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聖典引用 板
1963
:
goro
:2013/01/22(火) 20:28:39 ID:nCo1DokU
>>1962
の続き
間もなく、六時の夕食の時刻となったので、われわれは艦内に降りて、士官の食堂で食事にとりかかった。航海中、陛下の御夕食には艦長以下上級将校が、代わるがわるお相伴に召されるのを例としていたが、このときは出港直後のことであり、艦長以下一同、業務多忙のため、陛下は御居室でお一人でお食事中であった。ちょうど六時半頃であったか、私は皆と食事中、フト昔の記憶が頭に浮かんできた。それは大正十四年の夏、まだ皇太子であらせられたときのことであるが、軍艦長門で樺太に御旅行になったことがある。
ある日、樺太の南端にある大泊の港から、西海岸にある本斗、真岡の方へ回航の途中、その夜、長門は海馬島という絶海の孤島の島かげに仮泊する予定になっていたので、夕食後、われわれは、殿下を中心に、後甲板で涼しい汐風に吹かれながら、黒ずんだ小さな海馬島の小高い丘が、だんだん近づいてくるのを、物珍しく眺めていた。当日は風波がかなりあったので、艦は丘の風下にあたる静かなところに泊めるために、速力を落とし、徐行して、ぐるっと島を廻っている、その時、突然、夜やみの波の間、艦のすぐ近くに、何やら、泣くような、叫ぶような大声がきこえてきた。
舷窓をもれる明かりに照らしだされたところを見ると、日の丸の旗を舳先に立てた一そうの小舟が、荒波にもまれながら、艦と並行して、六人の若者が一生懸命に櫓をこいでいる。左手に、しかと、とも櫓を握って指揮をしているのは、一見、六七十の老父のようであったが、紋付、羽織、袴に、右手に山高帽を高々と差し上げながら、なにか叫んでいる。風が強いため、その言葉はききとれなかったが、嬉し泣きに泣いていることだけは、よくわかる。
私は、一ヶ月前、下検分でこの島にも立ちよったので、島の事情は知っていた。昔から、この島には、百人あまりの日本の漁民がいて、ここを根拠地として漁業を営んでいるのである。きょうの夜、殿下の御召艦が、ここに仮泊することは、みな、知っていたので、恐らく島の人たちは総出で、船をだして、沖で殿下をお迎えする積りでいたのだろうが、日が暮れて、波荒れ狂う夜闇の海上で、そのうちの一艘が、やっと長門の艦影を発見し、少しでもお側に近づこうとして、えいえいと漕いでいたのである。
われわれは、後甲板の上から、帽子やハンカチを振って挨拶をかわしたが、艦がいくら徐行しているとはいえ、二つの船の速力には格段のちがいがあるので一瞬の間に別れてしまった。私は、もしほんとに、手がとどくなら、抱き合って、一緒に喜びたい、と思ったが、まことに残念なことであった。
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