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おもらし千夜一夜4

1名無しさんのおもらし:2014/03/10(月) 00:57:23
前スレ
おもらし千夜一夜3
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/sports/2469/1297693920/

310名無しさんのおもらし:2015/05/11(月) 21:57:01
待ってました
事例の人の小説は久々にスレ覗いて以来最近の楽しみになりつつあるよ

311名無しさんのおもらし:2015/05/11(月) 23:39:27
偶然にも朝見と綾菜は見事に行動がシンクロしてる。二人とも下着を下ろさないでしてしまって、その後下着を洗ってる所が。これもしも同じトイレで二人同時に個室から出てきたらバッタリと会ったらどうなるんだろう。

312名無しさんのおもらし:2015/05/13(水) 15:22:02
なんと素晴らしい

313名無しさんのおもらし:2015/05/16(土) 22:56:18
前回で話が一つ区切りを迎えたかと思えばまた大量の伏線でてきたな
こりゃこれからも目が離せませんわ

314事例の人:2015/05/21(木) 19:21:57
>>309-313
感想とかありがとう
>大量の伏線
回収した伏線のがきっと多い……はず

315名無しさんのおもらし:2015/06/07(日) 05:44:36
くノ一つづいてたのか

316名無しさんのおもらし:2015/07/28(火) 15:34:27
素晴らしい

317名無しさんのおもらし:2015/08/25(火) 23:05:57
続きはよ

318名無しさんのおもらし:2015/08/28(金) 13:10:39
長い間出したかったおしっこは思う存分もらしちゃったので
たまるまでしばらくお待ちください(笑)

319名無しさんのおもらし:2015/08/28(金) 22:56:47
最近になってこのシリーズ知ったんだけど、昔の挿絵とか見れなくなってたり
もしよければ渋とかに今までの挿絵まとめとかやってくれたら嬉しいです

320名無しさんのおもらし:2015/08/29(土) 15:30:56
>>12
実質単独スレで他の作品がくることもほぼないし
こういう状態で別物が混じるのもすっきりしないし浮くし
看板作品が止まるとこんな状態だし
前スレの段階で占有率高いことは分かってたし
スレ独立してたほうがいろんな意味でよかったのかもな

321名無しさんのおもらし:2015/08/30(日) 23:37:17
まあ占有率高いのは投稿者の責任じゃないしこのままでいいんじゃね

322名無しさんのおもらし:2015/09/12(土) 03:04:15
なかなか次のおしっこがたまらないね

323名無しさんのおもらし:2015/09/17(木) 10:50:56
あげ

324名無しさんのおもらし:2015/09/17(木) 12:06:41
>>320
そのまとめ、投稿者さんが貼って欲しくないと書いているのだから貼らない方がいいと思う。
まして単独スレというのはもっと不本意なんじゃない?
プレッシャーを掛けないで置くべきだと思うな。

325事例の人:2015/09/19(土) 20:06:37
感想とかありがとう
>>319
気が向けばいつかまとめるかもです
>>320-321>>324
このあたりについては当然思うこともありますが、ごめんなさい、ノーコメントとします

あと先に謝っておきます。挿絵はありますが、そっち系の絵ではないです。なので見る必要ないかもです
後半部分のどこかを描く予定でしたが、しばらく描けない状態に陥ってますので用意できてないです

326事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜 1:2015/09/19(土) 20:09:02
<カランカラン>

ボクは始業式の帰り、駅前の喫茶店に入る。
本当はひとみと来るつもりだったけど、何か用事があるとか……。
当然それは嘘だとわかっている。
どうも、夏祭りでのことを気にしてるみたいで、……当然といえば当然――本当に申し訳なく思う。

なので、寄らないって選択肢もあったのだけど、此処のマスターとは知り合いで、今日行くって話を事前にしてしまっていた。
「やっぱり行かない」なんて連絡を入れるのも悪い気がして……結果一人で来てしまった。

「あ……」

――ん? ……っ!

誰かの声に視線を向けると思いも寄らぬ人達がいて、ボクは半歩後ずさり驚く。
そして条件反射でボクは口を開く。

「な、なんであんたらがいるのよ!」

入ってすぐの4人席。そこには銀狼、黒蜜真弓、篠坂弥生の3人がいた。

「いやー、なんでってお茶しに来たんだけど? ――ってあれ? もしかして噂の新聞部部長さん?」

最初にボクの問いに答えたのは、元気が取り柄で有名な黒蜜真弓。
ほぼ初対面のはずの彼女が最初に口を開いた当たり、コミュニケーション力の高さが窺い知れる。

「そ、そうだけど?」

相手のその元気に飲まれないようにボクは不遜な態度で返す。

「なんで最近メガネつけてないの?」

「え? あぁ、それは友達に外した方がいいって言われたから……」

微妙な質問に面を食らいながらも、平静を装い答える。

「それじゃ、今コンタクトなんだ」

「別に目が悪いわけじゃないから、付けてないわよ?」

もともと度の入ったメガネではなかった。
変装のためにと思ってつけていたのと、ちょっと知的に見えるかも知れないと思っていただけ。

327事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜 2:2015/09/19(土) 20:10:03
「……ちょ、ちょっとまって!」

銀狼がボクの所に来てテーブルの二人には聞こえないように背を向けて話す。
正直その行動にボクは驚く。

「(……どうして、ここにいるの……)」

「(え、……ど、どうしてって……お茶しに来ただけなんだけど……)」

大体銀狼のグループと同じ理由。それを素っ気無く……っと言ってもそう言う振りをしたかっただけで、実際は可也動揺した態度が……。
銀狼はそれを聞くと小さく嘆息して――――嘆息するとか失礼でしょ……――――続けた。

「(……どうする? 謝る? なにか手伝う?)」

ボクはその言葉に視線をあさっての方向に向ける。

「(……言い難いのはわかるけど……)」

――違う。綾は全然わかってない。

ボクは謝る事が嫌とか言い難いからとか、そんな理由で視線を逸らしたわけじゃない。
……いや、実際そう言うのは苦手ではあるけど。
綾は……銀狼はボクの事を覚えていないはずなのに、どうしてそこまで親切にしてくれるのか……。
誰にでも優しいのか、それとも無意識に昔のように接してしまうのか。
どちらにしても、銀狼の優しさに触れるのは、正直辛かった。

「(いい、一人で何とかする……む、無理そうならフォローしてくれると……まぁ…ちょっとは助かるけど……)」

【挿絵:http://motenai.orz.hm/up/orz57216.jpg

だけど、ボクの口から出た言葉は甘えた――――ついでに捻くれた――――内容。
その優しさに甘える資格なんてボクには無いはずなのに……。

「(……わかった…余り期待はしないでよ)」

優しく返された言葉。
仄かな温かみを感じながら、同時に胸を締め付けるような息苦しさを覚える。
甘えるどころか、こうしている事自体がいけない事……。
わかってる筈なのに、もっと邪険にして、関わらない方が絶対綾のためなのに……。

328事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜 3:2015/09/19(土) 20:11:02
「な、なにしてるんですか二人で……」

その声に視線をテーブルの方へ向けると、少し怒っているような困っているような表情の篠坂弥生がこちらを見ていた。
友達が憎き相手と密談しているのが気に食わないのだと思う。
ボクはその様子を見て、銀狼に席に戻るように促すために、アイコンタクトを取る。

「うぅ……」

今度はそんなやり取りが仲よさそうに見えたのか、より機嫌を損ねる。
篠坂弥生はムッとした顔で、ストローでオレンジジュースを飲む。
失敗した。この子は結構焼餅妬きらしい。
この前の夏祭りの時に銀狼に突っかかりすぎたボクに口を挟んできた事も考えると
余程銀狼の事が大切らしい……。

それともう一つ失敗した。今の銀狼はボクのよく知る綾ではないわけで……アイコンタクトを取ること事態おかしな気がする。

それでも銀狼は意味を直ぐに理解したらしく席に戻る。
それに続くようにボクも“その”テーブルまで行って口を開く。

「えっと……此処いい?」

ボクは空いてる席を指差して、内心緊張しながら篠坂弥生に問い掛ける。

「ど、どうしてですか?」

怒った上目遣い……怒ってるんだけど、なんだか可愛く見えてしまってるけど……本人は気が付いていないだろう。
そして……どう答えるべきか。
素直に言ってしまうほうが無難なのだろうか。

「別にいいじゃん、ちょっと私もこの人の事気になるし」

黒蜜真弓……この人は笑顔ではあるけど、なんと言うかボクに対してほんの少しの敵意を感じる……。
でも、この台詞はボクにとって助け舟となり、篠坂弥生もしぶしぶ了承したようで、
ケーキや飲み物で散らかった空いている席――――つまりボクが座る席――――のテーブル上を片付け始めた。

――優しい気の利く子…なのかも?

“銀狼とつるんでる”“とろとろした子”そしてさっき知った“嫉妬深い子”と言う認識しか持ってなかったが
謝った時、許してくれそうな情報に少し安堵する。

「わ、悪いわね……」

余り言い慣れない言葉。
本当は「ありがとう」とかの方がよかった気がするけど、これで精一杯。

ボクは片付けてもらった席に恐る恐る座る。

329事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜 4:2015/09/19(土) 20:12:26
「……とりあえず、何か注文する?」

銀狼がメニューをボクに渡す。

「あ、あたりまえじゃないっ……」

意味もなく高圧的な態度で、メニューを奪い取るように受け取ってしまった。……また失敗した。
銀狼はそれでも気にしてる素振りはなかった――――ボクの性格を知ってかどうか判らないけど――――が、
直ぐ隣の篠坂弥生はきっと内心怒っているんじゃないかと思う。

……それにしても凄く緊張する。
ざっとメニューに目を通すがもともと頼むものは決まってる。そのことすら忘れていた。

ボクは店内を見渡す。
すると、先週から此処で働き始めたと聞いた、見知ったウェイトレスを見つけ手招きをする。

「ご注文は……って鞠亜様でしたか、今日はご友人とお食事ですか?」

「「「様?」」」

「様とかつけるな! いつもの頂戴! マスターに言えばわかるからっ」

「かしこまりました、鞠亜様」

――うざっ! うちのお手伝い辞めたからって調子乗りすぎでしょ!?

……えっと、あれから金髪のとこで仮契約でメイドをさせて、今は水無子のとこで働いているはずだけど……。
水無子も非常に苦労してるに違いない。紹介したのボクだけど恨まないで欲しい。

「あの……様ってなんですか?」

……。

以外なことに尋ねてきたのは篠坂弥生だった。
この中じゃ一番の人見知りだと思っていたし、なにより嫌われてるはずだから……。

そして、余り答えたくない。出来れば「関係ないでしょ!」とか言って適当な話題を出し、はぐらかしたいのだが
相手が相手だけにそう言うわけにも行かない。
これ以上拗れさせては仲直りがより難しくなる。

「……えっと、うち、ちょっとしたお金持ちなのよ……さっきのは以前ボク専属のお手伝いさんとして雇ってた如月って人」

皆、目を丸くさせて驚く。

「だ、誰にも言わないでよ? 家のことなんてボクには関係ないんだからっ」

一応皆ボクの言葉に戸惑いながらも頷き返してくれた。
その様子に安堵して、小さく嘆息する。

330事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜 5:2015/09/19(土) 20:13:42
「へー、思ったより仲良くなれそうな気がする……」

黒蜜真弓がそう言った。ボクに視線を向けたまま、ショートケーキを口に運び……興味深くボクを観察している。
ボクに向けられていた敵意も随分と減った気もする。

――別に、誰かに好かれようと思ってるわけじゃないんだけど……。

お金持ちを理由に変に威張らないところが好まれたのか
もしくは黒蜜真弓はただ、変わり者に興味があるのか……。
どちらにせよ、ボクは彼女と仲良くなろうとは思わないし
仲直り――というよりかは、自分のしたことへのケジメとして
篠坂弥生に謝罪したいだけであり、必要以上に二人と絡むつもりはない。

仲良くなってしまえば銀狼と関わることも必然的にこの先増えてしまう。

……。

――だめだ、さっさと謝ろう。

そう考えてボクは口を開ける。

「えっと……この前の事なんだけ――」「お待たせしましたー鞠亜様ー、紅茶とスコーンのセットですよ」

――早いのは結構だけど…タイミング悪い……と言うかワザと何じゃ?

ボクはじとっとした目で如月を見ると、より一層嬉しそうに笑う。――うん、ワザとだ。
とりあえず出された紅茶を一口飲む。

「紅茶……好きなんですか?」

……何故か話題を振ってくる篠坂弥生……。

「あ、うん……日本茶も好きだけど、紅茶の香りはまた違うから……」

「そうなんですか……私はその独特の香りが少し苦手で……ちょっと羨ましいです」

……もしかして、ボクが気にしてるのを知って無理に会話してくれてるんじゃ……。
そう思うと、こんないい子に恥を掻かせてしまったことによる罪悪感がより強くなる。

そして……ついでに――

――ん…なんかトイレに行きたくなってきちゃったし……。

思い返せば今朝済ませてから一度もトイレに行っていない。
極度の緊張と水分を口に含むという行為が意識させるきっかけになったみたいだ。
それに今朝も紅茶を飲んで出てきてしまったので……正直結構溜まっていると思う。

ただ、状況がよくない。
この前おもらしをさせてしまった相手を前にトイレを済ませるために席を立つと言うのはちょっと――ではなく相当気が引ける。

――早く謝ってしまわないと……。

そう思うが、篠坂弥生が気を使って来たことで、言い出すタイミングが掴めなくなってしまっていた。
それに詮索しすぎなのかもしれないが、この気の使い方は
実のところ、ボクにその話題に触れて欲しくないと思ってしている……そんな風にも感じて。

タイミングを掴むため、少し我慢して様子を見よう。
そう思って、ボクはスコーンを口に運んだ。

331事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜 6:2015/09/19(土) 20:15:04
――
 ――

店に入ってから40分程度は経っただろうか?
皆で他愛もない話をするだけで、一向に謝るタイミングがない。
いや、ボクが掴めていないだけかもしれない。

そんな中、ボクは机の下で落ち着きなく動かしたくなる足を、動かさないようするために必死だった。
緊張の余り、直ぐに紅茶とスコーンのセットを食べてしまったのがいけなかった。
そして篠坂弥生に進められるがままに次の飲み物まで頼んでしまった。
紅茶には高い利尿作用があると聞いたことがある。飲み慣れて多少耐性が付いているかもしれないが、あれから40分。
唯でさえ朝から飲んだ紅茶が自身の膀胱に溜まり続けていたのに、ここで飲んだ紅茶に追撃されては当然危なくなる。

そして、それでも話は終わらない。

――不味い……そろそろ我慢が本当に辛くなってきた……。もう行っちゃった方がいいかな?

当然このまま行かなければ大変なことに……。
でも待てど暮らせど――――暮らせどは言い過ぎだが――――タイミングが掴めない。
なんて言って席を立てば良いのか、どんな顔でその言葉を言えば良いのか。
そして、篠坂弥生はどんな顔をしてボクの言葉を聞くのか……。

空調管理された店内にいながら額にうっすら汗が浮かんでくる。

「あ…えっと、ちょっとお手洗いに…行ってきますね」

その言葉を発したのはボクではなく、篠坂弥生。
若干言い辛そうにして、顔を赤らめながら席を立つ。
そして思い至る。――そう連れション。
席を立とうとして、腰を小さく浮かす。
同時に膀胱に溜まった熱水が重力に引っ張られるような重い尿意を感じる。

「――」「まりりんちょっといい?」

「ボクも――」そう言葉を紡ぐ寸前に、黒蜜真弓が声を掛けて来た。
仕方がなく、スカートを直す振りをして再び腰を下ろし、そわそわしたくなる身体を必死に宥め、黒蜜真弓の言葉を待つ。

――というか、まりりんって……。
鞠亜の“まり”とあだ名によく使われる“りん”をつけたわけか、銀狼――――つまり“あやりん”――――と同じ方式。

「ごめんね、弥生ちゃんがあれじゃ、謝るのは難しいね……触れないのも優しさだしね」

黒蜜真弓はそう言うと複雑な顔で笑ってみせる。
なんと言うか、此処に来て直ぐと比べるとボクに対する毒気が大分薄れたように感じる。

「それに……良い感じに仲良くなってきてる気がする
まぁ、初めの内はそう言うつもりで話してたわけじゃないと思うけどね」

だけど……謝れないとなると結局トイレに行けない。
いや、篠坂弥生に気を使わないのであれば別にいけないこともない。
彼女も自らトイレにたったわけだし、それほどボクがトイレに行くことを気にする必要は無いはずだ……と思う。

332事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜 7:2015/09/19(土) 20:16:03
――でも…もうちょっと…もうちょっとだけ我慢しよう。そうすれば――

……帰ってくれるかもしれない。そんな希望的なことを思ってしまう。
ボクが思っている以上に篠坂弥生が気にしてしまう可能性だってある。
それに……トイレに行けない色んな理由はあるが、実際のところ普通に恥ずかしくもある。
なら帰ってくれるに越したことはない。

椅子に浅く座り、誰も気が付かない程度に震える膝……それに手を置いて震えを沈める。
そんな状態でこんな悠長なこと考えてる場合じゃない……そう思ったが、本当にギリギリまでは我慢してみようと思った。

「お、お待たせしました……」

小さな弱々しい声で、でもどこかすっきりもしている顔で篠坂弥生が用を済ませ帰ってくる。
銀狼達が「おかえり」と言ったのでボクも作り笑いをしながらそれに続く。
その言葉を言ってすぐ背筋に震えを感じた。

――だ、だめだ、もう言わないと間に合わなくなっちゃう……。

自身が思っている以上に、本当は限界なのかも知れないと初めて気が付く。
触らなくても下腹部がパンパンに張って、石みたいに硬くなっているのは想像が付いていた。
だけど、もう少しくらい大丈夫だとも思っていた。
尿意は辛いけど、おもらししちゃいそう、出ちゃいそうとは思っていなかったから。
それは椅子にじっと座り我慢していたことで今まである種の均衡を保っていれただけで
少し前に腰を浮かせてしまった時にそれが崩れ、徐々に排出に向けて身体が準備を始めたのかもしれない。

――っ……こ、この波を越えたら、絶対に言おう。

今すぐ言えなかったのは言って直ぐ席を立てない気がしたから…――いや、それだけじゃない。
口を開くという行為を出来るほど余裕がなかった。意識を少しでも我慢から別のところに移してしまうのが怖かった。

――うぅ……高校生にもなってこんなになるまで我慢して……馬鹿みたい。

つい先日、高校生二人のおもらしを見ておきながらも、そう思わずにはいられなかった。
いや、見ていたからこそ、自身が同じようなことを経験してしまっている今の状況にこの上なく情けなく思っているのかもしれない。

「そんじゃ、そろそろ帰ろっか?」

黒蜜真弓がそう言った。
ボクは波に耐えながらも何とかこの状況を乗り切ったことに安堵した。

「……そうだね……ぁ」

銀狼が同意したあとボクの方に視線を向けたかと思うと、何かに気が付いたのか小さく驚くような声を出した。
我慢してることに気が付かれたのかと思って一瞬どぎまぎしたが、焦点はボクではなくその後ろの方に向けられているみたいだった。
気にはなるが今振り向くと下腹部が捻りで圧迫されるし、庇いながらだとどうしても不自然になる。
それに銀狼は直ぐに何事もなかったように帰るための身支度をし始めた。きっとそんな大したことじゃない。そう思った。
他の皆もカバンなどを持ち席を立つ。

333事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜 8:2015/09/19(土) 20:17:14
「あ、ボクは、えっと…マスターにちょっと話しがあるから、残るよ」

皆がボクが席を立たないことに疑念を抱く前に先回りして答える。

「あ、そうなんですね……」
「んじゃ…んー、会計は各自でいいかな?」

篠坂弥生と黒蜜真弓が会計の話を始める。

――ど、どうでもいいから早くっ、早く行って!

「(……ねぇ)」

っ!
二人より先に席を立っていた銀狼が隣まで来ていて
ほんの少し頬を染めてボクを心配そうに見て直ぐに視線を逸らしながら小声で言った。

「(あまり力になれなくてごめん……それと…えっと……な、なんでもない……がんばって)」

初めの謝罪は当然ながらフォローのこと。フォローしようとしてる努力は少なからず感じることは出来たが、実際全くフォローになってなかった。
次の言葉は一瞬何のことかわからなかったが、自身が机の下で無意識ながら“抑えて”しまっていることに気が付きその言葉の意味を理解した。
そして、理解すると同時にボクは顔を真っ赤にしながら手を離した。
会計の話をしてる二人には気が付かれていないけど……“また”銀狼にだけは知られてしまった。

「……二人ともとりあえず行かない?」

「おっけー、そんじゃーね、まりりん」「うん、……えっと、またね? ――でいいのかな?」

そう言うと3人がレジに向かう。ボクは小さく嘆息する。

――ゾクッ……

っ!!?

背筋に電気を通したような激しい震えが走り、尿意が一気に膨れ上がる。
一度大切な部分から離した手を再度滑り込ませ、今度は両手で力の限り宛がう。

――だめぇ……まだ、まだ綾たちがレジのところに……も、もうちょっと――もうちょっとだから……。

尋常ではない強烈な尿意の波に挫けそうになる。
キリキリと軽い痛みすら感じるほどに丸く張った膀胱は、小さく収縮を繰り返し限界を告げている。

――早くぅ、早くしてよぉ……。

睨むように三人に視線を向けていると
ふと、綾が心配そうな顔でこちらに一瞬視線を向けた。
ボクは慌てて視線を逸らす。

<ジュ……>

っ!

だけど、その心の乱れと、本当に少しだけ軽く動かした身体の隙を付いて
全力で抑えているはずの部分が、小さく膨らむようなそんな感覚を指先に感じた直後
ジワァっとした熱い液体がほんの少し溢れ出たのを感じた。

334事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜 9:2015/09/19(土) 20:18:36
――っ…う、嘘!? や、今…少しだけっ! ――あぁ!! だ、だめ……これ以上はっ! 

続けて攻め立てる尿意にきつく両目を瞑って歯を食いしばり、大切な部分を内側に何度も押し込むようにして力を入れる。
……なんてはしたない姿……綾が見てる可能性だってあるのに――それでも止められない。そんなことを気にしてる余裕なんてなかった。

そうしてようやく少し落ち着いてきた尿意の隙を付き、ゆっくりと瞼を開けると、レジには綾たちの姿はなかった。

――こ、これでようやく……。

そう思い膀胱を刺激しないようにして椅子の上で身体をゆっくりと回して、席を立つ準備をする。
膀胱の張りを敏感に感じ取れる。本当に限界まで膨らんだそれは何かを抱えているみたいに、重さも感じられた。

もう少し……そう思った……。
だけど、その思いは視線をお手洗いに向けた瞬間に打ち砕かれた。

――せっ、清掃中!?

それを見たとき、少し前に綾の驚いていた顔が脳裏に蘇る。
あれは、トイレの清掃看板を見て驚いた顔?

……。

ボクは下を向き恥ずかしさと尿意に歯を食いしばる。
綾は……気が付いていた?
いつからかは知らないけど、声を掛けて来る前からボクが我慢してることを。
そして、あの“がんばって”という言葉はこれを含めていった言葉。

――どうしよう…どうしよう……本当にもう、我慢が…――

次、大きな波が来たらきっと我慢しきれない。
どの程度しきれないのかはわからないけど……さっき程度済むとは到底思えない。
もしかしたら水溜りを作ってしまい……マスターや従業員や今いる客全員に……。

「鞠亜? えっと……その体勢は――トイレ…ですか?」

335事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜 10:2015/09/19(土) 20:19:26
その声にボクは顔を上げる。

「えぇ〜と、その様子だと結構きてますね〜。紅茶のおかわりなんてするからですよ」

笑顔でありながら少し心配した表情でボクに視線を落とすのは如月だった。

「今清掃中ですが、ものの2,3分で終わりますよ、それまで我慢姿でも堪能させて頂きますね」

――っ! な、何を悠長で変態的なことをっ!

いつ決壊してもおかしくないこんな状態だと2,3分どころか1分すら怪しい。
そんな状態を堪能? ……我慢姿だけじゃなくチビってしまってる所も確実に見られてしまう。
仕方がない。既にバレてるわけで……それでも断腸の思いでその恥ずかしい言葉を口にする。

「き、如月ぃ……お願いそんなに持たない! 今すぐに終わるようにっ…ねぇ、お願いだからぁ……」

顔から火が出る思いで限界であることを伝える。

「……えっと、マジですか……んー…もうちょっとじっくり見て居たかったのが本音ですが、本当に無理そうですね。
……貴方には多少なり恩がありますしー…う〜ん、仕方がないです、今度、水無子お嬢様で遊ぶとしましょうか」

そう言うと清掃中のお手洗いの方へ行き、扉を開けて清掃員の人と何やら話しをしている。
ボクはと言うとスカートが捲れ上がっているのに気にする余裕もなく、下着の上から両手で何度も何度も抑えこむ。

――まだっ…なの? 後何秒? どれくらいっ経ったの? いつまで……。

時間の進むスピードが判らない。
そしてまた身体が小さく跳ねる。

――っダメ……来ちゃう…また……如月ぃ…お願い早くぅ!

心音が凄く大きく感じて、
でも次の心音までが恐ろしく長い。

――ダメだ、もう来る、来ちゃう……。

目を瞑り、椅子から下ろされた足はつま先立ちとなり、背中を丸め身体を小さくして“それ”に備える。

336事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜 11:2015/09/19(土) 20:20:50
「鞠亜、もう入っても大丈夫ですよ」

不意にかけられたその声と同時に身体が震える。

――あっ! あっ! ……ち、違う! 出していいなんて誰も言ってない! まだダメっ!

そう言い聞かせるが膀胱は大きく波打ち出す。
だめだ、絶対に我慢できない。そう感じた。
だからボクは波を越えることを諦めた。

<ダンッ>

――と、トイレに!

波を越えなくても、漏れ出す前にトイレにさえ辿り着ければいい。
その一身で立ち上がりトイレまで走った。

ほんの10歩ほどで辿り着けるトイレの入り口。
一歩踏み出すごとにその振動が膀胱へ直接響きより大きな尿意を生み出す。
最初の数歩までは失敗せずにいけた。けど――

<ジュ…ジュッ…ジュウ……>

トイレの入り口にたどり着く前に何度も溢れ出し、その量は次第に増え下着を直接抑える手が
次第に濡れ、指の間からポタポタとフローリングに一滴、また一滴と落とす。

外扉までたどり着く。
幸い押すだけで開くタイプの扉なので、肩を使い押し開ける。
その間にも徐々に溢れ出るようにして熱水が下着から染みだしてくる。

慌てて中に入り、次は個室。
清掃を途中で切り上げた床は多少濡れている所がある。
だけどそんなこと関係ない、ボクが今最優先にすることは個室に入ること。
大丈夫、さっきまで清掃していたのだから、閉まっているなんてこと絶対にありえない。
二つある個室の手前の方の便器が見える。

<ジュッ…ジュ……>

――や、だめぇ、出てる、これ以上はっ! あとちょっと、ちょっとだからぁ!

気を緩めたつもりは全くなかったが、身体が勝手に搾り出そうとして、今度は勢いよく噴出する。
すでに保水性の限界を超えている下着では受け止めきれず、手に暖かさが大きく広がり指の隙間や内腿を伝い滴り落ちる。
それでもボクは足を止めることなく個室に飛び込み下着を下ろす余裕もなく便器の蓋を開けて大急ぎで座る。

「はぁ……はぁ……っんあぁ……」<ジュッ…ジュゥ〜〜><シャバシャバ――>

下着の中で出るくぐもった音、それと水面を打つ音が混ざり合う。
下着の中におしっこが渦巻き、気持ち悪く……でも部分的にお風呂にでも入っているかのような気持ちよさを感じながら放尿……いや、おもらしをする。
今更ではあるが、濡れに濡れた下着を指でずらし下着の中でしてしまうという背徳的な行為から目を逸らす。
……認めたくはないが、トイレに大半を間に合わせただけで
下着を履いて――――今はずらしてはいるが――――、且つ入る前から何度も滴り落としてしまっては間違いなくおもらしだった。
どれだけ控えめに表現したところで“チビった”なんて表現ではない。
視線を落とした目の前には、便器の蓋を開けるほんの1,2秒の間に出来たと思われる小さな水溜りもできていた。
それは明らかにトイレの清掃で来た水ではなく、白いタイルを薄い黄色に染めた明らかなボクの――……。
だけど、それを見ても酷くショックを受けるわけではなく、だた、やってしまったと思うだけで……何かを考える心の余裕がまだ――

337事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜 12:2015/09/19(土) 20:22:24
<コンコン>

ドアをノックする音。
ボクは前を見る。

……。

「グッドイブニ〜ング、鞠亜。扉は閉めたほうがいいと思うけど?」

「え……如月…っ〜〜〜〜! や、ダメ! し、しめ、閉めてっ!」

「いや♪」

満面の笑みで個室の扉の前でボクを冷やかす。
慌ててボクは扉に手を伸ばすが腰が浮いてしまい――

<ジョボジョボ>

音を覆い隠すものがなくなったのと、高い位置から落ちることで、その恥ずかしい音は便器の外側へ大きく響く。
ボクは慌てて座りなおす。

「でも、まさか間に合わないとはね……うーん、良い目の保養だわぁ〜♪」

「うぅ……」<ジュゥ〜〜>

完全に開き切ってしまった尿道口を閉じようとするが全く上手くいかない。
途中で止めることが出来ない以上、ボクはこのまま見られながら……。

「まぁ冗談はこれくらいにして、ゆっくり落ち着いてしちゃいなさい、後始末もね……個室の外はやっとくわ」

如月はそう言うと扉を閉めて、どうやってしたのか知らないが外側から鍵を閉めた。
……。

――冗談? 完全に見ておいて冗談って……。

おもらしが続く中、如月の介入により放心状態に戻れるはずもなく多少冷静になってくる。

初めに思ったのは、どうしてあとちょっとを我慢できなかったのか。
出来なかったものは仕様がない……だけど、どうしても後悔を含んだ思いを感じてしまう。

――はぁ……本当、最悪……。

でも、幸いスカートは無事なのだから後始末を確りすれば、見た目の上では至って普通のはずだ。

そして長かった恥ずかしい失敗がようやく終わる。
冷静になってきたとはいえ、頭を手で抱えたくなるくらいに後悔するが、おしっこまみれの手で抱えるわけにも行かない。
個室から出ればまた如月にどんな顔で何を言われるか……。
情けなさと憂鬱な気持ちを吐き出すように、深く大きい嘆息をして後始末をすることにした。

338事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。-EX- 1:2015/09/19(土) 20:24:30
**********

「ありがとうございましたー」

喫茶店にはあまり似合わない明るい挨拶を聞いて私達は外へ出る。

――……うぅ、気になる。

後ろ髪を引かれるとはこのことだろう。
自身の尿意が低い事と、少し離れすぎた事で霜澤さんの『声』が全く聞こえない。
あの切羽詰まり具合だと限界間近と言うよりおもらし間近と言ったところだと思うが、果たして間に合ったのか……。
気がかりなのはトイレが清掃中であったこと。
その状況の類似点とこの喫茶店ということで、当然の事ながら皐先輩の事を思い出す。

――『声』の大きさからしても皐先輩へ延長戦を持ち掛ける直前くらいには辛そうだったし……。

でも、水分を多く取っていた皐先輩の時とは多少は違う。
いくら喫茶店で飲み物を少し飲んでいたとしても、最大利尿速度には程遠いはず。

「意外にあの人悪い人じゃないんですね……」

不意に弥生ちゃんがそう口にする。

「だね……ちょっと変な子ではあるけど良い人っぽかったね」

隠さずに敵意を向けていたまゆも意外にも高評価。
それと変な子……最初に言ってたメガネの話だろうか。
目が悪くないなら何故つけてたのか……意味不明だ。

「まぁ、とりあえずはお茶会終了、解散だね」『トイレも行きたいしー……電車待ちだったら駅の使おうかな?』

私はまゆの声と珍しい『声』の両方を聞きながら「……そうだね、また明日」と答え自転車に跨る。
私の声に続くように二人も別れの挨拶をして、駅へと足を進めていった。

私が尿意を感じ始めたのは喫茶店に入ってから30分くらいしてからだった。
『声』に意識を傾けると、まさか3人とも我慢しているとは思ってもみなかった。

その中の一人――霜澤さんの『声』は限界がそこそこ近い状態であることにさらに驚いた。
『声』の内容からも必死で取り繕っていたのは判った。
それでもあれほどの『声』でありながら、結果私以外の誰にも気が付かれずに隠し通したのだから大した人なのかもしれない。

弥生ちゃんもトイレの近さが顕著に現れていた。
どうも始業式が終わった時に、知らない間にトイレに寄っていたみたいだったが
トイレに立つ寸前は霜澤さんほどではないにしろそこそこ切羽詰っていたみたいだった。

まゆは……珍しい『声』を聞けただけでも満足と言ったところだろうか。
始業式だったため、トイレに寄るということをしていなかったらしく
まだまだ余裕はあるようだが前の経験からも少し心配しているように感じられた。

――まぁ、前のはまゆが寝てたのもそうだけど、あそこまで追い詰められた原因と言ったら利尿剤なわけだけど。

339事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。-EX- 2:2015/09/19(土) 20:25:48
利尿剤……。
朝見さんが私の飲み物に混ぜた薬。
私の嗜好を止めさせるため、痛い目にあわせることが目的であり、でも行き過ぎた……私にとっては非常に恥ずかしい結果となった。
皐先輩の話を聞くに朝見さんはそれを後悔しているらしい。
霜澤さんも故意ではなかったにしろ弥生ちゃんを辱めたことで落ち込み、悩んでいた。
故意で行った朝見さんもそれ以上に悩み、悔やんだのかもしれない。

私は我慢している姿、その結果は好きだし萌えるし抱きしめたくなるほど可愛く感じるが
やっぱり、相手を貶める行動には蟠りが残る。知り合いや友達ならなおの事。
それにたとえ貶めなくても、助けられたはずの子が公衆の面前で失敗してしまうのは……ちょっと辛い。

――でも『声』を聞くために蟠りが残らない程度には最大限の努力はするけど。

私は自転車を走らせる。
真っ直ぐ家には……帰らない。
今日、既に図書室で勿体無い経験をしたのだから、ここで諦めるわけには行かない。

私は隣のコンビニに入る。
店内には入らず、私は駐車場内の喫茶店に近い場所に自転車を止め、喫茶店の方に意識を集中させる。
此処は喫茶店のトイレにもっとも近い場所。
壁があると少し受信感度は悪くなるが、何とか届くはず。
トイレに入る寸前の霜澤さんの『声』が……。

清掃中だったので、5分程度待つ必要がある。
そう思っていたが――

『や、だめぇ、出てる、これ以上はっ! あとちょっと、ちょっとだからぁ!』

――っ!

『あぁ……――』

直ぐに『声』は聞こえなくなる。

……。

……。

――えっと…少なくとも完全には間に合っていない?

清掃中なのにお願いして入ってきたのだろうか?
そんなになるまで、言い出せずに限界まで我慢して……。
それも以前失敗してしまった弥生ちゃんの前での我慢で。

――霜澤さんって凄く、かわ――

『ふふ、鞠亜、可愛いわぁ……扉開けっ放しで下着履いたままだ何て……』

――っ!?
な、なに今の『声』?

開けっ放し? 下着履いたまま?
そんな状況を見てる人が居る?
そして私のようにそれを可愛いと思ってる誰かが。

――というか、そんな状況なの? 私も見たい、もっと細かく教えて、というか羨ましい! 代わって!

『慌てちゃって……本当、相変わらずかわいいなぁもう♪』

また聞こえる。
恐らく、『相変わらず』と言う言い方や『鞠亜』と呼んだ点からして、如月さんだろうか。

『あーあ、床にもこんなに……そこまで我慢って……本当、可愛い子♪』

……。

……あぁ、本当、羨ましい。
本当今日はなんだか色々と惜しい……。

おわり

340名無しさんのおもらし:2015/09/19(土) 20:51:58
更新待ってましたよ

とうとう鞠亜も漏らしたか、これで大体の登場人物が漏らしたね
シチェも漏らしてるのを間近で見られるのが良すぎる

341名無しさんのおもらし:2015/09/19(土) 23:23:55
いい…いい!

342名無しさんのおもらし:2015/09/21(月) 06:10:45
弥生ちゃん飲み物いっぱい勧めてるけど実はこっそり利尿効果を狙ってたりして

343名無しさんのおもらし:2015/09/21(月) 15:45:59
如月さんの我慢展開も見たい

344名無しさんのおもらし:2015/09/21(月) 22:18:33
>>339
更新お疲れ様です。
相変わらずのハイクオリティ…素晴らしい

345名無しさんのおもらし:2015/09/21(月) 22:30:14
如月さんが羨ましいそこ変わって

346名無しさんのおもらし:2015/11/19(木) 20:44:50
もう冬だね
新作こないのかな

347名無しさんのおもらし:2015/11/21(土) 23:34:23
次回作はよ

348名無しさんのおもらし:2015/11/22(日) 04:11:43
お約束の前触れレス?

349名無しさんのおもらし:2015/12/20(日) 23:13:25
続き全くこないな

できれば!新作お願いします

350名無しさんのおもらし:2015/12/20(日) 23:24:12
続編よりも?

351名無しさんのおもらし:2015/12/21(月) 14:18:33
俺は声シリーズの続きが見たいです

352名無しさんのおもらし:2015/12/21(月) 15:26:35
>>318
>>322

353事例の人:2016/02/03(水) 22:24:59
めっちゃ間空いた
感想とか期待とかありがとう

354事例10「宝月 水無子」と休日。 1:2016/02/03(水) 22:26:59
「っ…みないで……もうゆるして……」

長い黒髪の子はそう言って嗚咽を漏らす。
私は手を伸ばす。だけど届かない。
私は口を開く。だけど声が出ない。

目の前で泣き続けるその子に私は何もしてやれない。

――
 ――
  ――

目を開くと――あぁ、此処は自室だ。

私は上体を起こし目を擦る。

……。
…………。

目を擦っていた手を止める。
同時に顔に血が上るのが分かる。
私はせっかく起こした身体を捻り、うつ伏せになって枕に顔を埋める。

「ぅ〜〜〜」

意味もなく声を出す。
これで三日連続だった。
彼女の――朝見さんの夢を見るのは……。

クラスメイトの夢を見ることはある。だけどそれは本当に稀なこと。
三日連続だなんてこと普通ありえない。
それに、翌々考えれば、連続では無かったが朝見さんの夢を見ることは此処最近以外でも何度かあった。

――……あ〜、なんで私…こんなに意識しちゃってるの?

無意識――ではなく、自覚できるくらいに。
確かに朝見さんは私にとって特別な人だ。
特別……それは私の嗜好を唯一知っている人であり、なぜか『声』が聞こえない人であり
凄く苦手で、天敵で、一緒に居ると気不味くて……だけど――

……。

私は枕の横に手を突き、四つん這いにして身体を再度起こす。
朝見さんは夢にまで出てきて私を振り回す……それが嫌で。
そして、大きく深呼吸して気持ちを切り替える。

355事例10「宝月 水無子」と休日。 2:2016/02/03(水) 22:28:16
今日は休日。
時間は――10時を少し回ったところ。
とりあえずトイレで用を済ませ、洗面所で歯磨きしたり、髪を適当に梳かしたり……。
その後のどの渇きを覚え、冷蔵庫から水出しのお茶を取り出し、大き目のコップに注いで飲み干し、一息。

キッチンから見えるリビングのソファーに母が寝ていて……。
いつもとなんら変わらない平和な休日。

……。

「……出かけようかな」

誰に言うわけでもなく、呟く。
気分がそうさせるだけでなく、卵がなくなってきていたし、他にも買うものがあった気がする。
冷蔵庫からだした水出しのお茶をしまうついでに、何が必要かを頭の中で整理する。
寝ている母を起こさないようにして、身支度をして書置きをテーブルの上に置く。

どこへ買い物に行こう……そんなことを考えながら玄関を出て、エレベーターに乗り込む。
エレベーターがホールに着き扉が開く。
そして自転車に乗るために駐輪場へ――

<♪〜〜>

私の携帯から着信音がなる。
携帯を取り出し確認すると相手は皐先輩だった。
私は応答しながら駐輪場へ向かう。

「……もしもし?」

  「おはようございます、綾菜さん♪」

「……な、なんだか機嫌いいですね……」

私は電話越しでも分かるその態度に少し引いてしまう。
なぜ、皐先輩がご機嫌なのは多分――

  「あ、分かりましたか? そうですね、機嫌いいですよ、仲直り出来た様ですから♪」

――……やっぱりそのこと……誰から聞いたのやら。

私は、自転車の鍵を取り出しながら聞こえないように小さく嘆息する。結局、朝見さん関係のことで振り回されるのかと思うと――
……。

以前の私ならもっと憂鬱な気分にでもなっていた気がするが、今はそんな気分にならないことに気が付く。
もちろん、良い気分になるわけではないのだけど。
やっぱり仲直り――――どう考えても仲直りでは無かった気がするけど……――――というものは大切と言うことだろう。
正直なところ多少は打ち解けられた気がして、私は嬉しいのだと思う。

356事例10「宝月 水無子」と休日。 3:2016/02/03(水) 22:29:04
<カチャン>

  「え? 今の音……自転車ですか? どこか外出ですか?」

私の自転車の鍵を開ける音に目敏く気が付き、問いかけてくる。

「……少し気分転換も兼ねて、買い物しようかと思いまして……」

  「気分転換…ですか? 何か悩み事でもあるなら私が相談に乗らせて頂きますけど?」

気分転換という内容を省いて話せばよかったと今更ながら後悔する。

「……いえ、お気になさらず」

  「あら、残念。私もすこし用事がありますし……生徒会への勧誘も、また後日ゆっくり致しましょう」

それだけ言うと皐先輩は「では、また」と言い残して電話を切った。

――はぁ…生徒会か……。

今のところ入る気など無いが――朝見さんはどうするのだろう?
私と朝見さんとの仲が少し改善されたことで、皐先輩にとって私たち二人を誘いやすくなったのだろうけど
仲良くなったわけではないし、朝見さんがそれだけで生徒会に入るとはとても思えない。
それに、入る気など無い以前に私が生徒会に入るには少し面倒な手続きが必要なはずだし、担任やクラスメイトに少し迷惑をかける。
皐先輩は知ってるはずだけど――いや、どこか変なところで抜けてる人だし気が付かなかったのかもしれない。
……でも、まぁ、そういう微妙な隙が、皐先輩の隠れた魅力なのだけど。

私は自転車に乗り道路に出る。

皐先輩と話したことが切欠で、夏祭りの時の皐先輩の台詞を思い出す。

――「――もう貴方に関わる資格なんてないって……泣きながら言ったんです」――
――「――……呉葉は貴方の事嫌ってなんていませんよ」――

結局のところあの言葉は方便だったのか、事実だったのか。
数日前に涙を流した朝見さんの姿――――夢の中だとほんの少し前だけど――――を見ているだけに
どうにも、方便だったと確信できずに居る。

……。
…………。

「はぁ……」

私は大きく嘆息する。
折角の気分転換が台無しだ……。

357事例10「宝月 水無子」と休日。 4:2016/02/03(水) 22:30:25
――
 ――

懐かしい。
歩きながら私はゆっくりと視線を巡らす。

電車に乗り、買い物に向かった先は、私が以前住んでいた家の近く。
私は見慣れた――でもほんの少し見ない間に細かなところで変わってしまった町並みを楽しみながら道を進みデパートに向かう。
いつもはこっちのデパートには来ないから少し新鮮な感覚も後押しして、穏やかな気分になる。

「綾?」

そんな中、私を呼ぶ昔からよく知る声が聞こえ振り向く。

「やっぱり綾! なに? こんなところまで来て?」

「……椛さん! …あ、おはようございます」

振り向いた先に居たのは椛さんだった。
結局夏祭り以降また話す機会を失っていたのだが……校外ではなぜかそれなりに縁がある。

「……私は買い物。椛さんこそなにか用事?」

「そうそう、こんな時間から生徒会長様の使いよ」

皐先輩の用事というのは椛さんに合うことだったようだ。
それにしても、あんなことがあったのに全く気にしていない態度。
……流石に繕っているとは思うけど、強い人。
私は関心しながら、話を続ける。

「……これから学校となると、お昼はどこかで外食ですか?」

「あ、違う違う、場所はそこの公――あ……」

椛さんは何か失敗した時のような表情で言葉を止めた。
私は怪訝に思いながらも、振り向くと公園があり――だけど視界の下のほうに何か動いたのを感じて視線を落とす。

358事例10「宝月 水無子」と休日。 5:2016/02/03(水) 22:31:10
「ねぇ、貴方ってもしかして銀狼?」

そこには私の胸より少し低いくらいの少女がいた。
髪は私と同じ銀色で、ツーサイドアップに近い髪型。
レースブラウスに長袖のボレロ、そしてフリルの付いたジャンパースカート……
ゴスロリ衣装――いや、クラロリ衣装なのかも知れない…そんな服を着ていた。
お嬢様という言葉が似合うその少女に私は驚き、少しの沈黙を作ってしまう。

「コホンッ、えーと水無子(みなこ)、この人は銀狼じゃなくて、雛倉綾菜って言って私の幼馴染」

その沈黙を空かさず破ったのは椛さんで、その子――水無子と呼ばれた女の子に、私の説明をする。
どうも二人は知り合いらしい。

「知ってるよ名前くらい……“まりあお姉ちゃん”が銀狼って呼んでたから言っただけだし」

――……“まりあお姉ちゃん”?

“まりあ”という比較的珍しい名前を聞いて私が思い浮かべるのは当然一人だけ。
霜澤鞠亜……私を銀狼と呼んでいたという情報から考えるに、この子の言う“まりあお姉ちゃん”とは霜澤さんのことで間違いないと思う。
以前、喫茶店で話した感じだと、あの人も一応裕福な家の生まれだったはずだしなにか接点があるのかも知れない。
「お姉ちゃん」と言う意味合いから、実妹もしくは、妹分という印象を受ける。

――……それにしても、なんで霜澤さんは私の話をこの子に?

「わかったから、とりあえず自己紹介でしょ?」

椛さんがそういうと、少女は少し不満そうな顔をしながらも一歩下がり膝下丈ほどのスカートの裾を片手で軽く持ち上げてほんの少し膝を曲げる。
確かカーテシーといわれるヨーロッパの挨拶。偏見かもしれないけど、いいところのお嬢様の挨拶らしい挨拶。

「はじめまして、宝月 水無子と申します。銀狼さん♪」

どこか嘗められている気がする。
……。

「……貴方も銀髪じゃない」

「っ!! そうだったっ!」

自身の髪の毛を触りながら叫ぶ。気付いてなかったらしい。

359事例10「宝月 水無子」と休日。 6:2016/02/03(水) 22:31:46
――……というか今、宝月って言わなかった?
宝月は皐先輩の苗字と同じ……。

「綾、この子はね会長の親戚の子でね、察しの通りお嬢様……まぁ、会長ほどではないけど、気持ちはお嬢様らしいよ」

「ちょっと、後半の説明がディスってるように聞こえたんだけどっ!?」

水無子ちゃんは椛さんの気配りの無い説明に不服を唱える。
椛さんは面倒くさそうな顔をして「だったら自分でしてよ」と不満を口にしながら宥める。宥めれてないけど。

もしかすると、椛さんが呼ばれた理由はこの水無子ちゃんの面倒……みたいな感じなのだろうか。
流石に理由はあるのだとは思うけど、会長も随分人使いが荒い。

――それにしても、このまま立ち話……っていうのもねぇ……。

私は公園の方へ視線を向ける。
そこにはちょっとした木や遊具のほか、目当てのベンチもいくつかある。

「……ねぇ、立ち話もなんだし、そこの公園で話さない?」

提案してから気が付く。……この公園、なぜだかあまり記憶に残っていない。
昔の家からこの公園まではそれほど距離があるわけではない。
遠目で見る遊具の古さから私が引っ越すことになってから遊具が追加されたとかでリニューアル的なことになっているというわけでも無さそう。
意識して思い出そうとすると確かに此処に公園があった……それは思い出せる。
だけど…それだけ。

――……こんな近所の公園だったのに……私、ここで遊ばなかったのかな?

昔の私は結構アウトドア派だった気したけど……。

「あー……で、でも綾これから買い物でしょ? 付き合せちゃ悪いし――」
「なら一緒に買い物ね!」

椛さんと私の間に入って水無子ちゃんはそう言う。
……自分勝手なところは会長に少し似てるかもしれない。

360事例10「宝月 水無子」と休日。 7:2016/02/03(水) 22:32:46
――
 ――

「……えっと卵と牛乳と――」
「綾ってこんな主婦してたっけ?」

私は椛さんのその言葉に小さな嘆息で返事をする。
母の仕事が今の時間帯になってからは、どうしても家で一人で食べることも多くなった。
雪姉も居ないし……私自身料理は得意ではないが、ある程度は身についてしまった。

――……というか、椛さんのよく知ってる私って小学生の頃の私だし、その頃から主婦してるわけがない。

「こんなに安い卵でいいの? こっちのが悪いなりにもよさそうだけど……」

などとお嬢様が仰っている。庶民の私にはその「悪いなりにもよさそう」と微妙な評価をされた卵が既に贅沢過ぎる。
だけど、そういう発言をしながらも気が付かれないように振舞ってるのは……うん可愛い。

『あー、食品売り場は寒くて余計したくなっちゃう……早くお手洗いに行きたいけど……』

少し前に私が尿意を感じたのと同時に、水無子ちゃんの『声』が聞こえてきた。
どうも『声』の感じからして、会った時くらいから既にある程度の尿意を抱えていたんじゃないかと思う。

『もう……櫻香が美容のためとか言って紅茶沢山いれるから……美味しかったけど』

――……櫻香? この子のお姉さんか誰かかな?

とりあえず、櫻香さんありがとう。おかげで良い『声』が聞けてます。

「他、何か要るものあるの?」

適当に商品を見ている振りをして考え事をしていると、椛さんが尋ねてくる。
私は改めて冷蔵庫の中を思い出しつつ足りないものを考える。

「……えっと、あと買う予定は……とりあえずはタマネギくらいかな?」

「それじゃあ、あっちだね」

『よかった〜、余り時間掛けられると危なかったし……』

……。

「……でも、安かったら買いたい物もあるかもしれないし、とりあえず全部回ろうかなって」

『っ! うぅ……まだ大丈夫なんだからっ』

意地悪なことしちゃったかな?
仕草も少し見え隠れし始めてる気がするし……本当かわいい。

361事例10「宝月 水無子」と休日。 8:2016/02/03(水) 22:33:37
“広告の品”と書かれた実はそれほど安くも無い商品――――一般的に安いのは本日限りとかだしね――――を無視して視線を巡らしつつ、考える。
これからどうするべきか。水無子ちゃんを観察していると結構辛くなってきてるようだけど、まだ自分から言い出さない当たり
高いプライドの持ち主……いや、初対面の私がいるのも言い出しにくい原因かもしれない。

『あぁ、早く終わってくれないかな……結構辛くなってきたよ……』

私が立ち止まると少し不安そうな顔をして、気が付かれない様にほんの少し膝を曲げたり伸ばしたり。
時折片方の足をもう片方の足の後ろに持っていって、さりげなく太腿をすり合わせたり。
歩いている時はまだいいけど、じっとすると言うのは流石に辛そう。

そんな様子を水無子ちゃんと椛さんに気が付かれない様に観察しながら
色々回って、結局タマネギだけを買い物カゴに入れてレジへ向かう。

「あ、ちょっと……用事あるからレジ終わってもここで待っててっ」『これ以上我慢してたら、おしっこってバレちゃう!』

水無子ちゃんは引き止める間もなく走り出し、恐らくトイレへ行ってしまう。
付いて行きたいところだけど、流石に椛さんにレジを押し付けるわけにもいかない。

レジが終わり袋に商品を入れて水無子ちゃんを待つ間、椛さんに謝る。

「……ごめん、買い物に付き合わせるみたいになって」

「え? あー、でも水無子が一緒にって言い出したんだし、責めるならあの子かそれを相手にさせた会長でしょ?」

私はそれを聞いて感じていた疑問を口にする。

「……どうして椛さんがあの子の相手をすることになったの?」

「んーとね、大した理由じゃないんだけど、会長と一緒になって遊んであげた時があって
その時に月に1〜2回くらい遊んであげようか、って言ったら……まぁこんな感じに?」

椛さんらしい理由。
多分、水無子ちゃんのことを妹分のように可愛がっているのだろう。

「お、お待たせっ」『お手洗い清掃中とか最悪!』

――っ!

駆け足で私達のところに戻ってきた水無子ちゃんに私は驚く。
もちろん駆け足だったからではなく、その『声』に。

「おかえり……どうしたのそんな焦って?」

帰ってきた水無子ちゃんがそわそわと落ち着き無い仕草をしているのに椛さんが気が付き声をかける。

「あ、えっと……なんでも……っ」『ど、どうしよう、どこで……』

水無子ちゃんはその問い掛けに動揺しつつも、仕草を抑え、でもよく見れば足を擦り合わせる仕草を残しながら言葉を濁す。
俯いて顔を隠してはいるが、髪の間から見える肌は赤く染まっている様に見える。……うん、最高に可愛い。

相当切迫してきているのにまだ私達に尿意の告白をしてこない。
たしかに……それはそれで可愛いことは可愛いんだけど……私が気を使って聞くべきなのか
それとも、プライドを傷つけないためにも水無子ちゃんから言うのを待つべきなのか。

362事例10「宝月 水無子」と休日。 9:2016/02/03(水) 22:34:22
「あ、もしかしてトイレ混んでたりして出来なかった?」

私が迷っているとあっさり椛さんが核心を突く。
というか、聞き方からして水無子ちゃんがどこへ向かって走っていったのか気が付いていたようだ。

「なっ……うぅ、で、デリカシー無さすぎ!」

――ですよね。

「はいはい、わかったから行って来なよ、待ってるからさ」

「あ、いや……混んでるんじゃなくて…清掃中だったから……」

「じゃあ、頼んで使わせてもらえるか聞いてみる?」

「ちょ! が、我慢できないみたいで恥ずかしいじゃない! それより…えっと……こ、公園っ! さっきの縁公園に行こうよ!」

私、完全に傍観者になってるけど……とりあえずさっきの公園のトイレを目指すみたい。
それと、あの公園には名前があるらしく縁(えにし)公園というらしい。……やっぱり聞き覚えが無い。
そして、デパートのトイレを使わせて貰うのは恥ずかしいようだけど
清掃が終わるまで待つ選択肢は自分の中では無いらしい。
それはつまり「我慢できないみたい」じゃなく清掃が終わるまで「我慢できない」と言うことかもしれない。

「は、早く行こっ!」『こ、公園までなら大丈夫なはず……だよね?』

少し自信が無さそうな『声』が聞こえる。
尿意の上がり方も『声』を聞く限り早そうだし、櫻香さんとやらに貰った紅茶が強く作用してるのかも知れない。
紅茶には利尿作用があるし、それを沢山口にしたなら当然の結果だと言わざる終えない。

私と椛さんは「早く、早くっ」と急かす水無子ちゃんの後を付いていく。
デパートを出て公園までは歩いて15分掛からないくらい。
小走りに走る水無子ちゃんについていくため、私達も足を速める。
これなら11〜2分くらいで到着するだろう。

「……こんなに急がなくちゃ行けなくなるくらい我慢してたんだね、もっと早く言えばいいのに」

先頭を走る水無子ちゃんに聞こえないように世間話のつもり椛さんに話しかける。
それを聞いて椛さんの顔が少し赤くなり、私から視線を逸らすように前を向いてから躊躇いつつ口を開く。

「そ、それ……普通、私に言う?」

その言葉の意味が一瞬分からなかったが、すぐに夏祭りのことだと理解して失言だったと感じ口を押さえる。
同じく尿意を告白せず、しかも間に合わなかったのだから、当然そういう――可愛い反応になる。
椛さんは少しだけ速度上げ、私の前を歩く形になるともとの速度に戻る。

――……気を悪くさせちゃったかな? 恥ずかしいだけならいいけど……。

私はほんの少しの距離を保ち後を追う。

363事例10「宝月 水無子」と休日。 10:2016/02/03(水) 22:35:30
『うぅ、どんどんしたくなって来ちゃう……あぁもう、櫻香のバカァ!』

水無子ちゃんの『声』は次第に大きく、そして焦りを伴うものになっていく。
よく見れば下腹部を庇うようにほんの少し前傾姿勢で
流石に間に合わないほどではないと思うが……椛さんのように急に来るタイプかもしれないし
心配と期待を込めて最後まで見守ろうと思う。

『っ! 見えた……大丈夫、間に合う!』

公園が見えて来たと同時に安心した『声』も聞こえてくる。
私は少し残念に感じながらも、それなりの『声』が聞けたためそこそこ満足していた。
外で、同学年より下――――水無子ちゃんの年齢が良くわからないが、身長で言えば小学高学年と言ったところ?――――の
『声』を聞くというのは、高校生活を送る私にとっては結構稀な体験で、新鮮だった。

水無子ちゃんが公園に入ると同時くらいに、椛さんは歩く速度を下げる。
本当なら私は個室に入る瞬間まで見ていたいところではあるが、私も速度を緩めそのまま椛さんのところに歩み寄る。

「なんとか、間に合いそうだね……」

椛さんのその言葉には安心した気持ちと、ほんの少し複雑な気持ちが感じ取れた。
安心は当然だけど、複雑なのは……多分あの時の自分を重ねて見てしまっていたのかもしれない。
年上の自分が間に合わず、水無子ちゃんが間に合いそうなことに手放しで喜べないのだと思う。
そう思わせてしまったのは多分私の余計な一言が原因。

「……とりあえず、そこのベンチで待ってようか?」

私はそういって公園に足を踏み入れる。
足音で椛さんが付いてきているのも分かる。

『ちょ、な、なんでよぉ!』

――え? ……水無子ちゃん?

気になる『声』が聞こえてくる。焦りと困惑が混じったような『声』。
だけど、椛さんが居る手前、変な反応をするわけにもいかない。
水無子ちゃんが向かった公園の公衆トイレに視線を走らすが中が見えず、状況が分からない。
私も用を済ませるためにトイレに向かうのも手かもしれないが、それをするには買い物袋を椛さんに渡さないといけないわけで。
だけど、ベンチで待っていようと提案してしまったため、ベンチまで移動してそこに荷物を置かないと不自然に思われる可能性がある。

『あぁ、もう、使用禁止ってなによ! もう我慢できないのにっ!』

……状況が飲み込めてきた。
使用禁止の張り紙が個室に張ってあり、使えない。
公衆トイレではありがちな事で、すぐに修理がされないことも多々ある。

364事例10「宝月 水無子」と休日。 11:2016/02/03(水) 22:36:36
とりあえず、ベンチに着き座り荷物を置く。
トイレの中が気になり「私もトイレに」そう椛さんに切り出そうとした時――

「も、椛お姉ちゃん!」

トイレの方から水無子ちゃんがこちらに向かって覚束無い足取りで歩いてくる。
前屈みで、不安そうな顔で、何かを抱え込んでいるようなその様子は
誰がどう見てもまだ済ませていないのは明白で、限界が近いことが感じ取れる。

だけど、その思いもよらぬ事に椛さんは困惑しているみたいで
先に口を開けたのは水無子ちゃんの方だった。

「こ、此処から一番近いトイレってどこ!?」

「え、えっと……駅かな?」

戸惑いながらも椛さんはそう答える。
駅……公園から見える程度の距離で歩けば5分かからないくらい……だけど――

「……そこまで我慢…できる?」

言葉にしてから私は失敗したと思った。
そんな聞き方で、この子が「我慢出来ない」なんて言う筈がない。
我慢していたのを隠していて、それを知られた時恥ずかしそうにしていたこの子には
その「我慢出来ない」と言う言葉はハードルが高すぎる。……私でも言いたくない。
案の定、顔を赤くして涙目で私を睨むようにして言った。

「が、我慢できるに決まってるじゃない!」『わかんないよ、そんなのっ!』

精一杯の強がりを言い、だけど『声』には自信が無くて……。
スカートの裾を握り締めている手を何度も掴みなおす。
本当は前を押さえたくて仕方がない……そんな感じで――凄く可愛い。

「とりあえず、此処のトイレは使えないのね?」

状況がいまいち分かっていない椛さんが確認する。
水無子ちゃんは時間が惜しいとばかりに首を2、3度縦に振り
その後は私達がベンチを立つ前に踵を返し公園の外へ向かい歩き出す。

椛さんは立ち上がり後を追う。
私も買い物袋を持ち直して慌てて立ち上がる。

365事例10「宝月 水無子」と休日。 12:2016/02/03(水) 22:37:59
「はぁ……っ、はぁ……」『あぁ…っ、やだ、我慢……まだ、我慢だから……』

水無子ちゃんは、深く、震えるような息を吐きながらゆっくり歩く。
額にはうっすら汗が浮かんでいる。
もう、正直な『声』を聞かなくても――――聞くけど――――余裕の無いことがわかる。
椛さんもそれを理解して隣まで行き肩を抱くようにして一緒に歩いてあげてる。

『えっと、公園出て…道路渡って…少し歩いて……駅に入っ――っ! き、切符!』

限界まで膨らんだ下腹部をどうにかしたくて、気持ちが急く……
その中でこれからの事をシミュレートして駅のトイレを使用するためには切符が必要なことに気が付く。

「も、椛お姉ちゃん……先に行って、切符買って…っ……来て…」

搾り出すようにして出された声は、少し生意気で強気だった水無子ちゃんとは思えないくらい弱々しい。
何度も御預けされ続けた膀胱がこれ以上溜められないと少女を攻め立てる。
それは、女の子にとって本当に辛くて恥ずかしくて……でも絶対に耐えなければいけないこと。
崩れそうになりながらも、どうにか踏みとどまって、諦めずに耐える。……健気で本当に可愛い姿。

「綾、水無子をお願いっ」

椛さんはそう言うと同時に駅の方へ走って向かう。

――……でも、お願いって言われても……。

私は両手を見る。
小さなカバンと買い物袋が二つ。
さっきまで椛さんがしていたように肩を抱くには荷物が多い。
仮に荷物がなくても、出会って間もない私では馴れ馴れしいのではないかと思う。

水無子ちゃんはゆっくりとした足取りで公園を出る。
私も歩幅をあわせ、後方から見守る形で後を追い、観察する。
なんと言うか、どう接していいのかわからなくてお世辞にも居心地が良いとは言えない。

「はぁ…ふぅ……っ」『はぁ……あぁ、だめぇ、我慢、我慢っ…で、出来るからっ…』

震える息は不規則に乱れている。
『声』は自身を励ますように……だけど、それは現実を認めたくない……そんな風にも聞こえて。

「んっ!」『っ! やぁ……あぁ――』

前を歩く水無子ちゃんは足を止める。
今まで裾を掴んだり、所在なさげに彷徨わせていた手が、スカートの上から大切な部分をこれ以上無いくらいの勢いで押さえ込む。
止めた足はガクガクと震え、肩も震わせて……それは大きな波が来ているのだと私に感じさせるには十分で……。

「ぁ……」『やだ、嘘……』

どうにか聞き取れるくらいの困惑と焦りと恐れを含む声が漏れ
『声』の表現からしてもそれが何を意味するのかわかってしまう。

――……少し、濡らしちゃった?

おもらしを目前にして、どうしようもない不安に直面している水無子ちゃんとは対照的に
私は、鼓動が早くなるのを感じ、妙な緊張から唾を飲み、喉を鳴らす。

366事例10「宝月 水無子」と休日。 13:2016/02/03(水) 22:38:59
「ふぅ…はぁ……」『もう……そんなに…持たないっ』

何度か小さく息を吐き、波を越えた後のほんの少しの小康期間。
私はまた小さく歩みを進めるのを見ていた。
水無子ちゃんは焦った様子で駅がある、道路の向こう側へ行こうと歩道から道路へ足を出す。
私もそれに続こうとした時――

「っ!」

すぐ近くの路地からエンジン音が聞こえ、それがこちらに曲がってくるのが見えた。
私は咄嗟に買い物袋を手放して、水無子ちゃんの腕を掴み、こちらに引き寄せる。
身長相応の軽い身体は簡単にこちらに倒れるようにして引き寄せられ、赤い車体の車が目の前を通り過ぎた。

私の胸の下辺りに水無子ちゃんの頭が当たる。
それと同時に、手放した買い物袋が地面に落ち、中の卵が割れる音がした。

私は危険な運転をした車を目で追うが、止まることなく走り抜けていった。
横断歩道もなく信号も無かったのだから、こっちに非が無かったと言うわけではないのだけど。

「あっ、やぁ……」『あぁ、でちゃうっ!』

すぐ近くで焦りの声が聞こえる。
私は崩れ落ちそうになる水無子ちゃんの身体を、両手で両肩を掴むようにして支える。
様子を窺うため視線を落とすと、両手はスカートの前を確り抑えていて……
だけど、アスファルトには黒い斑点がいくつもあって……。

【挿絵:http://motenai.orz.hm/up/orz60671.jpg

「はぁ――、んっ、あぁ…」『だめっ、だめ…なのっ!』

スカートの中から落ちた雫がアスファルトに黒い斑点を増やしていく。
焦げ茶色のスカートは押さえ込んだ手を中心に水気を帯び、色濃く染まっていく。
身体が震え、限界ギリギリまで溜め込まれた熱水を意思とは無関係に吐き出そうとして、膀胱を締め上げていく。

でも――

スカートが水気を帯びても必死に押さえ直す少女の手は、溢れ出る熱水を塞き止める事を諦めていなくて……。
その荒く不規則な息遣いは、どうにか踏みとどまろうとしている呼吸で……。
『声』は生理現象を必死に宥め否定していて……。

本当に必死で……。

367事例10「宝月 水無子」と休日。 14:2016/02/03(水) 22:39:48
「はぁ――ふーっ、んっ…はぁ……ぁ…ふぅ……」『うぅ……こんなに――でも……まだ』

小さく何度も震える呼吸をして、なんとか完全な決壊を免れた少女。
だけど、スカートには少しとは言いがたい、コップで水を掛けられたくらいに濡れた痕。
アスファルトに作っていた斑点はいくつかが繋がり、水溜りと言った方がいいほどで。

私はそれを見て口を開く。

「……ご、ごめんね」

限界だったのは確かだけど、手を引いたことが切欠だったのも確かなことで。
仕方が無かったとはいえ、謝らずには居られなかった。

「い、いい……助けて…くれたの、わかってる…し……」

肩で呼吸しながら私を気遣う言葉。
もっと泣いて私を責めてくれても少女を責める者は居ないはずなのに。

水無子ちゃんの顔を髪の間から見ると真っ赤で……
言葉はしっかりしていていくら繕っても、顔にはその失敗の恥ずかしさが出ている……可愛い。

「んっ……はぁ……」『だめ……残りは我慢しなきゃ……』

今度は左右を確認してから、視線を少し落として歩みだそうとする。
黒色のタイツでわかり辛いが雫が伝ったであろう足で。
だけど、私は水無子ちゃんの肩から手を放さず、提案した。

「……ねぇ…、この状態で駅に行くのは…止めて置いた方がいいよ」

その言葉を受けて一歩目を踏み出してから、足を止める。

駅には駅員をはじめ、人が多くいる可能性が高い。
目立つ髪色と服装をしている水無子ちゃんに視線が集まるのは必然。
そうなれば、押さえ込まれたスカートの染みを見られてしまうのは火を見るより明らか。

「で、でも……んっ…駅じゃないと…ま、間に合わない…から………」
『うぅ、ダメ冷えて…おしっこ…おしっこしたいっ…ちゃんと、トイレで……』

トイレで済ませたい。
健気なのか我侭なのか混乱しているのか。
あるいは、その全部なのかも知れない。
失敗の跡を見られるよりも、ちゃんと正しく“したい”。

――……どっちが正しい? 私は、この子の肩から手を放すべき……?

多分正解は無い。
周りから見て失敗済みだと見える状況である今、どちらも正解ではないから。
トイレでないところで済ませることは恥ずかしいことで
失敗した姿を人目に晒すことは恥ずかしいことだから。

368事例10「宝月 水無子」と休日。 15:2016/02/03(水) 22:40:45
「っ! ……う、嘘?」

水無子ちゃんが何かに怯えるような声を出す。
私は、水無子ちゃんの顔を見て、その方向へと視線を向ける。

――……女の子や男の子…水無子ちゃんと同じくらいの学年?

大体の想像はついた。
見知らぬ人ならここまで怯えることもない。
恐らく、顔見知り…最悪クラスメイトや友達と言ったところだろうか。
幸いこちらにはまだ気が付いていない。

私は落としていた買い物袋を拾い――――卵が割れてる……――――
無理やり片手に全ての荷物を持つと、空いた右手だけで肩を抱くようにして、公園の方向に向きなおす。

「あ、ちょっと――」
「……いいから、見つかりたくないでしょ?」

何か言いたそうにしていたが、私の言葉に何も言えず覚束ない足取りではあるが必死に足を前に出す。

「はぁ…っん、ふっ…あぁ……」『んっ…だめ、座り込みたい…我慢……我慢できない……』

一度溢れさせてしまった恥ずかしい熱水がまだ足りないと言う様にして水無子ちゃんを襲う。
だけど、足を止めるわけには行かない。
後ろからはまだ、子供たちがこちらに向かってきている。
私は水無子ちゃんを励ますようにして、肩を抱く手に力を込める。

再び公園に入ると、私は公衆トイレへ向かい歩みを進める。

「っ…やぁ……」『んっ! だ、ダメ……が、まん……さっきあんなに出ちゃったのに…あぁ、もう――』

荒く熱い息を詰まらせ、足が止まりかける。
大きな波が来てるのはわかる……だけど、此処じゃまだ……。

「……もう少し、だから……あの裏手まで何とか……」

私はそう言うが、その欲求がどうしようも無いことはわかっていて……。
水無子ちゃんが一番わかっているはずで……。

<ジュ……ジュウゥ……>

――っ……。

私は仄かに聞こえるくぐもった音に視線を落とす。
その視線の先、水無子ちゃんの足元にまた新たな雫が落ちていることに気が付く。
だけど、それとほぼ同時に、私の手を振り払うようにして水無子ちゃんは公衆トイレに駆け出す。
私はその後を慌てて追う。
水無子ちゃんが駆けていった公園の地面は、ところどころ色が濃くなっている。

『やぁ…だめ……だめなのにっ……』

その『声』と共に水無子ちゃんは公衆トイレの裏手に姿を消す。
正直、「大事な場面なのに出遅れた」などと思ってしまった。
可哀想だとも当然思ってはいるが……どうしようもなく可愛い姿が見たい私に自分で呆れる。

369事例10「宝月 水無子」と休日。 16:2016/02/03(水) 22:42:10
「はっ…ふぅ……やぁんっ……」『ダメ、出ちゃう出ちゃうっ!』

裏手に入って見た光景は、少し予想と違っていた。
我慢も限界の限界で、人目が無くなり隠れられるスペースに入ったのだから
緊張の糸が切れてしまってもおかしくない状況。
なのに、水無子ちゃんは公衆トイレの壁に腰だけを付けて少し前屈みになって必死に前を押さえ込んでいた。

「あぁ、……やぁ、み、見ないで……んっ…はぅ……」『我慢……がまん……お外でなんて…やだぁ……』

見ないでと言われても……視線が外せない。
必死で我慢を続ける……だけど、抑え切れない水圧でポタポタと地面を濡らしていく。
股から直接落ちる雫、足を伝い靴を濡らし足の周りに広がる水溜り、スカートに染み込み切れない恥ずかしい熱水が裾から零れる。
我慢してるはずなのに、止めることが出来ない。
諦めてないのに、結果として諦めているのと何ら変わらない現実。

こちらに向けられる涙で一杯の瞳。
私はようやく視線を外した。

「はぁ……はぁ……」

今までより深く熱い息遣い。
『声』はもう聞こえない。

私は恐る恐る顔を上げて水無子ちゃんに視線を向ける。
水無子ちゃんは私の視線に気が付くとこれ以上赤くなれないくらいに顔を染めてばつが悪そうに視線を逸らした。
そのまま背中を公衆トイレの壁に付けて、ずるずるとしゃがみ込み下を向く。
深い息遣いだけが聞こえる。

――……物凄く可愛――

『ふふ、水無子お嬢様、すごく可愛いわぁー』

――っ!

聞き覚えのある『声』、それも後ろから聞こえ私は振り向く。

「ごめんなさい、雛倉綾菜様……で、よろしかったですよね?」

見覚えのあるニコニコした表情で私に歩み寄る。
それは、いつかの喫茶店で会った如月さんだった。

「な、なんで…櫻香がっ!」

水無子ちゃんの慌てた声に、私は振り向く。
水溜りの上にしゃがみ込んだまま、困惑の表情を上目遣いで向けている……可愛い。

「あら、水無子お嬢様ー? 足元が水浸しですよ?」

「っ!」

ニコニコの表情を全く崩さない如月さんが私の前を通り過ぎ、水無子ちゃんに近づいていく。

「お、お、櫻香が、沢山紅茶を飲ませる…からっ…うぅ」

水無子ちゃんは立ち上がり如月さんの服を掴み泣きながら攻め立てる。
如月さんは適当にあしらいながら頭を撫で撫でしている。

――……というか、如月さんの下の名前が櫻香だったんだ……。

紅茶を沢山飲ませたという人物は如月さんだったということ。
……なんというか物凄く作為的な気がする。

370事例10「宝月 水無子」と休日。 17:2016/02/03(水) 22:43:11
「綾菜さん」

後ろからさらに別の人の声が聞こえて振り向く。

「えっと……こんなことに巻き込んでごめんなさい」

「……皐…先輩」

そこには居心地の悪そうな表情で視線を外している皐先輩がいた。

「先ほど道路で水無子の危ないところを助けて頂いて、本当に助かりました。ありがとうございます」

「……いえ、そんな――」

――って、どこかで見てたってわけですか。

「っ! な、なんで皐お姉様まで!?」

水無子ちゃんが如月さんを盾にして慌てて全身を隠す。
だけど、如月さんは水無子ちゃんの肩を掴んで皐先輩に全身が見えるようにする……何と言う鬼畜メイド。

「ちょ、や、これは…ちが……」

慌てた様子で何か言い訳を探そうとしている……うん、可愛――

『可愛すぎですよ、水無子お嬢様ぁ♪』

……。
なんだか悔しいし、物凄く認めたくないけど、私とこの人凄く似てる。

「言い訳はダメですよ、水無子お嬢様、それにこの前だって家で――」
「わーー、わーわーーー!」

如月さんの言葉を水無子ちゃんが必死に掻き消す。

そして皐先輩も、そんな水無子ちゃんの頭を撫で撫でして適当に乗り切るらしい。
それで、黙って俯いてしまうこの子もこの子だけど……。

「雛倉様、水無子お嬢様が大変お世話になりました。勝手ではありますが、このまま回収しちゃいますので」

――回収って……。

所々この人が楽しんでいるのがよくわかる。
と言うか、楽しんでいるのを隠す気が無いというか……。

「あ……綾菜…お姉ちゃん…………いろいろ、その…ありがとう……」

水無子ちゃんが去り際にそう言ってくれた。
お姉ちゃんと呼ばれることに免疫が無い私は少し妙な……でも悪くない気分になる。

「あの、綾菜さん……大丈夫…ですよね?」

残された皐先輩がよくわからない質問を私に投げかける。
私はどのことを言われているのか考える。
普通に考えれば――道路での事?

――……あれ? 以前にもなんか…なかったっけ?

「あ、いえ、すいません。良いんですこっちの話ですから……では――あ、ご不浄の張り紙外さないと……」

……え?。

「……ちょっと…え、張り紙って?」

「あ……えっとですね、水無子には内緒ですけど、此処のご不浄、使用禁止なんかじゃないんですよ……というか、私達が身を隠していた場所でもありますし
もちろん、櫻香さんにはやり過ぎだって言ったんですけどね。まさかデパートのご不浄までクレーム付けて清掃中にさせるとは……
相変わらず、自身の欲望の為ならなんでもしちゃう人……まぁ、私としても水無子の良い表情は見れましたが――」

……。
紅茶のみならず、最初から最後まで策略だったとは……。

「――では、椛さんによろしくお伝えください」

そう言って皐先輩は如月さん達の後を追いかけていった。

私は大きく嘆息して、駅で待機してるであろう椛さんへ連絡を入れるために携帯を取り出した。

おわり。

371「宝月 水無子」:2016/02/03(水) 22:44:54
★宝月 水無子(ほうづき みなこ)
小5のちょっとお金持ちのお嬢様。
ゴスロリ、クラロリ衣装を好む。

皐子とは親戚関係。鞠亜とはお金持ち同士の友人である。
皐子を「皐お姉様」と慕い、鞠亜を「鞠亜お姉ちゃん」と呼ぶ。
皐子へは憧れを素直に抱いているが、鞠亜へは素直になれないものの尊敬し慕っている。
また、椛とも仲がよく、生意気な態度を取るもののよく懐いている。

膀胱容量は年齢相応よりかは少し大きめ。
櫻香に紅茶を沢山飲まされていることが多いため、トイレ自体は近くなりがち。
飲まされてはいるが紅茶は好き。

成績そこそこ優秀、スポーツ得意。
基本的にはツンデレで少し傲慢な態度を取る。
特に同年代の人とは自分は違うと壁を作り、少し孤立気味。
如月櫻香を専属メイドとして雇っており、色々と扱き使いがちだが
逆に飴と鞭を使い弄ばれている。仲は悪くなく、信頼も厚い。

綾菜の評価では、プライドの高いツンデレお嬢様。
髪色が近いこともあって、お姉ちゃんと言って貰えるのは結構嬉しかったりする。

372「如月 櫻香」:2016/02/03(水) 22:45:48
★如月 櫻香(きさらぎ おうか)
年齢は雛倉 雪や日比野 鈴葉と同い年。

いつもニコニコ、悪戯好きでSなお姉さん。

代々メイドや家政婦の家系である変わった家の生まれ。

基本変態。
皐子のように相手の表情を見て楽しみ、
綾菜のように我慢、おもらし姿を見て楽しむ。
積極的に相手に関わり虐める……優しい顔したドS思考。

メイドとしてのスキルは高く、それなりに頭もいいが
メイドの仕事を優先し高校は行かず、中学でさえほぼ登校していない。
そのため、明るい性格の割りに友達といえる人は多くない。

○主人の変移
中学1年〜高校2年まで:鞠亜
・友達関係が如月の家にバレ、辞めさせられる。
・鞠亜がなるべく如月を傍に置きたいため、仮の主人として皐子を紹介。
高校2年〜高校3年:皐子
・とりあえずの1年契約。
・鞠亜と皐子が新たな正式な主人として水無子を紹介。
高校3年〜現在:水無子
・水無子を溺愛している模様。
・メイドの仕事が休みの日は駅前の喫茶店で働き、鞠亜や皐子とたまに話す。

鞠亜の評価では、大切な友達。だけど時々――ではなく、かなり面倒くさい。
皐子の評価では、変わった人。少し趣味が合い意気投合したりするが、表情が笑ってばっかりで観察対象としてはつまらない。
水無子の評価では、頼れる信頼の置ける人。だけど多々虐められる……悔しい! けどかn――憎めない。
綾菜の評価では、相当な変態。多少の親近感を感じるが出来ることなら余り関わりたくない。

373名無しさんのおもらし:2016/02/03(水) 23:16:02
今年初めての事例の人の更新キター
そして相変わらずの素晴らしい小説だ

374名無しさんのおもらし:2016/02/03(水) 23:47:57
ここで新キャラ二人登場か、櫻香がいい性格してるよ綾菜が我慢してる時に出くわせてやりたいわぁ

375名無しさんのおもらし:2016/02/04(木) 10:52:27
何この素晴らしいメイドさん

376名無しさんのおもらし:2016/02/04(木) 23:12:32
今度はこのメイドさんが失敗するんですね分かります

377名無しさんのおもらし:2016/02/05(金) 08:33:28
>>376
それいいな

378名無しさんのおもらし:2016/02/05(金) 08:56:33
おお、じれーちゃんきてるじゃん

379名無しさんのおもらし:2016/02/06(土) 02:22:22
水無子ちゃんもいいけど恥ずかしがる椛さんの反応がめっちゃかわいい……
そういや感想とは関係ないけど渋の方の小説ってよく読むとここのと同じ世界観だったのね
雪姉と同世代かな

380名無しさんのおもらし:2016/02/12(金) 13:41:56
しかし流石お嬢様...
年相応より我慢できるとは

381名無しさんのおもらし:2016/03/07(月) 13:29:46
普通の小学生でも結構我慢できるよな
友人の娘が一リットルくらい出してるの見たし

382名無しさんのおもらし:2016/03/08(火) 14:55:47
普段から我慢慣れしてる女の子だと結構我慢出来るらしい

383名無しさんのおもらし:2016/03/08(火) 17:32:33
>>381
どういう状況で見ることになるんだよそんなんw

384名無しさんのおもらし:2016/03/09(水) 23:42:29
>>383
渋滞で我慢出来ないって言うからペットボトルの底切ってさせたんだ
1リットルのヤツだったんだけど溢れ出してな

385名無しさんのおもらし:2016/03/12(土) 18:50:26
>>384
溢れたって凄すぎだろ...
明らかに俺より膀胱大きいんだが...

386名無しさんのおもらし:2016/03/15(火) 00:59:30
>>384
溢れ出たんなら正確な量はわからないか...?
てかそれを小説風にしてここに書けよ

387名無しさんのおもらし:2016/04/17(日) 06:52:49
新作希望

388事例の人:2016/06/22(水) 23:57:23
まためっちゃ間空いた
感想とかありがとう
時間掛かったわりに読み返し少なくて誤字とか多いかも(いつも多い)
それと無駄話多目?

389事例11「卯柳 蓮乃」と体育祭。1:2016/06/22(水) 23:58:40
「――決まったーーっ! バドミントンダブルス決勝進出は1年B組の朝見・雛倉ペアだぁ!――」

マイクから試合の結果が伝えられる。
物凄く熱の篭った実況をありがとう卯柳さん。

今日は体育祭。小規模な体育祭。
学年の垣根を超えてクラス対抗で行うレクリエーションのようなもの。
バドミントンもミニサッカーも……全てがもろもろ同時に行われるため私達バドミントンを観戦していた生徒は
同じくバドミントンの試合待ちの人や終わった人、または他の競技の試合の合間に見に来る極少数の物好きな人。

試合相手と握手をしてコートから出る。
その際、私は軽く視線を巡らす。
応援してくれていた人は大体予想通り。同じ競技の人たちが数人と序盤で負けたミニサッカーの競技の人が少々。
その中には弥生ちゃんも居た。
弥生ちゃんは声には出していないが、少し興奮気味に喜んでいるように見える。
私は視線を逸らす……照れるとかそういうことじゃなく、私自身との温度差が少し後ろめたいのだと思う。

「おつかれさま……」

隣を歩く朝見さんが私に視線を向けずに言って、自分の荷物が置いてあるところに真っ直ぐ歩いて行く。
急なことで私は言葉を返せず、だけど、そのまま何も言わないのも悪い気がして朝見さんのところに向かおうとした時――

「雛さん! おつかれさまです!」

「……あ、うん、ありがと」

弥生ちゃんが駆け寄り声を掛けてくれたので、私は足を止めてお礼を返す。
少しだけ視線だけを朝見さんの方に向けると、一瞬目が合いそしてお互い同時に視線を逸らす。

あの体育倉庫での出来事から朝見さんのことを無駄に意識してしまって……。
それは相手も同じようで……距離が縮まったというより、接し方がわからなくなったというか。
以前の関係のが良かったとまでは言わないが、今は今で気不味い感じが耐え難い。
本当に朝見さんとは何かと妙な関係が続く。

「あの……雛さん?」

その声に視線を少し下に落として弥生ちゃんに向けると、少し上目遣いにしながら心配そうな顔で私を見ていた。
朝見さんに視線を向けていたのは一瞬だったが、その後すぐに弥生ちゃんへ視線を戻さなかったのが良くなかった。

「……ごめん、何?」

「えっと、やっぱり朝見さんと何かあったんですか?」

その言葉に私はすぐに口を開けなかった。
見学会前までは酷いことを言われていて、2学期中間考査まではお互い無視しあう関係で
そしてそれ以降は……なんだかよくわからない感じで。
当然それは、私や朝見さんに近しい人ならば気が付くほどの変化であり、弥生ちゃんが疑問に思うのもわかる。
だけど、見学会前後のことは説明できなくは無いが内容が内容だけに可能な限りしたくないし、中間考査前後はいまいち私も良くわからない。
考査の結果が朝見さんと同じ順位になったことが理由のひとつなのはわかるけど、それが全てではない。
朝見さんの中でそれをどう受け取ったのかも正直わからない。
そしてその後体育倉庫で起きた事に付いても話す訳にも行かないわけで……。

「……その…色々かな? 私も上手く説明できないから……気にしないで」

私は時間を置いてから曖昧な言葉を紡ぐ。
弥生ちゃんはその言葉に納得のいかない表情をしていたが
その後は深くは追求してくることは無かった。

390事例11「卯柳 蓮乃」と体育祭。2:2016/06/22(水) 23:59:45
――
 ――

「――これは圧勝っ! 生徒会、会長・庶務ペアをあっさり下し
バドミントンダブルス決勝進出を決めたもう一組は1年C組の霜澤・山寺ペアだっ!――」

マイクから試合の結果が伝えられる。
引き続き卯柳さんの実況。
だけど……。

『んー、ちょっと……おしっこ行きたいっ!』

実況と言うのは結構席を外すのが大変らしい。
しかも体育館から一番近いトイレは個室ひとつしか使えない上、バスケットとバトミントンの競技参加者も使うから
そこそこ混んでいるわけで……私にとってはそれはそれは嬉しいこと。

「――バドミントンダブルス決勝はシングルス決勝の後に開始します――」

そして、卯柳さんはこの後シングルス決勝の実況、ダブルス決勝の実況をしなければならなくて……。
でも、シングルスの決勝が終わった段階で尿意がそこそこギリギリなら彼女の性格上トイレに立つとは思うけど。

……彼女は1年A組の卯柳 蓮乃(うやなぎ はすの)さん。
それなりに元気が良いらしく、よくお喋りを友達と楽しんでいるのを見かける。
委員は実況をしているのだから恐らく放送委員なのだと思う。
『声』はそれなりに聞く機会がある人だけど、今まで本当に切羽詰った『声』というのは1〜2回と言ったところだと思う。

『まぁ、大丈夫だよね? でも……声出すから結構水分取っちゃったからな……』

……可愛い。シングルスの試合よりもずっと卯柳さんを見ていたい。

「はぁ……」

隣――――と言っても、3mくらいは、離れているのだけど――――で呆れたような嘆息が聞こえる。
視線を向けなくてもわかるが、それは朝見さん。

――……? どうして溜め息? これから始まる試合に興味がない? それは私も同意だけど。

どうにも私は勝負事に関しては余り関心が高くない。
勝敗に興味がないとまでは言わないが、昔の私と比べると……表現するならば“冷めて”いる。
雪姉は今も昔も負けず嫌いな性格――――その割りにはマイペースな所もあるのだけど――――だから
私と雪姉は容姿以外は余り似ていない――と今更ながら思う。

――というか、雪姉があんなだから、私が確りしなきゃならなくて“やんちゃ”を卒業しちゃったんだと思うし。

負けず嫌いな性格もその時に薄れていったのかもしれない。
昔のような“やんちゃ”の方が良かったとは思ってはいないが、もう少しそんな私が残っていた方がきっと良かったのだと思う。
今や軽いコミュ障レベルだし……。

――……いや、コミュ障に関してはもうひとつ思い当たる事――というか人が居るんだけどね……。

391事例11「卯柳 蓮乃」と体育祭。3:2016/06/23(木) 00:00:39
「――おっと! 早速紅瀬選手のスマッシュが決まるっ! 小さい身体でも鋭いショット!――」
『よし、実力差ありそう! 早くおしっこいけるじゃん!』

考え事をしている間に試合は始まり、早速点が入る。
よく見ると決勝の一人は椛さんで……これは早く決着が付いてしまうかも知れない。

そうなると私は少し残念だし、次の私達の試合が億劫に感じる。
試合に多少集中しつつ『声』にも注意を払う……うん、『声』だけ聞いていたい。

『うぅ……結構きつくなっちゃうかな……両方の試合終わるまでなんとか我慢できるとは思うけど』

私は顔の向きを変えずに視線だけで卯柳さんの様子を観察する。
パッと見るだけでは気が付かない程度だが
実況席のパイプ椅子の足に時折足を絡ませたり、両足を伸ばしてクロスさせたり……可愛い。
その少し落ち着きのない様子や『声』の大きさから察するに5〜6割と言ったところだと思う。
試合前はまだまだ仕草を見て取れなかったから、この早いペースでの尿意の上がり方は、卯柳さんが『声』で言っていた通り水分の取りすぎが原因。
取りすぎた水分の過剰分が腎臓でろ過され、彼女の下腹部に早いペースで熱水を送り込んでいる。

『んっ……やっぱやばいかな? でも、この試合の少し前から水分取るの止めたし大丈夫なはず…なんだけど……』

卯柳さんは自身が摂取した水分を計算して、そろそろ今のペースでの尿意の上がりは落ち着くと考えている。
実況と言う声を出す仕事は喉の乾きを感じてはしまうが、実際に身体はそれほど水分を必要としていないことが多い。
声を出すことで排出される水分は少なく、気温も高くないので汗としても出ないはずで、飲んだ量の殆どが余剰分と思っていいはず。

――……声か。声を出すといえばカラオケ……あまり歌いたくないけどまゆとか弥生ちゃんとか……誘って行くのもいいかも?
でも、この3人じゃトイレを言い出し難い空気にするのは少し難しいかもしれないし……
霜澤さんとか皐先輩とか入れたほうが……んー、この二人を誘うというのはハードル高い。
そもそも、誰であっても私からそういうのに誘うこと事態がハードル高いし……――よし諦めよう。

無駄な想像をして諦める決心をする独り舞台を終え、私は視線を卯柳さんの前、マイクなどが置いてある机に向ける。
500mlほどのペットボトルのお茶が1/3ほど残して置いてあるように見える。
その隣に200mlほどののジュースと思われる紙パックがストローが刺さったまま横倒しになっているから、これは恐らく空。
摂取した水分は大体500mlと言ったところだと思う。

何時トイレを済ませたかというのはわからないが
実況が席を離れ難いと卯柳さんが確り理解をしていたなら少なくともトイレは昼休みに済ませているだろう。
お昼に摂取した水分量とそれから飲んだと思われる約500mlの水分。
摂取した水分の8割くらいが余剰分だと思うと膀胱容量にもよるがそこそこギリギリになるんじゃないかと思う。

「――決まったっ! 圧倒的でした、バドミントンシングルス優勝は紅瀬椛選手ですっ!!――」

いつの間にか試合が終わる。
本当に卯柳さんばかり見てた気がする……――椛さんごめん、試合ほぼ見てなかったよ。
椛さんが私に気が付いて涼しい顔して軽く手を振っているのが物凄く申し訳ない。

392事例11「卯柳 蓮乃」と体育祭。4:2016/06/23(木) 00:01:18
「――それでは、次の試合はダブルス決勝です! これまで安定したプレイを見せてきた1年B組、朝見、雛倉ペア!――」

急に名前が呼ばれ慌てて立ち上がる。
隣では既に朝見さんが立ち上がっていて、私が立ち上がったと同時に呆れたように嘆息してコートに向かって歩き出す。
それに私は直ぐについて歩く。……卯柳さんに気を取られ過ぎた。

それと、直ぐに試合を始めるということは、卯柳さんはトイレを済ませずに続けて実況を行うつもりらしい。
実際、予定通りなら休憩を挟む場面ではないが、実況担当は同時にある程度の進行としての責任も任されているから
行こうと思えば行けるはずなので……試合が終わるまでは我慢できる自信があるのだろう。

「――そして、もう一組は今までの全ての試合で大差をつけて勝ち進んできた1年C組、霜澤、山寺ペアです!――」

コートに入り相手のダブルスペア、山寺さんと霜澤さんがネット越しに目に入る。
試合を確り見たわけじゃないけど、卯柳さんの実況の言葉通り今まで圧倒的な強さで決勝まできた相手。
山寺さんはC組で最もスポーツが得意な人だと聞いたことがある。例外なくバドミントンも上手いのだろう。
霜澤さんについては……よくわからない。
ただ今までの試合、私が見た限りで大きなミスはなく、得点になるショットも何度か見た気がする。

「(……雛倉さん。私、この試合に勝ちたいので集中してください)」

隣で小さな声で朝見さんの少し意外な声が聞こえてきた。

――集中か……正直言って卯柳さんの方に意識を向けたいんだけど……。

といっても、これはクラス対抗であり個人だけの問題ではない。
卯柳さんの『声』もまだ、これからって所なので此処はちゃんと集中しないといけない。
わざわざ、朝見さんも集中するように言って来たわけだし、確りしよう。

試合前の握手を済ませ、じゃんけんをする。
サービス権は私達に決まり練習で数回打ち合う。
練習が終わりシャトルを受け取りサービス位置に付く。
深呼吸して構える。
決勝は3ゲームマッチ……長くなりそう。

私はそんなことを思いながらサービスを打つ。
ほんの少し浮き気味にネット越え――

<バシュ>

……。

「――ほんの少し浮いたシャトルをプッシュで押し込むっ! 霜澤選手の見事な速攻です!!――」

――……いやいや、ちょっと浮いただけだし、あれをプッシュできるの?

最初のサービスだからロングサービスは無く、多少浮いてくると予想していた可能性もあるけど……。
涼しい顔して位置に戻っていく霜澤さんが若干癪に障る。

393事例11「卯柳 蓮乃」と体育祭。5:2016/06/23(木) 00:01:57
――
 ――

<バシュ><バシュ><バシュン>

「――これは…少し一方的な勝負になっていますっ」『これは……早く終わる? これならおしっこ余裕で間に合うかな?』

良い『声』……だけど、もう少し善戦したい所。
今は17-4……――霜澤さん強すぎない?

正直、私は山寺さんを警戒していたが、明らかに霜澤さんが強い。
クリア、スマッシュ、カット、ドロップのフォームが綺麗過ぎて打つ瞬間まで判断できないし、狙いが正確で……。

――朝見さん……勝ちたいって言ってたっけ……。
普通に無理な気がするけど……。

少し息切れをして良い表情でガッツポーズをしてる霜澤さんを見て考える。
C組で最も運動が得意なのは山寺さんで間違いないが技術は明らかに霜澤さんが上。

策は一応思いつくが上手くいく保証もなく、はじめるには遅すぎる気もする。
でも……やってみる価値はあると思う。

「(……朝見さん、勝ちたいなら卑怯かもだけど……霜澤さんを狙う?)」

誰よりも汗を掻き、息が上がっているのは霜澤さん。
だったら、運動が得意と言われている山寺さんを狙うよりも
そういった情報がなく、現状山寺さんよりも体力が無さそうに見える霜澤さんを狙えば、きっと穴ができる。
問題はこのゲームはもちろんだけど、2ゲーム目も多くの点を前半で捨てることになり
また、試合終了までに霜澤さんの体力が尽きるとは限らない事だけど――

「(それしかなさそうですね……)」

朝見さんは驚いた顔や考えるような仕草もせずにそう答えた。
私の言ったことを直ぐに察したところを見るに
朝見さんもこの策に考え至っていたのかもしれない。

相手のロングサービスが来て、霜澤さんのいる方を確認してカットかドロップを打って少しでも前に歩かせる。
霜澤さんがヘアピンで返せばクロスにヘアピン。ロブで返せばカットかドロップ、状況によってはクリアで返す。
言うだけなら簡単だけど、力量差が歴然で思うように粘れないからあっという間に1ゲーム目を取られる。

394事例11「卯柳 蓮乃」と体育祭。6:2016/06/23(木) 00:02:46
――
 ――

「――バドミントン決勝、激戦の勝者は霜澤、山寺ペアの1年C組っ!!――」『よかった……これならなんとか間に合いそう』

……。
結果から言って負けた。
作戦自体は上手く行って2ゲーム目は19-19まで追い詰めてから相手の2点先取。
初めの1点は霜澤さんの隙を突いたつもりで打ったシャトルを山寺さんのフォローにより……。
最後のもう1点は……決めれるはずの場面で聞いてしまった『早く、おしっこ行きたいっ!』に惑わされて……。
しかも、両方とも私のミス。……勿体無いのと申し訳ないのが合わさりよくわからない居心地。

試合を終えて相手と握手を交わす。
疲れてはいるが凄く満足そうな霜澤さんと笑顔の山寺さんが眩しい。

「勝ちたい」と言っていた朝見さんにはどんな顔をして何を言えばいいのか。
握手を済ませてからそんなことを考えていた。

「……えっと――」

とりあえず謝ろうと思ったが「ごめん」なのか「ごめんなさい」なのか「すいませんでした」なのか
心底どうでもよさそうなことで悩んで続きを言えないでいると――

「最後のは……いえ、そのことよりも…ありがとう」

突然のよくわからないお礼を言われ反応できずに居ると「とりあえず……おつかれさま」と続けて言われて
私も同じ言葉を返した。

――……何のお礼? …頑張ったから労い? そんなわけないか。

自分の荷物があるところに戻る朝見さんの後姿を見送る。
最初に言い始めていた「最後のは……」の後も少し気になる。多分、フォローの言葉か、突き刺すような罵倒だったのだとは思うけど。
あれは、卯柳さんが――

――……って! 卯柳さんは?!

すっかり試合の余韻――――余韻と言えるものなのかわからないけど――――で忘れていた。
私自身の尿意も昼休みから上がり続けていて、そこそこ溜まってきている。
卯柳さんの尿意の大きさもそれなりだから、集中すれば聞こえ――

「あの、雛倉さん」

「っえ、あぁ、山寺さん?」

そこには山寺さんだけがいて霜澤さんの姿は見えない。

「ちょっといい?」

私に軽い手招きをしてコートの外――――未だにコートから出ていなかった――――に呼ばれる。
正直卯柳さんが気になる。移動中に少し意識を集中させてみたが、『声』が聞こえない。
『声』が届いていないだけと思うから恐らく体育館の外――校舎か渡り廊下横のトイレにいるのだろう。

コートから出て、山寺さんが向き直り笑顔を向けて口を開く。

「朝見さんとの関係上手くいってるみたいだね」

――……あ…そっか……。

山寺さん、見学会の時のこと覚えてくれていたんだ。

「……まぁ…うん、まだ微妙だけど…。というか、あんなこと言って置いてアレだけどね」

「うんうん、ずっと仲良くなれないとか言って置きながら、私に相談もなしに解決しちゃうんだからー」

そうだった。
山寺さんあの時、凄く格好良い台詞を私に言ってくれていた。
「いつでも私を頼って」「友達だからね! 困った時は助けるよ」
まぁその格好良い台詞を言っているときに溜まっていた恥ずかしい水は
溢れさせちゃったんだけど。

そんなことを考えていると、山寺さんは笑顔を止めて少し困ったような顔をして口を開いた。

「あのね――」

395事例11「卯柳 蓮乃」と体育祭。7:2016/06/23(木) 00:03:57
――
 ――

山寺さんとの話を終えてから、今度はまゆや弥生ちゃんに捕まり
ようやく開放された私は体育館を出て再度『声』に意識を傾ける。

『此処、個室ひとつしか使えないんだった……校舎の方に行こうかな?』
『やっと次だよー、もう、さっさと修理してよー』

複数の『声』が聞こえる。
個室がひとつしか使えないということは体育館横のトイレだろう。
と言うか、私まで『声』が届きそうな位置にあるトイレはそこだけ。

だけど、聞こえてくる『声』はどれも大きくなく、切羽詰っている様子はない。
卯柳さんの『声』も聞こえてこない。

――……出遅れたし…もしかして、もう済ませちゃった?

一瞬そう感じたが、私が体育館で話をしていたのは長く見積もっても精々5分。
『声』の中に『やっと次だよー』という内容があったことを踏まえると
並んでいるのは一人や二人では無さそうな気がする。

そう思い、視線をトイレのあるほうに向けるとトイレの入り口――――個室ではない――――付近に
数人並んでいるのが見て取れる。
5分前もあの状態だと仮定すると、既に済ませたと言うのは流石にないはず。
だとすると――

――……校舎に戻って2階のトイレに向かった?

体育館から一番近いのはそこだ。
私にとっては少し嫌な思い出のあるトイレだけど……。

とりあえず、渡り廊下を小走りに歩みを進め、校舎へ向かう。
もしかしたらもう済ませた後なのかも知れないが、体育館横のトイレの混みようだと
こちらに流れてきている人もそれなりに居てもおかしくはない。

校舎に入り階段を上る。
上から人の気配を感じ同時に『声』が聞こえてきた。

『こっちも混んでるのか……』
『ちょっと時間掛かったけどあっちよりかはマシだよね? 個室多いわけだし』

複数のそんな『声』の中に一際大きい『声』が聞こえる。

『あぁもう! 後何人?? ……はぁ、直ぐ回ってくると思うけど』

それは卯柳さんの『声』。
私は階段を上り切るとトイレから5人くらいが溢れるように並んでいるのが目に入る。
その後ろから2番目に卯柳さんはいた。
私は行列の最後尾の方に歩みを進め、不自然に見えない程度に視線を卯柳さんへ向け観察する。

仕草は若干落ち着きがない程度で、意識して見ていないとわからない。
切羽詰ってはいるが、まだ余裕も残してる……そんな風に感じる。

396事例11「卯柳 蓮乃」と体育祭。8:2016/06/23(木) 00:04:54
私は最後尾に並ぶ。
中は恐らくフォーク並びだろうから、行列は全部で8〜10人程度だと思う。
バドミントンのシングルス、ダブルス決勝のあと、それとバスケットの決勝も私達の試合を終えた直後くらいに終わったから
観戦者や選手が詰め掛けた感じなのだろう。うん……良いタイミング。

『はぁ……やっぱ、シングルスの試合の後に済ませとけばよかったかな……こんなにしたくなるなんて……』

良い『声』が聞こえ、私の二つ前に並ぶ卯柳さんの身体が右へ左へ少し揺れる。……可愛い。
だけど、個室の数から考えて10分も掛からずに卯柳さんは済ませてしまう……ちょっとそこは残念。

そんなことを考えていると校内のスピーカーにマイクが入るのを感じた。
その直後、スピーカーから声が聞こえる。

  「――体育祭の全ての競技が終了しました。順位発表と閉会式を行います。生徒の皆さんはグラウンドへ集合してください――」

――そっか、体育館での試合が最後の競技だったんだ……。

私は視線を卯柳さんに向ける。
トイレに並んでいた人が一人、また一人行列から抜けてゆく中、卯柳さんはまだ動かない。

『うぅ、どうしよ……順位発表とか私が読むわけじゃないはずだし ちょっと遅れてもいいのかな??』

私の前の人が列を抜け、卯柳さんの全身が見える。
身体を仄かに揺らしたりして極力仕草を抑えてはいるけど……うん、とても可愛い。

前に並ぶ人が少し減った影響で、後何人並んでいるのか判るようになる。
卯柳さんの前に5人。個室は4つだから、全員分入れ替わってもまだ直ぐには入れない。

『まだ、5人っ……し、仕方が無い、閉会式に遅れたら迷惑かけるかもだし…予定では15分程度で終わるはずだからそれくらい大丈夫……』

そう『声』にして、卯柳さんは済ませることを諦め、列を抜ける。
私も少し遅れて列を抜け、卯柳さんから少し距離を取りつつ運動場へ向かう。
卯柳さんの尿意がもっと切羽詰っていたなら、此処で済ませていただろうけど
少し余裕があったばかりに、後回しに……。

少し卯柳さんのことが心配ではあるが、正直なところ凄く期待もしている。
15分で終わるとは言うが、集合に10分程度は掛かるだろうし
次トイレに行けるチャンスはどれだけ早くても30分程度先になると思う。
利尿速度は大分落ち着いてはいると思うけど、それでも30分は長い。

『大丈夫、これくらいならまだまだ我慢できるし……』

前を歩く卯柳さんを私は無表情で――でも内心ニヤニヤしながら見る。
仕草は歩いていると全く判らない。並んでいる時と比べて『声』の大きさも控えめ。
トイレに並ぶという行為は、もうすぐと言う気持ちの先走りとじっと待つという行為をしなければならず
それは我慢には辛い状況で尿意は当然大きく膨らむ。
対して今の状態は歩くことで気が紛れるし、もう直ぐトイレと言う油断も無い。
だけど、閉会式はずっと立ったまま行うことになるはず……。
油断が無くても、じっと待つのは辛い筈。

――……私の位置から卯柳さんが見れるといいんだけど。

そんな期待をしつつ、下駄箱から運動靴を出して履き、運動場へ向かう。
運動場には、全校生徒の7割くらいの人が既に集まり、整列を始めていた。
私は自分のクラスの方に歩みを進める。

『はぁ、トイレに行きそびれちゃったなぁ』
『おしっこ、出来なかったじゃん』

意外というか、やっぱりと言うべきか。
そこそこの生徒がトイレを済ませることが出来なかったらしい。
運動場のトイレは個室が少なくあまり清潔とはいえないはずだったから
体育館に居た人以外もそういう状況に陥っていてもおかしくない。

397事例11「卯柳 蓮乃」と体育祭。9:2016/06/23(木) 00:05:56
自分のクラス付近まで来ると、まゆが走ってこっちに来る。

「あやりーん、人数確認するのクラス委員長の仕事らしいよー」

……体育委員の仕事じゃないのか。
私は仕方なく、足りない人が居ないか確認するため一番前に向かい歩く。

『うー、したいしたいっ! でも我慢我慢っ! 終わったら教室戻る前にどこかのトイレに駆け込まなきゃ……』

卯柳さんの……うん、良い『声』。
そして、前の方まで歩いてくると整列している卯柳さんが居て
視線を向けると、片足を揺らし足の指先で地面をグリグリしたりして我慢している姿が目に入る。……良い、物凄く可愛い。

可愛い姿を確認してから、上機嫌に……と言っても表向き無表情でだが、一番前から居ないクラスメイトの確認をはじめる。

……。

――……あーうん、出席番号1番居たよ。凄く睨んでた気が……いやいや私何もしてないしっ!

出席番号1番は朝見さん。当然だ、“あ”から始まる苗字はB組では朝見さんだけだ。
もしかして、卯柳さんに視線を向けていた事、私がそれを楽しんでいる事に気が付いている?
あの一瞬で気が付いていたのだとしたら……流石と言うか、妖怪……。
というか、私の嗜好をどうやって見抜いたのか……今更聞けないけど気になる。
周囲にバレるような行動をしていたつもりはないんだけど……。

そんなことを考えながら、私は確認を進める。
私のクラス、1-Bは優秀らしく、全員揃って居た。もしかしたら私が一番遅かったのかもしれない。
確認が済むと列の一番後ろに居る文城先生に伝え、私本来の位置に付く。

『えっと、まだなの? んっ、本当結構辛い……やっぱ済ませてこればよかったかなぁ……』

私は上半身を少しA組側に倒して、前の方に居る卯柳さんを見る。
トントンと地面をつま先で蹴るような仕草を、右足、左足と交互にしている。
完全にじっと待つというのは相当厳しい状態なのかもしれない。
『声』の大きさもトイレに並んでいた時くらいかそれ以上に大きくなっていて
強い尿意を感じていることがわかる。

他の学年やクラスからもいくつか『声』を拾うことも出来る――――一番遠い3年A組辺りまでは届いていないだけかもしれないが――――が
明らかに一人、卯柳さんの『声』の大きさだけが頭一つ抜きん出ている。

――……まぁ、……私も結構我慢してる気がするけど……。

お昼前から感じていた尿意を開放することなく確り溜め込んでいるわけだけど
決勝後は十分汗を掻いたし、水分補給はほぼしていないし、急激に辛くなってくることはない筈。

『っ……もうっ! こんなにおしっこしたいのに、一体いつになったら始まるのっ! 早く、はやくぅ……』

一向に始まらない閉会式に尿意だけが募り、卯柳さんは苛立ちと焦りが『声』に溢れてきている。
遠目で見ても左右へ揺れている身体……ただ、苛立っているようにも見えなくは無いけど
見る人が見れば、尿意に耐えている姿だと理解するには十分に思える。

398事例11「卯柳 蓮乃」と体育祭。10:2016/06/23(木) 00:06:54
そして、マイクの入る音がして静かにするように指示が出され、私語やざわざわとした音が小さくなる。
ようやく、閉会式が始まるらしい。

『はぅ、ふぅ……やっと始まる……でも、んっ、どうしよう、我慢しなきゃだけど…結構っ……というか、もしかしてマズイ…かも?』

静かになり、皆が騒がず前を見るようになったため、卯柳さんも仕草を抑えて我慢を続ける。
『声』は物凄く切羽詰っていて、10段階評価で言うなら8〜9くらいの尿意に抗っていて……限界は直ぐそこに迫っているようだった。

『あぁ……なんで、私後回しなんかに…んっ……しちゃっ、たんだろう? …もうちょっと待ってればおしっこ――すっきりできたの…にっ……』

後悔。
そんな思いが卯柳さんから『聞こえる』。
始まってまだ2〜3分……閉会式はあと10分以上ある。
そして、その10分と言う時間は個室に入る時間とイコールではない。

――……どうなんだろ……我慢…出来るのかな?

私は鼓動を早くさせる。
心配しているのか期待しているのか――多分両方で。
だけど、全学年が居るこんなところで失敗しちゃうと……可愛いんだけど…やっぱり物凄く心配。

『ふぅ…ふぅ……んっ〜〜、はぁっ……やばい…、やばいよぉ……どう、しよう? ――っ……が、我慢しなくちゃ……』

時折『声』が大きくなる。
そんな尿意の波を受けている時は足をクロスさせて、体操着を握り締め、無駄に下に引っ張ったり。
前傾姿勢になったり、しばらく俯いたり……。
仕草が次第に抑えられなくなって、その行動が目に付いた人は
直ぐに彼女が何に追い詰められて居るのが判ってしまうほどに……。
そんな状態に陥ってしまうほどに、彼女の膀胱は限界まで張り詰めている。

『んっ……! はぁぁ…本当にやばい……あとどれくらい? もう、我慢できない…かも、……んっせ、先生に言いに行く?』

卯柳さんは今の状況を打開するために考える。
思いつくのは最もポピュラーな方法で、それはあとほんの少しで終わるはずの集会を抜け出すための手段。
それを実行するべきか卯柳さんは悩み、決めきれない。
抜け出してしまえばきっと許可はもらえるだろう。
だけど、それは同時にあと10分にも満たない時間が我慢できないと言うことに他ならず
ギリギリ一杯まで膀胱を張り詰めさせてそれを必死になって抱えてますと宣言するようなもので……。

『やっぱダメ……あと少し我慢すれば良いだけなんだから……』

授業中と言う環境下ならば、卯柳さんは例えあと10分で終わるとしても申し出ていたかもしれない。
だけど、今は授業中ではない……全校生徒が居る前で、マイクで話す中何も言わずに先生のところへ向かうこと……。
それは当然授業中に手を上げてトイレに行きたいと申告するよりもハードルが高い。
しかも、先生は一番後ろで卯柳さんは結構前の方……物凄く目立つはず。

399事例11「卯柳 蓮乃」と体育祭。11:2016/06/23(木) 00:08:01

『んっ――はぁ、ふぅ……お、お願い……早く、はやく終わってっ……』

『声』がまた大きくなる。
後ろから確認できる仕草も激しさを増していて、時折ハーフパンツを必要以上に引き上げているのがわかる。
前で引き寄せられ吊あがったハーフパンツは足の付け根に密着して……本人は気が付いていないかもしれないが
後ろから見ると下着の筋がはっきりと見えて……なんというか、艶っぽい――と言うよりもっとストレートにえっちぃと言うべきか。
だけど、押さえずにどうにか宥めようとするにはそれくらいしないとどうにもならないのも『声』の大きさからして理解できる。

『あぁ……っ! んっだめ……本当、やばい……あ、あぁだ、ダメっ―!』

ただでさえ大きい『声』がさらに一際大きく、叫び声のようにして上げられる。私は卯柳さんから目が離せなくなる。
本当にどうしようもない大きな波に晒され、身を縮こまらせて今度は右手で抑え込む仕草が見える。
大きく身体は動かさずじっと抑え込んだまましばらく動かずにいる。

『んぁ……くぅ、はぁ……だ、大丈夫、我慢でき…た……で、でも、私…本当もうっ――』

本当に自身が限界であることを自覚して、多分、最悪の結末が脳裏を過ぎっているのだと思う。
いつ失敗してもおかしくない状況を見守っている私も焦り、手に汗を握ってしまっている。
もし、もっと近くに卯柳さんが居たら、きっと熱い息遣いが聞こえるだろう……。

『あぁもうっ! さっきからちゃぽちゃぽ、聞きたくないのにっ……何でお茶もって来ちゃったんだろ……』

――……お茶?

『声』のなかにその単語を見つけて、卯柳さんを観察する。
右手は落ち着き無く動いたり、体操着の裾を掴んだり、ハーフパンツを掴んだり……いろいろしていたが
左手は胸辺りにずっと添えられたままで……。
どうやらお茶のペットボトルはずっと左手で持っていたみたいだった。
殆どが後姿でしか見ていなかったため、全然気が付かなかった。
人によるところも多いが、水の音というのは尿意を意識している人に対しては
より尿意を意識させたり、波を引き起こしたりと非常に厄介な存在。
中身が中途半端に入ったペットボトルを持っているということは
身体を揺するたびその音を聞いていたわけで……。

『あ、あっ……んっ〜〜だ、ダメ、我慢だから…我慢、がまん、がまん、して、我慢しなきゃ――っ』

時間にしてたったの1分前に叫び声のように上げられていた『声』がまた聞こえてくる。
波の間隔は短くなり、本当に溢れるギリギリまで押し寄せて卯柳さんを攻め立てる。

  「――以上で閉会式を終わります――」

そのマイクからの声を聞いて、周囲がざわざわと少し騒がしくなる。
順位発表全く聞いていなかったが――――興味ないから別にいいのだけど――――いつの間にか式は終わっていた。

400事例11「卯柳 蓮乃」と体育祭。12:2016/06/23(木) 00:08:50
『お、終わったっ……はやく、早くトイレ、おしっこ…はやくぅ……』

少し安心した、でもまだ焦りも十分に残した『声』。
前屈みになって必死に押さえ込んだままの姿勢で、卯柳さんは教室に戻る指示を待つ。

  「――混雑すると思うので3年生から順に、1分後に2年、さらにその1分後に1年が教室へ戻ってください――」

『う、嘘……2分? っ……だ、ダメ、どうしよう…我慢……あぅ、』

マイクからの残酷な指示。
当然全校生徒をいっせいに下駄箱に向かわせるのはよくない。
下駄箱付近は混むし、怪我をする可能性も当然ある。
だから、マイクから聞こえた指示は正しい。
だけど、卯柳さんは限界ギリギリまで本当に必死に我慢して、それなのに後2分の延長戦。

『だめっ、だめぇ……本当、無理っ……2分してからあんなに混雑した…下駄箱…間に合わない、我慢っ――でき…ない』

緊急事態なんだから、3年からなんて言葉守らず、一目散に校舎へ向かえばよかったのだけど……。
余りにも強い尿意に、正常な判断力を失っているのかもしれない。
かといって、今更走って下駄箱に急いでも、結局は混雑に巻き込まれることになる。

「ねぇ蓮乃、あんた大丈夫? トイレ行ってきなよ、下駄箱は混んでるけど、今なら運動場のトイレなら空いてるんじゃない?」

――っ!

卯柳さんに話しかけた友達の言葉が聞こえ、私も運動場のトイレの存在を忘れていたことに気が付く。
確かにあそこなら校舎に入るために下駄箱を通らなくて良い分、時間をかけずにトイレまでたどり着ける。

「っ! そ、そだね……ちょっと行ってくるっ」

卯柳さん列から離れ運動場のトイレに向かう。
だけど、卯柳さんに掛けられた言葉は私の居るところくらいまで聞こえる程度には大きく
それを聞いた、同じくトイレに行きたかった数人の生徒が運動場のトイレに向かってしまう。
私も周りのその反応に乗じて、運動場のトイレに向かうことにした。
幸い、多くの生徒が雑談などで列を崩しても、教師などから指導が無いところを見ると
体育祭の余韻も考慮し、そういった行為を容認しているようで、余り目立たずに動くことが出来た。

401事例11「卯柳 蓮乃」と体育祭。13:2016/06/23(木) 00:09:50
「蓮乃、大丈夫かな?」
「えー、なにそれ? 大丈夫だって、高校生がおもらしなんてありえないじゃん?」

去り際に聞こえた声に私は振り向く。
「高校生がおもらしなんてありえない」そう言ったのは卯柳さんと同じクラスの星野さん。
それがありえることだなんてまるで思っていない……。
周囲に居る何人かの人は今の台詞が重く胸に突き刺さったはず。重くとは言わないが当然私にも……。
……彼女には是非ともその台詞を覚えていて欲しい。
もし“そのとき”がきた時、どういう『声』を聞かせてくれるのか……。

……星野さんに悪気は無かったのだろうけど
それでも私は心の片隅で我慢できないと言うことを経験して欲しいと思ってる……。

私は自分に呆れ、嘆息してから視線を卯柳さんの方へ戻した。

『っ! だめ、私以外の人も…運動場のトイレに? んっ――い、急がなきゃ…でも……走ったら、でちゃう――かも……』

卯柳さんは少し前屈みで慎重な足取りで運動場のトイレに向かう。
対して、他の生徒は小走りに向かう人も居て、二人が卯柳さんの前を行ってしまう。
卯柳さんの友達が発したあの言葉以前に、運動場のトイレに向かった人も居るかもしれない。
運動場の個室は少なく2つ……それが意味することは卯柳さんにもわかっているはずで。

運動場のトイレ。
運動部の部室と体育倉庫がある古い一つの建物の一角がトイレになっている。
体育の時以外だと、外で行う運動部くらいしか使用しないトイレ。
卯柳さんはそのトイレに入る。私も直ぐにその後を追うようにして入る。

「(はぁ……ふっ――んっ…)」『っ……やっぱり並んで――っ、あぁ、だっ、ダメ……我慢しなきゃ…あぅ…んっ――やぁ……っだ、だめっ〜〜』

入ると同時に卯柳さんの必死な我慢姿と『声』を目の当たりにする。
足をクロスにしてプルプル振るえ、荒い息を押し殺して、片手は大切な部分を必死になって押さえてる。
その押さえている所を見て――――……と言うより凝視してたと思う――――私は気が付く。

――……っ、卯柳さん……少し濡れてない?

押さえている手で見難いが濡れてるように見える。
自身の鼓動が早くなるのを感じながらその震える足の付け根から目が放せない。
そして、急に動きが止まり全身を緊張させて抑え込む手に力を込める。

「(あぅっ……)」『やっ――あっ…あぁ! ――っ…』

『声』にならない『声』をあげ、目の前で押さえ込まれたハーフパンツの染みは少しずつ面積を広げる。
何度も押さえなおすたび、その染みはにじみ出るように広がり、卯柳さんの手を濡らす。

――……卯柳さん――もう、本当に限界なんだ……。

前には二人並んでいる。二つの個室は未だに閉まった状態。
順番を譲って貰わないと間に合わなくなる。――いや、もう間に合わないのかもしれない。

402事例11「卯柳 蓮乃」と体育祭。14:2016/06/23(木) 00:10:56
『〜〜〜っ……も、もうだめぇ!』

卯柳さんは急に振り向きこちらに向かって駆け出す。
私はぶつかりそうになり、でもどうにか身体を翻して避け、背中がトイレの壁に当たる。
前に並んでいた生徒が、後ろの騒がしさに少し振り向くが、個室から水の音がして直ぐ前を向く。
私は個室の方ではなく、卯柳さんが飛び出していった外に視線を向け、後ろ手で壁を押して後を追う。

――……他のトイレ? いや、あの状態じゃ間に合わないと思うし――

「――っ!」

トイレから出ると目の前に人が居て足を踏ん張り、既の所で衝突を避ける。

「(………変態)」

ぶつかりそうになった相手を確認する前に目の前の人はそう囁いた。

「っ……、ぁ、朝見、さん……」

目の前には怒っているような呆れているようなそんな表情の朝見さんが居た。
私は直ぐに視線を逸らす。その逸らした視線の端で卯柳さんが此処の裏手――運動部の部室の方に駆けて行く姿が見えた。

「……えっと……見逃し…て?」

どうしていいかわからず、だけど、卯柳さんの後を追いたい一心で目の前の朝見さんにそう口にしてしまう。
内容はお願い事の筈なのになぜか疑問系……。
朝見さんはそんな私に心底呆れたらしく大きく嘆息する。
その後、少し冷めた目で私を見据えて口を開いた。

「いいけど、……あの子…助けが必要そうなら力になってあげることね」

それだけ言って私から離れていく。

――……助けが必要そうなら……か。

助けが必要になるまで見守っている私がすべき罪滅ぼしと言ったところなのかもしれない。
……。

私は卯柳さんの向かった方になるべく足音を立てずに走る。

『んっ……あぁ、か、隠れるとこっ此処じゃ道路から……』

まだ『声』を聞く限り我慢は継続できている。
部室側は道路に面していて、卯柳さんは身を隠せるところが無く焦っていて……。
それはつまり、どうしても我慢できないから野外で済ませてしまおうと言う考えで……うん、堪らなく可愛い。

403事例11「卯柳 蓮乃」と体育祭。15:2016/06/23(木) 00:11:30
『あぁ、っ…だめ、もう、此処しか――』
<ガチャ>

扉の音……。
私は裏手への角から顔だけを出して――――怪しすぎる――――様子を見る。
卯柳さんの姿は無く、開けられていた扉は一番手前……確か使われていない空き部室。
中からはパタパタとした足踏みの音と、カチカチとした音が聞こえる。

「あぁ、なんで、電気つかな――っあぁ! で、ちゃう……」『どうしよ、此処トイレじゃないのにも、もうっ……』

どうやら、電気が点かないらしくスイッチを何度も触っているらしい。
この部室に窓は無いので明かりは扉からしか入ってこない。つまり、扉を閉めると真っ暗になるわけで……閉められないと言うこと。

「だめ、もういい、それより……っ、あぁ…なにか…んっ…ふぁ――だ、めぇ……」『容器……受け止めれる…なにか……』

電気を点ける事を諦め、扉を開けたまま卯柳さんは次の行動に移る。
探しているのは容器――でも、中で聞こえるのは足踏みの音ばかりで他の音はしない。
私は静かに開いた扉に寄り、扉の蝶番側の隙間から中を覗く。
見えたのは視線を巡らすだけで容器になりそうなものを探す姿。
手を伸ばしたりする動作すらする余裕が無くて……。

「っ……ふっ…んぁ……――ぁ」『あぁ、あ…またでちゃ――っ』

足踏みが止まり、また身体を硬直させる。
ハーフパンツを抑え込む指先だけが後ろから見えて、その押さえ込まれた部分の染みがさらに広がる。

<ボチャン>

――っ!

予想していなかった何かが落ちる音に私は驚く。
その音は卯柳さんの足元から聞こえ、私はその正体を確認するため視線を少し下に動かす。
それが何か確認すると同時に『声』が聞こえた。

『お、お茶っ……もう、これに……じゃないと、部室を汚しちゃう……』

卯柳さんが片手でずっと持ち歩いていた飲み欠けのペットボトルのお茶。
それを拾うため、卯柳さんはしゃがみ、同時に押さえていた手は放され代わりに踵があてがわれる。
腰を振るようにして踵に体重を掛けて……実に眼福な光景。

404事例11「卯柳 蓮乃」と体育祭。16:2016/06/23(木) 00:12:14
――……それにしても、部室を汚しちゃう…か。

最悪そのまま部室の床へ……そう思っていたがそれには抵抗があるらしい。
空き部室ではあるけど確かに物凄く汚れているわけでもなく
よく見ると一部部活が倉庫として利用しているようで、それらしい道具も確認できる。
そうなると、そのまま床へする行為には罪悪感が伴うだろうし
当然それは“此処で済ませた人が居る”と言う噂に繋がる。
その恥ずかしい失敗の発覚が今日になる可能性も低くなく、もしそうなってしまえば
体育倉庫のトイレへ向かった人に容疑が向けられる可能性も否定できない。

そこまで考えて……ということではないとは思うけど
彼女の判断は正しい。
ここでしてしまった恥ずかしい行為の痕跡は残すべきではない。

「はぅ……んっ、開いたっ」

下半身に目を奪われつつ考えている間に、どうやらペットボトルの蓋を開けていたらしい。
でも確かあの中にはまだ3分の1ほどのお茶が残っていた筈。

「っ……」『絶対溢れちゃう……の、飲むしか……』

500mlの容器、今のままでは350ml足らずしか入らない。
限界まで我慢してきた下腹部いっぱいに溜め込んだそれを受け止めるには恐らく少なすぎる。
途中で止めるって方法もあるけど……それは唯でさえ大変なことな上
長時間の我慢で疲弊しきった外尿道括約筋ではさらに難しいはずで。
彼女が取った方法は残った分を飲み干し、500ml一杯まで入れられる様にすること。

「っごく…ごく――」『んっ…早く……っや…待っ…っ〜〜〜』

上を向き喉を鳴らしながら飲む。慌てて飲むその口元からは飲みきれない余分なお茶が首筋を流れる。
だけど、溢れ出しているのは口元からだけじゃない。溢れさせちゃいけない、大切にしまって置くべき恥ずかしい熱水。
腰は揺れ、体重の掛けられた踵へその熱水は徐々に広がって行く。
限界まで我慢しているときに水分を入れると言う行動。
それに、上を向くことで背筋が多少なり伸ばされ下腹部を圧迫。
さらに、あと少しで済ませることが出来る油断。
強烈な波に抗え切れず、ハーフパンツを越えて溢れ出す。

405事例11「卯柳 蓮乃」と体育祭。17:2016/06/23(木) 00:12:58
「っぷはぁっ――く、早くっ……あぁ…ぁ」『だめ…とまんなっ――もれちゃ…でちゃう〜〜!』

<ジュウ…ジュウウ……>

ペットボトルのお茶を飲み終わったときには、既に飲んだ分以上に溢れていて……。
狭い部室に断続的に響くくぐもった音。
踵から流れるその音を発した熱水が部室の床に水溜りを作る。
そして、卯柳さんは慌てて立ち上がり大きな染みの付いたハーフパンツ――――この言い方でも言い足りないほどに濡れてるけど――――を
下げるため手を掛ける。……だけど――

「ぁ…ぁっ……やぁ…下りな……ひ、紐が…」『やだ、やだ……早くっ…だめ、暗くて見えな――あぁっ!』

卯柳さんはハーフパンツを下ろせないままに倒れるように屈んでしまう。
それでも、空にしたペットボトルを慌てて股の下にもって行き少しでも被害を抑えようとする。
膝立ちに近い姿勢で、ハーフパンツの上からペットボトルをあてがう。
だけど、殆どが足を伝い床に水溜りを広げる。
肩で息をして、時折息を詰まらせながらその恥ずかしい失敗を続ける……極めて可愛い。

【挿絵:http://motenai.orz.hm/up/orz63495.jpg

『っ……だめ、全然入んないし、止まんないし、脱げなかったしっ……臭いが…水溜りも……誰か覗いたら此処でしちゃったって……わかっちゃうのに……』

まだ止める意思が残っているのかしばらくはそんな『声』が聞こえる。
だけど、限界まで溜め込まれた熱水はそんな不安をねじ伏せ、我慢する気力も奪い去り溢れ続ける。
いつしか『声』が聞こえなくなる。

時間にして2分にも満たない時間。
恥ずかしい水音が止み、荒い息遣いと時折鼻を啜るような音だけが聞こえるようになる。
股の下で両手で支えられたペットボルトには100mlほどしか入っていない。
だけど、床にはそのペットボトル一本分を逆さま向けても足りないくらいの大きな水溜りを作っていた。

「うぅ……っ…やっちゃった……」

安堵や後悔、困惑、呆然……。
いくつもの複雑な思いを抱きながら水溜りの上でそう囁く。

服も靴も濡れてどうしようも無い状態……。

――……朝見さんに言われたからって訳じゃないけど……。

途方にくれてるであろう彼女を見過ごすなんてことできなかった。

406事例11「卯柳 蓮乃」と体育祭。18:2016/06/23(木) 00:14:19
「……あ、あの……」

私は扉の中に向かって小さく声を発する。
中の彼女は背筋が伸びて硬直させる……可愛い。

「……大丈夫…誰にも言わないから」

私はとりあえず、卯柳さんから恐怖心を取り除くための台詞を選ぶ。

「ち、ちがうのっ、これ、お茶零しただけ…で……」

卯柳さんは振り返り今更ながら言い訳を始めるが
匂いも濡れ方も誤魔化すには無理がある。
卯柳さんもそのことを頭では理解していて……でも、失敗をどうしても知られるわけにも行かなくて。
真っ赤になってどうにか信じて貰おうと身振り手振りで……あぁ、抱きしめてそのまま撫で撫でしたい。

「……とりあえず、着替えと拭くもの持ってくるから…扉を閉めて隠れてて」

私は混乱している卯柳さんを敢えて無視して話を進める。
HRが始まるまでそれほど時間も残されていない。
時間があったなら冗談交じりにちょっとした言葉攻めなんて選択肢も……うん、想像するだけで可愛い姿が浮かぶ。
名残惜しいが扉を閉めて私は走る。

下駄箱は経由せずに、体育館の渡り廊下まで直接行ってそこで靴を脱ぎ保健室へ。
もしかしたら中にけが人とか保健医とか居ると思ったがそんなことはなく、あっさり服と下着とタオル、それと雑巾を手に取る。
そのまま持っていくと誰かに見られたとき詮索される恐れがあるので、手近にあるビニール袋に全て入れて持ち出した。

そして再び空き部室前。
私はノックして卯柳さんを呼び着替えを持ってきたことを扉越しに伝える。

「ありがと……そこに…置いといて、くだ…さい」

中から鼻声で返事が帰ってくるが開けてはくれなかった。多分鍵も掛けてある。
扉を閉めたら灯りが点かないのだからほぼ真っ暗と言っていい筈で……
それでも、扉を開けないのはそれ以上に彼女の“関わらないで”と言う思いが強いから。
諦めて、物だけ置いて去るべき……でも――

――……慰めて上げたい。

私は扉のノブに着替えなどが入った袋を掛けてその場を離れ
だけど、足音を立てずに直ぐに扉の前に戻る。
そして、中から鍵を開ける音、そして扉が開かれると同時に私はノブを握り扉を思いっきり引いた。

407事例11「卯柳 蓮乃」と体育祭。19:2016/06/23(木) 00:14:55
「ぇ…あ、ちょっ――」

中には驚いた顔で、恥ずかしい失敗姿の卯柳さんが居た。
卯柳さんはいっぱいまで開いた扉を外に出てまで閉めることに躊躇し、数歩後ずさる。
驚きと不安の表情を見せる……悪いことをした気がする…でも――

「……扉の外見てるから早く着替えて……HRが始まるまでに何食わぬ顔で戻ろ?」

私はなるべく明るく――――対して明るくないが……――――言葉を発した。
灯りが点かない以上、扉を開けたまま着替えなければいけないが、そうなれば外が気になるだろうし……。
……それはきっと私の“慰めて上げたい”を正当化するための建前なんだと思うけど。

「……ほら、早くっ!」

私はノブに掛けてあった袋を卯柳さんに向けて差し出す。

「…………うん」

涙目で震えた声で頷き、袋を受け取ってくれる。

「じゃ…じゃあ……えっと見張っててよ……」

恥ずかしそうにしながらそう言った卯柳さんに私は頷き背を向ける。
私の背後で卯柳さんは深呼吸する。
それからハーフパンツを脱ぐ音、ビニール袋から何かを出す音、拭き取るような小さい音……後始末の音が聞こえてくる。
そんな音を立てる中、「あの……」と卯柳さんから声をかけらる。

「えっと……その……ば、バドミントン…良い勝負でしたね」

……凄く唐突な感想になんと答えるべきか判らず沈黙を作ってしまう。

「うぅ、…――っと…あ、相手の霜澤さん…なんか物凄く強かったよねっ」

どうやら、空気の重さに耐えかねてとにかく話をしようとしているようだった。
私はそういうことに合わせると言うのが余り得意ではないが私は口を開くことにした。

408事例11「卯柳 蓮乃」と体育祭。20:2016/06/23(木) 00:15:24
「……う、うん…下手したらバド部の人より強いんじゃ…って思った」

霜澤さん……本当に上手だった。
……。

――……そういえば、山寺さん霜澤さんのこと言ってたな……。

バドミントンダブルス決勝を終えてから聞いた話。
見学会の時、霜澤さんと友達であることを隠していたことの謝罪――――不仲だと思って言い出せなかったらしい――――と
私と霜澤さんの関係……。

――「鞠亜……雛倉さんのこと嫌ってるようには見えないのに、凄く故意に避けてるみたいな感じがして……」――

その後続けて、何かあるなら相談に乗るから……と、言ってくれた。
霜澤さんのその行動に心当たりは無かったが
私に対して、他とは少し態度が違うことだけはなんとなく気が付いていた。

409事例11「卯柳 蓮乃」と体育祭。-EX-:2016/06/23(木) 00:16:57
**********

「どうでした? 真剣勝負は?」

「まぁ……それなりに楽しかったけど……」

皐は私の答えに笑みを浮かべて背を向ける。

「貴方は鞠亜と真剣勝負をしたことがなかった筈ですからね」

そう、あの頃の私はただ見て居ただけ。
いつか私も……そう思ってはいたけど、あの時は叶わなかった。
でも、こういう形で雛倉さんと共にそれが実現出来るとは思っていなかった。

ただ、雛倉さんが集中していたかどうかは凄く微妙ではあるのだけど。
最後のミスも明らかに実況してた子の影響だったし……。
『声』で気が逸れたからなのか、彼女の願いを無意識に叶えてしまったのかは定かではないけど。

「山寺さんでしたっけ? 出来ることなら私と代わって欲しいくらいでした……」

皐はその先を言わなかったがどこか懐かしむ目をしていて……何を考えているのかわかってしまう。

――……皐……。貴方は気が付いていないの?

今の雛倉さんを受け入れたと言っていた皐だけど……違う。
きっとどこかで、本人も気が付いていない感情があるのだと思う。

「鞠亜も楽しそうでしたね……私が知る限りでは綾菜さんの前であれほど元気な姿を見せたのは入学後初めてです……」

皐は少し悲しげな笑みを浮かべてそう口にする。
私はその顔をなぜだか見ていられなくて視線を逸らす。

霜澤さん……。
私達よりも雛倉さんと付き合いが長かったはずなのに……彼女が極力関わらないようにしているは
それだけ雛倉さんのことを想ってのことだと思う。
だから、今日の元気な姿を見て思った、彼女も本当は凄く辛いのだと。

「そういえば呉葉、生徒会に入る気にはなりましたか?」

生徒会への勧誘。
私と雛倉さんの仲が改善されたの知って、保留以外の答えを期待して改めて……と言ったところ。
正直言って、まだ雛倉さんとの距離を掴めていないので前までとは違う意味で保留としたい。
だけど、保留と言うと皐はまた色々うるさく言ってくる……。
此処はひとつ、雛倉さんを生徒会へ入れるに当たっての問題が増えたことを教えてあげた方が
私の答えを先延ばしに出来て都合がいいかもしれない。
恐らくどこか抜けている所がある皐のことだから知らないはず。

「私のことより雛倉さんのことを考えたほうがいいと思うけど」

「? ある程度仲良くなったので、拝み倒せば大丈夫でしょう?」

酷い言い分だけど、問題は承認が取れるかどうかではない。

「クラス委員長を含む一部の委員は生徒会役員になることが出来ない……雛倉さん後期クラス委員長なのよ?」

「……え?」

「一応、反対票に入れたけど、前期に引き続き後期も継続。クラス委員長を誰か他の人に頼まないと無理」

現クラス委員長つまり雛倉さんの承認、引き継ぐクラス委員長の承認、あと担任教師の承認を得れば
雛倉さんを生徒会に入れるのは不可能ではないが、クラス委員長をやりたいと思う人が居ないであろう事が最大の問題。

「っ……なぜ綾菜さんはクラス委員長を引き継いで……」

「その日、雛倉さん休みだったから適当に……と言うか全委員適当に決まったの」

「あぁもう! これから文化祭だってあるのにっ……」

頭を抱える皐を見て、しばらく私の答えは必要無さそうなことに少し安堵した。

おわり


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