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邪気眼少女の攻略法。

178心愛:2012/12/25(火) 17:56:01 HOST:proxy10056.docomo.ne.jp






「ヒナ、春山くん! あっちで握力だって! やろーよ!」



「姫宮……っ」



いつの間に離れていたらしく、ちょっと袖が余ったジャージの袖をぶかぶかさせてこっちに走ってくる姫宮。
……あれだな、絶対「僕は男だもん! だから大丈夫なんだもん!」ってちょっと無理して大きめのやつ買ったんだな。そんなとこまで抜け目なく可愛くて、今の俺の疲れ果てたハートの清涼剤になってくれる。



「姫宮ちゃんのお願いなら俺なんでも聞くよ無条件でー!」



輝く笑顔でカエルみたいにぴょーん! と気持ち悪く飛び跳ねる春山からできる限り離れながら、姫宮について歩く。



「あれ? 美羽は?」



「結野ちゃん?」



お前には訊いてねぇよ。



「ゆいのんならあそこだよ」



あそこあそこ、と姫宮が指差す先には、いつものゴスロリ娘……では、もちろんなく。


細っこく頼りない身体を黒に薄ピンクのラインが入ったジャージで包んだ美羽が、顔を真っ赤にしてぷるぷる震えながら「むぐぐぐぐ」と握力計を握っているところだった。
体育バージョンなのか、長い髪をポニーテールにしている。



「み、みうみう……? それ、壊れてるんじゃ……」



「わ、悪かっ……た、な……! これ、がぼくのっ、全りょ、っは、くだ!」



頬を火照らせ、汗だくでぜーはーしている美羽。



「ちょ、息めっちゃ上がってるけど!?」



「ふ、ふん……問題ない。ぼくはミウ=黎(ローデシア)=リルフィーユ……この程度で倒れるな……ど、……ぜぇ、ぜぇ」



「無理して喋んなくてもっ」



「たとえこの仮の肉体が死することがあろうとも、……魂は、不滅……っ」



「結野さーんっ!?」




「……握力計握っただけだよね?」



「そのはずなんだけど……」



コメントに困って突っ立っていると、クラスメイトの女子に目をつけられた。



「あーヒナじゃん! ちょうど良かった、美羽っちどうにかしてよ」



「俺は保護者か」



ため息をついて、美羽の前にしゃがみ込む。



「……ヒナ?」



「えー、と……保健室行く?」



「君はぼくを馬鹿にしているのか!?」



「体力測定くらいで倒れるわけがないだろう!」と憤慨する美羽だけど……あながちそうでもないんじゃ……?



「結野ちゃん大丈夫ー?」



「寄るな! 来るな! 近づくな!」



「もー、ひどいなぁ結野ちゃん。俺だって傷つくときくらいあるんだよ?」



「嘘つけめっちゃ嬉しそうだろお前」



「君たちは黙って握力でも計っていろ!」



春山と同列扱いされたことに心底へこみつつ、「はい!」と姫宮に手渡されたそれを右手で素直に握る。
どうせこの時間中に計っちゃわないとダメだしね。



「……あー、去年とほとんど変わんなかったわ」



「どれどれ? …………ヒナって……とことん平均的だよね」



失礼な。



「ちなみに俺はそこそこ伸びた」



「お、……おかしい! 君たちの腕はどういう構造をしているんだっ!」



俺と春山の記録を見て美羽が青ざめていた。



「そう? 春山はともかく、男子の平均ぴったしくらいじゃね? 俺の」



「……そうか、まずこの国自体が化け物の巣窟だったのか……」



問題発言やめろ。



「僕もやるー!」



元気いっぱいに挙手する細い腕。



「あはは、姫はねー」



「ひめみー、男子と張り合って無理しないでよー?」



「?」



頭の上におっきなハテナマークを乗っけながら、姫宮がぐぐっと力を入れ。
それからちょっとだけ得意そうに、数字が刻まれた画面を見せてくる。




「僕、握力だけは凄いんだよ?」




『え』




……握力と見た目は関係ないことが分かった。

179ピーチ:2012/12/25(火) 23:21:33 HOST:EM1-114-215-92.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

まさかの握力だけで疲れる!?

どんだけだって思うけどそこが可愛いw←

180チェリー:2012/12/26(水) 10:51:07 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
厨坊w

181心愛:2012/12/26(水) 15:30:47 HOST:proxyag104.docomo.ne.jp
>>ピーチ

美羽は貧弱なのでw
よく生きてこれたね…って感じなんだけど、その美羽を今まで支えてきた人物が次から登場します!

この子も曲者だけど!

182名無しさん:2012/12/26(水) 21:20:24 HOST:EM114-51-172-214.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

美羽ちゃん! 貧弱もほどほどに!←

曲者か! でも美羽ちゃん支えてたのか!

183心愛:2012/12/26(水) 23:13:50 HOST:proxy10060.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うん、美羽の、ある意味理解者かな(o^_^o)
ヒナとの違いを書けたらなーと←


この子を最後にキャラは大体揃うけど、色々複雑な美羽の攻略の鍵を握ってるっていう意味では最重要人物かも。

深い話はまた後から。とにかく登場させるぞー!

184ピーチ:2012/12/27(木) 13:59:48 HOST:nptka407.pcsitebrowser.ne.jp
ここにゃん〉〉

そのある意味ってどーゆーこと!?

……てっきり、ヒナさんが最重要人物かと思った…

185心愛:2012/12/27(木) 18:55:15 HOST:proxy10012.docomo.ne.jp

『結野美空』





「嗚呼……。断罪の使徒を悼む鎮魂歌(レクイエム)の調べが聞こえる……」



「これのどこがレクイエムだ」



今日も美羽は絶好調。
ふふんと何故か胸を張り、



「葬送曲と迷うところだがな。《純血の薔薇(Crimson)》の本部に魔獣の大群が侵入し多数の死者が出たときには」



「はいはい」



「聞いてるのか!」



しつこい美羽をあしらうのにも妙にこなれてきた今日この頃です。



「今から一階のホールで、ダンス同好会が新入生歓迎ライブをやるんだって」



鞄に教科書を詰め込む柚木園が、さっきから流れている軽快なポップスの正体をあっさり看板してしまう。



「ダンスって華やかな子が多いんだよねー。特に部長やってる人、それはもう美人で―――」



「なんだってっ!?」



ガタンッと急に立ち上がり、ぺらぺら語り始めた柚木園を遮る美羽。
顔が青い。



「ダンス同好会が、ライブ……!? 聞いていないぞ、そんなことっ」



「え? ゆいのん、ダンス興味あるの? ちょっと意外」



「美羽が、ダンス……。絶対可愛いけど体力的にちょっと無理があるんじゃ」



「大きなお世話だ!」



姫宮と柚木園に一喝を飛ばし、美羽が長い髪を翻す。



「ヒナ、行くぞ!」



「まるで当然のように!?」



愕然。



「それは当然だろう、眷属なんだから!」



「いい加減眷属イコール俺イコール便利屋みたいな認識改めようよ!?」



……でも眷属になる宣言しちゃったのは他でもない俺自身なので文句は言えない。



「柚木園と姫宮は?」



「私は無理かな。校舎裏で女の子が待ってるから」



「……行ってらっしゃいませ……」



可愛い封筒に入った手紙らしきものを片手に苦笑する柚木園。

今日だけで何人目だおい。



「あ、僕も行くよー」



……というわけで、姫宮も連れて三人で廊下に出る。


一年生の教室があるのは一階なので、すぐにホールを取り囲む人混みまで辿り着いた。



「すごい人だねー」



ほへーっと感心したような姫宮の言う通り、二階や三階からもわんさか身を乗り出している先輩方。
軽くアイドルのライブ状態だ。


まだ始まっていないらしく、テストの音楽とざわめきが耳に届く。



ダンス同好会は美人が多い。
だいたいダンスなんて「見せる」ものなわけで、容姿にそこそこ自信がある人じゃないと入らないし入れないんだとか。
この学校では真面目に恋愛したい、言っちゃえばモテたい女子が入る部活っていうのは、運動部のマネージャーかダンス同好会のニ択っていう暗黙の了解があるんだけど。

噂通り、確かに可愛い娘(こ)ばかりだ。
はきはきと指示を飛ばしたり振り付けの最終確認をしたり、マイクの準備に奔走したり。
髪を巻いている娘やメイクばっちりな娘、皆どこか垢抜けていて、華やかオーラが半端ない。
クラスのカーストでは確実に最上位に位置する女子たちばかりだろう。



「……………」



美羽が一番嫌う人種のはずなのに、何をそんなに熱心に見ているのかと思えば―――



一際目立つ美人がいた。



ふとももの辺りまで伸ばした、長く艶のある黒髪を高い位置で二つに結んだ髪型―――いわゆるツインテール。

南高女子の定番ファッションである「なんちゃって制服」の赤いチェックのスカートに黒のニーソックス、さらに部活のオリジナルだろう、ロゴが入ったカラフルなTシャツを合わせている。
全体的に小柄で華奢、なのに腰のくびれや出るべきところの主張はばっちり。
あどけなく輝く大きな瞳、幼げな印象を与えるのに適度に大人っぽく、そして恐ろしいバランスで整った顔立ち。
ファッション雑誌の表紙を飾っていても何ら違和感のない、どこを取っても文句なしのぴかぴかな美少女だった。



そのうち隣の娘と何事か言葉を交わしてから、遠目にもよく分かるくらいほっそりした綺麗な手でマイクを持ち、その美少女が一歩前へ進み出る。

186心愛:2012/12/27(木) 18:56:47 HOST:proxy10008.docomo.ne.jp






「みなさん、今日はお集まりいただいてありがとうございます! ダンス同好会でーす!」




『フォオオヲオヲヲオオオオオ―――――――!!!』




可愛いアニメ声と共に彼女がにっこり笑えば、全く可愛くない低音の奇声とひゅうひゅーう! という口笛の音(百パーセント男子の)が嵐のように巻き起こる。




『MI・KUッ! MI・KUッ! フォォォオオオウウウ―――――!!』




「日本オワタ」



「だ、だめだよヒナ! 事実でも言っちゃいけないことがあるんだよ!」



慌てたように全然たしなめになってないことを言う姫宮。



「二年生とか三年生は、日頃の勉強で溜まったストレスをこういうイベントで無駄に騒いで晴らすらしいよ。学園祭なんかはもう地獄絵図だって」



「こんな風にだけはなりたくないな……」



向こう側のウェーブの中に何か見覚えのある金髪チャラ男がいたような気もするけどおそらく気のせいだろう。




「一年生のみなさん、南高へようこそ! 一年生だけじゃなくてっ、もちろん二年生も三年生も! 今日はいっぱい楽しんでねー!」



『ヒャッホォオオオオオォォオオウッ』




「でもごめんなさい、もう時間なのにまだ準備ができてないみたいです。みんな、もうちょっとだけ待てるかなー?」



『は―――――い!』



幼稚園児か。



俺はまだ待たせるんかい、とか思っちゃう派なんだけど、皆特に不満はないようだ。



美羽の格好に気づいてか周りにいた人が徐々に引いていくので、ありがたく開いたスペースにお邪魔することにする。



「あの人が部長かな。ってことは三年生?」




「―――あれの名前は結野美空(ゆいの みく)、二年」




突然ぽつりと呟いたのは美羽。


しっかりあの美少女を見つめながら、




「ぼくの姉だ」




「嘘、ゆいのんのお姉さん!?」



「一人っ子かと思ってた」とびっくりしている姫宮。

俺はもう一度、彼女を見る。



「……あー……確かに」



似てる。


お人形みたいに整った容貌も、珍しいくらいに綺麗な黒髪も、体型も全て。

なのに全然気づかなかったのは―――きっと、二人の雰囲気が真逆に等しいから。


美羽が闇なら、あれは―――光。


暗い影を照らして輝く力に恵まれた、特別な光だ。



と、彼女が美羽に気づいてこっちを見た。

嬉しそうに、にこっと笑い小さく手を振る。


……目立つ服装はしているものの、身長的にちっこい美羽は遠くからは見えないわけで、




『(……………………)』




「(俺じゃないですよ!)」



一斉に射殺さんばかりの目を向けてくる先輩方。


やめて全身に穴が開きそう!


針のむしろに立たされている隣の俺にも構わず、美羽はちょっと照れたように赤くなりつつも、彼女の笑顔をぷいっと横を向いて一蹴。



「良いお姉さんだね」



「ふん……全く、あんなスイーツ(笑)とこのぼくの血が繋がっているだなんて屈辱以外の何物でもな―――」



そこで何故か美羽は言葉を止めた。
目の前のホールを凝視し、ひくっとなめらかな頬を引き攣らせる。



「美羽?」



「来るぞ……」



明らかに深刻なトーンに戸惑っていると、あの美少女―――美羽のお姉さんが再びステージ中央へ登場。
場が一気に盛り上がる。



「ふーっ、大変お待たせしっ」



ぺこっと頭を下げた、と、同時に。

187心愛:2012/12/27(木) 19:00:27 HOST:proxyag093.docomo.ne.jp







《ごちんッッ!》




―――マイクを額にぶつけた。



「………」



美羽が黙って目を閉じる。



「〜〜〜〜………っぅ」



い、痛そー!


一年生全体がざわめき、姫宮が「今すごい音したよねっ?」と青くなる中。


額を手で押さえ、俯いてぷるぷる震える彼女に、綺麗に揃った先輩方の声が掛けられる。



『だいじょーぶー?』



「……大変お待たせしましたー! ミュージック、スタート!」



流した!



美少女スマイル完全復活、さも「何もありませんでしたよ?」という風に顔を上げて普通にてくてく歩き出す。


そのままマイクを係の生徒に預け、所定の位置、円の中心についた。


するとすぐに、とことんそっちの文化には疎い俺でも「あ、聞いたことある」と思えるくらいには有名な、ノリの良いアイドルのヒット曲が流れ始め、



『ヒョッホォォォオ!』



十人のビシッと決まったポージングに観客が沸き立つ。


その中で、やはり彼女は誰よりも目立っていた。


動くたびに、零れ落ちる髪がふわりと広がり可愛らしく跳ねる。


軽やかで元気いっぱいに、そして時には艶っぽく魅せる彼女のダンスは圧倒的に―――



「上手い、ね」



思わず、といったように漏れた姫宮の言葉に頷く。



生き生きと動く表情は本当に楽しそうで、自分の好きなことをしている人に特有な、一種の輝かしさに溢れていた。



彼女の、熱狂的なまでの人気のわけも分かる気がする。



しかし最後のサビで、大歓声を浴びながら片足を軸にしてくるくる鮮やかに回った彼女は音楽が止まった瞬間に―――




びったぁ―――――んっっッ!




……コケ、た。


それもどうしたらこんなに綺麗にコケられるのかと本気で不思議に思うくらいに、美しく、スムーズに、芸術的で、自然な流れで、……顔面を床に、思いっきり、打ちつけた。


それでいて捲れ上がったスカートは、パンツが見えないギリギリのラインで留まっている。……え、なにこれ計算? わざとやってんの? いやまさか。



「……我が姉ながら」



時が止まったような感覚、美羽の小さな声だけが耳に届く。



「容姿端麗成績優秀運動神経抜群。教師からの信頼も厚く誰にでも親しみやすい性格から人望もある完璧超人、真のリア充」



美羽がすっかり全てを諦めたような無気力な眼差しで、静かに告げた。




「ただし……空前絶後の、ドジなんだ」




「ぅぅううう」と涙目になってしまっており、わらわら集まってきた同級生らしき娘たちに介抱されている彼女。



……あは、は。


……よりにもよって、この美羽のお姉さんがまともだって期待した俺が間違ってたよ。うん。



―――ちなみに彼女は周囲の熱い声援により何とか持ち直したが、残り二曲の出番とアンコールでも素敵なコケっぷりを披露した。

188心愛:2012/12/27(木) 19:10:23 HOST:proxyag094.docomo.ne.jp
>>ピーチ

あ、ヒナ視点っていう意味ね! 当人たち除いてね!


というわけで残念な美羽の残念なお姉さん、美空(みく)登場です!

うん、美空はただ残念なドジっ娘なだけじゃないんだぜ……?
その「ある意味」っていうのは、次からの話で明かしていこうかなーと。
美羽の秘密に迫っちゃうよ(*^-^)ノ

189ピーチ:2012/12/27(木) 23:04:37 HOST:EM49-252-69-209.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

美空ちゃん登場ー!

……て思ったらあれ!? 何か最初から可愛い!

ごちんッッ! ってところめっちゃ笑ってたw

190心愛:2012/12/28(金) 16:09:57 HOST:proxy10050.docomo.ne.jp
>>ピーチ

美羽とはまた違う可愛さを出したいw

キーパーソンのはずがギャグ回で登場という。


結野姉妹の名前は結構すぐに思いつきました!
美しい空に舞う羽根って感じ(・∀・)


マイクにごちんッッは痛いよねうん。

191ピーチ:2012/12/28(金) 17:34:35 HOST:EM1-115-30-179.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

言われてみれば確かに美羽ちゃんとは違う可愛さだよね←

確かに! あたし一回間違えて「みそら」って呼んでた!

マイクにごちんッッもいたそーだけど床にびったぁーんっっッも痛そう…

192心愛:2012/12/29(土) 16:03:50 HOST:proxy10009.docomo.ne.jp
>>ピーチ

「よくここまで生きてこれたよね」系姉妹、みくみうw


美空のドジは本人が一番痛いことになってるから一番可哀想な特徴かも←

193ピーチ:2012/12/29(土) 16:10:49 HOST:EM49-252-63-97.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ほんとだよね!?

……どんなに完璧に見える人にも、どっか一つは欠点あるもんだね…

194心愛:2012/12/30(日) 17:57:37 HOST:proxyag106.docomo.ne.jp

『彼女の想いは』






「―――待ってたよ」



「ぎゃあっ!?」



放課後の昇降口、ザッという足音と共に現れた黒い影が俺の進路を阻んだ。



「んー、出会い頭に『ぎゃあっ』はちょっと傷つくなぁ」



さらさらと素直に流れる長い黒髪を二つに結わえた美しい少女が、悪戯っぽい笑みで俺を見上げてくる。

見覚えがありまくるその姿は、



「……結野……美空、先輩?」



「そそ。美羽ちゃんがお世話になってます」



にこにこ全開の明るい笑顔が俺だけに向けられている、というこの状況がまだ信じられない。



「……成績も身体能力も抜群、人気度から言えば校内美少女ランキングトップは確実って柚木園が言ってた、結野先輩?」



「やだぁ王子が? 恥ずかしいじゃんー」



照れくさそうに頬を染める先輩。

否定も卑下もせず、当たり前のように讃辞を受け取れる―――並みの人間にはなかなかできないことなんじゃないだろうか。

それにしても柚木園の知名度ぱねぇ。新入生なのに。



と思いつつさらに確認。




「―――この前ダンス同好会の新入生歓迎ライブでコケまくってた究極ドジの、結野先輩?」




「いやあああわーすーれーてー!」



ぴょんっ! と二つの髪束が同時に跳ね上がった。



「ドジじゃないもん! ちょっと運が悪いだけだもん!」



あー、……やっぱ姉妹だわ。
顔真っ赤にしての涙目とかもう超そっくり。


……あんまりいじめても可哀想だし、とりあえずそういうことにしておこう。



「こほん。……あ、そうそう、ヒナくんって、『ひな』っていう名前なの? 可愛いね」



「違いますよ! それはただのあだ名です!」



おのれ美羽……!
いつ喋ったんだか知らないけどいらん誤解招いてんじゃねぇ……っ!



「へー。本当の名前は?」



「日永、ですけど」



「下の名前だってば」



「? 圭です」



「圭くん、圭くんねー。りょーかいっと」



い、いきなり異性の名前を呼び捨てだと……?

なんたるコミュ力……!



……って、愕然としてる場合じゃない。



「で、結野先輩は、」



「美空でいーよ」



「いやいーよじゃなく」



「だって『結野』じゃ美羽ちゃんとかぶるじゃん。『先輩』だけも物足りないし……はいリピートアフターミー『美空先輩』」



え、なんか言わなくちゃだめな空気なんですけどどうすればいいのこれ。



「み、美空……先輩?」



「うん合格! ってわけでおめでとう圭くん! 君は結野美空の『可愛い後輩ポジション』を手に入れた! わーい!」



「おめでたいのはお前の頭だっ!」



はっ!


か、仮にも年上相手に俺は何ということを……!



「……ほう、噂通りなかなかのツッコミスキル」



「いいの!?」



うむうむと満足そうに頷く……えー……美空先輩。


きらきら輝く大きな漆黒の瞳も、人形のようにつんと尖った鼻先も、薔薇色をした幼げな唇も。
黙っていれば妖精の国のお姫様みたいに儚げで可憐な美貌は見れば見るほど美羽にそっくりだ。
違うところといえば、端正な顔立ちをさらに嫌みじゃない程度のメイクで華やかに磨き上げているところや、センスの良さが伺える私服を着ているところ、



「こらこら、変なとこ見ないの」



「みみ見てませんよっ? 何言ってるんですか?」



細いのにちゃんとある膨らみとかね。見てないけど。



「んじゃ、圭くんは今から時間ある?」



「え、……ま、まぁ。先輩は部活は」



「今日はないから大丈夫。ね、ちょっと付き合って。色々話したいことあるし」



「はい!?」



良く分からないものの、美空先輩がわざわざ俺を待ち伏せしていた理由はそれらしい。



「もー、早く早く! 美羽ちゃんに見つかったらまずいから!」



「えっ待っ意味分かっ」



「行っくよー!」



腕をがっしり掴まれてしまった。
意外と力が強いことに驚きつつ、色々あきらめてなすがままになっていた俺だったけれど、



「ちょ先輩、そっち壁じゃ」



「え?」



ゴチンッッ



「……ぅ、うううう」



運が悪いじゃとても済まないだろそれ。

195心愛:2012/12/30(日) 18:02:10 HOST:proxyag105.docomo.ne.jp
>>ピーチ

そうなんだよー。
完璧キャラって結構いても、絶対どこかは抜けてるという(笑)

196ピーチ:2012/12/30(日) 18:32:15 HOST:EM114-51-44-25.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

かーわいー未空先輩!

可愛いけど、壁に突進はちょっと……

197心愛:2012/12/31(月) 11:31:49 HOST:proxy10019.docomo.ne.jp





「疲れた……」



「え? 十五分くらいしか歩いてないのに? そんな美羽ちゃんみたいな」



「……ここに来る間、先輩のファンにもっのすごい睨まれてたからですよ……っ!」



美空先輩が良く行くという駅前の喫茶店。
二人掛けのテーブル席に落ち着くと同時、気疲れした俺はぐったりと倒れ込む。



「あはは、ごめんごめん」



これも全部、俺の対面でけらけら笑っている美人先輩のせいだ。



「女版柚木園ですか先輩」



「王子は女の子じゃん。……あー、でもそれ最高の褒め言葉かも。圭くんってばやるなぁ」



「知りませんよ……。まずカップル成立率県最低の南高で男女一緒に歩いてるだけで殺生沙汰決定なのに相手がこの先輩とか……。っつーかなんで女子校より低いんだよおかしいだろ」



「女子校だったら他の学校の子と付き合うんじゃない? まぁ、あたしたちは自分よりレベル低いよーな男は願い下げだけどねー」



「……サラッと黒いこと言わないで下さいよ……」



「みんな言ってるよ? ……ってゆーと南高の中で彼氏作るしかないわけだけど。そんなことにうつつ抜かして受験失敗して後悔するのもねー。高校の恋愛なんかお互い足引っ張りあって終わりでしょ?」



……南高女子マジ怖ぇ。



「と、夢見る一年生の幻想を早めの段階でぶち壊すのが先輩の仕事です」



「辞めちまえそんな仕事」



そこで美空先輩はソーダフロート、俺はレモンスカッシュをオーダーしてまた一息。



「でもさー、女の子でモテすぎるって大変なんだから」



「そういうもんですか」



「そういうもんなんです」



もの憂げに頬杖を付いて窓の外を見る様子も、モデルがポーズを取っているみたいにばっちり決まっていて。



「小学校のときから道歩いてるだけで許可なく写真撮られたりするし危ないアングルのやつがネットに流出して大変なことになったときもあるし、『お嬢ちゃん、おじさんといいとこに行かない?』とかしょっちゅうだったし、毎回持ち帰らないとロッカーに入れておいた体操着を盗まれたりリコーダーがなんか湿ってたりするし。……あは、圭くんは普通で良かったね」



最後に付け足された、あんまりなその言いように、突っかかる気にはなれなかった。

まだ会ったばかりだけど、この危なっかしい先輩が心配になってくる。



「もう大丈夫なんですか」



「うん。できるだけ一人になるのは避けてるから」



にこっと笑う。



「それにね。そういう人は、うちの学校には一人もいないでしょう?」



「確かに」



「ある意味変人の巣窟だけど、変なだけで、身の危険はないからね」



「……それも、確かに」



ウェイトレスが運んできたグラスを受け取り、はむっとストローをくわえた先輩は、苦笑するように綺麗な眉を寄せる。




「今までね。できる限り、そういう汚いものは美羽ちゃんには見せないようにしてきたから……。美羽ちゃんが南高に入ってくれて本当に良かった」




……美羽のことが本当に大好きなんだって、良く分かるあたたかな声だった。


……なんだよ、美羽。


こんなに近くに、お前のことを心配して、守って、……理解してくれる人がいたんじゃないか。



「あたしは、美羽ちゃんのお姉さんだからね」



ふ、とほんの一瞬だけ、先輩は何故か、寂しげに睫を伏せた。




「……優しくて綺麗なままの美羽ちゃんを誰にも、傷つけられないようにしなくちゃいけないの」




―――……これ以上。




先輩が小さく呟いたような気がしたのは―――多分、俺の気のせいだったのだろう。


とにかく、急に重くなった空気を変えようと俺は必死に口を開いた。



「……でも、今の美羽は中二病じゃないですか。あの格好と喋り方じゃ顔目当ての奴だってあんまり寄って来ないし、そういう意味ではいいかもですね」



よっぽどの物好き以外は。と、ふざけたように笑って続けようとしたとき。




「―――……本当に、そうかな」




ストローから唇を離し。


美空先輩はまるで別人のように冷めた―――闇夜の色に澄み渡る瞳で俺を射た。




「あたしは、美羽ちゃんの『病気』は良くないことだって……やめさせるべきことだって、思ってる」

198心愛:2012/12/31(月) 11:39:39 HOST:proxyag105.docomo.ne.jp
>>ピーチ

「美空」ね!

と、「ある意味」理解者、って言ってたわけをそろそろ出し始めるよー。
美空はドジらせなければシリアス要員なので!

こういうシリアスは書いてて楽しいw

199ピーチ:2012/12/31(月) 15:17:18 HOST:EM114-51-4-198.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ヒナさんがんばっ!←

「ある意味」理解者ね!

シリアス要員………? なぜに…?

200心愛:2013/01/01(火) 10:08:08 HOST:proxy10044.docomo.ne.jp






「……な……」



予想外の台詞に、一瞬固まってしまう。
美空先輩はその反応にぱちぱちと瞬きしてから、「ごめん、驚かせるつもりじゃなかったんだ」と安心させるように手を振って。



「んーと。圭くん、『眷属』……だっけ? 美羽ちゃんに付き合ってくれてるって話だからさ」



今日話したかったのはそれ、と笑う。



「他人が大の苦手なあの美羽ちゃんがだよ。ヒナがヒナがーって愚痴りながらだけど、自分からクラスの子の話をしてくれるなんて初めてだからびっくりしちゃった」



「は、はぁ」



俺も彩に同じようなことを言われるなぁ、といまいち働かない頭でぼんやり考える。



「でね、その『ヒナ』くんっていう男の子がなんでそんなに、美羽ちゃんに優しくしてくれるのかなーって不思議だったのよ」



テーブルに両肘を付き、手のひらに顎を乗せて上目遣い気味に首を傾げた美空先輩の、大きな瞳がまっすぐに俺を映す。




「――――圭くん、美羽ちゃんのこと好きでしょう」




カラン、と氷が涼やかな音を立てた。



「…………」



取り繕う言葉は、強い眼差しにあっさりと封じられてしまう。

この人相手に、誤魔化しは利かない。

思わず唾を飲み込んだ。



「分かっちゃうんだよねー。たまにいる、あたしじゃなくてその後ろに隠れてる美羽ちゃんの方を狙う子……あ、もちろん美羽ちゃんには言わないから安心してね」



……こちらの考えはお見通しらしい。

俺は諦めて肩の力を抜いた。



「だったら……何なんですか」



「それでさっきの話。好きなんだったらなおさらさ、美羽ちゃんにまともになってほしいと思わない?」



試すような視線。
動揺でバクバク鳴る心臓を必死に静めながら、俺は迷いつつも口を開く。



「……そりゃ肉親からしたらやめさせたいだろうけど……。俺は、美羽が満足してるならそれが一番じゃないかなって思います」



「……へぇ」



面白いものを見つけたときのように、黒瞳がきらきらっと煌めいた。



「なるほどね……。圭くんは、そう来るか……。やっぱり『あの子』とは違うなぁ……」



「……あの子?」



「……なんでもない! 忘れて」



小さな呟きは、にこっという可愛い笑顔でたやすく流されてしまう。



「じゃあさ、圭くんはどうしてそう思ってるのか教えてくれる?」



釈然とはしないものの、追及しても答えてくれなさそうなので、ここは素直に先輩の問いかけに応じることにする。




「……“理想の自分”を追いかけてる美羽は、最高に格好良いって……俺は思いますから」




ちゅー、と俺をしっかり見つめながら、先輩がソーダを吸う。



「無意味だって分かってても、屈せずに何度でも立ち上がれる、っていう……。方向は完全に間違ってるけど、美羽の、自分の在り方―――“理想”に懸ける思いは本物です」



「……そうだね。美羽ちゃんの覚悟は固い。だから困ってるんだ」



ふうっと息をつく先輩。



「でもね。親は甘いから許しちゃってるけど、あたしは賛成できない。他でもない、美羽ちゃんのために、だよ」



身内があんな調子じゃ迷惑だから……なんて、軽い理由じゃない。



「あたしはずっと、美羽ちゃんの一番近くで、美羽ちゃんを見てきた」



美羽のことを完全に理解し、大切に想うゆえに、先輩は言う。




「ねぇ圭くん。美羽ちゃんはどうして、あんな格好で、あんな喋り方をして、人を寄せ付けないようにしてると思う?」




「格好良いから……“理想の自分”になりたいから」




ヒーローごっこの延長だと、自嘲するように笑った美羽。


公園で見せた無邪気な笑顔……―――




「―――本当に、それだけだと思ってるの?」




美空先輩は。




「それだけの理由で、『あれ』を、何年も貫き通せると思ってる?」




確信に満ちた、美羽にそっくりな表情(かお)で。




「……美羽ちゃんはね。演技をして、そうして自ら孤立することで―――無意識のうちに、弱い自分を守ってるんだよ」

201心愛:2013/01/01(火) 10:14:13 HOST:proxyag103.docomo.ne.jp
>>ピーチ

美空は、ヒナに美羽の一面とか事情とかを伝える大事な役なのでw





あけましておめでとうございますヽ(≧▽≦)/

こんなダメダメ作者ですが、何とか完結できるように頑張りたいと思います(^-^;

今年もよろしくお願いします!

202ピーチ:2013/01/01(火) 16:38:10 HOST:nptka203.pcsitebrowser.ne.jp
ここにゃん〉〉

おめでとうございます!

ここにゃんだったら絶対完結できるよー!

203心愛:2013/01/02(水) 17:14:56 HOST:proxy10058.docomo.ne.jp







「…………」



美羽が、弱い自分を守ろうとしてる?
そのために、演技をしている?



「んー、長いし、ちょっとややこしい話になるけど」



混乱している俺を気遣うように微笑み。



「……あたしたちのお父さん、そこそこ大きい会社の社長やってるの」



……なんで、今、そんな話を?
あまりに唐突な話題に、先輩の真意を伺いきれずに、探るみたいに彼女を見る。



「昔、お父さん、このへんに新しい工場を造ろうって言い出したことがあってね。あたしが小学校の二年生、美羽ちゃんがまだ入学ばっかりの頃だよ。……でも、地元の人たちの反対運動に遭った」



淡々と、ただ事実を並べるように話す先輩。



「それで、その人たちは自分の子供に言い聞かせたのね。『結野さんのとこのお子さんとは仲良くしないように』って。……今までは普通に友好的だったんだけど、その計画の話を聞いてから急に」



まだ、理解は曖昧なままだけど。


なんとなく、先輩が次に言うであろう内容だけは容易に予想がついた。



「今まで仲良くしてた子たちみんなが、あたしを避けるようになって、クラス全体も変によそよそしくなっちゃって……」



今や、学校のアイドル的存在となっている少女は懐かしむように笑う。



「直接的には危害もなかったんだけど、なんだろう。空気っていうか……『いないこと』にされちゃったって言うのかな。あれは結構つらかった」



「…………」



どくん、と胸の中が重く脈打つ。



「あたしは平気だった。一年生からの友達なんかには、親に内緒だよって、こっそり仲良くしてくれる子もいたから。……でもね」



そこで美空先輩は小さく俯いて、自分の剥き出しの脚を見た。
するり、と長い髪が滑り落ちる。




「……美羽ちゃんは、だめだったんだ」




“ミウ”。
遊び相手がいてもおかしくない年頃だったのに、俺と同じで、たった一人で公園に来ていた。
……俺の目から見ても、純真な彼女はすごく魅力的だったのに。
不自然なくらい、同年代の子―――友達の影が、全くなかったんだ。



「それはそうだよね。入学したばっかりで、完全にゼロからのスタートだったんだから。知り合いも誰もいない状況で、周りはみんな敵ってことだもんね」



無邪気で好奇心が旺盛で、感受性が強い。
ちょっと浮き世離れしていて、でもそんな、どこにでもいる普通の女の子。


あの―――眩しい微笑み。



「一年生の教室に行けば、その様子が良く分かったよ。美羽ちゃん、最初は友達を作ろうって張り切ってたのに……全然、受け入れてもらえなくて。いつも一人ぼっちで」



明るい“ミウ”が、一生懸命に笑顔で話しかける光景が目に浮かぶ。
一方的に避けられ、無視されては、背を向けられる。
やがて、ぽつん、と一人残される“ミウ”。


美羽が人間嫌いになった、理由。




「今の美羽ちゃんだったら大したことないだろうけど、小さいときって些細なことでもショックになっちゃうものなんだよね。……美羽ちゃんは繊細なところがあるから、なおさらだと思う」




俺と同じような境遇に、あのときの“ミウ”も置かれていた?

いや、俺は自分から、グループの輪から離れていったんだから自業自得とも言えるけど。

でも、彼女自身は何も悪くなかった。
向こうの事情で勝手に、仲良くしたいと思っていた人間たちから弾かれてしまった。




「そのときからだった。美羽ちゃんが“理想”に入れ込むようになったのは」




重苦しい口調と共に、美空先輩は嘆息を零す。




「自分の呼び方も、喋り方もだんだん変えていって。美羽ちゃんは“理想の自分”になりきることで、自分は特別だって無理矢理思い込もうとして―――自分が傷つかないように、心に殻を作った。強い強い、壁」




それが、あの仮面?
すぐに剥がれるくらいに薄っぺらで、なのに驚くほど強い意志で固められた―――




「美羽ちゃん自身は多分、分かってない。無意識にやってることだと思うんだ。本当に、ただ格好良いからっていう理由だけで、自分が動いてると思ってる」

204心愛:2013/01/02(水) 17:17:58 HOST:proxy10058.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うーん…そう信じたいw

美空がなんか難しいこと言ってるけど、最後のシーンに向けて伏線張りまくってるだけなんで、そんなに気にしなくていいからね!
とりあえずこれを終わらせないと進めないから…(~_~;)

205ピーチ:2013/01/02(水) 18:10:44 HOST:nptka301.pcsitebrowser.ne.jp
ここにゃん〉〉

美羽ちゃん可哀想だよね……

美空先輩優しい………!

206心愛:2013/01/02(水) 22:13:46 HOST:proxy10044.docomo.ne.jp






俺は、一人でひっそりと生きることを選んだ。
息を潜めて、誰の目にも留まらないように。
味気なくて、つまらなくて。それでも酷く安全な道に逃げ込んだ。


でも、美羽は。




「ゴタゴタが大きくなったのもあって、あたしたちを心配したお父さんが計画を諦めて。思い切って家族で引っ越して、転校した後も、美羽ちゃんの“理想”はどんどんエスカレートしていったんだ」



―――理解されなくてもいい。


常識と、同級生たちと敵対する方向へと突き進んだ。

美羽の追い求める“理想”はいつの間にか、人を寄せ付けない、鉄壁となって美羽を守るようになって。


だけど、皮肉にも。
あからさまな無関心の代わりに、もっとはっきりした嫌悪を向けられるようになったってわけだ。




「……美羽ちゃんはまた、自分が傷つくことになる道に進もうとしてる」




いや―――暗い顔で先輩が言う“傷つく”には、もっと深い意味があるような気がするけど。
でも、だいたいは合っているだろう。


美空先輩は、美羽がその奇異な言動ゆえに、周囲から孤立して―――それによって、多かれ少なかれ、彼女自身が“傷つく”ことを懼(おそ)れている。




「美羽ちゃんが望むなら、いくらそれがおかしくて、他人様に胸を張れないことだとしても、応援したいって思うよ」




本当に……良いお姉さんだなと思う。
妹が可愛くて大切で仕方なくて、たった一つしか違わないのに、必死に守ろうとしていて。



「でも、それだけじゃ美羽ちゃんを守れない。……守れなかった」



ぎゅ、と強く唇を噛み締める先輩。




「あたしは……この機会にこんなことはやめて、普通に、美羽ちゃんに幸せになってほしい」




こんなことやめたら、とは俺も言ったことだ。

自分が望んでやっていることでも、蔑まれ貶められる美羽が見たくなかったから。


でも。




「だからお願い、圭くん。美羽ちゃんの『病気』をやめさせること、協力して」




美空先輩が澄んだ、真摯な瞳を向けてくる。

……多分、俺を呼び出した本当の目的はこれだろう。


可愛い妹を正しい道に導くために、そこそこ仲がいいクラスメイトの俺に、年下だというのに真剣になって頼み込む先輩。


本当、美羽にそっくりだ。


どんだけ強くて、優しいんだよと思う。


彼女の熱意に負けて、つい頷いてしまいそうになる。


それでも。




「……すみません」




それでも俺は、美羽の気持ちに反することはしたくないんだ。




「俺は美羽の味方です。美羽が自分で考えを改めない限り、その立ち位置を変える気はありません」




「圭くん……っ」




ガタンと音を立て、先輩が身を乗り出す。




「あたしは美羽ちゃんに、誰かを好きになれるようになってもらいたいの!」




悲痛な声。
今にも涙を浮かべそうなくらいに、綺麗に整った顔を歪める。




「このままじゃ、美羽ちゃんは誰も―――圭くんのことだって、好きになれないんだよ!?」




「……先輩」



美空先輩はやっぱり、まだ美羽に関する何かを隠しているようで。

でも、美空先輩が故意に沈黙を守っている、それを無理に問い詰めてしまったら―――多分、俺も先輩も、後悔すると思う。
ただの予感、だけど。


先輩は声量を落とし、でも痛みの滲む表情で言う。



「……それは、圭くんだって嫌でしょう? でももし、美羽ちゃんが変わったら、」




「―――それじゃ意味ないんですよ」




俺はあの日の“ミウ”―――美羽に、かけがえのない、大切な何かをもらった。

彼女のまっすぐさ、まばゆいまでのひたむきさ。

それが俺を勇気づけて、俺をここまで支えてくれた。

恥ずかしくて誰にも言えないような話だけど。


……美羽があのときどんな状況に置かれていて、どんな気持ちで言った言葉だとしても。
どんなことがあって、彼女が“理想”に焦がれるようになったとしても。


美羽の情熱は本物なんだ。

207心愛:2013/01/02(水) 22:21:06 HOST:proxy10044.docomo.ne.jp
>>ピーチ

美羽が中二病に走った理由なのでした←
さて、明らかに正論の美空を説得するためにヒナにひとがんばりしてもらわないと…

ありがとう! 姉妹の絆的なものと、ヒナと美空の優しさが出せたらなーと思ってます!

208ピーチ:2013/01/02(水) 23:41:24 HOST:EM114-51-61-171.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

お互い正論っぽく聞こえるのはなぜだ←

でもまぁお互い美羽ちゃんのこと考えてのことだからねー

209心愛:2013/01/03(木) 10:18:08 HOST:proxy10027.docomo.ne.jp
>>ピーチ

そこに気づいてもらえたらもうここあの目的超達成してるわw

そう、二人とも完全に美羽のためなの!
正論ぽく思えたならそれもまた良かった←



そしてヒナが主人公らしくバシッとかっこよく決めてくれるはず多分!
あとやっとのことでタイトル登場!

210心愛:2013/01/03(木) 10:19:50 HOST:proxy10028.docomo.ne.jp







「好きとか嫌いとか、正直良く分かりませんけど」




恩返し、なんて大層なものじゃない。

ただ、俺は美羽に報いたいし、美羽の“理想”をこれからも応援したいって思う。




「痛くて、単純で、一生懸命で、強情で、バカみたいにまっすぐで。絶対に、自分の意見を譲らない」




『だから、ぼくは逃げない。諦めない。誤魔化さない。絶対に、ぼくの信念を曲げない』




「―――誰にどう言われようと、俺が好きなのは、そういう美羽ですから」




だから。




「あいつが満足するまで、俺は美羽にとことん付き合いますよ」




―――『これがぼくなんだから』




凛とした、決意を秘めた赤い瞳。

ずっとずっと、美羽は自分に正直なままで。
いくら外見が変わっても、強くて純粋な心は、少しも変わってなんかいないんだ。

それを変えてしまったら、美羽の『今まで』を否定することになる。



「でもっ」




「それに、あのヴァンパイアがどうとかどや顔で言う真性邪気眼女のビョーキを治した上に、なんの取り柄もない俺なんかを今すぐ好きになってほしいなんて、いくらなんでも高望みすぎですよ」




なに先輩に釣られて熱くなってるんだ俺。ここ喫茶店だろ―――なんて、冷静な考えが頭をよぎるけどあえて無視。



そう、俺は多くは望まない。
望みたいとも思わない。


俺が隣にいても構わないって、楽しいって思ってくれるなら、それでいい。十分すぎるくらいだ。


……そりゃ、いつかは好きになってもらえたらいいなーとは思うけどさ!



「安心して任せて下さい、美空先輩。……今はまだだけど、いつか」



今はただ、美羽が安らげる、そんな居心地のいい場所でありたい。
まだ、それでいいんだ。



……初恋舐めんなっての!


俺は呆れるほど気が長くて、美羽の『眷属』で、現在進行形でもっのすごい面倒な電波女に惚れてる筋金入りのバカなんだよ!



だから、俺は笑って―――目を見開いている美空先輩へ向けて、高らかに宣言する。





「―――俺は俺なりの方法で、ありのままの美羽を攻略してやりますから!」





長い長い、沈黙。


「……あ、あれ、もしかして俺スベった?」と急に正気に戻って居たたまれなくなり、座り直してとりあえずすっかり氷が溶けてしまったレモンスカッシュを飲んでみたりする。

……味、薄っ。

思わず渋面を作っていると、くすっ、という小さな笑い声が微かに聞こえてきた。
顔を上げれば、



「……そっか……だから、美羽ちゃんは……」



唇を綻ばせ、優しげに微笑む美空先輩。
その表情は、今まで見せたどんなものよりも魅力的で―――ちょっとだけ、見惚れてしまった。



「圭くん」



美空先輩が、俺の名前を呼ぶ。
慌てて背筋を伸ばした。



「あたしの代わりに、美羽ちゃんを助けてくれる?」



強い、眼差し。
こちらを試し、見透かすような視線。




「美羽ちゃんを、守ってくれる?」




先輩はずっと何かと葛藤していて、それでも、今日会ったばかりの俺を信じて、その何かを俺に託そうとしてくれている。


その「何か」が分からなくたって。
それが美羽に繋がることなんだったら。

返事なんか、最初から決まっていた。




「はい」




「分かった」




ふわっと黒い瞳の光が和らぐ。



「その言葉が本当だって、期待してもいいって……あたしは信じるよ」



一度確かめるように瞼を閉じ、そしてまた、俺を見据える。



「圭くん。美羽ちゃんは臆病で、今も色んなことが怖くて逃げてる。だから、圭くんがいっぱい、当たり前のことを経験させて、教えてあげて」



そうしたら、と美空先輩はとびきりの笑顔で。




「君の恋路、あたしが全力でサポートしてあげる」




「……頼りにしてます」



「任せて!」



誰よりも妹思いの少女は、俺を見上げて晴れやかに笑った。

211ピーチ:2013/01/03(木) 10:44:35 HOST:EM114-51-25-253.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

未空先輩優しいいいいいいい!←

でもヒナさんも優しいんだよねほんと。これでこそここにゃんキャラだって感じ?

212心愛:2013/01/03(木) 18:57:11 HOST:proxy10070.docomo.ne.jp







年上の意地と男の見栄が対立し、奢(おご)る奢らないで揉めた後。



「先輩は電車ですか?」



「や、迎えが来てるはずなんだけど……」



店を出れば、空はもう赤とオレンジ色の綺麗なグラデーションに染まっていた。


きょろきょろ辺りを見回す美空先輩が、やがて。



「あ、いたいた」



彼女の視線の先に、いかにも高級そうな黒塗りの外国車。

小市民の俺はつい気後れして後ずさる。



「え、あれですか本気で……なんか誰か出てきたんですけど!?」



運転席から降り立ったスーツ姿の若い男(イケメンだ)が扉を開けるのを見た先輩は平然と言う。




「執事だから気にしないでいいよ」




「執事ぃ!?」



どこの大富豪だそれってそりゃ結野家でしょうけど!




「うん、運転手兼あたし専属の執事。別名人間目覚まし時計」




社長令嬢ってみんなこんな待遇なのっ!?



「……はは……格差社会、か……」



なんかもう驚くどころじゃなくなってくるよ。
あれか、美羽のワガママが許されるのも高そうなのに毎日違う服着てるのもみんな金持ちだからか。はは、次元が違うわ。さすがブルジョア。




「じゃーね圭くん! 今日はありがとう!」




いつの間にか数歩離れていた美空先輩の声に、一人黄昏ていた俺はやっとのことで立ち直る。



「美羽ちゃんのこと、頼んだよ!」



「……はい!」



夕焼け空。
赤い光の乱舞を背景に、きらきら艶めく二房の黒い髪が軽やかに踊る。

小さく華奢な背中を向け、ゆっくりと歩を進めるその姿はまるで映画のワンシーンのように美しく、胸に迫る光景で―――




びったぁぁぁん!




……見たらだめだ見たらだめだ見たらだめだ。


せっかくのいいムードが台無しになりそうな、背後からの何かと何かの激突音を精一杯の努力をもって聞かなかったことにし、ダラダラ汗を滴らせながらも俺は反対方向へ早歩きで立ち去ったのだった。







☆゜:*:゜☆゜:*:゜☆゜:*:゜☆゜:*:゜☆゜:*:゜☆゜:*:゜







「美羽、美空先輩のことどう思う?」



「な、なんだ急にっ」



次の日の休み時間。

もはや言うまでもなくゴスロリの美羽は、急な話に戸惑っていた。


黒い薔薇と羽根、レースをふんだんに使ったヘッドドレスのリボンが、主の動揺を表すようにひらりと揺れる。


「いいから」と押し切ると、渋々ながらも一応答えてくれた。



「……美空は……ぼくとは真逆にある存在だな」



唇に丸めた指を当て、



「ぼくが《闇》ならあれは《光》。正しくて、ぼくなんかが見るには眩しすぎる、圧倒的な……光」



でも、と前置きしてから。



「月が太陽に照らされて初めて輝くように、光があって初めて闇が生まれる。……なんとなく、そんな感じだな」



いつもの中二台詞だけど、言っていることはあながち嘘じゃないような気がした。



「でもその真逆の位置から、必死にぼくのために色々考えている。……たとえば、美空が勉強や運動を頑張って、やりすぎなくらいに目立つことは……半分くらいはぼくのためなんだ」



「美羽の?」



「ああ。潜在的な才能だって大きいけれど、それを日々努力して磨いているのは美空自身で―――『あの結野先輩の妹』という肩書きだけで、ぼくはいくぶん、周りから肯定的に見られてきたから」



美羽の言うとおり、きっとそれは美空先輩の計算のうちなんだろう。

自分は美羽に、ずっとつきまとうことはできない。
だから、少なからず間接的に、美羽を守ってきたんだ。

先輩が活躍していろんな人から注目と尊敬を集めれば自然と、その妹である美羽も一目置いてもらえる。
異質な存在である美羽への風当たりを、緩和することができる。


……先輩はやっぱり頭がいい。
その才と優しさを惜しみなく注ぎ込まれ、愛されている妹の方は。



「何をするにも派手で、なのにドジで、肝心なところで抜けているが」

213心愛:2013/01/03(木) 18:58:01 HOST:proxy10069.docomo.ne.jp






ちょっとだけ恥ずかしそうに、はにかんだ。




「……たった一人の、ぼくの自慢の姉だよ」




多分、自覚はないんだろう。
顔を逸らすことも忘れて、小さく笑う美羽の柔らかな表情。


ああ、美空先輩に見せてあげたかったな―――と思った、
その瞬間。

俺のポケットで、ブーッブーッとバイブの音が鳴り響いた。


「電話か?」と怪訝な顔をする美羽に断って画面を確認。




「あ、美空先輩だ」




「…………は?」



通話、っと。



『もしもし圭くーん? 美羽ちゃん元気? 倒れてない? もーどんなに言っても朝ご飯食べてくれないからいつも心配で居ても立ってもいられなくてさー! 圭くんの電話番号聞いといてよかったよもー!』



「シスコンもいい加減にして下さいよ!」



繋がった途端にものすごい勢いで喋り出す美空先輩に心底げんなりする。



『だって美羽ちゃんに聞いたらうるさいって言われちゃうし』



「知りませんからそんなの……」



『大事なことだよ!』



電話口の向こうでぎゃんぎゃん騒いでいる先輩に嘆息し、それからふと思いついて、いくぶん息を潜めて言う。



「そういえば先輩、一つ聞きたいことがあったんですけど」



『んー?』



「昨日『高校生の恋愛反対』みたいなこと言ってたのって……もしかしてわざと俺を試してたんですか?」



美空先輩が一瞬だけ黙り込み。



『……さぁ?』



どうだろうね、と笑った。


『圭くんの判断に任せるよ。とにかく、今のあたしは圭くんを信用して、期待してるってこと』



「はぁ……」



上手くかわされた俺の隣では、美羽がさっきから必死な顔で何事か言っている。



「……ま、待てヒナ、君はいつ美空と知り合いに!? そういえば名前で呼んでるし……っ」



『あっ忘れてた! あとお昼も言わないと摂らないから無理矢理にでも食べさせて! 甘いもので釣るのもいいんだけど栄養的に考えて徐々に』



「先輩まで俺を美羽の保護者扱いするのやめて下さいませんかね!」



食事は大切だけど!



「だからなんの話だ!? 主に隠し事をするんじゃないっ」



「ヒナ、もしかして相手美空先輩? いいなー、私にも代わってよ」



「? みくせんぱい?」



「あー、夕紀は知らないか。美羽のお姉さんでダンス同好会の」



「うっそ結野センパイ!? あの!? ちょ、抜け駆けしてんじゃねーよヒナ!」



「お前ら全員黙ってろ!」



これだから人気者は……!



『なんか賑やかだねー。こっちは廊下出て歩いててさ、静かだからよく聞こえるー』



「転ばないで下さいよ……?」



ただでさえ絶望的なまでにドジなのに、電話に気を取られて不注意な状態はことさらに危険すぎる。



『あはは、やだなぁだーいじょうぶだっ《ゴンッッ》』



「言わんこっちゃねぇ!」



お約束だなおい!



『……う、……うぅ………こ、転んではないもん! 足滑らせて転びそうになったけど目の前にあった壁にぶつかってちゃんと止まったからセーフだもんっ』



「余計救いようないですよ!」



「救いようって……美空がまたなにかしでかしたのかっ? そうなんだな!?」



俺のツッコミ生活に、個性派すぎるメンバーがまた一人追加された。
……やっぱりサポートも当てにしない方が良さそうだ。うん。

214心愛:2013/01/03(木) 19:05:39 HOST:proxy10070.docomo.ne.jp
>>ピーチ

そんなわけで美空の話でした!

ここあキャラの基本ステータス「優しい」を備えつつ、頭良いからちょっと人より冷めたところもあれどドジのせいで全然決まらない・究極シスコン美少女美空先輩をこれからもどうぞよろしくヽ(≧▽≦)/


ちなみに美空はちゃんとヒナに協力していくよ!ドジなりに!

215ピーチ:2013/01/03(木) 19:11:25 HOST:EM49-252-66-115.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

みーくせーんぱーいっ!?

何をどうやったらそこまで綺麗にドジれる!?

……美羽ちゃーん、お姉様を呼び捨てはちょっと………

216心愛:2013/01/04(金) 18:05:25 HOST:proxy10028.docomo.ne.jp
>>ピーチ

美空のアレはむしろ才能の一種w


まぁ、一つしか年離れてない姉妹なら、呼び方も含めて結構遠慮ないんじゃないかなっと。
美空は溺愛しすぎ?

217ピーチ:2013/01/04(金) 20:33:28 HOST:EM1-114-144-142.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

あ、そう考えたら自然か←おい

なるほどねー、分かるかもw

でもそーいうのが未空先輩の長所の一つw

218心愛:2013/01/04(金) 21:32:16 HOST:proxy10046.docomo.ne.jp
>>ピーチ

「美空」ね!
美空の「み」は「美しい」ね!
と細かいとこにうるさくこだわるここあでしたごめんなさい。


「未空」も可愛いけどw

219ピーチ:2013/01/04(金) 22:49:13 HOST:EM1-114-144-142.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

間違えたー!?

ごめんなさいここにゃんごめんなさい美空先輩!!

何か最近ちょー適当に変換してたので気を付けねば!←

220心愛:2013/01/05(土) 17:15:01 HOST:proxy10028.docomo.ne.jp
>>ピーチ

いやいや大丈夫だよ!
細かくてごめんね!

間違って変換しちゃっててずっと気づかなかったことここあもよくあるよ(・∀・)


邪気眼少女も、苺花&夕紀の話とか美空の話とか書きたいから番外編やりたいんだけどなかなか余裕が←
とりあえず日常編を巻き気味にしてイベント多く入れることで対処っ(´・ω・`)

221心愛:2013/01/05(土) 17:16:45 HOST:proxy10027.docomo.ne.jp

『王子のお悩み』






「……わ」



「ラブレターですかはいはい良かったですねー」



靴箱の扉を開いて停止しているイケメン女に半眼で言う。
柚木園はこちらを向き、困ったように苦笑して、



「……ええと……果たし状とかもあるかもしれないよ?」



「ねーよ! 下手な慰めいらないから逆に傷つくから!」



相変わらずのアホみたいなモテっぷりで羨ましいことですねぇ!


予想通り、正方形の空洞の中に紙がみっちりぎっしり綺麗に詰まっていた。
漫画みたいにズザザザザッとは落ちないだろうけど地味に嫌だなこれ。
入れるのも大変なら取り出すのも大変だろ。
ってか今は放課後なんだから、朝から今にかけてこんなにたまったってこと? 怖くね?



「あはは、圧力で靴の形が変わりそう」



にこやかに笑いながら丁寧に封筒を抜き取って回収している柚木園。



「……にしてもいまどきラブレターって……」



しかも女が女に。



「気持ちは手紙で伝えてくれても嬉しいなー、ていつも言ってるからね。可愛い女の子たちが一生懸命私のために綴ってくれた手紙なんて最高でしょう?」



「犯人お前か! 毎回橋渡しさせられるこっちの身にもなれよ!」



「ごめんごめん」



黒糖みたいに甘い瞳を細めるだけで、さらさら爽やかなハーブ色の風が吹き抜ける。



「はー……。で、これからデートですか?」



「そう怒らないでってば。今日は大丈夫なんだけど、放課後はだいたい忙しいから、お誘いは全部断ってる」



「あれ、部活やってたっけ」



「やってないよ」



「へー。キャラ的には部活の助っ人に引っ張りだこ、みたいな感じだけど」



「なにそれ」



笑って肩を竦める彼女。



「確かに色々勧誘されたけどね。今は演劇部に、文化祭で手伝ってくれないかって言われてる」



「あー。王子役を?」



「うん」



やっぱりか。



「でも劇にはあんまり良い思い出がなくて」



「……それは意外。喜んでやりそうなのに」



「いや、楽しいよ? 楽しいんだけど」



柚木園は無駄に麗しい微苦笑で、



「私が参加するって決まった途端に、お姫様役を巡って女の子の血で血を洗う熱戦が展開されちゃうから」



「どんだけ!?」



「私としては、そういう女の子がみんなハッピーで終わる話がいいんだけどね―――そう、」



それからふっと遠い目をして。




「懐かしいなぁ、『王子様と27人のシンデレラ』」




「無茶苦茶すぎる!」



それ話として成り立つの!?



「王子との結婚条件である一足のガラスの靴を巡って女同士の陰険バトルが繰り広げられる」



「ドロドロだ!」



「最終的にはシンデレラは全員王子と結婚するんだけどね」



「まさかのハーレムエンド!?」



完結後の凄惨な修羅場を予感させるエンディングだった!

222ピーチ:2013/01/05(土) 23:13:50 HOST:EM49-252-160-154.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ち、血で血を洗う熱戦………?

怖いよ27人怖いよー!?

223心愛:2013/01/06(日) 10:53:34 HOST:proxy10005.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ヒロイン27人もいたら観客大混乱だね☆

ハーレムハーレムw

224ピーチ:2013/01/06(日) 19:15:33 HOST:EM114-51-207-43.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

観客も演じる方も混乱しそうな気が←

ハーレムーw

225心愛:2013/01/07(月) 09:55:25 HOST:proxy10004.docomo.ne.jp






「幼稚園とか低学年だとゆるいからそういうのもアリなんだけど、だんだん融通利かなくなるからね。ラブストーリーとしては無理があるし」



「この年齢でやったら完全コメディ一色だな」



「それに練習する場所も、体育館とかを取ってもらわないと」



「運動部が使ってるんじゃね? 体育館じゃなくても普通の教室で別に―――」




「いや、噂を聞いて練習を見に来てくれた女の子の入りすぎで、教室のドアが壊れたことがあって」




「練習で!? 本番じゃなくて練習の段階で!?」



「あれは私が怒られたしね」



にこやかに笑っている柚木園に戦慄する。



「……ムカつくはずなのに全然ムカつないのは何故だろう……」



「あと、調理実習のクッキーやバレンタインのチョコの食べ過ぎでお腹壊して倒れたときも良く怒られたなぁ」



「あ、今純粋にイラッときたわ」



「保健医の先生も美人だったからむしろラッキー」



「先生の顔より自分の体調を気にしなさい!」



「だって私のために作ってくれたものなんだよ? 全部もらって一人ずつ感想を言わないと」



「少しは懲りろって! 気ぃ遣ってる場合じゃありませんから!」



「気は遣ってないよ?」



にこ。と笑い、



「みんなが一生懸命頑張って作ってくれたものは全部、どんなに刺激的な味がしたとしても、素直に美味しいって思う」



「なんつーか……すごいよなお前」



「そう?」



さらりと髪が揺れる。




「私は、この世のすべての花を愛しているだけだよ」




中性的で凄艶な美貌に甘い微笑みを湛える柚木園は圧倒的に、綺麗、で。


……なんて言うか。
性別を誤解してた俺が言っても、説得力はないかもしれないけど。




「……ちょっと工夫したら、普通に男にもモテそうなのに」




ちゃんとした女物を着て化粧の一つでもすれば、元の素材がこれなんだから相当の美人になるなんじゃなかろうか。
姫宮が言うような「可愛い」感じとはまた違いそうだけど、俺と並んでもほとんど変わらない背の高さだって、上手くすればモデルみたいに映えることだろう。



「…………」



思わず口に出してしまった言葉に、柚木園は驚いたように押し黙り、目を丸くして俺を見ていたけれど、



「……無理があるよ」



ぽつりと呟く。
力がないのに、不思議と本人の頑なさが感じ取れる声だった。



「そういう対象の、女として私を見る人なんかいないって。……ほら私、並みの男より格好良いから?」



おどけた笑みと共に告げられたそれは、本心からの台詞のようだった。



「……そうでもないんじゃね?」



「えー。そこそこ自信あったんだけどな」



「いやそっちじゃなく」



学年が違う美空先輩も、柚木園が女だってことを知っていたけど、その上で慕っていたみたいだった。

でも周りに集まってくる女子みんなは、まさか本気で柚木園を恋愛対象として見ているわけではないと思う。
もちろん容姿目当ての娘だっているだろうけど、でもほとんどの人たちはみんな、柚木園の人柄に惹かれてるんじゃないかな。
親しみやすくてさっぱりした性格は、男から見ても十分魅力的だし。


ただ、本人はそうとは思っていないどころか、女としての魅力がないと堅く信じ込んでしまっているようで。

何か事情があるのだろうか。



「悩みとかあったら聞くけど」



「……ありがとう」



あれ、ちょっと可愛い……か、も?
一瞬だけ浮かべたふわっとした微笑に、何故か顔が熱くなる。



「いや別に」



「でもたいていのことなら、悩む前に自分で何とかできるから大丈夫」



「かっけーなおい!」



やっぱり柚木園はイケメンだった。

226心愛:2013/01/07(月) 10:02:24 HOST:proxy10004.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ハーレムーw

苺花の女装回も近いようだねふふふ←


そんなわけで(どういうわけだ)ちょっとの間更新お休みします(=⌒ー⌒=)

227匿名希望:2013/01/07(月) 13:56:17 HOST:zaq31fa4b53.zaq.ne.jp
何の話ですかこれ・・?
ウンコしてもいいですか?

228匿名希望:2013/01/07(月) 13:57:28 HOST:zaq31fa4b53.zaq.ne.jp
ウンコしますよウンコ
ウンコスレ

229ピーチ:2013/01/08(火) 14:43:40 HOST:EM114-51-155-248.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ハーレムー!w

いや女装じゃないでしょ女でしょ!?

お休みですか、りょーかいでーす!←

230心愛:2013/01/12(土) 10:51:34 HOST:proxyag111.docomo.ne.jp

『日永彩』





「お兄ちゃんやほー!」



ざわっ。


昼休みの教室に不穏な波が立つ。


長めのボーダーTシャツの上に毛足の長い白のニットカーディガン、トレンチ風ミニスカートという出で立ち。
入り口に立っていたその娘(こ)が「いた!」と笑顔になってこっちに寄って―――




「彩(あや)っ!?」




……俺の妹、なんだけどね。



「そのとーり! お兄ちゃんの救世主彩ちゃん参・上っ☆」



「語尾に星マークつけてる場合か! ちょ、学校どうしたんだよここ高校だから!」



「あれ、言ってなかったっけ?」



首を傾げると、シュシュを使って頭の左側でまとめた髪がふわふわ揺れる。



「彩、今日創立記念日だから学校休みなの」



「……それで?」



「暇だから南高に私服潜入してみた! てへり」



「出てけぇ―――――!!」



この学校の警備緩すぎですから!



「ひどい……っ! お兄ちゃん、彩のこといらないんだっ! 飽きた女の子はみんなポイッてするんだぁああー!」



「悪意百パーセントの泣き真似やめい! 誤解されたらどうするんだよ!」



教室の隅を陣取って談笑していた女子たちは「誰だろ」「かわいー」などと比較的好意的な目を向けている、けど。



「……ヒナ、そちらのお嬢さんはどちら様かな?」



グサグサ突き刺さる男子のどこかじとっとした視線。


嘘をついても仕方ない。

ここまできたらもう腹を括ることにし、ため息をついて正直に白状する。




「……妹」




しーん。




「…………もしもし警察ですか」




「誰だ今通報した奴! やめんか!」



『犯罪者の通報、被害者の速やかな保護は市民の義務』



「安心しろ、犯罪者でもないし被害者でもないから! これは俺の妹なんだってば!」



『嘘だっっ!』



「お前らチームワーク抜群ですね!」



驚異のシンクロ率だった!



『ヒナの妹がこんなに可愛いわけがない』



「ラノベか!」



「お兄ちゃん、そのツッコミはどうかと思うよ?」



冷静に訂正してから、彩はにこにこっと余所行き用の笑顔を浮かべる。



「彩、ほんとにお兄ちゃんの妹です! うちのバカ兄がお世話になってる皆さんに会いたくて来ちゃいましたっ」



『失礼致しました彩様。ようこそ愉快な動物園へ』



「あっさり色々なもん捨てやがったこいつら!」



この手のひらの返しよう!




「うっそヒナの妹ちゃん!? かわい―――――うがッ」



ガスッガスッガスッ


武闘派男子生徒、ついでに参加した柚木園の奇跡的な連携プレーによって、春山が登場三秒で袋叩きにされ、五秒で簀巻きにされてベランダに転がされた。



「アッこの絶妙な締め付け具合……ッ! はぁはぁ」



「お兄ちゃん、彩の気のせいかな。チャラい金髪不良攻め風の美形さんが今集団で暴力を奮われた上に教室を放り出されたように見えたんだけど……」



「気のせいだ」



ぽかーんとしている彩を諭していたら、青い顔をした美羽がおそるおそる近づいてきて。



「……ひ、ヒナ……誘拐は犯罪だぞ?」



「まだ疑ってたの!? 妹だよ! 正真正銘実の妹だよ!」



「ゴスロリってことは美羽さんですよねっ? マっジっ美っ少っ女! 写メっていいですか?」



「いいわけあるかい!」



「ひぅ」



目をキラキラさせてかぶりつかんばかりに身を乗り出した彩に怯え、美羽は俺の後ろに隠れてしまう。



「ふ……わ、我が眷属の肉親ということは、君も《赤闇》の血を分けた者というわけか……」



「リアル中二病発言きたぁああ―――!」



「ひゃ、ぅぅ」



「美羽泣かせてんじゃねぇよボケ」



「おおっ、お兄ちゃんが顔に似合わないイケメン台詞を!」



「ひでぇ!」



と、次に騒ぎを聞きつけた女子が寄ってくる。



「学校どこ?」



「西中です」



「あ、じゃあ結構近いねー。何年生?」



「当然のように受け止めんなよ! こいつ中学生!」



「お兄ちゃん頭固いね、彩ちゃん」



「はい。彩も困ってます」



「嘘つけっ!」

231心愛:2013/01/12(土) 10:56:46 HOST:proxyag112.docomo.ne.jp
>>ピーチ

女装女装w
ハーレム王子はむしろいつも男装してるからね←

そのわけは苺花目線でいつか書こうと思う(o^_^o)

232矢沢:2013/01/12(土) 11:05:24 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
聖詞置いてくね。

233ピーチ:2013/01/12(土) 13:25:24 HOST:EM114-51-186-68.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

まさかの学校来ちゃった!

確かにすげぇシンクロ率!

……そんなに似てないの?←

234名無しさん:2013/01/12(土) 17:14:29 HOST:zaq31fa5b92.zaq.ne.jp
何だこのスレは・・?
変なスレ来てしまったな〜

235名無しさん:2013/01/12(土) 17:15:11 HOST:zaq31fa5b92.zaq.ne.jp
何なんだこの変なスレは・・?
名無しさん・・しっかりしてくれよ

236たっくん:2013/01/12(土) 17:25:34 HOST:zaq31fa5b92.zaq.ne.jp
jj

237心愛:2013/01/12(土) 20:33:31 HOST:proxy10067.docomo.ne.jp







女の子が来たときたら、こいつが黙っているわけがない。



「初めまして」



白い歯をキラリと光らせた、爽やかスマイルの柚木園である。
イケメン大好き(主に二次元でだけど)な彩はもちろん大興奮。



「ほわぁー! 最高レベルのイケメンですねテンション上がるぅ! 柚木園さん、で合ってますか」



「うん。ヒナから聞いてる?」



「ほぅ……見た目的には鬼畜美人攻め把握」とか何とかぼそぼそ小声で呟いてから、ぱっと顔を上げる。



「はい! いつもお兄ちゃんと仲良くして下さってありがとうございます!」



「こちらこそ。……でも私としては」



すっと顔を近づけ、色気漂う妖しい笑み。



「君とも色々、仲良くしたいな……?」



「でも柚木園さん、女の人ですよね?」



よしよし。
うちの妹はそう簡単にオチないようだぞ柚木園よ。

と思ったら、柚木園はにこ。と笑って一言。



「恋愛に性別なんて関係ないよ」



「で す よ ね !!!」



「やべぇオチたっ!」



ものすごいチョロかった!



愕然としていると、



「初めまして! 僕、姫宮夕紀です。よろしくね」



柚木園の後ろからひょこっと顔を出した姫宮がにこにこして挨拶。



「こ、これが男……」



彩も驚きを隠せないようだ。
色々な角度からパーフェクト美少女ルックスの高校生男子を眺めては、「ほへー」と呆ける。



「天然なんですよね」



「? うん」



姫宮はサラサラした栗色の髪を一房つまみ、



「確かに茶色っぽいけど染めてないよ。……でもなんで急に髪の話?」



「これぞ本物の天然!」



彩が驚愕していた。



「……やー、凄いキャラばっかりの方々ですねー。本当に―――」



美羽、柚木園、姫宮、ついでに床を匍匐前進している春山を見て、最後に俺に向けて哀れみの眼差し。



「美形ばっか……お兄ちゃん可哀想……」



「余計なお世話だちくしょぉぉおおおおお!」



承知してるわ! 悲しいくらい承知してるわっ!



絶叫する俺に「うん、彩はこれで満足したからー」と悪魔のような笑みを浮かべ、彩はそれから声を張り上げる。




「皆さん聞いて下さい! 彩、小学校五年生までお兄ちゃんと一緒にお風呂入ってたんですよー!」




「急に話の流れ完全無視の暴露しやがったこいつ―――!」



何がしたいんだよこの悪魔! 人でなし!

238心愛:2013/01/12(土) 20:35:25 HOST:proxy10068.docomo.ne.jp
>>ピーチ

来ちゃった☆


うん、似てるのは髪の質くらいじゃなかろうか。
彩は美少女でも美人でもないけど普通に可愛い系です←

239ピーチ:2013/01/12(土) 21:27:41 HOST:EM114-51-132-35.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

来ちゃったよー!

髪だけか似てるの←

普通兄と可愛い系妹かー、何かいーなーw

240心愛:2013/01/13(日) 09:02:59 HOST:proxy10060.docomo.ne.jp






「―――これより刑を執行する」



『はっ!』



「またこのパターン!」



すちゃっとサングラスを装着した男子数十名によってすぐさま取り囲まれる俺。何これ新手のイジメ?



「待てってば! つか一番責められるべきなのは俺じゃなくて勝手に高校に侵入してるあいつだから!」



「本来なら即絞首刑の運びだが」



「無視? ねえ無視?」



「仕方ない。武士の情けだ」



「お前武士だったの?」



「特別に選択権をやろう。ありがたく思え」



カカカカカッと鮮やかにチョークの白い軌跡が黒板の上に踊る。



“切る”
“もぐ”
“砕く”
“折る”
“潰す”
“焼く”
“刺す”
“煮る”
“刻む”



おかしい。俺が生き残れる選択肢がない。



「何その夢のような選択肢ッ!」



「失せろドM!」



尺取り虫みたく這って来た春山を迷わず蹴り飛ばす。
人間じゃなくて変態だからセーフのはずだ。



「って違う! 俺を美味しく調理してどうすんだよ死ぬから! 死ぬから普通に!」



「では、屋上から命綱なしのバンジージャンプで手を打とう」



「人はそれを死刑と呼ぶ!」




「……はわ……」



「美羽さん美羽さんっ」



かくして、クラス中の注意をまんまと逸らした彩が、苦笑いして俺たちに見入っている姫宮と柚木園からすっと離れて美羽に接近。



「レンオー好きなんですかっ?」



「え……ま、まさか君も?」



マイナーなお気に入りを共有したヲタクは急速に仲良くなるの法則、発動。



「好きなキャラは?」



「……シルヴィア」



「やっぱりー? 絶対そうだと思ったんですよ! かっこいーし可愛いですもんねシルヴィア!」



「……ん」



嬉しそうに頬を赤らめて、喋りたいのに自制してる様子で口を小さく《△》の形にしてる美羽。
……おいおいなんかすげぇ好感度上げやがったぞうちの妹。

彩はによっと笑うと、



「彩、美羽さんともっとお話したいなー。……」



軽く屈み、美羽に何事か囁く。



「……ヒナの?」



「はい! 嫌じゃなかったら、ですけど。来週の―――」



「……ふ、ふん、奇遇だな。偶然、その日は《純血の薔薇(Crimson)》の任務も会合もない」



「やたっ」



「やたっじゃなくて助けろよそこの腐れ女ぁ―――!」



結局、クラスメイトとの心温まるスキンシップは「あ、やば予鈴鳴った」と全ての元凶が帰るまで続いたのだった。



……ほんと、何のために来たんだよこいつ。

241心愛:2013/01/13(日) 09:06:15 HOST:proxy10059.docomo.ne.jp
>>ピーチ

カッコいい兄と普通の妹、だったら妹可哀想だけどね←

彩の行動原理はお兄ちゃんにあり! ついでに面白いものにあり!

242たっくん:2013/01/13(日) 11:04:29 HOST:zaq31fa5b92.zaq.ne.jp
最新情報・・・
1992年発売のビジュアルアドベンチャー
孫悟空を落札しました。
今後も落札しますので宜しくお願いします

243名無しさん:2013/01/13(日) 11:38:20 HOST:zaq31fa5b92.zaq.ne.jp
>>1
とっとと金よこせ
持ってるんだろ?
お年玉もらったんじゃないのか?

2、3万でいいから持って来い

俺は夢を決してあきらめない そう教わった

244名無しさん:2013/01/13(日) 11:38:44 HOST:zaq31fa5b92.zaq.ne.jp
とっとと金持ってこいよ
脅しじゃないぞ

245ピーチ:2013/01/13(日) 21:03:49 HOST:EM114-51-209-35.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

至って普通の兄に普通の妹も可哀そうだと思うぞ!?

人はそれを死刑と呼ぶ! 台詞が面白いw←

246ちー:2013/01/13(日) 21:23:51 HOST:p3078-ipbf1807marunouchi.tokyo.ocn.ne.jp
やっぱいいね^^
何回も読みなおしちゃう^^
比喩とかうまい具合に使ってるしね^^
普通の人が、うまい小説書こうとすると、ツンデレっぽくなるんだけど、ぜんぜん、つんでれっぽくないしね^^
(それいぜんに、ふつうのひとでもないかw神だねw)

247ちー:2013/01/13(日) 21:24:13 HOST:p3078-ipbf1807marunouchi.tokyo.ocn.ne.jp
なんか上から目線でごめんなさい><
悪気はなかったので…

248心愛:2013/01/14(月) 09:59:54 HOST:proxy10035.docomo.ne.jp
>>ピーチ

まあね!
ただ劣等感の問題だよね(´ー`)
ここあ、基本美形ばっか書いてたから主人公が平凡ってちょっと新鮮w

ヒナのツッコミはリズム感を大切に書いてますありがとう!(ぇ



>>ちーさん

こっちにまでコメありがとうございます!
いやいや、自分なんてまだまだですよ←
アホなんだかシリアスなんだか良く分からない話ですが、ご愛読戴けたならとっても嬉しいですw

249ピーチ:2013/01/18(金) 20:10:56 HOST:EM114-51-30-88.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

劣等感w

あたしだったら美形か思い切って平凡以下にするかも←え

いやリズム感ありすぎだよね!

250心愛:2013/01/18(金) 20:52:14 HOST:proxy10063.docomo.ne.jp
>>ピーチ

平凡以下いっちゃうかw
美形に囲まれる平凡またはそれ以下っていうのはけっこう定番かもね←


ツッコミ担当には常識だけじゃなくリズム感……音楽的才能まで求められるのかもしれない(笑)

251心愛:2013/01/18(金) 20:52:44 HOST:proxy10064.docomo.ne.jp

『ドッジボール』





そういや昔、“ドッチボール”と“ドッジボール”の違いが分からなくて混乱したっけ。
“ドッチ”は“ドッジ”の訛りらしいけど。
でも、俺だけじゃなく周りもよく混同してるのは田舎だからなのか、それとも全国でも普通のことなんだろうか―――なんてことは、今はどうでもよくて。



「結野さんベンチ座ってなよ」


「本番もみうみうは応援係でよろしくね」



「う……ではありがたく」



「お前ら美羽に甘すぎるだろ!」



来週から昼休みを使って、クラス対抗のクラスマッチが全学年で行われる。
その中でも、ドッジボールは男女とも強制参加の種目なので、休み時間にこうしてクラスで集まって、自主的に練習をしようということになったわけだ。



「えー、だって結野ちゃんにボール当たったら骨折れそうじゃん?」



「それはない。……多分」



へらへら笑っている春山。

……まったく、こいつは紳士なのか、ただの変態なのか。


ピーッ!


試合開始を告げる(特に必要ないけど、気分を盛り上げるための)ホイッスルが鳴る。



「よっしゃあかかってこい柚木園! お前の熱い思い、俺が全身で受け止めてやるぜ!」



……間違いない、ただの変態だ。



春山の敵サイドに立つ柚木園は『イラッ』と爽やか王子にあるまじき表情を浮かべ、



バシィッ!



待て待て待て当たったら美羽じゃなくても確実に致命傷だよねこれ!



「ふっ、甘い!」



爽やか王子を挑発したバカは、バビュンッと恐ろしいコントロール力でまっすぐ飛んできたボールを余裕のツラで避ける。いや取れよ。


さらに、妙な気を利かせた外野が再度ボールを柚木園に返し。



「……次こそ仕留める」



「いーねいーね燃えてきたぁ! 思いっきり抉るようによろしく!」



ボールよ割れろと言わんばかりのスピードで繰り出される攻撃を、これまた人外の動きでことごとく回避していく春山。
二人の争いに巻き込まれてたまるかい! とひたすら逃げ惑う内野。


あれ、おかしいな。ボールがナイフか何かの凶器に見えるよ。



「……まいちゃんと春山くん、仲良さそうだね」



「どこが!?」



あちこち走り回りながらも、むー、と何故か面白くなさそうな顔をしている姫宮。
……正気か?



大分息が苦しくなってきたところで。



「ストーップ! 柚木園対変態の試合になってるから!」



俺はたまらず全員に聞こえるようにストップをかける。



「怪我人出る前に二人退場! お前ら絶対練習いらないくらい上手いだろ!」



「えー! まだ一回も喰らってないのに!」



「まあいっか。あっちで美羽と話してこよっと」



そんなこんなで超不満顔のドMとまんざらでもなさそうな柚木園が抜け、『(ほっ)』という心の声を聞きつつ普通にゲーム再開。



「っと」



そこで飛んできたボールを腕を伸ばしてキャッチする。
とりあえず近い相手にぶつけようと振りかぶった俺と目が合ったのは、



「ひっ」



女子の集団、である。



「………」



投げれば普通に当たる。いくら俺がド下手だったとしても、絶対に、当たる。


でもさぁ!



「………うん無理」



あきらめた俺はげそっとした顔で外野にパス。



「ヒナやさしー!」



「かっこいーよ!」



途端に沸き上がる女子のおだて。
うん、悪い気はしない。


そんな感じでみんなが女子を避けるので、男子同士の潰し合いが続いた結果、どちらの内野にも女子しかいなくなってしまった。


仕方なく俺たち男子は力を加減して、軽く転がすようにして脚を狙ったりふわっと優しく投げたり。

そのうち、ボールが姫宮の手にぽすっと収まった。
外野の男子が、内野に向けて口々に叫ぶ。



「やばい姫にボール行った!」



「女子は普通に投げてくるぞ、逃げろみんな!」



『きゃー!』



「問題発言が聞こえたような気がするのは僕の気のせい!?」



そういや姫宮が残ってるのに、俺もサラッと『女子しかいない』って片付けちゃったよ。


結局、何回かゲームを繰り返しても、相手側に女子が何人いるかが勝負の分かれ目となっていた。練習も何もない。

……ドッジボールってこんな競技だったっけ?

252ピーチ:2013/01/18(金) 23:01:17 HOST:EM49-252-50-34.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

いや違う何か違うぞ!?

あたしドッジボール大っ嫌いだけどそれでもなんとなく違うぞ!?

253心愛:2013/01/19(土) 12:18:41 HOST:proxy10028.docomo.ne.jp
>>ピーチ

これ半分実話w

ここあの学校の男子はレディーファースト精神に溢れたジェントルマンさんなので、女子にボール当てられなくてね(´ー`)
男子がボール持ってるときは女子は完全に安心しきってるという。


ここあは体育全般壊滅的だけどひたすら逃げるのだけは得意(~_~;)

254ピーチ:2013/01/19(土) 23:51:26 HOST:EM114-51-41-177.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

いーなーいーなー←

あたしの学校じゃ男女お構いなしだよ一部の女子が無茶苦茶強いから!

そのせいで男子のボールに当たっても女子のボールに当たっても基本的に痛いというw

255心愛:2013/01/20(日) 10:04:43 HOST:proxy10049.docomo.ne.jp
>>ピーチ

女の子でも男子顔負けなくらい強い子っているよね(^-^;
かっこいいけど当たると痛い←

256ピーチ:2013/01/20(日) 17:09:47 HOST:EM114-51-128-112.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

確かにw

でもかっこいいより先にやっぱり痛い←

257心愛:2013/01/22(火) 20:17:38 HOST:proxyag069.docomo.ne.jp

『日永家のお客様』






「ようこそいらっしゃいましたー美羽さん! どぞどぞ」



「……お邪魔します」



薔薇のコサージュがくっついた小さな靴をきちんと揃え、緊張している様子でぺこっとお辞儀するゴスロリ少女。



「狭くて悪いけど」



「いや……良い家だと思う」



「そか?」



何故、生粋のお嬢様たる美羽が庶民感漂う俺の家なんかに来ているのか―――という話、なのだが。



「じゃあ彩は飲み物とか持ってくよ! ……その後は空気読んで若い二人に任せますしねむふふ」



「お前何歳だよ」



「ぇ、と……お気遣いなく?」



この彩が、いつの間にか勝手に美羽と“遊ぶ”約束をしてしまっていたらしく。

……全く行動が早い妹だ。

特に理由もないので反対することもなく、学校であらかじめ美羽に家の場所を教えておき、そのまま日曜の今に至る。



二階にある俺の部屋に行くために階段を上ると、数歩ぶん遅れて、遠慮がちでごく小さな足音がついて来る。



「で、ここが俺の部屋。適当に座って」



「……ん、む」



ちょこん、とミニテーブルの前に正座する美羽。


行儀が悪いことはもちろん承知だろうが、ちらっちらっと落ち着かなげに視線を走らせている。
お決まりの中二病台詞も出てこないらしい。


俺も、『自分の部屋に彩以外の女の子がいる』という状況は、なんか異常に緊張する。


とりあえず美羽の対面に腰を下ろし、胡座(あぐら)をかいてみた。



「……」



「……………」



……で……何、しろと?



「え、えーと……」



嫌な汗が噴き出てくる。

え、何こういうときどうすればいいの? 普通何するもんなの?



「……あー……課題でもやるか」



ピリピリと顔を引き攣らせていた美羽が、ほっとしたように息をついた。



「ぼくも古典の予習が済んでいなくて、ちょうど気になっていたところだった」



「あ、そうなんだ。俺は小テストの勉強してないけど」



「どうせ毎日あるんだし、小テストはそんなに真面目にやらなくてもいいんじゃないか? 授業前の休み時間で十分間に合うだろう」



「確かに……じゃあ英語の問題集でもやるか。古典の教科書貸す?」



「心配には及ばない。さあ―――我が呼び声に応じ、闇の淵より顕現せよ……!」



大仰なことを言いながら、持ち主の趣味を反映しまくった黒レースやリボンたっぷりのバッグから教科書やノートに文法書、電子辞書を取り出す美羽。
わざわざ持って来たのかよ。


カリカリカリカリ。


静まり返った部屋に、シャーペンを走らせる音とページをめくる音が心地良く響き、



「こ、これだから南高生は……っ!」



「彩? 何してんの?」



ドアを微妙に開けたまま、廊下でトレイを抱えた彩がガックリ膝を付いていた。

かと思えば、くわっと目を見開いて声高に主張。



「優等生にも程があるよ! テスト明けくらい勉強やめて遊びなさい!」



「いや、遊んでたら授業についていけないし。つーかすることないし」



「友達と遊ぶときにすることなんて、勉強以外にもいっぱいあるでしょ!? 雑談でもいいしさ!」



俺と美羽は顔を見合わせ、



「「―――まず他人と遊んだことがないから分からない」」



「悲しすぎるっ!」



彩、絶叫だった。



「一度も!? 休み時間とか最低限のお喋りはするよね!?」



「まず、クラスメイトとまともに話せるようになったの高校からだし。休み時間はずっと本読んでたし」



「ぼくもだな。勉強していても良いんだが、『さっすがガリ勉(笑)』などと陰で言われるのが嫌で」



「そうそう! 受験のときとか、図書室とかで隠れて勉強したなぁ」



「ああ、図書室はぼっちの《聖域(ファンタジア)》として相応しいと思う。五月蝿くないのと、ぼくの悪口を言ってくる低レベルな馬鹿がいないのがいいな」



「教室にいると気になるんだよなー。聞こえてないふりか寝てるふりしてやり過ごすけど、やっぱりねぇ」



「ふっ。ぼくも、寝ているふりから授業のチャイムが鳴って初めて目覚めたように起き上がるという流れの演技だけはプロ並みという自信がある」



「そんな話題で盛り上がるのやめてぇ―――!」

258ピーチ:2013/01/23(水) 20:41:10 HOST:EM1-115-14-104.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

そんな悲しい話題で盛り上がんないでぇー!?

分かるよっ彩ちゃんの気持ちよくわかるよっ!

いっくらあたしでも最低限の言葉くらい交わすよ!←

259心愛:2013/01/24(木) 16:50:18 HOST:proxyag085.docomo.ne.jp
>>ピーチ

彩が常識人に見えるというw
悲しい話題は結構すらすら出てきちゃうここあです←

260心愛:2013/01/24(木) 16:51:10 HOST:proxyag085.docomo.ne.jp







何故か彩がぎゃーぎゃーうるさい。



「や、だってすらすら長時間話せることってそれくらいだし……」



「どんだけ悲しい人生送ってるの!?」



俺の人生全否定された。

ちょっと落ち込んでいる俺の対面で、「話題か……」と考え込んでいた美羽がふと顔を上げ、顎に指を当てる。



「今までの学校生活といえば。今はもう関係ないが、給食のとき班で机をくっつける制度の是非について、なんてどうだろう」



「あー、俺の周りだけ不自然に隙間が開くんだよな。六人グループの真ん中の席とかになっちゃうとマジ地獄」



「給食は体育や英会話のペア活動、調理実習などに並ぶ一日で最も憂鬱な悪夢の時間だったな……」



「修学旅行とかの班決めもじゃね? 中途半端に優しい奴が『えーと……日永くんも、入る?』みたいなこと言ってくれちゃったりすると、そいつの周りから一斉に『は? お前ふざけんなよ』みたいな目で睨まれてんのとか見るとほんと罪悪感に駆られて」



「ダメだ……! この人たちほんとダメだ……!」



頭を抱える彩。



「とにかく自虐ネタ禁止! 普通の雑談しようよ!」



「普通に雑談してただけなんだけど……」



「同じく」



語れるレパートリーが貧困な上に偏ってるんだよ……。


「普通の話」って意識するとなんか逆に難しいような気がするのは俺だけ? 俺だけなの?



「……ちっ、二人きり作戦はあきらめるしかないかー。まぁ何しろドヘタレ世界代表のお兄ちゃんだし最初から期待してなかったけどさー」



「なにげに今小声で酷いこと言われなかったか俺」



「気のせいだよ気のせい! それじゃあ彩も加えたこのメンバーでガッツリトークしようぜ!」



「いや、お前まで来たらそれこそ共通の話題が」



彩が『にぱっ』と笑う。

……ああ、こういう顔するときのこいつは絶対にろくなこと言わな―――




「レンオーのアレクの見た目が微妙に柚木園さんに似てる件について!」




「分かるっ!」



「まさかの食いつき!?」



美羽が赤い瞳をキラキラさせて身を乗り出していた。
俺はちょっと引いて後ろへ下がる。



「さすがに体格や声は違うものの、雰囲気や顔立ちがそっくりだと前々から思っていたんだ」



「あとあと黒髪とか頭身の高さとか、大人の色気的なものとか!」



「今度は俺がアウェーかよ!」



分からない! こいつらが何言ってるのかまったく全然分からない!



「絶対アレクは鬼畜で美人な総攻めですよね!?」



「……攻め……?」



が、そこで美羽が眉間に皺を寄せる。

そして約三秒後、彩の正体をあっさり看破。



「君、さては腐女子か」



「はい、腐ってます! 納豆並みにねちょねちょに!」



「誇るな!」



「ちなみに、レンオーではアレユリ派ですよ〜」



「……ユリアスは男だろう」



うわ、なんか良く分かんないけど美羽がまともに見える。すげぇ。



「だからいいんじゃないですか! ……くぅ……! この勢いで一気にコッチの道に引き込めれば……」



「断固として阻止する!」



美羽まで彩の同類にさせてたまるかい!


と、その本人がこうきっぱり言い切った。



「そういった趣味に偏見はないが、これに関しては譲れない。アレックスの相手は主のシルヴィアだ」



「お、CP論争いっちゃいます?」



「いかないよ! 話すなら俺も分かるアニメにしろ―――!」



そんなこんなで、お菓子食べながらダラダラお互いの好きなアニメやらゲームやら漫画やらのことで喋っていたら、あっという間に時間が過ぎていった。


なんかヲタヲタしい話だけで何も特別なことやってないけど、こんなんで良かったのかな。



「ヒナ、今度来たときは布教用のBlu-rayを五巻まで持ってくるからコミック版で良く予習しておけ!」



「いえ結構です」



……ま、美羽が楽しかったならいっか。

261ピーチ:2013/01/25(金) 06:12:27 HOST:EM114-51-162-116.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

まさかの食いつきかw

てか彩ちゃん入ったらヒナさんの分かる話がなくなるんだー←

262心愛:2013/01/27(日) 11:23:58 HOST:proxyag060.docomo.ne.jp


『学活』





「今日の話し合いでは文化祭の出し物を決めてもらいます。後は春山君、お願いしますよ。……切実に」



「はいはーい!」



幸薄いオーラを纏った担任(50代前半、既婚。そろそろ頭頂部の環境が気になるお年頃)がものすごく心配そうな顔をしながら教室を出て行く。

それをビッシリと背筋を伸ばして座った皆が黙って見送り、足音が聞こえなくなるのを確認してから。



「はい自習タイム突入ー! 同時進行でテキトーに決めてくから、最低でも多数決だけは参加するよーに!」



『はーい』



実は文化祭実行委員である春山の指示にお行儀よく返事しながら、席を立つ音だったり筆記用具を取り出したりする音だったりが立て続けに響く。

実にこなれたものだ。



「去年までの出し物リストからパクるってことで異論ないっすかー? ないなら黒板に書き出してくよー」



『ないでーす』



……その中で、明らかに心ここにあらず状態の生徒が一人。

―――柚木園である。

頬杖をつき、ぼ――っと焦点の合わない瞳が虚空を泳いでいる。
悩ましげに寄せられた眉や、僅かに開いた唇からはいつにもまして壮絶な色香が立ち上っていた。



「まいちゃん? 大丈夫?」



隣の姫宮が心配そうにその顔を覗き込むと、パッと身を退いて取り繕うように笑う。



「だ―――大丈夫だからっ」



「……そう?」



一瞬だけ、妙に寂しそうな表情になる姫宮。
なんとなく気になって、俺も椅子を回転させて二人に向き合う。



「どしたの」



「あー、いや、なんでもないよ……ただ、ちょっと風邪引いちゃって」



柚木園は答えながら、安堵したように頬を少し緩めた。



「土日で治ったんだけど、まだ本調子じゃないのかも」



「無理すんなよ」



「ありがと。でも、劇の練習もあるから無理しないわけにはいかないんだよね」



「あ、結局やることにしたんだ」



「うん、部長さんに押し切られちゃって」



姫宮から逃げるように、柚木園は頑と俺だけを見ている。
美羽がちょっと心配そうに、姫宮を窺っていた。



「そこー、なんか意見あるー?」



そこで絶妙なタイミングで、春山が話を振ってくる。
柚木園も今日は特に火花を散らすことなく、「んー」と考え込み。



「メイド喫茶とかないの?」



「自分の欲望隠す気サラサラないだろお前」



クラスメイト女子のメイド姿が見たいだけなのは確実だ。



「喫茶店は学校全体で三クラスしかできないんだよね。それに準備も当日も大変だからおすすめはしない」



「えー」



黒板に書き連ねてある(意外なことに達筆だ)候補に目を通す柚木園。
アトラクションがメインらしいけど、お化け屋敷や劇、映画などの定番なものも―――



「……縁日?」



と、一つの項目を見て姫宮が首を傾げた。
春山はすぐに反応。



「お祭りみたいなのらしいよ。ヨーヨーとか射的とか、いくつか屋台出してさ。食べ物扱わなければ面倒もないんじゃねーかな」



「へー。楽そうじゃん」



俺の中学は文化祭なかったから分かんないけど、最近よくあるらしいしね、縁日。



「ヒナもこう言ってることだし、縁日でいーですか」



『異議なし』



こだわりゼロのクラスだった。

263心愛:2013/01/27(日) 11:25:01 HOST:proxyag093.docomo.ne.jp






「そんじゃ浴衣だけは各自用意ってことで。男子は甚平とか、最低法被(はっぴ)でも可」



「ゆ、浴衣!?」



美羽が顔色を変える。



「浴衣は本来湯帷子(ゆかたびら)といって風呂上がりに着る寝衣のようなものだぞ!? そんな破廉恥なっ」



「いつの時代の話だよ!」



「とにかくぼくは絶対に嫌だ!」



ぷっくーと不満げに膨れっ面。
勢いよくそっぽを向くと、長くて綺麗な黒髪がふわりと揺れる。


……なんて言うか。




「……美羽、絶対可愛いと思うんだけどなー。浴衣」




それでも、好きな子の、いつもとは違う姿を見てみたいっていうのが男心ってもので。
普段ふわふわしたゴスロリばっかりの美羽だけど、清楚な和装だって絶対似合うと思う。



「え」



カチンッと美羽が硬直。



「……………」



言葉が出ないらしく、あうあうと口をぱくつかせ、



「美羽?」



「ぅく……っ! 君はなぜそういう恥ずかしいことを素面で言えるんだ……!」



「え!? 嘘、なんか言ってた俺!?」



「なんでもないっ」



熟した林檎よりも赤い顔で、こほんこほんっとわざとらしい咳払い。


……え、マジで俺何言ってたの? 気になるんだけど。



『(……にやにや)』



「なっ、そっその目をやめろーっ!」



こっちを凝視したクラスメイトたちに向かって美羽がキレていた。
どうしたよ急に。



「ってそうじゃない! ぼくが言いたいのはだな……」



クラス中に注目されたまま、恥ずかしそうに俯いた美羽が打って変わってぽそぽそと小さな声で。



「……その……実は、家が衣料品関係の会社をやっていて」



本当は俺以上に、大人数に向き合うことが苦手だろう美羽は、四方八方から注がれる視線にスカートの裾をぎゅっと握り締めながらも、こう申し出た。



「衣装類なら、浴衣でもなんでも―――試作品で良ければ無料で提供することも、できなくはない」



おおっと教室が沸いた。



「ゆいのんそれマジでっ? 助かるわー」



「……ん」



満面の笑顔の春山から、照れたように視線を逸らす美羽。


……まさか、この美羽が学校行事に進んで協力するなんて。
やるじゃん―――と、俺もつい口元が緩んでしまう。


にわかに活気を帯び始めたクラスに便乗するように、柚木園が拳を握って立ち上がる。




「とにかく女子は全員浴衣ね! 絶対ね!」




あの憂いのポーズはどこ行った。
テンション高くのたまう柚木園に、姫宮がにこにこ笑いかける。



「楽しみだねっ、まいちゃん!」



「それはもう!」



爽やかオーラ全開、キラッキラした笑顔の柚木園。



「……うわぁ、墓穴掘りまくってるぅー……」



「今は言わないでおこう。当日……後には引けなくなるまで誤解させておいた方が面白い」



「黒いっすね美羽さん」



「ふん、彼女には色々と借りがあるからな」



衣装を全面的に美羽が用意するとなれば、奴も抵抗はできまい。



「くくく……今こそ、誉れ高き我が力を解き放つ刻……!」



「うん、可哀想だから手加減して解き放ってね……」



悪どい微笑と痛い台詞が初めてマッチした瞬間だった。

264心愛:2013/01/27(日) 11:49:52 HOST:proxy10014.docomo.ne.jp
>>ピーチ

腐女子妹と平凡男子と中二病女子だから仕方ないw


そろそろ苺花の話書きたいから、邪気眼少女の短編集作ろうと思います! 短編になるかは分かんないけど! 同時進行できるのか疑問だけど!
浴衣浴衣ーw

265ピーチ:2013/01/27(日) 14:30:33 HOST:EM49-252-73-193.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ちょっと待て美羽ちゃん苺花ちゃんに何着せるつもりだー!?

………とってもとっても珍しい組み合わせ、だよね…

浴衣ーw

266心愛:2013/01/28(月) 22:56:49 HOST:proxy10041.docomo.ne.jp
>>ピーチ

男っぽい娘が女の子らしくなる話は結構好きだからがんばる←

…次からなんとまたまた新キャラ登場だよ! ただし超サブキャラだよ!


ソラの波紋はちょっとだけお休みします(o^_^o)

267心愛:2013/01/28(月) 22:59:39 HOST:proxy10041.docomo.ne.jp


『結野邸』






「……美空先輩」



『んー? あ、次の角を左に曲がると見えるよ』



「俺、今ものすごい後悔に襲われてるんですけど」



高い塀に囲まれた、高級そうな邸宅が聳え立つ住宅街―――をさらに抜けた場所。
一応余所行きの服を引っ張り出してそれなりにお洒落してみたとはいえ、ド平民な俺が上品な風景から浮きまくっているのは明白だった。


やっとのことで結野家の敷地内に入っても、目の前に広がるのはだだっ広い庭園ばかり。
そして、その向こうに点みたいに見えるは長方形の洋館らしきもの。



「なにこれ家ですか? 家なんですかほんとに、美術館かなんかの間違いじゃなくて」



歩いて一周すんのに何時間かかるんだろう。



『あはは、確かに普通よりちょっと大きいかもだけど』



「ちょっとの基準おかしくないですかねぇ!?」



「お兄ちゃん、噴水が! 噴水があるよ!」



スマホを耳に当てる俺の隣では、シュガーピンクのマキシワンピース姿の彩がはしゃいできゃっきゃしている。
一人でこの豪邸に侵入するのはものすごく不安なので、正直彩がいるのは心底ありがたい。


……で、なんで彩と二人して結野宅をお訪ねしているのかと言いますと。

『今日家に来い』という主旨の、絵文字顔文字満載でやたらと小文字と改行を多用したメールが美空先輩から突然届いたのだ。
この前美羽が俺の家に来たから、今度は自分たちの所へ遊びに来たらどうか、ただし驚かせたいから美羽には内緒で―――という誘い。
迷っていたところ、それを嗅ぎつけた彩が自分もついて行きたいと名乗りを上げ、



『ちょうど文化祭で使う衣装、見てみたかったんでしょー? これくらいで動揺してどうするの』



「すみませんね小市民で」



と、こういう目的も含めて一大決心したわけだ。
ちなみに最初は運転手さんを寄越してくれるという話だったのだが、それについては丁重にお断りしておいた。だからこうして苦労しているのも自業自得といえば自業自得である。



『……っと。そろそろ切るけど大丈夫だよね?』



美空先輩がこう切り出したので、見えないことは分かっているけど小さく頷く。



「ええまあ、あとは家本体まで行くだけなので」



『頑張れ! 待ってるよー』



通話を切ってから十五分弱、時折視界を横切る噴水やら巨大な花壇の迷路みたいなのやらを見なかったことにしつつ、彩と二人してなんとかそれらしき白亜の建物に辿り着いた。


……でかい。とにかくでかい。



「お、お邪魔しまーす」



「マジでな……」



首が痛くなりそうなので見上げるのを諦め、アールヌーヴォー式のステンドグラスが嵌め込まれた両開きの扉を恐る恐る開ける。




「あ、圭くん! いらっしゃい!」




するとすぐに、トレイに数個のグラスを乗せた美空先輩がツインテールをさらさら揺らして、たたっと走ってきた。


可愛い、と綺麗、のちょうど中間くらいの、十代の少女の理想が具現化したような絶妙に整った顔立ち。
リボンがついたサテン地のショーパンにドットが飛んだパフスリのブラウスを合わせ、薄色が女らしいデニムのジャケットを羽織っている彼女はやっぱり問答無用に愛らし―――


って違う!



「そっちが彩ちゃんだよね? 初めまして」



「先輩危ない! 危ないから待っ!」




「……あ」




《とんっ》




ぎゃあ―――――!?




間もなく展開されるだろう惨劇から目を逸らそうとしたそのとき―――



黒い影が飛び出した。



しゅたっと華麗に跳躍、その人物は腕を伸ばして空中を舞っていたトレイを掴む。

空中で燕尾服に包まれたしなやかな肢体を捻り、アクロバット並みの身の軽さでバランスを取って。

トレイをくるりと鮮やかに反転させて構えると、まるで吸い込まれるかのように、とととととんっとグラスがその上に整然と乗っかっていく。



「ひゃ……わ」




「―――お怪我はありませんか、お嬢様」




最後に絨毯の上へ着地すると同時、前のめりに倒れ込んだ先輩自身をその胸で受け止めた。

268心愛:2013/01/30(水) 21:07:39 HOST:proxy10058.docomo.ne.jp







「昴(すばる)!」



「ですから、私が致しますと申し上げましたのに……」



ため息をつく青年。

年の頃は二十代前半、すらりと伸びた痩身を黒の燕尾服で包んでいる。
柔らかに額へ掛かった漆黒の髪、ギリシア彫刻のように整った優美な顔立ちには適度な神経質さや誠実さが滲む。
透き通った鼻梁は涼しげで、淡いブルーに似た煌めきを放つやや細い双眸の印象も相俟ってか、どこか清潔感を感じさせる美貌の持ち主だった。



「「……か……かっけぇ―――!」」



思わず彩と二人でぱちぱちぱちと拍手喝采。
魔法のような神業をしてみせた青年はそれに我に返ったようにはっとして、端正な顔を赤らめる。



「お、お嬢様? あの、そろそろ……」



「あは、ごめんごめん! 助かったよ、ありがと」



恥ずかしそうに先輩をそっと引き離した彼は、一呼吸おいてから丁寧に腰を折る。



「大変失礼致しました。私、結野家にお仕えしている執事、一ノ瀬(いちのせ)と申します」



執事。
ということは、前に美空先輩を車で迎えに来ていた人だろうか。
遠目に見てもイケメンだったし、悲しいことに最近美形は見慣れてきたけど、近くで見るとまた一段と眩しい。キラキラだ。



「お嬢様と美羽様がお世話に―――」



「イケメン執事キタァ―――っっ!」



彩が唐突に絶叫。
興奮気味にハァハァ息を荒げて執事さんに迫る。



「ああっ白手袋と袖の隙間のチラリズム! 手袋を外す男の艶っぽさってもうたまんないよねってゆーかこの顔で執事とかもう狙ってやってるとしか思えないんですけど執事×主人萌えぇぇぇえええええ」



「あの……?」



「ただの持病なので気にしないで下さい」



困惑したように立ち尽くす一ノ瀬さん。
うん。この人には、俺と同じカテゴリー……貴重な常識人キャラの気配を感じるよ。



「は、はあ……そうですか」



曖昧な笑顔で頷いた後、一ノ瀬さんは急に怪訝そうな顔になって手にしたグラスを覗き込む。



「ところでお嬢様。こちらは」



「アイスコーヒーだよ。ちゃんとミルクもつけたし」



胸を張る美空先輩を疑わしそうに窺いながら、鼻を液体へやや近づけ、パタパタと白手袋に包まれた手で仰ぐ。
教科書通りの、正しい薬品の嗅ぎ方だ。


そして綺麗な弓なりの眉を寄せ、



「……失礼」



おもむろに立ったままグラスを一つ掴み、口元に寄せてくいっと軽く傾ける。
その様は完璧に優雅、思わず惚れ惚れしてしまいそうに上品だったが、



「けほっ!?」



むせた。


しばらく喉に手をやって、うっすら涙を浮かべて苦しそうに咳き込み。




「―――めんつゆではないですかっ!」




「「めんつゆぅー!?」」



めんつゆってあのめんつゆ!?
しかも原液ってこと!?



「う、嘘でしょ……っ?」



「お嬢様……皿を持てば必ず落とし、未だに十分の九の確率で砂糖と塩をお間違えになるお嬢様に過度な期待はしておりませんが、せめて容器で判別できるようになって下さい……」



沈痛な表情で額に手を当てる一ノ瀬さん。

なんだろう。近寄りがたい雰囲気の二枚目なのに、何故かすごい親近感わく。



「ごめん……」



さすがにしゅんとしてしまう先輩。
一ノ瀬さんは慌てたように頬を火照らせ、



「い、いえ、私もつい言葉が過ぎました。申し訳ありません」



僅かに視線を逸らして謝罪して、それから気分を入れ替えるようにすうっと小さく息を吸ってから。



「ではお嬢様、お客様にお出しする飲み物は私にお任せ下さい。お嬢様は―――」



「だ、大丈夫だよ! 今度はちゃんとやるから!」



「いやいや絶対大丈夫じゃないですって! もう少しでめんつゆにミルク掛けて美味しく戴くところだったんですよ俺たちっ!?」



一ノ瀬さんが犠牲になってくれていなかったらどうなっていたことか!

269心愛:2013/02/01(金) 23:46:17 HOST:proxy10043.docomo.ne.jp






揉め出しそうになったとき、すかさず彩がぴょんっと手を挙げた。



「じゃあ、彩が美空さんをお手伝いするってことでどうですか? お話ししたいこともありますし」



さすがは彩、美空先輩の残念な特性をこの短時間できっちり把握したようだ。



「いえ、お客様にそんなことをして戴くわけには」



「本当!?」



一ノ瀬さんを遮って先輩がパッと顔を輝かせる。



「あたしも、彩ちゃんと色々お話ししたかったの!」



「これから長いお付き合いになりそうですしね〜」



「ねー!」



初対面にもかかわらず謎の意気投合を遂げる二人。
一ノ瀬さんが嘆息する。



「では、お言葉に甘えて。申し訳ありませんがお嬢様をよろしくお願いしますね」



「りょーかいです!」



「あたしの方が年長なのに……」



ちょっと不満そうな先輩の台詞にはノーコメントだ。



「……お兄ちゃんお兄ちゃん」



「んだよ」



と、彩が爪先立ちをして、小さく『あること』を俺の耳に囁いた。
それから顔を離して、黙ってにこっと笑う。



「……お前やっぱこういうときだけは鋭いよな。怖いくらい」



「失礼だなぁ」



「彩ちゃん、行くよー! 昴、圭くんの案内頼んだからね」



「確かに」



「はーい!」



美空先輩の後について、へらへらした笑みを残して彩が歩き去る。



「それでは日永様、美羽様のお部屋の前に衣装部屋へとご案内させて戴きますね」



「あ、はい」



サッと細身を翻す一ノ瀬さん。
シャンデリアや鮮やかな壁画、足元の絨毯に白塗りの階段―――なんて一般人離れした豪奢な光景に自然と溶け込んでしまっている彼は、やっぱり文句なしに格好良い。


そんな一ノ瀬さんに―――俺は極力小さな声で、ぼそっと訊いてみる。




「一ノ瀬さんって……美空先輩のこと、好きなんですか?」




「……………」



みるみるうちに、綺麗な肌全体がぶわわっと赤らんでいく。
イケメンは赤面してもイケメンだ。



「あ、やっぱりですか」



「お、お願いします! どうかこのことは口外なさらないで下さい……っ!」



声を潜め、真っ赤な顔で必死に頼み込んでくる一ノ瀬さん。
クールなデキる大人の男、って感じの見た目とのギャップがものすごいことになっていた。



「このことが旦那様に知られれば、私は解雇されてしまいます……!」



「大丈夫ですよ。約束します」



使用人さんってのも大変なんだなぁ。



「……それで、あの。実は私も気になっていたのですが」



動揺を隠せない様子のまま、一ノ瀬さんが遠慮がちに言葉を発した。



「ご自身の世界に籠もりがちでいらっしゃる美羽様にご学友ができたのは喜ばしいことなのですが……日永様は男性ですし、お嬢様は妙にはりきっていらっしゃいますし……」



勘ぐってしまい申し訳ありません、と軽く頭を下げてから、そっと俺の目を窺い見る。



「失礼ながら……日永様も、もしかして、その、美羽様のことを……?」



「……まあ、そんな感じです」



肩をすくめ、苦笑いを返す。


普通の人が相手なら反発するところなのかもしれないけど、そういった感情は全然沸いてこなかった。
この人は良い人だっていう直感から、少なからず好感を持ってしまっているんだと思う。


究極ドジ天才娘と邪気眼電波娘。

厄介な姉妹に惚れてしまった仲間だ。


思わず握手を求めると、笑って応じてくれた。



「昴さん? って呼んでいいですか。 俺も圭で」



「もちろんです、圭様」



「お互い絶対苦労しますけど頑張りましょうね」



ついハイテンションになってしまった俺に、




「……ええ……私の方は、報われることはありませんけれど」




昴さんは、ふっと大人びた、寂しげな微笑を向けた。
声が切なさを帯びる。



「お嬢様は頭のよろしい方。何もないように振る舞っていますが……私の感情など、とっくの昔から察していらっしゃるでしょう」



拒絶、ですよ。と自嘲の笑みの形に口端が上がる。

270ff:2013/02/02(土) 00:01:21 HOST:zaq31fa4cca.zaq.ne.jp
↑お前ホントバカだな
何のスレこれ?頭悪いんじゃないか?

271ff:2013/02/02(土) 00:01:58 HOST:zaq31fa4cca.zaq.ne.jp
俺がこれから面白いスレ立ててやるよ
このサイトの住民を出演させてな

272ピーチ:2013/02/02(土) 12:47:28 HOST:EM114-51-61-164.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

めんつゆー!?

ちょっと待て美空先輩何をどうしたらめんつゆとアイスコーヒー間違えられるんですかっ!?

一ノ瀬さん頑張ってくださーい! 美形ならいける!←

273心愛:2013/02/02(土) 14:23:10 HOST:proxy10014.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ピーチー!(涙)
最近いないなー…いないなー…って寂しかったんだぞ! 実はそんなに時間たってないけど!


めんつゆw

昴は美空の超絶ドジのほぼすべてをフォローしてる哀れな奴だよ(*^-^)ノ
レイさんが空気系残念執事なら昴は苦労系万能執事?(´ー`)

どっちも苦労してますがw


昴は超脇役なんだけど、美空と昴の話も番外編でちゃんと書きたいなぁ←
これが完結してからだけどね!

274心愛:2013/02/02(土) 23:05:45 HOST:proxy10010.docomo.ne.jp







「いずれ旦那様の会社を継ぐお嬢様はいつか、しかるべき婚約者をお持ちにならねばならないのですから。執事如きのくだらぬ懸想などを一々気にとめる訳にはいかないのです」



昴さんは重苦しい息を吐き出し、眉を下げて笑った。



「……つまらないことを話しました」



スッと型に嵌った一礼、再び顔を上げて微笑する。



「申し訳ありません。お嬢様だけでなく、私も少々浮かれていたようですね……お許し下さい」



この話はこれで終わり、というサインだ。



「いえ……そんな、全然」



大事なとこで抜けてるけど、その実自分―――または美羽―――の利を優先して動くことができる、一種の狡猾さを併せ持つ美空先輩。
そして、彼女を陰で支え、一途に赦されない想いを寄せ続ける心優しい昴さん。
婚約だの会社だの……その事情は、俺なんかには到底想像できないくらい複雑なんだろうけど。


それでもこの二人には、どういう形であれ、幸せになってもらいたいな―――なんて、こっそり勝手に思ってしまった。



「随分とお待たせしてしまいましたね。行きましょうか」



「あ、お願いします」



頭を本来の目的へと切り替える。



時折すれ違うメイドさん(!)と挨拶を交わしながら階段を上がり、高い天井の廊下を歩くことしばらく、一つのドアへと辿り着いた。


昴さんが鍵を開け、中に招き入れてくれる。



「うーわ……!」



思わず声が上がった。


室内を埋め尽くす衣桁には、所狭しと掛けられているおびただしい量の華やかな着物の数々。
この衣装部屋の面積だけで、俺の部屋の何倍あることか。



「浴衣と帯はこちらに。どうぞお好きなように、お手に取ってご覧下さい」



「や、俺は良く分かりませんから……」



必要なさそうだけど、一応クラスで使える代物かどうか軽くチェックしてみる。


鮮やかな色とりどりの染糸で描かれるのは桜、椿春蘭、梅、牡丹、藤、菊、楓。
花以外にも小鳥、霞、月、金魚、揚羽蝶と趣向が尽きることはない。

紺や黒、薄墨を基調に青竹、露芝などの模様が織り込まれた男性用の浴衣の種類も驚くほど豊富だ。



「……やっぱレンタル料とか払った方が……」



「まさか。あくまで試作品で売りに出せるようなものではありませんので、こんなもので良ければお好きなようにお使い下さい、と旦那様も仰せです」



「そ、そうですか」



これが全部試作品……。
普通に売っちゃえばいいのに、とか考えてしまうのは俺のたゆまぬ庶民感覚ゆえか。



「……あ、昴さん。ちょっと訊きたいんですけど」



「はい」



「昴さんの主観で、この中で一番可愛いって思うのとかあります? 深く考えなくていいんで」



「……は」



ぽかんとしてしまう昴さん。



「か、可愛い……ですか?」



おろおろと視線を彷徨わせ、昴さんはたっぷり迷った末に、「これ、でしょうか……」とある一着を差し出す。


俺はそれを受け取って確認。



「―――なるほど、じゃあ早速美空先輩に着てもらうように頼んで来ますね!」



「圭様っ!?」



瞬く間に真っ赤に茹で上がり、ちょっと涙目になってしまう昴さん。

いやぁ、大人の男性でこんなにいじりがいがある人もなかなかいないんじゃなかろうか。



「冗談ですって、そもそも俺美空先輩の居場所知らないし」



「心臓に悪い冗談はおやめ下さい……」



すみません、と笑いながら謝って。



「文化祭で女装コンテストっていうのがあるらしくて、友達が出るんですよ。本人には可哀想だけど、クラスの宣伝のためにもとにかく可愛さ重視の浴衣を探してて」



「は、はぁ……。女装……」



昴さんがコメントに窮している。
今は体格的に無理があるかもだけど、俺たちと同じ年頃だったならキレイ系の彼にさぞ似合いそうだ、女装。



「最後まで抵抗してたんですけど、ファンクラブの皆さんと実行委員長に土下座して頼まれて、結局押し切られちゃったんですよね」



「そ、それは……大変ですね」



「むしろあいつなら超テキトーな部屋着で立ってるだけで優勝間違いなしですけど、念のためってことで」



「……どうやら美羽様のご学友には、愉快な方が多いようです……」



遠い目をした昴さんの呟きは聞かなかったことにした。

275ピーチ:2013/02/03(日) 09:37:40 HOST:nptka204.pcsitebrowser.ne.jp
ここにゃん〉〉

ここにゃーん! あたしも来たかったよー!

ごめんね最近休みの日でないと来れなくなっちゃってるよー!

…ヒナさんが誰かをいじってるの初めて見た気がする……←

276心愛:2013/02/03(日) 16:18:51 HOST:proxy10017.docomo.ne.jp
>>ピーチ

そっかー(つд`)

無理しなくていいけどいつでも待ってるよw


いじられ役からヒナ脱却……はならないけどね!

277心愛:2013/02/03(日) 16:19:48 HOST:proxy10018.docomo.ne.jp







《コンコンッ》



「美羽様、失礼致します」



「……一ノ瀬か? ちょうど良かった、ロイヤルミルクティーを持ってき―――」



お姫様みたいな天蓋付きのベッド、白レースのカーテンなどのふわふわした可愛らしい家具が目を引くだだっ広い部屋。

その中心で折れそうに細い足をぱたぱたさせ、ソファにうつぶせに寝っ転がった状態で超巨大なスクリーンから目を離した小柄な美少女―――美羽が、昴さんの隣に立つ俺を見るなり赤い瞳をいっぱいに見開いてフリーズした。

やっぱり家でもゴスロリなのね……。分かってたことだけど。



「……な、……っんでヒナが家にいるんだ!?」



薔薇色の唇をわなわな震わせて勢い良く跳ね起きると、辺りに散らばっていた艶めく黒髪がぴょんっと踊る。



「美空先輩に呼ばれて。……え、嫌だった?」



なんかすみません。



「い、いや、では、ないが……っ、こっちにも心の準備というものがだな……!」



何故かソファの上で後ずさり、顔を赤くして膝を抱え、拗ねたような声色で小さく何事かを言う。



「美空も美空だ! ぼくに黙ってヒナと……なんてっ、一体何を考えているんだかっ」



「俺と?」



「うるさい!」



理不尽にキレられていると、にぎやかな二人分の声がだんだん近づいてきた。



「彩ちゃん、やっぱりあたしが持っ」



「いいんですいいんです、このくらい任せて下さい! ……あ、お久しぶりです美羽さん! お邪魔してます!」



「美羽ちゃんやっほー! お姉ちゃんが遊びに来たよー」



今度はちゃんとした飲み物らしきグラスを持った彩と、シスコン全開の美空先輩だ。
昴さんが道を譲り、一歩後ろへ下がる。



「誰が遊ぶかっ!」



「ちぇー。じゃあ彩ちゃん、さっきまでの話の続きでもしてよっか」



「りょーかいです! じゃあじゃあ美空さんからどうぞ」



「はーい。美羽ちゃんってば五歳のとき、お風呂にボディーソープを大量に入れてお母さんにすっごく怒られたの! 『だってお姫様気分になりたかったんだもん!』って泣いちゃって……可愛かったなぁ」



「な―――」



美羽が絶句する。
続いて彩が軽いノリで挙手。



「ではでは次は彩の番ですね! お兄ちゃんって小さいとき、コンビニとか色んなお店に入ったら必ず、『お邪魔します』って言ってたんですよ〜。店員さんが良く笑ってました」



「あははは何それ圭くんかわいー! ……あ、そうそう、美羽ちゃんもねー、いまだに猫さんのぬいぐるみと一緒じゃないと眠れな―――」



『身内の暴露大会開催するなぁぁあああああ!?』



何この公開処刑ふざけんなし!


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