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Key Of The Twilight
723
:
ベルッチオ
◆Hbcmdmj4dM
:2017/01/31(火) 01:20:16
そんなある日のことだったと思う。
私はずっと以前から疑問に思っていたことを彼女に聞いた。
万物の声が聞こえる感覚とは、一体どういったものなのか、と。
彼女は少し考え…言った。
「言葉にするのは難しいんだけど…。なんだろう…、声が聞こえるって言うよりかは、感じるとか視えるって言った方が正しいのかも。
共鳴って言うのかな?目の前を沢山の色や光がピカピカ飛び交って、温かかったり、冷たかったりして…」
「全く分からない」私は言った。
「だから難しいって言ったでしょ。私はとても大きな世界の、その一部分に触れているだけなんだもの。
でも例えるなら …、緑の芽吹く歓び。大地を潤す雨の温かさ。ささめく水と木々の優しい歌声。野を駆け舞う風の祈り。天に瞬く星々の願い。
そういったものの想い一つ一つが、胸の中にゆっくりと流れ込んでくるの。
まるでこの世界に息ずく生命の、深い息吹きに全身を包まれているかのよう。夢の中にいるみたいでとても気持ちが良いの」
「ほう」
全く分からない。二度目のその言葉は心の内に秘めておいた。
彼女の語る言葉を表面的に理解することは出来ても、その感覚自体を想像することは難しい。
神子である彼女は普段、一体何を感じ、何を視ているのであろう。彼女の抱く世界は広大過ぎて、私ごときでは触れることさえ出来ない。
「それにね、何もこれは自然に限った話じゃないの。人も同じ。歌を歌うと、側にいる人の心の在り方みたいなものも伝わってくるの」
明るい口調で彼女は続けた。直後、その瞳がふと遠のいたのを見た。ここではない、どこか別の処に想いを馳せているかのような目だった。
「町の子供達の場合は、夏の風に揺れる向日葵畑の情景が浮かぶわ。透き通った純粋無垢なエネルギー。
明るくって、キラキラしてて、皆明日に希望を持ってる。すごく元気になれる」
そこまで言うと、彼女はゆっくりと視線を戻した。今度は私の方を見つめて言う。
「貴方は雨上がりの朝顔みたい。雨に濡れた緑の瑞々しい匂い。静かで少し冷たい感じ。でも優しくて真っ直ぐで、何だか安心する」
よくもまあ恥ずかし気もなく、本人の前でそのような台詞をべらべらと喋れるものだと思った。聞いているこちらの方がむず痒くなる。
しかしそこで、はたと気づいた。
先ほど彼女は相手の心を感じることが出来る、と言ったが。つまりそれは、私がひたすらに隠し続けてきた、彼女への淡い恋情すらもとっくに見透かしていた、と言うことにはならないだろうか。
もし仮にそうだとして、全て分かった上で態と、親し気に話しかけてきたり、一緒に旅に着いてきて欲しいだなどと、こちらを当惑させるようなことを言っていたのだとしたら…どうだろう。
私は探るような目で彼女を見る。その視線に気づき、彼女がにこりと微笑む。まるで花が咲き誇るかのような見事な笑顔だった。
その笑顔が全てを物語っているような気がした。途端、火が出そうなほどに気恥ずかしい想いが込み上げてきた。顔を覆いたかった。
「…とんだ悪女だ」
私は呻くようにそう言った。
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