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能力者が闘うスレin避難所 Act.7

297【倫理転生】7つの人格を持つ怪物 ◆/DJQPS2ijA:2021/10/26(火) 13:00:23 ID:tTPsCGFw
>>294-296


 その、莫迦げた事象にハイルは小さく呟いた。

「──凄いな、これほどか」

 影の刃が消え失せていく。
 必殺の一撃を無に帰す程の魔力操作。
 奪われた魔力は、小さな星へと流れ込んでいく。
 まさしく魔法。まさしく奇跡。非情なまでの夢幻がそこに実在した。
 じりじりと焼け付くような膨大なエネルギーの塊は、ハイル達の身の危険をも物語っている。
 そこに宿る破壊を肌で感じ取り、アイテールは叫ぶ。

「〜〜〜ッッッ! “これ”は無理だッ! 僕達も巻き込まれるぞ!」

 絶対防御を誇る彼の障壁でも、その魔法を防ぐことは出来ない。
 完全に発動する前から分かる圧倒的な破壊力に、アイテールは半ば恐慌状態に近かった。
 否、アイテールだけではない。ヘメラも、エレボスも、突如として迫る危険に動揺を隠せないでいた。
 そんな中で、カロンとハイルだけが平静に構えていた。

「カロン、準備は出来ているか?」

 ハイルは煙草をふかして、上空の星を見る。
 脳内に語りかけてくるゼオルマの言葉が正しければ、それは小規模な超新星爆発の前兆だという。
 巻き込まれれば、文字通り塵も残らないだろう。
 だというのに、ハイルはそれを悠然と見つめて言った。

「お前達、落ち着け。
 アイテールは障壁を維持、ヘメラとエレボスはカロンに魔力を渡すんだ」

 そんなハイルの横で、カロンは手の平に魔力を集中していた。
 ゼオルマという規格外や、ヘメラやニュクスといった化け物とは比べ物にはならないが、
 そこに集まる魔力は多量であり、それに、安定していた。
 超新星の吸引にも揺らがない、完全な球形の魔力。
 無論、超新星から離れているし、アイテールの障壁の内側であるというのも関係しているだろう。
 だが、それでも異常な程に精密な魔力操作によって、その魔力球は形成されていた。

「よォ、何か手はあんのか?」

 エレボスの問いに、ハイルは首を竦める。
 そこにはうっすらと笑みが浮かんでおり、余裕の表情に見えた。
 あるいは、諦観だったのかもしれない。
 ハイルは紫煙を燻らせて言った。

「──それは、下で寝ている妹次第だな」

 彼らの遥か下方で、アリサは倒れ伏していた。
 電撃に貫かれた体はまったく動かない。
 意識は毎秒おきに寸断され、視界は明滅している。
 だが、ゼオルマの声は聞こえる。
 脳内に響く声が、倒れる直前の光景が、現実をアリサに突きつける。
 自分は彼女の影と踊っていただけなのだと。
 最後の一撃は届かなかった──このまま、死を待つだけだのだと思っていた。
 だが、仲間から共有される記憶が、より確かな現状とハイルの計画を伝える。

「立た、ない……と……」

 だが、動かない。手も足も感覚がない。
 アリサは枯渇しかけた魔力を練り上げて、自分の影を手の形に形成し、それによって無理やり体を起こす。
 それは立っているというより、吊り下げられているような状態だった。
 それでもやらなければならない。
 仲間が諦めていないのならば、自分を必要だというのであれば、
 それに応えないというのは“間違っている”のだから。

「力を貸して……ニュクス……」

 眼前にタロットカードを顕現させる。
 彼女の、もうひとりの自分の力が必要だった。
 だが、タロットカードに手を伸ばそうとして、腕が上がらない事に気付く。
 ゼオルマの一撃はそれほどまでにアリサの肉体を蝕んでおり、もはや、魔力を使って無理やり体を立たせるのが限界であった。


// 続きます


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