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『邪気眼少女』 *Another Story*

177心愛:2013/08/21(水) 20:21:00 HOST:proxyag017.docomo.ne.jp


『Happy Valentine!』





「おは……?」



キッチンの方からほんのり漂う甘い香りが、寝起きの頭を刺激した。


……ああ、そういえば、今日はお菓子会社大勝利の日か。
こんなに俺に関係ない行事もなかろうな。


ぼんやり突っ立って考えていると、ぱたぱたと足音。
キッチンの奥から彩が満面の笑顔で駆け寄ってきた。
我が妹ながらちょっと可愛い。



「お兄ちゃんっ、今日は何の日でしょーか!」



「殉教死したローマの司祭の記念日」



「ひねくれた答え方やめようよ!」



ぷんすかしながら、後ろ手に隠していた小包を手渡してくる。
ラッピングに手抜き感はあるものの、毎年思春期の妹からチョコをもらえる俺は恵まれている部類に入るのかもしれない。
いつまでたっても俺にべったりだけど、こいつの辞書に反抗期という文字はないのだろうか。



「今年も可愛い妹の愛情たっぷりだよ! 力作!」



「ありがとう。大切にゴミ箱にしまっておくからな?」



「にゃにおうーっ! ちゃんとしたのだもん!」



冗談だっつの。
俺はそそくさとそれを回収しながら、もはやお約束となっている軽口を叩く。



「で、本命は? 今年もいないわけ?」



「いるよ」



「だよなー。彩にはまだ早…………え?」



え? うん? 今なんて?



「……でも、いくら頑張っても渡せない人なんだ」



大人びた、切ない微笑。
俺は妹の変貌ぶりとその台詞に、驚きを隠せない。



「彩……」



「パソコンの画面から出てきてくれない限り!」



「ゲームキャラかよッ!」



前にも同じツッコミしたような気がするね!
うちの妹マジ揺るぎねぇ!

がっくりする俺に彩はにへへっと笑い、



「本命かどうかは置いといて、お兄ちゃん以外にもちゃんとあげる人はいるよ?」



「? 友達?」



「んー、お兄ちゃんの知ってる人ー」



俺の知り合い。
で、彩とも面識がある、となると。



「柚木園、姫宮、美空先輩……それとも美羽?」



「さあさあどーでしょー」



にまにまとした笑みを浮かべる彩。違うってこと?


もうちょっとで答えが出てきそうな気がするのに……結局最後まで、その人物が思い浮かぶことはなかった。






゚・:*:・。☆゚・:*:・゚☆。・:*:・゚・:*:・。☆゚・:*:・゚☆。・:*:・゚






靴箱の前で、チャラい金髪を発見した。

良く見れば、その手にはコンビニなんかで良く見かけるチョコの箱。
そいつがぱかっとひとつの靴箱を開けて、それを中にがさごそ突っ込んでいるところで―――俺と、鉢合わせした。



「……………おま……」



「ちょっ、ヒナ!? なんかすげえ誤解されてる気が!」


俺、ドン引きである。

日本のバレンタインは、基本、女から男にチョコをあげる風習なはず……なんだけど。



「あ、あーうん……。なにしろ妹がアレだし、ソッチの趣味にはある程度耐性あるから。……喜んでくれるといいな!」



「ちっがぁう! バイトだっつの!」



「……は? バイト?」



爽やかに去ろうとしたところを止められる。

……春山の奇怪な行動とバイトって、全然結びつかないんだけど。


怪訝な顔の俺に、春山が短く解説。



「『登校時や下校時、靴箱の中にチョコを発見して、周りに自慢する』っていうイベント演出のための下準備係ってとこ。金なら払う、って頼まれたのよ俺」



「なんでだろう。俺、涙が止まらないよ」



モテない男子の考えることは恐ろしい。そしてとてつもなく悲しい。



「利用者は結構いるんだよね。ヒナも、今ならチョコ代の二倍で引き受けるけど? 数には余裕あるし」



「結構です」



紙袋に同じメーカーのチョコが詰まった紙袋を見せられ、俺は速攻で拒否した。

……みんな、そこまでしてほしいんだね、チョコ……。女子からでもないのに。


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