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近現代史綜合スレ

616名無しさん:2015/08/15(土) 21:12:22
>>615

新しい生活様式のモデル
 もうひとりは「東京聯合少年団中央健児女子部長藤村千良女史」である。藤村のドイツ見聞録は、「新興の意気が到る処に満ち満ちて居ることでした。何を見ても唯感心する他なく、学ぶべきことが実に沢山ありました」とはじまる(『東京朝日新聞』1938〈昭和13〉年9月16日、17日)。

 藤村は日本の女性に伝える。

 「ドイツに於ける赤ちゃんの大切にされていることは日本の婦人には想像だに出来ないことです。/汽車などに乗る時でも、お母さんが腰をかけているその前に、赤ちゃんは乳母車ごとそのまま乗れるようになって居ります。/地下鉄などでも赤ちゃんの乳母車の上げ下ろしを男子までが、自分の子供よりも大切にして手伝うのです」。

 藤村は乳幼児と母親が社会的に大切にされている理由がわかっていた。「よい体格の女子とよい体格の男子との結婚によってよき子を生むことに依って強き第二国民に将来の大使命を負わせよう」とするためである。それでも藤村にとって、ヒトラーのドイツの下では、男女は平等だった。

 藤村は言う。「ドイツの婦人全体に真に国家のためと云う観念が生活の凡ゆる方面に漲って、緊張した生活をしています」。藤村はこのような緊張感を日本の銃後社会に持ち込もうとした。「盟邦ドイツに学んで、更に一層銃後の婦人の緊張に拍車をかけなければならないと思います」。

 ヒトラーのドイツは日本の新しい生活様式のモデル国家となった。

ファシズム優生学への「期待」
 日本はドイツのようなファシズム体制をめざす。そうは言っても日本は日本である。ドイツを真似したところで同じようになれるわけがなかった。

 たとえばナチス・ドイツ流の優生学を導入するといっても、限界があった。この点に関して、医学博士の林髞は言う。

 「この事変以来、日満支の一体が叫ばれ、日本人の進出を多く見るようになったが、その場合結局一番問題になるのは異種族間の結婚……だが恐らくこの問題は、近親結婚よりこの方が数からいって少くはないかと思う。異種族間の結婚問題は、ある程度の弊害はあるとしても、要は増殖率が多いかどうかにあると思う」(『ホーム・ライフ』1939〈昭和14〉年12月号)。

 日本はドイツのようにユダヤ人を排除しアーリア民族の優秀性を唱えたくても唱えることができなかった。日中と「五族協和」を掲げる満州国の三国が「東亜協同体」をめざす立場からすれば、「五族」の異種族間の結婚は、推奨すべきではあっても、禁止すべきことではなかったからである。

 この背景にはつぎのような日独のちがいがあった。ドイツは第一次欧州大戦に敗れて植民地を失った。対する日本は形式的ではあれ、戦勝国である。しかも台湾を領有し、韓国を併合している。日本はすでに多民族国家だった。多民族国家日本が一方的に大和民族の優越性を強調するわけにはいかなかった。

 優生学の導入は、日本の文脈において再解釈される。当時の日本では、法律によって、伯父・叔父と姪、伯母・叔母と甥の結婚は禁止されていた。それを従兄妹同士にまで広げようというのである。

 林は言う。「日本で問題になる近親結婚としては、この従兄妹同士というのが一番多いわけだから、時代が経つと禁止になるかも知れないと、私は思っている」。

 近親結婚は、自由主義的な結婚観の立場からであっても、忌避されるべきだろう。これはナチス・ドイツ流の優生学とは異なる。医学の発達段階にともなう近代的な常識にもとづく判断である。

 それでもファシズムが持つ平準化作用の魅力は失われない。林は結婚した者には独身者の二倍の賃金を与えろと提言する。戦争景気の下で高賃金を得た独身の若い労働者が贅沢をしている。「この弊害を改める上にも、妻のある者には二倍の高賃金を払うか、独身者には普通の賃金しか払わないとなれば、独身者はそんなに遊びまわる余裕がなくなり、早く結婚して平和な生活をしようと工夫するようになると思う」。

 ファシズムの優生学は賃金格差の是正と「平和な生活」への期待を抱かせた。


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