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幻影師

103ピーチ:2012/12/29(土) 23:23:55 HOST:EM114-51-188-209.pool.e-mobile.ne.jp
『第七十二話・新たな力』

「…………」
 霊が、小さく舌打ちした。
「くそ……ッ」
 ―――秋村優雨が、佐藤に捕られた。
 淡々とした彼の言葉が脳裏に蘇り、霊がくしゃりと前髪を掴む。
「…ら、こら、そこの小僧」
「……へ?」
 唐突に聞こえた声に、霊が周りを見回した。そして。
「うわァッッ!?」
 よくよく聞けば、その声は己の背後から聞こえていた。そう思って後ろを見たところ。
「なんだい、人のことを幽霊みたいに。もう少し礼儀ってもんがあるだろう」
 小柄な老婆が、自分の後ろにぴったりとくっついて来ていた。
「そッそっちこそ何だよ居るなら居るで……」
 言い差して、ふっと霊が思案する。ところで、この老婆は誰だ。
「…なァバアさん、アンタ誰?」
 直後。
 霊の頭上に、星が廻った。
「ッてェ!?」
「見ず知らずの人間に向かってあんたとはなんだいあんたとは」
 そう言った老婆の眼鏡の奥の瞳が、きらりと光った。
 したたか殴られた頭を抱えながら、霊が半眼になって問う。
「……で、その見ず知らずの人間に何の用?」
 老婆が、あぁと呟いた。
「そうだったそうだった。忘れるところだったわい」
「こンのクソババァ―――ッ!?」
 叫び終わると同時に、またしても頭上に星が廻る。どうやらこの老婆の手は、見た目の通り皮と骨だけのようだ。
「てェ……!」
「もう少し礼儀を覚えんかい。全く、最近の若い者は」
「で? オレに何の用?」
 そろそろ自棄(やけ)になった霊が、呆れたように問うた。それを受け、やっとのことで老婆が本題―――彼女からすればだが―――に入る。
「あんた、普通の人間じゃあないね。大方、幻影師の類だろう」
「―――…え……?」
「あたしもなんだよ」
 老婆の言葉に、霊はそれこそ驚いた。
「ただ、その様子じゃ具現化できるって程度だろう? もっと他の方法を教えてやろうか?」
「他の……方法…?」
 霊の言葉ににっと笑い、老婆はまるで秘密を打ち明けるかのように楽しそうに、言った。




「あっ!」
 唐突に、緋織が声を上げた。
「宮神君! 今までどこ居たのよ?」
「あ? あ、あァ…悪ィ、ちょっと色々あってよ」
「優雨さんのことがあって、それ以上に大事なことだったの?」
 緋織の呆れたような言葉にも、彼は何も返さない。漆黒の瞳は、少しも動かなかった。
「………?」




「さぁて」
 不気味に嘲った青年が、傍に座り込んでいる青年を見た。
「そろそろ来るかな……秋村はどう思う?」
「………………」
 彼の瞳は少しも動かない。見開かれたまま、あらぬ方を見つめている。
「……口が利けないわけじゃないんだよ?」
「…言ったからな」
「うん?」
 微かに震えた、小さな声を聞き、佐藤が問い返す。
「言ったからな。……もう、俺達に手は出すな」
 妹にだけは、親友にだけは。
「あぁ……そういや、そんなことあったけなぁ」
「な…………っ!?」
「分かってるよ。もう、君達に手は出さない」
 これが、終われば。
 にぃと嘲った青年の表情が、狂気に歪んだ。


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