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190竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/09/15(土) 01:55:00 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 建物全体が激しく揺れた。
 それは下の階にいる霧澤達も気付かざるを得ないほど大きな揺れで、むしろ気付かなかった方がおかしいくらいだ。霧澤達はこの揺れの正体が分かっているのか、ほぼ同時に上へと視線を向けた。
 上では今真冬と茜空がマモンと戦っている。
 今の揺れは終戦を告げる合図だったのか。それとも未だ戦い続けているのか。どちらにしいろ確かめなければいけない。霧澤達は駆け足で階段を上り、真冬と茜空がいる階へと急いだ。

 一方で、上の階で激戦を繰り広げていた赤宮真冬と茜空九羅々は肩で息をしていた。
 先程の巨大な炎の塊を何とか防ぎきり、真冬はマモンに拳を一発お見舞いしてやったところだ。その証拠に、今二人の目の前には大の字になったマモンが転がっている。ハリネズミのような容姿はしておらず、普通のマモンに戻ってしまっていた。
「……、」
 マモンは何も話せないようだった。
 何かを言いたがっているのは分かるが何を言っているのかは分からない。茜空は彼の側に寄り、懐を漁って『金瞳(こがねのまなこ)』を回収する。それだけで去ろうと思ったのだが、偶然マモンと視線が合ってしまい何か言わなければいけない空気になってしまった。
 茜空は何を言おうか迷っていた。
 彼女が考えに考え出した結果、彼女が紡いだ言葉は―――、

「ありがとう」

 それを聞いたマモンは満足げな笑みを浮かべた。今まで見たことが無い、マモンの最高で最後の美しい笑みだった。
 彼はその笑みを浮かべたまま、茜空に声をかける。
「―――、―――」
 茜空も優しい笑みを浮かべた。
 彼女は今まで競い合ってきた相手を称賛するように、そっと彼の頭を撫でた。
 その瞬間、

 満足したマモンの心を理解したかのように、マモンは風化して消えてしまった。

 茜空はしばらく座ったままだった。
 そんな彼女の背後に立った真冬は腕を組みながら、
「……悲しいのか?」
 聞いた。
 しかし茜空の返答は決まっている。
「……悲しくはないですよ……」
 返答はひとつと決めたはずだった。
 だが失ってから初めて気付く大切さを、茜空はここで知ってしまった。たとえそれが敵だったとしても。
「……悲しくは、ないですよ……」
 涙混じりに答える。
 真冬はふっと笑いながら、茜空の頭を軽く撫でた。
「悲しく『は』ないか。……そろそろ戻るぞ」
 真冬は一点を見つめながらそう言った。
 彼女の見つめる先には霧澤、彼におぶられた奏崎、朧月、白波、朱鷺の五人がやって来ていた。
 茜空は国利と頷き立ち上がる。
 それから、汚れたままの袖で涙を拭うと目いっぱいの笑顔を向けながら、真冬とともに霧澤達のもとへと駆け寄っていった。

 ―――一人の『ヴァンパイア』と一人の悪魔の『鬼ごっこ』は、これで終結した。


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