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『邪気眼少女』 *Another Story*

183心愛:2013/08/23(金) 21:33:07 HOST:proxyag101.docomo.ne.jp





「濃厚な死の薫りがする……」



「不吉なこと言うなこら」



昼休み、教室中に立ち込める甘い匂い。
男子たちの背中から異様なオーラが放出されているが、女子はあえて気づかぬふりである。



「姫、ちょっとこれ持って」



「……うん?」



不意に、一人の女子が姫宮に近づいた。
姫宮に一回渡してからその手に戻し、お徳用チョコの袋を高く掲げて叫ぶ。



「姫からのチョコ、千円から!」



ガタタッ!



「千五百!」



「二千!」



「オークションだとっ!?」



バレンタインは高校生が金稼ぐイベントじゃないからね! あと飢えてるからって金使いすぎだ男子!


突如として始まった争奪戦を呆れた目で眺めていると、「ヒナぁー」と数人の女子が寄ってくる。
頭にクエスチョンマークを浮かべていると、



「はい、義理ね」



「義理だけど」



「義理で良ければ」



「分かってるよちくしょうめ!」



いいじゃん! そんな強調しなくてもいいじゃん!


「一個取ってー」と差し出されたのは、大きな箱に詰まった、うずらの卵みたいな形のお菓子。
ころんとした可愛らしい見た目で、水色やピンクの砂糖衣がかけてある。こんな凝ったもの、全員分作るのか……。
他にも、丁寧にラッピングされたチョコレートブラウニーやクッキーなどなど。

女子すげえ……。これ、ほんとに手作り?



「あ、ありがと」



「ホワイトデーは三倍返しでよろしく!」



「はいはい」



軽く言いながらも、義理チョコとはいえちゃんと女子からもらうのは初めてなのでちょっと感動する。


彼女らが今度は美羽を相手にし始めたところで、スマホがメールを受信した。愛川からだ。



『甘いもん苦手なのにチョコ断れない。今度減らすの手伝え』



「うわムカつく!」



断れないって、どうせ嫌な顔ひとつせずに愛想良く受け取ってんだろあいつ……!
本命だろうが手作りだろうが高かろうが安かろうが、今度会ったら遠慮せずに食いまくってやろうと心に決める。



「柚木園くーん!」



「ごめん、次は午後からねー」



背後できゃあきゃあ歓声を上げる女子たちに笑顔を振りまいて、柚木園が廊下から教室に入ってきた。
え、ちらっと見えた順番待ちの列みたいなのなに?
まさか皆さん、柚木園に渡すために並んでるの?



「柚木園……? 今の、」



「あ、うん。午前の部は今締め切ったとこ」



……午後の部もあるの?


唖然として今日も無駄に麗しい王子様を見ているうちに、俺は奇妙なことに気がついた。



「あれ? チョコは?」



あんなにも女子たちが殺到していたというのに、戻ってきた柚木園の手にはおろか、周りにも一切チョコの類がない。


疑問を覚えていると、柚木園がにこりとした。



「紙袋とかロッカーに入るような量じゃなかったから、今先生に言って、空き教室を借りてきた。少しずつ持ち帰るよ」



「……そこまでいくとあんまり羨ましくないな……」



信じられない話だけど、普段のこいつを見ていれば信じるほかない。
前に愛川と話したときも思ったけど、モテるって大変だね。
柚木園のモテぶりは常軌を逸するけど。男性アイドルみたくトラックでも手配した方がいいんじゃね?



「なんて言うか……お疲れ? やっと休み時間ってとこか」



「いや、休んではいられないよ。今日初めて会った女の子のフルネームとクラスを、忘れないうちに単語帳に書いて暗記しないと」



「単語帳!? 暗記!?」



「大丈夫、女の子についてのことなら記憶力が五割増しになるから全然負担じゃないよ」



「そういう問題じゃねぇ!」



本当に鞄から取り出した単語帳をぺらぺら捲り始める柚木園に、俺は戦慄を隠せない。


……とりあえず、愛川にメール返しとこ。
『もっと凄い奴いるから諦めろ。女子だけど』……って感じで。


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