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十二国記SS「† 夜に別れを †」

1名無しさん:2004/08/17(火) 23:34
スレの立て方わからないけど、これでいいのかな?

52名無しさん:2004/08/26(木) 16:22
>>50,51
おおーっ、遂に二人以上かくていーーーっ!!!
ここに私を含め三人以上の人間が存在している〜〜〜っ!
50さんはssの方ですね。尚六中毒ではないのに、そこまで萌えなものが
書けるってなんなんですか?
51さん、私は月渓にも様々な亜種を設定です。場面により最も萌えを高めて
くれる亜種をひっぱりだして使いわけて妄想しとります。

一応、月渓による理想の峯麒は、ちょっとつんとしてるタイプかな。
でもつんとしてるのは月渓の愛を確信してるからだという。
最初から大事にしてれば「理想の峯麒」が手に入ったはずなのに〜〜
というのも月渓の悩みの1つです。でも健気なのも好きという月渓。

5350:2004/08/26(木) 16:59
>52
いやいや萌えてはいますよ
書いたら楽しいし
でも最初はどっちかと言うと、泰主従の方が好きだったし、
正直作品の中でも、延主従の本編は好きな方ではなかったので…
キャラは好きなんですけどね

本当は景麒マンセーな書き手orz

54名無しさん:2004/08/27(金) 01:12
>53
おお? 野郎野郎萌えで、でも泰主従好き(泰麒って女の子っぽいですよね)
で、ホントはケイキマンセーとは、どういう萌えの変遷なのだろうと、ちょっと
興味が。自分はロクタンマンセーですが。

今日はチョト、寝不足気味でダウンです。もう少し健康的な時間にカキコせねば
と思いながら・・・。

5550:2004/08/27(金) 02:03
>54
スレ邪魔してすいません
ちょっと説明しにくいんですけど、私、ヤオイ畑初心者なんですよ
十二国でここが初めてなんです。普段はネットBLのみなんですよね
だから、BLだと、そういう物だとして読んでるんですけど、
一般作品を見て、男同士のそういう想像を、普段多分全然しないんですよね
だから、BL読みとしては、野郎野郎が好きなんですけど、
十二国読者としては、泰主従とか景麒とかがフツーに好きなんですね
単に可愛いとか切ないとか、景麒ってタイプだなとかいうレベルで(苦笑

じゃあなんで尚六書いてるんだ、って、
それはリレーが尚六で、読んでるうちになんとなくこういうもんかというのが
見えてきて、じゃあ、という感じで…
多分二人のそういうヤオイっぽさ?に萌えて書いてるというより、二人を使って
BL書いてるんだと思います
だから書いてる時は普通に楽しいんですよ。
だから書いてる今でも、十二国記読んでる時はヤオイ的な発想はゼロです
ただそれなので、書いてて、なんとなく話が面白くない気がしたりすると鬱ります
読んでくれてる人は、尚六が絡んでれば萌えるから…と言ってくださる人も
いるんですが、書いてる本人は尚六が絡んでても過度な萌えはないんで分からない
んですよね。
ストーリー萌え・喋り萌えしてるわけで、尚六だから萌え萌えという気持ちは
ないんで、正直読んでくれてる人には申し訳ないです
ツボ知らない人間が書いてるわけですから…愛情は、あるんですけど
その点で言うと、氾朱の方はまだ自分が氾王様に過度に萌えてるので、
多少色があります

56名無しさん:2004/08/27(金) 12:42
>55
全然、邪魔じゃないですよ〜  つうかむしろこういったやりとり楽しいですよね。
他の人の萌えの歴史とか、普通にどんな本読んでる人が12好きなのかとか興味
あるんです。12国をどんなふうに好きかとか。本館ではミラージュ読んでるらしき
方の書きこみありましたがw
確かに、萌え萌えな対象と、書いてみたい対象が違うことってあるかも。
私も月渓ってあんましだったし、本命はロクタンなので。
55さんが景麒好きって書いてたら、すぐに801萌えで好きなのかと誤解してしまう
私って、ホントに脳に腐が入ってるな・・・w
本命で萌えててもポインツを明確に描けない人もいるだろうし、
ロクタン本命じゃなくてもツボ的中で刺激してくれるので全然オケなんですが。
尚六萌えじゃなくても楽しんで書いてるムードがあるから、どんな場面も、
みんな快適なのじゃないかな。
私のssのほうは単なる自己満足なので、いろいろ言える立場じゃないんだけど。

57名無しさん:2004/08/30(月) 02:09
さて、同じ日、その後。
 峯麒は小屋の中で麒麟の気配が近づいてくるのを感じていた。


 林の中に麒麟が住みついているとの情報を受け、景麒は峯麒の小屋を目指して
歩いていた。麒麟の気配を辿っていると、藪の中を通らざるをえず、景麒は
ひっかき傷だらけになり鬣も乱れてきた。
 宮殿から相当の距離を歩いたと思った頃、やっと景麒は目標の場所に辿り
ついた。
 少し開けた場所の向こうに、よく見ればほったて小屋に見えなくもないもの
があり、その手前に小さな麒麟が立ち、こちらに向かい畏まって拱手の礼を
とっていた。

58名無しさん:2004/08/30(月) 02:11
礼儀正しい小さな麒麟は、狭くむさくるしいところですがと、景麒を小屋(?)
の中へ招き入れた。側の樹木を利用した屋根は低く、景麒は中腰で中に入り、
座っても頭から天井までいくらも余裕はなかった。
 小さな麒麟は粗末かつボロボロの衣服をまとっていた。ボロボロの服装の麒麟
など景麒は初めて見た。それでも不浄を嫌う麒麟の性質ゆえか、なるべく清潔さ
を心がけているらしいようには見えたが、それでもこのような生活のためか、少し
薄汚れていた。
 実際、体を清潔に保つため峯麒は非常に苦労していた。湯が手に入らないので
泉の水で水浴びせねばならないのだが、寒くなってきているおり、それも辛いもの
になっていた。それでも毎日、月渓に拝謁して契約を求めねばならない身、王の
前で不敬にあたらぬように、又、月渓に少しでも好意を持ってもらうためにも、
必死で冷たいのをこらえて体を洗っているのだった。蓬山では女仙に体を洗っても
らい何不自由なかったのだが。

59名無しさん:2004/08/30(月) 02:13
小屋の中に落ち着くと「我が屋敷にようこそ」と麒麟は改めて言った。屋敷も
何も、と景麒は思ったが、小さな麒麟の堅苦しくも礼儀正しい様子は自分のこども
時代にも通じるものがあるような気もした。
 麒麟同士はある程度似ているものであるが、その麒麟は景麒自身の幼い頃にも
似ており、又、雁国の麒麟にも似ていた。ただ信じられないくらい痩せている。
そのくせ懸命に元気な様子を見せようとしている感がある。
 小屋の真ん中、向かい合った二人の間には上等そうな果物が飾られている。
みすぼらしいこの場所には不似合いだった。
 お互い号と生国だけの短い自己紹介が済むと、峯麒は景麒に果物を勧めつつ、
「飲み物をご用意します」と言って、なにやら古ぼけた茶碗を景麒の前に置いた。
中を見ると水が入っていた。
 景麒はこんなみすぼらしい茶碗を使ったことは生まれてこのかた無かったが、
断るのも気がひけて茶碗を手にとった。
「あっ、痛っ」
茶碗を無造作に扱ったのがいけなかった。茶碗に欠けがあるのに気がつかなかった
ので、気がついたときには唇が切れていた。
「ああっ、血が、血が…」
峯麒は慌てた。なにしろ麒麟は血の穢れを最も嫌う生き物である。その血を、
やはり麒麟である客人に流させてしまったのだ。

60名無しさん:2004/08/30(月) 02:15
「なに、たいしたことはありません」
 と景麒は取り繕い、
「見事な果物ですね」
 と、話題をそらすためにそう言ってみた。
 それがきっかけで峯麒は急に饒舌になった。
 これは月渓様が下されたもの、月渓様は本当にお優しい。月渓様は王宮中の人
からものすごく慕われている。月渓様のお姿のなんとりっぱなこと。
月渓様はこのように素晴らしいことを官吏に仰った……等々と、
ほっておけばいつもでも喋りつづけそうだった。そもそも峯麒は王宮の人々に
かまってもらえないので話し相手に飢えていたのだ。おまけに生活苦のことを除けばいつも月渓のことしか考えていなかったので、自然、月渓の素晴らしさについての
自慢話ばかりになってしまったのだった。
 景麒の使令は、月渓は峯麒を虐待しているらしいと報告してきていた。これでは
話が違うなと景麒は思った。そのとき峯麒は話しつづけながらも、ふと小屋のすみ
に大切に置いてある月渓の服が目に入り、なぜこれがこの場所にあるのか弁解して
おかねば、と気になった。
「これはちょっと月渓様からお借りしてきているのですが、もうすぐお返しするも
のですから」
実際、峯麒は月渓の衣類を盗みはするが、王気が消えかけた服はいつも王宮に戻して
いた。寒さをしのぐために布ならなんでも欲しいところだが、なるべく盗みの量
は減らしたかった。しかもこれは月渓の服である。返さず手元に置きつづけるなど
盗むだけでも畏れ多いのに、考えられなかった。しかし盗みをしているのは事実で、
月渓様は僕のことを盗人として、さぞ蔑んでおられることだろう、と峯麒は悲しかった。好かれるどころか日に日に月渓からの評価は落ちて行くばかりに思われた。
しかしこの王宮を立ち去るわけにはいかない。月渓様は常世一、聡明であらせられる。
そのうち王位につく必要性をわかってくださるだろうと峯麒は希望を捨ててはいな
かった。それに今日はなぜだかわからないが月渓の様子がいつもと違っていた。
これは良い徴候かもしれなかった。なにしろ峯麒は生まれてこのかた無いほど幸せ
だったのだ。初めて王宮に来たときに王気を発見したときと同じ位うれしかったのだ。
峯麒はこの歓びを糧にしてこれからも頑張りつづけようと自分に誓ったのだった。

61名無しさん:2004/08/30(月) 02:18
「なぜ衣服を借りてきているのですか?」
「それは……実は王気が充分にもらえないのです」
 峯麒は恥ずかしそうに言った。
「なぜ充分にもらえないのですか?」
これは峯麒にとって、あんまりな質問だった。このことは自分でもさんざん考えて
いたのだ。結論は出ていた。月渓は峯麒のことを好きではないのである。それは
おそらく峯麒が見栄えのしないみすぼらしい姿だからであり、強情で頑迷でかわいげ
がないからであり、峯麒の行為の全てが蓬山の女仙にならもてはやされるものであ
っても、ここでは通用せず人々に嫌悪感を引き起こすものでしかないからであろう。

62名無しさん:2004/08/30(月) 02:26
峯麒の目から涙が零れ落ちた。今だって他国の麒麟を前に虚勢を張ってはいるが、
その堅苦しい態度も自信の無さをごまかすためのものでしかないのである。
いったん流れ出すと涙はあとからあとから溢れ出て止まらなくなってしまった。
普段は麒は女々しくあってはならないと、泣くことを自制してきたのだが、今、
景麒の言葉がその堰を切ってしまったのである。
 うなだれてぼたぼたと涙を落とす峯麒は
「およばずながら、私でなにかお力になれることがあれば……事情を話しては
いただけまいか」
という景麒の言葉に促され、結局、真実を隠さず話すことになってしまった。
そもそも峯麒は自分の逆境を誰かに理解してほしくてたまらなかったのだ。蓬山で何不自由なく、女仙たちの愛情を一身に受けて暮らしてきた峯麒にとって、誰からも
嫌われ、生活に必要なものにさえ事欠くこの状況は、どうしたらいいのか
わからないほど辛いのである。

63名無しさん:2004/08/30(月) 02:28
 聞けば気の毒な話である。景麒は痛ましい思いで峯麒の話を聞いた。
一方、峯麒のほうは自分が王宮で受け入れられない原因と思われる点をあげてみて
も景麒が否定しないので、やはり考えていた通りだったのかと、ますます落ち込ん
だ。蓬山で女仙たちは峯麒のことを、今までのどんな麒麟よりもお美しくていらっしゃる、ご立派な性質でいらっしゃる、きっと王にこの上なく大切にされるでしょう、などと言ってもてはやしていたが、それらは蓬山以外では通用しない価値観だったの
だ。月渓の抱擁に驚きながらも天にも昇る心地だった峯麒だが、今や地の底まで引きずり下ろされた気分だった。

64名無しさん:2004/08/30(月) 02:31
景麒は峯麒があまりにも悲しげな顔をしているので、少しでも元気づけようと、
「王気が足りないとのことですが、王気の効果的な摂取方法というのも無くはな
いのですよ。ただ、峯麒はまだ成獣になっておられないので………・とにかく
峯麒のお力になれるように主上や他の方々とも相談してみます」
 自分は峯麒を落ち込ませてしまったようだと気になりながらも、景麒ははやく
他の人々にも峯麒の惨状を伝え、良い案を捻出せねばと、峯麒に暇を告げ、立ち上がった。
 そのとき、天井が落ちてきた。天井といっても折った枝や布などなのであるが。
景麒は天井が低いのを忘れていたので、立ったはずみで天井を壊してしまったのだ。
峯麒の小屋はかくも脆いものであった。
 景麒はそれほど痛くはなかったが、しまったと思った。慌てて地に落ちた布を持ち上げ、木の枝の下敷きになっていた麒麟を救い出した。
「これは申し訳ない…」
小さな麒麟をたすけ起こし服についた土を払ってやると、トサッという音がして
何かが麒麟の服の間から落っこちた。
 それはみすぼらしい小さな布袋だったが、落ちたはずみで地面に中身が
ころがり散った。それらは小さな小石だった。
峯麒が必死でそれらを拾い集めるので景麒もいっしょに這いつくばって
小石を集めた。
「この小石はいったい?」
「きれいでしょう」
峯麒は少し得意そうにいった。
「泉で集めたものです。光っているものとか色の変わっているものとか。
月渓様がいつの日にか僕をそんなに嫌いじゃなくなったら、贈り物にしたいんです」

65名無しさん:2004/08/30(月) 02:37
こんな小石が贈り物とは、と景麒は思った。玉でもない普通の小石である。子供
なら喜んで集めそうな石ではあるが。好いた相手からの贈り物であれば、存外
こんなものでも、かえってかわいらしく思え嬉しいものかもしれないが。
しかし、麒麟は王に、国そして民という、計り知れないほどの贈り物をする。その前
に他の贈り物に心を砕く麒麟など景麒はいまだかつて聞いたことがなかった。

 峯麒は小屋が崩れて困った様子だったが、二人は懸命に修復にはげんだ。なんとか
もとにもどったころには日は暮れかけていた。景麒は不調法を詫び、食料や寒さを
しのぐための品を調達することを約して暇を告げた。峯麒はもともとは人懐こい性質らしく、共同作業を通じて景麒になじんだのか、景麒が思わず見入ってしまうほどの
美しく愛らしい笑顔と浮かべて見送ってくれた。

66名無しさん:2004/08/30(月) 05:37
麒麟同士の語らい、いいなあ。見ててほのぼのする。
そして普段はアレな景麒が、初めてまともに役立ちそうな悪寒w

67名無しさん:2004/08/30(月) 12:25
>66
こんなくら〜い話をほのぼのと言ってくれてトンクスです。
暗すぎるのでちょっと休憩で新作映画の予告編でもどうぞ。

延王「お前たちを雁国諜報部員に任命する。
   ナンバー006 六太
   ナンバー007 楽俊       」

ポスター。
中央にジェームス・ボンド風に拳銃をかまえた獣形の楽俊。
左右にセクシーな衣装のヨウコとショウケイ。

グラサンをかけ机に足を投げ出した六太が電話をかけている。
「007、指令だ。柳国に潜入せよ」

ベッドでケイタイで受ける楽俊。
左右にはぐったりとしたヨウコとショウケイが眠っている。
「OK」
低く答えるとベッドを出る007。
そしてほたほたと去っていく。
coming soon

・・・くだらないけど、どうしても書きたかったもんで。

68名無しさん:2004/09/01(水) 18:19
楽俊がネズミのまんまなのにワロタ

69名無しさん:2004/09/04(土) 01:01
>68
楽俊はアニメでは月の海転章のときの絵が特にかわいいですよね。

70名無しさん:2004/09/04(土) 01:03
 さて翌日。今日も峯麒は月渓への空しい拝謁を済ませたあと、王宮内を王気の流れる場所を求めてうろついていた。しかし気の流れの滞りがちな季節ゆえ、なかなか思うにまかせない。そのうちどこからか良い香りがただよってきた。
それは王気には比ぶべくもないが、なにか体が柔らかくなってくるような、眠気とは違うが少し似た何かを呼び覚ますようないわく言い難い香りであった。
 峯麒はその抗いがたい香りに誘われて香りの発する方角にふらふらを歩を進めた。
 随分と歩いた。香りはますます強くなってきている。王宮の中庭にある茂みから峯麒が顔を出すと、前方の建物は開け放たれてあり、部屋の中が見えていた。峯麒は茂み伝いに建物の隅へと近づいていった。
 中から人の声が聞こえた。
「やっぱりこの香の威力は抜群だわ。だってもう間近に近づいているのがわかるもの」
 峯麒はなんの話をしているのだろうと思ったが頭がしびれたようになって、考えるのも億劫になっていた。
 峯麒がとうとうその場に崩おれようとしたとき、どこからか手が伸びてきて、
あっと思う間もなく峯麒はつまみ上げられていた。
 足がむなしく空を蹴ると、峯麒をつまんでいる人物の声が聞こえた。
「ほう、これは雁国の小猿か?」
くすくすという笑い声がそれにかぶさる。
「雁国の大猿は小猿の飼い方も知らぬとみえる。餌をやることすら忘れるとはの。梨雪よ、これから大猿めのもとに赴き、戒めてやらずばなるまい」
 峯麒をおびき出したのは、麒麟用の香であった。猫におけるマタタビのような役目を果たすが、ごく高価なものであるため存在を知っている者すら少ない。
氾麟などは慣れているせいでたいして影響を受けないが、未経験である峯麒には効果絶大であったのだ。

71名無しさん:2004/09/04(土) 01:05
 意識も朦朧となりぐったりとしている峯麒をつれて、範国主従は延王のもとへ赴いた。
「ふむ、そっちから出向いて来るとはどういうことかな」
延王はにやにやしながら主従をじろじろと眺める。
「これを見ればわかるであろう。麒麟が死ねば国はもたぬ。いくら猿王の国とはいえ、民があわれだからの」
 氾王は尚隆の前に峯麒をつまみ上げてみせた。
「ほう、言われてみれば、これは確かに我が国の麒麟かもしれん。少し違うような気もするが」
「尚隆、なんで六太は十日間も絶食していたわけなの? なにか悩みごとでもあるのかしら」
「それはおおありであろうよ。臣下の悩みにも気づかぬような主を持てばの」
と、範国主従は勝手なことを言い続ける。
 尚隆は氾王の手から峯麒を受け取ると、やはりつまみ上げ、
「六太、しっかりしろ。いつの間にこんなに痩せたんだ」
六太、六太とぐったりした麒麟にわざとらしく声をかける尚隆の横で、
「おい、オレはさっきからここにいるんだがな」
最初からその場にいた六太が三人のくだらないやりとりに憮然とした声を出す。

72名無しさん:2004/09/04(土) 01:10
 範国主従が帰っていくと、六太は峯麒を横たわらせ、
「おい、しっかりしろ」
ぐったりとした麒麟の頬を軽く叩き、水を飲ませてやった。
「あいつら香を使いやがったな。こんな小さいやつになんてことするんだ」

73名無しさん:2004/09/04(土) 01:13
そのあと峯麒は少し休み、六太とともに食事をとった。峯麒が王宮の者
から食事をもらえない理由は景麒から聞いていたので、とてもお腹がすい
たので食事は倍の量でと女官に頼み、部屋にもってきてもらった。女官が
さがったとたん、隠れていた隅から出て来るや峯麒はものすごい勢いでが
つがつと食べはじめた。六太はそんな峯麒をじろじろと観察した。確かに
もう少し肉がつけば六太自身に似ているかもしれない。だがどこか景麒の
子供時代を思わせるところもある。しかしなんと痩せて薄汚れた麒麟であ
ろうか。

74名無しさん:2004/09/04(土) 01:19
晩になると六太は峯麒に風呂に入るよう促した。王宮の客人用の風呂は
広大で湯がたっぷりと張られている。
(書き手注・アニメで陽子が雁国王宮で入ったような風呂をご想像下さ
い)
六太はここで峯麒で遊ぶつもりだった。なんといっても芳国に来て以
来、六太は退屈だったのだ。
峯麒が慣れない手つきで体を洗っていると湯がすごい勢いで飛んでき
た。見ると浴槽につかった六太が見慣れない道具を手にしている。それは
六太が蓬莱で仕入れてきた水鉄砲であった。普段、六太はこれで女官と遊
んでいた。六太もこんなもので喜ぶほど幼くはないのだが、ふいをついて
水をかけられると女官たちは悲鳴をあげ、六太にこわい声でこごとを言う
のだった。こわい声を出しているくせに顔がやたらに嬉しそうなのが六太
にはおもしろい。
峯麒は水鉄砲の攻撃が顔にあたるたびに、目に湯が入るのを避けようと
目をぎゅっとつぶる。その小さいながらに必死な様子が六太には目新しく
好もしかった。

75名無しさん:2004/09/04(土) 01:21
顔に湯が当たるたびに峯麒は必死に耐えるのだが、内心は悲しくなって
いた。せっかく親切な麒麟に出会ったと思ったのに、これでは王宮の人た
ちと一緒だ。だが、食事や湯を提供してもらっている以上、声を荒げるわ
けにもいかなかった。普通なら六太の様子は悪気のないものとわかるはず
なのだが、虐待されつづけて人間不信に陥っている峯麒は、こんな他愛の
ないいたずらでも悲しいものと捉えてしまうのだ。だが、いやがっている
ふうを見せるわけにもいかない。
峯麒の真面目くさって体を洗う様子は六太のいたずら心を刺激する。峯
麒の真面目な様子、そのくせ目をふせたときなど、どこかつんとしている
ようにも見える表情は、なにかからかってやりたくなるのだ。

76名無しさん:2004/09/04(土) 01:24
六太は今度はシャボン玉の道具を手にとった。これも蓬莱製である。ふ
っ、と一吹きすれば大量のシャボン玉が放たれるおもしろいおもちゃであ
る。六太は遠慮無く勢いをつけて吹いた。いろいろな大きさのシャボン玉
が峯麒の周りを飛んでとてもきれいだ。しかし峯麒は耐えられなかった。
 自分は馬鹿にされている。蓬山公として生まれた自分が。王に大切にさ
れる存在であるべき自分がこんなわけのわからない扱いを受けているのだ。
そしてたすけてくれるべき月渓は峯麒を手ひどく扱うことこの麒麟以上で
ある。おまけに峯麒はいったん六太を親切だと思ってしまっただけに裏切
られたという気持ちが強い。

77名無しさん:2004/09/04(土) 01:26
そもそも峯麒はまだこどもっぽくはあるが、尊大で気の強い麒麟であ
る。今までの小屋での暮らしで忍耐力はついたものの、その分、心の中に
鬱屈が溜まっていた。それを妙に刺激する存在がここにあった。峯麒とた
いして違わないちっぽけな体つきのくせに、生意気で何不自由なく暮らし
ていて峯麒にものをめぐんだり人をおもちゃあつかいしてへらへらしてい
る麒麟である。人の親切を素直に受け取るという美点を月渓らによりさん
ざんに破壊されている峯麒にとって六太はもはや嫉妬と怒りをかりたてる
存在でしかなかった。

78名無しさん:2004/09/04(土) 01:28
峯麒は桶を掴んだ。六太に向かって投げつけようと思ったのだ。だが麒
麟の本性がそれに抗い、投げることはできなかった。鬱屈をこのようにし
て晴らすこともできない、峯麒はあわれな生き物であった。
 ものを投げたのは六太のほうだった。何かが、俯いた峯麒の肩にぽんと
当たって落ちた。峯麒はますます腹が立ったが、
「なあ、それで遊ばないか」
さっき六太が使っていた水鉄砲だった。峯麒はそれを拾い上げた。六太
は愛想のいい笑顔を浮かべて峯麒のほうを見ている。
峯麒は無言で水鉄砲をつかんだまま湯に入った。
「これはこうやって湯を入れるんだ」
六太は峯麒の手から水鉄砲をとるとやり方を教えた。

79名無しさん:2004/09/04(土) 01:31
あ、と思ったときには六太の顔に勢いよく湯があたっていた。峯麒がご
く近くから水鉄砲を撃ったのである。
「あ、痛い、痛い」
六太がはしゃいだ声をあげた。これこそ六太の望んでいたことであっ
た。やっと峯麒が手ごたえのある反応を返してきたのである。こども時代
の景麒などからは得られなかった反応である。
(こいつのほうが景麒よりおもしろい)
「さあ、この風呂でおよごうぜ」
 六太はいきなり両手で峯麒の肩をぐっと湯に落としこんだ。はずみで峯
麒は頭まで湯につかり、ゴボゴボと泡を吐いた。
 やっと水面に頭を出すと
「何するんだ! 何するんだよう!」
それが六太が初めて聞いた峯麒の心からの声だった。さらなる手ごたえを
感じたとほくそえんだとき、六太は湯の中に突き飛ばされていた。
 逃げる六太を追いかけ回し湯をかけ合い二人はぎゃあぎゃあといつまで
も風呂の中で格闘を続けていた。

80名無しさん:2004/09/04(土) 01:35
翌朝、目を覚ました六太は起き上がろうと身を起こした瞬間に、
「痛っ」
と叫ばずにはおれなかった。
 起き上がろうにも鬣が何かにひっぱられている。
 そのままもとのように寝転んで六太は横を見た。
 そこには峯麒が六太の鬣を体の下敷きにして寝ている。
 そうか、と六太は思い出した。夕べ風呂の中で暴れまわった後、ここで
二人で寝たのだった。 
 部屋に再び二人分持ってきてもらった朝食を食べながら、六太は隣に
座ったこどもがなにやら尊敬の眼差しでみつめてくるのをこそばゆく感じ
ていた。だが、誰よりもはやく峯麒をなつかせることに成功し満足であ
った。

81名無しさん:2004/09/04(土) 01:37
 朝食も終わり女官を呼ぼうかと思ったとき、扉の外で、来訪者を継げる
女官の声がし、勝手に入って来る者たちがあった。
 峯麒は慌てて近づいていき拱手の例をとった。範国の主従であった。そ
の峯麒を氾王はまたつまみあげた。
「これはなんとしたこと。このように愛らしいお子が田舎臭い恰好をさせ
られて」
「それはオレの服なんだけどなあ」
「六太がもう一人いるみたいで気持ち悪いわね」
「これは我らがなんとかせねば。少し借り受けるゆえ」
「あっ、お、おい、」
六太は勝手なことをするやつらだ、と思ったが、氾王の部屋に一緒に行
くのはいやだったので、小さな麒麟を持ち帰る主従をそのまま見送るし
かなかった。

82名無しさん:2004/09/05(日) 15:19
峯麒、苛められすぎてギザギザハートになってますな。
風呂場で少しずつ六太に心を開いていくくだり、好きだ。

83名無しさん:2004/09/13(月) 16:54
れ、れすだ〜、ありがたや。
好意的に捉えていただけて嬉しいです。私って六太の入浴場面を書きたがるヘンタイ
と思われてもしかたのないヤシかもしれませんが、本人的には真面目に書いてる
面もあるので、わかってくれる人がいてうれすぃい・・・。
本館のほうにレスつけてくれた方もありがとうございます。
モエどころの一つをわかっていただけて勇気百倍です。続きを書く意欲も高まり
ました。

84名無しさん:2004/09/13(月) 16:57
 氾主従は小さな麒麟を徹底的に磨き上げるつもりだった。これは少し
痩せすぎてはいるが極上の素材であった。
 部屋に戻った氾王が峯麒を下におろすと、何かがぽとりと峯麒の服の
間から落ちた。氾麟が拾い上げてみると、それは紙で大事そうにくるま
れたおもちゃであった。峯麒が六太から貰った水鉄砲としゃぼん玉の道
具。氾麟はそれを包んである紙に文字を認めると広げてみた。
 「盗心得」とあり、なにやら箇条書きにしてある。
「まあ、これは犯罪的だわ」
「このお子は品の無い小猿から良くない影響を受けておるかもしれぬ。
まずは体から洗い清めねばの」
 峯麒が、あ、と思ったときには大切な書き付けはくしゃりとまるめら
れ捨てられてしまった。

85名無しさん:2004/09/13(月) 17:00
それからは峯麒にとって拷問としか思えない時間が始まった。
女官たちは風呂場で峯麒を徹底的に磨き上げた。彼女たちは先の峯麟に
仕えていた者たちで、氾王が特にとこの場に召しだしたのだった。女官
たちは麒麟の肌や鬣に光燐を浮かばせるための独特の浴剤と技術を持っ
ていた。すみずみまでていねいに洗ってくれるものの、まだまだ栄養も
王気も不足気味の峯麒にとって長風呂はこたえる。くらくらしそうだっ
た。
 風呂から出れば出たで、今度は再び氾王の部屋に連れていかれる。そ
こでは主従が様々なる大量の絹を広げて待ち構えていた。
「この衣が一番、かわいらしさがひきたつと思うわ」
「この場合は、痩せているのを目立たぬようにすることが重要であろう
よ。そのためにはこちらのほうが」
 さっきから立たされっぱなしの峯麒にとっては着るものなどどれでも
同じに見える。風呂で疲れきってしまい横になりたいのだが、主従のや
りとりは果てしなく続く。そしてなんとしまいには口げんかが始まって
しまった。
「この衣でなければ、こちらのがいいわ。このうちのどれかをどうして
も着せたいの! これはこういうめったにないかわいい子にしか似合わ
ないのだもの。この機会は逃せないわよ」
「確かにこれだけ光燐が出ていれば痩せているのは目立たぬというもの
の・・・。
しかし様々な点や月渓のことも考え合わせると、やはりこちらの衣であ
ろう」
 峯麒は疲れのあまり気が遠くなりそうだった。そもそも峯麒に主従の
服飾に対する細やかなこだわりなど理解できようはずもなかった。なに
か月渓の名を聞いたような気がしたものの、いつしか気を失いその場に
倒れこんでしまった。

86名無しさん:2004/09/13(月) 17:02
王や麒麟たちからタイシカン問題についての話し合いの場への参加を
促された月渓であったが、あまりにも身分が違いすぎるということで固
辞していた。そこで王や麒麟たちは、これは一般人である客による、ご
く私的な集まりであるとして使者を通じ、なんとか月渓を説得せねばな
らなかった。
 私的な集まりとは言われても、やはり相手は他国の王や台輔である。
月渓は話し合いの場へと重い足をひきずっていた。第一、月渓の心の中
では先日の事件による氾主従への気兼ねもあり、峯麒虐待のことも洩れ
ているのではないかという心配もあったのだ。

87名無しさん:2004/09/13(月) 17:04
 部屋の前で女官に来訪を告げ、中に入るや月渓はその場で叩頭礼とと
った。一般人に対し礼はいらぬと顔を上げさせられ、客たちのほうに目
をやったとたん、そこに月渓の目は釘付けになった。
 今までは、痩せてはいても峯麒こそ常世で最も美しいものであるとい
うのが月渓の美の価値観であった。しかしそんな価値観を圧倒的に覆す
者がそこにあった。
 その麒麟は気だるげに少し俯いていた。最初は峯麒かと思ったが痩せ
てはいず、肌や鬣には麒麟独特の光燐が浮かんでいる。先の峯麟でさえ
ここまで美しい肌や鬣を持ってはいなかった。月渓は峯麒以外の者を峯
麒より美しいと思ってしまったことに、なぜだか罪悪感を感じた。これ
は峯麒でないとすれば先日ちらりと会った雁国の台輔なのだろうか。そ
のときはここまで目を奪われはしなかったのだが・・・と美麗な麒麟に
客たちの存在も礼儀すら吹き飛ばされて月渓が佇んでいると、 
「座られてはいかがか」
という声が聞こえ現実に引き戻された。

88名無しさん:2004/09/13(月) 17:07
 その場は公的な会議の場というより居間のようなくつろいだ場所にな
っている。私的な集まりということで客たちがそのような部屋を望んだ
のだ。卓は低く長椅子が置かれている。
 しかし座れといわれても、と月渓はたじろいだ。その場には他国の王
や台輔ばかり。いくらただの客だと言われても同座などおそれおおい。
おまけに空いている席はといけば、特別に美麗な麒麟の隣だけで、一つ
の長椅子にその麒麟と並ぶことになってしまう。月渓は柄にもなく頬に
血が上り胸に早鐘がうつのを感じた。だが着席しなければ議題も始まら
ない。月渓はもはや自分がどうやって座ったのかもわからなかった。心
の中は最高の美に対する情念、そしてなぜか、他の者に心を移しては峯
麒に対してすまないと思う気持ちとが入り混ざっていた。

89名無しさん:2004/09/13(月) 17:10
着席すると、自分のほうをおもしろそうにニヤニヤと見ている視線が
気になった。血の上った頬を見られ心の内までも見透かされているのか、
と月渓は居心地が悪くなった。しかしその視線の主は雁国の台輔のよう
に見える。だとすれば、この隣の麒麟ななんなのか。
 隣に目をやったとき、美しい麒麟も月渓を見上げ、二人の目が合っ
た。月渓は心臓が止まりかけた。これはやはり峯麒である。いや、さき
ほど別人と見まちがえた自分のほうがおかしいと言える。なにしろ峯麒
以上に美しい者などこの世にあるわけもないのだから。

90名無しさん:2004/09/13(月) 17:12
一方、峯麒は幸せだった。月渓の隣にいるだけでも嬉しい上に、王気
を充分に吸収できる。しかも、他国の王や麒麟の出席する会議の席に月
渓と並んで出られるなど、まるで正式な王と台輔であるような気分だ。
その上、月渓はここにいるどの王よりも見目よく威厳に溢れている。峯
麒は他の麒麟たちに対し優越感をすら感じていた。

 傍から見ればお似合いの主従であった。しかし月渓はまずいと思っ
た。峯麒をここから叩き出さねばならない。だが、それができない。そ
れは峯麒がいつにも増して美しく愛くるしいせいでもあるし、他国の王
や麒麟たちの前だからでもあった。それにしてもこの状況は。単なる仮
王であり決して玉座になどつける身ではありえない自分が、まるで本物
の王であるかのように麒麟を侍らせて他国の王や麒麟たちと同席するな
ど。月渓はその居心地の悪さの中にも、隣に美しい者を置くことによる
陶酔や、まるで王位にある者のような席についていることへの満足感が
確かに自分の中にあることを認めないわけにはいかなかった。自分は王
や麒麟を手にかけた身でありながら、なんとずるく浅ましい悦びに捉え
られているのだろうかと、月渓は己を責めるしかなかった。

91名無しさん:2004/09/13(月) 17:14
峯麒は月渓を見上げ目が合ったとき、反射的にいつもの月渓の暴力を
思い出し、ぴくりと一瞬身を硬くしたが、なにもないとわかると、無意
識に月渓との体の距離を縮めた。そしてもう一度視線を交わらせたいも
のだと、再び熱心に月渓の顔を見上げた。もはや峯麒はその場にいる他
の人々のことなど忘れていた。もともと峯麒の頭には月渓と同座できる
ということしかなく、タイシカンのことなど理解もしていなかった。そ
のとき再び月渓と視線が合った。
 再び視線が交じり合うと峯麒の顔に幸せな笑みが広がった。それが月
渓に与えてしまう影響など峯麒は知るよしもなかった。
 その瞬間、月渓はもはや逃れられない魔力のようなものに捉えられた
自分を感じた。今まで前王への忠誠や仮王としての政務に一途に励むた
め、どんな誘惑にも打ち勝ってきた自分にこのような瞬間が訪れると
は。月渓は峯麒の視線から己の視線を離すことができなかった。麒麟の
菫色の瞳に吸い込まれていきそうだった。自分は峯麒に何かを与えたわ
けでもないのに、このような笑顔を与えられる果報を得ている・・・そ
れを思うと、もはやタイシカン問題はおろか、亡くなった前王のことも
政務も国すらも、どこかに置き去りにしてしまいたい、もう、唯一の願
望をただ一度叶えるためだけに、未来を含めた全てを犠牲にし、最低の
人間に成り果てようともかまわない、という気がしてきた。

92名無しさん:2004/09/13(月) 17:17
はっきりいって、他国からの賓客たちが常世全体のことを考えて真剣
に大使館のことを考えて知恵を絞っているときに、客を迎えた立場の国
の者が、議題そっちのけで、お互いのことしか考えずに熱心に見つめ合
っているというのがその場の状況だった。
「あーら、月渓、どうしちゃったの? 大使館のことちゃんと考えてる
の?」
という氾麟の意地悪な声に月渓は現実に引き戻され、焦るしかなかっ
た。こ、これはこの間、顔を蹴り上げたことへの報復なのか、麒麟が報
復などということがあり得るのか、と慌てながら、
「タ、タイシカン、たいしか・・・」
何か言わねばと考えて、そもそもタイシカンとは何かという説明さえ頭
を素通りだったことに思い当たった。常にどんなことにも的確な案を出
し、その怜悧な思考能力に絶大な自信があった月渓にとって、これは人
生で初めてといっていい恥辱の瞬間であった。

93名無しさん:2004/09/13(月) 17:19
だが、そこへさらなる衝撃が月渓を襲った。無意識にも徐々に月渓と
の体の間合いを詰めていた峯麒は、とうとう月渓に寄り添う位置にまで
達していたのだが、その峯麒が金色の頭をやわらかく月渓の体にもたせ
かけたのである。峯麒はうっとりと頬を月渓の体にすり寄せた。夢見る
ように伏し目がちにされた瞳は熱を帯びてうるんでいた。
 この峯麒の様子に慌てたのは月渓ばかりでなく、氾麟、六太、景麒と
いった他国の麒麟たちも同様だった。そもそもこの状況は峯麒に王気を
補給させてやろうという自分たちのお膳立てのせいなのだが、さして王
気に困った経験のない彼らにとって、ここまでは予測できなかったの
だ。峯麒の他人の目を意識もしない陶酔は、麒麟の本性、本能まる出し
で、はしたないというより、同じ麒麟として見ていて恥ずかしくいたた
まれないものであった。自分たちの心の奥底にひた隠した恥ずかしい欲
望が峯麒という何も知らないこどもによって白日のもとにさらされてし
まったのである。

94名無しさん:2004/09/13(月) 17:21
峯麒は六太が、困ったような何か言いたげな表情で自分を見ているの
に気づき、月渓に頬を寄せたままで
「台輔、どうなさったのですか?」
と無邪気に問いかけた。しかしすぐに六太のことなどどうでもよくなっ
たようで、再び月渓を笑顔で見上げると今度は手を伸ばして月渓に抱き
ついた。そして思わず知らず、声が洩れた。
「月渓さま・・・王気が・・・・きもちいい・・・」
そしてさらに顔を月渓の体にうずめた。
 これには六太たちもどう対処してよいのかわからず、完全にその場で
かたまってしまった。六太は心の中で、尚隆、頼む、こいつらを見ない
でくれ、視線をはずしておいてくれ、と念じるしかなかったが、尚隆は
むしろ無遠慮にニヤニヤしながらおもしろそうに月渓と峯麒を眺め、そ
してときどきちらりと六太のほうに目をやるのだった。

95名無しさん:2004/09/13(月) 17:23
だが、六太たちのとまどいなど月渓の動揺に比べれば物の数ではなか
ったであろう。もともと月渓は様々な欲望や誘惑をかわすためその心に
も感覚にも厳重に鎧を纏って暮らしていた。その分、その鎧をはぎとら
れてしまえば、生身の部分は普通の者より弱いといえた。実際、月渓は
もう快感に頭が痺れたようになり何も考えることはできず、体も反応を
開始しはじめていた。客人の前ゆえ、息が乱れそうになるのを必死で抑
えていたが、峯麒の甘えたようなしぐさが加わるたびに、最後の砦を守
る鎖もひきちぎられそうだった。

96名無しさん:2004/09/13(月) 17:26
さて、麒麟たちはかたまるわ、峯麒は周りのことなど眼中に無いわ、
月渓はときおり苦しそうな息をもらすわ、延王と汎王はおもしろそうに
しているわで、陽子は、これでは会議を続けても意味は無いと察知し
た。第一、月渓の様子がおかしいので放置しているのもどうかと思わ
れた。
「あの・・・大使館のことは本当に難しい問題だと思うんです。今日は
このへんで話し合いを終えて、それぞれが、もう一度案を練ってから後
日・・・」
それを、あいかわらずにやにやしたままの延王がひきとった。
「そうだな。今日はこのへんで許してやってもいいか」
誰の何を許すのやら、と陽子は思ったが、とりあえず
「では、おもしろい宴はおひらきとするか」
という延王の言葉でその場に解散の雰囲気が流れた。
客である麒麟たちは、ひとまず安堵の吐息をはいた。と思った瞬間、
あっ、と声を上げずにはいられなかった。
月渓がいきなり峯麒を突き飛ばし、
「し、失礼つかまつる」
と賓客たちに言葉を残すと、ものすごい勢いで部屋から走り出ていった
のである。
 一方の峯麒は、痩せた身に急激に大量の王気を吸収したせいか、朦朧
としており、てひどく突き飛ばされたのも感知できなかたのか、魂の抜
けたような表情で、長椅子に倒れこんでいた。

97名無しさん:2005/06/15(水) 00:54:48
あげ。つ、続きが気になる……。
峯麒には幸せになってほしいです。

98名無しさん:2006/04/19(水) 00:28:45
あげときます。

99名無しさん:2006/12/03(日) 18:18:39
あげ。続きをっ!頼みます姐さんっ!

100名無しさん:2007/08/28(火) 02:47:33
スタートから丸3年記念age.

姐さん、新規読者です。一気読みしてwktkしてます。
気長に待ちますので続きをよろしくお願いします。

峯麒は衣食住満たされたら、強気キャラ爆裂しそうだな。
楽しみ

101名無しさん:2008/04/09(水) 19:45:28
続きが気になるこっちも期待age


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