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幻影師
1
:
ピーチ
:2012/08/24(金) 23:15:50 HOST:i125-204-92-164.s11.a046.ap.plala.or.jp
こんにちは!ピーチです!
…とまぁ元気なのは最初だけでして。
荒らしは止めてくださーい
67
:
ピーチ
:2012/10/30(火) 23:17:23 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
『第四十七話・脅迫』
「おど、し……」
「そ。まァ、あン時は今以上に臆病だったから、従わざるを得なかったってワケ」
軽い口調で己を嘲るように、霊が言った。
「……“君に、選択権はない”」
「…え?」
唐突に発せられた言葉に、緋織達が一斉に霊を見る。
彼は苦く笑ったまま、こう言った。
「オレを脅迫してたヤツが言ったこと」
「………宮神君を、脅迫してた奴の、言葉…?」
「へ? ……お、おい神瀬どうした?」
少女の身体からただならぬ殺気を感じ取り、霊がさっと緋織から遠退く。
「…なァ。どう言うワケか、分かる?」
さすがに苦笑を洩らしながら問うた霊に、問われた誠也も微苦笑を浮かべながら答えた。
「……あいつな、誰のことでも一旦切れると当分収まらないんだ」
「……そりゃあ、厄介な性格だ…」
二人の会話が続く間にも、少女の身体から発せられる殺気と言うか怒りと言うか、そのどれかの括りに入るであろう気迫が、彼女の長い髪を揺らめかせた。
「………っ…!」
唐突に、霊の顔色が変わった。それを認めた誠也が、少々慌てた様子で問う。
「お、おい…どうした?」
そう言って、彼は改めて自覚した。
どうしてここまで、人と接することが苦手なのだろうか。
誠也には、緋織のように都合よくころころと表情などを変えることは難しい。
「な…んでも…」
青ざめたまま答えた霊に、誠也が呆れたように言う。
「その状態で、何でもない方がおかしいだろう。何か思い出したことでもあるのか?」
仮に今までで女性を殺していたとしても、緋織ほど髪の長い者は居なかっただろう。なんせ、彼女のそれはそろそろくるぶしに届く、といった長さだから。
それに、仮にそんな人間が居たとして、風に靡くことはあっても自然と揺らめくことはない。
「……アンタさ、少しは遠慮って言葉を使ってみれば?」
「俺は十分、遠慮したつもりだが?」
それを言われると、言われた方は返答に間があるだろう。これほどに容赦のない言葉で遠慮した問う言うのだから、無理はないが。
霊が苦笑したのを認め、彼が心なしか不機嫌そうな声音で言った。
68
:
ピーチ
:2012/11/01(木) 18:35:37 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
『第四十八話・心意 前編』
「今よりもずっと小せェ頃にさ、最初の標的(ターゲット)に選んだ女と、似てるんだよ」
「…は……?」
突然の霊の言葉に、どう返答したものかといった風情で悩む誠也を見て苦笑しながら、霊が言った。
「いや、別に殺してはねェし」
「そうか」
なら安心だと言った後、誠也があ、と呟いた。
「…………話が、脱線したな」
「…ちぇ」
小さく舌打ちする霊である。
そんなに嫌なのかと内心苦笑を滲ませながら、誠也が言った。
「で、脅しに遭ってたって?」
「いきなり本題いくパターンなワケェ…?」
本気で嫌そうな表情を浮かべながら、しかし小さくため息を吐いて。
「…まァ、警察(サツ)に言われたくなかったら暗殺の仕事始めろって感じ」
それを聞いて、緋織の怒りが頂点に達した。
「ありえないでしょうそれ!? 小さい子供にそんなことさせようなんて馬鹿も甚(はなは)だしいわよ!」
「あ、いや、その……神瀬? あン時オレ一応小二なんだけど……?」
「小学生ってだけで子供よ! それくらい分かるでしょう!!」
「はいすいません申し訳ございませーん」
半ば本気で切れている緋織を前に軽く答え、その後に花音に言う。
「オレさ、最初は嫌だったよやっぱり。でもなァ……それ言う度にアイツがお袋達のこと出してたからさ」
「…お母さん達の、こと?」
そう言って、やっとのことで霊が本題に入った。
69
:
ピーチ
:2012/11/04(日) 07:58:37 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
『第四十九話・心意 後編』
「お袋達、さ…オレらの目の前で親父が殺したんだ。で、姉貴も巻き添え食っちまって」
苦笑しながら言った霊が、そしてと言いかけた時、花音がそれを遮る。
「ちょっと待って? そのお母さん達の遺体は、どうしたの?」
「…ちゃんと、墓に入れたけど?」
オレ信用ねェなァ、とぼやきながら、霊が笑った。
「でもさ。………親父だけは、どうやっても出来なかった」
既に息をしていないと分かっていながらも、伸びてきたあの手がとてつもなく怖かった。恐ろしかった。
次は、あの手で本当に殺されるかもしれない。そう思って、どうしても近付くことが出来なかったのだ。
「…オレ、いつの間に臆病者に戻っちまったんだろうなァ…前なら、容赦なく殺せたってのに…」
―――今では、それがすげェ怖いって思うよ。
そう言った霊に、花音が静かに言った。
「それは、貴方が弱いんじゃない」
「…え?」
「人を殺すなんて、怖いに決まってるじゃない。貴方は、ほんの少し道を外れただけ。だから…」
―――もう、同じことは繰り返さないわよね?
その花音の言葉に、霊がしばらく考えてから答えた。
「…あァ…」
70
:
ピーチ
:2012/11/04(日) 12:16:25 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
『第五十話・日常』
“特別特例調査藩”
そう書かれたプレートをドアにつけて、花音が言った。
「さて…これからよろしくね、宮神 霊君?」
それに対し、不揃いに伸びた髪を束ね、にっと笑った少年が頷いた。
「あァ」
ぴんぽーん。
「……ま、た…お前らは…!?」
「平日なんだから学校行くのは当たり前でしょう?」
朝っぱらから人の家に勝手に上がり込む二つの人影を見て、霊が唸った。
「…まぁ、当たり前だからな」
そう言った誠也は、以前は霊のことをあまりよく思っていなかった。緋織を殺しかけたと言う件があったからだ。
しかし、霊が暗殺を始めた経緯を知り、それから何もかもを水に流してしまったようだ。
「誠也…頼む、こいつを何とかしてくれ…」
半ば本気で頼み込む霊である。それを聞いて、緋織が反論する。
「あら、あたしはただ一緒に学校行こうって誘ってるだけよ? ねぇ、誠也?」
「…好きにしてくれ…」
それだけ言って額を押さえる誠也の後ろに、誰かが現れた。
「おはよう。宮神君?」
「げ………っ」
涼やかな声で名を呼ばれ、霊がびくりと反応した。
「……何よ。別に、もう何もしないわよ?」
「信用出来るか! ンなもん!!」
そう言った霊に対し、妖しく微笑んだ弥生が目を光らせる。
「そう…もう一回同じ目に遭いたいのねぇ…あ、一回じゃ足りないかしら?」
「ンなこったろうと思ったよ!?」
霊と弥生の会話を聞き、誠也が何をやったんだと思案に暮れる。それを全く気にせず、緋織が弥生の方を向いた。
「あ、おはよう」
「おはよ。不登校生徒を引っ張り出すって、大変そうね」
「えぇ。そりゃもう」
二人だけで会話を進めていく様を認め、今度こそ誠也は眩暈を覚えた。
「…霊。こいつらが黙ってる内に行こう。それが正しい選択だ」
「何言っちゃってんのお前!?」
なおも文句を並べようとする霊を、誠也は無言で学校まで引きずって行った。
71
:
ピーチ
:2012/11/07(水) 22:02:45 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
『第五十一話・学校』
「あ、おはよー」
「おはよう」
教室に入ると同時に緋織と緋織の友人が挨拶を交わす。それを見て、霊がぽつりと言った。
「………誰?」
それを聞いた緋織が、前につんのめる。その後、半ば叫ぶようにして言った。
「飯田 沙耶架(いいだ さやか)!貴方の方がこのクラスは長いはずでしょ!?」
「だってオレ様、ほとんど学校なんて来てねーしィ?」
「………………っ、…」
何かを言いかけ、しかし無駄だと判断して結局は口を閉ざした緋織である。
「おはよー、宮神君」
「……へ?」
唐突に声をかけられた霊が、素っ頓狂な声を上げた。それを見て、沙耶架が楽しそうに言った。
「あははっ、宮神君って緋織が言ってた通りだね!」
「…何言ったンだよ?」
「別に? 事実を述べただけよ?」
さらりと告げた緋織に、霊がいささか眩暈を覚えながら。
「……も、いーや」
呆れ果てた霊が、そう言った直後。
彼の単純な携帯音が、教室に鳴り響いた。
「んー? へーい、宮神ー」
そう答えた霊に、電話の相手―――花音が呆れたように言った。
“……少しは、目上の人に対する言葉を憶えたら”
「ンなもんオレ様に期待してどーすンのー?」
彼の対応に、花音が嘆息し。
“まぁいわ。早速今日から動いてもらいたいんだけど”
「りょーかーい」
そう答え、しばらくのやり取りを終えた後、霊が携帯をしまう。
「…花音さんから?」
「あァ」
今日からだとさ、と言いながら、彼は目を細めた。
「まァ、今までの報いだと思えばさー」
「……そのことは、あまり学校(ここ)では触れないで?」
「何でー?」
どーせアイツが学校に押し入ってきた時からばれてンじゃんと笑い、そのまま教室を出て行った。
72
:
ピーチ
:2012/11/08(木) 21:27:01 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
『第五十二話・仕事』
「ちィーっす」
がちゃりと音を立てながらドアを開け、中にあったソファに座り、しばらく“相手”を待つ。
そして。
「ごめんね、待たせた?」
そう言って入ってきた女性―――花音の言葉に、霊が首を振った。
「いや? 別にさっき来たばっかだし?」
「そう」
良かったと呟き、彼の向かいに置いてあるソファに腰かける。
「ンで? 最初の仕事ってのはァ?」
軽く言った霊に、花音は柔らかい笑みを浮かべ。
「強盗犯を捕まえて欲しいの」
「………………………は?」
73
:
ピーチ
:2012/11/09(金) 21:24:42 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
『第五十三話・話し合い』
「ご、ごーとー?」
あまりに突拍子な言葉に、霊が目を丸くする。
「えぇ。最近良くあるでしょう? よっぽど自信があるのか、次に狙う場所を、ご丁寧に警察(ここ)に送ってくれてたのよ」
「…………バカだろ、そいつ」
警察に喧嘩を売るような真似をして、本気で捕まった時にどうするのかと思わず考えてしまった霊である。
数秒間を置いて紡がれた少年の言葉に、花音は困ったように苦笑しながら。
「そうね。警察を舐めてもらっちゃ困るわよね」
「……アンタは侮れねェなァ…」
半ば本気で呟きながら、彼が表情を引き攣らせた。
「あ、それと私達だけじゃないわよ」
「へ?」
素っ頓狂な声に、花音が苦笑しながら問う。
「…まさか、とは思うけど。私達だけでなんて、考えてなかったわよね?」
「………オレ一人かと思ってた」
呆然と呟いた霊に、花音が無言で額に手を当てた。
「…緋織達にも、手伝ってもらうから」
「…達?」
「えぇ。緋織と誠也と弥生」
「わりィけどオレ帰るわ」
速攻でソファから立ち上がり、彼はそのままドアを開けようとする。
それを、花音の問いが止めた。
「え? 何で?」
花音の問いを聞き、霊が額に手を当てる。
「…何か、あった?」
「呪詛返し」
「へ?」
「オレの身体に住みついた呪詛を返そうとして無断でしかも遠距離で呪詛返し発動させたらしく、それが失敗してかなり苦しめられたってワケ」
苦虫を噛み潰すような表情を浮かべ、言外に拒否を訴えていた。
やはり苦手というのは、ほんのちょっとしたきっかけで出来るものなんだなとつくづく感嘆した花音である。
「…………まぁいいわ。とりあえずそんなことないように注意払っとくから。とにかく、緋織達だけじゃ、家のこともあるから難しいのよ」
お願い、と頼み倒され、結局は根負けした霊が諦めたのだった。
74
:
ピーチ
:2012/11/10(土) 15:50:10 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
『第五十四話・違い』
「あれ? 宮神君?」
「へ?」
唐突に声をかけられ、霊が背後を振り返った。
「え? えーと……」
「沙耶架だよー、飯田 沙耶架」
最高の笑顔を向けられ、しかし霊はそれを何とも思わない。
「……ンで、何か用?」
「ううん、何してたのかなーって思って」
沙耶架は見た目の通り、ふわふわした性格であるようだ。
ふとそんなことを考え、あ、と霊が呟いた。
「そーいやさ、オレ神瀬達探してンだけど、どこか知らねェ?」
刹那。
今までにこにこと笑っていた少女の表情が一変し、ほんの一瞬暗くなった。
「へ…? い、飯田……?」
「あ……、多分家だと思うよ!」
それだけ言って駆け出そうとした沙耶架を、霊の声が止めた。
「……なァ、神瀬の家ってどこか知らねェ?」
「…は?」
「いや、よく考えたら、オレ様そこら辺全く知らなくてさァ」
苦笑しながら言った霊に、沙耶架が呆然と彼を見る。
そして。
「………もう、今度からはちゃんと憶えてね?」
そう言いながら、霊を緋織の家まで送り届けた。
「…で、どうだった?」
「いや、明らかに無理あンだろ」
緋織の言葉に速攻で返し、霊が続ける。
「だってオレ様霊感なンてねェし? 仮にあったとして、そンなの調伏することなンて当然無理だし?」
「………そう、よねぇ…」
「じゃあ、宮神君を囮に使えば?」
突如聞こえた声に、霊が異常なまでの反応を示した。
「…もう何もしないって言ったじゃない」
「だっから誰が信用できるかンなもン!!」
その言葉を受け、襖の所に居た弥生が苦笑した。緋織と、その後ろに居る誠也は、二人の会話の意味が分からずに首を傾ける。
「…何が、あったんだ?」
「…そのバカ女に聞け」
「ちょっと、バカとは何よバカとは」
口論が始まりそうになった所を、慌てた緋織が止めた。
「はいはい喧嘩終わり! いいわね!?」
「…時と場合によっては、気をつけっけどよ…」
言いかけた霊を、凄まじいまでの眼光を送った緋織が今度こそ黙らせた。
75
:
ピーチ
:2012/11/10(土) 23:44:56 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
『第五十五話・知られざること』
「とにかく、何があったのよ?」
問う緋織に、本人達は気まずそうに顔を背ける。
おかしい。
霊はどうだか知らないが、あの弥生がこんなことをするのはおかしい。
誠也も同じ感情があるようで、二人の顔を見比べて渋面を作っていた。
「…ねぇ。だから何が、」
「私、霊君に直接聞いたけど」
「げ………っ」
唐突に聞こえた声に、霊が慌てた風情で言った。
「ちょ、それナシ! 他人から聞くのナシ!!」
「え、何言ってんの? 花音さんはれっきとした関係者じゃない」
あっさりと返された言葉に、霊が言葉を失う。
結果、弥生のしでかしたことを花音を通じて知る羽目になったことは、言うまでもない。
76
:
ピーチ
:2012/11/11(日) 17:14:53 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
『第五十六話・謝罪』
呆れたように嘆息した緋織が、着物の裾を揺らしながら言った。
「………呆れて、ものも言えないわね…」
「全くだ」
当然のように同意する誠也に、弥生が渋面を作る。
「ちょっと? 私一応これでも宮神君のこと考えて………」
「普通なら本人の了承を得てからするものなんだが?」
「う…………っ」
すっぱり言い切られ、弥生が緋織に泣きついた。
「緋織、お願い援護して」
「ごめん、無理」
明らかにあんたが悪い、と言い。
「それに、宮神君の怯えようも納得できるわよ?」
幼い頃からの霊の生活環境を含めて考えれば、対人恐怖症になっていないほうが凄い。それは、彼の仕事内容にもよっていたのだから、あまり褒められたものではないが。
それを指摘した誠也に、弥生がうぅー、と小さく唸る。
「今回ばかりは弥生が悪いわよ、ちゃんと謝ったら?」
「……すみません」
今まで恐怖以外の理由で謝られたことなどない霊は、珍しいものでも見たかのように目を見開いた。
漆黒の双眸を宙に彷徨わせ、答えあぐねる。
「…別に、いいけど」
こういった時の対応の仕方が分からないのだろう霊が、目だけで誠也に確認を取る。彼は、苦笑交じりに頷いた。
77
:
ピーチ
:2012/11/16(金) 20:17:13 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
『第五十七話・役割』
気を取り直すため、緋織がぱんぱんと手を叩いた。
「とにかく、宮神君には犯人を捕まえて欲しいのよね」
「だが……」
ありえない話だが、もし仮にその強盗があの男に言い包められていたら。下手をすれば、呪詛が発動する。
誠也の懸念に、緋織が腕を組む。
「それが問題なのよねぇ…私も、一応その考えは持ってたけど」
だからと、緋織がふわりと笑んだ。それを見て、誠也は言葉には表しきれない何かを感じた。まさか、この笑みは。
「―――弥生は、宮神君についててくれないかしら」
「いっ!?」
緋織の言葉に霊が敏感に反応し、そして彼女を見た。そして、そのまま誠也を盾にする。
「……オレ、一人で構わねーけど」
「絶対だめ」
彼の言葉に速攻で返し、緋織が目を吊り上げた。
「貴方自分が置かれてる立場分かってるの? 言っとくけど、今の貴方があの男に抵抗できるかって言ったら、絶対に無理よ」
少女の言葉にうっと詰まり、霊が誠也に助けを求める。が。
「確かにな。今の状態では危険だ」
ある意味非常に鈍感な誠也にその真意が伝わるはずもなく、彼が緋織に賛同する。
彼女が、勝ち誇った笑みを向けて言った。
「弥生と一緒に張って。いいわね?」
「―――ったァくよォ…」
話し合いの結果が決まって以来、霊は常に不機嫌そうな表情を絶やさない。弥生の詩型を認めた直後は、どちらかと言うと恐怖が勝(まさ)っているが。
学校からの帰途についていた彼は、途中で自分以外の足音があることに気付いた。
緋織と誠也はそれぞれに学校での仕事があり、まだ学校に居るはずだ。ならば、誰か。
答えは、一つしか見つからなかった。
コツ、と靴の音が聞こえ、彼の身体が、無意識に竦む。
そして。
「―――やぁ、久しぶりだね」
あまり聞きたくないその声を聞いた瞬間、少年の細い肩がびくりと飛び上がった。
78
:
ピーチ
:2012/11/17(土) 22:29:31 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
『第五十八話・幻影と呪詛』
「―――久しぶりだね」
青年の言葉に、霊は振り返らずに答える。
「…あァ、あンまり聞きたくねェ声だけどなァ…」
「随分と酷い物言いをするんだね、君は」
「オレ様に丁寧さを求めようなんて、考えねー方がいいと思うけどォ?」
あくまでも軽く言い交わす二人の間には、しかし確かな境界線がある。
霊は、影や幻を操ることは可能でも呪詛を止めることは出来ない。
反対に、背後に居る青年―――佐藤 一輝には影や幻を操ることは出来ない。しかし、代わりのように呪詛を埋め込むことが出来る。
その呪詛に、霊の身体は蝕まれている。どういうわけか、今はそれが落ち着いているが、ひとたび暴れ出せば途端に全身が熱くなる。それらを考慮したうえで、彼はどういった呪詛を埋め込むかを決めているらしい。
下手をすれば、その呪詛が生涯消えず、それに苦しめられながら冥府の住人になる、と言うことも考えられなくはない。
内心で苦笑していた霊が、しかしそれを感じさせずに言った。
「……アンタの職業ってさァ、それだけなワケ?」
「…は?」
さすがに虚を突かれた問いに、一輝が間抜けた声を返す。
「呪詛やったり返したりすンのが本職なのかなと思ってさ」
違う。
彼の本当の狙いは、時間稼ぎ。
今下手に出た所で返り討ちに遭おうものなど、既に分かっている。
だからこれは、せめてどちらでもいいから誠也か緋織の姿が見えるまでの時間稼ぎだ。
「さぁ、どうだろうね」
くつくつと嘲うその声に、霊の背を冷たいものが駆け下りた。
幸い、もうじき日が暮れる。今は夕焼けが紅い色を帯びながらその姿をくらませている所だ。
それを感じた直後に、まるでそれを見透かしているような声が、少年の耳に飛び込んできた。
「…そろそろ、終わりにしようか?」
「………」
見透かされていたにも関わらず、霊は表情を変えない。分かりきっていたことだ。
小さく息を吐き、霊が青年と対峙した。
そして。
「わりィけど、オレ様アンタに殺されるワケには行かねェからさ」
ふいと、その姿をくらませた。
「……どこに、隠れた?」
さすがに少々慌てた体(てい)の一輝が、当たりを見回す。しかし、声が返ってくるだけで、その姿を見出すことは出来ない。
「わ……っ!?」
「黙ってて」
霊はと言うと、こちらは幻影師特有の力を駆使して彼を幻の中に封じ込め、自分はさっさとそこから出てきていた。
その直後に、緋織と出くわしたのだ。
「か、神瀬…」
「やっぱり駄目ね…」
疲れたように嘆息し、同時に少女の長い髪が風に揺れた。
79
:
名無しさん
:2012/11/22(木) 20:30:47 HOST:EM114-51-202-35.pool.e-mobile.ne.jp
『第五十九話・隙』
「か、神瀬……?」
「大丈夫? あいつに、何もされてない?」
あの男は、心の隙に付け込んで何とか保っていたそれを平気で壊す。
事実、霊も何度か同じ状況に陥った。それだけは、何としてでも避けなければならない。
無言で考え出した緋織を見て、霊が小さく言った。
「あ……あの神瀬ー? オレ、一応大丈夫なんだけどー?」
苦笑しながら言った少年を見て、彼女はしばらくしてから黙然と首を縦に振る。
「誠也達が、そろそろ来ると思うんだけど……」
二人が来たら、あとは別行動。弥生と行動してね。
それを聞いた瞬間に、霊の顔が自然と強張った。
「………あの、どーしてもアイツとじゃなきゃ駄目?」
「駄目。一人じゃ危険だって言ってるでしょう?」
「いやだから、誠也とじゃ駄目なのかなと…」
「誠也は家柄上、かなりの無理しないといけないから。諦めて」
緋織のばっさりとした言い方に、霊ががくりと肩を落とした。しかし、彼女の言うことも尤もだ。
言っている緋織自身も、確か家を継ぐはずだった。となると、彼女自身、かなり無理をしているはずだ。
「……分ァったよ…」
諦めて、彼は小さく息を吐いた。
「ごめんねー…」
本気で思っているだろう緋織の言葉に、彼は苦笑を返す。そうしている内に、二つの影が見えてきた。恐らく、誠也と弥生だろう。
同時に、幻影が少しずつ脆くなってきている。
「二人とも、大丈夫か?」
「ごめーん、遅くなって…」
「大丈夫。でも……」
つぶやいて、彼女は声を低くした。
「今、あの中にあの男が居るから。…注意して」
「…分かった」
「あぁ」
二人の返答を聞き、誠也と共に元来た道を引き返していく。それを見送りながら、霊がちらと弥生を見た。
「…………………………」
やはり、どうも自分はこの少女が苦手なようだ。いつあの時の苦痛に襲われるかと思うと、気が気でない。
「―――宮神君」
凛と研ぎ澄まされた声が、夜闇に吸い込まれた。
80
:
日陰
:2012/11/24(土) 18:11:25 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
ピーチ>>
こっちも面白いなぁ〜
と、言うか霊くん物凄いな……(いろんな意味で…←
なんか続きが気になるねぇ(*´∀`*)
ピーチってコラボ作品も出しってけっど、私はこの話となんかのコラボ見てみたいな〜(なんか面白そう←
81
:
名無しさん
:2012/11/24(土) 19:11:42 HOST:EM114-51-14-145.pool.e-mobile.ne.jp
日陰>>
あーっ! 久しぶりー!!
最近読めてないから一気読みしとくね!←おい
霊君は元々可哀そうな少年ですねはい←
これのコラボか…何かリクある? 誰かの小説ととか
あったら本人の許可もらってからやらせて頂きたいけど
82
:
日陰
:2012/11/24(土) 19:43:50 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
ピーチ>>
まず、名前が「名無しさん」になっちゃってるぞォ!?
次に、霊くんって、なんか読んでても可哀想と凄いの二言しか出てこない……
お父さんに、化け物扱いされるって……←悲しいなぁ゚(゚´Д`゚)゚
最後に、出来れば「不死鳥」とコラボし欲しいなァ〜←(勝手な自己満の言い分なんでスルーしてくださって結構ッス(o ̄∇ ̄o)♪ハハッ
83
:
ピーチ
:2012/11/24(土) 22:06:21 HOST:EM114-51-14-145.pool.e-mobile.ne.jp
日陰>>
………直しました冗談抜きで気づかないこーゆーの←
うん、悲しい少年なのだ霊は。まぁ実際ただの一般家庭に異能者生まれたら当然の反応かと←おい
不死鳥ね! 了解!
…で、何かタイトル案ない?←おい
84
:
日陰
:2012/11/24(土) 22:29:15 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
ピーチ様×1000>>
え、ガチで!!? マジで!!?
ヤベェ、嬉しすぎて涙でそう(´;ω;`)(嬉し泣き
と言うか、有難う御座いま―――――――――す!!!!
もう、題名なんてそっちのけで、好きなふうにやっちゃって下さい!!(n‘∀‘)η‖
楽しみにしてま――――す!!!(≧∇≦)
85
:
ピーチ
:2012/11/24(土) 22:36:38 HOST:EM114-51-14-145.pool.e-mobile.ne.jp
『第六十話・解放』
「―――宮神君」
唐突に紡がれた己の名に、霊がびくりと肩を揺らした。
「………ンだよ…」
怯えを感じさせない態度に、弥生が苦笑気味に笑う。
そして、しばし逡巡してから言った。
「…この間は、ごめんなさい」
「へ」
突然のことに、霊が呆然と彼女を見つめる。一体、どんな裏があるのか。
「……貴方の命を削ってるその呪詛、私達の家系とは相性が悪いのよ」
一輝の仕掛けた呪詛は炎の性(さが)を持つ。そして、弥生は水。
「…えと、つまり?」
炎は、水に克つ。
前回は、それを踏まえての行動だったらしい。しかしそれが見事に失敗に終わり、霊があのような目遭う羽目になった。
「だから、次にいつ暴れ出すか分からない」
少女の言葉が、心なし固くなる。
「………で? オレに何しろと?」
霊の言葉に、弥生が琥珀の瞳を見開きながら。
「………協力して、くれるの?」
「しねェと、オレそのまま死ンじまうンだろ?」
そんなことをしようものなら、死んでからも緋織達に恨まれる。心にもないことを平然と言ってのける霊である。
実際、自分の命などもうどうでもいい。
自分が背負うべき十字架は、こんな軽いものではないはず。死を以てあがなえるものでもない。
命を捨てて、転生の輪を外れて初めて、償いに値するものなのだろう。
分かっていても口に出すと怖いので、それだけは言わないでおく。
言って、あの無感動な瞳があるほうが、ずっと楽な気がするのだ。今は。
「……なァ、明神」
「え?」
霊の言葉に振り返った弥生を見ずに、彼は力なく笑った。
「何で…人殺しなんかやっちまったンだろうなァ…」
「……え…?」
今までの軽い少年の声が、ゆっくりと暗く沈んでいく。
「まずそもそもさァ、オレが生まれたこと自体―――」
「無意味なんかじゃ、ないわよ」
「へ?」
言いかけたことを先に言われ、霊が弥生を顧みた。
恐ろしく静かに彼を睨みつけている少女を見て、霊があ、と声を漏らす。
「い、いやっそのオレがこんな異能力持って生まれなければ、こンなことにはなンなかったンじゃないかと…」
「冗談じゃないわね」
呆れたように嘆息しながら、弥生がぼそりと言った。
「…こんな理由でもなければ、貴方と会うことなんてなかったじゃない」
緋織だって誠也だって、もちろん自分自身も。
「貴方に会えたから変わったこともあるの。どんな能力を持ってるかなんて関係ない。そうじゃないの?」
彼女の言葉に、霊が言葉に詰まる。しかし、やがて。
「……だな」
苦笑しながら肩を竦め、空を振り仰いだ。
「…みんなさ」
―――もう少し、この十字架は奥に閉まってても、いいよな…?
十字のネックレスを見て、霊はその言葉をしまいこんだ。
86
:
ピーチ
:2012/11/24(土) 22:40:14 HOST:EM114-51-14-145.pool.e-mobile.ne.jp
日陰>>
いやいや、様を付けられてもw
文才ないあたしに様付けたら逆に文才なくなるよ!←
………面白くないからね? 最初で言っとくけど面白くないからね?
失望しないことをお祈り申し上げます←おい
あ、多分幻影師のほうが割合多くなるけどおk?
87
:
日陰
:2012/11/25(日) 12:30:41 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
ピーチ>>
( ・∀・)b OK!!!
一夜くん等はオマケでいいよん!
88
:
ピーチ
:2012/11/26(月) 21:12:41 HOST:EM114-51-53-120.pool.e-mobile.ne.jp
『第六十一話・追っ手』
夕暮れの色に染まり出した時刻、二つの声が聞こえた。
「しばらく、様子を見てからのほうが……」
「いや、今でないと駄目だ」
落ち着いた青年らしき声と、どこか何かに怯えたような声。
本当なら、今すぐにでも飛び出して行きたい。
しかし、奴らが居るから。
奴らさえ居なければ、ここまで怯える必要もないのに。
「………とにかく、今は大人しくしていよう。な?」
小さく唇を噛んだ少女は、しかし青年の言葉に力なく頷いた。
「……分かり、ました…」
「…夕に、頼んでみるよ。彼を連れて来てくれるよう…」
―――宮神 霊を、連れて来てくれるよう―――
「―――…まァ、そろそろ大丈夫じゃねェの?」
「そうね……今日は帰りましょうか。ちょっと待って、誠也達呼ぶから…」
弥生の言葉に、霊が慌てて言った。
「い、いやいいよ! さすがに何でもかンでもってのは……」
「いいのよ。でないと私が怒られるし」
「へ」
彼女の話によると、どうやら初めのうちに連絡をするよう言われていたようだ。
「…なーるほど」
なら、確かにそのまま帰れば弥生が責められることは避けられないだろう。
「でしょ? だからちょっと待ってて」
「……へーい」
結局、緋織達が来ることを待ってから帰る羽目になったことは、言うまでもない。
ぴんぽーん。
唐突に、チャイムが鳴った。
「あ?」
つい先ほどに、誠也達は帰ったはずだ。ならば、何かを忘れない限り戻ってくることはまずありえない。
ならば。
「…………っ……」
不意に、霊の背筋を冷たいものが駆け降りた。
どくんと、鼓動が早鐘を打つ。それがとてつもなくうるさい。
「…誰だ」
警戒心を露にしながら、霊がほんの少しドアを開ける。
それとほぼ同時に、外から引っ張られたドアが勢いよく開け放たれた。バランスを崩しかけた霊が何とかそれを保ったと同時に、口元に何かを当てがられる。
「―――………っ……!?」
突然のことに抵抗できず、やっとほんの少し抵抗を試みるが、段々と意識が遠退いていった。
「―――おかしい」
携帯を戻しながら呟いた誠也の一言に、弥生と緋織が同時に返した。
「え?」
「いくらあいつの携帯にかけても、留守電にしか入らない。…何かあったのか…」
だが、たとえそうだとしても、いつ。
家までは三人で送ったし、しばらく彼の家に入り浸っていた。何かあるとしても、その後。
「……まさか、とは思うけど…」
緋織の呟きを聞き、二人の表情が険しくなる。やはり、可能性はあるわけだ。
「…探すぞ。花音さんに言えばいい。人手は、多い方がいい」
誠也の言葉に、二人が立ち上がった。
89
:
ピーチ
:2012/11/28(水) 22:15:01 HOST:EM114-51-128-244.pool.e-mobile.ne.jp
『第六十二話・誘拐』
「………っ、てェ…」
特別どこかが痛むわけではないが、ずっと動いていなかったせいで体の所々が痛む。
朦朧とした意識の中でも、今居る場所が何らかの乗り物であることは察せられた。普通の建物に居て、景色が動くはずがない。
「……あ。目、覚めたか?」
唐突に聞こえた声に、霊が視線だけを向けた。見ると、運転席の所から声をかけてきた青年の姿が見受けられた。
「手荒な真似をしてすまないな。でも、これは友人たっての頼みだから、大目に見てくれ」
苦笑する青年に、霊が冷え冷えと言い放つ。
「そのお友達たっての頼みならこーンなガキを誘拐してもいいワケだァ? へーえ?」
「まぁ、そう言うなよ。どうしても君に頼みたいことがあるらしいんだ」
「じゃあ何で普通に連れて来なかったワケェ?」
「何でも、断られたら後がないからとりあえずどうにかして連れて来てくれと」
青年の言葉に、霊が一瞬頭の中が混乱した。だが、整理さえ終われば。
「………つまり、断られる前に強硬手段に出ましょうか、ってワケ?」
「まぁ、そうとも言うな」
笑った青年に対し、霊はどこまでも警戒を解かない。
「さて、もう少し時間はかかるが、待っててもらえるかな」
「ここまでがっちがちに縛り上げといて待つも何もないと思うのはオレだけかよ」
「うん。そうだろうな」
今の霊の状態は最悪そのもの。車に乗せられているうえに、動けないようにか手足を縛り付けられている。
それも、普通に縛るだけならまだいいのかもしれないが、なぜか無茶苦茶なほどにきつく。
この状態では、逃げるなどできるわけがないと、霊は諦めて嘆息した。
90
:
ピーチ
:2012/11/29(木) 21:05:53 HOST:EM49-252-130-126.pool.e-mobile.ne.jp
『第六十三話・捜索』
「―――霊が居なくなったぁ!?」
素っ頓狂な声を上げ、警察署の部屋の一角に居た女性が、目を瞠った。
「はい、一応家までは送ったんですけど……」
「その後、しばらくあいつの家に居たしな」
弥生と誠也の言葉を受け継いで、緋織が言った。
「だから、多分その後で何かに巻き込まれたんじゃないかと……」
「…好きねぇ、厄介ごと持ち込むの…」
半ば呆れたように呟いた花音の言葉に、緋織と弥生が渋面を作る。
「…好きで持ち込んでいるわけじゃありません」
「同じく」
弥生の言葉に緋織が賛同し、軽く花音を睨めつけた。
「……とにかく、探してくれるよな? 俺達だけだと、色々と難しい」
「分かってるわよ」
誠也の言葉に頷き、花音が立ち上がった。
車に乗せられて三十分ほど。
それまで苦笑する青年を睨み続けていた霊は、車が止まったことを認めて外を見た。
「…ここは……?」
「俺の友達の、別荘?」
多分なと笑う青年を最後まで睨み続け、青年は苦笑してそれを受け流す。
「……いー加減、これ解いてくれてもいいンじゃねェの?」
「まーだ。あいつらに会うまでは待てよ。どうせ今まで待ったんだから」
「……………………………」
納得のいかない霊である。
そもそも、ここは見る限りどこか林の中だろうし、ここに来るまでの道を、三年ながら彼は見ていない。
つまり、今ここで戒めを解いた所で霊が逃げられるわけではないのだ。
そんなことをつらつらと考えている矢先、青年の声が耳に飛び込んでくる。
「お、来たな」
少年の、不揃いの髪がさらりと揺れた。
「―――……え…?」
この男の友人、と言っていたから、てっきり男かと思っていたのに。
目の前に居るのは。
「お、女……?」
淡い山吹の瞳を見開いた可愛らしい少女が、彼の両腕を見つめている。
しばらくして、はっとした少女が、慌てて霊に駆け寄った。
「み、三井(みい)さんっ! 何もここまでしなくても……っ!」
ふわりとヴェーブがかった髪を揺らし、少女が霊の腕に巻き付いた縄を解こうと試みる。
「い、いやそれあんまり適当にやると………ってて、痛い、痛いからっ!」
突然の少女の行動に虚を突かれた霊が、慌てて否定したが遅かった。
「あ…ご、ごめんなさいっ!」
「―――もしかして、君が?」
唐突に聞こえた声に、霊の表情が険しくなる。
青年のような。目の前に居るこの青年と同年か、それより一つ二つ上か。
「手荒な真似をしてすまない」
その青年の口調に、少年の肩がびくりと震えた。
似ている。あの男に。違うと分かっていても、やはり心のどこかで恐れていたのだ。
かたかたと小刻みに震え出す霊を見て、青年が首を傾けた。
「…どうか、したかい?」
「何だよ」
「え?」
「何の目的で、オレをこんな場所に連れてきたワケ?」
少年の漆黒の双眸が、剣呑に光った。
91
:
ピーチ
:2012/12/01(土) 13:22:43 HOST:EM1-115-75-171.pool.e-mobile.ne.jp
『第六十四話・守り人』
少年の言葉に大して狼狽えた子もない青年は、しかし暗い表情で言った。
「実は………」
彼曰く。
「―――理由も分からず気付いたら変な奴らに追われてたぁ?」
…らしい。
「…本当に悪い。だが、俺達だけじゃどう足掻いても敵わないんだ。せめて妹だけでいい。守ってやってくれないか?」
青年の言葉に、傍にいた少女が目を剥いた。
「な………っ、兄様!? 話が違います、二人とも言ったではありませんか!?」
少女の言葉に、青年の茶色の髪が彼の顔に覆い被さる。
「それはそうだが、いくら何でも失礼だろう? お前は追われる必要はないんだ」
「それは兄様だって同じです! 私だけが逃げる意味はありませんっ!」
「…里葉(りは)…」
「……うるっせェなァ」
「え?」
唐突に言った少年の言葉に、二人が同時に問い返した。
「ごちゃごちゃ言ってねェで、二人一緒にどっかに匿っときゃいーンだろ? そンぐれェでごちゃごちゃ言うなよ。耳障りだ」
明らかに嫌そうに言ってのける霊は、しかし既に決めていた。何としてもその輩を日向に引きずり出すと。
「…で? どんな奴なんだよ?」
不敵に笑った少年が、厳かに問うた。
92
:
ピーチ
:2012/12/06(木) 20:15:42 HOST:EM1-115-118-103.pool.e-mobile.ne.jp
『第六十五話・約束』
「で? どんな奴なワケ?」
厳かに問うた少年の言葉に、二人が顔を見合わせた。
「……本当に、いいのか?」
「何が」
「俺達二人とも、なんて…」
「無理だと思うなら、アンタが妹さん守ってやればー?」
あくまで軽く言う霊だが、内心冷や汗だらけだ。
やべェよなこれいくら何でもあいつら帰った後にこんな厄介ごとに巻き込まれたとか知られたらタダじゃ済まないぞ絶対。
と言うのが霊の胸中であって、断じて今の霊にここまでの余裕があるわけではない。
「………赤茶系の髪に、茶色い目…」
「…え?」
「笑ってても不気味に見えて、それで名前は―――」
「佐藤」
青年の言葉を遮った霊が、彼の言いかけた単語を言い、二人が目を剥いた。
「な…んで、それを…」
「…残念なことに、オレも狙われちってるワケよ、その佐藤さんにさァ…」
同じ奴じゃないと思うけどな、と言い加え、彼の表情が沈んだ。
「で……そいつの名前は?」
「…佐藤、圭人(さとう けいと)…」
名前を聞いて、初めて聞く名だと思う。
まぁ、元々敵対しているので、無理もないが。
「……あッそ。ンじゃ、どっかそこら辺隠れてな。特に、そっちのはさ」
「へ?」
少女―――里葉と言うらしい―――を指し、霊が低く言った。
「オレの味方か敵か、そりゃまだ分かンねェけど……」
―――何かが、近付いてくる。
93
:
ピーチ
:2012/12/09(日) 16:03:59 HOST:EM114-51-164-105.pool.e-mobile.ne.jp
『第六十六話・仲間』
―――何かが、近付いてくる。
霊の言葉を聞いた少女が怯え、青年が彼女を庇うように前に出た。
「―――居たっ!」
「へ?」
あの声は、まさか。
「かみ、せ………?」
「何だってこんな所に居るのよ!? 弥生も誠也も私も、花音さんだってどれだけ心配したか分かってんの!?」
長い漆黒の髪を揺らし、唐突に飛び出してきた緋織の言葉に、霊が目を瞠った。
「…え?」
「だーかーらっ! 誠也達だって心配してたのよ! 貴方の家出てから少ししか経ってないの連絡取れなくなって!」
「あ、そっか……」
すっかり忘れていた。そういえば、そんな成り行きで今自分はここに居るんだった。
「……ま、それは置いといてさァ。一つ頼みあンだけど」
「…何よ?」
緋織の返答を聞き、霊が“佐藤”の話をし始めた。見る見るうちに、緋織の表情が強張っていく。
「じゃ……それで…」
「オレがここに連れて来られたってワケ。まーさかオレだってドア開けた瞬間に誘拐されるなんて考えもしねーよ」
苦笑しながら言った霊の言葉に、緋織が小さく息を吐いた。そして。
「…とにかく、警察に保護してもらえば?」
「無駄だったんだと」
「え?」
「それが無駄だったらしく、最終的に元殺し屋のオレに縋り付こうと思ったんだと」
「―――え…?」
元、と言ったか。今確かに、そう言ったはずだ。
「じ、じゃあ今は…」
「今は警察に協力してるよ。オレを狙った奴をとっ捕まえるためにさ」
そして、ふと少年の表情が和らいだ。
「それに、今オレが居る部署なら、いわゆる外れ組だから無条件で匿ってくれるんじゃねェ?」
そう言って緋織を見て、彼女がそれに応じる。
「そうね。まぁ、部署って言っても二人しかいないからだけど…大丈夫よ。行きましょう?」
言って、緋織がこう付け加えた。
「お互いを護りたいなら…ね?」
その言葉を聞いて、二人が顔を見合わせた。
94
:
ピーチ
:2012/12/09(日) 17:36:44 HOST:EM114-51-164-105.pool.e-mobile.ne.jp
『第六十七話・隠れ家』
「―――で、突然連絡取れなくなったのは自分でもわけ分からないうちに連れ去られたから……と?」
「そ、そーそー」
最早愛想笑いの霊を見て、緋織の眉間にしわが一本刻まれた。
「そーそー、じゃないわよ!! 私達がどれだけぢ心配したか分かってんの!?」
「神瀬から聞きました」
苦笑交じりの霊の言葉に、花音が小さく息を吐き。
「……まぁ、無事だったんならそれにこしたことはないけど…」
呆れ交じりに呟かれた言葉に、傍に居た弥生と誠也も首を縦に振った。
「全くだな」
「いくら何でも、私達が帰った直後にそんな変なことに巻き込まれる?」
「…るせ」
ばつが悪そうに顔を背ける霊の耳に、少女の声が響いた。
「兄様、警察は駄目だとあれほど………っ」
「…今は、信じるほかないだろう?」
何せ、大切な妹を護るためだ。そのためだから、仕方がない。
「……本当に、守ってくれるんですか?」
青年の言葉に、花音がうーんと首を傾けた。
「守るっていうのとは、少し違うわね。私達はあくまでも、匿うだけ」
彼女の言葉に青年が目を見開く。だが、当人は全く気にしない。
「匿えるかってことを聞かれたんだもの。わざわざ守る必要まではない」
でも、と花音が付け加える。
「だから、ここに居れば安心だし、必要なものがあれば頼めばいい。ここに居るのは、一人じゃないから」
にっと笑った女性の言葉に、少女が問うた。
「もう、逃げる必要はないのですか?」
「…そうねぇ、居場所が捕まれない限り、問題はないと思うけど…」
そのために、わざわざ人目を避けてここに連れてきたのだ。これで見つかろうものなら、今までの苦労が水泡に帰すではないか。
「まぁ、見つかったら見つかったで霊達に守ってもらえば安心よ」
「おい、何だその無責任な言い方は」
霊が、思わず半眼になって詰め寄った。花音は苦笑しながら、
「ほら。こーんなに怖いお男が居るのよ、多少の問題はないって」
そう言って笑った花音が完全に全てを諦めたことを悟り、霊達が揃ってため息を吐いた。
95
:
ピーチ
:2012/12/15(土) 00:15:23 HOST:EM1-114-162-231.pool.e-mobile.ne.jp
『第六十九話・守り手』
―――夜の闇に影のモノが誘(いざな)われ、そろそろと姿を現す時間。
「―――……なァ、もう大丈夫なんじゃねェのー?」
とても億劫そうに首を巡らせた霊が、後ろに居る誠也に問うた。それを受け、誠也も同意する。
「確かにな。あの後追っ手が来たとか言うなら、話が別だが……」
今のところ、そのような話は聞き及んでいない。それどころか、彼はまだ青年達の名前さえ知らないのだ。
「今から帰るか?」
その後で聞けばいいと言った誠也の言葉に頷き、二人が夜道を歩き出した。
「で、何もなかったのね?」
「ったりめーだ」
「もし何かあったら、今ここに居ない」
確かにね、と呟く緋織の後ろに、あの少女が居た。
「あぁ……どうしたの?」
優しく問う緋織に、少女が恐る恐る尋ねた。
「あの人達……もう来ませんか?」
少女の問いに、緋織が軽く目を瞠る。霊も誠也も、同様に。
「兄様が、一人で行こうとするんです。あの人達が居ると……」
それが、自分を守るためだと言うことは分かっている。だが。
「………そー言えばさ、君名前何て言うの?」
珍しく優しげに言う霊に、緋織が目を瞠った。
「…そんな言葉、使えたの?」
「オレ様何歳児だと思われてンですかねー?」
「里葉」
「へ?」
唐突な少女の答えに、一同が同時に問い返した。
「秋村、里葉(あきむらりは)です……」
心なし怯えを感じさせる語調で、しかし少女ははっきりと言った。
96
:
森間 登助
◆t5lrTPDT2E
:2012/12/20(木) 16:59:05 HOST:180-042-153-139.jp.fiberbit.net
どうも、お久しぶりです。森間です^^
……というか、ずっと評価の依頼出来なくて申し訳ありませんm(_ _)m
私情を挟んでしまうんですけど、塾だの何だのと結構忙しかったもので、全然私的な時間が取れなくてこんな時期になってしまいました。心からお詫びさせていただきます(汗)
さて、では御託はいいからさっさとやってよ、って思われそうなので、早速評価に移りたいと思います。
描写(D)
前回の批評でも言ったんですけど、やはりここが弱いかなぁと思います。
具体的に言うと、描写力その物はレベルが高いと思います。比喩表現もよく使いこなせていましたし、一人称とマッチさせた三人称主体の文章は中々良かったと思います。
しかし、前回と比べて文章が意味の通らない部分が目立ったり、句読点が上手く使えていないところが読んでいて見受けられました。また、前回課題とした(勝手極まりないですが)描写の量があまり改善されてないかなと……。やはり読んでいて、え? これってどうなったの? と思うところが結構ありました。
ただ、表現力は語彙力が多いのでしょうか、中々レベルが高かったので、そこら辺は自信をもって良いと思います。
テンポ(C)
前回と比べると、中々改善されてきているのではないかと思います。
ただ、会話文がプラスされていたため、上で述べた情景描写などのテンポについては改善の余地有りです。会話文については、量が増えたとは言いましたが会話ひとつひとつが短いので、そこら辺のテンポは問題ないと思われます。
レベルアップを図るには、読書量を増やす(読書を全くしていないのであれば読書の習慣を付ける)など、出版されているものからヒントをもらうと良いと思います。
ストーリー(A)
殺人業を営む主人公の心の変化が良く読み取れる良いストーリーだと思いました。
周りの人間に支えられながら、何か彼の中で変わってゆく心情に思わず同情してしまいました。しかも、やっぱり相変わらずのお愛想と言うところは、キャラクターの個性を尊重していて良かったです。
ただ、要所要所で出てくる回想シーン(?)がちょっと話しの流れを邪魔していたかなと思います。時間移動は結構時間軸を曖昧にさせて、読者を混乱させますので。ピーチさんはどっちかというと、回想使わなくても面白く書けると思いますよ。
キャラクター(A)
前回同様、やはりキャラクターの立ち位置が良かったですね。また、キャラクターの性格を把握して上手く面白い展開に持って行けていると思います。
ただ、佐藤一輝の台詞が多少ご都合主義的な感じがしました。何かわざと悪役を演じているような感じ……でしょうか? 佐藤一輝にももう少し明確な行動原理があれば良かったと思います。
読後感(B)
ここだけは時間の問題上仕方がないことなので、
>>59
までの読後感を述べたいと思います。
全体的に伏線はシッカリしていて悪くなかったと思います。ただ、やはり上で述べた描写などで色々と解消した方が良い謎が解消されていなかったので、惜しくもBと言うことでご理解ください。
総評(B)
すみません、同じ事を繰り返すようなんで悪いんですけど、やっぱり描写の部分で失ってるところが大半ですかね……
これを上達させないことには中々…… 描写が曖昧なせいでストーリーが伝わってこないと言うこともありますし、今回も甘口というわけでこの様な評価となりましたが、描写一つで結構作品全体のバランスが良いか悪いかが出てきます。
上達したいのなら、やはり読書を増やすことがお薦めです。児童書でも良いので、何冊か読んで、自分なりに考察してみてください。
あんまり言いたくないんですが、文章として意味が成り立っていないところがありましたので、これからは描写を気を付けることをお願いいたします。また、今回の依頼で二回目という事ですので、今後意味の成り立つ文章(つまり、最低限度の文章作法のことになります)が出来ていないと評価対象外となりますので、お気を付けください。
……まあ、それでも他の部分はオールクリアしているので、ご心配なく!
描写ひとつに全部が振り回されないよう、それだけお気を付けください^^;
それでは、前より短くなってしまいましたが、ご利用ありがとうございました。次の依頼を楽しみにしております!
97
:
チェリー
:2012/12/20(木) 18:41:28 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
評論家気取りモリマン
98
:
ピーチ
:2012/12/21(金) 13:34:48 HOST:EM114-51-137-129.pool.e-mobile.ne.jp
森間さん>>
ありがとうございますー!
うー…描写、結構入れてるつもりだったのに……
描写の量、増やしてみます! ありがとうございました!
99
:
ピーチ
:2012/12/23(日) 17:27:26 HOST:EM49-252-189-107.pool.e-mobile.ne.jp
『第七十話・信頼』
「分かってるな? お前は、宮神の気を引いてさえいればいいんだ」
嘲りを含んだ声が、辺りに木霊した。
「―――分かって、いる」
相手の返答を受け、佐藤が嗤(わら)った。
「そうそう。そうやって大人しくこっちの頼みを聞いてくれさえすれば、君達に危害を加えるつもりはないよ」
つまり、何らかの形で裏切りがあれば、何の容赦もなく手にかけるということか。
佐藤を見据えた男が、小さく歯噛みした。本当なら、霊を裏切るような真似などしたくない。
だが。
「…………っ…」
あの子を、守らなければいけない。どんな卑怯な手を使っても、あの子だけは。
関係ないのだ。関係ないのに、なぜ巻き込まれる必要がある。
「――――――悪い、本当に―――……っ」
全ては、関係ないことに巻き込まれたあの子を救うため。
男の両眼(りょうがん)が、鈍い輝きを放った。
「里葉ちゃん?」
声をかけられた少女―――里葉は、弥生の声ではっと我に返った。
「は、はい?」
「どうしたの? 顔色悪いよ?」
「え、」
何か言い返そうとした直後、弥生が里葉の額に手を当てる。
「んー……熱はないかなぁ…」
小さく呟いた弥生がちょっと待っててねと言い残し、その場を離れた。
「……兄様………?」
不安げに呟かれた声に、答える声があった。
「大丈夫じゃねェの?」
「え?」
振り返ると、何とも居心地の悪そうな表情をした霊が、それでも必死に作り笑いを浮かべていた。
「そのうち帰ってくるって、多分」
霊の言葉に、里葉が小さく笑った。
「…ですね、そうですよね」
薄く笑い、彼女が呟いた。
「きっとそのうち、帰ってくる………」
それを聞いた霊が、にっと笑った。
「あァ」
100
:
名無しさん
:2012/12/26(水) 22:03:09 HOST:EM114-51-172-214.pool.e-mobile.ne.jp
『第七十一話・謝罪』
全ては、関係ないことからあの子を護るため。
もちろん、彼は許してなどくれないだろう。
初めから計算されていたことなど、無力な自分達にでも分かる。分かってしまう。
でも。
―――絶対、一人で無理なんてしないでくださいっ!
そう言って膨れていたあの子を護るためなら、自分はどうなってもいい。
冥く光った青年の双眸は、しかし何も捕えることはなかった。
「あ……っ!」
少女の瞳が“彼”を映し出した。
「兄様!」
「ん? どうかしたか?」
「どうかしたか、ではありません! なぜ勝手に居なくなったのですか!」
喚き散らした里葉は、しかしはっと我に返って霊を見た。
「霊さんがそのうち帰ってくるって言ったちょっと後に帰ってきたんですよ、兄様」
楽しそうに言った少女の言葉に、青年―――優雨と言うらしい―――の表情が暗くなった。
「………? 兄、様…?」
「あ? あ、あぁいや、何でもない。悪いな、いつもいつも」
そう言った優雨の表情は、どこまでも暗かった。
優雨達が隠れ住むようになってから、そろそろ一ヶ月が経とうとしていた。
「あれ?」
緋織の声に、弥生が
「何? どうした?」
そう問うてくる。それを受け、緋織が呆れたように言った。
「……優雨さん、こう毎回毎回出歩かれたら気付かれるのも時間の問題だと思いますよー?」
何せ、彼は勘がいいのだ。気付かれないようにするには、やはり里葉のように閉じこもっているのが一番だと思うが。
直後、どこからか携帯の着信音が鳴った。
「へ?」
「え、誰の?」
周りを見れば、捨て置かれたような黒い携帯が視界に映る。
「これ、優雨さんの携帯じゃ……」
しかし、携帯の画面を見て、二人がさっと青ざめた。
血の気が引いていく。
「……どうする?」
「私達が出たら、怪しまれるんじゃ」
「でも里葉ちゃんにさせるわけにもいかない」
二人でこそこそと言っている間に、着信が切れた。
「あ…………」
「どうした」
突然聞こえた声に、二人が振り返った。誠也が、壁にもたれてこちらを見ている。
「それ、誰からだ?」
「………佐藤」
緋織の言葉に、誠也がはっと目を瞠った。なら、まさか。
「出歩くなって、あれほど言ったのに………!」
刹那。
再び、携帯が鳴った。二人が誠也を見て、彼の指示を仰ぐ。
誠也は小さく息を吐き、携帯を取り上げた。
「…………秋村優雨は、無事なんだろうな」
率直な言葉に、相手が笑った気配があった。
“相変わらずはっきり言うね…まぁ、それは君達次第だな”
「どういう意味だ」
“言葉のままさ。……分からないようなら、これならどうだ?”
佐藤の声が、一段低くなった。
“……俺はさ、宮神が邪魔なんだ。もちろん君らも邪魔だけど、あのガキはそれ以上に邪魔な奴。だから、宮神を殺せれば俺はそれでいいんだよね”
楽しそうに語る佐藤の言葉を、誠也は表情を変えることなく聞き続ける。
“だから、こうしないか? 宮神をここに連れてくる。それを受けるなら場所を教える。”
教えた後で霊を連れて来なければ、優雨を殺すというわけか。
「分かった。場所は?」
誠也の言葉に、佐藤がにぃと嘲った。
“――――――”
101
:
辰魅
:2012/12/26(水) 22:19:37 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
ピーチさん (…今は名無しさん?
100スレおめでとうございます。
題名や一話一話の話名が面白いです(笑
次は150スレですね! 頑張って下さい!!
102
:
ピーチ
:2012/12/27(木) 14:05:44 HOST:nptka407.pcsitebrowser.ne.jp
辰魅さん>>
初めましてー! 100レスは越えたけどそろそろ終わってしまいますです←
番外編も入れるつもりだけどw
103
:
ピーチ
:2012/12/29(土) 23:23:55 HOST:EM114-51-188-209.pool.e-mobile.ne.jp
『第七十二話・新たな力』
「…………」
霊が、小さく舌打ちした。
「くそ……ッ」
―――秋村優雨が、佐藤に捕られた。
淡々とした彼の言葉が脳裏に蘇り、霊がくしゃりと前髪を掴む。
「…ら、こら、そこの小僧」
「……へ?」
唐突に聞こえた声に、霊が周りを見回した。そして。
「うわァッッ!?」
よくよく聞けば、その声は己の背後から聞こえていた。そう思って後ろを見たところ。
「なんだい、人のことを幽霊みたいに。もう少し礼儀ってもんがあるだろう」
小柄な老婆が、自分の後ろにぴったりとくっついて来ていた。
「そッそっちこそ何だよ居るなら居るで……」
言い差して、ふっと霊が思案する。ところで、この老婆は誰だ。
「…なァバアさん、アンタ誰?」
直後。
霊の頭上に、星が廻った。
「ッてェ!?」
「見ず知らずの人間に向かってあんたとはなんだいあんたとは」
そう言った老婆の眼鏡の奥の瞳が、きらりと光った。
したたか殴られた頭を抱えながら、霊が半眼になって問う。
「……で、その見ず知らずの人間に何の用?」
老婆が、あぁと呟いた。
「そうだったそうだった。忘れるところだったわい」
「こンのクソババァ―――ッ!?」
叫び終わると同時に、またしても頭上に星が廻る。どうやらこの老婆の手は、見た目の通り皮と骨だけのようだ。
「てェ……!」
「もう少し礼儀を覚えんかい。全く、最近の若い者は」
「で? オレに何の用?」
そろそろ自棄(やけ)になった霊が、呆れたように問うた。それを受け、やっとのことで老婆が本題―――彼女からすればだが―――に入る。
「あんた、普通の人間じゃあないね。大方、幻影師の類だろう」
「―――…え……?」
「あたしもなんだよ」
老婆の言葉に、霊はそれこそ驚いた。
「ただ、その様子じゃ具現化できるって程度だろう? もっと他の方法を教えてやろうか?」
「他の……方法…?」
霊の言葉ににっと笑い、老婆はまるで秘密を打ち明けるかのように楽しそうに、言った。
「あっ!」
唐突に、緋織が声を上げた。
「宮神君! 今までどこ居たのよ?」
「あ? あ、あァ…悪ィ、ちょっと色々あってよ」
「優雨さんのことがあって、それ以上に大事なことだったの?」
緋織の呆れたような言葉にも、彼は何も返さない。漆黒の瞳は、少しも動かなかった。
「………?」
「さぁて」
不気味に嘲った青年が、傍に座り込んでいる青年を見た。
「そろそろ来るかな……秋村はどう思う?」
「………………」
彼の瞳は少しも動かない。見開かれたまま、あらぬ方を見つめている。
「……口が利けないわけじゃないんだよ?」
「…言ったからな」
「うん?」
微かに震えた、小さな声を聞き、佐藤が問い返す。
「言ったからな。……もう、俺達に手は出すな」
妹にだけは、親友にだけは。
「あぁ……そういや、そんなことあったけなぁ」
「な…………っ!?」
「分かってるよ。もう、君達に手は出さない」
これが、終われば。
にぃと嘲った青年の表情が、狂気に歪んだ。
104
:
ピーチ
:2012/12/30(日) 12:09:05 HOST:EM114-51-129-80.pool.e-mobile.ne.jp
『第七十三話・影魂(えいこん)』
ざっと、いくつかの足音が響いた。
「おっ」
楽しそうに身を乗り出した佐藤が、やっぱりなと笑う。
「一人で来るよう言った方が良かったのかな」
一人で楽しそうに笑う佐藤を視界の隅に映し、優雨が小さく震えた。
彼の指している人物など、見なくても分かる。
―――オレを筆頭に全員強いからさ、安心しろよ。
悪ふざけのように言われた言葉に、彼女はとても安心したように見えた。
「………っ…」
本当なら、こんなことしたくない。
でも、しないとあの子は。
「―――悪い……」
僅かに震えた声ともう一つ何かの音が、辺りに木霊した。
「秋村優雨は、無事なんだろうな」
「君も、明神と同じこと言うんだねぇ」
突然の霊の言葉に笑みを返し、佐藤が言った。
「無事だよ。でもまぁ返す前に…………」
にぃと嘲い、彼を指し。
「―――君に、先に死んでもらうけどね」
同時。荒れ狂う灼熱色の龍が、霊に襲いかかる。
咄嗟に身を翻した霊の傍で、あの声が反復した。
―――いいかい、これは、本当に覚悟を決めた人間にしかできないことだよ。
その後、彼女は。
―――これは、…………って、言うんだ。その名の通りに、影に…
「魂を…」
宿す。
霊の小さな呟きに、誠也が彼を見た。今、彼は何と言った。
「おい霊……」
「それが…」
―――影魂(えいこん)。
その通り、己の影に魂を宿し、時に形代となる。
―――ただねぇ。
老婆の優しそうな穏やかな声が、脳裏に幾重にも反復した。
―――これは、自分の命を半分、
「影に差し出す。…これが、影魂」
不意に笑った少年が、ふっと佐藤の眼前へと向かい出る。
「……え?」
彼はさすがに虚を突かれたように目を瞠り、しかしやがて笑い出した。
「…………そんなに早く、死にたかった?」
ざっと、何かを貫く音が聞こえた。
「あ……………っ!?」
両の目を大きく見開いた霊が、そのままゆっくりと崩折れる。
同時に、佐藤の口から笑みが零れた。
「よくやるね。……これも、作戦の内か?」
動かない霊に見向きもせず、彼は正面を据えた。
同時。
小さな足音が聞こえ、不揃いの髪を無造作に束ねた霊が現れた。
「…よく分かったな」
「そりゃまぁ、近くまで来(く)ればね」
「……アンタの目的って何なワケ? オレを殺すことかよ?」
少年の言葉に、佐藤は笑みを噛み殺しながら。
「そうだな…元々、そっちの人間を狙ってたけどね。…君が居るなら、君一人でいいかなと思ってね」
佐藤が楽しそうに言っているとき、背後に何かが迫っていた。
一瞬遅れてそれに気付いた霊がはっと後ろを顧みると同時。
―――ぱん。
乾いた銃声とともに、霊がゆっくりと前のめりになる。
「―――え……?」
今の、銃声は。それを撃ったのは。
「秋村さん……?」
見開かれた緋織の瞳が映し出したのは、血の気を失った優雨の姿だった。
105
:
ムツ
:2012/12/30(日) 14:21:32 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
ピーチさん》
題名で戦い系かなと思って、読みましたぁー!
そして今までの全ての話を読ませて頂きました。
率直な意見を言うと、面白すぎました…!!
もうチョットで終わると聞いて、少しガックリです…
番外編をやると聞いてガッツポーズです(^O^)!
これからも応援、絶対します!
なので、これからも小説頑張ってください!!
106
:
ピーチ
:2012/12/30(日) 15:54:22 HOST:EM114-51-157-47.pool.e-mobile.ne.jp
ムツさん>>
初めましてー!
面白くないですよこんなの駄文ですよ?
そろそろ終わるけどまぁ番外編もあるし他の小説もあるんでよかったら読んでみてねー←
107
:
ピーチ
:2012/12/30(日) 16:42:31 HOST:EM114-51-44-25.pool.e-mobile.ne.jp
『第七十四話・別れ』
一瞬だったはずの出来事が、やけに短く感じられた。
「なん………で…っ」
優雨が、なぜこんなことを。
「妹のためだよ」
「………え?」
佐藤の言葉に、緋織が目を見開いた。
「いくら逃げようとも、見つけたらそれまで。その時点で殺すって言ったら妹だけは助けろって言ってさー」
笑みを含んだ青年の言葉に、緋織が優雨を見る。
彼は、右手に持った銃を凝視し、その後で倒れた少年を見る。
「……あ…………」
これで、彼女に危険は訪れない。
だが、本当にこれでよかったのか。
今なら、急げば間に合うはずだ。でも、そんなことをすれば。
混乱した頭で、しかしそう考え、彼は結局動けない。
そうしている間にも、緋織達は慌てて手当に移っている。
「宮神く……」
「ろ…」
「え?」
霊の掠れた声を僅かに受け、緋織が聞き返す。
「やめろ…余計なこと…る、な………っ!」
急所は外れたものの、恐らく肺を撃ち抜かれている。このままでは、霊が尽きるのは時間の問題だろう。
だが、それでも彼は。
「いいから……またアイツらが狙われるんだぞ…!?」
それに、自分は。
幼い頃から、幾度となく人を殺(あや)めてきた。恐らく自分の罪は、その命を以てなお、贖いきれるものではないだろう。
それが分かるから、彼らを護ろうと思うから。
その命を護るためなら、いい。
「…よくやったな。もう君達に手出しはしないから、安心していいよ。神瀬達も、もう殺そうなんてしないからさ」
笑いながら言った青年の姿が消え失せた直後、優雨が地に座り込んだ。
「……悪い。里葉のためなんだ………」
彼女の、未来のため。
「その未来のためなら、そう変わらない子供の命を奪ってもいいの!?」
声を荒げた弥生の言葉に、優雨は返さない。分かっているから反論が出来ない。
「―――おい、嘘だろ? 宮神?」
突如として聞こえた誠也の声に、二人がはっと彼を見る。
血に染まった手は、ぴくりとも動かない。
「そ…………………な…」
間に合わなかった?
「…………………あ…」
緋織の瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。
「―――いいって、言ってたの?」
「…あぁ」
花音の言葉に、誠也が答えた。
緋織と弥生は別室に居る。
今回ばかりは、花音にもどうしようもなかった。
「……本当に、彼が言ったのね?」
「あぁ」
つい先ほど連絡を受けた和也が、息を上がらせていた。やはり彼も、相当焦っていたのだろう。
「じゃあ…」
自分達には、人の生死までをどうこすることはできない。
「…和也さんも、言葉失ってたよ」
すっかり冷たくなっていた霊を見て、彼はただ呆然と呟いただけだった。
霊、と。
「―――私達で、送ってあげましょう」
その言葉に、誠也が重々しく頷いた。
108
:
ピーチ
:2012/12/30(日) 16:54:13 HOST:EM114-51-44-25.pool.e-mobile.ne.jp
『エピローグ』
―――これから先、自分と同じ能力(ちから)を持つ人間は、どんな人生を歩むのだろう。
―――この、神永遊歩(かみながゆうほ)を見くびんないでよ。変な力持ったなら、それを活用するまで。
―――あぁ。
彼女が、これから自分と同じ能力を持つ者か。
なら、問題はないだろう。
あれほどしっかりとした意志を持っているなら、自分と同じ、誤った路は進まないはずだ。
それを悟った少年が、ふっと笑みを浮かべた。
今から千年後。その時の年号を何と呼ぶか、それはその時代(とき)を生きた人間にしか分からない。
これは、十四年という短い人生の中を“恐怖”という見えない追っ手から必死に逃げていた少年の、未来夢である―――。
109
:
ムツ
:2012/12/30(日) 16:59:29 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
ピーチさん》
読んでいて駄文の駄の字も思考回路にありませんでしたよ?
解りました、他のお話も読んでみます!
もぅ、ピーチさんの話の進め方は次回の展開を楽しみにさせますよねぇ〜…
だから、物凄くこれからを待っちゃうんですよぉ…
そんな書き方を是非御教授したいものです…
気が向いたらでイイので、私のスレのところに何かアドバイスを下さいm(_ _)m(お願いします
110
:
ピーチ
:2012/12/30(日) 17:06:49 HOST:EM114-51-44-25.pool.e-mobile.ne.jp
ムツさん>>
いやいやいやいや! 一文字呼んだ瞬間に駄文の二文字出てくるからね?
てゆーかタメで話そーよー←
次からは番外編でございますー
………一つ忠告。あたしのアドバイスをもらったら破滅の危機ありだよ…?
111
:
ムツ
:2012/12/30(日) 17:29:55 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
ピーチ》
イヤァ〜…。危険を乗り越えてなんぼでしょぉ〜…
番外編ガンバッ!
ずっと応援してるよぉ〜!!
112
:
ピーチ
:2012/12/30(日) 18:33:42 HOST:EM114-51-44-25.pool.e-mobile.ne.jp
ムツさん>>
ありがとーっ!
さてさてこれから番外編その一(何回行くか分かんないけど!)行きますー!
113
:
ピーチ
:2013/01/08(火) 17:17:32 HOST:EM1-114-186-134.pool.e-mobile.ne.jp
番外編 恐怖はどこに
「ッてェ……」
頭を押さえながら呟いた少年が、正面に居る男を見て肩を震わせた。
「あ? 何か文句あんのか?」
ゆっくりと伸びてきたその手が少年に届く前に、甲高い声が聞こえた。
「ちょっとやめてよお父さんっ!」
突然現れた少女が、男の腕を押さえ付ける。
「あ…っ」
だが、所詮は子供の力。すぐにその少女を投げ飛ばした。
「った………」
「じゃますんじゃねぇよ、文香」
そう言った男が、文香と呼ばれた少女の髪を思い切り引っ張った。
痛いと喚く彼女を見て、少年が叫びかけたとき。
「霊……?」
妙におどおどとした女性の声が聞こえた。
「え?」
「和也君が、遊ぼうって……」
文香も、と言った女性に対し、少女は頑として首を横に振り。
「外で遊ぶなんて嫌いだからっ」
そう言って、頑なに拒む。
「行きたいなら、霊だけで行きなさいよ」
そう言った少女の身体は、僅かに震えていた。
「またかぁ……」
「……オレのせいなんだ。あねきが、そとに出たがらないの」
「へぇ?」
霊を呼びに来た彼の友人である和也が、ぐるりと首を巡らせる。
「オレが外に行ったらあねきかおふくろがなぐられるから。あねきまでそとに出たら、おふくろだけがなぐられるからって」
あんたはまだ小さいんだから外で走り回っとけばいいのと笑った少女が、あの時だけは言ったのだ。
『…やっぱり、ね………』
―――怖い、よね、と。
「……家族思いだなぁ、文香ちゃん」
母親と弟の代わりに自分がと息巻く少女の姿が目に見えて浮かび、和也が苦笑した。
「んじゃ、明日なー」
「………うん」
ぎこちない笑みを浮かべた少年が家の中に入って行くところを見送ってから、和也が帰途についた。
114
:
たっくん
:2013/01/09(水) 09:37:20 HOST:zaq31fa4b53.zaq.ne.jp
↑話がちょっと雑ですね〜雑
これが本当の雑談です(笑)
115
:
ナコード
:2013/02/16(土) 13:40:20 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
>>114
アンタは本物の迷惑人ですね(笑)
116
:
ピーチ
:2013/03/16(土) 23:40:19 HOST:EM114-51-31-109.pool.e-mobile.ne.jp
番外編
―――この、人殺しっ!!
そう言ってキッと男を睨み付けた少女の身体が、力なく横たわっていた。
それを見た少年が小さく呟く。
「あね…き……、…おふくろ……」
ごめん、と。
たかだか自分のためだけに、二人もの犠牲が出てしまった。
「なんで……だよ………っ!?」
あの男が、父親が最も忌み嫌っていたのは、他ならぬ自分なのに。
なぜ、二人が代わらなければいけない。
そして、自分の父親を冷たく見下ろす。
「……なァ、なんでおふくろとかあねきってさァ…」
―――オレなんかを、かばったの?
しかし、どこを見渡しても、返事はない。
「――――――はは……っ」
当たり前だ。三人とも、死んでいるのだから。
彼は、死んで当然だ。母親と姉を、その手にかけたのだから。
だが。
「………ふたりとも…」
弱々しく発された言葉に答えるものは、いない。
それを分かっていながらも、少年はぽつぽつと呟くのだ。
「オレさァ…ひと、ころさないといけないみてェなンだ……」
二人とも、絶対にダメだと言うのだろうが。
「オレ……もうひきかえせないんだ…」
だから。
「ゆるしてくれよ、……おふくろ、あねき」
そう呟いた少年の瞳から零れたそれは、彼にとって最後の涙だった。
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