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『プリキュアシリーズ』ファンの集い!2

90一六 ◆6/pMjwqUTk:2016/02/21(日) 22:09:05
 夜もとっぷりと更けた、ラビリンスの居住区。立ち並ぶ集合住宅は、外から見るとどれも判で押したように同じ大きさ、同じ形の建物だ。その一棟の片隅にある小さな部屋に、今、灯りが点いた。
「どうぞ、上がって」
「お邪魔しまーす!」
 玄関先で靴を脱ぐ二人の少女は、せつなとラブ。ここは、ラビリンスでのせつなの住まい。彼女が一人で暮らしている部屋だ。

 一足先に上がってラブにスリッパを差し出したせつなは、少し困ったような表情だが、その口元は嬉しそうに緩んでいる。ラブの方はワクワクを絵に描いたような顔で、部屋に入るやいなや、わぁっと歓声を上げた。
「広いじゃん、せつな。ベッドも凄く大きい!」
 えーっと、ここは何かなぁ……などと大きな声で言いながら、ラブが幾つかの扉を開けて、楽しげに中を覗き込む。そして最後はきれいに整えられたベッドめがけて、勢いよくダイブした。
 もう、と呆れた顔をしてみせてから、せつながクスリと笑う。そしてラブの荷物を机の上に置くと、自分はベッドの縁に腰かけた。ラブもすぐに起き上がって、その隣に座る。

 ベッド、机、本棚、姿見。どれも桃園家のせつなの部屋にある物より一回りか二回りほど大きいが、それらは全て、桃園家の部屋と同じ配置で置かれている。
 それ以外には、家具らしい家具は無い。女の子の一人暮らしにしては、殺風景なくらい必要最小限のものしか置いていない部屋。改めて見回したラブは、机の上に置かれた写真立てに気付き、小さく微笑んだ。
 それは、あの最後の戦いから帰った後、タルトやシフォン、アズキーナも一緒に家族で撮った写真だった。ラブも同じ写真を、同じように自室の机の上に飾っている。が、そのことには触れず、ラブはせつなに微笑みながら、おどけた調子で言った。

「やっぱきちんと片付いてるねー、せつなの部屋。あたしなんか、つい散らかしちゃうのにさ」
「ラブの部屋は、物が多すぎるのよ」
 そういつもの調子でたしなめてから、せつなはまた少し困った表情に戻って、ラブの顔を見つめた。
「それよりラブ。本当に泊まっていったりしていいの? お父さんとお母さんが心配してるんじゃ……」
「大丈夫だよぉ。お母さんには、ちゃんと言って来たもん」
「でも……」
 ラブの即答とは対照的に、せつなが曇った顔のままで口ごもる。

 今朝、せつなは四つ葉町での休暇を早めに切り上げてラビリンスに戻って来たのだが、驚いたことに、ラブも後から彼女を追ってラビリンスにやって来た。ちょうどこちらへ戻るところだったウエスターとばったり出会って、彼に頼み込んで連れて来てもらったのだと言う。しかもラブは、着替えを詰めた大きなスポーツバッグを肩にかけ、泊まる気満々の格好で現れたのだ。
 いくら移動が可能と言っても、ここは異世界。友達の家にちょっと遊びに行くのとは、わけが違う。だが、ラブは事もなげに、こんな言葉を付け足した。

「大丈夫だって! せつなの家に泊まるって言ったらさ、お母さんが、せっちゃんのところなら安心だわ、だって」
「……ホントに?」
 せつながそれを聞いて、まだ心配そうな表情を残したまま、うっすらと頬を染める。その顔を見て、ラブの言葉にさらに力がこもった。
「うん! だから、明日からせつなの手伝い、あたし、精一杯がんばるよっ!」
「明日から、って……。そんな、ダメよ。せっかくの夏休みなのに」
「もう。わかってないなぁ、せつなは。夏休みだから、あたしにもせつなの手伝いが出来るんでしょう?」
 再び困ったような表情になるせつなの隣で、ラブが得意げに胸を張る。
「あたし、この前のお料理教室で、せつなの手伝いが出来て、すっごく嬉しかったんだ。だから、もしまた手伝えることがあるなら一緒にやらせてよ。だって、せつなの夢は、あたしの夢でもあるんだから」
「ラブの……夢?」
「そう!」
 ますます得意げにニッと笑ってみせるラブを、せつなは一瞬、不思議そうな顔で見つめる。そして、フッと顔をほころばせてから、うん、とひとつ頷いた。

「わかったわ。ありがとう、ラブ」
「やったぁ!」
「でも、そう長い間はダメよ?」
「え〜、なんで?」
「まだ夏休みの宿題も、終わってないんでしょう?」
「うっ……それは……」
 途端に目を泳がせるラブに、せつながクスクスと笑い出す。

 この部屋で、こんな風に笑ったことなんてあっただろうか、とふと思った。
 ラビリンスを笑顔でいっぱいにしたい――そう思ってここに戻って来たけれど、ここでの自分の笑顔のほとんどは、ラビリンスの人々のために――人々の緊張をほぐしたり、敵意が無いことを伝えたりするために浮かべるもののような気がする。


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