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ξ゚⊿゚)ξツンはゴーレムに抱かれるようです
1
:
名も無きAAのようです
:2013/04/08(月) 23:22:38 ID:.ttKZDj60
ξ゚⊿゚)ξy‐~
ツンは、地平線というものを見たことが無い。
壁に囲まれたこの街に生まれた者はみんなそうだ。
誰もが限られた円形の中で、蠢きながら死ぬ時を待っている。
ξ゚⊿゚)ξy‐~ (……いい天気)
自分の通う高校の屋上は貯水槽の上、ツンはタバコを指に挟み空を仰ぐ。
青く、澄んだ天井。
通り過ぎてゆく雲がツンを見下し、壁の向こうへ消えた。
ξ゚⊿゚)ξy‐~ 「聞いてたより、美味しくないな。臭い」
手を伸ばして煙草を体から遠ざける。
初めて買って、初めて口をつけた紙巻のそれ。
大人たちがしょっちゅう吸っているから少しは期待したのだが、そこまでの魅力は感じられない。
ξ゚⊿゚)ξσ゙⌒ ヽ~ 「てーい」
まだ半分程しか進んでいない煙草を指で弾き捨てる。
煙と、小さな赤い光の軌跡を描いて、煙草はぽとりと屋上に落ちた。
風もないし、火事になったりすることは無いだろう。
2
:
名も無きAAのようです
:2013/04/08(月) 23:26:00 ID:.ttKZDj60
しかし、少々問題はあったようで。
(´・_ゝ・`) 「……津雲」
ξ;゚⊿゚)ξ 「ゲェ」
ツンが捨てた煙草を拾い上げる男。
いつからいたのか、担任教師の盛岡デミタスだ。
貯水槽の縁に座るツンを眉を潜めて見上げている。
(´・_ゝ・`) 「喫煙は個人の自由だが、ポイ捨ては感心せんな」
ξ;-⊿-)ξ 「はーい。ごめんなさい」
勢いをつけて屋上に飛び降りる。
短くもないが長くもないスカートがふわりとめくれ上がった。
デミタスはさりげなく視線を横に流す。
ξ゚⊿゚)ξ 「スパッツ履いてるから平気ですよ」
(´・_ゝ・`) 「そういう問題じゃないんだよ」
デミタスがチョップでツンの頭を叩く。
形式だけの罰は非常に軽く、痛みは無いも同然だった。
3
:
名も無きAAのようです
:2013/04/08(月) 23:27:06 ID:.ttKZDj60
(´・_ゝ・`) 「しかし、お前もタバコ吸うんだな」
ξ゚⊿゚)ξ 「吸ったの今日が初めてですよ。試しにやってみたんです」
(´・_ゝ・`) 「……エコーじゃねえか。よくもまあ初めてでこんなの吸おうと思ったな」
ξ゚⊿゚)ξ 「安かったから。ダメなやつなんですか?」
(´・_ゝ・`) 「不味かったろ?」
ξ゚⊿゚)ξ 「不味かったです。舌がビリビリしました」
(´・_ゝ・`)y-~ 「……」
デミタスは手に持ったエコーをおもむろに咥えた。
鼻から煙が抜け、火が僅かに明滅を見せる。
眉を顰め、すぐに口を離した。
(´・_ゝ・`) 「ひでえな」
ξ;゚⊿゚)ξ 「何やってんですか」
(´・_ゝ・`) 「ちっと吸ってみたくなった」
ξ;゚⊿゚)ξ 「それ私が捨てたやつですよ」
(´・_ゝ・`) 「捨てたんだったら別にいいだろ」
4
:
名も無きAAのようです
:2013/04/08(月) 23:28:20 ID:.ttKZDj60
ξ;゚⊿゚)ξ 「いや口つけてたし、少しは気にしてくださいよ」
(´・_ゝ・`) 「ああ、そういう意味?お前もそういうの気にすんのな」
ξ;゚⊿゚)ξ「そりゃ、一応女ですし」
ツンの返答を聞いてデミタスは口元を歪ませた。
小ばかにするような嘲笑。
少し腹が立って、その手から煙草を奪い取り、地面に押し付ける。
(´・_ゝ・`) 「お前、灰皿は?」
ξ;゚⊿゚)ξ 「持ってないです」
(´・_ゝ・`) 「ちゃんと持っとけよ。基本のマナーだぞ」
ξ;゚⊿゚)ξ 「すいませーん……」
デミタスがくたびれた背広の内ポケットから差し出したのは携帯用の灰皿。
彼も既に何本か吸っていたらしく、中には数本の吸殻がある。
ツンはぞんざいに頭を下げて、そこに消した煙草を入れた。
5
:
名も無きAAのようです
:2013/04/08(月) 23:29:07 ID:.ttKZDj60
(´・_ゝ・`) 「初めてがエコーじゃたまらねえだろ。吸うか?」
灰皿と入れ違いにデミタスがツンに差し出したのは煙草の入った箱。
白い箱に青のアクセントが入った箱で、コンビニで見かけたことがある銘柄だった。
アルファベット表記でよくわからないがFで始まる名前らしい。
ξ゚⊿゚)ξσ 「じゃ、一本だけ」
(´・_ゝ・`) 「100円な」
ξ゚⊿゚)ξ 「出世払いで」
(´・_ゝ・`) 「そういうことは、出世できる奴がいうもんだ」
引き抜いた白いそれは、ほんのりと甘い香りがした。
ただただヤニの臭いが強かった先ほどの煙草に比べれば、格段にいい匂いだ。
(´・_ゝ・`)つ臼 「ほら、火」
ξ゚⊿゚)ξy- 「どうも」
年季の入ったライターで煙草に火をつけた。
軽く吹かすと、苦味の他にほんの少しだが甘いようなまろやかさを感じる。
エコーよりはいくらか口当たりがいい。
6
:
名も無きAAのようです
:2013/04/08(月) 23:30:29 ID:.ttKZDj60
(´・_ゝ・`)y-~ 「どうだ」
ξ゚⊿゚)ξy-~ 「美味い、のかな。よくわかんないです」
(´・_ゝ・`)y-~ 「最初はそんなもんだ」
彼も火をつけ、美味そうに吹かし始めた。
二人並んで屋上を囲む柵に寄りかかる。
デミタスは背中を預け、地面に座り。
ツンは胸を押し付け、街の風景を見ながら、しばし黙って紫煙を空に溶かしていた。
(´・_ゝ・`) 「……いい天気だ」
ξ゚⊿゚)ξ 「ほんと。梅雨も終わりかな」
(´・_ゝ・`) 「今年は長かったな、梅雨」
ξ゚⊿゚)ξ 「ですよね。どうせあんな壁作ったんだから屋根もつけてくれればよかったのに」
(´・_ゝ・`) 「……あー、開閉するやつな」
ξ゚⊿゚)ξ 「そうそう。あれば便利なのになー」
7
:
名も無きAAのようです
:2013/04/08(月) 23:31:46 ID:.ttKZDj60
ツンの視線は再び街を囲う巨大な壁へ。
今彼女たちのいる屋上は、四階相当の高さであるが、壁はさらにその倍以上は高くなっている。
高層ビルの類がもともと少ないこの街では、外の世界を望む方法は少ない。
外の世界を全く持って知らないわけでは無い。
テレビは外の番組も視聴できるし、防護ガラス越しであれば外の人間と会話することもできる。
ただ、知識としてだけ与えられている『外』が同じ国だと言われても、全く現実感がわかないのだ。
(´・_ゝ・`)y-~ 「そういえばお前さ、授業は?」
ξ;゚⊿゚)ξy-~ 「今更ですか」
(´・_ゝ・`)y-~ 「もう珍しくもないから、聞くの忘れてたよ」
ξ;゚⊿゚)ξy-~ 「さぼりました。歴史だし」
(´・_ゝ・`)y-~ 「歴史って、セント先生か。いい人だろ」
ξ゚⊿゚)ξy-~ 「先生の人柄と、授業を受けるかどうかは関係ないんですって」
(´・_ゝ・`)y-~ 「あー、まあわからなくはないな」
とんとん、と指で叩いて灰を落とす。
味はいいような気がするが、どうにも灰が零れやすくて少々吸いにくく感じる。
8
:
名も無きAAのようです
:2013/04/08(月) 23:33:03 ID:.ttKZDj60
ξ゚⊿゚)ξy-~ 「先生は?」
(´・_ゝ・`)y-~ 「面倒だったから自習にしてきた」
ξ;゚⊿゚)ξy-~ 「えー、そっちの方が質悪い……」
(´・_ゝ・`)y-~ 「あれだよ。二組さ、英語の課題、バカみたいに出されたんだろ?」
ξ゚⊿゚)ξy-~ 「あー、なんか授業中騒いでる人に怒っていっぱい出したって聞きました」
(´・_ゝ・`)y-~ 「だから、それをやる時間をやったんだよ」
ξ゚ー゚)ξy-~ 「嘘だ」
(´・_ゝ・`)y-~ 「おう」
ξ;゚⊿゚)ξy- 「認めるの早いですよ」
話しているうちに、火がフィルターまで届いていた。
デミタスに灰皿を借り、吸殻を捨てる。
(´・_ゝ・`)y-~ 「女子高生の口つけた吸殻なんて、それなりに需要ありそうだよな」
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっと、やめてくださいよ」
9
:
名も無きAAのようです
:2013/04/08(月) 23:34:43 ID:.ttKZDj60
デミタスが再び口の端を歪ませた。
笑うのが下手なのか、あまりいい顔ではない。
同級生の中には、こういう気だるげで癖のある雰囲気がいいという女の子もいるが、ツンには少々分かりかねる。
(´・_ゝ・`) 「さてと」
ξ゚⊿゚)ξ 「戻るんですか?」
(´・_ゝ・`) 「もともと一服しに来ただけだから。お前は?」
ξ゚⊿゚)ξ 「はい?」
(´・_ゝ・`) 「戻らないのか?」
ξ;゚⊿゚)ξ「こんな時間に戻れるわけないじゃないですか、常識的に」
(´・_ゝ・`) 「どんな常識だよ」
立ち上がりざま、本日二度目の説教チョップ。
相変わらず痛くはないが、やられることそのものが少々複雑な心境を生む。
優等生を気取るつもりはないものの、自身の悪行を指摘されるというのはどうにもばつが悪い。
10
:
名も無きAAのようです
:2013/04/08(月) 23:36:35 ID:.ttKZDj60
やや拗ねる表情を見せるツン。
デミタスはそれを無視し自身の尻を叩いて埃を落とした。
背広で隠れる腰の裏に備え付けられた銃が何となく目につく。
(´・_ゝ・`) 「あんまりサボると進級できなくなるからな」
ξ゚⊿゚)ξ 「はーい。気を付けます」
(´・_ゝ・`) 「やる気あんのか」
ξ゚ー゚)ξ 「あんまり」
デミタスの嘆息。
心からの呆れを表す力の無い表情が不思議と面白い。
(´・_ゝ・`) 「不良はほっといて、俺はちゃんと先生してくるか」
ξ゚⊿゚)ξ 「頑張ってください」
(´・_ゝ・`) 「おう。お前のサボりもキッチリ報告しておくからな」
ξ;゚⊿゚)ξ 「げぇ……」
デミタスがツンに背を向け、屋上の入口へ歩いてゆく。
後ろ手で手を振られた。
細い手首が左右に揺れ、骨ばった手がプラプラと揺れて、なんだかお化けの様だ。
11
:
名も無きAAのようです
:2013/04/08(月) 23:37:17 ID:.ttKZDj60
ガチン、と扉が閉まって彼の姿は見えなくなった。
耳を澄ませば、やる気なく階段を下りてゆくその足音が聞こえる。
それすらも遠くなると、屋上にはもう音は無い。
正しくは、ツンが耳を傾けていたいと思うような、心地のいい音は存在していなかった。
暇に耐えかねて、ポケットから携帯電話を取り出し、コチコチと弄る。
気づかなかったが、メールが来ていた。
同じクラスの仲のいい女の子。
ツンとはタイプが違って、明るく社交的だが、席が近いため何となく仲良くなった。
ξ゚⊿゚)ξ
つ日 コチコチ
「どこにいるの?」というだけの旨を三行ほどにボリュームアップしたメールに、二文字のメールを返す。
きっとすぐに返信が来るため、ポケットにはしまわず、手に持ったまま柵に体重を預けた。
ヴー――……
ξ゚⊿゚)ξ
つ日 コチ……
予想通り、すぐに返信が来る。
サボっているツンよりも反応が早い当たり流石だな、と少しだけ笑った。
12
:
名も無きAAのようです
:2013/04/08(月) 23:38:11 ID:.ttKZDj60
ξ゚ー゚)ξ 「……サボってんのはどっちだよっての」
つ日
下手に返すと無駄に長くなるので、返信はせず携帯電話を閉じた。
再びの無音。
相変わらず鳥のいない空には、雲が眠たげに流れている。
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
何となく思いついて、胸ポケットにねじ込んであった煙草の箱を取り出した。
改めて見ると、デザインが古臭くてカッコ悪い。
デミタスの持っていたFなんちゃらの方が、すっきりした見た目だった。
ξ゚⊿゚)ξy- 「今度買うなら、あれにしてみよっかな」
100円のライターが、小気味のいい音と共に火を灯す。
咥えた煙草の先端を炙り、軽く吸い込む。
先ほど、初めて吸った時は火がなかなかつけられなくて苦闘したが、分かってしまえば簡単なものである。
ξ゚⊿゚)ξy-~ 「……あ、灰皿どうしよ」
柵に背を預け、座り込んでから思い出した。
一度注意された手前(もともと褒められたことではないけれど)ポイ捨てをする気にはなれない。
ξ゚⊿゚)ξy-~ 「いいや、すい終わったら考えよう」
楽観的に考えるのをやめて、大きく煙を吸い込む。
自分で買った煙草はやっぱりおいしいとは思えなくて、ツンはチャイムが鳴るまでしばらく、その小さな火を眺めて過ごしていた。
13
:
名も無きAAのようです
:2013/04/08(月) 23:39:44 ID:ANG5WYNw0
なんか良さげなのが来たな
14
:
名も無きAAのようです
:2013/04/08(月) 23:40:10 ID:.ttKZDj60
# -6 「少しは気にしてくださいよ」 おわり
.
15
:
名も無きAAのようです
:2013/04/09(火) 00:03:00 ID:Fg8LDda20
なんかいいな
乙
16
:
名も無きAAのようです
:2013/04/09(火) 00:26:55 ID:cjKRbmVM0
期待
17
:
名も無きAAのようです
:2013/04/09(火) 02:02:55 ID:KiaHrPe60
スレタイでパンツ脱いだけど履きます
18
:
名も無きAAのようです
:2013/04/09(火) 03:02:08 ID:t4PRZdE6O
最初が# -6からというのが気になる
前にも同じような始めかたの作品あったけど
19
:
名も無きAAのようです
:2013/04/09(火) 11:36:57 ID:eqiWpbb60
パンツ履いた
20
:
名も無きAAのようです
:2013/04/09(火) 17:59:41 ID:L/bEikBY0
パンツ窓から投げ捨てた
21
:
名も無きAAのようです
:2013/04/09(火) 22:56:09 ID:5ceOKMoQ0
――――私の友達は、とってもかっこよいのだ。
# -5 「寂しいんじゃないかと思いまして」
.
22
:
名も無きAAのようです
:2013/04/09(火) 22:56:55 ID:5ceOKMoQ0
o川*゚ー゚)o 「つーんちゃん、おっかえっりでっすかぁー?」
ξ゚⊿゚)ξ 「うん、また明日ね、キュート」
o川 ゚ -゚)o
ξ;゚⊿゚)ξ 「……わかったわよ。どっか行きたいの?」
o川*゚ー゚)o 「えへへー、ツンちゃんのそゆとこ好きぃー」
絡みついた腕は、細いのに力強くて、とても頼りになる。
嫌そうにしながらも私の要求を聞いてくれる、そんな優しさがとても好きで。
だから放課後は毎日、彼女と一緒に居たいと思ってしまう。
o川*゚ー゚)o 「中央に新しく開いた靴屋さん知ってる?」
ξ゚⊿゚)ξ 「前、雑貨屋さんだったところ?」
o川*゚ー゚)o 「そうそう!そこにさ、外の新しいモデルがあるらしくって、ちょっと見に行きたいんだー」
ξ゚⊿゚)ξ 「一人で?」
o川 ゚ -゚)o 「ツンちゃんと」
ξ;゚⊿゚)ξ「はいはい、行くから、拗ねないの」
o川*゚ー゚)o 「わーい!帰りにクレープおごってあげるね!」
23
:
名も無きAAのようです
:2013/04/09(火) 22:57:36 ID:5ceOKMoQ0
たとえば、この街が悲壮感に溢れた檻の中だとして。
そして、私たちが檻の中に囚われた哀れな囚人だったとして。
だからと言って、毎日を鬱屈と、下を向いて、どうしようも無く出来てしまう濃い影の中に、張り付くように生きるのは違うと思う。
辛いなら、楽しいことを。
悲しいなら、うれしいことを。
そうやって自分で優しい何かを見つけて行けば、きっと牢獄の中だって素敵なお家になってしまうはずなのだから。
ξ゚⊿゚)ξ 「へー、結構可愛いトコ」
o川*゚ー゚)o 「ツンちゃんたまに女子高生っぽいこと言うよね」
ξ゚⊿゚)ξ 「女子高生だからね」
o川*゚ー゚)o 「実は知ってました!」
ξ゚⊿゚)ξ 「はいはい、いいから入るよ」
o川*゚ー゚)o 「あーん、まってよー」
24
:
名も無きAAのようです
:2013/04/09(火) 22:58:24 ID:5ceOKMoQ0
o川*゚ー゚)o 「ねー、これどうかな」
ξ゚⊿゚)ξ 「似合うんじゃない?」
o川*゚ー゚)o 「ちょっと、せめて5秒くらいは見てよ」
ξ゚⊿゚)ξ 「…1」
ξ゚⊿゚)ξ 「…2」
ξ゚⊿゚)ξ 「…3」
ξ゚⊿゚)ξ 「…4」
ξ゚⊿゚)ξ 「…5」
o川*゚ー゚)o 「どうでしょ!」
ξ゚ー゚)ξ 「似合うんじゃない?」
o川*゚ -゚)o 「ツンちゃん……今の5秒間、返して……」
大好きな友達と過ごす時間は、大好きな時間になる。
小さく、唇の端を上げるだけの彼女の笑顔がとてもかわいい。
25
:
名も無きAAのようです
:2013/04/09(火) 23:00:19 ID:5ceOKMoQ0
ξ゚⊿゚)ξ 「これとかいいんじゃない?」
o川*゚ー゚)o 「やだもーツンちゃん、それ、男物だよー」
ξ゚⊿゚)ξ 「え、嘘?」
o川*゚ -゚)o 「……え?」
ξ゚⊿゚)ξ
o川*゚ -゚)o
ξ゚⊿゚)ξ 「……冗談だから」
o川*゚ -゚)o 「ツンちゃん……」
ξ゚⊿゚)ξ 「冗談だから」
o川*゚ -゚)o 「……」
ξ;゚⊿゚)ξ 「ちょっと間違えただけです!」
o川*゚ー゚)o ニヤニヤ
時間はあっという間に過ぎる。
毎日がこんなに楽しかったら、きっと私たちはすぐに大人になれるんだろう。
26
:
名も無きAAのようです
:2013/04/09(火) 23:02:01 ID:5ceOKMoQ0
o川*゚ー゚)o 「結局何も買わなかったね」
ξ゚⊿゚)ξ 「私はもともと買う気無かったし」
o川*゚ー゚)o 「でもさ、可愛いのいっぱいあったよね」
ξ゚⊿゚)ξ 「あー、うん。お小遣い貰ったら買いにいこうかな」
o川*゚ー゚)o 「わーい!その時は誘ってね!」
ξ゚⊿゚)ξ 「はいはい」
お店を出て、少し大きな通りを二人で並んで歩く。
私たちの他にも高校生や中学生が歩いていて賑やかだ。
外の世界は知らない。
小さな窓か、テレビくらいでしか見たことがない。
だけれど、案外この街は、外と大して変わらないんじゃないのかなって、少し期待を込めながら思ったりする。
27
:
名も無きAAのようです
:2013/04/09(火) 23:03:54 ID:5ceOKMoQ0
次に立ち寄ったのは、いつものクレープ屋さん。
同じ学校の人も多い、人気のところだ。
私のお気に入りはチョコバナナ+バニラアイス。
ツンちゃんのお気に入りはWベリー+マーブルアイス。
ξ*゚⊿゚)ξ 「やっぱり、おいしー」
o川*゚ー゚)o 「いっつもそれだよね」
ξ゚⊿゚)ξ 「キュートだっていっつもチョコバナナじゃん」
o川*゚ー゚)o 「私はねー、冒険よりも安寧の中に幸せを見出すタイプなんだよね」
ξ゚ー゚)ξ 「なにそれ」
o川*゚ー゚)o 「私もよくわかんない」
他愛のない話をいっぱいする。
いつかなくなってしまう時間はとても貴重だから。
私たちの時間は、“ふつう”よりもずっと短いから。
28
:
名も無きAAのようです
:2013/04/09(火) 23:05:22 ID:5ceOKMoQ0
o川*゚ー゚)o 「ツンちゃんさー」
ξ゚⊿゚)ξ 「ん?」
o川*゚ー゚)o 「最近いっつも屋上いるよね」
ξ゚⊿゚)ξ 「あー、なんか授業受けるのかったるくてさ」
o川*゚ー゚)o 「なにしてるの?お昼寝?」
ξ゚⊿゚)ξ 「大体そんな感じ」
少し目をそらした彼女が、多くを語りたく無さそうで、私はそれ以上を聞かない。
最近、ほんのりと煙草の臭いがすることとか、聞きたいことは、いっぱいあるけれど。
人には誰でも踏み込まれたくないテリトリーがあって、私はそこに踏み込むのがとても怖くて。
他人よりも少しだけその領域が広いツンちゃんに、嫌われてしまうのがすごくすごく怖くて。
29
:
名も無きAAのようです
:2013/04/09(火) 23:06:17 ID:5ceOKMoQ0
ξ゚⊿゚)ξ 「そういえばさ、デミタス先生もよく来るよ。屋上」
o川*゚д゚)o 「えー!」
ξ゚⊿゚)ξ 「たまに会うもん」
o川*゚д゚)o 「いいなー、私もデミちゃん先生と不意に合ってお話とかしたい……!」
ξ゚⊿゚)ξ 「……そんなにいいかな、あの人」
o川*゚ー゚)o 「いいですよ〜、あのヨレヨレた雰囲気はさ〜、ツンちゃんにはわからないかな〜」
ξ゚⊿゚)ξ 。o O( (´・_ゝ・`)y-~ ヨレーン )
ξ゚⊿゚)ξ 「ちょっとわかんないなあ」
o川*゚ー゚)o 「良いんですいいんです。ライバルは少ないくらいがいいんです」
ξ゚⊿゚)ξ 「……今度一緒にサボる?会えるかもよ」
o川*゚ -゚)o 「……うわぁ……悪魔の囁きだぁ……」
30
:
名も無きAAのようです
:2013/04/09(火) 23:08:52 ID:5ceOKMoQ0
やっぱり、時間は驚くほど速い。
傾きかけだった太陽は、完全に壁の向こうに隠れて、街の中はすぐに薄暗くなる。
空はまだ青く、西の方がうっすらと朱いから、まるでこの壁の中だけに黒い水を満たしたようで、とても寂しい気持ちになってしまう。
ちかちかと瞬く街頭を見上げて、ツンちゃんは「そろそろ帰ろうか」と呟いた。
私はベンチから立ち上がって大きく伸びをする。
o川*゚ー゚)o 「あー、楽しかった」
ξ゚⊿゚)ξ 「クレープ、ありがとね」
o川*゚ー゚)o 「ツンちゃんといられるならクレープくらい安いもんすっよ」
ξ゚⊿゚)ξ 「今度、私おごる」
o川*゚ー゚)o 「わーい!ほんと?!」
ξ゚ー゚)ξ 「嘘だったらどうする?」
o川*' -`)o 「ぬか喜びのあまり泣いてしまいます」
ξ゚ー゚)ξ 「じゃあ、うそ」
o川*゚д゚)o 「ちょっとー!」
31
:
名も無きAAのようです
:2013/04/09(火) 23:09:52 ID:5ceOKMoQ0
途中まで一緒の帰り道、いつも通りからかったり、からかわれたりしながら薄暗い道を歩く。
街灯の少ないこの道は一人だったらとても歩けないけれど、ツンちゃんと一緒なら全然平気。
ξ゚⊿゚)ξ 「じゃ、またね」
o川*゚ー゚)o 「うん、また来週!」
住宅地の十字路。
私たちは互いに手を振る。
数歩歩いて壁の向こう。
ツンちゃんの足音はもう遠い。
o川*゚ -゚)o (帰りたく、ないなあ)
待っているのは暗い部屋。
誰もいない孤独の空間。
淋しさだけを誇張する、虚しさの箱。
うつむいて歩いていると、指先に強い違和感を感じた。
咄嗟に逆の手で指を庇う。
握りしめた手の内側から、ジジジ、とノイズがかった音が聞こえた
32
:
名も無きAAのようです
:2013/04/09(火) 23:10:53 ID:5ceOKMoQ0
o川* - )o 「こんな、時にっ」
体に気だるさが広がっていく。
眠気に近い靄が脳みそに粘ついて、自然に膝をついた。
o川* - )o (……大丈夫、すぐ、すぐ収まる。私はまだ、4年だもん)
自分の言葉を、自分の体が裏切っていく。
いつもよりも長い。
苦痛も大きい。
手の中のノイズが、伝わる振動が少しづつ大きくなっている気がした。
嫌に現実味のある怖さが、胸の中いっぱいに広がってゆく。
いつか来る日が今日なのかもしれない。
そう思ったら、たまらなく不安になった。
不安で周りが見えなくなって、苦しいくらい寂しくなった。
ξ;゚⊿゚)ξ 「……キュート!」
o川。゚ -゚)o 「……ツン、ちゃん?」
不安と苦痛に押し潰されそうになっていた時に、ツンちゃんの声が聞こえた。
彼女の顔がぼやけて見えなくて、初めて自分が泣いていることに気づく。
33
:
名も無きAAのようです
:2013/04/09(火) 23:12:32 ID:5ceOKMoQ0
ξ;゚⊿゚)ξ 「発作?大丈夫?」
v川。゚ー )v 「……全然、だいじょーブイ」
ξ;゚⊿゚)ξ 「どう見たってダメでしょ、ほら」
ツンちゃんが肩を抱いてくれた。
あったかくて柔らかくて、そこからじんわりと怖いのが遠ざかっていく。
ξ゚⊿゚)ξ 「少しは、楽になった?」
o川*゚ -゚)o 「うん、ごめんね、ツンちゃん」
ξ゚⊿゚)ξ 「いいから、もう少し休みなさい」
それからしばらく、暗くなっていく道の端っこで私はツンちゃんに抱きしめられながら座り込んでいた。
何人かの人が通りかかって、声をかけてきて、ツンちゃんと少し会話して去ってゆく。
中には温かい缶コーヒーを二つ置いて行ってくれる人もいた。
みんな、分かっているから。
これが他人事じゃないって。
ξ゚⊿゚)ξ 「そろそろ、帰られる?」
o川*゚ー゚)o 「うん」
34
:
名も無きAAのようです
:2013/04/09(火) 23:14:51 ID:5ceOKMoQ0
立ち上がって、ブイっとピースサインを突き出してみたけれど、足が生まれたての小鹿ちゃんのままだ。
指先のノイズは収まっているし、もう平気なんだけれど、それでも力が入らない。
o川*゚ー゚)o 「あ、あはは〜、見て見て、足大爆笑」
ξ゚⊿゚)ξ 「はいはい。ほら、負ぶってあげるから」
o川*゚ -゚)o 「い、いいよ!私重いし!」
ξ゚⊿゚)ξ 「いいから。早くしないと真っ暗になっちゃうよ」
渋々と、ツンちゃんの背中に、体を預ける。
小さい癖に力強い。
ちょっとだけふらつきながら、ツンちゃんは歩き出した。
o川*゚ -゚)o 「ごめんね、ツンちゃん」
ξ゚⊿゚)ξ 「いいの、お互い様でしょ」
o川*゚ -゚)o 「私のせいで、ツンちゃんのカモシカのような足がムッキムキになってしまうやも……」
ξ゚⊿゚)ξ 「キュート、カモシカって、足細い喩えには使わないのよ」
o川*゚ー゚)o 「知ってますけど。ツンちゃん自分の足が細いと??」
ξ゚⊿゚)ξ 「落としてやろうかこいつ」
35
:
名も無きAAのようです
:2013/04/09(火) 23:16:45 ID:5ceOKMoQ0
ξ゚⊿゚)ξ 「キュート、何年だっけ。この街」
o川*゚ー゚)o 「四年だよ。中学二年生の時だから」
ξ゚⊿゚)ξ 「そっか」
o川*゚ー゚)o 「うん」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
o川*゚ -゚)o 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「今日、キュートの部屋、泊まってくよ」
o川*゚ー゚)o 「え?」
ξ゚⊿゚)ξ 「キュートが嫌ならやめるけど」
o川*゚ー゚)o 「ぜんっぜんヤじゃないよ!でも、なんで?」
ξ゚⊿゚)ξ 「……すっごく心細くなっちゃうでしょ、発作の後って」
o川*゚ -゚)o 「……うん」
ξ゚⊿゚)ξ 「……一人の部屋に戻るのは寂しいんじゃないかと思いまして」
o川*゚ー゚)o 「……ツンちゃん、ありがと」
ξ゚⊿゚)ξ 「……別に、ちょっとおせっかいしようと思っただけだから」
36
:
名も無きAAのようです
:2013/04/09(火) 23:18:00 ID:5ceOKMoQ0
o川*゚ー゚)o 「うひひ、ツンちゃんのそゆとこ、好き」
ξ゚⊿゚)ξ 「ちょっと、苦しいから」
o川*゚ー゚)o 「へへへ、照れてる?照れてる?」
ξ゚⊿゚)ξ 「……全然元気でしょ、あんた。おろすぞ」
o川*゚ー゚)o 「私は平気っていったもーん。乗れって言ったのツンちゃんでぇーぃす」
ξ゚⊿゚)ξ 「ったくもう」
口を尖らせながらもツンちゃんは私を下ろそうとなんかしない。
ずり落ちないようにしっかりと支えてくれる力強い腕。
o川*゚ー゚)o 「ツンちゃーん」
ξ゚⊿゚)ξ 「ん?」
o川*‐ , ‐)o 「ありがと。大好き」
ξ‐⊿‐)ξ 「……はいはい」
少し照れた彼女の返事。
私は少しだけ強く、彼女の肩を抱きしめた。
37
:
名も無きAAのようです
:2013/04/09(火) 23:20:38 ID:5ceOKMoQ0
# -5 「寂しいんじゃないかと思いまして」 おわり
.
38
:
名も無きAAのようです
:2013/04/10(水) 00:09:19 ID:jIljxreg0
気になる世界観
期待してる乙
39
:
名も無きAAのようです
:2013/04/10(水) 00:39:26 ID:i05Ed78s0
おつ
40
:
名も無きAAのようです
:2013/04/10(水) 12:41:56 ID:yBXBH7vk0
いいねいいね
41
:
名も無きAAのようです
:2013/04/12(金) 20:06:17 ID:k5nEo1bM0
すきです~
42
:
名も無きAAのようです
:2013/04/13(土) 22:03:04 ID:bZIIj7jw0
おつ
あと今さらだけど
エコー、わかば、バットはDisったらあかんよ
金欠になったときに優しく語りかけてくれるからね
43
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 22:07:33 ID:I3MxIE920
―――なんて言ったらいいか、よくわからないんだ。
# -4 「話をするのって、ちょっと苦手で」
.
44
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 22:08:32 ID:I3MxIE920
( ´∀`) 「じゃ、あとはイトーちゃんよろしくねー」
('、`*川 「はい」
( ´∀`) 「ではデルタさん。お時間になったらお迎えに上がりますので」
( "ゞ) 「はい、ありがとうございます」
案内されたのは、休憩室のような場所だった。
広さは、小学校の教室程度だろうか。
複数の四角いテーブルとパイプ椅子が並び、私はその内の一つに腰を掛けていた。
('、`*川 「じゃあ、改めてお願いします」
目の前に座る女性が頭を下げる。
私もつられて、小さな会釈を返した。
これではどちらが取材する立場かわかったものでは無い。
('、`*川 「伊藤、ペニサスです。さっき、モナーさんに紹介してもらいましたけど」
( "ゞ) 「関ヶ原デルタです。僕も、先ほど紹介していただきましたが」
私がそう返すと、伊藤は口元に小さな笑みを浮かべた。
「ふふ」、と軽やかな息を漏らす。
地味な女性ではあるが、美人だ。
化粧っ気のないその雰囲気はむしろ好感を覚える。
45
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 22:10:31 ID:I3MxIE920
('、`*川 「あの、」
笑みを消して、今度は少々不安げな表情で、伊藤はこちらを伺う。
変化が無い割に、分かりやすい顔だ。
('、`*川 「取材って、具体的に何をすればいいんですか?」
( "ゞ) 「基本的には、僕の質問に答えていただければそれで十分です」
('、`*川 「質問……」
( "ゞ) 「普通に世間話をする感覚で構いませんよ。取材なんて言うと堅苦しいですが、内容はなんでもいいんです」
('、`*川 「なんでも?」
( "ゞ) 「いつも食べるご飯でも、友達のことでも。別に、ゴーレムや民兵局についてじゃなくても構わないので」
('、`*川 「……」
できうる限り気楽にしてもらうつもりでそう言ったが、伊藤はなおさら考え込んでしまっていた。
平静を装ってはいるものの、私もいくらか緊張しているので、うまく話が進められない。
さて、どうしようか、と会話の切り口を探していると、意外にも伊藤の方が口を開く。
46
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 22:11:53 ID:I3MxIE920
('、`*川 「あの、私、話をするのって、ちょっと苦手で」
( "ゞ) 「はい」
('、`*川 「今日もその、クールさん、あ、ゴーレム乗りの先輩なんですけれど、クールさんに、代わりに受けてくれって頼まれて」
( "ゞ) 「ええ、伺ってます。急な用事で、伊藤さんが代理に立たれたと」
('、`*川 「はい、そうなんです。だからあのあんまりちゃんと準備とかしてなくて」
( "ゞ) 「全然かまいませんよ。こちらも、自然な言葉で話していただければ十分です」
('、`*川 「そうですか?ちょっと、気分楽になったかも」
胸に手を当て、また微笑む。
こういった動作に演技臭さやあざとさがない。
年齢は恐らく私と同じ二十四、五だろうがもっと幼く見える。
気分の休まる、傍にいて心地のいい人だ。
じんわりとした好意が沸く。
同時に、彼女のような人が、本当にゴーレムに乗って戦っているのか、と懐疑の念も生まれた。
47
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 22:14:01 ID:I3MxIE920
自身の言葉の通り、まずは簡単に少々プライベートな話から入る。
たまたま会って雑談を交わすような気軽さで、できうる限り伊藤の緊張や警戒心をほぐすのを意識した。
逆に彼女に外の事情を聴かれたりするなど、自分でいうのもなんだが、会話は徐々に弾んでいる。
職業の話に触れたあたりで頃合いを見計らい、私は最も聞きたかった話題への路線変更を試みた。
( "ゞ) 「ペニサスさんは、ゴーレムに乗ってどれくらいなんですか?」
('、`*川 「え?そうですね、大体、七か月と、半分、くらいかな?」
( "ゞ) 「ほぉー―……」
('、`;*川 「い、いや、そんなすごいことではないんですよ!」
( "ゞ) 「ちなみに、七か月っていうのは、長い方なんですか?」
('、`*川 「えと、どうでしょ。短いんじゃないですかね。クールさんは、もう三年目って言ってたし」
( "ゞ) 「一番長いのは、そのクールさんなんですか?」
('、`*川 「はい。私が入ったころには、クールさんより長い人もいたんですけど……」
ペニサスが語尾を逃がす。
それだけで十分伝わった。
外の人間である私でも、ゴーレム乗りが居なくなるということがつまりどういった事象の先に起こることなのか、分かるつもりだ。
48
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 22:15:35 ID:I3MxIE920
( "ゞ) 「……モナーさんは、」
('、`*川 「は、はい」
( "ゞ) 「ペニサスさんを、優秀なゴーレム乗りだとおっしゃっていましたが」
('、`*川 「え?い、いあ!私なんて、クールさんたちに比べたら月とすっぽんどころかフジツボですよ!」
少々強引な話題の転換に、伊藤はあっさりと乗ってくれた。
褒められるのに慣れていない様だ。
うつむいて、落ち着かない様子でソワソワとしている。
それにしても、よほど「クールさん」を尊敬しているようだ。
何の嫌味も無く手放しで誉めていることを見るに、尊敬というよりも憧憬に近いのかもしれない。
こうなってくるとクールさんにも会ってみたかったような気もする。
( "ゞ) 「でも、月間での出撃数は、一番多いんですよね」
('、`*川 「それは、私がどうのっていうより、“ジョルジュ”の特性のせいですよ」
( "ゞ) 「ジョルジュ?」
('、`*川 「あ、私のゴーレムの名前です。ジョルジュって、みんな呼んでます」
49
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 22:17:34 ID:I3MxIE920
「ゴーレム」は、内外問わず有名な存在ではあるが、その詳細を知るものは少ない。
私も侵略者に対抗するための特殊な兵器、という認識があるだけだ。
('、`*川 「ゴーレムは、全部で七基いるんですけど。それぞれに特徴があって」
( "ゞ) 「得意な戦法とか、そういう?」
('、`*川 「はい、ジョルジュは、機動力が高くて好戦的なので、ゴーレムが必要な時には真っ先に要請がかかるんですよ」
( "ゞ) (……好戦的?)
('、`*川 「それに、私、この施設の中で働いてるから、緊急時に一番早く準備できるんですよね」
( "ゞ) 「ちなみに、他のゴーレムにも名前があるんですか?」
('、`*川 「ありますよ。一応みんなに名前があります」
( "ゞ) 「あ、ちょっと待ってください!さっき見学させてもらった時に撮った写真があります」
伊藤を止め、防護服に供えられたポーチからカメラを取り出す。
掌に収まるハンディデジタル。
電源をいれて、撮った写真のデータを伊藤に見せる。
全、七基。
軽自動車程度の大きさの黒鉄の卵。
すべてを写真に収めている。
50
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 22:19:46 ID:I3MxIE920
('、`*川 「これが、私の“ジョルジュ”で」
画面の操作を簡単に伝え、伊藤にカメラを任せる。
写真を切り替えながら、伊藤はゴーレムの名前を挙げていった。
('、`*川 「これがクールさんの“ドクオ”」
('、`*川 「しいさんの、“ギコ”」
('、`*川 「ポッポちゃんの“ワカッテマス”」
('、`*川 「デレちゃんの、“ロマネスク”」
('、`*川 「でぃちゃんの、“モララー”」
('、`*川 「それで、これが今適合者のいない、“ブーン”」
( "ゞ) 「……よく見分けつきますね」
('、`*川 「はは、みんなおんなじに見えますもんね」
写真を取っていた時、既に分かっていたことだが、ゴーレムの姿は一様に卵の形をしている。
名前を聞かされてなお、これらがどう違うのかがいまいちわからない。
戦闘時には変形するらしいので、その名残があるのだろうか。
51
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 22:21:34 ID:I3MxIE920
( "ゞ) 「伊藤さんは、どういった経緯でゴーレム乗りに?」
('、`*川 「え?ああ、私、元々ここで事務の仕事をしていてですね」
ここ、とは壁の中の街、草咲市の中心地に存在する民兵局のこと。
壁の内外の治安を守るために戦闘行為を許可された、国属の軍事施設である。
('、`*川 「それで、たまたまジョルジュに気に入られて、適正も問題なかったので、採用されました」
( "ゞ) 「……??えっと、少し気になったんですが、いいですか?」
('、`*川 「はい?」
( "ゞ) 「伊藤さんが、ジョルジュを気に入ったのではなく、ジョルジュが伊藤さんを気に入ったんですか?」
('、`*川 「はい。私も突然でびっくりしましたもん」
( "ゞ) 「それはまるで、ジョルジュが自我を持っているような…」
('、`*川 「え?そうですよ。ジョルジュ以外もみんな」
そういえば、以前資料で、ゴーレムは搭乗者をサポートする優れたシステムを積んでいると見たことがある。
それが自我と呼べるほど高性能なものなのだろうか。
搭乗者を自ら選ぶ、しかも「気に入った」と表現されるようなシステムに少なからず興味がわいた。
52
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 22:23:03 ID:I3MxIE920
伊藤の顔が「あれ?知らないんですか?」となってから「あ、不味いこと言っちゃったかも」へと変化した。
ゴーレムは、多く語られながらも、ほとんど詳細を知られない存在。
搭乗者である伊藤は、それを知らず、つい他者に知らせるべきでないことを話してしまったのかもしれない。
私はついつい身を前へ。
( "ゞ) 「サポートシステムがあると伺ったことはありますが、自我があるというのは初めて聞きました」
('、`*川 「え、えと……私も、ゴーレムの詳細はよく知らなくて」
「演算能力」では無く「自我」なのが重要だ。
現代兵器において電子制御は無くてはならない存在である。
それ自体は特段珍しくは無い。
しかし、AI、つまりは機械自身が思考し、意志を持つほどの性能となると、実用化されているものはほとんどないのではないか。
それも乗り手を自ら選ぶ程の性能。
もしも本当ならば、ゴーレムという兵器は、とんでもない代物なのかもしれない。
私は、はやる気持ちを抑え、伊藤に質問を続けた。
その分野に疎い伊藤が高い演算能力を自我と比喩しただけとも考えられる。
確かめなければ記事にはできない。
( "ゞ) 「たとえば、ゴーレムとは会話したりも可能なんですか?出力媒体が音声でなくとも、文字や、信号などで」
('、`;*川 「え、えーと」
53
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 22:24:41 ID:I3MxIE920
伊藤は戸惑って、目を泳がせていた。
彼女らにも、むしろ彼女だからこその守秘義務はあるのだろう。
話を聞くに、元々軍事関係者ではなかった彼女には、話して「いい情報」と「ダメな情報」の境界が掴めていない。
押せば通る。
話しても問題ないという空気に誘導すれば、彼女はきっと話す。
( "ゞ) 「上から口止めされているものでなければ、話していただいても大丈夫だと思います」
('、`;*川 「でも……」
( "ゞ) 「私も責任ある大人ですし、問題があるとなれば、後からでも十分差し止めできますから」
伊藤がどうしていいのかわからない、焦りの表情を浮かべ、下手をすれば泣きそうな顔になっていた。
自分でやっておいてなんではあるが少々気の毒だ。
('、`*川 「えと、話せるのとは少し違くて、コミュニケ―ションは取れるっていうか……」
( ´∀`) 「デルタさーん、お時間ですよー」
部屋の扉が開き、モナー氏が現れる。
同時に伊藤はいかにも助かった、という顔をした。
こちらとしてはもう少し話を聞きたいところだったが、時間制限があるのは仕方ない。
54
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 22:25:41 ID:I3MxIE920
( "ゞ) 「今日は、ありがとうございました、伊藤さん」
('、`*川 「い、いえ。大した話もできなくて」
( "ゞ) 「これ、私のメールアドレスです。またお話を伺いたいので、よかったら」
('、`*川 「あ、わかりました」
用意していたメモ紙に、さらりとアドレスを書いて伊藤に渡す。
彼女は少しためらいを見せながらも、受け取ってくれた。
実際にメールが来るかは分からないが、拒否されるよりは上々だろう。
( ´∀`) 「では行きましょうか」
( "ゞ) 「はい、お願いします」
もう一度伊藤に礼をしてから椅子から立ち上がる。
身にまとった防護服ががさがさと不快な音を立てる。
これを着て数時間は経つが、蒸し暑さも相まってまだまだ慣れない。
モナー氏の後に続いて、施設の中を進む。
来た時とは違う道。
足早に外へと直行しているのだ。
早く送り返したいような気配を、何となく悟る。
55
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 22:27:26 ID:I3MxIE920
ξ゚⊿゚)ξ 「あ、お疲れ様です」
o川*゚ー゚)o 「こんにちはー」
( ´∀`) 「おやおや、訓練かい?」
ξ゚⊿゚)ξ 「はい。最近やってなかったから」
( ´∀`) 「偉い偉い。頑張ってね」
局員用の出入り口の手前で、セーラー服を着た女子高生二人とすれ違う。
少々場違いなその二人の少女を、首をねじって目で追った。
仮にも軍事施設。
モナー氏のかけた言葉からして彼女たちも民兵なのだろうか。
時々忘れかけるが、やはり壁の中と外は決定的に違う何かがある。
( ´∀`) 「じゃ、門までお送りしますね」
( "ゞ) 「はい。少し早いですが、今日はありがとうございました」
( ´∀`) 「いえいえ、外の方が未だに興味を持ってくださるというのは、我々としてもうれしいことですから」
56
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 22:28:15 ID:I3MxIE920
業務用のバンに乗り込み、シートベルトを締める。
ゆっくりと車を発進させたモナー氏は、その後は黙って運転を続けた。
流れゆく外の景色。
列をなして下校する小学生と、それを追い越してゆくサラリーマンの自転車。
女子高生のスカートは短く、気だるげながらも、悲壮感も無く友人を伴い歩いている。
( "ゞ) 「こうして見ていると、中も、そう違わないんですね」
( ´∀`) 「そうなんですか?」
( "ゞ) 「少なくとも、私の感覚では。モナーさんは、えっと……」
( ´∀`) 「ああ、はい。私は、15年前にここに来ました。もとは外の人間です」
( ´∀`) 「と言ってもまあ、私くらいの歳の人は外出身ですけれどね」
( "ゞ) 「そうですよね」
この街が出来たのは、正しい言い方をすれば、この街が今の体を成すようになったのは25年前。
それまではしがない地方都市に過ぎなかったここ草咲市は、特殊な役目を担うようになった。
ごく普通に暮らしていた人々が、多と少、通常と異常に選別された、大きな事象。
当時生まれて間も無かった私は記憶があやふやだが、当時の世間が浮き足立っていたことを印象として覚えている。
57
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 22:29:05 ID:I3MxIE920
( ´∀`) 「……私は、もうしばらく外を見ていないので、内と外が違いは、もうよくわかりませんが」
かこん、とギアを下げる。
車はゆっくりと速度を落とし、赤信号の目の前で停止した。
横断歩道を渡る小学生。
黄色い旗を持って引率する保護者の腰には、これ見よがしに銃が備え付けられている。
つい目が釘付けになった。
銃なんてものは、そうそう目にするものでは無い。
( ´∀`) 「外では、一般の方が銃を持ったりはしていないでしょう」
( "ゞ) 「それは、まあ、確かに」
そこからまたしばしの沈黙。
車は、人の賑わう市街地を抜け、壁へと向かう。
( "ゞ) 「そういえば、局を出るときに、女子高生と入れ違いになりましたが」
( ´∀`) 「ああ、津雲ちゃんと直央ちゃんですね」
( "ゞ) 「彼女たちも、民兵なんですか?」
( ´∀`) 「民兵なのは津雲ちゃん、明るい色の、髪を二つに縛った子の方ですよ。もう一人は、付き添いみたいなものですかね」
( ´∀`) 「ほら、友達と一緒に居たがるでしょう、あの頃の女の子は」
58
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 22:30:19 ID:I3MxIE920
( "ゞ) 「意外でした。女子高生の民兵なんて」
( ´∀`) 「でしょう。一応、16歳以上には試験資格があるから、違法ではないんですがね」
( "ゞ) 「彼女の他にも?」
( ´∀`) 「男の子は結構いますけど、あの歳の女の子は、彼女くらいですかね。最年少女子民兵ですから」
( "ゞ) 「……やはり、多いんですか?その、敵との戦いは」
車が曲がった。
つい背もたれから身体を離していた私は、身体を外に揺さぶられる。
( ´∀`) 「偏りがあって、日に何体も現れることもあれば、一週間以上現れないこともありますから」
( "ゞ) 「そんなに寄るんですね」
( ´∀`) 「雨や、風と同じですから。まあ、よほど厄介ですが」
( "ゞ) 「……大変ですね」
( ´∀`) 「ふふ、慣れれば平気とも行きませんでしたね。こればっかりは」
我ながら、下手な感想だった。
だが、嘘も誇張も無い。
この街の人は、発作と襲撃、二つのハンデを抱えている。
どちらも、笑って流すにはあまりに重い。少なくとも、どちらも負っていない私からすれば。
59
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 22:33:28 ID:I3MxIE920
ポツポツと話すうちに、門に着いた。
聳える高い壁によって陽光がほとんど届かず、昼間であるのに照明がともされている。
入った時にも思った。
これではまるで監獄ではないか。
( ´∀`) 「では、私はこれで」
( "ゞ) 「はい。今日は、本当にお世話になりました」
( ´∀`) 「事前にお話しした通り、記事やインターネットへの書き込みは……」
( "ゞ) 「はい、一度検閲を通してから、ですね」
門の係員に私を引き渡すと、モナー氏は車に乗って去って行った。
私はいくつもの検査を受け、感染の兆候がないことが認められる。
そこで初めて、外側の控室に入り、防護服を脱いだ。
(’e’) 「どうでした。中は?」
防護服の着脱を補助してくれた係員が、気軽い口調で問うた。
私はしばし答えが浮かばず、中に持ち込んだ物を、自分の鞄に詰めなおす。
60
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 22:34:28 ID:I3MxIE920
( "ゞ) 「……なんだろう。思っていたよりも、皆普通で、明るかった、ですね」
(’e’) 「中まで入った方は、皆そういいます」
( "ゞ) 「でも」
(’e’) 「はい」
( "ゞ) 「だからこそ、思っていたよりも、寂しい、というか、哀しい場所でした」
(’e’) 「……私も、そう思います」
帰り支度を終え、外へ出た。
傾きかけた朱色交じりの陽光が出迎えてくれる。
(’e’) 「では、お気をつけて」
( "ゞ) 「はい、お世話になりました」
外側から、壁を見上げる。
夕日を反射し、赤く染まる壁。
中から見るのとはあまりに違う光景。
私の胸に浮かんだ感情を、どう処理するべきか、私にはわからなかった。
61
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 22:35:08 ID:I3MxIE920
――― ――― ―――
.
62
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 22:36:28 ID:I3MxIE920
関ヶ原ブログ その506 草咲へ行ってきました
お久しぶりです。
最近は仕事が忙しく、中々ブログを書く時間が取れませんでした。
カウンターを見る限り、何人かチェックしてくださっている方がいらっしゃるようなので、
楽しみにしてくださっている方にはもうしわけないです。
さて、前置きはこのくらいにしておいて。
タイトルの通り、今日は久々の休暇を利用して草咲市へ行ってきました。
以前に書いた記事で予告していたので、この記事を待っていた方もいるのではないかと思います。
ただし、いつもどおり、取材の間に感じた雑感に過ぎないことを記すブログなので、記事にするような話はほとんどしません。
詳細は来週頭に発売の『週刊文云』を買って御覧にいただければ幸いです(販促)
では、主題を。
とはいえ、今回の取材は僕の中であまりうまく整理がつけられていないので、いつもよりは短くなるかもしれません。
まずは、門で書類をいくつか書き、持ち物や体調の検査などを行いました。
これだけで一時間。
出るときに時間がかかることを覚悟していましたが、入る時にもこれほど検査があるとは……。
検査を終え、ついに壁を超えるわけですが、ここで防護服を着せられます。
防護服は放射線に対するもの同様のものを想像していただければ。
これが、めちゃくちゃ暑い;;
気密性が抜群なわけですから当然なんですが、数分歩いただけで熱がこもってすごいことになってました。
水分補給をするためのボトルが中に備え付けられてるんですが、トイレにも滅多にいけないので、正直あんまり飲めません;
63
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 22:38:05 ID:I3MxIE920
中では、民兵局の広報担当の方に案内していただき、回りました。
初めに向かったのは全ての元凶、『亀裂』。
ブログへの写真掲載は控えるよう指示があったので、ここには載せません。
どうしても見たい方は来週頭発売の『週刊文云』を(ry
とは言っても、さんざん報道されているので、今更感はありますかね。
印象としては、まー、小さかったです。
見た目は本当に、「罅」って感じで。
それがコンクリートの地面に3mくらい。
正直もう少し大きいものをイメージしていたので、結構意外でした。
こんなちっちゃいものが原因で、万に及ぶ人があの壁の中で生涯を終えなければいけないとなると、少々虚しさのようなものがあります。
次には民兵局の内部を彷徨いました。
広い施設でしたね。
写真はあまり撮らせていただけませんでしたが、イメージとしては市役所や保健所のような感じ。
みなさん、ふつーに仕事していました。
自衛隊の雰囲気もこんな感じなのかな。
戦闘がつきものの場所だからもう少し堅苦しいのかなと思っていたので、これまたイメージを覆されました。
ただ、地下の射撃訓練場はすごかったですねー。
民兵の資格があれば所定の手続きを踏んで誰もが撃てるらしいです。
僕が言った時には、訓練していたのは7人。
みなさん普段は別の仕事についている一般の方です。
あ、そうそう。実際に銃を撃っているところを見たわけでは無いんですが、女子高生の民兵さんもいるらしいです。
なんていうか、複雑です。
フィクションなんかでは武器を持って戦う女性って燃えますけど、現実のものとしてみると、素直にかっけーとは思えなかったなあ。
あの年頃の、女の子が銃を持たなければいけないなんて、と。
外の人間だから言えてしまう、平和ボケの感覚なのかもしれませんけれど。
64
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 22:39:08 ID:I3MxIE920
この後はゴーレムの撮影と、ゴーレム乗りの女性の簡単なインタビューを行いました。
どうにもちょっとトラブルがあったらしく、実際満足に話す時間は取れなかったのですが。
と、こちらは所感もろもろ省かせていただきます。
気になる方は来週頭に発売の(ry
このブログでいえることは、とりあえず。
インタビューを受けてくださったゴーレムのパイロット方が僕の好みの美人さんだったということでしょうか。
少々話が前後しますが、ゴーレムの撮影を終え、インタビューまでの待ち時間に、民兵局に併設されている、民兵病院へ行ってきました。
ここは事前のアポが無かったので、広報の方に案内してもらいながら邪魔にならないよう中を回りました。
当然撮影はNG。ちなみにここのことは文云にも載せませんので、ブログだけでかたりますよー。
見た感じは普通の総合病院でした。
患者さんもほとんどが普通の(この言い方が適切かわかりませんが)の病気や怪我ばかりで。
でも、そこは中の病院。
僕が見て回っている間に、偶然馴化発作を起こしている患者さんが運ばれてきました。
ノーアポだったので(実際にアポがあっても関係なかったかもしれませんが)近づいて見ることはできず。
しかし、非常に強い痛みだというのはわかりました。
すごい呻き声だったので。
たぶん、末期の人だったのかなあ。
それよりも驚いたのが、他の人たちの対応です。
落ち着いているというか、無関心に見えるほど冷静で。
外の人たちが大けがしたってもう少し騒動になるだろうなーって。
慣れ、っていうよりは、覚悟なのかな。
ちょくちょく感じてはいましたが、こういう部分が、外と中の決定的な違いなのかもしれませんね。
※馴化についての詳しい症状が知りたいという方はQooqleあたりで検索すると詳しく解説しているサイトさんが出てきますよ。
たぶん僕が説明するよりも丁寧に、分かりやすくされている物が多いです。
65
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 22:41:16 ID:I3MxIE920
と、こんな感じですかね。
相変わらず今回も文云の販促ばかりですが。
まとめ的な雑感。
中に入って、ぼんやりと知識としてしか理解していなかった「違い」みたいなものを肌で感じることが出来ました。
言葉にするならばやっぱり、覚悟、ですかね。
僕たち人間はいつか死ぬことを常識として理解していますが、毎日自分の死を実感しながら生活している方は少ないと思います。
でも、中の人々にとっては、毎日が命日になりうるわけですよね。
外よりも、確実に高い確率で。
そこからくる、日々を大切にする必死さみたいなものをひしひしと感じました。
…うーん、ここいらの雑感はうまく表せないですね。
語彙が足りないというよりはっきりと感じきれていない部分が多いというか。
やはり二時間前後では、しっかりと見ることはできませんね。
僕が馴化しないための措置とは分かっていても、やはり歯がゆい。
なんだかんだと悩みながら書いていたら、時間が無くなってきました。
そろそろ切り上げます。
あ、そうそう。一月後、もう一度草咲へ取材へ行きます
その時に、またブログを書こうかと。
ではまた。
次の記事がいつになるかは分かりませんがその内、更新します。
コメント(5)
66
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 22:42:17 ID:I3MxIE920
# -4 「話をするのって、ちょっと苦手で」 おわり
.
67
:
名も無きAAのようです
:2013/04/16(火) 23:20:24 ID:ctuqTuZE0
乙!
このしんみりした雰囲気すごい好き
徐々にスレタイの意味が明かされるのも楽しみだ
68
:
名も無きAAのようです
:2013/04/17(水) 00:39:22 ID:IFhBEL/60
話自体もだし構成?もなんか面白いなー
最後まで完走してくれますよーに
69
:
名も無きAAのようです
:2013/04/17(水) 02:17:01 ID:/bipx02k0
おつ
70
:
名も無きAAのようです
:2013/04/17(水) 07:52:11 ID:k5THWEQo0
乙
ようやくゴーレムが出てきたね
71
:
名も無きAAのようです
:2013/04/17(水) 17:15:48 ID:zeCWaDrUO
おつおつ
72
:
名も無きAAのようです
:2013/04/21(日) 07:56:14 ID:UQ8JeH2gO
面白いなー超期待
乙です
73
:
sage
:2013/04/25(木) 00:18:51 ID:sYqAabXc0
最近で一番の期待作だわ・・・
おつ!!
74
:
名も無きAAのようです
:2013/04/25(木) 21:14:43 ID:6aOKWBG.0
●←ゴーレム
75
:
名も無きAAのようです
:2013/04/28(日) 22:16:20 ID:9rrlPMeI0
――――それでも、ここで日常を築くしかないのだから。
# -3 「すっごい、つまんなそうに読むね」
.
76
:
名も無きAAのようです
:2013/04/28(日) 22:17:30 ID:9rrlPMeI0
(・∀ ・) (だっるいなー)
空は高い。
どれくらい高いかは知らない。
教科書を開けば載っているのかもしれないが、別に知りたいわけじゃない。
何フィートだとか何メートルだとか、成層圏が云々とか、そんなのは全く持って重要じゃない。
どうあがいてもあそこには届かない。
それが目の前の真実。
蝋で翼を固めても、高く伸びる塔を作っても、空は高いし、遠いまま。
こんなくそったれな街にいるなら、なおさらだ。
(・∀ ・) (…………まーた、サボりか)
斎藤またんきは、窓に向けていた視線を、反対に動かした。
教室の廊下側、一番後ろの席には誰も座っていない。
周囲で忙しくペンを動かす同級生たちは、それを気にする様子も無かった。
いつものこと。
そこにいるはずの彼女は、今どこにいるのかまたんきにはわからない。
77
:
名も無きAAのようです
:2013/04/28(日) 22:18:40 ID:9rrlPMeI0
(・∀ ・) (俺も、さぼりゃよかったな……)
教科書に立てたシャープペンの尻に、額を乗せる。
ノック。
芯が引っ込む。
眉間に食い込むプラスチックの突起の痛みも、またんきの脳みそに明晰をくれはしない。
o川*‐ ‐) コチコチコチコチ
日c
隣の席から、携帯電話を操作する音が聞こえた。
額をペンに預けたまま、目を向ける。
(・∀ ・) (はえー―……)
彼女の指は、じっと俯く身体とはまるで別の生き物のように携帯電話のキーを押していく。
名前は、直央キュート。
明るくて朗らかで、社交的。
人付き合いの苦手なまたんきにもよく話しかけてくる。
(・∀ ・) (まつ毛なげー―……)
メールに夢中なその横顔を、ぼんやりと眺めた。
伏目の目元。
天然なのか、何か加工を施しているのか、長いまつ毛が瞬きの度に揺れる。
78
:
名も無きAAのようです
:2013/04/28(日) 22:20:15 ID:9rrlPMeI0
o川*゚ー゚) ´
日c
(・∀ ・;) (やべっ)
川;*゚ ,゚) ´ 、 しー
b
(・∀ ・;) (い、いや、チクったりしないって)
授業はいつでも気だるい。
電波の先に意識を逃す場所があるならば、別にそれでいいのだろう。
受け持つ教師もわかっているから、仮に気づいても態々注意をしたりはしないのだ。
ましてや今は、英語の授業。
この街にいる分には、全くと言っていいほど必要無い。
そしてこの街から出ていくことは、恐らく無い。
(・∀ ・) (……外と、中があんまり変わんないなんて、嘘だ)
もう一度、ぼんやりと外を眺める。
低い街並み。
鳥の少ないこの街の空を飛ぶのは雲ばかりだ。
遠目から見ていると、まるで時が止まったように静か。
黒鉛で出来たペンの先が紙と擦れる不規則でリズミカルな音だけが、雨音のように耳に入る。
79
:
名も無きAAのようです
:2013/04/28(日) 22:21:55 ID:9rrlPMeI0
o川*゚ー゚)o 「斎藤くん、授業終わったよ」
気づくと、またんきは机に顔を伏せ、眠っていた。
眠たかったわけでもなく、ただあまりに退屈で、いつからそうしていたのかもはっきりしない。
指先でまたんきの肩をつついた直央は、既に帰り支度を済ませ、鞄を二つ持っていた。
(・∀ ・) 「あ、ごめん。ありがとう」
o川*゚ー゚)o 「今日ずっと眠そうだったよね?夜更かし?」
(・∀ ・) 「いや、そうゆうわけじゃないんだけど」
眠たげな顔なのは、元々だ。
愛想の無いまたんきの応対にも不満を見せることなく、直央は小さく手を振って、教室を出てゆく。
またんきだけでなく、教室の大半に「じゃあね」と声をかける彼女の背中を少しだけ眩しく思う。
背負った運命は似ているのに、なぜあそこまで明るくいられるのか。
それが、不思議であって、同時に自身の脆さを相対的に暴かれているようで、胸に小さく靄がかかる。
(・∀ ・) (……鞄二つ……あ、そうか)
直央は、廊下を東へ、昇降口の方とは逆へ歩いて行った。
恐らくは教室に居なかった友人のところに行くのだろう。
80
:
名も無きAAのようです
:2013/04/28(日) 22:24:15 ID:9rrlPMeI0
教室は次々と人を吐き出していく、
寝起きのはっきりとしない頭で帰り支度を済ませた頃には、もう数人が残るだけだった。
勉強をするもの、友人と会話するもの。
友人と呼べるほどの知人を持たないまたんきは、残る理由も共に帰る者も持たない。
誰にも聞こえないように小さく息をついて、教室を出た。
(・∀ ・) (……ツルヤでも、寄ってくか)
靴をはきかえ、自転車の鍵を外し、学校を出る。
春の風は生ぬるく、心地が悪い。
どれだけ速度を上げても肌に絡みついて、その場に押し留められているような不快感を覚える。
(・∀ ・) (……あー彼女欲しい)
自転車に二人乗りする高校生のカップルを立ちこぎで追い抜いた。
彼らの幸せが漏れ出してしまったような、明るい笑い声が、妙に耳につく。
妬ましくは無い。
うらやましくはある。
孤独に怯える心が、体の底の方で具体性の無いぬくもりを欲しがっている。
(・∀ ・) 「……」
ペダルを強く踏み込む。
左右の足の高さが入れ替わって、自転車は少しだけ速くなった。
81
:
名も無きAAのようです
:2013/04/28(日) 22:27:18 ID:9rrlPMeI0
目的の本屋に着いて、駐輪場に自転車を止める。
ゆっくりと開く自動ドア。
平日の夕方で、まだ人はまばら。
もうしばらく経つと、少しずつ人が増える。
何か理由があったわけでは無い。
単に何もする予定がないから、本屋に来た。
一人で部屋に帰ったところで、既に飽きたゲームくらいしかやることが無いから。
棚に並んでいた漫画雑誌を手に取った。
既にヨレヨレで、売り物としての価値はかなり落ちている。
退屈をごまかす方法は、案外少ない。
きっと何人もの人が、買うほどの価値を見いだせないこの漫画に目を通していったのだ。
ぺらぺらと、興味の無いページを飛ばす。
毎週読んでいるが、前後の内容をほとんど覚えていない。
ここで見てやっと、「こんな漫画もあったな」と思うほど、興味がなかった。
o川*゚ー゚)o 「……すっごい、つまんなそうに読むね」
(・∀ ・;) そ 「!?」
o川*゚ー゚)o 「こんにちは。さっきぶり!」
(・∀ ・;) 「え、あ、うん」
しどろもどろな返答をしながら、視線が周囲に泳ぐ。
もう一人を無意識に探していることに自分で気づいて、すぐに目を伏せた。
82
:
名も無きAAのようです
:2013/04/28(日) 22:28:18 ID:9rrlPMeI0
o川*゚ー゚)o 「……ツンちゃんならいないよ?」
(・∀ ・;) 「え、あ、ああ、そうなんだ」
o川*´ ,`)o 「うん。一緒に遊ぶ予定だったんだけどさ〜」
直央キュートは、あまりに自然にまたんきの隣に並び、漫画の雑誌を手に取った。
またんきとは違う、青年向けのものだ。
妙な気まずさを感じながらも、逃げるのもおかしいような気がして、またんきも漫画に目を落とす。
緊張とは言わずとも、変に意識してしまい、漫画の内容がなおさら頭に入ってこない。
(・∀ ・;) (なんで、話しかけてきたの?え?何?)
川*- -) ペラ……
ol⌒l⌒lo
(・∀ ・;) (あれ、ってか、なんで津雲がでてくんの?え?どうするのが正解なのこの状況?)
川*- -) クス……
ol⌒l⌒lo
( ∀ ;) (……辛い。帰りたい)
この生ぬるい地獄は約十数分ほど続く。
またんきは逃げ出すこともできず、かといって楽しい談話に花を咲かせるようなことも無く。
ただひたすらに硬直し、雑誌を変えながらその場に立ち続けていた。
83
:
名も無きAAのようです
:2013/04/28(日) 22:29:22 ID:9rrlPMeI0
o川*゚ー゚)p 「……」
雑誌を棚に戻して、直央は手首にはめた腕時計に目を落とした。
少し、珍しい。
またんきもそうだが、時間の確認はほとんど携帯電話で行う。
彼女の細い手首に余る、少々古いデザインのそれ。
恐らくは、ただのファッションではないのだろうと予想がついた。
o川*゚ー゚)o 「じゃ、私そろそろ帰る」
(・∀ ・;) 「え、あ、うん」
o川*゚ー゚)o 「またね」
(・∀ ・;) 「うん、また」
ぼんやりと、制服の後姿を見送る。
鞄に括られた猫のストラップが、歩みに合わせクルクルと揺れていた。
(・∀ ・;) (……なんだったんだろう)
(・∀ ・;) (……)
(・∀ ・;) (……コンビニ寄って、帰ろう)
84
:
名も無きAAのようです
:2013/04/28(日) 22:30:42 ID:9rrlPMeI0
本屋を出て、コンビ二へ。
夕飯と、明日の朝食を買わなければいけない。
開いた財布の中には、千円札が一枚と、小銭がいくつかあるだけ。
親からの仕送りは、ATMにカードを挿せば簡単に取り出せる。
だが、何となく気が乗らずに手持ちの金で間に合う分のものを籠に入れた。
(・∀ ・) (……煙草)
会計を待つ間、ぼんやりと店員の背後を眺める。
番号を打たれ並ぶ煙草の箱。
またんきは数種の銘柄を知っているだけで、詳しくも無ければ吸いもしない。
(・∀ ・) (……どれ、吸ってたんだっけ)
思い出す、細い指に挟まれた火の付いた煙草。
物憂げに揺れる煙と、それと共にどこかへ消えてしまいそうな横顔。
(*‘ω‘ *) 「957円のお会計ですっぽ」
(・∀ ・;) 「あ、じゃ、千円で」
(*‘ω‘ *) 「千円からお預かりしますっぽー」
(・∀ ・;) (……いいや、別に、吸いたいわけじゃねーし)
85
:
名も無きAAのようです
:2013/04/28(日) 22:32:28 ID:9rrlPMeI0
コンビニを出て、自転車の籠にビニール袋を入れた。
時間は、まだ5時にもならない。
このまままっすぐ帰ったところで、暇になるだけだ。
かといって、遊ぶあても特に思い当たらない。
(・∀ ・) (もう少し、本屋に居ればよかったか)
自転車を引いて、だらだらと歩く。
ぬるい風。そばを通り過ぎてゆく車の音。
色の薄くなり始めた空を仰ぐ。
雲一つない快晴に浮かぶ白い月。
太陽も無く、星も無く、雲も無い空に、たった一つ。
春風に目を細めたら、そのまま消えてしまいそうなほど儚い。
(・∀ ・) (……遠回りして、帰るか)
鞄から、ウォークマンを取り出し、イヤホンを耳に差す。
壁の中に入ることと、転校と、一人暮らしをすることが決まったその次の日に、従兄にもらったものだ。
中身のデータは彼が入れたままで、またんきは一切手を加えていない。
「音楽嫌いなやつはいないから、友達作るきっかけにできるぞ」
そんなことを言っていたような気がする。
ただ、従兄とは歳が離れていたせいで周囲とはいくらか趣味が違い、友達を作るきっかけにはならなかった。
86
:
名も無きAAのようです
:2013/04/28(日) 22:34:39 ID:9rrlPMeI0
(・∀ ・) (……そもそも、俺が友達作ろうとしなかっただけだけどさ)
音楽をランダムで再生。
まだ耳に馴染まないそれを聞きながら、どんどんと人の少ない通りを帰路に選ぶ。
見慣れない町並み。
大通りや、その周囲は大分頭に入ったが、入り組んだ路地となると別だ。
少し新鮮で、ただ歩くだけでも思いのほか退屈では無かった。
自然と、プレイヤーから流れる曲に、自分の声が混じる
(・∀ ・) 「……〜〜♪」
(・∀ ・) 「……?」
(・∀ ・;) 「……!」
散発的に加わるノイズ。
故障かと思ってイヤホンを外し、その正体に気づいた。
離れた場所から響く、破裂音。
銃声だ。
(・∀ ・;) 「……またか」
珍しくないことだと、最近になって理解した。
だが、まだ慣れてはいない。
独特なリズムで続く銃声は、長引く戦闘の証拠。
87
:
名も無きAAのようです
:2013/04/28(日) 22:36:21 ID:9rrlPMeI0
(・∀ ・) (近いな)
まだ、直接この目で戦闘を見たことは無い。
興味が無いわけでもない。
そして、態々見る必要も無い
望まなくても、この街で生きる限りはその内に遭遇するのだろうから。
(・∀ ・) (……やっぱり、早めに帰るか)
イヤホンをはめ直し、自転車にまたがった。
前輪を銃声から遠ざかる方へと向ける。
(・∀ ・) (……外と内は、そう変わらない、同じ場所)
街の中に来る前に、そして来てからも何度か目にした言葉だ。
ドキュメンタリー番組であったり、ニュース番組であったり。
またんき自身も、漠然とその言葉を信じていた。
自転車をこぎながら、流れる景色を横目で眺める。
元々田舎の地方都市だった名残の古い木造民家と、増設されていったアパートの混ざった地域。
ちぐはぐだが、悪くない。
何処にでもある、変哲のない風景として。
(・∀ ・) (でも、やっぱ違う。ここは)
88
:
名も無きAAのようです
:2013/04/28(日) 22:37:24 ID:9rrlPMeI0
普通と言い切ってしまうことはできると思う。
本屋もある、コンビニもある。
カラオケもあるし、ゲームセンターも、服や靴を売る店も、外にある大抵のものはあるだろう。
銃を持つ民間の兵士が居たり、医学では治せない発作を起こすことから目を背ければ、確かにこの街は普通だ。
(・∀ ・) (でも)
またんきは思う。
どれだけ上等な洋服を、食事を、玩具をそろえた部屋があるとして。
その部屋の鍵が外側について居て、内側から扉を開く術がなければ、牢獄と何ら変わらないのではないかと。
自分たちは。
人権とかいう、ぼんやりとした正義の紛い物に辛うじて守られているだけの、隔離されるべき厄介者なのではないかと。
(・∀ ・) (……)
赤と黒、それぞれのランドセルを背負った二人の小学生とすれ違う。
男児の方は真剣な口調で何かを話し、女児の方はそれに茶々を入れながら笑っていた。
(・∀ ・) (……俺も、あと何年もこの街に居れば、慣れるのかな)
周囲に話せない思いはいくつもある。
それが、またんきの人付き合い下手に拍車をかけていた。
89
:
名も無きAAのようです
:2013/04/28(日) 22:39:08 ID:9rrlPMeI0
自転車でだらだらと20分。
借りているアパートの駐輪場に自転車を止めた。
二階の最奥の部屋に鍵を突き刺して、回す。
(・∀ ・) (……)
無言のまま、靴を脱ぐ。
カーテンを閉めたままの部屋の中の空気は少し冷たく、心地が良い。
帰るのが億劫だった割に、いざ入ってしまえば、安心してしまう。
一人は気楽だ。
時々襲われる淋しさに耐えられさえずれば、ずっと他人との交わりを断っても良いとすら思う。
(・∀ ・) (飯食って、さっさと寝よう)
コンビニ袋を、ちゃぶ台にぞんざいに置いた。
中身の菓子パンとおにぎりがいくつか零れる。
床に落ちていたリモコンを拾い、テレビをつけた。
夕方の情報番組。
恐らく先ほどまたんきが聞いた銃声にかかわるニュースが流れていた。
(・∀ ・) (へえ、結構危なかったんだな)
天気予報と大差ない雰囲気で、敵の出現と撃退の情報が流される。
今回はその場に居合わせた民兵だけでは対処できず、衛兵隊まで出動したらしい。
(・∀ ・;) (早めに離れて正解だった)
90
:
名も無きAAのようです
:2013/04/28(日) 22:39:53 ID:9rrlPMeI0
着替えもそこそこに、ベッドに腰を掛け、そのまま倒れた。
照明をつけていない天井に、テレビの光が移り、瞬きのように色を変える。
何もやることがない。
色々なことを考えながら、ぼんやりとそのまま天井を眺める。
(・∀ ・) (……あ)
思い出したようにポケットから携帯電話を取り出す。
開いて、ボタンを操作。
アナウンサーがコロコロと声色を変えて読み上げるニュースに、コチコチと音が混じった。
(・∀ ・) (なんも呟いてないか)
(・∀ ・) (……あ、またフォロワー増えてる)
(・∀ ・) (女子高生民兵って、やっぱ人気なんだな……)
携帯電話を閉じ、腕を目の上に置いた。
意識の外からため息が漏れる。
テレビの音声が遠い。
( ∀ ) (あー――……メルアド交換してえ…………)
遠く、窓の外で銃声が響く。
またんきは反応することも無く、そのまま浅い眠りに就いた。
91
:
名も無きAAのようです
:2013/04/28(日) 22:41:55 ID:9rrlPMeI0
――― ――― ―――
.
92
:
名も無きAAのようです
:2013/04/28(日) 22:42:38 ID:9rrlPMeI0
┌──────┬──────────────────────────────────
│ │ しそネコ@siso_c_at 23時間前
│ /) /) │
│ シソ・⊿・). │ マヨネーズが無い。
│ ~( ノ. │
│ │
└──────┴──────────────────────────────────
┌──────┬──────────────────────────────────
│ │ しそネコ@siso_c_at 1日前
│ /) /) │
│ シソ・⊿・). │ 痛い。だるい
│ ~( ノ. │
│ │
└──────┴──────────────────────────────────
┌──────┬──────────────────────────────────
│ │ しそネコ@siso_c_at 2日前
│ /) /) │
│ シソ・⊿・). │ お腹と腰痛い
│ ~( ノ. │
│ │
└──────┴──────────────────────────────────
┌──────┬──────────────────────────────────
│ │ しそネコ@siso_c_at 3日前
│ /) /) │
│ シソ・⊿・). │ @kyu9_10to 私もだよ
│ ~( ノ. │
│ │
└──────┴──────────────────────────────────
93
:
名も無きAAのようです
:2013/04/28(日) 22:43:55 ID:9rrlPMeI0
┌──────┬──────────────────────────────────
│ ┌──┐ │ 給湯器@kyu9_10to 3日前
│ │ 虎 │ │
│ ┝◎=┥ │ @siso_c_at お姉さん、今授業中です
│ └┬┰┘ │
│ Π┗┓ │
└──────┴──────────────────────────────────
┌──────┬──────────────────────────────────
│ │ しそネコ@siso_c_at 3日前
│ /) /) │
│ シソ・⊿・). │ @kyu9_10to おーい
│ ~( ノ. │
│ │
└──────┴──────────────────────────────────
┌──────┬──────────────────────────────────
│ │ しそネコ@siso_c_at 3日前
│ /) /) │
│ シソ・⊿・). │ @kyu9_10to 出来た?
│ ~( ノ. │
│ │
└──────┴──────────────────────────────────
┌──────┬──────────────────────────────────
│ │ しそネコ@siso_c_at 3日前
│ /) /) │
│ シソ・⊿・). │ @kyu9_10to 出来た!
│ ~( ノ. │
│ │
└──────┴──────────────────────────────────
94
:
名も無きAAのようです
:2013/04/28(日) 22:45:49 ID:9rrlPMeI0
┌──────┬──────────────────────────────────
│ │ しそネコ@siso_c_at 4日前
│ /) /) │
│ シソ・⊿・). │ 訓練行ってきます。久しぶりです
│ ~( ノ. │
│ │
└──────┴──────────────────────────────────
┌──────┬──────────────────────────────────
│ ┌──┐ │ 給湯器@kyu9_10to 5日前
│ │ 虎 │ │
│ ┝◎=┥ │ @siso_c_at お休みー
│ └┬┰┘ │
│ Π┗┓ │
└──────┴──────────────────────────────────
┌──────┬──────────────────────────────────
│ │ しそネコ@siso_c_at 5日前
│ /) /) │
│ シソ・⊿・). │ もういい。寝るもん
│ ~( ノ. │
│ │
└──────┴──────────────────────────────────
┌──────┬──────────────────────────────────
│ ┌──┐ │ 給湯器@kyu9_10to 5日前
│ │ 虎 │ │
│ ┝◎=┥ │ @siso_c_at 私は大好きだよ!
│ └┬┰┘ │
│ Π┗┓ │
└──────┴──────────────────────────────────
95
:
名も無きAAのようです
:2013/04/28(日) 22:46:59 ID:9rrlPMeI0
┌──────┬──────────────────────────────────
│ │ しそネコ@siso_c_at 5日前
│ /) /) │
│ シソ・⊿・). │ 給湯器嫌い
│ ~( ノ. │
│ │
└──────┴──────────────────────────────────
┌──────┬──────────────────────────────────
│ ┌──┐ │ 給湯器@kyu9_10to 5日前
│ │ 虎 │ │
│ ┝◎=┥ │ @siso_c_at こうだよ!
│ └┬┰┘ │
│ Π┗┓ │
└──────┴──────────────────────────────────
┌──────┬──────────────────────────────────
│ │ しそネコ@siso_c_at 5日前
│ /) /) │
│ シソ・⊿・). │ 話しかけるやつってどうやるの?@付くやつ
│ ~( ノ. │
│ │
└──────┴──────────────────────────────────
┌──────┬──────────────────────────────────
│ │ しそネコ@siso_c_at 7日前
│ /) /) │
│ シソ・⊿・). │ 名前と写真かえてみた
│ ~( ノ. │
│ │
└──────┴──────────────────────────────────
96
:
名も無きAAのようです
:2013/04/28(日) 22:47:47 ID:9rrlPMeI0
# -3 「すっごい、つまんなそうに読むよね」 おわり
.
97
:
名も無きAAのようです
:2013/04/28(日) 22:56:55 ID:4LwNYyio0
乙
しそネコフォローしたいかわいい
98
:
名も無きAAのようです
:2013/04/29(月) 00:14:45 ID:AeNo7gIs0
地の文好きだ
おつ
99
:
名も無きAAのようです
:2013/04/29(月) 08:29:17 ID:QqeNUHcw0
すごい読みやすいおつ
100
:
名も無きAAのようです
:2013/04/29(月) 16:32:17 ID:eNfHbRhc0
給湯器で不覚にも
101
:
名も無きAAのようです
:2013/05/21(火) 00:45:12 ID:aLrGiw8c0
期待
102
:
名も無きAAのようです
:2013/06/06(木) 21:18:51 ID:eoe1oDj60
まつよ
103
:
名も無きAAのようです
:2013/06/16(日) 18:50:14 ID:XWURZ.MI0
慣れるとーと―違いがわかって自然に笑みに見えるようになる
頑張れ
104
:
名も無きAAのようです
:2013/06/16(日) 18:50:59 ID:XWURZ.MI0
誤爆
105
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:31:24 ID:6igLwKIU0
机の上に花瓶があった。
そこは先週までクラスメイトが座っていた席だ。
元は外の出身の子で、両親と別れて、一人でこの街に来ていた。
最近は何か塞ぎこんだ様子で、それはこの花瓶の予兆だったのかもしれない。
(´・_ゝ・`) 「―――――――――。――――――」
ξ゚⊿゚)ξ
o川*゚ -゚)o
朝のHRが始まり、担任の口から彼女が亡くなったと聞いた。
死因は、ごく自然に伏せられた。
周知させられない理由なのだと、ぼんやりと察した。
彼女と特別交友があったわけでは無い。
ただ、その死に無関心でいられるほど、知らない間柄でも無かった。
外は曇り空。
前日までの快晴を忘れたように、雨粒が地面を叩き始める。
106
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:32:17 ID:6igLwKIU0
――――望むべきものなんて、全部掌の中にあるのに
# -2 「明日の朝には大丈夫だよ」
.
107
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:33:27 ID:6igLwKIU0
o川*゚ -゚)o 「……ごめんね」
ξ゚⊿゚)ξ 「ん?」
o川*゚ -゚)o 「私、いっつもツンちゃんに頼ってばっかり」
ガラスに張り付く水滴は、次々追加される体積に耐えきれず這うように垂れてゆく。
天井を覆う雲は空に浮かんでいるのが不思議なくらい重い色をしていた。
断続的に続く雨音が、気持ちまで湿気らせていくようで、耳を塞ぎたくなる。
ξ゚⊿゚)ξ 「別に、気にしないでよ」
o川*゚ -゚)o 「……ん」
ξ゚⊿゚)ξ 「私も今日は、一人でいられる気分じゃなかったし」
o川*゚ -゚)o 「そっか」
キュートの部屋はほんの少しだけ甘い匂いがする。
高校生にしては少し少女趣味の、可愛らしい部屋。
淋しさを紛らわすためのぬいぐるみが、いたるところに並んで座っている。
108
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:34:28 ID:6igLwKIU0
ξ゚⊿゚)ξ 「雨、やまないね」
o川*゚ -゚)o 「予報だと、夜まで降るみたい」
ξ゚⊿゚)ξ 「そっか」
淡い桃色のベッドに腰掛け、二人で窓の外を眺めた。
五線紙のように並ぶ電線がふらふらと揺れている。
雨脚はそれほど強くないが、その分止みそうにない。
ξ゚⊿゚)ξ 「制服乾くかな」
o川*゚ -゚)o 「明日の朝には大丈夫だよ」
カーテンレールにかけた二枚のセーラー服は、それぞれ左と右、片方ずつ濡れている
キュートの持っていた折り畳み傘は、二人で使うには少し小さかった。
o川*゚ー゚)o 「ちょっと、寒いよね。何かあったかいの淹れるね」
ξ゚⊿゚)ξ 「うん。ありがと」
o川*゚ー゚)o 「お湯沸かすからちょっと待ってて」
109
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:35:10 ID:6igLwKIU0
キュートがキッチンに立って、水音と、金属の鳴る音がする。
七畳の部屋に、一人。
ツンは少しぼんやりとして、体を小さく震わせ、キュートを追ってキッチンへ。
点きの悪いガスコンロに苦戦しているキュートの隣にそっと寄り添った。
制服を脱いでロングのTシャツ姿になった彼女の体温がほんのりと伝わってくる。
o川*゚ー゚)o 「寒い?」
ξ゚⊿゚)ξ 「ちょっと」
o川*゚ー゚)o 「壁にかけてるカーディガン着ていいよ」
ξ゚⊿゚)ξ 「うん」
返事をしても、離れない。
キュートは邪魔にするでもなく、テキパキと戸棚から飲み物を用意をする。
終わってお湯が沸くのを待つだけになると、キュートの方からツンに寄り添う。
o川*゚ー゚)o 「めずらしい」
ξ゚⊿゚)ξ 「何が」
o川*゚ー゚)o 「ツンちゃんが甘えんぼ」
110
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:36:43 ID:6igLwKIU0
ξ゚⊿゚)ξ 「違う。キュートが、寂しいんじゃないかと思っただけ」
o川*゚ー゚)o 「……嘘だ」
ξ゚⊿゚)ξ 「嘘じゃない」
o川*゚ー゚)o 「素直じゃない」
ξ゚⊿゚)ξ 「そんなことない」
o川*゚ー゚)o 「でも、わかりやすい」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
並んで、壁に寄りかかって座り込む。
コンロが吐き出す青い火をじっと眺めた。
空気の震えるゴーっという音の温かさが、雨音の冷たさを少しだけ和らげてくれる。
しばらく黙って、ヤカンを眺めていると、細い口から少しづつ湯気を吐き出し始めた。
お湯が沸く音。
キュートが立ち上がる。
ツンはのろのろと部屋に戻り、床の座布団に座り込んだ。
111
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:37:32 ID:6igLwKIU0
川*゚ー゚) 「出来たよー」
o日日o
テーブルにマグカップが二つ。
以前二人で遊びに行って買ったおそろいのものだ。
水色がツンの。
桃色がキュートの。
ξ゚⊿゚)ξ 「……コーヒー?」
マグカップから昇る湯気は香ばしくて少し甘い匂い。
コーヒーのようだが、少し違う。
ミルクが入っているのか、白が混じっていた。
o川*゚ー゚)o 「なんちゃってカフェモカ」
ξ゚⊿゚)ξ 「カフェモカ?」
o川*゚ー゚)o 「コーヒーとココアと、チョコソースとクリープと、牛乳」
ξ゚⊿゚)ξ 「ほー」
一口啜る。
優しい甘味と柔らかな苦み。
すこし遅れてカカオとコーヒーの香りが鼻を抜けた。
112
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:39:12 ID:6igLwKIU0
ξ*゚⊿゚)ξ 「おいし」
o川*゚ー゚)o 「でしょ?」
ミルクとチョコソースのお蔭か、ツンの猫舌にも優しい温度。
お腹からじんわりと温かさがしみてゆく。
カフェモカをちびちびと味わいながら、ツンとキュートは他愛のない話をした。
クラスの誰が誰を好きであるとか、どこそこの店が新しいメニューを出した、とか。
脈絡も道筋も無い、雑多な言葉の群れ。
何も生まないが、何となく楽しい。
一度過ごした時間をもう一度消費しなおすだけの、無気力な趣味。
追われるように、解決の無い焦りに追われて生きる彼女らの、ささやかな抵抗。
o川*゚ー゚)o 「わたしさあ、斎藤君はツンちゃんのこと好きだと思うんだよね」
ξ゚⊿゚)ξ 「え?」
o川*゚ー゚)o 「よくツンちゃんの方見てるし」
ξ;゚⊿゚)ξ 「えー…?私、キュートの方だと思ってたけど」
o川*゚ -゚)o 「え?……えー…?」
113
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:39:56 ID:6igLwKIU0
ξ゚⊿゚)ξ 「よく話してるし」
o川*゚ー゚)o 「それは、まあ、今隣の席だから」
ξ゚⊿゚)ξ 「キュートと喋ってるとき、ソワソワしてるし」
o川*゚ー゚)o 「それは単純に、女の子慣れしてないだけなんじゃないかな」
ξ゚⊿゚)ξ 「ふーん?」
o川*゚ー゚)o 「ほら、もともと工業高校だったらしいし」
ξ゚⊿゚)ξ 「そうだっけ……?」
o川*゚ー゚)o 「転校してきた時に言ってたじゃん」
ξ;゚⊿゚)ξ 「……全然覚えてない」
o川*゚ -゚)o 「うわぁ……斎藤君不憫……」
ξ;゚⊿゚)ξ 「だからキュートの勘違いだって」
114
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:41:26 ID:6igLwKIU0
o川*゚ー゚)o 「……あ、もうこんな時間だ」
キュートが腕時計に目を落とす。
午後の六時過ぎ。
外は既に夜に染まりかけている。
o川*゚ー゚)o 「晩御飯、どうしよっか」
ξ゚⊿゚)ξ 「何か作る?」
o川*゚ー゚)o 「んー―……」
キュートはカーテンを閉めて再び台所へ。
屈み込んで、冷蔵庫の扉を開く。
扉に張り付けられたウサギのマグネットが小首を傾げてツンの顔を伺う。
o川*゚ー゚)o 「先生、卵とチューハイとチョコレートと味噌しかありません」
ξ゚⊿゚)ξ 「それで何か作れる?」
o川*゚ー゚)o 「私には無理かな」
淡い桃色のカーテンに遮られ外の様子は見えないが、雨音は未だに聞こえていた。
雨の中を買いだしへ行くのは少し億劫だ。
外と隔離された安寧な部屋の中から出るのが、酷く面倒に感じられる。
115
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:42:39 ID:6igLwKIU0
ξ゚⊿゚)ξ 「……買いに行くの、めんどくさいね」
o川*゚ー゚)o 「濡れたくないもんね」
ξ゚⊿゚)ξ 「どうする?」
o川*゚ー゚)o 「何も食べない、とか?」
ξ゚⊿゚)ξ 「んー―……」
o川*゚ー゚)o 「なんだったら、私一人で行って、何か買ってこようか?」
ξ゚⊿゚)ξ 「それは、いい」
一番近いコンビニで、歩いて10分弱。
遠くは無いが、すぐそばでは無い。
キュートを一人で行かせるのは気が咎める。
何より、一人残された部屋の中で何をして待てばいいのか、分からなかった。
ξ゚⊿゚)ξ 「いいや、買いに行こう」
o川*゚ー゚)o 「いいの?」
ξ゚⊿゚)ξ 「うん。お腹空いたし、いこ」
116
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:43:41 ID:6igLwKIU0
傘を持って出た外は、水の臭いがした。
冷たい空気が薄着越しに肌をなでて、自然と背筋が震える。
軒先の電燈がぼんやりと光を灯し、光の中を雨粒の影が抜けてゆく。
どうしようも無く、雨の夜の気配。
地面や屋根を叩く音が絶え間なく、頭の中身に靄をかけるようで、不快だった。
o川*゚ー゚)o 「ちょっと収まってきてるね」
ξ゚⊿゚)ξ 「うん。これなら、平気かな」
傘を伝う雨粒の弾ける感触は、学校から帰宅した時よりも軽い。
縁に溜まった水滴を、クルクルと回して飛ばす。
飛び散った少し大粒の水滴は、雨に紛れながらアスファルトに溶けた。
o川*゚ー゚)o 「サンダルで平気?」
ξ゚⊿゚)ξ 「微妙。帰ったら、シャワー貸して」
o川*゚ー゚)o 「どうせだから、ちゃんと浴びたら?冷えちゃうし」
ξ゚⊿゚)ξ 「んー―……、そうしよっかな」
117
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:45:50 ID:6igLwKIU0
軒を連ねる住宅やアパートが少しまばらになってくると、明るい看板が見えるようになる。
他の家屋が光を内側に閉じ込めようとするのに対して、コンビニは無遠慮に白い光を撒き散らかしていた。
そういう無粋さが、なぜだか、魅力的に感じたりする。
コンビニは、それなりに混んでいた。
帰宅の道中で立ち寄った風の大人や、ツンたちのような学生の姿も見える。
億劫そうに開く自動ドアをくぐって中へ。
店内は、独特の湿気と熱に満ちていた。
BGMと店員のあいさつと、客の会話する声。
雨とは異なる雑音が、周囲を飛び交って鼓膜にぶつかる。
不快ではないけれど、長居したいとは思わない。
o川*゚ー゚)o 「何にしようかな」
ξ゚⊿゚)ξ 「ペヤング……超大盛り……」
o川*゚ー゚)o 「……それ?絶対食べきれないでしょ」
ξ゚⊿゚)ξ 「食べきれないし、飽きる」
o川*゚ー゚)o 「じゃあ、やめておこう」
ξ゚⊿゚)ξ 「そうする」
118
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:46:31 ID:6igLwKIU0
o川*゚ー゚)o 「私、サラダパスタでいいや」
ξ゚⊿゚)ξ 「また?」
o川*゚ー゚)o 「んー―……そう言われると……。でも、夜にあんまりこってりしたもの食べたくないし」
ξ゚⊿゚)ξ 「そう言って、私の買った奴を一口欲しがるんだよね」
o川*゚ー゚)o 「そこはほら。プチトマトと交換でなんとか」
ξ゚⊿゚)ξ 「トマト嫌いなだけでしょ」
o川*゚ー゚)o 「ばれた?」
ξ゚⊿゚)ξ 「実は知ってました」
o川*゚ー゚)o 「流石ですな」
脳みその足りない会話をしながら、それぞれに選んだものを籠に入れた。
キュートはサラダパスタと、紙パックのミルクティ。ツンはたらこパスタとペットボトルのお茶。
少し列に並んでカウンターに籠を載せる。
ξ゚⊿゚)ξ 「キュート、Tカード持ってる?」
o川*゚ー゚)o 「ここローソンだよ」
ξ゚⊿゚)ξ 「……あ」
店員は苦笑いしていた。
119
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:47:26 ID:6igLwKIU0
買い物を終え、キュートの部屋に戻る。
傘をさしていても少し濡れてしまったため、食事の前にシャワーを浴びた。
ξ゚⊿゚)ξ 「出たよ」
川*゚ ,゚) 「ん、はーい」
o白o
湿気た髪を拭きながら、部屋へ。
キュートは買ったミルクティを飲みながらテレビを眺めていた。
国営放送の子供向け番組。
普段テレビを見ないツンにはよくわからないが、キュートの横顔を見る限りそれほど面白くは無いらしい。
キュートは既に準備していた着替えとタオルを持ってシャワーへ。
ツンは髪を乾かして、入れ替わりにクッションへ座る。
しばらく、流れている番組に目を向けていた。
ローティーンタレントの、甲高い声。
内容はよくわからなかったが、楽しげな雰囲気だけは伝わってきた。
120
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:48:25 ID:6igLwKIU0
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
ξ゚⊿゚)ξつ=゙ ピッ
何となく、テレビを消す。
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
雨音。
パタパタと、窓ガラスが叩かれている。
風が混じってきているようだ。
また少し、雨粒も大きくなっているような気がする。
種類の違う水音は、シャワーの音だ。
ξ゚⊿゚)ξ コチ……
つ日
携帯電話を開く。
特に確認することも無く、すぐに閉じて、テーブルの上に置いた。
121
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:49:23 ID:6igLwKIU0
雨音。
消えたテレビの画面に、自分の顔が映っていた。
いつも通りのつまらなそうな、可愛げのない顔だ。
ξ゚⊿゚)ξ´
(・(エ)・)
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
(・(エ)・)
ξ゚⊿゚)ξ (……増えてる)
テーブルの上に置かれたクマのぬいぐるみと目があった。
水色のフェルトで作られた、手のひらサイズ。
数日前に来た時には居なかった彼を、そっと手に取る。
少しだけ香水の匂いがした。
どこかのお店で嗅いだことがある。
あれは、駅前の小物屋だったか
ξ゚⊿゚)ξ (誰かといったのかな)
キュートは友達が多い。
よく一緒に居るのがツンなだけであって、他のクラスメイト達ともよく遊んでいる。
122
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:50:38 ID:6igLwKIU0
o川*゚ー゚)o 「気に入った?」
しばしぬいぐるみを弄って遊んでいると、キュートが戻ってきた。
ぬくもりを帯びた、湿気。
タオルが頭を往復するたびに、シャンプーの華やかな香りが漂ってくる。
いつものキュートの匂いだ。
どことなく安心する。
o川*゚ー゚)o 「じゃ、ご飯食べよ!お腹ペッコペッコですよ!」
ξ゚⊿゚)ξ 「ちょっと温めてくる」
o川*゚ー゚)o 「はいはーい」
ξ゚⊿゚)ξ 「先に食べてていいよ」
o川*゚ー゚)o 「うん」
123
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:52:15 ID:6igLwKIU0
電子レンジに買ったパスタを入れて、スタートを押す。
オレンジの光と、唸るような機械の音。
じっと見ていると。くるりくるりと回るプラスチックのケースが、蛙の喉のように少しずつ膨らみ始めた。
ツンは電子レンジを止め、パスタをとりだす。
ほんの少し暖かい。冷たくなければ、それでいい。
ξ゚⊿゚)ξ 「先に食べてていいって言ったのに」
o川*゚ー゚)o 「せっかくですし、一緒に食べ始めたいなと思いまして」
ξ゚⊿゚)ξ 「……一口?」
o川*゚ー゚)o 「いただきます!」
可も無く不可もない二種類のスパゲティを結局二人で分け合って食べる。
元々食の細い彼女らには、十分な量だった。
最後に残ったのは、サラダパスタのミニトマト。
キュートがフォークの裏で転がして寄越したそれを、同じく転がして返す。
124
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:53:04 ID:6igLwKIU0
ξ゚ー゚)ξ 「嫌いなら買わなきゃいいのに」
o川*゚ ‐゚)o 「一人のときは買わないもん」
仕方なく食べたトマトは少し青臭くて、甘酸っぱくて、少なくとも不味くは無い。
三つ入っていたすべてをほいほいと口に頬ばり、食べきった。
ξ‐⊿-)ξ 「ごちそう様」
川*‐ ‐) 「ごちそうさま」
人
だらだらと、無為な時間をつまみながら進めた食事を終えた頃には、時計は20時を過ぎていた。
お腹が膨らんだこともあって、いくらか眠い。
小さい欠伸と少しの涙が、零れる。
キュートの部屋にはシングルのベッドが一つ。
それと、押入れには客用の布団が一組。
ツンが泊まる時には、いつもこの布団を使っている。
テーブルを部屋の隅に避けて、布団を敷く。
それから、二人並んで歯を磨いた。
125
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:53:46 ID:6igLwKIU0
o川*゚ー゚)o 「ちょっと早いけど、寝ますか」
ξ゚⊿゚)ξ 「んー―……?」
o川*゚ー゚)o 「それとも、もう少しお話しちゃったり?」
布団に座り、ベッドの縁に背中を預けて、並んだ。
ツンを覗き込むキュートの顔をじっと見返す。
さらりとした髪と。長いまつ毛。血行のいい頬は艶があって、桃色に染まっている。
o川*゚ー゚)o 「……なんすか」
ξ゚⊿゚)ξ 「キュート、彼氏とか、作らないの?」
o川*゚ー゚)o 「……んー――……?」
ξ゚⊿゚)ξ 「不自由しなさそう」
o川*゚ -゚)o 「そんな、とっかえひっかえしてるような言い方しないでよ……」
126
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:54:30 ID:6igLwKIU0
o川*゚ー゚)o 「……実はですね」
ξ゚⊿゚)ξ 「うん」
o川*゚ー゚)o 「居たんですよ。一年生の頃に」
ξ゚⊿゚)ξ
雨音。
ξ゚⊿゚)ξ 「…………初耳」
o川*゚ー゚)o 「内緒にしてましたもん」
ξ゚⊿゚)ξ 「え、誰?」
o川*゚ー゚)o 「秘密です」
ξ゚⊿゚)ξ 「同じクラスの……?」
o川*゚ -゚)o 「ひーみーつー―……」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
o川*゚ー゚)o 「ま、今はデミちゃん先生一筋ですから」
127
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:55:27 ID:6igLwKIU0
ξ゚⊿゚)ξ 「別れたんだ?」
o川*゚ー゚)o 「そりゃあもう、三日で」
ξ;゚⊿゚)ξ 「早ッ」
o川*゚ー゚)o 「ふふふー―……自分でもねー―……思います……」
キュートがベッドへ。
ツンは毛布を引き寄せる。
照明を消し、小さな電球だけを残した。
キュートは、真っ暗な場所では眠られないのだ。
ξ゚⊿゚)ξ 「今度、屋上来る?」
o川*゚ー゚)o 「その話?」
ξ゚⊿゚)ξ 「盛岡先生、大体来るし。たぶん話せるよ」
o川*゚ー゚)o 「んー―でも、サボりはなー―……」
ξ゚⊿゚)ξ 「セント先生だから」
o川*´ -`)o 「だから、なんか申し訳ないんじゃないですかー―……」
128
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:56:27 ID:6igLwKIU0
ツンはベッドの端に背を預け。
キュートはベッドの上で体を丸めて。
豆電球の朱い光の中。
会話が理由も無く途切れ、短い沈黙。
雨音は相変わらず、無粋に部屋に入り込む。
背後でキュートが長い息を吐いた。
薄暗闇が、意図的に遠ざけていた憂鬱を呼び戻す。
学校の話題は、するべきじゃなかった。
自分も少し落ち込みながら、ツンは布団の上に倒れる。
o川* - )o 「……ツンちゃんは」
ξ゚⊿゚)ξ 「……ん?」
o川* - )o 「急にいなくなっちゃったり、しないよね」
ξ゚⊿゚)ξ
雨音。
129
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:57:27 ID:6igLwKIU0
消え入りそうな声だった。
布団の上でもぞもぞと振り返る。
床に近い、低い視点。
ベッドからはみ出したキュートの手が、力なく垂れていた。
ξ゚⊿゚)ξ 「それは、たぶん。平気」
o川* ー )o 「……ん、そっか」
死んでしまったクラスメイトとキュートの立ち位置は、似ていた。
両親と離れ、親戚もいないこの街で、たった一人で暮らしている。
ここでは、珍しい境遇では無い。よくある話だ。
ただ、「自分だけでない」というだけで癒されるほど、孤独は優しいものでは無かった。
クラスメイトは、耐えて苛まれ続け、そして突如襲ってきた衝動に抗えず、自ら選んだのだろう。
誰にでもありうることだ。
今たとえどれだけ平然とした顔をしていても、たった一瞬の揺らぎで、人は容易く自分を失ってしまう。
ξ゚⊿゚)ξ 「大丈夫」
垂れているキュートの手を握る。
温かく、柔らかい掌が、弱弱しく返事をした。
130
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:58:45 ID:6igLwKIU0
川* - )o 「……私、先週、貞子ちゃんと話したんだ」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
川* - )o 「元気なさそうだったから。ちょっと心配でね」
ξ゚⊿゚)ξ 「うん」
川* - )o 「……なんで、気付いてあげられなかったんだろう」
呻きのように零れた声は、震えていた。
つないで居る手に、力が込められていくのがわかる。
そうか。
ずっとそれを思っていたのか。
自分に似た境遇の彼女に、本当の救いの手を差し伸べられなかったことを、ずっと悔やんでいたのか。
川* - )o 「私は、いろんな人に助けられているくせに、他の人には」
ξ゚⊿゚)ξ 「キュート」
身を起こす。
手をつないだまま、ベッドに上った。
名前を呼んだあとに繋がる言葉を探して、キュートを見下ろす。
いつもはさらりと流れる彼女の髪が重く張り付くように見えたのは、きっと湿気のせいだ。
131
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 17:59:25 ID:6igLwKIU0
長い、永い沈黙だった。
一粒雨粒が落ちるたびに弾ける、その煩わしい音ですら、無の中に飲まれて行くようで。
つないだ手の平の体温は、少しづつ境界を失い、痺れに似た感覚を帯びる。
眠っては居ない。むしろ、眠るのとは真逆のところで、キュートの意識は回転していた。
めぐる思考が脳みそに閉じ込められて、体を動かすことを忘れてしまっている。
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
川*゚ ‐゚)o 「……」
橙色の部屋に目が完全に慣れた頃。
キュートが、頭を動かして、ツンを見上げた。
やはり暗くて、はっきりとは見えないが、目元に泣いた跡がある。
川*゚ ‐゚)o 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
川*゚ -゚)o 「……私、ツンちゃんが男の子だったら、相当に惚れたかも」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
川*゚ー゚)o 「いや、今でも惚れてますけど、それとは別のベクトルで?」
ξ゚⊿゚)ξ 「……元気、出た?」
P川*゚ー゚)q 「このとーり!」
132
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 18:00:28 ID:6igLwKIU0
何かしらの結論を出せたのか。
それとも、上手くお腹の底に気持ちをしまえたのか、キュートの口元に笑顔が戻る。
どうしようもないくらい空元気だということには、目を瞑った。
ξ゚⊿゚)ξ 「言いたいことあるなら、聞くよ」
o川*゚ー゚)o 「……大丈夫!キュートさんちょっと、雨にやられてナイーブ過ぎちゃいました」
ξ゚⊿゚)ξ 「なら、いいけど」
o川*゚ー゚)o 「だから、寝よ。明日雨やんだら、遊びたいし」
ξ゚⊿゚)ξ 「どこ行くの?」
o川*゚ー゚)o 「あんまりお金ないから、カラオケとか?」
ξ゚⊿゚)ξ 「この前行ったばっかりだよ」
o川*゚ー゚)o 「んー、じゃ、漫画喫茶」
ξ゚⊿゚)ξ 「わざわざ二人で?」
o川*゚ー゚)o 「二人だからいいんじゃないですか」
ξ゚⊿゚)ξ 「うーん……?」
133
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 18:01:44 ID:6igLwKIU0
o川*゚ー゚)o 「嫌?」
ξ゚⊿゚)ξ 「んーん、読みたい漫画あったし」
o川*゚ー゚)o 「じゃあ、決定!」
ξ゚⊿゚)ξ 「どうする?五限目サボる?」
o川*゚ ‐゚)o 「そこでなんでそうなるのかなあ……」
キュートが壁側に避け、ベッドにスペースを作った。
自然に、ツンはそこに横になる。
寝そうになったら下に降りればいい。
このままのキュートを置いてそばを離れるのは、どうにも心配だった。
ξ゚⊿゚)ξ 「だって、学校終わってからだと時間中途半端だし」
o川*゚ ‐゚)o 「そうだけどさ」
ξ゚⊿゚)ξ 「じゃあ、サボろう」
o川*゚ ‐゚)o 「えー―……」
ξ゚ー゚)ξ 「キュート不良デビュー」
o川*゚ ‐゚)o 「どうしよ……無駄に長いスカート買わなくちゃ……」
ξ;゚⊿゚)ξ 「イメージが古いよ……」
134
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 18:03:56 ID:6igLwKIU0
体が冷えないよう、足元に寄っていた羽毛布団を引き上げた。
キュートは肩が隠れるまでかぶり、ツンは胸元までに留め腕を出す。
まっすぐに見上げた天井は電燈の傘で光が届かず、黒い色をしていた。
o川*゚ー゚)o 「ねーね、ちなみに読みたいのって何?」
ξ゚⊿゚)ξ 「ん?えっとねー―……」
少し動くたび、二人の間にある微妙な距離を体温が行き来する。
孤独をじんわりと溶かす、自分のものではない熱。
まどろみの心地よさによく似た、幸せな感触。
ξ゚⊿゚)ξ 「……なんか、いろいろ」
o川*゚ー゚)o 「なにそれ」
ξ゚ー゚)ξ 「改めて聞かれると分かんない」
o川*゚ー゚)o 「変なの」
ξ゚⊿゚)ξ 「そう言うキュートは?」
o川*゚ー゚)o 「私はねー―……」
135
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 18:05:44 ID:6igLwKIU0
外では相変わらず雨が降り続けていた。
それでも、徐々に雨脚は弱まり、耳に障る煩わしい音は、ほとんど聞こえない。
間を挟みながらも、途切れはしない二人の会話。
体のどこかに、自分でも分からないまましまい込んだ悲しみが再び出てきてしまわないよう。
くすくすと、小さな声で笑い合いながら、どちらかが眠るまでの時間稼ぎを続ける。
ξ゚⊿゚)ξ 「結局さー―……キュートが昔付き合ってたのって……」
o川*‐ , -)o 「だから、秘密だってば……」
意識が少しづつ、眠りの靄に包まれ始めても、不思議と言葉は止まらない。
不快な感覚では無く、明晰を保ったまま遠ざかっていくような意識の波。
ξ゚⊿゚)ξ 「えー―……誰だろ……」
o川*‐ , ‐)o 「もー――……」
キュートの吐息が寝息に変わる。
ベッドから降りることも忘れ、ツンも瞼を押し上げていた力を抜く。
雨も止み、声も無くなった静寂の部屋。
憂鬱で塗りつぶされた日常に、また少しだけ楽しい今日を重ねて、二人の少女は眠りに就いた。
136
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 18:06:57 ID:6igLwKIU0
――― ――― ―――
.
137
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 18:08:24 ID:6igLwKIU0
497 名前:匿名調査報告774稿[sage] 投稿日:2015/06/22(月) 21:58:23.71 ID:S0uLw21g0 [1/7]
コンタクトを取っていた草咲の女子高生が、一昨日死んだ。
馴化の発作じゃない。自分で命を絶った。
俺にも、メールで遺書を送ってくれた。正直読んで泣くかと思った。
その子、ずっと離れて暮らしてる両親に会いたがってたんだよ。
俺も時々、チャットとかメールで話聞いたり、励ましたりしてた。
でもダメだった。その子は、死んででも外に出る方を選んじまった。
俺、どうすりゃよかったんだ。
遺書にはありがとうっていっぱい書いてあった。
お礼言われることなんて何もしてない。
はじめっから中の話を聞くために利用するつもりだったんだ。
もう。何をどうしていいか分からなくなっちまった。
いまいくらか落ち着いてここに書き込んでる。
お前らは、コンタクト取ってる中の人間が馴化以外で死んじまったことあるか?
その時どうした?俺は正直、もうコンタクト取ろうなんて思えない
504 名前:匿名調査報告774稿[sage] 投稿日:2015/06/22(月) 22:23:13.00 ID:S0uLw21g0 [2/7]
>>499
俺もそれくらい割り切って話せてればよかったのかもしんない
でもさ、やっぱり話してると同じ人間なんだって思うし本当に観察対象としては見れなかった
俺の認識が甘かったんだと思う
>>501
前兆は無かったわけじゃないと思う
でも自殺するほど追い込まれているって風には感じなくて、悲しんだりするより先に本当にびっくりしたんだ
>>502
今日顔だけ見て線香上げてきた
両親も俺のこと知ってたみたいで、思ってたよりは怪しまれたりはしなかった
138
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 18:10:19 ID:6igLwKIU0
508 名前:匿名調査報告774稿[sage] 投稿日:2015/06/22(月) 22:34:22.34 ID:S0uLw21g0 [3/7]
>>503
俺が原因なのかな、って思わなくもないんだ
雑談とかしてて外の話もしてたからもしかしたらそれが切っ掛けなのかなって思うと怖い
>>505
……ごめん、そのとおりだ。
1回だけその子に面会に行った
やましい気持ちとかじゃなくて純粋に直接会って話したいと思ってた
よく考えたらこの時点で俺はもう踏み込み過ぎてたんだな
>>506
そうか……
俺も板を離れたほうがいいのかな
でもあの街のことをもっとちゃんと知らなきゃいけないような気持ちもあるんだ
>>507
中の様子とか、戦闘がどこであったとかそう言うことをたまに聞いてた
一度だけ写真も送ってもらったけど、それが前スレの
>>112
の写真
あとは、本当に他愛ないことばかっりだったよ
139
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 18:11:06 ID:6igLwKIU0
514 名前:匿名調査報告774稿[sage] 投稿日:2015/06/22(月) 22:51:55.43 ID:S0uLw21g0 [4/7]
>>509
恋愛感情かは俺も分からない
歳は結構離れてたし
ただ少なくとも友達だとは思ってた。自分なら助けてやれるような気がしてた
>>511
気付いたのはメールから二時間後くらいで
それからすぐに電話もメールもしたけど、遅かった
本当に後悔してる
>>512
>>513
だよな。俺には向いてないのかもしれない
出会い目的って言われても仕方ないと思う
本当にあの子が助けを求めてきていたら俺は自分が馴化してでも中に入っていたかもしれない
536 名前:匿名調査報告774稿[sage] 投稿日:2015/06/22(月) 23:44:11.45 ID:S0uLw21g0 [7/7]
みんな本当にありがとう
少しの間、板にも草咲にも近づかないようにしようと思う
落ち着いたら戻ってきてまたお前らと中について調べるつもりだ
今日はスレを独占するようなマネして本当にすまなかった
140
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 18:11:51 ID:6igLwKIU0
# -2 「明日の朝には大丈夫だよ」 おわり
.
141
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 21:22:28 ID:1ZdWQC420
うおお、久しぶり
だんだんと#0に近づいてきたな、楽しみだ
乙
142
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 21:28:22 ID:LBfS9IvM0
待ってた!
この雰囲気好きだなぁ
乙です
143
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 21:34:35 ID:LeYhQ.nY0
待ってた!
相変わらず面白い
144
:
名も無きAAのようです
:2013/07/21(日) 21:59:28 ID:hBo3/pdM0
おつ待ってたぞ
145
:
名も無きAAのようです
:2013/07/22(月) 16:19:51 ID:d./Sqb120
面白いなあ
146
:
名も無きAAのようです
:2013/07/22(月) 22:01:53 ID:987FuKXs0
お帰り
これからどうなるんだ 気になる
乙
147
:
名も無きAAのようです
:2013/07/29(月) 03:47:14 ID:0Sp9HBrI0
作者が投下以外一切レスしていないのが好感がもてる
148
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:26:57 ID:8SgcPGU60
時々思うんだよね。
ん?
この、緩やかながらも幸せな毎日はさ、案外突然終わっちゃうんじゃないかって。
……。
たとえば、ほら。デミの浮気が私にばれるとか?
それは絶対にないから安心しろ。
それはばれない自信があるってこと?
そもそもやって無いって話だ。
もしやってたら包丁であそこ切り落とすから。
……。
あ、今たじろいだね。浮気願望自体は認めるね?
あそこを切り落とすって言われてたじろがない男なんていねえよ。
149
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:27:45 ID:8SgcPGU60
まあ、デミにかぎって私を裏切るなんてことはないとおもうけど?
おう。そこは信用してくれていい。
ふふふ、じゃあ、私の不安の何パーセントかは解消されたね。
……どうしたんだよ、いきなり。
……今日さ、交通事故の現場に遭遇しまして。
! 怪我は?
私は全然大丈夫!でも、目の前で、人が飛んでくの見ちゃってさ。
……それは、キツイな。
だからっていうか、他にも、誰かが死んじゃったりするたびに、思うんだよね。
……。
私たちがちゃんと噛みしめないうちに消費しているこの「毎日」って。いつかあっさり終わるんだろうなって。
……ああ。
150
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:28:52 ID:8SgcPGU60
当然のことなんだけどさ、普段は実感が無いっていうか。
うん。
こうして、のんびりデミと話している間にも、終わりのカウントダウンが始まってるんじゃないのかなって。
……。
こう、私とデミの脇に数字が出てるの。それが、ちょっとずつゼロに近づいて行ってさ。
……。
残りの数字がなくなるのに、私たちは全然気づかないのね。
……。
それで、ある時ついに数字は0になる。
0になるとどうなる?
わかんない。
なんだそれ。
でも、きっと今まで通りではいられないの。哀しくって、辛い時が、たぶん来る。
151
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:29:50 ID:8SgcPGU60
……来ないよ。
……お、珍しく強い口調ですな。
来ない。俺と君は、ずっとこんな感じで、爺と婆になって死ぬ。
……そうかな。
そうだよ。カウントダウンに0があるとすれば、俺が耄碌して君の顔にうんこを投げつけた時だな。
……ぷっ……なにそれ。
うちの爺さんがそんな感じだったんだよ。俺も一回喰らった。多分俺もあんな感じになる。
はは、でも、それぐらいまで毎日が続くなら、それもいいのかな。
俺はいっそ殺してほしい。
むむ、なら私が切り落とすしかないね。あそこを。
なんであそこからなんだよ。痴女か。
痴女でーす。
……。
ふふ。
152
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:30:28 ID:2PhbERUMC
久しぶりじゃねえか
待ってたぞ
153
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:30:31 ID:8SgcPGU60
ねえ、デミ。
ん?
キスしよ。
……なんだよ。
え、いいじゃん。したい気分だから。
……いつも、宣言なんてしないだろうが。
たまには改めてするのもいいじゃん。
……。
ね?
……。
……。
……。
……唇、乾燥してるな。
なんだそれ!いいムードだったのに!!
154
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:31:32 ID:8SgcPGU60
……ねえデミ。それでも私はね。
君と一緒にいるこの時間を、大切にしたいよ。
0が、たとえ何百年先でも、たった数秒後だったとしても。
もっと大切にすればよかった、なんてその時に思いたくないから。
0が来ても、ちゃんと君を、君といる時間を、好きでいたいから。
(´・_ゝ・`)
(´ぅ_ゝ・`)
(´・_ゝ・`)
(´‐_ゝ‐`)
155
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:32:17 ID:8SgcPGU60
「酷い夢だ。」
.
156
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:33:25 ID:8SgcPGU60
# -1 「君を忘れない」
.
157
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:34:24 ID:8SgcPGU60
街中は、ギラギラした太陽を遮るものが無くて。
雲のない青い天井は心が躍るけれど、それと同じくらい、暑さが元気を揮発させていく。
o川*´ -`)o 「あつぅ〜い」
夏はあんまり好きじゃない。
暑くて、怠くて、眠くなって。
体のいたるところがべたべたするし、自分の体が臭くなっていないか、すごく気になる。
ξ゚⊿゚)ξ 「使う?」
o川*´ -`)o 「使う〜」
ツンちゃんが貸してくれたのは制汗剤のスプレー。
襟を引っ張って胸元に吹き付けると、ひんやりとして涼しい。
刺激のあるレモンライムの香りがして、鼻がムズムズとした。
ξ゚⊿゚)ξ 「急に、夏になったよね」
o川*゚ -゚)o 「ねー―……」
何処からか蝉の声がする。
夏になるといつも思う。
この街にも蝉はいるんだなーって。
158
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:35:12 ID:8SgcPGU60
ツンちゃんと私は、中央の駅前に繋がる大きな道を歩いていた。
手に持ったジュースのボトルは驚くくらい汗をかいている。
学校傍の自動販売機で買ったばかりなのに、すぐに温くなってしまいそう。
風の少ないこの街の夏は、まさにサウナのようになる。
元々盆地に近い地形だからなおさらなんだって、先生が言っていたのを覚えている。
ξ゚⊿゚)ξ 「また、漫喫いこうか?」
o川*゚ -゚)o 「うーん」
ξ゚⊿゚)ξ 「たぶんクーラー効いてるし」
o川*´ -`)o 「うわー……すっごい行きたい……」
ξ゚⊿゚)ξ 「カラオケでも、いいけど」
o川*゚ー゚)o 「気分的にはカラオケかなー」
今は、本当なら4時限目の時間だ。
少し前にツンちゃんと一緒に授業をさぼってから、私も時々授業をさぼるようになった。
元々真面目に授業を受けていたわけでは無いのだけれど、やはり今もちょっとドキドキする。
それでも、大切にしたかった。
友達といられる時間を。
少し前にいなくなってしまったあのクラスメイトのように、気付かぬまま失ってしまわないように。
159
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:36:11 ID:8SgcPGU60
ξ*´⊿`)ξ 「すずしー―……」
o川*´ー`)o 「あー―……生き返るー―……」
│^Д^) 「いらっしゃいませー―……。……キミらかよ」
o川*゚ー゚)o 「あ、プギャーさんだ!」
ξ゚⊿゚)ξ 「セーフ」
( ^Д^) 「セーフじゃないから。学校は?まだ午前中だぞ」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
o川*゚ー゚)o 「えへへー―……」
( ^Д^) 「不良め」
ξ゚⊿゚)ξ 「4時間コース。JOYの部屋で」
( ^Д^) 「あのね。キミらを通したのがばれるとさ、僕が店長に怒られるんだよ?」
o川*゚ー゚)o 「飲み物持ち込みでいいですか?」
( ^Д^) 「あのさ……もういいや……」
160
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:37:07 ID:8SgcPGU60
( ^Д^) 「いいか、出歩くときは、せめて制服脱いでくれよ」
ξ゚⊿゚)ξ 「この下、下着です」
o川*゚ー゚)o 「わ、セクハラだ」
( ^Д^) 「あのね……。制服でうろついて補導されても知らないからな」
o川*゚ー゚)o 「そこはプギャーさんのお力でなんとか」
( ^Д^) 「僕はしがないアルバイトだよ」
ξ゚⊿゚)ξ 「あ、フライドポテトお願いします」
( ^Д^) 「……まったく……はい、7番の部屋をご利用ください」
プギャーさんからマイクを受け取って、部屋に入った。
カラオケボックスは冷房が効いていて寒いくらいで。
私はひざ掛けの毛布を足に掛けて、ツンちゃんはベージュのカーディガンを上に羽織った。
o川*゚ー゚)o 「ツンちゃん先歌ってー」
ξ゚⊿゚)ξ 「えー―……」
o川*゚ー゚)o 「私まだ決まってないし」
ξ゚⊿゚)ξ 「でもなー―……」
161
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:38:22 ID:8SgcPGU60
結局どちらも中々歌う者が決まらず、しばらくの間喋って過ごした。
私もツンちゃんも、たぶんカラオケに来たかったわけでは無くて。
なら他のどこかに行きたかったのかというと、きっとそうでもない。
どこかに行きたいんだ。どこでもいいんだ。
見えない時間を、少しでも溢さずにいられる場所なら。
o川*゚ー゚)o 「……いつものだ」
ξ゚⊿゚)ξ 「いつものです」
散々悩んでツンちゃんが、歌を決めた。
入力から少し遅れて、画面が切り替わる。
表示されたのは、ツンちゃんがいつも必ず歌う曲。
昔の歌だけれど、私でも知っているし、ツンちゃんと遊ぶようになってからは歌詞も覚えてしまった。
ξ‐⊿‐)ξ
つ¶ 〜♪
控え目な声で、静かに歌う。
上手いんだから、もっと自信もって歌ったらいいのに。
恥ずかしがり屋だから、きっとそんなことを言っても、変わらないんだろうけれど。
本当は決まっていた自分の歌う曲を入力して、一緒に画面を眺める。
安っぽくて古臭いカラオケのビデオ。
失恋のストーリーを軸にして作っているような、そんなドラマだった。
162
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:39:14 ID:8SgcPGU60
ξ゚⊿゚)ξっ¶ 「はい、キュート」
o川*゚ー゚)o 「はいはーい。相変わらず上手ー」
ξ;゚⊿゚)ξ 「そんなことないって」
o川*゚ー゚)o 「照れ屋さん」
ξ;゚⊿゚)ξ 「うるさい。ほら、始まるよ」
o川*゚ー゚)o¶ 「ツンちゃんの後緊張する〜〜」
ξ;‐⊿‐)ξ 「そういうのいいから」
o川*゚ー゚)o 「ふふふ」
私の入れた曲が始まった。
静かな昔から好きな歌。
優しいメロディと、少し寂しい歌詞が好き。
川*‐ 。‐) 「…………言葉にしたら ♪ すぐに壊れて ♪ きっともう戻らないから ♪」
o¶o
( ^Д^) 「……失礼します。ご注文のフライドポテトです」
ξ゚⊿゚)ξ゙
( ^Д^) 「……補導員の見回りがうろついてるらしいから、あんまり外に出るなよ」 ヒソ...
ξ;゚⊿゚)ξ 「え?マジですか?」
163
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:40:07 ID:8SgcPGU60
( ^Д^) 「まだここには来てないけど、気を付けてな」
ξ;゚⊿゚)ξ 「なんでそんなのわかるんですか」
( ^Д^) 「君らみたいな不良に贔屓にしてもらってるとね、日中バイト間でネットワークが太くなるんだよ」
ξ;゚⊿゚)ξ 「アルバイトすごい」
( ^Д^) 「ウチのためにも、補導されるようなマネするなよ」
ξ;゚⊿゚)ξ 「はーい……」
( ^Д^) 「頼むよ……ごゆっくりどうぞー―……」
私が歌っている間に入ってきたプギャーさんは、ツンちゃんに何かを耳打ちして出てゆく。
代わりにおいて行かれたフライドポテトは美味しそうだ。
o川*゚ー゚)o 「プギャーさんなんてー?」
ξ゚⊿゚)ξ 「ホドー員の人が来るかもしれないから気を付けてって」
o川*゚ -゚)o 「えー―……」
ξ゚⊿゚)ξ 「ホドー員の人ってどんな感じなんだろ」
o川*゚ -゚)o 「……スーツのおじさんとか?」
164
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:42:18 ID:8SgcPGU60
ξ;゚⊿゚)ξ 「見つかったら不味いかなー―……」
o川*゚ -゚)o 「不味いよー―……家とかに連絡されちゃうもん……」
ξ;゚⊿゚)ξ 「あー―……」
o川*゚ -゚)o 「学校に連絡されたら、今までみたいにサボれないかも……」
ξ;゚⊿゚)ξ 「それはダメだ!」
o川*゚ー゚)o 「……必死になるところがおかしいよツンちゃん」
ξ;゚⊿゚)ξ 「えー、だってさー―……」
ツンちゃんはそう言いながらも、カラオケの機械に入力する。
画面に表示されたのは、さっき歌ったのと同じ作詞作曲の曲だった。
o川*゚ー゚)o 「本当に好きだよね」
ξ゚⊿゚)ξ+「マサムネは天才だから」
o川*゚ー゚)o 「なにそれ」
ξ゚ー゚)ξ 「わたしもよくわかんない」
o川*´ー゚)o 「テキトー―……」
165
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:43:16 ID:8SgcPGU60
ツンちゃんが歌い始めた。
私はぼんやりとその横顔を見る。
唇がフライドポテトの油で濡れていて、ほんの少し画面の明りが映り込んでいた。
たぶんだけど。きっとだけど。私は思うことがある。
ツンちゃんは、高校を卒業したら、遠い街へ行ってしまうのだ。
もちろん私達はこの壁から出ることはできないのだけれど。
もし、「馴化」なんてものが存在しなくて、「壁」がこの街を覆っていなかったとしたら。
トーキョーとかシブヤとか、そんな。
名前だけが妙に馴れ馴れしく頭に記憶されている遠い場所へ、何のためらいも無く出て行ってしまうんだ。
ツンちゃんは、きっとそういう子なんだ。
だから、私はこの街が嫌いじゃない。
みんなを閉じ込めてくれるあの壁が、私は嫌いじゃない。
そんなことを言ってしまうと、きっと嫌われてしまうんだろうけど。
外にいるお母さんとお父さんは、きっと寂しい顔をするんだろうけど。
でも。だって。
やっと手に入れたんだ。
失って、失くして、手ぶらになってしまったこの手に、やっとつかむことが出来たんだ。
もし今あの壁がなくなって、皆が外にでられるようになったら。
私は、また失うのかもしれない。一度失ったものを取り戻せたって、それじゃうれしくないんだ。
166
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:44:08 ID:8SgcPGU60
ξ゚⊿゚)ξ 「……どうしたの、キュート」
o川*゚ー゚)o 「ん?んんー――……ん?」
ξ゚⊿゚)ξ 「どうした?」
o川*゚ー゚)o 「なんでもないよ」
ξ゚⊿゚)ξ 「……なんかあるなら、早めに言いなよ」
o川*゚ー゚)o 「……はーい」
優しい。
ツンちゃんはどんどん優しくなる。
貞子ちゃんのことがあってから、なおさら。
私の首にも、細い縄がかかっているように、ツンちゃんには見えているのかもしれない
私の携帯電話にも、親しい人に向けた最期の言葉が入ってると、思われているのかもしれない。
そんなことないんだよ。
お母さんたちには会いたいし、一緒に居たいけれど。
私には、同じくらい、もっと一緒にいたい人がたくさんできたから。
167
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:44:50 ID:8SgcPGU60
ξ゚⊿゚)ξ 「……ふぅ」
o川*゚ -゚)o 「ツンちゃんまたうまくなってない?歌」
ξ゚⊿゚)ξ 「そう?」
o川*゚ -゚)o 「隠れて練習してる?」
ξ;゚⊿゚)ξ 「してないよ」
o川*゚ -゚)o 「お風呂で歌ったりとか?」
ξ;゚⊿゚)ξ
o川*゚ー゚)o 「図星」
ξ;゚⊿゚)ξ 「……いいじゃん別に鼻歌くらい」
o川*゚ー゚)o 「これは大熱唱の臭いがしますな……」
ξ;゚⊿゚)ξ 「ちょっと声出すくらいだし」
o川*゚ー゚)o 「ほー――……」
ξ;‐⊿‐)ξ 「……いいから次の入れなよ」
168
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:45:30 ID:8SgcPGU60
まったくもって何も考えていなかったから、ペラペラと目録をめくる。
ツンちゃんも電子機械の方で気だるげに曲を探していた。
沈黙を画面に流れ始めた間繋ぎのCMがうやむやにする。
少しお腹が空いた。
テーブルの上のフライドポテトをつまんで食べる。
ξ゚⊿゚)ξ 「……ん?」
o川*゚ー゚)o 「ん?」
ξ゚⊿゚)ξ 「キュートの携帯鳴ってない?」
o川*゚ー゚)o 「え?……あ、本当だー――……」
o川*‐ , ‐)
日c コチコチ......
o川*゚ -゚) 「あ、」
ξ゚⊿゚)ξ 「どうしたの?」
o川*;゚ -゚)o 「プギャーさんからなんだけどさ、ホドー員の人来たって」
ξ;゚⊿゚)ξ 「え!」
169
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:46:15 ID:8SgcPGU60
o川*;゚ -゚)o 「見回るみたい。別の店員さんが食い止めてるから何とかしろって」
ξ;゚⊿゚)ξ 「なんとかって?」
o川*;゚ー゚)o 「わかんない」
ただ焦って動けないでいると、廊下に声が聞こえた。
店員さんともう一人、少し歳を取ったおばさんの声。
ξ;゚⊿゚)ξ 「とりあえず鞄とか持って!」
o川*;゚ -゚)o 「うん!」
ξ;゚⊿゚)ξ 「機械の陰!」
フライドポテトを、テーブルの下になるよう椅子に隠して。
明りを消して、荷物を抱えて、入口のドアから死角になる角に隠れる。
カラオケの機械が邪魔になって、外からは多分見えない。
二人でぎゅうぎゅうと、狭い隙間に体を押し込んで、息をひそめる。
カラオケのCMが、明るい雰囲気で流れている。
気のせいなのか本当なのか、その中に足音が聞こえた。
170
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:47:01 ID:8SgcPGU60
ξ;゚⊿゚)ξ
o川*;゚ -゚)o
テクテク......
―――――ィサウンドをご利用のみなさん、こんにちは………………
......コンコン
ξ;゚⊿゚)ξ
o川*;゚ -゚)o
―――――この曲は失恋から立ち直る女の子の………………
「空室ですか?」
「そうですね」
......テクテク......
ξ;゚⊿゚)ξ
o川*;゚ -゚)o
......コンコン
171
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:47:51 ID:8SgcPGU60
ツンちゃんの心臓の音が聞こえてきそうだった。
足音は、たぶん遠くなっている。
どうなったら安全なのか分からなくて。
私とツンちゃんは荷物を抱きしめたまま隙間に挟まって、二人で立ち尽くしていた。
補導員の人は、もう一回戻ってきたりするのかな。
実は誰かいることに気づいてたのに、わざと見逃したふりをして、掴まえようとしてるんじゃないかな。
ξ;゚⊿゚)ξ 「っていうか監視カメラあるじゃん……」
ひっそりとツンちゃんが呟く。
本当だ。部屋の角に、扉からの死角を映すようにカメラがついている。
あれが動いてるとしたら、ばっちり映っている。
鞄を抱えて、カチンコチンな私たちが、ばっちり映っている。
ξ;゚⊿゚)ξ 「…………」
o川*;゚ -゚)o 「…………あ」
172
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:48:33 ID:8SgcPGU60
何分くらいそうしていたのか分からないけれど、そろそろ大丈夫なんじゃないかなと思い始めた頃。
私の携帯電話にメールが来た。
プギャーさんだ。
ξ;゚⊿゚)ξ 「プギャーさん?」
o川*;゚ー゚)o 「うん。補導員の人、出てったって」
聞いた瞬間、ツンちゃんがソファーに倒れ込んだ。
私も一人掛け用の椅子に座り込む。
ξ;‐⊿‐)ξ 「もー――……めちゃくちゃ緊張したー――……」
o川*;゚ー゚)o 「ツンちゃん、すっごいドキドキしてたよね」
ξ;゚ー゚)ξ 「キュートだって、足すっごいプルプルしてた」
o川*;゚ー゚)o
ξ;゚ー゚)ξ
o川*゚ー゚)o 「ふふっ」
ξ;゚ー゚)ξ 「ふふふっ」
173
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:50:19 ID:8SgcPGU60
o川*;゚ー゚)o 「なんで笑ってんの」
ξ;゚ー゚)ξ 「キュートだって」
o川*;゚ー゚)o 「だって、なんか、おかしくって」
ξ;゚ー゚)ξ 「私も」
o川*´Д`)o 「あー―……、もう、疲れたー―――……」
ξ*‐⊿)ξ=3 「はぁー――……でもなんかちょっと楽しかった」
o川*´ー゚)o 「わかるわかる。すっごいドキドキだったよね」
声を殺して笑い合う。
ツンちゃんの戸惑いで硬くなった顔を思い出したら、笑いが止まらなくなった。
珍しく、ツンちゃんも体全体で笑っている。
何が面白いのか自分たちでも分からなかったけれど、それでも笑いが込み上げてくる。
ああ。
いいのかもしれない。
こういう毎日との違いは、大歓迎だ。
哀しいことは全部遠くに置いて。
好きな人と楽しい時間を過ごせればいい。
そんな考え方、間違いなのかもしれないけれど。
答え合わせする頃にはきっと、そんなことどうでもよくなっているんだから。
174
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:51:35 ID:8SgcPGU60
ξ*゚⊿゚)ξ 「あー、なんか歌おっか」
o川*゚ー゚)o 「お、いいですね」
ξ*゚⊿゚)ξ 「せっかくだから一緒に歌えるのにしよっか」
o川*゚ー゚)o 「いいねいいね!」
ξ゚⊿゚)ξ 「何にする?」
o川*゚ ‐゚)o 「むむむ……趣味が違いますからね……」
ξ゚⊿゚)ξ 「ゆゆしき問題だ」
o川*゚ー゚)o 「あれならわかるよ!ツンちゃんの十八番!」
ξ゚⊿゚)ξ 「既に歌ったんですが」
o川*゚ー゚)o+ 「私は歌ってませんから」
ξ゚⊿゚)ξ 「成程」
o川*゚ー゚)o 「なによりマサムネは天才ですからね」
ξ゚ー゚)ξ 「なにそれ」
o川*゚ー゚)o 「わかんない」
175
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:52:17 ID:8SgcPGU60
ぴぴぴっと、機械に曲名を入力して
少し待つと、画面が切り替わった。
さっきも見た、見慣れたタイトル画面。
o川*゚ー゚)o 「一緒に歌うの初めてだから緊張するー」
ξ;゚⊿゚)ξ 「そう言うのいいから」
イントロは軽やかで、明るいのにどこか物寂しい。
たぶん私も、何度も聞いている内にこの曲が好きになっていたんだと思う。
ξ‐⊿‐)ξ 「君を忘れない ♪」
川*゚ ,゚) 「曲がりくねった道を行く ♪」
o¶o
声がダブる。
ツンちゃんの横顔を覘きながら歌う。
どこか楽しげなのがわかって、なんだかすぐに嬉しくなった。
そうだよ。
こういうささやかな喜びを、私は大切にしたいんだ。
176
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:53:45 ID:8SgcPGU60
─── ─── ───
.
177
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:55:39 ID:8SgcPGU60
(´・_ゝ・`) 「なんだ、今日は斎藤なのか」
(・∀ ・;)彡 「……あ」 サッ
無駄に重い屋上の鉄扉を開けた先にいたのは、いつもの後姿では無かった。
学校指定のスラックスに、淡いブルーのワイシャツ。
平均よりもやや身長が高いが、猫背のせいで損をしている。
斎藤またんき。
しばらく前に転入してきた、外生まれの男子生徒だ。
来たばかりの頃は、以前通っていた工業高校の学ランを着ていたのが印象に残っている。
私に声をかけられ、慌てて体に隠した右手から、穏やかに煙が立ち上っていた。
(・∀ ・;) 「……ォス」
(´・_ゝ・`) 「……だよなあ。普通隠すよなあ」
(・∀ ・;) 「……?」
気まずさを全面に押し出した顔の斎藤をとりあえず気にせず、スラックスのポケットから自分の煙草を取り出した。
一本引き抜いてライターを指先で弾く。
キンッっと、お気に入りの音色が蝉の声の中で響いた。
(´・_ゝ・`) 「何吸ってるんだ?」
(・∀ ・;) 「え?あっと……」
178
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:57:33 ID:8SgcPGU60
(´・_ゝ・`)y‐ 「銘柄だよ」
(・∀ ・;) 「あー――……えっと」
(´・_ゝ・`)y- 「そんな警戒するな。面倒だから説教なんてしないから」
(・∀ ・;) 「いや、適当に買ったやつで、よくわかんないんスよ」
(´・_ゝ・`)y- 「初めてか?」
(・∀ ・) 「はい」
(´・_ゝ・`)y- 「…………パーラメントか。随分渋い趣味してるな」
(・∀ ・;) 「いや、そもそもわかんないっす」
斎藤が差し出したのは、暗い青のパッケージ。
私の周りで言えば、比較的年配の喫煙者が好んでいる印象がある。
それにしても、最近は喫煙が流行なのか。
学生時代と言えば、確かに酒や煙草に手を出したい頃ではあると思うが。
まあ、目に見えない何かに歯向かいたい、変化を作り出したいその感情を、理解できないわけでは無い。
指に挟んだままの煙草に火を灯す。
夏になり湿気やすくなった葉は、心なしか味が薄かった。
179
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:58:40 ID:8SgcPGU60
(・∀ ・;)y-~ 「先生はなんですか?」
(´・_ゝ・`)y-~ 「ん」
人慣れしていない奴だ。
他人と、無言で同じ場所にいることが耐えられなかったのだろう。
特別興味を持ってるとは思えないその質問に、箱を差し出して答える。
(・∀ ・)
何とも言えない顔をした。
仕事中に、家の鍵をちゃんと掛けたか不安になったときの私と同じ顔だ。
いや、違うかもしれないが、上手い言葉が見つからない。
この煙草に、何か思い入れがあったのか。
(´・_ゝ・`)y-~ 「……吸ってみるか?」
(・∀ ・;)y-~ 「え?」
(´・_ゝ・`)y-~ 「興味がありそうに見えた。違うならいい」
(・∀ ・;)y-~ 「あ、じゃあ、一本だけ」
斎藤は慌ただしくポケットから携帯灰皿を取り出し、パーラメントを押し付ける。
いかにも新品。吸殻は一つも無く、使用感が全くない。
180
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 00:59:21 ID:8SgcPGU60
(・∀ ・)y- 「……いただきます」
(´・_ゝ・`)y-~ 「百円な」
(・∀ ・;)y- 「えっ?ええ?マジっすか?」
(´・_ゝ・`)y-~ 「……冗談だよ。早く吸え」
(・∀ ・;)y- 「……ゥス」
恐らく一式をコンビニで揃えたのだろう。
細い金属仕上げのライターで、斎藤は火をつけた。
まだどこかぎこちない。ゆらりと流れた煙が目に入り沁みたように眉を潜める。
(´・_ゝ・`)y-~ 「どうだ」
(・∀ ・;)y-~ 「よくわかんないっす。こっちの方が、気持ち吸いやすいかな」
(´・_ゝ・`)y-~ 「……強く吸いすぎだな。口で優しく吹かすんだ」
(・∀ ・;)y-~ 「……んん?」
(´・_ゝ・`)y-~ 「そんな感じだ。こんなもん、どうせなら美味く吸った方がいい」
(・∀ ・;)y‐~ 「ゥス」
181
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 01:00:41 ID:8SgcPGU60
再びの沈黙。
唇に開けた隙間から流れ出す紫煙をぼんやりと眺める。
(・∀ ・)y-~ 「……先生って外の人なんですよね」
(´・_ゝ・`)y-~ 「……俺の年くらいはな。みんなそうだ」
(・∀ ・)y-~ 「なんで、中に来たのかとか、聞いても良いですか?」
(´・_ゝ・`)y-~ 「…………」
(・∀ ・;)y-~ 「あ、いや、すいません。やっぱいいです」
(´・_ゝ・`)y-~ 「なんだよ」
(・∀ ・;)y-~ 「いや、あんまりはなしたくないのかなーって……」
(´・_ゝ・`)y-~ 「そうでもねえが。クラスの奴とは、しないのかそう言う話」
(‐∀ ‐;)y-~ 「あー―……いやぁ。……俺が、人見知りってのもあるんスけど、難しくて」
難しい、ね。
なるほど。そのとおりだ。
たとえ中の人間同士であっても、この話は言葉の選択が難しい。
ちょっとした軋轢一つで壊れかねない高校のクラスの中での話ならばなおさらだ。
こいつは人見知りだが、その分他人との問題を避ける嗅覚が発達しているらしい。
182
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 01:01:43 ID:8SgcPGU60
再びの沈黙。
唇に開けた隙間から流れ出す紫煙をぼんやりと眺める。
(・∀ ・)y-~ 「……先生って外の人なんですよね」
(´・_ゝ・`)y-~ 「……俺の年くらいはな。みんなそうだ」
(・∀ ・)y-~ 「なんで、中に来たのかとか、聞いても良いですか?」
(´・_ゝ・`)y-~ 「…………」
(・∀ ・;)y-~ 「あ、いや、すいません。やっぱいいです」
(´・_ゝ・`)y-~ 「なんだよ」
(・∀ ・;)y-~ 「いや、あんまりはなしたくないのかなーって……」
(´・_ゝ・`)y-~ 「そうでもねえが。クラスの奴とは、しないのかそう言う話」
(‐∀ ‐;)y-~ 「あー―……いやぁ。……俺が、人見知りってのもあるんスけど、難しくて」
難しい、ね。
なるほど。そのとおりだ。
たとえ中の人間同士であっても、この話は言葉の選択が難しい。
ちょっとした軋轢一つで壊れかねない高校のクラスの中での話ならばなおさらだ。
こいつは人見知りだが、その分他人との問題を避ける嗅覚が発達しているらしい。
183
:
>>182 miss
:2013/11/17(日) 01:03:04 ID:8SgcPGU60
(´・_ゝ・`)y-~ 「……斎藤は、なんで馴化したんだっけか」
(・∀ ・;)y-~ 「猫っす。道端で死んでる猫を埋めてやろうとしたら、実は生きてて」
しかもそれが、馴化に侵された猫だったと。
比較的多い話だ。猫でないにしろ、偶然に壁の外に逃れた動物を介するというのは。
対応が早くて本当によかった。もし発覚が遅ければ、数十人単位がお引越しの事態もあり得たろう。
(・∀ ・;)y‐~ 「間抜けっすよね。学校でも散々、気をつけろって言われてたのに」
(´・_ゝ・`)y-~ 「まあ、迂闊だったな」
(・∀ ・;)y-~ 「ホントっす。まあ、終わったことなんで仕方ないんスけど」
(´・_ゝ・`)y-~ 「……ここは嫌いか?」
(・∀ ・;)y-~ 「嫌いってわけじゃ……。……独り暮らしは、気楽でいいっす」
(´・_ゝ・`)y-~ 「……そうか」
(・∀ ・)y-~ 「……ゥス」
煙だけが流れる。
この街にしては珍しく風があった。
流れ溶ける仄かな白の向こう、空は夏らしい、濃い青をしている。
日差しが少々辛い。
私は立ち上がり、貯水タンクの作る日陰へ移動した。
184
:
>>182 miss
:2013/11/17(日) 01:05:08 ID:8SgcPGU60
斎藤は、時折汗を拭いながらもこちらにこようとはしない。
柵に凭れかかり、熱心に携帯電話を扱っていた。
口から煙をひと吹き。
残りの少なくなった煙草を、灰皿に押し付ける。
もう一本火をつけてもよかったが、先客に少々気を使うことにした。
(´・_ゝ・`) 「斎藤」
(・∀ ・;)y-~ 「はい」
(´・_ゝ・`) 「あんまりサボり癖つけるなよ」
(・∀ ・;)y-、~ 「……ゥス」
扉を開け、階段を下る。
時計を見たが、10分もいなかった。
いつもに比べれば、短い。
(´・_ゝ・`) 「……ったく、どこでサボってんだか」
廊下の窓から町並みが見える。
蝉の声に交じって聞こえたのは、恐らく民兵の銃声。
(´・_ゝ・`) 「……今日も、平和だねぇ」
185
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 01:05:57 ID:8SgcPGU60
#-1 「君を忘れない」 おわり
.
186
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 01:06:38 ID:8SgcPGU60
 ̄ ̄ ̄ ――― ___ ,,。
187
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 01:06:54 ID:hdvj6e6M0
しみじみした
188
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 01:07:19 ID:8SgcPGU60
{
》
/
/|/´ ......
〈:/
〈
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》 |/ ビキッ.....
、 /! /
/:::|/
〈::::/\
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, } ‐―
〈
189
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 04:30:01 ID:boDswXus0
壁が…
乙
190
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 04:49:10 ID:DxokdJjg0
乙
これから何が起こるのかね
191
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 06:23:20 ID:RjmhOtsc0
おつ
続きがすごく気になる
192
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 08:19:03 ID:u3xGSMAo0
次は0か
どう展開してくんかね
193
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 09:14:18 ID:hPi2F.Ko0
どうなるんだ…
おつ
194
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 12:16:00 ID:lrA/LOIA0
乙
195
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 14:43:23 ID:/PCyMviY0
乙
196
:
名も無きAAのようです
:2013/11/17(日) 21:47:14 ID:DxAYbLsI0
待ってた
乙!
197
:
名も無きAAのようです
:2013/11/19(火) 10:30:56 ID:IafN0WwU0
乙ー
なんかドキドキしてくるな
198
:
名も無きAAのようです
:2013/11/19(火) 23:11:50 ID:1Kpsuuxk0
支援
ξ゚⊿゚)ξy‐~
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1381.jpg
199
:
名も無きAAのようです
:2013/11/19(火) 23:17:08 ID:OqDH4GKk0
>>198
雰囲気あって素敵
200
:
名も無きAAのようです
:2013/12/30(月) 00:50:04 ID:shUo/lN6O
おもしろい
201
:
名も無きAAのようです
:2014/02/18(火) 11:55:19 ID:vr3rbSdg0
待ってるよ〜
202
:
名も無きAAのようです
:2014/06/02(月) 20:47:26 ID:WWbyhwQM0
待ってる
203
:
名も無きAAのようです
:2014/09/07(日) 18:55:54 ID:iPwE3m4Q0
まってるよー
204
:
名も無きAAのようです
:2014/10/26(日) 17:35:52 ID:1OnQz2tQ0
続きが来ると信じて
205
:
名も無きAAのようです
:2014/11/18(火) 14:02:00 ID:6g7L6nwo0
もう一年経つのか
206
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:03:59 ID:GEK0XKdk0
靄のような眠気から、ハッと目を冷ました時に見えたのは、目がくらむ程の朝焼けだった。
さっきまで濃紺だったはずの空がいつの間にか白と青に染まりかけていて、大した事でもないのに感動する。
早朝五時。
始発電車は鉄道会社の経営が心配になるほど空いている。
乗っているのは俺を含めて三人。
本来朝帰りとは無縁そうな眼鏡の学生と、朝帰りばかりしていそうな赤い髪の女だけだ。
どちらも気だるげに席に座り、スマートフォンを弄っている。
ゲームだろうか、SNSだろうか。
つられて俺も自分のポケットをまさぐったが、携帯電話を自宅に忘れていたことを思い出す。
代わりに、昔から使っている音楽プレイヤーをイヤホンごと引っ張り出した。
耳にイヤホンをはめる。
特に何が聴きたいという気分では無い。
ただ、窓の外を流れて行く眩い景色と、電車の走る穏やかな音に俺の中の仄暗い部分が焼き尽くされてしまうような。
そんな感傷が、耳を塞ぐ口実を欲しがっていた。
懐かしい曲が流れる。
昔、まだ学生服を着て、あの高校に通ってきたころによく聞いていた。
眠気とは違う心地よさに目を瞑る。
疲労の招くセンチメンタルが、薄れかけていたあの頃の記憶を掘り返す。
いつも視線の先にあった、あの壁を思い出す。
気だるげに煙草を吹かす、彼女の横顔を思い出す。
当たり前だった、非日常を思い出す。
あの街、草咲市を出て5年。
俺は今日で23歳になった。
207
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:05:33 ID:GEK0XKdk0
―――ああ、あの日を、あの日々を
もっと上手に生きられたのならば
# Error! 「もう大人になっちゃたんだから」
.
208
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:06:49 ID:GEK0XKdk0
電車を降り、駅を出てしばし歩く。
ほんの少し息が上がり始めた頃にアパートに着いた。
本来誰も借りていない駐車場に車が停まっている。
淡いブルーの、丸みのある軽自動車。
ミラーにつられているクマのストラップは車体と同じ色をしている。
「…………帰らなかったのか」
二人分の朝食を買っておいてよかった。
独り言に胸中でそう付け加える。
手に持つビニール袋の中身は、始発を待つ時間にコンビニで買った食料品だ。
他の住人に気遣い、静かに階段を登って、二階の廊下を奥へ行く。
205号室。
最近入居したばかりのせいで、まだ慣れない。
一昨日など、酔って帰ったせいで隣の部屋に入ろうとして警察を呼ばれそうになった。
部屋番号を何度か確認してからナンバーロックを外し、ゆっくり扉を開けた。
「ただいま」
自分で想定していたよりも小さい声になった。
当然というべきか、返事は無い。
開いた時と同じく慎重に扉を閉める。
靴を脱ぐ。
几帳面に揃えられているパンプスの横に、少し間を開けて並べた。
209
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:08:42 ID:GEK0XKdk0
壁のスイッチで明りを点ける、
キッチンと同一化した廊下を抜け、部屋へ。
ガラスの引き戸を開けると、殺風景な室内に四角い光の枠と、俺の影が伸びた。
「……ただいま」
見下ろす視線の先。
布団を一枚、纏うように、抱きしめるようにして眠る彼女に、呟く。
ベッドを使っていいと言ったのに。
引っ越しと同時に買った長座布団は、小柄な彼女の身体でも丈が足りていない。
起こさないよう足音を忍ばせ、テーブルにコンビニ袋を置いた。
壁際に並べて置いてあるカラーボックスの一画からバスタオルと綺麗な衣類を取る。
寝るにしろ、飯を食うにしろ、まず汗を流してしまいたかった。
部屋を出て、風呂場の照明をつける。
代わりに玄関先の明りは消した。
ガラス戸を閉めれば、部屋への光漏れは防げるだろう。
服を脱ぎ、洗濯機へ入れようとして手を止める。
彼女の物と思われる衣類が、槽の中に残っている。
ちらと見た限りではまだ洗ってはいないようだ。
しばし悩んで、洗濯機の横の籠に服を放り、洗濯機の蓋を閉めた。
210
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:10:14 ID:GEK0XKdk0
手早くシャワーを浴び、バスルームの扉を開けると、部屋の方が明るかった。
戸のすりガラス越しにも、カーテンが開いていることが分かる。
急いで体を拭き、服を着る。
丁度長袖のTシャツに頭を通したところで、ガラス戸がゆっくりと開いた。
「…………おかえりなさい」
「……ただいま。ごめん、起こしちゃって」
「んー―……?気にしないで、元々帰ってきたら起きるつもりだったから」
戸の隙間から窺うように顔を覗かせた彼女は、少し寝ぼけているようで。
やや舌の足りていない言葉遣いに、噛み殺しきれない欠伸が混じる。
「今日は、随分遅かったね」
「あー―……」
「彼女と会ってきたとか?」
「いないって」
「それはよかった」
「何度目だよ、それ」
「んー―……五度目?」
「六度目だよ」
「よく覚えてたね」と彼女は笑う。
俺はさらにどう答えればいいのか分からず、誤魔化すために頭を拭いた。
211
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:11:27 ID:GEK0XKdk0
「ってかさ」
「ん?」
「帰らなかったんだな」
「……うん。迷惑だった?」
「いや。そう言う意味じゃない」
じゃあどんな意味だ。
自問自答して、軽率に口を滑らせたことを後悔した。
「……今日、誕生日でしょ」
相変わらず顔だけを覗かせている彼女の言葉に、少々驚く。
誕生日なんて教えていなかったはずだ。
俺だって、仕事中に話題に出ていなければすっかり忘れていたのに。
「こないだ、定期入れ忘れたじゃん。届ける時に一緒に入ってた免許の生年月日見てさ、何となく覚えてたんだ」
「あー―……」
「それで、なんかお祝いしなきゃなと思って、3時くらいまでは起きてたんだけど」
「…………ごめん。店でさ、誕生日が今日だったって話になって」
「お祝いしてもらってたんだ」
「うん。たまたま、常連さんがいたから、始発の一時間くらい前まで」
212
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:12:59 ID:GEK0XKdk0
「いいお店だ」
「うん」
その笑顔にほっとする。
何をどう不安に思っていたのか、何にどうして安心したのか自分でも分からない。
彼女と一緒に居る時、俺は恐らく真面な人間から数歩退化している。
「じゃあ、私のお祝いはいらない感じ?」
「それは…………」
「なんてね。いらないって言ってももう買っちゃったから貰ってもらいます☆」
戸を勢いよく開けて彼女が押し付けてきたのは、少し大きな紙袋。
シンプルだけれど、目を惹くデザインのロゴが入っている。
確か、服のブランドだったような。
無頓着なものであまり知らないのだけれど、普段着ている量販店の安物よりははるかに良いものに違いない。
「見ていい?」
「是非是非見てくださいな」
「おおー―……ジャケット……?」
「うん。服のプレゼントなんて、ちょっと攻めすぎかなぁとは思ったんだけどね。
もうちょっと気を使ってもいいんじゃないですかって気持ちも込めて、選んで見ました」
213
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:15:41 ID:GEK0XKdk0
「これ、高くなかったの?」
「ん?んー―……ま、プレゼントの値段なんて気にしないの」
「でも」
「良いから、着て見てよ」
袋の中に入っていたのは、黒地の上着。
手に取っただけで、普段着ている安物とは質感が違う。
袖を通し、前を合わせる。
驚くほどぴったりだ。肩も脇も、きつくないが緩くも無い。
「着心地が良い。どうやってサイズ図ったの」
「いや、君の服なんて調べ放題だし、サイズだけはちゃんと選んでるの、見てれば分かるから」
「そうか」
「まあ、もしそれでもダメだったら変えてもらうつもりだったんだけど」
「大丈夫。全く問題ない」
「やったね。さすがは私」
「うん。さすがだ」
彼女は満足気に笑みを浮かべ、両手を差し出した。
意図が読めずに戸惑っていると「ジャケット、ハンガーにかけとくよ」と言う。
一瞬報酬を求められているのかと考えた自分を恥じた。
214
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:16:46 ID:GEK0XKdk0
彼女がクロゼットにジャケットを掛ける、その背中を眺める。
淡いブルーのスウェット。俺が着ていいと貸した服のどれとも違う。
恐らく俺が仕事に行っている内に自宅に帰って持ち出してきたのだろう。
一度この部屋を出ていき自分の家へ帰ったのに、また戻ってきてここで寝ていたのだ。
それに気付き、俺の胸腔に空気と違う何かが満ちた。
「どしたの?」
「いや、何でも。朝飯食べる?」
「なにあるの?」
「コンビニのおにぎりとか、パスタとか」
「ほう」
「っていってもこれ、トマトソースだから。苦手だったよね」
「それがですね、そのままはダメだけれどトマトソースは食べられるんです」
「そうなの?」
「うん。むしろ好きだったり」
「……そういう好き嫌いもあるのか」
「君は何でも食べるもんね」
215
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:17:46 ID:GEK0XKdk0
「……でさ、今日もお仕事だよね」
「うん」
「また5時?」
「うん」
「じゃあさ。……それまでちょっと一緒にお出かけしたり出来る?」
おにぎりを口元に持ち上げようとした手が止まる。
彼女もパスタをフォークに巻き付ける手を止めてこちらを見ている。
意図が分からず、答えが浮かばなかった。
再会した時以来、僕と彼女はこの部屋の外では会っていない。
互いに外出はしていたが、行動を共にすることは無かったし、それが普通で当然だった。
だからこそ、彼女の誘いは寝耳に水のようなもので、間抜けに戸惑って見せてしまう。
「嫌?」
「嫌というか、いや、嫌では無い
「じゃあ、甘えていい?」
「……なら、はやく寝ないといけない」
「ちゃんと歯を磨かないと」
「わかってるよ」
216
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:19:57 ID:GEK0XKdk0
おにぎりを一つだけ食べ、注意された通り歯を磨いて布団に潜る。
彼女ももう一度寝るというので、ベッドを譲ろうとしたが断られた。
自分の体臭が多少なりとも染みついているここを無理に薦めることも出来ず、
彼女が座布団に横になるのをただぼんやりと見ていた。
「じゃあ、おやすみ」
「……おやすみ」
彼女が手を伸ばし、カーテンを閉めた。
光が遮られ暗くはなったが、太陽の気配は確実に零れてきている。
瞼を閉じる。
少し酒を飲んでいたせいもあって、寝入りに苦労は無さそうだ。
水に沈むように意識が遠くなってゆく。
眠る。脳の後ろの方で、そう感じた。
同時に、彼女がベッドをのぞき込んだのが、音と軋みの振動でわかった。
目を開けるかどうか、逡巡する。
何か言いたいことがあるのかもしれない。
今ならまだ、意識が留まっている。
薄ら、瞼を押し上げる。
ぼやけた視界に、彼女の顔が映った。
その表情は、微笑んでいるようにも、涙を堪えているようにも見えた。
「おやすみ」
「…………」
俺は、逃げるように眠りに落ちる。
217
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:22:38 ID:GEK0XKdk0
大型のトラックが、前の道を走り去っていく音を、まず初めに認識した。
次に、鼻をくすぐるいい匂い。
味噌汁だ。最近はインスタントの物ですら口にしていないなと、ぼんやりと思う。
上半身を起こす。
頭を掻いて、欠伸。
テーブルの上の時計は、13:14分を表示している。
大体、六時間は眠られたか。
カーテンを開けると、秋の気配の濃くなった陽光が眩しい。
目をしょぼしょぼとさせていると、ガラス戸が開いた。
顔を出した彼女は、見慣れないエプロンを身に着けている。
「おはよ」
「……おはよう」
「ご飯そろそろできるから、待ってて」
いつも通りに明るく軽やかな声。
寝入る寸前に見てしまったあの表情の意味を、俺は聞かずに飲み込んだ。
218
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:24:19 ID:GEK0XKdk0
彼女の作った食事を一緒に食べ、出かける準備をする。
いつものジーンズに、貰ったばかりのジャケットを合わせた。
自分で見る限りは、似合っている、気がする。
いや、正確に感想を述べるなら、自分には過ぎたものを着ているようでなんだか落ち着かなかった。
「……うん、似合ってる」
「……それは御世辞じゃないよな」
「もちろん。ってかさ、身長あるんだからちゃんとしたもの着ればちゃんと決まるって、君は」
「……そうなのか」
「普段着ならいいと思うけど、やっぱり何着かちゃんとした服も持っておかないと」
「うん」
「私たちは、もう大人になっちゃたんだから」
彼女がするりと、何気なく続けた言葉が、鈍く、深く、心臓の脇に突き刺さった。
自分の用意に戻った彼女を見る。
鏡に向かい、メイクをする横顔に、特別な何かは見受けられない。
219
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:25:23 ID:GEK0XKdk0
「……あのさ、一応、メークするの、見ないでもらえる?」
「あ、ごめん」
「すっぴん見られるのは仕方ないから諦めるけど、最中みられるのは落ち着かないんだよね」
「君は、もともと綺麗なのに、必ずするよな」
「…………すっぴんなんて好んで見せたいものじゃないし、それに、お化粧は、マナーだからさ」
「……」
「そこらへんはね、男の人とは違うんですよ。女の子は」
「……そっか、余計なこと言ってごめん」
「謝られるようなことではないけど」
彼女は困ったように笑う。
施されていく化粧は、他の女性と見比べるとやや薄いように見えた。
「……ってかね、困る」
「……何が?」
「不意に誉めるのは卑怯。こっちが準備してない時にさも当然みたいに言うの、ダメ」
「……?」
「今まで、君を好きになっちゃった人たちの気持ち、少し分かるな」
220
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:26:45 ID:GEK0XKdk0
「俺にはよくわからない」
「それは厄介ですね」
「いつも、付き合ってもすぐ愛想つかされるし」
ふふ、と声を漏らして彼女は笑う。
メイクが終わったのか、開いていた小さな鏡を畳んで、ポーチの中にしまう。
ふとこちらに向き直った顔は、何もしていない時よりも少しだけ印象が違った。
「それも、よくわかる」
「それが、自分でも困ってる」
「ざまあみろ」
にっこりと唇の端が上がる。
最近見慣れた少し幼い顔よりも女性らしさが増していて、何となく気まずさを覚えた。
目を逸らした先にあったCDのケースを、気まぐれに手に取る。
俺の物ではない。彼女が持ってきたのだろう。
歌手名を見て、身体の芯がずしりと冷えた。懐かしさに絡まった虚しさが、思考を鈍らせる。
「じゃ、いこっか」
「……うん」
彼女に引かれるまま、部屋を出た。
自主性のない子供が姉か母親に引っ張られているようだ。
俺は、ここまで鈍い人間だったろうか。
221
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:27:48 ID:GEK0XKdk0
とりあえず彼女の車で市街地まで出ることは決まっていた。
彼女が運転席に座り、俺は助手席でシートベルトを絞める。
女性に運転させるというのも居心地が悪く、運転手を申し出たのだが断られた。
「君の運転を信用しないわけでは無いんだけど、自分の車だから」
そう言われてしまうと、無理を通すことも出来ず、大人しく従う。
今までも成り行きで彼女の運転に何度か同乗したため、
暫くハンドルを握っていない俺よりはいくらか安全なことはわかっている。
「……それ。私のやつ?」
「あ、勝手に持ってきてごめん」
「んーん、いいの。聴くんだったら、いいよ。今何も入ってないから」
「……」
車が動き出す。
彼女の顔が少し強張った。
「大丈夫?」
「何が」
「運転。緊張して見える」
「そりゃ、人様の命を預かってるんですから。一人で乗るのとは、違いますよ」
222
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:30:22 ID:GEK0XKdk0
「この前は、それほどでもなかった気がしたけど」
「あの時は、別のことでいっぱいいっぱいだったっし。よく、無事にたどり着けたなと、自分でも、思うよ」
表の通りに出て、彼女の緊張が俄かに高まり俺も言葉を返すのを辞めた。
持て余していたCDのケースを開く。
金の混じった黄土色と白の、ツートンのデザイン。
アルバムだ。タイトルを見てCDの模様が三日月を表しているのだろうと気づいた。
「……聴かない?」
「いや」
「……聴きたくない?」
「……」
「……私も聴きたくないんだけど、聴きたいんだよね。変だけど、さ」
「いや」
全然、変じゃない。
俺はそっとCDを取りだして、オーディオの口に差す。
三割ほど押し込むと、機器のほうがCDを奥へ招いて行った。
スピーカーが起きる、小さなノイズが聞こえた。
ピアノと、ギターの混じる落ち着いた雰囲気のイントロ。
夜の空気だな、と思ったのは、俺がこの曲を知っていたからなのだろう。
223
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:31:31 ID:GEK0XKdk0
彼女がため息を漏らすように微かな声で鼻歌を溢し始める。
俺は、歌詞までは覚えていなかったので、大人しくそれを聴いていた。
思っていたよりも、淋しさや虚しさは無かった。
だからこそ、言葉に形容しにくい靄を感じてしまう。
俺たちの中から徐々に、でも確実に、あいつは薄れて行っている。
それを、思い知らされる。
「わがままだよな」
「ん?」
「思い出すのが辛いから、思い出したくないのに、いざ記憶が色あせていくと、無性に寂しくて必死に思い出すんだ」
「…………うん」
窓の外を景色が流れる。
まだ通り慣れない道だ。
どこにでもあるような風景で、目新しさはない。
CDと、彼女の鼻歌を聞いて居る内に、ショッピングモールが見えてきた。
この周辺で買い物と言えばここか、もうしばらく行った先にある主要駅前になる。
小さな店も当然あるだろうが、土地勘のない俺たちには難度の高い冒険だ。
「やっぱり混んでるね……。入口から遠くてもいい?」
「それは全然」
今日は日曜だ。
混んでいるのは読めていたし、この程度の距離を億劫に感じるほど老けてはいない。
224
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:32:49 ID:GEK0XKdk0
秋も深まり、もうすぐ冬になるころだ。
天気が良いせいもあってか、駐車場の込み具合に比例してモールの中は非常に賑わっていた。
家族連れが多い。
店内の品の色合いに、子供たちがどこかでもらったのだろう風船が視覚的な賑やかさも増幅させている。
「聞いてなかったけど、どこ行くの?」
「えっとね、文房具とか本屋さんとか。あとは、適当」
「無計画だ」
「らしいでしょ?」
「うん」
「即答されると不満だよね」
「どうしろって言うの」
俺自身に特別目的があるわけでも無く、彼女について行く。
一人で目的なくふらつくのも良いが、この家族連れでごった返す中では少し気が引けた。
エスカレータ前の案内版に従い、上の階へ。
該当フロアの一角を大きく占める書店に直行する。
書店にも人はいたが、他の売り場に比べると少なく見えた。
本を買うとなれば近場に大きな書店もある。
ここに来るのは他の買い物のついで程度なのだろう。
225
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:35:49 ID:GEK0XKdk0
「ちょっと待ってて」と言って小走りで去る彼女に置いてけぼりにされ、俺は手近な雑誌のコーナーに立ち寄る。
個別の包装などはされていない。立ち読みの是非はともかく、さらっと中を眺めることは出来そうだった。
とりあえず、一番興味を持てそうな音楽雑誌を手に取った。
中身は新曲のリリース予定や、人気曲の紹介、歌手の紹介などの記事だ。
音楽を聴くことはあっても、積極的に情報収集をするわけでは無い俺だ。
大きく取り上げられている歌手の大半の名前がピンと来ない。
曲を聴けば分かるかもしれないが、紙面だけで言えば未知の存在ばかりだ。
ぱらぱらとめくっている内に、とある一つのワードが目に留まって、ページを戻した。
他の歌手に比べるとあまり大きくない、コラムのようなものだ。
そこにあった「壁の中」という一つの単語に、俺は反応せずにはいられない。
取り上げられていたのは、俺でも知っている歌手のインタビュー形式のコラムだった。
俺でも知っている、というか、ただの路上のミュージシャンだったころから知っている。
俺がまだ高校生の頃からずっと、彼はギターを鳴らし歌っていた
演奏を目の前で聴いたこともある。
デビューしたとは聞いていたが、密かにかなりの人気が出ているようだ。
「壁の中にいた」というのを売りにすることを嫌う姿勢が、むしろ好感を呼んでいるのかもしれない。
「お客さん、立ち読みは困りますね」
「……早かったね」
「うわ、ノリ悪い」
「そう言われても」
「君が相変わらずつまんなそうに立ち読みしてたから、急いだんですよーだ」
226
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:36:36 ID:GEK0XKdk0
「何買ったの?」
「ん?んー――……あとで話すよ。それより、色々見て回ろ」
「……まあ、いいけど」
書店の袋に収められた彼女の買い物は、本にしては少々薄い。
俺が伺っているのに気付いたのか、彼女は袋を体の陰に隠した。
少し拗ねたように、俺を睨む。
「ちゃんと教えるって。ちゃんと落ち着いてさ」
「……そう」
「じゃ、どこ行きたい?」
「そろそろ、冬物の準備が必要かとは思っていた」
「じゃ、紳士服売り場にゴー!」
ずんずんと先を行く彼女の背中を追いかける。
俺は紳士服売り場が何階なのかすら分かっていなかったが、彼女は迷うことなく下行きのエスカレーターに乗る。
少し歩いて、すぐに紳士服売り場を見つけた。
高校生の頃、こういったモールで売っている服はどうにも印象が良くなかったのだが、改めてみるとそう悪くは無い。
俺の感性が老けたのか、品ぞろえがそもそも改善されたのかは、あえてはっきりさせないが、当初よりもやや購入意欲が沸いてくる。
227
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:40:20 ID:GEK0XKdk0
「なに欲しいの?」
「手袋と、マフラーかネックウォーマーを買おうかと思うんだけど」
「私が見つくろってあげましょうか」
「実は、そのつもりだった。自分で選ぶと黒だけになりそうだから」
「頼りにされて悪い気はしないね」
二人で、陳列された衣類の間を、ゆっくりと歩く。
彼女が服を手に取り、棒立ちの俺に押し付け、眉間に皺をよせ唸った後に、別の服に取り換える。
俺はひたすらその様子を見ている。
買う俺よりも真剣に物を選ぶ彼女は、実にらしくて、つい笑ってしまう。
「ちょ、真剣に選んでるのに何そのバカにした反応!」
「いや、そういうつもりはないんだけど」
「こうなったら意地でもピンクの服を買わせます」
「それはやめよう」
いろいろ見回るも、特に着たいものが決まらずに時間だけが過ぎた。
彼女のお蔭で、楽しい時間だった。
ふと、時計を確認する。
仕事までの時間はまだ余裕があるが、そろそろ切り上げるべきだろう。
228
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:42:04 ID:GEK0XKdk0
「結局何も決まらなかったね」
「急ぎでもないし。またゆっくり探すよ」
「そっか、残念」
「……その時も、選んでもらえると助かる」
「……」
「君が良いなら、だけど」
「……断る理由がありませんね」
エスカレーターに乗り、食料品や日用雑貨の売り場である一階へ下りる。
夕方に差し掛かる時間で、このフロアが一番混んでいた。
フードコートもあるため、家族連れのみならず、高校生の集団なども目立つ。
「あ、」
「どうしたの?」
「ごめん、店の店長だ」
「え、どこどこ?」
「ほらあの、ちょっとだけ髪の寂しい……」
「あ、あの人?」
229
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:43:27 ID:GEK0XKdk0
食料品の売り場で、買い物かごを片手に真剣に牛乳を睨んでいる中年の男性がいた。
グレーのジャケットに暗い赤のスカーフを巻いているのその姿が周りから若干浮いているのですぐに分かった。
絶妙に寂しい頭髪事情に、落ち着きのある面立ちは間違いない。
俺の働く店ののオーナー兼店長、諸本さんだ。
「お疲れ様です、諸本さん」
「……ああ!誰かと思ったら君か。奇遇だね、こんなところで」
「いえ、店の買い出しですか?」
「そうなんだよね、牛乳が切れていたのに注文を忘れていたから……と」
諸本さんの眼が、俺の後ろに居る彼女を見据えた。
一瞬視線が止まり、すぐに俺に戻る。
柔和で、向かい合う人を安心させるのが彼の顔面の特徴だが、今は少し好奇心が滲む表情をしている。
「そちらは、もしかして彼女かい?」
「あ、っと……」
諸本さんが一層の笑顔で小指を見せた。
嫌味も無く、ごく自然なその問いかけに、俺は窮する。
つい背後の彼女を振り向きそうになるが、推し留まった。
彼女は、どんな顔をしているだろうか。
後ろから、息を吸い込む音が聞こえた気がして、俺は慌てて口を開いた。
「ただの、友達です」
「……そうか、不躾なことを聞いちゃって申し訳ないね」
230
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:45:06 ID:GEK0XKdk0
諸本さんは聡い人なので、恐らく、それだけで伝わったのだろう。
少なくとも、これ以上踏み込まれたい話でないことは。
「じゃあ、時間には遅れないようにね」
二、三世間話を交わして、諸本さんはレジの方へ去って行った。
彼の出勤は俺よりも少し早いため、あまり余裕が無いはずだ。
「……いい人そうだね」
「実際、いい人だよ」
何気にない一言の、その声色が妙に気になった。
俺が諸本さんに返した言葉に、彼女はなにを思ったのだろう。
諸本さんを見送り、無言のまま日用雑貨のコーナーへ向かった。
グレーの買い物かごに、彼女は次々商品を入れてゆく。
歯ブラシや歯磨き粉。シャワーで用いる洗剤類などだ。
化粧品の類は家から持ち出して来ていたようだが、これらは今のところ俺の物を使っていた。
「……あのさ」
「ん?」
「さっきの、店長さんの質問。改めて聞いていい?」
「…………」
231
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:46:22 ID:GEK0XKdk0
「私と、君の関係って、何なんだろうね」
俺は返答に窮する。
先ほど諸本さんに言ったように「ただの友達」と言えばいいのだろうか。
事実、俺と彼女の関係性は友人で間違いないだろう。
間違いないが、「ただの」は嘘だ。
俺にとって、彼女は特別な友人であって。
恐らくは、彼女にとっても、俺は他とは一段違う存在であるはずだった。
何も言えないまま、商品棚の前に屈む彼女の背中を見下ろす。
「ただの友達だけど、男女で一つの部屋に同居しててさ」
「……」
「居座ってる私が言うのも変だけれど、今の環境ってさ、少なくとも私自身の常識には無かったことなんだよね」
俺の常識にも無かった。
彼女と俺の間に引かれた境界線は、今まで作ってきた親類とも恋人とも友人とも赤の他人とも異なる。
「これならまだ、セックスフレンドですって方が、納得いっちゃうくらい」
「……」
「どうする?なってみる?ちょうどこんなのあるし」
彼女が俺を見ないまま、商品棚に並んでいた小さな箱を、肩ごしに差し出す。
俺は、半ば反射的にそれを受け取る。
毒々しい色合いでデザインされた、掌ほどの大きさ。
棚に並ぶ同様の物の中でも、特に下世話な印象を覚えるパッケージだった。
232
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:47:09 ID:GEK0XKdk0
「そうなったら、どうなるだろう」
「わかんない。今だって、自分が何考えてるかわかんないもん」
「俺もだ」
「正直、やじゃないと思う。今だって、君がそういうことを求めてきたらたぶん私は拒否しないし」
「……」
「……一応、ほんとうは結構、身持ち硬い方だからね」
「それはわかってる」
「たださ、さっさとそういう、ダメで楽な形に収まりたいって思っちゃうんだよね。別に嫌いじゃない君と、手っ取り早く慰め合えるように」
「……」
「正直、君の部屋に、君の傍に居させてもらえるのって、すごく、安らぐけど、この半端な距離が、隙間風みたいに寂しいときがあったりしてさ」
屈んだまま、彼女が自分の膝に額を押し付ける。
声が震えていることに気付かないふりをして、ただただ見下ろしている。
彼女の言葉にはほとんど共感できる。
だからこそ、肯定できない。
望みながら望んでいないその領域を、俺も彼女も恐れている。
233
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 00:49:11 ID:GEK0XKdk0
「囚われたままだ」
「……?」
「俺も、君も。アイツが居なくなったことに囚われてる」
「……うん」
「俺は、少なくとも、その後悔とか、なんかいろいろの事に整理がつかない限り、君に何もできない」
そしてその時は、まだまだ来ない。
「他の誰でも無く、君だからこそ、できない。しちゃいけない。……と思う」
「……でも、整理がついて、あの子を忘れたらさ。きっと私と君は、もうこんな風に一緒に居ることすらなくなるよね」
「……そうかもな」
「私たちがこんな関係なのはあの子のことが忘れられないからで、この距離のままなのもあの子をまだ覚えているからだもん」
「……」
手に持っていた箱を棚に戻す。
不要なものだ。少なくとも今は。
「……行こう。せめて、荷物を車に運ぶくらいは手伝うよ」
「……うん」
234
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 01:02:09 ID:GEK0XKdk0
会計を済まし、袋に詰めた買い物を彼女の車に運ぶ。
その間に彼女の言葉のトーンは普段の明るいものに戻った。
俺はそれに心から安心するし、同じだけ申し訳なく思う。
彼女は俺に甘えているという。
でもその実、俺はそれ以上に彼女に甘えているのだ。
「お店まで送っていくよ。付き合ってくれたお礼」
「いいの?」
「君が思う以上に、無職って暇なんだよね」
「じゃあ、頼む」
「はーい」
走り出す車。
時計を見る。まだ余裕だ。
車で送ってもらえるならば問題ないだろう。
「……あのさ」
「ん?」
「明日、休みだよね」
「ああ」
「じゃあさ……」
真剣に前を睨む彼女の横顔を見る。
信号が赤になり、ブレーキがかかる。
きちんと停止してから、彼女がこちらを見た。
235
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 01:04:41 ID:GEK0XKdk0
「一緒に、草咲市にいかない?」
騒がしいくらいに聞こえていた周囲の音が、急に遠くなる。
ほんのり目じりが赤い彼女の目に俺は吸い込まれた。
「いいよ」
「即答だ」
「ああ。むしろ、いつかは俺から切り出すつもりだった」
「なんで行こうって思ったの」
「君と同じ理由。たぶん」
「そっか」
信号が青に変わる。
彼女は前を向き、ゆっくりとアクセルを開けた。
「草咲市で、何をするつもり?」
「……特に何がってわけじゃない。ただ、いろいろ、見て回るくらいしか考えてなかった」
「中央通りの近くにさ、クレープ屋さんがあったの覚えてる?」
「…………あー―……あのY字路の……?」
「お、よく覚えてるね」
「一回だけ行った。あんまり縁は無かったけど」
236
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 01:05:56 ID:GEK0XKdk0
「君が良ければ、行きたいんだ。今でも、時々食べたくなっちゃって」
「……今もあるの?」
「うん、ネットで調べたら、むしろ人気みたい」
「……あそこ自体が観光地みたいになってるしな」
「今は幾分落ち着いたみたいだけどね」
「……むしろ目的地がはっきりある方がありがたい。あそこにいこう」
「じゃ、決まり。今日の晩御飯は控えないと」
「……?」
「生クリームがね、大盛りにできるんですよ」
「…………」
「男の人にはわからないかな、このロマンは」
「…………」
「…………何か言ってくれない?」
「君がうれしいならそれでいいと思う」
「わあ、なげやり」
237
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 01:09:44 ID:GEK0XKdk0
車内での会話をだらだらと楽しんでいると、俺の務める店の傍まで差し掛かっていた。
少し裏に入った路地にあるため、目の前に停めることはできない。
「ここらへんで、大丈夫だよ」
「そう?もう少し行けるけど」
「路地から出るのが大変になる。ここで降りればぐるっと回って戻れるし」
「ん、分かった」
ゆっくりと、路肩に停車する。
広く取られた道のため、すぐに発車すれば特に邪魔にもならないだろう。
「じゃあ、また」
「うん。また……後で」
「……205号室で」
「205号室で」
扉を閉めると、数回合図を炊いて、彼女は車を発進させた。
小さく振る手に、手を上げるだけで応える。
路地を行く彼女の青い車が遠くなる。
傾き始めた日の、赤い光の中に融けていくその姿を見送ってから、俺は店へと足を向けた。
238
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 01:11:26 ID:GEK0XKdk0
遠くから雑踏の響く、そこだけが水に沈んだように静かな路地。
雑居ビルの隙間を抜けて、夕日が眩しく差し込んで来る。
周囲の景色は、朱と黒のツートーンに分かれ、本来の色は、どこか存在感を失っている。
息を吐く。
頭の中が散らかっている。
なにも解決しないまま、もがいて、足掻いて、結局なにも片付いていない。
彼女には見せたくない、聞かせたくない弱音が、舌先から零れそうだった。
足を止める。
空を見た。
既に夜を迎え始めた東は紺。
天頂はやや白み始めた青。
西の空は、柿の実のひび割れた朱。
「……なんで、わすれてたんだろうな」
正体不明の、感情の澱が、無為な言葉になって口から零れた。
頭ではない別の場所が、唇を動かしている。
透明の空が落ちてきて、取りつかれたような、足が地面から浮いたような心地だった。
「別に、あの街の中じゃなくたって、地平線なんて見えないのに」
夕陽に目を焼かれる。
ビルの陰の向こうに見えたその朱さは、いつか見た未来に似ている気がした。
239
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 01:12:07 ID:GEK0XKdk0
# -error! (68) prologue 「もう大人になっちゃたんだから」
.
240
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 02:06:11 ID:YCCwfp0s0
はぁ!?お前・・・えぇまじ!?どんだけ待たせば気が済むの大好きバカ!おかえり!
やばい本気でうれしいまじかよーもーおつ!またんきとキュートか?
てか何があったんだ!?一気に展開変わりすぎてわからんよう見返してくる
241
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 02:40:57 ID:221JFLNk0
更新されてる!
まってた!
242
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 02:44:00 ID:cVUYxT2A0
ちょっとびっ<り
乙んこ
243
:
名も無きAAのようです
:2015/01/12(月) 02:49:24 ID:9FILu6XY0
マジか
馴化して隔離されてたはずが一般解放されとる
244
:
名も無きAAのようです
:2015/01/13(火) 08:21:11 ID:utpNVl9U0
おつ
245
:
名も無きAAのようです
:2015/01/13(火) 11:49:17 ID:boo/W7Ig0
まってたかいがあった
乙
246
:
名も無きAAのようです
:2015/01/14(水) 23:57:23 ID:b8C8sabk0
ふええええええまってたあああああ
247
:
名も無きAAのようです
:2015/01/18(日) 21:29:13 ID:nQlsyS7w0
乙乙乙
投下に気づかなかった 待ってたよ
248
:
名も無きAAのようです
:2015/08/21(金) 19:05:29 ID:T8NsGaE.0
おいついた
ゆっくり待ちます
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