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邪気眼少女の攻略法。

322心愛:2013/03/16(土) 23:02:35 HOST:proxyag051.docomo.ne.jp


『デート……?』





約束の日曜日。

照りつけるような夏の日差しが眩しい駅の広場に到着した俺は、自分の格好がおかしくないかもう一度チェックする。

メールのやり取りで決めた待ち合わせの時間までかなり余裕はあるけれど、時間を潰すのもそろそろ限界だった。


何しろいつもより数時間早く目が覚めてしまい、無意味に自分の部屋を右往左往してみたりと家にいてもなんだかそわそわ落ち着かなくて、彩に気取られないうちにさっさと外に出掛けたはいいものの駅に着いてしまったのが待ち合わせ三時間前で、どうせだったらと『行きたいところ』にちょうどいいような良さげなレストランを見て回り、それでも時間が余ったから本屋にぶらりと立ち寄って適当に物色して、それもはっと気づいたら手に持って立ち読みしていた雑誌が『今熱い! イチ押しデートスポット特集』だったりして、落ち着けってデート違うだろバカ! 俺のバカ! と一人ツッコミを入れてみたりしていたのだから。


……こうやって冷静に回想してみると、なんか無性に恥ずかしくなってきた。
何やってんだよ俺。これだから彩にヘタレヘタレ言われるんだよ、ったく。


気温のせいとはまた違う要因で火照る頬をぺちぺち叩きながら歩き、目印である銅像の前に辿り着く。

時間になるまでベンチに座って待っていようかと思ったいたのだけれど、そこにはすでに先客がいた。



―――さら、と絹鳴りを思わせる音が小さく響く。

ベンチの隅にちょこんと座っていたのは、黒蜜みたいに艶やかで、濡れたように煌めく髪を持つ女の子。

優しく淡い色合いのラベンダーとピンクが愛らしい、細かい花柄のトップスの上に羽織っているのは華奢なレースつきの透けるカーディガン。
ふわふわフリルたっぷりで、花びらみたいに広がるピュアホワイトのミニスカートからは、刹那的な儚さのある、病的にまでに細く白い脚が伸びていた。


……たとえ顔が見えなくとも、凛と冴えた雰囲気を持つ彼女は明らかに、そこらの人間とは一線を画する美人だった。
道行く人が皆振り返り、見惚れるのが分かる。


チェーンバッグを膝の上に置き、俯いて気怠げにケータイを弄る指は信じられない程に華奢だ。



……どこかで見たような光景、だな。


失礼なのを承知でまじまじと見つめる。


やがて彼女が自分に向けられる視線に気づいたらしく、両手で包めそうに小さな顔をぱっと上げた。


しっとり透明な艶のある肌、薔薇色の頬。
精巧な陶製人形(ビスクドール)を連想させる美貌―――



あ、あれ?
なんかものすっごい既視感。


長い睫に縁取られた、漆黒に煌めく二つの宝石みたいな瞳。
大粒のそれは金の粉を散らした夜空の如く、吸い込まれそうなくらいに透き通っていて―――




「ヒナ! まだ待ち合わせより30分以上早いじゃないか!」




聞き覚えのある可愛らしい声が、驚いたように言う。
それは紛れもなく、彼女の小振りな唇から発せられたものだった。



「……あ………え、ええと、ぼくがこんな時間からここにいるのは、そう、どうしても何もすることがなくて暇で暇でしょうがなかったからで、」



美少女が赤くなり、ぱたぱた腕を振って何やら言い訳を開始。



「それにしても君はさっきからどこを見て…………あ、も、もしやこの服装のことか? ち、違うんだ。ぼくは非常に不本意だったのだが、美空に言われて仕方なく、本当に仕方なくだな」



さっきから俺に向かって何言ってんだろこの娘(こ)、暑さで頭おかしくなっちゃったのかな。



「だ、だからなんなんださっきから! ぼーっとしていないで何か言え!」



はっ!
…………うん、大丈夫。俺は冷静だ。


美空先輩身長縮んだ? とか考えてなんていない。まったく考えてなんていないさ。

女の子をひとまず放置し、スマホを取り出して迷わず指を滑らせる。



「もしもし美空先輩?」



『お、圭くーん! どうよどうよびっくりしたー?』



すぐに電話口の向こうから、朗らかな美声が聞こえてくる。



「一つ、訊きたいんですけど」



ぎゃんぎゃん騒いでいる美少女のつむじ辺りを、俺はじっと見下ろしながら。




「―――もしかして先輩、もう一人妹います?」




「はああ!?」

323ピーチ:2013/03/16(土) 23:45:35 HOST:EM114-51-31-109.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

いやいや失礼だからねヒナさん!?

電話していきなり「もう一人妹います?」はないでしょ! 明らかに美羽ちゃんでしょ!

……どんだけ早起きしてんだよ、二人とも…

324心愛:2013/03/18(月) 17:07:10 HOST:proxyag095.docomo.ne.jp
>>ピーチ

どんだけ意識してんだよって話だよねw

ヒナ、動揺のあまりかなーり失礼なこと言ってますが…?

325心愛:2013/03/18(月) 17:07:39 HOST:proxyag096.docomo.ne.jp






『ぷっ……く、あははははっ!!』



電話口から、美空先輩の大爆笑が聞こえてきた。



『ひーおなか痛……うわ危なっ、今椅子から落ちそうになった……っ』



「こんなときまでドジ属性発揮しないでくださいよ……」



『だ、大丈夫だってば。……ちょっと昴! そんなに言わなくてもいいでしょー? 大丈夫大丈夫!』



傍に昴さんもいるらしい。
美空先輩は昴さん相手に二、三言会話を交わした後、




『それ、美羽ちゃんだよ』




「ヒナ! さっきから美空と何を話しているんだ! ぼくはぼくだぞ、高貴なる吸血姫(ヴァンパイア)ミウ=黎=リルフィ―――」



……などと俺の胸より低い位置で叫び、黒い瞳を怒らせている美少女を、見る。
少なくとも容姿には痛々しさなんて欠片もない、初恋の“ミウ”がそのまま成長したみたいな、恐ろしく可愛い女の子を、もう一度見て。



………。



…………………。



「まっさかぁ」



『そのまさかです』



「ヒナ! 契約を交わした主が分からないとは何事だっ」



……確かに台詞を聞いてみれば、いつもの美羽だ。
それだけじゃなくて、声も顔も体格だってそう。


でも、まだ信じられない。

だって、あの美羽がだよ? どや顔でゴスロリ着て学校来ちゃう美羽がだよ?

まさか、こんなにまともな格好をしてくる日が来るだなんて。

そりゃあ文化祭では浴衣も着てたけどやっぱりいつもの“美羽らしさ”はあったわけで、今日とは全然違う。
人って、身に着けるものの色だけでこんなに変わるものなんだろうか。


呆然としてしまう俺に、美空先輩が簡単に解説してくれる。



『最初はゴスロリで行こうとしてたんだけどね。あたしが“どうせ二人で出掛けるならそんなカッコより、こういう方が圭くん喜んでくれると思うけどな〜?”って脅したら、大人しく言うこと聞いてくれたんだー。服に合わせてカラコンも取り上げちゃった』



「美空っ!? 今絶対余計なことを言っただろう!?」



スマホを奪おうとするように頑張って手を伸ばし、ぴょんぴょん飛び跳ねて憤慨している美羽。
それでも身長差のせいで届かないけど。


美空先輩の笑みを含んだ声が、耳をくすぐる。



『今まで誰がいくら言っても聞かなかったのに、圭くんの名前出したら楽勝で丸めこめたんだよ。やっぱり、圭くんの存在は相当大きいんだね』



「や……そんな、」



謙遜の言葉を言いかけながらも、正直少し、嬉しくなってしまう。

全部を真に受けるつもりはないけど、美羽がそれなりに今日を楽しみにしてくれていて、ちょっとでも服装に気を遣ってくれたというのは、多分本当なんだろう。



「……美空先輩」



それから。
美羽の気持ちも嬉しいけど、何より。


目の前にいるのは美羽張本人で、今日の服装はどうやら美空先輩のチョイスらしい―――ということをようやくきちんと頭で理解した俺は、感動で目を潤ませる。



「俺、一生先輩について行きます」



『うむうむ。ついて来るがよいぞ、我が弟子よ。今日は存分に、この絶好のチャンスを生かしてくれたまえ』



「ありがとうございます師匠!」



二人して変な演技をしつつ簡単に別れの挨拶を済ませ、通話を切る。


改めて下の方を見ると、美羽が膨れっ面で横を向いていた。



「……なんだ、一生って」



ぷくっと頬が膨らんでいる。


何に不満を覚えているのか分かんないけど……くそ、可愛いじゃないかよちくしょう!



「……ヒナ?」



「え、あ、……ご、ごめん。あの、つい動転しちゃって」



って違う。とりあえず謝るのが先だろ俺!
恨みがましい声と共に見上げられ、慌てて頭を下げた。



「ふん。結野家に新たな娘が追加されたという、ぼくも知らなかった新事実についてか?」



「ほんと、すみません……」



美羽の言い分を全部スルーして本人の正面でその姉に電話をかけ、挙げ句に「もう一人妹います?」はないよね……。

我ながらどんだけ酷いリアクションだよ。いくら罵られても文句は言えない。

326ピーチ:2013/03/19(火) 05:44:02 HOST:EM114-51-140-40.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ヒナさん落ち着けー!?

…ここまでくると動揺の域を超えて見えるのはあたしだけか←

327下平:2013/03/19(火) 13:51:41 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
ピーチ

328心愛:2013/03/19(火) 19:42:37 HOST:proxy10065.docomo.ne.jp





あ……でもこれだけは言っておかなくちゃ。



「……じゃ、なくて。その……あんまり珍しいカッコしてたからさ」



途端、美羽は不安そうな、哀しそうな影を端正な顔に落とした。
困り果てたように俯き、純白のスカートの裾をいじる。



「そ、そんなに変か」



しゅん、と小さい身体をさらに小さくする。



「ち、ちがっ……!?」



「うぅ……やはり美空の言いなりになるんじゃなかった! 少し待て、一ノ瀬に連絡していつもの着替えを持ってきてもらう!」



「違うって!」



大きな声を出すと、びくっと細い肩が震えた。
「ごめん」と声量を落とし、自分を落ち着かせるためにゆっくり深呼吸してから。




「いや、……普通に似合ってるし……いい、と思う」




……なんか無愛想な台詞になってしまった。

なぜだ、なぜなんだ俺。
ここで「“かわ”いい」とでも自然な感じで言えたら、好感度上げられたのかもしれないのに!
さっき読んだデート攻略本に「彼女のイメチェンに気づいたら、『可愛いね』『似合ってるよ』などと必ず声をかけてあげましょう」って書いてあったから実践してみたのに! デートでも彼女でもないけど!

くそう、俺にはまだ難易度高すぎたかっ?


一人脳内で頭を抱えていると。



「そ、……そう……か」



美羽は頬を染めて小さく呟き、それから、はっと正気に戻ったように早口でまくしたてる。



「ふ、ふん。真の実力者は闇の装束を身につけていなくとも、魔力を帯びることができるからな。支障はない」



よかった。どうやらこの反応で満足してもらえたみたいだ。

ほっとして息を吐き、それからふと疑問を覚えて首を傾げた。

ってことは……その設定だと、いつもゴスロリじゃなくてもいいってことになっちゃうんじゃ。


美羽も気づいたようで、「……あ」と小さく漏らして。



「きょ、今日だけだからな!」



「えー」



そんなぁ。

がっかりして肩を落とすと、美羽が不思議そうに見てくる。



「む……君もやはり、ぼくがこういう格好をして来た方が良いと思うのか?」



「え」



そりゃそうだ―――と普通に頷きそうになったけれど、俺はいったん言葉を止めて考え直す。



「……んー……美羽はやっぱり、いつものままでもいいんじゃない?」



もし美羽の気が変わって、ゴスロリをやめて学校に来たりなんかしたら。
この類い希な美少女ぶりに、勘違いする男が急増するだろう。それは、俺としてはちょっと避けたい。

ついこの間、姫宮が「まいちゃんにあんまり可愛くなられると、嬉しいけど困るんだよね……」とか言っていて、ただのノロケじゃねぇかよとあのときは軽く聞き流していたけど、今彼の気持ちがすごく良く分かった気がする。

可愛すぎたり綺麗すぎたりする彼女がいる彼氏って、いつもこういうことを思っているのかもしれない。



「もちろん、それはそれでいいと思うけど。新鮮で」



「それもそうだな。戯れにこのような装いをするのも、少しなら悪くない」



見るからに機嫌が良くなった美羽が小さなバッグをぽすぽす叩いた。



「それで? 行きたいところがあるのだろう?」



「あ、そうそう。一人じゃ入りにくくってさー」



……………嘘も方便って、素晴らしいことわざだよね!


意識的に歩幅を合わせながら、美羽を先導して歩き出す。


広場と駅の中を抜け、反対側に出ると。




「……ねこかふぇ……?」




看板の広告を見て、美羽が立ち止まった。
俺も足を止める。



「猫が店の中に放し飼いにされてるカフェだよね、確か」



「なっ」



美羽が黒水晶の瞳を大きく見開いた。



「この腐れた世界に、そ、んな理想郷(アルカディア)が……?」



衝撃を受けたように、長い髪がわなわな震えている。


……あー。



「行ってみる?」



こくこく! と嬉しそうに頷いた美羽は次いで、『あれ?』という顔をした。



「君が言っていたところというのは―――」



「あーうん、そう、ここ!」



明らかにおかしいにもかかわらず、浮かれているらしい美羽は「そうなのか!」とすぐに納得してくれた。


嘘を上塗りしちゃって申し訳ないけど、どうせ行くなら美羽が楽しいところの方がいいよね。

329心愛:2013/03/19(火) 20:16:16 HOST:proxy10052.docomo.ne.jp
>>ピーチ

落ち着け落ち着けw

でもやっぱり異性関係はこんな感じが書きやすいここあでした←

330ピーチ:2013/03/19(火) 22:07:14 HOST:EM114-51-160-122.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

良かった冷静さ取り戻したねヒナさん!

ネコカフェ…あたしは死んでも入れない←

331心愛:2013/03/20(水) 10:11:51 HOST:proxy10055.docomo.ne.jp
>>ピーチ

そっか、動物嫌いなんだっけ←

ここあも入ったことないんだけどね! 気分気分!

332心愛:2013/03/20(水) 10:53:34 HOST:proxy10029.docomo.ne.jp





俺って結構動物好きだし、あんまり抵抗はない。
ここにバカでかい広告があるのは知っていたので、ちょっと興味があったくらいだ。

……まさか美羽と来ることになるとは思いもよらなかったけど。



そんなわけでまたしばらく歩いて目当ての建物を見つけ、さくっと入店。

スリッパに履き替えて、入り口近くの受付に向かう。



「……はゎ……」



「美羽さーん?」



額縁に飾られている猫の写真を見ただけでそわそわしている美羽に代わり、仕方なく俺が代わりに店員の人から説明を聞く。


おためし10分100円からスタートして1時間600円、2時間1200円などと時間ごとに料金が決まるらしい。



「閉店は22時、か。日曜は何時間いても3500円は超えないらしいぞ……?」



「何時間いる気だよお前」



明日学校だからね?



「む……面倒だな。こうなったら貸切にするか、むしろ店ごと買い取って」



「やめんか」



意味不明なことを口走る若い客にぽかーんとしていた店員から入店証を受け取り、愛想笑いで適当にその場を誤魔化してから早速中に足を踏み入れた。


外観もそうだったけど、内装も普通にお洒落な喫茶店風。
向かって右手には喫茶ブース、向かって中央から右手に大規模な猫用の遊具がある。



「わ、わ」



グレーの猫がガラス玉みたいに透ける瞳でこちらを見、てくてく歩いてきた。
ぱああっと美羽の顔が輝く。


おそるおそる差し出された美羽の指に鼻を近づけ匂いをかぎ、敵じゃないと認定したようで頬をこすりつけてきた。

ふにゃーっと表情が蕩ける。



「猫、好きなの?」



「ふ、ふん……まあ、な。猫とは元来高貴さの象徴であり古代エジプトの時代から神聖視されつつも一方では魔性の獣ともされるという相反する属性を兼ね備えることから《純血の薔薇(Crimson)》に所属する一級魔女の使い魔として最もふさわしい動物と言えるだろう」



肉球めっちゃふにふにしながら力説されましても。



「あー……俺、あっち座ってるわ」



「ん」



ソファに腰掛け、メニューを眺める。


フリードリンクやデザートなんかは別料金で注文するらしい。
パスタなんかもある。
まだ時間が早いせいでお腹すいてないけど、場合によっては頼んでみてもいいかもね。


こうして見ていると、意外とカップルも多い。
写メを撮ったり、寝ている猫を撫でたりと思い思いにくつろいでいる。



「お、マンガもあるじゃん……」



数百冊はあるんじゃないかな。
マンガ好きな俺にはありがたい心配りだ。
本読みながら時に猫を愛でられるっていうのがこの店の売りらしい。


と、茶色い毛並みの猫が一匹、俺の方に近寄ってきた。
遊んでほしいアピールなのか、脚にまとわりついてくる。


……か、可愛いじゃん。


顎の下を人差し指で撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めた。



「可愛らしい彼女さんですね」



「えっ? い、いや、そんなんじゃ」



急に店員のお姉さんににこやかに話しかけられ、キョドってしまう。
地を這うかの如き俺のコミュニケーション能力が憎い。


それにしても、や、やっぱり同じ年頃の男女が連れたってこんな場所に来たら、そういう関係性だと思われるんだろうか。
今日の美羽は文句なしに可愛いし。

嬉しいような恥ずかしいような……。



で、当の美羽はといえば黒猫を抱き上げ、真剣な顔つきで何やら言い聞かせていた。



「ケルベロス、今に見ていろ。きちんと一から特訓すれば秘められた力が目覚め、背から翼が生えてくる。そのときにはぼくの眷属にしてやろう」



「人様の猫に名前つけんな。変な調教施すな」



あと俺って猫と同列なの?
……むしろ喜ぶべき?



「……?」



俺と美羽を見比べる、店員さんの不思議そうな目が痛かった。

333ピーチ:2013/03/20(水) 19:20:52 HOST:EM1-114-57-214.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

そーなの、猫嫌いなの!←

気分か! あたしも似たようなことある!

……ヒナさん、猫と同列か…

334心愛:2013/03/20(水) 23:30:29 HOST:proxyag095.docomo.ne.jp
>>ピーチ

大好きってことだよw

…普通に見たらアレだけどね。


はいデート回終了! 実質待ち合わせして猫カフェ入っただけだけども!

とりあえず美羽の意識が変わったってことで一つ←

335ピーチ:2013/03/23(土) 09:48:49 HOST:EM1-114-3-215.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

大好きなんだよね!

デートなんだ!? これデートに分類されるんだ!?←

336心愛:2013/03/23(土) 18:58:47 HOST:proxy10069.docomo.ne.jp
>>ピーチ

だからタイトルに? がついたんだなw


ほんとのデートができる日はくるのか…。
頑張れヒナ! そしてここあの頭と指!

337ピーチ:2013/03/23(土) 21:50:39 HOST:EM49-252-247-164.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

なるほどそんな理由があったかw

ほんとのデート…来てくれ!

いや、ここにゃんの頭は問題ないと思う。指は疲れない程度に!

そして時間よ止まれ!←

338心愛:2013/03/24(日) 00:04:43 HOST:proxy10055.docomo.ne.jp
>>ピーチ

先は長そうだね…(~_~;)


ほんとに時間がほしい!
止まれー!

…いっそ世界中の時計を壊してしまえば時間という概念がなくなr(ぇ

339ピーチ:2013/03/24(日) 00:15:23 HOST:EM49-252-247-164.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

先は長い方が面白い! あたしが気長に待てれば!

だよねー! 時間なんてありすぎるように見えて全くないもんね!

…その手があったか! さすがここにゃん!←おい

340心愛:2013/03/24(日) 18:17:06 HOST:proxy10051.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ねー!
今のスレは今月中に完結できたらいいなーなんて考えてたのに、まだ半分いったかどうかだもんね…。
夏までに終わるかな(´・ω・`)


よし、まずは家の時計を破壊するか(ぇ

341ピーチ:2013/03/25(月) 21:03:52 HOST:EM1-114-34-228.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

だよねー!

やっぱり考えが似てる人が居ると安心する!←

家の時計を破壊したらお母さんが鬼になる(おい

342心愛:2013/03/25(月) 22:16:17 HOST:proxyag113.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うん、うちも怒られるのに加えて病院に運ばれるかもしれない←
精神科w


小説は楽しいしいつまでも趣味にしていたいけど、いかんせん時間がね…。

343ピーチ:2013/03/25(月) 22:41:53 HOST:EM1-114-34-228.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

怒られるで済むかな、うち…←

精神科あり得るかも!

あたしはできれば作家になりたいなぁ…と思ったけどここにゃんで趣味だったらあたしにゃ無理だw

344心愛:2013/03/26(火) 10:53:48 HOST:proxy10043.docomo.ne.jp
>>ピーチ

作家とな!
なれるよ絶対なれるよピーチなら!

で、なったら教えて、サインもらいに行くわ(ぇ
ここあはピーチのファンだよ!



ピーチは余裕でなれても、ここあのコレは完全に趣味でしか片付けられないからなぁ…。
でもこうやって一年以上やってきて、誰かに見てもらうって楽しさを覚えちゃったわけで←

ほんとは今年でバッサリやめるはずだったんだけど、いつかちゃんとした小説サイトに投稿したりしてみようかな…。

いくら下手でも楽しいんだからしょうがないじゃん! っていうw

345ピーチ:2013/03/26(火) 13:55:47 HOST:EM114-51-147-230.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

作家ですそうです!

なのに文才が哀しいという←

頑張って読書してんのに、勉強そっちのけで(おい

ここにゃんこそ余裕でなれそうじゃん!

346心愛:2013/03/26(火) 17:15:00 HOST:proxyag105.docomo.ne.jp
>>ピーチ

あれだけのもの書ける学生ってそうそういないと思うよピーチ!
自信持とうよ!


読書はほら、国語の勉強だからねヽ(≧▽≦)/
仕方ない仕方ないw


ここあのレベルでは到底無理な話ですよ…←
でも好きなもの書いてお金もらえるとか素敵だよね!

347ピーチ:2013/03/26(火) 21:54:49 HOST:EM114-51-188-154.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

まず周りに小説書いてる友達が少ないっていうw

しかも書いてる友達が後輩で、その後輩にまで負けるっていうねw

だよね! 読書は国語だよね!

ここにゃんだったら絶対プロなれるのに! 謙遜ばっかはよくないぞ!

だよねー! 作家さんとかうらやましいよねー!

348心愛:2013/03/27(水) 13:33:54 HOST:proxy10025.docomo.ne.jp
>>ピーチ

まず、小説書いてる友達がいる時点でうらやましいよ…。

ここあ、親にバレたら殺されるしね!


というかピーチを超える人っているの…? いなくね?
後輩さん恐ろしい! どんなもの書くんだ一体!

っていうか、作品に優劣とかないと思うけどねw
思い入れが強い方が勝ちだよ、多分!


……将来、一歩も家から出ずに好きなもの書いて過ごしたい……無理だけど。

349優佳 ◆k9BuPe0hZk:2013/03/27(水) 21:11:27 HOST:zaq31fbd3c6.zaq.ne.jp
どうも!

心愛さん>>文章読みやすくていいです!
内容も凄い!

350ピーチ:2013/03/28(木) 07:02:27 HOST:EM114-51-160-221.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

居たんだよ嬉しいことに!

あたしは親公認(?)だから!←

居る居る、居すぎて泣きたいくらいw

思い入れは強いつもりだよ、一応!

何でー? ここにゃんだったらあっさりできそうだよー?

351心愛:2013/03/29(金) 09:39:40 HOST:proxy10050.docomo.ne.jp
>>優佳さん

初めまして!
こんなのを読んでくださってありがとうございます(*^-^)ノ
これからよろしくですw


>>ピーチ

いーないーなーw


うん、きっと自分のキャラをどれだけ愛せるかということさ(意味分からん


いやぁ、うち親厳しいから…←
それにここあの落書き程度じゃ逆立ちしたって無理だよ(*´д`*)

352優佳 ◆/78g8W0Be6:2013/03/29(金) 19:18:11 HOST:zaq31fbd3c6.zaq.ne.jp
こんな小説だなんて!凄すぎます(*^_^*)
美羽ちゃん見たいな子が現実にいたらいいだろうなぁ♪

353ピーチ:2013/03/29(金) 20:59:51 HOST:EM114-51-148-105.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

仲間居ることだけは嬉しいw


そだね愛せてるよ多分!←

うちはそこまで厳しくないよー

逆立ちしたらここにゃんの最高のアイディアがばら撒かれそーだねー!

354心愛:2013/03/30(土) 14:53:59 HOST:proxyag073.docomo.ne.jp
>>優佳さん

まだまだ全然ですよー(=_=;)

そう言っていただけると嬉しいですw
美羽が現実にいたら…色々面倒そうですけどね!



>>ピーチ

いいなーw


いやぁああああ!
ばらまけるほどないけどっ、ここあのギリギリ崖っぷちなアイディアがぁぁあーーー!

355心愛:2013/03/30(土) 14:54:39 HOST:proxyag073.docomo.ne.jp


『夏祭り』





「なぁ、オレ、思ったんだけどさ」



窓を突き抜けるセミの鳴き声に辟易とする生徒たちが集う教室。
冷房のお陰で冷たくなった机で、各自だらけている。



「これ、夏休みじゃなくて夏勉強期間じゃね? オレ、部活以外勉強しかしてないんだけど……」



確かに、せっかくの夏休みなのに、夏期課外という意味分からん催しに強制参加させられている俺たちの体力はもはや限界と言ってもいい。


何しろ小テストは毎日、中規模でも成績に反映するテストは毎週、さらに定期試験が毎月。
その間に校内模試が挟まってくる上に、無慈悲にも積み上がる課題の山。


私立の中高一貫校よりは幾分マシなのかもしれないけど、青春もへったくれもない高一の夏休み。
課外は午前中で終わるのが唯一の救いだ。



「……百点満点で赤点九割以下とか頭おかしいよね? 先生たちも暑さで相当イッちゃってんじゃないの?」



「忘れがちだけど、『元・(地域名)の神童』の巣窟だからなここ。先生も期待してるんだよ迷惑極まりないけども」



「『元』ね……」



「『元』だな……」



かったるい授業に加えて、この猛暑。
太陽はそんなに人間を焼き肉にしたいんだろうか。

まったく、こんな日はキンキンに冷えた部屋で一日中だらだらマンガ読むに限る。



「そうそう、課題のこの問題集、今年で絶版になったらしいぜ? 難しすぎて、扱える学校がないんだと」



「むしろ使わずにブッケオフに売った方がよくね?」



「バーカ、価値出るまでぴっかぴかな状態で取っといてオークションにかけるに決まってんだろ」



「使わないも何も、提出しないと居残りじゃん……」



ぼそっと呟いた俺の覇気のないツッコミはスルーされた。



「ぼくの妖気をもってしても消すことができないとは、何という暑さだ……」



それにしても暑い。
エアコンはついてるけど、暑いものは暑い。
でも気温というよりは、窓から差し込む日差しの強さと、狭い教室に押し込められたクラスメイト40人のせいのような。
あ、窓ガラス曇ってる。



「ふっ、向こうがその気なら仕方ない。ぼくは灼熱の宴に興じるとしよう……」



「その気って何だよ……」



隣では、黒白ずくめのゴスロリ少女・美羽が頬を赤く火照らせて机にでろーんと伸びていた。
暑いなら、もうちょっと涼しい格好すればいいのに。



「ところでヒナ」



「んー?」



突っ伏したまま、小さな声で呼びかけてくる美羽。
少しためらうように口を噤んでから、




「………夏祭りというものが、あるらしいな」




「ああ、うん。毎年彩に付き合わされるよ」



俺の町では毎年、駅前の商店街辺りでなかなかに大きな夏祭りが開かれる。
道路を通行止めにしたり有名人による企画があったりと、この地域では最も賑やかなイベントだ。



「…………」



「…………」



「………………あー……行ってみる?」



「ふ、ふん、仕方ないな!」



黙ってもの言いたげにじーっと視線を寄越していた美羽がぱっと顔を輝かせ、それを取り繕うような声を出す。


確かに、せっかくの夏休みだし。
一回くらい、美羽との思い出があってもいいかもしれない。



「ヒナがどうしてもと言うなら仕方ない。主であるぼくが付いて行ってやろう」



「はいはい」



そんなに行きたかったのか……。素直じゃないなぁ。



「え、ヒナたちどこ行くの? 僕たちも一緒に―――」



「そうそう、なんかヒナと結野ちゃんってば最近仲良くね? 姫宮ちゃんに続いて結野ちゃんまで取られちゃったら俺泣くよ!」



「なっ、べ、別に良くはっ」



「ふぅん……? 誰が夕紀と美羽を取るつもりだったって?」



「だ、大丈夫だよまいちゃんっ、僕はまいちゃん一筋だよっ」



「お、柚木園がやる気にっ? いいぜドンと来い! 思いっきりッ!」



爽やかな笑顔で拳を握る柚木園を見て、春山が嬉しそうに目を輝かせる。

……奴が姫宮の問いを上手く流してしまったような気がするのは、俺の考えすぎだろうか。

356ピーチ:2013/03/30(土) 21:01:37 HOST:EM114-51-184-84.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

それ以外は色々とうるさいんだけどね、特に勉強に関して

大丈夫! 仮にばら撒かれてもあたしが拾い集めてネタ盗んでから返すから!←こら

357心愛:2013/03/31(日) 20:24:21 HOST:proxyag113.docomo.ne.jp





「彩、ほんとに行かなくていいのか?」



「うん! 新作の乙女ゲーやるからさ!」



出発前に今日何度目かの確認を取ると、やはり満面の笑みが返ってきた。
多分、美羽が行くと聞いて気を遣ってるんだろう。



「……確かにいつまでも兄妹でってのもおかしいよな。次からは、彼氏できたら一緒に行けよ」




「え、いるよ?」




きょとんとする彩。


え? ……うん?
イルヨ? 要るよ? い、る……………



「えッッ!!??」



「うわびっくりしたぁ!」



彩が耳を両手で押さえているけど、そんなことには構っていられない。



「ただねー」



驚愕に硬直する俺と対照的に、彩は恋する乙女みたくピンク色の吐息を漏らし。




「―――恥ずかしがって画面の中から出てきてくれないの」




「ゲームキャラかよッ!」



がっかりだよ!



「せいかぁい。たっくんは彩の嫁!」



「騙された……!」



「あははっ! ねぇねぇお兄ちゃん。もし、彩がほんとに彼氏連れてきたらどうする?」



連れてきたら、って。
そりゃあ……。



「殴る」



「殴るんだ!」



え、ここそんな驚くとこ?



「……でも、そうだなぁ。それで不幸にならないって、お前が自信持って言うなら……殴らない、かな」



「ちょ、ちょっとちょっと、実の妹ルートに突入してどうするのさお兄ちゃん! 彩じゃなくて美羽さんを惚れさせなきゃ!」



「分かってるよ! 分、かっ……て、るんだけど、ね……」



それができれば苦労しないよ……。



「あ、そろそろ出なきゃ。なんか買ってきてほしいものある?」



「お土産? んーとねー、焼きそばでしょ? たこ焼きでしょ? あとはー、お兄ちゃんの思い出話ってことでひとつ」



「分かった分かった、焼きそばとたこ焼きな」



「お兄ちゃんの意地悪ー!」





゚・:*:・。☆゚・:*:・゚☆。・:*:・゚・:*:・。☆゚・:*:・゚☆。・:*:・゚





「わ、悪い。待たせたか」



離れた場所で車を降りてから歩いて来たらしい美羽に、「よっ」と片手を上げる。


息を切らせている彼女は普通にゴスロリだった。
……いや、普通にゴスロリって表現はおかしいような気もしますけども。



「テレビで見たときより、人が凄いような気がする……」



「あれ、初めて?」



そういえば、誘われた(?)ときも、そんな感じの口振りだったような。

っていうか、なんで初めてなのに身内の美空先輩じゃなくて、俺と来ようとしたんだろうか。嬉しいけど。

と、いう疑問が顔に出ていたのか、美羽がすぐに早口で弁解を始める。



「ち、違う! 最低限のパーティーにしか出ないぼくと違って美空は何かと忙しいが、特に予定もなさそうなヒナを連れて一回くらい行ってみてもいいかと思っただけ―――じゃなくて、ヒナに付いて行ってやろうと思ってだな!」



今サラッと結野姉妹のセレブ生活の一部が垣間見えてびびったけどそれには触れず、「そ、そか」と言うに留めた。


その後、漂う甘い匂いに釣られて蝶みたいにふらふら屋台に引き寄せられてしまった美羽とわたあめを購入。

最初は棒に纏わりつくふわふわした物体をしげしげと眺めていたものの、



「……甘い」



おっかなびっくり、ちょっとずつなめては嬉しそうに相好を崩す。
なんか和む光景だった。



「おっ! そこのお嬢ちゃん、ヨーヨー釣りやってみない?」



ゴスロリ少女が相手でもさすがのお祭りテンションと言うべきか、もの凄くイイ笑顔を向けてくるおじさん。

人見知りモードが発動し、困惑して後ずさる美羽の背中を押して彼のもとへ。
流れで一応釣り紙は持ったものの、やり方が分からない様子で固まっている。……マジですか。



「貸して」



仕方なく、後ろからそれを奪い取る。



「ひぁっ」



「どれがいい? ……って……あ」



と、しゃがんだ彼女の背中がびくっと震えるのが分かるくらいに密着してしまっているのに気づき、遅れてどっと汗が噴き出してきた。

この体勢はまずい。色々と、まずい。



「こ、これ? これだねっ?」



早くしないと心臓がもたない。
俺は釣り紙を握りしめ、さっさと終わらせようと躍起になったのだった。

358心愛:2013/03/31(日) 20:35:57 HOST:proxyag112.docomo.ne.jp
>>ピーチ

残念ながら盗む価値のあるアイディアは微塵もないと思うよ!
ストーリーのオリジナリティがほしい…←


やっと次から夏が終わり始めるかな!
…季節感ねえー。

359ピーチ:2013/03/31(日) 20:49:39 HOST:EM114-51-186-14.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ヒナさん頑張れ! こーゆーときの美羽ちゃんはいつも以上に可愛いんだから!←

盗むアイディアがありすぎる気がする!

大丈夫! 季節感ないのはあたしも一緒だ!(こら

360心愛:2013/04/01(月) 21:14:55 HOST:proxy10034.docomo.ne.jp
>>ピーチ

美羽可愛い? そうだといいな←

と言いつつもこれでお祭り終了という鬼進行w

ヒナの健闘を祈ろう!


アイディアも何もただの思いつきと言うかなんと言うか…
ほんとにカスばっかりだよ!

361ピーチ:2013/04/01(月) 21:41:38 HOST:EM114-51-206-242.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

可愛いじゃん! めっちゃ可愛いじゃん!

お祭り終わったよ早いね!

いやこの神文章のどこを捕まえてカスと言う言葉が出てくんの!?

362心愛:2013/04/02(火) 12:46:55 HOST:proxy10050.docomo.ne.jp
>>ピーチ

次のデートもどきっていうか進展ありのイベントは、旅館にお泊まりになるかなw


徹頭徹尾すべてを通してカッスカスだよ!

363ピーチ:2013/04/02(火) 18:58:45 HOST:EM114-51-136-117.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

イベントーw

旅館だー!←

ここにゃんでカスだったらあたしのゴミにさえなれないじゃん!

364心愛:2013/04/03(水) 15:55:34 HOST:proxy10034.docomo.ne.jp


『試験勉強』





「いいか彩。お前は俺と同じで頭は良くない」



「あっさり!」



べたりと机の上に倒れ込む彩を「まぁ聞け」と促し、俺は腕を組んでちょっと威圧的に言ってみる。



「けどな。凡人は天才にはなれない。でも、秀才にはなれるんだ」



「なんだろう、なんか凄く深いこと言われた気がする!」



夏休みも終わりかけのこの時期、彩がいつまでもだらだらだらだらしていて勉強をちっともしないので、兄による説教タイムが始まったところだった。


休み明けにはテストが控えてるのに、何やってるんだよこの愚妹。



「だって彩、勉強嫌いなんだもん……。英語とか、日本ではやんなくても生きていけるよ……」



「英語なんかパターンと単語分かれば一番点取りやすくて楽しい教科じゃんか。何が嫌なんだよ」



「嘘だ! 少なくとも彩にとっては一番点取りにくいよ!」



「そう言われても俺、中学まで英語で95点以下とか取ったことなかったし……」



「変人がいるぅー!」



めそめそ泣く彩。失礼な。



「うう……英語はもういいよ……。他の教科で、なんかやる気出る勉強方法とかないの?」



「試験範囲の問題集を全部暗記する勢いで頭に叩き込め。目ぇ瞑ってても問題と答えが浮かんでくるくらいになれば、テスト終わってもそこそこ記憶に定着するから」



「彩は人間だよ!?」



「たった5教科だろ? 全部95点以上で100点2、3教科取れば学年1位はほぼ確定。頑張れ」



「赤点回避すれば十分なんだけど!」



「情けないこと言うなバカ。お前俺の妹だろ」



「彩はお兄ちゃん大好きっ子だけど、こればかりはお兄ちゃんの妹に生まれてきたことを心底後悔するよ……」



彩は何故かどんより暗い影を背負っていた。



「もー、お兄ちゃんじゃ話にならないよ! ちゃんとしたアドバイスくれる人はいないの?」



「えー……なら美羽にでも訊いてみる?」



言って、スマホを手に取る。

美羽に電話をかけるのも随分と慣れてきた今日この頃です。



『……勉強のコツ?』



突然の通話を迷惑がることもなく、美羽は少し考えてから。



『努力あるのみ、だな。悪いが、特に効率的だったり、変わったことをしているわけでもない』



「あ、やっぱり?」



言動の残念さを除けば割と真面目で努力家な彼女らしい答えが返ってきた。



「でも、美空先輩に教えてもらったりしないの?」



確か、先輩は相当頭良いって話を聞いたことがある。
美羽にべったりだし、そういうこともあるんじゃないのかな。


もし時間あれば、是非とも彩の家庭教師をお願いしたいくらいなんだけど―――



『いや、美空は教えるのが壊滅的に下手なんだ。自分が完璧に理解していても、相手がどうして分からないのかさっぱりでな。もう諦めた』



「……あー」



なるほど、そういうタイプか。
俺はなんとなく納得する。



『で、その美空と言えば、だが』



美羽が明日の天気でも話すみたいに何でもないような口調で―――こんな衝撃発言を繰り出した。

365心愛:2013/04/03(水) 15:56:41 HOST:proxy10045.docomo.ne.jp






『この前の模試で、総合科目全国1位を取ったらしい』




「……………は?」



なにそれ、え?


……いや。いやいやいや。



「えええええええええ!?」



『にゃわっ』



数秒遅れて、『うるさい! 耳が壊れるかと思ったじゃないか!』という怒った声が聞こえてくる。



「……美空先輩が、……ぜんこく……? え、模試ってあれでしょ? 最高峰の学校しか受けないっつう……まさか、冗談だよね」



「残念ながら本当だ。あいつは昔からぼくに遠慮するところがあるから、こそこそ隠していたが」



マジですか……。
美空先輩はドジ属性を抜けば、飄々としていて何でも器用にこなすイメージがあったけど。


身近にそんな凄い人がいるって、いまいち現実味が沸かない。



「そういうのって都内のエリート高校じゃないと有り得ないと思ってたよ……」



『うちでもごく稀な快挙だそうだ。……ああ。受験前に、教師陣にかなり手酷く叩き込まれたらしいがな』



「そ、そうだよね! 授業とは別に特訓とかしないと無理だよね!」



『いや、ケアレスミスと名前の書き忘れの注意を』



…………。



「うん、次元が違うってことが良く分かったよ」



どうやら先輩の今回の成績は、天性のドジを発動せず、本来の実力を発揮した結果ということらしい。化け物か。


電話越しに美羽は『まあな』と笑い、



『ぼくは一生、美空と同じ世界を見ることはできない』



「………」



一瞬、かける言葉をなくす。


確かに、そんな優秀な姉を持つとなれば、美羽にかかる圧力だって尋常ではないだろう。
美空先輩の名声は、美羽を守るだけじゃなくて、彼女を追い詰める凶器にもなる。



『……でも、昔からあいつの背中ばかり見てきて、いつからかこう思うようになったよ』



なのに、美羽の声は劣等感なんて微塵も感じさせないくらいに―――不思議な程に、優しいものだった。




『大抵のことは、天才の何十倍もの努力をすれば、いつか凡人でも必ず追いつける―――と』




プライドが高く、良くも悪くもまっすぐで、“理想”のためには努力を惜しまない。
美羽が今の美羽になったわけが、なんとなく分かったような気がした。


その先輩にかける想いはきっと、先輩が美羽を大切にする気持ちと同じくらいに強い。



「……自慢のお姉さんだもんね」



『……ふん。一応、尊敬はしている』



照れ隠しにそっぽを向く様子が目に見えるようだ。


今の、美空先輩が聞いたら喜ぶだろうなぁ。

美羽が大好きで優しくて、本当に非の打ち所がない、良いお姉さんで―――



『ドジだがな』



「ドジだけどね」



うん、そこは忘れちゃダメだけど。



美羽に礼を言ってから通話を切る。


それにしても、当初の目的が消し飛ぶくらい、凄い話を聞いてしまった……。

彩に偉そうに話してたのが、今になると若干恥ずかしい。



「……彩、勉強します……」



「……分かってくれて何よりだ」



でも、元々の目的は達成されたので良いとしよう。

366ピーチ:2013/04/03(水) 21:27:21 HOST:EM114-51-142-165.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

嘘でしょヒナさん!? あたし英語なんて赤点取らなかったことないよ!?

そして美空先輩!? 全国で一位ってどーゆーことですかっ!?

…………彩ちゃんの気持ちがよーく分かるのはなぜだろう←

367心愛:2013/04/03(水) 22:17:05 HOST:proxy10060.docomo.ne.jp
>>ピーチ

マジか(・∀・)

ここあは中学時代、95…と言いたいとこだけど94点以下は取ったことないんだぜ! 英語だけは!
ちなみに、基本的にヒナと同じ考え方のここあは友達に「キモい」と言われました。悲しいね。
一回得意になっちゃえば、頑張ったぶんだけ点数が伸びる教科だと思うよ英語!


美空は、ここあの学校の先輩が去年全国1位取っちゃって騒ぎになったからそれを使わせてもらいました! ごめんね先輩!

…さらにちょっと自慢すると、ここあは今年、とある模試の国語で全国5位だったんだよ(*´д`*) えへん。
数学は底辺だけども!

まあここあでも奇跡的にこんな順位取れるんだから、美空もいけるさ! と頑張らせてみた(*^-^)ノ


…「学校のお勉強ができる」と「頭がいい」ってのはまた別物だけどね←


長文すみませんw

368ピーチ:2013/04/03(水) 22:48:38 HOST:EM114-51-142-165.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

いーないーなー! あたしなんか英語の単元テストで堂々の10点取ったことあるんだぞー!←

キモいんじゃなくて何でそープラス思考で考えられんの!? ってことで驚きですはい。

一回も得意になれない教科だと思うよあたし……

美空先輩何でもできるもんね! ちょっとドジだけど!

369心愛:2013/04/04(木) 21:15:35 HOST:proxyag102.docomo.ne.jp
>>ピーチ


大丈夫さ! 今から巻き返せばいいだけのことだよ!

ここあ的には数学が一番恐ろしい…。



苺花と比べると、美空は先天的な才能が大きい「なんでもできる」子ですねw
でもちゃんと努力はしてるよ(`・ω・´)

370ピーチ:2013/04/04(木) 21:43:46 HOST:EM49-252-234-200.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

今から巻き返せる…かなぁ?

数学理科英語この三教科凶器デスネ←

努力家の天才…羨ましいよぉ…

371心愛:2013/04/05(金) 15:55:33 HOST:proxy10025.docomo.ne.jp
>>ピーチ

大丈夫だよ、あれだけの小説書ける頭があるんだから!
自信を持てー!

372心愛:2013/04/05(金) 15:55:56 HOST:proxy10026.docomo.ne.jp


『進路アンケート』





「将来就きたい職業……ねぇ」



進路指導部から出された提出必須のアンケート。
第一志望大学、平日休日の勉強時間なんかの中に、そんな欄を見つけた俺はシャーペン片手に唸った。


どうしよう、分からん。



「なんて書いた? これ」



「闇の女王」



「美羽に訊いた俺が馬鹿だったよ」



担任からの呼び出しは確実だ。



「なんだとっ」



「……え、えーと、姫宮は?」



後ろを振り返って、紙の該当箇所を見せてもらう。
丸っこい字で書かれていたのは―――



「看護師?」



「うん。家が医療系だから、なんとなく」



この笑顔で看病されたらどんな病気でも一瞬で治りそうだ。
癒し効果ってことで姫宮セラピーとか新しく始めてもいいんじゃなかろうか。



「小さいときはお花屋さんかケーキ屋さんになりたかったんだけどね」



乙女か。


と思っていたら、その隣の柚木園がびくっと反応していた。



「……柚木園?」



「えっ? い、いや、まさか! 子供の頃とはいえ、私がそんな夢見るわけがないでしょっ?」



……こいつも乙女か。


「まいちゃんかわいー」と姫宮が嬉しそうに微笑んでいる。お前もな。



「なるほどなるほど。あとひとつはもちろんお嫁さ―――」



「な、な、なんで知っ……じゃない! 違う! ぜんっぜん違うからそんな目で見るのやめてよヒナ!」



まさかの正解。
なんか柚木園が可愛いんですがどうしましょう。


耳まで赤く染めて涙目になってしまった柚木園。
可愛いけどさすがに可哀想なので、罪滅ぼしに彼女のペースに戻してあげようと俺は口を開く。



「ホストとかヒモとか向いてそうだよね。性別隠せるならだけど」



「うん、是非ともやりたい。女の子を幸せにできる仕事がいいなぁ………でも、ね」



ひも? と首を傾げている姫宮を見て、柚木園はふっと微笑んで。



「それはあきらめるしかないか」



「ん。それがいいと思う」



「具体的な職業っていうと、私も迷ってるんだよね。未定って書いとこうかな」



「じゃあ素直に『お嫁さん』って書けばいーじゃん! 心配しなくても姫宮ちゃんが貰ってくれ―――あふんっ」



ゴスッ。
登場と同時に殴り飛ばされた春山が床に転がった。
この間僅かに二秒。

柚木園は拳を握りながら、ビキビキに引き攣った笑顔を作る。



「少し頭、冷やそうか」



「ど、どうどう」



そして名前が挙がった当の姫宮はというと、真っ赤になってもじもじしながら。



「あ、あのね? 男は18歳からしか結婚できないし、そういうのは大学を卒業してから考えることで、ね……?」



「もうやだこのクラス!」



あまりの羞恥に耐えきれなくなったらしい柚木園が耳を押さえて喚く。いやあ、青春だね。



「で……春山は? やりたい仕事」



床でハァハァしている変態は、満面の笑みで親指を突き出して。



「犬」



「え、えと、春山くん? だ、大丈夫……?」



「夕紀、それは頭がってこと? それとも顔? 人格?」



「全部だろうな」



「せめて一つに限定しろよっ?」



春山には特に遠慮がなく冷たい柚木園と美羽。
悦ばせるだけで逆効果なのに。



「やだなぁ、いくら俺でも自分が霊長目ヒト科だってことくらいわきまえてるから! 下僕と書いてイヌと読む方だって!」



「分かってるよ! 分かってるから引いてるんだろ!?」



高校生が将来の夢に動物を希望していたら色々問題だ。
叶うとしたらそれは来世の話だろう。



「そー言うヒナはどうなんだよ」



「えー……」



ほとんどなんの参考にもならなかった自由な回答たちを思い出し、



「……今のところは公務員にしておくよ。堅実に」



「地味だな」



「ツッコミようがないねー」



「高校生のうちくらい、こういうとこでボケといてもいいんじゃない?」



「空気読もうぜー、ヒナ」



「お前ら全員公務員の皆様に謝れ!」



一番まともなのになんで非難されなくちゃならんのっ?

373にゃにゃですが:2013/04/05(金) 16:53:43 HOST:zaq31fa522f.zaq.ne.jp
↑お前のスレつまらん
ゴチャゴチャぬかすな

>>1
毎度毎度糞スレ御苦労様

374ピーチ:2013/04/05(金) 21:00:17 HOST:EM114-51-47-243.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

何でだろうヒナさんがもの凄く哀れに見える!

あたしも小さい頃は花屋とかケーキ屋とかそこらへんの人が書いてたのを真似してた気がする←

確かに公務員の方々に悪いね、それはw

375心愛:2013/04/11(木) 22:42:10 HOST:proxyag115.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ヒナは哀れなポジションだからねw

花屋ケーキ屋は小さい女の子の夢だよね!
男と男装少女の夢としてはアレだけどね!


ここあは昔は歌手になりたいとか言ってた気がする(つд`) …なんでやねん←

376ピーチ:2013/04/12(金) 05:48:54 HOST:EM114-51-151-123.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

いや哀れすぎるでしょいくら何でも!?

うーん、ちょっと男の子はなー…←

あたしなんか色んな仕事掛け持つ、とか言ってたからね!←

377心愛:2013/04/12(金) 19:09:07 HOST:proxy10029.docomo.ne.jp
>>ピーチ

掛け持ちか!
それだけ聞けばデキる女っぽい(`・ω・´)



さてさて、旅行編スタートだよ!

378心愛:2013/04/12(金) 19:09:50 HOST:proxy10029.docomo.ne.jp


『温泉旅行』





「そろそろ修学旅行のシーズンだねー」



くてーっと机に突っ伏した姫宮がこちらを見上げてくる。
そのほわほわした笑顔に、同じくほわほわした気分になりながら。



「高校生で一番のイベントだよなー」



「高二の人が羨ましいよねー」



ほわほわーっと微笑みあった後―――二人して声を揃える。



「「なんでうちはないんだろ……」」



そう。俺たちの学校、南高に修学旅行はない。
分かってたことだけど……学校生活が楽しくなってきた今、それを思い起こすとちょっと悔しいというか虚しいというか。



「まあまあ。勉強合宿とかないだけ感謝しようよ」



柚木園がさらりと大人の発言。
姫宮は唇を尖らせる。



「でもやりたかったなぁ……。みんなでお泊まりって楽しいよね」



「うん、特に夕紀はそういうの好きそう」



姫宮は「好きだよー」とにっこりし、



「中学のときは旅館に泊まったんだ。でもみんなでお風呂だーって楽しみにしてたのに、僕が行ったときには誰もいなくて……残念だったな」



「そりゃ良かった」



「えっ? なんで!?」



いくらこいつとそこそこ仲がいい俺だって、姫宮が男湯に入ってきたら動揺しない自信はない。



「旅館っていいよね。私はホテルだったよ」



「わ、なんか豪華な感じだー」



柚木園の話ににこにこした姫宮が、次いで俺に話を振ってくる。



「で、ヒナはなんかいい思い出とかないの?」



「……俺の、修学旅行の思い出かー……」



俺はふっと微笑み、目を霞ませて遠くを見る。


修学旅行。修学旅行ね……。



「憂鬱すぎる班決め……人数合わせで無理矢理放り込まれた俺+仲良し三人組……みんなが盛り上がってる中寝たふりをした新幹線……」



「ひ、ヒナ?」



「悪夢の自由行動……きゃっきゃしている三人の後ろを数歩離れてついていく俺……特に行きたくもない寺巡り……『みんなで写真撮ろーぜ! ……あ、日永君いたんだ! 撮ってくんね?』……っつーか班で俺だけ名字呼び……」



「ひ、ヒナ! 戻ってきてーっ! こっちの世界に戻ってきてぇー!」



必死になった姫宮にガクガク肩を揺らされるも、俺はぼーっとしたまま思い出話を吐き続ける。



「『すげ、お前あいつと話せんの? マジ勇気あるわー』『だって一回話したことあるもん、この前の罰ゲームで』『え、名前なんだっけ?』……はっ!」



覚醒した。



「ちくしょう、いい思い出なんかあるかよバカーッ!」



「ごめんねヒナ! 僕が悪かったよ!」



「その思い出は胸の奥にそっと封印しておいて!」



力いっぱい叫ぶ俺をとりなす二人。


うぐ……べ、別に自分の話でうっかり傷ついてなんかないんだからね!



「美羽は? どうだった?」



話題転換のつもりなのだろう、今までだんまりをきめこんでいた美羽に、柚木園がさり気なく話し掛ける。

それに。
俯いた美羽は、きゅっと軽く拳を握った。




「……行ってない」




なかった、でもなく。


暗い声でぽつりと紡がれたその一言は何故か、ずっしりと重くて。



「え、えーと、……」



何かしらの事情を察知した俺と柚木園が瞬時にアイコンタクトを交わし、間を保たせようと口を開いた、その矢先に。




「やり直そうよ!」




姫宮が元気よく声を上げた。


はい? と目を丸くする俺たちに、姫宮は満面の笑みで提案してくる。




「京都とか奈良とかまでは行けないけど、このメンバーでお泊まりしてみない? ちゃんと旅館取ってさ!」




「お、おお……! すげえ、なんかリア充ぽい……!」



とてもまともかつ素晴らしい案に感動する俺に続き、柚木園もにこりと笑う。



「ただの旅行だけど修学旅行気分で、ってことか……。私はもちろん賛成だけど、どう? 美羽」



急速に展開する話に、驚いたように赤い瞳を見開いていた美羽が、数秒遅れてこくんと頷いた。



「あ、……あの……そういうことなら、美空も一緒でいいか? あいつなら、宿泊する場所も上手く話をつけてくれると思う」



「そうなの? もちろん大歓迎だよっ」



任せてくれ、と言う美羽は、やっぱり少なからず嬉しそうだった。

379ピーチ:2013/04/13(土) 19:16:45 HOST:EM114-51-187-34.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

今はそんな世間知らずなこと言えるわけないけどね!←

ヒナさーん! 戻ってきてぇー!

哀しいよそれ無茶苦茶哀しいよ!

380心愛:2013/04/14(日) 19:59:55 HOST:proxyag059.docomo.ne.jp






「一ノ瀬、さん……ですよね。お世話になります」



「こちらこそ。姫宮様と柚木園様でよろしいですか? 美羽様から常々お話は伺っております」



「一ノ瀬! 余計なことを言うんじゃない!」



広々としたリムジンの車内。
連休を利用して、俺たちは予定通りに旅館へと向かっていた。


グレーのボタンダウンシャツにジャケット、細身のデニムというラフな装いの昴さんが運転席から涼しげな微笑みを向けてくる。

高校生だけでは不安だと考えた美羽たちのお父さんが、保護者兼運転手として彼を任命したらしい。
昴さんに好感を持っている俺としては嬉しい誤算だ。



「美羽ちゃんは照れ屋さんだからねー。でもあんまりつれないことばっかり言ってると、女の子の友達できないぞ?」



昴さんの隣の助手席で、水色のミニワンピース、ブラウンカラーのブーツ姿の美空先輩が振り向いて「圭くんはいいけどねー」とにやにや笑う。

案の定、後部座席の美羽はすぐに噛みついた。




「誰が照れ屋だっ! それにそんなもの、苺花だけで十分でっ―――………………あ」




……あれ、そういや美羽が柚木園のことをちゃんと呼んだのって初めてじゃね?



「……み、美羽〜〜〜っ!」



「ち、違う! こ、これはっ、……ぁ、わ、だ、抱きつくな! 抱きしめるな! く、くるし……っ」



口を片手で覆う美空先輩がこらえきれず「くふふ」とほくそ笑んでいるのが見える。
……まさか、今のって先輩の誘導……?


いや、それより。



「……俺、負けてない?」




幸い俺の呟きは、賑やかな後ろの二人や、早くも俺の隣ですぅすぅ寝息を立て始めた姫宮(昨日楽しみで眠れなかったとか可愛いことを言っていた)には聞かれることはなかったようだ。


それにしても男女混合で旅行とか、勝ち組ぽいよなーとか考えて、一人でテンションを上げてみる。

だって年頃の、しかも気心が知れた仲間と旅行だ。否が応でもわくわくしてしまう。



「ふ、ふ……っ、そんな攻撃、ぼくの物理障壁にかかればなんてこと……っ」



「あーもう美羽は可愛いなー! 膝に乗せたくなってくるよ……ぎゅーっ」



「すっかりキャラが変わっているぞっ? いつもの王子キャラはどこへ行ったんだ!? そう簡単に捨ててい……ひゃわっ」



「ん、あれ? 旅館ってもっとあっちの方じゃなかったっけ?」



「いえ、合っているはずですよ。……お嬢様はドジでいらっしゃる上に、極度の方向音痴なのですから……」



「なにそれひどーい! バカにしないでよ、今日は朝から三回しか転んでないんだから!」



……ちょっとだけ、メンバーが強烈すぎるような気もするけども!


これに『男三人で一緒にお風呂だとッ!? しかもお泊まり、ちょっ、きゃっほぉ――――うッッ!!』と奇声を上げていた彩を追加したらどんなに恐ろしいことになっていただろう。想像したくもない。



「―――圭様、あと10分ほどで着きますよ」



「え、マジっすか! 意外とそこまで遠くないんですね」



窓の外の景色を眺めることしばらく、昴さんがミラー越しに薄く微笑んできた。
多分姫宮が寝てしまって話し相手がいない俺を気遣ってくれたんだろう。昴さん優しすぎる。



「そうそう。結構いいとこだから期待してて大丈夫だよ」



「……っていうか先輩、そこそこ人気の旅館を無料で完全貸切とか、どんな荒業使ったんですか?」



そう。美羽の言った通り、急な話にもかかわらず、美空先輩はあっという間に最高の条件で手配を済ませてしまったのだ。
そんな上手い話、裏があるようにしか思えないんだけど……。



「え、別荘のが良かった?」



「べっ……!?」



「今から行くとこって、特別観光地ってわけでもないからね。でも別荘は夏の方がいいなー。せっかく海あるんだし」



ぽんぽん飛び出すとんでもないセレブ発言に間いた口が塞がらない。



「あ! そういえばこの辺に新しいホテル出来たんだよね。そこもあたし顔利くんだけど、今からでも無理やりねじ込―――」



「旅館サイコーッ!」



ケータイを探しだした先輩の台詞を遮り、俺はぐっと拳を握る。
なんか良く分かんないけどこれはやばい、と俺の本能と止まることのない冷や汗が告げていた。

381心愛:2013/04/14(日) 20:07:34 HOST:proxyag059.docomo.ne.jp
>>ピーチ

夕紀の中学の修学旅行でお風呂に誰もいなかったのは、どこかの会員の皆さんの仕業なんだぜ……?
悲しかったぶん、ヒナには今回ちゃんと楽しんでもらおう! うん!


そして始まりました旅行編、今回名前も登場してない某クラスメイトがいるような気もしますがここは気にしない方向で!

美空は無敵だよ! ドジさえなければ!

382ピーチ:2013/04/15(月) 05:14:54 HOST:EM114-51-25-234.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

まさかの会員さんの仕業か! それは可哀そうに!

苺花ちゃん王子キャラはどこ行ったの!?

……あ、ドジさえしなければ無敵、ね…←

皆様方がそれぞれにキャラ濃いようで! 昴さん除いて!

383名無しさん:2013/04/15(月) 12:29:44 HOST:zaq31fa522e.zaq.ne.jp
        【気合いと合気道】
単刀直入に言いますが、
貴方、武術やりませんか?気合いと根性に自信ありますか?
もしあれば合気道をどうぞ

合気を行う際、気合い入れましょう。
気合い入れて!やぁ!!

格ゲーをご存じの方は
一度、藤堂香澄および風間飛鳥という人物を想像してみて下さい。
彼女らをイメージし合気技を行うとより効果的です

384名無しさん:2013/04/15(月) 12:32:07 HOST:zaq31fa522e.zaq.ne.jp
時々ガラの悪そうなおっさんが
来ますが気にしないで下さい。
悪そうな・・ですよ。
こんな事言っちゃヤバイかな・・・

まあとにかく関西で一緒にやりましょう。
私、関西です。

385名無しさん:2013/04/15(月) 12:36:44 HOST:zaq31fa522e.zaq.ne.jp


以前、門下生1人、救急車で運ばれました。
稽古がハード過ぎたのかな〜?
技くらい過ぎてダウンし病院直行!
私も気をつけます。

それにしても合気のコーチむちゃくちゃです
加減を知らないから困る。
ちょっとヤリ過ぎてしまうのがたまに傷ですね

ある意味空手コーチより凄まじいです。
一緒にやりましょう。
ただし保険はかけておきましょう。

怪我した時とかに役立ちます。

386心愛:2013/04/16(火) 21:31:39 HOST:proxy10047.docomo.ne.jp
>>ピーチ

どんな荒業〜のくだりで、美空がサラッと流したのも隠れポイントなんだぜ!
何かと世渡り上手なとこも書けたらなーと……ドジもしっかりやらせつつ←


みんなキャラ濃すぎて早くも大惨事の予感だね!
ヒナと昴に頑張ってもらうしかないね!

387ピーチ:2013/04/17(水) 05:12:00 HOST:EM114-51-166-96.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

気付きましたよ怖いよ美空先輩! 無理矢理ねじ込むってどーなんですかね!?

世渡り上手すぎじゃないですか美空先輩……?

うん、確かに彩ちゃんは入ってなくてよかったかも←

キャラ濃いのはいいことだよ! 薄くて忘れられる存在よりずっといいよ!

…とか何とかいいながら自分がそうだったり←

388名無しさん:2013/04/17(水) 11:18:25 HOST:zaq31fa5058.zaq.ne.jp
またクソスレか?
誰も見てねーよカス
いい加減にしろ

それより白人女性の話しないか?

389心愛:2013/04/18(木) 21:26:46 HOST:proxy10048.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ありがとう気づいてくれたか!
多分ホテルの重役とかにも知り合いがいるんだと思うよw
美空の世渡り上手な令嬢ぶりは…早く本格的に書きたいなぁ←


や、キャラ濃すぎですよね…w

390心愛:2013/04/18(木) 21:27:27 HOST:proxy10047.docomo.ne.jp







「夕紀、ほら」



「んゅ?」



起きたばかりでまだぽーっとした姫宮は寝ぼけ眼で首を傾げた後、柚木園が差し出した手にぽんっと自分のそれを乗せた。



「あはは、違うって」



貸して、と姫宮の持っていた荷物を笑顔で掠め取り、自分のものと共に両手にぶら下げてさっさと歩き出す柚木園。

ジャガード柄のカーディガンにカーゴパンツの後ろ姿は文句なしにカッコ良く、さすがはすべての女の子を愛するフェミニストといった風格だ。……実際の性別はともあれ。



「うん? ……え、えっ? 待ってまいちゃん! むしろそれ僕の役割だよ!」



凛々しすぎる彼女を、やっとのことで我に返った彼氏が慌てて追いかけていく。



「なにやってんだよあいつら……」



「確かに、女性に持たせるわけにはいきませんね。私も声を掛けてきます」



「いやいやっ、これ以上荷物増やしてどうするんですか! 美羽のぶんくらい手伝いますよ!?」



自分のものに加えて美羽と美空先輩、三人分の大型バッグを抱えて運転席から出てくる昴さん。
成人男性にしては細いし非力そうに見えるのに、表情には割と余裕がある。



「美羽のとか特に重そうだし……」



「仕方がないだろう。闇の装束はその機能性に見合った重量があるんだ」



「自分で持てないものを持ってくるなよ!」



「ありがとうございます。ですがこれも私の仕事ですので、お気になさらず」



にこりと微笑む昴さん。大人だ……。



一行を先導する美空先輩に続いて、駐車場を出て目的の建物へ。

小綺麗で洒落た感じのエントランス前に辿り着くと、外に出てわざわざ待機していたらしい女将さんが深々と頭を下げてくる。



「ようこそいらっしゃいました。結野様ですね? 常々お話は伺っております」



「はい。無理を言って申し訳ありませんでしたー」



にこやかに挨拶する先輩だけど、な、なんか……怖い。
無言の圧力みたいなものが、華奢な身体からゆらゆら立ち上ってるようなイメージだ。



「え、と……美羽たちのお父さんって、確かアパレル会社の社長さんなんですよね? 旅館となんか関係あるとは思えないんですけど……」



何かしらの権力を行使したんだろうけど、それってなんの?


俺の隣で声量を落としながら、昴さんが微苦笑。



「旦那様の御兄弟や親戚の方もそれぞれ大規模な会社を営まれていますので、その関係でしょう。とにかくお嬢様は人脈が広いですから」



「へ、へー……」



……なんかもう、財閥?








*・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・**・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・**・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・**・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・*






女将さんの案内について館内を歩いても、他の客と全然すれ違うことはなかった。



「本当に貸切なんですね……」



「うん。でも一人一部屋ってのも寂しいからねー、これくらいでちょうどいいでしょ?」



今回俺たちが使うのは女部屋がひとつに、姫宮と俺で一室。
それから、さすがに高校生のガキと同じ部屋というのは昴さんに悪いだろうということで、もう一部屋確保してある。



「これでタダって……。なんか申し訳なくなってくるんですけど」



「えー、だって少しでもお得な方がいいじゃない?」



「良心の呵責みたいなのないんですか先輩」



「んー、特にないかなー」



「マジすか……」



「例外はあるけどね」



美空先輩は悪戯っぽく漆黒の瞳を輝かせて。



「こういう特別扱いじゃなくて、なんて言うか……ちゃんと純粋な、一人のお客さんとして楽しみたいかな、ってとこは、あたしにもあるよ」



「? 旅館の話ですか?」



「そうそう。すっごく可愛くて頑張りやの若おかみさんがいるんだけどね、もうほんと可愛いの!」



「二回言いましたね」



まるで美羽のことを話すときみたいに、美空先輩は楽しそうだった。
よっぽどその子のことが気に入っている……のかもしれない。



「そこもまた誘うから!」



「まだここ来たばっかりなのに、気が早いですよ」



そう笑い返しながら。
もう次の、みんなで遊ぶ予定を話せるなんて、なんとなく―――いいなぁ、なんて思った。

391ピーチ:2013/04/20(土) 23:11:20 HOST:EM49-252-202-34.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

何でだろう夕紀ちゃんがすごくかわいく見える!

そして苺花ちゃんはどこまでも王子様だね!

……世渡り上手過ぎないですかね、美空先輩?

ありがとうございます彩織を出してくれてありがとうございます!

392心愛:2013/04/22(月) 22:45:19 HOST:proxyag073.docomo.ne.jp
>>ピーチ

お手w
苺花は、これからちゃんと女の子してもらうんで今のうちに王子させといた!

美空はドジ属性抜いたらただの天才だからね! ただの天才だったらつまんないし(ぉい

彩織ちゃん、これくらいしか出せなくてごめんねー!

393心愛:2013/04/22(月) 22:48:36 HOST:proxyag070.docomo.ne.jp





姫宮と二人だけで贅沢に使わせてもらう予定の、定員七名の和室。

襖で仕切られた川沿いの部屋は眺めも良く、窓を開けると風情のある緑の木々が見える。



「なんか落ちつくねー」



姫宮と二人でまったりしながら、水のせせらぎに耳を澄ませる。
なんかもう何もかも忘れてぼーっとしてたいような……。



「何かお手伝いすることはありませんか? 何でもお申し付けください」



「え、ええ……っ?」



が、全然落ちつけてない人が一名。

知的な風貌の美青年に真摯な眼差しを向けられ、年配の仲居さんが顔を赤くする。



「ちょ、昴さん!」



「はい?」



不思議そうに振り返る彼。

いや、はい? じゃなくて。



「せっかくなんだからゆっくりしましょうよ。お客さんに手伝うなんて言われたら困っちゃいますって」



「そ、そうですか? 申し訳ありません」



心なしかほっとした様子の仲居さんが出ていった後、昴さんはまたそわそわし出す。

進んで荷物の整理を手伝ってくれた彼を、どうせなら一緒にくつろごうと引き留めたはいいけど、どうやら結野家の優秀な執事さんは働いていないと気が済まないようで。



「緑茶です。よろしかったらどうぞ」



「あ、ども……」



漆塗りのテーブルに、コトリと置かれる湯呑み。
い、いつの間に淹れたんだろう……。



「少し早いですが、お布団を敷いておきました」



「えっ!? ちょっと待っ、ええっ!?」



驚いてバッと見れば、一瞬で畳の上にキッチリ綺麗に並ぶ二枚の布団が出現していた。
早業なんてレベルじゃない。



「浴衣はこちらになります。着付けが上手くいかないようであれば―――」



「ストーップ! 昴さんストーップ!」



止まる気配のない昴さんに、たまらずストップをかける。



「少しは休みましょう、ね!? お客さんじゃなくなってますよ!?」



「す、すみません。落ち着かなくて」



しゅん、とすっかり恐縮してしまう昴さん。

姫宮はというと、彼の業績を見ては「すごーい」と目をキラキラさせて感嘆のため息をついていた。



「ですが、実は備品の手入れに少々納得がいかない箇所がありまして……。それも兼ねてやはり先程の方に掃除用具をお借りし―――」



「よっし早速お風呂行きましょうか! 露天風呂がいいらしいですよ!」



「おふろおふろー!」



「け、圭様っ!? 姫宮様!?」



失礼を承知の上で、俺たちは昴さんをずるずると引っ張って部屋を出た。







゚・:*:・。☆゚・:*:・゚☆。・:*:・゚・:*:・。☆゚・:*:・゚☆。・:*:・゚






着替えやタオルを持って、ラウンジや卓球場、売店やなんかを横目に、まっすぐに大浴場へ。


……しかしあれだよね。創作では、こういう旅館のお風呂って、だいたい混浴だったりするよね。
男女交替の時間が決められてて、それに気づかず入ってきちゃったヒロインと二人きりで鉢合わせ、とかね。

お約束だよね……!



「……って、普通に男女別かよ……」



「うん? ヒナ、なんか言った?」



「いや別に」



……と思いきや、まさかの健全ルートだった。
別にいいけどさ。


そんなことを話しながら、男湯、と書かれた青い暖簾をくぐる。



「わー、脱衣所まで広いねー」



「そうだな……………ってちょっと待てぇ――――いッッ!」



わ、忘れてたぁああああああ!!??



「どしたの?」



シャツに手を掛けながら、きょとん、と首を傾げる美少女(ただし性別は♂)。



「どしたのじゃない! とにかく脱ぐなここ男湯!」



「うん、だから脱がないと入れないよね?」



「いーやーあー! この年で犯罪者にはなりたくないぃぃぃー!」



頭を抱える俺。



「何事も平常心ですよ、圭様」



言って、昴さんが涼やかな笑顔を向けてくる。



「お嬢様が次々と巻き起こす奇想天外なトラブルに比べれば、容姿が女性の男性の裸体を見るくらい、なんてことはありません」



「ま、眩しい……! その悟りきった微笑みが眩しい……!」



「今容姿が女性って言いませんでした!?」



昴さんの言葉には、何故か無駄に説得力があった。

394ピーチ:2013/04/23(火) 04:38:10 HOST:EM114-51-23-101.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

いや犬じゃないからね人だからね!

いや王子すぎるだろあの人!

美空先輩凄いよね! ドジさえ抜けば完全無欠!←

こんなに出してくれてありがとうー!

395心愛:2013/04/24(水) 19:00:30 HOST:proxyag117.docomo.ne.jp






木漏れ日が差し込む、広々とした露天風呂。
不透明な湯の中でゆったりと手足を伸ばす。
岩肌に腕をつき、ほっと一息。



「ふー……」



「ヒーナー? なんで向こうばっかり見てるのさー」



「ひぎゃぁあああ―――――ッッッ!?」



視界に白いものが映り込み、俺は唐突に絶叫を上げてずざざっと湯の中で後ずさる。



「来るな寄るな近づくなぁあああっ…………あ?」



「だから何なのっ」



俺が逃げた方向に先回りして、ぷんすかしている姫宮の肩が目に入る。

予想通り白くなめらかな肌やほっそりした腕をしているものの、その骨格は明らかに少女でなく少年のもので。



「……ひ、姫宮がちゃんと男、だと……? なにこれ夢? 白昼夢?」



「ヒナは僕をどんな目で見てたの!?」



ぷくーっと膨れる顔はやっぱり可愛らしいけど、こうしてちゃんと見れば女子と間違われることはまずないだろう。
まさに“可愛い男の子”って感じだ。



「……いーなー。筋肉うらやましい……」



ぽけっとしてしまう俺をよそに、本人は不満そうに自分の腕を眺めていた。



「隣、いいですか?」



「あ、どうぞどうぞ」



失礼します、と穏やかに微笑み、昴さんも俺の横に腰を下ろす。
ギリシア彫刻のように優美なシルエット、薄いながらも立体的に陰影のついた筋肉のラインが美しい。



「たまには、こうやってゆっくりするのもいいですね」



「そうですよ。仕事なんか忘れて―――」



と、突然仕切りの向こうから、聞き覚えのある元気な声が響く。




『美羽ちゃんこっちこっちー! おいでー』



『聞こえているから騒ぐな! そして走るな滑ったらどうする!』




男サイドに立ち込める沈黙。



「……女湯って……このすぐ向こうだったり……」



「……そのようですね」



こちらとあちらを隔てるのは薄い仕切り一枚。
賑やかな会話が思いっきり丸聞こえだった。



『おっ、意外とあるじゃん! 王子ってば着やせするタイプ?』



『きゃ、い、いきなり何するんですかっ』



『身体検査ー! ……んん? 待って王子、もしかしてあたしより腰細くない?』



『……この世は不条理だ……』



『そんなのどうでもいいです、それより美羽がすっかり黄昏ちゃってますよ!』



『やだもー美羽ちゃんだって可愛いよ! つるぺただって需要あるよ!』



『うるさいこっちに来るな! 目の暴力だ!』




「…………」



気まずげに視線を泳がせる昴さん、なんとなく正座の俺、体育館座りの姫宮が一様に赤面。
なんか水温が上昇したような気が。



「……認めるよ姫宮……! お前は男だ!」



「ヒナ! やっと分かってくれたんだね!」



小声のまま握手を交わす俺たち二人。
この恥ずかしさ、いたたまれなさは男同士でしか分かるまい。




『私の癒しは美羽だよ……っ。あー、落ち着く……』



『苺花も抱きつくんじゃないっ! 背中に当たっ……、て……、……………ひっく』



『……えっ、もしかして泣いてる!? 泣いてるのっ?』



『うわぁぁぁあああああん!』




ざっばあ! と派手な水飛沫が立つ音、濡れた床を駆け去る小さな音が立て続けに聞こえてきて。




『み、美羽ちゃんっ!? 追いかけなきゃ……王子、あたし先に上がるね!』



『は、はあ……って先輩、危険ですから走らないでくださいよ!』



『大丈夫だいじょっぷぎゃっ!?』



『ほんとに期待を裏切りませんね!?』




そして最後に、びったぁん! というお馴染みの音。



「え、と……心配だし、ゆいのんたちの様子見てくるよ」



「……そ、そか。じゃあ頼むわ」



「……では、私からもお願いします」



それぞれの想い人が起こした残念すぎる一連の出来事に、俺と昴さんは現実逃避の道を選んだ。

396ピーチ:2013/04/25(木) 03:40:30 HOST:EM114-51-8-105.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

男湯だけだとこんな思いしなくていいかもなのにね!

ほんと女子って元気だよねー…←

397たっくん:2013/04/25(木) 13:32:22 HOST:zaq31fa48ea.zaq.ne.jp
今2チャンネルのほうで歌ってきました。
やっぱり人間としてやるべきことはちゃんとやらないと
私は常識を守りたいです。

やっぱり人間としての常識ですからね
コミュニケーションというのは大切ですからね
皆もちゃんしなきゃ駄目だよ

398たっくん:2013/04/25(木) 13:32:57 HOST:zaq31fa48ea.zaq.ne.jp
また別のサイトでも歌ってきます。
アホのピーチ♪(笑)
アホのアーバン♪

399たっくん:2013/04/25(木) 13:33:17 HOST:49.250.72.234
人間としての常識ですからねこういうのは
皆もちゃんとしなさいよ

400:2013/04/25(木) 14:50:50 HOST:ntnara044190.nara.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
実は、1ケ月くらい前にヤバイことがあったんです。
学校のテストで赤点だった私は、K君と二人で居残りをさせられました。
K君は、運動神経抜群で、しかもルックスもよくて私の友達のなかにも
K君が好きな人はたくさんいます。もちろん私もその一人です。
なので、私は正直うれしくてたまりませんでした。
先生は、私たちに「そのプリントやったら帰っていいから、気をつけて帰れよ。」
とだけ言ってどこかへ行ってしまいました。
私は20分くらいでプリントを終わらせました。
でも、K君はまだ終わってません。
だからと言って待っていてもしかたがないので、私は
「あの・・・えっと・・・わ、私・・・もぅ終わったから・・・先・・・行くね・・・。」
と、顔を真っ赤にしながら言いました。
すると、K君は意外なことを言い返してきました。
「5分だけ待ってくんない? ・・・あ、いや・・・なんでもない・・・。」
私は、びくっりしました。
でも、少し考えてから
「いいよ。 でも、待ってどうするの?」
と聞き返しました。
K君は
「暗いし、一緒に帰った方がいいかなぁって思って・・・。」
と言いました。
私は、うれしくなりました。
そして、5分くらいたって
「はぁ〜あ!!やっと終わったよ。よし!!じゃぁ、いこうぜ!!」
というK君の声につられて私たちは教室を出ました。
私の家とK君の家は、歩きで5分くらいの近さです。
そして、K君の家のほうが学校の近くにあります。
歩いて行くと、K君の家が近ずいてきました。
そこで、私は、K君から「目を閉じろ」と言われました。
なんの抵抗もなく目を閉じた私をK君がゆうどうしてくれます。
私は、K君の手と声をたよりにゆっくりと足を進めます。
しばらく歩くと、いきなりソファーのようなものの上に押し倒されました。
私は、あわてて目をあけるとそこはなんとベットの上でした。
そしてK君が裸で私の服を脱がせます。
おっと!!
これ以上は恥ずかしいので、この文をコピーしてこの掲示板と他の掲示板に1つずつ
はって下さい。
すると、『        』にアドレスが出て、が青くなってクリックできます。
そして、30分ぐらいの動画が見られます。内容は、胸をもんだり・・・・
前、似たようなのなのやったけどできなかった

401心愛:2013/05/02(木) 23:23:51 HOST:proxyag053.docomo.ne.jp
>>ピーチ

たぶん同じ状況で、相手が他人の女子だったら「うぜえ…」って考えると思うよここあ←
自キャラの美人さんたちだから騒いでても仕方ない!


温泉ネタは一回書いてみたかったw

402心愛:2013/05/02(木) 23:24:21 HOST:proxyag053.docomo.ne.jp






その後、静かになった露天風呂を出て大浴場に行ってみたりと一通りぶらついてから、そろそろ上がると昴さんに声をかける。



「せっかく来たんですから、昴さんはもう少しいたらどうですか? たまには美空先輩のお守りから解放されてゆっくりしてもバチは当たらないと思いますよ」



「……では、お言葉に甘えて」



あ、お守りってとこ否定しないのね……。


そんなこんなでさっさと着替えて脱衣所を後にすると、女湯の暖簾から出てきた柚木園と鉢合わせした。



「あれ、ヒナ」



水分を含んだ髪の間から覗く折れそうに細い首筋、しっとり透明なつやのある肌が妙に艶めかしい。

さっきの会話を聞いてしまった後だからか浴衣姿の柚木園が女っぽく見えて直視できず、微妙に視線を逸らしながら小さく片手を上げて。



「偶然じゃん。美羽たちの後?」



「そうそう。二人ともすぐに出ちゃったからね、一人で満喫してきた」



うん知ってる。と言いたい衝動をぐっと抑える。



「これから暇なら、こっちの部屋来たら?」



「え、女部屋に?」



「異性の部屋に遊びに来てわいわいやる、っていうの、修学旅行の醍醐味じゃない? 見回りの先生に見つからないように隠れたりして」



「先生誰だよ」



役割的に昴さんが一番近いような気がするけど。



「まぁ、私は女の子の部屋にいても何も言われないから今まで関係なかったけどね。こればかりは自分の性別に感謝するよ」



「あそう……」



そんなくだらないことを話ながら、柚木園に付いて広々とした廊下を歩く。
やがて一つの襖にたどり着き、



「美羽、先輩? ただいまで、……す?」



部屋の中を覗き込んだ柚木園、そして俺が、揃ってフリーズした。


くてっとテーブルに突っ伏して、赤い顔でふにゃふにゃ言っている美羽。彼女を見ながら端正な顔を気まずげに引き攣らせている美空先輩。


そして。



部屋の中に仄かに漂う―――アルコール臭。



「「お酒は二十歳からッ!?」」



動転のあまり、二人して変なツッコミをしてしまった。



「ちょ、何やってるんすか先輩!?」



「わ、わざとじゃないの!」



ぴょこんっとツインテールを跳ねさせながら、しどろもどろに言い訳タイムに入る美空先輩。手にはジュースの(いや、そう見えるだけの)缶。



「あの、ね……? みんなで飲もうと思って勝手に家から持ってきてたジュースを開けたら、それがお酒だったみたいで……」



「ドジにも程がありますよっ!?」



分かりにくいとこでドジられるのも困るもんだね! 学習した!

今日のドジが少なかった、っていうのはこのための伏線だったのか!?



「だ、だってお風呂上がりに冷たいもの飲むと美味しいじゃない? ……ってことで、美羽ちゃんもだけど、ついて来てくれた姫にもあげちゃった」



「をい」



しかも被害拡大させてやがった!


唖然とする俺と柚木園に向けて「……え、えへ?」と小さく舌を出してこつんっと頭を叩いてみせる。悔しいけど可愛い。



「んー……なんかあたしまでやばいかも。だんだん暑くなってきた」



「だ、大丈夫ですか?」



「大丈夫……だとは思うんだけど。外行って涼んでくるから、その間美羽ちゃんよろしくね」



「はああ!?」



アルコールに強いのか特別酔っているようには見えなかったけど、美空先輩がひらひら手を振って出て行ってしまう。


残されたのは絶賛潰れ中の美羽と俺ら二人。
ど、どうすれば……。


しばし無言でアイコンタクト会議をした後、柚木園がそろそろと手を伸ばし、美羽の肩を遠慮がちに叩く。



「みーうー」



「……うー……?」



意識はあるようだ。

美羽はとろん、とした熱っぽい瞳で柚木園を映すとふらふらしながら近寄り、彼女にぼふっと抱きついて顔をうずめ………………………え?



「か、か、かわいいいいいい」



口に片手を当てキラキラその表情を輝かせる柚木園。
うにゅーっとかなんとか言いながら頬擦りしている美羽。


……なんだこれ。



立ち尽くす俺はアルコールの恐ろしさに戦慄を隠せない。酒の威力すげえ。

403ピーチ:2013/05/03(金) 16:00:07 HOST:EM114-51-9-68.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

あたしも一緒だ仲いい人以外は!←

美人さんだから許されるw

ていうか美空先輩!? いくら何でもアルコールは!

404黒ネコ:2013/05/05(日) 09:18:56 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
 どうも、黒ネコです^^
 いや、なんかもう「知ってますよ、貴方のこと」って思われてもイイほど皆さんの小説に顔出してます←
 今回は、心愛さんの作品に顔を出させて頂きました ̄▽ ̄

 文も読み易いし、学生の淡い恋話が楽しく読めました(笑)
 っあ、それと、400スレ達成おめでとうございます^^
 これからも、お体に沿わない程度に頑張って下さい
 応援していますっ!

405心愛:2013/05/07(火) 22:26:13 HOST:proxy10054.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ドジィ……
うん、いくら美人でもアルコール間違えちゃいけないね!
お酒は二十歳からっ!



>>黒ネコさん

またまたこんにちは(*^-^)ノ
恋愛というか基本アホしかやってませんけどね!
頑張って完結までこぎつけたいものです←

406ピーチ:2013/05/09(木) 04:40:55 HOST:EM114-51-29-243.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ちょっとくらいのドジなら可愛さとか引き出せるけどこれはちょっと←

どれだけの美人でもちょっとね……

でもあたしも間違えそうになったことあるような(こら

407心愛:2013/05/10(金) 22:07:24 HOST:proxy10047.docomo.ne.jp
>>ピーチ

やっぱり転ぶくらいに留めておかないとねw


割と見た目的に普通の炭酸飲料に近いやつあるよね(`・ω・´)
美空はただの不注意と運の悪さだろうがな!

408心愛:2013/05/10(金) 22:07:52 HOST:proxy10047.docomo.ne.jp






「……お前、彼氏はどうしたよ」



それでも必死に平静を装いつつ半眼で聞けば、柚木園がやっとこっちの世界に戻ってきてくれた。



「わ、私としたことが、つい美羽の可愛さに負けて色々忘れてしまった……!」



「安心しろ、お前いつもそんな感じだから」



全然『私としたことが』になってないと思う。



「み、見てくる!」



言い残して柚木園が廊下へ消え、あれ? と思ったときには既に、個室に美羽と二人だけになっていて。


しまった俺のバカ! 何やってんだよおい!
この状態の美羽と二人きりとか―――完璧に嫌な予感しかしない!



「んー……」



「み、美羽さん……? 眠いなら寝てていいんだよ……?」



俺が恐る恐る声を掛けても、むにゃむにゃ言いながらしきりに寝ぼけ眼をこすっている美羽。
……ダメだ、言葉が通じない。



「まだ早いけどそこに布団敷いてあるし―――って昴さんいつの間にこっちまで!? 仕事モードやべぇ!」



「う?」



きょとん、と一人全力で叫びまくる俺を見上げた後、ふるふると首を振る。



「え、えーと……寝ないってこと?」



熱っぽく潤む瞳は星の瞬く久遠の黒。
風呂上がりだからかアルコールの所為なのか、ほんのり染まった頬。
こくんと頷いた拍子に、濡れ羽色をした髪がふわりと広がり、甘い香りが鼻先を淡くくすぐった。


そんな場合じゃないってことは分かっているのに、勝手に心臓が早鐘を打つ。



「……そもそも美羽は炭酸飲めないし飲食物に対する警戒心も強いから、これだってほんのちょっと舐めたくらいのはず。だとしたら身体に害はないだろうし、だいたいこういうパターンの話ってヒロインが酔っぱらってるのは最初のうちだけで、一晩たったら綺麗さっぱり何も覚えてないってのが大抵ってことを考えるとここはやっぱり一回完全に寝てもらって―――」



「うー……?」



煩悩を抹消するためにひたすらぶつぶつ早口で喋りながら顎に手を当てる俺を、美羽は不思議そうにじっと見つめている。

くそ、いつもの中ニ病要素はどこに行った! これじゃまるっきり別人じゃないか!



「美羽ー? や、やっぱりあっちに」



「う―――」



「いや『う』じゃなくてねっ?」



思わず頭を抱える。
いつものヴァンパイアバージョンの方がずっと扱いやすいんだけど何これ! 普通の男子高校生には荷が重いよ!



「ひなー……」



「ふへっ!?」



今度は、ぎゅっと細い腕を回して正面から腰に抱きついてきた。


……え、え、えええッ!?



「ちょ、ちょちょちょちょぉッ!? 待っ、は、離れ」



「や」



ご満悦なようで、ピュアっ子版美羽さんはにこにこしながらきっぱり拒否。
くっ、これは可愛い―――じゃない! しっかりしろ俺!



「……美羽、よーく聞けよ? 何故か幼児化してるみたいだけど、俺たちは子供って年じゃない。高校生の男女がこういうことするのは色々問題があるわけ。分かった?」



頑張って言い聞かせるけれど、美羽は頬を膨らませてぷいっとそっぽを向く。
拗ねたようなその仕草がいつもの彼女のものと一瞬だけ重なって、顔が急激に熱くなる。



「っ、いい加減に、」



「や―――!」



このままではまずいと半ば無理矢理引き剥がし、じたばたしている美羽に語気を強めて言い放つ。



「俺、自分の部屋帰るから。この部屋で大人しくしてて!」



「………」



それを聞いた途端に、美羽がぴたりと固まった。
ショックを受けたように、大きな瞳が見開かれ―――




「えっ」




「……ごめんなさい」




みるみるうちに、じんわりと涙が溜まっていく。


な、なんで!? どうして!?




「もう、わがまま言わないから、……ひとりにしないで……っ」




力なくしゃくりあげながら、拙い謝罪の言葉を繰り返す。




「きらわれて、ひとりになるのは、……やだ、よ……!」




「………」



ガツンと頭を思いきり殴られたような衝撃を受けて、俺は黙り込んだ。

409ピーチ:2013/05/11(土) 12:09:25 HOST:EM114-51-32-43.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

転ぶのもどうかと思うけどなー…←

あるある! だって匂いは果物のお酒なんてよくあるもん!

ヒナさん、墓穴掘っちゃったねw(おい

410心愛:2013/05/24(金) 15:05:03 HOST:proxyag022.docomo.ne.jp
>>ピーチ

死にかけてるものの、ここあ再び参上(・∀・)
なんかもうほんと久々な感じがする!


見た目も香りも分かりにくいお酒は危険だよね!

あ、ちなみに次ので一応一段落で、今度は番外編で苺花と昴視点をちょろっとお届け予定←

411心愛:2013/05/24(金) 15:05:40 HOST:proxyag022.docomo.ne.jp






もしかして、今喋っているのは、弱い部分の美羽……?


強気に振る舞いながら、本当はいつも、こんなことを思っていたのか?


“ミウ”と、美羽。


綺麗で強くて、なのに酷く傷つきやすくて、怖いくらいに純粋な、心。



「わ、悪かったよ……」



小さな頭に手を乗せ、あやすように優しく叩く。



「置いてかない。置いてかないから……約束する」



「……ほん、と?」



一拍遅れ、濡れた瞳が上げられる。



「一緒にいてくれる?」



「う、うん」



それを聞くや、美羽はぱああっと顔を明るく輝かせた。



「約束ね!」



うわあ……。

くらっときた。
至近距離で見るには刺激が強すぎる笑顔だった。
姫宮のみたいに純粋で可愛らしい好意の滲み出るその表情は、不慣れな身にとってはたまらない。



「………! ………っ!」



「ヒナ?」



「やー何でもないっ!」



あははと空笑いしながら、美羽をくっつけたまま廊下に出る。
「どこ行くの?」と不思議がる彼女に適当に返し、見覚えのある一つの部屋の前に辿り着き、




「―――……柚木園ヘルプッ!!」




スパーンッ! と全力で襖を開け放った。


胸を張って言おう、俺はもう限界だ! これ以上この状態を続けたら俺の中にお住まいの理性さんが家出してしまう!
でも一応女同士だし、柚木園なら何とかしてくれるさきっと!


という少々情けない考えの末に目的の人物を探しに来た俺はすぐに彼女の姿を見つけた、けど。



「………ぅえ?」



変な声出た。


視界に入ったのは―――あ、と焦ったようにこちらに視線をくれる柚木園、そして彼女の赤い顔の両側に腕をつき、布団の上に押し倒す形で覆い被さっている姫宮。

二人の体勢は、えーと、アレだ。十中八九、旅行先で人目を忍んで今にも致そうとしているカップルのそれで。


つー、と背中に汗が伝う。



「……面目しだいも御座いませぬ。どうぞごゆるりと」



「キャラ変わってる!?」



きょとんとしている美羽の背中をそっと押し、退場しようとしたところで必死な声に止められた。



「ま、待って待って! 助けてよ!」



「……は? 助……?」



良く見れば、柚木園は姫宮の下でじたばたともがいている。
あれ? 合意の上じゃないの?



「ヒナってば!」



「あ、あーうん」



我に返った俺は美羽に裾を引っ張られてコケそうになりながらも、二人に近づいていって姫宮を引き剥がす。


意外と簡単に離れてくれた姫宮は、ふにゃ、とそのまま崩れ落ちた。
その頬は熱に浮かされたようにほんのり色づいている。



「姫宮……?」



「やっぱり酔ってるみたい。私を見た途端にくっついてきてさ……」



恥ずかしそうに浴衣の乱れを直しながら、柚木園。

明らかにくっついてきたとかそういうレベルの話じゃなさそうだけど、あんまり触れられたいことでもないだろうし深入りはしないことにする。



「それは大変だったな……。正直びびったよ」



「私も……。夕紀が酔うと怖いってことが良く分かった」



「やっぱ未成年が飲んじゃいけないってのは道理なんだなー」



二人でしみじみと頷き合う。
……いや、そんなことしてる場合じゃないのは分かってるけどね。



「んー……まいちゃん、どこー……?」



「ちょっとなにこの馬鹿力! 痛い痛い痛いっ」



「ひ、ヒナ!? 大丈夫っ?」



「うー……やーだー! ヒナといるー!」



「美羽も落ち着いて!」




「……み、皆様……? 一体何を……」




「「あ」」



どうやら部屋の前を通りがかったらしい。
荷物を手に持ったまま入口に立ち尽くす昴さんの、戸惑いの視線が痛かった。

412ピーチ:2013/05/24(金) 22:44:09 HOST:EM1-114-1-127.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

久しぶりー! 寂しかったよー!←

だよねお酒は要注意だね!

ちょっと待てヒナさんたちー!

みんな可愛すぎるけどそれとこれとは話が別だー!←

413心愛:2013/06/06(木) 19:52:32 HOST:proxyag074.docomo.ne.jp
>>ピーチ

で、大変なことになった後すぐに後日談という鬼進行w

明らかに変なところは優しい心で見なかったことにしてくれ!(ぇ

414心愛:2013/06/06(木) 19:53:18 HOST:proxyag073.docomo.ne.jp






「それにしても僕、あのときいつから寝てたんだろ……?」



連休明けの教室で、姫宮が不思議そうに首を捻った。



「朝気づいたら布団に寝てたし、それまでのことって全然覚えてないんだよね。おかしいなぁ」



「そ、それはよかった……」



「まいちゃん? なんで目を逸らすの?」



昨日からなんか変だよ? と柚木園の顔を覗き込もうとして、ばっと全力で避けられている姫宮。
……察してやれ。



「実は、ぼくも記憶が曖昧なんだ」



「うん、その方が幸せだと思う」



世の中には知らない方がいいことだってたくさんあるよね。

美羽は不満げにむむむと唸った後、



「はっ! ぼくの力を畏れる何者かによって消されたのかもしれない!」



「ねぇよ」



「くっ、人間界だからといって油断した……! ヒナ、主の危機だ! 眷属として今すぐ旅館の関係者に電話して、洗いざらい調査を―――」



「しねぇよ」



やっぱり俺の予感通りだったらしく、朝起きた美羽も姫宮も、あの夜のことは綺麗さっぱり忘れてぴんぴんしていた。

良くも悪くも美羽は今日も通常運転で、あの頼りなげな様子の面影もない。
うーん……俺の気にしすぎ、かな。



「あ。そういやお詫びも兼ねて、美空先輩がまた企画するってさ。おすすめの旅館らしいよ」



「ほんと? それは楽しみ……ってお詫び?」



……しまった!
この件については大事にしても面倒だから、天然ピュアっ子たる姫宮と超箱入り娘の美羽だったら「え、あの缶? 普通にジュースだろ。それより急に寝ちゃったけど多分疲れが出たんだな、もう大丈夫?」とか言って騙し通せるだろうって残りのメンバーで(っていうか美空先輩が)隠すことを決めたのに……!


柚木園が黙って顔を引き攣らせている。
い、今からでもごまかさないと!



「おいおいヒナー、何の話してんだよー! 旅館が何だって?」



「いっ?」



と、誰かがバシッと後ろから肩を叩いてきた。
振り返れば、にまにま笑っている春山のツラ。……なんか、妙に久しぶりに見た気がする。


俺が困ってるのを見て声掛けたとか……いやまさか、こいつはそんなキャラじゃないよな。
でも一瞬そう考えてしまうくらいには、偶然では済まないくらいにいいタイミングだった。



「よう。随分と楽しそうだな、ヒナ」



「その話、詳しく聞かせてくれるか?」



「まさか俺らを差し置いて、男女で仲良くお泊まりなんて素敵青春イベントを体験してきた……なんてことは、ないよなぁ」



「絞殺刺殺射殺銃殺毒殺圧殺殴殺撲殺惨殺轢殺扼殺」



「久々の展開!」



悪ノリしたクラスメイト男子に素早く拉致され、俺は教室の隅に追い詰められる。



「ちょ、待てよ! なんで俺だけ!?」



「柚木園は女だし、結野さんも別にいい。姫宮は………なんか違う」



「なんか違うってどういう意味!?」



……確かに、女子に縁のない男が嫉妬をぶつける相手には、姫宮はちょっと……。

いやむしろ、



「結野だけでなく姫にまで手を出すとは……許すまじ!」



「なんで!? なんで僕が入るの!?」



……やっぱり、羨ましがられる理由に入ってるよね。

これで美空先輩の名前も出そうものなら本気で殺されそうだ。



「いーなー。俺も誘ってくれればよかったのにー」



「冗談は存在だけにしておけ」



「俺の存在って冗談だったの!?」



この空気を作り出した張本人である春山はといえば、いつの間にか美羽に絡んでいた。



「ひでーよ結野ちゃん……俺のことキライ?」



「君の霊魂が天に召された暁には死神とダンスを踊ってやってもいい」



「どや顔でふられた! しかも結構言ってること酷くね!?」



台詞だけ聞けば春山の方がまともに思えるけど、これで物凄く嬉しそうな顔をしているのだから手に負えない。これだからドMは……。

415ピーチ:2013/06/07(金) 03:55:03 HOST:em114-51-132-176.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

まさかの鬼進行w

いや絶対変なところないから! 読んでてやべぇやっぱ神だこの人とかは思ったけど!←

……ヒナさんも夕紀ちゃんもある意味立場似てたね、今回(え

416たっくん:2013/06/07(金) 11:44:14 HOST:zaq31fa529e.zaq.ne.jp
昼飯の時間・・

腹をすかせたピーチは母親が朝早く作ってくれたお弁当を開けます。
すると・・何と祖父(おじいちゃん)の入れ歯が入っているではありませんか。

昨夜ポリデントにつけてあったおじいちゃんの入れ歯を
ご飯の上にのせ口に入れた・・すると
案外うまかった

417心愛:2013/06/07(金) 19:09:01 HOST:proxyag084.docomo.ne.jp






「美羽と夕紀にちょっかい出さないでくれる……?」



「おー柚木園! やっぱいいねその目! ゾクゾクする!」



「夕紀、この生命体の行動パターンに黙るって選択肢はないのかな」



「うん、賑やかで面白いよね!」



「ふふん、そうだろー。なんと言っても俺、通知表に6年連続で『落ち着きがありません』って書かれた男だからな!」



ツッコミ不在のカオス。
次々と飛んでくる質問をスルーしながらこっそり傍観していた俺は、耐えきれずにぼそりと呟く。



「……俺、春山ほどバカな奴見たことないかも」



「よせよ照れるぜ」



「褒めてねぇ!」



眩しいシャイニングスマイルで、ぐっと親指を立てられた。顔だけ見ればワイルド系のイケメンなのが非常にムカつく。




「―――日永圭はこのクラスかっ!」




「誰っ!?」



さらに突然ドアをぶち壊しそうな勢いで開け放ち、屈強そうな男子生徒がぞろぞろ入ってきた。
ずらりと並ぶいかつい顔は、学校の中で見たことあるような気もするけど……?



「貴様、姫と温泉旅行に行ったそうだな?」



「え、どこから情報を!?」



「そんなもの、この教室の天井裏に潜んだ会員からの連絡を得れば容易なこと」



「おまわりさーん!」



この学校忍者までいんの!?



「同じクラスだというだけでも許し難いのに、一日でも姫と寝食共にするなど言語道断!」



「ファンクラブに加入していない男が姫の半径二メートル以内に近づくな!」



「そ、それは席順の都合上無理が……って、え? ファンクラブ?」



『いかにも! 我々は非公式の姫ファンクラブ―――正式名称《我らが天使にして希望の光・姫宮夕紀を草葉の陰から愛で、戦い、全力で守護する会》である!』



「助けてぇぇぇえええええ!」



「? ヒナ、どうしたんだろ?」



「……関わらない方が良さそうだね」



「何を言う、主を庇うのが眷属だろう。自分の危機は自分で何とかしろ」



「この卑怯もだぎゃ―――――!」



巻き込まれたら面倒そうと悟るや、すぐに俺を解放して退散するクラスメイトたち。薄情極まりない。
あと姫宮、お前の耳はどうなってるんだ。



「大切なクラスメイトが一方的な体罰を受けるなんて、見過ごすことはできない……! 先輩方さぁカモンっ! その怒りを俺に全力でぶつけてくださいっ!」



「自分の欲望全開じゃねーかちくしょー!」



南高11組は、今日も平和です。

418心愛:2013/06/07(金) 19:10:26 HOST:proxyag083.docomo.ne.jp
>>ピーチ

いやいや、違和感ありまくりでごめんw


可哀想ポジ←

419ピーチ:2013/06/09(日) 08:27:33 HOST:em49-252-253-153.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

いや無茶苦茶うまいんですけど! むしろ違和感ないんですけど!

ヒナさん哀れだ……! そして春山くんはどうなんだろう…←

420心愛:2013/06/19(水) 20:52:43 HOST:proxyag014.docomo.ne.jp
>>ピーチ

番外編で、春山もアホなだけじゃないんだなーってわかってもらえたら幸いだ!
…アホだけどね!


そろそろ最終話なムードに突入するかもしれないw
それまでの息抜きってことでいつものバカ極まりない話をどぞ(`・ω・´)

421心愛:2013/06/19(水) 20:53:03 HOST:proxyag014.docomo.ne.jp


『現代社会』




昼休み明けの最初の授業。
すーすーと可愛らしい寝息を立てて、姫宮が居眠りしていた。
無理もない、特に眠くなる時間帯に加えてこの先生の声は生徒をまどろみに誘うことで有名だ。暖房入れてるからあったかいし。
現代社会はほぼ全員受験に使わない科目というのもあり、みんな最初から先生の話そっちのけでそれぞれ自習に励んでいる。これでまったく気づかず喋り続けられる先生も凄いけど。


俺は開いた国語の問題集の上にシャーペンを転がし、姫宮を揺すり起こそうと手を伸ばしかけて、



『(バカ、起こすな!)』



いくつものアイコンタクトによって阻まれた。


せっかく気持ち良さそうに寝てるのに、無理矢理起こしたら可哀想だってことだろうか。

……何だかんだで、いいクラスだよな。
でも今珍しく次のテストのポイントとか言ってるし、これは聞いておいた方が自分のためにな―――



『(寝顔鑑賞会が中止になっちまうだろ!?)』



訂正。つくづく最低なクラスだ。



『(おいこらヒナ! ふざけんな!)』



『(俺らの安らぎタイムをどうしてくれる!)』



『(まあ落ち着け。ここにとある組織から買収した姫宮の限定ブロマイドとポスターがある。これをじっくり鑑賞して心を休めるんだ)』



『言い値で買おう』



最後、複数の男子が一斉に思いっきり声に出して取引を成立させていたけど先生も気づかないしいちいちツッコむのも面倒になってきたので、俺は姫宮の肩を揺すって目を覚まさせる。



「うーん……? ハンバーグでいいんですか……?」



「どんな寝ぼけ方だよ」



ふにゃふにゃ言いながら目をこする姫宮。



「うにゅー……あれぇ、ヒナがいるー」



「そりゃいるだろ教室なんだから。ほらメモれ、田中結構大事なこと言ってるぞ」



「ふぁーい……?」



うとうとしながらも、その指先は器用にも教科書に付箋を張り出したので大丈夫だろうと判断し、前に向き直る。

重点的に出題する問題集の範囲なんかを一通り把握した後、俺は姫宮の他にももう一人、心ここにあらず状態の男を見つけた。
春山だ。
なんか一時期の柚木園みたいに、何も耳に入らないような様子でぽけーっと虚空を見つめている。

もう先生は社会情勢がうんたらとかいうどうでもいい話に移ってしまっていたから聞く必要はないけど、なんとなく気になった俺は春山の金髪にぺしっとチョップを叩き込んだ。
え、遠慮? そんなものこいつ相手に必要ないし。



「っ…………うおっ!?」



春山は攻撃自体にはほぼ無反応だったのに、何故か俺を見てから大げさにのけぞった。



「な、なんだヒナか! ちょ、びっくりさせんなよー、心臓から口が飛び出るかと思った!」



「それは是非とも見てみたいな」



正しくは口から心臓ね。


呆れる俺をちらっと見、春山は安心したように息をつく。



「……いくら似てないように見えても、兄妹ってやっぱ似るんだな……。あぶね、一瞬間違えそうになったわ」



「は? なんか言った?」



「いや何も?」



へらっと笑ってごまかす春山。……釈然としない。
こいつのこういうとらえどころのなさとか、たまに彩と似たようなものを感じることがある。



「寝不足? 永眠はしっかり取った方がいいぞ?」




「ヒナの珍しい優しさが痛い! でもそれが快感!」



「黙れ変態!」



ちなみに、ここまでの会話は全て小声でお送りしています。


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