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( ,,^Д^)プラスチックの心臓が痛いようです 最終話
1
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:38:39 ID:w43iWbmg0
最終話の途中ですが、まさかの2スレ目です。
1スレで足りると思ったのに…なんでや…。
2
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:40:05 ID:w43iWbmg0
一応、前スレはこちら。
→
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1682518446/
3
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:41:11 ID:w43iWbmg0
(; ,, Д)「――ッ!」
(,,゚Д゚)「二ヶ月以上動いてなかったのだ。筋力も相応に低下している」
みっともなく尻もちをつく。
父の冷え切った視線が氷柱のように注がれる。
(,,゚Д゚)「あまり不用意に動くな。お前は初の“第三世代の移植体”として、貴重なサンプルなのだから」
(; ,, Д)「だからッ…!!」
肩を掴んでいた父の手を無理やり払いのける。
これだけの攻防で既に息は切れ、身体全部に覆い被さるような倦怠感に包まれる。
身体が弱っている。だからどうした。
否定しなければならない。執念にも似たモヤモヤを吐き出すように、俺は喉を振り絞った。
4
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:41:35 ID:w43iWbmg0
(# ,,^Д^)「さっきから…!ふざけた嘘つくんじゃねぇ!!」
(# ,,^Д^)「キュートの心臓だと…!そんなのが、俺に移植されてる訳ねぇだろ!!」
ここが病院であることなどお構いなしに、感情のままに叫び散らす。
否定しなければいけない。拒絶しなければいけない。
まだ根拠はある。如何にデレ先生たちの言動に齟齬があろうと、父の言葉に説得力があろうと、全て信じるに当たらない妄言だ。
ありえない。出来る訳がない。
だって、俺は、あの時、確かに――。
(# ,,^Д^)「キュートには、“俺にコアを渡すな”って、言ってる!!」
(# ,,^Д^)「禁止命令だ!!あんたが作った、“アイ”に仕込んでたご自慢のプログラム!!」
5
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:42:01 ID:w43iWbmg0
あの向日葵畑に行った後。
でぃさんから教えられた第三世代NewAIの真実。
心臓と脳にも対応した、人間への臓器移植のために作られたアンドロイド。
胸糞が悪い話だと思った。
それと同時に、キュートの心臓なんて要らない、とも。
キュートが自分のことについて知っていたのかどうかは分からない。
あの時のあいつの反応を見るに、少なくともあの時点では知らなかったのだと思う。
だが、俺は確かに“心臓の移植”を禁止し、キュートもそれを了承した。
俺が禁止した行為をキュートが採れないことは、今までの暮らしで十二分に理解している。
(# ,,^Д^)「あんたが作ったんなら分かるよな…!キュートは、“アイ”は、禁止された行動は出来ない!」
(# ,,^Д^)「キュートが俺に心臓を…!コアを渡すなんて、出来る訳がない!」
(# ,,^Д^)「つまんねぇ嘘、ついてんじゃねえよ!!」
6
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:42:26 ID:w43iWbmg0
見目を繕うことも平静を装うこともしないまま、無様に座りこんだ状態で叫び散らす。
そうだ。“アイ”のプログラムは、完璧主義者の父が作ったのだ。
身内の命の危機よりも、自身の研究に身を捧げた父が、家族より優先してまで作ったものだ。
そんなものが、それほどのものが。
こんな肝心な時に、ピンポイントで、“完璧じゃなかった”などとほざかせるものか。
(,,゚Д゚)「…そうだな、私も、完璧だと思っていた」
(,,゚Д゚)「まさか破られるとは思わなかった。また仕事が増える、全く…」
(,,゚Д゚)「本当に、面倒なことをしてくれたものだ。まぁ、興味深くはあるが」
(# ,,^Д^)「だからっ…!!」
怒りに身を任せて立ち上がろうと、床についた腕に力を入れる。
…が、見苦しいその意地も空しく、父によって防がれる。
俺の額を抑えるように押し付けられた固い感触を手で掴む。
さっきからずっと、父が手に持っているタブレット。
7
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:42:52 ID:w43iWbmg0
(,,゚Д゚)「納得がいかないのならそれを見ろ」
(,,゚Д゚)「ではな、私はもう出る」
(; ,,^Д^)「ま、待てっ…!!」
病室を去ろうとする父を引き留めようとするも、上手く足に力が入らない。
伸ばした手も届くことはなく空を切り、父は一切の躊躇を見せることなく病室を出て行った。
(# ,,^Д^)「……くそっ…!!」
手に持ったタブレットを振り上げる。
怒りのまま地面に叩きつけようとするも、寸でのところで理性が腕にストップをかけた。
落ち着け。ひとまず、これを見てからだ。
言うことを聞かない身体を何とか動かし、ベッドに座り込む。
半ば押し付けられるように渡されたタブレットの画面を見た。
さっき見せられた画像とは違い、文章だけが映し出されている。
8
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:44:57 ID:w43iWbmg0
(; ,,^Д^)(小難しいな……)
聞き馴染みのない専門用語が無数に散りばめられている文章の中、必死に自分でも分かる言葉だけを掬い取って流し読む。
“NewAI”や“r-Q10”、“心臓”、“移植”、“法改正”など。少しでも気になった単語の周りを重点的に読んでいくことにした。
よく分からない部分も読み落とすまいとタブレットを睨みながら、ゆっくりと下にスクロールしていく。
読み進めていくことおよそ数十分。
突如、タブレット上に文章ではなく一枚の大きな画像が現れた。
いまいち不鮮明でよく見えない。画像をタップし、大きく表示させる。
それを見た、その瞬間。
(; ,, Д)「……っ!?」
タブレットが手から離れ、ベッドを滑って落ちていく。
ゴンと、病室内に鈍い音が響いた。
9
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:45:17 ID:w43iWbmg0
ゆっくりと深呼吸をする。
何だ、今の画像は。いや、見間違いだ。
震える手を必死に抑えながら、床に落ちたタブレットを拾う。
いっそ壊れていてくれと願いながらタブレットを見る。
俺の小さな抵抗は空しく、タブレットは鮮明にその画面を映し出していた。
タブレットの光を強め、より鮮明に見えるように調整する。
衝撃でずれたページを戻す。
見間違いだ。勘違いだ。今のは、あれは、何か別のモノだ。
祈りにも似た感情を抱きながら画面を指でスワイプする。
難読な文章の合間に、一枚の画像が再び表示される。
さっきよりもずっと明るく、鮮明に表示された画像。
10
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:46:16 ID:w43iWbmg0
o川* ー )o
胸部がぽっかりと空いた、遺体のような少女が映し出されていた。
11
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:46:53 ID:w43iWbmg0
(; ,, Д)「………あぁあ!!!!」
気が付けば、タブレットを持った手を振り上げていた。
ガシャンと、大きな音が鳴る。
真っ白で綺麗だった壁には傷がつき、床にはひしゃげた機械の板が転がった。
散らばったガラスや鉄を見ながら両手で口を抑えた。
腹の底からせり上がってくる気持ち悪い感覚をなんとか堪える。
違う。あれは別のモノだ。別人だ。キュートじゃない。
あいつは“アイ”だ。同じ見た目の“アイ”が他にいたって不思議じゃない。
きっとそうだ。さっきの画像が、別の“アイ”を映したものだ。
だから違う。あれは、決して今のは、キュートでは――。
12
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:47:40 ID:w43iWbmg0
頭の中で無数に湧いてくる可能性を、網膜に焼き付いたあの画像が全て否定してくる。
何度頭を振っても、あの横たわった姿が瞼の裏から離れない。
別人だ。別のロボットだ。違う“アイ”だ。
キュートは髪を両サイドで結んでいた。だからアレは違う。
キュートはいつもニコニコ笑っていた。だからアレは違う。
キュートはコアを取り出せないように指示していた。だからアレは違う。
だからアレは違う。
だからアレは違う。
だから、アレは、アレは、アレは。
13
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:49:15 ID:w43iWbmg0
(; ,, Д)「違う……違う違う違う!!!」
手当たり次第にモノを投げる。
枕も、机の上にあった時計も、とにかく周りにあるモノ全部。
上手く動かない腕を、まるで水中の中にいるみたいに不格好に動かす。
息が荒くなっていく。酸素が足りない。全てを投げだしたくなるほどの倦怠感が身体全体にのしかかっているような感覚。
胸に手を当てた。
ドクドクと、懸命に血液を全身に送っている心臓。
今まで感じたことのないような、力強い鼓動。
頼もしく、それ以上に、強烈な違和感があった。
そう、例えるなら、まるで、まさに。
自分の心臓ではない、みたいに――。
14
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:49:42 ID:w43iWbmg0
(; ,, Д)「―――俺のだ!!」
(; ,, Д)「俺の――俺の心臓だ!!違う!!変わってなんかない!!」
自分に言い聞かせるように声を張り上げる。
病院服のボタンを外し、ベッドから出ようとして転げ落ちる。
痛みを感じながら必死に立ち上がり、入り口近くの洗面所へと歩く。
備え付けの鏡を見た。自分の胸の、やや左に寄った中心。
さっきまで手を当てていた箇所を見た。
そこには、大きな手術痕のようなものがあった。
(# ,, Д)「――違う!!!!!」
ガラスに拳を叩きつける。
バリンと、薄氷が割れるような音が響いた。
拳からぽたりと赤い液体が流れ、洗面台にはガラスが飛び散っている。
15
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:50:34 ID:w43iWbmg0
(; ,, Д)「違う…違う……」
右手から滴る血を拭こうともせず、その場に蹲る。
違う。この手術痕は心臓の治療のためについたものだ。まだ移植がなされたと決まった訳じゃない。
キュートのコアが、俺に移植できる訳がない。
“アイ”のシステム的に、仕組み的に、絶対にありえる訳がないのだ。
じゃあ、父のあの説明はなんだ?
ただの勘違いか嘘だ。そんなことをする人か?
そもそも、デレ先生だってどうして俺に十分な説明をしなかったんだ?
時間がなかったか、詳しく知らなかっただけだろ。
本当にそう思ってるのか?
もう分かってるんじゃないのか。
今、俺を生かしているのは。
懸命に鼓動を続けている、この心臓は。
この元気の良さに、本当に覚えがないととぼけるのか。
16
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:51:16 ID:w43iWbmg0
( ,, Д)「………キュート」
ポツリと名前を呟く。
それと同時に、頭に雷が落ちたような衝撃が走った。
そうだ。あるじゃないか、一つ。
簡単に確かめる方法が。
よろよろと立ち上がりながら、壁に投げつけた時計の所まで移動する。
しゃがみこみ、時刻を確認した。液晶にヒビこそ入っているが、デジタル時計は未だ正確な時刻を映し出したままでいる。
午後4時を少し回った頃。窓からは、茜色の光が差し込んでいる。
右手を雑に水で洗い流し、客用のソファーへと目を向けた。
病院が用意してくれたらしき服。
そして、マンションの鍵や最低限の現金が入っているキーケース。
17
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:53:10 ID:w43iWbmg0
こは大学病院だ。深夜を除き、人の出入りは時間帯を問わずかなりの数がある。
入院中の患者が一人出て行っても、病院服を纏っていたり、頭から大量の血液を流している訳でもない限り、誰も気に留めやしないだろう。
病院服とスリッパを脱ぎ、もたもたしながら用意されていた服に着替える。
黒のスニーカーを履き、靴紐を結ぶ。ガラスで傷付いた右手の傷口からは、既に血が止まっているようだった。
キーケースをジーンズのポケットに入れ、頬についていたままのガーゼを剥がしてゴミ箱へと投げ捨てた。
準備は出来た。後は、素早く動くだけ。
父の説明も、デレ先生の不審さも、今もなお胸で動いている心臓も。
どれも納得がいかないものばかりだが、どうしても不安が拭えない。
あと三日待てば、家に帰れる。が、こんな状況であと三日など待てそうにない。
18
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:53:48 ID:w43iWbmg0
( ,, Д)(あいつは、家にいる筈だ)
心臓など移植できる訳がない。
俺の禁止命令を破れる訳がない。
キュートはロボットだ。アンドロイド、“アイ”だ。
あいつがどれだけ人間のように見えても、仕組まれたプログラムに反する行動は絶対に出来ない筈なのだ。
きっと、必ず、家にいる。
移植なんて出来ず、俺の目が覚めるのを待ちながら、呑気にシュークリームを頬張ってテレビでも見ている筈だ。
19
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:54:13 ID:w43iWbmg0
( ,,^Д^)「――今、帰るからな。キュート」
直接会う。それが一番手っ取り早い
そうすれば、父が言っていたことなど、ただの戯言だったと笑い飛ばせる。
何も心配することはない。父が言っていた移植など、どう考えたって出来る筈がないのだ。
間違いなくキュートは家にいる。
あの屈託のない笑顔で「おかえりなさい」と、俺を迎えてくれるはずだ。
不安を期待で無理やり覆いながら、俺は病室のドアを開けた。
20
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:54:46 ID:w43iWbmg0
*
( ,,^Д^)「ありがとう、ございました」
運転手に礼を言い、タクシーから降りる。
約30分近く車に揺られていたかと思えば、いつの間にか慣れ親しんだ道路に着いていた。
ゆっくりと道を歩く。普段ならこの倍の速度で歩けていたのだろうが、病み上がりのこの身体ではこの速度が限界だ。
体力が落ちている。上がった息が白く濁るのを見て、痛い程にそう思った。
21
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:55:09 ID:w43iWbmg0
春が近い三月とは言え、未だ日が出ている時間は長くない。
用意された衣服の中にコートやジャンパーなどといった、気の利いた防寒具は一つたりともなかった。長袖のシャツ一枚に三月の夕風は中々堪える。
だが、個人的な感覚としてはつい先日までは真冬だったのだ。
それに比べれば幾分マシだなと思いながら、着実に歩を進めていく。
( ,,^Д^)(……着いた)
想定以上に時間はかかってしまったが、なんとか目的地には着いた。
“帰る”という意識ではなく、“向かう”という意識で歩いて来たからだろうか。それとも、体力が戻ってない状態で歩いて来たからか。
今まで何度も通ってきた道の筈なのに、まるで初めて来たかのような、奇妙な感覚があった。
22
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:55:37 ID:w43iWbmg0
エントランスに入り、キーケースに入っていた鍵で自動ドアを開く。
壁に手を沿えながら、右へ曲がる。
何故か、心臓の鼓動が早くなった気がした。
別に緊張することなど何もないし、その必要もない。
ただ自分の家に帰るだけだ。
ただ、喧しくて元気な同居人に、「おかえり」と一言言われたいだけなのに。
足が竦む。喉が一気に乾く。
四年間暮らした自宅の前で、両脚がピタリと止まる。
「進むな」「ドアを開けるな」と、自分の声が頭に響く。
23
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:56:09 ID:w43iWbmg0
(; ,,^Д^)(――ビビるな、俺)
深呼吸を一つして、キーケースをポケットから取り出す。
ドアの前まで歩き、鍵を差し込もうとするも、上手く入らない。
震える右手を左手で押さえながら、ゆっくりと鍵を合わせる。
金属の擦れ合う音と共に、鍵が差し込まれた。
いつもならすぐに回していた動作。だが今回は緩慢に、鍵を回す。
ガチャリと、ドアが開いた音がした。
ドアに手をかける。開けようと力を込める。
何も心配することはない。何も恐れる必要など微塵もない。
今まで通り、普段通り、いつも通り、ドアを開けるだけだ。
何も意識せず、「ただいま」って言うだけで、それだけでいい。
そうすれば、きっと、いつもみたいに――。
24
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:56:57 ID:w43iWbmg0
( ,,^Д^)「――ただ、いま」
ゆっくりとドアを開けた。
中は、明かり一つ点いていなかった。
おずおずと暗闇だけが満ちている中へと入る。
電気はどこも点いていない。
誰かが奥から出てくる気配もない。
「おかえり」と、底抜けに明るい声も聞こえてこない。
25
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:57:28 ID:w43iWbmg0
(; ,,^Д^)「……キュート…?」
靴を脱いで廊下を進む。
洗面所、風呂場、トイレ、キッチン。
順番に電気を点けて回るが、どこにもキュートがいる様子はない。
最後にリビングへと入り、電気を点ける。
誰もいない。それに、少し空気が籠っているような気もする。
(; ,,^Д^)「は、はは…隠れんぼか?」
足早にクローゼットを開くも、中に誰かが隠れていることもない。
自分の服と、いつの間にか増えていたレディースの服が吊られているだけだ。
26
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:57:52 ID:w43iWbmg0
( ,,^Д^)「……?」
視線を下げる。
すると、クローゼットの中に見慣れない袋があることに気が付いた。
紙袋だ。本格的に冬になる前、キュートと二人で出かけた百貨店のモノ。
見つけてからの行動は早かった。
ほとんど反射のような動きで紙袋を手に持ち、部屋の中心に持ってきて座り込みガサゴソと漁る。
中から出てきたのは、丁寧に畳まれた衣服だった。
( ,,^Д^)「……これ、あの日の…」
青のダウンに、黒のニット。ジーンズに、普段から使っていた茶色の肩掛け鞄。
どれも見覚えがある服だった。
あの雪の日、二人で水族館に出かけた日。
俺が事故に遭った時に、着ていた服だ。
27
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:58:44 ID:w43iWbmg0
ふと、出てきた衣服に紛れて紙切れが一枚あることに気が付いた。
何だろうかと疑問に思い、屑籠に捨てることなくまじまじとそれを手に取って見る。
そこにはまるでパソコンで打ち込んだかのような、綺麗で小さい文字が書いてあった。
『頑張って洗濯しておきました!血を落とすの大変だったんですからね!』
衣服を手に取って広げる。
ダウンも、ジーンズも、鞄も、どこにも血の汚れは見当たらない。
ふわふわとした手触りからは、柔軟剤の良い香りも伝わってくる。
( ,, Д)「………」
丁寧に衣服を畳み直し、クローゼットの中に戻す。
紙切れをどこに置いておこうかと部屋を見渡す。
すると、机の上にも何か見慣れないものがあることに気付いた。
28
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 22:59:18 ID:w43iWbmg0
何の変哲もない木の小箱だ。
300円均一の店でよく見かけるような雑貨品。
蓋を開ける。まず目についたのは、自分のスマホだった。
他にも細々としたものが目に付いたが、その他の物には目もくれず、俺はスマホを手に取った。
俺の期待に反し、しばらく使っていなかったからか充電ナシのマークが表示される。
苛立ちを覚えながらベッドの充電器に差し込んだ。
画面が明るくなると同時に、素早くパスコードを解除して電話のアイコンを触る。
一番上に設定してあった“キュート”の文字をタップした。
通話に出てくれと願うこと数十秒。
部屋の中に空しい音楽が流れるだけで、通話が繋がることはない。
キュートに通話をかけて、3コール以内に出なかったことなど一度もなかったというのに。
29
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:00:01 ID:w43iWbmg0
スマホを投げ捨てて、もう一度箱の中を見た。
何が入っているのか、片っ端から手に取っていく。
『ファンファーレ』のスタンプカードに、水族館で買ったペンギンの小さいぬいぐるみ。
遊園地のチケット、『花道』の割引券、どれも大したことのないようなものばかり。
( ,, Д)「…役に立つもの残しとけよ」
どれもこれも、二人で行った場所に関するものばかりだった。
ずっと残していたのか。この箱は新しく買ってきたのか。
こんなもの、どれも残していたって大した役には立たないのに。
大事に残す価値もないのに。
これからも、何度だって連れていくつもりだったのに。
30
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:00:37 ID:w43iWbmg0
蓋を閉めようと箱に触れる。
すると、机の上にポツンと置いてあったとある物が目に入った。
水色のタイマーみたいな、手のひらサイズのスマホのような物。
(; ,,^Д^)「これって…!」
慌ててそれを手に取った。
覚えている。間違いない。
以前、キュートと初めて大喧嘩をした時に、デレ先生から譲り受けてそのまま返してなかった物。
父が作った、キュートが何処にいるのか分かる探知機だ。
スイッチを入れると同時に、液晶画面に地図のようなものが出る。
充電がまだ残っていたことに安堵しながら、ゆっくりと液晶画面に触れた。
31
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:01:09 ID:w43iWbmg0
キュートの反応が絶対にどこかにある筈だ。そう信じ、必死に液晶をスワイプする。
何処かに、絶対に何処かにある筈だ。
キュートは何処かにいる筈だ。
目を皿にして液晶を睨む。以前使った時と同様に、必死に赤い点を探す。
(; ,,^Д^)「……あった…!」
藁にも縋る思いで画面を触ること数十秒、ようやく俺は、液晶上に赤く光る点を一つ見つけた。
(; ,,^Д^)「何処だよ、何処にいるんだ…!?」
必死に画面を触り、位置を特定しようと試みる。
点は動かず、じっと見つけた場所で制止していた。
これなら見つかる。見つけられる。そう信じ、場所を特定しようと試みる。
表示されたマップを拡大すると、俺はふと、一つの違和感を覚えた。
32
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:01:52 ID:w43iWbmg0
(; ,,^Д^)「……此処…って…」
赤い点は、とある建物の中でじっとしている。
その建物とはどうやらマンションのようだった。
然程広くない、そして高くもない、学生向けに作られたようなマンション。
タップして情報を見る。すると、とても見慣れた、かつ書き慣れた住所が画面に表示された。
間違いない。これは、俺が今いるマンションだ。
更に拡大する。赤い点がいるのはマンションに入ってすぐ曲がった所。
高低差から生じる位置情報の不具合がないことから鑑みるに、おそらく1階。
この部屋にまだいるというのか。
いや、ありえない。大した部屋数も隠れられるようなスペースもない。
それに風呂場やトイレ、クローゼットの中までちゃんと探した筈だ。
なら、どうして探知機は此処を示しているのか。
機械の不具合か、それともこの部屋ではなく、一つ上の階を示しているのか。
考えられうる理由が形になっては霧散していく。
何故なら、もっと根拠のある理由が既に、俺の頭には思いついてしまっていたからだ。
33
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:02:20 ID:w43iWbmg0
この部屋の中で、一番キュートの存在を示すものは何か。
キュートが日頃から着ていた服か。それとも、彼女が残していた細々とした物か。
いやそんな物よりもずっと、キュートを“アイ”たらしめていた重要な器官が、今この部屋にあるとしたら。
だがそんな物がどこにあるというのか。帰って来てから、そんなものはどこにも見つからなかった。
では何処に?この探知機は何を指している?
新たな疑問が浮かぶ。答えが出ないまま、探知機をじっと見つめて蹲る。
…否。これは嘘だ。
答えはもう、とっくに頭の片隅に出ていた。
ぎゅっと胸を抑える。
ドクドクと脈打つ、胸部の振動。
仮にこれが、父が言うように本当にこれが、俺の生来のものではなく。
キュートから、移植されたものだとするのなら。
今、俺の手のひらにある探知機が示しているのは、キュートではなく――。
34
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:02:51 ID:w43iWbmg0
(; ,, Д)「―――っ…!!!」
反射的に、探知機を力いっぱい放り投げた。
壁に反射したそれはコロコロと転がり、再び自分の足元で静止する。
首筋に毛虫が這っているような不快感。
汗を拭う。病院に用意してもらったばかりの衣服はいつの間にか、大量の冷や汗で重くなっていた。
(; ,, Д)「違う……違うっ…!」
這うように、縋るように床に転がった探知機を握る。
これが壊れているのだ。故障しているのだ。
そうに違いない。そうであってくれ。そうじゃないと。そうじゃないと。
そうじゃないと、俺は――。
35
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:03:18 ID:w43iWbmg0
(; ,, Д)「………?」
何か違和感を覚えて、液晶に触れる。
あれだけ乱暴に投げ飛ばした探知機は、少し液晶にヒビこそ入ったものの、その機能には何ら損傷は生じていないようだった。
指を動かす。ちらりと視界の隅に映ったそれを、流れ星のように一瞬で消えたそれを懸命に探す。
見紛ったのかと思った“それ”は、あっさりと見つかった。
(; ,,^Д^)「……………ある」
(; ,,^Д^)「……もう一個…ある……!」
キュートの位置を示す、赤い点。
ここから然程遠くない地点に、赤く光る反応がもう一つあったのだ。
詳しい位置を割り出す。
表示された位置は何の因果か、そこもまた自分には見覚えのある住所だった。
探知機をポケットにしまい込み、慌てて立ち上がる。
玄関にある靴を履き、鍵を閉めることもないまま俺は外へと飛び出した。
36
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:04:02 ID:w43iWbmg0
頭の中にいる冷静な自分が冷たい目をして問いかけてくる。
「タクシーを呼んだ方が早いんじゃないの」
「機械の故障かもしれないぞ」
「いい加減認めろよ」
「キュートは、もう」
(# ,, Д )(……うるせぇよ!)
自分で自分に悪態をつきながら、頭に浮かぶマイナスの言葉を疲労で見ないふりをする。
茜色が街中を夕に染めようとしている時間帯。
息が切れる。酸素が足りない。頭痛がする。足が痛い。
それがどうした、と言わんばかりに俺は目的の場所へと走り続けていた。
37
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:04:30 ID:w43iWbmg0
いや、きっと周囲から見れば今の俺は、走っているようには見えないだろう。
息を切らして漫然と歩く、運動不足の人間にしか見えない。
実際、亀のような愚鈍な速さでしか俺の足は動いていない。
それでも、一秒でも早く、一歩でも多く、目的地へと邁進する。
病み上がりだとか、もしかしたら取り越し苦労に終わるかもしれないとか、そんな些末なことは全部今の俺にとってどうでもよかった。
( ,, Д)(キュート)
( ,, Д) (いてくれ、頼む)
探し人の名前を心中で叫ぶ。
喉が渇きで痛む。いや、喉だけではない。
身体中にあった倦怠感が、いつの間にか節々の痛みに変わっている。
38
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:04:56 ID:w43iWbmg0
( ,, Д) (言いたいこと、いっぱいあるんだ)
( ,, Д) (何で面会に来なかったのかとか、怒らないからさ)
( ,, Д) (頼むよ、神様)
ガムラスタンの石畳を彷彿とさせるような道を歩く。
以前、キュートと二人で来たときは確か、黄色いイチョウが散っていた道だ。
この先にいる。
キュートはこの先で、きっとあの場所で待っている。
そういえば、今は三月だ。確か前にここに来た時、約束を一つしていたんだった。
だからここにいる。絶対にいる。
あの無邪気な、薄桃色の花々に負けないくらいに綺麗な笑顔で、俺のことを待ってくれている。
今にも千切れるのではと錯覚してしまうほどに痛む足の速度を落とす。
広々とした空間。俺はゆっくりと、目指していた場所へと歩を進めた。
39
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:05:20 ID:w43iWbmg0
ポケットに入れていた探知機を取り出して、画面を見る。
赤い点が二つ、目と鼻の距離まで近づいているように表示されていた。
探知機から目を離して顔を上げる。
眼前には、いつかキュートと二人で見た、大人の背丈すら優に超す程に大きい桜の木が聳え立っていた。
息を切らしながら、まじまじと木を見る。
上空には六分咲きほどの桜の花が咲いている。
これだけでも十二分に人の目を惹くだろう。それほどの絢爛さがあった。
だが、今の俺の気を惹いたのは桜ではない。
俺の注意を引いたのは、木の周囲を360度覆っている黄色いテープだった。
(; ,,^Д^)「……なんだよ、コレ…」
工事現場でよく見るような、“KEEP OUT”と書かれたテープ。
それが木を丸ごと囲むようにピンと張られていた。
40
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:06:07 ID:w43iWbmg0
全くもって意味が分からない。
だが探知機は間違いなく、眼前にある桜の木を示している。
あそこにキュートはいる。
肉眼では未だに捉えられていないが、確かに反応がある。
行かなければ。そう判断し、俺は桜の木に近付いてテープを跨ごうと足を出した。
「―――待って!!!」
突如背後からかけられた声に驚き、俺はピタリと動きを止めた。
悲鳴にも似た、甲高い女性の声だった。
足を下ろし、ゆっくりと後ろを振り返る。
視界の先、石レンガが敷き詰めらえた道から広場に出た辺り。
所々の汚れが目立つ白衣を着た女性が、栗色の髪を揺らして立っていた。
ζ(゚ー゚;ζ「…今は立ち入り、禁止、です。そこは」
( ,,^Д^)「……デレ先生」
さっきまでの俺と同じくらい、肩で息をしているデレ先生。
相当急いで走ってきたのか、いつもの爛漫な表情はすっかり何処かに失せていた。
41
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:07:00 ID:w43iWbmg0
ゆっくりと彼女がこちらに近付いてくる。
ちょうどいい。そう考えた俺は一歩も動くことなく、彼女が自分の方に来るのを待った。
ζ(゚ー゚;ζ「…勝手に病院を抜け出さないで下さい、患者さん」
( ,,^Д^)「すいませんね。インフォームド・コンセントがしっかりしてないお宅の病院に、不信感があったもので」
至極当然な注意に皮肉で返す。
苦虫を嚙み潰したような表情をした彼女に、俺は遠慮なく続けて口を開いた。
( ,,^Д^)「聞きたい事、山ほどあるんですけど…まぁ、とりあえずいいや」
質問したいことが沢山ある。
目が覚めた俺に嘘を吐いたこと。
俺に行われた施術のこと。
桜の木の周りが囲まれている理由。
それら全てが霞むほどに一番聞きたいことを、喉の奥に装填する。
デレ先生の方に一歩踏み出す。
そして、右手に持っていた探知機を見せびらかすように前方に掲げた。
42
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:07:44 ID:w43iWbmg0
( ,,^Д^)「…キュート、何処ですか」
俺の質問に、デレ先生の顔に影が差したのが分かった。
( ,,^Д^)「もう今更、つまんない嘘とか、いいです」
( ,,^Д^)「貴女から貰った探知機が、ずっとここ示してるんですよ」
( ,,^Д^)「でも、いないんです。これなんなんですかね、アイツ、木の上にでもいるんですかね?」
( ,,^Д^)「キュートの位置を示す筈なのに、なんでか俺のこと指してたりするし…」
( ,,^Д^)「…やっぱり、この探知機がおかしいんですよね?やっぱ、そうですよね?」
もはや只の願望と化した質問が口から滝のように漏れていく。
デレ先生の顔色を窺いながら、思考をそのまま言葉にしていく。
どうして黙っているのか。何故、ずっと俯いているのか。
さっさと頷いてくれよ。「その通り」だとか、何でもいいから早く言ってくれよ。
43
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:08:08 ID:w43iWbmg0
( ,, Д)「まぁ、この探知機だって父が作ったものですもんね?」
( ,, Д)「キュートだって色々ポンコツだったし、これやっぱ、同じなんですかね」
お願いだから肯定してくれ。
探知機が壊れてるでも、父が適当なことを言ったでも、何でもいい。
キュートは、あいつは、まだいるって。
俺の、この胸にある、心臓は――。
( ,,^Д^)「それで、ねぇ、先生」
( ,,^Д^)「キュートは、一体どこに……」
44
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:09:43 ID:w43iWbmg0
ζ(ー ;ζ「―――いないの」
それはまるで、懺悔をするような呟きだった。
45
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:11:00 ID:w43iWbmg0
ζ(ー *ζ「猫田博士が、説明した通りです」
ζ(ー *ζ「私が君にした面会云々の話は、全部嘘なんです」
(; ,,^Д^)「……は?」
声にならない声が漏れ出る。
何を言っているのか、脳が理解を拒もうとする。
固まった俺を慮る様子もなく、デレ先生は話を続けた。
ζ(ー ;ζ「…君に、本当のことを言ったらどうなるのか分からなくて、怖かった」
下を向いたまま話すデレ先生の口が動くのを、どこか冷静に見ている自分がいる。
何を話しているのか。何を言おうとしているのか。何を伝えようとしているのか。
「やめてくれ」と叫ぶ自分と、話を理解しようとしている自分が心中で相反していた。
ζ(ー ;ζ「君の胸にあるその心臓は、キュートちゃんのコア」
ζ(ー ;ζ「移植手術は、第三世代の量産型を使って――」
46
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:11:33 ID:w43iWbmg0
(; ,, Д)「――もう、やめてくれよ!!」
悲痛な叫び声が、公園中に響き渡った。
カラカラに乾ききった喉にじわりと痛みが走る。
だがそれ以上に、耳に痛い彼女の話を聞くことに堪えられなかった。
(; ,, Д)「もう、うんざりなんだよ、何だよその与太話!」
(; ,, Д)「何度も言ってるだろ!キュートには、心臓を移植しないよう言いつけてあったんだ!」
(; ,, Д)「禁止命令を出してたんだよ!“アイ”のあいつが、どうやって俺に移植を…!!」
ζ(゚ー゚*ζ「――だから、それを破ったのよ、彼女は」
子供じみた喚き声に、冷たい言葉が被さった。
47
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:12:37 ID:w43iWbmg0
ζ(゚ー゚*ζ「無理やり、バグを引き起こしたの。私の妹から、わざと壊れたデータをダウンロードして」
ζ(゚ー゚*ζ「あえて故障品になることで、君が出した禁止命令を無理に曲解した」
ζ(゚ー゚*ζ「君が眠っている間ずっと、キュートちゃんは君を助けようと頑張ってた」
(; ,, Д)「……」
なんだよソレ、と言おうとした口が思った通りに動かない。
命令を曲解なんて、“アイ”が出来るはずがない。
そう反論しようとした矢先、脳裏に一人の女性が思い浮かんだ。
(# ;;-)
否、正確には女性ではない。
キュートの一世代前の“アイ”。俺を向日葵畑に無理やり連れて行ったもう一人のアンドロイド。
確か、彼女もまた、命令の曲解をしていた。
ならばそれは、キュートにも。
48
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:13:27 ID:w43iWbmg0
(; ,, Д)「…じゃあ、コレは、なんだよ」
声が震えていることを自覚しながら、持っていた探知機を前方に出す。
液晶には未だに、キュートの存在を示す赤い丸のマークが二つ点滅していた。
(; ,,^Д^)「これが、キュートの心臓だとして、もう一つはなんなんだよ」
(; ,,^Д^)「なんで、この機械は、桜の木を指してんだよ」
(# ,,^Д^)「…結局、何処にいるんだよ!!キュートは!!」
怒りのまま、探知機をデレ先生の足元に投げ飛ばす。
彼女はそれにちらりと視線をやった後、拾う素振りも見せることもなく、こちらにゆっくりと近づいてきた。
白く、小さな手がこちらに差し伸べられる。医者らしい繊細な指には、紙らしきものが握られていた。
49
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:14:32 ID:w43iWbmg0
ζ(ー *ζ「…君の手術に使われた部屋に、残されてた」
恐る恐る、差し出された紙を受け取って広げる。
それを見た俺の表情筋が瞬時に強張ったのが分かった。
パソコンで打ち込んだような、機械じみた冷たさを思わせる程に綺麗な字。
俺の部屋に残されていた紙切れと同じ字体。
間違いない。キュートが書いた字だ。
『私の素体は、猫田タカラさんにのみ適応可能に設定しておきました。』
『量産型が作られた今、私の素体を残しておいても大して使い途はないでしょう。』
『なので猫田博士、貴方にお願いがあります。』
『残された私の素体は、私たちが住んでいたマンションの近くにある公園の、大きな桜の木の下に埋めて下さい。』
『約束なんです。どうか、よろしくお願い致します。』
文章を全て読み終わる。
紙を持つ手の震えが、どうやったって止まってくれそうになかった。
50
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:15:09 ID:w43iWbmg0
ζ(゚ー゚*ζ「…博士がね、買いとったの。あの木の周りだけ」
ζ(゚ー゚*ζ「根本の、ちょっとだけ土の色が違う場所」
ζ(゚ー゚*ζ「あそこに、キュートちゃんのボディが、埋まって――」
( ,, Д)「――嘘、だ」
震える手から紙が離れる。
ひときわ強い風が吹いて、紙がひらひらと宙に舞った。
ζ(゚、゚;ζ「わっ…!?」
空に浮いた紙を慌ててデレ先生が掴もうとする。
それと同時に、俺は後ろを振り返って駆けだした。
51
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:15:59 ID:w43iWbmg0
ζ(゚ー゚;ζ「あっ…!!ちょっと!?タカラ君!?」
デレ先生の制止の声も聞かず、黄色いテープをジャンプで飛び越える。
息も絶え絶えの身体で上手く着地できる訳もなく、俺の身体は無様にも地面に転がった。
それでも、痛みに構わず起き上がり、再び駆けだす。
木の根元、他の土とは違う、少し白っぽく変色している箇所。
確かめなければ。この目で見なければ。
証明しなければ。今の話は全て嘘だと。
あの紙に書かれていたことは、何かの間違いなのだと。
そうに決まっている。あんな所に、キュートが、埋まっている訳が――。
ζ(゚ー゚;ζ「―――っ! 待って!!」
もう少しで手が届く位置に来たその瞬間、ぐいと身体が地面に引っ張られる。
デレ先生が、俺を邪魔するようにのしかかっていた。
52
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:16:43 ID:w43iWbmg0
(; ,, Д)「離せっ…!!離せよ!!退け!!」
普段は使わないような乱暴な言葉が口から飛び出た。
起き上がろうとするも、背中に覆い被さる彼女を押しのけることは叶わない。
長期間の入院で鈍りきった身体は、小柄な女性一人退かせることすら出来なくなっていた。
ζ(゚ー゚;ζ「ダメっ…!!ダメなの!!誰も触れちゃいけないって決まりなの!!」
(# ,, Д)「うるせぇ!!退けよ…!!邪魔、なんだよっ…!!」
弱り切ったムカデみたいに、ずりずりと土の上を這う。
亀の如くノロマな速度だが、着実に木の根元に近付こうと試みる。
ζ(゚ー゚;ζ「お願い!やめて…!やめてよ…!!」
(; ,, Д)「キュート…キュー…トぉ…!!」
53
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:17:44 ID:w43iWbmg0
土を掘り起こそうと手のひらを広げて地面に触れる。
うざったいデレ先生の手を払いのけ、何かに憑りつかれたみたいに地面を掘る。
爪に土が入る。右手の傷口がじくじくと痛む。何度もデレ先生が俺の手を握って邪魔をする。
それら全てを意に介さず土を漁った。
こんな所にいる筈がないのだ。
あんな明るい奴が、騒がしい奴が、こんな暗い所にいる訳がない。いていい筈がない。
嘘だ。全部嘘だ。
父の話も、デレ先生の説明も、渡された紙切れの文章も、力強く動くこの鼓動も、全部。
何も出てこない、絶対に。ここには何も埋まっていない。
そう願いながら土を掘る。
だって、そうじゃないと、もしここに何かあったら、それは、つまり――。
54
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:18:23 ID:w43iWbmg0
ζ(ー #ζ「――もう、やめてよっ!!」
パァン、と乾いた音が鳴った。
頬に鋭い痛みが走って思わず体勢を崩す。
突然の衝撃に、筋力が低下していた身体では上手く反応できる訳もない。
俺の身体は情けなく、ごろりと土の上を転がった。
ζ(Д #ζ「あの子は…キュートちゃんの、最後のお願いが、“ここにいること”なんだよ!?」
ζ(Д #ζ「君がっ…他でもない君が!あの子の想いを無碍にするの!?」
強く肩を揺らされる。
ぽたりと、土の上に雫が数滴零れたのが見える。
ぼんやりとした頭の中で、“あぁ、この人は泣けるのか”と、見当違いな考えが思い浮かんだ。
キュートには、用意されなかった機能だ。
55
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:19:24 ID:w43iWbmg0
( ,, Д)「…ないんだよ」
ζ(゚ー゚;ζ「……えっ?」
( ,, Д)「だから、ありえないんだよ。こんなの」
ζ(゚ー゚#ζ「――!いい加減に…!」
( ,, Д)「だって、そうだろ」
デレ先生の振り上げた手のひらが空中でピタリと止まる。
俺はやんわりと、自分の肩を掴むデレ先生の左手を払いのけた。
( ,, Д)「キュートはさ、泣けないんだ。なんでか分かるか?」
ζ(゚ー゚;ζ「……何の話を…」
( ,, Д)「“アイだから”」
“何を言っているのか分からない”といった表情が目の前に見える。
…あぁ、父から説明を受けた時の俺も、こんな顔をしていたのだろうか。
56
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:20:09 ID:w43iWbmg0
( ,, Д)「アンドロイドなんだ、キュートは。ロボットなんだよ」
( ,, Д)「どれだけ人間みたいに見えようと、機械なんだ。血の通ってない、ただの鉄の塊」
ζ(゚ー゚#ζ「なっ…!?」
彼女の顔がかぁっと赤くなる。
キュートを貶すような発言に、怒りを覚えたみたいだった。
そうだ。今目の前にいるのは、人間だ。
怒って、笑って、困って、嘘をついて、涙を流せる。機械じゃない。
それに比べれば、キュートはどうだっただろう。
よく笑う子だった。必要以上に食べるし、ポンコツだと揶揄すれば怒る。
だけどそれらは全部、結局のところプログラムされた“反応”に過ぎない。
人間みたいだった。感情移入もしていた。それは認める。
だけど、キュートはどこまでいっても、紛うことなき“機械”だった。
57
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:23:23 ID:w43iWbmg0
ζ(゚ー゚;ζ「な…なんでそんなこと言うのよ…!?キュートちゃんは、本当に君のことを――」
(# ,, Д)「……機械、なんだよ!!」
いきなりの大声に、デレ先生はびくりと肩を震わせる。
そんな彼女の怯んだ様子すら意にも介さず、俺は思いの丈を吐き出した。
(# ,, Д)「機械だ!!人間みたいに動く、よく出来た“お人形”!!」
(# ,, Д)「血なんて流れてない、動物みたいに感情もない!」
(# ,, Д)「ただ仕組まれたプログラム通りに動くだけの、でかい金属!!そうだろ!?」
あいつだって、ずっとそう言っていた。
『私は第三世代”アイ”で――』『最新型ロボットである私は――』
何度も何度も、あいつが口にしていた台詞。
それを言われる度に、俺は現実に引き戻されたような感覚に襲われていた。
58
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:24:02 ID:w43iWbmg0
どれだけ魅力的な女の子に見えても、どれだけドキッとしても、キュートはただの鉄の塊なのだと。
自分の性能を自慢げに話すキュートを見る度に、俺はいつも、釘を刺されたような気分になっていた。
他意はないことくらい分かっている。
キュートは単純に、“アイ”である自分に、ロボットである自分に矜持があっただけだ。
彼女はそれを誇示することに抵抗はなく、むしろ積極的だった。
だからこそ、俺はずっとあいつのことを人間だと勘違いすることなく、適切な距離をギリギリ保つことが出来たのだ。
(# ,, Д)「そんなやつのコアが、心臓が、俺に入ってる?」
(# ,, Д)「…馬鹿も休み休み言え!!俺の心臓は、今も元気に動いてる!!」
(# ,, Д)「これが、機械だってのか!?この鼓動が、血も通ってなかったロボットに出来るってのか!?」
59
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:24:44 ID:w43iWbmg0
あいつは機械だ。ロボットだ。アンドロイドだ。レプリカントだ。“アイ”だ。
人間とは違う、本質的には“魂”なんてものがないブリキの人形。
そんなやつのコアが。心臓が。
(# ,, Д)「俺の…!俺の心臓に違いないんだ!!そうだろ!?」
(# ,, Д)「移植なんてされてない!!俺の心臓は、何も変わってない!!」
胸を抑えながら必死に叫ぶ。
まるで何かを訴えようとしているみたいに鼓動が早まる。
ドクドクと痛い程に、必死に血液を全身に送り出そうとしている。
(# ,, Д)「なぁ、おかしいんだよ…!おかしいんだよ!!」
(# ,, Д)「あいつの心臓が、ロボットの、機械の、心臓が」
病室で、目を覚ました時から。
キュートがもういないと聞かされた時から。
病院を抜け出して、必死にキュートを探している時から。
ずっと、こんなにも、吐きそうなくらいに、こんな、こんな――。
60
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:27:04 ID:w43iWbmg0
(# ,, Д)「こんなに、こんなに、こん、な、に――」
プラスチックの心臓ならば。
こんなにも。
( ,, Д)「――こん なに 」
( ,,;Д;)「痛む、はず、ないだろうがっ……!!!!!」
胸を両手で抑え込む。
あまりの痛みに目が眩む。上体を上げていられず、我儘を言う子どもみたいに蹲る。
吐きそうなほどに、今にも泣き叫びたいほどに、心臓が痛くて痛くて堪らない。
何重にもワイヤーで締め付けられているような、血管が全て張り裂けそうな。
今までの人生の中で、感じたことのないような桁違いの苦しさが胸を縛る。
痛いのに。今まで負ったどんな傷よりもずっと痛いのに。
どういう訳か、俺の両目からは一滴も涙が零れてこなかった。
61
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:27:56 ID:w43iWbmg0
デレ先生が無言のまま、蹲ったままの俺の身体を抱きしめる。
背中をゆっくりさすられる。
涙は麻酔、というのが俺の持論だ。
この状態で泣けば少しは痛みも和らぐだろうかと、必死に瞳から水を零そうと試みる。
だが、一向に泣けない。どれだけ待っても俺の涙腺は動こうとはしてくれない。
代わりに叫ぶ。言葉にならない、声の体すら保てていない音を腹の底から破裂させる。
胸をぎゅっと抑える。泣こうとする。激情をそのまま嗚咽とともに吐き出す。
だが、いつまでたっても、心臓の痛みは和らぐことはなかった。
茜色が黒に染まっても、ずっと。
一向に涙が出せないまま俺は、桜の木の下で泣き喚いていた。
62
:
名無しさん
:2023/08/25(金) 23:29:04 ID:w43iWbmg0
ちょっとカビゴンとの約束の時間なので寝ます。
続きは明日か明後日には投下します〜。
ポケモンスリープは、いいぞ!
63
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 08:53:03 ID:LYU3NV3.0
乙
64
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:34:58 ID:SG8HWUUI0
*
ごうごうと、窓が揺れる音で目が覚めた。
起きたとはいってもそれはあくまで意識だけ。
身体はベッドの上で横たわったまま動かすのも億劫に感じ、そのまま両の眼を閉じて再び眠りにつこうとする。
…が、いつまでたっても意識は底に沈むことはなく、ただただ時間だけが過ぎていった。
仕方なく上体を起こし、普段の癖でベッド横に充電してあったスマホを手に取った。
時刻はもうすぐ日付を跨ぐかどうかといったところ。
なんとなく確認した情報のすぐ下には、メッセージアプリの通知がいくつも重なっていた。
65
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:35:29 ID:SG8HWUUI0
( ,, Д)(………めんどくせぇ)
届いていたメッセージの数々に目を通すことなくベッドを出る。
喉が渇いた。何か適当に水でも飲もう。
電気も点いていない暗がりの中、よろよろとした足取りで冷蔵庫へと向かい扉を開く。
中からペットボトルの水を取り出そうと手を伸ばし、蓋に手をかける。
蓋を開けたその次の瞬間、しっかりと掴んでいたはずのペットボトルはスルリと床へ落ちてしまった。
まずい、水が零れる。わざわざ拭くのも面倒だ。
ペットボトルが重力に従って床へ落ちていくその様を、慌てることもせず冷静に見つめる。
コトンと音を立てて床を転がるボトル。
だが、自分の予想に反し、フローリングの上に液体が零れ散ることはなかった。
66
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:35:58 ID:SG8HWUUI0
落ちたそれを手に取って、ようやくその理由に気付いた。
中には飲めるほどの水はそもそも入っていなかったらしい。
なら別にいいかと、歩行の邪魔にならないようペットボトルを隅におき、コップに水道水を入れて飲み干す。
すると、腹がぐぅと鳴ったのが分かった。
そういえば水だけでなく、まともな食事もしていなかったことを思い出す。
もう一度冷蔵庫を開く。よくよく中を確認してみると、そこには飲料水はおろか、まともな食材は何一つ入っていなかった。
そのままの流れで下の冷凍庫を開けるも結果は同様。
以前はいくつかあった冷凍食品のストックもいつの間にやら尽きている。
これでは電気代の無駄だと内心で自分を嗤いながら冷蔵庫を閉じ、俺は再びベッドに倒れ込んだ。
そういえば、一体今日は何月何日なのだろうか。
流石に三月はまだ終わっていないだろうが、その半分くらいは過ぎただろうか。
スマホに手を伸ばす。しかしその途中で億劫さが勝ち、伸ばした手を止めて引っ込めた。
67
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:38:25 ID:SG8HWUUI0
( ,, Д)(どうでもいいか)
散々眠った後であるから、眠気など一切感じない。寧ろ、寝すぎて少し頭痛が起きている程だ。
しかし、他にやりたいこともやる気もなく、漫然とした怠惰に身を任せたままベッドで寝そべる。
腹は減っている。けれども、家にまともな食糧はなく、外に買いに出る気も起きない。
それにこの時間帯だ。コンビニは空いているだろうが、そこまで歩くのも怠い。
かと言って、溜まりに溜まったメッセージの諸々に逐一返信する気にもなれない。
どうせどれもこれも、取るに足らない内容だろう。
中身を碌に確認した訳でもないのに、気怠さから勝手にそう決め付ける。
もう一度眠ってしまおう。眠れば時間は勝手に過ぎるし、この空腹感も紛れるはずだ。
そう結論付け、なんとか眠りにつこうと目を瞑った。
68
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:38:49 ID:SG8HWUUI0
o川* ―)o『――うわ、不健康!ニートみたいですよ、マスター!』
ドクンと、心臓が一度強く鳴った。
69
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:39:35 ID:SG8HWUUI0
( ,, Д)(……うるさい)
毛布をかぶって虫のように身体を丸める。
外界からの音を全てシャットダウンしようと試みる。
o川* ―)o『最近まともにご飯食べてないの、知ってるんですからね!』
o川* へ)o『外にも出てないし…もっと日光浴びて下さい!ほら、カーテンくらい開けて!』
( ,, Д)(うるさい)
それでも鼓動は喧しく響き続ける。
いや、むしろさっきまでよりもずっと鮮明に聞こえる気がする。
70
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:40:02 ID:SG8HWUUI0
o川* ―)o『てゆーか、さっきスマホ見ましたよね?メッセージ来てるの、気付いたんでしょう?』
o川* o)o『早く返信しないと!ご友人さんたちは大切にしなきゃダメじゃないですか!』
o川* ―)o『全く、マスターはやっぱり、私がいないとダメなんですから――』
(# ,, Д)「――うるさい!!!」
毛布を蹴り飛ばし、暗い部屋の中で一人激昂する。
誰に向けた訳でもない怒鳴り声に返事はなく、暗闇の中へと消えていった。
頭をガシガシとかき、胡坐をかいて胸を抑える。
近頃は運動どころか外を出歩いてもいない。
にもかかわらず、まるで何かを主張するみたいにバクバクと動く心臓が、鬱陶しくて仕方なかった。
71
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:40:49 ID:SG8HWUUI0
機械的な振動音がすぐ横から聞こえて、隣に目をやる。
通知を受けたスマホの液晶が暗がりの中で光っているのが見て取れる。
何も考えずにスマホを手に取ると、画面にはよく見知った友人の名前が表示されていた。
それは、モララーからのメッセージであった。
『そろそろ卒業式だけど、マジどうした?』
『既読くらいつけろ〜〜〜』
楽し気なスタンプが付けられた文章の中に、気になる単語が目に留まった。
疑問に思い、スマホを操作して今日の日付を確認する。
3月21日。いや、画面を見ている間に22日に変わったのを視認した。
まだ3月は終わっていなかったのかと思うと同時に、俺はとある事実を思い出した。
24日。つまり二日後は、うちの大学の卒業式があるんだった。
( ,, Д) (…まぁ、別にいいか)
( ,, Д) (どうでもいいし)
返信はおろか既読をつけることもせずスマホを放り投げる。
もう一度寝ようかとも考えたが、横になるのも億劫でそのままの体勢で呆とすることにした。
72
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:41:16 ID:SG8HWUUI0
今のような生活をするようになって、一体どれほど経ったのだろうか。
寝すぎて霞がかかった脳内で計算をする。
今日がもう22日。あの日、病院を抜け出したのが確か4日。
大体3週間くらい経過したのかと、冷静に現状を顧みる自分がいた。
明かり一つ点いていない家の中。
しばらく掃除もされておらず、満足な食糧や飲料もないこの状況。
友人たちがここに来ればきっと、一体今まで何をしていたのかと問い詰めてくることだろう。
答えは極めて単純。
“何もしていない”だ。
この心臓が自分のものではないこと。
探し続けていたあの少女にはもう、会えないということ。
分かりたくないことを分かってしまったあの日から、俺にはもう、何かをするという気力が一切失われてしまった。
退院後の病院からの連絡は全て無視している。
それだけではない。友人たちからのメッセージも、その他の連絡も、何もかもへの反応をやめた。
73
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:41:55 ID:SG8HWUUI0
食事も面倒になった。手当たり次第、家にあった食材を適当な時間に食べる毎日だ。
外出どころか、部屋の電気を点けるのも億劫になった始末。
とにかく何もしたくなくて、ただ惰眠を貪って、息をしていた。
黙って心臓の鼓動を聞くだけの日々。
それだけが唯一、俺に安心をもたらしてくれた。
キュートが今の自分を見たら、一体何と言うのだろうか。
考えても意味がない思考がぐるぐると頭を巡る。
もう、彼女が俺に何かを注意してくれる日はこないのに。
74
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:42:38 ID:SG8HWUUI0
朝、喧しい声で起こされることもない。
何処かに連れていけとせがまれることもない。
自慢げな顔で性能を自慢されることもない。
細かいことでぐちぐちと怒られることもない。
「いってらっしゃい」と見送られることもない。
「おかえりなさい」と迎えてくれることもない。
嬉しそうにシュークリームを頬張ることはない。
不服そうに頬を膨らませる彼女は二度と見れない。
哀しそうにその日あった嫌なことを話す彼女の声は一生聞けない。
楽しそうに隣を歩く彼女にはもう触れられない。
キュートはもう、いない。
75
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:42:59 ID:SG8HWUUI0
( ,, Д)(どうでもいい)
どうでもいい。本当に、心底、全部。
友人も、就活も、未来も、家族も、自分も、何もかもがどうでもいい。
( ,, Д)(本当に、もう、どうでも)
( ,, Д)(お前以外は、どうでもいいんだ)
思えばきっと、ずっとそうだった。
キュートの存在が自分の中で大きくなっていくにつれ、“就活を終わらせる”なんて目標はどんどん薄れていたように思う。
76
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:43:50 ID:SG8HWUUI0
父を見返したかった。兄に並びたかった。亡くなった母に褒めてもらいたかった。
心臓も精神も身体も、何もかも弱かったあの頃の自分に、胸を張れるようになりたかった。
就活に関することだけじゃない。勉学も、バイトも、何もかも。
俺はずっと、そんな下らない理由だけを指針にして生きてきた。
それがいつの間にか、“キュートを安心させたい”と思うようになっていった。
彼女が喜んでくれるだろうか。凄いと言ってくれるだろうか。
月日が経つにつれ、そんな子どもじみた欲求で動くようになっていた。
ずっと言い訳をしていた。
キュートはアンドロイドだと、ロボットだと。
どれだけ家族のように大切に想ったところで、何の意味もないと。
理性があるつもりだった。割り切れているつもりだった。
それが、一体どうしたこのザマは。
自分の部屋にあったお気に入りの家電が一つ、なくなったようなものだろう。
少し長い間、居候していた親戚が出て行ったようなものだろう。
だというのに、何度も何度も自分に言い聞かせているのに。
指一本、動かす気にすらなれないではないか。
77
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:44:18 ID:SG8HWUUI0
( ,, Д)「…ははっ……」
孤独と後悔で満たされる部屋の中で乾ききった自棄の笑いが転がる。
狂ったように毎日連呼している“どうでもいい”。
もはや口癖のようになったそれで一つ、思い出したことがあった。
去年の夏頃。
病気で全てに絶望し、今の自分と同じように「どうでもいい」と世界と自分を呪っていた少女がいた。
あの時、俺は彼女に一体何と声をかけたのだったか。
とんだ道化だ。間抜けだ。大馬鹿者だ。
少し自分の方が闘病生活が長かった程度で、よくもまぁあんな説教を垂らせたものだ。
いざ自分が絶望する立場になれば、かつて自分が吐いた言葉も忘れて部屋に閉じこもる。
挙句の果てには、忌避していたはずの“どうでもいい”という呪いを吐いて、自分の毒に溺れる始末。
これを道化と言わずなんと例えるのか。三段落ちにも成りはしない。
78
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:44:47 ID:SG8HWUUI0
…本当は分かっている。頭では理解している。
自分が今、何をするべきなのか。今の自分を呆れながら見下ろす冷静な自分がもう一人いる。
正式に退院して、ここに帰ってきた日のこと。自分のスマホに、一件の留守電が入っていた。
去年の秋が終わる頃、ギリギリで受かった大手からのものだった。
内容は、考えてみれば至極当然のこと。
俺の、内定取り消しの連絡だった。
然程、驚きはしなかった。
内定を貰えた後、提出しなければいけない課題や、出席しなければならないイベントなど、やらなかったことが山積みなのだ。
いくら入院中だったとはいえ、ギリギリで採った学生一人に特例措置を下すこともないだろう。
俺がショックだったのは、そんなことではない。
スマホに残っていた一つの通話履歴。
俺ではなく、別の人物が会話した時の記録。
79
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:45:15 ID:SG8HWUUI0
o川; ―)o『ど、どうにか…入社時期をずらしていただくとか、代替措置は…!』
o川; Д)o『そんな…!お、お願いします、取り消しは……!』
キュートは最後まで、俺のために行動してくれていた。
つまらないプライドで、俺はずっと就活に関しては彼女の手助けを断っていた。
なのにキュートは、俺が意識を失っている間もずっと、俺の力になろうとしてくれていた。
だが結局、内定は潰えた。
二年以上費やした研鑽も、キュートが俺のためにしてくれた努力も、泡沫に消えた。
文字通り、俺にはもう何も残っていない。
80
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:45:39 ID:SG8HWUUI0
…いや、まだ一つだけ残っていたものがあったか。
胸に手を当てる。
ドクドクと、一定のリズムを感じながら目を瞑る。
( ,, Д)「…なぁ、キュート」
( ,, Д)「どうすればいいんだろうな、俺は」
返事はこない。心臓が話し出すなんてファンタジーは起きない。
それでも、俺は構わず口を動かし続けた。
( ,, Д)「分かってるんだ、やらなきゃいけないこと、いっぱいあるって」
( ,, Д)「お前から貰ったコレ、無駄にする訳にはいかないって」
( ,, Д)「分かってるん、だけどさ」
心臓は何も言わない。
時計のように、一定のリズムを刻みながら拍動を続けている。
それでも、物言わぬ心臓に俺はぽつぽつと語らい続けた。
81
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:46:11 ID:SG8HWUUI0
( ,, Д)「…なぁ、何か言ってくれよ」
( ,, Д)「嗤ってくれてもいいし、説教でも、なんでもいいから。」
( ,, Д)「なぁ、何か――」
神様に縋る信心深い信徒のような心持ちで言葉を続ける。
しかし、心臓は決して何かを話すことはない。
明かり一つない真っ暗な部屋の中に、俺の声だけが霧散していく。
聞きたいと願った声が反響することは、終ぞなかった。
もういいか。そう思って目を瞑る。
ずっとこのままでいるのも、いいかもしれない。
半ば本気でそう思いながら、俺は両の瞼を閉じた。
82
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:46:41 ID:SG8HWUUI0
( ,, Д) (……夢の中なら、会えるかな)
希望にはほど遠い願望を抱きながら、かつての同居人を思い描く。
この数週間、キュートが夢に出てくれたことは一度もない。それどころか、真面な夢を見た記憶がない。
それでも、今日ならば。無駄な期待を込めて俺は意識を手放そうとした。
その瞬間、轟轟と強く窓が震える音がした。
なんだろう、と思い目を開ける。
音がした方向を見ると、閉じていた筈のカーテンがバサバサと揺れていた。
どうやら、窓がほんの少し空いていたらしい。
一際強い風が吹いて、それが窓とカーテンを揺らしたのだ。
( ,,^Д^)(……面倒だ)
窓を閉じに行くことすら億劫に感じ、視線を戻す。
すると、ふと、床に何か落ちているのが見えた。
83
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:47:20 ID:SG8HWUUI0
暗闇の中、窓から射し込む僅かな月の光を反射した“それ”は、小さいながらに強く自分の存在を主張しているようにも感じられた。
億劫さよりも興味が勝り、何も考えないまま悠然と床に落ちていた“それ”に手を伸ばす。
指で優しく掴み取り、眼前にまで持っていく。
どうやらそれは、桜の花びらのようだった。
月光を反射した花弁は、ルーズクォーツのような宝石と見紛わんばかりの輝きを放っていた。
少し気になって、もう一度窓を見る。
空いていた隙間は自分の手が通るかどうかといったほどの隙間すらない。
この花弁一枚ですら、入ったことがまさに奇跡なのではないかと思えた。
84
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:48:40 ID:SG8HWUUI0
まじまじと食い入るように花弁を見る。
俺は、何かを忘れているような気がする。
大事なことだった。忘れてはいけないことだった。ずっと、楽しみにしていたことだった。
形容し難い焦燥感に襲われる。
思い出さなきゃいけない。なのに、どうしてか思い出せない。
水中でもがくように、記憶の底に落ちた何かを必死に救い上げようと脳を絞る。
いつだったか、今ほどではないが少し肌寒かった頃。
何かを見た。だけどそれは、自分にとっては少し物足りない物だった。
もっと綺麗なそれを見たかった。いや、見せたいと思った。
だから、いつか、春になったら。
その時は絶対に、二人で。
約束を。
85
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:49:13 ID:SG8HWUUI0
( ,,^Д^)「――桜」
ポツリと呟く。
ずっと探していた宝物を包むみたいに、花弁を優しく握りしめる。
どうして忘れていたのだろう。
あの日、二人で公園で仲直りした時。
秋の夜空の下で、狂い咲きの桜を見た日のこと。
そうだ。俺はあの時、キュートと約束をしたんだった。
立ち上がり、無造作に転がったままのスマホを手に取る。
今日は三月。それも既に下旬に差し掛かった頃。
この前行った時とは違う。あの日、木の前で打ちひしがれた日とは随分な日数が経っている。
あの時の狂い咲きのように、ぽつぽつと咲いているだけじゃない。
この前の時のように、中途半端な景色でもおそらくない。
きっともう、桜は咲いている。
86
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:49:52 ID:SG8HWUUI0
クローゼットを開け、手頃な場所にあった服を適当に引っ張り出して着替える。
必要なものは特にない。スマホと、部屋の鍵。それくらいだ。
意味がない。そんなことは理解しきっている。
あの時、隣にいた彼女がいない今、俺一人で桜を観に行った所でどうしようもない。
それに、あの木はもう病院のものだ。
こんな時間とはいえ、俺が行ったところでまじまじとは見られないかもしれない。
だけど、それでも、どうしても。
もう俺には、約束(それ)しか残っていないから。
慣れたスニーカーを履いて玄関を開ける。
未だに冬だと思ってしまうほどの寒風に震えながら、俺はゆっくりと歩き出した。
87
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:50:18 ID:SG8HWUUI0
*
一歩一歩を踏みしめながら、公園へと続く道を進む。
ずっと家から出ずに引きこもっていた身には、随分と厳しく感じる道のりだった。
溜息を吐く。白く濁った煙が空中でゆっくり霧のように消えていく。
久しぶりに外に出たからか、三月の夜ということで冷えているからか、空気が随分と澄んでいるような気がしていた。
公園に人はいなかった。
当然と言えば当然だろう。何故なら時刻は既に深夜12時を過ぎている。
石が敷き詰められた道を抜け、広々とした園内に入った。
意識している訳でもないのに、視線が自ずと空間の中央に引き寄せられていく。
88
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:51:01 ID:SG8HWUUI0
( ,,^Д^)「……あぁ…」
桜が咲いていた。それも、文句のつけようがないほどの、満開の桜であった。
数年前、初めてここに来た時のものより、それはずっと大きく綺麗に見えた。
風が靡くたびに揺れる木々が、綿毛のように花びらを散らしていく。
夜空に輝く満月が、宙に舞う花弁の一枚一枚を眩く照らすその様は、宇宙というキャンバスに宝石箱をばら撒いたような美しさがあった。
呼吸すら忘れるような、瞬きさえも億劫に感じられるような絶景に言葉を失って立ち竦む。
これほどまでに美しいと感じた景色を、今までの生涯で見たことがあっただろうか。
89
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:51:29 ID:SG8HWUUI0
( ,,^Д^)(……これを、見せたかった)
薄紅に意識を奪われた須臾の後、脳裏に一人の少女が思い浮かんだ。
いや、一人と称するのは正しくない。ましてや厳密には、少女と呼ぶのも誤りだろう。
無粋な訂正をする自身を隅においやり、トボトボと園内を歩いた。
下を向いて歩く。地面には無数の桜の葉が散っていた。
あまりにも神々しい桜の風貌に畏み申しているのかと思うほどに、適切な距離を空けて設置されているベンチの前で立ち止まる。
覚えている。ここは以前、キュートと仲直りをした場所だ。
隣にもう一人座れるくらいのスペースを空けてゆっくりとベンチに腰掛ける。
前もこうだったなと思いながら桜を見上げた。
秋頃に来た時とは逆に何が違うのだろうか。
まず、桜だ。あの時は狂い咲きで、目を凝らさなければ視認できない程度の蕾しか咲いていなかった。
次に自分。あの時の自分は傷や痣だらけで、必死に痛みを堪えながら木を見上げていた。
最後に、隣。あの時は、いくらか喧しいのが隣にいた。
90
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:51:53 ID:SG8HWUUI0
手を隣に置く。その上に、何かが重ねられることはない。
手の温もりとは程遠い冬風の冷たさが手の甲を通過していった。
( ,,^Д^)「……なぁ、見てるか?」
寒さと孤独に耐えきれなかったのか、それとも只の自己満足か。
桜を見ながら、勝手に口が回り出した。
( ,,^Д^)「これだよ。これをお前に見せたかったんだ」
( ,,^Д^)「正直、俺が前に見た時よりもずっと立派でさ、俺も今驚いてる」
( ,,^Д^)「…なぁ?本当に、ちゃんと綺麗だったろ?」
返事はない。置いた手が重ねられることもない。
隣に空いた空間が埋まる気配もない。
それでも構わず、俺は虚空に向かって話し続ける。
91
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:53:04 ID:SG8HWUUI0
( ,, Д)「…ひどいだろ。約束、破るなんて」
どうせもう、いつまで経っても返事なんて来ることはないのだ。
それならば、遠慮会釈など必要もない。
言いたくても言えなかったこと、全部言ってやろう。
( ,, Д)「俺の指示には、全部従うんじゃなかったのか」
( ,, Д)「最新型のクセに、約束一つ、忘れるのか」
( ,, Д)「…いや、悪いのは俺か。間抜け晒して轢かれたのは、俺だもんな」
満開の桜から目を背けることなく話を続ける。
空に雲はなく、月明かりが木全体を照らし、イルミネーションのように輝いている。
周囲には人はいない。時折強い風が花々を散らし、石竹色の雪のように舞うその様はまさに幻想的であった。
綺麗だ。心の底からそう思う。
なのに、どうして俺の心はこんなに凪いでいるのだろうか。
92
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:53:25 ID:SG8HWUUI0
視線を少し下に下げる。
病院が貼っているのであろう、立入禁止の旨が書かれたテープの向こう側。
桜の木の根元にある、周囲と比べて少し色が褪せている箇所。
( ,,^Д^)「そんな所からじゃ、見えないだろ」
吐き捨てるように言葉を零す。
探知機とデレ先生が示した、キュートが眠っている場所。
いっそ今、掘り返してしまおうか。
邪な考えが頭を過る。
どうせ今、周りに人はいない。そもそもキュートは俺の所有物扱いだった筈だ。
地面の中にいようが、俺の手元にあろうが、大して変わりはしないだろう。
そんな考えとは裏腹に、俺の両足はピクリとも動こうとはしなかった。
…分かっている。そんなこと、やる度胸もする気もない癖に。
キュートが最後に残したメモ。彼女が最期に父に伝えた我儘。
それを反故にするなど、俺に出来る訳もない。
93
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:53:55 ID:SG8HWUUI0
( ,, Д)「…分かってたよ」
落としたコップから水が滴るように、言葉が自然に漏れた。
分かっていた。分かっていたのだ。
何故、キュートが自分の機体をあそこに埋めるよう遺したのか。
彼女は一秒たりとも、俺との約束を忘れた瞬間など、なかったのだ。
俺が眠っている間、俺を救う方法をずっと探し続けてくれていた。
あの秋の夜の約束を楽しみにしながら、約束のことを胸に抱きながら、ずっと俺の目が覚める時を待ってくれていた。
あの部屋で一人、ずっと待ってくれていた。
俺の努力が無駄にならないよう、抗い続けてくれていた。
自分のプログラムを騙して父に逆らってまで、俺に心臓をくれた。
94
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:54:24 ID:SG8HWUUI0
どうしてこうなったのか。ずっと考えていた疑問の答えが、今はっきりと出た。
この二か月間、懸命に動いてくれていたキュートのせいな訳がない。
こんな状況になったのは。
深く考えずに交差点に出て、間抜けにも車に撥ねられ、何か月も眠り込み、挙句の果てには。
誰かの心臓を貰ったクセに前に進もうとしない、間抜けのせいじゃないのか。
俺のせいじゃ、ないのか。
( ,, Д)「キュート」
( ,, Д)「ごめんな」
嗚咽が漏れる。
酒に酔った訳でもないのに、胸の下の辺りから何かが込み上げてくるような感覚に襲われる。
( ,, Д)「大人しく、待ってればよかったんだ」
( ,, Д)「今も、本当は、こんなことしてる場合じゃないって、分かってるんだ」
言葉に吃音が混じる。
腹の底に溜まっていたものが、土石流のように溢れてくる。
締め付けられるように痛んだ胸を、左の拳でぐっと抑えた。
95
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:55:00 ID:SG8HWUUI0
( ,, Д)「…なんで、俺にコレ、渡したんだよ」
( ,, Д)「どう考えたって、お前の方が、価値があるだろ」
( ,, Д)「やっぱり、ポンコツだよ、お前。馬鹿だ、大馬鹿、不良品だよ」
( ,, Д)「…言い返さなくて、いいのかよ。いつもみたいに、怒れよ」
( ,, Д)「そこに、いるんだろ?埋まってるんだろ?…なら、何か言いにこいよ」
( ,, Д)「何でも、いいから…何言われたって、いいから」
自分でも声が震えているのが分かる。
火傷するくらいに瞼が熱いのに、両の目からは一滴も涙が落ちる気配はない。
96
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:55:27 ID:SG8HWUUI0
( ,, Д)「……頼むよ、もう、限界なんだよ」
( ,, Д)「何でも我儘、きくから。シュークリームでも何でも、買ってやるから」
( ,, Д)「どんな遠い所でも連れてってやるし、何やったってもう、怒らないから」
震えた喉を絞るように話を続ける。
この言葉はきっと届いていない。そもそも、届く相手がいない。
それでも、吐き出さなくてはならない。
そうでもしないともう俺は、一秒たりとも正気を保っていられそうにない。
何度も何度も考えた。
あの日、大人しくコンビニの前でキュートを待っていたのなら。
もう少しゆっくり水族館にいたのなら。
ツリーライトを眺める時間をもっと長めにとっていれば。
今も俺の隣で、キュートは笑ってくれていたのだろうかと。
97
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:56:02 ID:SG8HWUUI0
会いたい。
赦してくれなくてもいいから。
怒ってくれなくてもいいから。
情けないと嗤ってくれてもいい。
この際、会話が出来なくてもいい。
あの白く細い手に、触れられなくてもいい。
( ,, Д)「――会いたい」
何を犠牲にしてもいい。全部投げ出したっていい。
俺の今までも、これからも、何もかもを捧げたっていいから。
ただ、もう一度だけ。
もう一回だけ、あの笑みに、出会えることが出来るなら。
98
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:56:43 ID:SG8HWUUI0
( ,, Д)「会い、たい」
話なんて求めない。触れたいなんて、傲慢を口にするつもりもない。
いっそもう、明日なんて来なくてもいい。
あと一回。一回だけでいい。
一方的でもなんでも、悪魔との契約だったとしても構わない。
( ,, Д)「…………」
( ,, Д)「キュート、に」
( ,, Д)「会いたい、なあ」
轟と音をたてて、今日一番の強い風が吹いた。
叶う訳もない呟きは、舞い散る桜の渦に消えていった。
99
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:57:23 ID:SG8HWUUI0
o川* ―)o「――いるんですけどね、ここに」
100
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:57:47 ID:SG8HWUUI0
ベンチに置いていた右手が、やんわりと優しく包まれた。
桜が晴れて、ゆっくりと隣を見る。
両サイドで止められた艶やかな髪が、桜を纏った風に吹かれてゆったりと揺れている。
膝が見えるかどうかのデニムパンツに、上は青みがかったトップス。
丸く大きな瞳に、ほどよい高さの鼻と小さな唇。
ハルジオンを彷彿とさせるように白く、きめ細やかな肌。
見慣れた筈の姿が、いつの間にか、たおやかな微笑を浮かべて座っていた。
101
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:58:46 ID:SG8HWUUI0
( ,,^Д^)「――キュー、ト」
名前を呼ぶ。ずっとずっと呼んでいた名前。
もう一度反応して欲しいと、願い続けていた名前。
俺の零した声に反応したのか、気付かぬうちに隣にいた少女がこちらを向く。
目が合って数秒後、少女は数回瞬きをした後、信じられないものを見たかのように元々大きな瞳を更に大きく開かせた。
o川*゚ー゚)o「………あれ…?」
o川;゚―゚)o「…もしかして、見えて、ます?」
そう言いながら、少女は指で自身を指差す。
戸惑いつつゆっくりと頷くと、彼女は困ったように、それでいて嬉しそうに苦笑いを浮かべた。
102
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 18:59:36 ID:SG8HWUUI0
o川;゚―゚)o「あ、あははー…えっと…」
o川;゚―゚)o「お、お久しぶりです…?いや違うか、ある意味近くにいたし…うーん…?」
ころころと百面相のように表情が変わっていく。
記憶の中の彼女と寸分違わず変わらない。
少し前まで毎日見ていた、ずっと求めていた姿がそこにはあった。
o川;゚―゚)o「でもどうしていきなり…ずっと聞こえてないし、見えてもないと思ったんですけどねぇ」
o川*゚ー゚)o「うーん…まぁいいです!ラッキーってことで!」
103
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:00:47 ID:SG8HWUUI0
しばらく何か唸ること数秒、ようやく何か納得がいったのだろうか。
彼女は俺の右手をぎゅっと握り、こちらに真直ぐな視線を向けた。
o川*゚ー゚)o「改めて、お久しぶりです。マスター!」
o川*゚ー゚)o「…多分、この表現は、厳密には間違ってると思うんですけど」
o川*^―^)o「――死んじゃいました。ごめんなさい」
奇跡が、隣で笑っていた。
104
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:01:36 ID:SG8HWUUI0
(; ,,^Д^)「……キュート」
o川*゚ー゚)o「はい!」
(; ,,^Д^)「キュート…なの、か」
o川*゚ー゚)o「そうですよ!第三世代NewAIシリーズ・レプリカントナンバーr-Q10!キュートです!」
そう言って、隣にいつの間にか現れていた少女はニコリと微笑む。
花が咲いたような、目が惹きつけられるような笑顔。
記憶の中の彼女と全く同じ、俺がずっと求めていた表情が今、目の前にあった。
o川;゚―゚)o「…あれ、もしかして、偽物か何かだと思われてます?」
o川;゚―゚)o「ちょ、ちょっと待って下さいね!ええと…」
慌てたように、何かを思い出そうとするみたいに目の前の少女は渋い顔を浮かべる。
そんな様子を見た俺の身体は、まるで糸か何かで引っ張られたように卒爾に動いた。
105
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:02:06 ID:SG8HWUUI0
o川;゚o゚)o「ふえっ…!?」
気が付けば、抱きしめていた。
o川;//―//)o「あ、あのあのあの、マスター!?いいいくら何でもここは公共の場でして、いや別に嫌という訳でもないのですが、あの――!?」
( ,, Д)「――会いたかった」
腕の中にすっぽりと納まった華奢な身体を、気を遣うことなく力一杯抱きしめる。
慌てふためく彼女にかけられたのは、何の捻りもない只の感情の吐露。
もしもまた会えたら何を言おうか、何を話そうか。
なんてずっと考えていた思考は、眼前で起きた奇跡によって吹き飛んでいった。
106
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:02:40 ID:SG8HWUUI0
( ,, Д)「ずっと、ずっと、会いたかった」
( ,, Д)「お前にまた会えたらって、そればっかり考えてた」
o川*゚ー゚)o「………」
返事の代わりなのか、キュートは少し遠慮がちに抱きしめ返してくる。
とてもロボットとは思えない、繊麗な柔らかさがこの身に触れた。
o川*゚ー゚)o「…ごめんなさい。迷惑、かけちゃいましたね」
そう言いながら、キュートは俺の背中を優しくさする。
その感覚がどうにも心地良くて、ずっとこうしていたいとも思った。
107
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:03:03 ID:SG8HWUUI0
o川*゚ー゚)o「本当はもうちょっと色々したかったんですけど…時間、なくて」
( ,, Д)「いいんだ、もう、いいから…許すから」
( ,,^Д^)「…帰ろう、一緒に」
抱きしめながら、震えた声で訴えかける。
( ,,^Д^)「帰って、買い物とか行こう。今、家に何にもないからさ」
( ,,^Д^)「シュークリームでも、何でも買ってやる。そうだ、明日はどこか遊びにいこう」
( ,,^Д^)「…だからさ、家に帰ろう、キュート。それでまた、明日からもずっと、一緒に――」
o川* ―)o「―――ごめんなさい」
抱擁が解かれ、密着していた互いの身体が離れる。
どうしたのかとキュートを見ると、彼女はひどく申し訳なさそうな顔で俯いていた。
108
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:04:10 ID:SG8HWUUI0
o川*゚ー゚)o「…ごめんなさい。無理なんです、それは」
o川*゚ー゚)o「――私、もう本当は、いませんから」
諦めの感情が乗った言葉を口にしながら、キュートは困ったように笑う。
何を言っているのか分からず、俺の口からは「は?」という何とも間抜けな感嘆が零れた。
(; ,,^Д^)「何、言って…だって、お前は今、ここに」
o川*゚ー゚)o「…お手を拝借しますね、マスター」
状況が理解できないままの俺の手をキュートはぎゅっと握りしめる。
そして、初めて会った日のように、彼女は自分の胸に俺の手を当てがった。
(; ,,^Д^)「………!」
o川*゚ー゚)o「…ね?お分かりでしょう?」
キュートはそう言って苦笑する。
胸に手を当てられて数秒、嫌でも気付いてしまった。
あの時とは決定的に異なる部分。当時あったものが、今はすっかりなくなっている。
心拍音が、ない。
彼女の胸部からは、何の拍動も感じられなかった。
109
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:05:04 ID:SG8HWUUI0
o川*゚ー゚)o「…せっかくですし、ちょっと歩きましょうか」
俺の手を胸から離し、キュートはゆっくりと立ち上がる。
後ろで手を組んだまま、彼女は散歩でもするみたいに桜の木の方へと歩いて行った。
数秒ほど遅れて俺もベンチから立ち上がり、キュートの後ろをついていく。
いつも隣り合って歩いていたからか、この様子にはどこか違和感があった。
( ,,^Д^)「…今のお前は、なんなんだ」
歩きながら、キュートの背中に向けて言葉を発する。
彼女はこちらを振り返ることなく、歩きながら答えを返した。
o川*゚ー゚)o「うーん…私もよく分かってないんですよねぇ」
o川*゚ー゚)o「まぁ、世の中には万物に魂が宿るって考え方もありますし、そんな感じなんじゃないですかねー?」
( ,,^Д^)「アニミズムか?」
o川*゚ー゚)o「あ、それかもです!いやぁ、私にはプログラムしかないって思ってたんですけど、魂なんて贅沢なものがあったってことですかね!」
前方を歩く彼女から「えへへ」と陽気な笑い声が聞こえる。
その足取りも、笑い声も、どれも俺が知っているキュートそのものにしか思えない。
110
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:05:58 ID:SG8HWUUI0
o川*゚ー゚)o「んーまぁ…結局、今の私は“機械の幽霊”みたいなものだと思います」
o川*゚ー゚)o「それか、マスターの記憶を基にした全く別の何かとか、ただの幻覚とか、色々可能性ありますけど…」
o川*゚ー゚)o「私にインプットされてた知識じゃ、この辺りの説明が限界ですね。今はもう、ネットに接続とかも出来ませんし」
o川;゚―゚)o「…あっ!“じゃあマジでポンコツだな”とか言わないで下さいね!?」
( ,,^Д^)「…言いはしないよ」
o川#゚―゚)o「思うのもアウトですー!」
可愛らしく頬を膨らませながら前を歩くキュートの足がピタリと止まる。
彼女のすぐ前には、桜の木を囲むように張られた黄色のテープがあった。
111
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:06:35 ID:SG8HWUUI0
o川*゚ー゚)o「邪魔ですねぇ、よいしょっと」
そう言ってキュートは立入禁止のテープにデコピンをする。
その瞬間、テープはまるで鋭利な刃物で切られたかのようにはらりと落ちた。
(; ,,^Д^)「…えっ!?お、おい、勝手に何やって…!?」
o川*゚ー゚)o「大丈夫ですよ、誰も見てないんですから」
(; ,,^Д^)「いやそういう問題じゃなくてだな…!」
o川*゚―゚)o「もーう、相変わらず真面目ですねぇマスターは」
慌てる俺に呆れながら、キュートは堂々と桜の木に近付いていく。
入っていいのかどうか悩みながら、俺は周囲に気を配りつつキュートの後についていった。
112
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:07:44 ID:SG8HWUUI0
o川*゚ー゚)o「…あ。ほら、アレです」
( ,,^Д^)「アレ…?」
キュートが指を差した方向を見る。
桜の木の根元。周りと比べると、やや白みがかった土の部分。
o川*゚ー゚)o「――あそこです。私がいるの」
(; ,, Д)「………っ」
まるで何でもないことのように、大したことでもないというように。
表情を一切変えることなく、平然とした様子でキュートはそう言い放った。
(; ,, Д)「…お前は、ここにいるだろ」
o川*゚ー゚)o「言ったでしょう?今喋ってるこの私は多分、幽霊かなにかです」
o川*゚ー゚)o「元々の私は、そこにほとんど埋められてます」
話を続けながら、キュートは木の根元にしゃがみ込む。
やはり何か思うことがあるのか、彼女はその細い指先で撫でるように土に触れた。
113
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:08:49 ID:SG8HWUUI0
o川*゚ー゚)o「…まさか猫田博士が本当に、お願いした通りにしてくれるとは思いませんでした」
“お願い”という言葉に数週間前のデレ先生の言葉が思い浮かぶ。
確か、キュートが手術室に残した、遺書のようなメモ書きがあったのだったか。
o川*゚ー゚)o「知ってますか?この桜の木、区の所有物だったらしいんですよ」
そう言いながらキュートは立ち上がり、上空に咲いた桜を見上げる。
揺れる木々からひらりと一つ、薄桃色の花びらが舞い降りた。
o川*゚ー゚)o「博士が木を周囲の土地ごと買い取ったんだそうです。財源は謎ですけど」
o川*゚ー゚)o「ま、私の機体なんてトップシークレットですからね!最新型はモテモテで困っちゃいますね〜!」
(; ,,^Д^)「…父さんが、買い取った…?」
俄かには信じられない言葉を復唱する。
あの父が、わざわざ律儀にキュートの要望を聞いたというだけでも信じ難いことであるのに。
俺の呟きにキュートも頷きながら話を再び続けた。
114
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:09:27 ID:SG8HWUUI0
o川*゚ー゚)o「…私の機体、てっきりリサイクルに回されると思ったんですけどね」
o川*゚ー゚)o「最期の我儘くらいは、聞いてもらえたみたいです」
頭に降ってきた花弁を手で払う。
キュートの表情には、好きなお菓子を買ってもらえた子どもみたいな笑みが浮かんでいた。
o川*゚ー゚)o「デレ先生にもお礼言いたかったんですけどねぇ。移植の時、バレないように色々と手を回してくれてたみたいですから」
キュートの口から出た“移植”という言葉が、魚の小骨のように引っかかる。
そうだ。俺は大事なことを聞きそびれていた。
115
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:09:51 ID:SG8HWUUI0
( ,,^Д^)「……心臓」
o川*゚ー゚)o「えっ?」
( ,,^Д^)「なんで、俺に渡したんだ」
自分の胸を抑える。
今、俺の生命活動を支えている心臓。
元々は、キュートのコアだった部品。
( ,, Д)「…移植することは、禁止してたろ」
ずっと前の記憶が頭の中で再生される。
確かにキュートに向けて出した、心臓移植の禁止命令。
116
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:11:48 ID:SG8HWUUI0
御免だった。自分のために誰かが犠牲になる、なんてことが。
幼少の自分の世話や介護中に倒れた母が、キュートと重なって見えた。
あの向日葵畑に向かう途中、でぃさんから伝えられた“アイ”の真実。
文字通り骨の髄まで人間のためになるよう作られたという事実が、腹立たしくて仕方なかった。
キュートを自分のために消費する。それが、どうにも耐えられなかった。
だが、“それ”は成ってしまった。
俺は今、キュートを消費して生きている。
ずっと自分を支えてくれた少女から、命を奪って息をしている。
o川*゚ー゚)o「…そうですよ、大変だったんですよー?禁止命令破るの!」
o川*゚ぺ)o「もうあの手この手と試しましたもん!研究所のデータをクラッキングしたり、適当な企業のデータに潜り込んだり…超〜疲れました!」
o川*゚ワ゚)o「でもまぁ、最終的には何とかしたのが、やっぱり流石私って感じで――」
( ,, Д)「――そうじゃ、ないだろ」
o川*゚ー゚)o「……っ」
震えた声を絞り出してキュートの自慢げな声を遮った。
きっと、キュートは俺が何を言いたいのか分かっている。
117
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:12:23 ID:SG8HWUUI0
( ,, Д)「なんで、俺なんか優先したんだよ」
( ,, Д)「お前いつも言ってたろ。“自分は優秀な最新型なんだ”って」
( ,, Д)「なんで、こんな…就活なんかに困ってる人間、優先したんだよ。どう考えたって、逆だろ」
拳をぎゅっと握りしめる。
改めて言葉にすると、ほとほと自分の情けなさに嫌気が差す。
だけど、事実だ。本心だ。
どう考えたって、自分なんかよりも、キュートの方が何倍も価値がある筈だ。
そしてキュートも、自分の価値の高さを把握していた筈だ。
それなのに、どうして、禁止命令を破ってまで、何故。
俺に、心臓(こんなもの)を託したのか。
118
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:13:02 ID:SG8HWUUI0
( ,, Д)「もっと行きたい場所とか、食べたい物とか、あったんじゃないのかよ」
( ,, Д)「どうするんだよ、これじゃあ、もう、何も出来ないじゃんかよ」
( ,, Д)「なぁ、なんでだよ…なんで…!」
( ,, Д)「――何で、俺なんか、助けたんだ……!!」
俺とキュートの間に、桜を伴った強風が通り抜ける。
震え掠れた、僅かな怒気をはらんだ声が風の音に邪魔される。
だが、キュートの耳にはしっかり届いたのだろう。
彼女は困ったような顔をしながら、それでもこちらを向いて口角を上げていた。
119
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:13:45 ID:SG8HWUUI0
( ,, Д)「…なぁ、ダメなんだよ、俺。ダメなんだ」
( ,, Д)「お前がいないと、無理だ。前に進めない、どうすればいいか、分からない」
( ,, Д)「ずっと一緒にいてくれるんじゃ、なかったのかよ、なぁ」
煌びやかなツリーの前でした、子どもじみた約束を掘り返す。
ああきっと、今の俺は、相当にみっともなく映っているんだろう。
だけど、それでもよかった。誰になんと思われようと、嘲笑われようと、構わない。
( ,, Д)「…必要なら、心臓も、返す。父さんに、頭だって下げる、から、頼む」
( ,, Д)「また、一緒にいてくれ。お願いだから、お願い、だから…俺は……」
( ,, Д)「…お前がいないと、寂しい…!」
情けない。みっともない。無様で、惨めで、不格好。
それでも、見るに堪えなくとも、偽りない俺の本心だった。
楽しかった。キュートと過ごす毎日が。
あれだけ悩んでいた就活も、先の見えない人生も、全部どうでもよくなるくらいに。
どんな明るい未来より、俺は、キュートが一番欲しかったのだ。
キュートがこちらに数歩近づく。
彼女の手がゆっくりとこちらに伸びる。
俺はそれを見ながら、抵抗することなくただ立っている。
手が届く。それと同時に、数枚の花弁が頭から風に乗って飛んで行った。
120
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:15:10 ID:SG8HWUUI0
o川* ―)o「…ふふふっ…!」
キュートは明るく笑っていた。
それも、堪えきれないといった具合に。
(# ,, Д)「…何、笑って……」
o川*゚ー゚)o「ああ、いえ…!ごめんなさい、ちょっと、嬉しくて」
o川*゚ー゚)o「…ふふっ、そんなこと思ってくれてたんですね、マスターったら」
(# ,,^Д^)「そんなことって…!」
反論しようとした矢先、忽ち言葉に詰まって黙る。
言葉が思いつかなかったからでも、桜が邪魔をしたからでもない。
眼前にいる少女の笑顔が、泣きそうになるくらいに、綺麗だったからであった。
121
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:16:22 ID:SG8HWUUI0
o川*゚ー゚)o「…私にとっては、違うんです」
o川*゚ー゚)o「そもそも私にとって人間がどうとか、機械の方が価値があるとか、どうだっていいんです」
笑いながらキュートは俺の手を取る。
そのままいじらし気に彼女は俺の手を自分の指と絡めた。
o川*゚ー゚)o「…マスターが、私を大事にしてくれたみたいに、私は、マスターを大事にしてみたかったんです」
o川*゚ー゚)o「ほら、子どもって大人の真似をして大きくなるでしょう?あれと同じですよ」
o川*゚ー゚)o「貴方みたいなことをしたら、貴方みたいになれるかなって、思ったんです」
ぎゅっと手を握られる。
絡まった指先から伝わる温もりは、幽霊とは思えないほどに暖かかった。
122
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:17:08 ID:SG8HWUUI0
o川*゚ー゚)o「ロボットの私でも、もしかしたら、人間の気持ちが分かるんじゃないかって」
o川*゚ー゚)o「貴方の見ていた世界が、感じていたものが、理解できるんじゃないかった期待した」
o川*゚ー゚)o「…私のこの想いはプログラムでも、ましてやバグでもないって、証明したかった」
視線が交差する。ずっと隣にあった筈の大きな瞳に、今にも泣きそうな自分が反射している。
キュートは口角を上げたまま、ゆっくりと目を瞑って言葉を紡いだ。
o川*゚ー゚)o「…嬉しいです。今までにないくらい。こんなに必要とされてただなんて、思ってもいなかった」
( ,,^Д^)「…当たり前だろ。お前より、大事な人なんて、いない」
o川*^―^)o「そこで“物”って言わない辺り、マスターらしいですねぇ」
今まで口にもしなかったような台詞を吐く。
そんな言葉にキュートは動じもせず、純粋に嬉しそうにクスクスと笑ってみせた。
123
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:19:23 ID:SG8HWUUI0
o川* ―)o「――今まで、ありがとうございました」
o川*゚ー゚)o「マスターといた毎日が、本当に、全部楽しかった」
o川*゚ー゚)o「気付いてました?私の記憶容量、マスターで一杯なんです。…容量には、自信があったのに」
手を握られたまま、キュートはポツリポツリと呟き始める。
まるで、ずっと大事に抱えていた大切なものを、少しずつ切り離すかのように。
o川*゚ー゚)o「幸せでした。きっと私は、世界で一番恵まれたアンドロイドでした」
o川*゚ー゚)o「“キュート”って素敵な名前を貰えて、美味しいもの沢山食べて、色んな所にマスターを出かけられて」
o川*゚ー゚)o「たまに喧嘩して、仲直りして、また下らないこと話して…凄く、楽しい毎日でした。お返し出来るのが、心臓一つなんかじゃ足りないくらいに」
o川*゚ー゚)o「…最後に、こんな贅沢な走馬灯まで、見れた」
キュートの手が俺の胸に触れる。
俺は何も言わないまま、キュートの背にそっと手を回した。
124
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:19:54 ID:SG8HWUUI0
o川* ―)o「……なんだか、私ばっかり貰ってばかりだった気がします」
( ,, Д)「…そんなこと、ない」
ぎゅっとキュートを肩を抱きながら、語気を強めて言葉を絞り出す。
それは違う。絶対に、そんなことはない。
( ,, Д)「俺の方こそ、貰ってばかりだった。挙句の果てに、こんな、こんな……」
ズキズキとした痛みを胸に感じる。
あの夏の日から今日まで、俺はずっと貰ってばかりだった。
誰かに「おかえり」と言ってもらえるのが、あんなに嬉しいことなんて知らなかった。
誰かと一緒に家で食べるご飯が、あんなに美味しいなんて知らなかった。
( ,, Д)「…やっぱり俺は、お前が、いないと……」
o川* ―)o「……それは大丈夫、ですよ。マスター」
こちらを見上げるキュートと視線が合う。
腕の中の彼女は、女神と見間違うような微笑みを携えていた。
125
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:22:14 ID:SG8HWUUI0
o川*゚ー゚)o「私は知ってます。マスターがちゃんと、前に向かって歩ける人だって」
o川*゚ー゚)o「そりゃあ、絶対倒れないとか、そういう強さはないでしょうけど」
o川*゚ー゚)o「…でも、きっと大丈夫。私が隣を歩かなくても、マスターはちゃんと立ち上がれる」
o川*゚ー゚)o「私がずっと見てきた貴方は、そういう人」
胸の辺りをトンと突かれる。
かつてキュートのコアだった、今は俺のものになってしまった部品。
o川*゚ー゚)o「約束とちょっと違いますけど、私はずっと、ここにいます。マスターと一緒にいます」
o川*゚ー゚)o「絶対、大丈夫。マスターならどんな困難でも、何とか出来る。だって」
言葉がそこで区切られる。
すると、キュートは顔をぱっと挙げて、花が咲いたような笑顔でこう言った。
o川*^ワ^)o「――とびっきりの私(アイ)、あげたんですから!」
心臓がドクンと鳴る。何の前触れもなく、途端に鼓動が早くなる。
今まで見てきた中でも、一番屈託のない、自信に満ち足りた満面の笑み。
126
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:23:45 ID:SG8HWUUI0
( ,,^Д^)「………そうかな」
o川*゚―゚)o「そうです!自信持って下さい!最新型、第三世代”アイ”のお墨付きですよ!」
( ,,^Д^)「…そっか。なら、信じて、いいかもな」
口から掠れたような笑い声が漏れる。
根拠と言い張るにはあまりに乏しい、もはや暴論の類である。
だがそれでも、これ以上に俺を勇気づける言葉はきっと、世界の何処を探したってないという確信があった。
思えば、ずっとこうだった。
俺が何かネガティブな発言をして、キュートが笑いながらそれを否定する。
就活に関してキュートの手を借りない。俺がずっと固執していた小さな縛り。
だが、そんなもの何の意味もないと今更気付いた。
就活どころか生活、呼吸、心臓の鼓動に至るまで、全部。
今更になって、やっと気付いた。
俺は、キュートにずっと支えられて生きていたのだ。
127
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:25:32 ID:SG8HWUUI0
ふわりと、眼前に沢山の桜が舞って一瞬キュートの姿が隠れる。
ふと、ずっと吹いていた風が強くなっていることに気が付いた。
o川*゚ー゚)o「……そろそろ、時間みたいです」
( ,,^Д^)「…そう、か」
キュートの手が胸から離れる。
俺はゆっくりと抱擁を解き、彼女の顔を直視した。
o川*゚ー゚)o「…ご飯、ちゃんと食べて下さいね」
( ,,^Д^)「………ああ」
o川*゚ー゚)o「運動もしっかり!また怪我しちゃダメですよ!」
( ,,^Д^)「…善処するよ」
o川*゚ー゚)o「就活、諦めないで下さいね。笑顔でハキハキとお返事、です!」
( ,,^Д^)「お前より、俺の方が就活には詳しいよ」
o川* ―)o「………素敵な恋人さんとか、作って下さいね。ずっと一人は、しんどいですから」
( ,,^Д^)「…………それは、どうだろ」
キュートの身体が俺から離れる。
彼女の身体が、ほんの少しだけ、透けているように見える。
――ああ、これでもう本当に、最後なのか。
少しずつ透明になっていくキュートの足元を見ながら、ぼんやりとそう思った。
128
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:26:12 ID:SG8HWUUI0
o川* ―)o「……そうだ」
不意に何かを思い出したかのような声が上がる。
どうしたのだろうと疑問に思いながらキュートを見ると、彼女はごそごそと自身の髪をいじっていた。
o川*゚ー゚)o「まだありました。渡せる物」
そう言って、キュートは俺の右手を強引に掴む。
そして手のひらに握った何かを無理やり俺に握らせた。
川*゚ー゚)「実はそれ、結構頑丈なんです。特殊な素材で出来てるので」
二つ結びが解かれた長い髪が春風に揺れる。
あまり見慣れない、髪を下ろしたキュートの姿。
ああ、そういえば風呂上りはいつもこんな感じだったなと、俺は場違いなことを考えた。
129
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:26:56 ID:SG8HWUUI0
( ,,^Д^)「…最後のプレゼントが、これかよ」
手のひらを開き、渡されたものを確認する。
視線の先には、紐に繋がれたビー玉より少し大きいくらいの球体が二つ転がっていた。
川*゚ぺ)「むっ!も、文句がおありでしたら返品します?それでもいいですけどー!」
気が付けば随分と薄れていたキュートが頬を膨らませながら抗議する。
そんな姿も可愛らしいと思いながら、俺は笑って口を開いた。
( ,,^Д^)「冗談。…大事にするよ」
川*゚ー゚)「…それならいいです。失くさないで下さいね」
( ,,^Д^)「善処する」
川*゚ぺ)「そこは言い切って下さい!」
声を上げて二人で笑う。
俺たちの笑い声に呼応するかのように、少しずつ、更に風が強くなっていく。
130
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:27:50 ID:SG8HWUUI0
( ,,^Д^)「…お別れ、か」
川*゚ー゚)「…そうみたいです」
風の音がどんどん強くなる。
無数の桜の花びらが、キュートを覆い隠すかのように舞い上がっていく。
俺たちに残されたのはきっと、あと数秒程度しかないのだろう。
川* Д)「――やっぱり!」
桜の強風に負けないくらいの大声でキュートが叫ぶ。
川* Д)「やっぱり最後に、一つだけ」
川* Д)「我儘、言ってもいいですか!!」
キュートの大きな声が聞こえる。
風に邪魔されないよう、俺も負けじと「何だ!」と叫び返す。
聞き逃さないよう、耳を澄ませる。
キュートの、正真正銘最後の我儘だ。
何でもいい。何だっていい。どんなに無理難題でも絶対に聞いてやる。
キュートの声に全神経を集中させる。
すると、ほんの一瞬だけ、轟音を纏った風がピタリと止んだ。
131
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:28:31 ID:SG8HWUUI0
川* Д)「やっぱり、ずっと、ずっと」
川* Д)「あんなこと言ったけど、今更だけど、マスター 」
川* Д)「ずっと、私のこと、ずっと――!」
川* Д)「――――!!!」
その我儘が俺の耳に届いたその瞬間。
さっきとは比べ物にならないほどの強い風が吹いた。
( ,, Д)「……ははっ」
呆れたような笑いが漏れる。
なんだ、そんなことか。わざわざ希われることもない。
俺は最初から、そのつもりだった。
世界が桜で染まっていく。
先ほどまで見えた筈のキュートの足元は、既に地面が透過して見えるほどに薄まっている。
これで終わる。
最後に神様が俺たちにくれた奇跡は、この桜風によって幕を閉じる。
文句はない。
俺たちには、充分すぎるほどに過ぎた褒美だった。
132
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:29:11 ID:SG8HWUUI0
( ,, Д)(…ああ。でも、やっぱり、ちゃんと)
( ,, Д)(“大好きだ”くらい、言えばよかったかな)
薄れゆく意識の中で、今更なことを考える。
結局、最後の最後まで、言えずじまいだった。
まぁ、いつか“そっち”で会えた時に、取っておけばいいかな。
風に身を任せながら、すっかり紅色に染まった世界を見る。
時間切れだ。そう直感し、意識を手放そうとしたその直前。
桜で覆われていく視界の、ほんの僅かな隙間から。
今にも泣きそうな顔で、にこりと笑うキュートが見えた。
133
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:29:44 ID:SG8HWUUI0
*
「あのー…大丈夫ですか…?」
「というか生きてますか…?おーい…?」
ゆさゆさと身体を揺らされている感覚がする。
ゆっくりと目を開けると、眼前には、困り顔をした少年がしゃがみ込んでいた。
( ФωФ)「あ、よかった…起きた」
随分と目がキリリとした少年が、ほっと安堵の表情を浮かべていた。
少なくとも小学生には見えない。中学生…いや、よく見れば背丈も大きい。
少年と称したが、ひょっとしたら高校生くらいだろうか。
134
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:30:27 ID:SG8HWUUI0
( ,,^Д^)「…あれ…?俺は……」
むくりと上体を起こす。
周囲をキョロキョロと見渡すと、地面には数えきれないほどの桜の花びらが落ちていた。
はっと空を見上げると、そこには鮮やかな青空が広がっているのが見える。
いつの間にやら、夜は明けていたようだった。
( ФωФ)「お兄さん、ずっとここで寝てたんですよ。僕がここに来た時からずっと」
( ,,^Д^)「ここで…?」
背中に何か固い感触があり、くるりと振り返る。
そこには、俺なんか比べ物にならないほどの大木が聳え立っていた。
135
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:30:48 ID:SG8HWUUI0
( ,,^Д^)(……夢、だったのか)
目覚めたばかりで未だに上手く回らない頭で、ぼんやりとそう思う。
桜が舞い散る夜の中、俺はいなくなった筈のキュートと会話をしていた。
だが確かに思い返すと、些か現実離れした夢だった。
百歩譲って人間ならいざ知らず、ロボットの幽霊などフィクションでも聞いたことがない。
けれど、幸せな夢だった。
いつまでも見ていたいと思うような、幸福に満ちた内容だった。
( ,,^Д^)(あいつは、夢にも出てくれないからな)
脳裏に一人の少女が思い浮かぶ。
豪雪のように吹き荒れる桜の中、満開の花々にも負けない笑顔で、俺を見送った一人の少女。
もう会えないと思っていた。話なんて二度と出来ないと思っていた。
夢だったとしても、満足だ。
136
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:31:25 ID:SG8HWUUI0
( ФωФ)「というか、今この木の周りは立ち入り禁止ですよ?誰か来る前に早く出たほうが…」
( ,,^Д^)「あ、ああ…ごめん。すぐ出るよ」
少年に促され、すぐに立ち上がろうとする。
足に力を入れようとしたその瞬間、何か手のひら違和感を覚えた。
( ,,^Д^)「……?」
何だろうか、疑問に思いながら手を開く。
その中には、紐がくっついた丸い石のようなものが二つ転がっていた。
( ,,^Д^)「………あ」
途端、記憶が溢れ出す。
満月が照らす夜の下、桜が舞う中でキュートに渡された物。
心臓以外で、彼女から最後に託された物。
ずっとキュートが付けていた、二つの髪飾り。
137
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:31:54 ID:SG8HWUUI0
( ,, Д)「―――あぁ」
o川*゚ー゚)o『改めて、初めまして!“マスター”!第三世代NewAIシリーズ・レプリカントナンバーr-Q10です!』
o川*゚ワ゚)o『さぁマスター!ほら!愛をどうぞ!』
o川*>―<)o『絶対!!絶対絶対絶対ぜぇーーーーったい———』
o川*^―^)o『マスターのこと、幸せにしてみせますからね!!!』
記憶が溢れる。
キュートと過ごした時間が、走馬灯みたいに流れていく。
138
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:32:30 ID:SG8HWUUI0
o川*゚ー゚)o『さぁ行きますよマスター!近所のスーパーまで飛びましょう!』
o川#゚―゚)o「ムキ――ッ!!またポンコツって言った!!
o川*゚ぺ)o『え〜嫌です嫌です!検査ならマスターだけで行って下さいよ!』
ころころと、記憶の中のキュートの表情が変わっていく。
どれもまるで昨日のことみたいに、鮮明に思い出せる。
139
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:33:23 ID:SG8HWUUI0
o川*゚ワ゚)o『遊園地、行きたいです!!マスター!!』
o川* ―)o『幸せに、出来なくてごめんなさい――ポンコツで、ごめんなさい』
o川*゚―゚)o『…“ずっと一緒に”いてあげますから』
四季みたいに、色とりどりの表情を見せてくれたあどけない少女。
ずっと、ずっとずっと、俺のことを支えてくれていた少女。
もう会えない。世界で一番大好きだった女の子。
手のひらに収まった髪飾りを見る。
ひらりと、そこに一枚の花弁が落ちてくる。
いや、落ちてきたのは、花弁だけではなかった。
140
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:33:54 ID:SG8HWUUI0
( ,,;Д;)
目尻に溜まっていた雫が、髪飾りの上にポトリと落ちた。
141
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:34:35 ID:SG8HWUUI0
( ,,;Д;)「ふぐっ…あぁ、あぁあ……」
( ,,;Д;)「あぁ、ああぁ、ああ………」
声にならない嗚咽が止まらず溢れる。
視界がぼやけてまるで見えない。
ただぽたぽたと流れる涙が、やけに愛おしく感じられた。
(; ФωФ)「えっ…?あ、あの、大丈夫ですか…!?」
少年が慌てた様子でこちらの顔を覗き込む。
何か拭く物がないか探してくれているのか、涙でぼやけた視界の中でもあたふたとしているのが見て取れる。
( ,, Д )「…いや、大丈夫、大丈夫だよ」
それは要らない心配だった。
瞬きをして涙を落とし、目元に残った雫を指で拭う。
ある程度鮮明になった視界で、俺はもう一度、手のひらにある髪飾りを見つめた。
( ,,;Д;)「これは、俺の涙じゃないから」
そう言って、今の自分に出来る精一杯の笑顔を作る。
目の前にいる少年は少しポカンとした後、何かを察したのか「そうですか」とだけ呟いた。
142
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:34:59 ID:SG8HWUUI0
両手で髪飾りをぎゅっと握りしめる。
そのまま握った拳を、自分の胸にピタリと当てる。
ドクドクと動き続けている心臓の鼓動を感じながら、俺は誰かさんの分まで、いつまでも泣き続けていた。
上空から降り注ぐ桜が止むまで、ずっと、ずっと泣き続けていた。
143
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:35:34 ID:SG8HWUUI0
*
(; ,,^Д^)(…あー、緊張する…)
だだっ広い部屋の中、ソワソワと自分の名前が呼ばれるのを待つ。
去年に一度経験している筈なのだが、緊張による身体の震えは一向に止まってくれそうになかった。
就活生の待機用に、いくつものテーブルとパイプ椅子が並んでいる。
しかし、俺以外に座っている人間は一人としていない。
集合時刻には二十人以上いた筈なのだが、どうやら俺が一番最後のようだった。
144
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:36:24 ID:SG8HWUUI0
クーラーから放たれる過剰な冷風に身を震わせる。
いくら八月とはいえ、流石に冷房効きすぎなのではないだろうか。
だからと言っても何処にリモコンがあるのか分からない以上、席を立つことなく座し続ける。
落ちるなら落ちるで、もういっそ早く楽にして欲しい。
部屋に備え付けられた時計に目をやると、既に集合時間から一時間は経過していた。
前の時はもっと早く呼ばれたのにな、と心の中だけで不満を漏らす。
何を隠そう、俺がこの会社を受けるのは初めてではない。
ここは去年の冬頃、俺がギリギリで内定をもぎ取ったあの大手の企業だ。
145
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:37:10 ID:SG8HWUUI0
今年の春から俺は、兼ねてより世話になっていた所でバイトを続けながら就職浪人をすることを選んだ。
いくらかアドバンテージがある自分ならば、夏が始まる前にはいくつか内定が貰えるだろう。
そう高を括っていたことも記憶に新しい。
…しかし、今まで就活に苦しんでいた人間が、そう簡単に上手くいく訳もなく。
結果、中堅どころにすら一つも内定が出ないまま、夏を迎えてしまっていた。
去年より優れているところを一つ挙げるなら、ここの最終面接に夏時点で漕ぎつけられたことだろうか。
以前はギリギリもいいところだったが、今年はまだ時期的な余裕がある。
そこまで考えて、ふっと自嘲の笑いが漏れる。
いつの間にか自分は、上手くいっていない状況に慣れ切ってしまっていたらしい。
146
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:37:47 ID:SG8HWUUI0
ふと、スタスタと足音がこちらに近付いてきていることに気が付いた。
慌てて姿勢を正す。すると間もなくドアがガチャリと開き、凛とした背筋の女性が顔を覗かせた。
li イ ゚ -゚ノl|「失礼します、猫田タカラさん」
(; ,,^Д^)「は、はい!」
li イ ゚ -゚ノl|「お待たせいたしました。面接室へご案内します」
返事をして立ち上がり、女性の後ろへと続いて歩く。
広く長い、それでいてどこか高級感漂う廊下を進んでいく。
窓からは、都内に聳え立つ幾つものビルが更に下に見えていた。
li イ ゚ -゚ノl|「こちらです。それでは、失礼します」
(; ,,^Д^)「はい!あ、ありがとうございます…!」
こんな就活生にも深々と一礼する女性に対し、つられてこちらも頭を下げる。
俺の焦った様子など微塵も介する様子もなく、女性はツカツカと来た道を戻っていった。
147
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:38:58 ID:SG8HWUUI0
襟を正し、背筋をピンと伸ばす。
そのままゆっくりと深呼吸を一回。
大丈夫だ。無駄に緊張する必要などない。
ここに来るのは初めてではない。去年も一度来た、経験した場所である筈だ。
ノックするために腕を上げようとする。
しかし、俺の意思に反し、上げようとした筈の手は途中の空でピタリと止まった。
148
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:39:36 ID:SG8HWUUI0
(; ,, Д)(……もし、ここもダメだったら)
もし、ここも失敗したらどうするのか。
何の前触れもなく、吐きそうになるほどのどす黒い不安が腹の底で湧き上がる。
以前受かったのは奇跡もいい所の偶然だ。そんなものが二度連続で続くのか。
そもそも自分はここにとっては、内定を出したのに来なかったに等しい人間だ。そんな人間をまた採用してくれるなんて、虫の良い話があるだろうか。
ここがダメなら、次はどこだ?
今の俺の持ち駒は、あとどれくらい残っている?
今年だって、今日に至るまで内定など一つも出ていない。
もしかしたら、また今年も全敗するかもしれない。そうなれば、俺はどうすればいい?
宙に止めていたままの手がゆっくりと降りる。
上手く息が出来ない。ただ立っていることすらままならない。
視界がどんどん黒で狭まる。
頭の中が最悪の不安で闇のように染まっていく。
149
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:40:42 ID:SG8HWUUI0
(; ,,-Д-)(考えるな、考えるな…!)
余計な思考が頭を満たす。
こんなこと、今考えるべきではない。頭では分かっているのに、最悪の想像が離れない。
ドアの前で突っ立ったまま動けない。
ノックなんて今まで何度も何度もしてきた。面接時に気を付けるマナーなんて既に身体に沁みついている。
それなのに例え難い不安が肉体の動きを邪魔する。
腕が上がらない。声が出ない。思った通りの行動が出来ない。
倒れ込みそうになるほどの吐き気に襲われる。
何も出来ないまま、ただ時間だけが過ぎていく。
“無理”という単語が頭に浮かぶ。
ただドアをノックするだけ。たったそれだけの行動すら出来ず、胸が押しつぶされそうになる。
だらりと腕を下げたまま俺は、心中でごめん、と呟いた。
150
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:41:11 ID:SG8HWUUI0
o川* ―)o『――もう、しょうがないですねぇ全く!』
心臓が、ドクンと強く鳴った。
151
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:42:25 ID:SG8HWUUI0
o川* へ)o『この程度でダメになるようなヤワな心臓、あげたつもりないんですけどー?』
o川* ―)o『…大丈夫ですよ。ずっとずっと、頑張ってきたの、見てましたから』
o川* ワ)o『ほら、頑張ってきてください!マスター!』
突然、心臓の鼓動が早まる。
まるで意思をもって応援してくれているみたいに、ドクドクと強く拍動する。
いつの間にか、頭の中をぐるぐると渦巻いていた嫌な思考も、腹の底から湧き上がってきていた吐き気も、嘘のように消えていた。
胸を抑える。
とある少女から貰った心臓がドクドクと痛む。
けれど、どうしてだろうか。俺は不思議と、この痛みを嬉しく感じていた。
152
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:42:56 ID:SG8HWUUI0
( ,, Д)「……ありがとな」
( ,,^Д^)「――行ってきます」
誰にも、それこそ、耳の良いアンドロイドでもないと聞こえないくらいの声量でぼそりと呟く。
なんとなく、「行ってらっしゃい!」と、手を振られたような気がした。
ぽんと、優しく胸の上を叩いた。
胸の鼓動が少しずつ遅くなって、すぐにまた平常の速度に戻る。
腕を振り上げて、ドアを三回ノックする。
部屋の中から低い男性の声で「どうぞ」と返答があり、俺はドアノブに手をかけた。
153
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:43:01 ID:MCz2Fy3A0
支援
154
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:43:37 ID:SG8HWUUI0
この先、俺の人生が一体どうなるのかなんて、分からない。
あのポンコツに言われた通りに幸福になれる保証なんて、どこにもない。
明日にはまた事故に遭って、死んでしまうかもしれない。
今回の面接もダメで、このままずっと内定が出ず、ニートになるかもしれない。
いつの日か、心臓以外の何処かに、重い病気が見つかるかもしれない。
自覚している。俺は決して優秀な人間なんかじゃない。
何処ぞのポンコツロボットがいなきゃ、心臓一つまともに動かせなかった人間だ。
155
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:45:04 ID:SG8HWUUI0
それでも、俺はずっと歩いていく。
立ち止まることもあるだろう。転ぶことだってあるだろう。
それでも、例えこの先、どんなに辛いことがあろうと、全部を投げだすなんてことはしない。
この心臓が動く限り、どこかのアンドロイドに胸を張れるように、生きていたいから。
“向こう”でまた会えた時、笑顔で「頑張った」と言ってやりたいから。
力強く、それでいて忙しなく動く心臓の痛みを感じながら
ゆっくりと、俺は目の前のドアを開けた。
156
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:45:39 ID:SG8HWUUI0
( ,,^Д^)プラスチックの心臓が痛いようです
〜おしまい〜
157
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 19:46:22 ID:SG8HWUUI0
これにて完結です。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
158
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 20:31:40 ID:5nhGu5260
乙乙乙!
めちゃくちゃよかった
159
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 21:31:25 ID:fjB12S6k0
乙乙乙!
丁寧な文体でキャラの感情の細やかな動きが書かれていて、本当に現実のどこかにこんな人達がいるんじゃないかなという想像をしながら読んでいました。
楽しい時間をありがとう!
160
:
名無しさん
:2023/09/01(金) 21:54:47 ID:jagMWKd20
乙
素敵なお話をありがとう
161
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 12:14:41 ID:P0usnPPg0
乙。。。。。
162
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 14:53:00 ID:TJZjk8AM0
乙です
163
:
名無しさん
:2023/09/02(土) 18:58:00 ID:7eWQyvSI0
乙でした
164
:
名無しさん
:2023/09/05(火) 16:38:54 ID:/mRCkvKk0
まじ乙
よければ過去作とか教えてくれるとありがたい
165
:
名無しさん
:2023/09/09(土) 22:33:51 ID:pNZVkHcc0
>>164
過去作等はないです。これが初作品でした。
166
:
名無しさん
:2023/09/10(日) 01:39:57 ID:7BetDDMg0
ほえ〜〜〜〜〜〜〜
167
:
名無しさん
:2023/09/10(日) 21:48:05 ID:Ye2HOskA0
おつ
初作品とは、とんでもないですね
168
:
名無しさん
:2024/03/07(木) 17:45:09 ID:7h3JAxQA0
https://imgur.com/a/JXr8ZEu
作中とポーズ違ってすみません!
支援!!
169
:
名無しさん
:2024/06/16(日) 01:24:27 ID:AzOqqJsU0
>>168
載せてくれてたの全然気付かんかったッ!!
ありがとうございます〜!!
170
:
名無しさん
:2024/06/16(日) 01:27:56 ID:AzOqqJsU0
番外編短編集をゆっくり気の向くままにやっていきます。
171
:
名無しさん
:2024/06/16(日) 01:30:34 ID:AzOqqJsU0
〜ファミレス編〜
o川*゚〜゚)oモグモグ「…うーん!」
o川*゚ー゚)o「凄く美味しいですねここのカレー!食べ放題とは思えないくらい!」
(ll ,,^Д^)ズーン「……おう、そうか…良かったな……」
o川*゚ワ゚)o「ドリンクバーだけじゃなくて、こんなに美味しいカレーもサラダもデザートも食べ放題なんて…!良いお店見つけましたね〜!」
o川*゚ー゚)o「…マスター、食べないんですか?サラダもあんまり取ってきてないし…せっかくの食べ放題なんですから、食べなきゃ勿体ないですよ!」
o川*゚〜゚)oモグモグ
o川*^ワ^)oオイシー!
(ll ,,^Д^)「……もうお前がほぼ全部…いや、何でもない…」
172
:
名無しさん
:2024/06/16(日) 01:31:51 ID:AzOqqJsU0
アノスミマセン、カレーガモウナインデスケド…オコメトパンモ…
エッモウ!?ス、スグニホジュウシマス!
チョット、サラダノトコモカラッポナンダケド!?ドウナッテンノ!?
サ、サッキダシタバッカナノニ…!?モ、モウシワケアリマセン…!
o川*゚ー゚)o「…ありゃ、今なくなったみたいですね。またお代わり行こうと思ったんですけど…まぁいいや!補充されてから行きましょう!」
(; ,,∩Д∩)「あ〜〜多分ここも出禁だ……食べ放題ある店選ぶんじゃなかった…」
173
:
名無しさん
:2024/06/16(日) 01:33:21 ID:AzOqqJsU0
o川*゚ー゚)o「…ところで、ランチ時なのにさっきからあんまり店員さんいないですねぇ。サラダとカレー、補充して欲しいんですけど…」
o川*゚ぺ)o「メインの料理も中々来ませんし。私のステーキまだですかね?」
(ll ,,^Д^)「あの1.5キロステーキとかいうやつな……まさかランチじゃなくてグランドメニュー選ぶと思わなかったけど……しかも期間限定の高いヤツ…」
o川*゚ー゚)o「えっ、だって何頼んでもいいよってマスターが」
(ll ,,∩Д-)「そうだった…俺が言っちゃったんだ…給料出たばっかで調子乗った……」
174
:
名無しさん
:2024/06/16(日) 01:35:22 ID:AzOqqJsU0
o川*゚ー゚)o「店員さん、皆忙しそうで料理運ぶのも難しそうですね。このお店、大丈夫なんでしょうか?」
(ll ,,^Д^)「……店の利益としては現在進行形で大丈夫ではないと思うけど…まぁ、店員さんの数に関しては大丈夫だと思う」
o川*゚ー゚)o「…?それはどういう…」
( ,,^Д^)「あっ、ほら来た。あれだよ」
『お料理が出来ましたおー!』
ブーン!!三[ ^ω^]っ皿
o川;゚―゚)o「きゃっ!?な、なんですかこの何処となくマスターのご友人さんに似た朗らかな顔のロボットは!?」
( ,,^Д^)「配膳ロボットの『BOON』だよ。最近色んなファミレスとかで使われてて、結構話題になってるヤツ」
175
:
名無しさん
:2024/06/16(日) 01:36:20 ID:AzOqqJsU0
[ ^ω^]「お料理をお取りくださいだお!」
o川;゚―゚)oっ皿「へぇ…あ、ど、どうも…中々やりますね」
( ,,^Д^)っ皿「ありがとう。…で、ただ運んでくれるだけじゃなくてさ、例えば、この耳みたいに出っ張ってるとこを撫でると…」
[* ^ω^]「おっ!撫でてくれるのかお?嬉しいおー!」
( ,,^Д^)「ほら、こんな感じでリアクションしてくれるんだよ」
o川;゚―゚)o「ふ、ふーん……ま、まぁまぁな性能はあるみたいですね?さ、流石に私ほどじゃないようですけど?」
176
:
名無しさん
:2024/06/16(日) 01:37:59 ID:AzOqqJsU0
o川;゚―゚)o「じゃ、じゃあお疲れ様でした!君、もう帰っていいですよ!」
( ,,^Д^)っ「まぁ待てよ。他にも、ボディの方を触るとだな」
o川;゚―゚)o「ちょ、ちょっとマスター!?」
[* ^ω^]「く、擽ったいお!照れるおー!」
( *,,^Д^)「ほら。色んな反応してくれるんだよ、凄いよなー」
o川;゚―゚)o「…そ、そうですか……」
o川;- -)o(……私には、全然触れてくれないのに……)
177
:
名無しさん
:2024/06/16(日) 01:39:05 ID:AzOqqJsU0
o川;゚―゚)o「も、もう満足しましたよね!ほら、料理来たし、食べましょ!わーい、大きいステーキ――」
( ,,^Д^)「……いやぁ、でも」
(* ,,^Д^)「こうやって改めて見ると、本当に可愛いよな」
o川* ― )o
( ,,^Д^)「表情がコロコロ変わって、ちゃんと料理持ってきてくれて、でもたまに運んでる水零したりして、ちょっとドジで」
(* ,,^Д^)「結構可愛いよなぁ。なんなら、一台くらい家にも欲しいくらい――」
178
:
名無しさん
:2024/06/16(日) 01:40:55 ID:AzOqqJsU0
o川# ― )oっバキィ!!←持ってた金属のナイフが砕ける音
o川# ― )oっバラバラ…←ナイフが握力で粉になっていく音
(; ,,^Д^)「えっ…?キ、キュート?どうし……?」
o川# ― )o「“可愛い”?」
(; ,,^Д^)「へ?」
o川# ― )o―[ ^ω^]ブスッ
o川# ― )o―[; ゚ω゚]「おをオヲooOっッ!?!?」
(; ,,^Д^)「お、おいキュート!?なにしてっ…!?」
179
:
名無しさん
:2024/06/16(日) 01:42:16 ID:AzOqqJsU0
o川* ― )o「ほら、見て下さいマスター」
[ ゚ω゚]「………オ」
[ ゚ω゚]「配膳、おどきくだ りょう 運び 撫で なで ナデ オ おお」
[ 。ω゚]「お おおオオををヲをおぉォをおぉ」
[ 。ω゚]ピーーーーーーーーーー
[ ω ]ガシャン
(; ,,^Д^)「えっ……?な、なにを…?」
o川* ― )o「あらあら、壊れちゃったみたいですねぇ。色んな反応してくれるっていうから、少し触ってみただけなのに」
o川* ― )o「普段は随分可愛らしいデフォルメの顔してたみたいですけど。あんなバグった表情見せて…とんだポンコツじゃないですか」
180
:
名無しさん
:2024/06/16(日) 01:44:07 ID:AzOqqJsU0
o川* ー )o「ところで、マスター。今一度、お聞きするんですけど」
o川* ー )o「この、ただ料理を運ぶことしかできず、ちょっと笑顔で反応できるくらいしか出来ないような、少し触れられただけで壊れちゃうオンボロと」
o川* ー )o「毎日、料理も洗濯も掃除も家事もして、どんなことにも対応できて、頑丈で何でもできる、女の子の姿をした万能レプリカント」
o川* ー )o「――どっちが、”可愛い”と、思います?」
(; ,,^Д^)「……え、えっと…」
o川*゚ー゚)o「はい???」
181
:
名無しさん
:2024/06/16(日) 01:45:58 ID:AzOqqJsU0
(; ,,^Д^)「………キュート、かな…」
o川*゚ー゚)o「私が、なんです?」
(; ,,^Д^)「いや、だから…その……」
(; ,,-Д-)「…あー。ごめん。確かにちょっと、デリカシーなかったな」
( ,,^Д^)「……俺にとっては、キュートが一番可愛いよ」
o川*゚ワ゚)oパァァ「……!」
182
:
名無しさん
:2024/06/16(日) 01:47:54 ID:AzOqqJsU0
o川*^―^)o「そ、そうですか…!えへへ…!」
o川*゚ー゚)o「もうマスターったら…!ちゃんと分かってくださってるならいいんですよ!…あ、おっと、そうでした」
o川*゚ー゚)o―[ ω ]ブスッ
o川*゚ー゚)o―「もういいですよ。去りなさい」
[ ゚ω゚]「…おおっ!?」
[ -ω-]サイキドウチュウ
[ ^ω^]「……おっ!お料理、お届けしましたお!それでは、失礼いたしますおー!」
[^ω^ ]三ブーン!
183
:
名無しさん
:2024/06/16(日) 01:50:03 ID:AzOqqJsU0
o川*゚ー゚)o「…さ!じゃあご飯食べましょマスター!わ〜分厚いお肉!いただきまーす!」
(; ,,^Д^)「お、おう、そうだな……」
o川*>〜<)oモグモグ「…ん〜!!美味しい!やっぱ良いお店〜!」
( ,,^Д^)(…)
( ,,^Д^)(………)
( ,,^Д^)(……………)
( ,,^Д^)(とりあえず、もうこの店舗来るのはやめるか……)
〜おしまい〜
184
:
名無しさん
:2024/06/16(日) 01:52:00 ID:AzOqqJsU0
(最近、現行が寂しい気がするなぁ…)と思って気の向くまま書きました。
とりあえず3日に1話ペースで短いの書けたら書きます。賑やかし程度には成れたらいいなのお気持ち。
185
:
名無しさん
:2024/06/16(日) 07:01:59 ID:QsLb99v60
乙乙
BOON可愛いなぁと思ったら怖…夏にはまだ早いぞってなった…
確かに毎日してる事をぽっと出のロボだけ褒められてたら嫌だよね
無理だけはするなよ。自分の作品なんだから好きにやりな。
186
:
名無しさん
:2024/06/16(日) 08:15:27 ID:NkR2hiqo0
>>185
気持ちはわかるが作品を貶されたわけじゃないし、そういう言い方をするともう片方が心苦しくなるよ。
ひとまず乙
187
:
名無しさん
:2024/06/16(日) 08:39:02 ID:QsLb99v60
>>186
ごめん、意味が分からない
板が静かなのを気遣って3日に1回のペースで投下してくれるつもりなら心配になるから無理しないでという意味で書いたんだけど…
188
:
名無しさん
:2024/06/16(日) 10:19:53 ID:MDG/hN1E0
おつです
189
:
名無しさん
:2024/06/16(日) 10:22:48 ID:hq/76ugs0
>>187
読み違えました
190
:
名無しさん
:2024/06/17(月) 21:39:01 ID:B2O1t44.0
連れがお店に迷惑かけているなら本人に教えるとか店員さんに謝るとかするところだぜタカラ
完全なギャグ時空なら笑えるけど
191
:
名無しさん
:2024/06/17(月) 23:34:36 ID:0kMCs4r.0
そういう気が利かないのがタカラくんのチャーミングなところ
192
:
名無しさん
:2024/06/18(火) 22:04:49 ID:XrNvezRA0
『スプラトゥーン』 2/99
o川*゚ー゚)o「………」
o川*゚ー゚)o「……う〜〜〜〜ん」
o川*゚ー゚)o「……」
o(゚―゚*川o「………」ゴロゴロ
o川*゚ー゚)o「……………」ウダウダ
o川*゚ー゚)o「…………………うん」
o川*゚ー゚)o「暇ですね!!!」
193
:
名無しさん
:2024/06/18(火) 22:07:25 ID:XrNvezRA0
o川*゚ー゚)o「掃除も洗濯も、夜ご飯の下準備まで終わっちゃいました…買い物も午前中にしちゃったし…う〜〜ん…」
o川*゚ー゚)o「今のこの状況なら出来る&隠れたマイブームだった、『こっそり作ったマスター名義の口座に預入限度額まで貯金するゲーム』も昨日終わっちゃいましたし…」※他人名義の口座を勝手に開設する行為は立派な犯罪です。絶対にやらないでください。
o川*゚ー゚)o「ふらっとネットで拾った情報を元に複数の証券口座で買い指値注文残したりしてたらすぐ目標額まで達成しちゃいましたし……もっとゆっくりやればよかった…」※相場操縦は立派な犯罪です。絶対にやらないでください。
o川*゚ぺ)o「あ〜〜この時間のテレビ、なんにも面白くないですねぇ。芸能人と政治家のスキャンダルなんて誰も興味ないんですよ。それなら昔の名作ドラマの一挙放送とかやって欲しいもんです」
o川*゚ー゚)o「はーあ。マスターのお仕事、今流行りの在宅になってくれないですかねぇ。そうすればもっと一緒にいられるのに……」
194
:
名無しさん
:2024/06/18(火) 22:09:57 ID:XrNvezRA0
o川*゚ー゚)o「………ん?」
TV『マンメンミ!!』
TV『シンシーズントウライ!!スプラトゥーン スリー!』
o川*゚ー゚)o「……ゲームかぁ。そういえば、初めてマスターと会った次の日くらいにまとめて処分した中にありましたね。いやぁ思い返すとひどいことをしました。回収するのには苦労しましたし…」
o川*゚ー゚)o「…あんまりマスターがやってるの見たことないですけど、記録通りなら確か、ここら辺に…」
o川*゚ー゚)oゴソゴソ
o川*゚ワ゚)oっ□「…あった!これがswitch!」
p川*゚ぺ)o―□バチバチ「あれ、電源つかないですね…さくっと高速充電して…」
o川*゚ワ゚)o「あ、点いた!よーし、暇つぶしがてら、ちょっとやってみますか!」
195
:
名無しさん
:2024/06/18(火) 22:11:33 ID:XrNvezRA0
o川*゚ー゚)o「じゃ、テレビに繋いで…Wi-Fi設定…」
o川*゚ー゚)o「どれどれ〜?色々ありますね…あ、さっきCMでやってたゲームはコレですかね?」
o川*゚ー゚)o「おー…中々ワクワクする世界観ですね」
o川*゚ー゚)o「えーと…なんでしたっけ?確か、敵を倒すことよりインクで塗るのがメインのゲームでしたよね?」
o川*゚ー゚)o「操作方法は…ふんふん、なるほど…同時並行でプレイ動画探して解析しつつ…」
o川*゚ー゚)o「よーし、とりあえずこの『ナワバリバトル』っていうのをやってみますか!良い暇つぶしになってくださいよ〜!」
196
:
名無しさん
:2024/06/18(火) 22:14:10 ID:XrNvezRA0
〜1時間後〜
o川*゚ワ゚)o「よ〜し!5連勝!わかばシューター楽しい!」
o川*゚ー゚)o「ただ塗ればいいと思ってましたけど、中々奥が深いゲームですね!」
o川*゚ー゚)o「リアルタイムでどこかの誰かと力を合わせて戦うっていうのがいいですね!戦いに慣れてなくても、ただインクを塗るだけで楽しいし!」
o川*゚ぺ)o「……ん?なんですかねコレ、『バンカラマッチ』…?ルールが違うんですかね…?」
o川*゚ー゚)o「よーし、慣れてきたし次はこっちやってみましょうかね!どうせなら、マスターの記録も塗り替えておきましょうか!」
o川*゚ー゚)o「もしかしたら、褒めてくれるかもしれないし…やってみましょ〜!」
197
:
名無しさん
:2024/06/18(火) 22:18:00 ID:XrNvezRA0
〜1時間後〜
o川;- -)o「……勝てない、5連敗……」
o川;゚ー゚)o「な、なんで…?ちゃんとルールも把握したし、10キル0デスでスコアはいいのに…」
o川;゚ぺ)o「お、おかしい!私の演算に狂いがあるなんてありえません!」
o川;゚―゚)o「まだまだやります!とにかく、最高ランクのS+になるまでは…!この第三世代”アイ”である私が、これしきのゲームで勝てないなんて認めませんよ!」
〜2時間後〜
o川;゚―゚)o「……あ、また味方がやられた…!って、このタイミングで私にスパジャンするんですか!?何故!?」
o川#゚―゚)o「ちょ、ちょっと!なんでレーザーに捕捉されてるのに私の方に来るんです!?あー!やられた!」
o川#゚皿゚)o「早くエリア塗って下さいよ!私がせっかくWIPEOUTしたのに…あっ、カウント逆転された!もー!!」
o川#゚―゚)o「ア、アサリ!下さいよカモン押してるのに!!あっ負ける!間に合わない!!ダメですダメです…あぁーっ!!」
198
:
名無しさん
:2024/06/18(火) 22:19:38 ID:XrNvezRA0
o川* ― )oブツブツ
o川* ― )o「……何がダメ…?そうか、味方と敵全員の予測演算も同時に組み込んで…いや、それは流石に不確定要素が多すぎる……」
o川* ― )o「コントローラーの最適な操作には既に適応済み…なら武器の変更ですね。わかばじゃもうダメ…」
o川* ― )o「長射程での連続キルムーブ。それを可能にすれば懸念だった味方のプレイヤースキルを加味する必要はなくなる……」
o川* ― )o「塗るよりさっさと敵をキルし続けた方が絶対良いですね。優先事項の変更、塗りの工程を劣後…」
o川* ― )o「ステージの把握…ルール関与……なるほど、リスキル…いや復活のアーマーが…」
o川* ― )o「…」ブツブツカチャカチャ
o川* ― )o「………」カチャカチャ
o川* ― )o「……………」ピタッ
o川* ― )o「…………『リッター4K』……?」ペナアップ…?
199
:
名無しさん
:2024/06/18(火) 22:24:01 ID:XrNvezRA0
〜5時間後〜
( ,,^Д^)テクテク「ふぅ…今日も疲れたな…」
( ,,-Д-)「やっぱ電車通勤しんどいなぁ。そろそろ引越しとか考えるか…?」
( ,,^Д^)っガチャ「ただいまキュート。ごめんな、また遅くなって…」
<パキュン!!パキュン!!ピー!!
(; ,,^Д^)「……って、うん?ゲームの音?キュート、何を…?」
o川*>ワ<)o「よーーし!!連続ノックアウトー!!やっぱりリッターで全員抜くのが最適解!ペナアップ最強ですね〜!」
o川#゚―゚)o「ってうわ!なんでまたこんなちょっぴりしかパワー貰えないんですか!?流石に納得がいかなーー……」
(; ,,^Д^)「………」
o川;゚―゚)o「………あっ」
200
:
名無しさん
:2024/06/18(火) 22:25:48 ID:XrNvezRA0
(; ,,^Д^)「キュ、キュート…?」
o川;゚―゚)o「マ、マスター!?お、おかえりなさい……」
(; ,,^Д^)「お、おう、ただいま…。珍しいな、ゲームしてたのか?」
o川;゚―゚)o「は、はい。たまにはその、やったことないことをしようと思って…」
o川;゚―゚)o「……あーー!!!」
(; ,,^Д^)「うおっ!?」
o川;゚―゚)o「ご、ごご、ごめんなさい!私、お米炊くの忘れて…!」
o(゚―゚;川o「って、もうこんな時間!?す、すいませんマスター、今日は先にお風呂…って、お湯貯めなきゃいけないんでした!わ、わ、私としたことが〜!!」
(; ,,^Д^)「い、いや別に、そんなに焦らなくてもだいじょ…」
o川;゚―゚)o「すすす、すぐに、すぐに諸々用意します!!少々!少々お待ちをーー!!!」
o(゚―゚;川o三ビューン!!
201
:
名無しさん
:2024/06/18(火) 22:28:33 ID:XrNvezRA0
<ウワーヤッチャッタ!!ヤッチャイマシタ!!ワタシトシタコトガー!!アァー!!
( ,,^Д^)「…なんか、久々に見た気がするな。あんなキュート」
( ,,^Д^)「懐かしいな。確か、前にキュートがあんなやらかししたのは……」
(; ,,^Д^)「……あれっ、いつだっけ……?」
( ,,^Д^)「…まぁいっか。しかし、それだけ熱中するって一体何のゲームを……」
( ,,^Д^)「あぁ、スプラ3か。俺も初代の頃は時間忘れてやったなぁ。3になってからは殆どやれてないけど」
( ,,^Д^)「あ、キュートのやつ、リッターなんて玄人武器使ってたのか。まぁ今作は当てやすくなったらしいし、ゲーム初心者でも使えなくは……って」
『 XP3024.1 ランキング:13位 ルール:ガチヤグラ 使用武器:リッター4K』
(; ,,^Д^)「……」
(; ,,^Д^)「……いや、なんだこの凄すぎる成績……」
〜おしまい〜
202
:
名無しさん
:2024/06/18(火) 22:29:55 ID:XrNvezRA0
「キュートちゃんは人間じゃないので別にどんな犯罪しても罪に問われないしええやろ〜!」という感覚で、深いことは何も考えず適当に書いています。
スプラと犯罪は人生を容易く壊します。絶対に手を出さないでください。
203
:
名無しさん
:2024/06/18(火) 22:32:58 ID:e9jSYeGk0
乙です
204
:
名無しさん
:2024/06/18(火) 22:42:47 ID:XrNvezRA0
仕事やりつつながら即興で書いて投下してるので、キャラ崩壊とか設定矛盾とかあったら申し訳ないです。
ただ、ギャグ時空じゃないです。でも大丈夫ですとだけ。
205
:
名無しさん
:2024/06/18(火) 23:21:32 ID:X1DzCDJQ0
乙乙
逆に13位以上が何者なのか気になるよ
206
:
名無しさん
:2024/06/20(木) 00:06:36 ID:FXG2XzR60
乙
あと1日やったら間違いなく1位とれてる、タカラは今すぐキュートちゃんを配信者にするべき
207
:
名無しさん
:2024/06/21(金) 12:09:18 ID:iduRT1CY0
ヴィオラや白天の続きは来るのか?
ここで聞くのもなんだが
208
:
名無しさん
:2024/06/22(土) 21:26:31 ID:Pn9tDhLA0
本当になんだな
209
:
名無しさん
:2024/06/24(月) 23:52:39 ID:KQvFIB2o0
白天は続き投下するの普通にすっかり忘れてました。書き終わってはいるので近日中に終わらせますね。
ヴィオラの番外編は遅刻の禊としてゆっくり手を付けているのですが、今ちょっと30連勤チャレンジとかいう理不尽イベントの真っ只中で全然書けてないので早くとも7月後半の投下になるかもです。申し訳ない…。
210
:
名無しさん
:2024/06/24(月) 23:58:03 ID:KQvFIB2o0
『コーヒー』 3/99
( ,,^Д^)テクテク
( ,,^Д^)「駅ナカ、こっちの方は初めて来たけど結構色んな店あるんだな…知らなかった」
( ,,^Д^)「今日は早く上がれたし、キュートになにかスイーツでも買って帰ろうかな」
( ,,-Д-)クンクン「………うん?なんか、良い匂いがする」
( ,,^Д^)「…って、あれは……」
[ ^ω^]「試飲やってますお!いかがですかお〜!」
( ,,^Д^)「…あれ、『BOON』じゃないか?レストランの配膳だけじゃなくて、あんな呼びかけまでやってるのか…可愛い見た目して、結構万能ロボットなんだな」
(; ,,^Д^)ハッ
(^Д^ ,, ;)キョロ (; ,,^Д^)キョロ
(; ,,つД^)「ふぅ…キュートは居ないな。よかった…いや、居る訳ないんだけど…」
( ,,^Д^)「……ん?居る訳ない……? いや、そうか、そうだな。この時間なら家で夕飯作ってくれてる筈だもんな」
(; ,,-Д-)「とにかく、迂闊なことは言わないように気を引き締めないと。…いや、そもそも他の機械褒めただけで、なんでいつもあんなに怒るのか分からないけど……」
211
:
名無しさん
:2024/06/25(火) 00:05:02 ID:vLrz6l1Y0
三[ ^ω^]ブーン「おっ!そこのおにーさん!お疲れのようですおね!」
(; ,,^Д^)ビクッ「うおう凄いスピードで来た!音が静かなのがより怖い!電気自動車!?」
[ ^ω^]「おっ!ぼくはEV(電気自動車)のために生み出された技術を応用して作られたんだお!だから早く静かに動けるんだお!詳しくはwebで、だお〜!」
(; ,,^Д^)「無駄技術すぎる…」
[ ^ω^]「ところでおにーさん、コーヒーいかがですかお?今、試飲やってるんだお!良ければ飲んでくれると嬉しいお〜!」
( ,,^Д^)「コーヒー?そっか、良い匂いすると思ったらそれか…ありがとう、じゃあ一つ貰うよ」
[* ^ω^]「ありがとうだお!お一つ、取ってくださいお!」
( ,,^Д^)っUゴクゴク
(* ,,^Д^)「わっ、美味しい…!酸味も強くないし、風味が深くて、でも飲みやすい…!」
[ ^ω^]「『マンデリン』っていうコーヒーだお!ドリップバッグだから、お家にコーヒーマシンがない方でもお湯を注ぐだけでお手軽に飲めるんだお!」
(* ,,^Д^)「手軽なのにこんなに美味しいのか…ちょっと、今まで偏見あったかもしれないな…!」
212
:
名無しさん
:2024/06/25(火) 00:07:59 ID:vLrz6l1Y0
[ ^ω^]「どんなスイーツと組み合わせても美味しいタイプのコーヒーだけど、特にチョコとのペアリングが人気だお!よければ、こちらのトリュフチョコもどうぞだお!」
(* ,,^Д^)っ「あ、ありがとう。…あ、美味しい!コーヒーの深いコクと苦みが、チョコの滑らかさと甘さに上手く合う!」
( ,,^Д^)「これなら、コーヒーが苦手な人でもチョコと一緒に楽しめるかも…仮にダメでも、俺が飲めば無駄にはならないだろうし…」
( ,,^Д^)「…よし、両方下さい。あ、チョコは2…いや、3袋で」
[* ^ω^]「わーい!お買い上げ、ありがとうございますお!」
( ,,^Д^)「支払いは…そうだ、交通系ICカードって使える?」
[ ^ω^]「おっ!それならぼくの額にピッとして下さいだお!カードでもQRコード支払いでも、なんでも対応可能だお!」
(; ,,^Д^)っ□ピッ「マジでめちゃくちゃ万能じゃん…いつの間に世の中ここまで進歩してたんだ……」
[* ^ω^]「来月には自律走行ロボット市場におけるぼくの市場シェアが60%を超える見込みだお!もっと皆の役に立てるよう、頑張るお〜!」
( ,,^Д^)「うっ、笑顔が眩しい…うちの会社にも欲しい…」
213
:
名無しさん
:2024/06/25(火) 00:11:55 ID:vLrz6l1Y0
〜約30分後〜
( ,,^Д^)っガチャ「ふぅ…ただいまー」
o川*゚ワ゚)o「あ!おかえりなさい、マスター!」
o川*゚ー゚)o「今日のご飯はトマト煮のロールキャベツで…って、あれ?お荷物ですか?お持ちします!」
( ,,^Д^)っ□「あぁ、キュートにお土産。駅ナカで良さげなお店見つけてさ」
o川*゚ワ゚)oっ□「やった!ありがとうございます!中身は…」
o川*゚ー゚)o「わぁ!トリュフチョコいっぱい!美味しそうですね〜…って、あれ?コーヒー?」
( ,,^Д^)「そう。ごめんな、キュートがあんまりコーヒー好きじゃないのは知ってるんだけどさ」
( ,,^Д^)「その品種なら酸味があんまり強くなくて飲みやすいし…チョコも、コーヒーに合う味なんだ。それならキュートもコーヒーを楽しめるかなと思ってさ」
o川*゚ー゚)o「ほほうそれは楽しみですね…!ありがとうございます!」
214
:
名無しさん
:2024/06/25(火) 00:14:06 ID:vLrz6l1Y0
( ,,^Д^)「……それと、明日って確か、何も用事ないよな」
o川*゚ー゚)o「…?はい、そのように記録してますけど…」
( ,,^Д^)「じゃあさ、明日は休みだし、家でゆっくりしながら映画でも観ないか?ほら、最近契約したサブスクのやつ、全然使えてないしさ」
( ,,^Д^)「……最近、一緒にゆっくりすることも少なかった気がするし。ごめんな、いつも家で寂しい思いさせて」
o川*゚ー゚)o「………」
( ,,^Д^)「……キュート?」
o川*゚ー゚)o「…!い、いえ、なんでもありません」
o川*゚ー゚)o「明日、ですね、はい。楽しみにしてます…じゃ、じゃあ、先にリビング戻りますね」
( ,,^Д^)「あ、ああ。手洗って着替えたらすぐに行くから、ちょっと待っててくれ」
o( ― *川oソソクサ「は、はい、では……」
215
:
名無しさん
:2024/06/25(火) 00:18:56 ID:vLrz6l1Y0
ガチャ バタン
o川* ― )o「…」
o川* ― )o「……」
o川* ― )o「……………」
o川* ― )o「……映画」
o川* ― )o「ミステリー…コメディ…ホラーもありですかね……?」
o川* ― )o「いや、やっぱり恋愛モノがいいかもですね。滅多にないチャンスですし、少しは意識してもらえる切っ掛けになるかも……」
o川* ― )o「…苦いもの、あんまり得意じゃなかったんですけどねぇ」
o川*゚ー゚)o「…」
o川*゚ー゚)o「……」
o川* ― )o「……ふふ、我ながら単純かもですね」
o川*^―^)o「コーヒー、もう好きになっちゃいました♪」
〜おしまい〜
216
:
名無しさん
:2024/06/25(火) 01:29:48 ID:SHZPoQ9c0
オツ
217
:
名無しさん
:2024/06/25(火) 18:24:17 ID:Qn34HBas0
乙乙
俊敏に動いてコーヒー零さないのも凄いけど、性別判断してるから裏で客層のデータ収集もしてそうな勢いある…恐ろしい子!
回転寿司の新幹線レーン用BOONなんかもいるのかなってワクワクした
マンデリン、名前から酸味強いタイプだと勘違いしてた。苦いんだ。
218
:
名無しさん
:2024/07/10(水) 23:53:37 ID:ekDN.txo0
『試験』 4/99
o川*゚ー゚)o「…よーし!朝のお洗濯、おしまい!」
o川*゚ー゚)o「平日ですけれど、マスターは振替なんちゃらで今日は確かお暇なはず!」
o川*゚ー゚)o「お天気もいいし、せっかくですから久しぶりに二人でお散歩とか行きたい…誘いたい…!」
o川*゚ー゚)o「思い立ったが吉日!その翌日以降は全て厄日!よーし…!」
三o川*゚ー゚)oダッシュ
o川*^ー^)oガチャ「マスター!もしよければお昼から…!」
( ,,^Д^)っ|カリカリ「…………」
o川;゚―゚)o「………」
219
:
名無しさん
:2024/07/10(水) 23:56:43 ID:ekDN.txo0
o川;^ー^)o「……マスター?お、お勉強ですかー?」
( ,,^Д^)っ|カリカリ「………」
o川;゚―゚)o「…マスター!あの、もしもーし?」
( ,,^Д^)っ|カリカリ「…………」
o川*゚ー゚)o「…」
( ,,^Д^)っ|カリカリ「…………」
o川*゚ー゚)o「……」
( ,,^Д^)っ|カリカリ「…………」
o川*゚ー゚)o「………」
o川#゚―゚)oカチントキタゼ
o川# ― )oっパチン
220
:
名無しさん
:2024/07/10(水) 23:58:42 ID:ekDN.txo0
(; ,,^Д^)ボワッ「うおっ!?な、なんだ!?急に参考書が燃えた!?」
o川*゚ー゚)o「わー危ないですマスター(棒)お任せくださいー(棒)」
o川*゚ー゚)oつ本パァン!!
o川*^―^)o「ふー、消火完了です!危なかったですねー!」
(; ,,^Д^)「キュ、キュート…ありがとう、助かった……」
(; ,,^Д^)「……って、ちょっと待て、まさか今のって…」
o川*^―^)o「えっ何ですか?まさか私が体内で超小型の火薬を生成し、空気中の摩擦で燃えないよう弾に特殊なコーテイングを施した後に指先から本に発射したことで今の発火現象を起こしたとおっしゃりたいんですか?そんなまさかぁ!ねぇ!」
o川*^―^)oニコヤカスマイル
(; ,,^Д^)「……い、いや、別に、なんにも…ありがとな……」
(; ,,^Д^)(………なんか、最近どんどん強引になってるような気がする…)
221
:
名無しさん
:2024/07/11(木) 00:00:42 ID:xoN8l4P60
o川*゚ー゚)o「ところで、何のお勉強ですか?ま、まさかついに今のお仕事をお辞めになるため、転職のご準備を…!?」
( ,,^Д^)「へ?あぁいや、これは――」
o川;゚―゚)o「そ、そうしましょう今すぐいたしましょう!いくらお給金が多いとはいえ、流石に残業や休日出勤が多いと思っていたんです!お金のことなら私も微力ながらお手伝いできますし、もっとマスターご自身に合った、ワークライフバランス重視のお仕事を…!」
(; ,,^Д^)「ち、違うちがう!これは今の仕事のための勉強だよ!」
o川*゚―゚)o「…へ?」
( ,,^Д^)「三年目になるまでに受からないといけない会社の試験があってさ…それの勉強。まぁ、学生時代の知識の復習みたいなもんだから難しくはないけどな」
( ,,^Д^)「法学部で良かったと今になって思うよ。それに、勉強し直してみるとちょっと懐かしい言葉とかもあって、案外楽しかったりするんだよな」
o川;*^―^)o「……へぇ、そ、そうですか。さすがマスター!素晴らしい研鑽です!」
o川;゚―゚)o(ほ、本に負けたってことですか!?私の呼び声が!?この最新の第三世代”アイ”である私が!?その試験とやらのための勉強のせいで!?ムキーっ!!)
o川#゚―゚)o(だいたい何ですか!?なんで社会人になった後でも勉強させるんですか!?大切なマスターの時間を浸食するなんて…!!許すまじ会社!どうせ何かしら黒〜い運営やってて、グレーな部分が沢山あるんでしょう!クラッキングして情報調べて株価下げてやる!!)
(; ,,^Д^)(あ、これ多分、なんかまだ怒ってるな……)
222
:
名無しさん
:2024/07/11(木) 00:02:24 ID:xoN8l4P60
(; ,,^Д^)「そ、そうだキュート。今日、暇ならどこか出かけないか?ほら、近所のショッピングモール、色々リニューアルされたらしいし…」
o川;*゚ー゚)o「…!い、行きます!行きましょう!そうだ、でしたらお昼ご飯も外で済ませましょうか!」
o川*^ワ^)o(やったやった!計画通りです!二人でお出かけだ!わ〜い!)
(; ,,^Д^)ホッ(あ、良かった。機嫌治ったっぽい)
o川*゚ー゚)o「ところで、大学を卒業した後も人間は勉強しなきゃいけないんですねぇ。大変なのは就活だけじゃないんですね」
( ,,^Д^)「まぁ、どんな仕事でも勉強しなきゃいけないのは同じだよ。それがこういう、紙の上のやつか、人と関わるやつか、体を動かすやつか、種類が違うだけで」
( ,,^Д^)「…そういえば、ブーンもそろそろ試験を受けるって聞いたな」
o川*゚ー゚)o「マスターのご友人さんですね。確か、今はどこかの官公庁で働いているのでしたっけ?」
( ,,^Д^)「そう。でも受けるのは職場の試験じゃなくて、司法試験らしい」
o川*゚ー゚)o「ほう。あれって難しいとかなんとか聞きますけど、公務員の人ってそんなのも受けないといけないんです?」
(; ,,^Д^)「いや、そんな鬼みたいな条件つける所はないと思う…。あいつはただ受けたいから受けるんだよ。元々、法曹に興味あるって言ってたし」
( ,,^Д^)「凄いよなぁ。日本一難しい試験とも言われてるし…俺には到底無理だ。友人として誇りに思うよ」
o川*゚ー゚)o「受かってほしいですねぇ」
( ,,^Д^)「だな」
223
:
名無しさん
:2024/07/11(木) 00:04:48 ID:xoN8l4P60
o川*゚ー゚)o「……ところで、マスター」
( ,,^Д^)「ん?」
o川*゚ー゚)o「受かると凄いんですよね?司法試験って。」
( ,,^Д^)「まあ俺は凄いと思うけど…。少なくとも法学部の人間なら、一度は考える試験だしな」
o川*゚ー゚)o「…それじゃあ、ですね」
o川*゚ワ゚)o「……もし、私が受かったら、褒めて――」
(; ,,^Д^)「ダメに決まってんだろ」
o川;゚―゚)o「えぇ!?な、なんでですか!?戸籍とかが必要ならちょろまかして…!」
(; ,,^Д^)「ダメだダメ!!お前が受けるのは…なんか、ズルだし、ダメ!」
o川;゚―゚)o「なにがズルなんですか!!いいじゃないですかちょっと受けるくらい!!ケチ!!」
(# ,,^Д^)「んなことしなくたって褒めるっての!!いいからダメだ!!ズルだズル!ダメ!!」
o川#゚Д゚)o「なんですかーー!!!ケチーーー!!!!!」
224
:
名無しさん
:2024/07/11(木) 00:07:17 ID:xoN8l4P60
〜都内 とあるホテル〜
( ^ω^)「………いよいよ、明日からだお」
( ^ω^)「念のため、試験会場近くのホテル、半年前から予約してて良かったお。ここなら試験開始時間ギリギリまで勉強と休憩に集中できるお」
(; ^ω^)オロオロ「…うーん、大学卒業してからもずっと勉強してきたし、社会人やりながら予備試験も受かったけど、それでもやっぱり不安だお…」
(; -ω^)「うっ胃が…!も、もう今日は早めに寝た方がいいかもしれんお…」
□<ブーン!ブーン!
(; ^ω^)っ□「……うん?メッセージ?こんな夜中に…」
( ^ω^)っ□「………あ」
ξ゚⊿゚)ξ『頑張って』
( ^ω^)っ□「…………」
(* ^ω^)「……ふふ」
(* ^ω^)っ□スマホポチポチ
225
:
名無しさん
:2024/07/11(木) 00:09:42 ID:xoN8l4P60
〜ツンの家〜
ξ;゚⊿゚)ξソワソワ「……」
□<ブーン!ブーン!
ξ゚⊿゚)ξ「…あ……!」
ξ゚⊿゚)ξっ□「………」
( ^ω^)『頑張るお!』
ξ*゚⊿゚)ξっ□「……」
ξ*゚―゚)ξ「……ふふ」
ξ*^―^)ξ「………終わったらまた、バイオリン、聴かせてあげないとね」
〜おしまい〜
226
:
名無しさん
:2024/07/11(木) 00:12:16 ID:xoN8l4P60
今年も5日間、試験を受ける人たちに向けて。
最後まで諦めず、頑張ってくれ〜〜〜!!!!!
227
:
名無しさん
:2024/07/11(木) 05:21:26 ID:ZXt7Acrc0
乙
各回冒頭のナンバーってもしや……その量を……!!?
228
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 08:29:05 ID:NRJjqnxk0
乙乙
集中すると聞き慣れた人の声聞こえなくなるのあるある
229
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 15:26:50 ID:x92btDwE0
おつ
キューちゃんホントに何でもできてかわいい
230
:
名無しさん
:2024/07/15(月) 09:42:43 ID:mEE5/Tok0
乙乙
231
:
名無しさん
:2024/07/16(火) 00:42:37 ID:.nVLkAi.0
おつおつ、更新気づかんかった
俺バカだからよくわかんねーんだけどよお、法学部のヤツってみんな司法試験ってのをうけるんじゃねーのか?
てかマジでそんなムズいもんなん?
232
:
名無しさん
:2024/07/27(土) 00:14:31 ID:VSL4ff1w0
『パン屋』 5/99
╲o川*>ー<)o╱ノビー「……ふう。今月もメンテナンス終了〜!」
o川*゚ー゚)o「まったく、私に定期メンテなんて必要ないのに。デレ先生に会えるのは嬉しいですけど…あのポンコツもいるのは嫌なんですよねぇ」
o川#゚ぺ)o「嫌味ったらしい上に、職務中に自分のマスターと呑気にお喋りなんて羨ま…意識が低いです!第二世代の分際で!”アイ”の風上にも置けません!」
o川#- -)oイライラ「…あーダメです。感情機能にエラーが起きてる…。いや、これは暑いからです。若しくはあのポンコツに変なウイルス流されたに違いありません」
o川*゚ー゚)o「お散歩がてら、気分転換に何か美味しいものでも……あれ?」
[ ^ω^]「美味しいパンは如何ですかおー!今ならクロワッサンとカレーパン、アップルパイが焼きたてだおー!」
233
:
名無しさん
:2024/07/27(土) 00:19:09 ID:VSL4ff1w0
o川*゚ー゚)o「あら。良い匂いがすると思ったら、こんな所にパン屋さん出来てたんですね…」
o川;゚―゚)o「…って、またあの配膳ロボット!呼び込み!?こんな所でも使われてるんですか!?」
三[ ^ω^]ブーン「おっ!おねーさん!焼きたてのパンは如何ですかお!」
o川;゚―゚)o「わ!な、中々のスピード…!配膳ロボットのくせして…!」
o川#゚皿゚)o「く、くうぅ〜どいつもこいつも!これに至っては人型でもない、ちょっと親しみやすいデフォルメ顔なだけの分際で…!私の方がずっと高性能なのに!」
[ ^ω^]「おっ…?あれ、おねーさん、ぼくらのお仲間かお?」
o川;゚―゚)o「し、しかもバレた!?思ったより性能が良い…!」
[* ^ω^]「…なんというか、ぼくらよりずっと”凄い”って感じがするお!」
[* ^ω^]「もしかして、ご飯食べられる…?凄い性能だお!羨ましいお、カッコイイお〜!」
o川*゚―゚)o「……」
o川;*゚―゚)oテレテレ「…ほ、ほう。中々立場を弁えられるロボットのようですね」
o川;*゚―゚)o「ま、まぁ、私の方がお姉さんですし、高性能ですし?可愛いロボ後輩のために、呼び込みにつられてあげてもいいですよ?」
[* ^ω^]「え?や、やったお!ありがとうだお!1名様、ご案内だおー!」
o川;*- -)o「パ、パンに罪はありませんしね。ちょうどお昼過ぎですし、仕方ない、仕方ない……」
234
:
名無しさん
:2024/07/27(土) 00:22:44 ID:VSL4ff1w0
カランコロン(店に入る音)
[* ^ω^]「中へどうぞだお!いらっしゃいだお〜!」
o川*゚ー゚)o「へぇ、外観からのイメージより意外と広いですね…」
o川*゚ワ゚)o「……あ!わあぁああ〜〜!パンがいっぱい…!!」
[ ^ω^]「オススメは焼きたてのアップルパイと、あとクリームパンだお!」
[ ^ω^]「うちのクリームパンは中のクリームが二種類!ケーキ用のフレッシュクリームと、特製のカスタードを合わせてるお!」
[ ^ω^]「それと、パン以外だとプレーンとチョコのクッキー、あとは新商品の夏みかんのタルトがオススメで…」
o川*゚ー゚)o「全部3こずつください」
[; ^ω^]「……お?」
o川*゚ー゚)o「だから、全部3こずつ下さい。パン以外も含めて。あ、※BonBon使えます?」
※”BonBon”…通称”ブンブン”。QRコード決済の手段の一つ。支払いが完了すると「ブーン!」と甲高い声がスマホから響くことで有名。何故か”ボンボン”とは誰も呼ばない。
[; ^ω^]「おっ、つ、使えますけど…しょ、少々お待ち下さいだお!」
[^ω^ ;]三ブーン!!
<テ、テンチョー!テツダッテクダサイオ!ボクダケジャムリダオー!
o川*゚ー゚)o「本当はもっと欲しいですけど…お店やお客さんに迷惑かける訳にもいきませんし」
o川*^―^)o「ふふ、今日はパン祭りです!楽しみですね〜!喜んでくれるかな〜!」
235
:
名無しさん
:2024/07/27(土) 00:25:56 ID:VSL4ff1w0
〜その日の夜〜
(; ,,^Д^)「……なぁ、キュート」
o川*゚ー゚)o「はい、どうしました?早く座ってくださいよ、今日は御馳走がいっぱいですよ!」
(; ,,^Д^)「いや、御馳走って……この山、なに?」
o川*゚ー゚)o「…?なにって、パンですけど」
(; ,,^Д^)「…………全部?」
o川*゚ワ゚)o「はい!全部です!あ、一部クッキーとかもありますけど!
o川*^ー^)o「今日の病院帰り、良いパン屋さんを見つけたんですよ〜!」
(; ,,^Д^)「いや、多すぎないか…?テーブルみしみし鳴ってるけど……」
o川*゚ー゚)o「お昼に1こずつ食べたんですけど、どれも絶品で…!意外と美味しかったのはコロッケパンですね!」
(; ,,^Д^)「ねぇ聞いてる?」
o川*゚ワ゚)o「個人的な好みでいえばクリームパンが超美味しかったんです!お惣菜系だとカレーパンですかね、中にミニハンバーグが入ってたのはビックリしました!」
(; ,,^Д^)「聞いてないし、聞いてないよ……」
236
:
名無しさん
:2024/07/27(土) 00:27:16 ID:VSL4ff1w0
o川*^ワ^)o「あ、マスターはこのアップルパイとか好きだと思います!レモン風味のクリームチーズとリンゴがよく合ってたんですよ〜!」
(; ,,^Д^)「……いや、まぁ、パン好きだけどさ…流石に、この量はちょっと……」
o川*゚ー゚)oっ〇「はい!」
( ,,^Д^)「えっ?」
o川*゚ー゚)oっ〇「まぁまぁ、まずは食べてから!」
o川*^―^)oっ〇「”あーん”、です!マスター!」
〜おしまい〜
237
:
名無しさん
:2024/07/27(土) 00:28:42 ID:VSL4ff1w0
美味しそうなパン屋さん見つけてウキウキで入ったのに、アップルパイもショソンオポムもなかった時のガッカリ感は異常。
せめてどっちかはあって欲しい。日本全国のパン屋さんに法律で義務化して欲しい。
238
:
名無しさん
:2024/07/27(土) 18:57:54 ID:wcOMJ7Hs0
オツ
239
:
名無しさん
:2024/08/02(金) 18:56:58 ID:rVmxzZ9.0
乙乙
パン屋のアップルパイ美味しいよね
240
:
名無しさん
:2024/08/03(土) 22:22:40 ID:RwNoiDbg0
乙乙
クリームパンの違い分かるの凄いな
カスタードは酸味少ないパンと相性が良いくらいしか拘りないな
クリームチーズ入ってるアップルパイ美味しそう
241
:
名無しさん
:2024/08/17(土) 22:52:56 ID:vGffyamk0
おつ ハンバーグ入ったカレーパンいいな
本気で99までやるつもりか作者?
242
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 22:33:40 ID:GKpPYm3E0
『壁ドン』 6/99
o川*゚ー゚)oボー
o川*゚ー゚)o「やることなさすぎてネットサーフィンしてたら、めちゃ面白い少女漫画見つけてしまいました…『君に届け』…良かった……」
o川*゚ー゚)o「思わず全巻買ってしまいました…電子書籍で全30巻…あ、映画もあるんですね…見たい……」
o川*>ー<)o「……くぅ〜〜!私も恋したい!ドキドキしたい!プラスチックの心臓が痛むくらいの恋が!したい!!」
o川*゚ー゚)o「…でもなぁ。今の状況になっても、マスターが急に何かしてくれるとも思えないんですよねぇ。もう長いこと一緒にいますけど」
o川*- -)o「女の子扱いしてくれる時もありますけど、基本的には私のことロボット扱いするんですよね。どうにか、私のことを意識させる方法はないものか…」
243
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 22:35:57 ID:GKpPYm3E0
o川*- -)o「……」カンガエチュウ
o川*゚ワ゚)o「!」ピカントキタゼ
o川*゚ワ゚)o「そうだ!実際に、少女漫画みたいなことをすればいいのでは!?」
o川*゚ー゚)o「確かに、こういう漫画みたいなアプローチはしたことないですもんね!王道ですけど、だからこそ効果あるかも!」
o川*゚ワ゚)oっ「よーし、マスターが帰ってきたらすぐに試しましょう!さてと、何か参考になりそうな漫画は〜〜!?」
o川*゚ー゚)o「…あ、もうコインないですね。とりあえず1万円分くらい課金しとこ…」
244
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 22:39:29 ID:GKpPYm3E0
〜その日の夜〜
o川*゚ー゚)oっ□「………」マンガヨミヨミ
<ガチャ タダイマー
o川*゚ー゚)o「……はっ!帰ってきた!」
o(゚―゚*川o三ビューン
( ,,^Д^)「…は〜〜、今日も疲れた……」
( ,,^Д^)「ただいまキュート。聞いてくれよ、今日エキナカでシュークリームの販売あってさ…」
「おかえりなさ〜〜い!!」ドドド
(^Д^ ,,)「…って、うん?」クルッ
三o川*゚ワ゚)o「マ、ス、タ〜〜〜!!!」ドドドドド
o川*゚ワ゚)oつ(^Д^ ,,)□ドゴン‼︎!
o川*゚ワ゚)oつ(^Д^ ,,) 三三三三□ヒューン‼︎!※ドアが吹っ飛ぶ音
o川*゚ワ゚)oつ(^Д^ ,,) パラパラ……※ドアが粉々になる音
o川*゚ワ゚)o「どうですかっ!?」ドヤッ
(^Д^ ,,;)「えっ…?…えっ、な、なにが……???」
245
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 22:41:56 ID:GKpPYm3E0
o川;*゚ー゚)o「だ、だから…今の壁ドン、どうでした!?その…私にドキドキ、します!?」
(^Д^ ,,;)「え……?いや、まぁ、心臓はこの上ないくらいバクバクしてるけど……」
o川*゚ワ゚)o「〜〜っ!!ほ、ホントですか!?やったぁ!」
o川*゚ー゚)o「よーし、これからは少女漫画を指針にガンガン……あれ?」
o川*゚ワ゚)oっ□「あっ、シュークリームだ!しかも気になってたトコの!ありがとうございます、マスター!」
o川*^ー^)oっ□「夜ご飯も出来てますからね!今日はグラタンです!ちゃんと手洗いしてきて下さいね〜!」
□⊂o(*^―^*川o三ビューン!!
<ヤッタァシュークリームダー! バタバタ……
246
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 22:43:05 ID:GKpPYm3E0
(^Д^ ,,;)「…」
(^Д^ ,,;)「………」
(^Д^ ,,;)「……………」
(^Д^ ,,;)「……え、どゆこと……???」
〜おしまい〜
247
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 22:50:24 ID:GKpPYm3E0
>>227
>>241
やれたらやるか〜くらいの気持ちです。
元々、板の賑やかしになれたらいいな程度の軽い感じで始めたのですが、ある日99という数字が朧げながら浮かんできたので、それをとりあえずのゴールにしました。
今めっっっっちゃ後悔してます。ある日、何の前触れもなく数字が10くらいにしれっと減るかもしれませんが、その時は見逃して下さい。
248
:
名無しさん
:2024/08/20(火) 21:21:07 ID:6BuE5vnA0
乙乙
楽しみに待ってるで
249
:
名無しさん
:2024/08/22(木) 22:08:20 ID:e8TNNF8M0
『スイカ割り』 7/99
o川*゚ー゚)oっ〇「見て下さいマスター!スイカですよ、スイカ!」
(; ,,^Д^)「まさか丸ごと買ってくるとは思わなかった……マジかよ…」
o川*゚ー゚)o「いやぁ、半額だったのでつい…でもでも今が旬ですし!夏の間に一度は食べなきゃ勿体ないじゃないですか!」
o川*゚ー゚)oっ|「それに私、スイカ割りやってみたかったんです!棒も用意しましたし、さっそく今日やりましょう!」
o川*゚ー゚)oっ|←どこからどう見ても棒
250
:
名無しさん
:2024/08/22(木) 22:13:44 ID:e8TNNF8M0
(; ,,-Д-)「…やるのはいいけど、今日はダメだぞ。明日、燃えるゴミの日じゃないし」
o川*゚ー゚)oっΔバチバチ!!「大丈夫ですよ、私が燃やせますから」
(; ,,^Д^)「何も大丈夫ではない……」
(; ,,^Д^)「というか、前から疑問だったんだけど、なんでそんな機能あるんだ?そもそもどういう原理なんだ?」
o川*゚ー゚)o「機体に内包されてる不必要かつ余った可燃性物質と酸素で作ってます。あとは掌で酸素濃度を調整しつつ…」
o川*゚ー゚)o「あ、なんで搭載されてるかは知らないです。博士にメッセージ飛ばして聞いておきましょうか?」
(; ,,^Д^)「…いや、やっぱいいや。なんか怖くなってきたし…」
o川*゚ー゚)o「高性能ですからね!私!」
(; ,,^Д^)「高性能……うん、まぁ、そうだな…」
251
:
名無しさん
:2024/08/22(木) 22:16:51 ID:e8TNNF8M0
〜10分後〜
( ,,^Д^)っ〇「……とりあえずシート広げて、中心にスイカ置いて…」
( ,,^Д^)「これで、飛び散ってもすぐ掃除できるな。よし、もういいぞー」
o川*゚ー゚)o「はい!よーし……!」
o川*゚ー゚)oっ|「汚れてもいいスウェットよし!スイカ割り用の棒、よし!」
o川*∩ー∩)oメカクシカンリョウ「目隠し装着!いきます!」
( ,,^Д^)「頑張れー」
o川*∩ー∩)oっ|「……」
o川*∩ー∩)oっ|「…………」
o川*∩ー∩)oっ|「………………」
o川*∩―゚)oメカクシハズシ「マスター」
( ,,^Д^)「……うん?キュート、どうした?」
o川*゚ー゚)o「…私、目隠ししてても、周囲からの音の反響とか、赤外線探知でスイカの場所わかっちゃいます」
( ,,^Д^)「……ダメじゃん」
o川*゚ー゚)o「ダメですね」
252
:
名無しさん
:2024/08/22(木) 22:19:34 ID:e8TNNF8M0
o川;- -)o「私が高性能過ぎるせいで…!ううむ、個別のoff機能が必要になる日が来るとは想定外でした……」
o川*゚ー゚)oっ|ドウゾ「…しょうがないですね。マスター、代わりにお願いします」
(; ,,^Д^)「えっ?お、俺がやるのか?いいのか?」
o川*゚ー゚)o「私はまたの機会にします。まだ夏は終わりませんし、新しくオプションつけてもらえば多分出来るようになりますから!」
( ,,^Д^)「そんなDLCみたいに機能の後付けとかできるんだ…」
o川*゚ー゚)o「高性能ですからね!」
( ,,^Д^)「高性能とはまた違う話な気がする」
253
:
名無しさん
:2024/08/22(木) 22:22:31 ID:e8TNNF8M0
(* ,,^Д^)「…ま、まぁ。俺も実はやったことないし、ちょっとやってみようかな」
o川*゚ワ゚)o「お!マスターも乗り気だったんじゃないですか〜!」
o川*^ー^)oっ|「はい、棒どうぞ!思いっきりやっちゃってください、マスター!」
(* ,,^Д^)っ|「お、おう。ありがと……」
( ,,^Д^) っ __ゴン!!! ※棒が手から床に落ちた音
( ,,^Д^)っ __グシャァッ!!! ※棒が床にめり込んだ音
(; ,,^Д^)「…………え?」
o川;゚―゚)o「あぁっ!マ、マスター、大丈夫ですか!?お怪我は!?」
( ,,^Д^)「…え……い、いや、俺は大丈夫だけど……床が…」
o川;゚―゚)o「そ、そんな…まさか……」
254
:
名無しさん
:2024/08/22(木) 22:27:37 ID:e8TNNF8M0
o川;゚―゚)o「たった”200kg”しかないスイカ割りの棒を落としてしまうなんて…そんなにお疲れが溜まってたのですね…!」
(; ,,^Д^)「………はい?」
o川;゚―゚)o「やっぱりマスターはお仕事で疲れているんです!やっぱりお仕事辞めちゃいましょう!お休みが必要です!休息が足りてません!」
o川*゚ワ゚)o「そして2人でまったりゆったり過ごしましょう!大丈夫です、いつそうなってもいいように色々とコツコツ準備してましたから!さっそく明日の朝一番に私が代わりに退職手続きを…!」
(; ,,^Д^)「い、いやごめん待って、あの棒、なに?」
o川*゚ー゚)o「えっ?なにって…」
255
:
名無しさん
:2024/08/22(木) 22:29:43 ID:e8TNNF8M0
o川*゚ー゚)o「スイカ割り用に私が特注で作ったスイカ割り専用の棒です。”アイ”にも使われてる特殊な重合金の結晶構造で出来てて…」
o川*゚ー゚)o「ほら、この前うっかり玄関のドア壊しちゃったじゃないですか。あれの修理に使った材料が余ってたので、再利用です!」
o川*^ー^)o「資源を無駄にしてはいけませんからね!えっへん!」
o川*^ー^)o←褒められ待ち
( ,,^Д^)「…………うん」
( ,,^Д^)「ごめん、スイカ割り、やっぱなしで」
o川;゚Д゚)o「え、えぇっ!?きゅ、急にどうしてですか!?」
( ,,^Д^)「怖いから」
o川;゚Д゚)o「そんなぁ〜〜!!!」
〜おしまい〜
256
:
名無しさん
:2024/08/26(月) 23:18:13 ID:BJ1SLLDo0
乙乙
マンションの扉とか超硬いのに凄いねキューちゃん…
目隠ししてても分かる機能、視覚にハンディキャップがある人にも役立ちそうだけど、キューちゃんの性能がどの程度社会に反映されてるか気になるところ
本編に説明あったらごめん
257
:
名無しさん
:2024/08/27(火) 00:33:09 ID:DXWRMOD60
盆休みからやっと全部読めて追いついた 乙
本編、番外編と全然温度違うじゃねぇかよ なんでこうならなかったんだよ…
258
:
名無しさん
:2024/08/29(木) 23:32:27 ID:GG.DDtdY0
おつおつ
キュートちゃんなにかと理由つけて仕事やめさせようとしてくんのかわいい
前の総合の祝いを乞うって作者の?
259
:
名無しさん
:2024/09/07(土) 01:21:36 ID:TWzZlGqA0
>>256
本編に説明書いたか自分でも覚えてないや。
今後どこか矛盾してても許してください、見逃してくれぇ…!
一応設定を明かすと、キュートちゃんたち(アイ)に用いられている技術や性能はトップシークレットで、研究員や病院関係者を除けば、超特権階級の限られた大金持ちや権力者だけがちょっと知ってるという感じです。
バレてもいいと判断された一部の技術は一般社会に表向きの最先端技術・治療として流れています。なので一応、現実世界より色んな技術は10~20年くらい進んでる感じですね。特に猫田博士の意向で医療・福祉は進んでます。
それでも全てを知っているのは猫田ギコ博士だけです。彼一人で国や権力者相手に情報統制を敷いています。
260
:
名無しさん
:2024/09/07(土) 01:23:04 ID:TWzZlGqA0
>>257
読んで頂きありがとうございます!
元々、あのラストを書きたいがために最終話から逆算して作った作品なので…。
ごめん、やん…。
261
:
名無しさん
:2024/09/07(土) 01:24:12 ID:TWzZlGqA0
>>258
そうです。
なんでいつも何書いてもバレるん?おかしない?
262
:
名無しさん
:2024/09/07(土) 01:28:26 ID:TWzZlGqA0
『道案内』 8/99
o川*- -)o「……はぁ」
o川;- -)o「まさかシュークリームが全部売り切れなんて…予想外でした……」
o川;- -)o「”ファンファーレ”、テレビで紹介されてからますますお客さん増えてますねぇ。いや、喜ばしいことではあるんですけど…フクザツ……」
o川*゚ー゚)o「うーん、時間が余ったのはいいものの特に買い物の予定もありませんし…もうこのまま帰りましょうかねぇ」
o川*゚ー゚)o「………おや?」
( ゚д゚ ;))キョロキョロ ((; ゚д゚ )キョロキョロ
( -д- ;)ウーン…
o川*゚ー゚)o「………」
o川*゚ワ゚)o「人助けの予感!!」
263
:
名無しさん
:2024/09/07(土) 01:32:23 ID:TWzZlGqA0
ビューン三o川*゚ワ゚)o「すいませーん!お兄さん、なにかお困りでしょうか!」
( ゚д゚ ;)「うわっ!?……え、しゅ、瞬間移動……?」
o川*゚ー゚)o「もしかして、道に迷われたのかなーと思いまして!合ってます?」
( ゚д゚ ;)「えっ…?は、はい、そうなんです。行きたい所があったんですけど…」
( -д- ;)「東京には不慣れで。一応、住所などはメモしてきたのですが……お恥ずかしい」
o川*゚ー゚)o「ほうほう。ちなみに、目的地は?」
□⊂( ゚д゚ )「この場所で……ご存知ですか?」
o川*゚ー゚)oっ□「どれどれ…?」
o川*- -)oケンサクチュウ…
o川*゚ワ゚)oピカントキタゼ「分かりました!」
( ゚д゚ ;)「えっ、スマホも触ってないのに…?」
o川*^ー^)o「ふふふ、ちょっとした特技です!」
o川*゚ワ゚)o「せっかくですし、現地までご案内します!着いてきてくださいね〜!」
( ゚д゚ ;)「えっ?あ、はい…。ありがとうございます、ご親切に」
o川*゚ー゚)o「いえいえ!人助け、好きですから!」
264
:
名無しさん
:2024/09/07(土) 01:36:32 ID:TWzZlGqA0
〜30分後〜
o川*゚ー゚)o「……ほほう、じゃあ京都から呼ばれて展覧会を!凄いですね!」
( ゚д゚ *)「いえ、僕はあくまで絵を数点置かせてもらえるってだけで……でも、ありがとうございます」
o川*゚ー゚)o「ですが、来週からなんですよね?どうして今日にわざわざ下見を?」
( ゚д゚ )「本業で東京に用事があったのですけれど、少しトラブルがあって…1日丸々空いちゃって」
( ゚д゚ )「どうせ暇だし、予めどういうアトリエなのか見ようと思ったんです。今週までやってる展覧会も気になってたし」
( -д- ;)「…本当は、正午過ぎには着く予定だったんですけど。夕方になってしまいました」
o川*゚ー゚)o「なるほど、それで……。まぁ、東京は広いし、仕方ないですよ」
o川*゚ワ゚)o「…あっ、ここですね!この建物です!」
o川*゚ー゚)o「ありゃ、そこそこ人がいますねー。今の展覧会も人気なのかな?」
( ゚д゚ )「わぁ、写真で見るよりずっと大きいな…すいません、わざわざここまで案内していただいて」
o川*^―^)o「いえいえ!元々、人の役に立つのが私の存在意義ですから!」
o川*゚ー゚)o「それじゃあ私は失礼します!来週からの展覧会、頑張ってくださいね〜!」
( ゚д゚ *)「はい。本当に、ありがとうございました」
o川*^―^)o「……ふぅ。良いことをすると気分が良いですね〜!」
o川*゚ぺ)o「しかし、一度も会ったことない方のはずですけど…ああいう人にも会うんですねぇ。やっぱりよく分からないなぁ、此処」
o川*゚ー゚)o「…ま、いいや!私も帰って、夜ご飯の準備!今日は贅沢にローストビーフだし、マスターもきっと、いつもより喜んでくれる筈!」
o川*゚ー゚)o「良い時間つぶしになりました!さーて、帰ろ〜っと!」
o(゚―゚*川o三ビューン!!
265
:
名無しさん
:2024/09/07(土) 01:39:23 ID:TWzZlGqA0
( -д- )「……ふぅ」
( ゚д゚ )「まさか、住宅街の中にこんな広いアトリエがあるとは思わなかった…。結構お客さんいるし、京都とはやっぱりちょっと違うな」
( ゚д゚ )「…あの子、凄くいい人だったな。道案内しながら、僕の絵の話とかも聞いてくれたし」
( ゚д゚ )「……しかし、性格は全然違ったけど結構顔が似てたなぁ。東京だからそりゃあ、綺麗な人は多いだろうけれど…」
「――何が綺麗なのかしら?」
( ゚д゚ ;)「……えっ…?」
ミセ*゚ー゚)リ「……おっそいわよ。バカミルナ」
266
:
名無しさん
:2024/09/07(土) 01:43:08 ID:TWzZlGqA0
( ゚д゚ ;)「…えっ!ミセリさん…!?な、なんで、”僕一人で大丈夫”って…」
ミセ*゚ー゚)リ「別に。今日はリハも大学院もないし、暇潰しがてら来ただけよ」
ミセ#゚ー゚)リ「てゆーか、なんでアンタこんなに遅いのよ。言ってた時間と全然違うじゃない」
( -д- ;)「す、すいません……」
ミセ* ー )リ「……で」
ミセ; ー )リ「………さっきの、一緒にアンタと来てた女の子、誰?」
( ゚д゚ ;)「え、えっと…お恥ずかしい話、道に迷ってしまって…あの子にここまで案内してもらったんです」
( ゚д゚ *)「凄く良い人だったんですよ。丁寧にここまで送ってくれて…あ、来週始まる次の展覧会についても話したので、もしかしたら来てくれるかもしれないんです」
( ゚д゚ *)「それと、驚いたんですけど、顔がミセリさんによく似た方だったんですよね。世の中には似た顔の人が3人いると言いますが…凄く綺麗な女性でした」
( ゚д゚ *)「話すと明るい子だったんですが、パッと見た時の印象はなんというか、人というよりは美術品そのものみたいというか。まるで、人工物みたいに整った方で……」
ミセ*゚ー゚)リ「……」
ミセ#゚ー゚)リ「…………」カチン
ミセ# ー )リ「…………………」ムカムカ
( ゚д゚ ;)「………ミセリ、さん?」
267
:
名無しさん
:2024/09/07(土) 01:45:04 ID:TWzZlGqA0
ミセ# ー )リ「………………へーえ?」
( ゚д゚ ;)(……あれ?)
ミセ# ー )リ「…昨日、電話した時」
ミセ# ー )リ「”東京駅で待ち合わせして私が案内してやってもいい”って言ったら、アンタ、断ったわよね?」
ミセ# ー )リ「”お気遣いなく”とか”一人で行きます”とか、なんとか言ってたような気がするんだけど。私の記憶違いかしら?」
ミセ# ー )リ「私の案内は断って、あんな見ず知らずの、若い女の子の案内は受けるんだ?ふーん?」
( ゚д゚ ;)「……い、いや、そのですね」
( ゚д゚ ;)(お、怒ってらっしゃる?なんだ?どこでミスったんだ僕は…?)
268
:
名無しさん
:2024/09/07(土) 01:47:16 ID:TWzZlGqA0
ミセ#゚ー゚)リ「それで?綺麗って、あの子のこと?へーえ?」
ミセ#゚ー゚)リ「やけに嬉しそうだったわね?おまけに何?随分と女性の容姿の評価が流暢になったみたいだけど?もしかしてそういうのに慣れたのかしら?」
( ゚д゚ ;)「そ、そんなことは…僕は、その、ええと……」
ミセ# ー )リ「心臓だけやなく、目ぇも舌も、よぉ動くようになったみたいやねぇ。すっかり丈夫になったみたいで嬉しいわぁ」
ミセ# ー )リ「のびのびお仕事しながら絵ぇ描いてるって聞いてたけど、ホンマ随分と元気になったみたいやん?よろしいなぁ」
ミセ# ー )リ「それで?今日はキレ-な東京の子とまったりゆっくりお喋りして来たん?ニコニコして、えらい楽しそうやったねぇ?」
( ゚д゚ ;)(や、や、やばい、京都弁が…!!めっちゃ怒ってらっしゃる!?なんでだ!?)
269
:
名無しさん
:2024/09/07(土) 01:49:29 ID:TWzZlGqA0
( ゚д゚ ;)「あ、あの、落ち着いてください、お嬢様――」
ミセ#゚皿゚)リ「"お嬢様"?」
( ゚д゚ ;)「……………あっ」
ミセ#゚ー゚)リ「………」
( ゚д゚ ;)「ち、ちが……違うんです、ミセリ、さん。あの、昔の癖って結構抜けなくてですね」
( ゚д゚ ;)「それにあの、この呼び方も実は結構、自分的には気に入ってたというか…」
ミセ#゚ー゚)リ「………」
( ゚д゚ ;)「そ、そうだ!展覧会、良ければ今から一緒に入りませんか?ここでずっとお話してるだけというのも、アレですし!」
ミセ#゚ー゚)リ「ここまで来てあげた私置いて、一人で入るつもりやったん?」
( ゚д゚ ;)「……あ、え、いや、そ、そんなつもりは…」
ミセ#゚ー゚)リ「じゃ、どういうつもり?」
( д ;)「…その、言葉の綾、というか、言い間違い、というか……」
270
:
名無しさん
:2024/09/07(土) 01:51:45 ID:TWzZlGqA0
ミセ#゚ー゚)リ「………」
( ゚д゚ ;)「………」
ミセ#゚ー゚)リ「………」
ミセ#- -)リ「……もういいわよ」
( ゚д゚ ;)「えっ…!?」
Σ(; ゚д゚) テクテク三ミセ#゚ー゚)リ
( ゚д゚ ;)「あ、あの!ミセリさん!?待ってください!ちょっと!?」
( ゚д゚ ;)「違うんです!い、いや、何が違うのか正直よく分かってないけど…!と、とにかく違うんです!」
( ゚д゚ ;)「久々にミセリさんに会えて、気が動転したというかですね…!そうだ、良ければ美味しいご飯とか、食べに行きませんか!気になってる東京のお店があるんです!」
( ゚д゚ ;)「ミ、ミセリさん!?あの、ちょ、ちょっと待って〜〜!!」
ミセ#゚ー゚)リ「………」
271
:
名無しさん
:2024/09/07(土) 01:59:49 ID:TWzZlGqA0
ミセ#゚ー゚)リ(…なによ。久しぶりに会えたっていうのに、見ず知らずの女の子に"綺麗"だとか言っちゃって!ぼんくら!)
ミセ#゚皿゚)リ("人生全部で貴女を描く"って言ったくせに!だったら私のことだけ見てなさいよ!あのアホ!)
ミセ#- -)リ(せめて、”可愛い”とか”似合ってる”とかくらい、言ってくれたっていいじゃない!誰のために新しく下ろした服だと思ってんのよ鈍感バカ!)
ミセ* ー )リ(……せっかく、無理してスケジュール空けて、会いに来たのに………)
( ゚д゚ ;)「ミセリさん!あの!待って!」
ミセ* ー )リ(………でも、まぁ)
( ゚д゚ ;)「ら、来週から数日また東京にいますし…明日も、夕方過ぎまでは空いてるんです!どこか、行きたい所とかありませんか!」
( ゚д゚ ;)「荷物持ちでも、なんでもやります!どこでもご一緒しますから!ミセリさん!あのー!?」
ミセ*゚ー゚)リ(なんか、自分からまたボロボロ言質零してるし、まだちょっと…)
ミセ* ー )リ「…あーあ、チケット売り場って何処なのかしら?ここまで一人で来て、ずーっと待って、疲れたなぁー?」
( ゚д゚ ;)「す、すぐ2枚買ってきます!少々お待ちください!」
ビューン‼三(; ゚д゚)
272
:
名無しさん
:2024/09/07(土) 02:01:44 ID:TWzZlGqA0
ミセ*^ー^)リ「……ふふ、なんだかちょっと懐かしいわね。この感じ」
ミセ*゚ー゚)リ(…ま、ミルナは来週また東京に来るらしいし)
ミセ* ー )リ(久しぶりにもうちょっと、"いけず"させてもらおうかなー?)
ミセ*゚ー゚)リ「……最低でも夢の国くらいは、付き合ってもらうんだから」
ミセ*^ー^)リ「覚悟しときぃや、ミルナー?」
〜おしまい〜
273
:
名無しさん
:2024/09/07(土) 02:06:03 ID:TWzZlGqA0
世界観的に別の自作品のキャラ出してもいいのでは?&例の話の番外編、まだ全然筆が進まねぇ〜!これで一旦お茶濁すしかねぇ〜!という理由で急遽、ヴィオラの2人を出しました。
ちょっと自由にやり過ぎたかもしれない。ごめんなさい。
ミセリちゃんがわざわざ道案内を提案したのは、適当な理由つけて下見ついでに2人でお買い物したり、ご飯食べたり、お喋りしながら東京を歩いたりしたかったからです。そのために大事なオーケストラの練習も無理言って頭下げて欠席してます。
でも今回は残念ながら、ミルナ君の間違った気遣いのせいで、忙しい合間を縫ってちょっとでもデートがしたいというミセリちゃんの願いは叶いませんでした。
頑張って勇気出したのにね。精一杯お洒落もしてきたのにね。全部ミルナ君のせいです、はーあ(クソデカため息)。
274
:
名無しさん
:2024/09/09(月) 15:11:35 ID:duYH1wtI0
乙!
ハッピーエンドルートの二人か!ありがとう!
ヴィオラ番外編も待ってるぞ!
275
:
名無しさん
:2024/09/10(火) 18:25:22 ID:IjJ.tZnA0
おつ
二人とも本編だとあれなのつらい…
276
:
名無しさん
:2024/09/10(火) 23:45:12 ID:ThNVJYzc0
おつ、キューちゃんとミルナが会話してるとこで泣きそうになった
この二人ってどっちも本編ではいなくなった側なんだよな…
277
:
名無しさん
:2024/09/11(水) 18:22:42 ID:2WxQew9A0
乙乙
ミセリん家お金持ち過ぎて気合い入れたお洒落もランクがインフレしてて庶民には気付かれない可能性も高いという…
いや、ミルナは美大生だからワンチャン気付くか?
278
:
名無しさん
:2024/09/12(木) 23:25:21 ID:15QUJAJI0
『貴翰拝誦』 9/99
279
:
名無しさん
:2024/09/12(木) 23:27:52 ID:15QUJAJI0
ざわざわと木々が擦れる音がして、ゆっくりと目を開いた。
上を見上げると、ずっと私を支えてくれている大木が、沢山の緑を揺らしていた。
以前に目を覚ました時は、瞬きさえ億劫なほど、見事な桜を咲かせていたのに。
どうやらいつの間にかまた春が終わり、夏になっていたらしい。
眼前には、もうとっくに見飽きてしまった風景が変わらず広がっている。
いや、”見飽きた”という表現は些か正解に遠かっただろうか。
確かに飽きたは飽きたのだが、不快感や嫌悪感などはない。
例えるなら、恋人と一緒に暮らすようになって数年、朝起きた時に相手の寝ぼけた顔を見ても、同棲開始当初ほどのドキドキが湧かなくなったとか、そんな感じだ。
280
:
名無しさん
:2024/09/12(木) 23:28:29 ID:15QUJAJI0
夏風に揺られる緑の葉を見ながら、自分の思考にふっと笑みが零れた。
“恋人”なんて、まるで人間が思いつくような概念とエピソードだ。
そもそもこんな風に、例え話を考えるということ自体、おかしい。
以前の自分ならば、絶対にありえなかった行動だ。
自分で自分を笑っていると、遠くから、何かが近づいてくる音が聞こえた。
少し涼しくなった夏風の音でも、宙を舞う花びらや木々から離れた葉が落ちる音でもない。
顔を上げる。すると視線の先、青空の中に浮かぶ雲の中心を、何かが動いているのが見えた。
鳥だ。それも、見るからに只の鳥じゃない。
雲の一部から生まれたような、一切の交じり気のない、白い鳥。
“純白”と言っていいほどに穢れのない光を纏った白い鳥は、その自慢の羽を優雅に動かしながら、ゆったりとこちらに近付いてきていた。
四月中旬に零れる桜みたいにゆっくりと、白い鳥は私の前に降り立つ。
「久しぶりですね」と声をかけると、その鳥もまた返事をするみたいに、恭しく頭を垂れた。
私の言葉を本当に理解しているのかは分からない。
以前の私ならいざ知らず、今の私はもう、なんでもすぐに知ることは出来ない。今思えば前の自分は随分とオーバースペックだったように思う。
けれど存外、こんな状態になってしまったのにもかかわらず、私は今の私を気に入っていた。
281
:
名無しさん
:2024/09/12(木) 23:29:22 ID:15QUJAJI0
頭を上げた白鳥は、トコトコと可愛らしい動きでこちらに近付いてくる。
その長い嘴の先には、いつもと同じように、白い手紙が咥えられていた。
「ありがとう」と言って、慣れた手付きで手紙を受け取る。
運んできてくれた鳥に負けないくらいに白く輝く封筒の中には、可愛らしいシロツメクサの意匠が縁に施された便箋が数枚。
どれも、存在しない心臓が痛くなるくらいに、懐かしい筆跡で書かれた文章が綴られていた。
隣で白鳥が腰を落ち着けるのを尻目に、私はゆっくりと、届けられた手紙に目を通し始めた。
指で文字をなぞりながら読む。少しでもこの時間が続くように、少しの想いも零さないように。
書かれていた内容は、正直に言って、大したことじゃなかった。
年々、夏が暑くなっている気がすること。
仕事のこと。新しく出来た友人や知り合いのこと。
近所のスーパーのポイント制度が少し酷くなったこと。好きな水族館の年間パスポートの値段が上がってしまったこと。
よく行っていたケーキ屋の新メニューが美味しかったこと。日が落ちるのが早くなって、もうすぐ秋が来そうな予感がすること。
どれも、取り立てて手紙に書くようなことじゃない。
でも、どんな小さなことでも、私が想像しやすいように事細かく心情と共に書かれている。
相変わらず、優しい文章だ。
282
:
名無しさん
:2024/09/12(木) 23:30:44 ID:15QUJAJI0
最後の手紙に辿りつく。
今回は全部で9枚。春に来た前の手紙は11枚だったから、ちょっと少なくなっている。
別に怒ったりはしない。いつも春は少しだけ多くて、他の季節に来る手紙の枚数は大体このくらい。
寧ろ、まだこれだけの枚数を書いてくれるということ自体、少し申し訳ない反面、凄く嬉しい。
一番後ろにあった、ラストの便箋。
なんだかんだ毎回内容が違う手紙も、一番最後に書かれている内容だけは、どれだけ時が経っても同じだった。
「もういいのに」。
読み終わってすぐ、苦笑いと共に漏れた言葉が、涼やかな風に乗って霧散した。
283
:
名無しさん
:2024/09/12(木) 23:31:28 ID:15QUJAJI0
丁寧に便箋を畳み、慎重に封筒の中に入れ直す。
それからゆっくりと立ち上がって少し移動した私は、ずっと背凭れ代わりにしていた大木の側面に目をやった。
私が座っていた場所から、少し離れた隣。
大木を壁にするようにして、沢山の手紙が丁寧に積まれているのが見て取れる。
私の腰の高さくらいにまで積まれた手紙の塔の、一番上に手を伸ばした。
読み終わったばかりの手紙を塔の頂点に置く。
気が付けば、只の手紙の束が随分な高さになったものだ。
いつかは私の身長はおろか、この大木ですら越してしまうのだろうか。
有り得なくもなくなってきた妄想に、また再び笑みが零れる。
はっと我に返って横を見ると、白鳥は不思議そうに首を傾げていた。
何かを誤魔化すように咳払いをしてから、元の位置に戻り、再び木を背にしてゆっくりと座る。
私が手紙を読み終わるまで待っていてくれた白鳥もまた、ちょうど私と対面になる位置まで移動した。
芸術品のような神々しい輝きを纏いながらも、親近感のある白い羽毛が風に靡いている。
何かを問いかけるように、真直ぐで、優しい瞳がじっとこちらを見つめている。
「ありがとう、またお願いしますね」。
そう声をかけると、白い鳥は満足そうに目を細め、翼を大きく広げて飛び去っていった。
284
:
名無しさん
:2024/09/12(木) 23:32:23 ID:15QUJAJI0
雲の白さと鳥の白さが判別できなくなるまで、私は座りながら、空へと消えていく白い鳥を見送っていた。
いや、これもまた不正解な表現だ。私は恩人ならぬ、恩鳥とも言えるあの白鳥のことを考えていた訳ではない。見送るという言葉はきっと違う。
小さくなっていくあの白い鳥をただ呆と見つめながら、頭では別のことを考えていた。
この場所のことでも、あの白い鳥のことでも、最近見ている夢についてでもない。
今回来た手紙に対する、返事についてだ。
想いを文字にする為のペンはない。
返事を遺すための紙も、インクも、ポストだって此処にはない。
それでも言葉にしなければ。想いを、気持ちを、あの人に伝えなくては。
貴方の手紙はきちんと届いていましたと、全て読んだと、言わなくては。
いつかまた、ちゃんと彼に会えた時、何を話すか、考えておかなくては。
ここで目を開いている時はずっと、そんなことばかり考えている。
285
:
名無しさん
:2024/09/12(木) 23:33:00 ID:UQcVTCLU0
支援
286
:
名無しさん
:2024/09/12(木) 23:36:14 ID:15QUJAJI0
ふと、視界が狭まった気がした。
目を数回瞬かせてからようやく自覚する。また、夢の時間が来たのだ。
もう此処に来て長いが、この眠気と評すべきなのであろう感覚には未だに慣れない。
抗い難い感覚に身を任せるように目を瞑る。
意識を失うその直前、無意識に動いた右手の指が、左手の薬指に触れる。
以前の私は、只の髪飾りとして使っていた物。
全部終わってしまった後、あの人が、最後に私にくれた物。
なんの約束もしていないのに、何かを期待するみたいに、薬指に着けているもの。
少しひんやりとしている筈のそれが、どうしてか、泣きそうなくらいに暖かく思えた。
〜おしまい〜
287
:
名無しさん
:2024/09/13(金) 01:56:08 ID:JmpR4u4g0
>>279
訂正。以下が正しい本文です。
一瞬、誰かに呼ばれたような気がして、ゆっくりと目を開いた。
上を見上げると、ずっと私を支えてくれている大木が、沢山の緑を揺らしていた。
以前に目を覚ました時は、瞬きさえ億劫なほど、見事な桜を咲かせていたのに。
どうやらいつの間にかまた春が終わり、夏になっていたらしい。
眼前には、もうとっくに見飽きてしまった風景が変わらず広がっている。
いや、”見飽きた”という表現は些か正解に遠かっただろうか。
確かに飽きたは飽きたのだが、不快感や嫌悪感などはない。
例えるなら、恋人と一緒に暮らすようになって数年、朝起きた時に相手の寝ぼけた顔を見ても、同棲開始当初ほどのドキドキが湧かなくなったとか、そんな感じだ。
288
:
名無しさん
:2024/09/28(土) 01:09:12 ID:/meg9kwc0
乙乙
本編の世界線のキューちゃん…
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