」
「お歌の。練習。」コクコク

気の抜けたような顔で、相槌を打ちつつオウム返しにこの子の言葉を繰り返す。
『スタンド』能力の練習、というか破壊力を確かめていた、とかならまだ分かるけれど。
ただ、この子がウソをついている気もしない。別に他人のウソを見抜けるとかそういう特技はないけれど。
同い年の子よりは、周囲にウソの多い環境にいると思う。

「うふふ。それで、あんな声が遠くから聞こえたのね」
「確かに、わたしも今までで一度も聞いたことのないようなお歌だったけれど」

両手を後ろで組みながら、ゆっくりと目の前の少女に近付く。
そうして状態を折り曲げて、間近で少女のピンマイクをじっと見つめた。
手を伸ばし、それに触ってみる。

「ひょっとして、それはこの子が悪さをしているんじゃないかしら?」

962シルク『トワイライト・トーン』&『トワイライト・ゾーン』[:2020/05/22(金) 21:31:19
>>961

「私、歌うのが大好きなんです。学校の『合唱部』にも入ってて」

「もっともっと練習して、
 早く上手くなりたいなぁって思ってるんですっ。
 将来は、歌を歌う職業に就きたいので!」

見知らぬ少女の手が『ピンマイク』に伸びていく。
不思議に思いながら、その様子を見つめる。
『トワイライト・トーン』は実体化していないので、
『カーマ・カメレオン』を発現しているのであれば触れるだろう。

「『この子』って…………見えるんですか!?
 『トワイライト・トーン』が!」

(やっぱり私だけじゃなかったんだ!もしかして、この人も!?)

驚きを隠せない。
自分以外に『見える』人間に出会ったのは初めてだ。
出会ったばかりの相手ではあるが、何となく親近感を覚えた。

              ツヅラシルク
「あ、あの……!私、『黒葛純白』って言います。
 『シルク』って呼んで下さい!」

「『見える人』に会ったのは初めてで……。
 なんだか感動しちゃいました!」

『私』は、二人のやり取りを観察していた。
シルクは、ここに『私』がいる事を忘れているらしい。
『私』は実体化している為、誰にでも見えるし触れられる。
出くわしたのが『力を持たない者』であったなら、
シルクは説明に苦しんでいただろう。
その意味では、この少女が『力を持つ者』であるのは、
幸いだったと言える。

963猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/05/22(金) 21:46:17
>>962

「あら」

スウッ

案の定、自分の指は『ピンマイク』をすり抜けた。
自分以外のを見るのは初めてだったが、これで確信した。間違いなく『スタンド』だ。
しかし、目で見えているのに触れないのはやはり不思議だ。ボクのスタンドには自分で触れるだけに、これもまた初体験だ。
一歩離れ、また目の前の女の子をじっと見た。

(ああ、そういえば『黒葛』さんって名字だったっけ。名前に黒と白が入ってたのを覚えてる)

「『シルク』ちゃん。ふふ、覚えたわ」
「あたしはね、『林檎』って言うの。よろしくね、『シルク』ちゃん」
「あたしも初めてなのよ、『見える人』。それがこんなに年の近い子で、とても嬉しいわ」

にっこりと笑い、小さく首を傾げる。チラリ、と後ろに立つ生き物を見ながら。

「ねぇ、シルクちゃん。近くにいるあなたのお友達も、あなたの『能力』と関係あるのかしら?」

基本的な決まりとして、一人につき能力は一人、そんなことを言っていた気がする。
だからあの怪音が能力であるなら、この生物は一体何なのだろうか。
もしシルクちゃんの目に見えていなければ、それはそれでミステリーだ。

964シルク『トワイライト・トーン』&『トワイライト・ゾーン』:2020/05/22(金) 22:24:02
>>963

「林檎さん――ですね!こちらこそ、よろしくお願いします!」

           ニ コ ッ

(この子も『清月』かなぁ?
 女の子だし、同じくらいの年みたいだし、
 友達になれるといいなぁ)

そんな事を考えながら、笑顔で『和ゴス』の少女を見る。
やがて、その視線の動きに気付いた。
先にいるのは、自分が『召喚』した『異次元生物』。

「えっ?あっ――――」

(そういえば、呼んだままだったっけ。
 お喋りに夢中になって忘れちゃってたよぉ……)

「えっと……関係あるっていえばあるかもしれないです」

「この子は『別の世界』に住んでるみたいなんですけど、
 私が歌ってると、こうやって出てきてくれるんです。
 きっと、歌で『気持ちが通じ合ってる』んじゃないかなぁって、
 そう思ってます!」

この世界に『私』が現れるのは、
シルクの歌が『私』の精神に『悪影響』を及ぼすからだ。
従って、『通じ合っている』という考えは、
シルクの『妄想』に過ぎない。
それを理解させられない事が残念でならないと、『私』は思う。

「見た目はちょっと変わってますけど、
 とっても良い子なんですよ。
 私は『トワイライト・ゾーン』って呼んでます!」

「今日は練習を聞いてもらおうと思って呼んでたんです。
 大勢の前で歌うのは恥ずかしいですけど、
 やっぱり誰か聞いてくれる人がいる方が、
 気分が乗りやすいので!」

厳密には、シルク本来のスタンドは『トワイライト・トーン』だ。
『トワイライト・ゾーン』は、
『トワイライト・トーン』によって『異次元』から呼び出される存在。
それらを別々として見れば、
シルクは『二つのスタンド』を所有していると言えるだろう。

965猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/05/22(金) 23:02:36
>>964

「歌で、出てくる。そうなのね。うん、気持ちは分からなくもないわ」

この子の言葉通り、その世界では本当にあの怪音が好まれているのかもしれない。
ただ、逆に目覚まし時計のように。耳をつんざき、頭痛を呼ぶ程の大音量で呼ばれているのだとしたら。
あまりにも可哀想だ。もっとも、言葉は通じないだろうけど。

「こんにちは、『トワイライト・ゾーン』さん?」

顔色を伺うように、下から見上げてみる。これで日本語が返ってきたら、面白いのだけれど。

「ねぇ、シルクちゃん。さっきの質問なのだけれど」
「あなたが『スタンド』を使わずに歌ったら、どうなるのかしら?」

あの音響兵器は、多分スタンド能力が関わっているはず。そうでなければおかしい。
だとすれば、スイッチを切ればそれで済むはずだけれど…。

966シルク『トワイライト・トーン』&『トワイライト・ゾーン』:2020/05/22(金) 23:38:11
>>965

《………………》

体長『2m』の『トワイライト・ゾーン』が、
無言で林檎を見下ろしている。
『別次元の存在』となると、やはり意思の疎通は難しいようだ。
シルクには可能なのだろうか。
少なくとも、『召喚』出来るのは間違いない。
ただし、本当に理解し合えているかは不明だ。

「『トワイライト・トーン』を使わずに……ですか?」

     ――――フ ッ

「えっと――じゃあ、歌いますねっ」

襟元から、『ピンマイク』のスタンドが消えた。
林檎の考えが正しければ、これで『正常』に戻るはずだ。
そう、『普通』なら――――。

  〜〜℃¥$¢£%#&*@§♪

      〜〜℃¥$¢£%#&*@§♪

          〜〜℃¥$¢£%#&*@§♪

『変わっていない』。
その『壊滅的な歌声』は、
スタンドを発現している時と『全く同じ』だった。
この『怪音波』は、『スタンド能力』とは『無関係』らしい。

967猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/05/23(土) 00:03:35
>>966

反応がない事に頷き、まぁそうだろうなと納得する。
しかし、こんな見慣れない生き物を呼び出しても動じないとは。
このシルクちゃん、案外大物なのかもしれない。

「ええ、お願いね」

喉元からピンマイクが消えたのを見て、オンオフができない説は消えた。
これで、根本的な問題は解決するんじゃないか─────。

「っ?!」 バッ

思わず耳を抑え、後ずさる。
できるなら、片手を上げて歌声をやめさせたい。その時ら腕で耳を抑えよう。

「いえ、シルクちゃん。あなたのお声、どうなってるのかしら」
「その。『スタンド』に目覚める前から、そういう感じだったの?」

968シルク『トワイライト・トーン』&『トワイライト・ゾーン』:2020/05/23(土) 00:33:17
>>967

「――――?」

突然の林檎の動きを見てキョトンとした表情を浮かべ、
歌うのを止めた。
本人には『自覚』がないらしい。
最初に言っていた通り、
シルク自身も『上手くない』とは思っている。
実際は『それ以上』なのだが、彼女は理解していない。
それゆえに、本人の認識と実情には、
大きな『ズレ』が存在していた。

「あっ、ごめんなさい……。
 やっぱり、私って『上手じゃない』ですよね……。
 こんなことじゃ、『歌手』になれないですよね……」

    ショボン……

目に見えて肩を落とし、沈んだ様子で俯く。
しかし、それは一瞬の事だった。
すぐさま顔を上げて、力強く両手を握る。

           グッ グッ

「ううん!ここで挫けちゃダメ!
 諦めなければ、いつか必ず夢は叶うんだから!」

「うん!落ち込みタイム終了!よーし、頑張ろう!」

打って変わった明るい声色で、元気よく自分に言い聞かせる。
非常に『前向き』な性格のようだ。
それが、シルクの『厄介な一面』でもあった。

969猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/05/23(土) 00:51:54
>>968

「──────────」

成る程、ある程度理解できた。
第一に、この子の歌声は『頭痛』を呼び起こすほどに音痴なこと。ただ、これは『スタンド』ではない。
信じられないけれど、マンガのキャラのように、歌の下手さが極まってこうなったようだ。
『スタンド』そのものもマンガのような超能力だから、どうこうは言えないけど。
第二に、それは本人には一切影響がないこと。だから自分の下手さに気付くことはできない。
やっぱり、と言ってるからには、今までに何度か注意されてるんだろうけど。
第三に、シルクちゃんはすごい前向きであること。だから、誰から何と言われようと諦めないのだろう。
彼女に羞恥心があって本当に良かったと思う。人前で歌い出してしまったら、ちょっとした騒ぎになりかねないから。

(全てが噛み合って、とんでもない事になってるなぁ。ぴえん)

俯いて心の中で涙を流しつつ、小さく溜め息をつく。
そして今まで浮かべていた笑顔を消し、じっと大きな瞳でシルクを見つめた。

「あたしは、あなたの歌声を聴くと、『頭痛』がしてしまうみたい。最初、それがあなたの『能力』かと思ってたのだけれど」
「違うみたい。生まれつき、あなたの『音域』は人間のそれと、大きく外れてるみたいね」

「それでも、人と大きく違うことはメリットよね。この時代、少し上手くても、目立つものがなければ売れないもの」
「いずれちゃんと聞こえるようになったら、その時はシルクちゃん、きっと素敵な歌声になると思うわ」
「そうしたら、一緒にカラオケでも行きましょうね」

再び笑顔を浮かべ、首を傾げる。ポニーテールがふわりと揺れた。
もっとも、その機会はしばらくないだろうことを、林檎自体もなんとなく感じていた。

970シルク『トワイライト・トーン』&『トワイライト・ゾーン』:2020/05/23(土) 01:24:52
>>969

林檎の分析は的を得ていた。
『天災的な歌唱力』と『自身に対する無自覚』に加えて、
『どこまでも前向きな性格』――
それらの要素が重なった結果、
シルクという少女は形作られている。
ある意味では、『運命の悪戯』とも呼べるかもしれない。

「ありがとうございますっ。
 私、いつも『一人カラオケ』ばっかりだから、
 すっごく嬉しいです!」

理由は簡単だった。
『誰も一緒に行ってくれない』から。
だから、一人で行くしかない。

「林檎さんとカラオケするの、楽しみにしてますねっ!」

         ニ コ ッ

心からの笑顔で、林檎の言葉に応じる。
それが実現するのは何年後か、あるいは何十年後か。
少なくとも、『長い時間』が必要なのは間違いない。

《………………》

林檎と名乗る少女に視線を向けながら、『私』は思った。
会話は一段落している。
今なら、自然に立ち去る事が出来るだろう。
この『危険地帯』を離れるのなら『今の内』だ。
シルクの『被害者』が増えるのは、好ましい事ではない。

971猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/05/23(土) 01:39:07
>>970

一緒にカラオケに行きたい、と言ったのはウソじゃない。
歌が壊滅的に、むしろ超能力に匹敵するレベルで下手なのさえ除けば、シルクちゃんは前向きで明るくて、いい子だ。
だからこそ、歌が上手くなってさえくれれば。心の底から、本当にそう思う。

ああ、でもその時はこの格好で行かなきゃ。
自分がどっちの姿で知り合ったか、間違えないようにしないとね───と思ってたら、『トワイライト・ゾーン』からの視線を感じた。

歌声の主人へと近付くものを警戒しているのか。それとも、実は同じ被害者を心配しているのか。
何にせよ、この怪音の正体は突き止めたし、自分もそろそろ『歓楽街』の方へ向かわなければならない。
彼(実は女の子かも?)へクスリと笑い、シルクちゃんへと近付く。

「それじゃあ、あたしは帰るわ。練習のお邪魔をしても悪いもの」
「また会いましょう、シルクちゃん」

ばいばい、と手を振って、公園の入り口へと向かう。
『スタンド使い』の知り合いができたのは嬉しいが、同時に『スタンド』でなくとも
中にはそれに匹敵する力を持つ人もいるんだ、と知ることができた。
今日は色々な意味で、貴重な体験だったなぁと思う。

972今泉『コール・イット・ラヴ』:2020/06/02(火) 22:10:36

今日は休みの日。

この前、カメラを買ったんだよね。
うちには写真立てはあるけど、写真が無かったから。

「…………」

       スッ

別に湖の写真を飾りたいわけじゃないんだ。
ただ、練習をするのが、フツーだと思った。
だからカメラを持ったまま、湖畔を歩いてるんだ。

973夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/06/02(火) 22:57:51
>>972

    ザッ

ながねん『ミカクニンセイブツ』をおいつづけてきた、
ワレワレ『UMAちょうさはん』のモトに、
あるひ、ひとつのユウリョクジョーホーがもたらされた……。
サイキンこのあたりで、
『キミョーなセイブツ』のモクゲキがあいついでいるという……!!
ワレワレはシンジツをたしかめるべく、
さっそくヒコウキでゲンチにちょっこうした!!

            ザッ

昨日観た『秘境探検ドキュメンタリー』に影響されたせいで、
探検家になりきって湖畔を歩く。
もちろん、そう都合よく『UMA』が見つかるとは思っていない。
しかし、このまえの『カマキリ』のように、
『まだみたことのないイキモノ』は、ヤマほどいるのだ。
そういうイキモノをみつけるコトが、
このタンケンのモクテキだった。
もし『ダイイチハッケンシャ』になったときのために、
ナマエかんがえとかないとな!!

                     ザッ

「――――おん??」

「お〜〜〜い!!イズミ〜〜〜ン!!」

イズミンの姿を見かけて、手を振りながら走っていく。
もしかするとイズミンも、
『レイのセイブツ』のショウタイをあばきにきたのかもしれない!!
オドロキのてんかいはCMのあと!!

974今泉『コール・イット・ラヴ』:2020/06/02(火) 23:18:29
>>973

「あっ!」「ユメミンじゃないですか〜」

思いがけずに友達と会った。
私は笑って、カメラを持ってない手を振る。

「こんにちは、ユメミン」
「奇遇ですねえ。何もないところで」

周りを見渡す。
フツーに、何もない景色。
それとも『何もないがある』って言うのかな。

「今日は……お散歩ですか?」
「それとも」「何か、不思議なものを探してたりしてっ」

975夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/06/02(火) 23:40:12
>>974

「ん〜〜〜『ミカクニンセイブツ』をさがしてる!!
 このまえは『カマキリ』みつけたから、
 きょうはチガウやつをみつけようとおもって!!」

       キョロ キョロ
                キョロ キョロ

イズミンにつられて、辺りを見回す。
『レイのセイブツ』のコンセキは、いまだにみつからない。
やはり、あのハナシは、ただのデンセツにすぎなかったのか??
だが、ワレワレちょうさはんは、あきらめなかった。
ねばりづよいチョウサをつづけ、
ついに『テガカリ』をハッケンしたのだ!!

「で――――イズミンは??」

「『ソレ』もってるってコトは、イズミンたいいんもチョウサ??」

イズミンの『カメラ』を指差す。
これは、ユウリョクなテガカリだ。
ひょっとして、イズミンたいいんのカメラに、
『レイのセイブツ』がうつっているかもしれない……!!

976今泉『コール・イット・ラヴ』:2020/06/03(水) 00:05:58
>>975

「未確認生物!ですかっ。 いいですねえ」
「この湖、UMAが出るって噂もありますし」
「そこまでじゃなくても」
「珍しい動物見かけたとか、たまに聞きますしね」

ユメミンは私よりいろんなものを知ってる。
けど、逆に、私より全然知らない事もある。

「あ、えーと」「私は調査じゃなくって」

            『カシャッ』

適当にシャッターを切る。

「訓練、ですっ。ユメミン隊員!」

「あは」「カメラ、ついこの前買いまして〜」
「とりあえず風景とか撮って練習しようかな、って」

「でもせっかくですし、未確認生物を練習台にしちゃおうかな」

今の所は、ほんと、面白いものはなにも撮れてないんだけどね。
あんまりわかんないし。どう写せば綺麗なのかとか、難しいよね。

977夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/06/03(水) 00:46:05
>>976

「おっ、イイね〜〜〜。よし、イズミンたいいん!!
 まだみぬ『ミカクニンセイブツ』をカメラにおさめよう!!」

    ザッ

とりあえず、適当に歩き出す。
何か変わったものが見つかるかもしれないし。
ふと視線を下ろすと、
葉っぱの上に『ミョーなモノ』がいることに気付いた。

「イズミン――――イズミン、イズミン……。
 ナンか『ヘンなの』みつけちゃった……!!」
 
「あ!!これウワサの『UMA』か??
 いや……ゼッタイそうだ……!!」

「うんうん、マチガイないな……。
 だって、こんな『ヘンなヤツ』なんだし……!!」

興奮しながら、その『ヘンなヤツ』を観察する。
ソイツは、とても小さい生き物だった。
このサイズなら、イマまでみおとされていたとしても、
フシギはないな!!

       ジィィィィィィィィィィ――――…………ッ

そして、背中に『貝殻』みたいなのを背負っている。
動き方は、かなり『ゆっくり』みたいだ。
ながきにわたるチョウサのすえ、
ワレワレはついに、
『レイのセイブツ』のハッケンにセイコウした!!

「ナマエは…………『メがとびでてる』から、
 『デメキンムシ』とかどうかな??」

「あ、それとも『ロング・アイ』とかのほうがイケてるカンジ??」

熱心に『カタツムリ』を見つめながら、名前を提案する。

978今泉『コール・イット・ラヴ』:2020/06/03(水) 01:08:44
>>977

「いいですよ、見つけたら教えてくださいねっ」

私には多分見つけられない。
図鑑とか、昔結構読んだからね。
そうこうしてると早速ユメミンが見つけたようだ。

「わ、もう見つけたんですか! 流石ですねえ」
「って」「こ」「これは……!」

かたつむりだ。どう見てもかたつむり。

「これは………………!!」

かたつむりだよ。……あ、どうしよう。
これ、ユメミンのいつものノリ?
それとも、ほんとに『見た』事ないのかな。

どう反応するのがフツーなんだろう。
こういうパターン初めてかも、難しいな。
……とりあえず、ユメミンに合わせてみよう。

「これ……貝の仲間じゃないですか? ユメミン隊員」
「『ハサミのないやどかり』かもしれません」
「『メナガカイセオイ』……はフツーすぎるか」
「それにしても遅いですね、動き」「貝が重たいのかな」

かたつむりをこんなじっくり見たのも、初めてかもね。
虫ってそんなに好きじゃないのがフツーだと思うんだ。 
だからわりと、そうしてるんだよね、いつもは。

「うーん」「やっぱり貝は捨てがたいですよ」
「『デメキンガイ』なんてどうですか、ユメミン隊員」

      『カシャ』

とりあえずカメラに収めておく。動きが遅いから、撮りやすいね。

979夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/06/03(水) 01:35:00
>>978

「あ〜〜〜『デメキンガイ』…………」

「――――それ、イイ!!
 さすがはイズミンたいいん……。
 めのつけどころがちがうな……!!」

「いや、でも『メナガカイセオイ』もナカナカ……。
 なんか、こう……『ガクジュツテキ』っぽいヒビキだし!!」

「じゃあじゃあ、ガクメイを『メナガカイセオイ』にして、
 ワメイが『デメキンガイ』で!!どう??」

         パシャッ

「よし!!『ショウコシャシン』もゲット!!」

自分も、スマホのカメラで写真を撮っておく。
サングラスの奥の瞳が輝いている様子からは、
『本気さ』が滲み出ていた。
カタツムリを見たコトは――まだ、なかった。

「いや〜〜〜さいさきイイな〜〜〜。
 いきなり、こんなオオモノがみつかるとは……」

「――あ、もうイチマイとっとこう」

          パシャッ

別の角度から、追加でシャッターを切る。
やはり、シンシュのカイなのか……。
センモンカのイケンをあおぐひつようがあるかもしれない……。

「『アイちゃんセンセー』、ナニかしってるかな??
 あ、セイブツのセンセーじゃないからダメ??」

980今泉『コール・イット・ラヴ』:2020/06/03(水) 02:02:45
>>979

「学名と和名! いいですねっ」「本格的で」
「実際ああいうのって誰が決めてるんでしょうね?」
「第一発見者が全部決めるのかな」

「……」

それは、本当に知らない。
学名ってよくわかんないよね。
生物に詳しい人は覚えてるのかな、あれって。

「あーっ、どうでしょう?」
「先生は、なんというか」
「『私が本当に知らない事』は多分知らないんですよ」
「知ってて忘れてる事とかは、知ってる事ありますけど」
「生き物の種類とかは、うーん……」

私が生き物にそんなに詳しくないのは本当だ。
図鑑とかは、読んだんだけどね。
フツーにしか読んでないんだ。

「…………」

あ、これ、どうしよう。
ユメミン、これが何なのか本気で知らないっぽい。
そうだよね、それは全然、あり得ることだった。

「えっと〜」
「でも、あれですよね」
「もしかしたらこれ」

       スッ

ゆっくり動く殻を、同じくらいゆっくり指差す。

「……『かたつむり』の仲間、だったりするのかも?」
「私も、『生物』ってそんなに詳しくないんだけど」

「貝を背負ってて、ゆっくり動く虫なんですよ」
「ほら、『でんでん虫の歌』に出てくる、あの……」

それで、どう言うのがフツーか分からないから、ゆっくり言った。

981夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/06/03(水) 02:32:16
>>980

          「 え 」

そう言われて一瞬固まり、また『カタツムリ』に視線を向ける。
イズミンが知ってる。
ってコトは、『シンシュのカイ』じゃない。

         「『カタツムリ』……」

  「『カイ』をせおってて『ユックリ』うごく…………」

      「『デンデンムシのウタ』………………」

『カタツムリ』――おぼろげな記憶の中に、
その名前があったのを思い出す。
ただ、『見たコトがない』から実物と結び付かなかった。
それが、イマになって繋がった。

「……『カタツムリ』」

葉っぱの上の小さなそれを、じっと見つめる。
それから少しの間、何も言わなかった。
やがて、勢いよく顔を上げる。

「――――はじめてみた!!カタツムリ!!
 まさか、『コレ』がカタツムリだったとは……・。
 カタツムリって、こんなんだったんだ!!」

「いや〜〜〜スゴい!!
 シゼンカイはシンピとナゾにみちているな〜〜〜。
 うんうん、やっぱり『ダイハッケン』だ!!」

さっきまでとは違う輝きを秘めた瞳で、
改めてカタツムリを見下ろす。
たとえ『誰も見たことのないモノ』じゃなくても、
自分にとっては『初めて見たモノ』だ。
『見たことのないモノを見た』コトには変わらない。
だから、嬉しい。
だから、これも『大発見』なんだと思える。

982今泉『コール・イット・ラヴ』:2020/06/03(水) 03:04:01
>>981

「……………………………そうっ」

固まったユメミンに、私も固まったんだ。
それは、本当に、どうすればいいか分からなかったから。

「そうですよ! 多分っ」
「貝じゃなくって、かたつむりの仲間」
「あれ、かたつむりは貝の仲間なんだっけ」

ユメミンが顔を上げた時、良かった、って思った。

「……」

そう思うより早く、私が思った気がしたんだ。
喜んでるのは、『本当の新種』だからじゃない。
ユメミンにとっての『新発見』だからなんだ。
だから怒ったり、ガッカリしたりは、してないんだ。
それが分かったのが、私は、きっと、嬉しかった。

「この大発見、ぜひ記録に残しておきましょう!」
「いつか本とかに載るかもしれません」
「ユメミン、隊員の『伝記』とか」

         『カシャ』

ユメミンとかたつむりが収まるように写す。
あんまり綺麗には、写らなかったけど。
それでも意味があると思った。

「それにしても、いるものですねえ。生き物」
「普段フツーに歩いてると、飛んでる虫は見ますけど」
「こうして葉っぱについてるのって見ないですし」

「あ、なんかいた」

他の葉っぱも見てみると、小さい変な虫もいる。
名前は分からない。多分何かの幼虫なんだろうな。
緑で、小さい。これも動きが遅かった。

「本当の『新種』がいてもおかしくないっていうか」
「『UMA』なんて噂になるのも、分かる気がしますっ」

このかたつむりだって、分からないからね。
多分よくいる種類だろうけど、新種じゃないとは限らない。

983夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/06/03(水) 03:35:57
>>982

「おっ、さすがイズミンたいいん『てぎわ』がイイ!!
 キレイにとれてるかな??」

「あ!!そのシャシン、あとでおくってくれない??
 『デンキ』のサクシャショウカイのトコにつかいたいから」

これは、そのための『1ページ』だ。
『発見』というページを、もっともっと積み重ねていきたい。
『ページ』がたくさん集まった時、
世界に一冊だけの『本』が出来上がるハズだから。

「ナニもないようにみえてさぁ、ケッコーあるんだよね〜〜〜。
 『フシギなコト』ってさぁ〜〜〜」

「たとえば……『ジメンのナカ』とかに、
 スッゴイのがかくれてるかも!!」

         キョロ キョロ

「え??なになに??イズミンたいいんのホウコクをうけ、
 ワレワレはゲンバにキュウコウした!!」

    ジッ…………

「ほうほう、コレは――『ムシ』だな!!
 シンシュかもしれないし、そうじゃないかもしれない……!!
 もしかしたら、コレがオトナになったヤツが、
 シンシュかもしれないし……!!」

「どっちかわかんないけど、『みたコトないヤツ』だ!!」

           パシャッ

「コレさ、イズミンは『どんなの』になるとおもう??」

抜かりなくスマホで撮影しておく。
はたして、どんなセイチュウになるのかどうか……。
ひょっとすると、
しょうらいは『ダイトウリョウ』ってカノウセイもありうるな……!!

984今泉『コール・イット・ラヴ』:2020/06/03(水) 03:54:41
>>983

「どうですかね、あんまり綺麗じゃないかも?」
「なかなか慣れないんですよね〜。デジカメに」

画面を見せる。
手ブレしてる気がするんだよね。

「いいですよ! 現像したら……」
「あ、スマホに取り込んだりも出来るのかな」
「なんにせよ、送りますね! 良い記念になりそう」

次にカメラを向けるのは、虫。
私一人なら絶対気にしないような虫。

「地面の中……もぐらとか、いるかもしれませんね」
「葉っぱだけでもこんな、色々いるんですし」
「これは……」「うーん」

虫を見る。
……ゆっくり、葉っぱを食べてるように見える。
こんな小さい虫でもちゃんと食べるんだね。

「そうですねえ、モンシロチョウとか?」「小さいし〜」
「『ガ』だったら、ちょっと嫌だし」「蝶々がいいです」

「できたら白い蝶々になってほしいですね」

               『カシャ』

どっちもそんなに変わらないんだけどね。
でも、蝶の方がフツーに綺麗な柄のが多いよね。

撮った写真をカメラの画面で見てみる……

「…………あ! そうだ、ユメミン隊員」
「あの、お耳に入れておきたい事があるんですけども」

と、そうこうしてると思い出した事があった。

「この前、クロガネ先輩に会ったんですよ〜」
「偶然会って……このカメラが売ってるところ探すの、手伝ってもらったんです」
「それでその時に、ユメミンの話をちょっと出しまして」

「スタンド使いだってことセンパイに教えたんですけど」「……よかったです?」

メールで連絡しようとしてたんだよね。今日せっかく会ったから、この場で伝えとこう。

985夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/06/03(水) 16:31:50
>>984

「『モンシロチョウ』!!きいたコトある!!」

カタツムリと同じように、やはり『実物』を見た経験はない。
『フシギ』は、あちこちに転がってる。
『フツーじゃない場所』だけじゃなくて、『フツーの場所』にも。

「うんうん、イイたべっぷりだ。
 モリモリたべて、ドンドンおおきくなれよ〜〜〜」

もしダイトウリョウになったら、
『プレジデント・バタフライ』ってナマエつけよう。
フルネームは、『バタフライ・ホワイト』で。
みなさん、ゼヒきよきイッピョウを!!

「――クロガネくん??
 あ〜〜〜そういえば、
 わたしもこのまえグーゼンあったっけ……。
 ホラ、クロガネくんがシナイでカマキリをたおしたハナシ」

実際は、ここでカマキリを追いかけてる時に、グーゼン会った。
いや、まてよ??
そうか、『そういうコト』だったのか……。
まさかグーゼンをよそおって、
であいのキッカケをつくっていたとは……!!
なかなかやりてのプレイボーイじゃないか!!

「あ、そうなの??イイよイイよ」

「コッチがしってるのにアッチがしらないのって、
 なんかフェアじゃないカンジだし。
 クロガネくんは『ヤバいヤツ』でもないしさ」

世の中には『マジで危ないヤツら』がいる。
そういうヤツに知られるのは、『チョーチョーチョーキケン』だ。
だけど、クロガネくんが『違う』のは分かる。

「それに、『スタンドつかい』だってわかってたら、
 そのツテでナンか『ジョーホー』がはいるかもしんないし。
 かわったモノとか、めずらしいモノとか、そういうの」

教えておくのは、得するコトもある。
『スタンド使いならでは』の、
『オモシロ情報』がゲットできるからだ。
そこから、新しい『ウサギ』を見つけられるかもしれない。

「ちなみにクロガネくん、どんなリアクションだった??
 ビックリしてた??」

「なッ……!そ、そうだったのか……。すまない。
 あまりにもイガイだったから、ついとりみだしてしまった。
 そうか、カノジョが……」

「――――こんなカンジとか??」

出来るだけ低い声とマジメな表情を作り、
クロガネくんの『モノマネ』を披露する。
だけど、カメラ探しを手伝ったというのは意外な気がした。
ジツは、そういうのくわしいのか??

986今泉『コール・イット・ラヴ』:2020/06/03(水) 23:44:00
>>985

「ほんと、白い蝶なんですよ」「小さくて」
「結構よくいるので後で探してみましょうよ」
「動くものも撮りたいですし」

      『カシャ』

葉っぱをよく食べる虫をもう一枚撮る。
それから、カメラを下げた。

「ごめんなさい、先にユメミンに確認すべきでしたよね」

「クロガネ先輩になら、教えてもいいかなって」
「フツーに、良い人ですし」
「ユメミン的にもよかったなら、よかったです」

先にユメミンに聞くべきだった、とは思う。
最近こういうの多いから気を付けないと。

「あはは、似てます似てますっ」
「ユメミンものまね上手ですねえ」
「フツーに、クロガネ先輩が言いそうですもん」

「でも〜、残念、はずれです!」「実際は」「……えーと」

          スッ

口を手で覆う。

「いや」
「何となくそんな気はしていた」
「彼女なら驚かないな」

低い声をしながら、記憶通りに話す。
けっこう上手いと思うんだ。それっぽくするの。

「って〜、そういう感じのこと言ってましたよ」
「それと、ユメミンのことは信用してるって!」

女子が苦手な鉄先輩が、信用してる。
ユメミンともわりとフツーに接せてるんだろうな。
なんとなく、それはイメージ出来る。

「それにしても……増えてきましたね。スタンド使いの知り合い」
「というか共通の知り合い?」「イカルガ先輩もですし、クロガネ先輩も」

987夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2020/06/04(木) 00:51:01
>>986

「マジで??おもいのほか、うすあじのリアクションだった……。
 エンブンひかえてんのか??
 いまひとつコクがたりないな……」

「もっと、こう…………なんか、あるじゃん??
 『ショウゲキのテンカイ』みたいなヤツが!!」

シンジツがあかされ、ヘイオンなひびはオワリをつげた。
もはや、『ほうほう』はひとつしかのこされていない。
チカラとチカラがぶつかりあい、
おたがいのタマシイがしのぎをけずる。
そうぜつなタタカイのはてにおとずれるモノとはナニか……。
さいしゅうかい『あすへのきぼう』に、ごきたいください!!

「――――まぁ、それは『ジョーホー』もらうコトで、
 いつか、うめあわせしてもらうとして……。
 イズミンたいいん、クロガネくんのマネうまいな〜〜〜!!
 フツーにうまい!!ホントにいいそうだもん。
 あ、いったんだっけ??」

コレは、まけてられないな……!!
『モノマネクイーン』のイスは、ただひとつ!!
グランプリまでに、『しんネタ』のかいはつをいそがねば!!

「たしかに〜〜〜。それ、スゴいわかる!!
 おんなじガッコーの『スタンドつかい』にあうってコト、
 さいきんおおいんだよね〜〜〜」

「しかも、リョーホーのシリアイだし。
 シリアイのシリアイ??みたいな??」

考えてみれば、こういうコトが最近多い気がする。
もしかすると、ナニかのまえぶれか??
おおきなコトがおこるぜんちょうとか??

「じつは、きづいてないけどケッコーいるのかも。
 このまえも、まちであったんだよね。
 『おんなじガッコーのスタンドつかい』に」

「そのコは、ウチらよりトシシタっぽかったけど。
 『シンブンブ』らしいよ」

『黒羽』と名乗った少女を思い出す。
彼女からは、『スタンド暴行事件』の話を聞いた。
これも、『ウサギ』の一つとして『リスト』に入れてある。

「『スタンドつかい』もきになるけど――――」

    キョロ キョロ

「イマは『モンシロチョウ』さがそう!!
 ココにヨウチュウがいるってコトは、
 このちかくに『セイチュウ』がいるのかも!!」

                   ヒラ ヒラ

スマホを握り締めて、あちこちを探す。
その時、少し遠くの方で何かが飛んでいるのが見えた。
もしかして、モンシロチョウかもしれない。

「イズミンたいいんへ。
 『ミカクニンヒコウブッタイ』はっけん!!
 ただちにカクニンにむかう!!」

           ダダッ

その方向に向かって元気よく駆け出す。
『フツー』の中にも『フシギ』はある。
だから、これも立派な『冒険』だ――――。

988今泉『コール・イット・ラヴ』:2020/06/04(木) 02:00:38
>>987

「こんな感じ、でしたよっ」「あは、言ったんです」

ウケたみたいでよかった。

「なにかこう、ユメミンにヒントを感じてたのかもしれないですね」
「なんだろ」「スタンド使い特有の動きのクセがあるとか」
「ほら、クロガネ先輩、剣道やってるからそういうの分かるのかも」

実際、そういうのがあっても変じゃないよね。
剣道やっててフツーに分かる物では無いと思うしけど。

「やっぱりたくさんいますよね? うちの学校」
「偶然スタンド使い同士が集まってるだけ?」
「その新聞部?の子は、私はまだ知りませんけども」

「この調子だと、すぐ知り合いになりそうです」
「取材とかされたらどうしよ」「あはは」

いつか会う事もあるのかな。
こればっかりは、分からない。
スタンド使い以外とも新しく会うことはあるし。

でもまあ、それは、今はいいや。

「そうですねっ、探しましょうモンシロチョウ!」
「きっとお花の近くとかに」「あっ」

       タタッ

「走るの速っ。待ってくださいよ〜っ、ユメミン隊員!」

ユメミンを追いかけよう。
この行き先は不思議の国じゃない。
フツーの湖畔の中で探す不思議に、きっと意味がある。

989『星見町案内板』:2020/06/04(木) 14:11:30

次スレ→ 【場】『 湖畔 ―自然公園― 』 その2

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