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【場】『 大通り ―星見街道― 』
1
:
『星見町案内板』
:2016/01/25(月) 00:00:31
星見駅を南北に貫く大街道。
北部街道沿いにはデパートやショッピングセンターが立ち並び、
横道に伸びる『商店街』には昔ながらの温かみを感じられる。
---------------------------------------------------------------------------
ミ三ミz、
┌──┐ ミ三ミz、 【鵺鳴川】
│ │ ┌─┐ ミ三ミz、 ││
│ │ ┌──┘┌┘ ミ三三三三三三三三三【T名高速】三三
└┐┌┘┌─┘ ┌┘ 《 ││
┌───┘└┐│ ┌┘ 》 ☆ ││
└──┐ └┘ ┌─┘┌┐ 十 《 ││
│ ┌┘┌─┘│ 》 ┌┘│
┌┘ 【H湖】 │★│┌─┘ 【H城】 .///《//// │┌┘
└─┐ │┌┘│ △ 【商店街】 |│
━━━━┓└┐ └┘┌┘ ////《///.┏━━┿┿━━┓
┗┓└┐┌──┘ ┏━━━━━━━【星見駅】┛ ││ ┗
┗━┿┿━━━━━┛ .: : : :.》.: : :. ┌┘│
[_ _] 【歓楽街】 │┌┘
───────┘└─────┐ .: : : :.》.: :.: ││
└───┐◇ .《. ││
【遠州灘】 └───┐ .》 ││ ┌
└────┐││┌──┘
└┘└┘
★:『天文台』
☆:『星見スカイモール』
◇:『アリーナ(倉庫街)』
△:『清月館』
十:『アポロン・クリニックモール』
---------------------------------------------------------------------------
217
:
小石川文子『スーサイド・ライフ』
:2016/10/31(月) 22:58:12
『ハロウィン』――ヨーロッパを発祥とする民族行事で、秋の収穫を祝い、悪霊を追い出す祭りである。
近年は日本でも知名度が上がり、季節を彩る楽しみの一つとして浸透し、人気を博しているようだ。
ここ星見町も例外ではなく、通りの各所に飾り付けがなされ、
何かのイベントに参加するらしい仮装した人々も散見された。
少しだけ普段と違う町を歩きながら、ちょっとした非日常に思いを馳せていると、
突然何かに喪服の裾を掴まれたような感覚があった。
少々驚いて振り向くと、小学校に上がったばかりといった少年が、こちらの顔を見上げていた。
帽子とマントを身に着けている姿を見ると、差し詰め魔法使いの扮装といったところだろうか。
どうやら彼の母親と間違われてしまったらしい。
「坊や――お母さんとはぐれちゃったの?」
不安にさせないよう、少年に声をかけつつ、辺りを見回す。
おそらくはぐれてからまだ時間は経っていないだろうし、向こうも捜しているはずだ。
それなら、少年の母親が近くにいる可能性は高い。
まもなくして、少し離れた所から、母親らしき人影が、少年の名前を呼びながら近付いてきた。
それは、黒尽くめの魔女の仮装に身を包んだ若い女性だった。
これでは間違えるのも無理はない。
頭を下げる母親に会釈を返し、小さく手を振る少年に手を振り返す。
それは日常の中に生じた、ほんの些細な出来事だ。
しかし、今日がハロウィンでなければ起きなかったに違いない。
ある意味では、これも一つの『非日常』と言えるのかもしれない……。
そんなことを考えながら、再び歩き出す。
218
:
小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』
:2016/10/31(月) 23:26:38
>>217
(嫌になるわね)
ふぅとため息をついて歩く。
何をするという訳でもないが、歩いている。
黒い服に赤いスカーフが栄える。
集団のハロウィンに浮かれた塊を避ける。
面倒くさそうに。
「はぁ」
またため息が出る。
219
:
小石川文子『スーサイド・ライフ』
:2016/10/31(月) 23:57:56
>>218
向こうから歩いてきた小鍛冶とほぼ同じタイミングで人並みを避ける。
人並みに遮られて、向こう側の様子は見えていなかった。
だから、相手の存在に気付いたのは、至近距離まで近付いた時だった。
さすがに避ける暇がない。
その結果、軽くぶつかってしまうことになった。
「あっ……」
「ごめんなさい」
頭を下げて、自身の不注意を詫びる。
洋装の喪服に黒いキャペリンハット。
帽子の下の黒髪はアップヘアだ。
この時期だと、遠くから見ると魔女の仮装に見えなくもないが――仮装ではない。
220
:
小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』
:2016/11/01(火) 00:00:18
>>219
「んっ……」
「いえ、こちらこそ。ごめんなさいね」
謝罪と同時に相手を見る。
その服を観察。
「喪服、かしら」
(仮装かとも思ったけれど、そうじゃあないし)
(そういうタイプでもないわね)
221
:
小石川文子『スーサイド・ライフ』
:2016/11/01(火) 00:21:19
>>220
ややあって、自分を見る視線に気付いた。
観察されることは初めてではない。
しかし、それが原因で動揺することはない。
自分自身、この服装が街中を歩くのに似つかわしい格好ではないということは分かる。
それでも、この習慣を止めるつもりはなかった。
「ええ」
「仮装ではないわ」
「さっきは間違われてしまったけれど」
そう言って、軽く微笑む。
それは明るい笑いではなく、どこか陰のある笑顔だった。
もし、小鍛冶の視線が両手に移ったとしたら、両手の薬指に同じような指輪をしているのが見えるだろう。
222
:
小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』
:2016/11/01(火) 00:36:09
>>221
「そう。それは、気の毒といっていいのかしら?」
「私はあまり、こういうことは好かないから、そう思ってしまうけれど」
指輪が視界に入るがそれについて突くことはしなかった。
それをするほど子供でもなかった。
「あなたはどうかしら? ハロウィンが好きとか、あるのかしら?」
「それともイベントは苦手?」
223
:
小石川文子『スーサイド・ライフ』
:2016/11/01(火) 00:58:27
>>222
投げ掛けられた問い掛けに対し、頭の中で考えを巡らせながら、おもむろに口を開いた。
「私は――静かな場所が好きね……。湖畔の近くの自然公園には、よく出かけているわ」
「あの辺りで過ごしていると気持ちが落ち着くから……」
「そうね……。あまり賑やかな所に入るのは苦手かもしれないわね……」
ぽつりぽつりと話しつつ、一旦言葉を切る。
「でも、時々寂しくなることがあって……」
「そんな時は、少し賑やかな通りに出てみようと思うこともあるわ」
「今ここにいるのも、そんな理由かしら……」
そこまで言って、今度こそ言葉を終えた。
224
:
小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』
:2016/11/01(火) 23:01:14
>>223
「そう。私は騒がしいのが嫌いなの」
「まだここはマシだけど、ただバカ騒ぎしたいだけなところは好きじゃあない」
流れる様に言葉が生まれる。
彼女にとって間違いのない言葉だった。
「寂しさ、ね」
(随分と昔に忘れてしまったわね)
「なら、ほんのちょっぴりだけその隙間埋めてもよろしくて?」
225
:
小石川文子『スーサイド・ライフ』
:2016/11/01(火) 23:22:10
>>224
無言で目を少し見開き、少々驚いたような顔をする。
考えてみれば妙な状況だった。
彼女とは、ただぶつかっただけの関係なのだから。
普通なら、そのまま通り過ぎて終わりだろう。
しかし、こうして言葉を交わしている。
それは、彼女に対して何かの縁を感じたからかもしれない。
「――ええ」
しばしの沈黙の後、短く返事をした。
226
:
小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』
:2016/11/01(火) 23:34:11
>>225
「まぁ、なんということはなく」
「少し一緒に歩きましょうかということなんだけれど」
髪をかき上げる明。
「ところで、名前を聞いていなかったわ」
「私は小鍛治明。あなたは?」
227
:
小石川文子『スーサイド・ライフ』
:2016/11/01(火) 23:58:10
>>226
思わず、くすりと笑う。
先程と比べると、幾分明るさの感じられる微笑みだった。
それは傍らにいる少女のお陰なのだろうと思えた。
「ありがとう」
素直に感謝の気持ちを口にする。
彼女にとって、自分は出会ったばかりの人間だ。
そんな自分のために何かをしてくれる。
なんということはない、と彼女は言った。
しかし、自分にとっては、それはとても温かい心遣いだった。
「小石川文子よ」
「じゃあ……小鍛冶さんと呼ばせていただいてもいいかしら?」
気付けば、人の通りも徐々に落ち着いてきていた。
少なくとも、先程よりは歩きやすい道に見える。
228
:
小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』
:2016/11/02(水) 00:12:42
>>227
「別に」
「よろしくお願いするわね。小石川さん」
(気まぐれよ)
ただの気まぐれだ。
かつての自分は彼女ではなかったし、寂しさを忘れた小鍛治にとって彼女が特別な存在であったという訳でもない。
偶然だったのだ。すべて。
「トリックオアトリート」
「なんてね」
229
:
小石川文子『スーサイド・ライフ』
:2016/11/02(水) 00:41:46
>>228
「ええ。よろしく……」
彼女が心の中で何を考えているのか。
勿論それは分からない。
もしかすると、彼女にとっては、本当になんということもないことなのかもしれない。
ただ、自分は少女の気遣いに感謝し、嬉しく思っていた。
仮にそれが自分だけのものだったとしても、今この時、それは自分にとっての真実だ。
「――ハッピーハロウィン」
『トリックオアトリート』と言われたら、こう返事をすることが通例となっているらしい。
どこかで聞いた知識を思い出し、やや冗談めいた口調で返した。
その後は、小鍛冶の言った通り、肩を並べて通りを歩いていく。
そうしている間は、少しだけ寂しさを忘れられた。
自分からすれば、大きな出会い。
けれども、この町からすれば、ほんの些細な小事。
どちらにしても、二人は共に歩き、同じ一時を過ごした。
それは紛れもない事実なのだ。
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