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紫の歌×鈴扇霊

491ピーチ:2013/03/13(水) 05:47:04 HOST:EM114-51-28-190.pool.e-mobile.ne.jp
紫と紅と黒




「昇………?」
 あおりの呟きに、返ってくる声はない。
「どうしたの? いつもなら答えるでしょ?」
 何だよ、と。ぶっきらぼうで、でもどことなく優しい口調で。
「返事くらい、しなさいよ…………っ!」
 少女の瞳から大粒の滴が零れた。それに構わず、あおりが昇を揺する。
 半ば叫びながら呼べば、彼はうるさそうに耳を塞ぐのに。うるさいと言って、本当に迷惑そうに。
「昇…、」
 刹那。
「眠れ―――目覚めんとする厄鬼(やっき)」
 穏やかさを思わせる声が、耳朶を打った。
 はっと顔を上げると、柊一の苦笑気味の表情が映る。
「そんな顔しないでよ、俺が昇に怒られるから」
 青年の言葉に、あおりがえ、と呟いた。
「でも……」
「大丈夫だよ。どんな手段使ってでも叩き起こす」
 場を明るくさせようと、あえて彼がそんなことを言っていることは分かる。だが、どうやって。
「問題ないわよ。柊なら」
 力なく発された言葉に、あおりが天音を見た。酷く痛々しげで、己を蔑んでいるかのような。
 しかし、やがて扇を手に、天音がソフィアたちの傍へと駆け寄った。
「……あの類の妖はね、群れで行動することが多いの。…一匹だけ紛れ込んだような、馬鹿げた妖じゃなければ」
 天音の予測が正しかったのだろう。
 しばらくしても別の妖気が感じられることはなかった。
「あの…天音さん」
「何?」
 いつもと、なんら変わらない表情。穏やかで、でもシュオンやヒースには意地悪く。
「昇さん、大丈夫ですよね?」
 シェーラの言葉に、天音が軽く目を瞠った。しばらく考え込むような素振りを見せ。
「―――大丈夫、かな…。私が言えたことでもないけど」
 自嘲気味に、天音が笑った瞬間―――。
「昇っ!」
 唐突に、あおりの声が聞こえた。それを聞いたソフィアたちが、何事かと前を向く。
「……あおり…?」
 彼女を見つけた青年が、億劫そうに身を起こしている。
「……あ」
「無事…だったみたいね」
 ほっと安堵したように呟かれた言葉にシェーラたちも知らずの内に頬が緩んだ。
 これで、無事すべてが終了―――と思ったのだが。
 そうは問屋が降ろさなかった、らしい。
「ばかぁっ!!」
 唐突に響き渡った、甲高い声。
 昇のみならず、回りまでもが一斉に耳を塞ぐほどの金切り声だ。
「昇のばか……っ! 本当に、死んだかと思ったんだから…っ」
 そう言ったあおりが、彼にしがみついた。
 突然のことに事態が呑み込めていない昇も、これには驚いたようだ。
「え? ちょ、あおり……?」
「勝手に死ぬなんて、絶対許さないから」
 軽く睨んで威嚇したつもりが、涙のせいで台無しになっている。
 それを見た柊一が、苦笑しながら言った。
「まぁ、昇も帰ってきたし、とりあえずこれを何とかしよう?」
 柊一の言葉に、一同が彼の指す方を見る。
 大きな残骸となって残っていた蛇道の姿が目に入った。


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