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【場】『 大通り ―星見街道― 』

1『星見町案内板』:2016/01/25(月) 00:00:31
星見駅を南北に貫く大街道。
北部街道沿いにはデパートやショッピングセンターが立ち並び、
横道に伸びる『商店街』には昔ながらの温かみを感じられる。

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                 ミ三ミz、
        ┌──┐         ミ三ミz、                   【鵺鳴川】
        │    │          ┌─┐ ミ三ミz、                 ││
        │    │    ┌──┘┌┘    ミ三三三三三三三三三【T名高速】三三
        └┐┌┘┌─┘    ┌┘                《          ││
  ┌───┘└┐│      ┌┘                   》     ☆  ││
  └──┐    └┘  ┌─┘┌┐    十         《           ││
        │        ┌┘┌─┘│                 》       ┌┘│
      ┌┘ 【H湖】 │★│┌─┘     【H城】  .///《////    │┌┘
      └─┐      │┌┘│         △       【商店街】      |│
━━━━┓└┐    └┘┌┘               ////《///.┏━━┿┿━━┓
        ┗┓└┐┌──┘    ┏━━━━━━━【星見駅】┛    ││    ┗
          ┗━┿┿━━━━━┛           .: : : :.》.: : :.   ┌┘│
             [_  _]                   【歓楽街】    │┌┘
───────┘└─────┐            .: : : :.》.: :.:   ││
                      └───┐◇      .《.      ││
                【遠州灘】            └───┐  .》       ││      ┌
                                └────┐││┌──┘
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★:『天文台』
☆:『星見スカイモール』
◇:『アリーナ(倉庫街)』
△:『清月館』
十:『アポロン・クリニックモール』
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254小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/03/05(日) 01:02:38

洋装の喪服と黒い帽子を身に纏い、雑踏の中を一人歩く。
家族、友人、恋人。
様々な繋がりを持つ人々が通りを歩いている。
その中に見知った顔はない。
それでも、こうして人の多い場所にいると、ほんの少し寂しさが薄れるような気がした。

しばらく町を歩いた後、休憩するために一軒の喫茶店に入った。
静かで落ち着いた雰囲気の店。
店内に流れる優しい響きのピアノ曲が耳に心地いい。

しばらく窓の外を見つめていると、注文した品物が運ばれてきた。
ラベンダーを使ったハーブティーとラベンダー入りシフォンケーキのセット。
お茶を一口飲むと、芳しい香りが心を落ち着けてくれる。

カップを置き、店内を軽く見渡した。
日曜日の昼過ぎということもあって繁盛しているようだ。
新しく入店する人がいたなら、もしかしたら相席になるかもしれない。

255?????『??ー?・??ー?ー』:2017/03/05(日) 23:07:07
>>254
 イラッシャ……!? イラッシャイマ…セ…? 
 「一人です」
モウシワケアリマセン、タダイマ、マンセキデ……
 「相席でも構いませんよ俺は」


ベルの鳴る音の後、店員と客のやりとりが聞こえる。
かと思えば、小石川文子のくつろぐその席の傍らに誰かが来たようだった。

    ミシ……

 「すみません」
 「ここのお席、座ってもよろしいでしょうか」

よく響く男の声である。

256小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/03/05(日) 23:59:14
>>255

店内から目を離し、ケーキの一欠片を口に運ぶ。
柔らかい甘さが口の中に広がっていく。
その直後、傍らから響いてきた男性の声。
それを聞いて我に返り、フォークを置いた。
紙ナプキンで口元を軽く拭う。

  「はい、どうぞ――」

そう言って顔を上げる。
目の前にいるであろう男性の姿が視界に入る。
それは、どんな人なのだろう。

257?????『??ー?・??ー?ー』:2017/03/06(月) 00:23:11
>>256
小石川文子が顔を向けた先、どんな人間がいたのか。
―――――――姿は『異様』の一言に尽きた。

 椅子に座ろうとしているのは、珍妙な服装をした、大きめの体躯の男であった。
珍妙というのは、それが、黒いワンピースと白いフリル付きエプロン
……所謂『メイド服』、本来女性のための洋服を身に付けているためである。

 メイド服そのものは、決してコスプレ用の安い生地(サテン、とかか)でなく、
よく見れば丁寧な仕立てが施されたものであるのが分かるだろう。
一見すれば『ある種の喫茶店』の店員が着ていそうな物であるが、
それを着るのは、大きめの体躯の男なのである。


 「お邪魔してすみません」

片目に付けた眼帯(レース製だった)が、
ますます男の『異様』さを加速させていた…

 
「ああ、俺の事は気にせず、ゆっくりしていて下さい」

258小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/03/06(月) 01:12:46
>>257

一瞬――視線が固定されたように空中で止まる。
物珍しさから来る新鮮な驚き。
それが素直な感想だった。

  「――いえ、お構いなく……」

けれど、その驚きは一時のことだった。
なぜなら、自分も同じだから。
夫と死別して以来、外に出る時はいつも喪服を身に着けている。

大袈裟かもしれないが、それは自分にとっての信条のようなもの。
きっと目の前に座る彼にも、そういった理由があるのだろうと思えた。
だから、一風変わった彼の服装も何となく納得することができた。

  「とても繁盛しているみたいですから」

少し周りを見て、再び男性に視線を移す。
町へ出てきたのは、一人で過ごす寂しさを紛らわすため。
同席する相手がいてくれるのは、自分にとっては有り難いことだった。

  「素敵な洋服ですね」

けれど、驚かないことと好奇心の有無とは別の話。
彼の服装に関しての興味はある。
だから、それとなく尋ねてみることにした。

259?????『??ー?・??ー?ー』:2017/03/06(月) 02:06:23
>>258
小石川が服について言及してみると、

「…!」
「ありがとうございます!」

どうやら喜んでいるようだった。
メイド服は嫌々着ているわけでは無いのだろう。

「これ、自分で作ったんですよ デザイン、型紙、縫製まで」
「裁縫が得意でして、俺!!」
「…」

そう笑いながら、男は小石川の着衣に目をやると、すぐさま固い表情になる。
どうやら『素敵な服』と言う訳にもいかないのか、言葉に詰まっている。

「……すみません、『奥様』…」
「俺としたことが、その……不躾な………」

「…店員さんすみません…この人とおんなじ物を」

260小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/03/06(月) 03:07:27
>>259

左手の薬指に光る銀色の結婚指輪。
そっと伸びた右手の指先が、それに触れる。
全く同じデザインの指輪が右手にもある。
それらは、肌身離さず実に付けているもの。
自分にとって、命の次に大切なかけがえのないものだった。

  「……いえ、いいんです」

奥様――そのような呼ばれ方をするのは久しぶりだった。
あの新婚旅行中の事故がなければ、今でもそう呼ばれていたと思う。
ふと、幸せだった頃の記憶が脳裏をよぎった。

  「気を遣って下さって、ありがとうございます」

そう言って、静かに微笑む。
どこか陰を含んだ憂いのある微笑み。
明るく朗らかな笑いとは言えない表情。
こうなったのは、一人だけ取り残された時からだった。
その時から、たとえ意識していなくても、自然とこんな笑い方になってしまう。

  「とても器用なんですね――」

  「それを生かしたお仕事をしてらっしゃるんですか?」

手元のハーブティーを一口飲んでから、男性に問い掛ける。
最初は確かに驚きもあった。
でも、こうして言葉を交わしてみて改めて分かる。
彼は、とても優しい人。
それが名も知らない彼に対して抱いた印象だった。

261?????『??ー?・??ー?ー』:2017/03/06(月) 18:40:18
>>260
「…あ、『メイド』です、見ての通り」
「家政婦ともハウスキーパーとも呼ばれます
 …家事のお手伝いを、あちこちの『家庭』でするんです」

午後の日差しに照り返す、小石川の手元のそれが見えたのだろうか。
大きな肩を縮こめ、男はそう話す。

   オマタセシマシター

  「ありがとございます」
   「わあカワイイ」
    「……すみません、ちょっと写真撮ってもいいですか」

ケーキとハーブティーが運ばれてきた。
男は携帯電話(ビーズやら何やらでデコられ女々しい) を取り出している

262小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/03/06(月) 22:57:57
>>261

写真を撮る彼を黙って見守る。
無邪気な姿に微笑ましいものを感じた。
彼は優しいだけじゃなく、とても楽しい人。
きっと、彼は周りを明るくする力を持っているんだろう。
心の中で、そう思った。

  「――ラベンダーが入っているんですよ」

  「私は、この香りが好きなんです。
   気持ちが落ち着きますから……」

  「家の庭でも育てているんです」

今日も、ドライフラワーの瓶詰めを作っていた。
もしかすると、同じ匂いがするかもしれない。
運ばれてきたケーキとハーブティーと同じラベンダーの香りが。

  「今日はお休みですか?」

  「家事のお手伝い――いつか……私もお願いするかもしれませんね」

そう言って、また微笑む。

263?????『??ー?・??ー?ー』:2017/03/06(月) 23:44:13
>>262
「ええ、その時はお願いします」
「ぜひ拝見したいものです、奥様のお宅のお庭……」


男はティーカップを傾け鼻を寄せる。
広い胸筋が膨らんだ。

「これは!」
「撮影は野暮ですね俺… …香りは写真に残せません」

         パクッ モグ
 

 「そういえばニオイって妙に脳とか記憶を刺激しません?
  昔から持ってたヌイグルミの香りとか、
  嗅ぐ度に胸がギュ―ゥ―――――――ッ!!として」
 
 「昔思い出して泣いちゃいますよ俺」   
 
           モグモグ
 

写真を撮るのはどうやら諦めたようだ。
男はケーキをつつきながら他愛もないような話を振る…

264小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/03/07(火) 00:24:19
>>263

  「私も、昔ぬいぐるみを持っていました
   いつも持ち歩いていて――。
   そのせいで、よく汚してしまいましたけど……」

懐かしい記憶が頭に浮かぶ。
白いウサギのぬいぐるみ。
確か名前もあったと思う。

あちこち連れ回していたから、よく目が外れたり耳が取れたりした。
その度に、母が縫ってくれていた。
今は、どこにあっただろうか。

  「そのぬいぐるみには、どんな思い出があるんですか?」

この店に入ったのは単なる偶然。
彼が入店したことも同じだろう。
けれど、その偶然の重なりは自分にとって幸運なことだったと思う。

なぜなら、こうして得がたい時間を過ごすことができたのだから。
彼の動作や言葉の一つ一つに興味を引かれる。
ケーキを食べることも忘れて、彼の話に耳を傾ける。

265?????『??ー?・??ー?ー』:2017/03/07(火) 01:10:39
>>264
      カチャ

「――――――――ええと」

  「何でもない話ですよ」
  「このくらいの(手振りで大きさを示す)、妹にあげた誕生日プレゼントです」
  「思えばそれの修理が、
   今の俺の『裁縫趣味』の始まりでしたよ!! …まあそんなもんですね!」


妹とやらに渡した人形。
なぜ自らの所持品でない人形を、男は『嗅げる』のだろうか。
そもそも『何でもない話』と表すような記憶で、果たして人は涙するのか。

フォークを皿に置くとき、男の顔は光の加減で見えずに、
柔らかいケーキを噛むその歯が、大袈裟に喰い縛られるのが見えるだけであった。


 何やら事情ありげな人形への思い出、それに起因する『裁縫趣味』。
 彼が普通でない服を着るのにも、なにか理由があるのだろう
 ――――おそらく小石川文子と同じ類の…

266小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/03/07(火) 01:58:21
>>265

何気なく投げかけた質問。
それに対する彼の返答も、一見すると何気ないもののように思えた。
けれど――。

  「あ……」

心が、『それ』を感じ取った。
彼の言葉の奥に秘められた『何か』を。
自分の中にも『それ』と近いものがあるから。
だからこそ分かる。
だからこそ、伝わってくるのが感じられる。

  「――そう……ですか……」

私は、彼のことを何も知らない。
詳しい素性も経歴も名前さえ知らない。
けれど、きっと彼も自分と同じような出来事を経験したのだろうと直感した。

今この瞬間、理屈ではないシンパシーのような感覚を覚えていた。
目の前に座る彼が、ついさっき会ったばかりの見知らぬ人間とは思えなかった。
こうして偶然に相席になったことも、ある意味では運命だったのかもしれない。

  「……使って下さい」

おもむろにバッグを開き、取り出したハンカチを差し出す。
頭で考えるよりも先に身体が自然に動いていた。
そうしないでは、いられなかったから。
決して上辺だけの哀れみなどではなく、同じような境遇を経た者に対する真心。
その偽りのない想いが、この身体を動かしていた――。

267?????『??ー?・??ー?ー』:2017/03/07(火) 18:05:45
>>266
「すみません」

 「親しんだひとがいなくなってしまう『苦しみ』を」
 「時間が治療してくれるとは言いますが…」


小石川のハンカチを手に取り、目のあたりを拭う男。

「流したぶん水分もとらなきゃですよ」
と、茶を啜った。


 「………はい、人形は『形見』なんですよ」

 「『苦しみ』に『立ち向かおう』と、結果、針仕事とか家事とかを始めた、
  というのが俺の正直なところです」


はにかみながら、彼はそう語る。
『苦しみ』の古傷は癒え切ることはなかったのだろう…
しかし、気丈に振る舞うその姿は演技には見えず……彼は確かに『立ち向かっている』

  「奥様は、奥様自身のことを、しっかり見てあげてください」
  「自棄にならずに…何をケアすればいいのか…」

  「それで、もし助けが必要であれば俺がお助けします」
 「―――『メイド』ですからね俺は!!!!」

268小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/03/08(水) 00:03:51
>>267

彼の言葉、そして彼の姿に光を感じる。
そこにあるのは過去の痛みに立ち向かう力強い意思。
その力が彼を支え、動かしているのだろうと思えた。

  「……軽々しく言うことではないことは分かっています。
  でも――『お気持ちは分かります』」

やはり彼は自分と同じなのだ。
形や、目に見える部分は違うかもしれない。
それでも、根本にあるものは同じ。

  「私も夫と死に別れました……。
  この心を捧げた彼が死んだ時、私も後を追うつもりでいました」

  「けれど――彼は最期に言いました。
  『自分の分も生きて欲しい』……と」

静かに口を開き、ぽつりぽつりと自身の過去を語り始める。
普通なら、出会ったばかりの相手に話すような内容ではない。
けれど、彼が自らの背負うものを話してくれたことに後押しされた。

  「だから、私は生きる道を選びました。
  彼との約束を守るために……」

  「でも……彼に会いたいという気持ちは消えなくて……。
  時々、それが抑えられなくなるんです」

そこまで言うと、軽く目を伏せる。
視線の先には膝の上に乗ったバッグがある。
バッグの口は開いている。
そして、その中には1本の果物ナイフが入っている。
自分にとっての鎮静剤であり、なくてはならないもの。

  「そんな時は――少し自分の身体を傷付けるんです。
  そうすれば溢れてしまいそうな思いを抑えられるから……」

良くないことなのは承知している。
それでも、これをやめるつもりはない。
これが自分の生き方。
自分自身で決めた進むべき道だから。
だからこそ――。

  「私は――これからも、この世界で生きていくつもりです」

顔を上げ、力強い口調で自分の意思を表明する
悲しみは消え去ることはなくとも、そこに迷いは感じられない。
それは彼と同様に、紛れもなく『立ち向かう』者の姿だった。

心の中にある死の衝動が完全に消えることはない。
けれど、愛する者が残してくれた意思が、この身体を支えてくれている。
それがある限り、生きようとする意志もまた消えることは決してない。

  「――ありがとうございます」

そう言って、柔らかく微笑む。
心なしか表情を包む陰も和らいだように見える。

  「変な言い方かもしれませんけど……ここであなたにお会いできて良かった……。
  心から、そう思います。
  
  「それに――お恥ずかしいですけど、一人でお茶を飲んでいるのは寂しかったんです」

  「あの――ええと……」

名前を呼ぼうとして言葉に詰る。
そういえば、まだ聞いていなかった。

  「私は小石川といいます……。あなたは……?」

269常原ヤマト『ドリーム・ウィーバー』:2017/03/08(水) 00:39:14
>>268
男は少しばかり驚いた顔をした。彼には、
"今喪服を着ているのなら『その出来事』は最近のことであろう"
という思い込みがあり、
だが眼前の女性の語り口には、近くない昔への郷愁を感じ取れたからだ。


 「それは……」
  「……いえ、俺もそれを肯定しましょう」

  (立ち向かい方は、人の数だけ在り方がありますから―――)

メイド男は『ナイフ』を咎めなかった。
一瞬目を細めたが、事実それは実際拒絶の意思の表れでなく、
小石川への在り方が彼にとっても『眩しい』ものであったからだ。


「おっと、すみません」
「これ俺の名刺ですよ!!よろしくお願いします!!!!!」
「ハンカチもお返ししますね俺!!!!!」


┌―――――――――――――――――――┐
 ☆・゚:*:゚ヽ           *:・'゚☆  
       常原 ヤマト 

       家政婦やります
 
   電話番号 XXX-XXXX-XXXX
  E-mail *******************.com
 
└―――――――――――――――――――┘

270常原ヤマト『ドリーム・ウィーバー』:2017/03/08(水) 00:41:14
>>269 メル欄追伸

271小石川文子『スーサイド・ライフ』:2017/03/08(水) 01:22:19
>>269

彼の驚いた顔が見える。
それは、自分が始めて彼――常原ヤマトの姿を目にした時と似たものだったのかもしれない。
確かに喪服というのは、喪に服す期間が過ぎれば脱ぐもの。

けれど、自分は今でも脱いでいない。
夫との死別は、過去であると同時に過去のことではない。
自分にとっては、いつまでも昨日のことのように残り続ける記憶だから。

  「常原さん――ですね」

名刺を受け取り、そこに記された文面を黙読する。
いつか依頼することもあるかもしれない。
その時のために大事にしまっておく。

  「よろしければ……もっとお話させていただきたいです」

  「たとえば――得意な『お料理』の話など……」

  「本職の家政婦さんの腕前を、私も参考にしたいので」

そう言って、くすりと笑う。
心の中で、この新しい出会いに感謝しながら。
ある晴れた日の午後のことだった――。

272常原ヤマト『ドリーム・ウィーバー』:2017/03/08(水) 02:15:50
>>271
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

――嗚呼、俺は彼女に嘘を吐いたのだ。


花柄のステッチのついたそれに、染みがつくことはなかった。
ラベンダーの香りのつくハンカチで、俺がほんとうに押さえたのは、『眼帯』だった。

右目は涙を流さなかった。
失った左目が痛みに疼いた。

俺が過去を思い出した時、去来したもの、

 あれは人形を破壊された怒りだった
 あれはかの憎き殺人者への怒りだった
 あれは俺の目を抉り取られた怒りだった
 あれは妹と弟と父と母を失った怒りだった
 あれは仇を取れなかった自分への怒りだった
 あれは家族を救えなかった自分への怒りだった……


メイド察知眼は伊達ではない。小石川、あの喪服の女性が、
自分を『優しい人間』だと感じたであろう事は分かっている。

 しかし、常原の中には、冷たい怒りを燃やす、また別の常原がいる。
俺はその恥ずべき自分を………塞いだ。炎が漏れ出ぬよう、新たな自分で縫い塞いだ。
メイドの服装で。レースの眼帯で。

小石川は、自らの身を傷つけながら、昏き自分と向き合っている…
俺は、果たして、本当に『立ち向かう』事が出来ているのだろうか……

       ラベンダー
はたして彼女の薫衣草の庭園に、俺は、招かれる資格があるのだろうか………
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


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