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西洋史

61名無しさん:2016/04/09(土) 21:42:28
>>60

 さらに、この時代には神殿も存在しており祭祀集団がいたものの、それは専門職としての神官ではなくパートタイム的な役割として担われていた。都市化の前半は、祭祀儀礼が人々を緩くまとめる求心力として働いていながら、社会的格差や階層化が未熟な段階にあった。

■ 「よそ者」の訪れで都市化は次の段階に

 都市化が始まったころ、地球規模の温暖化が西アジアの気候を大きく変えた。約6000年前のペルシア湾の海水面は現在より2メートルも高く、5500年前の海岸線は200キロメートルも内陸に及んでいた。

 このペルシア湾の海進はメソポタミア低地の耕作地を持続不可能なものとし、多くの人々の移動を促した。この移住者達が「よそ者」として、余剰食糧をふんだんに生産する能力をもった都市的集落にやってきたことが、都市化を次なる段階へ進めることとなる。

 「よそ者」の訪れは、多くの変化を伴っていた。劇的に増加した人口の需要を満たすために、さまざまな製品を専門的に大量生産する専業工人が誕生した。さらに、倉庫には鍵がかけられるようになり、その開け閉めに必要となる判子は祭司に預けられた。異なる価値観や技能を持った「よそ者」は、新たな技術や交易の機会だけでなく、社会の階層化をもたらし、都市化を加速させていく。

 同時代の日本は同じように温暖化による人口増加を経験しながら、都市化は進展しなかった。これは、利用可能な居住地域が豊富にあったため、「よそ者」が生まれることがなかったからではないかと著者は述べている。つまり、西アジアでは「上へ」と重層的に積み重なった居住面が、日本では「横へ」広がっていったということだ。

■ 西アジアには調和と共存の足跡が残っている

 本書では当時の人々の生活が他にも多くの視点から描写されている。これからの研究でより多くのことが明らかになることを期待したいが、イラクやシリアの情勢不安から、研究再開の目処が経っていない場合も多いという。著者は以下のような願いで本書を締めくくっている。

“調和と共存の足跡が、西アジアの地に残っていることに気づいてほしい。古代の人々は知恵を絞り、工夫を凝らして、少しでも快適な空間を構築していった。対立と競合を風土とする西アジアで、いかにして価値観のぶつかり合いを和らげて、共に暮らす道を歩いてきたのか。手掛かりはすぐそこに埋もれている。”
 この手掛かりが二度と手に入らなくなってしまう前に、著者の思いが現実のものとなることを願ってやまない。

 インダス文明の謎: 古代文明神話を見直す (学術選書)
作者:長田 俊樹
出版社:京都大学学術出版会
発売日:2013-10-10

 メソポタミアとインダスのあいだ: 知られざる海洋の古代文明 (筑摩選書)
作者:後藤 健
出版社:筑摩書房
発売日:2015-12-14

 都市の誕生: 古代から現代までの世界の都市文化を読む
作者:P・D・スミス 翻訳:中島 由華
出版社:河出書房新社
発売日:2013-08-13

 ◎本稿は、“読みたい本が、きっと見つかる!”書評サイト「HONZ」の提供記事です。

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