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Key Of The Twilight

1イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2014/07/01(火) 19:01:24
移動してきました。

現在、参加者の募集はしておりません。

318メイヤ/レックス ◆.q9WieYUok:2015/01/20(火) 21:58:55
【闘技場】

必殺の居合いは抜き放たれるも、勝ちを得るには届かず。

闇刃を振り切る手前で動きを停めたまま、メイヤはゆっくりと息を吐いた。

「いや、異能が禁止なら先に俺の方が失格になっている筈。」

そして、自分の周囲を囲む刃の群れに目をやりながら、素直に参ったの言葉を口にする。

しかし、それに続いて苦笑いを浮かべつつ、嫌がらせの声を掛ける事は忘れない。

「俺の負けだよ、流石だな。

これであのオネェ系もアグルを追い掛けるだろう、強いオトコが好みらしいしさ。」

どうやら今回はアグルの方が一枚上手だった様だ。

突如現れた刃が何か解らないが、アレはほぼ回避不可能の必殺だろう。

(雷を操るに、砂鉄の刃か……?)

審判の試合終了を告げる声と共に消える刃群を横目に、メイヤもまた、投げ捨てた白刃を拾う。

取り敢えず、自分の出番は終わった。

イスラも回復した頃だろうし、後は歓声を上げる客側になって試合を見よう。

闘技場に溢れんばかりの歓声を背に、メイヤはその場を後にする。

ーーーーー

メイヤとアグルの試合が終わった後。

闘技場の簡単な整備が終わり、再び辺りに歓声が沸き上がる。

しかしその中心、闘技場に立つ眼鏡を掛けた青年、レックスは歓声など聞こえないとばかりに目を閉じていた。

「……で、貴方はどこのどちら様でしょうか。

開幕セレモニーの時にも居ましたが、僕の対戦相手であるイスラではないですよね。」

試合開始の旗は既に振られているものの、レックスは未だ動かない。

よくよく聞けば、歓声はヤジに変わりつつある。

「しかし、ですね。

試合は既に始まっている、と言う事は。

全力でやらせて頂きますよ、僕は今大分苛立っていますので……」

怒号の様なヤジを背に、レックスは三叉鑓を握る。

眼前には眼帯の男。

知った顔では無い、ならば。

「すみませんが、手加減はしません。

八つ当たり、させて頂きます!」

手にする鑓は、風の刃。

一薙で烈風を、二薙で竜巻を。

レックスは烈迫の気合いを込めて三叉鑓を左右に薙払い、生み出した竜巻を眼帯の男……シャムへと容赦無く放つ。

319シャム ◆Hbcmdmj4dM:2015/01/22(木) 01:49:26
【闘技場】

何やら知らないが、闘う前から相手の青年は立腹しているようだ。
彼の態度からするに本物の方のイスラ・フォードとも面識があるのだろう。
しかし、そのどちらもシャムとっては関係のないこと。

「ごちゃごちゃ言ってねえでさっさと来いよ。
こっちは暴れたくて暴れたくてウズウズしてんだからよぉ」

最初は面倒臭がっていた彼も今ではすっかりスイッチが入ってしまったようだ。
クロッソとの取り引きの話も覚えているのか、いないのか。

持ち前の強面を更に凶悪なものにし、シャムはおもむろに前に左手を翳す。
左腕に寄生した大顎が口を開け、迫る竜巻を全て吸い込んだ。

「お返しだオラァッ!」

かと思えば、次にそれは重火器の砲身の如く細長い円筒に形を変え、砲口から次々と榴弾を吐き出した。

320レックス ◆.q9WieYUok:2015/01/23(金) 16:28:45
【闘技場】

竜巻を喰らい、榴弾を吐き出す。

それは左手と言えばあまりに奇怪、だが、客受けはかなり良いらしい。

前の試合とはうって変わって、派手な攻防に観客はヤジを歓声に変える。

その事が更にレックスを苛立たせるも、冷静さは欠かさない。

吐き出される榴弾を後方へと下がって回避し、榴弾が爆裂し巻き起こる土煙を隠れ蓑に再び竜巻を放つ。

(攻防一体の左手、面倒ですが……)

それと同時に左手、シャムの右側へと回り込む様に疾走。

竜巻が土煙を吹き飛ばし、シャムの視界が開けたであろう瞬間を見計らい、更なる加速。

大気を操り、背面へと集めていた圧縮空気を解放。

加速に継ぐ急加速で一気に距離を詰め、三叉鑓による勢いに乗った刺突……刃先に乱気流を纏わせた一撃を放った。

「狙うならば、右側がセオリーでしょう!」

321ジル他 ◆Q4V5yCHNJ.:2015/01/25(日) 16:12:08
【過去】

「酷いなぁ、心配してあげてるのに。…あ、リト、食べてすぐ寝っ転がっちゃダメだよ。もう少し起きてようか。」

アブセルをからかいながらもリトの動きには敏感で、横になろうとしていたのを止める。そして代わりに腰の辺りにクッションを敷くなどしてなるべく楽な態勢を取らせてやった。
アブセルに放った「心配」は嘘っぽいが、実際面倒見はいいようだ。

「……」

何処かのお屋敷の子供。
人を雇う程なら裕福であるはずで、生活面においても問題はないはず。
しかし、そのわりにリトは痩せ細っているし、いくら病気だからと言って顔色が不自然に悪過ぎる。先程医者に様子を聞いたら貧血もあると言っていたけど…
それに、

「リト、寒くない?」

ジルの問いかけにリトは小さく頷く。

「ちゃんと口で教えて」

「…寒くない…」

この口数の少なさが気になる。
…他人のこと、加えて今日初めて会った人物の心配をしたところでどうにもならないが。

ジルは不意にリトの頭を撫でる。
一瞬彼の身体がビクリと動いた。とても緊張している。

「…アブセル。」

リトが怯えているのが分かるが、それでもジルは手を止めない。悪意のない接触に慣れた方が良いと思ったからだ。
そしてリトを撫でたまま意識はアブセルへ。

「リトに興味があるんでしょ?ならさ、虐めるんじゃなくて気遣ってあげなよ。そっちの方がリトにとっても、君にとっても良いと思うな。」

322ナディア ◆Q4V5yCHNJ.:2015/01/25(日) 16:12:50
【ポセイドン邸】

父が嫌いだった。
本当はリトが生まれる前から、ずっと。
ポセイドンの血を引き、その力まで継いだ自分を、父は特別目にかけていた。
ポセイドンの当主としての英才教育、謂わば帝王学なるものを強要したが、自分は格式ばったものが大嫌い。自由奔放に振る舞い、父の言うことなど微塵も聞こうとしなかった。
父からは何処か野望めいたものを感じていたから、子供ながらに警戒していたのだろう。

「…そうか。」

老人の話を聞いて、今まで引っかかっていた謎が解けた気がした。
本家に婿入りし、ヨハンはポセイドンの家系を継ぐ者の父となった。だが彼はそれでは満足出来なかった。優位な肩書き、立場だけではなく、自身が一族の頂点に立ち、実権を握りたかったのだ。
自身の出生について彼が知っていたかは不明だが、それを抜きにしても自身の育った環境が決して恵まれたものではなかったから。最下層の身分を払拭しようともがくあまり、どこかで道を間違えてしまった。

彼は娘を利用して自分の力を確かなものにしようとしたものの、どれだけ試みてもナディアは彼の思い通りにはならなかった。
そしていつしかナディアへの干渉はなくなっていったが…それをただ”諦めた”と思っていたのが甘かった。
自分は救いようのない馬鹿だと思う。父の野望が、もっと恐ろしいものに変化していたことに気づかなかったなんて。
彼はただ方法を変えただけ。”その対象”を、自分からリトに変えただけだった。

(リトがあんな目にあったのは私も一因ってことか…)

嫌なことに気づいてしまった。
ナディアは自嘲気味な笑みを浮かべた。

それにしても、

「今までずっと黙ってた事を、何で今更話すの?」

50年以上も親子である事を隠し、20年以上実の息子、そして孫に仕えてきた。
これほど沈黙を貫いていたにも関わらず、何故今になって事実を打ち明けるのか。

「父さんは不遇な人生を歩んで来たから、同情して許してやれと?降って湧いた祖父に免じろとでも?悪いけど、打ち明けられたところであんたを祖父として接する気はないよ。」

あぁ、言われてみればヨハンと老人は似ているところがある。
血の繋がりをもろともしない冷酷な面がそっくりだ。

「要するにあんたにとって大事なのは”旦那様”だけだもんね?孫であるはずのリトが苦しめられても見て見ぬ振り…違うな、あんたは寧ろ助長してた。私やヨノのことは過保護にするくせに、リトには冷たかったもんね。」

323リマ ◆Q4V5yCHNJ.:2015/01/25(日) 16:40:30
長らく更新出来ずスミマセン> < 学会の準備でずっとバタバタしてました(;-ω-)ゞ

ヤツキ>>
【お待たせしました、家系図ですっ
imepic.jp/20150125/584890
だいたいこんな感じ?
見えづらいけど> <】

イスラ>>
【わーい←
ヨハン母の名前はレイシーって事にします(^0^
ジル、根本は変わらないのか…
ジルは多分、のび太に優しく、ジャイアンやスネ夫に意地悪するタイプだと思います←←
んー、まともな神経じゃないですからねぇ…(???)

可哀想ですかね?←
設定だけ思いついて膨らますことが出来ないんですよね(笑)
いえいえ、寧ろイスラさんが自分の思いつきを素晴らしく改良してくださるのでとっても嬉しいです(笑)

爺も可哀想に…( p_q)和解できると良いですね(;-ω-)

スカートの裾を踏んでしまったり、スカートに足が絡まったり、ロングスカートはとっても危険です←

シエルにもとうとう女装癖が…(違
シエルも大人になったのねー(棒読み)

キャンチョメが可哀想なんですかww
いやいや、白龍だってジュダルにとっては良い方向に成長してますよ!
「お前の為に俺頑張る!」って具合に白龍の尻に敷かれてる感じが可愛い可愛い← 白龍のお願い(と言う名の無茶振り)にとっても弱いし!

はい、奥が深いのですよ←
えーそんなことないですよー(棒読み)

いやいや、十分使いこなしてますって!!

ジルの弱みを握れば…←】

324シャム ◆Hbcmdmj4dM:2015/01/27(火) 10:51:17
【闘技場】

土煙で何も見えない。…が、正確性よりも「数撃ちゃ当たる」戦法を好むシャムが、砲撃の手を休めることはない。

相手の戦意喪失を確認するのは、手当たり次第に乱射した後でいい。彼がその間に死亡してしまう可能性もあるが、そこはまあ仕方のない話だ。

そう考えていた矢先、不意に強い風が吹き荒び周囲の土煙をなぎ払った。
視界が開け、右目の端を何かが掠める。

「…あぁ?」

そして次の瞬間、シャムの身体は宙に吹き飛ばされた。
壁に激突し、地面に落下する。

右半身に違和感を覚え見てみれば、回転するスクリューに巻き込まれたかの如く右手はぐちゃぐちゃ。右胸の肉は抉れ肋が剥き出している有り様だ。

瞬く間に会場は騒然となった。この状況でもなお歓声を上げる血の気の多い者もいるが、みな血溜まりの中に沈み動かないシャムを凝視していた。

「…くッ…、くははははははッ!」

しかしそんな中、突如として大きな高笑いが場に響いた。
声の発信源は他でもないシャム自身だ。
恐らく彼のことを知らない観客の殆んどが、気が触れてしまったのでは…と思ったに違いない。

呆然とする会場の空気を置き去りに、彼は一頻り笑い続ける。そして一つ大きく息を吸い込み…

「いッてえなゴラァッ!!」

…急にキレた。
普通の人間なら痛いで済む話ではないが、しかし血痕こそ残れ彼の傷はもうそこに存在してはいなかった。

だがそれに反しシャムの怒りは収まらない。
憤然と立ち上がる彼の左腕が大きく蠢いた。
寄生生物の融合範囲が左腕から背中、右肩まで広がり、あるものに形を為していく。

そしてまるで翼を拡げるかの如く、シャムの背後から四挺の口径30mm機関砲、二機の多連装ロケット砲が展開。

それぞれの兵器が一斉に火を吹き、闘技フィールドまでならず、観客席にまで嵐の様な弾幕が蹂躙した。

325アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2015/01/27(火) 10:53:45
【過去】

ジルの言葉に対し、アブセルは返事に窮した。

「別に興味なんて…」

ない、と含んだ言いかたをするものの…やはりそれは本心からのものではないらしい。

その証拠にアブセルはちらりとリトを見やる。
ふいに彼と目が合うと、目の下をほのかに赤らめ、ぷいっと直ぐに顔を背けてしまった。

「…気遣ってあげるって…どうやったらいいか分からない…」

いじわる…は、もうしないと思う。…多分。
今回のことで懲りたから。
だが人に優しくするという行為は、今のアブセルにとっては少々ハードルの高いものでもあった。

そもそも彼は、今まで子供同士の交流の場において、気遣いなるものの配慮をされた経験がない。
いや、そもそもそれを交流と呼んでいいのかどうかもいささか疑問ではあるが。

いずれにせよ彼の場合、他の子との接触といえば、謗られるか、石やボールを投げつけられるか、倉庫に閉じ込められるか…など。おおよそ笑い者にされ、嫌な思いをするものでしかなかった。

そんな中にいれば、当然アブセルの対人意識も捻くれてしまう訳で。

唯一の味方だった母に見捨てられたことも相成ってか、彼は自分の周囲に壁を作るようになってしまった。
他人に心を許すことを極端に恐れ、それどころか人を寄せ付けないため、自ら嫌われる様なことをする節さえあった。

拒絶されて傷つくのが怖かったのだ。
ずいぶん後ろ向きな考え方ではあるが、それが彼なりの身を護る術だったのだろう。

「本当は仲良くしたい」しかし「人と深く関わるのが怖い」そんな異なる感情が共存しているせいで、アブセルは他人とのコミュニケーションが上手く取れずにいたのだった。

326レックス+etc ◆.q9WieYUok:2015/01/28(水) 15:15:34
【闘技場】

確かな手応えは、あった。
乱気流を纏った鑓の矛先はさながらスクリューの様なモノ。
直撃すれば唯では済まない。

しかし。

あまりの威力に外壁まで吹き飛び、血溜まりに沈む対戦相手は哄笑を上げる。
そして更に、一通り笑い終えると同時に怒号。

それを合図に対戦相手、シャムの左手から肩、背中に掛けてが蠢き、様々な重火器が姿を現した。

「……人外の方、ですか。」

そして、その砲口は一斉に火を噴いた。
その威力は凄まじく、闘技場のみならず観客席にまで弾幕が降り注いでいく。
流石の観客達も歓声を悲鳴に変えて逃げ回り、周囲は大惨事だ。

しかし、それでも尚審判のマルトは試合中止の声を掛けず、涼しい顔……何らかの異能を使い、弾幕を防ぎながら試合を見ていた。

それを視界の端に映しながら、レックスは疾走。
超高密度まで圧縮した大気分子の小盾を構え、弾幕の嵐を進んで行く。

(銃弾の軌道は基本的に直線のみ、ロケット砲にだけ気をつければ何とかなります!)

しかし、嵐の様な弾幕全てをかいくぐるのは不可能であり、進む事に銃創が増えて行く。
だが、近付かなければ勝気は無い。

(異能による遠距離攻撃は左手によって無効化されますが、近接攻撃なら通じます。

それに、あの“奥の手”を確実に当てるには近付くしか……!)

レックスは破壊の権化と言っても過言では無いシャムへ、鑓と盾を構え確実に、距離を詰めて行く。

ーーーーー

「凄い騒ぎだな……でもアレじゃあしょうがないか。」

逃げ惑う観客達が入り乱れる観客席で、メイヤは呆れた様な、苦笑いの様な声を漏らす。
アグルとの試合を終え、簡単な怪我の治療をした後に、待ち合わせていたサンディと観客席で試合を観戦していたのだが……

何でもアリとは言え、暴れ回るシャムは如何なモノか。
観客にも既に負傷者が出て居り、それがより一層観客達の恐怖症を煽っている様だ。

何より、そろそろ自分達も避難した方が良さそうだ。
比較的人の出が少ない出入り口を探し、メイヤは立ち上がる。

「サンディ、俺達も避難しよう。

流石に観戦してるだけで怪我するのはいただけない。」

そして、サンディの手を引き、歩き始めた瞬間。
不意に現れた人影……二人組の男、黒髪に面の男と白髪の少年がその進路を塞ぐ。

「行かせないよ、折角周りの目を気にしなくて良さそうなんだから。

喰わせて貰うよ、僕達“四凶”が。

ねぇオンクー、一番弱そうな天照大神から喰らって行けば、順当に“神格”を上げれるよねぇ?」

327ヤツキ ◆.q9WieYUok:2015/01/28(水) 22:07:55
【おぉー!リマさんありがとうございやす!】

328ベルッチオ ◆Hbcmdmj4dM:2015/01/29(木) 22:26:43
【ポセイドン邸】

なぜ今さら真実を打ち明ける気になったのか…。
正直な所それは老翁にも分からなかった。
ただそれがヨハンの死に起因することは確かだったが…しかし、それだけだった。

ナディアの言う通り、厚かましくも情けを請い、許してやって欲しいと考えてのことだったのか。
それとも、ヨハンの娘である彼女に、彼のことを知って貰いたかっただけなのか。

または、その事実を自分一人の胸に抱え続けることに疲れ、懺悔をしているつもりにでもなっていたのか。

いずれにしても自分本位なものに違いはないが。しかし、ともすれば、まだ懺悔は終わっていない。
重ねた罪は全て、最後まで告白しなければならないのだ…。

「…リト坊っちゃんに対しても、大変申し訳ないことをしてしまったと思っています…」

苦々しい口調で老翁は口を開いた。
そして少し間を置いて、次にこうも続けた。

「奥様の心のご病気…、お嬢様はどう思っていらっしゃいますか?」

繋がりを考えれば、何の脈絡もない様に思えるその言葉。いきなり話が飛び、ナディアからすれば訳が分からなかったことだろう。
しかし彼は気にしていなかった。

「不自然とはお思いになりませんでしたか?
奥様が坊っちゃんの誕生を特に心待ちにしていたのは周知の事実ですが…。
あの方はもともと気の強い方でいらっしゃいます。どんな理由があろうと、あそこまで豹変なさるのは少し考えにくいものではないでしょうか」

そして彼はナディアを見つめ、はっきりとこう告げた。

「あれは私の暗示によるものです」

329ベルッチオ ◆Hbcmdmj4dM:2015/01/29(木) 22:28:33

ナディアは言った。あんたはリトに冷たかった、と。

確かにそうだったと思う。
リトに対しては、一線どころか二線も三線も引いて接していたから。

それは"情が移らないように"とか、"彼の行く末を知る者としてのけじめ"とか、そう自分自身に言い聞かせていたが。
正直な気持ちを言うと、自分は心のどこかで彼のことを恨んでいたのかもしれない。

もともとヨハン達家族の関係にはどこか危ういものがあった。
ヨハンとミレリアの間には少なからず蟠りがあったし、娘…主にナディアも父親に対して不満を抱いている様だった。

それがリトが産まれたことで、より顕著な形となって表面化しようとは誰が予想しただろう。
リトを巡って家族間の溝は深まり、修復不可能なまでに軋轢が生じた。

勿論それはリトのせいではないが。しかし結果として家庭内に新たな確執を生み、ヨハンを更に狂わせる原因となった彼を、たぶん自分は許せなかったのだと思う。

「坊っちゃんや奥様のことだけではありません。
私はトーマ様ご家族の事件を含め様々な汚行に関わり、旦那様に手をお貸ししてきました」

更に老翁は吐露し続けた。

ヨハンの権力志向は老翁も危惧しているところがあったが、その異常性は次第に目に余るようになった。
我欲の為には時に強引とも思える行為…賄賂や暴力に訴えることも屡々であった。

止める機会はいくらでもあった筈だった。
いや、実際に口を出すこともあったが、最終的に自分は彼の指示に従い続けた。
こんなことを続ければ、いずれ破滅するのは目に見えているのに…だ。

彼の望みを叶えることが、自分が彼にしてあげられる唯一の罪滅ぼしだとでも思ったのだろうか。どんな形であれ、彼に頼られることが嬉しかったのだろうか。

…本当に、自分という人間はどこまで愚かなのだろう。

「ご当主様…」

ふいに老翁は床に膝まずいた。
深く身を屈め、ナディアの足元に叩頭した。

「誠に申し訳ございませんでした。
弁解の余地もございません。ご当主様の判断の元、然るべき処分を所望いたします」

330イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2015/01/29(木) 22:41:17
リマ》ありがとうございます^^いつ完成するか分かりませんが、頑張ってラブストーリーなるものを書いてみます

ああ、っぽい(笑)ちょっとしたドラえもんですね←
普通じゃないのか…(笑)

可哀想ですよ!ミレリア達の三角関係が今も続いていたなら、自分はトーマよりヨハンを応援してたでしょうね←
そうですかね?何か勝手に色々改良しちゃってすみません;

もう別に和解しなくてもいいかも(笑)爺だってもう引退の年齢だし、屋敷から追い出しても構いませんよ←

マジか、そんなリスクを抱えながらも皆さん頑張って履いてるんですねw

ジュダルが尻に引かれてるんだ…!
まさか彼がそんな萌えキャラになろうとは…(笑)

ジルの弱みは…妹ですかね?
じゃあ妹を人質にとって…ってそんな卑怯なこと出来ませんよ←

331シャム他 ◆Hbcmdmj4dM:2015/02/02(月) 19:45:26
【闘技場】

「死ッね、おるァアアァァアッ!!」

無数の砲弾にも臆さず、こちらへと疾走してくるレックスに対し、負けじとシャムも砲火で迎え撃つ。

しかし、その時である。何の前降れもなく、脳天に何かが直撃してきた。

不意の一撃にたまらず横転しそうになる。
その傍ら、彼の頭に蹴りを浴びせた張本人…DDは、宙返りをして華麗に地に着地してみせると、素早くシャムの頬を両手で挟み、その口に唇をあてがった。

「ぶッ…!?」

彼の口づけにはエナジードレイン的な効果でもあるのだろうか。
初めの内は大暴れしていたシャムも、終いには力が抜けたようになり、へなへなとその場に崩れ落ちてしまった。

「テッメ…ッ何しやがる、このクソカマ…!」

不快感を露に服の袖で口を拭い抗議の音を上げる彼に対し、DDは意にも介さない様子で言葉を返した。

「いくらなんでもやり過ぎよぉ。その熱くなると直ぐ周りが見えなくなるの、悪いクセよ。
あ、ごめんなさいね坊や。迷惑かけちゃって」

そうしてレックスに軽く声をかけた後、DDは審判に棄権の旨を告げる。
そして起き上がれないでいるシャムの襟首を無造作に掴んだ。

「あ〜あ…これで取引の話はパアね。
ま、貴方を人選したこっちのミスでもあるから、あまり強くは言えないけどー」

傍目からすればシャムを止めに来た様に見えるその行為だが…、捉え方を変えれば、レックスの"何か"から彼を庇った様にも見える。
まあ、そこは本人のみぞ知ると言ったところだろうが、当のDDはシャムを引き摺りながら、溜め息まじりにフィールド内を後にした。

そして――…

シャムが棄権し、危難が去ったかの様に思われた中、今度は耳をつんざくような咆哮が会場中にこだました。

六つの脚に六つの翼。
大犬に姿を変えたオンクーが、そこにいた。
大きく裂けた口からだらしなく舌と涎を垂らし、唸り声の様な不快な音を発する。

「…じゃあクロス、天照はお前にあげるよ。
ワタシは…」

言って、彼はちらりとメイヤを見た。
いや、正確には言えばこの場合、見るという表現は正しくなかったかもしれない。何しろそれには眼が存在しなかったのだから。

それでも彼はしっかりとメイヤを射竦め、殺意を孕んだ牙を剥き出しに、相手に飛びかかった。

「こっちの"狗"に借りがあるね!」


【クロスとオンクーは今回で(物語上から)リタイヤする流れですか?】

332レックス+etc ◆.q9WieYUok:2015/02/04(水) 17:57:48
【闘技場】

突然の乱入者によって無力化される対戦相手。

二人は顔見知りの様で、審判へ棄権の旨を告げ、闘技場を後にした。

その姿を見送り、レックスもまた、歩きだそうとするが……

(なん、ですか?アレは……!?)

突如として響き渡る、雷鳴の様な咆哮に足を止めた。

音のする方を見れば、三対の翼と脚持つ異形の影が観客席で暴れているではないか。

更に、よくよく見れば暴れまわっているのは異形だけではない様だ。

仮面を付けた青髪の男達が観客へと襲い掛かっているのが見える。

それも、数十人と数も多い。

「これは、不味いですね……!!」

試合も中途半端に終わり、苛立ちは募る一方だ。

しかし、今は観客達を助けるべきだろう。

審判のマルトへと視線を投げ、共に頷くと同時にレックスは駆け出す。

しかし。

レックスが観客席へと辿り着く事は叶わず。

どこからともなく現れた人影が放った、絶対零度の吹雪が無慈悲なまでに吹き荒れ、闘技場を蹂躙していく。

ーーーーー

「全く、DDが止めに入らなければどうなっていた事やら……」

シャムを引きずり闘技場の出入り口へと歩いて来るDDへ、フィアは労いの声を掛けた。

シャムが負ける事はないが、あのまま戦えば周りだけでなく、本人も決して浅くは無い傷を追っていただろう。

そう思える程に、あの眼鏡の青年の実力は高い。

「まぁ、怪我しなかっただけ良しとしましょう。

クロッソとの取引はおじゃんだけどね……」

闘技場から続く選手用の通路を歩きながら、フィアはため息を吐いた。

それと同時に。

闘技場を揺るがす咆哮と、それに続いて凍える様な冷気が通路内を吹き抜けていく。

「……何、この強大な“氣”は。」

更に、膨れ上がる強大な二つの“氣”を感じ、フィアは思わず呻いた。

「この感じ、十字界で戦った者に似てるけれど……まさか!!」

ーーーーー

咆哮に続き吹き荒れる猛吹雪。

一瞬にして視界を埋め尽くす真白のそれは、レックスの身体を軽々と吹き飛ばし、闘技場の壁へと叩きつけた。

「か、は……」

突然の衝撃と、壁へ叩き付けられたダメージは重く、レックスは直ぐには動けない。

十数秒の間を置き、鑓を支えにゆっくりと立ち上る。

吹雪により視界はすこぶる悪いが、何者かがマルトと戦っている様だ。

「いったい何が起こっているのでしょうか……!?」

333メイヤ+etc ◆.q9WieYUok:2015/02/04(水) 18:05:22
【闘技場】

そう言えば、闘技会の開幕セレモニーにてその姿を見た気はする。

更に思い出して見れば、弥都で刃を交えた事もあった。

「巷で噂されてるらしい異能者狙いの二人組は、お前達だったんだな。」

行く手を阻む二人組へ、メイヤは固い声を返す。

どうやら彼等の狙いは自分達だった様だ。

逃がすつもりは無いと言った様子の二人を視界に収めながら、メイヤは闘技場へと目を向ける。

(あっちは終わりか……)

何やら乱入者が現れたらしく、試合は終わった様だ。


これで避難する理由は無くなったが、今は戦うしかないらしい。

雷鳴の如き咆哮を上げながら、異形の大犬へと姿を変えたオンクーへ、メイヤは刃を抜き放つ。

そして、飛び掛かりの一撃を刃で斬り払い、後方へ跳躍。

着地と同時に闇の鎧を身に纏い、左手を前へ。

「犬に狗呼ばわりされるなんてな、大人しく犬小屋へ帰ってくれたら助かるんだが。

来いよ、躾てやる。」

指をクイクイっと動かし、メイヤはオンクーを煽った。

ーーーーー

あの姿になったオンクーはそう簡単には止まらない。

周囲を見渡せば、観客席では暴動が、闘技場では猛吹雪が。

どうやら色々と事が重なったらしい。

たが、今はそれもまた好機。

大犬へと姿を変えたオンクーから視線を変え、クロスは眼前の少女へと目を向ける。

「弥都とこの街でたらふく異能者を喰ったからね、“咎落ち”の心配も無い。

さぁ、喰わせてもらうよ……天照大神!」

変装用の面を投げ捨て、クロスは薙刀を振り上げる。

そして、小柄な身体からは想像もつかない程の速度と重量の乗った一撃を繰り出した。

更に、それと同時に大気中の水分子を操作し、作り出した二本の水の槍でサンディへと挟撃を放つ。

【そうですねー、四凶決着といきませう!】

334アグル他か:2015/02/09(月) 21:44:54
【闘技場】

突如として襲撃を謀る謎の男達と、会場中に吹き荒れる猛吹雪。
所所方方で大混乱が巻き起こる中、飛び掛かってきた男の一人を蹴り飛ばし、アグルは観客席からレックスの傍らに降り立った。

「大丈夫か、委員長」

この緊迫した雰囲気にも関わらず、彼の態度はいつもと差異がない。どこか気怠気なものだ。

「逃げるんなら肩貸すけど」

そして眼前で繰り広げられる戦いに目を向けたまま、レックスに言った。

――…

闇の鎧を纏った相手を見据え、オンクーは口の端を吊り上げる。堪える気もない笑いが息として洩れた。

「勘違いして貰っちゃ困るよ。
ワタシが用があるのは、お前じゃなくてその"中身"ね」

弥都で対峙した折、窮地に追いこまれた筈の彼の態度が、突如として豹変したのをオンクーは見ている。
それはまるで人格そのものが変わってしまったかの様な。
どんな仕掛けかは知らないが、あれは喰いがいがありそうだった。

「その化けの皮、さっさっと剥がしてみせるがよろしいよ」

オンクーは首をもたげ、大顎を開く。
呪を宿した黒々とした業火を吐き出し、周囲一体を火の海に化す。そしてその場から跳び上がり、己の巨躯をメイヤに叩きつけるべく襲いかかった。

――…

少年の放つ挟撃がサンディに襲い掛かる。

しかし、その瞬間。彼女を中心に目映いばかりの光が膨れ上がった。
二振りの水槍は一瞬のうちに蒸発し、薙刀の刃先はどこからか現れた勾玉によって止められる。

彼女の身代りとなり粉々に砕け散った硝子片が周囲の光を拾い、ちらちらと輝きを見せる中。
額に日輪の印を宿し、薄紅色の羽根を背に広げたサンディはその手を鞘へ。

「まったくもう…。私達に用があるんなら、なにも他の関係ない人達を巻き込むことないじゃない!」

立て続けに事が起こりすぎて何がなにやら分からないが、取り合えず今が危機的状況だということは分かる。
力の出し惜しみをする必要はない。最初から全力だ。

腰を落とした姿勢から刃を一気に引き抜く。炎を纏った抜き身が大気を焦がし、一直線にクロスへと迫っていった。


【了解です!】

335レックス+キール ◆.q9WieYUok:2015/02/09(月) 23:51:23
【闘技場】

「大丈夫です、一人で立てますから。」

三叉鑓を支えになんとか立ち上がるレックスの隣。

観客席から飛び出して来たアグルは何時もと変わらない。

肩を貸そうかとの声も聞き慣れた気怠げなモノだ。

その声と、この場から抜けようとする問い掛けにレックスは憤りを感じるも、深く息を吐き心身を落ち着かせる。

「助けに来てくれたのは嬉しいですが、逃げる訳には行きません。

誰が、何の為に襲撃を掛けたのかはわかりませんが……ここで止めないと街に被害が出ますから。」

そう、今はまだ闘技場内だけだが、このままでは必ず街へ戦火は広がるだろう。

見れば観客席でも戦闘が繰り広げられている。

如何に闘技場が巨大だとしても、激闘が続けば崩壊は免れない筈だ。

刺す様な冷気を吸い込み、吐き出し。

レックスは鑓を構え、眼前を見据える。

そして、飛び出そうとしたその時。

吹雪を突き破るかの勢いでマルトが吹き飛ばされ、数刻前のレックスと同じ様に闘技場の壁へと叩き付けられる。

レックスと違うのは、辛うじて受け身を取り、支えもなしにしかと立ち上がった所か。

だが、よく見ればその姿はボロボロで、額からは鮮血が溢れている。

「……お前達、避難してなかったのか。」

しかし、ダメージを感じさせない動作で剣を構え、マルトはレックスとアグルの二人へ声を掛けた。

「本当なら、逃げろと言いたい所だが、手伝ってくれ。

団長が来るまで奴を止める。

正直俺一人じゃあ無理だが、四神が二人居れば何とかなる筈だ。」

その問い掛けにレックスは無言で頷き、チラリとアグルへ黒瞳を向ける。

しかしすぐさま視線を前に戻し、来た。

圧倒的なプレッシャーを放ち、吹き荒れる猛吹雪の中を進む一人の女性。

視界を埋める真白の中、黒のスーツを着こなす四霊が一人。

「合い見えるのは初めてね、四神のフレイヤとトール。

私は四霊、霊亀のキール。

初対面で悪いけれど、アナタ達。」

吹雪に髪を靡かせ、キールは氷点下の声で囁く。

「ここで皆殺しよ。」

そして、その姿が互いに視認出来る距離まで近付いたと同時に。

キールは絶対零度の波濤をマルトを含む三人へと放った。

336メイヤ ◆.q9WieYUok:2015/02/10(火) 15:15:36
【闘技場】

異形の大犬が洩らす笑い声に、メイヤは眉を細める。

しかし、続く言葉で彼が何を言っているかを理解し、応えた。

「……俺は俺だ。

それに、化けの皮を剥がされるのはそっちの方だろう!」

そして、吐き出される黒火に臆する事無くメイヤは駆け出し、疾走。

黒火の海を駆け抜けながら、巨大な闇刃を生成。

襲い来る巨躯へ狙いを定め、刃を横薙に一閃……するも、オンクーの一撃は予想以上に重く、振り切る事は叶わず刃は砕け散って行く。

更に、刃が砕けバランスを崩した所にオンクーの巨躯が飛来。

避ける事は叶わず、辛うじて左腕でそれを防ぐもメイヤは吹き飛ばされ、観客席へと叩き付けられた。

ーーー……

弥都で対峙した時は、此方の完敗だった。

首筋へと突き刺さる牙と、溢れ出す血の感触を最後に、自分は意識を失った。

そして、次に目覚めた時には屋敷の中で、傷も消えていた。

あの時は、誰かに助けて貰ったのだろうかと思っていたが……

ーーー……

燃え盛る黒火に囲まれながら、メイヤはゆっくり立ち上がる。

防御の為に構えた左腕は、肩口まで鎧が砕けているものの、折れてはいない。

(封じられし“悪神”……奴の狙いはソレか。

そして、以前戦った時に俺を助けた、いや、“器”としての俺を守る為に顕現したんだろう。)

弥都でオンクーを退けたのは自身に宿る力であり、自身を蝕む力。

それは強大な意思を持ち、常に自分へ囁き掛けている。

“闇を喰らい、身体を渡せと”

だが。

バルクウェイでの戦いの後始末として、深淵から溢れ出す闇を喰らい尽くした以降。

“悪神”は以前よりも成りを潜め、反比例して扱える闇の総量は増えた。

「闇を喰らい尽くす“悪神”。

俺がアンタを喰らってやるよ……!」

弥都では敗北を喫したが、今は負ける気がしない。

立ち上がり、メイヤは再び刃を生成。

右手に長刀、左逆手に短刀を。

破損した鎧も修復し、再度駆け出す。

その速度は先程よりも数段速く、漆黒の影は瞬く間に大犬との距離を詰め、刃を二閃、三閃、四閃、五閃。

勢いの乗った回転斬りは、増殖し続ける闇の小刃を纏い、竜巻の如く膨れ上がる。

そして、全てを切り刻む嵐と成り、オンクーの巨躯へと襲い掛かった。

337クロス ◆.q9WieYUok:2015/02/12(木) 15:54:43
【闘技場】

水槍は蒸発し、薙刀の刃は勾玉により防がれ。


光舞う中現れしは、天照大神。

額に日輪、背には薄紅の羽を背負うその姿を見、クロスは驚きの表情を浮かべる。

「まさかその姿になる程、力を使いこなせているとはね……

正直見くびっていたよ、君の事を。」

しかし、その表情は直ぐ様歓喜の笑みへと変わる。

それと同時に、サンディが放つ炎の斬撃を水盾で防ぎ、爆発。

水蒸気爆発により巻き起こる烈風が吹き荒れ、それに乗って濃霧が周囲に広がっていく。

「でも。

今の君は四神の中で一番脂がのって美味そうだね。」

そして、濃霧を突き破ってクロスは飛び出す。

しかしその姿は、先程までの少年の形を成さず。

「この世は弱肉強食だよ、そして僕達四凶は全てを喰らう者。」

白髪頭からは二本の巻角が、小柄だった上半身は筋骨隆々に。

下半身は四つ脚、真白の綿毛に包まれた馬脚へ変化。

右手の薙刀は消え失せ、氷の突撃槍を。

逆の左には氷の大盾を持ち、蝙蝠の翼をはためかせ、現れしは異形のケンタウルスか。

異形の巨躯へ変化しつつも、表情だけは幼い少年のまま、クロスは力を解放させたサンディへ突撃。


「見せてあげよう、 饕餮の力を!」

勢いの乗った、鋭くも強烈な刺突を繰り出した。

338アグル、サンディ ◆Hbcmdmj4dM:2015/02/15(日) 20:57:58
【闘技場】

飛行艇で初めてマルト達を見たとき、直感的に自分との力の優劣差を感じ取った。当然、劣っているのはこっち…という形でだ。

しかしその彼が今、自分とレックスに加勢を求めている。
彼の表情から察しても、どうらやら相手はよほどの化物らしい。

アグルは何も答えず、無言で視線を動かす。
見えるは圧倒的なプレッシャーを放つ黒スーツの女に、迫る絶対零度の波濤。

全てが凍りつく前に、地に槍を突き、アグルは強力な電磁波を周囲に発生させる。
あらゆる原子の運動を停止させる絶対零度の攻撃に対し、こちらは反対にそれらの振動を増幅させる。

彼方と此方で二分に分たれた空間。
しかしその境界線は徐々にだが、じりじりと押されている。

「……ッ」

このままでは長くは持たない。
アグルの瞳に僅かながら焦燥の色が滲んだ。

――…

濃霧を破って、異形の怪物が飛び出してくる。その姿を見るやサンディは大きく目を見開いた。

しかし驚いている暇などなかった。
突撃槍はもう目の前だ。

とっさに刀を構え障壁をはるも、それは薄氷の如く易々と破られ、サンディの身体は三階の特別席まで吹き飛ばされる。

「いたた…」

強く身体をぶつけた様だが、背中の羽の加護か怪我は大したことはない。
どうやら槍の先も上手く外れた様だ。

それらを一瞬で確認するとサンディは直ぐさま起き上がり、攻めに転じる。
手すり壁に立って手を翳すと、周囲に浮かぶ無数の勾玉が数珠のように一括りになった。

それを一振りすれば勾玉はひとりでにしなり、変則的な線を描いてクロスの身を縛り捕らえた。

「"紅蓮華"!」

それを好機と見て、サンディは更に巨大な火柱を掲げる。それは大きな渦となりクロスを呑み込まんと襲いかかった。

339ジル他 ◆Q4V5yCHNJ.:2015/02/17(火) 22:20:00
【過去】

「分からないって…」

まさかそんな言葉が返ってくるとは思わなかった。
しかしたしかに、”気遣うとはどうすることか”を具体的に言葉で表現するのは難しい。

「……」

アブセルに一本取られた?なんか悔しい。
こうなったら何としても言葉を見つけなければ。

などと考え出したジルより先に、フェミルが動いた。
フェミルは不意に立ち上がったかと思えばアブセルのもとへ。そしてその手を引きリトの側まで連れてきた。

「おともだち」

言ってフェミルはアブセルの手をリトの手に重ねる。

その様子にジルは笑みを浮かべる。

「うん、そうだね」

フェミルの頭を撫でながらジルは続けた。

「難しく考えなくていい。友達として、ただ側にいてあげればいいんじゃないかな?そうすれば、今は見えないことも自ずと見えてくると思うよ。」

そして、

「何と無く心配だけど…今日会ったばかりの僕には分からないし。勝手に抜け出して来たならあまり長居させられないよね。リトが動けるようになったら帰った方がいいかも。」

340オンクー ◆Hbcmdmj4dM:2015/02/18(水) 00:57:56
【闘技場】

「…面白くない奴ね」

あくまでも自分は自分だと主張する相手に対し、オンクーは心底つまらなそうな顔をする。
そして竜巻の如く迫る刃の嵐を一瞥するや、地を蹴り、その中に自ら飛び込んでいった。

「チュンツァイ!引っ込んでろよっ!」

六つの脚を使い、文字通り嵐を爪で引き裂く。
そしてその勢いのままメイヤへと突っ込み、相手の胴に牙を突きたてた。

オンクーは彼を捉えたまま、そのまま前方の壁に激突する。
下顎を壁に押し付け、にやにやと喉から音を鳴らした。

「ほらほら、どうしたね?このまま引き千切っちゃうよ?」

今はまだじゃれついている程度だと言わんばかりだ。
オンクーは相手の苦しがる様を面白がるように、メイヤをくわえた顎にゆっくりと力を落としていく。

341メイヤ ◆.q9WieYUok:2015/02/22(日) 21:56:56
【闘技場】

全てを切り裂く闇の刃嵐を前に、臆する事無いオンクー。

三対の強靭な脚と尖爪を使い、刃の嵐の中を文字通り引き裂き、進んで行く。

そして、嵐の中心であるメイヤを間合いに捉えた大犬は大口を開き突進。

鋭い牙でメイヤを串刺しにし、そのまま前方へ。

メイヤの身体を壁へ縫い付ける様に叩き付け、ニヤリと笑った。

「……グイズ、タマーダビー。」

しかし、腹部を貫かれたメイヤもまた、苦痛に顔を歪めながらも笑みを浮かべる。

「向こうののスラングなら、返してやるよ。」

それは口腔から溢れる朱に染まる、凄絶なる笑み。

大陸の悪態を返し、メイヤは空いた両手で大犬の顎を掴み、ゆっくりと引き剥がして行く。

更に、いつの間にか朱から黒へと色を変えた血が泡立ち、異常なまでの剛力により開かれた大犬の口腔内へと殺到。

「オマケ付きでな!」

黒血とも呼べるそれは、瞬く間にオンクーの体内へと侵入し、侵蝕、増殖。

秒刻みで増えるそれは、オンクーの生命力とも呼べるエネルギーを喰らい尽くさんとばかりに激しく蠕動。

そして、闇に蝕まれていくオンクーを引き剥がし、メイヤは大犬の巨躯を蹴り飛ばす。

更に、蹴り飛ばした相手へ闇の小刃の群れを放ち、自身に宿る闇の力を全解放。

溢れ出す闇を纏い、漆黒の獣……黒狗へと姿を変え、雄叫びを上げた。

「オォォォォォォッ!」


【スマホ修理出すのに全データ消去とか憤死ですわ……

遅レス申し訳ない。

そしてイスラさん根回し的な対応ありがとうございます!】

342イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2015/02/23(月) 05:04:41
事後報告になってしまいすみません;

今回のこととか他にも何かもう色々、お二人にはたくさんご迷惑をおかけてしまって本当に申し訳ないですorz

取り合えずはこのままこちらの掲示板で続けさせて頂こうと思いますが…レスをサゲるかどうかは個人のおまかせで。

ヤツキ》うわぁ…それはショックw

343クロス ◆.q9WieYUok:2015/02/24(火) 15:25:38
【闘技場】

突撃槍の一撃は、いとも容易く少女を吹き飛ばす。

しかし、吹き飛んだ先で立ち上がるサンディの動きはダメージを感じさせないモノだ。

彼女が翳す手から放たれる火渦は、勾玉の縛鎖により動きを封じられたクロスへ迫り、直撃。

動けないクロスを焼き尽くさんとばかり燃え盛るも、次第にその勢いは衰えていく。

「ふふ、この程度じゃあ生焼けにもならないよ?」

そして、見るからに下火となった火炎を文字通り喰らいながら、クロスは身を縛る勾玉の鎖を引きちぎった。

バラバラと観客席へ散る勾玉を踏み砕き、強靭な脚力で三階上の特等席まで軽々と跳躍、背から伸びる黒翼で更に飛翔。

盾を槍へと成型しなおし、二本の突撃槍をサンディへと投げつける。

更に、投槍にも追い付く程の速度で空を駆け、その重量を生かした突進を繰り出した。

「ミンチにして啜ってあげるよ!?」

344ヤツキ ◆.q9WieYUok:2015/02/24(火) 18:34:59
【いやいや、直接文句言われた訳でもないし、イスラが謝る事無いよー!

むしろこっちが謝って感謝する側ですわ、移転から移転先でのアレとかアレとか……】

345アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2015/02/24(火) 23:45:45
【過去】

フェミルの手によって、リトの手の上にアブセルの手が重ねられる。

「……側に…?」

アブセルは戸惑いながらジルを見た。続いてフェミル、リト。そして最後にまた自分の手の上に視線を戻した。

…今は見えないことってなんだろう。
ジルの言うことはやっぱり難しくてよく分からないけど、彼らの顔を見ていると、何故だか胸の辺りがぎゅうってなる。

「あの…、あのさ…」

もう別れの時間が来たことを察すると、アブセルは躊躇いつつも口を開いた。

「また…ここに来てもいい?…リトと、一緒に…。
そ…そのっ、ホットミルク、おいしかったし…」

ついさっきまでつんけんしていた分、こんなことを言うのは恥ずかしいのか、あくまでホットミルクが目当てだとばかりに慌てて付け足す。

何となく、この家にはほっとするような温かいものを感じる。
またこの人達に会いたい。そう思った。


【そんな滅相もない…
元を辿れば自分のうっかりが原因ですので…(笑)】

346オンクー ◆Hbcmdmj4dM:2015/02/27(金) 20:35:12
【闘技場】

異質な液体が体内に流れ込んでくる。
途端、オンクーの身に言い様のない激痛が襲いかかった。

「ゲッ…ァ…ッ、アガァアァァッ…!!」

余裕の笑みは苦悶の表情へと変わり、オンクーは痛みに呻吟する。
もがくように小刃の群を避けたところで、喉奥から込み上げてきた黒い血反吐を大量に床に吐き出した。

熱い。まるで全身の血が煮えたぎっているかのようだ。
身体の内側を、黒い、おぞましい何かが
ぞわぞわと這いずり回っている。
夥しい数のそれが内部を圧迫し、ねぶり、侵していく。

オンクーは翼を羽ばたかせ、闘技場の天井を突き破り上空に飛翔した。
へどろの様にまとわりつく不快感から逃れようと闇雲に飛び回る。

「恶心、恶心、恶心、恶心、恶心、恶心、恶心、恶心、恶心、恶心、恶心、恶心、恶心、恶心…!」

狂ったように、喉元から腹部にかけてを爪で無茶苦茶に掻きむしった。己の腹を裂いて、そこから全てを引き摺り出したい衝動に駆られる。

「ギ…ッざまァ…、何を、した…」

不意に漆黒の獣…メイヤが追ってきているのが見えた。

その顔に怒りの炎をたぎらせ、オンクーは一度咆哮を上げる。
直後、凄まじい烈風が吹き荒れ、周囲一帯に不可視の飛刃が飛び交った。
同時に、背中の六翼がめりめりと音を立て、それぞれ上顎と下顎かの如く、整然と鋭い牙が立ち並ぶ凶悪な獣のそれに変形する。

それに加えた中央の顎、合わせて七つのあぎとがメイヤに向かって猛進した。

347サンディ ◆Hbcmdmj4dM:2015/02/27(金) 22:16:41
【闘技場】

これでもクロスを怯ませることすら出来ないのか。
その一瞬の動揺が命取りに。気がつけば距離を詰められ、迫る異形の影にサンディはハッと息を呑んだ。

その時。

「…そが目は赤かがちの如くにして、身一つに八つの頭、八つの尾あり。その身に蘿と檜椙生ひ」

不意に塵煙の影から、ぬっと八つの鎌首が飛び出し、うなりを上げた。
飛来する突撃槍を破壊し、その首をしならせ、クロスを横に弾き飛ばした。

「その長かるは、谿八谷、峡八尾を渡りて、腹を見れば、悉く常に血垂り爛れたり」

詩歌を吟ずるような声と共に、八首の炎の大蛇を引き連れたイスラが塵煙の向こう側から姿を見せる。

そして彼が手を払うような動作をすると、蛇の首がみるみる内に矛の様に鋭くなり。
それぞれが弓弦を離れた矢の如く、疾く空を駆け抜けクロスの身体を穿いた。

348レックス+etc ◆.q9WieYUok:2015/02/28(土) 23:03:54
【闘技場】

迫り来る絶対零度の波濤と、それを防ぐべく放たれた電磁力の波。

二種類の対極する波は拮抗するも、それも僅かな事。

アグルが放つ電磁波がジリジリと、確実に押されていくのが見て取れる。

しかし、それをただ見ているだけのレックスでは無い。

焦りの色が見えるアグルの表情を横目に、レックスは風を、空気を、大気を圧縮する。

圧縮された大気は高熱を帯び、プラズマとなる一歩手前まで加圧、熱せられたそれを絶対零度の波濤へとぶつけ、直撃すれば即死するであろう死の波濤を相殺。

それと同時にマルトが飛び出し、レックスも後を追う。

そして、左右からの挟撃、剣と三叉鑓による連撃を放つも……キールは決して押される事無く、全ての攻撃を防ぎ切った。

「まだまだね、その程度では私に傷一つ付けれないわよ。」

その表情は絶対零度の如く冷たく、全く感情が見えない。

まるで氷の仮面を被ったかの様な印象を与えるキールは、その背に三対の氷翼を生やし、羽ばたく。

氷翼が巻き起こす裂風は吹雪を更に加速させ、舞い上がる雪は氷の刃とその姿を変えた。

そして、氷刃の竜巻をレックスとマルトへ叩き付け、二人を吹き飛ばす。

更に、氷翼で羽ばたくキールは吹雪を斬り裂きながらアグルへと肉迫し、先と同じ様にその翼を彼へと叩き付けた。

ーーーーー

突如現れた強大な気配の持ち主と、勃発する戦い。

戦いは大きく分けて三つだが、自分達が関わる理由は無かった。

DDの介入があったとは言え、シャムの敗北によりクロッソとの取引きが流れてしまった今、フィア達が闘技場に留まる理由も無い。

だが。

勃発する戦闘をスルーし、観客を助ける事もせず、闘技場を後にする事は叶わず。

何故ならば、強大な気配の持ち主……キールが現れた時点で、闘技場には堅固な結界ぎ張られ、外界から切り離されて居たのだ。

ーーーーー

ならば、どうするか。

答えは簡単だ。

「……結界を張った本人を倒せば良いだけの事。

それに、キャラ、被ってるのよ……私と!」

キールの放つ氷翼の一撃。

その一撃が、アグルへ届くより僅かに速く。

絶対零度を纏いし吸血鬼、フィアがキールの前へと立ちふさがった。

そして、言葉通りキールと同じ氷翼を広げ、放たれた氷翼の一撃を防ぎながら、背後のアグルへ声を掛けた。

「正直気が進まない所はあるけれど、加勢するわ。

そこのクールビューティー気取りを倒さないと、ここから出れないみたいだからね!」

349メイヤ ◆.q9WieYUok:2015/03/05(木) 00:24:26
【闘技場】

ありとあらゆるモノを喰らい、増殖する闇。

それは物質だけでは無く、魂すら蝕むのだ。

胎内に侵入した黒血を吐き出し、それでも尚苦しむオンクーへとメイヤは駆け出す。

苦鳴の声を漏らしたながら羽ばたき、空へ昇る大犬が咆哮と共に放つ不可視の刃に切り裂かれながらも、疾走。

「グゥゥゥゥ……ォォオオオオオ!!」

そして、闇の波動を咆哮と共に放ち、猛進する大犬を迎え撃つ。

七つの顎に対するは、鋭き爪牙と強靭なる尾。

観客席どころか逃げ遅れた観客をも引き潰しながら、二頭の獣……大犬と黒狗は激しくぶつかり合う。

黒狗の爪牙が顎を斬り裂き、大犬の顎が爪牙を咬み砕く。

戦いは激しさを増すばかりだが、次第に黒狗が手数の分だけ押されていく。

そして遂に。

大犬の七つの顎の内一つ、本体であろう中央の顎が、黒狗の喉元に喰らい着いた。

ーーーーー

突撃槍の一撃は、直撃すれば人間など簡単に粉砕させる威力を秘めていた。

勿論、その強度も十分以上だ。

しかし、二本の槍は破壊力され、続く突進も目標を破壊する前に阻まれた。

自らの巨体が横殴りの衝撃により吹き飛ばされ、更には灼熱の弩弓に貫かれたのを感じ、クロスは思わず呻く。

しかし、特等席へと這い上がって来たその顔には笑みが。

「ふふ、フフフ……良いねぇ、この痛み。

極上の獲物、それも天照大神が二人なんて……君達を喰えるなら、この痛みすら、調味料に成り得るよォォオオオオオ!!」

血染めの笑みを狂気に変え、クロスは咆哮を上げる。

貫かれた傷口からは鮮血が溢れ、鮮血が巨躯を染め、結晶と成り。

緋色の堅鎧を身に纏い、両手に血晶の大剣を握り締め、クロスは再びサンディへ、そしてイスラへ突進。

嵐の様な斬撃を繰り出しながら、二人へ襲い掛かった。

350イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2015/03/09(月) 23:12:37
すみません、暫くレス返すの遅くなります;

351ヤツキ ◆.q9WieYUok:2015/03/11(水) 18:32:46
了解すー!

352ナディア他 ◆Q4V5yCHNJ.:2015/03/17(火) 09:27:51
【ポセイドン邸】


(何を言ってるんだ、コイツ…)

老人から告げられる言葉は、全て予想の範疇を超えていた。到底信じられるようなものではない。

でも…

(そうだ…母様は…)

一つだけ、合点のいくことがある。
母親はリトの誕生を誰よりも待ち望んでいた。
闇の子が生まれたから拒絶したのではない。彼女は始めから、生まれてくる子が闇の能力者であるのを知っていた。そして、”希望”とまで、言っていた。

「信じらんない…」

ナディアは拳を握りしめる。
殴りたい気持ちを必死で堪えた。

「私がアンタを処罰したら、アンタはそれで楽になる。そんなの絶対赦さない。今アンタがやるべきことは何か、自分で考えな。」

そして感情を押し殺し、その言葉だけを振り絞った。
そのまま頭を垂れる老翁には見向きもせず、部屋を出て行く。

「……」

自分なりに、よく耐えたと思う。
部屋を出た途端切り詰めた力がふっと抜けて、体が崩れる。
しかし、そのまま地に倒れることはなかった。
咄嗟に体を支えてくれたのだ。
リマが。

「ナディアさん、大丈夫ですか?」

「…うん、なんとか」

情けない。
ナディアは苦笑いを浮かべた。
体の小さなリマが自分を支えるのは大変だろうと、すぐに態勢を整える。

「無茶苦茶だろ、ここ…」

そしてナディアは何処か疲れた様子でリマに話しかけた。

「…うん」

リマはナディアに頼まれ、セナと一緒に部屋での会話を水鏡に映し見ていた。
ナディアの言葉に反論出来ない自分がいる。

同じ血筋なのに、この数百年間で随分と変わってしまった。
様々な人と出会い、結婚し…人の感覚は此処まで変わってしまうのだろうか。
こんな恐ろしい考えをもつ者が身内にいる現実は、とても受け入れ難い。
しかし、目を背けるわけにはいかないのだ。

「…セィちゃん」

リマは縋るような目でセナを見た。
闇の力で暗示がかかっているのなら、彼の力で解けるのではないか。
このままだと…

「リトが不憫じゃと?」

今の状況ではリトがあまりにも可哀想だ。どうにか解決してやりたい。
そんな彼女の心境を見透かした声が、不意に一同のもとへ降りかかってきた。

いつ来たのか、ノワールが其処にいた。
彼女は嫌悪感を隠しもせずリマを睨み、言葉を続ける。

「そなたはいつもそうじゃの。」

相手が不憫だこれは残酷だ、助けたいと言う。
しかし、それはただの優しさと履き違えた同情心だ。
そして同情とは、自分が相手よりも優位に立っていると無自覚な感情の現れ。
…今更追及する気にもならないが。

ノワールはリマを睨みつけるも、すぐにその視線を他へ移す。

「リトが部屋へ移った。」

そしてその視線は更にセナの方へ。

「そなたがどこまでやれるか、見ものじゃの。」

353リマ ◆Q4V5yCHNJ.:2015/03/17(火) 21:15:51
お久しぶりです。
スレ滅亡の危機に陥ってる時に何も知らず留守にしてました> <
何のお役にも立てず申し訳ございません(´;ω;`)
マジ根回し有難うございました(>人<)

てか時々やらかすんですが、今後sage失敗したらどうしよう…(;-ω-)ゞ

354アグル、オンクー ◆Hbcmdmj4dM:2015/03/21(土) 07:42:39
【闘技場】

誰だ。
…なんてことを問題にしている時でもないのだろう。

突如として加勢に加わった女性、フィアに向け「そりゃどーも」と適当に礼を返しつつ、アグルは氷翼の影から飛び出す。

死角からの不意をついての攻撃の筈だったが、急所を狙った雷槍の刺突はキールに易々と避けられてしまった。

「…つっても、三人がかりでもこの様なもんで。
一人増えたところで、あり合わせメンバーのにわか連携じゃ正直勝てる気がしないな」

本心を隠そうともせず、アグルはため息混じりに呟いた。

―――…

オンクーの交戦は激しいものだが、それはどこか消え行く直前の炎の揺らめきにも似た何かを思わせた。

牙を相手の喉元に、そして爪を肉に食い込ませ、オンクーは組み合った状態のまま強引に黒狗を抱え空高く舞い上がる。

かと思えば、今度は空中で方向転換。それはもう落下するかの如く勢いで真っ逆さまに地上に急降下する。

(このまま息の根を止めてやる…!)

二匹が降下する先、そこには先の戦闘でも崩れることなく残っていた街の教会と、そしてその屋根に掲げられた巨大な十字架が。
そこに黒狗を串刺しにしようとでもいうのか、オンクーはぐんぐんとスピードを上げ落ちていった。

355サンディ ◆Hbcmdmj4dM:2015/03/21(土) 08:07:03
【闘技場】

緋色の鎧を身に突進してくる相手の姿を見据え、イスラは神刀、火之迦具土を抜く。

「行くぞ、サンディ」

イスラの声に一つ頷き、サンディもまた腕を伸ばす。
二人が一本の刀に触れ合った刹那、そこから目映い輝きが溢れ出で爆発的な熱風が迸った。

見るや、熱を帯びた刀身は白く発光し、刀の形状はより神々しさを増したものへと変わる。
時代を越えた二つのアマテラスの力が、悪しきものを浄化する剣、天之尾羽張を生み出したのだ。

白く美しい刀身が大気を撫で、皓皓と二人を照らし出す。
湧き出る剣気が幾重もの凄まじい衝撃波を生じさせ、大剣による嵐の如く斬撃に迎え討った。


【リマ》お久しぶりです。そして気にしないでください^^
下げは別に義務でやってる訳でもないので、上げても問題はないと思います】

356アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2015/03/28(土) 19:20:52
【ポセイドン邸】

「おい、あまりセィちゃんさん達を困らせるなよ」

遅れて、場にそんな声が割り込む。
それと同時に、ノワールの背後から回されたアブセルの手が、余計なことが言えぬようにと、彼女の口をむぎゅりと塞いだ。

「取り合えずリトはベッドに横にさせといたよ。今はユニと変態のおっさん(ジュノス)が側についてる」

そう一同に言うや、彼は今度はナディアに視線を向ける。「お嬢」と切り出した。

「旦那様の葬儀のことなんだけどさ…。リト…って言うか、リトのふりをさせたセィちゃんさんはどうすんの?
親族の中には子息であるリトも出席させるべきだ、って意見もあるらしいんだ」

でも…、と続く声音に若干の深刻味が滲む。

「それって当然奥様も出席する訳だろ…?
式中に騒ぎになるようなことは、流石に不味いと思うんだけど…」

つまりアブセルは、ミレリアとリトが同じ場に居合わせることで、何かしらの問題が起こってしまうのではないか…と懸念しているようだ。

357クロス ◆.q9WieYUok:2015/03/30(月) 14:48:52
【闘技場】

灼熱を纏い、白光に輝く。

時を越え生まれ出るその剣は、より神々しい姿を現し。

白く美しい刀身から溢れ出す剣気は衝撃波となり、紅の嵐の如き連撃を迎え撃つ。

そして、 天之尾羽張から発せられた衝撃波が止んだ先。

半壊した闘技場特等席の際で、異形の魔物は立っていた。

……否、辛うじて立っていた。

二振りあった筈の大剣は跡形も無く消失し、緋色の堅鎧は元の形を残さず。

背から伸びる黒翼も、筋骨隆々な身体も大小様々な裂傷が刻み込まれ。

ひしゃげた曲角から続く幼顔を歪め、クロスは呻く様に言葉を発した。

「ふふ、ふふ……水と炎、相性で言えば僕に分がある筈なのにねぇ……

赤羊神躯、本気の僕を此処まで傷付けるなんて。」

その口調は先程と変わらないものの、その声からは疲弊の色が見て取れる。

しかし、疲弊が滲む声であっても、未だ闘志は消えず。

それを示すかの様に、クロスは左腕を横に薙いだ。

「流石だね、羨ましいよ……

安定して力を出せる君達は、僕等の様に暴走する危険性を考えなくても良い。

ましてや不安に怯える事なんてない。

だからこそ、僕等は……四凶は四神を狙うのさ。」

その様はまるで不安を、怯えを振り払うかの様に。

自らを鼓舞する様に。

そして、伸びきった左腕の先。

血に汚れた指先から零れる朱色が蠢き、陣を描く。

直径5m程の円となったそれは、拡大を止めると同時に、指先を中心としてクロスの全身を包み込み、脈動。

それは鮮やかな赤から黒へと色を変え、その身体を更に異質な……筋骨隆々とは真逆、漆黒の痩躯へと変質させる。

「赤い仔羊(REDRUM)から漆黒の殺戮者(MURDER)へ。

この姿になった以上、僕はもう負けれない……咎落ちしたその先は渇死しかないからね……」

双翼を三対の痩腕へ、半身半獣を悪鬼の痩身へ、そして操りし水を混濁した闇へと変え、そして。

紅瞳を揺らめかせ、クロスは笑った。

同時に、痩躯から闇の波動が溢れ出し、波濤となって二人の天照大神へと襲い掛かった。

「全てを喰らい尽くす無明の闇は、太陽の輝きすら歯牙に掛けるのさ!」

358フィア+etc. ◆.q9WieYUok:2015/04/01(水) 23:55:24
【闘技場】

橙髪の青年、アグルの言う事はごもっともだ。
確かに、如何に個々の実力が高くても即席の連携などたかが知れている。
ましてや相手は自分と同格以上、分が悪い所の話では無い。

(でも、そうも言ってられないのよね!)

アグルが放つ死角からの強襲をいとも簡単に避けるキールの背後へと、フィアは空間跳躍。
姿を現すと同時に手刀の一撃を繰り出すも、気配を察知したのかキールは180度水平回転しつつ手刀を受け流し、カウンターを放つ。
分子結合を解かれた氷翼が弾幕となってフィアへ襲い掛かるが、フィアは再び空間を跳躍……するよりも速く、キールの右手がフィアの襟首を掴んだ。

「空間跳躍、便利だろうけれど発動前のほんの僅かな硬直が命取りよ。」

そして、襟首を掴まれた為に逃げれないフィアへと弾幕が殺到。
鋭い氷弾の群れがフィアの身体を貫き、削り、一瞬にして血飛沫が闘技場に舞い上がった。
しかし、フィアは血塗れになりながらもその顔に笑みを浮かべる。

「この程度、何とも無いわ……!」

そう、吸血鬼として最上位の存在である十三人の長老の再生力は伊達ではないのだ。
血染めの笑みを歪め、フィアもまた、キールの襟首を掴む。
高い再生能力と空間跳躍能力、そして固有の特殊能力。
澪の派閥の長であるフィアの固有能力は、その派閥名の通りだ。
その為、同系統の能力者であるキールの力は相殺とまではいかないが、ある程度ならば阻害出来る。

しかし。

能力を阻害されたからと言えども、そう簡単にキールを止める事は出来ない。
襟首を掴む右とは逆、空いた左手に凍気を纏い、キールはフィアの右腕を手刀により切断。
そして再び水平回転してフィアの身体を投げ飛ばし、飛び出して来たレックスへ叩き付けて二人を吹き飛ばす。
更にレックスの陰に隠れて繰り出されたマルトの斬撃をいなし、その腹部へと掌打を打ち込んだ。
大気が弾ける音と共に崩れ落ち膝を着くマルトへ、どこからともなく取り出した拳銃を容赦無く撃ち込む。
連続する銃声が鳴り止んだ後、弾が切れた拳銃を投げ捨てたキールはアグルへ次はお前だと言わんばかりの視線を向けた。
それを遮る様に、右肘から先を無くしたフィアが飛び出し、氷剣による刺突を放つも、キールは手刀で受け流し、彼女を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたフィアとすれ違いながら駆け出すレックスが放つ三叉鑓の矛先は空を切るも、レックスは諦めない。
空振った三叉鑓を投げ捨て、果敢にもキールへ挑んで行く。
武闘家の父を持ち、幼少期から武術を学んできたレックスの体捌きは一級品だ。
そこに異能の力が加われば、並大抵の実力者では相手に成らない程。
だが、キールはその上を行く徒手空拳の使い手だった。
掌打から続く廻し蹴りも、風を操った高速移動もキールには届かない。
レックスと同系統の能力者、暴風神の力を持つマルトとレックスの連携も、見た目に反するタフさを持つフィアの捨て身に近い吶喊も、何もかもがキールには届かない。
四神のレックスと同格であろうマルトの実力は決して低くは無い。
寧ろ経験差がある分レックスよりも数段強いのだ。
そこに吸血鬼最上位のフィアが加わり、波状攻撃を仕掛けるも……一撃が、入らない。
しかしレックス達は諦めない。
何故なら、レックス達は知っているのだ。
自分達の中に必殺の一手が、それを放てる者が居る事を。
風を操り行う高速移動よりも、瞬間移動に近い空間跳躍よりも速い、最速かつ防御不可の必殺技。
メイヤとの戦いで見せた、あの技を。

「アグル、君しか居ないんです!」

359ヤツキ ◆.q9WieYUok:2015/04/01(水) 23:57:31
【長過ぎて弾かれるとか草不可避

読みにくくて申し訳ない!

そして遅くなって申し訳ない……】

360メイヤ ◆.q9WieYUok:2015/04/03(金) 21:51:11
【闘技場〜】

一瞬の浮遊感と、それに続く風切り音。

それが何を意味するか理解するのに時間は掛からなかった。

しかし、考えている暇も無い。

反転して見える景色の中に教会が見え、急降下するその先に十字架を確認した同時に黒狗は激しく身を捩った。

如何に巨躯が頑強かつ強靭と言えど、アレに突き刺されたならば一巻の終わりだ。

(後五秒も無い、けれど!コイツっ!)

身を捩り、四肢を打ち付け、必死に首筋の拘束を解こうとするもーーー

ーーーどうやら串刺しは免れた様だ。

瓦礫を押しのけ、メイヤはゆっくりと立ち上がる。


直撃する寸前に、纏っていた闇を霧散させたのが幸を奏した様だ。

だが、高々度からの落下の衝撃は凄まじく、立ち上がるのがやっとの状態か。

半壊した教会の壇上で、メイヤは剣を支えに目を凝らす。

運良く敵だけが死んでしまう様な事は無いだろう、常に最悪の状況を想定しなければならない。

「……居るんだろ、出て来いよ……」

361ナディア、ジル他 ◆Q4V5yCHNJ.:2015/04/05(日) 21:17:35
【過去】

素直でないながらもしっかりと自分の意思を伝えてきたアブセルへ、ジルは優しく目を細める。

「いいよ、いつでもおいで。ただし、今度はちゃんと許可を貰って来るんだよ。」

小指をアブセルへ向け、微笑んだ。

「約束。」

指切りと共に交わした約束。
もう叶うことはないと、この時は誰も想像などしなかった。

「ジル」

ノック音の後に彼の父が顔を出す。

「その子達が帰るようだね。僕が送って行こう。」

「え、お父様が…?」

「大事なご子息を足止めしてしまったからね、…あちらのお父上に挨拶も兼ねて。」

リトが何処の子なのか、調べがついたのだろう。
一瞬だけ、父の表情が固くなったのをジルは見逃さなかった。
ただ子供が詮索すべきことでないことも分かっていたから、ジルは頷き二人を父に託す。

「またね」

リトとアブセルの頭を撫でる。
ジルの笑顔はとても優しかった。

362ジル、ナディア他:2015/04/05(日) 21:19:02

------


「リト!!」

屋敷は予想通り、いや、予想以上に混乱していた。
召使の者達が彼方此方リトを探しているのが見えた。リトを見失ったお咎めを恐れているのだろう。皆顔面蒼白で、今にも倒れてしまいそうだ。
そんな中、窓からリトの姿を認めたらしいナディアとヨノが外へ飛び出して来た。
リトを連れてきたジルの父親には目もくれず、リトの手を取るや、すぐに彼を引っ張っていこうとする。

「ナディア」

余程慌てていたのか、ナディアは彼の存在に気付いていなかったようだ。
声を聞いて初めて其方に顔を向ける。

「おじさま…」

リトを連れ帰って来た人が知ってる人だから、ナディアは驚いた顔を見せる。
しかし今は構っている暇はない。

「ごめんおじさま、話はまた後で。コイツを…」

リトを早く部屋に戻さなきゃ、父親が気づく前に。

しかし手遅れだった。

「何をしている」

普段ヨハンやミレリアの近辺を担当する召使は残り、自由のきく召使がリトの捜索に当たっていた。
リトが行方不明と知られてしまったら大変なことになる。見失ってしまった召使は勿論、リトも。
屋敷に残った召使は気付かれぬよう普段通りの行動を装っていたものの、気付かれてしまった。

「父さま…」

ナディアはリトを自分の背に隠す。
しかし隠せる筈もなく、ヨハンはリトの腕を掴み引き摺り出した。

「こいつは何だ?何故外にいる?」

「それは…」

「勝手に抜け出したのか?」

「違…っ」

ヨハンの目の色が変わる。
リトが危ない。

「やめて…!」

ヨハンがリトを地面に叩きつけようとする。
その手を、傍にいたジルの父、トーマが止めた。

「…トーマ?」

「来客に気付かないで、随分と物騒なことをするじゃないか。…少し話そう、ヨハン。」

ヨハンは渋い顔をするも、トーマの言葉は聞き入れる。
そして二人は屋敷の中へ入って行った。

「リト…良かった」

ナディアはリトの無事を確かめ、ほっと胸を撫で下ろす。
いなくなったと聞いた時はどうしようかと思った。無事に帰って来て本当に良かった。

そしてナディアは漸く其処にアブセルが居ることに気付いた。

「アブセル…お前がリトを連れ出したのか?」

363アグル、オンクー ◆Hbcmdmj4dM:2015/04/18(土) 23:36:29
【闘技場】

「んなアテにされても困るんだけど…」

レックス達が怒涛の攻防を繰り広げる一方で、アグルはそう独り言つ。
しかしやる他ないだろう。

「しくっても文句言うなよっ!」

直後、彼の身体から電流が迸る。

言うが早いか地面が電閃し、そこから夥しい数の黒鉄の槍が突き出した。
自分やレックス達が佇立する場を除くフィールド上を余す事なく槍が埋め尽くし、相手の姿さえ見えなくなる。

「オマケだ、失明すんのが嫌なら目ぇ閉じてろ」

そしてダメ押しに、槍の一本一本が避雷針となって闘技場に滝の如く霹靂が降りしきった。


【バルクウェイ】

半壊し、静寂に包まれる教会内にメイヤの声が反響する。
それに応えるように、瓦礫の一角が崩れ落ち、そこからふらりと人影が立ち上がった。

「…本当に…忌々しい奴らね、お前ら一族は…」

獣化は解かれ、人の身に戻った彼が苦しげな呼吸音と共に発した第一声がそれだった。
メイヤのどこか特徴的な漆黒の髪と瞳…。そうオンクーは、過去に同じような佇まいをした剣士と相対している。

過去、自分を敗北へ追いこんだ奴ら…件の剣士と、そしてそいつが所属する黒十字を皆殺しにしてやろうと思った。
しかし、百年以上の封印のすえ眠りから覚めた時には、その剣士はおろか黒十字という組織さえもう存在してはいなかった。
ならばどうすればいい。いっそのこと、そいつらの子孫に報復でもしてやろうか。そんなことを考えていたのに…。

「……ッ」

不意にオンクーは口から血を吐き出し、膝から地に崩れ落ちる。
…身体が動かない。体内を蝕む闇がもうそこまで侵食してきているのだ。

また、同じ血の者に敗れるのか。彼は自嘲気味に苦笑する。
しかし、ただで死ぬつもりはない。

刹那オンクーはキッと前方を睨みつける。最後の力を振り絞って飛び出した。
メイヤの心臓部めがけて最短距離を爪の尖鋭がうなる。

「その首、地獄への手土産に置いてってもらうね!」

364アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2015/04/18(土) 23:40:52
【過去】

気に入らないから、リトが怒られればいいと思った。
退屈だったから、屋敷の皆を困らせてやろうと思った。

ほんの軽い気持ちでおかしたイタズラが、まさかこんなにも深刻な事態を招いてしまうなんて初めは想像もしなかった。

ヨハン達が立ち去った後も呆然とその場に立ち尽くしていたアブセルは、不意に自分の名を呼ばれるとびくりと肩を震わせた。

恐る恐るナディアを見る。
やがて彼は、俯き気味に小さな声で頷いた。

「…リトは嫌がってたんだ。それを俺が無理やり…」

先ほど垣間見たヨハンの表情はいつも以上に怖かった。
それは自分に向けられたものではなかったが、傍にいたアブセルも身が竦む思いだった。

「ごめんなさい、リトのことは怒らないで…」

365メイヤ ◆.q9WieYUok:2015/04/20(月) 22:20:02
【バルクウェイ】

忌々しい一族か、それは言い当て妙だ。
静寂に包まれる教会内で、オンクーが吐き捨てた言葉にメイヤは静かに頷いた。

確かにそうだ、暗殺者の一族など忌々しいに決まっている。
その中でも自分は特に忌々しく、異端な存在だろう。

「俺の首じゃあ冥土の土産にもならないぞ……こんな忌々しい首なんて土産にすれは地獄に叩き落とされるだろうさ。」

弥都での戦い振りと、その言動からするに彼は一族の誰かと戦い、敗北した経験がある様だ。
それが誰かはわからないが、因縁はあったのだ。

だからこそとは言わないが、今、自分がその因縁を断つべきだろう。
例え、その結果が相討ちだったとしても。

「だけど、アンタを地獄に叩き落とせるなら安いモンだな!」

血を吐き、膝を着きながらも此方を睨み付けるオンクー。
その視線を真っ向から受け止め、メイヤは支えにしていた剣を構える。

口腔から溢れる血は黒から赤へ、闇は既にその活動を停止していた。
闘技場から続く激闘で、体力も限界に近い。

放てて一刀、いや、一刀で決めるのみ。
対するオンクーが放つは、死力振り絞った尖爪による一撃。

その一撃をメイヤが避ける事は叶わず、否、避ける事を選ばず。
鋭き一撃は寸分違わずメイヤの心の臓を貫き、傷口から、口腔から、鼻腔から夥しい程の血流が溢れ出す。

しかし、心臓を貫かれると同時にメイヤもまた、真白の刃を振り切っていた。

その一刀は、神速の一刀。

神をも斬り裂く必殺の刃。

居合い、神斬りーー

366メイヤ ◆.q9WieYUok:2015/04/20(月) 22:21:26
先々代は長として一族には何も残さず散った。
そして、宿敵に魂の炎を遺し散った。

俺も同じだろう。
一族には何も残さず、散る。

だがそれも一興、忌み嫌われる殺し屋の血筋など絶えれば良い。
長を、そしてその補佐や分家の頭が消えれば一族は自然と瓦解する。

同業者に消されるか、取り込まれるか。
先細りするしかない一族の未来に興味は無い。

だからこそ、俺は魂の炎を、生命の炎を遺す。
血塗れ両手と、屍の玉座で得た唯一の光。

知ってるか?

不死鳥は死して尚燃え上がり、羽ばたくんだぜ。
焔凰円環、産声を挙げるには丁度良いだろ、なァ?ーー

身体が、熱い。
血と共に溢れ出すその熱は、きっと生命そのものだろう。

胸を貫かれながらも振り切った刃を力無く手放し、メイヤは血塊と共に息を吐き出す。
真白の刃は赤に染まり、血溜まりに落ちて音を立てた。

その音も耳には届かず、メイヤはオンクーへと持たれ掛かった。
グズリ、と傷口が広がるがもう関係ない。

メイヤの命は数分も保たないだろう。
薄まっていく五感と意識の上、痛みは意味を成さず。

「これが、死、か……」

オンクーの肩口に顎を乗せ、メイヤは声を紡ぐ。
今まで幾度となく与えて来た死の瞬間が、遂に自分へと訪れるのか。

そう考えると、不意に怖くなった。
薄れゆく意識の中、それだけが浮かび上がっていく。

だが、それも僅かな事。
あれ程までに感じた血の熱さも消え、熱を失った身体は急激に冷えていく。

そして、生命の過多を失った身体から、その背中から、闇が溢れ出す。

「マダ、死ナヌ……悪神ハ、マダ滅ビヌ!」

爆発的に溢れ出すそれは触手の群れと成ってオンクーの身体へと殺到。
何の躊躇いも無く、寧ろ荒々しいまでの勢いで彼の身体に突き刺さり、生命を、彼の存在そのものを喰らい生き長らえようと蠢いた。

しかし、それも一瞬の事。
触手が生命エネルギーを吸い上げ様と蠕動した瞬間、不意にその動きが停まった。

そして一拍の間を置き、闇の触手が内側から爆発し、紅蓮の焔がその姿を顕した。
焔は闇を灼き尽くし、背から伸びる翼となってメイヤを、オンクーを包み込む。

「コノ、焔ハ!?

闇ガ、消エ……!?」

その焔は、真なる焔。
平安と平等を司る、鳳の焔。

焔は顕現しようとする悪神を灼き、同時に朽ちゆくメイヤの身体を再生させていく。

そして。

悪しきを灼き祓い、生命を生み出す焔はオンクーへと燃え移り、より一層その勢いを増して燃え上がった。

367レックス+etc. ◆.q9WieYUok:2015/05/02(土) 16:37:22
【闘技場】

アグルの放ったその技はレックスの予想を遥かに上回るモノだった。
地面から屹立する黒鉄槍はフィールドを余す所無く埋め尽くし、更にそれを避雷針として降り注ぐのは轟雷の瀑布。

(メイヤ相手に見せたのは、本気所か手を抜いていたのですか……ッ!!)

正に必殺、想像を遥か絶する技の威力に、レックスは言葉を失っていた。
圧倒的な破壊の前に、言葉を失ったレックスは無意識の内に唇を咬み、アグルへ黒瞳を向ける。

しかし、不意に上がる物音に驚き、音のした方向へ視線をやり、目を見開いた。

「……予想以上ね、威力だけなら四霊に匹敵するわ。

だけど……」

見開かれた黒瞳が映すのは、しかと闘技場に立つ黒髪の女性、キール。
その身体は無傷とは言わないものの、戦闘不能に至る様な傷は確認出来ない。

「私は吉兆を司る者。

そして、四霊の守を担う者。」

まるで不調は無いとばかりの口調でキールは声を発し、ゆっくりとした動作で右手を横に薙ぐ。

「絶対零度の前には光すらその動きを停める。

それはつまり、時間すら停止すると言う事。

そして、一切の不純物の無い氷の強度は本来鋼の三倍以上。

練度によるけれど、物理的に破壊出来ない硬度の氷壁を精製する事も可能。」
そう、如何に速く、破壊力がある攻撃でもキールには届かないのだ。

絶対零度により僅かながらも周囲の時を、敵の攻撃を停め、その間に圧倒的な強度を持つ氷壁を張る。
それは即ち二段構えの絶対防御。

同系統の能力者故に理解出来る圧倒的な実力差。
それを目の当たりにし、流石のフィアも諦めの表情を浮かべた。

(せめてこの場にシャムとDDが居れば……)

まだ何とかなったかもしれないが、二人には観客達の保護を任せた為に離れている。
最早万事休すか。

フィアの表情を察し、マルトもまた目を伏せた。

そして。

身動きを取らない一行へとキールは手を翳し、死の凍気が放たれたその瞬間。
一筋の雷光が閃き、圧倒的な熱量を持って凍気の波濤を対消滅させた。

「すまん、少し面倒な奴と出会って遅くなった。」

更に、響く声と共に放たれた剣閃がキールの胸元を袈裟懸けに切り裂く。
不意に上がる己の鮮血に、流石のキールも驚きの表情を浮かべた。

しかし、続く剣戟を氷刀で切り払うと同時に後方へ跳躍。
距離を取り、雷光と剣閃の主……レオールを見据えた。

「さてと、だな。

俺の部下をここまで痛めつけたお返しと、観客達に危害を加えた罪を清算してもらおう……消えたか。」

そして、剣を構え口上を上げるレオールに視線を向けたまま、キールは霧となってフェードアウトしていった。

368サンディ ◆Hbcmdmj4dM:2015/05/02(土) 22:08:16
【闘技場】

また更に変貌をとげたクロスの姿は悪鬼そのもの。
その痩躯から溢れ出す闇の波動を炎波で打ち消し、イスラは勢いよく前方へ飛び出した。

「待って、いー兄!」

その時、不意にサンディが声を上げる。
しかしそれも彼の耳には届かなかったようだ。
果敢にもクロスへと飛びかかって行くイスラの背中をどことなく複雑そうな表情で見つめながら、サンディはポツリと呟いた。

「…あの子なんだか…」

悲しそうだったよ…。

―――そしてそんな間にも、既にクロスとの距離を詰めたイスラは天之尾羽張を手に、赫灼たる刃を振るう。
一閃、二閃と燃ゆる炎の光を瞬かせながら怒涛の連撃を繰り出した。

369オンクー、アグル ◆Hbcmdmj4dM:2015/05/02(土) 23:18:29
【バルクウェイ】

確かに殺したという感覚はあった。…のに、
紅蓮の焔がメイヤを包み込んだかと思えば、驚くべきことに今度は彼の身体がみるみる再生していくではないか。

「…はッ、気味の悪いやつね…」

殺したのに、死なない。

燃え盛る灼熱に身を灼かれながら、オンクーはメイヤを見据え毒づいた。

「…聴こえるよ、お前を取り巻く怨嗟の声が。
せいぜい死ぬまでその呪われた運命に苦しみ続けるがいいよ」

まさにそう最期の言葉を残し、オンクーは焔に灼かれ跡形もなく消滅した。



【闘技場】

駆けつけたレオールと、そして分が悪いと踏んだのか、その場から退散したキール。
一時はどうなることかと思ったが、取り合えず事態は収束したと見ていいのだろう。

アグルはやれやれと行った様子で、息をついた。

「…で、さっきのは何だった訳?」

来るのが遅いんだよ…とぼやきたいのを抑えつつ、先程の女、四霊の一人と名乗る者がなぜこの闘技会に乱入してきたのか。
もちろん知ってるんだよな?といわんばかりにアグルはレオールに目を向け問うた。

370クロス ◆.q9WieYUok:2015/05/08(金) 22:17:14
【闘技場】

火炎を纏う神剣により放たれる連撃は苛烈の一言に尽きる。

一撃一撃が必殺の威力を秘め、それが絶え間なく繰り出されるのだ。

烈火の如き剣撃は確実にクロスの纏う闇を灼き祓っていった。

しかし、先の言葉通り無明の闇は消え去る事無く、確実にその濃度を、総量を増加させていく。

「僕にくれよ、その光を、炎を!暗黒の闇を消し去る程のエネルギーをくれよぉぉぉぉ!」

闇を纏う悪鬼と成ったクロスは叫び、その咆哮は波動となって闘技場を破壊していく。

咎堕ちの先、それは全てを呑み込み無に帰す虚空の闇……ブラックホールだ。

闇を纏う痩躯は既に崩壊しかけており、人の形と闇の境目も曖昧だ。

そして。

幼顔の面影すら残らない悪鬼の牙口が絶叫を上げたと同時に。

クロスの理性と痩躯が遂に崩壊し、莫大な闇が爆発的に溢れ出した。

更に、溢れ出す闇は渦を巻き、大気を、光を、時間すら呑み込まんと奈落の大口を開けた。

今でこそ規模は小さいが、生まれ出でたそれ……ブラックホールは秒刻みで拡大して行くだろう。

そこにクロスの意識は無い。

身体も、意識も、魂すら失い闇黒の渦と化した四凶の成れの果ては、イスラを、サンディを、闘技場を、バルクウェイの街を呑み込まんと広がっていく。

【イスラさんイスラさん、次でトドメ刺しちゃって下さい】

371イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2015/06/07(日) 19:46:41
【闘技場】

まるで断末魔の叫びの如く、クロスの咆哮が耳をつんざく。それと同時に、何らかの爆発に見舞われた様な感覚に襲われた。
足が地面から浮き、後方の壁に叩きつけられる。
握る刀が手から溢れ、一瞬の衝撃に息が止まった。

一体なにが起こったのか。
それを理解するよりも先に,痛みに堪えながらも顔を上げたイスラの目に漆黒の塊が飛び込んできた。

周囲の瓦礫や観客用の椅子を呑み込みながらも、驚異的なスピードで肥大していくそれが、先程の彼の成れの果てだと言うことを理解するのにそう時間はかからなかった。
そして、直に自分やサンディ、いや、もっと大勢の人間があれの餌食になるだろうことも容易に想像がついた。
イスラは咄嗟にサンディの姿を目で探す。

「サンディ!逃げ…っ」

しかしその時、直ぐ脇を何かが駆け抜けて行った。

紺色の短いスカートをたなびかせながら身を翻したそれは、イスラが落とした刀を地面から拾い上げ、かつての少年だったものに向かって一直線に駆けていく。

「なっ…!?」

捜していた当の本人の無謀な行動。
しかし制止の声を発する間もなく、直後、強烈な光と音が迸った。

イスラは反射的に腕で顔を隠し、目を閉じた。

…やがて光も音も消え、彼はゆっくりと目を開ける。そして呆気に取られた。
そこには先程の狂騒も、奈落の口も、そしてサンディも、呆れるほど綺麗さっぱりと 消え去っていた。


【遅くなってすいません!早くレスできる時はしますが、暫くはこんな感じのペースになるかもしれません(^_^;)
そして曖昧な幕引きですが一応決着つけました。
サンディは身を呈してクロスを封印だか消滅させたけど、それと引き換えに暗黒に呑まれたか、どっか別の場所に転移したか〜
みたいな感じです。やっといてあまり深く考えてません(笑)】

372レオール ◆.q9WieYUok:2015/06/10(水) 23:51:54
【闘技場】

「……そうだな、見た所戦いは終わった様だな。

負傷者の救護手配が終われば一度集まって話そうか。」

やれやれ、と言った様子で口を開くアグルの様子に、レオールは苦笑いを浮かべながら応える。

ざっと見渡す限り、闘技場での戦闘は全て終息した様だ。

闘技場の結界も解け、続々と乗り込んでくる空挺師団兵が負傷者の搬出、救護に就き出すのを確認し、レオールは密かに胸をなで下ろした。

ーーーーー

そして、一夜が明けた頃。

空挺師団旗艦の会議室に集まった四神組一行は、ホワイトボードに書き出された様々な情報と、それに関するレオールの説明を受けていた。

「要点だけを掻い摘まむとだな、四霊の襲撃目的はこの旗艦の動力源……希少な結晶鉱石の奪取だった訳だ。

四霊が囮となり、闘技場へ戦力を集中させ、別働隊が動力源の奪取に当たる。

まさかその別働隊がこの師団の構成員、幹部だったのは予想外だったがな……

結果として、四霊の目的は果たされ、この旗艦は当分の間は動けない。」

そう、闘技場で圧倒的な力を振るったキールはあくまでも囮だったのだ。

別働隊、裏切り者である幹部は相当な実力者であり、団長のレオールをもってしても討ち洩らす程。

マルトと対なす幹部……側近との戦闘があった為に、レオールの到着は遅れたのだった。

「痛手ではあるが、暫くはこの街に留まる予定だったからそう問題は無い。」

旗艦内部にある幾つかの会議室の中でも、今居る部屋が一番面積は小さい。

集まった面々に目をやり、レオールは続けた。

「師団幹部のマルトは重傷、死亡者は出なかったものの団員の負傷者多数。

四神の一人、天照大神が行方不明。

四霊の一人、霊亀を撃退。

四凶の二人を撃破。

箇条書きにすれば結果としては上々とも言えるが……」

集まった面々、アグル、レックス、イスラ、メイヤ達にとってはサンディの安否が一番気にかかるだろう。

特に、サンディが行方不明だと知った時のメイヤの表情は悲壮感に溢れていた。

イスラの話によればサンディは何の痕跡も残さず、消えたらしい。

ブラックホールを消滅させる為に自らの命を犠牲にしたのか、それとも……

楕円形のテーブルに沿って席に座る一同の顔を今一度見渡し、レオールは問い掛けた。

「皆は、これからどうする?

この空挺師団は対黄龍を目的として動いている。

目的が同じならば、入団して欲しい所ではあるが、無理強いはしない。

無論、入団しないからと言って援助の打ち切りはしない。

飛行船、食糧物資等の援助とサンディの捜索も続ける。」

幹部の中でも右腕であるマルトと、その片割れとも言える側近の離脱は大きい。

その二人の抜けた穴を埋めるに存在として、アグル達は丁度良い所か十二分以上なのだ。

「暗躍を続けてきた四霊、黄龍が表立って動き出した今、此方としても戦力を固めたい。

どうか、力を貸してくれないか?」

373ヤツキ ◆.q9WieYUok:2015/06/10(水) 23:55:01
【久し振りすなー、月一連載みたいな感じでww

幕引きあざした!んだらばサンディは暫く行方不明と言う事すね了解!】

374イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2015/06/21(日) 23:10:23
【旗艦】

「俺は構わない、むしろありがたい話だ」

会議室。
集まった面々を見渡し、こちらの返答を窺うレオール対し、真っ先に口を開いたのはイスラだった。

「俺達だけでは四霊の動向やサンディの行方を調べるにも限界がある。
よりそっち側の事情に精通した者と組めるのなら、こちらとしても都合がいいし。何より、戦力不足はこちらも同じ。
共通の目的を持つ者同士、互いの手を取り合うのに何ら不満なんてないさ」

そう好意的な意思を見せるイスラであったが、それに反し、やや間を置いてから今度はアグルが話し出す。

「…前にも言ったけど、俺は入団しない。
あんたらと違って俺の目的は四霊退治でも世界の救済でも何でもないし」

サンディが消えたと聞かされた時も意にも返さなかったアグル。
頬杖をつき、レオールではなく机の端に視線を外すその態度が、この件に対する彼の無関心さを語っている。
もしくは、ただそう見せようとしているのか。

「でも、別に協力しないとはいってない。ここにいる間なら出来る限り力を貸す。
いつまで居るかは分かんねーけど」

375イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2015/06/21(日) 23:18:27
【と思ったけど、ちょっと落ち着いてきたかも(笑)

久しぶりに絵でも描こうかな…、何かリクエストとかあります?】

376ヤツキ ◆.q9WieYUok:2015/06/22(月) 00:53:39
【壁I・ω・)ノ

梅雨時なんで、水も滴る良い男達とかどうすか!】

377イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2015/06/23(火) 06:01:27
【おおう…また難しそうな…(笑)
でも頑張ってみます!梅雨時すぎるくらい遅くなるかもしれませんがw】

378レオール ◆.q9WieYUok:2015/07/03(金) 14:14:56
【旗艦】

此方の申し出に対し、真逆とは言わないがそれぞれ違った反応を見せる二人。
しかし、断られはしたものの、アグルの返事は決して悪いモノでは無い。

寧ろ彼なりに気を遣ってくれたのだろうか。
残るはレックスとメイヤだが……

「僕もイスラと同意見です。

四霊と対峙してわかりましたが、実力差は明白でした。
諸事情を踏まえた上で、僕入団しますよ。

どこかの誰かと違って、世界の危機を黙って見てる様な真似は出来ないので。」

レックスの方は、本人の言葉通りか。
真面目な性格の彼の返事は予想していたモノとそう変わらない。

「後はメイヤだな。

君にはイオリから言付けを預かっている。」

レックスの一言は気になるが、今は流すべきだろう。

イスラとレックス、そしてアグルがどうするかを決めた今、残るはメイヤだ。
本来ならば、彼は身内であるイオリと行動を共にしていてもおかしくは無い。

しかし、イオリの一団は今朝方に発って行ったのだ。
メイヤと、彼への言付けを残して。

「今まで通り、四神を護衛しろ。ただし、これは命令でもなんでも無い。

……だそうだ。

要は好きにしろと言う事らしいな。」

師団の協力者であるイオリの身内、その立ち位置は何とも微妙である。
だが、イオリのその言葉によってメイヤの立ち位置は大きく変わるのだ。

そして、続くメイヤの言葉に、レオールは満足そうに頷いた。

「今まで選択肢なんてモノは無かった。

イオリの言葉が、当主の言葉が全てだったから。

……好きにしろと言うなら、俺はサンディを捜しに行く。

けど、その前にイスラ達と共に動くさ。」

ーーーーー

各々が立ち位置を決め、全員が師団に協力すると言った今。
早速とばかりにレオールは話題を切り替え、話を始める。

空挺師団はバルクウェイを拠点化し、大々的に動き出す事。
旗艦の動力源が奪われた為に、その代用品の探索に動く事。

世界そのものである黄龍と対峙するに、充分な戦力を確保する事。
それと並行し、今までの主な活動内容である異貌の者の討伐をイスラ達に任せる事。

「と言う訳で、君達には遊撃隊になってもらいたい。

師団最大戦力と言っても過言ではない四神を、ただ単に手元に置くだけなのは勿体ない。

あくまでも協力者であるアグルやメイヤの存在を考えれば、ある程度自由に動ける立ち位置の方が良いと思ってな。

後は、サンディを捜すにも丁度良いだろう?」

そして、予め用意していた書類を渡したレオールは、小型飛行艇へ戻るように一行へ促す。

ーーーーー

「で、ですね。

遊撃隊として動く事になったのですが、僕は師団長の下に戻ります。

バロンや、ナディア達の帰りを待つ人が誰か居なければならないと思うので。」

飛行艇に戻るや否や、開口一番にレックスはそう告げた。

「私は構いませんよ、道理に叶っていますし。

問題はありません。」

そんな彼の言葉に、頷き何ら問題は無いと続けるのは補助員として派遣された巨漢の男、バッハだ。

「まぁ、僕が居なくても何とかなるでしょう、アグルが本気を出せさえすれば。」

そして、レックスは先刻と同じように……寧ろより攻撃的にアグルを煽りだす。
しかしそれ以上続ける事は無く、後は頼みます、と静かに言い残し、食堂兼広間を、飛行艇を後にした。

「……相当苛立ってるが、何かあったのか?」

その姿を見送り、メイヤはアグルへと声を掛けた。

379アグル♯か:2015/07/14(火) 21:56:41
【飛行挺】

「さあな、俺のことが気にいらないんじゃないねーの?」

メイヤの問いにアグルは、何と言うこともないと肩を竦めてみせる。

正直、レックスが苛立っている理由も分からない訳ではない。
しかしだからといって、それに対しどうすることも出来なければ、態度を改める気にもならない。

取り敢えず今はレックスのことは置いておく他ない。アグルは一同を見渡し言った。

「そんなことより、これからどうすんの?
今後の方針を決めるリーダーとか決めて置いた方がいーんじゃね?」


【遅くなりましたが…イラスト出来ました。画像サイズ大きい上に水も滴る感があまりなくて申し訳ない;
imepic.jp/20150714/779350

あとですね、今アグルの復讐の理由なんかを考えている訳ですが…なかなか上手いこと思い浮かばず…
それでユーリのことを知れば何かヒントが得られるのではないかなー、と

と言うわけで良ければユーリの過去的なものを教えてください!】

380メイヤ ◆.q9WieYUok:2015/07/16(木) 22:18:00
【飛行艇】

世界を救うべく行動するレックスと、同行はするものの別の目的があるアグル。

元々几帳面な性格のレックスからすれば、同じ四神であれど同じ目的を持たないアグルには思う所があるのだろうか。

「まぁ、少し距離を置くのも悪くないか。」

はぐらかすかの様に話題を変えるアグルから、メイヤは視線を変える。

その黒瞳の先は、勿論イスラだ。

「俺とアグル、イスラの中から決めるなら……」

飛行艇に居るのは前述した三人と、補助員のバッハのみ。

手際良く資料を配るバッハを除くならば、適任者は一人だろう。

「私はあくまで補助員ですので。」

メイヤの言葉の意を汲み取ったのか、バッハは微笑みながら口を開いた。

「……やっぱりイスラだと思う。」

その一言を聞き、メイヤはイスラへ視線を向けたまま頷いた。

【おぉー!梅雨明けっぽい爽やかな絵が!

それぞれキャラが出てて良いなぁ、青春って感じがまた……!また一段と上手くなってるし、ありがとうございやす!

とと、アグルとユーリの因縁は確か、アグルの兄をユーリが殺害したとかだった様な……

取り敢えずユーリの過去話的なのは……

任務に失敗したユーリは瀕死になるも、時同じくして黄泉がえったステラによって助けられる。

助けられた恩義を返すべく、襲い来る夜盗やら諸々を撃退。

行動を共にする内にユーリはステラへ想いを向け……要は恩義の為に彼女を守るから、惚れた女を守り抜く、状態へ。

兄の仇=ユーリで行くなら、闇の復活をいち早く察したアグル兄がステラを倒そうとするも、彼女を守るユーリに……とかどうでしょう?】

381リマ ◆wxoyo3TVQU:2015/07/18(土) 16:31:12
壁|・ω・`)
お、お久しぶりです。リマです(´・ω・`)

現在卒業試験やら就活やらでバタバタしており、消息を経ってしまっていました、すみません( ˃̣̣̥ω˂̣̣̥ )

まだ落ち着いてなくてなかなか更新出来そうにないのですが、許していただけるのなら時間が出来次第細々とやらせて頂ければなと思います(´×ω×`)

そこでなのですが、もし宜しければどなたか現在の進行状況を大雑把に説明していただけないでしょうか(´•ω•̥`)
いずれ読み返そうとは思っているのですが、今はその余裕がなくてですね( ´•̥̥̥ω•̥̥̥` )わがままでごめんなさい・・・・・

あとイスラさんのイラスト!!相変わらず素敵すぎます(◍˃̶ᗜ˂̶◍)ノ"
何だこの美男子集団は!!
つか、リトがきゃわわわ!!!何か食べてるー!可愛いー!長袖ー!!暑そうー!!真夏でも肌見せないとかマジ鉄壁ー!!!そしてアブに傘持たせて楽してるー!この二人相変わらずすぎて笑えるー!!
てな感じに悶絶しちゃいました(笑)
最近精神が荒んでいたので、思いかけず素晴らしい癒しに出会して、心が清められちゃいました(*∩ω∩)

382イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2015/07/19(日) 20:04:28

【ヤツキ〉いえいえ〜、最近は落書きと練習ばっかりで、一枚仕上げようって気持ちが中々沸かなかったので、いいモチベアップになりました。
こちらこそありがとうです^^

ふぅむ…、なるほど…
兄の敵討ちと言えばそうなんですが、実際アグルってそんなことするような熱い性格じゃない気がして…
彼的には復讐"したい"じゃなくて、復讐"しなければならない"、の方がしっくりくるかなって思ったんです。
兄の死に関わるところで、アグルがユーリに復讐せざるを得なくなった何らかの理由が欲しいのですが…難しいな…;

てかこれからの展開って何か考えてます?

リマ〉おー、お久!
構いませんよー、こっちもポツポツ更新ですし

今の状況を凄く簡単に説明すると、闘技会中にオンクーとクロスらが乱入→二人を撃破するもその際にサンディが行方不明→現在「どうしよう?」
みたいな感じです(笑)リト組は動いてないです

ありがとうございます!
正直このイラスト、あまり気に入らなくて上げようかどうか迷ったんですが…
そんなに言ってもらえるなら描いて良かったです^^
そしてリトは日光に弱そうなので長袖ですw

383ヤツキ ◆.q9WieYUok:2015/07/19(日) 23:35:51
【リマ》おおおお久しぶりです!リマもとうとう就活生かー、大変だろうけど頑張って!

夏バテには気を付けろよ!

進行度はイスラの説明通りで、リマ組みは動いてないよー。

イスラ》確かにきっかけが無いと仕上げまでいかんよなぁww

うーん、難しいな……

兄殺害の場にアグルも居合わせたor共に戦ってた→

①アグルのミスで兄死亡

②実力差を前に、兄が囮となりアグルを逃がした

③呪術の類を掛けられ、期限内までにユーリを倒さないと術でアグルは死ぬ

とかしか浮かばなかった、申し訳ない……つーか酒入ると頭回んねー

とと、これからは取り敢えず吸血鬼組と絡ませようかな、とか。

イスラ達→吸血鬼討伐へ

フィア達→人間界へ住む長老の元へ

イスラ達が狙う吸血鬼=長老で、その長老を狙い謎の吸血鬼(オリジン)が、みたいな。】

384イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2015/07/25(土) 06:33:00
【飛行挺】

「え、俺?」

メイヤの視線、そしてその発言に対し、イスラは思いがけず意外そうな反応を見せる。

「いや、そう言って貰えるのは嬉しいが…俺はこっちの常識だとか地理だとかには詳しくないし…。
むしろメイヤが適任だとばかり…」

仮にも自分にとっては遠い未来であるこの時代。今の時を生きるメイヤやアグル達のリーダーとして、「任せとけ」と言える自信は流石にない。

「だってさ」

彼の言葉を聞き、アグルはメイヤに視線を変える。
それに続き、イスラも訴えかけるように言った。

「…リーダー、任せてもいいだろうか?」



【ヤツキ〉呑んでたのかw

う〜ん、やっぱりそこらが無難なところですよね

③はアグルなら「死んでも別にいいや」とか言いそうw
でも呪術をかけられた立場が兄なら、アグルは頑張ってユーリを倒そうとするでしょうね
死んだ人間の敵討ちはしないけど、生きてる人間を見捨てるほど冷たくもない、みたいな

でもその場合、兄はまだ生存してるってことになるわけで…、確か既に「兄は殺された」って皆に公言してたような気もするけど…w
まあそこは「兄は殺された(ようなものだ)」に変換しちゃえば良いか(笑)

それかもしくはアグル絶賛記憶喪失中、覚えているのはユーリへの強い憎しみと兄がいたらしいと言うこと。
その二つの記憶だけが今の彼の全てであり、生きていく上での支え。で、アグルは自身の記憶と真実を求め、ユーリを追う。みたいな感じ

他にも色々考えてたけど、取り敢えず上の二つに絞ろうかな。兄が死んだのはヤツキが言ってたように闇の復活を察して〜ユーリに返り討ちってことで

まぁまたこれからの展開によって色々変わってくかもしれませんが、アドバイスありがとうございました!

お、ついにオリジン登場ですか!楽しそう!了解です!
じゃあリーダーはメイヤに任した(笑)

385メイヤ ◆.q9WieYUok:2015/07/26(日) 23:02:27
【飛行艇】

いや待ってくれその返しはおかしい。

予想外のイスラの返答に、メイヤは反射的に口を開く。

だが、口を開いたものの、続く言葉は内心とは逆の物だった。

「……わかった、イスラがそう言うなら任されるさ。」

経験、戦闘力、胆力、年功序列……その他諸々。

トータルで考えた上で、適任はイスラだろう。

しかし、その彼が断るのにはそれなりの理由が、考えがあるのだろう。

「任されたからにはやるしかないさ、取り敢えず……作戦会議か?」

腹を括ったと言えば聞こえは良いが、やると決めたからにはやるしかない。

メイヤは早速、配られた書類に目を通していく。

そして、イスラとアグル、メイヤが一通り読み終えただろうタイミングを見計ったバッハが口を開いた。

「今回の任務は討伐任務です、討伐対象は吸血鬼。

王や長と呼ばれるらしく、高位の存在だと予測されます。

バルクウェイから南西方向、群青の街中央の城に居を構え、毎月事に生贄を求めている模様ですね。」

「……吸血鬼か、一度戦った記憶はあるけど、厄介だったな。」

「空間転位術と優れた再生能力、文献によれば肉片一つから復活した等と、厄介過ぎる相手です。」

バッハの説明によれば、件の吸血鬼は世界政府ですら討伐に失敗した程の強者であるらしい。

彼の話を聞きながら、メイヤは考える。

「取り敢えず、今夜はここまでにましょう。

出発は明日明朝ですので、それまでに各々準備をして下さると助かります。

あ、装備品等は幾つか見繕って持ってきているのでお好きなのをどうぞ。」

だが、その考えが纏まらない内に、バッハは説明を終えてしまった。

「それでは、皆様また明日。

私はもう少し艇の整備をするので、何かあればお呼び下さいね。」

そして、書類を手早く片付けた彼は巨体を屈めて窮屈そうに部屋を後にした。

ーーーーー

思ったよりも海風はべたつかず、夜風は涼しい。

会議が一応は終わり、各々が部屋へと戻った後。

メイヤは一人、月明かりに照らされる甲板上へと出て来たのだが……

「……なんだ、居てたのか。」

どうやら先客が居たらしい。

甲板へ腰掛ける赤毛の青年、イスラの背中を見つけ、メイヤは声を掛けた。

「寝れない、訳じゃ無さそうだな。」

386イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2015/08/01(土) 05:33:29
【飛行挺】

不意に声をかけられ、イスラは背後を振り返る。
メイヤの姿を瞳に映すや、ああ。と、どこか力なくだが口の端を小さく持ち上げた。

「サンディの気を探してたんだ」

そしてその視線は再び水平線の向こう側へ。
彼の浮かない表情から察しても、結果は思わしくないようである。

「あの時…、目の前の危機的状況に対して、俺は咄嗟に反応できなかった…。
飛び出して行ったサンディを止めることもできなかった」

もしかしたら彼女はもう…。
そんな脳裏にちらつく恐ろしい考えを、振り払うことさえできない。

「女の子…しかも自分よりも年下の子に体を張らせて助けて貰うなんて…」

情けない。とイスラは言った。

387メイヤ ◆.q9WieYUok:2015/08/03(月) 13:58:30
【飛行艇】

「情けない、か。」

水平線へと視線を向けるイスラの声は、どこか弱々しく感じる。

聞く所によると、サンディは身を呈して闇の渦を消し去ったらしいが……

「サンディはきっと生きてる。

死体は出てないんだろう、有名な猫と確率の話とは違うけど、死体も、死んだ瞬間も、見てないなら可能性は0じゃない。」

そう考えないと、心が保たない。

「だから……とは言わないけれど、そう、あんまり気を落とさないでくれ。」

ましてや真面目なイスラの事だ、落ちだしたら底が知れないかもしれない。

甲板に座るイスラの隣に立ち、メイヤもた、水平線へと黒瞳を向ける。

「そう言えば、イスラの仲間達……先代の四神はどんな人達だったんだ?」

【イスラ》毎日の様に飲んでてヤバいwwww←

おー、イスラの案は両方共に良いですな!

話は合わすんで、また何かあれば言ってくだせー!

いやホント予想外の返しで焦ったwwけど、やらせていただきます!ww吸血鬼組も良いネタ思い付いたんで任せろー!】

388イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2015/08/09(日) 11:57:17
【飛行挺】

どうやら今の自分の態度は想像以上に情けないものだったらしい。
メイヤに気を使わせてしまったことを悪いと感じながら、イスラは小さく笑みを見せる。

「ああ…、いや、すまない。
俺なら大丈夫だよ」

彼の言う通りだ。悲観的に考えていても仕方がない。
イスラは気を取り直すかの様に少し体勢を崩し、楽な姿勢で話し出した。

「そうだな…、リマ…ポセイドンは少し内気な感じの可愛らしい娘だ。
最年少で世間知らずなところもあってか、つい世話を焼きたくなると言うか、護ってあげたくなると言うか…。
あとたまに一人で突っ走って無茶やらかすんで色んな意味で目が離せなかったな。

トールはメンバー内のムードメーカーで、こいつのおかげで旅の途中も退屈しなかった。
いつも女の子を追いかけまわしてるような軟派な奴だったけど、やるときはしっかり決めてくれるとこなんか俺には絶対真似できないなぁって思う。

フレイヤは頼れる皆のお姉さんって感じだな。面倒見が良くて何でも器用にこなしてくれる。
でも気が強くて怒ると怖かった。
女の子には優しくて男には厳しいタイプなのか、アグルなんかはよく怒られてたし、俺もいいようにコキ使われてたよ」

何だか懐かしい。
自分の表情が柔らかくなっていくのが自分自身で分かる。
同時に、同じようにこの時代に飛ばされてきたリマと、あまり話す時間が取れなかったことが悔やまれる。

「今の四神の皆を見てると全然違うんでびっくりするよ。こっちはこっちで個性豊かで面白いけど」

389イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2015/08/12(水) 04:14:27
【↑はアグルじゃなくてレイヴンでした;

ヤツキ>呑まないとやってられないってやつですか?w
そちらも何かあれば言ってください、自分も合わせますので^^

自分は最初からそのつもりでしたよ(笑)
マジですか!じゃあよろしくお願いします!】

390リマ ◆wxoyo3TVQU:2015/08/13(木) 19:16:09
【過去】

「アブセル、あんた・・・・・」

アブセルがリトの事を好いていないことには何となく気づいていた。
しかし、同い年だし、男の子というのは細かい事にこだわる性格ではないため一緒に過ごさせておけば時期に仲良くなると思っていた。
自分の考えが浅はかだったと、ナディアは頭を抱えた。

恐らく・・・・・事の重さの程度は理解していなかったとは言え、アブセルはリトを外に出せば問題が起きる事を知っていた。
完全に悪意のある行動。許せない。

「・・・・・」

苛立ちを顕にするナディアだったが、不意に服を引かれる感覚に気付き我に返った。
見ればリトが何か言いたげな表情でこちらを見上げている。

「リト、どうした?」

しかし、リトが何を伝えたいのかまでは分からない。

(ちゃんと言葉にしないと分からないよ)

沈黙の中から懸命にリトの心情を読み取ろうとするナディアの顔を見上げ、リトは先程出会った少年の言葉を思い返した。

(大丈夫、怖がらないで)

「・・・・・ねこ・・・・・」

「・・・・・ねこ?」

リトが口を開いた。それだけでも驚きではあるが、それ以上に、彼から発せられた言葉の意味が分からずナディアは疑問符を浮かべる。

「にゃーって・・・・・動いてた。ねこだって。甘いの、食べた・・・・・冷たいやつ・・・・・。」

しかし、すぐに謎は解けた。

「・・・・・楽しかった」

リトが外に出たのは今回が初めてで、見るもの全てが珍しかったのだろう。
動物だってヌイグルミでしか見たことがない。同じ姿の生き物がいるなんて知らなかったのかもしれない。

父親がリトに危害を加えないようにするのに必死で、リトの自由を奪っていたのは自分も一緒だった。リトを心配していたつもりで、やっている事は大人達と同じ。
今だってリトを外に連れ出したアブセルを窘めようとした。他の奴等と同じように・・・・・
アブセルは自分が父親の顔色を伺って出来なかったことをやってのけたのだ。リトに世界を見せてくれた。

「ごめん・・・・・」

ナディアはリトの頬に手を触れた。不思議だ。いつもは手を伸ばすと怯えて身を縮ませていたリトが、逃げることなく受け入れてくれた。短時間なのに、リトが変化を見せている。
ナディアはそのままリトを抱き上げる。折角の機会だから調子にのってみたけれど、やはりリトは逃げなかった。初めての抱っこ、彼の重みを感じられる事が嬉しい。リトはリトで自分が何をされているのか分からず不思議そうにナディアを見下ろしているが、構わずナディアは笑ってみせた。

「部屋に戻ろう。ごめんな、今は出来ないけど・・・・・いつか必ず、あの部屋から出してやるから。」

そしてそのままアブセルの方へ向き直る。

「怒鳴って悪かったな。動機はどうであれ、結果的にあんたは良い事をしてくれたよ。」

ついでに乱暴ながらも優しく頭を撫でてやる。

「リトに助けられたな。あんたに100倍返しするとこだったけど、リトに免じて許してやる。もう虐めるなよ。」

アブセルは子供だからリトの置かれている状況を理解出来ていない。今は知らなくていいとも思う。いずれ成長するにつれて気づいていくだろう、ポセイドン邸に潜む闇に。
それまでは何の見返りもない普通の友人として、リトと仲良くなって欲しい。リトを主としてでなく、友として守って欲しいから。

391リマ ◆wxoyo3TVQU:2015/08/13(木) 19:31:48
↑ナディアだった( •́д•̀ ;)

またまたお久しぶりです( ´•̥̥̥ω•̥̥̥` )

イスラ>>
説明ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)まだ無理そうなんですけど、時間出来たらちゃんと自分で読み返しますね( ´•̥̥̥ω•̥̥̥` )


綺麗でクオリティ高いのに気に入らないとは何事ですか(╬•᷅д•᷄╬)←笑
確かにリトは肌弱いと思われます(笑)日光当たると火傷しちゃう←
でも暑いものは暑いんで、アブセルに団扇あおがせたりとかこき使ってそう(笑)

イスラさんの絵大好きなのでまた沢山見たいです(๑⃙⃘´ꇴ`๑⃙⃘)


ヤツキ>>
まだ就職決まらない( ´•̥̥̥ω•̥̥̥` )筆記試験はパス出来るのに面接で落ちる(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
性格を否定されてる気分( ´•̥̥̥ω•̥̥̥` )

そして夏バテた…咳が止まらんでやばいっす(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

ありがとう!時間出来たら読み返します(`・ω・´)

392メイヤ ◆.q9WieYUok:2015/08/14(金) 22:52:37
【飛行艇】

確かに、今の面子と比べると真逆だったりとその違いが良くわかる。

「だけど、芯の部分は似通ってたりするんだな。」

だが、直系の子孫だからか、性格上な部分はまったくの別物でもなさそうだ。

姉御肌のナディアは、激情に任せ突っ走りそうな節もある。

アグルは何時も飄々としているが、案外冗談が好きそうにも見える。

レックスは……聞く限り先代と変わらない性格のようだ、いつか自分も顎で使われる時が来るかもしれない。

「個性的、なのは全く持ってその通りだけどさ。」

少しは気が紛れただろうか、姿勢を崩して話すイスラの表情は先程よりも柔らかく見える。

「四神全員が上手い具合に纏まれば良いな……」

その為にも、まずはリーダーとして頑張らなければ。

「出発は明朝だったっけ?夜更かしして寝坊する訳にもいかないし、そろそろ戻ろう。」

ーーーーー

バルクウェイからの出立も、その道中も驚く程順調かつ迅速だった。

聞けば、バッハは師団の参謀かつ補給部隊の長らしい。

裏方仕事は得意分野です、と静かに笑う彼のおかげか、飛行艇は無事に目的地へと着いたのだが……

「何でこんな事になったんだ……!?」

目的地、群青の街へ到着したのは日も沈む頃。

先ずは情報収集を、との事で訪れた酒場は予想以上に騒がしく、話を聞くどころではなかった。

その様子は、吸血鬼に支配された街と言う先入観が吹き飛ぶ程。

そして、老若男女が騒ぐ酒場から抜け出せずに二時間。

巨漢からは想像の付かない酒の弱さを露呈したバッハが良い潰れ、その隣でメイヤは思わず天を仰いだ。

393ナディア他 ◆wxoyo3TVQU:2015/08/17(月) 02:11:03
【ポセイドン邸】
>>356

言葉を発せさせんと口を塞いできたアブセルの手にノワールはジタバタと抵抗し、反射的ながらもアブセルが少なからず怯んだ際に出来た隙間を利用しその皮膚へと噛み付いた。

「わらわに気安く触れるでない!」

そしていつものごとく、アブセルの脛へ足蹴をお見舞いする。

そんな騒ぎを耳に流しながら、ナディアは思い出したかのように小さく息を吐く。

「そうだ、母様・・・・・」

ミレリアは今どうしているだろう。
葬儀の準備は着々と進んでいるようだ。今頃、彼女もヨハンの死を既に聞いていることだろう。

ナディアは思案げな素振りを見せつつ、ふとセナを見る。

周りの意見を無視して"リト"を表に出さない手もある。しかし、そうすると後々面倒なことになるのは必至。
しかしアブセルの言う通り、葬儀の場で騒動が起きることは避けたい。
ならば、致し方ない。

(先に会わせてみるか・・・・・)

不安はある。別人とは言え、全く同じ顔をしているのだ。ミレリアは見分けを付けることが出来ないだろう。
となると、リトと同じ態度をセナにも取るはず。

「アブセル、あのさ」

ナディアはアブセルの腕を引き、彼に耳打ちする。

「セナを母様に会わせてくる。母様のこと、知っておいてもらった方がいいと思う。だけどリマはちょっと・・・・・あとあのチビ(ノワール)。あんた、適当に誤魔化して二人連れて何処かで時間潰しといてくれない?」

セナはきっと、母親の態度に動じることはないだろう。理不尽には思うかもしれないが、その点は後で詫びることにする。
しかし問題はリマだ。自分の想い人が謂れなく罵倒される姿は見るに耐えないだろう。セナに至ってもそう。自分に関することでリマが傷付くなど許さない。しばし共に過ごす以上リマも母親との確執をいずれ知ることになるかもしれないが、今敢えて垣間見せる必要はないとナディアは考えた。
ノワールは、何となく、本当に何となくだが面倒を起こす気がするため遠慮願うことにしておく。一体リトはこの娘を何処で拾ってきたのか、おそらくリトに懐いているのだろう分は微笑ましい限りだが、リトが関わる事柄になると形振り構わず辺りに喧嘩を売りまくるから困る。

「じゃ、頼んだから」

394アグル ◆Hbcmdmj4dM:2015/08/23(日) 01:07:37
【過去】

てっきり怒られると思った。
ナディアが手を伸ばした瞬間、殴られると身構えたがそれも違った。

頭に触れる優しい感触。アブセルは不意をつかれ目を丸くした。

「待って、おば…、お姉ちゃん…!」

恐らくリトは意図していなかっただろう。しかし結果として彼に助けて貰ったのは事実。
アブセルはリトを抱きかかえ屋敷の中へ戻ろうとするナディアと、そしてヨノに駆け寄った。

「どうしてリトは外に出ちゃいけないの?
リトの病気ってそんなに悪いの?
さっきのおじちゃんは、薬を持って行くようにとは言ったけど、外に出るなとは言わなかった」

先程リトは楽しかったと言った。彼にとっては倒れたりと散々だったはずなのに、だ。
でも…うん、そうだ。今思えば、自分も結構浮かれていたのだと思う。

友達同士で一緒に出かけたり、クレープを食べたり。多分ふつうの子供達にとって、それは何ら珍しいものでもないのだろう。

しかしアブセルにとっては、子供同士で同じ時間を共有したのは今日が初めてのこと。
そしていつもは、そんな遊んでいる子達の姿を見かけては、ただ羨ましいと遠目から眺めているだけだった。

またリトと一緒に遊びに行きたい。

言葉には出さずとも、分かりやすい程にアブセルの表情がそう物語っていた。

「俺…、旦那様に(リトが外に出れるように)お願いしてみる。
あと今日のこと、リトは悪くないってことちゃんと話す。そしたら旦那様だってリトのこと許してくれるよね?」

395アグル ◆Hbcmdmj4dM:2015/08/23(日) 01:09:28
【群青の街】

「情報収集がいつの間にか酒の呑み比べになったからだな」

酔い潰れ机に突っ伏したバッハと、困り果てたような様子のメイヤ。その横でアグルはそう気怠そうに、かつ冷静に今の状況を説明した。

どこにでも酒の強さを競いたい者はいる。
呑み勝負に勝てれば情報を提供すると提案した馬鹿な輩のせいで、事情聴取は進まないどころか足止めさえ食らっている始末だ。

因みにイスラも開始早々に轟沈した。どうやら彼も酒は苦手のようである。

「どうすんの、リーダー?
あ、もう帰っちゃう?面倒臭いし」

少なくともこの酒場の連中は吸血鬼の脅威に怯えているようには見えない。

特に協力する気もないアグルは、非協力的な態度丸出しで全てをメイヤに丸投げするのだった。

396メイヤ ◆.q9WieYUok:2015/08/24(月) 13:59:17
【群青の街】

どうにもこうにも、ここは一度引くしか無いだろう。

話術にも長けているであろうバッハが酒に潰れ、見ればイスラも轟沈している。

空のグラスを前に平気な顔をしているアグルは飲むか飲まずか。

「取り敢えず船に戻ろう……

イスラは俺が抱えるから、アグルはバッハを頼む。」

こうなっては情報収集もくそも無い、バッハの懐から紙幣の束を引っ張り出し、メイヤは会計を済ます。

店員の言い値だが今は仕方がない。

受け取った釣銭をポケットにねじ込み、メイヤはイスラの肩を担ごうとし、気付いた。

(……紅、瞳……?)

笑顔でありがとうございましたと言う店員の少女も、騒ぎ続ける客達も。

その全員の瞳が、紅い。

動きを止めたメイヤへと笑顔を向ける店員の口元から覗く犬歯は鋭く、牙の様にも見える。

否、犬歯では無くソレは牙だ。

(まさか、この店……っ!?)

吸血鬼の支配に怯える街とは思えない程の活気さの理由。

それは……

「そうだ、この店に居る連中は、お前ら以外全員吸血鬼なんだよ。」

不意に止む喧騒と、それに続く男の声に、メイヤは動きを止める。

「この店の生物はヴァンピーア、確認せず入ったお前らはただの活き餌な訳だ。」

酒やけした声で話す男、酒場の入り口からゆっくりと歩み寄るその男を凝視し、メイヤは唇を噛んだ。

燃える様な赤髪を逆立て、紅瞳は燐光に揺れ。

過度なまでの装飾品が着いたレザージャケットを着こなし、ニタリ、と笑うその男はこう名乗った。

「俺はメルツェル、メルツェル・グランスール。

十三人の長老が一人、融の派閥の頭だ。

ついでに言うと、今はこの街の長だな。」

【長老追加でー。

メルツェル・グランスール
男性/吸血鬼
赤髪紅瞳/長身痩躯
パンクロッカー風の衣装を着こなす見た目チンピラな十三人の長老
融の派閥の長で、喧嘩っぱやい
弱い者イジメが好き、仲間意識は薄い、と立ち位置的には嫌われ者ポジション
あらゆる物を溶かす、融解させる能力を持つ

です!】

397メイヤ ◆.q9WieYUok:2015/08/24(月) 19:42:46
【やらかした、誤字発見……

店の生物→店の名前で】

398アブセル ◆Hbcmdmj4dM:2015/08/30(日) 01:17:24
【ポセイドン邸】

「分かった。任せとけ、お嬢!」


(……って、何で言っちゃったかな…。)

…ところ変わって屋敷内の庭園。机の上に置かれた三人分のカップに紅茶を注ぎながらアブセルは秘かに溜め息を溢した。

あの後すぐ、「話がある」と声をかけ、リマとノワールをこの場所まで連れてきた。
それだけでは何となく手持ち無沙汰なので、紅茶と菓子も用意した。

しかし傍目から見れば緑に囲まれた優雅なお茶会といったこの光景も、実際はそんなに穏やかなものでもない。

そもそも先程はナディア達の役に立てるのが嬉しくてついつい弾みで任されてしまった訳だが、正直なところ自分もセナや奥様の方に立ち会いたかった。
よって、話がある。などと言うのは全くのでたらめである。

それに何故かは知らないが、最近のノワールは何だかやたらと機嫌が悪い気がする。とりわけリマやセナといる時なんかは一段と酷い。

今だって…、さっさと話せ、用がないなら妾はもう行くぞ。とばかりに今にも席を立ち上がるんじゃないかという雰囲気だし。

「え…えーと…、まぁその、話って言うのはあれなんだけど…」

とにかく何か話さなければ。
アブセルはリマとノワールに茶菓子を持て成しつつ頭を回転させる。

「ふ…二人はリトのこと、どう思ってる?」

399アグル ◆Hbcmdmj4dM:2015/08/30(日) 01:20:47
【群青の街】

気づけば店の者達に取り囲まれている。
無数に光る彼らの紅瞳。それを見た瞬間、そう言うことか…と理解した。

(…もしかしてこれ、やばいんじゃねーの…?)

袋の鼠もいいところ。
まんまと彼らの罠にはまってしまったと言うわけだ。

しかもこちらはイスラとバッハという二つのお荷物つき。
彼らを庇いながらでは、戦うのも逃げるのも至難のわざだろう。

「ちょっと待ってよ。俺達べつに喧嘩しに来た訳じゃねぇって」

メルツェルと名乗った男。どうも彼がここの吸血鬼達の頭らしい。
アグルは両手を頭ほどの高さまで上げ、無抵抗を装いつつ彼に言った。

「ただの興味本位なんだ。ここの街の人間を服従させて好き勝手してる吸血鬼の噂を聞いてさ、実際どんなものか見たくなっただけなんだ。
歯向かうつもりはないんだって。なんならそこの二人(イスラ、バッハ)はあんたらにやるから、俺達のことは見逃してくれよ」

400イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2015/08/30(日) 01:32:42
【リマ>だって全然思ったとおりに描けなくて…(´Д`)
火傷はやばいwアブセルは頼まれなくても自ら進んで扇いでそうですけどねw

マジですか!?まさかそう思って頂いていたなんて…(;_;)はい、また時間が出来たら描きたいと思います!
就活頑張ってください!

ヤツキ>新キャラ了解です^^】

401メイヤ ◆.q9WieYUok:2015/09/04(金) 22:28:05
【群青の街】

「へ〜ぇ、興味本位で見にきたねぇ?」

両手を上げ弁明するアグルの言葉に、メルツェルは胡散臭さそうに目を細めた。
しかし、それも一瞬。

浮かべる表情を薄ら笑いへと戻しながら、メイヤへと歩み寄ると同時に、彼の腹部へ蹴りを叩き込んだ。
その威力は強く、重い。

メイヤは咄嗟に身を捩るも、衝撃を逃し切れずに吹き飛び、派手な音を立てて店内のカウンターへと激突。
肩を組み、抱えられていたイスラも床へ転がっていく。

吹き飛ぶメイヤと転がるイスラの様子を鼻で笑い、メルツェルは続ける。

「ここ数日、下僕の吸血鬼共が立て続けに狩られててな。

七世代辺りのなら気にはしねーんだがよ、三世代の吸血鬼が跡形も無く消されてるのは流石にヤベーんだわ。

テメーらが吸血鬼狩ってる奴かも知んねーからな、疑わしきは何とやらだ。」

そして、薄ら笑いを僅かに歪め、メルツェルはアグルの喉元目掛けて手刀を放つ。
何の予備動作もなく放たれたそれは、吸い込まれるかの様に伸びて行き、止まった。

否、止められた。

「……あぁん?何しやがるんだ?」

アグルの喉元の数ミリ手前で止められた手刀、その手首を誰かが掴んでいる。
寒色系のネイルアートが施されたその手の主へ、メルツェルは視線を移した。

「誰かれ構わず喧嘩吹きかけるのはよろしく無いわ、まるでどこかの誰かさんと同じね。

まぁ、アナタの場合は弱い者虐めだけど。」

メルツェルの紅瞳に映る人物、銀髪のその女性……フィアは、呆れた様に口を開いた。
その後ろには、同じく吸血鬼であり、長老であるシャムとDDの姿も見える。

「アナタが手を出そうとした一行は私の顔見知りよ。

だからと言うのも変だけど、今回は見逃してあげて。」

自分と同じ長老が3人、その中ではフィアに一番発言力があるらしい。
歪めた頬を戻し、メルツェルは再び鼻を鳴らした。

「けっ、仲良しこよしかえ?

まぁ良い、丁度話してー事もあるし見逃してやるよ。」

そして、フィアの手を振り払うと同時に、アグルとメイヤへ向かって手をヒラヒラと振った。

「ただし、赤毛とオッサンは置いてけぇ。

返して欲しけりゃ明日夜、城へ来い。

面白ぇゲームをクリア出来たら返してやるよ、ほれ、わかったならさっさと失せろ。」

402アグル ◆Hbcmdmj4dM:2015/09/14(月) 17:34:05
【群青の街】

仲間を置いていけと言うメルツェルの要求に、アグルは一瞬気を詰めたような様子を見せる。
しかしそれは本の一瞬のこと。直ぐにいつもの眠たそうな表情に戻ると、特に何を言うでもなくメルツェルから顔を背け、そのままメイヤの元へ歩み寄った。

「……立てるか?」

そうしてメイヤに肩を貸し、その場に居る誰一人に一瞥もくれることもなく店を出ていった。

「はっ、あんにゃろぉ、礼の一言も言わず出ていきやがった」

それを眺めていたシャムは、彼等が潜っていった店の扉を睨み付けながら悪態をつく。
少しばかり面識があるからとはいえ、フィアが何故あの連中を助ける気になったのか甚だ疑問だ。

しかし今はそんなことよりも、他に論点を向けるべきものが別にある。

「…よお、元気そうだな。その小者くせぇ性癖も相変わらずの様で安心したぜ」

シャムは見下す様に軽く顎を上げ、口元に嘲笑を浮かべながらメルツェルを見た。

「で、話っつーのは何だ」


……一方、店を出たアグルはその足で、メイヤと共に今晩泊まれる宿を探し街をさ迷い歩いていた。
そして何故かその横には…。

「…何であんたまでついてきてる訳?」

「ホテルまでのボディーガードよぉ。人間にこの街は物騒でしょ?」

アグルの視線の先にはどういう訳かDDがいた。
ピンヒールのカツカツというタイルを叩く音を引き連れながら、ぴったりと二人に合わせて並行している。

「それよりまさか、こんなところで逢えるなんて思わなかったわぁ。アタシってば久しぶりに運命感じちゃったー。
あ、さっきはメルメルがごめんなさいねぇ、彼、昔からああなの。許したげて」

彼は話を変えると、やや興奮気味にこちらに身を乗り出してきた。
それとは逆に、アグルは若干身を引きながら怠そうに言葉を返す。

「アンタどっちの味方なんだよ。
どうせならアイツ説得して、俺らの連れも持ってきてくれれば良かったのに」

「あらぁ?でも貴方、さっきはそのお友達売ろうとしてたじゃなぁい?」

「あれはただの冗談…」

つまらない冗談ね。と乗り出していた居住まいを正しDDは肩を竦めてみせた。

「メルメルのやり方は好きじゃないけどぉ、アタシも一応長老の一人だもの。そこまで表だって人間の肩は持てないわぁ。メンツだってあるしね」

そう言うや、彼は再び顔を寄せてくる。
気のせいだろうか。一際メイヤに熱い視線を送っている様に見える。

「でもぉ、お忍びなら話はべつー。
今日はアタシが付きっきりで看病してあげましょうかぁ?」

403メイヤ ◆.q9WieYUok:2015/09/18(金) 21:37:10
【群青の街】

「……そうだな、付きっ切りで看病、もとい、ボディガードなら頼みたい所だ。」

見逃され、逃げる様に後にした酒場とは打って変わって街の雰囲気は暗い。
だが、これがこの街の本来の姿なのだろう。

蹴りを入れられた腹部をさすりながら、メイヤは周囲を伺う。
痛みは大分引いてきたが、痩身から繰り出されたとは思えない程の威力だった。

「単なる情報収集の筈が大変な事になったが……」

とんでもなさそう火に入る夏の虫か、大火傷を負ったと言っても過言ではない状況に、メイヤは溜め息を吐く。
そして、DDの熱い視線を受け流し、足を止めた。

「囲まれてるな。」

それと同時に、暗闇から次々と人影が現れ、三人を囲む様に陣を取った。
その様子を伺いながら、メイヤは腰に挿した剣の柄に手を掛ける。

黒瞳の先に映るのは、夜に紛れる様な黒外套を羽織った集団。
背丈はバラバラだが、外套からは白い鎧の様な物が所々に見える。

ーーーーー

「テメェは相変わらず頭悪そうなツラしてんな、チンピラ崩れの喧嘩屋みてぇだゾ?」

アグルとメイヤが酒場から逃げる様に去った後、メルツェルはフィアとシャムを連れて街の中心に位置する居城へと戻っていた。
城内の大広間へ二人を通し、メルツェルは口を開く。

「あのクソオカマはともかく、お前ら二人が人間界まで来るとはな。

まぁ、話っつーのはアレだ、ここ最近下僕共が狩られててよ。」

その口調からは、僅かながらも怯えが見て取れる。

「第三世代辺りがほぼ全滅してやがってな、それも相手は正体不明。

どうやら結構な頭数は揃えてるみてーだが……何か知ってっか?」

普段は十字界で各々の領地を守り、軽い小競り合いを続けている為に、長老達が顔を合わす事は中々無い。
ましてや人間界へ出ている長老など極々稀だ。

その為、意外にも長老間の情報のやり取りは少い。

「場合によっちゃぁ大事になるかも、しんねぇ」

ーーーーー

始まりは突然だった。
柄に手をやり、周囲を伺う。

辺りに自分達と謎の集団以外の人影は見えず、虫の音一つ聞こえない。

出来れば刃を抜きたく無い、そう考え始めたその時。
自分達を囲む一団が、刃を抜き音も無く襲い掛かって来たのだ。

外套を脱ぎ捨て、闇に紛れながら襲い来る一団は速い上に連携が取れている。
所々、その速さに着いて行けない者もいるようだが……

(上手い具合に穴を埋める!!)

長い黒髪の男がそれをフォローしており、そこを突くどころか防戦一方だ。

(クソ、このままじゃっ)

404アグル ◆Hbcmdmj4dM:2015/10/04(日) 20:46:04
【群青の街】

「ははッ、そりゃ面白ぇ。
尻尾を掴ませずに第三世代の連中をやるとか結構な手練れじゃねーか」

一連の話を聞いたシャムは、さも愉快そうに歯を剥き出し笑った。

メルツェルの派閥が被害を被っていることもいい気味だが、彼の言う正体不明の相手にちょっとばかり関心が沸いたのだ。

とはいっても、この一件に関わる気など更々なければ、それに対し何らかの情報を持っている筈もない訳で。

「ま、大方この街の人間が雇ったハンターだとか、過去にてめえに謀られた吸血鬼共の復讐だとかじゃねーの」

どちらにしても自業自得だ。と、シャムは高みの見物気分で素っ気なく返した。


……………

突如襲いかかってきた謎の集団。
メイヤと二人、何とか攻撃を凌いではいるものの、
数の点でも不利な上に相手の動きも素早く中々反撃に転じられない。

そして、その理由としてもうひとつ…


「キャーッ、やっだ〜、なになに〜、こわーい」

DDの存在が要因として上げられた。

胸の前で手を組み、内股で悲鳴を上げる彼は、か弱い乙女の演出に余念がないのか、その場から全く動こうとしない。
加勢しろとは言わないまでも、せめてこの場から逃げてくれたのなら、こちらとしても彼を庇う必要がない分いくらか楽なのだが…。

「ちょっとちっょとぉ!しっかりしてぇ!右から来てるってば、ほらっ!ちゃんと見てぇ!やんっ危ない!」

「……(うぜぇ…)」

鬱陶しくて目の前の戦いに集中できない。

そんなアグルの気持ちも露知らず。二人に野次という名の声援を送りつつ、しばらく現状を見守っていたDDも、現在の戦況が好転しないことを見て取ると、ようやくその重い腰を上げるのだった。

「…もう、しょうがないわね〜。加減できないと思うから貴方達二人も気を付けてね」

そして本当にどこから取り出したのか。忽然と現れた身の丈ほどもある巨大メイスを握り、思い切り足元に降り下ろした。

直後、大きな音と共に足元が砕け、陥没する。
メイヤやアグルならず、敵も、周囲に建ち並ぶ建物も全部巻き込んで、地面は大きく崩落した。

405メイヤ ◆.q9WieYUok:2015/10/08(木) 23:26:51
【群青の街】

途絶える事無い波状攻撃は、派手さは無くとも堅実だ。
致命傷こそは避けているものの、ダメージは蓄積されていく。

オマケに、全く可愛く無いDDの悲鳴が集中力を削いでやまない。
加勢しろとは言わないが、せめて逃げてくれれば……

止まる事を知らない連続攻撃を凌ぎながら、メイヤは願った。
それが通じたのか、DDが事を起こした。

どこからともなく巨大なメイスを取り出しし、それを地面に叩き付ける。
その威力は凄まじく、広範囲に渡って亀裂が走ったかと思えば、次の瞬間には周囲一帯が轟音を立てて陥没し、崩れ落ちた。

勿論、メイヤもそれに巻き込まれて行く。

(なんて馬鹿力だっ……!)

土砂が降り注ぐ中、メイヤは咄嗟にアグルへと手を伸ばす。
そして、その手を掴んだと同時に背中から闇の黒翼を生やし……否、生えない。

「闇が……出ない!?」

出せると思った翼は出ず、メイヤは驚愕の表情を浮かべる。
しかし、驚いている暇は無い。

(このままじゃ……生き埋めに……っ)

その時だった。
一瞬の浮遊感が止まり、崩落する周囲一帯がコマ送りの様に巻き戻されて行ったのは。

強烈な耳鳴りと、うねる様な気色の悪い感覚にメイヤは思わず顔をしかめる。
そして、気がつけば周囲一帯は崩落する前、DDがメイスを叩き付ける寸前の状態に戻っていた。

「何が……起こった……!?」

ーーーーー

「アァン!?何だかテメェ楽しそうじゃねぇか!?」

歯を剥き、話を笑い飛ばすシャムの態度にメルツェルは眉間に皺を寄せ、彼へとガンを飛ばす。
しかし、それも僅かな事。

舌打ちをしながら、メルツェルは悪趣味かつ下品なまでに飾り立てられた椅子に座り直す。

「ケッ、これだから脳たりんの喧嘩屋はよぉ……」

どうやらシャムはこの件に関わっては無いらしい。
第三世代の吸血鬼を跡形も無く消滅させる程の力の持ち主……真っ先に浮かぶのは同じ長老達だったのだが。

「で、テメェらは何の用だっけか?つーかあのオカマはどこ言ったんだ?」

椅子に座り直し、ふんぞり返るメルツェルはシャムと、その隣のフィアへ何用かと声を掛ける。

その一拍後だった。
外から聞こえる轟音と共に城が揺れ、どこか懐かしい様な奇妙な感覚がメルツェル達三人の長老を包んだのは。

「何だ、こりゃあ……?」

「……ヤダ、この感じ……どこかで!?」

406メイヤ ◆.q9WieYUok:2015/10/08(木) 23:28:22
ーーーーー

「そう驚く事は無い。

何、時間を僅かばかり戻しただけの事だ。」

戸惑いの表情を見せるメイヤの視線の先。
メイヤ、アグル、そしてDDを囲む集団の中央、黒髪の男は低い声でそう言った。

「流石は古の長老、メイス一つで街の人区画を崩落させるとは。

お付きの二人も中々の手練れ、単体ならば第二世代の吸血鬼以上か。」

黒髪の男は月光に輝く剣をDDへと向け、続ける。

「長老と合間見えるは初、名乗ろうか。

我等は吸血鬼を狩る者、聖十字騎士団である。」

男は三十代中頃か、その顔には幾つかの傷痕が見てとれる。
そしてその傍ら。

小柄な人影が、頭巾から覗く白とも灰にも見える髪を揺らし、その奥の双眸をDDへと向けている。

「長きに渡り、闇に紛れ吸血鬼を滅して来たが……今ここに。

我々は長老を含めた吸血鬼全てに宣戦を布告する。」

その言葉と共に、男を中心とした集団は一斉に外套を翻し、順々に夜の闇へと消えて行く。

「この街の主にも伝えるが良い、最期の晩餐を楽しめ、とな。」

そして、男は純銀の剣を投擲し、刃がDDの頬を掠めると同時に、消えた。

「…………一体、何だったんだ……?」

襲撃するだけ襲撃し、捨て台詞と共に消えた一団。
その気配が完全に消えたのを確認し、メイヤは大きく、長い溜め息を吐いた。

407メイヤ ◆.q9WieYUok:2015/10/16(金) 18:51:54
【なーんか久し振りに絵描きたくなったから、何かリクエストあればオナシャス!】

408イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2015/10/17(土) 00:20:58
マジっすか!
じゃあ時期的にハロウィン風なイラストお願いします!(`・ω・)ノ

409メイヤ ◆.q9WieYUok:2015/10/17(土) 12:48:13
おけー、首をながーくして待ってろ!←

410DD ◆Hbcmdmj4dM:2015/10/18(日) 01:55:14
【群青の街】

男達が立ち去った後、深いため息をつくメイヤの横でDDは思案顔で頬に手を触れた。

「聖十字騎士団か…。何だか穏やかじゃないわねぇ…。
アナタ達も、巻き込んじゃったみたいでごめんなさいね」

男の言葉通りなら、連中の狙いは吸血鬼である自分だった筈。
たまたま共に居たために、巻き込むはめになってしまったメイヤとアグルに申し訳なく、謝罪の言葉を述べる。
と、そこへ…。

「おい、何があった」

空間跳躍でシャムら三人が到着した。
どうやら事の異変を察知し、疑わしいと思われる場所まで赴いたようだ。

シャムはそこにメイヤとアグルの姿を見咎めるや怪訝そうに顔をしかめるも、直ぐに現場に残された純銀の剣の存在に気がついた。

「待って、その剣には触らない方がいいわ」

「あぁ?」

しかし、剣を拾い上げる前にDDがそれを止めた。
そして自身の頬を示し、言った。

「傷が治らないの…」

確かにそこには小さな切り傷が一つ付いていた。
先程の男が投げた剣が、頬を掠めたさいに出来たものだ。
普段ならば、この程度の傷など一瞬もかからない内に回復するのだが…。

「まさか。人間共が創作した都合のいいおとぎ話でもあるまいし、俺らに銀やニンニクが効くかよ」

半信半疑にそう言ってのけるものの、シャムも警戒してか手を引っ込めたようだ。
そしてDDはその剣のことも踏まえ、先程の出来事を三人に話すのだった。


【楽しみに待ってます!】

411メイヤ+etc ◆.q9WieYUok:2015/10/19(月) 14:53:51
【群青の街】

遂に姿を現した、明確な敵。
今まで刃向かう者は多々居たが、今回は強さ、規模共に最大級だろうか。

「……ケッ、ビビってなんかねーぞ……、ゴミ共は皆殺しにしてやる。」

残された純銀の剣を睨み付け、メルツェルは毒を吐く。
しかし、その言葉の端々からは明らかな怯えが見てとれた。

その隣、DDの説明を聞いたフィアは気になる点を挙げる。

「組織名は初耳だけど、中々に厄介そうね。

統制が取れた戦闘集団と、限定的だけれど時間を巻き戻す能力者。

あの銀の剣を見るからに、対吸血鬼に特化した異能の装備品を所持しているのは明白よ。

……それに、あの異質な感覚。

先日闘技場で感じたモノと同じモノだわ。」

調査すべき対象と、敵対する者達が共に行動している。
これはかなりの面倒事になるだろう。

下手をすれば、十字界を巻き込む大きな火種に成りかねない。
そうなる前にどうにか対処しなければならないが……

自分達が十字界から人間界へ、そしてこの街へ来た理由をメルツェルへ説明し、フィアは視線を横へ。
そこで、気付いた。

「二人、消えたようね……」

メイヤとアグルの姿が消えた事に。

ーーーーー

全く、災難続きだ。
これ以上の厄介事は流石に簡便してくれとばかりに、メイヤはアグルと共に夜の街を駆け抜ける。

街の柄にも、宿屋は全く開いておらず、目指す場所は自ずと決まっていた。

街外れの小高い丘の影に、隠れる様に着陸した飛行艇へ戻り、メイヤはホッと一息着いた。

「早々から大変な事になったな……」

飛行艇内部の広間兼食堂のソファに倒れる様に座り込み、うなだれたまま続ける。

「状況をまとめ様にも、面倒が過ぎる……

取り敢えず、イスラとバッハが無事だと良いけど。」

412アグル ◆Hbcmdmj4dM:2015/10/26(月) 20:59:57
【群青の街】

「おいおい、しっかりしろよ。チキン野郎。
酒場でガキ共に見せてた威勢はどうしたんだよ」

いくら強がりを言おうが、メルツェルが怯えているのは明白だ。
シャムは激励のつもりか、彼の尻に蹴りを入れる。

「おら、頭下げてお願いすれば手ぇ貸してやらんこともねーぞ、んん?」

底意地の悪い笑みだ。
そんな様子を横目で見ていたDDは、呆れた風にため息をつき口を開く。

「もうアンタ達なに遊んでるのよぉ!いつまでもこんな寒いとこ居ないで一旦戻りましょうよ。アタシ疲れちゃったわァ」

どうにも顔に傷をつけられたことや、メイヤ達に逃げられたこともあってか、ご機嫌ななめな様だ。

「はあーぁ…、これちゃんと治るのかしら。こんなんじゃ恥ずかしくてデートも出来ないわ…。
あ、そうそう。その剣もちゃんと持って来てよね。帰って材質調査しなくちゃ」

…………


飛行挺に戻るや、アグルはメイヤの向かいのソファに寝転んだ。
足を投げ出したまま仰向けになり、相手の声を耳に、ぼんやりと天井の照明を見つめる。

もともと四人では少しもて余していたぐらいの挺が、今ではより広く感じる。

「…取り合えずさ、さっきの何とか騎士団達がここの吸血鬼を全部退治してくれるってんだから、それはそれで奴らに任せとこうぜ」

先程は理不尽にも戦闘に巻き込まれてしまったが、本来ならば自分達と彼らが敵対する必要はない筈なのだ。
何故なら彼らの狙いは吸血鬼であり、そしてこちらも吸血鬼討伐を目的としてこの街に赴いたのだから。

「奴らと吸血鬼達が争ってるそのど さくさに、なんとかイスラ達を助けられればいいんだけど」

上手くいけば、メルツェルの言う馬鹿げたゲームに付き合うことも、戦闘をすることもなく済むかもしれない。

413メイヤ ◆.q9WieYUok:2015/10/29(木) 14:02:53
【群青の街】

「ってぇな!ビビってなんかねぇんだよ!それにチキン食うにはまだ早ぇ
、クリスマスはまだだ!」

シャムに蹴られた尻をさすり、メルツェルは牙を剥く。
しかし、意地の悪い笑みを浮かべるシャムの意を汲み取ったのか、それ以上を続ける事は無かった。

どうやら面倒臭いどころか、かなりの大事になりそうだ。
しかし、必要以上に怯える事はない。

(喧嘩屋のシャムもDDのオカマ野郎も、冷血女のフィアも居る今なら負ける気はしねぇ……)

そう、今この街には自分と同じ長老が三人も居るのだ。
それこそ吸血鬼に始祖たる存在、オリジンが来ない限り負ける考えられない。

不機嫌そうに寒さを訴えるDDを一瞥し、メルツェルは口を開いた。

「あの剣は下僕共に運ばせる、最悪人間共使ってな。

取り敢えず城へ戻って腹拵えだ、最後の晩餐何てクソ喰らえ、うめぇもん喰って雑魚共を返り討ちにしてやる……!!」

そして、踵を返すと同時に空間を跳躍。
シャム達長老と共に居城へと帰って行く。

ーーーーー

「……そうだな、狙うは漁夫の利だな。

あの騎士団が吸血鬼達と戦っている間に上手い具合にイスラ達を助けだそう。」

敵の敵は味方か、はたまた敵か。
どうなるか分からないが、戦闘を避けれるに越した事はないだろう。

「その為には、どちらにせよ明日の夜も街へ、吸血鬼の居城の近くに行かないとな。

ゲームとやらが何かわからないけれど……取り敢えず、今日はもう寝よう。」

メルツェルが言ったゲーム。
内容はまだわからないが、その結果がわかるまではイスラとバッハへ手出しはされないだろうか。

二人の安否が気になるが、今夜はこれ以上何か行動を起こす事も無い。
明日に備えて休むべきだろう。

イスラとバッハが不在の今、普段以上に艇内は広く、そして静かに感じる。
ソファに倒れる様に座ったまま、メイヤはゆっくりと目を閉じた。

ーーーーー

目覚めは案外すっきりとしていた。
汚れた衣服を籠へ入れ、シャワーで身体を流す。
以前ならば一晩もすれは治っていた筈の擦過傷や裂傷に冷水が滲みるが、逆にそれで目が冴えた。

艇内に備えつけられた簡易シャワー室から出、手早く新しい衣服に袖を通す。
続くアグルがシャワーを浴び終わるまでに簡単な食事を用意し、メイヤは一通の手紙を……いつの間にかテーブルに置かれていたソレを手に取った。

「……」

そして、シャワーを浴び終え、食堂へと入って来たアグルへとその手紙を渡す。

「楽しい楽しいゲームのお誘いだそうだ!参加費無!。

ルールは簡単!居城中の吸血鬼三百体相手に一晩生き残るだけの簡単単純明解馬鹿でもわかる!

あぁ、夕暮れまでに城へ来なければ人質は無惨な姿になるから逃げるなよ!

じゃあ待ってるぜ、楽しく面白い姿を見せてくれ!」

アグルが封を開いた手紙には幾何学模様が描かれており、仕組みはわからないが、模様が光ると同時に、録音されていたらしいメルツェルの音声が食堂内へと響き渡る。

「……だそうだ。」

その言葉を無言で聞き終え、一拍の間を置いた後。
メイヤはどうする?とばかりにアグルへ視線を向けた。

414ヤツキ ◆.q9WieYUok:2015/11/10(火) 23:21:24
壁I:)サーセン、ハロウィンイラスト、修正不可なレベルの失敗をやらかしたんでまだしばらく掛かりそうっす……
辛うじて撮ってた下絵はこんなだったけど…orz
imepic.jp/20151110/836560

415イスラ ◆Hbcmdmj4dM:2015/11/12(木) 00:22:07
おおー!すごい大作な予感!
完成が楽しみです(´ω`)いくらでも待ちますので頑張ってください!

あとすみません;
こっちも本文のレスもう少し待ってください;

416ヤツキ ◆.q9WieYUok:2015/11/16(月) 19:29:03
【完全書き直しなんだけど構図浮かばねぇ……

了解、お待ちしますぜ!

とと、クリスマス辺りに神戸行くんだけどさ、シャレオツなレストランとかオススメありませんかね?】

417アグル ◆Hbcmdmj4dM:2015/11/20(金) 17:50:31
【群青の街】

「いや…、これは無理ゲーだろ…」

手紙の内容を聞き終えたアグルは、メイヤの視線に対し苦い表情を浮かべながら応えた。

いくら下っぱといえど、不死身に近い吸血鬼三百人と一晩やりあうなど有り得ない。
そもそも向こうは勝たせる気もないのだろう。いかに楽しく残酷に、相手をいたぶることができるか…だけを考えた様なゲーム内容だ。

頭の中で、何で俺がこんなことをしなければならないんだ…、とか、命をかけてまであの二人を助ける意味はあるだろうか…、とか様々な思考が沸き上がる。

そして巡り巡ったそれは結局、こんなところで死ぬ訳にはいかない。へと辿り着く。

時間にすれば僅か三秒ばかりの沈黙だったはずだ。
今度は真顔で、アグルは再びメイヤに視線を向けた。

「もし、俺が行かない…っつったら、…お前はどうする?一人ででも行くのか?」


【前と同じ構図でいいじゃないw

お、デートですか?(´ω`*)
うーん…今はもう神戸住んでないんですよ〜、シャレオツな店も全然行かないんで詳しくないですし、普通にネットで調べた方が確実だと思いますw】


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