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能力者が闘うスレin避難所 Act.7

1【    】 ――その名も名もなき者――:2021/08/03(火) 23:30:57 ID:W.KeILIM
厨二病患者隔離スレへようこそ!
ルールを読んだ後は君の妄想を爆発させてみよう。

【基本ルール】荒らしは全力で華麗にスルー!
※荒らしに反応した人も荒らしです。

チート無双、無理やりな防御&回避、確定攻撃は禁止!
※1酷い場合は注意しましょう!ただし煽るようなキツい言い方は好ましくないです。
※2たまには攻撃に当たりましょう!いつもと違うスリリングな戦闘をしてみよう!

武器は初期装備していません!欲しい方は能力者に作って貰いましょう!
※1武器を所持している時は名前欄に書きましょう。
※2能力授与時に貰っている場合は例外です。

基本スペックはみんないっしょ!
※能力授与時に体が強いなど言われない場合はみんな常人

老若男女巨乳貧乳に人外キャラまで自由にどうぞ!
※好きなキャラを演じてスレの世界を楽しもう☆
ただし鬼だから怪力、天使だから空を飛ぶ等は勿論なし!

書き込む前に更新すると幸せになれるぞ!!

@wikiURL https://w.atwiki.jp/vipdetyuuni/
避難所 授与スレ Act.2 https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/sports/41685/1535568296/

298【倫理転生】7つの人格を持つ怪物 ◆/DJQPS2ijA:2021/10/26(火) 13:01:39 ID:tTPsCGFw

>>297の続き



 視界はかすれ、血の匂いだけが鼻に残り、耳鳴りが聴覚を支配している。
 だから、それはきっと幻聴だったのだろう──なんて、後からそんな言い訳をしようと考えるハイルの思考が聞こえてきて。

 ──世話の焼ける妹だな。

 そんな、呆れたような言葉の記憶と共に、不可視の衝撃がタロットカードを撃ち抜いた。
 オメガニウムの波長を撃ち出すだけの、弾丸のない拳銃。
 上空から発射されたそのエネルギーがタロットカードを揺らし、ニュクスの力を引き起こす。
 即座に闇の魔力で自身を支える影を固定し、アリサは小さく呟いた。

「アイテール、自分の力を信じて。
 絶対に防ぎ切ってみせる。僕の力は本物で、何にだって侵される事のない城壁だって」

 それは奇しくも、ゼオルマがアイテールに語りかけたのとまったく同時だった。
 ……アイテールは怖がりだ。恐怖と不安にかられて、他の人格と距離を置こうとしていたほどに。
 だから、この状況で彼の心は恐怖に支配されている。無理だと叫び、逃げ出したいと思っている。
 それでも、だからこそ、今こそ思い出すべきだ。

「アイテール、僕達は最強だ」

 ハイルの言葉に、全員が思い出す。
 彼らは多くの組織に身を置き、多くの化け物と戦い続け、
 そして、純粋な戦闘において、今の今まで負けたことは一度としてない。
 だから信じて良いのだ。自分の力を。

「一瞬だけ防げば良い。
 魔力は用意した──後は、アリサの仕事だ」

 ハイルのその言葉と共に、カロンの形成した魔力球がアリサの元へと降下する。
 純粋なる、無属性の魔力の塊。そこに宿る膨大な魔力は、カロンだけのものではない。
 彼が変換器の役割を果たし、エレボスの影の魔力を、ヘメラの光の魔力を何ものにも染まる無属性へと変化させたもの。
 天候をも操る魔力──すなわち世界規模の気体操作をも可能とする膨大な魔力量を持つヘメラと、
 影を操ることに特化しているとはいえ、それに匹敵する性能を持つエレボス。
 カロンの魔力に二人の膨大なそれを混ぜ合わせた魔力球は、ともすればゼオルマにも届き得る力の塊であった。
 アリサは眼前に漂うそれに魔力で干渉し、動かない手の代わりに歌声を以て浸食を始める。


// まだ続きます

299【倫理転生】7つの人格を持つ怪物 ◆/DJQPS2ijA:2021/10/26(火) 13:02:58 ID:tTPsCGFw

>>298の続き



                       MAJORA CANAMUS
                    さあ、大いなる物語を歌おう。

                   I know that my Redeemer liveth,
             私は知っている。我が罪を贖う者が、死してはいない事を。

               and that He shall stand at the latter day upon the earth.
                  そして、彼が後の日に、この世に現れる事を。

            And though worms destroy this body, yet in my flesh shall I see God.
              例え私の肉が腐れ落ちようとも、なお生きる神を私は見つめるだろう。

    I know the my Redeemer liveth. For now is Christ risen from the dead the first fruits of them that sleep.
            今、救世の主は蘇り、早々に眠りについた贖いし者達の初穂となった。

         Since by man came death, by man came also the resurrection of the dead.
          一人の過ちにより齎された死は、一人の偉大なる救世により覆される。

          For as in Adam all die, even so in Christ shall all be made alive.
           アダムの罪により人が死する様に、キリストによって我らは生かされる。

I tell you a mystery. we shall not all sleep, but we shall all be changed in a moment, in the twinkling of an eye, at the last trumpet.
    汝らに神秘を告げよう。我らは死によって永遠の眠りにつくのではなく、総てがラッパの音と共に変貌するのだ。

     The trumpet shall sound and the dead shall be raised incorruptible. and we shall be changed.
          死者はラッパの音と共に決して朽ちぬ者として蘇り、我らは永遠へと変わる。

      For this corruptible must put on incorruption. and this mortal must put on immortality.
       有限は無限へと変わり、朽ち果てるべき者は永遠となり、死者は不死者へと変わるのだ。

     Then shall be brought to pass the saying that is written, Death is swallowed up in victory.
           その時、死を下した者達は、死は消え失せたと高らかに叫ぶだろう。

                     O death, where is thy sting?
                   嗚呼、死よ、汝の棘は何処に在るのか?

                     O grave, where is thy victory?
                   嗚呼、死よ、汝の勝利は何処に在るのか?

             The sting of death is sin, and the strength of sin is the law.
                 死の棘は罪であり、罪の力は絶対なる律法である。

         But thanks be to God, who giveth us the victory through our Lord Jesus Christ.
            しかし、神に感謝せよ。神は救世主を通して我らに勝利を齎すのだ。

                  If God be for us, who can be against us.
                神が我々に味方するならば、誰が我々に敵対しようか。

                Who shall lay anything to the charge of God's elect?
                 誰が神に選ばれた者を糾する事が出来るだろうか?

                It is God that justifieth. Who is he that condemneth?
                  一体何処の誰が我々を咎めようとするだろうか?

It is Christ that died, yea rather, that is risen again, who is at the right hand of God, who makes intercessions for us.
         否。我々の為に死して、なお蘇った神の右に座す者が、我々に手を差し伸べるだろう。

Hath redeemed us to God by His blood to receive power, and riches, and wisdom and strength, and honour, and glory, and blessing.
   死してその鮮血により我々を救った彼こそが、力と富、知恵、威力、名誉、栄光、そして賛美を受けるに相応しい。

Blessing and honour, glory and power, be unto Him that sitteth upon the throne and unto the Lamb, for ever and ever.
          いと高きものと、神の子に、総ての賞賛と栄光が共に在らんことを。




                          Amen.
                        斯く、あれかし



// ま、まだまだ続きます

300【倫理転生】7つの人格を持つ怪物 ◆/DJQPS2ijA:2021/10/26(火) 13:04:14 ID:tTPsCGFw

>>299の続き


 その瞬間、極光が世界を支配した。
 超新星爆発が景色を削り取り、音すら置き去りにする破壊が全てを呑み込んでいく。
 本来であればアイテールの障壁も一瞬のうちに消え去り、彼らは全員消滅していたはずだった。
 だが、ゼオルマの言葉がアイテールを支え、ハイルの言葉が確信を与えた。
 一瞬──そう、一瞬であれば防げるのだと。
 そして、その確信の通りアイテールの障壁は超新星爆発を一瞬だけ抑えつけた。
 次の瞬間には亀裂が入り、瞬きの後には破壊が迫っているとしても。
 それでも、およそ人知を超えたそれを、アイテールは防いだのだ。
 アリサを守るようにして──。

「──ありがと、レフ」

 そして、その一瞬でアリサの魔法は完成した。
 カロンから渡された膨大な魔力が黒く変色し、巨大な、あまりにも巨大な槍へと変形する。
 死と破壊の概念がこもった、かつてニュクスが振るった最強の魔法。
 それでも、超新星爆発の前では塵芥に等しいものだっただろう。
 だが、そこに込められた魔力はニュクス一人のものとは桁違いだ。
 加えて、その槍はある一瞬を狙って宙空を駆け抜けた。
 アイテールの障壁に破壊エネルギーが押し止められた一瞬。
 僅かにエネルギーが拡散し、破壊が緩むその瞬間に黒い槍は駆ける。
 アイテールの障壁が破壊された瞬間に撃ち込まれたその槍は、
 破壊に呑み込まれ、表層が砕け、ボロボロと欠けながら超新星爆発を引き裂いていく。
 裂かれた破壊エネルギーはハイル達を避けるように拡散し、地面を、空を、景色を抉り取っていく。
 ゼオルマが振るった破壊の、極々一部を反らす事。
 たったそれだけの事に全力を使い果たしたアリサは、この一言で歌を終わらせた。

     Messiah Complex.
 ──世界よ、貴方を愛している。

 そして、世界に静寂が戻れば、アリサの立っている場所を除く全ての地面が消し飛んだ、凄惨な世界だけが残っていた。
 自身の魔力も、カロンから譲り受けた魔力も使い果たしたアリサは、ぺたりと座り込んで息を吐く。
 まったくもって、無力。結局の所、ゼオルマの振るった魔法に対して出来たのは、命がけで矛先を反らすことだけだった。
 それも、当初の予定とはまったく違う。

「結局、みんなの力を借りちゃった……」

 己の力だけではゼオルマに触れる事も出来なかった。
 その事実に、アリサは沈痛な面持ちで嘆息した。


// 4分割になるとは思わなかった、反省している

301【絵空に彩る真偽の導き】ゼオルマ:神変出没なマッドジョーカー:2021/10/26(火) 14:14:59 ID:oT8wBDgU
>>297-300

【極光のなか】【次元の断層を作り破壊から逸れながらゼオルマはソレを観る】
【ハイルの助力】【アイテールの守護】【エレボスとヘメラの力の譲渡】【カロンによるその力の受け渡し】
【そしてニュクスとアリサの全力による破壊への抵抗】

【ゼオルマが造った異世界は超新星爆発により彼らを残して跡形も無く消し飛んだ】
【どれほどの規模でか?】【無論】【星の規模でだ】
【大地も】【大海も】【大空も】【アリサ達がいるそこを除いて何一つとして存在しない無の世界】
【それが光の晴れた世界の姿だ】
【造られた異世界ではあるが生きている動物なぞ残れるはずもなく】【草木どころか空っぽな世界だけが存在する】

「嗚呼、アリサのみで達成できなかった。当然、貴様の敗北だ。
 しかし全員の力を使えばこれの一撃を耐え、生き残れると理解(知)れたのは十分な成果とも言えるな」

【拍手をしながら】【ゆりかごのように揺れながら宙を漂うゼオルマは嘆くアリサのそう言葉を贈った】
【ゼオルマの全力による世界規模での栄光魔法の行使】【本来の威力と破壊規模がこれなのだ】
【それを本来とは異なる限定的な状況だとはいえ防ぐ事自体は可能だと知ったのは吉報だろう】
【それよりも不思議なことは】【世界が滅んでいるのになぜか息ができていることか】

「嗚呼、造った世界ゆえ空気が存在できるようにしてある。
 音も伝わり、想像さえできればこの宙も飛べる。何であれば自己回復も可能だ」

【ここはゼオルマの造った異世界】【【魔法】によって造られた世界だ】【常識も非常識も混在するデタラメな空間】
【あり得ざるをあり得るに変換する摩訶不思議】
【想像さえできれば大体のことは叶う世界】【無論】【ゼオルマの許す限りではあるが】

「さて、戦闘はこれにて終了。評価を下す……その前に、だ。
 ハイル、カロン、エレボス、ヘメラ、アイテール。貴様らの講評から聞こうか。
 アリサのでも良いし、これにでも良いぞ?」

【観戦していた5人に顔を向けそう促す】
【依然として周りは宇宙空間】【ゼオルマの言葉は6人全員に届くようにしているため想像さえできれば空間内を自由に飛べるだろう】
【制御できなければゼオルマが無理矢理にでもアリサの側まで引き寄せていることだろう】
【ゼオルマは彼らの講評を宙を漂いながらも聞く体勢入った】

302【倫理転生】7つの人格を持つ怪物 ◆/DJQPS2ijA:2021/10/27(水) 12:30:34 ID:N/NiTgd.
>>301

 全てが消え去った無の空間。
 規格外の魔法戦は、ゼオルマが作り出した世界と共に終わった。
 まるで宇宙空間のようにふわふわと漂っていたハイル達は、アリサの側に集まる。
 アリサは精も根も尽き果てた様子で唯一残された地面に座り込んでおり、
 身に纏う軍服も、その下に見える白い肌も、至る箇所が引き裂け、焼け焦げていた。
 ともすれば、命には関わらずとも後遺症が残っていたかもしれないほどの損傷。
 だが、それらの傷はゼオルマの言葉通りにゆっくりと修復されていく。
 そんなアリサの様子を見て、僅かに安堵の表情を浮かべたハイルは、
 彼女の側──欠片のような地面に降り立って、胡座をかくように座り込んだ。

「さて、講評と言われてもね。
 僕個人の意見としては、あれは戦闘とは言えない」

 ハイルは、批判的な言葉と共に紫煙を吐き出す。
 煙草の苦味がそのまま染み込むように、その言葉はアリサの胸に突き刺さった。

「ゼオルマは試す、愉しむという目的を優先していたように思える。
 あれはアリサで……いや、僕達で遊んでいただけだ。
 評すべき戦術もない、ただの大雑把な“力の行使”でしかなかった。
 もしも、僕がアリサの立場であれば──そうだな、君の腕の一本や二本は奪えただろうさ」

 そう、不敵に言ってハイルは宙を漂うゼオルマを見やる。
 この世界において、ゼオルマは神にも等しいのだろう。
 全員の力を合わせてようやく超新星爆発を生き延びる事が出来たという事実があった。
 だというのに、ハイルは本気でその言葉を吐いているようだった。

「アリサに至っては論外だ。
 実力差も理解せずに戦いを楽しもうなんて、未熟にも程がある。
 ようやく本気になった所で、注意力もなければ想像力もない。
 僕達は世界を相手取ろうとしているんだ、
 君一人に良いようにされるのでは、先が思いやられるね」

 そんな、過剰なまでに厳しい言葉は、アリサの自信を砕いていく。
 たしかにアリサは全人格の中で最強の力を持っている。
 だが、そこにあるのは力だけ──経験が不足していた。
 皆の記憶の共有によって得た知識を活かせるだけの発想力、思考力、精神力が備わっていない。
 それを思い知らされたアリサは、項垂れるように俯いていた。
 聞こえてくるハイルの心中の言葉が、彼の言葉が本心であると伝えていた。
 しかし、心が折れたわけではない。
 同時に、今後の成長を期待している事も伝わってきていた。
 これは必要な挫折だったのだろう。
 アリサは苦渋をなめ、己の愚かさと弱さを深く、胸に刻み込んでいた。

「俺は、後半のアリサは悪くなかったと思っている」

 厳しい言葉を吐くハイルの一方で、カロンはアリサを擁護した。
 空中で、胡座をかいた姿勢で漂いながら、彼は戦闘を思い出しながら言葉を続ける。

「怒りに駆られ冷静さを失ったのは不味いが、能力のコンビネーションを意識した立ち回りが出来ていた。
 あれは力を行使する核──本体が変わらないアリサの持ち味だ。
 精神ごと肉体の変換が起きる俺たちでは不可能な戦い方だな。
 あれを伸ばせば敵、状況を選ばない戦いが出来るようになる」

 ハイルとカロンの一見シビアな、戦闘能力の高さ、戦術の完成度の高さを重視する姿勢は元々が軍人であったことに起因するのだろう。

// 続きます

303【倫理転生】7つの人格を持つ怪物 ◆/DJQPS2ijA:2021/10/27(水) 12:31:58 ID:N/NiTgd.
>>302の続き


 しかし、あくまでも実戦的な能力を重視する彼らに対して、エレボスの視点は違った。

「そもそもよォ、負けてねぇじゃねぇか」

 エレボスの着眼点は戦闘能力ではない。
 彼は元々、マフィアとして名を馳せていた裏稼業の人間だ。
 だから、彼が重視するのは完成度の高い戦闘力などではなく、導き出せる結果。

「この勝負で見てぇのは、ガキの力だっただろうが。
 そいつに他人が手を貸したなら、それはそいつの力だ。
 だから組織の頭ってのは厄介なんだよ」

 己の経験から語る、人間の厄介さ。
 個人の戦闘力の高さではなく、その個人が集める集団の力。
 その視点で言えばハイル達が貸した力も、アリサの力と言えるかもしれない。
 そして、その意見にはヘメラも同意のようだった。

「そうね、それは私達も経験してきたはず。
 だから私達はジェイルもD.O.T.Aも潰しきることが出来なかった。
 世界を相手にするのなら、それこそ集団の力は重要なものになるわ。
 ゼオルマくらいの力があれば、個が世界と釣り合う事もあるかもしれない。
 だけど、絶対じゃあないもの。ゼオルマと同等の力を持った人間が他にいないとも限らないしね」

 集団の力を重視すると考えた時、やはり、アリサの力は足りないのだろう。
 ハイル達の協力は、本来であればあり得ない事だ。
 他人を使う力と言うのであれば、未だアリサはそれを示すことが出来ていない。
 あり得ないはずの支援を、奇跡のように手にしただけだ。
 それを、ある視点からアイテールが指摘した。

「どちらにせよ、ゼオルマにもアリサにも……そして、僕らにも足りていないものがあるだろ。
 どれだけ強くても、そこの影が言う“組織の強さ”を手に入れるだけの力がない。
 ゼオルマも僕らも良くも悪くも個人主義だ。
 組織を運用出来るだけの“カリスマ性”っていうものが不足しているじゃないか」

 世界を相手取るのならば、必要となってくるであろうカリスマ性。
 ゼオルマもハイル達も、組織のトップに向いた性格ではないだろう。
 無論、他に代役がいなければ、そして誰からの協力が得られなかったのならば、自分達だけで戦い続ける覚悟がある。
 それでも、カリスマ性のある指導者というものは、あれば大きな力となるだろうことは間違いなかった。

「それとも、魔法でなんとかしてみるかい。
 竜の牙から兵士でも作ったり?」

 それも手なのかもしれない。
 ゼオルマの協力が得られれば大軍勢を生み出す事は容易いだろうし、
 そうでなくとも、ニュクスの魔法で軍勢を生み出す事は可能に思える。
 ともかく、このゼオルマとアリサの一戦は、多くの課題が浮き彫りになる戦闘だったことは間違いがない。

304【絵空に彩る真偽の導き】ゼオルマ:神変出没なマッドジョーカー:2021/11/05(金) 09:34:35 ID:vw3fVmiY
>>302-304

【それぞれの感想を耳に入れる】

「なるほど遊戯-ゲーム-か」

【まずハイルの感想にゼオルマは頷く】【そう言われても仕方がない】【否】【あれは正しく遊戯だった】
【実際】【ただ勝負に勝つだけなら何度も勝利に至る道筋があった】
【『Scarecrow』から放つ火球】【アリサの影に潜んでいる時】
【アリサの慢心や意表を突けば済む戦い】【ゼオルマはそれを自分で選択しなかった】

「よぉぅく、理解して(わかって)いるではないかハイル」

【ゼオルマが何故ハイル達の世界に踏み入ったのか】【それはハイル達で暇を潰すためだった】
【なら彼らがやろうとしていることに協力するかしないかもゼオルマには暇を潰せるか潰せないか】【たったそれだけに過ぎないものだ】
【アリサはその判断の物差しに宛てがわれただけに過ぎず】【ハイルの言う通りただ遊び】【戯れていただけだ】
【そのゼオルマであれば】【ただ全員の記憶を持っているだけのアリサよりも】【自分の記憶だけしか持っていないが深く考察し理解しているハイルならば】【ゼオルマの両腕か両足程度は奪えただろう】

「嗚呼、最後の切り替えは好い出来だった」

【続いてカロンの感想に頷く】
【カロンの言う通り彼らの戦い方は個々の人格を切り替えて戦闘形態を変える変幻自在のトリッキースタイルだ】
【人格が違うため相手を読む戦闘においてはいきなり違う戦い方に変わる彼らはそれぞれの形態が切り札に成り得る】
【だがそれは言い換えれば彼ら自身がそれぞれの精神に引き摺られた個々の戦い方になるということ】
【相手をそれぞれの戦闘スタイルで引っ掻き回すことは容易でも連携というものが非常に困難になってしまう】
【だがアリサの場合は違う】
【それぞれの能力を自由に切り替えられる彼女はそれぞれの能力の相性を考えて混ぜ合わせることができる】
【それらの能力は切り替えなければならないが今までできなかった戦い方を確立できる可能性を秘めている】
【今はまだというだけでありハイルとカロンはそれぞれ好い点と悪い点を指摘している】

「さて、いざとなって手を貸した貴様らだが、それは今この場だったからというに過ぎない」

【くるりくるりと浮遊状態のまま回転しながらアリサの側まで行き抱き着くと】【金の瞳をエレボスとヘメラ】【そしてアイテールに向ける】

「数は力。そして質も力。貴様らも、これも、質側の力だ。固有だからな。
 今回は貴様ら全員で生き残りはしたが、この先の戦いでそれが叶うのかは不明。
 エレボスの言う通り、他者の手がアリサを助けたならそれはアリサが『持っていた』ということ。
 数側の力というのはその固有を種々様々な形で持った個々の集まり。協力関係や組織だ」

【その数の力をハイル達もゼオルマは持っていない】
【質の力で十分に圧倒できるだけのスペックはあるだろうがヘメラの言う通り絶対ではない】
【ゼオルマと並ぶか凌駕する力を持った質のある強者がいる可能性も十分にあるのだ】
【それに対抗するには質のある強者を擁し数の力が必要だ】

「だがしかし、哀しきかな、他者を従わせられるようなセンスはない」

【アイテールの指摘通りハイル達もゼオルマも個人主義】
【性格】【性質上】【配下に加わる側の方が合っており動かす側は性に合わないだろう】
【大雑把に顎で使ったり召喚したものを上手く運用できる他者に貸した方が良い】
【そう】【召喚すれば数は賄えるだろう】

「だがそれも頭を失えば後には続かん」

【契約が破棄されるような召喚では召喚者という頭を失えばそれで終い】
【兵士を造っても創造主がいなくなればそれ以上の生産はできなくなる】
【それぞれに利便性があり解決策もあるだろうが多様性には冨んでいない】

「やはりここはカリスマ性のある人物を探すのが吉だな」

【その人物を探すのにも苦労するだろうがやはり組織を作れるだけの力は強力なのだ】

「と、言うわけでだ。
 ハイル、この男に接触してみると良い」

【どこからともなく一枚の羊皮紙がハイルの前に流れてくる】
【その羊皮紙は『金髪碧眼で眼鏡を掛けた小太りな青年が笑っている姿』が描かれた人相書きのようなものだ】

「何やら最近『悪いこと』を企んでいるらしい奴みたいでな。
 これに接触する気はないが、貴様らにはもしかしたら必要な縁かもしれんぞ」

305【倫理転生】7つの人格を持つ怪物 ◆/DJQPS2ijA:2021/11/08(月) 22:00:31 ID:8qifXJWo
>>304

 ゼオルマから送られてきた羊皮紙に目を通せば、それは見知らぬ男性の人相書きだった。
 金髪碧眼という点で言えば、カロンの生前の姿と同じ特徴ではあるが、祖国の人間ともまた顔立ちが異なる。
 眼鏡をかけて少しばかり太ってはいるものの、貫禄が備わるほどの落ち着いた年齢には見て取れない。
 カリスマ性のある人物として紹介されるには、そう、少々若すぎるのではないかとハイルは思った。
 年齢で言えばハイルよりも若いのではないだろうか。

「ふぅん……君が言うからには、本当なんだろうな」

 一瞬、青二才を紹介されたのではないだろうかと訝しみながらもハイルが納得したのは、
 かつて己の上に立っていた者達もまた、若い青年のような顔立ちの者が多かったからだ。
 彼らは得てして見た目通りの年齢ではないか、或いは神や上位存在によって優れた才を与えられていた。
 ハイルは羊皮紙に落としていた視線を上げると、肩越しにカロンへ羊皮紙を手渡しながらゼオルマに尋ねる。

「彼の名前は知っているのか?」

 悪いことを企んでいる、などとゼオルマが言うくらいなのだから一筋縄ではいかない人物なのだろう。
 そんな、ある種の信頼じみた警戒心を抱きながら、ハイルは今後の予定を考える。
 そしてハイルはゆっくりと立ち上がると、小さく伸びをして息を吐いた。

「まあ、探してみよう。
 どうしたって旗印は必要なんだ」

 その男性が自分達の旗印になるに値するのか、
 そして、自分達はその男性のお眼鏡に適うのか。
 考えていても始まらない。まずは、行動を始めなければ。

「そろそろ、“現実”に戻してくれると助かるよ。
 いい加減に身体が悲鳴を上げていそうだ」

 感覚はないけれど、とハイルは付け加えてゼオルマに促した。
 深く潜り、移動し、創り、壊し、もはや何処までが現実で、何処までが虚構なのか分からない。
 それこそが、ゼオルマの振るう魔法の最も恐ろしいところだと、ハイルはつくづく思った。

306【絵空に彩る真偽の導き】ゼオルマ:神変出没なマッドジョーカー:2021/11/09(火) 00:54:08 ID:NoBGqIR6
>>305

「そうか、では戻すとしよう」

【空ろに構築された世界からの帰路を求められ】【ゼオルマはそれに頷く】
【現実ではどうなっているのか】【それを一切示されていないのが不安らしい】

【ほとんど何もない形だけ存在する世界が静かに胎動を始める】

「その男の名前だが、」

【そんな中でハイルの問いに応じる】

「"少佐"あるいは"英霊部隊指揮官"、はてさて"嘆きの河(アケローン)"。
 "存在なき執筆者(ゴーストライダー)"などと呼ばれている。
 表には顔を出さないとても奥手な男だよ」

【事実】【羊皮紙の男の情報が広まり始めたのはつい最近と言っていい】
【それも出ているその情報もあまり詳しいことはわかっていない】
【能力についてはある程度考察できるものだが】【それも部分的なものばかり】

【異名は出すが本名については口にしないのは知らないからか】【それとも自分で探せという意思表示か】
【羊皮紙の男に関してはそれだけ伝えて話題を切った】

【世界の胎動が止まり】【ハイル達7人は意識が浮上する感覚を覚える】
【水中や空の中で体が浮くのとは違う】【心や精神だけが浮遊するという不思議な感覚だ】

「嗚呼、それとだ。アリサよ」

【彼らの意識がその場から途切れる間際に】

「不合格だ。
 合格するまで協力はせんから精進することだな」

【それだけが心に直接届き】【彼らは異世界から帰還するのだった】
【目を覚ませばそこは先程(>>72)歩き始めばかりの通り】【まさに今一歩踏み出したばかりの光景】
【けれど変革は160°あるかないか】【先程までなかった本(アリサ)が傍らに浮遊し】【各々の人格の中には先程まで曖昧としていた事実が明確に提示されている】
【ハイルの右手には人相書きが一枚握られていた】
【そして】【右手には7つに砕けたビードロ玉が握られ】【破片のひとつひとつにそれぞれの人格の顔が映っていた】


//自分からは以上です。長い長い期間拘束させてしまって申し訳ない。
//色々やってしまいましたが楽しんでいただけていたら幸いです。絡みありがとうございました!

307【倫理転生】7つの人格を持つ怪物 ◆/DJQPS2ijA:2021/11/09(火) 23:15:48 ID:6bT7imxE
>>306

 目が覚める──という表現は適切ではないのだろう。
 意識を取り戻す? 時間が動き出す?
 ともかく、ハイルの意識が戻ればそこは元の街並みだった。
 まるで白昼夢でも見ていたのかと疑いたくなるほどに、ハイルの居る場所はゼオルマと接触する前となんら変わっていなかった。
 しかし、己の手に握られた人相書きと、砕けたビードロ。そして、あるはずのない記憶と浮遊する本。
 それらが先程までの出来事が現実であったことを証明する。

「不合格、だそうだ」

 最後に聞こえた声を、ハイルは敢えて口に出す。
 すると、傍らを浮遊する本が表紙をハイルの方から反らして、少しだけ距離を取る。
 まるでそっぽを向くような所作におかしさと実感が湧き上がり、ハイルは小さく笑みを浮かべた。
 今の今まで、胡乱に行くあてのない道を彷徨っていた彼ら。悪を為す理由すら紛い物の、空っぽの道化たち。
 それがハッキリとした目的を得たのだ。ハイルの心はかつてない程に奮っていた。

「クックッ……そうか、僕は悪を為すのか」

 改めて己の願いを口にして、ハイルは再び歩き始めた。
 ハイルが関わってきた人間は、真っ当なものなど一人もいなかった。
 誰もが狂い、壊れ、そして決して譲れぬ一つの理想を持っていた。
 それでこそ人間、それでこそ一個なのだ。
 だから、己の願いを手に入れた男は──そこにいるのは神でもなく、化け物でもなく、
 ただちっぽけな、何処にでも居るような一人の人間なのだろう。

「──さて、少佐殿はどんな“人間”かな」

 大きな期待と、小さな笑みを宿して、ハイルの姿は街並みへと消えていった。
 彼とゼオルマの接触は、何かが起きる前触れとなるのかもしれない──。



// こちらこそ、度々遅くなって申し訳ないです!
// お疲れさまでした、楽しかったです!

308 【羽衣が微笑む穹天の斜陽】 - Lever du Soleil -:2021/11/09(火) 23:35:39 ID:11h/hBfA
>>263

宿屋で大きな爆発が起きた。湧き上がる火の手が厨房のガス備蓄に引火したのだろう。
真っ暗闇の夜空に火花が飛び散り、火の粉が弾けて、豪雨を切り裂く光のシャワーが降り注ぐ。
熱波が一瞬の間だけ2人を包み込むと、それは女と怪異だけの特別な空間を作り上げる。
振動を共有し、光を分かち合う。同じものを肌で感じ、同じことを覚える。
何よりも気高い歪な空間は、しかし、瞬きをする間に消え失せた。

赤い本が爆風に乗って何処かへと吹き飛んだ。
嫌味な程しつこい魔法の品は、持ち主も作り手の事も知ってか知らずか、自由気ままに、そして使命を忘れず宙を舞う。

あなたを見据える鋭い眼光が、更に細くなり、眉間にしわを寄せて、鋭利になる。

「偉そうな態度も、これまでだ、怪物。」

限界まで引き絞られた弓の弦はわなわなと震えていた。力強さと臆病さによって、きりきりと震えている。
死からすら見放された女の力強い意志によって支えられ、足首を掴もうとする亡霊たちへの罪悪感によって脱力する。
両足にも力を込めて地面に食らい付き、最高の瞬間をただ待つ。
一番良い状態で、一番良い場所へ矢を放とうと、雨が鼻の頭を叩くのすら気にしないようにする。
ずぶ濡れになった前髪から、雫が垂れる。落ちる。地面に到達すると、水音と小さな小さな、飛沫を上げた。

女は手から力をそっと抜く。矢が緊張から放たれる。

 ―― 遠くから何かが、女へと向けて近づいてくる。空から降ってきたそれ、大きな木片に、女は気付かなかった。

「うッ ―― !?」

情け容赦無い勢いで木片は女の胸を一突きし、貫通させ、肉に方々が引っかかり、その身体を地面へ押し倒した。
宿屋の爆発の際に散らばった残骸の一つが、彼女の幾つかの臓器を傷つけ、または粉砕し、血飛沫を上げさせる。
瞬く間に血溜まりを広げていく。

「が、……そんな……。」

精一杯に弓を握り締めようとするものの、急速に血の気が引いていき、僅かな金属音を立ててそれを落とす。
その音すらもこの雨に吸い込まれてしまい、女は殆ど周りに音を広げずに力を失った。

「死にたい時は死ねず……死にたくない時にこんな事になるなんて……。」

女は笑っていない。泣いてもいない。ただ絶望を覚えるだけ。
それはいつもの事だ。毎日、毎夜、いいや、毎朝、日が昇る度に覚える感情。
それが彼女の背負った大きな罪だからだ。罪には必ず罰が下るからだ。
罰が下らなかったら、世の中悪党だらけになってしまうだろう。

これでいい訳がない。こんなこと、こんなこと。
だけど、仕方ない。これは悪い夢だったんだから。
夢から目を覚ます時。夢の中の夢へ眠る時。
望まない事が起き続けてきた。だから、それがまた起きた。
それだけのこと。
そうだろう?

「…………。」

雨が赤い水溜りを何度も叩いては、小さな波紋を作る。この大雨の中で、熱はもう完全に失われる。
記憶が消え去る。悪い過去と、幸せな思い出が、消えていった。
夜の暗闇に、夜の風に、包み込まれた。

309【剣魔科砲】@wiki:2021/11/14(日) 03:25:48 ID:dayA.GGY

(やはり、冬は良いな)

肌寒い風が吹く公園のベンチに座りながら、ソフィアは心からそう思う。
そもそも雪国生まれの彼女にとって、寒いとは氷点下を下回らなければ当てはまらない表現である。今の環境ぐらいが心地良い。
そして、実際これから更に寒くなっても、むしろそれは暖炉と暖かい紅茶の有り難みを増してくれる筈だった。
もちろん夏場のアイスクリームなどでも似たような効果が得られはする。しかし、やはり生まれ育った環境に近いと言うのは良い。

「……にしても、流石に少し早かったか?」

今の彼女は大きな楽器ケースを脇に置いていた。中に入っているのは当然楽器ではなく、銃器である。
いつものようにどこぞのマフィアが高品質の銃器を欲しがり、創造系能力者である彼女の"副業"を知って購入を打診してきたのだった。
故に今の彼女は黒いスーツ姿で、一応は音楽家らしい風を装っている。受け渡し場所は少し離れたビルの地下だ。
スマホをちらりと取り出して見た。まだ取引の時間まで一時間以上はある。

(早めに行ってケチを付けられても困るし……これを持ち歩いて散歩したくも無いのだが)

一々中身を探ってくる者は居ないだろうが、単純に重い。
そういう訳で、ソフィアはぼんやりと誰も居ない公園の風景を眺めていた――何か面白い事でもあればと思いながら。

//置きで絡み待ちです

310【尽臓鬼機】特異な心臓を持つヤクザ@wiki:2021/11/15(月) 22:58:00 ID:ZZA51Kok
>>309

──そのとき、あなたの携帯端末に反応があった。
見れば画面に映し出されているのはきょう取引を行うマフィア、その窓口となる相手の名前。
あなたに購入の打診をしてきた者だ、見覚えはあるはず。出てみれば……不穏な気配。

聞こえてきたのは知った声。間違いなく取引相手であるが、どうも様子がおかしい。
声の後ろで怒号や何かをひっくり返す音が聞こえている。そして複数の人間が慌ただしく動き回る音も。
今まさに危機的状況に陥っているというわけではないが、間もなくそうなるため急遽準備を整えている……という風な。
そう感じた、その予感はまさに的中する。

焦った声で告げられたのは取引場所と時間の変更。
もうすぐ別マフィアとの抗争になる。この拠点が襲撃される。
事前の取り決めどおりの時間ではとうてい間に合わないため、今からそちらに一人向かわせる。その者に受け渡しをしてほしい。
そして追加になるが、できれば今からこちらに赴いて拠点設置型の大型銃器も用意してほしい。金は払う。

──という内容だった。追加注文に了承するにせよしないにせよ、あなたが現在の居場所を告げればほどなくして使いの人間がやってくる。
十分経つか経たないか、それくらいの時間の後、公園に姿を現したのは……。

「──よォ、あんたが売人かい?
 ゲアハルトだ。話は通ってるよな?」
 
着崩したスーツ。紫のシャツ。ノーネクタイ。サングラス。
黒いコートに対照的な白い蓬髪が目を引く西洋人。何が面白いのか口角が上がっているものの、その笑みは穏やかさとは真逆の印象を与えている。

暴力的な気配──誰の目にも分かるほど明らかな“そっち”の人間であり、あなたの待ち人としては実に相応しい風貌だった。
そして伝え聞いていた情報とも一致している。ゲアハルト・グラオザームという長身の男、白い蓬髪の二十代半ば……間違いない、取引相手が寄越したのはこいつである。


/よろしくお願いします

311【練氣太極】:2022/05/25(水) 20:57:08 ID:M1ejsCcE
【ありふれて、うらぶれた路地裏の一つ】

【あるいはそこは地獄であったのかもしれない】
【何かが腐敗した不快な臭いで彩られた空気】
【餌を狙う烏の他には視線をくれるモノもない世界の片隅】

【そんな中で、一つの暴力が在る】

「ひっ、た、助けて」

【腰を抜かし、みっともなく絶え間なく涙と汗を垂らして】
【後ずさりするのはスーツ姿の中年男性】
【足元に転がるのアタッシュケースと眼前の「彼」とを交互に見やりつつ】
【情けなく声を上げてみせる】


 ──────あァ?


【その言葉に、心底から不愉快そうな感情を隠すこともせず、「彼」が嗤う】
【成人を迎えたばかり、あるいはその直前といった年のころだろうか】
【真っ黒な革のライダースジャケットは、至る所が綻び】
【太陽すら目を背けた暗闇の中にあってなお、鎖を模したネックレスは輝いている】

【徐に】
【彼の右足が黒い「もや」に包まれて──────】


 知らねえなあァ!!!



【瞬間。左足を軸にした強烈な回し蹴りが、男性の頭に直撃】
【断末魔すらなく、その体が崩れ落ちる】


 てめェみたいな馬鹿が、迷い込む方が悪いんだよ……。


【血だまりの中に沈む男性の姿に、一瞥と嘲笑だけを投げて】
【青年は残されたアタッシュケースを拾い上げる】

【その様は、さながら人の情を持たぬ悪鬼羅刹】

【鬼だけが佇む世界の底に、迷い込むものはあるのだろうか──────】

312【幽明異郷】心折れた鎌使い@wiki:2022/05/26(木) 19:28:58 ID:wIKBYXQ6
>>311

ダブルブッキングという言葉がある。
二重契約や二重予約だとかいう意味で、要するにホテルの部屋が一つしか空いていないのに二つの予約を入れてしまうというようなことだ。
これには単純に企業側──今回の場合は依頼主側というべきか──のミスにより発生する場合もあるが、もうひとつ。
意図的なケース──つまりは受け手側にひとつしかない報酬を取り合わせる、という目論見のもとに行われるパターンも、女の稼業ではままあることだった。

「…………」

無論というべきか、これを好く同業者は少ない。
試されているようで気に食わない、何様のつもりだ──得物を鳴らして罵声を飛ばすお仲間の姿は傍目から見て粗にして野卑だったが、言っていることに関してはまったくの同意。
ただそうした依頼は往々にして高額報酬。成功させれば他と比べて十倍、なんてのも珍しくはない。
気に食わなくとも金は欲しい、だから請ける傭兵は少なくなく……大抵が危険度大の脅威に踏みつぶされて死ぬか、さもなくば傭兵同士でつぶしあうか。

いずれにしろ紙ぺらのように軽々しく人が死ぬ。
女はそれが嫌だった。ゆえに今回もそういった、高い危険も競争もない堅実な依頼を請けたつもりだったのだが……。

「──いちおう聞くけど」

眼前に広がる暗い世界。
光の満ちる表の世界からひとつ路地を進めばこんな光景があることは、大昔から知っている。
たとえ突如として血の海が広がっていたとしても強い動揺はない。いわんやこちら側の住人においておや、いまさらというものだ。

「あなた、同業者?」

長い黒外套と目深にかぶったフードで容貌を覆い隠し、総身と同じくらい大きな、これまた布で覆われた何かを大杖のように地面について持っている。
錆びつきかすれた鈴の音のような声からこの物乞いじみた者が女だと理解できるが、何も喋らないでいたのなら性別すら判然とはしまい。
足音はおろか人間ならば持ちうるはずの生気、気配すら異様に薄く、まるで突然そこに表れたかのような印象を与えるそいつは、男の拾い上げたアタッシュケースを青白い指でさしている。
すなわち、お前もそれを回収する仕事を請け負ったのかと。

313【練氣太極】:2022/05/26(木) 20:22:20 ID:vZgEkFoA
>>312


 ……なんだァ──────?


【突如投げかけられた問いに、怪訝さを隠すことなく】
【重々しく油断なく、青年の身体が声の主の方へと向き直る】
【迷い出た「幽鬼」が如き風貌にも彼の紅い瞳に怯えは一つもなく】
【黒い短髪を逆立てるかのような濃密な殺気を纏って相対してみせる】


 ここは俺の「縄張り」だ。辛気臭ェ死神は地獄に帰ンな


【彼女の発言の意図を確かに理解して、その上で青年は彼女を嘲った】

【もとより彼は、己の住処である路地裏に踏み入られて苛立ち────ただ男を嬲っただけ】
【このアタッシュケースの「中身」が何か、などということは毛頭知らない】
【ただしそれは、「たまたま今日がそう」であるだけで】
【公権力の眼が届かないこの場所が光を避けて生きる者たちの策謀が渦巻く場所であることを理解しているし】
【それを知って敢えて、縄張りに踏み込んだ獲物を食い荒らしてきたことも、一度や二度ではない】


 それとも何か? 「コレ」がそんなに欲しいってか?


【妙に重たいアタッシュケースを、丁度彼女の視線の前に突き出すような形で】
【青年はにやにやと見下すような視線に載せて問う】

【それはあるいは、「中身」が彼女と争ってでも手に入れる価値のあるものか────その詮索でもあった】

314【幽明異郷】心折れた鎌使い@wiki:2022/05/26(木) 21:19:37 ID:wIKBYXQ6
>>313

「…………」

小さく、ため息をつく。
見た目から予想できてはいたがこういう手合いか、と言わんばかりの嘆息に込められた感情は呆れか、諦念か、そのどちらもか。
うまい話には落とし穴が──と言うほどこの依頼の報酬額は大したことがなかったが、それでもこういったトラブルはついてまわるもの。

交渉で事が済めば良いが──と、再び口を開いた。

「依頼でね。それを回収してこいって言われてる」

依頼主の素性ははっきりしている。
さる企業の役員で、別に裏社会の企業というわけでもなかったが、まあ隠れ蓑にしているのだろう。
裏の人間が表の家業を持っているなんてのはよく聞く話だ、それはいい。身元が確かならそれで文句はないのだ。

「先に言っておくけど中身は──爆弾。
 それ、ただのケースに見えるけど、勝手に開いたら爆発するから。開けようとか思わないでね」
 
嘘だ。

あれの中身が何かは聞かされていない。ただ開かず持ってこいとだけ言われている。
ただちに危険はないとのことだったので、今しがたついた嘘のとおり爆発物や揮発性の毒物ということはないのだろうが……。
まあ、後ろ暗さに順当なら麻薬あたりが関の山だろうが、それこそ自分の知ったことではなかった。

「最新式がどうこうで専門の設備がないと安全に開けられないし、万一起爆したら辺り一帯なくなる威力なんだって。
 きみが持ってても危ないだけだよ」
 
口から出まかせ、口八丁。
真っ赤な噓のオンパレードだったが、効率よく……そして危険なく事を済ませるために、この手の嘘はつき慣れている。
これでおとなしく引き下がってくれればよいのだが、さて……。

315【練氣太極】:2022/05/26(木) 22:41:14 ID:vZgEkFoA
>>314

【意外にも、彼女が話す間青年は口を挟まず】
【じっと、ただじっと────鳴らし手を欠いた鐘のような声に耳を傾け】
【フードに隠された彼女の眼を睨みつけるようにして、強い視線を向け続けた】

【そうして。彼女が騙る「真実」を一通り聞き終えると】
【首を斜めに傾け、ごきり、と鳴らす】


 ────「匂う」なァ


【先程までの、殺気立った様子とは少し違う】
【しかし、ある意味でそれ以上に濃密な「敵意」がそこにはあった】

【青年の手に握られていたアタッシュケースが、一切の躊躇なく、無造作に足元に放り捨てられる】
【そうして、一歩。彼女との距離を詰める】


 恵まれた人間の匂い、だ。こんなものどうでもいいくらい、腹立たしい匂い……。


【言葉。態度。雰囲気。何から判断したのか、あるいはただの直感なのか】
【青年は、反論を許さない強い語気で断じる】

【その歩みは、彼女がとどめなければ────両者手の届く範囲に近づくまで続く】


 てめェみたいな奴がなんで「そう」なった? ああ?
 どの面下げて何も与えられなかったみたいな顔してんだ?


【鋭い敵意は、未だ害意にはならず】
【しかして青年の、一見して不可解な言動は】
【彼女が彼を敵対者とみなすに十分なものとも言えた】

316【幽明異郷】心折れた鎌使い@wiki:2022/05/27(金) 19:43:27 ID:yYzourUU
>>315

距離を詰める動きに対し女は、不動。
その戦闘スタイルが至近距離を間合いとするものなのか、それとも別の理由からであるのか。
定かではないがしかしともかくこんな場所、そして相対する者の性質を鑑みれば、いっそ呑気と言えるほどあっさりと接近を許していた。

「……恵まれた人間……ね」

その言葉に何を思ったか。
すい、と青白い腕が青年へ伸びる。
遮られなければその手は胸板、二の腕、首元……若い身体の壮健なるを確かめるかのごとく。
這い回るというにはあまりに軽く、さながら羽根か霧が一瞬掠るように触れる。

「健康そうな身体だね。力もじゅうぶん強そうだ。
 ひとに腹立たしいなんて言えるほど、あなたが生きるに困らなきゃいけないようには思えないけど」
 
うつむきがちな顔はいまだフードの陰に隠れたまま、その視線がまじりあうことはなく。
しかしながら会話を続けているのは波乱の回避が可能であると、まだ踏んでいるからなのか。

「そんなに気になるなら教えてあげようか──落ちたからだよ。
 なまじ登れちゃったから高いところを目指して、でも途中で逃げて落ちて這いつくばったから二度と立ち上がる気力もなくなった。
 そんなくだらない敗残者、それがすべて。だから、ねえ、こわいからそんな目で見ないでくれない?」
 
それとも──。白魚と称えるには病的な色の細指が、男の頬にぺたりと触れて動きを止める。

317【練氣太極】:2022/05/27(金) 20:12:40 ID:B0CGQ7xM
>>316


 落ちた、だと?


【思わず口をついた言葉は、率直な驚きに染まっていた】
【虚を突かれたように。想像だにしなかったかのように。────あるいは、理解すらできないといった様子で】

【身体に伸ばされた手を振り払うこともせず】
【そうして、女の言葉を聞き届けて】【青年はいっそ高らかに笑った】


 は、─────はははははは!!!
 下手打って転げ落ちたんじゃなく、てめぇが望んで落ちたときた!


【頬に添えられた手。その細い手首を、遠慮なく掴む】
【しかしそれは、決して攻撃的なものではなく】
【旧来の友人にそうするような、力強くも親しみを感じさせるものだった】


 世界の底から「奪って」ここまで来た俺と、役不足で落ちぶれたお前……。
 同じであるはずがねぇと思ってたが、そこまで救いがねえ雑魚なら許してやってもいい!


【先程までとは打って変わって、その言動は心から上機嫌なもので】
【したがって、足元に転がるアタッシュケースへの注意も薄れている】

【男の手は容易く振り払える強さで────アタッシュケースを強奪することも、あるいは】

318【幽明異郷】心折れた鎌使い@wiki:2022/05/27(金) 21:18:15 ID:yYzourUU
>>317

高笑う男を、光の失せた灰色の瞳が見つめる。

(……問答でどうにかなる手合いじゃない、と思ったけど)

敵意、殺気、充溢する暴力の気配。
力を好み、力を振るうことを好み、少しでも気に入らない相手とあらば殺しすら躊躇わない輩。
──さして珍しくもない、一山いくらのならず者。力の多寡はどうあれ性質はそんなものだろうと。

「そう、よかった」

だが何やら自分の言葉は琴線に触れたらしい。
何がそんなに面白いのかは知らないが……面倒を避けられるなら重畳、それで文句は一切ない。

「確かにわたしとあなたじゃ役者が違うのかもね。わたしは途中で逃げ出したけど、あなたはそんなことなさそう。
 そのままどこまでも高く昇っていけるんじゃないかな」
 
おだて、すかして、いい気分にさせてやればいい。
雑魚め小物めと、いくらでも見下させてやればいいのだ。
結果的にこちらが得るべき成果を楽に取れるなら万事問題なし。プライドなんて犬に食わせてやれ。

ご立派な正義の味方だの周りを震え上がらせる悪の化身だのじゃあできない方法で目標にたどり着く、それを卑俗と笑わば笑え。
こちとらおっしゃる通りの凡人なのだから──平坦な道があるのなら、当然そっちを進むとも。

じゃあそういうことでと、素早く手を振り払ってアタッシュケースを拾い上げようとする。
それが成ったのならそのままそそくさと逃げを打つ算段だが……さて、そう上手くいくものか。

319【練氣太極】:2022/05/28(土) 09:07:35 ID:sxfBgAbs
>>318

【彼女が手を振り払っても、青年は然程気にする様子もなく】
【アタッシュケースを拾い上げ、彼女が遠ざかろうとも、その妨げはないだろう】

【────数秒間は。】


 おいおい、待てよ


【呼び止める。彼女の背を】
【特段強い憤りでもなく、むしろ惜別を厭うような穏やかさで】
【そして────その言葉とは不釣り合いなほど、強烈な「闇」を吹き出しながら】

【彼女が振り返ろうとそうしなかろうと】【そこに在るのは】
【人間の根源的な悪意そのものである濃密な「黒いオーラ」に包まれた青年の姿】


 まだ────話し足りねェんだわ


【【練氣太極】────「豪天」】
【彼女の方へと向けられた右の掌から、暗黒の気弾が放たれる】
【直線的な射線と速度は視認してから回避しうるもので。仮に直撃したとて、彼女の命を奪うには至らず】

【けれどそれは、何の敵意もなく、それでも明瞭な攻撃だった】

320【幽明異郷】心折れた鎌使い@wiki:2022/05/28(土) 20:13:52 ID:Fy4BUV.g
>>319

──往々にして嫌な予感というものは的中するもので。
そして物事が予想外に上手くいくほど、逆に不安になるというのもよくあること。

だからきっと、さしておかしなことでもなかったのだろう。

「────っ!?」

一歩また一歩、遠ざかっていく背後の気配が凶兆へと変わる。
爆発の前兆を察知したその瞬間、女は振り向くより先に身を反らした。
そうして視界に飛び込んできた暗黒の弾丸を、たたらを踏むようにして回避する。

「何のつもり……ッ」

悪意には敏感なほうだと自負している。
笑顔の裏でこちらをどう料理してやろうかと企む手合いは見てきたし、自分だってそれらと大して変わらないようなものだ。

だから害意や敵意が見え隠れしようものなら問答無用で意識を奪ってしまおうと思っていた。その準備だって完了していた。
けれどそういう予兆はなかったから穏便に済ませようとして……ああくそ、いったいこの手のミスを何度やれば気が済むのか。

しかし……違和感。
この男、これほど明確な攻撃を行いながら……いまだに〝敵意〟と呼べる雰囲気が無いのは、いったいどういうことなのか?
まさか挨拶代りとでも言うつもりか? あるいは単に引き留めようとしただけと……どちらにせよ著しく危険人物なことには変わりがないが。

321【練氣太極】:2022/05/29(日) 10:21:34 ID:hBMjceko
>>320

【突然の攻撃に身構える彼女の厳しい声にも、青年は悪びれた様子はなく】
【子供の駄々を咎める様な】
【眉をひそめて、けれど優しい表情で】


 話し足りねェ、っつったろ?
 どうせ大した人生でもねぇなら、そう生き急ぐなよ


【いっそ無防備なほど、悠然と彼女に向けて歩き出す】
【されど彼を中心にして渦巻く「闇」はむしろ勢いを増し】
【────あるいはそれが、彼女を歓迎する青年なりの意図なのか】


 与えられたものがそうまで不相応なら、いっそ何も貰ってねぇのと同じだ。


【一度は遠ざかった彼女との距離を、再び詰める】
【悠然と。楽しげに。隙だらけで】

【まるで────彼女からの攻撃があろうと】
【それを防ぐ術は「既に用意してある」とでも言いたげに】


 ────なあ、お前。俺の妹になれ


【そうして】
【放たれた言葉は────どうあっても、理解不能なものだった】

322【幽明異郷】心折れた鎌使い@wiki:2022/05/29(日) 13:29:43 ID:grO7ff1I
>>321

「は?」

一瞬、何を言われたのか分からなかった。

「────は?」

再び口をついて出た困惑の声が、女の混乱ぶりを如実に示していよう。

妹──?
妹って、あの? 家族の? Sister? ナンデ?
初対面の人間に言う言葉じゃないし、何が彼の琴線に触れたのかも。
意味が分からない。意図が分からない。どうあっても男の言葉を理解できそうもない。

ただひとつ、現時点で確実に断言できることは──。

(こいつ、やばい)

危険人物なのは初見で予想できていた。
だがこれは別ベクトルでヤバいやつだ。単純に暴力的だとかそういう危険性とはまた別の、理解不能な恐ろしさを感じる。
このような手合いを対話で穏便に宥められるほど自分は口がうまい方ではないし、弁舌に優れていたとしても、あの黒い闇……一歩間違えればアレが攻撃を仕掛けてくることは容易に想像できた。

このまま留まるべきではない。となれば取るべき行動はただひとつ。
アタッシュケースをいったん置き、携えた大きな物体を覆う布に手をかけ……。

「────っ!」

一瞬にして解けた大判の布を、男の視界を塞ぐように投げつけた。
露わとなった中身は──鎌。分厚い刃が鈍い輝きを放つ、身の丈ほどもある大鎌であった。
それをもって対する相手に攻撃を仕掛け──。

(付き合ってられない……!)

ない。
すぐさまケースを拾い上げ、踵を返して脱兎のごとくに駆けだした。
女が選んだのは逃走──三十六計逃げるに如かずと言わんばかりの、躊躇ない逃げを敢行したのだった。

323【練氣太極】:2022/05/29(日) 14:03:58 ID:hBMjceko
>>322


【命を刈り取る形状(かたち)】
【飛来するその刃を防ぐように、男の左前腕が無造作にかざされる】
【身に纏う闇が左前腕に収束──────【練氣太極】「豪地」】
【あくまで武器そのものの重量のみに任された攻撃は、浅い裂創を作るのみに終わる】


 だから、


【次いで。彼の両掌に、闇が収束する】
【先程の気弾と同様の、いやそれ以上の邪気が噴き出す】
【【練氣太極】「激天」────先程より規模と速度を増した暗黒の砲撃】


 ────待てって。


【しかしやはりその軌道は直線的、いかに速度を増しているとはいえ】
【逃げに徹する彼女なら回避は可能だろう】

【ただし】

【たとえ一度回避しようとそれは────彼女の回避方向に依らず、軌道を変えてもう一度襲い来る】
【二度の試練を越えることが、彼女にできるだろうか】

324【幽明異郷】心折れた鎌使い@wiki:2022/05/29(日) 19:51:11 ID:grO7ff1I
>>323
//あっと分かりにくくてすみません、投げつけたのは鎌ではなくて鎌を覆っていた布ですね
//もし大丈夫でしたら投げつけられた布を払ってそのまま撃ったという流れに返す形で書いてもよろしいでしょうか……?

325【練氣太極】:2022/05/29(日) 20:43:16 ID:VsPHX13I
>>324
//了解です! 勘違いして申し訳ありません🙇‍♂️

326【幽明異郷】心折れた鎌使い@wiki:2022/05/29(日) 20:56:46 ID:grO7ff1I
>>323

タダで逃げられるわけがないというのは先刻承知の上。
背後から迫りくる砲撃をちらと確認した女は、その手の長大な得物を振りぬいた。

一閃──〝黒い瘴気めいた粒子〟を纏った鈍色の刃が暗黒気弾を両断する。
奇怪なのは切断された気弾が著しく体積を減じたことだった。
元から攻撃を受ければ霧散する性質なのかもしれないが、注意深く見ていたなら鎌が触れたその瞬間に規模が減少したことが分かる。
いいや……鎌が、というより厳密にはそれが纏う粒子が、であるが。路地裏の暗がりの中、そこまで正確に見切るのは至難の業だろうか。

「どうしてこう、厄介な連中ばっかり……!」

自身の不運を呪う言葉を吐きながら、むしろゆえに、鍛えられた逃げ足は遺憾なく発揮される。

大鎌の長い柄を高跳び棒のように用いて頭上の看板のうえへ猫のように着地。
そのまま看板を足場に跳躍しつつ、廃ビルの窓のへりに鎌の切っ先をひっかけて身体を持ちあげて更に上へを繰り返す。
鉄柵を掴み、腕力ではなく遠心力を利用し宙返りするように一回転しつつビル屋上へ着地。瞬く間に自らの身を地上十数メートルの高みへ運ぶことに成功する。

だがそれをもってすらちっとも安心できないのだと言うように再び駆けだす足運びに淀みはなかった。
逃走の手管に迷いがない。きっと何度も繰り返してきたのだろうと確信を抱かせる程度には見事と評してよい逃げっぷりであった。

327【練氣太極】:2022/05/30(月) 08:01:18 ID:ILjfDgn2
>>326


【迷いなく逃走の道を選ぶ彼女】
【己の手の届かぬ場所へと駆け抜ける相手に、青年はため息を一つ】


 それじゃ、駄目だ……


【あるいは、それは】【彼女が落ちた場所が】
【そう簡単には彼女を逃しはしないだろうという確信があるからか】

【女性が未だ、看板を足場に跳躍したばかりのところで】
【青年はその先────彼女が着地しようとする、ビルの屋上へと】
【両の掌を合わせ、向ける】


 ────逃げ回るだけじゃ、ここからは抜け出せねェ


【【練氣太極】────「絶招天」】
【一撃で命をも奪いうる衝撃が、彼女の足元】
【躱すことも防ぐこともできない哀れな廃ビルを狙って放たれる】

【彼女の介入がなければ、その足元はもろくも崩壊し】
【彼女の身体はきっと────今一度青年と同じ地に落ちるだろう】

328【幽明異郷】心折れた鎌使い@wiki:2022/05/30(月) 19:15:06 ID:uw971p1g
>>327

着地──駆け抜け即座に離脱を試みようとして。
足元が爆ぜる。

「くっ──!?」

廃棄されてどれだけ経っているのだろうか、一度も掃除も点検もなされていない廃ビルのコンクリート壁は汚れ、風雨に削られている。
それでもコンクリートはコンクリート、人体とは比較にならぬ強度をいまだ有している。簡単には壊れない。

はずの、それが……まるで豆腐を爪で弾いたみたいに砕ける。吹き飛ぶ。
着地直後の女はバランスを崩し、壁以上に錆つき崩壊寸前だった鉄柵も連座で壊れ、身体をその場に留めるものは何もなくなる。
結果として宙へと投げ出されるが──咄嗟に得物を持つ腕を伸ばし、大鎌の刃を屋上の無事な足場に引っ掛けた。
登らんとするものの、ただでさえ経年劣化による強度低下が著しかった廃ビルは今の一撃で更に損傷を深めたのだろう、刃と女の重量に耐え切れずひっかけた部分が崩れてしまった。

ならばと再び鎌を操りどこでもいい、身体を上方へ持ち上げるためのとっかかりとなる場所を探す。
入り組んだ裏路地だ、建造物に事欠くことはない。だから彼女だけであるなら、この状態からでも立て直しは問題なく行えたのだろうが──。

「────チッ」

今の彼女には重い荷物がある。
アタッシュケースを取り落としてしまった。落下していく荷物、女は一瞬の逡巡ののち後を追って墜落。
取っ手を鎌に引っ掛け、先ほど足場にした突き出し看板を強く蹴りつけて強引に落ちる軌道を横、できるだけ男から遠ざかる方向へと変える。
数瞬の滑空──そのさなかにまるで曲芸のように大鎌を繰り、刃の切っ先から手の中へとケースを戻しつつ得物を構えなおす。

再び路地裏へと降り立ったときには、もう迎撃準備は完了していた。
大鎌に黒い粒子を纏わりつかせながら……更には薄暗がりと自身の影に同化させるよう同種の暗黒を展開しつつ、男を睨み据える。

──どう出る。

329【練氣太極】:2022/05/30(月) 20:11:50 ID:Qy.EngtA
>>328


 よォ。戻ってきてくれて嬉しいよ。

 (とまァ、悠長にしてる余裕はない訳だが……)

【【練氣太極】────「豪地」】
【雨霰のように降り注ぐビルだったモノの破片を邪気を纏った両腕でいなしながら、青年は策を巡らせる】
【「激」「絶招」を一度ずつ使って漸く戦場に引きずり出すのが精いっぱい】
【旗色はかなり悪いと言ってよかったが────】


 そうだよなァ……折角だ、思い切りへし折らねェとなあ!!


【アタッシュケースを確かにその手に、されど遂に戦いの覚悟を固めた様子の女性に】
【青年はひどく満足気で】
【両腕を包んでいた邪気が、右腕に収束する】


 見せてみろよ、役不足の能力(チカラ)をよォ!!


【【練氣太極】────「豪人」】
【弾き落とした廃ビルの欠片の一つ────一メートル四方もあろうかというそれを、片腕で女性に向けて投げ飛ばす】
【彼女がそれをいかに捌こうと、次いで襲い来るのは猛然と走る青年】

【彼女の「暗黒の粒子」の性質にはまだ気づかない様子だった】

330【幽明異郷】心折れた鎌使い@wiki:2022/05/30(月) 21:00:22 ID:uw971p1g
>>329

対敵が己の宿した異能の性質をつかめていない一方、女は敵手の宿したチカラを分析するために脳髄を高速回転させていた。

(黒い瘴気……邪気? 現状で判断するなら身体強化系、でも放出による中・遠距離攻撃も可能。
 射撃に徹しないのは単なる趣味か、それとも消耗が激しいから? どちらにせよ汎用性が高いのは間違いなし)
 
舌打ちの衝動を堪え切れない。
汎用性、応用性が高いというのはそれだけで脅威だ。事前に用途を幾つも考え準備しておけば、こちらの思いもよらない方法で嵌め殺すことすら可能かもしれない。
これが剣術その他の武器術、それに関連した分かりやすい、なおかつ使用方法の限られる類の異能ならば──。
どれだけ強力な威力を有しているとしても一つのことしかできない特化型なら事前に情報を得られさえすれば対策のしようもあるのだが、言っても詮無きこと。

いずれにせよこのままではまずい。
なぜというに、片手が塞がったまま何とかなる相手にはとうてい思えなかった。
ただでさえ重量級の得物だ、片腕ではまともに振るうことすら難しい。せっかく拾った荷物だが……。

振りかぶり、投げ放ったアタッシュケースは黒い影を落としながら、迫りくる大瓦礫の下をすれ違うように地を滑る。
勢いのまま、それは青年の眼前に。いまだ加速はついていて、放置すればそのまま後方に消えるだろうが、奪うに何の問題もない程度の速度。

だが……。

「──ふっ」

青年の頭上に落ちる影。
地面に打ち付けた刃の切っ先を起点にして斜め上方に跳躍、大瓦礫を跳び越えた女が縦回転と落下の勢いを乗せた重刃を振り下ろしていた。
その刃は黒い粒子を纏ってはいなかったが……代わりと言わんばかりに四肢の関節から黒い霧めいたものが迸っている。

──彼女の異能が強化系であろうがなかろうが、武器の重量と鋭さは問答無用で脅威である。
まともに受ければ無事では済まないだろうが、さて。

331【練氣太極】:2022/05/30(月) 21:29:12 ID:Qy.EngtA
>>330


 要るか、ンなもん!


【注意を逸らそうとしたのであろう、彼女が放った貴重な回収品】
【しかしそれは、もとより拾っただけの青年にとってさほど意義深いものではなく】
【むしろ────瓦礫を乗り越えて己を切り裂かんとする彼女に向けてこそ、吠える】


 どらあぁっ!


【目前に迫る死神の鎌を前に、青年は一秒も迷わず「前進」】
【右腕を包んでいた闇が解け、後方に向けた両の手掌から噴き出す】
【【練氣太極】────「豪天」】
【駆ける青年の身体を闇が後押しし、寸でのところで必死の刃を潜り抜ける】


 不相応なモン、振り回すんじゃねェ!


【そうして】【紙一重に死を回避した身体を反転させて、再度彼女を視界に捉える】
【先程と同じく両手を合わせた構え、収束する闇が彼女に向け放たれる】
【【練氣太極】────「豪天」】

【直線的な軌道を描くそれは、何度か同じ技を見た彼女には回避可能なもので】
【直撃したとて命を奪うほどの破壊力は持たないものだが】

【先程、曲がるはずだった気弾を切断してしまったがゆえに】
【仮に彼女が回避を選べば────軌道を変えて再度飛来するそれへの対処は困難になるだろう】

332【幽明異郷】心折れた鎌使い@wiki:2022/05/30(月) 22:13:48 ID:uw971p1g
>>331

がらがらと、アスファルトを引っかきながらケースは路地裏の闇へと消えていく。
それに気を取られていようものなら大鎌が直撃しよくて重傷、当たり所によっては即死もあり得たが──。
もはや眼中にないと言うべきか、その注意は斬撃を繰り出す女に向いていて、ブースト噴射にも似た挙動にて回避を成す。

(あんな真似もできるのか)

ともあれ回避された──反撃が来る。

空振った鎌は、しかしそのままでは終わらない。
後ろ手に回した長大な武器が周囲の外壁を派手に削りつつ持ち主の身体を急停止させる。
それに合わせて身を捻って空中での反転を成功させた。振り向いてみれば視界に飛び込んできたのは……。

「くっ──!」

収束した闇色の砲弾、コンクリート壁を木っ端と砕いた一撃が迫る。
これに当たってはならない。何としても回避せねばと再び鎌を振り引っ掛け、上方へ逃れつつ砲弾の軌道上から身をかわす。
しかし──。

「な、あ……!?」

(曲がった……!?)

それを追って再度来襲する暗黒の脅威。
まるで獲物を逃がさない地獄の番犬であるというかのように追いかけてくる攻撃はいまだ空中にある女には回避ができず、いや……。

「っ、当たるよりは……!」

なりふり構わず、無理矢理に、再び腕を伸ばして先ほどの廃ビルよりずいぶん背の低い建物の屋上のへりに切っ先をかける。
思い切り鎌を引いて身の動きを急転換させ……その先にあった植木鉢群に頭から突っ込んだが、あれに命中するよりは軽傷で済むはず。
もっともあの砲弾が再び方向を切り替えて追ってくるというのなら無意味な延命行為にすぎないが……賭けだとしても、何もしないよりはマシだった。

333【練氣太極】:2022/05/31(火) 09:26:48 ID:y5a/KH4A
>>332


 イイ判断だ。


【強引な挙動でもって身体を転回】
【傍から見れば、戦闘の厳しさに不相応な滑稽さに見える姿】
【しかし青年はそれを笑わない】【彼女に躱された気弾は地面に直撃し、霧散する】


 だが──────


【【練氣太極】────「豪天」】

【両足で駆けつつ再びの加速により、彼女との距離を再度詰めに掛かる】
【ビルを砕く「絶招」は使い切り、強力な「激」もあと一度きり】
【しかし彼女は────その足場を砕いた己の暗黒気弾を恐れている様子で】
【それは彼にとっては好都合だった】


 ────二手先は読めてねェ


【【練氣太極】────「豪人」】
【漆黒に染まった右拳を、倒れた彼女へ向けて真っすぐ突き出す】
【衝撃も貫通も強化はせず、単純に筋力を増したそれは】
【直線的ではあれ、十分な破壊力を持つ】

334【英霊屍揮】死者を連ねる名も無き指揮官@wiki:2022/05/31(火) 18:00:47 ID:obE8UuzM
この街には二つの顔がある。
無辜なる人々と善なる能力者達が謳歌する昼の、"表"の世界。
夕闇を境界に暴力と鮮血、死と支配が鬩ぎ合う"裏"の世界。
此処は昼にあれども薄暗く陽光も届かぬ闇の底。
日常とは隔絶され最早、破落戸さえも近づくことのない廃区画。
能力者同士の闘争は往々にしてこの様な見捨てられた地を造り出すものである。

崩れた建造物の瓦礫を腰掛け替わりに。
少々小太りな金髪碧眼、眼鏡にスーツ姿の青年がステッキに凭れ、
無防備そうにうつらうつらと寝こけている。
その目前では仄かに青白くぼやけた輪郭の幼い少女が、
年相応に無邪気そうにくるくるとふわふわと戯れておどっている。

場所さえ違えば暖かな"表"の光景にすら見紛う。
だが忘るるべからず、此処は"裏"の世の屑底。
日陰者すら慄き避ける魔性化生悪鬼羅刹が棲まう無法の地。

其にて眠るるが亡霊の群れを連ねる者。
"嘆きの河(アケローン)"或いは"存在なき執筆者(ゴーストライダー)"。

暗がりを逝く猛者を求めてかはいざ知れず。
何者かを待つかの様な静寂だけが辺りを満たしている。


//人待ちです。超置き進行(ハイパースロウリィ)予定地です
//それでも宜しければ是非

335【幽明異郷】心折れた鎌使い@wiki:2022/05/31(火) 19:38:20 ID:gIpfFAM6
>>333

視線は否応なしに気弾を追う。
再度の追撃があったならば全力をもって防御……いいやそれではだめだ、無理でもなんでも避けねばならない。
あの威力を前にしてガードにいかほどの意味があろうか? あれを防ぎきれるのはよほど防御偏重の異能所有者くらいだろう。全身鎧に大盾を装備しても間に合うまい。

ゆえにそのまま地面へ落下していった攻撃を目にして女はひとまず窮地を脱したことに息をつく。
いいやそれを放った相手がいまだこちらを狙っている以上、本当の意味で急場を凌いだことにはならないのだが。

ともあれどうにか目前の死を回避し、迫りくるであろう次に備えるため気弾から視線を切り……。

「──なっ」

刹那、大地に堕ちた暗黒のチカラが地面を抉りも砕きもせずおとなしく霧散したことに目を剥いた。
馬鹿な、あの程度で済むはずが……しまったそうか、威力は調節可能ということか!
最初にアレを両断したときはこちらの異能の性質により著しく火力を減少させていたために派手な破壊は起こらなかったものと思っていた、しかしそうではなかったのだ!

(こんなことなら防御しておけば、っ)

「く、ぅ────!」

……余計な思考に気を取られかけておきながらも、身体に沁みついた動作は咄嗟の防御行動を成功させた。
分厚く重い刃を盾に使いつつ、自身も躊躇なく後方へ飛ぶ。無理な体勢からの急な動きは相応の負担を脚に強いたが当たるよりはマシだ。

それでも大きく吹き飛ばされ……転がるように滑り込んだのは建設途中で放棄されたのだろうビルのワンフロアだった。
そこらじゅうに積まれた土嚢や工具が持ち主不在のままひっそりと朽ちていっている。
本来なら大きな窓ガラスが嵌めこまれるはずだったのだろう等間隔に並んだいくつもの窓枠は風通しの良いまま、遠い街の明かりを差し込ませていた。

そんな場所でふらりと、力なくも立ち上がる影がある。
杖のようについた大鎌の刃と女自身に纏わりつく黒い粒子は使い手が動くたび、何か物に当たるたびに体積を減じさせ、そのたびに補填されていたがことここに至ってはその勢いも心なしか弱く……。
死神のローブを連想させる襤褸のような長外套とフードは尚も女の素顔を隠し続けているものの、その額からはぽたぽたと血が滴っており、鎌の柄を掴む指も先ほどより青白い。

消耗しているのは誰の目にも明白だった。もはや決着はついているのではないかと思えるほどに。

336【練氣太極】:2022/05/31(火) 20:59:08 ID:JjblY8po
>>325


 ────よォ。まだやるかい。


【何者を拒むこともせず、されどもはや何者に求められることもない】
【世界の「裏」に巻き込まれた結果主を失い、今となっては後ろ暗い取引の場となった廃ビル】

【そこがまるで自らの家であるかのように、慣れた足取りで青年は踏み入る】
【未だ膝をつかぬ彼女に相対する彼もまた、惜しまず放った大技のために消耗しており】
【顔に浮かんだ残虐な笑みとは裏腹、彼女に駆け寄らないのは疲労もあってのことだった】


 逃げの一手から入ったんだ、戦いは避けたいクチだろ?
 手は止めてやるから、少し話そうじゃねェか。


【そうして──────この期に及んでまだ話したいと、そう言う】
【信じられない発言だが、その真意を裏付けるかのように】
【先程まで彼から滲んでいた暗黒の気は霧散していた】


 なァ。死にたくねぇか?

 与えられた才と恵まれた運に不相応で────俺を「殺す」ことを選ぶほど落ちてもねェ。

 そんな宙ぶらりんでも、生きていたいか?


【一歩、また一歩】【たとえ彼女が鎌を突き付けてこようと、その距離を詰める】
【あるいは飛びのけば距離は開くだろうが、それでも彼女に向けた視線は外れない】

【その言葉は、批難というよりは】
【小さな子供が親に問うような】【あるいは親が愛しい子供に尋ねるような】
【答えを想定した質問にも聞こえて】
【あれだけの暴虐を振りまいていながら────不思議なほどに穏やかだった】

【夕暮れの風が、一陣】
【妨げるもののない窓枠から、彼女と彼に吹き付ける】

337【倫理転生】7つの人格を持つ怪物 ◆/DJQPS2ijA:2022/05/31(火) 21:35:06 ID:fRv0FZ2k
>>334

 その冥府の底を飄々と歩き回るのは一人の男だった。
 静寂の中に溶け込むような覇気の無さで、擦り切れた茶のロングコートを靡かせる。
 短い金髪は陽光を散らして暗く輝き、青い瞳は失せ物を探すように忙しなく動いていた。
 そこが都市の裏通りであれば浮浪者にも映ったかもしれない、そんな様相の男ではあったが、
 しかし、このならず者すら寄り付かない廃区画にあっては、場違いとも言える違和を生じさせていた。
 表の世界に在っては腰のガンベルトに収まった巨銃は不穏に過ぎるし、
 裏の世界に在ってはその呑気な姿は迷い込んだ陽の世界の住民にも映る。
 半端者──そう呼称するのが最もしっくり来るのかもしれない。
 そんな半端者の瞳が、キョロキョロと惑っているうちに、うつらうつらと舟を漕ぐ青年の姿を捉えた。

「やあ、御機嫌よう」

 少し気取った声色で、男は青年へと声を掛ける。
 現地の人間に道を聞く観光客のような警戒心の無さは愚者故か、或いは強者故か。
 一見、無害そうな笑顔を浮かべる男ではあるが、青年ならば感じ取れるかもしれない。
 そこに宿る7人分の魂と、それらの材料としてすり潰された数千の幻獣、妖精、魔物の残滓を──。

「──君が“少佐殿”かい?」

 ゼアグライト・オールディ・ルヴィー・マルクウェン。
 かの傍迷惑な魔女が語った、男の探し求めていた人物。
 "少佐"、"英霊部隊指揮官"、"嘆きの河(アケローン)"、"存在なき執筆者(ゴーストライダー)"。
 数多の称号こそは耳にすれど、正体不明の悍ましき魔人。
 男は──ちっぽけな人間は、彼を探してこの冥府の底まで下って来たのだった。


// よろしくお願いします!

338【幽明異郷】心折れた鎌使い@wiki:2022/05/31(火) 21:41:35 ID:gIpfFAM6
>>336

がさがさと、かさかさと、ごとごとと──それは路地裏の暗がりに棲まう鼠か得体の知れぬ節足動物か、それとも人か。その成れの果てか。そんなモノらの立てる音だろうか。
耳をすませば無数に聞こえてくる不快な雑音、しかしその中にあって両者が対峙するこの場所、この瞬間には不思議な静けさがあった。
気にならない、というべきか。向かい合う相手に集中すればするほど、周りのことが目に入らなくなるのは自然なことだろう。

「……そりゃ、そうでしょ」

夕暮れの空よりもっと濃く、暗い影を落とす女が俯きつつも返答する。

「死んだほうがマシとか、もういっそ首でも吊ろうか、とか……。
 そういうセリフ、よく聞くし、実際そのとおりにしちゃう人もいるけど、少なくともいま生きてる人間はそうじゃない」
 
勿論……中には心臓が動いているだけ、肉体が朽ちていないだけ、そういう者もいる。
この路地裏には特に多い。瞬きをしない瞳で鈍色の空を見上げながら開きっぱなしの口腔に雨水を貯めていて、それでも呼吸だけはしている子供なども。
けれどそういう者たちは〝生きている〟と言えるのだろうか? 〝死んでいない〟だけなのではないだろうか?
生の定義をどこに置くかはそれぞれだが……少なくとも女は、壊れてモノになってしまった人々を生きていると言ってしまうには少々の抵抗があった。

「なんだかんだ、生きる気力はあるから生きてるんだよ。
 放っておけば尽きてしまうのかもしれないけれど……少なくとも、生きてるうちは。……わたしだってそう。
 痛いことはしたくない。苦しいことはしたくない。辛いことはしたくない。……甘ったれだって、言われなくてもわかってるけど。
 それでも、死ぬのは嫌だよ」
 
死にたくない。
生きていたい。
生物として、生命として、極めて自然な生への欲求……それを持ち合わせる程度には、女はまだ生きていた。

339【練氣太極】:2022/05/31(火) 22:24:30 ID:JjblY8po
>>338

【女の声は、闇の中から届く喧騒の中】【はっきりと青年の耳に届いた】


 ────あァ、上等だ。生きる理由には十分すぎる。
 だがよォ。宙ぶらりんのままじゃ……いつか、どこにも行けずに死ぬぞ。
 何も見つからねェ、"逃げる"ばかり────そんなままで、無意味に。


【何か心境の変化があったが、それとも抵抗するよりマシと思ったのか】
【いずれにせよ。青年に言葉を返す彼女の目は】
【彼女自身が口にした通り。生にすら絶望しきったというには、まだ最後の灯が残っていて】
【だからこそ青年は、僅かに語気を強めた】


 命を繋ぐために、ただ誰かの駒になるくらいなら。
 ────せっかくだ。お前自身の、生きる「意味」を探した方が面白い。


【また、笑う。今度は嗜虐の笑みではなく、凶暴で、けれど明朗に】
【それは期待を裏切られなかったことへの喜びか】【あるいは────】


 ……もう一回言うぞ。お前、俺の妹になって────いっぺん底まで落ちてこい。
 この地獄での生き方は、俺が教えてやる。
 再起でも、絶望でもイイ。その無様な半端は、とっとと捨てちまえ。


【────そう。あるいは、青年自身もずっと抱えてきた孤独から、抜け出したいがためか】
【歩みは止まらず。遂に手が届く距離にまで達する】

【そうして。彼女の目の前で青年は、まっすぐに彼女に手を差し出す】
【その掌に渦巻く闇はなく、いっそ襲われたいかのように無防備で】
【救いを差し出すがごとく、救いを求めるがごとく────手を伸ばす】

340【幽明異郷】心折れた鎌使い@wiki:2022/06/01(水) 00:00:21 ID:8O8K/mbo
>>339

差し伸べられた手に、かけられた言葉に……何事か、思うところがあったのだろうか。
黙り込んだまま、俯いたまま、暫しの時が流れた。
やけに長く感じられた……けれど実際には数分もない時間ののち、口を開く。

「……そう、なのかもね。逃げるばかりじゃいけないって、分かってるんだ。本当は。
 生きるためには現実に向き合わなくちゃいけなくて、だからどんな形でも歩き出さなきゃダメだって……分かってたつもりだけど、忘れてたのかも」

誰もがそうして現在を生きている。
後ろを向いてもいい、また歩き出せるのなら。
つまりそれは後ろばかりを向いていてはいけないということで、蹲ったままの今の自分では永遠に明日は来ないということだ。

「あなたの言う通りだね。ありがとう」

だから、感謝の言葉を口にして。
男の武骨な手のひらに、自分もまた手を伸ばして……。


//続きます

341【幽明異郷】心折れた鎌使い@wiki:2022/06/01(水) 00:01:16 ID:8O8K/mbo
>>339
//時間的にはそんな進んでないつもりなんですが、一手で動きすぎかなと思いましたので、お好きなタイミングで反撃なり何なり差し込んでいただいて大丈夫です
//あくまで順調に進めばこちらの流れはこんな感じになるということで……うまいことやれなくてすみません


「──本当にありがとう。
 そっちからべらべらと喋りだしてくれて、正直助かったよ」

 
──後方へ跳び退さると同時に、黒より暗い闇色の影を爆発させた。

女の影に同化するよう、巧妙に隠しつつ展開されていたのは大鎌に纏いつくものと同質の粒子。
だがその濃度が違った。大鎌のそれを影と評するなら、今まさに青年へ殺到しているのは深闇。
光を飲み込む真の暗黒。それは青年の操る邪気と一見して似通っていたが、決定的に違うのはその性質だった。

接触と同時、力が抜ける感覚を覚える。
錯覚ではない。体力、気力、精神力、存在するなら魔力──〝生きる力〟とでも呼ぶべきモノが、その暗黒に触れた端から消滅してゆくのだ。
身体を強化し、転じて破壊エネルギーと為す、彼の動的なチカラとはあまりに違う。
静かに、だが絶対的な影響力をもって生命を死滅させる、さながら死神の鎌か冥界の瘴気と称するべき、おぞましい代物であった。

纏わりつき、生命力を奪っていく瘴気にしかし、抵抗できないわけではない。
今もって次から次へと噴出しては殺到する暗黒に己が暗黒にて抗すれば、邪気の消費こそあれどレジストし続けられる。
見れば刻一刻と生気を失っていく女の顔色、瘴気の操り手も決してノーコストでこれなる異能を振るえるわけではない。
おそらく拮抗が続いたならば先に力尽きるのは女のほうだ、それを待つか、それとも別の……。


//あと一レスだけ続きます

342【幽明異郷】心折れた鎌使い@wiki:2022/06/01(水) 00:01:42 ID:8O8K/mbo
>>339

「────騒霊」

だが刹那、並んだ窓枠の向こうに描き出される外界の景色に無数の浮遊物が出現した。
それは大小さまざまの瓦礫であったり、鉄柵の破片であったり、砕けた植木鉢の群れであったり。
総じて〝女が戦闘中に触れた、ないし接近した物体〟が──黒く沈んだ色の霧に包まれ浮かび上がっている。

そう……女はただ逃げ回っていただけではなかった。
事あるごとに物を削り、壊していたのは〝弾〟を確保するため。
生命に触れて初めて効果を発揮する異能が、なぜかその前段階から体積を減らしていたのは物体に付着させ操作の準備を整えていたため。

周辺の地形を把握し、どこで何に粒子を付着させたかすべて記憶して、あとはそれぞれを同時操作しこのビルを包囲するための時間を稼ぐ必要があったのだが……。
前述のとおりそれは向こうが勝手に始めてくれる。ゆえにもう、あらゆる準備は完了していた。

「閉じろ」

静かな号令一下、それら浮遊物が一斉に青年へ飛来する。
ひとつひとつの殺傷力はさほどでもない。寄り集まったところで彼の邪気による強化にかかってはほとんど無傷に終わるだろう。
だが無数の塵は障害物となって彼の視界を塞ぐ。それらを操る瘴気が消えれば足元に降り積もって移動を阻害する。
そしていまだにうごめき続ける濃密な暗黒は青年の邪気をして守勢に回る以外の選択を許さぬほどしつこく絡みついていて……。

瘴気と物質による足止め、駄目押しと言わんばかりに一閃した鎌がフロアの一角に積まれていた土嚢を切り裂いた。
瞬間、中身の乾いた土が弾けたように濛々と立ち込める。これほど換気のよい場所でも容易に晴れない土煙、鎌で切っただけでは到底こうなるはずがない。
切断と同時、粒子をファンのように形作ってめちゃくちゃにかき混ぜたのだ。結果、大量の土は一級品の煙幕と化して視界を完全に奪う。

「あのさ、いきなり攻撃仕掛けてくるようなやつの話を聞いてもらえると思ったら大間違いだよ。
 初対面の相手と会話したいならまず相応しい態度からって、まあ習ってこなかったんだろうけどさ。
 かわいそうだと思わないでもないけど、殴りかかってきた相手の事情まで斟酌してあげるほどわたし人間できてないから」
 
……土煙の向こう、反響する声が居場所を掴ませぬまま語りかけてくる。
つまり、最初からまともに相手をするつもりなど無かったということだった。
戦闘行動に見えた一連の流れはこうして逃げを打つための準備にすぎず、最後の会話に付き合ってみせたのは単なる時間稼ぎ。

初めから終わりまで馬耳東風、おまえはわたしに攻撃してきただろうが。挨拶代わりと言わんばかりに仕掛けてきただろうが。
そんな輩の言葉をどうしてまともに聞いてやるものか、ふざけるのも大概にしろと怒りをにじませながら……。

「いろいろ言いたいことはあるけど、面倒だから一言だけ。
 ────女の口説き文句くらい少しはまともなのを考えろよ、糞餓鬼」
 
ありったけ、腹の底から侮蔑を叩きつけて……それを最後に女は遠ざかってゆく。
瘴気が完全に消え失せ、煙幕が晴れたその頃にはもう姿はおろか気配すら、どこにもなくなっていたのだった。

343【英霊屍揮】死者を連ねる名も無き指揮官@wiki:2022/06/01(水) 03:59:28 ID:JlncG4xE
>>337
この場所は嘗て高位の能力者達による大規模な戦禍に見舞われたのだろう。
お陰で日中すらも分厚い暗雲が天蓋を覆い、
その隙間から漏れる微かな光だけがこの地の稀少なる光源だ。
地表でさえこうも荒れ荒み、地下に在っては更に重度の能力汚染が進むという。
冥府────。正しくそう云うに相応しい荒涼とした地に一人の男が現れた。

途端に幼い少女は踊りを止め。
ただじっと物も言わずに現れたその男の方を見つめている。

────君が“少佐殿”かい?。

声を掛けられるよりも早いか青年は微睡みから醒めていた様子で。

「この様な場所で待ち惚けていれば、
 孰れ名立たる猛者の一人や二人には会えるかと期待していたのだが。
 フフ。どうやら私は大物との接点に恵まれたらしい。
 本来の名などここ半世紀の内に忘れ去って久しいが……。
 如何にも私が"少佐"を名乗る者だ。
 他にも大層な通り名は幾つか持っているがね。」

冥府魔界の住人とは思えぬ程に答える物腰は柔らかい。

「そう言う貴殿はハイル殿……。
 いや【倫理転生】の御歴々と呼ぶのがより正確だろう。
 幾つかの時代。聖王の騎士団。無限機構。
 時と共に華々しき悪の組織を渡って来た"生き証人"。
 貴殿の様な人物を私は探していた。

 はは。以前、冥河の渡し守(カロン)を気取って名乗った事もあったが、
 当のご本人を前にしては恥じ入るばかりだ。」


その様な柔らかな物腰に反し、厭らしくも卑下た笑みを浮かび上がらせ。

「貴殿の方から私を尋ねに来てくれたのは大変有難い。
 ────して、何用かね?」

現状として視覚的情報からはこの男へ対する脅威なるものは感じ取れないだろう。
だが恐らく貴方の裡の幻獣、妖精、魔獣としての要素。
或いは幽冥界に紐づけられた人格を複数有する者としての感覚が、
只一人の人間から冥府そのものの気配を感じさせるに至るやもしれない。


//宜しくお願いしまっす!

344【練氣太極】:2022/06/01(水) 07:21:22 ID:9T0/1ldM
>>340-342


【────いつだって。終わりは唐突に、当人にとっては思いもしない形で訪れるもので】


【罪を責める礫のように殺到する深闇の粒子】
【限界に近づいていた身体が無様に倒れて膝をつき、「地」の発動さえ間に合わず】

【愛しい路地裏の構造物たちが、破壊されたことへの報復の如く青年を襲い】
【その身体に無数の傷を刻み付けていく】

【そうして最後に、その視界が奪われ】
【────けれど。その直前まで彼の眼は、確かに女の怒りの視線と交錯していて】


 ……よく言いやがる。どうせ、誰の話も聞く気ねェんだろうに。


【力ない言葉は、しかし絶望ではなく憐憫だった】
【彼の生きてきた世界は強さこそすべて】【そもそも話をする前に衝突がないことなど想像すらできず】
【だから彼女の言葉を感覚として理解できてはいなかったが────】

【完全な油断をつかれた敗者の素直さでもってその言葉をいったんは受け止め】
【それでも反論する。あるいはそれは、先程の彼女の言葉を愚かにもまだ真実だと思っているからか】


 まァイイ。お前がどう思おうが、いつかまた会うさ……そんな風にしかできてねェんだ、この世は。


【全身をずたずたに切り裂かれ、足元に降り積もる障害物に身動きすら取れず】
【死すら目前にも見えるそんな無様にあって青年はまだ嘲笑する】
【その対象が彼女なのか自分自身なのか】【それが誰に向けた言葉なのか】
【それはきっと本人にすら分からず】

【そして。完全に身動きが取れなくなる前に────あるいは、出血のあまり意識が失われる前に】
【もはやゼロにも近い精神力を振り絞り、その右足に闇を纏い】



 ────精々それまで死なないこった。半端者



【【練氣太極】────「絶招人」】
【目的を果たし、戦いではなく勝負の勝者となった彼女への称賛としてか】
【全力でもって地を踏みつけた足から放たれる衝撃で、自らを取り巻く全ての障害物を吹き飛ばす】


 あーあ……面白く、ねェ……。


【煙と瘴気が消え失せた廃ビルで、一人青年だけが倒れていた】
【「二の撃ち」まで使った身体はそれだけで限界に至り】
【彼女が最後に食らわせた無数の攻撃のために、その命は風前の灯火だったが】

【────それでも生きている。なぜならば、彼女が残って彼を殺さなかったから】
【逃げ回るだけで追手が消えることなど在り得ないと、もう此処には居ない誰かを嗤いながら】



//絡みありがとうございました!!!
//久しぶりのロールとはいえ我ながら説教がましいキャラすぎる!! 失礼しました。

345【倫理転生】7つの人格を持つ怪物 ◆/DJQPS2ijA:2022/06/01(水) 09:25:40 ID:d7dLMIF.
>>343

 予想外の評価に、男──ハイルは自嘲気味の吐息を吐いた。
 大物などと……生き証人などと、そんなものは過大評価に過ぎない。

「ハイルで良い。僕などは、鮮烈な生き様の……。
 あの、目も眩む程の輝かしき悪党達の陰を、ひそひそと歩いていただけだよ」

 めそめそと、かもしれない。
 幽鬼のように、生者に縋り付いていただけなのだ。
 生き証人どころか、まっとうに生きてすらいなかった愚か者。
 それがハイルの、過去の自分に対する評価だった。
 だからこそ、少佐の言葉は己の恥部を晒されたような気恥ずかしさすらある。
 そんな感情を覆い隠すかのように、ハイルは懐から煙草を取り出して紫煙を燻らせた。
 不躾ではあるが、この冥府に在っては小さな事だろう。

「少し前に、ゼオルマと会ってね。君のことを聞いた」

 悍ましき、恐ろしき、悪辣なる親愛なる魔女。
 彼女から渡された少佐の顔写真を目にして──そのあまりの若さに不安を覚えた。
 神に愛された若造か、或いは年齢を偽っている古狸か……などと想像を巡らせていた。
 だが、実物を目にして、そのような想像も不安も掻き消えた。
 
 ──なるほど、"嘆きの河(アケローン)"とはよく言ったものだ。
 
 その悍ましき気配は、死者の揺蕩う冥河を錯覚させる。
 英雄すら恐怖する生と死の境界線だ。
 そして、“それでこそ”だ。探し求めた人物は、“そういうもの”でなくてはならない。

「僕と共に悪を為してはくれないか?」

 人間として生きるために、悪を為そうと思った。
 人で在るために、人でなしになろうと思った。
 その助けとなるかもしれない人物──魔女お墨付きの“悪党”。
 そう紹介されたのが、目の前で茫洋とした少女を傍らに置く青年だった。
 紫煙を吐いて、改めて口にする。
 
 
 
「世界を滅ぼそう」
 
 
 
 そうしたいから、するのだ。
 それが人間で、それが“悪党”なのだから。

346【英霊屍揮】死者を連ねる名も無き指揮官@wiki:2022/06/01(水) 16:59:02 ID:JlncG4xE
>>345

────ハイルで良い。────────。

「了承した。ならば私の事は便宜上アケローンと呼んでくれ。
 真名でこそ無いが私を表すには適切な通り名だ。
 何、轡を並ぶるべき同胞に階級で呼ばれるのも忍びないのでね。」

自嘲気味に過去を語り紫煙を燻らすハイルに、しかしと返す。

「嘗ての輝かしきと共に在り、未だこうして生き長らえている。
 それが今の我々の世界に於いてどれ程の価値であるのか、
 君とて理解はしているのだろう?
 こと、この先に.世界を滅ぼす(そんな)悪を為さんと志すのであれば。」

ハイルからの要求に何一つとして驚く素振りもなしに、
さも当然の事の様に世界の破滅を前提とした会話を続ける。

「丁度、私からも似たような提案を持ちかけようと思っていた所だ。
 尤もこちらが興味を持つのは滅び(モクテキ)では無く過程(シュダン)の方なのだがね。

 手っ取り早く言うならば私は新たな悪の組織を作りたい。
 名立たる悪人達を。世界を灼き焦がす悪意の群れを。
 混沌の火種を束ねて軍を為し、この世の普くを踏み躙るのだ。
 我々悪党共の大同盟を立ち上げる、その為の一歩として。
 君にも我ら【同盟】に名を連ねて貰いたいのだよ、ハイル。」


青年の様な見た目をした溢るる冥河の化生は。
淀んだ瞳を真黒に輝かせながら、憧れを、夢を語るが如しに。
げに悍ましき野望を騙って聞かせる。

破滅を願うと云うのであれば。
此の荒れ狂える冥河の氾濫に手を貸してみるのも、また一興だろうか。

347【倫理転生】7つの人格を持つ怪物 ◆/DJQPS2ijA:2022/06/01(水) 18:55:11 ID:d7dLMIF.
>>346

「ああ、アケローン。
 僕は己が死に損なったことに感謝をしよう」

 彼もまた鮮烈なる悪であれば、ハイルは眩い物を見るように目を細める。
 だが、目を逸らすことはしない。
 ひそひそと、めそめそと、生者に縋り付く男はもう居ないのだから。

「善良と邪悪の区別なく、人魔神仏の区別なく、
 尽くに反逆し、尽くを殺し、尽くを滅ぼそう」

 この身に眠る総ての魂が願っている。
 八つ当たりで滅ぼそう。平和の為に滅ぼそう。愛の為に滅ぼそう。自由の為に滅ぼそう。
 人間らしく身勝手に、この世一切の区別なく。世界を相手取って悪を為そう。
 この身に“冥河の渡し守(カロン)”の役割が与えられている限り、
 “嘆きの河(アケローン)”と共に在る事は必然である。
 これを運命と呼ばずになんと呼ぼうか。

「君の渡し守をさせてくれ、我らが荒れ狂う嘆きの河よ」

 此処に【同盟】は結ばれる。
 かつて、尊き者の為に悪を為した。
 かつて、永遠の戦争の為に悪を為した。
 それは誰かの理由だった。誰かの願いだった。
 しかし初めて男は、己の願いの為に“悪党”と成った。
 だからこそ【同盟】。支配せず、支配されず、対等なる一個の悪。

「倫理は転じた。
 悪こそが僕の正道だ」

 そして願わくば、忌むべき悪党として、
 永遠に己の名、己の存在が刻まれんことを──。

348【英霊屍揮】死者を連ねる名も無き指揮官@wiki:2022/06/01(水) 20:31:33 ID:JlncG4xE
>>347
今、【同盟】の名の下に。
此岸と彼岸を分かつべき死の河とその守り人。
在るべき姿を歪めた盟約がここに結ばれる。

冥河は今や境界に非ず、溢れ飲み込み侵し往く災いに転じ。
守り手もまた役目を棄て、毀し殺し滅し尽くす死神へ転じた。

「さて、思いの外に速やかに事が片付いてしまったな。
 現状の同盟相手の事、今後の展望や他語るに尽きなくこそあるが。
 そも我らは"悪党"だろう?
 対話のみで済ませる分には楽であるし余分も無い。
 而して些かにつまらなくもあるだろう。

 尤も互いに真っ向からぶつかるならば。
 その時は"試し"などと云うものの余地など無く。
 どちらかが、或いはどちらもが死を晒す事に成るは必定だろうがね。」


傍らで静観を続けていた少女の手元には、
いつの間にか見目不釣り合いな機関銃が携えられていた。

「ならば遊興(ゲーム)をしよう。ルールなどはどうでも良い。
 互いの能力の有用性を誇示する為に。
 若しくは相手への牽制や威迫を示す為に。
 どこまで手の内を晒すのかまでもが駆け引きの内だ。

 手頃な的でも"居"れば良かったのだが。
 まあ此処ならばどれ程の騒ぎを起こしても誰とて与り知らぬだろう。」


悪ならば無秩序、混沌を愉しんでこそだろう? と。
殺し合いとはまた一味違う、己が全力の程を競って見るも良し。
真の実力を欺き通して見るもまた一興だろう、と。
心底愉し気に同盟者へと嗤い掛ける。


「さしずめ先ずは破壊の規模でも競おうかね?」


【血海戦染】、【磁弓刃雷】、【動力構成体】 招集────


杖が地を叩く毎に昏き冥河が溢れ死者が現界する。
これこそを以ての異能、【英霊屍揮】。
生死の理を歪め世の摂理を乱すが為の特異にして悪辣なる魔性の力。



//今日の分のお返しはここまでと思われますっ

349【幽明異郷】心折れた鎌使い@wiki:2022/06/01(水) 20:38:46 ID:ll7RPBaU
>>344

跳躍。跳躍。建物から建物へ、夕暮れの薄闇を駆ける。
一目散に離脱するその背後で、今しがた脱出したビルから轟音が鳴り響いた。
まさか追いかけてきたのか──咄嗟に振り向いて気配を探るも、その様子はどうやらなく。
けれど離れる脚が止まることはなく、むしろ早まった。一刻も早くと、逃げ足は回転率を高めるばかり。

「──はぁっ! はっ、はっ、……!」

十二分に距離を取りったことを確認し、何処かのビル屋上にへたり込む。
荒い息をつく様子に余裕など欠片もない。彼女自身、限界が近かったのだ。
多量の〝死神〟を行使した代償は軽くはなかった。もともと青白い顔色が更に薄く、病的なほど色を失っている。

まったく、とんだ災難に出くわしたものだ。
この街はああいう手合いに事欠かないから困る、そのぶん仕事も実入りも多くはあるのだが……。
ともあれ……と、得物を握る方とは別の手にあるものへ視線を落とした。

「コレは無事に回収できたし、ひとまず安心かな」

鈍色に光るアタッシュケース── 一度は投げ放ったものがどうして彼女の手にあるのか……単純な絡繰り、あの〝騒霊〟と同じ原理である。
あらかじめ適当な量の粒子を悟られぬよう仕込んでおいて、無数の浮遊物と煙幕に紛れさせ回収していたのだ。
地面のアスファルトへ派手にこすりつけられたせいで表面にひどい擦過傷が刻まれてはいるが、中身は無事のはずだ。問題なかろう。

さて、と立ち上がって埃を払う。
めちゃくちゃ疲れた。帰って寝たい。その前に報告があって、それがまた面倒だと憂鬱な気分になりながら……。

ふと、最後の会話で自分が語ったことを思い出す。
時間稼ぎのためではあったが……いいやむしろ時間稼ぎのためであったからか、言葉に嘘はなかった。
逃げるばかりではいけない。現実に向き合わねばならない。どんな形でも歩き出さねば。
ああそうとも、分かってはいるのだ。それが正しい生き方なのだろうと。

「……まあでも、そんなふうに正しく生きられるひとばかりなら、誰も苦労はしないよね」

分かっているけど自分はそう生きられない側の人間なんだ、と……。
こんな自分に思うところはそりゃあるけど、それでもとりあえず生きていられれば、まあ。
そう諦めて……あるいは妥協して……実に凡俗らしい〝なあなあ〟で、日々を生きているのだった。

──女がとある暗殺者に遭遇する以前の、一幕である。


//ありがとうございましたー-!!楽しかったです!!!
//いえいえそんな、こちらこそ最後は強引な感じになっちゃってほんとすみませんでした……!

350【倫理転生】7つの人格を持つ怪物 ◆/DJQPS2ijA:2022/06/02(木) 01:06:00 ID:xH/4I2eM
>>348

 アケローンの提案に、ハイルは僅かに思案してみせた。
 何らかの抵抗感を抱えているような、そんな表情。
 
「──まったく、まだ吸い始めたばかりだというのに。
 ああ、ああ、僕は構わないよ」
 
 それは、アケローンに向けた言葉であり、そうではないとも言えた。
 お手上げだとでも言うような、投げやりな態度にも見える。
 ハイルはやがて小さく溜息を吐くと、咥えていた煙草を一口だけ大きく吸った。
 
「だが、破壊力を競うと言うならば、少し殺風景に過ぎる」
 
 雲間から僅かに溢れる陽光が照らすのは、朽ちて崩折れた建造物。
 薄暗い──どんよりとした廃区画には生きた建物などもはや残っていないように見えた。
 能力による汚染は荒涼な殺風景を作り出し、それを攻撃の的とするのは味気ない。
 
「──だそうだ」
 
 まるで他人事のように、己の言葉ではないかのように。
 大量の紫煙を吐き出して、ハイルはそう言った。
 そして、指先でまだ火をつけたばかりの煙草を弾くと、
 それが地面に落ちるよりも早く腰のホルスターから巨大な拳銃を抜き放つ。
 曲芸の早撃ちであれば、撃ち抜くのは投げ捨てた煙草なのだろう。
 だが、ハイルが銃口を向けたのは煙草ではなく、己のこめかみだった。
 そして、一瞬の躊躇もなくその引き金を絞り込む。
 
 ──まったく、嫌煙家との同居は窮屈だ。
 
 そんな言葉が銃声の轟音に紛れ込み、そして、“夜が訪れた”。
 突拍子もなく、雲間から覗く天蓋が黒く染まり、
 零れ落ちる僅かな温かみは漆黒の冷気に呑み込まれてゆく。
 そして、だというのに地上の明るさに変化はない。まったく異常な天変地異。
 その中で、大柄なハイルの肉体に宙空から出現した黒色の帯が纏わりつき、
 やがて全身を覆う帯が雪のように溶け落ちると、
 其処には純黒のフリルドレスに身を包む少女が姿を現した。
 そして、彼女は恭しく淑女のように膝を折ってカーツィを行うと、無邪気な笑みを浮かべた。

「初めまして、アケローンの小父様。
 私は“ニュクス”、この身体に住む魂の1つ」

 若い、というより幼いと言って差し支えない少女──ニュクス。
 真っ黒なストレートヘアは白い肌に映え、彼女のその肢体の幼さをより強調させた。
 年嵩にして10代前半の少女は、しかし、ハイルとは比べ物にならない“怪物”であると感じさせる。
 それは目を覆う黒い帯の異様さもそうであったし、“夜の神”の名を冠する事からも伺える。
 そして、それ以上に雄弁に、その矮躯から溢れる魔力が彼女が人ならざるものであると語っていた。

「ゲームを、したいんでしょう?」

 ニュクスが指をパチリと弾くと、
 能力汚染によって冥府の如く成れ果てた地の、悍ましき瘴気が“捻じ伏せられる”。
 天候を左右するほどの魔力が周辺地形を覆い尽くし、朽ちた建造物が黒く染まっていく。
 黒色の魔力は実体を以って廃墟に“かつての形”を与えて行き、
 オマケとばかりに黒く染まった地面から人影のようなものが生み出されていく。
 それは街だった。黒色の魔力で形作られた、実体を持つ1つの街。
 空から見下ろせば、その“街”による侵食は数平方kmにも及ぶことが分かるだろう。

「これなら、分かりやすいわよね」

 彼女は人懐っこい笑みを浮かべて、そう言った。
 アケローンはハイルの同胞となった。
 そして、ハイルの同胞はニュクスにとっても同胞という事になる。
 だから、彼女は“少しだけお手伝いをした”だけなのだ。
 家事の手伝いを名乗りでる幼子のように。
 愛すべき同胞の提案を助けるべく、街を1つ作ってみせたのだ。

351【英霊屍揮】死者を連ねる名も無き指揮官@wiki:2022/06/03(金) 17:00:03 ID:FYfjmPX.
>>350
溜息と共にごちりながら煙草を大きく吸って撃鉄を引き、人格を変える姿に。

(ふむ、少々勇み足が過ぎたな。ハイルには悪い事をしてしまった様だ。)

内心で省みつつも異様な"夜"の訪れを見届ける。

「Bravo!(素晴らしい) Bravo!(凄まじい)
 矢張り魔法という力には目を見張るものがある!
 是非にとも欲しい!!」

数km四方にも渡り風景を一変させしめた異能(モノ)を前に喝采し。

「……いや失礼。ニュクス、君の事では無いのだ。
 強大な魔術師の英霊と正規の契約を結ぶ機会があれば良いと、
 そう思っただけの事。他意は無い故、気を悪くしないで欲しい。」

この男はどうにも興が乗ると童の様に燥いでしまう所がある様子。

「規模を競おうなどと言ってはみたは良いが。
 大抵の場合では創るよりも毀すが易い。
 今の私の部隊ではこれらを一瞬に破壊せしめるのは不可能だ。
 故に勝負はそちらの圧勝、と言った所である。

 が、私はそもそも根が日陰者でね。
 この様な場でも無ければ実践的に隊の連携を試す機会も余り無い。
 負け戦ではあるが少しばかりの悪戯(アソビ)に付き合ってくれまいか?」


機関銃を構えた亡霊少女と顔に火傷痕を持つ少女が一歩前へ出る。

「先ずは新たに部隊に迎えた隊員との連携を試そう。
 此れを前にしては多少地味な絵面になってしまうが暖かく見守って頂きたい。」

タタタ、タタタと正確な拍子を刻む様な射撃音が続き。
最小限の弾数で夜の街の人影を一人また一人と潰してゆく。

次いで亡霊少女が装填用の予備弾倉を火傷の少女へと放る。
それをすかさずキャッチして其のまま頭上やや前方へと投擲。
金属製の弾倉へは既に触れた瞬間に磁性が付与されており、
追って寸分違わずに投擲されたナイフが軽い金属音を立てた刹那。
遅れて発動させたナイフへの磁性が強烈な反発作用を生み出し。
弾倉内の弾丸が炸薬諸共に散弾宛らに弾け飛ぶ。

それぞれが金属鎧をも貫通せしめる速度と威力を持った細かな鉄片の飛礫。
亡霊少女の継続的な射撃と合わせて凡そ数十人。
それだけの人影が本物であったならば物言わぬ肉塊へと果てていただろう。

先ずは小手先の御挨拶にと指揮者は嗤う。

352【倫理転生】7つの人格を持つ怪物 ◆/DJQPS2ijA:2022/06/03(金) 18:49:08 ID:2mTtTJko
>>351

 易々と己の敗北を認めるアケローンに、ニュクスは僅かに笑みを浮かべた。
 自らを下に置いて見せるのは、揺らがぬ自信と自我があるから。
 謙遜とは高位に在る者のみに許された韜晦だ。

「ええ、私も遊びは好きよ。あなたを見せて?」

 ニュクスは愉快そうに、アケローンの言葉を受け入れる。
 揺らがぬ自我など、ニュクス達にとっては縁遠い言葉だ。
 いつだってその魂が混ざり合い、崩壊する危険と隣合わせの歪な存在。
 そんな者からすれば、彼の一個としての完全さは羨むべき性質だった。
 そして、彼がひとたび指揮を振るえば、完璧な連携を見せる死霊達。
 次々と消えていく人影を見て、ニュクス愛おしげに口を開く。

「優しい能力ね、アケローン」

 皮肉ではない。それはニュクスの本心だった。

「貴方の中では、死(おわり)は終わりではない。
 英雄たちに戦う場所と、生の“続き”を与える慈悲深い力ね」

 ニュクスは人を愛している。
 退廃的に落ちぶれて行く者、先鋭的に変化を生み出す者、
 刹那の為に命を投げ出す者、永遠の命を望む者。
 すべてを同等に愛している。──故に、彼女は殺す。
 その全存在を感じる為に、味わう為に、命を奪う。
 そんな彼女にとって、死後すらをも保証するアケローンの力は魅力的だった。

「私は──私が死んだら、貴方に力を貸してあげたいわ」

 可能なのかは分からない。
 それは、彼の力の詳細が不明であるという事も理由の一つだ。
 直接殺す必要があるのか、或いは何らかの契約を結べば良いのか、
 ともすれば、心臓を食らう必要がある能力という可能性もある。
 そして、それ以上に……ニュクスの死後は既に処遇が決まっている。
 悪辣なる、親愛なる魔女──ゼアグライト・オールディ・ルヴィー・マルクウェン。
 ニュクスの魂は死後、彼女の所有物となる契約を交わしていた。
 だから、それは小さな、きっと叶わぬ願いだ。

「だから、もっともっと力を見せて!
 私を、総てを、誰も彼もを殺せるくらいの力を!」

 ニュクスが指をパチリと弾くと、街を蠢く人影の一団に変化が現れる。
 それらはまるで互いを抱き合うように集まり、溶け混ざり、
 見る見る内にその体躯を巨大化させていく。
 推定10m程度の巨大な人影が眼前に街に現れ、
 加えてその周囲にもまばらに人影がぽつぽつと生まれている。
 ニュクスの魔力は防御に向いていない攻撃的な性質を持っている。
 故に、その巨人も銃弾を阻むことは出来ないだろう。
 しかし、その大きさは周りの人影の5倍近く、体積に至っては25倍程だ。
 純粋に、小口径で消し飛ぶ大きさではない。
 そんな巨人が、今にもアケローンに掴みかかろうと長大な手を伸ばしてきていた。

353【英霊屍揮】死者を連ねる名も無き指揮官@wiki:2022/06/03(金) 20:27:39 ID:FYfjmPX.
>>352

────優しい能力ね、アケローン。────────。

「"優しい"、か。
 久遠の命。死者の復活。それらは永きに渡る人類の大願の一つだ。
 不完全ながらも似たような事を行える我が冥河の姿に、
 如何な想いを映し見たとて私は一向に構わない。

 ……そうだな。縁起でもない話ではあるが。
 仮に君が、君達が志半ばに斃れたとして。
 その時にまだ私が生きていて、君達皆がそれを望むのであるならば。
 ああ。私がその能力(チカラ)と滅び(オモイ)を引き継ごう。」


/* これより"物語"内の一切の人物による閲読を禁ず。

【英霊屍揮】と云う能力によって召喚される"英霊"。
死者達は正確には死んだ本人と同一存在ではない。
そもそもが死んでおらず表舞台から退場しただけの者さえ呼び出せるのだから。
其れに於ける魂による"拒否"と呼べるものは。詰まる所にそう言う事なのであり。
例えゼオルマの様な超越的なPCであったとしても、
"本人"の意向を覆すには至らない事を説明しようと思う。
尤も、この話は"逆"の場合にあっても成立する。
私は"当人"の意向を覆す形での使用は行わないと此処に宣言する。

 以上。 */


それが本当に"優しさ"故か単に有用な力を欲してだけかは、
決して表情にも気配にさえ出しはしなかったが。
男はニュクスの言葉に確かに"保証をしよう"と応えた。

そして続く更なる破壊を促す言葉と迫る巨躯の腕を前にして。


「よろしい。ならばもっと強く、もっと激しく。
  ────奏でて魅せよう!」

指揮官ならぬ指揮者の体をして展開した全部隊員へ指示を与える。
ニュクスが天を"夜"で覆ってみせた様に、地を血獄の揺蕩う水面が覆い侵す。
其処より顕れたるは膨大なる巨影。
幻想種を除いた現世に於ける最大の生物に等しい、或いは上回る体躯。
大牙を戴きし鯨にも見える紅き大海龍の似姿。
巨人の更に倍はあろうという大質量の血液の奔流が、
横面からそれを呑み込み一帯の建造物諸共に薙ぎ払う。

其処へ向けて指揮者が手を振り払えば。
それに合わせて爆裂する光弾、擲弾の掃射、
及び磁性の反発により砲弾の如く放たれた鉄骨などの瓦礫、
それら様々な形の破滅の雨が悉く降り注いで轟音を鳴り響かせる。
災害と呼ぶに何ら遜色の無い地獄の狂騒曲をただ七人(ひとり)の観客の為に聞かせながら。

「この広さを更地にしてみせるのは流石に骨が折れるのでね。
 矢張り"規模"を競うと云う点にあっては君の勝ちなのだよ。
 どうだろう、ご期待には添えたかね?」

"英霊部隊指揮官"は聴客へと訊ねる。

354【倫理転生】7つの人格を持つ怪物 ◆/DJQPS2ijA:2022/06/04(土) 10:41:17 ID:CnX8QVGs
>>353

 その破壊を前に、ニュクスはやはり韜晦かと口角を上げる。
 生れ出づる血流の河、血河に映る巨影、精密なる光弾、破壊の雨を降り注がせる砲撃、
 それらを重ねた音楽は、決してニュクスの行える破壊に劣るものではなかった。
 尋常ならざる破壊に巨人も、周辺の建造物も消し飛び、夜の霧と散る。
 その光景を見届けてから、ニュクスは感極まるように頷いた。

「ええ、そうね。──“今は”私達の勝ち。
 けれど、期待以上に素晴らしい曲だったわ」

 今は、と但し書きをつけたのには二つの理由があった。
 一つは、アケローンの能力。
 ニュクスにはこれが、この破壊が彼の限界とは、決して思えなかった。
 彼はこの世に能力者が生まれる限り、死に行く限り、その力に上限などないのではないだろうか。
 極論、“世界を滅ぼす力”を持った能力者の死霊すらをも支配できるのかもしれない。
 本人の同意が必要なのか、など今のニュクスには知りようもないが、
 ニュクスが力を貸したいと願ったように、彼にはそうさせるだけの魅力──カリスマがあった。
 それがもう一つの理由だ。
 ニュクスは──ハイル達は嘆きの河(アケローン)の渡し守であろうと誓った。
 だからこそ、同盟の名の下にアケローンが願うならば、
 世界を滅ぼすだけの力をニュクス達は振るうだろう。

「貴方に出来ない事は私達が出来れば良い。
 そのための【同盟】でしょう?」

 ニュクスが指をパチリと鳴らすと、黒色の街は霧散を始める。
 その黒色が逆巻く雪のように溶け行く中で、ニュクスは楽しげにクルクルと踊った。

「だから私達は貴方を求めたの。
 英霊部隊指揮官──私の旗印と成り得る、カリスマの持ち主」

 ニュクス達が求めたものは、自分たちには無い“人々を導ける力”を持つ者だった。
 これは傲慢などではなく、増長でもなく、ニュクス達には一騎当千の英雄になるだけの力と自信があった。
 無類の力を古い、悪を以って“これこそが悪である”と善悪を切り分ける反英雄となるだけの自信が。
 しかし、悪党共の旗印にはなれない。悪党を導く救世主たり得ない。
 渡し守は、冥河そのものにはなれないのだ。

「貴方は、私達の救世主になるのよ」

 それは、まるでそう運命づけるような言葉だった。
 ──言霊と言っても良いかもしれない。
 呪うように、祝うように、ニュクスはそう口にした。

355【英霊屍揮】死者を連ねる名も無き指揮官@wiki:2022/06/04(土) 20:13:25 ID:q4qBMUWY
>>354

「ご清聴、感謝する。」

霧と消えゆ黒の街を背景に奏者を束ねる者は辞儀を返した。
そして語られる己を求めた理由。己に求めている役割。

「カリスマに救世主か。
 私には些かに荷が重い、役者不足にさえ思うがね。
 それでも【同盟】が成立する為に、旗印になる者が必要だと言って。
 其れを私に見出してくれているのであれば。
 うむ、可能な範囲でだが務めさせて貰おう。」

これは謙遜とは少し違う。
彼が指揮官として振舞うのは部下たる"英霊"達に示しを付ける為であり。
同盟者を相手に序列を定める様な事態は本心では望んでいなかった。

「代わりに私は"私に出来ない事"を皆に求める。」

アケローンに出来ない事。
英霊からの召喚拒否により以降二度と使用できなくなる可能性というリスク、
其れを鑑みさえしなければ【英霊屍揮】という能力に先ず不可能は無いだろう。
例え今それが出来ずとも、ニュクスが考察したように、
"出来る者が生まれ死ぬまで"待ち続ければ良い。

それでも確かに一つだけ。
絶対に彼には出来ない事が明瞭に存在している。

「私とて早々に退場する積りなど微塵もないのだがね。
 それでも、もし私が先に斃れる様な事があったならば。
 ……或いは道半ばにして私の消息が絶える様な事があったならば。
 "遺志"を継いでくれ等とまでは言わない。
 どれだけ頭を挿げ替えてでもも良い。
 その度にどの様な大義を掲げても在り方を歪めても構わない。
 だから延々と焦がし燻る焔であり続けてくれ。」

盟者の死後の"保証"は、望まれるなら継ぐ事ができる。
だが、此の冥河が死せる時。その先の"保証"は誰が出来るのか。
極論を言えばこの男は自身の死自体は恐れていない。

────それでも。
確かな"部隊"を築き上げるまで光も届かぬ地の底で、
数多の時代に輝きし悪の華々の集う地上の世界を死者から伝え聞いた。
孰れ先達に並び立ち、共に世界を壊したいと切望した。

だが、今の世の何処にその栄光は残っている?
消えてしまったのだ。
正義の徒に滅し尽くされた訳でもなく。
競合する悪の理想と刺し違えたでもなく。
ただ忽然と消えてしまった。

「決して消えない焔であってくれるならば。
 私はこの身を救世主(たきぎ)と差し出し、
 悪党共(きみら)が為の御旗と成ろう。」

厭らし気なにやり嗤いは無い。
心底からの渇望と失われたものに対する嘆き。
死に場所を求めているのでは無い。
故国は滅び、残され置かれた救国のチカラ。
老兵がそれを振るうに定めたのは、
悪党(はらから)達の輝かしき破滅(みらい)が為。

「……応えてくれるかね?」

それが運命だと謳うならば、この望みを以て呪詛/祝福と返そう。
青年のカタチを為した墓標の群れが貴方の瞳を覗き返している。

356【倫理転生】7つの人格を持つ怪物 ◆/DJQPS2ijA:2022/06/05(日) 11:32:43 ID:oPTkc0To
>>355

 彼の願いの、その果敢無(はかな)さたるや、
 ニュクスはその願いが如何に難しいものかを知っていた。
 共に歩んだ誰も彼もが、その燃え盛る意思の炎と共に、消え失せた。
 ニュクス達自身も、一度はひっそりと死を待とうとしていたのだから、
 アケローンの願うそれが、果てしないものだと実感と共に理解している。
 だからこそ、ニュクスはゆったりと目を覆う黒い帯をほどき、
 その奥にある緋色の瞳でアケローンを見据えた。

「──ええ、勿論」

 ニュクスは柔らかい笑みを浮かべてアケローンの言葉を受け入れる。
 それは、ニュクスを含むその身に宿る魂総ての総意だった。

「だって、私達はずっとそうして来たんだもの」

 願いもなく、意思もなく、生きようともせず、死からも逃れ、
 ただ寄り添うようにして、それでもニュクス達はあの輝かしき悪党共と共に歩んでいたのだ。
 その想い、その願いの一端を抱え込み、亡霊のように歩み続けたのだ。
 
 ────世界を巻き込む大戦争を。
 
 心の奥底で誰かが叫んでいる。
 善悪の区別なく、主義思想の区別なく、総てを地獄に引き摺り込もう。
 
 ────世界を滅ぼせ。
 
 心の奥底で誰かが叫んでいる。
 人々を殺し尽くし、文明を消し去り、大戦争を以ってそれを為そう。

「細々と、めそめそと、小さな火を継いで来たんだもの」

 ニュクスの背に、その体躯に迫る程の巨大な黒翼が出現する。
 途端に周囲の空気が重々しく震え、彼女を中心に膨大な魔力が放出させていることを知らしめる。
 それは、ニュクスの誠意であり、決意の証明。
 呼吸をするように天候を左右する程の尋常ならざる魔力は、やがて空間そのものに小さな亀裂を走らせる。
 景色が歪み、硝子のような罅割れが宙空に刻まれ、地面がじくじくと黒色に染まってゆく。
 先程作り出した黒色の街とは違い、これは不可逆の現象だ。
 もはや、廃区画は二度と正常な街に戻ることはないだろう。
 それだけの魔力、それだけの意思を以ってニュクスは応える。

「薪(あなた)をも苛む不滅の焔であることを誓うわ」

 そして、パチリと幾度目かの音。
 ニュクスが指を弾いた途端、大量の硝子が砕け散る騒音と共に、
 彼女の周囲の空間が砕け散り、真っ黒な、伽藍堂の“無”が其処に刻まれた。
 端的に言えば、極々小規模に、局所的に、“世界が壊れた”のだ。
 その不可逆の爪痕を刻み、それを誓いの証明として彼女は緋色の眼を輝かせる。

「嘆きの河はオルフェウスにも侵させはしない。
 貴方の願いはこの世に永遠に刻まれるわ」

 これを以って、契約は成るだろう。
 墓標の群れと、悪魔の契約。この世にこれほど悍ましいものも無い。
 だがそれは、この世で最も純粋で、かけがえのない願いでもあったのだ。

357【英霊屍揮】死者を連ねる名も無き指揮官@wiki:2022/06/05(日) 12:55:29 ID:6Rk29icg
>>356

────ええ、勿論。

「ならば互いの往く末を大いに呪(いわ)おう。」

悍ましくもかけがえの無い魔と魔の契約は成就した。

「では遊興(ゲーム)は此処までとし、
 組織(ビジネス)の話に移ろうか。
 場所が場所故、茶の一杯も用意できずにすまないがね。」

重苦しい渇望は鳴りを潜め、再び愉し気に。
滅びの道程(これから)についてを語り始める。

「現在私が把握しているもう一人の同盟者。
 名をゲアハルト・グラオザーム。
 私とは打って違い"表"にまで顔の利く奔放な男だよ。
 今頃向こうも誰がしかを引き入れているやもしれん。」

ゼオルマの様に顔写真までは提示できないが、
これだけでも探し出し接触するには充分な情報だろう。

「して。ゼオルマから……。
 いや、それこそ"殿"を付けて呼んでおくべきかな。
 いつ何処での会話を聞いていても可笑しくはない御仁だ。

 ……彼女に私を紹介されたと言っていた。
 既に把握までされているとは末恐ろしいものだな。
 まあ、全面的に敵対されている状態でも無いなら吉報か。」


本人たって現れるにまでは評価されておらずとも、
有力で今必要とされる人物を差し向ける程度の関心はあるのだろうから。

「差し当たって組織を本格的に稼働させるならば、
 【同盟】の体裁を保つ為にももう一人くらいの仲間が欲しいところだ。
 数が出揃った暁には先ず皆でこの名無しの同盟の名でも考えようじゃないかね。」

悪巧みをしている時の貌は外見ともそう違わぬ、寧ろ稚気ているくらいに。
恍惚と嗤うただの悪党そのものである。

嘆く墓標の丘も嗤う冥府の河もどちらも変わらぬこの者の本心。
失われた過去に嘆くのも、闇靄ばかりが覆い潰す未来を憂うのも、
現在の享楽に愉悦を溢すのも全てが偽りのないこの男の心である。


//※メタ的には中の人換算でもう一人、という意味合いです。

358【倫理転生】7つの人格を持つ怪物 ◆/DJQPS2ijA:2022/06/05(日) 14:26:03 ID:oPTkc0To
>>357

 遊戯の時間は終わる。
 アケローンに負けず劣らず稚気を帯びた少女は、まるで門限が来たかのように嘆息した。

「ええ、残念だけれど遊びは終わり。
 後は大人同士で悪巧みの時間……なのよね?」
 
 そう言って、ニュクスはドレスの裾から、小さな手に似合わぬ白銀の巨銃を抜き放つ。
 そして、それを両手で持つと、己の顎の下に銃口を添えて笑みを浮かべた。

「また逢いましょう、アケローン」

 直後、衝撃にも似た轟音と共に少女の頭蓋は夜霧のように消し飛んだ。
 途端に偽りの夜は晴れ、鬱屈とした曇天が舞い戻り、
 空間を押し潰さんとしていた魔力は白昼夢のように消え失せる。
 そして、肉体を再構築したハイルがその場に現れ、擦り切れた茶のロングコートが風に靡いた。

「遊ぶだけ遊んで人任せか、あの餓鬼め……」

 そんな小言と共にハイルはホルスターに拳銃を納め、小さく咳払いするとアケローンに向き直った。
 さて、彼の言う仲間についてであるが、宛がない訳ではない。

「仲間についてだが、ゼオルマを引き込めるかもしれない。
 だが……彼女の事だ、あまり期待はしないでくれ」

 自信無さ気な言い方になるのは、仕方のないことだろう。
 何せあの魔女は神出鬼没。
 アケローンが言うように今この会話を耳にしていてもおかしくはないし、
 逆に何を思ったか世界と隔絶して引きこもることが無いわけでもない。
 彼女から協力の約束は結んでいても、それが実現するかは不明なのだ。

「だが、まあ残りの一人くらい探してみようじゃないか。
 今までもそうだったし、君を見つける時も、これからだってそうだろうさ」
 
 歩いて、探して、引き摺り込む。
 気の長い話ではあるが、元よりハイルはそうして仲間を増やしてきたのだ。
 もっともそれは、それ以外の手を知らない、持ち得ないという事でもあるのだが。

「或いは、そのミスター・ゲアハルトに期待した方が早いのかもしれないな」

 表を生きる者にしか使えない手もある。
 ハイルは元より狂える者に巡り合う事は得意でも、
 表を生きる者を堕とす事はそう得意でもなかった。
 だからこそ、果報を寝て待つというのも手なのかもしれなかった。

359【英霊屍揮】死者を連ねる名も無き指揮官@wiki:2022/06/05(日) 15:13:27 ID:6Rk29icg
>>358
ニュクスが別れを告げハイルが戻ってくる。
彼のゼオルマを勧誘出来るかもしれないという言に。

「正直私にもどう転ぶのかは予測もできんよ。
 単騎で世界(ばんめん)の元から覆し得る者というのは。
 味方になるにしろ、ならないにしろ。
 悩みの種になる事だけは確定だがね。」

期待はしているが、気負うまででは無いと返した。

「私の能力は撤退戦には余り向かない。
 下手に表層近くをうろついて妙なのに噛みつかれ様ものなら、
 その区画毎消し飛ばしてしまわなければならぬが故。
 動ける範囲そのものは極めて狭い。

 が、人任せばかりも宜しくない。
 仮にも組織の旗印であれ、とされた者なら猶更に。」


召喚の為ではなく、今いる場所を示すが為にコツと杖を鳴らす。

「ならば此度君にまみえた様に。
 闇の底闇を往くものあれば私からも声を掛けてみよう。
 我らの求むる猛者ならば斯様なな地でも遭い見える事もあろうとも。」

360【倫理転生】7つの人格を持つ怪物 ◆/DJQPS2ijA:2022/06/05(日) 16:56:21 ID:oPTkc0To
>>359

 生の気配をも遺さぬ朽ちた土地。
 そんな場所でアケローンとハイルが出会ったように、
 そう、悪であれかしと定められた者ならば、きっとこのような場所にも訪れるだろう。
 彼らは皆して常軌を逸しており、正道から外れており、だからこそ人知れぬ場所に漂着するものだ。
 
「僕らは共に“人間をとる漁師”となる訳だ」
 
 可笑しそうにハイルは笑う。
 かの救世主は漁師の兄弟と出会い、彼らを“人間をとる漁師”とした。
 漁師の兄弟は大いに信徒の獲得に貢献し、最も有名な使徒となった。
 我々が為す悪行の同胞(はらから)を得るのは、使徒の行いよりも難しいものなのかもしれない。

「もっとも“神”の名を押し付けられた僕達に、信ずる神など存在しないけれどね」

 皮肉げに己の境遇を口にして、ハイルは嘆息する。
 神を模した化け物が世界を滅ぼそうとするのだから、
 嗚呼、まったくこの世はままならないものだ。
 ハイルは少しだけ目を閉じて状況を整理すると、アケローンを見据えて言った。

「──さて、方針が決まったのならば、僕らは早速往こうと思う。
 此処にはお茶もないしね……嗚呼、冗談だよ。
 兵は拙速を尊ぶと言うだろう?」

 だから、いつものように放浪するのだ。
 世界をどのように滅ぼそうかと頭を悩ませながら、幽鬼のように。
 そこに、人探しの目的を追加されたとしても、ハイルの生き方は変わらない。
 それこそ、渡し守の如く川を揺蕩うばかりなのだ。

361【英霊屍揮】死者を連ねる名も無き指揮官@wiki:2022/06/05(日) 20:06:58 ID:6Rk29icg
>>360

────“人間をとる漁師”となる訳だ。

かの救世主の逸話を引き合いに冗談めかすハイルへ。

「は。それこそ"人でなしをとる漁師"を名乗るべきでないかね?」

滅世の主足らんとする我らが募る同胞は、
非人間、悪逆無道の類いであろうと皮肉を返してみせた。

「──そうするとしよう。
 拙速にしろ神速にしろ、今は事を急くべきなのには変わるまい。
 次は組織の面々として一堂に会そうではないか。
 嗚呼、愉しみだ。さらば。」

幽鬼の如くに苦悩の河の流れに揺蕩い去り行く新たな同胞を見送って。

「では諸君。我らは再び冥府を潜ろう。」

光射す世界に背を向けて。
墓標の群れ、嘆きの澱、冥河の調べは地の底へと還っていく。
世に仇を為す、破滅を告げる刻まであと────。


//長らくのお相手ありがとうございました!
//お疲れ様&楽しかったです

362【倫理転生】7つの人格を持つ怪物 ◆/DJQPS2ijA:2022/06/05(日) 20:50:11 ID:oPTkc0To
>>361

 アケローンの言葉にハイルは頷く。

「ああ、僕らは現に戻るとしよう」

 互いに別れを告げ、廃区画を後にするハイル。
 その姿は冥府から逃れ出るオルフェウスの如く、
 そんな己の様相にハイルは一人ごちた。

「人でなしをとる漁師、か。上手いことを言う」

 ハイルがどれだけ願おうと、そう在ろうとしても、
 彼らの身は数多なる怪物が混ざりあった混沌の化け物だ。
 まさしく、人で無しという訳だ。
 そういうものが集まらなければ実現しない願いというものもある。

「──嘆きの河よ、僕達を救っておくれ」

 私たちは無力だから。
 誰かの遺志を継ぐだけの、亡霊のようなものだから。
 どうか、最後に願ったこの想いだけは完遂させてほしい。

「世界を、滅ぼさせておくれ」

 そうしなければ、もう生きてはいけないのだ。
 狂いそうな、などと陳腐な形容も不可能。
 既に狂っている。狂った果ての、願い。
 己のこめかみに銃口を押し付けて、ハイルは笑う。



「ギゃハはははハハはハハハハははハハハハハはハハハッッッ!!!」



 銃声と共に、白昼が、黒夜が、暗影が、静謐が、壊れた声に震え呼応する。
 ハイルの全身が纏わりつく影に覆われ、その身は街の中へと溶け込んでいった。
 どうしようもなく壊れた者共の出会いは、きっと、世界の歯車を狂わせたのだ。
 天使共は喇叭を構え、監視者はギャラルホルンに手を掛けただろう。
 それが吹き鳴らされる日は、そう遠くない────。



// こちらこそありがとうございました!
// 楽しかったです!

363【不撓鋼心】何度でも立ちあがる剣士@wiki:2022/06/06(月) 19:38:59 ID:v/K7dQ6Q
夕暮れの街を歩く男が一人。
鋭い眼光。無数の傷跡が消えない手。どことなく隙のない歩き方。
そして何より、腰に吊った二振りの剣──彼が戦いを生業にする者であると、誰もが一目で理解できる。

されど街ゆく善男善女が彼を恐れることはない。
なぜ? 問うまでもない。この地に戦闘者など掃いて捨てるほど無数に存在するからだ。
奇抜な服装、物々しい装備、ここに住まう人々にとっては見慣れたいつもの風景だ。その中にあって帯剣など、平凡すぎて誰も気に留めはしない。

(不在、か……連絡も取れないとなれば、いつ帰ってくるかも分からない)

──時はこの男、メルヴィン・カーツワイルがとある〝部隊〟と死闘を演じた後のこと。
その直後に出会った〝極み〟による教導のひと時を経て、損傷した武器を修理に向かうまでのあいだ。

玄木と呼ばれる木剣の製造者、その住まいである神社に足を運びはしたものの、あいにく今は留守にしていた。
帰りがいつになるかも定かならず、ほかに修理できる者がいないとなれば、粘ったところで仕方がない。
解決手段を街に求めようと、情報を集め脚で探し人に尋ねを一日試みてはみたものの……。

(すべて空振り……無理もないが。ただの木剣ではないからな)

これが見事に外れ、外れ、外れ。
いくつか挙げられた候補をすべて回っても、玄木を修復できる者はいなかった。

と言って新たな剣を調達しようにも……武具装備類は慢性的にひどい品薄状態。
金があっても物がない、どうしようもない。ただの木剣なら、最悪自作すればなんとかなるかもしれないが……実戦に耐えうる物にはなるはずもなし。

(……剣としての形は残っている。振れないことはないが……。
 ささくれ、抉れ、欠け……重心も変化してしまっている。以前のように使うことはできまい。
 手に馴染ませるにはもう少し時間がかかる……当面のあいだ実戦での使用は控えるが賢明、か)
 
極みに至った武人との訓練の日々でさえ、異形と化した武器へ完全に慣れさせるには至らず。
悲しいほどに才がなかった。だが今更それをどうこう思うことはない。鍛錬を積めば解決することだ。
あるいはあえて実戦で用い、強引に慣れさせるというのも手か……と、そんな思考を巡らせながら、男は雑踏の一部と化していた。


//置き気味進行ですが、よろしければ
//どんな展開でもバッチコイですー

364【超域越覧】上位次元からの影@wiki:2022/06/06(月) 20:06:09 ID:TozW1QiM
>>363

「こんにちは。若しくはもうこんばんはの方かな?
 メルヴィン君お久しぶり。『学園』での騒動以来かな。」

雑踏の中から男の物々しさに怖じる事なく。
美形ではあるのに気を抜けば雑踏に紛れて見失ってすらしまいそうな。
そんな奇妙な雰囲気を持つ少女が彼に話し掛けた。

【と言うより、そもそも知り合いなんだけれどね。】


宙心院くくり。読心能力者を自称する『学園』生徒。

【過去二回は接点があった筈だけど、憶えてなかったら恨むぜ?】


「ちょっと今、君に話しておかなきゃならない事があるからさ。
 手短にその辺の喫茶店か何かでお茶して行こうよ。

 付き合ってくれるなら、うーん……そうだなー。
 お礼にその木剣をどうにか出来そうな人を紹介する。ってのはどうだい?」


心を読めると豪語する少女は訳知り顔でそんな提案を投げかけてくるのだ。


//今日はあと1回返せるか返せないかくらいですが
//もし宜しければ、此方も消耗してるので手早くすませますんでっ

365【不撓鋼心】何度でも立ちあがる剣士@wiki:2022/06/06(月) 20:45:54 ID:v/K7dQ6Q
>>364

ふと、声をかけてきた少女──その顔には覚えがあった。

「また、ばったり出くわしたものだ。
 奇遇というべきか……ともあれ、ああ、久しぶりだな宙心院。その節は世話になった」
 
宙心院くくり。『学園』生徒の──自称、読心能力者。
整った顔立ちであるのに埋没しているというか、どこか薄らいでいるというか……。
妙に個性がないのに、それでいてどこか浮世離れしている奇妙な雰囲気は相変わらず。
旅人として、賞金稼ぎとして、様々な人間を見てきたカーツワイルをしてほかに類を見ない気配の持ち主がそこに立っていた。

「話しておかなければ……か」

彼女の誘いを受けるか否か。
考える──までもない。その言葉自体も気になるし、それにもうひとつのほうが決め手だった。
木剣を修復できそうな人物……当たり前のように武装の状態を看破していることは置いておくとして、今カーツワイルが最も必要としている情報を出されれば否もあるまい。

「ああ、もちろんだ。
 元より君には先日の礼もある、茶の一杯と言わず食事くらい奢らせてくれ」
 
情報が目当て……と言えば、それがなければ知り合いの少女の誘いを無下に断る冷血漢のようにも思えるが。
カーツワイルの言葉に嘘はなかった。あの日、〝造花の殺人鬼〟……その偽物であるが、を追い詰めた一幕、彼女の助けがなければどうなっていたことか。
おそらく、いや……確実に間に合わなかった。彼女……芭蕉宮華凛という少女は犠牲になってしまっていただろう。
あるいは逆に……彼女の手を血で染めることになったのかもしれない。だがどちらにせよ最悪の事態だ、それを回避できたのはまぎれもなくこの少女のおかげであったのだ。

366【超域越覧】上位次元からの影@wiki:2022/06/06(月) 21:09:06 ID:TozW1QiM
>>365

────ああ、もちろんだ。────────。

「そう来なくちゃ。
 それなら僕は……チョコレートのパフェでも食べたいかなー。」

そんな軽薄そうな口ぶりで促しながら。

【まあ、この辺の移動とかのダルい導入部分だなんて】
【ぜーんぶキンクリしちゃったって差し障りなんてないよね?】
【はいカット】

小洒落た店内にて紅茶を片手に注文したパフェの到着を待ちつつも話を始める。

「じゃあ先ず結論だけを言うけれど。
 ほら、君が今も形式上は所属している『ワイルドハント』なんて組織あったろう?
 立ち上げなおすでも人員引き抜いて新体制を作るでもなんでも良い。
 正義? 秩序側の結束ってやつを高めておいて欲しいなーとか。そんな所?」

マナーに倣って音を立てずにそっと紅茶を一口。
そして全てを見透かす高位の瞳は微笑みながら男を見つめる。

「詳しく聞きたい部分はあるかい?」

この際であるなら、この少女に関する疑問なんかも投げかけてみるのも良いかもしれない。
返答できる情報にも限りはあるが。
当然、彼女も"そのつもり"で話を持ち掛けて来たのだろうから。


//予告通り本日のお返しはここで
//内容によって長さを調整しながら置き進行にて参りましょう
//よろしくお願いします

367【不撓鋼心】何度でも立ちあがる剣士@wiki:2022/06/07(火) 19:10:03 ID:yHswOcRc
>>366

コーヒーを注文し、言葉に耳を傾ける。

「……ふむ」

ワイルドハント──。
カーツワイルが未だ、賞金稼ぎという肩書を名乗り続けている理由。

創設者への義理立てもあって、依頼を請けたときは積極的にその名を出して喧伝していた。
生来口のうまい方ではなく、効果的な宣伝を成せているかは定かならぬものの、こなした依頼の数が数。
その界隈ではなかなかに名が知れ渡っているはずだ。掲げる理念が一般的な賞金稼ぎの性質とは趣を異とするため、同業者および権力者からは疎まれることも多いが……。

しかしなぜ、その名が彼女の口から?
単なる読心能力者というだけでは説明のつかない不可思議な部分のある人物だ……知っていたところで驚きはない。
が、今、わざわざこうした場を設けてまで話す理由があるというのか。

心当たりは──あった。

「ならばまず、ひとつ訊ねておこう。
 ──それは彼の〝指揮官〟の関係か?」
 
目の前の少女が知るはずのない情報。
ただ一度きり表舞台に姿を現し、みすみす取り逃がした自分と、それを見ていた〝極みの剣客〟しか持ちえぬ情報。
されどなぜか、この宙心院くくりと名乗る少女はそれを知悉しているという不思議な確信があった。

368【超域越覧】上位次元からの影@wiki:2022/06/07(火) 19:37:39 ID:FOd/NcLg
>>367

────それは彼の〝指揮官〟の関係か?。

「やっぱ修羅場を潜り抜けて来てるだけあって勘がいいね。正解。
 それをどうして知っているのかっていうのは……、
 以前にヒントを残した筈だけど。ほら、能力の適応範囲ってやつ。

 ま、いいや。そっちは気になる様ならもう少し答えるけど、
 本題の方が先。……だろ?」


紅茶には口を付けずに深刻そうな面持ちで続ける。

「状況は君が以前に遭遇したあの時よりも、更に悪化した。とだけ。
 詳細をどこまで教えようかってのは少し悩み所なんだ。
 何でも知ってるかの様に見える僕だけど。
 その分相応に制約だとかデメリットだとか色々あるんだぜー?」

一見して軽薄そうにへらへらと笑っている様に見える。
けれどそれさえも何処か演技の様に感じ取れる、かもしれない。

「もとより今日はそう言うつもりで話し掛けた訳だから。
 好きなだけ質問して良いよ?
 僕に答えられる範囲でなら教えてあげる。」

対面する身としては宛らサトリ妖怪を相手取っている様な気分だろうか。

369【不撓鋼心】何度でも立ちあがる剣士@wiki:2022/06/07(火) 20:08:17 ID:yHswOcRc
>>368

能力の適応範囲……それこそがあの日、学園内にいた自分へピンポイントに必要とする剣を届けられたことの理由へ至る鍵。
ひいては指揮官のことに関しても……確かに気になるが、言う通りだ、本題に勝るほどの優先度は今のところ感じられない。
頷いて、先の言葉を促す。

「────」

状況は更に悪化した……その言葉を受けて目を瞑り、深い思考を開始する。
質問の前に、時間の許す限りまずは自分で考える。少しでも思考力を磨くための訓練、という意味合いもあるが……。
限られたヒントから真実にたどり着くことと、与えられた情報をただ鵜呑みにするのでは、結果は同じだとしてもやはり意味合いが違うだろう。

思い返す。かの指揮官を、あの冥府の化身のような男の言葉を。
あの時、自分は目的を問うた。それに対して彼が何を返したか。

〝私が求めるのは過程だけだ〟──。
〝裏に名を連ねる悪党共と轡を並べ〟──。
〝未だ見ぬ同盟者諸兄ら〟──。

憶えている。忘れるはずがない。
自分が取り逃がしてしまったせいで、世界に災厄を芽吹かせる種となったあの男のことを……。
メルヴィン・カーツワイルは憤怒と共に刻み付けている。必ず必ず息の根を止めて見せると、己が全存在にかけて滅殺を誓っている。

だから、何が起きたのかは容易に想像がついた。

「……あの時、奴の同盟者とやらはいなかった。または、数が少なかった。
 だが今はそうではない。多くの賛同者を獲得した、あるいは……非常に強力な存在を味方につけた、といったところか?」
 
思考は言葉にする前から纏まっていた。
だからいちいち喋らずとも彼女ならば理解できるのだろう。ある意味では楽とも言える。
しかし……それでも言葉にしたのが、その結果を招いたのがほかならぬ自分であるとより深く自覚し、自戒し、自罰するためであることは……。
怒りを抑えて一層低くなった声色から、彼女でなくとも察することができた。

370【超域越覧】上位次元からの影@wiki:2022/06/07(火) 20:37:54 ID:FOd/NcLg
>>369
彼女の前での思案はそのままに"発言"替わりに捉えられる故、
情報を巡らせ答えを求める行為自体が誠心誠意の証と言える。

【その辺り勘所悪くないかなあ】

「推察の通り。今回の場合は後者に当たるね。
 アレと同規格か上回るか、そんなのが一人。
 悪い方に転べば更にもう一人。
 重ねて能力者としてより周囲への影響力として厄介なのがもう一人。
 こっちは二人って言うべきかも?
 うーむ。これ以上の詳細は言えないかなー、"死んじゃうから"さ。」

語り口は軽々と。
余りにも重すぎる自らに課された制約の一部を教えてみせる。


【と言っても僕の死そのものには特に思うところないけどね】
【今問題なのは僕が死んじゃうとアイツに能力を利用されかねないってだけで】
【うん、それで合ってる】【合ってるはずなんだけど】
【果たして────】

私が今こうしているのは正しいのだろうか。
"あの人達"はきっとワンサイドゲームなんて面白くないだろうから。
こんな、らしくない事をしてしまっているけれど。

想い起こすのは己ならぬ己が見聞きした絶海の記憶。
"あの人達"は時に酷く残酷な物語だって嗜むから。
若しくはもう私達に飽きてしまって、
限りなく苦しめてから全部を全部打ち切(おわ)らせてしまうつもりなのかも。
どうしよう。NPC(わたし)が出しゃばり過ぎて全部が台無しになる、
あんな最悪な終わり方なんてもう二度と────────。

【おおっと!】


「ごめんごめん、ちょっと嫌な方に考え込んじゃってさ。
 君には関係ない事だから気にしないで続けて?」

直ぐに先程までの調子に戻ったが。
一瞬だけ、自らの死なんかよりももっと恐ろしい事があるかの様に。
ひどく青ざめた表情を浮かべていた、……のかもしれない。

371【不撓鋼心】何度でも立ちあがる剣士@wiki:2022/06/07(火) 21:08:04 ID:yHswOcRc
>>370

指揮官──あの、冥府の河を氾濫させるがごとき能力者。
アレと同格以上が最悪二人。そして異能強度に依らぬ脅威を持つ者が、こちらも二人。
総計四人、指揮官も含めれば五人……数自体は少ないように思えるが、単純な戦力を見た場合、数字上の脅威を数百倍してもまだ足りぬ絶望的な差が生じているだろう。

そして……なんでもないことのように明かされた、彼女の有する異能の誓約は。
鷹のように眇められた眼光を僅かながら見開かせるには十分すぎる衝撃だった。

「〝死〟──か」

生命の終焉。
未来の途絶。

命あるモノならば等しく訪れる結末はきっと誰もが忌避するもの。
それを諸手を挙げて歓迎するような者はおそらくどこかが壊れてしまっているし、いざ直面した瞬間に静かな心で受け入れられる者は一種の悟りを得ているのだろう。

だから死を想い、顔を青ざめさせるというのは、想像力が豊かな人間ならそうおかしな話でもない。
ないのだが……なぜか。そうではないような、気もした。

「……その、君の異能についてだが。
 以前にも口にしていた適応範囲という言葉……個々人の思考は当然として、言うなれば〝場の記憶〟とも呼ぶべきものを読み取れる。
 そしてその範囲は最低でもあの『学園』敷地内全域、と予想した。これに間違いはあるだろうか」
 
問うのは能力の詳細。
彼女自身は自らを読心能力者と呼んだが、カーツワイルの推測が正しければ極めて強力な超能力者と言った方が正しいのかもしれない。
むろん心を読み取ることもできるなら読心能力者という形容も間違ってはいないが、知られれば利用を企む数多の目を誤魔化すための擬態なのか、と理解していた。

372【超域越覧】上位次元からの影@wiki:2022/06/07(火) 21:34:59 ID:FOd/NcLg
>>371

「あー。テレパスじゃなくてサイコメトリーかもって考察かー。
 近いような、遠いような。」

謎々に悩む姿を楽しむ怪物(スフィンクス)の様に。
或いははぐらかすかの様に。

「僕が心を読める最大レンジはこの街、この世界全域だよ。
 拾える情報は遠くになる程にまちまちだったりもするけど。
 後の事は全部、単純な記憶能力と処理能力。
 地頭の違いってやつかな! ドヤァ。」

【ま、ブラフだけどね】

上位次元の目線。二次元存在がz軸を知覚できないのと同じ様に。
彼女の目線とそれ以外とでは流れる時間からして違う。
例えば今この瞬間。会話と会話の合間。
数秒かそれ未満に過ぎない僅かな時間の内に。
【超域越覧】という力は限りなく無制限に時間の流れを引き伸ばし。
何処までも何処までも過去に遡っての情報の確認を行う事ができる。

そんな根本原理の違いも恐らくは、
上記の説明で殆ど誤魔化せてしまうのではないだろうか。

「お考えの通りに取り分け強力な部類の能力だよ。
 お陰様で能力の構造自体が複雑に入り組んでて、
 変な制約の地雷を踏むとボン、なんてリスクがあるけれど。
 だから余り公表したく無かった、ってのは。
 納得して貰えるかい?」

核心は嘘に包み隠して、それでも齟齬が無いように。

【本当はバレたからって何かある訳でもないけど】
【腹の探り合いで負けるのは】
【それこそ"業腹"だからね】

373【不撓鋼心】何度でも立ちあがる剣士@wiki:2022/06/08(水) 00:00:59 ID:nOi/pTKI
>>372

「世界全域、か……」

その回答は……ひょっとすると、程度に考えてはいたが。
さすがにこうあっさり言われてしまうと、驚くより先に面食らう。
それは、その能力は、真実ならば究極と言って差し支えないのではないか。
膨大すぎる情報を処理し蓄えておける頭脳についてもだ。常人のそれから完全に逸脱している、そこまでいくともはやそれ自体が一個の異能と言って構うまい。

勿論、語る言葉がすべて真実ならば、ではあるが。
とはいえ現状、彼女にこちらを騙す理由があるとも思えない。所詮、こちらは一介の賞金稼ぎにすぎないのだから。

「──それで、なぜ俺なのだ?」

そう、まさにそこが疑問点。

「正義、秩序側の結束をと言ったな。俺は自分が正義にも秩序にも属しているとは考えていないが、それは一度置いておくとしてだ。
 たかが一介の賞金稼ぎにそれを伝えたところで何ができるという? 世界の脅威に対抗するなら、もっと相応しい者がいるだろう」
 
たとえば音に聞こえし世界警察。
人材の坩堝である『学園』、それと対を成すというアカデミー。
危険だが、うまく立ち回ればこの上ない戦力を確保できるだろう時計塔なる魔術組織だって……。

そういった組織のトップ、ないし上役。
巨大な戦力には巨大な戦力でしか抗し得ないのなら、頼るのは当然、大戦力を動かせる者でなければ意味がない。

「君の宿した異能は、あまりこういう言い方はしたくはないが、どんな人間でも動かせる代物だ。
 権力者の懐に潜り込むなど容易いはず。世界そのものだとて動かせるだろう。
 なぜわざわざ俺のような者に伝えたのか。その理由が、かの男と戦った人間だからというもの以外に皆目わからん」

確かに彼は今までの道程、旅の途中や依頼で広げた人脈は広い。呼びかければ数人くらいは応じてくれるかもしれないが、それではとうてい足りない。
戦士の頭数を揃えられるわけでもなければ、そうした組織に呼びかけられる立場でもない。
客観的に見てカーツワイルに伝える理由が、今しがた挙げた義理以外に見当たらなかった。
ならば彼女はその義理を重んじたのか? 死のリスクを背負ってまで? そういう性情の人種がいないわけではないが……。

どうにも、腑に落ちなかった。

374【超域越覧】上位次元からの影@wiki:2022/06/08(水) 17:01:22 ID:lJTXxvoE
>>373

────それで、なぜ俺なのだ?

「何も僕だって君の事を正義のヒーローだなんて思ってないよ。
 ちゃんと正義? って疑問形だったろ。
 さっきも言った通り大体全部"観て"きたからね。」

彼の者の勇ましくも血に塗れ暴に彩られた死闘の数々。

「その上で君の事を多少は贔屓しているのさ。
 君程に長くの間、悪に抗い続けた者は、
 この街を見渡してもそうそうは居ないと思うよ?
 これが一つ目。」

理由はまだある、と。一本目の指を立てて続ける。

「それと次に君が考えるかもしれない、
 "極みの剣客"さんとか"鍛冶神の巫女"さんとかに頼らないのかって所。
 あの人達は多分個としての力が秀で過ぎていて。
 だからこそ、こういう世界の均衡に関わるような事は、
 あまりしないんじゃないかなーって予想をしてる。
 最近だと僕でも消息を掴めていないしね。
 これが二つ目。」

二本目の指を立てた辺りで少し表情が険しくなる。

「そんで"設定上は"あるってされてるだけの、
 居るんだか居ないんだかはっきりしないMOB(ヤツ)らに頼る気は無い。
 やろうとするだけ無駄な話だよ。」

【CoCとかで警察や軍隊に相談したって解決しないのはお約束だろ?】

「おっとごめん。今のは失言だ。
 僕の異能レベルで視野が一般から逸脱しすぎると、
 ちょーっと価値観が変な方にズレてきちゃうものなのさ。
 出来るなら流しておくれ。これが三つ目。」

そんな風に誤魔化しながら、果たして誤魔化しきれているのか?

「どの道、そんな大きな組織に干渉しようとするなら、
 それだけ制約に引っ掛かる部分が無視できないレベルで増えるからね。
 今こうして君に伝えてどうにかして貰うってのが僕にとっての最善手。
 って言って納得して貰えるかな?」

その一点に関してだけは駆け引き無しにそう思っているのだと。
仕草や表情全てを真剣に捉えられるように努めて振舞う。
正確な実態はそうでないにしろ、
得てして読心能力者が最も苦戦するのは自分の言を信じて貰う事なのだから。

375【不撓鋼心】何度でも立ちあがる剣士@wiki:2022/06/08(水) 20:23:20 ID:nOi/pTKI
>>374

自分ほど長く……それは彼からしてみれば過大評価以外の何物でもなかった。
警察や軍、治安組織……そういった中にも知り合いは当然いる。
確かに秩序を守る側でありながら腐った輩は多い。だが、だからといってすべてがそうでないことをカーツワイルは知っていた。

卑劣な殺人鬼の犠牲者へ熱い涙を流した新人の警官がいた。
戦いになどとうてい向いていない優しい性格なのに、家族や友人を守るため剣をとった兵士がいた。
夜ごと街に響く悲鳴を少しでも減らすため、寝食を削って組織改革に励む部隊長がいた。

緻密に積み重ねられる彼の人生のなかで描かれることこそなかったかもしれないが、この世界に生きてきた一人の人間として、善も悪も等しく見てきたのだ。
自分だけが、などとは口が裂けても言えはしない。彼女の言葉に頷くことはできないが……まずは黙って、その続きを。

次の発言は、読心能力者の面目躍如というやつだろう、こちらの思考を見透かしたものだった。
客観的に見て自分は弱い。ならば頼るにしてもより強い者に、と、そう言おうとはしていたのだが……。

言葉を聞いてみればなるほど、例に挙げられた二人にはそういう印象があった。俗世間と距離を取っているというべきか……。
突出した力を持つからこそ中立を保つ。事実、あれだけの力を持つのなら世界を変えることだってできるだろう。
そうしないのはやはり、何がしかの信念を有しているからなのか。頼むくらいは試してみてもよいのではとも思うが、望み薄ではあるだろうなと考えられた。

三つ目の理由は、




何かが脈動する。

さながらそれは光届かぬ深海の底で未だ人類に発見されておらぬ得体の知れない深海魚めいた未知の生物が身体を侵す鬱陶しくも逃れられない痛痒に耐えかね暗い闇の中で一層輝く白い海藻の繁茂した小岩に頭を打ち付けるような振動。
どんな太鼓にも当てはまらぬ濁った音色でありながら腐り落ちる寸前の果実にも似て熟したペーストを思わせる蕩かした甘さをもって誘惑するこの世ならざる打楽器を六本指の顔のない黒衣を纏う楽団指揮者が一心不乱に奏でればきっとこのような心地を覚えるに違いないのだと確信できる。
彼女の発した言葉は地中深くあるいは彼方の深淵にて夢見るままに待ちいたるその者の眠りを僅かながらに刺激するきっかけを作り暗澹たる玉座めいた揺籃を腐王の腕がそうするように無遠慮な鷲掴みをもって目覚めさせる呼び声となり内からの覚醒を促す■■■■■■→宙心院くくりに応えあらゆる事象の一切をひとつ残らず塗り潰す喩えるなら泥でありながら他の何をも混じらせぬ純黒に粘つく膿めいたインクが気の違った混沌のように狂った踊りを思わせるうねりを見せながら超深奥の向こうより究極の恐怖を撒き散らしながら世




「制約への抵触……。そのように強力な異能、確かに軽々には動けぬのだろうな。
 死か……それほどのリスクを負ってまで伝えに来てくれたことに、まず感謝しよう」
 
すべてに納得がいったわけではない。
特に民衆を軽んじるような発言は……。その民衆/顔のない誰か のための刃となると誓ったカーツワイルだからこそ、納得するわけにはいかなかった。
しかしこうして忠告を受けた以上、人任せにするつもりは当然というべきか微塵もなく。

回転する思考はひとつの案を導き出す。
しょせん大して影響力を持たない今の自分では新組織樹立など現実的ならぬこと。
ならば既存の組織を利用する形で動けばいい、しかしこれには目の前の彼女の協力が必須だった。

376【輝煌炎焔】"正義"の焔@wiki ◆ZkGZ7DovZM:2022/06/08(水) 21:18:31 ID:NSMlCC5Q
【夜と夕方の狭間。夏が薫り始めた風が頬を撫でる】


【数多の戦果と災厄に襲われる街】
【多くの者が立ち去り、あるいは姿を消して】
【息を吞むような惨劇をいくつもいくつも重ね】

【それでも────そこには確かに、ひと時の安寧が流れていた】


 ……暑く、なってきたなあ。


【手を繋ぐ親子】【額の汗をぬぐうサラリーマン】
【人々を眺める老人】【ニ三人でまとまって駆け回る小学生】

【小さく、けれど確かな平和が流れる大きな公園の一角】
【何をするでもなく、一人の青年が歩いている】
【ありふれた学生服。ツーブロックの黒髪】
【赤い瞳だけは少し珍しいが────どこにでもいる、平凡な青年だった】

【その左腰には剣が吊り下げられて】【けれどそれは】
【この世の中ではもう珍しくもないものだった】


 アイスとか、売ってないかな……。


【のんびりとした足取りで、青年は歩き続ける】
【屋台を探して辺りを眺める彼は】【自分のポケットから落ちたハンカチに気づかない】

【さて。現れる者は、それを拾う善き人か】
【あるいは、ひと時の平穏を砕かんとするものか】
【それとも──────────】


//置き前提ですがよろしければ!

377【超域越覧】上位次元からの影@wiki:2022/06/08(水) 21:20:06 ID:lJTXxvoE
>>375
三つ目の問いに呼応して。
何かの脈動が、断片が。

【はは。SAN値チェック、とは行かないよ】

情報を分析するに、ある怪奇作家が元となった新たな神話体系。
そこから派生した上位者、外宇宙の概念。そう言った所だろうか。

【君のバックボーンについては僕もずっと気になっていた】
【どうにも思わぬ地雷を踏んだのかもしれないけれど】
【それでもそれは】

────私に与えられた役目なのだろうから。


「そう言ってくれるのなら、助かる。」

【そりゃあ君がそれを受け入れる筈は無いか】
【やっぱり失言だ】
【でも交渉決裂とかにならなくて、ひと先ずは良かったよ】

「それで、僕に必要とする協力ってなんだい?
 出来る事には限りがあるけど、
 可能な範囲で力を貸すよ?」


本当は、████████けれど────。

378【神螺宵達】記憶を剣にする警察官 ◆/DJQPS2ijA:2022/06/08(水) 22:01:26 ID:6sWGB10.
>>376

 事前に断っておく。
 その男は、決して混乱を起こそうだとか、空気をひりつかせてやろうだとか、
 そう言った悪意のようなものを持っていた訳ではない。
 微温湯に浸かるような暑さにウンザリとした吐息を漏らしながら、
 後ろで結った白銀の長髪を掻き上げて額を伝う汗を拭う。
 左手には畳まれた赤い冬物のロングジャケットを巻き付けて、
 黒いライディングウェアのジッパーを腹のあたりまで下げ、タンクトップシャツを露わにしている。
 年嵩は20から30程度の活力に満ち、凶相に映る赤い三白眼は気だるさにやや丸みを帯びていた。
 言ってしまえば、少々季節感を間違えてしまっただけの普通の男性だ。
 それでも、その男が公園を歩いているだけで、周囲に奇妙な緊張が走った。
 少しだけ気温が下がったような感覚、或いは、其処に猛獣が彷徨いているかのような気配。
 誤解を恐れずに言葉にするならば、“命の危険を感じさせるような気配”をその男は放っていた。
 だが、事前に明記したようにその男に悪意など欠片もないし、
 悪意を持たずに他者を害せるような異常者という訳でもない。
 ただ、その男に纏わりつく血と鉄──戦いの臭いが、平穏な空気を塗り潰すように染み出していた。
 それでいて、その自覚のない男は、柄にもない親切心を出してハンカチを拾い上げる。

「よォ、其処の餓鬼──」

 拾い上げたハンカチを握り締め、男は持ち主の青年に声を掛ける。
 その凶相は因縁をつけるチンピラのようでもあるが、
 剣を佩いた人間が今更チンピラにビビる事もあるまい。
 そんな意識があってかどうか、男は青年の方へとズカズカと無遠慮に歩きながら言葉を続けた。

「テメェ、ボケッと歩いてんじゃねェぞ」

 そう言って、男は右手でハンカチを差し出す。
 近くまで寄れば、男の纏う血の臭いは更に濃く、
 左手に巻き付けたロングコートには、
 実際に未だ乾ききっていない大量の血液が染み付いている事が分かるだろう。
 青年と同じ真っ赤な瞳の三白眼は左しか青年を見据えておらず、
 右目は大きな切り傷のようなもので完全に潰れてしまっていた。
 態度から、様相から平穏な公園には似つかわしくない男ではあるが、
 一応の善意のようなもので、青年のハンカチを拾ったようだった。



// よろしければっ!

379【不撓鋼心】何度でも立ちあがる剣士@wiki:2022/06/08(水) 22:38:41 ID:nOi/pTKI
>>377

深く頷いて、思考の続きを言葉に綴る。

「ああ──まず第一に、ワイルドハントを脱ける。
 ワイルドハントの理念に共感した者たちに心当たりがある。彼らに声をかけ、代わりに加入させれば義理は果たせるだろう」
 
精力的な依頼達成、賞金首討伐。
いつまで経っても慣れることがなかった取材などは確実にかの組合の知名度を高めている。
ならば、もういいだろう。もはや自分は必要ない。脱退したところで大した問題はないはずだ。
レナードには一言、挨拶をしておきたいが……彼も修行に忙しい身。会えなければ最悪、誰かに言伝を頼むことで許してもらえることを願うとしよう。

「そして次に、巨大な戦力を有する組織──つまり、軍に入る」

軍人。
それはこの男に、ある意味で最も似合った響きなのかもしれない。
鉄の規律が支配する、戦士の集団……むしろなぜ、今までこの男がそういった組織へ入っていなかったのかが疑問ではあるが。

「そこで武功を積み重ねて上へ……と、まっとうにやっていては時間がかかる可能性がある。
 だからまずここで君の力が要る、かもしれん。異能の制約に抵触しない範囲で、軍にとって脅威となりうる集団や個人……つまりは功成りの種をくれ。
 後はそれを殲滅する。無論、独断行動には相応の罰が下るだろうが、要は罰を上回るほどの軍功を積めばいいだけの話だ」
 
そう簡単な話ではないことは分かっている。
あくまでこれは、功績を積む機会がなかなかやってこなかった場合の話。
この地に根差す軍であれば荒事には事欠かないはず。うまくいけばここで彼女の手助けは必要ないかもしれない。

だが……やがて、絶対に必要になるのだ。

「そうして功績を積んで出世していったとして、ある程度のところで歯止めがかかるだろう。
 尉官か、佐官か……いずれにせよ、軍の上層部によって俺の足は止められる。武功の機会を奪われ、飼い殺しにされるくらいは考えておいた方がいい」
 
世の腐敗を何度となく目の当たりにしてきた。
だから断言できるのだ、組織は腐ると。上へいけばいくほど、どれだけ高潔な理想を掲げていても鼻の曲がる腐乱臭が漂うようになる。
巨大になればなるほど、それはどうやっても避けられるものではなく……。

だからこそと、男は眼光を刃のように鋭くした。

「ゆえに俺がその連中をすべて追い落とす。君にはその手助けをしてほしい」

──策謀とは縁遠いように見えるカーツワイルではあるが。
その能力は〝上位にある者の喉笛に食らいつき、徹底的に排除する〟ことに長けている。
だから単なる武力の関わらない、陰謀渦巻く伏魔殿でも戦ってはいけるものの……しかし、さすがに海千山千の古狸たちを滅ぼすには経験が足りなさすぎる。
ゆえに、これは宙心院くくりという超抜級の読心能力者の全面的なバックアップを前提とした、完成度としては杜撰も杜撰な計画だ。

わかっている。それでもこれがきっと、かの指揮官が集めるだろう手勢に対抗しうる力を得るための最短経路。
単に弱みを握って脅して地位につくのでは下の者がついてこない。力を示しつつ、その出世を阻む者をことごとく始末していかねばならないのだ。
そうして軍を動かせる立場につく。かつ、機敏に動ける少数精鋭の部隊を組織し、これはと思った能力者たちをそこへ加えていく。
世界の表裏に耳目を届かせる諜報機関を設立し、先手を打って巨悪を滅ぼす。善良な市民たちに対して危害を加える前になんとしても終わらせる──。

「──というのが今の草案だが。君の目から見て、どうだ?」

──意外というべきか、今のところこれを実現させるのだという強固な意志はなかった。
当然ともいえる。なにせたったいま考えたばかりのこと、穴はいろいろあるだろう。
少女の負担もかなり大きい。ほとんど一蓮托生と言ってよいかもしれない。
内心を覗ける彼女でなければ、カーツワイルの常ではあるがこの真剣な表情を加味しても冗談だと思われて仕方のない話であった。

380【輝煌炎焔】「正義」の焔@wiki ◆ZkGZ7DovZM:2022/06/09(木) 14:20:20 ID:5ziS2jCc
>>378


【一つ、想定されざる事実が存在した】
【悪鬼も羅刹も昼夜問わず跋扈するこの世界】

【"護身のためにただ帯刀しているだけ"の少年が存在しても不思議ではない】


 ひぃっ!


【なんら悪意はなく────けれども猛獣が如き凶悪さを伴った声は、さながら野獣の咆哮にも青年には聞こえて】
【その肩が露骨にびくりっ! と跳ね上がる】
【情けなく漏れ出した声からも、その怯えはよく伝わるだろう】

【ぎぎぎ、と錆びついた歯車を無理に回すかのようなたどたどしさで】
【怯えを少しも隠せていない無理な笑顔が、ハンカチを差し出す男の方に向く】


 あ、ああ、ありがとうございます……。


【ひっくり返り、どもり、尻すぼみに小さくなっていく声】
【それでも辛うじて返礼し、がたがたと震える手で差し出されたハンカチを受け取る】

【たったハンカチを落としただけのことを────こんなにも青年が後悔することは、後にも先にもないだろう】
【手を繋いだ親子は母親が急かす形でそそくさと姿を消している】


【けれども一つ、不思議な点があって】
【青年は目の前の男を恐れてはいるのだけれど】

【────血の匂い。右眼の大きな傷。そうしたものには、注意を向ける様子はなかった】
【ただ。目の前の男が危険か否かということだけを、恐れているようで】

381【神螺宵達】記憶を剣にする警察官 ◆/DJQPS2ijA:2022/06/09(木) 16:44:09 ID:fMPmFUr2
>>380

 さて、声をかけた青年は大いに怯えているものの、
 それは男にとっては慣れた反応であったので気にもとめなかった。
 何せ、街を歩いているだけでも週一で通報されている。……警察官なのに。
 そのライディングウェアの襟に縫い付けられた襟章は、
 世界警察-I.O.Jが誇る皆殺しの特別強襲部隊【D.O.T.A】のものであった。
 だが、青年がその存在を知っているかは定かではない。
 6年前の本部襲撃事件以降、隊員の数は減少の一途を辿っている。
 引退した者、殉職した者、悪に怖気づいた者──実働隊員の数は知れたものだった。
 かつての黎明期ならばいざ知らず、今やD.O.T.Aを知らない、意識していない者の方が多いだろう。
 だからこそというべきか、男は頼られる経験よりも恐れられる事の方が多かった。

「──ああ、そうビビんなくて良い。
 俺は……ほら、一応こう見えてもオマワリサンだよ」

 男は懐から手帳を取り出すと、怯える青年へと見せる。
 其処にはI.O.J所属の警察官である旨と、
 男の名──天道八雲(テンドウヤクモ)の文字列が記されていた。
 そう、其処まではいくら様相が凶悪であろうとも、
 あくまでも警察官として一般市民に対する対応を心がけていた。
 だが、一つの違和感が八雲に誤解を与える。
 
 ────血を恐れていない。
 
 剣を佩いているのだから、そういう事に慣れてしまったのかもしれない。
 命のやり取りを重ねる上で、血に慣れてしまったが故に、
 八雲が腕にかけた上着が血みどろであっても、注意を向ける事すらしなくなることも──。
 などと、“そんな事は有り得ない”。八雲はそう考える。
 血に慣れる事と、其処に注意を向けない事は違う。
 八雲とて己の凶相、纏う殺気は理解している。怯えもするだろう。
 だが、目の前の青年の態度はまるで“怯えるフリ”だ。
 血生臭いものに怯えることはなく、八雲が持つ危険性──敵対の可能性のみを警戒しているような態度。
 得てしてそういう、普通とは違う反応を見せる者は二種類に分けられる。

「それとも何だ?
 オマワリサンにビビる理由でもあんのか? なァ?」

 何らかの思想、信念で凝り固まった異常者か、
 とっくに壊れきって正常な反応を忘れた廃人だ。
 そのどちらにせよ、八雲の“仕事”の対象である可能性は高い。
 無手ながらも、まるで剣豪が鯉口を切ったかのような敵意を露わにしながら、
 八雲は怯えているように見える青年を睨みつけた。
 
 台無しになるような事を言えば、
 まるでシリアスな空気だが、傍目に見ればチンピラが善良な青年に絡んでいるだけである。
 もしも八雲の懸念が勘違いだった場合、彼は大いに恥をかく羽目になるだろう。

382【超域越覧】上位次元からの影@wiki:2022/06/09(木) 19:12:28 ID:ceYm0lsg
>>379

【おや】
【彼方もちゃんと縁が結ばれたようで何よりだ】


────君の目から見て、どうだ?

「読心能力者(ぼく)というズルを除けば、
 実直で現実的かつ堅実な考えだとは思うよ?
 ……でも。"現実に則し過ぎている"からこそ、
 この街では"現実的じゃない"、かな。」

何やら哲学擬きの様な曖昧模糊な返答だが続きがある。

「だって此処は"能力者の街"なんだぜ?
 如何に相手が強大な悪の集団だからって、
 時に最高権力に依って動かされる正規の軍隊なんかよりも。
 個としての"能力者"が動いた方が解決に向かう。
 そんな事がままあるんだよ。それこそ運命や宿命じみてね。
 今回の場合は俄然そっちだよ。」

オカルトだ、非科学的だと否定されるだろうか。
他ならぬこの街に身をやつして居ながら?

「幸い協力を望めそうな能力者達がちらほら活動しているのも"見える"よ。」

先も伝えたこの世界全土に渡る読心。いや最早異能視。
信用するかは別としてだが其れが、
悪に対する希望はまだ潰えてなどいないと告げる。

「言い方が悪かったかもね。
 別段、君に悪と立ち向かう全てをまとめ上げてくれとまでは思ってないよ。
 結論を焦り過ぎてあんな表現をしてしまったけれど。」

【本当はもう少し手早く済ませるつもりだったからね】

「僕が伝えたかったのは。
 自分一人だけで立ち向かうばかりを考えずに。
 一度周囲にも迫る脅威、其れを見聞きした事について。
 伝えて欲しい。周知して欲しい。それだけだよ。」

己の勇み足を自戒する様に仄かに苦笑を浮かべて目線を逸らす。

「そんなの自分でやれよって?
 僕の能力は君が思っているよりもずっと面倒なしがらみ塗れで。
 使いづらいんだ。君一人にこうやって伝えるのだって色々大変でさ。
 何よりも────。」

猛烈な自己嫌悪さえ連想させる自嘲の表情で。

「僕は、ひどく臆病者なんだよ。」

────超越者の役なんて私には到底向いてない。

383【不撓鋼心】何度でも立ちあがる剣士@wiki:2022/06/09(木) 21:30:23 ID:In555aOU
>>382

眉間に刻まれた皺が深くなる。
彼女が諧謔をもてあそんでいるわけではないことは、わかる。
……だがその言葉は、カーツワイルからすれば俄かには信じがたい内容ばかりであった。

己自身が夢想から抜け出たような存在であるくせに/彼は現実に則した道理を重んじる人間だ。
ほかならぬ自分自身がそうしてきたくせに/一個人の情報収集力や戦闘能力が専門の軍集団に優るとはとうてい考えられない。
今の今までたった一人であらゆる悪と戦い抜いてきたくせに/巨悪に抗するなら数を集めねばならないと思っている。

しかし……ずっと気になっていたことがあった。
それはかの指揮官のこと。奴はなぜわざわざ自分を標的にしてきたのか?
曰く挨拶とのことだが、ならば世界各地でそこそこ名の売れた人間へ適当に戦いを仕掛けているのかと情報を集めてみればそうではない。
その存在は闇の中に隠れたまま……世間には一切、姿を見せていなかったのだ。

ならばなぜ、自分の前にだけ現れたのか?
世界に対する宣戦布告と言うならば……それこそ首都級の街へ襲撃をかけるだとか、それこそ軍隊の拠点を攻撃するだとか、そちらのほうがよほど効果が見込めるはず。
たかが一個人でしかない自分と戦ったところでどうなるというのか。指揮官の行動原理は不明のままだったが……。

「運命、か……」

もしも、もしもそんなものが実在するのだとして。
冥河の指揮者……奴もそれを知覚しているというのか? だから自分に会いに来たと? 善良な市民を守るため、日夜働く名もなき正義の守護者たちには価値なしと見做して?

だとしたら──ふざけるな。
〝俺のような塵屑をもし運命の、正義の代表者だと考えていたのなら〟──赦し難い。節穴にも程がある。
その度し難い間違いを二度と思考にも上らせぬほど魂魄に刻み込んでやらねば気が済まない……と、溢れかけた怒気をすんでのところで押し留め。
だがその自制も彼女相手に意味はないのだと思い至り、視線で謝罪を表した。

それはともかく……彼女の提案、脅威を周知してほしいというのにも、正直なところ気が進まなかった。
なぜなら知識は確かに事前の備えにおいて最重要であるが、同時に要らぬ危険を呼び込む可能性もはらんでいるからだ。
それが秘されたものであるほど、尚更に。危険な犯罪者が自身の秘密を知る者に対して起こす行動など分かりきっているだろう。

だからできることなら自分ひとりで済ませたかった。
塵は塵同士、屑は屑同士、勝手に争っていればいい。他の、特に善良な人々を巻き込むなど言語道断だ。
しかし実際問題、そうも言っていられない状況なのだろう。なにしろ相手の消息が掴めない、新たな情報が手に入らない。
なにより彼女の言葉を無碍にするのも悪いと感じていた。ならば秘密を秘密でなくす、つまり全世界に周知する方法で情報を拡散すれば……と考えて。

「だが君は臆病者ではないだろう」

ふと、思い浮かんだ言葉をそのままに。

「死の危険性を負ってまで忠告に来てくれた。それは勇気ある行動だと思うがな」

何が起きても静観していればいい。
世界のすべてに我関せず、安全地帯に避難していればいい。
別段それは悪いことではない。生きたいという感情は生物にとって当たり前のものであり、それを追及したとて責められる者など誰がいる。

それを良しとせずこうして姿を現しているのは、つまりそういうことではないのかと。

384【超域越覧】上位次元からの影@wiki:2022/06/09(木) 22:24:57 ID:ceYm0lsg
>>383

【僕もさ、我ながら倒錯した自認識を持ってるって思うけど】

メルヴィン・カーツワイル。
彼もまた何処かで認識に歪みを抱えているのかもしれない。
そう思える程に、彼は"現実"という名の夢想に憑りつかれている。
その様に感じた。


────だが君は臆病者ではないだろう。

「それは……」

【それはね】
【僕という存在を】

私という本性を知らないからそんな事を言えるんだよ。

「そう……言ってくれるなら。
 まあ。少しは慰めになるかな。」

そう言って超越者(ペルソナ)は強がって笑ってみせた。

「まあ僕からはこんな所かな。
 そろそろちゃんと報酬の方も教えておかないと。
 巫女さんの所に行ったのはニアミスだったね。
 出雲(あそこ)の系列に"御札神社"って言うのがあるんだけど。
 あらゆる呪符、護符。それらを司る神の巫女。
 彼女ならその木剣もどうにか出来ると思うよ。」

それが始めに彼女が提示した今回の礼品。
貴重にして重要な創造系の能力者の居所だった。

「それとオマケで協力者の事も。
 それが全部って訳じゃあ勿論ないけれど。
 『ワイルドハント』に妙にませた中学男子の賞金稼ぎがいるから。
 彼に"指揮官"の。特に奴の使役していた"英霊"とやらの情報を伝えるといい。
 絶対に協力をしてくれる筈だから。
 中坊(コドモ)を巻き込みたくないって君は思うだろうけど。
 だったら腕試しでもしてみなよ。
 まあそもそもが……これは言えないかな。会ってのお楽しみさ。」

【協力する?】【……違う】
【関わらないなんて選択肢が存在しなくなるんだ】
【とても残酷な話だけどね】

「以上。ホントの本当にこれで全部だけど。
 まだ何か聞きたい事とかあるかい?」

まるで何者かがタイミングを見計らっていたかの様に。
"運命"とやらを念押しするかの様に。
間もなくして注文していたチョコレートパフェが席に届けられる。

385【輝煌炎焔】「正義」の焔@wiki ◆ZkGZ7DovZM:2022/06/09(木) 23:54:57 ID:Hx.U00dU
>>381


【「俺は……ほら、一応こう見えてもオマワリサンだよ」】

【その言葉に青年は一瞬怪訝な表情を浮かべ】
【けれど素直に、差し出された手帳に視線を向ける】
【偽装だの幻覚だの】
【そんなものはこの世界にいくらでも転がっていて、正直その手帳自体がいかほどの証拠かは分からないけれど】
【青年はそれが「本物」だと確信した】

【────だって。悪党の偽装にしては、些か以上に物騒さが隠せていないし】
【皆殺しの特別強襲部隊【D.O.T.A】、そこに籍を置くものであれば致し方ない殺気か】
【幸いにして青年はその襟章には見覚えがあったらしく、勝手にそう納得したのであった】


 ご、ごめんなさい。……その、ちょっと迫力が強くて。


【だからといって、やっぱり怖いものは怖いらしく】
【どことなく卑屈、あるいは単に下手に出る形で、謝意を示さんと頭を下げた】

【笑って誤魔化したい、国家権力を前にした小市民の矮小さとして当たり前で有り触れた反応だったが】
【何か後ろ暗いことでもあるのかと、そう言いたげな男の言葉に青年の表情が強張る】


 ─────っ、


【心なしか目つきも鋭さを増し】
【一瞬の静寂があって────────】


 ……やっぱ、帯刀って駄目ですか……?


【おずおずと切り出す口調に冗談の色はない】

【さて。青年の学生服は特徴のないものだが────オマワリサンなら、あるいは気づくかもしれない】
【先般起こった、ある能力者による高校襲撃と無差別傷害】

【幸いにして死者こそ出なかったものの、決して小さな事件ではなかった】
【さて。その被害を受けた高校の制服は、彼のそれと一致するもので】

【今もまだ、男の手にある血生臭い「ソレ」に興味を向ける様子はないけれど】
【あるいはそれは。「惨劇を目にした凡人の正当な適応機制」だと、捉えられなくもない】

【なにより青年の、あまりに緊張感と悪意を欠いた雰囲気が────それを後押しする】

//本日このレスで最後になりますごめんなさいっ

386【神螺宵達】記憶を剣にする警察官 ◆/DJQPS2ijA:2022/06/10(金) 09:40:40 ID:YviQBcxk
>>385

 ──奇妙な手応え。
 己に怯えながらも、血に反応を示さず、
 しかしそれでいて小市民の如き極普通の言葉が返ってくる。
 ジェネレーションギャップはここまで来たかと、そんな悩みであれば良かったのだが。
 ふと、そこで八雲は青年の纏う制服に気が付いた。
 あの“事件”の現場となった高校の制服──或いは、彼はそこで凄惨な光景を目にし、
 心を守るために血を認識しないようになったのかもしれない。
 そんな推測を巡らせながら、八雲は腕に掛けていたジャケットを脇に抱え込むように持ち帰る。
 もしも、血がトラウマになっているのだとしたら、なるべく視界に映りにくい場所が良かろうという配慮だった。
 ……とはいえ、小脇に抱えた程度でジャケット全てを覆い隠せる訳でもなく、
 ジャケットはまるで血に浸したかのような有様なので、それに効果があるとも思えない。
 あくまでも気持ち程度の──そういうポーズだけは示すような対応だ。
 そういった、一応の良識のようなものを垣間見せながら、八雲はじろりと青年の佩いた剣に視線を向ける。
 
「……別に、帯刀くらいでどうこうしねぇよ。
 堅苦しいアヒル(※制服巡査)ならともかく」
 
 そう、天道八雲の役割は犯罪者の逮捕でも、不良少年の補導でもない。
 そんなものは、それこそ街のオマワリサンがやることだ。
 だから、青年が八雲の仕事の対象になるとしたら──。

「──人を殺したことがあるなら別だがな」

 一瞬、染み付いた殺気ではなく、
 明確に、八雲は青年へと膨大な殺意を向けた。
 天道八雲という男は決して義務や大義を以って仕事をしている訳では無い。
 それは単なる私情、単なる思想。
 
 ────殺人者を殺す。
 
 ただそれだけが、八雲の行動原理。
 それ以外のすべては不要であり、この身には殺意だけが在れば良い。
 ……と、かつての天道八雲であれば言っていただろう。
 しかし、仲間とのやり取りの上で多少は彼の性格も丸みを帯びてきた。
 青年へ向けた殺意を霧散させ、八雲はぎこちなくも笑みを浮かべる。

「……なんて、お前みたいな餓鬼に言う事でも無かったな」

 凶相には違いないが、子供が見れば泣き出しそうな笑顔ではあるが、
 それでも友好を示そうとは努力をしていた。
 青年へ覚えた違和感は、壊れた異常者ではないかという懸念は、
 勘違いであったと、八雲はそう処理したようだった。
 こんな柔らかい雰囲気の……言ってしまえば呑気な青年が殺人を犯すなど、まず無いだろう。
 そんな期待にも似た判断であった。

「悪いな、変な因縁つけちまって。
 そうだ、ジュースでも奢ってやるよ、ほら」
 
 謝意を示すために公園に設置された自販機を顎で指す。
 言外に「ついて来い」と言っているのだが、
 その所作は「今からシメるから黙ってついて来いよ」と言っているチンピラにしか見えない。
 というか、やっている事を見れば因縁をつけて絡んでいるだけなので、
 チンピラという部分を否定する事は出来そうにもなかった。

387【不撓鋼心】何度でも立ちあがる剣士@wiki:2022/06/10(金) 21:15:44 ID:k9jwZ39Y
>>384

御札神社……男子中学生の賞金稼ぎ。
貴重な情報だ、覚えておこう。事態の打開へつながる鍵となるのは間違いない。

だが……それらは今、彼女が浮かべて見せた顔の陰に隠れていた。

(あれは……)

あの表情。あの笑い方。
カーツワイルはそれを、よく知っている。
十を数えない時分から気づけばそれは傍らに。いつもは明るく笑いあう子供たちにふと、影が差していたのを覚えている。
年下の子供たちだけでなく、兄姉代わりの彼や彼女も。当然だ、あそこはそういう子供が集まる場所だった。

だがなぜ、彼女が。
超越した視座を具える、宙心院くくりが。
〝そのような感情〟とは程遠いはずの、彼女が……そのような表情を浮かべるのかと。

「君は……」

考えど答えは出ることなく。
思考を読まれているとしても、考えることと喋ることは違う。
それでも、いいやだからこそだろうか……男はその言葉を、偽ることなく口にした。

「──なぜ、親に捨てられた子供のような表情をしているのだ?」

それがひどく礼を失していて、彼女の心のうちに土足で踏み込むようなものだと分かっていても……。
己が■■■■孤児院の子供たちと同じ顔をする少女へ、そう言わずにはいられなかった。

388【超域越覧】上位次元からの影@wiki:2022/06/10(金) 22:37:10 ID:lRpnYV5s
>>387

────なぜ、親に捨てられた子供のような表情をしているのだ?

「は。」

其れは心に土足で踏む込むなんて生易しいものでは無かった。
幾千回と引っ掻く様に細かく傷を付けられ、化膿し、
今以てじくじくと内外側から痛みを発し続ける襤褸襤褸に痩せ細った"子供"の手足。
其れに追い打つ様に汚泥を擦り付ける惨たらしい仕打ちの様な────。
何となくは理解して貰えるだろうか。

時が止まっていた。凍て付いてしまっていた。
須臾の合間を廻る億劫の刻。黒い画面に白い文字列。それだけが今、彼女が見ている世界の全て。
其れが何秒。何分。何時間。何年の間に渡ったのかは。

//我々にはとてもでは無いが理解の出来ない事だったろう。

思考し。行き詰まり。行動停止(フリーズ)。再試行。停止。再々試行。停止。

//行間の無限の無へと幾つもの"ことば"を吐き捨てながら。

【あは】【あはははは】
 【はははははは】【は……】【そう……?】【そうか】

────そっか。私、そんな酷い表情(かお)してたんだ。……知らなかったな。


「ご、めん。それには、ちょっと。答えられない、かなー。」

作中内時間にして数秒にも満たない間、だったのだが。
その質問の直後からさっきまでの軽薄な薄ら笑いはそのままに、
少女の瞳から一切の光が絶えた。
そういった境遇の者達に重ね見たのなら思い当たる節もあるだろう。
これは詰り心底からの拒絶を示している。
明確に。明白に。問うべき場所とタイミングを誤ったのだ。

「ちょっと急用ができちゃったからさ。
 そのパフェ君が全部食べといてよ、じゃあねー。」

直ぐにでもこの場から消え去ってしまいたい。
只その一心で気もそぞろに支度を済ませ。
会計の事など最早眼中にも無しにこの店を。この邂逅(ロール)を去ろうとする。
一言くらいは投げかける隙があるかもしれない。
それが届くかどうかはまた別の話にはなるが。

慌ただしく逃げ去ろうとする欠け損じた超越者(かめん)は。
貼り付けた画像(テクスチャ)の様な笑顔のまま、頬を伝う涙を零していた。

それが、答え。

389【輝煌炎焔】「正義」の焔@wiki ◆ZkGZ7DovZM:2022/06/11(土) 11:59:22 ID:GZjI3VG6
>>386


【アヒル? と聞きなれない言葉に疑問符を浮かべたような表情は】
【まさに男の思う"小市民"の反応であり】

【だからきっと────────そのままであれば。】

【青年は怯えながら男の背を追って、びくびくしながら一人の警察官に尊敬の眼差しを向けて】
【それで終わりだったのだろう、けれど】


 『──人を殺したことがあるなら別だがな』


【男を中心にして噴き出すように空間に充満する"殺意"】
【敵意に続いてくるのではなく、条件反射として「殺人者を殺す」と】
【ある種、狂気的とも機械的とも言える彼の在り様の一端に触れて】

【青年は気づいてしまう】
【不器用で、実際的な意味を持たず────────けれど善性に基づいて行われたであろう】
【彼の持つ、血の池地獄から引き出したようなジャケットに】【微かに、けれど確かに薫る血と死の匂いに】


 ……ごめんなさい。失礼なことを、聞くと思うのですが。


【彼が向けようとした笑顔を、期待を遮る形で】
【僅かに震えながらも──────何か強い決意や信念を感じさせる声で切り出す】
【男と同じ真っ赤な瞳は真剣ながらも鋭くはなく。敵意の類でないことだけは、伝わるだろうか】


 ──────人を、殺したんですか。


【突如吹いた強い夏風が、公園の背の低い木々の合間をくぐり、一瞬の静寂をもたらした】

390【神螺宵達】記憶を剣にする警察官 ◆/DJQPS2ijA:2022/06/11(土) 15:23:58 ID:G6U89/HQ
>>389

 失礼なことを聞く、という前置きを受けて、
 八雲はその問いの内容を予想しながら自販機に向けて歩を進める。
 よく聞かれるのは「どうやって警察官になったんですか?」だ。
 それも、「お前のような人間が何故警察官になったのだ」という意味と、
 「そんな粗野な態度と凶相でどうやって警察官になれたのだ」という意味を込めた質問が多かった。
 次に聞かれるのは「どうすれば悪人と戦えるようになりますか?」という問い。
 最前線で戦い続けた八雲に投げかけられるのはそういう類の言葉ばかりで、
 きっと青年も──この帯刀していながら此方に怯えっぱなしの彼も、そういう質問をしてくるのだろう。
 そう、予想していた八雲の背に投げられたのは、まったく予想していなかった問いだった。
 
 
 ──────人を、殺したんですか。
 
 
 ピタリと足を止めて、八雲は青年の方を振り返る。
 血みどろのジャケットからは嫌な臭いが染み出し、
 まったく無傷の八雲の身体は、その血が何を示すのかを雄弁に語る。
 青年から突如として牧歌的な空気が失せて、強い意思の籠もった瞳が八雲を見つめていた。
 それを見つめ返す八雲の煌々と輝いていた隻眼は昏い色を宿し、
 青年と同じはずの真っ赤な瞳は、どす黒い血を連想させる。
 両者の間に満ちる静寂を引き裂くように、八雲は口を開いた。

「……ああ、それが……どうかしたか?」

 お前が何故気にかける。それ以上踏み込むな。
 そう警告するような、低く唸るような声だった。

「──それがD.O.T.Aだ」

 続けた言葉は、少しだけ言い訳じみていた。
 罪悪感から口にした訳では無い。
 それ以上言葉を続けたくないという意味での、
 これで納得して話題を終わらせてくれ、という意味での言い訳だった。
 無論、D.O.T.Aは殺人を否定しない。
 悪を淘汰する為ならば殺人も、洗脳も、拷問も、ありとあらゆる手段が肯定される。
 しかし、それは必ずそうしなければならないという訳では無い。
 少なくとも、八雲のような殺人を前提とした思考を持つ者は少数派だった。

391【輝煌炎焔】「正義」の焔@wiki ◆ZkGZ7DovZM:2022/06/11(土) 19:02:01 ID:GZjI3VG6
>>390


 『──それがD.O.T.Aだ』


【翳った男の瞳からはその真意を読み取ることができず】
【けれど、予想した通り聞かれて嬉しい話題ではなかった様子だった】

【青年の顔は険しさを増したが、それは目の前の男に対してというより────】
【何かを。そう、"かつて自分が見た何か"を追憶するかのようで】
【再び訪れた静寂は、今度は少し長かった】


 ────俺。ずっと、暴力は絶対悪だって思ってたんです。


【やがて、意を決したように青年が切り出す】
【目の前の男に向けられた視線は、彼だけでなくその中に見出した「死」と「暴力」にも向けられていて】
【けれどやはり、単に"それ"を嫌悪するといった色ではなかった】


 けど。俺の高校が能力者に襲われて、D.O.T.Aの人がソイツを────────殺して。
 そうじゃなかったら、友達が死んでたかもしれない。


【何を聞かせているのだろう、と自身で何処か冷静になりながらも伝えずにはいられなかった】
【その惨劇で学校側に死者を出させなかったのは────他でもなく。彼の所属する組織の功だった】

【さて。青年の話は、聞く限り助けられた側から助けた側への感謝で】
【けれど。ほんの少し、ほんの少しだけだが】
【────彼自身が、罪を悔いるかのような自罰を孕んでいることが。ともすれば、伝わるかもしれない】


 だから…………ごめんなさい。何言ってるんだろう、俺。


【さらに続けようとして、ふと青年は我に返る】
【言葉を押しとどめた姿に、先程までの剣吞ともいえる雰囲気はなく】
【出会った時と同じ、有り触れた高校生の姿がそこにはあった】

392【神螺宵達】記憶を剣にする警察官 ◆/DJQPS2ijA:2022/06/12(日) 14:31:30 ID:hcN9ohqU
>>391

 何かを言い聞かせるような、
 懺悔のような言葉を吐く青年に、八雲は己の過去を見る。
 彼の抱える悩み……いや、未だ悩みという形にすらなっていないかもしれない。
 言い表せない青年の心のしこりの正体に、かつて己が抱いた感情を当て嵌める。
 
「──お前は、良い奴……なんだろうな」
 
 そう、きっと青年は善良だ。
 行き過ぎなくらいに、誰もが諦めてしまうものを諦められない程に、善良なのだろう。
 昏い瞳の中に過去の光景を映し、八雲は滔々と語る。
 
「善良でいたいのなら、ただ善い事だけをしてりゃあ良いんだ。
 だがな、もし悪党を許せないのなら……その悪党すら、助けたいのなら……」

 かつて、八雲は悪人を殺す事に疑問を抱いた事がある。
 例え悪逆無道の人間だとしても、殺すことは無いのではないかと思ったことがある。
 そんな悩みは、とうに消え去った“気の迷い”ではあったが、
 しかし、もしも青年が似たような悩みを抱えているのであれば、言わずにはいられない言葉があった。
 
「────それは、“正義”だ」
 
 天道八雲という人間がかつて捨てたもの。
 茫洋として、曖昧で、人によって形が変わる恐ろしい概念。
 それによって争いが起き、それによって人が死に、しかし尚も尊きとされるもの。
 
「……そして、“そんなもの”は悪党だって持っている。
 譲れない、これこそが正しいと思うものを振りかざしている。
 もしもお前がそいつを殺さずに止めたいのなら──」
 
 もしも、悪党の命すら尊いと言うのであれば。
 
「お前は世界で最強で在る必要がある。
 絶対に折れない意思と、誰にも負けない力が無ければ、
 正義はただの歪んだ思想で、ただの暴力でしかないんだ」
 
 そんなものは理想、この世に在ってはならないものだ。
 かつての天道八雲は──凡人でしかなかった弱い男はそう思った。
 だからこそ正義ではなく、ただの悪を討つ機能で在ろうとし、悪党を殺し尽くしたのだ。
 手の届く範囲には限りがあるのだから、其処から漏れる全てを殺す。
 それが天道八雲が抱えた覚悟であり、そして、諦めたものだ。
 もしも青年がそれ以上を望むのであれば、そこから先は地獄が待っているだろう。
 
「だからお前は“良い奴”で良いんだよ」
 
 わざわざ、苦労する必要もない。
 みんな諦めてきたんだ。お前も、諦めてしまって良い。
 それは八雲の優しさであり、同時に卑怯でもあった。
 この世の理不尽に怒り、激情に流され、正義ではなく悪の敵で在ろうとした。
 だからこそ、正義を前にすると僻むような気持ちが芽生えてしまう。
 お前が正義を志せるのは運が良かったからだと、心が壊れるほどの悲劇を知らないからだと考えてしまう。
 それなのに、決して折れず、負けず、揺らがない本物の正義が万が一にも現れてしまったのならば、
 きっと天道八雲は、矮小な己の心の奥底が曝け出されてしまう事に恥じ入って、動けなくなってしまうだろう。
 修羅道に堕ちただけの小市民。それが、隻眼悪鬼と悪党に恐れられる男の正体だった。

393【輝煌炎焔】「正義」の焔@wiki ◆ZkGZ7DovZM:2022/06/12(日) 17:52:05 ID:mW0Glsog
>>392


【良い奴だ、と。何も映さなくなった右眼と何もかもを見過ぎた左眼で男が言う】
【その言葉を否定しようとして────青年にはできなかった】
【それは。凡庸な善良さを肯定する男の姿が、彼自身が思うよりずっと優しいものであるからで】

【けれど────"無能力者"として言い逃れてきた己を彼の言葉だけで、許すこともまたできない】


 『お前は世界で最強で在る必要がある。
  絶対に折れない意思と、誰にも負けない力が無ければ、
  正義はただの歪んだ思想で、ただの暴力でしかないんだ』


 『だからお前は“良い奴”で良いんだよ』


【そう。未だ燻るだけの焔は、高らかに正義を掲げられてはいない】
【けれど。けれど、もし】
【男が言うように────────────】


 ……じゃあ。絶対に折れない意思と、誰にも負けない力があれば。


【男の言葉を黙って聞き終えて、青年が口を開く】
【子供の駄々、或いは戯言のような言葉は、地に足を付けて"悪の敵"を選んだ男には、きっと甘ったれて聞こえるだろうけれど】
【そこには迷いも憂いもなく。ただ、進むべき道を見つけた若人の、青い決意があった】


 ──────みんなを、しあわせにできるんですね。


【幼心に、誰もが夢見るハッピーエンド。誰も泣かず、傷つかず、喜びに溢れる結末】
【そして──────誰もがいつかは、気づかぬうちに無くす幻想(ユメ)】
【目の前の男もきっと、そんな有り触れた人間の一人で】
【だけど彼はどこかで善性を捨てきれなかったのだろうと、青年は思う】


(だったら「それ」は、俺が実現すべき理想だ)


【青年の紅い目は、怯むことなく男を貫き続ける】

【青年に、若しくはその瞳の中に。ともすれば男は、見出すかもしれない】
【天を焦がし地を覆い海を焼く劫火──────そんな幻を】

394【不撓鋼心】何度でも立ちあがる剣士@wiki:2022/06/12(日) 21:06:06 ID:nI8Cxlwc
>>388

──ある種の超越した精神を有する人物だと思っていた。

世界のすべてを補足範囲とする読心能力。おそらくは言葉以上の意味を持つ隔絶した異能。
この世のあらゆる事物を知り得る、まさに全知に指をかける究極のチカラ。
流れ込む情報量は莫大なんてものじゃない。すべてを押し流す洪水に等しい情報量に晒され、なお正気を保てているなら……。
きっと、彼女の本質は人間とは離れた……それこそいつか邂逅した、神々にも等しいものなのだろうと。

そう、思っていたのだ。

「────」

彼女はひどく傷ついていた。
貼り付けたような笑顔のまま、涙を流していた。

……雷に打たれたかのような衝撃。
思わず立ち上がり、けれど何も言えなかった。

いったいどんな言葉をかけられるというのだ。
すまなかった? そんなつもりはなかった? それほど傷つくとは思わなかったのだと?
まさか君がそんな平凡な反応を見せるとは考えていなかった、と……いくら何でも、言葉にすることはできなかった。

「そうか、君は──」

〝単なる普通の少女〟だったのだと、ようやく気付いたときにはもう遅い。
平凡な心が持つには過ぎたチカラを背負わされてしまった、哀れな娘の心を最低の形で踏みにじったという事実だけが残る。

走り去る少女に、もはや何も言えるはずはなく……。
その背が見えなくなって、ようやく思考が思考として動き出した。

(──屑め)

糞め。塵め。どうしようもない愚か者め。
なぜ気づかなかったのだ、彼女の平凡さに。その心根の普通さに。
怪我をすれば血を流し、手当の消毒が沁みれば声をあげないよう我慢して、話のために入った喫茶店で菓子を楽しもうとするのだぞ。
これが。これが、超越者なはずがあるか。人間とかけ離れた精神の持ち主なはずがあるか! ただのどこにでもいる少女ではないか──!
悪であること以外は何も見抜けないのか! 守りたいと願った平穏な輝きに対する仕打ちがこれか! 無能節穴にも程がある、ふざけるなよ塵屑が────!!

少女の心はこの悪漢によって手ひどく傷つけられた。
謝罪する権利さえ、自分にはあるまい。それだけのことをしてしまったのだ。
むしろその能力を駆使して二度と顔を合わせないように動くことだって十分に考えられる。当然だ……こんな男にはもう金輪際会いたくもあるまい。

もはや自分が、彼女に対してしてやれることなど一つもない。縁はこれにて、完全に断たれたのだ。


//続きます

395【不撓鋼心】何度でも立ちあがる剣士@wiki:2022/06/12(日) 21:06:38 ID:nI8Cxlwc
>>388

「〝いいや〟」

──否。

「〝だからこそ、俺は前に進み続けよう〟」

男の気炎が、再び、燃え上がる。

思い出せ。彼女が自分に伝えてくれたことを。
かの指揮官の脅威。世界に差し込む暗い影。それを払うがため、正義と秩序に結束せよと。
そのために情報を周知、共有せよと──少女がリスクをおしてまでくれた助言。それだけは無碍にしてはならない。

「〝君の涙を無駄にはしない〟」

刻み付けろ、自分が砕いてしまった善なるものを。
背負い続けろ、犯してしまった非道の所業を。
忘れるな、己がどれほど罪深く醜悪な塵屑であるのかを。

すべてを自認し、それでもなお──いいやだからこそ。

「〝涙を希望に変えてみせる〟」

奪ってしまった輝きをより大きな光にして返すのだ、と──。
男は大志をより強く、拳から滴る血液ごと握りめて、決意を新たにしたのだった。

──そう。

メルヴィン・カーツワイル──未だ一部界隈にではあるものの、今や英雄と目されるこの男は。
知り合った善良な少女の心を踏みにじったのだと確と理解しておきながら……その精神に一筋の瑕疵も、一片の曇りさえ浮かべることはなく。
むしろ彼女の涙を薪として、その決意と覚悟をよりいっそう強く燃え上がらせてみせたのだ。

すべては未来のため。
明日のため、笑顔のため、希望のため──進み続けることこそ、こんな自分にできる唯一のことであると。

振り返ることなく前へ前へと征くことしかできない英雄/異常者は、闇を持たない魂の黄金/歪みを輝かせたのだった。


//自分からは以上となります……!
//ありがとうございました!お待たせしてしまって申し訳ありませんでした……!

396【神螺宵達】記憶を剣にする警察官 ◆/DJQPS2ijA:2022/06/13(月) 00:49:15 ID:ivDrZa36
>>393

 その青い理想は、夢物語のような戯言は、しかし、奇妙な迫力を宿していた。
 青年の赤い瞳に宿る決意は、総てを焼き尽くす劫火の如く大成を予感させる。
 その純粋さから目を逸らすようにして、八雲は瞳を伏せた。
 それは後ろめたさではなく、己の決意を再確認するためだった。

「…………それが、お前の正義か」

 共感しよう。
 誰もが幸せになれる世界。
 そんなものがあれば、それこそが至上だ。
 かつては似たような夢を抱き、青臭い理想を抱えて警察官となった。
 だからこそ、その願いの強さ、その願いの素晴らしさを肯定しよう。

「だったら、いつかお前は俺の敵になるぜ」

 故に否定しよう。
 夢破れた者として、その夢を肯定し、そして否定しなければならない。
 この世には救いようもない、幸せになる権利もない人間が居る事を天道八雲は知っている。
 幸せとは真っ当な人にのみ許された恩賞だ。
 そして、殺人とは悪行であり、悪行を為す者は悪鬼である。
 悪鬼は人ではない。幸せになる権利など、欠片も持ち合わせてはいない。
 故に────。

「────俺は総ての殺人者を殺す。
 今を生きる殺人者も、今後生まれる殺人者も殺し尽くす。
 誰もが幸せな世界なんて、俺は許さない」

 悪鬼と恐れられる悪党にとっての死神は、そう告げる。
 正義の為、理想の為とどんなお題目をつけようとも、殺人は許されざる行為だ。
 それは勿論、己の行う殺人も同じこと。
 だから、その決意の表明は自罰的な色を含んでいた。
 青年が正義の炎であるとすれば、八雲は地獄の劫火だ。
 その血に塗れたような真っ赤な瞳を再度青年へ向け、八雲は言った。

「……お前の名前は?
 その青臭い幻想(ユメ)と一緒に覚えておいてやるよ」

 そして、願わくば──。

「──俺は天道八雲。悪の敵だ」

 天道八雲という、最悪の殺人者を止める者となってくれ。
 悪党を殺すことに後悔はない。
 だけど本当に──真実に“みんながしあわせな世界”が実現するのであれば、
 最も世界に不要なのは、この血に塗れた悪鬼なのだ。

397【輝煌炎焔】「正義」の焔@wiki ◆ZkGZ7DovZM:2022/06/13(月) 09:12:23 ID:t.VTgt6k
>>396


『────俺は総ての殺人者を殺す。
 今を生きる殺人者も、今後生まれる殺人者も殺し尽くす。
 誰もが幸せな世界なんて、俺は許さない』


【男の言葉は、決して美しいだけではないこの世界で、確かに揺らがぬ在り方だった】
【彼はきっと、そうは思わないのだろうけれど────敢えて悪の敵を、選ぶのだとすれば】
【それは確かに一つの"正義"だと、青年は思う】


 ええ。……今生きている人すべてが幸せになれるなんて、俺も思わない。
 俺がどれだけ手を伸ばしても、悪のままで居たい人もいるでしょう。


【だから否定することはできない。流してきた数多の血の色に染まった視線を】
【誰より大きな力を以て"悪"を抑制するというならば、それもまた一つの"悪"であろう】
【けれど。だけど。言い訳では、理想論ではあるけれど】


 けど、悔いている人がいるかもしれない。
 頭を下げて、一生をかけて償って……その果てに、誰かが小さな納得に辿り着けるかもしれない。


【躊躇いなく能力者を殺したD.O.T.A職員の背に、確かに青年は正義を見た】
【だからこそ、自らもまた────封じてきた暴力を持ち出す覚悟を決めた】
【けどそれは。彼らがもう一度光を目指す機会の全てを、奪っていいことにはならないと────青年は思う】


 だから俺は、"正義の焔"になります。

 救いようのない悪党を焼き尽くす。救える悪党を照らす。
 救われるべきみんなを守る。────そんな焔に。

 お巡りさんの同僚さんのおかげで、その覚悟が決まりました。


【矛盾を孕む信念。誰かを守るための暴力も、或いは殺人すらも肯定しながら】
【それでもやはり、"殺さなくて済むなら殺したくない"】
【それを叶えるために、戦いたい】

【地獄の劫火に相対して、未だ若き正義は高く燃え上がる】


 ……スクアーロ。ウォン・A・スクアーロ。
 いつか────みんなをしあわせにする、正義の味方になる男です。


【己に課すように、答える】

【彼はきっと、そうは望まないのだろうけれど】
【叶うならば貴方も救ってみせると、そう宣言する心意気で】


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