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『プリキュアシリーズ』ファンの集い!2
124
:
一六
◆6/pMjwqUTk
:2016/07/18(月) 21:43:26
「今、警察が、怪物の攻撃から私たちを守りながら、犯人逮捕に動いています。政府も懸命に犯人を捜しています。私たちは彼らを信じて、私たちに出来ることをしましょう。ここに居る人たち全員で、助け合って……」
だが、そこでせつなの言葉が途切れた。ひとつひとつは小さいが、不安と不満の塊のような囁きが、さざ波のように部屋中を覆ったのだ。
「そんな、信じろなんて無責任に言われても……」
「もう三日よ? 一体いつまで待てばいいの?」
「いい加減、我慢の限界だ」
せつなの顔を一切見ようとはせず、疲れ切った顔でブツブツと呟く声。
なおも言い募ろうと息を吸い込んでから、伝えるべき言葉が見つからなくて、せつなが力なく息を吐き出す。
が、そこでせつなの呼吸が止まった。ごく小さな、ため息と共に吐き出された力ない言葉が、雷のような衝撃を伴って耳を打ったのだ。
「以前は……メビウスの時代には、こんなこと絶対に無かったのに」
「おいっ! そんなこと、言うもんじゃないだろう!」
慌てたように声の主をたしなめる、さらに小さな声がする。だが、さっきの声はおさまらない。
「だってそうだろう? 俺は事実を言っただけだ」
「メビウスは、僕たちを管理していたんですよ?」
「ああ。でもだからこそ、こんな犯罪なんて絶対に起こらなかった」
「事故も災害も、その存在すら知らないでいられたしな」
「じゃあ私たちは、メビウスに守られていた、ってこと……?」
「いい加減にしないか! せつなさんの前だぞ!」
ごく小さな声で言い合っていた人々が、その一言でハッとしたように、せつなの方を窺う。
うつむいたせつなの表情は、黒髪に隠れてよく分からない。
「せつなさん……」
彼女の後ろに付き従っていた女性職員が、泣きそうな声で呟いた時。
「ナケワメーケ!!」
窓の外から、新たな怪物の雄叫びが聞こえて来て、部屋の中は騒然となった。
「マズい。スピーカーの化け物だ!」
「全員、窓から離れろ! 耳を塞げ!」
「うわ、お願い、押さないで!」
一斉に奥の部屋へと逃げ込もうとする人々。だが、ナケワメーケが続いて発したのは、あの頭が割れるような雄叫びでは無かった。
「愚かな者たちよ。これは、メビウス様からお前たちへの、制裁だ」
ナケワメーケの頭部にあるスピーカーから、初めて人の声が響く。まだ若い女性らしく、少々甲高い声。だが、それを補って余りある堂々とした語り口調とよく通る声音には、聞く者に耳を傾けさせる威圧感のようなものさえ備わっている。
「メビウス様は、このラビリンスから完全に消え去ってなどいない。忠実な僕であるこの私の手で、復活される日を待っておられるのだ。大恩ある存在を裏切ったことを後悔するのなら、泣け! 嘆け! そして許しを請え! お前たちの不幸が、メビウス様の力になる」
あまりにも衝撃的なことを知らされると、かえって言葉は出て来なくなるものらしい。
部屋の中は一瞬、しんと静まり返った。が、続いて沸き起こったざわめきは、あっという間に部屋全体をパニック状態に陥れた。
「メビウスが……」
「復活するというのか……」
「再びこの世界に、メビウス様が……」
「私たちは、どうなってしまうの……」
「だけど、受け入れてしまえば、もうこんな目には遭わずに済むんじゃないか?」
「今、裏切ったと言われたじゃない。何の制裁も無しに許されると思ってるの?」
自分達を苦しめているのが、単なる犯罪者による事件ではなく、絶対者であったメビウスによる粛清である――その通達は、わずかばかり残っていた人々の希望を消し飛ばすのに十分だった。
立っていられなくなったのか、その場にへたり込む者が続出する。
あちこちで火の付いたように子供たちが泣き出した。大人たちはそれをなだめるでもあやすでもなく、ただ呆然とその場に座り込んでいる。
「せ、せつなさん……!」
さっきの女性職員が、すがるような目でせつなの姿を追い求め、え……と驚きに声を飲み込んだ。
驚愕と恐怖に支配された部屋の中から、せつなの姿は忽然と消え失せて、もうどこにも見当たらなかった。
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