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【場】『 大通り ―星見街道― 』

1『星見町案内板』:2016/01/25(月) 00:00:31
星見駅を南北に貫く大街道。
北部街道沿いにはデパートやショッピングセンターが立ち並び、
横道に伸びる『商店街』には昔ながらの温かみを感じられる。

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                 ミ三ミz、
        ┌──┐         ミ三ミz、                   【鵺鳴川】
        │    │          ┌─┐ ミ三ミz、                 ││
        │    │    ┌──┘┌┘    ミ三三三三三三三三三【T名高速】三三
        └┐┌┘┌─┘    ┌┘                《          ││
  ┌───┘└┐│      ┌┘                   》     ☆  ││
  └──┐    └┘  ┌─┘┌┐    十         《           ││
        │        ┌┘┌─┘│                 》       ┌┘│
      ┌┘ 【H湖】 │★│┌─┘     【H城】  .///《////    │┌┘
      └─┐      │┌┘│         △       【商店街】      |│
━━━━┓└┐    └┘┌┘               ////《///.┏━━┿┿━━┓
        ┗┓└┐┌──┘    ┏━━━━━━━【星見駅】┛    ││    ┗
          ┗━┿┿━━━━━┛           .: : : :.》.: : :.   ┌┘│
             [_  _]                   【歓楽街】    │┌┘
───────┘└─────┐            .: : : :.》.: :.:   ││
                      └───┐◇      .《.      ││
                【遠州灘】            └───┐  .》       ││      ┌
                                └────┐││┌──┘
                                          └┘└┘
★:『天文台』
☆:『星見スカイモール』
◇:『アリーナ(倉庫街)』
△:『清月館』
十:『アポロン・クリニックモール』
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240小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2017/02/17(金) 01:21:26
>>239

「……」

「あぁ、すみません」

しおりを挟み、本を閉じる。
黒い髪、黒い瞳、白い肌。服も白と黒。
こちらは天然もの。

「えぇ、確かに店員ですけれど」

本に視線をやる。
『少女漫画』か。
手に持っていた本をレジの置かれた机に立てる。
それからコンコンと指で机を叩いた。

「続きはありますよ」

「ただ、品質は保証しかねますけれど」

「それでもよろしくて?」

241薬師丸 幸『レディ・リン』:2017/02/17(金) 01:38:29
>>240

「古本屋だって分かってる。
 品質は……売り物になるんでしょ」

      「じゃあ問題ない」

品質を気にするなら新品を買いに行く。
古くても、読めればいい……安いのだし。

薬師丸はそのように考えている。
付録のミニポスターも、べつにいらない。

     「あー、でもそうねぇ」

「ページが欠けてるとか、
 そういうのはちょっと嫌だけど」

などと言いつつ、少女漫画をレジに置いた。

「そのへんも、保証できない感じ?
 ページがガムでくっついてるとかも」

口調から察するに試しているとかではなく、
この店の品質の『基準』を尋ねているだけだろう。

242小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2017/02/17(金) 01:59:31
>>241

「そう言ってもらえるとこちらもありがたいです」

「時々、わからず来る方もいますから」

微笑みながら立ち上がり、本棚に歩み寄る。

「そういう品は買取の際や仕入れるときに選別するので大丈夫ですよ」

「さすがにそんなものを売ればこんな小さなお店すぐに潰れてしまいますから」

壁際の棚を上段から順番に見ていく。
冷たく、鋭い目つきだ。

「大手の店ほどきれいではないですが、読む分には問題なし」

「それと種類はなるべく豊富に。そこがこのお店の売り、ですから」

目の動きが止まる。
そこに手を伸ばすと目当ての少女漫画がある。

「全巻はないですけど、五巻分くらいなら」

243薬師丸 幸『レディ・リン』:2017/02/17(金) 02:20:08
>>242

「そっか、店員さんも大変ねえ」

       ツカ
          ツカ

店員の後に続いて、
本棚の方へに歩いていく。

薬師丸は『サービス業』だ。
よくない客に関する苦労は、想像できた。

「良いお店だと思うよ。
 色々置いてあってさ……」

本棚を目で追っていたが、
本職である小鍛冶の目には敵わない。

「ああ、そこにあったのね〜ぇ。
 高くて背表紙が見えづらかったから」

「助かったよ。ありがとうね」

       グ
           グ

比較的上段に並べられたその本には、
踵を上げて手を伸ばすとギリギリ届く。

       「……」

「脚立とかあると、もっと助かるかも」    

      ニコ

小さく笑みを浮かべつつ、追加の要求をした。

244小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2017/02/17(金) 23:22:21
>>243

「えぇ、色々置いておかなければいけませんから」

「どこにでもあるものをどこにでもある値段でなんて、スカイモールがやってしまいますもの」

生々しい話であった。
客にする話ではないのかもしれないが、静かに小鍛治はそんなことを話していた。

「脚立、ですか」

「椅子ならありますけど」

そういってレジの方からさっきまで自分が座っていた椅子を引っ張り出す。
背もたれ付きのしっかりした椅子だ。
これに乗れば本も取れるだろう。

245薬師丸 幸『レディ・リン』:2017/02/17(金) 23:30:22
>>244

「まあね。高いなら新品でいいし」

生々しい話には、
同じく生々しい話で返す。

それが許される店だと思ったからだ。

「踏んじゃってもいいの?
 その椅子……靴は脱ぐけどさ」

         「よいしょ」

   ス
        スポ

ファーのついたブーツを脱ぐ。
靴下のまま椅子に上がって、本を取る。

「いい店だって覚えとく。サービスもね」

       ニコ

笑みをもう一度浮かべて、
まとめて取った本を手に椅子を降りた。

「それじゃ、お会計よろしく。
 ポイントカードとかはないよ」

あとは会計を済ませるだけだ。
両手で本を抱えて、レジの方へ戻る事にする。

246小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2017/02/17(金) 23:52:15
>>245

「ふふっ。その通りですね」

薄く笑う。

「えぇ、では私も店長に告げておきます」

「今日はお客様が来たと」

椅子を持ち、レジに戻る。
会計の時間だ。
だが、別段バーコードとかを通すわけでもなく。

「六百四十八円ですね」

「……ところで、お客様はオカルトとか信じるタイプでしょうか」

「不思議な出来事とか、不思議な存在を」

247薬師丸 幸『レディ・リン』:2017/02/18(土) 00:02:37
>>246

「流行ってないんだ。
 まあ本読んでたもんね」

「ま、貧乏暇なしともいうから、
 暇できるくらいがいいのかもね」

      ジャラ

小銭入れから3枚出した。
500円と、100円と、50円だ。

「良い買い物したよ」

漫画6冊の値段なら相当安いだろう。
商品を受け取ろうとして――

「……っと、急ねぇ〜え。
 オカルト、不思議な存在」

「そういうの好きそうに見える?」

確かに不思議な見た目ではある――
フリルのついた衣装も、やや非日常の黒色。

「ま、信じないことは無いけど……
 なんかの勧誘なら間に合ってるよ」

そう返して、清算を済ませた本を受け取ろうとする。

248小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2017/02/18(土) 00:14:10
>>247

「暇すぎても問題ですけれど」

「はい確かに」

お金を受け取りレジの中へ。
レシートは出してくれた。
必要ないならそう告げておこう。

「えぇ、ついさっき思い出したものですから」

「というか正直、お話ししたお客様にはだいたい聞いているのですけれどね」

本を袋に入れる。
薄茶色の紙袋だ。

「勧誘ではないですが、興味がなければ構いません」

「白紙の本に興味はあるか、ということなのですけれど」

紙袋を差し出した。
その眼は落ち着き、冷たく、鋭い。
口には微笑みを浮かべてはいるが柔らかそうではない。

249薬師丸 幸『レディ・リン』:2017/02/18(土) 00:33:54
>>248

「ほどほどが一番でしょうね。
 なんか普通な結論だけどさ」

レシートは受け取っておく。
まあ、一応のことだ。

紙袋を脇に挟んで、鞄を持ち直す。
まだ立ち去らない。判断しかねるから。

「『白紙の本』?」

ノートのことではないだろう。
聞きなれない単語に瞬きする。

     「…………」

「それさ、お金になる話?
 ……ああ、『犯罪』以外ね。
 それなら興味あるんだけど」

「ただ不思議なだけなら、いいや。
 そういうのも間に合ってるからね」

――意味深な言葉だが、
薬師丸には意味を察しかねた。

とはいえ、話しは聞いておくものだ。
寝て待てば来る果報は、それほどないのだし。

250小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2017/02/18(土) 01:03:02
>>249

「えぇ。中身はもちろん、表紙も裏表紙も背表紙も」

「何も書かれていない。製本されただけの本です」

レジの置かれた机。
その下を彼女がまさぐると何冊かの本が現れる。
どれも劣化しているのか少し茶色い色をしている。
そしてどれも共通して何も書いてはいなかった。

「お金、なるんじゃあないですかね」

「この本はここが本を仕入れているところからいただいたものですけど」

「心霊現象が起きたりしてみんな突き返してしまうのですって」

「その時、決まって本に文字が浮かび上がる、らしいです」

「普段はなにも起こさない普通の本なんですけれどね」

「仕入先の方はそれがどういうものなのか知りたいらしいですけど、あいにく私が持っていても何も起きないものですから」

「興味がある方にでもお渡ししようかと」

251薬師丸 幸『レディ・リン』:2017/02/18(土) 01:13:45
>>250

「それ、つまりノート……
 とは違うのよね、やっぱ」

     ジ

     「何冊もあるんだ」

赤い目を細めて、本を見る。
変哲もない・・・ように見えるけれど。

「解明すれば謝礼も出る……
 ってとこかな、悪くはないけど」

「今持って帰るのは嫌ね。
 一人暮らしでもないし……
 心霊現象ってのはちょっとね」

興味は多少ある、とはいえ。
それ自体が金になるわけでもなく、
今のところ誰の手にも負えない代物。

持って帰るには、リスクが大きい。

「どうせそうそう捌けないでしょうし、
 気が向いたら調べてみてもいいよ」

     「でも今日は漫画で十分」

白紙の本。

ひとつのめぐり合いかもしれないが、
今日の所は『日常』を大事にしたいと思った。

252小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2017/02/18(土) 01:29:25
>>251

「私も驚きましたけど」

本を手に取りぱらぱらとめくってみる。
勿論というべきか、何も書いていないが。

「そうですか、それもそうです」

「生活のある人間がそう簡単に手を出していいものでもないのかもしれませんね」

「えぇ漫画だけでもこちらとしては嬉しいものですもの」

「日常にこれは不要、かもしれないですね」

また薄く笑う。
本をまた机の中にしまい込む小鍛治。

「またのお越しをお待ちしております。それと、もしもまた興味が湧いたりすればお話しください」

「この本はずっと、待っていますから。誰かを」

ね、と優しくいって首を傾げて見せた。

253薬師丸 幸『レディ・リン』:2017/02/18(土) 01:40:08
>>252

「悪いね、今すぐ入用でもなくて」

富に満ちた生活でもないが、
特別困窮しているわけでもない。

・・・少なくとも今は。

「どうしても手が欲しいなら、
 呼んでくれたら手伝えるかもね」

「心霊現象が悪化したとかさ」

     スッ

懐から名刺を出して、
カウンターの上に滑らせた。

手書きの名刺に、兎の絵。

「メアドだけ教えとく」

        「んじゃ、また」

これが最後の来店ではない。
もっとも、次にどんな用で来るかは分からないが。

254小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/03/05(日) 01:02:38

洋装の喪服と黒い帽子を身に纏い、雑踏の中を一人歩く。
家族、友人、恋人。
様々な繋がりを持つ人々が通りを歩いている。
その中に見知った顔はない。
それでも、こうして人の多い場所にいると、ほんの少し寂しさが薄れるような気がした。

しばらく町を歩いた後、休憩するために一軒の喫茶店に入った。
静かで落ち着いた雰囲気の店。
店内に流れる優しい響きのピアノ曲が耳に心地いい。

しばらく窓の外を見つめていると、注文した品物が運ばれてきた。
ラベンダーを使ったハーブティーとラベンダー入りシフォンケーキのセット。
お茶を一口飲むと、芳しい香りが心を落ち着けてくれる。

カップを置き、店内を軽く見渡した。
日曜日の昼過ぎということもあって繁盛しているようだ。
新しく入店する人がいたなら、もしかしたら相席になるかもしれない。

255?????『??ー?・??ー?ー』:2017/03/05(日) 23:07:07
>>254
 イラッシャ……!? イラッシャイマ…セ…? 
 「一人です」
モウシワケアリマセン、タダイマ、マンセキデ……
 「相席でも構いませんよ俺は」


ベルの鳴る音の後、店員と客のやりとりが聞こえる。
かと思えば、小石川文子のくつろぐその席の傍らに誰かが来たようだった。

    ミシ……

 「すみません」
 「ここのお席、座ってもよろしいでしょうか」

よく響く男の声である。

256小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/03/05(日) 23:59:14
>>255

店内から目を離し、ケーキの一欠片を口に運ぶ。
柔らかい甘さが口の中に広がっていく。
その直後、傍らから響いてきた男性の声。
それを聞いて我に返り、フォークを置いた。
紙ナプキンで口元を軽く拭う。

  「はい、どうぞ――」

そう言って顔を上げる。
目の前にいるであろう男性の姿が視界に入る。
それは、どんな人なのだろう。

257?????『??ー?・??ー?ー』:2017/03/06(月) 00:23:11
>>256
小石川文子が顔を向けた先、どんな人間がいたのか。
―――――――姿は『異様』の一言に尽きた。

 椅子に座ろうとしているのは、珍妙な服装をした、大きめの体躯の男であった。
珍妙というのは、それが、黒いワンピースと白いフリル付きエプロン
……所謂『メイド服』、本来女性のための洋服を身に付けているためである。

 メイド服そのものは、決してコスプレ用の安い生地(サテン、とかか)でなく、
よく見れば丁寧な仕立てが施されたものであるのが分かるだろう。
一見すれば『ある種の喫茶店』の店員が着ていそうな物であるが、
それを着るのは、大きめの体躯の男なのである。


 「お邪魔してすみません」

片目に付けた眼帯(レース製だった)が、
ますます男の『異様』さを加速させていた…

 
「ああ、俺の事は気にせず、ゆっくりしていて下さい」

258小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/03/06(月) 01:12:46
>>257

一瞬――視線が固定されたように空中で止まる。
物珍しさから来る新鮮な驚き。
それが素直な感想だった。

  「――いえ、お構いなく……」

けれど、その驚きは一時のことだった。
なぜなら、自分も同じだから。
夫と死別して以来、外に出る時はいつも喪服を身に着けている。

大袈裟かもしれないが、それは自分にとっての信条のようなもの。
きっと目の前に座る彼にも、そういった理由があるのだろうと思えた。
だから、一風変わった彼の服装も何となく納得することができた。

  「とても繁盛しているみたいですから」

少し周りを見て、再び男性に視線を移す。
町へ出てきたのは、一人で過ごす寂しさを紛らわすため。
同席する相手がいてくれるのは、自分にとっては有り難いことだった。

  「素敵な洋服ですね」

けれど、驚かないことと好奇心の有無とは別の話。
彼の服装に関しての興味はある。
だから、それとなく尋ねてみることにした。

259?????『??ー?・??ー?ー』:2017/03/06(月) 02:06:23
>>258
小石川が服について言及してみると、

「…!」
「ありがとうございます!」

どうやら喜んでいるようだった。
メイド服は嫌々着ているわけでは無いのだろう。

「これ、自分で作ったんですよ デザイン、型紙、縫製まで」
「裁縫が得意でして、俺!!」
「…」

そう笑いながら、男は小石川の着衣に目をやると、すぐさま固い表情になる。
どうやら『素敵な服』と言う訳にもいかないのか、言葉に詰まっている。

「……すみません、『奥様』…」
「俺としたことが、その……不躾な………」

「…店員さんすみません…この人とおんなじ物を」

260小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/03/06(月) 03:07:27
>>259

左手の薬指に光る銀色の結婚指輪。
そっと伸びた右手の指先が、それに触れる。
全く同じデザインの指輪が右手にもある。
それらは、肌身離さず実に付けているもの。
自分にとって、命の次に大切なかけがえのないものだった。

  「……いえ、いいんです」

奥様――そのような呼ばれ方をするのは久しぶりだった。
あの新婚旅行中の事故がなければ、今でもそう呼ばれていたと思う。
ふと、幸せだった頃の記憶が脳裏をよぎった。

  「気を遣って下さって、ありがとうございます」

そう言って、静かに微笑む。
どこか陰を含んだ憂いのある微笑み。
明るく朗らかな笑いとは言えない表情。
こうなったのは、一人だけ取り残された時からだった。
その時から、たとえ意識していなくても、自然とこんな笑い方になってしまう。

  「とても器用なんですね――」

  「それを生かしたお仕事をしてらっしゃるんですか?」

手元のハーブティーを一口飲んでから、男性に問い掛ける。
最初は確かに驚きもあった。
でも、こうして言葉を交わしてみて改めて分かる。
彼は、とても優しい人。
それが名も知らない彼に対して抱いた印象だった。

261?????『??ー?・??ー?ー』:2017/03/06(月) 18:40:18
>>260
「…あ、『メイド』です、見ての通り」
「家政婦ともハウスキーパーとも呼ばれます
 …家事のお手伝いを、あちこちの『家庭』でするんです」

午後の日差しに照り返す、小石川の手元のそれが見えたのだろうか。
大きな肩を縮こめ、男はそう話す。

   オマタセシマシター

  「ありがとございます」
   「わあカワイイ」
    「……すみません、ちょっと写真撮ってもいいですか」

ケーキとハーブティーが運ばれてきた。
男は携帯電話(ビーズやら何やらでデコられ女々しい) を取り出している

262小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/03/06(月) 22:57:57
>>261

写真を撮る彼を黙って見守る。
無邪気な姿に微笑ましいものを感じた。
彼は優しいだけじゃなく、とても楽しい人。
きっと、彼は周りを明るくする力を持っているんだろう。
心の中で、そう思った。

  「――ラベンダーが入っているんですよ」

  「私は、この香りが好きなんです。
   気持ちが落ち着きますから……」

  「家の庭でも育てているんです」

今日も、ドライフラワーの瓶詰めを作っていた。
もしかすると、同じ匂いがするかもしれない。
運ばれてきたケーキとハーブティーと同じラベンダーの香りが。

  「今日はお休みですか?」

  「家事のお手伝い――いつか……私もお願いするかもしれませんね」

そう言って、また微笑む。

263?????『??ー?・??ー?ー』:2017/03/06(月) 23:44:13
>>262
「ええ、その時はお願いします」
「ぜひ拝見したいものです、奥様のお宅のお庭……」


男はティーカップを傾け鼻を寄せる。
広い胸筋が膨らんだ。

「これは!」
「撮影は野暮ですね俺… …香りは写真に残せません」

         パクッ モグ
 

 「そういえばニオイって妙に脳とか記憶を刺激しません?
  昔から持ってたヌイグルミの香りとか、
  嗅ぐ度に胸がギュ―ゥ―――――――ッ!!として」
 
 「昔思い出して泣いちゃいますよ俺」   
 
           モグモグ
 

写真を撮るのはどうやら諦めたようだ。
男はケーキをつつきながら他愛もないような話を振る…

264小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/03/07(火) 00:24:19
>>263

  「私も、昔ぬいぐるみを持っていました
   いつも持ち歩いていて――。
   そのせいで、よく汚してしまいましたけど……」

懐かしい記憶が頭に浮かぶ。
白いウサギのぬいぐるみ。
確か名前もあったと思う。

あちこち連れ回していたから、よく目が外れたり耳が取れたりした。
その度に、母が縫ってくれていた。
今は、どこにあっただろうか。

  「そのぬいぐるみには、どんな思い出があるんですか?」

この店に入ったのは単なる偶然。
彼が入店したことも同じだろう。
けれど、その偶然の重なりは自分にとって幸運なことだったと思う。

なぜなら、こうして得がたい時間を過ごすことができたのだから。
彼の動作や言葉の一つ一つに興味を引かれる。
ケーキを食べることも忘れて、彼の話に耳を傾ける。

265?????『??ー?・??ー?ー』:2017/03/07(火) 01:10:39
>>264
      カチャ

「――――――――ええと」

  「何でもない話ですよ」
  「このくらいの(手振りで大きさを示す)、妹にあげた誕生日プレゼントです」
  「思えばそれの修理が、
   今の俺の『裁縫趣味』の始まりでしたよ!! …まあそんなもんですね!」


妹とやらに渡した人形。
なぜ自らの所持品でない人形を、男は『嗅げる』のだろうか。
そもそも『何でもない話』と表すような記憶で、果たして人は涙するのか。

フォークを皿に置くとき、男の顔は光の加減で見えずに、
柔らかいケーキを噛むその歯が、大袈裟に喰い縛られるのが見えるだけであった。


 何やら事情ありげな人形への思い出、それに起因する『裁縫趣味』。
 彼が普通でない服を着るのにも、なにか理由があるのだろう
 ――――おそらく小石川文子と同じ類の…

266小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/03/07(火) 01:58:21
>>265

何気なく投げかけた質問。
それに対する彼の返答も、一見すると何気ないもののように思えた。
けれど――。

  「あ……」

心が、『それ』を感じ取った。
彼の言葉の奥に秘められた『何か』を。
自分の中にも『それ』と近いものがあるから。
だからこそ分かる。
だからこそ、伝わってくるのが感じられる。

  「――そう……ですか……」

私は、彼のことを何も知らない。
詳しい素性も経歴も名前さえ知らない。
けれど、きっと彼も自分と同じような出来事を経験したのだろうと直感した。

今この瞬間、理屈ではないシンパシーのような感覚を覚えていた。
目の前に座る彼が、ついさっき会ったばかりの見知らぬ人間とは思えなかった。
こうして偶然に相席になったことも、ある意味では運命だったのかもしれない。

  「……使って下さい」

おもむろにバッグを開き、取り出したハンカチを差し出す。
頭で考えるよりも先に身体が自然に動いていた。
そうしないでは、いられなかったから。
決して上辺だけの哀れみなどではなく、同じような境遇を経た者に対する真心。
その偽りのない想いが、この身体を動かしていた――。

267?????『??ー?・??ー?ー』:2017/03/07(火) 18:05:45
>>266
「すみません」

 「親しんだひとがいなくなってしまう『苦しみ』を」
 「時間が治療してくれるとは言いますが…」


小石川のハンカチを手に取り、目のあたりを拭う男。

「流したぶん水分もとらなきゃですよ」
と、茶を啜った。


 「………はい、人形は『形見』なんですよ」

 「『苦しみ』に『立ち向かおう』と、結果、針仕事とか家事とかを始めた、
  というのが俺の正直なところです」


はにかみながら、彼はそう語る。
『苦しみ』の古傷は癒え切ることはなかったのだろう…
しかし、気丈に振る舞うその姿は演技には見えず……彼は確かに『立ち向かっている』

  「奥様は、奥様自身のことを、しっかり見てあげてください」
  「自棄にならずに…何をケアすればいいのか…」

  「それで、もし助けが必要であれば俺がお助けします」
 「―――『メイド』ですからね俺は!!!!」

268小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/03/08(水) 00:03:51
>>267

彼の言葉、そして彼の姿に光を感じる。
そこにあるのは過去の痛みに立ち向かう力強い意思。
その力が彼を支え、動かしているのだろうと思えた。

  「……軽々しく言うことではないことは分かっています。
  でも――『お気持ちは分かります』」

やはり彼は自分と同じなのだ。
形や、目に見える部分は違うかもしれない。
それでも、根本にあるものは同じ。

  「私も夫と死に別れました……。
  この心を捧げた彼が死んだ時、私も後を追うつもりでいました」

  「けれど――彼は最期に言いました。
  『自分の分も生きて欲しい』……と」

静かに口を開き、ぽつりぽつりと自身の過去を語り始める。
普通なら、出会ったばかりの相手に話すような内容ではない。
けれど、彼が自らの背負うものを話してくれたことに後押しされた。

  「だから、私は生きる道を選びました。
  彼との約束を守るために……」

  「でも……彼に会いたいという気持ちは消えなくて……。
  時々、それが抑えられなくなるんです」

そこまで言うと、軽く目を伏せる。
視線の先には膝の上に乗ったバッグがある。
バッグの口は開いている。
そして、その中には1本の果物ナイフが入っている。
自分にとっての鎮静剤であり、なくてはならないもの。

  「そんな時は――少し自分の身体を傷付けるんです。
  そうすれば溢れてしまいそうな思いを抑えられるから……」

良くないことなのは承知している。
それでも、これをやめるつもりはない。
これが自分の生き方。
自分自身で決めた進むべき道だから。
だからこそ――。

  「私は――これからも、この世界で生きていくつもりです」

顔を上げ、力強い口調で自分の意思を表明する
悲しみは消え去ることはなくとも、そこに迷いは感じられない。
それは彼と同様に、紛れもなく『立ち向かう』者の姿だった。

心の中にある死の衝動が完全に消えることはない。
けれど、愛する者が残してくれた意思が、この身体を支えてくれている。
それがある限り、生きようとする意志もまた消えることは決してない。

  「――ありがとうございます」

そう言って、柔らかく微笑む。
心なしか表情を包む陰も和らいだように見える。

  「変な言い方かもしれませんけど……ここであなたにお会いできて良かった……。
  心から、そう思います。
  
  「それに――お恥ずかしいですけど、一人でお茶を飲んでいるのは寂しかったんです」

  「あの――ええと……」

名前を呼ぼうとして言葉に詰る。
そういえば、まだ聞いていなかった。

  「私は小石川といいます……。あなたは……?」

269常原ヤマト『ドリーム・ウィーバー』:2017/03/08(水) 00:39:14
>>268
男は少しばかり驚いた顔をした。彼には、
"今喪服を着ているのなら『その出来事』は最近のことであろう"
という思い込みがあり、
だが眼前の女性の語り口には、近くない昔への郷愁を感じ取れたからだ。


 「それは……」
  「……いえ、俺もそれを肯定しましょう」

  (立ち向かい方は、人の数だけ在り方がありますから―――)

メイド男は『ナイフ』を咎めなかった。
一瞬目を細めたが、事実それは実際拒絶の意思の表れでなく、
小石川への在り方が彼にとっても『眩しい』ものであったからだ。


「おっと、すみません」
「これ俺の名刺ですよ!!よろしくお願いします!!!!!」
「ハンカチもお返ししますね俺!!!!!」


┌―――――――――――――――――――┐
 ☆・゚:*:゚ヽ           *:・'゚☆  
       常原 ヤマト 

       家政婦やります
 
   電話番号 XXX-XXXX-XXXX
  E-mail *******************.com
 
└―――――――――――――――――――┘

270常原ヤマト『ドリーム・ウィーバー』:2017/03/08(水) 00:41:14
>>269 メル欄追伸

271小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/03/08(水) 01:22:19
>>269

彼の驚いた顔が見える。
それは、自分が始めて彼――常原ヤマトの姿を目にした時と似たものだったのかもしれない。
確かに喪服というのは、喪に服す期間が過ぎれば脱ぐもの。

けれど、自分は今でも脱いでいない。
夫との死別は、過去であると同時に過去のことではない。
自分にとっては、いつまでも昨日のことのように残り続ける記憶だから。

  「常原さん――ですね」

名刺を受け取り、そこに記された文面を黙読する。
いつか依頼することもあるかもしれない。
その時のために大事にしまっておく。

  「よろしければ……もっとお話させていただきたいです」

  「たとえば――得意な『お料理』の話など……」

  「本職の家政婦さんの腕前を、私も参考にしたいので」

そう言って、くすりと笑う。
心の中で、この新しい出会いに感謝しながら。
ある晴れた日の午後のことだった――。

272常原ヤマト『ドリーム・ウィーバー』:2017/03/08(水) 02:15:50
>>271
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

――嗚呼、俺は彼女に嘘を吐いたのだ。


花柄のステッチのついたそれに、染みがつくことはなかった。
ラベンダーの香りのつくハンカチで、俺がほんとうに押さえたのは、『眼帯』だった。

右目は涙を流さなかった。
失った左目が痛みに疼いた。

俺が過去を思い出した時、去来したもの、

 あれは人形を破壊された怒りだった
 あれはかの憎き殺人者への怒りだった
 あれは俺の目を抉り取られた怒りだった
 あれは妹と弟と父と母を失った怒りだった
 あれは仇を取れなかった自分への怒りだった
 あれは家族を救えなかった自分への怒りだった……


メイド察知眼は伊達ではない。小石川、あの喪服の女性が、
自分を『優しい人間』だと感じたであろう事は分かっている。

 しかし、常原の中には、冷たい怒りを燃やす、また別の常原がいる。
俺はその恥ずべき自分を………塞いだ。炎が漏れ出ぬよう、新たな自分で縫い塞いだ。
メイドの服装で。レースの眼帯で。

小石川は、自らの身を傷つけながら、昏き自分と向き合っている…
俺は、果たして、本当に『立ち向かう』事が出来ているのだろうか……

       ラベンダー
はたして彼女の薫衣草の庭園に、俺は、招かれる資格があるのだろうか………
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

273小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2017/03/31(金) 23:37:13
雨が降っている。
ある日の昼過ぎ。空は重たい灰色。体を冷やす雨が降る。
しかし少女は傘を差さない。
ただじっと濡れながら空を見上げている。

274小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2017/04/01(土) 00:26:11
>>273

 ザ

    「わっ」
            ァ
                ァ

「おい、そこのきみっ!」
 
           ァ

        「あぶないぞっ!!」

高い声――少女の声が雨音に混ざって聞こえた。
もしそちらを見るなら、走ってくる自転車が見える。

        〜♪

だが、声の主は自転車の運転手じゃあない。
イヤホンを差した、陽気そうな装いの老婆。
どうみても、彼女の声ではないだろう。奥だ。

           ビチャ

    ビチャ

視界の奥で、自転車が水溜まりを通る『弊害』を、
まともに受けたらしい銀髪の少女が声を上げている。

           ・・・つまり、避けないと同じ目に合う。

275小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2017/04/01(土) 00:38:13
>>274

ゆらりと声の方を見た。
雨に濡れた髪がずっしりと重く感じさせる。
小角に向かって小鍛治はニコリと微笑む。
真っ白な肌。真黒な髪。黒い瞳。
しかし特に避ける様子もなく。

バシャッ

自転車の跳ねた水を喰らう。
スカートがずぶぬれだ。
元から雨に濡れていたので変わらないともいえる。

「……」

なにか口をぱくぱくと開いた後に近づいてくる。

276小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2017/04/01(土) 01:07:52
>>275

「あっ」

    ジャァァーーッ


自転車はそのまま走り去る。
小角はぼう然として、その様子を見る。

「……」

「び、びしょびしょじゃないか」

ようやくそれだけ言った。
小角自身は、大きな傘を差していた。

「いや、わたしもびしょびしょだが」

            「……」

    「な、なんだい」

近づいてくる少女を見て、
たじろいだ様子で後ろに下がった。

「な……何を。言いたそうに、 
 しているのかね……き、きみはっ」

       ジリ
                ジリ

しかし周りの水たまりに気を取られ、
下がる速度はお世辞にも速くはなかった。

277小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2017/04/01(土) 01:31:51
>>276

相変わらず小鍛治は笑っている。
顔に張り付いているのは髪の毛だけではない、その表情もだ。

「ありがとう、と言っているのよ」

水溜りを気にせず小鍛治は歩いてく。

「親切ね。あなた」

278小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2017/04/01(土) 01:58:15
>>277

張り付いたような表情――
という言葉は小角も知っている。
こういうのがそうなのか、と思った。

       ブル
 
少し震えたのは、寒いからだけじゃない。

「あ、うむ、いや……おほん」

咳払いをして、心を整えて。

「お、お礼を言われるほどではないさ。
 危なかったから、思わず声が出ただけだ」

小角はすましたような顔で言うが、
これはほとんど事実で、思わずだった。

「しかし……どうしてこんな雨の中……
 きみは、濡れてしまっても平気なのかね?」

         「まだ寒いぞ、3月とはいえ」

もっとも、親切と言われて悪い気なんかしない。
見栄っ張りな小角は、よけいな親切も焼こうとそういった。

279小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2017/04/02(日) 22:38:23
>>278

ぐっと顔に張り付いた重い髪をかき上げた。
雨が手を伝う。

「思わず、そう。それもいいわね。立派よ」

「平気よ。寒いのは寒いけれど。濡れるのは好きよ」

血の気のひいたような顔。
白い顔だがそれに拍車をかけているのは寒さなのかもしれない。

280小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2017/04/02(日) 23:30:11
>>279

「そんなに褒めても何も出ないぞ、きみ」

       「……ふふ」

……薄い笑みが浮かんだが、
何事もなかったかのように戻した。

「平気ならいいのだが、ううむ」

      「……っくしゅ!」

         ブル…

一年を四つに分けるなら、春と言える季節。
しかし小角はまだ厚着で、それでも寒いと思った。

     「……」

「……わ、わたしは寒いと思っているよ。
 見たまえ、コートもびしゃびしゃだ。うう……」

     「暖かいココアが飲みたい気分だ」

などと、情けない声で愚痴をこぼす小角。
しかし雲も冷たい風も、小角に情けをかけてくれやしないのだ・・・

281小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2017/04/02(日) 23:52:37
>>280

「あら、あなたの方が大変そうね」

くすくすと笑う小鍛治。
コートは着ていない。
黒いカーディガンと黒いスカート。そして白いシャツだ。

「じゃあ、ご馳走しようかしら?」

「まぁ必要ならだけど」

282小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2017/04/03(月) 00:04:35
>>281

「い、いや……ごちそうになる気はないぞ。
 わたしだってお小遣いは持ってるんだよきみ」

          ブン

小さく頭を振って否定する。

(……悪い人には見えないとはいえ。
 人は見かけによらないともいうからな)

       (知り合いでもないのだし……)

よく知りもしない人におごってもらう――
というのは、どうにも落ち着かない感じがするからだ。

「だが、うむ、立ち話は……っ
 あんまり続けたくは、ないね……」

            ブルル

「ど、どうだい。話すならそこのお店ででも……?」

べつに話す理由があるわけでもないのだが、
ムードに流されたのだ……指さす先はドーナツ屋チェーン。

283小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2017/04/03(月) 00:36:25
>>282

「そう。別に私はなんだっていいのだけれど」

そっ気のない返事。
機嫌を損ねたとかではなくこれが平時のものなのだろう。

「別に私は構わないわ」

「むしろ、あなたの方がいいのかしら?」

「濡れ鼠が知り合いと思われるわけだけど?」

284小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2017/04/03(月) 00:53:49
>>283

「わたしの推理だけど・・・
 こんな日にお店に入る人は、
 みんな濡れねずみに違いない」

      「……わたしもふくめて」

確かに、駐車場もない大通り沿いの店だ……
雨の日に来るのは、雨宿りくらいかもしれない。

それにしてもこの小角は、『推理』と言ったが、
なるほどコートも帽子もどこか探偵じみていた。
 
             パチャ

      パチャ

「では入ろうじゃあないか」

ドアの取っ手に手を掛けて、
小角は小鍛冶の方を振り向いた。

「ふふん、1人でティータイムもいいが、
 雨宿りだしね。話し相手がいるのも悪くはない」

などと言いつつ……あたたかい店内へと、
一足先に入って行くのだった。あまり混んではいない。

         ・・・その気なら、雨が止むまでいられるだろう。

285小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2017/04/03(月) 01:15:25
>>284

「なら私はその中でもいっとう濡れ鼠」

なにせ傘を差していない。
小角の格好に目を細めて薄く笑った。

「えぇ、お話ししましょう」

「あなたはどんな話をするのかしら」

小鍛治も店内に足を踏み入れる。
ぽたぽたと水滴を落としながら、歩いていった。

286小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』:2017/05/26(金) 23:35:22
ある日のことである。露店をする者がいた。
折り畳みの椅子に座り、敷いたシートの上に箱を広げている。
箱の中には指輪が入っていた。
安っぽい見た目の者も多い。

「指輪ないかー指輪ないですかー」

浅黒い肌。右側頭部の髪を編み込み、また髪の色々な部分が赤やら青やら色々な色をつけられている。
特に目を引くのは露出した肌に刻まれているタトゥーである。
彼女が指輪を売っているらしい。

287レオナ『ホームランド』:2017/05/26(金) 23:51:26
>>286

288レオナ『ホームランド』:2017/06/04(日) 23:57:31
>>287

「来ないねー誰もこないねー」

289夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/06/21(水) 22:49:55

テク テク テク ……

日差しも穏やかになった夕刻の通りを一人歩く少女がいた。
清月学園の制服を着て、胸元にはサングラスが引っ掛けてある。
ストラップで首から提げたカメラが、歩く度に軽く揺れている。

       キョロ キョロ

……しきりに周囲を見回している。
『初めて来日した外国人観光客』ばりだ。
そして、ある一点で視線が止まった。

「あっ――」

   タタタ……

早足で歩いていき、『それ』の前でピタリと立ち止まる。
目を見開いて、しばし『それ』を見つめる。
『それ』の存在は知っていたし、使ったこともあったが、『見た』ことはなかった。

「『自動販売機』――初めて見た……」

     パシャッ

カメラを構え、正面から『自販機』を撮影する。

     パシャッ

横に回り込んで、更にもう一枚。

続いて後ろに回り込もうとしたが、あいにく幅が狭い。
しかし、それでも後ろ側が見たいので、なんとか身体を捻じ込もうと四苦八苦している。
客観的に見るとかなり怪しいが――今のところ人に見られていないのは幸いだった。

290太田垣良『ザ・サードマン』:2017/06/23(金) 22:28:18
>>289
「自動販売機に――ッ!!」
「ああ…あんなスキ間に!ほんの4センチ×20センチ(適当)の細いスキ間に自分の肉体を………」

   残念ながらばっちり見ている奴がいた。

「あんな隙だらけで」
「…………せっかくだし後ろからビックリさせちゃうッスよ」
「ついでにパンツ見てやるッス 無防備なのがいけネーと思うッスよ」

自販機にサンタナ(動詞)かまそうとしてる女子生徒に、後ろから接近する。
靴を脱ぎ、靴下で歩き足音は殺す。ヒタヒタ。
よほど『耳のいい』やつじゃない限り気づかれんだろう。
接近して、
     「わァっ!!!」
               ってする。したい。できるか?

291夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/06/23(金) 23:19:45
>>290

「き……キツイッ……」

「だ、だけど――もう……ちょい……!」

依然として、半ば無謀な試みを続けている女子生徒。
第三者から見ると、その姿は全くの無防備状態。
背後から忍び寄る足音に気付いた様子もない――ように思われた。

――しかし

ピク……

普通なら到底聞き取れないような、本当に僅かな物音。
しかし、生まれてからもっぱら聴覚に頼る生活をしてきた身。
そうした経験が、ほんの僅かな物音さえも、敏感に聞き取ることを可能にした。

――そして

(……はっはーん)

ニヤリと笑い、背後から近付く何者かに対し、『あえて気付かないフリ』をする。
そして、ギリギリまで引き付けてから、不意に振り返ってデカい声を出してみる。
具体的に言うと、「わァっ!!!」って感じで。

ついでに、見事に成功したあかつきには、その驚いた顔を激写してやる。
どっちが驚いてどっちが驚かされるか。
気分は荒野の決闘場に立つガンマンだ。

――果たして、結果は?

292太田垣良『ザ・サードマン』:2017/06/24(土) 00:10:02
>>291
「(へっへっへっ…悟られてないッスね……)」
「(そろりそろり……そろそろ……もうそろそろ…いい距離ッス)」

このイタズラ少年は気付かない。『気付かれた』事に『気付かない』。

「わ
       >「わあっ!!!」

   ああああああああああああああ!
     ああああああ石踏んだァっ痛あああああう!?」

          レンズ
振り返った夢見ヶ崎の銃口の先には、

眉を顰め、目を瞑り、歯が見えるまで口を大きく開け、声を上げる人間がいた。
その声は変声期を過ぎた、おそらくは夢見ヶ崎と同じくらいの年頃の、男性のものである。
ちなみに二つの違う『色』で染色されたシャツを着ている。

(本来は『縞模様のシャツを着た、苦悶の表情で声を上げる少年』、と表現される。
 君は『縞模様』を知っているだろうか?苦悶の表情を目にした事は?
 放課後に帰路を行く少年たちは、既に見ているだろうか?)

…とりあえず、決闘は君の勝ちだ。写真でも何でも撮ってしまえ。

293夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/06/24(土) 00:46:18
>>292

   バシャ バシャ バシャ バシャ

とりあえず撮った。
勝てたみたいなので、なんとなく満足した。
ありがとう、と天に感謝したくなった。

   じいっ……

カメラを下ろし、決闘場(自販機前)で悶える少年を見つめる。
彼が自分と同じ年頃の男性、つまり少年であることは分かった。
だが、『縞模様』は見たことがなかった。
『苦悶の表情』も同じく目にした経験はない。

「――へぇー……ほぉー……あぁー……」

なので――じっと見つめた。
まるで社会見学に来た幼稚園児のように、興味津々といった表情で。
本人に悪気はない。
だからこそタチが悪いと言えなくもない――かもしれない。

  ピッ ガシャンッ

二人の後ろで、一人のサラリーマンが自販機でジュースを買ったようだ。
怪訝な表情で立ち去っていく。
なんとも言えない空気が漂っている、気がした。

「あ」

「えっと――」

「ダイジョーブ?」

しばらくして、思い出したかのように少年に声を掛けた。
遠くの方でカラスが鳴いている。

294太田垣良『ザ・サードマン』:2017/06/24(土) 01:19:33
>>293

  カァー カァーッ 

「ふーッ ふーーッ だ、大丈夫ッス………」

とりあえず靴を履く。
なんかこうして心配されたことにより改めて完全敗北した気がする。
敗北も何も、悪戯を仕掛けたのも靴を脱いだのも自分なので、完璧に自業自得なのだが。

 「…………」 「……見世物じゃないッスよ」

写真を撮られまくって物珍し気に観察されて、

 「なんか俺に……虫でもついてるんスか?ん…?」
 体を見る。何もついていない。

295夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/06/24(土) 01:51:04
>>294

「ゴメン」

さすがに気まずくなって小さく頭を下げる。
『視線』というものの感覚に、まだ慣れてないことを実感した。
凝視したのが世間的に『ヤバイ相手』じゃなくてラッキーだったかもしれない。

「なんていうか、その――」

「『見たことがなかった』から、つい、ね……」

自販機に歩み寄ってお金を入れて、ボタンを押す。
出てきたのは緑茶だ。
350ml入りの一回り小さいペットボトル。
それをイタズラ少年、もとい太田垣少年に投げる。

「一杯おごるよ」

「お礼っていうかなんていうか……まあ、とにかくとっとけとっとけっ」

自分も同じものを購入し、太田垣少年の所に戻る。
そして、自販機横の植え込みの縁の所に座った。

   グビグビグビグビ

「くっはーッ!」

喉を鳴らしながら、豪快に一気飲みする。
中身は粉微塵になって消えた。
――ように見えて、実際は普通に全部飲んだだけである。

296太田垣良『ザ・サードマン』:2017/06/24(土) 02:21:21
>>295
「あ〜〜〜〜?」「見たことが無い」
「………フムン、何やら事情があるんスねェ」

あんま聞かん方がいいのかな。面倒な来歴を持ってそうだ。
そして施しも受けておく。真夏日で喉も渇いていた所。

  「サンキューサンキュー、頂くッス」

    ドボドボボドボドボ  プヘー


       「……ウーン」
 「空がオレンジ色になってきた」
 「湿気が強いと夕焼けがめっちゃ赤くなるんスよねェ」
        
 なんか話すことも浮かばないので天気の話題でも振っておく。

297夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/06/24(土) 02:47:00
>>296

「へー、そうなんだ」

無難な感じで相槌を打つ。
こっちも話題があるわけじゃなかったので助かった。
ふと無言になり、じっと夕日を見つめる。

「……夕日ってキレイだよね」

「湿気が強い時は、もっと赤くなるんだっけ?」

「今よりキレイになるんなら、それも見てみたいなぁ……」

初めて自分の目で夕日を見た時は衝撃的だった。
あまりの美しさに圧倒されてしまい、そのまま二時間くらい見続けていた。
今でも、つい見入ってしまうことがある。

「っていうかさ――」

「君、高校生だよね。学校どこ?何年生?」

「ちなみに私は清月の高一だけど」

唐突に話題を変えてきた。
周りからは、結構マイペースな性格だと言われている。
自分ではあまり分かっていないが。

298太田垣良『ザ・サードマン』:2017/06/24(土) 18:17:17
>>297
「…マイペースだなアンタ」
「………宇宙ステーションにでも住んでたんッスか」

自販機へ謎の行動かましたり、
たびたびの『見た事が無い口ぶり』。良いとこの生まれか?はたまた監禁でもされてたのか?
まあいきなりの話題転換は助かる。話すことが天気ぐらいしか無くて困ってたからね…。


「えーー…と…何だっけ……清月の1年………俺と同じじゃん!」
「スマンねェ〜〜他クラスの女子の顔とか正直覚えてなかッたス……」 
「俺部活にも入ってねーから他人との交流薄いッスし」

「あんたは部活動やってンの?」
「『写真部』とか?…もしや『自販機部』?」

カメラを覗き込みながら聞いてみる。これが趣味なのか?

299夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/06/24(土) 22:56:18
>>298

「いやぁ、見たことないのはトーゼンだと思うよ。私、少し前まで他の学校に通ってたし」

「あれよあれ、いわゆる転校生ってヤツ」

「――だから、これからよろしくッ」

かつて自分が通っていたのは特別支援学校。
視覚障害者のために設けられている学校。
清月の生徒になったのは、目が見えるようになった後だった。

「『自販機部』ゥゥゥ〜?誰が入んのよそれッ?そんなのあったら見てみたいよ!」

「部活は……そういえば私も入ってないなぁ……。転入してまだ日が浅いしさぁ」

「でも、『写真部』ってのは悪くないかも。なんかアーティスティックな感じがしてカッコイイし」

そこで、カメラを見る視線に気付く。

「あ、このカメラはお父さんの。借りてきちゃった」

「ファインダー越しに見ると、世界がまた違って見えるってウチのお父さんが言ってたから」

「ホントかどうか試してみようと思って、こっそり借りてきたの」

言うなれば、世界の見方のバリエーション。
その一つを試してみた、といったところだ。

「ん?んー……?」

不意に、手に持っている空のペットボトルを見つめて、なにやら考え込み始めた。
ラベルの一部分を凝視しているようだ。

「あのさ――これ、なんて読むんだっけ?」

  ズイッ

言いながら、またもいきなりペットボトルを突き出してきた。
ラベルには『京都産茶葉使用』と書かれている。

「ここ、ここなんだけど。ちょっとド忘れしちゃって。見覚えはあるんだけどなァ〜」

ある一部分を指差しながら、尋ねてくる。
そこには『京都』と書いてある。
まともな日本人なら『きょうと』と読むだろう。
しかし、日本語を勉強中の外国人ならまだしも、この少女は誰が見ても日本人。
いくらド忘れしたとしても、『京都』という漢字の読み方を忘れることがあるだろうか……?

300太田垣良『ザ・サードマン』:2017/06/25(日) 00:26:24
>>299
  キョウトサンチャバシヨウ
「『京都産茶葉使用』ッスよ」
「宇宙人かオメ―」


ほんとに宇宙ステーションかなんかに居たのかこの女…もしくは宇宙人。

「……『成績悪すぎて』転校してきたッスか?」
「忠告しとくがこっちでも成績それなりの方がいいッスよ
 でなきゃ清月の大学に『エスカレーター』できねッスし」
「成績…まあ俺も人の事言えた義理じゃないッスけど」

ウヒヒヒヒ、と笑う。

 「俺は『太田垣』ッス。理系科目は赤点スレスレ!あと古文も苦手!」
 「……あんたとは成績悪い仲間ッスね!!ようこそ補習組へ!!」

とりあえずネタっぽく仲間認定。
成績がいいヤツならここで笑いながら否定してくるだろう。
悪いヤツなら補習仲間として手厚く歓迎。

301夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/06/25(日) 01:14:37
>>300

「あァァァ〜。『キョート』ね、『キョート』。今思い出した」

「シツレーな。どっから見ても地球生まれで地球育ちの地球人よ」

全盲だった自分にとって、使ってきた文字というのは『点字』だった。
文字を読むようになったのは視力を得てからなので、まだ慣れていない。
今は平仮名とカタカナは読めるようになった。
……が、漢字となると小学生レベルのものすら読めないことも多い。
現に、さっきのラベルの漢字も半分以上は読めてなかったりする。

「まぁ、成績が良い方じゃないのは否定しないけどさ……」

「っていうか、マジで?」

「『エスカレーターは乗ってりゃいいから楽だわァ〜』とか思って、余裕かましてたのに」

前途を思い、クラッと軽くよろけた。
でも、目の前にいる少年も成績良くなくて笑ってられるんだから、まあ大丈夫かな、とも思った。

「私は『夢見ヶ崎』。成績は――まあ、勝手に想像してもらうとして……」

「とりあえずよろしくッ!!」

正確には補修組ではないが、片足を突っ込んでいる感はある。
言ってみれば予備軍といったところだ。
けど、友達が増えるのは嬉しいから歓迎されてみた。

「――あッ」

   「お腹空いた」

       「晩御飯食べたいから帰るね!」

           「バイバーイ!!」

               「また学校で〜!!」

いきなり立ち上がり、そんなことを言いながら手を振って帰っていく。

最後までマイペースを貫いて、宇宙ステーション出身?の女生徒は去っていったのだった。

302名無しは星を見ていたい:2017/08/14(月) 22:49:27

「……」

夜の街の片隅の、裏通りの飲食店。

そのまた裏にあるごみバケツの隣で、『女』はゆっくりと目を開いた。

ザワ
ガヤ ウェーイ

「……」
「……」

耳に入る、少し遠くからの喧騒。
『女』は無言のまま、周囲に目線を走らせる。
しかし街灯の光があまり届かないこの場所では、
周囲どころか自分の姿すら不確かで


「……」

それと重なるかのように、
思考にも深い闇がかかっているような感覚を『女』は覚えた。

  ガヤ     ザワ

                  ワォーン

少し離れた所から音は耳に届くのに、どれこれもまるで遥か遠くにあるかのようで
『女』を少しも、動かす力にはなりえなかった。



「────……フゥッ!」


それらを振り払うように短く強く呼吸をして、空を見上げる。

綺麗な星空があった。

303undefined:2017/08/14(月) 23:05:32
星の明かりが、『女』の姿を照らし出す。

   スーッ

『女』の身体は、女性にしては大きい。

──動かなくてはならない。

『女』は瞬時にそう思った。

──自分の役割を果たさなければならない。

             ニャオーン

遠くで、猫の鳴き声が聞こえた時、彼女の思考の闇は晴れた。
星明かりで照らされる赤みを帯びた長髪。


──猫を探して、依頼主に届けなければならない。

『動く方向』を見いだした女は、駆け出していった。

304斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2017/08/17(木) 02:46:29
「うーん……?」

黒いジャケットが夕日を照り返し
白のシャツには首元の赤い布切れが揺れている

「もう一回……試したほうが良いな。」

灰色のジーンズは精々スニーカーの引き立て役だろう
それも一昔前の奴では大分色あせていたが

「『ロスト・アイデンティティ』……!」

商店街の路地裏、自販機の影でスタンドを発動する
たちまちの内に斑鳩の全身に鎖が巻き付いた
だが目的はそれでは無い

(右腕を振ると同時に…右腕から伸びてる鎖の先端の『連結』を『解除』する!)

  キンッ

鎖の一欠けらが表街道に放り込まれ、微かな金属音を立てる
瞬間、雑踏の中で数人が視線を其方の方に向けたが 気にも留めずに歩きだす
その様子を斑鳩は路地裏から観察していく
ここで隠れながらスタンドを使うのもそれが理由だった。

(あの視線、反応……やっぱり、普通の人にも見えてるよな。)

「外したのは実体化しているのか。」

僕に変に隠す理由も無かったのもあるが慣れておく必要があった
もっとも、『右利き左利き』を『両利き』にする程度の感覚だったが。

(他の人にも見えている ……なら使いどころは考える必要が有るな。)

「それにしてもこの…『スタンド』初めて使った気はしないな」

才能っていう物はそういうものか、と自分で再確認する
先程の投てきも、狙ったところにほぼ寸分違わず着弾したのだ。

――これが補助しているのかな?
そう考え、『スタンド』を発動した自らの身体を見直してみる

『ロスト・アイデンティティ』は纏う型のスタンドだった
それは全身に幾重にも巻かれた鎖として表れている。

――前は見えるけれど、複雑だな。

『技巧に優れた鎧』なのか、それとも『枷』なのか?
斑鳩は『奇跡』を望んではいたが、それは彼にとって『身に纏う鎖と影』だ。
言葉にしたい事は山ほど有ったが、それは脳の中で渦を巻き
まさしく絡まった鎖のようになって喉から出てこない。

……そしてそんな事を延々と考えていたので、周囲にはまるで気を配っていなかった。

305小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/09/01(金) 01:01:31

洋装の喪服と黒いキャペリンハットの普段着で、人々の行き交う通りを歩く。
ここは、よく買い物に来る場所。

けれど、今日の目的は買い物じゃない。
ふと、一人きりで過ごすことに寂しさを感じた。
だから、人の大勢いる場所へ行きたくなったのだ。

  「――これをお願いします……」

一軒のオープンカフェに立ち寄り、テラス席の片隅に腰を下ろした。
そこから賑やかな通りを眺め、この町の息吹を感じ取る。
そうしていると、心の中にある寂しい気持ちが少しずつ和らいでいくような気がした。

しばらくして、テーブルの上に注文した品が置かれた。
ミントの葉とレモンの輪切りが添えられた、爽やかな香りのミントティー。

         カラン……

グラスの中で氷が軽い音を立てた。

306<削除>:<削除>
<削除>

307朝山『ザ・ハイヤー』:2017/09/07(木) 19:33:47
>>305

  クルクルクル


      クルクル


           シュッ

                    タンッッ!

 「ほぉぉぉぉおおおお〜〜〜〜!! トォーーーーーッッス!!!」


   「悪の組織の首領! モーニングマウンテンただいま登場!」

308朝山『ザ・ハイヤー』:2017/09/07(木) 19:40:15
>>307続き  (失礼しました、途中送信です)

 赤を基調とした、熱血なジャンバーと短パンに。ホッケーマスクのようなものを被る
怪しい悪の首領は颯爽とオープンカフェの外で決めポーズを繰り出している。

 「我が名は悪の首領の組織モーニングマウンテン!!
さーさーっ! お日柄の良い日に集まってる皆さん!! 今度、悪の講演会を公園で行う
モーニングマウンテンが直にパンフレットを渡してるっスー!! 御菓子やジュース
星の味金平糖やインスタンドウナギ飯味ヌードルも、今なら半額で売ってるすー!!
 みんなジャンジャン来てほしーっス!!! 悪の首領モーニングマウンテンっス〜!!」


 ざわざわざわ……

 何処か聞き覚えのある声が、オープンカフェの近くの通りでピョンピョン跳ねるお面の人物から聞こえてくる。
色々動き回っているので、少し声掛けすれば気づく距離だ……。

309小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/09/07(木) 21:15:01
>>307-308

ザワ ザワ ザワ ……

  ――……?

物思いに耽っていた時、聞き覚えのある声が耳に届き、軽く視線を動かす。
それと同時に、明るい声と元気な動きが視界に入る。
顔は隠れていても、それが誰であるのかは、すぐに分かった。

  「朝山さん――」

だから、つい声を掛けてしまった。
もしかすると名前を呼ばない方がいいのでは、という所にまで考えが及ばなかった。
今、ちょうど物寂しい思いを感じていたところだったから。

  「――こんにちは」

軽く頭を下げて挨拶し、柔らかい微笑を投げかける。
人との出会いは、胸の中にある寂しさを埋めてくれる。
ここで思いがけず見知った人に出会えたことを、嬉しく思っていた。

310朝山『ザ・ハイヤー』:2017/09/07(木) 21:23:32
>>309

 >朝山さん――



「うん? どうしたっすか……   はっΣ!!!?」

 振り向き、気づく!! そうだモーニングマウンテン!!
君は悪の組織の首領であり、正体不明の謎の首領なのである!

 「いやいやいやいやっ!! そこのおねーさんっ!
私は朝山などと言う、とっても可愛いパワフルガールと同一人物ではないっス!!
 我が名は悪の組織の首領!! そう! モーニングマウンテンなんっス!!」

 シャキーンッッ!!!

すかさず決めポーズを繰り出すっス!! パワフルなポーズの衝撃は
きっと知り合いだと思ってる小石川おねーさんすらも騙せる筈なんっス!

 (しかし、不味いっス。これは、夕飯でピーマンの肉詰めが出た時ぐらい
不味い状況っス。小石川おねーさんは勘がするどそーな雰囲気をしてるっス。
このままじゃ私が悪の組織の首領である事が完全にバレてしまうっス!!)

 うーんっ!! 

頭をひねってモーニングマウンテンは考える!! そうだ、誤魔化すのだ
モーニングマウンテン! 今なら間に合うかも知れない!

 「あー、そうそう! おねーさん、このモーニングマウンテンに
話しかけてくれたのは良い機会っス!!
 よければ、悪の首領に何か質問をして見れば良いっス!
そ〜〜〜すれば!! この悪の首領が朝山と言う名前でない事がわかる筈っス!!」

 そうっス! ここは嘘をつきとおすっス!
この巧みなる悪の話術で、小石川おねーさんを騙しとおすっス!!

311小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/09/07(木) 21:59:21
>>310

  ――……。

彼女の慌て方を見て小首を傾げ、改めて考える。
名前を呼んでしまってはいけなかったのかもしれない。
そうだとすると、悪いことをしてしまったことになる。

  「そう――ごめんなさい」

  「知っている人に似ていたものだから、つい……」

彼女が知られたくないと思っているのなら、そのままにしておこう。
誰だって、一つ二つは隠しておきたいことはある。
私にも、それはあるのだから。

  「質問――そうね……」

  「じゃあ、少しお話しましょう」

  「――モーニングマウンテンさん」

ほんの少しだけ悪戯っぽくクスリと笑って、自分の隣の席の椅子を軽く引く。
せっかく会えたのだから、落ち着いて言葉を交わし合いたかった。
たとえ彼女がどんな姿でどんな名前を名乗っていたとしても、その気持ちは変わりない。

312朝山『ザ・ハイヤー』:2017/09/07(木) 22:33:44
>>311

>じゃあ、少しお話しましょう
> ――モーニングマウンテンさん

 「ふーーーっ!! うんっ!! お話をするっス!
楽しくお喋り!! 時が経つのを忘れ、私の正体が何者か気になる事すら
忘れるぐらいに駄弁りふけるっス!!」

 (ふーーーっ!! 第一段階成功っス!! 名付けて
たのしーお喋りで、朝山と呼ばれ振り向いた事を忘れる作戦!!!
 まず、最初に声を掛けられ振り向いたのが不味かったと思うっス!!!
ここは悪の妙技である、108式の話術で手玉にとるっス!!!!)

 「いやー、それにしても残暑が厳しいのなんの!!!
うちの権三 じゃなかった うちの犬もよく一緒に散歩にいくっスか
こー暑い日が続いてると、まいにちヘッヘッ ヘッヘッと舌を出してるっス!
 そして、悪のパンフレット配りも余り成果が伸びてないんっス。
御菓子やジュースと、目玉商品も幾つか挙げてるんっスけど……まぁ、これからっス!!」
 
 クルクル シュッ タンッ シャキーン!!

 ポーズと共に、諦めず悪の広告活動を続ける宣言をするっス!!

「えーっと、それで、こい  じゃなかった。
初対面のおねーさんは、どうやら悩みを持ってるような雰囲気を……ん? 
 こう言う、やりとりを少し前にした事がある気がするっス 忘れるっス!!
とりま、私は改めて告げるが悪の首領なーんっス!
 と〜〜〜〜っても恐ろしい存在なんっス!!!!
今なら、この悪の首領にインタビューする事も考えない事もないっス!!」

 エッヘン! と胸を張って悪の首領は小石川おねーさんに
インタビューを答える姿勢を構えている。

313小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/09/07(木) 23:21:48
>>312

  「――ええ、これから季節の変わり目で体調を崩しやすいから……。
   風邪を引かないように気を付けましょうね」

話に耳を傾けながら、その合間に軽く頷いて相槌を打つ。
こうして人と話すのは、とても楽しい。
彼女の元気な声を聞くと、こちらも元気を分けてもらえるような気がして、自然と口元が綻ぶ。

  「さっき、講演会という言葉が聞こえたのだけど――」

  「よかったら、そのパンフレットを見せてもらえないかしら……?」

彼女が名前と素顔を隠していることについては追及するつもりはない。
けれど、彼女が行っている活動には関心を引かれた。
宣伝しているのなら、尋ねても彼女を困らせることになりはしないと思う。

カラン……

  「――喉が渇いていると思ったから注文したの。
   レモネードが苦手じゃなければいいんだけど……」

ウェイターの手で、テーブルにグラスが置かれた。
縁にレモンの輪切りが飾られている、よく冷えたレモネード。
暑い中でマスクをしていれば、きっと喉も乾いているだろうと思ったため、注文したのだった。

314朝山『ザ・ハイヤー』:2017/09/07(木) 23:39:47
>>313

 「うんうんっ! 風邪は万病の元と言われるっス!! 油断は出来ないっスからね〜!
こいし じゃないっス そっちのおねーさんも体調には気を付けるっスよ!! パワフルっス!」

 「わあ! レモネードっス! おねーさんは親切っス! ありがとーっス!!
ウェイターさんもありがとっス!」

諸手をあげてレモネードを飲む! マスクを被ってもなんのその! ちゃんとストローでマスクを
完全に外さないように飲む術は備えているのだ!!!


 そして、パンフレットは小石川の手に一枚託された……。

 『  悪の組織の首領モーニングマウンテンの講演会!!
〇▲星見〇丁公園にて、〇月◇日に悪の講演会をするっス!

世の中には不思議な力があるっス! その不思議な力を集約して
願い事をすると、どんな願いもたちまち叶う可能性があるっス!
モーニングマウンテンは、その可能性を高める細やかな活動内容を
星見公園にて話したいと思うっス!!
 美味しい星見金平糖やジュースもいっぱい用意してるっス!
みんなたくさん来てほしいっスーーーーー!!!     』

 ちゅ〜〜〜〜!!

 「ン  まーーーいっ! いやー、暑かったから
冷たいレモネードはとても美味しいっス!!」

 ぷはー!! っと、モーニングマウンテンは人心地ついている。

315小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/09/08(金) 00:16:24
>>314

  ――不思議な力……。

その文面に目を通し、ある一ヶ所に気にかかるものを感じた。
ここに記されている不思議な力には心当たりがある。
自分も、その力を持っているのだから。

  「――モーニングマウンテンさん」

  「あの……。
   この不思議な力というのは、どんなものなのかしら……?」

目の前の少女も自分と同じような力を持っているのだろうか。
そんな考えが、ふと脳裏を掠めた。
でも、そんな偶然が……?

  「――願い事が……叶う……」

  「もし――もし、本当に叶うなら……」

おもむろに目を伏せ、思いを馳せる。
考えないようにしようとしても、無意識の内に考えてしまう。
私の願いはただ一つ。
彼の傍らで、彼と共に在りたいということだけ。
それが叶ったら、どんなに素敵なことだろうと思う。

  「いいえ……。何でもないの……」

彼が生きていてくれたら。
そんな叶うはずのない願いを考えてしまった。
そう、そんなことは叶うはずがない。
できるとすれば、私が彼の下へ行くことだけだろう。
でも、それは許されない。
静かに深呼吸し、グラスのミントティーを口にして気分を落ち着ける。

  「――美味しかったのなら、良かったわ」

隣席の少女の元気さに励まされ、気を取り直して微笑みを浮かべた。

316朝山『ザ・ハイヤー』:2017/09/08(金) 21:58:18
>>315

>この不思議な力というのは、どんなものなのかしら

「うんっ? あぁ、それはっスね!
『スタンドパワー』って奴なんっス!!
 人の精神力で出来ているって言うパワーで。普通の人には見えないんっス!
ものすごーいパワーだったり、ものすごい変わった力もあるんス!!」

 小石川おねーさんは友達っス! スタンドについても詳しく丁寧に教えちゃうっス!!

 >願い事が……叶う

 「そうなんっス! 願い事が叶うんっス!!
今はまだ詳しく言えないんスっけれど。すごーい人数の
スタンドパワーを持つ人が揃うと、どんな願い事も叶う事が出来る方法を
 このモーニングマウンテンは知っているんス!
まーだまだ先は長いっスけどねぇ。けど、私は星見町を征服し
宇宙統一の夢を実現する為に、日々切磋琢磨してるんっスよ!」

 チュ―――― とレモネードを飲みつつ力説するっス!!!

このドでかい野望を聞き、小石川おねーさんも震え上がる筈っス!!

317小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/09/08(金) 22:53:36
>>316

  「そう――」

  「頑張ってね」

何でも願いが叶う。
この世には、そんなスタンドも存在するのかもしれない。
もし、そんなものがあるなら、私は……。

  ――いいえ……。

本当にそんな力があったなら、きっとそれは、もっと多くの人達のために使われるべき力。
私一人のために使われるべき力じゃない。
でも……その力が目の前にあったとしたら……。

  ――この気持ちも……変化してしまうかもしれない……。

  「――スタンド……」

  「あなたも……それを持っているのかしら?」

  「……私も――それを持っているの……」

小さな声で、ぽつりと呟いた。
その声は、街の賑やかさの中に溶けて消えていく。
これが聞こえたのは、隣に座る少女だけだろう。

318朝山『ザ・ハイヤー』:2017/09/08(金) 23:14:43
>>317

>頑張ってね

 「うんっ! 頑張るっス!!
何てたって私は悪の組織の首領! モーニングマウンテンっスからね!!
 どんな困難が待ち受けていようと、夢を叶えるっス!!!」

 シャキーンッッ!!!

 決めポーズも華麗に素早く行う! これぞ悪の瞬足っス!!

 >「――スタンド……」
>「あなたも……それを持っているのかしら?」
>「……私も――それを持っているの……」

 「……?」

 ボスッ。

 朝山は椅子に座り直し、まじまじと小石川を見つめる。
ホッケーマスクをしてる為、表情を読み取るのは難しいが。

 「おねーさんもスタンド使いなんっスか? 
けど、なんか  嬉しくなさそうっス。寂しそうなんっス」

 スタンド使いの仲間なんっス!! と、エクリプスダンスをするような
感じじゃないっス。何だか、スタンドを持ってる事が苦しいような感じっス。

319小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/09/08(金) 23:52:19
>>318

  「私は大丈夫だから……」

  「ただ――」

  「いいえ……大丈夫よ」

私の心には、死を望んでいる部分がある。
けれど、私は生きなければいけない。
その相反する想いの狭間から、『スーサイド・ライフ』は生まれた。
だから、自分のスタンドのことを考えると、心の中にある迷いを改めて思い出してしまう。
この感覚は、いまだに消えていない。

  「だから――」

  「だから、あなたも元気なままでいてね」

  「それを見ると、私も明るい気持ちになれるから……」

胸の内に生じた迷いを押し殺し、少女に向けて微笑む。
彼女を心配させたくないから。
瞳の奥に一抹の寂しさを残しながらも、できるだけ明るい笑顔で。

320朝山『ザ・ハイヤー』:2017/09/09(土) 00:11:57
>>319(ここら辺で〆たいと思います。お付き合い有難う御座いました)


 「――うん わかってるっス!
私は元気なんっス パワフルなんっス!!
 みんなに元気と笑顔をいっつも分け与えるっス!」

 シャキーンッ!!

 「だから、おねーさんも悩みがあっても大丈夫っス!
私が 何時か いつか必ず夢を実現する時。
 

   おねーさんの夢を一緒に叶えてあげちゃうっス!! 


 そうっス! これは物凄く画期的で悪らしい願いっス!!
クックックッ! 他人の夢も総取りして一人占め! なーんて悪らしいっス!」

 パッ!! 悪の首領モーニングマウンテン!
喉の渇きも完全に無くなり、疲労も薄れた! 次の地区でパンフレットを配るのだ!

 「それじゃあ、また今度っス!
このモーニングマウンテン! 常に夢を叶える為に全力疾走っス!
 うおおおおおおぉぉ!!! パワフルっスぅぅううううう!!!」

 朝山、もといモーニングマウンテンは。小石川が呼び止める間もなく
人垣の中へと消えていく。テーブルにはレモネード代の5百円玉が置かれていた。

 例え、それがどんなに叶える望みがなくても。悪を名乗る朝日の少女は。

突き進むのだろう。その夢(太陽)に向かって

321硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2017/09/14(木) 20:41:05


     「…」  

「営業努力もしないくせに、
 地元愛を主張して家電量販店や大型スーパーを
 目の敵にするような個人経営の店は淘汰されても当然だと思わないか」


個人経営のゲームショップ、
伸び放題の金髪に、耳にびっしりピアスを付けたヤンキーが、
店の奥に1台だけ設置された『女児向けゲーム』の筐体用の
長椅子に腰かけボケっとしている。客は誰もいない。

322稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2017/09/15(金) 00:07:16
>>321

         ガラララ

「………………」

眼鏡を掛けた黒髪の少女が入店した。
服装はボーイッシュ。学校帰りの雰囲気じゃない。

・・・こういう個人経営の店には、
たまに掘り出し物があったりする。

(うわっ……DQNだ。モンスターハウスか?
 一人っぽいけど……どっちにせよこわちか)

           トコ
              トコ

なるべく気づかれないように歩く。

まあ足音で気づかれるだろうし、
スパイゲームをするつもりもない。

(…………あんま良いのないな)

手のひらを反すのが早いけど、
まあ、最初から過度な期待はしてない。

(まあ、宝はダンジョンの奥にある……
 常識的に考えて、ボスもいるもんだけど)

店の奥を見るため、『硯』の方に否応なしに近付く。

323硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2017/09/15(金) 05:09:25
>>322



「ふぁぁ」

大きな欠伸を漏らした所で、
恋姫が入店した事に気付き、立ち上がる。


「いらっしゃいませ。何をお探しなんだい。
 『Switch』が欲しいならお一人様一台までで、取り置きはなし。
 昔のゲームが欲しいならばそこのワゴン。
 武器は、装備しなきゃあ意味がないぜ」

324稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2017/09/15(金) 16:20:37
>>323

「………………店員だったんだ」

(人は見かけによらないってやつだ……)

――シンボルエンカウントのゲームで、
盗賊のグラフィックだと思って避けたら、
それが道具屋の店員だったって感じだ。

店員だと分かったら話は早い。

「マジで……switchあるんだ。
 SSRな店引き当てちゃったな……」

     「えひ……まあ、でも今日は」

そういうわけで、中古ワゴンへ。
こういうところに謎ゲーがあるのだ。

             ガサ

「なんかクソゲー欲しいんだよな、
 ドン引きするようなやつ…………」

    ゴソ

      「呪いの装備的なぁ……」

ワゴンの方に歩み寄って、古いゲームを探す。
ハードは気にしない。たいていは揃えているし。

325硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2017/09/15(金) 19:27:25
>>324

「俺は店員じゃあないよ。
家の手伝いをしている玩具屋の小倅だ」

ゆら ゆら

「今日は同じ商店街の幼馴染達と一緒に、
映画を観に行った後にカラオケに行く予定だったんだが、
俺だけ貧乏くじを引かされて店番を、しているんだ」


恋姫の横に立ち、最近据え置き機からファミコンまで
ありとあらゆる『ワケあり』のゲームが詰まったワゴンの中に手を突っ込み物色する。

「これはどうだい。中々に面白かったんだが。
『モンスター・オブ・ザ・デッド3』」

硯が取り出したのは、デスメタルのアルバムのような気味の悪いイラストが描かれたセガの家庭用ソフト。
『モンスター・オブ・ザ・デッド』ーー
現在は既に倒産しているメーカーが20年近く前に発売したガンシューティングだ。

1990年代、当時ゲームセンターでは『タイムクライシス』や『HOD』等の銃型のコントローラーを画面に向けて撃ってゾンビやテロリストを倒す、
自動スクロール型の体感ゲームが大流行しており、
メガスマッシュを叩き出した同ゲームが家庭版に移植されるや否や、
同業他社が二匹目のドジョウを狙おうと粗悪なパクリゲーをこぞって出して、互いに潰しあっていた。
この『MOTD』もその内の1つである。

MOTDも粗悪なパクリゲーの例に漏れず、突貫工事で作られた為、
理不尽な難易度に加えてデバックをしたのかと疑う程のバグの多さ。
それに加え、『ゾンビ』や『テロリスト』ではなく『黒人』や『モンペのババア』や『ルンペン』を狙撃する、
という明らかに倫理的に問題がある内容にユーザーから苦情が殺到し、
メーカーが発売して1週間で自主回収した為、
現在も市場には殆ど出回っていない幻のシロモノだ。

326稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2017/09/15(金) 22:37:06
>>325

「ふうん……まあ、敵キャラじゃないなら……
 店員でもお手伝いでも僕はいいんだけど……」

(…………リア充なのは見かけ通りか)

             ガサガサ

ワゴンを探りながら、生返事気味に返した。
そして――現れた『怪物』に目を向ける。

「うっわ……」

モンスター・オブ・ザ・デッド。
ドン引きしたのはジャケットの趣味だけではない。
そのネットの海に轟く悪名と言ったら、まさに四天王だ。

しかも、これは『3』――もはや伝説の存在。

「うわ……やばぁ…………
 ガチで呪いのアイテムキタコレ」

「プレミアついてるやつだろ確か……悪い意味で伝説だぜ」

散々な評価をするが、興味はある。
倒産の原因とも囁かれるまさしく呪われた一本。
内容も凡百の『つまらないだけ』の物とは一線を画する。

べつにクソゲー愛好家というわけではないのだが・・・
名作や良作に慣れ切ったゲーム歴に刺激をくれる気がする。

327硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2017/09/15(金) 23:04:53
>>326

「凄いだろう。
 何が凄いって、『モンスター・オブ・ザ・デッド3』と
 銘打っておきながら実は『1』が出ていないって所だ。
 
 いきなり『2』から出ているってのは周知だろうが、
 あまりにも出荷が少なくて誰もどんなゲームか知らないんだ。
 続編だと思わせて買わせようとしたのかな。
 ……倒産した今となっては真相は霧の中だが」


            「そうだ」 ガサゴソ


更にワゴンを漁り、中から縦長のパッケージを取り出す。
プレイステーション2のソフトだ。

「こいつは凄いぞ。
 『ライジング娘。無双』だ」


『ライジング娘。無双』――
『戦国』やら『三国』やらのシリーズでお馴染みのメーカーが、
まさかの『ライジング娘。』(※)とコラボ。
(※当時メディアを席巻していた国民的アイドルグループ)
当時、既に完成されていた『無双』のシステムを流用しているので出来は秀逸だが、
毒にも薬にもならない様な歌をBGMに、
アイドル達が画面狭しと暴れまわり『悪魔』達をなぎ倒していく様はまさに『バカゲー』。
メインターゲットであるアイドルのファンは勿論、
アイドルに毛ほども興味もないゲーマー達をも虜にし、
現在も動画サイトに『TAS』の類の動画が頻繁に投稿されている。

――もっとも発売から数年後に、
登場するアイドルの1人が『大麻取締法違反』で逮捕され、
更に別のアイドルの弟が『銅線窃盗』で逮捕されたり、
つい最近では『政治家』との『不倫』が『文春砲』されたりなど、
登場するアイドルが軒並み『悲劇』に巻き込まれたりしているが。

328稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2017/09/15(金) 23:33:30
>>327

「……伝説を始めようとしたんじゃね。
 『ドラクエ』の時系列は3から始まる的な」

恋姫は微妙な顔で適当な事を言った。
……いくら『クエスト』にしたって、
難易度が高すぎる試みだろうが。

ともかく『クソゲー』部門はこの魔物がノミネートだ。
今後も恋姫の中から消えないタイトルになるはず。

             ガサ
                  ゴソ
「……ん?」

「……うわっ 『ライ娘無双』じゃん」

プレイしたことは無いが……知っている。
コアなネットユーザーの中では語り草だ。
クソゲーではないが、バカゲーとして名高い。

仕事を選ばない姿には一種の尊敬があるが、
壮絶な『棒読み』と無個性なキャラ性能は、
彼女らの心の内の何らかの哀愁を感じさせる。

「……ある意味リアルも無双だったよな。
 記者が無双ゲー並みに集まってたし……」

「ま、そんだけ人気あったんだろうけどぉ……」

リアルじゃそのまま、ゲームオーバーというわけ。
同じ『アイドル』としては、複雑な心境だ。
もっとも無実の罪とかではないので同情は薄いが。

「……今日はその二本にしとくかな。
  ……もう無いよな? 今のでラスボス?」

       「これ以上はハードすぎるぜ……」
 
とはいえ最近のゲームというのは裏ボスが付き物。
恋姫としても怖いもの見たさでワゴンを漁る手は止めない。

329硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2017/09/16(土) 00:03:22
>>328

「『ゴキマ』が弟の為に責任取って引退した時、
 近所の寿司屋の娘はこっちがヒく程泣いていたよ。
 俺は、そのゲームでしか『ライ娘』を知らなかったから、
 何の感情も湧かなかったんだが」

            
                「俺は、冷徹なのかな」


指の背で耳をびっしりと埋めたピアスに触れ、
考え込むような仕草。

「いや、ラスボスは別に居る。
 確か、まだ売れ残っていたような…
 ええと、確かこの辺に、あった気が」

             
             「あった」

取り出したのはパッケージにタイプの違う何人もの美少女が、
扇状に並んだイラストが描かれた、『君と僕に降り注ぐ愛の唄』(通称:きみうた)。

『きみうた』――そのジャケットのイメージ通り、
『恋愛シミュレーション』に分類されるゲームなのだが、
開始5分でメインヒロインが主人公の顔面目掛け『嘔吐』するシーンから始まり、
告白してきた『女教師』とのラブシーンで腸を食われ、
また別のルートでは『幼馴染』のツンデレ美少女が『ミサイル』に『変形』して、
唐突に出てきた『黒人マフィア』の基地目掛け飛んで行ったり…等、
頭が狂ったとしか思えない『イカした』展開が、ぎゅうぎゅうに詰め込まれている。

また恐ろしい事にメーカーはそれらの『超展開』の情報を
意図的に伏せており、発売当時『本スレ』は『阿鼻叫喚』。
インターネット上では『伝説』となっているゲームである。

330稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2017/09/16(土) 20:37:43
>>329

「……僕は『ライ娘』知ってたけど、泣きはしなかったしぃ。
 知らないアンドファンじゃないならそんなもんじゃね……?」

     (そんだけ泣いてもらえるなら、
      アイドル冥利には尽きるだろうな……)

考え込む様子には、それほど強い感情を持たなかった。
何の感情も沸かない――という言葉を『誇張』と捉えたから。
その寿司屋の娘に同情するとか、そういうのはあるんだろう、と。
それに冷徹だとしても、ゲームを買うのには関係ないと思ったから。

「うわぁ……いるんだ。真ラスボス…………えひ。
 ラスダンの一番奥まで来て、帰るルートは無……」

              ジロ

現れたパッケージに視線を向けて――
すぐにそれの正体に気づいた。知っている。
 
          「うおッ…………!」

例えばテレビで見た犯罪者とばったり出くわしたような。
というより、天井からいきなりゾンビが降って来たような
顔に似つかわしくない呻き声が出た。ここに演技は無い。

「『君と僕に降り注ぐ愛の唄』……………………」

           タジッ

――『公式が病気』

        ――『皆のトラウマ』

                   ――『風邪ひいたときの夢』

「プレイ動画は見たことあるぜ……パート2で投げたけど…………」

そんな安い文句は無数につけられていて、しかし形容しきれない。
恋姫も実物を手に取るのは初めてだ。手に取りたいと思わなかった。
グロテスクな表現が好きなことを偉いと思わないし。……何か禍々しいし。

「ラスボスっていうか……
 エンカしたら即死のトラップだろこれぇ」

                   ゴク

          「…………買おうかな、これも」

とはいえ、ワゴン価格で買えるなら……悪くない。気がする。『授業料』としても。

331硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2017/09/17(日) 22:26:55
>>330


     「違うんだ」

     「こいつの『魔力』はプレイ動画で、
      観るだけでは伝わらないんだ」

      トン トン

パッケージに描かれた、
リボンを巻いた紫髪の美少女を刺す。

「ネットで一番有名であろう、
 この『金城沙希絵』ルート。

 登校途中の幼馴染がいきなり宇宙人にロボットに改造され、
 好感度を上げる程に増えていくヒロインの『武装』。
 主人公への愛を形で実感できる事に喜ぶ沙希絵だが、
 いつ完全に『機械』へと変質してしまうのか恐れる日々。
 
 両想いになってからも彼女の『変質』に葛藤する主人公。
 そして主人公の手元には彼女の『自爆スイッチ』。
 沙希絵が『機械』になる前に『救う』事はできる。
 だが、沙希絵を殺す事などできない。、
 ヒロインの生殺与奪を常に握りながらの薄氷の上のような学園生活」


              「外していないんだ」

              「こんな『荒唐無稽』な展開ばかりなのに、
               どのルートも『ギャルゲー』として、
               とてもとても面白いんだ。
               笑い有り、涙あり、そして心に芽吹く甘酸っぱい感情」

「特に『ィエァ・ンド・ゥ・ンーベ・モョ・ペペペペペペペペペペペ』の
 ルートは素晴らしい。
 このゲームはプレイしないと分からないんだ。

 3枚合わせて1000円で良い。
 君も、是非プレイしてみてくれ」

332稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2017/09/17(日) 23:19:34
>>331

「あ〜〜…………………すまん、我ながら、ニワカおつだった」

『きみうた』については『当然の感覚』がマヒしていた。
言うなれば単なるコンテンツ……話のネタでしかないと。

「買ってやってみなきゃ、ゲームは語れないわな。
 ……だから、ネタバレはそれ以上NG。
 僕の手で全ルート通るから…………その後語ろう。えひ」

        「…………はい、1000円な」

財布から1000円札を出して、陰気な笑みを浮かべる。

違うのだ。『ゲーム』なのだ。そして自分はゲーマーを自負している。
プレイせず語るなど『未プレイ乙』の一言で切り捨てられる塵芥。

(…………『ィエァ・ンド・ゥ・ンーベ・モョ・ペペペペペペペペペペペ』
 名前でおなかいたくなることはあったが……攻略する事になるとはな……)

                (……やってやんよ)

ひそかに決意を固めつつ、今日の買い物はこの辺にしておこう。

「……今日は掘り出し物だった……良いゲーム屋だな、ここ」

           「…………あー、ありがとな。
             選んでくれて……また来るぜ」

       ニタ

笑みの陰気さを深めつつ、店の入り口へと踵を返す。
特に止められたりしなければ、このまま店を出て家に帰ってゲームをオンだ。

333硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2017/09/17(日) 23:28:05
>>332


 「プレイしたらまた来てくれ。
   俺の友達は、ゲームなんてしないから
   語れる相手が全然いないんだ」


1000円札を受け取ると、
ゲームをビニール袋に入れて手渡す。


   「俺は『硯 研一郎』。
    大抵この辺で遊んでいるから、
    いつでも来てくれ。
    今度はお茶でも出そう」

ポケットに手を突っ込み、
恋姫の背中を見送る。


「ありがとう、
 ございました、だな」

334稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』:2017/09/17(日) 23:58:03
>>333

人は見かけによらない――ゲームも同じ。
今日は改めてそう言う事を分からせられた。

まあ、人生観が変わったとか大袈裟な話じゃないけど。

「僕も……ゲームの話をする相手は、
 いくら多くても、多すぎる事はないし……」

            トコ

                 トコ

     クル

振り向いて、自己紹介に応える。

「僕は稗田……『稗田恋姫』
 この辺は……あんま来ないけど……
 これからは、行き先一個できた。えひ」
 
            「んじゃ…………また」
  
                       トコ  トコ
       
         ガララララ
                バタン

335神『フライト800』:2017/09/23(土) 00:32:59
「ほほぉ……いや、なるほどねぇ」

俺はストリートミュージシャンという奴を見ていた。
俺ぁ別にそういうのに深い興味ってのはあんまりないんだが。
何事も知ることが大事ってのがあらぁな。

「そろそろ寒くなってんのにご苦労さんだ」

吹く風は少し冷たい。
羽織を着なきゃあちょっと辛い季節だ。
和服を着るってのも色々季節に合わせた生地を選んだりして面倒だ。
嘘だが。

さてそろそろと帰ろうか。
にしてもこういうのを見てる奴ってのはどんなやつなんだろうな。
ストリートミュージシャンの演奏に足を止める奴っていうのは。
俺はビー玉の入った金魚鉢を小脇に抱えながら周りをぐるりと見渡した。

336夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/30(土) 21:29:08
>>335

「ふむふむ」

神が視線を向けた先――
演奏するストリートミュージシャンの近くに、少女が一人しゃがみ込んでいる。
頭にはリボンのように巻いたスカーフ、目元に薄い色のサングラス、指にはネイルアートの付け爪。
好奇心の強さを伺わせる興味津々といった眼差しで、演奏の様子を見つめている。

   パチパチパチ

笑顔で合いの手を入れているところを見ると、楽しんでいるようだ。
ふと、少女が顔を上げて、神の方を向いた。

「――へぇぇ……」

ミュージシャンに向けていたのと同じような興味深そうな視線で、神の格好を見つめる。
どうやら和服を珍しいと感じたらしい。
その割には、じっと見すぎている気もするけど。

337神『フライト800』:2017/09/30(土) 22:27:37
>>336

なんだあの子は。
なるほどな。今時の子って感じだな。
俺ぁ別にああいうファッションに興味があるわけじゃねえがね。

「あ?」

んだぁ?
こっち見てんのか。
何が面白くてこっちを見てんだろ。俺は見せ物じゃないんでね。

あ、もしかしてこの金魚鉢か。
まぁなんでもいいが。

「おいあんた。どうした」

声ぇかけてみるか

338夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/30(土) 22:56:59
>>337

「はっ」

声をかけられて、我に返った。
何か変わったものはないかと、町へ出かけたのが今から少し前のこと。
そしたら、ストリートミュージシャンを見かけて思わず足を止め、見入ってしまった。
耳で聞いたことはあっても、目で見たのは初めてだったから。
今に至るまでの経緯は、だいたいそんなトコです。

「いやー、別にどうしたってこともないんだけど――」

今日の私はツイてる。
なんだかまた珍しそうな人に出会えちゃった。
そこで、遅ればせながらビー玉入りの金魚鉢に気付いた。

「――それは?」

金魚鉢を指差し、不思議そうに尋ねる。
なんで金魚鉢?なんでビー玉?ついでになんで和服?
疑問が重なる度に好奇心が募り、心の奥から泉のように湧き上がって来るのを感じる。

339神『フライト800』:2017/09/30(土) 23:28:49
>>338

「あ?」

特に何も無いのか。
近づいて損をしたかもな。
まぁなんだって俺ぁ構わないんだがねぇ?

「ん」

「これか。金魚鉢だよ」

「師匠の無茶振りだ」


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