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【場】『 大通り ―星見街道― 』

1『星見町案内板』:2016/01/25(月) 00:00:31
星見駅を南北に貫く大街道。
北部街道沿いにはデパートやショッピングセンターが立ち並び、
横道に伸びる『商店街』には昔ながらの温かみを感じられる。

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                 ミ三ミz、
        ┌──┐         ミ三ミz、                   【鵺鳴川】
        │    │          ┌─┐ ミ三ミz、                 ││
        │    │    ┌──┘┌┘    ミ三三三三三三三三三【T名高速】三三
        └┐┌┘┌─┘    ┌┘                《          ││
  ┌───┘└┐│      ┌┘                   》     ☆  ││
  └──┐    └┘  ┌─┘┌┐    十         《           ││
        │        ┌┘┌─┘│                 》       ┌┘│
      ┌┘ 【H湖】 │★│┌─┘     【H城】  .///《////    │┌┘
      └─┐      │┌┘│         △       【商店街】      |│
━━━━┓└┐    └┘┌┘               ////《///.┏━━┿┿━━┓
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          ┗━┿┿━━━━━┛           .: : : :.》.: : :.   ┌┘│
             [_  _]                   【歓楽街】    │┌┘
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                      └───┐◇      .《.      ││
                【遠州灘】            └───┐  .》       ││      ┌
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★:『天文台』
☆:『星見スカイモール』
◇:『アリーナ(倉庫街)』
△:『清月館』
十:『アポロン・クリニックモール』
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335神『フライト800』:2017/09/23(土) 00:32:59
「ほほぉ……いや、なるほどねぇ」

俺はストリートミュージシャンという奴を見ていた。
俺ぁ別にそういうのに深い興味ってのはあんまりないんだが。
何事も知ることが大事ってのがあらぁな。

「そろそろ寒くなってんのにご苦労さんだ」

吹く風は少し冷たい。
羽織を着なきゃあちょっと辛い季節だ。
和服を着るってのも色々季節に合わせた生地を選んだりして面倒だ。
嘘だが。

さてそろそろと帰ろうか。
にしてもこういうのを見てる奴ってのはどんなやつなんだろうな。
ストリートミュージシャンの演奏に足を止める奴っていうのは。
俺はビー玉の入った金魚鉢を小脇に抱えながら周りをぐるりと見渡した。

336夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/30(土) 21:29:08
>>335

「ふむふむ」

神が視線を向けた先――
演奏するストリートミュージシャンの近くに、少女が一人しゃがみ込んでいる。
頭にはリボンのように巻いたスカーフ、目元に薄い色のサングラス、指にはネイルアートの付け爪。
好奇心の強さを伺わせる興味津々といった眼差しで、演奏の様子を見つめている。

   パチパチパチ

笑顔で合いの手を入れているところを見ると、楽しんでいるようだ。
ふと、少女が顔を上げて、神の方を向いた。

「――へぇぇ……」

ミュージシャンに向けていたのと同じような興味深そうな視線で、神の格好を見つめる。
どうやら和服を珍しいと感じたらしい。
その割には、じっと見すぎている気もするけど。

337神『フライト800』:2017/09/30(土) 22:27:37
>>336

なんだあの子は。
なるほどな。今時の子って感じだな。
俺ぁ別にああいうファッションに興味があるわけじゃねえがね。

「あ?」

んだぁ?
こっち見てんのか。
何が面白くてこっちを見てんだろ。俺は見せ物じゃないんでね。

あ、もしかしてこの金魚鉢か。
まぁなんでもいいが。

「おいあんた。どうした」

声ぇかけてみるか

338夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/30(土) 22:56:59
>>337

「はっ」

声をかけられて、我に返った。
何か変わったものはないかと、町へ出かけたのが今から少し前のこと。
そしたら、ストリートミュージシャンを見かけて思わず足を止め、見入ってしまった。
耳で聞いたことはあっても、目で見たのは初めてだったから。
今に至るまでの経緯は、だいたいそんなトコです。

「いやー、別にどうしたってこともないんだけど――」

今日の私はツイてる。
なんだかまた珍しそうな人に出会えちゃった。
そこで、遅ればせながらビー玉入りの金魚鉢に気付いた。

「――それは?」

金魚鉢を指差し、不思議そうに尋ねる。
なんで金魚鉢?なんでビー玉?ついでになんで和服?
疑問が重なる度に好奇心が募り、心の奥から泉のように湧き上がって来るのを感じる。

339神『フライト800』:2017/09/30(土) 23:28:49
>>338

「あ?」

特に何も無いのか。
近づいて損をしたかもな。
まぁなんだって俺ぁ構わないんだがねぇ?

「ん」

「これか。金魚鉢だよ」

「師匠の無茶振りだ」

340夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/09/30(土) 23:58:04
>>339

「金魚鉢なのは分かるよ。金魚入れるヤツでしょ。入ってないみたいだけど」

「私が知りたいのは、なんで金魚鉢にビー玉だけ入ってるのかってこと。それ、ビー玉だよね?」

サングラスの奥の瞳が、ビー玉の群れを見つめる。
目が見えるようになってから、ビー玉を見たのは初めてだった。
知識としては知っていた。ガラスで出来た小さな球で、色んな種類がある。
だから、なんとなくそれがビー玉だと分かった。
触ったこともある。ツルツルしてた。
でも、見たことはなかった。

「透き通っててキレイだね。初めて見た」

「で――」

「あと、どうしてそれを持ち歩いてるのかっていうのもフシギな感じ」

「シショーって何の?」

口では別にどうってこともないと言いながら、表情は興味津々だ。
その証拠に、次々に質問が飛び出してくる。

341神『フライト800』:2017/10/01(日) 00:14:26
>>340

「あーあーあーあー」

「ちょいと待ちない」

一度に言われるとどれから答えたもんかわかんねぇな。
二度三度と手を振って待ったをかける。

「まずは手前の事からだな」

ちょっとテンションを上げねぇとならんのがしんどい話だ。
どうにもスイッチが入らねぇと飽きちまいそうで。

「あー……知らざぁ言って聞かせやしょう」

                セイサイテイ             ヒトイキ
「私はこの星見町に根付く星彩亭一門に属する星彩亭一生っていうのさ。ま、落語家さ」

「この一生ってのは師匠からもらったありがたぁい高座名でねぇ」
                                                        カミキヨイ
「私の本名が神ってかいてジン、清いって書いてキヨシでジン・キヨシ。この二つをくっつけて神清」
           ジンセイ
「読み方を変えて人生としたはいいがこれじゃあ捻りがねぇってんで、一生とかいてヒトイキと読ませた」

そこまで一息。
まぁ慣れた自己紹介っていうもんだねぇ。
神清が人生になって一生ときた。
またこっちはこっちで読み間違えられることが多くて嫌なもんさね。

「それでこの金魚鉢が星彩亭名物、『師匠の無茶振り』またの名を『精彩問答』」

「師匠がこれこれこうでなんとする・なんというと聞いたらば、我々弟子が頭を捻って答えを出す訳なのさ」

「今回のお題は『金魚鉢で泳ぐビー玉。この色味、美しさをなんという』と来たもんで」

「答えは何かと思って持ち歩いてんのよ」

342夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/10/01(日) 00:50:34
>>341

   パチパチパチ

その芸達者な自己紹介に思わず拍手した。
だけど、今の状況ちょっとスゴくない?
横を向けばミュージシャン、正面を見れば落語家。
そして、その二人に挟まれてる私。
街角の小さなワンダーランドって感じするもん。

           アリス
なんていうか――『私』の冒険、絶好調。
あ、ストリートミュージシャンの人からは少し離れよう。ジャマになるし。

「じゃ、ヒトイキさんって呼べばいいの?」

「なんか全然知らない世界って感じでさ――」

「すっごいキョーミあるぅ」

今までの人生で全く縁のない世界。
好奇心がツンツン刺激されてくる。
いつか見てみたいな。

「そんなのあるんだ。金魚鉢で泳ぐビー玉……。んー」

「……ダメ!難しすぎる!アタマ痛い!」

考えてみても答えは出ない。
どうにも自分には向いてないようだ。

「あ――私、明日美。夢見ヶ崎明日美」

「夢見ヶ崎家に属する普通の高校生」

「美しい明日って書いて明日美って読ませてる。
 お父さんとお母さんにもらったありがたい名前」

343神『フライト800』:2017/10/01(日) 01:29:14
>>342

「ははぁこれはどうも。あんたいい子だねぇ」

まぁ普段だったら絶対に話しかけやしない相手だろうけどねぇ。
……別に私、普段誰かに積極的に話しかけたりもしないんだけどね?

「そうヒトイキで結構」

「……正直言うとね、この問答に答えなんてないのさ」

師匠を納得させたり笑わせる答えが必要って事ね。
だから適当な事を答えにしてもいいわけさ。

「明日美……夢見ヶ崎明日美……んー」

「私人の名前覚えるのって苦手なのよねぇ」

「そういや、さっきは流しちまったけど、ビー玉見たことなかったのかい?」

344夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/10/01(日) 01:54:52
>>343

「答えがない問題かぁ……。
 そうだよね。落語ってそういうもんだもんね」

「じゃあさ――
 『こりゃあキレイな金魚だ。
  丸くて色んな色があって、まるでビー玉みたいじゃないか』なんてのでもいいのかな?」

頭を悩ませ、どうにかこうにか一つひねり出した。
これが落語になるかどうかと言われると自信はないけど。

「ふーん……じゃあ、『アリス』でもいいよ。
 私が自分で考えたニックネームだけど」

見えない世界にいた私が、ある日突然見える世界にいざなわれた。
私にとって、この世界は不思議でいっぱいのワンダーランド。
だから、私は『アリス』。

「そう――初めて見たよ」

「でも、ビー玉ってものは知ってたし、触ったことはあったんだ」

「そうだ、ヒトイキさん――問答のついでに、この問題の答え当ててみてよ」

そう言って、ほんの少しだけ悪戯っぽく笑う。

「たぶん、その問答よりは簡単だと思うから、ヒントはいらないよね?」

345神『フライト800』:2017/10/01(日) 02:17:39
>>344

「そ、答えがないの」

「考えてたらどうどう巡りよ」

腕を組んで首を傾げてもなんも見えては来ないのよ。
餅屋問答みたいにうまい具合に運ばないかねぇ。

「お? それでもいいねぇ。困ったらそいつを使わせてもらうかしら」

答えがないなら何言っても問題はないのさ。
いい悪いがあるだけでね。

「へぇアリスか。それでいいや。アリスちゃん」

「あら問題かい? まぁ、私は構わないけど?」

346夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/10/01(日) 02:39:28
>>345

「どーぞどーぞ」

候補に採用されるとは思わなかった。
言ってみるもんだね。
特に何かあるわけじゃないけど、こういうのってちょっと嬉しいよね。

「問題はね、私――アリスはビー玉を知ってたし触ったこともあったけど見たことはなかった。
 その理由を当ててみて、ってこと」

「問答じゃないから、答えは一つしかないよ」

「挙げるならいくつでもいいんだけどね」

「分からなかったらヒント出してもいいかな」

347神『フライト800』:2017/10/01(日) 03:05:32
>>346

「知ってたし、触ったこともあった」

「別にアリスちゃん、なぞかけの類をしているわけじゃないんだろう」

だったらその色のサングラスっていうのを見ればちょっとはピンと来るんじゃないのかい?

「あんた、目が見えなかったんじゃないかい?」

「どうだい」

348夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/10/02(月) 00:45:25
>>347

「あー、やっぱり簡単だったかー」

小首を傾げ、笑いながら軽く頭をかく。

「そーいうコト。見えるようになったのは最近なんだ」

「でも目が強い光に弱いから、コレが必要ってワケ」

そう言いながら、サングラスを指でつつく。

「初めて見えるようになってさ、世界が変わったって感じだったね」

「正確には世界は何も変わってなくて、ただ私が変わっただけなんだけど――」

「ホントに別世界だよ。見たことないものばっかりなんだもん。場所も人も物も、何もかもぜーんぶ」

「まるで不思議の国に迷い込んだアリスみたいに」

「だから、私は『アリス』ってワケ」

349神『フライト800』:2017/10/02(月) 01:15:52
>>348

「なるほどねぇ」

見えないもんが見えるようになったわけか。
私は見えてたもんが見えなくなったがね。
まぁ、わざわざアリスちゃんに言ってやることでもないが。

「アリスの由来ってのはそういうわけかい」

「じゃあ私はさしずめチェシャ猫ってところかねぇ」

くっくと笑って見せる。
もっともマッドハッターの方が私の性には合うが。

「……アリスちゃん」

「私が不思議の国に連れていってやれるよ」

350夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/10/02(月) 01:40:56
>>349

「いーね、それ。似合ってるかも。うん、いい感じ」

くすっと笑う。
友達に向けるような屈託のない明るい笑い。
礼儀に欠けるとも言えるけど。

「――んー?」

「どこか面白い場所でも紹介してくれるの?『チェシャ猫』さん?」

「だったら、落語に関係してるトコがいいな。見たことないし」

「ホントは知らない人についてっちゃいけないんだけど――」

「なんてったって、私は『アリス』だから」

軽く服を払って立ち上がり、もう一度笑う。
ストリートミュージシャンが奏でる曲が、辺りに響いている。

351神『フライト800』:2017/10/02(月) 02:07:27
>>350

「ん。ん?」

嘘だと言おうと思ったがこう返されちゃ応じるしかないねぇ。
いや我ながら墓穴を掘ったし、面倒なことになった。
掘りたくないもんってのは墓穴とオカマと相場が決まってんだ。

「しょうがないねぇ」

「ま、うちの一門の所に連れてったげるよ」

「ただで落語聞けるよ。代わりにあんたも精彩問答に加わってもらうけどね」

この金魚鉢の中のビー玉。この色味、美しさをなんという。
……透き通る美しさ。天も地もなく輝き、鉢の中に宇宙を創る。
私この宇宙に夢中でございます……なんて、イマイチ極まりないわね。

「さ、行きましょう」

352夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/10/02(月) 02:31:44
>>351

「やった!うん、行く行く!」

相手の心境など知る由もなく、明るい表情で大きくうなずき返す。

ショージキ断られるかなーと思ってた。
自分でも無茶振りだとは思ったし。
でも、断られなかった。
きっとヒトイキさんはいい人なんだ。

「うえー、それはキビシーなぁ。まー、タダじゃしょーがないよね」

ま、なんとかなるでしょ。
そう考えて、アリスは期待と好奇心を胸に、新しい世界に向かって歩きだしたのでした。
そのお話は、また今度――。


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