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Key Of The Twilight

390リマ ◆wxoyo3TVQU:2015/08/13(木) 19:16:09
【過去】

「アブセル、あんた・・・・・」

アブセルがリトの事を好いていないことには何となく気づいていた。
しかし、同い年だし、男の子というのは細かい事にこだわる性格ではないため一緒に過ごさせておけば時期に仲良くなると思っていた。
自分の考えが浅はかだったと、ナディアは頭を抱えた。

恐らく・・・・・事の重さの程度は理解していなかったとは言え、アブセルはリトを外に出せば問題が起きる事を知っていた。
完全に悪意のある行動。許せない。

「・・・・・」

苛立ちを顕にするナディアだったが、不意に服を引かれる感覚に気付き我に返った。
見ればリトが何か言いたげな表情でこちらを見上げている。

「リト、どうした?」

しかし、リトが何を伝えたいのかまでは分からない。

(ちゃんと言葉にしないと分からないよ)

沈黙の中から懸命にリトの心情を読み取ろうとするナディアの顔を見上げ、リトは先程出会った少年の言葉を思い返した。

(大丈夫、怖がらないで)

「・・・・・ねこ・・・・・」

「・・・・・ねこ?」

リトが口を開いた。それだけでも驚きではあるが、それ以上に、彼から発せられた言葉の意味が分からずナディアは疑問符を浮かべる。

「にゃーって・・・・・動いてた。ねこだって。甘いの、食べた・・・・・冷たいやつ・・・・・。」

しかし、すぐに謎は解けた。

「・・・・・楽しかった」

リトが外に出たのは今回が初めてで、見るもの全てが珍しかったのだろう。
動物だってヌイグルミでしか見たことがない。同じ姿の生き物がいるなんて知らなかったのかもしれない。

父親がリトに危害を加えないようにするのに必死で、リトの自由を奪っていたのは自分も一緒だった。リトを心配していたつもりで、やっている事は大人達と同じ。
今だってリトを外に連れ出したアブセルを窘めようとした。他の奴等と同じように・・・・・
アブセルは自分が父親の顔色を伺って出来なかったことをやってのけたのだ。リトに世界を見せてくれた。

「ごめん・・・・・」

ナディアはリトの頬に手を触れた。不思議だ。いつもは手を伸ばすと怯えて身を縮ませていたリトが、逃げることなく受け入れてくれた。短時間なのに、リトが変化を見せている。
ナディアはそのままリトを抱き上げる。折角の機会だから調子にのってみたけれど、やはりリトは逃げなかった。初めての抱っこ、彼の重みを感じられる事が嬉しい。リトはリトで自分が何をされているのか分からず不思議そうにナディアを見下ろしているが、構わずナディアは笑ってみせた。

「部屋に戻ろう。ごめんな、今は出来ないけど・・・・・いつか必ず、あの部屋から出してやるから。」

そしてそのままアブセルの方へ向き直る。

「怒鳴って悪かったな。動機はどうであれ、結果的にあんたは良い事をしてくれたよ。」

ついでに乱暴ながらも優しく頭を撫でてやる。

「リトに助けられたな。あんたに100倍返しするとこだったけど、リトに免じて許してやる。もう虐めるなよ。」

アブセルは子供だからリトの置かれている状況を理解出来ていない。今は知らなくていいとも思う。いずれ成長するにつれて気づいていくだろう、ポセイドン邸に潜む闇に。
それまでは何の見返りもない普通の友人として、リトと仲良くなって欲しい。リトを主としてでなく、友として守って欲しいから。


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