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「ぼっち社員」の増加は集団意思決定への警鐘か? 似た者同士の寄り合いが組織をダメにする理由
――処方箋⑱「違う考えのヤツ」を面白がることから組織変革が始まる
【第18回】 2013年3月27日
渡部 幹 [早稲田大学 日米研究機構 主任研究員/客員准教授]
2013年3月27日(水)10:20
■仲がいい集団を見るとキモチ悪い?
「ぼっち」を自覚する若者が増加
昨年、私がある大学で受け持った社会調査の授業で、簡単なアンケートを自分で作成して分析するような課題を出したことがあった。
数十名の学生がレポートを提出してきたが、そのうちの1人が行った分析の結果が興味深かった。彼は自分と同じ大学の学生70名ほどにアンケート調査を行い、「ぼっち」現象について尋ねた。
「ぼっち」は一人ぼっちの略で、大学でもサークルやクラスで仲間と行動を共にするよりも、1人でいる方が多いような人を指す。友達が少なくコミュニケーションが苦手で、極端な場合には、皆が集まる食堂などで昼食をとるのが嫌で、トイレの個室で食事をとる「便所飯」なる行動を取る者もいる。
その学生のレポートはそんな「ぼっち」についての意識調査であった。調査の結果を見ると、自分のことを「ぼっち」と思っている学生は70%近くにも上っていた。さらに、そのうち半数以上は「ぼっち」であることの方が「楽」だと考えていることがわかった。
そして、「皆で仲良くしている集団を見るとどう思うか」という設問については、「ぼっち」に相当する人の90%が「気持ち悪い」と回答していた。
このような結果を述べたのは、先日ある企業の人事部の方と話していたときに、「明らかに『ぼっち社員』が増えている」という指摘があったからである。そして、そういう社員は、特に反抗的ではないものの、決して自分から友人を増やしたり、仲間に加わったりするするような行動をしない。
そういう人物が稀にしかいない場合ならば、それほど問題にはならない。しかし、最近の新入社員は4〜5人に1人がそんなタイプだそうだ。そうなると、グループでプロジェクトを進める場合、グループ全体の士気が上がらない、頑張りどきに一丸となることが難しくなるなどの問題が出ているという。(続く)
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「ぼっち社員」の増加は集団意思決定への警鐘か? 似た者同士の寄り合いが組織をダメにする理由
――処方箋⑱「違う考えのヤツ」を面白がることから組織変革が始まる
【第18回】 2013年3月27日
渡部 幹 [早稲田大学 日米研究機構 主任研究員/客員准教授]
■仲がいい集団を見るとキモチ悪い?
(続き)その人事の方は、「今の若いものは……」という言い方で、世代の違いを理由だと考えていた。特に、ゆとり教育が集団での協調性を育たなくしたのではないかと述べていた。
たぶん、そうではないと私は考えている。
自分を「ぼっち」と思う人が多いのは、実は今に始まったことではない。アメリカでの社会調査でも、自分が他の人よりも孤立していると感じている人は、一貫して多い。それは、社会ネットワーク理論によって説明されている。
今、人気者のAさんがいたとしよう。AさんはBさん、Cさん、Dさん、Eさん、Fさん、Hさんと仲が良く、分け隔てなく付き合い、必ず誰かとつるんでいる。一方、Aさん以外の人たちは、それぞれ特に知り合いではない状況だとしよう。このような状況のときに冒頭に挙げたアンケートをとると、7人中、Aさん以外の6人は「自分は友達が1人しかいない」と感じ、自分は「ぼっち」だと思うだろう。
つまり、友人のネットワークが誰かに集中しているような場合、残りの大多数は自分のことを「ぼっち」と思うようなネットワーク構造になっているのである。大学や職場にいわゆる「リア充」と呼ばれる友人の多い人物が稀にいると、その周囲は必然的に「ぼっち」と感じやすくなるのだ。ネットワークが誰かに集中しているような不均一な状態ほど、この状況は起きやすい。
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「ぼっち社員」の増加は集団意思決定への警鐘か? 似た者同士の寄り合いが組織をダメにする理由
――処方箋⑱「違う考えのヤツ」を面白がることから組織変革が始まる
【第18回】 2013年3月27日
渡部 幹 [早稲田大学 日米研究機構 主任研究員/客員准教授]
■集団になると独自の考えを出しにくい
「隠れたプロフィール実験」が語る事実
したがって、「ぼっち」と感じている人が多いという現象自体はあまり不思議なことではない。それよりも不思議なのは、集団を「気持ち悪い」と感じ、「ぼっち」の方が居心地がよいと思う心理である。前述のような職場の問題を引き起こす一番の問題は、この心理だからだ。
この現象について、社会心理学に面白い実験がある。ステイサーらが行った「隠れたプロフィール実験」というものだ。
これは、3人の学生に集団で、ある容疑者を有罪にするかどうか討論させるという実験だ。その容疑者については、有罪になる証拠Aが4つ、無罪になる証拠Bが7つある。証拠の重要度が皆同じならば、全体を勘案すると無罪になるべき状況だ。ステイサーは、容疑者のシナリオや証拠の種類をうまく練り上げ、ほぼ同じ重要度を持つ証拠群をつくって実験を行った。
ところが、この実験での情報の与え方には仕掛けがあった。有罪証拠の4つは予め3人全員に与えられていた一方で、無罪証拠の7つは1人に3つずつ与えられていた。つまり、個人の中では有罪証拠4つ、無罪証拠3つで、有罪になりやすい状況をつくったのだ。
集団で意思決定を行うならば、各人が独自に持っている無罪証拠が提出され、全体を見て無罪の決定が行われやすいはずである。しかし、結果は全く違っていた。個人のとき以上に、集団になると有罪決定ばかりが行われるようになったのだ。
ステイサーらは、これらの決定を行う際の会話を分析した。そこでわかったのは、人々が自分の持つ独自の情報よりも皆が共有している情報の方を話題に載せやすかったことだった。そのため、有罪情報の方によりウエイトがかかり、有罪決定が出やすくなったのだ。
このことは、人が集まると共有している考え方の方ばかりを口にし、自分独自の考えを出しにくくなることを意味している。そしてそのような「皆が同じ考え」の集団で固まってしまうことにより、ますますこの傾向が強くなってしまう。
その結果、その集団と違う考え方の人間はアクセスできなくなってしまう。その極端な例がカルト集団だ。カルト集団内では同じ価値観が共有されているが、部外者から見ると気味の悪い集団に思えてしまうことが多い。
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「ぼっち社員」の増加は集団意思決定への警鐘か? 似た者同士の寄り合いが組織をダメにする理由
――処方箋⑱「違う考えのヤツ」を面白がることから組織変革が始まる
【第18回】 2013年3月27日
渡部 幹 [早稲田大学 日米研究機構 主任研究員/客員准教授]
■同じ考え方を共有することは
良い効果と悪い効果をもたらす
「ぼっち」の人々が、集団を「気持ち悪い」と感じるのは、「同じような考え持った人々だけで集団をつくるようになった」からだと私は思っている。
そしてこの傾向は、良い効果と悪い効果を招く。良い効果としては、ヴィジョナリー・カンパニーという考え方に代表されるように、ある種の価値観を共有することで、組織を強固にしていくといった例が挙げられる。
GEやザッポスなどの会社は、独自のヴィジョンや文化を社員に浸透させることで、業績を上げてきた。このように、ある考え方の共有は良い結果ももたらす。
しかし、その効果はオウム真理教のテロ活動のようなものの温床ともなってしまう。あるいは、オリンパスの不正会計事件のように、長年誰もが知っていた問題を隠ぺいするような体質が組織に備わってしまうことにもなる。
隠れたプロフィール実験が示した、諸刃の剣の効果をどうやってマネージするかは、今後経営者や管理職にとって重要な問題となるだろう。なぜなら、労働力の流動性が高まっている今は、「同じ考えのもとで集団をつくる」ことが割と容易になっているからだ。
ネット上でも、自分のお気に入りの情報をくれるサイトのみを回り、そのようなコミュニティのみに入り浸って、それ以外の考えを全く受け入れないようになれば、ヴァーチャルなカルト集団ができ上がる。私には、実際にそういうことが多く起こっているように思える。
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「ぼっち社員」の増加は集団意思決定への警鐘か? 似た者同士の寄り合いが組織をダメにする理由
――処方箋⑱「違う考えのヤツ」を面白がることから組織変革が始まる
【第18回】 2013年3月27日
渡部 幹 [早稲田大学 日米研究機構 主任研究員/客員准教授]
■強固な集団をつくりつつも
異質な考えを排除せずに面白がれ
考え方の共有がもたらす負の効果をなくすには、「同じ考えを持つ者同士で強固な集団をつくりつつ、異質な考えを排除しないで、面白がる」という規範が必要である。実際、イノベーションはそのような「異質の考え」から起こることが多い。
このように強固でありながら、柔軟な組織をつくるためにはどうしたらいいか、学問的にも十分にはわかっていない。ただ、経験的に言えることは、少なくとも組織のリーダーには、同一の価値観のもとに部下をまとめ上げる能力と、異質な考えを持つ者を排除しない能力という、一見矛盾する能力を併せ持つ必要があるということだ。
本田宗一郎、松下幸之助、盛田昭夫など、日本の高度成長期を支えた経営者は、そうした能力を持っていたと思われる。翻って、今の日本ではどうだろうか。同じ考えを共有するだけの集団になっていないだろうか。異質なものを排除する規範ができてしまい、リーダーもそれに従うようになっているのではないだろうか。
「ぼっち」のアンケートが示しているのは、現在の若者の特殊な心理ではない。日本の集団が持つイノベーション力の低下という問題の底にある、問題提起なのである。
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