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ダークファンタジー 代理投稿依頼スレ

1名無しになりきれ:2009/10/30(金) 20:57:52
規制などで書き込めない方が代理投稿を依頼するスレです。

131アイン ◆mSiyXEjAgk:2010/08/24(火) 22:48:47
セシリアが事に取り掛かっている間に、アインはもう一度足下の鞄を見た。
鞄から姿を覗かせているフラスコの内容物は、いつぞやの列車事件でも用いた『酔いどれガマの吐瀉物』だ。
最早フラスコには殆ど残っていないそれを呼び水に、彼は目を瞑り思索の海にたゆたう。


『酔いどれガマの吐瀉物』は幾つかの性質を持っている。
吸引した者を眠りに誘い、簡単に水から風の属性へと変化して、そして魔力を一切含有しないと。
風の属性、即ち空気は人間にとって必要不可欠である。
必然、結界の透過基準も甘いのだ。殆どが、魔力検知によって判別されていると言っていい。

これもまた『手砲』と同じく、使い方によっては凶悪な兵器となり得る。
だが彼はこれを、仮に査定会が開かれていたとしても提出するつもりは更々無かった。
もしもその事について触れられたのなら彼は

「開発局の奴等が必死こいて開発しようとしている物が、
 僕の鞄で眠っている。これ程爽快な事もないだろう?」

とでも答えるだろう。
――だが、本当は違うのだ。

彼の研究する役学とは、『先生』が唱えた『人の役に立つ学問』である。
けれどもアイン・セルピエロはどうしようもなく厭世家で、凡そ人と呼ばれるものの殆どを嫌っている。
彼は、『一人の役に立ちたかった』だけなのだ。『先生』の役に。
そして自分がその行動原理によって動いている事を、彼は自覚している。
だからこそ尚更、『先生』の『役学』を汚すような真似を、出来る限り彼は控えたかった。

しかし『先生』を救う為には『役学』の研究が必要不可欠で。
その為の研究費を得るには研究成果を提出しなければならない。
だがそれが人の役に立つように使われるかと言えば、そうでないのは明白だった。
だからこそ彼は手砲や火薬のみを提出しようとして、また研究費にがめつくなったのだ。
現実と理想の狭間で、彼は解決する事のない懊悩をし続けていた。

続けていたが、彼は悩みながらも現実を選ぶ事が出来る人間だった。
自分自身を俯瞰する事の出来る人間だった。

そうして現実を積み重ねてきた彼が彼自身を見るに、今の状況は格別なものでもある。
自分が『勇者』の影を見た一行と、社会的な立ち振る舞いを超えた救世行為を行う。
とても歪曲した形ではあるが、人の役に立つ形で役学を使えている。
自分で自分が羨める程の境遇の中に、今の彼はいた。


――ほんの僅かな、幾つかの疑問や未知、誰にも告げていない決意。
その陰りさえ無ければ、十全の時だと言えるくらいに。


「……ん? あ、すまん。言い忘れたが勇んで踏み込むなよ? 
 まだ『酔いどれガマの吐瀉物』が空気中に満ちているだろうからな。あまり吸ったらお前もおねんねだ。
 ちゃんと換気しておくんだな。……遅かったか?」

132アイン ◆mSiyXEjAgk:2010/08/24(火) 22:50:21
ふと、アインは我に帰った。
そうして彼女が扉を開けば、一人残らず昏睡に陥った議会の面々の姿が拝める事だろう。

「悲劇の再来……と言うのは少し大袈裟か。ともあれ、ざまあないな。
 ……あぁ、こいつの顔は見覚えがあるぞ。あの人の役学を馬鹿らしいと言って、
 ついでに予算を大幅に削ってくれたな。丁度いい、おい起きろ」

椅子の背に体を預け切って眠る壮年の男の横面に、アインは強かに鞄の角をめり込ませる。

「むぐあっ!? ……っ、貴様何を……!」

「黙れ。どうせ誰も来ないし誰も起きん。それより今から言う質問に答えろ。
 ……あぁ、妙な真似はするなよ。何かしたら後ろのアレがお前の頭をかち割るぞ。
 そうだエクステリア。ついでに他の奴等にも魔術を重ねて掛けておけ。他にも、用心は幾らしても足りないだろう」

用心を語るアインは、しかしセシリアに荒事を押し付け、あまつさえこの場で姓を呼びさえした。
さっきからの無礼と雑用扱いも合わせて彼女から一発二発ぶん殴られても、仕方が無いだろう。

ともあれ、彼は尋問を開始する。
アインはセシリアに用心と重ねて、男が嘘を吐いていないかを確かめるよう頼んだ。
が、彼女ならば同時に他の誰かを尋問するくらいは容易いかもしれない。

「それじゃあ、聞かせてもらおうか。まず……そうだ。あのルキフェルとやらは何者だ?
 官僚の連中と一緒にいたと言う事はお前達、ひいては皇帝とも関わりがある筈だ。
 一体何を企んでいる? まさか国民の為だとは言わないだろうな」

アインの問いに、しかし壮年の男は頑なに唇を結び開こうとしない。
無言のまま、アインは手砲の引き金を引いた。
内蔵されたオーブが連動して砕け、火薬に着火。
吐き出された致命の弾丸は、しかし男の耳たぶを食い千切るに留まった。

悲鳴が上がり、だが誰も目覚めはしない。
駆けつけても来ない。

「二度言わんぞ。答えろ」

男が喚いている内に構えられた二丁目の手砲が、男の眼前に突き付けられた。
先端に覗く奈落の如き空洞と、容赦のない視線と口調が、男から抵抗の二文字を奪い去る。

「……ルキフェルは、大分前に皇帝が連れて来た……魔族だ」

「まあ、あのナリで人間と言い張られても困るがな。まあいい、続けろ」

「……あの男は、ゲームをしたいと言っていた。人間にふるいに掛けて、
 出来損ない達を殺すゲームを。今下で起きてる騒ぎも、その一環だ……」

「ふぅん? 僕がアイツなら少なくともお前は『出来損ない』に分別するがな」

「……このゲームは、実験も兼ねていると言っていた。赤眼の……。
 ゲームと実験が完了した暁には、ワシらは無条件で『進化』させてえもらえると……」

「それで協力したのか? 嘘に決まっているだろうがそんなもの。奴からすれば
 お前らなんて、居たらちょっとばかし事を運ぶのが楽になる程度の存在だろう」

男を心底馬鹿にした様子で呟いたアインは、しかし己の言葉にはっと目を細めた。

「……いや、待て。だとしたら皇帝も同じじゃないのか? ルキフェルなら、
 やろうと思えば力ずくで事は成せる筈だ。帝都を制圧して、強引に。
 それが圧倒的に非効率的であると言うだけで。本質的には、皇帝はいてもいなくても変わらない」

133アイン ◆mSiyXEjAgk:2010/08/24(火) 22:50:56
彼は一瞬思考に潜り込み、そして短兵急に男の顎下に手砲を押し付け、
ルキフェルや皇帝、この騒動にかんする情報を有りっ丈吐き出させる。
そしてこれ以上の収穫は望めないと判断すると、男を殴りつけ薬品を浴びせ
――後始末はやはりセシリアへと丸投げした。

「……皇帝とて、この事に気付いていない筈はない。諦観に囚われるようなタマでもない。
 何かがある。ルキフェルが皇帝を殺せない理由。皇帝がルキフェルに殺されない理由。
 両者が対等たる理由が……! この馬鹿共には知らされていなかった、何かが」

だが彼の思考が至る事が出来るのは、そこまでである。
その『何か』の正体を知るには、まだ情報が足りない。
――まだ、足りない。

「エクステリア、行けるか? 急ぐべきだ。僕らはまだ知るべき事がある。
 それと……敏腕魔導師様にもう一仕事だ。ルキフェルは、その気になれば時を止める事さえ可能らしい。
 始祖魔導とやらか? 何でもアリだな。羨ましい限りだ」

忌々しげに、アインは吐き捨てる。

「だが……術式である以上、事前に分かっていれば対策の立てようがあるだろう?
 いや、立てなければどうしようもない。……行くぞ」

やや焦燥に駆られた素振りで、アインはセシリアを振り返る事もなく部屋の出口へと向かった。


【色々疑問や課題を提示してみたり】






「……始まったのね」

どうしてこうなってしまったのか。
彼女の脳裏をよぎった疑問は、しかしすぐに塗り潰される。
今更どうにもならないと。
そして――どうでもいいか、と。

「あら? ……あの子ったら、こんな所で悪戯しちゃって」

彼女の艶やかな唇が薄く、冷たい三日月を描く。

「お仕置きしてあげなくちゃ。だって私は、あの子の先生ですものねぇ」

窓から差し込む月光に染め上げられた、薄いキャミソールをはためかせて。
彼女は亡霊のように歩み出した。

134アイン ◆mSiyXEjAgk:2010/08/24(火) 22:51:44
以上であります
お願いします

135名無しになりきれ:2010/08/24(火) 23:11:40
行ってくる

136名無しになりきれ:2010/08/24(火) 23:15:19
別に行かなくてもよかったようだ

137レクスト ◆N/wTSkX0q6:2010/08/24(火) 23:15:42
代理完了でござる

138オリン ◆NIX5bttrtc:2010/08/27(金) 19:48:06
ちくしょう、また規制か……!
すみませんが代理お願いします



足早に帝政議会から出ようとするアインとセシリア
彼らが視線を扉のほうへ向けると、音も気配も無く、一人の男が腕を組みながら壁に背を預けていた
その男の風貌は、赤い髪に、黒く鋭い瞳。暗灰色の外套を纏った少年。ハスタ・KG・コードレスだった
セシリアとは面識は無いが、アインとはメニアーチャ家で会ったのが最後だったろうか

「アイン……だったか。あの屋敷以来だな。従士サマから、話は聞いてるぜ。ヤツを殺るんだってな。」

そう言いながら彼らに近付き、再び言葉を続けた

「ここには問題なく入れたようだな。
……ああ、俺か?ハンターズギルドを総括している"剛剣"のグラン。あのジジイ、一応俺の親父でな。
一介のハンターじゃすんなり通れないここも、それのお陰で入れたってわけだ。」

ハンターズギルドの幹部、グランディール・F・ゼイラム。通称グラン親父。または、剛剣のグラン
帝都に住むものならば、その名を聞いて知らないものはいないだろう
"従士隊長"エーミール=ジェネレイトと互角とも言われるその圧倒的な腕力は、年を感じさせないほどのものだ──と
ギルドの幹部を親に持つのならば、その立場を利用しない手は無い

「ああ、そういえばそちらの"お嬢さん"とは初対面だったか。
俺はハスタ・KG・コードレス。ハンターをやっている。
そこの学者とは、つい最近知り合ったばかりの関係なんだが……列車の件といい、何故か色々と縁があってな。」

セシリアに対して、ハスタは手短に自己紹介をする。ついでに、アインとの関係も織り交ぜて
昨日今日と見知った程度の短い仲だが、目指すべき道は同じだ。ルキフェルを倒す──過程は違えど

「俺もお前たちと共に行こう。戦闘になる可能性も踏まえて、な。
それに、あまり宜しくない情報が入ってきている……"ティンダロスの猟犬"。もしかしたら、遭遇するかもしれないからな。」

本来ならば、ハスタはレクストたちと同じ討伐班に組まれるのが自然な形なのだろう
だが、潜入班には戦闘が得意なものはいない。城の兵士や騎士レベルならばセシリアでも問題は無いだろうが、猟犬やそれ以外の敵が現れるかもしれない
もし相対したのならば、まず勝ち目は無い。戦に慣れたハスタなら、遭遇したときの勝率も上がる。最悪、自分が囮なればいい
それらを見通した上で、ハスタは彼らと行動することを告げた

──"神戒円環"。"自壊円環"に対抗する唯一の手段
今回の作戦が最初で最後の賭け。確実に成功させなければならない
万が一失敗したら、帝都だけでなく、地上全てが滅ぶ
それらの事をハスタは、"全て"把握していた

「……今、帝都は非常にマズイ状況になっている。"赤眼"とやらを持った奴が、次々に異形化してやがる。
あれは国から配給されたものらしいな。急がないと、帝都は壊滅だ。」

自身の焦りを噛み殺すように、ハスタは自分の拳を強く握り締めた
彼と親しいものですら判別しようが無いほどに、"彼"はハスタとして"擬態"していた──

【アイン&セシリアの前に、ハスタに変身したナヘルが現れる。行動を共にする事を伝える。】

139フィオナ ◆tPyzcD89bA:2010/08/27(金) 20:57:54
行ってきますよー

140フィオナ ◆tPyzcD89bA:2010/08/27(金) 21:00:38
行ってきましたよー

141オリン ◆NIX5bttrtc:2010/08/27(金) 21:05:48
ありがとうございます騎士殿

142 ◆mSiyXEjAgk:2010/08/27(金) 23:14:22
代理お願いします

魔族化した人間達で溢れる通りを何とか切り抜け、ジースはSPINによって自身の邸に逃げ帰った。
いや、正確には『逃げ』帰った訳ではない。
自分のするべき事が『また一つ』、見つかったのだ。

SPINによって門を潜る事無く玄関へと到達した彼の腰には、あるべき物が無かった。
メニアーチャの家紋が刻まれた、父から譲り受けた刀剣が。
長い歴史のある物ではない。
だが彼の父が「この先続くメニアーチャの威信を象徴するような剣を叩いてくれ」と
鍛冶職に依頼して献上された剣だ。

鋭く屈強で、何より大切であったその剣は今、彼の手元にない。
酒場を訪れた際、彼らの内の一人、聖騎士の女に託したのだ。
使いこなせぬ自分が後生大事に持ち歩くよりも、僅かであろうとも彼らの一助にした方がいい。
それもまた、自分のすべき事なのであると。

そしてジースは館の長い廊下を駆け抜け、自室の扉を叩き開ける。
そのまま立ち止まらずに向かう先には、小型のオーブが一つ。
貴族間の、緊急連絡網である。
貴族同士にも対立などがある為全ての貴族に通じる訳ではない。
だが彼らの派閥や関係は複雑であるので、連絡網は絡み合うようにして
最終的に全ての貴族に要件が伝達されるのだ。

「……聞こえますか。メニアーチャ……いえ、ジースです。外で起きている騒動には、もう気付いていますよね。
 あれは帝都から配られた赤眼によって、人間が魔族のような姿に成り果てて起こしています。
 赤眼を外して下さい。……信じてもらえないかもしれません。だけど、本当の事なんです」

彼の言葉は、しかし殆どの貴族達には信じてもらえないだろう。
ジース・フォン・メニアーチャは多くの貴族に慕われてきた。
だが彼らの殆どは単に、『メニアーチャ』家に気に入られる事で
生まれる優位性を目当てとしていただけだ。

ジースは名乗る際に、敢えてメニアーチャではなくジースと名乗り、
また口調も貴族然としたものではなく素の状態で語った。
利にばかり聡い愚劣な貴族達は、ただの青年としての彼の言葉など信じる筈がない。

けれども一握りの貴族達は。
彼の言葉から或いは、赤眼が内包するおかしな点に気付く事が出来るかも知れない。
そうなったのなら、きっと彼らは助かるだろう。

ほんの一握りの、思慮と価値のある貴族達は。

143マルコ ◆mSiyXEjAgk:2010/08/27(金) 23:15:23
 
 
 
――マルコ・ロンリネスは『誰かの役に立ちたかった』。
自分がロンリネスの姓に相応しい人間ではないと分かっているが故に。
ならばせめて分り易い善行――『誰かへの救済』によって、自分の価値を確立したいのだ。
そして彼は自分の望みが内包する、自分自身の浅ましさや矮小さを、自覚している。
だからこそ尚更、彼はその望みを叶えなければ自分が無価値であるように思えてならないのだ。

「……あぁ、なんてこった。あのガキ、立派になっちまいやがってよお。
 やだやだ、オッサンは置いてけぼりですか。妬ましいねえ。やんなるねえ」

それは、喜ばしい事なのだ。
なのにマルコは、それを素直に喜べない。
同じ境遇、同じ仇名で呼ばれていた彼の成長に、嫉妬を覚えてしまう。

「……やめだやめだ。素直に喜んでやらねえとな。
 アイツは立派な貴族になったんだ。アイツの言った、庶民の鑑のような立派な貴族に」

彼の成長の中に、願わくば自分の言葉が一欠片でもあれば。
そう淡い願いを抱きながら、マルコは酒瓶を傾ける。

144マルコ ◆mSiyXEjAgk:2010/08/27(金) 23:15:57
「……まったく、お酒は嗜む程度にとあれほど申し上げましたのに」

不意にマルコの背後、三歩ほど離れた位置から声が響く。
彼は振り返らず、ただ苦笑。
魔族化した人間が溢れる通りを抜けて、音もなく彼の元へ辿り着き、呆れ交じりの苦言を零す。
そんな事が出来るのは、一人しかいない。

「そう言うなって。祝杯だよ、祝杯。ジースお坊ちゃまの門出祝いさ」

「……門出の意味、間違ってますよ」

「ん? まあいいだろ。大切なのは祝う気持ちだよ、気持ち」

あっけらかんと笑って更に酒を煽るマルコに、彼の背後に立つ影は嘆息を一つ。
一方で彼の笑いは次第に小さく、収まっていった。
ついには無言に至る。

「……俺なあ、アイツにゃアイツが謳うような立派な貴族になってもらいてえって、
 そう思ってたんだぜ? なのにいざそうなったら、これだよ。つくづく嫌になるぜ」

「それを認めて、恥じる事が出来る。それもまた立派な事だと思いますわ」

「無知の知ってか。いや、無知って言うより無恥と言うべきだったな」

自嘲の笑いを零すマルコに、影が歩み寄る。
一歩、二歩と。
細い両腕が彼へと伸ばされて、

「……やめてくれよ? これ以上惨めな思いはごめんだ。それよりも」

振り返る事なく、マルコは呟く。

「俺はここで飲んだくれる事しか出来ねえ。したい事はあってもな。
 ……知ってたか? これでも俺、救済者になりたかったんだぜ」

影は答えない。

「……だが、お前には出来る事がある。お前にしか出来ない事が」

だから、とマルコは言葉を繋ぎ、

「俺の代わりに、人助けをしてきてくれ」

自分の願いを、影に託した。

145マリル ◆mSiyXEjAgk:2010/08/27(金) 23:16:41



――マリル・バイザサイドは『主人の役に立ちたかった』。
彼女は主人が抱える願い、そこから芽生え彼の心に絡み付く懊悩、全てを知っていた。
だからこそ、彼女はそれを肩代わりしたいと考える。
彼に頼まれるまでもなく、それを己の使命と定めていた。

マルコは自身を矮小な人間だと嘲った。
けれどもいざ自分自身の欠点と向き合った時、それを認めるのはとても辛い事だ。
誰しもが出来る事では、決してない。
目を逸らし、欺瞞で塗り固め、自分を誤魔化す人間だっている。
それをしなかった彼を、マリルは十分に立派だと断じた。

故に彼女はマルコの命に従う。
摩天楼の上を駆け、彼女はナイフを放った。
ロンリネス家の紋章が刻まれた、柄に布切れの巻かれたナイフを。
前方に見える白い悪魔――ルキフェルへ。

正に今、幾万もの人々への虐殺を始めんとするルキフェルへ。

「こんばんは。今宵は良い夜ですわね。この素敵な月夜に水を差すのをもう少しばかり
 遅らせても、きっと罰は当たりませんわ。……ですから暫し、私と遊んで下さいませんか?」

彼女に、勝機はない。勝算もない。
もっと言うなら、勝つ気さえも彼女は持ち合わせていなかった。
究極、神殿で見せられた不可知の能力――時を支配する能力――を
使われた時点で、彼女の敗北は決まってしまうのだから。

だからこそ、彼女は『遊んで』くれと言ったのだ。
そう言えばルキフェルはきっと、自分に対して本気は出さず、じわじわといたぶる様な戦いをするだろうと。

余りにも、部の悪い賭けだった。
ならば彼女が、そうする意味は――


【時間軸がちょい不明瞭なんですけど虐殺開始前のルキフェル様に喧嘩吹っかけました
 マリルに勝つ手段や勝つ気はありません。ただ戦う気はあります
 飽きられない程度に攻撃します。まあつまり長引かせたいってこってす】

146アイン ◆mSiyXEjAgk:2010/08/27(金) 23:17:41
以上です
よろしくお願いします

147レクスト ◆N/wTSkX0q6:2010/08/27(金) 23:31:27
行ってくる

148レクスト ◆N/wTSkX0q6:2010/08/27(金) 23:32:30
完了

149アイン ◆mSiyXEjAgk:2010/09/01(水) 02:53:11
代理をお願いします

>「ああ、そういえばそちらの"お嬢さん"とは初対面だったか。
>俺はハスタ・KG・コードレス。ハンターをやっている。
>そこの学者とは、つい最近知り合ったばかりの関係なんだが……列車の件といい、何故か色々と縁があってな。」

>――『信用できるの?』

ハスタとセシリアの言葉を、アインは心中で反芻する。
そして、

「……おいコードレス。悪いんだがコイツはお前を信用してないらしい。
 と言う訳で論より証拠だ。ドアの外の連中を片付けてくれないか」

無論ドアの外には誰一人としていない。気配など無い。
だが怪訝な表情を浮かべながらもドアの外を覗き込むハスタの後頭に、アインは手砲を突きつけた。
接近するつもりは毛頭ない。
ただ手砲を、何かを構えた事を知らせるべく、大袈裟に動作音を響かせる。

「あぁ……すまん言い忘れた。実は僕もな、お前を信用してないんだ」

眼鏡の奥の両眼を研ぎ澄まし、アインは鋭い眼光でハスタを居抜く。

「……列車の件、か。確かにあの事件に僕は居合わせた。だが……あの件とその前後でアイツと関わり合いになった記憶は無いぞ。
 それなりの立ち回りもしたが、それもアイツが知り得る事じゃない。
 それを知り、尚かつ僕とアイツが関わり合いになったと勘違い出来るのは、媒体はとにかくあの時の出来事を俯瞰出来る奴らのみだ」

細まる双眸に続いて、アインの眉間に深い嫌悪の皺が刻まれた。

「僕を見下すんじゃない。信用させようと何度かの関わりがあると思わせたかったんだろうが、仇になったな」

もしも、アインがハスタと旧知であり、深い関わりがあったのならば。
彼はハスタが偽者であると悟る事は出来なかっただろう。
接点が少な過ぎたからこそ逆に、彼には些細な矛盾点が浮き彫りに見えたのだ。

「……さて、聞かせてもらおうじゃないか。何が目的だ?
 殺すつもりなら僕らはもう死んでるだろう。エクステリア、返答の真偽はお前が見抜け。出来るな?」

だが、言い終えると同時。
アインは視界の端で閃光が迸ったのを見た。

150アイン ◆mSiyXEjAgk:2010/09/01(水) 02:53:52
 


迫る閃光を、アインは床に体を投げ出して回避する。
間一髪だ。膨大な魔力の塊が風を切り、髪を焦がす音が彼の耳孔へ滑り込む。
ポケットに魔力を検知し振動するオーブを潜らせていなかったら、間に合わなかっただろう。

「あらあら、ネズミだけあってすばしっこいのねぇ」

閃光の射手は、ミカエラ・マルブランケ。
錬金術と魔術を修めた天才であり、セシリアのかつての師であり――赤眼の創り手でもある。

「駄目じゃないの、セシリア。幾ら自作の鍵だからって、魔力隠蔽はちゃんとしなくちゃ」

ミカエラはそう言うが、セシリアに落ち度があった訳ではない。
彼女は平時から自動の魔力隠蔽を行なっているだろうし、そうでなくとも開錠の術式は僅か一瞬で完了していた。
その彼女の魔力を感知したミカエラが、常軌を逸して異常なだけなのだ。

加えて何よりも、ミカエラはセシリアがここにいる事自体には何一つとして言及しなかった。
些細な、だが確実な彼女の狂気の発露だった。
最早彼女は――或いはずっと昔からそうだったが、今に至り一層――倫理観と言うものを損ねている。

「邪魔はさせないわ……。この計画が上手くいったらあの人とレックをくれるって、ルキフェルはそう言ったんですもの」

それが虚言である事を、仮に貰えたとしてもそれは『抜け殻』か『贋物』であろう
と言う事を、ミカエラの理性は理解している。
している筈なのだ。

それでも尚、ミカエラはセシリアに向けて掌を翳す。
そして『障壁突破』と『対象に浸透し炸裂』する性質を秘めた魔力を瀑布の如く撃ち放った。

151アイン ◆mSiyXEjAgk:2010/09/01(水) 02:54:42
 


口を塞がれ魔族の血を流し込まれ、だがマリルは動じなかった。
冷冽に澄んだ瞳が驚愕に濁る事はなく、ただ彼女は腕を捉える魔力の鎖を自身の魔力で断ち切る。
しかして次の瞬間には、弧を描いて振り下ろされた箒がルキフェルの顔面を捉えていた。

(手応えあり……ですが効いた様子は無し、と。当然ですね)

マリルはルキフェルの胸に刺さったナイフの柄に立っていた。
ルキフェルに腕を掴まれていた彼女が、拘束を解き移動を果たす。
その過程をルキフェルは視認出来なかっただろう。
それどころか、いつの間に捕縛から抜けられたのかすら分からない筈だ。

「ほんの手品のような物ですけど、驚いて頂けましたか?」

ルキフェルの耳元に問いを残して、彼女は夜空へと飛び上がる。
月の曲線をなぞるような宙返りと共に、眼下へと白刃を雨霰と放つ。
狙いはルキフェルではない。ナイフをばら撒く行為自体が目的なのだ。
ロンリネス家の刻印に並んで、更に三つの紋章が刻まれたナイフを。

「お楽しみはまだまだこれから。人間の、人間による、人間の為のショーをどうぞお楽しみ下さい」

言葉が夜闇に溶けると同時、マリルの姿が夜空から消失。
再びルキフェルの眼前に現れた。
エプロンから引きずり出したシーツを彼の顔面に被せて巻き付け、重力の助けを得た踵を叩き込む。

彼女の芸当の正体は帝都の交通手段であるSPIN、それにアインが改造を施した物だ。
彼は魔術を使えないが、術式を理解して手を加える事は出来る。
そもそも全くの無から何かを築き上げるよりも、元からある物を利用する方が遥かに容易だ。
彼は魔術師や神官を嫌っていたが、役学の為にはそれらが必要である事も分かっていたのだ。
ナイフの紋章の一つは、短距離用である代わりに個人運用が可能な、言わば低燃費なSPINだった。

また彼女がルキフェルの血を流し込まれ尚平然としているのも、この新たなSPINによるものだ。
アインはSPINの転移過程の中間に、本来防護結界に用いられる『選択的透過性』の術式を組み込んだ。
通過の条件は『人間の平常な状態』。これならば体内の異物はおろか、原因不明の疾患であっても除去できる。
『先生』を治療すべくアインが考え出した、新機構だ。

「動物実験は済ませたものの、人体で試す機会が無かったのですが……この分なら問題無さそうですね」

ともあれ彼女の踵から頭へと打撃の感触が伝わった頃には、
彼女は既にルキフェルの遥か下、数多のナイフが突き刺さった建物の屋上に立っていた。



>>180

マリルが始めに投擲した幾本かのナイフ――あれはルキフェルを狙った物では無かった。
帝都で戦う騎士団、神殿騎士、従士隊、彼らへ宛てた物だった。
柄に巻いた布には赤眼の処置方法と、最も危険な個体は出来る限り足止めする旨が書かれている。

その情報が信頼に足るかは、柄に煌くロンリネスの刻印が示してくれる事だろう。

152アイン ◆mSiyXEjAgk:2010/09/01(水) 02:55:14
以上です。よろしくお願いします

153フィオナ ◆tPyzcD89bA:2010/09/01(水) 18:26:04
行って来ますよん

154フィオナ ◆tPyzcD89bA:2010/09/01(水) 18:32:16
行って来ましたー

155アイン ◆mSiyXEjAgk:2010/09/04(土) 22:09:05
代理お願いします

>「貴方は、素晴らしい。魔族の血を、人の英知で凌いでみせた。
>それはかつての人ならば、出来ないことだった。
>今の人は、変わったようです。いずれ、遠くない未来で
>人は、我々と”等しく”なるでしょう。」

「妨害術式……ではないようですね。これはむしろ……純粋過ぎる力業。それにしても……」

>「しかし、所詮は家畜だ。人は、人であるしかない。
>貴方たちが何をしようと無駄だ。赤眼だけが、人を魔族に変えるのではない。
>人が、人を魔族に変えるのです。」

>「赤眼は、キーに過ぎません。
>人は、生まれでた時から、多かれ少なかれ”怪物”の遺伝子を持っているのです。
>そう、それは術式や知識では消せない刻印。人の命と地続きの――因果」

徐々に締め付けられ、圧壊へと導かれていく両足に、しかしマリルは動じない。
頑としてルキフェルを睥睨し、口を開く。

「我々と“等しく”なる? 人が人を魔族に変える? 冗談がお上手ですのね。
 ……ある男が弓を何処へともなく射掛け、結果誰かに矢が突き刺さり死んだ。
 そして男は言いました。「私が彼を殺したのではない。矢が彼を殺したのだ。彼が死に向かっていっただけだ」……馬鹿馬鹿しい話ですわ」

皮肉と共に、足を捕らえ食い千切らんとする『力』にマリルはエプロンから取り出した聖水を掛ける。
けれども『力』は強大で、僅かに弱まる気配はあったものの以前彼女の足に喰らい付いたままだ。

「この訳の分からない足枷が全てを物語っていますわ。我々人間は知恵を以って輪を作り、貴方はそれを解けぬからと力任せに打ち砕く。
 人が魔族と交わる事はありませんわ。何せ両者は既に一度交差している。ならば後はかけ離れていくのが道理と言うものでしょう。
 例え貴方が言う怪物の因子を消せなくとも、断ち切れなくとも。遠ざかり、遠ざける事は出来ますわ。
 貴方がしている事は料理用の鍋に対して、剣の方が人を殺せるし便利だと溶かし、無理矢理剣に作り変えようとしているようなものです」

空になった聖水の瓶を放り捨て、彼女は更に聖水を取り出した。
同じく足枷である『力』に掛けて、両手の瓶が最後の一滴を零すと同時にまた次へと手を伸ばす。
次もまた空になったのなら、やはりまた次へ。

「重ね重ね、馬鹿馬鹿しい話でしょう? 鍋は台所へ。剣は戦場へ。そもそも住むべき所が違うのですから。
 そう、貴方はここに……地上にいるべき存在では無いのですよ。
 もっとも、剣は台所を戦場に変える事が出来ますが……」

次々に、マリルは聖水を使い続けた。
やがて辺りは力を失った後の水で水浸しになる。
更には小瓶が所狭しと転がり、互いに衝突し合い小気味いい音を奏で始めた頃合いで。

彼女の足を捕らえて離さなかった『力』が、完全に死滅した。
再び、彼女はルキフェルに迫る。
余裕綽々に抜き去る事なく放置されていた胸のナイフに転移して。
エプロンから取り出した黒い鍋でルキフェルを強かに殴打する。

「鍋だって、相手をぶん殴る事くらい出来ますわ」

156アイン ◆mSiyXEjAgk:2010/09/04(土) 22:09:48
再び転移によって離脱を図る前に、彼女は蹴りを一つ放った。
狙いはルキフェルの胸部、突き刺さったナイフの柄。
鞭の如くしなった蹴撃は過たず柄を捉え、ナイフをルキフェルに深く穿った。

彼女もルキフェルがこの程度で死ぬとは夢にも思っていないが、出来る事は何でもすべきだ。
言葉を弄した所で、ルキフェルが強大である事実は揺らがないのだから。

「……さて、次の演目は何にいたしましょうか」

足場である屋上に降り立ち、マリルはルキフェルを仰ぎ見る。
両の手をエプロンに潜り込ませ、双眸を刃と研ぎ澄まし白き悪魔を寸分違わず射抜く。

「……そうですわね。人の強みと言う物を見せつけて差し上げますわ。まずは、私達人間の積み上げた物を壊す事しか能のない魔族には……到底真似の出来ない『物量』をッ!」

勢い良く、両手がエプロンから抜き去られる。
姿を見せたのは、二丁の『手砲』。
そして戦術は、先の聖水と同じく。

(手砲は戦争が出来る程に! 聖水だって今から教会が開業出来るくらいです! その他各種道具も勢揃い! まだまだやれますわ!)

即ち、神速を以っての連射。
単発式の手砲を使い捨てに、とにかく撃ち続ける。
肘から先が不可視となる程の手捌きで、マリルは雨霰と弾幕を張った。
地に落ちた流星の群れが摂理に逆らい天へ昇らんとする光景が、ルキフェルを塗り潰す。

帝都で戦い護る者達がその使命を全うするまでの時間稼ぎとして、彼女はたった一人での物量戦を始めた。





以上です、お願いします
あと、フィオナさんありがとうございました

157マダム・ヴェロニカ ◆erF2FH6r9I:2010/09/04(土) 23:23:00
>155>156
いってきます

158マダム・ヴェロニカ ◆erF2FH6r9I:2010/09/04(土) 23:25:16
>155>156
完了

159アイン ◆mSiyXEjAgk:2010/09/04(土) 23:31:44
ありがとうございました、マダム

160 ◆mSiyXEjAgk:2010/09/08(水) 00:53:11
代理お願いします


>「"一穴点螺"」

符術の槍がミカエラの障壁を突き抜ける。
一枚、二枚と――だが三枚目に至った所で槍は突如、遍く勢いを失った。
制止された槍は符に戻り、一斉に燃え上がる。

ミカエラが展開している障壁は一枚では無かった。
器用に全てを防げる一枚の結界ではなく、寧ろその逆。
対魔術、対聖術、対錬金術、対符術、各属性、対物、対熱量、ありとあらゆる『特化型』の結界を幾重にも展開しているのだ。
対聖術ならば、聖術以外は『触れる事すらなく』突き抜けるように。
器用貧乏な結界を張るよりも結果的に堅牢で、尚かつそれぞれの術式は単純。
修復も容易いと言うものだ。

だが同時に、この防御法はその特化した一枚を破られてしまえば後は殆ど素通り。
保険として最も内側に展開してある小規模な通常結界しか残らないと言う事であり。
ミカエラ・マルブランケが、自身の術式に絶対の自信を持っていると事への証左でもあった。

「――縛性術式『爆縮空牢』!」

だからこそ、付け入る隙がある。
『爆縮空牢』はその起点に莫大な魔力を費やし、しかし現象に魔力を伴わない。
つまり有する性質は『風の属性』と『熱量』のみ。
いずれも通常は魔力によって顕現される物で、逆を言えばそうでない限り、災害でも無ければ高い出力は発揮出来ない――筈だった。

その常識を覆し、故に『爆縮空牢』は。
セシリアの積み重ねた研鑽の日々は、ミカエラの防壁を打ち砕いた。
ミカエラの体が不可視の圧力に、不可解に跳ねる。
防壁で相殺されているとは言え結構な威力に、しかしミカエラは揺らぐのみだった。
倒れはしない。

「……凄いわぁ。やるじゃないのセシリア。貴女は昔から優秀だったけど、相変わらずねぇ。きっと順風満帆な日々を積み重ねて来たんでしょうねぇ」

セシリアを射抜くミカエラの瞳に、狂気と嫉妬の炎が灯る。

「でもね……満足と退屈からは何も生まれないけど、苦痛からは大抵の物が生まれるの。……素晴らしい物は、地獄からしか生まれないのよぉ」

濁った笑みを浮かべる彼女の口元から、赤黒い血が零れる。
彼女は、それを気にもしていなかった。
いや――気付いてすらいないようだった、と言った方が正確かも知れない。

「……この世の遍く森羅万象には本質がある。怒りに震える拳には火が宿り、悲しみに打ち拉がれる者の心は凍土と化す。
 草木から命が失われれば後には枯木枯草のみが残る。ならば命は何処へ言ったのか。虫へ、鳥へ、獣へ。
 巡り巡った命は……人の内に蓄積される。それさえもいつかは失われ世界へと帰り別の何かとなるが……」

陽炎のようにふらついて、ミカエラは傍の壁に凭れかかった。
俯き加減のまま、彼女の視線は虫さながらに嫉妬の炎に誘われセシリアを捉える。
くつくつと喉のみならず全身を痙攣させて、彼女は笑った。

「……生きた人間をそのまま解き明かしたなら、そこには何が残るのかしらねぇ?」


ミカエラの白磁を思わせる手が壁をなぞると、壁は命を得たかの如く波打った。
土の属性は、金と化ける。
一瞬の振動の後に無数の棘が、鎖が、拘束具が壁から生えた。
そしてそれらはハスタとセシリアを呑み込まんと飛び、這い寄り――瀑布と化した。

【金属性の鎖やら色々、津波のように。妬ましいです】

161 ◆mSiyXEjAgk:2010/09/08(水) 00:53:42
「えぇいクソ! 魔術合戦に僕を巻き込むな! 自分で言うのもなんだが僕は真っ向勝負ではとことん役立たずだからな!」

咄嗟に帝政議会の円卓の下に身を隠し、アインは叫んだ。
魔術と符術が激突した余波に踊る前髪を押さえ付けて、彼は一層身を竦めた。
致死の魔力波、魔力符による結界、火花、爆発――そこにアインが手出し出来る余地は無い。
下手に手を出せば文字通り、火傷では済まされない。

>「用心深くて結構だ。物事に対し、常に疑念を抱くのが生きる上で必要なことだと思っている。
>俺を疑ってもいい。信用するかしないかは、俺のこれからの行動で判断しろ。」

「ふん、笑わせるなよ! そもそもこの戦いだってお前とそのアマの自作自演の可能性だってあるんだからな! そもそも殺す以外に人の使い道など無限にあるだろうが!
 相手の信用を味方の命で買うのも戦略として十分あり得る! 信用させたければ情報を寄越せ! ルキフェルが、皇帝が、大局の優位性を損ねるだろう情報を!
 僕達はまだ知るべき事があり過ぎる! なにせ倒すべき者は何者なのか、何がしたいのか、あまつさえ何を知るべきなのかすら分からないんだからな!」

自分で役立たず宣言をしておきながら胸中に湧き起こる劣等感を抑え切れず、若干八つ当たり気味にアインは声を張り上げる。
とは言え主張自体は単純なものだ。
アインやセシリアは単なる技術屋であり、理論を組み上げるまでが本来の仕事だ。
ならばマダム・ヴェロニカに『神戒円環』の理論が伝達された今、二人を殺す事の価値は薄い。
天帝城潜入も彼らが死んでは立ちいかない、と言う作戦ではない。
しかし魔術による暗示で『自覚なき暗殺者』として仕立て上げるなど、使い道はまだまだ幾らでもあるのだ。

客観的に見れば限り無く怪しいマダム・ヴェロニカも、『造幣局発の私造銀貨』や『三十枚の銀貨』について、
そして何より『門の所在』などの大局を揺るがすに足る『情報』を彼らに提供している。
だからこそ、明かされぬ腹蔵はあるにしても、それを補い一定の信用が出来るのだ。

> 「――縛性術式『爆縮空牢』!」

「って……オイお前、まさか僕の事忘れて……!」

そんなアインの我鳴り声もセシリアの放った爆発の術式によって断ち切られ、掻き消される。
自分では防御結界の一つも張れない彼の事など、完全に忘れているであろう規模の爆発だった。
事前に展開されていた蛍火と術式の名称から悪寒を感じ、一足早く彼は耳を塞ぎて縮こまっていたので、大事には至らなかったが。

>「――だって、わからないことは、わからなきゃいけないからっ!」

「あぁまったくだ! ついでに僕がお前の今分かるべき事を教えてやろう! 『僕の所在』だこの馬鹿! 殺す気か!」

162 ◆mSiyXEjAgk:2010/09/08(水) 00:55:02
大音声を響かせながらも、アインは楕円卓から僅かに顔を覗かせ戦況を伺い見る。
やはりと言うべきか、ミカエラ・マルブランケは依然変わらず屹立していた。

(……アイツは、確かミカエラ・マルブランケだったか。錬金術に関する論文は感嘆ものだったな。いや、魔術もか。
 エクステリアの師だったんだな。……先生か。ふん、随分と素晴らしい師に恵まれたみたいじゃないか?)

だが、

(アイツは……殺せないだろうな。先生ってのはそう言うものだ)

故に、アインは決心する。。
幸いにして、ミカエラにとって彼は正真正銘『ネズミ』らしい。
ならば自分は精一杯、出来る事をしてやろうと。

「聞けエクステリア。あと……あぁもうハスタでいい、お前もだ。あの女が言っているのは『命の元素』、それを更に突き詰めた『万物の原型』だ。
 アイツはお前らのそれを抜き出すつもりらしい。……逆を言えば問答無用で殺すつもりは無いらしいな。エクステリア、お前にとっては好都合だろう。
 ハスタ、アイツは僕らにとって必要な人材……でもある。そうだな、言葉を弄するならこう言おうか。信用してるぞ」

当然彼にそのつもりは無い。少なくとも今はまだ。
だがハスタがミカエラを殺そうとするのならば、言葉の上だけの信用すら失う事となる。
アインはそう釘を刺したのだ。

更に言えばミカエラは必要な人材ではあるが不可欠な人材ではない。
ハスタが彼女を殺してしまうようなら、やはり彼が信用ならない事の根拠となる。

「いいか、アイツは魔術師であり錬金術師だ。真理を従えるからこそ強力で、だからこそ真理に縛られる。
 差し当たってその鎖だ。金属は火によって融け、水によって錆びる。 堅牢なる陣も尖鋭な刃に引き裂かれる。
 もっと単純な真理なら、力はより強い力に屈する。……考えて考えて、精々アイツに歩み寄れ」

縛鎖の余波に呑み込まれぬよう再び身を屈めて、アインは言う。

「悪いが僕はお前の背中に隠れさせてもらうが……お前が前に進みたいなら、その背中を押すくらいはしてやろうじゃないか」


【戦闘には干渉不可。ナビポジションに】

163フィオナ ◆tPyzcD89bA:2010/09/08(水) 00:58:47
行ってきますー

164フィオナ ◆tPyzcD89bA:2010/09/08(水) 01:04:36
完了

165アイン ◆mSiyXEjAgk:2010/09/08(水) 02:37:57
感謝感謝です

166レクスト ◆N/wTSkX0q6:2010/09/30(木) 03:07:54
本スレが荒らしによって陥落したようです。
スレ立て規制で立てられなかったので、暫定的なレス置き場としてここを利用させていただきます
新スレが立ったら自分で投下し直します

167セシリア ◆N/wTSkX0q6:2010/09/30(木) 03:08:39
>「……やはり、貴女は素晴らしいわ。そりゃあそうよね……貴女は文字通り、『地獄』を味わったんだものねぇ?」

(……っ!)

無遠慮に精神の深奥を抉る師の言葉。
やはりミカエラは、セシリアの心を折りにかかっている。制圧し、取り込む為に。
分かりやすいまでのあからさまな言動は、しかし確実に彼女の意識に楔を穿っていた。

>「く、ふふっ……あっはっはっははははははっ! さぁおいでセシリア! 貴女が向かってくると言うのなら!
  私はその手をしかと掴んで地獄へと誘ってあげる! 再び! 今度は二度と戻ってこれない地獄にねぇ!」

懐から取り出した瓶を煽り、飲み干したミカエラの周囲に術式の気配。
それは正しくセシリアの攻性魔術と同数の、『同じ威力かつ逆位相の術式』。
相殺以上でも以下でもない、正確無比の術式展開だった。これもまた、ミカエラ=マルブランケの真骨頂。

>「『離散』『鎮火』『霧散』『同調』『脱却』『活性』『断割』『包括』『突破』『拡散』『冷却』『氷結』『封殺』
  『熱波』『緩衝』『斬撃』『透過』『相殺』『分断』『隔絶』『浸透』『絶縁』『衝突』『逆転』『逆波』『灰化』……!!」

セシリアが演算能力を限界まで行使して捻出した術式の包囲網を、白痴でも相手にするかのように容易く撃墜した。
膨大な魔力に加え、魔術発動の技能すら上回ること適わない。踏んできた場数が違う、そもそもの地力が違う。

(これが教導院創始以来の才媛と呼ばれる所以……!常に誰よりも高みに立つ才の極み……!!)

ミカエラの能力においてもっとも厄介なのは、『抜きん出た才が特にない』ということ。
裏をかえせばそれは即ち全ての能力値が極めて高水準に纏まっているということである。
彼女は正しくなんでもできる。才あるものが努力して至る高みを、ミカエラは万人分持ち合わせているのだ。

そしてミカエラは能力を傾重しないが故に、平行して複数の技能を発揮することができた。
術式の並列展開など及びもつかない新領域。正真正銘のマルチタスク。

>「――『天地創造“眠りの森”』」

魔術を行使しながらの錬金術式。
セシリアですら及びもつかない鬼才の極みは、彼女のゴーレムをインターセプトし返すという離れ業までやってのけた。
忠実な兵として刃を連ねるはずのゴーレム『レギオン』が、今度は禍々しい植物に侵食されていく。

>「眠れなくなるような絶望の中で、眠りなさい」

「瘴気――!?」

思い出すのも頭痛がする『地獄』の大気。幻惑と蠱惑の毒霧が錬金術によって精製され、部屋を満たし始めていた。

「やば――セルピエロ君!」

アインも纏めて大気結界を張るが、瘴気は触れずとも幻を創りだす。ミカエラが指向性術式を仕込んでいるのか、最悪の幻覚だった。

168セシリア ◆N/wTSkX0q6:2010/09/30(木) 03:09:10
「う、あ、ああああ、ああああああああ……!!」

必死に抑え込んでいた記憶が紐解かれる。

未完の王国。果て無き荒野。旅の途中で出会った魔族。取り残された人々の末裔。侵された地に無数の墓標。
殺戮の宴。黒の聖別。幸福品評会。眼球の骸。爪割り賊。怪物の口腔。指差し組。被支配の環。百八の年代記。
耳の穴からゆっくりと錐を挿入される光景。鼓膜を破られ頭骨を貫かれ脳を穿たれ絶叫の断末魔。鍋の中の人肉。人肉。人肉。

死。
黒の獣。
ヒトの眼と歯を持つ獣。

焦点が定まらない。全身の毛穴が開く。膝から力が抜けて立てない。口の端から唾液が一筋。拭うことすらままならない。
引きずり込まれる。胸から下が不可視の泥に埋もれ、しばらくして泥は可視となった。汚泥だ。腐臭がする。死臭もする。
やがて背伸びしても泥から顔を出せなくなり、ゆっくりと、ゆっくりとゆっくりとゆっくりと大気に別れを告げる。

反射的に伸ばした指先に、何かを掠めた。

>「……セシリア、だったか。まだいけるか?……聞け。相手の魔力量は、恐らく俺達より上だろう。
  このまま持久戦を続けていたら、こちらが持たなくなる。"これ"は俺が防ぐ。その内に奴を倒せ……いや、越えて見せろ。」

感触を確かめるようにもう一度。今度は掌に、確かな手応えがあった。

>「瘴気を使ったのが間違いだったな。──四凶"瘴血凶槍"」

瞬間、熱と光と風が渦を巻いた。精巧な幻を構築していた瘴気が更に別の何かに侵食され、透き通っていく。
世界が澄み渡る。晴れた視界の先で、赤い槍を抱えたハスタがセシリアの前を護っていた。
原理は分からないが、瘴気を浄化する手段を持っているらしいハスタの手から放たれた符術が、議会を満たす瘴気を晴らす。

>「あいつは病気だ。セシリア、お前が薬だ。」

赤の閃光が迸り、錬金植物達が寸断される。そうして出来上がるのは、ハスタが拓いたミカエラへ至る道。血道だ。
信用されていないというのに無条件に命を張ってくれるこの男は、髪の色を白に変えながら進撃を促した。

言葉は最早必要ない。強く頷いて、踏み出した。

「ああもう、どいつもこいつも! 人のトラウマ抉りくさって――!!」

意識して荒い言葉を吐き、精神を無理やり叩き上げる。
放った台詞が昔に戻った気がして、ほんの少しだけ高揚した。

169セシリア ◆N/wTSkX0q6:2010/09/30(木) 03:10:00
「ミカエラ先生、これで最後です。最早私と貴女の間を隔てるものは何もありません。結界も、この距離なら穿ち切れる」

アインの知識とハスタの能力を総動員して、ようやく同じ土俵に立てる。
ミカエラ=マルブランケの出鱈目な強さは、故に孤独を生んだ。人は補い合えるから群れるのだ。
なんでもできる人間に、仲間など必要ない。孤高とはすなわち頂点ただ一つのことなのだから。

「世界の総和は等量です。それは確かに同じです。己の尾を喰む蛇の如く、世界は偽りの無限に満ちています。
 今ある以上を求めて口を開けば開く程、自分を呑み込むウロボロスのように。――自壊する円環のように」

だけど。
魔導杖を構え、ゆっくりと弧をいくつも描くように空中へ術式を描く。
通常の術式陣ではない。三次元上に重複敷陣することで膨大な術式情報を仕込むことができる立体魔法陣だ。

「有限だからこそ、誰かと何かを持ち寄って、大きな財産に変えることも出来るんです。
 互いの尾を噛んだ蛇たちが、一繋がりの大きな環となるように!分かち合うことができるんです。だから――」

少しだけ微笑んだ。わからず屋を諭すような、抱擁の笑みだった。

――『進めばどっかに辿り着く以上、間違った道なんてこの世にはねえんだ。間違ってるみたいで不安になる道ばっかだけどな』

(馬鹿みたいな理屈だけど、今は借りるよ)

どこまでも耳障りの良い理想論を、それでも言ってのける。
レクストの影を追い続けるミカエラ=マルブランケにとって、最も必要とする言葉だから。
そんな、師にとっての精神の礎を、自分が担えなかったことにほんの少し心を抉られながら、言い放った。

170セシリア ◆N/wTSkX0q6:2010/09/30(木) 03:10:41
「貴女が道を間違うのなら、私たちも混ぜてくださいよ。――その道を、正しく変えて見せますから」

セシリアの眼前には、内部で魔力渦巻く球体が完成していた。
ありったけの知慧と有らん限りの魔力をつぎ込んだ立体魔法陣。


「攻性結界――『未完の王国』」


バシッと快音を奏でながら球体が弾け飛ぶ。
それは破裂ではなく膨張だった。帝政議会の部屋全体を覆うような中規模結界が展開される。

錬金植物を食い止めていたハスタは対峙する蔦が消滅するのを見るだろう。傍観するアインは不可視の圧力をその身に感じるだろう。
超高密度に満たされたセシリアの魔力は、結界内に一つの現象を生み出した。

ミカエラの生み出した錬金植物がセシリアのゴーレムの姿へ巻き戻り、
さらにゴーレムがその形を崩していき、やがて大量の鎖や刃物へと回帰し、
最後にミカエラが錬金瀑布を生み出す際に使った媒体だけが残った。

『未完の王国』の結界内では物理法則に則らないあらゆるものが未完に終わる。
術式で何かを産み出そうとすればそれは達成できず、結界内に練成物があれば再構成前の状態へと強制的に回帰する。

錬金術師・ミカエラ=マルブランケを超える為に練り上げ編み出した錬金封じの結界。
扱いが至難極むる立体魔法陣を用い、戦場では致命的な無防備故にまともに運用できない術式だが、今はハスタが護ってくれる。
だから使った。だからこそ発動できた。そして、ここから先はもう一人の役目だ。

「セルピエロ君、『手砲』を!」

物理法則から逸脱せずに火力を叩き出せるアインならば、この状況下でも優位に立てる。
逆説、これでもミカエラを拘束しきれないならば、今度こそ彼女たちに勝つ目はない。

『未完の王国』はセシリア=エクステリアの切り札であると同時に、最後の砦でもあるのだった。


【錬金術封じの攻性結界発動。アインに『手砲』でミカエラを狙うよう指示】

171レクスト ◆N/wTSkX0q6:2010/10/02(土) 22:20:09
代理投稿ありがとうございました!

172オリン ◆NIX5bttrtc:2010/11/27(土) 18:58:35
どなたか代理お願いします。



灰色の空に覆われた空間に佇む一人の男。そこは一切無音の静寂に包まれた世界
──"虚空の間"。かつて自分の故郷だった廃村の空を模した場所
沈黙の中、いくつかの気配が近づくのを感じ取った。それらは真っ直ぐに、此方へと向かっている
何者なのかは解っている。……そして、重々しく扉が開かれた

姿を現したのは、装甲服に身を包んだ少年。神殿の意匠が刺繍された外套を纏った女騎士
そして、銀の長髪に黒衣を着た長身痩躯の男だった。辺りを見回している女騎士──フィオナが口を開いた

>「あそこに居るのは……もしかして」

自分の姿を視認したフィオナが此方へと歩み寄る
しかし、一歩近づいたところでその足は歩みを止めた

>「……オリンさんの他にも、何か居る……かもしれません。」

仲間へと警戒を促したフィオナ。聖騎士の洗礼にして奇跡の力。"神託"による危険を予知する能力
先刻、別行動を取る前の自分自身と"何か"が違うと、神の声が下ったのだろう
今この空間には、全て合わせ6人存在している。姿を晒していないバルバと、レクストの母だった者
正確に予知した"神託"は、警戒せねばならない能力だ。確実に潰しておく必要がある

「……来たか。」

彼らへ視線を向けるオリン。背に収めたシュナイムに手を掛け、ゆっくりと抜き放った

「……悪いが、俺はお前達と共にルキフェルを討伐することは叶わない。
先刻、自分を失った虚ろな人形はすでにいない。俺は取り戻した……自分を。"剣帝"である自分自身をな。」

腕から剣へと波動を伝達させると、シュナイムは小刻みに振動する
全身から黒き波動を漂わせると、血のように赤い相貌はより一層輝きを失った
冷徹なまでに無情な瞳を、レクストらに向けた

「……この先に行きたければ、押し通れ。」

その言葉と共に、オリンの周囲から何者かが現れた

【オリン、レクスト達と対面。ルキフェルさん、バルバとママンの描写お願いします。】

173フィオナ ◆tPyzcD89bA:2010/11/27(土) 21:51:23
了解しましたっ

174オリン ◆NIX5bttrtc:2010/11/28(日) 00:35:51
>>173
聖騎士殿、感謝いたします。

175オリン ◆NIX5bttrtc:2010/11/30(火) 19:59:49
申し訳ありませんが、代理お願いします
ただの帝都の背景です。イメージとしてみていただければ幸いです



──帝都内のある一角にて

人と魔物が犇き合う地獄。最早帝都の姿は其処には無く、只々殺戮が繰り返される世界しか無かった
空には闇が広がり、陽の光は届かない。魔が無数に、本能のままに人を喰らい続けていた
無力な人間は抗う事叶わず、生命を刈り取られる。咀嚼音と悲鳴だけが、辺りに響いていた

しかし、絶望に染まった中、希望を捨てない人間もまた、居た
武器を手に、魔に抵抗する者達。彼らは団結し、連携し、確実に魔を屠っていた
傭兵である彼らは、終わりの見えない戦いに身を投じていた
だがそれでも、傍から見れば無意味な抵抗。時間稼ぎにもならない絶望的な戦だった
傭兵仲間の一人。巨躯の男が魔力を込めた手甲で、眼前の魔物を打ち砕く。しかし、同時に魔物の腕が腹部を貫通していた
吐血し、魔物と共に崩れ落ちる男。一人、また一人と此方の戦力は確実に減っていた

どれほどの刻が経ったのだろうか。一瞬が、途方も無く長く感じる
切迫した緊張の中、一人の傭兵が心の中で呟いた。いつまで続くのだろうか、と
幾千もの魔を切り倒した武器は血に染まり、贓物の異臭が付着していた

「……クソッ!何処から湧いてきやがる。いい加減、キリがねぇぞ……。」

黒の短髪を逆立てた体格の良い傭兵が、吐き捨てるように言った
台詞とは裏腹に、魔物へと向けた双眸からは闘志の光が宿っている

「……全くだ。しかも、結界術式のせいで帝都からは出られないと来た。
騎士連中も、住民の避難と魔物の応戦で手が足りていない。
僕ら傭兵は、自分達だけで何とかするしかない。……救援を当てには出来ないな。」

金髪の優男然とした傭兵が、それに答えた
返した言葉は冷徹な現状。この状況下で、在りもしない希望を言っても無駄だ
ならば、僅かでも抗える道を模索するのが懸命である。絶望的な現実を見据えた上で

「死ぬための戦、か。解ってはいたがな。……どうせなら、一匹でも多く道連れにしてやる。
そして見せ付けてやる。俺たちの命を奪おうが、自由までは奪えねぇってな……!!」

そう言い放った黒の短髪を逆立てた傭兵は、身の丈を越す両手剣を力強く握り締めた
眼前に迫る魔物の腕を鉄塊で受け止め、押し返す。態勢を崩した魔物の隙に合わせるように、両手剣を振り下ろした
使い手の腕力と大剣の重量によって、拉げる魔物。歪に胴体を縦真っ二つに裂かれた肉塊は、音を立てて崩れ落ちた

恐怖を持たない魔物は怯む事無く、大剣使いの傭兵へと猛然と迫る
涎が滴る鋭利な牙が、大木のような腕から伸びる爪が、眼前にいる彼を捉えた
それらが身体へと触れる寸前──もう一人の傭兵、金髪の男のサーベルが魔物の頭部を貫いていた
一瞬の間を置き、貫通した穴から血が滝のように流れる。小刻みに痙攣しながら、魔物は地に平伏した

「……まだ、行けるか?」

肩で息をする金髪の男が呼吸を整えながら、短髪の男へと問いかけた

「……。」

返答が無い。何処に魔物が潜んでいるのか解らない状況で、視線を外すのは自殺行為に等しい
一瞬の間が生命に関わる。ましてや、周囲は建物や瓦礫が散乱している。隠れるのには打って付けだ
しかし、金髪の男の脳裏に不安が過ぎる。常に最悪の状況を想定して行動している彼は、確かめずにはいられなかった

背を預けた短髪の男へと視線を向けると、眼は充血し、身体中の経脈が浮き立っていた
予感は当たっていた。すでに、この男は魔に蝕まれていたのだ

176オリン ◆NIX5bttrtc:2010/11/30(火) 20:00:37
帝都の背景その2です



気が付いたとき、全てが遅かった。魔と化した男は片手で鉄塊を振り上げていた
間に合わない。自身の回避動作に移る速度と、眼前に迫る鉄塊の距離では
死を覚悟した金髪の傭兵は、ゆっくりと眼を閉じた。だが、その刃は彼に届くことは無かった

空を切る音と共に巨大な"何か"が、自身の真上を通り過ぎた
眼を開けると、魔に侵食された嘗ての仲間は下半身のみを残し、その場に佇んでいた
そして、背後から重々しい金属音が帝都の石畳を叩く音が聞こえてきた
振り返ると、胴鎧に外套を羽織った巨躯の初老の男が立っていた
肩に担いだ剣は男の倍以上はあろうかというほどの、神殿の柱の如き巨大な剣

「……貴方は、"剛剣のグラン"……?」

そう問いかけながら、金髪の傭兵は初老の男を見上げた
その男は、帝都ハンターズギルドの幹部。グランディール=F=ゼイラムだった
彼は視線を此方に向けると、肩を軽く叩いた

「今はまだ、悲しみに浸る時じゃねぇ……。仲間の弔いは、全てを清算してからだ。」

自身の前に立ち塞がるように、仁王立ちするグラン。彼がいれば、まだ先を生きる事が出来る
それが例え無駄だとしても、己の全てを賭けて生に縋りつくことは、決して無意味ではない
人間の意地。自由への抗い。亡き"戦友(とも)"のために。まだ、膝を突くときではない

「……。」

下半身だけの肉塊となった、仲間だった男へ視線を向ける金髪の傭兵

「……まだ、行けるな?──来るぞ。」

グランの言葉に、金髪の傭兵は小さく頷いた
今はただ、一体でも多く魔物を葬れれば良い。それが、今の自分に出来る最良の選択だから

圧倒的な数と力の前に彼らは、人間は、抗い続ける。希望が絶望を打ち砕く、その刻まで──

177名無しになりきれ:2010/11/30(火) 21:52:05
行ってくる

178名無しになりきれ:2010/11/30(火) 21:54:52
完了

179オリン ◆NIX5bttrtc:2010/11/30(火) 22:00:13
>>177-178
助かりました、ありがとうございます

180アイン ◆mSiyXEjAgk:2011/01/08(土) 21:52:36
とりあえず先日投下した自分のレス、こちらにおいておきます

レクスト達が気概と決意を示し合わせた直後、足下で微かな物音がした。
鞄が小さく揺れている。気絶していたアインを収納した鞄だ。
鞄は何度か揺れると、独りでに口を開いた。

「話は粗方聞かせてもらったぞ。……おい何を見ている。さっさと手を貸せ」

弾みで横倒しになった鞄から、アインが情けない動作で這い出てくる。
足下から上から目線の言葉を放って、彼は手助けを促した。
何とか鞄から脱出を果たして立ち上がると、彼の視線はセシリアに預けられた少女へと向けられる。

「……そいつが『門』か。何とか希望が見えてきたじゃないか」

だが、とアインは言葉を続ける。

「所詮はまだ希望だ。掴み取って現実にする為には、希望の眩しさに目が眩まないようにしないとな。
 ……『門』を助け出せた今、次の課題はあのルシフェルを相手にどうやってそのマーカーを命中させるかだ。
 三つしかないマーカーを、誰が持つ?一人に全て託すのか、一つずつ分けるのか。それに……」

帝都の広場を一瞬で焦土にした火力や魔族特有の膂力を始めとして、ルシフェルは絶大な力を誇っている。
それらの中でも特に脅威であるのが、議会の人間から聞き出した――

「時を止める。嘘か本当か、奴はそんな能力さえ持っているらしい。
 もし本当なら、マーカーを当てる当てないどころじゃない。嬲り殺しにされる」

静かに、断言した。

「……勿論、手を打ってない訳じゃない。エクステリアに頼むつもりだったが、こいつ以上の適任者がいてな。
 ミカエラ・マルブランケが今、時間停止を相殺する結界を天帝城周囲に張っている。
 とは言えすぐ終わる作業じゃない。暫く待つ事になるかもしれんな」

アインは知らない。
マダム・ヴェロニカもまた、時間停止に対する対策を講じていた事を。
だからこそ彼はこうして、長口上を連ねていた。

「あぁ、それとエクステリア。ほれ、『神戒円環』の術式陣だ。鞄の中にいる間、ちょっと手を加えておいた。
 その通りに術式を走らせても機能するが、気が向いたら読み込んでおけ。僕は所詮、術式を紙の上でしか理解出来ないからな」

丸めた羊皮紙が、セシリアの胸元辺りに放り投げられた。

「それともう一つ……」

言いながら、アインは白衣のポケットを漁る。
取り出されたのは赤色をした薄い膜――赤眼だ。

「これは装着者に魔族化を強いる。魔族の血を増幅してな。……と言う事はだ。
 魔族化しない程度に留めれば、これは容易く力を与えてくれる訳だ。
 だが副作用は未知数だし、何より抵抗もあるだろう。これを使うか使わないかは、自分で決めろ」

【遅くなってすいませんでした!!】


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