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ですがスレ避難所 その331

183避難所の名無し三等兵:2018/07/07(土) 06:17:17 ID:Df4N8REE0
ガシガシガシガシ!
……と前輪の軋む音が真夜中の国道に響いた。
ところどころ赤錆の浮いたギアは思うようにチェーンを噛まなくて、泣きべそをかく赤ん坊みたいに金属の泣き声を上げる。
七月上旬。夏真っ盛りといえど、夜明け前の街はちょっぴり肌寒い。
人も車も疎らで、時折、バカでっかいコンテナを積んだトラックとすれ違うくらいだった。
ペダルを踏みしめるたびに加速して、ナイフのように冷たい朝風が火照った頬を摩擦していく。

うおらー!! 家出じゃおらーー!!!

僕は握り拳を作ると、片手運転しながら虚空に向かって咆哮した。
生まれて初めての逃避行。今日は平日だけど学校はサボり前提だ。授業も部活もフケて、自分一人の世界に閉じこもってしまおう。
どうせ心配する人なんか、約一名を除けばいやしないのだ。
両親はいないし、自称友人のユキはせせら笑うだけだし、ものぐさな担任は事務的に処理してしまうに違いない。
まずは寝床を確保して、食事はパンかなんかで済ませて、ええとその次は……何したらいいんだろ?
計画はゼロ。予定もゼロ。だけど目的だけははっきりしている。
とにかく僕は自分の家からより正確に言うと僕のお姉ちゃんから、逃げたかったのだ。

文句あんのか!! らーー!!

再び夜空に向かって咆哮。
握りしめた拳を見ると、丁寧に切り揃えられ、そのうえ鑢で形を整えられまでした爪が、電灯を反射してつやつや光っていた。お姉ちゃんが手入れした爪だ。
爪だけではない。このつるつるな歯はお姉ちゃんが磨いた歯だし、まるで地平線の向こうの音まで拾えそうなこの耳だって、お姉ちゃんがごしごし掃除した耳なのだ。
はあ。あの世話好きの姉ときたら、僕のことをペットの猫か何かと勘違いしているらしい。

「マコちゃん。マコちゃん。キレイキレイのお時間だよぅ」

ああ、また幻聴がする!
歯ブラシだの爪切りだのスポンジだのローションだのを手にして、猫撫で声でにじり寄ってくるお姉ちゃんの幻聴!
いつもお姉ちゃんは、ウサギを狩るアリゲータの動きで僕を引っ捕まえると、むずがる僕をむりやり抱き締めて動きを封じてしまう。
そして、それから、んでもって……ええと、なんだ。
首筋をふーってされたり、耳をハムハムされたり、グランドキャニオンを思わせるアメリカンなおっぱい渓谷にギュムムッと僕の顔を埋めたりする。
そんな過剰なスキンシップがすっかり日課となっている。

ああああああ!! こんな生活もーイヤだ!!

お姉ちゃんは僕の全てを管理しようとする。
だけど僕はペットじゃなくて、一人の男の子なのだ。
一人で学校行けるし、一人でお着替えできるし、その、精通だって……。
がおー。もう立派な男の子なんだぞ。戦国時代ならとっくに元服済ませて槍振り回してブイブイ言わせてる年齢なのだぞ。
それをペット扱いとはなんじゃー!
溶鉱炉じみて燃えたぎる憤怒の炎は、トルクという形で現出してペダルを回した。
ガシガシ、という擬音はジャコジャコ、という酸化鉄的サウンドに取って代わって、寝静まった街の空気を支配する。
僕はお姉ちゃんから遠ざかってなお、お姉ちゃんのことを考え続ける自分に気付き、そんな脳みそを心から呪った。




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