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【場】『 歓楽街 ―星見横丁― 』

417小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/09/12(水) 17:08:07
>>416

  「――傷を『治す』……」

  「これが……あなたの……」

自傷を終えた後、普段は自分で包帯を巻いている。
だけど、今はその必要はなかった。
マスキングテープの下で、急速に傷が癒えていくのが感じられる。
『コール・イット・ラヴ』の言葉通り、傷口はすぐに塞がった。
元通りになった腕を見つめて、その能力を目の当たりにする。

                   フッ……

今まで握っていた『スーサイド・ライフ』が、幻のように消えた。
空いた左手で、捲くっていた袖を下ろす。
それから、再び『コール・イット・ラヴ』に向き直る。

  「……ありがとうございました」

感謝の言葉と共に、深く頭を下げる。
そして、自身を癒してくれたスタンドの後ろ姿を見送った。
『コール・イット・ラヴ』の本体に全く関心がないと言えば嘘になってしまう。
だけど、『彼女』は傷のことには何も触れないでいてくれた。
だから、今ここで後を追うことはしないのが自分なりの礼儀だった。

              スゥゥゥ……

深呼吸を一度し、先程まで昂ぶっていた心が鎮められたことを確認する。
地面に手を伸ばし、足元に落ちている『鎮静剤』を拾い上げる。
きちんと鞘に収めてから、丁寧にバッグの中に戻す。

    コツ コツ コツ……

  「――……」

路地を出て、少しの間その場に立ち止まる。
おもむろに顔を動かし、一度だけ『彼女』が立ち去った方向に目を向けた。
その方向に対して、慎ましく目礼を送る。
やがて、踵を返して背を向け、反対方向に向かって歩いていく。

誰にも知られることのない町の片隅で、
ほんの僅かな時間の間に起こった、奇妙で小さな邂逅だった――。


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