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『プリキュアシリーズ』ファンの集い!2

1運営:2015/06/27(土) 19:59:43
現行作品を除く、『ふたりはプリキュア』以降の全てのシリーズについて語り合うスレッドです。
本編の回想、妄想、雑談をここで語り合いましょう。現行作品以外の、全てのSSと感想もこちらにてお願いします。
掲示板のローカルルール及び、保管庫【オールスタープリキュア!ガールズSSサイト】(ttp://www51.atwiki.jp/apgirlsss/pages/1.html)のQ&Aを読んで下さい。
※現行作品や映画の話題は、ネタバレとなることもありますので、このスレでは話題にされないようお願いします。
※過去スレ「『プリキュアシリーズ』ファンの集い!」は、過去ログ倉庫に移しました。

47一六 ◆6/pMjwqUTk:2015/12/01(火) 22:41:42
「本当に楽しそうに何かをやっている人を見たら、自分もやってみたいって思う人は、きっと居ると思う。そして一緒にやれば、もっと楽しい時間が過ごせるわ。だから、まずはせつなちゃんが、楽しんでいる姿を見せればいいんじゃない?」
「私が? でも、そんなにたくさんのこと、私一人じゃ……」
 驚いた顔で呟くせつなに、祈里が笑ってかぶりを振る。
「楽しいって気持ちを知れば、新しい楽しみを探そうっていう人も、きっと現れると思うの。そういう人が増えて行けば、きっと少しずつ、いろんな楽しいことが増えていくわ。だからね。まずはせつなちゃん自身が心から望むことをして、幸せを感じられることが、一番大切なんじゃないかな」
「私が……一番楽しめること? 幸せを、感じられること?」

 せつなが、一言一言を噛みしめるように、小さく呟く。祈里がゆっくりと頷いた時、通りの方から、せつなと祈里を呼ぶ声が聞こえて来た。
 いつもの青い練習着に身を包んで、美希がこちらに向かって一心に走って来る。
「あ、美希ちゃん。おはよう」
「おはよう。二人とも、今日はヤケに早いんじゃない?」
 美希がハァハァと息を弾ませて、首にかけたタオルで額の汗をぬぐう。その顔を、せつなは夢から覚めたような顔で見つめると、すぐにまた、穏やかな笑顔になった。



   ☆



「うわぁ、美希たん、カッコイイ!」
「うん。いつもより、なんか大人っぽいかも」
 試着室の前でポーズを決める美希に、ラブと祈里が目をキラキラさせる。そんな二人に小さく微笑んでから、美希はやや緊張気味な視線を、もう一人の親友に向けた。
 人差し指を下唇に当てて、せつなが真剣そのものといった顔つきで、美希の姿を上から下までじっくりと眺めている。その眼差しに、美希が思わずごくりと唾を飲み込んだその時、せつなの表情が、ふっと緩んだ。

「完璧ね。その差し色、やっぱり美希によく似合ってる」
「あら。差し色だなんて、せつな、ファッションに随分詳しくなったんじゃない?」
 濃い砂色のワンピースの襟元に、明るいターコイズブルーのスカーフをあしらった美希が、ニヤリと笑ってから、こっそりとホッとしたような息をつく。

 せつなが帰って来て三日目の今日は、朝から四人揃ってのお出かけだ。昨日はダンスレッスンでみっちりしごかれてヘトヘトになったのだが、四人とも、今日は勿論元気一杯だった。
 祈里の希望で今話題の映画を観て、ラブの希望でハンバーガーを食べてから、四人はこのブティックにやって来ていた。ここへ来たいと言ったのは美希だが、ラブも祈里も、楽しそうに何着も試着を繰り返している。
 私服に着替え、さっさと支払いを済ませた美希は、張り切った様子でせつなの腕を取った。

「じゃあ、次はせつなの番かしら?」
「私? いや、私は別に……」
「なぁに言ってんのよ。ここまで来て遠慮しないの。アタシが完璧に……」
「せつな、ほら! これなんか、せつなにすっごく似合いそうだよ。あと、これとぉ……それから、これも!」
 美希が得意げに言いかけたところへ、ラブが両手いっぱいに洋服を抱えてやって来た。そして鼻歌交じりでせつなを試着室に押し込む。

「ちょっと、ラブ! こんなに沢山、着られないわよ」
「いいじゃんいいじゃん。ちょっと着てみるだけだから。気に入ったのだけ、買えばいいんだからさ。ねっ?」
「だから、私は買うなんて一言も……」
「うふふ。せつなちゃんも、ラブちゃんには敵わないね」
 楽しそうな祈里の言葉に、美希はハァ〜っとため息をつくと、さっきのせつなの慌てた顔を思い出して、クスリと笑った。



 結局、それから一時間ほど後にドーナツ・カフェに腰を落ち着けた時には、四人全員がブティックの紙袋を提げていた。
 テーブルの上に置いた紙袋に、嬉しそうにそっと手を触れるせつなに向かって、美希が再びニヤリと笑う。

「何だか嬉しいなぁ。せつながこぉんなにお洒落に興味を持ってくれるなんて」
「そ……それほどでもないわよ」
「そんなこと言って〜。一緒に買い物すれば分かるわ。今日はアタシの出る幕なんか無かったじゃない? 自分に似合う服を、完璧に選んでて」
「いや、これはラブが無理矢理……」
「でも、せつなも気に入ったんでしょ?」
 畳みかけるような美希の問いかけに、せつなが赤い顔でこくりと頷く。それを見て、ぱぁっと笑顔になったラブが、さらにテンション高くせつなに詰め寄った。
「そうだよねっ! だってせつな、超可愛かったもん。ねぇ、すっごく気に入った? ねえねえ、せつなってばぁ!」
「……ええ。すっごく、気に入ったわ」

48一六 ◆6/pMjwqUTk:2015/12/01(火) 22:43:45
 ますます真っ赤になったせつなの横顔を、優しい眼差しで見つめるラブ。そんな二人を、美希も笑顔で見守る。
 四つ葉町に帰って来ても、どうやらラビリンスのことばかり考えているらしいせつなに、何か素敵な買い物をさせてあげたい――そう思って完璧な計画を立てていたのだが、ラブのせい……いや、ラブのお蔭で、思った以上に上手く行ったようだ。

「さぁて、ドーナツを食べながら、次にどこに行くか決めなきゃねっ!」
「そうだね。じゃあ、まずは注文に行かなくっちゃ」
「カオルちゃーん!」
 ラブと祈里が笑顔で席を立って、ドーナツ・ワゴンに向かう。それを見送ってから、美希はせつなの方に顔を寄せて、囁くように言った。

「せっかくだから、ラビリンスでもお洒落しなさいよ。自分が気に入った服を着る幸せを一番伝えられるのは、せつな自身のファッションだと思うな〜」
「え……な、何言ってるのよ! 私は美希と違って、モデルにはなれないわ」
「ノンノン! 雑誌の写真で見るのと、実際にその服を着て、楽しそうに動いている人を見るのと、どっちが素敵に見えると思う? 着ている人が、その服を気に入っているのなら、尚更よ」
 途端にドギマギと目を泳がせるせつなに、美希がパチリと片目をつぶる。
「ラビリンスに幸せを伝えるんでしょう? だったら、せつな自身が幸せな姿を見せなくてどうするの。好きなものは好き、欲しいものは欲しいって、せつなはもっとアピールしていいと思うわよ?」
「別に、私は……」
 せつなが真っ赤な顔で言いかけた時。
「は〜い。美希たんはアイスティー、せつなはオレンジジュースだよね〜」
「カオルちゃんに、ドーナツおまけしてもらっちゃった。ほら」
 ラブと祈里が、ドーナツが詰まったバスケットと四人分の飲物を持って、笑いさざめきながら戻って来た。

 せつなは、まだ赤い顔で美希を軽く睨んでから、ドーナツをひとつ手に取って、そのハート型にあいた穴を、じっと見つめた。



   ☆



 その夜。せつなは自分の部屋のベッドに横になり、ぼんやりと天井を見つめていた。
 階下からは、ラブとあゆみの話し声が途切れ途切れに聞こえてくる。時折、圭太郎の明るい笑い声がそれに混じる。
 すっかり聞き慣れた――そして今では少し懐かしい、桃園家の団欒の声。その輪の中に混じってみんなの話を聞いている時間は、せつなが何よりも好きな時間だ。
 だが、今日は少し疲れたからと言って、先に部屋に戻ってきてしまった。一人で考えてみたいことが、たくさんあったからだ。

 家族で笑い合って、ご飯を食べて。仲間たちとダンスレッスンをして、みんなで四つ葉町のあちこちにお出かけをして。
 ずっとこの町で過ごしたかった、かけがえのない時間――それなのに、気が付くと、いつもラビリンスのことを考えている自分が居る。この町で幸せな時間を積み重ねるために帰って来たのに、幸せを感じている気持ちのどこかに、常にラビリンスの影がある。
 その癖ラビリンスに居る時は、何度となく四つ葉町の家族や仲間たちの姿を思い描いてしまうというのに。

(私がこの町で幸せな時間を過ごしたいのは、自分の幸せの形を知りたいから。じゃあ、何故それを知りたいのかと言えば、そうすることで、ラビリンスに幸せを伝えたいから。だとすれば……両方が気になってしまうのは、当然なのかもしれない)

 “二兎を追う者、一兎をも得ず”――かつて覚えた、この世界の諺を思い出した。ダンスとプリキュア、両方やろうと明らかに無理をしていたあの頃のラブに、何とかプリキュアを諦めさせようとして言った言葉だ。

(四つ葉町で積み上げる私の幸せと、ラビリンスに届けたいみんなの幸せ――。繋がっていると思っていたのに、ひとつにはなれないのかしら)

 寝返りを打って、今は闇に沈むカーテンに目をやりながら、仲間たちの言葉を思い起こす。

――まずはせつなちゃん自身が心から望むことをして、幸せを感じられることが、一番大切なんじゃないかな。

――好きなものは好き、欲しいものは欲しいって、せつなはもっとアピールしていいと思うわよ?

49一六 ◆6/pMjwqUTk:2015/12/01(火) 22:44:22
(幸せは、こんなにも……溢れるほどに貰っているわ。心から望むこと? 私が欲しいものは……)

 そう自分に問いかけた時、ズキリと胸が痛んだ。
 心から望んだことも、欲しいものをアピールしたことも、いくらでもある。そのために、多くの人を傷付けたことも。それでもあの頃、本当に欲しいものは、決して手には入らなかった。
 今、こんなに多くの人たちから幸せを貰っているというのに、何故胸が騒ぐのだろう。
 そう思ってじっと心の奥に目を凝らせば、あの頃の自分が――イースがまだそこに居るような気がする。

(もしかしたら、それが怖くて、私は……)

 せつなは、ひとつ頭を振って気持ちを落ち着けると、もう一度天井の木目を見つめた。

(もう誰も傷付けたくない。誰の笑顔も奪いたくない。だから――私が望むのは、みんなに幸せを伝えること。そのための、私の幸せよ)

 ベッドから起き上がり、机の一番上の引き出しの奥から異空間通信機を取り出す。何だか急に、ラビリンスの次のお料理教室の準備のことが気になったのだ。とは言え異世界に居る自分がわざわざ連絡を取ったりしたら、きっと何事かと思われるだろう。

(この世界の端末と繋げれば、メールくらいなら見られるはず……)

 一瞬、圭太郎の書斎にあるパソコンを借りようかと思ったが、万が一壊してしまったりしたら申し訳ない。かと言ってリンクルンでは、端末としては少々スペックが不足している。
 少し考えてから、以前、タルトがよく遊んでいたゲーム機を使うことにした。タルトは使っていなかったようだが、このゲーム機にはネット環境が備わっているのだ。
 多少試行錯誤はしたものの、三十分ほど経った頃には、せつなはラビリンスで使っている自分のメールアドレスを開くことに成功した。
 小さなゲーム機の画面に並ぶ、未読メールのタイトル。心なしか、いつもより数が多いな、と思いながら、一件一件、中身をチェックする。

(え……何これ。給食センターで、何かあったの?)

 最初は不思議そうだったせつなの表情が、次第に怪訝そうなものになり、ついには険しい表情に変わった。

〜終〜

50一六 ◆6/pMjwqUTk:2015/12/01(火) 22:44:53
以上です。ありがとうございました!

51名無しさん:2015/12/07(月) 10:04:01
うぉぉい!また続きが気になるところで終わりましたね
長編は制作大変だと思いますけどいつまででも待ってますんで続きはよ下さい‼︎ (矛盾)

52名無しさん:2015/12/12(土) 00:55:08
せつなはいつか、「伝える」んじゃなくて「伝わる」ってことに気付くんだろうね

53Mitchell&Carroll:2015/12/12(土) 01:07:52
なんか毎回、一六さんの後に変なの出してすいません

『マダムモメールの憂鬱』


 ブルブル……日本の冬は寒いのね。何か温かい飲み物でも飲んで、ひと休みしようかしら。
……まあ、移動販売のドーナツ屋さん?丁度良かったわ。ついでに甘い物でもいただこうかしらん♪

「すみませぇ〜ん、オススメのドーナツ三つと、何か温かい飲み物、くださるぅ〜ん?」
「ごめんねーお客さん。今、あの子達の分で材料切れちゃって、今日はもう店じまいなのよ。また来てねー」
「まあっ、何ですって!?お詫びに私のドーナツの穴、埋め(自主規制)」

 ははぁ〜ん、あの小娘たちね?ここは一つ、さりげな〜く会話に加わって、さりげな〜くドーナツを分けて貰おうかしらん。

「あらぁ〜若いっていいわね〜お肌もツルツルで!ねぇ、何のハナシしてたの?」
「ひっ!?ねぇ、ラブちゃん、どうしよう!?」
「お、落ち着いてブッキー!こういうときはたしか、背中を見せないようにして、そのまま後ずさりして……」
「それは熊に遭った時の対処法でしょ?私は全然平気よ。ファッション業界はこういう人ばっかりだから」
「ラビリンスにはこういうタイプの人はいなかったわ」

 なんだかリアクションがバラバラね。まあいいわ。手っ取り早くドーナツいただきましょ。

「あらぁ〜ん?おいしそうなもの食べてるじゃな〜い!ホントにおいしそうね〜(ジュルジュルペロペロ)!
 ねっ、それひとつ分けてくれなぁ〜い?」
「(こ、この人は動物学的には♂なの!?♀なの!??)」
「(この人、口の回りが真っ青……さてはどこかでブルーハワイを!?)」
「(素材、色遣い、内側からにじみ出る美意識……この人、只者じゃないわ!)」
「(ラビリンスの科学力を持ってしても、この人の特性はデータ化できそうにないわね)」

 あら?みんな神妙な面持ちになっちゃって……さてはドーナツをよこさないつもりね?
力ずくで奪っちゃおうかしら。でも、モメ事は起こしたくないわ。ええ、アタシはもうモメ事を起こすのも見るのもイヤ!

「ねぇ〜ん、一口だけでいいから、それ、くれないかしらぁ〜ん?」
「あ、ああっあなたはおすなのめすなのぉ〜〜っ!??」
「どっどどっどこでぶるーはわいを〜〜っ!??」
「ぶっぶぶぶぶぶらんぶらんどどど!!!」
「◎△$♪×¥●&%#!!!」
「ちょっと!テーブルがひっくり返っちゃったじゃないの!!もぉ〜なんなの〜!?モメモメ〜〜〜ッ!!!」
 
 
 おわり

54名無しさん:2015/12/13(日) 16:45:21
>>53
マダムモメール……w
ハワイを氷漬けにしてたし、寒いの好きなんじゃなかったっけwww

55Mitchell&Carroll:2015/12/13(日) 23:20:37
>>54
浄化後という設定なので!( ̄^ ̄)ゞ

56名無しさん:2015/12/13(日) 23:49:06
>>55
ああ、そっか。だからモメ事はもうたくさんなんだ。
失礼しましたw
だったらハワイにいればいいのに、日本に来たかったんだねw

57そらまめ:2015/12/18(金) 21:23:33
こんばんは。ご無沙汰しております。
せつなが吸血鬼だったらな話というssの続きのようなものです。
前作がだいぶ前なので覚えてないと思いますが…よろしくお願いします。
せつなが吸血鬼だったらな話 パート2 です。

58そらまめ:2015/12/18(金) 21:24:40
あの日から、何度目かの満月が来た。

ラブに自分が吸血鬼だと知られ、一緒に暮らすことになったあの日から私の日常は変わった。

まず、朝起きてから火を熾す。ということをしなくなった。そんなことをしなくてもコンロの摘みを捻れば火が出るし、自分で材料の調達をしなくても冷蔵庫を開ければ食材が入っているから鮮度の心配もいらない。

また、お風呂が温かい。まあ火を焚いて水を温めれば前にいたところでもできはしたが、如何せん面倒くさいのだ。自分ひとりだけなら行水でいいかと思ってしまい、ついつい水浴びで済ませていた。

それに、布団がフカフカしている。寄せ集めの枯葉やなんやらで作った簡易ベッドもいいにはいいが、やはり羽毛には勝てないようで、いつも熟睡してしまっている。


と、上記の事を住まわせてもらっている感謝と共にラブに言うと、何故だか涙を流して抱きしめられた。

抱きしめられながら、前の場所との一番の違いは、この空間の暖かなぬくもりだとは恥ずかしくて言えないと、そっと苦笑いしながら窓から空を見上げる。

今日も、やってくるのだろう。黄色くて大きなあの月のせいで、まだ午前中だというのに胸がざわつく位だから。それと同時にいつもよりも苛立ちを感じるし、些細な事も気に障る。そろそろ、限界だろうか。


ラブからの血の提供は、ほとんど最小限と言っていいくらいに少なくしている。最初の無意識での半ば暴走したあれのせいで、吸血をするという行為自体に嫌悪していた。いくらラブからの了承があったとしても、本当にぎりぎりになるまでは控えている。

そして、そんな非日常的なことが行われていることは、未だほかの人は知らない。できれば、ずっと知らずにいてほしい。ラブのように受け入れてくれる人ばかりではないとわかっているから。

59そらまめ:2015/12/18(金) 21:27:30
案の定やってきたのは、丁度おやつ時だろうかという頃だった。騒々しい地響きとナケワメーケを連れてきたウエスターは、今日はナケワメーケと一緒になって攻撃してきた。


「イース!」

「私はもうイースじゃないって言ってるでしょ!」


ウエスターが私を呼ぶ。変わらずイースと呼び続ける彼にいつも以上に苛立ちが募る。いつもより雑な攻撃。当然の事ながらそれは躱されて、逆に死角を作ってしまった私にウエスターからの蹴りが背中から衝撃となって伝わってきた。


「パッション落ち着いて! みんなで連携してナケワメーケを倒さなきゃ!!」

「わかってるっ!」


息を切らせながらピーチ達に並んだ。今の自分が冷静でない事は分かっている。それでも体の内側からくるイライラを抑えきれなくて、奥歯を噛みしめて耐える。


「イース! こちらに戻ってこいっ!!」

「うるさい! 私は戻らないって言ってるだろ!!」


いつもより乱暴な言葉遣い。そのやり取りにみんなはどう思っているだろかと考えても、その反応を見る余裕は今の自分にはなかった。


「余裕が無さそうだな」

「関係無いでしょ」

「今日は、満月だもんな」


そう言って、まだはっきりと出ていない白い月を見上げたウエスターは、いつもとは違って気怠そうだった。横で「満月だと何かあるの?」「さあ?」とベリーとパインが話すのを聞きながらウエスターを睨む。大体私がこうなるのを知っていたから今日襲撃してきた癖に。そういう所も今の私の苛立ちを助長させていた。



「戻ってくる気はないか…」

「当たり前でしょ」

「ならこれをやる」

「っ…!」


少しだけ落胆したような雰囲気をしながら私に差し出したのは、銀色のパウチだった。デザインなどない銀色が日常的ではない仕様を感じさせ、人工さを助長させている。それに入っている中身の液体を私は知っている。血液だ。あの容器からするとラビリンスで支給されているものだろう。


「いら…ない!」

「どうせお前の事だからずっとやせ我慢してるんだろう? でも今日は流石に無理だと思って持ってきた。おとなしく受け取っておけ」

「あなたはもう私の敵なのよ。敵から物を貰うなんて出来るわけないでしょ」

「敵とか味方とかじゃない。だってお前もう、変わり始めてるじゃないか」

「えっ…」


その瞬間、後ろから風が吹き視界の端に髪が映る。プリキュアになっているから桃色のはずの髪が、銀色になっていた。まるでイースの時のように。

ウエスターの背後に月が見える。いつの間にか日が落ちてはっきり見えるようになった黄色く、大きな丸い月。

見てしまった。体がざわつく。動悸が激しい。苦しい。

立っていられなくて、膝を落として地面に手をついた。痛いくらい手のひらを握っても、治まりきらない。

60そらまめ:2015/12/18(金) 21:28:02
「ぐぁっ……はぁっ…くっ」

「ほらみろ」

「パッションっ!」

「なんで髪の色が…!」

「どこか痛いのパッション?!」


そのうちプリキュアの変身が解けて、代わりにスイッチオーバーした姿になった。


「ウエスター! せつなに何をしたの!!」


未だ地面に俯いて何かに耐えるせつなを庇いながら、ベリーは怒気を荒げて叫んだ。その眼は睨むよりもさらに強くウエスターを射抜く。


「俺は何もしていない」

「ならどうしてせつなはイースの姿になっているの?! なんでこんなに苦しそうなの!!」

「それは今日が満月だからだ」

「茶化さないで!」

「茶化してない。だってイースは…」

「言うな!!」


何かを言おうとしたウエスターを遮るようにせつなが叫ぶ。その声に驚いたベリーが振り返ると、胸に手を当てて苦しそうに、そして悲痛な表情でウエスターを見ていた。そんな反応にも驚いたが、近くにいるピーチがウエスターに対して自分と同じようには追及しない事や、なぜか悲しそうな表情でせつなを見ている事に理解が出来なかった。


「言うな…」

「そいつらに知られたくないのか? 仲間なのに? …よく分からんな。だがそうだな…知られたくなかったら今すぐ俺達のところに戻ってこい」

「なん…で、そんなの…」

「サウラーならこの場面ではこう言うんだろうな。俺はこういうやり方はあまり好きじゃないが、目的は一緒だからまあいいか。どうするイース?」

「そんなの…」


選べるわけない…ラビリンスにはもちろん戻りたくない。ラブは自分の事を知っているからいいが祈里と美希に知られるのも嫌だ。

でも、どちらかを選ばなければいけないというのなら……私は一人になる事を選ぼう。遅かれ早かれこうなるとわかっていたからこそ、今まで必要以上に仲良くなる事を拒んできた。これからは、今までの距離がより遠くなるだけだ。大丈夫。自分は何も失くしてない。だって元々何も持っていなかったんだから。



「せつなの何を知ってもあたし達が仲間である事は変わらないよ!!」

「そうよ。だから脅しにもならないわよ!」

「わたし達はずっとせつなちゃんの味方でいるの!」



「言えばいい……私は何があってもラビリンスに戻るつもりはない。みんなに知られても、私があなた達の仲間に戻る事はないから」


「せつな…!」


ピーチが嬉しそうにこちらを見る。もうラビリンスには戻らない。ただ、ラブ達の元にも居られなくなるだろうから、ラブの眼を見る事は出来なかった。



「そうかい? なら教えてあげよう。イースは君達のようにただの人間ではなく、人の血液を摂取しないと生きていられないのさ。こちらでは吸血鬼と言うんだっけ?」

「え? その声…え? 吸血…鬼?」


脇の茂みからそう言って現れたのはサウラーだった。


「ウエスター、あんまり遅いから見にきてみれば、やっぱりイースにそれ渡すつもりだったんだね」

「うわっサウラー?! えっとこれはその…」

「はあ…全く……ほらもう今日は帰るよ。僕達だって今日はなるべく静かに過ごさなきゃいけないんだから。今日は失礼するよプリキュアのみなさん。イースも、プリキュアを辞めて戻ってくるなら歓迎するよ」

「それは無いわね」

「そうか。じゃあね」


慌てるウエスターとダイヤに戻したナケワメーケを連れて、暗闇に紛れて消えてしまったサウラーが残した言葉は、しばらくの間四人の動きをとめていた。

61そらまめ:2015/12/18(金) 21:28:44
バキッ!と音がした方向を見ると、ウエスターが壁に穴をあけている。その音は、壁が壊れた音だけなのか、拳が一緒に砕けたのか定かではない。でも、自分たちに限って後者はないか。と、いまだ興奮冷めやらぬ彼を冷やかな目で見ながら紅茶に口をつけた。


「くそっ!! イースの奴!」

「落ち着きなよウエスター。大体こうなることは解っていたんじゃないのか?」

「くっ…!」


断られることを予想していなかったわけではないけれど、あそこまでなって、それでもあちら側にいることが、腹立たしかった。

こちらに適応するよう変えていた姿が無意識に解かれるなんて、それほど切迫しているのになぜあれを受け取らなかったのか。


「俺だって、これは嫌いだけど」


ラビリンスから定期的に送られてくるパック。血液の入ったそれの味が、ウエスターはあまり好きではなかった。無機質な味というかなんというか、そもそも血液の味自体が好きじゃない。あの鉄を噛み砕いているような感じ。だがこれを言うと決まって理解できないといった顔をされるので、いつしか主張することはなくなった。


「君も、そろそろ摂取しておかないとじゃないのか? 最近大食いに拍車がかかっているようだし」

「うっ…わかってる…」


いつからかは覚えていないが、消極的な血の摂り方をしていたら、体がヤバいと判断したのか人より多く食べるようになっていた。それがさらに大食いになると、そろそろ血液が必要だという基準にもなっていて、仕方なくパックを一つ手に取った。


「あー、まじこれまずいわー」

「そんなに嫌なら自分で調達してきたらどうだい?」

「それもなあ…結局同じものだし…」

「まあ僕はどんなものでもどんな味でも必要に応じて摂れればいい。ただ、定期的にというところには煩わしさを感じてしまうけどね」


くしゃっと空になった容器を握りつぶすウェスタ―を横目に、同じように軽くなったそれをゴミ箱に捨て、紅茶を飲む。


「…紅茶には合わないな」


口直しにコーヒーを入れるため立ち上がったサウラーに、締め切られたカーテンの隙間からチラリと月が見えた。

62そらまめ:2015/12/18(金) 21:29:24
気まずい空気と言うのはこういうのを言うのだろうかと、祈里はチラリと思う。もしくは空気がどんよりしていて重いともいえる。

そう考えてしまうほど、この部屋にいつもの優しい心地よさは漂ってはいなかった。


「あ、あのね…」


ラブがオロオロと視線を彷徨わせた後、小さく口にする。それはどこか、小さな子供が親に咎められる時のように所在なさげで、いつものような勢いはなかった。


「ラブは知ってたのね」


そんな声にいつものように凛とした、ともすればそれよりは低く感じる音程で発した美希の声にビクリと肩があがるラブ。それと同じように、それまで微動だにしなかったせつなの体が少し動いた気がした。


「…うん。知ってたよ」

「いつから?」

「せつながうちで暮らしだすちょっと前から」

「そう」


淡々と、一問一答のように答えては、チクリチクリと体に刺さる空気に、祈里は身動ぎする。

横目に映るせつなは、うつむいた顔をいつまでもそうしていたため、髪に隠れた奥の表情を窺い知る事が出来ずにいる。

吸血鬼。おとぎ話でしか聞いたことがないその単語。空想上の生き物だと思っていた。祈里からしてみればユニコーンや妖精の類と同類くらいの位置にいたそれが、今目の前に居ることに未だ信じられずにいた。だって、せつなはどう見ても自分たちと同じだったから。楽しそうに笑い、おいしそうにドーナツを食べ、言葉を交わし一緒に戦っている。そんなせつなが吸血鬼だというのなら、自分が思っていたよりも吸血鬼という存在は遠い物語のように身構えるものではないのかもしれない。鳥が空を飛ぶように、野良猫が歩くように、何でもない日常の一部でしかないのかもしれない。

そんな風に思うのだ。そう思えるほど、せつなが自分の生活に溶け込んでいて、今更夢物語のように外側の世界には追いやれなかった。


「ウェスタ―がなんか渡そうとしたわよね。あれは何?」

「…あれの中身は…血液よ。ラビリンスで支給されるもので、私達は定期的にあれを飲まなくてはいけない事になってる」


抑揚のないせつなが説明する言葉に、この場にいる全員が耳を傾ける。


「そういう体質だから、こちらに来てかも占い館に居る時は摂取していたわ」

「なら、ラビリンスから抜けた後はどうしてたのよ。まさか町の人を…」

「せつなはそんなことしないよ!!」


美希の言葉を遮って、それまでの声音が嘘のように大声で唸ったのは、まるで絞り出すかのようで、泣きだす一歩手前のようで、思わず祈里は胸前の服を握る。


「せつなはずっと我慢してた! どんなに辛くても必死で抑えて、もしかしたら死んじゃってたかもしれないのに最後までずっと! せつなは自分の欲望に負けて町の人を襲うなんてしない!」

「そう…せつなは死にかけてたのに誰にも言わなかったってことよね」

「うん。あたしがあの日家に呼んでなかったら、こうして一緒に住むこともせつなの体質もわからないままだった。わからないまま、いつの間にかせつなはいなくなってたかもしれない…」

「そうなのせつな? アンタあのままだったらどうするつもりだったの?」

「そ、れは…症状は抑え込んでたし…」

「何事も限界ってものがあるわ」

「ギリギリまで我慢するつもりだった」

「アタシはギリギリのその先を聞いてるのよ」

「それは…その」

「死んでもいいと、思ったんでしょ」

「……」

「人に迷惑かけるくらいなら、理性が負けるくらいならって」


淡々としていた美希の口調が荒々しくなっていく。そこで祈里はやっと気付いた。美希の気持ちが揺れ動いているその原因が、せつなが吸血鬼だったからじゃないことを。


「ふざっけんじゃないわよっ!!」


ついに限界を突破した美希の怒号に部屋の空気が揺れる。

63そらまめ:2015/12/18(金) 21:29:55
「アタシはねせつなが吸血鬼だったとかそんなことはどうでもいいのよ! だから何? 今更そんなこと聞いたところで、アタシの中ではせつなはもう仲間だもの! 大体せつながラビリンスの一員だったって知った時の方が衝撃度が高いわよ!! そんな経験してるんだからちょっとやそっとのことじゃアンタを否定する気にも仲間外れにすることもできないわ!! アタシがキレてんのはそれじゃない!」


吸血鬼がそんなことと言ったかこの人は。この世界では化け物の類であるそれをそんなことで切り捨てる美希に、心底驚いた。それと同時に、なら何に怒っているのだろうか。という疑問が湧いてくる。もしかして自分がラブから血液を提供してもらっていることだろうか。


「意味わかんないって顔ねせつな。この際だから教えてあげるわ。アタシはね、結構友達多いのよ」

「は…?」


いきなりの友達多い自慢に、自分でもわかるほど気の抜けた声がでた。はてなマークが頭の上を飛び交う。


「モデルだからいろんな人と出会うし、そこからの人脈で知り合いになる人もいるから、普通の中学生よりは顔が広いの。でもね、どんなにたくさん友達ができたからって、ラブとブッキー以上に一緒にいたいって思える人はいなかった」

「美希たん…」

「美希ちゃん…」


まあ確かにそうだろう。幼いころからずっと一緒だったと聞いている。自分にはそういった存在はいないからよくは分からないけど、美希にとって二人を差し置いて一緒に居たいと思う人ができないことは、想像に難くない。


「ずっと三人でいくんだろうって思ってた。高校生になっても大人になっても三人で、その中に入ってくる人の存在なんて考えてすらなかった。でも、初めて思った。この輪の中に入れたい人がいるって。三人が四人になってもいいって思った。それがせつなだった」

「え…」

「今までこんなこと思ったことなかった。せつなを輪に入れても、それが当たり前みたいにすんなり受け入れられた。せつなはもう、ラブとブッキーと同じくらい、アタシの中では大切な友達なの。突然いなくなっていい存在じゃないの」


音もせず、涙が流れた。気付かないほどそっと落ちる雫に、ようやく自分が泣いていることを理解して、少ししてから自分がなぜ泣いたのか理解した。

嬉しかった。とても。自分の気持ちが追い付かないほどの暖かいものが湧き上がっている。

今まで、こんなに自分が大切だと言ってくれたことはあっただろうか。面と向かって怒りながら強い感情を向けて肯定してくれたことなんてあっただろうか。

咎められると思った。自分の大切な仲間を傷つけるなんて最低だと言われると思ったし、それが向けられるべき感情だと思った。それなのに、あまりにも予想外な言葉たちに戸惑いを隠せなくて、感情が揺さぶられることも放置して、流れる涙を拭うことすらできなかった。


「せつなは普通の女の子だよ」

「ラブ…」

「ちょっと意地っ張りで照れ屋で、でも誰よりも優しい女の子で、あたし達の大切な仲間だよ。これから先何があっても、何を知っても変わらない。美希たんもブッキーもせつなのこと大切だから、こんなに心配してるの。だからもうひとりで悩まないで。あたし達がいる。大丈夫」


歪む視界でライブ会場で見せたあの時のように優しい目でほほ笑むラブ。左右を見れば同じように美希と祈里も笑いかけてくれた。拒絶ではないその表情に、この部屋の温度が上がった気がした。

64そらまめ:2015/12/18(金) 21:30:31
「ニンニク食べられる?」

「ええ」

「協会が苦手とかは?」

「この前ブッキーとお祈り行ったじゃない」

「聖水が苦手とか?」

「聖水って何…?」

「なら十字架は?」

「教会で見たけど特に何とも…」

「陽の光は?」

「問題ないわね」

「トマトジュース好き?」

「好きだけど…ってそれ関係あるのラブ?」

「なんかつまんないわね」


質問攻めの後、美希が心底つまらなそうに吐いた言葉に、せつなはがくりと肩を落とした。

どうもこちらの世界の吸血鬼は弱点が多いらしい。血液を摂取すること以外普通の人と変わらないせつなには、特有の弱点はなかった。


「身構える必要すらなかったわね。吸血した相手を吸血鬼にするとか眷属にするとかもないし」

「あっ…それは…」

「でしょ? だからせつなもそんなに恐々しなくていいのになーってずっと思ってたんだよね」

「満月には症状が強くなるってなんだか狼男みたいで面白いね」

「ブッキー、それ多分面白い所じゃないと思う」


わいわいと話が盛り上がる中、せつなはこの三人にまだ伝えていないことがある事実を、言おうか言うまいか迷って、結局言わずにいる事にした。それは症状といったものではなく、通例のようなもので、しきたりの様なものだったから、特に害はないと思った。

吸血鬼がそこら中で誰彼構わずに吸血していったら、いくらラビリンスとはいえ統率が取れなくなる。だから、通常は支給されてくるものを摂取するが、自分の意思で誰かに対して初めて吸血をする時は、それは求婚と同じ意味を持つ。そして吸血を受け入れられたら晴れてパートナーになる。もちろんそんなことお構いなしにする人もいるが、そういう意味も持つのだと教えられた。だから慎重になりなさいと。

あの時半分無意識だったとはいえ、初めて自ら人に吸血を行った。そしてそれはラブに受け入れられた。そんなことを思うと、急速に顔が熱くなっていくのがわかった。


「あれ、せつな顔赤くない? もしかして熱ある?」

「な、ななんでもないから! 大丈夫!!」

「それほんとよねせつな?」

「具合悪かったりする? 無理してない?」


疑うような美希の目線も、祈里の心配そうに眉をハの字にしているのも、ラブにおでこに手をあて熱を計られるのも、恥ずかしさで誰の目線も見ることができなかった。

このことは自分の胸の内に仕舞っておこう。永遠に。

そんなことを思いながら、いまだ疑う三人への言い訳を必死に考えてあたふたする。


そうして、満月に輝く空を背に、まだまだ消えない部屋の明かりと共に夜は更けていった。

65そらまめ:2015/12/18(金) 21:31:35
以上です。
長々と失礼しました。

66名無しさん:2015/12/19(土) 00:39:52
>>65
いい! 凄くいいです!
美希たんの怒りのシーンとか、あとラストシーンも最高!
ひさしぶりのそらまめさんワールド、満喫させていただきました!

67名無しさん:2015/12/19(土) 23:29:08
>>65
マジ切れ美希たん、愛情籠ってる〜!
せつなはラブの血を吸ってるのね、ドキドキ…。

68名無しさん:2015/12/19(土) 23:45:30
>>65
OMORO!あらためて前作も読み返しましたが、OMORO!!

69一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/01/08(金) 00:15:03
遅ればせながら、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。

遅くなりましたが、フレッシュのお正月小ネタを投下させて頂きます。

タイトルは「クローバータウンで初踊り?」

2レス使わせて頂きます。

70一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/01/08(金) 00:15:47
〜1月2日。商店街の初売りの日です!〜

ラブ 「わっはー! クローバータウン・ストリートも、すっかりお正月って感じだねっ」
祈里 「門松に、注連飾りに、鏡餅。わたしたちの家にもあるけど、お店のは大きくて立派よね」
せつな「ほんと。クリスマスもとっても華やかだったけど、また全然雰囲気が違うのね」
美希 「ええ。なんたってこっちの方が、まさに日本の伝統美よ」
せつな「ねぇ、美希。そのピンクと白の丸い飾りは何? 家には無かったわ」
美希 「え、えーっと、これは……」
駄菓子屋のお婆ちゃん「これは餅花だよ。小さく切って丸めた紅白の餅を、柳の枝にたくさん射して作る縁起物さ」
ラブ 「へぇ! とっても可愛いね、お婆ちゃん」
せつな「ええ。お店の前に、パッとお花が咲いたみたい」
駄菓子屋のお婆ちゃん「そうかい……ほら、福豆、持って行くかい」
ラ美祈せ「ありがとうございます!!!!」

〜どこかから華やかな調べが……〜

ラブ 「ん? 何だか太鼓と笛の音が聞こえるような……」
せつな「あっちの方だわ。行ってみましょう」
美希 「あれ? あそこにいるのって……」
ラブ 「あ、千香ちゃんだ。おーい、千香ちゃーん!」
千香 「いや……怖い……来ないで!」
祈里 「ちょっと待って、ラブちゃん。何だか様子がヘン」
せつな「そうね。千香ちゃん、何かに怯えているみたい」
美希 「あの曲がり角の向こうに、何か居るのかしら」
ラブ 「よぉし。みんな、行くよっ!」

〜そして千香ちゃんの元へと駆け付けると……?〜

ラブ 「千香ちゃん! 大丈夫だよ、今ラブお姉ちゃんが……! って、あ、そういうこと」
祈里 「え? なぁに? ラブちゃん。あ、可愛い!」
美希 「いや、可愛いっていうか……千香ちゃんは怖がってるわよ、ブッキー」
せつな「え……みんな、どしたの? これは……! またシーサーのソレワターセ!?」
ラブ 「違う違う! これはね、せつな。獅子舞って言うんだよ」
せつな「獅子舞……?」
美希 「ええ。これも日本の伝統……」
祈里 「あのね、せつなちゃんっ。獅子舞っていうのは、昔、ライオンさんを神と崇めていたインドの人たちが始めた儀式でね。それが中国大陸から日本に伝わって来たと言われているの。歯をカチカチ鳴らして、幸せを招くのと一緒に邪気を食べてくれるって言われててね。こんな風に二人で舞う獅子舞が多いんだけどぉ、一人で舞う獅子舞もあって、中には三匹の獅子が同時に舞う獅子舞もあるの。それから……」
ラブ 「すとーっぷ! もう十分だよぉ、ブッキー」

〜獅子舞の正体は?〜

せつな「ありがとう、ブッキー。よく分かったわ。獅子が幸せアイテムなのは、沖縄だけじゃないのね」
ラブ 「うん! だから、怖がらなくても大丈夫だよ、千香ちゃん」
千香 「でも……獅子さんが、どんどんこっちに近付いて来るんだもん」
太鼓を叩く男「それはね。獅子舞に頭を噛んでもらうと、一年元気に過ごせるからだよ」
美希 「豆腐屋のおじさん!」
祈里 「笛を吹いているのは、魚屋のおじさんだわ」
ラブ 「え? じゃあ、獅子舞に入ってるのは……?」

獅子舞・後「イテテテ……! こ、腰が……。悪い、ちょっと休憩させてくれ!」
獅子舞・前「あ、大丈夫ですか?」
ラブ 「あー、パン屋のおじさん。それに、蕎麦屋のお兄ちゃん!」

71一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/01/08(金) 00:16:20
〜獅子は一年の幸せを願って〜

蕎麦屋(獅子舞・前)「よぉ、ラブ。お前の頭も噛んでやるよ。賢くなるぞ〜」
ラブ 「やったー! これで今年は補習受けなくて済むよ!」
美希 「ちょっとラブ、そういう意味じゃ……」
せつな「じゃあ、獅子さんのためにもしっかり勉強しなきゃね、ラブ」
ラブ 「えーっ!? とほほ……」
祈里 「せつなちゃん、さすがだわ」

せつな「ねえ、千香ちゃん。獅子さん、もう怖くないでしょう?」
千香 「あ……うん」
パン屋(獅子舞・後)「じゃあ、お嬢ちゃんも噛んでもらいな。今年一年、元気で過ごせますように、ってね」
千香 「うん! ありがとう!」
ラブ 「良かったね、千香ちゃん」

〜そして、せつながおずおずと……〜

パン屋「しかし、獅子舞って思った以上に重労働だなぁ。まだ腰が伸び切らないよ」
せつな「あの……。もし良かったら、獅子舞、ちょっとだけ私にやらせてもらえませんか?」
蕎麦屋「それはいいけど、大丈夫かい? 俺は蕎麦の出前で慣れてるけど、獅子頭って結構重いんだよ? ほら、持ってごらん」
せつな「多分、少しくらいなら大丈夫です」
ラブ 「せつな! 二人でやろっか。せつなが前で、あたしが後ろね」
せつな「ラブ……」

美希 「頑張って、ラブ」
祈里 「ファイト、せつなちゃん」
ラブ 「よぉし。じゃあ、せつな、行くよっ!」
せつな「ええ、精一杯がんばるわ!」

〜そして再び、華やかな音楽が〜

蕎麦屋「そう、歯を鳴らしながら、音楽に合わせて踊るんだ。そうそう、その調子! 上手いなぁ、初めてとは思えないよ」
パン屋「リズミカルだし、何より二人の動きがよく合ってる。流石だな」
美希 「うん。ダンスで培ったチームワーク、完璧!」
祈里 「二人ならきっと上手く行くって、信じてた!」
千香 「獅子舞……カッコいい!」
獅子舞・後「さぁさぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 四つ葉町の幸せアイテム、獅子舞を見て、幸せゲットだよっ!」
獅子舞・前「ちょっと、ラブ! 獅子さんの足が喋っちゃダメでしょ?」
みんな「アハハハ……!!」


初春や 笛と太鼓と 笑い声

 幸せ初めの 獅子踊りかな


〜おわり〜

72一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/01/08(金) 00:16:50
以上です。ありがとうございました!

73名無しさん:2016/01/09(土) 22:20:24
>>72
もしプリキュアが前編・後編の2本立てだったら後編でやりそうなお話
8:45あたりから始まりそうなお話

74名無しさん:2016/01/11(月) 23:23:31
プリキュア声優トリビア
・キュアパッション役の小松由佳さんは、キュアパッションのことを「パショ子」と呼んでいる
・キュアトゥインクル役の山村響さんは、敵のフリーズの耳が「プルンッ」って揺れるのが好き・・・らしい

75一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/01/27(水) 19:36:52
こんばんは。
遅くなりましたが、長編の続きを投下させて頂きます。
6レス程使わせて頂きます。

76一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/01/27(水) 19:37:27
「はぁぁっ!」
 二人同時に空中へと跳び上がる。
 眼前に迫る敵の姿。同じ女性なのに、随分リーチが長そうだ。
 身長差十五センチ。脚力はどうやら互角。そして――動きに少々、焦りが見える。
 まずはそれだけを見て取って、次の一手に集中する。

「たぁっ!」
 思った通り、相手が先に打って来た。速く鋭いストレートを、半身になってギリギリで躱す。
 胴に一瞬の隙、狙いはここだ。懐に飛び込み、最高速のジャブを打ち合う。
 一発だが手応えがあった。着地と同時にバックステップで距離を取ろうとする相手めがけて、荒い息を抑え、歯を食いしばって一気に跳ぶ。

「っく!」
 火のような眼差しが私に突き刺さった。
 殺気、苛立ち、そして恐怖。隠す余裕など全く無い、むき出しの感情が込められた、強い力に満ちた視線。
 が、それも一瞬のこと。
 ジャンプの勢いのままに蹴り飛ばすと、彼女は壁に後頭部をしたたかに打ち付け、昏倒した。

「そこまで!」
 教官の声が闘技場にこだまする。
「ES*******。次の実戦訓練は、二日後の同時刻とする」
 自分の国民番号が読み上げられ、次の予定が告げられる――それだけが、今日の試験をクリアし、次へ進めるという証だ。
 だが今日はもう一言、こんな言葉が付け加えられて、私の心臓がドキンと跳ねた。
「次が最後の訓練だ。心してかかれ」

(とうとうここまで来た……。ついに私が“ネクスト”に!)

 早鐘を打ちそうな心臓を、深呼吸ひとつで何とかなだめ、努めて無表情のまま、戦闘服を解除する。

 数メートル先で、ようやくのろのろと起き上がる人影が目に入った。その瞬間に蘇る、さっきの鋭い、何もかも焼き尽くしそうな眼差し。
 自分では見えないが、私も傍から見れば、あんな目をしているんだろうか。
 こいつはまだ生きていられるのだろうか、とふと思った。メビウス様にとって、こいつにはまだ何らかの使い道があるのだろうか。
 だが、もし生きていられるとしても、もうこの施設には居られないはず。おおかた弾よけの兵士か、物資を運ぶ人夫か、とにかく数多の雑兵の一人として、残りの時間を過ごすことになるのだろう。

(どっちにしろ、私には関係のないことだ)

 そう、負け犬を振り返っている暇など無い。
 実戦訓練の間隔がどんどん狭まるようになってから、この訓練の意味は容易に想像がついていた。
 これは、新たな幹部選出のための戦い。この戦いに勝ち残った者が、新しい“イース”となるのだ。その陰で全ての敗者がここを去り、施設の顔ぶれは一気に若返ることになる。
 全てが決められているここでの日々の、唯一の例外。それは、いつも突然に、しかも秘密裡にやって来る、この命を懸けた卒業試験だ。
 最終戦を戦う二人は“ネクスト――次を担う者”と呼ばれ、この最後の戦いだけは、施設の全教官、全訓練生の前で行われるのが決まりだった。

 今の“イース”が“ネクスト”だった時の最終戦を、私ははっきりと覚えている。その一打、一蹴、全ての動きが、今でもこの目に焼き付いている。
 まだ基礎訓練の仕上げの段階で、実戦訓練の場に立つことすら許されていなかったあの頃の私にとって、彼女はそれほどまでに大きな衝撃だった。

 強かった。恐ろしいほどに強かった。
 そして、震えるほどに美しかった。

 次は私……彼女の次に“イース”になるのは、絶対にこの私だ! そう心に誓い、記憶の中の彼女の動きを何度も何度もトレースして、訓練に明け暮れた日々。
 まさかわずか半年後に、あの時の彼女と同じ場所に立てるとは――そう思った途端、身体がカッと熱くなった。
 表情を変えないように注意しながら、闘技場の分厚い扉を開けて廊下に出る。

(メビウス様……。誰よりも早く、あなたのお傍に仕えてみせます。そして誰よりも、あなたのお役に立ってみせます!)

 果たしてもう一人の“ネクスト”――最終戦の相手は、どんなヤツなのだろう。しんと静まり返った長い廊下を歩きながら、そんなことを考えていた、その時。
 突然、ズン、と足元が揺れ、そして――私が知っていた唯一の世界は、その瞬間、木っ端微塵に砕け散った。

77一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/01/27(水) 19:38:18



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第3話:ネクストと呼ばれた少女 )



 二十人以上で囲める大テーブルが、頑丈そうな四角い足を見せてひっくり返っている。その周辺では、真っ白だったはずのテーブルクロスがくしゃくしゃに踏み荒らされて、見るも無残な状態だ。
 テーブルの周りには、横倒しになったり、あさっての方を向いたりしている数多くの椅子。その下には、割れたガラスや陶器の破片が辺り一面に飛び散っている。
 おまけに白い壁のほぼ中央には大きな穴まであいている始末。給食センターの広間は、まさに嵐にでも見舞われたような惨状を呈していた。

「あ〜あ。これはまた、ずいぶん派手にやりやがったなぁ」
 困った顔でガシガシと頭を掻くウエスターの隣で、彼をここに呼んだ給食センターの若い女性職員が、恐縮した顔で頭を下げる。
「すみません、ウエスターさん。まさか異世界にいらっしゃるとは思わなくて……。何か大事なお仕事の最中だったのではありませんか?」
「い、いやぁ……まぁ、気にするな。こっちの方が一大事だからな」
 まさか、カオルちゃんに「新作ドーナツ出来たからさ、食べに来なよ〜」と言われて二つ返事で四つ葉町に出かけていました、とも言えず、ウエスターは引きつった笑いを返した。

 昨日、若年層による“グループ現場体験”――ラブたちの世界で言うところの社会見学と職場体験を足して二で割ったような教育プログラムが、この給食センターで行われ、そこで参加者同士の喧嘩があったのだという。
 それだけ聞けば、たかが子供の喧嘩くらいで、と誰もが思うだろう。だが、当事者二人が施設育ちの若者たちであり、その二人の激しい争いがなかなか収まらなかったことから、被害は予想外のものになってしまった。
 とうとう警察組織の人間が呼ばれて、やっと彼らを取り押さえ、一晩留置。そして改めて、彼らと親交のあるウエスターが呼ばれたというわけだ。

「ところで、俺より先にイースが戻ってきたと聞いたが?」
 ウエスターの問いに、職員は笑顔で頷いた。
「ええ。せつなさんなら、今朝がたいらっしゃいましたよ。ここを見てすぐ、割れてしまった分の食器の調達に行くと言って出て行かれました。もうじき戻られると思いますが」

(何もわざわざ休暇中に戻ってこなくても、もっと誰かに頼ればいいのにな)

 そう心のままに発言しようとしたウエスターが、そこで口をつぐむ。そこには、さっきウエスターに頭を下げた時とは打って変わった、彼女の安心しきった笑顔があった。
 もしかしたら、せつなが休暇中だったとは、この職員は知らないのかもしれない。だとしても、何か困ったことがあったら、せつなが必ず助けてくれる、力になってくれると頼り切っている様子に、ウエスターは何だか腹の底からもやもやとした黒雲が湧き出した様な気分になった。
 そもそもウエスターと同じく四つ葉町に居たはずのせつなが、この事件のことを聞きつけて、ウエスターより半日も早く戻って来ていること自体がおかしいのだ。事件の後始末に困った職員の誰かが、いち早くメールか電話で彼女に相談を持ちかけたとしか思えない。
 その癖ここの職員は、自分たちでは一体どんな後始末をしているというのか……。

(イース……。お前、本当に彼らの期待に、ずーっと全部応えていくつもりなのか? そうやってお前が守ってやることが、彼らの本当の幸せなのか?)

 不意に黙り込んだウエスターに、職員が怪訝そうな顔になる。
「ウエスターさん? どうかしましたか?」
「ん? あ、いや。イースが帰って来たら、俺と一緒に来た客人を、あいつに会わせてやってくれ。今、ロビーで待ってもらっているから」
 ウエスターが曖昧な笑顔でそう言った時、別の職員が、昨日の喧嘩の関係者である子供たちを連れて、部屋に入って来た。



(そうか。喧嘩したのは、こいつらか……)

 職員のすぐ後ろを歩く二人の顔を一目見て、ウエスターの眉間にわずかに皺が寄る。
 一人はウエスターと同じW棟育ちの大柄な少年。将来は警察組織に来ないかと、ウエスターが誘っている若者の中の一人だ。
 そしてもう一人は、華奢な体つきで目つきの鋭い少女。先日四つ葉町でせつなと出会った時、彼女が話題にしていたE棟で育った少女だった。
 ウエスターはコホンとひとつ咳払いをすると、目の前にやって来た二人に向き直った。
 彼らの後ろには、やはり職員に連れて来られた体験学習の参加者たち――彼らと同年代の少年少女たち十人ほどが、固唾を飲んで成り行きを見守っている。

78一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/01/27(水) 19:38:51
「どうした、お前たち。この有様は一体何だ? 何があった?」
「……」
「何故こんなことになったのだ?」
「……」
「俺は責めているのではない。まずは何があったのか、知りたいだけだ。だから正直に答えてくれ」
「……」
 静かな口調とは裏腹に、普段の気さくな兄貴分といった雰囲気は、さすがに影を潜めている。次第に高まって来る得も言われぬ緊張感に、当事者よりも遠巻きにしている外野の若者たちの方が、次第にうつむき加減になった時。
 ウエスターの目の前に立っている少女が、沈黙を破った。

「理由を聞いて、何になる」
「何だと?」
「この部屋をめちゃめちゃにしたのは私だ。理由がわかったからと言って、その事実は変わらない。だから余計な手間をかけず、さっさと私に罰を与えろ」
 挑むような緋色の瞳を見つめて、ウエスターが小さく息を吐く。

「何か争いや問題が起こったら、何故そうなったのか、それを知るのはとても大切なことなんだぞ。ちゃんと原因を突き止めれば、次に同じことが起こるのを防げるかもしれないからな」
「この世界を守る警察とやらの言葉とも思えないな。争いの原因など、今のラビリンスには無数に存在する。ひとつ取り除いたところで、次の争いを止めることなど出来るものか」
 さっきよりさらに穏やかな口調で語りかけるウエスターに、少女は相変わらず挑戦的な視線を向けて、吐き捨てるように言う。
 ウエスターはそれを聞いてうっすらと笑みを浮かべると、腰をかがめて、彼女の瞳をまっすぐに覗き込んだ。
「確かに、お前の言う通りかもしれん。だが、それでもひとつひとつ、争いの原因を突き止めて、お互いに思っていることを言ったり聞いたりすることは大切なんだ。分からなければ、何度でも聞けばいい。そうしたら、もしかしたら分かり合うことだって、できるかもしれないぞ?」
「ふん、私は別に聞きたくはない」
 じっとウエスターを睨んでいた少女が、ぷいっとつまらなさそうに顔をそむける。それを見て、ウエスターは今度は隣に立っている少年の方に顔を向けた。

「お前はどうだ。喧嘩の原因、話してくれないか?」
「……こいつが……メビウスのことを、“メビウス様”って言ったんです」
「それを聞きとがめたのか。なるほど。それで?」
「今のラビリンスは……下らない、醜い世界だ、って」
「そうか。そんなことも言ってたのか」
 考え考え、ぼそぼそと言葉を押し出すように、しかし大いに不満そうに話す少年に、ウエスターは辛抱強く相槌を打つ。

「それでお前がカッとなって、喧嘩になったのか?」
「違います! 先に手を出したのは、こいつだ」
「ほぉ?」
 口を尖らせる少年に、ウエスターはニヤリと笑って先を促す。
「かつてのラビリンスは素晴らしかった、メビウスの管理は完璧だった、なぁんて言いながら、こいつだって昔とは違うんだ。昨日だって……」
「やめろっ!」

 そこで突然、少女が割って入った。掴みかからんばかりの勢いで、少年の言葉を遮る。
「それ以上言うな。言ったらただでは済まさないぞ!」
「何故だ……そこまで嫌がるようなことか?」
 真っ赤な顔で食ってかかる少女と、面喰った様子の少年。それを見て、ウエスターが諦めたように、フッと小さく笑った。

「わかったわかった。争いの原因を知ることは大切だが、嫌がるものを無理矢理聞き出すのが良いとも言えんな。では、お望み通り先に罰を与えよう……と言いたいところだが、これは罰では無い。こんなことをしでかしたら、当然やらねばならぬことだ」
 そこでウエスターはすっと表情を改めると、今日一番重々しい声で、こう言い放った。
「この部屋をきれいに片付けろ。いいか? 壁の穴以外は、お前たちがこの部屋に初めて足を踏み入れた時と、同じかそれ以上きれいにしないと許さんからな。こんなことをしたら、その後がどれだけ大変か、どれだけの人に迷惑をかけるのか、しっかりとその身体で体験しろ!」
 ウエスターはそう言ってから、少し離れたところからこちらに注目している他の子供たちの方へと目を移す。
「お前たちが何をするかは、お前たちに任せる。何もしないで家に帰っても良し。こいつらを手伝いたい者が居たら、別に止めはしない。お前たち一人一人が、どうするか、どうしたいか決めるんだ。いいな?」
 それだけ言って、ずんずんと大股で広間を出て行くウエスターの後ろ姿を、若者たちはあっけにとられた表情で見送った。

79一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/01/27(水) 19:39:37



   ☆



 大きな破片を片付けてから、掃除機をかけて、小さな破片を取り除く。くしゃくしゃのテーブルクロスを床から引き上げ、洗濯室に持っていく。そして横倒しになったおびただしい数の椅子を元に戻し、座面をぬぐう。
 互いに一言も口を利かず、少年と少女は、ただ黙々と片付け続ける。
 他の参加者たちは、やはり彼らに近づこうとはせず、かと言って帰ってしまう者もおらず、みんな二人の様子を眺めながら、ほんの申し訳程度に、片付けに加わっていた。

 作業は順調に進み、あとは広間の真ん中を占拠している大テーブルを何とかしなければ、これ以上は何も出来ない状況になった。これだけは一人で動かせるような代物ではないので、二人とも手を触れてはいなかったのだ。

「……おい」
 何度か逡巡してから、少年が思い切った様子で少女に声をかけた。
「このテーブルは、俺でも一人では無理だ。手伝え」
「お前の命令など聞かん」
 じろりと鋭い目を向けてくる少女を、少年はムッとした顔で見つめ返す。
「こいつを何とかしなけりゃ、片付けは終わらないぞ。それとも、自分で罰を与えろなんて言っておきながら、それに逆らう気か?」
「罰か……ならば仕方がない」
 少女が渋々と言った調子で了承すると、少年はテーブルをじっくりと眺め、少女と自分の立ち位置を決めた。

「いいか? こっちの長い縁を二人で持って、せーの、で持ち上げる」
「せーの……? 何だそれは」
「掛け声だ。「せー」で息を整え、「の」と言い終わると同時に、一緒に力を込める」
「ふん、くだらない」

「いいから行くぞ。せーのっ!」

 少年の声を合図に、少女も両腕に渾身の力を込める。
 大の大人が五、六人でかかっても、持ち上げるには相当の骨が折れる大テーブル。それが、まだ幼さの残る二人の力で、ゆっくりと持ち上がり始めた。
 長い縁の真ん中辺りに両手を掛け、真っ赤な顔で歯を食いしばっている少年――ウエスターですら一目置く彼の怪力が、少女の助力を上手く利用して、この重量物を持ち上げていく。

 テーブルは順調に傾いていき、その縁が二人の肩の辺りまで来た。だが。
「う……このままじゃ、無理だな。一旦下ろすぞ」
「ここまで来て何を言う」
 思わずそう言ってから、少女も少年の言葉の意味を理解する。ただ片側を持ち上げただけでは、反対側の縁が床で滑り、これ以上持ち上がらないのだ。それどころか、滑るごとに両手に負荷がかかって、こうやって持っているのも難しくなってくる。
「やはりあと二、三人、人手が要るか……」
 少年が、そう呟きながら遠慮がちに他の参加者たちの方を窺う。と、その時。
「すみませーん。誰か、居ますかぁ?」
 明るい声がその場に響いたかと思うと、広間の入り口から、ひょいと一人の少女が顔を覗かせた。

 栗色の髪を顔の両横で結んだ、ツインテールの髪型。大きな瞳がやたらキラキラと輝いて、口元は笑っているかのようにほころんでいる。
「あ、手伝うよ!」
 こちらの状況に気付いたらしい。彼女は軽い調子でそう言って、小走りで近付いて来ると、少年と少女の間に立って、テーブルの縁に手を掛けた。

「うーん……うーーーん! ……あれ? これって、持ち上げるの? それとも下ろすの?」
「いや……出来れば持ち上げたいんだが……」
「そういうことは、力を入れる前に確認しろ」
「ナハハ〜……ゴメンナサイ」
 少年のあっけにとられた口調と、少女の呆れたような声に、ツインテールの彼女が、実にお気楽な調子で笑う。そして二人をそのキラリとした瞳で見つめてから、その目をそのまま、所在無げに立っている他の参加者たちの方に向けた。

「ねぇ! もし手が空いていたら、みんなも手伝ってくれないかなぁ」
 十人ほどの若者たちが、バツが悪そうに俯き加減になる。やがてそのうちの一人が、もごもごと言い訳めいた言葉を口にした。
「僕たちは……その人たちと違って、強い力なんて持っていませんから」
「そんなの関係ないよ! あたしだって、そんな力持ってないもの」
 間髪入れずに返って来た、内容に合わず自信満々な明るい声に、彼らは不思議そうな顔で、この突然の闖入者を見つめた。

 若者たちにとっては、幹部候補だった恐ろしい暴れ者――その二人の間で、彼女はニコリと笑って見せる。
「確かにこのテーブル、凄く重いけどさ。でも、ここに居る全員でやれば、何とかなるよ!だから、ねっ?」
 さっきとは違う、戸惑ったような表情で顔を見合わせた少年少女たちが、やがて恐る恐る、大テーブルを取り囲んだ。

80一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/01/27(水) 19:40:13

「じゃあ、行くぞ。せーのっ!」

 少年の声に、今度は二十以上の小さな手が、ギュッと渾身の力を込める。
 スピードはさほど変わらないが、さっきよりは格段にスムーズに、テーブルが持ち上がっていく。
 一旦横倒しにしてから、天板の下にあった破片を片付け、再び全員で縁を掴み、持ち上げる。こうしてテーブルは元通りの姿で、元の場所におさまった。

「やったぁ!」
 若者たちがホッとしたような笑みを浮かべる中、ツインテールの彼女は一人テンション高く両手を上げて叫び、その手を、ぽん、と少年と少女の肩の上に置いた。
「こんな大きなテーブルだったんだね〜。みんなで力を合わせた結果だよぉ。良かったね!」
「あ……ああ」
「ところで、ここへ来たのは何の用だ」
 少年が気圧されたように頷く隣で、少女が冷静に問いかける。

「あ、そうだった! 実は、ちょっと迷っちゃってぇ。だから道を聞きたかったんだ」
「どこへ行きたいんだ?」
「あのね。ここからロビーに行くには、どう行けばいいのかな?」
「え……迷ったって、この建物の中で、ってことか?」
 今度は少年がポカンとした顔になり、少女は呆れ返った様子で、はぁっとため息をついた。その反応を見て、彼女の方は不思議そうに首を傾げる。

「お? お前たち、頑張ったな。ほとんど片付いたじゃないか」
 不意に、入口の方から新たな声が聞こえた。様子を見に来たのだろう、ウエスターがそう言いながら入って来て、ツインテールの彼女を見つけて、ん? と怪訝そうな声を上げた。
「なんだ、ラブ。こんなところに居たのか。探したぞ」
 それを聞いて、少女がわずかに目を見開いた。厳しい目つきになって、ラブと呼ばれた彼女を見つめる。
 当のラブの方は、少女の視線にはまるで気付いていない様子で、ウエスターの姿を見てパッとその顔を輝かせた。

「ああ、ウエスター! 良かったぁ! ちょっと建物の中をぶらぶらしてたら、道に迷っちゃってさ。今、この人たちに聞いてたところだったの」
 そう言って歩き出そうとした途端。
「わっ!」
 彼女が椅子の足につまづいて、その身体がぐらりと傾いた。

 少女が咄嗟に、彼女を支える。
「危なかったぁ……。助けてくれて、ありがとう!」
「別に」
 ホッと安堵の息を吐いてから、嬉しそうに礼を言う彼女。その視線から、少女が少し強張った顔で目を逸らす。
 じゃあね〜、と手を振りながら、ウエスターに連れられて部屋を出て行く彼女。それを見送ってから、少年がボソリと言った。

「やっぱりお前も……以前とは違うんじゃないか?」
「……何っ?」
「今だって、あいつを助けた」
「助けたんじゃない。たまたま私にぶつかったから、受け止めただけだ」
「昨日はたまたまじゃなかった。人助け、してたよな?」
「……」
 黙り込んだ少女に、少年が至って真面目に、そして少し不思議そうに問いかける。

「なぁ。何故そんなに嫌がる」
「……黙れ」
「みんなで助け合っていこうって、ウエスターさんが言ってた。だから堂々と助ければいいんだ」
「……黙れ」
「今は命令されてないことをしてもいいんだ。なのに何故……」
「……そんなこと、知るかぁっ!」

 叫びと同時に、少女の右ストレートが少年を襲った。大テーブルの周りにいた若者たちが、悲鳴を上げて後ずさりする。
 咄嗟に飛び退く少年。それを追おうとしたところで、少女が動きを止めた。
 怯えた表情でこちらを見つめる若者たちをぼんやりと眺め、固めた自分の拳に目を落として、グッと唇を噛みしめる。
 次の瞬間、少女は身を翻した。そして風のような速さで広間から駆け出すと、あっという間に姿を消した。

〜終〜

81一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/01/27(水) 19:40:44
以上です。5レスで納まりましたねw
ありがとうございました!

82名無しさん:2016/01/27(水) 23:49:50
>>81
少女はいつかせつなと……続きが楽しみだす

83血液型占い嫌う人いるけど、アレ何なん?:2016/02/08(月) 23:00:36
トワっちはB型っぽい。ひめもB型っぽい。
せつなもB型かなぁ?ブッキーもB型っぽい。
エリカは言うまでもない。
ほのかは公式にB型。

84名無しさん:2016/02/10(水) 23:33:19
マナはO型だろうな

85名無しさん:2016/02/11(木) 21:47:34
>>83
姫プリならきららちゃんもB型っぽいですね。
はるか:O型
みなみ:A型
ゆいちゃん:A型かAB型

86名無しさん:2016/02/11(木) 22:37:40
やっぱりピンクキュアはO型なのかな。なぎさも咲もO型だし。
でもラブはAB型だったような。
つぼみはA型でしょうかね?

87Mitchell&Carroll:2016/02/16(火) 22:21:20
『〜Tasting〜』

アイちゃん「きゅぴ〜チュパチュパ」
ランス「へぇぇ〜でランス」
なお「……ねぇ、アレっておいしいのかな?」
あかね「何がや?」
なお「あの黄色の……耳」
あかね「(あいかわらず、食い意地張っとんのォ〜)」
なお「ちょっと確かめてくる!」
あかね「こら!アカンて、よそ様のは!!」
ランス「なっ、なにするでランス〜っ!?」
なお「味見!味見するだけだから!!」
あかね「スマン、ちょっとの間だけ辛抱したってや」
なお「チュパチュパチュパチュパ……なるほど」
あかね「気ィ済んだか?」
なお「味自体はそんなに無いかな。気に入ったのは食感だね。
   ぬいぐるみみたいな食感だと思うでしょ?ちがうちがう。
   なんていうかな……溶けない綿アメ?みたいな。ずっとしゃぶりついていたい、
   そんな気分にさせてくれるね。この子は耳をしゃぶられるのを嫌がってるみたいだけど、
   この耳はしゃぶられる為にあると思うんだ。運命って残酷だよね。
   ちょっと口の中に毛が入っちゃった……まあとにかく、あかねもしゃぶってみなよ」
あかね「お、おう……(ハッ!これって間接キス!?)」
なお「なに遠慮してんの?この子気ィ失ってるし、しゃぶるなら今のうちだよ?」
あかね「チュパチュパチュパチュパ……ドキドキが止まれへん」
なお「でしょ?」
ありす「あら、お二方。ごきげんよう」
なお「ああ、今、アンタのとこの子の耳、ちょっと味見させてもらってたんだ。ごちそうさま」
あかね「………」
なお「あかね、いただいた後は“ごちそうさま”でしょ?そこんトコ、ちゃんとしないと」
あかね「ご ち そ う さ ま で し た ぁ ー ー っ ! ! ! 」
なお「うわっ、ビックリした!」
ありす「お元気で何よりですわね。うふふ」

おしまい

88名無しさん:2016/02/17(水) 00:36:47
>>87
ランス受難w
ありすの落ち着きっぷりは流石と言えよう。

89一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/02/21(日) 22:08:11
こんばんは。
競作が始まってしまいましたが(汗)、長編の続きが書けましたので投下させてください。
5レスで納まると思います。

90一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/02/21(日) 22:09:05
 夜もとっぷりと更けた、ラビリンスの居住区。立ち並ぶ集合住宅は、外から見るとどれも判で押したように同じ大きさ、同じ形の建物だ。その一棟の片隅にある小さな部屋に、今、灯りが点いた。
「どうぞ、上がって」
「お邪魔しまーす!」
 玄関先で靴を脱ぐ二人の少女は、せつなとラブ。ここは、ラビリンスでのせつなの住まい。彼女が一人で暮らしている部屋だ。

 一足先に上がってラブにスリッパを差し出したせつなは、少し困ったような表情だが、その口元は嬉しそうに緩んでいる。ラブの方はワクワクを絵に描いたような顔で、部屋に入るやいなや、わぁっと歓声を上げた。
「広いじゃん、せつな。ベッドも凄く大きい!」
 えーっと、ここは何かなぁ……などと大きな声で言いながら、ラブが幾つかの扉を開けて、楽しげに中を覗き込む。そして最後はきれいに整えられたベッドめがけて、勢いよくダイブした。
 もう、と呆れた顔をしてみせてから、せつながクスリと笑う。そしてラブの荷物を机の上に置くと、自分はベッドの縁に腰かけた。ラブもすぐに起き上がって、その隣に座る。

 ベッド、机、本棚、姿見。どれも桃園家のせつなの部屋にある物より一回りか二回りほど大きいが、それらは全て、桃園家の部屋と同じ配置で置かれている。
 それ以外には、家具らしい家具は無い。女の子の一人暮らしにしては、殺風景なくらい必要最小限のものしか置いていない部屋。改めて見回したラブは、机の上に置かれた写真立てに気付き、小さく微笑んだ。
 それは、あの最後の戦いから帰った後、タルトやシフォン、アズキーナも一緒に家族で撮った写真だった。ラブも同じ写真を、同じように自室の机の上に飾っている。が、そのことには触れず、ラブはせつなに微笑みながら、おどけた調子で言った。

「やっぱきちんと片付いてるねー、せつなの部屋。あたしなんか、つい散らかしちゃうのにさ」
「ラブの部屋は、物が多すぎるのよ」
 そういつもの調子でたしなめてから、せつなはまた少し困った表情に戻って、ラブの顔を見つめた。
「それよりラブ。本当に泊まっていったりしていいの? お父さんとお母さんが心配してるんじゃ……」
「大丈夫だよぉ。お母さんには、ちゃんと言って来たもん」
「でも……」
 ラブの即答とは対照的に、せつなが曇った顔のままで口ごもる。

 今朝、せつなは四つ葉町での休暇を早めに切り上げてラビリンスに戻って来たのだが、驚いたことに、ラブも後から彼女を追ってラビリンスにやって来た。ちょうどこちらへ戻るところだったウエスターとばったり出会って、彼に頼み込んで連れて来てもらったのだと言う。しかもラブは、着替えを詰めた大きなスポーツバッグを肩にかけ、泊まる気満々の格好で現れたのだ。
 いくら移動が可能と言っても、ここは異世界。友達の家にちょっと遊びに行くのとは、わけが違う。だが、ラブは事もなげに、こんな言葉を付け足した。

「大丈夫だって! せつなの家に泊まるって言ったらさ、お母さんが、せっちゃんのところなら安心だわ、だって」
「……ホントに?」
 せつながそれを聞いて、まだ心配そうな表情を残したまま、うっすらと頬を染める。その顔を見て、ラブの言葉にさらに力がこもった。
「うん! だから、明日からせつなの手伝い、あたし、精一杯がんばるよっ!」
「明日から、って……。そんな、ダメよ。せっかくの夏休みなのに」
「もう。わかってないなぁ、せつなは。夏休みだから、あたしにもせつなの手伝いが出来るんでしょう?」
 再び困ったような表情になるせつなの隣で、ラブが得意げに胸を張る。
「あたし、この前のお料理教室で、せつなの手伝いが出来て、すっごく嬉しかったんだ。だから、もしまた手伝えることがあるなら一緒にやらせてよ。だって、せつなの夢は、あたしの夢でもあるんだから」
「ラブの……夢?」
「そう!」
 ますます得意げにニッと笑ってみせるラブを、せつなは一瞬、不思議そうな顔で見つめる。そして、フッと顔をほころばせてから、うん、とひとつ頷いた。

「わかったわ。ありがとう、ラブ」
「やったぁ!」
「でも、そう長い間はダメよ?」
「え〜、なんで?」
「まだ夏休みの宿題も、終わってないんでしょう?」
「うっ……それは……」
 途端に目を泳がせるラブに、せつながクスクスと笑い出す。

 この部屋で、こんな風に笑ったことなんてあっただろうか、とふと思った。
 ラビリンスを笑顔でいっぱいにしたい――そう思ってここに戻って来たけれど、ここでの自分の笑顔のほとんどは、ラビリンスの人々のために――人々の緊張をほぐしたり、敵意が無いことを伝えたりするために浮かべるもののような気がする。

91一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/02/21(日) 22:09:35

――せつな自身が幸せな姿を見せなくてどうするの。

 昨日の美希の言葉が蘇った。いや、もしかしたらさっきから、心の中にあったのかもしれない。
 そして、蘇ったその言葉は、初めて聞いた時よりずっと優しく、せつなの心に沁みた。

「あーあ、失敗しちゃったなぁ。宿題、持って来てせつなに教えてもらうんだったよぉ」
 そんなことを言って頭を掻いているラブに、もう一度小さく微笑んで、せつながベッドから立ち上がる。
「じゃあ、お風呂の準備してくるから。準備が出来たら、ラブが先に入って」
「え、シャワーだけじゃなくて、お風呂もあるの?」
「え……ええ。小さなバスタブだけど」
「そっか。じゃあせつな、一緒に入ろう!」
「ちょっ……何言ってるのよ!」
 慌てるせつなの手を取って、ラブが俄然元気になって、ベッドから立ち上がる。
「だって、お風呂場の使い方、わかんないんだもーん。さ、せつな早く!」
「ちょっと、ラブ! まだお湯も入れてないんだから!」
 いきなりお風呂場に向かおうとするラブに、せつながもう一度、クスリと笑った。
 部屋の灯りが、いつもより明るく、あたたかい。何だか夢を見ているような気持ちで、せつなはそれに半ば納得し、半ば不思議に思っていた。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第4話:再会 )



 次の日、ラブはせつなと一緒に、ラビリンスの中心地から少し離れた場所へ出かけた。
 かつて見た、人々が一糸乱れぬ隊列を組んで歩く光景は、今のラビリンスではもうすっかり見られなくなったらしい。全員が同じグレーの服に身を包んでいるところは変わらないが、人々は皆、思い思いの方向に、思い思いの速さで、時々立ち止まったり急ぎ足になったりしながら歩いている。
 すれ違う人の中には、せつなの顔を見て微笑みながら会釈をする人、せつなの方から声をかける人も多かった。そんな光景を見るのが何だかとても嬉しくて、ラブは自分も元気よく挨拶しながら、隣を歩く親友の横顔を誇らしげに見つめた。

 やがて二人がやって来たのは、低い塀で囲まれた広大な敷地だった。中に入ると、石や木の柵で区切られた花壇や、まだ植えられたばかりの苗木が二人を出迎えた。
「ここを、四つ葉町公園のような憩いの場にしたいの」
「へぇ! いいね、それ」
 せつなの言葉を聞いて、ラブの顔がぱぁっと輝く。
 ウエスターとサウラーも一緒に政府に進言し、公園の設計も、三人が中心になって考えたのだと言う。もっとも、ウエスターの要望は公園がどうこうと言うより、「絶対にドーナツの店を出す!」というただ一点だったらしいが。

「でも、ラビリンスには公園に植えられるような植物なんて、なかったから」
「うん」
「異世界から、木の苗や花の種を持って来てね」
「うんうん」
「ラビリンスに適しているものを選んで、公園に植えられる大きさにまで高速栽培させたの」
「う……ん?」
 話に付いて行けなくなったのか、ラブが頷くのをやめて、首を傾げる。
 せつなは、ひょろひょろと頼りなく並んだ、まだ並木とはとても言えない小さな木々を、愛おしそうに見つめた。
「この木が大きくなるまでには、まだまだ時間がかかりそうだけど」
「うん。でも、それを待つのも楽しいよね。どんどん変わっていく公園を見られるのって、なんか楽しくない?」
 ラブが、さっきまでとは打って変わった力強い声でそう言うと、せつなと並んで、まだ柔らかい木の葉を、ちょん、とつつく。
 せつなは少し驚いたような表情でその横顔を見つめてから、嬉しそうに、そうね、と頷いた。

「ところで、せつな。今日はお料理教室の準備に来たんじゃないの? それとも、何か別の用事?」
「ううん、ちゃぁんと料理学校のための用事よ」
 不思議そうに尋ねるラブに、少し悪戯っぽく微笑んで、せつながずんずんと公園の中へ入っていく。
 やがて公園の一番奥まで辿り着いた時、突如そこに開けた景色に、ラブは驚いて目をパチパチさせた。

 そこに広がっていたのは、柔らかそうな土の黒と、みずみずしい緑のコントラスト。ラブたちの世界のものとそっくりな、野菜畑だった。

92一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/02/21(日) 22:10:08
「ラビリンスの食材は、野菜も全て工場で、人工的に作られているの」
 せつなが静かな声で説明する。
「でも、やっぱり自然の土や光で育ったものの方が、美味しいんじゃないか、って……」
 それで試験的にここで野菜を育て、収穫したものの一部を、料理教室でも使わせてもらっているのだと言う。
 丁度せつなが話し終えたところで、畑の隅にある小さな小屋の扉が開き、中から一人の老人が、ゆっくりと姿を現した。

「こんにちは〜! あの、今ちょっといいですか?」
 せつなが両手をメガホンのようにして大きな声で呼びかけてから、彼の方に向かって歩き出す。ラブもその後ろを付いて行きながら、わずかに眉根を寄せた。

(あれ? あの人、どこかで会った、ような……)

 老人は、せつなの言葉に特に反応も見せず、うつむき加減でゆっくりと歩いて来る。
 銀髪と言うより白髪に近い髪が、頭の周りにだけ残った髪型。少し腰を曲げるようにして歩く姿は見るからに老人だが、その足取りは意外としっかりしている。
 そして彼が、そこに置いてあった大きな袋を抱え上げた瞬間、ラブが、あっ、と小さく声を上げた。
「やっぱり……。この人、あの時のおじいさんだよ」
「え?」
 せつなが不思議そうに、ラブと老人とに交互に目をやる。
「ほら、あたしたちがメビウスの城に行く時に、すれ違ったおじいさん」
 そう言うが早いか、まだポカンとしているせつなをその場に残して、ラブは老人に駆け寄った。

「大丈夫? 持つよ、おじいさん」
 そう言いながら、老人が抱えた袋を一緒に持とうとするラブ。それを見て、せつなもようやく思い出した。
 あれは、メビウスとの最終決戦のために、ここラビリンスにやって来た時。ラビリンスの人々の列に紛れてメビウスの城に向かおうとした四人の近くに、大きな荷物を抱えた彼が歩いていたのだ。

(確か、この人がバランスを崩して、そして……)

 咄嗟に助けようとしたラブを、列が乱れると見つかるという理由で、せつなは止めた。その時は、彼が無事体勢を立て直して、事なきを得たのだが。

(あの時ほんの少し見ただけなのに、ラブはよく顔を覚えていたわね)

 ラブにとっては、困っている人を助けることは息をするくらい自然なことで、それが出来なかったことの方が、心にかかる出来事だったのかもしれない。
 そう思うと、何だか申し訳ないような複雑な気持ちで、せつなは老人とラブの元へと駆け寄った。

「結構重いね〜、この袋。何が入ってるの?」
「肥料だ」
「へぇ。これから畑に撒くの?」
「ああ」
「あたしも手伝おうか!」
「いや」
 ラブが袋に手を掛けながら、明るい声で老人に話しかけている。だが、老人の返事は極めてそっけなかった。特に不機嫌そうなわけではない。ただ聞かれたことに、必要最小限な答えを返しているだけだ。
 やがて、肥料の袋を畑の隅に置いた老人は、ゆっくりとせつなの方に向き直った。

「すみません。次の料理教室の日程が、変更になりそうなので――」
 そう老人に説明しながら、せつなはそっと唇を噛みしめる。せつなの話を聞いている老人のねずみ色の瞳はぼんやりとしていて、その反応は事務的以外の何物でもなかった。

(この人は今でも、まだ管理されていた頃のラビリンス人、そのものだわ)

 ここに畑を作ることになった時、近くの居住区に住む人々に向けて、畑の世話をする人を募る知らせが出された。彼はそれに応募してきた、数少ない一人だ。
 だからもっと新しいことに興味を持っている人物なのかと思ったのだが、会ってみると、彼はせつなの想像とは全く違っていた。
 仕事は黙々とこなしている。ラビリンスで野菜を路地で育てるためには何が必要か、サウラーが事前に様々なことを調べて書き記していたのだが、それを見てきちんと作業をしているらしい。
 だが、それだけだった。果たして野菜作りに興味を持っているのか、はたまた自分が作った野菜のことをどう思っているのか、まるでわからない。
 何も考えていないかのように、淡々と仕事をこなし、淡々と規則正しい生活を送る――それは確かに、かつてのラビリンスの人々の生活そのものと言えた。

93一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/02/21(日) 22:10:41
 次の料理教室についての連絡を一通り終えて、せつなが再び頭を下げる。するとそれを待っていたように、ラブがニコニコと老人に歩み寄った。
「ねぇ。今度のお料理教室には、おじいさんも参加してみない?」
「いや……遠慮しておく」
 やっぱり、とせつなが心の中で呟く。せつなも何度か彼を料理教室に誘って、そのたびに断られているのだから。だが、ラブは簡単には諦めなかった。
「そう言わないでさぁ。みんなでお料理するのって、すっごく楽しいんだよ?」
「……」
「みんなで作ったハンバーグも、すっごく美味しいし」
「食事は……栄養がとれればそれでいい」
「じゃあじゃあ、ためしに試食だけでも来てよ! すっごく賑やかなんだ。みんなが自分で作ったハンバーグを交換して……」
「すまん。私はそういうものは、苦手なんだ」
 老人の、すまなそうながらキッパリとした拒絶の言葉に、ラブも口をつぐむ。すると、今度はせつなが静かに口を開いた。

「おじいさん。おじいさんがここでの仕事を選んで理由って、もしかして……」
「もしかして……何? せつな」
 そこで言いよどんだせつなの顔を、ラブが心配そうに覗き込む。
「その……ここなら一日、ほとんど誰とも会わずに居られるから、ですか?」
 せつなの問いに、老人は相変わらず何の感情も読み取れない表情で、ああ、と頷いた。老人の顔をひたと見つめていたせつなの瞳が揺らぐ。それを見て、老人は目を伏せると、フーッと長く息を吐き出した。

「メビウスに管理されていた頃、私たちは皆、人のことには無関心でした」
「ああ」
 せつなの言葉に、老人が短く応じる。
「その方が……おじいさんには、居心地がいいですか?」
「わからん」
 老人は相変わらずそっけなく答えると、腰を伸ばすようにして、公園の並木の方を見つめた。
「今のラビリンスは、あの頃とは違う」
「そう……思いますか?」
「ああ。きっとこれから、もっと変わっていくだろう」
 我知らず頬を緩めたせつなの方に、老人が視線を戻す。
「それが人としての、本来の姿なのかもしれん。だが……今のラビリンスは私には少々賑やか過ぎて、どうしていいかわからんのだ」

 野菜畑が一瞬、しんと静まり返った。ああ、この静けさこそが、この人には馴染みの日常なのか――せつながそう思った時、沈黙を破ったのは、ラブだった。
「大丈夫だよ。お料理教室で出会った人たちは、みんな優しい人たちだったよ。だから、おじいさんにもきっと友達が出来るって」
「友達? よくわからんが……。もう老い先短い身だ。このまま静かに、一人で過ごさせてくれ」
「でも!」
 静かにかぶりを振る老人に、ラブが詰め寄り、なおも言い募ろうとする。

 するとその時、老人がわずかに顔を上げた。視線はラブを通り越して、畑の入り口辺りを見ている。
 至近距離からその顔を見ていたラブは、心の中で首を傾げた。今までまるで生気のなかった瞳が、何だか少し嬉しそうに輝いたように見えたのだ。
 ラブが思わず後ろを振り向いて、そのまま笑顔になる。そこに立っていたのは一人の少女。昨日ラブが給食センターを訪れた時に出会った、あの少女だった。

「こんにちは。あなたとは、よく会うね」
 ラブが明るく声をかける。が、答えは返ってこなかった。彼女は目を大きく見開いて、何かにひどく驚いたような表情で、ラブとせつなを交互にみつめていたのだ。

「お前……どうしてそいつと、一緒に居るんだ」
「そいつって……ああ、せつなのこと? せつなは、あたしの大切な友達だから」
 かすれた声で問いかける少女に、ラブが満面の笑みで答える。が、それを聞いて、少女の瞳が大きく揺れた。
「ということは、まさか……お前もプリキュアなのか!」
「あ……アハハ、うん。実は、そうなんだ」
 少女の問いに、軽い調子で答えて頭を掻くラブ。それを見て、少女がわなわなと震え出す。
「え……ちょっと、大丈夫?」
「ラブ、待って!」
 心配そうに駆け寄ろうとするラブの手を、せつなが掴んで止めた。

 少女の瞳が、二人を――いや、ラブを睨み付ける。
 燃えるような赤い眼差し。そこに宿るのは今や戸惑いではなく、驚愕と――怒り。
 食いしばった奥歯の間から、ごく小さな呟きが漏れる。その言葉を、せつなだけは聞き取ることが出来た。

「こんなヤツに……こんなヤツに、メビウス様は倒されたと言うのか……!」

 ハッとした瞬間、ラブの腕を掴んでいたせつなの手が緩む。それを待っていたかのように、ラブが心配そうな表情で、一歩、二歩と少女の方に歩み寄った。
「ねえ、ホントにだいじょう……」

「ラブ、下がって!」
「寄るなっ!」

94一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/02/21(日) 22:11:12
 せつなが高い声で叫んだ瞬間、ラブの体があぜ道に転がる。少女がラブを突き飛ばしたのだ。
 慌ててラブを助け起こしたせつなは、ラブと老人を庇うように、少女の前に立った。

「なんてことするの! 彼女は、今はプリキュアじゃないわ」
「それがどうした」
「一般の人間に手を挙げるなんて、かつても許されていなかったはず。“己の力は”――」
 激しい口調でそう言いかけたせつなが、そこで口をつぐむ。そして、気持ちを落ち着けるようにひとつ大きく深呼吸をしてから、努めて静かな声で言った。

「メビウスは、もう居ない。それはあなたもわかってるんでしょう?」
「黙れ! お前がそんなことを言えた義理か」
 吐き捨てるようにそう言って、少女が不敵に笑う。
「さっきお前が言いかけた掟を、正確に言い直してやる。
“己の力は、メビウス様のために。それ以外のものに使ってはならない”
そうだったわね、先代――私の前の、イース!」
 今度はせつなの方が驚きの表情を浮かべた後、その顔が苦しそうに歪んだ。

「私は今でもメビウス様の僕。そのメビウス様を倒したプリキュアを、みすみす放ってはおけぬ!」
「……どうしてもラブを傷付けると言うのなら、私が相手になるわ!」
 二人の少女が睨み合ったまま、ゆっくりと構えを取る。が、次の瞬間。
「二人とも、やめてっ!」
 凛としたラブの声が、辺りに響いた。

 少女が、ふん、と鼻を鳴らしてから、構えを取ったままで後ずさり、やがて一目散にその場を駆け去る。それを見届けてから、ラブはまだ構えを解いていないせつなの肩に、ぽん、と手を置いた。
 せつなが、ハッと我に返ったように、自分の両手をしげしげと見つめ、続いてぼんやりとした目でラブの顔に目をやる。
「……せつな?」
「ラブ……。私、今、あの子と……」
「大丈夫。大丈夫だよ、せつな」
 ラブは、その場に棒立ちになっているせつなの体を抱きしめると、その背中を優しく撫で始めた。
 せつなの体はひどく強張っていて、その背中は微かに震えている。ラブは、せつなを抱く手にギュッと力を籠め、震えが収まるまで、何度も何度も、優しく背中を撫で続けた。


   ☆


 その夜、星ひとつ無い空の下、ラビリンスの人々が深い眠りに就いた頃。
 今は廃墟となっているメビウスの城の跡地に、こっそりと近付く小さな影があった。
 影は跡地に侵入すると、爆発の及んでいなかった地下の部屋から、ある小さな物を持ち出した。そして闇に紛れて街を駆け抜けると、いずこへともなく、消えてしまった。


〜終〜

95一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/02/21(日) 22:11:59
以上です。
明日からは競作に全力投球させて頂きます。
ありがとうございました!

96運営:2016/04/14(木) 00:15:52
こんばんは、運営です。
先日ご連絡致しました通り、競作スレは過去スレに移しました。
たくさんの投下と書き込み、本当にありがとうございました!!
なお、告知を頂いている方の投下分は競作として保管しますので、
以後はこちら「『プリキュアシリーズ』ファンの集い!」にて、
引き続き投下をお待ちしております。

97名無しさん:2016/04/26(火) 22:59:42
前田健さん、素敵な振り付けをありがとう!!!!!

プリキュアといえば、エンディングのCGが有名だけど、
それに見合う振り付けを考えたのはこの人です!
「カワイイ!」がテンコ盛りの振り付けで、特にスマイルプリキュアの「イェイ!イェイ!イェイ!」は、もはや伝説です。
個人的にはハートキャッチの前期も好き。

カオルちゃんがいなかったら、ラビリンスの人達はドーナツの味を知らないままだった。

98名無しさん:2016/04/26(火) 23:56:18
カオルちゃん・・・
きっと今も、四つ葉町のあの公園で、「グハッ!」と笑いながらドーナツを売ってるって、俺は信じてるよ。
さよならは言わない。またいつか会える日を楽しみにしてるからね。

99Mitchell&Carroll:2016/05/01(日) 01:15:11
お久しぶりです。投下させていただきます。スイートプリキュア♪で……


『アコの誕生日』


アコ「――痛いって、奏太!そんなに強く、手、引っ張らないでよ!」
奏太「早く早く!姉ちゃん達、待ってるから!」

(奏の部屋)
奏太「姉ちゃーん!アコ、連れて来たよ〜!」
響「♪バースデー、バースデー、バーバーバーバーバースデー」
奏「ハイ!」
響「♪バースデー、バースデー、バーバーバーバーバースデー」
エレン「ハイ!」
響「♪バースデー、バースデー、バーバーバーバーバースデー」
ハミィ「ニャプ!」
響「♪バースデー、バースデー、バーバーバーバーバースデーーイ!!!」

響「♪今日は!姫の!たんじょ〜び!!」
ほか「「ワッショイ!」」
奏「♪生まれて!出会えて!ア・リ・ガ・ト・ネ☆」
ほか「「ワッショイ!!」」
ハミィ「♪今夜は!美味しくシャン○リー飲・め・る・の・は?」
ほか「「ニャプショイ!」」
エレン「♪姫の!笑顔のお・か・げ・で・す!!」

響「♪こぉ〜んやの主役はジュリエット!」
ほか「「ハッピーバー、ハッピーバー、ハッピーハッピーバースデー!」」
響「♪こぉ〜んやの主役はジュリエット!」
ほか「「ハッピーバー、ハッピーバー、ハッピーバースデー!!」」
みんな「「「♪バースデー、バースデー、バーバーバーバーバースデー(×4)」」」

奏太「そんなHAPPY‐GIRLから一言聞いてみたいと、お・も・い・ま……」
ほか「「スリーツーワン!!」」





アコ「私の誕生日……再来月なんだけど……」

100Mitchell&Carroll:2016/05/01(日) 01:22:11
さっそく訂正、すみません……

ほか「「ハッピーバー、ハッピーバー、ハッピーバースデー!!」」
みんな「「「♪バースデー、バースデー、バーバーバーバーバースデー(×4)」」」

この、ほかとみんなの間を一行、空けて下さい。よろしくお願い致します。

101名無しさん:2016/05/01(日) 12:44:42
>>100
どーしてこーなったwww

102名無しさん:2016/05/01(日) 12:51:05
>>99
ぜーったい、周りがやりたかっただけニャw

103Mitchell&Carroll:2016/05/24(火) 01:27:11
タコは、吸盤が綺麗に並んでいるものが♀だそうです。
2レス、お借りします。

18禁
『タコにイカされて』


 日曜午前の町民プール――ひと際、目を惹くプロポーションの持ち主・蒼之美希。
優雅なフォームでエレガントに泳ぐ、その姿には同性からの憧れの眼差しも強い。
そんなオーディエンスの熱い視線をモチベーションに換えながら、
美希は、美容&ボディシェイプトレーニングメニューを黙々とこなすのだった。

 プールの壁にタッチすると、颯爽とゴーグルを外す美希。ノルマの中程までを達成したところで一旦、
休憩を取るようだ。――ふと、違和感を覚えて辺りを見回すと、先程までいた他の利用者たちが、誰一人居なくなっていた。
「あら?あたし、一人だけ?」
不思議な事もあるものだと思いつつ、ハシゴを昇っていくと――

 ――それはプールサイドで、その不気味な目をギョロリと光らせていた。
身の丈8尺はあろうかという巨大なタコ。太い触手を美希の体に絡み付かせ、自分の元へと手繰り寄せた。

「いつかは、いつかはと、狙い澄ましていた甲斐があったというものだわ、美希ちゃん!今日という今日は、
とうとう捕まえたわよ!!」
タコは8本の触手で美希の体の自由を奪い、美希の競泳水着のVゾーンをペロリと捲(めく)り上げると、
中の具をしげしげと観察し始めた。
「う〜ん、色といい形といい、とってもイイモノをお持ちなのねぇ〜。私は、お芋が好きなんだけど、
 それよりもDANZEN!こっちの方が好みだわ!!さあ、チュパチュパしちゃうわよ!
 吸って吸って吸いまくって、たぁ〜っぷり楽しんだら、竜宮城へ連れて行って、囲っちゃおうかしら?」

 ご機嫌なタコは、チュウチュウ、ズチュズチュと音を立て、美希の陰部を吸い始めた。
「い、いやぁぁぁーーーっ!!」
「ん〜もう、イヤじゃないでしょ?美希ちゃん!美希ちゃんのワレメちゃんが「吸って吸って」って言ってるわよ〜ん?」
美希の体は水泳で十分にウォ-ムアップされていたせいもあって、快感の伝達が早い。引き締まった腹筋や臀部の筋肉が、
快感を全身へと運ぶ。
「そんなにしたら……イッちゃう!……イクッ!イックゥゥーー〜〜ッ!!」
「もうイッちゃったの?さすがねぇ、美希ちゃん!!」
タコは間髪を入れずに、美希のクリトリスを強烈に吸い上げる。
剥き出しにされている美希のそれは、今や乳首以上に尖っている。
自分でも思わぬ以上の自己主張を強いられ、美希の羞恥心と興奮は高まる。
「あぁん、それ、駄目ぇぇ!!喜んでる……クリちゃん、喜んでるのぉぉ!!」

104Mitchell&Carroll:2016/05/24(火) 01:27:58
 8本もの触手を持つタコは、美希の両腕・両足を押さえ、身動きが取れないようにしながらも、
器用に美希の両方の乳房と、腋の下、更には背中までをも同時に愛撫する。
「どう?この8本の触手のカラミ具合は!気持ち良いでしょ?ほら!気持ち良いって言いなさい!
 どうしてガマンするの?ガマンは美容と健康に良くないわよ!!ホントは気持ち良いくせに!!
 自分を曝け出すのよ、美希ちゃん!!さあ、言って!言ってぇぇ!!」
「きっ、気持ち良いーー〜〜〜ッッ!!!」
「そう!そうよ!エラいわ、美希ちゃん!!もっとして欲しいんでしょ、ほらっ!!
――私は知っているわよ。美希ちゃん。美希ちゃんは、イースちゃんが、その体を触手に蝕まれているのを見て、
 ひそかに羨ましいと思ったのよね?心の中で何かが激しく燃え上がったのよね?
 そしてその夜、息を荒げ、体を荒げ、悶々として、なかなか寝付けなかったのよね?
 私はちゃ〜んと知ってるのよ、美希ちゃん!知ってるんだから!
 美希ちゃんは確かに、私のことが苦手なようね。美希ちゃんは私を恐れているわね。
 だけどね、美希ちゃん。私は美希ちゃんを快楽の海の底に引き摺り込む自信があるの。
 これはあの日、浜辺で交わした約束なのよ?あの日、腕に絡み付かれた美希ちゃんは、興奮してしまったのよね?
 恥ずかしがらなくてもいいのよ、美希ちゃん。触手に纏わり付かれる快感に、美希ちゃんは目覚めてしまったのよね?
 そして、恐れているのね?乱れ狂ってしまう事を……コントロール出来ない自分を恐れているのね?
 でもね、美希ちゃん!美希ちゃんは、コントロールが効かなくなる事が、自分がカンペキでなくなる事だと
 思っているようだけれども、それは違うのよ!これはカンペキな“美”なのよ!
 カンペキとは、解放することなのよ!美とは、解放よ!自分を解放するのよ、美希ちゃん!
 美とは、自分を解放することなのよ!!!自分を解放することが“カンペキ”なのよぉぉっ!!!!」

 タコの愛撫によって、美希の体はさらにエキサイトする。
「スゴいわ!美希ちゃんの中、キュウキュウ絞まってるわぁ!奥からアツいのが溢れ出てくるわぁぁ!
 美希ちゃん味のおつゆが、ドクドク溢れ出てきて、私の触手、ズポズポニュルニュル、入っちゃうわぁぁ!!」
もうすっかり敏感になってしまった美希の体内で製造される、美希のウェルカムジュース
(made in mktn【lot 1919】)によって、タコの触手の侵入が、より一層、容易になりましたとさ。
そして、タコの愛溢れる言葉によって外された、美希の心の重石。沈められていたものが急浮上する。
「浮いてる……あたし、浮いてるのぉ!!」
それは、水中で感じるものとは、また違った浮遊感。
「美希ちゃん……溺れてしまったのね、快楽の海に!!」

 完全に剥き出しになった美希の心と体に、容赦ない愛が降り注ぐ。
「ずっとイッてるぅ!!ずっとイッてるのぉぉ!!ずっと、ずっとぉぉ!!もっと、も゛っどぉ゛ーー〜〜〜っ!!!!」
いよいよ、タコは最後の仕上げに入る。
「ほらほら、ほぉ〜ら!!もっと鳴くのよ、喘ぐのよ、叫ぶのよ!!
 今の美希ちゃんは何?言って!言ってぇぇっっ!!」
「あたし……あたし、カンペキィィィィィーー〜〜〜ッッッ!!!!!!」

 

 先程から美希の顔にへばり付いて、口元やら耳やら首筋やらを吸っていた小ダコが言う。
「親ビンの番が終わったら、次はアタチが、この自慢のイボイボでチュパチュパしてあげっかんね!
 クリちゃんから、お尻の穴まで、コスってコスってコスりまくって、い〜っぱいイカせて、
 美希ちゃんのエッチ汁を、吸って吸って、吸い尽まくってあげっかんね〜!!チュウチュウ……」





 了

105名無しさん:2016/05/24(火) 07:28:08
>>104
相手がタコだと背徳感ぱない。
朝からスゴいもん読んでしまったw

106Mitchell&Carroll:2016/06/05(日) 23:14:02
よろしくお願いします。


『Re:』

ラブ「――それで、ラビリンスは遺伝子の研究も進んでたんだ」
せつな「ええ。クラインやノーザはその技術で生み出されたの。ほかにも、遺伝子を分析
    して、その人に適した職業、食べる物、着る物、読む物から聴く物まで、何もか
    も全て“管理”されていたわ。おまけに寿命まで…」
美希「死ねって言われたら死ぬ、みたいな…」
祈里「動物さん達にだって、自発性というものがあるのに…」
せつな「そういうものは尊重してなかったわ。知らないし、信じてもいなかった。感じる
    事すら出来なかったの。でも、こっちの世界では、自分で決断することが多いか
    ら、感じたり気付いたりする事が多くて…」
ミユキ「そういえば、ラビリンスには、乗り物とかはあったの?」
せつな「こっちの世界で言うところの自動車みたいなものはあったけど、それもやっぱり
    管理されていて、衝突しそうになると勝手にブレーキが掛かるように仕組まれて
    いて…でもそれは結局、運転手の責任逃れだから、そのシステムは今では廃止さ
    れています」
タルト「進んどるンやなぁ〜」
シフォン「キュア〜」
せつな「それにしても美味しいわ、このドーナツ!」
カオル「お日さまの光をたっぷり浴びた小麦と、お日さまの光をたっぷり浴びたオジサン
    の真心で出来てるからね。グハッ!」
                                     END

107Mitchell&Carroll:2016/06/06(月) 01:11:50
グロ注意


『Reverse』


ラブ「たまには息抜きしないとね!」
美希「遊園地、久しぶりね〜」
祈里「貸し切りみたいだけど……」
ありす「うふふ。この遊園地は(以下略)」
ラブ「じゃあ、みんな!好きなアトラクション、好きなだけマンキツしちゃお♡」
せつな「私、アレにするわ!」
マナ「お供します!地の果てまでも!!(≧Д≦)ゞ」
六花「――あっ、待って!その子は……」

(ゴーカート・始動)
せつな「私の華麗なハンドル捌(さば)き、見せてあげるわ!」
(キューキュキュキュキュッ)
マナ「オロッ」
せつな「ん?」
マナ「ゴクン(―_―|||)」
(キュキュキュキュキュッ)
マナ「オ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛!!!!」

(遠くから見ていた)
六花「あ〜あ、やっちゃった…‥」
ありす「あらまあ……」
亜久里「レディたる者が、何たる有様……」
真琴「ウ……オエ゛ッ」
レジーナ「な〜に、もらいゲ〇してんのよ。ねえ、それより誰かポップコーン買って来て」
アイちゃん「キュピオロロロ……」
六花「いけない!さっき、ミルク飲ませた後にちゃんとゲップさせてなかったわ!」
シフォン「キュアオロロロ……」
ラブ「いけない!さっき、キュアビタン飲ませた後にちゃんとゲップさせてなかった!」

せつな「(アカルンで登場)大変なの!マナが……キャーーッ!?」
六花「ああ……こっちも今、取り込んでてね……」
せつな「うっ……」
ラブ「せつな!?」
せつな「ラブ……できちゃったみたい」


つわ……じゃなくて
おわり

108Mitchell&Carroll:2016/06/06(月) 01:14:28
やはりグロ注意


『続・Reverse』


亜久里「――というワケで、マナの三半規管を鍛える特訓を行いますわよ!!」
六花「なにも、遊園地に来てまで……」
レジーナ「燃えてんね〜」
亜久里「当然ですわ!見ていられませんもの!」
ありす「たしかに、何時、走行中のバスや飛行中のジェット機の上で戦うか分かりませんものね」

亜久里「まずはコレですわ!“コーヒーカップ”!!」
マナ「いきなりキツイのが来たね……」
レジーナ「マナ!一緒に乗ろ!」
マナ「う、うん……」

レジーナ「アハハハ!楽しーい☆」
(ぐるぐるぐるぐる)
六花「いくらなんでも、勢いよく回り過ぎじゃない?」
ありす「レジーナさんは加減というものを知りませんから……」
マナ「ちょっ、レジー……オエエエエ゛!!」

ラケル「マナはパスタか何かを食べたケル?」
六花「こらこら、分析しないの!」
ランス「あの色からすると、きっとトマト系でランス〜」
シャルル「マナは今朝、ナポリタンを食べてたシャル!」
ダビィ「さすが、洋食屋の娘だビィ」

亜久里「次はコレですわ!“メリーゴーラウンド”!!」
ありす「以前、私の所有する馬に乗った際には平気でしたが……」
祈里「(いいなぁー)」
六花「あの時は生き物だったけれど、今度は機械仕掛けだから、果たして上手く行くかどうか……」
美希「馬だけに……“うま”く行くかどうか……」

(♪♪♪)
マナ「……あ、大丈夫かも。楽しい音楽で気分も紛れオエエエ゛!!」

亜久里「最後は特別講師にレッスンしていただきますわ!!」
キュアパッション「特別講師・キュアパッションよ!」
亜久里「では先生、デモンストレーションをお願いします!」
キュアパッション「プリキュア・ハピネスハリケーン!!(ぐるぐるぐる)」
亜久里「マナにはコレをやってもらいますわ。パッションハープの代わりに、このウチワを持って……」
真琴「この遊園地で売っているウチワね」
亜久里「では、スタート!」

マナ「(ウチワを持ってぐるぐるぐる)う、うう……」
六花「マナ、いい調子よ!」
マナ「(ぐるぐるぐる……)ゴックンゴックンゴックン……」
ありす「耐えるのです、マナちゃん!」
亜久里「あと5秒!4、3、2、1……合格ですわ!!」

ラブ「ねえ、みんなでマナを胴上げしようよ!」
みんな「「マーナ!マーナ!マーナ!」」
マナ「あはは、あははは……ウッオエエエエ゛!!」
みんな「「キャーーッ!!?」」


END.

109名無しさん:2016/06/07(火) 23:32:24
>>106
>>107
>>108
これってやっぱ、『Re』三部作!?
いやぁ、行き過ぎたら「戻る(す)」のって、大事だよね〜(棒)
それにしても、せっちゃんの勘違いが素敵すぎる。

110一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/06/12(日) 21:35:33
こんばんは。
三カ月以上間が空いてしまいましたが(汗)長編の続きを投下させて頂きます。
5〜6レスお借りいたします。

111一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/06/12(日) 21:36:08
 しんと静まり返った薄闇の中。ラブはベッドの上にそっと半身を起こすと、隣にある寝顔を見つめた。
 閉じられた長い睫毛。小作りで均整の取れた顔立ち。額に一筋だけかかった黒髪に思わず手を伸ばしかけて、すんでのところでその手を引っ込める。今はその安らかな眠りを、少しでも邪魔したくは無かった。

 小刻みに震える身体を抱き締めた感触が、まだこの手に残っている。あまり力を入れたら、手の中で消えてしまうんじゃないかと思うほど、弱々しくて儚げだった。
 あんなに怯えたせつなを見たのは、いつ以来だろう。

(良かった。せつな、よく眠れてるみたいだね)

 掛布団が規則正しく上下するのを見ながら、確か前にもこんな距離で、せつなの寝顔を見つめたことがあったな、と記憶を辿る。
 あれは、せつなが初めて桃園家にやってきた日。まだせつなの部屋が出来ていなくて、ラブのベッドで一緒に眠った夜のことだ。

 森の中で二人、互いに全てを懸けてぶつかったあの日。
 心が通じ合ったと思った矢先に訪れた別れと、奇跡の再会。
 そしてラブは、初めてラビリンスの――せつなの置かれていた、あまりにも冷酷な現実に触れた。

――ねえ。せつなは幸せ? せつなの幸せは、なぁに?

――せつなはいつも一人で居るし、寂しいのかなぁって。

――せつなも自分の体を大切にしなきゃ、周りの人たちが心配するよ?

 友達だと思って発した数々の言葉が、せつなを傷付けていた。
 友達だと思って過ごしてきた日々が、せつなを追い詰めていた。
 それが悲しくて、悔しくて、今度こそあたしが付いてるからね、と涙をこらえてその寝顔に誓った夜。
 でも、せつなの苦しみに比べれば、自分の涙なんて、本当に取るに足らないものだったと思う。

 過去の自分の行いを悔い、せつながずっと苦しんできたことを、ラブは知っている。だから、ラブはせつながイースだった頃のことを尋ねたことは無かったし、せつなもまた、その頃のことを語ることは無かった。
 それでいいと思っていた。仲間になり、家族になったのは、今のせつな。悲しい過去を振り返るより、その分もっともっと楽しい毎日を積み上げて、未来で幸せゲットしてほしいって思ったから。
 でも今日みたいに、せつなが未だに過去の自分の影に怯え、震えているのを見ると、いつになく心が揺らいだ。
 悲しい、というのとは少し違う。なんていうか、小さな後悔の芽のようなものが、心の中にむくりと頭をもたげたような……そんな感じがした。

(せつなは、せつなだよ。それは何があっても変わらない。だけど……本当にこれで良かったのかな。せつなが、これまでどんなところで、どんな風に過ごしてきたのか。何を考えて、何を感じて来たのか、もっと知ってたら……もっとせつなのために出来ることが、あったのかな)

 ラブは、せつなの寝顔をもう一度覗き込んでから、再びベッドにそっと身体を預けた。胸の上で祈るように両手を組んで、天井を見つめる。

(今、あたしに出来ることって、何だろう……)

 淡い色彩の天井は、今は常夜灯の陰になり、ぼんやりとした闇に霞んで、ラブの目に映った。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第5話:届かない声 )



「せつなさん。注文しておいた新しい食器、届きましたよ」
 ホールの入り口から、給食センターの職員の声がした。
「ありがとうございます」
 テーブルクロスを畳んでいたせつなが笑顔で席を立って、その手から重そうな箱を受け取る。
 戻って来たところで、ラブはせつなに近付くと、わざとその肩にぶつかるようにして、箱の中を覗き込んだ。

「わぁ、きれいなお皿だね、せつな。グラスもこんなに沢山!」
「ラブったら。いきなりぶつかって来たら危ないじゃないの」
 もうっ、と軽く睨まれて、ラブはエヘヘ〜、と頭を掻く。せつなの口元が柔らかくほころんで、その唇が、しょうがないわね、と動いた。それを見て、ラブは内心、ホッとする。
 その声も表情も、立ち居振る舞いも普段通り、いつものせつなだ――そのことを何だか嬉しく思いながら、ラブはせつなを手伝って、食器をテーブルの上に並べ始めた。

112一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/06/12(日) 21:36:38
 一緒に作業をしていた職員たちが、テーブルに並べられた食器を見て集まって来た。艶やかな平皿の表面を感心したように眺めたり、グラスにこわごわ手を伸ばしたりしている。
 長い間、食事は栄養を摂取するための義務でしかなかったラビリンスでは、当然ながら、食器を選んだり、盛り付けを工夫したりということは皆無だった。料理教室で使われている食器類は、調理台や調理器具と同じく、異世界から買ってきたり、工場に特別に頼んで作ってもらったりしているのだという。
 その特注の食器の多くが犠牲となった思わぬ事件も、ようやく片付いた。これでまた、いつものように料理教室を開くことが出来るだろう。
 職員たちの様子を嬉しそうに眺めながら、食器棚に食器を仕舞い始めるせつなに、ラブがタイミングよく次々と、テーブルの上のお皿を手渡していく。

「う〜ん、この白いお皿は、お料理が映えそうだね。これにハンバーグを盛り付けたら、きっとすっごく美味しそうに見えるよ〜!」
「そうね。このお皿なら、付け合わせのニンジンも美味し〜く食べられるんじゃない?」
「うっ……せつなのイジワル。それなら今度の付け合わせは、ニンジングラッセじゃなくて、ピーマンのソテーにしようっと」
「そ……そこは別に、変えなくていいわよ」
 ラブとせつなが交互に冷や汗をかいてから、最後は二人同時に、プッと吹き出した。そのまま、アハハ……と楽しそうに笑い合う二人に、周りの職員たちもつられて笑顔になる。

「随分と楽しそうじゃないか。何か旨いものの話でもしているのか?」
 入口の方から、ひときわ明るくて大きな声がした。それを聞いて、もう一度せつなと顔を見合わせてクスリと笑ってから、ラブがブンブンと首を横に振る。
「違うよ、ウエスター。お料理教室で、せつなにどうやってピーマン食べさせようかなぁって話」
「何言ってるのよ。ラブがちゃんとニンジンを食べるのが先でしょ?」

「ほぉ。まさか苦手なものの話とは思わなかったぞ……」
 ウエスターが少し驚いたように呟く。そして得意そうな顔で、抱えていた紙袋をテーブルの上に置いた。
「じゃあ、今度は旨いものの出番だな。今日のドーナツは、今までの最高傑作だぞ!」
「わぁ、ウエスター、ありがとう! ねえねえ、せつなぁ、どれにする?」
 ラブが真っ先に歓声を上げ、早速ガサゴソと紙袋を覗く。が、一向にせつなの声が聞こえてこないのに気付いて、不思議そうに顔を上げた。

 せつなは、さっきまでとは打って変わった厳しい顔つきで、窓の方に目をやっていた。ウエスターも別人のような険しい表情で、せつなと同じ方向を見つめている。
 それを見て、最初は不思議そうだったラブの顔が、すぐに不安そうな表情に変わった。
 ウエスターはともかく、せつなのこういう反応を、プリキュアとして一緒に戦っていた頃、ラブは何度か目にしたことがあった。他の仲間が誰も気付いていない危険を察知して、いち早く警告してくれる。そのお蔭で助かったことは、何度もあったのだが。

(きっとこれも、せつながラビリンスで身につけた能力なんだよね……)

 何だか少し悲しい気持ちで、ラブがせつなの横顔を見守る。すると次の瞬間。

「うわーっ!!」

 その場に居た全員が、一斉に両耳を押さえてしゃがみ込んだ。ラブの手からドーナツがひとつ転げ落ち、コロコロと床の上を転がって、ぱたりと倒れる。
 衝撃波を伴った、耳をつんざくような凄まじい音。頭の芯に響くようなハウリング音が、突如襲い掛かったのだ。
 これだけの大きさになると、音は強大な暴力と化す。窓ガラスにピシリと亀裂が走り、それがみるみる広がって蜘蛛の巣のようになったかと思うと、ガラスがザァっと一瞬で崩れ落ちた。

「な……何だ、あれ!」
 よろよろと立ち上がった職員の一人が、裏返った声を上げて外を指差した。
 枠だけになった窓の向こうに、のそりと立つ大きな影。その姿を、職員たちだけでなく、ラブとせつなも、そしてウエスターも、驚きのあまり声も無く見つめる。

 ビル一つ分くらいの幅の円柱がぐんと縦に伸びた、巨大な棒のような胴体。その上に乗っかっている、これまた巨大な黒い円盤のようなもの。
 何よりラブとせつな、それにウエスターを驚かせたのは、円盤の上部に見えるつり上がった赤い二つの目と、胴体の中央にある、黒っぽい色の大きなダイヤだった。

「あれって……やっぱりナケワメーケ?」
「ええ。どうやら素材は、この区画の街頭スピーカーみたいね」
 怪物に厳しい目を向けたままでラブの質問に答えたせつなが、すぐに鋭い一言を発する。
「気を付けて! また来るわ!」

「ナケワメーケ! ワワワワワ……」

113一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/06/12(日) 21:37:55
 再びの音波攻撃に、今度は食器棚がミシミシと不気味な音を立て始めた。ウエスターが慌てて棚を押さえ、長い足を素早く伸ばしてドアを蹴り飛ばす。
「イース! ラブ! とにかくみんなを連れて逃げろ!」
「わかった。こっちよ!」
 せつなが先頭に立って、廊下に出る。職員たちを全員外に出してから、最後にラブが走り出した時。

「ホ〜ホエミ〜ナ〜。ニッコニコ〜!」
「ホホエミーナ、行け! ヤツを止めろ!」

 聞き覚えのある能天気な雄叫びと、ウエスターの凛とした声が、今飛び出したドアの向こうから聞こえた。


   ☆


 せつなとラブは、給食センターの職員たちを連れて、すぐ近くにある食糧庫を目指した。
 食糧庫なら、頑丈なシャッターが付いているから音波も遮ってくれるに違いない。おまけに広いし、何と言っても食糧なら豊富にあるので、避難場所としてはもってこいのはず――走りながら、せつながそう説明してくれる。

 外へ出てみると、周りの建物もそのほとんどが、窓ガラスが割れたり、ひびが入ったりしている。何が起きたのか訳が分からず通りをうろうろしていた人や、道端でうずくまっていた人たちが続々と集まってきて、二人の後ろに長い行列が出来た。
 後ろを振り返ってみると、ナケワメーケの前に、平べったい円形の身体のホホエミーナが立ちふさがっていた。どうやら給食センターのフライパンが素材らしい。その奮闘のお蔭か、耳を塞いでも防ぎきれないあの凄まじい轟音は、さっきと違って、今は時々途切れるようになってきている。だが、なかなか完全には止まないところを見ると、ホホエミーナはどうやら苦戦しているようだった。

「それにしても何なんだろう? あのナケワメーケ」
「分からない。あんな色のダイヤも、見たことがないし……」
 ラブの問いに、せつなが前を向いたまま苦い表情で答えかけた時、一人の幼い女の子が、通りをふらふらと歩いているのが目に入った。
「ここに居ては危険よ。私たちと一緒に、安全なところへ行きましょう」
 せつなが女の子の側にしゃがみ込み、目線の高さを合わせて、優しい声で語りかける。そして女の子の手を取って立ち上がらせると、その子としっかりと手を繋いだ。
 ラブが、そんなせつなの様子に、フッと頬を緩める。せつなはそんなラブの顔を照れ臭そうにチラリと眺めてから、女の子と一緒に列の先頭に立った。
「さあ、そこの角を曲がったところよ!」
 後ろに続く人たちにそう声をかけて、せつなが女の子を気遣いつつ、速足で交差点を右に曲がる。続く人々を誘導してから、自分も角を曲がろうとしたラブは、もう一度ナケワメーケの方を振り返って、そこで思わず足を止めた。

(あんなところに、誰か居る!)

 二体のモンスターが戦っているすぐ近くの陸橋の上に、小さな人影が見える。いくら途切れ途切れとはいえ、あんな近くでは轟音も物凄いだろう。もしかしたら取り残されて、動けなくなっているのかもしれない。

「ラブ〜! どしたの?」
 ラブが来ないのに気付いたのだろう。曲がり角の向こうから、せつなの叫ぶ声が聞こえた。それに大声で答えようとした時、またしても音波が襲って来て、ラブは慌てて両手で耳を塞いだ。

「早く助けなきゃ!」
 思わず二、三歩走りかけて、せつなのいる方を振り返る。心配させないように一言伝えてから行きたいが、今は普通に会話するのすら難しい状況だ。それにぐずぐずしていたら、あの人がますます危険にさらされるかもしれない。

(せつななら、分かってくれるよね?)

 ほんの少しだけためらってから、ラブは意を決して、元来た道を全速力で走り出した。

 ナケワメーケに近付くにつれ、さすがに音波の衝撃は強くなってきた。音だけでなく、物理的な圧力が、突風となってラブを押し戻そうとする。ラブは、足から力が抜けそうになるのを必死で堪え、建物の陰から陰へと移動して、じりじりと前へ進む。

 ようやく陸橋がよく見える距離まで近付いた時、ラブは、ん? と不思議そうに呟いた。
 ごしごしと目をこすって、陸橋の上に居る人物にもう一度目を凝らす。そして。
「あーっ、あなたは!」
 誰も聞いていないビルの陰で、ラブは思わず大声を上げた。

114一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/06/12(日) 21:38:54
 肩の上くらいで切り揃えられた、少しくすんだライトブラウンの髪。大きな緋色の目がひときわ強い存在感を放つ、色白で端正な顔立ち……。
 間違いない。昨日、公園の奥の畑で出会った少女――あの時、せつなと睨み合ったあの少女だ。だが、今日の彼女の服装は、昨日と一昨日会った時のラビリンスの国民服とは、明らかに違っていた。
 上半身は華奢な身体にぴったりとフィットし、裾はマントのように長くて後ろに広がった形の、黒い衣装。細い手足は、同じく黒の長手袋と、黒の長靴下に覆われている。
 ラブの目に焼き付いている、親友のかつての姿とは同じでは無いものの、それをありありと思い起こさせる姿。
 と、その時ちょうど音波が途切れ、彼女の声がはっきりとラブの耳に飛び込んで来た。

「何をしている、ナケワメーケ! もっと攻撃しろ! 愚かで恩知らずな者どもを、不幸のどん底に突き落としてやれ!」

 そう、彼女はそこに取り残されているわけではなかった。左手を腰に当て、右手を前に突き出して、ナケワメーケに檄を飛ばしていたのだ。

「え……えーっ!? あの子が、ナケワメーケを!?」
 またしても誰も居ないところで大声を上げてから、ラブがハッとしたような顔つきになった。
「不幸の……どん底に……?」

 彼女の言葉に奮起したのか、ナケワメーケは再び強烈な音波を放ちながら、街の方へと歩き出そうとしていた。ホホエミーナが立ちふさがり、その丸くて平べったい身体をナケワメーケに叩き付ける。
 ゴン、という鈍い音がして、ナケワメーケがぐらりとよろけ、地響きを上げてその場に倒れた。ホホエミーナが相変わらず笑顔のままで覆いかぶさり、ナケワメーケのダイヤに手を伸ばす。
 だが、そこで予想外の出来事が起こった。ホホエミーナの手がダイヤに届いたと思った瞬間、まるで感電でもしたように、ホホエミーナが弾き飛ばされたのだ。建物の上に倒れ込んだホホエミーナが、衝撃にビリビリと身体を震わせながら、必死で立ち上がろうとする。

「ハハハ……! 何度やっても無駄だ。お前にコイツは倒せない。それどころか、お前が居るお蔭で不幸がもっと広がっている。見ろ!」
「ホ……ホエミ……ナ……」
 勝ち誇ったような少女の言葉に、ホホエミーナが目尻をカタッと下げて、悲しそうに辺りを見回す。
 二体のモンスターが戦っている周辺の建物は、そのあおりを受けて、ほとんどが全壊、半壊の状態になっていた。
 戦意を喪失したホホエミーナに、ナケワメーケが再び音波を浴びせかける。

「もうやめて!」
 自分の声さえ聞こえない騒音の中で、ラブは思わず叫んでいた。
 鋭い目でナケワメーケを見据える少女の姿が、ラブの中でいつの間にか、かつてのせつなの――イースの姿と重なっていた。同時に、昨日自分の腕の中で震えていたせつなの姿が、それと重なるように蘇って来る。

「ダメ……。このままじゃ……ダメ〜!!」

 ラブはグッと拳を握ると、風圧に何度も転びそうになりながら、再び通りを走り出した。少女が立っている陸橋は、モンスターたちの戦いの現場を挟んで向こう側にある。
 路地から路地を斜めに走って、大回りをしてナケワメーケの背後に回ると、あんなにラブを悩ませていた音は嘘のように小さくなった。音は一定の方向に向けて、強く発せられているらしい。なるほど、それで少女はあんなにも平然と、立っていられるのだろう。
 どうにか少女の立つ陸橋の下までやって来ると、荒い呼吸を力づくで抑え込んで、精一杯の大声を張り上げる。

「もうやめてっ! どうしてこんなことをするの?」
「ん? ……ああ、お前か」
 少女がナケワメーケから目を離し、ラブの姿を認める。そして昨日とは打って変わった余裕の表情で、ふん、と鼻で笑った。

「どうして? そんなこと、聞いてどうする」
「だって……何か理由があるんでしょう?」
「ふん、異世界人のお前には関係ない。とっとと自分の世界へ帰るがいい」
「関係あるよっ!」
「何っ?」
 打てば響くように返って来たその言葉に、少女が初めて、怪訝そうな顔になる。が、続くラブの言葉を聞いて、その表情は次第に険しいものに変わった。

「あたし、あなたにこんなことして欲しくない!」
「……何を言ってる」
「人を怖がらせたり、傷付けたりしてしまったら、結局は自分が傷付くことになるんだよ。あたしはあなたに、悲しい顔して欲しくないの。だから、こんなこともうやめて!」
 今まで悠然とラブを見下ろしていた少女が、ギリッと奥歯を噛みしめる。そして矢のような速さで陸橋の上から飛び降りると、ぐいっとラブの胸倉を掴んだ。

115一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/06/12(日) 21:39:29
「お前、正気か? お前に私の何が分かると言うんだ」
「わ……分からないよ。でも……あなたはあたしを……助けてくれたじゃない。ほら、初めて会ったとき」
 息苦しそうに、それでも必死で言葉を押し出すラブをじろりと睨んでから、少女がラブから手を離す。
「あれは助けたんじゃない。お前がぶつかって来ただけだ」
「でも、転ばないように受け止めてくれた」
「だから、それはたまたまだっ」
 穏やかなラブの言葉に、思わず食ってかかってから、少女は珍しいものでも見るようにラブの顔を見つめて――もう一度、ふん、と小さく笑った。

「どうしても私を止めたいと言うのなら、一緒に来い。私がすることを、見届ければいい」
「え……」
「ふん、やっぱり私が恐ろしいか」
「そんなこと無いよ!」
 突拍子もない提案に戸惑ったラブが、少女の挑発めいた言葉に、再び勢いよく反論する。それを見て、少女が今度はニヤリと笑った。
「お前には、一切危害を与えないと約束する。途中で逃げ出したくなれば、いつでも逃げればいい。
ただし、来るのはお前だけだ。私が目的を達する前に、お前が私を止められれば、何でも言うことを聞く。止められなければ、もうこの世界にお前の居る場所は無い。尻尾を巻いて自分の世界に帰るがいい。何も出来なかった、無力感という名の不幸をお土産にな」
 ラブが、真剣な眼差しで少女の顔を見つめてから、こくん、と頷く。
「必ず止めてみせるよ、あなたのこと」
 きっぱりと言い放ってから、ラブは何かに呼ばれた様に後ろを振り向いて、あっ、と声にならない声を上げた。
 ナケワメーケとホホエミーナが戦っているその向こう側、ナケワメーケの轟音の只中に、驚きのあまり瞳を極限まで見開いた、せつなの姿があった。

「ふぅん、お仲間が来たようね」
 少女がせつなに気付いて、ニヤリと小さく笑う。
「どうする? 引き返すなら、今のうちだぞ?」
「ううん。でも……お願い、せつなと話をさせて」
「それはダメだ。ヤツはラビリンスの国民だ。こちらに来させるわけにはいかない」
「話をするだけだよ。行くのはあたし一人でいい」
「ふん、そんな手に乗るか。ヤツはメビウス様を裏切った元幹部。信用できるはずがない」
「……そう」
 ラブは、少女の顔を少しの間見つめてから、くるりとせつなの方を向くと、ありったけの声で叫んだ。

「せつな、ゴメン! 心配かけて、本当にごめんなさい! あたし、どうしても行かなくちゃいけないの。必ず帰って来るから……必ずみんなで、幸せゲットしてみせるから。だから、待ってて!」

 せつなが子供のようにイヤイヤと首を振りながら、何かを必死で叫んでいる。その言葉は、ナケワメーケの音波に邪魔されて、ラブの耳には届かない。
 だが、ラブはそんなせつなをじっと見つめた。耳ではなく、目にせつなの思いを刻み付けようとでもするように、大きく目を見開いて、見つめ続けた。

「愚かなことを。この状況で、声など届くはずがない」
 ラブの大声に一瞬キョトンとしてから、少女が苦々しそうに吐き捨てる。ラブは、そんな少女にチラリと目をやって、小さく微笑んだ。
 そしてそっと目を閉じてから、もう一度せつなを見つめると、思いを込めて、最後にこう叫んだ。

「せつなぁ〜! 大好きだよ〜!!」

「ふん、下らない。ナケワメーケ! 戻れ!」
 少女が呆れたようにため息をついて、ナケワメーケに指示を出す。
 ナケワメーケの身体が鈍く光ったかと思うと、その直後、高脚付きのスピーカーが地響きを立てて地面に倒れ、少女の手にはナケワメーケに付いていたダイヤがあった。

「ラブっ!」
 せつながこちらに向かって脱兎のごとく駆け寄る。が、それと同時に少女がラブの腕をぐいっと引いた。
 次の瞬間、少女とラブの姿は忽然と消え失せて、せつなはようやく静けさを取り戻した街に、一人呆然と立ち尽くした。


〜終〜

116一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/06/12(日) 21:40:17
以上です。ありがとうございました!
次はもう少し早く更新できるように、頑張ります。

117名無しさん:2016/06/14(火) 00:16:39
うおぉ! 続き待ってました! 赤目の少女がオリジナルながらリアリティがあって容姿まで目に浮かびますね!
かつての『彼女』と同じで、悪いことをしているけど、そこには強い意志がある姿がカッコいい。
ラブが彼女を放っておけないのがよくわかります。
連れ去られた先で一体何が待っているのか… 次回も楽しみに待っています!

118名無しさん:2016/06/15(水) 22:26:22
>>116
面白かったです!
ナケワメーケの出現は迫力ありましたね。ラブと少女の対峙など見どころも沢山でした。
ハラハラの展開に、次回どうなのるのか非常に気になります!

119名無しさん:2016/07/13(水) 00:25:30
ミントという植物は爆発的に繁殖するらしいですね。こまちちゃんの謎が解けました。

120名無しさん:2016/07/13(水) 07:53:56
>>119
あれ全部子供だったのかと思うと、それはそれで怖いっす!

121一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/07/18(月) 21:41:11
こんばんは。
長編の続きを投下させて頂きます。5〜6レス使います。

122一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/07/18(月) 21:42:10
 地面にゴロリと横たわった街頭スピーカー。しんと静まり返った通りに、せつなは呆然と立ち尽くす。

 ラブが消えた。目の前で忽然と消えてしまった。それも……戦闘服を着て、ナケワメーケを操っていた相手と一緒に。

 ガクガクと震えそうになる身体を必死で静め、二人が消えた陸橋の下を凝視する。
 一刻も早く、ラブを取り戻さなくてはならない。そのために、何かほんの些細なものでも、ラブの居場所を突き止められるような手がかりが残ってはいないか……そんな祈るような気持ちで目を凝らす。
 一人の人影すらない、ガランとした街。その普段の姿との違いの大きさが、より一層にせつなの不安を掻き立てる。と、その時、慌てた調子の大声が後ろから急速に迫ってきた。

「イース! ラブはっ!? ヤツはどうし……うぐっ」
「ウエスター! 一体、何があったの!?」
 考える間もなく身体が動いた。せつなの細い両腕が、息せき切って駆けてきた大男の胸倉を掴み、締め上げる。
「……すまん。全て俺の責任だ」
 せつなの手を払いのけようともせず、無様な前かがみの格好のまま、ウエスターが喉の奥から声を絞り出す。それを聞いて、せつなは我に返ったように、ようやく手を離した。

 ごめんなさい、と目を伏せたまま小さく呟くせつなの隣に立って、ウエスターも鋭い眼差しで辺りを見つめる。
 これは「失態」などと言う生易しい言葉で済まされることではなかった。何をしでかすか分からない相手に、戦闘力を持たない者が連れ去られたのだ。生かすも殺すも相手次第――それはすなわち、限りなく“死”に近い状態を意味する。
 ましてや被害者であるラブは、平和な世界で暮らす、今はこんな危険とは無縁の少女なのだ。そのラブをこの世界に連れて来たのも、彼自身。全ての状況は自分が招いたと言って過言ではない。

 やがてウエスターが、悔しそうに「クソっ!」と小さく呟いた時、彼の通信機が着信を告げた。
 ウエスターが通信機をスピーカーモードにする。すると、いつもより早口のサウラーの声が聞こえてきた。

「報告を聞いて、今、全てのモニターのチェックを終えた。その場所から半径二キロ圏内に、ラブらしき姿は無い。二人は本当に、そこから消えたのか?」
「間違いないわ!」
「おう! 俺も見ていたぞ」
 せつなとウエスターが口々に言い募る。
「だとすると、ラブを連れ去った彼女は、何か特別な手を使ったというわけか? いくら幹部候補だったと言っても、そんな芸当が……」
「ええい、つまり何の手がかりも無いと言うことかっ!」
 サウラーのいぶかしげな呟きを、ウエスターが苛立たし気に遮る。その時、通信機の向こうでけたたましいアラームが鳴り響いた。同時にウエスターの通信機が第二の着信を告げる。

「なんてことだ……ナケワメーケがまた現れたぞ!」
 通信機の向こうで、サウラーが心底驚いたような声を出す。状況から見て同一犯と考えるのが自然だが、こんな頻度でナケワメーケを召喚するのは、ウエスターやサウラーでも容易なことではない。
「ほう……思いのほか早く、チャンス到来か。今度こそヤツを捕えて、必ずラブを取り戻してやる!」
 凄みを帯びたウエスターの声が、それに答える。サウラーが一緒ならば、頭を使うのは彼の仕事ではない。これで心置きなく戦える――誰よりも前線に立って、誰よりも強い力で。殺気すら伴った闘志が、彼の全身から放たれる。
 せつなはそんなふたりに目をやって、もう一度陸橋の方に視線を戻し、硬い表情でその場所に背を向けた。

「全員、戦闘服を着用の上、現場に急げ!」
「ウエスター、私も……」
 そう言いかけて、せつなは口をつぐむ。
 今の自分では、戦力にならない。かえって足手まといになるのがオチ――それは自分自身が、痛いほどによく知っている。

 せつなの声が聞こえなかったのか、それとも聞かなかったことにしたのか、ウエスターの返答は無かった。そのまま部下に手短に指示を終え、通信を切って振り返る。
「お前は住人たちの避難を頼む」
 そう言うが早いか、ウエスターはマントを翻し、飛ぶように走り去った。
 見る見る遠ざかっていくその後ろ姿を見つめて、せつなは一人、唇を噛みしめた。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第6話:不幸の襲来 )

123一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/07/18(月) 21:42:54
「あ、居た! せつなさん、あの……」
 避難所になっている食糧庫の一室。ようやくせつなを探し当てた給食センターの若い女性職員は、声をかけようとして、慌てて思い止まった。

 薄暗い部屋の隅に立って、通信機で誰かと話している後ろ姿。その左手の拳がギュッと握られて、小刻みに震えている。だが。
「ごめんなさい。何かありました?」
 通話を終えて振り返ったせつなの表情は、いつもと変わらない穏やかなものだった。

「あ……はい。今日新しく避難してきた人と、昨日から居る人たちとの間で、ちょっと……」
「すぐに行きます」
 せつながうっすらと微笑んで、先に立ってスタスタと歩き出す。その様子に、職員は安心した顔つきで、せつなの後ろに従った。
 だから彼女には見えていなかった。歩き出したせつなの顔から瞬時に笑みが消え、代わりに眉間に深い皺が刻まれていたことを。

 ナケワメーケが街を襲い始めて――つまりラブが連れ去られて、三日目の夜を迎えようとしている。
 ウエスターの決死の覚悟も空しく、少女はまだ捕えられてはいなかった。従ってラブの行方も、ようとして知れなかった。

 この三日間、ナケワメーケは日に何度も、時と場所を変えて街を襲っている。信号、陸橋、電波塔……様々なものが次々と怪物になって、街を破壊し、人々を苦しめている。
 だが、あの最初の襲撃の後からは、怪物を操っているはずの少女の姿が、現場のどこにも見当たらないのだ。
 ナケワメーケ自体も、ウエスターたちが駆け付けるとそれを嘲笑うかのように、すぐに元の公共物に戻ってしまう。怪物を生み出したはずのダイヤも、少女の手がかりも、現場には何も残っていない。
 そんなことが、イタチごっこのように今日も延々と繰り返されたと苦い声で語ってから、サウラーはこう付け足した。

「何か少しでも手がかりは無いかと、僕も僕なりに探しているところだ。何か分かったら、すぐに連絡する」

 サウラーが気休めを言うところなど、せつなは今まで一度も聞いたことが無い。それを口に出すほど手立てが無いと言うことなのか。それでももう少し何とかならないものかと、つい苛立ちが口をついて出そうになって、せつなはグッと拳を握って、何とか堪えたのだった。



 避難者たちがいる方へ行ってみると、人々が二手に分かれて睨み合っていた。さっき職員が言っていた通り、今日ここに避難してきた人たちと、何日もここに居る人たちとが言い争っている。
「だから、こんな場所じゃまた襲われた時に危ないだろ!」
「私たちも、奥の部屋に入れてちょうだい!」
 彼らが言う“奥の部屋”とは、倉庫を片付けて作ったスペース。だからいざとなればシャッターを閉めて、外と遮断することが出来る。しかし、その場所は既に人で一杯になっており、仕方なく、今日来た人たちは手前の部屋――大きなガラス窓がある事務室に避難していた。

 血走った眼で詰め寄る避難者たちを、初日から避難している中年の男性が押しとどめる。
「奥はもう一杯だ。何か頑丈な物で窓を塞いで、出来るだけ危険を少なくしよう。だからここで我慢してくれ」
 男性の落ち着いた物言いに、新しい避難者たちが言葉を引っ込め、顔を見合わせる。だが、それも一瞬。
「そうだそうだ! 後からやって来たくせに、勝手なこと言うな」
「こっちだって狭いのを我慢して場所を作ったのに、何て態度なの?」
 男性の後ろから苛立った様子の複数の声が上がって、辺りの空気はさらに緊迫の度合いを増した。

「何よ、その言い方は。早い者勝ちだなんて誰が決めたの?」
「ここは公共の倉庫だろ。君たちだけの場所じゃない!」
「何だと? そんなに文句があるなら他所へ行けよ」
「こんな時に、街へ追い出そうっていうの!?」
「こんなに大勢が一か所に集まっていたら、食糧だって持たないぞ」

「もうやめて下さい。皆さん、少し落ち着いて!」
 そう言いながら、せつながいがみ合う二つの集団の間に割って入った。人々の苛立った、敵意すら感じられる視線が、一斉にせつなに突き刺さる。
 視線が痛い――そう感じられるほど強い視線にさらされることなど、このラビリンスで、かつてあっただろうか。

(本当に、ここはラビリンスなのかしら……)

 つい先日は、真逆の意味でそんなことを思った――それを思い出すと共に、ラブの笑顔が蘇って来て、胸の奥が、視線の痛みなどとは比べ物にならない痛みを訴えた。
 再び左手の拳を、ギュッと握る。

(こんな時、ラブなら……)

 目を閉じて深呼吸し、気持ちを落ち着ける。そして一人一人の顔を真っ直ぐに見つめながら、せつなは静かな、しかしよく通る声で語りかけた。

124一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/07/18(月) 21:43:26
「今、警察が、怪物の攻撃から私たちを守りながら、犯人逮捕に動いています。政府も懸命に犯人を捜しています。私たちは彼らを信じて、私たちに出来ることをしましょう。ここに居る人たち全員で、助け合って……」
 だが、そこでせつなの言葉が途切れた。ひとつひとつは小さいが、不安と不満の塊のような囁きが、さざ波のように部屋中を覆ったのだ。

「そんな、信じろなんて無責任に言われても……」
「もう三日よ? 一体いつまで待てばいいの?」
「いい加減、我慢の限界だ」
 せつなの顔を一切見ようとはせず、疲れ切った顔でブツブツと呟く声。
 なおも言い募ろうと息を吸い込んでから、伝えるべき言葉が見つからなくて、せつなが力なく息を吐き出す。
 が、そこでせつなの呼吸が止まった。ごく小さな、ため息と共に吐き出された力ない言葉が、雷のような衝撃を伴って耳を打ったのだ。

「以前は……メビウスの時代には、こんなこと絶対に無かったのに」

「おいっ! そんなこと、言うもんじゃないだろう!」
 慌てたように声の主をたしなめる、さらに小さな声がする。だが、さっきの声はおさまらない。
「だってそうだろう? 俺は事実を言っただけだ」
「メビウスは、僕たちを管理していたんですよ?」
「ああ。でもだからこそ、こんな犯罪なんて絶対に起こらなかった」
「事故も災害も、その存在すら知らないでいられたしな」
「じゃあ私たちは、メビウスに守られていた、ってこと……?」
「いい加減にしないか! せつなさんの前だぞ!」

 ごく小さな声で言い合っていた人々が、その一言でハッとしたように、せつなの方を窺う。
 うつむいたせつなの表情は、黒髪に隠れてよく分からない。
「せつなさん……」
 彼女の後ろに付き従っていた女性職員が、泣きそうな声で呟いた時。

「ナケワメーケ!!」

 窓の外から、新たな怪物の雄叫びが聞こえて来て、部屋の中は騒然となった。

「マズい。スピーカーの化け物だ!」
「全員、窓から離れろ! 耳を塞げ!」
「うわ、お願い、押さないで!」
 一斉に奥の部屋へと逃げ込もうとする人々。だが、ナケワメーケが続いて発したのは、あの頭が割れるような雄叫びでは無かった。

「愚かな者たちよ。これは、メビウス様からお前たちへの、制裁だ」

 ナケワメーケの頭部にあるスピーカーから、初めて人の声が響く。まだ若い女性らしく、少々甲高い声。だが、それを補って余りある堂々とした語り口調とよく通る声音には、聞く者に耳を傾けさせる威圧感のようなものさえ備わっている。

「メビウス様は、このラビリンスから完全に消え去ってなどいない。忠実な僕であるこの私の手で、復活される日を待っておられるのだ。大恩ある存在を裏切ったことを後悔するのなら、泣け! 嘆け! そして許しを請え! お前たちの不幸が、メビウス様の力になる」

 あまりにも衝撃的なことを知らされると、かえって言葉は出て来なくなるものらしい。
 部屋の中は一瞬、しんと静まり返った。が、続いて沸き起こったざわめきは、あっという間に部屋全体をパニック状態に陥れた。

「メビウスが……」
「復活するというのか……」
「再びこの世界に、メビウス様が……」
「私たちは、どうなってしまうの……」
「だけど、受け入れてしまえば、もうこんな目には遭わずに済むんじゃないか?」
「今、裏切ったと言われたじゃない。何の制裁も無しに許されると思ってるの?」

 自分達を苦しめているのが、単なる犯罪者による事件ではなく、絶対者であったメビウスによる粛清である――その通達は、わずかばかり残っていた人々の希望を消し飛ばすのに十分だった。
 立っていられなくなったのか、その場にへたり込む者が続出する。
 あちこちで火の付いたように子供たちが泣き出した。大人たちはそれをなだめるでもあやすでもなく、ただ呆然とその場に座り込んでいる。

「せ、せつなさん……!」
 さっきの女性職員が、すがるような目でせつなの姿を追い求め、え……と驚きに声を飲み込んだ。
 驚愕と恐怖に支配された部屋の中から、せつなの姿は忽然と消え失せて、もうどこにも見当たらなかった。

125一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/07/18(月) 21:44:22
 食糧庫の扉が、一瞬だけ内側に開く。外へと走り出た少女――せつなは、ギリリ、と音がするほど奥歯を噛みしめて、そびえ立つ化け物を睨みつけた。
 避難所の人たちがパニック状態に陥っていることなど、今はどうでもよかった。
 メビウスがまだこの世界に居るかもしれない。そんな衝撃の告白すらも、どうでもよかった。

(許せない)

 ナケワメーケの姿に、メビウスの本体であった巨大な球体が重なって見えた。
 もうダメかと何度も思うような状況の中で、そのたびに立ち上がって果敢に挑みかかった、仲間たちの姿が蘇る。
 傷つき倒れた自分たちを励まし、思いを託してくれたラビリンスの人たちのお蔭で、キュアエンジェルに覚醒した――あの時の高揚感も、ありありと思い出される。

(許せない)

 自分のことはいい。そもそも、ラビリンスの幹部であったイースがプリキュアになったこと自体、受け入れられるようなことではなかったのだから。
 だが、仲間たちが傷つき、ぼろぼろになりながらも、このラビリンスで戦ってくれたことを、その戦いに心動かして、応援してくれたたくさんの人たちの思いがあったことを、嘲るようにこんな形で無駄にしようとするなんて――。

(絶対に……許せない!)

 せつなの瞳が怒りのためか、常よりも赤く輝く。その鋭い視線が、ナケワメーケの右肩の辺りに流れた。
 そこに立っている小さな人影を認めて、大きく目を見開く。そして次の瞬間、せつなは獲物に襲いかかる獣のように走り出した。

「もう一度言う。これは、メビウス様からお前たちへの、制裁だ!」

 そこに立っていたのは紛れもなく、昨日ラブと共に消えたあの少女――ナケワメーケを操っている少女だった。

 走り出したせつなを遮るように、一台の車が滑り込む。現場に急行した警察車両だ。そこから腕っぷしの強そうな若者が、続々と降りてくる。
 彼らは一様に、警察支給の戦闘服を着用していた。ウエスターやサウラーのような過酷な訓練を積んだ者だけが扱える特別製ではないが、それでも使用者の身体能力を数十倍に底上げしてくれる、優れた武装だ。
 その者たちの中に、慌てたのだろうか、まだ戦闘服を手に持ったままの警官が混じっていた。せつなはそれを見つけるや否や、彼に狙いを定めて躍りかかった。

 その若者は、一瞬、自分の目を疑った。戦闘態勢にあるはずの数人の仲間が、突然目の前で、バタバタと地面に倒れ込む。一陣の風のように近付いてきた何者かが、ただの一撃で昏倒させたのだ。
 仲間の安否を確認する暇など無かった。すぐさま目の前の脅威――不届き者の方へと向き直る。だが、相手はもうそこには居なかった。
 後ろに気配を感じたと思った瞬間、首筋に手刀が叩き込まれる。そして抱えていた戦闘服が奪われると同時に、意外にも女性の声がこう囁いた。
「説明している時間が無いの……ごめんなさい」
 薄れゆく意識の中で、彼が最後に見たものは、ラビリンス人にしては珍しい黒々とした髪と、硬い表情でこちらを見つめる赤い瞳だった。



 警察車両から離れた路地に飛び込んで、せつなは改めて手の中のものに目をやった。
 ラビリンスの戦闘服――久しぶりに手にするそれは、かつて自分が着ていたものに性能では及ばない。だがこれがあれば、少なくとも目の前の敵と――少女と戦う力を得ることが出来る。
 急いで身に纏おうとして、せつなは自分の両手が小刻みに震えているのに気付いた。

(怖れているというの、私は……。この期に及んで)

「泣け! 嘆け! そして許しを請え!」
 少女の声が、頭の上から威圧するように降って来る。
 仲間たちの奮闘も、ようやく自分の足で歩き出そうとしているこの国の姿も、嘲るように踏み潰そうとする声――その声が、かつての自分の声と重なって聞こえた。

(もしかしたら、全てを無駄にしようとしているのは私の方かもしれない。それでも……だとしても!)

「誰も泣かせない! 誰も嘆かない! 私が……このイースが、お前を倒すっ!」
 言葉と共に、手にした戦闘服が旗のように勇ましく空中に翻る。だが、伸ばした腕がそれを纏うことはなかった。
 背後に感じる巨大な気配。と同時に大きな掌がせつなの腕を掴み、締め上げる。せつなの渾身の力を持ってしても、拘束は微動だにしない――。

「何をするのっ、放して!」
「すまん、イース。だが、今のお前にそいつは着せられない」
 いつの間に現れたのか、ウエスターがいつになく神妙な、哀し気にも見える顔つきで、そこに立っていた。

126一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/07/18(月) 21:44:54
「おかしなものでな。この職務に就いてから、こんな俺でも人間の感情ってヤツに、少しは敏感になって来たようだ」
「何が言いたいの?」
「上手く言えんが……とにかく今のお前を行かせたら、俺はもうお前たちに顔向け出来なくなる」
「……え?」
「ラブがあの時なんて言ったか、俺にも読めてしまったんでな」

――せつなぁ〜! 大好きだよ〜!!

 あの時、別れ際にラブが叫んだ言葉――声は聞こえなかったが、唇の動きで確かにそれと分かった言葉。この三日間、焦燥と一緒に何度も脳裏に浮かんできた言葉が、再びせつなの中に蘇った。

「だったら、私の気持ちもわかるでしょう!?」
「ああ、わかるぞ。そしてラブの気持ちもな。たとえ無傷でラブを救っても、お前が変わってしまえば、無事な再会とは言えないということもな」

 せつなの腕から、力が抜ける。ウエスターは優しい手つきで戦闘服を取り上げると、まだ信じられないような顔で後ろに立っていた持ち主に放り投げ、くるりと踵を返した。
「すまん。今度こそ、俺に任せてくれ」
 そう言った途端、ウエスターの纏う空気が、ガラリと変わった。


 ナケワメーケを取り囲んでいた警官たちが、にわかにざわめき出した。前線から一人の男が進み出て、怪物に向かって悠然と歩き始めたのだ。
「た、隊長、何を……」
「お前たちは下がっていろ」
 制止しようとした若者の声が、凄みのある声で遮られる。言われるまでもなく、その背中から発せられる強烈な気に、全員が圧倒されてじりじりと後ずさる。

「ナケっ?」
 ナケワメーケが、人影に気付いた。無謀にも、たった一人で近付いて来る男。その小さな姿目がけて、虫けらを踏み潰そうとでもするように、巨大な足を振り上げる。
 だがその瞬間、男の姿が消えた。そして次の瞬間。

「どぉりゃぁぁぁぁっ!」

 辺りを震わせるような雄叫びが響く。ナケワメーケは軸足を取られ、地響きを上げてその場に転倒した。

 すんでのところで離脱した少女が、驚きに目を見開いてから、それを隠すように、ふん、と鼻を鳴らす。
「そこまでだ! これがただのナケワメーケだと思うのか? お前にコイツは倒せない」
「さあ、それはどうかな?」

 言うが早いか、ウエスターは空中高く跳び上がった。全身の気を右の拳に集め、まだ起き上がろうともがいているナケワメーケのダイヤ目がけて、渾身の一撃を叩き込む。
 その途端、ビリビリと暗紫色の稲妻が走った。ナケワメーケのダイヤから強烈な衝撃波が巻き起こり、空気を不穏に震わせる。
 だが、ウエスターは拳を離さない。髪を逆立て、両目をカッと見開いて、裂帛の気合いをさく裂させる。

「ぐおぉぉぉぉぉっっ!!」

 ついに、ピシリ、という鋭い音がしたかと思うと、ダイヤは乾いた音を立てて粉々に砕け散り、埃を被って横倒しになった街頭スピーカーが、姿を現した。

 スピーカーから飛び降りたウエスターが、今度は少女の方へと歩み寄る。あまりのことに、その場から一歩も動けずにいた少女は、そこでやっと我に返って、戦闘の構えを取った。
 が、そこまでだった。放った蹴りを軽々と受け止められ、地面に叩き付けられる。飛び起きようとしたところで鳩尾に一撃を喰らって、意識を失ったまま、肩に担ぎ上げられた。

「さぁ、ラブの居場所に案内してもらおうか」
 ウエスターが少女を抱えて、警察部隊と共に車に向かう。
 その姿を追う見えない影があったことに、さすがのウエスターも気付いてはいなかった。

〜終〜

127一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/07/18(月) 21:45:26
以上です。5レスにおさまりましたね。
ありがとうございました!

128名無しさん:2016/07/23(土) 00:15:37
>>127
次回はいよいよクライマックス……ですか!?

129ゾンリー:2016/08/10(水) 20:50:50
はじめまして、ゾンリーと申します!
アコちゃんが大好きでよく響アコなど漁ってます。拙い文章ですが見ていただけると幸いです。
タイトルは「響とアコのお泊り会!」
2レス使わせて頂きます。

130ゾンリー:2016/08/10(水) 20:54:38
「いや急に言われてもなぁ…アコがなぁ…エレンもハミィとメイジャーランドに行くと言っておったし…」
「私がどうしたの?おじいちゃん」
急に出てきた私_調辺アコ_の言葉に反応せずにはいられなかった。
ここは調べの館。今日が終業式で明日から夏休みの私達は久しぶりに一緒に帰宅することになっていた。その途中で立ち寄ったのが調べの館だった。
「え?あ、あぁおかえり。皆もよくきたな。」
「「「「おじゃましまーす!」」」」
「で、どうしたの?」
「いやぁ、急に明日外泊することになってのぉ。場所が場所だけにアコを連れてく訳にも行かぬし一人にもできぬし…」

「それなら私のところに来る?」

そう言ったのは響だった。私の肩に手を置くと続けて話す。
「ウチも両親が明日明後日いないんだよね。いいでしょ?音吉さん」
「おお!それはありがたい!アコ、失礼の無いようにな。」
「なんか私抜きで話が進んでるけど…つまり明日響の家にお泊りって事ね。」
「んふふ〜楽しみ〜!」

〜翌日〜

「おじゃましますー。」
ドアをくぐると香りが他人の家だということを自覚させる。
ドタバタと足音がしたと思ったらすぐ目の前に響が出てきた。
「いらっしゃい!待ってたよ〜さ、上がって上がって!」
背中を押されて無理矢理中に入れさせられる。
「なんでそんなにテンション高いのよ…」
あきれ顔で聞くと「だって泊まりに来るなんて久しぶりだし!」と即答された。
案内された部屋に荷物を置いてとりあえずリビングへと向かう。
「ささ、何して遊ぼっか?」
一通り響とじゃれ合ったあと、ふと思い出したように響が言った。
「あ、そろそろ買い物行かなきゃね〜。何食べたい?」
「別に何でも…」
「んーじゃあカレーかな?」

ー近所のスーパーにてー

「人参、お肉、ジャガ芋、カレールー…あと何だっけ」
私は手元のメモに目を落とす。
「あと玉ねぎね。」
カートに玉ねぎを入れる響。そんな彼女の目を奪った…つもりは無かったがついついお菓子コーナーをチラ見してしまった。
そしてそんな私を響は見逃すつもりはなさそうで…
「え、何?お菓子買って欲しいの?も〜しょうがないなぁ〜」
「ちょ…違うって…!」
背中を押されて問答無用でお菓子コーナーへと。
なんとか(?)お菓子の購入を回避して会計を済ませる。
帰り道はパ○コを二人で分けてちゅーちゅー吸いながら帰宅。

ーもう一回響宅ー
エプロンをつけて私達は台所に立っている。
響はカレールーのパッケージの裏を見てうんうん唸っている。
私はちょうど野菜やお肉やらを切り終わったところ。
「とりあえずお肉を炒めればいいみたい?」
(疑問形…)
足場の小さい台からピョンと飛び降りると戸棚から手頃な鍋を取りだしコンロに置く。
「油〜油〜」
私がサラダ油を取り出すのを響は制止する。
「お肉から直接油が出るから油敷かなくていいの!」
「えっ!そうんなんだ…」
しぶしぶ元の場所へと戻す。____

131ゾンリー:2016/08/10(水) 20:55:13
「「でーきたっ!」」
鍋から見える茶色のトロトロの液体。湯気が良い香りを運んで来る。
「「いただきまーす!」」
響は中辛、私は甘口のカレーを口の中へと運ぶ。少し味付けを失敗してしまったけど、自分達で作ったカレーはいつもより美味しく感じた。

その後は後片付けや何やらをしていると時計は8:00を指していた。
そろそろお風呂に入らなきゃ…と思っていると響から衝撃的な一言が。
「もう8時か…せっかくだし、一緒にお風呂入ろうか!」
「うっ…ええええええええ!?」
「何か問題でもあんの〜?」
「いや別に…無い…け、ど…」
最後は尻すぼみになってしまった。
結局一緒に入る事になり、脱衣所で服を脱ぐ。
これまた響の提案で背中を洗いっこして湯舟に浸かる。
ゆっくりしようと思い息をゆっくりと吐く。
…まあ響はそうさせるつもりは無いようで。
「んでー?奏太とはどんな感じなの〜?うりうり〜」
「ちょ…っいきなりなによ!?ふ、普通の友達よ!」
いきなり顔を近づけられる。残念ながら逃げ場は無い。
「ふーん…それじゃあアコ自身はどう思ってるの?」
「それは…その…」
「あぁー!赤くなっちゃってるー!」
「の、のぼせただけだし!もう上がるもん!」
湯舟から出てバスタオルで身体を拭く。肩をすくめながらも響も詮を抜いて上がる。

パジャマに着替えた私達は並んでテレビの前に座っていた。
画面に映るのは暗い廃校。小さな松明を持って歩く一人称のカメラ。
私は膝を抱えて顔を半分うずくめてテレビを睨んでいる。
何となくで見たホラー番組だが、ものすごく…怖い。
「ひっ」
いきなり画面いっぱいに出てきた気色悪い顔に思わず声を上げてしまう。
「エ、エレンがいたら凄い事になりそうね…」と響。
「そ、そうね…」と私。
上の空で会話をしつつも早く終わってくれないかと願うばかり。
お互いにプライドが途中で終わる事を認めてくれないのだ。

〜番組終了〜

「「ふぅ…」」
《また次回》のテロップが消えると同時にため息をつく。
「ねぇ…一緒に寝ない?」そういう響の声には生気が無かった。
そしてその提案に私は
「…賛成」
と言わざるを得なかった。

ー響の寝室にてー
私と響はお互いに向かいあって一つのベッドに入っている。壁側に私、反対側に響が寝ている。
きつい位の密度が今は恐怖心を抑えてくれる。
「うぅん…」
響の腕が私の背中にまわって抱き込まれる。…まあ寝ていて気付かなかったんだけど…不思議と心地好かった気がする。

〜翌朝〜
「じゃあ…おじゃましました。」
「うん!またお泊り会したいね!次は皆で!」
「ホラー番組はナシで…ね。」

___これで、私のちょっとした初体験は幕を閉じたのでした。

132ゾンリー:2016/08/10(水) 20:55:48
以上です。
ありがとうございました!

133名無しさん:2016/08/10(水) 22:40:05
>>132
ゾンリーさん、ガールズサイトへようこそ!
いつもクールなのになんか子供らしくドキドキしてるアコと、自然体の響が良かったです。
ホラーが怖いのに、自分からは切れない二人が最高w
また書いて下さいね。楽しみにしています。

134名無しさん:2016/08/13(土) 00:47:52
>>132
響アコ愛が詰まっていて面白かった!
朝食はアレかな……お茶漬けと沢庵かな

135名無しさん:2016/09/01(木) 00:01:05
プリキュア書き手あるある
投稿した直後、ミスに気付きがち

136名無しさん:2016/09/01(木) 07:26:45
>>135
あるあるw

137一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:47:59
こんばんは。
大変遅くなりましたが、長編の続きを投下させて頂きます。
ちょっと長くなりまして、8〜9レス頂きます。

138一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:49:09
 少女にぐいっと腕を引っ張られたと思った瞬間、ラブは見覚えの無い、狭いトンネルのような場所に立っていた。
 振り返っても何も見えず、前を向くと、先を歩く少女の姿がかろうじて見えるだけのほの暗い場所。
 慌てて彼女の背中を追いかける。程なくして急に視界が開け、二人は大きな建物の前に出た。

「ここはどこ? 何のための建物なの?」
「軍事養成施設・E棟。歴代のイースが生まれ育った場所よ。今は政府によって封鎖されているけど」
「え……じゃあ、せつなもここで!?」
 少女の言葉に、ラブは目を見開いてから、改めて目の前の建物をしげしげと見つめる。

 大きな扉を中心に、左右に広がる黒々とした壁。その造りだけを見ると、どことなく占い館に似た佇まい。だがこの建物は周囲を高い塀で囲まれていて、森の中にあった占い館とは、受ける印象が随分違う。
 より無機質で、硬質で、他を寄せ付けない堅固な要塞のような雰囲気が感じられる場所――。
 少女の方は、そんなラブの様子には目もくれず、中央の重そうな扉に向かって、さっと右手を翳した。

 ギィ、という音を立ててゆっくりと扉が開く。
「開いた……。自動ドア?」
「いや、私が開けた。データを読み込ませてね」
 面白くもなさそうな声でそう言って、少女が無造作に建物に足を踏み入れる。慌てて続くラブの後ろで、大きな音を立てて扉が閉まった。

 入ったところはホールのような、だだっ広い場所だった。壁も床も、全てがグレー一色。その中でまず目に入ったのが、左右に伸びる長い階段だ。色合いやデザインは大きく異なるが、造り自体は、やはりどことなく占い館を思わせる。ラブは不思議な懐かしさを感じながら、階段の中程に目をやった。

(確かあの辺りに、せつなが立ってたんだよね。急に声を掛けられて、びっくりしたっけ……)

 初めて会った時のせつなの動きを目で追うように、ゆっくりと視線を動かす。が、少女は階段まで歩を進めると、ラブの視線とは逆の、地下へ伸びる階段の方へと足を向けた。
 少女に続いて、ラブも階段を下りる。そして地下の部屋にあるものを目にした途端、さっきまでの感傷は一辺に吹き飛んだ。

 一階と同じくグレーの壁に覆われた、薄暗い一室。その真ん中に置かれていたのは、天井まで伸びた透明な円柱状のゲージだった。かつて占い館で見たものほど大きくはないが、一人ではとても抱えきれない太さの筒の中に、濁った液体がラブの膝の高さくらいまで溜まっている。

「これって……まさか!」
 ラブが声を震わせた、その時。
「あら? 珍しい顔ねぇ。あなたがここに居るということは、その子の言うことも、あながち間違いでもなさそうね」
 どこかから妖艶な声が響いて、ラブは再び目を見張った。

 ゲージの前に突如、大柄な女性が現れる。腰まで伸びた濡れ羽色の髪。鮮血のように真っ赤な唇。そして相手を射すくめるような、鋭い眼光――。
「……ノーザ! どうして!?」
 思わず大声を上げてから、ラブはごしごしと目をこすった。ノーザの姿が、何だか透明がかっているように見えたからだ。それどころか、よく見るとその体の向こうに、後ろのゲージがぼんやりと透けて見えている。
 ノーザの姿は実体を伴ったものではなく、ただの映像のようだった。どうやらゲージの前に置かれた、まるで枯れ木のように見える小さな植木の枝先から投影されているらしい。

「あなた、本当にノーザなの? ホンモノはどこにいるの? このゲージは何? もう一度、不幸を溜めるつもりなの? 何のために!?」
「相変わらずうるさいわねぇ。少しお黙りなさいな」
 ノーザがそう言うと同時に別の枝がしなやかに伸び、蔦となってラブに襲いかかった。
 少女がラブの前に飛び出すと、手首を軽く返しただけで蔦を弾いた。ラブのすぐ横の壁が蔦の一撃を喰らって、その表面の一部がボロリと崩れ落ちる。
 目をパチパチさせるラブに一瞬だけ鋭い視線を送ってから、少女は真っ直ぐノーザの映像に向き合った。

「お手柔らかに。相手は生身の人間ですよ?」
「あら、ごめんなさい。それにしても、プリキュアを人質に取るなんて、なかなかやるじゃないの。こうしておけば、裏切り者の幹部たちも迂闊に手が出せないというわけね」
「……」
 少女はそれには答えず、ラブを制して自分の後ろに下がらせる。

139一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:50:11
「それで、ゲージの上がり具合は?」
「見ての通りよ。初めてにしては上出来だわ。それにしても、このラビリンスで不幸を集められるようになるなんてねぇ」
「それだけ、今のラビリンスが愚かな世界になったということ。メビウス様の統治が素晴らしかったという証拠です」
 そう言いながら、少女は今にもノーザの前に飛び出しそうなラブの二の腕を掴んで離さない。その様子を見て、ノーザは口の端を斜めに上げてニヤリと笑った。

「そうねぇ。でも、ウエスター君にあなたの姿を見られたのだけは、失敗だったわね」
「このダイヤを使ったナケワメーケならば、ヤツらが生み出すモンスターでも倒せない――おっしゃる通りなのは確認しました。ならば問題ないはずでは? それに、いざとなればさっきのように時空を開いて頂ければ……」
「こと戦闘にかけては、あまり彼を舐めると痛い目に遭うわよ? 姿を見られた以上、さっき時空を開いたのが最後の一回だと思いなさい。多用すれば、私の存在を奴らに察知される恐れがある。それだけは避けたい――わかるわよね?」
「じゃあ、どうしろと?」

 少女の言葉が終わるより早く、何かがシュッと部屋の中を横切った。と同時に、少女の手に握られていた暗紫色のダイヤが魔法のように消え失せる。
 さっきとは比べ物にならない速さと鋭さだった。気付いた時には一本の蔦が、絡めとったダイヤをまるで捧げもののように、ノーザの前に高々と掲げていた。

「っ……何を!」
 思わず声を荒げる少女をさらに威圧するように、ノーザが重々しい声を出す。
「あなたには二、三日休暇をあげる。後でちゃんと花を持たせてあげるから、しばらくは私に任せなさい」
「ノーザさんに? ですが、そんなこと……」
「あら、出来ないとでも思ってるの? 姿を隠したままでも、あなたの三倍、いや五倍は働いてあげるわ」
 フフフ……と楽し気に笑うノーザに、少女が少し悔しそうに下を向く。その隙をついて、ラブが少女の腕を振りほどき、ようやくノーザの前に躍り出た。
「お願い。これ以上、ラビリンスの人たちを不幸にしないで! みんな、今ようやく幸せゲットしようって、頑張り始めたところなんだよ。だから……」
「聞き分けのない子ねぇ。お前の出る幕じゃないって、何度言ったら分かるのかしら?」

 ノーザがそう言うが早いか、さっきよりはるかに太い蔦が、ラブを目がけて唸りを上げる。
 今度はとても弾けない――そう判断したのか、少女は咄嗟に覆い被さるようにしてラブを庇った。蔦はそのまま少女とラブの身体を絡めとると、二人を部屋の外へと放り出した。
「そうそう。まさかとは思うけど、ここが奴らに見つかったりしていないか、ちゃんと確認しておきなさい。頼んだわよ」
 ノーザのその声を最後に、部屋のドアはバタンと閉まった。

 跳ね起きたラブがドアに駆け寄る。だが鍵がかけられたのか、どんなにノブを回してもドアはびくとも動かない。
「ふん、全く懲りないわね」
 少女は腰に手を当てて呆れたように呟くと、すぐに元来た階段の方へと向かった。仕方なくその後に続きながら、ラブはもう一度閉じられたドアを振り返って、不安そうに胸の前でギュッと両手を組み合わせた。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第7話:瞳の中の炎 )



 どこからか、タン、という小さな音が断続的に聞こえてくる。それをぼんやりと聞きながら、ラブは目を覚ました。
 ここへ来て二日目の朝。ラブの寝室としてあてがわれた部屋は、同じ形と大きさの部屋がずらりと並ぶ、居住エリアにある一室だ。
 普段寝ている畳のベッドより一回り大きなベッドから降りて、まずは分厚いカーテンを開ける。窓の向こうに見えるのは、こちらもグレー一色の、高い塀だった。
 見上げると、四角く切り取られた空が小さく見える。青というより、塀の色より少し淡いグレーといった色合いの空からは、今の季節の四つ葉町よりずいぶん柔らかな、朝の光が差し込んでいた。

(せつなも見ていたのかな、こんな景色……)

 うーん、と大きく伸びをしてから、くるりと窓に背を向け、改めて部屋の中に目をやる。
 大きさだけは立派だが、あまりにもシンプルなベッドと机、それにクローゼットだったらしい細長い物入れがひとつ。封鎖されている建物だからこんなに殺風景なのか、それとも元々こんな部屋だったのだろうか。
 閑散とした部屋の中に、親友の姿を思い浮かべようとして――しかし、思い浮かんだのは昨日の出来事だった。

 再び目にした不幸のゲージと、まさか再会するとは夢にも思っていなかったノーザの姿。黒雲のような不安が広がりそうになる胸を、ギュッと両手を組み合わせて抑える。

――どうしても私を止めたいと言うのなら、一緒に来い。私がすることを見届ければいい。

140一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:50:42

 そう言って不敵に笑って見せた少女の瞳に、親友の――せつなの哀し気な瞳が重なって見えた。
 だからどうしても、彼女を止めたいと思った。でも……。

(あの子は一体、何をするつもりなんだろう……)

 昨日、ノーザに地下室から放り出された後、少女は真っ直ぐこの棟のコントロール・ルームに向かった。ラブはそんな少女を追いかけて、ノーザの言いつけ通り外部モニターのチェックを始めた彼女に、質問を浴びせかけたのだ。

「ねえ。あそこにノーザの姿が映っていたということは、ノーザがどこかに居るってことでしょう? どこに居るの?」
「今に分かるわ」
「部屋の真ん中にあったのって、“不幸のゲージ”だよね?」
「ええ」
「やっぱり。またナケワメーケで不幸を集めて、一体何をするつもりなの?」
「それもゲージが溜まったらすぐに見せてあげるわ。そう先のことじゃない」

 ここへ来る前よりは幾分柔らかな口調ながら、モニターから目を離さず、今に分かる、の一点張りの少女。

「じゃあ今は……何も教えてくれないの?」
「これでも随分と手の内を明かしているつもりよ。何と言ってもアジトに連れて来たんだから」
 不満そうに問いかけたラブに、初めてチラリと視線を向けて、彼女はそう言ったのだが。

(そう言われたって……これだけじゃ、何も分からないよ)

 はぁっと溜息をついた時、また部屋の外から、タン、という微かな音が聞こえた。

(何の音だろう……)

 廊下に出てきょろきょろと辺りを見回してから、向かいの部屋を覗いてみる。そこを自分が使うから、監視がしやすいように必ず部屋のドアを開けておけと、昨夜、少女に言われていたのを思い出したのだ。
 ラブの部屋だけでなく、少女の部屋のドアも開いていたが、部屋はもぬけの殻だった。寝具はきちんと畳まれていて、シーツに残ったわずかな皺だけが、そのベッドが使われたことを示している。
 誰も居ない廊下に、一人佇むラブ。やがてその瞳が、わずかに輝きを増した。

(……そうだよね。せっかく、せつなとあの子が育った場所に連れて来てもらったんだもの。ここでの暮らしのこと、そしてあの子のことをもっともっと知れば、もっとちゃんと話をすることだって出来るよね)

 おそらく少女は、あの音がしている場所に居るのだろう。ラブは耳を澄ませると、音のする方に向かって歩き出した。
 歩いては立ち止まり、また歩いては立ち止まりしながら、時折聞こえる音を頼りに少しずつ歩を進める。音は少しずつ大きくなり、それにつれてラブの足も少しずつ速まっていく。
 居住エリアを抜けた先には長い廊下が伸びていて、そのさらに先に、この建物の中でも特に重厚そうに見える大きな扉があった。
 物音は、どうやらこの扉の向こうから聞こえてくるようだ。何の音かは定かではないが、何かを叩き付けるような鋭い音――。

(まさか、またノーザがいるわけじゃないよ……ね)

 ラブはゴクリと唾を飲み込んでから、意を決してその重い扉を開いた。
 そこにはひときわ明るい照明の下、等間隔に立つ太い柱とグレーの床に囲まれた広大なスペースが広がっていて、その一角で一人飛ぶように動いている少女の姿があった。時折、タン! と床を蹴りつける音がひときわ大きく響く。さっきからラブが耳にしていたのは、どうやらこの音だったらしい。

(ここって道場……なのかな。おもちゃの国のカンフー道場より、何倍も広い……)

 とりあえずノーザでなかったことに少しホッとして、そろりと扉を閉める。
「危ないから、近くに寄らないで」
 少女はラブの方を見もせずにそう言うと、一旦動きを止めて、ふーっと長く静かに息を吐いた。

 少女の訓練が再開される。空手ならば“型”、拳法ならば“套路”と呼ばれているもの。正しい動作を無意識に出せるようにするための訓練方法だ。しかしその動きは、ラブの目にはまるで舞のように映った。
 見えない相手に向かって、多彩な技を連続して繰り出すような動き。複雑な動きなのに、そこには一切の迷いも無駄もない。
 強く、鋭く、速く、しかも滑らかで、ダンスのように美しく――。
 息を詰めてその動きを見つめていたラブは、ふと不思議な既視感を覚えて、その正体に目を見張った。

141一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:51:17
(この動きって、せつなの……ううん、パッションの動きによく似てる!)

 が、そう思ったのはほんの束の間だった。すぐにまた少女の動きに引き込まれて、その一挙手一投足を食い入るように見つめる。
 しばらくの間、その変幻自在で華麗な舞を披露してから、最後にもう一度、ふーっと長く息を吐いて、少女の訓練は終わった。

 パチパチパチ……という音が訓練場に大きく響き、少女が驚いた顔で振り返る。
 おそらくこの訓練場で、この音が発せられたのは初めてのことだったろう。それは、ラブが少女に対して、思い切り手を叩いて絶賛を贈った音だった。

「それって……一体、何の合図なの?」
「ああ、これ? 拍手だよ。合図じゃなくて、凄いっていう感動を伝えるものなの」
 ラブが手を下ろし、代わりに興奮気味な様子で少女に近付く。
「ホント凄いね! 動き速いし、力強いし、何よりすっごく綺麗!」
「……別に、そんなこと……」
 一瞬ぽかんと首を傾げた少女が、ラブの賛辞を聞いてさりげなくあさっての方を向いた。その顔は、訓練が終わった直後よりも心なしか上気しているように見える。

「そんな風に動けるようになるには、毎日ものすごく練習したんでしょ?」
「そりゃあ……訓練は毎日だった」
「凄いなぁ。何歳くらいから訓練を始めたの?」
「さぁ。物心ついた頃には、既に生活の一部だったわ」
「……そうなんだ。そんな小さい頃から、ずっと頑張って来たんだね」
「そうしないと、ここには居られなかったから」
 キラキラした目で問いかけていたラブが、その一言を聞いて、え、と言葉を途切れさせる。反対に少女の方は、おもむろに顔を上げてラブを見据えた。

 少女が胸の前のダイヤのような飾りに手をやると、黒い衣装が消え失せて、彼女の服装は初めて会った時と同じ、ラビリンスの国民服に変わった。
 そうしておいて、少女がラブの方に右手を差し伸べた。掌を上にしてクイッと手招きして見せながら、挑戦的な笑みを浮かべる。

「ちょうどいいわ、一本付き合って。プリキュアを務めたあなたの手並み、是非拝見したい」
「えぇっ!? む、無理だよぉ。今はあたし、プリキュアにはなれないもの」
「プリキュアじゃなくて、生身のあなたと手合せしたいの。だから私も、戦闘服を解除したでしょう?」
「いや、だから、そうじゃなくて……」
「来ないなら、こっちから行くわ!」
「ええっ!? ちょ、ちょっと待って!」

 次の瞬間、少女の拳がラブを襲った。慌ててよけると、すぐに次の一撃が追いかけてくる。
「わ、わ、わ……うわっ!」
 必死で後ずさりながら三つのパンチを避けたところで、ラブが足をもつれさせて勢いよく転倒した。痛てて……と言いながら起き上がろうとするラブを、少女は腰に手を当てて、やけに真剣な顔つきで見下ろした。

「はあ、びっくりしたぁ……」
「最大限に手加減しても、その程度なの? 会った時から思っていたけど……やっぱりあなた、プリキュアにならなければ何の力も無いのね」
「うん、プリキュアの力はね、変身して初めて出せるもので、あたし自身が持っている力じゃないんだ」
 そう言ってふらふらと立ち上がるラブを見ながら、少女がごく小さな声で呟く。
「一体、何故? メビウス様が、こんなヤツに……」
「へ?」
 何か言った? と問いかけようとしたラブが、少女の顔を見て、思わず口をつぐんだ。

 ラブを見つめる赤い瞳が、言葉よりも遥かに雄弁に、彼女の心を物語っている。
 怒り。憎しみ。そして――哀しみ。瞳に宿る激しい想いが燃え盛る炎となって、ラブの心をチリチリと焦がす。
 ラブにとっては長い時間。だが実際には、ほんの数秒のこと。
 少女は目を伏せるとくるりと踵を返し、黙って道場を後にした。
 バタン、と扉が閉まる音が背後から聞こえる。ラブは一歩も動けぬまま、しばらくの間、その場に立ち尽くしていた。



 棟の備蓄品としてまだ残されていたという非常食を、二人で朝食として食べてから、ラブは少女に、建物の中を案内してほしいと頼んだ。
 さっき少女の瞳に宿る炎を見てから、ラブはますますこの場所のことをよく知りたいと思うようになった。
 この子がここでどんな生活をしてきたのか。何を考え、どんな風に生きてきたのか知りたい――そう思った。
 少女は怪訝そうな顔をしたが、モニターのチェックが終わってからなら、と二つ返事で承知した。ノーザから待機命令を出されている今の状況では、侵入者の監視以外、特にやるべきことも無い。このまま時間を持て余すよりは――そう思ったのかもしれない。

142一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:52:51
 少女がラブの半歩先を行き、ラブはその斜め後ろを、辺りを見回しながら歩く。
 それぞれ異なる戦闘能力を鍛えるための様々なトレーニング・ルームや、数多くの専門書が並んでいたという図書室。少女は次々と案内して、ここがどういう施設だったのかをラブに説明していく。
 元はトレーニング・マシーンや器具類、おびただしい数の書籍がずらりと並んでいたというそれらの部屋は、今はどれもただの空き部屋に過ぎなかった。それでもラブは、何もない部屋の中をきょろきょろと見回し、興味津々の様子で少女にいくつも質問を浴びせる。
 そのせいか、少女の説明は次第に詳しいものになり、その内容も、いつしかここでの暮らしについての説明が多くなっていった。

 やがて少女が、学習室と呼ばれていた部屋にラブを連れてきた。ここも元は数多くの机やコンピュータがあった部屋だという。
 ぽつんと残された演台に両手をついて、ラブはガランとした部屋を、愛おしそうな目つきで見渡した。

「へぇ、同じ建物の中に教室があったんだ。道理で学校に行かなくて済むわけだよね……。ねえ、やっぱりクラス分けがあったり、担任の先生が居たりしたの?」
「“担任”というのは知らないけど……“クラス”というのはレベルのこと? それなら、全国統一で十段階に振り分けられていたわ。ここに居られるのは、レベル九と十の人間だけ」
「凄っ……それって五段階の通信簿に直すと、全員がオール五ってこと?」
「そうなるかしら。あなたはどのレベルだったの?」
「え、あたし? う、うーん……五段階の……真ん中くらい、かな。アハハハ……」
 苦し紛れの笑い声を上げるラブに、隣に立っていた少女はまたも呆れた顔になる。が、次のラブの質問を聞いて、その表情は不思議そうなものへと変わった。

「そんな優秀な人たちがみんなで受ける授業って、きっと難しいんだろうなぁ。ねえ、ここで毎日そういう授業を受けていたの?」
「授業って……日々の学習の? そんなものは、みんな自分の部屋で、コンピュータを使って勉強していた。ここには、まだ幼い頃に端末の操作を覚えたり、コンピュータでは学習しきれない、実験や演習をするために来ていただけ」

「え……じゃあ勉強って、小さい頃から一人でやってたの!?」
「一人じゃなくてどうやって勉強するって言うの?」
 ラブが目を丸くして驚く様子に、少女の方がさらに不思議そうな顔をする。
「だって、小さい子に一人で勉強しろって言ったって……」
「ここでは一日のスケジュールがきちんと決められていた。だからそれに従うだけのこと。幼い子供にだって簡単よ」

 なおも目を丸くしているラブに、少女はすらすらと一日のスケジュールを言ってみせる。
「起床、朝の訓練、朝食、勉学。昼食後、勉学と訓練。身体清掃と夕食の後は、一日の反省と明日の目標をパーソナルデータに入力して、就寝」
「凄い……。で、でも、お休みの日もあるんだよね?」
「丸一日なんか休んだら、頭も体も鈍るだけ。どうしてそんな日が必要なの?」
「え……じゃあ、楽しいことって、何も……」
 遠慮がちに呟くラブの言葉を聞いて、少女は不意に背筋を伸ばすと、妙に誇らし気な様子で言った。

「一日のうちで一番楽しみだったのは、反省の時間の冒頭に、メビウス様のお声が聞けることだった。ほんの短い時間、スピーカーからお声が流れてくるだけだったけど、それでも嬉しかった。有り難かった。こんなところでぐずぐずしていないで、早くメビウス様のお役に立ちたい。毎日その思いを新たにすることが出来た……」
 そう言って、少女が力なく首を垂れる。少女をじっと見つめながら話を聞いていたラブも、悲し気な顔になる。が、少女はそこで顔を上げると、憎々しげな目でラブを睨んだ。

「メビウス様はコンピュータだったのに……そう思ってるんでしょう?」
「ううん。そんなこと、あなたがメビウスを思う気持ちには、関係ないよ」
 一瞬の迷いも無いその答えに、少女がわずかに目を見開く。ラブの方は、何だか泣きそうな表情のまま、少女に向かって愛おし気に微笑んだ。
「本当に偉いね。そうやって小さい頃から、ずーっと頑張って来たんだ」
 だが。
「あなたが……お前が言うな!」
 少女の言葉が鋭い棘となって、今度は耳からラブに突き刺さった。

「偉い、ですって? ずっと頑張って来た、ですって? その努力を水の泡にしたのは誰? 私はもう少しで次のイースに――幹部になれるところだった。完璧に管理された正しい世界で、メビウス様のお傍にお仕え出来るはずだった。それを……このラビリンスを、こんな愚かな世界にしたのは誰!?」

 少女がラブの顔をひたと見据えたまま、押し殺したような声を出す。赤い瞳が、さっきより鋭い光を放って、ラブをねめつける。

143一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:54:00
「ふん、知っているわ」
 呆然とするラブに、少女は勝ち誇ったように言葉を繋いだ。
「あなたは……あなたたちは、ラビリンスなんかどうでも良かったんでしょう? あの時ラビリンスへ乗り込んだ目的は、メビウス様がやっと手に入れたインフィニティを取り返すため。ただそれだけだったんでしょう?」
「え……?」

 ラブの瞳が、小刻みに揺れる。
 確かにはじめは、奪われたシフォンを取り戻すことしか考えていなかった。「みんなの世界を元に戻そう」とは言ったが、その“世界”の中にラビリンスが入っていたかと言われれば、胸を張って「はい」と言える自信は無い。

 言葉に詰まるラブに、相変わらず鋭い視線を向けながら、少女がなおも言葉を重ねる。
「だけど、あなたたちが来て、ラビリンスは変わってしまったわ。メビウス様は、全パラレルワールドをラビリンスのような正しい世界にしようと、壮大な計画を立てておられた。だけどそれが成し遂げられなかったばかりか、このラビリンスまで愚かで醜い世界になってしまった」
「それは違うよ!」
 ラブがようやく顔を上げて、力強くかぶりを振った。

「今のラビリンスは、愚かなんかじゃない。醜くなんかない。みんな、これからは自分たちの力で幸せゲットしようって頑張ってるじゃない」
「本当に、みんながそう思ってるって言えるの? 異世界に住んでいるあなたに、今のラビリンスの本当の姿なんか分からないでしょう?」

――もう老い先短い身だ。このまま静かに、一人で過ごさせてくれ。

 不意に、二日前に出会ったあの老人の言葉が蘇って来た。少女に対してか自分に対してかよく分からないままに、ラブが目をつぶって小さく頷く。

「そうかもしれない。だけど……みんなそれぞれ、感じ方も考え方も違うから、自分の考えと違ったり、上手く行かなかったりすることだってあるよ。だから、みんなで話し合うの」
「メビウス様に正しく管理された世界では、そんなこと必要なかった。人と対立したり、争ったりすることも無かったわ」
「本音を言い合えば、喧嘩になることだってあるよ。でも、人間には互いを思いやる心があるんだよ。だから……」
「そんな心、今も昔も、私はこのラビリンスで一度も見たことなど無い!」
 少女がラブの言葉を遮って、きっぱりと言い切った。

「私は、あのお節介な元・幹部に連れられて、警察組織が争いの仲裁をする現場を何度か見たわ。私自身、人と争ったこともある。でも、結局争った人たち両方か、どちらか片方が罰を受けて終わりよ」
 少女が演台から少し離れ、腕組みをしてラブを見つめる。
「みんなそれぞれ、考え方が違うって言ったわね。それはよく分かる。人と意見が違うから、みんな自分が正しいと主張するのに必死で、人を思いやる余裕なんかどこにも無い」
「そんなことない。誰かと争う嫌な気持ちとか、分かってもらえない悲しい気持ちとか、みんな知ってるでしょう? だったら、相手の気持ちだって分かるはずだよ」
 ラブもいつしか演台から離れ、少女の正面に立ってその顔を見つめる。その真っ直ぐな瞳をしばらく見つめ返してから、少女はフッと、目の力をやわらげた。

「……あなたの世界はそうなのかも知れない。でも、だからと言ってラビリンスもそうとは限らないわ。人がそれぞれ皆違うなら、世界だって、それぞれ違うものなんじゃないの?」
「そんなこと無いよ! ラビリンスの人たちだって……」
「まぁいい。私の言っていることが正しいと、すぐに分かるわ。それに自分の努力だって、このまま水の泡にしておくつもりは無い」
「それ、どういう意味? そのために、不幸のゲージを? ねえ、一体何をするつもりなの?」
 ラブが少女ににじり寄り、不安そうにその腕を掴む。
「今に分かるわ」
 少女は一瞬でラブの手を振りほどくと、先に立って学習室を後にした。



 その夜、昨夜と同じ部屋のベッドの上で、ラブは長い間、闇を見つめていた。
 小さく唸り声を上げたり、大きなため息をついたりしながら、何度も寝返りを繰り返す。
 夜の時間は、闇と静寂の中でのろのろと過ぎ、やがてラブがここへ来て三日目の朝が来た。



   ☆

144一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:55:14
 眠れないと思っていたが、明け方になって少しうとうとしたらしい。
 ラブがベッドの上に起き上がったのは、昨日よりも遅い時間だった。

 慌てて向かいの部屋を覗き、そこに誰も居ないのを確認してから、今度は食堂へと足を向ける。
 テーブルの上には一人分の食事が残されていて、やはり少女の姿は無い。その時ラブの耳に、昨日と同じ、タン、という小さな音が聞こえた。

 道場へ行ってみると、果たしてそこに少女は居た。昨日より厳しい顔つきで、動きもさらに速く鋭くなっている。
「今日は、スケジュール通りじゃないんだね」
「そろそろノーザさんが帰って来る。出撃の前には、それ相応の準備があるの。スケジュールにも組み込まれているわ」
 ラブの方を見ないまま、少女は息も乱さずに答える。
 そう、と小さく答えてから、ラブは大きくひとつ深呼吸をして、少女に一歩近づいた。

「あのね。聞いて欲しいことがあるの」
「何? 不幸のゲージのことなら、ノーザさんが帰って来たら……」
「ノーザが帰って来る前に、聞いて欲しいんだ。せつなの……イースだった、あたしの親友の話を」
 少女の動きが、ぴたりと止まった。

「せつなはね。あたしたちの世界に来て、メビウスの命令を果たそうと、凄く一生懸命だったんだ」
 少し悲しそうな、そして実に愛おしそうな表情で語るラブを、少女が怪訝そうな顔で見つめる。
「一生懸命って……その頃の彼女は、あなたたちの敵だったんでしょう?」
「うん。でもあたしたち、友達になったんだ。本当はリンクルンを……変身アイテムを奪うために近付いたって、後で言ってたけど」
「バカバカしい。そういうのを“潜入”と言うの。あなたを騙していただけ」
 少女が呆れたようにため息をついてから、それで? と先を促す。

「プリキュアになってからも、せつなはいつも一生懸命だった。どんな時でも、どんな小さいことでも、“精一杯、頑張るわ”って、そう言って頑張るの。あなたもそうやって頑張って来たんだよね?」
「あの人と……裏切り者と一緒にしないで」
 少女がラブから顔をそむける。
「あたしの力は、プリキュアに変身して初めて使える力だけどさ。せつなは普段から、すっごく強くて、頭も良くて……。その理由が、ここへ来て、あなたの話を聞いてよく分かったよ。小さい頃からずーっと頑張って来たから、身についたんだよね。メビウスのためだったかもしれないけど、自分自身の力として」
 そう言って、ラブは優しい笑顔で少女の顔を覗き込んだ。

「人がそれぞれ皆違うなら、世界だってそれぞれ違うんじゃないか……あなた、そう言ったよね? でも、一生懸命頑張って身につけた力が、水の泡なんかじゃなくてその人の力になるってことは、どの世界でも同じだと思うんだ。だから、あなたも……」

 次の瞬間、くるりと世界が反転した。ダン、という鋭い音と共に、肩と背中に衝撃が走る。
 気付いた時には、ラブは道場の床に仰向けに転がされていた。のしかかるような格好でラブを見下ろす少女の瞳が、今度は純度の高い怒りの炎を宿す。そしてラブの顔面に、高速のストレートが迫る――!

 思わずギュッと目をつぶる。だが、いくら待っても衝撃はやって来ない。
 恐る恐る目を開けると、ラブの鼻先ギリギリのところで、少女の拳がぴたりと止まっていた。

「……何の努力もせず、与えられた力だけで勝利を収めたあなたに、そんなこと言われたくはない!」
 少女が低く凄みのある声を出す。
「あの人が……イースがどんなに凄い戦士だったか、あなたなんかに分かるわけがない。彼女に追いつき、追い越すことだけを目標にして、私は……」
 少女がギリッと奥歯を噛みしめた、その時。
「どう? 休暇は楽しめたかしら」
 不意に、道場にノーザの声が響いた。



 少女が道場を飛び出し、地下室に走る。ラブも慌てて起き上がり、その後に続いた。
 一昨日は固く閉ざされていた地下室のドアは、今は大きく開かれている。部屋に入ると、既にラブの背丈ほどの高さまで液体が溜まったゲージが、二人を出迎えた。

 ノーザの映像が、相変わらず妖艶な笑みを浮かべて少女たちを見つめる。
「どう? 私の成果もなかなかのもんでしょう?」
「……お見事です」
 少女が無表情にゲージを見上げてから、ノーザに向かって頭を下げる。
「では、この子に見せてあげようかしら。裏切り者のラビリンスの国民たちの、不幸な姿を」
 ノーザの指が、パチリと小気味よい音を鳴らす。すると、ノーザの映像の周囲の空中に、幾つもの画像が浮かび上がった。

145一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:55:46
 見るも無残に破壊された、ラビリンスの街並み。
 我先に逃げようとして、将棋倒しになる人々。
 避難所で言い争っている、怒りと不安に満ちた、顔、顔、顔……。

 ラブの目が大きく見開かれる。それを見て、ノーザは実に楽しそうに、甲高い笑い声を上げた。

「ほらね。私が言った通りじゃない」
「そんな……。こんなの嘘だよ!」
 目を潤ませるラブを、勝ち誇ったような表情で見つめる少女。その目の前に、するすると一本の蔦が伸びる。少女に差し出されるような格好で蔦の先にあったのは、あの暗紫色のダイヤだった。

「さぁ、あなたの出番よ。ラビリンスの国民たちに教えて上げなさい、この不幸の意味を」
「不幸の意味って……どういうこと!?」
 ラブがノーザの映像に迫る。
「これはメビウス様の制裁だ、ってそういうこと。人の不幸は蜜の味。あなたがそれを知らせてあげれば、この世界の人間どもがどれだけ打ちのめされるか……。ゲージが上がるのが楽しみだわぁ」
 実に楽し気なノーザの言葉に、ラブは目に涙をいっぱい浮かべたまま、力一杯少女の両腕を掴んだ。

「ダメだよ! 行っちゃダメ! そんなこと聞いたら、みんな不幸に飲まれちゃう。せっかく立ち上がろうとしているのに、立ち上がれなくなっちゃうよ。お願いだから、そんなデタラメでこれ以上みんなを惑わせたりしないで!」
 と、その時、ラブの背後からもう一本の太い蔦が伸び、ダイヤに気を取られていた少女が反応する間もなく、ラブの身体を巻き取った。

「フフフ……相変わらず能天気ねぇ。私たちの計画がデタラメだなんて、どうして言えるのかしら? この子に教えてあげなさい」
「……本当に、間違いないんですよね?」
 ゲージの横に宙づりにされたラブに目をやってから、少女が初めてノーザを詰問する。
「あら、私が信じられないの? 疑うのなら、降りてもいいのよ?」
「いえ、そんなことは……」
 少女はかぶりを振ってから、ラブに向かってぶっきら棒な調子で言った。
「メビウス様は、もうじき復活なさるの。ノーザさんの力でね」

「嘘! だって、メビウスは自爆したんだよ? 復活なんてあり得ないよ!」
 ジタバタと身をよじって何とか拘束から逃れようとしながら、ラブが声を張り上げる。それを聞いて、ノーザの笑みが消えた。
「せっかく教えてあげたのに……痛い目に遭わないと分からないようね」
 ノーザがさっと右手を挙げると、蔦がギュッと締まって、ラブの身体を締め上げる。
「うわぁっ!」
 ラブは思わず悲鳴を上げて、苦しそうにケホケホと咳をした。

「おやめ下さい!」
 少女が大声を上げてから、我に返ったように小さく咳払いをする。
「そいつには、危害を加えないと約束しました。ですから……」
「甘いなぁ。そんなことで本当に幹部が務まると思っているの? まあ、最近の幹部には何故か愚か者が多いから、仕方ないのかしら」

 ノーザの嘲るような声に、少女の目つきが変わった。グッと拳を握ってから、挑むようにノーザの映像を見つめる。
「私は、メビウス様を裏切った元・幹部たちとは違います。己の力は、メビウス様のために。それ以外のものには使わず、自分の望みを叶えてみせる!」
 言うが早いか、少女の手が暗紫色のダイヤを、躊躇なく掴み取った。

「いい覚悟ねぇ」
 少女の様子を眺めて、ノーザがニヤリと笑う。
「闇は人を不安にさせる。だから通告は、夜まで取っておきなさい。それまでは現状を確認がてら、あなたも一暴れすればいいわ」
「承知しました」

「待って!!」
 ラブがそう叫ぶと同時に、少女の周りの空間が歪む。ギュッとダイヤを握りしめた少女と目が合ったと思った次の瞬間、彼女の姿は消え失せていた。
「フフフ……。これで確実に、不幸のゲージは満タンになる」
 高らかなノーザの哄笑が響き渡る。なす術もなく瞳を震わせるラブの隣で、不幸のゲージが、ゴポリ、と微かに不気味な音を立てた。


〜終〜

146一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/09/04(日) 18:57:13
以上です。ありがとうございました!


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