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仮投下スレ2

1もふもふーな名無しさん:2009/05/15(金) 20:32:18 ID:SF0f54Dw
SS投下時に本スレが使えないときや
規制を食らったときなど
ここを使ってください

421パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:51:30 ID:YrRABrO.

「ああ・・・ああ!!」

メガスマッシャーの暴発によって、キョンの身体は凄惨を極める酷い有様になった。
強殖細胞の大部分が融解・または身体から外れている。
特に爆心地になった上半身は酷く、あばら骨や一部臓器を露出している(ガイバーの機能により不必要な臓器が消えるため、今曝されている臓器は必然的に必要な器官となる)。
熱で肉が炭化した部分もあり、各部からの出血も酷い。
四肢は繋がっていても、ほとんどが複雑に折れて変な方向を向いている。
そして、頭部の装甲の大半が外れて初めてスバルたちの前に晒された苦悶に満ちていた。
今のキョンには『死に体』という言葉が似合いそうだ。
そんな身体で生きているのは、ガイバーの仕業であろう。
暴発によって引き起こされた爆発からキョンの身を守り・・・・・・守りきれていないが、ガイバーが無ければキョンの身体は全て消し飛んでいただろう。
また、ほとんどの頭部装甲が吹き飛んだ中で額のコントロールメタルとその周辺はいまだ健在であり、ガイバーとしての機能は損なっていない。
今もまだ宿主の身体を再生中であり、体が一部炭化しようとも、内臓を露出して出血多量でも、キョンはまだ生きていた。
・・・・・・だが、強殖装甲による再生が、刻一刻と失われていくキョンの生命力に追いついていない。
脳がやられようと再生できる強殖装甲だが、ここまでダメージが酷いとどうなのだろうか?
ガイバーである晶がコントロールメタルを奪われて実質、全ての肉体を失ったが、ユニットに付着した僅かな強殖細胞から復活したことがある。
しかし、それが強者に様々な制限を与えられるこの会場ならばどうか?
制限は参加者のみならずガイバーユニットにもかけられているのが道理だろう。
よって、中途半端な再生能力はキョンに生きたまま激痛地獄を味あわせるに過ぎない。
動くこともできず、叫ぶ力もないので、キョンは苦痛に呻き声をあげるしかなかった。

焦燥のスバルたちはそんな彼を助けようと近寄る。
キョンの首から下を、スバルは直視できない。
見てしまえば、吐き気を催しキョンを助けることに集中できなくなりそうだからだ。
直視できないほど酷かったのである。

「キョン君! しっかりして!」
『これはヒドイです・・・・・・生きてる方が不思議ですよ!』

422パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:52:32 ID:YrRABrO.
スバルたちがキョンを助けようとする一方で、ウォーズマンは彼女たちの背中を守るように後ろに立ち、ギュオーと向き合う。

「ギュオー!
これはいったいどういうことなんだ!」

ウォーズマンはギュオーに向けて語気を強めて問い掛ける。
決して、ギュオーが殺し合いに乗ったとわかったためではなく、元々の彼への疑念に加えて感情が入っているのだ。
問い掛けに対し、できるだけ誠実に繕って無害そうに装うギュオー。

「待ってくれ、君らは奴を追っていたんではないか?
奴は敵じゃなかったのか?」
「・・・・・・保護すべき相手だ。
詳しい経緯は省くが、見張り、守らなくてはいけない奴だったんだ」
「な、なんと!?」

ウォーズマンたちから逃げているので、てっきりキョンが敵対しているのだと思ったギュオー。
実際には、(言い回しからして何か事情があるみたいだが)味方だったのである。
つまり、誤ってギュオーは味方を攻撃してしまったのだ。
良心の呵責がないギュオーには、それ自体のことはどうでも良いことなのだが、問題なのはそれによりウォーズマンたちとの友好関係にヒビが入ったことである。
ギュオーにとって利用価値のあるウォーズマンたちとは、関係を悪化させたくなかった。

(クソッ、合流するタイミングが最悪だ!)

再会のタイミングはちょうどキョンを攻撃した所、目撃される気はなかったのに、キョン(おそらく死ぬ)を襲っていたことがバレてしまった。

ウォーズマンに見せる誠実そうな態度の裏で、自分の思い通りに行かないことに腹を立てる。
だが、あらかじめガイバーが自分にとっての敵であると教え込んでいるため、今なら誤殺や事故でごまかせるかもしれない。
関係そのものの悪化は避けられなくとも、交戦は回避できるハズだ。
ここはなんとか凌ごう−−と、ギュオーは肝に銘じる。
そんなギュオーの心の内を知りもせず、ウォーズマンはギュオーに問い掛け続ける。

「一緒にいたタママはどこに行った?」
「タママ君なら火事になっている北の市街地へ向かった」
「そんな危険かもしれない所へ一人で行かせたのか!?」
「止めようとしても話を聞かなかったんだ!
頭に血でも昇っていたのだろう」

それは嘘ではない。
タママが出ていったことで、一人でにこの殺し合いに関しての考察ができたのは秘密だが。

423パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:54:59 ID:YrRABrO.
タママの動向についてわかった所でウォーズマンの質問は次に移る。

「おまえを疑いたくはないが、キョンに襲いかかったのは故意ではないんだな?」
「待ってくれ!
私にとってガイバーは敵なんだ。
やらなきゃやられると思ったのだよ。
それを君たちの仲間と知らずに討ってしまった事には責任を感じてる・・・・・・
信じてくれ、あくまで自分の身を守ろうとしてやってしまった事なんだ・・・・・・!」
「ぬぬぬ、おまえを信じてやりたい気持ちはあるが・・・・・・」

偽りの自責の念を見せつけるギュオーと、彼の真意に気づかず気を許してしまいそうなウォーズマン。

(これで良い。
まだ先は長いのに争って消耗したくはないし、コイツらには戦闘面で利用価値があるんだ。
それにどうやら、あのガキの持つユニットにも制限があるのか、再生力には限界があるみたいだな。
制限をかけないと、ユニットを持つ者の優勝が簡単になってしまうし、無理もないか。
う〜む、わざわざ禁止エリアにほうり込む必要はなかったか?)

ギュオーはユニットにもある程度の制限がかけられている事に気がついたようだ。
その上で考えを練る。

(ユニット自体はまだ健在だ。
このガキが死ねばその内ユニットが手に入る。
私が襲った真相についてもあやふやになる。
今は粘るんだ!)

野望に燃える男は、キョンの死を待ち望む。
ロボ超人は疑念を持ちつつも、それに確信に変えることができないでいた。

−−そんな一方で、スバルはキョンを助けるべく方法を模索する。

「がはぁ、くうう・・・・・・」
「キョン君!
・・・・・・早く助けないと!」

だが、スバルやリイン程度の魔法による治癒では、瀕死のキョンを助けるには至らない。
今のキョンを助けられそうな魔導士はシャマルぐらいしかいないが、この殺し合いの場にはいない。
他に助ける方法も思い浮かばず、キョンの苦しむ声を聞きながら焦るのが関の山だった。
方法が無いとはいえ、衰弱するキョンをスバルは見ていられない。
ガルルと同じく、目の前にいるのに助けられないのは、もう沢山なのだ。
悲しみと無力感でスバルの目頭が熱くなる・・・・・・そこへ、ギュオーと話していたハズのウォーズマンが励ましの言葉を送りながら現れる。

「諦めるなスバル!!」
「・・・・・・ウォーズマンさん?」

ウォーズマンはスバルの側にしゃがみこみ、デイパックを開ける。

424パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:57:52 ID:YrRABrO.
「支給品の中にはキョンを助けられる道具があるかもしれん。
俺もデイパックの中身を全て把握しきっていない。
だからデイパックを調べて何か使える物が無いか探すんだ!』
「そうか、それなら!」

キョンを救える道具がデイパックの中に眠っているかもしれない。
それを思いたったウォーズマンは自分のデイパックを漁り始める。
僅かでも希望が見えたことにスバルは眼を輝かせ、リインと共にさっそく自身のデイパックを調べ始める。

スバルのデイパックには、円盤状の石、首輪、SDカード、カードリーダー、巨大化させる銃・・どう考えても役に立ちそうな物は見当たら無い。
ウォーズマンのデイパック。
スナック菓子に木の美・・・・・・役に立つ物がなかなか見つからない中で、ウォーズマンが何かを発見する。

「これはいったいなんだ?」

金属で覆われたハンドサイズのカプセル状の物体。
一瞬、キョンを救える物かと期待したが・・・・・・

『それはN2地雷って言う一エリアをほとんど吹き飛ばすトンでもない爆弾みたいです』

付属の説明書を読んだリインが、謎の物体が爆弾であることを告げる。
期待通りに行かず、落胆せざる追えなかった。
爆弾じゃなかったら、それを地面に叩きつけてたぐらいにだ。

425パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:58:48 ID:YrRABrO.

「爆弾なのか、チッ。
・・・・・・ん?」

自分たちがキョンを助けようと道具を探している横で、傍観者のように動かないギュオーを見つけたウォーズマンは、今ある苛立ちをぶつけるように言った。

「何してるギュオー!
おまえも責任を感じているなら手伝うんだ!」
「あ・・・・・・ああ、すまない、今すぐに私もデイパックから使える道具を捜してみる」

指示を受けたギュオーは内面的に渋々、デイパックから道具を探す『フリ』をする。

(まったく、誰に物を言ってるつもりなんだウォーズマンは。
・・・・・・いかんいかん、ここはガキが死ぬまで適当に道具を探すフリをしていれば良い)

ウォーズマンの態度に不満気でありながら、演技を続ける。
デイパックが開けば、首輪についていた血の臭いも解放されたが、キョンの流す更に濃い血の臭いで掻き消されてしまう。
ここまでのギュオーの目論みは、ほぼ順調だったに違いない。

ギュオーが作業を仕出したのを確認すると、ウォーズマンは視線をキョンに戻し、まだ手に持っているN2地雷をデイパックに戻す・・・・・・のを忘れて、地面に置く。
彼は大分苛立っている様子だ。

「まだ道具はあります!
きっと助けられる道具があるハズなんだ!」

426パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:05:12 ID:YrRABrO.

スバルはウォーズマンにそう言い聞かせた。
こうしている間にもキョンは弱っていく、かろうじて息はあるが、呻くことももうできなくなっている。
キョンはもはや限界だった。
だからこそ、諦めてはならない。
デイパックの中に都合良くキョンを助けられる支給品があるとは限らないが、それでも自分たちが探さなければ助けられる可能性もゼロになる。
何よりガルルやメイの時と同じく、スバルもウォーズマンも、何もできないまま、目の前で人が死ぬのはもう沢山なのだ。

「負けないでキョン君。
あなたはまだ何の罪も償っていないじゃない。
キチンと罪を償って元の世界に帰すまで、あたしはあなたを生かしてみせる!」

キョンを必ず助けたい強い意思から、スバルは祈りながらデイパックの中へ腕を突っ込み、道具を探し続ける。

(お願い!
キョン君を助けられる道具が出てきて・・・・・・!)

「コレはたしか・・・・・・?」

祈りが通じたのか、デイパックの中から出した隣のウォーズマンの手には宝石のようなものが握られていた。
その宝石こそ、幸福と不幸をもたらす青い魔石−−ロストロギア。
それを見たスバルとリインは思わず声を揃えて驚く。

「これは・・・・・・」
『まさか・・・・・・』
「『ジュエルシード!!』」

−−−−−−−−−−−

427パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:07:34 ID:YrRABrO.

最悪だ。
まさかこんな形で俺が終わるなんて・・・・・・

利用するつもりだったギュオーが、有無を言わさずに襲いかかってくるなんて想定できるハズがない。
おまけにそのギュオーに殺されるなんてビックリ展開だぜ。

結果、俺の身体はメガスマッシャーの暴発で体中ボロボロのバラバラ。
もう、首から下の感覚が痛すぎて、どう痛いのかよくわからん。
気が狂いそうな痛みと、死の恐怖って奴が、現在襲進行形で俺を襲いかかっている。
どれだけ痛くとも叫ぶ気力すらない。
こんなんで何で生きてるかって?
ガイバーのおかげだろ、たぶん。
まあ、こうやって考え込む程度の正気はギリギリで保っている。

・・・・・・俺の命はたぶんもう持たないな、自分の身体だからよ〜くわかる。
強殖細胞が俺を再生させようとしてるが、ほとんど間に合ってないようだ。
あの女が必死で俺を助けようとしているが、無駄だろう。

すまない、ハルヒ、朝比奈さん、妹・・・・・・
俺はここでリタイアのようだ。
あとは、一人にしちまって迷惑をかけるが、古泉が頑張ってくれることを期待するしかない。
でも、アイツがパソコンの掲示板を見ていたら、きっと怒ってるだろうな。
ひょっとして、仮にアイツが優勝したら、望みが俺だけ生き返しさないとかだったりして・・・・・・報いだとしても正直、嫌だな。


ハァ・・・・・・それにしても俺はどこで間違っちまったのかな?
俺が自分を抑えて、あの女たちから逃げなければ良かったのか?
ハルヒを殺した時点からか?
殺し合いに乗らなかった方が良かったのかもな?
そもそも、この殺し合いに連れてこられた時点で、俺の運命は最初から終わってたのかもしれない。

・・・・・・思い返して見ても、守るつもりだった奴を斬ったり、仲間や兄妹を売ったり、蛇の舎弟にされたり、土下座したり。
揚句の果てに、勝手に暴走して泣きわめきながら逃げて、ぶざまに死ぬ・・・・・・俺はこの殺し合いでろくなことは何一つしてないな。
汚いことを色々やって、何もしないまま、俺は死ぬのか・・・・・・
ハルヒたちにあの世で笑われても文句が言えないな。

まぁ、全ては過ぎたことだ。
後は殺し合いが終わった時に長門が生き返してくれることを祈ろうか。

428パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:08:35 ID:YrRABrO.
「・・・・・・ッ、まだ道具はある。
きっと助けられる道具が!」

眼中ではまだ、あの女−−スバルが頑張ってやがった。
黒い男がなんか一エリアのほとんどを吹き飛ばすらしい爆弾を地面に置いて、二人ともめげずに『俺を助けるために』デイパックを漁っている。
何を奴らは、必死になってるんだ?
俺なんてヤツは見殺しにしちまえば良いのに。
『あたしはただの甘ちゃん、偉くはないよ。
でも、そんな甘ちゃんの理想を貫けと言ってくれた人がいる。
だからあたしは、誰であろうと一人でも多くの人を救うと決めた。
キョン君も、これから会う人も、殺し合いに乗った人だって、助けてみせる!』
そういえば、そんなこと言ってたっけ?
しかし、味方はともかく敵だったヤツにまで手を差し延べるなんて、この殺し合いの場じゃバカか変人だぞ。



本当にスバルには変人って言葉は適切なのか?
ふと、疑問に思う。
そして、ここにきて俺がスバルが嫌いだった理由がようやくわかった気がする。

−−スバルが信念を曲げずに戦っているからじゃないのか。
敵にまで手を差し延べ助けようとし、誰であろうが死ねばその悲しみを受け止める。
力の差が歴然な相手にも、立ち向かおうとする。
一人でも多く助けたいという理想を貫こうとするその様は、あまりにもヒロイズムで気高い。
それは同時に、守りたかった少女を殺し、自分が助かりたいために仲間を売ったり、殺し合いのためには仕方ないとわかっていながら仲間の死を聞いて心が耐え切れずに醜態をさらしてしまったり。
所々で信念が揺らいでいたキョンにとって嫉妬の対象になり、彼女の近くにいると自分の惨めさを思い知ってしまう。
この殺し合いにおける進む道は真逆でも、信念を貫く彼女の姿勢は、キョンが自分に求めていた姿だったのかもしれない−−

俺は守りたいものを自分の手で壊しちまった。
必要悪だとわかっていても仲間が死んで芯が折れそうになった。
同盟を組んでいた古泉に対しての仕打ちは、明らかに俺の裏切りだ。

・・・・・・なのにコイツは俺とは逆で、ぶれずにやりたいことをできる。
いったいどうすりゃそこまで強くなれるんだ?
戦闘力じゃなくて、精神的な意味で。
俺もそうなりたかった・・・・・・できれば教えて欲しかった。

429パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:10:10 ID:YrRABrO.

でも、スバルの強くなった理由を知りたくても、もう・・・・・・それはできそうにない。
いい加減、意識が遠退いてきやがった。
視界が徐々に真っ暗になってきやがる。
いよいよ俺は死ぬみたいだな・・・・・・

俺にできることは、スバルと黒い男と小さい女とに看取られながら、仲間を裏切ったことへの後ろめたさを感じつつ、自分を殺したギュオーを憎んで、生きているだろう古泉に殺し合いを早く終わらせてくれるよう期待しながら死ぬだけだ。

・・・・・・虚しいな。
そんでもってSOS団の皆に裏切る以外の何もしてやれないまま終わるんだ。
だが、文句をたれた所でもう遅いんだ。
俺は自分の不甲斐なさを悔いながら死ぬとするか・・・・・・



「負けないでキョン君。
あなたはまだ何の罪も償っていないじゃない−−」



誰かの声が聞こえた。
その言葉に俺の意識は溺れきる前に引き戻される。
−−そうだ、俺は裏切ってしまった仲間への償いをまだしていない。

今思えば俺は自分の事しか考えてなかった。
自分の生存率をあげるために古泉を落としめた。
自分は立ち止まるべきじゃないのに、ハリボテのような覚悟で朝比奈さんと妹の死を聞いて、つぶれてしまいそうになった。
優勝して、皆を生き返して日常に帰ることにだって、俺は本気で挑んでいたのか?
優勝そのものが保険になり、目的が殺し合いを促進させることが中心になっても、できるだけ早く皆を生き返らせたい気持ちはあるんだ。

もし、もう一度チャンスがあるのなら、俺は今度こそ本気で殺し合いに挑もう。
その時はスバルと同じく、自分の信念を曲げたくない。

挑むからに、命をかけるぐらいの覚悟で頑張ろう。
弱い俺が誰にも負けないようにするには命を張るしかない。

そして、一秒でも早く皆をを日常に帰す、それこそが不器用な俺なりの償い方だ。
これからは自分の都合ではなく、償いのために戦いたい!



−−死ぬ寸前にも関わらず、そんな決意を固めると、天は俺を見放さなかったのか、閉じかけた視界の奥で青い輝きが見えた。

その輝きを見て思い出すのは、SOS団での日々。
ハルヒによってSOS団に無理矢理入れられた事に始まって。

430パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:11:02 ID:YrRABrO.
長門が宇宙人で、朝比奈さんが未来人だったり、古泉が超能力者だと名乗った事に最初は戸惑ったっけ?
朝倉に殺されかけ、長門が身体張って俺を守ってくれた事。
大人の朝比奈さんに出会いもした。
たまに遊びにきた妹。
島に行ったり、野球やったり、アホで電波な映画を作ったり、コンピ研とゲームをしたりもした。
俺はその思い出の全てが、口ではなんやかんや言いつつも、楽しかったに違いない。
俺はそれらを取り戻し、その日常の続きを皆で見たい。
だが、俺がそのために努力しなくてどうするってんだ!
何もしなくちゃ、皆と一緒にSOS団に戻る資格はねえ!!


俺が意気込むと、例の青い輝きが一層強くなった気がする。
そこで『この輝きに触れれば、俺はもう一度立ち上がることができる』と、直感が告げていた。
これこそ、俺の願いを聞いてくれた神様が与えた最後のチャンスに思えた。
もちろん、今度こそ揺るぎない決意を胸に秘めた俺は、迷うことなくその輝きを掴む。

そして強く願った。

−−−−−−−−−−−

もう迷わないし逃げない。
ハルヒたちSOS団を早く日常に帰してやるためだけに頑張りたい!!
だから・・あと一回だけチャンスをくれ!

−−−−−−−−−−−

そう願い終えると、手の中の輝きが大きくなり、やがて俺を包んだ。
身体中が隅々まで生まれ変わるような感覚を味わう。
もう一度、眼を覚ました時には、俺は以前とは別物になっているかもしれないな。

そして、輝きの先にはハルヒがいた。
表情がよく見えないが、俺を見ていることだけはわかる。
彼女に俺は微笑みながら、自分の胸の内を告白する。

「待っていてくれハルヒ。
朝比奈さんや妹、それに古泉も、すぐにみんな一緒にあの日常に帰してやるからな。
あと・・・・・・口ではああだこうだ言ってたけど・・・・・・俺はやっぱりおまえの作ったSOS団に入れて良かっ−−」



瞬間、硝子を割ったかのように粉々に砕け散る俺の魂。

−−−−−−−−−−−

431パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:12:30 ID:YrRABrO.

スバルとリインが、ウォーズマンがジュエルシードを引き当てたことに驚いている隙に、どこにそんな力が残っていたのか、ボロボロになっている右腕を伸ばし、ウォーズマンの手元からジュエルシードを掠め取ってしまう。
ジュエルシードを持つ手がキョンの心臓の前に添えられると、彼は光に包まれた。
目の前でジュエルシードを奪われ、突然に光だしたキョンに呆気に取られる三人。
多少遠巻きにいるギュオーもすぐに事態の変化に気づき、驚く。
その中でレイジングハートがスバルたちに警告を促す。

『膨大な魔力の発生を感知・・・・・・ジュエルシードが暴走している可能性があります!
早急にMrキョンから離れてください!!』
「でも・・・・・・キョン君が!」
『巻き込まれて死ぬつもりですか!?
上官命令です、早く離れて!!』
「・・・・・・くッ」

デバイスの警告とリインの指示を受けて、二人は仕方なくデイパックを拾ってはキョンから離れた。
スバルは光り続ける彼を心配そうに見つめる。
なぜなら、スバルはジュエルシードが良き結果をもたらさないことを知っているからだ。


やがて、キョンを覆っていた光が消えていく。
すると、キョンがいた位置には『何か』が立っていた。
その『何か』の姿にその場にいた全員が驚くことになる。

『何か』はキョンであった。
キョンはついさっきまでの肉塊状態では無く、人型のフォルムに戻っていた。
しかし、その姿は異様かつ不可解。
目立った特徴をあげるなら、ガイバーと人間がぐちゃぐちゃに合わさっている姿。
言うなればガイバーとは何かが違うのだ。
首から下の外見特徴はガイバーに近けれど、型の合わないパズルを無理矢理押し込んではめ込んだように所々がイビツであり、アプトムのコピー並にガイバーとしての再現率が低い。

432パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:14:46 ID:YrRABrO.
胸の装甲部分の下・ちょうど中心には、キョンのこの変身の原因となったジュエルシードが嵌まっていた。
この場にエヴァの関係者がいたとしたら、ゼルエルを喰らい、S2機関を取り込んだ初号機に似ていると言うだろう。
もっともアレの場合は赤で、こちらの場合は青いが。

首から上はもっと異様だ。
頭部の装甲は角や額部分を除いて剥がれ落ちたままなのか、素顔や頭髪が見える。
血の気を持ってかれたのか、茶色みを帯びていた頭髪は全て老人のように真っ白になっている。
ガイバーの特有の前から後ろに伸びる一本角は、頭から直接生えているようにも見えた。
額に残っていた装甲はヘッドビームの発射口と、コントロールメタルはそのまま。
最後にもっとも異様なのは、頬など一部が強殖細胞に侵された顔は、マネキンのように張り付いたような無表情であり、眼は光も闇も無い虚無を写している。

総じて纏う雰囲気は異様、身体はガイバーでも人でも無いまったく別のクリーチャーのようだ。
当の本人は黙ったまま直立不動であり、その様子がさらに不気味さを掻き立てる。


起死回生したキョンに対して、状況が飲み込めないギュオーとウォーズマン。

「な、何が起きたんだ・・・・・・?」
「さぁ・・・・・・俺にもさっぱりわからん」

逆に、キョンの身に起きた事象の原因を知っているスバルとリインには、キョンが死の淵から蘇ったことに素直に喜べないでいた。
キョンに関して悪い予感がしてならないのである。

「キョン・・・・・・君?」

呟くようにスバルは声をかける。

「・・・・・・」

声にキョンがぴくりと反応を示し、ゆっくりと視線を動かして周りを確認する。
顔色一つも変えずにロボットのように見回し−−突然、問答無用で他の四人に向けて額からヘッドビームを放った。

『わあああ、いきなり撃ってきた〜!』
「キョン君!?」

スバルはサイドステップで、側にいたリインは宙を宙返りして回避する。

「キョン!」
「うぬ!」

ウォーズマンはしゃがみ込んでかわし、ギュオーはバリアを張って防ぐ。
防いだギュオーは、ビームがバリアに当たった時の手応えで違和感を感じた。

(ビームの出力が、私の知っているスペックより強いぞ!?)

433パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:15:53 ID:YrRABrO.
ギュオーは違和感を感じている一方でスバルには、キョンがいきなり周りを攻撃してきたことについて思い当たる節があった。

(ジュエルシードの暴走!?)

悪い予感が的中してしまった。
攻撃してくるのはジュエルシードの暴走かわからないが、現在のキョンは目に見えておかしいのである。

『今のビームには魔力が付加されて出力が上がっていました。
おそらく胸部にあるジュエルシードの影響と思われます』
『ひぇぇぇ、パワーアップまでしているんですか?』

デバイスの分析、それを聞いてリインは驚きを隠せない。
口には出さないが、スバルもリインが言ったことと同じ心境だ。

その三人を尻目にキョンは次の行動へ移る。
駆け出し、ウォーズマンとギュオーの元へ向かう。

「よくわからんが・・・・・・止めなくはならないみたいだな!」

最初に迎撃に出たのはウォーズマン。
向かってくるキョンに向けて、まずはパンチを放つ。
腕力も速さも技術も常人を上回る拳撃、ガイバーになって一日足らずのキョンには避けること不可能のハズだった。
しかし、キョンは拳が当たる寸前に素早く体で捻って回避する。
そして、お返しと言わんばかりに、ウォーズマンにプレッシャーカノンを喰らわせようとするが、すぐに後退して攻撃を避ける。
プレッシャーカノンが直撃した地面は爆音とともに大きなクレーターを作っていた。

「驚いたぞ。
攻撃の威力はもちろん、反応速度まで上がっているとはな」

超人の一撃をかわし、この前に戦ったギガンティックの時には及ばないものの、ガイバーに比べれば攻撃の威力が上がっている。
素直に危険だと感じ、油断はできないと悟った。

そして、次の標的をギュオーに変更するキョン。
ウォーズマンはギュオーに注意を促す。
ギュオーが殺し合いに乗っている疑いの要素は大きいが、今はまだ味方の内に入っている。
敵でない限りは、守らなくてはいけない味方だ。

「ギュオー!
そっちで行ったぞ、気をつけるんだ!」

ギュオーは内心で、(そのまま死んでくれれば後が楽になったのに・・・・・・腹いせも兼ねてもう一度地獄に送ってやるわ!)などと思いながら構える。

434パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:16:32 ID:YrRABrO.
重力指弾による迎撃を行おうとするが、そこへキョンは片手に持っていたカプセル状の物体を見せつける。
その物体に気づいたスバルとリインは戦慄する。
物体の正体はN2地雷、ウォーズマンのデイパックから取り出したものだが、焦っていたため、回収をし忘れていたのだ。
それをいつの間にかキョンに拾われてしまったらしい。

「?」

アレは何だと疑問に思うギュオー。
その疑問を持ちながらも、構わずに攻撃しようとするギュオーにリインが必死に説明して止めようとする。

『それは爆弾です!!
それを爆発させたらここにいる皆が吹っ飛んじゃいますーッ!!』
「なんだと!?」

リインが説明を終えたのはギュオーが攻撃を放とうとする直前、キョンが持つ爆弾を爆発させてはならないと慌てて攻撃を中止する。
ところが、攻撃中止により硬直したそのタイミングを、今のキョンが見逃すハズはなかった。
すかさず、ギュオーに向けてプレッシャーカノンを発射した。

「ぬううううん!!」

ギュオーは防ぐが、その威力はバリアを最大出力にしないと防ぎきれるものではなくなっていた。
すでに攻撃の出力が上がっていたことは予想済みだったのでバリアの出力を上げたのが幸を成したが、それも束の間。
防御をしたことで更に隙を産み、そこへ胸部装甲を開く。
先にも記したが、片肺のメガスマッシャーでも、バリアで防ぐことはできないことをギュオーは身を持って知っている。
そこへさらに、魔力とやらにより出力が上がってるだろうメガスマッシャーの直撃を受ければいくらゾアロードである自分でも危険は必至。
おまけに、爆弾を盾にされているせいでこちらからは満足に攻撃できない。
よってギュオーは回避を選択した。

しかし遅すぎた、否、キョンのチャージの方が早かった。
胸の二つの球体から膨大な粒子の魔力が合わさった極大の閃光が放たれる。

「間に合わん・・・・・・ぬわああああああああ!!」

回避に失敗したギュオーは断末魔を上げて閃光の中へと消えていった。

「ギュオーーーッ!」
「ギュオーさん!」

スバルとウォーズマンが無事を願って名を呼んだ時には、ギュオーがいた場所は焼き払われた雑木林だけが残っていた。

435パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:17:21 ID:YrRABrO.
ギュオーが閃光に包まれる瞬間を見ていた二人にとって、その場に何も残されてないということはすなわちギュオーの死を意味していた。

「そんな・・・・・・」
「やられてしまったのか、ギュオー!?」

あっけなく死したギュオーに悲壮感を覚えるが、キョンは二人の都合など考えずに、再びN2地雷を盾にする戦法をとって襲いかかってくる。

『あれじゃあ迂闊に攻撃できないです!』

自分の腕の中で爆破させることはまずないだろうが、下手に攻撃が加えられず、逆に向こうから撃ち放題である。
彼を助けようとした際にN2地雷の威力を聞いていたのだろう。
でなければ、爆弾を盾にする奇策など使ってこない。
スバルたちが人殺しを嫌うスタンスであり、N2地雷の威力を知っていればこそ通用し、絶大な効果を持つ作戦である。
ウォーズマンが舌を巻くほどだ。

「あれが奴の手元にある限り、ろくに戦えん!」

しかし、リインもまた策を思いつき、二人に耳打ちする。

『(二人とも、一度しか言わないからよく聞いてください。
リインがリングバインドでキョンの動きを封じます。
そこを突いてください)』

パワーアップした今のキョンにリングバインドによる拘束がしきれるかも怪しい。
それでも隙を作ることができ、反応速度が上がって捉えづらい今のキョンから爆弾を奪うには打ってつけの作戦だ。
スバルとウォーズマンは策の意図を理解し了承する。

「了解!」
「任せろ!」

爆弾を盾にヘッドビームやプレッシャーカノンを放ちながら近づいてくるキョン。
スバルとウォーズマンは射撃を避け、右と左の二方向からキョンへ接近、リインはバインドを唱えるタイミングを伺う。
そして、キョンとスバル・ウォーズマンの距離が無くなった時に、リインは唱える。

『今だ! リングバインド!』

魔法の拘束具がキョンにかかる、今度は念入りに頭までかけられた。
しかし、ジュエルシードによる魔力があるせいか、バインドは力技ですぐに消されてしまったが、僅かでも動きに制限がかかり、そこを目論み通りにスバルとウォーズマンが狙う。
高くなった反応速度を持つキョンにより、スバルは爆弾を奪うことに失敗したが、もう一方からウォーズマンが爆弾を霞めとることに成功する。

436パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:19:07 ID:YrRABrO.
「それはおもちゃじゃない! 返してもらうぞ!」

パッと腕からN2地雷を奪い返し、二人はリインの下まで後退し、自分のデイパックにしまい込む。

「やりましたねウォーズマンさん」
『作戦成功ですぅ』
「ああ、後は技を決めてキョンには眠ってもら・・・・・・ん?」

爆弾を奪ってしまえば、あとは全力でキョンを叩いて気絶させるなりして暴走の原因を断ってしまえば良いのみ。
最大の威力を持つメガスマッシャーも、撃ったばかりでチャージが終わってないようだ。
叩くなら今がチャンス!・・・・・・そう思っていた三人だが、行動に移す前にキョンの変化に気づく。

キョンが口を大きく開いている。
・・・・・・暗いためか、喉奥に光る金属球があることにまで三人は気が回らなかった。
そして、放たれる音波攻撃。

『いけない! 早急に退避してください』

レイジングハートが警告するが、三人がその警告の意味を理解する前に怪物・キョンは口から直接、ソニックバスターを放たれた!!

「うわああああああ!!」
「がはっ!?」
『うぐっ・・・・・・』

身体を襲う強烈な痛みにスバルが悲鳴を上げ、ウォーズマンが片膝を付き、リインが羽虫のように地面に落ちる。
前はダメージを受けても根気があれば動く事ができたが、パワーアップしたソニックバスターは動いただけで全身がバラバラになるような想像を絶するダメージが与えられる。
一度倒れてしまえば、二度と立てない気にさせるほどの激痛だ。

射程から離れるほどの力が出ないため、逃れようにも逃れられない。
そんな動こうにも動けない三人に、ソニックバスターを放ちながらキョンは接近する。
トドメを刺すつもりらしい。
最初に目をつけたのはかろうじて立っているスバル、立つことで精一杯の彼女にじりじりと詰め寄っていく。

『ス・・・・・・バル!』
「逃げるんだ・・・・・・スバル!」
「ダ・・・・・・ダメです、身体が動けない!」

1mもしない距離までキョンが腕を振り上げる。
構えからして高周波ブレードで斬り掛かろうとするつもりだ。

「ああ・・・・・・」
『protec・・・・・・振動波で魔力の供給が阻害されてます!』

437パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:22:06 ID:YrRABrO.
レイジングハートもスバルを守ろうと自動で障壁を張ろうとするが、デバイスに送られる魔力が足りず、発動できない。
スバルは逃げられない恐怖の中で死を覚悟した。
そして、キョンの高周波ブレードでスバルが袈裟斬りされる。
バリアジャケットの硬度も虚しく、袈裟型に斬られた傷から血液が飛散する。

「う・・・・・・」
『スバル、いやあああぁあああぁあああ!!』
「キサマーーーッ!!」

仰向けに倒れるスバルに絶叫するリイン。
斬るつけたキョンに激しい怒りを覚えたウォーズマン。

「うおおおおお!!」

怒りを爆発させたウォーズマンは、自身を襲う痛みを押し切り、体内の回路がいかれかけるようなな無茶を押して立ち上がり、渾身の力でキョンの顔面に殴りつける。
パンチが顔面にめり込ませ、直撃したキョンは大きく吹っ飛ばされ背中で地面を滑った。
同時に、ソニックバスターによる音波攻撃は止み、身体の自由が利くようになった。

「コーホー・・・・・・」
「うぅ・・・・・・!」
『生きてた、良かった〜!』
「無事だったのかスバル!」
「な、なんとか・・・・・・傷は浅いです」

438パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:22:55 ID:YrRABrO.
致命傷を受けていたと思っていたスバルが起き上がり、ウォーズマンもリインも安心した。
スバル自身も斬られ、身体に大きな斜め線が引かれるような広範囲の傷を受けたが、傷は浅く、出血はあっても量はたいしたことなかった。
その理由は、キョンの高周波ブレードが短くなっていたことにある。
倒れたキョンの高周波ブレードを見てみると、ギュオーに折られてナイフ並に短くなっていた。
口部金属球は形を変えて再生したが、こちらは再生が間に合わなかったようである。
さらに本人もそれを感知してなかった結果、リーチが足りず、スバルに致命傷を負わせることはなかった。
もし、高周波ブレードが元の長さだったら彼女は真っ二つに両断されていただろう。
今回は運に助けられた。

戦いはまだ終わらない。
倒れたキョンはむくりと上半身を起こし、口内で折れた歯を吐き出して、何事もなかったように立ち上がる。
顔は腫れ上がっているが、超人の拳をその身に受けても痛みは全く感じてないようだった。
そして遠巻きからヘッドビームを放ってくる。
三人はそれを避けながら、会話をかわす。

「ロボ超人である自分が言うのもなんだが、アイツはロボットにでもなってしまったのか!?」

以前のキョンならダメージを受ければ素直に痛がったりし、攻撃が効いたとわかると調子に乗る面があったが、今はそれが無い。
しかし、ただ感情が無いからといって、本能だけで戦っているわけでもなく、時に知恵を働かせて攻撃してくる。
全体的にギガンティックにパワーこそ劣るが、動きは過剰防衛行動モード並、さらに絡め手を使ってくる分だけ厄介に感じられた。
見た目も戦闘力もまさしく怪物である。
スバルはキョンの怪物化はジュエルシードが原因と思い、早く止めなくてはと思っている。

(このままでは、他の人にもキョン君自身にも危害が及ぶ。
ギュオーさんのような犠牲が出る前に止めなくちゃ・・・・・・)

ウォーズマンは自分が迂闊だったばかりに、キョンにジュエルシードを取られ、怪物にさせてしまった。
さらにN2地雷を回収を忘れてしまい、その結果、ギュオーが命を落とした。
ウォーズマンは心を痛ませる程の強い責任を感じている。

439パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:24:17 ID:YrRABrO.
「奴を怪物にさせたのも、ギュオーが死んだのも俺のせいだ・・・・・・絶対に俺が止めなくてはならん!」

だからこそ、キョンを全力を尽くして止める腹づもりだった。
キョンを止めたい気持ちは、スバル・ウォーズマンともに同じである。
・・・・・・しかし、レイジングハートがそれを許さなかった。

『いいえ、この場は即座に撤退してください』
「なんですって?」

二人は耳を疑った。
自分たちはまだ戦えると意気込んでいたからだ。
だが、デバイスは誰よりも冷静に状況を読んでいた。

『今のMrキョンを相手にするには、体力・打撃力が不足しています』
「ここでキョンを止めないと被害が増えるぞ!」

正義超人として、己の責任として、キョンを見逃したくないウォーズマンは反論する。

『しかし、スバルは消耗が激しく、Msリインフォースではパワー不足。
あなたに至っては動きが鈍くなってます、おそらく内部のパーツをいくつかやられたのでしょう』
「ぐっ・・・・・・気づいていたのか」
「ウォーズマンさん、怪我をしていたんですか!?」
「おそらく、さっきの音波攻撃の時に無茶をしたのが祟ったんだろう」

このデバイスは細かい所にも目を配ってたようだ。
ウォーズマンの表面では見えない負傷(故障?)も見抜いていたらしい。

『よって、Mrキョンを止めるには戦力が不安要素が多過ぎです。
再度、撤退を提案します』
(キョン君は止めたい・・・・・・
でも無茶をして空曹長やウォーズマンさんまで犠牲にしたくない・・・・・・)
(被害を食い止めたい。
しかし自分だけならまだしも、スバルたちにまで危険で犯させるわけにもいかない)

自分たちでは力が及ばない悔しさを感じながらも、仲間は犠牲にできないと二人は思い苦渋の決断をする。

「わかった。
この場は引こう」
「あたしも・・・・・・引くしか無いんですね」

三人はキョンの下から逃走することを決定した。
しかし、キョンの方がやすやすと見逃してくれるとは思えない。
そこでリインが申し出た。

『リインが殿になって、二人の背中を逃げきるまで守ってあげます』
「リインフォース・・・・・・頼めるか?」
『二人がやられる姿は見たくありません。
キョンに一発も当てさせる気はありませんから早く任せてください』

リインは自信ありげに指示を出す。

440パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:24:57 ID:YrRABrO.
「わかりました。
頼みます、空曹長」
『もちろんですよ』
「よし、では任せたぞリインフォース!」

その会話を最後に、スバルとウォーズマンはキョンから逃走を始めた。

西方面はキョンが塞いでいるので、通ることはできない。
無理に通り抜けようとして、ソニックバスターでも喰らえば今度こそおだぶつだ。
だから、東方面へと、キョンに背を向けて逃げるしかなかった。

背中を見せる二人に、キョンは容赦なくビームやカノンを撃ち込もうとするが、リインの魔法攻撃がそれを阻む。
魔法で出した剣や得意の氷結系魔法で迎え撃つ。
倒すには些か攻撃力が足りないが、牽制と時間稼ぎが目的なので問題無い。
要は、一歩でも多くキョンを進ませず、一発でも多くキョンに撃たせず、一発もスバルたちに当てさせなければ良いのだ。
キョンが逃げるスバルたちを追おうとすると、必ずリインに邪魔をされ、キョンは思うように追跡できない。
その間にだんだん、一人と三人の距離は離されていく。

しかし、撤退戦の中、リインは疑念を抱き始めていた。

(攻撃の頻度がだんだん落ちてる気がする?)

ついさっきまでは、乱射というレベルで射撃をしていたキョンだが、だんだん一辺に撃つ回数が少なくなっていた。

よく考えれば先程からおかしな行動も目立つ。
音波攻撃の時だって、こちらは全員が動けないのだから高周波ブレードを使わずともビームなどで撃ち殺せば簡単にケリがついたハズだ。
なのに、それをしなかったのはどうしてか?

(消耗をしているんですか?
いや、油断を誘う作戦かもしれません。
どちらにしろ気は抜けないです)

リインはキョンについては深く考えるのを止めた。

やがて、キョンが見えない距離にまで離れた三人。
キョンからの攻撃も止んでいる所からして、だいぶ距離を稼げたのだろうか?

「逃げ切れたのか?」
『油断しないで!
まだ足を止めるには早いです!』
「わかった、とにかく走るぞ」

リインはまだまだ逃げたりないことを二人に促し、スバルたちは駆け続ける。

「キョン君・・・・・・」

その中で、怪物になった少年の名を呟く少女の顔は、疲労の色が濃くなっていた。

−−−−−−−−−−−

441パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:26:28 ID:YrRABrO.

キョンは願い通りに、修羅の道を歩むことに迷わず、責任から逃げず、目的を忘れない、怪物になって強くなった。
死にかけた自分の命を繋がれ、もう一度殺し合いの場に立つチャンスを与えられたのだ。
ジュエルシードはキョンの望みを、酷く歪んだ形で叶えてくれたのだ。
その代償として、感情の全てを失った。
つまり彼は、大切なSOS団での日常を取り戻すために、感情を失い、SOS団での日常の何が大切なのかがわからなくなってしまったのだ。
彼が即席で支払える「大切なもの」はそれしかなかったので仕方なかったのかもしれない。

今のキョンは、自我の一切が消えているため・・・・・・
良心の呵責も無く、平気で人を殺せる。
慢心が無いため、調子に乗ってドツボにはまることは無い。
恐怖が無いため、恐れずに敵に立ち向かえる。
怒りが無いため、我を忘れない。
悲しみが無いため、朝比奈みくるや自分の妹が死んだことに何の感慨も抱かない。
彼の心はもはや冷徹な殺戮マシーンである。
イメージとしてはスバル・ナカジマが未来に戦う相手、洗脳され心無い破壊兵器と化した姉ギンガ・ナカジマに近い。
いちおう、殺し合いを促進させ優勝を目指す目的と記憶・思考だけは残されたが、前者はそれ自体が願いに関わるから、後者の二つは無くすとキョンが優勝を目指す=目的を果たせなくなるため、残されたのだろう。
目的と計算だけで生きる者を魂があるとはとうてい言えないことであるが。


精神的に多大な代償を払って得た力は確かなものだった。
ジュエルシードによって、ガイバーには無い魔力の付加により、武器の攻撃力は軒並み上昇。
超人のパンチもある程度は避けられる反応速度を手に入れた。
そこへ、戦いに邪魔な感情が無いことにより、より無駄の無い戦いをできるようになった。

だが、代償を払ったにも関わらず、この強さには副作用がある。
力を使う度に体調が悪化し、寿命を擦り減らしていくように感じるのだ。
「・・・・・・ぐふッ」

戦闘が終わり、スバルたちも去ったしばらく後、彼は人知れず吐血をした。
吐血の原因はウォーズマンに殴られたからではなく、自分の内側からくる崩壊によるものである。

442パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:27:09 ID:YrRABrO.
元々、無茶苦茶な融合をしたため、身体のバランスを欠いてしまっているのだろう。
頭髪が全て白髪化したのも、急激な肉体の変化に追いつけなかった証である。

さらに。戦う度にそのバランスが崩れていき、元に戻せないほどバランスが崩れれば死ぬ。
同じく戦闘に特化した調整を行ったために、生命体としてのバランスを欠いて寿命が一週間足らずになってしまったネオ・ゼクトールという前例もある。
キョンの場合はあまりにも計算度外視の融合だったため、ゼクトールよりも生命体としてのバランスが悪く、寿命は短くなっている上に、戦うだけで死に近づく。


ヘッドビーム、プレッシャーカノン、ソニックバスター、メガスマッシャーと立てつづけに使ったので、体調は一気に悪化し、局面においてそれらの武器を使わなかったり、使用の頻度が下がったのはそのためである。
先程の戦いはキョンの圧倒的な優勢に見えて、実はキョンも戦えば戦うほど消耗していた(ただし、顔には出ない)、故にスバルたちを追うこともしなかった。
あと一人、ナーガレベルの強さの参加者がいたら負けていたのは自分だろう。
と、キョン自身も自覚していた。

今から会場の参加者を皆殺しに回ろうとしても、多く長く戦闘も不可能な調子の身体では4・5回も戦えば倒れるだろう。
基本的には遠巻きから狙撃するなり、嘘を流して殺し合いを加速させることに専念し、あくまで直接正面から戦うのは最終手段にするべきだと頭に刻む。

結局の所、高い代償を払って得た力は、一歩間違えれば自滅しかねないイビツて不安定な強さだったのである。

443パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:30:21 ID:YrRABrO.

さて、ギュオーやスバルたちを襲った理由だが、これは無差別ではなくわけがある。

まず、ギュオーは自分のガイバーユニットを狙っていたので殺しておくべきだと判断した。
仲間にしてもいつかは寝首をかかれるからだ。
それだけではなく、先の発言より自分から首輪も奪うつもりだったことがわかった。
つまり、この男は単純に優勝を目指しているわけではなく、首輪を解除して主催者に対抗するつもりなのだ。
主催者たちにはまず勝てないとしても、首輪を外されれば禁止エリアでも自由に行き来ができてしまう。
そうなれば殺し合いが停滞してしまい、ゲームの終了が遅れてしまう。
それを許さないために、ギュオーを抹殺した。

続いて、スバルとウォーズマンたち。
この二人はギュオーと違って自分を殺すことは無いだろうが、代わりに自分が殺し合いをしようとする度に邪魔になるのは明白だった。
邪魔をされては目的の遂行が遅くなる。
警戒心があり隙もないので利用しようにも利用できない。
だから排除しようとした。
しかし、戦闘中に自分が消耗してしまい、取り逃がしてしまった。
自分の危険性を言い触らされるだろうが、どっちにしろ醜い今の姿では見られただけで警戒されるとも思える。
だったら姿を極力曝さないように心掛けた方が良かろう。
また、向こうは強力な爆弾を持っているので、自決ついでに爆発に巻き込まれたら、いくらパワーアップしたとはいえ持たないだろう。
よって追跡は諦めた。


過程はともかく、ようやく一人になることができた。
自由になったキョンは次の行動方針を考える。

まず、火事になっている北の市街地、ハルヒの死体が燃えてしまうのではないかと、前には思っていたが、それは流した。
ハルヒを殺し合いに参加させた以上、ハルヒの身に何があっても良いように考慮されているハズなのだ。
例え、死のうと、死体が焼かれようと、もっと酷いことになっていようと、万能な力を持つ統合思念体ならば生き返す問題無いハズだ。
だから北の市街地へ向かうのは止めておいた。

そして、18時に古泉と採掘場で待ち合わせをする約束を思いだす。
もっとも肝心の18時はとっくに過ぎてしまったが、古泉がいないとしてもあそこは隠れる場所にはちょうど良い。

444パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:30:55 ID:YrRABrO.
高周波ブレードも折れたままであるし、休憩をして体力を回復させて武器の再生を待つこともできる。
古泉がいれば、殺し合いを加速をさせるために再度、連携を取ろうと思う。
掲示板を見て怒っており、言うことを聞かないようなら力で捩伏せて言うことを聞かせよう。
全ては目的のためだ。
−−善悪の概念や罪悪感を失っているため、古泉をおとしめた事に今は何も感じず、仲間を強引に言うことを聞かせようとする非道な行いなど、今の彼は平気で考えられるのだった。

しかし、東方面はスバルたちが逃走した方向。
採掘場で接触してしまう可能性は大いに有り得る。
彼女らは、ナーガから手に入れた首輪を所持している。
殺し合いの停滞を防ぐためには、ギュオー同様に消す必要がある。
されど、自分もかなり消耗しているため、また取り逃がすかもしれないし、最悪の場合は負けてしまう。
もし、見かけたら隙をついて殺すか、遠くから見張るくらいが関の山だろう。
それでも今は他にいく当てもなく、さっき放送をろくに聞けなかったせいで、禁止エリアはともかく現状の死亡者については曖昧にしか覚えていない。
この殺し合いに、再度挑むからには態勢を立て直す必要がある。

また、やり方や思想の違いはともかく、首輪の解除を狙う者が多いとも知った。
殺し合いを加速させるためには、思想に問わず、首輪解除を考える者や技術を持つ者を率先して殺す必要があるとキョンは思い至る。
逆に、純粋に優勝を考える者ならゲーム終盤までは隠れて支援するのも一つの手だろう。
余計な事は考えずに、優勝を狙う参加者だけになれば殺し合いはより円滑に進めるだろう。
そして、最終的に自分が死んでしまっても長門によりハルヒたちと共に生き返れるだろうが、自分がこのゲームを掻き乱す事で、一秒でも早く日常に帰れるなら、一秒でも多く生きのびておこうとも、キョンは思考している。
・・・・・・何にせよ、それらは態勢を整えて、ペースを安定させなければ始まれないようだが。

とりあえずの行動方針は決まり、キョンは一路、採掘場へ向かうことにした。


−−道化だったキョンはもういない。
ここにいるのは、キョンという名の抜け殻である。

445パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:34:09 ID:YrRABrO.
【G‐5 森/一日目・夜】

【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】ジェエルシードを通したガイバーユニットとの融合、両腕高周波ブレード破損(再生中)、生命力減退、白髪化、自我喪失
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)
【思考】
0、手段を選ばず優勝のために手段を選ばない。参加者にはなるべく早く死んでもらう。
1、採掘場へ行き、隠れて態勢を立て直す。できれば古泉に会い、再度連携を取る。
2、戦う度に寿命が擦り減るので、直接戦闘は最終手段。基本的には殺し合いの促進を優先。
3、殺し合いの停滞を防ぐため、首輪解除や脱出方法を練る者(例えマーダーでも)を優先して攻撃。
純粋に優勝を狙うマーダーは殺し合いが終盤になるまで、ある程度は支援。

【備考】
※ジュエルシードの力で生を繋ぎ、パワーアップしてますが、力を行使すればするほど生命力が減るようです。
※自我を失いました。
思考と記憶はあっても感情は一切ありません。
※第三回放送の死者について、古泉・朝倉が生きていること、朝比奈みくるとキョンの妹が死んだこと以外は頭に入ってませんでした。
※ゲームが終わったら長門が全部元通りにすると思っています。自我が無いので考え直す可能性は低い?
※ハルヒは死んでも消えておらず、だから殺し合いが続いていると思っています。

446パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:37:12 ID:YrRABrO.
−−−−−−−−−−−

その頃、無事にキョンから逃走を果たしたスバルたちはG‐6を走り続けていた。

「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・」
「コー・・・・・・ホー・・・・・・」

スバルは度重なるダメージと疲労で息を切らし、ウォーズマンは内部にダメージを受けたためどこか動きが鈍い。
リインもまた、二人と比べればマシではあるが、傷や疲れが無いわけではない。
消耗が激しいのは一目瞭然だ。

「・・・・・・!」

 ドサッ

『スバル?』
「おい、大丈夫かスバル! スバルーッ!」

そして、今までの消耗が少女の許容限界を越えたのか、とうとうスバルは地に倒れてしまった。
魔力の供給が途絶えたため、レイジングハートは杖から宝石の形状に戻り、維持できなくなったバリアジャケットも消えて、元の制服姿に戻っていた。
スバル自身もまた、まるで死んだようの雰囲気で、起きる気配が無い。
その様子にウォーズマンたちの脳裏に最悪の展開が思い当たる。

『ご安心ください、過労による気絶です。
命に直接関わるような損害は何一つありません』
『・・・・・・ただの気絶ですか、心臓が止まるかと思ったです』

レイジングハートがスバルに死ぬほどの異常は無いことを聞くとリインは安堵する。
しかし、ウォーズマンはあくまで緊張を維持している。
彼は眠るスバルを抱き抱えて持ち上げる。

「いや、スバルがいっそう無防備になったことに変わりない。
キョンだってまだ追ってくるかもしれないんだ。
俺が全力で守ってやらないといけないな・・・・・・」
『リインのことを忘れてるです、ウォーズマンさん』
「ああ、すまない」

スバルを守る者の中に、自分だけしか頭に入れてなかったのをリインに謝ると、スバルを両腕に抱えたまま逃走を再会した。

『しかし、どこへ行くんですか?』
「ああ・・・・・・、このまま逃げ続けるほどの余裕は無いし、危険人物に狙われるようなふきっさらしの場所ではない、ちゃんとした施設でスバルを休ませたい。
俺自身もガタがきてる、どこかで休みたい」

本当は、怪物になってしまったキョンを止めたかった。
しかし、今の消耗した自分では、挑んだとしても死体が増えるだけだとも理解していた。
ならば、生き延びて万全な状態でキョンを止めにいった方が良い。

447パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:38:10 ID:YrRABrO.
今逃げているのははあくまで力を蓄えるための戦略的撤退だ。
まず、力を取り戻すためには、どこかで休む必要がある。
外よりも施設の中の方が、動けないスバルを休ませるためには比較的に安心できるだろう。

だが、疑問もある。
ここしか逃げ場がなかったとはいえ、東方面にはメイを襲ったマスクの男がいる可能性が大きい。
そこへ向かったハズのギュオーが死んでしまい、いるのかいないか、捕まえたのかどうなのかもわからなくなってしまった。
ウォーズマンにとって、どうなっているかわからない東方面は、進むだけで危険があるかもしれない未知の領域なのだ。

施設ごとのデメリットとしては−−
採掘場はこのG‐6から最も近いが、その分だけキョンがすぐに追いついてくるかもしれない。
博物館は採掘場よりは遠く、キョンと出くわす可能性も減るが、マスクの男のような危険人物と鉢合わせになるかもしれない。
レストランは一度行ったことがあるし、マスクの男と出くわす可能性も減るが、今度は北の市街地から遠くなってしまう。
モールや山小屋を目指すにしても、距離からして自分の体力が持つだろうか?

(参った・・・・・・、俺はどうすれば良い?
どの選択も間違っている気がしてきた)

八方塞がりという感覚に苦悩するウォーズマン。そんな折に彼の頭に過ぎったことは、ジュエルシードで怪物と化したキョンと、それにより犠牲になったギュオーのこと。
ギュオーには大きな疑いがあったものの、自分が焦ってN2地雷の回収を忘れてなければ、死ぬことはなかったハズだ。
キョンを見張りつつも守るつもりが、一度逃してしまい、自分の隙でジュエルシードを奪われ怪物と化させてしまった。
どちらも自身の過失であり、非常に強い責任を感じていた。

(俺がしっかりしていれば、キョンもギュオーも・・・・・・!)

メイを始めとする今まで守りきれなかった者たちの顔が思い浮かぶ。
新たにギュオーがその中に加わった。
自分がしくじる事で、今度はスバルまでその中に入れたくはなかった。

(ギュオーのような犠牲者を出さないためにも、もう二度としくじりたくはない!
例えこの身がボロボロであろうとも、これ以降は絶対に守ってみせる!)

448パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:39:18 ID:YrRABrO.
彼はクヨクヨ悩むよりも、二度と間違えないようにする道を選んだ。
それが多少の無茶をすることであっても、それは正義超人らしい選択でもある。

(・・・・・・キン肉マンだって、ヨボヨボの身体でありながらも、ここまで生き抜いているということは、この会場のどこかで人を守るために戦っているんだ。
俺も同じ正義超人である以上、くじけるわけにはいかない!
ウジウジと悩むわけにもいかない!)

強く、優しく、正義感の強い超人キン肉マンの事を思い、ウォーズマンは自分を奮い起たせる。

選択は慎重にするべきだが、選択することに臆病になってはいけない。
その思いで彼は良く考えた上で自信を持ち、リインに向けて自分の決断を述べる。

「よし、決めたぞ。
俺たちの向かう先は−−」

449パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:41:58 ID:YrRABrO.
【G‐6 森/一日目・夜】

【ウォーズマン@キン肉マンシリーズ】
【状態】全身にダメージ(大)、疲労(中)、ゼロスに対しての憎しみ、草壁姉妹やホリィ(名前は知らない)ギュオーへの罪悪感
【持ち物】デイパック(支給品一式、N2地雷@新世紀エヴァンゲリオン、、クロエ変身用黒い布、詳細参加者名簿・加持リョウジのページ、タムタムの木の実@キン肉マン
、日向ママDNAスナック×12@ケロロ軍曹
デイバッグ(支給品一式入り)
リインフォースⅡ(ダメージ・小/魔力消費・中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS

【思考】
1、とにかく今はキョンから離れる。どこかの施設でスバルや自分を休ませたい。
2、タママの仲間と合流したい。
3、もし雨蜘蛛(名前は知らない)がいた場合、倒す。
4、スエゾーとハムを見つけ次第保護。
5、正義超人ウォーズマンとして、一人でも多くの人間を守り、悪行超人とそれに類する輩を打倒せる。
6、超人トレーナーまっくろクロエとして、場合によっては超人でない者も鍛え、力を付けさせる。
7、暴走したキョンは戦力が万全になり次第、叩きのめす。
8、ギュオー・・・・・・俺の不注意のせいで・・・・・・すまない!
9、機会があれば、レストラン西側の海を調査したい。
10、加持が主催者の手下だったことは他言しない。
11、紫の髪の男だけは許さない。
12、パソコンを見つけたら調べてみよう。
13、最終的には殺し合いの首謀者たちも打倒、日本に帰りケビンマスク対キン肉万太郎の試合を見届ける。

【備考】
※ゲンキとスエゾーとハムの情報(名前のみ)を知りました。
※サツキ、ケロロ、冬月、小砂、アスカの情報を知りました。
※ゼロス(容姿のみ記憶)を危険視しています。
※加持リョウジが主催者側のスパイだったと思っています。
※状況に応じてまっくらクロエに変身できるようになりました(制限時間なし)。
※タママ達とある程度情報交換をしました。
※DNAスナックのうち一つが、封が開いた状態になってます。
※リインフォースⅡは、相手が信用できるまで自分のことを話す気はありません。
※リインフォースⅡの胸が大きくなってます。

450パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:43:00 ID:YrRABrO.


【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】全身にダメージ(大)、疲労(極大)、魔力消費(極大)、胸元に浅い切り傷、過労による気絶
【持ち物】メリケンサック@キン肉マン、レイジングハート・エクセリオン(中ダメージ・修復中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
ナーガの円盤石、ナーガの首輪、SDカード@現実、カードリーダー
大キナ物カラ小サナ物マデ銃(残り7回)@ケロロ軍曹
【思考】
0、(気絶)
1、機動六課を再編する。
2、何があっても、理想を貫く。
3、人殺しはしない。なのは、ヴィヴィオと合流する。
4、戦力が万全になったらジュエルシードで暴走したキョンを止めに行く。
5、ギュオーさんが死んでしまうなんて・・・・・・
6、人を探しつつ北の市街地のホテルへ向かう(ケロン人優先)。
7、オメガマンやレストランにいたであろう危険人物(雨蜘蛛)を止めたい。
8、中トトロを長門有希から取り戻す。
9、ノーヴェのことも気がかり。
10、パソコンを見つけたらSDカードの中身とネットを調べてみる。

【備考】
※大キナ物カラ小サナ物マデ銃で巨大化したとしても魔力の総量は変化しない様です(威力は上がるが消耗は激しい)



【N2地雷@新世紀エヴァンゲリオン】
超強力な爆弾。
見た目は零号機(綾波レイ搭乗)が使用した物と似てる。
劇中に登場したサイズでは参加者が扱えないので、人間が片手で携帯できるサイズで支給されている。
小型化に伴い、その分だけ威力も大幅に下がったが、それでも一エリアのほとんどが跡形も無く消し飛ぶ絶大な威力を秘めている。
さらに詳しい威力については次の書き手さんにお任せいたします。

451パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:45:17 ID:YrRABrO.





諸君らの愛するギュオーは死んだ!
なぜか!?







・・・・・・実は彼はまだ生きている。

その理由をとくと解説しよう。

−−−−−−−−−−−

回避が間に合わずにメガスマッシャーの閃光に包まれた瞬間、ギュオーはある方法により死を免れていた。
最大出力のバリアでも、例え制限下で無くともメガスマッシャーは防ぐ事はできない。
増してや両肺で、魔力により強化されたメガスマッシャーの前ではいくらゾアロードでも一たまりも無い、と思われる。

そこでギュオーのとった判断は、防御では無く攻撃である。
攻撃対象は迫る閃光・・・・・・ではなく、己自身!
重力使いであるギュオーは、自分に重力攻撃を当てて反動で吹っ飛ばし、メガスマッシャーの直撃を避けてしまおうというのを閃いたのだ。
ちなみに中途半端な力をメガスマッシャーにぶつけても弾かれてしまい、結局自分が蒸発してしまうハメになるので、これが一番ベストな選択のようだ。
その時のギュオー自身には、それ以上迷ったり考えたりする時間も無く、すぐに実行に移した。
即座に出力のある限り、パワーを集中し、自分に向けて放つ。

「・・・・・・ぬわああああああああ!!」

自分に殺傷能力のある技などかけた事が(おそらく)無いギュオーは、己の技に悲鳴をあげる。
だが、生き延びるためには必要なダメージだ。
あとは自分のタフネスさを信じるしかない。

そして、目論み通りにメガスマッシャーの直撃を受ける前に反動でギュオーは飛ばされることができた。
他の者の目には、閃光が眩し過ぎてギュオーが飲み込まれたように見えた。
レイジングハートですら、エネルギーの奔流が激し過ぎてギュオーが死んだと誤認してしまった。撃った本人であるキョン自身も死んだ錯覚したようだ。
実際は、少しばかり大きく吹っ飛び、人知れず戦いの輪から外れていただけである。

高出力で放ったため、けっこう遠くまで飛び、最後は川に水しぶきをあげて着水する。
ぷかんと巨体を仰向けで浮かせて、ゆっくりと流されていく。
川から上がりたいが、自分に放った攻撃のダメージですぐには動くことができず、少しの間は川から上がることができそうになかった。
ついでに私は今までこんな痛みを敵にぶつけてたんだな〜と感想を漏らす。

452パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:46:19 ID:YrRABrO.

「しかし、キョンの奴め。
私にナメた真似をしやがって・・・・・・必ず八つ裂きにしてくれる」

キョンへプライドを傷つけられた恨みをギュオーは呟く。
キョンは確かにパワーアップしたが、あれぐらいなら全力を出せば倒す事はできそうだ。
実際に、ダメージを受けたのは脱出のために自分を攻撃した時だけであり、キョンの攻撃そのものは防ぐか避けている。
しかし、周りを消し飛ばせるかもしれない強力な爆弾を持っていたらしく、未知の爆弾を爆発させるわけにもいかず、こちらの実力を出し切れないまま、撃たれてしまった。
まだ負けを認めたわけではないが、あのような者に一杯くわされたことに非常に腹を立てている。
将来の帝王になる男をてこづらせたキョンへの殺意は十分だった。

「首を洗って待っていろよ。
いつか、殺してユニットを奪って・・・・・・ん?」

流されながら、物騒な言葉を呟くギュオーの耳に、ある音が聞こえてきた。
ザーーーーッと、何かを叩きつけるような音がどんどん自分に近づいてくる・・
いったいなにごとだ?
と、ギュオーは地図の内容を思い返してみる。
位置関係的にはG‐4の高所の川を、ギュオーは流れている。
つまり、流れた先にあるのは−−滝。

「!!」

この先が滝であることを思い出したギュオーは焦る。
制限された肉体では、多少なりともダメージは受けてしまうかもしれない。
それを避けるためにギュオーは岸に揚がろうとするが、身体のダメージがいまだに抜けきってないのか、思うように動けない。
そうしてる間にも、滝に近づく度に流れは早くなっていき、ギュオーの焦りも加速していく。
そして−−

「このままでは滝に落ち・・・・・・ってア〜〜〜ッ!!」

何もできぬまま、ギュオーは滝によって頭から真っ逆さまに落ちることになった。
水面に落ちる時には、やたらと盛大な水しぶきを立てた。
さらに、その大きな巨体と重量のためか、落下勢いが余って川の底に額及びゾアロードクリスタルをぶつけてしまう。
しばらくしてから、プカ〜ンとギュオーは浮力によって水面から顔を出した。

「・・・・・・」

頭を強く打ったためか、どうやら彼は気絶してしまったらしい。
頭の上にヒヨコが回っていてもおかしくないくらい眼を回している。

453パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:47:35 ID:YrRABrO.
彼の災難はそれだけに留まらず、額のクリスタルにもヒビが入っていた。
そのクリスタルが獣神将にとって大事かは、わかるだろうか?
きっと普段ならば、あの程度の落下の衝撃で割れることはまず無いハズだ。
だが悲しきかな、制限によるものでクリスタルの硬度までも落ちてしまったのだろう。

クリスタルにヒビが割れた影響によるものかは不明だが、ギュオーは魔人の如き姿から全裸の大柄でガチムチボディな黒人男性の姿に戻っていた。

後はただ流れに従い、流れに委ねるしか、気を失っているギュオーにはできないのである。



そして人知れず、ドンブラコ、ドンブラコと全裸の男はゆっくりと川を流れていったのである・・・・・・

454パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:49:23 ID:YrRABrO.
【G‐4 川/一日目・夜】

【リヒャルト・ギュオー@強殖装甲ガイバー】
【状態】気絶、全身打撲、全裸、大ダメージ、疲労(中)、ゾアロードクリスタルにヒビ、回復中
川に流されています
【持ち物】参加者詳細名簿&基本セット×2(片方水損失)、アスカのプラグスーツ@新世紀エヴァンゲリオン、ガイバーの指3本、毒入りカプセル×4@現実
空のビール缶(大量・全て水入り)@新世紀エヴァンゲリヲン、ネルフの制服@新世紀エヴァンゲリオン、北高の男子制服@涼宮ハルヒの憂鬱、クロノス戦闘員の制服@強殖装甲ガイバー
博物館のパンフ
【思考】
0、(気絶中)
1、優勝し、別の世界に行く。そのさい、主催者も殺す。
2、、自分で戦闘する際は油断なしで全力で全て殺す。
3、首輪を解除できる参加者を探す。
4、ある程度大人数のチームに紛れ込み、食事時に毒を使って皆殺しにする。
5、タママを気に入っているが、時が来れば殺す。
6、キョンはいつか殺してユニットを奪う。

【備考】
※詳細名簿の「リヒャルト・ギュオー」「深町晶」「アプトム」「ネオ・ゼクトール」「ノーヴェ」「リナ・インバース」「ドロロ兵長」に関する記述部分を破棄されました。
※首輪の内側に彫られた『Mei』『Ryouji』の文字には気付いていません。
※擬似ブラックホールは、力の制限下では制御する自信がないので撃つつもりはないようです。
※ガイバーユニットが多数支給されている可能性に思い至りました。
※名簿の裏側に博物館で調べた事がメモされています。
※詳細名簿の「加持リョウジ」に関するページは破り取られていてありません。
※詳細名簿の内容をかなり詳しく把握しています
※ゾアロードクリスタルにヒビが入りました。変身などに影響が出るかもしれません。治るかどうかは次の書き手さんにお任せいたします。





※キョンもスバルもウォーズマンも、ギュオーが死亡したと思っています。

455 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:51:31 ID:YrRABrO.
以上で投下を終了いたします。

456もふもふーな名無しさん:2009/07/08(水) 00:38:17 ID:.ONDy3CI
少し指摘をば。
ギュオーがキョンの顔を確認するのは無理かと。ガイバーの上からでは誰かまでは解らないでしょうし。

それと提案なんですが、キョンの処遇についてはこうしてはどうでしょう。
・死に際、スバルの呼び掛けでキョンが覚悟を決める。
・復活したキョンが自身の強化を知り、万が一にも決意が揺らがないようにスバル達を殺そうとする。
・取り逃がすも、キョンは覚悟完了。
とりあえず、実質洗脳とも言える展開では、強い反発は免れないと思います。
キョンには自分の意思で戦って欲しいという人がほとんどの様ですし。

457もふもふーな名無しさん:2009/07/08(水) 00:40:19 ID:.ONDy3CI
書く所間違えた……

458 ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:01:32 ID:/WCPsINo
高町なのは、冬月コウゾウ、ケロロ 仮投下させていただきます。

前編・中編・後編と、無駄に3話構成だったりします……

459脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:02:38 ID:/WCPsINo


「こ……子供になっちゃった……?」
「ケロ〜! 高町殿〜!!」

 ここはG−2エリアにある温泉の施設の中。
 ちょっとしたトラブルから、夢成長促進銃によってなのはは子供の姿になってしまった。
 そんな彼女を前にして呆然とするケロロ。
 そしてさすがの冬月もこの異常事態に驚きを隠せなかったが、今はそれどころではない。
 放送はもう始まっているのだ。

「高町君、ケロロ君。とにかく放送を聞くんだ。
 私は要点をメモしておくが、君たちもよく聞いておいて後で確認してくれ」

 冬月は2人にそう言って手に持っていた3枚のDVDを手近な机の上に置き、デイパックを開いた。
 そして支給されている基本セットの中にある紙と鉛筆を取り出し、メモを取る準備をする。

「あ、はいっ。わかりました」
「わ、わかったであります、冬月殿!
 マッハキャリバー殿もよろしくであります」
『了解です。放送の内容を記録します』

 なのはとケロロが、そしてマッハキャリバーが冬月にそう答えて放送に耳を傾ける。
 なのはは9歳の頃の姿になって夢成長促進銃を持ったまま。
 ケロロは濡れた床で滑って転んだあと、立ち上がろうと起き上がった所だ。

 ちなみになのはは子供になったせいで浴衣がだぶだぶになっていて、とっさに胸元を押さえている。
 ここには老人と宇宙人ガエルしかいないので、誰も気にしていないのだが、乙女のたしなみと言った所だろうか。

 放送では草壁タツオがなにやら前置きを語っていたが、3人はあまりそれを聞く事はできなかった。
 だが、重要な事は言っていなかったようなので、3人は禁止エリアの発表に意識を集中する。

「19時、F−5。
 21時、D−3。
 23時、E−6か……」

 そうつぶやきながら冬月はメモを取っていく。
 今回はかなり島の中央が指定されたようで少し気になったが、今はそれを確認する暇はない。
 放送はまだ続いており、次は死亡者が発表されるはずだったからだ。

460脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:03:09 ID:/WCPsINo

『次はいよいよ脱落者の発表だ、探し人や友人が呼ばれないかよく聞いておいた方がいいよ。
 後悔しない為には会いたい人には早く会っておく事だよ―――せっかくご褒美を用意してあげたんだから、ね?』

 そんな草壁タツオの前置きには耳を貸さず、冬月は死亡者の名前だけを聞き逃さないように集中する。
 なのはとケロロも思う所はあるのだろうが、今は黙って耳を傾けていた。

 だが、なのはの幼い顔には悲痛な表情がはっきりと浮かんでいる。
 何しろ、あの火事の中からヴィヴィオという少女とその仲間が生きて逃げ出せたかがこれでわかるはずなのだ。
 無理もない事だと思いつつ、冬月もまた、加持やアスカ、シンジ、タママ、小砂らの無事を祈る。

 そして、死亡者の名前が次々に発表されていく。

『朝比奈みくる』

「ん? この名前は……」

 そうつぶやいた冬月になのはとケロロがどうしたのかと視線を送る。
 冬月は掲示板に目を通していたため、この名前を知っていたのだが、今は放送の最中である。
 説明は後でいいだろうと判断し、黙って首を振っておく。

『加持リョウジ』

「加持君が……?」
「ケ、ケロ〜〜! 加持殿っ……!!」
「加持さんっ……!!」

 加持の名前があげられ、3人が全員思わず声を上げる。

『草壁サツキ』

「…………」

 知っていたとは言え、サツキの名前を聞くと3人の間に重苦しい空気が流れた。

『小泉太湖』

「この名前、小砂君か!?」
「そんな。小砂ちゃんまで……」

 冬月となのはがつぶやく。
 貴重な協力者だった。守るべき人の1人だった。
 あの小さくともたくましい少女にはもう会う事はできないのか。

461脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:03:42 ID:/WCPsINo

『佐倉ゲンキ』

 3人は反応しない。
 誰も知らない人物だったようだ。

『碇シンジ』

「シンジ君もか……!」

 冬月が再び小さく声を上げる。
 とうとうシンジと冬月はこの島で会えないまま、永遠の別れを迎えてしまった。

(碇……すまない。お前とユイ君の息子を守ってやれなかった……)

 冬月は心の中でそうつぶやき、無念そうに顔を伏せる。

『ラドック=ランザード』

『ナーガ』

 この2名は続けて誰の知り合いでもなかったようだ。

『惣流・アスカ・ラングレー』

「そうか……アスカ君も……」
「アスカ殿が……」
「アスカ……」

 3人ともアスカには複雑な思いがあるが、死を望んではいなかった。
 むしろ冬月やなのはにとってはいまだにアスカは保護すべき対象ですらあったのだ。
 だが、そのアスカもどこかで命を落とした。また救えなかったのだ。

『キョンの妹』

 その名前には誰も反応しない。
 そして、その名を最後に今回の死亡者発表は終わったようだった。

『以上十名だ、いやあ素晴らしい!
 前回の倍じゃないか、これなら半分を切るのもすぐだと期待しているよ。
 ペースが上がればそれだけ早く帰れるんだ、君達だってどうせなら自分の家で寝たいよね?』

「なんという言いぐさでありますか……!」
「ケロロ君。気持ちはわかるが放送が続いているから今はこらえてくれ……」
「ケ、ケロ〜……」

462脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:04:29 ID:/WCPsINo

 その後の草壁タツオの話は、主催者に反抗して命を落とした参加者が居たというものだった。

『念の為言っておくけど僕達のかわいい部下も対象だよ?
 あと逆らった人が敵だから自分は無関係というのも無し、その場に居た人は全員連帯責任さ。
 勝手な一人の所為でとばっちりを食らうなんて君達も嫌だろう?
 愚かな犠牲者が二度と出ない事を切に願うよ。』

『話が長くなったけどこの勢いで最後まで頑張ってくれたまえ! 六時間後にまた会おう!』

 こうして第3回、18時の放送は終了した。







「加持さん、サツキちゃん、小砂ちゃん、アスカ……」

 風呂場の脱衣所で、なのはが死んでしまった知り合いの名前をつぶやく。

 放送の後すぐに禁止エリアや死亡者の確認をしてから、彼女は改めて小さい浴衣に着替えに来たのだ。
 さっきまで着ていた浴衣は大きすぎて体に合わず、万が一の場合にも邪魔になるからだ。

 だが、着替えに来た理由はもう一つある。
 少しだけ落ち着いて考える時間が欲しかったのだ。
 あまりにも多くの死亡者。守れなかった人たち。
 それらを受け入れ、気持ちと考えを整理する時間がなのはには必要だった。

「ヴィヴィオや朝倉さんやスバルが生きていた事は嬉しいけど、喜ぶわけにはいかないよね。
 あんなにたくさんの人が亡くなっているんだから。
 それに、あの小砂ちゃんまでが……」

 だぶだぶの浴衣を脱いで小さいサイズの浴衣に袖を通しながら、なのはは悲痛な面持ちでつぶやく。
 自分の腕の短さに少し違和感を感じたが、今はそれよりも死んでしまった人たちの事に意識が向かっていた。

463脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:05:10 ID:/WCPsINo

 例えば、なのはを師匠と呼んで慕ってくれた小砂。 
 サツキが冬月を刺した場所で別れてから行方が知れなかったが、あの後一体何があったのか。
 一体どんな死に方をしたのだろう。
 やはり誰かに殺されたのか。
 自分の居ない所で起こった事はわからない。
 側にいない人は守れない。何もできない。後から結果を知って後悔するだけ。

 これからもこんな事を繰り返すのか。
 知らない所で死んでいく人の名前を放送で告げられて後悔して。
 目の届く場所にいる人を守ろうと必死になって、守れなくて後悔して。
 でも事態は何も変わっていなくて。
 それどころか悪くなっていく一方で。

「このままじゃ……いけないんだ。
 ちっとも前に進んでない。
 時間が流れて死ぬ人は確実に増えていくのに、事件の解決には少しも近づいてない。
 ただみんなを守るだけじゃ足りないんだ。
 ここからみんなで生きて元の世界に帰るには、あの主催者たちを何とかしなきゃ。
 でも、一体どうすればいいのかな、マッハキャリバー……」

 浴衣の前をあわせながら、なのはは胸元にぶら下がっている青いクリスタルのペンダントに話しかける。
 なのはが風呂から上がったので、マッハキャリバーは再びなのはが持つ事になったのだ。

『主催者を打倒するには我々の状況はあまりにも不利と言えます。
 しかし、それでもなお戦う事を選ぶのであれば、
 まず首輪を外すか無力化する方法を考える事が先決ではないでしょうか』
「そう……だね。
 この首輪がある限り、私たちは逆らえない。
 戦うどころか逃げる事さえできないし、逆らったらあの男の子みたいに液体に……」

 首輪に触りながらなのはは小さくため息をつく。

『まだ道が断たれたと決まったわけではありません。
 及ばずながら私も微力を尽くします。
 元気を出して下さい。Ms.高町』
「マッハキャリバー……ありがとう。
 うん。私、諦めたりしない。絶対ヴィヴィオを、みんなを守って、ここから助け出してみせるよ」

 そう言いながらなのはは浴衣の腰ひもを結び、その上に温泉に置いてあった紺色の羽織を着る。
 しばらくはこの格好で居る事になりそうなので、浴衣一枚ではさすがに体を冷やすからだ。

464脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:06:18 ID:/WCPsINo

 そして、着替えを終えたなのはは改めて鏡を見る。
 そこに写っているのは温泉備え付けの浴衣を着た小さな女の子。
 エースオブエースと呼ばれた自分ではない。
 なのはな思わずくすりと小さく笑ってしまった。

「こんな時に、こんな事で笑ってたら不謹慎かな。
 でも、なんだか変な感じ。私ってこんなに小さかったんだね」

 そうつぶやいてなのはは鏡の前でくるっと回ってみたりポーズを取ってみたりする。

 しかし、動いてみて実感したのだが、腰のあたりに微妙に違和感がある。
 体が小さくなったせいで相対的にショーツがかなり大きくなっており、ぶかぶかなのだ。

 ――ちなみに、胸がぺったんこになっているので、すでにブラジャーは外している。

「……ずり落ちて来そうでいやだな。
 いっそ履かない方がいいのかな?
 万が一戦闘中にずり落ちてきてそれが元で死んじゃったりしたら冗談にもならないし」
『バリアジャケットをズボン型に変更すれば対応できるとは思いますが……』
「そうだけど、ずっとバリアジャケットを装着してもいられないし……」
『休息を取ろうという時には特にそうですね。
 Ms.高町が気になさらないのであれば、私としてもこの状況で大きすぎる下着は履かない事を推奨しますが』
「う〜〜ん……」

 乙女の羞恥心と現実の板挟みになってなのはは少し迷ったが、しばらくうなった末に決断する。

「決めた! 脱いじゃう!
 浴衣の時は下着つけないって聞いた事あるし、こんな状況で気にする人いないよね、きっと!」

 そう言ってなのはは一旦羽織を脱ぐと、腰ひもをほどいて浴衣をはだけてショーツを脱ぎ捨てる。
 下着を履かなくても別に害は無いのだが、心理的に違和感は拭えない。
 しかし、万が一にもパンツがずり落ちたせいで死ぬのは嫌だし、せいぜい大人に戻るまでの辛抱だ。
 なのははそう考えて、顔を少々赤くしつつ、また浴衣の前を合わせて腰ひもを締め直す。
 そして、最後にまた羽織を着て着替えは完成だ。

「うん。大丈夫。たぶん一見しただけじゃわからない……よね?」
『そうですね。それに、子供の体型であればさほど気にする必要はないかと思われます』
「うん。ただ、元に戻る時は気をつけないとね……」

465脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:07:01 ID:/WCPsINo

 なのははそうつぶやきながら改めて自分の姿を鏡で確認する。
 戦闘などで動き回ればひどく危険な状態になりそうだが、戦闘になればバリアジャケットに着替えるはずだ。
 今のなのはのバリアジャケットはミニスカートで危険だが、バリアジャケットの変更は可能である。
 少女時代に使っていたバリアジャケットならスカートは長いので、おそらくなんとかなるだろう。



 そして、ひとしきり自分の姿をチェックして一息つくと、なのははまっすぐに立って鏡に写る自分の姿を見つめる。

 そうやって幼い頃の自分の姿を見ていると、その頃に出会った幼いフェイトの姿が自分の横に見えるような気がした。
 あれだけ泣いたのに、死んでしまった親友の事を思うとまた目頭が熱くなって涙が出そうになる。
 だが、なのははそんな感情を振り払うようにぶんぶんと首を振り、ぐっと両拳を握って気合いを入れた。

「よしっ! 戻ろう!
 まだまだ、私は元気なんだもん。くよくよしてる場合じゃないよ。
 行こう、マッハキャリバー!」
『はい。Ms.高町』

 そう言ってなのはは脱いだ下着の上下と大人用の浴衣を抱えて脱衣所を出た。
 なんとなく口調が子供っぽくなっているのは鏡で今の自分の姿を確認したせいかもしれない。
 しかし、そのおかげでこれまでの自分と今の自分を切り替える事ができたとも言える。
 温泉でいくらか回復できた事もいい方向に作用したのかもしれない。
 いずれにせよ、子供になってしまった事は、なのはにとって悪い事ばかりでもなかったようだ。

(フェイトちゃんも、きっと私に頑晴れって言ってくれる)

(ヴィヴィオを。スバルを。この島に連れてこられた人たちみんなを助けて欲しいって願ってる)

(だから行くよ私。負けない。絶対諦めない。最後までくじけない)

(フェイトちゃん。だから、ヴィヴィオを、みんなを、……そして、私を見守っていて下さい――)

 そんな思いを胸に、冬月とケロロの元に向かうなのはの背を、窓から入った夜風が優しく押す。
 その風から自分を励ますフェイトの想いを感じたような気がして、小さな少女は少し表情を和らげた。

466脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:07:32 ID:/WCPsINo





「加持殿……さぞや無念だったでありましょう。一体誰が加持殿を……
 しかし、我輩きっと犯人を見つけて償わせるであります。
 冬樹殿やメイ殿を殺したヤツらと同じように……
 だから、草葉の陰から見ていて欲しいであります……」

 なのはが着替えに行った後、温泉施設のロビーでケロロがつぶやいた。
 だが、その表情は怒りに震えているといった様子ではない。
 何か不安を感じているような。どこか犯人に怒りをぶつけるのをためらうような雰囲気があった。

 そんなケロロを少し心配そうに冬月が見ている。

(ケロロ君も気付いているのか? タママ君が加持君を殺したという可能性に……)

 ケロロもタママと加持の間がうまく行っていない事は知っていた。
 だからこそ彼らを二人っきりにして話し合わせ、仲良くなってくれる事を期待していたのだ。
 だが、2人は転移装置によってどこかへ消えてしまった。
 そして加持の死。

 冬月のようにマッハキャリバーから2人が消える直前まで争っていた事を知らなくとも、想像はするかもしれない。
 そして、その事を知っている冬月にとっては、タママへの疑いはケロロよりも強い。

(しかし、タママ君はタママ君なりにケロロ君やサツキ君を守ろうとしていたのだ)

(仮に、犯人がタママ君だったとしても、タママ君への対応は難しくなるな……)

 タママが思い違いからそんな行動を取ったのなら説得して罪を理解させる事が正しい道だろう。
 だが、冬月にも加持が何かを企んでいた可能性は否定できないのだ。
 彼は基本的には頼れる男だったが、有能であるがゆえに信用ならないという面も確かにあった。
 加持がサツキの支給品を盗んだというタママの言葉も嘘や見間違いとは限らない。
 だとすれば、充分疑う余地はある。

(だが、たとえそうだったとしても、加持君を殺して決着をつけるという方法を選ぶべきではない)

(少なくとも私にとってはそれが正しい。だが、味方に害が及ぶ前に何とかしようという考えもひとつの正解だろう)

 だから冬月はもしタママが犯人でもタママを罰する事には気が進まなかった。
 たとえ考えが違っても、タママは大事な仲間なのだ。
 やり方に問題があるとしても、望みは同じだったはずだ。
 今冬月達に必要なのは固く結びついた絆である。
 冷たいようだが、たとえ加持の死が原因であっても、できる事なら仲間同士で争う事は避けたいのだ。

467脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:08:14 ID:/WCPsINo

(絆か。タママ君が加持君を殺したとして、それを隠して絆を結ぶなどとは。ただの欺瞞なのではないか……)

(いかんいかん。いつの間にかタママ君が加持君を殺したと決めつけている。私とした事が、軽率だな)

 何もタママが加持を殺したと決まったわけではないのだ。
 ならば今はタママが殺したのではないと信じてやるべきだろう。
 もしも再開できてその時に何か明確に疑わしい事があったならその時に考えればいい。
 今からタママを擁護する事を考えるなど、タママに対しても失礼だ。



「冬月殿。何か考え事でありますか?」

 冬月がタママについての考えに区切りをつけようとしていると、ケロロが声をかけてきた。
 どうやら難しい顔をして考えていたので心配されてしまったようだ。

(いかんな。顔に出てしまっていたようだ。なるべくケロロ君には余計な心配をさせないほうがいい)

 冬月はそう考えて、とっさに平静を装ってケロロに答えた。

「……いや、たいしたことではないんだ。
 これから考えねばならない情報の事を頭の中で整理していただけだよ」
「そうでありますか。
 確かにこれからどうするべきか。考える事は多いでありますなあ」

 どうやらケロロにはそんな冬月の考えは気取られなかったようだ。
 冬月は長年の人生経験から身につけた厚い面の皮を今はありがたく感じつつ、言葉を続ける。

「ああ。だが、何とかせねばならない。
 このままあの草壁という男を喜ばせてなどやれるものか」
「もちろんであります!
 力を合わせて、必ずあの男ともう1人の主催の娘っこをギャフンという目にあわせるでありますよ、冬月殿!」

 ケロロのそんな言葉に冬月は心からの肯定の意を込めて頷いた。

(そうだ。このまま皆の命を、そして私の命をあいつらの好きになどさせてはならんのだ……)

(そのためにできる事は。やらねばならない事はなんだ。考えろ、冬月コウゾウ)

 打倒主催者を叫び気合いを入れるケロロとはまた別のベクトルで冬月も気を引き締めていた。

 戦う力を持たず、特殊な能力もない自分にできる事は考える事だけだ。
 ならばそこに全力を尽くさねばならない。
 冬月はそんな思いを胸に、静かに闘志を燃やすのだった。

468脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:10:24 ID:/WCPsINo


 着替えを終えたなのはが温泉施設のロビーに戻った後、冬月は2人に発見したノートパソコンの説明を始めた。
 ケロロが発見したDVDの事も気にはなったが、内容を見るには時間がかかりそうだった。
 だから一旦その3枚のDVDはデイパックにしまっておき、パソコンの方を優先する事になったのだ。

 ロビーのソファーに座り、パソコンを立ち上げた冬月がまず最初に2人に見せたのは掲示板だった。

「掲示板? こんなものがあったなんて……」
「すでにいくつか書き込みがあるようでありますな」
「うむ。それで、まずこの最初の書き込みを見て欲しい。
 この朝比奈みくるという人物は先ほど死亡者として名前があがっていただろう」

 冬月にそう言われて2人は掲示板の最初の書き込みを読んでみる。
 そこには『朝比奈みくるは主催者の仲間です。あの女を殺してください』と書かれていた。
 ちなみにこの書き込みはシンジによるものだが、冬月たちがそれを知る術は無い。

「この掲示板を見ていたから冬月さんは彼女の名前を知っていたんですね?」
「そういう事だ。ただ、この書き込みが真実かどうかは何とも言えない所だ。
 そもそも主催者の仲間だから殺してくれというのが短絡的すぎる。
 私としては、いささか感情的すぎるという印象を受けるな」
「そうでありますなあ。
 しかし、その朝比奈という方も亡くなってしまったわけであります。
 もしやこの書き込みを読んだ参加者に殺されたのでありましょうか?」
「それもわからないな。
 わからないが、そういう可能性もある。
 掲示板に書き込む時はそういう事も考えておかないと無用の衝突を生みかねないという事だな」
「そう言えば、朝比奈みくるっていう名前はさっきのDVDにもありましたね。
 長門ユキ、朝比奈ミクル、古泉イツキの3人……なぜこの3人なんでしょうか?」
「この3人に何らかの繋がりがあると見る事もできるな。
 そうするとこの書き込みもあながち嘘ではないという事になるが……
 しかし、はっきりした事はあのDVDを見てみない事にはなんとも言えないだろう。
 このパソコンでも見られるかもしれないが……まあ、それは後にしようか」

 冬月の言葉に2人は頷き、さらに掲示板の書き込みを読み進めていった。

469脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:11:06 ID:/WCPsINo

「おっ? この書き込みは……ドロロのやつでありましょうか?」
「む? 知っているのかねケロロ君?」

 次の書き込みを見たケロロは、『東谷小雪の居候』という名前にすぐに気付いた。
 東谷小雪というのはドロロが一緒に生活している地球人の少女の名前である。

「この名前からして、ほぼ間違いないでありますよ。
 ドロロは我輩の仲間の中でも特に真面目な男でありますから、
 この書き込みは信用していいと思うであります」
「ふむ。となると、このギュオー、ゼロス、ナーガという3人は危険人物に間違いないというわけか。
 しかし、ナーガはすでに死亡したと先ほどの放送で言っていた。
 となると、我々が知る危険人物は、深町晶・ズーマ・ギュオー・ゼロスの4人。
 それにあの空を飛びミサイルを撃ってきたカブト虫の怪人を加えて5人という事になるか」

 冬月はそう言って、自分をミサイルで攻撃してきた異形の怪人の姿を思い出す。

(あの時はうまく逃げる事ができたが、できれば二度と会いたくはないな……)

「我輩も少しだけその怪人の姿を見たであります。
 体から高熱を放射して森に火を放ったのもそいつでありますよ」
「市街地で激しい攻撃を加えてきた上空の敵も、そのカブト虫の怪人ですよね?」
「状況からすればそうだと考えて間違いないだろうな。
 残念ながら名前はわからないが。
 そう言えば彼は何人かの参加者の事を私に尋ねてきたな。
 確か……アプトム、高町君、キン肉スグル、ウォーズマンの4人だったと記憶しているが」

 そこで自分の名前が出された事になのはは少し驚く。

「どうして私を……?
 他の3人の名前は名簿でしか知りませんし……」
「ああ。彼の目的を聞き出す事はできなかったが、どうやら殺し合いそのものとは違う目的があったように思う。
 アプトムという人物を特に探したがっていて、あとの3人はついでという印象だったが、それも憶測にすぎん。
 結局そこから何かを読み取るのは難しいと言わざるを得ないな」

 仕方がないのでとりあえずアプトム、キン肉スグル、ウォーズマンの3人の名前だけ覚えておこうという事になる。
 そして、3人はさらに掲示板を読み進めていった。

470脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:11:38 ID:/WCPsINo
「中・高等学校内に危険人物……これもドロロが言うのでありますから、気をつけた方がいいでありますな。
 と言っても、この書き込みはお昼前のものでありますから、今どうなっているかはわからないでありますが」
「あんな大火事があったからね。
 ところで、ドロロっていう人は生け花が趣味なの?」

 なのはがケロロに尋ねる。
 掲示板の名前の欄に『生け花が趣味の両きき』と書いてあったからだ。

「やつはペコポンですっかり日本の文化に染まってしまったのであります。
 元々暗殺兵だったでありますが、ペコポンに来て忍者にクラスチェンジしてしまったでありますからなあ」
「に……忍者? 忍者ってあの手裏剣を投げたりどこかに忍び込んだりする忍者?」
「そうであります。
 この東谷小雪というのが忍者の少女で、小雪殿に会った事が忍者になったきっかけのようであります。
 あ、誤解の無いように言っておくでありますが、
 暗殺兵だったと言ってもドロロはまったく危険な人物ではないでありますよ?
 自然を愛し、ペコポンを愛し、正座して茶をすするのがお似合いの温厚なヤツであります。
 その上戦闘能力は武装したケロロ小隊の他の隊員4名を一度に相手にできるほどであります。
 もしドロロが一緒に居てくれればかなり心強いでありますなあ」

 『……時々存在を忘れるけど』と心の中でケロロは思ったが、あえて口にはしなかった。

 そして、その後の書き込みは1つだけ。
 古泉という学生服を着た茶髪の男が危険人物だという内容だった。
 古泉イツキもDVDに名前があった1人だが、DVDを見ていないのでそれが意味する所は不明である。
 また、この書き込みも誰が書いたかわからないので、一応心にとめておくだけにしようと言う事で意見が一致した。







「これで一通り読み終わったでありますな。
 しかし、せっかく掲示板があるのなら我輩たちからもドロロに何か伝えたい所であります。
 我輩たちしか知らない言葉を使って暗号を作れば、
 危険人物にバレないように合流する事だってできるかもしれないであります」

471脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:12:13 ID:/WCPsINo

 そのケロロの言葉を聞いて、なのはも真剣に考え始める。

「そうだね……
 もしヴィヴィオ達がどこかで掲示板の存在を知っていてくれればヴィヴィオ達とも合流できるかもしれない。
 それだけじゃない。スバルとだって……
 でも、ヴィヴィオにも解読できて、危険人物には絶対わからないような暗号が作れるかな?」
「喫茶店で使ったサツキ君の『狸の伝言』を使うという手はあるな。
 ヴィヴィオ君にも解読できるようにとなると、ヒントはなるべくわかりやすくせねばならないが、
 朝倉君も一緒にいるなら気付いてくれるかもしれん」
「おお、その手がありましたな!
 ドロロならばその暗号、気付いてくれそうであります。
 あとは誰の名前を暗号に使うかでありますなあ……
 小雪殿は掲示板に名前が書かれているでありますからやめておくとして、桃華殿かサブロー殿か……」

 ケロロは冬月の提案に賛成らしく、暗号で使う名前を考え始める。
 だが、喫茶店の暗号を知らないなのはは話が飲み込めず、冬月に質問する。

「その『狸の伝言』って、どういうものですか?」
「ある特定の文字を抜くと意味が通じるようにした文章の事だよ。
 喫茶店では『仲間の事は気にしないで』とヒントをつけ、
 私とタママ君の名前の文字を抜くと意味が通じるようにしておいた」
「なるほど。『た』だけを抜くような簡単な暗号なら気付かれやすくても、
 それだけたくさん字を抜くのは見抜かれにくいですね。
 ヴィヴィオやスバルが知っている人なら……はやてちゃんかアイナさんあたりかな?」

 狸の伝言の説明を受けてなのはも納得したらしく、暗号を考え始める。
 だが、冬月は少し申し訳なさそうにそれを遮って言う。

「確かに掲示板に暗号を書き込んで合流を目指すのは悪くないのだが、
 うまい暗号を考えるには少し時間がかかるだろう。
 だからそれは後回しにして欲しいんだ。
 もう一つ、検討したい事があるのでね」



 冬月はそう言ってタッチパッドを操作し、掲示板から画面をトップページに戻してkskコンテンツをクリックする。
 そうするとディスプレイにキーワード入力の画面が表示される。
 そして、その画面の下の方には小さくヒントが表示されていた。

472脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:12:59 ID:/WCPsINo

「冬月さん。これは……?」

 冬月が開いた画面を見て、なのはが尋ねる。

「この画面から先に進むにはキーワードを入力しなければならないようなんだ。
 キーワードのヒントはここに小さく、背景に近い色で表示されているんだが、私にはさっぱりわからなくてね」
「どれどれ。『ケロロを慕うアンゴル一族の少女の名前(フルネームで)』
 ……って、なぜ我輩の事がヒントになっているでありますか?」
「それは私にもわからない。
 だが、わざわざキーワードを入力させるのだから、君たちにだけ公開されている情報があるのかもしれないな」
「我輩たちにだけ、でありますか?
 一体なんでありましょうか。まあ、とにかく入れてみるであります」

 ケロロは考えを打ち切ってキーワードを入力してみる事にした。
 そして、ケロロが「アンゴル・モア」と入力してエンターキーを押すと、画面が切り替わる。
 そこには『参加者状態表:第3回放送時』と書かれている。
 その下には参加者の名前と、ダメージ(大)、疲労(大)、などと言った情報が一覧表になって表示されていた。
 ただし、何人かの状態は『死亡』とだけ表示されている。
 まったく予想外の情報が表示された事に3人とも驚きを隠せない。

「こ、これは……なぜこんなものを我輩たちに見せるでありますか?」
「わからないが、状態に『死亡』と表示されている参加者は私が記憶している情報と一致しているようだ。
 それに、我々の情報に関しては間違っていないようだね。
 例えば私の状態は『元の老人の姿、疲労(大)、ダメージ(大)、腹部に刺し傷(傷は一応塞がっている)、決意』だ。
 誰が書いたのかは知らないが、なかなか的確に現在の状態を表現していると言えるな」

 そう言って冬月は自分の腹のあたりを左手で軽く撫でる。
 老人の体に戻ったせいもあり、疲労も怪我もなかなかに厳しいようだ。
 一方、ケロロの状態表には『疲労(大)、ダメージ(大)、身体全体に火傷』と書かれている。
 全身が痛み、皮膚がひりひりするのを感じつつ、ケロロもこの情報が間違いないようだと納得する。

「私の状態……『疲労(中)、魔力消費(中)、温泉でほこほこ』って。
 温泉でほこほこなんて事まで書いてあるんだね」
「間違いなく放送直前の高町殿の状態でありますな。
 高町殿が子供になられたのはほとんど放送と同時ではありますが、
 ここに書かれてなくて、元に戻っていない所を見ると、
 子供になったのは放送直後と判断されたのでありましょう」

473脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:13:40 ID:/WCPsINo

 納得する2人に、冬月がやや明るい口調で話しかける。

「だが、我々は運がいいのかもしれないぞ。
 ここに書いてある説明によると、どうやらこの情報は放送の時にだけ更新されているようだ。
 つまり、今このコンテンツを開いたおかげで、我々は参加者の現在の状態を知る事ができるわけだ。
 例えばタママ君の状態は……『疲労(大)、全身裂傷(処置済み)、肩に引っ掻き傷、頬に擦り傷』か。
 疲れてはいるが、この処置済みの裂傷というのは早朝にネブラ君と戦った時のものだろうし、
 大怪我はしていないようだな」

 タママの状態を確認しながら、冬月は加持の事を思い浮かべる。
 だが、状態表にはタママと加持に何があったかを示すような記述は無い。
 だから、冬月も今はその事を考えるのはやめておく事にした。

(今はタママ君が無事であった事を素直に喜ぶべきだろうな……)

 そして、冬月がそう考える間にも、なのはとケロロは状態表を読み進めていく。

「ヴィヴィオは『疲労(中)、魔力消費(小)、覚醒直後』
 覚醒直後って事は気絶でもしていたのかもしれないけど、怪我はしてないみたい」

 ヴィヴィオに怪我が無い事を知り、小さななのははほっとした表情を見せる。

「朝倉君の『疲労(特大) 、ダメージ(中)』というのは気になるがね。
 一緒にいたもう1人の子供は名前がわからないので調べようがないか。
 3人がどこか安全な場所で休んでいるのならいいのだが……」
「そうでありますなあ」

 冬月たちはヴィヴィオたちの安全を祈らずにはいられなかった。

 次になのははスバルとノーヴェの状態を確認する。
 ノーヴェの方は『疲労(中)、ダメージ(中)』で、怪我はしているようだが朝倉よりは元気なようだ。
 しかし、スバルの状態表には『全身にダメージ(大)、疲労(大)、魔力消費(大)』と書かれている。
 どう見ても満身創痍、倒れる寸前としか思えない状態だった。

「スバル……きっと力の限り戦っているんだね。
 でも、早く合流してあげないと、このままじゃ……」
『…………』

 無事とは言えそうにないスバルの状態を見て、なのはは不安な表情を浮かべる。
 マッハキャリバーは何も言わなかったが、きっとスバルを心配しているのだろう。
 マッハキャリバーにとってスバルはかけがえのないパートナーなのだ。
 そう、なのはにとってのレイジングハートがそうであるように。

474脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:14:10 ID:/WCPsINo

 一方、ケロロもまたドロロの状態を確認して少なからずショックを受けていた。

「切り傷によるダメージ(小)、疲労(大)、左眼球損傷、腹部にわずかな痛み、全身包帯。
 あのドロロが片目をやられたでありますか?
 現在のダメージは小さいようでありますが……」

 そして、冬月はというと、小砂から名前と特徴を聞いていた川口夏子の状態を確認していた。

「川口君の状態は、『ダメージ(微少)、無力感』か。
 肉体的には問題ないが、精神的にまいっているのかもしれんな。
 無理もない事だ。小砂君のためにもできれば早く合流したい所だが、手がかり無しか……」

 3人の間に重い沈黙が流れる。
 しかし、ここで3人が落ち込んでいても何の役にも立たないのだ。
 だからなのははあえて気持ちを切り替えて他の情報に目を移し、分析を始めた。

「危険人物のギュオーは状態表では全身打撲、中ダメージ、回復中。
 ゼロスは絶好調。
 深町晶は精神疲労(中)、苦悩って書いてありますね。
 ズーマは偽名みたいだからこの表では確認できませんが」
「ギュオーはそれなりにダメージを受けているようだが、他の危険人物は元気なようだな。
 まあ、そうそうやられるような連中ではないという事か」

 続いてなのはは古泉の状態に注目する。

「この古泉一樹という参加者は掲示板に危険人物として書き込まれていましたが、状態は
 『疲労(中)、ダメージ(小)、右腕欠損(再生中)、悪魔の精神、キョンに対する激しい怒り』となっています。
 悪魔の精神ってどういう意味かわかりませんけど、危険な印象は受けますね」
「右腕欠損(再生中)というのも奇妙な記述だな。
 まさか失った腕を再生できるような怪物なのだろうか?」
「学生服を着た茶髪の男って書いてありましたけど……わかりませんね」
「あの書き込みの通り、涼宮ハルヒという参加者を殺したのは古泉という男なのでありましょうか?」

 ケロロは2人に疑問を投げかける。
 あの書き込みは誰が書いたのかわからないが、古泉が危険な人物という事であれば真実かもしれない。

「それはわからないけど、可能性はあるかな。
 DVDに名前が書いてあった事とか、この『キョンに対する激しい怒り』って言うのも気になるし。
 でも、これだけじゃまだ何とも言えないかも」
「キョンと言えば、この『0号ガイバー状態』というのもわからないでありますなあ。
 これは本当に何かの状態を示す言葉なんでありますか?」
「わからんな。主催者にとっては何か意味のある言葉なのかもしれんが」

475脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:14:40 ID:/WCPsINo

 この状態表の記述は確かに正確らしいのだが、たまに意味のわかりにくい所がある。
 『0号ガイバー状態』と書いてあるからにはそうなのだろうが、この3人にはそれが何の事だかわからなかった。
 わからないので、なのははカブト虫の怪人が探していたという人物の状態を見てみる。

「アプトムという人は『全身を負傷(ダメージ大)、疲労(大)、サングラス+ネコミミネブラスーツ装着』ですね」
「ネコミミネブラスーツ……そういえばネブラ君はネコミミの形をしていたな。
 それをこの人物が持っているという事はもしやこの人物が小砂君を……?
 いや、そう考えるのは早計すぎるか。単に取引をして譲ったのかもしれん」

 一瞬アプトムが小砂を殺した犯人ではないかという考えが冬月の頭をよぎったが、冬月はすぐにそれを否定した。
 情報が少なすぎるのだ。憶測だけで何かわかった気になるのは危険だし、トラブルの元にしかならないだろう。

「キン肉スグルは『脇腹に小程度の傷(処置済み) 、強い罪悪感と精神的ショック』でありますな。
 罪悪感を感じるという事は善人のようにも思えるでありますが……」
「それも早計すぎるだろう。
 罪悪感を持っていても殺し合いに乗っている可能性はある。
 むしろ殺し合いに乗った事に罪悪感を感じている可能性もあるしな。
 やはりこの情報だけでは判断できないようだ」
「ウォーズマンの状態は『全身にダメージ(中)、疲労(中)、ゼロスに対しての憎しみ、サツキへの罪悪感』ですね。
 この人も罪悪感……それもサツキちゃんに対して。
 サツキちゃんに何かしてしまったという事でしょうか?」
「我輩、サツキ殿とはこの殺し合いの最初から行動を共にしていたでありますが、
 ウォーズマンという人物の話は聞かなかったでありますな……」
「この『ゼロスに対しての憎しみ』というのも気になるな。
 ドロロ君の情報によるとゼロスは危険人物という事だから、何か被害にあったのかもしれない」

 それぞれ気になる事は書いてあるのだが、情報としては弱すぎて参考にはできないようだった。
 しかし、他に何か情報が得られれば合わせて判断の材料にはできるかもしれない。
 このアプトム、キン肉スグル、ウォーズマンの3人に関してはそれ以上言える事はなさそうだった。

476脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:15:12 ID:/WCPsINo

 その後、さらに状態表を調べていた冬月がある事に気付く。

「む? ケロロ君、高町君。このネオゼクトールという参加者の状態を見てくれ」
「えーと、なになに? やけに長いでありますなあ。
 『脳震盪による気絶、疲労(大)、ダメージ(中)、ミサイル消費(中)、羽にダメージ(飛行に影響有り)』
 ミサイル消費? それに羽にダメージで飛行に影響有りという事はもしやこいつは……」
「そうだ。ミサイルを持ち、羽で空を飛ぶ参加者がそうそう居るとは思えない。
 確証はないが、こいつがあのカブト虫の怪人である可能性はかなり高いだろう」
「それに『右腕の先を欠損(再生中)、破損によりレーザー使用不可、ネブラによる拘束』ってあります。
 この人は腕を再生できてレーザーも使えるんですね。それと、このネブラによる拘束というのは……」
「うむ。おそらくネオゼクトールはアプトムによって気絶させられ、捕まっているのだろう。
 カブト虫の怪人が本当にネオゼクトールであるなら、探していた相手に捕まってしまったという事になるな。
 あのような怪物を捕まえるのは難しいとは思うが、ネブラ君が一緒なら可能かもしれない。
 むろん、アプトム本人の能力によるものかもしれないがね」
「ネブラっていうのは頭に装着すると羽を広げて空を飛んだり触手で攻撃したりできる生き物なんですよね?」
「うむ。確かタママ君の知っている相手だったが、ケロロ君も知っているかね?」
「ケロケロリ。確かにネブラ殿は知り合いであります。
 もっともあまりいい関係とは言えなかったでありますが、
 色々な事があって、最近はそれなりに平和的な関係になっていたであります。
 まあ、それはともかく、ネブラ殿の力であればあの怪物ともやり合えるかもしれないでありますな。
 元々怪物退治は得意とする所でありますからして」

 こうしてネオゼクトールがカブト虫の怪人である可能性が高い事やアプトムに捕まっているらしい事はわかった。
 だが、今のこの3人にとってはそれは行動を決める上で重要な情報ではない。
 危険な参加者が捕まっているというのは安心できるのでいいのだが、それを利用してどうするという事でもないのだ。

 だからこの話はそれ以上に発展せず、なのはは別の参加者に目を向けたのだが、そこに気になる記述を発見した。

「あ、このトトロっていう参加者の状態が『温泉でぽかぽか』になってる。
 もしかしてこの近くにいるんでしょうか?」

 そして、なのはが口にしたトトロという名前にケロロが反応する。

「ケロッ? トトロと言えば、確かサツキ殿が言っておられた名前であります。
 この近くにいるのであれば、お会いしてサツキ殿の事をお伝えするべきかもしれないでありますな。
 しかし、少なくとも我輩があたりを探索した時には誰も居なかったはずでありますが……
 そうでありましたな。マッハキャリバー殿」
『はい。探知可能な範囲には参加者らしき反応はありませんでした。
 ですが、露天風呂の垣根を破壊した跡があり、その状態からまだそれほどの時間は経っていないと思われます』
「おお、そうでありましたな。
 露天風呂の男湯の方の垣根が壊れていたであります」
「ふむ……ケロロ君。そのトトロという人物はどういう人なのかね?
 サツキ君の知り合いならば悪い人間ではないのだろうが、
 一応確認しておきたいのでね」

477脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:15:43 ID:/WCPsINo

 冬月はケロロにそう尋ねたが、ケロロは困ったようにこう答えた。

「それが、我輩もトトロという人物についてよく知らないのであります。
 サツキ殿から詳しく聞いておけばよかったのでありますが、聞きそびれたままになっていたのでありますよ。
 サツキ殿の言い方からして味方してくれそうな人物だろうとは思うのでありますが……」
「少しでもわかる事は無いの?
 男か女かとか、年齢とか、人種とか。
 名前からして日本人じゃなさそうだけど」
「いやあ、それがさっぱりなのでありますよ。
 そう言えばサツキ殿も直接の知り合いという感じではなかったような気もするでありますなあ」
「うーむ。それではその垣根が破壊された露天風呂の様子はどうだったのかね?
 何かわかった事があれば言ってみてくれ。ケロロ君」

 冬月にそう聞かれて、ケロロは眉間に皺を寄せながら腕を組んで、露天風呂の様子を思い出しながら答える。

「一見した所、垣根は戦闘があって破壊してしまったという感じではなかったでありますな。
 何というか、建物の中を通る事を考えずに一直線に温泉に入ろうとして壊したというか」
「うーん。ものぐさな性格の人なんでしょうか?
 ずいぶん乱暴な行動のようにも思えますが……」
「そうだな。いくらこんな殺し合いの島だからと言っても、普通は入口から入るだろう。
 仮に中に誰かがいる事を警戒したとしても、空いている窓を探すなど、他にやりようはありそうなものだ。
 垣根を破壊して入ってくればその音で気付かれてしまうからな」

478脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:16:15 ID:/WCPsINo

 3人はすっかりトトロの正体をつかみかねていたが、そこでマッハキャリバーが自分の推測を述べた。

『痕跡から推測する限り、入ってきたのはかなり大型の生物だったようです。
 人間であるとすればかなり特殊な体格の人物ですね。
 例えば相撲取りのような体型でしょうか』
「相撲取り……?
 すごく太った外人さんって事でしょうか?
 原始的な生活をしている部族か何かで、こういう建物の入り方を知らなかったとか」
「ふむ。これは一度露天風呂をよく調べてみた方がいいかもしれんな」
『確かに、体が大きい分はっきり足跡が残っている可能性がありますので、
 露天風呂で足跡をよく調べればもっと詳しく分析できるかもしれません』

 マッハキャリバーのその言葉を聞いて冬月は頷き、ケロロとなのはに確認を取る。

「では、後回しにすると痕跡がわかりにくくなる可能性もあるので、
 さっそく露天風呂を調べようと思うのだが、2人ともそれでいいだろうか?」
「我輩はもちろん賛成であります。
 トトロ殿がサツキ殿の関係者である事は間違いないのでありますからして。
 できればどういう人物か調べて、いい人そうならサツキ殿の事をお伝えしたいであります」
「私もそれでいいと思います。
 トトロがサツキちゃんの知り合いなら、どういう人で今どうしているのか気になりますし、
 できれば合流して一緒に行動したいですしね」
「よし。それでは露天風呂に向かうとしよう」
「はい」
「了解であります。冬月殿」

 こうして、一行はトトロの事を調べるために露天風呂の調査に向かう事になった。

479脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:17:30 ID:/WCPsINo



「おっと。露天風呂に行く前に1つやっておきたい事があったな。少し待ってもらえるかな?」

 トトロの調査で露天風呂に向かおうとした所で冬月はそう言って2人を止めた。
 2人が快くそれに応じると、冬月はまずノートパソコンの電源を切ってデイパックにしまう。
 そしてノートパソコンをしまった手でデイパックの中を探り、冬月は夢成長促進銃を取り出した。

「なるほど。冬月殿ももう一度ヤングな姿になっておくのでありますな?」
「ああ。若返っておけばいくらかは回復も早まるだろうし、万が一の事態にも対応しやすいだろう。
 それに高町君のような若者には弱体化する面も大きいだろうが、私のような老人にはデメリットは少ない。
 使用回数に制限があるかどうかはわからないが、この銃を使わせてもらってもいいかな?」
「私はいいと思います。
 戦闘で使う可能性もありますけど、冬月さんが少しでも楽になるならぜひ使って下さい」
「我輩ももちろん異論はないでありますよ」
「ありがとう。では遠慮無く使わせてもらうよ」

 2人の同意も得られたので、冬月は少し2人から離れて自分に銃口を向け、夢成長促進銃の引き金を引く。
 すると冬月は銃から放たれた光線に全身を包まれ、あっという間に十代半ばの少年の姿になった。
 結果的に一行の外見は、中高生ぐらいの少年、9歳の少女(浴衣+羽織)、立って歩くカエルという事になった。

「よし。これでいいだろう。
 では行こうか。高町君、ケロロ君」
「はい。でも目の前で見るとやっぱりその銃はすごいって思いますね。
 まるで魔法みたい。……と言っても私はそんな魔法使えないんですけどね」
「まあ、ケロン星の科学力はペコポンとは比べものにならないでありますからな。
 その銃を作ったクルル曹長の技術も我が軍屈指のレベルでありますし」

480脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:18:02 ID:/WCPsINo

 ケロロはまんざらでもなさそうにそう言ったが、それを聞いて冬月はふとある事を思い出した。

「そう言えばケロロ君。
 そのクルル曹長というのはもしや黄色い体で度の強そうな丸いメガネをかけたケロン人ではないかね?」
「ケロッ? 確かにその通りでありますが、冬月殿はクルルを知っていたでありますか?」
「いや、タママ君からも何も聞いては居なかったのだが、その人を夢で見たんだよ。
 知らない人物を夢で見るというのは不思議な事だがね。
 そう言えばその夢にもう1人出てきたのが、高町君が着ていたようなデザインの茶色い軍服を着た少女だったよ。
 名前は聞けなかったが、年齢は高町君より少し下ぐらいに見えたな。
 アスカ君のようなオレンジ色に近い色の髪で……確か長い髪を頭の両側で結んでいたかな」
「……ティアナ……
 それはティアナという私の知人によく似ていますね。
 その子はなんて言っていましたか?」
「まあ、ただの夢の話だがね。
 立ち話していると時間ももったいない。歩きながらでよければ話そう」

 冬月の言うのももっともだと2人が同意したので、3人は歩き始める。
 同じ建物の中なので露天風呂はそう遠いわけではない。
 だから少し話しただけで一行は露天風呂に到着し、冬月はそのまま調査をしながら話を続ける事になった。

「今思い出してみても不思議な夢だったよ。
 起きてすぐには思い出せなかったが、こうして話してみると意外によく覚えていたものだな。
 あまりに不思議な夢で印象が強かったせいだろうか?」

 露天風呂の男湯には土のついた素足で歩き回ったトトロやライガーの足跡が残されていた。
 その足跡を調べながら、冬月はそんな事を話す。

 この時点での冬月はこの夢の事をまだ「不思議な夢」ぐらいにしか認識していなかった。
 だが、話を聞いた2人の考えは少し違っていたようだ。

481脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:18:36 ID:/WCPsINo

 冬月と同じく風呂場の床の足跡を調べていたなのはが冬月に尋ねた。

「ひとつお尋ねしますが、冬月さんは予知夢を見るような特殊能力を持って居るんですか?」
「いや。私はただの人間だよ。今はこうして若返るという不思議な体験をしているがね」
「では、冬月さん自身の認識では、夢でまったく知らない情報を見る事はあり得ないと思いますか?」
「偶然の一致はあると思うがね。
 『虫の知らせ』などという現象も多くはそれで説明がつくだろう。
 ただ、私も今回の夢はどこか普通ではないような気はしていたんだが……
 やはり君たちから見ても普通ではないと思うかね?」

 なのはは冬月の問いかけに深く頷く。
 そして、破壊された垣根を調べていたケロロも同じように頷いてこう言った。

「冬月殿が知らないはずのクルルとティアナ殿の容姿や言葉遣いを知った事。
 それに、そのティアナ殿が告げたという我輩たちに迫っていた危機というのははっきりとはわからないでありますが、
 冬月殿が遭遇したというカブト虫の怪人がそうだったとすれば辻褄があうであります。
 ここまで来ると偶然の一致では説明できないでありますよ」
「しかし、だとしたら2人はあの夢は何だったと思うのかね?
 私は超能力者なんかじゃない。それなのに不思議な夢を見たという事は、何者かに見せられたという事だろうか?
 だが、一体誰が? どうやって? 何のために?」

 冬月のその問いにすぐに答えられるものは居ない。
 冬月の見た夢が異常なものである事は3人とも理解しつつあったが、それが何だったのかは推測の域を出ない。

「予想はいくつかできます。
 主催者が何らかの意図があってやった可能性もありますね。
 例えば、私たちを諦めさせないためにあえて励ますような夢を見せたとか。
 そして、私たちの味方をする何者かが見せたという可能性もあります。
 その場合、その人物は主催者の監視をかいくぐってそんな事ができるという事になりますね。
 しかも、その人物はクルルやティアナの事を知っている。
 もしかしたら、本当にクルルやティアナが外から干渉して来たのかもしれません」
「冬月殿に夢を見せたのが味方だとしても、主催者があえてそれを見逃した可能性もあるでありますな。
 そこの所はまだ何とも言えないであります。
 今の情報だけではどうにもならないという事でありましょうか」
「もう一度眠って同じ現象が起こるならいいのだがね。
 私は後で交代で仮眠をとる事を考えていたのだが、その時に何か起こるかもしれんな。
 だが、とりあえず夢の話はここまでにしよう。
 今はトトロの事を調べるだけ調べておかなければ」

 なのはとケロロもそれには賛成だったので、一行は露天風呂の調査に専念した。

482脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:19:31 ID:/WCPsINo







 一通り露天風呂の男湯を調べてみると、トトロやライガーの足跡はかなり残っていた。
 だが、ピクシーやフリードリヒのものは見つからなかった。
 彼らは基本的に空を飛ぶので、足に泥があまり付いていなかったからである。
 そのため、一行は露天風呂に侵入したのは2匹の獣であると推測する。

『足跡や破壊の跡から推測すると、一方の生物は2足歩行で身長は2メートル前後。
 かなり大型の生物のようです。
 強いて言うなら熊に近いでしょうか。
 一方の4足歩行の動物は大型の犬科の生物だと推測できます。
 体長は1.5メートルと言った所でしょうか』
「そんな大きな獣が2匹も……
 それは本当にサツキちゃんの知り合いのトトロなんでしょうか?」

 マッハキャリバーの分析を聞いて、なのはが冬月とケロロに疑問をぶつける。

「種類の違う野生の獣が行動を共にするというケースは珍しいな。
 まったく無いとは言わないが……
 可能性としてはどちらか片方か、あるいは両方が参加者であると考えた方がいいのではないかな?」
「あるいは、トトロ殿はこの獣たちとはまったく別に温泉に入って去っていったのかもしれないであります。
 このお湯で濡れて読めなくなった手紙のようなものも気になるでありますし」

 そう言ってケロロが差し出したのはトトロが残していった古泉の手紙である。
 濡れて読めない上にビリビリに破れていたが、何か文字が書いてあった事だけは判別できる。

483脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:20:20 ID:/WCPsINo

「誰かが書いた手紙なのは間違いないみたいだし、
 これを残していったのがトトロっていう人なのかもしれませんね」
「ふむ。しかしこれはさっぱり読めんな。
 間違って落としたものを獣が破ってしまったといったところだろうか」
「しかし、そうなると足跡を残していった大きな獣たちはなんなのでありましょうか。
 ケロッ。そういえば最初に集められた時にでっかい毛むくじゃらの生き物を見たような気がするであります」

 マッハキャリバーの推測から獣の姿を想像したケロロは、唐突にその事を思い出した。
 そして、ケロロにそう言われて初めて冬月となのはもその事を思い出す。

「そう言えば、大きな丸い毛むくじゃらの……」
「そうか。あれは二本足で立っていたような気がするな。
 ではあれがトトロで、我々の少し前に犬科の獣を引き連れて温泉に入って去っていったという事か」
「そう考えるのが一番辻褄が合いそうでありますな」

 そう言ったケロロの言葉に冬月となのはもおおむね同意する。
 落ちていた手紙がなんなのかというような謎も残るが、基本的にはこの推測は正しいと思われた。

 こうして3人の間ではトトロの正体はとりあえずあの獣だと仮定する事になった。
 だが、これからどうするかは決まっていないので、なのはは2人に質問してみる。

「トトロの正体はあの獣だとして、これからどうしましょうか?
 トトロを探して今から出発しますか?
 それともやっぱりここで休んで行きましょうか?」
「そうだな……トトロとどうしても合流したいのであれば足跡を追いかけるという手はあるが、
 私としては気が進まないな。
 もうすっかり日も暮れてしまった。今から足跡を追って進むのは難しいと思う。
 それに、サツキ君が味方だと考えていたにしても、トトロというのがあの獣だとなると、
 果たして合流する事に意味があるかどうか。
 意思の疎通がどこまで可能なのかも疑わしくなる。
 また、我々の状態が良くないという理由もある。
 だから私はここでじっくり体力を回復させる事を提案するよ」

484脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:20:51 ID:/WCPsINo

 若返った冬月は、年齢に似合わぬ落ち着いた口調でそう言った。
 ケロロもそれに同意してこう続ける。

「我輩としてはサツキ殿の事をトトロ殿に教えてさしあげたいという気持ちに変わりはないであります。
 ただ、そのために我輩たちが無理をする事はないとも思うのでありますよ。
 もちろんトトロ殿の事を抜きにしても、タママやドロロ、
 それにヴィヴィオ殿や他の善良な参加者を見つけて合流したいという気持ちもあるのでありますが、
 今はその時ではないと思うであります」

 なのはから見ても、2人の意見はもっともだと言えた。
 今は気を張って行動しているが、本来なら2人は安静にしているべきなのだ。
 なのはは子供になっていても、夜であっても必要ならば行動するつもりでいるが、それを2人に求める事はできない。

 しかし、ヴィヴィオを探したいという感情は、今のなのはの中で何よりも強い感情だった。
 だからなのははいっその事1人でも出発できないかとも考えたが、それはできなかった。
 こんな殺し合いの中で得られた大切な仲間を。
 それも、こんな傷だらけの仲間を残して行く事はできない。

 それになのはが1人で行くとなるとマッハキャリバーをどうするかという問題もある。
 マッハキャリバーが無ければ子供になったなのはではどこまで戦えるかわからない。
 だが、冬月達にとってもマッハキャリバーは接近する敵を察知してくれる貴重なアイテムだ。
 デバイスが1つしか無い以上、別れて行動すればどちらかがリスクを負う事になる。

 だからなのはは1人で行きたいという気持ちをぐっとこらえて、2人にこう言った。

「……そうですね。
 私もまだ回復しきっているわけではありませんし、
 もう少し休んで体調を万全に整えてから行動した方がいいと思います」
「それでは、もう少しこの温泉で休息を取る事で決まりでありますな。
 そうと決まれば我輩たちも温泉に入らせてもらうでありますか。冬月殿」

485脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:21:22 ID:/WCPsINo

 うつむき気味になって言葉を発したなのはにケロロも多少違和感を感じてはいた。
 だが、何を思っているかまでは気付かなかった。

 しかし、冬月は目の前の小さな少女が何をこらえているか察していた。
 市街地でヴィヴィオに会った時、普段の彼女からは考えられないほど取り乱したなのはである。
 彼女が1人でもヴィヴィオを探したいと思っている事はある程度見当がついた。

「高町君。すまない。
 我々が一緒にいるせいで、君には不自由をさせてしまっているね。
 だが、私も一晩中ここに留まるつもりはない。
 温泉に浸かって、栄養をとり、10分でも20分でも交代で仮眠を取ったら、
 すぐに出発してヴィヴィオ君や朝倉君たちを探そう。
 だから、それまで少しだけ我慢してもらいたい。
 この通り、お願いする」

 そう言って冬月はなのはに深々と頭を下げる。
 そして、慌ててそれを制止するなのは。

「そんな、頭を上げて下さい、冬月さん!
 大丈夫です。ヴィヴィオが無事だって事はわかっているんですから。
 朝倉さんも怪我をしてはいましたが、重傷ではないようでしたし、きっともう1人の子も無事だと思います。
 思い返せばあの時不思議な盾や障壁がヴィヴィオ達を守っていました。
 きっとヴィヴィオ達には何らかの身を守れる装備があるんです。
 だから、ここで体力や魔力を回復しておくのはきっと最良の選択なんだと思います。
 だって、私たちはみんなで生きて帰らなきゃいけないんですから……」

 浴衣の小さな胸に両手を当て、目をつぶって冬月にそう伝えるなのは。
 その様子はどこか、自分を納得させているようでもあったが、表情は安らかだった。

「高町殿。我輩たちのためにすぐにヴィヴィオ殿を探しに行けず、申し分けないであります……」

 遅ればせながら事情を察してケロロもなのはに頭を下げる。

「ううん。大丈夫だから気にしないで、ケロロ。
 信じてる。ヴィヴィオは弱い子じゃない。だって私の娘なんだもの。
 きっと……きっと私が行くまで無事で待っていてくれる」
「そうでありますな。
 我輩も信じるでありますよ。
 ヴィヴィオ殿も、タママも、ドロロも、みんなきっと無事で待っていてくれると」

486脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:21:52 ID:/WCPsINo

 そう言ってケロロはなのはと一緒に胸に手を当てて祈るように目をつぶった。
 冬月も2人と思いは同じであったが、あまり長くこうしても居られないと思い、2人に話しかける。

「それではそろそろ動き出そうか。
 まず私とケロロ君は温泉。高町君にはその間万が一に備えて待機していてもらいたい。
 私たちが温泉を出たら交代で仮眠を取ろう。
 あまりゆっくり寝ていられないが、ただじっとしているよりは確実に疲れが取れるはずだ。
 その後、準備を整えて出発する。
 目安としては……20時から遅くとも21時までには出発すると考えておこうか。
 高町君どうだろう? もっと早い方がいいだろうか?」
「私はそれでいいと思います。
 でも、私の事よりケロロはこのスケジュールでいいの?
 冬月さんの怪我は私の魔法でもある程度治せるけど、ケロロの怪我は治せないし……」

 なのはは心配そうな顔でケロロにそう確認した。
 自分の魔力が回復して冬月の治療をすれば最終的に一番重傷なのはケロロになる事が予想されたからだ。

「我輩もそのスケジュールに異論は無いでありますよ。
 こう見えても我輩、厳しい訓練を乗り越えてきた軍人。
 それに普段から夏美殿にしょっちゅうぶっとばされているでありますが、大抵すぐに復活しているであります。
 これしきの怪我、温泉に入って少し休めばどうという事はないでありますよ。ゲ〜ロゲロ」
「そ、そうなんだ?
 それならいいんだけど……」
「まあ、本人が言うのだからここは信じよう、高町君。
 それではおおまかなスケジュールはさきほど言った内容で決まりと言う事で、
 我々は早速施設内の男湯に入ってこようか、ケロロ君」

 ケロロの発言に少し笑いながら、強がっているその気持ちも感じた上で冬月はそう言って話をまとめる。

「わかったであります。
 ではデイパックは高町殿に預けるとして、
 その中のナイフとスタンガン、それから催涙スプレーと夢成長促進銃をもらって行くでありますよ。
 万が一に備えて用心はしておいた方がいいでありますからな」
「そうだな。では、あとの荷物は高町君に持っていてもらおう」
「わかりました。確かにお預かりします」

487脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:23:30 ID:/WCPsINo

 こうして露天風呂の調査は終わり、一行は一旦二組に分かれる事になった。
 だが、冬月は歩き出すとすぐに何かを思いついて、2人にある提案をした。

「そうだ。今のうちにもうひとつやっておきたい事があるのだがね……」







「いやー、極楽極楽。温泉とはやはりいいものでありますなあー」

 温泉の内風呂の湯船に浸かったケロロはすっかり上機嫌であった。

 ちなみに元々明るくはないのだが、風呂場の中はかなり薄暗くなっている。
 これは先ほどの冬月の提案で、あえて最低限の明かりを残して施設内の明かりを消しておいたからだ。

 元々この施設は昼も夜も関係なく明かりがつけっぱなしになっており、発見されやすかった。
 それに明かりをつけていると、外からは丸見えで中から外は見えにくい。
 つまり、明かりを暗くしたのは少しでも危険を回避しようという苦肉の策であった。

「うむ。まさか温泉に入る事になるとは思わなかったが、やはりいいものだな。
 それに、こうして裸になってみると皺だらけだった体も若返ったせいでつるりとしていて、
 何やら生まれ変わったような気分だ」

 ケロロの隣で湯船に浸かる冬月もなかなかに上機嫌であった。
 この温泉の効能は「火傷、切り傷、打ち身、身体の疲れ、魔力の消費、虚弱体質」と表示されていた。
 どうやらその表示に嘘は無かったらしく、全身を火傷したケロロが入っても不思議とあまりしみる事もないようだ。

「この温泉には通常とは異なる特別な成分でも入っているのかもしれんな」
「確かにこの温泉に浸かっていると、心なしかじわじわと『回復してる〜』という気がするでありますなあ」
「しかし……よく見るとこの温泉、LCLのようにも……いや、気のせいか?」

 この温泉のお湯は薄いオレンジ色をしていた。
 これはエヴァのエントリープラグを満たす液体であるLCLと酷似している。
 本当のところどうなのかは主催者のみぞ知るといったところだが。

488脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:24:00 ID:/WCPsINo

「冬月殿。そのLCLとはなんなのでありますか?」
「LCLというのは言ってみれば羊水のようなものだ。
 その中に居るものを守り、包み込む液体だ。
 その中に居るものはその液体を肺に入れても溺れる事はなく、LCLから酸素を吸収する事ができる。
 だが、同時にそれはATフィールドを失った生命体の『かたち』でもある。
 そう、最初に主催者に首輪の効力で液体にされた少年が居ただろう。あの液体がLCLだよ」

 冬月はあえて隠す必要もあるまいと思い、素直にLCLの事を説明する。
 だが、それを聞いたケロロはさすがに驚いたらしく、ザバッと湯船から立ち上がって叫んだ。

「ゲ、ゲローーッ!? この温泉のお湯があれと同じという事でありますか!?
 そんなものに浸かっていて我輩たち大丈夫なんでありますか!?」
「落ち着いてくれ、ケロロ君。
 同じだと決まったものでもないのだ。
 仮に万が一同じだとしても、LCLに浸かっていて害があるという事はない。
 何も心配する事はないんだよ」

 冬月の説明でケロロはどうにか落ち着きを取り戻したようで、再び湯船に浸かってほっと息をつく。

「そうでありますか。いや、ほっとしたであります。
 しかし、冬月殿はそのLCLやATフィールドというものに詳しいようでありますが、
 もしやこの首輪についても何かご存じなのでありますか?」
「いや、残念だがこの首輪の原理については私にもわからないのだよ。
 ATフィールドを破壊するアンチATフィールドというものが存在する事は確かだ。
 それによってATフィールドを破壊された全ての生物はLCLに還元され、『個』を保てなくなる。
 この首輪が人間をLCLに変えてしまうのは、おそらくアンチATフィールドを発生しているからだろう」

 話はまだ続きそうではあったが、冬月がそこまで言った所で思わずケロロが一言口を挟む。

「……冬月殿。それは充分わかっておられるのではありますまいか?」

 言われた冬月は話を遮られて怒るでもなく、生徒に話を聞かせるようにこう続ける。

489脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:25:15 ID:/WCPsINo

「そうではないのだよ、ケロロ君。
 そのアンチATフィールドをどうやって発生させているかが皆目見当もつかないのだ。
 私の知るアンチATフィールドとは、
 鯨よりも巨大な『ある生物』の特定の器官に特殊な刺激を与える事によって発生するものだ。
 特に生命をLCLに還元するほどのアンチATフィールドともなればな。
 だが、この首輪はこの大きさでそれを実現しているのだ。
 いかなる技術を用いたのか、私の理解を超えているよ」
「しかし冬月殿。大きさの問題であれば、ある程度は我々宇宙人の技術でどうにかなるかもしれないでありますよ?
 原理さえわかっていれば、我輩にも少しは構造を理解できる芽が出てくるであります。
 我輩こう見えても発明のまねごとぐらいはやった事もあるのでありますよ。
 さすがに我輩1人では心許ないでありますが、ドロロやタママの知恵も借りればあるいは……」

 ケロロのその話を聞いて冬月はあごに手をあて、考えながらこう言った。

「……そうか。そうだったな。
 君は宇宙人で、しかもあの夢成長促進銃を作ったテクノロジーを持っていたんだったな。
 そうか、もしかすると君たちの協力があれば……
 いや、君たちだけでなく高町君や他の世界の人間の知恵も借りればこの首輪を無力化する事ができるかもしれない。
 正直言ってどこまで見込みがあるかわからんが、できねば我々は終わりなのだからやるしかないな」

 冬月はこれまでに様々な参加者と出会ってその話を聞いてきた。
 だからその経験から、すでにこの島に集められたのが多数の別世界の住人であると理解しつつあった。
 ただ、ここまでそれをはっきりと意識し、考える余裕がなかったのである。

 この世界が人類補完と関係があろうが無かろうが、今は目の前にある状況を受け入れて対処しなければならない。
 となれば、自分にない知識や技術を持つものの力を借りる事は当然の発想であった。

(首輪を解除する方法を考えねばと思ってはいたが、今まで生き延びるのに必死で考えが及ばなかったな……)

(だが、気付いたからにはその方向で動いていかねばなるまい)

 冬月は心の中でそうつぶやくと、ケロロにも聞こえるように言葉に出して考え始めた。

490脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:25:46 ID:/WCPsINo

「ただ、それには最低でも一度は首輪を分解してみねばならんか……」
「分解でありますか……
 しかし、分解するとなると生きた参加者の首輪を使うわけには行かないでありますな」
「うむ。亡くなった参加者の遺体から首輪を取り外して分解するしかないだろうな。
 高町君などはいい顔をしないかもしれないが、どうしても必要な事だ。
 こらえてもらわねばなるまい」
「きっと、高町殿もわかってくれるでありますよ。
 まあ、実際に参加者の死体を発見するのがいつになるかもわからないでありますし、
 ゆっくり納得していただけばよいでありましょう」
「そうだな。
 我々はしばらくは休息せねばならない。
 それにドロロ君やタママ君とも合流しておかねば首輪を分解できても解析は難しくなるだろうし、
 他の参加者にも協力を仰げるならそうしたい。
 首輪を分解できるのは当分先の事になるか……」

 そう言って冬月はばしゃりと湯船の湯を両手ですくって顔にかけ、ごしごしと顔を洗う。
 そして、顔の湯をぬぐって一息つくと、ざばっと湯船で立ち上がり、そのまま歩いて湯船を出た。

「そろそろ上がるとしようか、ケロロ君。
 ゆっくり入っていたいのはやまやまだが、状況的にそうも言っておれんだろう」

 それを聞いてケロロもじゃぶじゃぶと泳いで湯船の端にたどり着き、ざばっとお湯から出て言った。

「そうでありますな。
 では温泉はこのぐらいにして、上がるとするでありますか」
「ああ。あまり高町君を1人にもしておけないからね」

 こうして2人は籠に入れて近くに置いてあった服を持って風呂場を出て脱衣所に向かう。
 服を近くにおいておかないと万が一の事態に対応できないので風呂場に持ち込んでいたのである。
 もちろんケロロは服など持っていないが、夢成長促進銃やナイフやスプレーを入れた籠は持ってきている。

 そして、2人は脱衣場で体を拭き、ケロロはそのまま裸で、冬月は元の服を着る。
 ちなみに脱衣場も明かりはほとんどつけておらず、薄暗い。

 着替えながら冬月がふと窓の外を見ると、外はもう完全に日が落ちて暗くなっていた。

491脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:26:22 ID:/WCPsINo

「もうすっかり夜だな。
 休息を取る間、危険な人物が寄ってこなければいいのだが」
「冬月殿の指示で施設の明かりはほとんど消しておいたでありますから、
 そうそう明かりを見てここに来る参加者は居ないと思うでありますが……
 温泉につられて誰かが来ないとは言い切れないでありますなあ」
「明かりを消したのは気休めと思った方がいいだろう。
 それでも、煌々と明かりをつけておくよりはずっといいとは思うがね。
 まあ、もし何者かが侵入してきたらそれはその時に対応するしかあるまい。
 それより、着替えも済んだ事だしそろそろロビーに戻るとするか。ケロロ君」
「了解であります。冬月殿」

 ケロロは敬礼しながら冬月にそう答え、2人は脱衣所を出てなのはが待つロビーへ向かった。







「……ふう。これで調整は万全だね」
『はい。現在の私に可能な調整は全て完了しました』

 冬月とケロロが温泉に入っている頃。
 薄暗い温泉施設のロビーでバリアジャケット姿のなのはとマッハキャリバーが会話していた。

 もう温泉に入っているなのはは警戒のために残ったのだが、この時間を利用してデバイスの調整を行っていたのだ。
 ズーマとの戦闘の際にも調整はしていたが、しょせん急場しのぎである。
 2人が温泉に入って無防備になっている今、なのはだけでも万全の状態にしておかねばならない。

 とは言え、前衛のスバルと後衛のなのはでは戦闘スタイルに大きな違いがある。
 そのため、調整した今でも100%の力を発揮するとは行かないが、かなり戦いやすくはなっただろう。

 冬月の発見したノートパソコンやケロロが発見したDVDも今はデイパックに入れてここに置いてある。
 風呂に入っている時に何かあった場合に備えての事である。
 そして、2人が風呂から上がったらまたこのロビーに集合する予定だ。

492脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:27:00 ID:/WCPsINo

「リボルバーナックルもこれでなんとか使えそうだね」
『ですが、現在のMs.高町の体格では格闘戦はお勧めできません。
 リーチもパワーも、そして物理耐久力も著しく低下しています』
「わかってる。できるかぎり砲撃向けに調節したし、これで殴り合いをするつもりはないよ。
 今の私じゃ、魔法の補助と防御に使うぐらいだね」

 なのはのバリアジャケットは9歳の頃使っていたものに変わっている。
 これは下着を履いていないのでミニスカートは(乙女的な意味で)危険すぎると判断したためである。
 また、デザイン的にも今使っているジャケットを縮めるよりこちらの方がいいだろうと考えての事でもあった。

 ただし、昔と違ってその両手には頑丈そうな籠手がはめられ、両足にはローラーブーツをはいている。
 右手の籠手はマッハキャリバー内蔵のリボルバーナックル。
 左手の籠手はケロロが拾ってきたリボルバーナックル。
 両足のローラーブーツはマッハキャリバーの本体である。

 正直言うとリボルバーナックルは今のなのはの小さな手には大きすぎるのだが、サイズを調節して装着している。
 それでもやはりごつすぎる印象は否めないが、デバイスとして、防具としては役に立つだろう。

「どっちかというとローラーブーツを使いこなせるかどうか心配かな。
 まあ、できる限りやってみるけどサポートはよろしくね、マッハキャリバー」
『お任せ下さい。ウィングロードの自動詠唱も含め、ある程度はこちらでコントロールできます』
「うん。じゃあバリアジャケットは解除しようか。
 左のリボルバーナックルも収納できる?」
『はい。それではバリアジャケットを解除します』

 マッハキャリバーがそう告げると同時になのはの姿はバリアジャケットから温泉の浴衣姿に一瞬で戻る。
 それほど膨大ではないにしてもバリアジャケットの維持には魔力を消費する。
 必要のない時には解除しておいた方がいいのだ。



 とりあえず戦闘準備が整って、なのはは一息ついて外の様子を伺う。
 外はすっかり日が落ちて暗くなり、視界はかなり悪い。
 だが、ロビーもかなり薄暗いため、少しは外が見やすくなっている。

493脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:27:34 ID:/WCPsINo

 冬月の提案で3人は温泉施設全体の明かりを暗くしておいた。
 そのため、このロビーもかなり暗くはなっているが、それでも字が読める程度の明るさはかろうじて保っている。
 少々不便ではあるが、どうせ休息を取るのだから、問題ないだろうという判断であった。

「これからの事……考えなきゃね……」

 なのははそうつぶやいて自分の首輪を触る。
 この首輪を外さなければ自分達に勝ち目はない。
 冬月たちにはまだ相談していないが、2人が風呂から出たら話してみようと思う。

 残念ながらはっきりとはわからないが、首輪からは特徴的な魔力波動を感じる。
 冬月やケロロと話し合えば、少しは何か道が開けるかもしれない。
 しかし、それでもやはりネガティブな思考がなのはの頭に浮かんでくる。

(首輪を外す方法なんて見つかるんだろうか? 主催者たちがそんな事を許すとも思えないし)

(でも、なんとかしなきゃ。諦めないって決めたもの。絶対になんとかなる。してみせる)

(幸い私は1人じゃない。冬月さんやケロロが一緒に居てくれる。だから、絶対負けない。負けられない!)

 そう考えながら、外からなるべく姿を見られないように隠れてロビーの窓から外の様子を伺うなのは。
 その小さな胸に宿る決意の炎はまだ小さいが、少しずつ確実に強さを増していた。

 だが……

(それはともかく……やっぱり、ちょっとスースーするかな……)

 一方でそんな事も考えてしまうなのはであった。
 人間、どんなときでもシリアスに徹するのは難しいようである。

494脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:28:26 ID:/WCPsINo
【G-2 温泉内部/一日目・夜】

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】9歳の容姿、疲労(中)、魔力消費(中)、小さな決意
【服装】浴衣+羽織(子供用)
【持ち物】基本セット(名簿紛失)、デイパック、コマ@となりのトトロ、白い厚手のカーテン、ハサミ、
     ハンティングナイフ@現実、
     マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
     リボルバーナックル(左)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     SOS団創作DVD@涼宮ハルヒの憂鬱、ノートパソコン
     血で汚れた管理局の制服、女性用下着上下、浴衣(大人用)
【思考】
0、絶対なんとかしてみせる。
1、冬月、ケロロと行動する。
2、一人の大人として、ゲームを止めるために動く。
3、ヴィヴィオ、朝倉、キョンの妹(名前は知らない)、タママ、ドロロ、夏子たちを探す。
4、冬月とケロロに首輪の外し方を相談してみる。
5、掲示板に暗号を書き込んでヴィヴィオ達と合流?
6、トトロとも合流できたらいいけど……


※「ズーマ」「深町晶」を危険人物と認識しました。ただしズーマの本名は知りません。
※「ギュオー」「ゼロス」を危険人物と認識しました。
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※夢成長促進銃を使用し、9歳まで若返りました。

495脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:28:57 ID:/WCPsINo

【冬月コウゾウ@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】10代半ば、短袖短パン風の姿、疲労(中)、ダメージ(中)、腹部に刺し傷(傷は一応塞がっている)、決意、温泉でつやつや
【服装】短袖短パン風の姿
【持ち物】催涙スプレー@現実、ジェロニモのナイフ@キン肉マン
【思考】
0、今は休息を取ろう。
1、ゲームを止め、草壁達を打ち倒す。
2、仲間たちの助力になるべく、生き抜く。
4、夏子、ドロロ、タママを探し、導く。
5、なのはと共にヴィヴィオ、朝倉、キョンの妹(名前は知らない)を探す。
6、タママとケロロとなのはを信頼。
7、首輪を解除するためになるべく多くの参加者の力を借りたい。
8、トトロとは会えれば会ってみてもいいか……
9、後でDVDも確認しておかねば。


※現状況を補完後の世界だと考えていましたが、小砂やタママのこともあり矛盾を感じています
※「深町晶」「ズーマ」を危険人物だと認識しました。ただしズーマの本名は知りません。
※「ギュオー」「ゼロス」を危険人物と認識しました。
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※夢については、かなり内容を思い出したようです。
※再び夢成長促進銃を使用し、10代半ばまで若返りました。





【ケロロ軍曹@ケロロ軍曹】
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、身体全体に火傷、温泉でほかほか
【持ち物】スタンガン@現実、ジェロニモのナイフ@キン肉マン、夢成長促進銃@ケロロ軍曹
【思考】
0、今は休息を取るであります。
1、なのはとヴィヴィオを無事に再開させたい。
2、タママやドロロと合流したい。
3、加持、なのはに対し強い信頼と感謝。何かあったら絶対に助けたい。
4、冬樹とメイの仇は、必ず探しだして償わせる。
5、加持の仇も探して償わせたいが、もし犯人がタママだったら……
6、協力者を探す。
7、ゲームに乗った者、企画した者には容赦しない。
8、掲示板に暗号を書き込んでドロロ達と合流?
9、トトロにサツキの事を伝えてやりたい。
10、後でDVDも確認したい。


※漫画等の知識に制限がかかっています。自分の見たことのある作品の知識は曖昧になっているようです

496 ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:32:31 ID:/WCPsINo
以上です。

書いておいてなんですが、前編だけで終わっていてもいいような気もします。
でも書いてしまいました……すいません。

497脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:09:20 ID:UOrY/ZqE



「こ……子供になっちゃった……?」
「ケロ〜! 高町殿〜!!」

 ここはG−2エリアにある温泉の施設の中。
 ちょっとしたトラブルから、夢成長促進銃によってなのはは子供の姿になってしまった。
 そんな彼女を前にして呆然とするケロロ。
 そしてさすがの冬月もこの異常事態に驚きを隠せなかったが、今はそれどころではない。
 放送はもう始まっているのだ。

「高町君、ケロロ君。とにかく放送を聞くんだ。
 私は要点をメモしておくが、君たちもよく聞いておいて後で確認してくれ」

 冬月は2人にそう言って手に持っていた3枚のDVDを手近な机の上に置き、デイパックを開いた。
 そして支給されている基本セットの中にある紙と鉛筆を取り出し、メモを取る準備をする。

「あ、はいっ。わかりました」
「わ、わかったであります、冬月殿!
 マッハキャリバー殿もよろしくであります」
『了解です。放送の内容を記録します』

 なのはとケロロが、そしてマッハキャリバーが冬月にそう答えて放送に耳を傾ける。
 なのはは9歳の頃の姿になって夢成長促進銃を持ったまま。
 ケロロは濡れた床で滑って転んだあと、立ち上がろうと起き上がった所だ。

 ちなみになのはは子供になったせいで浴衣がだぶだぶになっていて、とっさに胸元を押さえている。
 ここには老人と宇宙人ガエルしかいないので、誰も気にしていないのだが、乙女のたしなみと言った所だろうか。

 放送では草壁タツオがなにやら前置きを語っていたが、3人はあまりそれを聞く事はできなかった。
 だが、重要な事は言っていなかったようなので、3人は禁止エリアの発表に意識を集中する。

「19時、F−5。
 21時、D−3。
 23時、E−6か……」

 そうつぶやきながら冬月はメモを取っていく。
 今回はかなり島の中央が指定されたようで少し気になったが、今はそれを確認する暇はない。
 放送はまだ続いており、次は死亡者が発表されるはずだったからだ。

498脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:09:51 ID:UOrY/ZqE

『次はいよいよ脱落者の発表だ、探し人や友人が呼ばれないかよく聞いておいた方がいいよ。
 後悔しない為には会いたい人には早く会っておく事だよ―――せっかくご褒美を用意してあげたんだから、ね?』

 そんな草壁タツオの前置きには耳を貸さず、冬月は死亡者の名前だけを聞き逃さないように集中する。
 なのはとケロロも思う所はあるのだろうが、今は黙って耳を傾けていた。

 だが、なのはの幼い顔には悲痛な表情がはっきりと浮かんでいる。
 何しろ、あの火事の中からヴィヴィオという少女とその仲間が生きて逃げ出せたかがこれでわかるはずなのだ。
 無理もない事だと思いつつ、冬月もまた、加持やアスカ、シンジ、タママ、小砂らの無事を祈る。

 そして、死亡者の名前が次々に発表されていく。

『朝比奈みくる』

「ん? この名前は……」

 そうつぶやいた冬月になのはとケロロがどうしたのかと視線を送る。
 冬月は掲示板に目を通していたため、この名前を知っていたのだが、今は放送の最中である。
 説明は後でいいだろうと判断し、黙って首を振っておく。

『加持リョウジ』

「加持君が……?」
「ケ、ケロ〜〜! 加持殿っ……!!」
「加持さんっ……!!」

 加持の名前があげられ、3人が全員思わず声を上げる。

『草壁サツキ』

「…………」

 知っていたとは言え、サツキの名前を聞くと3人の間に重苦しい空気が流れた。

『小泉太湖』

「この名前、小砂君か!?」
「そんな。小砂ちゃんまで……」

 冬月となのはがつぶやく。
 貴重な協力者だった。守るべき人の1人だった。
 あの小さくともたくましい少女にはもう会う事はできないのか。

499脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:10:21 ID:UOrY/ZqE

『佐倉ゲンキ』

 3人は反応しない。
 誰も知らない人物だったようだ。

『碇シンジ』

「シンジ君もか……!」

 冬月が再び小さく声を上げる。
 とうとうシンジと冬月はこの島で会えないまま、永遠の別れを迎えてしまった。

(碇……すまない。お前とユイ君の息子を守ってやれなかった……)

 冬月は心の中でそうつぶやき、無念そうに顔を伏せる。

『ラドック=ランザード』

『ナーガ』

 この2名は続けて誰の知り合いでもなかったようだ。

『惣流・アスカ・ラングレー』

「そうか……アスカ君も……」
「アスカ殿が……」
「アスカ……」

 3人ともアスカには複雑な思いがあるが、死を望んではいなかった。
 むしろ冬月やなのはにとってはいまだにアスカは保護すべき対象ですらあったのだ。
 だが、そのアスカもどこかで命を落とした。また救えなかったのだ。

『キョンの妹』

 その名前には誰も反応しない。
 そして、その名を最後に今回の死亡者発表は終わったようだった。

『以上十名だ、いやあ素晴らしい!
 前回の倍じゃないか、これなら半分を切るのもすぐだと期待しているよ。
 ペースが上がればそれだけ早く帰れるんだ、君達だってどうせなら自分の家で寝たいよね?』

500脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:10:52 ID:UOrY/ZqE

「なんという言いぐさでありますか……!」
「ケロロ君。気持ちはわかるが放送が続いているから今はこらえてくれ……」
「ケ、ケロ〜……」

 その後の草壁タツオの話は、主催者に反抗して命を落とした参加者が居たというものだった。

『念の為言っておくけど僕達のかわいい部下も対象だよ?
 あと逆らった人が敵だから自分は無関係というのも無し、その場に居た人は全員連帯責任さ。
 勝手な一人の所為でとばっちりを食らうなんて君達も嫌だろう?
 愚かな犠牲者が二度と出ない事を切に願うよ。』

『話が長くなったけどこの勢いで最後まで頑張ってくれたまえ! 六時間後にまた会おう!』

 こうして第3回、18時の放送は終了した。







「加持さん、サツキちゃん、小砂ちゃん、アスカ……」

 風呂場の脱衣所で、なのはが死んでしまった知り合いの名前をつぶやく。

 放送の後すぐに禁止エリアや死亡者の確認をしてから、彼女は改めて小さい浴衣に着替えに来たのだ。
 さっきまで着ていた浴衣は大きすぎて体に合わず、万が一の場合にも邪魔になるからだ。

 だが、着替えに来た理由はもう一つある。
 少しだけ落ち着いて考える時間が欲しかったのだ。
 あまりにも多くの死亡者。守れなかった人たち。
 それらを受け入れ、気持ちと考えを整理する時間がなのはには必要だった。

「ヴィヴィオや朝倉さんやスバルが生きていた事は嬉しいけど、喜ぶわけにはいかないよね。
 あんなにたくさんの人が亡くなっているんだから。
 それに、あの小砂ちゃんまでが……」

 だぶだぶの浴衣を脱いで小さいサイズの浴衣に袖を通しながら、なのはは悲痛な面持ちでつぶやく。
 自分の腕の短さに少し違和感を感じたが、今はそれよりも死んでしまった人たちの事に意識が向かっていた。

501脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:11:34 ID:UOrY/ZqE

 例えば、なのはを師匠と呼んで慕ってくれた小砂。 
 サツキが冬月を刺した場所で別れてから行方が知れなかったが、あの後一体何があったのか。
 一体どんな死に方をしたのだろう。
 やはり誰かに殺されたのか。
 自分の居ない所で起こった事はわからない。
 側にいない人は守れない。何もできない。後から結果を知って後悔するだけ。

 これからもこんな事を繰り返すのか。
 知らない所で死んでいく人の名前を放送で告げられて後悔して。
 目の届く場所にいる人を守ろうと必死になって、守れなくて後悔して。
 でも事態は何も変わっていなくて。
 それどころか悪くなっていく一方で。

「このままじゃ……いけないんだ。
 ちっとも前に進んでない。
 時間が流れて死ぬ人は確実に増えていくのに、事件の解決には少しも近づいてない。
 ただみんなを守るだけじゃ足りないんだ。
 ここからみんなで生きて元の世界に帰るには、あの主催者たちを何とかしなきゃ。
 でも、一体どうすればいいのかな、マッハキャリバー……」

 浴衣の前をあわせながら、なのはは胸元にぶら下がっている青いクリスタルのペンダントに話しかける。
 なのはが風呂から上がったので、マッハキャリバーは再びなのはが持つ事になったのだ。

 なお、夢成長促進銃は冬月に預け、代わりになのははケロロからリボルバーナックルを預かっている。
 左手用のリボルバーナックルは、右手用と一緒にマッハキャリバーの中に収納する事ができたからである。

 そして、なのはの問いかけに冷静な声で答えるマッハキャリバー。

『主催者を打倒するには我々の状況はあまりにも不利と言えます。
 しかし、それでもなお戦う事を選ぶのであれば、
 まず首輪を外すか無力化する方法を考える事が先決ではないでしょうか』
「そう……だね。
 この首輪がある限り、私たちは逆らえない。
 戦うどころか逃げる事さえできないし、逆らったらあの男の子みたいに液体に……」

 首輪に触りながらなのはは小さくため息をつく。

502脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:12:20 ID:UOrY/ZqE

『まだ道が断たれたと決まったわけではありません。
 及ばずながら私も微力を尽くします。
 元気を出して下さい。Ms.高町』
「マッハキャリバー……ありがとう。
 うん。私、諦めたりしない。絶対ヴィヴィオを、みんなを守って、ここから助け出してみせるよ」

 そう言いながらなのはは浴衣の腰ひもを結び、その上に温泉に置いてあった紺色の羽織を着る。
 しばらくはこの格好で居る事になりそうなので、浴衣一枚ではさすがに体を冷やすからだ。

 そして、着替えを終えたなのはは改めて鏡を見る。
 そこに写っているのは温泉備え付けの浴衣を着た小さな女の子。
 エースオブエースと呼ばれた自分ではない。
 なのはな思わずくすりと小さく笑ってしまった。

「こんな時に、こんな事で笑ってたら不謹慎かな。
 でも、なんだか変な感じ。私ってこんなに小さかったんだね」

 そうつぶやいてなのはは鏡の前でくるっと回ってみたりポーズを取ってみたりする。

 しかし、動いてみて実感したのだが、腰のあたりに微妙に違和感がある。
 体が小さくなったせいで相対的にショーツがかなり大きくなっており、ぶかぶかなのだ。

 ――ちなみに、胸がぺったんこになっているので、すでにブラジャーは外している。

「……ずり落ちて来そうでいやだな。
 いっそ履かない方がいいのかな?
 万が一戦闘中にずり落ちてきてそれが元で死んじゃったりしたら冗談にもならないし」
『バリアジャケットをズボン型に変更すれば対応できるとは思いますが……』
「そうだけど、ずっとバリアジャケットを装着してもいられないし……」
『休息を取ろうという時には特にそうですね。
 Ms.高町が気になさらないのであれば、私としてもこの状況で大きすぎる下着は履かない事を推奨しますが』
「う〜〜ん……」

 乙女の羞恥心と現実の板挟みになってなのはは少し迷ったが、しばらくうなった末に決断する。

503脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:12:50 ID:UOrY/ZqE

「決めた! 脱いじゃう!
 浴衣の時は下着つけないって聞いた事あるし、こんな状況で気にする人いないよね、きっと!」

 そう言ってなのはは一旦羽織を脱ぐと、腰ひもをほどいて浴衣をはだけてショーツを脱ぎ捨てる。
 下着を履かなくても別に害は無いのだが、心理的に違和感は拭えない。
 しかし、万が一にもパンツがずり落ちたせいで死ぬのは嫌だし、せいぜい大人に戻るまでの辛抱だ。
 なのははそう考えて、顔を少々赤くしつつ、また浴衣の前を合わせて腰ひもを締め直す。
 そして、最後にまた羽織を着て着替えは完成だ。

「うん。大丈夫。たぶん一見しただけじゃわからない……よね?」
『そうですね。それに、子供の体型であればさほど気にする必要はないかと思われます』
「うん。ただ、元に戻る時は気をつけないとね……」

 なのははそうつぶやきながら改めて自分の姿を鏡で確認する。
 戦闘などで動き回ればひどく危険な状態になりそうだが、戦闘になればバリアジャケットに着替えるはずだ。
 今のなのはのバリアジャケットはミニスカートで危険だが、バリアジャケットの変更は可能である。
 少女時代に使っていたバリアジャケットならスカートは長いので、おそらくなんとかなるだろう。



 そして、ひとしきり自分の姿をチェックして一息つくと、なのははまっすぐに立って鏡に写る自分の姿を見つめる。

 そうやって幼い頃の自分の姿を見ていると、その頃に出会った幼いフェイトの姿が自分の横に見えるような気がした。
 あれだけ泣いたのに、死んでしまった親友の事を思うとまた目頭が熱くなって涙が出そうになる。
 だが、なのははそんな感情を振り払うようにぶんぶんと首を振り、ぐっと両拳を握って気合いを入れた。

「よしっ! 戻ろう!
 まだまだ、私は元気なんだもん。くよくよしてる場合じゃないよ。
 行こう、マッハキャリバー!」
『はい。Ms.高町』

 そう言ってなのはは脱いだ下着の上下と大人用の浴衣を抱えて脱衣所を出た。
 なんとなく口調が子供っぽくなっているのは鏡で今の自分の姿を確認したせいかもしれない。
 しかし、そのおかげでこれまでの自分と今の自分を切り替える事ができたとも言える。
 温泉でいくらか回復できた事もいい方向に作用したのかもしれない。
 いずれにせよ、子供になってしまった事は、なのはにとって悪い事ばかりでもなかったようだ。

504脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:13:20 ID:UOrY/ZqE

(フェイトちゃんも、きっと私に頑晴れって言ってくれる)

(ヴィヴィオを。スバルを。この島に連れてこられた人たちみんなを助けて欲しいって願ってる)

(だから行くよ私。負けない。絶対諦めない。最後までくじけない)

(フェイトちゃん。だから、ヴィヴィオを、みんなを、……そして、私を見守っていて下さい――)

 そんな思いを胸に、冬月とケロロの元に向かうなのはの背を、窓から入った夜風が優しく押す。
 その風から自分を励ますフェイトの想いを感じたような気がして、小さな少女は少し表情を和らげた。







「加持殿……さぞや無念だったでありましょう。一体どこの誰が加持殿を!
 しかし、我輩きっと犯人を見つけて償わせるであります。
 冬樹殿やメイ殿を殺したヤツらと同じように……
 だから、草葉の陰から見ていて欲しいであります!!
 ああ、だけど一緒にいたタママは無事なんでありましょうか。心配であります」

 なのはが着替えに行った後、温泉施設のロビーでケロロが無念そうにつぶやいた。
 ケロロが命の恩人とも思っている加持が死んだのだ。
 その怒りは冬樹やメイを殺した犯人へのそれと比べても勝るとも劣らぬものなのだろう。

 そんなケロロを少し心配そうに冬月が見ている。

(ケロロ君は気付いていないのか? タママ君が加持君を殺したという可能性に……)

 ケロロもタママと加持の間がうまく行っていない事は知っていた。
 だからこそ彼らを二人っきりにして話し合わせ、仲良くなってくれる事を期待していたのだ。
 だが、その後2人は転移装置によって共にどこかへ消えてしまった。
 そして加持の死。

 もし2人の事をよく知らない人ならば、タママが加持を殺したと考えたかもしれない。
 だがケロロは、2人が喧嘩をしていたとしても殺し合う事はないと信じて疑っていないのだろう。

 あるいは冬月のようにマッハキャリバーから2人が消える直前まで争っていた事を聞いていれば違ったかもしれない。
 でも、冬月はまだその事をケロロには伝えていないのだ。

505脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:13:51 ID:UOrY/ZqE

(仮に、犯人がタママ君だったとすると、タママ君への対応は難しくなる)

(しかし、タママ君はタママ君なりにケロロ君やサツキ君を守ろうとしていたのだろうな……)

 タママが思い違いからそんな行動を取ったのなら説得して罪を理解させる事が正しい道だろう。
 だが、冬月にも加持が何かを企んでいた可能性は否定できないのだ。
 彼は基本的には頼れる男だったが、有能であるがゆえに信用ならないという面も確かにあった。
 加持がサツキの支給品を盗んだというタママの言葉も嘘や見間違いとは限らない。
 だとすれば、充分疑う余地はある。

(だが、たとえそうだったとしても、加持君を殺して決着をつけるという方法を選ぶべきではない)

(少なくとも私にとってはそれが正しい。だが、味方に害が及ぶ前に何とかしようという考えもひとつの正解だろう)

 だから冬月はもしタママが犯人でもタママを罰する事には気が進まなかった。
 たとえ考えが違っても、タママは大事な仲間なのだ。
 やり方に問題があるとしても、望みは同じだったはずだ。
 今冬月達に必要なのは固く結びついた絆である。
 冷たいようだが、たとえ加持の死が原因であっても、できる事なら仲間同士で争う事は避けたいのだ。

(絆か。タママ君が加持君を殺したとして、それを隠して絆を結ぶなどとは。ただの欺瞞なのではないか……)

(いかんいかん。いつの間にかタママ君が加持君を殺したと決めつけている。私とした事が、軽率だな)

 何もタママが加持を殺したと決まったわけではないのだ。
 ならば今はタママが殺したのではないと信じてやるべきだろう。
 もしも再開できてその時に何か明確に疑わしい事があったならその時に考えればいい。
 今からタママを擁護する事を考えるなど、タママに対しても失礼だ。



「冬月殿。何か考え事でありますか?」

 冬月がタママについての考えに区切りをつけようとしていると、ケロロが声をかけてきた。
 どうやら難しい顔をして考えていたので心配されてしまったようだ。

(いかんな。顔に出てしまっていたようだ。なるべくケロロ君には余計な心配をさせないほうがいい)

506脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:14:22 ID:UOrY/ZqE

 冬月はそう考えて、とっさに平静を装ってケロロに答えた。

「……いや、たいしたことではないんだ。
 これから考えねばならない情報の事を頭の中で整理していただけだよ」
「そうでありますか。
 確かにこれからどうするべきか。考える事は多いでありますなあ」

 どうやらケロロにはそんな冬月の考えは気取られなかったようだ。
 冬月は長年の人生経験から身につけた厚い面の皮を今はありがたく感じつつ、言葉を続ける。

「ああ。だが、何とかせねばならない。
 このままあの草壁という男の思い通りになどさせられるものか」
「もちろんであります!
 力を合わせて、必ずあの男ともう1人の主催の娘っこをギャフンという目にあわせるでありますよ、冬月殿!」

 ケロロのそんな言葉に冬月は心からの肯定の意を込めて頷いた。

(そうだ。このまま皆の命を、そして私の命をあいつらの好きになどさせてはならんのだ……)

(そのためにできる事は。やらねばならない事はなんだ。考えろ、冬月コウゾウ)

 打倒主催者を叫び気合いを入れるケロロとはまた別のベクトルで冬月も気を引き締めていた。

 戦う力を持たず、特殊な能力もない自分にできる事は考える事だけだ。
 ならばそこに全力を尽くさねばならない。
 冬月はそんな思いを胸に、静かに闘志を燃やすのだった。







 その後、着替えを終えたなのはが温泉施設のロビーに戻り、3人は再びロビーに集合した。
 そこで冬月は、まず2人にノートパソコンの説明を始める。
 ケロロが発見したDVDの事も気にはなったが、内容を見るには時間がかかりそうだった。
 だから一旦その3枚のDVDはデイパックにしまっておき、パソコンの方を優先する事になったのだ。

507脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:14:57 ID:UOrY/ZqE

 ロビーのソファーに座り、パソコンを立ち上げた冬月がまず最初に2人に見せたのは掲示板だった。

「掲示板? こんなものがあったなんて……」
「すでにいくつか書き込みがあるようでありますな」
「うむ。それで、まずこの最初の書き込みを見て欲しい。
 この朝比奈みくるという人物は先ほど死亡者として名前があがっていただろう」

 冬月にそう言われて2人は掲示板の最初の書き込みを読んでみる。
 そこには『朝比奈みくるは主催者の仲間です。あの女を殺してください』と書かれていた。
 ちなみにこの書き込みはシンジによるものだが、冬月たちがそれを知る術は無い。

「この掲示板を見ていたから冬月さんは彼女の名前を知っていたんですね?」
「そういう事だ。ただ、この書き込みが真実かどうかは何とも言えない所だ。
 そもそも主催者の仲間だから殺してくれというのが短絡的すぎる。
 私としては、いささか感情的すぎるという印象を受けるな」
「そうでありますなあ。
 しかし、その朝比奈という方も亡くなってしまったわけであります。
 もしやこの書き込みを読んだ参加者に殺されたのでありましょうか?」
「それもわからないな。
 わからないが、そういう可能性もある。
 掲示板に書き込む時はそういう事も考えておかないと無用の衝突を生みかねないという事だな」
「そう言えば、朝比奈みくるっていう名前はさっきのDVDにもありましたね。
 長門ユキ、朝比奈ミクル、古泉イツキの3人……なぜこの3人なんでしょうか?」
「この3人に何らかの繋がりがあると見る事もできるな。
 そうするとこの書き込みもあながち嘘ではないという事になるが……
 しかし、はっきりした事はあのDVDを見てみない事にはなんとも言えないだろう。
 このパソコンでも見られるかもしれないが……まあ、それは後にしようか」

 冬月の言葉に2人は頷き、さらに掲示板の書き込みを読み進めていった。

「おっ? この書き込みは……ドロロのやつでありましょうか?」
「む? 知っているのかねケロロ君?」

 次の書き込みを見たケロロは、『東谷小雪の居候』という名前にすぐに気付いた。
 東谷小雪というのはドロロが一緒に生活している地球人の少女の名前である。

508脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:15:33 ID:UOrY/ZqE

「この名前からして、ほぼ間違いないでありますよ。
 ドロロは我輩の仲間の中でも特に真面目な男でありますから、
 この書き込みは信用していいと思うであります」
「ふむ。となると、このギュオー、ゼロス、ナーガという3人は危険人物に間違いないというわけか。
 しかし、ナーガはすでに死亡したと先ほどの放送で言っていた。
 となると、我々が知る危険人物は、深町晶・ズーマ・ギュオー・ゼロスの4人。
 それにあの空を飛びミサイルを撃ってきたカブト虫の怪人を加えて5人という事になるか」

 冬月はそう言って、自分をミサイルで攻撃してきた異形の怪人の姿を思い出す。

(あの時はうまく逃げる事ができたが、できれば二度と会いたくはないな……)

「我輩も少しだけその怪人の姿を見たであります。
 体から高熱を放射して森に火を放ったのもそいつでありますよ」
「市街地で激しい攻撃を加えてきた上空の敵も、そのカブト虫の怪人ですよね?」
「状況からすればそうだと考えて間違いないだろうな。
 残念ながら名前はわからないが。
 そう言えば彼は何人かの参加者の事を私に尋ねてきたな。
 あの後色々あったせいで聞かれた名前は忘れてしまったが、確か高町君の事を聞かれたのは覚えている。
 もちろん私は何も教えなかったがね」

 そこで自分の名前が出された事になのはは少し驚く。

「どうして私を……?
 聞かれた他の参加者というのはスバルやヴィヴィオやフェイトちゃんではないですよね?」
「ああ。少なくともそれはなかったな。
 それに、彼の目的を聞き出す事はできなかったが、殺し合いそのものとは違う目的があったように思う。
 とは言ってもそれも私の憶測にすぎないがね。
 結局そこから何かを読み取るのは難しいと言わざるを得ないだろう」
「気になりますけど、今は何もわかりませんね……」

 仕方がないのでとりあえずこの話はここまでにして、3人は掲示板を読み進めていった。

「中・高等学校内に危険人物……これもドロロが言うのでありますから、気をつけた方がいいでありますな。
 と言っても、この書き込みはお昼前のものでありますから、今どうなっているかはわからないでありますが」
「あんな大火事があったからね。
 ところで、ドロロっていう人は生け花が趣味なの?」

 なのはがケロロに尋ねる。
 掲示板の名前の欄に『生け花が趣味の両きき』と書いてあったからだ。

509脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:16:15 ID:UOrY/ZqE

「やつはペコポンですっかり日本の文化に染まってしまったのであります。
 元々暗殺兵だったでありますが、ペコポンに来て忍者にクラスチェンジしてしまったでありますからなあ」
「に……忍者? 忍者ってあの手裏剣を投げたりどこかに忍び込んだりする忍者?」
「そうであります。
 この東谷小雪というのが忍者の少女で、小雪殿に会った事が忍者になったきっかけのようであります。
 あ、誤解の無いように言っておくでありますが、
 暗殺兵だったと言ってもドロロはまったく危険な人物ではないでありますよ?
 自然を愛し、ペコポンを愛し、正座して茶をすするのがお似合いの温厚なヤツであります。
 その上戦闘能力は武装したケロロ小隊の他の隊員4名を一度に相手にできるほどであります。
 もしドロロが一緒に居てくれればかなり心強いでありますなあ」

 『……時々存在を忘れるけど』と心の中でケロロは思ったが、あえて口にはしなかった。

 そして、その後の書き込みは1つだけ。
 古泉という学生服を着た茶髪の男が危険人物だという内容だった。
 古泉イツキもDVDに名前があった1人だが、DVDを見ていないのでそれが意味する所は不明である。
 また、この書き込みも誰が書いたかわからないので、一応心にとめておくだけにしようと言う事で意見が一致した。







「これで一通り読み終わったでありますな。
 しかし、せっかく掲示板があるのなら我輩たちからもドロロに何か伝えたい所であります。
 我輩たちしか知らない言葉を使って暗号を作れば、
 危険人物にバレないように合流する事だってできるかもしれないであります」

 そのケロロの言葉を聞いて、なのはも真剣に考え始める。
 ヴィヴィオと一刻も早く合流したいなのはにしてみれば、わずかな望みも見過ごせないという心境なのだろう。

「そうだね……
 もしヴィヴィオ達がどこかで掲示板の存在を知っていてくれればヴィヴィオ達とも合流できるかもしれない。
 それだけじゃない。スバルとだって……
 でも、ヴィヴィオにも解読できて、危険人物には絶対わからないような暗号が作れるかな?」

 スバルなら多少難しい暗号でも解読してくれるかもしれないが、ヴィヴィオはそうは行かない。
 そのため考え込んでいるなのはに、冬月がアドバイスをする。

510脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:16:47 ID:UOrY/ZqE

「暗号なら、喫茶店で使ったサツキ君の『狸の伝言』を使うという手はあるな。
 ヴィヴィオ君にも解読できるようにとなると、ヒントはなるべくわかりやすくせねばならないが、
 朝倉君も一緒にいるなら気付いてくれるかもしれん」
「おお、その手がありましたな!
 ドロロならばその暗号、気付いてくれそうであります。
 あとは誰の名前を暗号に使うかでありますなあ……
 小雪殿は掲示板に名前が書かれているでありますからやめておくとして、桃華殿かサブロー殿か……」

 ケロロは冬月の提案に賛成らしく、暗号で使う名前を考え始める。
 だが、喫茶店の暗号を知らないなのはは話が飲み込めず、冬月に質問する。

「その『狸の伝言』って、どういうものですか?」
「ある特定の文字を抜くと意味が通じるようにした文章の事だよ。
 喫茶店では『仲間の事は気にしないで』とヒントをつけ、
 私とタママ君の名前の文字を抜くと意味が通じるようにしておいた」
「なるほど。『た』だけを抜くような簡単な暗号なら気付かれやすくても、
 それだけたくさん字を抜くのは見抜かれにくいですね。
 ヴィヴィオやスバルが知っている人なら……はやてちゃんかアイナさんあたりかな?」

 狸の伝言の説明を受けてなのはも納得したらしく、暗号を考え始める。
 だが、冬月は少し申し訳なさそうにそれを遮って言う。

「確かに掲示板に暗号を書き込んで合流を目指すのは悪くないのだが、
 うまい暗号を考えるには少し時間がかかるだろう。
 だからそれは後回しにして欲しいんだ。
 もう一つ、検討したい事があるのでね」







 冬月はそう言ってタッチパッドを操作し、掲示板から画面をトップページに戻してkskコンテンツをクリックする。
 そうするとディスプレイにキーワード入力の画面が表示される。
 そして、その画面の下の方には小さくヒントが表示されていた。

511脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:17:21 ID:UOrY/ZqE

「冬月さん。これは……?」

 冬月が開いた画面を見て、なのはが尋ねる。

「この画面から先に進むにはキーワードを入力しなければならないようなんだ。
 キーワードのヒントはここに小さく、背景に近い色で表示されているんだが、私にはさっぱりわからなくてね」
「どれどれ。『ケロロを慕うアンゴル一族の少女の名前(フルネームで)』
 ……って、なぜ我輩の事がヒントになっているでありますか?」
「それは私にもわからない。
 だが、わざわざキーワードを入力させるのだから、君たちにだけ公開されている情報があるのかもしれないな」
「我輩たちにだけ、でありますか?
 一体なんでありましょうか。まあ、とにかく入れてみるであります」

 ケロロはそう言って考えを打ち切り、キーワードを入力してみる事にした。
 案ずるより産むが易し。やってみればわかる事を考えていても仕方がない。

「えー、ア・ン・ゴ・ル・点・モ・アっと。
 ゲロゲロリ。何が出てくるか見てのお楽しみでありますな。
 あ、それポチっとな」

 答えを入力し終わったケロロがエンターキーを押し、画面が切り替わる。
 そして、そこに現れたものとは――

512脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:17:57 ID:UOrY/ZqE


【G-2 温泉内部/一日目・夜】

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】9歳の容姿、疲労(中)、魔力消費(中)、温泉でほこほこ、小さな決意
【服装】浴衣+羽織(子供用)
【持ち物】マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     リボルバーナックル(左)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     ハンティングナイフ@現実、女性用下着上下、浴衣(大人用)
【思考】
0、役に立つ情報だといいけど……
1、冬月、ケロロと行動する。
2、一人の大人として、ゲームを止めるために動く。
3、ヴィヴィオ、朝倉、キョンの妹(名前は知らない)、タママ、ドロロたちを探す。
4、掲示板に暗号を書き込んでヴィヴィオ達と合流?


※「ズーマ」「深町晶」を危険人物と認識しました。ただしズーマの本名は知りません。
※「ギュオー」「ゼロス」を危険人物と認識しました。
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※夢成長促進銃を使用し、9歳まで若返りました。

513脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:18:47 ID:UOrY/ZqE

【冬月コウゾウ@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】元の老人の姿、疲労(大)、ダメージ(大)、腹部に刺し傷(傷は一応塞がっている)、決意
【服装】短袖短パン風の姿
【持ち物】基本セット(名簿紛失)、ディパック、コマ@となりのトトロ、白い厚手のカーテン、ハサミ
     スタンガン&催涙スプレー@現実、ジェロニモのナイフ@キン肉マン
     SOS団創作DVD@涼宮ハルヒの憂鬱、ノートパソコン、夢成長促進銃@ケロロ軍曹
【思考】
0、果たして何が出てくるかな。
1、ゲームを止め、草壁達を打ち倒す。
2、仲間たちの助力になるべく、生き抜く。
3、夏子、ドロロ、タママを探し、導く。
4、タママとケロロとなのはを信頼。
5、首輪を解除する方法を模索する。
6、後でDVDも確認しておかねば。


※現状況を補完後の世界だと考えていましたが、小砂やタママのこともあり矛盾を感じています
※「深町晶」「ズーマ」を危険人物だと認識しました。ただしズーマの本名は知りません。
※「ギュオー」「ゼロス」を危険人物と認識しました。
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※夢については、断片的に覚えています。



【ケロロ軍曹@ケロロ軍曹】
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、身体全体に火傷
【持ち物】ジェロニモのナイフ@キン肉マン、
【思考】
0、一体何が見られるんでありましょうか?
1、なのはとヴィヴィオを無事に再開させたい。
2、タママやドロロと合流したい。
3、加持となのはに対し強い信頼と感謝。何かあったら絶対に助けたい。
4、冬樹とメイと加持の仇は、必ず探しだして償わせる。
5、協力者を探す。
6、ゲームに乗った者、企画した者には容赦しない。
7、掲示板に暗号を書き込んでドロロ達と合流?
8、後でDVDも確認したい。
9、で、結局トトロって誰よ?


※漫画等の知識に制限がかかっています。自分の見たことのある作品の知識は曖昧になっているようです

514 ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:22:32 ID:UOrY/ZqE
2回目の仮投下、終了です。
いや、ただ縮めただけじゃんって言われるとその通りすぎて何も言えませんが、
一応これだけ書いておけば「放送を聞いてすぐの反応」と「掲示板への感想」は消化できたのではないかと……

515なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:36:30 ID:rXOZgaF.

『スバル! 山の向こうで凄い煙が上がってるですぅ!』

偵察から戻ってきた性悪妖精ことリインフォースのその言葉でその場にいる全員に緊張が走った。
まっくろくろすけことウォーズマンが声を投げかける。

「リインよ、何処が燃えていたかは判るか?」
『ここからじゃ煙しか見えなかったです。……山頂の神社からならもっとよく見えると思いますけどぉ』
「フウム……その山頂の神社は見えたか?」
『はい、少し行った所に階段があって、その上にそんな感じの建物が建ってました』

性悪妖精のその報告を聞き終えるとウォーズマンが勢いよく俺たちの方へと振り向いた。元気な事だ。

「聞いてのとおり、神社はもうすぐだ。スバル、そしてキョンよ。歩けるな?」
「はい!」

と、力強く答えるスバルだが、その動きはどうにも鈍い。
まあ……動きが鈍いのは俺も一緒なのだが。

俺たちは疲労していた。

ウォーズマンに痛めつけられた俺と、ボコボコにされ(まあ半分は俺のせいなんだが)疲労しているスバル。
そんな身体での山登りなので、俺たちの移動速度はどうしても鈍かった。

そんなこんなで結局、俺たちは放送までに神社にたどり着く事が出来なかった。
性悪妖精が戻ってきてから数分も歩かないうちに、辺りには草壁のおっさんの声が響いたのだ。



「グ……な、なんて事だ〜〜っ。草壁サツキとゲンキが死んでしまったと言うのか……」

がっくりとうなだれるウォーズマンの姿を見て、フリーズしていた俺の思考もようやく再起動する。
そしてその頃になって俺の頭にもようやく事態が飲み込め始めた。
そうだ、いま確かに草壁のおっさんは朝比奈さんと俺の妹の名前を呼んだんだ。
つまりこれは……朝比奈さんと妹が死んだという事なのだろうか?
ハルヒの時のように、あっさりと。

原因はなんだろうか。二人はどんな風に死んでしまったのだろうか?
……いや待て、朝比奈さんと妹が死んだ理由? 
俺は理由を知っている気がする。
なんだっけな。確か、ああそうだ――俺が二人の殺害を頼んだんじゃないか。

『だから、雨蜘蛛さん…もしこの二人に出会ったら……二人を…』
『みなまで言うな――お前さんの望み、この雨蜘蛛様が叶えてやろう』

そうだ、あの時の約束通りに雨蜘蛛のおっさんが二人を殺してくれたのだ。
ははは……運良く雨蜘蛛のおっさんは二人に出会えたんだのだろう。
俺自身が立て続けに妹・ハルヒ・古泉と出会えたんだ。そんな偶然が起こっても今更驚かないぞ。

「…………」

眩暈がする。

516なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:37:02 ID:rXOZgaF.

「キョン君!?」

ああ……俺をそう呼ぶのは誰だ?
朝比奈さん? それともあいつか?
いやいや、どうした俺? 冷静になれ。二人はもう死んだんだ。
草壁のおっさんがそう言ったんだから間違いない。
もう俺がそんな風に呼ばれる事はないはずなんだ……二度と。

眩暈が――する。

なんだ、これは?
まるで、まるで混乱しているみたいじゃないか。
馬鹿げている。二人を殺してくれと頼んだのは俺だ。
自分で頼んだ事が実現してショックを受けるなんてどうかしている。
俺はこう思うべきだ。
『雨蜘蛛のおっさんのお陰で二人を殺さなくて済んでよかった』ってな。
なあ、そうだろ? あとはもう生き返るだけで、二人はこれ以上苦しまないで済むんだ。
喜べよ俺。なんでこんなに胸が苦しいんだ。

これじゃあまるで――。

【ああ、そうさ。後悔してるんだよ】

唐突に聞こえたその声に俺は凍りついた。視線だけを動かして声の方向を見やると。
……そこには『俺』が居た。

【だから言ったんだ。今のお前じゃ悪魔になんてなれないって】
「なんで、お前が……」

思わず呻いてしまう。
二度と見たくなかった顔がそこにはあった。

目の前には俺そっくりな『俺』が俺を見下ろしていた。

おいおい。なんなんだよこれは。俺はいつの間に眠っちまったんだ?
よりによってなんでこいつがここに居る?

「なんでお前がここに居る。大体、悪魔になれないだって?
 はっ、お前も知ってるだろ? 俺はあれから古泉を罠に嵌めて、ナーガのおっさんを殺した。
 もう十分悪魔なんだよ。……そんな俺がいまさら何を後悔するって言うんだよ」
【よりによってあの雨蜘蛛のおっさんなんかに殺人を依頼しちまった。それを後悔している……違うか?】

その言葉に――胸が、軋む。

「そ、そんな事は――」

ない。
と……どうしても口に出しては言えなかった。
理性はそう言い切りたかったのだが、感情が、口がついてこない。
そう、感情。
俺は初めて理解する。さっきからこの胸をギリギリと締め付けるような痛みの正体を。

「そんな馬鹿な……なんで今更」

517なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:37:33 ID:rXOZgaF.

こいつの言葉を肯定なんてしたくなかったが、今回ばかりは正しいのかもしれない。
くやしいがそんな風に内心で認めてしまった。
胸を締め付け、俺を苦しめているこの感情は恐らく――――後悔。
いくら後で生き返るとは言っても、あの拷問狂な雨蜘蛛のおっさんに朝比奈さんと妹の殺害を依頼しちまったのだ。
後悔……しているのかもしれない。
あのおっさんはきっと俺の時のように朝比奈さんを――妹を――拷問したのだ。
有刺鉄線で体を縛り、眉間に銃を突きつけながら、枝切りハサミで徐々に指を切る。
顔を殴られ、腹を貫かれ、そしてあの少年のように徐々にミンチにされ、「キョン君」と俺の名を呼びながら事切れ――。

「うげえっ!」

喉の奥に熱いものが込み上げくる。

ああ――吐き気がする。

そしてそんな嘔吐感の中で、俺は何故かスバルの言葉を思い出した。
『君が殺した男の子にもいっぱいいっぱい大切なものがあった筈だよ』
ああ、そうかよ。つまりこういう事なんだな。
癪だが認めてやるよ……いや、認めざるをえない。

【な、後悔してるんだろ?】
「……ああ。そうなのかもな」

俺は静かに認めた。認めちまった。
殺し合いが終われば生き帰って記憶が無くなるとはいえ、俺は朝比奈さんや妹に苦しんでほしくはなかったんだ。
そして俺が殺したあの子供やナーガのおっさんにも、そう思う人間がいるのかもしれない。
今更そんな事に気付いちまった。

最悪だ――俺は全然悪魔になんてなれてない。
そんな偽善めいた良心みたいなモノがまだ残っていたんだ。

【なあ、もうこんなバカな事は止めにしないか?】

『俺』が呆れたように肩をすくめる。
その言葉に、俺は流されたくなった。
だってそうだろ? 俺が殺さなくても雨蜘蛛のおっさんあたりがきっと殺し尽くしてくれる筈だ。
俺はこのままスバルたちと一緒に殺し合いを止めるなんていう無駄な足掻きをしてればいい。
どうせ長門の計画を止める事なんて出来っこないんだしな。

【どうした? 気味が悪いぐらいまともな事を考えてるじゃないか。ついでにもう一つの方も誤魔化すのは止めないか?】
「急になんだ。俺がいったい何を誤魔化してるっていうんだよ?」
【終われば元通りになるっていう、その現実逃避をだよ】

……またそれか、しつこい奴だな。
後悔は確かにしてるみたいだが、それは現実逃避でもなんでもない。

「あのな、長門の目的は観察なんだ。観察が終われば生きかえらせてくれるに決まってるだろう」
【アホか。仮に観察が目的だったとしても観察対象はハルヒだけだろ? 
 なら長門、いや――情報統合思念体はハルヒだけしか生き返らせないんじゃないか?】

鼓動が早くなる。何を言ってるんだこいつは? 
理解できない。いや理解したくない。

【こんな事にも気付けないのは単にお前が目を――】
「ぐああああああああああああああああああああああああ!!」

俺は絶叫する。その先は聞きたくなかった。理解したくなかった。
だと言うのに『俺』はしつこく言い続ける。俺は再び叫び。

「キョン君!」

叫んだ瞬間、頬をはたかれたような衝撃が俺を襲い、視界が真っ白になった。
頬が痛え……だけどその痛みに同時に安堵を覚えていた。
その痛みのお陰で『俺』の声がまったく聞こえなくなっていたからだ。
真っ白な視界が明けると、目の前にいつの間にか青い髪の女が――スバルが居た。

「よかった、気が付いた?」
「……気が付いたって、何の話だ?」

518なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:38:04 ID:rXOZgaF.

俺は見下ろすスバルに向かって憮然と尋ねる。
……というか俺はいつのまにか地面に横たわっていた。一体何がどうなってるんだ?
俺のその疑問が分かったのかスバルが説明した。

「放送を聴いてキョン君は倒れたんだよ、覚えてない?」

情けない事に……どうやら俺は気絶していたらしい。
道理で『俺』が現れる筈だ。しっかりしろ俺。情けないぞ。

「フムウ……」

頭を振りながら立ち上がると、何故かウォーズマンがじっと俺を見ていた。
俺はその視線に嫌な感じを受けて目を逸らしながら尋ねる。

「なんだよ?」
「いや。……歩けるようならもういくぜ。早くギュオーたちと合流し、このエリアから離れねばならないからな」
『そうです、あと一時間でここが禁止エリアになっちゃうんですから、キリキリ歩いてください』

そんな憎まれ口を叩く陰険妖精すら何処となく心配そうな顔で俺を見てやがる。
くそ、それだけ無様に気絶しちまったって事か。

「わかった、わかりましたよ」

俺はため息をつきながら歩き始める。
……なんとか歩けそうだが、妙に足がふらついていた。

「キョン君、大丈夫?」

うしろからスバルがそんな事を聞いてくるが、俺はそれを無視して歩き続けた。
こいつの言葉を――キョン君というその呼び名を――聞いてると、胸が軋む。
理由は知らん。たぶん疲労のせいで心が弱っているのさ。だから俺はスバルを無視する。
疲労。疲労なんだ。
胸が軋むのも、気絶したのも、あの悪夢も全部疲労のせいだ。

疲れていた。
酷く疲れきっていた。

今だけは何も考えたくない。殺し合いの事も、死んでしまった――の事も。
何も考えず、ただ重い足を前へと動かす事だけに集中する。
だというのに。

なんで身体の震えが止まらないんだ。



リヒャルト・ギュオーはそれを聞いたとき、その金色の瞳に驚愕と疑惑を浮かべた。
主催者が放送を通して告げてきたその言葉は彼にとってそれほど予想外だったのだ。

「何故よりによってここを禁止エリアにする……!」

彼は苛立ち紛れに床を蹴破りながらそう叫ばずにはいられなかった。
前回といい今回といい、まるで主催者は狙ったかのようにギュオーがいる場所を禁止エリアにしていた。
そう、あたかもギュオー個人に悪意があるかのように。

519なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:38:52 ID:rXOZgaF.

(いや――もしやあるのか?)

苛立ち紛れに浮かんだその考えが意外と正解なのではないかとギュオーは気付く。
前回のH-5といい今回のF-5といい、ギュオーにとって都合の悪い場所が選ばれていたのだ。
それにより前回は草壁メイの死体をウォーズマンに発見される危険が生まれ、
今回はそのウォーズマンとの合流を阻まれかけている。
偶然というにはあまりに出来すぎていた。

(となると原因はなんだ? ……まさか草壁メイか?)

放送が聞こえてきた空へと視線を投げながら、ギュオーが思いついたのはそれだった。
つまり、娘の死体を粉砕された事に怒った草壁タツオが嫌がらせをしているのではないかと考えたのだ。

(いや、それはありえんな。娘をこのような場所に放りこんだ父親がそんな事で怒りを覚えるはずがない。
 ならばなんだ? 他に主催者たちに恨まれる覚えなどないのだが……)

思考の迷宮へと迷い込みそうになったギュオーだったが、彼はその事ばかりに気を取られているわけにはいかなかった。
主催者により神社から追い出されかけている彼は、早々に移動先を決め、別のエリアへと脱出しなければならないのだ。
恨まれている理由の究明はひとまず横に置き、ギュオーは目前に迫った問題に目を向けた。

(しかし何処へ行ったらいい? 北は大火災がおきている。恐らく今回の死者の多さはあの火災のためだろう。
 となると北は危険だ。行って得られるものがあるとも思えん……ならば南か?)

未だ煙があがっている北の空から平穏そうな南の空へと視線を動かしながらギュオーは頷く。

(ふむ、それがいいような気がするな。上手くすればウォーズマンとも合流出来るだろうしな)

この場で合流予定のウォーズマンは未だに姿を現さない。
放送で呼ばれていないのだから死んではいないのだろうが、何か問題が起きているのは間違いないのだろう。
そんな事を考えながらギュオーが視線を空から山道へと移したのだが――その瞬間、彼の瞳は再び驚愕に染まった。

(あれは! まさか……ガイバー!?)

視線の先、この場へと続く山道――僅か百メートル程度の至近に宿敵ガイバーの姿を発見してしまったのだ。
それを見てギュオーは咄嗟に鳥居の影へと身を潜める。
鳥居の影からそっと窺うと、その横には印象的な黒い男――ウォーズマンと少女――恐らくあれがスバル・ナカジマだろう―

―が居た。どうやらウォーズマンたちはガイバーと行動を共にしているらしい。

(……まずい、まずいぞ。ガイバーと居るという事はまさか俺の事がばれたのか?)

夕闇のせいではっきりとは見えないがあのガイバーが深町晶ならば全てがばれている可能性もあった。

(いや待て、そう考えるのは早計だ! ユニットを支給されただけの無関係な奴かもしれん……ん?
 待てよ……もしそうならば、これで俺が知らない二つ目のユニットがあったという事になるな)

自身の考えにギュオーは息を呑んだ。
ユニットが量産されている可能性は予想していたが、他にも何かを思いついた気がしたのだ。

(というなるとこの島にはかなりの数のガイバーが居る事になる。ならば主催者たちはユニットに手を加え……た?)

その瞬間、稲妻に打たれかのようにギュオーの心に衝撃がはしる。

(そうだ! 手を加えなければガイバーは例え一片の細胞片からでも全身を復元してしまう。
 そして細胞から復元したガイバーには首輪が――この殺し合いの要たる首輪がない!
 この殺し合いを成立させているのはこの首輪だ、主催者がそんなミスをするだろうか?)

自身の首にある冷たいそれに触りながらギュオーは今までの主催者の行動を思い浮かべる。

520なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:39:24 ID:rXOZgaF.

(いや、草壁タツオと長門有希はそこまでマヌケではないだろう。
 となると、ガイバーの復元能力はかなり衰えている可能性が高い。
 最低でも首が切断されたら二度と復元できないレベルまで抑制されているはず。
 ……そうでなければ簡単に首輪を外されてしまうからな)

そしてギュオーは思考の迷宮を走破した末に、自身の未来すら左右する重要な疑問へと遂に到達した。

(……では装着者が殺された場合、ユニットはどうなる?
 本来ならガイバーは細胞の一片からでも復元するが、この島では恐らくそれはない)

ギュオーは自身の思考の先にある希望の香りに、ひどく興奮していた。

(そのまま機能を停止する可能性も否定できんが、もう一つの可能性も考えられる)

そしてにやりと声に出さずに笑いながらギュオーはガイバーを見やる。

(そう、つまりユニット・リムーバーがなくとも、この手にユニットGを手に入れられるという可能性が!)

視界の先では倒れていたそのガイバーがゆっくりと起き上がっていた。
ウォーズマンたちと一緒にこちらへと登ってくるユニットG。
ギュオーにはすでにあれがガイバーではなくユニットに見えていた。

(どうする? ガイバーごとウォーズマンたちを不意打ちで殺してしまうか?)

そっと神社の奥へと身を隠しながらギュオーは思索する。
見ていて判ったのだが奴らの動きはどうも鈍い。戦いでもあったのか酷く消耗していた。
不意をつけば一息で倒す事も可能だろう。

(いや、落ち着けギュオー! ウォーズマンにはまだ使い道がある。
 いま奴らとの信頼関係を失うのは惜しい。……ここはチャンスを待つべきだ)

ギュオーは顔を歪ませながら、そのチャンスをどうやって引き起こすか夢想する。

(そうだな、ガイバーが一人となった所を狙えばいい。
 殺した後は深町辺りが襲いかかってきたとでも言えば単純なウォーズマンは誤魔化せるだろう。
 ……そして獣神将たる俺がガイバーを纏い、世界の王となるのだ!)

口から漏れそうになる笑いを堪えながら、ギュオーはウォーズマンたちを出迎えに階段へと向かった。



「よく戻ったな、ウォーズマン!」
「おお、ギュオーか! 遅くなって済まない」

ギュオーはウォーズマンとしっかりと握手を交わし、再会を喜んで見せた。
そして初対面の二人へと視線を動かし、怪訝な表情で疑問を投げかける。

「その二人は?」
「ああ、スバルとキョンだ……詳しい話をする前にまずはここから離れよう」
「そうだな、ここが禁止エリアになってしまう前に移動した方がいいだろう」

ウォーズマンの言葉にとりあえず頷きながら、ギュオーはキョンという名前から詳細名簿の内容を思い出そうとした。
印象が薄い為に全ては思い出せなかったが、たしか普通の学生だったはずだ。
殺しても問題ない――そんな事を考えていたのだが、ふとウォーズマンが辺りを見ながら尋ねてきた。

「ところでギュオー、タママはどうしたんだ?」
「ああ、タママ君か……それなのだが実は彼は一人で北へと走り去ってしまったのだよ」
「たった一人でか!?」


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