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1以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/05(金) 20:22:45 ID:R4QiEhY.O


370以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/07/01(水) 14:33:35 ID:mqkiFbko0
物書き目指すのかな?
何にせよ気長に頑張っておくれ

371以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/07/24(金) 20:35:44 ID:wyk3/P3I0
予告スレに書き込んだの本物? 本物ならせっかくのツイッターも活用してくれ

372 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 14:04:52 ID:X0Vi2hP20
ガセウ遺跡。ヨツマ南方は距離にして数日。

新世界の古期に建造された四方数里の広域な廃墟群と、その地下に広がる旧世界の地下遺跡。

旧世界の人々が去ってから、再びその地に新世界の人々が住み着くまで。
そして、その地にこの廃墟群を打ち立てた人々が滅んでから幾百幾千年。

幾百年もの間、幾千年もの間、ヨツマの先人たちがその地を訪れるまで、遺跡はこの地に眠り続けた。

あるいは、その地は揺りかごに過ぎないのかもしれない。

373 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 14:53:05 ID:X0Vi2hP20
ミセ*゚ー゚)リ樹海を征く者のようです 第三章 風戦ぐ高原

374 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:19:40 ID:X0Vi2hP20
第一話 かつて死んだ世界の残り火

ミセ*゚ー゚)リ「……最ッ高!」


小高い丘を上がったミセリは、自らの足跡を振り返り、裾野に広がる野原を見下ろした。

紅葉した木々が風に揺れ、空に浮かぶ雲は大きな白。
大地を照らす日差しは弱く、視界の端には樹海の緑。

丘の向こう、行く先には草原の合間に剥き出しの地面、その上に折り重なる赤煉瓦の建造物。


ガセウ。
目指す遺跡の、その地表部分が見えた。

375 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:20:42 ID:X0Vi2hP20
ミセリは親和を起動し、聴覚を強化する。

風の声と草木や枝葉の声、鈴虫の声。
警戒が必要な相手は、居ないようだ。


ミセ*゚ー゚)リ「ガセウかー……」


纏亭を訪れる冒険者たちから、その名は何度も聞いていた。

旧世界の人々の技術は、新世界の人々のそれとは比べ物にならないほど高く、また精密だったという。

伝承では例えば、一日で大陸を渡り切る、空飛ぶ方舟。数千里の彼方まで一瞬で声を運ぶ、見えない回路。
およそ想像しうる殆どは旧時代の人々が、それも精霊を介することすらなく、為したことがあるんだとか。

このガセウにもその驚異的な技術は用いられ、例えば、地下深くにあっても昼の日差しが届き、木々を育んでいた、らしい。


(*‘ω‘ *)「ぽ……やっと着いたか」

ミセ*゚ー゚)リ「ぽっぽちゃん」

376 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:29:02 ID:X0Vi2hP20
(;TДT)「もうちょっと……あとちょっと……」
(;><)「ひぃー……疲れたんですー……」


振り返ると、依頼人とビロードが、それぞれ息を切らしながら斜面を登ってきていた。
とりあえず護衛の任務はひと段落だろう、ミセリは一旦、安堵の息を吐く。

依頼主、モカー・ロス。
護衛は『チェトレ』、ミセリ、ビロード、ちんぽっぽ。
そして、それに加えて今回は――


( ・(エ)・) ゴアッ
ミセ*゚ー゚)リ「よーし、よく着いてきた!」


ミセリがキャラバンから連れ帰った樹海熊、ポン太。
纏亭の番熊を務める若き樹海の拳闘士が、護衛の一旦として同行している。

377 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:31:13 ID:X0Vi2hP20
……

三日前。無事に腕を完治させて退院したミセリは、ビロードを引き連れ、纏亭に引き上げていた。

滋養に富んだ院内食も味は悪くなかったが、体力の落ちた身体は何よりもまず蛋白質を求めている。

牡丹の腸詰め、香草包みの鹿腿肉、雲羊の串焼き。
その日仕入れられた食材のリスト、量にして冒険者七人前を、ミセリは上から順に腹に放り込んでゆく。

最後に大貂皮鹿の炙りをバタービールで胃に流し込んだ時、まだビロードは一食分の干し肉をちびちびと食べていた。


ミセ*´ー`)リ「ふぃー……私もまだまだ母さんには遠く及びませんなー……」

(;><)「〜〜〜!」

ミセ*゚ー゚)リ「さて、そろそろ時間かな」

( ><)「……うぅ」

378 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:33:14 ID:X0Vi2hP20
纏亭は昼下がり。
客は数人、見知った腕利きが二人に達人級は一人、知らない顔が三人。

暗殺なり暗躍なり、こそこそ出来る環境ではない。とはいえ。


( ><)「その……依頼人の人は」
ミセ*゚ー゚)リ「ゴドフリート・モナロスさん、ランクは"銅"。だったっけ」


……そんな名前の冒険者は登録されていなかったけどね。
ビロードが軽く肩を震わせた。


ミセ*゚ー゚)リ「ま、大丈夫じゃない? ……わざわざ相手から“ここ”を指定してきたんだし」


さすがに何か起こすつもりはない、と、思う。

379 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:34:53 ID:X0Vi2hP20
( ><)「うーん……でも……」

ミセ*゚ー゚)リ「あんまりオドオドしてると、かえって危ないんじゃない?」

(;><)「うぇぇ!? そんな意地悪な……!」

ミセ*゚ー゚)リ「ま、ご指名があった位だし、どうせ逃げられるものでもないんだから――」


――堂々としてようよ。
言いかけたミセリはしかし、ふと言葉を切り、視線を脇に向けた。

彼女が机上のグラスを掴み損ねたことに、向かいに座るビロードは気付いた。


ミセ;*゚ー゚)リ「……いやいや」
(;><)「いやいやいやいや……」


( ■∀■)「『チェトレ』の二人モn……ゴドね?」
(;TДT)「……」


色眼鏡、長髪のカツラ、カラフルなジャケット、胸毛と大胸筋、そして中年太り。
依頼人のゴドフリート氏(仮)は、ビロードに見習わせたくなる程の、堂々とし過ぎた出で立ちで纏亭に現れた。

380 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:36:05 ID:X0Vi2hP20
( ■∀■)「はじめまして、モナの名はゴドフリート・モナロス。冒険者モ……ゴド。二人の先輩ゴド」


うぉっほん、だなんて、大げさな咳払いしちゃったくらいにして。
彼の唯一の肉親――研究仲間でもある弟、モカー・ロス氏すら隣で呆れた顔をしている。


(;><)「せめて語尾と一人称くらい徹底してほしいんです……ッ!」
ミセ;*゚ー゚)リ「お、おう……そうゴドね。モナーさんにモカーさん、最近忙しいって聞いてたけど……」

( ■∀■)「モ、じゃなくて、ゴドはモナーとは無関係ゴド!」
(;TДT)「……兄さん……」


ミセリは無言で片手を上げ、店員を呼び、人数分のビールと枝豆を注文した。
店員は怪訝な顔で常連の中年を見やった。どうせいつも通り、塩は少なめだ。

……この有様を見て、彼がB級ギルド“銅”どころか、七人しか居ないS級――“銀”の紋章を持つ者だと。
『VIP☆STAR』を導いた頭脳、青の精霊を統べる百識の司令官、モナー・ロス教授だと、誰が信じるだろう。

381 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:37:39 ID:X0Vi2hP20
ミセ*゚ー゚)リ「じゃあ、本題だけど、モナーさん」


切り出したミセリに、モナーがわざとらしく咳払いを返す。
若干イラッとしたので、大きめの声で、「モナーさんを! 護衛するの!?」と大声で言ってやった。


(;■∀■)「も、モナはモナーじゃないモナ! で、護衛するのはモナーじゃなくてこっちの……」

(;TДT)「兄が本当にすみません……モカー・ロスです。久しぶりですね、ミセリちゃん、ビロード君」

ミセ*゚ー゚)リ「うん、久しぶりだねモカーさん。ええと、どういう依頼?」

(;■∀■)「も、モナを、モナを無視するモn……ゴドっ!!」


モカーの話だと、ガセウ遺跡――ヨツマの南方の古代遺跡の調査に協力してほしいとのことで。
もう殆ど調べ尽くされた遺跡だが、唯一その最深部に未調査の、開かずの扉があるのだという。

長らくその“鍵”は失われたと思われていたのだが、まだ試していない方法を思い付いたとかで……。


(;TДT)「兄は議会の補佐で死ぬほど忙しいから、今回は私一人での調査です」

382 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:38:15 ID:X0Vi2hP20
ミセ*゚ー゚)リ「じゃあ、モナ……ゴドフリートさんは、その忙しい中、何しにここに?」

(;■∀■)「……周りに聞かれたくない事モn……聞かれたくない事ドフが……」


惜しかったな、正しい語尾はそれじゃない。
というか、今さらまだ隠しているつもりか。


( ><)「あ、あの、モナー先生……」
ミセ;-ー)リ「モナーさんの親和なら、近くで聞き耳立ててる人が居るかくらい、すぐ調べられるんじゃ……」

( ■∀■)「あ、そうか」


ムーンライトをあしらったゴドフリート氏(仮)のカフスボタンが、空色の輝きを放つ。
モカーが椅子を鳴らして立ち上がる。その顔は引きつっていた。

383 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:39:11 ID:X0Vi2hP20
モナーの親和は青。
青は空、青は風、青は大気の大渦。
千切れ、逆巻き、縒合う天の色彩。

司る力は、"知識"。
その本質は、人と人を繋ぐ、不可視にして可思たる意志の力。

……モナーが発動させたのは、彼の最も得意な術。すなわち、“知覚”の力だった。
会話も行動も精霊も、あらゆる"流れ"を認識するだけの、ただそれだけの無害な力。


(;TДT)「や、やめ、こんな所で……ッ!」
ミセ*;゚ー゚)リ「って、ちょ、待――ッ!」
( ><)「へ」


ただし、それは常人の親和総量での話。
腐っても"銀"を誇るモナーの力でそれをすると……。

モカーが制止を諦めて走り去り、ミセリが勘付いてその後を追いかけ、逃げ遅れたのはビロードだけだった。

ほんの数秒、"青"の大嵐が吹き抜ける。

384 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:42:10 ID:X0Vi2hP20
(;――)「きゅう」

ミセ*;゚ー)リ「……ビロ君? おーい……」
(;´∀`)「ご、ごめんモナ……完全に伸びてるモナ」


ミセリは手早くビロードの身体を抱え、椅子に預けた。
これ以上無駄な時間を掛けるつもりもない。


( ´∀`)「……で、とりあえず、ヨツマ城域内に怪しい親和は無いみたいモナ。話を続けるモナ」

ミセ*゚ー゚)リ「相変わらず、索敵範囲と精度はバケモノだね。『VIP☆STAR』はバケモノ揃いなの?」

( ´∀`)「はは、それなら君のお父さんだってバケモノモナ。やろうと思えば意外と簡単に出来るモナ」


で、話を戻すモナ。モナーは悠然と椅子にかけ直した。
ビロードの身体がゆっくりと身じろぎする。

385 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:43:34 ID:X0Vi2hP20
( ><)「……うぅ」

( ´∀`)「実のところ、"鍵"の存在にはもうずっと昔に気付いていたモナ。だけど」


その持ち主が移ってしまったあとだった。それも、年端もゆかぬ少年のもとに。
最早、取り返すことは出来なかった。"鍵"は自らの意思で少年を選んでいたから。


( ´∀`)「君に会いに来たモナ、ビロード・ベルベット・ミリオム。ヨコホリの"眼"を受け継いだ君に」

( ><)「……はぁ、どうせそんな事だろうと思いましたよ。私は下がっていた方が良いですか?」
ミセ*゚ー゚)リ「……って、ベル君?」

( ´∀`)「モナ、二人ともに会いに来たモナ。ヨコホリが遺した"オルガンの眼"は、今は君達のモノだモナ」


こうして会うのは君がプギャー君を焼いて以来モナね。
モナーはゆっくりと懐に手を伸ばし、真っ黒な"何か"をテーブルに置いた。

焦げ、煤け、ぼろぼろに溶け落ちた、一振りのナイフだった。


( ´∀`)「冒険者として生きる君達が、その力にふさわしく成長したかを、見に来ただけだモナ」

386 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:44:23 ID:X0Vi2hP20
……

道中で狩った貂皮鹿はまだ殆ど残っている。
上手に食い詰めていけば、三日分くらいの食料にはなるだろう。
携帯していた保存食と組みあわせれば、一週間は飢えとは無縁でいられる計算だ。
飲み水は、少し心配してはいたが、征服した丘を下れば東からの澄んだ流れも見えている。


ミセ*゚ー゚)リ「して、どの建物を目指せばいいの?」

「そうですね……奥の一際大きな遺跡は見えますか?」

ミセ*゚ー゚)リ「うん。あれは?」

「推測ですが……かつて集会場のような役割だった建物です」


他には首長の住居だとか、避難所のような役割もあったとか。

ミセリは静かに親和を起動した。
三人と一頭の息遣い、静かに風がそよぐ音、微かな水音。他に何も聞こえてこない。


ミセ*゚ー゚)リ「それじゃ、行こうか」

387 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:55:26 ID:X0Vi2hP20
ミセリは慎重に、建物の中を窺った。

大広間、いや、玄関ホールといった所だろうか。
物音と気配はなく、崩れた天井から差し込む昼の日差しが蔦の走った瓦礫を照らす。


ミセ*゚ー゚)リ「はー、綺麗なところだね」

(*;‘ω‘)「う……アタシはちょっと苦手かも」
(っ( ・(エ)・) ゴエ?


足元に気を配りながら、ミセリは一歩踏み込んだ。
数百年もの時を経た石畳が、乾いた音をミセリのブーツに返す。


ミセ*゚ー゚)リ「え、そうなの? ちょっと意外かも」

( ><)「ぽっぽちゃんは地下水路で迷子になって以来……痛ッ!?」
(*#‘ω‘ *)「黙るっぽ! 言っておくが! 別に暗い所くらい何でもないっぽ!」

(;TДT)「そうですね、苦手なのはネズミ……痛ッ!?」
(*;‘ω‘)「な、なんで知って……モナー先生か!? とにかく黙るっぽ!」

388 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:57:34 ID:X0Vi2hP20
ミセ*゚ー゚)リ「うーん、でも、私もネズミは得意じゃないなー……」

( ><)「え、そうなんですか? それこそ意外ですが……あ、待って欲しいんですポン君!」
(c(・(エ)・ ),,,, モーン


通路は二つ、広間の両端、手前と奥からそれぞれ北向き――向かって右側に伸びている。
モカーを振り返ると、「手前の通路を突き当りまで」との返答。

足元で踏みしめた蔦が折れる音。
うっすらとした土埃が、一足ごとに微かに舞いあがる。


(*‘ω‘)「ぽ、ミセリもネズミが苦手っぽ?」
ミセ*゚ー゚)リ「うん、食糧庫は荒らすし変な病気は持ってるし、美味しくないし」
(*‘ω‘)「……」ポッポー
ミセ*゚ー゚)リ「ポン太はよく美味しそうに齧ってるんだけどね。私は好きじゃないなー」

389 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:58:51 ID:X0Vi2hP20
(;><)「で、でも、この辺りの建物って意外と緑に覆われてないんですね!」
ミセ*゚ー゚)リ「そう言えば、確かにそうかも。なんで?」

(;TДT)「ええと、定期的に緑刈りをしているんです。この遺跡は周辺を探索する時の拠点にもなるので……」


さほど広くない通路にも、陽の光は恩恵を与えていた。

瓦礫が僅かに避けられた通路に一歩踏み出したその時、ミセリの耳が微かな音を捉える。
思わず長剣に手を掛けた。その瞬間、蔦と瓦礫の間を小さな獣の影がさっと走り抜ける。

ミセリはなるべく平静を装い、悠然と歩みを進めた。


(*‘ω‘ *)「……っぽ、この周辺ってことは、クフ高原にも?」

(;TДT)「はい。より近くにもベースキャンプがあるから、ここは専ら中継・補給地点ですが……」

390 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 16:00:54 ID:X0Vi2hP20
ミセ*゚ー゚)リ「補給もできるの?」

(;TДT)「季節によって、ですよ。『キャラバン』ほど本格的ではありませんし、ほぼスタンピード対策です」

(*‘ω‘)「……そうか」


突き当りに至り、ミセリは左右を見渡した。
向かって左、大きな下りの階段と、その向こうには左側への通路。
向かって右、通路の左右にいくつかの小部屋。突き当りはさらに左右への通路。

モカーは右側、扉の付いた一つの小部屋を指し示した。
ミセリは慎重に部屋に踏み入り、安全を確認する。


(;TДT)「この隣の部屋に、薬草や薬品、あとは薪なんかが少し保管してあります。ここは暖炉もあるので……」

(*><)「休憩! ご飯!」
(っ(*・(エ)・)ゴエェ
ミセ*゚ー゚)リ「おー!」

391 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 16:04:01 ID:X0Vi2hP20
……

どうやら暖炉の煙は直接外へ逃がされる仕組みのようだ。
ミセリは手早く貂皮鹿の腿を薄く切り裂き、香草を巻き込んで手製の串に刺していった。

火を起こす役目は、ビロードに譲った。唯一の役割を終えた彼は、満足気に樹海仔熊と戯れている。


ミセ*゚ー゚)リ「あのさ」

(*‘ω‘ *)「……ん」


ぽっぽは増幅器を磨く手を止め、ミセリに視線を向けた。

ミセリはそこで言葉を切り、淡々だけ作業を続けた。
いざ何かを言おうとすると、なかなか言葉が見つからない。
まだ獣臭い鹿肉から、香草の炙られる香りと混じった肉汁が火に滴る。

ポン太はビロードに飽き鹿肉に興味を移していた。今はミセリが投げ渡した大きな切り身に夢中になっている。


ミセ*゚ー゚)リ「……こうやって冒険らしい冒険するのって、久しぶりだよね」

(*‘ω‘ *)「ん、まぁ、な。ラウンジの時のは、なんていうか、別物だったし……」

392 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 16:07:50 ID:X0Vi2hP20
腿肉はすべて、香草巻に姿を変えた。
あとは火が近すぎないよう、じっくりと焼いて完成だ。


ミセ*゚ー゚)リ「なんて言ったらいいかわからないんだけど……すごく楽しいんだ」

(*><)「……」
(* -ω)「……少し休んどけっぽ。ミセリ、朝からずっと親和使ってただろ」

ミセ*゚ー)リ「ん……じゃちょっとだけ休憩を……ポン太、おいで」

,,,( ・(エ)・)っ[ミ] ゴェ?

ミセ*-ー)リ「あはは……気持ちは嬉しいけど……流石に生肉は食べないよ……」


少し獣臭い樹海の匂い。暖かな炎の匂い。
ミセリは柔らかなまどろみの中に両眼を閉じた。

そうして次に目覚めた僅か半刻の後、食べ尽された昼食を前に、ミセリは樹海の掟を思い出す。

……

ミセ#゚ー゚)リ「さて、お腹も膨れたし、行こうか」

(;><)「ごめんなさい」
(*;‘ω‘ *)「ごめんっぽ」
( っ( -(エ)-)=3 ゲフ
(;TДT)「あの、ええと……美味しかったですよ?」

393 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 17:06:47 ID:X0Vi2hP20


モカーは慣れた手つきで窓と煙突を御簾で覆った。
やがて迷迭香の煙が満ちれば小部屋全体が簡素な結界へと変わる。

ミセリは少しの水と干肉、簡素な装備を持って廊下に出た。


ミセ*゚ー゚)リ「どっちに行けばいいの?」

(;TДT)「西側――向かって左の階段です」

(*;-ω)「ついに地下か……おいミセリ、なんだその顔は」

ミセ*゚ー゚)リ「ううん、なんでも」


ぽっぽが身の丈程の戦棍を抱きしめる。
彼女の得物は、彼女の天敵とも言える超小型の四足獣と相性が悪い。

石造りの広い階段を降り切るまでの間、強化を受けたミセリの聴覚にはぽっぽの祈りの文句が途切れることなく続いた。

394 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 17:08:15 ID:X0Vi2hP20
階段の最下段、両開きの門扉を開けると、柔らかい陽の光に照らされた、さらに広い階段が目の前に現れた。


ミセ*゚ー゚)リ「おぉ?」
(*;-ω- *)「南無三……って、あれ?」
( ><)「地下じゃないんです」


見上げると青天井。吹き抜けの中庭に降り立ったのだとミセリはすぐに気付いた。

目の前に広がる下り階段は、扇状に広がる観覧席。
中央には黒曜石造りの演台、その背後の壁には五枚の石板。
石板にはそれぞれ、鮮やかな色彩で不可思議な絵画が彫り込まれている。


ミセ*゚ー゚)リ「へえ、てっきり『真っ暗な』『地下で』『ネズミの群に』襲われる事になるとばっかり」
(*‘ω)「本当によかったpp……おいミセリ」
(;><)「いやー、それにしても綺麗な所なんです!」


ヨツマの大講堂を思い出すんです、ビロードが呟く。


ミセ*゚ー゚)リ「大講堂か」


ミセリが――『チェトレ』が冒険者になってから、まだ半年しか経っていない。
いや、もう半年も経ってしまった、と言うべきだろうか。
いくつもの出会いがあったが、それでも、三人揃っての冒険は、多くはなかった。

395 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 17:09:46 ID:X0Vi2hP20
(*‘ω‘ *)「で、どっちに行くっぽ?」


ぽっぽが両手を広げた。

観覧席の両翼、東西の端にはそれぞれ門扉が口を広げている。
進むべき道はどちらかしか無いようだった。

しかし、モカーは首を横に振って南側――演台と五枚の石板を指し示した。


( ><)「え?」
ミセ*゚ー゚)リ「……ひょっとして、遺跡にお決まりの?」

( TДT)「はい、隠し通路です。十年ほど前の調査で発見されました」

396 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 17:11:26 ID:X0Vi2hP20
(*><)「隠し通路!? すごいんです!!」
(*‘ω‘ )「どこだ、どこにあるっぽ!?」

ミセ*゚ー゚)リ「おおう、すごい喰い付き……!」


無理もない。なにしろ、二人はずっとヨツマを楽しみにしていたのだから。
ぽっぽとビロードは、先を競うように行動の中央へと駆けだした。

(;TДT)「ええと、演台の――」
(*‘ω)「待て、言うなっぽ!! 自分で見つける! だな、ミセリ?」

ミセ*゚ー゚)リ「え、私も?」


一応は護衛任務の最中なんだけど、と、ミセリは逡巡する。
当のモカーはといえば、こちらも楽しそうに、早足で階段を下りてゆく。

親和を起動、耳に入る範囲に外敵の気配は無し。


ミセ*゚ー゚)リ「おっけー、今行く!」

397 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 17:12:32 ID:X0Vi2hP20
(*‘ω‘ *)「よぉっし、ビロ! まずはこの演台からだ! そっち持て!」

(;><)「応……いやいやいやいや無理無理無理無理!」


ミセリが追い付いた時には、ぽっぽはビロードを駆って演台に挑んでいた。
据え付けられた黒曜石の塊は、相方の非力もあってか、戦棍使いの怪力をもってしても微動だにしない。


ミセ*´゚ー゚)リ「やれやれですなぁ、ぽっぽ博士……君らしくない勘の悪さじゃあないですか」

(*"‘ω‘) イラ 「ほぉう、お言葉ですなぁ、エメリア先生……それでは、貴女には何かが分かっていると?」

......ミセ*´-ー)リ「造作も無い。どきたまえ、ミリオム調査官殿」

(;><)「その絶妙に腹が立つドヤ顔はやめて欲しいんです!」

398 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 17:17:55 ID:X0Vi2hP20
ミセ*´゚ー)リ「良いかね調査官殿。推理に必要なのは一にも二にも『洞察力』さ。ぽっぽ博士の、足元を見てごらん」

(;><)「……石畳に、金属の溝?」
(*;‘ω‘ *)「そ、それが何だと言うのかね!?」


半弧を描いて伸びる、一筋の溝、否、レール。
それが壁際まで伸びている、という事は……。

ミセリはわざとらしく首を振った。
三人を眺めるモカーが、秋空の太陽のように、暖かい眼をしている。


ミセ*´゚∀)リ「この演台は持ち上げるものじゃあないのさ。わかるね?」

(*;‘ω‘ *)「ぐ、ぐぬぬ……それっぽい気も……!」

ミセ*´゚∀)リ「見ていたまえ。こうして押してやるだけで簡単に、」


演台はびくともしない。


ミセ*;゚∀)リ「か、簡単に……ッ!!」


演台はびくともしない。

399 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 17:20:17 ID:X0Vi2hP20
(*;ω;)「ぶひゃははひゃはひゃっひゃひゃああははぁああぁっははは!」
(*><)「ぽ、ぽっぽちゃ、そんなに笑ったら、か、可哀そ……あはは!」
(*TДT)「ビロード君こそ、笑いすぎ……ふふふ、ふふふ」

ミセ* -)リ「……」

(* ;ω)「はひひ、腹ぁ痛い……と、とにかく、ひとまず演台は、置いといて、さ、先に、せ、石板っぽ……!」
(*><)「ちょ、調査……する、んです……!」

ミセ* -)リ「……」


石板は不思議な色彩だった。
相当の時を経ているだろうに、いまだ鮮やかさを失くしていない。

湖水に突き出す奇怪な触手。
七枚の翼を持つ純白の天使。
金雷を身に纏う双子の尖塔。
深紅の瞳を持つ浅黒い戦士。
空色の花が咲く庭園と祭壇。

400 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 17:29:23 ID:X0Vi2hP20
(*‘ω‘ *)「そ、それじゃ、とりあえず押してみるっぽ……?」
ミセ* -)リ ”


端から順に、二人は石板に力を入れてゆく。
しかし、二人の努力も空しく、五枚の石板は僅かにも動かなかった。


(*‘ω‘ *)「……ふぅ、ハズレか。それじゃあ、全く関係ない床とか壁に何かあるのか?」

( ><)「だとしたら、何か見つけるまで時間がかかりそうなんです」

(;TДT)「あー……そうですね、隠し通路があるのは、この石板の後ろですよ」


と言う事は、この石板を動かす何かの仕掛けがあるのだろう。

ミセリは改めて、五枚の絵を見上げる。
寡黙そうな戦士の深紅の瞳が、嘲笑っているようにさえ感じられた。

401 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 18:42:39 ID:X0Vi2hP20
ミセ*゚ー゚)リ「……、ねぇ、モカーさん。この絵に描かれてる戦士が『オルガン』?」

(;TДT)「恐らく、そうでしょうね。十年前に"発掘"されたヨコホリと、同じゴーグルですから」


額のゴーグル。
オルガン・ヨコホリが、"瞳"を使う際に、その威力を制御する為に用いたんだとか。
見上げると、戦士の額辺りにそれっぽい彫り込みが見える。

よく分かりましたね、モカーが感心したように言う。
もちろんミセリだって、予備知識が無ければ全くわからなかった。


ミセ* -)リ「わかるよ。ベル君と同じ眼だもん」
( ><)「へぇ、流石の『洞察力』ですね」






ミセ*#゚`益'゚)リ「……貴様の最期の言葉はそれで良いのか?」
(;><)「ひっ!? ちょ、ま、今のは僕じゃな、ベルくんがぁっ!?」


偶然、本当に偶然だった。
ビロードが後退りしてぶつかったその黒曜石の演台が、ガチリと音を立てて前方に滑る。
支えを失くした巨石は独楽のようにその身を回転させ、支えを失くした少年が、地面に投げ出された。

402 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:00:57 ID:X0Vi2hP20
ミセ*゚ー゚)リ「へぇー、回転するようにできてたんだね」
(*‘ω‘ *)「おっ、これでレールの上を動くようになったのか。ミセリ、さっきは笑ってごめん」
ミセ*゚ー゚)リ「ううん、気にしてないよ。とりあえず端まで押してみようか」
(*‘ω‘ *)「おう。ビロ、寝てないで手伝うっぽ」

(;><)「う、うう、不幸なんです……」


演台は壁際の端まで動き、止まった。
前方から石板の方へ押しつけると、再びガチリと音が鳴り、今度はその場で固定される。


ミセ*゚ー゚)リ「モカーさん」
(;TДT)「お見事。貴方達の勝ちです」


『演台を動かせば石板を固定するロックが外れる』

極めてシンプルで、かつ看破されにくい仕掛けだった。
何より恐るべきはこれを作り上げ、これをして数百年の時を守らせた、ガセウ人の建築技術だろう。


ミセ*゚ー゚)リ「これだけの技術をもってたのに、『森の人』に滅ぼされたんだね」

(;TДT)「はい。この地を占領していた蜥蜴型の樹人が、それだけ手強かったということでしょう」

403 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:02:02 ID:X0Vi2hP20
(;><)「……で、でも、その蜥蜴の樹人はヨツマが追いだしたんでしたよね?」

(;TДT)「はい。もう蜥蜴は絶滅したそうです。ですが、」


この地を追われたガセウ人が、痕跡すら残さず、どこに消えたのかがわからない。
ヨツマの伝承に彼らの歴史は記されていなかった。


(*‘ω‘ *)「ま、ひょっとしたらその謎も、今日で解明されるかもしれねーっぽ。な?」

(;TДT)「はは、そうできると良いですね。……進みましょう。戦士の石板を押して下さい」

ミセ*゚ー゚)リ「おっけー」


重厚な石板は力を入れずとも静かに壁にめり込んでゆき、ぽっかりと暗い穴だけが残った。

404 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:02:32 ID:X0Vi2hP20
( ><)「あれ、随分あっさり動くんです」

(*‘ω‘ *)「ん、こりゃすげぇっぽ。摩擦が無くなるまで磨いてあるのか」


ミセリは、息を飲む。
親和を起動したミセリの五感に、『旧世界』の気配が囁きかけてきた。

闇の彩り、埃の匂い、微かな命の囁き。

百代の栄華を極めたる終わりなき文明の終末。
百代の叡智を極めたる果てしなき発展の結果。

世界を欲し、世界を支配し、世界を創り、世界に拒絶された、終わってしまった世界の気配。


ミセ*゚ー゚)リ「この奥だね」
(;TДT)「はい。ガセウ遺跡の、『旧世界』部分です」


秋の風が微かに啼いた。四人と一匹は、"ガセウ"へと降りてゆく。

405 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:03:07 ID:X0Vi2hP20
(*‘ω‘ *)「ぽ、螺旋階段か。薄暗くて見えにくいな」

ミセ*゚ー゚)リ「何でできてるのかな。石じゃないんだけど、木とも違うし……松明、使うね」

(;TДT)「あ、待って。松明は温存しましょう。まだ必要ないですから」


精霊の力を借りたミセリの眼には、多少の暗闇は何の障害でもない。
同じく親和そのものであるビロードの眼も暗さには強いのだという。
モカーにとってはそれなりに慣れた土地なのだろう、その歩みには危なげがない。
残ったぽっぽにしても、瞬発力やバランス感覚が並はずれているだけ、心配はいらないだろう。

一足ごとに闇は深くなってゆくが、後ろを歩く三人の歩みに乱れは無いようだ。


ミセ*゚ー゚)リ「……どこまで続くの、これ?」

(;TДT)「もう少しです。到着したら、きっと驚きますよ」

(*‘ω‘ *)「ほぉ」


先頭を歩くミセリの眼は、やがて違和感を覚えはじめた。
闇が、浅くなっている。

406 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:03:38 ID:X0Vi2hP20
ミセ*゚ー゚)リ「……明るくなってきた?」

(*‘ω‘ *)「え、そうか? あたしにはわからないが……」


気のせいではなく、確かに光源には近付いていた。
無限に続くようだった螺旋階段の終わりが、ミセリの眼の前に姿を見せる。

……四角く切り取られた光が、螺旋階段に指し込んでいた。


(*‘ω‘ *)「うん……ヒカリゴケ? いや、まさか」

ミセ*;゚ー゚)リ「……え、何これ、どうなってるの!?」


先ずは眼を疑った。
無限に広がるかのような空中庭園の風景と、色とりどりの花々が咲き乱れる祭壇。

次いで正気を疑った。
青い空、その中心には眩い太陽が燦然と輝いている。

407 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:04:59 ID:X0Vi2hP20
(;><)「な、なんで? なんで地下なのに太陽が!?」

(;TДT)「偽の太陽です。本物の太陽と同じように昇り、傾き、沈みます。地上が曇りならば陰りさえする」


それに。モカーが庭園の中央――眼下にそびえ立つ花の祭壇を指した。

深い緑の荊、鮮やかな赤や黄色、白、紫の花弁、何より眼を惹きつけるのは、上段に咲き誇る深蒼の花。
ミセリの身体に生きる精霊がそれに呼応している。紛い物でなどあり得ない力強い生命の鼓動を感じる。


(*;‘ω‘ *)「おいおい、まさか、アレ……」

(;TДT)「はい。お伽話の中にしかなかったはずの、"不凋花"です」

ミセ*;゚ー゚)リ「あ、アマラントス!?」


心が震えた。

神話の世界で儚く咲いていた一輪の花が、手を伸ばせば届くほどの距離に佇んでいる。
永劫の命を与える。あらゆる病を癒す。影有る物と影無き物との境目に咲く、伝説そのものが。

408 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:05:28 ID:X0Vi2hP20
(;TДT)「知っている人間は、冒険者では発見した『VIP☆STAR』と植物に明るい『リンドウ』、それに貴方達が――」


『リンドウ』。
薬方院を開いたアイシス、彼女の護衛の三月ウサギ。
ラウンジ行きの際に出会った、たった七組しか居ないA級――天国山脈に挑んで生還した、"金"のギルド。

アイシスの声、夜の雨の冷たさ、『カロン』との別れ、『――――』との決戦、―――――との死闘。

全身を―――に浸された―――の姿が心に浮かび、形を為さずに掻き消されてゆく。
―――が最後に残した言葉が、ミセリから―――を全て消し去っていってしまった。


ミセ*;゚ー)リ「あれさえあれば、―――さんを、きっと……」
(*;‘ω‘)「……え、今なんて……って、待て、止まれミセリ!」


ぽっぽの声で、はたと気付いて足を止める。
気付けば、身体が勝手に手を伸ばしていた。

409 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:06:04 ID:X0Vi2hP20
(*;‘ω‘)「おま、なに考えて……足元みろバカ者!」
ミセ*;゚ー゚)リ「え……あ」


朽ちた金属の手すりが、足元に転がっていた。

吹き抜けになったホールの、中央に祭壇はある。
隔てるのは、底すら見えないほどの、深い谷。

手を伸ばしても、どころの話ではない。


ミセ*;゚ー゚)リ「ご、ごめん、ありがと……あれ、私、何を……」

(;TДT)「き、気をつけて下さい! あの花は"肉体"と"精霊"の境目をかき回すんです!」

(*;‘ω)「な、なんだっぽ、そのワケ分からん効果は!」

ミセ*;゚ー)リ「……ん。私はもう大丈夫、進もう」


歩きだしたものの、身体はどこかふわふわして現実の感覚が薄い。
長剣の重みだけが、鍛錬の重みだけがミセリの身体を繋ぎ留める。


( ・(エ)・)ゴェェエ
( つ><)「……あ、待って、"ミセリ"」

410 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:07:24 ID:X0Vi2hP20
ミセ*;゚ー゚)リ「うん?」


ビロードは、ミセリを呼び捨てにしない。
ミセリはベルベットを振り返った。眼が合ったのは小さな樹海熊だった。


( ><)「ミセリちゃんが連れて行って下さい。その方が落ち着くと思うんです」
( つ(っ・(エ)・)っ”


ミセ*;゚ー゚)リ「……うん、ありがと"ビロ君"」
( つ(・(エ)・ ) ゴェ?
(*‘ω‘ *)「ほー、ビロの癖に気が利くっぽ」


ぽっぽが何でもないように最前方に付く。モカーとミセリを、ビロードと二人で庇う位置取りだ。

( -(エ))
( ミ∪゚ー゚)リ「二人とも……本当にありがと」

411 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:09:01 ID:X0Vi2hP20
(;TДT)「どうやら、ここは『最上階』にあたる部分だったようです。谷の下は、同じような庭園が続いています」


以前、無理矢理ロープで降下した際には、幾つかの開かずの扉が見つかっただけだった、という。

庭園の端には、小さな鉄の扉があった。
飾り気の無い、ともすれば見逃してしまうような、無愛想な扉。

掛け金は朽ち果て、役割を放棄している。軽く押すだけで、扉は軋んだ音を立てて開いた。

庭園を穏やかに照らす偽の太陽ですら、この先には薄くしか届いていない。

(;TДT)「過去に調査隊が辿りつけたのは、ここまでです。……ここで松明を使いましょう」

( ・(エ)・)つ[ミ]
ミ∪゚ー゚)リ「うん。ぽっぽちゃん」

(*‘ω‘ )っ[ミ]「おう、サンキュ。ビロ、頼む」

( ><)「はいなんです」


ビロードが"眼"を僅かに見開いた。
松明に"赤"の精霊が集い、熱を帯びる。

……すぐに赤々とした炎が灯り、視界を明るく照らし出した。

412 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:09:45 ID:X0Vi2hP20
       .炎
(*‘ω‘ *)っ[ミ]「ここは……何と言うか、随分と味気ないっぽね」

(・(エ)・ )”
ミ∪゚ー゚)リ「……そだね、暗くて冷たくて、嫌なかんじ」


扉の向こうは真四角の小部屋だった。

さっきの螺旋階段のような、それでいて更に無機質な空間。
木でも石でも金属でもない不思議な感覚がブーツの底から返ってくる。

四方は平坦な壁、ばかりではなかった。
入り口側、扉の隣には金属板、小さな円形の水晶が埋め込まれている。


ミセ*゚ー゚)リ「これ、旧世界の言語だよね。解読できてるの?」
(つ( ・(エ)・)っ

(;TДT)「いいえ。読みとれたのはこの三文字――『鍵』という単語だけです」


モカーはビロードを振り返った。
ここからは未踏の領域だと、緊張に満ちた眼が物語る。

413 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:14:03 ID:X0Vi2hP20
( ><)「この水晶に、眼をかざせばいいんですね?」


ビロードが水晶を覗きこむ。しかし、何も起こらない。


ミセ*゚ー゚)リ「……あれ?」
(*‘ω‘ *)「何も起こらない?」

( ><)「僕の眼じゃなかったってことなんですか?」
(;TДT)「うーん……今回は失敗か……」


モカーは何事かを呟きながら長考に入る。
ミセリの頭からポン太が飛び降り、そのままふらふらと庭園に迷い出て行った。

    .炎
(*‘ω‘ *)っ[ミ]「……ま、そんな事もあるっぽ」
ミセ*゚ー゚)リ「……うん」


ミセリは小熊と、頭を掻き毟りながら出て行くモカーの背を眺めた。
ぽっぽはミセリに松明を預け、小熊を追い掛けてゆく。

ビロード一人が、どこか上の空の様子で水晶を眺めていた。

414 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:15:40 ID:X0Vi2hP20
ミセ*゚ー゚)リ「どうしたの、ビロ君……ビロ君だよね?」


ビロード=ベルベットはゆっくりと振り返った。
暗い闇の中で、細められた両眼が深紅の輝きを漏らす。


( ><)「ん……わかんないんです。きっと僕なんだけど、二人とも身体に居るみたいで……」

ミセ*゚ー゚)リ「……どういう事?」

( ><)「身体と精霊の境目が掻き回されている状態、ですね。アマラントスの影響なのはわかってます」


半ば混ざり合っているようだ、ベルベットの口調で"彼"が言う。

ミセリは部屋の外を窺った。
幸いにも、ぽっぽはポン太の相手に忙しいようだ。


( <◎><)「この機巧は"精霊"を求めている。"僕"でなく"私"が必要なのはわかってます」

ミセ*゚ー゚)リ「!!」


深紅の瞳が水晶を覗きこんだ。轟音、振動。小部屋全体が巨大な怪物のように唸り、身じろぐ。
本能が恐怖を訴え、理性が親和を起動した。

僅か数秒。二人を飲み込んでいた怪物は、あっけなくただの小部屋に戻る。

415 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:16:32 ID:X0Vi2hP20
( <●><)「……止まりましたか」

ミセ*;゚-)リ「今の、何……ッ!?」


ミセリは片手で素早く長剣を抜いた。
松明の火はいつしか消えており、周囲は漆黒の闇。
その中に、少し前には感じなかった、無数の殺気が息巻いている。

扉の外に光源は無く、太陽の光が注ぐ庭園の面影はどこにも無かった。


ミセ*;゚-)リ「な、何コレ!? ぽっぽちゃん達はどこ!?」

( <●><)「落ち着いて下さい。恐らく移動したのは私達の方です。部屋全部が移動装置だったのでしょう」

ミセ*;゚ー)リ「……一人で落ち着きはらってるけど、ベル君が原因じゃん」


気配は少しずつ包囲の輪を狭めている。

ミセリの精霊は"緑"。生命力の強化。
精霊そのものを見るビロード達の"オルガンの眼"と違い、光源が無ければ何も見ることはできない。

ベルベットの親和で、松明は再び煌々と燃え上がった。
殺気の群れが、小部屋の中、照らし上げられた二人目がけて殺到した。

416 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:17:10 ID:X0Vi2hP20
………

(*;‘ω‘ *)「お、おい、何だよコレは……!」


毒づきつつも、ぽっぽは戦棍を振り下ろした。
茶褐色の影は素早く身を翻し、その姿を"消し"た。

きしきしと刃が擦れる音、バタバタと石畳を蹴る音。
庭園に解き放たれた生物が、不可視の刃でぽっぽを攻め立てる。

モカーもポン太も、戦力にはならない。焦りがぽっぽを追いたて、生じた隙を刃が襲う。


(*#‘ω)「ッ、くそ!」


蹴り上げた脛当てに、軽い手応え。
少し遅れて、ぽっぽの頬から鮮血が飛ぶ。

ほんの一瞬だけ姿を見せた茶色の獣は、警戒するように距離を取り、また透明に戻った。


(;*‘ω)「くッ……」

417 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:18:02 ID:X0Vi2hP20
小部屋から響いた重低音に驚くぽっぽを出迎えたのは、奇妙な獣だった。

イタチに似た姿と臭い、残忍に光る眼、そして四本の足それぞれから飛び出す生物にはおよそ不釣り合いな刃。
ぽっぽがそれを敵と認めるより早く、その敵意を見止めるより速く、双の鎌刃がぽっぽを襲っていた。

……三度、不可視の刃が迫る。

(*;‘ω)「なんなんだ、コイツは! ミセリ達はどこ行ったっぽ!?」

(;TДT)「わ、わかりません……! 何が何だか、私にも全く……!」
( #・(皿)・) グァァ


不可視の刃、戦棍。鋭い金属音が、双方の得物を分つ。

"青"か、せめて"緑"があれば。ぽっぽは小さく舌打ちした。
回避などできようはずもない襲撃者に、ぽっぽは研ぎ澄まされた野生の勘で渡り合っていた。

418 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:20:25 ID:X0Vi2hP20
(;TДT)「その獣はきっと"鎌鼬"です! 気をつけて下さい、幻獣種は知能が非常に高い!」


声を張り上げたモカーの、そのすぐ脇をぽっぽの戦棍が薙いだ。

金属音、獣の足音。
姿を現した"鎌鼬"は、ぽっぽの蹴りを巧みに避けてその場から"消え"た。


(* -ω-)「……分かった、先ずはコイツ等を片付けるっぽ」

(;TДT)「え?」


コイツ達。モカーははっと息を飲んだ。

自在に姿を消す能力、鋭い刃。幻獣の高い知能。
ぽっぽさんは自分と小熊を庇いながらで、一匹相手でも苦戦しているのに。


(*#‘ω)「心配するなっぽ。すぐに全部殴り倒して、花壇の肥やしにしてやる」


足音は、三匹分も響いている。

419以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/07/26(日) 19:34:23 ID:X0Vi2hP20
ツイッター忘れてました。なんとかします

420 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:29:49 ID:Ln1aNnPE0
参考資料 https://www.youtube.com/watch?v=Pb1gfq1h5kw

421 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:30:39 ID:Ln1aNnPE0
……

ミセ*゚-)リ「……ッ!」


振り下ろした長剣が、獣の骨肉を断った。
翼を奪われた巨大な蝙蝠は力無く墜落し、直後に炎に包まれる。これで合計7匹目。

獣群に怯む様子は無い。
闇に生きる彼らには、恐怖するだけの知性など無いのだろう。

ミセリは両腕を身体に巻き付け、弾丸のようにその場を離脱した。
松明はすでに手放してしまったが、獣たちから噴き上げる炎が地下を照らし出している。

混凝土の壁面に着地し、弾かれるように転換。
包囲を脱したミセリを、獣群が追い掛ける形。

これで良い。的は纏まった。


ミセ*゚ー゚)リ「ベル君!」
( <◎><)「分かってます」


ビロード・ベルベット・ミリオム。その最大出力が、数十数百の翼獣をまとめて焼き殺した。

422 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:31:32 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*゚∩゚)リ「うええ、すごい臭いー……」

( <●><)「……あれだけの数を相手にして汗一つかかないとは、ね」


ミセリは剣に付いた血を払い、辺りを見回した。

無機質な壁に囲まれた広い空間。通路はどうやら一本だけ。
壁際には大小幾許かのコンテナがいくつか。覗いてみたが、どれも中身は空のようだ。

獣を焼き尽した煙は、どこかへ消えて行く。空気の流れはあるようだ。


( <●><)「貯蔵庫、ですか。蝙蝠が残されていた食糧を喰い尽して、そのまま居着いていたのでしょう」

ミセ*゚ー゚)リ「なるほど……さて、戻ろうか」


ミセリは松明を拾い上げた。
護衛対象、モカーの側には、今はぽっぽしか居ない。一刻も早く合流するべきだろう。

しかし、小部屋で水晶を覗きこんでいたベルベットが、不意に不吉なことを言った。


( <●><)「ふむ。困りましたね。動きません」

ミセ*゚ー゚)リ「……はい?」

423 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:32:10 ID:Ln1aNnPE0
( <●><)「動きません。壊れてはいないようですが……」

ミセ*;゚Д゚)リ

( <-><)「仕方ありませんね。別の出口を探しましょう」

ミセ*;゚Д゚)リ「え、ちょ、待ってなに、何それどういうこと?」


ベルベットは何も答えなかった。
既にその場に居なくなっていた。


(;><)「……閉じ込められたってことじゃないかなーって……思うんです……」

ミセ*;゚Д゚)リ


死骸から立ち昇る炎が勢いを失うにつれて、闇が濃くなってゆく。
この闇から、死ぬまで出られないかもしれない。

424 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:33:51 ID:Ln1aNnPE0
ミセ;*゚ー゚)リ「はぁーッ、はぁーッ……よし、落ち着いた! で、どうするって?」

(;><)「ここが貯蔵庫なら、きっとコンテナの"搬入口"があるはずなんです……ってベル君が」


どこか外に出られる道もあるいは、ビロードはうろたえた声で言う。
ミセリは溜息をつくと、松明に火を灯した。

どの道、進むより他に無い。ミセリは闇の奥に松明をかざした。
風の吹き抜ける気配。きっと通路はどこかで外に繋がっている。


ミセ*゚ー゚)リ「それで、ベル君は尻尾巻いて逃げたまま? 一発くらい殴らせてくれても良いんじゃない?」

(;><)「え、あ、その……え? ええと、あー……アリガトウゴザイマス……」

ミセ*゚ー゚)リ「?」

(;><)「その……今は本当に疲れているから、戦闘になったら呼んでくれ、って……」

425 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:34:19 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*゚ー゚)リ「ん……じゃ仕方ないか。今は忘れておこう」


無機質な通路は、左右に分かれている。

ミセリは親和を起動した。
左右いずれの通路を選んでも、不気味な息遣いは耳にこびりついてくる。

ただし――左の通路からの息吹には、かすかな風の音も混じっていた。


ミセ*゚ー゚)リ「急いで戻らないと、ぽっぽちゃん達も心配だしね」

(*><)「……はいなんです!」


歩きだしたミセリの後ろを、ビロードが小走りに着いてくる。
この小動物じみた可愛らしさを独占しているようで、ミセリは少しだけぽっぽに申し訳ない気持ちになった。


( ><)「あ、でも」

ミセ*゚ー゚)リ「ん?」

426 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:35:07 ID:Ln1aNnPE0
( ><)「ぽっぽちゃんの事なら、きっと心配しなくてもいいと思うんです」

ミセ*゚ー゚)リ「幼馴染の一人くらいはどうなっても良いと?」

(;><)「んば、ちょ、ちがっ……!」


もちろん、冗談に決まっている。
それよりもミセリは、ビロードらしからぬ発言に驚いていた。


(;><)「ええと、それは……何と言うか、ぽっぽちゃん、今日はかなり調子が良いみたいだから」

ミセ*゚ー゚)リ「あはは……気分屋だもんね、あの娘も」


精霊は半ば生物のようなものだ。
その日の体調はもちろん、気分の上がり下がりによってすら親和は影響を受ける。
ぽっぽは人一倍、その気質が強い。その時の気分次第で強さが何倍にも膨れ上がるとすら言える。

性質としては、ジョルジュの"巨人狩り"に近いとも言えるだろう。


( ><)「不意打ちに弱すぎるのは不安と言えば不安ですけどね」

ミセ*゚ー゚)リ「でも、すごく信頼してるんだね」

427 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:35:47 ID:Ln1aNnPE0
松明に照らされた通路。
無機質な中に、赤を纏った輝きがいくつか、ミセリ達二人を覗き返している。

水晶。小部屋にあったのと同じものだ。
近付いてみると、一つ一つの水晶の隣には壁と同じ無機質な材質の扉が並んでいる。

今は検分していく余裕はない。藪を突くのも御免こうむりたい。
まずは、ぽっぽ、そして依頼人との合流を優先するべきだろう。

カツン、ミセリの足音が反響する。
カツン、ビロードの足音が反響する。


ミセ*゚ー゚)リ「ぽっぽちゃん一人ならともかく、モカーさんも一人で護衛しなきゃならないんだよ?」

( ><)「うーん、それは……それでも多分、大丈夫だと思うんです」

ミセ*゚ー゚)リ「なんで?」


カツン、ミセリの足音が反響する。
カツン、ビロードの足音が反響する。


( ><)「だってぽっぽちゃんは、もう十年も僕を護衛してくれてるんです。たった一人で。だから、」

428 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:36:17 ID:Ln1aNnPE0
(;TДT)「うおっ」
(*#‘ω‘)「シャァアッ!」


心配なんて要らないんです。
同じ時、地下深くでビロードが言った通り、庭園での死闘は数分と持たずに既に決着しかけていた。

ぽっぽの振るった戦棍が、鼬の鎌刃を、鎌刃が守る頭蓋を、頭蓋が守る脳漿を、まとめてブチ割った。

これで二匹目。
ぽっぽは親和を両脚に集め、跳ねた。

庭園をしなやかに駆ける四足の獣の眼前に、最短距離を跳び抜けた少女が着弾する。


(*#‘ω‘ *)「オラァ、三匹目ぇ!」

429 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:37:46 ID:Ln1aNnPE0
(;TДT)「……凄いですね、あんな厄介な奴らを瞬殺なんて……」

(*‘ω‘ *)「うむ」


ぽっぽは二・三度その場で棍を振るった。
変換器の真赤な輝きは、火花が飛ぶように四散する。

黒天飛王。使い手の意思をよく汲む、最高の一振りだ。


(*‘ω‘ *)「それより、ミセリとビロは? 何かわかったか?」

(;TДT)「え、あ、ええと……それが……」

モカーは小部屋を覗きこみ、ぽっぽを手招きした。

(*;‘ω‘ *)「な……なんだこりゃあ? どういう手品だっぽ?」

(;TДT)「その……小部屋全部が沈んだんじゃないかと」

(*‘ω‘ *)「はぁ……もうビックリが底を突きそうだっぽ」


小部屋は、姿を消していた。
代わりに現れていたのは、ぽっかりと口を開けた、真四角の縦穴だった。

430 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:40:11 ID:Ln1aNnPE0
(*‘ω‘ *)「で、どうするっぽ? 調査を続けるのか?」


モカーは即座に頷いた。
好奇心の前に、恐怖が逃げだしてしまったのだ。研究者も案外、冒険者と変わらないらしい。

縦穴からは、風の音が不気味に反響し、海魔の唸り声の様に突き上げてくる。


(;TДT)「まずミセリさん達と合流しましょう。すみませんが、護衛を続けて下さい」

(*‘ω)「……了解だ。だが、この穴……」
      .炎
( TДT)シ "[ミ]


モカーが闇に投げ込んだ松明は、無機質な壁面を照らしながら落ち、すぐに地面に行き当たった。

高さで言えば、大講堂の最下段から天井までの、数倍程度はあるだろうか。
ざっと見た感じでは、ヨツマで最も高い十階建ての鐘楼塔にでも匹敵する気がする。

とっかかりは幾らかはある。
ぽっぽの親和能力ならば、よじ登ってくる事も容易いだろう。

431 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:42:57 ID:Ln1aNnPE0
(*‘ω‘ *)「で、どうするっぽ? 調査を続けるのか?」


モカーは即座に頷いた。
好奇心の前に、恐怖が逃げだしてしまったのだ。研究者も案外、冒険者と変わらないらしい。

縦穴からは、風の音が不気味に反響し、海魔の唸り声の様に突き上げてくる。


(;TДT)「まずミセリさん達と合流しましょう。すみませんが、護衛を続けて下さい」

(*‘ω)「……了解だ。だが、この穴……」
      .炎
( TДT)シ "[ミ]


モカーが闇に投げ込んだ松明は、無機質な壁面を照らしながら落ち、すぐに地面に行き当たった。

高さで言えば、大講堂の最下段から天井までの、数倍程度はあるだろうか。
ざっと見た感じでは、ヨツマで最も高い十階建ての鐘楼塔にでも匹敵する気がする。

とっかかりは幾らかはある。
ぽっぽの親和能力ならば、よじ登ってくる事も容易いだろう。

432 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:43:35 ID:Ln1aNnPE0
(;TДT)「ぽっぽさん。コレ、使って下さい」

(*‘ω‘ *)「? ロープならアタシも持って――!」


ぽっぽは言葉を切った。
モカーの差し出す白い紐は、それ自体がぼんやりと不可視の光を放っている。

精霊が織り込まれているではない。
それ自体が精霊で形作られている。
モカーの眼が、"青"く輝いていた。


(;TДT)「"アリアドネ"、と呼んでいます。普通の紐とは違い、"物"で切れることはありません。そして、」


"アリアドネ"の輝きが、にわかに増した。
縦穴から風を切る音。身構えるぽっぽのすぐ脇を、何かが通り過ぎる。


(*‘ω‘ *)「……成程ね」

(;TДT)「ええ。この通り、私の意思で自在に縮めることができる」

433修正 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:45:10 ID:Ln1aNnPE0
(;TДT)「ぽっぽさん。コレ、使って下さい」

(*‘ω‘ *)「? ロープならアタシも持って――!」


ぽっぽは言葉を切った。
モカーの差し出す白い紐は、それ自体がぼんやりと不可視の光を放っている。

精霊が織り込まれているではない。
それ自体が精霊で形作られている。
モカーの眼が、"青"く輝いていた。


(;TДT)「"アリアドネ"、と呼んでいます。普通の紐とは違い、"物"で切れることはありません。そして、」


"アリアドネ"の輝きが、にわかに増した。
縦穴から風を切る音。身構えるぽっぽのすぐ脇を、何かが通り過ぎる。


(*‘ω‘ *)「……成程ね」
     .炎
(;TДT)っ[ミ]「はい。この通り、私の意思で自在に伸縮させることができる」

434 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:46:18 ID:Ln1aNnPE0
――"アリアドネ"は、専門とする遺跡調査の中で、モカー独自に編み出した親和能力だという。


(*‘ω‘ *)「ふぅん、これはなかなか便利だな。方向音痴のビロにも持たせてやりたいっぽ」
(;TДT)「あはは……ありがとうございます」


伸びることについては、精霊が続く限り無制限。
彼自身の意図によらず、また、力学的な抵抗も持たず、引っ張れば引っ張った分だけ勝手に伸びる。

縮むことについても、千切れていない限り無制限。
どれだけ長く伸びていようと、固定されてさえいなければ、彼の手元に巻き戻してくる事ができる。

"物"で切れることはない。
壁や瓦礫で擦り切れることはない。伸びるだけだ。
ナイフを使おうと、大斧で一撃入れようと、あるいは達人の一刀だろうと、切ることはできない。伸びるだけだ。

ただ、この薄光する不迷の糸は、無敵とは程遠い。


(;TДT)「気をつけて下さいね。この"アリアドネ"は、"触れるだけで"簡単に切れてしまいますから」


精霊を縒り合わせたその糸は、"青"以外の精霊が触れただけで効力を失い、四散してしまう。
樹海の生物が体躯に纏う微量の精霊ですら、糸にとっての例外ではない。
言ってみると、樹海に生きる生き物全てが"アリアドネ"を引き裂く刃となる。

要は、戦闘にはほとんど全く役に立たない、とのことだ。
長さの固定もできないため、二人は実物の鉤付ロープを用いて慎重に降下している。
"アリアドネ"は、言ってみれば、緊急脱出特化だ。

435 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:47:13 ID:Ln1aNnPE0
(*‘ω‘ *)「こらクマ吉、急に暴れちゃダメだっぽ!」
(;TДT)「どうしたんです? 何かあったんですか?」

"""( ・(エ)・)っ モーン


華をヒクつかせながら、彼は暗がりに歩み寄ってゆく。

ぽっぽは彼の向かう先に松明を向けた。
無機質な壁、の一部が、僅かに変色している。


(*‘ω‘ *)「……なるほどね、お手柄だっぽ、クマ五郎。よぉし、下がってろ」
(*・(エ)・) ゴエッ

(;TДT)「……え? ちょっと待って、ここは貴重な遺跡の――」


ぽっぽは戦棍を振りかぶった。

436 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 05:06:37 ID:Ln1aNnPE0
      ∩
      | |
────| |──── ― - --
─── /⌒ヽ, ─────────
 ̄ ̄  / ,ヘ  ヽ∧_∧ ポァアアアアアッ!!
 ̄ ̄ i .i |\ (*#‘ω‘ *)ヽ,   ___,, __ _ ,, - _―" ’.  ' ・,  ’・ ,
── ヽ勿 | ヽ,__    j  i~""     _ ― _: i ∴”_ ∵,    
____∪_   ヽ,, |/ / __,,, -- "" ─ "ー ・, ; ; - 、・  
───────  ヽノ ノ,イ  ─── ― -          
───────  / /,.  ヽ,  ──               
______   丿 ノ |ヽ,__,ノ ___ _ _ _           
           j  i | |                      
_____    巛i=| |  ___ _            
             ∪                     
───────     _  _                   
                                    
────

437 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 05:08:26 ID:Ln1aNnPE0
(*‘ω‘ *)「っぷぅ。案外脆いっぽ」

(;TДT)「あ、あぁ……人類の歴史が……」

(*‘ω)「壁の一枚や二枚でグチグチ言うなっぽ。それより、ここは?」

(;TДT)「? こ、これは……!」

(*‘ω‘ *)「あ、ちょっと」


ぽっぽが止める間もなく、モカーはぶち破られた壁の向こうへ踏み込んでいった。

438 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 05:10:01 ID:Ln1aNnPE0
……

ミセ*゚ー゚)リ「風の音。かなり近付いてきたね」

( ><)「え……そうですか? よくわかんないんです」


カツン。ミセリの足音が反響する。
カツン。ビロードの足音が反響する。


( ><)「それより、獣や虫の気配も全く無いのが不気味なんです」

ミセ*゚ー゚)リ「ん……気配ならあるよ。隠れてるだけで」

(;><)「……聞かなきゃよかったんです!」


カツン。足音が反響する。
カツン。足音が反響する。

439 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 05:18:46 ID:Ln1aNnPE0
( ><)「でも……あー、そっか。虫とかはさっきのオバケ蝙蝠が喰い尽したのか」

ミセ*゚ー゚)リ「うん。夜になったら樹海に狩りに出てたのかもね」


ミセリは足を止めた。小さな反響が消える。
通路の先は、半ばまで瓦礫で塞がれていた。

ガセウの上層部と同じ、赤茶けた煉瓦。


ミセ*゚ー゚)リ「これは……ここから先は、新世界時期の遺跡ってことかな」

(*><)「! それじゃ、ここから出られるんですね!」

ミセ*゚ー゚)リ「うん。……出られたらいいね」

440 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 05:19:38 ID:Ln1aNnPE0
松明を瓦礫に手を掛け、両手両足を使ってよじ登る。
幸いにも、山が崩れて来ることはなかった。


ミセ*゚ー゚)リ 「っと……けっこう広いところに出たみたい。ビロ君、掴まって」

(*><)「え、あ、はい。……!?」


ビロードを引き上げると、彼の松明の明かりも瓦礫の向こうにも届く。
赤い光が届く範囲は、一面の瓦礫と土砂に覆われていた。


ミセ*゚ー゚)リ「こりゃ酷い。柱や壁が崩れただけじゃなくて、天井が落ちてきたんだね」

(;><)「うわぁ……埋まり切ってないのが奇跡なんです」

ミセ*゚ー゚)リ「……うん、そうだね」


風の音は、近い。
ミセリは辛うじて通れる場所を選び、歩みを進める。

左右と進む先には、生物の気配はない。
微かに光が漏れていることを、ミセリの感覚は伝えてきていた。

441 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 05:20:41 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*゚ー゚)リ「……はぁ。なんとなく予想はしてたけどさ」

( ><)「え? なんですか?」


トン。足音が反響する。
トン。足音が反響する。


……やがて小さな広間で道は止まった。

ミセリは足を止め、上を指した。
吹きぬけ、というより、天井がまるごと数階分ほど崩落して抜けている。

相応の高さに、微かな光が漏れている個所があった。


( ><)「うわ、外の光なんです! でも……」

ミセ*゚ー゚)リ「……うん。遠いし、小さいみたいだね」

442 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 05:21:22 ID:Ln1aNnPE0
(;><)「うー……せっかく此処まで来たのに」

ミセ*゚ー゚)リ「登るのは難しそうだね。見てよ」


光源の真下、煉瓦の壁の一部を、松明が照らす。
ミセリの顔より幾分か上の方に、数十、数百の傷が縦に残っている。


(;><)「? ……剣か何かで引っ掻いた跡?」

ミセ*゚ー゚)リ「たぶん。ここに来た誰かが、なんとか登ろうとしたんだろうね。でも」


上手くいかなかったんじゃないかな。
ミセリは言葉を続ける代わりに親和を起動した。
脚力を一気に引き上げて壁に取り付く。


(;><)「わっ、わっ! 凄、もうあんな所まで!」

ミセ;*゚ー゚)リ「うぐ、ぐぬぬ……無理無理!」

443 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 05:26:25 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*゚ー゚)リ「ひー……。くそぅ、ぽっぽちゃんが居れば……」

( ><)「うーん……やっぱり最初の、小部屋を何とかするしかないんですか」

ミセ*゚ー゚)リ「そうかもね。はぁ、戻るのすっごい嫌だなー……」


トン。足音が反響する。


(;><)「!?」

ミセ*゚ー゚)リ「ビロ君、ベル君を呼んで」


ミセリは親和を起動した。"緑"を聴覚に、反射神経に集める。

引き摺る音。足音。
時間を置いてもう一度、引き摺る音。足音。

明かりの届かない闇の奥から、何者かがゆっくりと近づいてくる。


ミセ*゚ー゚)リ「さて、どんな奴が――」
( ><)「――ミセリ、そこから離れろ!」

444 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 05:27:28 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*゚ー゚)リ「へ――」


先に動いたのは、闇の中の何者かの方だった。

空気に漂う塵埃が、赤く放射状に色付く。
発生源は逆光の向こうで、よく見えない。

僅かな時間の間に赤い照射はその範囲を狭め、一筋程の濃赤の線が残る。

松明を置き捨て、ベルベットの手を掴んでその場を離脱したミセリは、横目にそれを見ていた。


ミセ*;゚-)リ「な、」


拳大の太さの光線、その一筋が照射した松明が。その後ろの壁が。どす黒い煙を噴き上げ、一瞬で蒸発した。

445以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/07/27(月) 05:59:05 ID:PVz1e0Uw0
しえん

446 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:41:48 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*;゚д゚)リ「いやいやいやいや、何なの今の! 反則でしょ!」


ミセリは小声でベルベットに抗議した。
光線を放つ生物など、耳にしたことすらない。

柱の陰から覗くと、どうやら何者かはこちらを見失っているらしい。
赤い光は再び拡散し広範囲を索敵している。


( ><)「気付いていますか、ミセリ。今のは親和による攻撃でした」

ミセ*;゚-゚)リ「え、じゃあ、相手は人間!?」

( ><)「……いいえ、彼が人間でないのはわかっています」


どういうこと、聞こうとしたミセリを手で制し、ベルベットは瓦礫を二つ拾い上げた。
一つを赤い光の反対側、真っ暗な中に放る。

瓦礫は柱にぶつかり、激しく音を立てた。

447 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:42:50 ID:Ln1aNnPE0
( ><)「聴覚機能は死んでいるようですね。これは運が良い。流石に稼働時間が長すぎたのか」

ミセ*;゚-゚)リ「……えーっと……お知り合い?」

( ><)「いいえ。ですが、相手が何なのかは、最初の照射でわかりました」


見ていて下さい。ベルベットは柱の影に立ちあがった。

手にしたもう一つの瓦礫を、ベルベットは赤い光の中に投げ込んだ。
一秒ほどの間をおいて、瓦礫を光線が蒸発させる。


( <◎><)「私達と同じ"眼"です。ならば持ち主は――」


暗闇を裂く、赤の光線。
その根源を、今度はベルベットの"眼"が照らす。

最大火力。
闇の空間が高熱を上げて猛り狂い、彼の姿を照らし上げる。


(//‰ )


( <◎><)「――旧世界の人造兵器、"オルガン"」

448 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:43:16 ID:Ln1aNnPE0
ベルベットの火力を受け、"オルガン"は片膝を着いた。
遠目に見ると、既にもう片方の足は機能を失っていたと分かる。


ミセ*;゚ー゚)リ「やったか!?」

( <◎><)「いいえ、まだで――ッ!」


甲高い、ナキネズミの鳴き声のような音色。

ベルベットが柱の影に身を隠した。
慌てて抱きとめたミセリの手に、温かい何かの感触。


ミセ*;゚-゚)リ「――ッ!」

(;<◎><)「心配は、要りません。かすっただけです。ですが……」


少し厄介ですね。ベルベットは言う。
"瞳"以外の武装も、まだ残っているとは。

449 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:44:00 ID:Ln1aNnPE0
(;<◎><)「こちらの居場所も割れてしまいました。あとは嬲り殺しでしょうね」

ミセ*;-ー)リ「そんなに簡単に言われても……」

(;<◎><)「おそらく、思考機能も殆ど壊滅しているでしょう。まだ希望は……ぐ」

ミセ*;゚-)リ「……ごめんね、痛がってるとこ」


ミセリは足元の瓦礫を蹴り飛ばし、柱の陰から出した。
拡散していた赤い光は、飛来する瓦礫を敵と認識し、細く焦点を絞った。

ナキネズミの音色。
"瞳"による攻撃ではない。礫片は鈍い音を立てて吹き飛び、粉々に砕けた。

ミセリはそれを見ていなかった。
オルガンが迎撃を放つ瞬間に、ベルベットを引っ掴み、柱の反対側から飛び出していた。

450 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:44:33 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*;゚-)リ「今の攻撃は!?」

(;<-><)「恐らく、"キイリネズミ"、です。手首の、衝撃波を射出する装置……!」


必死に逃げる二人の周囲が、赤く染まる。
広間を抜けるまではまだ距離があるし、何より、瓦礫と土砂で足場も悪い。

焦るミセリの背に、光が集中し始める。
背中が熱い。まだ、まだもう少し。
野性が全神経を支配し、研ぎ澄まされた感覚がその一瞬を捉える。


ミセ*゚-)リ「今ッ!」

(;<-><)「……!」


ベルベットを抱えて転がったミセリの、そのすぐ脇を死の光線が駆け抜ける。
ミセリは素早く、瓦礫の山の陰に滑り込んだ。

予想した通り、追撃は来なかった。光線を放つ瞬間、オルガンは視界を失う。

451 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:45:40 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*;゚д゚)リ「……怖ッ! なにアイツ、怖すぎる!」

(;<-><)「……ッ」


トン。オルガンの足音が小さく響いてくる。
片足を引きずっている以上、素早く追いかけて事は出来ないだろう。


ミセ*;゚-゚)リ「ベル君、大丈夫?」

(;<-><)「問題、ありません。全く、"瞳"で焼いてくれてれば、止血の手間も、掛らなかったのに」

ミセ*;゚ー゚)リ「そんなバカな冗談が言えるなら、まだまだ大丈夫そうだね。ぽっぽちゃんに殺されるよ?」

(;<●><)「もし何か言ったら伝えて下さい。『できるもんならやってみろ、口だけ番長』と」



なんにせよ、致命傷になるほどの傷ではないようだ。
ベルベットは片手で脇の傷を押さえ、立ち上がった。

452 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:50:43 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*;゚ー゚)リ「とにかく、逃げよう。アイツ、他に装備は?」

(;<-><)「わかりません。オルガンは過去にはヨコホリしか見つかっていないんです」


赤い光が拡散し、周囲を照らす。
ミセリ達の隠れている瓦礫を、光は一瞥し、通り過ぎる。
まだ見つかってはいないようだ。


(;<-><)「ヨコホリの装備は、高速振動ブレードと回転式銃砲、シールド、閃光弾、ワイヤー射出装置」

ミセ*;゚ー゚)リ「うっわ……本気で相手したくない……」

(;<●><)「見たところ奴は銃砲やシールド、ワイヤー装置は装備していない。警戒すべきは」


瞳、キイリネズミ、それに高速振動ブレード――"岩喰み"。
オルガンについての、知る限りの情報を、ベルベットはミセリに伝えた。

トン、足音が近づいてくる。ミセリは息を吐き出し、剣を抜いた。

453 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:51:52 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*゚ー゚)リ「なんにせよ、考える力が無くなってるのは大きいね。囮やるから、先に逃げてて」

(;<-><)=3「……この傷じゃ逆らいようもありませんね。わかりましたよ」


ベルベットは溜息混じりに言う。


(;<●><)「余裕があれば、奴の"魂"を確認してください。あの様子だと、無いでしょうが」

ミセ*゚ー゚)リ「ん……わかった」

(;<●><)「それと、くれぐれも怪我はしないで下さいね。私がビロードに謝っても謝り切れなくなる」

ミセ*゚ー゚)リ「え、なんでビロ君……っと!」


足音が、また一歩近付く。
ベルベットが瓦礫の山を越えるために、これ以上近付かせたくはない。

ミセリは瓦礫を蹴り出した。
赤の光線が、即座に反応し、それを射抜く。


ミセ*;゚ー゚)リ「あとにしよっか。走って!」

(;<●><)「お願いします!」

454 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:52:51 ID:Ln1aNnPE0
ナキネズミの声。
ミセリは素早く身を伏せ、両手足を用いて加速。
オルガンは右足を引き摺っている。回り込むなら右側から。


(//‰ ゚)

ミセ*゚ー゚)リ「キイリネズミ。衝撃派発生装置、か。鳴き声がした後では、照準を変えられない」


"瞳"では質量ある攻撃を落とせないため、こちらを主に迎撃に用いる。らしい。
そして、"瞳"の弱点はもう一つ。


( //‰ )

ミセ*゚ー゚)リ「専用のレンズを付けると視界が極端に狭くなる。ので」


接近されると、かえって命中精度が落ちる。
ミセリが彼を間合いに入れる直前に、赤の光はさらに拡散し、ほぼ無色に感じるまで薄まった。

広範囲索敵モード。
咄嗟に地面を蹴って方向を切り替えたミセリの、その眼前を高速振動ブレードが薙いだ。

455 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:53:33 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*;゚д゚)リ「っ……くそぅ、あれが"岩喰み"か」


体勢を立て直すより先に、甲高い音が響く。
慌てて身体を投げ出した、その背後で瓦礫が砕け散る音。

意図に反し、逃げの一方だった。

拡散していた光が絞り込まれ、周囲を赤く照らした。
ミセリは即座に呼吸を整え、機会に備えて身構える。

光線を放った直後の隙をついて死角に逃げ込み、脱出しよう。
あるいは、一撃か喰らわせられれば、大金星もあるかもしれない。

僅かながらも、余裕があった。油断と言い換えても良いほどの。
その僅かな空僻を、戦闘用の人造兵器は見逃さなかった。


(//‰ ) キュイン

ミセ*;゚ー゚)リ「はいはい、次は"瞳"ね……ッ!?」

456 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:56:39 ID:Ln1aNnPE0
 (//‰ ゚) ュ


僅かな隙。
オルガンの身体が、その一瞬でミセリの眼前に詰め寄ってくる。
親和を用いて機動力を底上げしたのだと、分析する余裕は無かった。


ミセ*;゚д゚)リ「うおっ! ちょ、待って……!」


岩喰みの一閃。

岩をも喰い破る、その異名は決して伊達ではない。
歴戦の皮鎧は、豆腐をスプーンで掬うように、容易に引き裂かれた。

受けることなど、とてもかなわない。


(//‰ ゚)"

ミセ*;゚д)リ「おうっ!?」


片足が死んでいるとはとても思えないほどの鋭い太刀筋が、ミセリを攻め立てる。

457 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:57:43 ID:Ln1aNnPE0
(//‰ )

ミセ*;゚д゚)リ「ん、ぐ、ぬ、ぬっ」


突き、薙ぎ、突き、突き、払い、突き、振り下ろす。
連撃がミセリを攻め立て、紙一重でかわすミセリを剣が纏う微風が撫でる。

ミセリはたまらず距離を取った。

剣撃の狭間で生じた一瞬の隙に、短剣の間合いの外へ。
そして――その一瞬の隙が終わる前に、思い知らされた。


(//‰ ゚)


短剣の間合いを逃れた所で、旧世界最強の人型兵器を前に、安全圏などはありえない。
キイリネズミの鳴き声。

親和を、精霊を、ありったけ集めたミセリの左腕を、衝撃派が撫でる。

458 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:58:27 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*; д)リ「お……おぉおッ!」


立ち止まる、暇などは無い。
脚力を最大まで引き上げ、ミセリは地面すれすれを這うように跳んだ。
頭上を貫く深紅の光線。この一瞬、オルガンは光と音を失っている。

ミセリは無我夢中で剣を振るった。


(////‰ )"

ミセ*;゚д)リ「ッ、は、ァ……」


瓦礫が音を立てる。
振り返るほど心に余裕が無かった。
土砂に埋もれた柱を回り込み、暗闇を駆ける。

459 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 12:01:45 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*;゚д゚)リ「はぁ、はぁ……ベル君、聞こえる!? 明かりを!」

「ミセリ、こっちです!」


自分の大声が反響する中、微かに聞こえる返答の方角に走る。
何度か瓦礫に躓いたが、途中、ベルベットが予備の松明で足元を照らしてくれた。

瓦礫の山を這いあがり、遺跡の旧世界部分に至るまで、ミセリは生きた心地がしなかった。


ミセ*;゚ー゚)リ「さんきゅ、ベル君!」

(;<●><)「み、ミセリ! その腕はっ!?」

ミセ*;-ー)リ「ごめん、ちょっとしくじっちゃった。お礼はしてきたよ」


足元の感触は、無機質な床。
走りやすい、だが、直線的すぎる道。


ミセ*;゚ー゚)リ「それより、あいつ一回すごいスピードで動いたんだけど!」

460 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 12:03:04 ID:Ln1aNnPE0
(;<●><)「それは……すみません、私にもわかりません」


まだ発掘されていない装備が眠っていたのかもしれない。
通路の両脇に立ち並ぶいくつもの扉を横目に、ベルベットは言う。

最初に昇ってきた階段が見えた、もうあと少しだった。


ミセ*;゚ー゚)リ「他にも、何を出してくるか分からないってことか……、!?」


復活した赤い光が、遠く二人を追い越す。

また正体不明の高速移動装置。
オルガンは、既に通路の入口まで来ている。


ミセ*;゚ー゚)リ「間に合――ッ!」
(;<-><)「ッ――!」


光線が通路を埋め尽くす寸前に、ミセリはベルベットを抱えて、階段に跳び込んだ。

461 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:24:53 ID:Ln1aNnPE0
……

(*‘ω‘ *)「モカーさん、危ないっぽ。何があるかも分からないのに……」

(;TДT)「あ、あぁ、すみません。そんなことより……」


壁の向こうに広がっていたのも、同じく無機質な、ただし少し広めの部屋だった。
これまでとの違いは、両脇に備え付けられた棚。所狭しと並べられた、大小様々な小箱。

モカーはその内の一つを手に取った。
中には、取っ手のような形状をした、金属塊。

親和。増幅された"青"の精霊が、金属を通し、短い刃を形成する。


(*‘ω‘ *)「うん? モカーさん、そんな事もできたっぽ?」

(;TДT)「い、いや、これは私の能力じゃない。信じられません……これは、変換器です!」

(*;‘ω‘ *)「エ、はぁ?」

462 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:26:22 ID:Ln1aNnPE0
(*;‘ω‘ *)「エフェクターって、"旧世界"のオリジナルってことっぽ?」

(;TДT)「はい。保存状態も悪くない。こんな事があるのカー……!?」

(*‘ω‘)「はぁ、こりゃ確かに大発見……って、ちょっと待てポン助、おい!」
,,,,,,(*・(エ)・) ゴェッ!


ぽっぽの戦棍『黒天飛王』の変換器も含め、"新世界"で生産される増幅器は、"旧世界"の応用である。
新たな増幅器が発掘されることは、そのまま世界中の技術力が上がることと同義と言っても構わない。

驚く二人を尻目に、ポン太は小部屋の奥へのそのそと歩いてゆく。


(*‘ω‘ *)「とと、出入り口もあるのか……って、そりゃそうだよな」

(*・(エ)・) ゴエッ!

(*‘ω‘ *)「うん? ……もしかして、ママの匂いでも分かるっぽ?」

(*・(エ)・) ゴエェッ!

463 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:27:02 ID:Ln1aNnPE0
 (*・(エ)・)っ" モーンモーン

(*‘ω‘)っ「わぁったわぁった、開けてやるからちょっと待つっぽ」


くの字に折れ曲がった、奇妙な形の取っ手を掴む。
しかし、押しても引いてもドアが開く気配は無い。


(*;‘ω‘)「あー、くそ。洞察力洞察力……!」
( っ(*・(エ)・) モーンモーン


苦戦するうちに取っ手が下方向に、正確には、ドア面に対して時計回りに少しだけ回転する事が分かった
そして、この状態で扉を押すと、重厚な扉があっさり開く。


(*;‘ω‘ *)「な、なるほど。取っ手を捻ればドアが開くようになってたのか」
( っ(;・(エ)・) !? ゴエェ!

464 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:28:02 ID:Ln1aNnPE0
扉の外は、左右に伸びる無機質な回廊だった。
警戒するぽっぽの後ろで、ドアが静かに閉まる。


(*;‘ω‘ *)「……おーい、ミセリ! 居るか!?」
( っ(・(エ)・;) ゴエェ、ゴエェ!


返事は無かった。
光の届かない闇の奥から、自分の声だけが跳ね返ってくる。

一度、部屋に戻ろう。伸ばしたぽっぽの手は、何にも触れなかった。


(*;‘ω‘ *)「あれ? は?」


外側には、取っ手がついていなかった。
アリアドネの青白い光が、閉ざされた扉の隙間に消えている。


(*;‘ω‘ *)「……危ね、アタシ一人だったら詰んでたっぽ。おおい、モカーさん!」


少し待つと、扉が再び内側から開く。

465 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:28:40 ID:Ln1aNnPE0
(;TДT)「これは面白いですね。掛け金が取っ手で操作できるのか……っと、あれ?」

(*‘ω‘ *)「ん、外側には取っ手が無いみたいだ。これじゃ締めだされたら入れないっぽ」


ポン太がかりかりとぽっぽの腕を引っ掻く。
おろせ、そう言っているようだ。無視する。


(;TДT)「あぁ成程、外からはこれを使えば入れるんでしょう」

(*‘ω‘ *)「ん? さっきの動く小部屋にあった、水晶か?」
(っ(;・(エ)・) ゴエェ! ゴエェエ!

(;TДT)「そうみたいですね。すると、ビロード君が居れば調査は格段に……って、ポン太君?」

(*‘ω‘ *)「! 誰か、来るっぽ」

466 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:29:45 ID:Ln1aNnPE0
(;TДT)「ミセリさん? ビロード君?」

(*‘ω‘ *)「……残念ながら、違うみたいだな。部屋に入っててくれ、アタシが呼ぶまで開けるな」
( っ(((・(エ)・;) パス

(;TДT)「って、まさか、戦うつもりですか!?」
(っ(;・(エ)・)) キャッチ

(*‘ω‘ *)「向こうの出方次第だっぽ。どの道、ここしか進む道は無い」


ぽっぽは戦棍を構え、松明を闇に向けた。
背後で扉が閉まり、闇の中に、自分と、得体の知れぬ何者かだけが残る。

モカーのアリアドネは、この状況では邪魔なだけだ。
右手で触れると、触れた先からあっけなく四散した。


(*‘ω‘ *)「そこに居るのは何者っぽ? 敵意は無い、返事をしてくれ」

「――」


返事は、ない。
気配が近付く。

467 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:30:35 ID:Ln1aNnPE0
(*;‘ω‘ *)「おい、何か言え! それ以上近付くなら敵とみなすっぽ!」

「――た」


返事は、ない。
だが、近付いてくるそれを炎が照らす前に、先にそれの声がぽっぽの耳に届いた。


「――な、―んだ。ア――ィーも、―ー――スも、ひひ――儂を残――、――な、――でしま――」

(;*‘ω‘ *)「な、何? なんだっぽ?」

( )「みんな、みぃんな、――で――って、生き―――は、――……憎い――」


暗闇の中に、人影がゆっくりと輪郭を為してゆく。
強烈な腐敗臭に、ぽっぽは思わず後退った。

468 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:31:26 ID:Ln1aNnPE0
(;*‘ω‘ *)「ひっ……」

("゚,",々イ")「ひひ、ヨツマ人め……こんな穴倉すぐに這い出して……ぎひひひ」


彼は、小柄な老人の姿をしていた。
皺まみれの顔、眼球を失った窪み。
カラカラに乾き罅割れた皮膚は青白く、その口元を涎がとめどなく流れ落ちる。
纏う衣は黄色に黒を混ぜた様な汚らしい染みに覆われ、そのボロ衣からはくすんだ緑の鱗が覗く。

樹人。森の人。
人語を操る、されど人ならざる樹海の住人。

唾をのむぽっぽに、彼は光を、正気を失くした眼を向けた。
狂気に満ちた『森の人』の、その眼窩を赤黒い液体が滴る。


(*;‘ω‘)「……話を聞いてくれる様子じゃないっぽねッ!」

("゚,",々イ")「ヨォォツマァのサルどもォめァァァア! 儂らのガセウをォ返ェしてもらァウぞぉァアアァ!!!」

469 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:32:21 ID:Ln1aNnPE0
(*;‘ω‘ *)「んぐ……悪く思うなよッ!」


血と涎でベトベトの両手を、老人はぽっぽの方へ振りまわす。
視力をもたない故だろう、その攻撃はあまりに雑で、かわすのも容易い。

気絶させる程度に抑えた力で、ぽっぽは戦棍を振るった。
狙い過たず、一撃は老人の後頭部を殴り抜く。


("゚,",々イ")「ひぎゃ」


鈍い音、が、二発。
酷く打ち付けた壁に、黄と赤の混じった液体が糸を引く。

後味が悪い。ぽっぽは苦々しい顔で倒れ伏した老人を見下ろした。
打ちどころが悪かったのか、彼はピクリとも動かない。


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